●残り火
「もう終わりだ」
この言葉を、何度聞いたっけ。父さんも隣の家のおじさんも、村長も同じ言葉をこぼしていた。
母さんはずっと、ごめんねって呟きながら泣いている。
生まれたての僕の妹、アンナはふくふくと笑っているのに。
村の大人達には、そろって眼の光がない。
それを知っているのは、こども達の中でも僕と親友のジョニーだけみたいで。
僕達よりもう少し上の年のお姉さんもお兄さんも、大人達と同じ目をしていた。
「ダン。すまない、すまない……」
ぎゅ、と僕の首を絞める父さんが泣いている。痛い、苦しい、怖い、だけど。
――父さん、泣かないで。
●埋れ陽
「ダークセイヴァーの上層――第三層の予兆を、皆は見たかな」
揺歌語・なびき(春怨・f02050)がいつもと同じ気弱な笑顔でそう尋ねるから、幾人かの猟兵達は静かに頷いた。
「うん。本当は今すぐ行きたいところだけど、まだおれ達には情報が足りない。だから皆には、常闇の燎原の踏破を、引き続きお願いしたいんだ」
これはひどくつらい依頼になるけれど。そう続けて、男は説明を始める。
「まず、おれが皆を常闇の燎原へと転送させる。すると燎原を覆う黒い炎が、きみ達に反応して燃え上がる。周囲の光景は、ダークセイヴァーで起きた悲劇の幻影に覆われるんだ。この幻影に取り込まれると、皆は自分のことを『この悲劇の中の無力な一般人のひとりだ』って錯覚しちゃう。力ずくの突破は難しいだろうね」
光景の内容はわかるのか、と問うた猟兵に、なびきは頷く。
「圧政に苦しんで希望を失くした村人達が、集団自殺を図ろうとしてる。村人は全員絶望してて、何もわからないこども達も巻き添えに無理心中をするよ。皆は、なんとかしてこの集団自殺を止めてほしい。――これはもう実際に起きたことだから、本当の意味では彼らを救えない。それは覚えておいて」
予兆によれば、この常闇の世界での死は救いではない。魂は上層で囚われたまま、弄ばれ続ける。
「なにより、きみ達もその中の一人だと認識してる。同じように死のうとするかもしれない。でも、そこから這い上がるための理由がひとつでもあればいいはずだよ」
「集団自殺を止めたら、今度は集団戦だよ。幻影の中から、『無力な人々を恐怖と暴力で蹂躙する敵の姿』が実体化するんだ。きみ達はまだ、『自分は無力な一般人』だと錯覚させられているけど、ユーベルコードは使える。勇気をもって倒し続ければ、黒い炎の勢いも弱まって、本来の自分を取り戻せるよ」
そして幻影を振り払い、自分自身を取り戻した猟兵の前に立ちはだかるのは。
「勿論、『狂えるオブリビオン』だ。両目のある場所から黒い炎を噴出させて、理性を持たずきみ達に襲いかかってくる。同族殺しや紋章持ちにも匹敵する力を持っているから、とにかく強力だよ。ひどい傷を負わされる覚悟もしてほしい。ただ、狂えるオブリビオンは視聴嗅覚を持たないんだ」
つまり、攻撃対象を探し出す能力は他にあるということ。
「そいつは、『相手が抱いた恐怖や絶望の感情を感知する』ことで見つけ出し、選ぶ性質を持ってる。この性質を利用して立ち回れば、戦闘を有利に動かすことも出来るかもしれない」
一通りの説明を終えて、人狼は転送の支度を始める。桜色の眼差しは、わずかに揺れていた。
「きっと、この燎原を踏み越えた先も地獄だ。それでも、おれ達は行かなきゃいけないんだと思う」
たとえばその先が、地獄よりもっとひどいものだとしても。
「大丈夫。だってきみ達は強いんだよ、勇気がひとつでもあればいいんだ」
穏やかな笑みを乗せて、血桜が咲き誇った。
――常闇の世界に、黒炎が燃えあがっている。
遅咲
こんにちは、遅咲です。
オープニングをご覧頂きありがとうございます。
●成功条件
集団自殺を止め、幻影を振り払い、オブリビオンを撃破する。
どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。
再送のお手間をおかけすることがあります。
皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
第1章 冒険
『希望無き世界で生きる意味とは』
|
POW : 力づくで押さえ付け自殺を止める
SPD : 素早く自殺手段を封じて止める
WIZ : 生の希望を説いて自殺を止める
|
ジェイ・バグショット
不調は体力を奪っていく
鬱屈とした村人を見ればこっちまで
気が滅入ってしまいそうだ
死すらもすぐ傍にある身だ
支配される絶望、苦しみ、嘆き
その全てが俺にはよく分かる。だが…
…俺は、自分の手で自身を殺す為に
今日まで生きてきたわけじゃねェ
明日の自分がどうなっているのか
想像するのは怖いだろう
…俺もそうだ
明日をも知れない病の身
生きていても苦しいだけで、終わりを想像することだってある
だがそれでも今はまだ死ねない
そう思えるのは誰かと交わした約束がある気がするから
まだ、やらなければならないことがある気がするから
理解できるからこそ、柄にもなく言葉を紡ぐ
死が救いだと思うなら止めておけ
そこに希望なんてもの、ありはしねェよ
どこか、ゆるやかに落ちていく。そんな不調が体力を静かに奪っていくのを感じながら、ジェイ・バグショットは村人の様子を見ていた。
「もう、これでおしまいだ」
聞こえてくる言葉は様々でも、結局は同じ意味ばかり。鬱屈とした人々の表情は、青年の気持ちも滅入らせてくる。
侮蔑めいた呼び名を投げつけられた彼には、村人の気持ちがようくわかる。綱渡りのような肉体の弱さは、一歩踏み間違えればすぐに傍らの死の淵に引きずり込まれる。
支配される絶望、苦しみ、嘆き。その全てを、ジェイは知っていた。
簡素な家と家の間、路地とも言えない隙間の奥。人の気配を感じて踏み込めば、痩せた女が自分自身に包丁を突きつけようとしている。
「あ……」
震える吐息を発した女と視線がぶつかる。誰にも知られないように死のうとしていたのか、彼女がどうしてこんな場所でいのちを絶とうとしたかの理由は知らない。けれど、ジェイは知っている。落ちていきそうな感覚も、出口の見えない暗闇も。
――俺は、自分の手で自身を殺す為に今日まで生きてきたわけじゃねェ。
「明日の自分がどうなっているのか、想像するのは怖いだろう。……俺もそうだ」
青年が女に話しかけたのは、どうしてだったか。明日をも知れぬ病の身は、生きていても苦しいだけで、終わりを想像することもあって。だが、
「それでも、今はまだ死ねない」
じっとりと、冷や汗が全身から噴きだす。眩暈がするほど、負の感情が己を蝕む。それでもそう思えるのは、誰かと交わした約束がある気がするから。
まだ、やらなければならないことが、ある気がするから。
「今死ねたらどんなに楽だろうか――って、考えてるだろ」
朦朧としながらもふらつく足が崩れて、その場に膝をつく。随分と無様な姿なのに、足掻く自分はなんだか悪くはない。
柄にもなく言葉が紡げたのは、理解できるからこそ。早鐘を打つ心臓も、止まらない冷や汗も今は構わない。
「死が救いだと思うなら止めておけ」
「……!」
「そこに希望なんてもの、ありはしねェよ」
突き放す言葉には、何故だか穏やかな色が乗っている。ひどく弱っているにも関わらず、自分に言葉をかける彼の姿は、女の手から包丁を捨てさせるだけの力を持っていた。
大成功
🔵🔵🔵
護堂・結城
無理心中をしようとする親達を殴り倒してでも止める
もう死ぬしかない、生きていたって希望なんてない…そう思ってたのに、俺は何をしてるんだろうな
同情か憐憫か、きっと一時の感情に動かされてるだけなんだろうが、それでも
望む望まないに関係なく、子供の死を受け入れる親がいてたまるか!!
馬鹿なことをしてる自覚はあるが、それでもただ諦めるのはもう無理だ
救いは死後には訪れない、未来も希望も生きてこそだ
それでも死にたいというのなら、一矢報いてからでもいいだろ
例え敵わなくとも、この怒りを、人間の意地をふざけた化け物に叩きつけてやらないと死んでも死にきれん
もう、死ぬしかないと思っていた。この手で救えるものは何もなくて、何処かにあった熱も冷えきっている。このまま生きていたとして、手に入る希望なんて塵屑以下に等しい。
――そう、思っていたのに。
「ジャネット、すまない。本当にすまない」
涙を流して斧を手にする父親を見て、はじめはきょとんとした表情だった少女が恐怖の色を見せる。
開けっ放しの玄関で、少女と目が合った。それが、護堂・結城が父親を殴りつけるには十分の理由だった。
父親を床に叩きつけて、青年は斧をつかみ取る。すばやく父親の手に届かぬ場所まで投げ捨てて、吼える。
「馬鹿野郎! 望む望まないに関係なく、子供の死を受け入れる親がいてたまるか!!」
ましてや、愛する娘のいのちを自らの手で終わらせようとするなどと。少女への同情か憐憫か、なんにせよ、こんなのは一時の感情に動かされているだけだとしても。
何をしてるんだろうな、と内心自嘲しながらも、結城には呻く父親が許せなかった。胸の裡に火が、炎が、焔が燈ってしまったから。
――ただ諦めるのは、もう無理だ。
「離してくれ……娘のためなんだ、こうするしか、この子は救われない……!」
父親から少女を守るように、結城は彼女を背中に隠す。パパ、とこぼす少女の声は震えている。そうだ、怖くていい。死が怖くていいんだ。
「救いは死後には訪れない、未来も希望も生きてこそだ」
心に燈った熱はまだちいさいけれど、怒りの感情が燃えている。絶望と理不尽と外道に対する怒りが、青年を馬鹿げた行動へと突き動かす。
「それでも死にたいというのなら、一矢報いてからでもいいだろ」
愛する娘をこんな目に遭わせた領主に立ち向かうことだって、彼には出来るはずだ。例え敵わなくとも、この怒りを、人間の意地を、ふざけた化け物に叩きつけてやらないと、
「俺なら、死んでも死にきれん」
静かな熱情が淡々と口からこぼれて、父親の死にきった眼に焔が映った。
「……パパ!」
結城は、泣きながら父親へと駆け寄る少女を止めない。もう、父親から娘への殺意は見られなかった。
「ああ、ああ、ジャネット! 父さんが悪かった、俺はなんてことを……!」
抱き合う親子の家を後にして、青年はほのかに宿った憤怒を育てる。
大成功
🔵🔵🔵
ダンド・スフィダンテ
ああそうだ。死のうとしていたんだ
ここで死ぬのはきっと気持ちが良い
喉元に添えるナイフは温かい湯の様に心地が良くて、引いてしまえば楽になるのだと飴玉みたいに思考は転がる
それでも
カラン、と音がする
「それでも俺様は、皆に生きていて欲しい、なぁ」
この光を写さぬ目の為に、太陽であろうとした意地がもしも残っているのなら
「もう少ししたら、白い花が咲くんだ。綺麗だからさ、みんなで観に行きたいんだ」
灯せ、灯せ、篝火の声を、抗いの魂を、優しさを
「この世界は苦しくて、恐くて、救いも見えない……けど」
誰かの為に立つ命だ。
誰もを魅せる演技で、視線を奪い、笑え大丈夫だって!
「けど、まだ、終わらせるには早いじゃないか」
やわらかくてなまぬるい、そんな夜闇の風が吹き続けている。じっとりと纏わりつく絶望が、この村中を覆っている。
ひかりを喪った瞳しか見当たらない大人達の群れの中に、ダンド・スフィダンテも混じっていた。なんだっけ、自分はどうして此処に居るんだっけ。
「――ああ、そうだ」
俺様は、死のうとしていたんだ。ふっと、間違いだらけの目的を思い出して、いつの間にか大事に握りしめていたナイフを見遣る。いつどうやって、これを手に入れたかなどどうでもいい。そんなことは今、関係がないから。
静かにゆっくりと、喉元に添える刃はきらきらと光って見える。反射する光なんて、どこからも差しちゃいないのに。動作のひとつひとつが、温かいお湯に浸かっているように心地が良くて、一気に裂いてしまえば、きっとすごく楽になれる。
死に惹かれていく男の思考は、甘い飴玉がどろりと融けて転がっていくのに似ていた。はやく、はやく終わらせよう。罪だとか罰だとか、そんな痛みはもうおしまいにして、いのちを絶つことで赦してもらって、それで、
――それで?
目の端に、青い蝶が飛んだ気がした。
カラン。石畳に落としたナイフは、驚くほどに乾いた音がする。ふっと口の端が歪むように、へにゃりと笑えてきた。それでも、
「それでも俺様は、皆に生きていて欲しい、なぁ」
こぼれた言葉と同時に、周囲を見渡す。おんなじ瞳の群れの中で、こちらを見ている少年が居る。ダンデは彼に笑いかけた。
「俺様は、大丈夫だよ」
これはいつかの話。どうしたって奇跡は起きない、昔々のこと。けれど、ひかりを映さぬ瞳の群れの為に、太陽であろうとしたあの意地がもしも残っているのなら。
「みんな、こんなところで諦めちゃ駄目だ。俺様達は、まだなんにも諦めなくていいんだ」
快活に笑って、大人達に呼びかける。大きな身振り手振りと、屈託のない笑顔は夏のあの大輪の花にだって負けやしない。
「もう少ししたら、白い花が咲くんだ。綺麗だからさ、みんなで観に行きたいんだ」
灯せ、燈せ、篝火の声を。抗いの魂を、持てるかぎりの優しさを、君達に。少年が、言葉を紡ぐ。
「ぼくも、見に行きたい」
「ジョニー、あんた、」
少年の母親だろうか、涙を流す女の肩を、ダンドはそっと抱く。
「ああ、大丈夫だとも、ミューズ。この世界は苦しくて、恐くて、救いも見えない……けど」
誰かのために立ついのち。足はもう震えない、笑え、笑え、大丈夫だって!
「けど、まだ、終わらせるには早いじゃないか」
――なぁ友よ、そうだろう。
大成功
🔵🔵🔵
スカーレット・ブラックモア
WIZ
【傭兵】
アドリブ◎
「集団自殺のために大人に連れて来られた子供の一人」として記憶が改竄されているが心の奥深くに根付いた決意は失われない
オブリビオンに故郷を追いやられた憎しみ、自分の全てを犠牲にしても残った家族を守ろうとした激しい感情が
記憶の改竄を超えて「従ってはならない」という気持ちを湧き上がらせる
見込みのある女(ルナ)が近くに居たので共に自殺を止めるべく奔走
記憶改竄のため相手の事を覚えていない
「…それでいいのか?アレらは魂さえも冒涜する。死して解放される道はない」
「だから抗うのだ。踏みにじられて堪るものかと、声を上げて叫べ」
「本当は子を生かしたいだろうに…大人が先に諦めてどうする!」
ルナ・クレシェント
【傭兵】SPD
「ど、どうしたの皆。なんだか怖いよ?」
「い、嫌!私は、生きる!」
記憶改竄で平凡な人だと思い込み、素直に殺されそうになるが、死への恐怖から何故持ってるかも忘れていた拳銃の殴打で抵抗
「壊さなきゃ……命を奪えるもの、全部!」
その後も自分を殺しうる武器に対する怯えと生存意欲を原動力に、狙撃等で武器を破壊して回る。殺す方が安全だと思いながらも、その行為に対しても怯えて思い留まる
「……何もしませんよね?」
集団自殺を止めようとする男の子(スカーレット:f00474)に気づき、怯えながらも一緒にいた方が生き残れるはず、と一緒に動くことにするが、それでも背中を見せないように必ず後ろからついていく
なにひとつ変わらない日々が終わる。否、今日ですべてを終わらせる。そんな歪んだ決意を持って、数人の大人達がこども達を名ばかりの教会へと連れていく。
「ど、どうしたの皆。なんだか怖いよ?」
おとなというにはまだ未熟で、こどもというほど思考は幼くはない。周囲のひかりのない眼差しに、ルナ・クレシェントは声が震える。
異様な圧力の気配に怯えていたのは、彼女だけではない。やわらかく、ぞわりと此方を慈しむように語りかけてくる大人の言葉に、スカーレット・ブラックモアも唇を噛み締めていた。
「こうするしかないんだ」
「お前達には、申し訳ないと思っている……せめて、苦しめたりはしないから」
手に持った刃物の数々が、こども達の眼前に鈍いひかりを帯びて迫ってくる。悲鳴をあげる少年、泣き喚く少女、意味がわからないままの幼子。
周囲をぐるりと囲まれ、逃げ道は見つからない。十代の少年少女は暴れぬように羽交い絞めにされていた。
ああ、ここで殺されるのか。ここで、存在もあやふやな神に見守られながら、いのちを喪ってしまうのか。諦めにも似た感情が、スカーレットを襲う。
――けれど、心の奥底。深く根付いたナニカが、このまま無力でいるだけの自分を許せないと思った。
男の持つ包丁が、ひとりの幼子の胸に突き立てられるその寸前のこと。スカーレットは身をよじって拘束から抜け出すと、男を突き飛ばす。
「何をするんだ!」
「それはこっちの台詞だ。こんな茶番に、誰が従ってやるものか」
うつくしかった故郷の景色は、もうとっくに何処にも残っていない。怨敵に追いやられた憎しみが、自分を犠牲にしてでも家族を守ろうとした激しい感情が、忘れていた決意を呼び覚ましていく。
「本当は子を生かしたいだろうに……大人が先に諦めてどうする!」
スカーレットの胸に熱が燈った頃と同時。手斧を向けて、優しい声色で話しかけてくる男の眼には、恐怖に顔がひきつるルナの姿が在る。
「大丈夫、これで全て終わる。お前も、今よりずっとずっと楽になれる。幸せになれるんだ」
ああ、でも。抵抗なんて無意味で、痛みが一瞬で済むのなら。このまま大人しく殺されるほうが、きっと。
――本当に、それでいいんだっけ?
「い、嫌!」
ルナを動かしたのは、間違いなく死への恐怖だった。死んだら天国になんて行けるかもわからない、消えておしまいかもしれない。ただ、死にたくない。生きたい、生きたい、死にたくない!
羽交い絞めにする相手の足を強く踏みつけ、何故持っているかも覚えていない、ちいさな拳銃で加害者になりうる男を殴りつける。このまま逃げ出すよりも、もっと生存率の高い方法を選ぶ。
「壊さなきゃ……命を奪えるもの、全部!」
跳ねるように大人達へと飛び掛かり、拳銃による殴打と急所への蹴りを繰り返す。十分な距離を置いたなら、拳銃の引鉄をひく。
ぱぁん、と次々に音がして。大人達の持つ刃物が弾かれ、砕かれていく。自分を殺しうる武器への怯え、貪欲なまでの生存本能がルナを突き動かす。
殺す方が間違いなく安全なのに、彼らのいのちを奪うことだけはしなかったのは。ただその行為が、怖かっただけで。
辺りを飛びまわるルナを見つけて、スカーレットはすぐに彼女の元へと駆けつけて呼びかける。
「ひっ」
「おい、私達で止めるぞ。この集団自殺を」
「……何もしませんよね?」
当たり前だ、と告げるスカーレットへの不信感は拭えないものの、それでもルナは、彼と一緒なら生き残れる気がした。
スカーレットの後ろについていきながら、目につく武器を銃撃と殴打で潰していく。それに憤り掴みかかる大人達へと、スカーレットが一喝する。
「それでいいのか? 私達を苦しめるアレらは、魂さえも冒涜する。死して解放される道はない」
「黙れ! もう俺達には何もないんだ、とっくに全部奪われちまってるんだよ!」
「だから抗うのだ。踏みにじられて堪るものかと、声を上げて叫べ」
――私達には、まだ抵抗できるだけの力が有る。
ルナが武器を壊し、スカーレットが心を揺さぶる。そうやって大人達を正気に戻すことで、こども達のいのちは守られていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
斯波・嵩矩
◆SPD
アドリブ歓迎
おれは、なに?
あ
薄汚れたこどもだ
親に暴力を受けているこども
隣に転がって動かないのは
そう
おれのともだち
だった隣の家の子だ
ねえ
生きてるだけでつらい世界で
生きる意味なんてあるのかな?
俺は頑張った
死ぬほど頑張ったんだよ!
おたがいがおたがいのいきるいみだった
これできみがいきてくれるならって
おとうさんにいわれたことなんだってした
でもきみはもういきてない
じゃあもうよくない?
おれもころしたいならすきにすればいいよ
もうがんばらなくていいよね?
がんばるりゆうなくなっちゃったもん
眼前に迫った殺傷武器をなんとか掴んで遠くへ弾き飛ばす
どうして
なんで反抗しちゃったの
もっとひどいことされちゃうよ
でも
なんか『駄目だ』って思ったんだ
ここで終わるのは『嫌』だって
こんな『終焉』なんて認めたくない
何のためにここまで生きてきたのか
俺は
そう
『今』を変えるために生きてきたんだ
君が居なくても生きるよ
君のこと覚えていられるのは
もう俺しか居ないんだから!!
辛くても哀しくても
生きる事でしか君を証明できるものが無いんだ!!
常闇の世界で動けずにいるのは、大人もこどもも関係なくて。此処には、無力に打ちひしがれる者しか居ない。
ぽつんと、蹲まっている幼子が居る。やけに細くて痩せた身体は、痛ましい痣が遺っている。
――おれは、なに?
あ、と、斯波・嵩矩は思い出す。こどもだ、薄汚れたこども。親からの暴力を受けるこども。それで、隣に転がって動かないのは誰だっけ。
――そうだ、おれのともだち、だった。
近付いてみれば、隣の家のあの子は動かなくて、わずかな吐息すらもらしては居なかった。
ぐわんぐわんと頭を殴られたような衝撃が奔る。この子はもういのちを宿してはいない。だって、モノになってしまった瞬間を、この眼で確かに見たじゃないか。
喚くよりもただ吼えるように、嵩矩は慟哭する。全身に広がる冷たさへの感覚と、鈍い痛みが生を告げる。彼はそれが無性に嫌で仕方がなかった。
ねぇ、生きてるだけでつらい世界で、生きる意味なんてあるのかな? 屍体になったあの子にそうっと触れて尋ねても、答えは一言も返ってこない。
「俺は頑張った、死ぬほど頑張ったんだよ!」
おたがいが、おたがいの生きる意味だった。これできみが生きてくれるなら、それだけを思って少年はなんだってやった。自分を殴って蹴ってくる“おとうさん”はこわくてこわくて、それでも言われたことをやりきった。
それは全部、きみのためで――じゃあ、もうよくない?
こと切れたあの子の瞳に、嵩矩の姿は映らない。ただまっくらな彩をしていて、瞬きひとつしてくれない。
ふっと少年の背後に影が降って、それが大嫌いな“おとうさん”なのはわかっていた。殺したいなら、すきにすればいい。
「もう、がんばらなくていいよね」
がんばるりゆう、なくなっちゃったもん。
口の端がひくりと動いて、なにもかもが壊れた気がした。振り返るまでもなく、このまま終わってしまえばいいや。そればかりが頭に浮かんで、あの子の頬を撫でる。
これでおしまい、おやすみなさい。それでいいと思っていたのに。
咄嗟に振り返って、眼前に迫るナイフを掴む。激痛で気絶する前に弾き飛ばしたそれが遠くまで飛んで、からんと乾いた音を立てて落ちた。
「うあっ」
痛い、痛い、鋭利な刃で血が流れていく。それでも歯を食いしばって、少年は相手を向く。
どうして。なんで反抗しちゃったの。もっとひどいことされちゃうよ。でも、
「なんか『駄目だ』って思ったんだ」
――ここで終わるのは、『嫌』だって。
そこに居るのはまだ年若い青年で、けれどあの頃のちいさな少年ではなかった。
「こんな『終焉』なんて認めたくない」
何のためにここまで生きてきたのか、嵩矩は知っている。俺は、そう、『今』を変えるために生きてきたんだ。
怖いあの人の顔面めがけて拳を振るう。たった一発、それだけで相手は倒れて、ふっと消え失せた。ほろほろと涙をこぼして、動かないきみへと駆け寄る。
「君が居なくても生きるよ、君のこと覚えていられるのは、もう俺しか居ないんだから!!」
かけがえのない大切な思い出は、痛くて苦しいことばかりじゃない。
つらくても、かなしくても。
「生きる事でしか、君を証明できるものが無いんだ!!」
友達の瞳は、いつまでもひかりを宿さない。奇跡は起きやしないけど。
はらはら両目から流れていく水が、自分が生きていることを知らせている。
大成功
🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
現時点で人々に説くのはあまり効果が無い気がする。
心から絶望している者に言葉はあまりにも危険なはず。
ならば私は自殺の手段や行為を封殺してしまおうか。
私にしては『らしく』ない方法だな。やれやれだ。
露は説得しようとするだろう。無駄だとは思わない。
しかし彼ら彼女らの耳には…今は届かないだろう。
行為は止めない。あの子はあの子なりに考えてだろう。
自殺行為は力で止める。
とはいえ非力だからどこまでできるかわからんが。
刃物を用いた場合は身を挺してでも止めてみせる。
私が傷ついたことで露が動揺するだろうが気にせん。
「…私は大丈夫だ。傷もたいしたことはない」
自然と心配そうな露を撫でていて私自身驚いている。
「私のことは気にするな。止めるのだろう?」
…。
フォローだけはできるかもしれない。露のフォローは。
神坂・露
レーちゃん(f14377)
自殺はいけないわ。どんなに絶望してもよ。
元々この世界って絶望の色が濃かったけど。
俯いてたら『希望』なんて繋げられないわ!
自分の脚で立って歩かないと得られないわ!
『希望』は自分の手で手繰って掴まないと!
『運命』とか『希望』なんてものはない?
いいえ。それは間違っているわ。違うわよ。
自分の手で掴むもの。掴んで手懐けるもの。
どんな絶望を経験したのかわからないけど。
経験したことを想像しかできないけど。
多分。この想像では足りないんだろうけど。
あたしが考えてる全てをぶつけてみるわ。
「れ、レーちゃん?! レーちゃんッ!」
レーちゃんは止めるって選択したみたいだわ。
でも、身体を使って止めるなんてらしくない。
しかも自分を傷つけてまで…レーちゃん!
出血が止まらない場合は抑えて止めるわ。
レーちゃんの血みて結構動揺してたみたい。
落ち着くようにレーちゃんが撫でてくれて。
声までかけてくれて。優しい声で。
…えへへ♪やっぱり…大好きだわ。大好き。
ひかりの消えたうすら寒い眼差しの群れから、少女達は逃げ出そうとは思わなかった。けれど、自分達が何者であったかなんて覚えてはいなくて。
この手で出来ることが、ひとつも思い出せない。ただ、死んではいけないと強く感じるものがあった。銀の髪を靡かせて、二人の少女は手を繋ぐ。
「レーちゃん、あたし、」
「露。君の選択を、私は無駄だとは思わない」
たとえ、今は届きはしなくても。シビラ・レーヴェンスがそれ以上を語ることはなく、何かを察知したように駆けだす神坂・露の後を追う。
「やめて!」
一軒家の裏の畑で、この家の主人と思われる男が赤子を抱く女と少年に猟銃を向けている。女のほうも目を閉じて、まるで覚悟を決めたようだった。露は間に割って入って、女と少年を庇う姿勢に入る。乱入してきた少女に、男は苦しそうに呻いた。
「どいてくれ、これは我が家の問題なんだ」
「自殺はいけないわ。どんなに絶望してもよ」
そう口にする彼女の身にも、暗いナニカがつき纏う。ひどく嫌な匂いのする、淀んだ泥のような感情を振り払って、少女は言葉を紡ぐ。
「俯いてたら『希望』なんて繋げられないわ! 自分の脚で立って歩かないと得られないわ! 希望は、自分の手で手繰って掴まないと!」
「お嬢ちゃんもわかっているだろう、我々にはもうどうしようもないんだ。希望なんて、そんなものどこにも……」
「いいえ、それは間違っているわ」
違うわよ、と露は淡い純白の眸で男を睨みつける。そうしなくてはいけない、此処を退いてはいけないと思ったから。
「希望も、運命も、自分の手で掴むものよ。掴んで手懐けるもの」
此処に居る理由も、自分が何者だったかもわからない。彼がどんな絶望に身を浸しているかもわからないけれど、ぼんやりと、いつか経験したことが静かに少女の心に滲んでいく。
「本当にそれでいいの? 彼女はあなたの奥さんで、この子達はあなたのこどもでしょう? 大好きで、愛していて、喪いたくない人達でしょう?」
――多分、あたしの想像では足りないんだろうけど。
考えている全てをぶつけないと、きっと彼を止められない。
「今ここであなたが彼女達を殺めたら、誰も彼女達の未来を見ることはできないのよ!」
「……それ、は、」
父さん、と。露の背後から、ちいさな声がもれた。
「僕、死にたくないよ」
「ダン!」
それに、と少年は言葉を続ける。
「父さんにも、母さんにも、アンナにも。僕は、死んでほしくないよ」
露が猟銃を落とす父親に意識が向いた時だった。ふいに女が走りだして、家へと駆けこむ。露が追いかけるよりも先に動いたのは、家の中で様子を窺っていたシビラだった。
女が大事そうに抱く赤子へと振りかざす包丁を、シビラの手がぱしっと受け止めるようにして握り込む。激しく噴きだす血の赤が、露の目にも映った。
「レ、レーちゃん!? レーちゃんッ!」
――露。君のことだから、ああ言うと思ったんだ。
激痛で朦朧とする意識の中で、シビラは露の言葉を想い返す。現時点で人々に生を説くのは、大した効果は無いとわかっていた。
心から絶望している者には、友人の眩しい言葉はあまりにも危険で、ナイフよりも鋭利な刃に等しい。けれどそれを止めなかったのは、彼女なりに考えたことだと知っているから。
言葉以外で非力な自分にできることは、物理的に封殺してしまうこと。これが自分らしくない方法だと、不思議なことに少しだけ笑えた。
様子を窺っていれば、父親には露の言葉が届いているように見えた。けれどそれより危うかったのは、露が守ろうとした母親のほう。
二人の幼い我が子を抱え、どうしようもない窮地に陥った時の覚悟の顔を、母の愛と呼ぶのかなんてシビラは知らない。女は突然現れて包丁の刃を握り込むシビラにひどく驚いたようで、ひゅっとか細い息を呑む音をさせる。
「その手を離してもらおう。それとも、自分の赤ん坊に、これ以上血を見せるつもりか?」
「あ、うぁ……」
静かに力の抜けていく女の掌から包丁を落とさせて、シビラはその場に崩れ落ちる。露がまっすぐに彼女に飛びついて、そっと抱き寄せる。
「レーちゃん、なんでこんな、レーちゃんらしくないわ! ねえ、血、血が」
「……私は大丈夫だ。傷もたいしたことはない」
肩を震わせ青褪めた顔をする露の頬を、無傷の手でそっと撫でる。
「私のことは気にするな。それよりも、彼女だ」
止めるのだろう? 優しい声でうすく笑んだシビラに、露は唇を噛み締めて頷く。そうして、まだ放心状態の女に呼びかける。
「どうか、あなたの手でその子を殺めたりしないで。その子の未来を、あなたが奪わないで」
「ああ……アンナ、かわいいアンナ……ごめんなさい、私、私、」
元気よく泣き叫ぶ赤子をきつく抱きしめて、女はわんわんと泣いた。その身体を、息子と夫がかたく抱きしめる。
「……そうだ、それでいい」
ふら、と。また意識が飛びかけるシビラの出血を抑えるために、露は自分の服を裂いて包帯代わりに親友の手に巻きつける。じわりとあかく染まるそれは、しばらくして少しずつ止まっていく。
「どうしてこんな無茶したの、レーちゃん」
「――希望は、自分の手で掴んで手懐けるものなのだろう?」
ああ、そうだった。あたしが言ったんだった。ふっと笑みがこぼれて、そこにはいつもの露の表情が在る。
「やっぱり、大好きだわ。……だいすき」
大成功
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リア・アストロロジー
わたしは自死を否定しません。
もはやそれだけがひとの尊厳とこころを守る唯一のみちならば…そう思っていたはずなのに
自分の大事な人を重ねてしまい、醜態をさらします。
「どうしてないているの!」
背のひくいわたしでは、つま先立ちで背伸びしたって届かないのに
背のたかいあなたがしゃがんでくれないと、おかおをふいてあげることもできないのに!
「やだ! だめ! 死んじゃやだ!! …りょうしゅさまね! またりょうしゅさまがいじわるをするから、かなしくなってないていたのね!」
「かなしいなら、ないていいよ。つかれたのなら、おやすみしよう?」
ぎゅってして、いのちのおとをきかせてあげるから。
なみだをふいて。あたまをなでて。おうたをうたってあげるから。
「またりょうしゅさまがいじめにきたら、きっとわたしがしかってあげるから…」
生まれたときはみんな真っ白だったのに。
よごれてよごれて……がんばってもがんばっても、未来は黒くぬりつぶされていくね。
それでもわたしは小さなうたを歌うよ。届いてくれたらいいな…きっと、とどけにいくから。
誰もがすべてを諦めていた。もう、どうしようもないのだという諦念と絶望ばかりが胸を濡らすから、一番安らげる方法を探しあてて、村中の人間達がそれを選ぼうとしている。
リア・アストロロジーは自死を否定しない。もはやそれだけが、彼らがひとである尊厳を守り、こころを守る唯一のみちならば。
――そう、思っていたはずなのに。
ちいさな家の天井の梁、ぶらさがったロープのわっか。ひとりの青年が首をくくろうとしていて、その姿が誰かに重なった。それが誰だか思い出せないのに、とっても大事な人だったことだけは覚えていて。それが、少女の醜態をさらすきっかけになる。
「どうしてないているの!」
叫んだ彼女に振り向いた彼は、涙を流してはいなかったけれど。虚ろな眼差しがちいさな彼女を見つめていて、ただぼんやりと、かすれた声を洩らす。
「……これで、いいんだ。これで、きっと親父とお袋の居る場所に行ける、それでいいんだ」
両親への想いをこぼした青年の死にたさを、何故だかリアは否定なんかできない。けれど、それ以上にもっと肯定できないことがある。
ちいさな背の彼女では、つま先立ちで背伸びしたって、彼にはいっこうに届かない。背の高い彼がしゃがんでくれないと、その顔に湛えた悲しみだって拭いてあげられない。
「やだ! だめ! 死んじゃやだ!! ……りょうしゅさまね! またりょうしゅさまがいじわるをするから、かなしくなってないていたのね!」
死なないで、と必死に縋りつく幼いリアの顔を見て、青年のロープを握る手が緩む。
「……どうして、君が泣いているの」
その時、少女は初めて自分が涙を流していることに気付いた。あたたかい水がほろほろこぼれて、彼女はその理由を知っている気がする。
「あなたが、いなくなってしまうのがかなしいの。生きていてほしいとおもってしまうの」
しゃくりあげながら泣く自分が、本来ならばこんな愚かな生き物ではないと薄々感じていた。――ううん、違う。きっと、これがほんとうのわたしだ。
「ねぇ、泣かないでくれよ。俺が死んだって、誰も悲しんだりしないはずだろ」
「そんなことない、わたしがかなしい。すごくすごく、かなしい」
そう言って泣いた少女を、ロープから離れた手がそうっと撫でた。しゃがみこんで、同じ目線に立つ彼は、まだ生きている。
「かなしいなら、ないていいよ。つかれたのなら、おやすみしよう?」
ぎゅうっと胸に抱き寄せて、儚くも確かな鼓動を聞かせる。リアのいのちのおとは、一定のリズムで鳴っていて、青年の頬をあたたかい水が濡らす。
「……死にたくない、死にたくないよ。でも、生きるのもつらいんだ。あいつは俺から、家族を奪っていったんだ……!」
かすれた声で悲鳴のように絶望を訴えて、青年は泣く。
――なみだをふいてあげる、あたまをなでてあげる、ねぇ、それにおうたをうたってあげるから。
カナリアよりもやわらかい、オルゴールよりも繊細な声が青年のこころに染みていく。無力な少女にできることは、そうやって彼を慈しむことだった。
「またりょうしゅさまがいじめにきたら、きっとわたしがしかってあげるから……」
リアは優しく囁いて、この世界に彼が存在していてほしいと伝えていく。
生まれた時はみんなましろであったのに。よごれてよごれて……どれだけがんばっても、がんばっても、未来は黒くぬりつぶされていくね。
それでも、それでも少女は、ちいさなうたを歌う。
「届いてくれたらいいな……」
きっと、とどけにいくから。そう微笑んだ時、彼は静かに目を閉じてわらった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『未来を歩み出せなかった者達』
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POW : 血の羊水へと引き摺り込む
【攻撃に躊躇する者に愛情を求め群がる赤子】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[攻撃に躊躇する者に愛情を求め群がる赤子]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 広がる悪夢
【ゆっくり広がる血溜まりから生える赤子の腕】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が血の池と化し広がり、赤子が這い出す】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : 悲劇が繰り返される
自身が戦闘で瀕死になると【血溜まりとなり、血溜まりから無数の赤子】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
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猟兵である自覚のない彼らが、村人達の愚行をすべて阻止した頃だった。
おぎゃあ、おぎゃあ。泣き叫ぶ赤子の声が村中に響き渡る。
産まれて間もなく、または産まれることもなく、世界に殺され骸の海に堕とされたいのちの群れ。
それらはただ、ぬくもりを求めて村人達へと襲いかかる。
さみしくて、かなしくて、おなかがすいて、あいされたくって。
哀れに思うかもしれない。恐怖に震えるかもしれない。
だけど、君達は少しずつ自らに力があることを思い出しているから。
勇気がひとつでもあればいい。
――本来の自分を、思い出せ。
護堂・結城
【狐狼】
一つだけ思い出した。
心が、魂が叫んでいる…死を弄ぶ奴を許すな、と
孤独と悲哀、飢餓に渇愛
本当に嫌なものばかりだが、躊躇はしない
「重たくてあの世に行けねぇだろ、そんな感情は焼かれて、食われて、捨てていけ」
指定UCを発動
子守唄の声に衝撃波と生命力吸収をのせて、溢れる感情のエネルギーを喰らいながら敵UCを妨害
「死んだ後まで誰かに利用されて、苦しめられて……許してたまるかよ!」
死んで救いはないが死でしか救われない者もいる
ただ、許されるなら、どうか、どうか…安らかに眠れ…っ!
「泣く子はあやして、寝かしつけるのが筋ってもんだよなぁ」
「…一般人だったらお互い長生きはできねぇだろうよ」
彼岸花・司狼
【狐狼】
どうせ逃げたって死ぬだけなら、
あれの中から一人、二人、殺して連れて行こう。
化物のまま、ヒトの振りしてヒトに愛を求めるなよ。
せめて、人らしく、逝ってしまえ。
例え死ぬとしても、化物が怖くても、やることは変わらない。
人で在るために、人のまま終えるために、
終わりの無い怪物じゃなくて、赤子として殺す。
【目立たない】ように息を殺しながら
UCによる強化を受けて【生命力吸収】で確かな命を感じつつ
人として葬るために、確実に人なら死ぬ、首を切り落としていく。
死んで良い人間なんて主観にしかいないが
人として死なせてやった方が救いになることは、確かにある。
「まぁ、力なんて無くとも、お互い『人でなし』だからな」
泣き叫ぶのは、羊水代わりの血にまみれた赤子の群れ。ひどくけたたましくて哀れなそれに、妖狐はちいさく息を吐く。
ひとつだけ、思い出したことがある。火の燈った心が、ごうごうと焼けそうな魂が叫んでいる。
――死を弄ぶ奴を許すな。
なぁ、と傍らに立つ人狼が呟く。
「どうせ逃げたって死ぬだけなら、あれの中から一人、二人、殺して連れて行こう」
化け物のまま、ヒトの振りしてヒトに愛を求めるなよ。澄んだエメラルドグリーンの眸が赤子達を見つめて、淡々と言葉を紡ぐ。
ゆっくりと、それでいて縋るように。血の羊水へと引き摺りこむために、赤子達は雪見九尾へとぐちゃぐちゃの肉体で這いよっていく。
痛々しい孤独とまっくらな悲哀、叫ぶほどの飢餓に求めてやまぬ渇愛地獄。その泣き声を聴けば聴くほど、腹の奥がずうんと重たく息が止まる。本当に嫌なものばかりで、けれど護堂・結城は躊躇などしなかった。
「重たくてあの世に行けねぇだろ。そんな感情は焼かれて、食われて、捨てていけ」
めらめらと神々しく燃える焔鳳の両翼が、常闇の世界であかあかと燃え滾る。寄り添うように現れた竜が吐きだしたのは凄まじい吹雪の風。
「泣く子はあやして、寝かしつけるのが筋ってもんだよなぁ」
つ、と唇から紡がれる子守唄は、旅の途中のどこで覚えたのだったっけ。あるいはいつか聞かせてくれた、誰かをなぞっているのかもしれない。
歌声にのせた衝撃波は赤子達のわずかしか残っていないいのちを吸い尽くして、やたらに重たい感情を喰らっていく。更に竜の雪風が、赤子の泣き声を吹き飛ばす。
「死んだ後まで誰かに利用されて、苦しめられて……許してたまるかよ!」
自分は何者なのか、少しずつ記憶が蘇る。このような仕打ちをした者どもを滅ぼすために、結城はこの世界で生きている。
焔のさんざめくかがやきの影、彼岸花・司狼はじっと息を殺して動く。たとえここで死ぬとしても、あの喚き散らす化け物がこわくても、やることは変わらない。
覚えていないはずなのに、不思議と自分のやるべきことだけは理解していた。自分の納得のいく結末なんて、結局のところエゴでしかない。それでも、
――あれらが人で在るために、人のまま終えるために。
すばやく赤子の背後にまわれば、刀身のないかげろうの刀に透みきった刃が現れる。わずかでも確かに存在するいのちを感じながら、首を絶つ。
ころりと墜ちていくちいさな頭を確かめない。人として葬っているのだから、今、あの子は確実に死んだ。
「せめて、人らしく、逝ってしまえ」
子守唄で眠りに就いた赤子の首が、次々と転がっていく。死んで良い人間なんて主観にしかないけれど、人として死なせてやった方が救いになることは、確かにある。
司狼の想いのように、結城もちいさないのち達に想うことは同じだ。ただ、許されるなら。
「どうか、どうか……安らかに眠れ……っ!」
悲痛に願う戦友の言葉に、司狼はやっぱりお前はそういう奴だなんて思った。
生まれることすらできなかったあれらに、二匹の獣が出来ることは、こんなことでしかない。子守唄の中で落ちた首は数知れず、血だまりの中に融けていく。
ようやく思い出せてきた、と狐がうすくわらう。
「……これでただの一般人だったら、お互い長生きはできねぇだろうよ」
「まぁ、力なんて無くとも、お互い『人でなし』だからな」
狼は変わらず、淡々と返す。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジェイ・バグショット
血溜まりから這いずるその姿に
俺は間違いなく恐怖するだろう
ニチャニチャピチャピチャ
強烈な鉄の臭いに気分も悪くなるというものだ
こっちに来るんじゃねーよ
愛情を求めてくるだなんてまるで悪夢のようじゃないか
何しろ俺は『愛』なんてものはさっぱり分からない
与え方も、受け取り方も、それがどんなものかってことすら『理解出来ていない』
…俺に求めるんじゃねぇよ
そんなもの、俺は知らない。
与えられても、受け取る側がそれを『愛』と認識していなければ意味が無い
ユエントを媒介にUCが発動
光の魔術師は暗闇の中で強烈に輝く
「私の力が必要かい?おや、少し様子が…」
思案するも気にせず杖を掲げ
「まずは、寂しい子たちを眠らせてあげよう」
血だまりの沼地を、ぐちゃりと這うこども達。けれどもそれを、こどもと呼んでいいものなのか。彼らを見たジェイ・バグショットはその姿に恐怖し、全身の寒気を覚える。
にちゃにちゃぴちゃぴちゃ、ひどく強烈な鉄のにおい。鼻と口を覆ったとて、防ぎきれない気分の悪さに吐きだしそうになる。
泣き叫ぶ赤子が、まるでこちらに助けを求めているようで。よりにもよってこんな自分に愛情を求めているようで。
「こっちに来るんじゃねーよ」
ほんのわずかに、たった一歩。男の足が下がる。まるでいつまでも醒めない悪夢だ。濃厚な鉄のにおいは、あれらが近付くにつれますます濃くなっていく。
なにしろ青年は“愛”なんてものがさっぱりわからない。与え方どころか受け取り方も、それがそれがどんなものかということすら“理解できていない”のだから。
「……俺に求めるんじゃねぇよ」
そんなもの、俺は知らない。
たとえ仮に与えられたとして、受け取った側がそれを“愛”だと認識していないのなら無意味だ。なら、理解できずに容すらないそれを捧げたって、なんにも遺りゃしないだろう。
黒一色の全身から、ふわりと立ち昇る白い靄。赤子達の眼に映っているか、今のジェイ本人が認識できているかどうかも曖昧なそれ。
ひかり溢るる魔術師がかたちを成して、常闇の中で煌々とかがやいている。
「私の力が必要かい? ……おや、」
こてりと小首を傾げた親愛なる魔術師は、不思議そうに青年を見つめた。少しばかり様子のおかしい彼に声をかけても、ジェイの眼差しは赤子達を凝視している。
ふむ、と思案するものの、さして気にすることもなく、魔術師は杖を掲げて己の務めを果たす。
「まずは、寂しい子たちを眠らせてあげよう」
展開される魔法陣からごうごうと燃え盛る焔の彩は明るくて、喚き散らすいのちの群れにあかりを燈す。
「恋しいのなら、私がありったけのぬくもりをあげよう。あたたかさで、永遠に眠れるほどの」
ふ、と微笑を浮かべた魔術師の豪焔が、幻影でしかない赤子達を炎々と焼く。
においは随分と冷めていったのに、怯える青年の心は、まだ騒めいていた。
大成功
🔵🔵🔵
ダンド・スフィダンテ
怖い
なのに
助けを求める者に手を伸ばす事
それがどうしたって躊躇出来ない
その無謀、狂気を、勇気と呼ぶならそうであれ!
泣いてる子供が居るなら、抱きしめてやりたいんだ
愛が欲しいと泣く者に、どこまで出来るか分からないけど
だから近付いて
膝をついて、両腕を広げる。
おいで
母の腕とはいかないけれど、父の腕代わりにはなるかもしれない。
ぽすぽすと、花を触るに近い力で血の赤子たちの背を叩く
いてて、髪は引っ張る所じゃないんだぞ?
なぁ、頼むよ
泣き止んでおくれ
怖い夢を見ない様、眠るまで抱いているからさ
ほら、ねんね
ねんね
(彼らの求める姿への【演技】と彼らへの【慰め】は、きっと無意識に出来るこの不条理な世界への抗いの意志)
怖い。ただ、素直にそう思った。ダンド・スフィダンテの呼吸ははくはくと震えていて、鼓動のリズムはどんどん速くなる。
男の全身に纏わりつく恐怖は、一刻も早くあれらから離れろと警鐘を鳴らしている。
――なのに。
ああ、と。ふっともれた言葉は、ただ泣き叫ぶいのちのなり損ないを想っていた。この場から逃げだす方法はいくらだって思いついたはずなのに。助けを求める者に手を伸ばすことを、どうしたって躊躇できない。彼は、そういう人間だった。
その無謀と狂気を誰かが勇気と呼んでくれるなら、どうかどうか、そうであれ!
泣いているこどもを抱きしめてあげよう。愛が欲しいと泣く君達に、どこまでできるかもわからないけれど。
おぎゃあおぎゃあとぬくもりを求める赤子の群れに、ダンドはそっと近づく。ゆったりとして穏やかな足取りは、おびえるこどもを怖がらせないためのもの。
地面に膝をつけば、血だまりがじわりと染みる。羊水よりも生温く、吐き気を催すほどの濃厚な血のにおいの中で、両腕を広げた。
「おいで」
微笑む男の顔には、嫌悪だの恐怖といった色は微塵もない。母の腕とはいかないけれど、父の腕代わりにはなるかもしれないから。
我先に、と哀れな赤子達はダンドの腕の中へ飛び込むように血の海を渡る。おぞましい光景にも関わらず、彼の表情はいつものやわらかさを湛えていた。
ぽす、ぽす、と。まるで花に触れるような加減で、赤子達の背中をたたく。長い髪を引っ張られて、いてて、と少しだけ情けない声が出た。
「そこは引っ張る所じゃないんだぞ?」
順番に、平等に。背中をたたき、優しく頭を撫でて。それでもいまだに喚き散らす彼らにできることは他にないかと、全身を真っ赤に染めながら考える。
「なぁ、頼むよ」
どうか、泣き止んでおくれ。怖い夢を見ないように、彼らが眠るまで静かに抱いてゆらゆらとちいさな身体を揺らしてやる。
「ほら、ねんね。ねんね」
こんなにちいさないのちに、どうして怖がっていられるだろう。まだ思い出せない自分がどこかに宿したままの、不条理な世界に抗う意志が、確かに脈を打っている。
「――みんなみんな、いい子だ」
大成功
🔵🔵🔵
スカーレット・ブラックモア
POW
【傭兵】
アドリブ◎
「やれるか?…心配するな、同じだ。大人達から武器を奪った時のようにやればいい」
自分は無力な一般人…と思ってたはずだが体が勝手に動く
何をすればあれらを倒せるか本能が理解している
武器がないと思っていたが間違いだ
手元にあった、玩具みたいな形で
トリスメギストスの『封印を解く』
《暗獄拷問術・弐型》による『武器改造』で鉄の処女型に変形
内部へルナが撃った後の敵を閉じ込める
怯えるルナへグロテスクな敵の姿を見せないための配慮
怖いなら目を逸らしていい、代わりに見てやるから
「特別だ…苦しみを長引かせるような事はしない。どうか安らかに」
ルナ・クレシェント
【傭兵】
「さ、さっきと同じようにって、どうしたらアレは止まるんですか!……いや、まさか……ね?」
先程までとは何もかもが違う敵に戸惑うものの、集合体のような存在に有効な武器をふと思い出す
持っているわけがないと思いながら服の中を探り、【結晶弾】用の弾と拡張バレルを見つける
「どうしてこんなものを……ううん、とにかく今は!」
手にした銃にバレルを取り付け、【結晶弾】を三角の形に散らばるように発射。その後も血溜まりから生える赤子の腕を生える瞬間を狙って素早く撃ち抜く
スカーレットの手によって敵の姿が隠されると、安堵して銃を降ろす
殺す為の道具を手にしていることの自覚はしても、まだ心がついてきていないのだから
それの泣き声が耳に迫るたびに、ルナ・クレシェントの顔がひきつる。決して愛らしいものとは思えぬ真っ赤にまみれた群れに、心が恐怖と拒絶で震えた。
「なんなんですか、アレ……!」
「さあな。私達を害するモノであることだけは確かだ」
淡々と告げるスカーレット・ブラックモアも、何も恐れていない訳ではなかった。胸を引き裂くような悲鳴は、ほんの少しでも意識が揺らげば崩れ落ちてしまいそうになる。それでも何もできないはずの体が勝手に動きだそうとするのを感じたから。
「やれるか?」
「え……」
「心配するな、同じだ。大人達から武器を奪った時のようにやればいい」
彼の赤い眸が見つめているのは赤子の群れのみ。視線を交わすことなく語られた言葉に、ルナは明らかに動揺する。
「さ、さっきと同じようにって、どうしたらアレは止まるんですか!」
その問いに関する答えを、娘はもうどこかで知っていた。けれど認めたくなどなくて、乾いた声がかぼそくもれる。
「……いや、まさか……ね?」
知っている。濃厚な血の匂いを漂わせる、集合体のようなアレに対する有効な“武器”を。そんなもの持ってるわけがないのに、自分の服のポケットを漁れば――在った。いくばくかの弾丸とバレルは軽くて、なんだか怖くなるほど手に馴染む。
どうしてこんなものを、と考えるのはあと。ううん、と首を横に振って。
「とにかく今は!」
握り続けている銃にバレルを取りつけ、引き金をひく。ひどく軽い音と共に、弾丸が散らばっていく。その動作はやたらにスムーズで、娘はそれがおそろしかった。
飛んでいく弾丸状の結晶が三つの破片にわかたれて、無数の赤子の腕が千切れていく。その度に何かがこみあげる感覚がして、射撃の手を止めることなく必死に耐え忍ぶ。
「それでいい」
幼い見目をした青年は、理解している。どうすればあれらを倒せるのか、本能がそれをわかっている。武器など持っていないと思っていたこと自体が間違いだ。
自分の手元にある玩具みたいな組み木の立方体が、悍ましい道具であることを知っていた。ぽぉんと投げた先、封印を解かれた組み木はばきばきと音を立てる。鉄の乙女を模した棺がかぱりと開いて、薄い鉄をロール状にした腕がずるりと一気に伸びる。ルナが撃った赤子達に巻きつくと、鉄腕は彼らを棺の中へと招き入れる。
大きな音を立てたのち、棺は完全に赤子達を閉じ込める。ぎゃあぎゃあと泣き喚く泣き声ばかりが激しく響いて、棺の端から赤色の何かが零れ落ちる。ひゅっと娘の喉が鳴って、いまだ銃を構えたままの腕がかたかたと震えた。
「もういい」
そうっと、スカーレットはルナの両目を塞ぐ。あれらの泣き声は止められずとも、必要以上に見なくていいものは隠していられる。
「怖いなら目を逸らしていい、代わりに見てやるから」
「ひっ、は、はぁ……」
全身の力が抜けたようで、娘は安堵するように銃をおろす。これは殺すための道具だという自覚が蘇りつつあるけれど、心は未だ、追いつくことのない娘のままであるから。
特別だ、とスカーレットは口にする。いのちのなり損ないへの手向けにも似た言葉のつづりで。
「苦しみを長引かせるようなことはしない。どうか安らかに」
ただ、愛を求めていただけならば。求められるそれを返してやれない自分の精一杯がこれだ。
鉄の乙女から響いていた泣き声はだんだんとちいさくなって、最後にごぽりと赤黒い色彩が噴き出す。
青年は、おやすみなさいなどと言えるほど、自分は優しい人間ではないのだろうと思えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リア・アストロロジー
無意識にユーベルコードを発動
結果、感情が逆流して自爆してます
赤ん坊たちのさびしさが
どんなに泣いたって満たされないかなしさが
生きてはいけない世界にただ一人でいるこわさが
わたしのことを思うだれかがどこにもいないことが
こころの中をいっぱいにしてしまうから
赤ん坊みたいに泣きながらその声を止めようと拳銃を向けて
あの人とその家族を死なせた裏切者たちを極北の地に追い詰め
同じようにして殺そうとしたことを、薄っすらと思い出します
憎き仇――本当はただ理不尽に殺されたくなかっただけの可哀想な妹たちへ
向けていた銃口が、引き金を引こうとして、震えていうことを聞かない手が
無骨で大きな手に包まれて――
「……ごめんね」
いてもいいんだよ、って言ってあげられなくて
もうなにもしてあげられなくて
「あのね。わたしが泣くと、心配してしまう人が居るの」
そんなに泣いていたら、あなたのパパとママもきっと迷ってしまわれるわ
だからもう泣かないで
ほら、そこにあなたをさがしてるひとがいるから……
精神感応を制御してなるべく苦しませず、眠れるように
ほんの一瞬、大地を覆った黒炎を視線が捉えても。リア・アストロロジーはすぐにそれを忘れた。
おぎゃあおぎゃあと泣くいのちのなり損ないの群れを前に、無意識に少女を核としたネットワークが生み出されていく。けれど、彼女の脳は精神感応に特化しているがゆえに、膨大に流れ込んできた感情に、いまだ幼い心が囚われた。
「あ、ああ……」
器いっぱいに溜めてあった水が溢れだしてしまうように、逆流してくる感情がこころに滲んでくるのを止められない。
生まれることすら許されなかった、赤ん坊のさびしさが。どれほど泣いても満たされないかなしさが。生きてはいけない世界に、ただ一人でいるこわさが。
――わたしのことを想うだれかが、どこにもいないことが。
「わああああん!!」
大声で泣き叫ぶ八歳の少女は、血だまりの海で喚く赤子達とよく似た悲鳴をあげていた。こわい、さみしい、かなしい、つらい、くるしい、だれか、だれかわたしを愛して!
それでも、あの泣き声を止めなくちゃ。そんな一心で、彼女に相応しくない黒の拳銃を握って、赤子の群れへと銃口を向ける。
まだおぼろげな記憶が、いつかの日をうっすらと呼び覚ます。大切なあの人とその家族を死なせた裏切者達を、ひどくつめたい極北の地で跪かせたこと。今とおんなじように、殺そうとしたこと。
あの日のように雪が降っていたならば、きっと全て思い出したかもしれない。
憎き仇は、ただ理不尽に殺されたくなかっただけの可哀想な妹達。もしかしたら、立場が違っていただけかもしれない彼女達の幻想がぶれて視える。
あの時、どうしたんだっけ。引き金をひこうとして、震えていうことを聞かない手が、無骨で大きな手に包まれて。それで、
「……ごめんね」
手のぬくもりは、今はもう此処にはない。それまで視えていたあの子達の姿も消えていて、そこに居るのは愛を求めて騒ぎたてる彼らだけ。
ごめんね。いてもいいんだよって、言ってあげられなくて。もう、なにもしてあげられなくて。
「あのね。わたしが泣くと、心配してしまう人が居るの」
銃を構える手はもう震えていない。なのに涙だけは零れていて、これが止まらないのは知っていた。
「そんなに泣いていたら、あなたのパパとママもきっと迷ってしまわれるわ」
――ねぇ、だからもう泣かないで。
微笑むリアの表情は、幼さの中に家族の愛を知る少女の貌があった。
「ほら、そこにあなたをさがしてるひとがいるから」
それまで泣いてばかりいた赤子達が、ひとり、またひとりと不思議そうな表情を見せる。誰を見ているのか、誰の声を聴いているのかは、彼らとこころを共有したリアしか知らない。
どこか穏やかに安らいだ、無垢な顔をした赤子達に向けて引き金をひく。
ぱん。ぱん。ぱん。軽い破裂音は何度も続いて、それでも誰も悲鳴をあげたりはしなかった。なり損ないがただの肉塊と成り果てる。意味のない、骸の海に還っていく。
「こんな風にしかできなくて、ごめんね」
少女の脳に流れ込んでくるのは、ただしく愛を受け取れたと思いこむ赤子達の、幸福だけだった。
大成功
🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
私に這い寄り伸ばす腕は救いを求めているようだ。
残念だが私は君達赤ん坊を救済する術はない。
清い炎ではないのが申し訳ないが帰って貰おうか。
属性攻撃と破魔を付与した【陰炎】を全力魔法で行使。
早業と高速詠唱で素早く魔術を行使し灰にする。
露は救おうとしてその腕を。その手を取るだろう。
そうなれば彼らは露を喰らい尽くすだけだ。
救われたい一心で露を踏み台にし露の慈悲は無視して。
赤ん坊と露を天秤にかけた時に選択するのは『露』だ。
その身を焼いてしまおう。露が喰われる前に。
「…すまない、な…」
露は怒るだろうな。それは私も予想している。
泣いて私の頬を張るだろうことも理解している。
だが私は露が…『友人』が傷つくのはみたくない。
いいわけはしない。露の行動も間違ってはいない。
「…今回は君が無事ならいい。私は、な…」
…。
故郷で生活していた私の子供の頃を今思い出すに。
私も一つ間違えていたら赤ん坊側になっていたかもな。
この子達と私を隔てるものはないのかもしれない。
頬が酷く痛む。故郷の仕事は…やれやれだ。
神坂・露
レーちゃん(f14377)
腕を伸ばすものだからあたしはその手を取るわ。
でもレーちゃんは鋭い声で注意してあたしを庇うの。
ねえ。なんで?助けてって言ってる感じじゃない。
親友は答えない。黙って魔法を…え?レーちゃん?
「だめよ。これじゃ、救ってから還さないと…」
言うけどやっぱり答えないで…もお。あたしがするわ!
破魔を加えて範囲攻撃をつけた全力魔法の唄を歌うわ。
使うのは【精霊たちの調べ】よ。癒しちゃうんだから♪
…ちょっと精霊達の協力は弱いとは思うけど…。
唄おうとした時にレーちゃんが炎で焼き払ってしまって。
…!…ッ!!
既に灰になってる赤ちゃんもいたけど生きてる子もいて。
…せめて。せめて。あたしの唄で還るまで癒すわ。
全て終わった後に思いきりレーちゃんの頬に平手打ち。
唄で還せたかもしれないのに。傷つけることないわ。
勿論レーちゃんには考えがあってのことって解ってる。
けど。
レーちゃんは言い訳もしないで小声で何か言ったわ。
小声で聞き取れなかったけどあたしのこと言ったみたい。
泣き顔で抱き着いたら撫でてくれた。
羊水代わりの血の海に、全身どっぷりと浸かった赤子達。こちらへと這い寄り愛を求めるそれらに、神坂・露は迷うことなく手を伸ばす。
この手を取らなくてはいけない。だいすきな親友のこと以外、何も覚えていなくても。そうすることが自分のやるべきことだと、少女はどこかで理解していたから。
「露、やめろ」
「レーちゃん……?」
すっと自分を庇うように制するシビラ・レーヴェンスの動きに、露は戸惑う。
「ねぇ、なんで? 助けてって言ってる感じがするわ、レーちゃんだってわかるでしょう?」
彼女の言う通り、シビラにも彼らの泣き声は悲しく寂しい色で届いている。だからきっと、友人がその手を取ろうとするのは明白だった。けれどもし、たった一度でもその手を取ってしまえば――彼らは彼女を喰らい尽くす。
救われたい一心で、露を踏み台にして。彼女の慈悲なんか無視して、与えてくれた優しさの意味なんか理解しないで、心をひとかけらも残さない。
突然この場に現れた赤ん坊と、ずっと傍に居てくれた友人を天秤にかけたなら、選択肢などハナから決まっている。
レーちゃん、と何度も呼びかける露に応えず、魔女は黙って魔導書の頁を捲る。迷いのないその動きに、少女はほんのわずかに恐怖を覚えた。
「え……レーちゃん……ねぇ、だめよ、それじゃ。救ってからじゃないと、ねぇってば、やめて」
いつもならめんどくさそうに此方を見て、やれやれとため息をついて動きを止めてくれるシビラが此処には居ない。それが恐ろしくて、腹立たしくて。
「もぉ、あたしがするわ!」
こうなれば、シビラより速く癒しと浄化を施さなくてはならない。不安で鼓動が跳ねるのを感じながら、露は唇に歌をのせていく。破魔のまじないを埋め込んだ詞に精霊達を招くけれど、彼らの協力はどこか弱く感じられる。それはいまだ、力と記憶を取り戻せていない影響なのか、あるいは。
それでも、露は息を吸って吐く。メロディーを音にしようとした時だった。
――轟々と、紫色の炎が眼前で泣き叫ぶ赤子の群れを覆う。
「……!!」
熟練の魔女のまじないは、露の子守唄よりも一足速かった。破魔の属性を重ねても、それは決してきよらかな彩をしていない。あっという間に灰になっていくいのちのなり損ないに、露の目が見開かれる。
(だめ、だめよ。せめて、せめてまだ生きている子達だけでも!)
奔るように歌声を響かせて、露は子守唄の調べを奏でる。混乱する思考を抑えつけて、今はただ残ったいのちが還りきるまで、やさしい愛を歌い続けた。
シビラは、全ての赤子達を灰にするつもりでいた。露が喰われてしまう前に、大切なあの子が喪われてしまう前に。
清い炎ではないのが申し訳ないと思って、けれど後悔なんてひとつもしていなくて。
――だって自分には、彼らを救済する術を持っていないから。
「……すまない、な」
歌声にまぎれたちいさな謝罪は、必死に赤子達を救おうとする露の耳には届かない。むしろシビラは、届かないでほしいと思った。
すべての赤子達がひかりの粒子となって消えたあと。露は静かにつかつかとシビラへと詰め寄る。そうして、なんの予備動作もなく親友の頬を平手打ちにした。
ぱん。激しい音とひりひりと痺れる感覚に、シビラは少しも動揺を見せない。怒ることくらい、予想できていた。
けれどシビラは、“友人”が傷つくのは一番見たくなかった。たとえ今、自分のせいで彼女が傷ついているとしても、もっと深く壊されている姿は想像すらしたくなくて。
ぽろぽろと涙を流す露のほうが痛々しい表情をしていて、震える声で口を開く。
「全員、あたしの唄で還せたかもしれないのに! ただ愛されたかっただけの子達を、傷つけることないわ!!」
そう吐き出す露にだって、冷静沈着で自分より賢いシビラには考えがあってのことだとわかっている。それでも、自分に相談もなしにあっさりと憐れな存在を焼き尽くしたことが許せなかった。
「……今回は君が無事ならいい。私は、な……」
「え……」
言い訳をするつもりはないし、彼女の行動も間違っていない。そのわずかな呟きをすべて聞き取れはしなかったけれど、露の耳には確かに自分を思いやるシビラの想いが垣間見えた。
「……!」
ぐっと唇を噛み締めて、涙でくしゃくしゃになった顔のまま親友に抱きつく。そんな露を受け入れながら、シビラは少しずつ自分の記憶が戻っていくのを感じていた。
あの厳しくつめたい故郷で生活していた頃のこと。ひとつ間違えていたならば、自分もあの赤子達と同じ側だったのかもしれない。
(あの子達と私を隔てるものは、ないのかもしれない)
友人にぶたれた頬がひどく痛む。故郷での魔女の役目は、
「……やれやれだ」
大成功
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第3章 ボス戦
『『日輪』シャマシュ』
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POW : 残り火
【自身の肉体を崩壊させて噴出する炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【周囲を眩く照らす灼熱の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 真実と正義の主
【まるで全てを見通しているかのように】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : 日は未だ昇らず
戦闘力のない【壊れた太陽円盤】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【太陽や救いを求める人々の信仰心】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
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振り払った幻影がかき消えて、猟兵達は己が何者であるかを思い出す。
それまでの過去も、痛みも、歓びも。思い出も、ぬくもりも、哀しみも。
――静かに、黒焔宿す女が現れる。
陰り曇った日輪を背負いながらも、かつての女神の姿は何処にもない。
自然の摂理による秩序も、弱肉強食に定めた正義も、全て忘れてしまったのだから。
在るはずの両目から噴きだす黒の炎はすさまじく、灼熱が猟兵達の膚をつたう。
輝きは喪われているとて、女は日輪を呼んでいた。
それが嘘だとしても。
陽の光が、この世界にないとしても。
――猟兵達とて、同じであるように。
ルナ・クレシェント
【傭兵】POW
「我ながら怖がりでしたね、昔はあんなでしたっけ」
「忘れて欲しいんですけど……ダメですか?」
記憶を取り戻し、先程の怯えを他人事のように感じる。そして記憶がなくても縁あったスカーレットに対しバツが悪そうに忘れること要求
「真っ向勝負は分が悪そうですし、必要経費です」
代償を承知の上で選択UCを使用
視界を潰されないよう、精霊に炎に炎での相殺を指示。自身は後方からの射撃を軸に戦闘
「あれ?女性だったんですか?……いえ、もちろんわかってましたよ?こう、顔立ちから、ええ」
スカーレットの真の姿を初めて目撃した時の反応。男性だと思っていたため本気で驚き目を丸くしてから、わかっていたのように誤魔化す
スカーレット・ブラックモア
WIZ
【傭兵】
最後の敵の出現に合わせ全てを取り戻す
自分が何者かであるか、この場に居た理由…ついでに隣にいる人間(ルナ)とちょっとした知り合いである事も
記憶がないなりに、これまでの戦いをうまくやれていた事に驚きはするが無駄話は後
「その姿…亡者や他のオブリビオンとも一風違うな?」
元はこの地で信仰されていた神なのだろうがオブリビオンと同等の存在に堕したのであれば排除は必然
神であろうとなんであろうとそれに臆する生き方をしたつもりはない
真の姿を使用
選択UCで日輪の威光を掻き消す闇を生み出し回復した先から霊の吸血と眷属の援護で潰す
「予測しようとも物量の前には逃れられまい」
「(女性呼ばわりに対し)違う」
現れたオブリビオンを見て、そろり、なんとなしに右の眼に触れる。それだけで、スカーレット・ブラックモアは全ての記憶を思い出した。
己は暗夜の貴族、ブラックモア。この場に降り立った理由は、魔を狩るために。ついでに、隣でぱちりと瞬きをした人間と、ちょっとした知り合いであることも。
「我ながら怖がりでしたね、昔はあんなでしたっけ」
まるで他人事のように呟きつつも、どことなくばつの悪そうな表情で笑ってみせるルナ・クレシェントに、少年めいた青年はそれまでの彼女の仕草を重ね合わせる。
「終始、随分と怯えていたな」
「忘れて欲しいんですけど……ダメですか?」
さてな、と彼は狂えるオブリビオンを見る。人の言葉を話すでもなく、此方を探す素振りもなく、ただ、恐怖を糧とする化け物が其処に居た。
記憶がないなりに、よく今までルナと連携できていたことに多少驚きはしたものの、無駄話はあとで。忘れるかどうかも、この討伐が終わってからの話だ。
「その姿……亡者や他のオブリビオンとも一風違うな?」
背にした日輪は翳り曇って、それでも鈍いひかりを放っている。それは、二人の瞳を灼くようなものでもないのだけれど。
「なんでしょう、神様かなにかですかね。いわゆる第五の貴族、でもなさそうですし」
はて、と小首を傾げながら、ルナも相手を観察する。彼女の意見に同意するように、スカーレットが頷く。
「おそらく、この地で信仰されていた神なのだろう。が、」
――オブリビオンと同等の存在に堕したのであれば、排除は必然。
「神であろうとなんであろうと……それに臆する生き方をしたつもりはない」
ぶわり、小柄な身を闇が包み込む。長い金の髪をなびかせて、吸血姫にも似た姿が顕現する。黒と赤に変化した右眼の端で、驚いたような表情をする娘が映る。
「あれ? 女性だったんですか? ……いえ、もちろんわかってましたよ? こう、顔立ちから、ええ」
「違う」
即座に答えれば、ああ、やっぱりそうですよね、なんて取り繕った言葉がルナからこぼれる。どこかリラックスしたような雰囲気で、月の娘は軽く咳払いをした。
「真っ向勝負は分が悪そうですし、必要経費です」
たいせつなものを、一グラム。魂のひとかけらを精霊に差し出して、暗青色の龍銃を携える。喪ったのではなく、ほんのすこしを銃に宿る彼に委ねただけ。
かつて女神であったそれの一部が、ほろほろと欠けていく。欠けたそれが炎と成って落ちていけば、猟兵達へと眩く輝いて視界を遮る。
「させませんよ!」
まばゆさで見える世界を潰される前に、月の娘の構える銃から龍が昇りたつ。青黒い焔は爛々と燃え滾り、オブリビオンの輝く焔を喰らい尽くす。
「それじゃ、いつも通りいきましょうか!」
ルナの言葉がきっかけだったか、スカーレットの纏う闇が戦場全てに揺らめいていく。同時に、恐怖を越えた二人を見失ったままのオブリビオンは、上空に浮かんだ罅割れた太陽円盤で煌々とひかりを降らせていて。
「かつての威光など、今となっては無意味だろう」
暗青龍と祖霊の闇はいつわりの太陽を墜として、世界は再び闇へと変わる。悍ましくも勇ましい祖霊の群れが、各々が刃を手にして女神へと襲いかかる。
眷属である蝙蝠の群れが、スカーレットの影から溢れでる。焔で全てを払いきれぬ女神の身体から、貪るように吸った血の赤は、すべてが主のもとへ巡っていく。
「予測しようとも、物量の前には逃れられまい」
ましてや、とっくに消え失せた信仰に縋りついたとて、なんの意味もない。
女神の視界を蝙蝠と祖霊が覆った矢先、よーし、とここ一番に明るい声が笑む。引き金を引くだけの覚悟が、月の名を持つ娘には蘇っていた。
「終わりにしましょう、神様」
龍が咆えて、弾丸がオブリビオンの胸を穿つ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リア・アストロロジー
吸血鬼の軍勢に弑され
狂えるオブリビオンとなった神さま。
もうなにも見えず、声もとどかない。
怖さだけを見つけて、燃やす神さま。
「わたしには、今は怖いものだってたくさんあるんですよ」
神さまを信じる人たちの手で造られたわたしには、こわいものなんて何もなかったのに。
……いいえ、違う。分からなかっただけ。
あの方たちは心を操ることができるわたしが怖くて、わたしのこころを失くそうとして。
でも、
「喜んだり、怒ったり、悲しんだり……たくさんのことを知って、ここまで来たんです」
話しかけながら、不思議と怖さはなくて。
ただ、罅割れた日輪が――それを背負う神さまが、それでも、綺麗だなと思いながら。
「でも、あなたは、忘れて……失くしてしまったのですね」
それが、少しかなしい。
「わたしは、先に進みます。何ができるか分からないけど……まだ間に合う人たちが、待っている人たちが、きっといるから」
黒い炎を怖れず、女神の体ではなくなるべくその炎を払える距離で、拳銃を向けます。
「だから、神さまはもう、どうか御休みになられてください」
揺らぐような闇彩の戦場で、まがいものの太陽がぼんやりと浮かんでいる。それが狂えるオブリビオンの背にする日輪だったか、罅割れた太陽円盤だったかなんて、どちらでもいいことだった。
吸血鬼の軍勢に弑され、狂える過去となった神さまへ、リア・アストロロジーの青い瞳がやわくきらめく。
黒焔を流していく両眼にはもうなにも見えなくて、その耳には声のひとつもとどかない。怖さだけを見つけて、かつての灼熱でそれを燃やそうとするあなた。
「わたしには、今は怖いものだってたくさんあるんですよ」
神を信じてやまなかった人々の手で造られ産まれた少女には、あの頃はこわいものなどなんにもなかったのに。
「……いいえ、違う」
少女には、ただわからなかっただけ。こわいものが、なんなのかを。
その手でリアを造りあげた彼らは、こころを操る術に長けていた彼女が恐ろしくて。ならばとちいさな胸に秘めたこころを失くしてしまおうとしていた。けれど彼女には、それを許さずに居てくれる人達が居た。
「喜んだり、怒ったり、悲しんだり……たくさんのことを知って、ここまで来たんです」
たくさんに注いでもらった愛こそが、彼女をリア・アストロロジーたらしめてくれた。だからこそ、独りぼっちでも生きていこうと、こうして地面を踏みしめている。
微笑みながら女神に言葉をかけるリアの胸には、不思議とオブリビオンへの怖さは見当たらない。罅割れた日輪が――それを背負う女神が、どれだけ罅割れていようとも、綺麗だと思えた。
己に恐怖を抱かぬ幼い少女を探し出すことができず、狂える神は円盤で世界をまばゆく色づかせる。ほんの少しだけそれが眩しくて、リアはそっと、ちいさな拳銃を握る。
「でも、あなたは、忘れて……失くしてしまったのですね」
――それが、少しかなしい。
もうもうと煙る黒い炎を恐れることなく、少女の幼い強化脳がバチバチと電気信号を放つ。苛烈な反応は痛みを伴い、疲弊し、リアという少女の認識をほのかに奪う。けれど、この神さまに祈りを捧げた人々に、どうか願いが届いてほしくて。
「わたしは、先に進みます。何ができるか分からないけど……まだ間に合う人たちが、待っている人たちが、きっといるから」
ハローハロー、聞こえていますか。メーデーメーデーお願いです、わたしの願いをきいてください。
ちっぽけなソーシャルディーヴァの精神感応は時空を超えて、遥か過去に眠る誰かのこころに訴えかけた。
「神さまを愛した全てのあなた、どうか彼女が眠れるように、わたしに力を貸してください!」
途端、全身を駆け巡る電気信号は、ひどく痛くて優しくて。これが女神を信じていた、すべての誰かの想いなのだと理解した。
駆け出した足は、見えない星屑の大群に背中を押されるように速くなっていく。女神を覆う闇炎のみを払えるように、構えたお守り《銃》はたった一度だけ弾丸を放つ。
「だから、神さまはもう、どうか御休みになられてください」
涙はこぼさない。女神を看取るこのひと時には、必要のないものだから。
大成功
🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
そういえばこの世界は神族が存在していたな。辺境だったろうか。
この女の元神も四層では崇め奉られていたのだろうか…。
「露、そろそろ離れろ。攻撃が来るぞ」
封印を解きパフォーマンスを上昇させ身体機能の向上を図った後。
限界突破し全力魔法と属性攻撃を付与した高速詠唱で【禍の魔杖】。
相手は曲がりなりにも神だった存在だ。防御も堅いだろう。
魔術に貫通攻撃に鎧無視攻撃も付与しておこう。
露をサポートするように赤い『剣』を操作。時には護る縦にする。
他の者と連携する際にも露のサポートと同様に『剣』を扱う。
私への直接的な攻撃は見切りや野生の勘や第六感で回避。
そして私は一つの場所に留まらず常に動いていよう。
元神に狙われるのは勘弁して欲しいからな。露も集中できまい。
「ん? どうした露」
露が普段のようにくっついてくるが何か変だ。そして大人しい。
聞いて得心した…頬を張ったことをまだ気にしていたのか。
「…怒って…はない。…救済の…方法が異なった…だけだ…」
だから張った方の頬を摩らないで欲しい。力一杯に。
神坂・露
レーちゃん(f14377)
この女の人ってダークセイヴァーで神様だった存在なのかしら。
なら下層で崇めたり恐れたりする人達がいたのよね。神様だし。
そーゆー人達のことも忘れてるのは…少し悲しいわ。
「あ…うん!」
レーちゃんのこと気にしてられないわ。集中しないと!
リミッター解除したあたしの【銀の舞】をお見舞いするわ。
二本の剣で早業の2回攻撃をフェイント混ぜてしてみるっ!
神様みたいだから回避をしっかりしないと迷惑かけちゃうわ♪
神様の動きは見切りと野生の勘に第六感で避けてみせる!
レーちゃんの魔法があたしを護るみたいに動くから安心よ。
他の人でもレーちゃんでも連携すれば神様だってッ!!
それはそうとレーちゃん頬がまだ痛いかしら?怒ってる?
聞こうと思ったけどなんだかとっても聞き難いわ。聞き難いわ。
でも頬とレーちゃんの心が凄く気になるから話すわね。うん。
レーちゃんもキッカケ作ってくれたし少しだけ聞きやすいわ。
そしたらレーちゃんは問題ないって。えへへ♪レーちゃん!
顔を少し緩めた気がしたのはあたしの気の所為かしら。
いまだ消えぬことなき偽りの太陽に、神坂・露の柔和な瞳が細められる。
「この女の人って、ダークセイヴァーで神様だった存在なのかしら」
すっかり地に墜ちたほんのわずかな神性の気配を感じとり、少女は隣に立つ親友の手を握る。ふむ、とシビラ・レーヴェンスは頷いて、露の言葉に応じる。
「そういえばこの世界は神族が存在していたな」
確か、辺境の地だったろうか。目の前に立ちはだかる彼女も、四層では崇め奉られていた可能性に少しだけ想いを寄せる。シビラ以上に、露も女神のいつかを想う。下層で彼女を恐れ崇め、祈りを捧げ、愛をこめていたのかもしれない。
「そーゆ人達のことも忘れてるのは……少し、悲しいわ」
ぽつりとこぼした呟きを、シビラの耳はどんなささやきでも拾ってしまう。ぎゅ、と繋ぐ手の力が強まったのを感じながらも、少女は友人に短く言葉を放つ。
「露、そろそろ離れろ。攻撃が来るぞ」
「あ……うん!」
全てを思い出した二人に、不安は何ひとつないけれど。ほんのりと腫れたシビラの頬に気を取られていた露は、二振りの刃を手に走りだす。罅割れた太陽円盤を掲げる女神に、恐れを乗り越えた二人の姿は見つけられない。その代わりと言った風に、ぼうぼうと灼熱の炎が眩しく燃えて、暗黒の戦場に疑似的な陽のひかりを溢れさせた。
魔女はその身に宿した封印をほどいて、身体機能の著しい向上を図る。上限を超えた魔法の使用は、幼く見える身体に十分すぎる負荷をかける。それでも、出し惜しみをするような相手ではないとわかっていたから。
――相手は、曲がりなりにも神だった存在。
いつかの忘れられた信仰をかき集めているとしても、その防御力は脅威になる。唇にまじないを乗せて、軽やかに紡がれていく魔法の言葉。
シビラを中心として深紅に輝く魔法陣が展開されれば、彼女の周囲に千二百をゆうに超える紅の細剣が出現する。あらゆるものを貫通する魔術を付与された刃の鋭さは一気に増して、眩しい火焔の群れを薙ぎ払う。
紅の刃達がつくった道を駆け抜ける露は、上着を脱いだ身軽な姿で一気に戦場を駆け抜ける。恐怖を感じることなき娘の動きを確かめられない女神の焔を見切って、一度の回転で二度の斬撃を繰り広げた。
苦痛に顔を歪める女神の両眼は、黒焔を靡かせていてよくは読めない。それがやっぱり悲しいと感じられて、露は攻撃の意思を貫いていく。
ごう、とナニカを叫んだように吼える女神に呼ばれたのか、戦場の眩火がはっきりと露めがけて襲いかかる。
「大丈夫♪ レーちゃんの魔法が、あたしを護ってくれるもの!」
炎を見切ったと同時に、火傷ひとつ許さぬと言わんばかりに紅の剣は即席の盾を造りあげた。更に魔力で編まれた紅刃の群れは、女神の生み出した火の海を地面に縫い留める。足場代わりに宙に浮かぶ細剣の上で飛び跳ねていけば、露は舞い踊りながらの急降下。
「――!」
彼女の動きに合わせて、シビラの魔力操作は更に正確さを増す。魔法陣のひかりはいっとう妖しくあかく、二振りの刃の斬撃が落ちた直後、千を超えた朱い刃が女神の頭上から土砂降りのように突き刺さっていった。
動きを封じられ、此方の全力の攻撃を受けた女神の様子も気になるけれど。やっぱり露にはもっと気にしてしまう問題がある。
まだ痛そうに見える親友の頬を赤くしたのは、他でもない自分の掌。怒ってる? なんて聞いてみようとおもったけれど、なんだかとっても聞き難い。そう、とっても聞き難いわ。
「ん? どうした露」
ぱっと此方へ戻ってきた友人が、普段のように寄り添っている。けれど妙に大人しく、何処となく居心地の悪そうな表情をしているものだから。
「……ごめんなさい、まだ怒ってるわよね」
おずおずと聞く姿に、ああ、と得心する。頬をはたいたことを、君はまだ気にしていたのか。
「……怒って……は、いない。……救済の……方法が異なった……だけだ……」
問題ない。最後にそう言い切ったシビラの表情は、いつものクールな彼女。頬と心の痛みが気になっていたから、露は安心するようにほっと息をつく。
「えへへ♪ レーちゃん!」
はたかれた方の頬を精一杯にさするのが邪魔だとも言えず、魔女は大人しくされるがまま。ふいに、露は女神へと視線を向ける。
「……この人の救済は、どんなものだったのかしら」
「さぁな。私達にはもはや関係のないことだ」
――喪われた信仰のあとは、未だ燃ゆる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
護堂・結城
【狐狼】
容赦なく斬ってきた人でなしにも、胸を焼くような怒りはあるんだよ
絶望も恐怖もとうに燃え尽きた、もうお前に俺は見つけられん
戦闘開始と同時に指定UCを発動、自身の怒りの感情を喰らって劫火の剣群を召喚
念動力で操作して自動射撃を仕掛けるぞ
人を助けたって、血の赤子達を倒したって、何も変えられない。全て過去の出来事
だが『意味がなかった』とは誰にも言わせない
「司狼、全力で殴り刻む」
氷牙をガントレットに変化、劫火剣を右手に集め、限界突破した怪力と共にぶち込む斬撃
突き立てた剣を爆破させて衝撃波と焼却・爆撃の属性攻撃で追撃だ
「あの光景が虚像でも、今ここにいる俺の怒りの焔は本物だ」
彼岸花・司狼
【狐狼】
俺達は人だから救えないし、
俺は人でなしだから救わない。
取捨選択もできないでただの人が生き抜けるほど、
ダークセイヴァーはやさしくなかったからな。
UCは攻撃より護堂の強化と相手の炎への防御に使う。
護堂を盾で押し飛ばすようにしながら、
塗り替えにより炎への耐性付与と腕力強化で【限界突破】させて
【捨て身の一撃】を相手に叩込む。
信仰が人の支えになっていたとしても、
壊れた神には、荷が重いだけだろ。
万全でも足りないだろうに
かつて神様で在ったそれが現れた時、震えるように鼓動が動いたものだから。全て思い出したと、護堂・結城は歯を剥いて笑った。どれだけ容赦なくいのちを斬ってきた人でなしにも、胸を焼くほどの怒りが滾っている。絶望だって恐怖だって、とっくの昔に燃え尽きてしまっているから。
「もうお前に俺は見つけられん」
主の傍らで鳴くちいさな竜を照らすように、雪見九尾の翼が白く燃える。煌々と眩いそれは、己の身体のかけらを零して燃やそうとするオブリビオンの焔と似て非なるものだった。
ぐぱりと口を開けた妖狐が喰らったのは、誰でもない自分の怒り。劫火で出来た剣の群れはいくつもいくつも戦場を眩しく焼く。まがいものの太陽よりも、この感情のほうが恐ろしいと言わんばかりに。
彼岸花・司狼は淡々と、深紅のまなこと眼帯の向こうで女神を見据えている。それまでの歪な自分を取り戻して、こんなどうしようもない常闇を想う。
「俺達は人だから救えないし、俺は人でなしだから救わない」
取捨選択もできないで、ただの人が生き抜けるほど、この世界はいちからひゃくまでやさしくなんかなかった。目の前で両目を黒焔で覆う彼女はどうだったのだろうか。
虚構の無敵《かみさま》を殺すため、少年は念じる。絶対に勝てない相手などと、そんなのは嘘っぱちだと塗り替えるために。次の瞬間、槍と盾を携えた騎士が、主の念に応じるようにしゃらりと鎧を鳴らしていた。
焔刃の群れが一気に女神へ襲いかかるのと、女神の陽焔が二人めがけて奔るのは同時。騎士は言葉を発することなく、主達に降りかかる灼熱の太陽擬きを盾で払う。
たとえば自ら死を選ぼうとする誰かを助けたって、たとえば愛を求めて泣き叫ぶ血飲み子達を殺したって、なんにも変わることはない。全ては過去の出来事で、骸の海は全てが過去なのだから。
――なにも変えられない、けれど。『意味がなかった』とは、誰にも言わせない。
「司狼、全力で殴り刻む」
結城の言葉にちいさく頷いて、司狼は再び念じる。燃え尽きぬことなき灰色の空想が、騎士の盾を更に強化していく。
妖狐に加速装置を着けるように、騎士は結城を盾でぐっと力いっぱい押し飛ばす。焔刃が切り裂いた女神への道を一気に駆け抜けている最中、青年の傍らに舞うちいさな竜はガントレットとして主の腕に纏わりつく。
超強化された右腕へと集めた焔の刃の群れは一体化し、暗闇の中でごうごうと燃え盛る。女神の貌と妖狐の顔が触れあうような距離まで近付いたなら、尋常ならざる腕力によって焔の剣が斬撃を喰らわせる。
「それで終わり――なんかじゃない」
つ、と静かに呟いた少年の言葉通り、結城を追うように接近した騎士の槍の穂先が鋭く巨大化する。炎への耐性を手にした虚構殺しは、全力の力を女神へと叩き込んだ。
耐えきれずに崩れ落ちるオブリビオンに突き立てられた焔の剣が、すさまじい音を立てて騎士諸共爆発した。延焼し続ける死の炎が、やけに眩しく感じられる。
なぁ、と。少年は女神に尋ねる。
「信仰が人の支えになっていたとしても、壊れた神には、荷が重いだけだろ」
万全でも、足りないだろうに。そうして忘れられた彼女には、もう要らないものだろうと思えた。
雪見九尾の眼光が、尚もほえる。ぐらぐらと煮え滾るそれがいつまでも終わらぬと言いたげに。
「あの光景が虚像でも、今ここにいる俺の怒りの焔は本物だ」
すべてすべて、忘れてなどやるものか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジェイ・バグショット
その曇った日輪で
一体何を照らそうって言うんだ?
世界を認識すら出来ないほどに狂った姿を憐れに思う
敵が恐怖や絶望を感知するというのなら
利用しない手はないだろう
かつて過去に抱いた恐怖も絶望も
未だ己の内に燻っている
変えられない過去が俺を弱らせる
だがそんなことは自分が一番分かっている
俺は弱いからこそ生き残ってきた
狡猾に思考を回し
目的のために手段を選ばず
残酷なこの世界をこれからも生きる
敵が俺を感知して狙うなら思惑通り
刻印より猟犬型の血液生物を数体生み出し各自強襲させる
俺は囮って訳だ
自立思考型の拷問具『神化せしクグーミカ』を召喚
圧倒的怪力とあらゆる拷問具を使い
気味の悪い奇声を発しながら嬉々として敵を蹂躙する
口からごぷりと吐きながら、いくつもの銃弾と刃で貫かれた肉体から咲き誇る血の色は赤い。神と名乗る奴の血も赤いことが多いのか、と、ジェイ・バグショットは冷たい彩の眼差しを向ける。
「その曇った日輪で、一体何を照らそうって言うんだ?」
自然の摂理や絶対的正義どころか、いまや世界を認識すら出来ぬほどに狂った女神の姿はいっそ憐れに思える。
恐怖、絶望のみを感知するその怪物の習性を、此方が利用しない手はない。最期の花火のように燃え盛る陽の灯りの群れは、青年の胸の裡に燻る恐れを喰らい尽くそうと奔りだす。
ほんのすこしだけ昔の話。あの頃抱いた恐怖も絶望も、ジェイの心にこびりついて離れないまま。変えられない過去が、青年を弱らせる。
――だが、そんなことは自分が一番わかっている。
「俺は弱いからこそ生き残ってきた」
ジェイが語りかけているのは、ほろほろと全身を砕くように焔を生みだすオブリビオンか、それとも恐れを抱いたままの自分自身か。
狡猾に思考を回して、目的のために手段を択ばない。そうやって、残酷なこの世界を生きてきた。
――そうやって、この常闇をこれからも生き抜いていく。
抱いたままの虚弱な感情をいのちごと奪い取るように、炎の群れがジェイの眼前に迫る。瞬間、ふ、と彼の口の端が歪んだ。
体内の刻印《ドライバー》が轟いて、青年の身体を痛みが滲む。黒装束の裾から零れ落ちるあかい海は、猟犬の容をした血液生物と成って産み落とされた。びしゃびしゃと濃厚な匂いと共に、まがいものの太陽の火焔が沈んでいく。
自分自身を囮とした彼の指示もなく、猟犬達は女神の身体を食い荒らす。がぶりと一気に噛みつく度に、その牙は鋭利な槍に姿を変えて血の海に還る。
「……遊びの時間だ、楽しめよ」
ジェイがそう誰かに呼びかけた時、応じるようにひどく気味の悪い奇声が響く。己で考え動く拷問具は、両目を亡くしたかつての女神の内臓を引きずり出す。
腕が飛ぶ、脚がもげる、臓物がまた噴き出す。けれどオブリビオンが悲鳴をあげることはなく、ただ苦痛に顔を歪めて、悍ましい拷問具に蹂躙されていた。
「お前にくれてやる感情なんざ、ひとつも無ぇよ」
――それが、彼女の幕引きだった。
この常闇の世界には、しらけたような朝が来ることはまだない。
今は、まだ。
大成功
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