●探偵の燻り
私立探偵のトニー・ハセガワが失踪してから、半月ほどが経過した。ハセガワの親友であり探偵仲間でもある岩瀬・安司を独り置いて。
かつて、ハセガワと岩瀬は気の合う相棒同士だった。刑事として幾つもの死線を潜り、同期の中でただ二人生き残った。勢い余って警察にとって“不都合な”事件の真相に迫ってしまわなければ、今も最前線で多くの重武装犯罪者との死闘を繰り広げていただろう。
あれほどの事件を解雇という形で終わらされてしまったことは、ハセガワにとっても、岩瀬にとっても、あまりにも不本意な結末だった。だが、それでよかったのだと岩瀬は自分を納得させる。あれ以上首を突っ込んでいたならば、二人とも“不幸な事故”により殉職していただろうから。
お互い少しでも弱者の力になりたくて、退官後は冴えない探偵として、メガコーポを敵に回さぬよう慎重に立ち振る舞っていた。それでも誰かを助けられるのならば、それで十分だったじゃないか……だが岩瀬にとっては諦念の末に手に入れたささやかな日常も、ハセガワにとっては屈辱の負け犬の日々だったようだ。
『SEISHIN』
ハセガワが最後に岩瀬に宛てたメッセージを暗号として紐解くと、そんな言葉が浮かび上がってきた。世界を牛耳るメガコーポの一つで、カルト宗教団体『誠真教』との繋がりも取り沙汰される――否、誠真教の営利部門が今日に至るまで拡大し続けて生まれたのがSEISHINだ。彼らが貧民街で救民と称して何をしているか、岩瀬も知らないわけじゃない。
「馬鹿野郎……折角助かった命を自分から捨てやがって」
誠真教の支配地域に隣接するカフェで、岩瀬はエスプレッソのカップを片手に物思いに耽る。
自分は何も見なかったフリをしてつつましく生きるべきか、それとも友の遺志を継ぐべきか、と。
●誠真教の狂気
「結局は岩瀬なる男、弔い合戦へと向かう決意をするようじゃの」
そしてSEISHINの息の掛かった警官隊が警備する秘密工場に向かったところで発見されて友と同じ結末を辿るだろうというのが、ヤクモ・カンナビ(スペースノイドのサイキッカー・f00100)の視た未来。
「その結末とは……こうじゃ。誠真教の救民思想を理解できぬ哀れな人間と見做されて、薬物とサイバー措置により信仰の尖兵へと強制的に生まれ変わらされる。それすら適用できぬようであれば――ハセガワがそうじゃったようじゃが――現世の穢れに染まりきった魂であるとして、浄魂殉教なる儀式を執り行なうようじゃ」
すなわち、殺害される。
はたして、岩瀬の調査を手助けするのか。それとも彼に調査を断念させて、代わりに猟兵だけで調査を行なうのか。それはどちらでもかまわないとヤクモは語る。
「ただし、いずれにせよ岩瀬から、ハセガワに託されたという秘密工場の間取り情報を聞き出す必要はありそうじゃな。もっとも、こちらが敵の間諜ではなく、十分な実力の持ち主であると証明できれば、然程難しい話でも無かろうが……」
秘密工場の間取りさえ判れば、あとは警備に見つからぬように工場に爆弾を仕掛け、もしもオブリビオンが現れたならそれを撃破するだけ。そうすればハセガワや他の犠牲者たちも、少しは浮かばれることだろう。
あっと。
あっと。でございます。
サイバーザナドゥに少しでも正義をもたらそうと奮闘した元警官への手向けとして、SEISHINの工場を爆破してください。
●メガコーポ『SEISHIN』
母体である誠真教ともども、「恵まれない人々に救済を」を社是とする企業です。ただしその“救済”の内容は、貧民たちを拉致して洗脳することだったり、臓器を勝手に摘出して金持ちに売りつけることで“徳を積ませる”ことだったりと、非人道的行為も多々含まれているようですが……。
今回皆様に破壊してもらう工場も、そういった人間を材料とする工場です。もし皆様が囚われた人々を救出できれば、その分、最後の戦闘で現れる洗脳信者の数を減らせるかもしれません。
第1章 日常
『安心安全カフェでの一時』
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POW : 安心安全ランチ=スシ・セットを頼む
SPD : 安心安全エスプレッソのカップを傾ける
WIZ : 安心安全バイオフルーツタルトをフォークでつつく
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フレスベルク・メリアグレース
宗教をはき違える者はわたくしにとっても敵です
壊滅させる事に依存はありません
まずは岩瀬様に接触を
岩瀬・安司様ですね?
……『SEISHIN』に立ち向かう勇士と見込んでお話を聞きに来ました
ああ、あの者達の間者ではありません
そうですね、わたくしは遺伝子操作を受けて生まれましたが、身体の一部を機械化している処置はしておりません
だが、生きています
骸の海降るこの世界にて
其れこそがわたくし……『猟兵(イェーガー)』です
そう言いながらUCで岩瀬様の警戒を解いていきます
目的は、今は遠大ではありますが……
全てのメガコーポを壊滅させる、ことになるのでしょうね
……わたくし達は、可能です
時間をかけて作戦を進めれば、いずれこの世界のメガコーポ全てを殲滅する事ができます
正気と理性を持った瞳を持つ少女が告げる内容は、この世界の住民ならば正気を疑う物
だが、岩瀬の本能は同時に告げている
彼女の言う言葉は『事実』なのだと
それは11の世界を救いあげた『生命体の埒外』だからこそ大言壮語とならない純然たる『公理(アクシオム)』だと
ふと匂い立った高貴なる香りが、探偵を思索の底から引き上げた。いつもの癖で視線を動かさぬように香りの出元を探ってみれば、彼の横を一人の女が通り過ぎたところだった。
美人だ。
岩瀬は思うともなしにそう理解する。だが、十中八九サイバー整形なんだろう。そんな想像をしてしまったら、美人の横顔を拝めた喜びもすぐにどこかへと行ってしまう。あの日、あと少しのところで強権的に捜査中止を告げてきた上司に反発して解雇処分を喰らって以来会っていない後輩が、いつでも俺好みの顔立ちになってくれるサイバー整形のほうが年々劣化していく天然モノよりよっぽどいいっすよなんて豪語していたっけ。だが、いかに時代遅れと言われようとも、岩瀬はそんな風潮をどこか寂しく思うのだ。女自身がより美しくなるために金を工面してサイバー整形の扉を叩く……それ自体は単なる時代の流れだ。だとしても、男の側がそれを尊んだらいかんだろうが――。
あたかも結論を先延ばしにするために生まれたような新たな思索はしかし、再び中断を余儀なくされるのだった。
「岩瀬・安司様ですね?」
女の声だった。先程の香の持ち主の女の。そして次の瞬間ぞっとする。何故なら彼が何かを教えたわけでもないのに、女は彼のことを『SEISHINに立ち向かう勇士』と呼んでいたからだ。探偵としての流儀もしばし忘れて、さも当然のように自分の向かい側に座った彼女の顔を凝視する。立ち居振る舞いから滲み出る威厳ゆえに大人の女だと勘違いしていたが……よく見ればまだ少女を脱するか脱しないかの年頃じゃあないか。もっともこのご時世にはそれくらいはよくあることだ。敵を油断させるため、あるいは少女趣味の男たちを相手するために、サイバー化で少女の外見を持つ女たち――今岩瀬の目の前に座った少女の顔をどんなに見つめても、刑事として培ってきた観察眼を用いてもサイバー化の形跡は見られなかったが。つまり、どうやら彼女は“本物”らしい。
「あの者たちの間者ではないと、お気に召しましたか?」
「おっと失礼」
少女――後にフレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)と名乗った――が再び声を掛けたので、岩瀬は三たび思考を中断させられた。彼女が敵であったなら、岩瀬は今頃何度死んでいたことだろう。しかし幸いにもそうなってない。だったら本当に仲間でいいのか? それとも敢えて彼を泳がせることで、他に仲間がおらぬか動向を探ろうという魂胆だろうか?
それは違う。しばらく使うこともなかった刑事の勘がそう囁いていたし、何より当のフレスベルク自身もこう語っていた。
「わたくしは遺伝子操作こそ受けて生まれましたが、身体の一部を機械化している処置はしておりません」
それこそが彼女が『猟兵(イェーガー)』――骸の海降るこの世界にて、腐敗と退廃に抗う存在である証拠になるのではないか、と。
しばし肘をついた拳に額を当てて、岩瀬は考え込んでいた。
「ああ。嬢ちゃんの言い分は全く正しい。疑って悪かった」
いや嘘だ。彼はフレスベルクの高潔さをひと目見た時から、本当は本能的に彼女が味方だと直感していたじゃないか。理性がいつ如何なる時も用心を怠るなと警鐘を鳴らしてくるから、万が一直感が外れていた場合に備えて彼女をいかに疑うべきかの理由を捻り出していただけで。
とはいえ、彼女をすっかり信じてしまうことにしたとして、納得できたこととまだ納得できていなかったことがあるのもまた真実だった。
「しっかし……俺にゃ解らんのよな。どうして嬢ちゃんは俺に協力してくれるんだ? 嬢ちゃんが、本当は俺なんかが気軽に『嬢ちゃん』なんて呼んでいいのかも判らないくらいの実力者だってのはよく解る。だが、相手はあのSEISHINなんだぜ? 奴らの邪魔をしたら親玉の誠真教が黙っちゃいない。破滅覚悟で親友の弔い合戦に挑む俺なんぞなら兎も角、未来ある嬢ちゃんみたいなやつが――」
「――『いつしか全てのメガコーポを壊滅させるため』では不足でしょうか?」
フレスベルクが告げた言葉は、岩瀬をぞっとさせるのに十分だった。それは彼女の掲げた目的が、あまりにも遠大だったから、ではない。
遠大であるはずなのに、あまりにもすぐ傍まで近付いてきている未来のように思えたから、だ。
誠真教徒が彼らの教祖に傾倒し、善行と信じて貧民たちを拉致したり敵対者を殺害したりしている理由を、岩瀬は生まれて初めて理解したような気がした。なるほどフレスベルクの言葉には、常人の、それどころか生命体としても埒外にある、純然たる“公理(アクシオム)”が存在している。もう少しばかり気を確かにできずにおれば、彼とてフレスベルクに傾倒していてもおかしくはなかったかもしれないと岩瀬は自身を分析する――だが幸いなのは彼女が誠真教とは異なって、真に人々の幸福を願う教皇だということだ。あるいはそう信じてしまっている時点で、自分は既に彼女の術中にあるのかもしれないと岩瀬は恐怖する。
だとしても、少なくとも今は彼女を信じきってしまって構いはすまい。何故なら彼女が誠真教に向ける眼差しは、確かに宗教をはき違えるカルト教団への悲しみと怒りと決意に満ちていたのだから……。
「この通り、俺の親友のためにも頼む」
岩瀬は、自身の半分もゆくかゆかないかという少女に向かって頭を下げた。彼女なら――猟兵なら必ずやSEISHIN、いや誠真教の野望を打ち砕いてくれるに違いないから。
懸念は、どれだけフレスベルクの力が頼もしいらしいと思えども、敵はそれ以上の力を持っているだろうということだった。だが。
「頼んだついでにもう一つ欲を言ってもいいか? もう少し仲間が欲しい。それも嬢ちゃんと同じ、間違いなく信用できるって奴だ」
「今に到着するはずですわ」
フレスベルクが迷いなくそう言うのなら、きっとその通りになるのだろう。岩瀬は自分のデータタブレットを叩いて残りキャッシュを確認すると、フレスベルクにもう一つだけ質問を向けた。
「俺と同じエスプレッソでいいか? せめてそれくらいは出さなきゃ悪いってもんだからな」
大成功
🔵🔵🔵
ミツバ・カナメ
思い通りにできないなら力ずく、なんて許せないもんね。
あたしも協力するよ!
というわけでまずは岩瀬さんに接触。
警察手帳を提示して、SEISHINの施設への強制捜査をしたいから協力、または情報提供をお願い。
でも警察ってだけじゃ信用できないよね…
「もしあたしがSEISHINの手先なら、話を聞くまでもなくあなたのコトを逮捕している筈」ってコトでどうかな。
ん、力不足じゃないかって?
大丈夫、あたしは今までもこうしてお仕事頑張ってきたんだし!同僚誰も手伝ってくれないけど!
それに今はあたしも猟兵、頑張ればメガコーポにだって手が届く…はず!
岩瀬さんが同行するかどうかはお任せするよ。
もっとも彼女の予言が的中したのは、注文したエスプレッソが届くより遥か前の出来事だったわけだが。
「話は聞かせてもらったわ!」
まるで突風のようにカフェ内に飛びこんできたその人物は、自動ドアから入ってきたところで急停止して方向転換すると、今度はまるで遠くに友達を見つけた少女のように、一目散に岩瀬の下へと駆けつけてきた。先程とはうって変わって、随分とお転婆なお嬢さんのようだ……そんな感想を抱きながらもしかし、彼女を観察する岩瀬の視線には、どこか値踏みとも警戒ともつかない距離感が見て取れるのを新たな登場人物は否めない。
幾度も向けられたことのある眼差しだった。だが……だからといって為すべきことは変わらない。堂々と胸を張り、警察手帳を岩瀬に突きつける。それこそが自分の信じる正義であると、この場にいる誰もに知らしめるかのように。
「ミツバ・カナメ(みんなを守るお巡りさん・f36522)、事件の捜査と聞いて参りました!」
まるで新品のように糊の効かせたシャツを纏うミツバは、警官の不正なんてメディアが針小棒大に喚き立てているだけだとまだ純真にも信じていた頃の自分を彷彿とさせた。岩瀬は自分でも気付かぬままに、しばしの間、指先で自身の目頭を抑えていた。だが目の前の突風婦人警官は、彼にしばし感傷に浸る暇すら与えてくれない。
「例のSEISHINの施設への強制捜査をしたいから、協力、または情報提供をお願い」
ずいと顔を近付けて、耳元でそんなことを囁いてくる。幾ら何でも直球すぎやしないか。かつて、とある熱血先輩刑事に「重要なのはいかに協力したい気になるように話を持っていくかだ」と言われたことを思い出し、もうちょっとオブラートに包む方法もあっただろうにと苦笑する。
「もしかして……やっぱり警察は信用できない? もしあたしがSEISHINの手先なら、話を聞くまでもなくあなたのコトを逮捕している筈。でもあたしはしてないわ?」
「いいや、ちとばかり昔の話――時には直球の方が信用を得ることもあるって先輩に言われたのを思い出してね」
質問に対する答えになっていない返答に、ミツバの表情がきょとんとしたものになった。だが微笑ましいものを眺めるような岩瀬の顔は、こんな危なっかしい奴がメガコーポの手先なわけがないな、と彼が確信したことを物語っている。
「もしかしてあたしのコト、実力不足だと思ってる? 大丈夫、あたしは今までもこうしてお仕事頑張ってきたんだし!」
抗議するように胸を叩いたミツバがその直後、小さく「同僚誰も手伝ってくれないけど」と付け加えたことで、岩瀬は今度は哀れみ似た表情を浮かべた。
「あーっ、さては信じてないな? 今はあたしも猟兵なんだから! 頑張ればメガコーポにだって手が届く……はず!」
「わーったわーった、お前さんは立派な正義の警官だ! そう信じりゃいいんだろ?」
成功
🔵🔵🔴
オーガスト・メルト
猟兵なんてやってると神の知り合いもそこそこ居るが…
救済を押し付けてくるような無礼者は一人もいないな
そこが本物と偽物の違いかねぇ
【POW】連携・アドリブ歓迎
説得とか面倒なんで、真正面から情報の提供を頼むとしよう
岩瀬が一緒に来るかどうかは本人の意思に任せるのでどうこうは言わない
こちらの強さは…会話しながらその辺の金属製品を適当に【怪力】で丸めたり潰したりして弄んで見せればいいかな?
最後はそれを宙に投げ上げて、デイズのUC【焦熱庭園】で一瞬で灰にする
俺は敵討ちの代行を頼まれるつもりはない
単に気に入らない相手を潰しに行くだけだ
……そんな大騒ぎが繰り広げられている最中。
「岩瀬だな? どうやら説得の手間は省けたみたいだな」
新たな声の方向に岩瀬が視線を遣れば、見慣れぬ白黒の飛行ペットを連れた若い男が新たにテーブルに着席するところだった。
はて、あの生き物は新型のペットロボットか何かだろうか。すっかり若い連中のトレンドにも疎くなってしまったと岩瀬は溜息を吐く。
だが、改めて男――オーガスト・メルト(竜喰らいの末裔・f03147)に向き直り。
「お前さんも猟兵ってやつか。ああ、俺が岩瀬・安司で間違いねえ。お前さんも俺のダチを弔いに来てくれた口か」
そう言ってから岩瀬は冗談めかして言う話じゃなかったと後悔した。
「俺は敵討ちの代行を頼まれるつもりはない」
そうオーガストが岩瀬の言葉を否定するからだ。
だが、オーガストの態度をよく観察すれば、彼を憤慨させてしまったわけではないのだと判る。
「どうせ単に気に入らない相手を潰しに行くついでだ。本物と違って無礼にも救済を押しつけてくる、偽物の神を戴く奴らをな。折角なら情報を共有して貰えれば役に立てるだろうってだけの話だ」
「そいつはすまん。そして、ありがとう……んん? 本物の神?」
一瞬気になる言葉を聞いた気はしたが、それよりも岩瀬に知る必要があったのは、目の前の優男然とした男がどうやってメガコーポを“潰しに行く”のかだった。だから持ち前の観察力を全開にして、オーガストの一挙手一投足に注視する。すると……彼の片手が始終動いて、何かを丸めて捏ねている様子であったのに気付く。
「ああ、これか?」
オーガストはさも何でもないように、手の中のそれを親指で空中に撥ね上げてみせた。すると謎のペットの白い方が突然炎を吐いて、それを跡形もなく蒸発させる。
「おいおい、待ってくれ……」
それを見て、さしもの岩瀬も頭を抱えざるを得なかった。見えたのはほんの一瞬の出来事に過ぎなかったが、確かに彼は見て取っていたからだ。
「今のはよ、ひょっとして“銃弾の塊”じゃあなかったか?」
「ちょうどそこで銃撃戦に巻き込まれたものでな」
こりゃたまげた。撃ち込まれた銃弾を手で取って、それを原型を留めないほど捏ねた挙げ句、ペット(?)がそれを蒸発させるって?
神の知り合いがいるなんてのも、あながち嘘ではないように――岩瀬が知らぬだけで実際そこそこいるのだが――岩瀬には感じられた。
「それだけの実力がありゃあ……」
自らを落ちつかせようとしているかのように、岩瀬は自分のエスプレッソを口に運んだ。
「……確かに、一介の工場程度は何とでもできるんだろうな。持ってってくれ、コイツがトニーの奴から届いた工場内の見取り図だ」
大成功
🔵🔵🔵
津崎・要明
周辺に怪しい者がいないか「Wb」で物理・サイバーを見張りつつハッキングによる結界で情報漏洩を防ぐ
あー、次々とやって来て済まない。
俺達は『SEISHIN』の秘密工場を爆破しに来た。その為にあんたの持つ情報を必要としている。
友の遺志を果たすだけなら、地図を渡して立ち去ればいい。後は請け負うよ。
一緒に行くかどうかはあんたが決めてくれ。
(世の中には納得できない事が沢山あるし、反逆する奴は嫌いじゃない。だが、柔軟性を欠いては犬死にする破目になる。そして俺は「いい奴」を犬無駄死にさせたくない。)
いずれにせよ、オトモダチからの荷物を受け取った時点で目を付けられてる可能性もあるし、護衛は必要だと思うね。
それにしても随分と、俺は猟兵たちを信じちまったもんだ。いくらここが安全安心をモットーに中立地帯であることを標榜する安全安心カフェだからって、こうして公衆の面前で堂々と重要データを受け渡しすることになるだなんて。かつて、件の熱血先輩に、情報漏洩対策だけは絶対に自分の目で確かめろと口酸っぱく言われていたのを思い出す。
だというのに……今の自分といったらどうだ? データ転送中の端末に表示される働き蜂のセキュアアイコンを凝視しながら、岩瀬は半ば自嘲じみた感想を脳裏で反復していた。このアイコンは新たに合流を果たした猟兵、津崎・要明(ブラックタールのUDCメカニック・f32793)の飛行ドローンを経由して暗号化通信する際に表示されるものだ。この兵器が用いるOSやソフトウェアは岩瀬にとってまるで異世界から現れたかのように未知で、確かにどんなメガコーポもこいつをハッキングなんぞできるまい。
……ただし、それは津崎が完全に信用に足る人物であった時だけの話だ。当然、津崎自身が中継した情報をSEISHINにリークしていたならば、蜂アイコンは一転して岩瀬には決して見抜けぬ情報窃盗の象徴に変わる。
だというのに……ああ。どうして自分の口許は、どこか愉しげに綻んでいるのか。岩瀬は今、次々にやって来る猟兵たちを愚かにもすっかり信用してしまっている自分に気付いている。
にもかかわらず、何故だか痛快だ。あの屈辱の解雇を経験し、正義も助け合いの精神も自分の自己満足の世界の中にしかないと自分自身に言い聞かせていたことを、自分はこんなにも息苦しく感じていたのか。声に出して笑う。
そして岩瀬がそんな奴だから、津崎は彼のことを“いい奴”だと思うのだ。付け加えれば、トニーは間違いなくもっといい奴だった……この世界ではそういった、世の中に蔓延った無数の納得できないことに納得したふりをできずに反逆する奴から犬死にしてゆく。津崎は、そういった奴を無駄死にさせたくはない。
ゆえに訊いた。「あんたはどうする?」と。
岩瀬は答えた。「もちろん行くさ」と。
親友の遺志を果たすだけなら、データを渡したところで「後は任せた」と言えばよかった。
けれども彼はそれをしなかった。親友がどうこうの話以上に、自分自身の目で真実と結末を見届けたい。それが彼の望みであるのだと津崎は承知する。
「そのほうが、単独行動になることは避けられるだろうね。というのも、オトモダチからの荷物を受け取った時点で目を付けられてる可能性もある。いずれにせよ誰かしらの護衛が必要だ」
大成功
🔵🔵🔵
涼風・穹
メガコーポってこの世界では支配者だろうにろくでもない真似をしていてどうにもならないというつまらない現実がある、と…
慣れるか、逃げるか、現実そのものを変えようとするか…
岩瀬って方の状況は誇りや意地を抱いて死ぬか、現実に折り合いをつけて生きるかの分水嶺って訳か…
情報は貰うけど俺は岩瀬本人が調査を進めるのか断念するのかについてはどちらも勧めない
どちらが正しいのか或いはどちらも間違いなのかは知らないけど、ここで自分で選ばないと多分ずっと後悔し続ける事になるだろうからな…
実力がどうのという話になれば予め《起動》で『イグニッションカード』に収納しておいた『ズィルバーンヤークトフント』を出して見せておきます
自分の目で結末を見届ける――きっとそれが正解であるのだと、涼風・穹(人間の探索者・f02404)は頷いた。
ここはいわば、誇りや意地を抱いて死ぬか、現実に折り合いをつけて生きるかの分水嶺ってわけだ。あたかもどちらかが正解でどちらかが間違った選択肢のように思えるが……それこそが恐らくは大いなる誤謬であるのだろう。
結局は、それが悔いの残らない選択になるのかどうか、だ。
人としてどちらが正解であるかどうかなど、涼風にも解りはしなかった。それどころか……こうも思う。正解などどちらだと決まっているものでなく、誰にも決めうるものでなく。故にそれを決められると増上慢になる者が、メガコーポとしてこの世界に君臨するのやもしれない、と。
そうでなければ既に世界の支配者であるメガコーポらが、敢えて碌でもない真似をしでかす理由など考えられはしなかった。無論、彼らには彼らなりの論理があるに違いないのだ――『メガコーポ』などという言葉でひと括りにすれば支配者に見えるかもしれないが、我が社の市場におけるシェアはいまだほんの僅かに過ぎぬではないか、と。だが、涼風にも、彼が救うべき人々にとってもそんな理屈は関係がない……結局は、慣れるか、逃げるか、現実そのものを変えようと足掻くかしかできぬ、つまらない現実だけが横たわっているのだから。
「ああ。無理をするつもりはないさ」
岩瀬は天井を見るともなしに見上げ、誓うように言葉に出した。
「トニーの奴が、俺にだけは解るように暗号を残した。そいつは俺なら何とかできるって信じてくれたからで、俺を巻き込んで無駄死にさせるためじゃあないんだからよ」
そして幸いにも今ここに、猟兵という頼もしいチームが集まった。自分の行く先が天国か地獄かは知らないが、ここまできて自分が死んだではトニーにどやされちまう。
端末を叩き、カフェの料金の精算をする。肝心の工場内見取り図は、重要拠点や爆破ポイントの情報も含めて全員に行き渡ったはずだ。
「それじゃ、頼むぜ猟兵さんたちよ」
努めて軽口を叩いてみせる。
「うだつの上がらない元探偵を差し置いて、自分ばかりお先に天国に、なんて話にゃならんでおくれよ!」
「実力の点なら任せてくれ……《起動(イグニッション)》!」
涼風がキーワードを唱えると同時、歩道に、白銀に輝く人型戦車――クロムキャバリア『ズィルバーンヤークトフント』が現れる。
「誰が天国に行くだって? コイツがいれば、どんな地獄の底からでも生還できるさ」
成功
🔵🔵🔴
第2章 冒険
『封鎖区域潜入』
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POW : 腐敗した警察を実力行使でぶっ飛ばす
SPD : 警備の目をすり抜け、素早く侵入する
WIZ : 敢えて警察の目を惹き付け、仲間の潜入をアシストする
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猟兵たちの向かったSEISHINの工場は、あまりにもひっそりと静まっていた。
特定経路で巡回する警備ロボットに、侵入者撃退用の致死トラップ類――そういった固定された脅威はトニーの遺した見取り図に全て記載されており、注意さえ怠らなければ決して引っかかる心配はない。
『問題は、工場内をうろつく警備員どもだ』
岩瀬が無線を猟兵たちに送る。
『トニーの遺した情報によりゃ、そいつらは大半がSEISHINに改造と洗脳措置を施された信者や貧民たちのようだな。糞食らえ、奴らにとっちゃチタン合金製の警備ロボットよりも、人間をロボットに変えるほうがよっぽど安価で都合がいいんだろうさ』
だがそんな反吐が出るようなSEISHINのビジネスも、もうじきそのうちの一つが潰えることになるはずだ。
工場内に幾つも分散している、変電室・制御室・情報管理室などの重要施設。それらのうちの幾らかを爆破してやれば、少なくともここ数ヶ月はこの工場は稼働不可能になる。
『健闘を祈る』
先程までの皮肉げな口調はどこへやら、岩瀬は、真剣な口調で付け加えた。
『本当は奴らの“奴隷”も可能な限り助けてやりたいところだが……あんまりそっちばっかりに気を取られて、肝心の本命を疎かにしないでくれよ? 最悪、そいつらは脱出の時にでも助けりゃいいさ……畜生めSEISHINの野郎ども、究極の二択を迫りやがって……』
涼風・穹
……そいつはクールじゃないな…
相手から突き付けられたろくでもない二択をただ選ぶなんてのはつまらないぜ…
そういう時は笑顔で両方ぶんどって相手の顔面に拳を叩き込む位はするのがクールってもんさ…なんてな
俺は情報管理室を落とします
何をするにしてもまずは警備員に指示を出している管制を潰さないと動き難いからな
岩瀬に頼んで情報を効率よく取れるようなメモリーピースか記憶媒体のようなものがあれば受け取っておきます
工場に侵入した後は出来る限り目立たないように動きます
下手に見付かって警備ロボットの行動パターンが変わったりすれば他の方にも影響するからな
警備員はやり過ごすか騒がれる前に無力化しておきます
首尾よく情報管理室を制圧出来るならしますが、状況的に難しければ陽動も兼ねて『ズィルバーンヤークトフント』を出して騒ぎを起こしつつ情報管制室を破壊します
どのような形であれ情報管理室制圧後は持ち出せる資料や情報機器の類は片っ端から《起動》で回収
据え付けられている情報端末が生きていれば記憶媒体を接続して情報をコピーします
これもまた、どちらかが正解でどちらかが間違いであるように思わせる選択肢だった。だとすれば、涼風はそんな悪意を突きつけてくる相手に対して、笑顔を浮かべてから両方ぶん取った挙げ句、相手の顔面に拳を叩き込んでやらなくちゃいけない。
「それがクールってもんさ……なんてな」
嘯く言葉が示す真実は、これもまた先程と同じ誤謬を強いるため、メガコーポが創り出した虚構にすぎないってことだ。
『念のため、もう一度確認させてくれ』
何の異常も見つけられずに眼下を通りすぎてゆく警備ロボットを見送った後、身を潜める通風ダクトの中で涼風は携帯端末越しに岩瀬へと問うた。
『管理用端末に侵入前に受け取ったチップを差し込んでやれば、工場内で管理するデータを抜き取ってやれる。そうだったな?』
『トニーの奴が調べた後、システム構成が変更されてなけりゃあな』
トニーが失踪してから2週間。実際には失踪よりしばらく前にはSEISHINは彼の存在に気付いていたのだろうから、短く見積もっても3週間か。それだけの時間があったなら、メガコーポのシステム構成なんて総入れ替えとは言わずともそれまでのハッキング用ウイルスが役に立たなくなる程度には変化していてもおかしくはなかった。たとえトニーのことがなかったとしても。世界の支配者たるメガコーポの最大の敵は目下、トニーや猟兵のような些細なレジスタンスではなく同じく支配者たる他のメガコーポの産業スパイだ。物理的な対策手段の頻繁な変更は効果の割にコストが嵩むし、何より作業回数が増えればその分作業員に扮した敵を逆に招き入れてしまう危険性が増す……だが、システムファイルのアップデートや名称のランダム変更によりウイルスに攻撃対象を見失わせるくらいなら、信用の置けるシステム管理者がコマンド一つ叩くだけでいい。
だから、これがオマケにすぎないことは、涼風とて重々承知していた。だが、“工場を破壊する”と、“囚われた人々を救出する”。それらに加えて“SEISHINの重要情報を奪取する”……もしもそれまで上手くいったなら、随分と痛快な反撃になるじゃあないか。
(今のところ、警備ロボットの行動パターンに変化はなし、と。つまり気付かれてはいないってことだ)
自分でももどかしくなるほど慎重に、音を立てぬよう進んだ甲斐があった。柔軟性に乏しいだろう警備ロボットはもちろんのこと、今のところ警備員たちも潜む涼風の存在に気がついていない――とはいえ彼らの様子をよく観察すれば、目の虚ろな警備員たちのほうが、よっぽど柔軟性に事欠いていたようにも見えたのではあるが。
(もっとも……管制室にいる奴らは多少マトモな思考力を持っているみたいだけど……な!)
ダクト出口に備え付けられていた赤外線センサーを、トニーの形見とも言える警備情報を元に無力化する。そして出口を覆う穴空き板を蹴り飛ばし、勢いのまま手近な警備員を蹴り倒す!
「侵入者だ!!」
別の警備員がそう叫んだのと同時、彼の内蔵サイバーザナドゥから何らかの信号が電波として放たれたことが、岩瀬から涼風に渡された端末に表示されていた。内容は暗号化されており定かではないが、この状況で解析の必要なんてあるまい。警報だ。全ての警備員とロボットたちに敵襲を告げるため、彼は涼風の手刀が首筋に当たって気絶するまでの僅かな時間を有効活用してみせた!
「折角、手早く室内を制圧できそうだっていうのに、厄介だな」
とは悪態を吐くものの、涼風の口許にはしたりという笑みが浮かべられていた。れっきとした警察企業の社員だったらしい彼らとて、決して涼風の敵ではありえなかった。であれば、工場内を徘徊する洗脳警備員らが束になってかかってきたところで、ひとまず耐えきるくらいはできるだろう。
故に――《起動》。お世辞にも広いとは言えない室内に、『ズィルバーンヤークトフント』が顕現する。敵が押し寄せるまで時間はあと僅か。だがキャバリアと入れ替わりに室内の情報端末を手当たり次第に《起動》で吸い込むのにも、この部屋に保存されていないデータを例のチップを差し込んで吸い出してやる――賭けには勝った、システムに致命的な変更は加わっていない!――のにも十分すぎる猶予だ。あとはキャバリアで存分に暴れてやって、警備の目をこちらに釘付けにしてやればいい!
――警備管制室との接続が途絶え、同時にその周辺で破壊工作が繰り広げられている。
そんな情報がもたらされたことにより、“その人物”は何者かがSEISHINに対する極度の敵意を持ってやって来たことを理解した。
「SEISHINに――もしくは、誠真教に、か」
であれば、彼はゆかねばならぬ。だが……恐らくは今ではあるまい。
彼は涼風の行動が、陽動を兼ねたものであることを見抜いていた。無論、だからといってそれがSEISHINに、少なくない打撃を与えることも間違いはあるまい……だとしても彼は、今ここで軽はずみに動いて真の敵を討ち洩らすわけにはゆかない。何故なら、SEISHINなど所詮は誠真教の信仰拡大の道具。少なくとも彼にとってはそうだ。ゆえにSEISHINがどれほどの損害を被ったところで……真の信仰の敵を探し出して改心させる歓びには変えられぬのだ。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
我が騎士達にサイバーザナドゥの代わりに骸の雨に適応する外装着型ガントレットデバイスの殺竜武器を装着させ、このサイバーザナドゥの世界でも活動できるよう処置を施した後、作戦を開始
我が騎士達よ、目的は二つです
一つは工場内の重要施設の破壊工作
もう一つは拉致され改造された人々の無力化と保護です
後者については殺竜武器であるガントレットが最適な出力と性質で事を為せるよう調律してあります
わたくしは岩瀬様を護衛し、奥へと進みます
わたくしがメリアグレースの最高戦力である以上、問題はないでしょう
……実は、わたくしはこの世界とは異なる世界における一宗教の教皇であり、宗教国家の国家元首なのですよ
驚きましたか?
信仰の敵。
恐らくはその言葉を軽々しく用いてこちらに敵意を向けているだろう存在を想像するだけで、フレスベルクの心は冷え込むようだった。
「我が騎士たちよ。目的は二つです」
遠くクロムキャバリア世界より馳せ参じた騎士たちに殺竜ガントレットを授け、彼女は彼らへと厳命する。
「一つは工場内の重要施設の破壊工作、もう一つは拉致され改造された人々の無力化と保護です。彼らを無力化するための戦いは仕方のないことですが、みだりに人に裁きを下し、彼らと同じ過ちを犯すことは罷りなりません」
一斉にひざまずき、次に散ってゆく彼らの全身は、篭手から発せられる神秘の力によって守られていた。降り注ぐ骸の雨の毒性を通さぬ結界。洗脳された人々を――敵意を持って向かってくる警備員さえ決して殺害せぬような、最適な出力と性質を発揮するような加護。
嬢ちゃん、一体何者だ……? 岩瀬が訝しむのも無理はあるまい。けれどもフレスベルクは事もなげに、こう返してみせる。
「……実は、わたくしはこの世界とは異なる世界における一宗教の教皇であり、宗教国家の国家元首なのですよ。驚きましたか?」
教……なんだって?
「そりゃあ嬢ちゃん……いや、教皇様って呼んどいたほうがいいか? 驚くも何も……」
驚き以前に理解ができないといった表情を作ってみせる岩瀬だったが、その態度の中に疑念も嘲笑も含まれていなかったことから鑑みるに、心のどこかでは腑に落ちた部分があったに違いなかった。
「ああ、ああ。異世界の国家ってのは俺にゃ想像もつかんが、そりゃあそんだけ威厳があるってもんだ。比べるのも失礼っての解ってるが、誠真教のクソ野郎どもとは天と地以上の差があるに決まってる。だがよ……」
彼女の言葉を信じる以外の道がないからこそ、岩瀬はここへ来て初めて怖気付いた自分に気がつくわけだ。
「そんなお方なんかが俺を護衛するって? 教皇様なんてのは、むしろ聖騎士に護衛される立場じゃあないのかよ……」
もっともそんな疑問に対する答えは、とんでもなく単純かつ明快なものであったわけだが。
「岩瀬様は、自らは手を汚すことなく、安全な場所でふんぞり返ることが人を救うことだとお考えになりますか?」
「まさか! スマン、そういうことを言いたかったわけじゃねえんだ……」
「ええ、存じています。ですが、ただ側近に守られるばかりの身では、そう見做されてしまっても仕方のないことでしょう」
ですから、とフレスベルクは明言する。
「わたくしが、メリアグレースの最高戦力です。岩瀬様を護衛するのに不足はありませんでしょう」
そしてその言葉に偽りがないことを……岩瀬は間もなく目の当たりにすることになる。
大成功
🔵🔵🔵
ミツバ・カナメ
ありがと、岩瀬さん。
後はあたし達に任せておいてね!
それにしても、人間をこんな機械のパーツ以下の扱いにするなんて許せないよね…!
この人達の為にも、SEISHINの悪事は必ず暴かないと。
警備ロボットやトラップは、岩瀬さんに貰った見取り図を参考に回避。
警備員の人達は、基本的には物影伝いに移動して見つからないようにしていく。
見つかった場合は、UCで動かないよう命令。多分命令は守らないから、連絡を取られる前にこっちから近づいて通信用の道具を壊すよ。
後は脱出するまでUCを維持しておく。
目指す先は情報管理室。爆弾を設置する前に、出来る限りここでの悪事の証拠になるものを集めておきたいけど、無理のない範囲で。
「……で、俺のことは程々でいいとして、他の奴らはどうなってるんだ」
壁際に身を潜め、現役時代の感覚を思い出しながら、岩瀬が真っ先に思い浮かべるのはあの危なっかしい新人婦警のことだった。遠くに、建材が激しく引き裂かれる時の騒音が響く。目の前を、正気を失った警備員を拘束した時代錯誤な騎士たちが通過する。そんなこの世のものとは思えぬ光景を目の当たりにすれば、どう足掻いてもこの世界の存在にしか見えないミツバがどうやって健気な奮闘をしているのかと、自分のことを棚に上げて心配になるほどだ。
『ありがと、岩瀬さん。後はあたしたちに任せておいてね!』
別れ際の彼女の笑顔が脳裏に浮かんだ。人間をこんな機械のパーツ以下の扱いにするなんて許せない……そう憤慨する彼女は岩瀬から見れば、こんな薄汚れた世界に置いとくのが申し訳なくなるくらいに純朴だった。
他の猟兵たちのことは心配しない。何せ、心配なんてするほうが笑われそうだ。だが彼女に関してはどうだろう? 今頃警備員に追いかけられて、悲鳴を上げていなければいのだが……。
そう祈る時に限って、不穏な予想は的中するものだ。
「どうしてえええええ!? ちゃんと隠密行動してたはずなのに!!」
ミツバが身を潜めた廊下の角を、警備員の放ったレーザーピストルが削り取っていった。お返しにこちらもショットガンを向け、相手の動きを牽制する。そして警備員たちが足を止めている隙に……そのまま悠々と廊下の向こうへと駆け抜ける!
「よ、よかった~……廊下の先に警備員の姿を見かけたからバイオ観葉植物の陰に身を潜めてやり過ごそうと思ってたのに目と目が合った時には肝が冷える思いをしたけど、警察手帳を見せて動きを止めた隙に通信機を破壊しといて正解だったかも……」
いくら陽動のお蔭で警備が手薄になっているとは言っても、直接仲間を呼ばれたら今頃挟み撃ちの憂き目に合ってても仕方なかった。それでも今は猟兵になったし、多分何とかなったとは信じたい……だって警備ロボットやトラップは、ちゃんと見取り図を参考にして全部回避しきれたんだし。だとしてもそれはそれとして怖いものは怖いので、通信を妨げておけたのは僥倖だ。
「それじゃあこのまま目的地の情報管理室に向かって、悪事の証拠をできる限り集めて……って、安心して足を止めてたらその間に追いついてきたあああ!?」
慌てて目的の部屋に駆け込んで、手近な端末の陰に身を隠して情報押収用チップを端末に差し込んで。警備員も室内に入ってきてきょろきょろとミツバの姿を探し始めたならば、離れた辺りに爆弾を投げ込んで、意識をそちらに向けさせて、情報をたんまり溜めこんだチップを引っこ抜いて部屋から逃げ出して爆弾を起爆!!
「うわっ! 爆炎で背中熱っ!? でも告発用のデータは手に入れたし情報管理室も爆破できたし万事OK……って、あいつらあの爆発を喰らってもまだ追いかけてくるの
!?!?」
苦戦
🔵🔴🔴
オーガスト・メルト
人件費の方が設備投資より安いとは…とんでもないブラックだな
『うきゅー?』『うにゃー?』
いや、別に怒ってる訳じゃないからデイズもナイツも心配するな
ただ…全て灰燼に帰してやろうと思っただけだ
【POW】連携・アドリブ歓迎
とはいえ、俺は身を潜めるってのはさほど得意じゃないからな
どう頑張っても警備員には見つかるだろう
なので出合い頭に有無を言わさずUC【触糸爆弾】で【捕縛】して無力化する
だから、ここはグロームに活躍してもらうとしよう『チチッ』
後で救助なり脱出させるなりするのに困らないように、気絶させたら拘束は解いておいてもいいかもな
まったく街のゴミ(企業)掃除も準備が手間で大変だな
なるほど人体とは存外よくできたもので、精密機械と違って多少壊れたところで構わず動く。であれば、その分機械より高い費用を支払うのが筋というものなのに、抜き出されたデータから確認できた範囲ではその逆であるようだ。
「『この仕事は労働ではなく宗教的奉仕活動だから賃金すら不要』、ってか。とんでもないブラックもあったもんだ。こういう時には……頼んだぞグローム!」
廊下を駆け抜けながらぼやいたオーガストの指示に従って、頭の上の蜘蛛型ロボットが、左右の警備員へと鋼の糸を吐き出した。その際のオーガストの剣幕に、グロームの更に上を飛行する白黒饅頭が「うきゅ~?」「うにゃ~?」と不安げに鳴く。
「いや、別に怒ってるわけじゃないからデイズもナイツも心配するな」
主人が頭の上に手を伸ばして2匹を撫でている間にも、廊下の先にはまた新たな警備員。お前らは寝てろ! 再びグロームから鋼糸が放たれて、警備員の全身を壁へと縫いつけた。金属繊維の塊が哀れな警備員の胸部を圧迫し、一時的に窒息で気を失わせるが、その後には再び動き出せぬ程度に拘束を緩ませる。彼らは本来は悪人ではなく、洗脳により非道の共犯者に仕立て上げられただけの哀れな犠牲者のはずなのだ。事が終わって脱出する時には、可能なかぎり助け出してやらねばならない……工場そのものは残らず灰燼に帰してやるけどな。
そのためには……抜き足差し足忍び足、ゆっくりと進んでゆくなんてもどかしかった。認めよう、確かにオーガストには身を潜めるなんて行為、元々さほど得意ではないということを。ゆえに、そこを起点にして思考を逆転させるのだ。警備員に見つかるのは承知の上で、通路の中を堂々と進む。そうすれば彼らは自ら侵入者警報に従って、オーガストの前にやって来てくれる。であれば……。
拘束してその場に転がしてやれば、救出対象が軒並み場所の判っているところに並んでくれているという都合のいい状況が生まれるって寸法だ。
「こちらオーガスト・メルト。拘束した警備員の回収を頼む。雁字搦めになっているように見えるとは思うが、実際には今から言う通りにすればすぐに解いてやれるはずだ」
無線機の向こうに呼び掛けながら、随所に爆発物を設置する。中々面倒な作業を強いられたものだ。
「まったく、街のゴミ掃除ってのも、準備が手間で大変だな」
しかもそのゴミはここだけじゃなく、この世界の至るところを支配しているというから厄介だ。早いところ一掃する機会があればいいのだが……ほうら、そんなことを言っている間にも、無線機の向こうからはまた次の行き先を要請されたじゃないか……。
大成功
🔵🔵🔵
津崎・要明
するべきことは
①警備員の排除(無力化)
②素体(奴隷)の保護
③岩瀬の護衛
④工場の破壊
優先すべきは④・③、対処することになるのが①か
見取り図があって助かった。扉や壁の厚さ、警報装置の数や場所・・・重要設備や素体の場所を割り出す手がかりは沢山あるし、経験も役立つ
「Wb」でチームをリンク【偵察・索敵・情報収集・ハッキング】等を駆使
【破壊工作】や【メカニック】で目星を付け、爆破のポイントや敵位置情報を逐次情報共有。人手が足りない項目に向かう
UCは洗脳や鍵、敵の武器に対し使用 適宜爆発物を仕掛けよう
可能なら最も高価で重要な部品を抜き取ったり
関連施設や関係者等のデータを抜いたりしておこう
今後の役に立つからな
「……これで、④も概ね完了というところかな」
無線機を一旦懐に仕舞い、津崎は再び歩きだした。早い話が今回の任務は、話を纏めればこういうことになる:
①警備員の排除(無力化からの保護が望ましい)
②素体として奴隷同然に扱われている人々の保護
③岩瀬の護衛
④工場の破壊
そう書かれたメモのうち、③と④には打ち消し線が引かれてあった。これらは優先すべき項目ではあったが、津崎が既に十分に行なわれたと判断したものだ。厳密に言えば④に関しては、入念にやるならまだ潰しておきたいポイントも残っていなくもない。が、皆との情報共有を続けていれば、すぐに破壊されることになるだろう――実際、すぐにそのようになる。
「一方で、否応なく対処することになるのが①だ」
まるで安楽椅子探偵のように、津崎は事実を一つずつ言葉として重ねていった。
「ただし、それも十分に行なわれたと見ていいだろう。現に俺はこうして工場内を歩いていても、誰にも見咎められていないのだから。勿論、トニーの見取り図のお蔭なのも間違いないだろうけどね」
であれば……残る②こそが、津崎の為すべき事柄だろう。メガコーポの生み出した地獄の監視社会も、偶には役に立つこともある――何故なら至るところに備え付けられた監視カメラをハッキングしてやることで、救うべき人々の今の状況を確認できるのだから。
「どうやら工場が稼働停止して、人々を洗脳ラインに送ることもできなくなっているらしい」
彼らの居場所も状況も判り、見取り図の多くの場所に“探偵の経験”とでも呼ぶべき注釈を書き込まれておきながら、今ここで「彼らを助けられませんでした」ではあまりにも不甲斐ないように思えた。だから、手近な壁をアクシオンの炎で燃やす。テロに備えて万全の耐火性を持つはずのそれは……あたかも性質そのものが書き換わったかのように容易く焼け落ちてしまう。
ゆえに。
「皆さん、こちらへ。安心して、保護してくれる者がいるので押し合わないで!」
物理的最短経路を経ての電撃的な救出劇は、誰にも妨害されることはなかった。ほとんど精神病棟さながらの、『救済予定者の間』なる部屋に足を踏み入れた津崎が見たものは、中には手酷く拷問を受けたのだろう、全身に痛々しい傷痕が残って歩けない者や、既に半ば洗脳が済んでいるらしい、壁際で救いを求めて祈る者もいる……だがアクシオンの炎が彼らを包めば、今度は彼らを癒やしさえする。人々自身の心身の毀損すら救出を妨げはしない。
であれば……あとは順繰りに彼らを安全な場所まで送り届ければ、ミッションは全て終了になる――その時!
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『アジテイター』
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POW : ソニックサイコブラスター
【ミョウオウブラスター】を向けた対象に、【相手を肉体的にも精神的にも破壊する音波】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : ナイス暴徒
自身が【自身の思想や主義主張への否定】を感じると、レベル×1体の【今まで自分が洗脳してきた信者(戦闘要員)】が召喚される。今まで自分が洗脳してきた信者(戦闘要員)は自身の思想や主義主張への否定を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : ミョウオウウィスパー
レベルm半径内に【洗脳音波】を放ち、命中した敵から【アジテイターを疑う意思と正常な思考力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
👑11
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「――なるほど。我々の未来の信徒を悪しき道に引きずり込む……やはり、それがあなた方の真の狙いだったのですね」
唐突に姿を表した男の眼差しはバイザーに覆われて定かでなかったが、きっと狂気に彩られていたに違いなかった。口許は愉しげに吊り上がり、全身は恍惚に揺れている。この工場という拠点を失う悲しみよりも、目の前の神敵を討つ悦びのほうが勝っているのであろう。
それは常人の論理において――否、メガコーポの論理を用いてさえも、決して理解の術を持たぬ信念だった。彼の全身に満ちる宗教的狂信は、最早いかなる言葉によっても覆しうるものでない。
彼は、感極まったかのように両手を祈りの形に組んだ。そしてしばらくして唐突に祈りの姿勢から戻ると、このように宣言する。
「あなた方はどうやら、最早この世では誠真の訓えを理解しうる身ではないようですね。……ですがどうか、ご安心ください。そんな皆様も必ずや、来世では忠実なる誠真の僕として生まれ変わることでしょう。これを我々は『浄魂殉教の儀』と呼んでおり、誠真教の秘奥の一つとも呼びうるものです。では、早速始めるといたしましょう……この浄魂殉教の儀によって、皆様の魂の浄化が叶うのです!!」
フレスベルク・メリアグレース
戯言を
瞬間、解き放たれた催眠音波が『機械化』していく
あらゆる概念を『機械化』するフィールド・オブ・ナイン第2席の権能は明朗にして強力
岩瀬様にはお教えしましょう
この世界を含めた全ての世界には世界の敵たる存在の頂点…『忘却の方程式(オブリビオン・フォーミュラ)』が存在します
そしてこの力は討滅したフォーミュラの力の再現
貴方とは宗教が何たるかを論じるに値しません
わたくしの声は衆生を救い、導くためにあるのですから
そう言うと同時、機械化して防いだ催眠音波が動き出す
閃光を解き放て、我が機械神よ
刹那に犯した罪に応じた罰の幻覚に襲われる閃光が放たれる
貴方の罪を数えなさい、ですか
無限にあることでしょうね?
だが男が続いて説いた言葉は、猟兵たちの許へは届かなかった。代わりに、まるで氷点下の水面に生まれた波が凍結するかのように、音波が大気の中で凝固する。然るべき秩序で組み上げられた、金属片の集合体の形に。
「天真様……この奇跡は一体
……!?」
男は困惑と感無量の間の子のような表情で誠真教の教祖の名を呼ぶが……そんな彼に冷ややかな眼差しを向ける者がいた。
「戯言を。あなたには目の前の現実を見ることすらできないのですか」
憐れむフレスベルクの聖別天衣が風もないのにほのかに輝きながらはためいて、誰から見てもその“奇跡”を起こしたのが彼女であることを物語っているというのに。虚空より生じた金属は、そのまま互いに結合し、徐々に一台の機械の形に変わる。音波などという非物質的な概念すら機械に変えたのは……フィールド・オブ・ナイン第2席、すなわちフレスベルクの戴く権能だ。
「まあ……こんな現実、受け容れたくない気持ちそのものは判るんだがな」
岩瀬はそんな彼女の陰で、そんな一言をぼそり洩らした。だってそうだろう、これまでそんなものが存在するとも思わなかった異世界の、奇蹟そのものを幾度も目の当たりにしたのだ。笑うっきゃねえ、それが岩瀬の率直な感想だ。
「ですが、納得はなされたのでしょう?」
「助けて貰ったって贔屓目かもしれねえけどな」
であれば十分。彼は知っておくべきだろうとフレスベルクは説いた。
「この世界を含めた全ての世界には世界の敵たる存在の頂点……『忘却の方程式(オブリビオン・フォーミュラ)』が存在します。そしてこの力は、討滅したフォーミュラの力の再現」
岩瀬にはそれが途方もないものであることしか解らなかったが、目の前の少女がそれすら威伏する存在であることだけは疑わなかった。同時に、故に彼女には確かに誠真教徒にこう説き得るのだろう、とも。
「貴方とは宗教が何たるかを論じるに値しません」
わたくしの声は衆生を救い、導くためにあるのですから
そう彼女が告げたと同時、彼女に屈服せし洗脳音波が動き出す。
「閃光を解き放て、我が機械神よ」
それは人が犯した罪に相応しい無数の罰の幻覚を、刹那のうちに脳裏に灼く閃光。男のこの世ならざる悲鳴は、彼が信仰の名の下にどれほどの罪を犯したかを物語っていよう……それでも。
「我が魂は常に……誠真と共に在り!」
バイザーの下から止め処なく赤い涙が流れ落ちるも、男は半歩、前に踏み出す。
その目は最早、見えてなどいるまい……それでも彼は猛烈な狂信の力にて、魂を現世に繋ぎ止めるのである。
大成功
🔵🔵🔵
オーガスト・メルト
神様じゃなくお金様の信徒か
救済と言いつつ奪う事しかできないとは無様なもんだ
【POW】連携・アドリブ
デイズは肩に乗せ、武器は【焔迅刀】を構える
ナイツを変化させた万能バイクに【騎乗】して戦おう
一応【狂気耐性】はあるが、攻撃を食らうのは避けたいな
デイズ、UC【呑竜咆哮】で「音波の伝達」という事象を焼却しろ!『うきゅー!』
後は【ダッシュ】で距離を詰めて炎の【属性攻撃】を乗せた【二回攻撃】で斬り伏せる
神に代弁者なんていらないんだよ
少なくとも俺の知り合いは言いたい事がありゃ自分の口で言う神ばかりだからな
故に、再び狂気の咆哮。それは誠真教徒が尊ぶ“誠意”への礼賛ながら、洗脳などという生易しい音ではなく脳髄を揺らして破壊する衝撃波。
だがその“誠意”が行き着く先は、はたしてどこであったのだろうか? 誠真教徒の人を人とも思わざる行為を見てきた限りでは、オーガストにはそれが到底神仏への信心から生まれたようには思えない。
「神様じゃなくお金様の信徒か……ってな」
救済などというお題目を掲げつつ、結局のところ彼らは奪うことしかできてはおらぬ。信仰すら顧客の囲い込みの道具としか見なさぬ多くのメガコーポと、メガコーポが信仰実現のための道具である誠真教。一見すれば真逆の存在であるように見えはするものの実のところどちらも金の盲信者であることに変わりはないのであろう。
無様なもんだ。
オーガストが憐憫に首を振ったなら、肩のデイズが同意するように炎を吐いた。すると万物を透過して伝播するはずの破壊音波を、炎は正面から受け止める。
「いいぞ! そのまま焼却しろ!」
「うきゅー!」
そしてオーガストが命じれば、炎は音波を喰らわんと勢いを増した。狂信者とオーガスト、両者の中央で拮抗していた二つの力が、じりじりと狂信者に向かって迫る。流れた血の涙は蒸発し、後には赤黒い粉だけが二筋残り……それらも荒れ狂う炎に吹かれて消える。
我が言葉は我が教祖の言葉、我が教祖の言葉は神の言葉。
そう口に出すことで全身を包む炎を掻き消した狂信者は、ほんの少し前まで炎の向こうにあったはずのオーガストの気配が、忽然と消えていることに気がついた。だが、気配が減ったのではない。何故なら全く新しい強烈な気配が、斜め上方から彼へと降り注いでいたからだ。
「少なくとも俺の知り合いは皆、言いたいことがありゃ自分の口で言う神ばかりだからな……」
その正体は、自らもデイズの炎を纏ったオーガスト。焔迅刀を真っ直ぐに敵へと向けて跳躍突撃の最終段階に入った彼の気配を男が感じ取れなかったのは、彼が万能バイクに変じたナイツに跨り身を乗り出しているからだ!
「神に、代弁者なんていらないんだよ……!」
ナイツの速度と重力を足し合わさて突き出した焔迅刀が狂信者のバイザーを砕き、内側に秘められた双眸を露にさせた。否、それは最早“双眸”とは呼べぬ。着用者に向けて常に教祖の映像を映し出す、眼球型洗脳サイバーザナドゥだ。
もっとも、返す刀でその両目を破壊してもなお、男の狂信は止まらなかった。彼の心は既に教祖と共にある。何人もその信仰は奪い得ぬ。故に、彼は決して救われぬ……教祖の尊顔を傷付けた猟兵どもに、等しく報復を与えるまでは!
大成功
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ミツバ・カナメ
この世界ではあなたみたいな人を悪って言うんだよ!
拉致監禁殺人その他諸々の罪でボコボコにした上で逮捕するんだから!
というわけでユーベルコード発動、呼び出した警官隊の皆に盾を構えた上で敵を包囲にかかって貰って、あたしはその背後から敵の様子を窺う。
敵のユーベルコードは音波みたいだから、盾で防ぎきれないかもだけど、無いよりはマシかなって。
充分に包囲が狭まったところで、敵の横か背後からスクランブル・ブーツの【推力移動】で接近。跳躍して回避する可能性もあるから、その辺も考慮の上で。
上手く肉薄できたらハード・ノッカーの【零距離射撃】を叩き込むよ!
「……そういうのを悪って言うんだよ!」
手錠を握るミツバの指先は、真っ直ぐに狂信者に向けて差されていた。狂信者が吐き出す言葉は冒涜そのものであるし、信仰を否定された彼が何をしでかすのかは想像するだに恐ろしい。
けれども……警官たる自分がそれに屈したらどうなるだろう? 狂信者も、メガコーポの圧力も、怖くないわけがない。だけどそれらに膝を折ることで、助けるべき人々を見殺しにしてしまうこと、正義の名の下に行なわれる弱い者いじめに加担してしまうこと……それらは、それ以上に彼女を恐怖させてしまう。
だから、口を衝いて出てくる言葉は、自分でも思った以上に滑らかだった。突きつけた指は決して動じることがなく、真の正義はいまだ死に絶えてなどいないのだと示す。
「拉致監禁殺人その他諸々の罪で、ボコボコにした上で逮捕するんだから!」
同時、その宣告に呼応するかのように、四方から超強化プラスチックの盾を構えた集団が部屋へと雪崩れ込んできた!
「今すぐ武器を捨てて投降せよ!」
「妙な動きをしたら射殺する!」
ミツバが応援要請した警官隊だ。この腐った世界において、今なお正義を信じ続ける者たちがいつしか集って生まれた特殊機動隊。それが彼らだ。その魂はミツバと同じく燃え盛っており、いかな狂信の煽動者の放つ音波も、鱗のように重なる盾とその炎によってすっかり掻き消してしまう。
しばらく空回りを続けた正義の歯車が、ようやく噛み合ってくれたように思えた。岩瀬に、「この通り、心配なんて要らなかったんだから!」と胸を張る時が来た。
それを世界に示すため、彼女は一つの跳躍を果たす。靴の底から圧縮空気を噴射して、彼女は狂信者に向けて大きな円弧を描く。その時……狂信者は溜め込んだ怒りを一気に放出し、幾重にも取り囲んでいた警官隊を纏めて薙ぎ払ってしまった。ところが、その直後の一息が、彼にとって致命的な硬直だ。警官隊が揃って弾き飛ばされたこの瞬間が、ミツバにとって最大の好機!
「警官隊の負傷を確認……正当防衛要件が成立! 本当にボコボコにしてあげるから覚悟しなさい!」
ミツバにのしかかられるように着地された狂信者にとって、彼女のショットガンを避けることなど不可能だった。彼が自ら警官隊を遠ざけた空間に、破片一つ一つが下手な拳銃並の威力を持つ散弾が満ちる。
「天真様……!」
教祖の名を唱えた狂信者の口から、赤い液体が溢れ出た。盲信の力が彼の意識を繋ぐ。今すぐ投降して手当を受けなければ長く保たないことは、彼自身だって解ってはいる。だとしても……彼は、使命を果たさなければならない。すなわち……。
一人でも多くの誠真教の敵を来世に導くという、彼らの信じる絶対の正義を。
大成功
🔵🔵🔵
涼風・穹
津崎と
……神の教えに嵌ると楽になれそうだな…
全部神様のせいだから善悪も何も考える必要も行動に責任を負う必要もない
そして宗教家はそんな手駒を使って私腹を肥やすと…
まさにWin-Winな関係だな
……愉快だねぇ…
さて、薬物投与や洗脳の結果なのかもしれないけどあくまで誠真教に殉じようとしても殉教も殉死もさせてやる程俺は優しくないんでね
そこの警察屋さんや岩瀬、トニーのように語るべき正義を持たない俺に相応しい《贋作者》の力でスタンガンのような鎮圧用武器を作り出しこれ以上誰も傷つけさせずに捕縛します
戦闘要員の信者達がくれば《贋作者》謹製テーザー銃で鎮圧します
終わった後はSEISHINのデータを抜き取ったチップと頂戴した情報端末の類は岩瀬に渡します
こんなチップが用意されていたのならトニーは使い道まで決めていたのかもしれないけど、警察に渡すか公開するかそれとも誠真教と敵対関係にあるメガコーポにでも売りつけるか、どうするかは岩瀬に任せるとするさ
……恰好をつけておくなら心はホットに、仕事はクールに…なんてな?
津崎・要明
f02404:涼風君と
そういうの間に合ってるんだよな〜(溜息)
教義は知らんがやってる事でもうアウト、と言いたいのを我慢
「Wb」「ツール」でシャッターを閉ざし援軍防止、涼風君とミツバさんが入手したデータを軽く確認しつつ、まだ残っているかもしれない映像を探す
ハセガワの最期の映像を
UC
探偵を殺ったのはあんたかい?
なぜあんたがハセガワが持っていたのと同じスマートガンを持っている
岩瀬さん、彼の銃はここに傷があったか?
ほらよ、きっちり落とし前を付けるといい
これで岩瀬はこの件から手を引いて身を隠す事も可能だろう。一旦は事件から手を引いていたのだし、仮初の平穏に安住するのも悪い事ばかりじゃないさ、命あっての物種だ。
証拠が真実にせよ・・・Fakeにせよ。
(ハセガワ、あんたも友人を死なせたくは無いだろ?)
関わるにせよ手を引くにせよ、こちらの猟兵組織に違う身分を用意してもらうといい。
いや、あんたの為じゃない。本当は相棒を巻き込みたくなかっただろうハセガワの為さ。
神に全てを委ねた気分になれるとは、さぞかし心地よい気分なのだろうな。
だが自分もそうしようとなどは、涼風には到底思えなかった。無論、彼のみに限らずに、この場にいた誰も――狂信者以外の――が同じであったろう。何故ならそれは人であることを、自らの力で生きる権利を放棄することであるからだ。
(善行も、悪行も全てが神の御心のままに。そりゃ当然楽だろうさ。何も考える必要もない、行動に責任を負う必要もない。そればかりかそのせいで自分が苦しむことすら、全てが神の寵愛を得るための必要経費でしかないんだからな)
盲信者はそうやって何もかもを肯定されて、宗教家はそんな彼らを手駒に存分に私腹を肥やす。あまりにも愉快なWin-Win関係だ……一生そうやって養分になっているといい。
ただし目下の問題は、その養分がこちらにまで根を伸ばし、養分仲間を殖やそうとやって来る、ということだ。そういうの間に合ってるんだよな~~~……。そんな気持ちを厭というほど乗せた津崎の大きな溜息が、騒々しい逮捕劇を繰り広げている室内にさえ響く。う~ん、仮に誠真教の教義が本当は素晴らしいものだったとしても、やってることを見ただけでもうアウト。津崎には、それをわざわざ口に出したりして狂信者の憎しみを自分に向けるつもりなど毛頭ないが。
(こっちにはこっちで別途やることがあるからね。余計な邪魔が入ると面倒だ)
ドローン『Worker bees』に指示を出してやったなら、部屋は唐突にガラガラという騒音に四方を包まれた。自らの信仰に酔いしれる狂信者は気付いていないように見えるが……万が一の時にこの部屋に閉じ込められていた“素材”たちと周囲を完全に分断するために設えられていた、防火シャッターという名目の矢鱈頑丈な可動式シャッターだ――しばらく前から完全に津崎とWbの制御下にあり、それが本来の役目を果たすことは決してなかったわけだが。
これで、狂信者がいくら洗脳した手下を呼ぼうとしたところで、それは決して叶わなくなった。あるいは彼自身も薬物投与や洗脳の結果として狂信者に仕立て上げられた中の一人であるのかもしれない……そうも涼風は想像するが、今の彼が誠真教徒として生きて誠真教徒として死んでゆくことを至上命題としていることは変わるまい。
であれば、涼風にできることなど限られている。狂信者がこちらを地獄に引きずり込もうと言うのなら、その手を拒む。彼が誠真教に殉じようと欲するのなら、命を絶たせることなく無力化してみせる。殉教? そんなことを許して教団のお偉いさんに「皆さんも彼の遺志を継ぎましょう」なんて反吐が出るような台詞を吐かせてなるものか。
ただ……それが誠真教徒どもと違う本当の正義感から生まれたものだと胸を張って言えるほど、涼風は自分自身を純真だと思っていなかった。トニーや岩瀬、そして巨悪にも敢然と立ち向かった警官たちほど、自分はこの世界を変えたいと強く願っているのだろうか?
願えているはずがない。そりゃあ確かに悪は憎むし、苦しんでいる人がいるなら助けてやろうとは思う。だが所詮は他の世界からやって来た身。このサイバーザナドゥなる世界を「かくあれ」とまで定める権利など、端から持ち合わせてなどおらぬのだから。
謂わば“偽りの正義”に過ぎないと、涼風は自認せざるを得なかった。単に、それがどれほど偽善であっても、それで人を救えるのなら無いよりよっぽどいいというだけで。
もし、その偽善が本物の正義に劣るものではないなどと勘違いしてしまうようであったなら、自分も誠真教徒と変わらぬものになってしまうがゆえに。自分自身を戒めるため、涼風の伸ばした手は虚空を掴む。
「投影」
掴んだ何もないはずの空間に、ワイヤーフレーム状の光が走った。その光の束をまるで無から引き抜くかのように、涼風の腕は胸元まで畳まれる。
実に俺らしい武器じゃあないか。裏返し、回して確かめたそれの見た目は、この世界の警察の制式装備としてもよく見かける射出型スタンガン。だが、そう見えるのは外見だけの、あくまでもハリボテだ。詳しい人間がよく見れば、ロゴの有無、継ぎ目部分の形状の違い……幾らでも本物との違いに思い当たることだろう。だからこそ彼は自分が本物だなどと勘違いせずに済む。いいだろう、本物ではない自分が一体どうやってこの世界に関わってゆくつもりか、まずはこの場で証してみせよう。
四方から、何かが激しくシャッターと衝突する物音。まるで亡霊が窓を叩くかのごとき騒音は、狂信者の危機を察して追ってきた、彼が洗脳した盲信者たちなのだろう。
「どうだ? 破られる心配はありそうか?」
「お生憎様。折角の獲物を逃すまいと欲を出したのが彼らにとっても災いしたね。シャッターは今のところびくともしない……仕方なく、どうにかネットワーク経由で開放しようとも試みているようだが、残念ながらWbのセキュリティは彼らのシステムのものより強力だ」
チップで抜き取ったデータを実際に調べた津崎がそう答えるのならば、それを信じれば十分だろう。涼風が引き金を引いたなら、撃ち出されたワイヤーが狂信者へと喰らいつく。振り払わんとする狂信者。しかしその試みが成されるより早く……ワイヤーが電流を獲物へと放つ!
本来の制式仕様であれば非殺傷と銘打ちながら多々なる濫用の結果として多くの“不幸な事故”を起こしてきたスタンガンはしかし、涼風の持つものは殺傷力の面でもやはり偽物だった。標的がどれほど弱っていても、涼風がどんなに誠真教への怒りを抱いていても、決して標的を殺せはしない。速やかに標的を無力化し、あれだけ激しかった狂信者の抵抗をすっかり大人しくさせてしまうが……ただ、それだけだ。
「だから、“偽物”たる俺にできる仕事はここまでだろうな」
「そうしよう。彼を最後にどうするかを決めるのは、俺たちよりもずっと適任がいるはずだ」
涼風と津崎の視線が自分を向くことを、まるでそうなるだろうと解っていたかのように岩瀬は頷いた。その視線は、狂信者があたかも倒した敵の頭蓋骨を身に着けて武勇を誇る未開の部族の戦士のように腰に提げていた、一挺のスマートガンへと注がれている。
そのまま何かを思い返すかのように動きを止めてしまった岩瀬に代わり、津崎が狂信者へと尋問を加えた。
「探偵を殺ったのはあんたかい? なぜあんたがハセガワが持っていたのと同じスマートガンを持っている」
狂信者は決して首肯も抗弁もしなかった。だがその沈黙が何よりも真実を物語っている。
バイザーに隠れて確かなことは言えなかったが、やはりトニーの最期のシーンに映っていた男は彼だったのだと津崎は理解した。あまりにも惨かったためにまだ岩瀬には見せていないが、入手した監視カメラ――恐らくは何らかのSEISHINにとっての問題が起こった際に都合のいい場面だけを切り貼りして“証拠”を作り出すためにあるのだろう――の映像をざっと確かめた中にその映像はあったのだ。狂信者たちの芝居がかった祈りを見せつけられながら拷問されてもニヒルな笑みを浮かべるだけで、収集したデータの保管先も委託先も喋らぬまま事切れたトニーの姿が。
もっとも……津崎がその光景を伝えなかったにもかかわらず、岩瀬の瞼の裏にはそんなトニーの姿が映っていたことだろう。
「トニーめ……本当に、馬鹿な奴だったぜ」
動けない狂信者の腰から銃を抜き取って、じっくりと隅々まで眺めてやる岩瀬。
「この傷は、俺たちが薬で理性を完全にぶっ飛ばしたジャンキーと格闘戦を繰り広げてた時についたやつだった。こっちの傷は……見たことがないな。真新しい。ああ、お前さんたちがアイツを捻じ伏せた時につけたのか」
てっきり津崎は、岩瀬が自分自身の手で落とし前をつけるものだと考えていた。だが彼はそうしない。
「だってよ、現役警官が目の前にいる場所で、警察OBが私怨で犯人を殺害する訳にゃいかんだろうがよ」
その割に彼はまるで春風薫る青空の下にでもいるかのように、ここ半月の調査三昧の日々と工場への潜入で凝りに凝った肩を伸ばしてみせた。
「トニーの奴に託されたヤマには決着がついた。アイツを殺した犯人も見つかった。加えて、それを引き渡すべき警察もまだまだ捨てたもんじゃないって希望が持てたってのに、それ以上を望んで何になるんだ? 上司にクビを突きつけられた時、俺はあの阿呆と違って、メガコーポに目を付けられない範囲でひっそりと生きることにしたんだ。わざわざ俺自身の手でアイツが望んでもない復讐に手を染めて、SEISHINに余計な恨みを買うなんて馬鹿げてらぁ……」
「その通りだ。何事も命あっての物種だ」
そう言って津崎が岩瀬へと指で弾き渡したものは、彼にSEISHINと無縁な新しい身元を偽造してやれそうな、反メガコーポ活動を行なうユーベルコード使い組織を紹介するデータチップだ。
(あんたのためじゃない。本当は相棒を巻き込みたくなかっただろうハセガワのためさ。……そうだろ? ハセガワ、あんたも友人を死なせたくはないだろ?)
「こっちも忘れないようにな」
涼風も同じようにチップを渡す。こちらは侵入の際に厭と言うほどお世話になった、トニーが準備してくれていたチップのほうだ。
そんなものまで用意しているだなんて、トニーにはトニーなりのデータの使い道があったのだろう。渡す相手は、警察か、メディアか、SEISHINと敵対する他のメガコーポか……。
だが、それは岩瀬に全てを任せればいい。トニーが彼に託した以上、彼ならば上手いこと使ってくれるはずなのだから。
涼風の心は今も誠真教の非道に滾っているが、仕事はクールに終わらせるのが肝要だ。
さあ、次の事件に向かうとしよう。この世界にも、他の世界にも、猟兵にしか解決できない事件は無数に転がるのだから。
大成功
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