亡国の箱舟は幼子を探す
今日もお空は真っ青で。雲海も静かに真っ白。
お湯も温か、いいかんじ。
んーっと大きく伸びをして。
お気に入りのペンダントを陽の光にキラリと輝かせて。
いつも通りの平穏でのんびりした一日が始まる。
はずだった。
「……あれ? ガレオン?」
空を見上げていた小さな少女は、そこに浮かぶ見慣れぬ舟に首を傾げた。
商売をしに、時には島の温泉を目当てに、度々訪れる勇士達の飛空艇とは何か違う。
だんだんと少女の居る浮遊大陸に近付いてくるその舟は。
どこか古めかしい印象を持っていて。
落ちたりしないのかな、と心配になりながら見ていると。
舟から、小さな羽根を生やした天使達が、降りてきた。
雲海に無数の浮遊大陸が浮かぶ世界『ブルーアルカディア』。
「その辺境の平和な浮島に、オブリビオンが現れるよ」
九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は、一面の空が映し出されたグリモアベースで、猟兵達に説明を始める。
現れるのは『『箱舟』ノア・アルクリアス』と『カラーレス・エンジェル』。
浮遊大陸に降り立って、そこに住む住民に襲い掛かるのだが。
「どうも、島の子供を連れ去ろうとしているようでね」
邪魔をする大人や、抵抗して戦える子供には容赦がないようだが。
戦えない、逃げ惑う子供には一切危害を加えず。しかし、誘拐するのだとか。
「攫ってどうするのか、ってのは見えなかったんだが、それだけでも充分問題だろ。
島民への直接の被害も出ちまうだろうし、どうか阻止してやっとくれ」
その島まではちゃんと送るよ、と夏梅は苦笑して。
ああそうだ、と思い出したかのように、にやりと笑った。
「その島には温泉があるようでね。
無事に事件を防いだら、お礼に楽しませてもらえるかもしれないよ」
探して。早く探して。
非力な子供。戦えない子供。
私に乗せて、早く島を出なければ。
この国が雲海に沈む前に。
せめて子供だけでも逃がさなければ。
だから、探して。早く、早く。
守るべき子供。逃がすべき子供。
ペンダントを与えられた子供。
私に乗せて。箱舟である私に。
命じられた通りに、墜ち逝く島から助けてあげるから。
佐和
こんにちは。サワです。
波打ち際の温泉は面白かったです。
舞台は辺境にある平穏で小さな浮島です。
一応、国という形を取っていますが、村みたいな規模です。
当然騎士団などはありません。自警団程度。戦力には数えられません。
避難誘導はしてくれますので、そこはお任せして大丈夫でしょう。
第1章は『カラーレス・エンジェル』との集団戦。
第2章は『『箱舟』ノア・アルクリアス』とのボス戦です。
いずれも島に降りてきてからの戦いとなります。
第3章は、空の湯でひと息。
眼下に雲海を一望できる温泉をお楽しみください。
雲海が見える=空側からは丸見えの露天風呂になります。
島側はさすがに壁で覆われてますが。脱衣所とかの建物もありますし。
そんな事情で湯あみ着を貸してもらえることもあり、混浴です。
特産のレモンジュースも楽しめます。
それでは、雲際の温泉を、どうぞ。
第1章 集団戦
『カラーレス・エンジェル』
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POW : 可変翼
【拳や刃物などに変形可能な翼】で攻撃する。[拳や刃物などに変形可能な翼]に施された【分裂・巨大化機能】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
SPD : 過剰暴走
対象の攻撃を軽減する【黒い戦闘体】に変身しつつ、【着弾すると爆発する魔力の翅】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 魔獣化
【理性を奪う試作型の戦闘用人格】に覚醒して【黒い巨大魔獣】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
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天使は次々と島にやってきた。
「ジャマしないで」
「オトナはどうでもいいの。カッテにして」
「子供。子供だよ。あたしたちがタスけるのは子供」
変なことを言いながら、1人がマイヤーさんを突き飛ばして。無造作にナイフを振り下ろそうとしてる向こうで、他の天使がきょろきょろと何かを探している。
横から聞こえた悲鳴に振り向くと、真っ青な顔をしたビアフランカさんの腕から天使が赤ちゃんを奪っていた。
「子供はツれてイかないと」
「ノアにノせてあげないと」
「このシマがシズむマエに」
「ノせてあげないと」
浮島が沈む、ということは知っている。私は見たことはないけれど、ひいおばあちゃんが、生まれた島は子供の頃に沈んでしまったんだって言ってたから。
でも、この島が沈むなんて聞いたこともない。
島の浮いてる力がなくなってきたら分かるから、沈む前に逃げられるから大丈夫だよってマイヤーさんは笑ってたし。まだまだ島に力はあるから、この子もその子供もきっとその子供もこの島で暮らせるわってビアフランカさんも笑ってた。
なのに天使は。天使達は。
「ハヤくしないとシマがシズんでしまう」
「イソいで子供をノアにノせて」
「ハヤくハヤく。子供をタスけないと」
勝手なことを言って、大人を傷つけて、子供達を探して奪っていく。
そして、天使は。
「ここにもいた。子供」
私を見て、怖いぐらいに明るい笑顔で、笑った。
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と参加
空の国か、思わず景色には見惚れそうだ
でもだからこそ邪魔をするオブリビオンは倒さないとな
「さて…如何なる時も護る為に、だ」
相棒の声に応えるように
それ以上に、自身の信念を貫く為
「あぁ、頼むな、時人」
時人と連携しつつ戦闘
兎に角被害を出させないように立ち回る
護身の銃撃で遠くの敵にも牽制しつつ
近接の敵には【神速「空閃」】で攻撃
「この人達に手出しはさせない!」
一般人は護りつつ、自分は極力敵に狙われるように目立つように
「さぁ…お前達にとって最大の邪魔は、俺だろう!」
空中へ空閃で作った斬撃は足場にしての敵への対応や
視えない防御としても使用
「空を舞えるのは自分達だけと思ったか?」
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と行く
此処は初めての世界だ
美しい所だけど…オブリビオンは邪魔でしかない
「力なき者の盾となる為に」
能力者に覚醒してからずっとそうしてきた
だから、今も
「行こう陸井!」
陸井と連携し、出来るだけ攫われる子供を優先も
近くに危ない人が居たら即時割って入る
敵に向かっては適宜UC光蟲の槍を使用
一瞬でも時間があれば集中も急ぐ時は躊躇わない
白羽蟲笛から白燐蟲(ククルカン)を呼び攻撃と
攪乱にも使用し指示を
「護る為に往けククルカン!敵には容赦するな!」
敵が追いすがる場合は長剣で直接攻撃も
「お前たちの護り方は絶対に間違ってる!認めない!」
助け出した人は動けないなら抱える等して
現地の人たちに託す
「空の国か」
視界一杯の青さと広さ、そして美しさに思わず見惚れてしまった凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)は、漆黒の瞳を細めた。
こんな時だというのに、瞳と同じ色の髪を揺らす風は心地いい。
「此処は初めての世界だ」
傍らの葛城・時人(光望護花・f35294)もゆっくり辺りを見回して、青い瞳に好奇心を煌めかせている。
どこまでも続く冒険の空『ブルーアルカディア』。
雲海に無数の浮遊大陸が浮かぶ、美しい世界。
「だからこそ、邪魔をするオブリビオンは倒さないとな」
ふっと微笑み振り返った陸井に、時人も視線を向け。
「如何なる時も護る為に、だ」
「力なき者の盾となる為に」
陸井の貫く信念に、頷いて応える。
時人は、能力者に覚醒してからずっとそうしてきた。
ゴーストに家族を殺害され、覚醒したあの時からずっと。
だから、猟兵となった今も。
「行こう、陸井!」
「あぁ、頼むな、時人」
迷わず走り出した相棒に、陸井も並び、共に戦いへと向かう。
そこには島民らしき人達と、腰から小さな羽根を生やした天使達が、いた。
「ジャマしないで」
「オトナはどうでもいいの。カッテにして」
それこそ身勝手なことを告げた天使が、必死に立ち向かった男性を突き飛ばす。
後ろに転がり倒れた男性に、別の天使が近づいて。
「子供。子供だよ。あたしたちがタスけるのは子供」
だから大人は殺すのだと言うかのように。その翼を鋭い刃に変形させると、何の躊躇いもなく、むしろ無造作に、恐怖に顔を引きつらせた男性へ振り下ろす。
だがその刃が赤い飛沫を上げる直前。
割り込んだのは守護者の盾。
急に真っ黒になった視界が、前に立つ黒いサーコートの背によるものだと男性が気付いた時には、天使の刃は弾かれ、光蟲の槍に貫かれていた。
さらに光柱が天使を包み込んで立ち上がると、光ごとその姿が消える。
先ほどまでとは違う驚きで目を見開く男性の前で。
もう1体、男性を突き飛ばした天使が、異変に気付いてこちらを向いたけれど。
そこに撃ち込まれる、武骨な短刀銃『護身』の銃撃。
「この人達に手出しはさせない!」
そして牽制の銃弾を追うように、陸井が走り込んできた。
銃撃に体勢を崩しかけた天使に接近すると、強靭な発頸手袋『護手』に覆われた手刀を素早く繰り出す。いや、繰り出したのだと思う。
あまりの速さに男性は陸井の動きを捉えられなかったのだが、深く傷を負った天使の姿にようやく、事態を理解した。
神速「空閃」。
そのまま陸井は天使へと手を振るい。崩れ落ちる間も与えずにその姿を消す。
目を瞬かせる男性には、陸井の羽織に入った大きな刺繍の『護』の文字だけが、酷く印象に残っていた。
だが、2体の天使を倒し、一旦の危機は凌いでも。
「オトナも、ユウシも、どうでもいいの」
「あたしたちがタスけるのは子供。マモられる子供」
次々と現れる天使……オブリビオン『カラーレス・エンジェル』。
先ほどの恐怖を思い出してか、小さく悲鳴を上げた男性を、黒いサーコートを着た時人が再び背に庇い。
「名前を聞いても?」
落ち着かせるように、優しい声で問いかける。
「え……あ、ま、マイヤー、だ」
「マイヤーさん。あちらへ逃げられますか?」
すっと時人が掲げ示した手の先では、自警団だろうか、避難を呼びかけ仲間を導いている島民達の姿があったから。
きっとあちらに安全と判断された場所があるのだろうと。
時人達はあちらを護ればいいのだろうと判断して。
肩越しに振り返った時人は、マイヤーに、青い瞳で穏やかに微笑みかけた。
はっと気付いたマイヤーは、こくこくと首を縦に振ると、何とか立ち上がり。御世辞にも速いとは言えない、慌て過ぎて不格好な走り方で去って行く。
その動きを確認した時人は、すぐに天使に向き直って。
取り出したのは『白羽蟲笛』。
この世界に、そして島に吹く美しい風をその笛に受ければ、不思議な音が鳴り響き。
「護る為に往けククルカン! 敵には容赦するな!」
純白の羽毛と翼を持つ、蛇の形をした蟲……白燐蟲『ククルカン』が現れた。
ユーベルコードではないゆえに、単独で敵を倒すには至らない蟲だが、その数は脅威的で。天使達を撹乱し、マイヤーが逃げる道を護っていく。
そして、陸井も。
「さぁ……お前達にとって最大の邪魔は、俺だろう!」
天使達の注意がマイヤーに向かないよう、目立つように声を上げ。
そして、空を舞ってみせる。
実際に飛んでいるのではない。高速の手刀は、その軌跡を不可視の斬撃として残し、それを足場に陸井は空へと駆けあがったのだ。
翼を持たぬ陸井の思わぬ立体的な動きに戸惑う天使を、空からも手刀が狙う。
「タタカう」
「マモるためにタタカう」
その斬撃に耐えるように、天使達の身体がじわりと黒ずんでいき。 白い羽根が、白い服が、艶やかな肌を見せる脚が、微笑む顔が、不気味な黒い戦闘体へと変わっていくと。
魔力を込められた黒い翅が無数に放たれる。
咄嗟に陸井は手刀を振るい、不可視の斬撃を今度は放つことで迎撃すれば。
巻き起こる黒い爆発。
その様子に、時人はぐっと顔を顰め。
「お前たちの護り方は絶対に間違ってる! 認めない!」
思わず叫び声を上げると、応えるように白燐蟲達が黒い天使へと襲い掛かり。
そして時人もまた、長剣を構えながら、光蟲の槍を撃ち放った。
大成功
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木霊・ウタ
心情
親切の押し売りってやつか
手段を選ばないってのは正にオブリビオン
命や子供らの未来を奪わせないぜ
天使たちを海へ還してやろう
戦闘
大剣で天使を薙ぎ払いながら登場
ここは俺達猟兵に任せて避難してくれ!
と自警団に避難誘導を依頼
子供の救出や人命を守ることを第一に行動
変形巨大化した翼を剣で受けながら融解
一通り救出が終わったら火力全開
焔摩天を振るった剣風を紅蓮の風として
翼ごと天使らをまとめて焼却
色々と心配してくれてんだな
サンキュ
そしてもう大丈夫だ
紅蓮に抱かれて眠れ
天使核だけは
出来るだけ燃やさないように気を付ける
過去の化身の一部を残すのって
ちょいと気になるけど
この世界の貴重な動力だもんな
事後
鎮魂曲を演奏
安らかに
「きゃああぁ! ユーレカ!」
腕に抱いていた赤ん坊を奪われた女性が悲鳴を上げる。
「子供はツれてイかないと」
「ノアにノせてあげないと」
赤ん坊を抱えた天使は女性に見向きもせずにどこかへ向かおうと踵を返し。もう1体の天使は、追い縋る女性を邪魔だと言うかのように、その翼を刃に変える。
攫われゆく我が子と、自身へと振り向いた凶刃。双方に女性の顔が絶望に染まって。
……炎の鳥が、舞い降りた。
刃に梵天を刻まれた大剣が、地獄の炎を照り返しながら振るわれて。赤ん坊を持つ2本の腕を斬り落とす。その勢いを乗せたまま、続く刀で天使の胴体を一閃し。鈍器で殴りつけたかのように、白く小柄な身体を吹き飛ばした。
そのままだと赤ん坊は地面に落ちてしまうところだが。
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)はちゃんとその動きを追い、キャッチ。
その小ささと柔らかさに少し戸惑いながらも、母親らしき女性の元へ駆け寄った。
「ユーレカ!」
歓喜の声を上げ、女性が奪うかのようにウタから子供を受け取る。
恐怖の涙を安堵のそれに変えて、赤ん坊を抱きしめながらぼろぼろ泣き崩れる女性に、ウタもふっと笑みを浮かべるけれども。
「子供はツれてイかないと」
翼を刃に変えた天使が、両腕を斬り落とされた天使が、どこか機械じみた瞳を、まだ赤ん坊に向け続けていたから。
「ここは俺達猟兵に任せて避難してくれ!」
親子を背に庇うように大剣を構えたウタは、肩越しににやりと笑う。
「こっちだ、ビアフランカ!」
そこに少し離れた場所から、島民らしき男性が声をかけてきて。
振り向いた女性は、戸惑いながらもそちらへと足を踏み出す。
大事な赤ん坊を、二度と離さないと言わんばかりにしっかりと抱きしめたまま。
「頼むぜ!」
男性は自警団か何かだろうと判断したウタは、その避難誘導に女性を任せ。
先ほどの言葉通り、戦うことは任されたと、天使に斬りかかった。
薙ぎ払った『焔摩天』は、翼が変化した刃を受け弾き。さらに巨大化して向かって来る新たな刃にも、冷静に対応する。
「子供はツれてイかないと」
「このシマがシズむマエに」
「子供はノアにノせてあげないと」
「……色々と心配してくれてんだな」
剣戟の合間に紡がれた天使の言葉に、ウタは優しい笑みを零した。
事実とは違う理由だし、勝手すぎる行動だが、その奥底には子供への思いがある。
歪んでしまっているようだけれど、それが子供のためだと信じているのを感じて。
「サンキュ」
その気持ちだけは受け止めてやりたいと、応える。
「でも、もう大丈夫だ」
しかしだからといって、天使の行動を認めるわけにはいかないから。
先ほどの女性や自警団の男性など、島民の姿がもう近くにないことを確認して。
ウタは身に纏う地獄の炎の火力を上げた。
「紅蓮に抱かれて眠れ」
大きく振り抜いた焔摩天が生み出す剣風を、紅蓮の風に変えて。辺りの天使をまとめて炎に包み込み、燃やしていく。
子供を思うオブリビオン『カラーレス・エンジェル』は、その歪んでしまった想いごと炎の中に消えていって。
おっと、とウタは慌てて炎を制御する。
思い出したのだ。この世界のオブリビオンは、天使核を持つのだということを。
「この世界の貴重な動力だもんな」
(「過去の化身の一部を残すのって、ちょいと気になるけど」)
何とかそれだけは燃やさないように、四苦八苦しながら対応して。炎が消えた後に、ころころんと小さく転がる不思議な塊を見て、ほっと息を吐く。
ひょいっと拾い上げた天使核を少しだけ眺めて。
(「後で、鎮魂曲を歌ってやるな」)
安らかに、と思いながらしまいこむと。
まだ残る天使達へと、焔摩天を携え、走り出した。
大成功
🔵🔵🔵
セシル・バーナード
ふむ、言動から大まかな事情は分かるものの、きっと雲海に沈んでそこで時間が止まったんだろうなぁ。
さて、12歳はまだ子供だよね。ここにも子供がいるよ。
ああ、来た来た。可愛いね、おねーさん。こうなる前に会えたら良かったのに。
途中まで無抵抗にさらわれてから、密着状態で冥王砕禍。この一撃で討滅出来るはず。
始末出来たら、後は島のあちこちを歩きながら、同じように敵を引き付けよう。
アカペラで「歌唱」してたら、沢山引き寄せられるかな?
後はもう同じ。抱きかかえられたところに冥王砕禍を撃ち込むだけ。
悪いね、ぼくには一緒に生きたい人たちが沢山いるんだ。だから、君たちにはついて行けない。
さあ、今度こそゆっくり眠って。
きょろきょろと何かを探すように辺りを見回していた天使は、聞こえてきた歌声に、引き寄せられるように向かっていった。
そこにいたのは妖狐の少年。さらりとした金糸の髪も、艶やかな肌も、女の子にも見えそうな華奢な身体も、弱く守ってあげたくなる印象を与え。美しい緑色の瞳が、きょとんとしたように天使を捉える。
「子供はツれてイかないと」
だから天使は、少年を攫う。
小さな翼でふわりと近寄り、作られたように整った顔で優しく微笑み、細い見た目以上に力強い腕で少年を抱き寄せ、捕える。
少年は抵抗せず、むしろ自分から天使の胸に飛び込むように近寄っていって。
「可愛いね、おねーさん」
その耳元で囁いた。
見た目にそぐわぬ妖艶な響きに、天使が腕の中を見下ろせば。
にっこり微笑むその笑みも、酷く艶っぽく、無邪気ながらもどこか大人びたもので。
「こうなる前に会えたら良かったのに」
つうっ、と少年の繊手が天使の胸部を妖しく撫で。
嫋やかな掌から、破壊属性の指向性空間爆砕衝撃波が放たれた。
冥王砕禍に身体を大きく抉られ、そのまま崩れ落ちると共に消えて行く天使……オブリビオン『カラーレス・エンジェル』。
少年は……セシル・バーナード(サイレーン・f01207)は、それを見下ろしながら。
「きっと雲海に沈んでそこで時間が止まったんだろうね」
聞こえてきていた天使の言葉から、大まかな事情を推測する。
雲海に沈む島から、子供を助けようとしていた天使。間に合わず、島や子供と共に雲海に沈んでしまい、オブリビオンと化した存在なのだろうと。セシルは考え。
そっと引き寄せた繊手には、天使核が握られていた。
「悪いね、ぼくには一緒に生きたい人たちが沢山いるんだ。
だから、君たちにはついて行けない」
天使核に語りかけるように、セシルは微笑と共に告げ。
「さあ、今度こそゆっくり眠って」
どこか壊れかけているようにも見えるそれに、そっと口づけると。
セシルは次の天使をおびき寄せるべく、またアカペラの歌を紡ぎ出した。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふええ、子供たちが天使さんに攫われてしまいます。
ふえ?私は大丈夫なのかって、私はもう子供じゃないですよ。
そんな大きなぬいぐるみを持ってって、これは天使さんと戦う為の私のユーベルコードです。
ぬいぐるみの魔法で天使さん達を倒してしまいましょう。
それにしても天使さん達は何かと勘違いしているのでしょうか?
この島はまだ沈まないんですよね。
あれ?この島「は」・・・ですよね。
奪われかけた赤ん坊や、天使に連れて行かれる金髪の少年を、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は少し離れた場所からおろおろと見て。
「ふええ、子供たちが天使さんに攫われてしまいます」
どうしたらいいのでしょう、と戸惑う視線だけであっちをこっちを追いかける。
そんなフリルの手の中で、ガア、と鳴くのはアヒルちゃん型のガジェット。
「ふえ? 私は大丈夫なのか、って……
アヒルさん、私はもう子供じゃないですよ」
齢16のフリルが、大人と子供の狭間で反論するけれども。少し小柄な体格や、気弱でびくびくした小さめの声、トレードマークの大きな帽子は、やはりどこか子供じみた印象を与えてしまうので、ガジェットの心配もそう的外れではないだろう。
それに。再びガジェットが鳴く。
「こんな大きなぬいぐるみを持って、って言いますけど、これは天使さんと戦う為の私のユーベルコードです」
フリルの傍らには、フリルの倍の身長はありそうな、巨大なテディベアが立っていた。
ふわふわもこもこの茶色い生地は、思わず抱き着きたくなってしまう程で。どこかずんぐりむっくりした四肢や、まるっとした顔、小さな耳も愛らしい。そして、くりっとした飾りボタンの瞳は、真っ直ぐに純粋に子供を見つめてくれそうだったから。
隣にフリルが並ぶと、ああ子供だな、と思われてしまいがちです。
しかしフリルは、むんっと頑張って気弱な赤い瞳に力を込めて。
「ぬいぐるみの魔法で天使さん達を倒してしまいましょう」
ユーベルコード『大きくて可愛いぬいぐるみの魔法』で、召喚したぬいぐるみに自分の動きをトレースさせた。
無造作に天使に近付いて、そのふわもこの手を伸ばすと。むんずと天使の身体を掴み振り上げ、ぎゅうっと握りしめてから、地面に叩き付ける。
見た目は天使と戯れるぬいぐるみというファンシーな光景なのだけれど。大きさが大きさゆえに、なかなか凶悪な力が発揮されて。
天使も、羽根を刃に変えて、ぬいぐるみを切り刻もうとするけれども。そのダメージはフリルに肩代わりされてしまい。ぬいぐるみの力は変わらなかったから。
傷だらけのフリルは天使を握り、振り回し続け。子供が無邪気にオモチャを扱うかのように、壊していく。
「このシマ……ズむ……マエ……」
壊れて黒ずんでいく顔で、それでも天使は何かを望むように手を伸ばし。頑なに言葉を紡いでいくけれども。
「それにしても天使さん達は何かと勘違いしているのでしょうか?
この島はまだ沈まないんですよね」
フリルは不思議そうに首を傾げ。
ふと、それに気付いて、さらに疑問符を重ねた。
「あれ? この島『は』……ですよね」
ガジェットの鳴き声が、ガア、と響く。
成功
🔵🔵🔴
御園・桜花
「堕ちて狂って願いだけが残った存在…お可哀想に」
UC「桜の影」使用
敵に吶喊
敵の攻撃を第六感や見切りで躱しながら握り込んだ桜鋼扇で殴り飛ばす
カウンター出来そうな攻撃は盾受けからのシールドバッシュに繋げる
「救いたいと言う純粋な願いが、骸の海の虚無に飲まれて害となる。貴方達の願いは尊かったけれど、今その願いを叶えさせるわけにはいきません…嘗ての貴方達の、痛切なる願いを守るためにも」
敵が居なくなる、又は周囲の子供達の避難が終わるまでは最前線で乱打戦を続ける
戦いが終わったら、怪我人や子供達の所へ
医術で怪我の治療し恐怖を慰め優しく背中を撫でる
「何時か貴方達も、元の願いに戻れますよう…」
鎮魂歌は小さく歌う
「あたしたちがタスけるのは子供」
「子供はツれてイかないと」
島に降り立つなり探し始めた天使達は、程なく、島民達が逃げ行く姿を見つけた。
自警団なのだろう、中年の男性達を中心に、声を掛け合いある場所を指し示していく。
そこに見える姿は大人ばかりだったけれども。集う場所に子供もいるかもしれないと考えたのか、避難行動をする者達の元へ進み出そうとして。
そのうちの1体が、不意に横へ吹っ飛んだ。
何かに殴り飛ばされたような、唐突な、そして自ら行動したのではない動き。
しかし天使達の周囲には誰もいない。
誰もいないように感じられていた。
ユーベルコード『桜の影』で生み出した陰気を纏った御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、視聴嗅覚で感知されることを阻害していたから。ピンク色の長いウェーブヘアも、頭部に咲いた桜の花も、エプロンを重ねた大正ロマンな桜織衣も、桜の花弁の刻印がされた鉄扇も、気付かれぬまま。
無防備な天使達に、静かに桜鋼扇が振るわれる。
「堕ちて狂って願いだけが残った存在……お可哀想に」
逃げ行く人々を庇うように立ちながら、桜花は緑色の瞳を悲し気に伏せた。
天使が……オブリビオン『カラーレス・エンジェル』が語る断片的な情報から、彼女達の状況を察して。
「救いたいと言う純粋な願いが、骸の海の虚無に飲まれて害となる。
貴方達の願いは尊かったけれど、今その願いを叶えさせるわけにはいきません……
嘗ての貴方達の、痛切なる願いを守るためにも」
だからこそ止めるのだと、決意を込めて緑瞳を開くと。
桜花は、桜鋼扇を握る手に、ぐっと力を込めた。
天使達はその腰から生えた羽根を拳や刃物に変え、さらに分裂させて数を増やし、桜花を捉えようと四方へ繰り出すけれども。見えない桜花にそうそう当たるわけもなく。狙いが定まらない攻撃は躱すのも容易いから。
桜花は、天使の動きを静かに見切り、シールドバッシュも織り交ぜて桜鋼扇を振るう。
島民の避難が終わるまでは。子供達が本当に安全な場所に行けるまでは。
ここで天使を食い止めようと、最前線で乱打戦を続けていく。
同時に、桜花は。
小さく鎮魂歌を歌いながら、祈りを乗せて桜鋼扇を振るう。
「何時か貴方達も、元の願いに戻れますよう……」
また天使が1体、頽れて、消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
青和・イチ
子供を誘拐って…
多分、どの世界でも悪い事
天使を名乗る奴が、良い奴ばかりじゃない事…
割と知ってる
襲われてる人の元へ急行
敵を、望遠鏡…もどきの大砲で『砲撃』し
島の人を『庇い』つつ救助
くろ丸は僕より速いから
気を付けながら、遠くの人も助けておいで
……?沈む…?
天使の言葉が気に掛かる
「どういう事?どこに連れて行くの?」と聞いてみる
マトモな答えが返ってくるかは、分からないけど
機を見て【霆星】の雷で、纏めて攻撃と麻痺を
仲間や島の人はちゃんと避けるから、その隙に逃げて
取り零した敵には砲撃を
敵の攻撃は『第六感』で『見切り』
『オーラ防御・盾受け』で軽減
どんな理由でも、今の君達はただの襲撃者
とにかくその手は、止める
とんっ、と降り立ち、踏みしめた地面は、空に浮いていた。
雲海に無数の浮遊大陸が浮かぶ世界『ブルーアルカディア』。
その象徴のような青い空を、眼鏡越しに見上げて。さらりとした黒髪を風に揺られて。
青和・イチ(藍色夜灯・f05526)は無表情のまま呟いた。
「子供を誘拐って……多分、どの世界でも悪い事」
ここと同じ景色を映し出していたグリモアベースで聞いた説明を思い出して。
青空の向こうに、この世界と繋げたグリモア猟兵を見るかのようにして。
ほんの少し、ごくごく僅かに顔を曇らせると。
「天使を名乗る奴が、良い奴ばかりじゃない事……割と知ってる」
イチは視線を足元へと落とした。
いつも一緒の相棒犬『くろ丸』が、般若のようないつもの顔で、イチの様子を伺うように見上げてくる。
その頭をそっと撫でて、いつもの無表情を取り戻したイチは。
でもすぐに、ぴくりと何かに反応したくろ丸に気付く。
「くろ丸、行って」
即座に告げた指示に、くろ丸は走り出した。
イチより速いその後ろ姿を追いかけていけば。
行く先に見えたのは、1人の少女と1体の天使。
「ここにもいた。子供」
武器は持っていないようだけど、天使は少女を捕えようと両手を伸ばしていて。ペンダントを揺らした少女は、怯えたような青い顔で震えていて。
そこにくろ丸が飛び込んでいく。
天使に飛び掛かり、怯ませて。開いた空間に立ちはだかり、少女を守るように仁王立ちすると、元々般若のような顔をさらに怖くして天使を睨み付け、唸る。
だからイチは、天体望遠鏡を構えた。いや、望遠鏡だと思って買ったそれは、蒸気機関の大砲『Night cloudless』だった。望遠鏡な見た目に反した仕掛けで弾を飛ばす。
その一撃で天使を牽制すると。ようやく、イチもくろ丸の傍へ辿り着き。
怯える少女を、見た。
まだ10には幾つか足りない年頃だろう。年相応の小柄で繊細な身体。腰に届くほど長い、真っ直ぐな焦げ茶の髪。5枚弁の白い花を幾つか纏めて、左側の頭部を飾り。この子の方が天使じゃないかと思うような白くふわふわのワンピースを着て。小さく古い金のコインに紐を通しただけのようなペンダントを胸元で揺らしながら。茶色の瞳で驚いたようにイチを見つめる。
その身体に傷1つないことに、ほっとして。
戸惑った、驚きの表情に、ちょっと悲しくなって。
イチは、相棒と共に少女を庇いながら、天使と対峙する。
「ハヤくしないとシマがシズんでしまう」
「イソいで子供をノアにノせて」
「ハヤくハヤく。子供をタスけないと」
砲撃に一度倒れた1体が起き上がりながら、そこに他の天使達もやってきて。
口にするのは不思議な言葉。
「シズむ……沈む……?」
首を傾げたイチは、もう一度、視線を足元に落とす。
この世界の大陸には寿命があり、それが尽きたら雲海に沈んで消滅すると聞いている。
けれど、踏みしめた地面は盤石で。不安など何も感じなかったから。
「どういう事? どこに連れて行くの?」
顔を上げたイチは、天使達……オブリビオン『カラーレス・エンジェル』に問うた。
「シマがシズんでしまうから」
「子供はノアにノせてタスけるの」
「それがあたしたちのヤクメ」
「ぺんだんとをモつ子供はトクにタイセツだから」
「ノアがマっているから」
「子供はみんなタスけるの」
しかし返ってきたのは、先ほどまでと同じようなことばかりで。イチの理解を進めるようなものはなかったし。
何より、後ろに庇った少女は、天使に怯え、拒絶していたから。
「どんな理由でも、今の君達はただの襲撃者」
今はそれこそが大事なことだと判断して。
「とにかくその手は、止める」
イチは、今度は空を見上げる。
「……おいで」
願いを込めて呟けば、天から来るは大量の雷。
眩く輝く『霆星』はイチや相棒や少女を避け、天使だけに降り注ぐ。
「タスける」
「だからタタカう」
雷を受けたところから黒ずんでいきながら、天使達は耐える。いや、黒くなっているのは雷のせいではない。白い服の下に、肌色の外皮に覆われていた、本来の戦闘体たる姿が現れているのだ。
白い羽根すらも黒くなり。青いガラスでカバーされていた赤いセンサーアイが剥き出しになって。胸元に無造作に詰め込んだような天使核を見せながら。
「タタカわないと」
「それがあたしたちのヤクメ」
歪な人造天使は、黒化し、崩壊していく身体でイチへ向かってくる。
魔力の翅を放って雷の幾つかを相殺しながら。
幾つもの霆星に撃ち抜かれ、また黒く崩れていきながら。
それでも、イチへ……いや、イチが庇った少女へと、手を伸ばす。
きっと、天使は、かつて沈んでしまった大陸にいたのだろう。そこから子供達を助ける役目を与えられていたのだろう。そして、オブリビオンとなった今も、歪んだ形であれ、その役目を果たそうとしているのだろう。
雲海に沈んで尚、願い続ける、子供の無事。
必死の思いはイチにも分かる。
けれどもそれはオブリビオンとして現れた時に歪んでしまったから。
必死に願ったことだからこそ、止めなければならないから。
伸ばされた黒い手に、くろ丸が拒絶するように吠え。
イチはさらに雷を降らせる。
そして、光の中に黒い天使は消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『箱舟』ノア・アルクリアス』
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POW : 古の船
全長=年齢mの【決して沈まない箱船】に変身し、レベル×100km/hの飛翔、年齢×1人の運搬、【雲海から乗船させたオブリビオンの集団】による攻撃を可能にする。
SPD : 沈まない船
非戦闘行為に没頭している間、自身の【周辺】が【激しい嵐に覆われ】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ : 雲海に浮かぶ船
敵より【低い位置にいる】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
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急に現れた沢山の天使がいなくなって、私はほっと息をつく。
気付いたら、胸元に揺れる古い金のコインのペンダントを握りしめていた。
ひいおばあちゃんが、お守りだよ、ってくれたペンダント。
これが守ってくれたのかな?
ううん、違う。私を守ってくれたのは。
私は、ちょっと怖い顔の犬を連れたお兄さんを見上げる。
他にも、天使と戦っていた人達がいた。
マイヤーさんやビアフランカさん達を助けてくれた人達がいた。
この人達が、守ってくれた。
ありがとう、とお礼を言おうと思ったら。
「探して。早く探して。
非力な子供。戦えない子供。
私に乗せて、早く島を出なければ」
不思議な青い服を着た、青い髪の女の人がやってきた。
「この国が雲海に沈む前に。
せめて子供だけでも逃がさなければ」
オレンジ色の石を抱いた杖を持って。
ふらり、とこっちへ歩きてきて。
青い瞳が、私を見て、嬉しそうに見開かれる。
「ああ、そこにいたのね。
守るべき子供。逃がすべき子供。
ペンダントを与えられた子供」
何? 何のこと?
混乱する私に、女の人は手を伸ばす。
さっきの天使と同じように。
私を連れて行こうと、手を伸ばす。
「私に乗せて。箱舟である私に。
命じられた通りに、墜ち逝く島から助けてあげるから」
何を言ってるのか分からない。
天使に感じたのと同じ恐怖が生まれてくる中で。
ああ、この女の人はガレオノイドなんだ、と。
私はどこか呆然と、そんなことを考えていた。
セシル・バーナード
やあ、初めまして、お姉さん。ぼくはセシル・バーナード。お姉さんの名前を教えてくれるかな?
へえ、いい響きの名前じゃない。気に入ったな。
君はもう十分頑張ったんだ。そろそろ休んでもいいんじゃないかな? ぼくがたっぷり、愛してあげるよ。
(「誘惑」「催眠術」「礼儀作法」「パフォーマンス」で玲瓏の声色)
君はこれまでどういう風に進んできたのかな? 助けた子供はどうなった?
ぼくなら、君さえいたら十分だけどね。
さあ、もう休んじゃおう?
本気で投降してくれたら連れ帰りたいけど、そうはならないよね。
至近から「貫通攻撃」の貫手で「暗殺」を試みる。
ぼくの時間稼ぎはこれで終わり、後は皆に任せたからね。それじゃよろしく。
少女へ伸ばされた手を遮るように素早く割り込んだセシル・バーナード(f01207)は、にっこりと笑みを浮かべた。
「やあ、初めまして、お姉さん。ぼくはセシル・バーナード。
お姉さんの名前を教えてくれるかな?」
子供らしく無邪気な、しかし、子供らしからぬ艶やかさを持った声は『玲瓏の声色』。耳障りのいい、心地よい響きを帯びた声音に、さらに催眠術や、妖艶な誘惑の色も乗せられていたから。
セシルの問いかけに、無意識に友好的な思いを抱かされたオブリビオンは。
「……沈まぬ箱舟『ノア・アルクリアス』」
戸惑いながらも正直に答えていた。
「へえ、いい響きの名前じゃない。ノア。気に入ったな」
その反応に満足そうに微笑んだセシルは、流れるような自然な動きで、するりとノアとの距離を縮めていき。
「君はもう十分頑張ったんだ。そろそろ休んでもいいんじゃないかな?」
甘く優しく囁きながら、ノアの手に自身のそれを重ねる。
強張った手を解きほぐすように。
抱える思いを労わるように。
ノアの手の甲をゆっくりと撫でながら。
「ぼくがたっぷり、愛してあげるよ」
セシルは愛を奏でていく。
どこか呆然と、その響きに身を委ねていたノアだけれど。
「君はこれまでどういう風に進んできたのかな? 助けた子供はどうなった?」
柔らかな声に、びくっと手が震え。
「ぼくなら、君さえいたら十分だけどね」
甘美な音色に、杖を握る力が籠る。
「さあ、もう休んじゃおう?」
そして、魅力的な誘いから、ノアは必死に逃げるように、セシルの手を振り払った。
それはまるで、甘えてはいけないと自身に科しているかのようで。
誘惑に惹かれた自分を罰するかのようで。
「駄目。私は子供を逃がさなければ。
命じられたのだから。助けなければ」
空と同じ青色の髪を乱すように、強く左右に首を振ると。
向けられた優しさを、それに身を委ねてしまいたいと思った心を、手と共に振り払う。
その悲痛な拒絶に、セシルはひょいと肩を竦めて見せた。
「ああ、残念。連れて帰りたいと思ったのに」
軽く告げた言葉と共に、放たれるのは至近距離からの鋭い貫手。
不意打ちの攻撃に、だがノアは辛うじて反応し。咄嗟の回避で、不思議な意匠の青い服を切り裂くだけに止める。
そして、ノアの青い瞳にまた歪んだ決意が戻っているのを見ると。
「さあ、ぼくの時間稼ぎはこれで終わり」
セシルは、とんっと地を蹴り、間を開けながら、笑う。
一連のやり取りの間に、他の猟兵達がノアの元へ集まってきたのを確かめて。
その繊手をひらりと、美しく振り。
「それじゃよろしく」
後を託すと、にっこり笑った。
成功
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凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と参加
次の相手も油断はしない
何があっても、この子達は渡さない
「何を考えてなのかは分からないが…この島は落ちない。
お前のやろうとしていることは無意味だ!」
子供達は何があっても護り抜く
ペンダントの子供を狙う事に気づけたなら優先して護る
此方に構わず子供達を狙うようであれば射撃で此方へ注意を引き
戦闘行為へ意識を強引に向けさせる
「お前の敵はこっちだ!」
戦闘は【戦文字「縛」】を使用して敵の動きを阻害
その上で接近して攻撃を行い続ける
時人が視野を奪うようにする時のみ離れ、死角に回り込んで攻撃
相棒の位置とタイミングに気を付けながら立ち回る
「大丈夫だ!任せておけ!」
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と共に
保護欲は悪い事じゃない
戦えない幼い子は真っ先に護られるべきだ
けど…お前らのは根本的に間違ってる!
「この島はまだ落ちない!先に壊れ堕ちたのはお前だ!!」
可能な限り狙われる子から注意を逸らす大声を
また白羽蟲笛からククルカンを舞わせ
攻撃と乱舞する白燐蟲で視野を奪う
必要であれば技能の空中機動やかばうも駆使
攻撃されても継戦能力や激痛耐性で持ちこたえつつ
「陸井!」
相棒と呼吸やタイミングを合わせてUC光蟲の槍詠唱
出来るだけ集中し最大限精度を高め満を持して射出
「二度と誘拐なんかさせない!散れ!」
全力で投擲し着弾時の風圧を利用して更に蟲で追撃
全てが終わるまで決して武器は下ろさない
「お前の敵はこっちだ!」
後ろに下がった妖狐のさらりと揺れる金髪と入れ替わるように、凶月・陸井(f35296)の纏めた黒髪が、箱舟『ノア・アルクリアス』の前へと飛び込んでくる。
背に負う『護』の文字に違わず、島民を、子供達を護り抜くために。
ノアの意識がまたペンダントを持つ子供へ向かないようにしようと、短刀銃『護身』による射撃で戦闘行為へと強引に意識を向けさせた。
その鋭い漆黒の瞳を、素早い動きに揺れる漆黒の髪を、純白が飾る。
葛城・時人(f35294)の『白羽蟲笛』の音より舞い上がった白燐蟲『ククルカン』たちが、陸井に加勢するように乱舞を魅せ。その無数とも思える軍勢で、ノアから子供を隠すように視界を奪っていった。
(「保護欲は悪い事じゃない」)
純白の羽毛と翼を持つ蛇の形をした蟲が群がるその先を見据えて、時人が思うのは、ノアが、先ほどの天使たちが戦いながら口にしていた言葉について。
(「戦えない幼い子は真っ先に護られるべきだ」)
子供を逃がす。
子供をタスける。
その考えは間違っていないと思う。
(「けど……」)
「お前らのは根本的に間違ってる!」
青い瞳にやるせない思いを灯して、時人は叫ぶ。
ノアの注意を自身へ引き付け、子供を護るために。
そして、歪んでしまった尊い思いを嘆くように。
「この島はまだ落ちない! 先に壊れ堕ちたのはお前だ!」
時人は、叫ぶ。
「陸井!」
「大丈夫だ! 任せておけ!」
応えるように、純白の中を『護』の字が駆けた。
真正面からノアに挑んでいた陸井は、だが時人のククルカンがノアの視界を奪うように動いたところでその動きを変え、死角へと回り込んでいたから。
ギリギリで気付いたノアが振り返る、その視界の端から陸井は飛び込んでいて。
放つは、戦文字『縛』。
命中した敵から動く意志を奪うユーベルコードで、ノアの動作を阻害しながら、先ほど以上の接近戦を挑む。
護りを主体とする丈夫で武骨な短刀銃は、だからといって攻撃に向かないわけではないから。その刃で、銃弾で、油断なくノアをたたみかけていく。
(「何があっても、この子達は渡さない」)
ちらりと、顔の怖い犬に守られたペンダントを持つ子供に一瞬だけ視線を向けて、避難していったであろう他の子供達を思って、陸井は『護身』を握る手に力を込め。
「何を考えてなのかは分からないが……この島は落ちない。
お前のやろうとしていることは無意味だ!」
ノアを止めようと叫ぶ。
「時人!」
そして、今だと相棒の名を叫び、同時に横に身を躱すと。
「二度と誘拐なんかさせない! 散れ!」
ククルカンの撹乱で、そして陸井の攻撃で、稼がれた時間で出来るかぎり集中を高め、最大限にまで精度を上げた『光蟲の槍』が放たれた。
満を持して射出された槍は、陸井の機転もあり、見事にノアの左肩を貫いて。
続けて生まれた光柱が、青い姿を包み込む。
これ以上ない命中を見つつも、だが時人は油断なくククルカンを操り。陸井も更なる追撃をと再びノアに迫ろうとするけれども。
光柱の中から現れたのは、舳先にオレンジ色の石を抱く、青く巨大な箱舟。
思わぬノアの姿に、陸井は咄嗟に足を止め。時人は、困ったように戻ってくるククルカンたちと共に、その船底を見上げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木霊・ウタ
心情
子供たちを守り抜く
そしてオブリビオンを海へ還すぜ
戦闘
子供らを庇い
攻撃することで逃げる時間を稼ぐ
嫌がってんのわかるだろ?
過去の化身には言うだけ無駄だろうけど、なっ!
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う
紅蓮の炎が纏わりつくぜ
箱舟に戻っても
やることは同じだ
爆炎噴射で箱舟にとりついて
配下オブリビオンごと船を砕き燃やす
延焼を徐々に広げていく
刀身を甲板に突き刺して船内へ炎の渦を放つ
元々誰かから使命を与えられていたのか
オブリビオンになってトチ狂っちまったのか
判らなけど
守りたいって気持ちは本物なんだろうな
可哀そうに
俺達に任せてくれて大丈夫だ
海へ還れ
事後
天使と箱舟の天使核へ鎮魂曲を捧げる
安らかに
光柱を打ち砕くようにして現れた巨大な箱舟。沈まぬ箱舟『ノア・アルクリアス』の、ガレオノイドのオブリビオンが変身した姿に皆が息を呑む中で。
「箱舟に戻っても、やることは同じだ」
木霊・ウタ(f03893)はブレイズキャリバーたる地獄の炎を噴射すると、箱舟へとりつくようにして乗り込んでいった。
子供達を守り抜くために。
安全な場所へ逃げる時間を稼ぎ、その安全な場所を侵させないために。
ウタは、刃に焔摩天の梵字が刻まれた巨大剣を携え、紅蓮の炎を纏って走る。
箱舟の甲板には、見覚えのある天使の姿があった。
「子供はツれてイかないと」
「ノアにノせてあげないと」
先ほど聞いた言葉を繰り返しながら、邪魔をするウタを排除しようと動き出す。
白い翼も、白い服も、白い肌も、どんどん黒ずんでいき。その思いと共に歪んでいくような姿に、ウタはまた『焔摩天』を振るうと。
「嫌がってんのわかるだろ?
過去の化身には言うだけ無駄だろうけど、なっ!」
何度でも燃やし尽くしてやると言わんばかりに、薙ぎ払った刃から、紅蓮が天使に纏わりついていった。
「子供はツれてイかないと」
「このシマがシズむマエに」
「コルディリネが雲海に沈む前に。
せめて子供だけでも逃がさなければ」
炎の中からも、箱舟そのものからも、声は響く。
この島に来てから一貫して変わらぬ思いが伝わってくる。
(「守りたいって気持ちは本物なんだろうな」)
サンキュ、とまたウタは小さく呟いて。
その姿を哀れに思いながらも、迷いなく大剣を振るい続ける。
元々、誰かから使命を与えられていたのか。
オブリビオンになってトチ狂うってしまったのか。
ウタには判らないけれども。
思いを遂げさせてはやれないと、寂し気に微笑んで。
天使を斬り伏せたその刀身を、そのまま甲板に突き刺した。
ウタの心に従い、噴き出し燃え盛るブレイズフレイム。
「俺達に任せてくれて大丈夫だ」
船の中にまで炎の渦を生み出して。その炎で歪んだ過去を浄化するかのように、可哀そうな天使たちと箱舟とを包み込みながら。
「海へ還れ」
ウタはそっと囁くように、告げた。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふええ、だ、ダメですよ。
子供を船に乗せちゃダメなんです。
私、ノアさんが気付いていないことが分かっちゃったんです。
ふえ?勢いが止まりません。
ふええ、恋?物語で私が乗船してしまいました。
ノアさんはずっと昔の船なんですよ。
だから、子供達を乗せる必要はない
というより、乗せちゃダメなんです。
だって、ノアさんにはもう、たくさんの危険なオブリビオンさん達が乗船しているから。
逆に危険な目に遭わせてしまいます。
ノアさんにとっては衝撃的な事実でしたね。
あれ?もしかして、これって・・・。
衝撃的な事実から始まる恋?物語(フリル・ミーツ・オブリビオンズ)では。
ふええ、オブリビオンさんの集団の中に飛び込んでしまいました。
巨大な箱舟となった『ノア・アルクリアス』に乗り込んでいった猟兵は、巨大剣を携え炎を纏った少年の他に、もう1人、いた。
「ふええ、だ、ダメですよ。子供を船に乗せちゃダメなんです」
必死に訴えながら、ノアへと駆け寄ってきていたフリル・インレアン(f19557)も、人型から箱舟へと姿が変わったことに怯むことなく、その勢いのまま突っ込んで。
「ふええええ、止まれませーん」
というか、全力疾走していたら、いつの間にかユーベルコード『衝撃?的な出会いから始まる恋?物語(ガール・ミーツ・オブリビオン)』が発動してしまって、突進を止めることができなくて。
そのまま箱舟に乗り込んでしまう。
「ノアさんはずっと昔の船なんですよ。
だから、子供達を乗せる必要はない……というより、乗せちゃダメなんです」
それでもまだ足を止められぬまま、甲板を走りながら、フリルは訴え続けた。
「だって、ノアさんにはもう、たくさんの危険なオブリビオンさん達が乗船しているじゃないですか。そんなところに子供達を乗せたら、逆に危険な目に遭わせてしまいます」
壊れたかのように黒ずんでいく天使達の姿を見ながら。
ユーベルコードの突進で、天使達にぶつかってダメージを与えながら。
ノアが気付いていないことを伝えるように。
気弱なフリルは必死に声を上げて。
「ノアさんにとっては衝撃的な事実でしたね……」
俯き気味に、ぽつり、と呟いたそこに。
アヒルちゃん型のガジェットが、ガア、と鳴いた。
「あれ?」
その声にようやくフリルは気付く。
敵の集団の真っ只中に、自ら飛び込んでいたことに。
自分が天使達に囲まれていて、そして、そもそもこの箱舟すらも敵だという、衝撃的な事実を、やっと目の当たりにして。
「もしかして、これって……
衝撃的な事実から始まる恋?物語(フリル・ミーツ・オブリビオンズ)では……?」
さあっと顔を青ざめさせるフリルだけれども。
ユーベルコードの突進は続いていたから。
「ふええええ」
天使達を弾き飛ばして倒しながら、フリルは泣きながら甲板を走り続けた。
大成功
🔵🔵🔵
青和・イチ
青髪の女性…このひとから、悪意を感じない
寧ろ、純粋なものを
だからこそ…歪んだそれは凶暴だ
くろ丸は、女の子の傍で護衛してあげて
自分も、青髪の女性と少女の間に立つ
少女を助けようとする嬉しそうな顔に
かつて純粋であったろうその心に
残酷な事を言わなければならないのが、少し辛い
…でも
…この島は、違うよ
君の、君達の役目は…もう終わってる
もういいんだ
聞き入れて帰ってくれたら、一番良いんだけど
戦闘には【煌星】で、こぐま座を喚び、絶え間なく光弾をぶつけていく
余所事に没頭出来ない様、攻撃の手は緩めない
船の形態なら『空中浮遊・対空戦闘』で対応
…僕の生まれた所で、船の道標になる星だよ
君達がもう、迷わないように
在るべき所へ行けますように
せめて子供だけでも。
きっと誰かの、切なる願いだったんだろう
…ねえ、古いペンダントを持つ君に、お願いがあるんだ
ガレオンのお姉さんと、天使達…
恐かったかも知れないけど…一生懸命、助けようとしてた
だから…言ってくれるかな
「ありがとう」って
現れた青髪の女の人を、青和・イチ(f05526)は不思議そうに見た。
相棒犬『くろ丸』と共に庇った少女に……いや、正確には、イチが立ちはだかるその後ろでくろ丸が護衛のように寄り添った少女に手を伸ばし、嬉しそうに微笑む女の人。
その行動は、やろうとしていることは、子供の誘拐だけれども。
「……このひとから、悪意を感じない」
むしろ、感じるのは純粋な想い。子供を守ろうと、子供のためにと、ただそれだけで動いているかのような、見返りを求めぬ無償の愛情。
それは、先ほど倒した天使達もどこか同じ。天使の感情はどこか機械的だったゆえに、愛情というより、命令を遂行しているという感じが強かったが。
目の前の女の人は……オブリビオン『ノア・アルクリアス』は、天使よりも温かな、人らしく柔らかな感情を見せていた。
少女を見て、嬉しそうな顔を見せて。
伸ばされた手も、慈しむように優しくて。
それを遮るイチ自身が間違っているのではないかと、一瞬、思ってしまう程。
でも。
「だからこそ……歪んだそれは凶暴だ」
庇う少女が、胸元のペンダントを縋るように握りしめ、困惑と恐怖の表情で身を竦めているから。それをくろ丸が守り、道を開けないでいるから。
イチはその愛情に歪みを感じる。
オブリビオンとして蘇ったことで歪んでしまった想いに、少し寂し気に目を伏せる。
その間に、金髪の妖狐がノアに近付き、離れ。
入れ替わるように駆けつけてきた黒髪の2人の男が、片方の背に負う『護』の字を体現するかのように、白き蟲舞う中でノアに挑んでいく。
「この島はまだ落ちない! 先に壊れ堕ちたのはお前だ!」
「お前のやろうとしていることは無意味だ!」
戦いながら向けられる声は、事実だけれども。
ノアの純粋な心には。かつて純粋だった心には。
残酷な、こと。
だからイチは、ぎゅっと手を握りしめて、戦いを見守り。
そして、眩い光の柱が立ち上った中に、ノアの青い姿が飲まれたと思ったその時。
青く巨大な箱舟が、浮かび上がった。
それでも怯まず、炎の剣を掲げた少年が、大きな帽子を被ったアリスが、舟と化したノアへと乗り込み、戦いを続けて行く。
「子供はツれてイかないと」
「このシマがシズむマエに」
「コルディリネが雲海に沈む前に。
せめて子供だけでも逃がさなければ」
倒したはずの天使の声が、そしてノアの純粋な声が。
舟を見上げるイチの元にまで、伝わってきて。
「ノアさんはずっと昔の船なんですよ。
だから、子供達を乗せる必要はない……というより、乗せちゃダメなんです」
舟の上で戦っているであろうアリスの、必死な訴えが聞こえてきたから。
イチは、辛さだけでなく決意を握りしめて。
くろ丸の一吠えが、背中を押してくれるのを感じながら。
「……この島は、違うよ」
優しく伝えられるように、ノアに話しかける。
その純粋な思いは間違っていなかった。
――せめて子供だけでも。
きっと誰かの、切なる願いだったんだろう。
それを叶えたいと思うのは、間違っていない。
ただ、歪められて『今』が見えていないだけ、だから。
「君の、君達の役目は……もう終わってる。
もういいんだ」
イチは星座図鑑『tranquillo』を開く。祖父から貰った古い本に、ふと、後ろの少女が胸に抱く古いコインのペンダントを重ね思って。
「力を、貸して」
開いたページに書かれていたのはこぐま座。柄杓の形を描く7つ星。
それをユーベルコード『煌星』で、静かな藍空と共に煌めかせると。
「俺達に任せてくれて大丈夫だ」
聞こえた少年の声と共に燃え上がった箱舟へ、多数の光弾を降らせた。
流星群と呼ぶにも眩い攻撃は、絶え間なく箱舟に落ちて。
炎に、光弾に、崩れかけた箱舟は、人の形へと戻っていく。
傷だらけで、青い服もボロボロで、痛々しいその姿に、やっぱり胸は痛む。
それでもイチにその場を退くことは、背後の少女を差し出すことはできなかったから。
開いたままの星座図鑑を片手に、もう片方の手を空へ向けた。
「……僕の生まれた所で、船の道標になる星だよ」
こぐま座は北天に常に在る。北半球で1年中見ることができる星座。
そして2つある2等星のうち1つはポラリスと呼ばれ、最も天の北極に近い北極星ととして方角を示す、暗い闇夜に人々を導く星だから。
「君達がもう、迷わないように。
在るべき所へ行けますように」
歪む前の元の想いに気付けるように。
そして、間違ってしまった『今』を受け止められるように。
イチは願い、導の星を輝かせる。
乱れた青い髪の間からこちらを見つめる青い瞳が、戸惑いに揺れるのを見て。
青い姿の向こうに、箱舟に乗り込んでいた大剣を持つ少年が危なげなく、大きな帽子を被ったアリスがころんと転がるように、無事に地面に降り立ったのも見て。
(「帰ってくれたら、一番良いんだけど」)
これで終わりにしたいと思う。けれども。
「私に乗せて。ペンダントを与えられた子供を。箱舟である私に。
墜ち逝くコルディリネから助けてあげるから」
ノアはまだ歪んだ願いを口にして、その手を少女へ伸ばすから。
イチの後ろから、ピンク色の髪と桜を揺らして、桜の精が飛び出した。
桜の花びらが刻まれた鋼の扇でノアの攻撃を受け躱しながら、桜の精は諦めずに説得の言葉を紡いでいく。
ノアをただ倒すのではなく、その心を癒すかのように。
イチが、できるならばそうしたいと願ったのと同じように。
戦っていく桜の精の艶やかな姿を見て。
「……ねえ」
振り向いたイチは、くろ丸の傍に立つ少女に話しかけた。
「古いペンダントを持つ君に、お願いがあるんだ」
視線を合わせるようにしゃがみ込んで。
無防備な背中を守るために、くろ丸が位置を変えてくれたのを視界の端に見ながら。
イチは、少女に語りかける。
「ガレオンのお姉さんと、天使達……
恐かったかも知れないけど……一生懸命、助けようとしてた」
少女にとっては一方的で身勝手で、受け入れられないものだと思うけれども。
ノアにとって少女こそが『子供』だから。
救えるのはきっと彼女だけだと考えて。
「だから……言ってくれるかな」
イチは望む。イチは願う。
ただ一言だけでいいからと。
「助けてあげてくれないかな」
藍色の瞳で真っ直ぐに少女を見つめ、頼む。
少女はそんなイチを驚いたように見て。
戸惑いながらも、その視線を戦いの場に向けて。
ペンダントを握りしめたまま、茶色の瞳にじっとノアを映していた。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「貴女が天使の言っていたノアさんですか」
首飾りの少女とノアの間に割込む
少女庇ったままUC
「お嬢さん、この島の名は?」
「ノアさん、貴女の住んでいた島の名は?」
「ここは貴女達が救った子供達の子孫の島。そしてこの島にはまだ落ちる兆候がありません。落ちたのは、前貴女が住んでいた島と、貴女達。貴女達が、最期まで救助に全てを賭けていたから」
「貴女は堕ちて、屍人になった。貴女達に連れていかせたら、貴女達が命懸けで助けた子供達が、その子孫が屍人になってしまう」
「骸の海から世界が生まれ、その世界の中に生命が生まれた。骸の海に還る事は、全ての終わりではない筈です。願いは全ての命と奇跡の源。貴女が貴女のまま屍人を増やさず世界の趨勢を見守り続けられるなら、どうぞこのままお帰りを。そうでないなら…強い願いを胸に、骸の海へお還りを。何時か貴女が、願いを胸に勇士として此処に転生するために」
戦闘時
制圧射撃からの属性攻撃
敵の攻撃は第六感で躱したり盾受け
少女を庇う優先
戦闘後
鎮魂歌捧げ少女にノア達を憎まないようお願いする
「貴女が天使の言っていたノアさんですか」
青い服を着た青髪の女性が箱舟の姿に変わるのを見て、御園・桜花(f23155)は納得したように頷いた。
『子供はノアにノせてあげないと』
それは、桜花が戦い倒した、どこか機械的な天使達の数体が口にしていた名前。
なるほど。ガレオノイドのことであったなら、天使の言い方はそうなるのだろう。
猟兵達の中でもより多くの天使を相手取り、最後まで天使と戦っていた桜花は、すでに始まっていた戦いの状況を読み。箱舟となった『ノア・アルクリアス』に、大きな帽子を被ったアリスが突進し、黒髪の快活な少年が炎の剣を携え、乗り込んでいくのを見送る。
そして何より、犬を連れた少年に庇われて、島民だろう少女が怪我1つなく無事にいるのを見て、ほっと安堵の息を吐き。早く安全な場所へ避難させなければと、そちらへ駆け寄っていった。
しかしその途中で。箱舟から、幾度も聞いた声が降ってくる。
「子供はツれてイかないと」
「このシマがシズむマエに」
「コルディリネが雲海に沈む前に。
せめて子供だけでも逃がさなければ」
どこか無機質で機械的で、歪んで尚真っ直ぐな天使達の声。
そして、それよりも必死で純粋な、ノアの優しく哀しい声。
少女の元へ辿り着いた桜花は、それらの声を、箱舟を見上げて。
少女を護衛するように寄り添う犬が、どこか背中を押すように吠えるのを聞いて。
心を、決める。
「お嬢さん、そのペンダントは譲り受けたものですね?」
逃げて、と言うはずだった口は、少女にそう問いかけていた。
突然の質問に狼狽えた少女は、だがすぐにこくこくと頷いてくれて。
「ひいおばあちゃん、が……お守りだから、って……」
「曾祖母様は、今?」
「あ……3年前、に……」
答える最中、ふっと俯いた少女の視線に、桜花は察する。
このペンダントとノアに纏わる真実を。
ノアに伝えるべき『今』を。
だから桜花は、もう1つ、と話題を変え。
「お嬢さん、貴女が暮らすこの島の名は?」
「り、リモナイア……」
返ってきた名称に、ふっと緑色の瞳を緩めて微笑んだ。
ありがとうの言葉と共に、大丈夫と伝えるように。
桜花は、戸惑い怯える少女に笑いかけて。
その間に箱舟から女性の姿へ戻ったノアへ、向き直る。
「私に乗せて。ペンダントを与えられた子供を。箱舟である私に。
墜ち逝くコルディリネから助けてあげるから」
青い姿は猟兵達の攻撃でボロボロだった。装飾が欠け、千切れ。服は何ヶ所も破れ、焦げ、そして酷く汚れ。そこから覗く肌にも幾筋もの傷が見え、ところどころ紫色に染まっている。長く青い髪もぼさぼさに乱れ、汚れた顔を覆っていた。
それでも、ノアの青い瞳に宿る想いは変わらず。その繊手を少女に伸ばすから。
桜花は、少女へ庇うように背を向けると。
ユーベルコードを発動させながら、ノアの元へと飛び込んだ。
迎撃のためか、邪魔者を排除しようというのか、ノアは、オレンジ色の珠を抱く杖を振るって攻撃してくる。儀式用に見えたその杖は、意外にも、戦闘に耐えうる程に頑丈で。そしてよく見ると、装飾と反対側の端が鋭い切先となっていたから。
桜花は、鋼を連ねた鉄扇を振るい、攻撃をいなしながら、声をかける。
「ノアさん。貴女の住んでいた島の名は、コルディリネと言うのですよね?」
それはノア自身が口にした名前。愛しさと慈しみの響きを伴い聞こえた単語。
馴染みあるであろうそれで興味を惹くように、そして、ノアの言葉をちゃんと聞いていると、想いが届いているのだと伝えるように、桜花はその名を口にして。
「ここはリモナイア。貴女達が救った子供達の子孫が暮らす島。
そしてこの島にはまだ落ちる兆候がありません」
桜の花の刻印が美しい『桜鋼扇』と共に、事実を叩き込む。
ノアは役目を果たせたのだと。
託された役目はもう終わっているのだと。
「落ちたのは、前貴女が住んでいたコルディリネと、貴女達。
貴女達が、最期まで救助に全てを賭けていたから……貴女は堕ちて、屍人になった」
今のノアの『役目』は歪んでしまっているのだと。
違う『今』を見ているせいで、災厄になってしまっているのだと。
「貴女達に連れていかせたら、貴女達が命懸けで助けたコルディリネの子供達が、その子孫が、屍人になってしまう」
ノアの身に起きたことを。ノアの身が置かれている状況を。
1つ1つ伝えて。
オブリビオンとして歪んでしまったその想いに、心からの説得を試みる。
(「例え此処がサクラミラージュであろうとなかろうと、其れが骸の海からであろうと。
何時か貴方の想いが癒され、転生の願いに結び付きますよう」)
1対1で真摯に向き合うかのような攻防の中で紡ぐ桜花の祈りは、ユーベルコード『幻朧桜召喚・解因寿転』。オブリビオンの心に、因果の元になった想いを解き解す事によるダメージか、積み重なった想いが癒される事による治癒か、いずれかを与えるもの。
桜花の言葉が、ノアの心にどう影響を与えているのかは見た目からは分からない。
ダメージなのか。癒しなのか。
でも、確かに、桜花の言葉は、桜花が告げた事実は、ノアの心に響いていて。
だからこそ、これまでにノアにかけられた声の数々も、意味を持っていく。
『この島はまだ落ちない! 先に壊れ堕ちたのはお前だ!』
『お前のやろうとしていることは無意味だ!』
『君はこれまでどういう風に進んできたのかな? 助けた子供はどうなった?』
『……この島は、違うよ。
君の、君達の役目は……もう終わってる。もういいんだ』
『ノアさんはずっと昔の船なんですよ』
気付いて、と。
純粋で優しかったはずの思いを、悲劇にしないで、と。
伝えようとして、止めようとしてくれた、数々の声を。
『俺達に任せてくれて大丈夫だ』
敵対しながらも向けられた、温かく思いやるような調べを。
桜花の言葉に重ねて、ノアは思い出す。
いつしか。
ノアはその動きを止めていた。
桜花に振るっていた杖も、珠飾りを下に下ろして。
助けようと伸ばしていた手も、力なく身体の横に下がって。
呆然と、ノアは立ち尽くす。
「骸の海から世界が生まれ、その世界の中に生命が生まれた。
骸の海に還る事は、全ての終わりではない筈です」
だから桜花も桜鋼扇を下げ、見守るようにノアから距離を取る。
ウェーブのかかった桜色の髪を広げるように揺らして。
桜の模様を描いた桜色の桜織衣をふわりと靡かせて。
頭に咲かせた桜の花のように。
桜の精を生み出した幻朧桜の代わりとなれるように。
その桜色の姿を見せるように、ノアの前に立って。
「願いは全ての命と奇跡の源。
貴女が貴女のまま屍人を増やさず世界の趨勢を見守り続けられるなら、どうぞこのままお帰りを。そうでないなら……強い願いを胸に、骸の海へお還りを」
その手に軽機関銃を握りしめる。
ノアを救いたいと思う。
でも、だからといって背後にいる少女を危険に晒すわけにはいかないし。
オブリビオンによる被害は防がなければならないから。
複雑な胸中に、でもノアを想い、桜花は緑瞳を揺らした。
ノアはじっと、そんな桜花の姿を見つめて。
戸惑うように青い瞳を彷徨わせて。
そこに。
「……ありがとう」
響いたのは、小さな小さな声。
桜花の後ろから、眼鏡をかけた少年がしゃがみ込み寄り添うその傍から、たった一言だけ紡がれたそれは。
きっとノアが心から願い、望んでいたもの。
ありがとう――子供を助けてくれて。
ありがとう――子供を守ってくれて。
ありがとう――役目を果たしてくれて。
ありがとう。
穴を開け紐を通しただけの古い金のコインを胸元に揺らす少女の言葉に。
ノアは嬉しそうに、そして泣き出しそうに、くしゃっと顔を歪めて。
涙が溢れる青い瞳を、改めて桜花に向ける。
両手を開いて、自身の終わりを受け入れるかのように。
だから、桜花は短機関銃を構えた。
「何時か貴女が、願いを胸に勇士として此処に転生するために」
祈りを込めた銃弾は、ノアを撃ち抜いて。
青い姿が頽れて。
それを見届けた桜花は、すうっと息を吸い込み……捧げるは鎮魂歌。
桜のように儚く美しい調べが、辺りに響き渡ると。
そこにギターの旋律と、少年の歌声も加わっていく。
自身のために奏でられる、優しく温かな音に包まれながら。
最後まで少女の姿を青い瞳に映し、青い箱舟はその姿を消した。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『空の湯でひと息』
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POW : ゆっくりお湯に浸かり、身体を温める
SPD : 打たせ湯で身体をほぐす
WIZ : 雄大な景色を眺めて楽しむ
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「いやー、本当に助かったよ。俺も島の皆も全員無事だ。ありがとう」
騒ぎが落ち着いて、皆が隠れていた場所に行って。
おかあさんに抱き着いてから。
助けてくれた人達にお礼を言う皆を、私は見ていた。
「何があるって島じゃないから、大したお礼もできないんだが……
よかったら、リモナイア名物の温泉にでも入っていってくれ」
陽気なマイヤーさんが何となく話を仕切って、あの人達に温泉を勧めてる。
うん。温泉は自慢できる島の宝。
ちょっと白く濁ったお湯は、さらっとしてて、切り傷とか打ち身とかにもいいし。お湯に浸かりながら雲海を見下ろせるのも気持ちいい。商売をしに来る勇士達も、来たら必ず入っていくし、温泉に入りにだけわざわざ来る時もあるくらい人気だ。
「混浴ですけど、広いお風呂ですし、湯あみ着もあります。
皆様の貸し切りにしますから、せめてゆっくりと疲れを癒していってください」
女の人もいるからだろう、ビアフランカさんが言葉を添えていく。
その腕の中ではユーレカちゃんがすやすやと眠っていた。
「それと、もう1つの名物もよろしければ」
「ああ、そうだ。リモナイアの特産がレモンでね。
温泉に入りながらレモネードやレモンスカッシュ、ってのもおススメだ」
「あら。マイヤーさんはレモン酒だと思いましたわ」
「それは言わない約束だぜビアフランカ」
そんなやり取りに、皆がどっと笑う。
私もおかあさんもくすくす笑って。
でも、砂糖と蜂蜜に漬けたレモンとその果汁が、美味しいのは本当だ。
私は冷水を入れたレモネードが好き。炭酸水を入れたレモンスカッシュが好きな子もいるし、どっちがいいか迷うって子もいる。
温泉に入りながら飲むことは少ないけれど、湯上りには大人も子供も必ずと言っていい程飲む。マイヤーさんは温泉に関係なく、いつもお酒を入れたのを飲んでるけど。
そういえば、ひいおばあちゃんは、お湯を入れたのをゆっくり飲んでた。湯気が上るカップを手に、窓際の日当たりのいいいつもの場所で、青い空を見上げながら、のんびりと過ごしていたのを思い出す。
そんなひいおばあちゃんの傍にいるのが私は好きで。何をするでもなく、よく隣に座っていた。たまに本を読んだり、お昼寝をしたりしながら。そして、少しだけ、ひいおばあちゃんの昔話を聞きながら。レモネードと一緒に過ごしていた。
そんなことを考えていたら、私も飲みたくなってくる。
「あの人達に作る分と一緒に作ってあげる。だから手伝ってね、ベルナ」
おかあさんに言うと、そう嬉しそうに笑ってくれた。
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と参加
無事護り切れたみたいでよかった
子供達が親と合流するのを確認してから温泉に向かうよ
湯あみ着は腰巻で、混浴らしいし他の人達には気を使っておこう
「時人、俺達は端っこの方でゆっくり入ろうか」
こうしてゆっくりお湯に浸かるのは久しぶりかもしれない
浸かりながらやっぱり一番の会話はきっと戦闘についてだろうな
「あぁ、そう言えば戦争後の温泉もあったな。あれも良かった」
「やっぱり、時人に遠距離でガンガンやってもらって俺は近接が動きやすいなあ」
気持ちいいからついのぼせるまで居そうだ
「ふふ、そうだな。しっかりあったまったし出て冷たい物貰おう」
帰る前にもう一回くらい温泉にも入っておこうか
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
護り抜けて嬉しいし折角勧めてくれてるし
温泉入らせて貰おう
けど…お、女の子もいるから!はじっこでね!
湯あみ着借りて腰に巻いて相棒と二人で異世界の温泉を楽しむよ
漬かりながら四方山話
なんか昔あった戦争後思い出すよねって
俺はあんま行けなかったけど、恒例行事なってた気がする
けど結局、戦闘の反省会になるね、きっと
今回は護れたけど戦法やコンビネーションとか
UCの作りとか…
話し込んで気が付いたらのぼせ気味
「冷たいレモネード飲みにいこ!」
うんと甘くして貰って飲みながら素晴らしい景色を楽しんで
「この風景、値千金だよねー…」
涼んだらもう一度お湯へ戻りたいな
「帰るのもう少し後で良いよね?」
「無事護り切れたみたいでよかった」
ペンダントを持つ少女が、母親と思しき女性の傍に甘えるように居るのを見て、凶月・陸井(f35296)はふっと微笑んだ。
その呟きを聞き留めた葛城・時人(f35294)も、同じ少女を見て。そして他の子供達や、母親に抱かれて眠る赤ん坊も確認すると、陸井に頷いて見せる。
「さあ、温泉はこっちだ。さあさあ」
上機嫌なマイヤーが、押し売りじゃないかと思うような勢いで猟兵達を促しているのもこの島を護り切れた証拠だから。
「折角勧めてくれてるし」
「向かおうか」
くすくすと笑いながら促す時人に、今度は陸井が頷いた。
2人は腰巻の湯浴み着を借りると自慢の温泉に入ろうとして。
(「……お、女の子もいる!」)
それに気付いた時人が、内心で慌て出す。
猟兵だけの貸し切りだから、島民は入っていない。でも、一緒に戦った中には女性の猟兵もいて。だからこそ湯浴み着が用意されたのだけど。
ここまで別々の事柄として認識していたそれらがやっと組み合わさり、正しく状況を理解できた時人が、青い瞳を戸惑わせていたから。
「時人、俺達は端っこの方でゆっくり入ろうか」
気付いた陸井が助けるように、女性達から離れた方を指し示す。
例え同性であっても無遠慮に近いのは落ち着かないだろうし、気を遣っておいたほうがいいだろうという配慮もして。2人は隅へと移動した。
事前に説明された通り、充分に広い温泉だから、端といってもゆったりできて。
ようやく落ち着いた時人と共に、陸井もほうっと息を吐き、青空を見上げる。
陸側になってしまったから雲海はあまり見えないけれど、それでも頭上に広がる青の壮大さは気持ちのいいものだったから。
外から、そして内側から、ほっこりしていく自身を思う。
こうしてゆっくり湯につかるのは久しぶりかもしれない。
戦いの緊張感や疲労感がじんわりと抜けていくかのような感覚にも、どこか懐かしさのようなものも覚えて、何だろうとゆるりと思考を巡らせれば。
「なんか、昔あった戦争後を思い出すよね」
呟いた時人の声に、そうか、と思い当る。
「あぁ、そう言えばあったな。あれも良かった」
「俺はあんま行けなかったけど、恒例行事になってた気がする」
浮かんでくるのは、シルバーレインと呼ばれる世界で、銀誓館の能力者として、ゴーストという脅威と戦ってきた過去。戦争と呼ぶ大きな戦いの後は、温泉だけでなく様々に、皆でのんびりとする時間があった。
そうして数多の戦いを重ねて、勝利を掴み取り。
しかし今また銀色の雨が降り始め。オブリビオンが現れたことで、陸井たちは猟兵として新たに覚醒し。再び戦うこととなった。
他の世界にも渡って……そう、今回のように。
終わった戦いから新たな戦いへ。能力者から猟兵へ。
そう思うと、1つの事件が終わった安堵の中に、戦闘についての考察が入ってくる。
「やっぱり、時人に遠距離でガンガンやってもらって俺は近接が動きやすいなあ」
「でも、もっと上手く動ける気がする。コンビネーションとか」
「そうだな、まだ強くなれるよな。きっと」
「ユーベルコードの使い方とかも……」
良かったところも悪かったところも。気付いたことを互いに話し合い、次へと繋げて行こうとする2人は、気付けばじっくりと話し込んでしまい。
温かな温泉のおかげで、時人はちょっとのぼせ気味に。
「陸井、レモネード飲みにいこ!」
「ふふ、そうだな。しっかりあったまったし、出て冷たい物貰おう」
陸井も、このままだとのぼせるまで、いや、のぼせても延々居てしまいそうだと、温泉の心地良さと、時人との会話の楽しさに微笑んで。
とりあえず小休止、と一度上がって休憩所へと向かっていった。
やっぱり疲れたからか、うんと甘いものが飲みたくて。レモネードにたっぷり蜂蜜を足してもらってから。
座った場所は、雲海ギリギリの展望席。
「この風景、値千金だよねー……」
「ああ、いい景色だ」
温泉からはよく見れなかった絶景を、ブルーアルカディアならではの光景を、穏やかに眺めて。時折口を湿らせる、甘くてすっぱいレモネード。
先ほどまでの賑やかな検討会から一転、無言の時間が過ぎていくけれど。
交わす言葉はなくとも、どこか心が繋がっている感覚。
同じ空を、同じ雲を、そして同じ先を見据えて。
静かに、レモネードが減っていって。
「……帰るの、もう少し後で良いよね?」
空になったグラスを手に、時人が視線を動かさぬまま尋ねれば。
「そうだな。もう1回くらい、温泉に入っておこうか」
その意図を正しく理解した陸井も、眼下に広がる雲海と、頭上を覆う青空とを眺めたまま、ふっと穏やかに微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セシル・バーナード
あーあ、かわいい女の子、手のひらからすり抜けちゃった。もったいないなぁ。
どうしたの、プラチナちゃん?
ふふ、かわいい子は増えれば増えるだけ全体の愛が大きくなるんだよ。知ってた?
んー、湯浴み着必須かぁ。ぼくは必要ないんだけどなぁ。マナー? それを出されたら弱いや。
それじゃ、島の人おすすめの温泉に入ろうか。
じゃ、プラチナちゃん、ぼくと一緒にね。
んー、ぽかぽかしていい気持ち。さっきまでの緊張感が解きほぐされていくよ。
あ、レモンスカッシュ二つ!
……お屋敷に来たばかりの頃のプラチナちゃんなら、炭酸にびっくりしただろうになぁ。
まあ、自由に生きるにはいろんなことを知らなくちゃね。
眠っていいよ。見ててあげる。
「んー、ぽかぽかしていい気持ち。さっきまでの緊張感が解きほぐされていくよ」
ゆったりと湯につかっていたセシル・バーナード(f01207)は、ぐぐっと伸びをしたところで、じっと自身に向けられた視線に気が付いた。
振り向いた先にいたのは、ユーベルコードで喚び出した銀髪の少女。
そのどこか不思議そうな顔に、ん? と視線で問いかければ。
「湯浴み着、着てるんですね……」
少女が心の底から疑問に思っているのは、セシルの倫理観が一般社会と根本的に異なっているのだと、薄々気付いてきたからで。混浴とはいえ、いや、混浴だからこそ、セシルは何も身に着けたりしないのではないかと思ったからだったのだが。
「ぼくは必要ないんだけどね。マナーって言われたら弱いや」
少女の考えを半分は肯定し、でも、自分の感覚と世間一般のそれとの違いをちゃんと理解しているセシルは、他人に迷惑をかけるような、マナーやルールの違反をあえてすることはないから。
ひょいっと肩を竦めて、苦笑して見せる。
「それにプラチナちゃんには必要だもんね」
そして、少女の着ているワンピースのような湯浴み着を見つめて。
「駄目だよ。ぼく以外にプラチナちゃんの全部を見せちゃ」
さらりと告げると、少女の頬が真っ赤に染まった。
そんな様子も楽しみながら、セシルは青い空を見上げるような格好へと上半身を後ろに倒して。片方の手は後ろで身体を支え、もう片方の手を空へ伸ばす。
「あーあ。かわいい女の子、手のひらからすり抜けちゃった。もったいなかったなぁ」
もう届かない存在を求めるかのように。
開いた手の指の間から零れる光を眩し気に見上げて。
愛情の枷に捉えられなかった天使と箱舟とに、くすりと微笑んだ。
その笑みは、残念そうな言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうな愛おしそうなもので。
それを見た少女が、怒ったような悲しむような、複雑な表情を見せる。
「どうしたの、プラチナちゃん?」
「……いえ、別に何も」
少女がふいっと視線を反らせば、入浴用に纏め上げた長い銀髪が数本だけ解けて流れる綺麗な首筋のラインが見えて。拗ねた仕草のはずなのに、どこか誘っているかのような艶やかさを感じたセシルは、笑みを深くすると。
空に伸ばしていた手を今度は少女へと向けて。
「ふふ、かわいい子は増えれば増えるだけ全体の愛が大きくなるんだよ。知ってた?」
言いながら、ちゃぽん、とお湯を揺らして少女に迫っていき……
「飲み物はいかがですか?」
「は、はいぃっ!?」
島民の女性からの声かけに驚いた少女が、咄嗟にセシルをぎゅうっと押し返した。
しかしそれ以上は混乱して何もできない少女に、セシルはくすくすと微笑むと。
「あ、レモンスカッシュ2つ」
代わりに注文して、冷たいグラスを2つ受け取る。
そのうち1つを差し出せば、少女は、気まずさを誤魔化すように早速飲んで。
「すっぱくてしゅわしゅわして美味しいです!」
ぱあっとその表情が輝いた。
(「お屋敷に来たばかりのプラチナちゃんなら、炭酸にびっくりしただろうになぁ」)
世間知らず、と言うのも憚られる程に世界のことを何も知らなかった少女は、気付けば様々な体験をして、多くの知識を得ているから。
セシルがその経験を与えているとはいえ、少女の成長を嬉しく思う反面、何も知らない無垢な反応が減っていることが少し寂しく感じられる。
とはいえ、セシルは、少女に自由を教えると約束したから。
自由に生きるには、いろんなことを知らないといけないから。
(「約束は守るけど……」)
セシルはそっと少女を抱き寄せて。
「眠っていいよ」
優しくその腕に少女を閉じ込めると、ぽんぽんと子供をあやすように頭を撫でる。
「見ててあげる」
変わりゆく少女を。変わらない少女を。
セシルは愛おしさを乗せた唇で囁くと。
少女は安心したように目を閉じ、セシルに身体を委ねた。
大成功
🔵🔵🔵
木霊・ウタ
心情
温泉を楽しむぜ
行動
やっぱ異世界感があるよな
ほんと壮大な景観だ
雲海を眼下に眺めて最高の気分だ
温泉につかりながら
ぷかぷか浮かぶ雲が風に流れる様とか
時と共に雲や空が彩を変える様子とか
のんびり眺める
心と体のご馳走だぜ
風呂上りにはレモンスカッシュだ
序にといったらあれだけど
箱舟がペンダントを与えられた子供って言ってた子
確かベルナっていったっけ
コインのことをちょいと尋ねてみる
あんま根掘り葉掘りでも
怖がらせちまうだろうし
そんなに事情は知らないだろうし
深追いするつもりはないぜ
…そっか形見か
大切にな
炭酸シュワッで人心地ついたら
やっぱり空と雲海を眺めながらギター演奏
もしまた何があろうとも守り抜く
その誓いを込めて
温泉につかって、木霊・ウタ(f03893)は気持ち良さそうに息を吐く。
包み込んでくれるようなお湯の感覚と、じんわり伝わってくる心地いい温かさ。
単純に温泉だけでも楽しめるけれども。
「ほんと壮大な景観だ」
眼下に広がる雲海と、頭上を覆う青空、遠くに浮かぶ別の島を眺めて。
ぷかぷか浮かぶ雲が風に流れる様や。
雲海としてひしめく雲が波打つように揺れる様や。
空が、雲が、時と共に彩をじんわりと変えていく様を。
これまで体験した温泉とは違う異世界感を。
ウタはにやりと笑い、のんびりと楽しんでいく。
「心と体のご馳走だぜ」
これがブルーアルカディア。ウタたちが守り抜いた1つの島。
その感慨も加われば、最高の気分でウタは目を細めた。
「飲み物はいかがですか?」
そうしてかなりの時間を過ごした頃。かけられた声に振り向けば、ぺこりと会釈をするビアフランカの姿が湯煙の向こうに見える。
子供は預けているのだろうか。温泉に入る前、ビアフランカの腕の中ですやすやと眠っていた赤ん坊の姿を思い出し。落ち着いているビアフランカの様子と合わせて、ウタの口元が綻んだ。
「ありがとうな。でも、そろそろ上がるぜ」
「でしたら、休憩所がありますから、よろしければそちらで」
そして、ビアフランカの案内通りに休憩所に落ち着いたウタは。そこでレモンスカッシュをもらい、風呂上りの1杯を堪能する。
炭酸のシュワッとした感覚と、火照った身体に気持ちいい冷たさ、そして程よくすっぱいレモンの味と香りに人心地つくと。
空と雲海が見える席に座っている小さな姿に気が付いた。
レモネードのコップを持つその少女は、箱舟が、ノアが、ペンダントを与えられた子供だと喜び、誰よりも助けようとしていた子。
「よっ。ちょいといいか?」
ウタは、レモンスカッシュを掲げながら、陽気な笑顔で話しかけ。尋ねてから、少女の向かいの席に座る。
「俺は木霊・ウタ。ベルナ、だよな?」
おずおずと頷いてくれるその茶色の瞳には、困惑が揺れていたけれど。怯えとか拒絶とかはなく、どう接したら失礼じゃないのか、お礼をどう伝えればいいのか、そんな戸惑いによるもののようだったから。
安心させるように笑いかけながら、ウタはベルナの胸元を指し示す。
そこには、古びた金のコインが揺れていた。
「そのコインのこと、聞かせてくれないか?」
コインに穴を開け、紐を通しただけの簡単なペンダント。
どこにでもありそうだけれども、ノアが執着していたもの。
尋ねると、ベルナはそれを一度ぎゅっと握りしめてから。
「これは、ひいおばあちゃんの形見、です」
ウタに見えるように掲げながら、たどたどしくも話してくれる。
曾祖母が、亡くなる間際まで身に着けていたもので。
小さい頃から持っていた、お守りのようなものだと言っていたこと。
生まれた島を、沈んでしまった故郷を、思い出せる唯一の物で。
兄弟は皆が持っていた、絆のような物だと言ってたこと。
曾祖母だけがこの島に逃げ延びて。
他の兄弟がどうなったのかは、何も分からなかったと寂し気だったこと。
「……そっか、形見か」
ベルナが焦らないように、でも話し続けてくれるように、相槌を挟みながら穏やかに見守るようにしながら、ウタは静かに聞いていく。
「ひいおばあちゃんは、私にだけ話してくれて。私にくれたの。
おじいちゃんとか、おかあさんとか、皆には全然、昔のことは話さなかったって」
少し嬉しそうに話すベルナの手の中で。
金色のコインがキラリと揺れる。
正三角形を4つ組み合わせて作り上げた大きな正三角形を、文字のような模様がぐるりと丸く囲んでいる面と。縦長の花びらを5枚広げた、レモンの花のような小さな花模様を刻んだ面が。くるり、くるりと入れ替わりながら、ウタに見えて。
「思い出が沢山詰まった宝物、なんだな」
告げた言葉に、ベルナは驚いたように目を見開くと。
嬉しそうに微笑んで、こくこくと首を縦に振った。
「大切にな」
その様子にこちらも嬉しそうに、ウタはにっと笑いかけて。
手にするのは愛用のギター。
弦を1つ2つ爪弾いてから、奏で始めるのは陽気で、でもどこか穏やかな旋律。
話してくれたベルナへのお礼と。
もしまた何があろうとも守り抜くとの誓いを込めて。
ウタは、演奏を響かせていく。
本当は、天使や箱舟のことも、彼女達の島……コルディリネの話も知りたかった。
でもベルナはそこまで詳しい事情は聞かされていないようだったし。
根掘り葉掘り聞いても怖がらせるだけだと思ったから。
深追いはせず、話してくれたことだけに感謝を込めて。
空へ、雲海へ、そしてこの島『リモナイア』へと沁み込ませていくように。
ギターの調べを、それに合わせた歌声を。
広げていく。
その演奏の合間に、器用に曲を途切れさせないようにしながら、ウタがレモンスカッシュをくいっと飲めば。
ベルナは驚きながらも嬉しそうに、ぱちぱちと拍手を送ってくれた。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふ、ふえっ、傷口がしみますね。
ぬいぐるみの魔法の肩代わりで受けた傷ですけど、血は止まっていますし切り傷にいいとのことですので、お湯に浸かっていきましょうね。
ふえ、それは呪いみたいなものだから効果があるのかって、アヒルさんそんな意地悪を言わないでくださいよ。
もう、そんな意地悪を言うアヒルさんにはお風呂上がりのレモンスカッシュはあげませんよ。
アヒルさん、錆びちゃうじゃないですか。
病は気からと言いますし、気の持ちようで大丈夫なんですよ。
アヒルさんも不思議な仕組みで錆びないんですよね。
「ふ、ふえっ、傷口がしみますね」
そっと湯に身体を沈めたフリル・インレアン(f19557)は、心地よい温かさと共に、じんわりとあちこちに感じた小さな痛みにぎゅっと赤瞳を瞑った。
ワンピース型の湯浴み着から覗く色白で華奢な腕や脚に見える幾つもの赤は、天使と戦った時についたのもの。
あの時。大きくて可愛いぬいぐるみが、フリルの動きをトレースして、天使を一蹴していったのだけれども。この『魔法』は、ぬいぐるみが受けた傷をフリルが肩代わりする、というものだったから。
どれも浅く、ほとんどがかすり傷のようなもので。血も止まっているし、手当ても要らないくらいの傷ではあったけれども。
お湯につかると、その存在がじんじんと主張してくる。
「でもこの温泉は、切り傷にいいとのことです……」
それでもフリルは、聞いた話を繰り返し口にして、お湯に身を委ねた。
我慢する、という程でもない痛みだったし、効能があるというのなら、と。
少しずつ、強張っていた身体の力を抜いていって。
そこに、ガア、とアヒルちゃん型のガジェットが鳴く。
「ふえ、その傷は呪いみたいなものだから効果があるのか、って……
アヒルさんそんな意地悪を言わないでくださいよ」
その声を正しく理解したフリルは、困り眉でガジェットを見やった。
確かに、フリルの傷は肩代わりの傷。直接フリルが傷つけられたものとは違うから、普通の傷と違って温泉の効能は届かない、というのも一理あるけれど。
島の人達が大切にして、誇りにしている温泉だし。フリルたち猟兵へせめてもの感謝として勧めてくれた、温かな湯なのだから。
その優しい気持ちは、しっかりとフリルの身体に沁み込んでいたから。
それだけでも充分な効能だと、フリルは思うから。
「もう。意地悪なアヒルさんには、お風呂上がりのレモンスカッシュはあげませんよ」
むう、と精一杯気弱な瞳を怒らせて、フリルはガジェットを可愛く睨む。
しかしガジェットは気にすることなく、フリルの前を浮かんでいって……
はた、とようやくフリルは気付いた。
「アヒルさん、錆びちゃうじゃないですか」
ガジェットが、魔導蒸気機械が、お湯に浸かっている、という現状に。
普通に考えると、機械は水に弱いはずだし、濡れると錆びが発生し易くなる。さらに温泉というものは、何かしらの物質が溶けているものだから。真水に比べるとさらに金属との相性が悪いことも多い。
フリルの傷に効く以上に、ガジェットへの影響は大きいのではと心配するけれど。
それこそガジェットは気にすることなく、誰が用意してくれたのか頭の上に小さな手ぬぐいをちょこんと乗せた温泉満喫な姿で、ガア。
「不思議な仕組みで錆びないんですね……」
すごい理由を当然のように言ってくるから。フリルはまた眉を困らせた。
でもそれは、呪いの傷にも効果がある、と思いたいフリルと同じようなもの。島の人達の感謝を、温かな気持ちを、大切にしたからこそのものだと思ったから。
そうですね、とフリルはガジェットに苦笑して。
ゆったりとしたお湯と一緒にゆらゆら揺れているその白い姿を眺める。
「病は気からと言いますし、気の持ちようで大丈夫なんですよね」
呟きを零しながら、ガジェットをそっとつつくと。
くるりくるりとガジェットが、水面に小さな円を描いていって。
ガア、と鳴き声が響いた。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「温泉でお酒?素敵です」
リモンチェッロ大好きなのでニコニコ
お盆にショットグラス2個とリモンチェッロ準備し雲海が見える温泉へ
「頑張ったノアさん達へ…貴女達が、また此の世界へ転生できますように」
自分のショットグラス分は一息で飲みもう片方のリモンチェッロ入りのショットグラスはそのままそっと雲海に落とす
暫く温泉で温まりながら子守唄や鎮魂歌、童謡等思い付くままに歌い続ける
「リモンチェッロもグラッパも好きですね。どうせならお菓子も作って皆で食べましょう」
温泉出たら自分のケータリングカーに戻りリモンチェッロのグラニータとリモンチェッロ入りパウンドケーキ大量作成
鼻歌歌いながら島の大人や子供に配って歩く
「温泉でお酒? 素敵です」
案内された御園・桜花(f23155)がその説明にぱあっと緑瞳を輝かせると、聞き留めたマイヤーがにっと笑いかけた。
「おっ、姉ちゃんいける口かい?」
「マイヤーさん」
そのまま桜花と一緒に温泉に行きそうな程に身を乗り出していたマイヤーだったが、窘めるような声色でビアフランカに名前を呼ばれ、おっと、と肩を竦めてすごすごと下がっていく。しかしすぐに、休憩所の方からマイヤーの声が聞こえ、早速レモン酒を注文していたようだったから。
桜花に振り向いたビアフランカは、どこか申し訳なさそうに苦笑していた。
「温泉の方へお持ちしましょうか?」
それでも、ビアフランカは桜花にそう聞いてくれて。
有難い申し出を、桜花もニコニコ笑顔で受ける。
「リモンチェッロはありますか?」
「もちろん。ご用意しますね」
「ショットグラスは2個お願いします」
「はい……?」
不思議な指定に、当然、首を傾げるビアフランカ。
でも、湯浴み着に着替えて温泉に入った桜花の元には、ちゃんと言った通りに準備されたお盆が運ばれてきて。ぷかぷかとお湯に浮かべたお盆の上で、桜花は、ショットグラス2つともに、大好きなリモンチェッロを注いだ。
レモンの果皮を蒸留酒に浸けて造られるリキュールは、鮮やかな黄色を魅せて。ふんわりとレモンの香りが広がっていくのに、桜花はまた笑顔を綻ばせる。
そして、温泉のすぐ先に広がる雲海へ、桜花は視線を向けると。
黄色くなったショットグラスを両手それぞれに持ち。
「頑張ったノアさん達へ……」
片腕を雲海へ向けて伸ばして、酒を捧げるようにかざした。
「貴女達が、また此の世界へ転生できますように」
静かに目を伏せ、祈るように口にすると。
顔を上げ、手元に残した1杯を、ぐいっと一息で飲み干しながら。
伸ばした手からグラスを離し、1杯はそっと雲海へ落とす。
戦友と酒を飲み交わすかのように。
互いを讃え、そして、その先を願い合うように。
桜花は、想いを雲海へ託した。
それから。大好きなリモンチェッロを桜花が1杯だけで終わらせられるはずもなく。
芳醇な香りの黄色を再びグラスに注いで、よく冷えたその冷たさとレモンの味わいを、全身を包む温泉の優しい温かさの中で堪能していく。
だんだん気分が高揚してくれば、自然と口をついて出るのは、歌。
最初はノア達を想ってか、鎮魂歌を、そして子守唄を奏で。そのうちに童謡なども混じってきて、様々に思い付くままに歌い続けていた。
気付けば休憩所の方からギターの音色も聞こえてきて。それに合わせて即興曲を歌ってみたりもして。
歌とレモンと温泉と。
心地良い時間をまったりと楽しんでいく。
そして、今度は少しずつ飲んでいたリモンチェッロが、またショットグラスからなくなると。次を注ごうかと黄色が減った瓶へと手を伸ばして。
「リモンチェッロもグラッパも好きですね」
葡萄の蒸留酒も、果実酒繋がりで思い。
違う味も楽しみたいな、と微笑んだ桜花は。
「どうせならお菓子を作って皆で食べましょう」
お酒の別の楽しみ方へと思考を巡らせ。
早速、と温泉を出ると、自身のケータリングカーへ向かった。
「どんなお菓子がいいでしょう。
リモンチェッロですと……グラニータ? パウンドケーキも大量に作れていいですね」
レシピを思い浮かべながら、桜花は微笑む。
出来たものは島の人達に配ろう。アルコールを飛ばせば子供でも食べれるし、大人用にアルコールが少し残ったものを作ってもいい。そうして同じお酒を、桜花とだけでなく皆で……子供達とも分け合えたなら。
(「きっと、届きますよね」)
子供達の幸せが。頑張って守り抜いた未来が。
幻朧桜の元に在るような、桜の精が与えるような癒しとなって。
ノア達が転生できたらいいと思うから。
桜花は、楽し気に鼻歌を歌いながら、お菓子作りに向かっていった。
大成功
🔵🔵🔵
青和・イチ
感傷も、考えたい事もあるけど…まずは温泉
のんびりしたいダラダラしたい
冷えたレモネードを貰って、温泉の隅~っこでのんびりします
だって混浴とか無理恥ずか死ぬ…女子は見ません見えません
くろ丸入るのは…マズいかな?モフ毛の換毛期だし
盥でも借りて、湯船の横で入らせて貰えるか頼んでみよう
今回は、くろ丸もよく頑張ったから(よしよしと頭を撫で
あーいい湯極楽レモンうま…
そもそも、割と温泉の方に惹かれて来たんだけど…
思った以上に大きい…というか、壮大というか
…うん、忘れられない事件に、なったなあ
この世界の島一つ一つ…こうやって、物語があるんだろうな
広い空と雲海をぼんやり眺めながら
そうだ、レモンお土産に買っていこう
青和・イチ(f05526)はのんびりと温泉を堪能していた。
完全に脱力したかのように、温かな湯に身を委ねて。
ゆらゆら揺れる水面と、ふわふわ揺れる雲海を、ぼんやりと眺めて。
何も考えずに、ただダラダラと、心地よさに浸って過ごしていく。
考えたいことは、ある。
感傷も、ないと言えば嘘になる。
でもまずは、そもそも予知の段階から惹かれて来た温泉を、と思い。
そして浸かれば、思考が優しい温もりに包まれて、何も考えたくなくなったから。
温泉の隅っこで、イチは冷えたレモネードを一口飲んだ。
(「……女子は見ません見えません」)
湯浴み着を着ていても、混浴とか無理恥ずか死ぬ、と他の猟兵達から距離を取り。
湯煙の向こうへ意識を向けないようにしていると。
温泉と雲海との間に置かれたたらいの中から、般若の顔がイチを見つめていた。
(「くろ丸、モフ毛の換毛期だしね」)
相棒にも温泉を楽しませたいと、でも他の人の迷惑にならないようにしないとと、考えた末の簡易専用湯船。小型犬ならまだしも、この大きさの犬が入れる器が見つかるか、ちょっと心配だったけれども。島の人達は快く要望を聞いてくれて、丁度良い大きさのものを見つけて用意してくれたから。
イチは相棒と一緒に、温泉を楽しむことができていて。
(「今回は、くろ丸もよく頑張ったから」)
よしよし、と頭を撫でてやると、温泉以上に嬉しそうにくろ丸は目を細める。
その様子に小さく口元だけで微笑んでから。
湯を、雲海を、そして頭上に広がる青空を、イチは再び藍色の瞳に映す。
(「思った以上に大きい……というか、壮大というか……」)
雄大な景色の中に浮かぶ温泉は、想像以上の感激をくれた。
でもそれ以上に予想外だったのは。
温泉の前にあった、この島を襲った災禍。
(「コルディリネ、だっけ」)
ただの襲撃だと思っていたら、そこには沈んでしまった島を巡る哀しい想いがあって。
その過去が偶然にも、この島と繋がっていて。
(「……うん、忘れられない事件に、なったなあ」)
歪んでしまっても尚、イチの胸を打った箱舟の切なる願いと。
襲われた恐怖の中で、それでもイチの願いに応えて勇気を振り絞ってくれた少女。
(「この世界の島1つ1つ……こうやって、物語があるんだろうな」)
戦いを思い返しながら、そこに行き交った想いを胸に抱きながら。
イチは、雲海の上に幾つもの島が浮かぶブルーアルカディアの世界を、どこまでも続く冒険の空を、穏やかに眺める。
「あーいい湯極楽レモンうま……」
そしてまた、レモネードのグラスを傾けると、ぽつりとまったり呟いた。
賛同するようにくろ丸が一声吠えて、専用湯の中で目を細める。
イチも、改めてお湯に身を委ねると。
優しい温もりの中に、飲んだレモネードの冷たさがじんわり消えていくのを、でも口の中に爽やかな甘酸っぱさが残るのを、心地よく感じて。
青く広い空と。白く広い雲海の狭間を。
守ることができたリモナイアを。
イチはゆったりと、心ゆくまで味わっていった。
「そうだ、レモンお土産に買っていこう」
今日もお空は真っ青で。雲海も静かに真っ白。
お湯も温か、いいかんじ。
おかあさんも、マイヤーさんも、ビアフランカさんも。島の皆が笑っていて。
穏やかな風がレモンの葉を揺らす音が、ざわざわと気持ちいい。
何だかいろいろあったけど。
今日はとってもいい1日。
お気に入りのペンダントを陽の光にキラリと輝かせて。
助けてくれた人達が私の大好きなリモナイアを楽しんでくれているのを見て。
私は、レモネードの入ったグラスを傾けた。
大成功
🔵🔵🔵