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殲神封神大戦⑲〜真・猟兵無双!

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑲ #大賢良師『張角』


●黄巾の乱
 太平道。
 仙界に広がる、広大な草原である。
 その草原は今、黄色一色に染まっていた。
 黄葉の季節だからではない。黄色い頭巾をあつらえた兵士、数十万――それらことごとくは、超常存在オブリビオンである――が、草原を埋め尽くしているからだ。
 中心にして最奥には、威容を備えた男が立っていた。双眸に深い憂いを、いや、憂いを通り越した絶望のような哀しみをたたえながら、天を仰ぐようにして叫ぶ。
「蒼天、すでに死す! 黄天、まさに立つべし!」
 男の絶叫に、数十万の軍勢は全く同時に応じた。
「蒼! 天! 已! 死!」
「黄! 天! 當! 立!」
 大合唱。地を震わせ、天を揺るがすほどの。
 意気軒昂なる黄巾兵らの様を見渡した男――大賢良師『張角』は、まだ見えぬはずの『それら』を真っ直ぐに見据え、大喝した。
「邪魔をするな、猟兵よ。カタストロフこそが、平和に至る唯一の道なのだ!」

●一騎当千、万夫不当
「間違っちゃいねーわな。そりゃみんな死んじまえば、弱肉強食もなけりゃ喧嘩もない世の中になるだろうさ。だからって、それがめでたしめでたしって話にはならねーってんだよ」
 不愉快そうな調子で、大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)は吐き捨てた。
「つーわけでラスボス、世捨て人スペシャルな張角のオッサンとの戦いだ。戦場は遮蔽もギミックもない、ただの野っ原。敵は黄巾兵、ざっと三十万から五十万くらい……だと思う。もっと多いかもしれない。見た目も装備も、まあごく普通の兵士って感じだな。槍あり弩あり、ひょっとしたら妖術使う奴もいるかもしれん」
 それら雲霞のごとき雑兵らは、雑兵とはいえことごとくがオブリビオンであるという。
 小細工も何も介在しようのない戦場において、純粋な数の暴力というのは、何にも勝る脅威ではある。
「ただまあ、朗報が二つ、あるにはある」
 ぴっと指二本立てつつ、朱毘は言う。
「オブリビオンっつっても黄巾兵どもはそんなに強くないってことと、張角自身も単体戦闘力でいえばそこまでブッ飛んでるわけじゃないってこと」
 これまでの戦いで当たってきた強敵はことごとく、猟兵に対して千手を取ってきた。しかし、張角にはそれがないのだという。つまりは、それくらいの力量であるということだ。
「それでも普通のボス級オブリビオンに比べれば、よっぽど強えんだけどな。だからまあ、ご丁寧にン十万の兵を殲滅してから挑んだんじゃ、体力的にきつかろうと思う。軍勢はぱぱっと蹴散らして突破して、余力がある状態で張角に挑む、ってのがベストじゃねえかな」
 そこまで言うと、朱毘は大きく深呼吸を挟んでから、続ける。
「いよいよ大戦も大詰めだ。ここをしくじれば封神武侠界に明日はねえ。気合い入れて、ぶちかましてきてくれ!」


大神登良
 オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良(おおかみとら)です。

 これは「殲神封神大戦」の戦況に影響を与える戦争シナリオで、1章で完結する特殊な形式になります。

 戦場となる「太平道」は、広大な草原です。オブリビオン化した黄巾兵でいっぱいです。
 某無双ゲームのステージ1を想像して頂ければ大体合ってます。

 このシナリオには下記の特別な「プレイングボーナス」があります。
『プレイングボーナス……黄巾オブリビオンの大軍勢を蹴散らし、張角と戦う(先制攻撃はありません)』
 大軍勢の強さは、某無双ゲームの一般兵とほぼ同等です。
 張角の強さは、某無双ゲームの無双武将とほぼ同等です。

 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『大賢良師『張角』』

POW   :    戦術宝貝「黄巾力士」
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【巨人兵士型宝貝「黄巾力士」】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD   :    黄巾三巨頭
戦闘用の、自身と同じ強さの【妖術を操る地公将軍『張宝』】と【武芸に長けた人公将軍『張梁』】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    黄巾之檄
【「蒼天已死 黄天當立」の檄文】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
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カミーユ・ヒューズマン
「甘ね、じゃなかった、お姫さん一番乗り」
(鎖鉄球の様にプリンセスアンカーを振り回し)
「ぬはははは、待たせたのう皆の衆、お姫さんの登場じゃあ!」
敵は多勢、とはいえいつ来るかもわからぬ敵に上空待機してるオブリビオンは少ないと考え、UCで変身して空を行きます
「お姫さんとは皆の心の支えとなりその拳で絶望を物理的に排除する者ッ! 雑魚は退けぇッ!」
基本的に最短距離の一点突破で張角の元に向かいつつ遠距離からの攻撃はオーラとハートで受けるかいなし、近接攻撃にはカウンターを繰り出して敵を蹴散らし範囲攻撃で周りの雑魚ごと張角を攻撃。
「これがお姫さんの全力じゃあああっ!」
飛翔の勢いを乗せた一撃を叩きこみます。


空桐・清導
SPDで挑む

「色々考えたんだろうが、
解決策は1つと断じた時点でアンタには任せられねえ!
カタストロフは必ず止める!」
流線型のアクセルモードに超変身し、UC発動
増設されたブースターに点火されると同時に一団を吹き飛ばしながら
前方の黄巾兵を[なぎ払う]
武器が振るわれようが既にそこに清導はおらず、
通り道の黄巾兵を打ち倒しながら前進

妖術を使う張宝を優先して倒すべく、接近して幾多の斬撃を放つ
張梁は武器を[切断]するべく同じ箇所に無数の斬撃を叩き込む
反撃には[オーラ防御]を展開
攻撃の手は一切緩めない
2人を撃破したのであれば、そのまま張角に向かって一閃
「明日は過去が決めるんじゃない。
今を生きる奴が作るんだよ!」


荒珠・檬果
まあ、あれです。想像してた張角とあまり変わらなかったので安心はしました。

ゲームでよくある場面ですなぁ。ということで、七色竜珠を白日珠[ビーム竹簡形態]へと変化。
そして…高速多重詠唱にて継続ダメージつけた【十二秘策・水】ですよ!流されてくださいね!
これ、戦場全体なので地味に張角にもダメージいったりするんですよねぇ…。

さて、赤兎馬に騎乗。流された後を駆け抜けまして。纏わりつく冷たい水は寒空に辛いでしょうね。
そして、そちらのUCの弱点、私はよく知っています。もってますので。

妖術には破魔と結界を。武術には赤兎馬による回避を…というわけで。
そして、竹簡から式神使いの要領で曲がるビーム撃ちます。


夜刀神・鏡介
世が乱れているから自分が覇を唱える事自体は、まだ理解はできなくもない。世界の歴史なんてそんなものだしな
だが、それがオブリビオン化によるものなどは願い下げ。認める訳にはいかないな

神刀の封印を解放。神気によって身体能力を強化
少々離れた所から、ダッシュで敵陣に突貫。遠距離攻撃は射線を見極めて躱すか刀で弾く
接敵前に大きく跳躍して、敵軍団の頭を飛び越える
当然、一足飛びに張角の元へとはいかないので、落下地点で肆の秘剣【黒衝閃】。衝撃はによって纏めて敵を吹き飛ばしから、同様の手順で張角に接近
張角もUCを使用しているだろうが、落ち着いて攻撃を受け流して足元を狩り、崩した所でジャンプして頭に一閃を叩き込もう


楊・宵雪
「苦手な戦いももうすぐ終わるのね…もうひと頑張りしましょう

[空中浮遊]で一撃離脱して多数の敵を[おびき寄せ]、[破魔]の符術の[弾幕]で一掃
敵が多すぎるときは[気絶攻撃]で一旦動きを止める

防御には[残像]と[受け流し]と[空中機動]による回避と
[オーラ防御]による防御力向上
[生命力吸収]による回復を用いる

檄文は[ジャミング]で聞こえなくする

張角が範囲に入る状態でUC発動
その後一旦[空中浮遊]で離脱して戦況確認

まだ交戦可能で助けの必要な味方がいたら[援護射撃]で救援を行う


ガーネット・グレイローズ
蒼天、すでに死す…か。あれが黄巾党、なんという数だ。
だが、物量で劣る戦いならこれまで何度も経験し、覆してきた。
いくぞ張角、猟兵の底力をとくと見せてやる!
【灰薔薇の旗の下に】を発動させ、太平道上空に宇宙船を召喚する。
戦闘服を纏った屈強な兵士達は、フライトユニットを装着して
《空中機動》《推力移動》で戦場へ降下を開始。
アームドフォートとフォースセイバーによる《砲撃》及び
《遊撃》で、突破口を開け!私は「BD.13」に乗り込み、
《運転》《悪路走破》《限界突破》で張角本陣へ斬り込むぞ!
異門同胞などと、借り物の力でいい気になるなよ!
クロスグレイブの《レーザー射撃》で、狂った理想もろとも
灰にしてやろう。



●勇往邁進
 恐らくは、夏の朝焼けの光景が最も近いだろうか。空一面を覆う雲が、地平の果てから差す陽光によって照らされ、茜や橙や黄の入り混じった美しい色に染まっている。仮に「黄天まさに立つべし」の文言を反映させてわざわざ天候を操ったというなら、妖術の力量以上に外連味のたっぷりさに驚くところである。
 そんな空に、巨大な回遊魚のごときフォルムをした鋼鉄の塊が、ゆるゆると侵入した。
 ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が生み出した強襲宇宙船。その内にひしめくは、かつて灰薔薇の旗の下で銀河帝国と戦った死兵、実に五百余。生前も、ユーベルコードによって仮初めの復活を果たした今も、その闘志にいささかの曇りなき愛すべき命知らずども。
 だが、そんな大集団をもってさえ。
「……あれが、黄巾党」
 眼下に広がる黄一色の光景に、ガーネットは薄くつぶやいた。
 黄色の軍旗、黄色の頭巾で統一された、大軍団。数十万、とはグリモアベースで説明されてはいたが、改めて目の当たりにするとその途方もなさが際立つ。五百を超す軍勢を擁する戦船が、まるで巨鯨を前にした鰯一匹のように思えてくる。
 それでも、である。
 絶望してやろうなどという気持ちには、まるでならなかった。
 オブリビオンらとの戦いの中で、物量の面で不利な戦いなどいくらでもあった。そもそも、銀河帝国を打倒した戦いからしてそうだったのだ。
 今、宇宙船に乗っているのはグレイローズの亡霊たちだけではない。粒ぞろい、一騎当千の猟兵たち。この大戦でも、多くの強敵と戦い、勝ってきた。
 この程度の物量差――そう、『この程度』の物量差、覆せないわけはないのである。
「交戦距離だ。我が血族よ、降下するぞ!」
 ガーネットの号令一下、メタリックなスーツアーマーを纏った五百の兵らが、一糸の乱れもなく出撃していく。
 それに混じるって猟兵たちもまた、黄に染まった天へ飛び出していく。
 決戦の火蓋が、切って落とされた。

●疾風怒濤
「お姫さん一番乗り!」
 青いみずみずしい長髪、白とピンクがベースのきらびやかなドレス、バキバキにキレ上がったマッスルボディのカミーユ・ヒューズマン(セイレーンのプリンセス・f26887)が、全身にオーラをみなぎらせつつ誰より速く誰より突出する。
 高速飛行する美姫(マッチョ中年男性)の手には、高速回転するチェーンが握られている。チェーンの先端には何やらきめ細やかな意匠の施された巨大なアンカーが備わっているが、高速回転ゆえに当然、その意匠はまるで捉えられない。
 数十万の黄巾兵はどれもごく普通の人型で、空に待機しているような飛翔能力持ちらしい者は見当たらない。
 畢竟、空を突き進むカミーユを阻むものはなく、彼は悠々と中心にある張角へと至る――と、思われたが。
「奮い立つのだ、同志よ! 蒼天已死! 黄天當立!」
 戦場中に響き渡る張角の大音声と同時、黄巾兵らの熱気が陽炎のゆらめきのように立ち昇る。
 さらに同時、弓や弩を携えた黄巾兵らがカミーユ目がけて矢を放つ。近場の兵は言うに及ばす、辛うじて目に映るか映らないほどの遠方の兵さえ、矢を届かせてくる。どれほど高性能な弩でも、どれほど凄腕の射手でも不可能なはずの飛距離である。
 だが、現にそれが起きている。黄巾兵一人一人が超常存在オブリビオンゆえだ。星の数ほどもある矢による弾幕は、カミーユの視界と逃げ場とを奪って黒く塗り潰す。
「ぬはははっ!」
 それでもカミーユは怯まず哄笑し、ハートのシールド・ビットを繰り出して防ぎ、あるいは回転するアンカーチェーンに巻き込んで叩き落とす。
 矢の威力は知れている。ビットは傷一つ付かず、チェーンに触れた端から消し飛ぶ程度。
 ただ、いくら何でも数が多すぎた。どれほどの速度でアンカーを振り回せど、わずかな隙を突破してくる矢はある。全身を覆うオーラが弾き返しはするものの、それもいつまで保つか。
 ちょうどそんなタイミングだった。
「ちょっと出すぎよ!」
 金色の槍を携えた楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)がカミーユに追いつき、火の粉の竜巻を放って援護する。器用にカミーユを避けて吹き荒れたそれは、迫る矢嵐を一気に纏めて焼き尽くし、灰へと変えた。
「おお、助かったわい!」
「そう思うのはまだ早いわ」
 宵雪がカミーユに注意を促す。
 その間にも、矢は途切れることなく両者に殺到していた。当然のこととして、斉射は一度で済んでいるわけではない。オブリビオンたる黄巾弓兵および黄巾弩兵は、連射速度もまた常識の埒外。猟兵二人がかりで武器を振るっていてさえ、一息入れる暇もない。
 と、空が忙しいその頃になり、地上に降り立った猟兵たちが動く。
「射手を減らせば、弾幕も疎になるでしょう。全体攻撃です!」
 叫んだ荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)の背後には、どこか気の弱そうな、しかし双眸に何やら深遠なる光を蓄えた壮年男性が浮かび上がっていた。
 荀攸。かつて、魏の軍師の筆頭とされた謀士。
 その力を借りる――といって、急激に頭が良くなるわけではない。ただ、彼と縁のある『現象』を再現するのである。
 筒を描くように丸められた白い竹簡に注がれた力が、濃縮され、増幅され、そして拡散される。扇状に広がったそれは、極大量の水、瀑布さながらの水であった。
 【十二秘策・水(カヒノスイケイ)】――かの三国最強の猛将呂布の軍勢が立てこもる城を攻め落とすため、荀攸が献策したのが水計だった。
 三国世界を渡り歩いた猛獣の群れを壊滅せしめた大計の奔流が、今、黄巾の亡霊たちを押し包む。大水の行き渡る範囲は恐ろしく広く、広大な太平道の半分かそれ以上を覆う勢いであった。
 いえば、その一発で数万の黄巾オブリビオンを絶命せしめるというほどにとんでもない威力では、流石にない。ただ、氷のように冷たいのに固体化しない水というものに纏わり付かれるというのは、死なないまでも十二分な効果はある。いかにオブリビオンとはいえ、ユーベルコード由来の冷却によって手がかじかんだ有様では、先刻までのような超絶の矢嵐は放てない。
 無論、衰勢は弓兵にだけ起きるものではない。槍や剣を構えた近接戦仕様の兵らも、目に見えて動きが悪くなる。
「この寒空です。冷たい水は辛いでしょうね」
「なるほど。これはありがたい」
 神刀を抜き放った夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)が、鈍化した黄巾兵らの群れ目がけて吶喊する。
 最前列にいるのは、長槍を携えた集団である。鏡介の突進する様を認めるや、のろのろとしながらも槍衾を形成しようとする。が、それが完成するより先に鏡介は大きく山なりに跳躍した。
 跳んだ鏡介を追って槍穂の群れが持ち上がらんとするが、遅い。槍衾が出来るより先に、煮詰めた闇のような黒いオーラを纏った神刀が頂天より流星のように振り下ろされる。
 どごぉっ!
 と、鏡介が地に着くと同時に放った【肆の秘剣【黒衝閃】(シノヒケン・コクショウセン)】が、巨大なクレーターを生む。黒き衝撃の津波を防ぐ暇も術もなかった黄巾槍兵は、それに呑まれた端から跡形も残さず消し飛んでしまった。
「――よし。このまま突破する!」
 鏡介が勢い込みつつ吼える。
 その様を見た最奥の張角は、くわりと両眼にたたえられた光を強めた。
「怯むな、同志よ! あと一息の辛抱で黄天の世が訪れる! 蒼天すで――」
 朗々たる喚呼が響き、再び黄巾兵らが奮い立つ――かと、思われた。
 だが、張角の声は中途で何やらざらざらと砂が鳴るような雑音に割り込まれ、かすれて消える。
 矢の弾幕が薄まった隙を突いて、宵雪はいくつものビットを宙にばらまいていた。折り鶴型のそれらにはスピーカーが搭載されており、敵ユーベルコードの効果を阻害する音波を発することができるのである。
「もう一頑張りは、こちらにとっても同じ」
「味な真似を……!」
 ぎり、と張角が奥歯を噛みしめているところに、ドッと大波が押し寄せる。檬果の水計である。
「張角、あなたも流されてくださいね!」
「――っ!」
 鋭く大波を睨み据える、張角。
 と、その両脇にいつの間にか、明らかに他の黄巾兵とは『格』の異なる影が出現していた。
 右。マントめいた道衣を痩身に纏わせた、眼光炯々たる男。
 左。上半身裸で黒々とした虎髭を蓄えた、筋骨隆々たる男。
「あれは……!」
 そう、誰かが言ったような言わなかったような刹那、痩身の男がクンッと指を上に跳ねさせる。
 途端、張角ら三者の手前に猛烈な竜巻が生み出され、大波を粉砕して巻き上げた。大質量の冷水のことごとくは微塵の霧と化して天まで吹き飛ばされ、飛沫の一つさえ彼らには届かない。
「他愛なし」
 痩身の男――地公将軍『張宝』は、静かにつぶやいた。

●抜山蓋世
「何と……!」
 ただでさえ丸い目をさらに丸くしつつ、檬果がうめく。流石に水計一発で張角を討てるなどと甘い考えをしていたわけではなかったが、無傷で凌がれるというのも予想外だった。
「……ははっ! そう来なくちゃ、オレの見せ場がなくなるってもんだ!」
 真紅の装甲を纏った空桐・清導(ブレイザイン・f28542)が言う。右腕には、蟷螂の鎌よろしく刃が伸びている。
 構えを取ったと見えたのは一瞬。双脚のブースターに火が点いたと見えた刹那、【ブレイジング・アクセラレーション】により超加速した彼の体はかき消えた。
 次に姿が現れた時は、剣を構えていた黄巾兵の五人小隊の真ん前であった。油断なく隙なく身構えていたはずの彼らは、しかし何も出来ずに清導が懐に入るのを許していた。また付言すれば、彼らの気付かぬうちに清導の右腕は一閃している。
 振るわれた刃の軌跡に沿って、五人小隊の体が、ずっ、とずれて傾ぐ。そして次の瞬間には一度に黄煙のごとくとなり、さらに次の瞬間には消え散る。骸の海へと還ったのである。
「――よし、突破するぜ!」
 張宝には弾かれたとはいえ、戦場を覆う檬果の凍水の全てが消え去ったわけでもない。ただでさえ神速を誇る超鋼真紅ブレイザインのアクセルモード、動きの鈍った黄巾兵が相手となれば、万余がひしめいていようが物の数ではなかった。
 と、清導が改めて張角に向けて駆け出そうとしているところ、弱った黄巾兵らを押し退けるようにしつつ、大猩々めいた巨影――人公将軍『張梁』が逆突撃を仕掛けてくる。
「できるな、猟兵ども! しかし! それでも張角兄には、我ら三兄弟には、黄巾に勝つことはできぬ!」
「何を――!?」
「なぜならばッ!」
 超高速で駆ける清導と接触する手前、張梁が地面に両手を突く――ただ手を触れさせたという意味ではなく、手首から先が地面の下まで埋め込まれるまでに文字通り突き入れたのである。
「貴様らには筋肉が足りぬ!」
 ごっ! と。
 癇癪を起こした父親がちゃぶ台を返すような動作でもって、張梁は十数メートルに渡って地盤を堀っ繰り返した。
「んな!?」
 清導にしてみれば、眼前が急に崖になったようなものである。鋭利なること並びなきブレイジング・レザーとはいえ、分厚いそれを一閃で片付けるというわけにはいかない。
 崖のごときとなった地盤はさらにそのまま土の津波となり、すわ清導は呑まれて圧死は免れぬか、と思われたが。
「――地を穿て、剛刃!」
 一拍遅れて駆けていた鏡介が、渾身をもって神刀を振るい、雪崩れてくる地盤へと刺突を放つ。神刀よりほとばしった黒き衝撃は点でなし線でなし、面。刹那に生じた爆圧は津波を完全に消し飛ばすほどではないにせよ、津波から雨へと変じる程度の仕事はしてのける。清導と鏡介はだばだばと土雨に全身を打たれはしたが、ダメージはゼロだった。
 と、そこへ右拳を振り上げた張梁が躍りかかってくる。
「なるほど、やはりできるなぁ!」
「っ!?」
「――!」
 ブレイジング・レザーと神刀を交差させ、打ち下ろされた拳を受け止める。
 大砲のような轟音が鳴る。
 刃とかち合った張梁の拳は、しかし、皮膚一枚程度の傷しか負っていなかった。さらに信じられないことに、猛者と呼んで差し支えない二人の猟兵を向こうに回して、なおじりじりと押し返してくる。
「うっそだろ……?」
「ぐっ――!」
「絶望せよ! 我らには決して勝てぬ!」
 大喝する張梁の左拳が大きく引き絞られる。
 次の刹那、拳が放たれた。
 張梁の、ではなく。
「待たせたのう! お姫さんの登場じゃあ!!」
 カミーユの拳である。曲芸飛行士も裸足で逃げ出す垂直急降下からの大拳骨が、張梁の脳天に炸裂したのである。
 拳と拳をかち合わせたならいざ知らず、別角度からの高速、高威力の一撃は張梁といえどいかんともしがたかった。前のめりに倒れ、己が耕した地面へと顔面を突き刺した。
「ぼぐぉッ!? ぎ、貴様ァ――!」
「見たか! お姫さんとは皆を支えその拳で絶望を物理的に排除する者ッ!」
「定義が独特な気はするけど――」
 豪快に哮るカミーユの脇を、小柄な乗用車が走り抜ける。ガーネットの操るクーペである。
 さらにその後ろを追うように、檬果を乗せた赤き軍馬も駆けていく。
「張梁は任せます! 張宝は私たちが!」

●金城鉄壁
「来るか。長兄には指一本触れさせん」
 張角を背にかばった張宝は両手を広げるや、周囲一帯を包み込むように颶風の障壁を生み出した。
「う、お!?」
 風に煽られ転倒しそうになるところ、ガーネットは巧みなハンドルさばきで持ちこたえる。
「このっ――いい気になるな!」
 暴風が荒々しく吹き込んでくるのにも構わず、運転席のドアを開けて巨大な十字架型のビーム砲塔、クロスグレイブをせり出させる。
 ぎゅぼうっ! と、空気を焦げ付かせる超高熱の光線が放たれる。一弾指の後には真っ直ぐに伸びたそれが、狙い過たず張宝の心臓を撃ち貫く――かに見えた。
「甘い」
 張宝の淡泊な台詞と同時、刹那的に威力を増した風の壁が光線の軌道をねじ曲げた。弓なりとなった光線は張宝のマントの端を微かに焼き切ったのみで、明後日の天へと消える。
「ちぃ……使い手だな、張宝!」
「ユーベルコードの性質上、張角と同じくらい強いはずですしねぇ」
 赤兎馬にしがみつくようにしつつクーペと併走する檬果が、言う。
「しかし、弱点はあります。二人を召喚している間は張角はほとんど動けず、また彼に少しでもダメージを与えれば召喚は解除されるはず」
「この風の防壁をかいくぐって張角に攻撃を届かせるというのは、容易ではないぞ?」
「容易ではないでしょう。ですが、不可能でもないはずです」
「いいや、不可能だ」
 幽鬼のように両手を掲げつつ、張宝が告げてくる。
「貴様らには何もさせはせぬ。このまま我が妖術をもって、五体を引きちぎってくれる」
 宣言と同時、周囲を吹き荒れる暴風がさらに強さを増す。防壁ではなく、台詞の通りにガーネットや檬果の肉をちぎり、削ろうという猛勢である。
「くぅっ!?」
 檬果は竹簡を伸ばして毬状に展開させ、己とクーペとを包み込む結界を張る。抗魔の結界は妖術による暴風を防ぐに優れた効果を発揮するが、それでも地力の差か、掛かる圧の凄まじさに気が遠くなる。
「そんな物、いつまでも保ちはせん」
 薄く笑う張宝。
 だが、不意にその体がガクンと揺れた。
「!?」
 張宝も、ついでにガーネットや檬果も、一瞬何が起きたかわからなかった。それでも異変が起きたのは明らかであった。
「花の香りは風に散らされたけど……」
 空から声が降る。
 目をやれば、暴風圏のわずか外、それでも十二分に荒ぶる乱気流の中にあって、宵雪が踏ん張っているのが見えた。その手に掲げた玉飾りからは、薄紅色の輝きが放たれている。
「日の光までは風では散らせなかったようね」
「ぐ、ぉ……!」
 睡魔を誘発する【春眠不覚暁】の光に、張宝が膝を突く。集中力を著しく欠いたからだろう、妖術の暴風の威力も格段に下がる。
「今だ!」
 束ねた竹簡を拳銃よろしく構え、檬果はビームを放った。鋭利な白光は弱まった暴風を貫き、召喚儀に集中する張角を狙って飛ぶ。
「ッ、長兄!」
 焦点の定まらぬ目で、しかしそれでも張宝は己の体を盾として張角の前へ跳び出す。
 転瞬。
「――はぁっ!」
 檬果の操作によりビームは鉤状の軌道を描き、張宝の頭上を越えて張角の肩口へと突き刺さった。
「……っ」
 どしゅ、と張角が血を噴き出させる。
 同時、唖然と張角を振り返っていた張宝の姿が霞み、雲散霧消した。
 カミーユらと戦闘を続けていた張梁が消え去ったのも、また同時である。

●天下無双
 出血が体の半分を朱に染めているというのに、まるでそんなことは起きていないとでも主張するかのように、張角は揺るがない。
「……まだだ」
 宣言と同時、張角の後ろの地面が唐突に爆発し、もうもうたる噴煙を生む。
 数秒で煙は晴れ、四メートル弱の巨人の影が出現する。明光鎧を纏った仁王像のような見目で、月牙を備えたシャベルのような長柄武器――禅杖を持っている。
「そいつが黄巾力士か」
「いかにも」
 ガーネットの言葉にうなずいた張角の体が、光に包まれ――いや、光そのものと化して、黄巾力士の腹部に吸い込まれた。
『あきらめぬ。天下を最善最良の安寧へ導くため、異門同胞を得た私があきらめるわけにはいかんのだ。蒼天已死、黄天當立……カタストロフの時ぞ!』
 黄金のオーラに包まれた黄巾力士が禅杖を振り上げ、打ち下ろす。炸裂したシャベル状の刃によって地面に蜘蛛の巣状の亀裂が奔り、あふれるエネルギーが爆炎となって噴き上がる。
 張梁をも超える、圧倒的攻撃力。
 だが、それを目の当たりにして今さら慌てる猟兵もなかった。大戦の最終戦を担う大敵張角、そのくらいのことはしてのけるだろうとわかりきっている。荒れ狂う爆炎を防ぎ、あるいは回避しつつ、黄巾力士を包囲していく。
「アンタなりに色々考えたんだろうけどなぁ!」
 真正面から清導が駆け込んでくるのに合わせ、黄巾力士は禅杖を横薙ぎに振り回した。
 禅杖の刃とブレイジング・レザーの刃がかち合う――巨象と小山羊が衝突したようなものではあった。
 が、一撃対一撃で分が悪い程度のことは清導は百も承知だった。ゆえに速度に倍する彼は、一瞬の交錯で一点目がけて数十、数百の斬撃を叩き込む。
「解決策はカタストロフだと断じた時点で、アンタに世界の明日は任せられねえんだよ!」
 堤を崩す蟻の顎、石を穿つ滴。清導の連斬撃が禅杖を両断する。
『馬鹿な――!?』
 狼狽したところ、黒衝を纏った神刀を脇構えにした鏡介が黄巾力士の足元に滑り込む。そして駆け込んだ勢いをそのまま乗せた一撃が、黄巾力士の右足を粉砕した。
「世の乱れを正すために自分が覇を、というのはわかる。けど、世を骸の海に沈めるなんて認めない」
「狂った理想もろとも――」
 体勢を崩す黄巾力士に、ガーネットはクロスグレイブの照準を合わせた。限界以上のエネルギーが十字架の中を駆け巡り、きな臭い蒸気が漏れ出る。構える手に伝わる熱も凄まじいが、構わない――この一撃で終わらせるのだから。
「灰になれ!」
 文字にできない甲高い音が耳をつんざき、プラチナ色の極光が一閃する。
 回避能わなかった黄巾力士は上半身を光に呑み込まれ、苛烈なエネルギーに細切れにされ、砂より細かな破片となって黄に染まった天まで吹っ飛ばされていった。
 そして削りかすのように残った下半身もまた、程なくしてざらざらと崩れ落ちる。
 それは、黄巾力士が張角という主を喪ったことを意味しており、つまりは張角の討伐が成ったことを意味しており――この戦場における、猟兵の勝利が確定したことを意味していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月31日


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#封神武侠界
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#殲神封神大戦
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#殲神封神大戦⑲
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#大賢良師『張角』


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト