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殲神封神大戦⑱〜ゼツボウ・ブレイキング

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●グリモアベース
「殲神封神大戦もいよいよ終盤でございます! 皆様、三皇『伏羲(ふつぎ)』の祠の攻略をお願いいたします!」
 グリモア猟兵金綠・シャトワヤンス(ケットシーの女給探偵・f22844)が自分の周囲の景色を予知した光景へと変化させる。
 封神武侠界の文化の祖とされる神、三皇伏羲の祠。
 伏羲はオブリビオンとして蘇っていないが、主がいないにも関わらず祠内部には『無限の書架』と『さまざまな世界の言語や呪文』で満たされており、肌を刺す痛みすら感じるほどに恐ろしい魔力が充満している。そして祠の最深部に刻まれたひたすらに大きい図像。
「この図像は伏羲の発明した『陰陽を示す図像』にてございます。踏み入る者に未来を教えるとされているものなのですが……今回の戦争で祠はオブリビオンに汚染されてしまいました。その結果、未来を教えるという図像の力が歪められたのでございます」
 本来であれば人によって千差万別の顔を見せるのが未来だ。
 しかし、オブリビオンの汚染によって未来は捻じ曲げられ、【あり得るかも知れない破滅の未来】を具現化してしまうようになったとグリモア猟兵は付け足す。
「破滅自体が実際に起きる出来事なのかそうでないかは関係なく。足を踏み入れた皆様の脳裏にほんの僅かに浮かんだ破滅の未来が、祠に足を入れた瞬間に再現されるのでございます」

 草木茂る豊かな大地がやがて腐り炎に飲まれ死んでいく。
 肉体がねじ切れ叫び声をあげたくてもその喉から絶えず血が噴き出し死んでいく。
 希望と幸福に満ちていたはずの未来を塗りつぶされ、精神をかき混ぜられ死んでいく。
 死が救いであることすら否定するような無間の破滅の未来が生まれていく。

 過程も結果も分からないが、すべては破滅に収束する光景が具現化されてしまう。

「恐ろしいことに、破滅の未来へと飲み込まれた際に負傷する可能性もございますし、精神が焼き切れて深い絶望を残す場合もございます」
 伏羲の残した陰陽を示す図像が強力すぎる故に、汚染された祠内部で具現化された破滅の未来は肉体的にも精神的にも猟兵にダメージを与える可能性があるとグリモア猟兵はその恐ろしさを説明する。

「とても恐ろしい場所に皆様を転送することになるのでございますが。しかし、それでも……猟兵の皆様であれば乗り越えられるのであると、わたくしは『希望の未来』を信じているのでございます」
 猟兵達が破滅の未来へと向き合い、それを乗り越え進まなければ猟兵達は先へと進めない。破滅の未来への対処は人それぞれだろう。
 血反吐を吐き続けた先に絶望するかもしれない。血の涙に溺れ、地に倒れて。
 それでも立ち上がる猟兵達の強さをグリモア猟兵は信じ深々と礼をした後、転送の準備を始めた。


硅孔雀
 オープニングに目を通していただきありがとうございます。
 封神武侠界での戦争です。その破滅を超えていけ。
 硅孔雀です。

●構成
 冒険:『八卦天命陣』 。
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「殲神封神大戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 対応する戦場は⑱三皇伏羲の塒です。

●プレイング受付
 OPが公開された時点で受付を開始します。

●状況
 三皇『伏羲』の祠に踏み入れた時からスタートします。
 猟兵さんにとっての「あり得るかも知れない破滅の未来」が具現化するので、それを乗り越えることが出来れば当シナリオでは祠の最深部に辿り着き踏破成功となります。
 破滅の未来などない、破滅の未来の内容はお任せしますという旨のプレイングは採用が少し難しくなります。猟兵の皆様が考える破滅の未来とそれを乗り越えるプレイングをお待ちしております!
 プレイング内で言及があれば具現化された破滅の未来内で負傷することも可能です(祠の踏破に成功すれば幻覚という体で全回復します)。プレイングの判定とは別に描写するという形ですので傷だらけになりたい方も是非。

●プレイングボーナス
 あなたの「破滅」の予感を描写し、絶望を乗り越える。
 絶望を乗り越える手段に関してはこれが正解!というものはございません。
 判定は苦戦or失敗になりますが、絶望しきって倒れて終わりというのもそれはそれで素敵だと思います。

●注意事項
 ・過度に性的・グロテスクなプレイングは採用しません。
 ・完結優先でリプレイを執筆します。キャパシティの都合でプレイングが不採用になる可能性があるのでご了承ください。
 ・その他連絡事項がありましたらタグ及びMSページでお伝えします。
 それではよろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『八卦天命陣』

POW   :    腕力、もしくは胆力で破滅の未来を捻じ伏せる。

SPD   :    恐るべき絶望に耐えながら、一瞬の勝機を探す。

WIZ   :    破滅の予感すら布石にして、望む未来をその先に描く。

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

皆城・白露
(アドリブ歓迎)

何かが抜け落ちるような感覚の後
スイッチを切られたようにぼんやりした表情の、自分の死体が目の前に転がる

旅団仲間達が現れるが、誰も自分を覚えていない
『覚えてないならきっと、そんなに大事なことじゃなかったんだ』
今まで任務で出会った人達も、転がる死体に気付かず踏み躙って通り過ぎ
弔われず、想われず、亡骸は朽ちていく

オレの命が尽きるのは、もう殆ど決まった事だ
だからせめて、誰かの記憶の中でなら生きられるって、信じたかった

ただ、友人の笑顔を思い出す
その方があいつが辛くないなら、傷つかないなら、それでいいのかもしれない

(なんだ。オレは結局、どっちでもよかったんじゃないか)
全て受け入れて、歩き出す



 祠の内部に広がる闇が皆城・白露(モノクローム・f00355)の体を包み込んだのと同時に。
「……!」
 一歩前に出したはずの足が地についた気がしない。
「(体から力が……違う。体中から何かが抜け落ちていく!)」
 人狼である皆城は無意識の内に獣の耳を立て尻尾を逆立て警戒を強め。
 それが、闇の中に白くぼんやりと浮かぶのに気が付く。
 目の前に、自分そっくりの死体が転がっていた。

「(死が破滅の未来? いや、そんなことは)」
 命の炎がもうじき消えることはそう遠くない未来の話であり、皆城の中では受け入れられる形であるのだ。
「それじゃあ一体何が破滅……え?」
 己の死体の元へ寄ると音が聞こえる。足音に話し声、風は吹き。
 いつの間にかそこは皆城にとって馴染みのある場所になっていた。
 そして、見知った仲間達が皆城の前を歩いていた。
「おい……おーい!」
 大声を出し手を振るが彼らは闇夜に消えては再び皆城の前に現れる。
「……誰も、覚えてない」
「(覚えてないならきっと、そんなに大事なことじゃなかったんだ)」
 仲間達だけではなく。
 今までの旅路で出会った人々が皆城と死体の前を踏み躙っては通り過ぎていく。
 無意識の内に抱き寄せていた自分の死体は腐り、白い骨を見せ。
 どんなに年月が過ぎようとも誰も足元に在る亡骸に足を止めない。
 皆城だけが目の前の自分の亡骸を知覚している。
 では、皆城が──オレがここからいなくなったら、誰がオレを覚えているんだ?
「誰かの記憶の中でなら生きられるって、信じたかった」
 ぽつりと言葉を漏らしたその時、ぼんやりとした表情を浮かべていた亡骸の、灰色の瞳を持つ双眸に光が灯った。
 
 ──それじゃあ皆城・白露、お前は何を覚えている?

「……笑顔。友人の」
「友人に、今のオレ達の姿を見せたいか?」
「それは嫌だ」
「何故?」
「悲しませたくない。きっと……こんな俺の姿を見たら、辛い思いをさせる」
 そうだ。あいつにつらい思いをさせるなら、傷つけることになってしまうのなら。
「ならば今は」
 この結末もそれはそれでいいのかもしれない。
 誰の心に残らなくても。誰よりも俺は世界を歩いていた。
 旅路の中で命を燃やし、大切な笑顔を向けられ、心に刻んでいる。
「先に進む以外の事は考えていても仕方がない」 
「(なんだ。オレは結局、どっちでもよかったんじゃないか)」
 生の先にあるナニカを考えていても仕方がない。
 大切なことをちゃんと覚えていられるのであれば。それでいいじゃないか。

「ここが、オレの中の破滅の未来……だったということで」
 
 皆城は皆城の亡骸をそっと横に寝かせ立ち上がる。
 闇に溶けていく幻の死は振り返らない。
 前へ前へ。
 自分を、世界を、全てを受け入れる。
 
 そして、歩き出す先に──道は確かに続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜


破滅の予感、か。
そりゃ骸の海が溢れて、この世全てがオブリビオンになる事だろうなぁ……
「いま」は「さっき」になり、「今日」は「昨日」になり、
護った筈の「現在」がそのまま『過去』になって殴り掛かってくる。
アタシ達もオブリビオンとなり、誅するものが居なくなり……
この世はすべて停滞する?

待てよ。
その「停滞」を「視る」のは誰だ?
ソイツが視る時の流れは?
そうだよ、『過去』ってのは『未来』がなきゃ比べられねぇだろ?
ああ、そうか。
バカなりに考えた甲斐があったかねぇ。
『過去(オブリビオン)』が無限にあるのなら、
『未来(猟兵)』も無限にある筈なんだ。
尽きぬ戦いかもしれないけどさ、
どっちかに呑まれるよかマシだろ?



 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は祠の内部を歩き続ける。
 闇の中を進む数宮は力を込めて足を上げないと先に進みにくいことに気が付いた。
「なんだいこの感覚。まるで海を進むような抵抗感。
 ……海か。オブリビオンも、こんな感じで海から色んな世界にやってくるのかねえ」
 数宮の脳裏に無意識に浮かんだ僅かなカケラに呼応して、祠が姿を変える。
 水の匂いも風の音もしない。勿論数宮が水に濡れていることもない。
 しかし。
 今、祠の内部には海が広がっていた。 
「骸の海が溢れて、この世全てがオブリビオンになる事があればそれはもう……」

 水が流れる様に時もまた流れる。
 波は次の瞬間白い飛沫となり大地に溶ける。
 「いま」は「さっき」になり、「今日」は「昨日」になる。
 自分がこの手で守ったと掴んだ「現在」も次の瞬間に『過去』に変貌する。
 数宮はオブリビオン──敵と戦うことを疑問に思ったこともないし、今更己の力が正義かそうでないかと考え込む趣味もない。
 世界の敵の過去と戦う猟兵の前に現れる。だから今も戦う。
 戦う。
 猟兵が全てのオブリビオンを倒した後の物語はどう続く?
「違う。アタシ達もいずれは過去になる。だったら……いつかの未来でオブリビオンになる」
 猟兵が骸の海をかき分け、世界を滅ぼす存在として蘇った時、誅するものは永遠に繰り返される戦いの果てに猟兵が盤上から消えた未来で待つのは。
「この世はすべて……停滞する?」
 数宮の体が闇色の海に沈む。
 停滞が確定した未来の先に進み続ける意味がなければ。
 早くに骸の海に馴染んだ方が傷つかずにすむ。

──顔を上げたまま沈むのなら、ソレは見えているはずだろ?

「……?」
 闇夜の遥か上部で輝く白。星だ。
 茶色の瞳に映るそれはまるで数宮を見守っているように輝き──見守る?
「……待てよ。その「停滞」を「視る」のは誰だ?」
 停滞している世界を観測しているソイツが視る時の流れは?
 一つの疑問が脳内を巡るスイッチを連鎖的に動かす。
 停滞していた思案が動き出す。
 過去を過去と。現在と未来というものは誰が定義し、区別しているんだ?
「そうだよ。『過去』ってのは『未来』がなきゃ比べられねぇ。
 ──ああ、そうか。バカなりに考えた甲斐があったかねぇ!」
 過去の海に沈む体を動かし、手を伸ばし、数宮は全身に力をこめる。

──『過去(オブリビオン)』が無限にあるのなら、『未来(猟兵)』も無限にある筈なんだ。

 永遠に続くかもしれない戦いの中、敵ばかり増えるのはどうも割に合わない。
 尽きぬ戦いの輪の中に在り続けるアタシ達猟兵という駒は、それこそ無限に在っていいはず。
「どっちかに呑まれるよかマシだろ? ……てな!」
 ざぶん!と大きな音を上げ数宮は浮上し、手を伸ばす。

 星空を掴むためにこの手に力が与えられた猟兵ならば。
 欲しいもの(答え)は掴み取る!

大成功 🔵​🔵​🔵​

月隠・望月
破滅の未来が訪れる可能性はある。常に、必ず。
それを現実にしないために、行かなければ。

わたしの見る破滅の未来は、皆が死んでしまう光景だろう。
わたしの力が及ばないばかりに、守るべきヒトを守れない。家族を、故郷の皆を殺されてしまう。
今までも、何度も考えたことがある。これはあり得る未来だ、と。わたしは強い、けど。もっと強い存在なんていくらでもいるから。

守るべきヒトをすべて失ったら、戦う意味もない……のではないか、と思っていた。
逆だ。
こうなってはもう、戦うより他に道はない。最早戦いに理由など必要ない。
当然、絶望はしている。だが、それでもわたしには戦うことしかできない。
この絶望を乗り越えられる、その時まで



 月隠・望月(天稟の環・f04188)は慎重に祠の内部に足を踏み入れる。
 気配を殺して闇の中を歩くのはお手の物。
 忍の里で生まれ育った月隠は心を乱すことなく歩き続け──考える余裕がある故に、脳裏に浮かんだソレと向き合う。
「(破滅の未来が訪れる可能性はある。常に、必ず。)」
 真正面からやってくるか、死角をついてくるか。
 いずれにせよ、行かなければならない。
「破滅の未来を現実になど、させない」

 空が燃える。風が吹き荒れる。地面に赤がぶちまけられる。
 闇夜に灯りが灯るがそれはけして月隠を温めることはない。
「……ぁ、ああ」
 ごうごうと燃え盛る炎が家屋を飲み込み、すべてを黒い塊(死)へと変える。
 誰かが逃げる。誰かが嗤う。見知った顔の誰かが叫ぶ。敵が嗤う。
 殺戮と狂乱に飲み込まれたこの場所で助かる存在などありはしない。
「里が……皆が……死んでしまう」
 泥と返り血に汚れた月隠の、傷だらけのその手をすり抜け命が失われていく。
 月隠はぎゅっと拳を握り。
「(わたしの力が及ばないばかりに、守るべきヒトを守れない)」
 悪意と死で塗りつぶされた未来から目をそむけたことはなかった。
 それどころか、この結末をあり得る未来だと今まで何度も考えたことがある。
 血の滲むような努力を重ね、より強い力を得た彼女は世界の理にとっくに気が付いていた。
 私は強い。
 けど。
「もっと強い存在なんていくらでもいるから。強者が弱者を蹂躙した」
 弱いものが淘汰されただけ。守るヒトをすべて失っただけ。
 それだけのことを祠は『破滅の未来』として具現化していた。
 炎と屍の向こうで尚「敵」は立ち上がり、月隠を屠ろうと悪意をむき出しにする。
 もう誰も月隠に助けてと叫ぶことのないこの世界で戦う意味は果たしてあるのか。
 誰かに活躍を賞賛されることも感謝されることもない。
 破滅に彩られた未来の中。
 それでも月隠は手に馴染む獲物を握りしめた。
──戦うより他に、道はない。
 何よりも強くあることを求められ、その期待に答えて来た。応えたかった。
 戦いはもはや己を表現する手段になっていた。
 それを哀れだと嘆く暇などなく敵は攻撃を開始する。
「遅い」
 襲い掛かってくる敵を薙ぎ払う。切り裂く。
 破滅の未来は心に大きな穴を開け、そこを絶望の風が何度も吹き抜ける。
 その寒さに耐え切れず両腕で己を抱きしめるより、両手で武器を手にする道を選んだことに後悔はない。
 一度「強さ」を手にした月隠は風の前に倒れることなどない。

 わたしには戦うことしかできないというのなら。
 絶望を乗り越えられる、その時まで戦い続ける。

 絶望を乗り越える為に足に力を籠め手に力を籠め鋼色が煌めく。
 心が折れない限り、月隠の刃の心は輝き続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

向坂・要
破滅の予感、ですかぃ
それはそれでちょいと興味がありやすねぇ

見知った顔の無残な死か
(なぜ?命はいつか終わるものだ)
本体が抉られ砕ける終わらぬ苦痛か(あぁ確かにあれは痛かった)

さて、何が来るのかと期待すらしてそうして。
待ち受けていたのは「何もない虚無が続く世界」

あまりにも長く続くそれは退屈を通り越し、己の存在すらわからなくなる様なもので
無機物の頃から慣れ親しんでいたはずのそれはゆっくりと己という存在を蝕んでいく
失うのだと気がついた瞬間、沸き上がったのは諦めではなく強烈な怒りだった

消える?失う?この身が?記憶が?

ふざけるな

湧き上がる怒りのままにより駆け抜けやすく変じたその喉から大気を震わす遠吠えが響く

絶望を引き裂き駆け抜けながら脳裏でわずかに残った冷静な部分がなるほど、と少しばかり楽しげに呟く。


どうやら「オレ」は、この生が、記憶が、そして紡いだ縁、ってやつを存外気に入っているらしい、と。
見せられた知己の顔触れの無残な終わりも含め、勝手に終わりにされたくは無いと、悪趣味だ、と腹を立てる程度には



「破滅の予感、ですかぃ」
 そう独り言をつぶやく向坂・要(黄昏通り雨・f08973)は銀の髪に埋もれた耳をぴんと立て、興味深げに祠の内部を覗き込む。
 祠の内部、光や音が吸い込まれそうなほど黒に染まった空間を紫の片目で確認し、へらりと笑った。
「……それはそれでちょいと興味がありやすねぇ」
 足をあげ暗闇に踏み入れようとする直前。
「(うーん。やっぱり気になる)」
 向坂は自分の脳裏に浮かんだ『破滅の未来』について、もう少し考えてみようと思案のスイッチを入れた。

 破滅の未来。
 例えば、見知った顔が皆無残な死に至る。
──なぜそれで絶望する?命に終わりがあるのは必然だ。
 例えば、本体が抉られ砕ける終わらぬ苦痛。
──あぁ。あれは痛い。痛みが世界の全てだと錯覚するほどに痛かった。
 尻尾と耳で妖狐や人狼に間違われることが多いが向坂はヤドリガミである。
 血の通わない『体』を粉々にされそうになったことも、長い時を生きる中経験した。
「(恐ろしいとなるとこんな感じ……と)」
 想像してみると確かに胸が詰まるような鈍い痛みが体を蝕むが。
「……さてさて、何が来るのか」
 かえって好奇心を煽られてしまう、というのが本音ではあった。
 闇はどこまでも続く。少しくらいの暇つぶしになっただろうかと向坂は思考を切り替え、歩みはじめた。

 歩き。歩き。向坂は思い出す。
 肉の器が与えられる前、丁寧に磨かれた後に──その扱いはとても嬉しかったけど、暗く冷たい場所に居続けないといけないのは少しさみしかった。
 祠の内部は慣れ親しんでいた闇に近い。だから向坂はそれに身を委ね思い出そうと足を止める。
 目も耳も無い、時を刻むという概念すら知らなかった無機物の時は世界を認識するという選択肢くもなく全てが完結していた。
 無機物の器に心と肉体が宿ったのは遠い昔の出来事だったか、つい先日の事だったか。
 それに比べて今は。──ここは、何故暗いままなんだ?
「(退屈しかここにはない)」
 目を閉じても開けても広がる暗闇の中、向坂を蝕むのは恐怖ではなく退屈であった。
 何故足を動かしているのにこの世界は景色を変えないのだろうか。
 風が肌を撫でることはない。土や埃の匂いもしない。
 次々に想いは浮かび上がる。
 俺は今存在しているのか?
 慣れ親しんでいた闇をいつから退屈だと感じるようになった?
──闇と光を繰り返すことを知ったから。
──手足を伸ばせば、目や耳を使えばいくらでも世界が変わることを感じられたから。
 だというのに今は、
「──? ──!」
 肺を震わせ言の葉を紡ごうとする。しかし音は聞こえない。
 紫の瞳を見開き、気が付いた向坂は走り出す。
「(これが俺にとっての『破滅の未来』ってやつですかい。これは、これはまた……)」
 なにもない。からっぽの空間だけがある。
 虚無は既に口を開け向坂を飲み込んでいた。
 巨大な生き物の腹で狂うこともできずに、ゆっくりと己という存在が溶かされ浸食される。
 音を奪われ、光を奪われ、時を奪われ、最後に何が残る。
「(残らない)」 
 脳裏をよぎる言葉を祠が具現化することを理解していたが、一度考えてしまえばそれを完全には消し去れないのが人だ。
 自分はここで全てを失う。体も。心も。記憶も。
 全てを諦め。受け入れ。立ち止まろうか。
「──は」
 消える? 失う? この身が? 記憶が?
 そんなことは許さない。

「絶対に許さない──ふざけるな」 

 猟兵向坂・要の中にまだのこっていた感情。それは怒り。
 闇夜に灯る小さな火が、膨れ上がる。
 怒りに震える喉から絞りだされたのは人の雄叫びのそれではない。
『──オォォォォン!!!!!!!』
 獣は怒りに身を任せ、大気を震わす遠吠えを響かせる。

 肌に振れる空気を感じる神経はとっくに麻痺していたはずであった。
 しかし、感じる風の心地よさはけして偽りではない。
 地を蹴る四肢にこめた力が生み出す気流に体毛が触れる事に向坂──ユーベルコード:大地と共にありしもの(シュンカ・マニトゥ・ウゼン)で白銀の毛並みをもつ大狼に姿を転じた──は牙をむき出し唸る。人が笑む姿と獣が敵を喰らう仕草はとても似ていた。

 目の間に広がる全てのものをどこまでも引き裂き食らいつくそう。
 絶望に染まる闇の中をどこまでも駆ける。駈ける。駆け抜ける!
 闇の中には地平線も地面も空も存在しない。あるのは向坂を蝕む苦しみ──破滅の未来だけだ。
 手を伸ばし助けてほしいと叫ぶ見知った人の姿が浮かんでは消える。
 雨のように無機物の削り滓が降り注ぐ。
「(……ああ、これは、こんなものは)」
──悪趣味だ。敵だ。屠る。
 幻影をひと睨みした獣は、ひと際大きく跳ねる。
 前足で幻影を踏み食いちぎる。
『──!!』
 少しばかり気分が良くなったことに身を任せ、楽し気に獣はステップを踏む。
 絶望の中を駆け抜けるのは気持ちがいい。吹き抜ける風が心を撫でる。
 見せられた幻影(絶望)はどれも己の世界の終わりに存在するかもしれないと理解し。
 それを怒りのままに、腸が煮えくり返る熱をエネルギーに変え、倒し続ける。
「(どうやら「オレ」は、この生が、記憶が、そして紡いだ縁、ってやつを存外気に入っているらしい)」
 獣の体、その脳裏に残った僅かな冷静な部分が自分を俯瞰している。楽しいと、人の心を持った向坂は口笛でも吹きたい気分で闇に向かって吠える。
 己を構成する体が変わり心を得て力を得て世界を見た。
 広がる世界を旅する中で出会った人々と仲間。その全てが色鮮やかに向坂の心の中を駆け巡る。生きているのだ、自分は。
「(それを勝手に終わりにされるのは……ちょいとゆるせないんですよ)」
 何もない虚無が続く世界、そんなちっぽけなものなど腹におさめても上手くないと吠え、駆け抜ける。
 音速を超え、光を超え、ひと際眩く輝く銀色の閃光が生まれる。
 その先に──終わらない世界はある。
 闇に覆われた祠のその黒は光に塗りつぶされ。
 ユーベルコードを解除し、走るのをやめた向坂は伏羲の祠の最深部に立っていた。
「到着、と」
 
 生が続く限り旅もまた終わらない。
 一つの終着点についた猟兵は次の旅路へと想いを馳せ進みだす。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月31日


挿絵イラスト