銀河帝国攻略戦⑲~その研究、待ったなし!
精神攻撃に耐えた猟兵たちのおかげで、ドクター・オロチが乗る『実験戦艦ガルベリオン』の所在が判明した。
だが……。
月殿山・鬼照(不動明王の守護有れかし・f03371)が、険しい顔で語り出した。
「ドクター・オロチは次手もまた、ひどく悪辣な手を打ってくるのでござる」
その悪辣な次手とは。
「オロチウイルスを満載した突撃艇群をワープさせ、解放軍艇に突っ込ませようとしておりまする」
一斉ワープさせた突撃艇を自爆させ、ウイルスで解放軍を抹殺しようという作戦なのだ。
事前に防ごうとしても、存在を隠蔽され、各所に散ったオロチウイルス突撃艇群全てを発見、撃破するのは不可能。ワープを予測して、その全てを撃破する事も現状では難しい。
オロチウイルス突撃艇群は、戦闘機程度の大きさの多数の突撃艇からなる集団で、直接的な戦闘力には乏しいが、捕捉はできそうにない。
「この小賢しいウイルス攻撃を防ぐ手は無いかと思われました……ですが」
希望はあった。
「エンペラーズマインド・コアのコアマシンルームから『オロチウイルス』のサンプルを持ち帰ってくれた仲間がいたのです。これを使い、ウイルスの抗体を作ればよいのでござる」
抗体を得れば、オロチウイルスをバラまかれても、被害は出ない!
早速、ワープドライブの使い手であるミディア・スターゲイザーが『古代遺跡船』にて、抗体作成の研究を進めている。
だが『古代遺跡船』と『スペースシップワールドの科学の粋』の総力をあげても、通常の方法で、オロチウイルスの抗体を短期間に完成させる事は『奇跡でも無い限り』不可能であろう。
「そこで、猟兵の出番でござる」
猟兵の力……『ユーベルコード』こそ、『奇跡』の力である。
「貴殿らの持つ『ユーベルコード』を駆使し、オロチウイルスの抗体研究を急ぎ進めていただきたい」
各自が取り組めるのは、研究の一部分となるだろうが、その成果はミディアがとりまとめ、抗体作成に生かしてくれる。
古代遺跡船の研究施設は、スペースシップワールドの多くの船から持ち込まれた多種多様な機材が運ばれており、広大な研究エリアが発生している。それぞれのユーベルコードを、存分に応用を効かせて発揮して欲しい。
「どうか貴殿らの『奇跡』の力をお貸しくだされ!」
小鳥遊ちどり
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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オロチウィルスの抗体研究を超スピードで進めるために、どんなユーベルコードをどう使うか? という頭脳系冒険シナリオです。
とはいえ、生体実験も要るでしょうし、肉体派の方もユーベルコード次第で大活躍できるかもしれません。
戦闘ではあまり出番のないユーベルコードも、工夫次第で活躍させられるチャンスかもしれませんね。
ではでは、どんな技が出てくるか、楽しみにプレイングお待ちしております!
第1章 冒険
『オロチウイルスの抗体を開発せよ!』
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POW : オロチウイルスを摂取し、未完成の抗体とユーベルコードを駆使し、全力で耐え抜く事で抗体のヒントを得ます
SPD : 圧倒的処理速度で演算を行なったり、肉眼では確認できないウイルスの動きを見切り、その特性を導き出します
WIZ : 集積された膨大な情報を高速処理するなど、ユーベルコードを利用して開発に貢献する
👑11
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ヨハン・デクストルム
大量の人命がかかっていますから、全力で無茶します。
【WIZ】短剣にUCを使用し、自分に突き刺すことで一時的に脳の能力を底上げします。損傷も強制的に治癒させ続けながら書類や口頭によって情報を吸収し、演算と解析を行います。
使用技能:激痛耐性、第六感、学習力、見切り、失せ物探し、医術、早業、情報収集、串刺しなど
「大量の人命がかかっていますから、全力で無茶します」
ヨハン・デクストルム(神亡き狂信者・f13749)は白皙にほのかな笑みを浮かべて宣言し、ユーベルコード【過ぎたるは及ばざるがごとし】を短刀・亡神の楔に使用した。
そして短刀を握ったまま利き手を後ろに回し、周囲が止める間もなく、なんと、自らの延髄のあたりに躊躇うこと無く突き刺した――!
非常に過激な方法だが、彼のユーベルコードは『自身の装備武器に【過剰な治癒の力】を搭載し、破壊力を増加する』というもの。強引にターゲットの代謝を促進させることによって、自己崩壊を招くような感じであろうか。
それを今回は、自分に使うことで一時的に脳の能力を底上げしようというのだ。
人間の脳は普段は10%ほどしか使われていないという説がある。ダンピールのそれはどのくらいか分からないが、代謝を上げることによって脳の使用率と情報の伝達速度を上げようという狙いだろう。
オロチ・ウイルス抗体研究のデータ処理は、当然『古代遺跡船』のスーパー・コンピューター上で行われているが、やはりこの危機的状況には、人によるひらめきも欠かせぬとヨハンは考えたのだ。
「この状態で、演算と解析を行います。資料を下さい。まだ資料のできていないデータは、口頭で報告してくださっても結構です」
ユーベルコードの効き目で、彼の首の傷は早くも治りかけている。頬も、いつになく血色がいい。脳内ではすでに、通常の何倍、いや何十倍何百倍という電気信号が飛び交っているのだろう。
だが、ヨハンはダンピールにしては体が弱い。このギリギリのバランスで成り立っている危険な能力アップを、体力的にいつまで続けられるか……。
一般研究者たちが慌てて資料を机に積み上げる。ヨハンはその前に座り、
「では、始めます」
猛烈な速さで読み込みを始めた――必ず、人類を救うひらめきがやってくると信じて、力の限り。
大成功
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髪塚・鍬丸
SPDで行動。
敵の使う未知の技術の解析、対策も忍者の仕事の一つ。やってやろうさ。
設備を借りてウイルスの解析に挑む。
培ってきた【世界知識】を活かし、【早業】も使って高速でトライ&エラー。 忍者として鍛えた感覚に【第六感】【見切り】も加えてウイルスの特性を掴む。
ユーベルコード【求蓋の外法】を使用。こいつは、「修練を重ね知識と技術を磨いた未来の自分」の可能性を呼び出し力を借りる術。「ウイルスの研究を重ね、その解析法を掴んだ自分」を未来から呼び出す。
可能性が無く呼び出せないなら、更に研究を重ね、仲間ともブリーフィングを行い知識と技術を高めていく。
僅かでも可能性が生れたなら、必ず掴んで呼び出してやるぜ。
髪塚・鍬丸(人間の化身忍者・f10718)は、猛烈な勢いで勉強していた。【世界知識】や【早業】を使い、何をそんなに必死で勉強しているかというと、もちろんウイルスについてである。
幸い、今の『古代遺跡船』には、その道の専門家や資料が『解放軍』中から集められているし、学ぶにはもってこいの環境だ。解析や実験も実践できる設備も整っているのだから。
「よし、そろそろやってみるか」
しばしの後、ウイルス一般と、オロチ・ウイルスについての基礎知識を身につけた鍬丸は、山のような書物と実験器具、そしてモニターの中で立ち上がった。
「敵の使う未知の技術の解析、対策も忍者の仕事の一つ。やってやろうさ」
不敵に笑うとユーベルコード【求蓋の外法】を発動した。
「臨む兵、闘う者、皆 陣列べて前を行く」
この技は『修練を重ね知識と技術を磨いた未来の自分』の可能性を呼び出し力を借りる術である。
今回彼が呼び出したのは――。
「修練を重ね、オロチ・ウイルスに関する知識と技術を磨いた未来の自分……のはずだ」
召喚された10年後の鍬丸は白衣姿であった。それはすぐに本物の彼にスウッと重なった。
「おっ……」
10年後の自分の能力を借りた鍬丸は、自分の周辺に積み重なったオロチ・ウィルスに関する資料に、次々と目を通し。
「わかる、わかるぞ!」
興奮した声を上げた。
現時点での鍬丸は、ウィルス学を猛勉強しはじめたばかりで素人に近い知識しか持っていなかった。だが、この勢いで学習と勉強を続けていった10年後の鍬丸は。
「さすが10年後の俺だ……!」
10年後の鍬丸は、オロチ・ウイルスの複雑な構造を理解するところまで、知識を深めていた。
「ミディアに報告しよう、そして更に実験を進めるんだ!」
鍬丸は10年後の自分が得ていた知識をミディアに報告すると、すぐさま実験を再開した。更にウイルスの特性を掴もうと、一般研究者たちの手を借りて、高速でトライ&エラーを繰り返す。忍者として鍛えた感覚に【第六感】【見切り】の技能も、大いに役立てて。
大成功
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ジロー・フォルスター
「いつもやってる事の応用だ。問題ないぜ」
医療を学んだ者の出番だな
抗体を作る他に症状も調べておこう
帝国がどんな手を打ってくるか分からねぇ以上、他で撒かれた場合にも有用な情報になる筈だ
オロチウイルスを摂取して【医術】の観点から【情報収集】
【毒耐性・呪詛耐性・激痛耐性】に【オーラ防御】と体の内側は強いほうだろう
『生まれながらの光』で癒しつつ、輸血パックを用意して貰って【吸血・生命力吸収】で耐え抜くぜ
(吸血鬼に対抗しようと全身に刻んだ聖痕のおかげだな…まさかこんな時に役に立つとは思わなかったが)
ウイルスを倒して【医術】を元にレポートを書くぜ
もし余裕があれば、他の被験者の回復にも手を貸せるといいんだがな
土斬・戎兵衛
【POW】
銀河帝国を討ち滅ぼしたら、解放戦線の旗頭たるミディアのねーさんはきっとお偉い立場になるんだろうな
活躍して今のうちに媚びを売っとこーか
聞くに恐ろしきオロチウイルスの凶悪性。それはもはや作り手による"技"の域であろう
敵の技を受けて"殺し"を真似び剣技に落とし込む拙者のUCの出番でござるな
ウイルスを摂取し耐えた果てに拙者が如何ような剣技を編み出すか、そこからウイルスの性質を推察するでござる
技の借用が可能になったら適当な柱にでも使用
自分の太刀筋や切り口、肉体の運びなどから予測を立てよう
協力してくれる同業や解放軍の者がいたら動きを見てもらおうか
オロチの首を落とすは侍の刃と相場は決まってるものよ
城石・恵助
行動:ウイルスを摂取し、生体実験に協力
難しいことはよくわからないけど
もはや人とは呼べないこの体でも、役に立てることがあるのなら…
使うUCは【フードファイト・ワイルドモード】
これはつまりウイルスとの戦闘だ
体の免疫細胞を活性化させてウイルスに対抗しよう
そしてこのUCの効果を上げるため…僕はひたすら焼き肉を食べる!!
〈大食い・料理〉
抗体を得るため、目の前のお肉のためにも
僕は途中で倒れるわけにはいかない
辛くなったら〈激痛耐性・毒耐性・気合い〉で耐えよう
また、このUCは肉の質も重要だ
普段ちょっと食べられないようなお高いやつを選ぼう
決して僕が食べたいだけとかそういうのではないよ
領収書は鬼照宛に切っておくね
ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と同行希望
・他の人との絡み、アドリブ歓迎
オロチの仕掛けたジャミング装置で、わたくしは見ました。
過去の悪夢と、心を苛む絶望を。
オロチの目的が「人々に闇と絶望をもたらす」ことであるならば、それを打ち破る鍵はきっと「未来への希望」……
自らウィルスを接種し被験体となったヴォルフや皆さんが倒れないよう寄り添い「祈り」と「優しさ」を込めて看病します。
病魔の苦痛と絶望に心が折れないよう【シンフォニック・キュア】で優しい歌を歌い、急激に容態悪化した人には【生まれながらの光】で高速治療を。
大丈夫、わたくしがついています。
猟兵は人々の最後の希望。
貴方の命、ここで散らせはしません……!
ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と同行希望
・他者との絡み、アドリブ歓迎
オロチウィルスか……なんという非道な真似を。
俺たちの力で「奇跡」とやらを起こしてやろう。
自ら被験体に志願しウィルスを接種。
【無敵城塞】と「激痛耐性」で苦痛を耐え抜く。
「内側からのダメージ」に【無敵城塞】がどこまで耐えられるかは分からんが……否、耐えて見せるさ。
俺たち猟兵は人々を守る防人にして最後の希望。
幾多の戦いを乗り越え、多くの傷を、苦痛を背負ってきた。
「自分自身との戦い」も制してみせよう。
俺たちがこうして耐えている間に、きっとヘルガや仲間たちが研究を進めてくれる。
俺は、お前たちを信じているぞ……。
多くの猟兵が自ら治験体をなることを志願し、その身体と技とをこの壮大な研究に捧げていた。
ジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)もそのひとり。
彼は自分の身体でワクチンを育てるばかりではなく、医療を学んだ者として、オロチウイルスの症状をも苦しい身体状況の中記録し続けていた。
「(吸血鬼に対抗しようと全身に刻んだ聖痕のおかげだな……まさかこんな時に役に立つとは思わなかったが)」
病床でせっせとレポートを書くジローの元に、癒し手としてプロジェクトに参加しているヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が、
「ジロー様、随分お苦しそうです。わたくしに癒させて下さいませ」
厳重な防護服に包まれた姿で心配そうにやってきた。
ジローはヘルガに苦しげながらも笑みを見せた。
「ありがとよ。でも、いつもやってる事の応用。問題ないぜ」
【毒耐性・呪詛耐性・激痛耐性】に【オーラ防御】。敵の攻撃から身を守る術を応用し、更に輸血パックからの吸血で体力の減退をも防ぐという用意周到ぶりだ。
「帝国がどんな手を打ってくるか分からねぇ以上、俺のレポートは、他で撒かれた場合にも有用な情報になる筈だ。他の被験者の看護の参考にもなるしな。提出を急がなくちゃいけねぇ」
「ご立派ですわ」
そう言いながらも、ヘルガがまだ心配そうなので。
「いざとなったら、俺は『生まれながらの光』で自己回復もできるから大丈夫さ。ヘルガは他のヤツを看てやってくれ」
「では……苦しくなったら、いつでもお呼び下さいませね」
ヘルガは何度も振り返りながらジローのベッドを去っていった。
「……仲間ってのは、ありがたいもんだな」
ジローはそう呟いてから、
「さて、レポ-トの続きだ……ッてててて……ッ」
様々な技能を使っていても、時折襲ってくる節々の激痛は耐えがたい。
「畜生、オロチウイルスめ、見てろよ……絶対抗体を間に合わせてやる」
ジローは高熱に火照る顔を、再びモニターに向けたのであった。
「本当に大丈夫ですか……?」
「大丈夫でござる……将来への投資と思えば、このくらい屁のカッパにござる」
やはり生体実験に参加した土斬・戎兵衛(営業広報活動都合上侍・f12308)は、オロチウイルスのダメージから立ち直り始めたところ。まだかなりヨロヨロであるが、防護服を着た一般研究員の手をかりてベッドを降り、愛刀『本差し・分渡』を取った。
「聞くに恐ろしく、罹るはもっと恐ろしい、オロチウイルスの凶悪性。それはもはや作り手による『技』の域であろう。敵の技を受けて『殺し』を真似び、剣技に落とし込む拙者のUCを発揮するのは、ウイルスを打ち負かしつつある今をおいてござらぬ……!」
彼が使おうとしているのは『対象のユーベルコードを防御すると、それを剣技の形に落とし込み、1度だけ借用できる』という技である。
戎兵衛、ゼエハアしながらなんやかやカッコイイことを言っているが、
「(銀河帝国を討ち滅ぼしたら、解放戦線の旗頭たるミディアのねーさんはきっとお偉い立場になるんだろうな。活躍して今のうちに媚びを売っとこーか)」
なーんてことも思っていたりもする。
どちらが本音かは窺い知れないが。
何はともあれ、戎兵衛は病棟内に用意してもらった、特設試し切り部屋へとやってきた。部屋の真ん中に巻き藁が立ててある。
「ウイルスを摂取し耐えた果てに、拙者が如何ような剣技を編み出すか……そこからウイルスの性質の一面が見えてこよう」
戎兵衛は反りの大きな湾刀を抜き、ユーベルコードを発動した。
「経験全テ殺刃ノ研鑽ト成ス――敵から向けられた『殺し』これもまた上質な砥石でござる……ッ!」
気合い一閃。まだ病が抜けきらない身体としては、見事な太刀筋である。巻き藁はスパリと二分され、上半分が床に滑るように落ちた。
が、戎兵衛は首を傾げている。
「太刀筋や切り口、肉体の運びから、ウイルスの特性が見えてくるかと思ったのでござるが、特にコレといった特徴は出なかったような……失敗でござろうか」
「いえ、少々お待ちください」
同行した研究員は、斬られた藁の切り口を調べ始めた。すでに開発されていたオロチウイルスを感知すると反応する試薬を垂らす……すると。
「うわあ、見てください!」
「おお、なんと!」
藁の切り口に、激しいウイルスの反応が見られるではないか!
ウイルスの特性を一時的に得た戎兵衛は、刀をも通して感染する力を得ていたらしい。
「なんという感染力……」
オロチウイルスの凄まじい感染力を改めて確認することになり、背筋にゾッとするものを覚えずにいられない。
「抗体の開発を急がねば……!」
損得抜きでそう決意した戎兵衛であった。
「うう……ッ……」
城石・恵助(口裂けグラトニー・f13038)は、全身の激痛と高熱の苦しさに、思わずうめき声をもらした。
「まあ、大変……っ」
しかしヘルガがとんできて、急ぎ【生まれながらの光】で病状を和らげてくれた。
「ありがとう……助かったよ」
優しい光を受けて、恵助はベッドの上でホッと息をついた。
――難しいことはよくわからないけど、もはや人とは呼べないこの体でも、役に立てることがあるのなら……。
と、自ら希望してウイルスを摂取し、生体実験に協力しているとはいえ、なかなかつらいものがある。
しかし彼にはとっておきの秘策がある。
技能の【激痛耐性・毒耐性・気合い】を使い、なんとかベッドに起き上がった恵助は。
「ごめん、ちょっとそこのコンロ取ってくれる?」
「これ……でしょうか?」
ヘルガは首を傾げて焼き肉用のコンロをベッドテーブルの上に置いた。
「ありがとう。あともうひとつお願い、冷蔵庫に桐箱が入ってるんだけど」
出してもらった桐箱には『松坂の牛 特上ロース』と書いてある。
「これこれ。これがあれば、僕はウイルスになんか負けないんだ!」
恵助はコンロを温め、ユーベルコードを発動した……もちろん、フードファイト・ワイルドモード! 肉を食べまくることにより、体の免疫細胞を活性化させてウイルスに対抗しようというのだ。
ほどよく温まったコンロの上に、松坂の牛・特上ロースを乗せる。ジュウッといい音がして、すぐに肉の焼ける美味しそうな匂いが病室に充満した。
「抗体を得るため、目の前のお肉のためにも、僕は途中で倒れるわけにはいかないんだ……だから……よし、食べ頃! いっただっきまーす!!」
大きな口でぱくり。
「うーん、美味しい。今回のミッションは肉の質も重要だからね、普段ちょっと食べられないようなお高いやつだから格別だ。あ、決して僕が食べたいだけとかそういうのではないよ?」
防護服なので表情は見えないが、ヘルガは唖然としてばくばく肉を食べる重病人を見つめているようだ。
「ヘルガさんも食べる?」
「い、いえわたくしは防護服も着ておりますし……一旦失礼致します。また具合が悪くなったら、いつでもお呼びくださいませね?」
「うん、ありがとう。でも僕はお肉食べてれば、多分大丈夫だから!」
ところで、松坂の牛の箱の隅にくしゃっと挟まっている請求書……宛名が鬼照宛に見えたのは気のせいだろうか……?
ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)が、痛みと高熱で目覚めると、見慣れた青い瞳が、防護服のバイザー越しに心配そうに見下ろしていた。
「ヴォルフ……大丈夫ですか?」
「ヘルガ……」
ヴォルフガングも自ら被験体に志願しウィルスを接種し、ユーベルコード【無敵城塞】、技能の『激痛耐性』を発動した。それでも最凶の殺人ウイルスであるオロチウイルスの影響を全て無効化するには至らず、苦しい時を過ごしている。
ベッドの際に腰掛けたヘルガは、
「随分苦しそうでした。【生まれながらの光】を浴びますか?」
無敵城塞発動中で身動きの取れぬヴォルフガングは目だけを動かして、
「いや、体内で抗体を育てねばならぬのだから、強力なヒールを受けるわけにはいかんだろう」
そうですか、とヘルガはせつなげにうつむき、
「……オロチの仕掛けたジャミング装置で、わたくしは見ました。過去の悪夢と、心を苛む絶望を。オロチの目的が『人々に闇と絶望をもたらす』ことであるならば、それを打ち破る鍵はきっと『未来への希望』……そうわたくしは思います」
「そうだな……このオロチウィルスという非道な発明品も、人々を絶望に陥れるものに他ならない。俺たちの力で『奇跡』とやらを起こしてやろう」
「大丈夫、わたくしがついています」
「ああ、俺たち猟兵は人々を守る防人にして最後の希望。幾多の戦いを乗り越え、多くの傷を、苦痛を背負ってきた『自分自身との戦い』も制してみせよう」
ヘルガはヴォルフガングの――騎士の手を取った。
「猟兵は人々の最後の希望。貴方も、他のお仲間も、絶対に護ってみせます……!」
「俺たち被験者がこうして耐えている間に、きっと仲間たちが研究を進めてくれる。俺は、お前たちを信じているぞ……」
「はい、任せてください」
頷いたヘルガに、ヴォルフガングは。
「よければ……少しだけ歌ってくれないか」
「はい、喜んで」
ヘルガはユーベルコード【シンフォニック・キュア】を発動し、静かに歌い始めた。精一杯の祈りと優しさを込めて。
癒しの歌声に包まれ、ヴォルフガングはベッドの上で目を閉じた。
防護服の手袋越しに、ヘルガの手のぬくもりを感じながら。
大成功
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