ブルー・マゼンタ・ブルー
●Overwhelmed
透徹たる水。ゆらめく水面の波模様を映し、音もなく静かに揺蕩う。
游ぐ魚が影を落とし、そしてまた木漏れ日のような光が降り注ぐ。
アクアリウムは滄海の箱庭。
マンタの尾が糸を引き、イワシの群れが頭上を行き交う。
チューブをくぐれば外洋のただ中に放り込まれたかのようで、
ガラスの曲線上を腹ばいに撫ぜる、コバンザメの姿。
視界を埋める新鮮さの波が、あっという間に日々の記憶を遠のかせる。
だから、水族館は人々の憩いの場だと……そう、思っていたのだけれど。
ダイバースーツに身を包んだUDC職員、シノのシュノーケルから気泡が漏れる。
海洋調査が専門のシノが働く水族館の別館は、
UDC組織の秘匿施設としてあるモノを封じる為に設営されていた。
魔術媒体の鎖に繋がれ水底に眠る、人魚のような女性。
彼女こそ、世界を侵すUDCクリーチャーだ。
敵を斃すには識らねばなるまいと、組織は命がけUDCを捕獲し研究対象とした。
一手間違えれば休眠は解け、自身も同僚も貢ぎものと化す。
狂気に苛まれ、それでも毎日気を保ってきた。
大丈夫、大丈夫――この透明な柩に居れば、彼女は目醒めない。
シノはふいに、自身の手首を掴まれるのを感じた。
「ねえ……あなた。私の歌を聴きたくなくて?」
青、蒼、アオ。
視界埋め尽くす一面のブルーに絵の具を溶かしたような赤が混ざり、マゼンタへ。
意識が色に染め上げられたこの日が、シノが対処を誤った最初で最期の日となった。
●Overture
多相に変化するグリモアベースの光景に、緑髪の女性が目を瞬く。
まだ景色が珍しいのだろう。女性は暫し我を忘れていたが、あなたたちが集まったのに気付いて慌てた様子でお辞儀をした。
「皆さん、お越しいただきありがとう、ございます。今回の依頼を担当する、ロジータです。よろしくお願いします、ね」
人前に立つのにまだ慣れないというロジータ・プラウディンは、情報を不足なく伝えようと手元のメモを見ながら話していく。
「UDCアースではUDCの怪物と戦うため、組織の職員さんが日夜働いてるそうです。時に危険を承知で怪物を捕らえ、生態研究をしたりもするそうで」
勘のいい何人かがこの後起こる事に気付き、険しい眼差しになる。いかに組織の者とて人間だ、生身で魔術の加護もなくUDCと接触していればどうなるか。
「……おそらく怪物の前で正気を保てなかったのだと思うんです。憔悴した職員さんが操作を誤って、休眠措置を解いてしまうのが視えまして」
だから大事になる前に現地へ向かい、職員のケアと怪物への対処を行ってほしい。
それが今回のロジータからの依頼だった。
UDCの怪物の名は、『死の伴奏者』エリューズ・ニール。
純白の人魚の如き彼女は風貌と似つかず残忍で、たぶらかした者の命を手折り、死の合唱団を作り上げるという。
エリューズ・ニールは現在水族館にカモフラージュされた研究施設の水槽内に沈んでいるが、休眠状態とはいえ、封印を解かせるよう干渉していてもおかしくはない。
「彼女は、少年少女ですとか、中性的な容姿の方に執着を見せるそうです。万一戦いになった時は気を付けて下さい、ね。逆手に取る事もできるかもしれませんが、危険は伴いますから……」
くわえてUDCが囚われているのは水中だ。
魚たちは別のエリアにいるため被害は出ないが、UDCが実力行使に出た場合は水中戦を挑み、討伐する事となるだろう。
怪物の事も気にはなるが、それはそれとしてUDC職員にはケアが必要だ。
どうすればいいかと悩む猟兵たちへ、ロジータは大丈夫ですよと安心させるように微笑んだ。
「普通にしていればいいんです。まずはお客さんとして、水族館を訪れてあげて下さい。研究施設として建てられた別館には来客もまれで、職員さんも水族館のあるべき光景を忘れかけてるみたいですから」
もちろん職員に声をかけ、適切なケアをすれば事態の悪化は防げるだろう。
だが全員がそうまでしなくとも、あるがままの日常の景色はそれだけで職員たちの心を癒すはずだ。
説明を終えたロジータは、手のひらの上に真新しいグリモアを翳す。
転送の光が零れ、あなたたちを包む。
「いってらっしゃい、気をつけて。でもどうか、喜びたのしむ事も忘れないでください……ね」
緊張で途切れながらも話すオラトリオの彼女に見送られ、あなたたちの視界は水面のゆらぎにも似た、穏やかな光に彩られていった。
晴海悠
お世話になっております! 晴海悠です。
水族館にお出かけしてみませんか、のお誘いにあがりました。
もちろんUDCへの対処も込みですが、ありふれた日常の風景を演出するのも立派な役目。
水族館だけ、戦いだけなど、気負わずお好きな形でご参加頂ければ幸いです!
『一章 日常』
水族館別館での一幕。
海洋の生態系を模した水族館でのんびりお過ごし頂けます。
水族館は一般公開エリアと分けられており、実質貸切状態です。お魚たちの住むエリアとUDC封印区画は分けられているので、その点もご安心ください。
職員のシノとの接触は必須ではありませんが、狂気に苛まれた彼女に適切なケアを行なえば誤って封印を解く事を防げるでしょう。
『二章 集団戦』
UDCの封印解除を阻止できた場合、UDCは配下を呼び出して実力行使に訴える事が予想されます。
正体は不明ですが、なんとなく可愛いシルエットが見えたとか(ボスUDCの趣味?)。でもきっちり懲らしめて下さいね!
『三章 ボス戦』
死の伴奏者・エリューズ・ニール。
少年少女をかどわかして死の合唱団を作るのが趣味の、白いドレス纏う人魚です。
隔離エリアの水槽内での水中戦となります。猟兵であれば溺れる事はありませんが、明確な備えがあればより有利に戦えるでしょう(ダイビング用の器具はUDC組織から貸与されます)。
『その他』
職員のシノは館内を歩いているので、すぐに会えます。アウトドア好きで探求心旺盛な女性職員です。
グリモア猟兵のロジータは同行しません。皆様自身の物語としてお楽しみ下さい。
それではリプレイでお会いしましょう。どうぞ、佳い一日を。
第1章 日常
『水の世界へ』
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POW : 水族館を満喫する。
SPD : 水族館を満喫する。
WIZ : 水族館を満喫する。
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陽光を思わす天上からの光に、銀の群れが渦を巻く。
大衆の目から隔離されたその水族館は、魚たちが環境に慣れるための
調整水槽という名目の下、UDC組織の管轄下に置かれていた。
誰も訪れぬのをいいことに、魚たちは悠々自適に游ぐ。
チューブの上、マンタがひれを波打たせてゆったりと横切り、
サンゴを思わす岩礁エリアには身を隠す熱帯魚の姿。
大海にいた頃と変わらぬ姿で、彼らは日々を過ごしていた。
売店やアメニティの類はない他は、普通の水族館と変わらぬ設備。
今ならば、貸切に近い状態で内部を散策するのも叶う。
内部で清掃にあたる職員たちも、普段の仕事は水族館と変わらぬもの。
望むなら、簡単なガイド役も請け負ってくれそうだ。
秘められたこの水槽は、水面から水底までを静謐に満たされている。
好奇に目を輝かせてはしゃぐ、幼子の視線も知らぬ。
だからどうか、教えてあげてほしい。思い出させてほしい。
あなたたちの営むアクアリウムはこんなにも、
人の心を惹きつけてやまないのだと。
神臣・薙人
UDCアース
私にとっては初めての世界ですが
シノさんが犠牲になる前に対処しなくては
水族館の光景を満喫しつつ
さり気なくシノさんを捜索
出会えたら挨拶を
素敵な水族館ですね
これだけ沢山の魚たちが
一箇所に集まっているなんて
とても見応えがあります
あのお魚は、なんというお名前でしょうか?
シノさんの様子を見て疲れが見えるようであれば
お疲れではありませんか?
お仕事も大切ですが
必要な時に休息を取る事も大切ですよ、と
休憩を提案
しっかり休んで疲れを取った方が
作業効率も上がります
眠れないようでしたら
お手伝い致しますが…
シノさんが必要とされていれば
桜の癒やしで睡眠の手助けをさせて頂きます
後の事は、私たち猟兵にお任せ下さいね
強化ガラス越しに目に飛び込んでくる、青の散光。
水槽の奥深くまでを照らす青に馴染みある文明の色を感じ取り、神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は柔く眦を下げた。
「UDCアース。私にとっては初めての世界ですが」
観光もして回りたいところだが、そう長く時間は取れない。何より運命予報士であった少年の意識は、既に未来の惨劇へと向いている。
「……シノさんが犠牲になる前に対処しなくては」
かつて飽きるほど視た、断末魔の光景。それを防ぐ事が責務なのは、今も昔も変わらない。
本館ほどの広さはないものの、研究施設を兼ねた別館の水槽は多種多様な生態を模していた。
河川湖沼の流れを再現したエリアに、タカアシガニの歩く深海エリア。それらを見て目を楽しませながらも、薙人はこの日一番の目当てを探し当てた。
「こんにちは。素敵な水族館ですね」
声をかけられた女性、シノは驚き振り返るも、組織づてに猟兵が来るとは伝わっていたのですぐに口元を綻ばせた。
「あら、来るとは聞いてたけど別館の方に来てくれたのね」
「ええ。これだけ沢山の魚たちが一箇所に集まっているなんて、とても見応えがあります」
「そう言ってもらえると管理しがいがあるわ。この子たちはまだメインの本館へ送る前、慣らしてる途中なの」
口ぶりから恐らく、ここの魚は搬入して日が浅いのだろう。丁寧な飼育環境に愛情を感じた薙人は、游ぐ魚たちの名前を尋ねていく。
シノは、魚の生態の踏み込んだ質問にもよく応えてくれた。その顔にはにわかに血色が戻り、だからこそ目元の隈が影のように際立って見えた。
「あの、時にシノさん」
「うん?」
「お疲れではありませんか?」
嬉々として語るシノの解説が、はたりと止む。好奇心に駆られた研究者が寝食を忘れるのは侭ある事だが、彼女を憔悴させた原因はそれとは別だ。
「お仕事も大切ですが、必要な時に休息を取る事も大切ですよ。しっかり休んで疲れを取った方が作業効率も上がります」
窘めるような少年の声。まるで面倒見のいい姉が突然弟に咎められたように、シノはバツの悪そうな表情になる。
「眠れないようでしたらお手伝い致しますが……」
「やーね、そこまで重症じゃないわ! ……でも、ありがと」
薙人は必要であれば睡眠の手助けをと思っていたが、シノはこの後の水槽番を別の研究員に代わり、仮眠をとると約束してくれた。
しばし館内を見て回ろうと、去る背中へ。
「……後の事は、私たち猟兵にお任せ下さいね」
鈴のように凛とした薙人の声が、追うように駆けた。
大成功
🔵🔵🔵
冬原・イロハ
初めての水族館にわくわくと入館
質量があるような静かな空間にどきどきですね
動きもそろりそろりに
大きな水槽を見上げると口もあんぐり開きそう
ふわりゆらり悠々と泳ぐ、あれがマンタさん。素敵ですねぇ
上を泳いでいたり、下の方を泳いでいたり、近付いてきたら私も思わず寄って行っちゃいます
マンタさんの動きを目で追って
次は近くの魚たちに意識が向いて
イワシの大群はちっともじっとしていなくって、銀の輝きが綺麗
スタッフさんお写真撮っても良いか尋ねます
OKならフラッシュをオフにして、スマホでパシャッと
はわ、じっとしてないから上手く撮れませんね
たくさんの生き物
そうですね
いまは、心が落ち着く青の景色を飽くことなく眺めましょう
これまで凡そ目にした事のない、水底からの眺め。青く透いた水に触れようとした白い手は、分厚い透明な壁に阻まれた。
大水槽の前におっかなびっくり足を運んだ冬原・イロハ(戦場のお掃除ねこ・f10327)は、ハロゲンランプの照らす向こう側の景色を首が痛くなるまで見上げた。
大気と違う重たさに満ちた、光の揺らめき。俊敏な小魚のターンに砂が舞い、ゆっくり流れに乗って別の所に落ちる。
小さな命に見入っていたイロハの目は、眼前を横切るより大きな生き物に釘付けになった。
「あれが……マンタさん。ゆったりまったり、素敵ですねぇ」
水中を滑るように泳ぐマンタは最大の種とはいかないまでも、体の幅は成人男性の倍以上。ケットシーのイロハだと十人並んでやっと横断できるほど、背に乗るならしっかりしがみつかねば流されてしまいそうだ。
遠く水面近くへ行ってしまったのをぴょんぴょん飛び跳ねて見ようとし、下の方に来ればととと、と追いかけて近くで見ようとし。好奇心のままにマンタを追うイロハの視界を、今度は銀の流れが遮った。
「わわ」
それがイワシの群れと分かる頃には遠く向こうへと泳ぎ去り、手の届かない所で渦を作る。まるで大海の渦潮に銀の絵の具を溶かし、色を付けたよう。うねり、廻り、途端に散って、いつまでもイロハの心を掴み離してくれない。
ふと通りかかった職員に気付いたイロハは、振り返っておずおずと声をあげる。
「えと、すみませんっ。お魚さんのお写真、撮ってもいいですか」
水族館の職員はフラッシュをたかないならとの約束付きで、快く撮影を許可してくれた。スマートフォンを小さな手のひらで構え、意を決してぱしゃり。
ぱしゃっ。ぱしゃしゃしゃっ。
つい長押しで連写機能を使ってしまったが、釣果はというと。
「はわ、じっとしてないから上手く撮れませんね」
魚たちはどれもピンぼけか黒の渦。諦めのついたイロハは、眼のフィルムに焼き付ける事にした。
アクリル越しの魚たちは小さな来客にも悠然と泳ぎ、人慣れしていないのが嘘のよう。こちらが見えていないような様子には寂しさよりもむしろ、偉大な海の懐に迎え入れてもらったような温かささえ感じる。
(「たくさんの生き物……そうですね。いまは」)
心落ち着くこの青の景色を飽くことなく眺めましょう、と。海にも似た藍の瞳に、水面のゆらぎが映り込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
鉄・弥生
【鉄家双子】
悠生と手を繋いで巡るよ
あのお姉さんがシノさんかな?
ね、悠生。声掛けてみようよ
こんにちは。案内お願いできますか
私達、ラッコが見たいんだ
両親が昔、水族館デートで見たって聴いて
案内して欲しいのも本当だけど
シノさんには水族館の“日常”を思い出して欲しいの
ラッコに会うまでの道中
お魚達のこと、いっぱいお話してもらいたいな
美味しそう?もう、悠生ったら
でも、ちょっとわかるかも
みんな生き生きしてるもん
職員さん達が大事にお世話してるんだろうね
念願のラッコは私達みたいに手を繋いでる
ふふ、聴いてた通り。仲良しさんなんだね
え?もう、悠生!?
紅くなりつつ、お返しほっぺキス
…何だか、お父さんとお母さんみたいだね
鉄・悠生
【鉄家双子】
弥生と手を繋ぐ
おう、シノさんに声かけてみるか
折角だし案内して貰えるといいな
こんにちは!案内お願いしていいですか?
ウチの両親のデート真似して、ラッコ見てみたいなって
シノさんに色々質問してみる
好きだからここにいるんだろうし、その気持ちを思い出して欲しい
生き物に関わる仕事ってやっぱすごいと思うし
それにしても、どの魚も美味しそうだなー…い、いや、見た目も勿論綺麗って思ってるけどな!
やっぱ優秀な職員さん達がいるから、こんなに元気なんだな
お、本当にラッコが手繋いでる!かわいいなー
ふと悪戯心が湧いて、弥生を呼んで頬にキスしてみる
仲良しなのはこっちも負けないって
…!
ちょ、お返し来るとは…(真っ赤)
鉄家に育った仲睦まじい双子は、共に生きる、という字を名に授かった。
揃いのパーカーの袖を揺らし、鉄・弥生(鉄家次女・f35576)は繋いだ手をリズミカルに振りながら歩いていたが、研究員と思しき女性を認めて立ち止まる。
「あのお姉さんがシノさんかな? ね、悠生。声掛けてみようよ」
傍らの鉄・悠生(鉄家次男・f35575)に促せば、「おう」と短く声が返る。
「折角だし、案内して貰えるといいな」
研究棟へ向かうシノを呼びとめれば、振り返る彼女の束ねた長い髪が翻る。
「こんにちは! 案内お願いしていいですか?」
悠生が明るくも礼儀正しくそう告げれば、弥生が後ろから覗くように顔を出す。
「私達、ラッコが見たいんだ。両親が昔、水族館デートで見たって聴いて」
「あら、両親……ってことは。あなたたち、カップルじゃなくてご兄妹?」
一瞬返る言葉に「ちが……」と慌てるも、シノは思わず口走った言葉を笑って取り下げた。
「ううん、私の悪い癖が出ちゃった。詮索はよくないわね、どっちでもいいわ! 案内するからついてきて」
シノに続いて館内を歩けば、熱帯魚が群れ成して泳ぐ調整水槽が見えてきた。
「南の海の魚、あんな目立つ色してて狙われないのかな?」
悠生が思った疑問を口にすれば、シノは学者魂が疼いたのか声を弾ませる。
「あら、いいところに目が行くわね。この水槽だと分かりづらいけど、ほら。端っこの方、サンゴみたいなブロックが沈めてあるでしょ?」
シノの指さす方を見れば、黄色とオレンジのブロックの合間に身を隠す魚の姿を認め、弥生が「あ」と声をあげる。
「隠れてる。そっか、カモフラージュなんだ」
「よく見ないと気付かないでしょ? カラフルな方が有利な事もあるのよ……でも南がカラフルだってのは本当かしら?」
意地悪っぽく笑うシノが二人を別の水槽へ手招きすると、そこには冷たい海水の岩場に張りつく小さなフウセンウオの姿。ちいさくフグのように口を開く橙色の魚は、こちらを見上げながらぷくぷく小刻みに鰓を揺らしていた。
「あ、この子かわいい」
「オレンジ色が鮮やかでしょ! 実はね、北の海でも海底近くにはカラフルなお魚もいるの。でも、そうね。南の方が色に富む……カラフルなのは事実ね」
「それにしても、どの魚も美味しそうだなー……」
言った瞬間、悠生の頭の中で始まる連想ゲーム。活きのいい魚が晩ごはんへと連なり、ぐぐうとお腹が音を立てた。
「い、いや、見た目も勿論綺麗って思ってるけどな!」
「もう、悠生ったら。……でも、ちょっとわかるかも。みんな生き生きしてるもん」
「うん、まあ、ぶっちゃけ美味しいも大事よね?」
多分この職員、プライベートでは遠慮なく食ってるのだろう。UDC研究に忙殺されてなければ健康そうな人ではあった。
「やっぱ優秀な職員さん達がいるから、こんなに元気なんだな」
さりげなく褒めたつもりだったが、シノはがっつり照れたように屈託なく笑った。
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。仲間にも伝えとくわね!」
そういってシノは「ラッコだったわね」と二人を岩場を模したプールの近くへと連れていく。
水温が低いのか、ここまで来るとアクリル越しでも若干肌寒さが伝わってくる。念願のラッコは食後のおやすみタイムだったようで、二人仲良く手を繋いでいた。
「お、本当に手繋いでる! かわいいなー」
「ふふ、聴いてた通り。仲良しさんなんだね」
シノはふと『流されないよう手を繋ぐ』ラッコの習性の解説を入れそうになったが、少年少女の手前、言葉を飲み込んだ。夢のある想像を壊したくもなく、何より生き物たちの生態は分からない事だらけ。二人の解釈も、いつか遠い日に新たな学説となりうる事を思えば、口を出すべきではないと感じた。
「弥生」
「うん?」
ここでふと思い立った悠生、悪戯心のままにわずかに屈み、弥生の頬に口づける。飛びずさる少女の白い肌は瞬く間に上気し、信じられないように目を開いてこちらを見ている。
「え……? もう、悠生!?」
「仲良しなのはこっちも負けないって」
イチャつきだした二人に気を遣い、いつの間にかシノは姿を消していた。人目のなくなったのをいい事に、弥生は油断しきった悠生の頬へと返礼を見舞う。
「……! ちょ、お返し来るとは……」
「だって悠生だけじゃ、ずるいじゃない」
意趣返しでなく、純粋な好意の返礼。体面を繕う必要もなければ、こうして少女もデレられるというもの。
他愛もない、日々のやりとり。何気なく演じていた自分達の行いが、仲の良い両親のそれを辿ったものであると思い至り。
「……何だか、お父さんとお母さんみたいだね」
呟く弥生の頭上、心地よさそうに目を閉じた二頭のラッコが流れに身を任せ、静かに眠りの海を揺蕩っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
北・北斗
ヴォウッ、オウッ、オォウッ!
『貸し切りで水族館、なんか、おいしそうなのから、凄いのまで色々いるんですよ』
『ジンベイザメって大きいし大人しそうだよね』
北斗はトドである。普段から海に親しんでいる動物である。
今回は水族館で事件があるということで、参加するに至った。
マグロや鮭を見ると食いたくなる模様。
『怪魔の誘惑に負けないように、おいらも陽気に行こうと思うんだ』
時折前鰭をヒラヒラさせたりして、気をそらせようとする。
アドリブ歓迎
ヴォウッ、オウッ、……ヴォオウッ。腹の底から絞り出す低い鳴き声が水族館に響き渡る。
何とも驚くべき事にこの声は、水槽内でなく通路側に響いていた。
北・北斗(遠い海から来たトド・f20984)はトドである。マッドサイエンティストに囚われ紆余曲折あったが、生まれ育ったのはこのUDCアース。普段から海に親しむ者として、水族館の事件はどうにも他人事……他トド事に思えなかったのだ。
突如通路に現れたトドに、通りすがりの研究員が目を光らせる。
「ややっ。あれはトド(哺乳綱 鰭脚目 アシカ科)! 短い鳴き声からするにオス! うちにはいなかったはずだが一体全体どこから来たのかね?」
無駄にすばしっこいムーヴで背後に回り込む研究員に、北斗はヴォウッ、と短く威嚇の声を上げる。
『ひとのお尻をじろじろ眺めて、失礼だなぁ。おいら猟兵だよ?』
「む、頭に流れ込んでくるこれは……驚いた、こんな能力があったとは」
科学者の狂気の研究により得たテレパシーでささやかに抗議する北斗。姿かたちで驚かれないのが猟兵とはいえ、時には好奇心が先走る人もいるようである。
『なんか、おいしそうなのから凄いのまで、色々いますね』
「ふふ、驚いたかい! ご覧の通り一般公開はされてないから、今日は君達で貸切だ」
ついてきたまえ、と歩く研究員に、前脚と後脚を交互に揺らして北斗が続く。
途中通りがかった南洋のエリアでは、海について博識な北斗でもあまり見た事のない生き物の姿があった。
『わあ、あれがジンベイザメ……大きいし大人しそうだよね』
陽光を模した光を遮り、悠然と漂う巨きな影。今は食事時でないのか、水面近くでなく水中深くを泳いでいた。
「実際大人しいもんだよ。あんなに大きい体をして、食べるのはプランクトンだからねぇ。あでも、魚の卵はしっかり頂くそうだよ」
やがて案内されたのは鮭やマグロが泳ぐ、北太平洋をイメージしたエリア。北斗にとっては故郷の海に近い、ある種の懐かしさを覚える光景だ。
『ああ、ダメですこんな……お腹が空いてきちゃう』
気を紛わすように前鰭をヒラヒラと振る北斗へ、姿をくらました研究員が戻れば、彼の両腕には餌用のアジやサバの姿。
「横流ししたのは内緒でね」
『……!』
つい自分が猟兵であるのを忘れ、餌にありつく北斗。この先の怪魔に立ち向かう元気は、どうやら補充できたようだ。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクトル・サリヴァン
UDC相手に分析とか研究とかできるものなんだねえ。
研究は大事だろうし、頑張ってる人が不幸になるのもよくないよね。
水族館を一般客のように普通に見て回るね。
同じ水の中ではよく見てるけどもガラスを通すと新鮮に感じるねー。
じっくりと観察もできるし意外な綺麗さに目を奪われたり。
チューブを通れば水の循環する音、水の中の色合いなんかも感じられて、景色に感じるのは新鮮さ。
…ペンギンとかもいたりするのかなー。白黒なんとなく親近感。
歩いていてシノさん見かけたらご挨拶。
きっとここの魚たち大切にされてるんだろうね。
大変だろうけど頑張ってるからこの風景が成り立ってるんだと俺は思うよ、と伝えるかな。
※アドリブ絡み等お任せ
ここはただの水族館にあらず、世界を侵す邪神に立ち向かう組織の叡智の集積体。
「UDC相手に分析とか研究とか、できるものなんだねぇ」
外界の目を欺きながら研究を続けるその執念に、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は思わず感嘆の息を漏らした。
聞けば、研究成果は常にリアルタイムで外部へ送信していると言う。それは仮にここの職員が全滅しようとも、抗戦を続ける意思の表れでもあった。
「研究は大事だろうし、頑張ってる人が不幸になるのは見過ごせないかなー」
うん、と大きく伸びを一つし、入館ゲートを潜る。エントランスからは既に、青く揺らめく大水槽が顔を覗かせていた。
水槽のそばには解説もなく、その殺風景さが生き物たちの姿を際立たせる。館内通路は水槽から射し込む光のほかは静けさに満ち、それが分厚いアクリルガラスの向こうとの隔たりを感じさせた。
「水の中からの眺めはよく見てるけども、ガラスを通すと新鮮に感じるねー」
キマイラとしても身長の高いヴィクトルには、潜り抜けるチューブの天井も比較的顔面に近い。だから目を凝らせば、腹ばいになったエイの口が何か濾しとるように動くのもよく見えた。
皆、自分達と同じだ。生きている。泳ぎ、食し、時に恋して他の魚を追いかける。大海を知らぬまでも彼らは生を謳歌していて、その息遣いが愛しく思えた。
「もしかしてペンギンとかも……いた!」
アクアチューブを抜けた先の大水槽、北極海近くを模したプールの中に飛び込む銀の泡。羽毛にたっぷり含ませた空気が、水中で羽ばたく彼らの軌跡を彩っていく。
「……白黒、なんとなく親近感覚えちゃうね」
元気に魚を追いかけるペンギンたちに目を奪われていたヴィクトルは、館内を歩いていく女性の姿に目をとめた。
「こんにちは。これからお仕事かな?」
「あら、いらっしゃい! そうね、そう思ってたんだけど……働きすぎはダメよって、さっきお優しい方にクギを刺されたから」
笑うシノは、これから仮眠室に向かう所だという。
猟兵たちと言葉を交わして幾らか気は晴れたろうが、眠って覚めればまた狂気の研究に身を置く日々だ。何かかけられる言葉はないかと探し、ヴィクトルは水槽を見上げる。
「きっとここの魚たち、大切にされてるんだろうね」
キマイラとて彼の半分は海の命、水槽内の生き物たちが活き活きとしているかぐらいは手に取るようにわかる。ペンギンたちは栄養状態もよく、適切な量の餌を与えてもらっているのだと伝わってくる。
「一般の目には触れないところだけど。皆さんが頑張ってるからこの風景が成り立ってるんだと、俺は思うよ」
「……ええ。肝に銘じておくわ」
ヴィクトルの言葉に背中を押され、「さ、ひと眠りして頑張るぞー」とシノは拳を突き上げ去っていく。
この光景を守るのが、彼女たち職員の務めで。そこに万一があるならば自分達の出る幕だと、ヴィクトルは自覚をあらたにするのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『にゃんドラボックス』
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POW : しゅぱっ(スイッチが奥に引っ込む)
非戦闘行為に没頭している間、自身の【箱の中に引き篭もり、トグル式スイッチ】が【OFFになる。スイッチを引っ込めて】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD : しゅぱっ(音速を超えるスイッチOFF)
レベル分の1秒で【スイッチを瞬時にOFFにする神速の行動】を発射できる。
WIZ : しゅぱっ(しかし箱から伸びてきた手でOFFに)
【スイッチON以外絶対に開かない箱】を披露した指定の全対象に【トグル式スイッチをONにしたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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館内通路に設けられたハザードランプが、不意に明滅する。
やがてランプの幾らかはすぐに火花を散らし、ただの飾りとして役目を放棄した。
からころと通路に角をぶつけながら現れた怪異は、なんとも奇妙な姿。
そろ~……しゅぱっ。
そろ~りそろ~り、しゅぱっ。しゅぱぱっ。……にゃっ。
物理接触、魔法による干渉、あらゆるものへの防備を備えた箱に引き籠る、
正体不明・分類不能の猫型UDC。
彼らを倒すには箱のスイッチを押し、
手が伸びるごくわずかな一瞬を突かねばならない。
伸びる猫の手はかわいくも見えるが、
館内を幾手にも分かれて彼らの向かう先は、研究施設のコントロールルーム。
突如湧いて出たUDCの怪物。
水槽に眠る人魚の手招いたものなら、狙いは封印解除スイッチにほかならない。
幾重にも封印措置を施してやっと、制御下に置かれたUDCの怪物。
その事の意味を軽く見積もる猟兵はいないだろう。
阻止しなくてはなるまい。
スイッチを押されるより早く彼らのスイッチを押し、悪い猫の手を叩かねば。
神臣・薙人
厄介なものを招いてくれたものですね
猫は好きですが
封印解除を狙うのであれば容赦はしません
通路が暗ければまず蟲笛で白燐蟲を呼び
戦場の光量を確保します
その後、猫型UDCと対峙
スイッチを押さなければ開かないのであれば
可能な限り箱に手が届く距離を維持
スイッチを押した直後に
箱の中へ桜の嵐を叩き込みます
箱の中から手が出た際は
その手を掴めないか試します
巧く行けばそのまま手を巻き込んで桜の嵐を使用
失敗した際も蓋が閉じ切る前に
白燐蟲を中へ送り込みます
一、二匹でも潜り込ませられれば…
戦闘中は相手の動きをよく確認
相手から箱を披露しようとする兆候が見えた場合
すぐに視線を逸らして回避を試みます
可愛いからって騙されませんよ
ジジ、と焼け落ちたランプが名残の火花を散らし、一瞬の明滅の後には敵の姿が網膜に焼きつく。
ぞろぞろと通路を埋めていく箱入り猫たちを見、神臣・薙人は苦々しく呟いた。
「……厄介なものを招いてくれたものですね」
薙人も猫好きのクチではあったが、目の前の怪異はゴーストとも違った禍々しい気を纏う。見目が可愛いとて油断がならぬとは、数々の妖獣との戦いで薙人も十分身に染みていた。
「封印解除を狙うのであれば、容赦はしません」
短く起動の言葉を唱え、戦衣を纏う。真白き羽織の翻るのに合わせ、幽世の蝶がひとひら、裾を櫻に彩った。
蟲笛の調べに従い、現れる白燐蟲が灯りの消えた通路を照らす。仄暗さは瞬く間に追いやられ、代わりに淡い生命の燐光が満たした。
「スイッチを押さなければ開かない、のであれば」
可能な限りにと手の届く距離で構え、スイッチへと手を伸ばす。
「……!」
しゅぱ、とコンマを争う速さで猫の手がスイッチを切るが、閉じ切る前にと、桜花に姿を変えた薙人の武器が嵐と吹く。だが僅かに間に合わず、猫の手は再び箱の中へと消えてしまった。
悔しがる薙人へ、今度は猫の側からアプローチ。
これ見よがしにトグルスイッチを見せつけ、『どうにゃ、押してみにゃはれ』とでも言いたげにふわりふわりと舞う、が。
「……その手には乗りませんよ」
瞬時に顔を背け、沸き起こる感情に蓋をする。猫は疾く倒すべき敵なのであって、スイッチで遊んでいる時間はない。
攻守交替してこちらの番、再びスイッチに手を伸べた薙人は先ほどとは別の策を講じた。
桜の嵐が間に合わぬならばと、指先に這わせた白燐蟲を箱の中へと滑りこませる。閉じた箱の中で始まる、白燐蟲の浸食。ゴーストを喰い荒らす来訪者の蹂躙は、果たしてUDCの怪物にもよく効いた。
ガタガタと揺れ始める箱に手ごたえを感じ、攻撃を躱して動向を見守る事しばし。
しゅぱっ……カタン。救いを求めるように伸べられた猫の手が、箱の蓋に挟まれ静かに息絶えるのを見た。
「これで……まずは一匹」
確実に効く手を編み出したならば、次は此れより早く殲滅を。残る数体のにゃんドラボックスへ向け、琥珀の双眸が静かに窄められた。
成功
🔵🔵🔴
鉄・悠生
お、箱入り猫!
本当だ可愛いな
やっぱ魚に惹かれてんのか
美味しそうだもんな
気持ちは分かるけど、ここのは観賞用だからな
腹減ってたら悪いんだけど、でも通せねーから
弥生が箱を開けて固定してくれるから
俺は『ダッシュ』『集団戦術』を活かして片っ端から撃破してく
ありがとな、弥生
後は俺に任しとけ!
『スナイパー』で猫の手を狙いすまし、降魔点穴を叩きこんで爆破
足りなきゃ闘気を纏った掌底突きで追撃
敵の攻撃は『オーラ防御』で防ぎつつ、弥生を『かばう』
弥生には指一本触れさせねーぞ
心配してくれてありがとうな、俺も大丈夫
弥生が一緒だからな!
…あ!肉球!
ふわもふな手の甲しか見てなかった!
ちょい待って、下から攻撃しながら見てみる
鉄・弥生
【鉄家双子】
ねえ、悠生
かわいいね、このUDC
お魚に惹かれて来たのかな
でも残念だね、あげられる物は何もないの
悪戯もさせないからね
私は箱の対処に集中するよ
敵本体の撃破は悠生に任せるね
【ミゼリコルディア・スパーダ】発動
苦無サイズの剣を数多、射程範囲内の箱へ放つ
箱一つにつき、数本の剣で包囲
剣の一本を使ってスイッチON
僅かに箱が開く瞬間を『見切り』
他の幾本かの剣を隙間に差し込んで
閉じられないよう邪魔しちゃうよ
それでも閉じようとするなら『誘導弾』
猫の手にグサッと剣を一本おまけしちゃう
これで隠れる場所はもうないよ
悠生、後はお願いね
ふふ、悠生は優しいね
私は大丈夫、悠生こそ気を付けて
あと、そのUDCに肉球ある?
妖怪、物の怪、機織り女。そこに悪意の或る無しを問わず、見目で油断させる手口は古来より存在する。
愛らしい猫の形態をとるUDCへの第一声は、水族館の生き物に対するのとさして変わらなかった。
「お、箱入り猫!」
朗々たる声に敵意や嫌悪感を僅かたりとも滲ませず、鉄・悠生は純然とした興味を覗かせた。鉄・弥生もいっそ倒すのが惜しいとばかり、愛嬌のある敵をこう評す。
「ねぇ、悠生。かわいいね、このUDC。お魚に惹かれて来たのかな」
「まあ、泳いでる魚元気あって美味しそうだもんな」
姿勢を屈めてチチチ、と野良猫を相手取るように舌を鳴らす悠生だったが、箱の中身が反応しないのを見て残念そうに眉を顰める。
「気持ちは分かるけど、ここのは観賞用だからなー」
ゆっくり立ち上がる少年の手には、握られた銀牙の護りが輝いて。
「……腹減ってたら悪い、でも通せねーから」
「残念だけど、あげられる物は何もないの。悪戯もさせないからね」
双つの意志が、闘気と魔力を瞬時に鎧う。生まれながらに能力者であるこの双子に、すべき事を履き違える余地は微塵も存在しない。
後から大挙して押し寄せる猫は、通路を塞ぐようにして二人の行く手を阻んだ。
頑丈な箱は閉じたが最後、攻撃を通さぬという。蓋のそばにはあからさまな切替式スイッチ。あれをONにすれば猫は出てくるのだが、瞬時にスイッチを切り中へと引っ込んでしまう。
『にゃーにゃにゃ』
箱の中でゆらりと揺れながら歌う、猫たちの小馬鹿にした声。スイッチを見せつける猫の挑発に対し、弥生はあえて乗るような姿勢をみせた。
「そんなに開けてほしいなら開けてあげる」
箒に跨り指先で魔法陣を描けば、何処かより飛来する剣の群れ。網目状に複雑な模様を描いて飛翔する魔法の剣は、猫たちの一体を見定めピタリと宙に静止した。
ちょん、と下ろす指の動きに合わせ、剣の一本がスイッチに触れる。猫が再度スイッチを切るより早く、待機していた幾本もの剣が箱と蓋の間隙に刺し込まれた。
『にゃ、にゃにをするにゃー!?』
「こうすれば閉じられない、よね? 悠生、後はお願いね」
箱の中の猫が怯えて外を覗けば、そこには駆け寄るもう一つの影。闘気を循環させ拳へ集めていく拳士の矛先は、紛れもなく自分宛てだ。
「ありがとな、弥生。後は俺に任しとけ!」
慌てふためいてスイッチ周りを引っ掻く猫の手へと、鋭い貫手が放たれた。経絡を伝って闘気が遡り、猫の体内で嵐のように駆け巡る。
床へ崩れ落ちた猫型UDCをよそ目に、魔法剣と降魔拳の波状攻撃が次々と後続へ襲い掛かる。中にはスイッチを奥に引っ込め籠城戦を試みるものもいたが、鋭い魔法剣の前ではスイッチをONにされ引きずり出される運命にあった。
『いやにゃいやにゃ、おんも出たくないにゃー』
「そう言うなって、外も悪くないもんだぞ?」
あと一押しが足りなければ悠生が掌底を打って箱ごと揺らし、ダメ押しとばかりに弥生の誘導弾が猫の手に張りつく。二人のタイミングさえ合えば猫の側に防ぐ術はなく、次、また次と猫たちは数を減らしていく。
残り僅かとなった猫が自棄気味に突進を試みたが、弥生を突き飛ばす前にオーラの護りが柔らかく受け止める。
「弥生には指一本、触れさせねーぞ」
「ありがとう。ふふ、悠生は優しいね」
所詮は出たとこ勝負の攻撃、互いに気遣いカバーし合う二人には届きようもない。
やがて掌底に揺らされ消えゆく猫を見、悠生が声をあげる事には。
「……あ! 肉球! 手の甲しか見てなかった、ちょい待っ――」
『もうダメにゃ~……バイにゃら~』
力尽きて消滅していくUDCの肉球を名残惜しむ悠生の背に、弥生の若干呆れたような眼差しが突き刺さった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
北・北斗
『うーん、こんなところで猫を見かけるなんて…
魚が喰われるから阻止しないとですよ。』
お魚くれた分、仕事しないと。
まずは箱の中にいる黒猫をどうにかしないとですよ。
今回はお手伝いしてくれるトド3頭呼んで、2頭には箱を上下反対に頭で抑えてもらってからもう1頭に箱を開けてもらってから中にいる黒猫向かっての超重力の属性攻撃で地面に落としてから猫を噛み付いたり、全体重1.7tかけた【重量攻撃】をかましたりする。
『ここは頭の使いどころかなって思ったんですよ』
アドリブ歓迎
群れるにゃんドラボックスたちのたてる音に混ざり、ヴォオウッ、と威勢のよい雄叫びが通路に響く。
『うーん、こんなところで猫を見かけるなんて』
水族館に居てはならない動物の姿に、北・北斗のテレパシーにも困惑の色が混ざる。美術館に潜入を試みるのとは訳も違い、実害が出る以上無視できない。
そして何より、愛嬌のある見た目で誤魔化そうとも敵はオブリビオン。職員たちの命を思えば、ここで手控えるわけにはいかない。
『魚が喰われるからさすがに阻止しないとですよ。お魚くれた分、おいらも仕事しないと』
研究員への恩もある。外見こそ威圧感はあれど、北斗はそこらの犬よりも義に篤かった。
巨体をくねらせて鼻息を吐き、敵を軽く威嚇する。小さな猫たちは打たれ弱そうにも見えるが、箱の中にいては攻撃を寄せ付けぬという。
まずは箱から引きずり出す手を打つべく、北斗は短く雄叫びをあげる。
ヴォオウッ、ヴォオオオウッ――。海の荒波にも響む北斗の声につられ、三頭の仲間のトドが助っ人に駆け付けた。
『ここは頭の使いどころかなって思うんですよ。というわけで、お願いしますですよ』
北斗のテレパシーに大きく頷き、二頭のトドがにゃんドラボックスへと近寄る。巨体を揺らし挟みこむように囲んだ二頭は、猫の箱を軽々持ち上げ逆さにした。
『にゃ、にゃにゃっ!?』
残りの一頭がスイッチを切り換えれば、逆さ吊りになった猫さんのお顔がコンニチワ。そのまま箱に引っ込んでバイバイ……しようとしたのだが、北斗はその動きを見逃さない。
『にゃ、にゃーーーっ』
バイオモンスターたる北斗が展開したのは、超重力の力場を発生させるサイキック。哀れ猫は箱から引きずり出され、そのままゴチンと床に頭を打ち付けた。
『痛いにゃ……働きたくないしお外なんて出たくにゃいのに、にゃにをす
……!?』
頭をさする猫は、ここに来てようやく事態に気付く。三頭のトドに退路を塞がれ、眼前には1t超えの巨体を誇る北斗の姿。万事休す。
ガブリと噛み付いて猫を押さえ、そのまま勢いよく圧し掛かる。パチン☆ と弾ける音と共に、猫は煙になって消え失せた。
『まだまだ、おいしいお魚の恩義は返せてないからねぇ。行くですよー』
ヒレを掲げ、ヴォオウッ、と一声あげる北斗。のしのし巨体を揺さぶり近づくトドの群れに、猫たちの顔が青ざめた。
大成功
🔵🔵🔵
冬原・イロハ
あっ、不思議な箱が?
暗くなった館内
携帯ランプを点けて後から追跡していきながら、猫の動きをじいっと観察します
お可愛らしい……あ、いえ
しゅぱっと一瞬出てくる猫の手を見て、バイト代の金貨をすぐ放れるように用意します
箱のスイッチを押して、手が出てくる僅かな隙間を狙って箱に金貨を入れますね
あまり時間を使うわけにもいきませんし、急いで何体かの箱にしゅぱっと金貨を入れていきます
よし
これで準備はオッケーです
UCを発動させて膨大な電流を放ちますよ!
外部からの攻撃を遮断するのなら内部からっ
ばこんっと蓋が開いたら、ブルー・ロッドと魔法の糸をひゅんっと操って凍らせる氷の属性攻撃を!
ぴしぱし、猫さんを叩いていきます
からころと通路壁にぶつかる、匣の音。小さなヒゲを揺らし、暗くなった館内に気配を探っていた冬原・イロハは、異変をもたらしたモノの正体に気付いた。
「あっ、不思議な箱が?」
夜光石の入った携帯ランプを翳せば、こそこそとイロハから逃げ出す箱の後ろ姿。追跡していったイロハは、曲がり角で蓋を開け辺りを探る箱の中身を目撃した。
『にゃにゃっ!? いつからいたにゃ!』
「お可愛らしい……あ、いえ」
しゅぱっとスイッチを切って引っ込む猫の手を見て、イロハはバイト代のアルダワ金貨を懐に構える。あれが開閉スイッチならば、蓋が開いている僅かな時間に手を打たねばならない。
そろーりとスイッチに手を伸べ、かちり。猫の手が再びスイッチを入れるより早く、イロハは金貨を投げ入れた。
『にゃ、……コインにゃ! 小判ゲットにゃ!』
警戒心がまるでお留守な猫を捨て置いて、残りの猫たちにも金貨を見舞う。しゅぱっ。しゅぱぱっ。多少懐は痛むが仕方なし、今日のイロハは大盤振る舞いだ。
「よし。これで準備はオッケーです」
すううっ、と息を整え、長く吐く。月のバイト代を犠牲にするだけあって、この技はイロハにも思い切りを要するのだ。
「えいっ」
びりびり。ばちばちん。箱の中に投げ込まれた金貨から膨大な電流が放たれ、並んでいた猫たちを電気の網でつなぐ。
『ぎにゃーっ』
『しびれびれびれにゃーっ』
外からの攻撃を遮断するなら、内側から。事はイロハの目算通りに運び、箱入りの猫たちは緩み切ったアサリのように口を開く。
ダメ押しとばかりに釣り竿状のロッドをしならせ、魔法の糸の先にひゅんひゅん凍てつく冷気の魔力を溜めていき――そして。
ぴしぱし。
『つめたいにゃ!』
ぴしんぱしん、カチコチン。
『背筋が凍って猫背がまっすぐにゃ~~』
それはもう、嫌というほどしつこい氷の鞭打ち攻撃。猫たちが観念するまでイロハの攻撃は続く――戦場のお掃除ねこ、穏やかな顔して容赦ない。
『おぼえてろにゃー! ……ごめんやっぱ忘れるにゃ!』
ぼうん、と紫の煙を残して消えゆく妖しげな箱。通路に何もいなくなったのを確かめ、イロハは邪神を封じた水槽の方へと意識を尖らせるのだった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『死の伴奏者・エリューズ・ニール』
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POW : 「死の合唱団」開演~世界に響け、死の歌声よ~
【聞いたものに死を齎す魔声 】で武装した【彼女の手で人魚化した少年少女】の幽霊をレベル×5体乗せた【コンサートホール】を召喚する。
SPD : 合唱はマナーを守ってお聞きくださいませ
指定した対象を【死の合唱を聞きにきた聴衆 】にする。対象が[死の合唱を聞きにきた聴衆 ]でないならば、死角から【死の呪詛を紡ぐ合唱団員】を召喚して対象に粘着させる。
WIZ : 死の合唱「人魚による人魚の為の死の葬送曲」
自身が【楽器の演奏をし続けて 】いる間、レベルm半径内の対象全てに【生命力をごっそりと奪う死の呪詛】によるダメージか【肉体保護のメロディー】による治癒を与え続ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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館内全ての猫型UDCを倒しきると同時、
隔離エリアの水槽からごうん、とグランドピアノの蓋が開くような重音が響く。
そちらへ向かえば、水槽のほとりには研究員たちが険しい表情で集まっていた。
休眠状態にあった筈のUDCが、強引に結界を破った。
自分達が実質彼女の手のひらの上にいた事実は、職員たちに衝撃を与えた。
だが儀式的手順を省いた封印の強行突破は、
封じられた対象にも大きな負荷を強いる。
眼下のUDCは余裕めいた表情で笑っているが、今が一番弱っている筈なのだ。
ダイバースーツを借り、或いは自身の泳ぎの才覚で。
水中へ身を投じたあなたたちは、すぐに『彼女』と相対した。
桜色のとがらせた唇。
自らが童話の乙姫だと言わんばかり、真白き人魚は鍵盤をなぞる。
聞く者の意識を混濁させ、溺れながら吐く泡でワルツを奏でさせる。
私の歌と宣いながら、彼女自身は歌わぬ。あくまで伴奏者。
死した犠牲者の呪詛の歌も、彼女にはただの『楽器』に他ならない。
「あら、奏でるのにちょうどいいのを見繕ってくれたのね」
品定めするように見回し、特に年頃の少年少女へと熱を帯びた眼差しが注がれる。
「いいわ。そろそろここで眠るのも飽きてきた頃だし」
邪悪に満ちた蠱惑の瞳があなたを捕らえ、
鍵盤を弾く指先が青に満ちた視界を紅紫のまだらに染め上げる。
ブルー・マゼンタ・マゼンタ。
狂気に溺れ、血走る眼で悶え苦しみながら上天の光を、見よ。
「――とびきり、きれいにきれいになかせてあげる」
澄み切った和音が水中に響く。
その音こそが、死の伴奏者『エリューズ・ニール』との戦いの幕開けだった。
神臣・薙人
…悪趣味な
水中戦の心得は僅かばかりありますが
早めに決着をつけたいところですね
初手で白燐想送歌を使用し
鍵盤の演奏妨害を試みます
私の歌はいかがでしょうか
武器封じが巧く功を奏すれば良し
効果が無くとも
自分もしくは近くで戦っている方が負傷した際は
その都度使用し治癒します
エリューズ・ニールからは
一定の距離を保つよう留意
犠牲者の幽霊にも囲まれないよう
注意しながら立ち位置を確保します
武器封じ・治療の必要が無い時は
幽世蝶で攻撃に参加
なるべく犠牲者を避け
エリューズ・ニールへ直接攻撃を心掛けますが
避けるのが難しければ
範囲攻撃で巻き込みます
討つ事でしか救えないというなら
可能な限り迅速に
この青をマゼンタになどさせません
透明な水塊が鍵盤を形作り、音は歪まず狂おしいほどに澄んで届く。
それを成しているのは犠牲者の思念。エリューズ・ニールに囚われた魂は、今わの際の耐え難き苦しみを留めたまま、生者へと害意を向けていた。
「あら、演奏を聴きにきたの? それかきっと、私に奏でられにきたのね?」
「……悪趣味な」
過ぎる犠牲者の透いた体を見遣り、神臣・薙人は敵の悪辣さに目を細めた。死後も犠牲者を捕う女形の敵はゴーストの中でもリリスを思わせるが、彼女にはコレクションという明確な目的があるだけに一層性質が悪い。
幽体をかわしながら体内の白燐蟲に呼びかけ、活性化。薙人の胸の内で脈打つ萌動、出番待ちわびる蟲たちが今にも溢れそうに揺れ動く。
「演奏をというならプレリュードも必要でしょう。私の歌はいかがでしょうか」
薙人が歌声を披露すれば、それを封切に白き蟲は一斉に放たれた。
不殺と反戦の意図を込めた、白燐想送歌。生命を賦活する蟲たちの理力が水中に溢れ、鍵盤奏でるエリューズ・ニールの指先へと纏わっていく。
鍵盤での演奏を止められた人魚は、心底嫌そうに貌を歪め、唇をとがらせた。
「合唱を止めるなんて、マナーのなってませんこと。それに白く輝くのは私のみで十分よ」
「……誰が」
どす黒い魂をしてどの口が、と。短く抗議の言葉を吐き、薙人は水中を泳ぎ来る死の呪詛を間一髪かわした。
入れ違いに細指を掲げ、薄紅の翅もつ蝶を差し向ける。櫻の霊気宿した幽世の蝶ははたはたと翅をひらつかせ、渦まく鱗粉にて人魚の動きを止めにかかる。
攻防の最中、薙人が脇に目を向ければ、犠牲者の虚ろな眼窩がこちらを見た。
救えるものならそうしてやりたいが、彼らの目には人魚の死の呪縛から逃れる意思も見られない。エリューズ・ニールが其処にいる限り、彼らの魂は道具として置かれ続けるのが関の山だ。
「……討つ事でしか救えないというなら」
できるだけ苦しみを与えず、迅速に。蝶が羽ばたき、櫻色のメイルストロムを水中に描く。
「この美しき青を、マゼンタになどさせません」
渦は浮力を生み、傍らに留め置かれた幽体の幾らかを人魚から引き剥がす。廻りながら消えゆくかの魂が、せめて安寧を覚えてほしいと薙人は願った。
成功
🔵🔵🔴
鉄・弥生
【鉄家双子】
上半身は人、下半身はお魚…半魚人さん?
こっちを見てる気がするけれど、何となく嫌な感じ
悠生、気を付けて
あいつは人の命を、未来を食らうから
…そんなこと、させないけどね
借りた潜水器具を着て戦いに臨むよ
私、マゼンタよりも真っ赤が好きなの
同じくらい、夜の色も好き
【夜宵の世界】で敵の舞台もとい戦場を塗り替える
今を歩む皆に生を、未来を食らう存在に死を
――降り注げ
自身に迫る脅威には
『オーラ防御』を展開し対処
攻撃は魔力を流したガンナイフにて
『誘導弾』と先端の刃による『切断』を駆使
悠生に伸ばされる魔の手は
『援護射撃』で牽制
小さい頃からずっと見てきた
大好きな悠生の背中
私が必ず守るから、振り返らずに戦って
鉄・悠生
【鉄家双子】
あー、確かに半魚人だな
おう、心配してくれてありがとな、弥生
お前も気を付けるんだぞ、可愛いんだから
借りた潜水器具と『水泳』で戦場へ
真っ赤…そういや弥生さんの絵は赤多めですね
(ふと、いわゆる画伯な絵を思い出す)
俺は琥珀色が好きだな
ところで魚のお姉さん、地の利ならぬ水の利が自分にあるって思ってる?
じゃ、それを覆してやろう
っても、これ弥生の力だけど
さて、俺も気張りますか!
自分に【リベレイション】
敵の攻撃は『オーラ防御』
弥生が狙われたら『かばう』
纏った闘気で『衝撃波』を繰り出す
『スナイパー』で手の『部位破壊』、演奏中断を狙ってみる
誰よりも信頼する弥生の援護があるから、集中して全力でいけるぜ!
職員が気を遣ってくれたか、二人が手にしたのは揃いのダイバースーツ。赤と黄のラインが鮮やかな潜水着に身を包み、鉄の双子は勢いよく水中に潜行した。
銀の泡が収まってすぐ視界に映る、純白の人魚の姿。
「上半身は人、下半身は魚……半魚人さん?」
こちらを見る人魚を鉄・弥生がそう評すれば、気分を害された人魚はダン、と勢いよく鍵盤を押さえた。
「あなた、演奏者への敬意がなってないわ。あんな野蛮な深きものどもと一緒にするなんて、審美眼というものがないのかしら」
「あー……確かにありゃ、半魚人だな」
真っ当な演奏者なら、鍵盤を粗末にする事はあり得ない。確かに野蛮だと思ったが最後、鉄・悠生の口からは考えがそのまま勝手に零れていた。
UDCの怪物の眼に敵意の光が宿るのを見て、弥生は注意を呼び掛ける。
「悠生、気を付けて。あいつは人の命を、未来を食らうから」
「おう。心配してくれてありがとな、弥生。お前も気を付けるんだぞ」
そんなことさせないけど、と険しくなる少女の視線を遮るように、悠生は前へと泳ぎ出て。
「お前、自分で思ってるよりずっと可愛いんだから」
おでこをつん、とつついた次の瞬間、二人は大きく散開する。睦まじいやりとりを引き裂くように、水中を呪詛まじりの音波が駆け抜けたからだ。
「可哀そうに、まだ正しい『なきかた』を知らないのね。なら私が懇切丁寧に、叩き込んであげる!」
言い終えた人魚の周りには半透明の体を揺らし、世界への呪詛を振りまく合唱団の姿。冷たき水塊は紅まだらに色づき、いつの間にか水槽はコンサートホールへと姿を変えていた。
ビロウドの色した水のカーテンが揺れ動き、開演のブザーが鳴り響く。現れたのは人魚の尾を生やした少年少女、エリューズ・ニールの操るコレクションの中でも精鋭に位置する霊体だ。
ボーイズ・クワイア、満ち満ちる水の分子全てを揺り動かして少年たちの歌声がまず駆けた。死と背徳を賛美する声は、まともに耳を傾けては五秒と経たぬうちに脳髄を毒されてしまう。
詠唱銀のペンタクルを緩衝材として前方へ差し伸べ、弥生は敵へ向け言葉を紡ぐ。
「私のこと、少しだけ教えてあげる。マゼンタよりも真っ赤が好きなの」
「真っ赤……俺は琥珀色が好きだな。そういや弥生さんの絵は赤多めですね」
画伯、と呼称するのがふさわしい独特な感性を思い出して茶々を入れた悠生に、抗議めいた視線が飛ぶ。だが次にする事が判っている悠生は、弥生の気が逸れぬうちにとエリューズ・ニールへ問いかける。
「ところで魚のお姉さん、地の利ならぬ水の利が自分にあるって思ってる?」
「そうでなくてどうだというの? ここはもう私のホール、あなたたちには自由なんて――」
「――私ね。赤と同じくらい、夜の色も好き」
慢心の言葉を遮り、弥生は静かに目を閉じる。まぶたの裏、ありありと描かれる大好きな光景、満天の星空。再び目を開いてなお景色はそこに留まり、水底のコンサートホールは星空のテクスチャに覆われた。
死の舞台を上書きしたのは、弥生の名と同じ響きをもつ心象風景、宵の世界。
「今を歩む皆に生を、未来を食らう存在に死を――降り注げ」
少女の導きに従い凶つ星が現れ、たなびく尾から呪詛をふりまいた。
「うん、見事。きれーに覆ったな……さて、俺も気張りますか!」
メダリオン代わりに牙の護りを掲げ、悠生はその身に英霊の力を呼び起こす。
「リベレイション!」
かつてある組織が用いた、起動の呪いと対を成す降霊の儀。降魔拳の使い手たる祖霊の力が、悠生に武と智慧を授けた。
死をもたらす魔声は凶星に阻まれ、つき纏わんとした霊体はオーラの拳によって砕かれる。たとえ直接触れられなくとも、どちらが優勢かは明白だ。
呪詛に満ちた水塊をガンナイフの刃にて断ち切り、弥生が砕けた水の向こうへと魔弾を撃つ。歌劇では七発目に悪魔の望む所を撃つ魔弾も、過たず使えば悠生めがけて泳ぐ敵の魔の手を退けた。
(「小さい頃からずっと見てきた、大好きな悠生の背中」)
雄叫びと共に駆け行く背中。そばで見てきた弥生は彼のシャツの裏に詰まる、努力と鍛錬の証を識っている。
(「振り返らずに戦って。何があっても……私が必ず守るから」)
狙い澄ました闘気の波が、ピアノ奏でるエリューズ・ニールの手をことごとく打ち据えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
北・北斗
『なんか、妙なことをしてきてるようだし、おいらとしても、止めないとと思うんですよ。
ただ、水中、音自体は伝わりにくい環境なんだけどね』
まぁ、アレがなにかしてこようとしたら、警戒。重力弾(【属性攻撃】)で気をそらそうとする。
敵がUC使ってきたら、死角付いてくるんだろうから、こっちも、スピード重視でアシカ6頭呼んで、敵集団を混乱させている間に更に敵集団をねじ伏せるため、トド6頭呼んで蹴散らせておく。
そして、自分は敵に対して、自身に重力をかけて敵に猛突進する。
『こうでもしないと、地球が厄介になりそうなんですよ』
ヴィクトル・サリヴァン
何ともまあ悪趣味な性格してるね。
シャチは歌も上手いけれどもキミの為に歌うのはのーせんきゅー。
ダメダメな伴奏者は封印じゃなくてこの世界から消えて貰わないとねー。
素潜りで水中へ。
泳ぎ回りながら高速、無酸素詠唱で水の魔法を行使し周囲の水流を操り敵の演奏を妨害。
手元の楽器を狙うか楽器置き去りにさせるよう体だけ遠くへ弾き飛ばすか…剥がせないなら雷の魔法ぶつけ痺れさせてやろう。
呪詛には破魔の結界を張って対抗。
僅かでもUC発動の時間を稼ぎ、準備できたら発動。
重力と渦を合成し一気に水底へ押し潰すように叩きつけてやろう。
生き残っても追撃の銛を投擲、そこに雷の魔法撃ち込んで追撃を仕掛けるね。
※アドリブ絡み等お任せ
死後も囚われた犠牲者たちは、皆一様に虚ろな表情をしていた。
道具のように侍らせる姿に悪しき性を見て取り、ヴィクトル・サリヴァンの牙剥く口からはついこんな悪態が飛び出ていた。
「何ともまあ、悪趣味な性格してるね。シャチは歌も上手いけれども、キミみたいのの為に歌うのはのーせんきゅー、さ」
水中にもよく響む声を張り、ヴィクトルは拒絶の意を述べる。
ヴィクトルの隣にはようやく並んだ海の仲間、北・北斗の姿。ここまで共闘しなかったのも不思議なくらい、彼ら二人は自ずと同じ方を向いていた。
『なんか、妙なことをしてきてるようだし、おいらとしても止めないとと思うんですよ』
UDCの怪物が捕らわれた理由、封印を破る力がありながらなぜ黙していたか――細かい事情は北斗には分からぬ。だが『あれを放置してはならぬ』と本能が告げた以上、北斗の念話はもはや海の生き物を代表する言葉だった。
「その通り。ダメダメな伴奏者は封印じゃなくて、この世界から消えて貰わないとねー」
語気こそ緩やかなものではあったが、ヴィクトルの眼にある光は強く険しい。それは先ほどまで人々に宛てた慈愛の目つきではなく、天敵を見つけた時の獰猛な肉食獣の輝きだった。
「あら、イルカならまだしもトドに、足の生えたシャチ? 私の聴衆になりたくば、もう少しスリムでエレガントになってからお越し下さいまし」
二人の向けた訣別を、人魚は意に介した様子もない。美しき姿ばかり真似たところで泡と消えた逸話の高潔さなど、彼女は微塵も持ち合わせてはいなかった。
一つ所に留まらない観客に向け、死の合唱団の魔の手が差し伸べられる。
呪詛のタッチで憑りつく幽霊を、北斗の重力波が次々と撃ち落とす。水底に潜らされてはまた浮かび来る執念深さに、さしもの北斗も目を見開いて白目を見せた。
『オオ、オ……』
『水中、音自体は伝わりにくいはずなんだけどねぇ』
パシュン、と何かの罅割れる反響音を伴い、木霊する犠牲者の怨嗟の叫び。自分一人の迎撃では間に合わぬと、北斗は再び援軍を呼ぶことにした。
『少し手伝ってほしいですよ』
ヴォオウッオウッ――生命力を振り絞り、猛々しき吼え声。まず現れたアシカの群れが北斗たちに纏わる幽霊を引き剥がし、ぐるぐる水流の中に飲み込んでいく。
「おやあ? キミは重力使いか、頼もしいねー。ここはひとつ合わせ技……と行きたいとこだけれど」
泳ぎ回るヴィクトルは未だ敵の追っ手から逃れ切れておらず、更には押し寄せるピアノの奏でる呪詛の魔力。生命を削って戦う北斗に届いてはまずいと、演奏への対処を優先した。
「まずはそのイカしてない音楽、止めなきゃだねぇ」
逞しく隆起した上腕に力を溜め込み、銛を目から見て水平に構えた。狙うは敵の主戦力たるピアノ、三叉に分かれた銛の先で雷電が迸る。
「繊細な指の動きが必要なら、びりびり痺れちゃ弾けないよねー?」
雷槍一閃。直接の破壊こそならなかったが、駆け抜けた銛はバチンと指先に弾け、人魚の邪悪な旋律ははたりと止んだ。
「何をするの」
すぐさま襲い来る幽霊合唱団、海の犠牲者の喉から搾りたてのみずみずしい呪詛が紡がれる。増幅した音波で結界を張って呪詛の濃度を和らげ、ヴィクトルは再び攻勢に転じる機を伺った。
『なかなかしぶといねぇ。でもおいらたちも、お魚の食えない海はごめんなんですよ』
搦め手を用いるなら、こちらは力づくで。北斗の合図に突進するトドの群れが、合唱団員たちを一気に蹴散らしていく。
人魚と自分達の間に遮るものはついになくなり、雄叫びをあげた北斗が群れを伴って泳ぎ出した。敵とは逆の水上へ向け尾鰭をうって泳ぐ北斗は、サイキックエナジーの淡い光に包まれている。
北斗の狙いを読み取ったヴィクトルは、タイミングを逃さじと精霊魔術の詠唱に入った。
「水中は浮力が働くからね。底へ底へ、思いっきり強い力で送ってあげるよ」
銛の先で描く、螺旋の軌道。精霊たちが彼の意図を汲み、すべてを巻き込む大渦を作り出す。
中心に働くのは重力の力、そこに乗るのは無論ヴィクトルの力だけではない。
――ヴォオオウッ!
雄叫びの主は北斗、重力発生の力場を極限まで肥大化させ、1tを超える巨体に上乗せする。
『おいら、海がきれいで魚がおいしければそれでいいんですけどね』
あばらが撓み、息が苦しい。それでも北斗は躊躇わず、流れに巻き込まれた人魚めがけて一気に下降する。
『――こうでもしないと、地球が厄介になりそうなんですよ』
そんな念話が届いたのは、泥砂に何もかもが掻き消える瞬間の事だった。
大成功
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冬原・イロハ
とても綺麗なUDCです
彼女自身が歌い上げたのならば、心に響くものだったでしょうに
その調べは誰かの声
伴走者の旋律は、声に添えていない気がします
ちぐはぐな音色が外へと放たれることないよう戦います
深い水槽に慄きながらも戦斧を抱えて、ブリキザメさんに掴まって潜ります!
まずは一撃を与えなければ――
狙うはヒット&アウェイです
ブリキザメさんの加速に乗ったドラゴニック・エンドを叩きこみましょう
同時に氷属性のドラゴンを放ちます
そのまま戦斧を振るってドラゴンをエリューズさんのUCへと差し向けますね
その歌声に心は痛みます――が、
この時進む世界はかつて貴方方を悼んだ
鎮魂歌の届けられる、骸の海へと還りましょう?
地響きが収まり、やっとの事で脱け出した人魚の唇からは血の煙。
苦痛に顔を歪めながらもエリューズ・ニールは、類稀なる美貌と気位だけは保ち続けた。
「とてもお綺麗です。歌も、あなた自身が歌い上げたのならば、心に響くものだったでしょう」
だからだろう。冬原・イロハは人魚のすべてを否定する心地にはなれずにいた。
「それがどうかしまして? ここにいるのは私のしもべ、なら私の歌に違いないわ」
イロハの言葉にも、言外の意味を察する様子は無い。エリューズ・ニールが真に演奏者であったなら、水中に響く調べにどれほどの人が目を細め夢心地になれたか――その『もしも』は永遠に実現しない。
「その調べは誰かの声。あなたの旋律は、お声に添えていない気がするのです」
だから、イロハたちの成すべきは。終ぞ人の心に沿う事のなかった彼女の旋律を、骸の海に還す事だけだ。
幻想のコンサートホールが水中に開け、この日幾度目ともなる死の合唱が小さなケットシーの身を揺さぶる。
足の届かぬプールでも恐怖を覚えるイロハにとって、深く深く潜らねばならぬこの水槽は光射さぬ海溝へ身を投げるようなものだ。潜水服越しにネジ巻きザメの背びれに掴まり、身の丈に合わぬ長柄の斧を抱いて潜る。
(「まずは一撃、与えないと」)
追手の人魚霊たちを振り切りながら加速に乗り、突進をかわす敵にもめげずに接近を試みる。
やがてバルディッシュの斧頭が人魚を捉え、すれ違い様に斬りつけた傷から赤い血潮が紗を引いた。一撃与えた今ならば、狙いは十分。
「ドラゴンさん、行ってください!」
咆哮が轟き、水槽を揺らす。ドラゴニック・エンド、敵に終焉の定めを与える氷の竜が水の中で勇ましく顎をひらく。
戦斧を抱きしめ、イロハと合金のサメはエリューズ・ニールの元へと駆ける。止めを刺す前、驚愕した彼女の顔と、傍らで何も知らず歌い続ける少年少女が視界に飛び込んだ。
ちくり、と胸を刺す痛み。彼、彼女らに罪はない、けれど。
(「時進むこの世界はかつて、あなた方を悼んだ」)
いなくなった者がいれば、悼む者は必ずどこかにいる。その事実だけで、世界は彼らに十分報いた筈――彼らも救われてよい筈だ。
「鎮魂歌の届けられる、骸の海へと還りましょう?」
藍の瞳に、竜の顎に砕かれる人魚が映る。やがて水底に噴き出した黒の澱みに吸い寄せられ、『過去の遺物』たちはこの世界から排斥された。
成功
🔵🔵🔴
●終演~どこまでも深く広がる、群青によせて~
シノをはじめ、UDC職員たちが水から揚がったあなたたちを出迎える。
タオルを差し出し目立った怪我がないと分かるなり、
職員たちは入れ替わり立ち替わりあなたたちへ礼を述べた。
此度の事案は彼らの慢心が招いたというより、起こるべくして起こったものだ。
それ程『対処しようがない』ものへ立ち向かっている自覚があるからこそ、
誰もがあなたたちの敢闘を掛け値なしに労った。
――そして。
◇ ◇ ◇
猟兵たちの去った館内で、館長が一人UDC対処マニュアルをめくる。
マニュアルの一番始めのページには、赤と黄の字で警告文が書かれていた。
『職員心得 一、万一が起きれば情報保全と伝達を優先せよ』
退避より他支部へのバックアップデータ送信を命ずる
非情な一文を、職員に告げずに済んだ。
その事実に、己がまだ人間でいられた事に安堵する。
「館長」
職員のシノの迎えに、男は部屋を後にする。
道すがら、職員たちはこれからの話に花を咲かせた。
次にもし『彼ら』が来たら、時間を割いて案内しよう。
まだ海の生き物の生態も、伝えるには余すところばかりだ。
青き星に生まれた奇跡、宇宙のどこを探しても見当たらない大いなる水。
その浪漫に熱弁を振るい、案内役を買って出る職員は後を絶たない。
遠くないいつかの再会。待ちわびる彼らの口元には、
いつしか海を愛する者たちの笑みが戻っていた。