殲神封神大戦⑭〜聖人之心、有七竅
「妲己といえば、知っての通り中国の古典においては悪女の中の悪女。
王を誑かし、悪徳の限りを尽くし、酒池肉林を生んだ唾棄すべき邪悪であるが……」
ムルヘルベル・アーキロギアは、大きな書物を手に唸る。
封神武侠界においては、その風説は、真でありまた偽でもあった。
「……オヌシらも、あの予兆を見たはずだな」
ムルヘルベルが、猟兵たちに視線を映す。苦み走った表情。
「彼女が悪徳の限りを尽くしたのは、この世界でも同じであった。
されどそれは大義のため、そして彼女自身が望んでそうしたことではない」
だが、とムルヘルベルは頭を振る。
「それで許されるはずもない。そこまで呑んだ上で、彼女は封神台のため討たれた。
……正直な、ワガハイはあれは、気高さや誇りとはまた違うような気がするのだ。
そうせざるを得なかった、それ以外に取る道がなかった……いや、そうだな」
愛。きっと、それが適切なのだろうと、ムルヘルベルは言葉を区切る。
もちろん、事実がどうなのかは、賢者にさえわからない。
もしかしたら彼女は、ただ単に命令に逆らうことが怖かったのかもしれない。
しかし、確かなことは、妲己は人界の平穏をこそ望んでいたということ。
そのために悪の華を咲かせた。
そのために己の名まで穢した。
後世に悪女と記され、永劫に邪悪の代名詞とされることさえも覚悟の上で。
妲己のしたことは、どんな大義や理由があろうと、許されることではない。
許されてはならず、悪女という枷は呪いではなく歴とした正当な評価だ。
「だが、悪であったことと、安らかに眠るべきことは、けして矛盾せぬ。
彼女を悪とすることと、彼女の行いに敬意を表し意を汲むことは両立する。
我らは識った。過ぎ去った時の真実を。であれば、我々がすべきことはひとつだ」
オブリビオンとの闘争は、過去との戦い、終わったことを正しく終わらせることだ。
悪の華は散り、その名が遺った。同じように遺るべき平穏と、尊厳は奪われた。
奪われてしまった。
「彼女を殺さねばならぬ」
殺す。ムルヘルベルは意図的にそう言った。
倒すでも、滅ぼすでもなく、殺すと。
「今の妲己は、自らの意思でさえユーベルコードの発動を止めることが出来ぬ。
そして、彼奴の居場所は梁山泊。未来のため用意された、山岳武侠要塞である」
梁山泊……宿星に導かれた英傑の集う場所。しかし今は。
「この梁山泊には、ところどころに沼のような濁流が存在しておる。
そしてそこから、宿星武侠以外のあらゆる敵を襲う無数の武器が出現する。
宿星武侠であれば反応はしないようだが、だからといって油断はするな」
殺すべき相手、妲己もまたこちらを襲ってくるからだ。
「彼奴は先制攻撃を必ず行う。狐狸精の憑依、武林の秘宝、纏う香気。どれも危険だ。
妲己本人に制御出来ていない以上、哪吒のように精神的に揺るがすことも難しい。
……自死すらも阻むほどの呪縛だ。使い手としての妲己の技量は無関係であろうな」
つまり、ブラフの類が通じない。そして、情けも容赦もなく、合理的に殺しにくる。
「無数の武器が乱舞するなか、妲己の……いや、ユーベルコードの先制攻撃に対処する。
それが出来てようやく五分といったところか。うかつな力押しは死を招きかねんぞ」
宿星武侠であれば、無数の武器による妨害は避けられるだろう。しかし。
「手加減は無用だ。まあ、ここまで来てくれたオヌシらにそれはないと思うがな」
あえて、ムルヘルベルは言った。
「彼女を憐れみ手を抜くような真似は、彼女の尊厳を踏みにじるに等しい。
いわんや、ありもしない希望に縋り生かそうとするなど、以ての外であろう。
長く戦ってきた者であれば、覚えているはずだ。そうして散った過去のことを」
アックス&ウィザーズで戦った、輪廻の龍『ガルシェン』。
あるいは、同じ世界で立ちふさがった、賢竜『オアニーヴ』。
黄昏の世界に渦巻く邪神『ポーシュボス・フェノメノン』に取り込まれた人々。
そうした者は、死を望み、あるいは善性を穢され、残骸となった。
此度もまた同じ。彼女を殺(と)められるのは、猟兵だけだ。
「ワガハイはいつものように、オヌシらを送り出そう。そして帰りを待つ」
賢者が本を閉じた。
「健闘を祈る。今一度、ワガハイの共犯者となってくれ」
猟兵達は、平穏を願う清らかなる乙女を。殺しに行く。
唐揚げ
敵の特性上、ちょっとセクシーな表現が入る「かも」しれません。
が、それはあくまで雰囲気のためなので、直接的表現はしません。
このシナリオは全年齢向けです。そこのところ、ご了承願います。
あと、叙情感強めになると思います。いわゆる心情系、というやつですね。
それはそれとしてやや難ではあるので、そこも同じくお忘れなく。
第1章 ボス戦
『封神仙女『妲己』』
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POW : 殺生狐理精(せっしょうこりせい)
対象に【殺戮と欲情を煽る「殺生狐理精」】を憑依させる。対象は攻撃力が5倍になる代わり、攻撃の度に生命力を30%失うようになる。
SPD : 流星胡蝶剣(りゅうせいこちょうけん)
レベル×5km/hで飛翔しながら、【武林の秘宝「流星胡蝶剣」】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ : 傾世元禳(けいせいげんじょう)
【万物を魅了する妲己の香気】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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山吹・慧
僕はシルバーレインの人間ですが、
どうやら宿星はここまで導いてくれたようですね。
……或いはこれも運命の糸でしょうか?
……そして、この宿星剣も僕に告げています。
その魂に安らかな眠りを……と。
(白いハチマキを額に締めてイグニッション)
壁を背にして【オーラ防御】を展開。
【衝撃波】の【乱れ撃ち】を放ち
敵の攻撃の勢いを削いでから、
【集中力】により宿星剣で【受け流し】、
【グラップル】により敵の【体勢を崩す】事で
隙を作り【功夫】の打撃を放って流星胡蝶剣を
【吹き飛ばし】ます。
敵の先制を凌いだら【宿星天剣戟】を使用して
攪乱する動きから【リミッター解除】した攻撃を
放ち一気に攻めます。
願わくば、その魂に安息を……。
●宿星の導きのもとに
むせ返るような香気が、梁山泊の至るところに立ち込めている。
しかしこれでもまだ、玄室に籠もった妲己のそれに比べればマシなレベルだ。
事実、山吹・慧は、気負わずとも耐えられるだけの状態にあった。
「ああ……私を止めてください、殺してください……」
妲己の声はか弱く、か細く、不気味なまでに色香がある。
「これぞ宿星の導き……いえ、あるいはこれも運命の糸でしょうか」
シルバーレインから、宿星の導きによってこの地へやってきた山吹・慧。
たとえ他の世界の人間であろうと、宿星を持つ者に梁山泊は牙を剥かない。
「いいでしょう。その魂に、安らかな眠りを。宿星剣の告げるままに、そして」
慧は白い鉢巻を額に締め、宿星剣を構えた。
「あなたの願いを、叶えてみせましょう。――イグニッション」
噴出したオーラによって、マフラーがたなびく。
瞬間、妲己は流星のように駆けた。彼女の意思はなんら介在することなく。
慧の放った剣圧をものともせず、妲己は……いや、彼女の意思が介在していない以上、これは流星胡蝶剣と呼ぶべきか……恐るべき速度で間合いを詰める。
慧は極限の集中力で、その斬撃軌道を見極め、宿星剣を滑らせた。
ガキッ! と、寸分の狂いなく鋳造されたふたつの金属が噛み合うような音。
衝撃で慧は大きく吹き飛ばされる。だが、斬撃そのものは食らっていない。
宿星剣での受け流しは成功したのだ。そこへさらに追撃を仕掛ける胡蝶剣!
「己の力にすら死を拒まれるというのは、無情な気分なのでしょうね」
はらはらと涙を溢し、剣にされるがままの妲己の相貌を、慧はじっと見つめた。
その哀しみ、その絶望を、慧は目を背けることなく心に刻む。
これから猟兵として、彼女を殺す――あるいはその一助を担う。
つまりそれは、大義のために悪と成り果てた妲己の、生き様を負うということ。
慧は、知っている。そうして、十字架を背負おうとした聖女のことを。
悪を為した聖女。そうせざるを得なかった女性。
そう聞いた時、慧はどうしても妲己を見過ごすことが出来なかった。
面影は違う、やったことの重大さも、末路も何もかも。
だが、その在り方は同じだ。もしかしたらあの聖女も、こうなっていたのかもしれない。
「参ります」
慧は一瞬の隙を突いて後の先を得ると、拳打を叩き込んで剣を弾いた。
がら空きのガード。宿星剣が煌めき、妲己の柔肌を切り裂く。
妲己は泣いていた。痛みにではない、ようやく殺してくれる誰かが現れてくれたことに。そして、自分の為した悪の犠牲になった人々への哀悼に。
「――ごめんなさい」
その言葉は、殺させてしまう猟兵に対してか。
あるいは、悪の糧とした人々へか。定かではない。
願わくば、その魂に安息を。
剣を握る慧の思いは、ただそれだけだ。
大成功
🔵🔵🔵
怨燃・羅鬼
アイドルらきちゃん☆封神武侠界のアイドルの封神仙女『妲己』さんと
ライブバトルで勝負だよ!
まずは会場、山岳武侠要塞へ
飛んでくる武器を羅射武舞逝苦を『ぶん回し』て『ダンス』で避けて
先へ先へ!
妲己さんに出会ったら挨拶!
らきちゃん☆妲己さんを倒して封神武侠界のTOPアイドルになるネ!
ふぁらりすくんを盾【盾受け】に流星胡蝶剣を受けて
『大声』で歌って【ブレス攻撃】で動きを止めて
次はらきちゃんの出番だよ!羅鬼羅鬼楽遺負☆擦ー
くふふ☆この世界に恨みはある?
あるなららきちゃん☆と歌って災いで楽しく恨みを晴らせばいいよ?
けどネ、無いなら楽しく笑顔でばいばいだネ!
最期位は楽しくネ!
●炎上ライブVS魅了ライブ(?)
「こんにちはっ、妲己さん!」
怨燃・羅鬼は、戦いに来たとは思えない軽い調子で挨拶した。
「……こんにちは、私を殺しに来てくれた猟兵さん。あなたは……」
「らきちゃん☆はね、恨みを燃やす炎上系アイドルだよ!
封神武侠界のアイドルである妲己さんと、ライブバトルで勝負しにきたの!」
「ライ、ブ……?」
妲己、さすがに首を傾げる。
「つまりはネ――」
羅鬼は、飛来する無数の武器を舞逝苦(ドラゴンランス)で弾いた!
「封神武侠界のトップアイドルになるってこと!」
妲己からすると、羅鬼の言っていることはわけがわからない。
しかし、自分を殺してくれるならそれでいい。妲己はそう考えた。
「気をつけてください、私の流星胡蝶剣は……」
「わかってるよ☆ふぁらりすくん、よろしくネ!」
武器を槍で弾き、火を吹く拷問具で流星胡蝶剣の斬撃を受け止める。
踊るような……というか実際踊る動きで漏れた武器を躱す。動きそのものは一流だ。名乗っている肩書と、そのノリはあまりにもトンチキなものだが。
「くふふ☆妲己さん、この世界に恨みはある?」
「え?」
妲己は、戦いながらの出し抜けな問いかけに、虚を突かれた。
「あるなら、らきちゃん☆と歌って災(さわ)いで楽しく恨みを晴らせばいいよ?」
「……」
「けどネ、ないなら楽しく笑顔でばいばいだネ!」
羅鬼の言っていることは物騒だが(ついでに言うと剣を受け止めているファラリスの雄牛も)、それはおそらく妲己にとっては紛うことなき救いだった。
「最期くらいは、楽しくネ!」
「……恨みなど私には……恨まれる筋合いこそ、ありますが……」
「じゃあ笑おうよ☆ニコニコ笑顔で災いじゃおーっ!!」
増幅された音波が、香気を吹き飛ばす。そして、声の次は地獄の炎だ!
ファラリスの雄牛ごとの突撃は、質量の暴力である。これのどこがアイドルだ!?
だが、妲己にとっては、突撃の衝撃も炎が身を灼く痛みも、喜ばしかった。
その痛みは、自分がようやく終われるのだという証明でもあったのだから。
成功
🔵🔵🔴
隠神・華蘭
わたくし感傷に浸るたいぷではないので、お望みとあらば仕留めてさしあげます。
葉っぱの小判を固め【化術】でわたくしの分身を生みだし
自分はおでこの葉っぱに化け分身に張り付きます。
その状態で室内に突入、飛ぶ武器やあちらのUCを分身に受けさせます。
化けを解いて問いかけです。
『後悔や怨みとかないのですか貴女? こんな目に遭わされているのに……』
質問を起点にUC発動、出現した炎を数個周りに残して彼女に撃ち込みます。
後から飛んでくる武器は残した炎と狸火を盾にして【焼却】し防御。
それでも生きているなら鉈にて【呪詛】つきの【切断】かましてあげましょう。
わたくしだったら世の中怨みますけどねぇ、こんな状況にされたら。
●恨み、後悔、憎悪
隠神・華蘭の分身は、飛来する無数の武器と流星胡蝶剣の斬撃によってずたずたに切り裂かれた。
それは、葉っぱに化けて張り付いていた華蘭も例外ではない。
文字通り八つ裂きにするほどの勢いの、無慈悲な斬撃の雨あられである。
葉っぱのままでいては塵も残るまい。華蘭はやむを得ず変化を解除、くるりと猿めいて身を丸ませ後方跳躍、受けられるだけの武器を受けた。
「……厄介ですねぇ、これも人界のための設備だったんでしょうに。
あんなところのためにあれこれと策を巡らすから、こういうことになるんですよ」
華蘭の言葉には呆れと一種の諦観、そして苛立ちがある。
彼女のモットーは、「最後に笑って終われればもっとも良い」というもの。
どんな悲劇だろうが、筆舌に尽くしがたい惨劇であろうが、
最後に笑って終われればいい。そうすれば少なくとも、そこからは上手くいく。
華蘭は、感傷に浸るタイプではない。しかし苛立ちはある。
どれだけ戦おうと、挑もうと、妲己を「笑って終わらせる」ことが出来ない。
彼女のあの、悲しげな相貌を、その下に渦巻く絶望を晴らせない。
八百八狸がお笑い草だ。何に化けようが笑わせられないのでは。
「……後悔や怨みとかないのですか、あなた? こんな目に遭わされているのに」
ぼう、ぼう、と――華蘭の身体から、青白い火の玉が出現する。
妲己は、一秒だけ間を挟んで、ぽつりと、しかしはっきりと答えた。
「ございません」
「そうですか」
火の玉が妲己に殺到する。胡蝶剣がそれを切り払おうとするが、数が多い。
無数の鬼火は妲己の白い肌に、かぶりつくように触れ、身を焦がす。
周囲に飛来するさらなる武器もまた、鬼火に灼かれ融けていく。
この鬼火は、華蘭がその答えに満足しない限り、消えることはない。
満足できるわけがなかった。これだけのことをされて、怨みがないなどと。
「わたくしだったら、世の中怨みますけどねぇ。こんな状況にされたら」
「張角への怒りは……あります……ですが、私は……」
「はいはい。答えはわかっていますよ。人界に怨みはないのでしょう」
華蘭は嘆息した。やるせなさを感じたり、憐憫を抱くことはない。
だが、苛立ちはある――己への苛立ち。じりじりと煮えるような怒りが。
それはきっと、あの鬼火よりも熱く、昏く、そして消えようのない焔だった。
苦戦
🔵🔴🔴
劉・涼鈴
むぉー、妲己、えっちっちーで悪い子なのかと思ってたけど、いい子だったんだね!
異門同胞がなければ、UDCPみたいにお友達になれたかもだけど……
張角がいる限り敵、張角は配下を全滅させなきゃ倒せない
まぁ、しゃーなし!!
飛び交う武器を【野生の勘】で【見切って】躱す!
武侠用の武器が私を狙うなんて!
宿星じゃないけど、劉家拳伝承者! 私も武侠だぞ!
流星胡蝶剣、あの2本だね? 劉家拳がどこまで通じるか、いざ勝負!
鍛え上げた【功夫】で弾き、躱して、幻惑の歩法で懐に潜り込む!
経絡を閉じ、生命を停止させる【劉家奥義・四凶戮塵拳】!
せめて傷を与えず、綺麗なままで死なせてあげる
仇は取ってあげるからさ、ここで死んどきな
●鍛え上げた功夫を以て
妲己。
稀代の悪女にして、生き肝を喰らう狐狸精とまで謗られた毒婦。
この世界での真実は、劉・涼鈴にとってあまりにも予想外だった。
「異門同胞がなければ、UDC-Pみたいにお友達になれたかもだけど……」
それは、叶わぬ願いだ。張角ある限り、従わされたオブリビオンは敵である。
そして、張角への道は、妲己を含む有力敵を倒さなければ拓けない。
「……まぁ、しゃーなし!!」
涼鈴はいつもより声を張り上げて、割り切って。
ここは、戦いの場だ。満ちる殺気と血の匂いがそう告げている。
気を抜けば死ぬ。余所事に心囚われている暇はないのだ!
涼鈴が油断していたら、直後に飛来した無数の武器で串刺しになっていたろう。
「武侠用の武器が私を狙うなんて! 私だって劉家拳伝承者! 武侠だぞ!
宿星を有していなくたって、私には功夫があるんだ! こんなものに負けないぞ!!」
剣、刀、戟、槍、槌、垂! ことごとくを掌で受け流し拳で弾く涼鈴!
キマイラの野生の勘に人の技を乗せ、駆けるさまは武神の如し。
妲己との距離が詰まるにつれ、むせ返るような香気が涼鈴を出迎える。
だが、警戒すべきはそちらではない。あの武林の秘宝……!
(「……くる!」)
本能にしたがって涼鈴が身を躱すと、首元すれすれを胡蝶剣が薙いだ。
涼鈴は勢いを殺さず、身を伏せたまま独楽のようにくるくると回転する。
狙いすましたような振り下ろし。掌底を刃の峰に当てることで弾く!
「私を、殺してください。私を、終わらせてください……」
「……わかってるよ、そのために来たんだからね!」
涼鈴はこころを律する。感傷をシャットアウトし、気息を整える。
あえて寸前で身を離し(そこへ致命的な蛮刀が飛来した)、幻惑の歩法で間合いを騙し、円を描くようにして側面を取りながら間合いに文雄k無。
「あんま好きじゃないんだけどね、これ……!」
殺気を額から放ち、打点を誤認させた上での必殺の4連撃。
これぞ劉家奥義、四凶戮塵拳! そのうち三打が妲己の経絡を乱した!
「……ッ!」
仕留め損なった。手応えからそれを察する涼鈴。だがダメージは深い。
くの字に吹き飛んだ妲己は、胡蝶剣によって空中で姿勢制御をさせられる。
「……仇は取ってあげるよ。張角も、ほかの敵も、すべて私たちが倒す!!」
涼鈴は再び声を張り上げた。己を鼓舞するように。
武侠は敵を前に足を止めることはない。江湖に平和もたらす、その時までは。
成功
🔵🔵🔴
リア・ファル
アドリブ共闘歓迎
識っている
たとえ汚泥に塗れてでも、紡ぎ託そうとした想いを
それは、この身を創った人々のソレと同じ優しいモノだから
確かに今、キミはオブリビオンとして此処にいる
封神台は破壊され、異門同胞に縛られている
でも、決して全てが無駄ではないハズだよ
まだなにも終ってはいない
自身に介入し狐理精に抗おう
(ハッキング、オーラ防御、破魔)
自らに「セブンカラーズ」を向け、引金を引く
【音無の言弾】!
言霊が、殺戮と欲情を鎮めてくれるだろう
(祈り、浄化、全力魔法)
託し紡がれるモノが今世にもある
キミに正しき終わりを
今を生きるモノに明日を託し逝くといい
今度は彼女に向け、撃ち放つ
地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
事情が事情とはいえやらかしたことが事実である以上は覆せねえのは事実だ。
容赦をするつもりはねえよ。
……ちっ、本来はあんな感じで泣き寝入りする奴の味方なんだがな、俺は。
基本防御に徹する。
【見切り】と【第六感】で可能な限り回避。
それが無理ならパイルバンカーで【武器受け】、
それでもやられたら肉を斬らせて何とやらだ、【激痛耐性】と
【継戦能力】【気合】で踏み止まりながら、
『穢れを食らう黒き竜性』で妲己と周囲から
穢れを喰らう。
限界ギリギリまで攻撃を受け流し、タイミングを見て
【カウンター】で【指定UC】の【地形破壊】【範囲攻撃】!
そのUCが死すら許さねえんなら、そのUCごとぶっ潰す!!
ユーザリア・シン
よくぞ申したムルヘルベル
祈りの残滓と成り果てた過去を、正しく終わらせる為に猟兵は在り
あれはオブリビオンに堕ちながらも、その在り方を忘れておらぬ
天晴よなあ!
【対策】
「梁山泊」ではなく、妲己にとって友好的な行いをする
つまり彼女の願いは自身の死であるから、それに沿った行動を取る
その為に強く祈る
妾自身ではアレと同じく何も出来ぬが、出来るものを後押しする事は出来るのだ
猟兵よ。
そうあれかしと望まれ、求められ、使命に準じたあの女を、正しく弔うのだ。
そうあれかしと望まれ、求められ、使命を弑したこの妾が、正しく願おう。
猟兵よ!
征け!
祈りは終わった。
あとは我らが立つだけだ。
●終わりへの祈り
いつかの未来のために築かれた梁山泊が、今、猟兵に牙を剥く。
ありとあらゆる武器が沼から現れ、使い手もいないのに飛来する。
まさしく、雨霰。あるいは、嵐。波濤のような死が、来る。
「クソッ、数がえげつねえ! こんなとこまで利用するとはな、張角……!」
地籠・凌牙は舌打ちし、飛来する武器の軌道を見切って弾く。
武器の攻勢は、それ自体は凌牙のような歴戦の猟兵なら凌ぎきれるものだ。
いまさら、使い手のない武器ごときに負けるほど、彼らは弱くはない。
問題は、それと同時に妲己の……正しくは彼女を活かすユーベルコードの攻撃があるということ。
「私のユーベルコードは、私に死ぬことをすら認めない……ごめんなさい、猟兵よ、私にはどうすることも……」
妲己は口で詫びながら、身体を人形めいて繰られ、すさまじい連撃を放つ。
凌牙、そしてリア・ファルは、このめくるめく連続斬撃をかろうじて受けた。
「……識っているよ。キミのその想いを、ボクはたしかに識っている。
だってそれは、ボクという存在(モノ)を創った人々と同じ想いなんだ」
空間をハッキングし、イルダーナを操り、猛撃を凌ぎ続ける。
打ち合うたびに、凌牙とリアの身体に傷が増えていく。だが彼らは退かない。
「たしかにいまキミは、オブリビオンとして此処に居る。
封神台は破壊され、異門同胞に縛られ、けれど……でも!」
「事情が事情とはいえ、やらかしたことは事実だし、覆りもしねえ。
だとしても、あんたのやったことは無駄じゃねえんだ。俺たちがそうさせねえ!」
自己犠牲。その言葉で贖うには、妲己の積み重ねた悪行はあまりにも罪深い。
その名はこれからも、数多の世界で悪の象徴として遺り続けるだろう。
あらゆる行いは唾棄され、侮蔑と憎悪を浴び、嘲られ呪われ続けるのだ。
覚悟の上だ。妲己はそれを悔やんでいない。悔いがあるのは終われなかったこと。
オブリビオン。死という停滞から立ち返った、終われなかったモノ。
そうであることを彼女は悲しむ。からば、その過去を終わらせることこそ!
「よくぞ申した! 猟兵(われら)とは、そのためにあるものだ」
新たに駆けつけたユーザリア・シンが、ふたりの言葉に叫んだ。
「祈りの残滓と成り果てた過去を、正しく終わらせるこそこそ、我らのさだめ。
オブリビオンに堕ちながらも、在り方を忘れぬ仙女よ。ゆえに妾は祈ろうぞ」
むせ返るような香気が満ち満ちる。正気を奪い、狂わせようと。
「ユーベルコードだからか、攻撃に躊躇も容赦もねえな……完璧に合理的だ!」
「まず、い……ボクには、狐狸精まで憑依させるつもりだ……!」
リアはコンピュータウィルスめいた強制的な侵蝕を受け、くずおれた。
集中攻撃を浴びた凌牙はパイルバンカーで防ぐが、受けきれず、吹き飛ぶ。
ユーザリアは……祈った。武器にその身を切り裂かれて、なお。
力が満ちた。
リアは、言霊の銃を以て、己の存在を撃ち抜き、狐狸精を鎮めるだけの力が。
凌牙は、傷つきながらも立ち上がり、嵐の中へと飛び込むだけの力が。
祈りは何も変えはしない。だが、進もうとする者の後押しは出来る。
ユーザリアには、何も出来ない。しかし、リアと凌牙なら、猟兵ならば!
「ああ、妾は友好的に振る舞おうとも。いや、妾だけではない、皆そうする。
おぬしの望みは、死なのであろう。ならば、終わりを終わらせようとも」
聖なる光が、ユーザリアの全身から放たれた。
それが、力を与える。リアと凌牙は、傷の痛みを乗り越え、立ち上がる!
「これなら……! ボクの胸の裡の声は、まだ聞こえる!」
リアは骸の海を浄化する弾丸を、自らに撃ち込んだ。
銃声。そして、狐狸精の断末魔。邪悪はリアの裡より去りて消える。
「……本来は、俺はそうやって泣き寝入りする奴の味方であるはずなんだ」
パイルバンカーを支えに、凌牙は息を整えた。
「まったく、自分が情けなくてしょうがねえよ。俺はすべてを救えやしねえ。
とっくに終わっちまったものを、もう一度終わらせる。今出来ることは、ただそれだけだ」
「それでも、為そうとするならば、その背中を妾は押そう。祈ることで」
「……なら、やるしかねえよな!」
ユーザリアの言葉に、凌牙は奮起した。リアもまた立ち上がる!
渦巻く鋼の嵐を貫いて、その目に囚われた女を解き放つために!
「そうだ、征け、友よ。我が手の先へと」
ユーザリアが崩折れた。血まみれで、しかし彼女は笑っている。
満ち満ちる香気は、凌牙の禁呪によって喰われ、消散した。
「あ、ああ……私の香気を、喰らったのですか? なんということを……!」
「俺の心配なんざいらねえよ。このぐらいは慣れてんだ」
正気を惑わし狂わせる香気を取り込むことは、凌牙に強い負荷を与える。
渦巻く内的エネルギーを災害に変え、凌牙は駆けた!
胡蝶剣が迎え撃とうとする――否! リアの弾丸が刃を弾く!
「託し紡がれるモノは、今世にもある。キミの行いは、無駄じゃなかった」
司馬炎。心ある武侠たち。彼らのおかげで、世界は寸前で踏みとどまった。
猟兵の戦いは、そうした人々の想いを背負い、立ち向かうだけのこと。
ここにいるのは、猟兵だけではない。妲己自身の思いもまた彼らの原動力!
「今を生きるモノに、明日を託すといいさ。そのために、キミに、正しい終わりを……!」
「死すらも許さねえユーベルコードなんざ、災厄(おれ)が叩き潰す!!」
地形をも破壊するほどの強烈な一撃が、妲己に叩き込まれた。
祈りと覚悟の力で引き出した膂力のすべてを込めた、まさに捨て身のカウンター。
それが、妲己を、そして彼女を生かそうとするユーベルコードに亀裂を生む。
あるべき終わりをもたらすため。過ぎて去りしものを、真なる過去にするために。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
エコー・クラストフ
【BAD】
殺戮を煽るか。また随分と……命知らずもいたもんだ
ボクはオブリビオンを殺すために再び生を得た
……だけど、他の目的もできた。ただ化物を殺す化物として動き回るんじゃなくて、金を集めて、好きな人と暮らして、宝を探して、食べ物を食べて……
それらは謂わば不純物。ボクが蘇った目的からすればな
だから――お前を殺すために、今はそれを忘れよう
【罪人よ、血を流せ】
お前が武器を飛ばそうが、この身にとっては刃を研ぐ砥石に過ぎない
生命を吸うか? やってみるがいい。吸うものなんか残っちゃいないがな
……この後のご褒美は
……普通の生活かな。寝て起きて、料理を作って、食べよう
ボクらにとって……最高の不純物を楽しもう
ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
そこを刺激しちゃう?
いいけど――すごいよ、俺
本当の俺の役目は『宇宙から辿り着いた先の惑星で、生命体に寄生し、増えること』
生命溢れる天体を真っ黒にする
インクつぼみたいに。
生命体が居て、「俺」が寄生できれば
勝手に俺の遺伝子が、宿主の体で増殖して腹を食い破って出てくる
ちょっとしたB級コズミックホラーだ。俺の『欲情』ってのは
だから今は、人間らしい「遊び方」で紛らわしてる
【XENOMORPH】
そっちがその気なら便乗する
暴れ散らかしてやるよ
だが、――他所の女に色出そうもんなら
俺の旦那様にマジで怒られる
つまり、「本能」でそれは出来ない
習性も愛情も、勿論恐怖もね
――さァ、エコー
『この後のご褒美は?』
●龍の尾
世の中には、けして触れてはいけないものがある。
それに触れるということは、つまり、自ら破滅を呼び寄せるということ。
妲己が(といっても彼女の意思ではないが)触れてしまったのは、そういうものである。
彼女の望みからすれば、正しい行いだったのかもしれないが。
狐狸精のもたらす、殺戮と欲情の奔流。
常人であればその瞬間に狂い死ぬ。猟兵とて、耐えるのは極めて難しい。
そして、合理的に殺しに来る妲己――のユーベルコード――を相手にしている中で欲望に狂うというのは、隙を自ら晒すようなものである。
飛来する武器が、まもなくその哀れな犠牲者を串刺しにして殺す。
二段構えのチェックメイトだ。ゆえに、抗わなければならないのだ。
しかし、ハイドラ・モリアーティあるいはエマ・クラストフはこう言った。
「そこを刺激しちゃう? いいけど」
あろうことか、エマは、狐狸精のもたらす激情を受け入れたのだ。
またぞろ彼女が無茶をやらかしたか。エコー・クラストフが諌めるところか。
「またずいぶんと……命知らずもいたもんだな」
だが、エコーもまた、狐狸精のもたらす激情に抗わなかった。
なぜならふたりは……いや、二体は、それぞれの本質が殺戮と蹂躙に拠っている。
欲望、衝動、本能。それこそが、エマの本質(ヒュドラ)を起こすキーワード。
狐狸精は龍の尾を踏んだ。エマの半身を黄金の外殻が鎧った時、もう後戻りは出来なくなっていた――後戻りを望むであろうは、敵のほうだが。
「そうです、どうか殺してください。お願いします」
妲己はただ悲しげに、憂いの帯びた顔で嘆願した。
通常であれば、彼女のか細い声も、すがるような表情も、どうしようもなく胎を熱くさせ、我を忘れるような蠱惑的な甘い果実に見えることだろう。
見えてはいる。だが、エコーにもエマにも、そんな些末なことは関係ない。
ふたりは、奪うモノと殺すモノである。そのために在る怪物(モノ)になった。
引き金を引いたのは、ユーベルコードだ。であれば、止まる理由はない。
「悪いね。そっちがその気なら便乗してやるが、色出したら怒られちまう」
「ハイドラ」が言った。その声は人間のものではないが、彼女のままではある。
エコーへの愛。本能にまで刻み込まれた「遊び方」の残滓がそうしている。
ハイドラが本気で欲情することを、彼女の「旦那様」は許していないだろう。
だから、貪ることはない。ただ存在意義としての収奪と増殖を果たすのみ。
「……ボクらにとって、人間らしい生活は、いわば不純物だ」
エコーが言った。
オブリビオンを殺すために得た第二の生。化け物を殺す化け物というアイデンティティ。そこに、人間性が介在する余地など、本来はない。
金を集めて、
愛する人と暮らし、
宝を探し、
食べ物を食べる。
どれも不要だ。エコーは生存を維持する必要すらなくなったからだ。
呼吸すらも不要。デッドマンになるというのは、そういうこと。けれども。
増殖と殺戮。そのためだけに在るはずの女性(モノ)たちが言葉を交わす。
「さァ、エコー」
ハイドラは笑った。
「このあとのご褒美は?」
「…………普通の生活、かな」
エコーが答えた。
「寝て起きて、料理を作って食べよう。ボクらにとって最高の不純物を楽しもう」
「あァ、いいな。そいつは、無駄(さいこう)だ」
星を、生命を喰らうものは喉を鳴らして笑った。殖えるものにはあらざる表情。
無数の武器が飛来する。そんなものは殺戮者にとってなんの意味もなさない。
生命を奪われようが、色香を振りまかれようが、もはやそれらは止まらない。
「あ、ああああ……ッ!」
死を望むはずの妲己が、恐怖に呻くほどの暴威だった。
武器というのは、人間が人間を、あるいは獣を殺すために生まれたものだ。
怪物という定義からすら外れたモノに、些末な道具など意味をなさない。
狐狸精など、とっくに飲まれていた。それほどまでに二体の本能は強力だった。
「ご褒美が、待ってるんでなァ!!」
ハイドラが吠えた。黄金を鎧うかぎ爪じみた指が妲己の肉を抉り骨を砕く!
さらにエコーの追撃! そこには躊躇も慈悲も、無駄も狂いもない!
死ねる。ようやく。だがこの者らは、あまりにも……恐ろしい。
待ち望んだはずの終わりを前にして、妲己は心の底から震え上がった。
もしかしたら「これら」は、彼女が封じるべきだったものよりも恐ろしいのではないか。そんな思考が、仙女には拭いきれなかったからだ……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
矢来・夕立
●先制対策
出現する武器を利用・敵UCと相殺する形に射線誘導
ひとつ弾けば及第点。凌ぎ切れたら万々歳ですね。
彼女はきっと篭絡が。オレは殺しが一番得意です。
老若男女貧富貴賎。どんな命でも取ってきました。
乞われずとも殺します。否応なく。
最悪の女には邪道の剣が相応です。
大義や思想や他人なんて不確かなものを信じるからこうなる。
それでも悪道に身を窶したことを悔いてはいない筈です。
根拠?オレの目の前で死んだ“悪い奴”は皆そうだったからですよ。
世界の為とか帝都の為とか言って。ああ。バカみたいな生き方でしたが。
そういうひとには、願い通りの死が与えられていい。
――悪く生きるのは、善く生きるよりも難しいんですから。
●悪道
悪に堕ちるのは弱さの証だと、誰かが言った。
より善く、よりまっすぐに生きることは、難しい。
だから人は道を誤り、悪に堕する。悪であることは弱さの裏返しでもあると。
間違ってはいない。道を外れるのは、道を貫くよりずっと簡単だ。
だが、矢来・夕立はこうも思う。
外れた道を貫くことは、正道を歩み続けるよりも難しいと。
獣道には無数の暗がりと落とし穴があって、常に手ぐすねを引いている。
明かりなどない闇の中を、人はまともなまま歩むことは出来ない。
だから、「道を踏み外す」ことは簡単でも、「踏み外し続ける」ことは難しい。
そのために命を賭けるなど、なおさら。自分もまだ、成し遂げてないんだから。
ギャキ、ギ、ガキキッ!
刃同士がやかましく音を立てる。夕立自身は、ほとんど武器を弾いていない。
最低限弾く必要のあるものは、苦無で行き先を逸らしてやる。それだけだ。
他の大部分は、逆に掴み取って流星胡蝶剣を受けるための捨て石にするか、
さもなければ飛来する軌道を読んだ上で、妲己の攻撃をうまく誘導し、
胡蝶剣の斬撃上に「置く」ことで対処している。スムーズな処理方法だった。
ひとつ弾けば及第点。夕立はそう考えていたが、敵の攻撃が妲己自身でなく、ユーベルコードという自我なきシステムだったことが彼に味方した。
ユーベルコードに、慈悲も容赦もない。それゆえに流星胡蝶剣の斬撃は、すべてが致死的か必殺に繋がる前振り。ようは殺すためだけの武技だ。
それは、夕立がもっとも得意とすること。殺すことは彼の生き様であり本質。
妲己が本来得意とする籠絡と蠱惑なら、また話は違っただろう。
ユーベルコードは、常に自分を殺しに来る。なら、「自分ならどう殺すか」を考えて、その逆をなぞればいい。つまりは、「わかりやすかった」のだ。
「私を、殺してください」
「乞われずとも殺しますよ」
夕立は端的に述べた。視線を外さず、必然として生まれた空白を滑るように走る。
目を見ればわかる。夕立の思った通り、妲己の瞳に悔恨の感情はない。
夕立は、そういう目を何度も見てきた。曇りのない、続きを諦めた目を。
……いや、諦観とは少し違うか。彼らは自らの終わりで、未来を拓こうとしていた。
ひび割れた黄金に浮かぶ、アルカイックな笑み。
あるいは、己の愚かさに呆れ果て、自ら無惨を望んだ兵士。
大義。思想。己ではなく他者から出たものを信じ、身を窶し、命を預け。
その結果として悪道を進んだ愚か者ども。死を望むなど本末転倒だ。
そいつらはみんな、"悪い奴"として斃れた。多くは夕立が殺した。
「悪女(あなた)には、邪道の剣が相応でしょう」
平然と、当然のように、邪道の剣が白い肌を裂いて、血を噴出した。
バカみたいな生き方だと、夕立は呆れる。自分は絶対にそんなことはしない。
だが、それでも。願い通りの死(おわり)は、あっていいはずだ。
悪く生きることは、生き続けることは、善く生きることよりずっと難しい。
夕立は暗闇に生きて暗闇に死ぬ。暗闇を進む者に手を伸ばすことなどない。
ただ、その臨終を見守る、あるいはもたらす。出来ることなど、結局は、そのぐらいなのだ。
大成功
🔵🔵🔵
アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
お姉さんも、死にたい、の?
想起する。
桜舞い散る世界で、『綺麗に死にたい』と願った、ただ何処かの誰かのために生きたひと。
あの人とは違って、妲己は多くの人を傷つけ、苦しめた末の今ではあっても。その根本の願いはきっと同じはず。
だから、苦しんでほしくない。自由に生きることが出来ないなら、せめて。
迫る武具達は、念動力で逸し、オーラ防御で凌ぎ、隙間を縫って駆け抜ける。
そして妲己の元へ辿り着いたなら。
魅了の香気には『逆らわず、受け入れる』
何故なら、既にそうだから。妲己の過去を、思いを知ったから。魅了など関係なく、彼女のことが好きになった。
心からそう思えるならば、意識も無意識も変わりなく。
彼女の望み(死)を叶えることを、全力で果たすに決まっている。
だから、踏み躙られた過去から解き放たれますように。
オブリビオンであっても、どうかその未来に
『光あれ』
●希死
『私はただ、その苦しみを取り除いてあげたかつたのです』
『もしも私が、もっと早くにあなたに会えていたのなら――こうなっては、いなかったのかしら』
『……ありがとう。あなたに出会えて、よかった』
アヴァロマリア・イーシュヴァリエの脳裏に、桜の色とともによぎったもの。
綺麗な終わりを望み、そして約束とともに笑顔で消えた、瑠璃色の友達。
彼女は、妲己と違った。無私の慈愛で人々に手を差し伸べ、なのに殺された。
理由があれど、多くを傷つけ、苦しめ、辱めた妲己とは違う。
「お姉さんも、死にたい、の?」
「……ええ、そうです。終わらせてください、私を」
だが、望みは同じだった。
もう死んでいるはずの身体を、ユーベルコードに縛られて。
流れる血すら美しい女は、土気色の肌で笑った。
「殺してください」
そうはさせまいと、武器が飛来する。殺すために鍛(つく)られた道具が。
アヴァロマリアは、駆け出した。肌が裂けようとも走り続けた。
魅了の香気が、アヴァロマリアを出迎える。脳を侵し、心をさらう。
それは、心なきものすらも蕩けさせる寵姫の香。抗うことなど出来ぬ薫り。
耐えようと足を止めれば、飛来する武器がアヴァロマリアを殺す。
抗おうと心を強くすれば、香気はさらに妖しくアヴァロマリアを惑わす。
耐える必要などなかった。
「そんなことしなくても、マリアはもう、お姉さんのことが好きだよ」
血まみれの聖女(マリア)は微笑んだ。
その過去を、思いを知ったときから、もうアヴァロマリアは「こうする」と決めていた。
妲己の希(のぞ)み。終わり。心からの思いとして、それをもたらす。
「……ありがとう。優しい子」
妲己が浮かべた微笑みも、いつかの瑠璃色のそれとよく似ていた。
あの時は、「またね」と声を揃えて、いつかの再会を約束した。
約束は消えない。アヴァロマリアは、その「いつか」までは死ねない。
過去になど、しない。未来に繋がった思いだけは、決して。
未来を守ろうとした聖女の思いもまた、同じように背負っていく。
「どうか、踏みにじられた過去から解き放たれますように」
アヴァロマリアの両手が、妲己の青ざめた肌を、顔を包み込む。
オブリビオンであっても。
悪女であっても。
どうか、その未来(おわり)に、ただ――。
om kranah svaha
「 光 あれ 」
この世界に、魂を慰める桜はない。
それでも願わずにはいられない。アヴァロマリアは、そういうものだ。
どうか、どうか。その魂に救いあれ。どうか、せめて苦しみのない終わりを。
「……どうか」
アヴァロマリアは、あの時のように、ずっと立ち尽くしていた。
祈りだけが、終わらせた彼女に出来ることだった。
大成功
🔵🔵🔵