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殲神封神大戦⑭〜どうか、私を

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑭ #封神仙女『妲己』


●終わりを願う
 誰か、誰か――。
 はらはらと涙をこぼす女がいる。
 その涙がこぼれる度、女の籠った玄室の香気が密度を増し、その場にいるあらゆるものが女を案じて正気を削ぎ落す。
 その光景を見て、女はまた、胸が締め付けられる。
「誰か、私を殺してください。もう、生きていたくはないのです……」
 かつて己が身を生贄として『封神台』を建立し、全てのオブリビオンを封印した、封神仙女『妲己』は願う。
 彼女には、もうそれしかできない。
 けれど、『誰か』とは存在するのだろうか。
 彼女が願う『誰か』は、本当に、彼女を殺してくれるのだろうか――。

●終わりを捧げる
 殺してほしい子が居るんだ。グリモア猟兵、エンティ・シェア(欠片・f00526)は緩やかな口調でそう告げた。
「正確には、殺してあげてほしい子、かな。封神仙女『妲己』は、殺されることを、願っている」
 生贄として封神台を建立し、全てのオブリビオンを封印したはずの妲己。
 しかし今、その封神台は壊され、彼女に贄を命じた仙翁達は死に、妲己自身がオブリビオンとして蘇らされたのだ。
 オブリビオンの根絶のために、殺戮と悪徳の限りを尽くし、身も心も世界の安寧のために捧げたはずなのに。
「しかも、彼女がどれだけ自死を願おうとも、彼女の離反を恐れた仙翁達によって移植された児童発動型のユーベルコードが、それを阻む」
 妲己の香気を散布する『傾世元禳』。
 武林の秘宝『流星胡蝶剣』。
 殺戮と欲情を煽る『殺生狐理精』。
 それらが、妲己の意志とは関係なく発動し、彼女を害するものを排除するだろう。
 無論、世界を救わんと奮闘する猟兵だって、例外ではない。何せ、持ち主であるはずの妲己すら、彼女自身を害することが叶わないのだから。
「妲己の意志は、殺されること。だから、彼女のユーベルコードを掻い潜り、その喉元に手を伸ばせたなら……彼女は、それを受け入れるだろう」
 ゆえに、君達はとにかく妲己の元にたどり着けばいい。
 それを困難とさせているのは、先に挙げたユーベルコードのみではない。
 妲己が座すその場所は、彼女が籠り続けた玄室。
 そこには妲己の香気がむせかえり、あらゆるものを狂わせる。
 無骨であったはずの要塞の壁さえも魅了によって輝く宝石と化し、仙界の美しい羽衣人達が香気に誘われ、正気を失って踊り狂っている。
「酒池肉林の宴の間と化したその場所で、まず、彼女の魅了に抗わなければならない」
 そうでなければ、羽衣人達と同じように踊り続ける事となるか……その前に、妲己のユーベルコードに屠られるか。
 それでも、抗う事は難しい事ではないよとエンティは言う。
「君達の心を自由にできるのは、君たち自身だけ。君達はそれを、よぅく、理解しているだろう?」
 その意志で以て、臨んむだけ。
 妲己の願う、『誰か』となるために――。


里音
 健気で可愛い妲己ちゃんに既に魅了されている心地の里音です。
 やや難ボス戦の一章完結シナリオとなっておりますが、心情多めで問題ありません。
 自死を願う妲己を、どうぞ殺してあげてください。

 当シナリオでは「酒池肉林の宴」の魅了に耐えつつ、妲己の先制攻撃に対処することでプレイングボーナスが得られます。
 技能による各種耐性は、数値が高ければ高いほど『有利』と判定しますが、完全に防ぐことは出来ません。
 妲己に対する意志を明確にして頂いた方がボーナスを得やすい仕様となります。
 妲己は猟兵の言葉に対して返事をしてくれますが、猟兵の行動を助けることは、どう頑張っても出来ません。
 また、羽衣人さん達はなるべく傷つけないであげて下さると嬉しいです。(成否への影響はありません)

 OP公開後から受付開始します。
 書けるタイミングでお届けしていく予定ですが、失効にならない程度ののんびり進行になると思います。

 皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『封神仙女『妲己』』

POW   :    殺生狐理精(せっしょうこりせい)
対象に【殺戮と欲情を煽る「殺生狐理精」】を憑依させる。対象は攻撃力が5倍になる代わり、攻撃の度に生命力を30%失うようになる。
SPD   :    流星胡蝶剣(りゅうせいこちょうけん)
レベル×5km/hで飛翔しながら、【武林の秘宝「流星胡蝶剣」】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ   :    傾世元禳(けいせいげんじょう)
【万物を魅了する妲己の香気】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
楊・宵雪
「安心して。わたくしたちは貴女を止めに来たの。もう苦しまなくていいのよ
魅了とUCは⑬で作った仙衣『柳緑桃紅』の[浄化]と[毒耐性]で抵抗

この人を惑わす香りは傾世元禳…UCね
ならこれで止まるはず

妲己への射線確保次第UC発動
妲己のUC封じたら[気絶攻撃]で意識を刈り取る
「こんどこそちゃんと眠らせてあげる

その後羽衣人が正気を取り戻していたら避難促す




 はらり零れる涙が煌く。魅了され、宝石と化した無骨だった玄室の中でさえ、その涙はいっとう美しく、何にも代えがたいものに、思えてしまう。
 魅了の香気に満ち満ちた玄室の中にそんな雰囲気が漂っているのを、楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)は薄絹を幾重にも重ねた複雑な色合いを作り上げている仙衣と共に、見つめていた。
 桃源郷で、桃の花を集めて作った宝貝は、妲己の齎す魅了の効果を薄めてくれた。浄化の力も、後押ししてくれているのだろう。
 それでも、宵雪の気持ちを誘惑してくる甘い香りは、染み入るように心を侵してきた。
 惑わされぬ内に。宵雪は、妲己を見つめて真っ直ぐに告げる。
「安心して。わたくしたちは貴女を止めに来たの。もう苦しまなくていいのよ」
 はた、と。涙にぬれた瞳が宵雪を見た。口角を上げて笑みを作ってみせた宵雪に、妲己の纏う羽衣が更なる魅了の香気を放ってくる。
 その力はあまりに強力だったけれど、まだ、抗えた。
 完全に妲己の虜になってしまう前に、宵雪は手元に取り出した護符を妲己へ向けて放つ。
 それが触れた途端、ぱちん、と。まるで泡が弾けるように周囲に充満していた香気が薄れ、魅了され踊り狂っていた羽衣人の幾人かが、ぼんやりとした表情で、周囲を見渡した。
「あぁ……」
 妲己は、自身が纏う傾世元禳の力が封じられたのだと、気付いた。
 それによって、ほんの一部ではあるけれど、妲己の魅了から解放された者が居る。
 その現実の、なんと喜ばしい事か。
 妲己の香気は、仙女だった彼女が酒池肉林に溺れることで生まれた、彼女自身から溢れるものゆえに、完全に遮断することは叶わなかったけれど。
 薄まれば、それだけまた、宵雪は抵抗することが出来る。妲己に、攻撃を仕掛けることも、出来るのだ。
「こんどこそちゃんと眠らせてあげる」
 うつろな表情の羽衣人達を避難させるのは、その後でいい。
 死を望む妲己が完全なる眠りについた後。この玄室に、殉死すべき者などは、存在しないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

張・西嘉
『殺して欲しい』などと願われて。その理由を知るならばそうしてやりたいと思わずには居られない。彼女が唯一自由な心で嘆くのなら望む誰かになってやろうと。

妲己と戦う為に作った宝貝は役立ってくれるだろうは。宝貝『桃風扇』で【破魔】を使った【結界術】で結界を張り酒池肉林の影響を遮断する。
羽衣人達が誘ってくるならば『桃風扇』で扇ぎ【破魔】で【浄化】で少しでも落ち着かれせる。

妲己のUCには大事だと思う人を強く思い浮かべ争う。あの人以外に魅了される気はないのだ。
冷たい耳飾りの感覚を感じながら。

UC【氷蒼の加護】
主の加護が強く意志を保たせてくれる。

さぁ、今度こそ終わりにしよう。




 ――誰か、私を殺してください。
 その願いに伴う理由は、張・西嘉(人間の宿星武侠・f32676)にとって同情に足るものだった。
 彼女の――妲己の願うとおりにしてやりたいと、思わずにはいられないほどに。
 妲己にとって唯一自由な、彼女自身の心。その心が、軋みながら、狂うことなく、ただただ悲痛なほどの死を願うのなら。
 なってやろう。彼女の望む、『誰か』に。
 ふわり、桃花で作り上げた扇型の宝貝を仰ぐ。
 香気に満たされた玄室の中に、その扇が起こす風は爽やかに広がり、破魔の力を伴って、清浄な空気を広げていく。
 それは同時に結界となって編み上がり、西嘉を香気が齎す直接的な魅了から守ってくれた。
(これで、少しは――)
 完全な遮断に至らないのは、何も宝貝の効果の薄さではない。
 ただただ、妲己の魅了に、底がないだけだ。
 末恐ろしさを感じつつも、西嘉は背筋を伸ばす。
 傾城の美女と真正面から対峙するために、その心に、大事だと思う人を強く思い浮かべるために。
 美しい人が、泣いている。
 死を求めて泣いている。
 けれど、こんなにも美しい人が、死ぬべきだろうか。
 崇められるほどの美が永遠にあるならば、それは、尊い事なのではないだろうか――。
 心の内側で燻るような思いは、魅了が望む言葉だろうか。それとも、周囲で舞い続ける正気を失った羽衣人達の声だろうか。
 どちらでも、同じだ。西嘉の答えは『否』。ゆっくりと首を振って、その度に柔らかに揺れた耳飾りの冷たさに、凛と冴える意志を確かめた。
「あの人以外に魅了される気はない」
 きっぱりとした拒絶と共に、扇を大きく振るう。
 傾世元禳が散布しようとする香気を消し飛ばすほどの風に煽られて、羽衣人達もふわふわと飛んでいくけれど、優しい風は彼女達を傷つける事は無い。
 靡く髪を抑えることもせず、羽衣人達の行方を視線で追っていた妲己は、その事実に安堵を抱き、そうして、真っ直ぐな眼差しで妲己を拒絶した西嘉に、笑みを零した。
「主の加護ありがたく使わせてもらおう」
 氷が、視界を過る。
 意識を覚ましてくれる鋭い冷気。
 そこに含まれる、西嘉の主への深い思いが垣間見えて。
 身体を侵食してくる冷たさが、愛おしくさえ思えた。
「さぁ、今度こそ終わりにしよう」
「ええ、どうか、終わらせてください」
 穏やかな笑みを湛えて、妲己は氷の浸食を静かに受け入れていくのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
死にたいのに死ねないのは辛い事だよ
生きたいのに生きれないのと同じくらい
かつての僕がそうだったから
僕には救いがあったから…わかるとは、言えないけど

僕自身が元々持つ【誘惑】を少しでも香気への耐性代わりに
意味があるかはわからないけど
【高速詠唱、多重詠唱】で【オーラ防御】に【浄化】の光と風魔法、【狂気耐性】を混ぜ込んで
一時的でも香気を遮断したい

翼の【空中戦】で羽衣人達の回避を重視

一つだけ
死ぬ前に…祈る事は出来る?
貴方が奪った人々の為に
罪を背負う覚悟はある?

彼女が人々の為に祈るなら
僕は妲己さんの為の【祈り】を
【指定UC】発動
罪の無い羽衣人達には害の無い
悪を【浄化】する【破魔】光で
せめて許しをあげられたら




 ひやり、と。玄室内に冷たい空気を感じた。
 宝石の如く煌びやかに変貌したその場所で、舞い踊る羽衣人達とは明らかに異なる異質な氷の気配。
 妲己は凍り付き始めた体を愛おし気に撫でながら、それでも、朽ちることなくそこに居た。
 死にたいと願う彼女にとって、身体を蝕むものすらいとおしい。それほどまでに死ねずにいる事実が、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の胸を、どうしようもなく締め付けた。
(死にたいのに死ねないのは辛い事だよ。生きたいのに生きれないのと同じくらい)
 かつて、澪もそうだった。奴隷と言う身分で酷い扱いを受け、どれだけの苦痛を感じても、死ぬことなんて許されなかった。
 心が壊れてしまう前に救われる事となった澪に、妲己の気持ちが全部わかるなどとは、言えないけれど。
 それでも、彼女の願いを叶えてやりたいと願うには、十分過ぎる意志が、そこにはあった。
 澪が持つ誘惑の技能は、澪がかつて見世物として生かされてきた時に培った部分もあるが、誰かを狂わせる事の無い、純粋な思慕を抱かせるもの。
 それは妲己自身にも十分通用するもので、彼女は澪の来訪を心から歓迎していると言うような表情を見せていた。
 それでも、妲己の香気は自然と溢れかえり、澪を魅了しようとしてくる。
 抗うために紡ぎあげるのは、浄化の力を伴った光と風の魔法。
 香気を払い、遮断しようとする存在――それは、妲己を害する存在だ。
 ゆえに妲己に移植された『流星胡蝶剣』は発動する。澪目がけて飛んでくる剣や、只管に舞い続ける羽衣人達を背の翼で飛び躱しながら、澪は妲己へと近づき、見上げてくる瞳に向けて、問いかける。
「一つだけ。死ぬ前に……祈る事は出来る?」
 ぱちり、と。妲己の瞳が瞬いた。
 それは、何に対して祈るべきかと不思議がる顔ではない。
 祈ることを許されてもいいのかと言う顔だった。
「貴方が奪った人々の為に、罪を背負う覚悟はある?」
 繰り返される問いかけに、妲己の頬が薄く赤みを帯びる。それは歓喜の色だ。
 顧みてはならぬと思った。世界の平和のために犠牲となる事を強いた人々の恨みを受け止めるためには、そう斬り捨てて前を向き続けなければならぬと。
 封神台の建立という使命は成され、悪女を振舞う必要がなくなったいまならば、それが許される。
 ――許してくれる人が、ここにいる。
 胸の上で両手を重ね、妲己は静かに瞳を伏せた。
 その姿を見つめて、澪もまた、両手を組み、祈りをささげる。
「全ての者に光あれ」
 澪の全身から放出される魔を浄化する光が、玄室を満たす。
 罪のない、浄化するべき『魔』を持たない、惑わされただけの羽衣人には害のない光。
 それを放ちながら、澪は妲己のために祈るのだ。
 せめて、彼女の罪が許されるようにと。
 満ちる光が、彼女の罪を浄化してくれますように、と――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

待鳥・鎬
信念のため覚悟を持って……精一杯生き抜いて眠りについたはずの人
それを無理矢理舞台に引っ張り上げて、生きていたくないと泣かせた
そんな悲痛な涙に魅了されるなんてとんでもない
張角への怒りが増すだけだ

羽衣人達を躱すため、山吹の光学迷彩を纏って行動
袂に忍ばせた桃仙香炉に祈りを込めて魅了に対抗するよ
仙界の桃花……彼女にとっても懐かしい香りなのかな

射程に入ったらUC発動
花弁に全身麻酔という名の猛毒を乗せて、痛みのない死の眠りへ
苦痛の少ない攻撃手段を持っている猟兵ばかりではないだろうし、皆の辛さも緩和できると良いけど

封神台がなければ、猟兵が力を付ける前に蹂躙されていたはず
貴方のお陰だ
大丈夫、あとは僕達に任せて




 妲己という仙女は、世に安寧を齎すという信念のため、覚悟を持って全てを差し出した。
 精一杯生き抜いて、贄としての務めを果たし、眠りについたはずの人。
 ――それを、無理やり舞台に引っ張り上げた。そうして、生きていたくないと泣かせた。
 はらりと零れていた涙は、玄室を煌びやかに変え、その心を少しでも慰めようと舞い踊る羽衣人を呼び寄せた。それすらも妲己の苦痛を煽るばかりの悪循環。
 あまりに悲痛な涙が齎す魅了に、待鳥・鎬(草径の探究者・f25865)が唆されるなんてとんでもない。
 そんな涙を流させた張角への怒りが、ただただ、増すだけだった。
 桃の花枝を象った細工が美しい、球形の香炉。桃花から創り上げたその宝貝に灯を点し、鎬は柔らかな桃花の香りをその身に纏った。
 満ちる香気は桃の香りで掻き消して、姿は隠れ蓑の効果を発揮する山吹で晦ませて。
 舞い踊る羽衣人達を避けながら、そぅっと妲己へと近づいていく。
 近づく程に、妲己の香気は濃くなっていく。彼女の纏う傾世元禳が、香気を散布するためだろう。
 けれどその香りは妲己の望むものではないと、鎬は知っている。心の底から湧き起ってくるばかりの怒りを宥めてくれるのは、甘ったるい香気では、ないのだ。
「――その香りは……」
 はた、と。顔を上げた妲己と、目が合った気がした。
 その瞳は、涙の痕が窺えるけれど、泣いてはいない。
 あぁ、きっと、猟兵達が幾度も彼女を慰めたのだろう。殺してほしいと願う彼女の願いを叶えるために、動いたのだろう。
 桃花の香りと、幾ばくか和らいでいる妲己の表情だけが、鎬の留飲を下げてくれる。
 苦しげな顔をしていない今の彼女にこそ、この技は相応しいだろう。
「毒花に染まれ」
 硝子の夾竹桃が、玄室の中できらきらと、舞う。
 見覚えのない花が舞うさまを眺める妲己は童女のようですらあって、ふ、と。鎬はほんの少しだけ笑みを零す。
 硝子の花弁は、妲己を眠りへと導く。
 痛みのない、死の眠りへと。
 瞼が重くなるような感覚を、妲己自身感じているのだろう。それに抗うべきではないという事も。
 それでも、この力を齎す誰かを、桃花の、懐かしい仙界の香りを纏う誰かを探すように、視界が動いている。
 むせかえるほどの香りに、近づくことになると分かっていて。鎬は妲己の前に立つ。
 そうして、紗の衣を、はらり、脱いだ。
「封神台がなければ、猟兵が力を付ける前に蹂躙されていたはず」
 妲己が命を受け建立させた、オブリビオンを根絶するための仙界の至宝。
 作ったはずのそれが破壊され、妲己自身さえも蘇らされた今、まるで全てが無意味だったように、彼女は嘆いていたけれど。
 そもそも、それが無ければ、こうして抗う術も持たぬまま、この世界そのものが消えていたかもしれないのだ。
「貴方のお陰だ」
 精一杯の笑顔で、鎬は紡ぐ。
 近くで見つめた宝石のような瞳は、もう、涙に濡れてなんかいない。
 濡れる、べきではない。
「大丈夫、あとは僕達に任せて」
 桃花纏う異邦の人。その声が紡ぐ信に、顔を綻ばせた妲己は、安堵したようにゆっくりと瞼を降ろした。
 きっと、死にきる前に目覚めてしまうだろうと予感していたけれど。その時はまた、願いを叶えようとしてくれる人の顔を、良く、見つめるのだと心に決めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

結・縁貴
【金翠】
桃源郷でマナセが俺に創った魅了軽減の宝貝、水晶玉を手に
…嗚、妲己には欠片も心惹かれないなァ
この宝貝の方が余程心揺れる

「お前達には行く先がある」
羽衣人達を他所の場に御縁の糸で誘って、妲己の前を静かにしよう

「お前が虜にしたいのは、俺だろう?」
俺と妲己の御縁を慕情で結ぼう
妲己の動きが止まれば好い、後はマナセの仕事だ

マナセには、妲己はどう見える?
悪逆を尽くした悪女?
身を呈して世界を守る聖人?
志を裏切られた哀れな虜囚?
…へェ、マナセの天秤は揺れないね

だってさ、妲己
自身をどう思う?
俺には、お前の善性は歪に見えるよ
俺が仙を嫌いな為に眼が曇ってるかな?

聖者様は、流石、慈悲深いねェ
佳き眠りを!一路走好!


マナセ・ブランチフラワー
【金翠】
僕の作った宝貝。中に小さな炎の燃える、少し歪な水晶玉
これを持っていれば、宴の魅了には抗えるでしょう

飛び来る剣は【オーラ防御】で防ぎつつ、杖で打ち払いましょう
打ち漏らした攻撃は僕が引き受けます。多少の怪我なら気にしません
後は縁が隙を作ってくれるのを待ちます

どう見えるか、ですか
……僕には解りません。全て当てはまるようにも、全て違うようにも見えます
ただ、今、目の前に居る彼女は倒すべき敵で、自らの死を願っている
その願いくらいは、叶えてあげたいと思います

【白の祈り】。降り注ぐ浄化の光で、妲己の持つ武器ごと焼き尽くす
祈ることは一つだけ。僕だけの力では無理かもしれないけど、どうか彼女に安らかな眠りを




 桃の花弁を摘み集め、桃源郷でこしらえた、水晶玉の形をした宝貝。
 掌に収まるその玉を見つめてから、結・縁貴(翠縁・f33070)は顔を上げた。
 興味を抱いたはずの妲己が目の前にいる。だけれども――。
「……嗚、妲己には欠片も心惹かれないなァ」
 そんな縁貴の感想とはお構いなしに、むせかえるような魅了の香気は気持ちを揺さぶろうとしてくるけれど、おあいにく様。
 手に転がした宝貝の方が、余程、心を揺らしてくれた。
 中に小さな炎の燃える、少し歪な水晶玉。それはマナセ・ブランチフラワー(ダンピールの聖者・f09310)が作ったものだ。
 縁貴にねだられ、上手くいくかどうかはさておきと作ってみた品物。
 今の所は、上手く、魅了の力から守ってくれているようだとマナセは少し、安堵して。
 香気の力を退けられるならば、次は、飛翔してくる剣への対処を。
 妲己ほどの強者から生み出される飛翔の力ともなれば、目で追うのも難しいほどだけれど。聖者としてのオーラで身を纏い、直撃を防ぎ、炎の精霊が宿る金の長杖で打ち払う。
 そうやって矢面に立つのは、マナセの務め。物理的な障害を打ち払えば、縁貴がきっと、隙を作ってくれるだろう。
 そんな信頼があるからこそ、多少の怪我くらいは、気に留めなかった。痛くないわけなんてないけれど、大丈夫と表情を緩めて微笑むのは造作もない。
 だって、マナセは聖者だから。
 横目にだけ見て、縁貴は眼差しを妲己の前で舞い踊る羽衣人達へと移す。
 妲己に歩み寄るのを邪魔する気はないのだろうけど、気がないだけで邪魔なことには変わりがない。
「お前達には行く先がある」
 目を凝らせ、耳を澄ませろ――。
 香気の間を縫うように、御縁の糸を披露する。
 二つの力に誘われた羽衣人は、正気こそ失ったままだけれど、新しい術に誘われるように、そぅ、と妲己の前を離れていく。
 開けた視界。真っ直ぐに歩み寄れる妲己を見据え、縁貴は妲己へと歩み寄った。
「お前が虜にしたいのは、俺だろう?」
 問いかけに、妲己は『いいえ』と応えるだろう。
 妲己は誰も虜になどしたくない。役目を果たし、死んでなお蘇ったいま、そんなことを、望んではいない。
 けれど、その問いと共に、妲己は縁貴と御縁の慕情で結ばれた。
 ゆえに、頷く。虜になどなってくれなくていい。それでもこの肯定は、私を殺すために必要なのでしょう。
 従順さか。健気さか。諦観か。それとも、一抹の希望か。
 妲己が抱いているのが何かは知らない。けれどあまりにも無抵抗に座す女を見おろして。それから、縁貴は飛び交う剣を払い続けていたマナセを振り返った。
「マナセには、妲己はどう見える?」
「どう見えるか、ですか」
 問いかけに、マナセは改めて妲己を見た。
 きっと、この人は美しい女性なのだろう。そう称される人なのだろう。
 それ以上の感想を見いだせていない様子のマナセに、縁貴は改めて、問う。
 妲己、とは――。
 悪逆を尽くした悪女?
 身を呈して世界を守る聖人?
 志を裏切られた哀れな虜囚?
 ――さぁ、どれだろう。
「……僕には解りません。全て当てはまるようにも、全て違うようにも見えます」
 瞳を細める。涙の痕が見える眦。濡れた宝石色の双眸が、じっ、とマナセを見つめている。
「ただ、今、目の前に居る彼女は倒すべき敵で、自らの死を願っている。その願いくらいは、叶えてあげたいと思います」
「……へェ」
 感慨はない。妲己を倒すことはこの戦争を終わらせるために必要で、妲己は自らの死を願っている事を知っている。
 事実だけが、マナセを動している。そのことに、縁貴は興味深げに口角を上げていた。
「マナセの天秤は揺れないね」
 そうして、また、妲己を振り返った。
「だってさ、妲己。自身をどう思う?」
「私を……?」
「俺には、お前の善性は歪に見えるよ。俺が仙を嫌いな為に眼が曇ってるかな?」
 突き放すような言葉と共に傾げられた首。傾いた眼差しに、ぱちりと瞳を瞬かせて、妲己は、微笑む。
「……ありがとうございます」
 ――なにが?
 ほんの少し瞳を眇めた縁貴の目を眩ませるような、眩い光が降り注ぐ。
 それはマナセの祈りが呼び寄せる、浄化の光。それが、妲己を貫いた。
「僕だけの力では無理かもしれないけど、どうか彼女に安らかな眠りを」
 光を此処に――。祈るマナセへと体ごと振り返って、縁貴は大仰に両手を広げて見せた。
 そうして、ひらり、片手だけを振る。
「聖者様は、流石、慈悲深いねェ。――佳き眠りを! 一路走好!」
 死にゆくあなた餞を。
 供えられるどんなものよりも、その一言が、妲己の心を、満たしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雅楽代・真珠
お前、僕を【誘惑】するの?
面白い子だね
いいよ、出来るものならしてご覧
僕は誘惑するものであって、されるものではないことを教えてあげる

けれど僕には従者がいる
僕は大丈夫でも可愛い如月たちも守ってあげなくては
僕は佳き主だからね
【破魔】と【浄化】の水泡の【オーラ防御】で無事を祈ろうか

物理的な攻撃からは如月が僕を庇う
けれどね、誰かのものって欲しくなるよね?
ねえ、ちょうだい?
『遊色の戀』に落としてあげる

妲己、お前も僕を愛してくれていい
僕は愛される存在
お前のことも愛(ころ)してあげる

如月が小刀を急所へ【投擲】
ああでも、傾国の美女は【暗殺】されるものだっけ
如月の小刀は囮
皐月が気付かぬ間に首を落としてくれるだろう




 甘い香りがする。菓子とも花ともつかぬ、甘ったるい香りが。
 すん、と鼻を鳴らせば、心の内側にとろりとその甘さを注がれるような心地になる。
 雅楽代・真珠(水中花・f12752)は、良く知っている。それが、誘惑である事を。
「お前、僕を【誘惑】するの? 面白い子だね」
 ふぅわり、と。真珠は微笑んだ。
 その笑みは稚く、柔らかく、そしてどこまでも美しい。
「いいよ、出来るものならしてご覧」
 真珠は香気による魅了などどこ吹く風と言う顔で玄室を進む。
 彼は、何に唆されることもない。何故な真珠にとっての誘惑とは、するものであってされるものではないのだから。
 とは言え、真珠には従者がいる。無骨な玄室さえも魅了され煌びやかに変貌すると言うのなら、からくり人形の彼らだって無事とは限らない。
 それならば、主として可愛い子達を守る義務があるだろう。
 破魔と浄化を漂わせたオーラを水泡に転じ、ぷかり、浮かべて。その中を泳ぐ真珠に、従者たちは共に侍る。
 きっと、守ってくれるだろうと無事を祈り。真珠はゆるりと妲己へ近寄った。
 妲己が纏う傾世元禳は彼女の香気をより強く散布し、当てられた羽衣人達が妲己を守ろうと割り込んでくるけれど、真珠の前に立つ者は、如月が丁重にお引き取り願っていく。
 だから、真珠は真珠のペースでゆったりと進み――ちら、と。引き留められる羽衣人へと、視線をやる。
 彼ら、彼女らは、妲己に魅了されたもの。
 妲己の為なら何をも惜しまず捧げるだろうそのさまは、最早妲己のものと言えよう。
「ねえ、お前?」
 誰かのものは、欲しくなる。
「僕のこと、好きでしょう?」
 唇の端は、ほんの少し上げるだけ。眦の力をほんの少し緩めれば、瞳は柔らかなラインに縁どられ。小首を傾ぐ所作に合わせて揺れる髪、それが落とす影さえも、そのささやかな微笑みを絶妙に飾る彩りと化す。
 真珠の持つ誘惑の力を倍増させた微笑と目が合ったなら、その心は柔らかに絡め取られる。
 元より正気を失くしていた者ならばなおのこと、抗いようがなかった。
 如月を押しのけようとしていたその動きも止まって、ただ見惚れるように真珠を見送るばかりとなった羽衣人にもう一度微笑みかけてから、妲己を見つめる真珠。
「妲己、お前も僕を愛してくれていい」
「私が、貴方を……?」
 愛させ、疎まれ、殺されることを務めとした妲己にとって、それはあまりに優しい提案だった。
 例え、真珠にとって愛されることは当たり前で、妲己もその当たり前の一部にすぎなくとも。
「お前のことも愛してあげる」
 ――ころしてあげる。
 歓喜に心の震える心地でその宣告を受け止めて。妲己は静かに頷いた。
 愛おし気に微笑み、真珠を見つめる妲己。その心の蔵目がけて、如月の手から小刀が放たれる。
 豊かな胸を破り、華奢な体を簡単に貫くその刃は、けれど、彼女の命を絶つには足りないだろう。
 だって、傾国の美女は暗殺されるものだから。
 そう在り続けた女に敬意を表するように、真珠の命を受けた二人目のからくり人形、皐月がその首を落とした。
 痛みなんて欠片も感じていないような顔を乗せた首が、おちる。
 けれど椿のように地に落ちる前に、さらり、と。桃花の舞い散るように、その姿は溶けて――香気を掻き消す一陣の風と共に、消えるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月21日


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#封神仙女『妲己』


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト