殲神封神大戦⑭〜桃花亂落如紅雨
「世の女性が最も望むものは何かという問いに、美しさでも豊かさでもなく、自分の意思を持つことだと答える物語があるの」
アーサー王物語の中にある『ガウェインの結婚』がそうなのだと、そうっと切り出すはニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)。語調はいつになく静かで穏やかだ。
「……もしか妲己という女性にとっても、そうなのかもしれない」
封神仙女『妲己』――。
匂い立つほど美しい彼女は、嘗て己が身を生贄として「封神台」を建立し、全てのオブリビオンを封印したと言う。
命を受けて人界に降り立った妲己は、万物を魅了する「蠱毒の贄」となり、悪しきものを根絶するために多くの殺戮と悪徳に手を染めたそうだが、今、よりによってその彼女がオブリビオンとして蘇生されてしまった。
「彼女が死を望んでいる事は、皆も知っていると思うんだけど……」
妲己は誰かに己を殺して欲しいと言った。
もう生きていたくないと言った。
自ら死を望むなど悲痛な話だが、其が彼女の「意志」なのだと妲己の言葉を噛み締めた花屋は、彼女の下に向かって欲しいと猟兵に頼む。
「だって彼女の願いを叶えてあげられるのは、皆しかいないもの」
妲己自身のユーベルコードと、妲己が配置された山岳武侠要塞「梁山泊」――遠い未来に、人界が宿星武侠を必要とした時の為に作成された山城――は、彼女の死を許さない。
現在、妲己は梁山泊内部の玄室にて死を待ち侘びる身だが、玄室に籠った彼女の香気はむせかえり、内部はあらゆる者を狂わせる「酒池肉林の宴の間」と化している。
妲己の香気を放つ「傾世元禳」は、無骨な要塞の壁さえ魅了して輝く宝石と化し、極上の香りに誘われた仙界の羽衣人達が、正気を失い踊り狂っている。
「皆には、玄室内に居る羽衣人達を傷つけないよう進みつつ、この美しい宴に魅了されないように心を強く保ちながら、彼女のもとへ行って欲しいの」
この時、妲己の意思に関係なく攻撃してくるユーベルコードに対処しなくてはならない。
武林の秘宝「流星胡蝶剣」も、殺戮と欲情を煽る「殺生狐理精」も、猟兵を排撃すべく襲い掛かって来るだろうと脣を引き結んだニコリネは、それでも微笑を湛えて云った。
「……自ら意志を持ち、其が叶えられるのは幸せな事よ」
猟兵は彼女に死を与える事ができるか。
――いや、猟兵ならもっと良い未来を、結末を示せる筈だ。
「私は皆の腕を、可能性を信じているから。彼女の所へ案内するわ」
いつもと変わらずウインクひとつ、而してグリモアを喚ぶ。
これより送り出す者達が、彼女の望みを叶えられると信じて――光は溢れた。
夕狩こあら
オープニングをご覧下さりありがとうございます。
はじめまして、または、こんにちは。
夕狩(ユーカリ)こあらと申します。
このシナリオは、『殲神封神大戦』第十四の戦場、封神仙女『妲己』と戦う、一章のみで完結するボス戦シナリオ(難易度:やや難)です。
●戦場の情報
封神武侠界、仙界は山岳武侠要塞「梁山泊」の玄室。
妲己の香気によって内部は「酒池肉林の宴の間」と化しており、無骨な要塞の壁は輝く宝石に、羽衣人達が正気を失い踊り狂っています。香気に魅了されないよう、且つ羽衣人達を傷つけず、妲己のもとに行きましょう。
●敵の情報:封神仙女『妲己』(ボス戦)
嘗て「封神台」を築くため、多くの殺戮と悪徳に手を染めた後、己が身を生贄にオブリビオンを封印した仙女です。ですが封神台は破壊され、彼女自身もオブリビオンと化しました。
●プレイングボーナス:『「酒池肉林の宴」の魅了に耐えつつ、妲己の先制攻撃に対処する』
このシナリオフレームには、特別な「プレイングボーナス」があります。
これに基づく行動をすると、戦闘が有利になります。
●シナリオ攻略のコツ
本シナリオは(1)玄室内に満つ香気に耐えること、(2)羽衣人達を傷つけず進むこと、(3)妲己の先制攻撃に対処すること等、いくつもの試練がありますが、全てではなくても、それらの対策をすると成功に繋がるでしょう。
●リプレイ描写について
フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。
また、このシナリオに導入の文章はなく、公開後は直ぐにプレイングをお送り頂けます。
以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
第1章 ボス戦
『封神仙女『妲己』』
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POW : 殺生狐理精(せっしょうこりせい)
対象に【殺戮と欲情を煽る「殺生狐理精」】を憑依させる。対象は攻撃力が5倍になる代わり、攻撃の度に生命力を30%失うようになる。
SPD : 流星胡蝶剣(りゅうせいこちょうけん)
レベル×5km/hで飛翔しながら、【武林の秘宝「流星胡蝶剣」】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ : 傾世元禳(けいせいげんじょう)
【万物を魅了する妲己の香気】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
👑11
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張・西嘉
思っていた『妲己』と違い困惑をしてしまうが。
それでもあの悪事を成したのは妲己だ…ただ己の意志ではなかったが。もしあれが自身の欲によるものだったならどんなに対峙しやすかったか。
貴女の意思で殺して欲しいと願うならば…せめてそれを叶えよう。
宝貝『桃風扇』で【破魔】による【結界】を築き酒池肉林の香気を防ぐ。仙人達は宝貝で扇ぎ軽く香気の【浄化】を促す。
殺戮と欲情を煽るUCにも【破魔】や【浄化】で争うが殺戮に関してはあまり意識して抑えずしかし妲己にだけ向かうようにしたのちUC【朱雀炎】で攻撃。
…今からしようとしているのは殺戮には変わりないのだから。
貴女の願いが叶うといいな。
司馬遷の『史記』本紀に、「妲己之言是從」――即ち紂王が寵姫妲己の言う事は何でも聽き從ったとあり、彼女によって贅と色に堕ちた王は國の滅びを招いたと云う。
この世界に生きる者なら、口伝えにもそう聽いていた事だろう。
而して張・西嘉(人間の宿星武侠・f32676)もその一人。
「……思っていた『妲己』と違って困惑してしまうな」
彼女が「悪女」として多くの殺戮と悪徳に手を染めたのは、仙翁達に封神台建立の命を受けたからで、己の意志ではなかったと眞相を知った彼は、そっと柳眉を顰める。
「もしあれが自身の慾によるものだったなら、どんなに対峙しやすかったか」
義憤を以て刃を突き立てる事は容易い。
だからこそ妲己は悪女を演じたのだとも思う。
彼女が積み上げた悪行は赦されよう筈も無いが、オブリビオンとして蘇生され、張角の『異門同胞』に縛られた事に罪は無く、彼女の意志は踏み躙られた儘だ。
山岳武侠要塞『梁山泊』の玄室前、嘗て封神台の建立に尽力した貴人に拱手して敬意を示した西嘉は、そっと伏せた長い睫を持ち上げると同時、美し蘇芳色の双眸に烱々と光を宿した。
「……貴女の意思で殺して欲しいと願うならば……せめてそれを叶えよう」
安息や平穩を求める事に罪は無い。仮令、其が死であったとしても。
過去も現世(いま)も誰かの道具と繋がれる彼女の意志を汲まんと、宝貝『桃風扇』を振り被った西嘉は、一振りするや玄室内に立ち込める甘美な馨香を吹き払う。
「貴女はもう、罪過の連環に苦しまれる事はない」
『っ! 近付いてはなりません。此處は羽衣人ですら正気を保てぬ狂宴の庭……!』
淸風に気付いた妲己が云った時だった。
桃花を連れる淸浄の風に香氣を掃われた羽衣人は舞いを止め、月白の結界に包まれる男の芙蓉一花に近付く道を開ける。
時に、殺戮と欲情を煽る【殺生狐理精】が西嘉の耳に甘言を囁くも、鋭く耀く鷹の眼は妲己だけを見つめて、前に――兩拳に籠める力を強くしていく。
漸う近付く英姿には、幾千の男を見た妲己も喫驚に目を瞠ろう。
『あなたは己に染みゆく殺気が恐ろしくないのですか』
「唯だ甘んじるのみ……今からしようとしている事は殺戮に變わりないのだから」
次第に昂ぶる殺戮衝動を己の意志で禦す――。
その姿に妲己は羨望の微咲(えみ)を浮かべたか、艶麗の瞳は間もなく迸る【朱雀炎】――赫々と滾る炎鳥の、誰にも穢されず熾ゆる色に穩やかに細む。
「貴女の願いが叶うといいな」
『――はい』
而して閃く焦熱を、妲己は頬笑みの裡に甘んじた。
大成功
🔵🔵🔵
日輪・黒玉
……誇り高き人狼は狩る獲物を選びません
………黒玉が痛みを感じる間もなく狩ってあげます
踊りとはただ体を動かせばいいというものではありません
踊り狂う羽衣人たちに混ざるように飛び込み、【ジャンプ】の立体的な動きを織り交ぜた【ダンス】を披露
踊りに混ざりながら妲己へと近づきます
憑依した「殺生狐理精」に煽られる殺戮の意思へと意識を集中し、殺意を高めることで香気の魅了を振り切ります
そして、私の殺意が狙うのは……妲己のその首
その首を一撃で狩る、彼女を最初に殺すという意思だけを頭に思い浮かべます
一撃にすべてを掛ければ、生命力の減少も大きな障害にはなりません
一瞬の隙、【ダッシュ】による高速移動と共に蹴りを放ちます
山岳武侠要塞『梁山泊』の玄室前に立ち、扉越しに拱手する。
嘗て封神台の建立に尽力した仙女に敬意を示すのは、己も気高くあらんとするからか、日輪・黒玉(日輪の子・f03556)はそっと伏せた花顔を持ち上げると、凛乎と告げた。
「……誇り高き人狼は狩る獲物を選びません。何者を狩るにも全力です」
獅子だろうと兎だろうと、獲物に突き立てる牙は顎を緩めぬ。
妲己が多くの史書に見られる通りの悪女ではなかったとしても、仙翁達が命じるままに淫樂と残虐を極めた道具に過ぎなかったとしても、狩るべき獲物である事に變わり無いと足を進めた黒玉は、靜かに結べる佳脣より常と變わらぬソプラノを滑らせた。
「…………黒玉が痛みを感じる間もなく狩ってあげます」
誇り高き人狼は痛みを以て嬲り廻す事はしない。
嘗て妲己は周の武王に首を斬られたらしいが、此度も一撃で首を狩り取るべし――と、藍晶石の如き玉瞳を研ぎ澄ませた黒玉は、玄室内部へ、狂宴の庭に踏み入った。
「成程、これが万物を狂わせる酒池肉林の宴の間……」
聡い嗅覚が噎せ返るような香氣を捉えると同時、優れた視覚が羽衣人らの狂態を映す。
而して我が身も甘美な馨香に包まれるが、「過來」(おいで)と招く手に從って進んだ黒玉は、踊り狂う羽衣人達に混ざるように飛び込んだ。
「踊りとは、ただ体を動かせばいいというものではありません」
華麗に滑り出た佳人が披露するは、【黒玉狼の一蹴】(ダンスマカブル)――。
輕やかに爪先を蹴った黒玉は薄絹の靉靆(たなび)く如く瀲灔と舞ったかと思うと、今度は力強い跳躍で立体的に、嫋やかで靭やかなダンスを踊りつつ妲己に近付く。
「狐理精が人狼の爪牙を磨くというなら、その儘に――」
目下、佳人の耳元では【殺生狐理精】が甘言を囁くが、漸う昂ぶる殺戮衝動に一点集中する事で慾情を振り払った黒玉は、羽衣人らの舞踏を擦り抜けながら殺意を、体内を巡る『狼気』を高めゆく。
「私が狙うのは唯ひとつ……妲己の首のみ」
貴人の細首を一瞬で、一撃で狩る。
初撃で殺すイメージだけを思い浮かべながら酒池肉林を潜り抜けた黒玉は、羽衣人らが交差した向こう、羅幃繍幕に隠れる傾國の美女に一足で肉薄した。
(「一撃にすべてを懸ければ、生命力の減少も大きな障害にはならない筈――」)
風を抱くや乙女色のツインテールを搖らし、妲己の首の位置まで飛躍する。
忽ち藍晶疾走に仕込んだ黒曜戦刃を展開した黒玉は、音を置き去りに蹴撃一閃――ッ!
「全てを須臾に畢らせる。其が貴人に對する最大の礼です」
竟ぞ呼吸は亂れず、櫻脣を滑る佳聲は玻璃の如く透き通った儘。
鋭刃と化した蹴撃が疾ると同時、牡丹の如き血潮が鮮々と床に散り広がった。
大成功
🔵🔵🔵
シャト・フランチェスカ
好い香りだこと
そんなふうに踊り狂えたら
小説なんて書かなくても良さそうだ
憤怒も寂寞も全て忘れて
楽になれない僕のほうが余程滑稽だね
握った春宵の硝子筆の鋒を
親指でずっと押し込みながら
正気を保つすべは痛みしか思いつかなくてね
妲己
そこに有るだけで皆が狂うのもわかるよ
きみは死を望むの
死は甘いだろうか?
きみの瞳より声色よりも?
ねえ、僕もいざなっておくれよ
…おかしいな
僕は「死にたがり」が厭な筈なんだけど
既にきみの術中だったか
同じだよ
この「けもの」たちは僕の意思とは無関係
ただ、【猜疑心】に気付いただけ
恨みなんてないけれど
一緒に死んでもいいくらいの相手なんて
ひとりしかいないもの
痛いのは生きてるからさ
まだ死を望む?
品佳い鼻梁に香氣を掠め、紫苑と艶めく睫を閉じ合せる。
實に好い馨りだと薄櫻色の佳脣に微咲(えみ)を湛えたシャト・フランチェスカ(殲絲挽稿・f24181)は、肺腑に染む毒氣に溺れぬ己を皮肉を込めて憐れんだ。
「そんなふうに踊り狂えたら小説なんて書かなくても良いものを、僕は――」
云って、頬に影を落とす長い睫を持ち上げる。
而して暴かれた櫻瞳に狂亂狂舞する羽衣人らを映したシャトは、畢ぞ誘われぬ己の足、その爪先に赫々と斑點(まだら)する血雫を見ると、其處に幾許の諧謔を添えた。
「憤怒も寂寞も全て忘れて、樂になれない僕のほうが餘程滑稽だね」
白磁の繊指に握れる春宵の硝子筆、その鋒を親指でずっと押し込みながら――嗤う。
漸う持ち上がる口角は、冷艶のコントラルトを儚げに零そう。
「生憎、正気を保つすべは痛みしか思いつかなくてね」
我が無粋を赦して呉れと、薄絹の輕やかに舞う狂宴に血斑を落として進んだシャトは、血を失うほど冱えゆく視界の先に、軈て妍麗なる芙蓉一花を捉えた。
「そこに有るだけで皆が狂うのもわかるよ。――妲己」
彼女を隱す羅幃繍幕を手に押し上げ、香氣の中心へ踏み進む。
繊手を眞赫に染めたシャトには妲己も喫驚いたろうが、己を「悪女」とも「道具」とも見ぬ星眸を見つめ返した寵姫は、有蘇氏の娘として生まれる前の語調で頼み縋った。
「きみは死を望んでいるそうだね」
『ええ、どうか私を殺してください。死に抱かれて果てとうございます』
「死は甘いだろうか? きみの瞳より、声色よりも?」
肺腑を喰い破らんばかり香氣が「かの細首に硝子の尖鋩を突き立てろ」と誘惑するが、紫陽花の乙女は猶も血を滴らせた儘、繊躯を屈めて花に近付く。
「ねえ、僕もいざなっておくれよ」
心地好い死に嚮導(みちび)いて呉れと囁く聲の官能的で退廃的な音色は、既に美姫の熒惑に堕ちたか――否、シャトの影に潜む悪夢(けもの)が爪牙を剥き出す。
「……おかしいな。僕は『死にたがり』が厭な筈なんだけど」
錯綜する聲の色と血の色の間に蠢くもの。
其は「僕」の意思とは無関係に、猜疑心に触れて鎌首を擡げる「けものたち」――。
「一緒に死んでもいいくらいの相手なんて。ひとりしかいないもの」
ゆるく頭(かぶり)を振って甘い死と訣別したシャトは、レギオンが契情の雪膚を紅く染め上げていくのを靜かに見守りながら、そうっと科白を置いていく。
「痛いのは生きてるからさ」
痛いでしょう、生きているでしょう、と麗眸は鮮血一条を捺擦って。
「まだ死を望む?」
そうっと語尾を持ち上げた先、眞當(ほんとう)の“意志”が佳脣を滑った。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
己が身を犠牲にした末に、封じた者と同じになってしまうとは
……そうですね
自分の命を差し出すことで皆を救えるのならば
以前の私ならば、抵抗はなかったでしょう
今は諦めずに他の選択肢を探す……でしょうか
彼女の望みと私達の役割が同じならば応えるのみ
往きましょう、倫太郎
宴の魅了は戦いへの覚悟と臆しない勇気
狂気や呪詛の類いかは別として耐性を活用
倫太郎に手を繋がれれば、そのままに動きを合わせて対応
先制対策
視力と見切りで動きを読んで対処
攻撃を行いながら武器受けによる防御や武器落としにて剣を弾く
対処後は速やかに幾重刃にて反撃
2回攻撃で手数を増やしながら攻撃力を高めていく
……終わらせます
どうか、安らかな眠りを
篝・倫太郎
【華禱】
妲己は……夜彦に似てる気がする
自己犠牲を厭わない所が
以前の夜彦みたいで少し切ない
でも、世界に仇成す者なら還すさ
それが彼女の望みでもある
往こうぜ、夜彦
屈しないという覚悟で宴の中を進む
狂気耐性や破魔、浄化……使えそうな技能は駆使
それでも屈しそうなら、夜彦と手をつなぐ事で抗う
羽衣人達
夜彦の手を引いてダンスで対応し、先へ
先制対応
見切りで回避
回避する事で周囲に被害が生じるなら
オーラ防御で防いでかばう
以降も回避は同様に行動
業返し使用
飛翔能力も写せるなら
空中戦で羽衣人への被害を軽減
鎧無視攻撃と生命力吸収を乗せた華焔刀で二回攻撃
派手に立ち回り
夜彦の攻撃支援になれば僥倖
もう、還って眠っていいんだぜ、妲己
凡そ史書に記される妲己は、淫樂と残虐を極めた「悪女」だ。
しかし仙界に結ばれた予兆(ヴィジョン)を見た猟兵なら、彼女が仙翁達の命を受けて「蠱毒の贄」となったこと、封神台の建立に挺身した真實を知ろう。
現世(いま)も昔日も誰かに鎖がれる妲己を、猟兵は憐れみこそすれ恨みはしない。
封神武侠界の危局を救わんと奔走するこの二人も、然うだろう。
「己が身を犠牲にした末に、封じた者と同じになってしまうとは……」
其の想いは幾許かと、柳葉の眉を寄せる月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
仙界は山岳武侠要塞『梁山泊』の玄室前に立った彼は、扉を開ける間に恭しく拱手し、封神台の建立に尽力した貴人に敬意を示すと、そっと麗顔を持ち上げる。
傍らの篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は、そんな夜彦の横顔に言を添えて、
「妲己は……夜彦に似てる気がする」
「私に?」
「自己犠牲を厭わない所が、以前のあんたみたいだ」
スッと通った鼻梁を見せる麗顔に、命に殉じた寵姫を重ねる。
翡翠と艶めく長い睫、その間より覗く琥珀の佳瞳が切なげに己を映すのを見た夜彦は、吐息ひとつ置いて口を開いた。
「……そうですね。自分の命を差し出すことで皆を救えるのならば、後世に安寧を齎す事が出來るなら。私も彼女のように死の道を歩む事に抵抗はなかったでしょう」
以前の私なら然うだったと、まだ見ぬ妲己へと視線を結ぶ。
その星眸(まなざし)が凪の如く閑かなのは、過去と今とでは見るものも見えるものも變わったか、紺藍の佳瞳は烱々煌々と光を湛えている。
「ですが、今は諦めずに他の選択肢を探す……でしょうか」
妲己と夜彦が同類でないのは、正にこの一點。
自死すら阻まれた身を如何せんと玄室に籠もる彼女に對し、妲己を、妲己の意志を尊ぶべく梁山泊を訪れた夜彦には、最も頼れる刀と、最も愛する盾がある。
而してその盾は己の背を押して呉れるし、刀は未來を切り開く力を呉れよう。
「……世界に仇成す者なら還すさ。それが彼女の望みでもある」
「はい、彼女の望みと私達の役割が同じならば應えるのみ」
妲己は「私を殺してください」と云った。
その望みは猟兵しか叶えて遣る事が出來ない。
ならば――自分達が迷う時間は無かろう。
「往こうぜ、夜彦」
「往きましょう、倫太郎」
奇しくも佳聲を重ねた冱刃と堅盾は、スッと爪先を踏み出すなり玄室に入った。
†
畢竟、夜彦と倫太郎の足を進ませるは「屈しない」「臆しない」という慥かな覚悟。
玄室の扉を開けた瞬間、忽ち甘美な馨香が肺を侵襲するが、精神が搖り動かされるほど戰いへの意志を研ぎ澄まし、誘惑に勝る闘志を纏って進む。
「……流石、万物を魅了するだけありますね」
「噫、ここまでくると香氣と云うより瘴氣だ」
無骨な壁さえ宝珠貴石と變わる異樣に、果たして對策は――“ある”。
「――夜彦、手を。力いっぱい握ってくれ」
「分かりました。私も抗う意気を力と返します」
精神が蝕まれる時こそ物理的に結ばれ、ぎゅっと伝わる熱と力を感じよう。
手を繋ぎ進路と行動を同じくした二人は、忙しなく眼路を過る羽衣人らの狂亂狂舞にはダンスを合わせて擦り抜けると、翩々(ヒラヒラ)と薄絹の舞う向こうに、馨香の源たる芙蓉一花を捉えた。
あれが悲運の寵姫、封神仙女『妲己』――。
二人の烱眼が眞直ぐ麗姿へと結ばれたなら、刹那、【流星胡蝶剣】が羅幃繍幕を翻して襲い掛かるが、妖し銀刃の煌きを目尻の際に躱した二人は、猶も執拗に迫る鋭鋩をよく読んで引き付けると同時、咄嗟に回避して壁の玉石に代わらせる。
「宝貝と宝劍、自動式ユーベルコードのどっちが強いか――勝手に戰ってろ!」
優れた勘と感で宝劍の刃撃を遣り過ごす倫太郎。
烱々と冱ゆる双眸が宝劍の速度と軌跡を見切れば、彼は直ぐさま【業返し】――華焔刀[ 凪 ]に受け止めた斬撃を宝劍に返し、未だ狂宴にある羽衣人を護る。
「妲己の意志と関係なく動くんだったな。その能力も写し取ってやるぜ」
「私達の刃は闇雲に閃くものではありません。集中が極限に至れば稟性すら見えます」
倫太郎が派手に立ち回る代わり、夜彦は靜かにさやかに刃を斬り落とそう。
竜胆色の鞘より抜かれた愛刀『夜禱』は、月光を閃くなり胡蝶と舞える宝劍を手折り、【幾重刃】――斬撃を重ねる毎に軌道を読み、動きを覚えて斬り倒していく!
その英姿は、絶望の淵にある寵姫の瞳に光を宿そう。
『噫、嗚呼。お二人の刃なら、オブリビオンの根絶が、私を殺める事が出來ましょう』
はじめて己の意志が、願いが結ばれる時が來る――!
香氣を潜り、劍舞の嵐を抜けた倫太郎と夜彦が、颯と羅幃繍幕を潜るのを跪礼に迎えた妲己は、花のような佳顔を持ち上げて精悍の表情を仰ぐ。
「もう、還って眠っていいんだぜ、妲己」
「……終わらせます。どうか、安らかな眠りを」
端整の白皙、透徹と澄める麗瞳に敵意も殺気も無し――。
妲己は莞爾と咲みを湛えるや、淸らかなる二刃の閃きを受け取るのだった。
大成功
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リーヴァルディ・カーライル
…死にたいのならば望み通り殺してあげるわ
だけど、死を選択するのは異門同胞とやらが消えてからでも遅くは無いはずよ
風の精霊を降霊し全身を旋風のオーラで防御して香気を受け流し、
狂気耐性と気合いで魅了に耐え「写し身の呪詛」の残像を囮に敵UCを回避し、
敵の追撃は大鎌を怪力任せになぎ払うカウンターで迎撃しUCを発動
…来たれ、遍く時間を凍てつかせるⅩの剣
大鎌に武器改造を施し時間凍結の神剣化を行い魔力を溜めた斬撃波を乱れ撃ち、
敵UCや羽衣人、妲己を時間凍結結晶に捕縛封印する時属性攻撃を行う
…貴女が本当に自身の意志で選択するまでの時間は私が稼いであげるわ
凍った時の中で眠りなさい。夢見る事無くせめて、安らかに…
仙翁達の命に從い「蠱毒の贄」となった妲己は、多くの史書に「悪女」と記された。
挺身の涯に封神台を築いた昔日に彼女の意志がどこまで汲まれたか判らないが、仙界に結ばれた予兆(ヴィジョン)には彼女の想いが見て取れた。
目下、封神台建立に係る眞実に触れたリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、妲己が希う終焉としての死を否定しない。
「……死にたいのならば望み通り殺してあげるわ」
彼女は「私を殺してください」と云った。
そして己は其を叶えて遣れる。
ならば迷う事は無いと、仙界は山岳武侠要塞『梁山泊』に至った佳人は、常と變わらぬ透徹のソプラノを玄室の前に置いた。
「――だけど、死を選択するのは『異門同胞』とやらが消えてからでも遅くは無い筈よ」
過去も現世(いま)も誰かの道具と鎖がれた彼女が死に結ばれるのは尚早い。
妲己の苦悩に向き合うと同時、首魁『張角』の討滅を愈々見据えたリーヴァルディは、山城に吹き颪す風の精霊を我が身に降霊させると、旋風を纏って中に入った。
「……香気を風で受け流し、魅了は気合いで耐えてみせる」
幸いにして狂氣に對する耐性はある。
欣々と亂舞する羽衣人が眼路を過る中、薄絹の瀲灔と靉靆(たなび)く先に芙蓉一花を見た可憐は、同時に迫る【流星胡蝶剣】の連撃を「写し身の呪詛」に代わらせた。
「……術者の意図にかかわらず劍は閃く。その陥穽(あな)を衝かせて貰うわ」
我が残像を斬り続ける自動式ユーベルコードは、仙翁達に移植されたもの。
これも妲己の意志では無いと眼路の際に流して訣れたリーヴァルディは、自分自身へと襲い掛かる刃を大鎌『過去を刻むもの』に力いっぱい薙ぎ払うと、繊手に握れる其に厖大な魔力を流し込み、漸う劍へと變えていった。
「……來たれ、名も無き時の支配者よ。天の獄に座する異端の神の力を此處に、遍く時間を凍てつかせる十二の劍を」
行うは大鎌の時間凍結の神劍化。
叶えるは【代行者の羈束・時間王の神剣】(レムナント・クロノルーラー)。
花車の躯の回りに時計盤上に漆黑の劍を浮遊させた彼女は、十二の鋩を放射状に撃ち、武林の秘劍や狂亂狂舞の羽衣人、そして妲己自身を射るや結晶に包んだ――!
「……時間を凍結させる“時属性”の結晶に全てを封印する……貴女が本当に自身の意志で選択するまでの時間は、私が稼いであげるわ」
笑聲と樂舞に滿ちていた狂宴の庭が沈默し、麗人の佳聲だけが澄み渡る。
それからゆっくり羅幃繍幕に近付いた彼女は、咲かされた花にそっと呼び掛けよう。
「……凍った時の中で眠りなさい。夢見る事無くせめて穩やかに、安らかに……」
櫻脣を擦り抜ける科白には、慈悲と慈愛が滲んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
翠虎の兄さんと/33070
心情)歌い踊り狂い、ああまさに春たけなわの風情だねェ。だが仮初だ。濁った陽氣では喉もつまらん。頼まれたから殺しに行こう。ああ、俺にそォいう欲はないぜ。繁殖とは無縁でね。俺は神だから、伸ばされない手は掴まない。一方ヒトは掴めて手放せる。やりてェ事がありゃ手伝うよ兄さん。それは"伸ばされた手"だ。
行動)枯れずの桃から作った蛇(宝貝)を首に巻き、扇で鼻口を隠して。ようは香りなわけだ、吹き飛ばしちまえばいい。寒冷属性の大風さ。我に返った羽衣人を〈毒〉で眠らせりゃ、あとは一直線。サテ風で香を飛ばしつつ、本音言いやすくなる毒を漂わせてと。最期まで見届けるさ。お疲れサン。
結・縁貴
かみさま/f16930と
桃源郷で創った魅了軽減の宝貝、水晶玉を手に
香気は耐えうるだろう
正直仙女は食傷気味なんだよなァ、そそられない
かみさまは、…そういう欲自体無さそうで?
嗚、流石かみさま、多芸だ!
倒れ伏す羽衣人達を尻目に、妲己の元へ
俺の我欲のお付き合いをしてくれるかみさまに感謝を
聖人の如く清らかな仙女
仙爺共に利用された舞台装置
俺が斬ろう
貴方の柵、繋、縛りつける「御縁」を
此れだけ強い御縁(呪い)だ
斬れて数瞬、せいぜい数拍
その程度
「お前の望みはなんだ?」
刃を握らせて問おう
自身が死ぬのが、本当に望み?
此れだけ玩ばれて、恨みはないのか
張角に?
否、仙爺や、世界にだ
どの答えにしても、刃は白い喉を貫くけれど
仙界の山城『梁山泊』、蠱毒の贄を隱す玄室は宛ら狂宴の庭だ。
噎せ返るほどの香氣に中てられた壁は玉石と化し、その燦爛に眩んだ羽衣人が狂舞する――万物を淫樂に堕とす酒池肉林は、斯くも美しく悍ましい。
「歌い、踊り、狂い。ああまさに春たけなわの風情だねェ」
桃花亂落して紅雨の如し、と李賀の『將進酒』を囁く朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)。
瀲灔と翩る薄絹を眺む瞳は柔かく細んではいるものの、朱殷の虹彩に湛えた光は烱々たる儘――爛熟した春の幻想退廃を見るようだと隔絶を置く。
「蓋し仮初だ。濁った陽氣では喉もつまらん」
お前さんも然うだろう、と伏せた睫は首元に巻き付く馨蛇へ。
枯れずの桃より生まれた宝貝は、破魔の氣を桃香と放つ上、扇に遮られた鼻口に香氣は届かず――逢真は舞樂に誘われる足は無しと、靴底をべったり床に張り付かせている。
傍らの結・縁貴(翠縁・f33070)も享樂には堕ちまい。
「香氣もここまでとなると、宛如(まるで)瘴氣だ」
桃源郷で創った水晶球の宝貝を手にしている限り、【傾世元禳】の威力は輕減するか、翠虎は品佳い鼻梁を眞直ぐ進路に向けた儘、きゅ、と柳眉を寄せた。
「……正直、仙女は食傷気味なんだよなァ。全く誘惑(そそ)られない」
不踐生草の仁獸である事も、仙女など石の数ほど見た事もあろう。
抑も美しいとか綺麗と思うものが違うと、玉と變えられた壁を翠瞳に捺擦った縁貴は、不圖、行きつく先を逢真へ、その涼しげな横顔を瞥た。
「かみさまは、……そういう慾自体無さそうで?」
流眄を注げば、彼もまた流眄を返して。
「ああ、俺にそォいう慾はないぜ。繁殖とは無縁でね」
契情の馨香に招かれた訳で無く、酔狂で來た訳でも無い。
艶々と黑めく前髪に痩せた指を櫛と入れた逢真は、而して暴かれた緋瞳に玲瓏の仁獸を映して云った。
「俺は神だから、伸ばされない手は摑まない。一方ヒトは摑めて手放せる。やりてェ事がありゃ手伝うよ兄さん。――それは“伸ばされた手”だ」
淡翠緑色の騶虞が、妲己を斬るべく動いた。
仙爺共に舞台装置として利用されながら、その仙爺共が押ッ死んで仕舞ったのだから、彼等に代わって始末を付けねばなるまいと、騶虞の瞳は竟ぞ光を手放さぬ。
その光を当初から捉えていた神は、血の気のない佳脣を三日月のようにして微笑むと、扇をひらり一振り、みやびやかな所作には見合わぬ【寒冷属性の大風】を巻き起した。
「ようは香りなわけだ、吹き飛ばしちまえばいい」
漸ッと吹き抜ける大風の凛冽たること、淸麗なること!
「嗚、流石かみさま、多芸だ!」
懸瀑(たき)のように煌めく髪を梳った縁貴が毛先を追って見れば、玄室を吹き抜けた大風は香氣を巻き込んで押し流し、狂熱を手放した羽衣人だけを残していく。
呆気に取られた彼等が、今度は次々と倒れ伏していくのは如何云う事だろう。
「豈夫(まさか)眠りの毒を?」
「答對了(あたり)」
かみさまの事を佳く識っているとは、かみさまも彼の言葉で答えよう。
目下、玻璃と澄める瞳に羽衣人らの寝顔を映しながら玄室を進んだ縁貴は、羅幃繍幕の向こうに咲き亂れる芙蓉一花を捉えると、先ずは隣する逢真に謝意を示した。
「俺の我欲のお付き合いをしてくれるかみさまに感謝を」
「なに、手を摑んだのは俺だ。最期まで見届けるさ」
最期、という科白を聽きつつ、眞直ぐ爪先を進める。
果して彼女も二人の來訪に気付いていたか、肩越しに麗艶の双眸を注いでいた妲己は、周の武王に代わって己の首を斬り落とす者が現れたと、靜かに跪礼を取った。
聖人の如く淸らかな仙女の敬意に足を止めた縁貴は、薄く結んだ佳脣より美しテノール・バリトンを滑らせると、彼女の名を呼ぶ。
「有蘇氏の娘、妲己。貴方の柵、繋、縛りつける『御縁』を断ち切る」
異能で呼び出した鋏を鳴らし、鏘々たる刃の音に「御縁」を断つ――【御縁断絶】。
封神台建立の命に鎖がれた昔日、そして現世は張角の『異門同胞』に縛られた妲己は、縁貴が見るだに強固で強靭な御縁(呪い)に絆されている。
斬れて数瞬、せいぜい数拍。
己の鋏が断てるのはその程度だが、刹那でも須臾でも構わぬと對の剪を翻した縁貴は、麗顔を持ち上げる妲己に、冷嚴と問うた。
「お前の望みはなんだ?」
跪いた貴人の前には、「縁」を断ち切る鋏刃ひとつ。
本当に死を望むなら手に取るが宜しいと動作を許せば、妲己は鋭鋩を咽喉に突き立て、この一撃も武林の祕劍が止めようと、しっとりと閉じた睫を涙に濡らす。
慥か流星胡蝶劍は仙翁共に移植されたものだったと、かの祕劍に一瞥を呉れた縁貴は、命を断つことが本当に望みかと更に問い質した。
「此れだけ玩ばれて、恨みはないのか。――張角に? 否、仙爺や、世界にだ」
而して妲己は澱みなく答えよう。
逢真が密かに漂わせた馨香――本音を云い易くなる毒を肺に滿たした寵姫は、仁なる獸の怒りを買おうとも、己が意志を示さんと花脣を開いた。
『言葉は水鏡にございます。あなた樣こそ仙界を、世界を恨んではいませんか』
あなた樣の翠瞳は、こんなにも美しいのに怜悧(つめた)いと――。
涙に濡れた睫は今やぱっちりと上を向き、儚き翠虎を映している。
『私が愛したものを愛してくださいませ。其こそ私の……――』
熱い雫が頬を伝った時だった。
繊手に握れる刃は、月白と耀く咽喉に沈むと、雪膚を赫々と染め上げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
二條・心春
自分の意思すら許されないなんて、一体あの方はどんな気持ちなのでしょうか……。
正気を失わせる魅了とは恐ろしいですが、私もUDCアースの猟兵。狂気耐性もあるし、ディスオーダーキャンセラーで中和しながら何とか進みます。羽衣人さん達が邪魔するようならスタングレネードで怯んでいる隙に通り抜けます。
魅了に加えて憑依までされたら抗えないです。その前に自分に拳銃で麻痺弾を撃ちます。心を動かされても、身動きができなければ意味はないはず。後はタブレットに呼びかけて【煉獄召喚:炎魔】を発動、ウコバクさんの浄化の炎で包み込みましょう。死こそが貴方の望みなら、それが少しでも安らかで救いがあることを、私は願います……。
UDCアースの平凡な街で暮らしていたごく普通の女の子は、UDCと心を通わせた事を切欠に己の力に価値を見出し、オブリビオンと戰うことを決めた。
而して数奇な運命を辿る事となった二條・心春(UDC召喚士・f11004)だが、踏み出す足には慥かな意志がある。
彼女がこれより向かう先では、昔日は仙翁達の命に、現世(いま)は張角の異門同胞に縛られた封神仙女『妲己』が、山岳武侠要塞「梁山泊」に配置されているという。
――宛如(まるで)道具のように。
「自分の意思すら許されないなんて、一体あの方はどんな気持ちなのでしょうか……」
山峡の風に搖れる前髪の奥、柳葉の眉をそっと寄せる。
多くの史書に「悪女」と記された妲己だが、仙界に結ばれた予兆(ヴィジョン)を見て眞実を知った心春は、今も踏み躙られている彼女を思うだに胸が締められる。
玄室に入るより前、封神台の建立に挺身した妲己に敬意を示して拱手した可憐は、漸う花顔を持ち上げると、長い睫を眞直ぐ前に向けて進み始めた。
「私もUDCアースの猟兵です。――やれる事を、やり切ります」
踏み入るや噎せ返るような香氣が肌膚を包むが、美し黑瞳は光を失わず。
繊手に装着する腕輪型呪具『ディスオーダーキャンセラー』を起動し、己の周囲に霧を発生させた心春は、正気を失わせる馨香を中和しながら何とか前進した。
「私にはUDC組織の技術的な支援がありますが、そうでなければ……」
云って、朦々と立ち込める白霧の向こうに羽衣人らの狂亂狂舞を捉える。
天人すら抗えまいか、薄絹の瀲灔と翩る樣を見た心春は、妲己に至る進路を塞ぐ彼等にスタングレネードを擲げ込むと、厖大な光と音で享樂のムードを吹き飛ばし、何事かと喫驚の相を揃える中を擦り抜け、妲己を隱す羅幃繍幕を目指す。
彼女への接近は殺生狐理精が許すまいが、狐精が耳元に甘言を囁くより先、心春は握り込めた拳銃の筒先を己に向けて一發ッ! 鋭利い銃聲を響かせると同時、麻酔彈を撃って肉体の暴走を止めたッ!
「ッッ……心を動かされても、ッ……身動きができなければ、意味はない筈です……!」
憑依に抗う意志の強さは、妲己にはどう映ったろう。
心春は感覚が鈍麻する中でUDC管理用タブレット端末に呼び掛け、【煉獄召喚:炎魔】(ピュリファイング・ウコバク)――灼熱を纏う悪魔型UDCを喚び召す!
「ウコバクさん、あの方の苦悩を灼き、浄化の炎で包み込んでください」
少女の艶髪を飴色に輝かせながら顕現れた炎魔は、妲己に結ばれる品佳い鼻梁を、雪膚の花顔を晃々照らしたのも一瞬。その炎熱を前方へ、轟然と迸發(ほとばし)る。
次いで麗顔を照らされた妲己も、淸らかな炎の奔流を礼を以て受け取ろう。
「死こそが貴方の望みなら、其が少しでも安らかで救いがあるよう、私は願います……」
心春が語尾を擦れさせる中、炎焔の波濤が芙蓉一花を飲み込むのだった。
大成功
🔵🔵🔵
御形・菘
なるほどお主は為し遂げたのか
ならば妾が応えよう!
勇気と感動を煽り、願いを叶える邪神! 推参!
諸々の各種オーラを、袋のように身体に纏い外気を遮断
特に攻撃を受ける前面に力を集中させよう
羽衣人達には覇気や殺気を叩き込み、一旦無力化させよう
はっはっは、妾は避けんよ、存分に撃ち込んでこい
超ヤバい攻撃だが、だからこそあえて受ける!
頭や体幹には直撃させんように、できるだけ腕や尾で庇うがな
耐え凌いでくれよう、たとえ全身の骨が砕けようとも!
実にハードな自滅待ち作戦で楽しいぞ
妾が堕とされるのが先か、我慢比べだ!
はーっはっはっは! 過去の業績などこの場では関係ない!
お主はただ麗しき強者として、記録と記憶に残るのだ!
昔日は仙翁達の命に、現世(いま)は張角の異門同胞に縛られている――。
自ら死を択ぶ事も儘ならぬと、羅幃繍幕の内で袖を濡らしていた封神仙女『妲己』は、玄室の外から洩れ聽こえる高笑いに気付くと、ハッと花顔を持ち上げた。
\はーっはっはっは!!/
悲歎も哀惜も吹き払うような、覇氣に滿ちた聲。
實に淸々しい大音量に結ばれた妲己が、涙に濡れて束になった睫を向ければ、玄室の扉をズドンッ! と殴って破って抉じ開けた蛇神が、凄まじいオーラを纏って登場した。
「扉は推すか、敲くか……これが推敲!!」
伏羲か女媧か、いや、絶賛生配信中の御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)である。
彼女も仙界に結ばれた予兆(ヴィジョン)を見たか、多くの史書に「悪女」と記される妲己が、實は「蠱毒の贄」となって封神台の建立に挺身した眞相を知った菘は、入口から聲を張って呼び掛けた。
「なるほどお主は爲し遂げたと。ならば妾が應えよう!」
『なんと良く通るお聲……』
「勇気と感動を煽り、願いを叶える邪神! 推參!」
妲己の居る所まで相当な距離があるが構わない。
闇黑を迸るオーラを袋状に纏って香氣を遮断した菘は、眼路を塞ぐ羽衣人の狂亂狂舞を閃拳一発で默らせつつ、威風堂々、狂宴を踏み敷いて來る。
蓋しその侵入は妲己こそ懼れよう。
『近付いてはなりません。狐精も宝劍も、あなたを殺めに來るのです』
「はっはっは、妾は避けんよ。好きに來るがいい」
間もなく眼路に飛び込む鋭刃を片腕に払い、耳元に甘言を囁く狐精を尻尾で払う。
前面に邪神オーラを集めた菘なれば尋常の攻撃なら禦げるが、其を貫いて迫る超ヤバい攻撃は、敢えてこそ受ける!
成程これが仙翁らが移植した殺人宝貝かと、構えた異形の腕に銀刃を受け止めた菘は、血滴が赫々と踊る中で塊麗の微笑を湛えた。
「仔細は承知しておる。故に耐え凌いでくれよう、たとえ全身の骨が砕けようとも!」
邪神の狙いは、ハードでヘビーな闘爭の末の自滅――。
撮れ高の爲に身体を張るのは当然と、自ら【逆境アサルト】の環境に身を置いた菘は、生配信を見守る視聴者に加え、妲己すら巻き込んで血闘の宴を広げていく。
「仙翁達の奇策が破れるのが先か、妾が堕とされるのが先か、我慢比べだ!!」
『あ、あなたという人は……!』
抑圧されていた妲己は、菘の強靭な意志に強烈に惹かれていこう。
而して菘も血煙紅雨の下で嗤い続け、
「はーっはっはっは!! 過去の業績など、この場では何一つ意味を成さぬ! 妲己よ、お主はただ麗しき強者として、記録と記憶に残るのだ!」
畢ぞ痛撃に歪まぬ花顔が、其を見る妲己の悲哀を晴らしていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
浅間・墨
ロベルタさん(f22361)
誘惑に抗いながらは大変なので部屋に入る前に準備をします。
リミッター解除。限界突破。属性攻撃の順番で刀に付与。
身体に破魔とオーラ防御を纏っておきますね。
『国綱』の一振りで【十掬剣『韴霊』】を放ちます。
魅了を状態異常とすれば恐らく通用する…と思いますが…。
ロベルタさんの準備を待ち説明後に扉を蹴破り入室しますね。
扉の前で即座に一分四十秒だけ【『韴霊』】を発動させます。
あとはロベルタさんに任せます。
ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)
パフォーマンスで身体を封印を解いてから限界突破。
多重詠唱しながら重量攻撃と鎧砕きに鎧防御無視。
それから破魔とオーラ防御で身体を包んでおくよ。
…墨ねーの説明を聞きながら準備を整えて飛び込むじぇ。
時間との勝負みたいだから全力の【雷神の大槌】だねぃ。
目指すは妲己ねーちゃんの懐。蹴るのは腹部。迷いはない。
せめて顔は。顔を蹴るのはやめておくじぇー。
髪と一緒で女の命ってゆーしねぃ~。…うん…。
2回攻撃の早業にクイックドロウと零距離射撃で連続蹴り。
時間はないけど一撃一撃丁寧に蹴るよ。丁寧に…。
…うーん。無抵抗のねーちゃん蹴るのは忍びないねぃ…。
武侠要塞『梁山泊』に入るより先、猟兵は仙界に結ばれた予兆(ヴィジョン)を視た。
嘗て多くの史書に「悪女」と記された妲己は、仙翁の命を受けて淫樂と悪逆を尽くし、人に討たれる事で封神台を築いたと云う――正しく「蠱毒の贄」であったと。
「えぇと。悪いことをしてたのは、皆にやっつけられるためだった……?」
むむう、と唸りながら語尾を持ち上げるロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)に對し、隣する浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)はいつになく神妙な面持ちで首肯を添える。
「……義憤、に……研が、る……刃は……突き……て……易い、の……しょう……」
然う、仙翁らが狙ったように瞋恚や嚇怒で刀を振う事は容易い。
事實、真相を知った今は妲己を倦厭する心情が生まれぬと胸奥を探った墨は、寧ろ彼女の意志を踏み躙る宝貝やユーベルコードこそ斬るべきかと密かに眉根を寄せる。
而して見つめるは、極上の香氣に毒された宝珠貴石の扉――。
無機物すら變容させる【傾世元禳】も、仙翁らが移植したものであり、妲己の意志では無いと櫻脣を引き結んだ墨は、先ずは扉越しに一礼を捧げた。
「……拱手、では……く……私、の……故郷の……様式……で……」
「う? こう?」
ぺこりと頭を下げるのは、嘗て封神台の建立に挺身した彼女に敬意を示して。
きょとんと瞳を瞬いたロベルタも彼女に合わせて一礼すると、再び花顔を持ち上げた時には凛乎と五感を研ぎ澄まし、これより踏み入る準備を整え始める。
「……これ……けの……誘惑、に……抗う、の……は……大変……です……」
「まさか僕も墨ねーも宝石になるとは思わないけど、同士討ちとか恐いよねい」
「……破魔、の……氣を……帯びる……とで……香氣を……禦……ましょう……」
「うんっ、吸わなきゃへいき♪ 大丈夫♪」
二人は花のように華奢だが、その器には厖大な魔力が祕められている。
其を解放して淸浄のオーラと纏えば、瘴氣じみた馨香を吸い込む事もなかろうか――、墨とロベルタは更に集中して心身の出力を最大にすると、扉を開けるや広がる狂宴の庭を一気に駆け疾ッた!
「……參ります」
「う! いっくじょー!」
眼路いっぱいに飛び込む酒池肉林の景を、忽ち目尻へと流して走る、趨る、疾る!
途中、甘美な香氣に中てられた羽衣人らが「過來」(おいで)と客人を迎えるが、彼等の狂亂狂舞を絶影の機動で擦り抜けた二人が残すは、心地好い爽涼の風のみ。
猶も官能的で退廃的な舞樂が少女らを誘惑するが、眞直ぐ進路へと結ばれた透徹の星眸(まなざし)は一縷と迷わず。
「……ロベルタさん……抜け……れ……すか……」
「もっちろん♪ ちゃんと墨ねーについてくじょ♪」
羽衣人らが瀲灔と翻す薄絹の間を潜った二人は、軈て進路の先、羅幃繍幕の奥に佇む芙蓉一花――封神仙女『妲己』の麗姿を捉えた。
この時、先に速度を上げるは墨。
「……その身、を……縛る……もの……を……祓い、ます……」
叔父より譲り受けし大刀『粟田口国綱』を一振り、玲瓏なる乱れ刃文を光らせる。
この瞬間に閃くは十掬剣『韴霊』(トツカノツルギ・フツノミタマ)――国綱が刃鳴りするや広がる「骸の海」が、普く異變を、諸有る異常を悉く呑み込んでいく――ッ!
「……魅了を、状態異常と……すれば……恐らく……通……る……と、思います……」
読みは至当。
狂宴の庭に覆い被さるよう滿ち広がった骸の海は、仙翁らが妲己の離反を防ぐべく移植した香氣を、狐精を、そして武林の祕劍を、荒ぶる波濤(なみ)に消していく。
『な……なんという、景……宛如(まるで)黄河の氾濫を見るかのような……!』
壮絶な景を前に、妲己は或いは快哉を覚えたか判然らない。
我が身を鎖いでいたものが取り払われるような気がした彼女は、彼女達なら己に終焉を呉れるかもしれないと、不覚えず跪礼を取っていた。
「……あと、は……ロベルタさん……に……任せ……ます……!」
全てが無効化される時間は百数秒。それ以上は墨が持たない。
而してそれだけあれば、ロベルタならやってのけられようという信頼もあるか、蘇芳色の麗瞳が見つめる先、銀髪の少女が光の如く疾駆する。
「時間との勝負みたいだから、全力でいくねぃ!」
ここまでの詠唱を重ねて解き放たれるは【雷神の大槌】(ミョルニル・ハンマァー)!
濁々と渦巻く骸の海さえ羽衣人のように飛び越えたロベルタは、ヒラリとスカートの裾を搖らすや蹴撃閃々ッ! はつはつと雷光を迸らせる戰槌の如き蹴りを放ッた!
「お顔はね、髪と一緒で女の命ってゆーしねぃ~……うん……だから、お腹!」
『――ッ、ッッ――!』
弧と撓った衝撃が妲己の腹部にメリ込み、彼女の繊躯を大きく吹き飛ばす!
懐に飛び込むなりキックを放ったロベルタに迷いは無し、更に宙空でクルリと態勢を變えた可憐は、間隙を殺すように二回攻撃! 目にも止まらぬ速さで連撃を叩き込む!
一撃一撃を丁寧に蹴り込むのは、その時間を作ってくれた墨に対する礼と、死を覚悟した妲己の爲に。
「……うーん。だけど、無抵抗のねーちゃん蹴るのは忍びないねぃ……」
嘗て妲己を「悪女」と見立てた者のように、怒りの儘に戰えたら如何だったろう。
佳人は翠眉をきゅっと寄せながら、「それでも」と妲己が望むものを捧げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
荒谷・ひかる
一応対策は準備してきましたけど……うぅ、やるしかありませんっ。
道中対策として、草木の精霊さんに手伝ってもらってスギ花粉煙幕弾を沢山準備
突入後、即座に煙幕弾発動(花粉ぼわぼわわん)
花粉症状態になれば、鼻が利かなくなって香気も効きませんっ(お鼻ずびずび)
羽衣人も巻き込んで逃げてもらえるといいなぁ……くしゅっ(涙だばだば目しょぼしょぼ)
妲己さんに対しては鼻づまりで抵抗できてるうちに【助けておじいちゃん!】発動
おじいちゃんは霊体なので、妲己さんのコードの対象外(生命体でも無機物でも自然現象でもない)
大剣でばっさり、お願いします
悔しいですが……わたしにはこうすることしか。
せめて骸の海の底で、安らかに……
仙界は山岳武侠要塞『梁山泊』、封神仙女『妲己』を隱す玄室前に立つ――。
聽けば内部は万物を虜にする香氣が充滿しているとの事で、荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)は深呼吸ひとつ、銀を縁取る長い睫を閉じ合せた。
「一応対策は準備してきましたけど
……。……うぅ、やるしかありませんっ」
妲己の【傾世元禳】を破る策は、“ある”。
仙翁達が彼女に移植したという悪魔のユーベルコードに對し、ひかるが用意した突破法も天魔の疆に踏み込んでいよう。自身もごくりと緊張を嚥下するが、お友達の精霊たちにグイグイ押されて玄室に入ったひかるは、間もなく轟く爆音に覚悟を決めた。
「っ……ふゃ……っ、ひゃ……っ――」
\ぷしゅ!!/
其は草木の精霊が生成した「スギ花粉煙幕彈」――!
炎の精霊が爆発させた花粉を、更に風の精霊が拡散する花粉地獄だ。
悪知恵×陽気×悪戯好きと、三属性の精霊が結託して発動した花粉彈は直ちに充滿し、ぼわぼわわんと広がる花粉が羽衣人へ、狂亂狂舞を涙と鼻水に止めさせる――!
「ふぇ……花粉症になれば……鼻が利かなくなって香気も効きませんむむむむっ!」
勿論、ひかる自身も例外では無い。
愛らしい紅瑪瑙の瞳をしょぼしょぼに濡らした少女は、涙雫だばだば、お鼻ずびずび、精霊たちが差し出すティッシュ(やさしさ)も間に合いそうにない。
「は、はっ……羽衣人さん達は、逃げてくださ……くしゅっ!」
そう避難を呼び掛けながら、ハックションとかヘブシュとか聽こえる催涙空間を何とか進んだひかるは、羅幃繍幕の奥に佇む芙蓉一花――同じく涙でビショビショになった妲己を発見し、二、三度、咳嗽(くしゃみ)を揃えた。
「……はぁっ……ふぁ……あ、あなたが……だっクシュン!」
『……ふぁっ、へぁ……っ……これが、仙翁らの策略に勝る……ぷちゅん!』
哀しき哉、このままでは泥試合。
玄室に居る全員がスギ地獄に悶える中、ひかるは何とか打開せんと聲を張った。
「おじいちゃん、助けてーっ!」
天下の宝刀、【助けておじいちゃん!】(ヘルプミー・グランパ)――ッ!
愛孫のピンチに應えるは、身の丈八尺を優に超す筋骨隆々の巨漢で、ひかるの守護霊。かの筋肉でものいわす超神秘「荒谷流」の使い手でもある。
霊体故に香氣も花粉も利かぬ屈強な老爺は、目下の惨憺にも嚴然と立とう。
その遣り取りは劇画調で、短く言が交わされる。
老爺問ひて曰く「可以嗎(よいか)」と。
愛孫答へて曰く「請(お願いします)」と。
「……くや、っ……悔しいですが……わたしには、こうすることしか……っ、クシュン! せめて骸の海の底で、安らかに……はっぷち!」
涙に滲む視界で、老爺の握れる大劍がばっさりといく。
ちょっぴりあやふやな映像で妲己の末路を見届けたひかるには、おじいちゃんがそっとティッシュ(いたわり)を差し出してあげるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
紅・麗鳳
妲己……史上名高い傾国の代名詞。
そして私は封神武侠界一の美姫。
宿命の対決ですわね。
と言うわけでいざ尋常に勝負──!
香りの誘惑には私の方が美しいと念じつつ歩みますわ。
羽衣人たちに妨害されれば、こちらの美貌を見せて説得。
落ち着きなさい! 妲己と私、どっちが綺麗です!?
妲己と答える奴には舌打ちし睨み付けて退散させます。
怒りを燃やし香気を跳ね除けますわ。
そして妲己の前に来れば、強くなる香に屈する前に火竜砲へ点火。
砲撃で香気を吹き飛ばし、勢いが弱まった隙に【唯我独娟】で漢服に着替え、同じく魅了の効果を放ち拮抗状態に持ち込んで一喝。
妲己! アンタんとこのファンの教育はどうなってますの!?
このままぶっ飛ばすつもりでしたが気が変わりました!
そのまま妲己の腕掴み引っ張り出し、周囲の羽衣人たちも集めて説教。
とりあえず簡単に応援パフォーマンスを教えますから、この後のわたくしと妲己の舞踏仕合(ダンスバトル)でしっかり舞台を盛り上げなさい!
死にたい? この美姫対決で私が勝ったら楽にしてあげますわ!
月下の詩人は扉を推すか敲くか迷うが、紅・麗鳳(国色無双・f32730)は迷わない。
仙界は山岳武侠要塞『梁山泊』を訪れた彼女は、香氣の影響で玉と變わった玄室の扉をズドムッと蹴破ると、馨香の主を捜すべく爛々と周囲を見渡した。
「此處が蠱毒の贄――封神仙女『妲己』を隱す玄室……」
妲己、と口にした櫻脣が不敵な微咲(えみ)を湛える。
多くの史書に悪女として記される彼女は傾國の代名詞にて、封神武侠界一の美姫を自負する麗鳳にとっては最高の好敵手(ライバル)。國色無双の覇道を驀進すれば、否應にも辿り着く相手だろう。
「……遙か昔、その身が封神台建立に尽力した事には敬意を示します。しかし芳花は二輪も要らず、貴女と分かつ天下もありませんわ」
天下は二花を擁かず。而して花の爲に二分せず。
頂点に立つは常に一人と、宿命の対決を目前に毅然と意志を現した麗鳳は、武人ばりに堂々と聲を張って云った。
「と言うわけでいざ尋常に勝負──!」
勇ましく踏み入るや、豊潤に滿つ【傾世元禳】が雪膚を抱き包む。
熒惑の馨香、實に官能的で退廃的な匂いが麗鳳の鼻筋を撫でるが、己とて流眄ひとつで森羅万象を魅了する寵姫と、いい感じに仕上がったプライドが籠絡を拒む。
艶々しい櫻脣は念じるように科白を繰り返し、
「いいえ、わたくしの方が美しい。この程度でわたくしの美は翳りませんわ」
――虚勢か、否、事實だ。
仙翁達が妲己の離反を恐れて移植したユーベルコードに對し、生まれてから蝶よ花よと愛されて磨かれた麗鳳の美貌は「素」。この克己力は自己肯定力の賜物だ。
故に佳人は、妲己の香氣に狂亂狂舞する羽衣人らを見ても冷嚴と諫めよう。
「何と粗(はした)ない。わたくしの美貌を見て落ち着きなさい!」
『えっあっ……はい……えっ……?』
樂舞も色を失う金絲雀の聲が、ピシャリと粗相を嗜める。
猶も狂宴に耽る不届き者には、麗鳳自ら瀲灔と舞える薄絹を割って仁王立ちに、
「さぁ仰いなさい。妲己と私、どっちが綺麗です!?」
『……ち、ちかい……』
「どっちが綺麗か、その瞳で聢と見較べるのです!!」
『えぇぇぇぇえええ……っ!?』
あなた樣ですと答える者には、塊麗の微笑を。
確言を憚る者には、チッと舌打ちした後に氷の睥睨を。
問い質す裡に正気を取り戻す羽衣人らにアメとムチを呉れながら進んだ美姫は、折に、「そういうとこやで」と暗に示す羽衣人を凝乎(ギッ)を睨めつけた。
『ふうわりとして優しそうなところは、向こうの方が……』
「な ん で す っ て !」
『ひぇっ』
云って一目散に逃げる羽衣人を追った緋の麗瞳は、対抗心でメラメラ。
負けん気の強い麗鳳は怒りを燃して香氣を跳ね除けつつ、酒池肉林をずんずん進むと、軈て羅幃繍幕の奥に佇む芙蓉一花を捉え、ギラッと闘志を迸らせた。
一方、その煮え滾るライバル心に気付いた妲己は、麗鳳の接近を止めんとする。
『っ、近付いてはなりません。自動型ユーベルコードに殺されてしまいます……!』
「成程、近付くほど香りが強まるようですが……わたくしの前には微風(そよかぜ)」
掻き消して呉れる、と佳聲に合わせて轟音を哮るは火竜砲『祝融吻』――!
偶さか襲った賊の根城で掠奪した(そういうとこやで)火竜砲は、大音量を轟かせるや爆ぜた空気に香氣を吹き飛ばし、我が身を案じた妲己を大いに喫驚させる。
瞳をぱちくりと瞬いた妲己の前には、砲の噴煙が朦々と立ち込めるが、漸う煙が収まり靉靆とする頃には、彼女はもっと驚かされよう。
『これは、この姿は……――!』
「妍姿艶質、光彩陸離、解語の華とはわたくしのこと! ――さあ、美の何たるかを目に灼き付けなさい!」
絢爛芬々、【唯我独娟】(ウツクシキハワレ)――!
白煙の中より現れたるは、豪奢な漢服に袖を通した麗鳳で、蟬の翅めいた羽衣を翻して甘美な馨を戰がせる樣は、沈魚(西施)、落雁(王昭君)、閉月(貂蝉)、羞花(楊貴妃)――遍く美人を翳らせる。
美し過ぎて強者感溢れる武闘派寵姫は、凛乎と妲己に正對するや一喝し、
「妲己! アンタんとこのファンの教育はどうなってますの!?」
『ふぁ……ふぁん
……!?』
「ええ、このままグーでぶっ飛ばすつもりでしたが気が變わりました!」
キョトンと己を見つめる仙女を理解らせてやるのは拳でなし、「まだやる事がある」と妲己の腕をむんずと摑んで引っ張った麗鳳は、すっかり我に返った羽衣人らも集めると、懇々と説教を始めた。
「宜しいですか」
『は、はい』
やや緊張して麗鳳の言を聽く彼等は、目を逸らすと恐いのでしっかり耳を傾けよう。
「とりあえず、わたくしが簡單な応援パフォーマンスを教えますから。この後のわたくしと妲己の舞踏仕合(ダンスバトル)でしっかり舞台を盛り上げなさい!」
『……だっ、だんすばとる
……!?』
「推しに魅了されたファンが無闇勝手に踊り狂うのは羽衣人とてご法度。推しの爲に汗を流し、咽喉を枯らして応援する……潔い仕合とはそういうものですわ」
紅玉の麗瞳に玲瓏の光を湛え、真劍に丁寧にパフォーマンスを教え込む麗鳳。
無論、妲己に負ける心算(つもり)はなく、敵に塩を送って勝つのが正道であると奮起する彼女に、妲己こそ心配になるが構わない。
『あ、あの……私を殺しに來て下さったのではないのですか……?』
「死にたい? この美姫対決で私が勝ったら樂にしてあげますわ!」
『……だんすばとるに……勝ったら……』
麗鳳を前にして「死にたい」かと問われれば、奥底に疼く昂揚が否定する。
これこそが私の“意志”であると気付いた妲己は、胸に宛てがった手をぎゅっと握り、大事そうに包み込むのだった。
大成功
🔵🔵🔵
玉ノ井・狐狛
魅了、洗脳、精神支配――呼び方は何でもイイが、そういう手妻には共通のウィークポイントがある
具体的にァ、“正常な状態を基準にしている”ってコトだ
ようするに、“すでに魅了されてるヤツ”は魅了しづらい
っつうワケで、あらかじめ►麗をキメていこう。コンディションは落ちるが、敵さんに誑かされるよりはマシだろ
移動中は、踊ってるヤツらに巻き込まれないように障壁で遮る
害意を向けて来るんじゃないなら、変に相手するよりさっさと抜けちまったほうがよさそうだ
▻オーラ防御▻結界術
さて、いよいよ本丸だが……
デバフ食らった状態で術比べってのも趣味がよくない
だから、ま、「負けても勝てる」手を指させてもらおう(UC
攻撃が自分へのダメージになる? 大いに結構
魅了も霊の憑依も、相手の行動を不利益に換えるのも――そういう芸は、アタシも得意分野でな。よく知ってるんだぜ
やる気のないとこ悪ィが、まずはアンタを削らないことにゃ話が進まないからな
一発もらっといてくれや、ご同輩?
無骨な壁すら宝石に變えてしまうとは、流石は万物を魅了する「蠱毒の贄」。
誑惑すること斯くあるべしと、感嘆すら覚えつつ紅玉の扉を潜った玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は、踏み入るなり鼻先に触れる馨香にそっと口角を持ち上げた。
「――成程、これが傾世元禳」
官能的で退廃的な香氣を充滿させる自動発動型ユーベルコードは、妲己の離反を恐れた仙翁達が移植したもので、彼女の意志とは無関係だとは皮肉が利いている。
噎せ返るほど甘美な匂いを肺いっぱい薫き込めた狐狛は、然しスッと通った鼻梁を進路に向けた儘、酒池肉林の宴を眞直ぐに踏み進んだ。
「随分とイイ匂いが立ち込めてるんだろうが、御生憎樣だ」
既に先客が居るのだと、繊手を添える胸には『麗』(うるは)――私家製の香水が主を心地好い陶酔に滿たしている。
「魅了、洗脳、精神支配――呼び方は何でもイイが、そういう手妻には共通のウィークポイントがある。具体的にァ、コイツらが“正常な状態を基準にしている”ってコトだ」
凡そ魅了術は“すでに魅了されてるヤツ”を魅了しづらい。
傾世元禳を「破る」でなく、「効きにくくする」事で精神の支配を遁れた狐狛は、折に踏み出す足を床に引っ掛け、蹣跚めく繊躯を玉石の壁に預けつつ、それでも前に進んだ。
「コンディションは、落ちるが……敵さんに誑かされるよりは、マシだろ……」
妲己の香氣が鈍麻した神経を通り抜けるよりは、狂樂の宴を擦り抜けるのが速かろうと駆け引きも充分。勝負師は勝ちを譲る事はあっても、大負けはしない。
「……場で有利を取られるのは癪でね」
畢竟、嵌められるのを拒むは賭博師のプライドか。
感覚は鈍るものの光は手放さず、琥珀と煌めく双の彩瞳を辺りに巡らせた佳人は、朦乎(ボンヤリ)とした視界に羽衣人の狂亂狂舞を捉えると、須臾、薄絹『紗』を翩した。
華奢の躯をふうわりと包むは、物体やエネルギーを減衰させる霊力障壁。
「向こうに害意がないなら、變に相手するよりサッサと抜けちまったほうがイイだろ」
過來(おいで)と招く手を遮り、狂える舞踏を嫋やかに流す。
酔狂を手折る無粋はせず、舞樂に酔い痴れる彼等を傷付ける事なく遣り過した狐狛は、玄室を暫く探索した後、軈て羅幃繍幕の奥に佇む芙蓉一花を捉えた。
「扨て、いよいよ本丸だ」
花顔に憂いを浮かべる契情、封神仙女『妲己』。
狐狛の接近に気付いたか、彼女は振り向くや頭(かぶり)を振って云った。
『っ、私に近付いてはなりません。仙翁らが植え付けた殺生狐理精が殺戮と欲情を煽り、刃を突き立てる程に貴女の生命を脅かすのです……!』
「……へェ、これか」
麗瞳を烱々と目尻に流し、耳元で甘言を囁く狐精を見る。
其は尻尾をフリフリ、樂音のように快い聲色で「いいモノをお持ちでいらっしゃる」と刃渡二尺七寸の冱刀、幻想籠絡『纏女』の柄に狐狛の繊手を嚮導(みちび)くと、大将軍さながらの怪力を與えて殺戮慾を煽っていく。
「ふうん、纏女を突き刺すだけで良いと……」
本來なら情欲も煽られる筈だが、殺意ばかり昂ぶるのは『麗』の影響か判然らない。
それでも己の身体能力が飛躍するのを聢と實感した狐狛は、鏡面状の鋭鋩が細かく微動しながら妲己へと向かう儘に、我が手に馴染む冱刃を振り下ろしたッ!
『っっ、きゃア――!』
「巧く唆された刃が、己をも蝕む……と。大いに結構」
銀を彈く刀身が赫々とした鮮血に濡れると同時、狐狛の心臓がぎゅうと摑まれる。
その衝動こそ極上の馳走と牙を剥いた狐精が、透いた身体を狐狛へと沈めて心臓に嚙みついたのだ。
「ッ、ッッ……!」
血流が逆流しそうな程の痛みを受け取る狐狛。
然し形佳い櫻脣は弧を描き、塊麗の微笑を浮かべている。
「噫、どうも趣味がよくない。アタシも、アンタらも」
血濡れた繊手が『纏女』を可爛ッと床に轉がし、而して手は強く握り込めた儘――。
心臓に嚙み付いた狐精、仙翁らが移植したコイツこそ妲己の“意志”に反するものだと確信した狐狛は、視線は妲己を見つめた儘、愈々垂涎する狐精に向かって聲を絞った。
「……魅了も霊の憑依も、相手の行動を不利益に換えるのも――そういう芸は、アタシも得意分野でな。よく知ってるんだ」
今に其を知る事になると、不敵に咲む佳人の周囲にほつほつと浮かび上がる燐火こそ、【狐の怨返し】(イネヴァタブル・ルーイン)――殺生狐理精を仕留める一手。
狐精に心臓を味わわせる代わり、宿主の手を離れて動く勝手を潰す策だ。
「……だから、ま、『負けても勝てる』手を指させてもらった」
然う、勝負師は大一番で決して勝ちを逃さない。
血濡れた拳を握り込めた儘、我が身を引き摺るようにして妲己に近付いた狐狛の佳瞳はどれほど研ぎ澄まされていたろうか――この者こそ己と、己に埋め込まれた仙翁らの陰謀を砕いて呉れると涙した妲己は、靜かに跪礼して次手を待つ。
その覚悟は狐狛も慥かに受け取ろう。
「やる気のないとこ悪ィが、まずはアンタを削らないことにゃ話が進まないからな」
『はい。其こそ私が望んだものです』
「そうかい。それじゃ一発もらっといてくれや、ご同輩?」
一説に依れば、妲己は九尾を持つ妖狐だったともされている。
魅了と熒惑に長ける同属の涕涙に、彼女が真に願うものを推し量った狐狛は、拳一発を閃いて倒れる。
『――噫、私の宿願は今こそ果されました』
狐狛が妲己の最期の言葉を聽いたかは判然らない。
然し赫々と血濡れた拳には、搖るぎない勝利が摑み取られていたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵