殲神封神大戦⑧〜馬跳伝説
●俺の人馬がずきゅんどきゅん
「さぁ始まりました。今年最初のレース、編笠賞(春)! 九龍城砦の会場からお送りいたします」
「今年も気合いの入った人馬が多いですね。是非、全力で競い合って欲しいものです」
「一番人気は四番『トミノウエサマ』。コンディションもバッチリとの事です」
「元旦から張り切っていると聞きました。これは期待できそうですねぇ」
「二番人気は十二番『ワビイシオクレ』。つい先日、お正月ガチャで爆死したとの事です」
「是非、賞金獲得を目指して頑張って欲しい所です」
「三番人気は『アミガサフリーダム』。初出場にしてどれ程の実力か、見所たっぷりですね!」
「将来が楽しみな人馬ですね。是非、元気に走って頂きたいものです」
ここは香港租界・九龍城砦。あらゆる自由が許された場所。
それは私も同様に与えられたもの。生も死も、金も薬も、全てが自由だ。
さて、猟兵をどう迎え撃とうか考えて見た所、丁度良い催し物がある事をふと思い出した。
ここは私の庭のようなものだ。例え何処であろうと姿を隠す事ができる。
建物だろうが、店内だろうが、『人混み』だろうが――私は一方的に猟兵を狙えるのさ。
まぁ、まさか私自身がこのような場所に潜んでいるとは、誰も思ってもいないだろうけどね。
●コンキスタドール『編笠』~九龍城遊戯
「『香港租界』って場所に行けるようになったっすね」
集まった猟兵達に向け、知念・ダニエル(壊れた流浪者・f00007)が説明を始める。
『香港租界』とは即ち、コンキスタドール『編笠』の支配地。銃火器や阿片によって頽廃した場所だ。『九龍城砦』という高層建築の集合体が集うこの地で、編笠と交戦し、張角の結界を崩さねばならない。
「ただまぁ、そう簡単に編笠は見つからないだろうっす。何せ入り組んだ道ばかりっすからね。そんな場所なら相手も死角から狙って来るはずっす」
それでは一方的にやられてしまう。が、対策はあるようだ。
「調べた所、ここの住民ってのは『九龍の霊気』というものを持っている事が分かったっす。その場所に馴染んだり、同じ衣装を着たりする事で自然と身に付くものらしいっすね」
そう、編笠は何故猟兵を狙えるのか。それは『九龍の霊気』を纏っていない部外者であるからだ。つまりその霊気とやらを纏っていれば、編笠はこちらに気付きにくくなるという事だ。
「もうお分かりっすね。これから俺が紹介する場所に行って、『九龍の霊気』を纏えるよう馴染んで、そして編笠の登場を待つ。そういう事っす」
粗方の前置きを終えた所で、ダニエルは場所を説明に移る。
「俺が感知した場所は、なんと言うか……場所というか、お祭りというか」
背景に映し出されたものは入り組んだ路地、路地、路地。しかしそれを進んで行った先には――何とも輝かしいゴールが待っていた。
「競馬は知ってますかね? それを人が行うものっす。まぁ、走るのは競馬場じゃなくて少々広めの路地裏っすけど」
福男になる為に競争する行事があるじゃないっすか。あれみたいなものっす。と、分かる人にはそう伝え。
「どうも『編笠賞(春)』というレースがあるようで……人馬と呼ばれる参加者も、金を賭けて応援する住民も大騒ぎするイベントらしいっす。レースはレースっすけど、何せ賞金もありますからね。相手の邪魔をするのも『自由』……みたいっすね」
そんな中にも、編笠は何処かに紛れ込んでいるだろう。という事は。
「レースに参加して走りましょうっす。上手くいけば編笠の目が眩んで攻撃が鈍るかもしれないっす」
参加者に紛れてゴールを目指し、編笠の出現を待つ。初手を回避できれば相手の場所は分かったも同然。そこから反撃開始だ。『妨害』と言い張れば、ユーベルコードの使用など誰も咎めない。
「ま、大体そんな流れっすね。皆さん、お気に入りの勝負服でも着て頑張って走って欲しいっす」
勝負服?
「え、だって走るんすよ? 勝負服イコール『九龍の霊気』っすよ。編笠も倒して、そしてゴールも目指してくださいね」
勝負服は様々だ。走者として『走る』という事が分かれば良い。服が思いつかなければ、会場でも借りる事ができる。機能性を持ったスタイリッシュな服からキラキラアイドルな服まで選び放題。それもまた自由という事だ。すごい!
「さて、説明は以上っす。勝たなければいけない勝負には、絶対に勝ってくださいっすね」
最後にそう伝え、ダニエルのグリモアは輝き出した。
猟兵達は見事、強敵編笠を倒す事ができるのだろうか。伝説が今、始まる――。
ののん
お世話になります、ののんです。
●状況
封神武侠界『殲神封神大戦』の戦争シナリオとなります。
1章で完結します。
●戦場について
九龍城砦の入り組んだ路地を全力で走る長距離レースに参加します。
レースの参加者は人間も人外も様々ですので何方でもお気軽に。基本的に彼らは邪魔をしません。
しかし、何処かへ潜んだ編笠が先制攻撃をしてきますので、これを回避した上で反撃を行ってください。
尚、猟兵が敗北した場合は編笠が優勝、センターで踊ります。
●九龍の霊気について
レースの走者として勝負服は必須です。是非着ましょう。
熱意を持ってレースに挑むほど周囲に馴染む事ができるでしょう。
走者としての名前はあってもなくてもいいです。
プレイングボーナスは以下の通りです。
====================
プレイングボーナス……「九龍の霊気」を身に着け、敵の先制攻撃ユーベルコードをかわす。
====================
●プレイングについて
受付は『#プレイング受付中』のタグがある間まで。
キャラ口調ですとリプレイに反映しやすいです。
お友達とご一緒する方はIDを含めた名前の記載、または【(グループ名)】をお願い致します。
同時に投稿して頂けると大変助かります。
申し訳ありませんがユーベルコードは基本的に【選択したもののみ】描写致します。
以上、皆様のご参加お待ちしております。
第1章 ボス戦
『『編笠』in九龍』
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POW : 編笠暗殺術
自身と武装を【編笠から落ちる影】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[編笠から落ちる影]に触れた敵からは【平衡感覚】を奪う。
SPD : 九龍乱戦遊戯
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【代用武器とした、九龍城砦の全ての人・物品】の威力と攻撃回数が3倍になる。
WIZ : ドラゴンズ・ドリーム
【煙管の煙から具現化した「紫煙龍」】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【袋小路への迷い込み】を誘発する効果」を付与する。
👑11
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ハロ・シエラ
まさかレースで勝負とは。
正直、あのコンキスタドールがどんな踊りを披露するのか興味はありますが……そうも言っていられません、勝ちに行きます。
幸い先日のハロウィンに用意したチャイナ服もあります、ここに馴染むには良いでしょう。
敵はユーベルコードで姿を隠すでしょう。
私はそれを【第六感】で察知し、気付いていると視線で圧をかけつつ【ダッシュ】で前に出ます。
敵が私の平衡感覚を奪う為に近付いて来たら【軽業】で敵の頭上を飛び越える様に影を回避し、そのまま空中でユーベルコードによる蹴りを入れましょう。
敵の撃破が第一、レースは二の次ですが【ダンス】や【歌唱】も少しは出来ます。
万一勝ってしまっても頑張ります!
一月の寒い風がひゅるりと吹く中、靡くのは栄光の一着を目指す為に身に纏った勝負服。
ぞろぞろと集まる参加者もとい人馬達。ある者は新年最初の栄光を掴む為、ある者は賞金の為、ある者は――『香港租界』の主を討つ為。
「随分と参加者が多いですね……」
様々な顔触れに周囲を見渡すハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)。ハロウィン用に用意していたチャイナ服を着れば、どこからどう見てもこの街の住民、そしてレースの参加者だ。
賑やかに騒めくこの人混みの中に、標的の編笠はいるのだろうか? ……やはりこちらからはまだ認知は難しいらしい。暫くは息を潜めるべきか。
「それでは、人馬の皆様はスタート地点にお集まりください!」
明るいアナウンスの声が響き渡れば、人馬達は熱気を発しながらスタート地点へと並ぶ。もはや寒さなど感じない。
何処かから開幕を告げるファンファーレが耳に入れば、ハロを含める人馬達は身を屈め構える。
「位置について……よーい、どん!!」
空へ向く銃口から放たれた発砲音と共に、人馬達は力強く地面を蹴り上げた。
「さぁ、一斉にスタートしました! まずは全員、自身の得意なポジションに着けたようですね」
スタートは好調。誰に邪魔される事なく走り出す事ができたハロ。後方の集団の中へと身を潜め、まずはレースの動きを観察する。どの走者も、決して広いとは言えない路地を慣れた足取りで走っている。
(「この何処かに編笠が……」)
前方か、後方か、それとも今自分のいる集団の中か。相手の場所が分からなければ『自分だったら何処から仕掛けるか』を考える。
(「私だったら……一瞬影となる場所、即ちカーブ」)
前方の集団が次々と左へと曲がっていき視界から姿を消していく。その後を追うようにハロも左へ――。
「――はっ!」
否、彼女だけは普通に曲がらなかった。壁を蹴り、空中を飛ぶように大きく飛び上がったのだ。
「おーっとぉ! ハロシエラ! 壁を利用して大きく前へ出た! これはすごい脚力だ!」
テンションの上がる実況。前方にいる人馬達の頭上を飛び越えるように左の道へと曲がると、人馬達は驚いたようにハロを見上げる。
「分かりました、そこですね!」
真下へ向かって叫ぶハロ。睨み付けた先からは、ひゅるりと影が具現化し。
「おや、バレてしまったね」
編み笠を被った赤いチャイナ服の女がへらりと笑う。間違いない、彼女が編笠だ。
「やはり。私の読みは当たりましたね」
ハロは編笠の場所ではなく潜んでいそうな範囲を予測しただけに過ぎなかったが、どうやら勘は当たったようだ。
しかしただ姿を見せただけの編笠ではない。空中へと体を浮かせる相手へこれ見よがしにと銃を向ける。
「これは挨拶代わりさ。最後に踊るのは私だからね」
素早く銃弾を撃ち込む。数発放たれたそれを避けられる者などいない。……猟兵でなければ。
「甘く見過ぎです、覚悟しなさい!」
ぐるりと身体を捩じらせ銃弾をすり抜ける。回転しながら編笠の元へ急降下をすれば、その勢いを乗せたハロの踵落としが編笠の頭上へクリーンヒットする。
「ぐ、ぅッ!!」
編笠を踏み付け地上へ着地するハロ。よろける相手を置いて行くように、ハロは颯爽と再びレースへ戻っていく。
「貴方がどんな勝者の踊りを披露するのか興味はありますが……私達がさせません。勝ちに行きます」
次の攻撃を仕掛ける為、ハロは人馬達の集団へと消えてゆく。九龍の霊気へ溶け込んだ彼女に、編笠は舌打ちを鳴らした。その小さな音も、実況の声と大きな歓声に打ち消されてゆく。
「ハロシエラ! アミガサフリーダムへ宣戦布告か!? 今年の編笠賞は熱いぞぉ!」
大成功
🔵🔵🔵
龍守・火狩
アドリブ・改変ご自由に
難しいことは分からないがとりあえずレースに出て、勝てばいいんだな!
あとは服だろ?勝負する服ならフルアーマーロボットスーツしかないよな!(ただし羽は背中から出る)
いつもなら盾とパイルバンカーを持つところだけど、レースならこっちのほうがいいよな!
両手にパイルバンカー、最高だ!
登録名も「ツインパイル」にしておこう!
よし、これで準備OK!
あとは突っ走るだけだ!
UCを発動し、パイルバンカーをバーニア代わりに疾走。妨害は横噴射からバレルロールで回避。
羽と合わせた立体機動から天空かかと落としで邪魔者を排除!
邪魔さえなければパイルバンカーの力でレースはいただきだ!
スタート地点の地面が小さく震える。誰かが地面を踏み歩く事によって発生する地響きだ。がしゃんがしゃんと機械の歩くような金属音を立てるのは、猟兵である龍守・火狩(パイルバンカーマニア・f36155)だ。
「とりあえずレースで勝てばいいんだな! それならこれしかないよな!」
意気揚々と彼が選んだ勝負服はフルアーマーのロボットスーツ。背中にはドラゴニアンの翼が見えている事から完全なロボットではない事が分かる。
「全力で走るっていうのなら、やっぱこれだよな。パイルバンカー両手持ち!」
巨大なパイルバンカーを両手に握り締め掲げれば、思わず他の人馬達も、おぉ、と声を漏らす。
「ヒュー超最高! 超クールじゃん! お前名前は?」
「俺は『ツインパイル』だ! 覚えておけ!」
その目立つアーマー姿に、ツインパイルは初出場にして多くの人気を集めていたという。
「位置について……よーい、どん!!」
誰もが待ちに待っていたレーススタートの合図が鳴り響く。全員が一斉に走り出す。しかし。
「おーっと! ツインパイルどうしたのか!? スタートに出遅れているぞ!」
ツインパイルはその場にじっと身を屈めていた。一歩も動いていない。あれだけやる気を見せていた彼が、ここで突如やる気を失った訳がない。騒めく実況と観客。しかし火狩はアーマーの中で相変わらず元気に笑っていた。
「焦るな焦るな! 見てろよ、これが……『追い抜く』ってヤツだ! 展開!!」
両手のパイルバンカーが変形する。非射出モードと化したパイルバンカーが爆発するように火を噴くと、まるで戦闘機のように火狩が超スピードで飛び出した!
「おらおらぁ! 退かないとぶっ飛ばすぜ!!」
まるで飛んでいるかのように一歩の距離が大きく、前方を走っていた人馬達を次々と抜いていく。突然の背後から迫り来る火狩の姿に、人馬達は驚いて無意識に道を空けていく。それはそうだ、あれに体当たりされては本当にぶっ飛ばされてしまう。妨害なんてできない!
「ほう。誰も邪魔しないのであれば、私がしようか」
そう呟いたのは何処の誰であったのか。影に隠れた誰かがわざと火狩の前へ赴き『触れよう』とした。
「こうなったら纏めて抜いてやるぜ!!」
前方に固まる集団を見るなり、火狩はパイルバンカーを横と下へ向け、地面を砕くが如く踏み込んだ。体を捩じったダイナミックな跳躍。それは彼が標的に気付いたからではない。『前方の集団が多かった』から。ただそれだけの状況を見て判断した結果の行動だ。
「へぇ、成る程……!」
頭の笠がパイルバンカーの風圧で揺れ、影が乱れる。ふ、と姿を現したのはコンキスタドール、編笠だ。
「おっと、そこにいたとはな! 初対面だがここでお別れだ!」
パイルバンカーを上へと向け、爆発させる。急降下する火狩の巨大な身体は編笠を狙って落ちていき。
「――非射出モード解除! 喰らえ、天空ツインパイルキーック!!」
本来の姿へと戻った両手のパイルバンカーの杭が編笠の腕を抉り、重い踵落としが頭上を砕く。
ずしん、と着地を果たしたのも束の間。砂煙の舞う中から火狩が飛び出す。
「どうだ! 邪魔さえいなければパイルバンカーの力でレースはいただきだ!」
倒れる編笠を放置し、歓声を浴びながらツインパイルはゴールを目指す。
大成功
🔵🔵🔵
黄泉川・宿儺
POW ※アドリブ連携等歓迎です
目には目を、脚には脚を
分かりやすくていいでござるな
まずは編笠賞にマッスルウーマン」の名でエントリー
勝負服は会場で借りることにするでござる(体操服+鉢巻)
髪もヘアゴムで括ってポニーテールに
これで気合い十分!
【UC:変異・人間道】
<瞬間思考力>を強化し、
編笠を出し抜き、このレースに勝つためのプランを考えるでござる
編笠の先制攻撃を<第六感>で察知し、それに合わせて<カウンター>を仕掛けるでござる
平衡感覚は奪われてしまったが、後は<根性>で走りきるのみ!
全力の<ダッシュ>でござる!
例え追いつかれたとしてもラストスパートの<限界突破>でさらに加速!
これが小生の走りだ!
戦いの場は実にシンプル。『走る』、それだけ。
「何とも分かりやすくていいでござるな」
そう言いながら黄泉川・宿儺(両面宿儺・f29475)は準備体操を行う。そんな彼女の服装は体操服に鉢巻。特別目立つ勝負服ではないものの、外見も性能も走る事に特化したその姿に観客の期待は高まっているようだ。
「覚えておくといいでござる。小生の名は『マッスルウーマン』! でござる!」
一つに纏めた髪を鉢巻と共に靡かせれば、正にそれは馬の尾の如く。観客席がより一層盛り上がりを見せる。
「さぁ、人馬達がスタート地点に並びました! 編笠賞(春)まもなくスタートです!」
実況の声が耳に入れば、人馬達は一斉に身構える。ざわついていた会場が、一瞬の静寂を手に入れると。
「位置について……よーい、どん!!」
パァン。銃声と共に地面が揺れ出した。
(「さて」)
出だしは快調。前から二番目の集団の中に身を置く事ができた。焦らず劣らず、まずはここからはぐれないようにする。
(「体力が最後まで持つかどうかはさておき、小生の脚ならばぶっちぎりトップを独走する事も可能。だがしかし、小生は『全ての勝負に勝つ』為に走っているのでござる!」)
勝負とは目の前のレースだけではない。世界の命運を決める大勝負もまたここにある。手を抜く事など許されない。
(「相手はまだ動かないようでござるな。ふむ、霊気とやらが効いているお陰か。どちらにせよ、敵を狙うのであれば背後から狙うというのがお約束でござるからな。恐らく前にはいないでござろう」)
なるべく前方へ出て標的のいる場所を確立させる。それもまた作戦の一つだった。走りつつも宿儺の脳内はまだ考える事を止めない。
(「一着を狙いつつもレース中に大きな妨害を行うとするのならば……そうでござるな、もし小生がそのような事を仕掛けるようであれば」)
――差し馬として、ここで仕掛ける。
「来るでござる! アミガサフリーダム!!」
中間地点を通り過ぎた次の曲道。そこで宿儺は叫んだ。背後から迫り来る影が少し怯んだかのように一瞬ゆらりと揺らいだ。
「……へぇ、どうして分かったんだい」
その声こそ、このレースの名の由来となった人物、編笠のものであった。
「気配が分かるはずがないのに。それに、よくその名前が私だって分かったね」
「何、分かりやすかったでござる。ここまで時間を与えられれば、十分すぎるほど色々考えられたでござるよ」
もはや怪異とも呼べるレベルにまで達した瞬間思考力。未来予知にも等しい幾多のパターンを、レースのスタート前から今まで取り揃えていたのである。
「ふ、やはり面白い。でも勝つのは私だよ」
「それはこちらの台詞! 勝負というのは後半から始まるものでござる!」
地面を踏み抜き、力強く前へ前へと駆け抜ける宿儺。
「おおっとマッスルウーマンここで仕掛けたか!? 見事なごぼう抜き! それをアミガサフリーダムが追い掛ける!!」
実況と観客の興奮の声が響く。後ろを追う編笠は再び頭の笠を深く被り姿を消す。最後の曲道で宿儺の隣に現れにやりと笑うと。
「君はもう休むといい」
編笠の影が宿儺を襲う――かと思いきや。
「猟兵をナメるな!! でござる!!」
察知できるはずのない編笠の元へ、宿儺が拳を力強く振るう。覇気を纏った何よりも硬く重い一撃が編笠の身体を貫いた。
「ぐうッ!!? 何故……ッ!?」
大きく横へ吹き飛ぶ編笠。これを見抜いたのも宿儺の思考力の力か、それとも『勘』だったのか。
そんな彼女の身体は一瞬ふらりと崩れた。平衡感覚が異常を来したらしい。だが、ゴールはもうすぐ。彼女はそんな事では諦めない。
「これが……これが小生の走りだ!!」
傾いた身体を支えたのは力強く踏み込んだ右脚。駆け抜けるラストスパート。
「マッスルウーマン! 見事な末脚! 彼女の根性は誰にも奪う事はできません!!」
その領域、まさに伝説。彼女の脚は止まらない。
大成功
🔵🔵🔵
アリシア・マクリントック
勝負服……というのはよくわかりませんが。それらしい服装で気合が入ればいいってことですね!そういえば日本の伝統的な運動着がありましたね。それにしましょう。
(体操服にブルマ。当然胸のゼッケンには名前が書かれている。いざ戦闘になったら変身できるように腰にはセイバーギアも忘れずに。)
やるからにはもちろんレースにも勝つつもりで行きますよ!ロードレースですから迷わないようコースの確認はしっかりとしておきませんとね。それに、敵が仕掛けやすいポイントも見繕っておかないといけません。奇襲をかけるつもりでしょうから、視線が誘導されるコーナー近辺……隠れたりできる小さな路地に接しているところや、射線の通りやすい長い直線の手前に注意しておきましょう。相手の位置を把握したら変身です!フェンリルアーマーンなら速度を落とさずに戦えますからレースにも支障は少ないはず!
『走る』事への情熱、そして気合いが入る服装。それが体操着にブルマ。あらゆる装飾という装飾を省いた、まさに走る為に作られた一品。
「なるほど、これで走ればいいのですね。確かに最後まで駆け抜けられそうです!」
アリシア・マクリントック(旅するお嬢様・f01607)がストレッチを行いながら満足そうに笑う。ゼッケンに書かれた『マクリントック』の名に恥じぬ走りを――。最後に深呼吸をすれば、彼女はスタート地点へ歩き出す。
「さぁ、全員がスタート地点へ着きました」
「いよいよ始まりますね、栄光の一着は誰の手に!」
実況も観客も大いに盛り上がりを見せると、参加者達は一斉に身構え、息を一瞬止める。
「位置について……よーい、どん!!」
スタートの合図と同時に流れる大地。揺れる街並み。それは誰もが真剣である事を意味していた。
アリシアも出だしは上々。前過ぎず、後ろ過ぎず、周囲の様子のよく見える位置を陣取る事に成功した。目標は一着。だがしかしそれだけではない。この何処かへ潜む編笠を見つけ出す事もまた狙いの一つだ。
(「確か、袋小路へ誘い出すような事をしてくるとか……惑わされないようしっかり正しい道を見極めないと!」)
今は前を走る集団から目を離さずに見守る事にしよう。そう考え、彼女はまだ息を潜める事にした。
右へ、左へ。決して広いとは言い辛い道を人馬と呼ばれる走者達が果敢に走る。ある者は既に疲れ果て、ある者はぶつかって転び……既に脱落者もいるらしい。
勿論、アリシアはまだまだ余裕だ。猟兵たるもの、これくらいでは疲れない。ましてやマリアという親友もいるのだから、走る事だけは誰にも負けられない!
(「そろそろ曲がり角の多いゾーンのはずだけど……っ!」)
ゴールまでの道のりを思い返そうとしていたその時、突如様子が変わった事に気付く。もやり、と煙が漂い始めたのだ。それは料理店から来る煙でも、湯屋の煙でも、火事でもない。どこかほんのり甘い、怪しい臭いだ。
「この煙……!」
Tの字の道を前の集団が左右へ別れて走り去って行く。いや、おかしい。正しい道は『左』のはず!
「何かに惑わされている……この近くにいるのですね!」
アリシアは走るスピードを加速させながら腰に下げていたセイバーギアを握り締める。
「私は惑わされません! 変身!」
セイバーギアから光が放たれ、輝きの中を駆け抜けるアリシアが姿を現す。勝負服は体操服からフェンリルアーマーへ。突然の変身に観客は驚き、大きな歓声を上げる。
どんどんと人馬を追い抜いていくアリシア。先頭へ躍り出るかと思ったその時。
「上手く隠れたものだ。よく抜け出せたね」
余裕のあるやんわりとした口調がアリシアに話し掛ける。ちらりと視線だけを向ければ、あぁ、と彼女は確信する。
「あなたがアミガサフリーダム……いえ、編笠ですね!」
「そうさ」
紫煙の龍を纏った編笠が笑う。彼女もまた編笠賞(春)の人馬であり、一着を狙う一人であった。
「猟兵を片付けて、この都市の頭である私が優勝する。なかなか良いストーリーだろう? その為にも、早急に退場してくれたまえ」
そう言うと、編笠は隠し持っていた拳銃を突然発砲させた。咄嗟にアリシアは爪で銃弾を弾いたが、その隙に編笠が前方へ駆け抜ける。
「まださ」
まだ攻撃は終わらない。サングラスから覗く瞳を輝かせながら拳銃でアリシアの足元を狙う。足を止める事はなくとも、回避行動に気を取られては編笠との間に距離が空く一方。これでは相手の思うつぼだ。
「なめられては困ります。私はあなたに――勝ちます!!」
大きく地面を踏み込むアリシア。地面を抉るように大きく蹴り上げ、彼女は空を飛ぶ。
「嵐は……だれにも止められません!」
太陽の光を反射させたフェンリルクローが編笠を狙う。鋭い爪と目にもとまらぬ連撃が編笠を纏う紫煙龍を斬り裂き、引き裂き、とうとう本体に斬撃が届く。
「くッ」
拳銃で防ごうとするが、高速の斬撃は誰にも止める事はできない。徐々に傷を負う編笠。とうとうその脚も失速していき、最後にアリシアが腕を振り上げる。
「私は、私達は……勝ちます。あなたにも、編笠賞にも!!」
振り下ろされた爪は編笠の胸を貫き、彼女を地面に叩き付けた。その勢いのままぐるりと前転をし立ち上がるアリシア。ゴールへ向かう足は止めなかったが、ふと後ろを振り向けば、倒れた編笠の手からは拳銃が離れていた。彼女はもう、動かないだろう。
「マクリントック! 本当の馬の如き見事な末脚でアミガサフリーダムを追い抜き、倒し、栄光のゴールへ辿り着きました!」
実況の興奮する声と共に観客から盛大な拍手が送られる。アリシアを含めた猟兵達は見事編笠賞(春)を走り切り、呼吸を整えながら戦いの勝利を噛み締める。
「おめでとうございます!! さぁ、上位入賞者には栄光のダンスを踊って頂きましょう!」
え、いやそんな話聞いてない。
「そーれ! 俺の人馬がずきゅんどきゅんと駆け抜けて~♪」
『香港租界』の支配者が倒された事など誰も知らない。それは幸か不幸か。ともあれ住民は誰もが編笠賞(春)を祝い、そして称え合った。
上位入賞者となった猟兵達がどのような栄光のダンスを踊ったかどうかは……後日配られる新聞に書かれている事だろう。
大成功
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