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殲神封神大戦⑥〜其れにつける薬は只一つ~

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑥ #始皇帝

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●愚王
「朕こそが、永遠不滅の『始皇帝』なり!」
 水銀に作られた、かの人物が生前見ること叶わなかった巨大宮殿の中、羌族の地を支配せしめた皇帝は、数多の兵馬俑を率い高らかに名乗りを上げた。
 自らの絶対なる力を疑わず、摂取した水銀により不老不死を得たと信じ込んだ彼の配下は、全てが虚ろにして命に従うのみの駒。故に裏切ることもない。
「……猟兵? 何だ其れは? そんな奴は【知らぬ】」
 上機嫌に宣言していた皇帝が、部下の一つに猟兵という存在を如何にするかと問われれば、彼は不機嫌に眉を潜め、手を払いつつ言い放った。
 まるで無用な、水を差すようなことをするな、言ってくるなと言わんばかりに。
「兵馬俑共よ、貴様らは脳も無いのに、くだらぬ考察などせずとも良い。貴様らの頭脳は朕である。余計な報告などせず、ただただ、朕に従う駒であればよいのだ」
 ――その言葉に少しでも警戒を払えば、もしかしたら……されど歴史にもしもはなく、悉く過ぎ去った流れがあるのみとは、過去より蘇った亡霊も未だ知らず。
「万事朕に従えばそれで間違いないのだ。朕こそは永久不滅の『始皇帝』なり。猟兵などという遊牧民風情、些末なものよ……!」
 ――高笑いが響き渡る。かの良くも悪くも歴史の偉人の、敬意を払う者が見れば幻滅しかねぬ姿であった。

●死に至る命
「毒と薬の定義とは非常に曖昧なものだ」
 グリモア猟兵スフィーエ・シエルフィートは語る。毒と薬の境は、即ち量の違いでしかなく、用法容量を誤れば同じものでも薬にも毒にもなり得る。それは言葉通りの薬毒以外にも当て嵌るところであるが……。
「どちらにあるか。取返しのつく段階で気付けないと愚か、と言われるのだが……さて」
 薄金色のグリモアによる羽根ペンを手に取れあば、世界は戦場の映像を映し出す。

「さぁ語ろうか。封神武侠界の戦も盛ん、演ずる舞台は水銀楼閣の阿房宮。君達にはかの始りの皇帝を討伐しに行って貰いたい」

 五胡と呼ばれる遊牧民族のひとつ、羌族は突如として蘇った、大陸統一を果たした伝説の皇帝『始皇帝』に支配されてしまった。
 無数の兵馬俑軍団を率いる彼を、軍団を潜り抜け狙い撃ちにしなければ羌族を解放することは出来ない。
 そしてかの伝説の人物なだけあり、戦争に於ける幹部級の力を備えているのだが――。
「見ての通り、つける薬が無くなってしまった頭だ」
 そう言ってスフィーエはグリモアより、見るからに色々と抜け落ちたような演説を行う始皇帝のヴィジョンと音声を再生する。
 曲がりなりにも大陸統一を果たした存在であらば、オリジナルは良くも悪くも相応の智慧を持っていておかしくないのだが――どうやら水銀を摂取し続けた影響で、知能が蝕まれてしまっているようだ。
「非常に愚直で、実に付け入りやすい。素の力は強大だが、活かす知恵も無ければ諸君らを完全に侮っている」
 挑発やブラフ、トラップなど、そう言った絡め手には恐ろしいほど単純に引っ掛かってくれる。真っ向勝負では猟兵達といえど分は悪いが、逆を言えば絡め手も交えれば格段に優位に戦えるだろう。

「しかしだ。戦場は戦場でこれまた厄介だ。その対処も必要だろう」
 曰く、戦場はユーベルコードで作り出した巨大宮殿、始皇帝が生前完成を見ること叶わなかった巨大宮殿【阿房宮】が広がっている。
 それは全てが水銀で作られた、【水銀楼閣】として待ち構えられており、内部には猟兵達ですら吸い込めば内臓を破壊されかねない、猛毒の水銀蒸気に満たされているという。
「アルダワ地下迷宮の廃棄フロアが近いかな? その毒性は非常に強力だ。戦場自体の無毒化も一時的にしかならないだろう」
 普く満たされた猛毒の蒸気を払うか、予め耐性をつけるか吸い込まないようにするか――無策で行けば、水銀に身を蝕まれ、強大な始皇帝に叩き潰されるだけに終わるだろう。
 毒の戦場への対処と始皇帝の愚直さを利用する――逆を言えばその二つが出来れば、恐れることは無いと語った。

「さて、空っぽの頭を駒とするのが、残念な出来では結局どうしようもないのだが……」
 一通りを語り終え、溜息を交じえてかの皇帝のあまりに残念な――水銀に侵された脳で致し方なしといえばそうなのかもしれないが、高笑いを響かせた姿に冷ややかな視線を送りつつ。
 改めてグリモアを操り、転送の為の結界陣を作り上げながら。
「何はともあれ、過去の亡霊の支配が通じる時代じゃない。今を生きる諸君らの叡智と力、かの偉人とやらに見せてくれたまえ」
 では準備が出来た者から――グリモアの輝きは淡く、水銀の宮殿への道を開いていくのだった。


裏山薬草
 どうも、裏山薬草です。
 何事も過ぎれば毒になりますし、薬のままでいるか、毒に変わってしまうか。
 その辺りを上手く見極めることが、世の中上手くやっていくコツなのではないでしょうか。ちょっといい話、なんて。

 さて今回は水銀で出来た楼閣の巨大宮殿「阿房宮」に待ち受ける、かの始皇帝を討伐しに行って貰います。
 始皇帝は普通に戦えば強敵ですが、水銀を飲み続けた影響で頭が良くなく、絡め手に面白いほど引っ掛かってくれます。
 また、戦場は水銀の蒸気で満たされており、まともに吸えば致命的になるでしょう。
 なので絡め手を利用して始皇帝を転がしたり、水銀蒸気の毒に対応するプレイングがあるとボーナスになります。
 また、戦場そのものを浄化するような対策は、そのリプレイのワンシーンのみとなります。悪しからず。

●プレイングボーナス
 水銀蒸気に対抗する。/始皇帝の愚かさを利用する。

 プレイングの受付状況に関しては、タグにてお知らせします。

 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
 裏山薬草でした。
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第1章 ボス戦 『『始皇帝』』

POW   :    変幻自在水銀剣
【自在に変形する水銀の剣】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    辰砂兵馬俑親衛隊
自身の【操る水銀】を代償に、1〜12体の【自在に変形する液体金属の兵馬俑】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ   :    万里水銀陣
戦場全体に【水銀の大渦】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【覇者の気を帯びた水銀】による攻撃力と防御力の強化を与える。

イラスト:さとをみどり

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ユーフィ・バウム
英雄のこのような姿は、見るに堪えないものです
これがオブリビオンならば。
彼の名誉を守るためにも
速やかに骸の海に返しましょうか

水銀蒸気に対しては、
自慢の【オーラ防御】を体から放出し、
体の周囲に纏わせ吸い込むことを防ぎます
風の【属性攻撃】で吹き散らすことも併用して。
全て防げなくても、【毒耐性】もある体です。
倒しきるまでに影響がなければ、十分ですともっ

始皇帝は愚直と言います。
では真っ向勝負を誘い出しましょう
「いざ、正面から堂々と勝負です!」
正面から武器で打ちかかりますが、

【ダッシュ】で変化をつけ、死角から
《麗掌破魂杭》の一撃をねじ込みます!
策を弄して勝利を得る
貴方もそうして大陸を統べたのではないですか



●最早咎め制する者も無し
 漂う空気は触れもせず、射程に入らないだけでも触れれば、まして吸ったりすれば危ういと分かるもので、体から迸る闘気の噴出が無ければ、内臓を無残に破壊されて可笑しくなかった。
 宮殿を行きながらも、遠くに響き渡る高笑いと伝説の人物の堕ちた姿を想い、周囲の空気を風に散らしながら、ユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)は駆ける。
「くっ……」
 それでも全てを散らし防ぐことは出来ないのが、身体を蝕む猛毒の苦しみで分かる――が、問題はない。
 元より毒に耐性はある身、一撃入れるまで持ち堪えよう――されど焦らず、冷静に思考は研ぎ澄まし、ユーフィは改めて始皇帝の座す場所に足を踏み入れると。
「む? 其処な小娘よ。何奴。朕は……そうか、猟兵とかいう訳の分からぬ遊牧民か」
「その通り。猟兵ユーフィ・バウム、いざ、正面から堂々と勝負です!」
 突き出したるは創世の大剣を打ち直した得物、備え付けられた原動機の唸りが彼女の闘志を示すように震え、加速をつけた重たい一撃が、始皇帝の手にする水銀の剣と打ち合う。
 並の相手ならば両断していたユーフィの一撃にも、微動だにせず片手の剣で打ち合いを繰り広げながら始皇帝はぼやく。
「取るに足らぬ小娘よ。全く、何を我が兵どもは恐れているのやら」
 横薙ぎに襲い来る一撃を水銀の刃で叩き落としながら、始皇帝は大袈裟に溜息を吐いて見せた。
 ともすれば欠伸の聞こえてきそうな雰囲気を纏い、気怠げに、水銀の形を変え叩き落した場所から直にユーフィの喉元へ剣を突き出した。
(ああ、英雄のこんな姿など……見るに堪えないものです)
 だからこそ、速やかに骸の海へ送ってあげなくては――改めて決意を確かに、突き出される剣の横を、打ち合うでもなくそのまま通り過ぎるように駆け出して始皇帝の視界より身を外し。
「我は掲げる、闇を貫く蛮勇の拳……轟く!」
 輝ける決意と闘志を拳に、体の奥底から燃え盛る魂の鼓動を以て、輝く闘気を杭の形と成して――始皇帝の、その脇腹へ、不意打ちの一撃を。
 殴りつけ、決して抜けぬ楔として打ち込む!!
「貴様……正々堂々と言いながら」
「策を弄して勝利を得る。貴方もそうして大陸を統べたのではないですか」
 脇腹を抑え、分かり易く憎悪を込めた眼差しを送り、堂々と称するには聊か小細工を弄したユーフィの一撃を詰る。
 されど彼女は哀しみともつかぬ揺らぎを瞳に映したまま、それでも真っ直ぐに見据え再び大剣を構え。
「貴様……」
 低く漏らされた嫌悪の声も振り切るように、創世の刃と死毒の剣が打ち合う甲高い音が響き渡り、死闘が繰り広げられていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
アドリブ歓迎

桃源世界を救う為に…
そして…始まりの皇帝を討ち倒す為に…!
我が名はアンナ!処刑人が娘也ッ!

仮面を被り[毒耐性と環境耐性]を纏い水銀楼閣に往き
敵と相手しよう

妖刀振るい[武器受けと見切り]で攻撃を防ごう

不老不死に拘るか…ならば…
皇帝よ!我は不死鳥の血を喰らい永久不滅の力を得た!これを見よ!

[世界知識]で得た不死鳥を騙り
妖刀で自身の腕を傷付け流血し地獄の炎纏う血を見せつけよう

不死鳥の力が欲しいか!
我が血が欲しいか!?
ならば…思う存分喰らうがいい!

地獄の炎纏い【暗黒不死鳥炎獄破】を放ち
敵を不死鳥模る闇なる炎の[範囲攻撃で焼却し吹き飛ばそう]…!

永久不滅なぞ存在しない…諸行無常…か…


ヴォルフガング・エアレーザー
かつて栄華を欲しいままにした皇帝も、今は薬に溺れ愚鈍な傀儡と化したか
こうなっては哀れなものだ
だが世に仇成す暴君と成り果てた貴様に一切の容赦はしない

水銀蒸気の毒素に対してはマスク状に布で口元を覆って極力自衛しつつ
覚悟を決めて歩を進め、毒耐性、激痛耐性、継戦能力で耐える
苦痛に顔を歪め、ふらつく演技で歩む速度を緩めれば
敵もこちらが逃れられないと油断して攻撃を繰り出してくるだろう

敵に斬りかかられて出来た刀傷から【ブレイズフレイム】の炎を噴出
そのまま火炎の全力魔法で敵を覆い焼き尽くす
逃げても無駄だ。その身に纏う衣にも延焼した地獄の炎は
そう簡単に消せはしない

肉を切らせて骨を断つ
これが俺の戦い方だ



●二つの炎、重なる
 片や顔の下半分を、片や顔の全てを仮面で覆い。
 ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)と仇死原・アンナ(処刑人 魔女 或いは焔の花嫁・f09978)は、場に充満する水銀の蒸気を直で吸い込まぬよう気を払いながら、始皇帝の待つ座に足を早めていた。
「哀れなものだな。かつて栄華を欲しいままにした皇帝も、今や……」
「そうだね……」
 ヴォルフガングの始皇帝の成れの果てを儚む言葉に、ぼんやりとアンナが返す。
 亡霊は所詮、骸の海が染み出した過去であり当人そのものではない――頭に幾らそれがあろうと、かの人物がというやり場のない悲しみや憤りは拭い去れず。
 だが、とヴォルフガングが更に言葉を続ければ。
「世に仇成す暴君と成り果てたなら一切の容赦はしない」
「行こう……桃源世界を救う為に……そして始りの皇帝を討ち倒す為に……!」
 ――アンナの言葉に頷きを返し、二人の地獄使いは駆け出す。
 かの暴虐の皇帝と化してしまった、哀れな亡霊を討つ為に。
「我が名はアンナ! 処刑人が娘也ッ!」
 高らかな宣言と共に、アンナは颯爽と妖刀を――伝説の首斬り処刑人の名を冠する刀を以て鋭く斬り込んだ。
 狙いは首、刀の銘にそぐわぬ勢いで斬り込まれたそれを始皇帝は微動だにせず、水銀の剣で受け止める。
「ふぅ……お前達も猟兵という奴らか? 何度朕は退けてやればよいのやら」
 その隙に斬り込んで来たヴォルフガングの大剣を変幻自在に歪む剣で横殴りに受け流し、流れるようにアンナに斬りかかれば、彼女はそれを更に刀で横薙ぎに流し。
 その勢いでヴォルフガングと共に、左右から挟み撃ちにするように斬りかかるも――
「効かん効かん。全く、鳴り物入りで来たかと思えば……」
 心底に猟兵達を侮り、アンナとヴォルフガングの剣を水銀の刃でいなしつつ、失望し切ったような口振りで大きく息を吐き出した。
「うぉぉおっ!」
 口から直で吸い込まない分だけ幾許かの衰えはあれど、仮面を纏うアンナと違い布を巻いただけのヴォルフガングの身は水銀の毒により一層苛まれている。
 それでも、傲慢に猟兵を見下す始皇帝へと身を犯す激痛を覚悟を決めて堪え、ヴォルフガングは力強く斬り込んだ。
 されど始皇帝は心底に飽き飽きした様子で、欠伸を交え剣で受けると、未だ覚束ない足取りのヴォルフガングを始皇帝は容赦なく斬り付けた。
「ぐぁっ……!」
 愚かといえど実力は相応なものであり、ヴォルフガングの身体は肩口から大きく切り裂かれ、鮮血が水銀の中に鮮やかな赤を彩らせた。
 膝をつき、傷口からも侵入してくるであろう水銀に苦しむか、胸を抑え蹲るヴォルフガングへと、始皇帝は尚も斬り込んできたアンナの刀を捌きながら即座に躍り出て。
「――掛かったな」
「何っ……」
 ――傷口に入り込み身を蝕まんとした水銀は、血に届くことなく傷口で悉く蒸発し焼き捨てられ。
 ――弱きと信じたが故に油断をし切った愚かなる皇帝の視界は、その直後全てが赤に染まる。
 地獄使い(ブレイズキャリバー)たるヴォルフガングの血は、そのまま炎と化して噴き上がり始皇帝の身を包み込んでいた。
「ぐぁぁぁぁっ!」
「無駄だ。この地獄の炎は、そう簡単に消せはしない」
 千里を超え万里を飛び越え逃げようと、決して消えぬ地獄の業火は始皇帝の身体に、身に纏う衣にも容赦なく喰らいつく。
 全力を込めて放たれた灼熱は宛ら獲物に喰らいつき離さない狼の牙が如く、始皇帝の身体を苛め苦悶の雄叫びを挙げさせていた。
「ぬぅぅっ! 馬鹿な、我が不老不死の、不滅の力が、ぁぁっ……!」
「……そんなに不老不死に拘るか……ならば見よ!」
 紅蓮の業火に焼かれ、身悶える始皇帝へとアンナは自らの腕を切り裂き、炎を纏う血を見せつけた。
「これこそ不死鳥の血! 我は喰らい永久不滅の力を得た!」
「おおっ! それは真か!?」
 ありもしない幻想、よくよく注意してみればアンナの腕から滴る血が、ヴォルフガングの身体より発せられた地獄の炎と同質であることは分かるのだが、水銀に侵された頭脳と今尚身体を灼(や)く炎の熱で真っ当な思考は能わず。
「欲しいか!? ならば……」
 こくこくと頷きながら嬉々として手を伸ばす始皇帝へと、アンナは朗々と問いかけ――その時、彼女の腕に滴る火炎は暗褐色の昏き炎へと色を変えた。
「思う存分喰らうがいいッ! 暗黒不死鳥……炎獄破!!!」
 炎が象るは火の鳥、永久不滅の存在として名高き不死鳥の姿――されど齎すは癒しと生命の祝福に非ず。
 古より蘇った過去を焼き払う業火、闇の炎が亡霊の始皇帝の身を包み込み、水銀の剣諸共に身を灼き尽くしていく――!
「肉を斬らせて骨を断つ――これが俺の、俺達の……地獄使いの戦い方だ!」
 そして二つ色の炎に包まれ、忙しなく悶え転がっていく始皇帝の元へ、処刑人の娘と騎士の、妖刀と巨大剣がそれぞれ交錯するように。
 駄目押しのように鋭く、そして重厚に叩き付けられ、強かに地に倒れ伏す始皇帝を見、ぼんやりとアンナは呟く。
「諸行無常……か」
 永久不滅の存在はありえない――栄華を極め、堕ちた皇帝の、吐き出す血すらも絶え間なく地獄の炎に蒸発する中、引き時と判断したアンナとヴォルフガングは水銀の宮殿を後にするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

待鳥・鎬
阿呆……じゃなかった阿房宮か
これは厄介だ

水銀蒸気ならまずは肺障害や接触性皮膚炎……急性中毒でも数時間で死ぬことはなかったはず
多少毒耐性はあるし、戦闘にさえ支障がなければ内臓だろうと神経だろうと身体の損傷は修復できる
あとは、キレート剤とかの解毒剤を事前投与して挑もう
本当はこんな乱暴な方法嫌なんだけどなぁ……

山吹の光学迷彩を纏って
UCの超音速飛行で兵馬俑の頭上を駆け抜け、始皇帝まで一足飛びに迫るよ

あっ、兵馬俑が偉大なる始皇帝の水銀を吸収してるぞ!
まさか愚かにも主の真似をして力を得て、下剋上しようとしてるんじゃないか!?
……なんて、流石に無理があるかな?
水銀蒸気を回収したり、召喚を控えたりしないかな



●死して変異したからか、それとも治らぬか
「阿呆……じゃない、阿房宮か。これは厄介だ」
 吸い込む自覚は無くとも、粘膜に触れたそれが侵蝕する耐え難い毒の不快感に眉を潜めつつ、待鳥・鎬(草径の探究者・f25865)は水銀楼閣の中を駆けていた。
「……はぁ、こんな乱暴な方法は、本当は嫌なんだけどなぁ……」
 溜息を交え、事前に摂取しておいた解毒剤が仕事をしていることと、最悪、命さえ尽き果てねば、戦さえ続けられれば後で宿神の器物を如何様にも治せばいい。
 水銀に出来た楼閣の壁床の色と身を溶け込ませ紛れながら、立ちはだかる親衛隊、液体金属の兵馬俑によって出来た部隊の存在を目に映すと、彼女は使い魔を身に宿し。
「杞柳の牙からは逃れられないよ」
 ――その背に広がるは白く鮮やかな、彼女の使い魔の翼によく似た翼。
 それがはためき、立ち込める水銀の毒霧を吹き飛ばす勢いで加速をつけると、鎬は立ちはだかる親衛隊を軽々と飛び超え――その手に在る霊刀を以て強かに始皇帝に切り込んだ。
「いきなり朕に掛かるとは。躾けのなっていない無礼者め」
「……だから?」
 打ち合う水銀の剣と、鋼切の刃が幾度か火花を散らし、時折に翼はためかせ飛翔しながら繰り出す超音速の刺突と斬撃が着実に始皇帝の剣と身体を削っていく。
 されど飛び越えてきた筈の親衛隊が作り直され、打ち合う始皇帝の援護をせんと不穏な気配を感ずれば、鎬は唐突に声を張り上げた。
「あっ!」
 挙げられた声は朗々と響き渡り、向けられた視線は始皇帝から別の所へと行き、何かに気付いたであろう声だと察せられる。
「ふん。ハッタリが通ずるとでも……」
「兵馬俑が偉大なる始皇帝の水銀を吸収してるぞ! まさか愚かにも主の真似をして力を得て、下剋上しようとしてるんじゃないか!?」
「なにぃっ!?」
 お決まりの気を逸らす為の手段と断じ、相手にしないと踏んだつもりでも、流石にその後に続いた鎬の言葉を無視し切ることは出来ず、己が不老長寿の妙薬を横領しようとしているのか気にかかり目を向ける。
 いやそれよりも確実に――真偽がどうあれ確かなと親衛隊を引っ込め、水銀の毒霧を一時引っ込める、が。
「しまっ……!」
「こうまで上手くいくとは思わなかったよ」
 ――やはり何とも、哀れで愚かなものか。
 過ちに気付いた時には既に遅く、鮮やかな白翼が過ぎ去り、音を圧倒的に超えた速度の証左である風圧が遅れて迸り。
 身体に刻み込まれた、音を超えた速度が齎した鋭く重たい刺突に始皇帝は膝を着き胸を抑え、血を吐き出して屈するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四季乃・瑠璃
緋瑪「馬鹿は死んでも治らないって言うけどねー。脳が無いのは自分だって解ってないみたいだね」
瑠璃「こっちは死んでからの方が酷いみたいだけどね。水銀が薬みたいだし、仕方ないかな」

攻撃や水銀のダメージを瞬間再生で回復。
更に時間逆行で定期的に水銀接種前の状態に戻して影響を完全回復。
二人掛かりの【属性攻撃、範囲攻撃、爆撃、蹂躙、早業】凍結式ボムで敵の操る水銀を凍結させて敵の攻防を封じつつ、隙あらば大鎌で首を狙い、接触式ボムやK100による銃撃【ドロウ、早業】等で敵本体を攻撃。
凍結で完全に動きを封じたら、【限界突破】ジェノサイド・ノヴァで吹き飛ばすよ

緋瑪「無能な皇帝は」
瑠璃「始末されるのが相応しいよ」



●時の終焉を与えに
 駆ける度に吸い込み、身を着実に蝕むそれを時を巻き戻し、毒を吸う前の身体に戻しては蒸気の影響を避ける。
 肉体を幾ら戻したとて重なる、毒気の記憶は重なるもので、横括りの青髪を尾の如く靡かせぼやく。
「巻き戻したって、きついものはきついよねー……」
「やらなきゃもっときついよ」
 四季乃・瑠璃("2人で1人"の殺人姫・f09675)とその半身の緋瑪は、身体を侵し蓄積していく水銀の影響を、突入する前の状態に戻しながら始皇帝の前に辿り着き。
 有無を言わさず投げ放った爆弾が、極低温を広げ始皇帝の身に氷の膜を張っていく。
「っ、ああ、本当に鬱陶しい……馬の骨如きが朕に逆らうというか」
 身体を縛り付ける氷に不快の意を示し、支配時代ならば誰もが恐れる眼差しを送ろうと。
 二人で一人の殺人姫達は一切怯まず、怪物殺しの大型拳銃が解き放たれ太腿を穿ち。
 貼り付けられた爆弾が小刻みに、されど重く熱い爆発を以て始皇帝の身体を苛めていき、その爆発は兵馬俑の親衛隊も巻き込み蒸散させていく。
「無駄だ無駄無駄無駄無駄。朕こそ永久不滅、絶対無敵の皇帝ぞ」
 その間にも絶え間なく打ち込まれる大型拳銃の弾丸に怯みつつ、回り込んできた大鎌の刃を剣でいなしつつ、始皇帝は嗤う。
 身体を極低温と打ち込まれる弾丸と爆発に晒されて尚、致命打には至らないと水銀の蒸気を飲み込み、思考を麻薬のように鈍らせて自らの勝利を疑わぬ傲慢さを示した。
「馬鹿は死んでも治らないって言うけどねー。脳が無いのは自分だって解ってないみたいだね」
「こっちは死んでからの方が酷いみたいだけどね。水銀が薬みたいだし、仕方ないかな」
 骸の海から引っ張り上げられた亡霊として、そして水銀に侵された頭脳に憐みを覚えぬでもないが――さりとてそれも些末、躊躇いも容赦も無きことを象徴するかのような、駄目押しの爆弾より広がる極低温が始皇帝、そして親衛隊の身に霜を下し完全に凍てつかせると、彼女達は顔を突き合わせ頷いた。
 ――行くよ、緋瑪。
 ――行こう、瑠璃。
「無能な皇帝は」
「始末されるのが相応しいよ」
 ――そして彼女達は、掌に生み出す。持てる魔力を全て込めた、二人で一人の殺人姫のとっておき、殲滅の名を冠し恥じぬ力を持ったそれを。
「「今こそ殺戮の『時』。我が敵全てに死を与えよう!」」
 投げ放たれたそれが閃光を伴い、強く広がっていく。
 解き放たれた熱量と衝撃が悉く凍てついた始皇帝と親衛隊の身を打ち砕き、迸り続ける閃光が破片すらも飲み込んでいった。始皇帝の哄笑も親衛隊の声なき嘆きも何もかもを掻き消して。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水鏡・怜悧
詠唱:改変・省略可
人格:ロキ
ふむ、兵も繰り人形ではなく自律行動しているのですね
この分だと、味方識別も適当でしょうか

UC発動
全身を液体金属に変え、魔銃の光属性を取り込んで
兵馬俑と同じ姿になりましょう
ケルベロスの液体金属も同じように変化させて遠隔操作し、10人くらいで紛れ込みます
液体金属なので呼吸もしませんし、皮膚から取り込む心配もありません

あとは不自然でない範囲で始皇帝に近づき、液体金属の身体を伸ばして刺突や鞭による攻撃を行います
攻撃後は再び目立たないよう兵に紛れましょう
追撃されても、物理攻撃は液体金属なので効きません

流石に繰り返し過ぎると特定されそうですから、適当なところで引き上げます


ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
毒を薬と間違えて頭をやられるとはねえ。
まあ、こっちにとっては好都合だからいいか。

さて、相手の親衛隊は数に限りがあるみたいだし、
適当に囮を使って挑発したら戦わなくて済むかな。

【混獣生成】で始皇帝っぽく似せた合成獣を作って、宮殿にばら撒こうか。
適当に変なポーズしながら動き回らせとけば、怒って攻撃してくるんじゃないかな。

親衛隊が囮の合成獣に向かったら、
息を止めて始皇帝に一直線に走って突っ込むよ。
宮殿がユーベルコードで作られてるなら、
古竜の戦斧で壁を切り裂いて進んでいけるし。
始皇帝の所までたどり着いたら、そのまま戦斧で思いっきりぶっ叩こうか。

中身をくり抜くまでもなく、アンタの頭はからっぽみたいだね。


リーヴァルディ・カーライル
…過ぎたるは猶及ばざるが如しと言うけれど
宮殿を水銀の毒気で満たすとは、どれだけ水銀が好きなの?

UCを発動して全身を超音波のオーラで防御して蒸気を受け流し、
肉体改造術式により毒の浄化機能を高め環境耐性を強化しておく

…過去の偉人とやらも、こうなってしまっては形無しね

…聞こえなかった?水銀に脳をやられた無能な皇帝さん?

…等と「写し身の呪詛」の残像に挑発させて敵の注意を囮に惹き付け、
自身はUCにより音や存在感を消して闇に紛れて死角から切り込み、
超音波振動で切断力を強化した大鎌を怪力任せになぎ払う音属性攻撃を行う

…兵達の声に耳をかさない将なんて恐くも何とも無い

…どうせなら素面の英雄にあってみたかったわね



●それも全て能わぬことと
 ――さぁ動き出せ。
 一言で言うなれば、水銀楼閣の中は筆舌に尽くし難い混迷を極めていた。
 この楼閣の支配者が、人格を完全に壊してしまったのではないかと思われる、奇々怪々な恰好を決めふざけ切っていた。
 水銀を吸い込まぬよう息を止めたペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)の血肉より作り出された始皇帝の模造品が、宮殿のあちらこちらに配置され水銀の親衛隊に混乱を齎し、侵入を容易にさせていた。
 その一方で、混迷を極めている親衛隊の中を、よくよく注意を払えば判る、本来の親衛隊とよく似た、されど別の存在がそこにいた。
(まぁ随分と仲間の識別がおざなりで……だから容易に侵入できますが)
 全身を液体金属に変え、始皇帝の兵馬俑の親衛隊に存在を紛れさせ。纏う流体金属の隙間無きに立ち込める蒸気の毒を遮断して、水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)――正確には内に秘めたる魂が一つ、ロキの人格である彼は混迷を極めている戦場を流し見た。
 偽りの始皇帝に集り身を守ろうとしたり、不審者と見て攻撃を仕掛ける混沌に脳を繰り抜かれた悲運を嘆きつつ、彼等は向かう。

「ぬぅぅっ、これは一体どうしたことだ!」
 周囲を守らせていた筈の兵馬俑の親衛隊が、あちらこちらに動き回り自らの身を守る役目を果たせなくなっている。
 物の見事に猟兵達の策に引っ掛かり、されどそれに気付くことも叶わない残念な頭で憤りを強く示す。
「おのれ、脳をくり抜いたのが間違いだったか……否、朕が間違う筈もない!」
 この場で彼がすべきことは一刻も早く兵を下がらせ、結集させて猟兵達の迎撃の準備を整えることであるが、堕ちた皇帝はその発想に到らずがりがりと頭を掻き狂ったように呟きを続けるのみ。
 その様子を目に映した女は、気配を消しつつも思う。
 ――過ぎたるは猶及ばざるが如しとは言うけれど、どれだけ水銀が好きなのか。
 立ち込める水銀の毒霧を、海豚の持つ反響定位の力による超音波の被膜を纏い散らしながら、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は始皇帝の様を見遣った。
 曲がりなりにも大陸統一を果たした、良くも悪くも巨人である存在が実に矮小な存在にも見えればこそ、この言葉は自然と漏れる。
「……過去の偉人もこうなっては台無しね」
「……今、何と言った」
 ぴくりとこめかみを僅かに痙攣させ、始皇帝はリーヴァルディより響いた声に、分かり易い怒りを示した。
 今にも握り潰さん勢いで、その手に持った水銀の剣を細かく震わせる彼へ、更にリーヴァルディは煽るように続ける。
「……聞こえなかった?」
 大鎌を手に始皇帝の前に現れたリーヴァルディは、怯まずにその身を始皇帝の傍に歩み寄らせ。
「……水銀に、脳をやられた、無能な皇帝さん?」
「自殺をしたいのであれば、朕の手を煩わすではないわーっ!!」
 一区切り一区切り。
 始皇帝に向けて確りと言葉の嘲りを残響を伴いながら浴びせれば、激高した始皇帝はリーヴァルディに斬りかかった。
 されどその刃がリーヴァルディを切り裂くことはなく、虚ろな像に過ぎ去るのみであり。
 何故ならば始皇帝が斬ったそれは、リーヴァルディが写し身を向かわせたそれで、彼女自身は纏う超音波によって身を隠していたからだった。
 されど始皇帝がそれに思考を巡らすこともなく、狐につままれたように剣を振るったまま硬直し――
「――!!」
 其処へ響き渡ったのは、水銀楼閣を豪快に切り分ける――罪深き刃を切り裂く古竜の戦斧を手にしたペトニアロトゥシカの声と切り裂く轟音であった。
 咄嗟に体勢を立て直そうとしても時既に遅く、剣を翳すも間に合わぬ
「兵馬俑軍団よ、もういい。早う朕を守るの……ッ!? 今、誰が朕を……貴様かッ!」
 強襲と言って過言で無き大斧の一撃に焦りつつも、始皇帝は親衛隊を掻き集め自らの保身に走ろうとしていた。
 だがその後頭部をよくしなる何かで盛大に打ち据えられ、思いも寄らぬ一撃の気配を探ろうとしても、周囲には水銀の兵馬俑による親衛隊しか見当たらず。
 地団駄を踏み別の蒸気を吹き上げそうな顔の始皇帝を見遣っては、ペトニアロトゥシカは密かに思う。
(随分と頭に血が上ってるねぇ……このまま登らせておいた方が良いんじゃないかい?)
「……兵に耳を貸さない将なんて、怖くも何とも無い」
 其処へ浴びせられるリーヴァルディの煽る言葉に、更に顔を赤くし始皇帝ではなく関羽宛らの顔と成り果て、剣を振るおうともその刃は虚しくリーヴァルディの映し身に空振り、その隙をペトニアロトゥシカの斧が叩き潰すように打ち下ろされて。
 膝を突き蹲った始皇帝へと親衛隊が駆け寄る――と見せかけての、何を隠そう親衛隊に紛れていたロキの、先ほど始皇帝の後頭部を鞭で打ち据えたのと同じように、流体金属の身を伸ばし背部から脇腹を突き穿っていた。
「不敬である! 処刑されるが良いッ!」
 自らに歯向かうと見た偽りの兵馬俑の親衛隊へ、水銀の剣を全力で薙ごうとも、同じ液体金属の身体はそれを柔軟に受け流し捌き。
 親衛隊に再び姿を紛れさせては、背後から始皇帝を突き穿ち、少ない頭の思考をまともに働かすこと無きように牽制し続ける。
(そろそろ頃合ですか……後は任せましょうか)
 始皇帝が幾ら愚かと成り果てたといえど、ここまで繰り返せばどれが兵馬俑に紛れた敵兵か特定されかねない。
 十分に頭に血を登らせ、身体もしっかりと追い詰められたと踏んだロキは、気付いているか気付いていないかはさておき、ペトニアロトゥシカとリーヴァルディに目配せを一つ、お先にと駆け出して戦場を後にしていく。
「くぬぅぅぅっ! どいつもこいつも朕に歯向かいおって! 何の為に頭をくり抜いたと思っておるのだッ!!」
 ロキが去ったのも気付かず、翻弄され続けた始皇帝は地団駄を踏み、今も戦は続き予断の許されぬ状況ということも思考から捨て去っていた。
 だが当然、それを許してくれる猟兵達ではなく――
(中身をくり抜くまでもなく、アンタの頭はからっぽみたいだからね。……血でも登らせてつまらせておきな、よっ!)
 息を止めたままでは語ることも叶わずとも、目は口ほどに物を言うものであり、ペトニアロトゥシカの眼に始皇帝は何やら無礼なものを感じたか頭部から湯気を勢いよく噴き出して。
 されどそれは隙を招き、再び身体を盛大に袈裟懸けに斬り裂き、叩き付けられる戦斧の切れ味と質量に、始皇帝はその背を壁に叩き付けられて。
 よろよろと壁から二、三歩を踏み出して身体を折ると。
「…………」
 其処へ鋭く、密やかに――機を狙い澄ませていたリーヴァルディの大鎌が死神の刃が如く斬り込んだ。
 超音波の震えが切断力を高め、身に備わった魔の血からなる剛力を極限まで込めて繰り出された鎌刃の一撃が、始皇帝へと致命打を与える――!
「ぬぐっ、おっ……!」
 蹲り、頭を抱え苦痛に悶えながら、自らの勝利と優位を疑いもせず、何かの間違いだと呪詛のように呻く姿を見、ペトニアロトゥシカに続き撤退するリーヴァルディは密かに独り言ちた。
「……どうせなら素面の英雄にあってみたかったわね」
 それも叶わぬ願いといえば願いかもしれない――既に滅びた過去の亡霊の、亡霊として蘇って尚、名誉も汚されたことに憐憫の情を覚えつつも。
 致命打を確かに与えた猟兵達は阿房宮を後にし、次の担い手に繋ぐのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

二條・心春
これは……うーん。できれば全盛期のあの人に会ってみたかったですね。

私もUDCを扱う者、多少の耐性はありますが過信はできないかな。ディスオーダーキャンセラーを使って、毒を中和しながら進みましょう。蓄積する毒は召喚したカラドリウスさんに治してもらいます。
さて、来たのはただの小娘とその肩に乗った小鳥だけ。油断してくれるでしょうか?皇帝陛下のお力、思い知りました。最期にそのご尊顔をお見せしてはいただけませんか……?毒に冒されたふりをして誘き寄せたら……カラドリウスさん、攻撃です!今まで受けた毒を呪詛の瘴気にしてお返しです。今は力を示すのではなく、手を取り合う時代です。さあ、私達の力を見せてあげますよ!



●解毒の霊鳥
 悍ましく漂う蒸気が死へと導く魔の霧ならば、彼女の腕輪から発せられる霧はそれに抗い清める聖霧といったところか。
 二條・心春(UDC召喚士・f11004)の腕輪から放たれる霧に、場を満たす水銀の毒霧を中和させながら彼女は行く。
「これは……うーん……」
 然れども過信の出来ない、微弱なれど確かに毒気が溜まっていく言葉に出来ない不快感を覚えながらも、彼女の肩に足をつけた小鳥が鳴いた。
「ええ、行きましょう。時々お願いします」
 心春の傍らに小さく鳴く鳥は、病を癒す霊鳥として名高き存在(モノ)で、溜まったと分かればそれは静かに心春を見つめ、毒を吸い取り彼女の平定を保つ。
「……何ともつまらぬ小娘に小鳥風情か。朕も随分と舐められたものよ」
「どうですかね? 試して御覧になりますか……?」
「不敬である」
 そうして現れた心春の姿を、完全に侮り切った始皇帝は掌を翳すと、彼女と霊鳥を飲み込む勢いで水銀を渦巻かせた。
「きゃぁっ……!」
 腕輪からの聖霧も容易く突き抜け、蒸気と比べ物にならぬ濃度のそれが彼女の身を蝕み、臓腑を打ち壊しに掛かる――が、霊鳥の視線はそれを吸い取り癒し、心春への損傷を無としていき。
 それでも大渦が晴れれば、心春は策の為に敢て手傷を負ったように。
「げほっ、がほっ……! こ、皇帝陛下のお力……えほっ、お、思い知りました……」
 膝をつき、胸を抑え――幾度となくせき込み、手を細かく震わせ明らかに苦しみの顔を、猛毒の水銀に侵され余命幾許も無きような顔で心春は始皇帝に頭を垂れた。
「最期に……その御尊顔をお見せして頂けないでしょうか?」
「ふん。まあ、朕が直々に処断するのだ。光栄に思うが良い」
 不用心に、勝利を確信したかのように始皇帝は蹲る心春へと歩み寄る。
 そうして幾度となく騙し討ちを食らっていったというのに愚かなことか――願わくば全盛期の彼と相対したい想いはあれど、尊大な始皇帝の指が心春の顎を持ち上げようと伸ばされたその時。
「――ありがとうございます。カラドリウスさん、今です!!」
 肩の霊鳥が怒りを示すかのように啼き、始皇帝の身体に一気に昏く不穏な黒い霧を吹き付けた。
 膨大な水銀の毒素、これまでの蒸気で蓄積した毒も全て呪詛の瘴気と変えたそれが油断し切った始皇帝の身を崩壊させ吹き飛ばす!
「今は力を示すのではなく、手を取り合う時代です。さあ、私達の力を見せてあげますよ!」
 過去が統一ならば、手を取り寄り添う解放を――現在を生きる少女の輝かんばかりの決意と共に、霊鳥から吐き出される呪詛は哀れな皇帝の身を打ち壊していくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
「政」──
そんな己の真の名さえ、もう思い出せないのでしょうね
「君何功於世界號稱始皇帝」
あなたは世界に対し何の功があって始皇帝を称するのです、愚かなる偽皇帝

私はもともと毒耐性を有していますが
さらにアイテム「血浴みの女王」で己の体を切り裂き血を噴出させ
これを代償として水銀の毒を無効化していきましょう
さらにこの鮮血は無数の胡蝶を生み出します

ほう、水銀の渦、見事な攻撃ですね
……しかし、あなたが攻撃したのは誰ですか?
本当にそれは私ですか?
ごらんなさい、良く見知った顔があなたを覗き込み嘲笑っています
そう、あなた自身がね
あなたはあなたを攻撃したのです

そうと知ったからにはUCの威力を反転させるでしょう
敵にダメージを、味方に加護をね
でもあなたには本当に敵味方の区別がついていますか?
先ほどと今、どちらが真実でどちらが幻?
それとも──どちらも幻では?
どちらが? いえ、どれが? どれが幻? どれが夢?
ふふ、ふふふふ……

そう、私のUCであなたは既に悪夢の中
真実を見極めることもできぬまま朽ち果てなさい



●酔生夢死の理示す
 最早真の名すらも思い出せず、良くも悪くも――例え骸の海の過去が形どっているだけの偽者といえども、かつての巨人に見る影はなく。
 幾度となく痛い目に遭ってきた筈の身でありながら、自身の絶対性を疑わぬ姿を憐みながら、自らの身を乙女の血を浴びて美を保った暴君の使ったとされる短剣で切り裂き。
 宛ら切り裂かれた乙女の如く鮮血を吹き上げ、戦場に満ちる水銀の毒を打ち消しつつ、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)はふと呟いた。
「君何功於世界號稱始皇帝」
 彼女の言葉に静かに目を細める始皇帝に、更に続けていく。
「あなたは、何の功があって、始皇帝を称するのです」
「知れたこと。絶対にして最高。朕こそが人界を統べる王の中の王。始りの王」
「――嗚呼、愚かなる偽皇帝。肉も鋼も魂までも朽ち果てよ、終焉の赤き闇夜今来たれり……」
 何処までも傲慢で、愚かな皇帝を憐み儚むように、鮮血を流し続ける身を晒し、噴き上がる血が数多の胡蝶となって飛び立っていく。
 それすらも飲み込むように、圧倒的な暴力を示す勢いで始皇帝は水銀の大渦を嗾け、魅夜と紅の胡蝶を飲み込んでいく――
「……見事。ですが……」
 圧倒的な毒と質量の暴力に晒され、身体を鈍く濡らしながら、赤々と滴る血を口紅として塗り付け口角を釣り上げる。
「本当にそれは私ですか? ごらんなさい。良く見知った顔があなたを覗き込み、嘲笑っています」
 その瞬間、始皇帝の眼には水銀に飲まれ朽ちゆく筈の女の姿は、やせ衰え死に果てた始皇帝の姿と成り果て――そしてそれは嘲け笑う。この愚か者と。
「う、うぁぁぁっ!?」
 半狂乱に叫びをあげ、味方には加護を与え敵を飲み込むそれの性質を反転させ、自らを癒すべく術の性質を変える。
 されど半狂乱で叫ぶ始皇帝へと、艶めいた笑みを浮かべ魅夜の囁きは甘く、そして水銀よりも危険な毒として始皇帝の脳髄へ染み込んでいく。
「おやおや、本当にあなたに区別がついているのですか? 先ほどと今、どちらが真実で、どちらが幻? どちらが? いえ、どれが? どれが夢? どれが幻?」
 ――ふふ、ふふふふ……。
 最早何が正しく、何を助け何を攻めれば良いか分からぬまま、目についた全てを飲み込み、逆に自らの身だけを苛め続け、水銀の大渦の中苦しみの泡を吐き出して白目を剥いていく。
 最初に広げられた真紅の胡蝶に既に彼は思考を完全に破壊され、虚しい独り相撲を繰り広げるのみで。
「あなたは既に悪夢の中。真実を見極めることも出来ぬまま、朽ち果てていきなさい」
 ――声なき声の叫びが響き渡る。
 自らの渦巻かせる水銀の毒に、自らを侵し破壊するように嗾け崩壊への舞踊を繰り広げる始皇帝。
 焦点の合わぬ眼と、吐き出される血と苦痛に胸を抑え蹲る姿を目に映し、魅夜は妖しく笑みを顔に貼りつけて。
「愚かなる皇帝。あなたはもう、【終わり】」

大成功 🔵​🔵​🔵​

シーザー・ゴールドマン
始皇帝か。三皇五帝を超越したと称して皇帝を名乗った初めの男だね。
確かに人界を初めて統一した功績はそう称するに足るものだ。
興味深い人物だが残念なことに語り合えるだけの知性は残っていないようだね。
まあ、水銀に侵されなくてオブリビオンはだいたいそうではあるか。
偉大な英雄であったとしてもオブリビオンになり、あまつさえ頭脳が水銀に侵されているとあっては醜態を晒さない様に滅ぼすのが情けと言えるだろうね。
『アイオーンの隔絶』を発動。
水銀蒸気の毒を自身の戦闘力(魔力)に変換しつつ始皇帝と対峙。
敵WIZUCの水銀の大渦も受けてどんどん戦闘力を増していきます。
通常の知性があれば攻め方を変えてくるでしょうが、愚かである始皇帝。
「ハハハ、やせ我慢だよ」というシーザーの言葉を信じて(?)自身の攻撃に根拠なき自信を以て続けてくれるでしょう。
一撃で始皇帝を滅ぼせるまでの高まりを待って、魔力弾を放ちます。

それではさようならだ。始まりの皇帝君。
申し訳ないが知性無き者との会話は苦痛だったよ。

アドリブ歓迎です。



●皇帝と皇帝
 確か三皇五帝を超えた、始まりの皇帝を名乗った存在であったか――曲がりなりにも大陸の統一を行えた手腕は恐るべきものであるが。
「まあ功績だけは称するに足るものだ。出来れば、そうなる前の君と言葉を交わしたかったが……」
 かの皇帝に負けず劣らず、尊大な雰囲気を纏いシーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)はわざとらしく溜息を吐いた。
「何とも残念だ。オブリビオンとなっただけでなく、水銀に頭をやられてしまうとは」
 亡霊と化した過去の偉人に見る影が無きは珍しくもないが、それに加えての醜態に彼は心底失望したようで。
「来たまえ。これ以上の醜態を晒す前に滅ぼしてあげよう。せめてもの情けだよ」
「……ふん」
 シーザーの手招きに対し、何かを言うでもなく無言で水銀の大渦を嗾ける。
 渦巻く猛毒と金属の質量と硬度が、暴力的にシーザーの身体に叩き付けられ、身を容赦なく苛んでいく、が――。
「言葉が多いものほど、大したことはない……と言いたいが、中々粘りおる」
「ハハハ……痩せ我慢だよ」
「心配はいらぬ。直にする必要も無くなろう」
 大渦が一陣晴れ、それでも一切動ずる気配を見せぬシーザーに、始皇帝は不快と愉悦を交えた笑みで煽り、シーザーは肩を竦め。
 嗜虐的な笑みを顔に浮かばせ、始皇帝の嗾ける水銀の大渦はシーザーを飲み込んでいく――
(……いやいや、ここまで乗せられるとは。やりやすいといえばやりやすいが)
 とはいえシーザーは全くの無傷。それもその筈で、彼は最初からあらゆる攻撃を取り込む魔力による被膜を纏っていた。
「……ふぅ。音を上げぬことは褒めて遣わす。が、少しは喘がぬか……」
「そうしたいところだが、そんな余裕も無くてね……」
「ますます泣かせてみたくなったわ」
 ――故に始皇帝の絶え間なき水銀の大渦も致命打を与えるどころか、寧ろシーザーの力の糧となり、それに気付かず只管に始皇帝はシーザーに力を与える形となっていた。
「もう終わりかね?」
 やがて息を切らし、水銀の渦巻きが衰えるのを感ずると、シーザーは問いかけた。
 ――ああ、本当につまらない。勝つまでやり続ける子供のように、大渦を嗾け続けられるのにも、もう飽きた。
「それではさようならだ、始まりの皇帝君」
 飛んでくる羽虫を軽々と払いのけるように、シーザーは腕を振るい水銀の大渦を吸収し切ると、静かに掲げた指先より――それは太陽の如く膨大で、恐ろしいまでの力を秘めた巨大な魔力弾を浮かばせていた。
「申し訳ないが、知性無き者との会話は苦痛だったよ」
 指先が紳士らしからぬと承知で、始皇帝を差してはふわりと魔力弾が迫り。
 回避を試みる意味すらないほどに巨大なそれが、水銀楼閣を打ち砕きながら始皇帝に迫り――正しく一飲みに。
 膨大な魔力の奔流に晒され、始皇帝の身体は燃え尽きたかのように白煙を吹き上げ、白目を剥いて尻をついていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイミィ・ブラッディバック
私自身はウォーマシン、宇宙空間でも生身で活動できる程の環境耐性をもってすれば水銀蒸気は問題にはならないでしょう
ただ、どうせならこの水銀という流体金属を活用したいものです

ふむ、この手で行きますか

指定UCで一気に駆け抜け始皇帝のもとへ向かいつつ、水銀を装甲に付着させる形で身に纏います
始皇帝の水銀製兵馬俑も同じく水銀を身に纏った私には通用しません
水銀に水銀をぶつければ混ざり合い…即席の流体金属装甲が強化される
始皇帝は何故私への攻撃が通用しないか気づかないはず

INDRAと伊邪那岐の斉射、及びCRESCENT MOONLIGHTでの斬撃で敵の操る水銀ごと始皇帝を焼却しましょう
水銀は熱で気化しますからね



●鋼の齎す破滅
 数多の有害物質や真空という状況下でそこへの適正は、全環境の適応といって過言でないかもしれない。
 遥かな宇宙の空を行く銀河の世の戦機人なれば、如何に生体を腐食させ得る水銀の蒸気の中、その身は揺らぐことはない。
「ふむ、この手で行きますか」
 ただどうせならば、この充満する水銀を活かす手立てがあっても良いのではないか――ジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)は思考の末にある考えに到る。
「Neuclear Fusion」
 ――鉄火の世に無き蒼穹の世の動力源が唸り、背の推進器が噴き上がる。
 噴出する気流は宛ら天使の翼が如く広がり、彼は軽く床を蹴り出すと。
「Extra Booster――Start Up」
 蒼穹の世の天使核からなる推進器が勢いよく噴き上がり、音を優に超えた速度を以て飛翔し始皇帝の元へ歩を進めていく。
 ついでに楼閣の中、これでもかと充満する水銀の蒸気を浴びてもそれは毒となるどころか、蒸着するかのように張り付くそれを積極的に纏い、ジェイミィはその身を固めていく。
 超音速で迫る機体の接近に気付いた始皇帝は、心底鬱陶しいと言わんばかりに掌を何度か払うように動かし。
「いい加減飽き飽きしてきたところだ。朕は疲れた。……行け、親衛隊どもよ」
 水銀の兵馬俑が蠢き、思考無き兵士達が侵入者を迎え討つべくジェイミィに掛かる――が。
「何ッ……貴様、如何な絡繰を用いた!?」
 始皇帝の驚愕も無理からぬことであり、精鋭を嗾けた筈であり、相応の攻撃力で迎え撃ったにも関わらず、ジェイミィの身にはヒビの一つも入らない。
 ――水銀に水銀をぶつければ、勢いの強い方に飲まれる形でそれは溶け合い、精兵達の攻めは装甲を崩すどころか、逆により高める形となっていた。
 親衛隊の攻撃は悉く防がれ、何が起こっているのかも分からず驚愕の顔を浮かべる始皇帝へと、ジェイミィは迫りつつも静かに告げた。
「今の貴方では気付けないでしょうし、説明した所で理解できるとも……」
 思えない。その言葉の代わりに、ジェイミィは国産みの神と天帝――かつて人界を統べたる皇帝に向ける武器としては限りなき縁を感じさせる、二つの最高神の名を冠する砲を向け。
「――Fire」
 繰り広げられる電磁徹甲弾と天帝の矢が如き光が、展開されゆく水銀を悉く揮発させ消し去りながら、全ての兵が消え失せ丸裸となった始皇帝の横を過ぎ去り――そして。
 始皇帝の身から吹き上がる鮮血も即座に蒸発し消え去るほどに、三日月の名を冠する光刃の煌めきが一つ、始皇帝を斬り伏せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
おお、始まりの帝・始皇帝趙政が何故あのような御姿に!
古の強者も、猛毒の前には形無しという事であろうか……
とても残念ではあるが、今は戦うしかあるまい。
■闘
辺りには毒霧……なれば、素潜りで鍛えた【息止め】術の出番だ!

『海中にいる』という想定で呼吸を止め、襲い掛かる水銀の大渦を
【残像】を伴う【ダッシュ】で素早く横切り、帝の元へ駆ける。
万一少しでも毒が入ったら、生来の【毒耐性】と【継戦能力】で
耐えつつ、余裕そうな態度を見せつけ『毒が効かない』と思わせ
少しでも驚かせてやろう。

辿り着いたら更にスピードを上げ、居合の構えを取り……
というのは【フェイント】だ。実際には抜かない。

接近の途中で足を滑らせたような姿を見せつつ片膝をつき、
油断させたところで密かに【無刃・意】を発動!
無防備になった身体を見えない斬撃で斬り伏せるのだ。

無礼は承知の上で申し上げるが……
其方のことは、始皇帝とは思わないでおこう……御免ッ!!

※アドリブ歓迎・不採用可



●静かに断つ歪められた時の因果
(おお、始まりの帝・始皇帝趙政が何故あのような御姿に!)
 単純明快であるが効果的に、満たされた水銀の蒸気に対し息を止め粘膜に吸い込まぬようにしながら、彼が目にしたものは地団駄を踏み、自らの圧倒的な劣勢を嘆き怒り狂う我儘な子供めいた姿だった。
 これがかの偉人の末路というのか――愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は愕然としながらも、刀に手をかけた。
(むむむ……残念であるが……戦わねばならないか)
「全く、貴様も猟兵という遊牧民か? しつこい。本当にしつこい……!」
 迫る清綱の姿を視界に捉えるや否や、始皇帝はこれまでに追い詰められ続けた鬱憤をぶつけるかのように、水銀の大渦を嗾けた。
「っ……」
 圧倒的な毒性と流体金属の質量が渦を巻き、重みと毒性による暴力が清綱を打ち据え、犯していきながら苛め続ける。
 ――問題ない。この程度ならば、鍛えに鍛えた素潜りの力があれば。
 大渦の揺らぎにも一切怯まず、毒性にも怯まず、水銀の圧にも屈さぬ翼を広げ、頭部に生えた角も相まって猛牛の突進宛らに清綱は進み続ける。
「不愉快だ! 貴様といい、どうしてこうも朕に屈さぬ!?」
 大渦が一旦収まり、晴れた先に始皇帝の目に映ったのは、多少濡れた程度で歩みの勢いを止めない清綱の姿だった。
 水銀の蒸気と大渦に息を止め、呼吸もままならず毒を受ければ少なからず身体は蝕まれている筈だが、屈さずに彼は足を力強く進めていく。
「!?!!?」
「ふ……」
 只管に歩を速め、遂には手にかけた刀で居合の瞬撃で斬り伏せようとした瞬間、清綱は水銀に足を滑らせたのか片膝をつき、そのまま盛大に滑っていく。
 油断したか――安堵と共に愉悦の顔を始皇帝は浮かべるものの。
「無礼を承知で申し上げるが……」
 滑り、始皇帝の真横を過ぎ去る形と見せかけながら、刀の柄に手を添えたまま、ここで初めて清綱は口を開いた。
 自棄となったからか――否、盛大な摩擦音も高らかに、水銀に塗れた翼を一打ちし振り払いながら制止すると同時、金属を収めた澄み渡った音が響く。
「其方のことは、始皇帝とは思わないでおこう……御免ッ!!」
 強く清綱の目が見開かれたかと思えば、始皇帝の纏う衣に走るは無数の条――閃き続ける数多の条は、そのまま皇帝の衣を、そして身を割り開き。
「な、何……ぬ、おぉぉぉ!?」
 身体を幾百もの肉片に斬り刻まれ、崩壊していく始皇帝――清綱の攻撃は失敗ではなく、既に終わっていた。
 瞬き一つにも満たぬ刹那に、幾百も積み重なった斬撃が叩き込まれ、始皇帝は最期の最期まで敗北を信じられずに驚愕したままに崩れていき。
 ゆっくりと清綱は立ち上がると、塵と崩れていく様を憐みの眼差しで見送り――
「……古の強者としての其方と……いや」
 敢てこれ以上を語ることも無し。
 ただ清綱は消えゆく楼閣の中、微塵も残らずに散った始皇帝の在った場所に静かに頭を下げ、堕ちた偉人を悼み戦場を後にするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月14日


挿絵イラスト