殲神封神大戦⑨〜雷雨轟々〜
●予知景観
司馬炎の号令に、幾万もの軍勢が得物を掲げ、雄叫びを上げる。末端まで行き届いている皇帝の采配も有ってか、与えられた役割をこなし、周囲を気遣い、時には上に立つ者達が激励を施し、軍団は一個の生物を思わせるかの様に、淀みなく猟兵の支援を目的として、展開され、遺憾なくその力を発揮する。
その一つ、哪吒討伐大水軍も例外では無く、総軍5万に及ぶ将兵が、軍船に集い、悠久の運河を渡る。
口々に漏れ出すのは、哪吒と言う伝説への興味。古くから言い伝えられた伝説に、昔読んだ絵巻物の差異を、文官が、史記を元にして記された原点を持ち出し、実際に仙人と対面した兵が、その時に語られた逸話を明かす。
手が止まっている事を上官に指摘され、仕事に戻れば、文明の発端となった大河に靡く涼風に、軍船は静かに帆を揺らす。
やがて、帆柱の上に立つ物見が、遠眼鏡の先に、炎色に彩られた石造の水上要塞と、展開された妖怪の群れに、竦みながらも、大きく声を張り上げた。
●グリモアベース
「文化も世界も違うとは言え、あっちは待ってくれんのよなあ……封神武侠界で大きな戦が起こっとる。年明け早うに悪ぃんじゃけど、もし良かったら、手を貸して欲しい」
海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)は、一言ぼやいた後、すぐに態度を改め、猟兵に資料を配り、自身も帳面を捲り、事の起こりを話し始めた。
「首謀者は昔、多分三国時代の前辺りかな? その時に黄巾党を率いとった仙人の張角。封神台壊した張本人じゃな。異門同胞ってユーベル・コードの御陰で、どんな物にも忠誠心を抱かせる事が出来るらしい。抵抗はある程度出来るみてえじゃけど、基本、力量も心情も無関係みてえ。これに抗する為に、司馬炎は殲神封神大戦を開始、大規模な行軍で、猟兵を支援してくれとる、って言うのが今の状況じゃな」
一度言葉を切り、湯飲みを傾ける。準備していた料理と甘味を猟兵に配膳し、次に世界について、説明を始めた。
「急に言われても訳分からんって人も居ると思うし、次は封神武侠界って世界についてじゃな。分かっとる人は本題に入るまで、料理でも食べながら聞き流して。お代わりもあるけど、一息付くまで、すまんが、自分で取りに行ってな」
封神武侠界は 人界と仙界の交流によって、仙術武侠文明が発達した、UDCアースで言う所の古代中国に当たる。次代としては三国時代が幕を閉じた後の晋、その初代皇帝、司馬炎が治めている頃となる。
「始皇帝は人格者よ。間接的に猟兵、仙人、武侠英傑の後見人って立ち位置じゃな。拱手と礼儀さえ忘れんかったら、この世界の人等は皆を信頼してくれるよ」
鎮は実際に踵を合わせ、右拳を左手で包み込んで、目を閉じ、実演して見せた。
「支援は単純明快で、オブリビオン、この世界では妖獣や死んだ武将達じゃな。これを討伐すると報酬が支払われるよ。仙界にあった封神台が壊された所為で、そこらに溢れ出して混乱を招いとるって状況じゃけーなあ……」
仙界は洞穴という空間を辿って辿り着く事の出来る桃源郷。司馬炎は自ら足を向け、仙人への協力を結び付けており、流入している仙界の技術によって古代とは思えない程、文明は発達している。
「租界なんてもんも有るらしいが、どの道、外の海から来る者との交流は御法度みてえじゃな。グリード・オーシャンのオブリビオン、コンキスタドールじゃけー、そりゃあ仕方無え事じゃけど。どうも性質上、何処にでも出て来れるみてえなんよなあ……」
コンキスタドールについては渡したグリード・オーシャンの資料を必要な時に見返す様促し、鎮は本題に入る。
「今回は長江を行く支援部隊、哪吒討伐大水軍を載せた軍船の支援になるよ。赤壁の戦いがあったのもあって、敵も警戒しとるみてえでな、赤い壁の水上要塞を建築しとる。そっからオブリビオンが無数に湧いて来るけー、平氏の数を減らさん様にしながら、これを迎撃して欲しい」
小舟から鎖まで、必要な物は水軍が貸し出してくれる。
「ただ、向かってくる相手の軍勢が雷を操る竜じゃけーなあ……空も泳ぐし、川にも潜る。会話は出来るが、血気盛んで義に厚い。此所に異門同胞が掛かっとる事を考えると、和解は難しいと思うよ。この性質じゃと、相手が強けりゃ強え程、燃える性質じゃろうしなあ……どうやって集めたんかは知らんが、数も多い」
現状、正確な数は不明。雲上に隠れている可能性を示唆し、鎮は猟兵に向き直る。
「年明け早々、皆には無茶を言う事になってしもうたけど、信頼しとるよ。宜しく頼む」
最後に深く頭を下げ、鎮は猟兵を送る準備をし始めた。
紫
●挨拶
初めましての方は初めまして、お久し振りの方はお久し振りとなってしまいました。
紫と申します。
今回は封神武侠界の戦争【殲神封神大戦】のシナリオとなります。
【1章構成】【集団戦】です。
ご縁が有れば、宜しくお願い致します。
●シナリオについて
・シナリオ目的
①水上船に対応する
②水軍への被害を極力抑える
③敵オブリビオン軍勢を無力化する
以上3つとなります。
・ギミック
【水軍からの貸与】
必要な物で軍船に積まれていそうな物は大体貸してくれます。
【護衛】
水軍への被害を最小限に
【空中飛行】
竜なので空を飛びます。
【潜航(水)・潜水】
竜なので水中へ無制限に潜れます。
【潜航(雲海)】
竜なので雲海に潜めます。
【試練(竜の役目)】
竜は本来、自身を乗り越えた強者にのみ、心を開く生物です。
若輩であるとは言え、この雷霆竜も同様です。
【統率×】
雷霆竜の軍勢は、同族との協調性、異門同胞による張角への忠誠心のみを持っています。ですが、今回の軍勢は全て若輩の個体であり、統率を取れる個体が居ません。
当たり前ですが、要塞からの指示や伝令を聞く気は有りません。
(張角への忠誠心である為、張角の指示以外は好きにする、と言うスタンスです。もう少し言及すれば、張角が自分達を直接指揮するべきだと、彼等は考えています)
性質上、場合によっては要塞からの支援を自ら遮る可能性も有ります。
●その他
・【雷霆竜について】
やんちゃ(血気盛ん)で熱血。義理人情に厚いが、竜である為、自尊心が高い。張角の異門同胞の術中にあっても、人に試練を与え、乗り越えた者に祝福を与えると言う役目を忘れていない(そう言う意味では、術中に嵌めた張角の事も誹ること無く、彼等なりに認めている)。会話可能。割と素。
●最後に
なるべく一所懸命にシナリオ運営したいと思っております。
宜しくお願い致します。
第1章 集団戦
『雷霆竜』
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POW : 雷霆竜の嘶き
【激しい稲妻】を降らせる事で、戦場全体が【乱気流内】と同じ環境に変化する。[乱気流内]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD : 龍燐鋼
自身の【強靭な鱗を頼った戦法】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ : 大回転攻撃
【全身をしならせた大回転攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
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メサイア・エルネイジェ
竜には竜ですわ
という訳でわたくしとヴリちゃんとお任せあれ
大きなお船を何隻か出して貰いますわ
ヴリちゃんの足場にするのでしてよ
暴風雷が吹き荒れそうなのであまり動かず戦いますわ
空も水中も自由自在ですわね
飛んでる時はミサイルとキャノンで攻撃するとして、水中にいる時は手出し出来ねぇですわね…困りましたわ
なんですヴリちゃん?
逃げ回ってないで戦え臆病者?
まぁ!そんな煽るような事言ってはいけませんわ!
激おこしてしまいますわ!
あー!勝手にガンフューラーユニットをパージしちゃダメですわ!
次はなんです!?
水中から出てきた所を捕まえて噛み付きで仕留めるからラースオブザパワーを使えと?
なるほど、挑発作戦ですわね
では!
栗花落・澪
※アドリブ歓迎
飛行には飛行で
水中戦も出来るけどね
【彩音】発動
適当な言葉を紡ぐ事でそれら全てを文字として具現化し
自在に操る事で盾や避雷針代わりに使用
文字は減ってもまた何かを言葉にすればいくらでも量産できるから
僕も【オーラ防御】を纏いながら【空中戦】
とにかく水軍の皆さんに被害が行かないよう
挑発という名の【誘惑】で気を引き
やるからには、本気でやらないと失礼だからね
同じ雷魔法の【属性攻撃】で相殺も狙いつつ【催眠術】を乗せた【歌唱】
彩音の効果と合わせて五線譜のロープを作り
龍の足に巻き付けたり顔面に網として被せたりでペースを乱させ隙を作りたい
その瞬間具現化させてた文字全てをロケットのように叩きつけ攻撃
村崎・ゆかり
こいつらもオブリビオンね。そうでなければ、碎輝親分みたいに違う付き合い方が出来たはずなのに。
言っても詮無きこと。あたしの実力を思い知らせて骸の海へ還せば、満足するんでしょう。
それなら――村崎ゆかり、陰陽師。参る!
飛鉢法で長江を遡り、敵集団と接触。
乱気流か。蒼空の異世界でもう慣れたわ。「空中戦」「環境耐性」で姿勢制御しながら、雷霆竜達と渡り合う。
そっちがその気なら付き合うわ。
「全力魔法」雷の「属性攻撃」「範囲攻撃」「道術」で、九天応元雷声普化天尊玉秘宝経!
「電撃耐性」と「オーラ防御」で「結界(術)」を展開し、降り注ぐ雷光を遮りながら、特大の稲妻で雷霆竜達を叩き伏せる。
……どう、まだやるつもり?
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
竜の皆様方、よろしくお願いしますでっす!
ぺこりとお辞儀な藍ちゃんくんなのでっす!
経緯はどうあれ、試練を受ける側でっすからねー!
礼は尽くすのでっす!
その上で藍ちゃんくん達は試練を超えていきますとも!
というわけで空中浮遊でお相手なのでっす!
やや、竜の皆様方は中々の回転っぷり!
これには藍ちゃんくんも負けてはいられないのでっす!
竜の皆様の回転を取り入れるように、踊るのでっす!
空中ターンにブレイクダンス!
少しずつ皆様の回転を藍ちゃんくんのダンスで調整!
水軍にではなく、統率できてない竜の方々同士をぶつけちゃうのです!
ダンス後はまた一礼!
コラボ舞台をありがとうございましたなのでっす!
梅桃・鈴猫
◎
さて、我が国天楓においても龍は縁がある存在。
こちらの被害を最小限に抑えつつ、無力化しなければならない、と。
であれば、参加される皆様や味方の水軍に仙術で軌跡が見えるようにしましょう。その上で、UCです。
空でも水中でも、この術や仙術を用いれば容易いでしょうが…… 雷霆竜の皆様は、私について来られるでしょうか?
と、少々挑発して引き付けてみましょうか。
龍の皆様と相対する機会などそう御座いませんし、私の力を存分に発揮して、雷霆竜の皆様に対応致しましょう。
勿論、味方の水軍の被害は抑えることを優先致しますわ。
水中、空中、漏れ無く軌跡を巡らせます。向こうが攻撃しようとしたところで、攻撃を受けてしまうように。
●摺り合わせ
「竜には竜ですわ。と言う訳で、わたくしとヴリちゃんにお任せあれ。早速ですが、大きなお船を何隻か、貸して頂けませんこと?」
身の丈二丈一尺余り、鋭利な鋸歯を持つ、黒鋼の四足竜を従えた若き異国の姫が、伝令を受けた兵士達の前で、自信満々に胸を叩く。メサイア・エルネイジェ(放浪皇女・f34656)の仕種に、兵達は削がれた士気を取り戻し、要求を受け入れ、手配を進めていく。
「飛行には飛行で応戦、かな。水中戦も出来るけど」
小さな白翼が生えたローヒールの爪先を、甲板で数度叩き、水上で湿る琥珀色の髪に、唇を尖らせながら、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は小瓶に収納していた花弁を取り出して、数言呟き、魔法で圧縮されていたそれを、羽根つきの拡声器へと変じさせる。
「僕は機会が来るまで、守りを固めるね」
「コンサートなら、藍ちゃんくんはセッションを希望したいのでっすよー! 有名所から急なアドリブ、自作でもマイナー所でも、何でも歓迎でっすのでー!」
紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は紫色の瞳の片目を瞑り、拡声器を取り出した澪に迫る。彼が返答に困っているのを見て、少しだけ距離を取り、テンションを調整してから、改めて申し出る。
「藍ちゃんくんは全力でご協力しますのでありまして! 今日は衣装の通り、何時もより縦にも横にも斜めにも沢山たくさん回る予定でっす! 如何でしょう?」
動き易さを重視した何時もと違うパンツ・スタイルを強調する様に、ポーズを取る。澪は思わず小さく笑い、承諾の意を示した。
「ただ、えっと、藍さん……で良いですよね? きちんとした音は、期待しないで下さいね」
「望む所でっすよー!」
「でしたら、私も其方に加わっても宜しいでしょうか?」
成立したのを見計らい、自身よりも背の高い二人を軽く見上げ、穏やかに微笑んで、梅桃・鈴猫(天翔の桃花・f33163)は、静かに協力を申し出た。
「勿論、藍ちゃんくんは歓迎でっすよー!」
「1人も2人も変わらないしね」
「感謝致します。それでは、暫しの間となりますが、宜しくお願い致します」
握手を交わす三人の様子、軍船の貸出が進んで行く現状を眺め、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は、
(あれは見るからに砲撃戦仕様、足を止めてって所かしら。それで、3人は聞く限り、宙空、水中からの防衛迎撃ね。攪乱も兼ねるつもりかしら?)
「なら、あたしが打って出る位の余裕は有りそうね。雲海に潜んでいる方を引き摺り出して来るわ。もし聞かれたら、そう答えてくれるかしら?」
近くに居た兵士に言付けて、ゆかりは真言を唱え、風天の印を結ぶ。現れた鉄鉢に飛び乗り、鮮やかな紫色の軌跡を上空に描いて、瞬く間に飛び去って行く。
「飛鉢法……懐かしいですわ」
霧散する僅かな霊力の残光、描く軌跡と風の気に、鈴猫は数瞬、幼き修行の日々の一幕へ、思いを馳せた。
●開戦
猟兵と呼ばれる筆頭戦力が、華奢な男女の集いである事に、兵士達は少なからず不安を抱く。必ずしも力が全てでは無いと理解していても、命を託す事になる者達が、異常な程緊張感を抱いていないと言う事実が、彼等の感性とズレていた。表情の曇る兵士に気付いた船上の3人は、納得した様に頷いた。
「こればっかりは、難しいよね」
「どう思われようと、藍ちゃんくんは藍ちゃんくんでっすので! でっすが、皆様誰も欠ける事無く、場を収める為の努力は惜しまないつもりでっすよー!」
「力比べとも行きませんし……雅楽で誤魔化すと言うのも少々、憚られますね」
藍の言葉に虚偽が無い事は伝わっているが、それでも彼等の不安を拭うには足りない。猟兵がそうである様に、彼等にも積み重ねてきた物が有る以上、これはどうしようもない事だ。
人の愚かを嘲笑うかの様な傲慢とも言える咆吼と共に、暗色の雲が立ち込める。
「……大丈夫、いつもの通り、皆、守って見せるから」
「まずは序ですね。参りましょう」
「竜の皆様方でっすねー! 藍ちゃんくんでっすよー! 竜の皆様方、よろしくお願いしますでっす!」
何時の間にやら取り出したソウルの一欠片を掌中に収め、拡声された大声が、俄に響く雷鳴を押し退け、雲海を突き抜けて響かせる。兜の上から思わず船上の兵士達が両耳を抑え、呆気にとられる気配に、振り返ってにっと自らの尖った歯並びを見せ付けてから、向こうに潜む竜へと、丁寧に頭を下げる。
群体を為し、実体を持った雷霆が、皆一斉に愉快、愉快と喉を鳴らし、嘲笑う。
(張角も良い宴を用意してくれたものだ。小さき兵よ。望む通り、汝等に試練を与えよう。武を示せ。勇を示せ。存分に! 我等を楽しませてみせよ! さすれば道は開かれよう!)
規格外とも言える念話による圧力、歓喜を含んだ宣戦布告と共に、巨大な雷光が奔る。
●挑発(前哨戦)
敢えて姿を晒し、宙空を舞う雷霆竜の前線部隊に、鈴猫は緩やかに片手で印を結ぶ。
「天楓四神、中央に坐す掛けまくも畏き黄竜の大神に、恐み恐み申します」
潜航している者も含め、完治した竜の大群に、白桃色の砂金の軌跡が混じる。
「空中でも水中でも、一目瞭然ですが、はたして雷霆竜の皆々様は、私に付いて来られますか?」
(囀るではないか。舞踊の誘いはもっと穏やかにせよと、黄竜大老から教えなかったのか? 天楓の巫女の底が知れると言うものよ?)
「……良く聞こえませんでしたわね。もう一度仰って頂けまして?」
(穏便の皮を被るな。性根からの武仙であろう。良くお前の様な獣を付き人にするものだ。付き人がこれでは、巫女の眼も知れると言うものよ……)
「躾のなっていない外見だけがご立派な芋虫が、良くもこう、吠えるものですね。ああ、張角の術中に嵌まった無能ですものね……お望み通り、塵も残さず、この世から消して差し上げます」
(死力を尽くし、存分に楽しませてみよ。それが踊り子の務めと知るが良い)
高笑いの思念が、鈴猫には、耳障りだった。煩わしい、挙動の一つ一つに、臓腑が煮える感覚を覚える。穏やかな微笑みはすっかりと色褪せ、色の無い殺人者の顔を覗かせる。春雷を纏う一対の円月輪が殺意を剥き出しにし、彼女の周囲を漂い、十指から垂らされた霊力の糸が剣呑に照り光る。
「確かにステージはそう言う気持ちでやる訳でっすがー! 藍ちゃんくんのステージは二味くらい違うと知って欲しい次第でっしてー! つまり、行き着く所はウィー・ウィル・ロック・ユーな訳でっして-、夢のコラボレーションはまだ始まっても居ないのでっす!「鈴猫ちゃんも、出来れば打ち合わせた通り、ご一緒に!」
剣呑な空気を裂く様な明るい声が宙空で響く。
「イッツ・ショウタアアイム!!」
剣呑な空気を叩き付ける様な、長江全域を震わせる大音量のハスキー・ボイス。小さな拡声器一つで雰囲気を支配しながら、宙空を軽やかに舞う。
支点の無い宙空でヘッドスピン、徐々に確度を捻り、縦横360度それぞれを高速で回り切り、その勢いを殺さず後転、足も腕も一切止めずステップを刻み、足のみを使った側転、腕のみを使っての回転と、止まること無く回転する。空気を振り切るようなダイナミックな動作は、竜の目を楽しませるものとして十分だった。
唐突な出来事に毒気を抜かれ、呆然としながらも、一先ず調子を取り戻し、鈴猫は心中で感謝を述べながら、水軍への被害を最小限にしながら、藍と競う様に、水上を鮮やかに舞う。
●静寂を伝え
(さっきの、良く平気で割り込んでいけるよね……)
感心しながら、その後のアドリブ染みた大胆なブレイク・ダンスに魅せられながら、澪は歌を紡ぐ。紡がれた歌が魔力によって具現化し、五線譜と共に音符が彩られていく。実体化した五線譜の防壁を船上に巡らせながら、彼は彼なりに思いを紡ぐ。
どうか信じて欲しい
僕達は行く先を照らしたいだけだと
どうか信じて欲しい
あなた達を救いたいと願っているだけだと
それだけだから
非力な手足が 貴方達を絶望に導くと言うのなら
まず砕けるべきは僕達なのだから
貴方達は強いから
僕達が盾になろう
どうか見せて欲しい
誇り高いあなた達が
明日を掴み取る その景色を
意味の有る言葉を紡ぐ度、音符と共に言葉が弾けて舞い踊る。長江のカンバスに黒の付箋が彩られ、藍とは違った慈しみの有るハイトーンの歌声が、音の波紋と共に、雷鳴を越えて染み渡る。
●黒鉄の暴君
「あら、良い心地の歌声ですわ。ヴリちゃんもそう思いませんこと? まあ、もっとノリの良い曲が好みですの? へう゛ぃ・めたる? 良く分かりませんわ!」
格納部で己のキャバリアと対話しながら、足場としている船上で、メサイアはやんちゃな暴竜の手綱を握る。ガンフューラー・ユニットのエネルギー循環系を見張りつつ、充填完了と共に宙空の雷霆竜を射貫く。高出力の二連装砲が竜の纏う稲妻と鱗を貫通し、身体を抉り、昂揚のテレパスを聞きながら、メサイアは大らかに微笑んで受け流し、ヴリトラは鋭い歯を悦楽に噛み合わせた。
「桃色の砂の軌跡が綺麗ですわね! おまけに、軌道が読み易いですわ。大助かりですの」
エネルギー収束の独特な高音と、冷却機構の騒音、格納部内に奔る衝撃を一切介さず、快活な声を響かせながら、次弾発射まで、ミサイルのオートロック。ポッドから射出される計8発の大型弾頭が白煙を散らし、包囲網を展開しながら回避を行う雷停留を蛇の様に蛇行し、追尾する。
「さん……にー……いーち! はい、ズドンと行きますわよ!」
リチャージまでがもどかしい。かと言ってこのレベルで装甲を張られていては、下手な出力で射出する訳にも行かず、仕方なく充填完了までカウントダウンをメサイアは口遊み、堪える様にした。
「宙空はこれで一先ず撃墜数は稼げておりますね、皆様の足止めが鮮やかで問題ありませんが、問題は……免れて水中に深く潜航された方々ですわね。流石に手出しできねぇですわ」
メサイアの言葉にヴリトラは唸り、大きく口を開け、けたたましく咆吼する。
「何ですヴリちゃん? 逃げ回ってないで戦え臆病者? まぁ! そんな煽るような事を言ってはいけませんわ! 激おこしてしまいますわ!」
再度の咆吼。格納部へのレッド・アラートと共に二門のビームキャノンと大腿部側面のミサイルランチャーがメサイアの言葉を待たずにパージされ、鈍い音を立てて船上に放棄される。
「あー! 勝手にガンフューラー・ユニットをパージしちゃ駄目ですわ!」
黒鋼の竜は咆吼を繰り返す。曰く、強がっているだけの臆病者め、曰く、本当に殺されるなどと思っていないのだろう。引きずり下ろしてやる。曰く、臆病者が戦場に出るなどと滑稽極まりない。曰く、狩りを嗜みにするだけの貴族なら、屋敷に籠もっているのがお似合いだと。
「ヴーリーちゃん!? それで、次は何ですの? 水中から出て来た所を捕まえて仕留めるから、ラースオブパワーを使えと。成程! 挑発作戦ですわね!」
侮辱に耐えかねた雷霆竜が襲来した瞬間、鋼の暴君はそれを逸早く捉え、アイカメラを凶悪に光らせる。
「では、全力全開ですわ!」
真っ向から巨体の尾を捕らえ、手足の鉤爪が容赦なく黄金色の鱗を裂きながら。強靱且つしなやかな人工筋肉が規格外の生物を持ち上げ、水面へ叩き付ける。一度、二度、三度。咆吼と共に実行される圧倒的な、ただ相手を仕留めるだけに実行される暴力が振るわれ、体力が尽きた喉笛を凶悪な顎が噛み千切る。垂れる竜血を取り込み、ヴリトラは美酒を口にした後の様に、満足げに唸る。
「ヴリちゃん、お友達は大切にしないといけませんのよ?」
何処かズレたメサイアの言葉に、ヴリトラは、そんなに自分が楽しそうにしていたかと、思わず聞き返した。
「自覚有りませんでしたの? 久し振りでしたわよ?」
何となく黙り込んで、ヴリトラはパージしたガンフューラー・ユニットを接続し直し、露払いを兼ねた支援砲撃を再開した。
●雷槌
雲海を越え、長江を遡る。雲海に潜む伏兵は、少なくは無い。
「オブリビオンよね。残念だわ。違ったら、他の付き合い方が出来たのに」
(違えた道は交わらぬ。今は張角に忠誠を誓う悪竜の群れ。娘よ。どの様な達婆であろうと、お前は人に仇為す化生は、許さぬのであろう?)
「ええ。だからこれは言っても詮無きこと。武威を示せば、あなた達は満足するのでしょう?」
(その通りだ。我等が朋友、張角が為、我等は人に仇為し、雷を以て人の世を平らげてみせよう)
「させないわ。改めて――村崎ゆかり、陰陽師。参る!」
(仙界では児戯にも等しい飛鉢の法を、よくぞ雷速の域まで練り上げた。経緯を評そう。異界の道士よ。泡と消えぬよう、武勇を示せ)
「言われなくても!」
激雷が周囲を舞う。気流が乱れ、安定していた鉄鉢が巻き込まれそうになり、ゆかりはすぐさま風の流れを読んで不規則な気流を乗りこなす。
「この程度、もう慣れっこよ」
雲海に落ちる落雷を避け、うねり、のし掛かり、噛み付き、丸呑みにしようとする幾つもの顎を掻い潜りながら、愛刀を振るう。紫の閃光が煌めく度に、ゆかりは歯噛みした。
(流石に……かったいわね!)
龍燐を避けようと、そもそもの皮膚が強固であり、常に雷光による防御膜を張り巡らせているのが厄介だ。霊力で強化した状態でも生半な一閃は通らない。あえて呑まれて内蔵が柔らかい事に賭けるのも無駄だろう。
(竜種は、どの観点から見ても、あらゆる部位に捨てる所が無いのよね……っ!)
当然、現代の道士の観点から見ても、肝は不老長寿の薬の原料として名高く、爪、牙は儀式に退魔用具にと、何でも御座れ。皮膚、龍燐も同様だ。
(先ずは布石その一! 終わり!)
白一色の霊符に、雷速で飛び交う雷霆竜の猛攻を掻い潜りながら、細かな一撃を入れつつ、目的に迷彩を張る。心中を読まれない様に、思念傍受の妨害術式を展開。念話を用いていると言う事は、此方の思考を読まれていると言う事。竜種のそれは例外無く強大で、良くも悪くもある程度までは力押しが通る。逆を言えば、一定以上に練り上げ、編み込まれた妨害術式を突破する術は少ない。
(この辺りは、理性的であればあるほど、敢えて潰しに掛からないのよね。同族でも不便なのかしら)
どの様な思惑であれ、この弱点は利用しなければならない。結界の展開に思考を割く。三次元で自然法則を無視して捻じ曲がる雷を、慣性を無視して雷速で飛来する無数の竜種の突進の回避に、集中力を割きながら、真言を唱え、印を切る。52の符に霊力を送り込みながら、雲海にばら撒き、法則性を持ってばら撒く。当然、道士のやることなど彼方はお見通し、拡散する度に、抜け目なく符が潰される。
(……流石に、本場よね!)
二番目の策を実行し続け、符が潰える迄、集中力が尽きるまでの、決死の追走撃を、ゆかりはやり遂げた。
(終わりだな。娘よ。貴様は良くやった。霊力は潰え、構えた陣は隙無く此方で潰した。ゆっくりと眠るが良い)
「いくらあたしが古風の術式ばかり使うからって……舐めてんじゃないわよ」
触媒としては悪くない。だが、悪くないだけでもっと適した物が幾らでもある、何よりこれを失えば失う程、頭が鈍る。
(絶対に感謝なんてしないけど、アンタを顕現させ続けるのは、本当に良い修行だったわよ!)
今まで使用していた術式が驚く程軽くなっていた。霊力欠乏は茶飯事で、気絶していたのが最近は意識を保てる程度にはマシになっていた。使用出来る霊力の量も、練り上げる事が出来る厳戒領域も、驚く程に拡張された。だから、この劣悪で純度の低い触媒でも、立っていられるし、今回の無茶な死亡遊戯も耐えられた。
そうで無ければ、血液を一定の場に固定して法陣を描くなんて古典も古典、原初に近い呪術体系を用いた、大規模術式の再現など、実現出来る筈も無い。今も指から滴る、命で描いた血色の広大な法陣が、赤紫の光輝を放つ。
「九天応元雷声普化天尊玉秘宝経……あんた達なら聞いた事あるかしら? 眷属かしら? 何方にしろ、大層に纏ったその雷霆ごと、雷霆の雷で消し飛びなさい! 急々如律令!」
雷帝の万雷が、竜の群体を穿つ。違い無く雷鱗を貫き、巨体の肉を焼く。フラつく頭で更に追い打つ、一つのみならず、包囲する様に展開していた大型の法陣を起動。
「天魔、覆滅……!」
全身の血管が急激な霊力径路の膨張に耐えきれず破裂し、漏れ出た熱量が血液を沸騰させ、全身から白煙を吹く。落ちる万雷を、展開された落雷を四方から圧縮し、練り上げ、破裂させる。赤色の雷光玉が破裂し、高圧縮された白雷の閃光が周囲全てを灼き尽くす。
「アヤメ先輩、ご主人様のフォローに出られそう?」
「流石に此所までですと……羅睺様、私から、干渉をお願いしても宜しいでしょうか?」
「うー、んー、今回は媒体残ってるし良いよね! 良い筈。大丈夫だよね!」
虚空に残った僅かな血液の残滓に、霊符の中から干渉し、霊力に変え、アヤメに注ぐ。何時もよりも幾分か縮んだ姿で、空から落ちる主人を抱き留め、アヤメはゆっくりと船上に横たえて、霊符へと戻る。
●夢の舞台
普通の人間ならば真似が難しい、アクロバティックな動作は、雷停留達にとって造作も無い動作だ。ただそれを、格好良く決めるのは難しい。藍の宙空アクロバット・パフォーマンスは、静かで伸びの良い曲の中でも、動作がハマる様に調整され、聴覚と視覚をきっちり楽しませる物に昇華されていた。
結果、彼等は呑まれ、徐々に回転に身を任せ、聞こえる音楽に乗せて身体を捻り、音に合わせてポーズを決めようとする。勿論要領は良いが、流石にプロの技量には及ばない。勝負事に熱中していく余り、彼等は互いが互いの身体をぶつけ合い、体力を思い切り消耗していく。船への被害は澪が無限に作り出す五線譜と音符の壁が全て緩和し、将兵達は音楽に聴き入りながらも、警戒を怠らず、士気はすっかり元通りであり、現状を作り出した猟兵への不信はすっかりと消え、信頼を置いていた。
音に乗りながらも、鈴猫は潜航した敵を霊糸が捕らえ、水中でも衰えない軽やかな舞踊で魅了しながら、隈なく軌跡を描き、彼女だけの足場を作る。美しいながらも残酷な春雷の舞踊は、士気が落ちた雷霆竜を無駄無く刈り取って行く。
身体をぶつけ合い、隙だらけになった最後の群体を確認し、澪は防壁としていた五線譜で拘束し、残った音符と文字を収束させ、振り下ろされた。
「モード、ロケット・ハンマー! なんてね」
雷霆竜の群体を打ち付け、メサイアの支援砲撃もあって、全てが沈黙したのを見て、澪は一息付いた。
「最後までお付き合い頂き、有難う御座いましたなのでっす! 皆さんもコラボ有難う御座いました!」
始めた時と同様に丁寧に頭を下げ、まだ実体を残す竜に礼を言う。くぐもった愉快な笑い声の様な思念が響いたと同時に、猟兵達の手には、猟兵それぞれの魂の色を表した、小さな宝玉が残された。
●終幕
メサイアとヴリトラは降り注いだ二つの宝玉を、メサイアが取り敢えず保管する事で決着した。
澪は降り注いだ宝玉を見つめ、宿っている濃い魔力と、その変幻自在の特性に首を捻った。
ゆかりは船室に寝かされたまま、暫く眠り続けた。血液は致死量の一歩手前、分かる者が見れば霊力径路はズタズタで、血管も至る所が弾けた様な有様だった。医者による治療か、はたまた別の要因か、最終的には命に別状は無い状態まで快復した。
藍は託された宝玉の性質を澪から聞いた後、一先ずブローチに変化させ、少し頬を染めてから、この手の物の専門家も専門家な友人に相談しようかと考えた。
鈴猫は宝玉から聞こえた謝罪の言葉と、あの雷霆竜の本心に呆れていた。本気で殺しに来る彼女と純粋にやり合いたかったから煽ったなどと、誰が聞いても納得出来る物では無かった。彼女への詫び代わりの褒賞は代わりに厚く、巫女への土産が竜玉の中へ豊富に含まれており、過ぎる程丁寧な謝罪状も同梱されている徹底ぶりだった。
そうして猟兵達は次の戦場へと足を向ける。いつもの日常に戻るのは、もう少し先の話だ。
大成功
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