殲神封神大戦⑦~外法の徒、紫霄の宮より大挙す
●死人の群れを斃し、土に還せと彼は云った
その日、ユインは集まったあなたたちを見るなり説明を始めた。
「皆、集まったか。早速だが、封神武侠界で大乱が起きている事は聞いているな?」
時間が惜しいとばかりに本題に入るユインは、簡素な手書きの地図を広げてみせる。
「人界地図の下部を見たまえ。敵の親玉を討ちカタストロフを防ぐため、ボクたちは『南蛮門』を通らねばならない。ここがいにしえの仙界に通じる唯一の門、戦略上の要点だからだ。……だが、厄介な事に」
そこで一度面倒そうにため息をつき、ユインは続ける。
「この門。僵尸(キョンシー)化オブリビオンの大群で埋め尽くされている」
重点的に置かれた護り。ここが戦略の要だとは、敵も承知の上というわけだ。
一説に、正しく葬儀が執り行われなかった場合に生まれるという僵尸。
その理を悪用し、『二度殺害する』邪法により超強化された僵尸化オブリビオンは、恐るべき筋力と仙術耐性を誇る。
「わかりやすく言えば、剣で挑むも魔法で倒すのも困難という事だ。今回相手取るのはうら若き乙女に見えるが、強化された彼女らの膂力は歴戦の猟兵であっても鎌でねじ切る程だ。油断しない方がいい。
単体戦力で熾烈極まる敵が大挙して押し寄せる、これは悪夢と呼べよう。ボクとて勝てる気はせん、震えが走る。……が、策はある」
そこでユインはメモ用紙を一枚千切り、札のようにひらつかせて見せる。
「封魂符を剥がせ。それが奴らの命だ。本来魂の去った空の器に魂を留めているんだ、剥がすだけで事足りよう。無理を通した分のツケは奴らが払う――剥がすだけで、いい」
札を剥がせばただちに僵尸には死が訪れる。動き出す心配も要らないとの事だった。
「簡単そうに聞こえるかもしれないが、封魂符の貼られた位置は個体によって異なる。心苦しいが、戦いながら見極めてもらう事になるだろうな」
一撃が致命傷たりえる敵と、死闘を演じながら札の位置を見極める。それがどれ程困難かは察して余りある。
あなたたちの誰かが難しい顔をしたのを見て、ユインはこうも告げた。
「それか、どこに貼られていようが纏めて引き剥がす手段があれば違うのだろうが……いや、すまん。思い付きで話すべきではないな。忘れてくれ」
ユインもそれ以上の具体策は思いつかないようだが、戦術やユーベルコードでそれが可能だというなら試す価値はあるだろう。
説明を終えたユインは早速とグリモアゲートを開く。
向かう先は千々に乱れた人界、沿岸部。戦塵舞う光景からは既に猟兵と敵軍団が接触したと見え、鬨の声が微かに聞こえてすらきそうだ。
「お前たちには無用な言葉かもしれんが、言っておく。斯様な邪法で生み出されたからとて、情けや手控えたりするのは相手にとって不作法だ。むしろ死後の労苦を思えば、これ以上彼女達が働かずにすむ方が思いやりと呼べるだろう。だから」
山羊角の悪魔が、不敵に微笑む。あなたの顔をまっすぐ見上げ、背中を押す。
「――正しく土に、還してやれ」
頷きが返るのを確かめ、彼は迷いなくあなたたちを送り出していった。
晴海悠
お世話になっております、晴海悠です。
いにしえの仙界「紫霄宮」に連なる南蛮門より、僵尸(キョンシー)化オブリビオンの大群が溢れ出しました。
封魂符をはがし、彼女たちを眠りにつかせてやって下さい。
『シナリオについて』
1章のみで完結する戦争シナリオです。
また、下記のプレイングボーナスに沿って行動すると、戦いが有利になります。
プレイングボーナス……敵の封魂符を剥がす。
『プレイングの受付』
オープニング公開と共に受付開始し、成功に必要な数+α分採用した時点で完結といたします。採用基準は先着順でなく、『作戦が具体的である』『キャラクター様の個性や魅力が表現されている』ものを中心にお請けしたいと考えています。
『1章:集団戦』
死人集め・輪廻。
大鎌を振り回しての戦力強化、仙気を流し込む事での爆破や身体操作、巨大な鎌を呼び出しての範囲攻撃の三種から皆様の攻撃手段に合わせたものを使用します。
僵尸化の儀式以前からキョンシーでしたが、邪法の儀式を経て各個体が超強化されています。
『封魂符の位置』
当シナリオでは符の貼られた位置は不明で、各個体ごとに違うものとします。わかりやすく額に貼られているとは限りません。
継戦を重視し見極めに時間を割けば隙は訪れますが、時間効率が悪くなる分撃破数は伸びないでしょう。
時間をかけて確実に倒すか、強烈な一撃をもらう覚悟で剥奪に向かうか、それともあなただけの策を考えるかはお任せします。思いついた事があればぜひ、試してみて下さいね。
それではリプレイでお会いしましょう! どうぞ、よき死闘を。
第1章 集団戦
『死人集め・輪廻』
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POW : 獄鎌・死人刈
予め【武器を振り回しておく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 外法『死人繰り』
【鎌の一振り】が命中した部位に【仙気】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
WIZ : 外法『悪鬼の鎌』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【巨大な鎌】で包囲攻撃する。
👑11
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エンティ・シェア
二度殺されて、蘇った存在
空の器に魂をとどめた存在
ふむ、なるほどね。仲良くなれそうだ
私は、誰かの支配下なんてまっぴらだけどね
真の姿を模した茶猫スタイルに化けておく
即座に華焔で、魔力の花びらを、展開しておこう
一応手にも花を持とうか
そうだね、桜の枝を、一振り
魔法の杖のように振り回して、周囲の花弁を操るように見せかけておこう
どこに札が付いていようと…纏めて、焼き払ってしまえばよくないかい?
私の周囲を覆う花弁に触れたなら、その身は業火に包まれる
札が炎で焼けぬと言うなら仕方ない
炎で目をくらませている間に、一枚一枚丁寧に剝がしていこうか
準備が整えば、誘うだけ
さぁ、おいで
君達に葬送の花を贈ろうじゃないか
葬儀に花を添える風習は、はたして彼らにあったろうか。
真の姿に近しい花吹雪を纏い、エンティ・シェア(欠片・f00526)は「ふむ」と広げた巻物を指先でなぞった。
「なるほどね。仲良くなれそうだ」
嘯く視線の先には大鎌振り翳す僵尸兵の姿。空の器に魂を縫い留めたとあれば、親近感といえないまでも、境遇に興味が湧かないでもない。
もっとも、と言い添えてエンティの見つめる先。
「私は、誰かの支配下なんてまっぴらだけどね」
硬直した笑みのままこちらへと駆ける無数の乙女たちは既に、数歩の踏み込みで刃届く所まで迫っていた。
くるくると指先で桜の枝を弄る彼のもと、花吹雪が彼を覆う嵐のように吹き荒れる。咲き乱れる花を見れば、花を操るだけが彼の能力とも見えたろう。
大方、幻惑か阻害――侮って飛び込む乙女たちの勢いと来たら。花の一、二枚纏わりついたところで腕は動く。何かされるより早く首を消し飛ばしてやればいい――そう、貌に書いてあるようだった。
「さぁ、おいで。熾烈に踊ろうじゃないか。君達に相応しい花を用意してあるんだ」
バックステップを踏み、輪舞を刻む。鎌のひとつが頬を掠めたが、形見になると思えばそれも愛おしい。
紅く粘つく朱の糸を指でなぞり、エンティは乙女たちを花嵐の中心部へと誘う。
仕掛ける様子のない男に止めを刺そうと乙女は鎌を振り上げたが、鎌の刃は彼を討つ事なく遠くへ飛んだ。何事かと振り返った先に袖はなく、かわりに見えたのは縫い目の解けた己の腕と、焔に包まれ事切れた味方の屍体。
花灯りなどと、生易しい。明るく萌ゆる華は焔となり、裾の内に隠れた彼女らの生命、いまや彼女ら自身でもある符を燃やしていく。
どれだけ火の粉を振り払おうと、相手が火であるなら無為な事。燃え移る源の花吹雪に包まれているなら、尚更だ。
焔の華に包まれて、乙女たちは荼毘に伏される。生前弔って貰えなかった分もと、盛大に空気を送り込んで。
「赤々と萌え咲かれ」
屍の山に怯む事なく乙女たちは殺到し、けれど彼女らの成せるのは精々、山を堆く積む事だけだった。
大成功
🔵🔵🔵
源波・善老斎
僵尸化したキョンシーとはこれいかに。
しかし、その力は紛う方なく危険じゃ。
なればこそ我が拳、行善天拳が見過ごすわけにはいくまい!
奴らとて自らの弱点は承知しておろう。
策を練らねば、符を庇うよう立ち回られるだけじゃ。
ならば脳内会議といくかのう……行善天拳奥義が一、【都留木笥未陣具】!
力を蓄える時間を与えるやもしれんが、我輩の【軽業】を以ってすれば易々とは斬られんぞい。
時に敵の鎌も【足場】にしつつ攻撃を回避し、まずは符の位置を見極めようぞ。
さて、必ずしも正面から引っ剝がす必要はあるまい?
然る後、符の位置と反対側(例えば腹に貼ってあれば背中)から【功夫】による発勁を打ち、衝撃を貫通させて押し剥がすぞい。
木霊・ウタ
心情
こいつらも僵尸になりたくてなったわけじゃない
そして更に邪法の犠牲とは可哀そうに
海へ還してやろうぜ
戦闘
隙の大きい敵攻撃を捌きながら
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う
燃える剣と炎を孕んだ剣風が
輪廻どもを砕き燃やす
封魂符が何処に張られていようが関係ない
地獄の炎で包み込んで一切合切を燃やし尽くしてやるぜ
全部を一気に燃やすのが難しくても
刃で切り裂いたり炎で燃やせば
身を包むものは少なくなってくる
札の位置が判れば
剣風で吹き飛ばしたり
炎で燃やすのは簡単だぜ
ユインの言うとおりだ
俺達にできるのは
せめて還してやることだけだ
…土じゃなくて灰に、だけどな
紅蓮に抱かれて眠れ
事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに
赫々と焔華燃ゆるのと時を同じく、南蛮門の前には無数の戦塵が漂っていた。
何せ想定の倍の猟兵が押し寄せたのだ、門の陥落も時間の問題と言えよう。
「ううむ、僵尸化したキョンシーとはこれいかに。子の教えの如く謎めいておるが、あの力は紛う方なく危険じゃの」
肉球マークの中華帽を被り直し、源波・善老斎(皓老匠・f32800)はビシッと敵の軍勢を指差した。安全靴めいた硬質なブーツでしゃなりしゃなりと地を踏みしだき、功夫の賜物たる独自の構えをとる。
「なればこそ我が拳、行善天拳が見過ごすわけにはいくまい!」
そう、繰り返すが彼こそは源波・善老斎(げんば・ぜんろうさい)。行善天拳(あんぜんてんけん)の伝承者たるもの、目に見えた危険は取り除かなくては!
敵を障害と捉える善老斎とは対照的に、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は僵尸兵たちの境遇に思いを馳せていた。
「こいつらも僵尸になりたくてなったわけじゃない。それを邪法によって従えられるとは可哀そうに」
UDCによって怪物化された人間、妄執に駆られたマシンの操縦者。
過去にもオブリビオンの被害者は目にしてきたが、彼女達も元を辿れば被害者だったのかもしれない。
もう戻れぬのが節理であるなら、猟兵達の成すべきはひとつ。
「俺たちの力で。海へ還してやろうぜ」
梵字の彫り込まれた愛剣・焔摩天に獄炎を纏わせ、ウタは静かに大地を蹴った。
ぶおん、ぶおんと唸る音を立て、鎖鎌が空を切る。死人刈の体勢に移った僵尸兵たちが鎌を飛ばすより早く、ウタは敵の懐に潜り込んだ。
「封魂符が何処に貼られていようが関係ないぜ。俺の地獄の炎で包み込んで、一切合切燃やし尽くしてやる!」
燃え滾らせた炎の刃を、一陣の風のように過ぎらせ、薙ぐ。全て焼き払うとまでは行かないが、こうして幾度も炎に晒せばやがて炎の舌は札を見つけ出すだろう。
問題はそれまでの時を如何に凌ぐかだ。鍛えられた足で敵の鎌に乗った善老斎は「ふむ」と顎を撫で、次の足場へと跳躍する。
「こ奴らとて自らの弱点は承知しておろう。我輩も策を練らねばな……」
振り回す隙を与えれば強力になるが、隙を与えぬよう動く――それはすなわち、前線にて危険に身を晒すのと同義だった。
「ならば脳内会議といくかのう……行善天拳奥義が一、都留木笥未陣具(ツルボクス・ミチング)!」
軽業師の如き軽快な動作で交差する鎌を伝い、別の僵尸兵の鎖鎌へと乗り移る。策を思いつくまでの時間を稼がれ、僵尸兵たちは彼に体よく遊ばれていた。
「あんたやるな、すげえ身のこなしだ!」
思わず賞賛を口にしながら、ウタは炎の剣風を吹かせ続ける。次第にあたりの空気も熱を帯び、乾いた大気は炎が燃え広がるのを助けていた。
(「ユインの言う通りだ。俺たちにできるのはせめて、還してやることだけ」)
仙術への耐性は飾りではないのだろう。未だ動き続ける僵尸兵たちへと、ウタは祈りを傾ける。
(「土じゃなくて灰に、だけどな。このまま紅蓮に抱かれて、眠れ」)
終わったら、弔いの曲を奏でてやろう。そう決意し、彼は炎を浴びせ続けた。
散々攻撃を躱した末に足場がなくなり、善老斎の足がついに大地を踏んだ。観念所を迫るように、乙女たちが彼の下へと殺到する。
だが善老斎は身じろぎもせず、そのまま老獪な笑みを浮かべた。
「よう燃やしたわい。おかげさんで符の位置が丸見えじゃ……さて、必ずしも正面から引っ剥がす必要はあるまい?」
待ち受ける彼に振るう刃は、あと一歩のところで空を切る。代わりに後ろから声が響き、それが彼女たちの聞く最後の言葉となった。
「背中ががら空きじゃ」
とん、と僅かな動作で触れる猫の手。拳士の奥義、発勁が身体を伝い、対岸にある符を弾き飛ばす。
糸の切れたように次々と崩れ落ちる僵尸兵。彼女たちがもう起き上がる事がないのを確かめ、善老斎は短く「ヨシ」と呟いた。
大成功
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ミア・ミュラー
二回も死んじゃったのに、さらに戦わなきゃいけないなんて……ちょっとかわいそう、ね。
鎌が飛んでくる前に、【陽はまた昇る】を使う、よ。鎌が当たらない高いところに太陽を作って、光でまとめてお札を浄化して、あげる。これでそれなりに数は減らせる、はず。これ以上は苦しい思いはさせたくない、から。
残りは光が当たらない場所……背中とかにあるの、かな?ちょっと怖いけどわたしが直接剥がすしかない、ね。光で目くらましくらいはできてるはずだし、光る地面に立てばわたしも、強くなる。飛んでくる鎌を避けて後ろからダッシュで近づいて剥がしちゃう、よ。剥がしたお札も太陽の光に当てて、浄化。ん、みんな安らかに眠れます、ように。
フィロメーラ・アステール
どこにあるかわからないのか……!
でも、どこかには貼ってあるんだろ?
とりあえず剥がせるだけ剥がそう!
【対流圏・乱舞ノ形】を使うぞー!
これは気流で包囲攻撃する技!
風の【衝撃波】でお札を【吹き飛ばし】てしまう作戦よ!
吹き飛ばない時は、それはそれで吹き飛びにくい場所にあるって目星もつけられるしな!
なんか敵も鎌を飛ばしてくるみたいだけど、それも吹き飛ばす勢いの【気合い】を込めた【全力魔法】で押し返すぜ!
もともと剥がれにくいだろうし、勢いある分には困らないさ!
風の勢いが強ければ敵も【体勢を崩す】かもしれないし?
剥がせない相手に【ダッシュ】で近寄って【念動力】で地道に剥がすよう時に有利になると思う!
僵尸兵として『造られた』乙女たちは痛みも苦しみも感じてはいないのだろう。
だが、死後も働く彼女たちの魂が救われていないのは明白だった。
愉快な仲間に救われた少女は、相手が誰であっても救済を願う。たとえ伸べた手が届かぬと知っていても、旅路の果てに一抹の救いを願わずにはいられない。
「二回も死んじゃったのに、さらに戦わなきゃいけないなんて……ちょっとかわいそう、ね」
そんな心の持ち主だからこそ、ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)の藍の瞳には悲哀が滲む。口元は感情に乏しく窄まったままだが、どんなに秘めようとも瞳の揺らぎが彼女の内心を物語っていた。
「どこにあるかわからない……でも、弱点のお札はどこかには貼ってあるんだろ?」
同じ青の瞳でも、フィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)の瞳は輝き宿す星空のよう。力強く見開かれたまま敵を見据え、燐光を撒き散らして飛び回る。
「とりあえず剥がせるだけ剥がそう! よーし、出し惜しみなく行くぞー!」
流星のように現れ味方するフィロメーラの明るさに背を押され、ミアもぐっと拳を握るのだった。
乙女たちの持つ鎌が悪しく輝き、飛翔する兆しを僅かに見せる。外法の証たる、悪鬼の鎌。だがそれが到達するより早く、ミアの杖がまばゆい光を放った。
「なるべく苦しい思いは、させたくない、から」
スートをあしらった杖の先から溢れる、無数の光。こぼれた光は地上に集い、第二の太陽を作り出した。
ウィザードの司る知恵の魔法と、夢見るプリンセスの心の魔法。ミアの持つ二つの魔法を掛け合わせた光球は、暖かな陽光を敵の身へと降り注がせた。
浄化の光に数体の僵尸兵が地に崩れ落ち、見ていたフィロメーラは喝采を叫んだ。
「やるじゃないか! よーし、あたしも負けてられないぞー!」
崩れ去る味方にも構わず僵尸たちは鎌を飛ばすが、フィロメーラの頭上まで迫った鎌は巻き起こる風に弾き返される。
「大空に描く、星の意志で!」
自然霊の司る、大気の魔法。フィロメーラの纏う魔力圏から生じた気流は渦を描いて舞い上がり、飛翔する鎌をも巻き込んでいく。
敵も怯まず倍の量の鎌を寄越したが、
「なんの、このまま勢いで押し返すぜ! いっけー!」
そのままお返しとばかりに全魔力を投じ、荒々しい暴風圏が敵を包み込む。風に巻かれて鎌はくるくると舞い、元の持ち主たちを切り刻んだ。
符呪の書かれた封魂符が風に千切れ、勅令の効力を失った。屍体を縫い合わせただけの僵尸兵は、役目を放棄したように無言で崩れ落ちる。
これだけ魔法を浴びせても、僵尸兵たちはまだ半数以上が立っていた。だが彼女達の衣服は千々に乱れ、隠していた符の位置が既に丸わかりだ。
「ちょっと怖いけど、残りはわたしたちが直接剥がすしかない、ね」
接近戦に不慣れなミアは緊張に喉を鳴らしつつも、勇気を振り絞って駆け出した。陽光に照らされた大地に力を借り受け、鎌を振るう敵の下へと一直線に駆ける。
(「光を当てても、浄化できなかった……背中とか、光の当たらない場所にあるの、かな?」)
鎌を掻い潜り、懐へ。一時危ない場面もあったが、横からフィロメーラの吹かせた援護の風がミアの窮地を救った。
ウインクを飛ばす妖精に礼を伝え、あらためて希望へ手を伸ばす。
(「諦めなければ、きっと
……!」)
体勢を崩した敵の背にはためく、黄色の札。少女の手は遂に幸運を手繰り寄せた。
「……ん、みんな安らかに眠れます、ように」
ぱしりと取った札を光に翳すと同時、目の前でまた一体の乙女が眠りについた。
大成功
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トリテレイア・ゼロナイン
『二度殺害する』邪法…想い馳せることすら躊躇らわれる惨い所業ではありますが…
これ以上の災いが人界に及ばぬ為にも、騎士として容赦出来ようはずも無し
せめて彼女らが罪を犯す前に、疾く殲滅いたしましょう
強化された攻撃をまともに喰らえば大破は必至
ウォーマシンの瞬間思考力で鎌の軌道を見切り、脚部スラスターの推力移動を用いた瞬間的なステップで躱して行きましょう
勿論、逃げてばかりではありません
UCにて同時並行で●操縦する機械妖精で彼女らの封魂符の位置を●情報収集
敵の攻撃の隙、怪力で振るう剣や盾で体勢を崩した隙…
それに乗じて懐に飛び込ませた妖精の手で引き剥がし
勿論、妖精を囮に私の剣で符を引き裂く手もあります
猟兵達の奮闘の甲斐あり、先までひしめいていた僵尸兵の数は大きく減っていた。
残る彼女たちは陣を組み、仲間を悼む素振りも見せずにこちらへと襲い来る。
「二度殺害する邪法……想い馳せることすら躊躇われる、惨い所業ではありますが……」
このような悪逆非道の行いは、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)が規範とする騎士像とはかけ離れていた。
オブリビオンとはいえ、敵も元は人だとすれば。機械の身でありながら心を得た彼には、斯様な所業こそ耐え難い。
「せめて彼女らが罪を犯す前に、疾く殲滅いたしましょう」
相手が一機なら与しやすいと見たか、残る彼女たちの矛先は一斉にトリテレイアへと向けられた。鎌と逆の手には迸る仙気、骨身に受ければ歴戦の猟兵であっても致命的だろう。
(「まともに喰らえば大破は必至……であれば」)
ウォーマシンの演算能力が導き出す、鎌を逃げ切る最適解。頭脳だけ優秀でも成せぬ業を、銀河帝国の遺産たる強靭な鋼の体が可能とした。
躱した直後の脚部にねじ切れんばかりの力を籠め、第二撃の軌道の外へ。続いて仙気を流し込もうとする敵の掌を、スラスターを噴射させて真横に逃れる。
無論、トリテレイアとて逃げてばかりいるわけではない。敵に気取られぬよう放った密やかな刺客、妖精型ロボが乙女たちの背面をとる。
自身の目と、妖精ロボのアイセンサー。二つの目から得た情報を通し、トリテレイアは敵の封魂符の位置を推し量る。
捌けた衣服の裾を、手繰り寄せるのが見えた。一見乙女としては自然に映る所作も、恥じらいなど捨てた筈の僵尸兵には不自然に映る。
(「あの動き……もしや」)
妖精ロボに命じて裾に忍び込ませれば、程なくして眼前の乙女が動きを止めた。札を持ち寄る妖精を見送り、乙女はくるくる回りながら事切れた。
時に妖精に任せ、時に自身の手で彼女たちを突き動かす符を剥ぎ取る。白銀の巨躯は夕日を浴びて赤銅に輝き、姫を助けに来た御伽噺の騎士を思わせた。
「もう、いいでしょう……これ以上手を汚さないで下さい」
やがて最後の一体が彼の腕の中で動かなくなる。トリテレイアは暫しその顔を眺めた後、見開いたままの眼を指先で静かに閉ざしてやった。
●急々に律令の如く、この戦をば終へよ
気付けば、あたりに満ちていた鬨の声は遠くに聞こえていた。
まだ合戦の続く戦場もあるが、ここにはない。剣戟の音も、苦しみ呻く声も。
こうして伏せてしまえば静かなものだ。
地に横たわる乙女たちに、もう邪念は感じられない。
大方の猟兵たちの願い通り、眠りがもたらされたのだ。
死後も呪符に突き動かされた乙女たちの髪が、夕刻の陸風を受けそよそよと騒ぐ。
そのかんばせは、戦いなど知らぬかのように穏やかなものだった。
大成功
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