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南州第一プラント調査

#クロムキャバリア #日乃和 #人喰いキャバリア


●発端
 戦乱の世界、クロムキャバリア。
 東洋に位置する島国の日乃和は、大陸で発見された旧文明の遺構より湧き出る無人機の大軍勢の襲来に曝され続けていた。
 日乃和の首都、香龍には幾つもの摩天楼が夜空へ突き刺さらんばかりにそびえ立つ。中でも取り分け背丈が高い巨大なホテルビルの一室にて、堅苦しい背広姿の中年男性と、日乃和海軍の将校服を纏った妙齢の女性が、長机を挟んで斜向かいに腰を落ち着けていた。
「呼び付けてしまってすまなかったな、葵大佐」
「お気遣い痛み入ります、東雲官房長官」
 東雲の言葉に葵がたおやかに会釈を返す。
「早速だが本題に入らせて貰う。君には南州第一プラントの調査を頼みたいのだ」
「ほう……?」
 常に蠱惑的な微笑を浮かべている葵の目付きに若干の鋭さが走る。東雲は鞄からファイルを取り出すと葵に手渡した。
「これは数日前に得た観測結果だ。南州第一プラント内部で動体反応が検知された。ほぼ確実に人喰いキャバリアのものだろう」
 葵の琥珀色の瞳が横へと走る。南州第一プラントの件は葵の記憶にも新しい。
 猟兵達の手によって奪還及び稼働停止された南州第二プラント。
 それと並行して日乃和軍によって同様の作戦が南州第一プラントでも展開されていた。
 結果は突入部隊の全滅という代償を払って成功。南州第一プラントは電力供給を断たれ、エネルギーインゴットの生産を停止し人喰いキャバリアの餌場から解放された。
 これが公にされている事実である。
「前回の作戦の折に侵入した機体が残存しているだけでは? 休眠状態から醒めたのでしょう」
 返される答えを既に知っているかのような口調で葵が問う。
「だろうな。だがこうなってしまっては電源供給が確実に絶たれている証拠が欲しい。第一プラントでイレギュラーは許されん。それに……」
「一握りの人間以外に、中を覗かれる口実を与えてはならない……ですね?」
 東雲は無言で深く頷いた。
「知っての通り、南州全域では大規模な掃討作戦が進められている。近々第一プラントの付近にまで及ぶだろう。いざ付近の掃討が始まった際に、要らぬ探りが入れられる事態は避けたい」
 葵は目を伏せると、暫しの沈黙を挟んで口を開く。
「かしこまりました。しかし、大鳳単艦では戦力があまりにも足りません」
「心配には及ばない。今回の作戦には猟兵を雇い入れる予定だ」
 猟兵の言葉を聞いた瞬間に葵の唇は妖しく歪んだ。
「それはこの上なき御采配かと。ですが情報漏洩は必至でありましょう?」
「口の固さに期待する他あるまい。政府としては漏洩を前提として情報統制に動く用意がある。どうであれ、本作戦は猟兵の戦力無くして確実な遂行はあり得んよ。彼らに日乃和を……強いてはアーレス大陸を滅ぼすつもりが無い事を祈ろう」
 ごもっともですと言いたげに葵は頷く。
「更に保険として部隊をもう一つ付ける。渡した書類に人員の名簿も同封してある」
 東雲の言葉を受けた葵が紙面を捲る。
「白羽井小隊……敢えての人選とお見受けしますが?」
「隊員の多くは政府や財界になんらかの縁を持つ者ばかり。いざとなった場合は口を封じる材料に使えるし御し易い。そして君と私にとっての人質ともなる。戦地経験の浅い子女とはいえ、機密性が最重視される今回の任務には適任だろう」
 なるほどと小声で答えた葵は静かに席から立ち上がった。
「了解致しました、東雲官房長官。今回の任、葵結城が謹んで拝命させて頂きます」
「頼む。それと」
「情報の取り扱いには細心の注意を払うように……心得ております」
「事実が露呈すれば、現政権の失脚は確実だ。それは即ち日乃和の崩壊と同義となる。忘れないでくれたまえ」
 葵は無言で首を垂れると、薄気味悪い笑みを浮かべたまま部屋を後にした。静寂な密室に残された東雲は、椅子に背を預けて天井を仰ぎ、深く重い息を吐き捨てる。
「後は猟兵次第か。彼らがあのプラントの真実に気付いた時、我々の傲慢さをどう批評するものか……あれを人が扱おうなどと、元より無理だったのかも知れんな。だが我々には必要なのだ。当時も、そしてこの戦いの後にも……」
 視線を流した窓硝子の向こうでは、夜の闇の中でも眠らぬ都市が煌びやかな灯火を湛えていた。

●南州第一プラント調査
「お集まり頂きまずは感謝を……お仕事のご案内を始めるわ」
 グリモアベースにて集った猟兵達を前にした水之江は緩慢に腰を折る。手持ちの長杖を振るうと、空中に日本列島と瓜二つの島国の三次元立体映像が出現した。
「今回の行き先はクロムキャバリアにある島国、日乃和よ」
 日本ならば四国に位置する箇所を杖の先でつつくと、その一点が拡大表示される。
「雇い主は日乃和政府。作戦目標は南州第一プラントの調査」
 電力供給が絶たれ、現在は非稼動状態となっている南州第一プラント内で動体反応が検知された。
 同施設内部の現況調査を進めながら、最奥部のプラント中枢へ向かい電力供給が確実に停止している事の直接確認が任務目標だ。
「たぶん内部に人喰いキャバリア……いま日乃和を襲ってる無人機動兵器群の俗称ね。そいつらが侵入しているんじゃないかしら」
 依頼内容には調査の過程で遭遇した障害の排除も含まれている。
「プラントの内部構造なんかについては現地で日乃和軍が説明してくれるわ。国家機密だから作戦に参加する人以外には教えられないんですって」

●日乃和軍の手札
 任務内容の解説は友軍戦力へと移り変わる。
 「今回の作戦で日乃和軍は空母の大鳳と白羽井小隊を派遣するわ」
 大鳳は作戦本部として洋上に待機し、情報の統括やナビゲートを担当する。
 白羽井小隊は猟兵達と共に調査を行うキャバリア部隊だ。
「白羽井小隊の隊員はみんなお嬢様士官学校のキャバリアパイロットだそうよ。卒業前に実戦に放り込まれてそのまま正規兵に登用されちゃったとか。でも所詮女子高生だから戦力としてはオマケ程度に考えておいた方がいいかもね」

●真の敵の動向
 そして猟兵が参加するにあたっての核心部分、即ちオブリビオンの関与についてだが、水之江には明確なビジョンが見えなかったという。
 薄暗い室内で保育器のようなケースの中に蹲るエヴォルグ系統の機体。
 これが視えた全てだった。

●ミッションブリーフィング終了
 「とまあ、こんな所よ。やるべき事を要約すると……」
 南州第一プラントの現況を調査。
 電力供給が確実に絶たれている事の確認。
 出現するであろうオブリビオンマシンの排除。
 以上が今回の作戦に参加する猟兵の役回りとなる。
「最後に日乃和から出された最も重要なオーダーを伝えておくわね。本作戦で見た知った聞いた情報は決して他言無用……ってこんなの傭兵のお仕事してたら当たり前よね。でもそんな当たり前の事をわざわざ念を押して言うなら、よっぽど秘密にしておきたい何かがあるんでしょうね。中で面白いものを見付けたら私にも教えてね」
 一呼吸置いて水之江は再び口を開く。
「依頼の内容は以上。ちょっと危ない臭いがするけれど報酬はたっぷり出る……いかがかしら? 良いお返事を期待しているわ。よろしくね」
 長話を終えた水之江が深々と腰を曲げて礼で締め括る。
 かつて猟兵達とオブリビオンマシンの戦いの舞台となった南州第二プラント。
 その舞台裏で戦いが繰り広げられていた南州第一プラント。
 暗い戦禍の跡の中で猟兵達は何を見出し何を知るのだろうか。


塩沢たまき
 塩沢たまきです。宜しくお願いします。
 以下補足と注意事項となります。

●作戦目標
 南州第一プラントの現況調査。
 電力供給停止状態の確認。
 障害の排除。

●第一章=冒険
 南州第一プラントの現況調査を行なってください。
 地下施設が対象となります。
 内部はキャバリアが問題なく活動可能な程度に広く、物資貯蔵庫や研究所などといった様々な区画とそれらを繋ぐ通路で構成されています。
 非常灯が点灯していますが薄暗いです。
 希望者には日乃和軍からサーチライトや暗視装置が貸与されますので、暗過ぎて何も見えないという状況は起こり難いと思います。
 激しい戦闘があったため残骸が散乱しています。
 破壊されたキャバリアからデータログを入手したり、設備の破損状態を確認すると何か判明するかも知れませんし何も無いかも知れません。
 必ずしも特別な何かを発見しなければならないという訳ではなく、適当に歩き回って進むだけでも任務は問題なく進行します。
 作戦開始時点での時間帯は正午頃となります。

●第二章=集団戦
 深く広大な縦穴を昇降する露天型エレベーター上での戦闘が発生します。
 出現する敵を排除してください。

●第三章=集団戦
 南州第一プラント最奥部となる広く天井が高いドーム状の空間で戦闘が発生します。
 出現する敵を排除してください。

●日乃和
 人喰いキャバリアと呼ばれる無人機集団の襲撃を受けている国です。

●大鳳
 空母です。
 洋上で待機し本作戦の司令部を担います。
 不測の事態が生じない限り通信は常に可能です。
 艦長は葵・結城大佐。

●白羽井小隊
 お嬢様士官学校出身者だらけのキャバリア部隊です。全員イカルガに搭乗しています。
 隊長は東雲・那琴少尉。

●その他
 今回の舞台はクロムキャバリアとなりますので、高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星『殲禍炎剣』にご注意ください。
 キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。
 ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
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第1章 冒険 『生体キャバリア研究所調査任務』

POW   :    障害を排除し研究所内部を探索する

SPD   :    周辺を偵察しつつ探索する

WIZ   :    研究所のネットワークに侵入しデータを解析する

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●フェザー01
 アイドリング中のジェネレーターが発する唸り声と電子音だけが伝わる手狭な閉鎖空間。暗がりのコクピットの中で、コンソールパネルの光がフェザー01こと東雲那琴の顔を薄く照らす。
 操縦桿を握る指先が震えている。
 藤宮市で待機中に言い渡された急な正規任官と少尉昇格。直後に不自然なタイミングで部隊丸ごとの転属命令を受けて以降、前線を遠く離れた北州でずっとこのイカルガの試験稼働を続けてきた。いつか前線に戻り、愛宕連山を巡る戦いで死んでいった友の仇を討つ日を、格式ある者の矜持を果たす日を待ち望みながら。
 そして今日遂に念願叶い、こうして戦線の只中に舞い戻って来た。
 久々に与えられた実戦任務は南州第一プラントの調査。幸いにして試験稼働で散々乗り慣れたイカルガで任務に当たる事が出来る。オブシディアンMk4と比べて軽すぎる挙動にまだ手間取る時もあるけれど、この機体ならば不足は無い。隊の統率にも大きな不安要素は見られない。
 良い条件が揃っているし、何よりもずっと待ち望んでいた最前線への復帰だ。なのに感じていないはずの恐怖が腹の底で騒めき始めている。
 否、これは武者震いだと頭を振って那琴は操縦桿を強く握り込む。
 不意に腕に圧迫感と僅かな痛みが走った。薬剤注入中とのインフォメーションメッセージが視界の隅で明滅している。パイロットスーツに備わっている自動薬剤注入機能が働いたらしい。
 同時に背筋を快感とも悪寒とも言い難いむず痒さが駆け巡り、思考と五感が明朗かつ平静に冴え渡り始めた。先程まで気にも止めていなかった地肌に密着するスーツの感触が鮮明に浮き上がる。
「この薬、何度射たれても好きになれませんわね」
 直近の徴兵年齢引き下げから始まった兵員への戦術薬剤投与。肉体精神共に未成熟な少年少女達を、何としても使い物にするためにと施行された苦し紛れの策。依存性が高く副作用についての臨床結果も不十分とされる薬剤だが、多くの者と同じく那琴も心では嫌悪を抱きながらも身体は虜になりつつあった。
 操縦桿を握る指の震えは止まり、思考は波立たぬ湖面の如し。今はただ冷静に作戦の総指揮を務める葵大佐の命令を待つだけの兵士が出来上がった。
 現在の白羽井小隊は南州第一プラントの正面ゲート前で戦闘配備のまま待機している状態だ。間も無く本作戦の中核戦力である彼ら、つまり猟兵達が到着する。
「猟兵の方と戦場を共にするのは愛宕連山以来ですわね。あの方々はまだ日乃和に助力してくださるのでしょうか」
 熾烈を極めた愛宕基地の撤退支援戦。その中で那琴他白羽井小隊は偶然にも猟兵達と戦場で居合わせた。
 直に目の当たりにした彼らはあまりにも圧倒的過ぎた。障害の全てを捻じ伏せて真っ黒に焼き尽くす力。神々しいまでに理不尽なそれらに救われた那琴の眼差しは、自覚も無いままいつしか限りなく妬みに近い羨望へと変わっていった。
 もし自分にも彼らのような力があれば、もっと倒せたかも知れないし救えたかも知れない。
 だが望んでも叶うものでは無い。彼らは猟兵であって自分は猟兵ではないのだから。
 諦観と嫉妬が混ざり合った感情が渦巻いたが、薬剤の抑制作用によってすぐに立ち消えた。
『お待ちしておりました、猟兵様方』
 通信回線を介して聞こえた空母大鳳の艦長の声に閉じていた意識を呼び戻された。レーダーを見ると先程まで存在していなかった友軍の反応が複数点表示されている。彼らが到着したのだ。
「猟兵……」
 無意識に口元から小さな言葉が溢れる。那琴の視線の動きに合わせてイカルガの頭部が動くと、カメラアイがその者達の姿を捕捉した。実に数ヶ月振りの邂逅だった。

●南州第一プラント
 現地時刻にして正午。蒼天から陽光が直下に注ぐ。
 遠方より絶えず響く轟音は、現在南州全域で展開されている人喰いキャバリア掃討作戦によるものだろう。
 南州に存在するふたつのプラントが稼働を停止した事によって餌場を失った人喰いキャバリア達はガス欠を起こし著しい弱体化或いは休眠状態に陥った。これを機に日乃和軍は大規模な反撃に出て一気に南州の勢力図を塗り替えるつもりだという。
 生産拠点というよりも軍事基地染みた風貌の南州第一プラント正面ゲート前の広場には、白羽井小隊の他にも工作部隊の重機や作業用キャバリアが待機していた。その傍らでは日乃和軍の関係者が機材の運び込みや設営を行い、それらをキャバリアが警護している。昨今急速に配備が進められている機体のグレイルだった。
 そして現地入りを果たした猟兵達が集結すると、遂に作戦開始に必要な面子が出揃った。
『お待ちしておりました、猟兵様方。私は空母大鳳を預かっております、葵結城と申します。此度の作戦の総指揮を務めさせて頂きます』
 襟と豊かな胸元に大佐の階級章を煌めかせた女性の日乃和海軍将校が深く礼をする。結城は現在洋上で待機中の大鳳の戦闘指揮所から通信を行なっている。端末を持つ者か機体に搭乗している者であれば、中継映像で彼女の姿を見る事も出来ただろう。
『それでは本作戦を開始するにあたり内容の最終確認を始めます。先に猟兵様方ならびに白羽井小隊各位にはプラント内のマップデータをお送りしますので、ご活用くださいませ』
 猟兵の各機体ないし端末に、南州第一プラント内部の三次元立体仮想映像の記録情報が送付された。地上施設から最下層の中枢部に至るまでを正確かつ精密に再現したものだ。過去に激しい戦闘が繰り広げられていたため、実際の内部は損壊し記録情報とは相違する部分もあるだろうが、基本構造は変わらない。

●全体構造
 南州第一プラントとは、厳密にはプラント本体とそれに付随する生産補助施設やその他施設で構成された地下構造体の総称だ。プラント本体は地下奥深くに中枢部という形で埋設されている。
 南州第一プラントは大まかに三つの層に区分される。
 入って直近の地下施設の第一層。
 最深部へ至る為の巨大な縦穴の第二層。
 そしてプラント中枢が存在する最奥部の第三層だ。
 作戦の初期段階ではまず第一層の調査が主な任務となる。
 調査とは言っても求められる内容は現況調査の範囲だ。必ずしも特別な何かを発見しなければならないという訳ではない。歩き回って探索するだけでも任務は遂行される。
 結城曰く、白羽井小隊の機体を介して大鳳でもデータを収集しているので、猟兵達は各々最適と考える形で調査を行えば良いらしい。

●第一層の詳細
 南州第一プラントの巨大なメインゲートを潜るとすぐに緩やかなスロープが現れる。スロープを下って進んだ先が第一層の主要部分だ。
 第一層には生産物の一時保管区画や研究施設等が存在する。通路で繋がれた大小の部屋が複数連続しているが、特に迷路染みているという訳でも無い。マップデータを参照すれば辿り着きたい場所に辿り着けるだろう。
 ただし、先述の通り内部は戦闘で破壊されている可能性が考えられる。隔壁が閉ざされていたり瓦礫に埋れてしまって通れないルートも存在するかも知れない。
 閉鎖空間での作戦となるが、南州第一プラントの屋内施設は作業用キャバリアの運用を前提として設計されているため、極端な高速機動こそ難度が高いものの、キャバリアの活動にはさほど支障は出ないだろう。
 また、現在同プラントは電力供給が絶たれており僅かな補助電源が稼動しているのみとなっている。
 施設内は非常灯が点っているとは言え薄暗い。日乃和軍からサーチライトや暗視装置が貸与されるので、必要に応じて使用すると良いだろう。勿論自前で暗所対策を用意しているならそれが万全ではある。

●扉が開く
『確認の内容は以上となります。それでは白羽井小隊並びに猟兵様方、作戦行動を開始してくださいませ』
『猟兵の方々、宜しくお願いしますわ。フェザー01より白羽井小隊全機! メインシステム、戦闘モード起動なさい!』
 結城の出撃命令を受けた那琴が隊員に機体を起こすよう檄を飛ばす。駐機状態だったイカルガ達のカメラアイから青い光が走り、間接駆動系を唸らせながら膝立ちの姿勢より立ち上がる。整然とした隊列を組みながら歩を進め、隊長機がゲートの直前まで到着すると全機一斉に歩行挙動を停止した。
 猟兵達と白羽井小隊の前に立ち塞がる巨大な扉。横開き式の分厚いそれは、一見で核シェルターを思い起こさせるほどに強固な印象を色濃く放っていた。扉の鍵は閉ざされている。誰かが施錠の解除を求めるよりも先に結城の通信音声が発せられた。
『ゲートロックを解除しました。猟兵様方、白羽井小隊、先に進んでください。なお、セキュリティ維持のため調査部隊の進入後は外部より再度ロックさせていただきます』
『フェザー01、了解ですわ』
 扉に備わる端末の発光が赤から緑へと変化すると、大気を震撼させながら左右にスライドし始めた。開く速度は酷く緩慢だった。電力供給停止がなされて以降、封殺され続けていた地獄門が口を開く。陽光が深淵に差し込み影を暴く。その場の全員が異常に気付くまで扉の全開放を待つまでも無かった。
 厚みにして数メートルはあろうかという扉一枚を隔てた空間の先には、無数の残骸が折り重なって死の山を築いていた。日乃和軍のキャバリアとエヴォルグ系キャバリアの成れの果てだった。白羽井小隊の隊長を含む殆どの者が思わず機体を後退させた。
『こんな……これほどの……フェザー01より大鳳へ、残骸が多すぎて進入出来ませんわ』
『こちらでも確認しております。工作部隊が撤去しますので暫くお待ちを』
 予めこの事態を想定していたのだろう。作業用キャバリアと重機そして生身の作業員が一斉に撤去処理に取り掛かる。道を塞いでいた残骸は見る見る内に山を崩され、10分も経過した頃には除去がほぼ完了していた。
 改めて猟兵達と白羽井小隊は南州第一プラントの内部へと足を進めた。
『それではメインゲートを封鎖します。どうぞ無事のご帰還を。それから……猟兵様方におかれまして、機密に触れる上でのルールは熟知されているものと存じますが、南州第一プラントの情報が外部に漏れる事は決してありません。この点をくれぐれもお忘れなきよう』
 口元に薄ら笑いを浮かべる結城の通信が終了すると同時に、扉が地面を震わせながらゆっくりと閉じ始めた。やがて扉の隙間から差し込む陽光が消え失せると、周囲の空気は冷たい静寂と闇で満たされた。
 薄暗がりの屋内を照らすのは非常灯の僅かな光量のみ。今現在猟兵達と白羽井小隊が立つ玄関口と言える広い空間の先には、地下階層へ向かう緩やかな傾斜のスロープがある。
『……猟兵の方々、参りましょう。フェザー01より各位、警戒を厳になさい! 敵が潜んでいる事を失念しないように!』
 白羽井小隊のイカルガ達がそれぞれにサーチライトを起動して進む先を白に照らす。目眩しにすら使われるほどに強烈な光量を誇る照明の筈だが、中途半端に闇が濃い施設内部においては心なしか頼りない。

●闇探り
 南州第一プラントの内部への進入に成功した事で漸く任務が始まった。
 初手で成すべきは第一層の現況調査。
 施設の損壊状況や敵性存在の有無など知り得る情報は様々だ。歩き回るだけでも過去に起きた戦闘の記憶が否応無しに目に付くだろう。
 更に深みへと踏み込めば、機密の裏に秘匿された事実が見つかるかも知れないし、見つからないかも知れない。
 この薄い暗闇の中で猟兵達は何を見て何を知り何を思うのか。答えは己が選んだ行動によってのみもたらされる。
フレスベルク・メリアグレース
さて……薄暗いモノがあるとは思っていましたが、どうなる事でしょう
仮にも条約に印を押している以上リークはできませんが……
……あの大佐、どうも得体が知れない
下手な腹芸は危険ですか

UCで召喚したドローンを通常の機体と偽装し、未来予測の力を使って施設の各情報を蒐集し解析を行う
そうですね、調べるなら『南州第一プラントが運用するプラントの情報記録』等ですかね
……オブリビオンプラントであると知っていて運用していたという結果が出ない事を願いましょうか

情報収集を終えた後、白羽井小隊と合流して話を聞く
服薬による体の影響がないかを秘かにドローンを介して分析する事で確かめ
、日乃和に対するわたくしの方針を決めていきます



●教皇の探り手
 薄緑色の発光が壁伝いに連なっている。非常灯は足下を辛うじて照らす程度の光量しか放っていない。しかも戦闘の影響で破損している物も多く、機能していなかったり故障して不規則な明滅を繰り返している物もある。非常時に頼りにするべき筈の照明だが、冷たく張り詰めた地下の薄暗がりにおいては、むしろ闇の深さを一層際立てているようにさえ見えた。
 地下墓地と化した南州第一プラントの調査に踏み込んだ各々はサーチライトや暗視装置などで視界を確保し闇へと対処している。だが中には外付けの対処手段を必要としない機体が存在した。フレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)の神騎、ノインツェーンがその内の一機に含まれている。何せ機体そのものが言葉通りの意味で威光を放っているのだから。
 胸部に埋め込まれた菱形の結晶構造体と背を巡る聖印の循環輪から生じる光を、磨き込まれた白と金の装甲が反射して周囲を強かに照らしていた。遠目からでも十分に視認出来るほどの光量だった。
「薄暗いモノがあるとは思っていましたが……」
 ノインツェーンのコクピットの中でフレスベルクが闇を睥睨する。意識の中で探っていたものは、施設内部の如く底知れない葵結城大佐の腹積りだった。
 フレスベルクはかつての南州第二プラントでの作戦終了後、大鳳の甲板上で言葉を交わした彼女を思い返す。散々人の清濁を見知って来た教皇の直感はあの時既に反応の兆しを見せていた。得体が掴めない薄ら笑いが容易く浮かぶ。
「下手な腹芸は危険ですか」
 人知れず己に聞かせる言葉が溢れる。今回の任務では南州第一プラント以外にも探りを入れるべきものが現れた。だが、今優先されるべき神命は履き違えない。メリアグレースは翡翠の双眸を薄めると、唇を開き厳かに神託を謳う。
「展開せよ、我が白き機械天使。識した全てを以て宣託を作り上げるは未来をその瞳に映す為。故に万象を読み解きし我に敵う者無しと知れ」
 フレスベルクの動きに合わせてノインツェーンが両腕部を宙に翳す。搭乗者と機体のそれぞれの両腕に展開された眩い光輪が更に広がり拡散、闇に霧散すると甲冑の機械騎士が現じた。知る者が見ればすぐに気付いただろう。かつて銀河の覇を賭けた戦いの際、猟兵達の前に立ち塞がり、時にグリードオーシャンではカルロスに力を利用されたもの、白騎士ディアブロを模した無人機だと。
 フレスベルクの光術は闇を照らすだけに留まらない。時に目を欺く技巧さえ見せる。召喚した白騎士を瞬時に当たり障りの無い通常のキャバリアに偽装させる。これからの行いに外観は関わりを及ぼさない。必要なのは白騎士が有する未来視の力だった。ノインツェーンが腕の挙動だけで神命を下すと、通常機に偽装した白騎士は、比較的損壊の少ない近場の端末よりプラント内のネットワークへとアクセスを試みる。
「予見が的中しない事を願いますが、真実を見過ごすつもりもありません」
 フレスベルクにはひとつの心当たりとも懸念とも呼べる思案があった。このプラントがオブリビオンプラントであり、尚且つ既知の上で運用されていたのではないか。あくまでも猟兵として活動を続けていた中で得た経験則を元とする予感ではあるが、得てして神子代理の勘というものは思わぬ冴えを見せる場面も少なくない。
 白騎士が未来視を応用してネットワーク内への侵入を成功させ、引き出せる限りの情報を引き出す。回線を遡るだけでは情報が最も蓄積されているであろうメインサーバーには至らなかった。だが断片的な資料は数多く回収出来た。
「戦闘の後という事もあり、やはり回線が寸断されている箇所が多く見られるようですね。ですが……」
 フレスベルクの眼差しがコクピット内のモニター上を流れる文字列を追い掛ける。殆どが破損データと化しており重要な手掛かりは掴めないようにも思われた矢先、唐突に目付きが鋭さを増した。
「キャバリアの生産記録……この数は尋常とは言い難いですね」
 プラントの運用記録の項目に付随していた幾つかの数字。キャバリアの生産実績を示している項目に、桁外れの額が並んでいた。
「記載されている値は生産台数のみで、生産された具体的な機種や時期の情報は抜け落ちていますか。単純に陥落前はキャバリアの一大生産拠点だったのでしょうか? それとも……」
 抱いていた予感が鼓動を刻み始めた。脳を思考が巡る。すると視界の隅を白い閃光が擦過した。センサーの防眩機能が働いたとはいえそれなりの光量だ。フレスベルクの視線が反射的に発光の先を追うと、ノインツェーンの頭部が搭乗者の動きを忠実にトレースする。モニターに映り込んだのは曇天色の機体、白羽井小隊のイカルガだった。
「お久しぶりです、御壮健な様子で何よりです」
『その機体、その声、メリアグレース聖教皇国の……再びお会い出来て光栄ですわ』
 フレスベルクのたおやかな声音とは対照的に那琴の発声はどこか張り詰めている。フレスベルクは偽装中の白騎士を伴ってノインツェーンをイカルガに歩み寄らせると直接接触回線を繋ぎ、緊張を解きほぐすようにして穏やかに微笑み掛ける。モニター上に表示されたサブウィンドウを介して、双方の姿が中継表示されていた。
『愛宕連山では大変ご面倒をお掛け致しました。今わたくしたちが此処に立っていられるのも、あの時救いの手を差し伸べてくださったお陰ですわ』
「貴女達のような子女が在るままに営みを続けられる……その為に万事を取り計らうのが我らの教義です。どうか恐縮なさらないでください」
 取り留めのない会話の隙にフレスベルクが偽装白騎士に視線を流す。すると白騎士はノインツェーンを経由してイカルガのシステムに密かに侵入、更に遡り搭乗者のパイロットスーツまでに浸透した。
 狙いは日乃和軍で運用され始めた戦術薬剤の調査だった。服薬による作用と副作用、身体への影響度に簡略ながら探りの手を入れる。
「そうですか、確かに看過するには些か重いですね」
 フレスベルクが那琴との会話に織り交ぜた言葉には二重の意味が含まれていた。
 白羽井小隊が服用している、厳密には服用を強制義務化されている薬剤の成分分析を見るに、10代半ばに達した少年少女に服薬させるものとしては劇薬と解釈し難くもないものだった。
 薬の正体をフレスベルクは典型的な戦術薬剤だと結論付けた。脳の働きに作用し、集中力を始めとしたパイロットに要求される様々な感覚器官を増幅し感情の振れ幅を抑え込む。代償として薬効喪失後は自律神経の失調を筆頭として心身共に様々な悪影響を及ぼし、体質によっては極端な興奮作用を継続して誘引する。そして強い依存性を有している。
 判明した範囲で那琴の身体の影響と言えば、依存性が既にかなり進行している点だろうか。履歴を見れば微量な強制投与が短くて数秒、長くて数分置きに繰り返されていた。偽装白騎士が解析した結果によれば、パイロットスーツが投薬の必要の有無を常時自動で判断しているらしい。戦術薬剤の副作用で不安定になった精神を戦術薬剤で抑制しているのだ。
「……一千一万の少年少女が戦場に送られ、戦いの中で薬物浸けになっているという訳ですか」
 決して他者の耳に入らない小声でフレスベルクが呟く。那琴他白羽井小隊には気取られないよう、穏やかな表情を変えずに頷きで相槌を返す。
 人知れず進められた日乃和軍への調査。フレスベルクの思惟の方針は果たして何処へ向くのか。メリアグレース第十六代教皇は、ノインツェーンのように黙して語らなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シル・ウィンディア
プラントの調査か…
一連の事件を考えたら、出るだろうなぁ、あの気持ち悪いの
気を付けていこうっと

アルジェント・リーゼの武装は近接パックで
実剣・小型シールド・ビームブーメラン・腕部三連マシンキャノンのセットと固定の頭部ビームバルカン。
狭いところならこれかな?

サーチライトを借りて確認しつつ
シルフィード・チェイサーで周りを探索だね

シルフィード、あなたはわたしと逆方向へ移動して?
目標はキャバリアの残骸だね

さて、それじゃわたしは…
センサーで何か潜んでないかも確認しつつ、キャバリアに乗って調査だね
大まかに見て何もなかったら、キャバリアから降りて詳細に調べるよ

人の目で見てわかることもあると思うしね?



●青風の探り手
「プラントの調査かー……」
 リニアシートに背を預けて斜め上に視線を向けるシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)の表情は、漏れた言葉と同じく些か憂鬱気味だった。
 この任務を斡旋された際に日乃和、南州、プラントと並ぶキーワードを聞いて真っ先に思い浮かんだのはこれまで幾度も戦った人喰いキャバリアの姿だ。
「一連の事件を考えたら、出るだろうなぁ……出ないわけないもんねぇ……」
 モニターの角に追いやられている円形の三次元レーダーをちらりと見遣る。友軍以外の反応はまだ無い。だがしかしシルには殆ど確信に近い嫌な予感があった。この闇のどこかに絶対にあの気持ち悪いのが待ち構えていると。
「別にめちゃくちゃ手強いってわけじゃないんだけど、とにかく気持ち悪いんだよねぇ……あのジャイアントキャバリアだかなんだかわからないの」
 シルの頭の中で愛宕連山や南州第二プラントでの戦いが思い起こされる。生体部品をふんだんに使用したキャバリアが無数に沸いて来る光景。しかもそれらのいずれも例外なくコクピットばかりを執拗に狙っている。手強いかどうかは別として、シルにとってはこれで嫌悪感を抱かずにいろと言われれば無理な話しである。
「まぁ油断しなければ大丈夫。気を付けていこうっと」
 シルの警戒は既に有言実行されていた。ブルー・リーゼを改めアルジェント・リーゼにはプラント施設内での戦闘に最適化されたアセンブリセッティングが施されている。
 実体剣のゼフィール、小型シールドとそこに内蔵されているワイヤーガンに加えてビームブーメランのエトワール・フィランド、更にマシンキャノンと頭部バルカンという手狭な戦闘環境でも取り回しが容易な兵装群を備えているのだ。これならば武器の引っ掛かりというニアミスを避け易い。更に比較的軽量な武器であるため機体挙動が軽快でもある。高速機のアルジェント・リーゼにとっても相性は良好だろう。
「うーん、今のところは何もないかな?」
 アルジェント・リーゼのシールドにマウントしたサーチライトを交差路の左右に向ければ、光が闇を裂いて突き当たりの壁を照らす。通路には日乃和軍のキャバリアと思しき残骸が無造作に散乱していた。ふと右と左のどちらに進むべきか思案したシルは、こういった状況で有効なユーベルコードの存在を思い出した。
「あぁ、シルフィードに頼めば……風の精霊よっ!」
 アルジェント・リーゼがマニュピレーターを握り、腕を横に振り切りながら開けば風の精霊たるシルフィードが喚び出された。
「わたしはこっち行くからあっちの方よろしく。良い感じに残ってるキャバリアの残骸とか、変なもの見付けたら教えてね」
 了解の意を伝えたつもりなのか、シルフィードは宙でくるりと一回転すると通路の先へと消えて行った。この召喚された風の精霊とシルは五感を共有している。何かを発見出来ればすぐに分かるだろう。
「センサーも今のところ反応無しかぁ、なんだか返って気味悪いなぁ……」
 嵐の前の静けさを予感しながら、シルは左右の操縦桿を緩やかに前に押し込む。アルジェント・リーゼが歩を進めれば無音の薄暗い通路にキャバリアの硬質な足音だけが響く。
 気配と言えば友軍の動きのみ。だがシルに油断は無い。アルジェント・リーゼはミトラ・ユーズを即射撃姿勢で構えたまま前進し続けている。
「え……なにこれ」
 不意にアルジェント・リーゼの歩行が停止した。コクピット内ではシルが表情を強張らせたまま固まっている。眼前には残骸と深く広がる薄暗がりしかない。シルの思考を止めさせた理由は、シルフィードが発見したものにあった。五感を共有しているため視覚に直接投影されたのだ。
「ちょっと待って、なんで?」
 シルは機体を反転させスラスターを起動すると、シルフィードの所在地へと急行する。到着には十数秒と掛からなかった。
 シルフィードが探索していた場所は中規模程度の部屋だった。破壊されてはいるものの、機材などの様子からして研究棟らしい。
 アルジェント・リーゼが膝を付いた駐機体制を取ると、開放されたコクピットハッチよりシルが飛び出してきた。早く来てくれと促すシルフィードにシルが駆け寄る。
「なんでカプセルの中に……エヴォルグが?」
 シルフィードが発見したものとは、床に転がる保育器のような何かだった。大きさはおおよそ2メートル程度。そしてその内部には、エヴォルグ量産機によく似た生体キャバリアが蹲っていたのだ。カプセルには太い鉄柱が突き刺さっており、内部のエヴォルグも貫通している。レーダーも生体反応を感知しなかった点から察するに、もう生きてはいまい。見た目としてもかなり風化が進んでいるようだ。
「なんかちっちゃくない? エヴォルグの幼体? というかなんでこんな状況?」
 目の前の状況にシルの思考は冷静に混乱するという矛盾を起こしていた。幾つもの疑問が次々に浮かぶ。シルフィードも一緒に混乱しているようだ。
「……ひょっとしてわたし、とんでもなく面倒なもの見付けちゃった?」
 シルは嫌な汗が額を伝う感覚を覚えた。シルフィードとこれはどうしたものかと顔を見合わせる。
 南州第一プラント内部でシルが最初の発見者となった不可解な状況のエヴォルグ量産機。これがどのような意味を持つのか、後の然るべき時に明かされる事となるだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

露木・鬼燈
まずは調査からなのですね。
熟達の忍びの調査能力を見せてやるですよ!
今回はキャバリアからデータログを回収するですよ。
秘伝忍法<海渡>
物理的に破損しているのでなければこれ一つでおーけ。
エネルギー不足で電子機器が動いてないだけならイケるイケる!
足りないなら外部から供給してやればいいのです。
でも機体の状態が悪いので動くのはごく短時間だけっぽい。
まぁ、そこはUCの圧倒的な性能で一気に引っこ抜けばへーき。
とゆーことで、エネルギー供給のためにキャバリアでいこうか。
アポイタカラ、出撃するっぽい!

…遺体の回収はできないから位置データだけでも記録しておこう。
これがあれば回収してくれるはずなのです。



●羅刹の探り手
 人魂の如し薄く灯る緑の非常灯。壁に沿って連なる様子は、暗く冷たい気配と相まってさながら冥府への道筋を醸し出していた。
 鉄の壁面は紛れもなく人工物だが、異界を彷彿とさせる空間から生者の気配を察し取るのは難しい。動体と言えば探索者達か、まだ影も現さない人ならざる異形の機動兵器群だろう。
 だが露木・鬼燈(竜喰・f01316)が手繰る赤鉄の鬼、アポイタカラは、深淵を何食わぬ様子で歩き進む。ぼんやりと灯る非常灯に照らされた装甲は血染めの艶を照らし返し、場面と合わさって人喰いの悪鬼羅刹が地下墓地を彷徨い歩いている様子にすら見えた。
「荒れに荒れてアレアレっぽい。まずは調査からなのですよ」
 アポイタカラの胸中の核に座を構える鬼燈の様子からは、寒々とした闇への畏怖は見受けられない。化身忍者を生業とする者として、闇はむしろ我が身に纏う外套であり潜む淵なのだろう。
 かつて夥しい犠牲者を飲み込んだ南州第一プラントの地下施設を進めば、嫌でもキャバリアの骸が目に付く。その骸に鬼燈は予め調査の当たりを付けていた。
「さてさて、今回はキャバリアからデータログを回収しましょー」
 忍の真髄とは忍殺のみにあらず。環境の変化や研ぎ澄まされた五感を元に隠された物証を見抜く斥候でもあるのだ。
 放置されたままの鉄塊の骸の前でアポイタカラが跪く。身を屈めて食い破られたオーバーフレームを覗き込めばツインアイタイプのセンサーカメラに紫炎の光が流れる。
「んー、これはダメっぽい。中身がめっちゃくちゃなのですよ」
 コクピットブロックは損壊が著しく、殆ど原形を留めていなかった。センサーカメラの光を反射した内部の壁面には赤黒い染みがこびり付いていた。鬼燈は機体を起こすと他の骸に目星を付けては再度同じように内部を覗き込んだ。多くの骸は同じくコクピットブロックばかりが大きく破壊されている。中には風化した人体と思しき物体が放置されているものも存在した。
「お、お? これはこれは? 行けるっぽい?」
 何機目かの骸を覗き込んだ際に、漸く状態がまだ悪くないと言えるものを発見した。破損こそしているがコンソールパネルは原形を留めているし、アクセスポイントとなる端子が残っている。データログの引き出しが可能だろう。鬼燈はアポイタカラをキャバリアの残骸に直接接触させ外部からの再起動を試みた。しかし起動する気配が無い。
「あれま、動力が通ってないっぽい。それなら……」
 伸ばしたケーブルをアクセスポイントに繋ぎ、一時的にアポイタカラから電力を供給する。動力炉に損傷を受けている様子からして短時間の起動に限定されるだろうが、そこには鬼燈の策があった。
「よしよし、成功成功」
 制御システムの起動に必要最低限の電力が回り切ると、残骸と化したキャバリアのコンソールパネルに光が灯った。だがやはり大破しているだけあって出だしから挙動が不安定だ。
「おっとと、まだ落ちちゃだめなのですよ。秘伝忍法、海渡!」
 鬼燈が作り出したハッキングプログラムがアポイタカラを介してキャバリアの電子の海を渡る。複雑難解な手段は要らない。電脳空間に生成した鬼燈の分身体が走る切る撃つなどといった直感的な動きで防壁を突破するのだ。
 難なく侵入に成功した鬼燈の電子分身体は図書館染みた大部屋に辿り着く。主幹情報記憶装置を視覚で認識し易いように映像変換されている光景だった。大部屋は壁や柱が崩れ落ち、破れた書籍が散乱している。今にも崩れてしまいそうな有様だ。
「あんまり長く保たないっぽいし、ささっとお持ち帰りするですよ」
 鬼燈の電子分身体が書籍を片っ端から掻き集めて背追い込む。粗方を収集し終えたのと図書館が崩壊を始めたのはほぼ同時期だった。
「限界っぽい! これにて御免! どろん!」
 崩れ落ちる図書館から、書籍の山を背負った鬼燈が煙の如く姿を消した。電脳空間の外側では一時の蘇生を受けたキャバリアが遂に力尽き、そして二度と目を覚ます事は無かった。
「まー、これだけあれば十分でしょー」
 アポイタカラのコクピット内で鬼燈が成果を確認しながら頷く。モニター上のサブウィンドウの向こうではデフォルメされた鬼燈の電子分身体が手を振っていた。
「どーれどれ、中身をご拝見!」
 鬼燈の電子分身体が背負った書籍の山をばら撒く。するとモニター上に無数のサブウィンドウが展開された。サブウィンドウには雑多な文字列や映像記録などが流れている。それらを精査する鬼燈の瞳が上下左右に忙しく動き回り始めた。
「お? なんかみょーですねー」
 鬼燈の目を止めたのは機体の行動ログだった。メインシステム起動から被撃墜後のセーフモード移行までが記録されている。記録の内容自体に不審な箇所は見られなかった。問題は記録の日付にあった。
「第一と第二プラントの奪還作戦よりもずっと前っぽい?」
 暫し腕を組んで鬼燈は思考を回転させる。
 このログを抽出した機体は、どうやら前回の南州第一プラント奪還作戦時に撃墜されたものでは無いようだ。それよりも一年近く前に既に撃墜されていたと思われる。となれば南州第一プラントが敵の手に落ちた時期だと考えるのが自然なのだろうが、妙な引っ掛かりを覚えた。
 更に詳しい状況を確認したいところではあったが、データの欠損が著しく引っ掛かりを解く有力な記録は得られなかった。鬼燈はいつまでも立ち止まっている訳にもいかないと思案を打ち切り、得られたログを大鳳に送り付ける用意をする。
「……これもおまけしておこう」
 日乃和軍から提供された三次元地図の仮想モデルを呼び出し、探索経路上に印を打ち込む。それらは先ほど発見したキャバリアの残骸が放置されている箇所と一致していた。
 鬼燈の指がコンソールパネルを叩くと、先ほど入手したログに含まれていた映像記録が出力された。内容はエヴォルグ量産機と交戦中のシーン。日乃和軍のキャバリアの視点映像だった。
『駄目だ! なんとしてもこの化け物を食い止めろ! こいつらを絶対に外に出すな!』
 直後画面全体にエヴォルグ量産機のアップが表示され、以降の映像はブラックアウトしている。つまるところ搭乗者は任務を遂行して殉じたのだろう。
「位置データを付けておいたから、これで回収してもらえるはず。最期までお勤めごくろーさまでした」
 印付きのマップデータを大鳳へと送信すると鬼燈は再びアポイタカラを立ち上がらせて、闇の深みへと探索の脚を進める。
 覗き込んだ残骸の内、コクピットブロックにはまだ搭乗者が捨て置かれているものがあった。鬼燈はそれらの位置を予め記録していたのだ。
 好きに生き、好きに戦い、理不尽に死ぬ。そんな鬼燈が弔う者無き兵の亡骸に何を見出したのか。当人を含め敢えて語る者はいない。
 薄暗がりの地下施設を赤鉄の鬼が往く。不意にその足が止まった。
「ん? あれ? さっきの映像、外に出すなって言ってた?」
 振り向いた背後には進む先と同様、濃い深淵が滲んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
白羽井小隊各機
私は機体から降りスカウト(斥候)として先行します
自動操縦で鈍いロシナンテⅣのお守りを願いますね
壊したら弁償してもらいますよ(冗句)

良く機体を御せていました
彼女達に負けてはいられませんね

マルチセンサーと偵察機械妖精の情報収集
脚部スラスターの推力移動
障害物取り除く怪力と爆発物の破壊工作知識
ゲートロック解除のシステムハッキング

小回りと馬力
精密作業適性活かし調査隊進路を確保

平和式典テロ首謀者の生死を闇に葬り、更なる流血防ぐ…
“そうした”事に私も手を染めている以上、何も言いますまい

ですが
彼女ら…仲間の帰還確率を上げる為
この地の機密を調べるといたしましょう

それだけは騎士として正しい筈なのです



●騎士の探り手
 キャバリアの活動を前提に設計された南州第一プラントの地下施設。かつては大規模な生産拠点であったのであろうが、今は戦禍の跡を黙して語る鋼鉄の骸が転がるばかりの墳墓と化していた。
 鉄の壁に備え付けられた非常灯が導く搬入路を、白羽井小隊の機体が教則書通りの隊列を形成して進む。やや距離を離した傍らを、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)のキャバリア、ロシナンテⅣが付随する格好で並走していた。騎士型の見た目宜しく警戒は堅い。大型の実体盾を前面に向けながら背面の副腕がライフルを即射撃可能な体勢で身構えている。ライフルのレイルマウントにはサーチライトが搭載されていた。
「さて、現況は安定していますが……」
 トリテレイアは視界の横の白羽井小隊達に意識を傾けた。同じ道順を辿るようになってからというもの、彼女達の視線が幾度も向けられている。何か話したい事があるのだろうが、愛宕連山の際とは異なり上官の目があるため迂闊に私語を発せられないのかも知れない。正規の軍務とは本来そういうものだと機械騎士たるトリテレイアは既知していた。とは言えそれが集中力を欠く要因になってはならない。人の感情の揺らぎを知り、望む望まないはさて置き自己もまた情を得てしまっている以上、無視し難い要素でもあった。
「……良く機体を御せていました」
『えっ?』
 無言で進行し続けていた矢先の唐突な通信に、那琴が反射的に戸惑う。トリテレイアにとっては予想通りであった。
「駐機状態から立ち上げ、今の歩行に至るまで、機体へ負荷を及ぼさないしなやかな挙動です。隊列の乱れも少ない。藤宮市で別れたあの日以降も鍛錬を積み上げて来たのでしょう」
 向こうから話し掛けられない事情があるのなら、こちらから話し掛けて口実を与えてやればいい。細やかな駆け引きを仕掛けたトリテレイアの発する合成音声は至って穏やかな抑揚だった。
『騎士の方……お褒めに預かり光栄ですわ。愛宕連山から藤宮市での一連では、大変お世話になりました。お陰様で仰られる通りに鍛錬を積む日々を送る事が叶いましたわ』
 通信を切掛としてフェザー01こと那琴は黙々と任務に当たっていた先程と打って変わって饒舌に喋り出す。簡易的だが解析した音声の内容から得られた緊張感は薄い。取り敢えず注意力が散漫する状態は解けたようだとトリテレイアは結論付けた。白羽井小隊の上官で、状況を常に監視している筈の結城からお咎めが飛んでくる気配も無い。細事と受け止められたか、軍規に緩い類の人間か、猟兵のやる事に口を挟むつもりがないのか、いずれにせよ彼女達への監視の目を過度に考慮する必要はなさそうだ。
「そうですか、ならばお任せしてもよろしいですね?」
『お任せ? 何をですの?』
 疑問符を浮かべる那琴達を他所にトリテレイアはロシナンテⅣとの機能接続を解除して、通常の機体のコクピットハッチに相当する箇所の外部装甲を展開させた。やや湿り気を帯びた冷たい地下の空気を浴びながら、機体に収まるように伸縮格納されていた四肢が本来のポジションに復帰して行く。
 ウォーマシンのトリテレイアにとってキャバリアの概念は搭乗兵器よりも強化外骨格に近い。自身を機体に格納させる事でシステムとパワー両面の拡充を計っているのだ。
「白羽井小隊各機へ、私は斥候として先行偵察を行います。その間ロシナンテⅣを頼みます」
『はい、了解ですわ……って、えぇ? ちょっとお待ちくださいまし! そんな急なお話しは!』
 突然とんでもないものを押し付けられて戸惑う女学生上がりの新兵を背に、ウォーマシンモードへの移行を完了したトリテレイアは有言した行動を実行に移すべく脚部スラスターに光を点す。
「機体は自動操縦に設定していますのでご心配なく。なお委託中の補修費用はそちらに負担をお願いさせて頂きますので、宜しく」
『お待ちを! あぁもう! またですの!?』
 またかと言われれば藤宮市で似た状況があったと記憶情報を呼び起こす。
 脚部のメインスラスターが生み出す推進力がトリテレイアの機体を僅かに浮き上がらせ、硬質な鉄の床を滑走する。頭部のカメラを含む全身のセンサーが周囲を精査、進む先に転がる残骸との相対距離を算出し自動で運動軌道を導き出す。トリテレイアの足取りは機体重量に相反して非常に軽やかだった。
 目標は調査隊の進路確保。その為には機動性に富み細かな作業が容易なウォーマシンの身の方が都合が良い。
「マップデータ照合……この先が第二層に通じる大ホールですか」
 予め探索の目星を付けていた大部屋の入り口に差し掛かった瞬間、スラスターを使用したバックブーストによる急制動が加わった。入り口前では激しい戦闘があったらしく、施設の一部が崩落して鉄筋や巨大なコンクリート片などが折り重なっていた。
「完全に塞がれていますね。撤去しない事には先に進めない……手荒となりますが、致し方ありません」
 トリテレイアは早速作業に取り掛かる。まずは手近な残骸から着手した。横たわる鉄筋をしっかり抱え込むと、関節駆動系の出力設定を引き上げて力尽くで退かしにかかる。並の人間では動かす事すら困難な重量物だが、作業用重機かそれ以上の出力を発揮可能なトリテレイアには造作も無い。
「こちらの瓦礫は大き過ぎますね。構造体に深くめり込んでいる以上力業で移動させるのは難しい。爆破する他ありませんか」
 鉄筋を退けた後に現れた巨大な瓦礫と暫し睨み合うトリテレイア。重機となって強引に運び出すのは不可能と決定付けたのちに、爆破処理のプランを選択した。
 トリテレイアには要人警護機体として爆発物に関する知識も蓄積されている。それらは専ら解除や解析の類に活用される知識だが、どのように運用すれば最良の結果が得られるかの逆算も可能だった。
「ただし、施設へのダメージは最小限に抑えなければならない。その為には解析が必要ですね。妖精の助力を得るべきでしょう」
 肩部に備わるハードポイントが展開し、内部に格納されていた鈍色の機械妖精達が周囲を舞う。ユーベルコードによって現じた自律式支援端末だ。妖精達は散開し瓦礫の解析を行う。望む結果が得られるまで数分と掛からなかった。
 トリテレイアは同じく追加装備用ハードポイントにマウントしていた高性能プラスチック爆弾を瓦礫の隙間に差し込むようにセットする。いずれも機械妖精が探り当てた爆破ポイントだ。瓦礫を確実に砕きつつも施設への影響は最小限に留められる。セット完了後、妖精達と共に手頃なキャバリアの残骸へと身を隠す。
「起爆」
 短く下した指令通りに爆弾は炸裂、重い振動音と爆風が生じた。だが爆風の威力は土埃を巻き上げるだけに留まっている。想定通りに瓦礫は砕かれ、目指していた大部屋に至る道が現れた。
「計算と実践結果に相違無し……ですが……」
 キャバリアの残骸の影から身を現した機械騎士の様子はどこかうんざりしていた。道は確かに現れたのだが、今度は巨大な隔壁が立ち塞がった。点灯している発光の色が赤い事から察するに、ゲートロックが閉じられているのだろう。力業で開くというオプションは一眼見た時から除外されている。隔壁はあまりにも巨大で分厚過ぎた。
「これを強引に突破するとなると、施設の一区画を崩落させる覚悟が必要となりますね……鍵を開きましょう」
 正攻法での対処に取り組むべく、機械妖精を引き連れ隔壁の端末へ電子介入を開始する。施錠は中々に強固で相応の時間を費やさなければならない気配が強い。
『騎士の方、ご無事でして? そちらから不審な震音がありましたが……』
 作業を開始した直後に白羽井小隊の隊長機から通信が入った。彼女の言う震音とは瓦礫の爆破除去の事なのだろう。
「ご心配なく、道を拓いただけですので」
 片手間に返答するトリテレイア。
『なら良いのですけれど……ご注意なさってくださいませ。何が隠れているのか、知れたところではありませんのよ』
「何が隠れているのか知れたところではない……ですか」
 機士は緩慢に言葉を反芻する。
 確かにここは何が隠されているのか知れたものではない。ここだけではなく、あの大佐も日乃和も。恐らくは国を保たせるために多くの血と穢れを浴びているのだろう。より多くの出血を防ぐために。
 その点で言えば自身も同じだった。某国で執り行われた平和式典、それに乗じたテロの首謀者の生死を歴史の狭間に追い落とした。
「誰しも身綺麗なまま戦い続ける事は叶わない。常々承知してはいますが……」
 日乃和の暗部が如何に深い淵であろうと、糾弾する言葉を並べ立てはしない。少なくとも今は。
 そういった事態に手を染めた自己のように、せざるを得ない、他に選択肢が無い瀬戸際に追い詰められたのだろう。戦う理由と死ぬ理由に情と合理の矛盾は影のように付き纏う。誰も逃れられない。
「眼の前だけを見据えて、断ち切るしかありません。支払った代償が無意味でない事を証明するために、命を繋ぐために……それだけは正道の筈なのです」
 騎士として。電子の思考の内で呟いた言葉だったが、意図せず直の音声として出力されていた事実を認識するのに那琴の声が必要となった。機械として起こり難い状況だが、自ら狂気と称する思惟を有するに至ったトリテレイアだからこその不具合なのだろう。だが狂気こそがトリテレイアを己たらしめている因子である以上、本当に不具合と呼べるのか定かではないが。
『騎士の方……?』
「第二層へ続く経路のゲートロックを解除しました。座標データを送ります」
 硬く閉ざされていた障壁が左右に開く。汝、心の儘に振る舞えとはどの剣に刻み込まれた銘だったであろうか。機械騎士は誰かの為に成すべきと選定した事を成し、戦い続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガイ・レックウ
【SPD】で判定
『どうも、きなくさいな……』
愛機スター・インパルスの中で一人呟くと周囲を警戒しながら進んでいくぜ。
途中端末などは【ハッキング】で【情報収集】しながら進んでいく
『嫌な予感が当たってくれるなよ…?』



●流浪の探り手
「どうもキナ臭いな……」
 静寂なる地下の深淵を進む特空機1型スターインパルス。そのコクピットの中でガイ・レックウ(明日切り開く流浪人・f01997)は言葉を零す。赤い瞳の眼光は鋭く冴え、スターインパルスのセンサーが捉えて出力した測定結果を厳に監視している。脳裏に浮かぶのはプラント侵入前に見た葵結城の表情だった。
「あのにやけ顔の大佐、絶対何か知ってやがるな。まぁ美人にゃ秘密が多いなんて言うが……」
 お互い秘密が命取りにならなければ良いのだが。機体を壁沿いに寄せて死角を減らしつつ、試製電磁機関砲を構えたまま慎重に進む。背後の確認も怠らない。機体は正面を向いているが、モニターに表示されているサブウィンドウ上で常に後方を確認し続けている。エヴォルグと思しき残骸を見付ければシラヌイを突き立てて機能停止状態である事を実証する。ガイの振る舞いは警戒が服を着て歩いているようなものだった。
 やがて交差路に辿り着くと、次なる進路を選ぶ為にマップデータを呼び出した。作戦開始時に日乃和軍から提供されたものだ。
「右に行けば研究棟か。何か隠してて教えるつもりが無いってなら、自分で探るしかないよなぁ?」
 第一層内に幾つか存在している研究棟のひとつが近場にある。不穏な気配に白黒を付けるためにも研究棟に乗り込み探りを入れる道を選択した。
 目当ての研究棟までは特に滞りなく到達出来た。しかし問題は研究棟の状態にあった。戦闘による破壊が著しく、機材から何かに至るまでが悉く失われてしまっている。辛うじて原型を留めているカプセル型の培養槽と思わしきものが幾つか転がっていたが、中身は空だった。
「何かしら入っていたんだろうが……嫌な予感がするな」
 ここでどのような研究が行われていたのかを調べておく必要がある。そう思い立ったガイはアクセス可能な端末を捜索する。崩れ落ちた天井板をスターインパルスが撤去すると、まだ損壊状態が少ない端末が影に隠れていた。
「こいつは使えるか?」
 不意の敵襲を警戒してスターインパルスから完全な降機はしない。機体を屈めるとコクピットハッチを解放し機体のコンソールと発見した端末を有線接続する。ガイはいつでも戦闘体制に移行出来る様に情報収集はスターインパルスのコクピット内で完結させるつもりであった。
「さて、藪をつついて蛇が出るか虎が出るか」
 電子介入を開始し、端末に残されたデータを吸い上げる。破損ないし断片化されたデータが大半を占めていた。やはり都合よく見付かりはしないかと諦めかけていた矢先、ガイの目を射止める四つの文字が流れた。
「制御不能? 何をだ?」
 意味不明な文字の羅列と化していた資料の中で辛うじて読み取れた制御不能の四文字。前後の文脈を探ろうとしたが、他の記録は損壊しており真意を探る事は叶わなかった。
「何が制御不能になったのか知らないが、これはますますキナ臭くなってきたな……」
 恐らく南州第一プラントは単なるエネルギーインゴット生産拠点では済まされない。ガイは入手した情報を前にして眉間に深い皺を寄せる。
「藪をつついてとんでもないモノを引き当てちまったか?」
 ガイの胸中で膨れ上がっていた予感は更なる肥大化の兆しを見せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャナミア・サニー
報酬がいいと聞いたらじっとしてられなかったんだよねー
ちょっとキナ臭いのはまぁ気にしておくよ
別に私は正義の味方じゃないし
でも行かないのはナシだね
私の勘がそう言ってる

とは言え、なー
調査とか得意じゃないんだ
ってことでレッド・ドラグナーに乗って
白羽井小隊の護衛につくとしよう
一応、【メインウェポン・チェンジ】(攻撃力5倍、射程半分チョイス)
スチームエンジン・ハンマーガントレットに換装しておこう
進路上の障害は私に任せてよ
代わりに調査はお願いね?
だってセンサーとかそっちのほうが有能そうだもん
なんで私は第六感と野生の勘の宝探し感覚を大事に
なんか引っかかったら調査を申し出よう
なんか出るといいなー……変な敵以外で



●赤竜の探り手
 数多の死者を飲み込んだ魔窟、南州第一プラント。地下深くに伸びる影の冥洞を元白羽井学園の子女達が戦列を成して進む。サーチライトに照らされたイカルガ集団の前方には先行するキャバリアの姿があった。
「本当は調査とか得意じゃないんだ。とは言え、なー」
 シャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)はレッド・ドラグナーのリニアシートに背を沈めながらミッションブリーフィングの内容を思い返していた。
 胡散臭い概要説明よりも気を惹かれたのは報酬額。正規戦闘が前提とされない調査任務にも関わらず十分過ぎる桁が提示されていた。
「あんなのを見せられたらじっとしてられなかったけど、半分は口止め料だったんだろうね」
 大きな褒賞には大きな危険が付き纏う。念入りな機密保持要求も不審だ。恐らくは国ぐるみで後ろめたい秘密を抱え込んでいるのだろう。シャナミアの直感はそう告げていた。
「……でも行かないのはそれはそれでナシ。まぁこんなお時勢だし、どこでも隠し事のひとつやふたつ持ってるしね」
 特に正義の味方を名乗るつもりも無い。余程でも無い限り払うものが払われるのなら仕事をこなすだけと内心で呟いた時、正面の進行方向をを照らすサーチライトが大きな構造物を薄暗闇に浮かび上がらせた。崩落した天井板と壁面のようだ。通路の中央で瓦礫が三重に折り重なって行手を阻んでいる。
 瓦礫の前でレッド・ドラグナーが立ち止まっていると、後方を進むイカルガ達が追い付いてきた。
『これは通れそうにありませんわね。迂回して別なルートを……』
「いや、この位なら大丈夫。壊せるでしょ」
 踵を返そうとした那琴の言葉をシャナミアが遮る。
『ですが、中々の大物に見えましてよ? 壊すとなると二次被害もあるのでは?』
「私に任せて。ちょっと下がっててくれる?」
 イカルガ達は互いに顔を見合わせると、渋々といった様子で後退を開始した。一方のシャナミアは行手を阻む瓦礫の撤去作業に取り掛かっていた。
「お嬢様の言ってる通り、迂闊にハイパワーな武器で吹っ飛ばすのはリスクが高すぎる……だからハンマーガントレット一択かな。メインウェポン・チェンジ」
 シャナミアが短く発した言葉を受けて、レッド・ドラグナーが両腕を天井へ向けて突き上げる。合体とも形容するべきそれは瞬時に生じた。前腕を丸ごと覆い隠す籠手型近接兵装がユーベルコードによって呼び起こされ、即座に換装装着を完了する。
「蒸気圧縮率は五倍、パワーベクトルを絞って……こんな具合かな?」
 瓦礫の推定質量を参照しながらハンマーガントレットの威力調整を行う。破壊力は最大限、影響範囲は最小限に。籠手の関節駆動部の隙間から白い蒸気が滲み出すのが調整完了の合図となった。
「準備完了! まずは一撃!」
 腰だめに構えた鉄拳が空気を切り裂いて直線に繰り出される。ガントレットが瓦礫に接触した直後、シャナミアはトリガーキーを引く。すると圧縮保持されていた蒸気が急激に解放され、スチームジェットとしてガントレットの排気口より強烈に噴射された。打撃に転換された推進エネルギーが瓦礫を打ちのめして内部にまで達する。重い金属音が地下施設の空気を震え上がらせるのと同時に瓦礫に無数の亀裂が広がった。
「続けて二撃! これで! バラバラ!」
 間を置かずに打ち込まれたもう一方の鉄拳。威力は雷神の戦槌の如し。亀裂を起点として瓦礫は木っ端微塵に粉砕、正面方向へと吹き飛ばされていった。
「ほらね?」
 一仕事終えたと言わんばかりに籠手の埃を払うレッド・ドラグナー。振り返った先では一部始終を見守っていた白羽井小隊の面々が呆気に取られていた。
「どうしたの? 進まないの?」
 動く素振りを見せないイカルガを前にきょとんとした表情でシャナミアが問い掛けると、彼女らは漸く事態を理解し動き始める。
『い、いえ……ご協力に感謝致しますわ。全機前進!』
 障害を取り除き再度進行を開始するレッド・ドラグナーと白羽井小隊。調査に関してシャナミアは白羽井小隊に一任していた。探索で求められるセンサーユニットの性能はイカルガの方が幾らか優秀であろうと見抜いていたからだ。キャバリア工房の跡取り娘故の観察眼によるものなのだろう。しかし、調査の適性とは必ずしも機体の感度で決まるものではない。
「……うん?」
 通路を抜けて中規模のホールに差し掛かった時、シャナミアは一角に意識を惹かれる感触を覚えた。レーダー類に不審な反応が捉えられたわけではない。根拠と言えば直感に依るものだ。
「瓦礫? なんか埋もれてる?」
 天板が落ちてきたのだろう。板状の残骸が何かの上に重なり合っている。破壊処理するまでもなく板を排除すると、破損状態の少ないキャバリアの亡骸が現れた。一瞬変な敵が飛び出してくるかもと警戒心が過ぎったが、幸い杞憂に終わった。
「降ってきた瓦礫に押し潰されたのかな? コクピットは……空っぽか」
 解放されたコクピットハッチをレッド・ドラグナーが覗き込む。内部は食い破られた形跡は無く、ただ人が座していた気配を醸し出すシートが埃を被っているだけだった。
「制御系は生きてる。電力は……お、動くねこれ。ログが抜けるかも? 白羽井小隊に任せよう」
 直感を頼りに予期せず宝を引き当てたシャナミア。機体状態の診断を手早く終えると白羽井小隊を呼び付けてデータの抽出を開始させた。これが一悶着を起こす要因の断片となるのだが、まだ暫し後の話しである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城原・陽
【特務一課】
「久しぶりねフェザー01…いや、東雲那琴って呼んだ方がいい?」
那琴へ挨拶した後に思案
(キリジの妙な予感、当たったかしら。キナ臭いのはどの国も同じだけどこの国はもっと根深い『何か』がある)

秘匿通信>特務一課
『機密保持の為のロック、ですって。聞き様によっちゃいざという時の臭い物への蓋って事よね。その時は派手にやるからそのつもりで』

私達は自国が何をしているか『知っている』
けれども白羽根の彼女らは自国が何をしているか『知らない』
「やっぱ、気に入らないわ。」
その先にあるもの…それを暴けば腹の虫が少しは収まるのかしら

探索方法
赤雷号の複合センサによるサーチ
修羅人の持つ『本能』による危険察知


斑星・夜
【特務一課】
※キャバリア:灰風号搭乗
呼び方…ギバちゃん、キリジちゃん

あっ白羽井小隊の皆だ。久しぶりー!今日もよろしくね~
と手を振って挨拶をしつつ

◇通信に対して
『だねぇ、キリジちゃん!中へ入れない、外へ出さない。何かあったら俺達まとめてって感じかなー
オーケー、ギバちゃん。その時は俺達もサポートするよ。ね、キリジちゃん!』

さて、それじゃ探索だねー
キャバリアや生きている機械の反応がないか、EPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』でハッキング
情報収集しつつ進みます

戦闘の痕跡があれば、自分達が日乃和と協力した際の戦闘知識等から、どんな戦いが行われていたとか、どういう攻撃方法が使われたかも推測していこう


キリジ・グッドウィン
【特務一課】
(ある意味ビンゴというか…自国の資産擦り減らして先延ばしにしてるだけにも見えるがな
白羽井のお嬢さん達もあちこち盥回しにされて…それも忘れそうなレベルで戦闘一つに全神経持っていけるってのはある意味、いややめておくか)

>通信
色々と『失敗』しちまったらオレ等ごと埋めて葬るなりすれば良いんだから楽ではあるが……そこにいるギバが黙ってねえなァ?日乃和の連中も見積もりが甘い。な、マダラ
方針には従う。暴れるなら存分に乗らせてもらうぜ

GW-4700031『(今回のキャバリア名、アドリブで)』搭乗
施設の損壊、戦闘痕の状況から敵が逃げ込みそうな所を探査
しかし地道な調査…こういうのが一番面倒まであるな



●極東の探り手
「久しぶりねフェザー01……いや、東雲那琴って呼んだ方がいい?」
『その機体、貴方がたは……特務一課の……』
 那琴の駆るイカルガが敬礼を返す。天城原・陽(陽光・f31019)達と白羽井小隊の面識は数ヶ月前に繰り広げられた愛宕連山での戦いに遡る。蒼天の霹靂のように突如として救援に現れ、エヴォルグ系列の巨大種を蹴散らした未知の戦闘集団である第三極東都市管理局戦術作戦部、特務一課。鮮やかなでありながら荒々しい戦い振りは白羽井小隊の面々の記憶に強く刻み込まれていた。
「あっ白羽井小隊の皆だ。久しぶりー! 今日もよろしくね~」
 天城原が搭乗する修羅人、赤雷号の影から同じく修羅人系列に連なる機体が身を乗り出して手を振っている。斑星・夜(星灯・f31041)の灰風号だった。
『斑星さん!?』
『ウソ!? お久しぶりですー!』
 通信回線越に斑星の声が聞こえれば、白羽井小隊の一部が黄色い歓声を挙げる。愛宕連山自動車道で起きた一連が原因だろう。直後に任務中なのだからお止しなさいとの嗜めが那琴より入った。すると隊列を崩して駆け寄ろうとしたイカルガ達が渋々といった様子で元のポジションに復帰する。ならばせめての惜しみにと小さく手を振る機体も見られた。
 そんな灰風号と少女達の乗るイカルガを眺めて白い視線を送る機体があった。キリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)のジュディスこと量産型キャバリアGW-4700031だ。
「おうおうマダラ、あんまりおちょくってやりなさんな」
 キリジがやれやれと嘆息するとサーヴィカルストレイナーを介して運動信号が伝播し、ジュディスも同様のモーションを行う。
「しかしまァ、ある意味ビンゴというかな……」
 身を削り延命し続ける政策、キリジにとって彼女らはこの国の縮図にも見えた。使えるものは何でも使い、強行し続けている延命はいずれ必ず限界が来る。
「お嬢さん達もあちこち盥回しにされて……それも忘れそうなレベルで戦闘一つに全神経持っていけるってのはある意味……」
 否、これ以上は語るまい。どうせ戦いの中でしか生きられない身。好きに戦い理不尽に死ぬ。この世界では誰しもが狂戦士に成り得るのだ。キリジの瞳には哀れみとも呆れとも付かない感情が浮かんでいた。
「あーあ、キリジが余計な事言うから」
 地下施設の通路の先に消えつつある白羽井小隊の背後を見送りながら、天城原が通信を発する。特務一課内限定の共有秘匿回線だった。
「あァ? オレがいつ何言ったって?」
「ほら、南州第二の帰り」
 天城原の言葉にキリジが顔をしかめて記憶を辿る。
「そういえばキリジちゃん言ってたねぇ、妙な予感がするって」
 キリジが記憶を引き出すよりも斑星が思い起こす方が早かったようだ。
「そうだったか? んな細かい話し覚えてねェな」
キリジは口を動かしつつも手で作業を行なっている。壁面や破壊されたコンテナなど、キャバリア単機が潜り込めそうな箇所をひとつひとつ丁寧にチェックしクリアリングする。破壊を逃れたエヴォルグが入り込み休眠状態のまま潜んでいるとも限らないからだ。
「しかし地道な作業ってのは面倒だな……」
 ランブルビーストの爪刃が残骸を捉えてひっくり返せばエヴォルグ量産機の同型種と思しき機体が現れた。既に機能は停止しており動く気配は見受けられない。
「キナ臭いのはどの国も同じだけど、この国はそれだけじゃ済まない何かがある……」
 傍らでは天城原の赤雷号がギガントアサルトを構えて警戒態勢を取りながら、マルチコンポジットセンサーによる解析を行なっている。更には赤雷号自らが操手に命じられるまでもなく周囲に気を尖らせていた。これは修羅人ならではの特性と言えるだろう。
「でもって機密保持の為のロック。聞き様によっちゃいざという時の臭い物への蓋って事よね」
 あまりにもあからさま過ぎる日乃和のやり方に天城原は半ば呆れも見せていた。
「色々と失敗しちまったらオレ等ごと埋めて葬るなりすれば良いんだから楽ではあるが……そこにいるギバが黙ってねえなァ?」
「まあね」
 作業の片手間に話すキリジに天城原は短く簡潔に返した。
「日乃和の連中も見積もりが甘い。な、マダラ」
「だねぇ、キリジちゃん! 中へ入れない、外へ出さない。何かあったら俺達まとめてって感じかなー」
 斑星も前者2名と同様に探索任務を遂行している。データアクセスの可能性があり得そうなキャバリアの遺骸や端末などを見付けては灰風号に取り付けられた操縦サポートAI、ねむいのちゃんで接続を試みる。
「うーん、やっぱりデータを取れる機体は少ないかぁ……これだけ壊されてちゃ仕方ないかな」
 しかし僅かながらの情報を入手出来ていた。戦闘で破壊されたキャバリアの半数は元からプラントに配備されていたもののようだ。施設の稼働履歴からは、セントリーガンなどの備わっている防衛設備の情報が引き出せた。
「過去に戦闘が二回起こったみたいだね。日乃和軍視点で最初は防衛次が侵攻かな? でもなーんか違和感あるなぁ」
 南州第一プラントは一度敵の手に落ちその後奪還されたのだから、入手した情報を一見すれば不審な点は見られない。だが斑星の勘は表面の記録の裏側に気付き掛けていた。
「雇い主の方針には従う。けれど腹積りに乗って心中してやる義理は無い。必要な時が来たら派手にやるからそのつもりで」
 周囲のスキャニングを一通り終えた赤雷号が一呼吸置くと、二十二式複合狙撃砲の火口を闇の彼方へと向けた。
「オーケー、ギバちゃん。その時は俺達もサポートするよ。ね、キリジちゃん!」
 灰風号がマウントされていた大型拳銃、ペネトレーターを抜けばマニュピレーターを器用に動かしてくるくると回して見せる。
「契約は守る。だが使い潰しにしていいなんて言った覚えはねェな。暴れるなら存分に乗らせてもらうぜ」
 幾つ目かの瓦礫を退かしたジュディスがゆらりと立ち上がり、ランブルビーストの爪を打ち鳴らす。触れ合った切先からは紫電の火花が迸った。特務一課の方針は固まったようだ。
「それにしても、彼女らは自分たちの国が何してるのか知ってるのかしら?」
 もう姿の見えなくなった白羽井小隊の背に天城原が視線を向ける。合わせて赤雷号の頭部もそちらへと向けられた。
「どうだろう? あの様子じゃ知らないんじゃないかなぁ?」
 闇を見つめる赤雷号の隣に灰風号が並び立つ。
「お嬢様方も所詮は兵隊だ。知っても知らずもお偉方に言われた通りに働くだけだろうがよ」
 キリジのジュディスは相変わらず瓦礫をひっくり返しては壁に走った大きな亀裂を探り続けている。
「まあ、それはそうだけれど」
 天城原は赤雷号のコクピット内で深く息を吐いた。斑星とキリジを含め自分達は自分達が属する国が何をしているのか知っている。知る知らないとは言葉で発する以上に重いものだ。賭ける義務、賭ける責務、賭ける命、それらが何に帰属するのか。白羽井小隊は自分達が何に対しての賭け金となっているのか表面上でしか知り得ていない。
「やっぱ、気に入らないわ」
 意図せず溢れた声。天城原の腹の底で疼く虫は、いま見つめている南州第一プラントの闇を暴けば鳴りを潜めるのだろうか。
「そういやマダラ、ギバ、気付いてたか?」
「うん?」
「なにキリジちゃん?」
 唐突に切り出された通信会話。本人はせっせと地道な捜査を続けている。
「メインゲートの死体の山、ありゃ逃げようとした連中だな。でもなけりゃあんな重なり方はしねェ。外に出ようとしたら扉が閉まって、あるいは閉められて渋滞。その後ろから人喰い共が雪崩れ込んでってところか? おおよそプラント突入部隊なんだろうが……」
「なんで先に言わないのよ」
「今思い出したんだよ」
「えー? じゃあプラントの電気を止めた後、逃げようとしたら閉じ込められちゃったってこと? ひどくない?」
 赤雷号の複合センサーが映す薄暗がりは、益々深淵を色濃く醸し出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
実験施設。いつまでも不得意な響きです
不安が広がりますが、貴方様と同じ様に前を向いて。
「操縦者情報、秘匿。マイクオフ。全て確認済みです、主様」
『しかし……まあいい。一先ずはあの人間達の思惑通りにしてやろう』
私の主様、サイキックキャバリアのラウシュターゼ様に搭乗して参ります

道中は指定UCで蝶の光を漂わせ周囲を照らし、残骸を踏んで妨げとならない為にBX-Bウイングでほんの少し【空中浮遊】して進みます
『折角だ。友軍の小隊とすれ違ったら、軽く手を振ってあげようか
挨拶は大事だからね。どのような反応を見せるかな?』

研究所の区画を中心に作業開始。【瞬間思考力】で設備の情報源の目星を付け、【念動力】で物を動かし必要であれば拾い上げ、解析や閲覧に当たりましょう
「主様。仕分けが完了致しました」
『成程――漏洩させるな、だったか。良いとも、全て覚えて私の胸に”も”納めてあげよう』

結果や導き出される結論があまり酷くない事を祈りますが「これは……。」
『メルメッテ。今のお前が動かすべきは口でも心でもない。手を止めるな』



●従者の探り手
 数多の戦死者達が慰みを掛けられる事もなく沈んだ地下霊廟、南州第一プラント。戦禍の爪痕が著しく、砕かれては剥がれ落ちた人工物の壁面に、連鎖して灯る薄緑色の燈がより深みへの冥道を誘っていた。
 影ばかりが広がり、生者の気配が薄い深淵の世界に胡蝶達が揺蕩う。それらは大であれ小であれ淡く虚な空色の光を放ち、先行く道を照らし出していた。
 胡蝶の群の後を四眼の機動兵器が宙を滑り追走する。闇の淵であっても纏う装甲に巍然な艶を映し出すその機体こそが、メルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)の主君、ラウシュターゼだった。
「鼓動が……聞こえません。なにひとつ。ここは世界が死んでしまっているかのよう……」
 主の四眼を通して見る深淵の世界は冷たく静かだった。ラウシュターゼの胸中に収まり、更にメイド調にデザインされたアンサーウェアを纏っていても尚地肌に寒々とした空気を感じさせる。伝わる音は友軍の立てる歩行音や衝撃音、時折どこからか床を震わせて到達する得体の知れない重音。そしてラウシュターゼを浮遊させている翼状の推進機関、クラングウイング・オクターヴェの稼働音だけだった。
『大それた墓所だな。ここの連中全員分でも不足はあるまい』
 非常灯が照らす薄暗がりに、ラウシュターゼの眼光がぼんやりと浮かび上がる。周囲と行手に舞う胡蝶達が光量を確保しているため視認性は問題ないが、空間全てが織りなして生じる深淵の本質的な暗さは払拭されない。闇に意識を飲み込まれないよう、前後不覚にならないようにしかとメルメッテは前を見据える。胡蝶のように淡い瞳孔は確かに生気を灯していた。
 ふとレーダーが複数の動体を捉えた。位置関係で判断するならば進路上にある交差路で接触するだろう。
「反応、接近中。識別は日乃和軍のものです」
 メルメッテは勤めて職務然とした口調で状況を報告した。
『例の子女連中か。さては蝶の反応を調べに来たな』
 ラウシュターゼが交差路に出ると側面よりサーチライトの光が浴びせられた。予見通りにやはり日乃和軍の白羽井小隊だった。光量確保の手段として展開していたクラングファルベのエネルギー反応を不審なものとして確認しに来たらしい。
『さて、挨拶は大切……なのだろう? メルメッテ』
「仰る通りでございます」
 機密秘匿のため外部への通信手段は予め封印してある。メルメッテの機体制動を受け付けるまでもなくラウシュターゼが異常無しとハンドサインを送る。すると白羽井小隊の隊長らしき機体が了解とのハンドサインを返すと、部隊全機に踵を返させ来た道を戻っていった。
『行儀良く躾られているようだな』
 どこか哀れみ混じりの声音にメルメッテが「お気に召されない点が?」と尋ねると、ラウシュターゼは「さてな」としか答えなかった。
 やがて従者と主は長い通路を進んだ先でゲートに阻まれた。難なく施錠を解除し扉を開くと、大部屋に辿り着いた。ラウシュターゼが腕を払えばメルメッテが喚び起こした胡蝶達が闇を明るみに出すべく一斉に散開する。
 無数に散った想音色の胡蝶が空間全体を照らす。戦闘の残滓で煤汚れても未だ硬い質感の艶を放つ床と壁。散乱する瓦礫の中には、キャバリアが一体丸々収まりそうな棺とも保育器とも付かない培養槽らしきものが多く見られた。
「ここは……実験施設でしょうか」
 直感した時には既に小さく開かれた唇から言葉が勝手に出ていた。メルメッテの奥底に沈んでいた記憶が浮かび上がり始める。
 かつて捕われていた場所、ラウシュターゼに救い出されるより以前の光景が思い起こされる。思考が固まり指先に力が籠る。
『雑音が喧しい。感傷は後にしろ。目の前の責務を果たせ。それとも、フォアシュピールで余計な憂いを忘れさせてやっても良いのだが?』
 ラウシュターゼ・アインクラングを介した不遜な叱責がメルメッテの意識を半ば強制的に引き戻した。
「申し訳ありません、主様。集中が欠けておりました」
 此処ではない、だが此処とそう変わらないであろうあの檻から救い出し、外の世界を見せてくれた主君がいる。その主君に忠を尽くす事が己が使命。過去を振り返るのは今ではないと後髪に縋る不安を置き去りにして成すべき作業に取り掛かる。
「損壊状態は深刻ですが、やはり研究や実験を目的とした区画であることに間違いないかと」
 情報が雑多に表示されるメインモニター上を、メルメッテの乳青色の目が忙しく走査する。アンサーヒューマンとしての類稀なる思考力と補助脳とでも言うべきラウシュターゼの神経活性支援によって分析自体は速やかに行われた。
『ここで何が行われていたかの大凡の検討は付く。見るがいい』
 ラウシュターゼがマニピュレーターを翳せばサイコフィールドが生じ、腕部の幻影が棺型の培養層を掌握して手繰り寄せる。
「これは……」
 斜めに大きく走った亀裂から内部が垣間見えた。その内容物にメルメッテは憶えがある。南州第二プラント奪還作戦の折、作戦第一段階で港湾施設に強襲を仕掛けた際にラウシュターゼと自身が散々斬った燃やしたエヴォルグ量産型と同系統のジャイアントキャバリアだった。
『人喰いキャバリアどもを丁寧に棺桶に納めて埋葬する準備をしていたのだろうな。臓腑を抜き出して下処理を加えたものまであるぞ』
 皮肉とも冗談とも受け取れるラウシュターゼの不遜な喋り口。板状の瓦礫を念動波で除去すると、下敷きになっていたエヴォルグ系の機体が露わになった。ラウシュターゼはメルメッテの制御を待たずに地表寸前を浮遊した状態で滑走、亡骸に近付けば先と同じく念動力の腕で空中に持ち上げてみせた。
「解剖実験……」
 エヴォルグ系機種と思しき亡骸は腹部を切り開かれていた。綺麗な切創の跡からして戦闘で生じたものでは無い事は一目瞭然だった。何らかの施術が行われたのに疑う余地が無い。メルメッテは胸に重い疼きを感じた。
『メルメッテ、手が止まっているぞ? 今のお前が動かすべきは口か? それとも心か?』
「いえ……」
 続く言葉を言い掛けた瞬間、ラウシュターゼが腕を横薙ぎに振るった。サイコウェーブによって部屋中の瓦礫が一様に弾かれ、埋もれていたエヴォルグ達の残骸が胡蝶の光に照らし出される。皆同様に開腹処置などの明らかな人為的施術を受けているものだった。
「あっ……く……!」
 メルメッテの瞳が見開かれる。理由は光景への驚愕も若干はあるのだろうが、それ以上のものが要因の大半を締めていた。振り切り掛けていた過去の影が、小さな背に追いすがり始める。
『成程な……漏洩させるな、だったか。良いとも、全て覚えて私の胸に”も”納めてあげよう。あの人間共の茶番に乗ってやらなくもない』
 ラウシュターゼの声音には愉悦色が滲んでいた。
「主様……解析情報の仕分けが、完了致しました……この機体群は道中散見されたエヴォルグのものと……同一……」
 メルメッテの喋り口は何かを堪えるように途切れがちとなっている。その様子を見てとったラウシュターゼの四眼の光が嘲笑うかのような歪みを見せた。
『どうしたのだメルメッテよ。何を耐えている?』
 主君は答えを既知している。
「ラウシュターゼ様が……お気に召されたようで……」
 従者は俯き唇を堅く結ぶ。フォアシュピールから流れ込む多幸感の奔流に飲み込まれないように。
『ただの散策で終わる道理など無いと踏んではいたが、当然だな。幾ばくかの退屈凌ぎになりそうだ。メルメッテ、闘争に備えろ』
「仰せのままに」
 コクピットシートに着座したまま首を垂れるメルメッテ。その瞳孔は主君と己の感情に混濁し、唇の隅は自制に反して微かに吊り上がる気配を覗かせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「ガルヴォルンの皆さん、そしてミスランディア。
これまで艦を留守にしていて、ごめんなさい。
セレーネ・ジルコニウム大佐、現時刻をもってストライダー艦長に復帰します」

さて、復帰後第一戦が因縁ある日乃和の生体キャバリアの任務ですか。
白羽井小隊の皆さんも来ているということですので、私も前線に出ます!

『セレーネよ、スティンガーは大破したままじゃが……』
「大丈夫です、ミスランディア。
探索程度でしたら量産機のナズグルで十分です」

私だって、いつまでも素人のままではありません。
機体の性能の差が戦力の決定的な違いではないと教えてあげましょう。

【特殊部隊】の隊員が乗るキャバリアに指示を出しながら、ナズグルに装備したサーチライトで周囲を照らしつつ第一層の探索をおこないます。

「各機、周辺の警戒を厳に!
いつ敵が襲ってきてもいいようにフォーメーションを崩さないでください。
ミスランディアはストライダーで情報の解析をお願いします」

『南州第一プラントに生体キャバリア研究施設があるとは……
なんともきな臭いのう』


菫宮・理緒
【ガルヴォルン】

地下かー。ここは【lanius】でいくしかないかな。

大佐の復帰と白羽井小隊のみんなと会えるのは嬉しいけど、
安心してプラント調査に専念ってわけにはいかなさそうな感じかな。
ちょーっといろいろ気になることが、ねー。

地図ももらえたけど……詳細なのは【D.U.S.S】を超音波センサーを使いながら【E.C.O.M.S】を使って3Dマップを作り、
もらった地図と照らし合わせていこう。
エコーでの走査なら明るさも関係ないからね。

ガルヴォルン各機、白羽井小隊のみんなも、リアルタイムで地図を作ってるから、
わたしの地図にリンクさせてくれると嬉しいな。

あ、あと、『希』ちゃん。
メインゲートの封鎖コード、ハックしておいてくれるかな。
いつでも開けられるようにしておいて欲しいんだ。

あとミスランディアさん、大鳳の動きに注意しておいてほしいな。

先の愛宕山の関係者がやたらと多いっていうのがどうにも、ね。

暴走の原因がプラントのトラブルにあって、プラントごと証拠隠滅……。
なんて我ながら考えすぎだとは思うんだけど、ね。


支倉・錫華
【ガルヴォルン】

アミシア、みんな、ただいま。

白羽井小隊のみんなも元気だった?
と、言いつつじーっと瞳をのぞき込んで、

「無理しないようにね?」とだけは言っておこうかな。

それにしても、ストライダーも日乃和も久しぶりなのに復帰最初がこれか。
キナ臭さしかないね。味方が最後まで味方だといいんだけど。

機体は【ナズグル】を借りていこう。
地下だし装甲5倍、射程半分のチューンがいいかな。
なにかあったら、装甲頼りにかばっていくよ。

理緒さんの地図をもらいながら調査を進めていくけど、
突発的なものは【アウェイキング・センシズ】で感じていくことにしよう。

大佐も出るみたいだけど……まだ慣らし中って感じだし、この状況だしね。
アミシア、こっちはわたしがするから、大佐と白羽井小隊のモニタリングお願い。
何かあったらすぐにモニター回してね。

調査としてはマシンルームか動力室を見つけたいところかな。
プラント稼働停止の原因と回復の可能性は調べたいなって思うよ。

原因が、無茶な改造からの生体キャバリア暴走、とかでないといいんだけどね。



●戦姫の探り手
 愛宕連山での作戦の後、諸事情により席を留守にしていた私設軍事組織ガルヴォルンの小さな統率者、セレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)が現隊復帰を果たしたのは実に数ヶ月振りだった。
「白羽井小隊の皆さんもお見えになっていますし、今回の任務では私も前線に出て直接指揮を執ります!」
 ナズグルに乗り込み先陣に立つセレーネは傷心を思わせないほどに威勢が良い。仇と言っても差し支えないほど因縁深い相手とそれらに襲撃されている国の事情がそうさせるのだろうか。
『セレーネよ、スティンガーは大破したままじゃが……』
 ガルヴォルンの誇る旗艦、ストライダーの人工知能であるミスランディアが問う。彼女は現在プラント外部で待機中のストライダーから情報分析等を主とした支援に当たっている。
「大丈夫です、ミスランディア。探索程度でしたら量産機のナズグルで十分です。それに、機体の性能が戦いの決定的要素になるとは限りません。戦いは戦術と数です!」
 裏付けるようにしてセレーネの周囲にはガルヴォルンの精鋭を集めた特殊部隊員が展開している。いずれもセレーネと同様にナズグルへ搭乗していた。
『だと良いのじゃがな』
「そんなに心配しないでくださいよ。私だっていつまでも素人じゃないんですから。こちらはこの道を生業にしている戦争のプロですよ?」
 ミスランディアの電子頭脳に一抹の不安要素が過ぎる。他の機体と比較してナズグルも決して劣っているという訳でもない。しかし緊急事態下での遠隔制御だったとはいえスティンガーが撃墜された前例がある以上、万が一にもエヴォルグ系統のHighSのような強力な個体と遭遇した場合、対応しきれるか不明瞭ではあった。なお、ナズグルとは別に大破したスティンガーの代替機の目処が立っているようなのだが詳細を把握しているのはミスランディアが知る処のみとなる。
「各機、周辺の警戒を厳に! 敵がどこに潜んでいるか分かりません。いつ襲来されても対処出来るようにフォーメーションを崩さないでください」
 指揮官の命を受けた特殊部隊員のナズグルが規則正しい隊列を形成したまま周囲の探索を開始した。薄暗がりの地下施設内に機甲の足音が反響する。
「大佐が家出から帰ってきてくれたし、白羽井小隊のみんなとまた会えたのは嬉しいけど……安心してプラント調査に専念ってわけにはいかなさそうな感じかな」
 ガルヴォルンの電脳兼技術担当係である菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)の思考にも霞がかった疑念が渦巻いていた。現在理緒はMotorVehicle Type-lanius -R.I.O-に搭乗し、セレーネ直轄の特殊部隊の後方を進んでいる。
「理緒さん? 何か気になる点が?」
「ちょーっといろいろと、ねー」
 理緒はモニター上にポップアップしたサブウィンドウ内のセレーネに向かって首を振る。
「そうそう、ミスランディアさん。大鳳の動きに注意してもらえるかな?」
『大鳳……日乃和海軍所属、葵結城大佐か』
 静かな語り口調のミスランディアに対し理緒は無言の頷きを返した。
「先の愛宕山の関係者がやたらと多いっていうのがどうにも、ね」
 ガルヴォルン然り猟兵も含めて本作戦には愛宕連山を巡る作戦に携わっていた者が多く見受けられる。白羽井小隊に限っては、わざわざ後方任務から引き摺り出されているのだ。
「そうしなきゃいけない事情があったのかも知れないけど、どの国にとってもプラントは重要施設だよね? なのに戦地経験の浅い子達に任せるっていうのも……なんだかね」
『ふむ、ストライダー側でも大鳳から発せられる通信波の監視は行なっている。じゃが今のところ不審な動きは見られんのぅ』
「まぁ……やましい考えがあればそう簡単に尻尾は出さないよね」
 現状向こうの腹積りは見通せない。だが不安要素があるならば最悪の事態を想定しておくのが当然だろう。その最悪の事態とはこの機に乗じた諸々の証拠隠滅。先んじて対処を下すために理緒の細くしなやかな指先がコンソールパネル上を滑る。
「希ちゃん、メインゲートの封鎖コード、抜いといて。いつでも開けられるようにね」
 擬似人格プログラムを有する支援AI、M.A.R.Eがインターフェース上に了解の二文字を表示する。
「我ながら考えすぎだとは思うんだけど、備えあればなんとやらだからね」
 葵結城が必ずしも謀略を練っているとは限らない。だが予め対処を講じておけば少なくとも謀略に絡め取られる事はない。
「……試しに鎌かけてみる?」
 一連をただ静聴していた支倉・錫華(Gambenero・f29951)がぽつりと言葉を溢した。彼女はセレーネと同様ナズグルに搭乗している。ただしその中身は半分別物と言っても過言ではない。装甲を含む総合的な耐久性評価値を従来のナズグルと比較して五倍程度にまで引き上げ、限定空間の戦闘に最適化しているのだ。
「探りを入れてみるってこと? どうかな、ボロを出すとは思えないけど」
 サブウィンドウ内に表情されている理緒の中継通信映像を見て錫華は首を振った。
「ううん、そこまで大したものじゃないよ。ただ……アミシア、白羽井小隊の隊長機との通信回線、開いて」
『了解』
 錫華がパートナーユニットであるアミシア・プロフェットにそう命じれば、残りのプロセスは全て自動で処理してくれる。那琴のイカルガに呼び出しを掛けるのに数秒の時間も要さなかった。
『こちらフェザー01、貴女はガルヴォルンの……?』
 コクピット内のメインモニターに那琴の中継映像を表示したサブウィンドウが展開された。向こう側のイカルガでも同様に錫華の中継映像が出力されているであろう。
「白羽井小隊のみんな、久しぶり。元気だった?」
 声の主は抑揚も表情の変化も乏しい。
『藤宮市でお別れして以来ですわね。ガルヴォルンの方も壮健なご様子で何よりですわ』
「わたしもいるよ」
「実に数ヶ月振りですか、お変わりないようですね」
 理緒に続いてセレーネも錫華が開いた回線に相乗りした。愛宕連山の作戦に於いて心身機体共に散々世話を焼いて貰った相手と再び相まみえた那琴個人としてはあれこれと話したい所存ではあったが、結城の目がある為辿々しく事務的な応答姿勢で振る舞ってみせた。
『その……探索の状況は如何でしょうか? 此方は万事滞りなく遂行中ですわ』
「こちらも特に異常ありませんね」
 セレーネはこのプラントの環境自体が異常なのだがと口に仕掛けたが寸前の所で喉奥に飲み込んだ。
「あ、そうだ。白羽井小隊のみんな、わたしのマップにデータリンクしてくれないかな。いま地図作りながら進んでるから」
『マップですか? ですが、我が軍から提供されたマップデータモデルをお待ちですわよね? それで事足りるのでは?』
 那琴同様にセレーネも首を傾げた。錫華は内心で成る程と呟き双眸を細める。
「そうなんだけど、戦闘で破壊されてるエリアが結構あるでしょ? そういうのを記録して現況での地図を記録しておきたいなって」
 理緒の言葉は客観的に見ても疑う余地が無い。事実白羽井小隊も本来は通過出来た筈の通路が戦闘で破壊され迂回を余儀なくされる事態に幾度か見舞われている。
『なるほど、確かに仰られる通りですわね。お待ちを。葵大佐にお伺いを立てますわ』
『大鳳よりフェザー01へ、マッピングデータのリンクを許可します』
 那琴が尋ねるよりも先に、一連の会話を黙して聞いていた結城より許しが降る。那琴は些か虚を衝かれた様子だった。
『フェザー01、了解ですわ。という次第ですので』
「うん、どうも」
 斯くして理緒は白羽井小隊との接続を構築した。この同時期にプラント外で待機中のストライダー艦橋では、ミスランディアが『してやったりじゃな』と呟いていた。これで理緒は白羽井小隊の機体への電子介入の経路を労せず入手した。
「それじゃあ、また後で」
「敵襲は時間の問題ですのでくれぐれも油断しないよう。以上、通信終わります」
『ええ、そちらもお気をつけて』
 通信接続を解除した理緒とセレーネの姿がイカルガのコクピットモニター上から消失する。しかし唯一錫華だけが接続を維持したままだった。錫華は口を結んだまま中継映像越しに那琴の瞳を覗き込む。奥底を探り当てるかのように。
『あの……なにか?』
 暫し間を置いて那琴が恐る恐る訊ねると、錫華は瞬きひとつ返して結んでいた口を開いた。
「ん……通信切り忘れてた。無理しないようにね」
 向こう側の受け答えを待たずに回線を閉じる。下ろした背をナズグルのリニアシートが受け止めた。錫華の見立てでは今のところ白羽井小隊に不審な素振りは見られない。後に見解が相違しないという保証もないが。
「味方が最後まで味方だといいんだけど」
「そうだねー、まぁその時はその時で」
 マッピング作業の片手間に相槌を打つ理緒の声音の温度は錫華と対照的だった。
 網目状に張り巡らされた通路と不規則に現れる大中小の部屋。他世界のダンジョンを彷彿とさせる地下施設をガルヴォルンの戦姫達が進み往く。
 セレーネのナズグルを中心に据え、周囲を隷下の特殊部隊員が固める。戦列の後方ではアンサーヒューマンが有する鋭敏な感覚をアウェイキング・センシズで更に増強した錫華のナズグルが警戒に当たっている。
「アミシア、目の届く範囲の見張りはわたしがするから白羽井小隊のモニタリングをお願い」
『了解しました』
「それから大佐も」
「私も!?」
「まだ慣らし中って感じだから」
「私は大丈夫ですよ! 心配には及びません!」
 釈然としない様子でセレーネは私設軍事組織の長として警戒を張り詰めながら先へと進む。
 隊列の先頭では理緒のlaniusが音響攻撃装置であるD.U.S.Sを用いてエコー探索を行なっていた。反射された音波は小型戦闘端末のE.C.O.M.Sに集約され三次元地図を自動生成するために必要な情報素子に変換される。施設内は知りたがりの目を阻むように薄暗いが、音響探知ならばそんな闇も無関係に真実のみを貌として浮かび上がらせてくれる。
「んー、特におかしいところは……あれ? おかしい?」
 大部屋へと繋がるらしい隔壁の前に到達したタイミングで、laniusが歩を止める。続く隊列も一斉に行軍を停止した。
「理緒さん? おかしいとは?」
 セレーネのナズグルが隊列を割って前に出る。理緒がしきりに隔壁を探っている様子が見て取れた。
「大佐、日乃和軍から貰ったマップを見てみて」
 理緒に促された通りにセレーネが三次元仮想地図を呼び出す。地図上では隔壁が存在しておらず、隔壁を隔てた向こう側の空間も存在しない。
「地図上に記載の無い区画ですか……」
「で、これがエコー探索でマッピングしたデータ」
 laniusから新たな仮想地図が送信された。音響探知を行った結果、隔壁を潜った先にはそれなりの広さの空間が存在している事が判明済みだった。
「とりあえず開いてみますか」
 セレーネはナズグルを操縦し、隔壁の操作端末へと向かわせてマニピュレーターを接触させた。直接接続を行い予め日乃和軍から提供されていたゲートロック解除コマンドプログラムを入力する。しかし障壁は微動だにせず、モニターにはゲートロック解除不能のインフォメーションが流れるだけに終わった。
「日乃和軍の解放コマンドを受け付けない? 葵大佐に問い合わせてみますか?」
「大佐ちょっと待って、ここは私達だけで開けた方がいいと思う」
 横槍を入れられるのも面白くない。無言で後退したセレーネのナズグルと理緒のlaniusが立ち位置を入れ替える。
「ミスランディアさん、手伝ってくれないかな」
『うむ、既に解析を始めておるよ』
「アミシアも手伝ってあげて」
『了解、ただちに』
 セレーネと錫華、そして特殊部隊のキャバリア達に警護されながらガルヴォルンの電脳担当班達が施錠の解除作業に取り掛かる。数分を費やして複雑怪奇で強固な防壁が解かれると、隔壁に灯っていたランプが赤から緑色へと変化し、空気を震わせながら左右へスライドし始めた。
 開け放たれた隔壁を潜り特殊部隊のナズグルが隊列を維持したまま一斉に部屋の中へと雪崩れ込む。続いてセレーネと理緒と錫華が内部へ足を踏み入れると、三者三様に眼前の有様に戸惑いを見せた。
「ここはエヴォルグの……研究施設?」
 セレーネの視界に透明な筒状の水槽に納められたエヴォルグ系統の機体が飛び込んできた。ひとつやふたつではない、大部屋の大半を埋め尽くすほどの水槽が規則正しい列を形成し並べて保管されていた。
「研究施設というより保管施設? これ、中身は全部死んでる」
 錫華は至って冷徹に状況を受け止めていた。既に興味が移り変わっているらしく、手近な端末に機体を接触させて接続を試行している。
「では全て標本? まるでホルマリン漬けじゃないですか……」
 セレーネが水槽の一柱に機体を接近させて直に中身を凝視する。いずれもあらゆるセンサーがネガティブな反応を示している。休眠状態に入っているという訳でもないようだ。錫華の言う通り確かに機能を停止してた。
「この区画は戦闘に巻き込まれなかったみたいだね。端末とかもほとんどそのままで残ってるし」
 予備電源のみで稼働している現状、端末の殆どは動作していない。理緒はlaniusを介して電力を再供給すると、錫華と同じく端末の立ち上げ作業に手を付けた。程なくして端末の画面が薄暗闇に虚な光を灯し始める。
「あれー? データが消されてるね」
 端末内の記録はほぼ全てが白紙だった。錫華のナズグルがlaniusと顔を見合わせると頭部を横に振る。
「逃げる前にデータを削除して区画を封鎖ってとこかな。でも端末自体は生きてる」
 錫華は端末から変電区画のものと思われる端末まで遡った。履歴を辿り、電力供給停止が如何に為されたかを探るためだった。
「エラーログを見る限りじゃ、確かに電力は止められてるね。日付は南州第二プラントの奪還作戦が実施された時と同じ。停止原因は物理的回線切断と、これは……プラント中枢かな? 最奥部からの信号が来てる。アナログとデジタルの両面で切られたみたい。全部所定の手順通りにされてるから、たぶん復旧も可能だね」
 万全を期す必要があったのだろう。突入部隊が任務に殉じた事は記録上では間違いないようだ。しかし実際に現地で確認するまでは絶対とは言えない。今この区画のように、本来想定し得なかった状況に陥っていないなどと誰も保証出来ないのだから。
 そして少なくともここで人食いキャバリアに対する何らかの研究が行われていた事実に最早疑い様は無い。錫華のナズグルのマニピュレーターが触れた円柱水槽の中では、エヴォルグの量産型が胎児のように身を蹲らせていた。
「南州第一プラントは一度人食いキャバリアの手に落ちたと聞いていましたが、前提自体が疑わしくなってきましたね」
 セレーネは特殊部隊員に室内の隅から隅に至るまで徹底的なクリアリングを命じる傍らで、エヴォルグの標本が封じ込められている円柱水槽のひとつひとつを睥睨していた。
「これらの機体はどこから調達され、何の目的でサンプルとされていたのか……そしてそれが何故南州第一プラントで行われていたのか。このプラントはエネルギーインゴットの一大生産拠点だったというだけでは済まされないようです」
『ここはまだ上層じゃからな。更に下れば自ずと明らかになるじゃろうて。しかし南州第一プラントに生体キャバリア研究施設があるとはな』
 セレーネの頭の中で着地点を失った疑念が澱んで漂う。この果に繋がる因はどこから始まったのか。プラントに秘匿された過去はまだ闇の底。事実を掴むには自らの身も闇の底に落とす他に無い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『エヴォルグ量産機EVOL』

POW   :    フレッシュエヴォルミサイル
【レベル×100km/hで飛翔しながら、口】から、戦場全体に「敵味方を識別する【分裂増殖する生体ミサイル】」を放ち、ダメージと【侵蝕細胞による同化と侵蝕】の状態異常を与える。
SPD   :    エヴォルティックスピア
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【体】から【分裂増殖したレベル×10本の触腕】を放つ。
WIZ   :    EVOLエンジン
【レベル×100km/hで飛翔し、噛み付き】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【進化した機体、EVOL-G】に変身する。
👑11
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●第一層現況調査完了
 かつて日乃和の兵站を担った南州第一プラントは残滓を香らせるだけの墳墓と化していた。死してなお拾う者無き機甲の亡骸が散乱する地下施設の現況を探る中で、猟兵達は幾つかの不可解な痕跡を発見した。
 地下施設の入口であるメインゲートが開かれた瞬間に猟兵達を出迎えた骸の数々は、折り重なり方から察するにプラントから脱出を試みたが隔壁に阻まれ叶わなかった者達の成れの果てである可能性が示唆された。
 施設内の日乃和軍の機体が遺棄された時期は2種に区分される。南州第二プラント奪還作戦が施行された時期と、それよりも以前の恐らく陥落したであろう時期。
 後者の機体のログからは、敵を外部に出してはならないという搭乗者の発言記録が抽出されている。また端末に残された資料に依れば、何かが制御不能に陥ったらしい。
 そしてエヴォルグ系統の機体の検体と地図情報に存在しない研究区画。
 検体は地下施設に点在する研究棟で発見され、いずれも解剖処置などといった被検の痕が見受けられた。抹消された研究区画ではより保存状態が良好な検体も多数発見されている。
 現段階で知り得た機密にどのような評価を与えるかは猟兵各々の観点に依る。中には結城に対し不信を糾弾する者もいたかも知れないし、いなかったかも知れない。だがしかし、いずれにせよ薄ら寒い微笑を添えて定形文の答えが返されるだけだった。
『現段階では、まだお答え出来かねます』

●第二層へ
 プラントへ足を踏み入れた最初期と同じく、またしても巨大な扉に行手を遮られた。白羽井小隊の機体を介して結城が遠隔制御で施錠を解く。空間を轟かせながら開いた扉が冷やされた地下の空気を猟兵達に吹き付ける。
 第二層は広く深い縦穴だ。第一層と第三層の中継地点は下を見れば底知れずの奈落が闇に満たされていた。
 縦穴中央には巨大な円盤状の露天エレベーターがあり、中心を支柱が貫通している。エレベーターには隔壁を出てすぐの橋を渡る事で到達出来る。このエレベーターで猟兵達はプラント中枢が埋設されている第三層へと向かう。
『セキュリティ維持の為、ゲートをロック致します』
 結城の通信に続いて第一層と第二層を隔てる扉が動き出し、完全に閉ざされると灯る発光が施錠状態を示す赤へと変化した。
『猟兵の方々、先に進みましょう』
 得体の知れない怖気に足を掴まれる錯覚をキャバリア越しに覚えながら、白羽井小隊のイカルガ達がエレベーターへ繋がる橋を渡り始めた。
 薄い暗闇に浮かんでいるかのような盆の上に全機と全員が乗ると、白羽井小隊の隊長機がエレベーター中央の制御板にアクセスし昇降機能を作動させる。上下に走った大きな振動を合図に、エレベーターは暗く冷たい闇の底へ緩やかに吸い込まれるが如く下降を開始した。

●胎児よ、胎児よ
 程なくして猟兵達が巨大な縦穴の壁面の異質さに気が付いた。表面が無数の凹凸に覆われている。白羽井の子女達がサーチライトで照らすと、凹凸の正体が顕となった。
『棺桶……? いえ、これは……!』
 巨大な円形の縦穴の壁面を埋め尽くす無数の凹凸は全長5m強の長方形のコンテナだった。保育器にも似たそれらを更に凝視してみると透明な小窓より内部が窺える。照明を浴びせれば納められていた中身が明らかとなった。
 横に裂けた口だけの白面、エヴォルグ量産機系列の機体特有の頭部が小窓より猟兵達を見返していた。エヴォルグ量産機だけではなく、愛宕連山で遭遇したエヴォルグ壱號機や藤宮市を壊滅させたエヴォルグ弐號機、南州第二プラントを縄張りとしていたエヴォルグ参號機と思しきものも見受けられる。白羽井小隊のイカルガ達が退き狭いコクピットの中で悲鳴があがった。愛宕基地の防衛に当たっていた際の那琴の記憶が自然再燃を起こす。
『……ぅぶ、ぐ……げはぁっ……!』
 心的外傷の切口がこじ開けられてそこから学友達の断末魔とコクピットから引き摺り出されて助けを乞いながら食い尽くされた場面が溢れ出す。ストレスを飽和した脳の拒絶反応が強烈な嘔吐感となり那琴に吐瀉物を撒き散らさせた。即座にパイロットスーツの自動投薬機能が働いて薬効による心理抑制が作用する。那琴は肩を荒く上下させて口元を拭いながら大鳳への通信回線を繋ぐ。咥内には胃液の味が充満していた。
『フェザー01より大鳳へ! エヴォルグが! 壁の中に!』
『落ち着いてください、冷静に』
 薬効が作用しているにも関わらず半ば錯乱状態に陥っている那琴と対照的に、結城の語り口は予め予想していた事態であるかのように穏やかだった。気を鎮めるよう繰り返す結城だったが那琴他白羽井小隊の隊員の多くは正常な会話が出来る状態にない。結城は埒が開かないと断じて猟兵達へとオープンチャンネルで呼び掛ける。
『お騒がせしました。猟兵様方もご覧になられているでしょうか? 先程の現況調査で薄々予測されていた方もいらっしゃられるとは思いますが、改めて私の口からお伝えさせて頂きます』
 中継映像上の結城は相も変わらず口元に薄気味悪い微笑を浮かべている。だが目付きには強かな鋭さが宿っていた。
『あまり長話が出来る状況ではないので、要点だけ簡潔にお伝え致します。この南州第一プラントは俗称人喰いキャバリアの生産能力を有しています。厳密には広大なキャバリア生産補助施設を有している……とでも言いましょうか』
 結城が続けようとした瞬間その場に居合わせた機体のコクピット内に警告音が鳴り響いた。不明な動体を検知、レーダー上で反応を示す光点がひとつまたひとつと急激に増殖し始めた。同時に風切り音が縦穴の上と下からエレベーターへ向かって来る。
『やはり現れましたか。猟兵様方、出現する障害の排除をお願いします。フェザー01、白羽井小隊、いつまでそうしているつもりですか? 義務を果たしなさい』
 耳の良い猟兵ならば通信の縁で遠隔強制投与をとの言葉を聞き取れたかもしれない。
『ぎッ!?』
 直後に錯乱状態に陥っていた白羽井小隊の機体から押し潰されるような短い悲鳴があがり、嗚咽も吐瀉を繰り返す音声も聞こえなくなった。
『目標は恐らくエヴォルグ量産機の飛翔型と思われます。調査を中断し、全て殲滅してください』
『フェザー01、了解……白羽井小隊全機! 空対空戦闘用意なさい! フライトユニット展開!』
 戦術薬物の感情抑制作用に反発する心理を戦意と復讐心で捻じ伏せた那琴が隊員に指令を下す。イカルガの翼が広げられると各々エレベーターから飛び立った。そして縦穴の上下より風を裂いて飛来する白面の怪物が猟兵達の視界内に姿を現した。

●任務内容更新
 第二層を下降中に飛翔型エヴォルグことエヴォルグ量産機EVOLの待ち伏せを受けた猟兵達は避け得ぬ交戦を強いられた。
 敵は縦穴の上と下から襲来する。戦域は広大な縦穴ではあるが限定空間に変わりはないため乱戦に縺れ込むだろう。
 縦穴は横に広く縦は凄まじく長い。滞空が可能な機体であれば存分な空中戦闘が可能だろう。閉鎖された地下であるため殲禍炎剣の煩わしい照射警報に悩まされる心配は無い。
 単独飛行が困難な機体であれば大型の円盤状露天エレベーターで腰を据えて迎え撃つ事が可能だ。エレベーターは極めて強固でありそうそう破壊される恐れは無い。移動範囲は限定されるが足下から攻撃されないという点では空中戦を演じるよりもやや有利かも知れない。

●戦闘開始
 休眠状態より目覚めたエヴォルグ達が翼を広げて待ち侘びた食糧達に飛来する。姿を直視した瞬間、猟兵達は例外無く持ち合わせている宿命により瞬時にその正体を見破った。失われた過去の化身、オブリビオンマシン。
 其れ等には主義も主張も意味を成さない。今を生きる生物の天敵達が人間の金切り声にも似た鳴声をあげて襲い来る。猟兵達がこの場で果たすべきはオブリビオンマシンの排除のみ。暗く冷たい地底深くで繰り広げられる対空戦が始まった。
フレスベルク・メリアグレース
全く以て度し難い
……失敬、オブリビオンマシンの在り方についてです

高速飛翔に特化したエヴォルグですか、ならば
――敵の過去そのものから浮かび上がりなさい、刃よ

瞬間、数十体の量産機からエヴォルグの飛翔を可能とする部位と頸部から『因果に刻まれた斬撃』が浮かび上がり、飛翔能力かその命脈ごと断ち切っていく

(本作戦で把握したことは極秘…ですが、今作戦成功により間接的に生じた事象ならば別)
大鳳に後方支援で控えている司教達と無線で連絡を取り、作戦が終わった後小隊のケアを厚くするよう命じます
この司教達は何も知らず、会話に暗号は一切潜ませてない
わたくしは『日乃和の者と連携し、ケアを厚くする』様命じただけですよ?



●教皇の怒り
「全く以て度し難い」
 神騎ノインツェーンの胸中に座すフレスベルクが小さく開いた唇より溢した小声。慈悲を宿す深緑の瞳には確かな憤りの色が滲んでいた。
『猊下? お気に召されない点が御座いましたか?』
 白々しく結城が問う。ノインツェーンと大鳳の通信回線は意図してかされずか開かれていたままだった。
「お気遣いなく、オブリビオンマシンの在り方についてです」
 幾らかの間を置いてフレスベルクが答えた。言葉に感情は込められていない。表裏に隠された含む真意はメリアグレースの教皇だけが知る処だろう。だがしかし、いずれにせよフレスベルクの思惟は迫るオブリビオンマシンに向けられている事実に違いはない。
 いよいよもってエヴォルグ量産機EVOLが迫る。ノインツェーンが背に展開する天輪が発光を強めると両足がエレベーターから離れた。
「高速飛翔に特化したエヴォルグですか」
 ノインツェーンの上昇速度はエヴォルグ量産機とは対照的にとても緩慢なものだった。機体の外観と相まってこの奈落の縦穴の中であっても悠然堂々とした雰囲気を放っている。両者の相対距離が詰まるまでそう時間を必要としなかった。
 群の中でも突出していたエヴォルグ量産機が獲物に喰らい付かんと腕を伸ばして白面の顎を開く。急速に迫る天敵に対してフレスベルクは怖気を見せる気配すら匂わせずに詩歌を紡いだ。
「現在と言う幹に未来と言う枝を伸ばす時間という名の世界樹は根たる過去があってこそ。故に消えざる過去にこそ救いと裁きは体現されるべし——」
 ノインツェーンの両腕に光の輪が開く。
「浮かび上がりなさい、刃よ」
 エヴォルグ量産機がキャバリア一体分の距離まで接近した刹那、それは起こった。眩い黄金の閃光が軌跡となってエヴォルグ量産機の頸部と翼に迸った。鋭い光の刃が走り抜けた跡を引き裂く。フレスベルクがひとつ瞬きした後には、半生体キャバリアの引き裂かれた肉片が空中に撒かれていた。だがすぐに後を追ってきたエヴォルグ達が直上からノインツェーンに襲い掛かる。
「過去より滲み出る悪鬼に光刃の断罪を」
 ノインツェーンの両腕が塵を払うかのように軽く横へと振られる。エヴォルグの群れに無数の光の裂傷が走り、先に撃破したものと同様に頭部と翼を切除され細切れになった身体が宙に舞った。ノインツェーンに体液と肉片が降り注ぐが、艶やかな光沢を放つ装甲はそれらのいずれにも穢される事はない。そしてフレスベルクの興味も最早エヴォルグには向けられていなかった。
「本作戦で把握したことは極秘……ですが、今作戦成功により間接的に生じた事象ならば別……」
 片手間の戦闘の中で脳裏に浮かぶのは第一層調査中に判明した白羽井の子女達の容態だった。そのような者達への救済こそがメリアグレース聖教の教義に於ける一環でもある。彼女の色白で歳相応に細い指先がコンソールパネル上をなぞっていた。操作の内容は通信回線の接続要請発信。送り先は日乃和海軍所属の大鳳だった。
『こちら大鳳、葵結城です。猊下、如何致しましたか?』
「後方で控えている我が司教達へ言伝を頼みます。作戦終了後に白羽井小隊へのケアに協力を惜しまぬように、と」
 フレスベルクの語り口調は説法を解くかのように穏やかで平静としたものだった。
『それはそれは……御心遣い痛み入ります。速やかにお伝え致します』
 結城は薄気味悪い表情を崩さず、やはり白々しく微笑を浮かべている。だがそこにはどこか我が子を想う母の安堵の様子も垣間見えたようにフレスベルクには思えた。
「契約の内容を踏まえて念のために認識の確認をさせていただきます。我が司教達は何も知らず、私が命じた内容は日乃和の者と連携し、ケアを厚くする……これだけである事を明言しておきます」
『はい、かしこまりました。しかと記録させて頂いております』
 フレスベルクの双眸が深く閉じられる。宙に浮かぶノインツェーンが腕を震えば神厳の光刃が迫り来るエヴォルグ量産機の群を八つ裂きにして肉片の雨を散らせる。フレスベルクの言葉には嘘も飾りも隠された真実も存在しない。教皇として遍く人々に与えられる救済を示しただけなのだから。再度開かれた深緑の瞳が宿すのは、果たして何を想う光なのだろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​

ガイ・レックウ
【SPD】で判定
『やはりな…きな臭いとは思っていたが…ここまでとはな……まあいい。今はこいつらを殲滅する!!』
訝りながらも戦闘に移行するぜ
【オーラ防御】と【武器受け】で相手の攻撃に対処し電磁機関砲で【制圧射撃】し、ブレードを構えスラスター全開で突撃、【なぎ払い】とユーベルコード【二天一流『蒼月一閃』】の超神速の斬撃で切り捨てるぜ!!

『情報が洩れたら嫌だろうが…全員生還させるために全力で行くぜ』



●蒼月一閃
 南州第一プラントの最奥部へ続く唯一の経路は、羽を持つ人喰いキャバリア達が待ち構える魔窟と化していた。オブリビオンマシンの本能もあってそうさせられるのだろうか、久々に現れた動体を感知するや否や食欲を剥き出しにして飛来するエヴォルグの群。その人喰いキャバリアの集団と果敢な戦いを挑む黒い機体があった。
「キナ臭いとは思ってたが……」
 ガイの搭乗するスターインパルスが特空機の名に違わない空中機動で襲い来るエヴォルグ量産機の群れを翻弄する。後方に追い縋るエヴォルグがスターインパルスを捕えんとして腕を伸ばすと手指が触手のように伸びてはのたうち分裂した。
「ここまで真っ黒だったとはな!」
 ガイが片手側の操縦桿を倒して引き戻しブーストペダルを踏み込む。スターインパルスが半身のスラスターを噴射して機体を瞬時に180度反転させた。
「まあいいさ! 今はこいつらを……殲滅するッ!」
 全身を押し潰す強烈な重力加速度に顔を顰めながらもガイは操縦桿のトリガーキーを押し込む。照準モードは自動でアンチ・ミサイル・アクションへと切り替わっていた。目前まで迫り来る触手。スターインパルスは紅の刃、特式機甲斬艦刀・業火を逆手で抜剣すると横薙ぎに一閃、伸ばされた触手の全てを切り払った。
「悪いが死ぬつもりはないし、死なせるつもりも無いんでな!」
 もう一方のマニピュレーターで試製電磁機関砲1型を抜いたスターインパルス。触手を断ち切られても尚追ってくる敵との距離は接近戦と呼んでいいほどに詰まっている。二次ロックオンの照準補正を待たずにガイがトリガーキーを引く。電磁機関砲がフラッシュハイダーから黄色の炎を連続で噴出すると、電磁加速された弾体がエヴォルグ量産機の群れへ殺到する。従来品より貫通力が増強されている事もあってか弾体は柔軟性に富む生体装甲を容易く貫き、内部の骨格を粉砕して次々に絶命させて行く。弾倉一本分を撃ち切った時にはスターインパルスを追って来た敵の全てが地の底へと吸い込まれて行った。
「雇い主様方には都合がよろしくないんだろうが……生憎俺はまだまだ長生きしなきゃいけないんでな、全員生還させるために全力で行くぜ」
 生きる為に戦う。単純故に揺るぎが無く刃は曇りを映さない。ガイが入力したリロードアクションに従ってスターインパルスが電磁機関砲のマガジンリリースボタンを押し込み空になった弾倉を廃棄する。続いて新たな弾倉を叩き込もうとした矢先に足元から殺気が広がった。
「うおっ! 危ねえ!」
 咄嗟に回避では無く防御を選択する。特式光波翼より生じた斥力場がスターインパルスを覆う。同時に無数の生体誘導弾がフィールドに衝突し炸裂した。
「次から次と! 息つく暇も無いってか!」
 愛宕連山自動車道で覚えた倦厭感が思い起こされる。ならばと電磁機関砲をマウントに戻して業火の一刀を構える。直下からエヴォルグ量産機の集団が迫る。ガイはブーストペダルを限界まで踏み込んでスターインパルスを敵集団目掛けて急加速させた。
「月に煌めくわが刃!」
 スターインパルスとエヴォルグの群れが交差しようとした瞬間、業火の刃が煌めいた。
「これぞ超神速の蒼き月なり!!」
 返す刃で二閃。蒼月の煌めきを宿す剣の走りが超高速で駆け抜けた。その切先の速度は実に音速の5倍。刃が迸った跡には残光が迸る。一閃にして二連撃の剣戟を受けたエヴォルグ量産機達は切創痕から体液を盛大に噴出させ地下へと落下する。更に群れの後ろから新たな群れが迫るも、残された蒼月の斬光に掠めるや否やその身を真っ二つに切り裂かれ骸と化した。
「まだまだ居るんだろう? 来い! 斬り捨ててやる!」
 スターインパルスは業火に付着した体液を振り払うと電磁機関砲を抜いて次なる標的に向け撃ち放つ。そして闇染めの魔窟に蒼い三日月が走る。ガイの剣刃は全ての障害を斬り伏せるまで止まる事は無い。

成功 🔵​🔵​🔴​

露木・鬼燈
裏があるとは薄々…
まぁ、裏があろうが仕事は変わらない。
アポイタカラ、迎撃を開始するっぽい!
今回は大量の飛行タイプが相手みたい。
んー見た感じ装甲は薄い感じだね。
ライフル&マシンガンにフレシェット弾を装填。
フォースハンドを用いた4丁スタイルなら弾幕は十分。
敵の生命力を考えると威力の方が心もとないけどね。
そこはUCで補えばいいのです。
呪法<緋華>を発動してフレシェット弾にエンチャント。
突き刺さった子弾が敵機の一部を爆薬に置換。
それを電磁パルスで起爆するのです。
例え撃破まで至らなくても大丈夫。
高出力の電磁パルスが当たってるからね。
暫くは動けないので改めて弾丸を撃ち込んでやればいい。
これでイケルイケル!



●爆華狂咲
 二枚一対の翼を羽ばたかせながら耳障りな金切り声をあげる飛翔型エヴォルグが、盆の上に添えられた久々の食事達へ我先にと飛び掛かる。思考を支配するのは食欲の一点。逆に自らが狩られるという発想は半生体頭脳の片隅にさえ芽を出していなかった。
「裏があるとは薄々……」
 露天エレベーターに両の脚を踏み締める赤鉄の鬼械人形、アポイタカラが直上より飛来するエヴォルグの群れを睥睨していた。ポゼッションシステムによって鬼燈の意識を複写されたアポイタカラは搭乗者の感覚と一挙一動違わぬ身振りでパルスマシンガンを抜くと弾倉を交換してホルダーに戻した。続けて後方左右に控えるフォースハンドがキャバリアライフルを構え、同様に弾倉交換を行う。
「まぁ、裏があろうが仕事は変わらない。アポイタカラ、迎撃を開始するっぽい!」
 鬼燈のするがままに赤鉄の鬼も携える四の銃を全て抜き、飛来する人喰いキャバリアの集団へと銃口を向けた。殺気を感じ取ったのか、獲物を選り好みしていた羽付きエヴォルグがアポイタカラへ無い目で目星を付けると直上より急降下を仕掛ける。アポイタカラは銃を向けたまま動かず、鬼燈にも動じる気配は見られない。
「撃ち方よーい……はじめっ」
 ヘッドアップディスプレイの中でロックオンマーカーの色が二次捕捉の完了を知らせる赤に変化した。鬼燈が人差し指を引く。アポイタカラのマニピュレーターがトリガーを引く。フォースハンドも然り。発射モードは単発のセミオートだった。四の銃が放つ四の弾体が照準補正に従って素直な直線軌道を走り、目標の寸前にまで達する。だが弾体は目標に着弾する直前で突如として爆ぜた。
 炸裂の中から迸ったのは無数の鏃だった。弾体の射出方向へ円錐状に拡散放射された凶刃は、エヴォルグ量産機の半生体装甲に食い込むと容易く引き裂き内部に浸透、骨格にまで達した。真正面から強烈なストッピングパワーを受けたエヴォルグは途端にバランスを崩してエレベーターの床上に落着、その衝撃によって奈落の底へと脱落する。アポイタカラが四の銃に装填した弾倉の中身はフレシェット弾だった。
「まだまだあるですよ」
 気の抜けた鬼燈の声と裏腹に発射される弾丸の反動は重い。一射毎に強烈なバックブラストがフラッシュハイダーより生じ、反動がアポイタカラの腕部関節を軋ませ、脚部を伝わってエレベーターの床までが微弱に振動する。
 上面全方向から飛来する羽付きエヴォルグが次々に纏めて鏃のスプレーを浴びては吹き飛ばされる。だが中には身を金属片に刻まれ飛行姿勢を崩されながらも果敢に再突入を試みるほど生命力に富んだ個体も存在した。されど鬼燈には予め想定した事態であった。
「やっぱり威力が心許ない? でもそこは緋華で補えばいいのです」
 アポイタカラが漸く弾切れを迎えた弾倉を排出する。四の銃がほぼ同時期に再装填を開始するが、そこが敵にとって浸け入る隙となった。そのような戦術思考があるかは未だ不明瞭だが、これ見よがしにとフレシェット弾の散布を生き延びた個体群が急速接近する。
「爆ぜろっ!」
 極めて短くそして鋭く放たれた號の令。直後飛翔型エヴォルグの身体の各所が膨れ上がり、緋色の爆光が炸裂した。空中で華を咲かせた緑の肉片が辺りに飛び散り露天エレベーターの床を夥しい体液で染め上げる。
 フレシェット弾には仕掛けが施されていた。緋華によって内包する金属片の一欠片に至るまでが物質を爆薬へと変質させる呪詛を懸けられていたのだ。それらをエヴォルグ量産機の機体内に埋め込み、電磁パルスを用いて起爆。内部より破壊して見せたのだ。
 そして起爆の鍵すらも凶悪な蝕みと化す。爆発を運良く逃れた後続の羽付きエヴォルグも強烈な電磁パルスに煽られ機能不全を起こして次々に奈落の底へと落下して行く。この高度で地に落とされれば大破は免れないだろう。
「あら? 思ったより効果抜群っぽい?」
 フレシェット弾と緋華の連携は地形環境との相乗により想定以上の戦果を発揮した。だがまだ敵は大勢控えている。翼を失いエレベーターに落下し、それでもなお獲物に手を伸ばそうとするエヴォルグ量産機を、アポイタカラの片脚が無機質に踏み締めて粉砕する。弾倉の再装填を終えた赤鉄の鬼は返り血に塗れていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シル・ウィンディア
やっぱり出てくるよね、エヴォルグ…。
あれ見た時から予想はしてたけどね。

空戦が可能ならっ!
推力移動からの空中機動に移行して、空中戦を挑むよっ!
閉所だからこそ、この装備を試さないとねっ!!

マシンキャノンとバルカンで牽制攻撃をして
敵を動かして、ビームブーメランで追撃だね
纏めて斬り裂ければいいけど…

近接間合いに入ったら、ワイヤーアンカーで敵を拘束してから
ワイヤーをこちらに引き寄せて、風刃剣で一刀両断っ!

その後は、臨機応変にバルカンをメインに
射撃戦はマシンキャノンとビームブーメラン
近接は、ワイヤーアンカーと風刃剣で対応

敵の攻撃は、残像を生みつつ攪乱回避だね

纏めてきたなら、UCを発動っ!
まとめて撃ち抜く!



●青精乱舞
 戦軋む銃撃の音が児玉する地下霊廟の縦穴。アルジェント・リーゼが背面に備えるメインスラスターより青白い噴射炎を吐き出す。放出された推進力が機体を急上昇させる。
「やっぱり出てくるよね……エヴォルグ……」
 操縦桿を握り込み、ブーストペダルを踏み込むシルの脳裏に第一層の調査中に発見したカプセルの有様が思い起こされる。スラスターを用いた制動で機体の正面を直下へと向けると、ミトラ・ユーズを搭載する腕部を即射撃姿勢で構えた。
 空気を騒つかせる翼の音と共に闇の底から飛翔型のエヴォルグ量産機が現れた。数は複数。編隊を組んでいる訳ではなく、各々がシルが駆るアルジェント・リーゼ目掛けて一目散に飛来している。
「たくさん湧いてくるし速いし!
しかも飛ぶし! なんか柔らかいし! ほんと気持ち悪い!」
 姿形は似ても似つかないが、台所に出現する不快虫へ抱くようなどうしようもない嫌悪を込めて、シルは硬くトリガーキーを引き絞る。ミトラ・ユーズの三連銃身より火線が走った。主に牽制を目的とした準主力兵装だが、普及しているキャバリアと比較して軽装甲なエヴォルグ量産機には十分な威力を発揮する。横一列に薙ぎ払うと巻き込まれたエヴォルグが飛行姿勢を大きく崩して壁に衝突を繰り返しつつ落下した。シルはその様子に目もくれずに次の敵へと視線を合わせていた。
「横からでしょ! 分かってるから!」
 包囲せんと側面より回り込んだエヴォルグがアルジェント・リーゼに喰いかかる。シルはブーストペダルを素早く二度踏み込むと後方にクイックブーストをかけて距離を離す。コクピットに迫る顎は何も無い空中を掠めた。間髪入れずにアルジェント・リーゼの頭部に内蔵されている機関砲、エリソン・バールが粒子弾の速射を返す。牽制及び近接防御用の小口径砲だがこの距離での威力は馬鹿にならない。顔面に掃射を受けたエヴォルグは一瞬で沈黙し戦線から脱落する。
「頭が弱点なの! 何度も何度もやって! ちゃんと覚えてるんだから!」
 まだ包囲を抜けた訳ではない。シルの首筋に焦燥の汗が滲む。アルジェント・リーゼが離脱するべく地下へ向かって加速すると、羽付きのエヴォルグがスラスターの噴射光の跡を追う。更に下方からも敵の増援が迫り上下共に挟まれた。接近警報がけたたましく鳴り響く操縦席の中で、シルは苦い表情を見せながら兵装選択項目をエトワール・フィランドに変更する。
「高さを気にせず飛べるのはいいけど……あぁもう忙しい!」
 アルジェント・リーゼが上方へ振り向き様に遠心力を乗せて光刃を振り抜く。投げ放たれたそれは超高速回転しながら直上より追走する飛翔型エヴォルグの一体を引き裂いた。だが背を向けた直下からも敵が迫る。アルジェント・リーゼの半身の推進装置が光を噴出し、瞬間的な加速で機体を横へと突き飛ばす。視界から消えた獲物を再探索しようとエヴォルグが急停止し反転した直後、その身は綺麗に二等分された。投擲したエトワール・フィランドが戻って来たのだ。
「今度はこっちからぁ!」
 シルは背後に膨れ上がった殺気に合わせて横方向への急加速と反転を同時に行う。先程までアルジェント・リーゼがいた空間を有機物的な誘導弾が駆け抜けて壁に激突、爆散した。爆煙を背にアルジェント・リーゼは目標へ小型シールドを構えると内蔵されたワイヤーアンカー、フィル・ド・フェールを射出した。鋼線を引く切先の刃が誘導弾を放ったエヴォルグ量産機に深く食い込む。僅かな怯みの動作を見るや否やシルはトリガーキーを押し込みながら一方の操縦桿を手前に引き戻す。ウィンチが急速に巻き上げを始めて捕らえた獲物を引き寄せた。
「さよなら!」
 腰部にマウントしていたゼフィールをアルジェント・リーゼのマニピュレーターが握り込む。抜刀は正に刹那だった。表面を薄い魔力場で覆った刃がエヴォルグ量産機の首と頭部に永遠の別れを告げさせた。同時に突き刺さっていたアンカーを強引に引き抜く。
「また後ろ!」
 複数の羽付きエヴォルグがアルジェント・リーゼの後方より追い縋る。伸ばされた腕と限界まで開かれた顎を視界の隅で認めたシルは、反転ではなく全速降下を選択した。
 アルジェント・リーゼの大振りな双翼から眩いばかりのスラスター噴射炎が溢れ、重力の補助も相まって急激な加速で直下へ突き進む。身を苛む圧迫感に微かな呻めき声を漏らしながらシルはレーダーを見遣る。後方の敵機との距離は十分に離された。直線加速で引き離したお陰で纏まり具合も良さそうだ。
「今ならぁーーー!!」
 僅かな減速を掛けて半身のスラスター噴射を停止し機体姿勢を180度反転させる。敵群を視界内に捉えるまでのほんの数秒間でシルは兵装選択を終えていた。
「マルチロック! 精霊達よ! 集いて力になり、すべてを撃ち抜く力となれ! エレメンタル・バラージ!」
 アルジェント・リーゼが握り込んだ右腕のマニピュレーターを突き出し広げると、四色の光球が拡散放出された。総数百を超過するそれらは直上より今も尚追撃する飛翔型エヴォルグの集団を追尾、接触すると発光色に対応した属性爆発を生じさせた。炸裂が連鎖して薄暗闇の縦穴が鮮やかな光で全容を照らし出される。放出した本人であるアルジェント・リーゼさえも煽られるほどの衝撃波が縦穴の上下を駆け抜けた。
「やった……けどまだ全然終わってないんだよねぇ……」
 嘆息するリーゼの視界には、サブウィンドウに表示されているレーダーと敵反応を示す赤い光点が映っていた。
「はぁ……やるよ、アルジェント・リーゼ」
 額を伝う冷たい汗を拭い、シルは正面を見据えて操縦桿を握り締めた。アルジェント・リーゼは操者に応えるかのように力強くジェネレーターを唸らせると、煌めく光の翅を広げて底知れぬ奈落の闇を引き裂いて飛ぶ。再びミトラ・ユーズの掃射が走れば幾度も繰り返されてきたようにエヴォルグの骸が弾けて堕ちゆくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ノエル・カンナビス
(エイストラ搭乗中、武装はライフルx2、キャノン、ミサイル)

ようやく接敵ですか。

効率の悪いやり方です。
軍機は事前には晒せませんにしても、見れば判る程度のものは
ガイド付きでさっさと通り過ぎればいいでしょうに。

先制攻撃/指定UC。

ある程度の周辺被害は生じますのでご容赦を。
バイブロジェットで浮遊、空中機動/推力移動で準速機動。
対空戦闘/一斉発射/貫通攻撃/串刺し/ライフル二挺で撃墜します。

抵抗が弱すぎるのが気になりますね。
統合センサーは戦場全域を把握するAWACSモードで作動させ、
状況の監視と友軍機支援・援護もついでにやっておきましょう。



●稲光
 第一層と第二層を隔てる分厚く巨大な隔壁。硬く施錠されていたはずの引分扉に灯る光が緑に変化して左右に開かれると、甲高い振動音を背に引き連れる機体が薄暗い縦穴に躍り出た。聴き覚えのある者ならそれが誰の機体なのかすぐに理解しただろう。バイブロジェットブースターを使用する機体は少なく、その機体を運用している猟兵は更に限られる。
「ようやく二層ですか。軍機は事前には晒せませんにしても、見れば判る程度のものはガイド付きでさっさと通り過ぎればいいでしょうに」
 ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)は閉ざされ行く扉を尻目にここまで高速で駆け抜けて来た第一層を思い返す。既に先行者達によって現況調査は終わった後だが、わざわざ内状を自分の目で確かめさせるような真似をする理由は何処にあったのだろうか。
「政治的な便宜というものでしょうか。いずれにせよ契約時の額面通りの報酬が支払われるなら私には関係も興味もありませんが」
 知らぬ所で陰謀が蠢いているのかは定かではないが知った所ではない。自分は傭兵をやりに来たのだから。そういう案件は上級将校か今頃国会で野次を飛ばすか飛ばされているかの連中が担当だ。
 認識を司る脳神経と半直接接続された統合センサーシステムを起動すれば、拡張された感覚が早期警戒機並の探知機能として働き、知覚可能な戦域のあらゆる動向を取り込んで映像イメージに変換、視覚野に展開する。
 交戦が始まってから既に幾らかの時間が経過しているようだった。下降中の露天エレベーターを原点に上下の空中は乱戦状態、エレベーター上では比較的秩序ある戦闘がなされている。敵の数は測定不能とまでは行かずともかなり多い。分布は広範囲に散っているが小規模な集団を形成しているものも見受けられた。
「こんなところですか。後は……」
 ノエルは縦穴の壁面にエイストラを接近させた。壁面を覆い尽くす無数の保育器の小窓を覗き込むと、エヴォルグ量産機の白面が無言でエイストラを見返していた。
「此方は機能停止済みですか。成熟が間に合わなかったのでしょうか」
 産まれ損なった全てが死んでいるとも限らないが、現時点では目下の脅威とはならない。処理するべきは今現在縦穴を飛び回っている飛翔型のエヴォルグだと、ノエルは保育器より視線を外す。
 高速振動するフィンによって推進力を得るバイブロジェットブースターは燃料不要の代償に騒音が凄まじい。その音に誘われたのか、レーダー上では一部の群れが接近の兆候を示しつつあった。エイストラは寄ってくるのを待つまでもなく攻勢に出るため急降下を開始した。
「火器管制はレーダーと同期、自動誘導処理開始、ランチボックスアクティブ」
 バックユニットにマウントされている多連装ランチャーが複数の誘導弾を同時発射した。弾体は白いガスの尾を後に残しながら正面の敵群へ高速で殺到、内何体かの飛翔型エヴォルグ量産機は回避運動らしき行動を試みるがフレアも無しには執拗な追尾を振り切れず、炸裂した爆光に翼と身を弾き飛ばされた。正面の敵群の処理を見届ける間も無く次は側面から飛来する敵群の対処へと移る。
 ノエルはライフルの出力設定をマニュアルに切り替えてトリガーキーを短い間隔で引き続けた。エイストラが両手に装備するプラズマライフルの銃口より荷電粒子の青白い光弾が連続して放たれる。微細な稲光の軌跡を残して走る超高温の粒子は飛翔型エヴォルグ量産機の半生体装甲に着弾すると周辺組織をも溶解させつつ瞬時にフレームまで貫通、飛行能力を失ったそれらは悶えながら奈落の底へと沈んでいった。
 だが群れを潰せばまた新たな群れがすぐに飛来する。ノエルは選択兵装をプラズマキャノンに変更するとすぐさま充填を開始した。
 先程プラズマライフルの連射で掃討した集団とは逆方向の側面から飛翔型エヴォルグ量産機達が迫る。異常伸長し有線式誘導と化した触腕が一斉に襲い掛かった。エイストラはバイブロジェットとは別個に備わる標準の推進装置を細かく噴射して最小限の回避機動ですり抜けて見せた。
「ある程度の周辺被害は生じますのでご容赦を」
 プラズマキャノンの充填が完了した。90度前面に倒れた砲身より荷電粒子の奔流が溢れた。大口径であるが故にライフル以上の凄まじいエネルギーの光軸が、触腕を伸ばす飛翔型エヴォルグ量産機の群れを飲み込む。直撃したものは無論、一見掠めてもいないものさえも熱に翼を焼かれて抉られる。荷電粒子はエヴォルグをなぞっただけでは殆ど減衰する気配は無く、壁面に着弾すると青白い炸裂光を咲かせて縦穴の空気を戦慄かせた。粉々に粉砕された保育器とその中身が空中に放り出されて重力に従い闇の底に降り注ぐ。だがノエルの興味は吹き飛んだ施設の一部にも向けられていなければ先程倒した敵群にも向けられていない。
「抵抗が弱過ぎますね」
 愛宕連山と南州第二プラント近辺で交戦した個体との大きな違和感にノエルは気付いた。短絡的に言ってしまえば動きに鋭さが無い。獰猛性は相変わらずだが挙動のひとつひとつに鈍さが臭う。
 ものの試しにと単機で襲来したエヴォルグにプラズマライフルの一射を見舞えば容易に命中し肩口から背中に掛けて赤熱した穴が空いた。
「エネルギー不足でしょうか。こちらとしては都合が良いのですが」
 ノエルはどこまでも感情を読み取らせない表情で淡々と次なる目標に照準を重ねた。縦穴中央の上下に通う支柱を基点としたサテライト軌道でプラズマライフルのダブルトリガーを連射し、飛翔型エヴォルグ量産機の集団を穴底へ脱落させる。エイストラの挙動は操縦者によく似て精密かつ迅速だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

天城原・陽
【特務一課】
笑うという行為は本来攻撃的なものだ

「フ、フフ…アハァッ!!」
目の前に広がる悍ましい光景。そして白羽井小隊の扱い
ここまで腹立たしくいっそ清々しい怒りを感じたのは久しぶりだ
思わず笑いがこみ上げる
私の敵はそこかしこにいる。戦う理由としては十分だ。
怒りを発露させながら冷静さは失わず、白羽井小隊と共に空対空戦闘機動を取る
戦場を縦横無尽に飛び回り敵の飛翔部位を、時には胴体ごと撃ち抜きつつ敵を引き付け、引きずり下ろし、戦友の元へ叩き落とす
「上等よ!どいつもこいつもブッ殺すわ!!」

『見ていなさい…いずれ引きずり降ろしてやるわ。』
誰に向けた言葉か。紡いだ口の端は牙をむいた獣のように笑っている


斑星・夜
【特務一課】
※キャバリア:灰風号搭乗

酷いって言葉じゃ言い表せないくらい、酷い事をするね、本当に。
何もかも、誰も彼もだ。
(白羽井小隊の子達大丈夫かなと心配しつつ)

オーケー、一つ残らず叩き潰すよ。まずはこいつらからだね。
思いっきりやっちゃうよ!

エレベーターの上で、落としてくれた敵を攻撃します。
落下のタイミングを合わせて、RXブリッツハンマー・ダグザを『グラウ・ブリッツ』を込めて振り下ろしたり、
ハンマーを振り回して『範囲攻撃』したり。

落ちて来た数が多い時はEPブースターユニット・リアンノンを起動して、まとめてぶっ飛ばします。
逃げそうな敵はRXSシルバーワイヤーで絡め取り、引き摺り落とすよ!


キリジ・グッドウィン
【特務一課】
(オブリビオンキャバリアを戦力として飼い慣らそうとして
持て余したうえに自国の首を締める存在になっちまったってとこか…)

まあ地元製ならこれだけ大量に出てくるよな
自国で弄り回して都合が悪くなったら封殺、ヒトもエヴォルグも扱いも変わらない
こういうのは特に都市の奴らが嫌いそうだが……って、もう飛び出してたわ

ジュディスで出撃
ギバが落としたエヴォルグの脚を引き掴んで自分の間合いへ。ランブルビーストによる電撃爪で痛め付ける
「飛ぶ事を覚えたヤツってのは足がお留守になりがちなんだよ、なァ!」

迫り来る蝕腕は収束飛刀で捌き、焼き落とす
マダラァ!そいつはオレに残しとけ。今ぶん殴りに行くからよ



●迅雷
 赤雷号の内に座す天城原の口元が上下に並ぶ白い牙を覗かせる。
「フ、フフ……アハァッ!!」
 喉奥に封じ込められていた笑いが迫り上がり、食いしばっていた顎をこじ開け発せられた。八重歯が獰猛な鋭さを見せ、歯の隙間から滲み出る息遣いは怒気を含んでいた。
 双眸の中で荒む獣の如き光を湛えた眼が周囲を一瞥する。南州第一プラントが抱える案の定の腹の内、それを見て狼狽した所を無理矢理に叩き起こされた白羽井小隊。一度に振ってきた状況に沸き上がった怒りはむしろ清々しくもあった。
「どいつもこいつも……」
 暗く燃え上がる猛りが拳に力を込める。操縦桿を握り締めれば衝撃に反応して硬化した強化服が軋む。だが膨らむ怒気に反して思考は澄んでいた。赤雷号が地面を蹴れば高機動推進ユニットに光が灯り、機体を飛翔させた。
「白羽井小隊……フェザー01、やれる?」
 ギガントアサルトの照準を飛び回るエヴォルグに重ね合わせる。
『先はお騒がせしました。問題ありませんわ、薬が効いてまいりましたので』
 返答は微かに震えを帯びていたが口調は不自然なまでに平静だった。白羽井小隊のイカルガはエレメントと呼ばれる2機1組の編隊を構成してエヴォルグを迎撃している。
「そう」
 天城原は忌々しく舌を打ちながらトリガーを引いた。ギガントアサルトの銃口から電磁加速された弾丸が迸る。翼状の部位を撃ち抜かれたエヴォルグは途端にバランスを崩して錐揉みしながらエレベーター上へと落下して行った。
 それを最後まで見届けるまでもなく赤雷号が横方向へと滑るようにクイックブーストを掛ける。ホーミングレーザーと見紛うばかりの無数の触腕が虚無を貫いた。
「憂さ晴らしには丁度いい!」
 群がる敵の群れに赤雷号は自ら強襲を仕掛ける。執拗に追尾する触腕。スラスターを用いた姿勢制御で紙一重に擦れ違う。ギガントアサルトがけたたましい発射音をあげて雷にも見える黄金の軌跡を伸ばす。射出された電磁加速弾体は飛翔型エヴォルグの翼や胴体を穿ち次々に空中戦から脱落させる。だが天城原はいずれも完全撃破確認の有無は行なっていない。それよりも一体でも多く文字通りに叩き落とす事を目的としているようにも思われた。
 ひとつの群れを潰せばまた次の群れが飛来する。敵を墜落させるに従い天城原にはより凶暴な笑みとも怒りともつかない表情が滲む。
「上等よ! どいつもこいつもブッ殺すわ!!」
 操縦者の猛りを体現するかのように赤雷号のメインスラスターが青白い噴射炎を吐き出す。急加速した機体はそのままエヴォルグに突進、速度に重量を乗せた強烈な蹴りが顔面にめり込む。それをブレーキとしてギガントアサルトを構えると横薙ぎに掃射、180度から群がっていたエヴォルグ達が次々に飛翔能力を奪われるか機能停止して視界の下へと失せる。だが天城原の視線は下では無く上を向いていた。
「見ていなさい……いずれ引きずり降ろしてやるわ」
 誰に聞かせるでもなく、向けるでもない。天城原と同じく縦穴の上方を見据える赤雷号のマルチセンサーは闇の先を映し返す。阿修羅を想起させる口の端から覗く牙は、果たして誰に突き立てられようとしているのか。
 赤雷号が鬼気迫る空中戦を演じる直下の露天エレベーター上では、同じく特務一課の修羅人が続々と落下して来るエヴォルグを待ち構えていた。
「あーあ、酷い事をするね。本当に」
 翼を撃ち抜かれエレベーターの盤上に叩き付けられても尚足掻くエヴォルグ。それを見下す斑星の瞳に酷薄な色彩が揺れた。彼は眼前の敵を見ていない。灰風号がブリッツハンマーを振りかざせば槌に電光が宿る。
「何もかも、誰も彼もだ」
 落下の衝撃で骨格を砕かれた下半身を引きずりながら、地を這い灰風号の足に掴みかかる。マニピュレーターの先端が触れようとした瞬間、縦穴に落雷が轟いた。グラウ・ブリッツを込めたブリッツハンマー・ダグザの超重打。エヴォルグの背を銀の戦槌が打ち据えれば、極限まで圧縮された電流が炸裂、エヴォルグを構成する半生体素材を一瞬で焼却し炭化させて光に帰した。
 強烈な打撃でエヴォルグを葬った斑星はなんの抑揚も感じられない。感覚を支配するのは得体も知れぬ冷たさと白羽井小隊への憂い。天城原の赤雷号が撃ち落としたエヴォルグが側近に落着する。体液を漏らしながら四足獣の姿勢で立ち上がるエヴォルグの様子を見た斑星は、その姿に白羽井小隊の末路が重なり合わせられたように思えた。
『マダラ! さっさと始末しちまえ!』
 逆サイドで交戦中のキリジから飛んだ檄が錯覚を打ち消す。
「オーケー、叩き潰すよ」
 灰風号が床を蹴って跳躍、雷の戦槌を頭部目掛けて叩き付ける。装甲など意味を成さない単純明快な一撃が床に体液の華を咲かせた。
「よいしょっと」
 アンダーフレームで踏ん張りを効かせてオーバーフレームを捻り、遠心力を乗せてブリッツハンマー・ダグザを振り抜く。翼を失い地を駆けてきたエヴォルグ達の横腹に雷の打刻が決まると、凄まじい速度で吹き飛ばされて縦穴の壁面に叩き付けられた。
「ギバちゃんも派手にやってるねー」
 エヴォルグは次々に上から降って来る。灰風号はブリッツハンマーで片っ端から叩いて潰し吹き飛ばしているが、次第に処理が追いつかなくなり始めていた。折り重なって小さな山を築きつつあるエヴォルグを前に、斑星はならばとブースターユニット・リアンノンの出力設定インターフェースを呼び出した。
「リアンノン起動っと」
 灰風号のジェネレーターが重い唸りを上げる。時間制限付きの高性能動力機関を作動させた事で出力が異常強化されたのだ。行き場を失った余剰エネルギーが各部の駆動系から青い火花となって散る。
 ブリッツハンマーを構え、腰を落とした灰風号が急加速しエヴォルグの小山へと突進する。間合いに入った瞬間に横一文字に振るわれた。纏う雷光の軌跡を残してハンマーが小山を打ち据える。増強されたスラスター出力と馬力を相乗させ繰り出された打撃は、折り重なったエヴォルグを纏めて粉砕、或いは吹き飛ばした。
「ふー、いい感じで入ったね」
 奈落の底へと降下を続けるエレベーターの端に立ち、吹き飛ばしたエヴォルグが吸い込まれていった闇を覗き込む。すると不意に下方より緑のシルエットが急上昇してきた。
「おっと」
 斑星が反射的に機体を引き戻す。下方に潜んでいた飛翔型エヴォルグが赤雷号と白羽井小隊に誘引されたらしい。
「そっちはダメだって」
 灰風号は腕部を向けると内蔵されていたシルバーワイヤーを射出した。極めて硬質な銀線がエヴォルグの翼を絡めとると灰風号が腕を引き戻す。上昇中に翼を拘束されたエヴォルグは抵抗の成す術もなくエレベーター上に叩き付けられた。
「はい、さよなら」
 駄目押しのハンマースタンプを見舞う灰風号。落雷の様な打撃音と共にエヴォルグの息の根は一瞬で潰された。
「さてお次は……と」
 天城原が順調に撃ち落とし続けているエヴォルグを斑星の金色の瞳が品定めする。荒々しくハンマーを振るう機体の姿勢からはどこか余計な雑念を振り払うかのように戦闘へ興じる搭乗者の様子が伺えたかも知れない。或いは一刻も早くこの任務を終わらせようとする生き急ぎか。何にせよ理由は己の為ではなく別の誰かに向けられたものなのだろう。
 灰風号と同様にエレベーター上で戦うジュディスも落下して来るエヴォルグの後処理に追われていた。床に叩き付けられたエヴォルグが再度立ち上がったところにランブルビーストの剛爪が突き立てられ、一撃目で柔軟性に富む生体装甲を引き裂き二撃目で内部の主要機関を抉り込んで機能停止に追いやる。
(こいつらを飼い慣らそうとして、持て余したうえに自国の首を締める存在になっちまったってとこか……?)
 ジュディスの戦い振りは雷撃爪が冠する名を体現するように荒々しい。だがキリジの思考は対照的だった。平静に状況を見定めるべく、現在に至るまでに知り得た情報を改めて思い返す。前に天城原が予見を立てていた、この国が人喰いキャバリアの執拗な襲撃を受ける理由とはこれなのだろうか。そもそも人喰いキャバリアは初めから大陸から侵攻してきた訳ではなかったのか。前提が覆れば話しは余計にややこしくなる。
「まあ本当に産地直送ならこれだけ大量に出てくる説明も付くよな……っとォ!」
 エヴォルグ量産機が三方向から迫る。ジュディスは背後より飛びかかって来たエヴォルグを回し蹴りで場外に弾き飛ばし、もう一体にはランブルビーストの鉄拳を見舞う。残る三体目の頭部を真正面から掴んで突進を無理矢理に押し留めると、マニピュレーターの出力を徐々に上昇させた。頭部を掌握された状態で宙に持ち上げられ足掻くエヴォルグ。ジュディスの黒い頭部に覗くデュアルアイに、紫の獰猛な光が煌めいた。
「自国で弄り回して都合が悪くなったら封殺、ヒトもエヴォルグも扱いは変わらない……ついでに頭をブッ潰されれば死ぬところもなァッ!?」
 キリジが指先に力を込めるイメージを送り込めば、サーヴィカルストレイナーを経由してジュディスにも伝達される。遂にランブルビーストの握撃に耐えきれなくなったエヴォルグの頭部が、体液や内容物をマニピュレーターの隙間から噴出させつつ押し潰された。微動にもしなくなったエヴォルグの首から下が床に落ちる。返り血にまみれたジュディスはマニピュレーターを払いながら死体をエレベーター外へと蹴り飛ばした。
「こういうのは特に都市の奴らが嫌いそうだが……って、もう飛び出してたわ」
 脳に投影されたサブウィンドウ内では赤雷号と灰風号が鬱憤を晴らすかのように獅子奮迅している。分からなくもないがとの同情が湧き掛けた矢先、エレベーター上に落下してきたエヴォルグが翼を広げて再度飛翔する兆候を見せた。
「飛ばせるかよッ!」
 ジュディスが床を蹴るのと同時にスラスターを噴射した。だがエヴォルグの飛翔の方が僅かに早い。翼を羽ばたかせて足がエレベーターを離れた瞬間、エヴォルグは再度床に機体を叩き付けられた。
「飛ぶ事を覚えたヤツってのは足がお留守になりがちなんだよ、なァ!」
 紫電を纏う爪がエヴォルグの足に食い込み、地面に引き摺り戻したのだ。暴れるエヴォルグをジュディスは片足で抑え込み、両腕を連続して袈裟斬りに振るう。紫の雷光が駆け抜ければエヴォルグの表面保護皮膜は深々と抉り込まれる。握り込まれたマニピュレーターが頭部を打ち据えると稲光が走った。ジュディスは機能停止したエヴォルグの胴体を掴んで持ち上げるとエレベーター外へ無造作に放り投げた。
 息つく暇もなく振り返ればエヴォルグの群れより無数の触腕が迫る。キリジが舌打ちひとつでジュディスに収束飛刀を投擲させた。常人には視認出来たかも怪しいほどの短く素早いモーションで放たれたビームダガーが触腕と接触するとそれらを瞬時に溶断する。
「動きが止まって見えるぜッ!」
 続くもう一投。触腕を切除されたエヴォルグの頭部に刹那の刃がそれぞれ突き刺さり、その場で崩れ落ちる様にして機能停止に陥らせた。
「キリジちゃーん! ちょっといいかなー?」
 視線で通信元を辿れば斑星の灰風号がシルバーワイヤーで捉えた敵機を床に叩き付けている様子が見て取れた。複数体を同時に絡め取ったらしい。
「マダラァ! そいつはオレに残しとけ! 今ぶん殴りに行くからよ!」
 キリジが咆哮する。ジュディスはランブルビーストの爪を立てるとブーストダッシュで跳躍、灰風号が捕らえたエヴォルグ達へと獣の如き形相で襲い掛かった。ジュディスの紫電が引き裂き、灰風号が雷の鉄槌を振り下ろし、赤雷号が死の雷雨を撒き散らす。暗い闇の底へと降下するエレベーター上にはエヴォルグの骸が累々と積み上げられていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャルロット・ゴッドハンド
「しゃぅもぉ!どらごんさんやきゃばりあさんとあそぶ〜!」
「はっちみっつ♪はっちみっつ♪お〜いし〜いなぁ〜♪」

フェアリーの力持ち×力任せによるただの拳伝承者の女の子
年齢5歳、身長15㎝

《パワーフード》の妖精蜂蜜を小さな壺から取り出して『食事』し、フードとUCで怪力をx倍化して《超怪力》を発揮

敵の攻撃は避けずに《極めて強靭な妖精の体》で真っ正面から受け止め【ただのでこぴん】で反撃

武器も防具も武術の心得も持たない極小美幼女が、素手と圧倒的な怪力だけで巨大な敵を次々と薙ぎ倒して行く様子を重視して描写して貰えると嬉しいです

あとはおまかせ。よろしくお願いします!
「またあそぼぉね〜!きゃっきゃっ♪」



●グラップラーシャルロット
 彼女はいつからそこにいたのだろうか。初めから、或いは途中から、どちらにせよその場にいる者の多くは彼女の存在に気付く事は難しかっただろう。何故なら、彼女の全長は僅か15cmなのだから。
「しゃぅもぉ! きゃばりあさんとあそぶ〜!」
 舌足らずの幼子、シャルロット・ゴッドハンド(全裸幼精の力持ち×力任せによるただの拳伝承者・f32042)の年齢は5歳。背中に生やした妖精の羽で宙を舞えば豊かな金髪のツインテールが揺れる。暗く冷たい南州第一プラントの縦穴において、彼女はキャバリアどころか得物ひとつ有さない。おろか一糸纏わぬ完全な全裸でこの人喰いキャバリア潜む魔窟に現れたのだ。
「はっちみっつ♪ はっちみっつ♪ お〜いし〜いなぁ〜♪」
 空腹だったのだろうか。シャルロットはおもむろに小さな壺を取り出すと蓋を開けて中身を舐め始めた。もし格闘技を嗜む者が見ていれば大したものだと感服しただろう。
 妖精蜂蜜、それはエネルギーの吸収効率が極めて高い即効の栄養食。試合前に愛飲する格闘技者もいるほどだ。それを壺一本分の量を瞬時に平らげてしまったのは超人的な消化能力と評する他に無い。
「はぁ〜おいしかった♪ それじゃあそぼぉ〜♪」
 満足したらしいシャルロットは周囲を見渡しながら遊び相手を探す。探すまでもなく飛翔型エヴォルグが飛び回っているのだが如何せんシャルロットは小さいを通り越して極小だ。非常に高い生体探知能力を持つ人喰いキャバリアであっても簡単には発見できないらしく、シャルロットに反応を示す個体は見受けられなかった。
「むぅ〜! しゃぅをぉ! むししないでよぉ!」
 飛び交うエヴォルグを追い掛けようとするが莫大とも言える体格差による移動距離の壁が分厚く立ち塞がる。しかしそんな中で偶然にもシャルロットの眼前に軌道を重ねたエヴォルグが現れた。全長15cmの幼子に5mの質量が真正面から高速で激突する。絶望的なまでの質量差。小さすぎる幼子の身は虫けらのように跳ね飛ばされてしまうのは必然のはずだった。
「つ〜かま〜えたっ!」
 高速飛翔していたエヴォルグに急激な制動が掛かる。第三者からすれば何も無い空間で不可視の壁に衝突したようにしか見えなかったであろう。エヴォルグの頭部を凝視してみれば、全長15cmの妖精が白面に張り付いていた。厳密にはその妖精が白面を両腕で捕らえ、エヴォルグの飛翔を押し留めたのだ。
 シャルロットの片腕がエヴォルグの白面より離れる。親指の第一関節に人差し指の爪の先をかけると、エヴォルグの顔面直前に構えた。
「えい♪」
 人差し指が解放された直後に凄まじい炸裂音が生じて白面が砕け散った。エヴォルグの機体は滅茶苦茶に回転しながら縦穴の側面へと叩き付けられた。全長15cmのシャルロットの放った何の変哲も無いデコピンが、全長約5mの人喰いキャバリアを弾き飛ばしたのだ。
 理屈には武器も魔法も無い。ただシャルロットの強靭な肉体によって起こされた事象なのだ。
 膨大な量の筋肉を圧し、締め付け、閉じ込め、凝縮した極小の肉体。それらの四肢が生み出す超怪力。彼女の戦い方には技術は関係ない。圧倒的な筋力があるだけだ。
「そぉ〜れ!」
 またしても不幸なエヴォルグがシャルロットと飛行軌道を重ね合わせてしまう。シャルロットが拳を突き出せばエヴォルグが身体をくの字に折り曲げ明後日の方向へと飛んで行く。すれ違い様に足を掴まれたエヴォルグは状況が飲み込めないままシャルロットに振り回されて投擲、壁に叩き付けられ機能を停止した。
「やったぁ〜♪」
 会心の投擲だったのだろうか、無邪気にはしゃいで喜びを表現しているところに唐突に大口を開いたエヴォルグが現れた。遂にシャルロットを捕食対象として認識し発見出来たらしい。有無を言わさず幼子を瞬時に口の中に取り込み両顎を閉じる。シャルロットの姿は人喰いキャバリアの顎へ確かに消えた。
 異変はすぐに起こった。閉じられた両顎が上下に押し広げられ始めたのだ。そして僅かに開いた隙間の中に挟まる妖精の姿。シャルロットが満面の笑みを浮かべていた。
「ばーん!」
 再び放たれたデコピン。上顎を直撃したそれによりエヴォルグの頭部上半分が綺麗に吹き飛ばされた。体液が噴水のように溢れ出し、頭部の大部分を失ったエヴォルグの機体が闇の底へと吸い込まれて行く。
「あ〜たのしかった! またあそぼぉね〜!」
 頭から爪先まで血塗れになった小さ過ぎるグラップラーの表情は充足感に満ちていた。彼女は武器も防具も武術の心得も持たない。強靭な肉体が生み出す暴力のみを全てとする格闘技者なのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
「参ります!」ウイングで【空中機動】。【空中戦】です

BS-Fブレードビットを出現させ、敵に突き立てる事を優先し、刺す様に当てて行きます
それ自体は致命傷にならずとも構いません
寧ろ脅威は低いと見做され、刺さったまま放置されていれば、それで。

敵攻撃は剣での【武器受け】や、【オーラ防御】で対処します
全てを捌き切るつもりですが少しでも主様の”塗装が剥がれる”事があれば「申し訳ありません、主様」
『ああ、仕事が増えたなメルメッテ?』

恐怖は、ありません。どのような形になろうと迎え撃つまでです
剣を変化させ指定UCを発動。敵を【見切り】鞭で絡め取って捕え【念動力】で浮かせ、締め上げます
『進化や成長は生者の特権と言えよう。亡者が理を侵したところで、その程度が限界だ。敗北を味わえ』
敵顎口内を熱飛刃で貫き、同時に周囲の敵に対しても一斉に刀身を展開
【不意打ち】で出力全開の熱線を放射です!

「(主様が、苛立たれて……。必ず挽回致します。集中しませんと)」
『(迷わず胸部を、私の「心臓」を狙う形状を取るとは――不愉快な)』



●ソードダンサー
 骸ばかりが置き捨てられた第一層とは打って変わり第二層には騒々しい鼓動に溢れていた。動き出したエレベーターを合図に潜んでいたオブリビオンマシンが一斉に目を醒ます。上から下から或いは横から、空気を裂いて飛ぶそれらにラウシュターゼの四つの紫眼が忌々しそうに光を脈動させる。
「参ります!」
 メルメッテが敵へ戦意を向ければ鮮血の紅を宿す双翼が羽ばたく。舞い散る燐光と共にラウシュターゼの機体が浮き上がる。急激な上昇加速から生じる重力負荷に苛まれながらも、メルメッテは主君であるラウシュターゼの機体制動に徹する。上方真正面から飛来するエヴォルグの集団が生体誘導弾を斉射した。ラウシュターゼは従奏剣ナーハを抜き放つ。ウィップブレードモードであるベリーベンの横薙ぎ一閃。のたうち回る無数の鋸刃が瞬時に誘導弾を引き裂いた。狂い咲く爆光の最中、ラウシュターゼと羽付きエヴォルグの群れの距離は瞬きひとつ終えた時には零に達していた。
『ほう?』
 ラウシュターゼの僅かな感服。それは敵ではなく我が身に座す従者に向けられたものだった。エヴォルグの開かれた顎が虚無を捕らえる。ラウシュターゼは細やかな姿勢制御だけでエヴォルグの群れと交差するとそのまま後方にすり抜け、オクターヴェを広げてエアブレーキを掛けて急減速、片翼だけをはばかせて機体を反転させた。
「ベグライトゥング!」
 メルメッテが宙に手をかざせばラウシュターゼも同様のモーションを演じてみせる。周囲の空間に呪術めいた陣が浮かび、それらを介してサイコ・ドローンが現じた。腕を払えばメルメッテの思念波動に従い其々が複雑な軌道を描いてエヴォルグに襲いかかった。
 突如出現した飛刃に対し、エヴォルグは殆ど条件反射的に迎撃行動を取る。だが振るわれた手足の殆どは宙を切ったに過ぎず、迎撃を潜り抜けたブレードビットが動体や翼にその刃を食い込ませた。
『ふむ、浅いようだが?』
 ラウシュターゼがわざとらしく首を傾げてみせた。
「はい。致命傷にならずとも構いません。刺さったまま放置されていれば、それで」
 小さく頷くメルメッテ。実際にエヴォルグの反応を見てみれば、突き刺さったベグライトゥングに怯みこそすれどもそれ以上の興味を示さず、性懲りもなくラウシュターゼへと向かってきている。味が気になったのか、引き抜いて齧り付いている個体も極一部で見受けられたが。
『ほう? いいだろう。戯れてみせろ』
「主様がお望みであれば」
 コクピットに座したまま眼を伏せ深く首を垂れる。膨れ上がった殺気に頭を上げて双眸を見開く。エヴォルグの集団から伸びた触腕が無数に分裂して視界を埋め尽くした。ラウシュターゼのオールレンジ攻撃を学習したのだろうか、面で襲いかかる事で対処不能の飽和攻撃を行うつもりらしい。
『なるほど。羽を生やしただけとも思えたが、進歩はあるようだな』
「これ以上はお通しできません。お引き取りを」
 ラウシュターゼが構えた従奏剣にメルメッテの思念が憑依する。
「従奏剣ナーハ……ベリーベン!」
 迫る触腕の壁に振り下ろされた蛇腹剣。滾る血を映した光の鞭に連なる凶刃が分離し、ベグライトゥングと同じく自律攻撃端末として縦横無尽に躍り狂う。ラウシュターゼの静かな苛立ちを体現しているかの如く。密かにそれを感受しているメルメッテは焦燥を集中へと転化する。主君に仇なす者への敵愾心、或いは主君が心底毛嫌いするオブリビオンの除去、何にせよ心に在るのは眼前の障害を切り刻むことだけだった。
 乱舞する飛刃は数秒と掛からぬ内に触腕の壁を微塵に引き裂いた。腕部の成れの果てを原型が残らないまでに細切れにされたエヴォルグが怯み悶える。
「いまっ!」
 短く叫んだメルメッテにベグライトゥングが応える。初戦で突き立てられたブレードビットはなおもエヴォルグの身に食い込んだまま健在だった。刀身が肉を押し広げながら展開し、内蔵されていたヒートディスチャージャーが露わになった。照射される熱線がエヴォルグを内部から灼き、熱したナイフでバターでも切るかのように容易く溶断する。
『くくく……メルメッテ、悪くない仕込みだったぞ。実に無様なものだな』
「お気に召されたのなら……光栄です」
 フォアシュピールを経由して伝わる感覚からしてラウシュターゼの言葉は嘘では無いのだろう。機体を二分割されたエヴォルグ達はまだ稼働しているいないに関わらず、飛翔能力を失い問答無用で奈落の底へと落下していった。
 しかし全てのエヴォルグが溶断処理された訳ではない。ビットを引き抜いていた個体が顎を開いたままラウシュターゼに突進する。
『撃ち漏らしているようだが?』
「申し訳ありません。すぐに処理致します」
 従奏剣はウィップモードのままだ。刃は既に回収されている。相対距離が縮まるよりも先にラウシュターゼが縦に剣を振るう。伸びた切先が白面を直撃すると甲高い音と共にエヴォルグを仰け反らせて強制停止させた。返す刃で腕を右から左上へと薙ぐ。伸びた刃が蛇の如くエヴォルグに絡み付いて締め上げる。そこへナーハを触媒に思念波を送り込み、サイコフィールドによる二重の拘束を加えた。
『死に損なったな、化物よ』
「あっ……! 主様……」
 不意にメルメッテの両手から重い感覚が抜け落ちる。ラウシュターゼが機体の制御権限を奪ったのだ。正確には取り戻したと言うべきだが、これから最後の一撃を加えようとしていたメルメッテにとっては全く想定していない事態に変わりは無かった。だからといって返してと言うわけにもいくまい。主君にはお考えがあるのだから。何者よりも嫌うオブリビオンを痛め付ける最高の考えが。
 ラウシュターゼは従奏剣で捕らえた余興を側まで引き寄せた。メルメッテは思念波の拘束維持に専念する。
『進化や成長は生者の特権と言えよう。亡者が理を侵したところで、その程度が限界だ』
 死者は墓場に、過去は骸の海に還れ。時の流れは不可逆。過去は今に勝利し得ない。絶対に。語り掛けるラウシュターゼは答えなど元から期待していないのだろう。眼前のオブリビオンマシンは想定通りに顎を開け閉めして打ち鳴らし、この期に及んでなおも食い意地を見せる始末だった。
『敗北を味わえ』
 ラウシュターゼの四眼が禍々しくせせら嗤う。エヴォルグの翼から手足に至るまでを巻き込んで絡み付く従奏剣の拘束が緩やかに圧力を増す。緑色の保護皮膜に食い込む刃はより深く内部を抉り、基礎骨格が軋みを上げ始める。人間が圧死する間際のように限界まで顎を開く。メルメッテが殺気の鼓動を感じ取ったのはその時だった。
「主様!!」
 エヴォルグの顎の奥から何かが飛び出した。それはラウシュターゼの胸部目掛けて瞬時に伸びる。
『……つくづく死に損ないだな』
 従奏剣を携えるマニピュレーターはそのままに、もう一方のマニピュレーターがエヴォルグの顎より飛び出たそれを寸前で捕らえていた。捕まえた物体は伸びた握り拳のようにも見えたが、すぐに全く異質なものであると理解出来た。拳に見えた箇所は顎だったのだ。いかにも凶悪な顎が首根をラウシュターゼに捕らえられたまま忙しく開閉し歯を打ち鳴らしている。言うならばこれは副顎と呼ぶべきものだろうか。
『どうやってかは知った処では無いが、よりによって胸部とはな。学習したか。不愉快だな、実に……』
 身を潜めていた苛立ちがゆっくりと立ち上がった。もういいとばかりに副顎を力任せに引き抜くと、従奏剣を振り払った。エヴォルグは瞬時に細切れにされ、散らばった肉片が闇に吸い込まれてゆく。その有様をラウシュターゼの四眼が睥睨していた。
『あの形状にして迷わず胸部か。どうしても心臓を喰らいたかったらしいな。餌にならずに済んでよかったな? メルメッテよ』
「申し訳ありません、主様」
 仮に副顎がラウシュターゼの胸部に達していたとして、表面のサイコフィールドコーティングを中和した上で装甲を貫通できたのか、疑問が残らないでもなかったメルメッテだが、不手際を及ぼした事に変わりないとして焦燥した様子で首を垂れる。
『侮るな。全て余興に過ぎん。それよりも……』
 ラウシュターゼの頭部が従奏剣を振り回していた腕部へと向けられる。籠手にも見える突起した白亜の装甲に、掠れた傷が生じていた。それを丁寧にも拡大表示して胸内のメルメッテに直接見せてやった。
「重ね重ね申し訳ありません。まだ至らぬ点があったようです」
『ああ、至らん。お陰でつまらない仕事が増えてしまったな、メルメッテ?』
 言葉の終わりには微かな嘲笑が付随していた。ラウシュターゼの苛立ちは顕在化したのち再び潜んだが、未だ消えてはいない。胸部に副顎が食い付かんとした瞬間に滾った怒気。その真意を改めて問う勇気を、この時のメルメッテは持ち合わせていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「生体キャバリアの生産施設!?
それじゃ、まさか……」
『想定しておった展開のうち、最悪のものを引き当てたかもしれんの。
セレーネよ、無理なら自動操縦で――』

機体から聞こえてくるミスランディアの声に、決意を込めて答えます。

「いいえ、私はもう過去から目を背けません!
そのためにガルヴォルンに……自分の居場所に戻ってきたのですから!
理緒さん、錫華さん、親衛隊各機、私の指示でフォーメーションを組んで迎撃です!」

縦穴内を高速飛翔する生体キャバリアの動きを計算し、生体ミサイルを迎撃する弾幕を張ります。
ですが、ミサイルの数が多すぎて、全てを迎撃することはできず、被弾してしまいます。

「きゃああっ!
き、機体が生体細胞に侵蝕されて……!?」

コンソールには、機体の装甲が徐々に侵蝕されていく様子がリアルタイムに映し出され――

『安心するのじゃ。偽装用装甲パージ!
姿を現すのじゃ、生まれ変わったスティンガーⅡよ!』
「これが……新しいスティンガー!?」
『こんなこともあろうかと量産機に偽装させとったのじゃ』


支倉・錫華
【カルヴォルン】

聞きたいことはいろいろあるけど、さすがにちょっと余裕がないね。
帰ってからの宿題ってことにしておこうかな。

相手が飛んでくるなら、こっちも飛ぼうかな。
大佐のフォーメーションに合わせて【蜘蛛の舞】を発動。
相手の隙間を縫うように飛び回りながら『EVOL』を倒していこう。

【歌仙】でしっかり斬れればいちばんなんだけど、無理なときは翼狙い。
もしくは【天磐】での【シールドバッシュ】で叩き落としていくよ。

弾幕も張ってくれているけど、それにしても数が多い。
こんなことなら『大砲』持ってくるんだったかな。

と、一瞬気を逸らしてしまったことが隙になり、ミサイルを撃ち込まれてしまいます。
自分への直撃はなんとか避けられたものの……。

しまった! 抜けられた! 大佐!?

大佐への直撃にめずらしくかなり青ざめますが、
『錫華、大佐は無事です。新機体と偽装装甲のおかげですね』

というアミシアの言葉に一安心。

あれが大佐の新しい機体……、
って、ミスランディアとアミシアはあとでお仕置きね(心配からの八つ当たり)


菫宮・理緒
【ガルヴォルン】

疑問は直接聞くことにしたいから、帰り道はしっかり確保しておかないと。
『希』ちゃん、ここの扉のパスワードも抜いておいてほしいな。

あとは白羽井小隊……。
戦闘時に薬を使うのはあるとしても、強制はちょっとね。
依頼が終わったら【アスクレピオスの吐息】で薬を分解させてもらおう。
トラウマは乗り越えるもので、トバすものじゃないからね。

っと、そこはあと。まずは集中しないと。
大佐の指揮に合わせて援護していくことにするよ。

【フレーム・アドバンス】を使って『EVOL』の動きを止めるか、鈍らせていこう。

錫ちゃんの動いている場所をメインに、
なるべく白羽井小隊の担当区域も入るようにUCを使っていくね。

白羽井小隊のみんな、キツイとは思うけど、
これからも日乃和の部隊として戦うなら、乗り越えないといけないところだよ!

吐いても壊しても全部直すから、相手をしっかり見て倒しきって!

それにしても数が多い!
ミサイル全部は……って、大佐!?

直撃にかなり肝を冷やしますが、煙の奥から現れたのは……。
新しいスティンガー……?



●スティンガー・リザレクション
 南州第一プラントは人喰いキャバリアの生産能力を有している。真相は結城の口から呆気なく明かされた。得られた情報の価値は猟兵各個人に依存するところだろうが、少なくともガルヴォルンには軽くない意味をもたらしたのであろう。
「この壁を埋め尽くしている全てが、生体キャバリアの生産設備!?」
 セレーネの視線の動きに合わせてナズグルの頭部が一巡する。現在も下降を続けるエレベーター上から見渡す環境は変化する気配を見せない。
『想定しておった展開のうち、最悪のものを引き当てたかもしれんの』
 ミスランディアが解析した壁面を拡大表示する。石棺とも保育器とも形容できるそれらには内部を窺える小窓が開けられていた。その小窓からは既に機能を停止して久しい半生体キャバリアの頭部がこちらを覗き返している。
「エヴォルグ……」
 セレーネの表情が引きつり、無意識に身体が強張った。ストライダー艦内で発生した虐殺劇の光景が、血の匂いに至るまで否応無く脳裏に蘇る。
『セレーネよ、無理なら自動操縦で――』
「いいえ」
 ミスランディアの続く言葉をセレーネのはっきりとした声音が遮った。
「私はもう過去から目を背けません!」
 引き裂かれ肉片と化した部活の身体、散乱した臓腑、頭の中を埋め尽くした恐怖、足に纏わり付く赤黒い過去を全て引き摺りながらセレーネは歩を前に進める。
「そのためにガルヴォルンに……自分の居場所に戻ってきたのですから!」
 意思が撃鉄を起こす。セレーネのナズグルが我に続けとばかりに敵へ銃を向ければ部隊員もそれに倣う。ミスランディアは黙したままだった。
「理緒さん、錫華さん、親衛隊各機、私の指示でフォーメーションを組んで迎撃です!」
「ん……了解」
「了解、大佐」
 錫華と理緒が通信を返す。彼女二人は愛宕連山での作戦行動の折にセレーネの挫折を目の当たりにしていた。
「錫華さんは機動戦闘での撹乱を。群れから逸れた敵機を優先的に排除してください。理緒さんは電子戦を含めた総合的なバックアップをお願いします。可能であれば白羽井小隊にも気を配ってあげてください。親衛隊各機は私の直接指示で対空砲火を」
 セレーネの簡潔な指令が矢継ぎ早に下される。声音に恐れの色は無く、顔付きはガルヴォルンを率いる指導者のそれだった。
「じゃあ行ってくる」
 真っ先に動いたのは錫華のナズグルだった。ワイヤーハーケンを壁面へ向けて射出すると微かにスラスターを噴射して跳躍、打ち込んだアンカーを起点に引き寄せられるようにしてエレベーター上より姿を消した。
「そうそう、大佐。ここの扉のパスワードも抜いておいたから」
 一層の時と同様に理緒は隔壁の解除コードを予め入手していた。理緒は白羽井小隊との情報接続経路を得ているため、大鳳から送信されたゲートロック開閉信号を掠め取るのは特段労を要しない作業だった。
「疑問は直接聞くことにしたいから、帰り道はしっかり確保しておかないと」
「本当なら今すぐ聞きたいことがいろいろあるけど、さすがにちょっと余裕がないね」
 理緒は片手間に情報処理を行い、錫華は早速戦闘を仕掛けていた。セレーネを含む三名は多くを知り過ぎてしまった自覚を持っている。封殺される事を前提に保険を懸けておくのは至極当然と言えるだろう。
「そうですね、全ては事が終わってからです。親衛隊全機! 対空砲火始め!」
 縦穴を飛び交う群れの一部がエレベーター上のナズグル部隊へと狙いを定めた。滑空降下するその群れを規律正しく斉射された銃弾の雨霰が出迎える。
「面です! 徹底的に面で制圧してください!」
 セレーネのナズグルを中心とした防御重視の隊列構成。現代版ファランクスとも言うべき密集戦法は飛翔型エヴォルグに対し効果的に作用していた。エヴォルグは生体誘導弾を連続して放つもナズグル達が展開する分厚い弾幕の面を抜ける事が叶わない。結果、誘導弾は発射したそばから撃ち落とされ、続いて自身も銃弾に貫かれて穴だらけにされてしまう。
 辛うじて生きながらえたエヴォルグの一部が苦し紛れに離脱を試みる。だが脅威は弾幕だけに留まらなかった。
「だめだよ」
 壁面を地表に見立てて滑空するエヴォルグの機体に一閃が煌めいた。錫華のナズグルがワイヤーハーケンとスラスターを駆使した立体機動で跳び回る。エヴォルグと交差した刹那に振るった歌仙が弾力性に富む保護皮膜を斬り裂いたのだ。飛行能力を喪失したエヴォルグは滅茶苦茶に回転しながら壁への衝突を繰り返して地の底に落下する。それを尻目に錫華は絶え間ない機体制動を続ける。ワイヤーハーケンを次々に打ち込んで、まるで大道芸人が空中ブランコでもしているかのような軽快で滑らかな曲線軌道を描き空中を跳ぶ。
「二体か……」
 前方より迫る二体のエヴォルグ。弾幕から逃れてきたのではなく初めから錫華を狙っているらしい。ナズグルを捕えんと触腕を伸ばすが錫華は回避ではなく敢えて直進加速を選ぶ。
「コクピットを狙ってくるのがばればれだから、簡単」
逆手に持ち替えた歌仙を胸部前面で構える。すると触腕は自ら細く鋭利な刃に擦過し壁に噴射された水の如く細切れになって四散した。
「纏めて終わらせる……!」
 二体のエヴォルグの間を縫う瞬間、一方の脳天をファンクションシールドの天磐で殴り付け、もう一方の片翼を歌仙で切除した。抜けた後方で金切り声と何か大きな質量が激突する音が下へと沈んでいった。錫華には顛末を確認している余裕がない。またすぐに次の敵が現れるのだから。
「弾幕も張ってくれているけど、それにしても数が多い……」
 何度目かの敵の攻撃を天磐で受け止めて歌仙で切り返す。今のところ処理し切れてはいるが、このペースがどこまで続くか危ぶまれるところだ。
「だねー、ちょっと白羽井小隊も押され気味かな?」
 laniusに搭乗して支援に専念している理緒は相変わらずどこか間延びした様子だった。しかし実務状況は忙しい。
「大佐! フレーム・アドバンスを使うから!」
 縦穴を飛び交う飛翔型エヴォルグの解析を終えた理緒はプログラムを構築、ユーベルコードの力を複写してそれらを流し込んだ。
 突如多くのエヴォルグの動作が急激に減速する。単純に動きが鈍ったというよりも映像の再生が鈍化したというべきだろうか。飛行や攻撃の動き自体はそのままに、それらが見てから対処可能となるほどに鈍く遅くなっている。これが理緒のフレーム・アドバンスの効力に依るものだ。現実にさえ干渉を及ぼす電脳魔術士らしい戦術選択とも言えるだろう。
「これで少しは余裕が出るはず……白羽井小隊のみんな、大丈夫?」
 理緒はエレベーターの直上で空対空戦闘を行っている白羽井小隊の隊長機へと通信を繋いだ。
『こちらフェザー01、つい先程から敵の動きが妙なのですけれど、これはそちらが?』
 中継映像越しに見た那琴の額には、滲む汗で黒髪が纏わりついていた。震えを伴う妙に平静な声音と焦点が覚束ない瞳は、戦術薬物の過剰投与に依るものだろう。
「キツイとは思うけど、これからも日乃和の部隊として戦うなら、乗り越えないといけないところだよ!」
 戦わなければ生き残れない。生き残れないのが個人だけならまだいい。背後に命を抱える兵士ならば、死んでもいいなどと甘えは許されない。理由はなんであれ、自ら望んで防人となった者達ならば尚更。厳しくとも現実として受け止めなければならない兵士の義務を、理緒は既知していた。
 生きて戦え。怯えるより嘆くよりも今は。セレーネがそうしたように。
「吐いても壊しても全部直すから、相手をしっかり見て倒しきって!」
 初めは理緒の激励を呆けた表情で聞いていた那琴の瞳の奥底に微かな灯火が揺らいだ。
「……了解ですわ。先の支援のお陰で、こちらも幾分戦い易くなっております。体勢を整え直す程度の余力は生まれそうですわね」
「うん。フレーム・アドバンス……あー、ええっと……いまエヴォルグの動作をスロー化するウィルスを流してるから、白羽井小隊のみんなもなるべく有効範囲内で戦闘するといいよ。範囲はマップデータに付けて送るから」
『お心遣いに感謝致します』
 通信を終える頃には那琴の声にも人間らしい生気が戻りつつあった。
「まあ、大丈夫そうかな。戦闘時に薬を使うのはあるとしても、強制はちょっとね」
 大鳳より強制投薬の信号が発せられていた事は既に履歴として把握している。使用されている薬の詳細はいざ知らず、那琴の様子から見て感情の起伏を著しく鈍化させる典型的な戦術薬物なのだろう。
「トラウマは乗り越えるもので、トバすものじゃないからね」
 心的外傷の治癒は本人の精神力に依存する所が大きい。セレーネ然り。もっとも、薬剤効果の中和だけならば理緒が有するアスクレピオスの吐息でも不可能ではないのだが、使用には些か問題がある。
「いま使うと寝ちゃうからねぇ……」
 流石にエヴォルグと弾幕が飛び交っているこの場で夢見心地にさせる訳には行くまいと、再度エヴォルグに流し込む新たなプログラムの構築を始めようとした矢先だった。
 縦穴底部より大多数のエヴォルグが飛来し、偶然か示し合わせたのかは定かではないが同じタイミングで生体誘導弾を一斉射したのだ。目標はセレーネのナズグル他エレベーター上に展開している部隊だった。しかも運の悪さとは重なるもので、多くの誘導弾は部隊の側面ないし後方から放たれていた。
「ちょちょちょ、ミサイル全部は!」
 フレーム・アドバンスを流し込むものの数が飽和しており伝達が間に合わない。減速効果を受けなかった幾つもの誘導弾が複雑怪奇な軌道を描いてナズグルに襲い掛かる。
「錫ちゃん!」
「いかせない!」
『自動補足完了』
 ミサイル群の側面から急行した錫華のナズグルがスネイル・レーザーを乱射した。こんな事ならば大砲を持ち込むべきだったと内心で毒付きながらトリガーキーを押し込み続ける。爆光が連鎖した。
「数が……!」
 幾つかは撃ち落とせたが全てではない。スネイル・レーザーを擦り抜けたミサイル群は尚もセレーネのナズグル達に向かって突き進む。
「4時と9時の方向! 対空防御!」
 最後の頼みの綱である親衛隊部隊が決死の弾幕を展開する。夥しい数の銃弾の嵐が巻き起こり、残存していたミサイルが次々爆散してゆく。だが奇跡的に対空砲火を潜り抜けた最後の一発が親衛隊員のナズグル目掛けて特攻を敢行した。
「危ない!」
 親衛隊員のナズグルを別のナズグルが体当たりで跳ね飛ばす。生体誘導弾の弾頭が装甲に突き刺さると、細胞組織を血管状に拡散させて機体の同化侵食を開始した。更に誘導弾自体が触手状の器官を生成してそれらを装甲や隙間へと浸透させる。ナズグルのコクピットで少女の悲鳴があがった。
「き、機体が生体細胞に侵蝕されて……!?」
 被弾したナズグルに搭乗していたのはセレーネだった。機体のステータスを表示する項目を見れば、被弾した箇所を中心として隣接する部位が次々に深刻な異常を示す赤へと変容して行く。けたたましく鳴り響く警告音が一層搭乗者の恐慌を煽った。
「大佐!? くっ! 邪魔!」
 横槍を入れようとしたエヴォルグに歌仙の剣戟が走る。錫華の表情から血の気が引き始めていた。
「侵食……止められない! 物理的な直接干渉で中身を作り替えてる! みんな近付いちゃだめ! 感染るよ!」
 理緒も電子介入で侵食汚染を阻止しようと試みたが叶わず、触れた物を巻き添えに変質させる細胞は接近するだけでも重大なリスクを及ぼす。
「もう機体が……! ひっ! いやっ! きゃああっ!」
 この短時間でナズグルの外装の殆どが生体誘導弾の侵食汚染を受けた。機体ステータスは全ての部位が赤に染まっている。手出しの仕様がなく歯噛みする理緒と錫華と親衛隊員。じわじわと同化侵食されるコクピットの中でセレーネは身体を縮こまらせて悲鳴をあげる事しか出来ない。かつて眼前で繰り広げられたストライダー艦内の惨殺場面の記憶が再燃する。もしこのまま侵食が進めばあの時と同じような事が起こるのか、それとも侵食が機体だけではなく人体にも及ぶならば自分がエヴォルグに作り替えられてしまうのか。おぞましい想定ばかりが浮かぶ最中、コクピットにミスランディアの声が響いた。
『安心するのじゃ。偽装用装甲パージ!』
「へ?」
 偽装装甲排除の横文字がモニターの中央に仰々しく流れた途端に機体に大きな衝撃が走り、コンソールパネルを含む全ての出力装置がブラックアウトした。
『姿を現すのじゃ、生まれ変わったスティンガー……スティンガーⅡよ!』
 僅か数秒の間を置いて出力装置に光が戻る。モニターには戦闘システム再起動とスティンガーⅡのメッセージが表示されていた。警告音は停止し機体ステータスも全て正常化されている。そしてステータスを表示する計器の機体形状が何処か見覚えのあるものに変化していた。
「なんです!? 何が!? ミスランディア!?」
「これって……」
「えー? そういう事?」
 状況が飲み込めず半ば混乱状態で喚くセレーネ。錫華と理緒も同じく驚愕と困惑が入り混じった複雑な表情をしていたが、セレーネよりは冷静に事態を把握出来ていた。何せ外から見れば一目瞭然なのだから。
 散らばる装甲、その中央に立つキャバリアはナズグルとは全く異質のものだった。かつてのセレーネの愛機であるスティンガーの面影を色濃く残した機体、スティンガーⅡが燃え落ちるエヴォルグの炎を艶やかな装甲に照らし返す。
『まあ機体に乗っている本人は見えんじゃろうな、ほれ』
 ミスランディアが錫華のナズグルを経由してスティンガーⅡの外観を出力する。ここで漸くセレーネは事態を把握しつつあった。
「これはスティンガー……ではないですよね?」
『じゃからスティンガーⅡだと言っておるじゃろう。こんなこともあろうかと量産機に偽装させとったのじゃ』
「なんでそんなまどろっこしい事を!」
 続く文句を言い掛けた矢先、飛翔型エヴォルグが再び生体誘導弾を斉射した。先程の生き残りが旋回して戻ってきたらしい。
『話しは後じゃ!』
「分かってます! 行きますよ、スティンガーII!」
『そうそう、言い忘れておったのじゃが……』
 ミスランディアの話しを聞き終えるよりも先にセレーネがブーストペダルを踏み込んだ。キャバリアブレードを抜き放ちエヴォルグ目掛けて突貫する。
「ミサイルなど!」
 すれ違い様に切り払い返す刃を突き立てる。セレーネの思惑ではそうなるはずだった。しかし彼女は知らなかった。スティンガーIIはスティンガーの三倍の総合出力を有している事を。
「どわぶっ!?」
 スティンガーIIはかっ飛んだ。長らく乗り続けていたスティンガーと同じ感覚でブーストペダルをベタ踏みしてしまったからだ。機体はミサイルを擦り抜けエヴォルグまで直行。そのまま正面衝突事故を起こして壁面にまで押し込んだ。
「大佐!?」
 エヴォルグに体当たりを敢行し、仲良く壁にめり込んだ一連の有様を目撃してしまった理緒が思わず叫ぶ。
「大丈夫です! 大丈夫! ちょっとミスランディア!」
 セレーネはスティンガーIIを引き戻すと、まだ活動しているエヴォルグの首にキャバリアブレードの刃を滑らせた。機体と別れを告げた頭部が宙に舞い、夥しい体液が噴出する。
『エネルギーゲインが三倍になっておると言いたかったんじゃがの』
「先に教えてくださいよ!」
『教えようとしたら突っ込んで行ったんじゃろうが』
 エレベーター上に復帰したスティンガーIIには先ほどあれだけ派手に激突したというのにさしたる損傷は見当たらない。出力だけではなく総合的な強化がなされているのだろう。
「あれが、大佐の新しい機体……」
 遠巻きに見ていた錫華が呟く。何はともあれ大事に至らず胸を撫で下ろすと、アミシアが何気ない言葉を零した。
『無事起動出来たようで何よりです』
 錫華の眉間が顰められる。
「アミシア、知ってたの?」
『はい』
「いつから」
『設計を開始した当初からです』
 心なしかアミシアは自慢気だった。
「そう」
 表情の変化は少ないものの、ますます不機嫌になりつつある錫華が暫しの間を置いて再度口を開いた。
「ミスランディアとアミシアはあとでお仕置きね」
『なぜです?』
『なんじゃと』
 電子知性体より真意を問い質す声が上がったが、錫華は頑として答えなかった。
「みんな! まだ敵が来るよ!」
 理緒の通信にガルヴォルンの面々が一斉に戦闘体制の構えに戻る。
「総員再度フォーメーションを構築! 最下層までもう少しの筈です!」
 スティンガーIIがアサルトライフルを回収するとそれを構え、来たる敵へと備える。
『いまのセレーネならスティンガーIIの性能を十分に引き出せるはずじゃ。やってみせい』
「言われなくとも!」
 傷心の家出娘は今こうして生まれ変わったスティンガーIIの操縦席に戻ってきた。恐れを知り乗り越えた傭兵団の若き指導者には、刃の切先の如き鋭光が宿りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
先行し敵を切り崩します
白羽井小隊各機、体勢崩れた敵の掃討を頼めますね?

電脳空間に収納中の電脳剣の強化でキャバリア装備サイズに拡大した機械妖精をロシナンテⅣの背部コンテナから出撃
空戦性能中心に機体や武装の強化
ナノマシン再生成による補給や修理行わせ

盾は背にマウント
サブアーム含めた四腕で強化銃器乱れ撃ちで触腕ごと敵掃討
弾切れ武装は即座に投棄
背部コンテナから手榴弾射出
蹴り飛ばして牽制
抜剣し爆炎抜けた敵を排除
妖精より再生成銃器受け取り戦闘続行

修復が行われます
損傷機体は鱗粉圏まで退避を!

…これは…
(ナノマシン経由で治療データ受け取り)

大佐、内密にご相談が

現在、小隊員の薬物依存の治療を私の剣…装備が全自動で遂行中です
申し訳御座いません

…責めるなど
猟兵個人で全日乃和将兵の治療など不可能
これも焼け石に水の行為です

ですが彼女達の身体に残る治療処置の残滓
それを日乃和が解析、再現出来れば…

あとはそちら次第…“種”を託します
彼女達には間に合わずとも…

次代に希望遺してこそ、戦士の…御伽の騎士の役目というものでしょう



●継ぐ者
 縦穴で猟兵達を待ち伏せていたエヴォルグ量産機EVOL。よもや際限無しかと思われた増援にも漸く終わりが見え始めていた。
「敵反応の増加が止まった……遂に休眠中のエヴォルグの手数も底が尽きましたか。現状だけで判断するならプラントの稼働自体は停止している。恐らくこれが最後……」
 トリテレイアの胴部に内蔵されてる核機関が戦況を実直に分析する。そのトリテレイアを内包するキャバリア、ロシナンテⅣはエレベーター上に陣取り、いつ終わるとも知れない対空戦闘を継続していた。周辺にはライフルが排出した薬莢と空箱となった弾倉が散乱している。
 敵の数がこれ以上増加しないとなれば後は実質掃討戦となる。猟兵は兎も角として白羽井小隊の負荷が高まりつつある現況では可能な限り早く突破しておきたいところだった。トリテレイアの電子頭脳は迅速に戦術判断を下す。
「機械妖精、射出」
 ロシナンテⅣが背部に搭載している多目的兵装コンテナが開けば、小型の妖精型自律支援端末が次々に射出される。それらは全てトリテレイアが電脳空間に収納している禁忌の剣に依る改変を受けていた。
 現実改竄。概念から発現する事象をも書き換える叛逆の剣が施す呪いとも祝福とも言い難い力で、機械妖精達は武装拡張やナノマシン散布といった能力を与えられている。
「修復、補給、機能拡張処理開始」
 トリテレイアに命じられるがまま機械妖精達はロシナンテⅣの各部に纏わり付いて作業を開始した。燐光が舞っているように見えるのはナノマシンを散布しているからだろう。散布された箇所の損傷は癒え、三割にまで低下していた推進剤の残量は最大値近くまで再充填される。そして外観こそ大きな差異は無いが、各部の推進装置は滞空能力を得るために内部機関の最適化が施された。
「全工程完了、飛翔」
 傷だらけの大盾を背面のアタッチメントに回したのち、アンダーフレームの膝関節を屈めて伸ばす。反発力が生じると同時にスラスターを瞬間的に最大噴射して機体を飛び上がらせた。直上へ加速し、そのまま空対空戦闘を展開している白羽井小隊の元へ疾駆する。
『騎士の方?』
「先行し敵を切り崩します。白羽井小隊各機、体勢崩れた敵の掃討を頼めますね?」
 ロシナンテⅣが背面のサブアームを含む四本の腕で構えたライフルを敵へと向ける。その姿を直近で見た那琴は無言を返答とした。
 ロシナンテⅣと羽付きのエヴォルグが仕掛けたのはほぼ同時だった。ロシナンテⅣが各部のスラスターから噴射光を吐き出して突進。エヴォルグが四方向から時間差で触腕を伸ばす。四本の腕がそれぞれの方向に向けられ弾丸を速射し触腕を撃ち落とす。機械妖精の強化処理を施されたライフルが射出した弾体の初速は電磁加速投射砲に匹敵する。触腕だけに留まらず大元のエヴォルグ本体ごと容易に貫徹して撃ち落とした。
「全ライフルの再装填を」
 トリテレイアが短く言い切ればロシナンテⅣは所持していたライフルを丸ごと投棄する。間髪入れずに機械妖精達が投げ捨てられたライフルを確保して弾倉の再装填を行う。
 しかし敵は待ってはくれない。今度は直接喰らい付かんと壁を地に見立てて高速滑空し群れで襲い掛かる。トリテレイアは勤めて平静に選択兵装を手榴弾に変更、ロシナンテⅣの背部コンテナよりそれを射出させると時限信管を起動し蹴り飛ばした。榴弾は迫っていたエヴォルグの群れの先頭を行く個体の顔面に命中。仰け反ったかと思いきや炸裂した爆炎に飲まれた。後続の数機も爆発の巻き添えに遭い奈落へと脱落する。
「二重抜剣と同時に加速」
 ロシナンテⅣは既に次の攻撃動作に入っていた。左右のマニピュレーターで実体剣を抜き放ち爆炎へ向かってブーストダッシュを仕掛ける。緋色の炎を突破した先にエヴォルグが現れた。触腕が伸ばされるが一方の剣でそれを切り払いもう一方の剣を脳天目掛けて突き立てた。エヴォルグの白面にはロシナンテⅣの加速を乗せた突進を止めるほどの強度は無い。重騎士の猪突を真正面から受けたエヴォルグは壁面にまで押し込まれ、衝突時の衝撃で全身の骨格を粉砕されて機能停止した。
「白羽井小隊が……! 兵装変更、ライフルを」
 エヴォルグの遺体より剣を引き抜いたロシナンテⅣが剣を納刀すると、後を追って来た機械妖精達からライフルを受け取る。残弾は全て最大となっていた。白羽井小隊の横腹を突こうとしていたエヴォルグの群れに対して直進しながら四挺全てのライフルを乱射する。横方向から高密度の銃弾の嵐に見舞われたエヴォルグの群れは防御も回避も叶わず穴だらけにされてゆく。空いた穴から体液を噴出させて落下した頃には、ロシナンテⅣは白羽井小隊の隊長機の元へ辿り着いていた。
「修復が行われます。損傷機体は鱗粉圏まで退避を!」
 ロシナンテⅣを追走してきた機械妖精達が縦穴を上下に貫く支柱周辺に散開して展開、妖精同士の間にナノマシンの散布空間を形成した。
『え……ええ、下がりますわ』
 戦術薬剤の作用がそうさせるのだろうか、一拍子遅れた感情の薄い返答を返して指定された位置まで後退する。イカルガの損耗は致命的とは言わずとも著しい。仮にこの後に戦闘がまだ控えているとすれば保たなかったかも知れない。白羽井小隊がナノマシン散布領域に入り込めば修復は直ちに開始された。
『なるほど、ナノマシン……』
 鱗粉を漂わせながら蝶のように舞う機械妖精をイカルガの頭部が追う。
「暫しお時間を頂きます。その状態では後が続かないでしょう。戦いはこれが最後とは限らない。修復すべき、補給すべきものはそれが可能な内に済ませておくのが最善かと」
『異論はございません。ご配慮に感謝しますわ』
 那琴は抑揚の薄い口振りで答えた。育ちの良い両家の御嬢様集団とは言え嫌に聞き分けが良過ぎる。これも戦術薬剤の感情抑制作用によるものか。どこかでそんな認識を覚えながらもトリテレイアは守護騎士然として機械妖精とティータイム中のイカルガ達を警護る。無作法にも割り込もうとする飛翔型エヴォルグは睨みを効かせるロシナンテⅣの四連ライフルによって瞬く間に強制退場させられた。
 暫しの沈黙が流れた。唐突にトリテレイアの元へデータが送付された。発信元は機械妖精だった。
「これは……戦術薬物の……」
 ナノマシンが機体を経由して強化服の機能にまで浸透したのだろう。パイロットのバイタルを確認した際に戦術薬物を異物として検知したようだ。しかし除去ないし修復して良いものなのか判断する権限を持たない機械妖精達は使役元のトリテレイアに指示を仰いだらしい。
 電子頭脳の中で処置後の様々な展開の演算が瞬時に繰り返される。幾ばくかの批評を終えたのち、トリテレイアは大鳳への通信回線を繋いだ。
『如何なされましたか?』
 初動以降、状況を黙して静観していた結城の声音は淑やかだった。中継映像で見る彼女の口元にはやはり薄気味悪い蠱惑的な笑みが浮かんでいる。
「大佐、白羽井小隊の件で内密にご相談が」
『ほう……? お聞かせ願えますか?』
 結城の双眸が僅かに細められた。トリテレイアの電脳はその表情から思惟の末端を感じ取っていた。だが敢えて本題を踏み抜く。
「現在、小隊員の薬物依存の治療を私の剣……装備が全自動で遂行中です。申し訳御座いません」
 トリテレイアの重く静かな声音に結城はゆっくりと目蓋を下ろすと、やや間を置いて開いた。
『いいえ、それは猟兵様がこの場で必要だとお考えになられた結果でありましょう? 私どもにはそれを咎める権限は与えられておりません。猟兵様方にとっては、白羽井小隊……のみならず、軍に籍を置く事を強要された少年少女達に対する私どもの所業こそ責め立てて然りでしょうに』
「責め立てるなど……」
 トリテレイアは首を横に振る。
「此方こそ、行き過ぎた僭越である事は重々承知しております。それに、猟兵個人で全日乃和将兵の治療など不可能。これも焼け石に水の行為です」
 トリテレイアの言葉は言外に多量の意味を含んでいた。ユーベルコードの力、或いはトリテレイアが持つ現実改竄の剣のような異界の技術を以ってすれば不可能ではないかも知れない。だがそこまで踏み込んでしまえば最後、猟兵が国政にもたらす影響は社会的、政治的なしがらみの泥沼にまで及んでしまう。それらに長期間に渡って付随する利権と生まれる不平の全てを背負い込まなければならない。そういった複雑怪奇で魑魅魍魎なあらゆる要素を統合した上で、トリテレイアは猟兵個人では不可能という言葉を選ぶに至ったのだ。そして結城はトリテレイアの配慮を悟り、深く追求する事はしなかった。
「ですが彼女達の身体に残る治療処置の残滓、それを日乃和が解析、再現出来れば……」
『よろしいのですか?』
 妙に柔かな笑顔を見せた結城にトリテレイアは深く頷いた。
「あとはそちら次第……“種”を託します」
『なるほど、では白羽井小隊には何としても帰還して頂かねばなりませんね』
 結城の顰められた眉にはどこか困惑とも安堵とも取れる感情が見て取れた。まさしくそちら次第とはよく言ったものである。今日の日乃和の最前線を支えているのは少年少女の兵。その多くを苛んでいる戦術薬物の代償を克服させたければ白羽井小隊を余計な策謀に巻き込む腹積りを諦めなければならなくなってしまったのだから。
「保険と解釈していただいても構いませんが」
『ご親切と解釈させて頂きます。私もあの子……彼女達の生還を強く望んでいる個人のひとりであるつもりですので』
 結城の言い淀みをトリテレイアの集音機能は聞き逃さなかった。だがこの場では敢えて言及はするまい。
『しかし、猟兵様は如何にここまでご厚意をくださるのでしょうか? 明日も知れずに沈み掛けている我が国に、利を売ったとしても還る恩など望めませんでしょうに』
「それは……」
 答え掛けた瞬間に全域周波数帯で通信が入った。発信元は那琴のイカルガ。敵反応が完全に消滅、増援の兆候無しとの内容だった。続いて白羽井の女子達が安堵の溜息をつく。するとトリテレイアは先程言い掛けていた答えの続きを語り出した。
「次代に希望を遺してこそ、戦士の……御伽の騎士の役目というものでしょう」
『まあ、それはそれは……』
 結城はトリテレイアの言葉の裏を探るべく頭を回転させているのであろう。だが彼女は知らない。発せられた言葉には表面上の意味しか乗せられていない事を。遠い遠い星の世界、かつて誰かが愛した御伽話。その御伽の騎士であり続ける事がトリテレイアの規範なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『エヴォルグ量産機REVOL』

POW   :    ヴォイドサイキックフィールド
【口内】から、戦場全体に「敵味方を識別する【質量を持ったサイキックバリア】」を放ち、ダメージと【共に防御を固める。触れた対象に狂気】の状態異常を与える。
SPD   :    ヴォイドサイキックスピア
【瞬間移動】で敵の間合いに踏み込み、【サイキックで作られた槍】を放ちながら4回攻撃する。全て命中すると敵は死ぬ。
WIZ   :    REVOLエンジン
【無機物、有機物、物質、非物質を問わず】【捕食し、量と質に応じて自身を修復する。】【捕食物の特性を反映し再誕する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●第二層制圧完了
 猟兵達は一層と二層を繋ぐ広く深い縦穴内で飛翔型エヴォルグの待ち伏せを受けた。地下深くで行われた対空戦闘は猟兵達の勝利で終わり、潜んでいたエヴォルグは全て駆逐され、キャバリアの保育器が壁面を埋め尽くすばかりの薄暗がりには再び静寂が戻った。

●第三層へ
 縦穴の中心を上下に貫く支柱に沿って降下を続けていた露天エレベーターが稼働を停止した。足下から伝わる大きな振動は最下層に到着した事を知らせる合図でもあった。
 エレベーターの縁から更に下を覗けば、不規則な形状の暗い影が無数に折り重なっている。先程の戦闘で猟兵達が撃墜したエヴォルグと、恐らく日乃和軍のキャバリアと思わしき成れの果てだろう。奈落の底は死者の掃き溜めと化していた。
『猟兵の方々、こちらです』
 那琴のイカルガが促す先にはエレベーターから外側へと伸びる橋が掛かっていた。手摺りの類は無く、飛行場の滑走路のように橋の両端で光点が緩やかに明滅している。
 暗黒の海に浮かぶ橋を渡り終えると、三度目となる巨大な隔壁が立ち塞がった。申請を受けるまでもなく結城は隔壁の施錠を解く。扉に灯る光が緑に変わると、空気を戦慄かせて左右に開き始めた。
 開いた先に現れたのは半円形の長い直線通路。非常灯は灯っているが終着点は闇に飲まれて見通せない。まさか永遠に続いているのではないかとも思わせる冥府の街道に猟兵達は足を踏み込んだ。
『セキュリティ維持のため、ゲートをロックします』
 何度目かの定型文染みた結城の通信に、猟兵達はどのような感情を抱いたのだろうか。緩やかに扉が閉ざされると、大通路には極度に張り詰めた空気が充満した。
『この先にプラントの中枢があります。まだ敵が潜んでいる可能性も十分あり得ましょう。どうぞお気をつけて……』
 蠱惑的な微笑を浮かべた結城が嫋やかな口振りで語る。恐らくこの先に何が待ち構えているのか見当がついているのだろう。
 大通路には敵の気配が無い。だが空気は緊迫している。無音の世界に機甲の足音や推進装置、または生身の猟兵の足音だけが反響する。
 無限とも錯覚した冥道の終わりは呆気なく訪れた。猟兵達の行手に先程潜った隔壁よりも更に巨大な鋼鉄の門が現れた。城壁とも見紛うばかりの威圧感を放つ扉には、過剰とも思えるほどに何重もの物理的、電子的な施錠が架せられていた。猟兵達と白羽井小隊と結城は鍵のひとつひとつを紐解いて行く。最後の施錠が切られたのと同時に重い衝撃音が通路に轟き、最奥部へと続く巨大扉が音を立てて左右に動き始めた。
『ようこそ猟兵様方。お待ちしておりました。ここが南州第一プラントの最奥部です』
 結城の声は変わらず嫋やかだが、垣間見える感情は半ば客人を迎えた歓喜に近い。嫌悪を示した猟兵も、構う価値もないと切り捨てた猟兵も、契約内容を履行するために闇の深部へと踏み込む。白羽井小隊を含めた全員が最奥部へと進入すれば、後方から扉が閉ざされる音が聞こえた。

●母よ、母よ
 『あれが南州第一プラントの……中枢……?』
 那琴がモニターに目を喰い入らせる。
 球技場を思わせる巨大な円形ホールの中央、鋼鉄造りの地面から生える全高15mの建造物。核とも思える透明な球体を中央側面に埋め込まれた四角柱のそれは、表面に通う血脈のような溝を様々な色味に脈動させていた。
 クロムキャバリアに於いて、民主国家から封建王国、学生連合まで乱立する数千の小国家が日夜奪い合いを続ける生産施設。南州第一プラントの心臓部は今もなお鼓動を続けていた。
『フェザー01より大鳳へ! 中枢は稼働しています! 電力供給はまだーー』
『いいえ、停止しています。発光していますが、これは言わば休眠状態のようなもの。突入部隊は確かに任務を遂行していたようですね。そして猟兵様方……ご様子を伺うに、オブリビオンプラント化は免れているとお見受けしますが』
 勝手に何かを解釈し安堵している結城とは逆に、言葉を遮られた那琴に胸を撫で下ろす余裕は無かった。そして猟兵達も気が付いただろう。中枢に埋め込まれた透明な球体の内部に人が収められている事に。
 外観年齢にして20代前後の女性だろうか。足下まで届かんばかりの艶やかな金髪、覗き込む猟兵達と白羽井小隊を映し返す碧眼。裸体の素肌はどこか陶器のような不自然な端麗さを漂わせている。人間と思わしき何かが、緩い粘性を持つ液体で満たされた球体の中で、苦しげな表情を滲ませながら揺蕩っていた。
 誰かが正体を問い質そうとした刹那、その人間の形をした何かの唇が動いた。
『たすけて』
 目視していた多くの者にはそのような発声の動きとして認識出来ただろう。同時にドームの外周部より急激に殺気が湧き上がった。散乱する残骸が蠢いて立ち上がる。細身の人間に酷似した影が次々に現じ、身体を揺らしながら猟兵達と白羽井小隊を包囲せんと詰り寄り始めた。
『これが母機を狂わせた元凶……? やはりプラントそのものは正常なままに、サイキックの脳波干渉で制御を……』
 珍しく動揺の色を見せた結城の通信を猟兵達は聞き逃さなかっただろうか。レーダーが、生身が持つ感覚が、全力で警鐘を鳴らす。亡霊のように揺らぎながら立ち上がる影の正体を非常灯が暴き出す。白面の人喰いキャバリア、エヴォルグ量産機REVOLだ。
『猟兵様方と白羽井小隊へ、出現した敵勢力の殲滅をお願いします。なお、プラントとプラントに組み込まれているレプリカントへの損害は避けてください。どちらも我が国の今後に不可欠なものですので』
 那琴が間に入って詰問し掛けたが、強制投薬された薬剤に感情を抑圧され叶わなかった。

●任務内容更新
 南州第一プラントの中枢に到達した猟兵達。中枢への電力供給の停止を直接確認したものの、最後の障害としてやはりエヴォルグの集団が現れた。作戦目標は出現した敵勢力の殲滅へと変更される。
 戦域はUDCアース出身者などにも馴染みがあるであろう、球技場にも似たドーム状の広いホールとなる。第二層ほどでは無いにしろ天井も高い。限度はあるが高度を取って滞空した状態での戦闘も可能だ。
 ホール内は薄暗く、床の上にはキャバリアの残骸が散らばっている。足の踏み場もない程ではあるが、多くは細切れにされているためキャバリアなら普通に歩行するだけでも跳ね飛ばせる筈だ。
 中央にはプラント本体である全高15mほどの構造体が存在する。雇用元のオーダーを主とするならば、中枢への意図的な損害は避けるべきだろう。最終的な判断は猟兵各個人に委ねられる処ではあるが。
 中枢自体は極めて強固な材質で保護されており、明確な意思を持って強力な攻撃を叩き込まない限り致命的な損傷は生じないとされている。
 なお、プラントのオブリビオン化は今のところ生じていない。こればかりは猟兵が持ち得る探知能力に依存するため客観的な根拠は無いが、猟兵がそう感じたのならばそうなのだろう。

●戦闘開始
『白羽井小隊全機、出現した敵機を各個撃破しますわよ。ここが正念場ですわ』
 薬害に対する猟兵の処置が効果を発揮し始めたのか、精神の均衡を取り戻しつつある那琴が落ち着いた口調で指揮を飛ばす。
 外観に違わず人間が醸し出す邪悪な加虐心を香らせながら、休眠していたエヴォルグ量産機REVOLが次々に立ち上がる。恋焦がれにも似た邪気の殆どはプラントでも白羽井小隊でも無く猟兵達に向けられていた。まるで猟兵達が此処に来るのをずっと待ち構えていたかのように。或いは至る経緯など全て茶番に過ぎず、猟兵達を闇の深部に引き込み喰い殺す事が目的だったと言わんばかりに。
 南州第一プラント最奥部にて、影より滲出した過去とそれを滅ぼす者達が双方の死を賭けて喰らい合う。深淵が静寂に回帰した時、立っているのは果たしてどちらなのか。
『もう、産みたくない』
 プラント中枢に埋め込められた水槽の中で、金髪碧眼の乙女の声にならない呟きが泡に溶けて消え失せた。
ノエル・カンナビス
思いますに。

今ごろは周辺国どこでも、エヴォルグ系列の生産計画が
持ち上がっていることでしょう。
それが実行されるかどうかはともかく、機体の研究は
始まっていると考えて間違いないと思います。

つまり、仮に周辺他国にここの情報の断片が流れても、
詳しい調査までされない限りは黙殺して大丈夫です。
政権交代くらいはあり得るにしても、ですが。

……ここの機密に、致命的な危険は感じませんねぇ……。

ともあれ残敵の掃討です。
乱戦状態で高硬度衝撃波が使えないのが手間ではありますね。

先制攻撃/指定UC。

敵の接近速度が瞬間でも攻撃はそうでなく、
統合センサーに死角はありません。
迂闊に立ち止まるような隙を見せなければ勝ちです。



●翅音疾る
 地底深くに埋設されたドーム内の外周をエイストラが甲高い翅音を立てながら滑空する。後方からは空間転移と見紛う瞬間移動を繰り返すエヴォルグ量産機、REVOLが追走してきていた。ノエルが操縦桿を引き戻せばエイストラが半身のスラスター出力を弱めて滑らかに反転、バックブーストを維持したまま両手に構えたプラズマライフルの銃口を向ける。
 網膜に投影されたヘッドアップディスプレイ上の照準を視線で追う意識の外で、ノエルの頭の中には疑念ともつかない思慮が渦巻いていた。
「解せませんね」
 呟きと同時に人差し指がトリガーキーを押し込む。エイストラが右腕に携えたライフルが青白い荷電粒子を射出した。超高温のエネルギー体は星屑の軌跡を描きながらエヴォルグへ突き進む。偶然か意図してかは定かではないにしろ、地表を連続跳躍するエヴォルグは瞬間移動さながらの機動でそれを回避してみせた。しかしエイストラが左腕で構えるライフルより続けて放った荷電粒子がエヴォルグの胴体中央を貫通、回避先に置かれていたプラズマビームによって撃破された。
 ノエルの眼は間違いなく照準を見据えていたが意識は別の方向を向いていた。
 アーレス大陸で発見されたプラント郡より沸き出ているとされる、エヴォルグ系列に代表される人喰いキャバリア。無差別に国を滅ぼし回っているのだから製造技術は日乃和を含め大陸の周辺諸国に万遍なく流出している事だろう。そして技術を得た国が必要とするならば、若しくは対抗措置として生産計画が持ち上がっていたとしても想像に難くない。本当に実行されるかはさておき、少なくとも研究しない理由はないだろう。何せ自分達に襲いかかってくる敵なのだから。
「つまり……仮に周辺他国にここの情報の断片が流れても、直接国に踏み込まれて調査でもされない限りは黙殺して大丈夫だと思うのですがねぇ」
 なおも追い縋るエヴォルグを引き離すためにノエルは攻撃を中断してエイストラを反転させた。通常エンジンが僅かに推力を生み出して加速を乗せるとバイブロジェットブースターの発する高音が1段階上昇した。正面へ急加速するエイストラとエヴォルグの相対距離が引き離される。瞬間加速ならいざ知らず、直線加速ならば明らかにエイストラに分がある。このドーム状の空間は中枢を基点とすれば円形だ。やろうと思えば幾らでも鬼ごっこに興じられる。
「政権交代くらいはあり得るにしても、ですが」
 しつこく追い縋るエヴォルグを尻目にノエルの頭に浮かんだのはそんな発想だった。ノエルは南州第一プラントが抱える機密にそこまで大事にひた隠す理由が感じられなかった。猟兵達が発見した痕跡意外にもまだ明かされていない隠し事があるにしても、些か仰々し過ぎるのではないだろうか。
「でもなければ……切掛は今ほどに重い機密では無かったのでしょう。それが他言無用だ内密だと危ぶまれる内に、機密という言葉自体が力を持ち始めてしまった……とか。まあ、私には関係のない事ですが」
 秘密を暴いたところで追加報酬が支払われるでも無いとフットペダルを踏み込んで機体を加速させた。エイストラが渦巻く思慮を追走するエヴォルグごと置き去りにする。
「高硬度衝撃波は……使わない方が得策ですね。手間ですけど」
 ノエルの視線がサブウィンドウ上に表示された装甲機能の項目を見遣る。機能は非活性状態に設定されていた。
 エイストラを覆うガーディアン装甲にはある種の攻勢防壁機能が備わっている。仕組みとしては反応装甲に類似しているだろうか、被弾時には衝撃波の放射によって威力を相殺する事が可能だ。しかし広いとは言えど限定空間であるこの場で使用すれば、余計なものまで弾き飛ばして友軍や中枢に被害が及ばないとも限らない。
「当たらなければどうという事はありませんから」
 全くの視界外からエヴォルグがサイキックスピアを投擲するもエイストラは真横にスライドブーストして危なげなく回避、反撃のプラズマライフルを二連射して頭部と胸を撃ち貫いた。
 早期警戒機並のレーダーシステムとユーベルコード、フォックストロットを組み合わせた視認に依存しない回避。リンケージベッドを介して意識へ直接投影される敵の位置情報を頼りに、四方から飛び込んで来たサイキックスピアを舞踏の如きスラスター捌きで避けてみせた。
「接近速度が瞬間でも攻撃はそうでなく……」
 所詮スピアは敵の位置からしか飛んでこない。そしてエヴォルグはエイストラを貫ける瞬間を逃さない。だからこそ読み易い。
「迂闊に立ち止まるような隙を見せなければ勝ちです」
 途切れぬバイブロジェットブースターの翅音と小刻みに噴射されるノーマルスラスターの音。僅かにも足を止めない滑らかな挙動でサイキックスピアを擦り抜けてダブルトリガーのプラズマライフルを撃ち放つ。荷電粒子が闇を擦過するたびに、エヴォルグの機体に大穴が穿たれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シル・ウィンディア
エヴォルグの新型?いや、新種って言ったほうがいいのかなぁ。
でも、こんなの外に出したら大変なことになっちゃうっ!

推力移動からの空中機動で、空中戦を展開
瞬間移動能力あっても、止まらずに動いて、残像も生み出しつつ攪乱機動だね

敵の攻撃は第六感に従って、瞬間思考力で、回避・オーラ防御を選択して行動
装甲は薄くても…。魔術防御は硬いんだいっ!

不要にに接近した敵は、バルカンの斉射
遠距離は三連マシンキャノンとビームブーメラン
近接はワイヤーアンカーと風刃剣のコンビネーションで仕留めるよ

うー、いつもの砲撃はさすがに使えないならっ!

攻撃・防御時に詠唱を重ねて
タイミングを見て、エレメンタル・スラッシュっ!
光の刃をどうぞ



●銀青乱舞
 薄暗いドーム状の空間。床と天井から丁度中間程度の高度を維持してアルジェント・リーゼが瞬発回避を繰り返す。
「エヴォルグの新型!? いや、新種って言ったほうがいいのかなぁ?」
 アルジェント・リーゼが両腕を突き出せばミトラ・ユーズの三連砲身から曳光弾が迸る。射出された弾丸が線状に連なり残骸だらけの地上を舐めた。標的となったエヴォルグの群れは人間めいた挙動で跳躍を繰り返して回避、数体は反応が間に合わず銃弾の連続掃射を浴びて上半身が弾け飛んだ。
 回避に成功したエヴォルグ達は銃身に変異した両腕部をアルジェント・リーゼに向けるや否や即座に速射を開始。シルは苦渋を噛みながらフットペダルを小刻みに踏み込む。アルジェント・リーゼがメインスラスターから青炎を吐き出し高度を上げると、その後をエヴォルグが連射した弾丸が追う。アンダーフレームを硬質な物体が擦過した。
「掠った!? でも!」
 アルジェント・リーゼは高い機体反応速度と運動性を確保しながらも標準以上の火力を誇る。その代償に装甲がやや手薄となっている。しかし弱点は機体全体に術式障壁をコーティング状に施す事で相殺されていた。弾丸は保護層を掠めて跳弾したに過ぎない。
「うわこっち来た!」
 嫌悪剥き出しのシルが見るモニター上では腕部機関砲の連射を継続しながらアルジェント・リーゼに大跳躍して迫るエヴォルグが映し出されていた。しかも片腕が泡立つように形状変化を起こしている。それはすぐにオブシディアンMk4が装備している鉈状の実体剣に似た刃へと形を変えた。
「このエヴォルグ、喰べた機体の特性を真似るの!?」
 鉈を振り下ろすエヴォルグをアルジェント・リーゼの頭部機関砲がけたたましい稼働音で迎えた。瞬間で発射された小口径弾はエヴォルグの頭部や上半身の各所に無数の穴を開ける。体液を噴出するエヴォルグをアルジェント・リーゼの蹴り上げが駄目押しして残骸が犇く床へと落下させた。
「なんか今までのエヴォルグよりも賢くなってるみたいだし、こんなのを外に出したら……」
 シルは機体を横滑りさせながら操縦桿のトグルキーを親指で回す。サブウィンドウ上の選択兵装がエトワール・フィランドに変更された事を確認すると、照準を三体のエヴォルグに合わせてトリガーキーを引いた。
「行って!」
 アルジェント・リーゼが機体全身をバネにビームブーメランを振り抜いた。高速回転する光の刃は曲線を描きながらエヴォルグの側面へ回り込み、視界外からその獰猛な刃を突き立てた。ものの数秒もしない間に捕捉したエヴォルグ三体の内二体が両断される。だが一体は自らの腕を犠牲にして飛刃をやり過ごし、瞬間移動めいた跳躍でアルジェント・リーゼに飛び掛かる。腕部は大型クローに似た格闘兵装に変異していた。
「ひえっ!」
 シルが台所で不快虫を見つけてしまったかのような悲鳴をあげる。アルジェント・リーゼは反射的な挙動で小型シールドの切先を突き出した。内蔵されていたフィル・ド・フェールが楔を射出する。楔はエヴォルグの無防備な胴体に食い込んで動作を強制停止させる。すかさずバックブーストするアルジェント・リーゼ。ワイヤーアンカーに引き摺られる格好でエヴォルグが後を追う。どう仕留めてやろうものかと考えたシルがホール中央に立つプラント中枢を横目で見遣った。
「いつもの砲撃はさすがに使えないよねぇ……」
 中枢は極めて頑強だとは聞いているものの、迂闊にテンペスタなどの強力な火砲に巻き込めばどうなるものか知れたところではない。ユーベルコードならまさしく論外だろう。
「だったら!」
 アルジェント・リーゼがシールドを搭載する腕を引き戻す。同時にフィル・ド・フェールのウインチが派手な火花を散らしながら鋼線を巻き上げた。エヴォルグの機体が急速に引き寄せられる。
「世界を司る精霊たちよ、集いて光の剣となり……」
 アルジェント・リーゼが逆手で抜剣したゼフィールの刀身に、雷電にも似た光が収束する。
「この気持ち悪いのを斬り裂けっ!」
 青光一閃。引き寄せられたエヴォルグの後方にアルジェント・リーゼが抜けた刹那、空間に横一文字の光の刻印が刻まれた。直後に腹部から鮮血を吹き出すエヴォルグ。腹を中心として真っ二つにされた緑の肉塊が眼下へ落下し、残骸に埋もれてくぐもった音をホールに響かせた。
「よし倒した……ってうわ!」
 油断も隙もない。アルジェント・リーゼに複数のサイキックスピアが迫る。シルは安堵しかけた肩をまた怒らせ、上下左右へと機敏な機体制動を繰り返す。トリガーキーを引けばミトラ・ユーズが夥しい数の銃弾を撃ち散らす。銀青の精霊機は全ての敵を討ち滅ぼすまで、その双翼から旋風生み出す光を放ち続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

メルメッテ・アインクラング
『そうだな――視点を変えよう。メルメッテ、あの通信で入る人間の言は只の課題と目標だと思え
目標も達成できないならお前は無能だ、分かったな?
何、愚行はいずれ綻び襤褸が出て破滅が訪れよう――構えろ』
知らずの内に固まっていた身体が主様の御言葉で解けました。操縦桿を握り直し「仰せの儘に」

敵攻撃は同程度の【念動力】で弾き返します
時には剣で【武器受け】し【狂気耐性】で堪えましょう

私が懐く願いは。偽幸を浴びたい、力を振るいたい……その内のどれでもなく
『私の命令を、最優先事項を!”生きる”を全うする事こそが!』
「……ええ。ですが、それだけではなく
私は主様から頂いた沢山の御恩をお返ししたい。そうしたい、のです。心から
貴方様を信じております、主様……ラウシュターゼ・アインクラング様」

指定UCを発動。私の全身と鋼の御体が一体であるかのように高まる熱が細部の隅々にまで巡ります
仕留める道筋を【見切り】瞬時にウイングで駆け抜け【なぎ払い】一閃
敵を纏めて熔斬し【切断】致します

『……結構。だが、勝手に返した気にはなるな』



●使命
 意識が、視点の奥に吸い込まれる。淡い瞳孔は何も見ていない。乳青色の目は何も映していない。何かを言い掛けた際、微かに開かれた唇は言葉を紡げずに短い呼吸だけを繰り返している。プラント中枢が脈動する度に鼓動が伝わる。どれも二つと存在しない、たったひとつの命の鼓動。それが何故プラントから聞こえるのか。指揮を司る彼女は私と主君に何をさせようとしていたのか。誰かの声が淀む思惟の耳朶を打つ。
『そうだな――視点を変えよう。メルメッテ、あの通信で入る人間の言は只の課題と目標だと思え』
 意識の中で囁くかの者の声音に瞬けば揺蕩う意識が引き戻される。
『目標も達成できないならお前は無能だ、分かったな?』
 重く緩慢な口振り。だが甘さは無い。呪術めいた言葉の連鎖から生まれた熱が指先へと通う。
『何、愚行はいずれ綻び襤褸が出て破滅が訪れよう――構えろ』
「仰せの儘に」
 主君の声に精神が戦慄く。魂に刻み込まれた使命が我が身を動かす。解呪を受けたメルメッテの眼に戦いの思惟が還り、左右五本の指が操縦桿を固く強く握り締める。強化服の表面材質が軋んで擦れる音がやけに大きく響いた。
 真紅の双翼が広げられればラウシュターゼが威風を纏いながら地より浮き上がる。包囲するエヴォルグ達が怖気のような挙動を垣間見せると、四つの眼は獰猛な発光を放った。
『さあメルメッテ、どう戦う?』
「お任せを」
メルメッテは口をきつく横に結んだまま我が手に思惟の力を込める。何人たりとも侵されざる拒絶の思惟を。
 尻込みするエヴォルグが大口を開いて咆哮した。放たれたるは音響では無い。物理的な衝撃を伴う干渉波だった。メルメッテが左手で握る操縦桿を押し込む。ラウシュターゼが合わせて左腕を薙ぎ払った。鮮烈な赤を示す思念が津波となってエヴォルグのサイキックバリアとぶつかり合う。
『容易いな』
 ラウシュターゼを介してメルメッテが放った思念波動は押し寄せる獰猛な咆哮の悉くを跳ね返した。だがエヴォルグ達の攻撃は止まらず、狂犬の群れのように吠え立てれば次々に干渉波を浴びせにかかった。
「くっ……!」
 結ばれた口元が綻び苦悶の声を漏らす。メルメッテは四方八方より浴びせられる咆哮に対し思念波をぶつけ、断絶の思惟を纏わせた従奏剣を振るい断ち切った。されど次第に数が飽和するにつれ、衝撃波がラウシュターゼではなくメルメッテ自身を蝕み始める。例えどんなに鎧を纏おうとも、心の脆さまでは守れない。
 機体が煽られる度に身体を悍しい殺気や残虐性が駆け抜けてゆく。自らに向けられた邪悪が使命で堅めた心の壁を噛み砕かんと牙を剥く。思念式防御機構が無ければ既にメルメッテの精神は狂気に引き裂かれていたであろう。
『メルメッテよ、いつまで戯れているつもりだ? もう十分であろう? それとも、心を喰われるか? 使命を尽くす事も叶わぬままに』
 主君の傲岸不遜な声音にメルメッテは閉じかけていた双眸を見開く。このような人紛いの化物如きに使命を喰らわせてはならない。
「私が懐く願いは。偽幸を浴びたい、力を振るいたい……その内のどれでもなく……」
 全方位より同時に浴びせられた干渉波が、ラウシュターゼの背より広がる紅の双翼に薙ぎ払われた。
『そうだ! 私の命令を、最優先事項を! ”生きる”を全うする事こそが!』
 ラウシュターゼが再起を待ち侘びていたと言わんばかりに左のマニピュレーターを開いて拳を握り込む。
「……ええ。ですが、それだけではなく」
 肩を荒く上下させながらメルメッテは眼前を見据える。額には大粒の汗が吹き出していた。
「私は主様から頂いた沢山の御恩をお返ししたい。そうしたい、のです。心から」
『……なんだと?』
 何の淀みもなく言い切るメルメッテに主君は些か勘繰りに似た疑念を見せた。暫しの沈黙の間を置いてメルメッテは呼吸を整えると、再び口を開いた。
「貴方様を信じております、主様……ラウシュターゼ・アインクラング様」
 宣誓とも取れるしっかりとした語り口。ラウシュターゼの四眼に灯る光が細められる。機士の仮面からは表情を窺い知る事は叶わない。
『ならば精々失望させてくれるな。この程度の状況、圧倒してみせろ』
 ラウシュターゼはいつも通りに堂々にして不敵だった。だがメルメッテにとってはそれが全ての答えとなった。
「承知しております。ですのでッ!!」
 メルメッテの薄桃色の髪が内より生じる思惟の鼓動に揺れる。思惟は波となりて、自己のみならずラウシュターゼの鋼の機体の末端にまで血脈のように通い循環する。帯びた熱が紅の光となってメルメッテとラウシュターゼを包み込む。
『心臓とはよく言ったものだな……』
 メルメッテが鼓動する度に肥大化したオクターヴェが紅の熱波を旋風として巻き起こす。気圧されたエヴォルグが苦し紛れに思念波動を放つも、熱波に触れた途端泡沫の虚無に溶けた。
「メルの鼓動が聞こえますか?」
 硝子の瓶が立てるような細やかな声。ラウシュターゼは独りでに従奏剣ナーハを抜剣する事で返答とした。
『教えた通りにしろ』
「はい」
 両者にそれ以上の言葉は不要だった。ラウシュターゼが姿勢を落として居合の構えを取る。右手が握り左脇に構えられた従奏剣の刃はオクターヴェと同様の紅を纏っていた。メルメッテの眼差しは剣を走らせる道筋を瞳の動きで描いている。忌まわしい鼓動を一刀で切り抜けるために。エヴォルグが攻撃態勢を見せた刹那が切掛となった。
「参りますッ!!」
 ラウシュターゼの背後で紅翼が炸裂する。機体に纏う赤熱の思念が浴びせられるサイキックバリアの悉くを溶かし焼き尽くした。同時に生じた急激な加速。メルメッテは重力加速度によって全身をコクピットシートに押し付けられながらも操縦桿を引き戻し、そして押し切る。
 顛末を第三者が見ていれば紅い光が狂ったかのように乱反射しているとしか認識できなかっただろう。
 殉心戯劇。敵から敵へ、瞬間移動さながらの鋭角な高速機動で駆け抜ける。擦れ違い様に放った紅の光は、極高温の熱を帯びた従奏剣の一閃によるものだった。反応限界を超えた神速の刃に触れたエヴォルグは切創面から広がる溶断の熱によって文字通り灰塵と化した。
 最早跡形も無い。元の位置に回帰したラウシュターゼが剣を振るって焔を払えば、煤けたエヴォルグの残滓が剣圧で大気に消えた。
「圧倒、致しました……」
 覚束ない息遣いにメルメッテの声は上ずっている。極限に近い超速機動はアンサーヒューマンの心身に相当な代償を強いたのだろう。ラウシュターゼは自身を包囲していた連中の消えた影を睥睨すると、満足気とも嘲笑とも取れる挙動で肩を鳴らした。
『……結構』
 主君が下した批評は短く簡潔で一切の感情も込められていない。メルメッテは操縦席に座したまま双眸を閉じて首を垂れた。
「お褒めに預かり、光栄です。これで……メルも……少しは……御恩をお返しできたでしょうか?」
『勝手に返した気になるな』
 ラウシュターゼの返答は鋭く、そして素早い。メルメッテはもう一度無言で首を垂れた。
『私の貸しはそう安くは無い。一生を賭けて返して貰う』
「はい……必ず。お返しするために、メルは、私は……“いきます”」
 機士の主君はもう何も語らなかった。上げられたメルメッテの顔には、どのような感情が滲んでいたのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
ならばいいでしょう
『ヒト』を救うのが猟兵ならば、『人間』を肯定するのが宗教ならば、やる事は簡単です

来なさい、我が帰天宿りし熾天使達よ
これよりわたくしの顕現をもって教皇直属官庁『聖皇庁』はあのレプリカントと日乃和の民間人を『助ける』事を最優先目標とする
これは日乃和現政権の交代という結果に繋がっても行われる
……どうせ、あの女性が貴方達の目的か重要な核なのでしょう?
ならば、それを全て背負い、『救って』みせます

熾天使達が身を一欠片でも食われることの無いよう防御と反撃に特化した帰天を宿させ、一体ずつ着実減らしていく戦法を取ります
わたくし自身はレプリカントの女性の元に赴き、あらゆる帰天を介して『彼女』を『助ける』方法を割り出していきます

もう大丈夫ですよ
わたくしがいます
日乃和政府主要に対するものとは異なる柔らかい声で語り掛けていきます

どうすればいいのかは分からない
なぜこんな事になっているのかは分からない
貴方が誰なのかも分からない

ですが、助けます
わたくしの名に懸けて
そう語り掛け、女性を安堵させます



●救災
 何州第一プラントで目の当たりにした光景は、メリアグレースの教皇にとって度し難い有様だった。日乃和軍の白羽井小隊に対する所業、おおよその顛末の予想が付く施設内部に散りばめられた不穏な痕跡、そして中枢に埋め込まれているレプリカントの存在が緒を切る決め手となった。翡翠の双眸に怒れる神威が宿り、琥珀色の髪が騒めいて揺れ動く。
「いいでしょう。ヒトを救うのが猟兵ならば、人間を肯定するのが宗教ならば、やる事は簡単です」
 フレスベルクが片手を翳せばノインツェーンも同様の挙動を取る。
「翼持ちて天を舞う御使いは、慈悲深き主の寵愛を受ける。これを以って彷徨える者達を舞踏する者達は救い給う」
 淀みなく紡がれる祝福。神託の光を以て喚ぶは熾天使達。神騎が持つ帰天の力を有した御使い達が、虚空に生じた光の環から続々と光臨する。それらの姿は、黄金の甲冑を纏い大楯を携えた神話時代の騎士の似姿を取っていた。
「これよりわたくしの顕現をもって教皇直属官庁『聖皇庁』はあのレプリカントと日乃和の民間人を『助ける』事を最優先目標とする」
 規律然とした隊列で並ぶ黄金の熾天使達は、それぞれに持つ神聖武器を掲げて応の意志を示した。フレスベルクが開いた細指で往けと命じれば、熾天使達が中枢を基点として円形に展開し全方位への防御陣を布く。エヴォルグは捕食したキャバリアより学習した攻撃手段で撃つ切る殴るなどの攻撃を加えるが、熾天使の黄金の甲冑は揺るがない。破れかぶれに噛り付けば大楯で跳ね飛ばされ、帰天の力を宿す剛弓から放たれた太矢に射抜かれた。矢をまともに食らったエヴォルグは凄まじい物理運動に壁際にまで押し貫かれると、生じた浄化の炎に焼かれ消失した。
 フレスベルクは熾天使達を召喚した際に防御と反撃に特化した帰天の加護を分け与えていた。鉄壁の守りは円陣防御と相乗し合って大きな戦術効果を発揮している。中枢の周囲には神の城壁が構築された。
 黄金の熾天使達がエヴォルグの襲来を遮断する最中、地より僅かに浮遊するノインツェーンがゆっくりと中枢へと接近する。中枢のすぐそばにまで到達すると、背に負う天輪より柔らかな光を発しつつ浮き上がった。眼前には中枢に埋め込まれた透明な球体があった。コクピットハッチが静かに開かれ、メリアグレースの教皇自身が姿を現す。
「もう大丈夫ですよ。わたくしがいます」
 後光を背にした穏やかな表情は聖母の如き慈愛に満ちていた。球体の中で揺蕩う金髪碧眼の乙女の瞳がフレスベルクの姿を映し返す。奥底には苦悶と怯えの色が垣間見えた。
 フレスベルクは操縦席から身を起こすと、ノインツェーンの腕部とマニピュレーターを伝って球体の元へ向かった。帰天を宿す神子の指先が透明な壁に触れる。
「どうすればいいのかは分からない。なぜこんな事になっているのかは分からない。貴方が誰なのかも分からない」
 子に言い聞かせるように静かで穏やかな声音で言葉を紡ぐ。透明な壁越しにレプリカントの指先が重ね合わされる。二人を物理的に隔てる壁はとても厚く強固だった。
「ですが、助けます。わたくしの名に懸けて」
 金魚のように水槽に閉じ込められた乙女が微かに頷いたように見えた。いや、そもそも本当に閉じ込められているのだろうか。彼女を救うにはどうすればいい。彼女はどのような救いを求めているのか。どうせこの乙女が結城の目的か重要な核なのだろうが、日乃和現政権の好きにやらせるつもりは無い。
 フレスベルクは持ち得るあらゆる帰天を介して救済の手立てを探る。
「記憶を遡行すれば、或いは――」
 言いかけた矢先に異能は既に発揮されていた。フレスベルクの意識の中に誰かの記憶のイメージが濁流のように押し寄せる。
「これは……彼女の? いえ、プラントの……」
 暗く冷たい闇の底で金髪碧眼の少女は産まれた。少女は初めから自分が産まれた理由と自分が何者であるかを知っていた。プラントと人を繋ぐための入力装置、或いは制御装置。人間達は彼女を人型インターフェースや母機と呼んでいた。
「貴方は、プラントの意志の代行者だとでも言うのですか? だとしたら何故?」
 フレスベルクの眉が顰められる。
 大規模な生産補助施設を有するこのプラントを司る脳の主幹部位として、彼女は彼女を使う人間達が求めるものを産み出し続けていた。鋼材、エネルギーインゴット、極まれに生じるレプリカント、そしてキャバリア。彼女を扱う人間は幾度も代を越えて移り変わっていった。そして幾百かそれとも幾千か、長い長い年月を過ぎたころ、彼女の前に奴等が現れる。
「エヴォルグ……オブリビオンマシンの……」
 猟兵であるフレスベルクにとってその機体は種別や形状以上に重い意味を有している。流れ込んで来たイメージ越しであるにも関わらず理解できる本質、オブリビオンマシン。理解し得るのも当然だったのだろう。見せられた個体と熾天使達が交戦中の個体は同一のものなのだから。
 そして乙女がレプリカントの容を取っていた事が仇となる。サイキック能力を有するエヴォルグ達によって、中枢を司る乙女の思考制御は干渉され歪められ、意志に反して生産能力を暴走させられた。彼女の心に触れたフレスベルクはその認識を知った。彼女は自己を部品と定義している。だが同時にレプリカントとして人でもあった。彼女は誰かが望む物を産み、与える。それが役目だから。必要とされている限り。しかし自らが産み出し続ける人喰いキャバリアが何をしているのか知った時、朧気な心理に苦悶を滲ませた。
『もう、産みたくない』
 目を閉じたフレスベルクが深く静かに頷いた。水槽の中で揺蕩う乙女はフレスベルクからゆっくりと遠ざかる。開かれた翡翠の双眸には怒りと新たな灯が揺れいていた。
「本質を見抜く為には、まだ判断材料が不足していると言わざるを得ません。ですが」
 ノインツェーンがマニピュレーターにフレスベルクを乗せたまま、緩慢な動作で機体を反転させた。
「この場で裁かれなけらばならない罪人は明確となりました」
 フレスベルクが熾天使達の大楯に阻まれているエヴォルグの一体へと開いた手を重ね、握りつぶすようにゆっくりと閉じた。重ねられた手に合わせてエヴォルグの機体を複数の光輪が拘束する。閉じられるにつれて光はその円環を窄めて締め上げる。手が完全に握り込められたのと同時にエヴォルグは肉と機械の塊に圧縮され、物言わぬ物体と化した。
「もう暫くの時間を頂きます。これが本当の救いとなるかはまだ分かりません。しかしオブリビオンマシンが貴方に災いをもたらした元凶ならば……わたくしには断罪する義務と責任があります」
 爆轟と銃声ばかりが蔓延するホールに毅然とした声が反響する。
「ならば、それを全て背負い、救ってみせます」
 帰天が手繰り寄せた発端をフレスベルクはどう批評するのか。慈愛に満ちた表情が神罰を下す者のそれに移り変わる。教皇の纏う天衣が、深淵の風に揺られてそよいでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガイ・レックウ
【SPD】で判定
『…謎解きはあとだ…助けを求める声があったのなら…助けるだけ!!てめぇら、覚悟しな』
スターインパルスの【リミッター解除】をし、つぶやく
【オーラ防御】のオーラを纏い、触れないように攻撃を【見切り】避けるぜ。
ブレードでの【なぎ払い】と電磁機関砲での【制圧射撃】、そしてユーベルコード【突撃機甲戦術『天嵐・改』】を叩き込んでやるぜ!!



●黒翼天
 黒を基調として金のラインが各所を彩色付けるクロムキャバリア、スターインパルス。そのコクピットの中でガイがモニターの隅に映る南州第一プラントの中枢を見遣る。球体の水槽の中で揺蕩う金髪碧眼の乙女の唇は確かに助けを乞う動きを見せていた。声が聞こえたわけではない。だがガイの耳朶には実際に発声を聞いたかのような生々しい幻聴がこびり付いて離れなかった。
「謎解きは後回しだ……助けを求める声があったのなら……」
 鋭い殺気が背筋を駆け抜ける。同時に鳴り響く接近アラートにガイは条件反射でフットペダルを踏み込んだ。スターインパルスの背面のメインスラスターが噴射炎を放ち機体を横滑りさせた。すぐ側面をエヴォルグが射出したサイキックスピアが擦過する。
「助けるだけだ!! てめぇら、覚悟しな!!」
 人間紛いのエヴォルグより生じる精神的圧力を戦意で跳ね返し、ガイが攻勢に出る。スターインパルスがデュアルアイセンサーに青い光を閃かせ、スラスターから炎を噴き上がらせた。機体が急激に加速してエヴォルグとの相対距離が一瞬で縮まる。先に一刀を打ったのはスターインパルスだった。特式機甲斬艦刀・業火の切先が走る。
「チッ! はえぇなおい!」
 エヴォルグが瞬間移動さながらの跳躍で回避し、スターインパルスの背後に回る。間髪入れずにサイキックスピアがオーバーフレームの胸部目掛けて突き出される。
「だかな!」
 機体を捻り紙一重で躱したスターインパルス。掠めたスピアが展開していたバリアフィールドの表面を中和し抉り取った。
「こっちはもっとはえぇんだよッ!」
 捻りの挙動から滑らかに繋げられた横薙ぎ。刃がエヴォルグの胸を裂き、続けて繰り出された縦切りによって十字の切創が刻み込まれた。夥しい量の体液が噴き上がって機体をよろめかせる。機能停止の有無を確認するまでもなくスターインパルスはエヴォルグを蹴り飛ばすとその反動を活かして後方に跳躍機動を行った。すると先程までいた場所に二方向からサイキックスピアが投擲された。
「こいつら、今までの人喰いキャバリアと違うな……人間を喰い過ぎて人様並みの頭を手に入れちまったか?」
 立て続けに投擲されるスピアに対し、スターインパルスは右に左にとスラスターを駆使した短距離加速で回避し続ける。エヴォルグは中距離戦を決め込んでいるかと思えば発作的に瞬間跳躍で距離を詰めて不意打ちを狙ってくる。ガイは舌を打ちながら操縦桿を押し込む。繰り出されるスピアの刺突をスターインパルスが業火で受けて切り返す。エヴォルグは二度三度と刺突攻撃を連続すると瞬間跳躍で距離を離す。ガイの言う通りエヴォルグ量産機REVOLの戦闘行動は今までのエヴォルグに無く人間臭い部分が見受けられる。
「少しばかり本気を出してみるか? スターインパルス!」
 ガイがコンソールパネルを平手で叩くと機体ステータスを表示する項目に制限解除のインフォメーションメッセージが点灯した。
「システム・ヴァジュラ……起動!」
 動力炉が唸りをあげ、超過稼働を知らせる警告音が喧しく鳴り響く。ガイの口角が不敵な歪みを見せた。
「全力全開! とっておきの戦術パターンだ! 食らっとけ!」
 エヴォルグの集団の内一体に目を付けたスターインパルス。背面を始めとする各部スラスター搭載箇所で光が炸裂した。直後に生じた凄まじい瞬間加速で突撃、迎撃に放たれたサイキックスピアを僅かな縦軸回避のみで擦り抜ける。
「遅え!」
 交差した瞬間に繰り出された一閃。エヴォルグの機体が真っ二つになる。得られた加速を殺さないままに試製電磁機関砲を抜いてロックオン処理もそこそこに、次の敵へと突進しながら強襲掃射を浴びせにかかる。距離を詰めてしまえば照準など関係ない。狙われたエヴォルグは瞬間跳躍で後ろに飛び退くもスターインパルスを振り切れない。結局近接戦闘の距離まで迫られた後は機関砲によって機体を空洞まみれにされてしまった。
「次はてめぇかァァァーーーーッ!!!」
 急反転による重力加速度をガイが鬼神じみた咆哮で押し返す。サイキックセンスを持つ事が災いしたのだろうか、ガイの気迫にエヴォルグが押されて身じろぎした。隙はほんの僅かなものだったが、紅蓮を振りかざしたスターインパルスが剣戟の間合いに入るまでの時間を得るには十分な隙だった。
 煌く刃。二体のエヴォルグが横と縦に切創痕を刻印される。古の武人がしたように、スターインパルスが刀を振り払って血糊を落とす。切断面からずるりと滑るエヴォルグの機体。体液か噴水となって辺りに降り注いだ。
「化物が。人間様を無礼(なめ)るなよ……って、こりゃ前にも言ったか?」
 ガイの操作に従ってスターインパルスが空になった電磁機関砲のマガジンを排出し、新たなマガジンを装填する。
「まだまだいるわけだからな。さてどう叩っ斬ってやったもんか……」
 レーダーに移る光点の数をちらりと見たガイは溜息混じりに肩を落とすと、操縦桿を再度握り締め直した。南州第一プラント最奥部の敵を全て斬り伏せるまで、黒翼天のキャバリアが振るう刃が乾く事はない。
「助けを待ってる人がいるんでな! さっさと片付けさせてもらうぜ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
あれがプラント中枢…
個人的には気に入らないなぁ
まぁ、だからといって何かをする気はないけどね
僕は部外者だしね
どーするかは日乃和の人々が決めるべきこと
僕がするのは任された仕事だけ
フレシェット弾をばら撒いて迎撃するですよ
ふむ、威力が足りないとかゆー感じではないけど…
敵の数が多すぎるんだよなー
そーゆ時は<傀儡廻し>で頭数を揃えるのです
味方の活躍もあって傀儡の材料はいくらでもあるからね
敵を使って敵を倒すって合理的で効率的だよね!
最後まで使い潰してあげるのです
活動限界となったところで呪詛が体組織を爆薬へと置換
傀儡の質量は爆薬量で破壊力!
最後は派手に散るのが傀儡爆弾の術、なんてね



●死霊術師
 赤鉄の鬼械人形、アポイタカラに座す鬼燈の双眸がホールの中心を一瞥する。紫の瞳に映り込んだのは南州第一プラントの本体である中枢機関。全長15mの構造物は電力供給を停止されても未だ脈動を続けていた。そして側面中央に埋め込まれた透明な球体の中では、金髪碧眼の乙女が顔に苦悶を滲ませて揺蕩っている。結城の通信から察するに正体はレプリカントなのだろう。
「個人的には気に入らないなぁ」
 瞬きを終えると瞳は正面を向いていた。気に入らないとは言え何かをするのかと聞かれればそんなつもりは無い。所詮は雇われの兵の身、元々追加報酬が発生しないでもない限り契約内容以上の厄介事を背負い込むつもりは無い。プラントの取り扱いには国政が絡んでくる。そういう物事を取り決めるのは背広を着た連中に他ならない。
「とりあえずフレシェット弾でいくのですよ」
 オブシディアンmk4を捕食した事で体得したらしい、アサルトライフルの掃射を軽快な短距離推進跳躍で躱し、左右のマニュピレーターが握るライフルと後方左右に控えるフォースハンドが握るマシンガンの四連同時射撃で反撃に転じる。
 装填されている弾種はいずれもフレシェット弾。第二層では飛翔型エヴォルグに対して大きな戦果を挙げた弾種だ。放たれた弾体は標的に接近すると信管を作動させ無数の鏃を放射する。エヴォルグは視線で追い切れないほどの速度で跳躍回避するが、フレシェット弾の拡散範囲はあまりにも広く撒き散らされる鏃の数も凄まじい。結局逃げ切る事は叶わず緑色の保護皮膜を引き裂かれて被弾の衝撃に跳ね飛ばされる。
「やっぱり効果抜群っぽい。この調子でどんどん撃つのですよ。楽ちん楽ちん」
 アポイタカラは搭乗者の生業らしからぬ堂々とした構えでフレシェット弾をセミオート連射し続ける。エヴォルグは近付こうにも距離を離そうにも拡散する無数の鏃に妨害されて進退窮まり甘んじて撃破されてしまっている状態だ。ならば得意の瞬間跳躍で相対距離を詰めるところだが、面で襲い掛かる弾幕を抜ける手立てがない。あくまで瞬間移動に見える跳躍であって実際に瞬間移動している訳ではないのだ。では背後を取れるかと言われれば、いざ回り込めば鬼燈は涼しい顔でフォースハンドの背面撃ちをやってみせる。
「ふむ、楽ちんだけど……敵の数が多すぎるんだよなー」
 目標捕捉と発射の作業を粛々と繰り返す鬼燈が片手間に呟いた。エヴォルグの装甲に対するフレシェット弾の威力は十分なのだが、先程から数が減っている気がしない。レーダーを見ていれば、敵反応を示す光点がひとつ消えたと思えばまたひとつ増える。一気に掃討する決め手が欲しいところでもあった。
 何度かの短距離回避を繰り返していると、アポイタカラのアンダーフレームに何かがぶつかった。視線を送ればそこにはエヴォルグの残骸が転がっていた。胸部を撃ち抜かれているが一応原型は留めているようだ。鬼燈に閃きが走った。
「これを使ってみましょー」
 鬼燈が手で九字の印を結ぶ。
「忍法、傀儡の術。よもや卑怯とは言うまいな、なんてね」
 結び終えるとアポイタカラの周囲に複数の鬼火が浮かび上がり、それらを触媒として大百足が現れた。大百足達は命じられるまでもなくそこら中に散乱するエヴォルグの亡骸を這い回り、適当な銃創や切創から内部へ入り込む。
 異変はすぐに起きた。機能を停止したはずのエヴォルグ達が機体を震わせながらゆっくりと立ち上がる。それらは全て鬼燈が傀儡廻しで召喚した大百足が寄生した屍だった。敵のエヴォルグ達が状況を飲み込めず戸惑った様子を見せる。屍達は人喰いキャバリアが普段そうしているように有無を言わさずエヴォルグに喰らいついた。続々と立ち上がる屍とエヴォルグが互いに喰い合い殺し合いを始める。周囲の景観が一瞬で餓鬼の地獄絵図と化した。
「最後まで使い潰してあげるのです。ごーごー」
 呑気な様子で鬼燈が百足型呪詛を追加召喚する。エヴォルグの残骸は床一面を覆い尽くすほどだったのだから材料には困らない。しかし所詮は損壊した屍なのだろうか、エヴォルグが状況に適応する兆候を見せると容易く撃破され始めた。されど鬼燈は動じない。これも策の内なのだから。
「傀儡の質量は爆薬量で破壊力!」
 エヴォルグのサイキックスピアに貫かれた屍が突如爆発を起こす。呪詛によって体組織が爆薬に変異していたのだ。何者とて至近距離で全長5mの機動兵器が爆発すれば軽傷では済まないだろう。エヴォルグは屍を撃破した代償に自らも爆殺されてしまったのだ。アポイタカラの周辺で爆轟が大気を戦慄かせるたびにレーダー上で光点が消える。もう直接手を下すまでもなくなっていた。
「敵を使って敵を倒すって合理的で効率的だよね!」
 再利用可能な資材で最大限の戦果を。これが戦場のSDGsだと言わんばかりにアポイタカラは爆ぜる屍蠢くホールの中で悠然と立つ。血染めの装甲は、やはり悪鬼の形相を醸し出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャナミア・サニー
※アドリブ連携OK

いやー空はダメだ、私のレッド・ドラグナー(汗
悪かったね、さっきは役に立たなくて
ここで存分に暴れさせてもらうよ!

つか、速いな!?
見極めている間に白羽井小隊がやられかねない
一気に突っ込むよ、コンバットパターン【A】!

ツインバレルライフルから実弾で弾幕を張りつつ
ドラグナー・ウィング噴射!
距離を詰めてビームブレイドで斬り刻む!

敵の攻撃は動力系統への直撃さえなければ
槍の攻撃はひとつでもスケイル・カイトシールドで軌道を逸らせて
他は当たっていても大破してなけりゃいける!
「くらえっ!!」
カウンター・シールドバッシュで踏み込む間合いを作ってからの
ビームブレイド一閃!
確実に仕留めていくからね!



●赤竜武闘
「ちょ、はや……!」
 レッド・ドラグナーを駆るシャナミアの背に冷たい汗が伝う。操縦桿を引いてフットペダルを細かく踏み込めば機体が後方に連続跳躍した。突き出されたサイキックスピアがアンダーフレームを掠めて装甲を抉る。
「ええい見極めてる暇もありゃしない!」
 視界の隅では白羽井小隊のイカルガ達も同じような状況に陥っていた。
「モタついてたらお嬢様方がやられかねない……かっ!」
 横薙ぎに振るわれたサイキックスピアをレッド・ドラグナーが跳躍で躱す。スラスターを焚いて後方に加速を掛けながらツインバレルライフルより放たれる超高熱粒子弾の速射を放った。だがエヴォルグは瞬間移動さながらの挙動で横に飛び退いてやり過ごす。粒子が地表を埋め尽くす残骸に着弾して爆ぜた。シャナミアは忌々しく舌を打つ。
「あーダメダメ! 消極的にやってたらジリ貧だ! ここは……」
 着地と同時に側面に現れたエヴォルグがサイキックスピアを突き出す。レッド・ドラグナーは手の甲から発振させたビームブレイドで受け流す。槍の切先が粒子形成された刃の側面を滑り、生じたエネルギー干渉が目も眩むばかりのスパークを発する。
「コンバットパターンAで! 一気に突っ込む!」
 防眩フィルターを通して見る明滅に眉を顰めながらもシャナミアはフットペダルを踏み抜いた。ドラグナー・ウィングのバーニアノズルが炎を炸裂させる。急加速したレッド・ドラグナーはエヴォルグを体当たりで跳ね飛ばす。そして一瞬宙に浮いたエヴォルグの胴体にツインバレルライフルのフラッシュハイダーを押し当てた。
「こんのッ!」
 シャナミアが殺意を込めてトリガーキーを立て続けに三回引き込む。食い縛られた牙からはドラゴニアンの血脈が想起させられた。直進方向へのブーストを維持、エヴォルグを銃口に磔にしたまま実体弾の三連射を叩き込む。一射ごとにエヴォルグの機体が大きく跳ねた。三射目と同時に銃身を振り払い骸を投げ飛ばす。
 後方から迫る殺気にレッド・ドラグナーは片足を軸にした急速反転機動を行う。投擲されたサイキックスピアが目前まで到達しつつあった。
「直撃さえしなければ、どうってことない!」
 シャナミアが選択したのは回避ではなく直線加速だった。反転した時には既に機体の挙動が始まっている。竜鱗のディテールを持つカイトシールドを胸部正面へと角度を付けた状態で構えた。サイキックスピアの矛先が盾に突き立てられると表面材質を抉りながら軌道を逸らしてレッド・ドラグナーの斜め後方へと抜けていった。
「逃すかァァァーーー!!!」
 吶喊するシャナミアの咆哮が実体弾となってツインバレルライフルから立て続けに連射される。エヴォルグは間合いを離そうと瞬間跳躍を試みるも弾幕に煽られ姿勢制御がままならない。そしてドラグナー・ウィングが放出するバーニア光をなびかせながら赤き竜騎兵がなおも突撃、加速と質量を相乗させたスケイル・カイトシールドの殴打を見舞った。エヴォルグの顔面が衝撃にひしゃげる。
「くらえっ!!」
 レッド・ドラグナーの腕が下方から掬い上げるように振り抜かれた。高熱の粒子が星屑の軌跡を残す。ビームブレイドの一閃がエヴォルグの機体を左右に両断した。二等分にされた半生体キャバリアが体液を噴出しながら左右それぞれに崩れ落ちる。
「次ッ!」
 機動は途切れない。すかさず跳躍してスラスターから噴射炎を吐き出させると空中で機体を横へ滑らせた。
「ここが最終エリアなんだから! 確実に潰していけば、いつかは終わるでしょうが!」
 身体に重く伸し掛かる加速の負荷に牙を噛み締めながらシャナミアはトリガーキーを引く。着地したレッド・ドラグナーは名が示す通りに荒々しく残骸を跳ね飛ばしつつも地上を滑り、ツインバレルライフルからビームと実体弾を交互に発射する。獲物を仕留めればまた次の獲物へと、赤竜は獰猛に喰らい付いてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斑星・夜
【特務一課】
※キャバリア:灰風号搭乗

こういうの嫌だな、ほんと、心底さ
……助けてあげたいね。白羽井小隊の皆も、あの球体の中にいる子も

いよっし、やろうか!ギバちゃん、キリジちゃん!
オーケー、あの球体だね!
EPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』に球体関係へ【ハッキング】を依頼
出来る限り解析し、情報は二人に共有します

お次はあのキャバリアだ
味方や白羽井小隊を狙う敵が最優先

敵の攻撃はAEP可変式シールド・アリアンロッドで『盾受け』したり
『ブリッツ・シュラーク』で弾くよ

攻撃時はEPブースターユニット・リアンノンで『リミッター解除』
『ダッシュ』で近づき、RXブリッツハンマー・ダグザを振り下ろし『部位破壊』


天城原・陽
【特務一課】
目の前に広がる光景と白羽井小隊への仕打ち、秘匿された施設
どれも度し難い所業だ。そしてあのカプセル、耳に入ってきた『声』 
僚機へ伝達
「マダラ!ポンコツ(ねむいのちゃん)にカプセルの解析指示!キリジ!遠慮はいらないわ!全部ブッ殺せ!」

やっと確信した。
百年の殺し合いをさせてきた、そこら中に蔓延るこの世界の『歪み』
絶対に只じゃおかない。オブリビオンも、目に見えぬ悪意も。
叩き潰す、どいつもこいつも。
赤雷号へ入力、アイ・ハブ・コントロール。戦闘機動開始
「白羽井小隊!死ぬんじゃないわよ!!ここまでされて只々使い潰されちゃ私が承知しないわ!足掻いて!抗って!戦い抜きなさい!」


キリジ・グッドウィン
【特務一課】
『ジュディス』で戦闘継続

中枢の…アレもいつか消費され尽くして終わっちまうのかね

(自身に本来充てられた用途が一瞬過る。生体パーツとして消費されるだけの量産型
「それ」が四肢の殆どをかなぐり捨てて体得した傭兵としての力
何処にも与さず、寄り添わずそれを揮うのみ)


とりあえず言う事聞いて依頼は完遂しとくか
言わなくてもそうするぜギバァ!向かってくるヤツは全部ぶっ潰していいんだろ?オーケーそれなら得意分野だ


推力移動で一気に敵集団に接近し、拳による握撃と電流でまずは一体でも多く仕留める
そのまま敵を盾にして暴れまわる
うっしマダラ、ここから先は通さねェぞ
口撃は狂気と激痛耐性で耐え重い一撃を打ち込んでいく



●アライヴ
 様々な銃弾とサイキックスピアが交錯する南州第一プラント最奥部。燃え盛るエヴォルグの死体や爆光によって既に薄暗さは払拭されつつあった。
「どいつもこいつも……!」
 天城原はフットペダルを踏み込みながら剥き出した八重歯を噛み締める。人差し指はトリガーキーをクリックし続けていた。
 ここで二十二式複合狙撃砲を最大出力で旋回照射出来たらどれほど気が晴れただろうか。そんな抑圧された鬱憤を示すかのように、赤雷号がバーニアノズルから荒々しく噴射炎を燃やして上方向へ急加速した。アンダーフレーム直下を不可視の波動が駆け抜ける。
「死ねッ!」
 ギガントアサルトが電磁加速弾体を連続射出する。分間1800発の連射レートを誇る機関が怒気を孕んだ稼働音を唸らせる。弾体はいずれも矢の如く素直な軌道でエヴォルグに殺到する。標的は初弾を横方向への跳躍で回避するも、空中を舐めるようにして掃射された次弾の嵐をまともに浴びて腰から上を穴空きチーズにされた。
「やっと確信(わか)った……百年の殺し合いをさせてきた、そこら中に蔓延るこの世界の歪み」
 天城原の眉間に刻まれた憎悪は一層深みを帯びる。殺意が照準となってエヴォルグへと重ね合わされた。二次捕捉の完了と標的が不可視の力場を放ったのは同時だった。
「ぐっ……!」
 浴びせられた物理的衝撃を伴う力場を、赤雷号が独りでに腕で庇い防御した。機体が振動し装甲が軋む。そして獰猛な狂気が天城原本人の精神を煽る。
「絶対に……只じゃおかない!」
 蝕む狂気をより狂気的な殺意で逆に噛み砕くと、天城原は機体を加速させた。敵が再度攻撃挙動を取るよりも先にギガントアサルトの銃口が胸部へと押し当てられる。
「叩き潰すッ! まずはお前を!」
 パイルバンカーでも打ち込むかのように銃口を突き刺して敵機を持ち上げると、連続して撃鉄を轟かせた。至近弾を動力部に受けたエヴォルグは数回の痙攣を見せた後活動を停止する。赤雷号は邪魔だと言わんばかりに骸を蹴り飛ばして機体を横方向へ滑走させながら次の標的にギガントアサルトの掃射を加えた。
 敵を追う天城原の意識に、ここに至るまでの経路で見知った全てが鮮烈に蘇る。白羽井小隊への所業と何を隠して来たのかおおよその見当が付く施設の数々、そして耳朶を打った彼女の声。
 音として発せられたものではない。だが確かに聞こえた。あれは幻聴などではない。なぜなら、今こうして戦い続ける天城原の聴覚に未だ何度も響いているのだから。
「待ってなって……! マダラ!」
 天城原は手元と足元で忙しく機体制動を繰り返しながら同じく特務一課の灰風号へと通信で呼び掛ける。
「はーいもしもし?」
 繋がる中継映像越しに聞いた斑星の声音は間延びした様子だが、表情からは余裕の色が失われつつあった。苦戦しているというよりも考える事が多いのだろう。
「あー、えーっとなんだっけ? あのポンコツ」
「ポンコツ!?」
 全く予想だにしていなかった名称が飛び出し、斑星は虚を突かれたように声をあげた。
「ほら! あれ! だるいのちゃん!」
「ダル……? ねむいのちゃんじゃね?」
 黙って聞いていたキリジが通信に割り込んだ。データリンク情報を見るに灰風号の側で近接格闘戦を主体に暴れているらしい。
「どっちでもいいでしょ」
「ギバちゃんひどくない?」
「いいから早く!」
「はいはい……まぁ、実はさっきから始めてるんだけどねー」
「つくづくマダラは準備のいいこった……なァッ!」
 灰風号の背面に接近してきたエヴォルグへ、ジュディスが跳躍すればランブルビーストが紫電の軌跡を後に引く。放たれたサイキックショックウェーブなど片手で引き裂き、機体の重量を乗せた剛爪が頭部を捕らえ、掴み上げると背骨のような機関ごと文字通りに引っこ抜いた。鮮血を吹き出すエヴォルグの首から下を蹴り飛ばす。
「サンキューキリジちゃん!」
 斑星が親指を立てている。初めからジュディスが助けに入る事を分かっていたかの如く灰風号は正面に可変式シールドを構えたままだった。
「こっから先は通さねェ。だからさっさと済ませちまいな」
 灰風号を背に、腰を落とした獣の如き構えで周囲を睥睨するジュディス。ハイエナのように遠巻きから取り囲むエヴォルグは怯え竦んだ様子を見せた。赤雷号の複合センサーはその隙を見逃さない。
「キリジ! 遠慮はいらないわ! 全部ブッ殺せ!」
 上方より連射されるギガントアサルトはエヴォルグ達にとって殆ど不意打ちに等しかった。ジュディスに威圧されていた事もあって跳躍回避が遅れ、瞬く間に銃弾の雨に穿たれる。
「言わなくてもそうするぜ! ギバァ!」
 ジュディスが跳躍しスラスターを噴射する。黒の魔獣がエヴォルグに飛び付くや否や振りかざした爪で骨格ごと切り砕く。
「さーて、ギバちゃんとキリジちゃんに期待されてる事だし、早いところ終わらせ……られそうにないねぇ」
 斑星がいよいよ情報解析の続きに専念しようとした矢先、灰風号の正面に新たなエヴォルグが現れた。サイキックスピアが有無を言わさずに投擲される。
「面倒だなぁ、ここはガードを固めてっと」
 灰風号の操者に倦怠感は見られど焦りは見られない。予め角度を付けて構えていた二枚一対の半円形実体防楯でやり過ごす。サイキックスピアが盾を直撃すれば金属板を叩いたかのような甲高い音と共に表面を擦過して斜め後方へと抜けていった。
「ショックは来るけど、ちゃんと防げるみたいだね。じゃあ次は……」
 反撃の手立てを講じようとブリッツ・シュラークを起動し掛けた途端、視界の横から曇天色のキャバリア達がエヴォルグに襲いかかった。
『斑星さん! 危ない! このっ!』
 白羽井小隊のイカルガ達だった。隊長はいないようだが、灰風号に攻撃を加えたエヴォルグの集団の一角に複数機のイカルガが強襲を加えた。敵を数機撃墜するも、すかさず回避運動をとったエヴォルグがサイキックスピアを突き込みにかかる。
『こいつ……やっぱり今までのより強い!』
 エネルギーを束ねた光剣で切り結ぶイカルガ。虚勢を張る少女の声が高域通信越しに斑星へ伝わる。
「おっとと、無理しなくていいよ!」
 守りを解いた灰風号が雷の鞭を振りかざす。伸びた高電圧の収束帯はイカルガと鍔迫り合うエヴォルグを叩きのめすと、強烈な電流を流し込んで挙動を強制停止させた。空間に肉の焼ける匂いが充満する。
「かーらーのー?」
 灰風号のバーニアノズルに光が灯る。ブリッツハンマー・ダグザを肩に担いで急速接近、敵の直前にまで到達した刹那にリアンノンの封印を解いた。エネルギーの超過供給を受けた四肢の駆動系が唸りを上げる。
「どっかーん! ってね」
 遠心力を活かした強烈無比の餅付き。槌がエヴォルグの頭を直上から叩きのめし、爪先に至るまでを縦方向に圧縮した。床に達すれば電光の迸りが拡散する。同時にリアンノンを解除、機体を右方向へ旋回させた。床には緑色の体液がぶち撒けられていた。
「今度はそっち!」
 振り向き様に伸ばしたブリッツ・シュラークが白羽井小隊の機体と撃ち合っているエヴォルグを弾いた。そこへ上方から電磁加速弾体が降り注ぐ。防御態勢を取る間も無く全身を穴だらけにされたエヴォルグが力無く崩れ落ちた。
「白羽井小隊! 無事?」
 灰風号の直上の位置取りで赤雷号が続々と迫るエヴォルグに対地攻撃を繰り返している。
『ありがとうございます。なんとか』
「死ぬんじゃないわよ!! ここまでされて只々使い潰されちゃ私が承知しないわ! 足掻いて! 抗って! 戦い抜きなさい!」
 天城原が叩き付けるように叫ぶ。通信越しに白羽井小隊の少女達が息を飲み込む音が聞こえた。
『はい……はい! 了解です!』
『絶対死なない!』
 それでいいと天城原は新たな弾倉に憎悪を込めてギガントアサルトに叩き込んだ。
「……生き残らせてあげるさ。白羽井小隊の皆も、あの球体の中にいる子も」
 天城原に檄を飛ばされ気を持ち直した少女達を、斑星の細められた双眸が見ていた。横目で視線を送った中枢では、人の形をした何かが今も尚助けを乞うている。
「おーい、マダラァ、ちゃんと進んでんのか?」
 キリジの声は酷くうんざりした様子だった。レーダーの光点を見るに、ジュディスはそれこそ敵を千切っては投げをひたすら繰り返しているのだろう。ごめんごめんと斑星が通信を返すと、指先がコンソールパネルに取り付けられた端末へと伸ばされた
「それじゃあねむいのちゃん、データ吸い出しよろしくね」
 支援AIが名前の示す通りに眠そうな顔文字を画面全体を表示させた。直後に無数の文字列や画像情報が上から下へと流れ始める。それらを斑星の金色の瞳が忙しく追う。
「へぇ……そういう事か……」
「なんか分かったのか?」
 キリジの通信に斑星は片手を口元に当てがった。
「戦闘中だから重要そうな事だけ伝えるね。引き出したデータは共有しておくから」
 ねむいのちゃんの画面を流れる情報の滝が止まった。表示されているのはエヴォルグ量産機REVOLの画像。丁寧に要撃破対象、殺してと注釈まで付いている。斑星はこれはプラント中枢に組み込まれている彼女が送り付けてきたものだという事を知っていた。
「いま目の前にいるエヴォルグ、そいつらのせいで生産システムが狂っちゃったみたいだね。殺して欲しいんだってさ」
「殺して欲しいって……誰が言ってんだ? まさかプラントか?」
 言われなくも初めから絶賛そうしていると、衝撃波を潜り抜けたジュディスがエヴォルグに足払いを掛け、転倒した所にランブルビーストの鉄拳制裁を加えて頭部を叩き潰した。
「まぁそんなとこかな? あの子はプラントの制御パーツ。でもってエヴォルグのせいで無理矢理生産システムを稼働させられ続けてた……らしいよ」
 得られた結果を斑星は粛々と報告する。ねむいのちゃんを凝視する瞳には落胆の色が滲みつつあった。
「パーツ……か」
 キリジは斑星の言葉を反芻する。
「とにかく、このままブッ殺し続ければいいんでしょ?」
「うん。因みにいま戦ってるエヴォルグは、他所から来た奴等みたいだよ」
 苛立ちを露わにしている天城原に斑星は短く簡潔に答えを返した。
「オーケー、それなら得意分野だ」
 キリジの口調は妙に抑揚が少なかった。
「という訳でキリジちゃん、頑張ってねー」
 中継映像越しに斑星が手をひらひらと振っている。横目で見ていたキリジは神妙に眉を潜めると操縦桿を押しやった。緑色の血に濡れたジュディスが天を仰いでランブルビーストの爪を剥く。
「パーツか。中枢の……アレもいつか消費され尽くして終わっちまうのかね」
 機体に地表を滑走させる最中、キリジの意識の片隅には斑星から聞かされた言葉が滞留し続けていた。
 やたらと耳に障る言葉だ。識別番号Q-57に本来当てがわれた使用用途と、アレの存在意義はさして大差無いのではないだろうか。回り続け、擦り減り、やがて投棄され、そして交換される量産型の生体部品。
 だがそれこそが脳を除く殆どの身体部位を生贄として手に入れたこのペトルーシュカ型義体の圧倒的な力。独りで生き、独りで戦うために。脳に鈍痛が走った。
「チッ……サーヴィカルストレイナーがまたご機嫌斜めか?」
 感度を強引に引き上げられた神経が逆立つ。使い棄てと言えばこのジュディスとて同じだ。アリシアやメリンダ、その他のGW-4700031がそうだったように戦いが終わればもういない。外観は同じ、中身も同じ、だがもう別の機体なのだ。
「ま、部品の末路なんざどれも変わらねェか」
 いずれ力の代償を払う時が来るのだろう。今では無いが必ず。後ろ髪に誰かの冷たい手の感触を覚えながら、キリジは獰猛な八重歯を露わにした。
「てめェらもそうなのか? あァ!?」
 ジュディスはサイキックフィールドの衝撃波を真正面から受けながらも猪突に加速する。黒曜石の色調を宿す装甲は軋む音を立てるばかりだったがキリジの眉間には深い皺が刻まれた。
 相対距離はまだ近接格闘の間合いに入っていない。ジュディスが腕部の固定兵装、スクィーズ・コルクより荷電粒子弾を速射する。エヴォルグは斜め後方へと飛び退き射線を断とうと試みるが、速度が乗ったジュディスを振り切れない。すぐに回避不能距離まで追い詰められるとプラズマ光弾に機体を射抜かれた。
「逃すかよッ!」
 牽制射撃に怯んだエヴォルグをランブルビーストの横殴りが襲う。腕と胴を粉砕されたエヴォルグは、食らった衝撃のままに吹き飛んで壁に激突、押しつぶされて緑色の体液を散らした。直後にコクピット内に接近警報が鳴り響く。
「囲みやがったか……!」
 偶然とは悪い時期にばかり重なるものだ。赤雷号と灰風号、白羽井小隊が敵の対処に手を焼いている丁度その時、四方八方に瞬間移動さながらの跳躍機動でエヴォルグが現れる。それぞれが口を開くと凄まじい金切り声と共に思念波動の咆哮を放った。ジュディスは格闘技者がするように両腕を上げて護りを固める。サーヴィカルストレイナーが機体に加わる衝撃波の負荷を鈍い頭痛へと変換してキリジの感覚器官に流し込む。そして思念波動が有する精神汚染が狂気となってキリジを蝕み始めた。
 歯を食い縛り、呻く。
「うるっせえぇェェェーーーッ!!!」
 怒気が狂気を押し返した。搭乗者の咆哮に合わせてジュディスが跳ぶ。デュアルアイの残光を残して機体ごと激突すれば煩く喚き散らす頭部を握り潰し、胸部に爪をめり込ませて固定した。
「ギャアギャア騒ぎやがって!」
 尚も痙攣する首無しの機体にランブルビーストが電流を流し込む。紫電が炸裂すると遂に機体は動きを止めた。だが他のエヴォルグ達がまた一斉に咆哮を浴びせにかかった。ジュディスは捕らえた骸を正面に構えて盾とすると一直線に加速、群れの渦中へ自ら飛び込んだ。
 速度を乗せて叩き付けられた骸がエヴォルグをひしゃげさせ、ランブルビーストの紫電の剛爪が薄暗がりを引き裂けば、上半身を失ったエヴォルグが体液を噴出させながら膝から崩れ落ちる。
 紫電纏う黒い暴風がエヴォルグの群れを瞬く間に惨殺する。腕を薙ぐ。振り向く。走る。ジュディスの一挙一動が繰り返されるたびに死が撒き散らされた。
「千切れろォッ!」
 両腕で捕まえたエヴォルグの胸部にランブルビーストの親指が食い込む。エヴォルグは人間がするように四肢を滅茶苦茶に振って拘束を抜けようとするも、ジュディスの駆動系出力がそれを許さない。唯一自由な頭部でサイキックフィールドを放射しようにも下顎が喪失していた。紫電の爪の親指関節が完全に突き刺さると、そこを起点に最大の力を持ってエヴォルグの胸部を左右にこじ開けた。ジュディスは緑色の鮮血を浴びながら操者の意思を体現する。左右のランブルビーストがそれぞれの方向に振り切られた時、エヴォルグは機体の中心線から二つに引き千切られて機能を停止した。
 暫しの間、キリジは目元を歪めてその骸を茫然と眺めていた。
「やっぱ末路は変わらねェな。どれもこれも」
 何に向けられたか定かでない言葉が孤独なコクピットに響く。ジュディスのデュアルアイからは緑色の返り血が滴り落ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「ここが中枢部ですか。行きましょう、錫華さん、理緒さん!
それにしてもプラントの中に女性とは気になりますね……」
『セレーネよ、今は戦闘に集中するのじゃ。
わしも戦闘しながら新機体の制御系の最適化をおこなうとしよう』

【ガルヴォルン・フォーメーション】で、錫華さん、理緒さん、特殊部隊員たちにフォーメーションを指示しつつ攻撃ですっ!

「って、わわわっ!?」
『これでもセレーネが扱うには厳しいか。
まあ、敵は倒せてるから良いかの』

なんとか機体を操って戦います。

『む、理緒から作戦案が届いたぞ』
「こっちは操縦で手一杯ですー!
理緒さんの案の通りにメンバーに指示を!」
『……本当に良いのじゃな?
了解じゃ』


菫宮・理緒
【ガルヴォルン】

『希』ちゃん、扉のパスはお願いね。

それにしてもこのプラント、まさか……細胞クローンじゃなく、胚胎システム?

こんなものが稼働しているなんて、それだけで冒涜だよね。
オブリビオン化しているプラントと同じくらい、世界に必要ないよ。

逆に冷静になるくらい、頭にきちゃうね

大佐、錫華さん、『彼女』の声、聞こえたよね。
助ける、ってことでいいかな? いいよね?

ごめんだけど『REVOL』をプラント前に集めてもらっていいかな。
そしたら【テスカポリトカの鏡】で一気に殲滅するから。

ただわたし射撃が下手だから『事故』が起きちゃうかもだけど、
それは敵を倒したときの『不可抗力』だよね。

わたしが壊す分には、ガルヴォルンの責任にはならないしね。

『希』ちゃん、サポートお願い。
威力と射線の計算がミリ単位になると思うから力を貸して。

水槽がギリギリ割れるくらいでとどめないと……。

計算が終わったら、敵を集めてもらったところへ、
【リミッター解除】した【全力魔法】で、熱戦を叩き込むよ。

『希』ちゃん、扉のロック確認よろしく!


支倉・錫華
【ガルヴォルン】

オブリビオン化してないはずなのに、悪意しか感じないプラントだね。
悪意をわたしたちに向けてくるのがまだマシってところかな。

そうかそういうことか。ただのプラントじゃなかったってことだね。

大佐、それでいいかな?

なら、理緒さんの作戦に乗らせてもらおう。
引き続き【蜘蛛の舞】を使いながら、大佐と連携して、
指示されたポイントに『REVOL』を集めていくよ。

おっと。
さすがにこれだけ数がいると、全部ってわけにはいかないか。
あぶれた子たちは、お相手してあげないとね。

それはいいんだけど……大佐、パワー持て余してるね。

まぁ、いきなり3倍増しとか言われたら、あわせるまでかかるとは思うんだけど、すごいパワーだね。
『REVOL』がタックル一撃で吹っ飛んでいくよ。

大佐ー。
いまの感じなら無理に射撃しないで、パワー任せでつっこんだ方がいいと思うよ?

……応答がこない。
ひょっとして、あれ攻撃じゃなくて、ぶつかってるだけ、とか?

っと、理緒さんの砲撃も終わったし、
大佐とレプリカントさん、助けに行かないとだね。



●母よ、胎児よ
 「なんでプラントの中枢部に人が入ってるんですか!」
 スティンガーⅡの出力に振り回され気味のセレーネが操縦桿を握り込む。トリガーキーを引けばスティンガーⅡが横方向へ滑走しながらアサルトライフルをフルオート連射する。照準を重ねられたエヴォルグは幾つかの弾丸に被弾するも跳躍して離脱、金切り声と共に念動波を放つ。スティンガーⅡは従来機と比較して爆発的に向上した出力を以て瞬発加速で身を躱す。
『わしに聞かれてものぅ。セレーネよ、今は戦闘に集中するのじゃ。実稼働データを元に制御系の最適化を行うのでな』
「なるべく早い内に済ませてくださいよ」
 先ほどからスティンガーⅡの戦闘機動は妙に鋭角でぎこちない。制御系の反応設定が搭乗者と機体双方にまだ最適化されていないからだ。セレーネが軽く小刻みにスラスターを噴射しようとフットペダルを踏み込むと、想定の三倍以上の加速で連続噴射してしまう。
「うわっとと!」
 着地時の硬直を消すためのスラスター制御に手間取りよろめく。そこへエヴォルグが飛び掛かろうとするが、特殊部隊員達のナズグルが側面から十字砲火を浴びせて撃墜した。
「ちょっとミスランディア! ちゃんと調整してるんですか!?」
 セレーネの視線が周囲を取り囲むエヴォルグ達をなぞると火器管制が自動捕捉を行う。
『マイルドに設定したんじゃがのぅ……これでもセレーネが扱うには厳しいか。まあ、敵は倒せてるから良いかの』
「よくないですよ! いっぱいいっぱいなんですから!」
 スティンガーⅡが両肩部に搭載するミサイルポッドより照準数通りの誘導弾を一斉射した。エヴォルグ達は高速で連続跳躍するも誘導弾からはそうそう容易く逃れられない。白いガスの尾を引きながら執拗に目標を追尾する弾体が着弾すれば、爆炎の華を咲かせてエヴォルグの機体を砕け散らせた。
『火器管制の方は親和性が上がってきておるな。その調子じゃ』
「結構しんどいんですけどね……すいませんが特殊部隊員の皆さんは引き続きフォローを頼みます!」
 複数機のナズグルがスティンガーⅡの元へ滑走して急行し、ライフルで弾幕を展開する。
「錫華さんはそのまま撹乱を!」
「ん、了解」
 錫華のナズグルは天井にワイヤーハーケンを打ち込み、空中で弧の字を描く滑らかな立体機動でエヴォルグを翻弄している。自身に追い縋るエヴォルグは適当にあしらいつつ、スティンガーⅡに興味を向けているエヴォルグの背後へ風切り音を立てながら急接近した。交差した一瞬、逆手で握る歌仙の刃が煌めいた。動きを止めるエヴォルグ。胴体から頭部が転がり落ちると、緑の鮮血を吹き上げながら膝から崩れ落ちた。
「大佐、機体のパワー持て余してるね」
 錫華が横を向けば機体の頭部も連動して横を見る。
「こんのッ!」
 視線が送られた先ではスティンガーⅡがキャバリアブレードでエヴォルグに切り掛かっていた。間合いに対して踏み込みが速すぎる。
「あ、ぶつかった」
 結論から言えば刃がエヴォルグを断つ事は無かった。スティンガーⅡが超高速で突進したからだ。エヴォルグは反撃の兆候を見せたがそれよりも速く胸に飛び込んで来たスティンガーⅡによって仲良く壁まで押し飛ばされ、激突の衝撃で動力炉を潰されて機能停止した。第二層での戦闘からこれを度々繰り返している。
「ねえアミシア」
『なんでしょう?』
「あれ攻撃じゃなくて、ぶつかってるだけ、とか?」
『そのように見受けられますね』
 錫華は黙する。セレーネはやはりトンファーキックのように刀を最大限に活用した突撃殺法を連発していた。
「大佐ー、いまの感じなら無理にブレードを使わないで、パワー任せにつっこんだ方がいいと思うよ?」
「まだまだー! どわー!?」
 どうやら機体制御に専念し過ぎて錫華の声も届いていないようだ。
「まあ、敵を倒せてるみたいだから大丈夫だと思うけど」
 視線を正面に戻して次のハーケンを打ち込む操作を行う。機体に地表寸前を滑空させlaniusに接近するエヴォルグの頭部に歌仙を刺突した。
「ありがとう」
 ThorHammerで牽制射撃を行う理緒のlaniusから通信が入った。
「解析の方は?」
 ワイヤーハーケンの楔を抜いた錫華のナズグルがlaniusの側近に着地する。接近するエヴォルグにFdP CMPR-X3の速射を浴びせて追い払う。装填されている弾種は被覆鋼弾だった。
「んー……ここのプラント、クローン方式でエヴォルグを生産してると思ったんだけれど、胚胎システムに近いのかも」
 希が中枢より引き出した各資料を眺める理緒の表情は神妙に曇っている。
「胚胎?」
 錫華が首を傾げる。
『ヒトと同じような生産方式という事かの? いや、生産というより繁殖じゃろうか』
「じゃあ、私達が立っているこの場所は胎内だとでも?」
 ミスランディアに続きセレーネが通信に割り込む。
「エヴォルグの……揺籠……違う、子宮?」
錫華がホール全体を見渡す。
「そして、あれがお母さん」
 理緒が指差すまでもなくガルヴォルンの全員が中枢に視線を向けた。厳密には中枢に組み込まれた球体状の水槽、液体に満たされたその中で漂う乙女へと。
「プラント自体のオブリビオン化はしていないみたいだけれど……」
 サイキックスピアを投擲しようとしていたエヴォルグを錫華がいち早く発見した。ナズグルがワイヤーハーケンを打ち込むとモーションを強制停止させて引き摺り込み、歌仙で喉笛を切り裂いて息の根を止める。
「では第二層で見たあれはなんだったんですごわはっ!?」
 セレーネのスティンガーⅡはやはり剣戟のフェイント付きの突進を連発している。
「ええいこの……じゃじゃ馬ですね……プラントがオブリビオン化してないと言うなら、いま戦っているオブリビオンマシンの出所の説明が付かないのでは?」
 理緒が首を傾げながら答え始めた。
「その辺りがちょっとややこしいかも。第二層で戦ったエヴォルグはこのプラントで産まれた機体なんだけど、今戦ってるエヴォルグはプラント外から来たみたい……っと!」
 瞬間跳躍したエヴォルグが腕を変形させ、得体の知れない弾体を連射する。理緒はほぼ条件反射でフットペダルを踏んだ。laniusがサイドブーストを行うと同時にThorHammerを連射した。エネルギーの光線がエヴォルグを貫く。
「今戦ってるエヴォルグが中枢の彼女を狂わせてる元凶なのは間違い無いよ。サイキックで頭に干渉されて、無理矢理エヴォルグを産み出し続けさせられてるんだって」
「本当にややこしいね」
 錫華が眉を顰めた。理緒が僅かな間を置いて再度口を開く。
「とりあえず、このエヴォルグを全部倒せば彼女は助かる……と思う。プラントも元通りになる筈だよ」
「元通り……か」
 双眸を細めた錫華が理緒の言葉を反芻する。
「大体予想してた通り、ただのプラントじゃなかったってことだね」
「うん、こんなものが稼働しているなんて、それだけで色々と冒涜だよね」
 妙に穏やかな理緒の声音が響く
「オブリビオン化しているプラントと同じくらい、世界に必要ないよ。できれば壊しちゃいたいね」
「ちょちょ、理緒さん待ってください! 気持ちは分かりますけど契約が! 報酬が! それと社会の風当たりが!」
 慌てふためくセレーネを他所に理緒は言葉を続ける。
「大佐、錫華さん、彼女の声、聞こえたよね。助ける、ってことでいいかな? いいよね?」
「はい? え? それはまぁ」
「わたしは別にいいけど」
 半ば揺さ振りに近い問い掛けに両者は若干戸惑いの色を映しながらも答えた。
「じゃあREVOLをプラント前に集めてもらっていいかな? そしたらテスカポリトカの鏡で一気に殲滅するから」
『プラントの前にじゃと? 良いのか? 中枢は頑丈に出来ているとは言え、被害が及ぶやも知れぬぞ?』
 ミスランディアの至極冷静な指摘に理緒は頷きを返す。
「うん。ただ、わたし射撃が下手だから、事故が起きちゃうかもだけど……それは敵を倒したときの不可抗力だよね。なんだっけ? コラテラルダメージ?」
 戦術を組み立てている理緒自身の表情は何の感情も宿していない。だが操縦席の傍に設置されたLVTP-X3rd-vanのパネルモニター上の理緒は密やかに膨れ上がる怒気を見せていた。
「……わたしが壊す分には、ガルヴォルンの責任にはならないしね」
「って言ってるけど、いいの? 大佐?」
「なんですってー!? 今ちょっと忙しくてー!! 皆さん!! とりあえず理緒さんの言う通りにしてください!! あばー!!」
 通信越しに聞こえる爆発音や衝突音からして、獅子奮迅中のセレーネはそれどころではないようだ。錫華は肩を竦めた。
「どうなっても知らないよ?」
『問題あるまい。ガルヴォルンの最高責任者のお達しなのじゃから』
 結局特殊部隊員を含む面々は皆、理緒の立案した作戦通りに行動を開始した。元々正規軍に近いレベルで組織だった戦術を組めるガルヴォルンにとって、集団戦術はさしたる労でも無い。セレーネの直接指揮の元に特殊部隊員のナズグルが広範囲に展開、構築した包囲陣を徐々に狭めて行く。
 理緒も包囲網構築に手を貸す傍らでテスカポリトカの鏡の微調整を行なっていた。支援AIのM.A.R.Eが出力や収束率などといった緻密な計算を担当し、ミスランディアとアミシアもそれを支援する。威力は中枢に埋め込まれた水槽が割れる程度にしなければならない。それも内部に収まるレプリカントの乙女を傷付ける事の無い微妙な手加減。言うは難しくやるも難しい。
 錫華はやはり運動性を活かした撹乱戦術で包囲陣からはみ出た敵の取りこぼしに止めを刺して回っている。ドーム状のホールに於いて蜘蛛の舞は有効な戦術効果を発揮していた。天井の存在がワイヤーハーケンの足掛けとなり、位置取りをさほど考慮せずとも自在な空中機動が可能となっていたからだ。
 そして漸く敵群を中枢前にまで押し込むと、最後の仕上げの時が訪れた。
「よーしいい感じです……あれ? なんで中枢の前に敵を集めてるんでしたっけ?」
 セレーネは直前まで理緒の戦術の違和感に気が付かなかった。スティンガーⅡの機体制動に意識の殆どを傾注させていたのもあったのだろう。或いは単に注意不足だったのかも知れない。何せ操縦席が明らかにナズグルと異なる内装にも関わらず、装甲を脱いでシステムが再起動しミスランディア達に指摘されるまで自身が搭乗している機体の違いに気が付かなかったレベルなのだから。
「大佐が理緒さんの指示に従うようにって言ったから、それで……」
 錫華は粛々と己の役回りを演じ続けている。
「そうでしたっけ? じゃあ理緒さん、なんで――」
「テスカポリトカの鏡! データロード!」
 セレーネの言葉を虚空に展開された電脳空間が強制中断した。ホール全体を照らす青白い光と共に円環の転送門が現れる。その門から首を出したのは、キャバリアかそれ以上の全長を誇る巨大な砲塔だった。
「あぁソーラーレーザー……じゃなくて理緒さんなんてモノを取り出してるんですかー!!」
 制するセレーネの声が届いているのかいざ知らず、理緒はユーベルコードで召喚した大口径主砲とlaniusの最終接続作業に着手した。
「バスターキャノンモードに移行。エネルギーシステム、全て直結。ランディングギアのロック完了。チャンバー内、正常加圧中……コンバージェンスリング回転開始」
 テスカポリトカの鏡の顎より白色の雷電がのたうち回る。周辺に展開中の機体が異常なエネルギー反応を検知し、搭乗者に対して警報音を全力で鳴らしていた。
「理緒さんストップ! ストーップ!」
 laniusの正面に回って静止しようとするスティンガーⅡを特殊部隊員のナズグル達が必死に押し留める。出力の強化も相まって生半に拘束する事は難しく、外から見ればキャバリアがおしくらまんじゅうをしているようにすら思えた。
 そして遂にlaniusが抱える破滅の主砲の発射準備が整ってしまった。
「撃てるよ!」
「撃てるよ! じゃなくて!」
 理緒の指先がトリガーを引き込む。
「いっちゃえーーー!!!」
「あーーー!!! プラントがーーー!!!」
 大口を開ける砲身の先端が、日輪の如き光量を放とうとした瞬間だった。思惟を剥き出しに叫ぶ理緒は、照準の先で碧眼を見開き青ざめる金髪の乙女を見た。そして中枢に埋め込まれた球体の水槽が解放された。内部を満たす緩い粘性を帯びた液体ごとレプリカントが中枢から排出される。
「え?」
「あ?」
 理緒とセレーネが同時に短い声をあげた。
『ドラム式洗濯機の扉みたいに開くんじゃな』
「まずい……!」
 錫華の四肢は勝手に機体制動を行なっていた。既にテスカポリトカの鏡の発射は始まっている。
 膨れ上がる光が収束された一筋の光となって巨大な砲身より迸る。中枢より排出され地べたに身体を横たえているレプリカントの乙女に、錫華のナズグルが覆い被さったかと思えば瞬時に消えた。
 南州第一プラントの最奥部で細く眩い陽光が駆け抜けた。防眩フィルターが吸収仕切れないほどの光量を発揮したそれは、中枢側面を擦過し壁面に直撃、構造物の表面を赤熱化させた。射線上にいたエヴォルグの集団は直撃していれば完全蒸発、一見接触を免れているようなものでも機体の大部分を溶解させていた。巨砲より放たれた破滅の光線は理緒が望んだ通りの威力を発揮した。
「中枢は!?」
「彼女は!?」
 モニターのホワイトアウトから復帰したセレーネと理緒が同時にホール中枢を見遣る。中枢は側面の表面を赤熱化させていたが、最奥部に初めて訪れた時と同様に光の脈動を放っていた。両者は胸を撫で下ろす暇もなく周囲を忙しく見渡す。
「ふう、死ぬかと思った」
 スティンガーⅡとlaniusのすぐそばにナズグルが着地して跪いた。操縦席で胸を荒く上下させる錫華の額には冷や汗が伝っていた。
「中枢の彼女なら無事。はい」
 ナズグルが地面に下ろしたマニピュレーターを開くと、そこには中枢の水槽の中で揺蕩っていたレプリカントの姿があった。
『バイタルは安定、外傷はありません。高速機動の際に受けた重力加速度で失神しているだけです』
 アミシアの事務的な報告を聞いた理緒は乗り出していた身を操縦席に深く沈める。全身から力が抜ける感覚がした。
「ごめん、まさか急に排出されるなんて思わなかったから……射線偏向したんだけれど、間に合わなくて……」
「あぁ、だからレーザーが中枢側面を擦り抜けたんですね。まぁ……プラントも壊れてないようですし、彼女をうっかり蒸発させずに済んだので良しとしましょう。錫華さん、あの土壇場でよく助け出してくれました」
 セレーネの声音にも脱力感が含まれていた。
「ん……かなり危なかったけどね」
 サブウィンドウに表示されている機体ステータス上では、片脚が黄色に点灯している。レーザーを掠めて装甲が溶解したらしい。
『敵の反応が無くなったな。先ので最後のようじゃ』
 ミスランディアに促されてガルヴォルンの面々がレーダーを確認する。敵を示す光点はもう灯っていない。周囲を一瞥すれば友軍以外の動体はなく、燃焼する炎の音と滞空するキャバリアのエンジン音だけが密閉空間を満たしていた。
「これで作戦終了ですか……終了でいいんでしょうか?」
 スティンガーⅡのコクピットのサブウィンドウでは、ナズグルのマニピュレーターの上で気を失ったままのレプリカントが拡大表示されている。始末を決めあぐねたセレーネの眉が顰められる。
『全敵反応の消失を確認。作戦は終了です。猟兵様方、白羽井小隊、お疲れ様でした』
 割り込んだのはそれまで黙していた結城からの通信だった。一同の顔に其々が思う所を込めた感情が浮かんだ。
『ゲートロックを解除しましたので、地上に帰還をお願いします。なお、回収したレプリカントもどうかお忘れなく……』
 誰もが口を噤むまま通信は切られた。
「とりあえず大佐、預かって」
「私!?」
 既に錫華は機体から降りてレプリカントを担ぎ上げていた。
『回収するにもこのまま運ぶわけにはいくまい。すっぽんぽんじゃしの』
「それはまあ、そうですが……」
 渋々ハッチを開けば錫華が滑り込むような動作でコクピットに入る。操縦席の横に格納されているサブシートを広げてそこにレプリカントの身体を横たえた。
「なんかこの人すっごいヌメヌメしてません?」
「そうだね」
「まさか錫華さん、これが嫌で……」
「じゃあよろしく」
 セレーネが厭いながら軍服のコートをレプリカントに被せてやった時には既に錫華は機体外に出ていた。
「普通に帰してもらえるみたいだね。ゲートのロック解除コードを抜いておいたんだけど、杞憂だったかな?」
 理緒が安堵とも嘆息とも付かない溜息を吐き捨てる。ちらりと見た中枢は、レプリカントを失ってもなお脈動を続けている。テスカポリトカの鏡より放った光線に触れて赤熱化した箇所はまだ熱を帯びているようだった。
「壊せなかったかぁ。結局、分からない事だらけな気がするけど……手掛かりは貰えたからね」
 理緒の細指がコンソールパネルを撫でると、モニター上に様々な文字列や画像が表示される。M.A.R.Eが中枢より引き抜いた資料の数々だ。
「あーあ、後は直接聞いてみよっかなー」
 最奥部とそこに繋がる大通路の門が開け放たれると、他の多くがそうしたようにガルヴォルンのキャバリア達も踵を返す。南州第一プラントの中枢は、密やかにその後ろ姿を見送っていた。


●南州第一プラント調査完了
 最奥部に潜み、プラントの中枢機関を狂わせていたエヴォルグの集団は猟兵達によって殲滅させられた。これで南州第一プラント内部から全ての敵対的存在が駆逐された事となる。
 現況調査、電力供給停止状態の確認、障害の排除を達成した猟兵達は白羽井小隊と共に来た道を辿って地上への帰路に着く。中枢より回収したレプリカントの身柄も一緒だ。
『陽射しを見るのも久しぶりな気がしますわね。先ほどの光線ほど眩しくは感じませんけれど』
 そう那琴が呟けば、巨大なメインゲートが開いて差し込んだ日光が視界を真っ白に染め上げる。猟兵達が去った後に扉はまた硬く閉ざされた。夥しい死者が眠る地下の遺構では、冷たい静寂だけが闇を満たしていた。もう内部に潜む人喰いキャバリアが誰かを脅かす事は無い。然るべき時がくれば、かつてのように人類の糧を支える生産機関としての役割に回帰するだろう。

●答え合わせ
 南州第一プラント調査作戦の司令部を担っていた大鳳の艦内ブリーフィングルームにて、艦長の結城と那琴率いる白羽井小隊、そしてプラント帰りの猟兵達が集っていた。だが猟兵達は必ずしも作戦に参加していた全員が揃っているとは限らない。
 いまこの室内にいるのは、話せる段階に至ったので知る範囲で良ければ南州第一プラントで起こった概要について話すという結城の申し出に何らかの価値を見出した者達だ。そんな事は知ったところではないと報酬を受け取り早々に帰還した者もいたかも知れないし、いなかったかも知れない。
「前提として、私は全てを存じている訳ではありません。また、祖国に忠誠を誓う一介の将校として、口外を禁じられている内容に関しては既知の有無を含めてお話し出来かねます。嘘偽りを語るつもりはございませんが、真を担保する証拠が無い……信じるか否かは猟兵様のご判断に委ねます」
 疑心を含む様々な感情が込められた視線に突き刺されたまま、結城は蠱惑的な微笑を作って語り出す。
「ご覧頂きました通り、南州第一プラントは巨大な生産補助設備を有しております」
 眠気を誘う緩慢な語り部が続く。
 補助設備の機能の多くはエヴォルグを初めとする半生体キャバリアの製造能力に特化している。
「プラントを発見した当時の日乃和政府は、戦略価値を過大とも取れるほどに評価し、敵対する軍事大国バーラントに情報が漏洩する事を恐れて国内外問わず詳細をひた隠しにしていたと伺っております」
 その後今日に至るまでエネルギーインゴットの一大生産拠点という皮を着せられた南州第一プラントでは、密かにキャバリアの起動実験が行われていた。生産される機体の全てがとある問題を抱えていたからだ。
「南州第一プラントが産み出すキャバリアは人の制御を一切受け付けず、あらゆる手段を講じても起動しない、言わばただの大きな人形……」
 政府と軍はこの欠陥を克服しようと様々な実験を繰り返したが全て失敗に終わった。
「全ては国防のため? バーラントに対抗するため? それとも利権のため? 真意の程は分かりかねます。なにぶんプラントが初めて発見されたのは、私が産まれるよりずっと前の話しですので……」
 幾年も月日が流れた頃、アーレス大陸の現レイテナ領で南州第一プラントと同様の遺跡郡が発見された。
 南州第一プラントと類似した生産補助施設を有するとは言ってもその規模は比較にならない。面積は小国ひとつ分にも匹敵すると言われている。現在ではもう確認の仕様がないが。
 詳しい事情は不明だが後にそのプラント郡が調査中に暴走。際限無く産み出された無人機は極短期間で周辺諸国を滅ぼし、一部の梯団は海を渡り日乃和西州へと侵攻を開始した。
「南州第一プラントに異常が生じたのは丁度その時期です」
 それまで凡ゆる手を尽くしても起動しなかったキャバリア群が自律行動を開始、大陸での事故を再現して南州を滅ぼした。
「思うに、南州第一プラントで生産されたキャバリアは起動しなかったのではなく、起動するべき時を待っていたのかも知れませんね」
 結城の細められた双眸が、猟兵一人一人を舐めるように見渡す。
「そして人喰いキャバリア達は南州を壊滅させた後、大陸から渡海してきた梯団と合流し、西州も勢力下に収め、愛宕連山地帯にまで迫りました」
「愛宕連山? では、わたくし達の部隊を壊滅させたのは!」
 着席していた那琴が反射的に立ち上がると、声を張り上げて言葉を遮る。結城は穏やかな表情で深く頷いた。
「はい、那琴少尉。貴女の学友に不幸をもたらした要因の多くは、南州第一プラントから生じた無人機によるものでしょう」
 眼を見開いた那琴が叫ぼうとした何かを寸前で胸中に飲み込み、歯噛みしながら俯いて椅子に戻る。握り締めた拳はあからさまに戦慄いていた。
「以後の顛末については、愛宕連山の防衛に携わった猟兵様方のほうがよくご存知かと思われます」
 そして南州第一プラントの件は現時点に至るまでに猟兵達が見知った内部の有様がそのまま起きた事実を物語っている。
 つまるところを知ってしまえば危機管理力の不足が招いた下らない話しだ。
 容易に想定できたリスクから目を逸らし、旧文明の力の一端を意のままに操れると思い込んだ傲慢。
 このプラントで何が行われたのか、行われた事に対してどう後始末を付けたのか。些細な秘密が血塗れの秘密を呼び込み、やがて積み重なる内に責任の追求を恐れる政府によって肥大した秘密が、実体を持たない怪物と化してしまった。
「猟兵様方が中枢より回収した女性レプリカントについてですが……」
 結城を睨め付ける那琴の目付きが益々鋭さを増す。
「もし……彼女の記憶に触れた猟兵様がいらっしゃられたのなら、次第を既にご存知かとも思われますが、彼女を我が国では母機や人型インターフェースと呼称しております」
 プラントが制御装置として産み出したとされているが、結城は詳細を知らないという。
「南州第一プラントと同様の設備を内包する、沙綿里島プラントでも類似したレプリカントが中枢制御を司っているそうなので、生産される際には何らかの規則性が働いているのでしょう」
 有識者の仮説と猟兵達が得た情報を照らし合わせて、南州第一プラントの異常は母機の暴走が原因である可能性が高い。その原因こそ、猟兵達が最奥部で殲滅したエヴォルグにあるのではないだろうか。そう結城は他人の言葉を借りて語る。
「最奥部で交戦したエヴォルグは南州第一プラント内で生産された個体ではございません。アーレス大陸か、それともこの世界のどこかに、あのエヴォルグ達を遣わせた何者かが存在するのかも知れませんね」
 いつか事件の根幹に猟兵達が至れば答えは得られるのかも知れない。
 ともあれ、暴走理由のより具体的な詳細は技術的な調査を待たなければならないが、結果がどうあれ明るみに出る事は無い。
「形の無い怪物はずっと地下に封印され続けられるでしょう。これまでも、これからも」

●終わりに
 長く重たい沈黙の間を置いて、結城が再び口を開いた。
「ここからは私個人の身勝手な見解なのですが……」
 浮かべる微笑の色が微かに薄くなった。
「個人的には南州プラントの暴走も大陸のプラント郡の暴走も、何か大きな原因と結果の間を繋ぐ、ささやかな因子に過ぎないように思えてしまうのです。例えば、猟兵様方を喚び込む因子……とか」
 結城は人喰いキャバリアが活動を開始した頃と示し合わせるようにして、猟兵達の出現が本格化した事こそに意味があるのではと考えているらしい。
「わたくし達の……今まで失われてきた全ての人々の命が、その為の生贄だったとでも……?」
 那琴が俯いたままに消え入りそうなほど小さな声を震わせる。結城は一瞬哀れみをかける眼差しを見せたが、答える事は無かった。
「ひょっとしたら猟兵様方は、因子を代価として我が国を……強いてはアーレスを救う為に機械神がお導きになった御使いなのかも知れませんね」
 忌々しい表情で首を傾げた那琴を見ると、結城は頭を左右に振った。
「本気になさらないでください。ほんの冗談です」
 口ではそう語るも瞳は冗談の気配を映していない。
「ですが猟兵様方の力は神の所業と錯覚を禁じ得ないほどに強く、美しい。それこそ嫉妬してしまうほどに」
 結城は猟兵達へ流し目を送る。那琴はすぐ横に座っている猟兵を微かに見遣ると、人知れず息を呑んだ。初めて結城と意見が合致した。
「本日はご協力頂き誠に有難う御座いました。猟兵様方の働きに、我が国は必ずや多大な褒賞で報いるでしょう。心より、御礼を……」
 最後に結城は深々と腰を曲げて最敬礼を締め括りとした。
「そして、今回の件で知り得た情報の取り扱いには、くれぐれもご注意を」
 薄気味悪い笑みを浮かべる口元に人差し指を立てる。ブリーフィングルームは様々な感情が渦巻く混沌で満ちていた。
 南州第一プラントの調査で猟兵達がもたらした結末はやがて遠縁に鎖を繋ぐ。大鳳艦内の医務室に安置された治療槽の中で、金髪碧眼の乙女が穏やかに微睡んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月04日


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#クロムキャバリア
#日乃和
#人喰いキャバリア


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

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 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

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挿絵イラスト