憧れを"一つ"に
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「ヒーロー、格好いいなあ……」
ビルのスクリーンに映し出されるニュースの映像を見て、1人の少年がため息をつく。
個性的なコスチュームに身を包み、超常の力で悪を討ち倒す正義のヒーロー。それは、この世界に生まれた子供なら誰もが一度は憧れる姿だった。
「僕にも力があれば、絶対ヒーローになるのに……」
同時にそれは、ほとんどの人間には決して手の届かない憧れでもある。
才能か鍛錬か研究の成果か、理由は何にせよユーベルコードを操る者はごく僅か。
大半の者は大人になるにつれて夢を諦め、等身大の日常を歩みだす。それは決して悪いことではない。危険なヴィランとの戦いに身を置くより、幸せになる道はいくつもある。
「……叶えてあげましょうか? あなたの、その望み」
「え?」
だが、その儚く消えていくはずだった夢に、悪意をもって近付く者がいた。
物腰は穏やかに、言葉は蠱惑的に。忽然と姿を現したその少女は、驚く少年にすっと手を差し伸べる。それは前触れもなく訪れた、非日常の世界からの誘い。
――気が付けば、少女と少年は町の雑踏から姿を消していた。
その行き先も末路も、誰も知らぬままに。
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「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「ヒーローズアースにて、ヒーローに憧れる一般人を言葉巧みに誘い出し、危険な生体実験に利用しようとしているオブリビオンの存在が判明しました」
このオブリビオン科学者は一般人の憧れに付け込んで「ユーベルコードを使える身体にしてやる」などと吹き込んでは自身の研究所に連れ込んでいるようだ。だがそこで人々を待つ実験は、決して期待したようなヒーローになるためのものではない。
「今回リムのグリモアが予知したヴィラン『ロンリーオンリー・リオ』は、『一つになれば、離れることもなく、寂しくない』という思想の下で様々なものの融合を研究している危険なオブリビオンです」
彼女の最終目的は『世界全てを"一つ"という幸福に』すること。その幸福の定義は明らかに常人とはかけ離れている上に、研究過程で生じる犠牲についても『最終的に"一つ"になれば問題ない』という事なのか、まるで気に留めていないようだ。
「幸い、誘拐された一般人はまだ実験体にはされていないようです。取り返しのつかない事態になる前に研究所に突入し、一般人の方々の救出及び首謀者の撃破をお願いします」
そう言ってリミティアは資料を取り出し、具体的な作戦の内容について説明を始めた。
「ロンリーオンリー・リオの研究所はニューヨークの地下に広がる、広大な下水道迷宮『ダスクブロンクス』の一角にあります」
知られざる文明の一つに数えられるほど広大かつ複雑な地下迷宮は、彼女のような輩が拠点を構えるのにうってつけだったのだろう。研究所の入り口まではグリモアで直接転移できるので、迷子になる心配はない。
「所内にはリオの研究により誕生したバイオモンスターが大量に潜んでいます。警備というよりは放し飼いに近い状態のようで、侵入者に気付けば見境なく襲ってくるでしょう」
融合実験の過程で生まれたこれらのモンスターは、どれも複数の動物や植物、機械などが混ざりあった見た目をしている。知能は皆無であり力も強くないが、数だけは多いので群れると邪魔にはなるだろう。
「このバイオモンスター群を蹴散らしつつ、牢屋や実験所に捕らわれている一般人を救出して、研究所の奥に向かって下さい」
事件の首謀者であるロンリーオンリー・リオは、研究所の一番奥にいる。全てを一つにすることが幸福への道だと信じて疑わない彼女は、既に己の肉体も様々なものと融合させており、半ばヒトならざるものに変貌を遂げている。
「見境ない融合の末に魔術師の力なども取り込んだ彼女は、戦闘でもかなりの強敵です。ただの研究者だと甘くみないほうが良いでしょう」
ここでリオを逃せばまた別の場所で新たな研究所を作り、一般人を巻き込んだ研究と実験を繰り返すだろう。これ以上の被害者を出さない為に油断なく確実に撃破してほしい。
「アースクライシス2019の勝利からもう2年になりますが、ヴィランやオブリビオンの悪事は尽きません。リム達猟兵もヒーローとして、少しずつでも平和にしていきましょう」
説明を終えたリミティアは手の上にグリモアを浮かべ、ヒーローズアースに道を開く。
ヒーローへの憧れを利用するオブリビオンの、危険な研究を阻止する戦いが始まる。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
今回の依頼はヒーローズアースにて、ヒーローに憧れる一般人を利用したオブリビオンの研究を阻止するのが目的です。
1章はダスクブロンクスにある敵の研究所に殴り込みます。
施設内には動植物や機械が融合したバイオモンスターが大量にうろついており、これを撃退しながら捕まっている一般人を救出する章となります。
なお、敵として出てくるモンスターに"ヒト"は混ざっていないようです(あるいはこれから融合させる予定だったのかもしれません)。撃破して問題のない敵だと考えていただいて大丈夫です。
2章は研究所のボスであるヴィラン『ロンリーオンリー・リオ』との決戦です。
全てを"一つ"にするという理想のもと、自分自身も融合実験の被検体にした危険な研究者であり、副次的に得られた戦闘力も弱くありません。
戦闘そのものに特別なギミックはないので、全力で戦って撃破してくだされば幸いです。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『バイオでケミカルな害獣駆除』
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POW : 何匹いようと叩き潰すだけだ
SPD : 誘き寄せて一網打尽にしてしまおう
WIZ : 性質を観察して効果的な方法を見つけよう
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カビパン・カピパン
「聞いてエグゼクティブ・プロデューサー (製作総指揮)!ここにはきっと新作のヒントと逸材がいるはずよ!」
片手に電話でド田舎者丸出しで大都会のスターに憧れている姿。
「私にも力があれば、絶対(映画界の)ヒーローになるのに…」
恐らく彼女には決して手の届かない憧れ。
「叶えてあげましょうか?あなたの、その望み」
「叶えて!」
間髪言わずの返事に少女は目を大きく見開いて固まっていた。多分ドン引きしていた。
「早くベイビー」
カビパンは爽やかに微笑んでみた。少女の顔が困惑していた。
気が付けば、二人は姿を消した。
彼女が猟兵であり理解不能な異分子であることも知らぬままに。
落ちた電話からは製作総指揮の声だけが響いていた。
「聞いてエグゼクティブ・プロデューサー (製作総指揮)! ここにはきっと新作のヒントと逸材がいるはずよ!」
とある大都市の雑踏の中で、カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)が誰かと話している。そこはつい先日ヴィランによる誘拐事件が起こった都市の現場だ。
他の者達はグリモアの力でヴィランの研究所に向かったが、彼女だけは違った。なぜか都市の真ん中で新しい映画のネタとキャストを探している模様。
『もう諦めて帰ってきたら?』
電話の相手の返事はつれないもので、彼女が収穫を掴んでくるとは期待してない様子。
片手に電話でド田舎者感丸出しの姿を見れば、みんな彼女のことをで大都会のスターに憧れているお上りさんとしか思わないだろう。
「私にも力があれば、絶対(映画界の)ヒーローになるのに……」
それは恐らく彼女には決して手の届かない憧れ。銀幕で華々しく活躍するスター達に、幾万の人々に興奮と感動を届ける名監督。カビパンが見上げるスクリーンの中の理想は、映画に焦がれた若者たちの夢であり、現実の前に打ち砕かれていく憧れだ。
「そう。あなたもヒーローになりたいのね」
そんな憧れに身を焦がすカビパンの元に、ひとりの少女が現れた。黒ずくめの衣装に、風もないのに不自然になびく長髪。どこか浮世離れした雰囲気を持つその少女こそ、現在猟兵達が追っているヴィラン『ロンリーオンリー・リオ』だった。
「叶えてあげましょうか? あなたの、その望み」
「叶えて!」
突如現れた謎の少女からの問いかけに、カビパンは若干食い気味の勢いでそう答える。
間髪入れずの返事に少女は目を大きく見開いて固まっていた。多分ドン引きしていた。
「早くベイビー」
カビパンは爽やかに微笑んでみた。少女の顔は困惑していた。ちょっとくらい怪しいと思わないのか。なんで疑いもせずに即答できるのか。これまでに誘い出してきた一般人と彼女の反応はだいぶ違っていた。
――どこまで計算なのかは分からないが、カビパンの行動はこれで理に適ってはいた。
ヒーローに(正しくは映画界のだが)憧れる一般人を装うことで、ヴィランのほうから近付いてくるように仕向ける。成功すれば一気に敵の懐まで潜り込める、囮作戦である。
だが該当する一般人が無数にいる中、彼女がピンポイントに狙われたのはギャグ補正。
【ハリセンで叩かずにはいられない女】により場の流れを自分のペースに合わせられるカビパンだからこそだろう。
「……まあ、いいわ。なら一緒に行きましょう」
妙に乗り気すぎるのが気になるが、実験材料の欲しいリオはカビパンを自分の研究所に連れ去る事にした。彼女が猟兵であり「理解不能な異分子」であることも知らぬままに。
ひゅうと風と衣擦れの音が微かに聞こえ、気が付けば二人は都市から姿を消していた。
『あれ、カビパンさん? もしもし、もしもーし』
雑踏に落ちた電話からは、製作総指揮の声だけが響いていた。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
嘗ての戦いでは汚水の異臭が装甲に染み付くまで戦ったものですね
潜伏に最適な広大なこの地は悪の土壌でもありますが、その芽を摘み取り続けてこそ騎士…ヒーローという物です
脱出時に一般人が襲われては困ります
UCの機械妖精で研究所内部を情報収集
敵の数の優位活かしきれぬ狭い通路を割り出し派手に交戦
妖精の誘導も駆使し群れを誘き寄せ殲滅
さて、返り血を拭って…次は人々の救助です
妖精で所在掴んだ牢へ
ご安心を、猟兵です
騎士として皆様の救出に参りました…もう大丈夫です
動けない方は私がお連れしますが、この妖精が出口までご案内します
どうかご家族を安心させてあげて下さい
(此度の体験と、彼らのお灸…私からのお説教は野暮ですね)
「嘗ての戦いでは汚水の異臭が装甲に染み付くまで戦ったものですね」
ヴィラン『ロンリーオンリー・リオ』がダスクブロンクスに築き上げた秘密研究所に、最初に突入したのはトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)。戦争からはや2年が過ぎたが、複雑かつ広大な下水道迷宮の環境はあの当時のままだ。
「潜伏に最適な広大なこの地は悪の土壌でもありますが、その芽を摘み取り続けてこそ騎士……ヒーローという物です」
そこが地上であれ地下であれ彼の有り様は変わらない。捻じくれた下水道の果てに潜むオブリビオンを討伐するために、機械仕掛けの騎士はヒーローらしく堂々と歩を進める。
「グギャギャギャギャ……」
研究所に突入したトリテレイアを出迎えたのは、奇々怪々なバイオモンスターの群れ。
全てを"一つ"にする事を目的としたリオの融合実験により生まれたそれらは、獣の胴体から生えた昆虫の脚、生体と混ざりあった銃器など、異形の部位を以って侵入者を襲う。
「脱出時に一般人が襲われては困ります」
彼らを放置すれば任務遂行に支障が出ると判断したトリテレイアは、スラスターで移動しながら【自律式妖精型ロボ 格納・コントロールユニット】を起動。複数の妖精型偵察ロボを飛ばして研究所内部の情報収集に努める。
「この狭い通路であれば、敵は数の優位を活かしきれぬでしょう」
敵を殲滅するのに丁度良い地形を見つければ、モンスターの群れをおびき寄せるように妖精達に命じる。鈍色の妖精がひらりひらりと所内を舞い踊れば、知能を持たぬ怪物達は疑いもせずにそれを追いかけて機械騎士の元に集まってきた。
「グギャ?!」「ギュエッ!!」
あまりに大挙して押し寄せて来たせいで、彼らは狭くなった下水道に身体が突っかえて身動きできなくなってしまう。待ち構えていたトリテレイアはすかさず格納銃器を展開。銃撃と斬撃で派手に敵を蹴散らしていく。
「「ギギャアアァァァァーーーッ
!!!?」」
無作為に継ぎ接ぎされただけの実験生物とウォーマシンでは戦闘力の差は歴然であり、地の利を取った後者が勝利を収めるまでにさほど時間はかからなかった。怪物共の断末魔が下水道に反響し、汚水の川が彼らの血でどす黒く染まる。
「さて、次は人々の救助です」
トリテレイアは返り血を拭うと、屍を踏み越え歩きだす。彼が妖精達に調べさせていたのは地形だけではなく、敵に連れ去られた人々の所在も並行して探索を行っていたのだ。
「ひっ! だ、だれ……?」
「ご安心を、猟兵です」
妖精達が所在を掴んだ牢屋に到着すると、中から怯えた人々の声がする。トリテレイアは穏やかな口調で自らの正体を明かし、鍵のかかった牢屋のドアを力尽くでこじ開ける。
「騎士として皆様の救出に参りました……もう大丈夫です」
「りょ、猟兵! 来てくれたんだ!」「助かった……!」
アースクライシス2019での活躍以来、この世界における猟兵はトップヒーローの代名詞だ。不安や恐怖に彩られていた人々の表情は、たちまち信頼と希望で明るく輝きだす。そこにはヒーローという存在に対する憧れも含まれていた。
「動けない方は私がお連れしますが、この妖精が出口までご案内します。どうかご家族を安心させてあげて下さい」
「は、はいっ!」
ヒーローであり騎士として相応しい態度で、トリテレイアは妖精達と共に一般人の救助活動にあたる。ここに囚われていたのはヒーローに憧れを持つ者ばかりのため、指示にはみな素直に従い、パニックが起きる事もなく避難はスムーズに進んだ。
(此度の体験と、彼らのお灸……私からのお説教は野暮ですね)
こんな場所まで連れて来られて恐ろしい思いをしたのだ。今これ以上彼らを責めるのはヒーローの行いではない。今はただ彼らを安心させ、安全を保障することを第一に考え、機械仕掛けの騎士は誘導を続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
造物主が違えば私もここに徘徊する怪物になっていたのでしょうか
・・・なんだかあの女に対して感謝しているような考え方ですね
色々考えるとドツボに嵌りそうなのでもうやめましょう
(頭を左右に振って頭の中に浮かぶ自分の造物主の顔を振り払った後
直立し左足、右足の順に大地を踏みしめるように力強く足を繰り出し、左腕、右腕の順に押しのけるように勢いよく腕を伸ばすと{岩石の旋律}で『ダンス』を始める)
踊ったら大分すっきりしました
さて、救助には人手が必要ですね
(UC【蠱の人】発動)
硬くて強くてどっしりとした安定感のある皆さん
怪物の掃討と一般の方々の救助に向かってください
「造物主が違えば私もここに徘徊する怪物になっていたのでしょうか」
敵の地下研究所にはびこるバイオモンスターの群れを見て、播州・クロリア(踊る蟲・f23522)はぽつりと呟いた。彼女はとある科学者によって猟兵の細胞を元に開発されたクローンであり、出自だけを見ればここの怪物達と似たようなものだ。
「ギヒャヒャヒャ……」「グギャギャ!」
獣に鳥に虫に機械など、様々なものを融合させられて、不気味な咆哮を上げる異形達。
知能すら与えられず研究所を出られもしない彼らに比べれば、自らの意思と心を持ち、自由を掴むことのできた自分は幸運と呼べるのかもしれない。
「……なんだかあの女に対して感謝しているような考え方ですね。色々考えるとドツボに嵌りそうなのでもうやめましょう」
頭を左右に振って頭の中に浮かぶ自分の造物主の顔を振り払った後、クロリアはしゃんと背を伸ばして直立し、左足、右足の順に大地を踏みしめるように力強く足を繰り出し、左腕、右腕の順に押しのけるように勢いよく腕を伸ばす。
「こういう時は踊るのが一番です」
彼女が紡ぐのは「岩石の旋律」。大地のうねりに押し潰されながらも、堅牢に雄々しく在り続ける岩石の重々しいリズムを全身で表現する。ずっしりと芯のある力強い舞踊が、いかに美しいものであるか。芸術を解する心を持たぬ怪物たちは不幸であった。
「踊ったら大分すっきりしました。さて、救助には人手が必要ですね」
ダンスに没頭することで頭の中もやもやを消し去ったクロリアは、そのまま【蠱の人】を発動。たった今ダンスで生み出した旋律に肉体を与え、無色無音の旋律を配下とする。
「硬くて強くてどっしりとした安定感のある皆さん。怪物の掃討と一般の方々の救助に向かってください」
総勢で113名になる旋律の者達は、踊り手の指示に従って研究所の方々に散っていく。
ある者は囚われた一般人の所在を突き止めるために、またある者は眼前のモンスターを撃破するために。
「ギギャギャ!」
新手の出現に反応したバイオモンスターは即座に襲い掛かるが、岩石の旋律から生み出された蠱の人の肉体は頑丈で、生半可な爪牙など通しもしない。そして安定感のある姿勢から繰り出される反撃は重く、怪物の身体をやすやすと砕く。
「あなた達に恨みはありませんが、おやすみなさい」
異形の屍を超えて、クロリアは蠱の人達とともに研究所の奥へと進む。そこには廃材を組み合わせた粗雑な牢屋があり、地上より連れ去られた一般人達が閉じ込められていた。蠱の人がその扉に軽く力を加えるだけで、かけられた鍵はあっさりと砕けた。
「もう大丈夫です」
「あ、ありがとうございます!」
助け出された人々は口々にお礼を言い、蠱の人に守られて安全な場所まで逃げていく。
人々の命を守り、皆から感謝と憧れの眼差しを向けられるクロリアの姿は、同じバイオモンスターでもここの怪物とは違う。立派な1人の猟兵であり、ヒーローだった。
大成功
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穂村・桜火
もう元の姿に戻れない実験生物。ダークファンタジ~のアレ、実在してたんだね。人間は含まれていないって聞いたけど、子供用のおもちゃを握ったまま離さないのとか居る。きっと、人間じゃない、人間じゃないったら人間じゃない。
アレはきっと筋肉が痙攣してるだけ、変な想像はしちゃだめ。
ちょっと早口で涙目。
泣くのは後で…、だまされて連れてこられた人を助け出さなきゃ。
憧れと狂気を一緒になんてさせない!
【行動】UCで、実験生物を全部倒す。被害者は施設内に居るはずだから探す。
動かなくなった肉塊の中に、熱で溶けたおもちゃを見つける。ただれた肉塊と混ざり合って、一つに…。
急がなきゃ。
とにかく探して、一人でも多く逃がします。
「もう元の姿に戻れない実験生物。ダークファンタジ~のアレ、実在してたんだね」
これまでは創作でしか知らなかった存在を現実で目の当たりにした穂村・桜火(ふわふわ天女桜餅(炎操る亡家の姫君)・f33481)の顔色はかすかに青ざめていた。書物などで想像されたものよりも、実物は遥かに悍ましい。
(人間は含まれていないって聞いたけど、子供用のおもちゃを握ったまま離さないのとか居る)
様々な生物や有機無機が混ざりあった異形の中に、見たくもないものが見えてしまい、考えたくもない想像が頭に浮かんでしまう。きっと、人間じゃない、人間じゃないったら人間じゃない――言い聞かせるように呟いても、一度考えてしまった不安は消えない。
「アレはきっと筋肉が痙攣してるだけ、変な想像はしちゃだめ」
ちょっと早口で涙目になりながら、桜火はなんとか最悪の想像を頭の隅へと追いやる。
ここは下水道迷宮ダスクブロンクス。地上から流れてきたゴミに捨てられたおもちゃがあって、たまたま怪物がそれを拾うこともあるだろう。きっと、そうに違いない。
「泣くのは後で……、だまされて連れてこられた人を助け出さなきゃ」
恐怖をこらえて勇気をふり絞り、桜火は【せんざいしてた熱量解放】を発動。芭蕉扇をふわりと扇ぐと辺りに熱風が吹き荒れ、どこからともなく溶岩流が研究所に流れ込んだ。
「グギャギャ
!!?」「ギギャーーーッ!!」
突如として襲い掛かる灼熱の溶岩塊から、慌てて逃げようとするバイオモンスター達。
だがここは閉鎖された地下施設。狭い通路上で逃げきれるはずもなく、次々に呑まれて焼き焦がされていく。
「憧れと狂気を一緒になんてさせない!」
普段は子供っぽく緩い気質もある桜火だが、いざという時は四大大家が一つ、穂村家の末裔にふさわしい烈火の如き気迫を見せる。彼女が召喚し投げつける溶岩の珠を受けて、原型を留めていられる敵は一匹たりとて居なかった。
「………あっ」
溶岩流に焼かれて動かなくなった肉塊の中に、桜火は熱で溶けたおもちゃを見つける。
ただれた肉塊と混ざり合って、一つになった様はまるで――それ以上は見るのも考えるのも止めて、被害者の救出に意識を切り替えることにした。
「急がなきゃ」
まだ施設内に捕まっているはずの人達を探して、羽衣の乙女は早足に歩きだす。それは戦いの跡地から一刻も早く離れようとしている様にも見えた。幸いにもこの辺りの脅威は先程の溶岩流で一掃できたらしく、すぐにまた怪物がやって来る気配はない。
「早く逃げてください!」
「は、はいっ!」「ありがとう!」
被害者が囚われた牢を見つけた桜火は、鍵を溶岩で溶かすと中にいた人を外に逃がす。
彼女の中に潜在する熱量は敵には灼熱の溶岩になるが、味方には癒やしの熱風となる。優しくも力強い風に後押しされて、人々は感謝の言葉とともに研究所から逃げていった。
「とにかく探して、一人でも多く逃がさなきゃ」
ひとつの牢を解放すれば、また次の牢を探す。入り組んだ研究所の中をひたすら歩いて探すのは一苦労だが、彼女は泣き言ひとつ言わずに、皆を救うために奔走するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フランツィスカ・フロイデ
『一つになる力』……?
興味あるわあ…
誰かと一つになるって、気持ちいいことよね?
それに寂しいのも嫌だもの
でも性格に問題のある人なのね?
じゃあ、その人を倒して…研究の成果を貰ってしまいましょう
もちろん、内緒でね
(施設で)
怖いわ…
モンスターと戦うなんてできないわ
全力で逃げつつリオという人の所を目指すわ
そうだわ【寵姫の瞳】を使えばモンスターとも仲良くなれるわね
効いている間「おすわり!」とかやって
その隙に逃げるのよ
そう言えば一般の方も捕まってるんだったし、見つけたら助けるわ
私もダンサーの端くれだし
踊らなくても【コミュ力】とかスキンシップとかで不安を解きほぐしてあげるわ
一般人との関わり等・アドリブ大歓迎
「『一つになる力』……? 興味あるわあ……」
この世の全てと"一つ”になれば皆が幸福になれるという『ロンリーオンリー・リオ』の思想に、フランツィスカ・フロイデ(歓喜のフラン・f35698)は密かな共感を抱いた。
「誰かと一つになるって、気持ちいいことよね? それに寂しいのも嫌だもの」
生まれ持った欲望が人一倍強く、欲望のままに生きることを是とする彼女は、倫理的に問題があるというだけでその研究を否定はしない。なぜか猟兵になってしまったことも、この立場を活かせば色々できそうだと考える、筋金入りの快楽主義者であった。
「でも性格に問題のある人なのね? じゃあ、その人を倒して……研究の成果を貰ってしまいましょう。もちろん、内緒でね」
そんなフランツィスカもこのまま多くの人が敵の犠牲になるのは流石に見過ごさない。
内心では密かに別の目的を抱えつつも、まずは他の猟兵達と同じようにリオという人の所を目指す。
「グルルルルルッ!」「グギャギャギャ!」
しかし施設内には融合研究の過程で生まれたバイオモンスターが大量に徘徊しており、侵入者を見かければすぐに襲い掛かってくる。本業がダンサーで戦いが苦手な彼女には、この数の怪物を相手取るのは厳しいか。
「怖いわ……モンスターと戦うなんてできないわ」
様々な物が混ざりあったバイオモンスターの群れから、全力で逃げるフランツィスカ。
されど人と獣の足ではどちらが速いかは明白であり、土地勘のない入り組んだ施設の中という不利もあって、徐々に彼女は追い詰められていく。
「そうだわ。寵姫の瞳を使えばモンスターとも仲良くなれるわね」
そこではたと自分の力を思い出したフランツィスカは、追ってくるモンスターのほうを振り返り、魅惑の視線を投げかける。生命体はおろか無機物や自然現象すら虜にする寵姫のユーベルコード――この力があれば知能のない怪物を魅了するのも容易いことだ。
「おすわり!」
「グルルッ……」
凶暴な怪物がたちまち飼い犬のように大人しくなり、命令に従ってぺたんと座り込む。
その隙にフランツィスカはくるりと踵を返して脱兎のごとく逃げる。今の彼女のレベルではまだ長時間敵を魅了しておくことはできず、早々に振り切る必要があったからだ。
「あら? 変わったところに出たわね」
なんとか敵を撒いたところで、彼女が辿り着いたのは粗末な牢屋のような場所だった。扉の向こうから「ぐすっ……」と誰かのすすり泣きや「助けて!」と叫ぶ声が聞こえる。
「そう言えば一般の方も捕まってるんだったわね」
見つけたなら無視もできまい。幸いにして牢の鍵もさほど複雑なものではないようだ。
ほどなくして牢から人々を助け出したフランツィスカは、沢山の感謝の言葉に囲まれることになった。
「ありがとうございます!」「助かりました!」
「いいのよ。怖い思いをしたのね」
見知らぬ地下まで連れ去られ、あと一歩で生体実験の素材にされる所だった彼らの恐怖は計り知れない。フランツィスカはにこやかな笑顔とおっとりとした口調で話しかけて、彼らの不安を解きほぐしていく。
(私もダンサーの端くれだし、踊らなくてもこのくらいはね)
欲望に忠実だからこそ彼女は他人との壁を作らない。ひとつひとつの仕草は魅力的で、ふとした拍子のスキンシップが相手をどきりとさせる。救出された人々はいつの間にやら彼女のコミュ力の高さに魅せられ、すっかりファンになっていた。
「本当に、本当にありがとうございました!」「あの、ぜひお名前を……!」
声を上げる人々に笑顔で応じ、研究所の外まで逃げるよう指示するフランツィスカ。
戦う力には乏しくとも、その姿は間違いなくヒーローにふさわしいものだった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
生物同士や生物と機械の融合…随分と悪趣味な研究ね…。
目的といい、この非人道的な研究といい、まるで理解できないけど…この研究は決して放置できないわね。
【ブラッディ・フォール】で「絢爛業火なる白の王」の「白の王」の姿(女性部分がフレミアといった感じ)へ変化。
【神性】で無数の眷属を次々と生み出し、研究所中に放って喰らいつかせて蹂躙。
更に【魔性】に自身の【催眠術、歌唱】を併せて敵を同士討ちを誘発させ、運良くわたし自身まで近づけた敵は【創世】で周囲一帯ごと焼き尽くしてあげるわ
奥に進む途中で研究室や資料室等を探し、見つけ次第、研究資料もデータも【創世】で全て塵に返してあげるわ。
こんなモノ残しておけないしね
「生物同士や生物と機械の融合……随分と悪趣味な研究ね……」
ヴィランの地下研究所に踏み込んだフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は、その悪質な研究内容に眉をひそめる。元が異なる存在を無理やり一つにしたところで、誰が幸福になれると言うのか。
「目的といい、この非人道的な研究といい、まるで理解できないけど……この研究は決して放置できないわね」
このまま罪もない人々を忌まわしい実験の材料にさせる訳にはいかない。入り組んだ通路に漂う悪臭と、反響する怪物どもの唸り声を辿って、フレミアは研究所を進んでいく。
「ゲギャギャギャ!」「ギギィッ!!」
突入から程なくして立ちはだかったのは、融合実験で生み出されたバイオモンスターの群れ。様々な生物と非生物が混ざった異形どもがひしめき合い、本能のままに牙を剥く。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
対するフレミアは【ブラッディ・フォール】を発動。かつてUDCアースで討伐した神格『白の王』の力を我が身に降ろす。白い炎に包まれた彼女の身体は、下半身が様々な獣や植物の根が絡み合ったような異形と化し、神々しくも禍々しい姿へと変貌を遂げた。
「数が多いなら、それを上回る数で蹂躙してあげるわ」
フレミアが白の王の【神性】を発動すると無数の獣が体から分離し、研究所中に放たれる。地に満ちよと言わんばかりに次々と生み出される眷属によって、周囲の地形はたちまち埋め尽くされた。
「ゲギャァッ!?」
増殖する獣の群れに喰らいつかれたバイオモンスターは、さぞ驚いた様子で絶叫する。
彼らはあくまで実験台であり戦闘用ではなく、見た目ほどの強さはない。唯一の優位性である数でも上回る相手には、勝ち目は非常に薄かった。
「―――……♫」
無数の眷属が敵を呑み込んでいく中で、フレミアは戦場に【魔性】の歌声を響かせる。
これは聞いた者の認識を狂わせ、同士討ちを誘発する催眠の声。知能なき怪物の群れはたちまち彼女の歌の虜となり、敵も味方もなく無差別に暴れだした。
「グギャウッ!!」「ギヒャアッ!?」
赤やそれ以外の色の体液が撒き散らされ、下水の色と混ざっていく。阿鼻叫喚の惨状が繰り広げられる中、ごく僅かなモンスターはボロボロになりながらもフレミア本人の元に近付いてくるが――。
「運が良かったわね。でも貴方達はここで終わりよ」
白の王フレミアの全身を包む【創世】の炎が、周囲一帯ごと怪物を焼き尽くしていく。
戦場は白い炎の荒れ狂う世界に変わり、そこで生きていられるのは神とその眷属のみ。
「「ギギャアアァァァァ――
……!!!」」
灰も残さず燃え尽きたバイオモンスターの最期を見届け、フレミアは移動を再開する。
この研究所のボスの所在まではまだ遠い。そして奥に進む途中でやっておく事もある。
「全て塵に返してあげるわ。こんなモノ残しておけないしね」
フレミアは施設内にある研究室や資料室を探し、見つけ次第、そこにあった研究資料もデータも【創世】の炎で焼却処分する。今後一切ここの研究が悪用されない為の措置だ。
悪しき研究はここで完全に闇に葬り、遺恨すらも将来には残さない。その決意をもって吸血姫は研究所の探索を進めるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
純粋な願いや憧れを悪意で穢し、利用しようとする…絶対に許さない…。
こんな非道な研究なら特に、ね…。
自身の周囲に【孤九屠雛】を展開し、不意打ち等に対応できるように布陣して突入…。
迫ってくる敵を黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】で呪力で侵食しながら吹き飛ばし、【孤九屠雛】の霊火で追撃して凍結…。
牢屋や実験所を見つけ次第、捕らわれた人達を救出し、奥に進んで行くよ…。
まだヒトは融合させられてないみたいで良かった…。
…このバイオモンスター達も元に戻してあげる事ができれば良いんだけど…難しい、よね…。
(「さまよえる狂気と異端の魔女」のディアナイラを思い出しながら)
絶対に、許さない…。
「純粋な願いや憧れを悪意で穢し、利用しようとする……絶対に許さない……」
ヒーローに憧れる若者達の想いを弄んだヴィランの所業に、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は強い怒りを覚えていた。その感情が表情に現れることは少ないが、変わりに胸の中で静かに燃える闘志となる。
「こんな非道な研究なら特に、ね……」
彼女の前に現れたのは、研究の過程で生み出されたバイオモンスターの群れ。自然の摂理に反して様々な物と融合させられた、醜くも憐れな異形達。連れ去られた人々もいずれこの中に含まれる予定だったと考えると、ますます怒りがつのる。
「魂をも凍てつかせる地獄の霊火……」
自身の周囲に九尾炎・最終地獄【狐九屠雛】を展開し、死角からの不意打ち等に対応できるように布陣してから、璃奈は敵の研究所に突入する。その手に携えしは呪槍・黒桜。幾百の敵をこれまでに薙ぎ払ってきた呪いの名槍である。
「呪力解放……」
「ギギャギャギャ――……ッ!!?」
璃奈が呪槍をひと振りすると、穂先から放たれた呪力が黒い桜の花吹雪を巻き起こし、迫りくる敵を吹き飛ばす。全身を花弁に切り裂かれた上で呪力の侵食を受けたモンスター達の、悲鳴と絶叫が地下にこだました。
「……このバイオモンスター達も元に戻してあげる事ができれば良いんだけど……難しい、よね……」
悶える異形達の悲鳴に、璃奈はかつて別の世界で遭遇したディアナイラという女性の事を思い出していた。邪悪な狂科学者の手により望まぬ異形の肉体を与えられ、逃亡と雌伏の果てに正気を失った哀しき異端の魔女――ここにいる怪物達の境遇は彼女と似ている。
だが一度融合してしまった生物を元の状態に分離するのは至難の業だ。その方法を探る時間もない。もたもたすれば危機を悟った敵が研究所から逃げてしまうかもしれない。
「せめて、安らかに……」
「ゲ……ヒャ……」
今ここで璃奈にできるのは彼らの命がこれ以上冒涜されぬよう、苦痛なき眠りを与えることだった。放たれた【孤九屠雛】の霊火がバイオモンスターを包み込むと、その肉体は瞬時に凍結し、物言わぬ氷像と化した。
「捕らわれた人達はどこに……」
怪物の脅威を退けたのち、璃奈は研究所の奥に進んでいき、牢屋や実験所を見つけ次第解放していく。地上からここまで連れ去られてきた人々は、猟兵である彼女の姿を見るとほっと安堵の表情を浮かべ、口々に感謝の気持ちを伝える。
「ありがとうございます!」「このご恩は忘れません!」
「うん……今は、早くここから逃げて……」
憧れと尊敬の視線を受けつつ、人々に避難を促す璃奈。ここまで自分が通ってきた道を逆に辿れば、安全に研究所の外に出られるだろう。逃げていく人々の背中を見送った後、彼女は移動を再開する。
「まだヒトは融合させられてないみたいで良かった……」
ここまでに戦ったバイオモンスターの姿を見ても、捕らわれていた人々の様子からも、人間の犠牲はまだ出ていないらしい。璃奈は安堵するが、だからと言って人々を拐かし、多くの命を弄んだヴィランへの怒りは消えない。
「絶対に、許さない……」
悪しき研究者に必ずや報いを。刃の如く研ぎ澄ませた決意を胸に、魔剣の巫女は進む。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・フォーサイス
リオちゃんに一言言うために、ここは通してもらうよ。
エレクトロレギオンで戦闘兵器を大量召喚。かたっぱしからバイオモンスターを排除するよ。
5体を1組として、連携して攻撃させるよ。
動物たちにもお話があったはずなのにな。せめて解放してあげよう。
「ケケケッ!」「ギヒャヒャヒャ!」
獣とも鳥ともつかぬ奇怪な鳴き声を上げて、地下を徘徊するバイオモンスターの群れ。
ヴィラン『ロンリーオンリー・リオ』の研究の産物であるそれらを険しい眼差しで睨みつける、ひとりの少女がいた。
「リオちゃんに一言言うために、ここは通してもらうよ」
彼女――アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)は怒っていた。
ヒトが含まれなければ良いというものではない。リオの行為は多くの命と、それが紡ぐはずだった数多の物語を台無しにする所業だ。
「動物たちにもお話があったはずなのにな。せめて解放してあげよう」
歪められた命にエンディングを与える為に、アリスは【エレクトロレギオン】を召喚。
500体を超える小型の戦闘機械兵器が研究所に出現し、バイオモンスターと対峙する。
「かたっぱしから排除するよ」
「グルルルッ」「ガアッ!!」
情報妖精の指令に応えて兵器群は動きだし、それに反応したモンスター達も牙を剥く。
機械と異形。ともに数百からなる数と数のぶつかり合いが研究所内で火花を散らした。
「5体を1組として、連携して攻撃だよ」
アリスは配下のレギオンの指揮を取り、500の兵に部隊ごとの巧みな連携を取らせる。
耐久力が低くて壊れやすい機械兵器も、個別に戦うのではなく互いに援護しあい火力を集中させることで戦闘力は何倍にも増す。
「ギギャッ?!」「グエエッ!!」
対するバイオモンスターの動きはバラバラだ。知能は皆無に等しく指揮を取る者もいない彼らは、ただ本能のままに暴れる事しかできない。数の上ではほぼ互角でも、総合的に判断した場合の彼我の戦力差は歴然だった。
「おやすみ。いい夢を見られるといいね」
最初の内は拮抗していた戦況はすぐにエレクトロレギオンの優勢に傾き、その後は雪崩を打つよう敵群を呑み込んでいく。駆逐されていくバイオモンスターに、アリスはそっと別れの言葉を告げた。
「グギャァーーーッ!!!」
下水道を拡張した狭い通路に、断末魔の悲鳴が反響する。望まぬ異形の体を与えられた怪物達は、機械の脚で踏み潰され、あるいは銃弾の雨に撃ち抜かれて、その命を終えた。
「さて、リオちゃんがいるのはこっちかな」
残存する兵器を集めて部隊を再編成すると、彼女は研究所のさらに奥へと進んでいく。
この場所で行われてきた全ての研究と悪事の元凶は、もうすぐ近くにいるはずだった。薄暗い下水道迷宮の先を見据える情報妖精の視線が、より鋭くなる――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ヴィラン『ロンリーオンリー・リオ』』
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POW : ウィー・ニード・ユー
【孤独や寂しさ】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【髪に潜む数多の目玉】から、高命中力の【血肉を吸収する肉管】を飛ばす。
SPD : オーディナリー・マイ・ワールド
【融合した魔術師の力】を籠めた【林檎型の魔具から放たれる光】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【“一つ”になることへの嫌悪や恐怖心】のみを攻撃する。
WIZ : カム・アンダーン
【悪魔の如き角と翼を持つ、幼く凶暴な弟】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
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「もうここを突き止められましたか。流石はヒーロー、といったところでしょうか」
捕らわれた人々を救出し、バイオモンスターを退け、研究所の奥に辿り着いた猟兵達。
そこで待っていたのは黒いドレスを身に纏った紫髪の少女。突然の侵入者にも驚かず、落ち着いた眼差しで猟兵達を見つめている。
「しかしリオ達はまだ倒される訳にはいきません。リオ達の研究はまだ道半ばですから」
ヴィラン『ロンリーオンリー・リオ』はそう語ると、林檎型の魔具を片手に身構えた。
世界全てを"一つ"という幸福に――歪な思想を掲げて様々な融合実験を繰り返してきた狂気の科学者は、この期に及んでも研究を諦めるつもりはないようだ。
「かつてリオ達は弟を亡くしました。大切なひとを失うのは悲しいこと。ですが一つになれば離れることもなく、寂しくありません。リオ達の弟も、ほら――今は一緒にいます」
そう言って彼女が見せたのは、悪魔の如き翼と角を生やした赤子のような異形が、自身の体と融合している様子だった。愛する人と"一つ"になることで二度と別れがたき存在となる――彼女は既に自分自身すらも実験の素体として、禁忌の領域を侵したのだ。
「あのヒーローに憧れる者達の夢も、リオ達ならば叶えられます。貴方達のような立派なヒーローと"一つ"になれれば、彼らもきっと喜んでくれるでしょう」
ほんとうに良いところに来てくれました――と、リオの口元が笑みの形にほころぶ。
彼女にとっては猟兵さえも、自身の理想を叶えるための実験材料に過ぎないようだ。
「さあ、恐れることはありません。その身を委ねて、リオ達と一つになりましょう……」
止まることを知らぬ狂気の研究への誘いを、このまま続けさせるわけにはいかない。
生命も、希望も、憧れさえも"一つ"にせんとするヴィランの企みを挫くため、猟兵達は戦闘態勢を取った。
フランツィスカ・フロイデ
「ま、待って!
一つになる前に、私の話を聞いて!」
戦う前にお話がしたいわ
「こんにちは、私はフランツィスカっていうの。
一つになる力に興味があってきたんだけど…
こんな綺麗な女の子だなんて思わなかったわ!」
って、リオに話しかけるわ
話題は一つになる力のすごさとか、弟さんと一緒になれてよかったわねとか
りんご好きなの?とか、化粧品は何使ってるのとか
一つになるよう促されたり戦いを始めようとすると
「待って、まだ話したりないわ!」といってまだまだ喋るわ
止めさせる事はできないわ、私のUCの効果で
お喋りに没頭している限り外部からの攻撃は遮断するわ
えっと…多分リオからしたら、攻撃の邪魔になってるんじゃないかと思うわ…
アリス・フォーサイス
それは違うよ。みんなと一緒になっても一人のまま。寂しさは変わらないんだよ。同類を食べたぼくだからわかる。
エンジェルモードで素早く飛翔して光を避けつつ接近して、ヴァルキリーモードに変身して切りつけるよ。
その弟に話しかけても、それは自分。もう、キミもわかってるはずだよ。
エンジェルモードとヴァルキリーモードの変身を使い分けつつ、翻弄して攻撃を重ねていくよ。
「ま、待って! 一つになる前に、私の話を聞いて!」
一触即発の空気の中、リオの前に飛び出して声を上げたのは、フランツィスカだった。
説き伏せられるかどうかは知らない。ただ戦う前にお話がしたかった。全てと"一つ"になり、誰も寂しくない世界を作り上げようとする独りの少女と。
「こんにちは、私はフランツィスカっていうの。一つになる力に興味があってきたんだけど……こんな綺麗な女の子だなんて思わなかったわ!」
「ふむ。貴女は私の研究が気になるのですか?」
お世辞には反応しなかったリオだが、自身の力に興味があると言われると話を聞く様子を見せた。これまで誰にも理解されなかった研究に、賛同者が現れたのは初めての事だ。
「実際に見てみれば本当にすごい力だわ。弟さんと一緒になれてよかったわね」
フランツィスカは【不滅の乙女】の効果で体を輝かせながら、リオの力を褒めそやす。
悪魔の如き姿をした「弟」を始め、様々なものと融合したリオの体は異形そのものだ。しかし彼女はそれに怖気を感じるふうもなく、むしろ興味津々といった顔で語りまくる。
「今とてもワクワクしているの!」
「ふふ。貴女はなかなか見る目があるようですね」
そのように熱心に称賛されるとリオの方も悪い気はしないらしく、表情を緩めて笑みを浮かべる。彼女のように物分りのいい相手がいれば自分の研究も捗るというもの。猟兵を使用した融合実験、その最初の被検体としてこれ以上相応しい者はいない。
「そう、この力は素晴らしいものなのです。皆が一つになれば、もう誰も寂しさを味わうこともなく、ずっと一緒にいられるのですから――」
「それは違うよ」
だが気を良くしたリオが改めて持論を展開すれば、それに否を突きつける猟兵もいた。
黒衣の娘がはっと振り返れば、そこに立っていたのは白い天使の翼を生やしたアリス。【性質変化】により天使(エンジェル)モードに変身した彼女は真剣な表情で告げる。
「みんなと一緒になっても一人のまま。寂しさは変わらないんだよ。同類を食べたぼくだからわかる」
リオの理想が決して叶わない事を、彼女は実体験をもって知っていた。誰かと物理的に一つになったところで、心に空いた寂しさの空白は埋まらない。孤独を和らげる為に必要な「他者」という存在を、根本から否定してしまっているのだから。
「一緒になっても一人のまま……? そんな筈はありません。貴女の言うことはデタラメです」
アリスの呼びかけに動揺を見せたリオは、それ以上の発言を遮るように林檎を掲げる。
この魔具から放たれる光には、他者が"一つ"になることへの嫌悪や恐怖心を消し去る力がある。同意を得られないとなれば、無理やり洗脳してでも実験を推し進める気だ。
「待って、まだ話したりないわ!」
ところが戦いを始めようとするリオの前に、なおもフランツィスカが割り込んでくる。
魔具の光を浴びせられても彼女の口は止まろうとしない。お喋りに没頭している限り、【不滅の乙女】は精神的なものも含めた外部からのあらゆる攻撃を遮断するのだ。
「りんご好きなの? 美味しいわよね!」
「な……なぜ?」
まったく反応の変わらないフランツィスカに困惑するリオ。その隙を突いて天使モードのアリスが翔ける。純白の翼をぱたぱたと羽ばたかせて、狂える少女の元へまっすぐに。
「くっ……でしたら、まずは貴女からです」
より優先すべき脅威へとリオは魔具をかざすが、【性質変化】により飛翔力を強化したアリスは空中で素早く洗脳光を避ける。その軽やかな身のこなしはまさに天使の如しだ。
「へーんしん! てね」
そのまま相手に接近したアリスは、今度は戦乙女(ヴァルキリー)モードにチェンジ。
鎧兜と共に現れた戦乙女の剣で斬りつけるのは、リオが「弟」と呼ぶ異形の怪物。赤い肉塊から血飛沫が上がり、赤子のような悲鳴が戦場に響き渡る。
「ああ……! なんてことを!」
愛しい「弟」を傷つけられたリオは、焦りと怒りのままに林檎型魔具の力を連発する。
しかしアリスは攻撃直後に再び天使モードに変身し、反撃を受ける前に離脱していた。
「その弟に話しかけても、それは自分。もう、キミもわかってるはずだよ」
「違う、違う……! そんなことはありません!」
天使と戦乙女の2つのモードへの変身を使い分けて、敵を翻弄しつつ攻撃を重ねていくアリス。変幻自在の空中戦法と言葉による揺さぶりに、リオの動揺は大きくなるばかり。
そして、そんな状況でもお構いなしに、戦いとは関係ない話を振ってくる相手もいる。
「リオさんって肌キレイね。化粧品は何使ってるの?」
「そんな話は、今はどうでもいいでしょう!」
攻撃が効かないのを良いことに喋り続けるフランツィスカ。空気が読めていないというよりは敢えて読んでいないのだろう。ただの雑談だからこそリオからすれば気が散るし、攻撃を遮られて邪魔になる。そのペースの乱れは他の猟兵にとってはチャンスだ。
「こんなことを続けても、キミはますます寂しくなるばかりだよ」
「―――ッ!!」
天使から戦乙女への刹那の変身。飛翔速度を上乗せしたアリスの斬撃が敵を斬り裂く。
破れた黒衣がじわりと血の色に染まる。傷口を抑えるリオの表情は苦痛に歪んでいた。
「そんな、はずは……私は、間違ってなど……」
――或いはその歪みは、目を背け続けてきた己の理想への不安だったのかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
(い、一体なんなのこれは!?)
勧誘されて変な場所に連れてこられたと思ったら何かが始まりだした。
(あぁ、そういうこと…)
(これは映画出演を決めるオーディション。エチュードで各々状況に応じた自然な芝居をしろということね!)
(周りの人たちも皆動揺している)
(でも私は将来の大スター。動じないわ)
「リオ達は弟を亡くしま「私は死んだけど元気よ!!」
舞台シーン
(うふふ、こんなに競合相手がいるもの。バカな真似してでも目立っておくのは諸刃の剣だけど悪くはないはず)
「…リオ達と一つになりましょう」
「いいよ」
「えっ…いいの?」
リオとカビパン紋章は"一つ"になろうとする。
それは色んな意味で目立ったとだけ記しておく。
(い、一体なんなのこれは!?)
目の前で起きている猟兵とオブリビオンの戦いに、カビパンはただただ困惑していた。
リオに勧誘されて変な場所に連れてこられたと思ったら、他にも大勢人がやって来て、何かが始まりだした。彼女の視点からの現状認識はそんな所である。
(あぁ、そういうこと……)
当初は展開についていけずに戸惑っていたカビパンだが、持ち前の(斜め上の)理解力で状況を把握する。自分は映画界のヒーローになれると聞いてここに来たのだ。だったら今やっている事も想像がつく。
(これは映画出演を決めるオーディション。エチュードで各々状況に応じた自然な芝居をしろということね!)
何もせずに黙っていてもスターになれるなんて上手い話、最初からある訳がないのだ。
夢は自分の力で掴み取るもの。与えられたのはその為のチャンス。ここで実力を示す事ができた者だけが、栄光のステージに立てるのだ。たぶん。
(周りの人たちも皆動揺している)
カビパンはちらりと周囲の猟兵の様子を見て、自分が立つべきタイミングを見極める。
たぶん他の猟兵達が動揺しているのは違う理由からだと思うが、すっかりコレを映画のオーディションだと信じ込んでいる彼女には知る由もなかった。
(でも私は将来の大スター。動じないわ)
完全に自己完結した理解と納得、そして覚悟のもとでカビパンは戦場(舞台)に立つ。
しゃんと背筋を伸ばして真剣な顔をした時の彼女は、なんだかんだでカリスマがある。
戦場の中心に立つヴィランを見据えて、未来の大女優(?)はすうと息を吸って――。
「リオ達は弟を亡くしま「私は死んだけど元気よ!!」
被った。思いっきりセリフが被った。共演者のセリフに被せるという役者的な大ミス。
舞台はシーンと静まり返り、なんとなく気まずい空気が流れる。そんな中でただ1人、この空気を作った張本人だけがニマニマと笑っていた。
(うふふ、こんなに競合相手がいるもの。バカな真似してでも目立っておくのは諸刃の剣だけど悪くはないはず)
オーディションにおいて最も重要なのは、いかにして審査員の注目を引けるかにある。
目立たず印象に残らない事が最悪。第一印象がマイナスでも、その後の見せ方次第ではプラスに逆転させる事ができる。カビパンの行動はそれを見越してのアピールだった。
「……そういえば、貴女も猟兵だったのですね」
自分が連れてきたヒーロー志望者のことを、リオはそれでようやく思い出したらしい。
ちょっと空気が読めなくてヘンテコな言動だが、貴重な実験体のひとつには違いない。自らの研究のために狂科学者はすっと手を差し伸べる。
「……リオ達と一つになりましょう」
「いいよ」
「えっ……いいの?」
カビパンからの返答は、リオが逆に困惑するほどあっさりとした同意だった。おそらくコレも審査で高評価を得るためのアピールのつもりなのだろう。悪霊である彼女は依り代にしている『紋章』ごと相手の前に進み出る。
「……本気なのですね。では」
不審感を感じつつもリオは肉の管を伸ばし、カビパン紋章と"一つ"になろうとする。
だが、それは非常に危険な行為である――ギャグの権化である【ハリセンで叩かずにはいられない女】と融合する事は、その思想とギャグに汚染される事でもあるのだから。
「くっ……こ、これは
……!!?」
瞬間、リオの脳内に流れ込んできたものを言葉で表わすことは難しい。常人はおろか神ですら理解を拒むほどの「理解不能な異分子」が、彼女の肉体に混ざり込んできたのだ。
「ちゅ、中止です……!」
よく分からないけどこのままではヤバい。本能的にそう判断したリオは融合実験を中断してカビパン紋章を吐き出した。全てと"一つ"になろうとする彼女が唯一融合を諦めた彼女の存在は、ある意味その場にいる全ての者の印象に刻まれたことだろう。
大成功
🔵🔵🔵
穂村・桜火
リオと、一つになるのは嫌。(この気持ちはきっとこの先も変わらない)
銀竜王は、人数を増やしたら、しがらみやはばつで、身動きが取れなくてバランスを取ろうとしたらぼっちになるって言ってた。
銀竜王は、ぼっちのままでいいよ。(独り占めできる方が良い)
もう寂しく無いなんて、きっとやせ我慢。大切なものが増えるほど分かてないものも増えるから。
分かてない憧れは、次の人に託すの!もっとまぜまぜとかさせない!
【戦闘】UCで攻撃。銀竜王ならきっとどうにかしてくれるから。
これは、もしかするとえっちな触手。ぬるぬる~。
「リオと、一つになるのは嫌」
世界全てと融合すれば皆が幸福になれるという『ロンリーオンリー・リオ』の誘いに、桜火ははっきりと拒否感を示す。この気持ちはきっとこの先も変わらないという確信が、彼女の心にはあった。
「銀龍王は、人数を増やしたら、しがらみやはばつで、身動きが取れなくてバランスを取ろうとしたらぼっちになるって言ってた」
銀龍王とは彼女の庇護者にして相棒。一族に百年の栄光をもたらした偉大なる龍の王。
王として多くの民を"一つ"に束ねた者の言葉には、王故の苦悩と孤独が表れていた。
「銀竜王は、ぼっちのままでいいよ」
それは自分が独り占めできる方が良いという、子どもっぽい独占欲。そしてリオの理想を真っ向から否定するもの。大切な相棒と寄り添いあいながら、桜火は狂えるヴィランをきっと睨みつける。
「もう寂しく無いなんて、きっとやせ我慢。大切なものが増えるほど分かてないものも増えるから」
「な……なにを言うのですか。リオ達はそんなこと……」
どうしても消えない寂しさや譲れないものはある。自分にも、そしてきっとリオにも。
融合した「弟」を抱きしめて、そんなことはないと否定しても、黒い少女の声は微かに震えていた。そこに一歩踏み込んで、亡家の姫君は大きな声で叫ぶ。
「分かてない憧れは、次の人に託すの! もっとまぜまぜとかさせない!」
ドラゴンランスを構えて銀龍王と共に突進する桜火。そのまっすぐな意志と同じように攻撃の軌道も一直線。可憐な容姿にそぐわぬ烈火の気迫に、リオは一瞬たじろいだものの――すぐさま【ウィー・ニード・ユー】で応戦する。
「貴女だって本当は寂しいのでしょう。だったら……!」
リオの髪に潜む数多の目玉から肉管が飛び出し、突っ込んできた桜火の体に絡みつく。
言葉で猟兵達の心を動かすことは難しいと判断した彼女は、とうとう強硬手段に出た。標的の血肉を吸収することで強引に"一つ"になるつもりだ。
「これは、もしかするとえっちな触手。ぬるぬる~」
『馬鹿、何をやっている!』
桜火はその意図をちょっと誤解しているらしく、肉管に襲われてもどこか緊張が緩い。
彼女が悲惨な目にあわなかったのは、咄嗟に銀龍王がかばってくれたお陰だ。物理防御と特殊防御に優れた彼の鱗は、この程度のドレイン攻撃ではびくともしない。
「銀竜王ならきっとどうにかしてくれるから」
相棒への無上の信頼を微笑みにこめて、桜火は槍を構えなおす。邪魔をする肉管を振り払い、その本体めがけてえいっと突き出せば、炎を纏った矛先がヴィランの髪を焼いた。
『俺の相棒に手を出した罪は重いぞ』
「ッ――
……!!!」
桜火の一撃から間髪入れず、銀龍王の追撃が襲い掛かる。天女と竜王による必殺の連携【ドラゴニック・エンド】を受けたリオは、声にならない悲鳴を上げて吹き飛ばされた。
それは全てを"一つ"にせんとするヴィランの妄執に、分かちがたき"二人"の宿縁の力が打ち勝った瞬間だった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
その寂寥に、貴女は耐えられなかったのですね
覚えはあります
整備工場の知己の頭に白髪が増えたと認識する度に
…忘れ得ぬ別離の度に
ですがその感情こそが、彼らと血肉無き私が確かに存在した“証”
境を無くした“全”は“無”と同義…個人の我儘で侵して良い領域ではありません
物資収納Sから6本のUC射出
ワイヤーアンカーで保持して振り回し嵐の如き光刃の壁構築
剣と盾も併用し肉管を切り刻み一歩ずつ接近
そしてもう一つ
貴女は思い違いをしています
届かぬ御伽の騎士に焦がれ果て、フォースナイトの夢破れた私が断言しましょう
“憧れ”という物は、己の脚で目指し、手を伸ばすものですよ
歩んだ道は裏切りません
追い詰めて連撃で斬り捨て
「その寂寥に、貴女は耐えられなかったのですね」
全てを"一つ"にしようとするヴィランの執念の裏に、愛しき者との別離があったことをトリテレイアは理解した。それが「ずっと一緒にいたい」と願うほどに大切な者であれば尚の事、先立たれる悲しみは深いものとなる。
「覚えはあります。整備工場の知己の頭に白髪が増えたと認識する度に……忘れ得ぬ別離の度に」
生物的な寿命を持たないウォーマシンの彼は、これからも見送る側として多くの別離を経験するだろう。たとえ慣れたとしても寂寥感が消えることはなく、彼が兵器でなく騎士として在り続けようとする限り、背負い続けなければならない傷痕だ。
「そう、貴方にも分かるのですね。なら、これ以上苦しむことはありません……」
それを聞いたリオはにこりと微笑み、【ウィー・ニード・ユー】による融合を試みる。
黒髪に潜んだ数多の目玉から、無数の肉管がトリテレイアの機体に絡みつこうとする。
無防備に捕食されるかに見えた彼は――しかし、まっすぐに相手の目を見つめていた。
「ですがその感情こそが、彼らと血肉無き私が確かに存在した"証"」
その瞬間、物資収納スペースから6本の【大出力可変式疑似フォースセイバー】が射出され、機体各部に備わるワイヤーアンカーの先端に固定される。それを起動してワイヤーで勢いよく振り回せば、嵐の如く乱れ舞う光刃の壁が構築された。
「境を無くした"全"は"無"と同義……個人の我儘で侵して良い領域ではありません」
振り回されるたびにブォンと音を立てて、敵の肉管を切り刻む疑似フォースセイバー。
超高温の白刃に守られながら、トリテレイアはリオに向かって一歩ずつ接近していく。
「そしてもう一つ、貴女は思い違いをしています」
「な……何を」
光壁の隙間を狙って肉管を伸ばしても、騎士の剣と盾によって即座に切り落とされる。
歩みを止められずたじろぐリオに、かけられる言葉は断固たる意志が込められていた。
「届かぬ御伽の騎士に焦がれ果て、フォースナイトの夢破れた私が断言しましょう」
現代に再起動してからのトリテレイアの人生は、矛盾する理想と現実の狭間にあった。
幾度となく挫折を突きつけられ、さりとて理想を諦めることも出来ず。懊悩しながらも歩みを止めずに戦い続けてきた、そんな彼だからこそ口にできる言葉がある。
「"憧れ"という物は、己の脚で目指し、手を伸ばすものですよ」
誰かの"憧れ"を身勝手に叶えてやろうなど、傲慢で余計なお世話でしかない。どれだけ苦しくても自分の手で"憧れ"を叶えようと足掻く、その道程にこそ価値が生まれるのだ。
「歩んだ道は裏切りません」
素養なき彼にはフォースナイトとなる資格はなかった。だが彼の光剣は模造品なれど、こうして悪(ヴィラン)を討つ力となっている。意味がなかった事など一つとしてない。
「御覚悟を!」
「そんな……っ!!?」
壁際まで追い詰められたリオを、トリテレイアは6本の光剣による連撃で斬り捨てる。
高熱の白刃に焼き切られた体から、血飛沫が上がることはない。理想も目論見も真っ向から拒絶され、狂える科学者は窮地に陥っていく――。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
愛する者と別れ難いというのはわからなくもないけどね…一つになってしまったら相手を愛する事もできないのよ。
【虜の軍勢】で雪花を召喚。
雪花と【吸血姫の契り】で相互に力を高めて戦闘。
雪花が強化した【とにかくふぶいてみる】で凍結させ、敵の弟を抑えたり、本体ごと凍結させたりして攻撃。
自身は雪花の援護で邪魔が入らない状態で魔槍による攻撃。
研究者兼魔術師なら近接戦は苦手そうよね。
たくさんの眷属達に囲まれてるわたしに寂しさの感情なんて無いから、POWのUCは効かないしね。
至近から【神槍グングニル】を撃ち込むわ!
貴女のソレは思想の押し付けでしかないのよ。
貴女の身勝手に他人(わたし達)を巻き込まないで欲しいわ!
「愛する者と別れ難いというのはわからなくもないけどね……一つになってしまったら相手を愛する事もできないのよ」
寂しい想いは理解すれども、叶えるための手段を誤った相手に、フレミアは諭すように語りかける。あのヴィランが言うように"一つ"になったとしても、それは大切な関係性を喪ってしまうだけで、幸福になれるのとは違う。
「貴女にもわからないのですね……リオ達はこんなにも満たされているというのに」
だが狂気に憑かれた科学者は、どれだけ否定されようと己の理想を推し進めんとする。
リオの髪がざわざわと揺れ、中に潜んでいた多数の目玉がぎょろりとフレミアを見た。
「わたしの可愛い僕達……さぁ、いらっしゃい♪」
悍ましい視線を感じながら、フレミアは【虜の軍勢】より眷属の「雪花」を召喚する。
異界の居城から現れた幼き雪女見習いは「おねぇさま」と主を慕い、主はそれに笑顔で応ずると共に【吸血姫の契り】を結ぶ。
「フレミア・レイブラッドが血の契約を交わします。汝、我が剣となるならば、吸血姫の名において我が力を与えましょう」
「おねぇさまのためなら、がんばるの」
この契約は対象を一時的に吸血鬼化させ、魔力を循環させることで相互の力を高める。
契りを交わす二人から莫大な魔力があふれ出すのを見て、リオが驚きに目を見開いた。
「なんですか……この力は?」
相手が1人から2人に増えただけなのに、あまりにも大幅な戦力の増大を肌で感じる。
ただ"一つ"になる事に固執するリオには、あの"2人"にある力の意味は理解できまい。
「とにかくふぶいてみるの」
困惑する敵に雪花がふうっと息を吹きかけると、研究所内に猛烈な吹雪が吹き荒れる。
契約により強化された雪と氷の嵐は、融合された異形の「弟」もろともリオの体を凍てつかせる。敵の動きが止まれば間髪入れず、真紅の魔槍を構えたフレミアが飛び出した。
「研究者兼魔術師なら近接戦は苦手そうよね」
これまでの挙動を見てもリオ本人に殴り合いの心得は乏しい。吹雪に紛れて駆け寄ったフレミアの魔槍「ドラグ・グングニル」は、その鋭利なる矛先をもって敵を斬り裂いた。
「っ……貴女は、どうして……」
懐に入られた事よりもリオを戸惑わせたのは、彼女に【ウィー・ニード・ユー】が効かない事だった。このユーベルコードは標的の孤独や寂しさの感情に反応して襲いかかる。なのに髪の中に潜む肉管は沈黙を保ったまま、ぴくりとも食指を伸ばさない。
「たくさんの眷属達に囲まれてるわたしに寂しさの感情なんて無いから、そのユーベルコードは効かないわ」
"一つ"になんてならなくても、フレミアには孤独を埋めてくれる者達がいる。今ともに戦っている雪花だけでなく、大勢の眷属が彼女の心の支えになっている。それは強硬に己の理想だけを追い求めたリオには、絶対に理解できない"絆"の力。
「おねぇさま、どうか存分になの」
雪花の起こす吹雪がフレミアとリオの周囲で渦巻き、邪魔が入らない状態を作り出す。
これならば敵を逃す心配もない。紅き吸血姫は眷属との契りにて得た魔力を槍に注ぎ、【神槍グングニル】を発動させる。
「貴女のソレは思想の押し付けでしかないのよ。貴女の身勝手に他人(わたし達)を巻き込まないで欲しいわ!」
収束された絆の魔力を巨大な破壊の神槍へと形成し、全力を以って撃ち込むフレミア。
至近より放たれたその一撃は過たずリオを捉え、その胴体を貫き、研究所の壁に串刺しにして、太陽もかくやという閃光と大爆発を起こす。
「ッ―――
!!!!!?!」
絶大なる破壊力を身に受けたリオは悲鳴を上げる事さえできず、ただ驚愕し戦慄する。
なぜ、どうして"一つ"でもない者達にこんな力が――彼女の脳内はそんな疑問ばかりが渦巻いていた。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
大切な人を失くす気持ち…別離の悲しみは理解できる…。
でも、そんな融合は誰も望まない…。
お互いの存在があってこそ、互いを想う事ができるんだから…。
(姉、桜花を思いつつ)
敵本体と分離(召喚)した弟へ【unlimitedΩ】と黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】による攻撃と呪力による侵食を実施…。
特に弟へ終焉の呪力による侵食を強め、集中的に攻撃…。
弟さんは終焉の呪力に侵食されてる…。
このまま再度融合すれば、貴女本体も終焉の呪力に侵食される…。
終わりだよ…。
全てが一つならヒーローはいらない…。
正義も悪も、個という存在があって成り立つ…。
彼も、誰も貴女の研究を望んだりはしない…。
「大切な人を失くす気持ち……別離の悲しみは理解できる……」
かつて自らも故郷と家族を奪われた璃奈には、弟を失ったリオの心が痛いほど分かる。
家族と離れ離れになる時の、胸が引き裂かれるような想いはもう二度としたくない――科学者をヴィランに変えた切っ掛けは、そんな切実な願いだったのだろう。
「でも、そんな融合は誰も望まない……。お互いの存在があってこそ、互いを想う事ができるんだから……」
故郷で散った姉、桜花を思いつつ、魔剣の巫女一族の末裔は静かに戦いの構えを取る。
自分達は"一つ"ではないからこそ、こうして失った相手にも想いを馳せる事ができる。寂しさも孤独も誰かを愛する心があるがゆえ――だから、奪わせはしない。
「まだ"一つ"ではない貴女には分からないのです。リオ達はこんなにも想い合っているのですよ?」
リオは頑なに持論を曲げぬまま【カム・アンダーン】を発動し、「弟」を自身から一時的に分離させる。姉の肉体より解き放たれた幼く凶暴な異形は、悪魔の如き角と翼を振りかざして璃奈に襲い掛かった。
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
対する璃奈が呪文を唱えると、一族が祀りし魔剣・妖刀の現身が何百本と召喚される。
彼女はその一振り一振りに己の力を注ぎ込み、極限まで呪力を強化した上で解き放つ。同時に手にした呪槍・黒桜を振るえば、漆黒の桜吹雪が再び戦場に吹き荒れた。
「『unlimited curse blades
』……!!」
黒桜の旋風に乗って加速した魔剣の一斉射は、呪いと刃の嵐となり敵陣に襲い掛かる。
ヴィランの姉弟は「きゃあっ!?」「ギエェッ!!」と悲鳴を上げ、その場に蹲った。
「グゲ、ギャ……」
「あぁ、なんてこと……っ!」
璃奈が特に攻撃を集中させたのは、本体である姉ではなく「弟」のほうだった。彼の体に突き刺さった魔剣はそのまま呪力による侵食を実施している。猛毒のように全身を呪いが巡り、「弟」の肌が徐々に黒ずんでいくのを、姉は愕然とした顔で見つめていた。
「弟さんは終焉の呪力に侵食されてる……。このまま再度融合すれば、貴女本体も終焉の呪力に侵食される……」
膝をついた敵に璃奈は淡々と告げる。今や呪いのキャリアと化した「弟」と再び"一つ"になるのは自殺行為。だがそれで融合を拒否すればリオは自ら理想を否定する事になる。
理想を抱えて散るか、理想を歪めて生きるか、突きつけられたのは容赦なき二者択一。
「終わりだよ……」
「ッ……まだ、ですっ」
リオの選択は、呪いで侵された「弟」と再び融合する事だった。呪いの苦しみよりも、また弟と離れ離れになる痛みには耐えられなかったか。再び"一つ"になったリオの目は、憎しみに満ちた眼差しで璃奈を睨みつけていた。
「全てが一つならヒーローはいらない……。正義も悪も、個という存在があって成り立つ……」
射殺すような視線を向けられても、璃奈は怯まずに語りかける。人々の憧れを利用してリオは己の研究を進めようとしたが、その発想はまるでお門違いだと。あの人達の願いはヒーローと"一つ"になるのではなく、自分自身のままヒーローになる事のはずだから。
「彼も、誰も貴女の研究を望んだりはしない……」
望まれぬ研究にここで終焉を――彼女は再び【Unlimited curse blades Ω】を放つ。
呪いに侵され、身動きのできないリオに逃れる術はなく。無数の魔剣に串刺しにされた姉弟の悲鳴が研究所に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
(リオの笑みが自分を作った科学者の笑顔と重なり、怒りに満ちた表情になるが、すぐにふぅと息を吐き、落ち着いた表情に戻る)
結論から言うと一つになるなどお断りです
貴女の妄想を押し付けないでください
でもわかってくれないんでしょうね
貴女みたいな人の性格はよく知っているので
(オーバーロードで真の姿へと変貌し始める
手足が甲虫のような錆色の殻に覆われ
口元がマスクのような殻に覆われスズメバチのように左右に開閉し
翅が縮小すると替わりに三対の爪のような虫の足が生える)
そして対処法も知っています
骸の海へ送ればいいんです
(救いを求めるように天を仰ぎ手を伸ばした後{晩秋の旋律}で『ダンス』を始める)
これは冬という死が目前に迫った情景を表現したリズムです
(ダンスに乗せた『催眠術』による認識阻害で生んだ『残像』で攻撃を回避し『念動力』で敵の動きを妨害する)
貴女に捧げる旋律です
心ゆくまでご堪能ください
(UC【蠱の珠】を発動し枯死の『呪詛』に満ちた空間に封印する)
「理解できずに争いあう……人間がみな"一つ"でないから、起こる悲劇です」
激戦の末に猟兵に追い詰められても、狂科学者リオは自らの論説を曲げようとしない。
人類を含む全てを融合させることが、万民の幸福に繋がると信じて疑わず。そうすれば他者とのすれ違いや別離、孤独の寂しさも解消できると思い込んでいるから。
「そう、全てを"一つ"に……そうすればあなた達もリオ達も、もう寂しくないです!」
「…………」
狂気に満ちたリオの笑みが自分を作った科学者の笑顔と重なり、クロリアは怒りに満ちた表情になる。胸の奥からどす黒い感情が湧き上がり――だが、すぐにふぅと息を吐き、元の落ち着いた表情に戻る。
「結論から言うと一つになるなどお断りです。貴女の妄想を押し付けないでください」
これ以上ないほど明白に、クロリアは『ロンリーオンリー・リオ』の理想を拒絶する。
この女の研究に作り出された怪物を見た。犠牲にされかけた人々を見た。その醜悪さと悪辣さを知りながら、なぜ賛同できようか。ましてや忌々しい創造主の面影ある狂人に。
「でもわかってくれないんでしょうね。貴女みたいな人の性格はよく知っているので」
感情を押し殺すように淡々と語る彼女の体が、オーバーロードにより真の姿へと変貌し始める。手足は甲虫のような錆色の殻に覆われ、口元がマスクのような殻に覆われスズメバチのように左右に開閉し、翅が縮小すると替わりに三対の爪のような虫の足が生える。
「そして対処法も知っています。骸の海へ送ればいいんです」
人と虫がより深く混じり合った姿と化したクロリアは、刃のように鋭い声色で語ると、救いを求めるように天を仰ぎ手を伸ばす。その姿勢から始まるダンスは、紅葉が散りゆくような物悲しさを醸し出して"晩秋の旋律"を奏でる。
「なんのつもりですか? 踊っていないで、あなたもリオ達と一つに……」
華麗にして不可解な虫人の踊りにリオは首を傾げ【オーディナリー・マイ・ワールド】を放つ。"一つ"になることへの嫌悪や恐怖感を奪い去り、強制的に融合に同意させるつもりだ――しかし忌まわしき洗脳の光を、クロリアは踊りながらひらりと躱す。
「これは冬という死が目前に迫った情景を表現したリズムです」
一定のリズムとパターンを持つクロリアのダンスは、観賞者に催眠術と同様の認識阻害を起こし、彼女の姿を何重にもブレさせる。リオが攻撃したのはその残像であり、本物は平然とそのままダンスと旋律を披露している。
「っ、目眩が……その踊りを、やめなさい……っ!」
リオに現れた症状は幻覚だけではない。動悸や息切れ、背筋の悪寒、足元のふらつき、耳鳴りなど、身体全体が「このままでは危険だ」と訴えている。だというのに視線は彼女の踊りから目が離せない――晩秋の旋律が、耳から離れない。
「貴女に捧げる旋律です。心ゆくまでご堪能ください」
発動するのは【蠱の珠】。旋律に沿った現象が生じる空間へと標的を封じる魔の舞踊。
晩秋の旋律によって作り出されるそれは即ち、枯死の呪詛に満ちた空間に他ならない。
「――
……?!」
いつの間にかリオは暗くて生臭い地下研究所ではなく、紅葉が散りゆく森の中にいた。
はらはらと地面に降り積もった落ち葉はまるで血溜まりのよう。かつて弟を亡くした時と同じか、あるいはそれ以上の寂寥感と喪失感が彼女を襲った。
「嫌……ここは嫌です!」
リオは慌てて晩秋の空間から脱出しようとするが、身体が思うように動かない。見えない力に妨害されている。そもそもどうやって逃げるのか。クロリアのダンスが続く限り、この空間に果てはないのに。
「貴女にふさわしい最期でしょう」
果てはなくとも終わりはある――狂える科学者に頽廃的な死を。紅葉が一枚散るたびにリオの生命は失われていき、身も心も朽ち果てて、冬の訪れとともに孤独に枯れ落ちる。
踊る蟲はその最期の刻が来るまで、美しき呪いの舞いを彼女のために奏で続ける――。
「いや、いや……誰か……誰か、助け……――」
全てと"一つ"になることを望んだ娘は、"誰か"に救いを求めながら最期を迎えた。
ヴィラン『ロンリーオンリー・リオ』の野望は、晩秋と共に骸の海へ去っていった。
かくして猟兵達は、人々の憧れを利用したヴィランの研究を阻止することに成功した。
この事件を機に、救出された人々のヒーローへの憧れはますます強まるだろうが、もうそれが悪しき者に利用される事はないだろう。
"一つ"になどならずとも、彼らはひとりひとり自分の足で理想を目指していく――。
大成功
🔵🔵🔵