●山奥の廃神社:本殿(夜)
ラフな格好の五人組が、伸びた草をかきわけ、立ち入り禁止となった廃神社を訪れていた。
なにかがいるかもしれないと少しだけ怯えながらも本殿の中を懐中電灯で照らす。心配をよそに荒れていない。綺麗なものだ。
安心した金髪の男はスプレー缶を振りながら奥へと進んだ。
身を強張らせている女性が心配そうに声をかける。
「ねぇ、大丈夫? 落書きなんて、バチがあたったりしない?」
「大丈夫だって。あんがいババくせぇこというんだな、おまえ」
「ババくさいって……バーカ、バーカ! 逆に呪われちゃえ!」
「おーおー、その方が動画の再生数いくわ。撮影よろ。お前らも適当に演出たのむな」
「オッケー」
これが常識を守る結界――『世界結界』に守られている彼らにとっての日常であった。
「ふんふんふんふーん……こんなもんかな? どうよ?」
壁に「呪」と言う文字を書いた男は出来栄えを自慢するために女性の方を振り返った。
「ぎゃっ!」
突然、顔に泥がかかった。女性がふざけて泥を投げたのだと彼は思い、怒りをあらわにしようとしたが、できなかった。
「ひぺべこぼすんは……?」
言葉が出ない。
なにが起こったのか男は理解できなかった。
目が回ると同時に顔面に激痛が走る。しかし、暴れようとしても手足が動かない。
床に倒れると、仲間の顔が見えた。
全員、泥まみれになって苦悶の顔をさらしている。
なにが?
なにが起こった?
色を失い、回転する視界の中で、彼は見知らぬ女を見た。巨大な蛾の羽を背負った異形の女を。それも一体ではなく……。
●グリモアベース
「あなた方に運命の糸が繋がったんだね。僕は銀鏡・玄(しろみ・げん)。よろしく」
銀鏡・玄(青春を駆ける猟兵・f35271)は頼もしい人たちが来たことに嬉しくなり、笑顔で手を振った。
「僕たちの世界――ここでは『シルバーレイン』って呼ばれてるみたいなんだけど、そこで地縛霊が無限に現れる幻視があったんだ。これをどうにか阻止して欲しい」
地縛霊とは、強い怨念を残して死んだ生物の残留思念がシルバーレインの影響によってゴースト化したもので、土地や場所に縛られる反面、強力な力を発揮する……はずだった。
「ところがオブリビオン化してるせいか、地縛霊たちはどんどん外に出ていきかねないんだよ……もうすでに被害者は出てるんだけど、このままじゃもっとたくさんの人に被害が出ちゃう」
幻視で見えた地縛霊は『誘蛾少女』。
「とにかく泥をぶつけて、いろんなものを汚したがるゴースト。呪いも病気もまき散らすから体にも心にも悪いゴーストだね。誘蛾少女が汚れてると、呪いの力も増すみたいだから気を付けて」
でも、と銀鏡は続ける。
「このゴーストにゴーストを増やす力はないはずなんだ。たぶん、元凶が別にいる。敵の力なのか見通せないんだよね」
銀鏡は顎に手を当て考えを巡らせる。
「そうなると強力なゴーストに違いないから誘蛾少女の近辺はゴーストタウン化……空間が歪んで迷宮化しちゃってるって言えばいいかな? になってるはず。ゴーストの習性が残ってるなら、元凶はそのどこかに潜伏してるに違いないから、探し出してみて。ひょっとするとゴーストタウンの中に敵の正体がわかるなにかがあるかもしれない」
銀鏡はあなたたちの目をじっと見つめ、ゆっくりと、そして深くお辞儀した。
「僕たちの世界はずっと闘ってきた。何度も破滅の危機を退けたんだ。でも今回は僕たちだけの力じゃ無理だってわかる。どうか猟兵のみんな、力を貸してください。僕たちの地球、シルバーレインの世界を守ってください! それができるのは、運命の糸で繋がったあなた方だけなんです!」
安道やすみち
はじめまして!
おはようございます、こんにちは、ばんなりました。安道やすみちです。
第六猟兵の世界へやってきて初めてのシナリオ! まだまだ右も左もよくわからぬ新参者ですが、みなさんと一緒に楽しめたらと思っております。よろしくお願いします!
粗相があったらすみません(汗)。
●第一章:集団戦
テレポート先は廃神社の本殿前となります。本殿の中にわんさか誘蛾少女がおりますので、戦って倒しちゃってください。
周囲はすでにゴーストタウン化(迷宮化)しているので、この戦いで一般人に被害が出ることはありません。
●第二章:冒険
廃神社と周辺の探索になります。ゴーストタウン化しているので一定の広さしかありません。高校のグラウンドくらいと思ってもらえれば。それ以上は見えない壁に阻まれています。見えない壁は壊せません。怨嗟の声がめっちゃ聞こえるので、普通にしていると精神をちょっとやられちゃいます。
施設は次の通りです。調べなくとも声をやり過ごすだけでも大丈夫です。
鎮守の杜:周囲の森です。杉。
鳥居:根本は草でおおわれています。
宝物殿:厚い扉には鍵がかかっています。
神楽殿:小部屋のついた舞台です。
社務所:神社の庶務を行う場所です。
拝殿:本殿を拝むための社殿です。
本殿:神様が祀ってある社殿です。
●第三章:ボス戦
どこで戦うかがポイントになります。
また、なぜゴースト化したのかがわかっているのなら、ある言葉をかけることで弱体化を見こめるかもしれません。逆に怒らせてしまうかもしれませんが……。
以上です。それではみなさま、よろしくお願いいたします!
第1章 集団戦
『誘蛾少女』
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POW : 汚泥弾
【汚泥の如き呪詛塊】を放ち、命中した敵を【呪詛】に包み継続ダメージを与える。自身が【汚れた姿を】していると威力アップ。
SPD : 凶兆の化身
自身に【凶兆のオーラ】をまとい、高速移動と【疫病】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 穢れの気配
【ケガレ】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【疫病】を誘発する効果」を付与する。
👑11
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白鐘・耀
いやあ……世の中わかんないもんねえ。
運命予報士として送り出す側だった私が、今じゃこうして能力者どころか猟兵として、この世界でゴーストだった連中ぶっ倒すってんだから。
運命なんて言葉に従うのは、私に似合わないけど、"こういう"のは不思議な気分になるわ。
っと、いつまでもセンチメンタル気取ってらんないわね。
あんたらも息長いわねえ、壁みたいにわんさか出てきて。ゴーストウォールってとこ?
けど、ユーベルコードに昇華された私の【運命予報】なら、こいつらとの間に結ばれた『運命の糸』のおかげで攻撃が読める。
ビュンビュン飛び回る敵の動きを見切って、疫病を回避したところで顔面蹴っ飛ばしてやるわ!
あら痛そう。けど喜びなさいよ、可憐な私の蹴りなのよ? いわば、『それは、愛です!』ってとこかしら?
え? 『これでも喰らえ』のほうが自然? いいじゃない、どっちだって運命の糸は繋がったままだもの。『予言』するわ、次は頭をふっとばしてやるってね!
ムルヘルベル・アーキロギア
ふむ、ここが新たな世界、シルバーレイン……か。一見するとUDCアースのようにしか見えぬが、どうやら敵は邪神の眷属とも異なるモノのようだな。
ま、やることは簡単である。
彼奴のユーベルコードは「ケガレ」……おそらくは呪詛に似た何かであろうが、それで味方ないし自らを強化するものと見た。
であればワガハイは【封印文法】を用い、そのケガレもろとも彼奴の誘発するという疫病を封じ込めてしまおう。
世界は違えど、ワガハイは呪われた禁書の封印者。
こと邪悪を封印することに関しては、能力者にも負けぬつもりだぞ?
問題はいかにして倒すかだが、まあ攻撃は普通の呪文で焼き払ってしまおうか。ジャストなアタックになればよいが!
クイン・クェンビー
誰より速く、一番に! 遠くの星までひとっ飛び!
スーパーヒーロー・ファースター、華麗に豪華にクールにけんざーん!
ずっと戦ってきた……か、かっこいいー!!
クインはヒーローだから、能力者の皆のことはリスペクトしちゃうよ!
もしかしたら、猟兵になった人と一緒に戦えたりするかなあ?
そしたら色々お話してみたいかも!
っていけない、戦いのことも考えなきゃ!
うわーキモいの投げてきた! なにあれなにあれ、泥!? じゃないよね絶対ヤバい!
相手をよく見て動きを読んで、カッコよく跳んで躱しちゃおう!
そんで、落ちながらグーでおもいっきりー、パーンチ!!
あ、やりすぎちゃった……周りも砕いちゃったけど、大丈夫かな!?
御鍔・睦心
銀誓館に転校して来たと思ったら、本当次から次に厄介事が飛び込んできやがる。
まあ、カチコミは楽しいからいいけどよ。
数が多すぎて一々相手すんのも面倒だな、丸っと纏めてやっちまうか。
というわけで、お約束のあれいくか。
「起動(イグニッション)!!」
七支刀を取り出し【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】で本殿内に(室内だが構わず)銀色の雨を降らせ、万色の稲妻で敵を打ち据える。
「社の中なら雨宿りできると思ったか? 甘ぇんだよ!!」
……あー、すんませんここのホントの神様。
終わったらきちんと掃除とかしますんで、お供えモノも捧げますんで、祟りとかは勘弁してほしいっす……いやガチで。
(割と神様とかは素直に敬うタイプ)
神元・眞白
【WIZ/割と自由に】
糸。縁が結び合うのが運命。運命の糸なんて言いえて妙な響きです。
その言葉とは違う糸を使いますがこの縁は大事にしていきましょう。
無限とは言っていたけれど実のところの数はどれほどでしょうか。
百聞は一見。けれど事前にイメージをしておかないと。百?千?
皆にお願いして各個撃破をしてもらいながら……私は動きの確認を。
飛威、皆の指揮とサポートをお願いね。数で有利に運ぶように。
ただ、今回の相手は初めて見る相手。
攻撃方法や動き方はすぐには対応できないかも。
その時はメンテナンスや修理の想定をして……飛威?
分かりました。その時は数回受けてみるのも手にしましょう。
人形の身だけれど無理はしないように
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
どこの世界でも似たよーなバカってのはいるのねぇ…
まあ、さすがに自業自得にはキツ過ぎるけれど。
ケガレで強化、ねぇ。種が分かってるなら、対処は比較的簡単ねぇ。
烏枢沙摩明王印(汚穢焼滅)に迦楼羅天印(悪鬼覆滅)で領域を纏めて○浄化して塗り潰し、五大明王印(破邪顕正)を要にエオロー(結界)とアンサズ(聖言)で固定。
元とはいえここは神社、すなわち神域。「場」そのものと梵字の相性はそう悪くないはず。●酖殺で一帯纏めて祓っちゃいましょ。
強化を剥がしたらあとは片っ端から釣瓶打ちねぇ。後も控えてるわけだし、あんまり時間かけてられないわぁ。順当に〇蹂躙しちゃいましょ。
キアラ・ドルチェ
未熟非才の身ではありますが(註:運命の糸症候群で大きくなったが、実年齢は3歳)
私が産まれた、そして父や母、その友たちが護ったこの世界を私の手で護るっ!
動きを止めれば攻撃はできないでしょう?
茨よ、絡み付けっ!
ふふ、『ヤドリギ使い』の秘術、いかがですか?(ういんく
…あれ、動き止められてない敵もいる?(泥べちょり
……かあさんから譲り受けた白魔女服が、汚れ、た?
ちょっとー!? 何て事してくれるんですかっ、うぇえ汚い…(めそり
ていうか洗濯大変じゃないですか…、も、もう怒ったんだからね!?
茨でぐるぐる巻きの簀巻きにして差し上げますっ!
「生まれ変わったら可愛いちょうちょさんになりなさーい!」(茨びゅんびゅん
海藤・ミモザ
実は初めての戦闘なんだよね…
みんなの足引っ張らないように
全力出し切って頑張るぞー
敵は本殿の中…って、うわー…(多さにドン引き
初めて見る敵だけど、セーラー服かー…女子生徒だったのかなー
…っとと、集中集中!
極力敵が密集してる場所に向けて
愛銃で【アルカナ・ブラスター】発射ー!
2回攻撃で連射して数減らし優先
さー、どんどん行っちゃうよー♪
疫病とかちょっと勘弁して欲しいし
敵の動きを注視して、攻撃受けないよう回避試み
これでも妖精だからねー
機動力にはちょっと自信あるんだ
蛾と妖精、どっちが速いか試してみる?
…って、お手柔らかにお願いしまーす!(><
負傷したら一旦距離取り体勢立て直し
まだまだっ!ここからだよ…!
いつもは銀誓館学園の教室で『運命予報』というものを聞くはずだった。それは闘いの場に出られない運命予報士たちの能力で、これから起こる事件の断片を伝えてくれるものだった。
能力者は運命予報士たちの予言によって、いくつものゴースト事件を未然に防いできたのだ。
ところが今回は『グリモアベース』というへんちくりんな空間に、いきなり呼び出された。
御鍔・睦心(人間の魔剣士・f35339)はほとほとあきれ果てていた。銀誓館に転校して以来、厄介ごとは尽きないが、異世界へ呼び出されるなど。
それも銀誓館だから、と思えば「ありえなくはない」と納得できた。
「おっと?」
急に足場が現れ、浮遊感が消える。ついたのだ。
目の前には禍々しい気配を放つ社殿。
この中に敵がいる。
「よっしゃ。じゃあいっちょやっちまうか」
御鍔は一枚のカードを取り出し、空高く掲げる。
「起動(イグニッション!!」
まばゆい光が一瞬にして彼女を真の姿に変えた。対ゴースト用に作られた戦闘用の銀誓館学園高校生女子制服を着こみ、そして七支刀を持った姿に。
これこそがシルバーレイン世界の能力者。そう思ってしまうのは白鐘・耀(元・可憐な運命予報士・f10774)だった。彼女はすでに歴戦の猟兵であったが、ここが自分の元の世界だと思えばこそ、緊張が走る。
「そう、私って送り出す側だったのよねぇ」
思わず独り言ちてしまう。それもそのはず。かつて彼女は闘う力のない運命予報士だったのだ。それが今や猟兵となり、力を蓄え、元の世界の窮地を救うために猟兵と共にゴーストタウンへと来ている。
かつて送り出した能力者のみんなは、どんな気分だったのだろう?
懐かしさなのか、嬉しさなのか、悲しみなのか、興奮なのか、ひょっとすると愛を思い出しているのかもしれない。自分では、よくわからなかった。
ただ少しだけ、笑みが漏れてしまう。
「みんな、警戒して。もうここは敵の巣の中よ」
ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)は、その言葉に周囲を見渡す。
見識の深い彼はシルバーレインの世界がUDCに近いことをすぐに悟った。そしてまた、邪神の力とは違う別種の力も感じ取る。
初めての世界は好奇心を刺激した。興味は尽きないところであったが、まずはやることをしなければ。閉架書庫目録を少し開き、機能することを確認し、仲間を様子を伺った
そんな彼の目に止まったのはキアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)であった。
キアラは少しそわそわしていた。彼女もまた、このシルバーレイン世界で生を授かった存在であったからだ。いわばここは父と母が護ってきた世界でもある。両親は猟兵化しなかった。ゆえに今回のオブリビオン化したゴーストたちとまもに戦えるのは自分なのだ。
「よ、よーし! わたしだって、とおさんとかあさんが護ってきたこの世界を護るんです! とつげーき!」
クイン・クェンビー(ファースター・f16715)は、そんな彼女が突き進む姿を見て心が高揚したのがわかった。
「親子代々で戦ってる能力者、超リスペクト! かっこいいー!」
高ぶる気持ちを押さえられず、彼女の後を追って社殿へと向かった。
神元・眞白(真白のキャンパス・f00949)はそんな二人を見て優雅に後を追う。敵がどのくらいいるのかわからないが、自分がいけば数に対抗できる。そんな判断からだ。
そして彼女は糸を引く。幾多の人形たちを従えるために。
「運命の糸。言い得て妙な響きですね。行きましょう。飛威」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は一度、社殿を見て大きくため息をついた。
「どこの世界にでも似たよーなバカってのはいるのねぇ……」
動画を取るために危険な場所に踏み込んだ犠牲者たちのことを思い出していたのだ。罵ったものの、やはり人の命が失われることは悲しい。
「まあ、あたしができることをやるまでねぇん」
彼女はゆっくりと続いた。他の仲間も周囲を警戒しながら足を進める。
「……あれ? 私さいご? あ、行きます! 私も行きますよー!」
そう言って海藤・ミモザ(millefiori・f34789)は最後に社殿へと乗りこむ。
実は少し緊張していた。なぜなら猟兵になったものの、しばらく旅をしていたため戦いという戦いに行ったことがない。初めての戦闘なのだ。足を引っ張らないように、足を引っ張らないように、そんな思いが少し手を強張らせている。
が、すぐに緊張はどこかへ飛んで行ってしまった。
「……え? 中、広くない?」
外観と違う広さだ。皆がそれぞれ発光体を持っているため、少し明るい。しかし、その光は壁に到達しないのだ。全体的な広さはわからないが闇の奥から「べちょ……べちょ……」と粘性の高い音が聞こえてきた。
それを冷静に分析したのはムルヘルベルだ。
「響き方からして、一般的な体育館よりも広いのである。空間が歪んでいるとみた」
眞白が使役する人形『飛威』『符雨』を仲間の前に立たせ、警戒する。
同時に耀の脳裡に幻視が浮かぶ。暗闇からの無数の攻撃。泥の弾幕!
「みんな、右に避けて!」
その一言で全員が動いた。彼女のユーベルコード【運命予報】の力を知っていたわけではない。だが、猟兵としての信頼がそうさせたのだろう。
一瞬後、社殿入口は大量の泥に押しつぶされてしまった。
一撃を外し、本気を出し始めたのか、暗闇が呪いの禍々しい気配によって彩られ始める。
ミモザはドン引きした。
「う、うわー……多すぎだよね?」
数十体、では収まらない。どう見ても数百。
攻撃は続く。
反撃を始めたのは眞白が使役する人形『飛威』『符雨』だった。
「皆、行って」
飛威が泥を受け、符雨が銃弾と符をまさに雨のように撃ち放つ。
ミモザも妖精の速度を活かし、攻撃をかわしながら反撃に出ようとするが難しかった。
この状況に歯がゆいのクインだ。いかに超スピードを持っていようと雨のごとき弾幕の中ではどうしても攻撃を喰らってしまう。一発一発をさばき、しのぐ他なかった。
その状況にムルヘルベルは危機感を募らせる。
「このままでは呪いで辺りを埋め尽くされるのである」
「私が、なんとかします!」
そういったのは白魔女、キアラであった。彼女はドルイドの杖をかざし、自身のユーベルコード【茨の世界】を発動する。
「太陽と月とターリアよ、荊の棘となり眠り姫の祝福を我が手にっ!」
魔法の茨が無数に飛び出し、泥を跳ね除けながら誘蛾少女に向かって伸びていく。
百、二百の誘蛾少女の動きは確実に止まった。
だが、それでも足りない。
攻撃は続き、彼女は泥をかぶってしまう。
「ひぎゃっ! うぅ……かあさんから譲り受けた白魔女服が、汚れ、た? ちょっとー!? 何て事してくれるんですかっ、うぇえ汚い……も、もう怒ったんだからね!?」
と言っているが、このままでは相当危ない状況であった。彼女に攻撃が集中しようとしていたのだ。
だが、逆に言えば他の猟兵は反撃に転じれる、という意味でもあった。
ティオレンシアが動く。
「採算ブン投げた大盤振る舞いだもの。ぜんぶ祓っちゃうわよぉ?」
【酖殺(リージョン)】。戦場に雨霰と聖水と浄化の魔術文字を降らせ、魔を祓う浄化の聖域にしてしまうユーベルコードであった。
誘蛾少女の泥はドンドンと浄化されていく。しかし、数が多い。拮抗する状況に今度はムルヘルベルが動いた。
「ワガハイのコトバを阻むことは、誰にも出来ぬ。ワガハイが、オヌシを阻むゆえに!」
【封印文法】。魔力を有する原初文字、そして失われた音韻が【酖殺】とも共鳴を起こし、呪いの力を削ぐ。それによって完全に誘蛾少女の攻撃は弱まる。さらに聖域化の力によって動きも鈍くなった。
こうなればこっちのものだ。
一気に攻勢へ出る。
その一陣は睦心。
七支刀を取り出し高く掲げる。
「社の中なら雨宿りできると思ったか? 甘ぇんだよ!!」
【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】。本殿の中に万色の稲妻が無数に走り、そして銀色の雨が降り注ぐ。
かなりの数を葬ったであろうが、それでも敵は数多く残っている。
銀色の雨の力で呪いのダメージが軽減されていくとは言え、こちらの体力が尽きるか、敵の数が尽きるのかの勝負になりそうだった。
一方で、泥の弾丸が効かないと悟った誘蛾少女もまた突撃してくる。しかも聖域の力を防ぐためにお互いを泥で汚し合いながらだ。
それを次々に吹き飛ばしたのはクインだった。
「動ければこっちのものだよ! クインは最高最速最強ヒーローだからね☆」
再び耀の脳裡に幻視が訪れる。それはクインのユーベルコードの姿。
最大限に活かせば勝てる。
予言にも似たひらめきが、ミモザ、眞白の二人に指示を飛ばさせた。
「あんたとあんた! 左右から中心に向かって一斉射撃で薙ぎ払って!」
本来、こんな状況ならば『あんた』では通じない。だが、連携がうまくはまった仲間同士だからこそか、運命の糸が繋がったもの同士だからこそか、一瞬にして二人は耀の意図を汲み取った。
そしてまた、最後のピースであるクインも同じであった。
「おっけー☆ クインに、お任せだよ☆ せーぇ、のぉっ!!!」
超速で移動するクインは絶妙なタイミングで天井を蹴り、落下しながら絶妙な位置にたどり着く。
そして一発。
その拳から放たれた有り余る神パワーが恐ろしいほどの衝撃波となる。
まるで地震であった。
まだ猟兵としては経験の浅い睦心は足を取られ転倒してしまった。ただ、立ちあがった頃には誘蛾少女の気配はどこにもなかった。
すべて霧散している。
確実な勝利であった。
睦心は安心すると同時、ゴーストタウン化しているとはいえ、後で掃除してお供え物をちゃんとしないと祟られそうだな、と苦笑いした。
大成功
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第2章 冒険
『怨嗟の残響』
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POW : 大声を上げ、怨嗟の声をかき消す
SPD : 耳を塞ぎながら素早く進む
WIZ : 敢えて呪いの声に耳を傾け、理解を示す
👑7
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芦夜・恋月
さーて、久々のゴーストタウン調査。行っちゃうよー。……本当に久々過ぎて我ながらびっくりだ。
やることは過去と同じだね。行ける限りの箇所を全部回って、残留思念――もとい、情報とか得られるものを全て回収。敵が出たら片っ端から倒す……んだけど、昔と違ってゴーストはオブリビオン化してるし、昔の戦い方通じないし、身を潜めたりして、今回は可能な限り、戦闘をやり過ごそう。警戒は怠らない。
怨嗟の声かー。先生、スクールカウンセラーの資格も持ってるので、話だけは聞こうか? 満たして上げることは出来ないと思うけど、声なき声を聞くのも能力者の仕事だったし。
あ、でも、精神汚染はちょっとやだなぁ。まぁ、覚悟決めて頑張る!
崩れ、荒れ果て、色褪せ、朽ち果てつつある神社は、夜の月明かりとも、厚い雲に覆われた昼間ともいえぬ明かりの中で朧気に揺らめいている。
芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・f35405)は久方ぶりにゴーストタウンを見て驚きを覚えていた。九年の長い時を越えて、再びこの光景を目にするとは思わなかったからだ。
しかし、世界結界やゴーストのオブリビオン化という変異が起こっている。まったく今までと一緒というわけにはいかないだろう。特に敵に関しては異常なほど強くなっている。それでも経験を活かした戦い方、というのはある。
ゴーストタウンは元々存在した場所を基本にしているとは言え、その残留思念――死んだときの強い思いなどを元に変化を起こす。いたるところに強い思いの情報が残っているということだ。昔は詠唱銀と呼ばれるものが影響していたが、今はすべてが捨て去られた過去――オブリビオンと言えるのかもしれない。
「まずは、行ける限りの箇所はぜんぶ回って情報を得なきゃ」
恋月は巨大になった本殿を見渡す。先の戦いで完全に浄化されていた。特になにも見つけられる気配がしない。
次に敵を警戒しながら拝殿を見る。ここは意外にも清浄なようだ。誘蛾少女に穢されている感じもしない。
社務所に近づくと怨嗟の声が聞こえてくる。それをあえて恋月は耳にする。
……裏切りもの……裏切りもの……
その憎悪の声は仲間に対する不信感を生み出そうとしているのがわかる。スクールカウンセラーの資格を持っている恋月は自身の気持ちを抑えるのもお手の物だった。
「そうか、裏切られて辛かったんだね。わかった私が聞いてあげるから、もっと話してごらん」
怨嗟の声は答えない。きっとここには、それ以上の過去が存在しないのだ。
他の場所なら別の言葉を得られるかもしれないと足を進める。
神楽殿では巫女が躍る姿を幻視した。
……一生懸命、がんばるから……なんで? どうしてこんなことに?
声はふたつ聞こえる。なにかの状況が入り混じっているようだった。
宝物殿は鍵がかかっており中に入れなかった。
鳥居には何か気配を強く感じるが、それがなにかはわからない。
鎮守の杜の木々には藁人形がいくつも五寸釘で打ち付けられている。
「こんなものかな……? 宝物殿に入れなかったのだけ気になるけど」
……裏切りもの……裏切りもの……すべてを許さない……
怨嗟の声は続く。
元凶となっているはずのオブリビオンは見つかっていない。
気配を殺して隠れているのか、それとも感じ取れないだけなのか……
恋月は境内に戻ると、警戒を怠ることなく周囲を見渡した。
成功
🔵🔵🔴
神元・眞白
【WIZ/割と自由に】
一段落つきましたね。飛威も符雨もお疲れ様。
静かな内にお散歩しながら辺りを一回りしてみましょう。
せっかく元の世界に来ましたから旅行と思えば見方も変わるでしょう。
神社のようですからお参りをしていきましょうか。
時間?神さまがいるとしても関係ないでしょう。気持ちが大事。
鳥居をくぐって社務所に立ち寄って、拝殿へ。
ここは本殿にも入れる場所でしょうか。できるなら覗いてみましょう。
そうそう、元凶?を探さないといけないんですよね。
けれど、探してみて簡単に見つかるものでもないでしょう。
気にはしますが、今はできることをやることにします。
神元・眞白(真白のキャンパス・f00949)は戦闘の終息を感じ取る。飛威、符雨は銀色の雨によってすっかり呪いの泥も落とされ綺麗なものだ。二人を連れて外へ出ると、荒れ果てた光景に悲壮を感じると共に懐かしさを覚えずにいられない。
ありとあらゆる世界を渡ってきた眞白にとっても、このシルバーレイン世界は「元の世界」、つまり故郷であった。その故郷でありながら、知らない土地に来るというのはどこか旅行気分である。
しかし、ここはゴーストタウン。あたりから強烈な怨嗟の声が聞こえてくる……のだが、熟練の猟兵である眞白からすれば、さえずる小鳥程度の音でしかない。
ゆえに彼女の探索は静かで優雅な散歩であった。
――そうだ、神社なのですからお参りをしましょうか。
ふと思いつき参拝の手順を追ってみる。
まずは鳥居の方へ。その前で一礼するとくぐって境内へ。少し違和感を覚えたが、よくわからなかった。手水舎はなさそうだ。
社務所の方へ行くと「……裏切りもの」という声が強く聞こえた。同時に飛威、符雨が遠くに感じる。
振り返るが間違いなく傍に二人はいた。
不思議に思うが、感覚は続いている。どうも固い絆を引き裂こうとしている気配があった。
ただ、社務所をよく見ると、そこには『縁結び』のお守りが売り物としてか置いてある。
――縁結びの神社だったのでしょうか?
そう思いながらも参拝を続ける。拝殿へと向かい、二礼二拍一礼をすませると清浄な空気を感じた。しかし、それ以上に何かがあるような気配はしなかった。
本殿へ戻り、中を覗いてみる。相変わらず広い。先の戦闘の痕跡があるくらいで、特に変な気配は感じなかった。
――そうそう、元凶? はどこにいらっしゃるんでしょう?
気を抜いていたつもりはない。けれど、それらしいものも見かけなかった。
ひょっとするとどこかに隠れていて、不意打ちをかけようとしているのか?
通ってきた場所で一番、変だった場所といえば……
――鳥居の違和感はなんだったんでしょう? あそこだけ妙に……
頬に手を当て考えるが、答えはわからない。飛威も符雨も、そんな眞白の姿をじっと見守るだけだった。
苦戦
🔵🔴🔴
御鍔・睦心
【POW】使用。
本堂の掃除は後でホムセンで用具揃えてやるとして、他は……怪しいらしい鳥居でも見てみっか。
ついでに私のドタマは頭突き専用だから、考えるのは苦手だぜ。
しっかし、鳥居って言や神社の顔だろうに、寂れると草が生えるまで荒れ果てるものかね。
……見ちゃいられねぇな、草むしり開始!!
(神棚や仏壇や道端の道祖神等を、都度手を合わせて拝むタイプ)
怨嗟の声を【闘争心】と【殺気】を滾らせ撥ね退けつつ、鳥居の根本の草をひたすら毟り【掃除】する。
ふぅ、すっきりしたぜ。(いい笑顔で汗を拭う)
……あ、ああ、【情報収集】だったな。
鳥居の草に隠れた箇所に何かあったり、根本の地面に何か埋まっていたらわかる……かも?
戦闘を終えた御鍔・睦心(人間の魔剣士・f35339)は神社の掃除に使いそうな道具を想像し、ホームセンターの売り場を思い出そうとしていた。
少しばかりお金がかかることが気にかかったが、こういうのはちゃんとすることが大切だ。お金は二の次であった。
が、いまはゴーストタウンであることを気にしなければならない。
とにかく、怪しい場所を探し、元凶を見つけなければ。
と思い鳥居に来たのだが、睦心はすぐにスイッチが切り替わる。
「……見ちゃいられねぇな」
睦心は制服の袖をまくり上げ、気合を充実させる。
「草むしり、開始っ!」
荒れ果てた寺社仏閣は放っておけない。特に鳥居という神社の顔が、草ぼーぼーで荒れているなど言語道断である。
もはやこれは戦闘である。
睦心はその闘争心と草に対する殺気を放ち、見事なまでに集中した。そのためかゴーストタウンに渦巻く怨嗟の声はまるで彼女に届かない。
「うおおらっ! てめぇら全員シメてやんよ! おらおらおらおら!」
目にも止まらぬ速さで草が葬られてゆく。しかも根からごっそりと。確実に半年はなにも生えてこないだろう。
嵐のような勢いは五分も経たぬうちに収まり、鳥居が本来の姿を取り戻すに至った。
「ふぅ、すっきりしたぜ」
ゴーストタウンの陰気をすべて吹き飛ばすかのように晴れやかな笑顔。
拭った汗がキラキラと輝いていた。
「……っと、なんだったっけ? あ、ああ、情報収集しなきゃだったな」
本来の使命を思い出し睦心は苦笑いを浮かべる。
「たしか、鳥居に変な気配を感じるとか言ってたな。なんか埋まってたりしねーかな?」
綺麗にした地面を見るが、地下への入口はない。草むしりをして地面もだいぶ掘り返した状態になっていたが、埋まっているような気配もない。
「んー? なんだ?」
しかし、確かに嫌な気配を感じる。
睦心はじっと鳥居を見た。
ふと、おかしな点に気づく。
他の場所は呪いのせいか揺らめいているのに、この鳥居だけ揺らめいていない。
触ってみようとした瞬間、どっと冷や汗が出る。
触れるのはまずい。野生の勘がそう囁いた。
「こいつ、か……?」
元凶そのものではないかもしれない。それでも、少なくとも、この鳥居にいる。
他の場所を探し続けていたら、不意打ちを取られていたかもしれない。
このことを仲間に伝えなければ。
睦心は冷や汗を拭いながら、後ずさりした。
成功
🔵🔵🔴
森宮・陽太
※他猟兵との協力、アドリブ歓迎
軽く一通り調べてもらったか
それなら俺は、鍵がかかった宝物殿を調べるぜ
ここがごーすとたうん、とやらの中なら俺らの行動は見咎められないよな?
指定UCでヴァサゴを召喚し俺に憑依
不測の事態を未来視で回避しつつ探索開始
ヴァサゴ、不穏な未来を察したら俺に教えろ
宝物殿の鍵は…かかったままか
針金取り出して「鍵開け」を試みるぜ
開いたら中に潜入し、不穏な気配を発したり強力な魔力を持つ物体を探そう
「暗視」できるから暗闇でも困らねえよ
怨嗟の声か…正直きついぜ
耳を塞いで気を強く持ち、何とか耐え抜くぜ
とはいえ、現状能動的な情報はこの声だけだ
「聞き耳」で一番強く聞こえる場所を探してみるか
芦夜・恋月
※アドリブ、連携歓迎
さてと。
「うらめしい。裏切り者かぁ」
しみじみと呪いの声へ耳を傾け続けます。
(やっぱりこの声の主が誘蛾少女を生み出してるのかな? それともこの声すら罠?)
「ねぇ。ちなみにうちの銀誓館って地縛霊でも入学OKになっちゃったんだけど、あなたにもそんな道があるって伝えておくね」
未だ説得の言葉は足りないから、それ以上を探さなきゃならないけど。
シャーマンズゴーストがプレイアブルキャラになっちゃったしねー。
さて、こうなると宝物庫の中を見なきゃ始まらない気がする。
「ねぇ。あなた。宝物庫の鍵、知らない?」
呪いの声が答えてくれないなら強行策。バス停を振りかぶって【鎧砕き】発動。鍵を破壊する。
サクラミラージュと違う世界は勝手がよくわからない。それなりに渡り歩いてきた自負はあるが、やはり新しい世界は慎重に行動する必要がありそうだ。
森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)は辺りの様子を聞いて顎に手を当てた。
「とりあえず見れてないのは宝物殿の中か。なにがでるか、開けてみてのお楽しみってとこだな」
行動を決めた陽太は髪をかき上げユーベルコードを使用する。
『過去現在未来を知る悪魔よ、我に憑依し、未来を見通す権能を与えよ』
髭を豊かにたくわえた老人が現れたかと思うと、陽太の背中へと降りてゆく。すぐに陽太の視界に自分の未来の姿が見えた。
一人、二人、三人……
いくつもの自分はいくつものルートを通り、宝物殿へと向かう。どれも無事にたどり着ける。変な罠はないようだ。元凶とやらも、いまのところ襲ってくる気配はない。
「ヴァサゴ、不穏な未来を察したら俺に教えろ」
相手が未来を捻じ曲げる力をもっていないとも言えない。いくら未来が視えようとも警戒を怠らないことこそ、生きる術であった。
その陽太に続いたのは芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・f35405)だった。
調べ損なった宝物殿がやはり気になるのだ。
陽太のユーベルコードをしっかりと知るわけではないが、ある程度の未来が見えるようなので、警戒を任せてしまおうと考えた。
その分、周りの様子に集中する。
怨嗟の声は相変わらず続いているが、ひょっとすると意思疎通できるかもしれない。
「ねぇ。あなた、宝物庫の鍵、知らない?」
聞いてみるが反応はない。裏切り者という言葉と、味方に嫌悪感を抱くように不快な感覚を送ってくるばかりだ。
自動的なのか、あえて無視しているのか……
可能性はいくらでもある。
ともかく意思疎通できる可能性が残っているのなら言葉をかけておくべきだ。
「ねぇ。ちなみにうちの銀誓館って地縛霊でも入学OKになっちゃったんだけど、あなたにもそんな道があるって伝えておくね」
その声にも反応はなかった。
わかり合えるならゴーストとも共存できる。それが銀誓館学園の示した道。
しかしオブリビオンは違うのかもしれない。
ただ、可能性はあると、恋月は考える。ゴーストたちも過去の強い思いが詠唱銀に触れて発現したもので、一種のオブリビオンだったと言えなくもないからだ。
オブリビオンとの共存。それは可能な選択肢なのだろうか? たしか、オブリビオンの力を使う猟兵もいたはずだが……
そんな考え事をしていると宝物殿の前で陽太が扉を調べていた。
「キミ、なにしてるの? 開くの?」
「ん? まぁ、ちょっと腕に覚え有りだからな」
針金で鍵開けを試みているようだ。
「……逆に黒髪のねーちゃんは何しようとしてんだ、ソレ構えて……」
「ソレ? ……あ、これ? 私の愛用してる詠唱兵器だよ」
「詠唱兵器……?」
「そっ、能力者……このシルバーレイン世界で戦ってた人たちが使ってた回転動力炉のついた魔法の武器」
「……俺の見立てが正しかったら、バス停の目印みたいに見えるんだが?」
そう、恋月の持っているのはレトロなバス停そのものだった。
「正解!」
「シルバーレインの世界ってのは、そんなもんを武器にしちまうのか?」
「人それぞれだけど、バス停は意外に人気の武器だよ」
「にわかに信じがたいが、そんなもんなのか……」
「キミはここの人じゃないんだね。ありがとうね、この世界を救いに来てくれて」
「それが猟兵の仕事だしな。それに銀鏡ってやつが言ってただろ、運命の糸が繋がったってな。ただ、それだけのことさ。礼なんて要らないさ」
「それでもだよ。おねーさんのお礼くらい、気持ちよく受けとっといてよ」
陽太はぽむぽむと頭を撫でられ、少しくすぐったい気持ちになった。どう見ても同い年くらいに見えるのに、やたらと子ども扱いされたせいでもあるだろう。
実際、恋月は陽太の9歳年上なのだが、『運命の糸症候群』によって歳を取らなくなっているため、若い姿を保持し続けているのだ。当然、そのことを陽太は知る由もない。
「っと……開いたぜ?」
「助かる! やるねっ」
恋月は鍵が開かなかったらバス停で破壊するつもりだった。乱暴なことをしていれば危険が迫っていたかもしれない。そう考えると陽太の鍵開けは非常に助かる行動だった。
「さて、中を拝見しますか……」
陽太は暗視を使って中を覗く。恋月も続いた。
そんな二人に強烈な異臭が襲いかかる。
卵の腐った臭いに強烈な酸っぱさが混ざっているようで、眼にも鼻にも突き刺さってきた。
「ぐちゃい……」
「ごれでもづがっどきな……」
陽太は袖で臭いを防ぎながら、恋月にハンカチを渡してやった。
そんな二人にさらに強烈な怨嗟の声が襲い掛かる。
……憎め、許すな、裏切りは決して許されない……憎め、怒れ、呪え、呪え……
正気を奪われそうになるほどの濃い呪詛。
宝物殿は、呪いのたまり場になっていた。
床、壁、天井、すべてが黒い泥のようなもので塗りたくられている。
わざと貯めているのだろうか?
ともかく、もし敵が呪いの場を利用するようなら、ここで強化を謀るかもしれない。
一方で、外では聞こえなかった言葉も聞こえている。
ひょっとすると、深層心理を閉じこめた場所なのかもしれない。
二人は精神が汚染されそうになりながらも、言葉に耳を傾けた。
……わたしが一番綺麗だって言ってくれたのに……なんで、あなたは目の前で他の女と結婚しようとしているの?
一番強い呪いを感じる部分から、そんな言葉と涙を流しながら舞を踊る巫女の姿が見えた。
他にも着物を着た少女が泣いている。絶望の色を隠せない男もいた。雨宿りをする男女を、ずぶ濡れで眺め続ける青年も。
一人の強烈な呪いに、たくさんの呪いが結びついているのだ。
……誰も信じられない……誰も信じられない……
……誰も信じない……どんな言葉もきっとわたしを騙そうとしている……
……みんな自分が一番なんだ。だから人に酷いことができる……
……だったら、せめてわたしは、誰かのために……
……誰かが、悲しまないように……
……裏切り者が出ないように、ぜんぶ殺すしかない。
陽太と恋月の二人は慌てて宝物殿の扉を閉める。
心と体は一時の平穏を得てもなお、ヒリヒリと焼き付く感覚を残した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『シラバキ』
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POW : 拡大性シラバキさま
【感染性呪詛の塊 】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【呪詛】を放ち続ける。
SPD : 純粋呪詛存在
自身の身体部位ひとつを【純粋なる呪詛 】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
WIZ : 霊的汚染地帯
【撃ち出した「呪詛の塊」 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を呪い、霊的に汚染して】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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ゴーストタウン全体がうなる。
裏切りもの、裏切りもの、呪え、呪えと声が飛びかう。
生ける魂を鎮め殺してしまう鎮魂歌のようでもあり、死の邪霊を称える讃美歌のようでもあった。
――元凶は鳥居に潜んでいる!
敵の位置を察した猟兵が仲間に伝えると、全員が鳥居の方角を警戒した。
その時、鳥居から黒い影がとてつもない速さで飛び出した。
場所がばれたことを察したためか、余裕を見せているためか、影は姿を猟兵たちに見せつける。
それは、仮面の邪霊。
外套から影を、文字通りこぼしている。
それは猛獣が獲物を見つけ、涎を垂らしているかのようであった。
――あれがこのゴーストタウンを作り出し、誘蛾少女を大量に作り出していた元凶。
ここで倒さなければ、再び誘蛾少女が大量に生み出される。
それは人類が呪いの泥に溺れて死ぬ未来を意味していた。
猟兵たちは、それぞれが思う場所で臨戦態勢を取る。
ノエル・クラヴリー(サポート)
【連携OK】【慎重派】
ブラックタールのマジックナイト × シンフォニア
口調は(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)です。
普段は温和な女性です、味方に対して友好的に接します。
敵を前にすると冷酷な女性を演じながら戦います。罵倒などはしませんが、睨み付けたり冷ややかな言葉をかけるなどします。また、身体を酷使することを厭わない子なので、液状の彼女が耐えられる範囲なら攻撃を受けたり盾になったり大丈夫です。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。あとはおまかせします。よろしくおねがいします!
森宮・陽太
【WIZ】
他者との連携、アドリブ大歓迎
ちっ、そっち(鳥居)が本命か!
邪霊に中の呪いを利用されないよう
宝物殿の扉に鍵をかけ直してから鳥居に急行するぜ
おそらく、この邪霊と宝物殿の中の呪いの正体は
愛した人に裏切られて死した人々か?
証拠隠滅兼ねて宝物庫に閉じ込められた可能性すらあるぜ
これは呪いも邪霊も浄化してやらねえと浮かばれねえ
「高速詠唱、言いくるめ」から【悪魔召喚「アスモデウス」】
アスモデウスに命じて「属性攻撃、浄化、破魔」の力を宿した獄炎を吐かせ
呪詛の塊ごと邪霊を「範囲攻撃」で焼き尽くしてやらあ!
俺も破魔と浄化の魔力を宿したお守り刀を手に斬り込んで
邪霊に一太刀浴びせてやるぜ
…安らかに眠れよ
鳥居の方角から姿を現したゴーストに森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)とノエル・クラヴリー(溢れ流るる星空・f29197)は身構えた。
陽太は振り返り、呪詛の詰まった宝物殿を確認する。
――この呪いの正体は愛した人に裏切られて死した人々か?
神社で殺人事件や自死などがあったのかもしれない。宝物殿には証拠かなにかが閉じこめられていたのか?
様々な可能性を考えるが答えは見つからない。
「どっちにろ、呪いも邪霊も浄化してやらねえと浮かばれねえ」
透き通る水晶の投信を持つ短剣を取り出す。自分に生を与えてくれた両親から贈られたお守り刀だ。
だが、とつぜん隣にいたノエルに手を引かれて陽太は少しバランスを崩して右に歩いた。
なにかと思った瞬間、今までいた場所にシラバキの呪詛の塊が張り付いた。
「なっ!」
「未来予知です。来ます」
ノエルは時の魔法を操り、未来を予知できる。すでにシラバキがこちらに攻撃を仕掛けてくること、放っておけば陽太が呪詛にやられてしまうことを察していた。
幻視として脳内に現れる次の未来では、シラバキが純粋な呪いの塊となって突撃してくることが解る。
「さらに右へ」
「お、おうっ!」
幻視は現実に。しかし、自分たちがやられる未来は書き換える。シラバキは空振りした勢いで空へと上昇した。
「あいつ、ここの呪いを吸収する気か!?」
ノエルの視る未来では屋根の方に向かっている。扉の方にはこない。
それが何を意味しているのか、その時は判っていなかった。
しかし、次にシラバキが建物から扉を突き破って出てくる未来を見て、換気口から中へ侵入したのだと察した。
「離れてください」
「また未来予知かっ! 俺もヴァサゴ戻すんじゃなかったぜ!」
陽太は言われるがままに扉を離れる。
その瞬間に扉は吹き飛び、大量の呪詛と共に巨大化したシラバキが現れた。
「マジかよ……」
このままではまずい。
咄嗟に陽太はダイモンデバイスを取り出し悪魔召喚を試みる。
ノエルは陽太の召喚が成功する未来を視た。
だが、彼も無事ではすまない。
それならば防御に集中できる自分がかばう方が効率的であろう。
未来予知を逆手に利用し、陽太に降り注ぐ呪詛を体を張って止めることを決意し、彼の前に立った。
陽太はその意図を素早く汲み取り、この場を収める強力な悪魔を呼び出そうとする。
「悪魔召喚「アスモデウス」!」
陽太の背後に獄炎をまとった悪魔が出現する。
強力な力を要求すればするほど、それに対応した交渉が必要になる暴れ馬、いや荒ぶる神そのもの。交渉を間違えれば大惨事さえ引き起こしかねない凶悪な存在である。
「今回もいろいろ積んで悪いようにはしねえから、属性攻撃、浄化、破魔でたのぜ!」
しかし、歴戦の陽太にとっては相棒みたいなものである。いろいろ積む、というだけでアスモデウスは察したらしく、美しく煌めく炎を生み出し、シラバキの動きを鈍らせる。
「白髪のねーちゃん、ありがとよっ!」
その鈍くなった瞬間で充分であった。
陽太は再び守り刀を抜き、シラバキへ切りこむ。
一太刀。
確実に入った。
だが、とどめを刺すには至らない。
呪いを取り込んだためかもしれない。
「ちっ、安らかに眠れ、とはいかねえか!」
その不気味な仮面には表情は浮かばない。
しかし陽太もノエルも、間違いなく奴が笑ったように見えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
カグヤ・アルトニウス(サポート)
当面の間は生身で、キャバリア戦は集団戦を参考にしてください
【第六感】で攻撃を察知して回避しながら短距離テレポートと【念動力】+【空中戦】での立体機動で攪乱しつつ攻めるのが基本です
素手の【念動力】+【衝撃波】が基本で、急所が分かれば【貫通攻撃】で突いて行き、耐性に応じて【精神攻撃】と【封印を解く】で対処します
防御としては各種耐性とシャッター・ウォールはありますが、基本的に【第六感】フル活用で直撃は避けます
スタンスとしてはボス戦に関してだけは対象に多少憐れみを感じても油断も容赦も無く冷徹に必要な戦果を求める感じになると思います
カグヤ・アルトニウス(辺境の万事屋兼宇宙海賊・f04065)は飛び出してきたときより巨大化しているシラバキを上空に見つけた。
一体、なにがあったのか?
考えている暇はない。放っておけばより酷くなるという予感がする。
カグヤは短距離テレポートでシラバキに接近し、空中に浮いたまま、念動力で生み出す衝撃波で攻撃を仕掛ける。
だが、シラバキは呪詛の塊。衝撃波ではほとんど効果がなかった。
なれば、と実体であると推測される仮面を狙うが、これもまた同じ結果だった。
シラバキもやられているばかりではない。
おそるべき速さで飛行を始め、様々な角度からカグヤに呪詛を放ち続けた。
カグヤも空中で縦横無尽に移動を繰り返す。ときにはスロープを統べるように、ときには自由落下するように、ときには駆け上がる稲妻のように。
シラバキは相手がとらえきれないと判断したのか、一気に呪詛を放つ。
それは驚異的な速さと組み合わさり、三百六十度の黒い壁が迫ってくる形となった。
それでもカグヤは冷静であった。
「わたしをこれくらいで倒せると思いましたか? 『我が齎す眠りに誘われし者達よ、今一度衝動を超えて戦いの初めに戻り給え』」
あの攻撃は敵の構造と同じだと踏んだカグヤは、任意の構造体を解体する白い波動の嵐を呼ぶユーベルコード【Requiem of origin dream(レクイエムオブオリジンドリーム)】を発動する。
その狙いは的確で向かってくる呪詛すべてを霧散させた。
しかし、シラバキは高速で動いていたため、まずいと判断してすぐに逃げ去ったのだろう。
弾幕が消え去った頃にはシラバキの姿もなかった。
それでも、時間は稼げた上に、相手にかなりの力を使わせている。
カグヤは空の上からシラバキを探す。
成功
🔵🔵🔴
キアラ・ドルチェ
銀の雨降る時代に父と母が護った、この世界を
「壊させはしないっ!」
【高速詠唱】で矢継ぎ早に森王の槍を打ち込み、攻撃を繰り出せないよう牽制
また汚染場所に立てないよう、その周囲に先回りし槍をはなって強化封じ
誘蛾少女との戦いでは服が汚れるの気にしちゃってましたが…今はこの身が汚泥に塗れようと気にしないっ!
さあ…滅びな…ん?
母さんが言ってた…地縛霊はその地に拘りがあるから存在する
じゃあシラバキは?
「…この神社に祀られた存在?」
もしかしたら…
「こんなに廃れさせてごめんなさい」「落書きとかしてごめんなさい」
貴方の悲しみは覚えておくから…
「どうか安らかに、お眠り下さいませんか?」
鎮魂の祈りと共に森王の槍を
キアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)は汚染された場所に先回りすることを考えていた。
各場所に仲間たちがいる中で誰も来ておらず、汚染されていそうな場所。
それは鎮守の杜。
ヤドリギ使いとして、『ミネの森王』であった祖母の名を受け継いだ者として、森には思うところがあった。木々に打ち付けられた藁人形を見て悲しみを募らせる。
そしてまた、ここも呪いの場であることを察した彼女は、ここにくるであろうシラバキを待ち受けることにした。
その狙いははまり、いま目の前に巨大なシラバキが現れている。
「『森のディアナよ、汝が慈悲もて我に想い貫く槍を賜らん。万物よ自然に還れ!』」
近づけさせるわけにはいかない!
咄嗟にキアラはユーベルコード【森王の槍(モリオウノヤリ)】を自分中心に放つ。
キアラの木々に対する、自然に対する愛に答えてくれたのか、無数の槍は背後から襲い掛かってきていた呪いの藁人形――姿を変えた呪詛をもいくつか防いでくれた。
しかし、すべては防ぎきれていない。
「あうっ!」
母から譲り受けた白魔女服が再び傷つき、汚れてしまう。
それでもキアラは立ち上がり、目の前の敵に集中した。
――銀の雨降る時代に父と母が護った、この世界を――
「壊させはしないっ!」
その思いがキアラを奮い立たせているのだ。
同時にふと、キアラの脳裡に母の言葉が蘇る。
――地縛霊はね、その地に拘りがあるから存在するのよ。
……じゃあシラバキは?
この子も、元々この土地に所縁がある?
ひょっとして……祀られていた存在なのかもしれない?
最初に伝えられた予知。
木々に打ち付けられた藁人形。
荒れ果てた社殿。
もしかすると、とキアラは考える。
「こんなに廃れさせてごめんなさい、落書きとかしてごめんなさい!」
シラバキの攻撃の手が、少しだけ緩んだ。
「貴方の悲しみは、覚えておくから……どうか安らかに、お眠り下さいませんか?」
ふと、シラバキの攻撃が止む。
じっとキアラを見つめているようであった。
キアラには、シラバキが泣いているように見えた。
大成功
🔵🔵🔵
御鍔・睦心
出やがったな、諸悪の根源。
最後はフルスロットルのこいつで、一切合切綺麗にしてやるぜ。
敵の注意を引き付ける為に一番見晴らしのいい場所で七支刀を取り出し、【リミッター解除】した内蔵回転動力炉で【エネルギー充填】した【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】。
神社全域に銀の雨を降らせ、万色の稲妻による雷【属性攻撃】の【範囲攻撃】で敵を【蹂躙】しつつ、残る呪詛を優しい雨で【浄化】する。
「景気付けの涙雨だ。目一杯泣いて叫んで、何もかも吐き出して逝きやがれ!!」
敵の呪詛は【闘争心】と【殺気】を滾らせ【呪詛耐性】を上げて弾く。
掃除する場所が増えちまったけど心配すんな、全部纏めて面倒見てやるぜ。(帰った後の補習確定)
御鍔・睦心(人間の魔剣士・f35339)は鳥居から飛び出したシラバキがどこへ行ったのかわからなかった。
だったらと一番見晴らしのいい場所へ向かう。それはこのゴーストタウンで一番高い場所、本殿の屋根の上だった。意外にも上から見下ろすGTは一種の絵画のようであり趣があった。
「絶景だぜ」
ここならば誘蛾少女の戦いのときに浄化しきっている。おびき寄せるにも最適だろう。
睦心は七支刀を取り出し、詠唱兵器の要である回転動力炉をフル稼働させる。
その回転数はリミッター解除されており、すさまじい音と虹色の光をほとばしらせ、どんどんとエネルギーが充填されていく。
「……景気付けの涙雨だ。目一杯泣いて叫んで、何もかも吐き出して逝きやがれ!!」
ユーベルコード【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】。
戦場全体に銀色の雨が降り注ぎ、万色の稲妻が駆け巡る。
散り散りになっていた呪詛の塊がこれによって打ち祓われ、仲間たちの傷が癒されてゆく。
これを脅威と見たのかシラバキが睦心の近くに現れたが、攻撃はほとんどなかった。
不思議に思う睦心であったが、倒すなら今しかないと判断し、万色の稲妻をシラバキにぶつけた。
再びすさまじい音と共にシラバキは地上へと落ちていく。
「掃除する場所が増えちまったけど心配すんな、全部纏めて面倒見てやるぜ」
いっそ、綺麗な神社にまで復活させられないか?
そんなことを睦心は考えていた。
成功
🔵🔵🔴
芦夜・恋月
さて。倒すなら『鳥居』なのか。
宝物殿に逃げられないように道を塞ぎたい所だね。逃げ込みそうだったら【存在感】【おびき寄せ】で足止めしてみるか。前線要員は辛いわ。
「綺麗だよ、かぁ」
(「いやー。常套句に引っかかっただけじゃん。挑発しても仕方ないから言わないけど」)
蛇が出るか鬼が出るか判らないけど、言葉掛けで弱体化を狙う。能力者……もとい、猟兵は柔軟性が大事。
「貴方は綺麗だよ」
エゴに塗れ、己を優先出来る。ああ、これほど迄「人間」の貴方は綺麗だ。人間そのものだもの。
「貴方は綺麗だよ」
自分の想いを優先し、他者に酷い事が出来る。本当、誰が一番酷いのだろうね。
「その想いを祓って上げる」
この呪言突きで。
芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・f35405)は宝物殿に逃げられないように道を塞ごうと考えていた。しかし、あまりに敵は早かった。
おびき寄せをしてみようと試みたが、敵もバカではないらしい。そのまま宝物殿の方へと行ってしまったのだ。
そんなシラバキが万色の稲妻に打たれて、いま、目の前に落ちてきている。
呪詛がだいぶ剥げ落ちたのか、最初に見たときほどの禍々しさがない。
不思議と弱体化しているように見える。
これを逃してはならない。
こいつは敵だ。
――綺麗だよ、かぁ。いやー。常套句に引っかかっただけじゃん。そんなエゴでゴーストになって殺し続けるとかねぇ?
可哀そうな部分も理解できる。だが、つり合いは取れていない。同情する余地などないのだ。
どちらにしろ判り合える気配はなさそうだ。
ならば祓ってあげることこそ、大切だ。
「貴方は綺麗だよ」
残留思念――残った思いが関係しているゴーストたちは、言葉をかけることによって変化を起こすことがある。
ゴーストタウンを調べてわかった情報から恋月が選んだ言葉だった。
しかし、その言葉の裏には複雑な感情がある。
――エゴに塗れ、己を優先出来る。ああ、これほど迄「人間」の貴方は綺麗だ。人間そのものだもの。
人間の本質をあらわにしたゴースト。人間を美しいと思えばこそ、このゴーストは美しいと言える。
「貴方は綺麗だよ」
――自分の想いを優先し、他者に酷い事が出来る。本当、誰が一番酷いのだろうね。
そして人間の本質だからこそ、悲しみがある。
それでも、この一方的に命を奪う存在は許されない。
シラバキは恋月の言葉に反応したのか、呪詛を燃え上がらせた。
最後の力を振り絞っているようにも見える。
「その想いを祓って上げる」
シラバキが動こうとした瞬間、恋月は一瞬で間合いを詰め、凝縮された恨みの念が籠もったナイフを四回、突き入れた。
呪いに打ちこまれた恨みの念。
それは敵の力を増幅させるようにも思えたが、想いは想いを否定した。
シラバキの呪いを、逆に祓ってしまうほどの恨みだったのだ。
シラバキは上書きされ、消えていく自分をどう感じていただろうか?
霧散していく呪詛を恋月は見送ると、だんだんと晴れていく空に魅入った。
成功
🔵🔵🔴