●
山奥にひっそりと佇む朽ちた研究施設の一角。
とうの昔に打ち捨てられた建物の片隅で、その動物たちは眠っていた。
『――……』
照明の落ちた薄暗いフロアに等間隔で並んでいるのは、コールドスリープの装置だ。外部からも観察できるようにするためか、装置は上半分が半透明になっている。
『…………』
装置の中に見えるのは大きな鉤爪と硬い毛皮だ。強さと獰猛さを備えた風貌。だが、その見た目とは対照的に動物たちの口元は穏やかで、閉じた瞼には知性さえ感じられた。
彼らは禁断の技術研究によって生み出された賢い動物たちである。文明が崩壊する以前、秘密裏に行われていた実験の成果だ。
「やっと、見つけた――」
ノイズの混ざった声と共に、コールドスリープの装置へぬっと影が覆いかぶさった。
赤いリボンと天使の輪に似た頭上の環。装置の中を覗き込みスカートを揺らす姿は小柄な少女のようでもあった。
だがその顔にはぽっかりと黒い穴があるのみだ。身に纏う気配もまさしくオブリビオンのそれである。
「さぁ、起きて。私と一緒になって?」
自身の周囲にテディベア型の端末を展開させたオブリビオンは、懇願するような仕草で装置を一撫でして端末から電波を放出した。
●
「……以上が予知の内容となります」
グリモアベース内部。
新たな事件の予知を告げたアーリィの横では、モニター画面が明るく輝いている。
画面にはアポカリプスヘルのとある山奥が映し出されていた。深い山岳を切り開いて作られたと思われる土地には、地上二階建ての建屋が鎮座している。
この建物は実験施設の跡地だ。文明が崩壊する以前にひっそりと行われていた禁断の研究技術。その実験によって生み出された賢い動物たちのプロトタイプが、今でも施設の何処かで眠っているのだという。
「オブリビオンが何をもってして動物たちを狙っているのかは分かりません。ですが賢い動物たちが彼らの手に渡ってしまえば、よからぬことになるのは間違いありません。そこで皆さまには現地へ赴き、彼らを守るとともに施設に残っている研究資料の回収を行っていただきたいのです」
集めた資料の解析が進めば、賢い動物たちをコールドスリープから解き放ち、仲間に加えることが出来るかもしれない。
「現場に現れるオブリビオンはぬいぐるみのような端末を持っており、端末から電波を放つことでこちらを操作するような攻撃をしてきます。無論、直接的な攻撃も脅威であることに変わりありません」
モニター画面を閉じたアーリィは、猟兵たちへ向けて頭を下げた。
「人の手によって禁断の技術が施されていたとしても、彼らはこの世界を生きる命の一つです。どうか、皆さまの手で守ってあげてください」
ユキ双葉
こんにちは、ユキ双葉です。
今回はアポカリプスヘルのシナリオとなります。
●第一章
施設内に散らばっている研究資料の回収を行います。
研究資料は一階および二階に散らばっています。
一階には実験室、培養室、解析室、標本室といった部屋があります。
二階には職員が個別に使っていたと思われる部屋がいくつもあります。
コールドスリープのある場所は、一階または二階の何処かにあるフロアマップで確認できます。
●第二章
オブリビオンとの戦闘になります。
戦闘はコールドスリープのある場所で行われます。
ボスが意図的にコールドスリープを狙うことはありませんが、戦闘の余波が装置に及ぶ可能性(装置への衝撃、コード類の切断)はありますのでご注意ください。
第1章 日常
『研究資料回収』
|
POW : 施設内をくまなく歩き回り、資料を探す
SPD : 散乱した書類の中から目ぼしいものを探し出す
WIZ : 施設に残されたコンピュータにアクセスする
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
徳川・家光
世界が終わって、施設が放置され……
それでも、コールドスリープ状態の動物達が無事なのは僥倖でした。
僕達はオブリビオンの出現によって動物達に気付けた次第ですが、知った以上は、誰も傷つけたくはありません。
施設内をくまなく歩き、警備図、あるいは避難経路図も含めた、施設全体のなるべく正確な図面を集めます。
そして「戦場探し」……図面を参照しながら、出現したオブリビオンを最終的におびき寄せる目標地点を精査します。コールドスリープ装置から遠く、なるべく開けた場所を探します。
ところで可能なら、動物に知性を与えようとした研究者達の記録も探したいです。オブリビオンの出現と関係が?
マホルニア・ストブルフ
◇アドリブ連携OK
人間の手によって実験で生み出された挙句、オブリビオンに利用されるだなんて嫌な人生じゃないか。獣生――かね。兎角、防がねばならんな。
予知によると行動に干渉してくるそうじゃないか。人間同様の自我を持つ彼らにとっても、いっとう辛いだろう。
とはいえ、こちらもコールドスリープの解除方法を探さねば、これが何度も繰り返し起こるかもしれないのか。
知覚端子を展開して【情報収集】し、【瞬間思考力】で情報を精査していくよ。
虫の賢い動物の解除はしたことがあるが――、質量に差があると手順も異なるな。
他の猟兵が居れば集めた情報を共有し、件の装置の場所でも確認しようか。
ロー・シルバーマン
山中に作られた実験施設、二階建てとなると一つのフロアが大きな造りかのう。
見落としなどないよう丁寧に探っていかねばな。
二階を中心に探索。
まずはフロアマップを探し資料集めの効率を上げるとするか。
ここで職員が生活していたならどこかに施設管理者の部屋もあるはず、そこなら紙媒体電子媒体どちらかで保管しているじゃろう。
なければマッピングしつつ一部屋一部屋印をつけつつ虱潰しに探っていく。
個人の部屋にも関係資料を持ち帰る性格の者もいた可能性はあるから手は抜かず。
発見した資料は廊下などに運び出し纏めて回収し易いようにしておくかのう。
マップ発見後はコールドスリープ部屋へ早めに向かうとしよう。
※アドリブ絡み等お任せ
●
オブリビオンが実験施設へ辿り着くよりも少し前、現場には三人の猟兵が到着していた。
「ほうほう、ここが件の実験施設か。なるほどのう」
外部からざっと施設を見渡したロー・シルバーマン(狛犬は一人月に吼え・f26164)は、自らの顎を撫でしきりに頷いた。
ローの見立て通り、施設は高さが限られている分だけ横に広がっていた。外観だけを見ても、一つ一つのフロアが大きな造りをしているということが分かる。
「これだけ広いとあらば、見落としがないよう丁寧に探っていかねばな」
ローの言葉に徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)が頷く。
「えぇ、そうですね。僕は警備図や避難経路を含めた施設全体の正確な図面を集めたいと考えています、お二方はどうされますか?」
家光の言葉を聞いたローは建物の二階へ目を向けた。
「わしは二階を見て回ろうかのう。職員がここで生活していたのなら、施設管理者の部屋も何処かにあるかもしれん。そこでフロアマップを調達して、資料集めの効率アップを図ろうかと思うておる」
「ならば私は、コールドスリープに関する情報がありそうな場所を探ろう」
ローの話を聞き終えたマホルニア・ストブルフ(構造色の青・f29723)が口を開いた。
「今ここに迫るオブリビオンを退けたとしても、コールドスリープの解除方法を探さぬ限り、また別のオブリビオンが動物たちを狙う可能性があるからな」
人間の手で、それも実験によって生み出された挙句オブリビオンに利用される。そんなのは生命としてあまりにも苛酷だ。
マホルニアの遠い眼差しが自身の過去を穿つ。彼女の眼差しを見た家光は、その意味合いを賢い動物たちへの憐憫と見てとったようだ。彼は真剣な面持ちで言った。
「そうですね。世界が終わって施設が放置され……それでも、コールドスリープ状態の動物達が無事なのは僥倖でした。それが分かった以上、僕は誰も傷つけたくはありません」
「で、あれば、さっそく探索開始といこうかのう!」
闊達に笑った好々爺は、景気づけと言わんばかりに声を張り上げた。
●
三手に分かれた猟兵たちは、それぞれの場所を探索していた。
「うーん、どこかオブリビオンを誘き出せる広い場所はないでしょうか」
家光は解析室で見つけた図面と睨めっこをしながら、建物全体の構造を把握するように一階を歩いていた。
コールドスリープで眠る動物たちをオブリビオンとの戦闘から守るためには、装置から離れた広い場所で戦った方がよいからだ。
「今のところ戦闘に適していると考えられる場所は、施設の裏に広がるこの中庭のような所だけですね……」
コールドスリープが一階にあれば中庭への移動は容易い。装置の近くで戦闘が始まってしまっても、崩壊した壁や出入り口といった場所から外へ行くことができる。
「そうなると、やはりコールドスリープの位置が肝要ですね。装置がありそうな場所は――」
図面を眺めていた家光は、はたと足を止めた。
標本室と隣接している備品庫。解析室へ行く前に立ち寄った部屋。標本室、備品庫共に探索したが、家光自身が体感した広さと図面上の広さが嚙み合っていない。
「! もしかして、隠された空間があるのでは?」
そうであれば、一人で探すより三人で探す方が効率は良い。どのみち探索結果を確認するために、他の二人とはロビーで待ち合わせている。
「一度、戻りましょう」
踵を返した家光は他の二人と合流するためにロビーへ向かった。
「さて、さっそく作業へ取り掛かるか」
実験室へ入ったマホルニアは、すぐさまユーベルコードを発動した。
「四面をつかさどる女神の力を今ここに――」
力の高まりと共にマホルニアの瞬間的な思考力に磨きがかかる。
さらに知覚端子――セーフティ付きのナノマシンを展開して、そこかしこに散らばっている書類から同時に情報を吸い上げていく。
「目当ての情報だけに絞れば大した量にはならないか……。いや、量よりは質だろう」
マホルニアは吸い上げた情報を一瞬で精査して、コールドスリープに関することが書かれた書類のみを手元へ集めていった。
「…………」
資料の内容を目で追ったマホルニアは眉を顰める。
やはり装置をいきなり解除することは出来ないらしい。中で眠る動物たちの生命活動を維持するためには、体温を徐々に上げていく必要がある。
その手順と工程に掛かる時間、動力。さらにはその後も一定の時間モニタリングが必要だと記されていた。
「虫の『賢い動物』の解除はしたことがあるが……、個体の質量差があると、やはり手順も異なるな。――ん?」
知覚端子がオブリビオンの気配を拾った。まだ建物には入っていないが、かなり近くまで来ているようだ。
「確か敵はこちらの行動に干渉してくるのだったな」
マホルニアはふと動物たちへ思いを馳せた。人間同様の自我を持つ彼らにとっても、オブリビオンからの干渉はいっとう辛いだろう。
「……急いだ方がよさそうだ」
他の二人とはロビーで合流する手筈になっていた。マホルニアは纏めた資料を持って急ぎ実験室を出た。
「……うむ。この部屋の資料はこれだけかのう」
家光とマホルニアが一階を探索している頃、ローは二階にある職員の個室を端から順に探索していた。現時点で施設管理者と思しき職員の部屋が見当たらないため、各個室を虱潰しにあたっている状態だ。
「関係資料を持ち帰る性格の者もいるはずじゃからな。個人の部屋とて手は抜かんぞ」
見つけた資料はコンテナケースへ入れていく。コンテナケースはこの施設で見つけたもので、ケースの中には前の部屋で見つけた資料も入っている。
「さて、次の部屋へいこうかのう」
コンテナケースを廊下へ運び出したローは、隣の部屋へ移動した。
そこは今までの部屋より少し広い部屋だった。施設管理者とまではいかないが、役職が上だった職員の部屋かもしれない。
「ふむ、ここは何かありそうじゃなぁ」
部屋の隅から隅まで念入りに探索を行うと、机の引き出しから擦り切れたフロアマップと研究者の手記を見つけた。ローはパラパラとページを捲る。
手記の内容は実験に関する個人的な感想がほとんどだった。もしかしたら、これを残した職員は実験に対して主体的に関わっていたのかもしれない。
「……これは持って行った方が良いかもしれんな。残りの部屋でも同じものを見つけたらまとめておこうかのう」
手記を閉じたローは、残りの書類も手早くまとめていった。
●
探索後、一階のロビーに集合した三人は、探索結果の他にも次のことを伝え合った。
一つ、標本室と隣接する備品庫の奥に隠された空間があるかもしれないこと。
二つ、オブリビオンが研究所へ近づいていること。
三つ、実験に対して主体的に関わっていたと思われる職員の手記があったこと。
「研究者の手記、ですか」
「うむ、そうじゃ。研究者個人の心境ないし、実験の成果についての感想も記されておったぞ。他にもいくつか似たようなものを見つけてのう。それは資料と一緒にまとめてあるぞい」
ローの報告を聞いた家光は考え込む。
動物に知性を与えようとした研究者達。彼らの記録、あるいは彼らが残したものを調べれば、他にも分かることがあるかもしれない。
オブリビオンが出現する以前にこんな実験をしていたことの意味。何のために、何が目的で――?
「家光、何か気がかりなことがあるのか」
浮かない顔の家光を見たマホルニアが尋ねた。家光は顔を上げる。
「あ、いいえ、大丈夫です。少し確認したいことがあったのですが、それはオブリビオンを退けてからにします」
「そうか。では標本室へ向かうことにしよう」
マホルニアの言葉に頷いた二人は、彼女の後を追って隠し部屋があると思われる標本室へ向かった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アーネスト・シートン
ワーブ(f18597)と一緒
今回も参加させていただきますけど、今回は、義弟を連れていきますか。
ということで、ワーブは今回、お手伝いお願いしますね。
さてと、それでは、わたくしは、いつもの調子でUC使用して資料集めに勤しんでいきますけどね。【失せ物探し】【動物使い】
集めた資料は【医術】【情報収集】で上手く分けておいて、必要と判断したものは持って行こうかと思いますね。
まぁ、おそらく、見た感じ、動物たちは1階だと思いますね。
しかし、状況的にオブリビオンに潜入されてしまっている状態なんですか。
まだ、間に合いますね。
急ぎましょう、ワーブ。
アドリブ歓迎
ワーブ・シートン
アーネスト(f11928)と一緒
おいらぁ、時には手伝うんですよぅ。
まぁ、主にぃ、力仕事を引き受けますよぅ。
動物たちを目覚めさせる手伝いですよぅ。
精密機械類は触れないで、主に紙資料とかを持っていくですよぅ。
オブリビオン、もぅ入ってるんですかぁ。
【野生の勘】で認識する。
じゃあ、ゆっくりはぁ、できないですねぇ。
アドリブ歓迎
●
建物の中に大きな気配が二つある。
一つは自分たちより先に来ていた複数の猟兵の気配だ。そしてもう一つは――。
「アーネスト兄さぁん、この気配ってもしかしてぇ……?」
「えぇ、ワーブ。どうやらそのようです。オブリビオンはすでに中へ入っているようですね」
義弟――ワーブ・シートン(森の主・f18597)の言葉に、アーネスト・シートン(動物愛好家・f11928)は神妙な面持ちで頷いた。だが幸いなことに二つの気配はまだ離れている。戦闘が始まっている様子もない。
「オブリビオンの様子はどうです? 何かわかりますか」
「……足音はゆっくりですねぇ。急いでいる感じはなくて、一階を中心にうろついているみたいですよぅ」
野生の勘でオブリビオンの行動を把握したワーブは、詳細をアーネストに伝えた。アーネストは落ち着いた様子で考えを巡らせる。
「……建物の外観からしても動物たちは一階にいる可能性が高そうです。急いで事にあたれば、探索を含めたオブリビオンへの対処もまだ間に合うでしょう」
「ゆっくりはぁ、できない感じですねぇ」
「えぇ。では行きましょう、ワーブ。中での力仕事はお任せしますよ」
「合点だぁ」
義兄から信頼の言葉を受けたワーブはほくほく顔で頷いた。
●
二人が向かったのはコンピュータの端末がある部屋だ。
オブリビオンが徘徊している以上、悠長に時間は掛けていられない。そこで、ピンポイントで資料を集める作戦に出た。
「さぁ、大自然の精霊よ、力を与え給え――」
アーネストを中心に自然の息吹を感じる力が広がる。周囲に転がっていた金属製の部品やガラス片が小刻みに震え、やがて小さな鼠とリスへ変わった。
「よろしく頼みますよ」
『ヂッ!』
アーネストの言葉を聞いた小動物たちは一斉に駆け出した。
そこいらに散らばっていた資料が瞬く間にアーネストの元へ集まる。アーネスト自身はコンピュータの端末へアクセスしていた。目的はこの施設の見取り図である。
「そぉれぇ~!」
アーネストから離れた場所では、ワーブが倒れていたキャビネットをひっくり返して中に埋もれていた資料を外へ掻き出している。
資料の運搬には、フロアの片隅で所在なく転がっていたコンテナケースを再利用することにした。
コンテナケースへ資料を突っ込んだワーブは、ずっしりと重くなったそれをアーネストの足元へ運んだ。それから、空のコンテナケースも同様にアーネストの元へ運ぶ。
一度、コンピュータの端末から手を離したアーネストは、続々と集まる資料へ向き直り持ち前の知識で資料を仕分けしていった。仕分けた資料の中身は以下の通りである。
職員の日誌めいたノート、コールドスリープの操作に関する資料、技術を施した動物たちの日常的な生態を記した資料、実験内容の詳細を記した資料。
仕分けた資料を眺めながら、アーネストは片手で眼鏡を軽く持ち上げた。
「これだけあれば解析へ回すには十分でしょう。ワーブ、結構な荷物になりそうですが大丈夫ですか?」
「もちろんだよぉ! どれだけ重くなっても、おいらが全部運ぶよぉ」
義兄の言葉に胸を張ったワーブは、資料で重くなったコンテナケースを次々と部屋の端へ寄せていった。その間にアーネストは鼠とリスを無機物へ戻した。
「そういえば兄さん、コールドスリープのある場所は分かったのかい?」
ワーブが手に付いた細かなゴミを掃いながら戻ってくる。
「えぇ、先ほどそこの端末にアクセスしたところ、偶然にもこの施設の見取り図を発見することが出来ました。コールドスリープは一階の標本室と隣接する備品庫の奥にあるようです」
「おぉ~、兄さんはすごいなぁ、さすがだなぁ」
目を輝かせる義弟を前にアーネストは微笑で答える。
「ふふ、そんなことはありませんよ。さぁ、そろそろこの部屋を出ましょうか。わたくし達にはまだ仕事が残っていますからね」
「そうだぁ、オブリビオンを倒すんですねぇ。おいら頑張るぞぉ」
コンピュータールームを出た二人は、足早にコールドスリープのある場所へ向かった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『フェイスレス・テレグラム』
|
POW : ブレイン・インフェクション
【端末のぬいぐるみ】から【微弱な電波】を放ち、【脳を一時的に乗っ取ること】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : ゴースト・ペアレント
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身を守ろうとする信奉者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ : ロンリネス・ガール
【端末のぬいぐるみを通して孤独を訴える電波】を披露した指定の全対象に【誰よりも彼女だけを愛したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●
「どうして邪魔をするの」
コールドスリープのある部屋へ足を踏み入れたオブリビオンが、猟兵たちを前に憎々し気な声を上げる。
「その子たちを私にちょうだい。その子たちがいないと、私は私でいられないの」
通信網としての存在を求められた成れの果て――。
顔にぽっかりと空いた穴は曖昧な自己の象徴だ。個を得られなかった彼女は今も他者に拠り所を求めている。それが力の源となっている。
「それとも、貴方たちが私を愛してくれるの?」
オブリビオンの周囲で熊のぬいぐるみが不気味に旋回を始めた。ぬいぐるみたちを通してオブリビオンの声が聞こえてくる。
『愛して、愛して、私だけを愛して――』
それは孤独に疲れ果てた少女の声だった。
マホルニア・ストブルフ
◇アドリブ連携OK
ソーシャルディーヴァか近しいもの……かね。私のネットワークも半端ではあるが、奴のは更に安定を欠いているようだな。
知覚端子とダイレイトグラスで、猟兵が行動できるよう彼女の端末をハッキング。UDC寄りの呪詛交じりのコードで妨害しよう。
嫌な音が聞こえてくるが、もしや意識のない状態の賢い動物を操ろうとしているのか? それは困るな。
彼らの意識を支配しても、結局はその人形たちと変わらんよ。
言われたい言葉を言い、してほしい身振りをするだけじゃないか。それなら私の所へ来ないかね。
甘言を以て奴を誘う。
機器は傷つけられないなら――奴が避けないようにするしかない。
確かに哀れだとは思うが、ね。
アーネスト・シートン
【シートン】
…個性のない少女…いえ…
顔もないんですか。
それで、彼らを求める。
愛を求める。
さて、ワーブ。彼女をどう思いますか?
そうですね。これは、動物たちを守るための戦い。
愛とかいう問題ではないですね。
では、現状を。
この場所で戦うわけには行きませんね。
将軍が調べた所に赴き、誘導しておきますか。
ここなら、思う存分にいけますね。いいですよ、ワーブ。
テディベア…アレが浮遊しているってのが気がかりですね…何かあるかも知れないんで、M.S.L.をスナイパーモードで命中率強化。
テディベアを次々と撃ち落としに行きます。
何かあったからでは、遅いものでしてね。抑えておきますよ。
アドリブ歓迎
ワーブ・シートン
【シートン】
なんだかなぁ、私だけ愛してってぇ…
おいら的にはぁ、色々とぉ、どうしたらいいんだろうなぁ??
殊更ながらぁ、倒さないといけないのかなぁ??
ではぁ、おいらもぉ、戦うですよぅ。
UC発動させておく。
コレはぁ、動物たちを守るための戦いですよぅ。
オブリビオンから守るためのですよぅ!
ここでならぁ、充分に戦えるですよぅ!
一気にぃ、接近してぇ、両前足で爪を振る形にしますよぅ。
更には好きアレばぁ、噛みつきも行って見るですよぅ。
アドリブ歓迎
ロー・シルバーマン
…オブリビオンになって歪みが表に出てきたのかのう。
他者に依存する在り方しかできなかったから他者を求める…だが今も生きている者を傷つけるのならその在り方を否定せねばなるまい。
哀れには思うが手を緩める事はない、それは誰もに失礼じゃろうから。
コールドスリープ装置を守りながら戦闘。
敵の攻撃は野生の勘と結界術を駆使し、コード等に流れ弾が行かぬよう極力受け止めるか壁に逸らすようにして防ぐ。
周囲の柱や壁等の部屋の地形を利用し仲間が戦っている内に相手の意識から外れるよう動き回り、外れたらUC発動させて胸等の急所を猟銃で狙撃する。
撃破後は可能な限り部屋内を元に戻し、資料等ないか追加で捜索。
※アドリブ絡み等お任せ
●
『ねぇ、愛して。私だけを愛して――?』
浮遊するテディベアの端末を介して敵の電波が飛んでくる。それは体の奥をまさぐられるような不快感を伴っていた。
存在の不安定さが電波干渉に表れている。マホルニアは険しい表情を浮かべた。
「ソーシャルディーヴァか近しいもの……かね。私のネットワークも半端ではあるが、奴のものは更に安定を欠いているようだな」
一方、ローは痛ましい表情を浮かべている。
「……オブリビオンになって歪みが表に出てきたのかのう」
他者に依存する在り方であったが故に、オブリビオンとなってなお他者を求める。だが今も生きている者を傷つけるのなら、その在り方は否定しなければならない。
「哀れとは思うが加減はせぬぞ。それは誰に対しても失礼じゃからのう」
「ウッ、ウゥッ……、キァァァァァッ――!!」
猟兵たちに退く気配がないと分かった途端、敵は金切り声と共に一層強い念を周囲に放った。
「うっ!?」
猟兵たちの体に電撃を撃たれたような痺れが走る。同時に敵の周囲を飛び回っていたテディベアの端末が、頭をこちら側に向けて突撃してきた。
「そうはぁ、させないぞぉ!」
仲間の前へ飛び出したワーブが身を挺してテディベアの体当たりを防ぐ。
「横からも来るか!」
空中を旋回して回り込んできたテディベアはローが撃ち落とした。彼は続けざまに結界術を用いて、装置やコード類を囲うように気を張り巡らせた。
特攻に失敗したテディベアは、そのまま床へ落ちるかと思いきやすぐに敵の元へ戻っていった。敵は猟兵たちをぐるりと見渡す。その顔はやはり真っ暗闇のままだ。敵の感情は気配と電波を通してのみ伝わってくる。
「個性のない少女……いえ、顔もないんですか。それで彼らを求める、愛を求める……」
敵の様子を見たアーネストは沈痛な面持ちになるが、何かを振り切るように首を横へ振った。
「さて、ワーブ。彼女をどう思いますか?」
義兄の問いかけを前にワーブは困った顔を見せる。警戒態勢を維持しつつも、ワーブは自らの気持ちをゆっくりと噛み締めるように口を開いた。
「なんだかなぁ、私だけ愛してってぇ……。おいら的にはぁ、色々とぉ、どうしたらいいんだろうなぁ?? 殊更ながらぁ、倒さないといけないのかなぁ??」
同情するべき点は色々あるが、自分たちの後ろには眠りについたままの動物たちが控えている。それもワーブと同じ灰色熊だ。ワーブはすぅと深く息を吸い込んだ。
「でもぉ、おいらぁ、戦うですよぅ。コレはぁ、動物たちをオブリビオンから守るための闘いですよぅ!」
黄金のオーラがワーブを包み込む。被毛を柔らかに揺らす色鮮やかな闘気はワーブ自身の意志の力でもあった。義弟の覚悟を前にアーネストは緩やかに微笑んだ。
「……そうですね、これは動物たちを守るための闘い。愛とかいう問題ではないですね」
自分の後ろには守るべき存在がある。猟兵たちは揃って前方を見据えた。
●
「なんで、もう、なんでっ……! 誰か私の声に応えて……っ」
敵が苦痛に歪む声を発した。と同時にテディベアが不気味に振動する。
猟兵たちは身構えるも、直接的な攻撃はなかった。代わりに換気口から大量の昆虫が室内へ入ってきた。
「ぬっ……!」
室内は虫の嵐に見舞われる。蛾、蝶、蜂。さらには鼠や鳥といった小さな動物まで押し寄せてきた。いずれもこの施設内で死にかけていたか、あるいは死んで間もない動物たちだった。敵は動物や虫を自身の信奉者に変えてけしかけてきたのだ。
羽音と鱗粉がまき散らされる中、足元では小動物たちが牙を剥く。嘴の鋭い鳥類はテディベアの端末と共に、虫の嵐を掻い潜って猟兵たちへ襲い掛かってきた。
「これ以上、こちらの行動を阻害されるわけにはいかないのでね」
マホルニアは即座にナノマシンを展開した。ナノマシンは瞬く間にテディベアの隙間へ潜り込む。マホルニアもまた独自のネットワークを持っている。
「さて……」
ダイレクトグラスを掛けたマホルニアは端末のハッキングを開始した。すると間を置かずに嫌な音が聞こえてきた。幾重にも重なったノイズ混じりの音だ。
「虫や小動物だけではなく、意識のない状態の『賢い動物』まで操ろうとしているのか? それは困るな」
マホルニアは呪詛混じりのコードを送り込む。さらに甘言を持って敵の意識を自らの領域へ誘い込んだ。
「彼らの意識を支配しても、結局はその人形たちと変わらんよ。言われたい言葉を言い、してほしい身振りをするだけじゃないか。それなら私の所へ来ないかね」
虫たちがボトボトと床へ落ち始める。敵の意識がマホルニアへ逸れたのだ。
「これは何とも不気味なことか!」
開けた視界の中、装置を見遣ったローはたまらず叫んだ。
装置やコード類に小動物たちが群がっていた。装置を攻撃するのではなく猟兵たちを威嚇するための行動だが、その身は結界によって焼かれ細い火花と黒煙を上げていた。それでも彼らは一心不乱に鳴き続けている。
「っ! やはり、この場所で戦うわけには行きませんね。将軍が事前に調べていた場所へ誘導できれば良いのですが……」
アーネストはハッとする。一羽の鳥が頭上からアーネストを狙っていた。
「!」
迫ってくる鳥へ向けライフルの銃口を定める。しかし、アーネストはすぐに銃口を下ろした。
鳥を直接撃つのは躊躇われた。頭上からの攻撃をかわしたアーネストは、銃身を小さな体へ打ち付けて鳥を失神させた。それから息を整えて室内の様子を確認する。
出入口は一か所だ。だがその近くには敵がいる。そうなると壁を無理やりにでも破壊して外へ出るしかないが、隠し部屋というだけあって壁は頑丈そうだった。
「どうするのじゃ? 直接、壁を壊して外へ出るかの?」
ローは『なぎなた』を振るいながらアーネストへ問いかけた。
装置にへばり付いていた小動物たちが『なぎなた』の風圧で吹っ飛んでいく様子を見届けたアーネストは素早く頷いた。
「それしか手段はなさそうです。ワーブ! お願いしますよ」
「おいらにぃ、任せろぉ、ですよぅ!」
咆哮と共にワーブの体が一層強く輝いた。前線から踵を返したワーブは勢いそのまま壁に体当たりする。ドォンッ――! という轟音が響くと共に室内は細かな振動に見舞われた。天井からパラパラと塵が落ちてくる。
「もういっかぁい!」
立て続けに壁へ体当たりを繰り返すワーブ。一度では無理だったが諦めずに突進を続けると壁に亀裂が入った。そこからは早い。ワーブが体当たりを繰り返すたびに亀裂は広がり、ひび割れた壁の隙間から光が差し込んでくるようになった。
「皆さん外へ!」
「行くぞぉ~!」
「承知!」
「よし」
大人が一人通れる程の穴が開いたのを見計らってアーネストが叫ぶ。ワーブを筆頭にローとアーネストが続き、マホルニアは敵の様子を確認しながら最後に部屋の外へ出た。
崩れた壁の先、施設の通路へ飛び出した猟兵たちは、通路の曲がり角を進んだ先にある中庭まで一気に走り抜けた。
●
「ここでならぁ、充分に戦えるですよぅ!」
屋外、中庭を見たワーブの声が朗々と響く。建物の外壁に囲われた場所ではあるが広さは十分だった。
「ほ! 噴水まであるのか」
中庭の中央に円形の噴水があった。飛沫は出ていないが水をなみなみと湛えている。溜まっているのはおそらく雨水だ。
「しかし、敵はついてきているじゃろうか」
「問題はない。直に――いや、もう来たぞ」
引き続き敵の端末をハッキングしていたマホルニアが後ろを振り返った。猟兵たちに追いついた敵は自らの体を抱きしめ小刻みに震え出した。
『私を、置いていかないでよ……!』
テディベアの目が怪しく光った。端末を通して孤独を訴える電波が放たれる。
「――っ!?」
電波を浴びた猟兵たちは胸を引き絞られるような感覚を覚えた。こみ上げる感情は『彼女だけを愛したい』という厄介なもの。こちらの精神を縛る攻撃だ。
「アレが浮遊しているのは何とも……」
スナイパーライフルの銃口が空中を自在に泳ぐテディベアへ向けられる。
「次に何かあってからでは遅いものでしてね、抑えておきますよ」
アーネストの気配が一段と研ぎ澄まされた。驚異的な集中力が敵の精神攻撃を振り切る。引き金へ掛けた指には一寸の躊躇いもなかった。
「キャアアアッ!!?」
テディベアを撃ち落とされた敵が悲鳴を上げた。アーネストは素早くコッキングを繰り返し、次々とテディベアを狙撃していく。
「ついでに、こうじゃ!」
ローの掛け声と共に噴水から水柱が立ち昇った。大きなアーチを描いた噴水の水は大量の驟雨となってテディベアへ降り注いだ。
精密機械に水はアウトだ。地面に転がるテディベアの表面には、ミミズがのたうつような紫電が走った。
「私の友達に酷いことしないでっ!」
端末を破壊された敵が単身、猟兵たちへ向かってくる。
「させはしない!」
光学迷彩を有したナノマシンが敵の体に取り付く。途端に敵の体は凍り付いたように動きを止めた。
マホルニアが端末を通して敵をハッキングしていた時間は長い。プロトコルの解析が終わった今、端末を通さずとも相手が持つネットワークへ直接コードを送りこむことが可能となっていた。
「うぅっ、うっ……!」
「ごめんですよぅ!」
一息に敵へ接近したワーブは、眉を八の字に下げながらも強力な爪を振りかぶった。まさに全体重を掛けた一撃だ。ワーブの攻撃をもろに受けた体は、くの字に折れ曲がった。
ワーブの眼前に無防備な肩口がさらされる。咄嗟に敵の肩へ噛み付こうと口を開いていた。しかし、敵はうめき声を上げながら立ち上がり、ワーブの顎に蹴撃を見舞った。
仰け反るワーブ。よろめきながらも後ろへ下がる敵。端末は機能せず、敵は自らの力で猟兵たちの位置を把握するしかない。一、二、三……一人足りない。
「!?」
斜め上から聞こえてきた足音を聞いて建物の外壁を振り仰ぐ敵。視界の端で豊かな銀色がたなびいた。
癖のあるローの被毛。敵がローの全容を捉えたとき、金色の眼差しは猟銃越しに敵の急所を見定めていた――否、弾丸はすでに放たれていた。
●
「く、アっ……!」
ローの銃弾に胸を穿たれた敵は、膝から崩れ落ちてぺたりと地面に座り込んだ。
『独りぼっちは……イヤ――……』
断末魔というにはあまりにも悲しい声が響いた。放電が始まった敵の体は次第に崩れていく。その体から機械のようなものがぽとりと落ちた。
「これは……」
真っ黒こげになったそれをマホルニアが拾い上げる。
「それはなんじゃ?」
ローがマホルニアの手元を覗き込んだ。
「……サーバーを構築するための機械、といったところだな」
マホルニアの手の平で機械がさらさらと崩れていく。
何はともあれオブリビオンとの戦闘は終わった。しかし、猟兵たちにのんびりしている暇はない。賢い動物たちが眠る装置や、まとめた資料を施設の外へ運び出さなければならないからだ。
「では皆で一度、施設の中へ戻りましょうか」
アーネストの提案にローは頷いた。
「うむ。ついでに部屋の片付けもしておきたいのう。なるべくなら元の状態に戻して、追加できる資料がないか探索もしたいものじゃ」
「なるほど、それは一理あるな」
ローの意見にマホルニアが同意する。
「そうですね、そうしましょうか。……ワーブ、行きますよ」
「! はぁい」
壺に手を突っ込んで蜂蜜を舐めていたワーブは、義兄の言葉に顔を上げて照れたように笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵