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銀河帝国攻略戦⑬~宇宙で向き合う悪夢

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦

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●向かう先は悪夢
「さて。銀河帝国攻略戦の続報だよ。今回は、人によっては少しばかり――或いは大いに嫌な思いをするかもしれないけれど、構わないかな?」
 グリモアベースの一角で、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は集まった猟兵達に、そう話を聞きだした。
「ドクター・オロチが乗る『実験戦艦ガルベリオン』。こいつは今、隠れていて見つけられない状態だけど、それはオロチが派遣した艦の残骸周辺にある『ジャミング装置』のせいだと判ったんだ」
 映し出されたのは、『人間の脳に無数のアンテナを刺した』ような悪趣味な装置。
 宙域内に多数設置されたこの『ジャミング装置』を破壊する事で、『実験戦艦ガルベリオン』を発見する事が可能になると判明した。
「防衛機構を突破すれば、ジャミング装置は破壊できるんだけど。その防衛機構が問題でね。こんな機能を考えた奴、相当に性悪だよ」
 珍しく吐き捨てるように溢して、ルシルは話を続けた。
「防衛機構の持つ力は、ある種の精神攻撃だ。『近づいた対象のトラウマとなる事件などを再現した悪夢世界に取り込み、対象の心を怯ませる』というものだよ。心が怯んでしまうと、その度合いに応じて進めなくなり、むしろ離れて行ってしまう」
 単純な攻撃であれば応戦すれば良いが、今回は話は別だ。
 悪夢世界を克服しなければ、ジャミング装置を破壊できる距離まで近づく事は出来ないのだから。
「必要になるのは、過去のトラウマに負けない心だよ。
 それも、恐らくは誰の助力も得られない場合が多くなると思う」
 防衛機構が再現するのは、近づいた対象のトラウマ、だ。
「対象に応じて個別に再現された悪夢世界の中では、頼れるのは自分ひとりになる事の方が多いだろうからね?」
 己の心で、己の過去を乗り越える――。
 それ以外に、先に進む手立てはない。
「転移先は、防衛装置のギリギリ範囲外だ。数mも進めば、もう精神攻撃が来る。そんな状況に送り出すしか出来ないというのも、心苦しいものだけど――任せたよ」


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 このシナリオでは、ドクター・オロチの精神攻撃を乗り越えて、ジャミング装置を破壊します。
 ⑪を制圧する前に、充分な数のジャミング装置を破壊できなかった場合、この戦争で『⑬⑱⑲㉒㉖』を制圧する事が不可能になります。
 プレイングでは『克服すべき過去』を説明した上で、それをどのように乗り越えるかを明記してください。
『克服すべき過去』の内容が、ドクター・オロチの精神攻撃に相応しい詳細で悪辣な内容である程、採用されやすくなります。
 勿論、乗り越える事が出来なければ失敗判定になるので、バランス良く配分してください。

 このシナリオには連携要素は無く、個別のリプレイとして返却されます(1人につき、ジャミング装置を1つ破壊できます)。
 『克服すべき過去』が共通する(兄弟姉妹恋人その他)場合に関しては、プレイング次第で、同時解決も可能かもしれません。

 リプレイは、精神攻撃を受けて悪夢世界に入った状況から始まります。
 (精神攻撃を受けない、というようなプレイングは却下の可能性大です)
 一緒に悪夢を乗り越えましょう。

 2/11中に執筆する予定です。
 戦争のシステムの都合、成功本数が大事だと思われますので、ほどほどの人数で締め切らせて頂くかもしれません。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
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第1章 冒険 『ジャミング装置を破壊せよ』

POW   :    強い意志で、精神攻撃に耐えきって、ジャミング装置を破壊する

SPD   :    精神攻撃から逃げきって脱出、ジャミング装置を破壊する

WIZ   :    精神攻撃に対する解決策を思いつき、ジャミング装置を破壊する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エミリィ・ジゼル
【WIZ】
トラウマですか…そうですね。
サメに食われた経験があることでしょうか。
いやぁ、こうね。
頭からバリバリ食われる経験はさすがになんというかアレですよね。
いくら死なないからって言っても辛いですよね。

まあ今となってはそんなサメともズッ友なんですけど。
あれですね。幾多の死闘を乗り越えて深い絆で結ばれる的な?

あ。トラウマと対峙するってことはサメと戦うんですか。
よし、バッチコイ。
ならばこちらは《メイド流サメ騎乗術》でマブダチのサメにライドンして
聖剣めいどかりばーとシャークチェンソーの二刀流で迎え撃つまで。
ヒャッハー!刀のサビにしてくれるわ!



●メイドとサメとチェーンソー
 ざっぱーん!
「……おや?」
 エミリィ・ジゼル(かじできないさん・f01678)の耳に、波の音が聞こえてきた。
 星の海にいた筈が、蒼い空と白い雲の広がる海辺である。
「ははぁ、この景色でトラウマ……サメに食われた時でしょうか」
 一通り周囲を見回し、得心がいった様子でエミリィは頷いた。
 さく、さく。
 砂を踏む音を立てながら、砂浜を歩いていく。
 やがて――目の前に、在りし日のエミリィの背中が見えてきた。
 と思ったら、サメに食われた。
 頭から食われた。
「いやぁ……頭からバリバリ食われる経験はさすがになんというかアレですよね。いくら死なないからって言っても、辛いですよね」
 少し視線を伏せて、エミリィがひとりごちる。
 見なくとも、当時の感触が蘇る。頭を噛み砕かれ、首を折られ、胸元に届いた牙が、細い身体を容赦なく噛み散切る――。
 そうして、過去のエミリィを食い尽くしたサメは、現在のエミリィに向き直った。
「あ、そう言う事ですか。サメと戦うんですか」
 あっけらかんと、エミリィは頷く。そこには恐れも気負いも無い。
 何故なら――。
「所詮、機械ですね? わたくし、今となってはそんなサメともズッ友なんですよ? あれですよ、幾多の死闘を乗り越えて深い絆で結ばれる的なやつです」
 告げるエミリィの隣には、いつの間にかマブダチのサメが現れていた。
 マブダチをひと撫でし、エミリィは舞うようにくるりと回る。
 メイド服のスカートがふわりと翻り――その両手に刃が現れた。
 右手には、ご近所でも評判の聖剣めいどかりばー。
 左手には、サメ型UDCの歯を流用したシャークチェンソー。
「バッチコイです」
 二刀を手に、エミリィはひらりとサメの背中に飛び乗る。
 さあ、サメ退治の時間だ。
「ヒャッハー! 刀のサビにしてくれるわ!」
 今なら、例えサメと竜巻が一緒に襲ってきても負ける気がしない。
 マブダチの背中でエミリィが振るった二刀が、大口を開けて迫るトラウマのサメを迎え撃ち、3枚に切り下ろす。
 景色が戻った時、エミリィの前にはジャミング装置の残骸が白煙を上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アーサー・ツヴァイク
…なんだ、ここ…俺、宇宙に居たような…
しかも…なんだこれ、どこもかしこも燃え上って…
これがジャミングの効果? だけど、こんなの記憶に…

…! あ、あの禍々しい炎は…あれをどうにかすればいいのか?
…? …!? あ、あの顔!

あれは…お、俺!?

…と、義父さんが言ってた…俺が今の姿になる前に、誰かが俺を改造したって…あ、あれがその姿だってのか!?

…!? 手の聖痕が…うおっ、も、燃える!?
…あの禍々しい炎と同じ…やっぱアレは過去の俺…!?

クソッ…幻の炎なんかに負けられるか…!
これが、俺の中から生まれる炎だって言うなら…うう…俺の心で制御できるはずだ…!
俺は…正義の戦士…こんな所で、膝つけられねぇんだよ…!



●禍焔
「……なんだ、ここ……俺、宇宙に居たような……」
 赤い――何もかもが赤く燃えている。
 ほんの一瞬で、アーサー・ツヴァイク(ドーンブレイカー・f03446)がいるのは、炎の世界になっていた。
「どこもかしこも燃え上って……これがジャミングの効果?」
 精神攻撃があるとは聞いていた。
「だけど、こんなの俺の記憶に……っ!」
 困惑するアーサーの目の前で、新たな炎が噴き上がり、渦巻いた。
 その内に飲み込んだ全てを焼き尽くす様な、荒く禍々しい炎。
 チリチリと頬を焦がす熱の向こうに、炎に照らされ揺らぐ影が見える。
「あれをどうにかすればいいのか……?」
 迷いながらも、アーサーが握ろうとした拳は――握り締める前に解けた。
「!? あ、あの顔! 嘘だろ」
 炎が静まり、見えた顔は見覚えがあり過ぎる。
「あれは……お、俺!? 俺じゃないか!」
 幾らか若いが――自分の顔を見間違えるものか。
 それに気づいた時、アーサーの脳裏に義父に聞かされた言葉が蘇る。
「義父さんが言ってた……俺が今の姿になる前に、誰かが俺を改造したって……あ、あれがその姿だってのか!?」
 そう自答した、その時だった。
 これまで以上に近くで、新たな熱をアーサーは感じた。
 いいや。燃えているのは、自分自身だ。
「うぉっ!? 手の聖痕が…も、燃える!?」
 アーサーのサンストーンが、見た事もない輝きを放つ。禍々しい輝きを。
「これは……あの禍々しい炎と同じ……やっぱアレは過去の俺……!?」
 ――アァ、そうだ――。
 困惑するアーサーを嗤う影が、炎に隠されて見えなくなる。

 ――アレは本当に過去の俺なのか?
 ――この禍々しい炎は、俺の中にあるのか?

 困惑と禍焔に包まれ、ぐつぐつと、思考が煮え滾る様に纏まらない。
「クソッ……幻の炎なんかに負けられるか……!」
 それでも、アーサーの心は燃えなかった。
「これが――これも、俺の中から生まれる炎だって言うなら……うう……俺の心で制御できるはずだ……!」
 其れが自分の内から燃え上がるのなら、制御できない筈など無い。
 どれだけ炎に焼かれても、踏み出す勇気は己の内にある。
「俺は……正義の戦士……こんな所で、膝つけられねぇんだよ……っ!」
 拳を握れ。ぶちのめせ。光よりも速く。いつもやっていることだ。
「俺は――ドーンブレイカーだ!」
 炎が収束する。残る炎を振り切って、アーサーは拳を真っ直ぐに突き出した。
 鈍い手応え。
 次の瞬間、熱も息苦しさも、全てが嘘の様に消える。
 ふと見上げると、ジャミング装置が炎上していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハル・パイアー
「有効な手段ほど悪辣と呼ばれるが、であればこればどれ程だろうな?」

【トラウマ内容】
自身が至上と定め、精神的支柱であり、目的遂行の基盤となっている所属する宇宙船ノーマッドのマザーAI。
過去にハルは訓練としてこれの破壊シミュレーションを受けている。
過去の回答は拒絶。意図不明の混乱の末、忠節を見せる為の訓練とみなして自決を図り、強制鎮圧をされた。
つまり、する、しない。の二択を選択すらも出来なかった。
【以上】

判定はSPD
「自身が自由になった未来。そんなものを空想する意義すらも感じない。だが、それではいけないのだろう。」

小官は精神汚染の源泉から離れ、熱線で照射し破壊します。

「回答はまだ白紙、だ。」



●白紙回答
 宇宙船ノーマッド。
 地球の言葉で遊牧民を意味するその船に、ハル・パイアー(スペースノイドのブラスターガンナー・f00443)は所属している。
 そのノーマッドのマザーAIは、ハルにとって至上と定める存在であり、精神的支柱でもあり、目的遂行の基盤である。
「成程……これの再現か」
 ハルは再現された光景に、淡々と呟いていた。
「有効な手段ほど悪辣と呼ばれるが、であればこればどれ程だろうな?」
 かつてのハルであれば、これは超えられないだろう。
 再現されているのは、過去にハルが受けたとある訓練。

 ――宇宙船ノーマッドのマザーAIの破壊シュミレーション。

 母を殺せと言われた様なものだ。
「見なくても覚えている。過去の小官の回答は、拒絶。――否、何も出来なかった、と言うべきであろうか?」
 ハルの目の前で、過去のハルが混乱している。
 訓練の意図を掴めず、不明に陥った挙句、忠節を見せる為の訓練だと結論付けて――過去のハルは、訓練用の銃を己の額に向けた。
「ああ、そうだ。あの時、小官は自決を図った。
 する、しない。その二択を選択すらも、出来なかった」
 呟くハルの前で、過去のハルが強制的に鎮圧される。
 否定してどうなる。
 それで過去が変わるわけでもない。
「これで終わりか? そんな筈も無いか」
 試験監――あの時そんな存在はいただろうか――のような者が、鎮圧した過去のハルから取り上げた銃を差し出してきた。
『撃て。マザーを破壊せよ』
 告げる声も、取れと差し出す銃も、無視して踏み込む。
 すると試験監も中も、溶けるように消えて――またすぐ先に現れた。
『撃て。マザーを破壊せよ』
『マザーを破壊せよ』
『マザーを破壊せよ』
 やかましい幻覚を振り払い、ハルは進む。
「自身が自由になった未来。そんなものを空想する意義すらも感じない」
 だが、それではいけないのだろうとも思う。
 さりとて――すぐに答えが出るようなものでもない。
 だから、今はまだ。
「回答はまだ白紙、だ」
 悪夢も精神攻撃も振り切って、ハルは今の自分が持つ圧縮重粒子放射器を構える。放たれた熱線は、ジャミング装置に風穴を空けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那

かつていた施設では色々な実験がされてました。
人を強化するための実験です。
その中にはうまくいかなかった実験もあり、
返ってこなかった仲間もいますし、
返ってきても、「壊れてしまった」仲間もいました。

止めて!と言えなかった無力感。
戻ってこなかったときの絶望感。

そんな危険な実験に選ばれないよう、
声を潜め、モルモットとして生きてきました……


ですが、もう施設は解放されました。
そして、今は猟兵として困難な状況を克服する力もあるし、
仲間もいます。

無力は有力に、絶望を希望に変えることだって
できるんです。


こんな邪悪なジャミング装置はUC【サイキックブラスト】の高電圧で破壊します。



●今はもう籠の外
 カツン。
「……やはり、ここになるのね」
 無機質に響いた足音に、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は悪夢が見せる場所が何処であるかを悟った。
 摩那が生まれ育った、実験施設。
「今思うと、ほとんど牢獄ですよね」
 呟いた摩那の視線の先にあるのは、格子窓。
 子供には決して届かない高さ。そこから外を見ることは叶わず、摩那は聞こえてくる鳥の囀りで外の変化を知り、季節の移ろいを感じていた。
 それくらい鳥に詳しくなるほど、そこで過ごしたと言う事だ。

 ――ねぇ。あしたはなんのじっけんかな?

 隣の部屋から、そんな舌足らずな声が聞こえてくる。
 施設にいた子供は、摩那だけではなかった。
 施設では、色々な実験がされていた。
 人を強化するための実験だ。
 実験――と言うからには、全てが成功だったわけではない。
 うまくいかなかった実験もあった。
 どちらの方が多かったかなんて、考えたくもない。
 けれど。
 隣の部屋から聞こえてきた声が、ふと、途絶えた。
 ああ、そうだ。
 返って来なかった仲間がいた。
 返って来ても『壊れて』しまった仲間もいた。
 ひとり、またひとりと、減っていったのだ。
「止めて!――と言えれば、良かったのでしょうか。どうでしょうね」
 言おうとは、したかも知れない。
 けれど言えなかった。
 言えない無力感。仲間が戻ってこない絶望感。それらが綯い交ぜになる中、摩那に出来たのは声を潜める事だけだった。
 自分が危険な実験に、選ばれないように。
「こんなもので、私があの頃の様に――無力なモルモットとして生きていた頃の様に、縮こまるとでも思いましたか?」
 誰に言うでもなく告げて踏み出せば、扉は開かれる。
「もう施設は解放されました。今の私は――猟兵です」
 困難を克服する力もある。仲間もいる。
「無力は有力に、絶望を希望に変えることだって出来るんです。こんな邪悪な装置を破壊する事だって、出来るんです」
 バチリと爆ぜる雷火。摩那の両掌から高圧の電撃が放たれる。
 パキンッ。
 無機質な壁が、まるで薄氷の様に崩れる。戻った景色の中、どこかの回路がショートしたらしいジャミング装置がバチバチと煩く爆ぜていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サラ・メリータティ
どうしてお母さんと会えないんですか?
私、悪い事しましたか?
いい子にしてたらお母さんに会えますか?
ずっと一緒にいたいんです
どうしてだめなんですか?
お母さんはこれでいいんですか…?
私は嫌です…どうして…どうして…
(お母さん:全てを受け入れ幽閉、戦争で傷ついた人を回復するだけの装置状態)

はわわ~!嫌な思い出が~!これはだめです!
しっかりして私!よし!
すごくお腹が減っちゃうので破壊しますね
嫌な事は沢山ありました、でもそこで縛られてたら何も変わらないんです
私は変わらないといけないんです
だからこんな幻なんでいらない

お母さん、私は立派になれましたか?
色んな人を助けられていますか?いい子ですか?
(アドリブ歓迎



●求めていたもの
「あれ? ここって……」
 サラ・メリータティ(こやんかヒーラー・f00184)が、目の前に広がる懐かしい光景に大きな緑色の瞳を思わず瞬かせた。
「あの町ですよね……?」
 かつて暮らしていた小さな町。
 と言う事は、これは装置がサラに見せている光景だ。
 ――どうしてお母さんと会えないんですか?
「っ!」
 聞こえてきた幼い声に、サラが思わず息を呑んだ。
 耳がぴこりと、その声が聞こえてきた方に向いてしまう。
 それ以上聞かなくても、誰の声かもう判っているのに。

「私、悪い事しましたか?」
 そこには、町の大人に訪ねる、在りし日のサラがいた。
「いい子にしてたらお母さんに会えますか?」
 大人たちの困り顔にも気づかず、只管母を求める少女がいた。
「ずっと一緒にいたいんです。どうしてだめなんですか?」
 大人達は言葉を濁したままいなくなり、過去のサラの声が次第に震える。
「お、お母さんはこれでいいんですか……? 私は嫌です……」

「はわわ~!」
 どうしてと繰り返す涙声を、サラの声が掻き消した。
「嫌な思い出が~! これはだめです! しっかりして私!」
 声を大にして、サラは自分に言い聞かせた。
 瞳を閉じて、息を深く吸って、吐く。
 深呼吸を繰り返し、呼吸を落ち着かせ鼓動を整える。
「よし!」
 再び目を開いた時、まだ景色はあの町のままだったけれど、誰もいなかった。
「嫌な事は沢山ありました、でもそこで縛られてたら何も変わらないんです」
 あの頃――母が、戦争で傷ついた人を癒すだけの、回復装置状態を受け入れ、幽閉されているとまだ知らなかった頃のサラは、もういない。
「私は変わらないといけないんです」
 人の役に立つクレリックに、なると決めたのだ。
 精一杯がんばって生きていくと、決めたのだから。
「だからこんな幻なんていらない!」
 そうと決めて口に出せば、周りの景色も変わった。
「すごくお腹が減っちゃうので破壊しますっ!」
 目の前に鎮座する悪辣な装置に、サラがぐっとメイスを構える。
(「お母さん、私は立派になれましたか?」)
 ガシャンッ!
(「色んな人を助けられていますか?」)
 ガシャンッ!
(「いい子ですか?」)
 ガシャンッ!
 胸中で呟いても、答えてくれる人はここにはいない。それでいい。甘えて縋りたいのではない。前に進む為の、答え無き問い。
「よし! 帰ってご飯にしましょう!」
 壊れた装置が完全に沈黙したのを確認して、サラは踵を返した。
 今日もきっとご飯がおいしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水貝・雁之助
WIZ

トラウマ
雁之助の真の姿は醜い
其れ故、嘗ては人から畏れられていた
其の事自体は当然の事と思っていたが寂しくはあった
そんな彼の住む渓に人身御供として投げ込まれた少女が居た

彼は少女を放って置けず助けた
どうせ自分の姿を見れば怖れるに決まっていると思っていた雁之助の予想は
外れ少女は雁之助を恐れず彼を父と慕い懐いた

少女との暮らしはとても幸せだった

だがUDCと戦っている間に眷属に煽動された村人により少女は殺された
其の後の彼の真の姿を受け入れてくれた多くの出会いすら塗り潰せない
彼のトラウマだ

本当にきついけど、あの子の様な犠牲を出さない為にも負けられないよね

此処で負けたら僕の様な想いを誰かにさせちゃうからさ



●忘れ得ぬ記憶
 柴犬をお供に、各地を放浪する画家系シャーマンズゴースト。
 それが、現在の水貝・雁之助(おにぎり大将放浪記・f06042)の姿である。
「っ――ここ、は……」
 そして今、雁之助の前に広がる光景は、彼が現在のような生活を始める以前に住み着いていた渓のものだった。
 雁之助の真の姿は醜い。
 其れ故に、嘗ては人から畏れられる存在だった。
 寂しくはあったけれど、畏れられる事自体は当然と受け入れていた。
 そう言うものだろう。
 渓に、少女がひとり降って来る。
 それに、過去の雁之助が近寄っていく。
 あれは降って来たのではない。人身御供に投げ込まれたのだ。
(「放っておけなかったんだよね」)
 雁之助は、少女を助けた。どうせ回復して自分の姿を見れば、他の人たちと同じように怖れて離れていくだろうと思って。
 だが、その予想は大きく裏切られ――少女は雁之助を父と慕い、懐いたのだ。
(「幸せだったなぁ……うん、幸せだった」)
 少女と過ごした日々を思い出し、雁之助はひとり頷く。
 そう。確かに幸せだった。

 だからこそ、この先は出来る事ならば見たくない。
 だが、置かれた環境は其れを許さない。

『一寸行って来るよ』
『いってらっしゃい』
 とあるUDC眷属との戦いに赴く雁之助を、少女が見送る。
 嗚呼、其れは最後の会話になる。
 其れを、雁之助は黙して見ていた。これは夢だ。機械の見せる悪夢だ。今ここで雁之助が過去の自分に行くなと言っても、過去が変わるわけが無い。
 そして、景色が一変する。
 立ち込める血の臭い。
 戦いから戻った雁之助の前に、動かぬ少女が無残な姿で横たわっている。
 UDC眷属に煽動された村人達によって、少女の笑顔は、命は――奪われた。
 その瞬間が映されなかったのは、雁之助が見ていないからか。
 それとも――機械すら映せぬ程に、忌避しているからか。
 いずれにせよ、雁之助はまだ少女の死を忘れられずにいる。
 あれから月日は流れ、雁之助の真の姿を受け入れてくれた多くの出会いすらも、塗り潰せないでいる。
「きつい……本当にきついけど」
 再び進み出した雁之助の足元には、柴犬のモコが戻ってきていた。
「此処で負けたら、僕の様な想いを誰かにさせちゃうからさ。あの子の様な犠牲を出さない為にも、負けられないよね?」
 あの時――渓に響く慟哭が自分のものだと気づくのに、どれ程かかったか。あんな想いをするのは、ひとりでたくさんだ。
 悪夢を抜けて、雁之助がジャミング装置を塗料で塗り潰す。
 誰かが悲しむ姿を見たくない――その源流を、雁之助はより強く認識していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

譲葉・秀幸
僕のトラウマは、初恋の女性が事故死したこと。
僕は小学生の頃、よくゲームをして遊んでくれた、近所のお姉さんに憧れていました。

でも、彼女は幼子を助けて死んでしまった。
車道に飛び出した幼子が、車に轢かれそうになっている所に、割って入ったそうです。
彼女に突き飛ばされた幼子は無事で、でも彼女は……。

もしその現場に僕がいれば、誰も死なない結果があったかもしれない。
過去は変えられないとしても、もし今、僕の大切な仲間たちが死んでしまったら……。

でも、僕の仲間たちは、猟兵として各世界へ飛び、事件を解決し、元気に戻ってくるくらい、タフなので。
今ならきっと、皆で力を合わせて、問題を解決できますよね。



●守りたかったもの
 そこは見覚えのあり過ぎる街だった。
「何とも、リアルなものですね」
 急変した景色にも慌てた風もなく、譲葉・秀幸(アストロフェル・f03775)は通り過ぎていく車を見送る。
 もう何のトラウマを見せられるかは、判っていた。
「あの人の事……ですね」
 呟いた秀幸の視線の先から、その人が歩いてくる。
 小学生の頃によくゲームをして遊んでくれた、近所のお姉さん。
 年上の、憧れていた女性。
(「幻ですよ。判っています」)
 胸中で自分に言い聞かせる。何故なら、彼女はもう――この世にいないのだから。

 てん、てん、てん。

 脇道から跳ねてきたボールを追って、子供が車道に飛び出す。
 それと同時に、角を曲がったトラックが道に入ってきた。
 顔色を変えた彼女が子供を追って道に飛び出して行って――。
「本当に――リアルですね。僕は見ていない筈なのに」
 思わず伸びた空を切った手をそのままに、秀幸はぽつりと溢した。
 あの日、彼女は幼子を助けて死んでしまった。
 車に轢かれそうになった幼子の元に飛び込んで、突き飛ばして助けたそうだ。
 そう聞いただけなのに。
 ふと、秀幸はもうひとり、小さな影が立っているのに気づいた。
(「――ああ、そうか」)
 それは、小学生の頃の秀幸だった。
 もしその現場にいたら、誰も死なない結果があったかもしれない。
 彼女は、死ななかったかもしれない。
 まだ大した力もない子供だったのに。子供だったからこそか。そんな風に考えた事があったから、こんな光景を再現されたのだろうか。
『そうだよ。助けられっこない。お前には彼女も、誰も』
 幻覚の秀幸が、幼い姿に似合わぬ声で告げてくる。
「ええ。そうでした。どの道、過去は変えられません」
 大人になった秀幸は、大切な仲間たちの顔を思い浮かべながら幻の声に返した。
 もし彼ら死んでしまったら……そんな風に考えた事が、ないわけではないけれど。
「僕の仲間たちは、皆タフなんですよ。各世界へ飛び、事件を解決し、元気に戻ってくるくらい、いつもの事です。
 だから、今ならきっと。僕ひとりでは出来ない事があっても、皆で力を合わせて、問題を解決できますよ」
 争いごとは苦手だけれど、そんな仲間たちと肩を並べていたいから。
 ほんの少し口元に笑みを浮かべて、秀幸は藤切丸の鯉口を切って戻した。
 ――キィンッ。
 不死者すら切るという刃の鍔鳴りが、周りの全ての幻を打ち払う。
「破壊させて貰いますよ」
 くいっと眼鏡を押し上げて、秀幸の召喚した小型の猫兵器の群れが、露わになったジャミング装置に飛び掛った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シュトフテア・ラルカ
乗り越えるべき過去…ですか。
過去など無い私ですと、何をトラウマとされるのでしょう。

トラウマは、何も自分にはなかったこと。
記憶も何もないということは自分が無いということ。
猟兵になったのだって、流されただけ。
正確な年齢も分からず、名前だって借り物。
廃墟で一人無傷で彷徨う。なら廃墟を作ったのは?

まあ、今そんなことは知らねーですが。
自分自身を見つけるためとか、そんなの関係なく、楽しいから調べる。
楽しいから知識をつける。その中で縁だってできる。
本当の記憶を持って来られたら多少面食らうでしょうが、それだけです。
過去の私は別人、私は私なのです。

今が楽しいのです。早くジャミング装置なんぞ壊してしまうです。



●何も無いからこそ、何にもなれる
「過去など無い私ですと、何をトラウマとされるのでしょう」
 そんな、何が出るのかと期待すらした風に呟いて、シュトフテア・ラルカ(伽藍洞の機械人形・f02512)がその領域へ踏み入れる。

 ――何もなかった。

 何もない、真っ白な世界にシュトフテアは立たされている。
「成程。こうなりますか」
 かつていた廃墟でもない、何もない空虚な世界。
 正に伽藍堂。
 過去もトラウマも、何もない。
「記憶も何もないんですから、自分が無いと言う事ですか」
『そうですよ。あなたは何も無いんです』
 呟いたシュトフテアと同じ声が、背後から聞こえた。
(「振り向かなくても、何となく判るです。あれは過去の私」)
『何でこの先に行くですか。何で戦うですか。何も目的はないのに』
 そうかもしれない。
 猟兵になったのだって、流れでなっただけだ。
 正確な年齢も知らず、シュトフテアという名前だって借り物だ。
 廃墟で独り、無傷で彷徨っていた。霞がかっていた意識が、何故ある日突然明瞭になったのか、未だに判っていない。そも、廃墟を作ったのは――誰?
 自分のことなのに、判らない事が多すぎる。
『そんな伽藍堂が何しに行くですか。止まればいいじゃないですか。あの廃墟に戻れば安全じゃないですか』
 足を止めようと、進ませまいと。幻のシュトフテアが腕を絡ませ、後ろで囁く。
「知らねーですよ、そんな事」
 その声に、本物のシュトフテアが振り向きもせずに言い捨てる。
「自分自身を見つけるためとか、そんなの関係ねーのです。私は、今が楽しいのです」
 楽しいから、調べる。
 楽しいから、知識をつける。
 楽しいから、前に進む。
 楽しいから、何処だって行ける。
「そうしてる内に、縁だって出来たですよ」
 前を見る琥珀の瞳は、過去の囁きに揺らぎはしない。
 何もない。真っ白。
 それは空虚とは限らない。何でも書けると言う事だ。
 真新しいページと同じだ。
「本当の記憶でも持って来られたら、まあ多少面食らうでしょうが。それだけです」
 それがどんなものでも、受け入れられる自信が、シュトフテアにはあった。
「過去の私は別人、私は私なのです。だから、邪魔すんじゃねーです」
 絡み付こうとする過去を振り切って、シュトフテアは悪夢の世界を切り抜ける。
「こんなジャミング装置なんぞ、早く壊してしまうです」
 すかーれるちゃんから放たれた弾丸が、ジャミング装置を撃ち抜いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

一駒・丈一
トラウマ、か。
きっと幼少の頃の記憶だろう。

我が一族の地に<奴ら>が来て、
一族郎党むざむざと殺され、その首を目の前に並べられ……
怒りで視界が揺らぎ、憎しみで世界が赤くなった。
——にも関わらず
俺は、何も出来なかった。
何一つ、成せなかった。
奴らに全く太刀打ちが出来なかった。

今回は、どうだ?
人生の半分に差し掛かる齢となった今において
同じ状況を見せられ
同じ状況下におかれ
一駒・丈一という人間は、果たして何かを成せるのか?


——分からん、な。
だが、少なくとも今は……
真の恐怖は過去でなはなく、やがて来る未来で何も成せない事だと知った。
だからこそ。

明日を渇望する身であるが故。

この幻影を、『罪業罰下』にて切り払う。



●其の刃は何の為に
「ふん。やはりこの記憶か」
 トラウマを再現される。そう聞いて予想した通りの光景が広がり、一駒・丈一(金眼の・f01005)は面白くなさそうに呟いた。
 それは、一族が滅んだ日――。
 <奴ら>は突然やってきた。
 一族郎党、為す術なくむざむざと殺されていくのを、また見せつけられる。
 幼い丈一の目の前に、苦悶の残る一族全員の首が並べられる。
 あの時の怒りは、視界が揺らぐ程だった。
 憎しみは、世界が赤く染まる程だった。
 血を流し、慟哭でもしていたのだろうか。
「……かもな。何にせよ、あの時の俺は、何も出来なかった」
 幼い丈一は、何一つ成せなかった。
 <奴ら>に太刀打ちも出来なかった。
 仇を討つ事はおろか、刺し違える事も、戦って死ぬ事すらも――。

(「今回は――どうだ?」)
 今の丈一は、人生の半分に差し掛かろうという齢になった。
 あれから仇を探し、戦いに明け暮れた。
 幾多の戦場を彷徨い、前にした敵は悉く倒してきた。倒して、斃して――猟兵となった丈一は、自分と同じく復讐や断罪を誓う者と出会う内に、次第に彼らに手を貸すようになっていた。
 思えば――あの日から、随分と遠くに来たのかもしれない。
(「俺は、どうする? 一駒・丈一という人間は、果たして何かを成せる?」)
 同じ状況を見せられ。
 同じ状況下におかれ。
 未だ、届かない己の仇の影を見せられて。
 ――何をしている、と幼い自分が仇を見るような目つきで叫んでくる。
「分からん、な」
 告げた言葉は、幻に向けたのか、自分に向けたものか。
「だが、少なくとも知った事はある。真の恐怖は過去でなはなく、やがて来る未来で何も成せない事だと」
 今は、明日を渇望する身であるが故。
 丈一は介錯刀の柄に手をかける。
「だからこそ……この幻影を切り払う」
 丈一が告げた、次の瞬間。
 ザンッと振り下ろされた斧が、幼い丈一の首を切り落とす。
「っっ!!!!」
 それと同時に、丈一の首にも焼け付くような味わった事がない激痛が走った。
 ――罪業罰下。
 己に課せらた因果を逆転させて放つ、間合いを超える斬撃。
 だが、この幻覚、悪夢世界の中で逆転される因果とは『幼い丈一が生き残った』と言う事実以外に何があると言うのか。
 丈一が想像し得る中で『最も死に近い痛み』が、装置の力で強制的に脳裏に走り痛覚が反応する。
 それでも――所詮、この痛みすらも幻覚だ。
「――っぁ!」
 堪えて抜き放った介錯刀の一閃に、幻覚が斬り砕かれて消えていく。刃の間合いを遥かに超えた先で、ジャミング装置も斬り裂かれて沈黙していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エルタニン・ルクセ
竜を崇める爬虫人、正しき竜が滅び彼らも堕落してしまった。

私は部族の戦士として獣を狩り、集落を守ってきた、だが…
爬虫人の一団が集落を奇襲した、私に敵わなかった男、私に求婚し拒絶された一人が奴らを手引きしたのだ。

赤く焼けた鉄…民の多くは奴らの飼う大蜥蜴の餌となり、価値があると判断された者は王の財産を示す竜を模した烙印を押された。
穴倉で、粗末な剣で王の楽しみのため捕虜や怪物と戦った。悍ましい触手に蹂躙され、地に這い傷が増えるのを見て奴らは嘲笑した。


…今、私の手には竜の力がある。叛逆し、奴らの崇める邪な竜を屠った力、正しき竜の導霊が、ならば胸の竜の印を恥じることはない、堂々と晒そう、私は竜の騎士なり!



●竜の印
「此処か」
 見覚えのあり過ぎる薄暗い地下の景色に、エルタニン・ルクセ(蛮竜騎士・f10927)は吐き捨てるように呟いた。
 浮かび上がるのは、赤く焼けた鉄。
 それが、エルタニンの左胸に竜の烙印を押す。
「――っ!」
 傍から見せられるその光景に、未だ残る烙印が疼いた気がして、エルタニンは歯を食いしばる。
 烙印を押した者達は、下卑た笑みを浮かべて『お前は奴隷』だと告げてくる。
 それから、エルタニンの剣闘奴隷として、地下闘技場で命を繋ぐ日々が始まった。

 エルタニンは元々、辺境蛮族の一員であった。
 何にもまつろわぬ部族の戦士として、獣を狩り、集落を守ってきた。
 だが――守りきれぬ事が起きてしまった。
 爬虫人の一団に、集落が奇襲されたのだ。ただの奇襲だったならば、おいそれとやられる事はなかっただろう。
 だが、集落の、部族の中に敵がいた。
 獅子身中の虫は、エルタニンに敗北を喫した男。その求婚を拒絶し跳ね除けた事が、最大の切欠になったのだろうか。
「……今となっては、詮無き事だな」
 いずれにせよ、部族は狩る側から狩られる側になった。
 戦う力の無い民の多くを餌とした大蜥蜴の幻影が、エルタニンの前に現れる。
「っ!」
 それを一撃で切り払う。更に現れる怪物の幻影を次々と切っていく。
「……これで終いか?」
 忌まわしい過去の幻影を一通り見せられた。悍ましい触手に蹂躙された時や、地を這い嘲笑を浴びた敗北した記憶も余すところ無くなぞられ、その全てを打ち払い。
 それでもエルタニンは、毅然と立っていた。
「過去の何を怖れる必要がある。今、私の手には竜の力がある」
 絆を結んだ、誇り高い旧き竜の魂。
 敵どもが邪な竜とは違う。邪な竜を屠る力。
 正しき竜の導霊が、エルタニンの身に力と宿っている。
「今の私にとって、胸の竜の印は何一つ恥じるものではない。これは、誇り高い旧き竜の魂を持つ証だ」
 即ち、竜の騎士の印。
「……これが今、私の手にある竜の力だ! 私は竜の騎士なり!」
 エルタニンが投じた槍が、間に立ちはだかる幻影全てを貫いて何かに突き刺さる。
 地下闘技場の風景が崩れて消えていくと、放たれた旧き竜の顎によって粉々に噛み砕かれたジャミング装置がエルタニンの目の前にあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイリーン・ルプス
ここは……私が私が囚われていた牢獄ね。それに姿が朧気だけど、私を弄び、嬲り、辱めていた憎き領主。
逃げなきゃ……またこんな所に閉じ込められるなんていやよ!私は、絶対に自由を手に入れてみせるんだから!
だめ……あいつは何処までも追いかけてくる。もう、あいつからは逃げられないの?
……そうね、どれだけこの身が逃げられても、心までは逃げ切ることは出来ないかもしれない。だったら、きちんと立ち向かうしかない。
まだ、ちゃんと正面から向き合う事は出来ないかもしれないけれど。せめて今は、抵抗するっていう意思を示すわ。
愛銃を向け、装置ごと奴の脳天に数発打ち込むわ。今はさよなら。いつか必ず、あなたを乗り越えてみせるわ。



●幼心の在り処
「ここは……あの牢獄ね」
 アイリーン・ルプス(ヒドゥン・レイディ・f02561)は、急変した周囲を見回し、それが何処の光景であるか悟って、小さな溜息を溢した。
 それは、アイリーンがかつて囚われていた牢獄だ。
(「……待って、場所だけ? もしかしたらあいつも――」)
 アイリーンの胸中に浮かんだ疑問が、形を持つ。
 姿は朧気なのは、アイリーン自身、その姿をもう良く覚えていないからか。
 それでも、判ってしまう。
 あれはかつて、幼いアイリーンを愛玩の身に落とし、弄び、嬲り、辱めた憎き領主。
(「早く逃げなきゃ……またこんな所に閉じ込められるなんて、嫌よ!」)
 また昔の様に――頭の中で首を擡げたそれを否定する様にアイリーンが頭を振ると、ダークピンクの髪が左右に揺れる。
(「私は、絶対に自由を手に入れてみせるんだから!」)
 今が自由の身である事を忘れて、アイリーンの足は牢獄の扉を蹴破り逃げてしまう。
 だが――どれだけ逃げても、景色は変わらなかった。
 逃げても逃げても牢獄の外には出られず、領主の幻影はまるで複数いるかの様に何処にでも現れる。
(「もう、あいつからは逃げられないの?」)
 思わず弱音が口をついて出そうになって、アイリーンは唇を噛んで堪えた。
「……違う」
 呟いて、逃げる足を止める。
「きっと私が、心まで逃げ切れてないからね」
 あの日、唐突にグリモア猟兵の力に目覚め、自由を求めて逃げ出した。それが悪い事だったとは思わないけれど。身体だけ逃げても、心が逃げ切れていないのだとしたら。
「私がきちんと立ち向かうしかないわね」
 まだ正面から向き合う事は出来ないかも知れないけれど。
「もう、逃げるだけの少女じゃないって――せめて抵抗の意思を示さないとね」
 呟いて、アイリーンは大きく深く息を吸い込む。

 ――ォォォォォオン!

 響いたのは人狼の咆哮。その衝撃が幻影をかき消し、牢獄の景色を揺らがせる。揺らいだ景色の向こうに、歪な装置の端が見えた。
 すぐに牢獄の幻影が戻り、領主の幻も再び姿を現し――アイリーンがそれに向けて、片手を掲げて真っ直ぐ向ける。
 その掌には、そこに収まるほどに小型・軽量化した回転式拳銃が握られていた。
「今は――さよなら。いつか必ず、あなたを乗り越えてみせるわ
 まだ少し震える声で告げて、アイリーンの指が愛銃の引鉄を引いた。
 弾丸が領主の幻の額を撃ち抜いても、指は止まらない。
 弾装にある全弾を撃ち尽くし、撃鉄がカチンと空の音を立てるまでアイリーンは引鉄を引き続けた。
 幻影ごと撃ち抜かれたジャミング装置は、煙を上げて沈黙していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月11日


挿絵イラスト