「まずは集まってくれたことに感謝を」
プレケス・ファートゥム(森を去りし者・f02469)が、猟兵たちに軽く頭を下げる。
「戦争で疲れているところ申し訳ないが、皆には『ゾンビ化の調査』への協力をお願いしたい」
オブリビオン・ストームは、破壊したものをオブリビオンへと変貌させる。それはアポカリプスヘルにおいては、常識といってもいい事実だ。
だが最近になり、もともと死んでいたものが巻き込まれると、ゾンビ化しやすいのではという推論が立てられた。
それを確認するためにはデータが必要となる。
「つまりは、皆に、そのゾンビ化オブリビオンと戦ってもらう、ということだ」
そういうと、プレケスは机の上に地図を広げた。
「皆に向かってもらいたいのは、ここだ」
プレケスの指が地図の一点、ソルトレークシティの北にある山の中腹のあたりを指さした。
ここでは違法の兵士型フラスコ・ベイビー製造が行われていた。だが、トラブルが起こり、一人の科学者、正確にはそのクローンが死亡。さらにフラスコ・ベイビー製造施設も再建不可なまでに破壊され、故に放棄されることとなった。
それらがすべて、ゾンビ化オブリビオンとして復活しているのだ。
リーダーである科学者のクローン――『ダラキュリア・クローン』の命令により、フラスコチャイルドたち――量産兵子『ジャックス』は研究所の敷地より外へは行かない。
ダラキュリア・クローンは、何かを従わせ、管理することを好む性格をしている。その性格からジャックスたちを管理下に置いていたため、ジャックスたちがさ迷い出ることはなかった。だが、いつ気まぐれに、その支配地域を広げようとするかわからない。
データ収集のことがなくても、放置してよいものではない。
あいにくとダラキュリア・クローンの居場所は読み取れない。だが、ジャックスたちを倒していれば、管理の妨害をされたと判断し、怒りのまま猟兵たちの前に現れるだろう。
「ゾンビ化オブリビオンの特徴として、知性を失い、代わりに全体的にパワーアップしている。危険ではあるが、罠には引っ掛けやすいかもしれないな。ああ、それと、外見に腐敗などと言った目立った特徴はない」
伝えられる情報は以上だ、とプレケスが締めくくる。
「転移先は研究所の敷地内だ。ジャックスたちは常に巡回しているため、すぐに侵入を察知し襲い掛かってくるだろう。気を付けてほしい」
そういうとプレケスは自身の肩に留まっていたグリモアを指でつつく。
つつかれたグリモアは出番だなと言わんばかりに、プレケスの頭の上をクルリクルリと旋回したあと、猟兵たちのほうへと飛んでいく。
「君たちの無事の帰還を待っている」
その言葉を合図に、プレケスのグリモアがきらきらと光を放ち、猟兵たちを戦場へと送り出した。
白月 昴
目を通していただきありがとうございます。
この依頼は、2章完結の、戦後依頼となります。
●転移先:ソルトレークシティの北の山にある、壊れた研究所。
そこそこの大きさがあります。
建物は半壊しており、電気など動力は一切ありません。
●一章:量産兵子『ジャックス』
兵士として量産されるはずだったフラスコチャイルドたちの成れの果て。
もともと兵士として無駄口をたたかないように調整されてる上に、ゾンビ化して知能が低下してるため、うめき声ぐらいしか口にしません。
彼らを倒しきれば、怒りに燃えたダラキュリア・クローンが現れます。
●二章:『ダラキュリア・クローン』
ある科学者のクローンが、オブリビオンになりました。
何かと管理したがる性格で、オブリビオンになった後も、ジャックスたちを管理することに満足感を得ています。その分、テリトリーを侵すものに対しては激しい敵意を抱きます。
元の知性が高いおかげか、ゾンビ化していても、辛うじて会話はできるのですが、基本侵入者への罵詈雑言しか話さないでしょう。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『量産兵子『ジャックス』』
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POW : スラッシュ
【刀】が命中した対象を切断する。
SPD : デスパレート
敵を【捨て身の一撃】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
WIZ : ブースター
【危険な薬物の入った注射器】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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播州・クロリア
敵のボスは管理することを好む科学者のクローンですか
科学者・・・管理することが好き・・・
(苦虫を噛み潰したような顔をする)
嫌な奴の顔を思い出してしまいました
ダラキュな気分です
(息を吐いてから直立し目を閉じて両腕で自分を抱きしめるようなポーズをした後{白銀の旋律}で『ダンス』を始める)
荒れた心にはこの旋律がリアですね
何もかもが真っ白に塗りつぶされていく
(敵の攻撃を『衝撃波』で防ぎながら『オーラ防御』の応用で作ったオーラの檻に敵を閉じ込めて『捕縛』し
UC【蠱の腕】で{錆色の腕}を刀剣に変えて『斬撃波』で敵を切り刻む)
静寂を作るのにもこの旋律がリアです
全て骸の海へ還してしまいましょう
「敵のボスは管理することを好む科学者のクローンですか」
崩れ、放置され、荒れ果てた研究所の、かつては玄関ホールであったであろう場所で、播州・クロリア(踊る蟲・f23522)はぽつりとつぶやいた。
(科学者……管理することが好き……)
伝えられたボスの特徴に、クロリアが苦虫を嚙み潰した顔をする。
「嫌な奴の顔を思い出してしまいました。ダラキュな気分です」
過去の記憶に引きずられ、どんよりとしたものがクロリアの心に押し寄せる。けれど、思いにふける時間は与えられなかった。
――カッカッカッ!
聞こえた足音に意識を切り替えた。
音の主は当然、量産兵子『ジャックス』たちだ。数体のジャックスたちは侵入者であるクロリアを見つけ、排除せんと駆け寄ってくる。
――ァーーー!
そのうちの一体が、言葉にならない甲高い声をあげる。警告音に似たそれは、まさしくその役目を果たし、他の場所を巡回していたジャックスたちが集まってきた。
それを見て、クロリアは静かに一つ息を吐く。
真っすぐに立って目を閉じて、自分をぎゅっと抱きしめる。怯えて、ではない。
そして、クロリアは動き出す。
優雅に、けれど静やかに、そして時に大胆に。
見るものを魅了するステップにより、奏でられるのは白銀の旋律。
心あるものがいれば見えただろうか。しんしんと降り積もる雪と、朝日に照らされ光り輝く雪原が。
「荒れた心にはこの旋律がリアですね」
クロリアは静寂と純真のリズムを刻む。
そのリズムに、荒れた研究所もそこに漂う寂れた空気も、何もかもが真っ白に塗りつぶされていく。
けれど、濁った瞳をしたフラスコチャイルドの成れの果てたちには、それを感じる心はなく。ただ一つ残された戦いの本能に従い、ジャックスたちは、感情のない、乾いた剣を振るうのみ。
「ダラキュですね……おおっと」
ジャックスたちの鋭い刃が、クロリアの身へ迫る。だが、クロリアは静やかな、けれど軽やかなステップで剣を避ける。
――ザンッ!
クロリアを捉えようとした剣は、だが彼女のステップが生み出した衝撃波に弾き飛ばされる。
剣を躱し、弾き飛ばし、くるくると動くクロリア。
それを捉えんとするジャックスたちは気づかなかった。自分たちが誘導され、集められていることに。クロリアが生み出した、オーラの檻に。
「はい、捕まえました」
逃げ出そうと暴れるジャックスたちに、クロリアは告げる。
「ダラキュな貴方に相応しい腕が決まりました」
クロリアの右腕が、金属へと変わっていく。それはさらに変形を続け、剣と化す。クロリアは、ぴしりと剣をジャックスへ突き付けた。
「全て骸の海へ還してしまいましょう」
振るわれた剣が空を切る。それにより生み出された空気の刃は斬撃と化し、オーラの檻もろとも、ジャックスたちの命運を断ち切った。
――ドサリ
鈍い音を立て、地面へと倒れ伏したその体は塵となり散っていき、何も残らなかった。
クロリアがダンスを終える。
奏でられていた旋律が止まれば、幻の雪原さえ消え失せ、何もない静寂が訪れた。だが、クロリアは知っている。この静寂はこの一瞬だけなのだと。
新たな足音を、クロリアは捉えていた。
大成功
🔵🔵🔵
御形・菘
ゾンビ化しやすい、とか曖昧すぎるあたり、ホラー系都市伝説っぽくてイイ感じだのう
とはいえその辺の研究は誰かに任せ、妾はゾンビハンターとなろう
襲いくるゾンビ兵士にマッドな研究者! 片っ端からボコってくれよう!
右手を上げ、指を鳴らし、スクリーン! カモン!
はーっはっはっは! 今日も元気かのう皆の衆よ!
此度のシチュエーションは、廃研究所で迫りくるゾンビたち!
普通ならバッドエンド系絶叫ホラーになってしまう展開だが…分かるであろう?
これから始まるのは無双系アクションだ!
薬物を使おうが構わんよ、それで応援を受ける妾に勝てると考える、その傲慢が喜ばしい!
さあ、邪神の左腕にボコられたい奴からかかってくるがよい!
「ゾンビ化しやすい、とか曖昧すぎるあたり、ホラー系都市伝説っぽくてイイ感じだのう」
御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、廃墟と化した研究所を前に、楽し気に笑う。
「とはいえその辺の研究は誰かに任せ、妾はゾンビハンターとなろう」
研究は無論大事だろう。だが、カメラ映えしないものに興味はそそられない。
「よしそろそろだな」
聞こえ始めた足音に、菘は配信用ドローンを確認し、カウントに入る。
――3、2、1、0!
「スクリーン! カモン!」
菘が右手を上げ、指を鳴らせば、周囲の空中にディスプレイが浮かび上がった。
「はーっはっはっは! 今日も元気かのう皆の衆よ!」
『生配信一番乗りー!』
『きゃー、菘さん~』
ディスプレイには、期待にあふれた老若男女の顔が映っていた。彼らは菘の生配信を楽しみにしているファンたちである。
「此度のシチュエーションは、廃研究所で迫りくるゾンビたち!」
まるで菘の紹介に合わせたかのように、このエリアを巡回していた量産兵子『ジャックス』たちが現れる。
――ァーーーーーーー!
ジャックスたちが警告音まがいの声をあげれば、遠くにいたジャックスたちが集まってきた。
「普通ならバッドエンド系絶叫ホラーになってしまう展開だが……分かるであろう?」
にやりとディスプレイに向け菘が笑いかければ、ファンたちから歓声が上がる。
それに応え手を振る菘に向け、ジャックスたちが剣を抜き放ち、斬りかかる。
その数は一体二体ではない。無数の刃はすでに至近距離に迫り、回避は到底間に合わない。
その情景に、視聴者たちが悲鳴を上げかける。
だが。
「これから始まるのは無双系アクションだ!」
――ブゥンッ!
凄まじい速度で振り切られた菘の左腕は、斬りかかってきたジャックスたちを剣ごと吹き飛ばした。
「襲いくるゾンビ兵士にマッドな研究者! 片っ端からボコってくれよう!」
高らかな菘の宣言に、視聴者がわっと沸いた。
ファンからの歓声が、応援が、菘を強くし、それはさらに派手なアクションを生み出していく。
迫りくる敵を殴り飛ばし、握りつぶし、打ち据える中、ジャックスたちの動きが変わったことに菘が気づいた。
「うむ?」
一部のジャックスたちが、倒れた仲間の元へ駆け寄った。一見、仲間を心配しているように見える行動。しかし、菘はそうでないことを見て取る。
「薬物を使おうが構わんよ、それで応援を受ける妾に勝てると考える、その傲慢が喜ばしい!」
ジャックスたちは、仲間に薬を投与することにより、回復と強化を行っていたのだ。当然、まっとうな薬ではなく、体を蝕む毒まがいの強化剤だ。けれど、心無き彼らに、その投与を躊躇するという感情は存在しない。
薬品を投与されたジャックスたちが、血走った眼を菘へ向ける。
『ガアアアアア!』
濁ったうなり声をあげながらジャックスたちは、菘へと突進してくる。剣を持つ腕の筋肉が、歪に盛り上がっていた。
「甘い!」
それに向け、菘は携帯可能ギリギリの巨大な、いや超巨大な浪漫砲というべき荷電粒子砲を発射する。
――ドオオオオオオオンン!
すさまじい光の砲撃が、敵を吹き飛ばしていく様に、視聴者も大盛り上がりである。
砲撃の後に残ったのは、わずかな数のジャックスのみ。
菘は高らかに告げる。
「お主にも見えるであろう、聞こえるであろう? この感動を背負い、後押しされる限り、妾は最強無敵よ!」
視聴者の映るディスプレイを背に立ち、場を支配する菘の圧倒的な存在感に、心持たぬジャックスたちさえもが気圧されたかのように足を止めた。
一瞬の静寂。
だが、それは、新たに響いたジャックスたちの足音によって壊される。少なくない数だ。
しかし、心配は無用。真の蛇神にして邪神たる彼女の前に、立ち続けられる敵など存在しないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
エリー・マイヤー
はぁー…
ご同輩の成れの果てが相手とか、死ぬ程テンション下がりますね。
いや、死んでるのはご同輩の方なんですけど。
…アホなこと言ってないで殲滅しましょうか。
まずは【念動ハンド】で適当に敵群を掴みます。
そのまま鈍器代わりにして敵を潰します。
潰した敵も含めて掴み直して鈍器を一回り大きくします。
サイズアップした鈍器でまた潰します。
以下繰り返しです。
敵が攻撃してきたら【念動力】で押し返して後退させて、
そのまま鈍器の仲間入りです。
酷い光景ですね。鬼畜外道の所業です。
こんな扱いされてるんだから、文句の一つも言ってくださいよ。
ゾンビにそんなこと言っても、無駄なんでしょうけど。
はぁー…
自己嫌悪で吐きそうです。
「はぁー……」
崩壊した研究所の前で、エリー・マイヤー(被造物・f29376)はため息とともに、紫煙をくゆらせた。
「ご同輩の成れの果てが相手とか、死ぬ程テンション下がりますね」
陰鬱な顔で呟く言葉の通り、エリーはアポカリプスヘル生まれのフラスコチャイルドだ。
「いや、死んでるのはご同輩の方なんですけど」
もう一度、はあと煙とともに息を吐き出した。
それとほぼ同時に、こちらに向かってくる複数の足音が、エリーの耳に届く。
「……アホなこと言ってないで殲滅しましょうか」
そういったエリーの周囲の空間がわずかに揺れた。そこには、100近い数の、見えない手が生み出されていた。エリーだけに感知できる透明な手たち、これがエリーの武器であった。
一拍置いて、量産兵子『ジャックス』の群れが、エリーの視界に現れる。
「――!」
目があった。
意思もなく、ただ体に刻み込まれた本能だけしかないうつろな目と。
エリーはふと思う。
彼らは、兵士として生まれ、兵士として戦えている今、満足しているのだろうかと。
オブリビオンになってなお、己の与えられた役目を果たしている彼らは……
――ァーーーー!
思考は、一体のジャックスが発した警告音じみた甲高い声に遮られる。その声に合わせるように、すべてのジャックスたちが一気に剣を抜き放った。
戦場で余計なことを考えたものだと、エリーはことさら深く煙を吸い込んだ。汚染物質の苦さが、正気を取り戻してくれる。
吐き出す煙は周囲に溶け込むことなく、エリーの周囲だけを漂っていた。人には有害な汚染物質の煙。故郷を滅ぼしたそれは、エリーの生命線でもあった。
今はもうそれ以外に意味はない。
じわりと心の中で、再び何かが浮かび上がりそうになるのを抑え込み、意識を戦闘へと完全に切り替える。
「さて、必要な手は何個でしょうか」
ジャックスたちを見据え、エリーは生み出しておいた手たちを、一歩先に突撃してきたジャックスへと向ける。
『ア?』
無数の手に行動を封じられ、抑え込まれ、さらに体が持ち上げられたジャックスが、思わずといったように声を上げる。すぐに状況を理解し解放を求め暴れるが、無数の手による拘束を解くことはできなかった。
『アァアァアアアァァ!』
先ほどの警告とは違う、まさしく悲鳴を上げながら、ジャックスは透明な手によりぶんぶんと振り回される。
ぶうんと音を立て、鈍器と化したジャックスの体が同じ存在を殴り潰す。
――ベチャリ
壁に叩きつけられたジャックスの体はへしゃげた。
「酷い光景ですね。鬼畜外道の所業です」
鈍器にされた仲間に叩き潰されて、その死体はさらに仲間を倒すための鈍器へと変えられる。
ああ、本当に、なんとひどい光景か。
「こんな扱いされてるんだから、文句の一つも言ってくださいよ」
だが、ジャックスたちは、足も止めず手も止めず、声を上げることもなく、ただひたすらに剣を振るうのみ。
けれど、辛うじて届きかけた剣は、エリーの念動力によって、ジャックスたちごと弾き飛ばされる。そして、鈍器の仲間入り。
「ゾンビにそんなこと言っても、無駄なんでしょうけど」
――グチャリ
最後まで剣を握っていた一体が、物言わぬ姿へと変わった。
「はぁー……自己嫌悪で吐きそうです」
けれど、そんな時間が与えられないことをエリーは知っていた。
新たに聞こえる足音が、さらなる敵の訪れを伝えていた。
「ああ、嫌になりますねえ……」
深く深く煙を吸い込むと、長く吐き出して、けれどエリーはまっすぐと前を見据えるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
マホルニア・ストブルフ
◇アドリブ連携OK UC詠唱不要
司令塔も本人ではなくクローンのゾンビ……というあたりが複雑な気分にさせるな。クローンにまで受け継がれる性格であるがゆえに兵士型フラスコ・ベイビー製造に携わっていられたというか……。
おやおや、集まって来たね。
とりあえずアイテム【知覚端子】で【情報収集】、自分のネットワークのログにゾンビ化オブリビオンのデータを保存していくよ。
【アサルトライフル】で周囲の敵を排除していきつつ、密集してきたらUC【焦熱系枢式】で吹き飛ばしてやろう。
「司令塔も本人ではなくクローンのゾンビ……というあたりが複雑な気分にさせるな」
マホルニア・ストブルフ(構造色の青・f29723)は崩壊した研究所を前にして、渋い顔をする。
「クローンにまで受け継がれる性格であるがゆえに兵士型フラスコ・ベイビー製造に携わっていられたというか……おやおや、集まって来たね」
聞こえ始めた複数の足音に、マホルニアは取り回し重視のショートバレルのアサルトライフルを構えた。
それと同時に、周囲に光学粒子を放出する。知覚端子と連動するそれを使い、これからの戦闘におけるゾンビ化オブリビオンのデータを収集するのだ。己のネットワークにログとして回収していくため、手間もない。
グリモア猟兵は気にしなくていいといったが、集められるのならば集めておいて損はないだろう。
光学照準器をのぞき、待ち構え、そして一体の量産兵子『ジャックス』が顔を出した瞬間、アサルトライフルが火を噴く。
「先手必勝ってね」
――ァァァーーーーーー!
仲間の惨状を見てか、そういった初期行動を組み込まれているのか、警戒音と思われる甲高い声をジャックスがあげる。
「うるさいよ!」
即座に声を上げたジャックスを撃ち抜くが、発せられた警告をなかったことにできるわけもなく。
ジャックスたちが一斉に剣を抜き放ち、マホルニアへ向け襲い掛かってくる。
「うじゃうじゃときたねえ」
――ダダダダダダダダ!
マホルニアはアサルトライフルをフルモードへと切り替え、襲い来るジャックスたちに向けて撃ち放つ。だが、ゾンビと化した彼らの動きを完全に止めるには破壊力に欠けていた。
「なるほどねえ……」
僅かの間考えると、おもむろにマホルニアは駆け出した。
――ァァァ!!
当然のごとく、ジャックスたちはマホルニアを追う。
一見するとマホルニアがなすすべもなく追い詰められている構図に見える。だが、この戦いを観察している者がいれば、すぐに気付くだろう。マホルニアの移動と銃による牽制により、ジャックスの群れが密集してきていることに。
標的であるジャックスにはそれに気づく知性など残っていないのだが。
建物の残骸を乗り越え、隙間を潜り抜け、そしてマホルニアは見つけ出す。かつて何らかのホールであったであろう広い空間を。
「いい場所だね」
にっと笑みを浮かべると、マホルニアは広場の奥で足を止めて振り返る。視界には、今や大群となったジャックスたち。そのどれもが、腕を足を肩を腹を、弾丸に撃ち抜かれていた。
だが、ジャックスたちに傷を気に留める様子はない。削り取られた知性の代わりに得た力をもって、マホルニアを切り刻むことしか、すでに彼らには残っていない。
ジャックスたちがちょうど広場の中央に到達した時、マホルニアが動く。
「食らいな!」
声とともに、マホルニアはジャックスの群れに向け、油性焼夷弾をばらまいた。
――バンッ!ドンッ!
破裂した焼夷弾が、一気に炎をまき散らす。
『ァァァァアァア!!』
炎の嵐に巻き込まれ、全身を焼かれるジャックスたちが悲鳴を上げてのたうち回る。地面に転がり、火を消そうとするものもいたが、当然そんなことで消える炎ではない。
だが、そんな中でも、まだマホルニアに剣を向けるジャックスがいた。
もしかしたら、リーダー格のジャックスなのかもしれない。最後の瞬間まで敵を倒すことを自らに課していたのかもしれない。だが、それを知る者はいない。
「すごい根性だ。けど、付き合ってはやれないよ」
マホルニアはほんの少し優しく笑って、けれど躊躇なく冷たい銃の引き金を引いた。
――ダーンッ!
炎さえ切り裂く銃声が、最後のジャックスを撃ち抜いた。
そして、銃声が空へ溶け、炎が消えた時、そこにはマホルニア以外の姿は存在しなかった。
「終わったようだな」
新手が現れる様子はなかった。さすがにあれだけ騒いでいて、侵入者に気づかぬジャックスもいないだろう。
マホルニアの言う通り、終わったのだ。
だが、同時にこれからとも言える。
「残るはボスのみ、か」
この廃墟を支配する主が、現れる気配をマホルニアは感じ取っていた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ダラキュリア・クローン』
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POW : アタシの管理にケチつけんじゃねぇ!!
【自身が作り上げた管理社会を否定された怒り】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : テロリスト共は速やかに撲滅しなきゃねぇ!!
【自身が装備する刀剣から放たれる斬撃】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : 噛み殺せ!!強襲兵ぇ!!
レベル×5体の、小型の戦闘用【に進化した森羅万象を噛砕できる羽虫】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
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「てめえら、アタシのテリトリーで何やらかしてやがる!」
怒気を纏った女が、辛うじて建造物としての形を保っていた研究所の奥から現れた。
この女こそ、廃墟の支配者、ダラキュリア・クローン。
ダラキュリアはうつろな目をしたジャックスとは打って変わって、ぎらぎらとした憎しみをその瞳に宿していた。
「あいつらはバカだったが、それ以上のバカがいたか……アタシの完璧な管理を破壊するようなバカがなあ!」
人を殺せそうなほどの憎しみを込めて、ダラキュリアは猟兵たちを睨みつける。
「てめえらみたいな低能は言葉じゃわからないからな。その体に刻み込んでやるよ!」
長い銀の髪が、不意に流れた風になびく。それを合図にしたように、ダラキュリアは一歩足を踏み出した。
御形・菘
はっはっは、いかんの~
もっと知性を感じる言葉使いをしてほしい! 妾はお主とちゃんと会話でコミュニケーションしたいのだがのう?
他人をディスって己の格が上がるわけでもなし、視聴者もドン引いてしまうぞ~?
…とまあ、そんな感じで挑発していくぞ
はーっはっはっは! 妾の素敵トークを止めるなど、首でも飛ばさねば無理であろうな!
まあお主には難しすぎるミッションであるが!
狙う部位を絞れるなら、斬撃がいくら大きかろうが回避など容易い!
更に邪神オーラも集中させて防護しておこう
さあ、一撃避けたら妾のターン!
頭の良さは、戦いの心理戦とは関係無かったのう
邪神の左腕の一撃、お返しで頭にブチ込んでくれよう!
「はっはっは、いかんの~」
真っ先に『ダラキュリア・クローン』に接敵したのは、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)であった。
ダラキュリアの怒気に染まった空気をものともせず、鷹揚な笑い声を響かせる。
「てめえ! このアタシに上からとは、いい度胸だ!」
そう、菘は今、半壊した建物の上に立ち、ダラキュリアを見下ろしているのだ。
何故か。
かっこいいからである。配信にはロケーションも重要なのだ。
だが、当然、理由はそれだけではない。
ダラキュリアの性格上、物理的にでも下に見られれば、怒り狂うだろうと菘は考えていた。怒りは視野を狭め、思考を停止させる。そうなれば、いかに強力なユーベルコードを使う相手でも、実力を出し切れはしない。
そして狙い通り、ダラキュリアは怒り狂い、攻撃よりもこちらへ怒りをぶつけることを選んだ。
「もっと知性を感じる言葉使いをしてほしい! 妾はお主とちゃんと会話でコミュニケーションしたいのだがのう?」
「知性? てめえらみたいな奴にそんなもんあるわけないだろう! バカはアタシに従ってりゃいいんだよ!」
ダラキュリアが怒声を上げる。生前も、そうやって人を従わせてきたのだろうと。
だが、配信でそういった暴言にも慣れている菘にとっては、どうということもない。スルーである。
「他人をディスって己の格が上がるわけでもなし、視聴者もドン引いてしまうぞ~?」
「視聴者など知るか! 降りてこい!」
「力量が足りぬ故に攻撃が届かぬと嘆くでないぞ? な~に、妾との格の違いなど、努力とか気合とかで色々と頑張って埋めてみればよかろう?」
さらにとばかりに煽っておけば、ダラキュリアが渾身の力で柄を握りしめる。
「……アタシは、降りろと言ったん――」
今まさに、ダラキュリアが剣を抜き放とうとした瞬間。
「しょうがないの。降りてやるから待っておれ」
ダラキュリアの言葉を遮って、菘が高台から地面へと舞い降りる。
いかにも、愚かな子ども相手に、大人、いや慈悲深い神が仕方なく言うことを聞いてやったというていでだ。
その態度がダラキュリアをさらに怒らせたことは、言うまでもないだろう。
「貴様貴様貴様! 従え! 私の命令に!」
「降りてきてやったというのに、何を怒っておるのだ?」
飄々とした菘の態度に、ぎりぎりとダラキュリアが歯噛みする。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ!」
「はーっはっはっは! 妾の素敵トークを止めるなど、首でも飛ばさねば無理であろうな! まあお主には難しすぎるミッションであるが!」
菘が高らかに笑い声をあげる。
その様に、びきりと額に青筋を立て、ダラキュリアがついに剣を抜いた。
「その首、跳ね飛ばしてやるよ!」
怒声と共に剣を振るえば、巨大な斬撃が一直線に菘の首を目掛け放たれた。それは、直撃すれば、いかに菘でもただでは済まない程の威力を持っていた。
だが。
軽々と菘は避けて見せた。
怒りに支配されたダラキュリアは、菘の言葉に誘導され、首を落とさねばという考えにとりつかれている。
狙う部位を絞れるなら、斬撃がいくら大きかろうが回避など容易いというものだ。
菘という標的を外した斬撃が、先ほどまで菘が乗っていた建物の残骸を破壊する。
――ガラ、ガラン!
もとより脆くなっていた壁が、一気に崩壊し、周囲に粉塵を巻き上げる。
「くそ! 崩れてんじゃねえよ!」
ダラキュリアが悪態をつく間に、菘は距離を詰める。コンクリート片が菘の体を打つが、事前に体に纏わせた邪神オーラに弾かれ、何一つダメージをあたえられなかった。
そして絶望を粉砕し希望を掴み取る菘の左腕の一撃が、粉塵を切り裂き、ダラキュリアの右頬を見事にとらえた。
「がっ!」
ダラキュリアの体が、勢いよく吹き飛ばされる。
――ドオンッ!
遠くの壁にぶつかる音が周囲に響いた。
「頭の良さは、戦いの心理戦とは関係無かったのう」
ゾンビ化で知性が落ちたことが、ダラキュリアの敗因であろうか。
「――!!!」
ダラキュリアの怒声が離れていても聞こえてくる。どうやら敵は元気なようだ。
「ゾンビはしぶといと相場が決まっておるからの。まだまだわしの快進撃は続くのじゃ!」
視聴者への言葉をドローンに向けると、菘は吹き飛ばしたダラキュリアを追い、駆けてゆくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
マホルニア・ストブルフ
◇アドリブ連携OK
お出ましのようだな。無償で従う部下たちが消えてご立腹かね?
その年まで育った研究者のクローンなら、知識や技術は持ち合わせていたのかもしれんが――ゾンビを集めて完璧な管理、か。
まあ、いつどこかの拠点(ベース)に被害を出すかわからんからな、オブリビオン・ストームに出会う前の死体に戻してやろう。
UCを纏いながら、拡張義体を足に軽展開させて【ダッシュ】。途中でレヴィアスクを形成して【切断】で攻撃していくよ。
回避は取るが、多少の負傷は【激痛耐性】。
輪廻転生なんてもんは信じてないが、まあ次があれば、この世界の復興に使えそうな技術でも生み出しなさいな。
エリー・マイヤー
【念動フィールド】を展開して下向きの念動力を全周囲に発動。
羽虫を地に落とし、そのまま念動力をかけ続けて潰して一層します。
ついでに敵を地面に縫い付けて行動を制限します。
建造物やら仲間やらを巻き込まないよう、
範囲の調整には気を付けないとですね。
羽虫を潰しきったら、そのまま念動力の方向を変更。
敵を中心に圧縮して動きを封じつつ、
乱雑な方向に捩って捻って体をぐしゃぐしゃにしてやります。
はぁー…
おっとすみません。前口上を聞くのを忘れてました。
私、今すごく機嫌が悪いんですよね。
人の話を聞く余力がないので、生返事ばかりになるとは思いますが…
それでよければ、好きなだけ持論を展開してくださって構いませんよ。
「お出ましのようだな」
マホルニア・ストブルフ(構造色の青・f29723)の視線の先に、この廃墟の主であるダラキュリアが立っていた。
顔に負傷の痕が見られたが、目はぎらついた光を宿しており、戦意も怒気も微塵たりとも衰えてはいなかった。
「無償で従う部下たちが消えてご立腹かね?」
「消したのはてめえらだろうが!」
マホルニアの問いかけに、ダラキュリアが怒りの声を上げる。
「このアタシの完璧な管理、完璧な指示、完璧なルール! それに従ってりゃいいんだよ、お前らみたいなバカはなあ!」
自分こそが正しいのだと、心の底から信じている様子のダラキュリアに、マホルニアは微苦笑を浮かべる。
「その年まで育った研究者のクローンなら、知識や技術は持ち合わせていたのかもしれんが――ゾンビを集めて完璧な管理、か」
ジャックスたちは暴走することもなく、ひたすらに命じられたまま、こちらに攻撃を仕掛けてきた。だが、あれは正直、ダラキュリアの管理が行き届いていたというよりも、彼らの性質ゆえにではないかと思う。
どちらにせよ、自分がやることは変わらない。
「まあ、いつどこかの拠点(ベース)に被害を出すかわからんからな、オブリビオン・ストームに出会う前の死体に戻してやろう」
気負いも何もなく、なすべき目標を口にしただけ。
そんなマホルニアの態度は、ダラキュリアの癇に障った。ダラキュリアの怒気は、即座に殺意へと切り替わる。
「噛み殺せ!! 強襲兵ぇ!!」
呼び声に応え、ダラキュリアの周囲に無数の羽虫が召喚される。
「こいつはなあ、戦闘用に進化させた特別なやつだ。こいつに噛み砕かれて、死ね!」
残虐な笑みに、得意げな色をのせて、ダラキュリアが羽虫たちに指示を出そうとした瞬間。
――ぐしゃっ!
羽虫がことごとく地面に叩きつけられる。
「ん?」
「な!?」
予想外の出来事に、二人が同時に動きを止めた。その静寂に、一つのため息が零れた。
「はぁー……」
新たな気配に咄嗟にアサルトガンを構えかけたマホルニアだが、すぐに銃口を下げる。
いつの間に来たのだろうか。マホルニアの斜め後方に、エリー・マイヤー(被造物・f29376)が立っていた。
「てめえ、このアタシの強襲兵に何しやがった!」
ダラキュリアもエリーの存在に気づき、早速噛みついてくる。
「おっとすみません。前口上を聞くのを忘れてました」
「……んだと?」
欠片も申し訳ないと思っていないエリーの態度も、ダラキュリアからしてみれば腹立たしいものだ。だが、それ以上に話を、この自分の話を聞いていないということが、よりダラキュリアの怒りを買った。
だが、ダラキュリアの怒りをエリーは無視した。
「私、今すごく機嫌が悪いんですよね」
自身の言葉に、なるほどとエリーは思う。
そうだ、自分は酷く機嫌が悪いのだ。理由については、一言で言い表すのは難しい。
けれどはっきりしていることもある。それは、目の前の女がその原因の一つであるということだ。
「あぁ!? それが、どうし――」
「人の話を聞く余力がないので、生返事ばかりになるとは思いますが……それでよければ、好きなだけ持論を展開してくださって構いませんよ」
ダラキュリアの台詞を遮って、エリーは言う。
お前の言葉など聞く気がないのだと。どうでもいいのだと。
エリーのその発言に、ダラキュリアが怒りのあまり目を血走らせた。
「てめえぇ! このアタシの命令もわからない頭なんざ、噛み潰してやる!」
ダラキュリアが再度、羽虫を召喚する。密集していれば、一気に潰されると判断したのか、広範囲に分散させた。高い知性は、ゾンビ化してもある程度は残っているようだ。
「……面倒な」
舌打ちしそうなほど不機嫌な顔をしたエリーに、ダラキュリアの機嫌が多少上向く。
「ははははは! いくらでも生み出してやるよ! 食いつぶされろ!」
ご機嫌でエリーへと攻撃を仕掛けるダラキュリアは、もう一人の存在を失念していた。
もし忘れられたのがダラキュリアであれば、大声を出し自らの存在を知らしめただろう。だが、当然マホルニアはそんな真似はしない。
「CODE:DO REINFORCEMENT//AT NEW LDF_I_P TO LDF_REBILLION.」
静かに、無機質に、けれど歌うようにマホルニアが言葉を紡げば、その体を光が覆う。近づくと穏やかに、離れれば加速するその光は、敵からの抵抗が激しければ激しい程、マホルニアを強化する。
前を見れば、ダラキュリアと自分との間にいる羽虫の数が明らかに少ない。
エリーが、あえて自分の周囲の羽虫を残し、苦戦してるように見せダラキュリアを引き付けていた。そのうえで、マホルニアとダラキュリアとの間の羽虫を優先して潰しているのだ。
(チャンスはちゃんと生かさないとねえ)
足に拡張義体を軽く展開し、それによって得られた脚力を利用し、一気にダラキュリアへと向け駆けだしていく。
「はははは、ざまあ……! て、てめえ、いつの間に!」
エリーを追い詰めていると思っているダラキュリアは、マホルニアの行動に気づくのが遅れた。気づいた時にはもうマホルニアの姿は目前だった。
「くそっ! 来るんじゃねえよ!」
得意満面から一転顔を青くして、ダラキュリアが三度、羽虫を召喚する。
「多いんですよ!」
増えすぎた羽虫の数に、エリーのカバーが間に合わない。マホルニアのすぐ傍であったため、一気に潰すことができなかったのだ。
「っ!」
回避するより進むことを選んだマホルニアの腕の一部を、羽虫が食いちぎる。
だが、マホルニアは足を止めない。激痛を無視し、赤い線を地面に引きながらひたすら進む。
ダラキュリアまであと三歩。
マホルニアに群がっていた羽虫を、エリーが念動力で押しつぶす。
あと二歩。
マホルニアの傍にいた電子の小竜が、その姿を揺らし、弓成りの両刃剣――レヴィアスクへと変化する。
あと一歩。
距離を取ろうとしたダラキュリアの動きを、エリーの念動力が抑え込み、そして。
「食らいな!」
レヴィアスクの刃が、ダラキュリアの体を切り裂いた。
それと同時に、先ほど羽虫に食いちぎられた傷が、じわじわと修復されていく。
「くそくそくそくそ!」
だが、断ち切れはしなかった。
ぎりぎりで、ダラキュリアが体を後方へ下げたのだ。
「ちっ、浅かったか」
もう一撃、マホルニアが腕を振るう前に、ダラキュリアが今までにない量の羽虫を召喚する。それはまるで煙幕のようになり、ダラキュリアの姿を二人から覆い隠す。
「うお!」
「いい加減しつこいですよ」
マホルニアとエリーが羽虫に対応している間に、ダラキュリアはその場を逃げ出した。
「まあ、逃がしはしないけどな」
「ええ、無論」
二人は地面へと視線を下ろす。そこには、ダラキュリアによって描かれた、赤い道しるべが残っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
播州・クロリア
(ダラキュリアの姿を見て激昂する)
クソババア!生きていやがったのか!?今すぐ骸の海へ叩き落して…
(ダラキュリアが自分に怒りを向けるのを見て、ふぅと息を吐く)
…そういえばクローンでしたね、貴女
第一あの女はこの世界の住人ではないですし
姿形と職業と嗜好が同じな赤の他人のクローンですね、きっと
(オーバーロードで真の姿へと変貌し始める
手足が甲虫のような錆色の殻に覆われ
口元がマスクのような殻に覆われスズメバチのように左右に開閉し
翅が縮小すると替わりに三対の爪のような虫の足が生える)
しかし不愉快極まりない
ダラキュです
(肩幅ほどに足を開き、両手で太ももをなぞりながらゆっくりと上体を起こした後{紅焔の旋律}で『ダンス』を始める)
完全な八つ当たりですが
貴女は塵も残さず消えていただきます
(ダラキュリアの攻撃を『オーラ防御』と『衝撃波』で弾いて防ぎ『念動力』で動きを封じてUC【蠱の珠】で生み出した燃え盛る空間にダラキュリアを閉じ込める)
貴女に捧げる旋律です
これを以て荼毘に付させていただきます
その姿を認めたとき、播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は心の奥底から、怒りが噴出してくるのを止められなかった。いや、止めようとさえ思わなかった。
「クソババア! 生きていやがったのか!? 今すぐ骸の海へ叩き落して……」
「ああ!? 何だてめえは!?」
クロリアに負けず劣らずな剣幕で、『ダラキュリア・クローン』が怒鳴り返す。
「てめえも、アタシの管理を邪魔するバカか? バカだな! アタシのテリトリーで好き勝手しやがって!」
自分に怒りを向けるダラキュリアの様子を見て、クロリアはふぅと息を吐く。
「……そういえばクローンでしたね、貴女」
そうだ、そうだった。あまりにも似ていて、勘違いしてしまった。
第一、『あの女』はこの世界の住人ではない。
「姿形と職業と嗜好が同じな赤の他人のクローンですね、きっと」
「何をぶつぶつ言ってやがる! せめて言葉ぐらいしっかりしゃべれよ、クズ!」
自分を無視するクロリアに、ダラキュリアが怒りを燃やす。
その姿に、クロリアは眉を顰めた。
あの女に似ている、似すぎているこの存在は、放置すればいずれ災厄をもたらすはずだ。
クロリアにとって、それは到底許すことのできないことだった。
だから、クロリアは究極の力――オーバーロードを解き放つ。
クロリアの姿が瞬く間に変貌していく。
しなやかな指が、軽やかな足が、甲虫のような錆色に覆われる。
マスクのような殻で隠された口元には、スズメバチを思わせるように、左右に開閉する牙が生み出された。
背中にある翅が縮んでいき、代わりに三対の爪のような虫の足が生える。
厳めしい異形の姿。これこそクロリアの真なる姿。
「しかし不愉快極まりない」
カチカチとまるで威嚇のような音を口元から立てながら、クロリアは率直な言葉をダラキュリアに放つ。
あまりに突然に行われたクロリアの変貌に、ダラキュリアは呆気にとられ、未だ剣さえ握っていなかった。だが、クロリアの言葉が自分に向けられたと悟るや否や、はっと我に返った。
「……っだと! それはこっちの台詞だ!」
そんな様子さえ誰かに似ていて、クロリアの苛立ちも増していく。
「ダラキュです」
一言そういうと、クロリアは肩幅ほどに足を開く。両手で太ももをなぞりながら、ゆっくりと上体を起こした後、クロリアは踊る。
力を解き放ち、冴えを増したクロリアのダンスが描き出すのは、紅蓮の炎。
天を衝かんと燃え上がり、鎮まることなく燃え広がる炎を表現した情熱と欲望のリズムを、クロリアは見事に描き出す。
「完全な八つ当たりですが」
それでも、自分は目の前の相手を、必ず滅ぼすと決めた。
「貴女は塵も残さず消えていただきます」
「なんだと、てめえ!」
クロリアの言葉に、ダラキュリアが即座に激高する。
「てめえの方こそ、切り刻んでやるよ!」
ダラキュリアが剣を振るえば、驚くほど巨大な斬撃が生み出される。それは、真っすぐにクロリアへと襲い掛かる。
クロリアは慌てることなく、くるりとターン。その動きにより生み出された衝撃波が、ダラキュリアの斬撃を迎え撃つ。
――ドンッ!
ぶつかり合った二つは、お互い削り合い、破裂音と共に周囲にすさまじい風をまき散らした。その風を切り裂き、削れなかったダラキュリアの衝撃波が、クロリアへと襲い掛かる。
だが、届くと思われた斬撃は、クロリアに当たる直前に、幻のように搔き消えた。クロリアが纏うオーラの防壁に阻まれたのだ。
「なんだと!?」
驚きにダラキュリアの動きが止まる。
変貌したことは警戒したが、それでも結局踊るだけのクロリアをダラキュリアは侮っていた。
ゆえに、自分の攻撃を防ぎきるとは思わなかったのだ。
「くそっ! ――ぐっ!」
もう一度と、剣を振るおうとしたダラキュリアが、うめき声をあげ、手を止める。
クロリアが、その体を念動の力で抑え込んだのだ。
「貴方に捧げる旋律(リズム)です。ご堪能ください」
――ゴウッ!
炎が、ダラキュリアの眼前にそそり立つ。それは、クロリアが奏でる旋律を、そのまま写し取ったかのような鮮やかな色をしていた。
「な、なんだ!」
動けぬままのダラキュリアの背後にも、炎の柱が生み出される。
右にも、左にも、そして、それは炎の壁に転じ、ダラキュリアを封じ込める檻と化した。
「くそくそくそ! 出しやがれ!」
念動による拘束を解かれた瞬間、ダラキュリアは炎に向けて剣を振るう。
けれど、剣は炎をすり抜けて、炎は揺らぎながら燃え盛るのみ。それどころか、炎を通した剣は一瞬で熱を持ち、ダラキュリアが慌てて投げ捨てる。
剣だけではない。炎に囲まれた周囲の空気が、すさまじい熱を帯びていく。
「熱い熱い熱い!」
炎が舐めるようにダラキュリアを焼いていく。その熱さに耐え切れず悲鳴を上げる。けれどクロリアが、旋律を止めることはない。
荒れ果て、滅びを目前としたこの場所に、残酷ゆえに美しい炎の花が咲き続ける。
次第に、ダラキュリアの声は小さくなり、聞こえなくなり。
「これを以て荼毘に付させていただきます」
――タン!
クロリアの足が、最後のリズムを刻むと同時に、炎のなかの人影が崩れ落ちる。
それは二度と立ち上がることなく、炎がほどけ、風に散り消えていくとともに、跡形もなく消えていった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2021年10月29日
宿敵
『ダラキュリア・クローン』
を撃破!
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