鉄道こそがこの世界の血であると、レイルレーン鋼国の民は言う。
百年に及ぶ戦乱の最中から未だ抜け出せずにいるクロムキャバリア。
物資を遺失技術のプラントに頼り、航空機での長距離移動を禁じられ。
地に這いつくばって生きるしかない人々にとって、陸路輸送は文字通りの生命線だ。
故に数百の鉄道網から成り立つ独立国家レイルレーンは、物流の要を担えている。
その重要性ゆえに、鉄道路線で繋がった近隣国との摩擦は絶えることがない。
鋼国は独自にキャバリアを開発して対抗し、これまで際どい綱渡りを続けてきた。
だが、突然そのキャバリア部隊が消息を絶ったという情報が飛び込んでくる。
噂によれば、襲撃者は鉄資源プラントの保有国――アイゼンラント自治領だと。
☆ ☆ ☆
「どうやら、クロムキャバリアで厄介な問題が起こりつつあるようだ」
いつものように愛用の椅子に深々と腰掛けたまま、ツェリスカ・ディートリッヒ(熔熱界の主・f06873)は猟兵たちの顔を見回してから僅かに眉をひそめた。
「クロムキャバリアの世界は暴走衛星兵器『殲禍炎剣』によって航空技術と遠距離通信を封じられている。輸送手段は必然的に陸路が中心となり、中でも数百の鉄道路線を保有する『レイルレーン鋼国』は国家間の物流において重要な立ち位置を占めている」
だが、そのレイルレーン鋼国と、鉄資源プラントを保有する隣国『アイゼンラント自治領』との間で緊張が高まりつつあるらしい。このままでは武力衝突に発展する可能性があるだけでなく、鉄資源の流通が止まれば周辺諸国にも多大な影響が生じかねない。
「事の発端はレイルレーン鋼国のキャバリア部隊が行方不明になったことだ。そしてその直後、アイゼンラントが極秘の軍事行動を取ったという情報が流れた。小国ながら自立心の強いアイゼンラントは鉄資源の輸送を一手に担うレイルレーンとの関係に不満を募らせており、遂に独自のキャバリア部隊を動かして強硬手段に出たのだ……とな」
だが、断片的な予知によれば、事態は更に危機的なのだとツェリスカは言う。
「まず、アイゼンラント側が部隊を動かした様子はない。加えて、両国からそう遠くない荒野にオブリビオンマシンの拠点が築かれつつあるのを確認した。余は、先程の情報はオブリビオンマシンによって洗脳された工作員による欺瞞作戦であると推測している」
嘘の情報で両国を対立させて時間を稼ぎ、その隙に何らかの準備をしているのなら。
これ以上の緊張状態は両国どちらの利益にもならない。団結して立ち向かわねば。
「敵の工作員は、レイルレーン鋼国の首都でもある世界最大級のターミナル駅『グレート・フォーカス』に潜んでいるようだ。汝らにはまずグレート・フォーカスへ転移してもらい、混乱に乗じて拠点へと脱出しようとしている工作員を捕縛してもらいたい」
数百の鉄道路線で大量の人と物資が行き交う巨大な鉄道駅が舞台では、闇雲に探すだけでは難しいだろう。敵の向かう先を考え、工夫する必要があるかもしれない。
「同時にアイゼンラント側でも、敵地に取り残されたレイルレーンの部隊をオブリビオンから救出する作戦が決行される。それが成功すれば、隣国の無実は証明されるだろう。そして我々が工作員を確保できれば、両国の対立を煽った黒幕が白日の下に晒される」
共通の敵を前に両国が協力関係を結べれば、いよいよこちらから攻撃を仕掛けられる。
「レイルレーン鋼国側からは鉄道輸送に特化した量産型キャバリア『ブルネル』の部隊が出撃する。脚部動輪による小回りの良さが持ち味の機体で、猟兵たちが望むなら機体の貸与も可能だ。もちろん自前の乗機を用意してもいいし、生身で戦っても構わない」
ブルネル部隊は基本的にバックアップに回る。敵の主力を突破するのは猟兵の役目だ。
協力して群がる敵部隊を蹴散らせば、この陰謀の黒幕の元へと辿り着ける。
「既にパイロットはオブリビオンマシンに自我を侵食されていると思われる。この事件も自らの意志で起こしたものではないだろう。正気に戻すには機体を破壊するしかない」
戦う以外の選択肢はない。パイロットの処遇は、全てが終わった後の問題だろう。
敵の黒幕についての情報を尋ねられたツェリスカは、珍しく言い淀む。
「済まぬ、いかんせん予知が断片的でな。どのような機体に乗っているのかまでははっきりと見えなかった。見えたものといえば『光』……見上げた先に輝く『天の光』か」
天空の果てに煌くもの――それは決して美しいだけのものではないという。
それの意味するところを確かめられるのは、直接相対した者だけだろう。
「さて、いつも以上に難しい作戦ではあるが、汝らならば成し遂げてくれような」
ツェリスカはそう言って微笑みかけ、魔導書を開いて猟兵たちを送り出す。
滝戸ジョウイチ
こんにちは、滝戸ジョウイチと申します。
今回は晴海悠マスターの「鉄讐計画~見果てぬ荒野に戦機哭く」との共同作戦となります。
二国の関係を修復し、真の敵との決戦へ導くのが皆様の役目です。
●シナリオ概要
冒険→集団戦→ボス戦の全3章構成です。
第2章以降は対キャバリア戦ですが、生身で戦ってもOKです。また空中戦のペナルティもありません(衛星に狙撃されるほど高高度まで飛べば別ですが)。
第1章は敵の拠点へ逃走する工作員を捜索、捕縛するのが目的です。
巨大な鉄道駅が舞台なので、闇雲に探さず作戦を立てる必要があるでしょう。
第2章は共同戦線を張る両国の部隊と共に、敵拠点へと攻撃を仕掛けます。
展開上、こちらが敵の主力とぶつかることになるでしょう。
第3章は事件の黒幕、謎に包まれたオブリビオンマシンの討伐です。
機体性能は不明、分かっているのは『天の光』のイメージのみ。
隣国側の敵と共に、強敵である事が予想されます。
●「レイルレーン鋼国」
世界最大級のターミナル駅「グレート・フォーカス」へと繋がっている数百に及ぶ路線が形成する巨大な鉄道網で、それ自体が独立国家でもあります。
周辺の国家間の輸送を一手に担い、人と物が行き交う拠点として発展しました。
流通の要であるため、自衛用に独自のキャバリアを保有しています。
なお以前のシナリオ『エクスプレス・オーバーチェイス( https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=28926 )』でも舞台になりましたが、前回の続編ではありません。
●量産機「ブルネル」
鋼国が独自開発した、蒸気機関車を人型にしたような量産型キャバリアです。
鉄道での輸送を想定し、手足を折り畳めば貨物車に搭載できます。
また脚部に装備された動輪で地上の滑走が可能で、機動力は侮れません。
基本武装はブラストナックルとパルスマシンガン。武器の換装も可能です。
第二章以降はNPC勢力として加勢してくれる他、猟兵も搭乗できます。
●同時参加について
今回は晴海悠マスターのシナリオと同時進行となるため、章ごとに参加するシナリオを変えて頂いて構いません。ただし時系列上、各章で参加できるのは片方のみです(例えば両方の第1章に同時参加は出来ません)。
なお一方のNPC勢力のキャバリアに乗ったまま別シナリオへ移るのはOKです。
それでは、良い死線を。
第1章 冒険
『諜報員捕縛』
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POW : 怪しい動きをする者を締め上げ、情報を吐かせる
SPD : 怪しい動きをする者を見つけ、尾行する
WIZ : 偽の情報を流し、容疑者をおびき出す
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世界という身体を駆け巡る血が鉄道ならば、その血が運ぶ鉄はまさしく酸素だ。
かの隣国が自治を維持できる理由は、鉄資源プラントの保有国であるという一点。
酸素が無ければ窒息する。人間に限らずあらゆる生物にとっての真実だ。
同様に、鉄が無ければこのクロムキャバリアという世界は窒息するだろう。
故に「鉄資源の供給国がレイルレーンに牙を剥く」という筋書きは隠れ蓑に相応しい。
二国の対立は鉄の輸送先である近隣諸国をも巻き込んで、大いなる混乱を生むだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。この陰謀はあくまで時間稼ぎに過ぎないのだから。
仕込みは終わった。後は戦端が開かれるより前に逃亡し、荒野の拠点に戻らなければ。
オブリビオンの洗脳を受けた工作員は、何食わぬ顔で脱出ルートを確認する。
▼ ▼ ▼
猟兵たちが転移したのは、レイルレーン鋼国の首都であるグレート・フォーカス駅だ。
遠方のプラントや近隣の国家群へと数百の路線を走らせる、この鉄道国家の心臓部。
そこでは引っ切り無しに貨物の積み降ろしが行われ、乗客が右へ左へと行き交う。
今頃、アイゼンラント側の別働隊は行方不明の部隊を救出しようとしているはずだ。
だが救出に成功したとして、それだけでは自治領の自作自演の疑いは残ってしまう。
対立を仕向けた煽動者を確保しなければ、この陰謀の全てを明らかには出来ない。
だがここに逃亡を図る潜入工作員がいるとして、一目で判別するのは不可能だろう。
しかし猟兵は敵の拠点を知っている。脱出に用いる手段も絞り込めるかもしれない。
事情を話して説得すれば、駅員や鉄道警備隊の協力も得られる可能性はあるだろう。
冷静に推測し、猟兵ならではの能力も駆使すれば、決して無理難題ではない。
両国の力を結集し、真の脅威に立ち向かうため――行動を起こすべき時だ。
ランケア・アマカ
鉄道網、ターミナル駅、この世界も凄いものばかりですね
作戦でなければ、色々と見て回りたかったですが
荒野に気付かれた拠点へ逃げるのであれば、移動手段は鉄道だけではなさそうです
工作員は貨物車に車両かキャバリアを持ち込み、道中で乗り換えて移動するのでは、と推測します
駅員の方々や警備隊から情報を集め、怪しい貨物から工作員と思われる人物を追います
貨物を擬装していたり協力者がいるかもしれません、痕跡を見逃さないよう追跡したいです
この世界だと高度と速度に注意しないといけませんが、MF-L1に乗って移動可能なら遠慮なく利用します
危険を排除する必要があるときには【疾風塵】を撃てるように、警戒していきましょう
行き交う人の群れ、物資の山。ここはクロムキャバリアの巨大な交差点。
何処から来て何処へ行くのか、誰も互いのことを知らないままにすれ違う。
レイルレーン鋼国の心臓、グレート・フォーカスは今日も変わらずに動き続ける。
少なくとも、表向きは隣国との緊張状態など感じさせないかのように。
▼ ▼ ▼
「この世界も凄いものばかりですね。作戦でなければ、色々と見て回りたかったですが」
ランケア・アマカ(風精銃兵・f34057)は興味深そうに周囲へ視線を向けながら歩く。彼女が生まれ育ったブルーアルカディアでは、そもそも鉄道自体あまり馴染みのないものだろう。空を飛ぶことを禁じられたこの世界は、まさしく異文明の趣きがある。
ランケアが呼び止めた駅員は、彼女が猟兵であると知って途端に緊張を解いた。
表沙汰にはされていないが、やはり水面下では皆神経を尖らせているのだろう。
「不審な荷物? 搬入される物資は厳しく調べてますよ。特にアイゼンラント発のはね」
「いえ、届いた貨物ではなく。グレート・フォーカスを発つ列車に乗せるものです」
駅員は質問の意図を掴みかねているようだったが、ランケアには考えがあった。
このグレート・フォーカス駅とアイゼンラント自治領の間には直通の路線が走っていて、主に鉄資源の輸送を行っている。だがオブリビオンの拠点はどちらの国からも離れた荒野であり、この鉄道では直接移動できないはずだ。工作員が途中まで列車に乗って逃げるとしても、何処かで必ず他の移動手段を用意する必要がある。
「私は、貨物車に車両かキャバリアを持ち込んでいるものと推測しています」
「キャバリアねぇ。さすがに一機丸ごと偽装して運ぶのは難しいと思いますけどね」
そんなことを話していたところで、ちょうど通りかかった別の駅員が口を挟む。
「キャバリアといえば、変な荷物あったろ。なんでも、オーバーフレームだけを急ぎで運んでくれとか何とか……。アイゼンラントに売り込むつもりじゃ無さそうだが」
「……きっとそれです!」
ランケアの読みは当たっていたようだ。目的地は遠方、徒歩で逃げるはずはない。
▼ ▼ ▼
駅員に聞いた情報を元に、ランケアは目的の貨物ホームへとセイルフローターを走らせた。通行人の邪魔にならない高度を保ちながら、可能な限り速度を上げる。程なくして、件の貨物車両が見えてきた。鉄道警備隊のキャバリアの姿も見える。
「失礼します、確認したい貨物があるのですが」
隊員へ説明しつつ、問題のコンテナを確認するべく地上に降りた。警備隊には猟兵に協力するよう指令が出ているらしく、彼らは首を傾げながらもコンテナの扉を開く。
「……これは、当たりみたいですね」
確かに中身はキャバリアのオーバーフレームだった。だが、明らかに上半身だけで飛行できる構造に見える。恐らくはこれが、敵のキャバリアの完成形なのだ。
「持ち主は? きっと近くにいるはずです」
そう尋ねたランケアの視界の端を人影が過ぎった。視線を向ければ、男が平静を装って立ち去ろうとするのが見える。どうやらあと一歩のところまで追い詰めているようだ。
大成功
🔵🔵🔵
ユーザリア・シン
戦い、争い、その果てに滅びるならば、それは受け入れねばならぬ事だ
いずれもヒトの行いなれば、ヒトではない妾たちに否は無い
だがそれがオブリビオンの仕業であるならば、止めねばならん
そうであろう、インカーナダイン、造られし恐怖、道化のヴァンパイアよ
本当の悪夢を、人々に見せる必要はないのだ
…で、その、なんであったか
工作員?の居所は分かったのか?
妾ぜんぜん分からん…あ、ブルネルを奪い取って逃走! 違う? そうか。
もうこれは足で探すしかあるまい
前回来た時に仲良くなった地元の連中から噂の出どころ、怪しいやつを聞いて回るか
一度会って酒のんで踊ったらもうマブダチだ
目星をつけたら国側に情報を渡して捕縛を手伝おう
目の前の敵を睨み、唸り声を上げ、牙を向き、やがて互いの身を喰い合う。
このクロムキャバリアにおいて、闘争は人の営みの一部であるようにすら思える。
国家群を繋ぐレイルレーン鋼国であっても、その争いの軛からは逃れられない。
(ヒトが自ら戦い、争い、その果てに滅びるならば、それは受け入れねばならぬ事だ。
だがそれがヒトの行いではなくオブリビオンの仕業であるならば、止めねばならん)
ユーザリア・シン(伽藍の女王・f03153)はヒトではなくダンピールの女王として、この戦いをそう定義した。仕組まれた滅びは人が自ら招いた結末ですらない、と。
(そうであろう、インカーナダイン。本当の悪夢を人々に見せる必要はないのだ)
彼女の愛機は造られし恐怖。故に人の悪夢の何たるかを知る。
……と、ここまではユーザリアがひとり物思いに耽っていた間の話で。
「で、その、なんであったか……工作員?の居所は分かるか?」
現地での情報収集はそこまで上手くはいかず、さっそく暗礁に乗り上げつつあった。
「妾ぜんぜん分からん……あ、ブルネルを奪い取って逃走! 違う? そうか」
オブリビオンの拠点は荒野だ。キャバリアだけで辿り着くのは流石に難儀だろう。
ふむ、とユーザリアは思案する。
「もうこれは、マブダチの力を借りつつ足で探すしかあるまい」
彼女のユーベルコード『親切がいっぱい』は、その世界の親切な住人に協力してもらうというもの。世界によっては超自然的な助けを得ることもできるが、ここクロムキャバリアにおいてはもっぱら現地の人間を呼び出し、力を貸してもらう形になる。
「おお、いつぞやの祝賀会以来ではないか。元気にしていたか?」
以前このグレート・フォーカスを訪れた時に見知った顔もあるし、始めて見かける顔もある。ユーザリアは彼らと打ち解けつつ、地道に聞き込みを続けていった。
「……ふむ、やはり噂の広まり方が急激過ぎる。煽った輩がいるな……なぜ其奴は軍の動きを知っていたのだ? ……ほう、見慣れない商人風の男が……なるほどな」
このレイルレーン鋼国に商談で訪れる者は多く、彼らが各地から噂を持ち寄ってくるのはよくあることだ。工作員はそんな商人を装って潜伏し、あくまで又聞きの噂として欺瞞情報を流した。商人ならばいつの間にか立ち去っても怪しまれない……辻褄は合う。
「ならば帰りも堂々と出ていくつもりか……おっと」
その時、仲間から連絡が入った。曰く、貨物車に逃走用のキャバリアを発見したと。
「尻尾を掴んだか。こちらもおかげで人相が割れた、後は追い詰めるだけだな」
新しい友人たちに手を振ってから、ユーザリアは情報を共有しつつ現場へと走る。
成功
🔵🔵🔴
シール・スカッドウィル
初めて訪れたクロムキャバリアでこれとは。
互いの矛先をずらされて、漁夫の利一歩手前だな。
手遅れになる前に片付けたいところだが……。
……必要な情報、もう出ているな……木を隠すなら森の中、か。
さて、既に騒ぎが起きているのなら、さっさとここを離れたいはず。
人相は割れているが、紛れられると厄介なのは変わらず、と。
「ここは一つ、原始的に行くか」
先達が見つけた証拠から臭い――ではなく、<存在感>の痕跡を観測。
砂鉄の獣、アンノウンに追跡の性能を【付与】し、猟犬として解き放つ。
オブリビオンの影響下にあった品だ、<索敵>の核としては十二分だろう。
ま、情報伝達が間に合えば現地人でも捕まえられるだろうし、保険だな。
猟兵たちの捜索により、工作員の捕縛作戦はいよいよ大詰めを迎えていた。
個人商人を装ってレイルレーン鋼国へ潜入していた敵の人相は市民や駅員への聞き込みでおよそ判明し、逃走用に貨物車へ積み込んでいたキャバリアも既に確保した。
後は人波に紛れて逃走する工作員を見つけ出し、捕縛するだけだ。
「それにしても、初めて訪れたクロムキャバリアでこれとは」
仲間からの情報を確認し、シール・スカッドウィル(ディバイダー・f11249)は内心で呟く。戦乱渦巻くこの世界において陰謀など日常茶飯事だが、複数の国家を巻き込むほどに大規模な危機は滅多にあるものではなく、奇妙な巡り合わせを感じざるを得ない。
「手遅れになる前に片付けたいところだが……」
既に情報は出揃っている。それにキャバリアが隠されていたという貨物列車のホームに近づくほど、より喧騒が激しくなっているように感じる。提供された情報を元に、鉄道警備隊が動いているのだろうか。だとすれば、あと一息のところなのかもしれない。
シールは冷静に周囲へ視線を走らせた。周囲には市民や駅の利用客で溢れ、みな不意の騒ぎに狼狽えている。その混乱の中へ工作員が紛れ込んでしまえば、取り逃がすことが無いとは言えないだろう。優勢になった時の最後の詰めこそ、慎重でなければならない。
「ま、念の為の保険だ。ここはひとつ、原始的な手を使うとするか」
そう呟くと、シールは砂鉄の獣に術式回路を『付与』した。無形故にアンノウン、その原初の姿に「追跡」という指向性を与えていく。持たせるのは匂いではなく、集められた証拠と同質の存在感を捉えるための嗅覚。それさえあれば、砂鉄の獣も猟犬足り得る。
「よし、行け。間違ってもやり過ぎるなよ」
今回の任務は抹殺ではなく捕縛だ。工作員が無事でなければ国家間対立が仕組まれたものであるという証拠にはならないし、そもそも工作員自体もオブリビオンマシンの影響下にある犠牲者であり、むやみに傷つけるわけにはいかない。術式回路で発見時の行動を定義付けした上で、シールは砂鉄の猟犬を送り出した。アンノウンはその構造を最大限に生かして人々の間を巧みにすり抜けながら、情報の痕跡を追って疾走する。
「あとは時間の問題だろうが、万が一が起きないことを願うだけだな」
結論から言えば、そんな心配の必要はなかったようだ。シールが現場に到着した時には既に、件の工作員は砂鉄の塊に押し潰されて身動きが取れなくなっていた。スーツを着込んだその姿は何処にでもいる商売人そのもので、駅の乗客の中に完全に紛れてしまえば見つけようがなかっただろう。猟兵たちの働きがなければ逃げおおせていたに違いない。
「なんとか漁夫の利一歩手前で踏み止まれたか……ここからが本番ではあるがな」
アイゼンラント側の作戦と合わせれば、これで両国間の誤解は解けるはずだ。
そしてそれは、真の敵たるオブリビオン部隊との戦いが始まるということでもある。
今後に思いを馳せながら、シールは警備隊に連行されていく工作員の背中を見送った。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『ハルピュイア』
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POW : タロン・クロー
【猛禽類の爪を思わせる鋭いクローアーム】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : マルチプル・コンバット
【対キャバリア用三連装チェーンガン】が命中した対象に対し、高威力高命中の【無誘導式ロケット弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : ツインローター・アングルチェンジ
自身の【二基のティルトローター・ユニット】を【戦闘中に角度を垂直と水平のどちらかへ同時】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
👑11
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グレート・フォーカスに潜入していた工作員からの報告が途絶えた。
捜査の手から逃れるために息を潜めている――などと楽観的には考えられない。
既にブルネル隊の救出も許してしまった。事態は大きく動き始めている。
『ようやく鋼国側も事態を把握したようだな。じきに本隊が送られてくるだろう』
「それがどうしたというの? もう十分時間は稼いだ。作戦に支障はないでしょう」
キャバリアの通信機越しに言葉を交わす一組の声。いずれもが女性のものだ。
モニターに映る短髪で中性的な顔立ちの女に淡々とした視線を向けながら、流れるような長髪のパイロットは自機の最終チェックを続けていた。この機体に搭載された特殊機能は非常に繊細なものであり、万全な状態で運用するには調整が欠かせない。
「姉さんには悪いけれど、いずれにしても天の光は遍く地上を照らすだけ」
『それがお前の宿願ならば構わぬ。私は胸に響く慟哭の命ずるままに戦うまでだ』
彼女たちは姉妹で、腕の立つ二人組のキャバリア乗りとして名を知られていた。
そして適性の高さゆえにオブリビオンマシンの怨念と同調し、精神を取り込まれた。
今も姉妹として話しているのか、姉妹を通して機体に宿る意志が会話しているのか。
いずれでも同じことだ。破綻した二人の思考は、同じ目的のために結びついている。
成就させよ、かつての悲願を。そして殲滅せよ、安寧を貪る者たちを。
どちらが成し遂げるのでも構わない。宿願のためにはいずれの命も問題ではない。
最終確認を終え、白く美しくも異形の機体がゆっくりと浮上する。
空に浮かび、仰ぎ見るは遥かなる天。輝けるものは、その視線の先に在りて。
▼ ▼ ▼
猟兵たちと鉄道警備隊のブルネル部隊を乗せ、高速鉄道が荒野を疾走する。
工作員の捕縛に加えて行方不明となっていた部隊が救出されたのを受け、レイルレーン鋼国の上層部は速やかにアイゼンラント自治領との和睦を決定した。
だがオブリビオン側の戦力は整いつつあり、猟兵たちの動きにも感づいているだろう。
両国の合意を待ってから連合軍を編成するような時間的余裕はない。
既にアイゼンラントは先遣隊を派遣している。鋼国も急ぎ部隊の派遣を決定した。
幸い、ブルネル部隊の運用は、鉄道での大量高速輸送を前提としている。
部隊の編成から発進に至るまでの流れは、異例ともいえる早さで実現した。
ただ敵拠点までの直通路線など無く、途中からは自力で移動しなければならない。
ブルネル部隊と共に荒野を往く猟兵たちは、やがて複数の機影を確認する。
下半身の代わりにバランサーだけを装着した、飛行型キャバリアの群れ。
例の工作員が脱出用に持ち込んだのと同じ機種――名は『ハルピュイア』。
軍事衛星『殲禍炎剣』に狙撃されない高度を飛行してこちらに迫る敵部隊は、高度な三次元機動と必要十分な火力を両立しているのが一目瞭然だった。軽量化のために装甲は削っているようだが、それが致命的な欠点とはならないだけのスペックがある。
恐らくはこちらが敵の本隊。先行しているアイゼンラント側が敵の遊撃部隊を引きつけているため、別方面からの攻撃に対し主力を動かさざるを得なくなったということか。
敵機体はいずれも有人機。舐めてかかればその機動力に翻弄されるだけだろう。
「敵機警戒! ブルネル隊戦闘準備、発車オーライ!」
鋼国の部隊が一斉に機関砲を構える。荒野に鋼鉄の風が吹き荒れようとしていた。
ランケア・アマカ
駅でも見ましたが、面白い形状の機体ですね
…空中戦で負けるわけにはいきません
MF-L1に乗って敵集団へ一気に飛び込み、同士討ちを誘う機動で翻弄します
敵の機体、翼かローターの片方か、ロケット弾の入ってるランチャーでも撃ち抜けば墜ちてくれるでしょうか
【疾風塵】で一機ずつ確実に墜としていきましょう
敵の弾は一発でも受けたらお終いでしょうから、動きを止めないように気を付けます
ブルネル隊と連携して地上と空中から同時に狙えば、どんなに敵が高機動でも墜とせないことはないはずです
敵は全て有人機、でしたね
諦めて投降するなら良いですが、抵抗するなら容赦しません
アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK!
計画が露見してからの見切り発車。典型的ね。
悪いけど、あなたたちの思い通りにはさせないわ。
猟兵として初めての実戦ね。
……と言いたいけど、キャバリアが修理中なの。
量産機「ブルネル」を貸与してくれないか、
鋼国側に掛け合ってみるわ。
借りられたら搭乗。うん、良い機体ね。さ、行くわよ!
大きく動きながらパルスマシンガンで牽制射撃を行うわ。
移動力か射程を伸ばすように、敵の行動を誘導してみましょう。
此方の小回りの良さ、有人飛行型に無視できるかしら?
私のUCは命中率が高いから、
装甲さえ強化されなければダメージが通る……と思うわ。
ブラストナックルは自分や味方が落とした敵へのトドメに使いましょう。
群れなして迫り来る鈍色の翼。ローターの回転音が重なり合って大気を震わせる。
敵の主力機『ハルピュイア』は、鳥人の名に相応しく空中戦に特化した機体だ。
アンダーフレームの代わりに尻尾のような形状のバランサーを装着し、歩行機能の放棄による徹底した軽量化で量産型キャバリアにあるまじき空戦能力を獲得。主力兵装の多連装ロケットランチャーと三連チェーンガンによって十分な火力を確保しつつ、両腕のタロン・クローはスピードを生かした一撃離脱戦法で威力を発揮する。見た目こそ脆そうではあるが、決して侮れない性能を持つ。大量投入されているなら、尚更だ。
飛来する鋼の猛禽目掛けて、一斉にパルスマシンガンを構えるレイルレーン鋼国のブルネル部隊。そんな彼らを一瞬で追い抜き、小型の飛行艇が空を駆ける。
「駅でも見ましたが、面白い形状の機体ですね」
セイルフローター『MF-L1』に跨がって疾走するランケア・アマカ(風精銃兵・f34057)は、グレート・フォーカス駅の貨物車両でこの機体を発見した時のことを思い出した。未完成の機体に偽装できるほどに特異なフォルムは、実際に飛行する姿を目にすれば、高高度飛行が封じられたクロムキャバリアでの空戦に最適化した結果なのだと理解できる。
恐らくは強襲が目的のマシン。オブリビオン軍はこの機体の火力と航空性能を活かし、対立によって消耗した両国へと電撃戦を仕掛ける想定だったのだろう。
「……そうだとしても、実際は計画が露見してからの見切り発車。典型的ね」
キャバリアのカメラアイ越しに敵機群を目視し、アメリア・バーナード(元穴掘り・f14050)は呟いた。当初の目論見がどうあれ、こうして強襲用の機体を迎撃に回している時点で敵の戦略は崩れているのだ。アドバンテージが向こうにあるわけではない。
脚部の動輪が唸りを上げ、アメリアを乗せた機体が一気に加速する。レイルレーン鋼国鉄道警備隊の制式採用機「ブルネル」は、突出した性能こそ持たないが扱いやすさには定評がある。初めて搭乗したアメリアでもその場で乗りこなせるほどの安定性だ。
「ドリルは付いてないけど……うん、良い機体ね。さ、行くわよ!」
無茶な運用が祟ったか、突撃ドリルを搭載したアメリア本来の愛機は現在修理中だ。代わりに鉄道警備隊から貸与されたブルネルが十分実戦に耐え得ることを確認し、アメリアは機体のスピードを更に上昇させた。鋼国のブルネル隊が一斉にその後へ続く。
地上のブルネルが放ったパルスマシンガンの射撃をホバリングで回避しながら、ハルピュイア部隊は両腕のタロン・クローを展開させた。中央に備えられた三連装チェーンガンが唸りを上げて弾丸を吐き出す。狙いは敵機の間を縫うようにして飛び回り、撹乱を仕掛けている鈍色のセイルフローター。しかし数の優位を生かした集中砲火がランケアを襲うことはなく、流れ弾による同士討ちを恐れるあまり迎撃は消極的にすら感じられる。
「……空中戦で負けるわけにはいきません」
ローター音を響かせて追いすがるハルピュイアの一機を、ランケアは巧みな操舵で翻弄する。旋回しながら上を取ると見せかけて急下降、即座に方向転換させて敵の背後へ。ブルーアルカディアの技術で生み出されたこの『MF-L1』は、設計思想がハルピュイアとは根本的に違う。地表から遠く離れて飛ぶことの許されないクロムキャバリアのパイロットにとって、遥か高空を飛ぶために造られた小型飛空艇の立体的な高速機動はほとんど未知のものだった。その優れたスペックを持ってしても、容易く追随できる動きではない。
ランケアによって巧みに誘導されたハルピュイアのチェーンガンが、他の機体のローターを撃ち抜いた。僚機によって片翼をもがれた不運な機体はバランスを崩し降下する。
「動きは素早いけど、やっぱり機体そのものは脆いみたいね!」
動輪を高速回転させてブルネルが疾走し、ブラストナックルが墜落した機体へと直撃する。電磁パルスによって敵機が完全に沈黙したのを確認し、アメリアは瞬時に上空へと視線を向けた。空戦型の機体は複雑な構造の微妙なバランスで成り立っている。急所に当たりさえすれば、ブルネルの火力でも問題なく撃破できそうだ。問題は素早く飛び回る相手に当たるのか、だが……だったら、回避する余裕を奪ってしまえばいい。
アメリアは上空の敵機へと牽制射撃を放った。直後に機体両脚の動輪をそれぞれ逆に回転させて超信地旋回し、敵機が反撃に出る前に加速してその場を離れようとする。
敵機はティルトローターを水平に倒した。最大速度での追撃……案の定だ。戦場のブルネルの中で、アメリアの機体が特に動きがいいのは敵も分かっているはず。今が好機だとばかりに守りを捨ててまっすぐ追ってきてくれるのであれば、反撃の目も生まれる。
「悪いけど、あなたたちの思い通りにはさせないわ」
アメリアが指差した先の敵機へと、ジャッジメント・クルセイドの光が降り注ぐ。直撃したランチャーが誘爆し、ハルピュイアは飛行不能となって荒野に叩きつけられた。
「続けてもう一発……なんてね。そうやって上ばっかり気にしていると……」
「足を止めましたね。その隙が命取りです」
天からの光に気を取られた敵機に、ランケアのM3シルフィードから放たれた『疾風塵』が直撃した。風の弾丸はローターの一方を正確に捉え、瞬時にその機能を奪う。
「どんなに高機動でも、地上と空中から同時に狙えば墜とせないことはありません」
「そういうこと。ブルネル隊のみんなも続いて、一気に挟撃するわよ!」
地上からの砲火、上空からの光、そしてその間を駆け抜ける風の弾丸。
自慢の機動性を連携で封じられ、ハルピュイアは一機また一機と撃墜されていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
七詩野・兵衛(サポート)
『アルダワ魔法学園応援団『轟嵐会』団長 七詩野兵衛である!』
アドリブや他の猟兵との連携と絡みは歓迎だ。
多少の怪我は厭わず積極的に行動する。
よほどの事情でやらなければいけない時以外は、
他の猟兵に迷惑をかける行為や、公序良俗に反する行動はしないぞ。
戦闘は応援団としてバーバリアンの力強さと、
スカイダンサーの身のこなしを駆使して応援するのだ。
我輩の「ダンス」と「パフォーマンス」で皆を「鼓舞」するのだッ!
応援する相手がいなければ仕方ない、自分で戦闘する。
後はおまかせだ。よろしくおねがいしよう!
シール・スカッドウィル
これが例の機体の完成形……というか、あれで完成形だったんだな。
空中戦特化、か……何ともはや、思い切ったものだ。
では、油断なく叩き落とさせてもらおう。
とりあえず、ブルネルを一機拝借。
自前もあるが……ここで出すと、ちょっとな。
さて、まずは
「アクセス――操縦系に思考を接続、直接動かす」
ちょっとインチキして<操縦>。
これで反応速度と機体制御の精密さを向上し、エネルギーを節約しての定点射撃を行う。
節約分は武装を自前の砲、プロメテウスに回す。
<武器改造>を施してブルネルに接続、出力上げて【輻射】で<誘導弾>の<レーザー射撃>。
味方を広く援護しつつ、雷属性付与で操作系統を壊して捕縛できないかやってみよう。
ユーザリア・シン
ブルネルを借り受けよう
デバイスキーを刺してワイズマンユニット・インカーナダインを接続
何時ものように操縦はインカーナダインに一任だ
……さて、相手は強襲用の空戦騎か
「天の光」とか、ツェリスカは言うておったか? その使いであるかな
ま、何にせよ、出迎えると言うなら否やは無い
子供の使いではないのだ、手並みを拝見であるぞ
ユーハブコントロール
――アイハブコントロール。インカーナダイン、アクティブ。当騎は猟兵ユーザリア・シンの装備品として、その性能を行使します。
敵戦力、味方戦力、周辺地形情報確認…ブルネル・ステータス、確認……完了。
戦術策定完了。戦闘機動に移行。
味方戦力とデータリンク、陣形を整えて敵騎を迎撃します。周辺環境である荒野は見通しが良すぎ、航空戦力である敵戦力に対して非常に有利です。
ですがブルネルは直線走破性に優れ、集団での戦闘機動を安定して統制しやすい。適切な陣形で弾幕を張れば、十分に迎撃可能であると結論します。
当騎の計算は完璧ですね。GOTCHA!
機動力に秀でた猟兵たちが先行し、敵部隊の先陣を次々と撃破していく。
しかし、それだけで戦力を削り切れるほど敵の物量は生易しいものではなかった。
僚機が墜落するのを一顧だにすることなく、新たなハルピュイアが次々に飛来する。
まるで恐怖を知らないかのような動きはしかし決して勇気や覚悟ゆえのものではない。
ただオブリビオンマシンによる洗脳がパイロットの思考を上書きしているに過ぎない。
対してレイルレーン鋼国のブルネルを操縦するのは、あくまで生身の人間だった。
「なんだこいつら……命が惜しくないのか!?」
特攻同然の強襲を敢行する敵を前に、後続部隊の中で僅かな怯えが生じ始める。
いくら実戦経験が豊富な操縦者たちとはいえ、動揺が広がれば総崩れになりかねない。
「――気圧されるな! 諸君らが秘めたる気合と情熱は、機械に劣るものではないッ!」
しかし、その怯懦の波は七詩野・兵衛(空を舞う熱血応援団長・f08445)の張り上げた大音声によって掻き消された。ブルネルの機上に堂々と仁王立ちし、学ランの上から掛けた襷を荒野の風になびかせながら、兵衛は秘伝の応援活法をもって部隊を鼓舞する。
「いざ燃え上がれ鉄道魂! レイルレーン鋼国、エイ、エイ、オォォォッ!!」
烈火の情熱が伝播したか、ブルネルたちの動きから怯えが消えていく。
確固たる速度で前進し、遂に先行隊と合流して敵を射程に捉えた。いよいよ総力戦だ。
「味方の士気は十分だな。さて、我らも始めよう――ユーハブコントロール」
「――アイハブコントロール。インカーナダイン、アクティブ。
当騎は猟兵ユーザリア・シンの装備品として、その性能を行使します」
ブルネルの操縦席に差したデバイスキーを介して、ワイズマンユニットの中枢思考体が起動する。主たるユーザリア・シン(伽藍の女王・f03153)の求めに応じて、従者たるキャバリア『インカーナダイン』の自意識がブルネルの操縦系を完全に掌握した。
「戦力、地形、及び機体ステータス確認……終了。戦術策定完了、戦闘機動に移行」
インカーナダインは量産機を遥かに凌駕する処理能力をもって、瞬時に戦場の全情報を掌握。同時にブルネル部隊とリンクを行い、自軍全体とデータを共有する。
「敵も子供の使いではあるまい。出迎えるというなら手並みを拝見させてもらおう」
情報処理に加えて操縦も従者に一任し、ユーザリアは敵機の群れを睥睨する。
ユーザリア機からのデータリンクによって、解析されたハルピュイアのスペックもまたブルネル全機に共有された。歩行能力を捨て、火力と機動力に全てを注ぎ込んだ極端なスペック。無謀と紙一重のコンセプトでありながら十分に実用級の性能を有している。
「あれで完成形だったんだな。空中戦特化、か……何ともはや、思い切ったものだ」
ブルネルの操縦系に思考を接続したことによるフィードバックで、情報が直接自分の中に流れ込んでくる。シール・スカッドウィル(ディバイダー・f11249)はデータを整理しながら、思わず感心した。あの機体の攻撃力とスピードの両立は、不要なものを躊躇いなく排除するという徹底した割り切りによるもの。いっそ清々しいまでの潔さだ。
もっとも長所と短所がはっきりしているなら、タネが分かれば対処のしようはある。
「幸い、僚機との連携は取れそうだな。そして、一対多ならこちらに分がある」
思考接続によるダイレクト・コントロールにより、このブルネルは操縦時に生じるタイムラグと不要な動作によるエネルギーのロスが大幅に軽減された状態にある。いわばシール自身の拡張された身体として、文字通り手足のように扱うことが可能だ。
シールは接続されたデータリンクを逆に辿って思念を発信した。このブルネルに搭載された自前の兵装、武器改造の施された必殺の火砲「プロメテウス」。その照準を僚機の観測データで補整すると同時に、こちらの標的を常時味方とも共有していく。
「さて、始めるとしようか」
シール機が上空の敵へと構えたプロメテウスに、『二面性』が収束する。
▼ ▼ ▼
ティルトローターを前方に倒して加速することでブルネル部隊のパルスマシンガンを躱し、ハルピュイアの群れが地上目掛けて急襲する。両腕の三連装チェーンガンが高速回転しながら火を吹き、放たれた銃弾の暴風が荒れた大地を穿って砂煙を巻き上げる。
「慌てるな、臆するな! 我輩のエールで、内なる闘志を呼び覚ますのだッ!」
鍛え抜かれたキレのある動きで砲火を回避しながら、兵衛が声を張り上げた。彼の応援活法により、味方部隊の士気は高まっている。上空からの強襲という不利な状況にも関わらず食い下がれているのはそのためだ。だが、状況を覆すにはあと一歩が必要だった。
「インカーナダインよ、やはりこのだだっ広い荒野がこちらに不利なのではないか?」
「その通りです。しかしブルネルは走破性に優れ、集団での戦闘機動を統制しやすい。
適切な陣形で弾幕を張れば、強襲用の空戦騎でも十分に迎撃可能であると結論します」
ユーザリアに力強い推論を返し、インカーナダインはブルネルを操って直近のハルピュイアを迎撃した。機関砲の弾丸が敵機のローターを撃ち抜き、飛行能力を喪失させる。
直後、シール機からの逆データリンクを受信。内容は、敵部隊広域への一斉掃射。
「連携に適した陣形を提案、僚機へと送信します。各機は掃射後速やかに追撃を!」
ユーザリアの『痩せても狼』は、地形の不利を覆す逆転の力。そのユーベルコードをインカーナダインがキャバリア戦闘に最適化し、開けた荒野という危険な環境における最適解を導き出した。兵衛の声援で心をひとつにしていた味方部隊は、ユーザリア機から受信したデータを元に一糸乱れぬ動きで瞬時に陣形を組み、来たるべき一撃を待つ。
味方機の配置が完了したのを確認し、シールは上空の敵に狙いを定めた。思考接続により念じるだけで複数機を纏めてロックオンし、プロメテウスを構えて心で銃爪を引く。
「シルエットシフト――では、油断なく叩き落とさせてもらおう」
放たれるは『輻射』。雷の力を込めた500本にも及ぶ拡散ホーミングレーザー。一発一発の威力は収束射撃に比べて落ちるものの、その誘導性は驚異的だった。迸った光のシャワーが、美しくカーブした軌跡を描いて一斉に敵機へと殺到する。雷属性の付与は低下した火力を電子機器へのダメージで補うためだ。空戦機ゆえの精密な造りが仇となる。
「勝機である! 肚に力を入れて、気合と情熱で悪を撃つのだ!」
ブルネルの頭部に着地した兵衛が、不動の姿勢で腕組みしたまま声を張り上げた。
「敵機群の機能低下を確認。データリンク……照準補整。一斉射撃、今です!」
そしてユーザリア機の号令のもと、ブルネル隊のパルスマシンガンがハルピュリアへと放たれる。『輻射』の誘導レーザーによるダメージとと電撃パルスによって本来の性能を奪われた敵機群は回避することも出来ず、次々とエンジンを破壊され墜落していく。猟兵たちはブルネル部隊を率いて戦況を覆し、敵を文字通り一掃することに成功したのだ。
精密な統制により、これだけの攻撃を加えながらも敵機コクピットへの直撃はない。後ほど機体を回収すれば、洗脳されていたパイロットたちは問題なく救助できるだろう。
「GOTCHA! 当騎の計算は完璧ですね」
インカーナダインの機械らしからぬ歓声に微笑みつつ、ユーザリアはふと考える。
(……『天の光』とか、ツェリスカは言うておったか?)
グリモアベースで耳にした、謎めいた予知の断片。
それが何を意味するのかは、この先へと足を進めて初めて分かるのだろう。
動輪を唸らせて、ブルネルが荒野を駆ける。既に太陽は、西へと沈みつつあった。
成功
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第3章 ボス戦
『ネハシム・セラフ』
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POW : 天使の梯子
【自身が殲禍炎剣にアクセスできる状態 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 廻転する炎の剣
【自身の翼から放たれた車輪状の炎 】が命中した対象を燃やす。放たれた【あらゆるものを焼き尽くす】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな
自身が【歌うような機械音を発し、翼が輝いている 】いる間、レベルm半径内の対象全てに【炎のように輝く翼】によるダメージか【機械音】による治癒を与え続ける。
👑11
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飛来した恐るべき鉄騎の群れは、遂に一機残らず翼をもがれて地に落ちた。
生存者は鋼国の救助隊に任せ、猟兵たちはブルネル部隊を伴ってひた走る。
沈みゆく夕陽が鉄の騎兵を照らし、荒野に長い長い影を投げかけていく。
前進を続けた猟兵たちは、やがて遥か遠方に敵の拠点らしきエリアを確認する。
いや、望遠スコープで確認する限り、あれはただ野晒しにされた瓦礫の山だ。
荒野の風に吹かれて錆びゆく鉄の残骸は、まるで鉄騎たちの墓場のように見える。
その時、残骸の山から背筋震わす『慟哭』めいた不協和音が響いた気がした。
先行するアイゼンラント側の猟兵たちが、敵の首魁と戦闘を開始したのだろうか。
加勢に向かわなければ。そう考えた直後、一行は咄嗟に進撃の足を止めることになる。
光り輝く何かが、瓦礫の中からこちらへと飛び立つのを目撃したからだ。
『あのまま素直に相争っていれば、何も知らずに死ねたでしょうに』
僅かな時間で一行の上空へと飛来したのは、純白の装甲を持つ異形のキャバリア。
人型の定義から逸脱した構造ながら、巨大な白い翼からは神々しさすら感じられる。
その機体から通信に乗って発せられた声は、まだ若い女性のもの。
単に冷静沈着な声色というだけでなく、どこか底冷えするような響きが含まれている。
『まあ、いいわ。姉さんの手を煩わせるまでもない。どのみち、終わりなのだから』
声はあくまで淡々としたもの。だからそれは、何の前触れもなく起こったことだった。
天から放たれた一条の光が、輝ける柱となって乾いた大地を穿つ。
あまりに唐突過ぎて、何が起こったのかその場で理解できた者はいなかっただろう。
だがこの世界についての知識を持つ者であれば、否応なくその意味に気付くはずだ。
遥かなる天から降り注ぐ光。天へと近付く者を灼き、文明を地上に縛り付ける光。
――暴走衛星「殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)」。これがその輝きだというのか。
『このネハシム・セラフは、かつて殲禍炎剣を外部から制御するために建造された機体。
でも計画は失敗して、国ひとつを灼き払ったがために当時の記録ごと封印されたの』
彼女が静かに語る言葉に籠もるものは何だ。無念か、それとも執念か。
『だけど、無かったことにはさせないわ。過ちを土の下に葬り去って、天の光からはただ目を逸らして、それで仮初めの平和を得ようだなんて……許せるはずがないでしょう?』
彼女は……いやネハシム・セラフは、今を生きる人々に知らしめようとしている。
自分は何のために生まれたのか。衛星を制御し、地上を救うためではなかったのか。
何事も無かったかのように忘れ去ってしまえるのならば、あの犠牲は何だったのか。
かつて地上を灼いた天の光を、そして我が存在理由を、死の間際に思い出すがいい。
『いずれにしても、光は遍く地上を照らすだけ。さあ、天を仰いで嘆きなさいな』
沈みゆく夕陽を背に翼を広げ、機械仕掛けの熾天使が舞い降りる。
ランケア・アマカ
無かったことにさせたくない、それは分かります
…でも、だからこそ、犠牲を増やそうとするのは分かりたくないです
止まっていたら撃たれます、MF-L1で動き回り敵の攻撃を回避しつつ、弱点を探りましょう
あの翼、撃ち抜ければ火力と機動力を削ぐことが出来そうですね
装甲は頑丈そうですが、関節部分を狙えれば何とかなるかもしれません
撃ってくる炎を最小限の機動で回避、翼の隙間を縫うように飛び込んで【疾風塵】を撃ち込みます
翼を削いでも効果が薄いなら、他の姿勢制御を担っていそうな部分を狙ってみましょう
敵機の足下に入ってしまえば天の光からは逃れられそうですし、脚部に撃ち込んだり背部にも回り込めそうです
どんな世界でも、空は自由に飛べる方が良いです
殲禍炎剣だって、いつかきっと撃墜してみせます
シール・スカッドウィル
天使とは、大きく出たな。
救うために生まれたのだとしたら、今のそれは真逆の姿だというのに。
落とした帳は開いた空。
月よりの落涙はこの頭上に、地に降りて星を焼き食み、失った姿を再製す。
<騎乗、突撃>――やるぞ、ユミル。
思うに、その制御に意志ありきというところに、付け入る隙があるのではと。
どうせ当たればアウトだ、装甲を破棄、移動力重視で<操縦>。
ヨトゥンの特性は元々この機のもの、<氷結耐性>は広域に渡る熱制御の産物。
UCによる干渉力を得た陽炎の<残像>は分身の如く、氷の粒子を以て捕えた光が、観測を欺く。
後のやることは、ほぼ<スナイパー>だな。
機が来るまで冷静に耐え続け……命を賭して、一撃を届けよう。
天城・千歳(サポート)
本体で行動出来る場所なら本体で、本体の入れない場所の場合は戦闘用リモート義体で行動し本体は義体からの情報を元に【情報収取】【戦闘知識】【世界知識】【瞬間思考力】を使い状況分析及び支援行動を行う。
戦闘状態になったら【誘導弾】の【一斉発射】による【範囲攻撃】で【先制攻撃】を行い、その後は【スナイパー】【砲撃】【レーザー射撃】で攻撃する。
敵の攻撃は状況に応じて【盾受け】で防御するか【見切り】【ダッシュ】【推力移動】を使った回避で対応。
味方とのコミュニケーションはリモート義体が【コミュ力】【礼儀作法】場合により【言いくるめ】を使って対応する。
協力体制を構築した味方に対しては、通信による情報支援を行う。
軍事衛星「殲禍炎剣」。この世界の文明は、その存在を前提に成り立っている。
高速飛行する物体を無差別に狙撃する天の光は、やがて国家の在り方すらも定義した。
空輸を封じられた世界で物流を担い、鉄道を発展させたレイルレーン鋼国もそうだ。
あるいはアイゼンラント自治領もまた、この世界の歪みの中で藻掻いていた。
地を這う人の生き様を決めるのが、彼方より外界を見下ろす天の御業というのなら。
地上にてその裁きを代行せしめる者は、何と呼ぶべきなのだろうか――。
▼ ▼ ▼
被弾の直前に意識接続をカット。予測されるエラーの逆流を遮断したその瞬間、大気圏外からの狙撃がブルネルを掠め、ただそれだけで機体の片腕を蒸発させた。
「……『天使』とは、大きく出たな」
シール・スカッドウィル(ディバイダー・f11249)は小さく呟きながら、機体のハッチを緊急脱出コードでこじ開けた。まだ足回りは生きているが、どのみちこの火力差では長くは持たない。立ち向かうためには、こちらも温存していた切り札を切る必要がある。
「救うために生まれたのだとしたら、今のそれは真逆の姿だというのに」
『それは救いの定義にもよるわね。神意の代行者、なんて嘯くつもりはないけれど』
目的のためならばあらゆる犠牲を厭わないような、冷徹なる意志の籠もった女の声。
今の彼女はきっと顔色ひとつ変えることなく国ひとつを灼いてみせるだろう。
いや、操縦席に座る彼女ではなく、あのネハシム・セラフという機体に宿った情念か。
「いずれにせよ、その所業は容認できません。全力を挙げて阻止させていただきます」
追撃に移ろうとするネハシム・セラフへと、連装ミサイルが殺到した。天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)は背部複合兵装ユニットの十六発を躊躇わずに撃ち尽くすと、ラージシールドを構えて僚機の前へ躍り出た。全高2.4mを超えるウォーマシンの巨体は、しかしこの世界においては一般的なキャバリアの半分にも満たない。それでも一切怯むことなく、千歳は続けざまにブラスターライフルのバースト射撃を放った。正確に照準を絞った弾丸だが、セラフの装甲と機動力の前では単体で決定打とはなり得ないようだ。
「……生憎だけれど、私たちは誰かに認めてほしくてやっているわけではないのよ」
熾天使の放つ高熱エネルギーが、車輪状の炎となって猟兵たちを襲う。
ネハシム・セラフの常軌を逸した火力が、殲禍炎剣に支えられているのは事実だ。
だがそれはこの純白のキャバリア単体のスペックが低いということを意味しない。実際に相対して初めて理解できる威圧感。かつては暴走衛星へのアクセスという重大な任務を任されていたからこそ、その自衛能力は標準的なキャバリアを優に凌ぐものだ。
(止まっていたら撃たれます、動き続けないと)
ランケア・アマカ(風精銃兵・f34057)を乗せたセイルフローター『MF-L1』が、その機動力を最大限に発揮させて空を駆ける。軽量級ゆえのスピードを有するこの小さな飛空艇にも敵は正確に狙いを付けているのだろう。元より高速飛翔体を一切の区別なく撃ち落とす暴走衛星とその制御機、機体が小さければ見逃してもらえるわけではない。それでも、ブルーアルカディア生まれの愛機は追いすがる火炎を紙一重で回避し続けていく。
「無かったことにさせたくない、それは分かります」
『聞き分けがいいのね。それなら退いてくれると面倒が減るのだけれど』
ランケアの呼びかけに、ネハシム・セラフの操縦者は素気なく応えた。己の生まれた意味、それによって失われた命。それを無かったことにさせはしない……その一心で彼女は戦い続けている。それ自体は、きっと誰もが抱き得る感情なのだろう。
「……でも、だからこそ、犠牲を増やそうとするのは分かりたくないです」
『そう。安心したわ、私の何もかもを分かった顔をされるよりも余程いい』
廻転する炎の剣が迫る。ランケアはMF-L1に急制動を掛け、一気にネハシム・セラフの足元へと降下した。そのまま再加速して敵機の両脚をすり抜け、追撃を凌ぐ。
背後へ回ったセイルフローターを狙うべく振り向こうとしたネハシム・セラフは、しかし正面へと釘付けにされた。揺らめく大気の向こうから、エネルギー弾が迫る。
「<騎乗、突撃>――やるぞ、ユミル」
始祖の巨人の名で呼ばれた白きサイキックキャバリアが、異なる白と相対した。
落とした帳は開いた空。
月よりの落涙はこの頭上に、地に降りて星を焼き食み、失った姿を再製す。
握るは儀礼剣:月の顎。喚ぶは鉄球シャルタ。シールの招きに応じて出現したそれは、本来の特性を得て白のキャバリアへと姿を変える。役目を終えて沈黙したブルネルから火砲プロメテウスを拾い上げ、シールは愛機と共に機械仕掛けの熾天使へ挑む。
『見慣れない機体だけれど、キャバリアである限り『殲禍炎剣』には勝てないわ』
「そんなことは承知の上だ。一発でも当たれば終わりだってことぐらいはな」
天の光の前では生半可な防御など意味を為さない。シールは即座にデッドウェイトになり得る装甲をパージし、軽量化による加速で殲禍炎剣の照準をずらした。僅か数瞬前にユミルが存在したはずの地点に、天空から放たれた光の柱が突き刺さる。
『その手の芸当が、そう何度も通じるはず――』
「通じさせてみせましょう。ラプラス・プログラム起動、状況の予測演算を開始します」
ネハシム・セラフが再度狙いを定めるより先に、千歳の二連装レールガンがその翼へと着弾した。『ラプラス・プログラム』は一種の未来予測。本体のリソースを情報収集に回さなければならない欠点はあるが、ごく短時間であれば支障はない。
「それに、こちらも一発芸に頼るつもりは元より無いのでな」
ユミルと接続されたヨトゥンの特性が発動する。その本質は熱制御。冷気に関する能力は一面に過ぎない。冷気と灼熱は、ただ熱を与えるか奪うかの違いでしかないのだから。
機体を中心に展開された高熱の領域は敵の熱源センサーを眩ますだけでなく、大気中の屈折率を変化させて虚像を作り出す。いわば蜃気楼。揺らぐ幻が視界すら欺く。
無論、時間稼ぎだけでは勝てない。だからこそ、機の訪れを待つ。
ウォーマシンの千歳のサポートを受けつつ、シールのキャバリアは敵機の攻撃を引きつけ、ひたすらに凌ぎ続ける。だが敵機の学習能力は、こちらの予想を上回るものだった。機械的な予測に加え、歴戦のパイロットの経験と勘が徐々にこちらを捉えつつある。
「……なるほどな。わざわざ制御に意志を持たせているのは、そういうことか」
じわじわと追い詰められる感覚を味わいながら、シールは呟く。オブリビオンマシンが操縦者を必要とする理由。機械の欠点を補いうるのが人間の能力であり、その意志だ。
だが、あの機体が力を振るう過程で、必ず意志が介在するのであれば。
――突如、ネハシム・セラフの片翼が黒煙を上げた。
翼を構成するパーツの間を縫って飛ぶセイルフローター。その機上でランケアが愛銃・M3シルフィードの銃爪を引き絞る。放たれた『疾風塵』は装甲の僅かな間隙を突き、風の魔力が内側から構成材の一部をも吹き飛ばした。機体制御とエネルギー放出による攻撃の両方を翼に頼るネハシム・セラフにとって、翼は守るべき急所でもある。
「空は自由に飛べる方が良いです。殲禍炎剣だって、いつかきっと撃墜してみせます」
「…………!」
そして、ランケアの言葉がもうひとつの急所をしたたかに打った。恐らくネハシム・セラフを造り出した者たちは、殲禍炎剣を破壊するなど考えなかったのだろう。矛先が自分たちに向くのを恐れたのか、それともその力が失われるのを惜しんだのかは定かではないが、いずれにしても彼らは正面から戦うことを選ばなかった。ネハシム・セラフ自身も想定していなかっただろう撃墜という選択肢に、操縦者の彼女が一瞬だけ虚を突かれる。
殲禍炎剣の制御に意志が介在することによる、僅かに垣間見えたそれゆえの脆さ。
「――付け入る隙を見せたな。命を賭して一撃を届けよう」
装甲の欠けた翼の一点へと瞬時に照準を合わせ、守りを捨てたユミルが決死の狙撃を放つ。天空からの砲撃よりも僅かに早く着弾したエネルギー弾は一撃で翼面装甲の何割かを破砕し、ネハシム・セラフの機体制御を大きく狂わせた。一瞬遅れて放たれた殲禍炎剣の光は、シール機から僅かにずれた位置へと着弾し、無人の荒野を穿つ。
「……制御に失敗した……? また、私は過ちを繰り返すというの……?」
通信機越しに聞こえた操縦者の呟きは、僅かに動揺を含んで震えていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK!
これが殲禍炎剣の力……野放しにするのは危険ね。
ブルネル隊のみんなは身を守ってて。私が何とかするわ。
まずチェインアンカーを射出するわ。
互いの機体を繋いで動きを制限しながら、注意もこちらに向けましょう。
「そんな高い所で御託並べてないで降りて来なさいよ!」
敵UCの発動と同時に、敵が反応しそうな速度まで機体を持っていくわ。
広い荒野を活かして、遠距離攻撃から逃げ回りましょう。
相手の急降下を待つなり、チェインを巻き取るなりして、何とかブラストナックルを叩き込む機会を窺うわね。
首尾良く叩き込めたらUCを発動。命からがら脱出よ。
「じゃあね、ブルネル! みんな! 短い間だけど楽しかったわ!」
ユーザリア・シン
黄昏時だな
オバケの時間だ
インカーナダイン、お前の建造目的を果たすが良い
妾はそなたの選択を支持しよう
ユーハブコントロール
――アイハブコントロール
掌握しているブルネルを媒介に、当騎はヴァンパイア・ザ・インカーナダインに変身します
当騎はかつて、祈りによって創られ、果たせず壊れた鋼騎
だがヒトを守るという建造理由を、破壊することは出来ない
敵騎も恐らくはそうなのでしょう
生まれた意味を行為出来ない被造物に、何の意味があるというのか
我々は、ヒトではない
我々は、マシンなのだ
その意味さえ歪めるオブリビオンを、当騎は完全に殲滅します
超高速移動で殲禍炎剣の照準を誘導、回避
間隙をついてサイキックウエイブを纏った四肢で攻撃します
素体となったブルネルの耐久値では、長時間の変身は不可能
だがこの先には、斃れた鉄騎が無数にある
彼らとデータリンクし、稼働時間を延長します
結局、在り方の問題なのでしょう
かつて存在した「私」の構造設計が、今の鋼騎に遺るように
貴方はどこかに続いている
だから今は眠ってください
夜はオバケの時間なのだから
小爆発と共にネハシム・セラフの片翼から白い装甲が弾け飛び、ばらばらと落下する。
剥き出しの内部メカが、天使を模したこの機体が被造物である事実を強調する。
ダメージは決して小さくない。火力も機動力も、当初より確実に低下しているはずだ。
だが、それでも機械仕掛けの熾天使は、内に冷徹なる殺意を宿し続けている。
「……まだよ。まだ何も終わってはいない。天が光を失ったわけではないのだから」
操縦者が見せた動揺も、ほんの一瞬のもの。それを元通り、執念が塗り潰す。
損傷した片翼に合わせて即座に機体バランスを調整する技量は、殆ど神業に近い。
沈みゆく太陽が最後に放つ光を背に浴びて、ネハシム・セラフは未だ健在だった。
「黄昏時だな。オバケの時間だ」
紅く染まる荒野を目にして、ユーザリア・シン(伽藍の女王・f03153)が呟く。黄昏とは誰そ彼、すなわち逢魔が時。彼我の境界が揺らいでこの世ならざるものが姿を見せる。
過去の集積体たる骸の海を彼岸と呼ぶならば、あの熾天使は黄昏の魔に他ならない。
「ブルネル隊のみんなは身を守ってて。後は私たちが何とかするわ!」
これまで勇敢に戦い続けてきたレイルレーン鋼国の隊員たちだが、アメリア・バーナード(元穴掘り・f14050)の言葉に異を唱える者は誰一人いなかった。殲禍炎剣に狙われないようにするだけで精一杯である以上、足手纏いになるのは本意ではないのだろう。
「……最後までお供できず、残念です。皆様、ご武運を……総員、後退!」
マシンガンを構えたまま動輪を逆回転させて離脱していくブルネル隊へ、ネハシム・セラフが追撃を仕掛けることはなかった。それは慈悲だとか騎士道精神ではなく、単に障害と見做していないだけだろう。その注意は片時も猟兵たちから逸れることはない。
『殲禍炎剣は未だ私の手の内にある……何もかも、天の光に呑まれて消えるがいい!』
鋼の熾天使が歌うような機械音を発する。その音は何処か、慟哭の叫びにも似ていた。
そしてその歌に呼応したかのように、殲禍炎剣の光が再び大地を灼き払う。
「これが殲禍炎剣の力……野放しにするのは危険ね」
アメリアの駆るブルネルの脚部動輪が唸りを上げ、大気圏外からの狙撃を紙一重で回避する。量産機のスペックだけでは及ばない機動を実現しているのは、アメリア自身の経験と技量、そして危険と隣り合わせの賭けを厭わない勝負師の気質によるものだ。
アメリア機が敵の注意を引きつけた隙を突いて、ユーザリアの搭乗するブルネルが全速力で前進する。正確には、その時点ではブルネルであったキャバリアが。
「インカーナダイン、お前の建造目的を果たすが良い。妾はそなたの選択を支持しよう」
ユーハブコントロール、とユーザリアが告げる。機体制御のみならず、この戦場における選択権の完全なる委譲。その言葉で、インカーナダインが真なる性能を発揮する。
「――アイハブコントロール」
血統覚醒。ブルネルの黒鉄の装甲が真紅を基調とした細身のシルエットへと変化していく。中枢思考体インカーナダイン本来の姿たるサイキックキャバリア『ヴァンパイア・ザ・インカーナダイン』が、ブルネルを媒介として戦場に姿を現した。念動力を用いた機動性は量産機の比ではない。敵が照準を切り替えるより先に死角へと回り込む。
「当騎はかつてヒトの祈りによって創られながら、果たせぬままに壊れた鋼騎。
だがヒトを守るという本来の建造理由を、当騎は自ら破壊することは出来ない」
インカーナダインの自意識が導いたのは、機械同士のある種の共感だった。役目を果たすために生まれ、果たせずに終わる。造られた目的を全うできない被造物に存在意義はあるのか。その無念を抱くもの同士が、互いに時を経て舞い戻った戦場で激突する。
「我々は、ヒトではない。我々は、マシンなのだ」
『今更言われるまでもないこと。だからこそ、私は存在理由を示すためにここにいる!』
インカーナダインを狙い、光の柱が大地を穿つ。機体を損傷しながらも、その照準は極めて正確だ。殲禍炎剣の完全なる制御という存在理由を、自ら証明するかのように。
だが、そこに託されていたはずのヒトの願いは、もはや誰も覚えてはいない。
「被造物たる意味さえ歪めるオブリビオンを、当騎は完全に殲滅します」
『歪んでいるのは、身勝手に人が与えたその意味のほうでしょうに……!』
呻くように声を絞り出しながら追撃を加えようとしたネハシム・セラフのボディが、その場で大きく傾く。剥き出しになった片翼の内部メカへと突き刺さったチェインアンカーが動きを制限し、機械仕掛けの熾天使を地上へ縫い止めようとしていた。
「降りて来なさいよ! 高い所で御託並べてる限り、人のことなんて分からないわ!」
敵と自機を繋いだチェーンを最大出力で牽引しながら、アメリアが叫ぶ。ネハシム・セラフが抱く怨念の深さを他者が完全に理解できないのと同じように、クロムキャバリアで生まれ育ち殲禍炎剣から解放される日を強く望むアメリアの想いを、ネハシム・セラフは理解していないだろう。天の光に晒されながら、それでも人は今を生きている。この世界が過去と地続きのものであっても、今ある生命は過去のものではないのだから。
『そんなチャチな鎖で、この私を繋ぎ止められるとでも……!』
「いいえ、十分です。データリンク開始――最大稼働!」
チェインが断ち切られるよりも一瞬早く、インカーナダインが敵機に肉薄した。この形態への変身は素体となったキャバリアに多大な負荷を掛け、現にブルネルは限界を迎えようとしている。そのリミットを彼方に眠るキャバリアの残骸とのリンクで延長し、その全てを今この瞬間に注ぎ込む。全出力を注ぎ込んだサイキックウェイブを纏ったスティンガーネイルが振り抜かれ、ネハシム・セラフの白い正面装甲を引き裂いた。続けざまにもう一方の手で放たれた貫手が、その装甲の裂け目へ深々と突き刺さる。
『……だからといって、ただでやられるものですか……!』
致命的なダメージを受けながらも、熾天使はぎこちなく紅の戦騎へと頭部を向けた。直後、鳴り響くアラート。殲禍炎剣によるロックオン――自分諸共に消し去るつもりか。
だが、その最期の一射が放たれることはなかった。チェインアンカーを巻き取る勢いで距離を詰めたアメリアのブルネルが、渾身のブラストナックルでネハシム・セラフを殴り飛ばしたからだ。そして次の瞬間、ユーベルコードが起動する――『自爆装置』!
「じゃあね、ブルネル! みんな! 短い間だけど楽しかったわ!」
至近距離での自爆に巻き込まれ、機械仕掛けの熾天使は遂に地に墜ちたのだった。
▼ ▼ ▼
「……まったく、無茶をする」
脱出したアメリアを辛うじて受け止めることに成功したインカーナダインは、その直後に限界を迎えて変身を解いた。コクピットの中で、ユーザリアは安堵の息を漏らす。
「かつて存在した私の構造設計が今の鋼騎に遺るように、貴方はどこかに続いている」
インカーナダインの中枢思考体が投げかけた言葉は、沈黙した熾天使へのもの。
「だから今は眠ってください。夜はオバケの時間なのだから」
いつの間にか、陽は完全に没している。空には星が瞬き始めていた。
大成功
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レイルレーン鋼国とアイゼンラント自治領を巻き込んだ陰謀は、こうして終わった。
ブルネル部隊によって救出されたセラフのパイロットは、未だ意識を失っている。
幸いなことに彼女の肉体は無事だ。洗脳が解けた以上、いずれ目を覚ますだろう。
彼女の身柄は両国の保護観察下に置かれることとなった。先に救助された姉共々、
しばらく行動に制限はつくだろうが、この陰謀の罪を問われることはないだろう。
風以外には行き交うものもない夜の荒野に立ち、猟兵たちはふと空を仰いだ。
星々は先程までの熾烈な戦いなど知らないとばかりに、ただ美しく瞬いている。
だが、その輝きの影に隠れて、殲禍炎剣は今も大地を見下ろしているのだろう。
ネハシム・セラフは滅びたが、天の光は未だそこにあり、人を大地に縛り付ける。
その脅威が除かれる日は来るのだろうか。人々が自由に空を飛べる日が。
そしてその日が来るまで、人は天の光を恐れるしかないのだろうか。
それでも、きっといつかは辿り着くはずだ。
かつて機械仕掛けの熾天使が天へと手を伸ばしたことを、人々が覚えていれば。
きっと誰かがその想いを受け継ぎ、その存在に本当の意味を与えるだろう。
見果てぬ天に想いを馳せながら、猟兵たちは夜の荒野を後にした。
血と硝煙と鉄の軋みで満ちたこの世界で、それでも美しく輝くものはある。
帰ろう。輝光で満ちる空の下、懸命に今を生きる人々のもとへ。
【鉄讐計画~見果てぬ天に輝光満つ】終