アポカリプス・ランページ⑧〜略奪は多ければ多いほど良い
●グリモアベース
「……ふう。 諸君、まだ手は空いているかね?」
デトロイトでの厳しい戦いがまだ記憶に新しい頃、アトラ・アレーナ(黒猫船長・f27333)は三度目の召集を呼び掛ける。
世界を滅ぼす計画を目論んでいたフィールド・オブ・ナイン6体は悉く猟兵に討たれ、残すは総大将である『フルスロットル・ヴォーテックス』のみとなった状況に置いて、黒猫紳士が指し示した先は、セントメアリー・ベース。
カナダの国境にほど近い巨大拠点で、人々が比較的平和な共同生活を送っているというこの地は……“彼女”の出身地だ。
●セントメアリー・ベース
「マザー・コンピュータに組み込まれていた女は嘗て歌姫『マザー』として知られていた。 世界最高と称される歌手であったと同時に『時間質量論』の研究論文を残した学者だった、とはな……創造主は間違った奴に二物を与えてしまったようだな?」
皮肉たっぷりに微笑むアトラだったが、嫌悪の対象であるマザー・コンピュータは既に躯の海に沈んでいる。
今となっては支援効果も意味を成さないだろうが、と前置きをした上で……アトラは歌姫『マザー』が残した時間質量論の初期の研究論文に目を付けた。
「奴のことは気に食わんが、論文には興味がある。 既に多くの記憶媒介が運び出されているようだが……奪えるモノはまだまだあるぞ」
どれだけ膨大なデータ量なんだろうか、支援効果を上回るほど運び出してもまだ余りに余っているというマザーの研究論文。
コンピュータなどの様々な記憶媒介に保存されているそれらを運び出してもらいたい、というのが今回のアトラからの依頼だ。
「記憶媒介は大変重いモノもあれば、デリケートに扱う必要のあるモノまで、多岐に渡る。 戦も終わりに近く、何を今さらと思うかもしれんが……暇な者で構わん、手を貸してほしい」
あとは……そうだな、とアトラは目を細めながら下顎に手を添える。
「運び出すだけではつまらんだろうし、我輩から1つ話題でも提供しようか。
マザーはタイムフォール・ダウンという策も用意していたらしいが、それを我々のユーベルコードに組み込むとしたら……諸君はどう扱うだろうか? ぜひロマンと空想を膨らませてみたまえ。 もちろん運搬作業は忘れずにな」
何せ……と、黒猫紳士は微笑む。
目を見開き、牙を剥き出しにした獰猛な笑みだ。
「略奪ってェのはモノが多けりゃ多いほうがいいじゃねェか、なァ?」
ーー成る程、今日は機嫌が良いようだ。
四季臣
このシナリオは「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『アポカリプス・ランページ』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオになります。
六十二度目まして、四季臣です。
この度はここまでOPをご覧いただき、ありがとうございます。
度重なる戦争シナリオ、お疲れ様でした。
海賊の血が騒いだのか、もう1つ追加依頼です。
第1章は、日常『時間質量論を運び出せ』です。
とにかく量が多いらしい時間質量論の研究論文を運び出すお仕事です。
戦闘は発生しません、海賊になった気分でえっさほいさと運び出して下さい。
重いモノが多く、力仕事が主軸になると思います。
プレイングボーナスはそのまま【大量の記録媒体を運び出す】となっております。
おまけとして、マザーの戦術であったタイムフォール・ダウン……早送りと早戻しといった時間操作を組み込んだユーベルコード案があれば、その話題で盛り上がれればいいと思っております。
それでは、四季臣より戦争シナリオ九本目です。
よろしくお願いいたします。
第1章 日常
『時間質量論を運び出せ』
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POW : 腕力に任せて一気に運ぶ
SPD : 乗り物や道具を利用する
WIZ : より重要そうなデータを優先して運ぶ
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ブリッツ・エレクトロダンス
へえ、時間質量論ねぇ。
詳しい論文は後で目を通すとして…いや俺に理解できるかはさておいて。
とりあえず、価値のありそうなデータをサルベージすっか。
(コンピュータに接続して有用そうなデータを片っ端からプロテクトを破ってデータを抽出。ハードディスクとかサーバーとかにデータを入れては自前のVANに積み込み。高価値のデータに目星をつけて盗むのは随分手慣れている)
しかし早送りや巻き戻し、なぁ。
巻き戻しは…まあハッキングする場面では使いようもあるけどやっぱり早送りだな。
CPUのオーバークロック手法がまた増える…いやまあ周波数を上げてねえから厳密にはオーバークロックじゃねーけど。
ヤコ・ナゴ
ふう…(先程まで暗黒面を出していたが猫を被り直す。)
さーて、こういう運び出し作業は私みたいな一般人の出番ですよぉ。
(逸般人の間違いでは?なんて指摘は敢えてスルー)
重量物の運び出しならやっぱりしょべるくんの出番ですっ。
(自前の民生品キャバリアを起動、重量物から運び出していく)
うーん、そのなんとか理論はよく分かりませんけど。
使い道は割とありそうですね…
例えばこう、shovelからいつもの警告(非戦闘用を戦闘に持ち出してる旨とか)を聞く前に早送りして聞き流したりとか…ふふふ…
(愛機のAIからの警告を無視する手段にしようとしている…)
●運搬と言えど、手法は様々
転移された先にあったコンテナ内には、山積みの記憶媒介がありましたとさ。
何となく『ででどんっ』と言った効果音でも聞こえてきそうな余りっぷりに、ブリッツ・エレクトロダンス(★3:DJ.Blitz・f01017)とヤコ・ナゴ(チキンレッグ・f29509)、二人のキマイラはぽかんと口を開け、しばらくの間それらを見上げていた。
「時間質量論……まだこんなあんのかよ……」
「こういう運び出し作業は私みたいな一般人の出番ですよぉ、と言った数分前の自分を殴りたい……」
「え、何だって、一般人?」
キャパオーバー過ぎる、と嘆くヤコの一般人発言にブリッツが思わず振り返った。
ちょっと前まで黒い炎やら嵐の中で闇堕ちしかけてなかったか逸般人、なんて視線をヤコは全力でスルーする。
工事用の重機として発展した民生品キャバリア『しょべるくん』に乗り込み、ヤコは一般人よろしくの重量物運搬作業を開始した。
そんな重機の稼働音をBGMにして、ブリッツも作業を始める……表向きはDJだがハッカーでもある彼は、価値のありそうなデータのサルベージに取りかかった。
「……は? 何だこのデータ量?」
膨大とは聞いていたが、それはブリッツの予想をはるかに上回る程の圧縮データがまだ残っている。
これを解凍して、詳しい論文に目を通すとしたら……理解云々の前に時間経過が恐ろしいことになるだろう。
その場で読むのはスルーして、片っ端からプロテクトを破ってデータを抽出していく……物理的に軽量化を施してから、自前のVANでまとめて運ぶ算段だ。
そんな作業の合間、持ち込んだカフェインドリンコで乾杯した二人の話題は、グリモア猟兵から提供された例の話だ。
「しかし早送りや巻き戻し、なぁ」
「そのなんとか理論はよく分かりませんけど。 使い道は割とありそうですね……」
「へぇ、例えば?」
思案を巡らし始めるブリッツの横、ヤコは先程まで使っていたキャバリアを横目に微笑む。
話によれば、キャバリアにはAIアシスタントの『shovel』が搭載されているようで……ヤコはAIが流す警告にうんざりしているようだった。
「いつもいつも、非戦闘用の機材を戦闘に持ち出していると煩くて……そんな警告を聞く前に早送りして聞き流したりとか……ふふふ……」
「……お前やっぱ一般人じゃねぇわ」
「そういうブリッツさんは何か思い付きました?」
徹底して『一般人じゃない』発言をスルーするヤコに促されて、ブリッツは纏まりかけた考えを言葉にしていく。
「巻き戻しは……まあハッキングする場面では使いようもあるけどやっぱり早送りだな。 CPUのオーバークロック手法がまた増える……いやまあ周波数を上げてねえから厳密にはオーバークロックじゃねーけど」
「ふーん……ところで、気になったんですけど」
「ん?」
「巻き戻しって、何ですか?」
「…………は?」
首を傾げるヤコに、目を見開き口をあんぐりと開けるブリッツ。
いやいや巻いて戻すだろテープを、とか何でテープが出てくるんです? など……世代の違いに予想外の形で出くわす二人だった。
大成功
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御園・桜花
「UC始動10秒前迄の全行動を無かった事にする、但し使用時間分寿命を削る、とか」
首傾げ
UC「ノームの召喚」
ノーム各人に片手で持てる記録媒体1つと、隠されたアイテム1つの計2つを探してくるよう頼む
「壺の中に隠された鍵、刳り抜いた本の中の紙、金庫の中の手紙、机の中のキーホルダー、写真立ての写真の裏に書かれた文字、手帳の中の手紙。隠されていた物だと貴方達が判断した物なら何でも構いません」
リュック持参
机や戸棚の隠しがないかマザーの音源や写真、鍵やキーホルダーやネックレスを集める
「あの方は手段を目的にしてしまったと思うのです。本来の目的の鍵は、こういう物品の中に隠されているんじゃないかと思ったのです」
カイリ・タチバナ
…いつものアトラだった。何か安心するんだよなー。
運び出すなぁ。勾玉に通じてる異空間は俺様以外どうなるかわからねぇから…。よし、じゃ、こっちだこっち(指定UC使用)。
(祀られ上げ膳据え膳だった場所を模しているため)落ち着かねぇ場所だが、安全性はある。
重いやつとか、でかいやつとかはここに収納して、後で出しゃいいだろ。
気温も天気もほどよくなってるから、そんな故障は起きないはず。悪い気は勝手に祓われる。
フォール・ダウン利用するなら、か…。早送りの方で、ちゃちゃーっと何かを作り出しての発射かね?
いいだろ、その場で作りだすのロマンがあって。
●収集すべきは論文のみならず
「……いつものアトラだったな」
清々しく、そしてどこか薄ら寒い笑顔で見送るグリモア猟兵を脳裏に描いたカイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)は、何となく胸を撫で下ろす。
なんやかんやありつつも、結局は利を得ようとするいつもの友人に安心して、ではどうするかを考える。
勾玉に通じている異空間に記憶媒介を持ち込むことは可能だろうが、自分以外のモノはどうなるかは分からない……ならば別の手を、と思案するカイリの視界の端に、ふわりとした桜色がちらついた。
カイリがそちらに目をやると……その先では御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が、たくさんの土小人へお願い事をしていた。
「壺の中に隠された鍵、刳り抜いた本の中の紙、金庫の中の手紙、机の中のキーホルダー、写真立ての写真の裏に書かれた文字、手帳の中の手紙。 隠されていた物だと貴方達が判断した物なら何でも構いません、探し出して、こちらに持ってきて下さい」
そうして桜花は石のビーズを土小人……陽気なノームたちに先払いしてやると、総勢115体のノームたちはわらわらと散らばっていった。
上手く探し出してくれたなら、ノームたちは手に持てる記憶媒介1つと隠されたアイテムを持って戻ってくることだろう……桜花が注視したのは、どちらかと言えばアイテムの方か。
記憶媒介そのものは既に多くの猟兵たちによって運び出されていることを考えれば、別視点の物品を集めるのも選択肢としてはあり得る。
大きなリュックを下ろした桜花の側にカイリが立ち寄る、ヤドリガミであるカイリとしても、マザーが遺した論文以外のモノに何らかの意味があるのなら、そちらにも興味があるのは確かだ。
「あの方は手段を目的にしてしまったと思うのです。 本来の目的の鍵は、こういった物品の中に隠されているんじゃないかと思ったのです」
「……よし、じゃ、こっちに纏めて仕舞っとけ。 俺様としちゃ落ち着かねぇ場所だが、安全性はある」
リュックで背負ってじゃ重いだろ、とカイリが取り出したのは『守神瓢箪』……これはカイリのユーベルコード、銛守神社によって、広く大きな神社が建てられている。
ノームたちが集めた物品をこの神社に納めれば、集めた全てを一度に運べるし、悪い気があれば浄化作用もあるのだとか。
そうしてカイリと桜花はノームたちと協力しつつ、隠されていた物品を探し出しては瓢箪へと納めていく。
「フォールダウン、なぁ……利用するなら、俺様は早送りのほうかね」
写真や音源を運ぶカイリは、桜花へ提供された話題を持ち掛けた。
「ちゃちゃーっと何かを作り出しての発射かね? いいだろ、その場で作りだすのロマンがあって」
「早送りで作る速度を上げるのですか。 では私は早戻しの方で……『ユーベルコード発動10秒前迄の全行動を無かった事にする、但し使用時間分寿命を削る』、とか」
「うっわ、俺様の早作りとかまんま無効化してくるじゃねーか、それ」
首を傾げつつ早戻しの案を上げた桜花に対し、ぎょっと目を見開くカイリであった。
時間を早戻しすることで、行動そのものを実質無かったことにする力……仮に実現したとなれば、恐ろしく強力な力となるだろう。
それこそ、寿命が削れることに納得が行くほどに。
大成功
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夜刀神・鏡介
マザーは倒れたが、奴が残した論文の類はまだまだ大量に残っている
これらが何の役に立つかは分からないが、埋もれたままにして「回収しておけばよかった」なんて後悔したくもないしな
出来るだけの事はやるとしよう
とはいえ、運搬に役立つ技を持ってる訳もないし、地道に運んでいくとしよう
幸いにして体力は有り余っているし、ひたすら運んでいけばいずれ片付くだろう
しかし、時間を操るユーベルコードね。猟兵にも少なからずそういう技を持っている人がいた筈だが、割ととんでもないよな
負傷を巻き戻すとか、敵の攻撃をなかったことにするとか……正直、規模が大きいから、自分で使うイメージは中々湧かないんだよな
俺は地道にやっていくとするよ
四王天・燦
何だかんだで結構付き合った女性だったな
最後の一仕事だ
マザーの歌姫時代のレコードと思しきものに重点置いて盗ませてもらうよ
じっくり聞きたいし、収集癖が疼きます
…検閲されるかもしれねーし、アタシの物ってことで名前書いておこっと
お仕事なんで盗賊式電脳戦法でデータをごっそり吸い出して、機器類も軽トラに積んで運び出しておきます
プログラムを走らせている間に、かつてはどんな性格だったのか趣味や人となり…そんな当たり前に関わるものを探すぜ
そして何が彼女を歌姫から狂科学者に走らせたのか…
そもそもマザーって本名かなんてね
彼女自身のことを知れる情報を漁っておくぜ
時間質量論ってどんな魅力―魔力があったんだろうね
●最後の一仕事
記録媒体の運び出しは恐らくここで一区切りとなるだろう。
最後にもう一仕事をと駆り出された夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)と四王天・燦(月夜の翼・f04448)の作業もいよいよ大詰めといった所に差し掛かっていた。
それでもマザーの残した論文の類はまだまだ大量に残っている……時間質量論の膨大なデータ量を物理的に物語っていた。
鏡介にとってこれが何の役に立つかは分からないが、埋もれたままにして「回収しておけばよかった」なんて後悔はしたくない。
出来るだけの事はやるとしよう、と、己の手で地道にコンピュータを運んでいく。
幸いにして体力は有り余っているという鏡介は、ひたすらノンストップで往復運搬を繰り返していた。
そして燦と言えば……歌姫『マザー』のレコードなどといった楽曲を主に回収している、収集癖が疼いたようだ。
ある程度の数を集め、サインペンを取り出した所で……鏡介と目が合った。
「何をしてるんだ?」
「ん、じっくり聞きたいし……検閲されるかもしれねーし、これはアタシの物ってことでさ」
さらさらと自分の名前を書き込んでいく燦に、そうかとだけ返して自分の作業に戻っていく鏡介。
実際に私物に出来るかどうかは、ガレージ次第だろうか。
仕事の方も抜かりなく、盗賊式電脳戦法で記憶媒介からデータをごっそり吸い出した燦は、それら機材も軽トラに積み込んでいく。
片隅に置いてあったラジオを気まぐれに付けてみたら……人気の歌姫だったからだろうか、マザーの歌が流れてきた。
「マザーって、どんなヤツだったんだろうな」
燦が特に気にかけていたのは、マザー・コンピュータに組み込まれる前の歌姫『マザー』の人となりについてだ。
人気歌手であったマザーの、人としてのプロフィールはどんなものだったのか……そしてなぜ歌姫が科学者となったのか、その経緯に纏わる“何か”を探す。
結果として、『マザー』の人物像について言及するような物品を見つけることは叶わず、手元にあるのは音楽レコードのみだ。
「時間質量論って、どんな魅力……魔力があったんだろうね」
大量の記憶媒介の解析が行われれば、その答えは見えてくるのだろうか。
「時間を操るユーベルコードね」
一通りの運搬を終えた鏡介は休憩の最中、グリモア猟兵からの話題について考えを巡らせる。
仲間の猟兵にも少なからずそういう技を持っている人がいた筈だが、割ととんでもない能力だ。
特に早戻しは、自らの負傷や敵の攻撃をなかったことに出来るだろう……鏡介にとって、これらを自分で使うイメージは中々湧かない。
「まぁ、俺は地道にやっていくとするよ」
そうすれば、途方に暮れるような量があった荷物も着実に減っていく。
あともうひと踏ん張り、と立ち上がった所でグリモアベースから通信が届く。
それはフルスロットル・ヴォーテックスは倒れた、戦争終結だと告げるグリモア猟兵からの帰還指示だった。
猟兵たちは運び出した大量の記録媒体と共に、グリモアベースへ転移される。
今の今まで集められた膨大な量の論文から何が飛び出して来るかは……今はまだ分からない。
大成功
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