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獄焔に咆える

#アックス&ウィザーズ #宿敵撃破


●荒野の灰街
 或る夜、ちいさな街がひとつ地図から消えた。
 昨日までは人々で賑わっていた街は今や焦土。仲の良い親子が棲んでいた赤い屋根の家、女性達が井戸端会議をしていた広場も、煌びやかな宝飾品が飾られた店や毎朝焼きたてのパンを出していた店、磨かれた武具が並べられていた鍛冶屋も。無論、其処に住んでいた人々も――みな等しく灰と化していた。
 それは此処、アックス&ウィザーズでは然程めずらしくはないことだ。
 剣と魔法と竜の世界ではオブリビオンである魔物が蔓延っている。ひとたび彼等の標的となれば、力なき者達は逃れる術がない。それこそがこの世界の現状だ。

 此度、かの地に焔を齎したのは地獄の炎を纏う大いなる炎狼。
 その名は“紅蓮侯”、マルコシアス。
「そやつは数多の戦場を渡り歩き、紅蓮侯という二つ名で呼ばれておる。件の街もマルコシアスと配下の火狼によって襲われ、火の海となったのじゃ」
 鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は肩を落とし、犠牲となった街の住民を思って暫し瞑目した。そしてゆっくりと瞼をひらいた少女は猟兵達に願う。
 どうかこれ以上の被害が出ないうちに、かの存在を斃して欲しい、と。

●炎窟への路
 マルコシアスは常に自らの勢力を拡大せんとしている。
 配下を引き連れた紅蓮侯が次なる地を襲うのも時間の問題だ。そう語ったエチカはその地一帯の簡易的な地図を広げ、灰の街と化した街を指差す。
「件の街を襲ったことから奴らが周辺のダンジョンを根城としていることは分かっているのだが、如何せん詳しい情報がなくての。最初は足で探すしかないようじゃ」
 指先を街から離したエチカは一先ずの指標を示す。
 例のマルコシアスはダンジョンを己好みの炎窟に作り変えるらしいので、発見したダンジョンが炎に溢れていれば其処が根城だと見做していい。
 しかし、見つけるまでの探索が大変だ。
「荒野を虱潰しに探すもよし、痕跡を探してみるもよし。そうじゃ、この辺には荷馬車が通るルートもあるらしい。商人に聞き込みを行うのも悪くはないと思うぞ」

 何らかの方法でダンジョンを発見できれば後は乗り込むだけ。
 だが、炎窟内はマルコシアスの配下も控えているだろう。街から命からがら逃げだした者の話によるとそれらは炎の尾を持つ四足歩行の狼らしい。
 それらは配下として主を守るべく侵入者の排除に動くだろう。
「火狼との戦い、そしてマルコシアスとの決戦。どちらも気を抜けぬものになるゆえ覚悟してかかるがよい。無論、チカは皆をさほど心配してはおらぬのじゃが……」
 エチカは信頼しているというように仲間達を見上げた。
 されど慢心は禁物。くれぐれも気を付けて欲しいと念を押し、少女は皆に告げる。
「さあて、先ずは荒野の冒険じゃ。しっかり頼むぞ」


犬塚ひなこ
 世界は『アックス&ウィザーズ』
 舞台は或る荒野とダンジョンとなります。
 今回の目的は“紅蓮侯”マルコシアスの居場所を突き止め、配下もろとも完全に討伐することです。

 一章は荒野の探索、二章はダンジョン攻略、三章はマルコシアスとの戦いという流れになります。
 難しく考え過ぎずに皆様の最適だと考える行動や自分らしさを存分に出した行動で自由に冒険してください。気持ちのうえではありますが戦闘描写に力を入れる所存です。皆様の格好良いバトルシーンを描かせて頂ければ幸いです。
 どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 冒険 『荒野の探索』

POW   :    荒野を虱潰しに強行軍で探索する

SPD   :    標的の痕跡を探して追跡する

WIZ   :    地形や気候、目撃情報から居場所を推理する

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朽守・カスカ
痕跡を辿るためにも、灰と化した街へ向かうとしよう

…灯というには、燃やしすぎだ。
全くもって気持ちのいい話でもなければ、
このような状況をこれ以上、看過できない、な
きちんと埋葬したいけれど
次の被害が発生する前に止めないと

気持ちがささくれ立ってしまうが、まずは冷静に落ち着こう。
炎を纏う存在ならば、常に水中を移動するなど行わない限り
何かしらの焦げ跡、燃え滓、熱で変色した植物や土などが残るはずだ
地道な道のりかもしれないが、確実に追い詰めてゆくよ

その身が齎した災禍ならば
その身で償うのが道理だろう、さ。

逃がしはしないよ



●燃え尽きたもの
 灰と化した街に、ひとり佇む。
 焔の獣の痕跡を辿るために滅びた街に訪れた朽守・カスカ(灯台守・f00170)は辺りを見渡し、溜息にも似た声を落とす。
「……灯というには、燃やしすぎだ」
 生きる者の居ない街。かつては賑わっていたであろう大通りは今、燃え尽きた樹々や灰に塗れた瓦礫が積み重なっているのみ。
「全くもって気持ちのいい話でもなければ、このような状況をこれ以上、看過できない、な」
 あの崩れた家々の下には炎に焼かれた人々の亡骸も眠っているのだろうか。
 本当はひとりずつ捜し出して埋葬をしてやりたい。
 だが、ささくれ立つ気持ちを押し込めたカスカは頭を振って気持ちを落ち着ける。
 今の自分が亡き者達に報いることが出来る方法は、これ以上の被害が出ないうちに敵の根城を暴き、それらを屠ること。
 焦げ跡、燃え滓、熱で変色した植物や土。
 注意深く周辺を探っていくカスカの瞳は真剣そのものだ。ひとつずつを調べるのは地道な道程かもしれない。それでも、カスカはこうすることで敵を確実に追い詰めていくのだと心に決め、獣の足跡に注視する。
 踏み荒らされた土には様々な足跡がついていたが、その中に街の外へ向かうものはないだろうか。獣が残した痕跡を注意深く探りながら、カスカは掌を強く握り締めた。
「その身が齎した災禍ならば、その身で償うのが道理だろう、さ」
 ――逃がしはしないよ。
 呟いた言の葉は荒野を吹き抜けた風に乗り、灰と共に空に舞った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エメラ・アーヴェスピア
炎の狼…何かこう、脳裏に来るものはあるけど、きっと気のせいね
でも…村が炎に焼かれた、か。…他人事ではない以上、敵は取るわ

まずは大雑把にでもどの辺りにあるか、【情報収集】してみましょうか
さてと…どうやら最近開発したこれの出番のようね
コード発動『ここに始まるは我が戦場』
変形させてから全方位に散らばらせ、この辺りの炎が見える場所を探すわよ
例えハズレがあったとしても、無意味に探すより候補を絞れた方がいいわよね?
見つけた候補を情報共有すれば他の同僚も探しやすくなる筈
さぁ、やってみましょうか
(痕跡を探す意味では【追跡】も?)



●誓いと記憶
「……炎の狼」
 街道添いにて、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)はちいさく呟いた。
 一瞬、何か脳裏に過ぎった気がしたがきっと気のせいだ。そう思うことにしたエメラは街があった方向に振り返り、風になびいた髪を押さえる。
「街が炎に焼かれた、か。……他人事ではない以上、敵は取るわ」
 炎によって死した者達に誓いを立てた後、エメラは掌を頭上に掲げた。戦いは始まる前からが肝心。彼女が探るのは全方位の情報だ。
「さぁ、やってみましょうか」
 ――ここに始まるは我が戦場。
 自ら開発した偵察用魔導蒸気ドローンを上空に飛ばしたエメラは変形させたそれらに情報収集を願う。指定したのは炎が見える場所。
 各自散らばった蒸気ドローン達は主の求めるものを探してゆく。
 だが、どの機体もそれらしきものはいつまで経っても発見できていない。おそらく目的の炎窟は外から火が見えるような場所ではないのかもしれない。
 また、この世界の荒野は広大だ。あまりにも遠くの偵察は難しいのだろう。
「ハズレかしら。けれど、何もない所の情報は得られたわ」
 エメラは落胆することなく、洞窟らしきものがなかった方角を数えていく。こうして消去法で方角を絞っていけばいつかは見つかるはずだ。
「他の探索をしている皆にも情報共有をしなきゃね」
 おそらく今も自分と同様に敵地を探っている同僚達を探し、エメラは歩き出した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アーノルド・ステイサム
【POW】
天災みてえな化け物だな。
あるいは兵器か。戦闘艦が自我を持って暴走してるようなもんかね。
とんでもねえのが他の世界にはいるもんだ。

ブッ倒すためにはまずは捜索と。
といっても俺はもともと戦闘用だし、索敵は苦手分野だ。
ネットワークも使えねえここじゃアナログに行くしかねえなあ。
足を使って働くとしよう。

荒野を歩く。ただ歩く。そして探す。
持久力と燃費は良い規格なんでね。疲れ知らずなのは幸いだな。
目線が高いから俺しか気づかないような手掛かりもあるかもしれん。
カメラとセンサーの精度を上げていこう。

でもけっこう疲れるんだよなこれ…。
ああ、何だありゃ。イヌか?オオカミ?

何か見つかれば照明弾でも打ち上げる。


花咲・まい
【POW】私は体力には自信がありますですから、虱潰しに探していきますですよ!
お腹がすいても大丈夫、私にはおやつがありますですから。
それに、満腹になったら何かひらめくことだってあるかもしれませんですよね!
あと、大丈夫かと思いますが、戦闘になっても良いように警戒は怠らないようにしますですよ。

一緒の方向に向かう人がいれば、一緒に探すのも良いと思いますです。
旅は道連れ世はなんとやらと、先人は言いましたですよ。



●少女とおやつと機械の傭兵
「天災みてえな化け物だな」
 滅びた街を背に、アーノルド・ステイサム(天使の分け前・f01961)は肩を竦めるような仕草をした。あるいは兵器か、戦闘艦が自我を持って暴走しているようなものか。
 自分の世界のものにマルコシアスを譬えたアーノルドは再び呟く。
「とんでもねえのが他の世界にはいるもんだ」
「まったくです!」
 巨躯の彼の足元、花咲・まい(紅いちご・f00465)がぴょこんとジャンプした。
 許せませんです、と金糸の髪を揺らしながら敵を思うまいはアーノルドの後について来ていた。まいもまた、アーノルドと同じく荒野を虱潰しに探索する派なのだ。
 ひとりよりふたりの方が何かを見つけられる可能性が高いと主張するまいにアーノルドが同意した形で即席のコンビが出来上がったのが現状。
 荒野を歩く。ただ歩く。そして探す。
 自らを持久力と燃費は良い規格だと自負するアーノルドに負けず劣らず、まいも強行軍にも近い探索を行っていた。
「大丈夫か? 無理はするなよ」
「私は体力には自信がありますですから、問題ありませんですよ!」
 意気込むまいはきょろきょろと辺りを見渡しながら、決して遅れることなくきちんとアーノルドに同行している。
 それに、と彼を見上げたまいは朗らかに笑った。
「旅は道連れ世はなんとやらと、先人は言いましたですよ」
「なるほどな」
 少女の語る言葉にも一理あると感じ、アーノルドはカメラとセンサーの精度を上げた。
 歩いて、探して、また歩く。
 ちいさな羅刹の少女と大きな機械傭兵。見た目通りの凸凹コンビであるふたりは辿り着く場所を全て調べていく。
「残念です、北の方はなんにもありませんでしたです」
「まあ、何もない場所が判明しただけでも収穫だろう」
 肩を落としたまいにアーノルドはそう残念でもないと答えた。
 何故なら元より自分達が選んだのは足で調べること。手掛かりがないこともまた、言い換えれば情報なのだ。
 その言葉に表情を明るくしたまいは、荷物に手を入れておやつを取り出す。
「お腹がすいていませんですか? おやつを食べて休憩しましょう!」
「いや、俺は……」
 自分は疲れ知らずだと言い掛けたアーノルドだが、少女の方は休息も必要だろう。そうするかと頷きを見せた彼は或る林の近くで小休止をすることに決めた。
 わくわくした様子でおやつを広げていくまいは、どれから食べるか迷っている様子。
「満腹になったら何かひらめくことだってあるかもしれませんですよね!」
 そして、まいはジャムを挟んだクッキーを口に放り込む。
 少女があまりにも美味しそうにおやつを食べるものだから、アーノルドも何故だか穏やかな気持ちを覚えてしまう。だが――。
「何だありゃ。イヌか? オオカミ?」
 不意に遠くの林に獣の影が見えた気がして、アーノルドはカメラを凝らす。
 もしやマルコシアスの配下である火狼だろうか。彼が警戒を強めた様子に気付いたまいはふるふると首を振った。
「大丈夫です。あのオオカミさん、しっぽが燃えてなかったみたいですよ」
「ああ、見当違いか」
「でもアーノルドさんはすごいです。私はオオカミさんより洞窟ばかり探していましたですから。次からは獣さんにも注意していきますです!」
 いつの間にかおやつを平らげていたまいはぐっと拳を握る。
 探索はまだ始まったばかり。もう暫し、この少女との旅路が続くのだろう感じながらアーノルドは立ち上がった。
 目指す先は未だ知れず。それでも、ふたりの胸中に諦めという文字はなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴァルダ・イシルドゥア
【SPD】
仔竜のアナリオンと共に炎狼の痕跡を辿りましょう
アナリオンは空から、私は大地から
紅蓮侯、激しい焔を纏う屈強な獣だと伺いました
それならばきっと、近しい場所には炎の痕跡がある筈
争った痕跡は無いか、焦げ痕は、巨大な獣の足跡は

……これが私の、はじめてのおつとめ
ひとびとの平穏を脅かす炎狼
せめて、何か手がかりを見つけなくては
父さま、母さま、ヴァルダはがんばります

アナリオン、なにかにおいを感じたり、
おかしなところを見つけたら、私に教えてくださいね

まだ、胸の高鳴りが抑えられない
私は、戦えるだろうか
私は……いきものに、槍を向けることができるだろうか

……いいえ、いいえ
みなを守ると決めたのです
進まなくては!



●仔竜と共に
 紅蓮侯、それは激しい焔を纏う屈強な獣。
 まだ見ぬ敵に思いを馳せ、ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)は呼吸を整える。傍らには仔竜が控えており、緊張した面持ちのヴァルダを見上げていた。
「大丈夫ですよ、アナリオン」
 仔竜が自分を心配しているのかもしれないと察したヴァルダはそっと笑みを浮かべる。そして、上空から炎狼の痕跡を辿るよう願った。
「なにかにおいを感じたり、おかしなところを見つけたら、私に教えてくださいね」
 わかった、というように仔竜は翼を広げて空に舞う。
 自分は大地からの捜索だと気を引き締めたヴァルダだが、裡には隠しきれぬ思いがあった。意を決して人里に降りてきた彼女にとって、この探索は猟兵として動く初めての事件となる。
(「……これが私の、はじめてのおつとめ」)
 平穏を脅かす炎狼を探し出し、屠る。そう考えると胸の高鳴りが抑えられなかった。
 私は、戦えるだろうか。
 いきものに、槍を向けることができるだろうか。
 未だ答えの出ない思いが胸の奥で巡っている。だが、考えているだけでは何も始まらないと気付き、ヴァルダは荒野の地平線を見つめた。
「……いいえ、いいえ。みなを守ると決めたのです。進まなくては!」
 せめて何かひとつでも手がかりを見つけなくてはと、少女は一歩を踏み出す。
 ――父さま、母さま、ヴァルダはがんばります。
 故郷を思った少女。その憂いを帯びた伏しがちの瞳には、ちいさな決意が宿っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルイズ・ペレンナ
【SPD】
灰塵を盗んでも仕方ありませんわね
ええ、未来に手に入るお宝を灰にされては
商売あがったりという奴ですもの

狼の群れであればまずは定石通りに足跡は調べてみますわ
それに、紅蓮侯に火狼とくれば痕跡はやはり「火」かしら
荒野に燃える物は限られてるかもしれませんけど
土や草の焦げ跡や熱で焼けた石など
炎に煽られた痕跡がないか目は勿論、焼けた匂いなどにも気を配って観察しますわ

探索と雖も荒野を走るなら宇宙バイクでかしら
【バウンドボディ】で騎乗したままでも痕跡を探ったり触れたり出来ますし
高速移動は勿論ですけど痕跡を消さぬよう慎重に走るのも得意ですのよ?
実際に走ってみて軍団の駆け抜けそうな進路か探ってみますわ



●疾走、宇宙バイク
 荒野の砂塵を巻き上げ、機体は走る。
 ルイズ・ペレンナ(怪盗淑女・f06141)が乗る宇宙バイクは今、東から西に向けて走っていた。北と南には何もないという情報が他の仲間達から入ってきている。
 其処でルイズは狼の群れが通ったらしき東方面を調べたのだが、それは普通の狼の痕跡だったことが分かった。
 注意していた火の痕跡も東では見つからず、ならば残るは西だけだと踏んだのだ。
「灰塵を盗んでも仕方ありませんわね」
 ふとルイズが零したのは宇宙怪盗としての言葉。
 街が消されてさえいなければいつかは其処にも怪盗として訪れていたのかもしれない。そう思うとマルコシアスに対して憤りのような感情が芽生える。
「ええ、未来に手に入るお宝を灰にされては商売あがったりというやつですもの」
 そうして、バイクによる高速移動で荒野を駆けるルイズは周辺を探った。
 土や草の焦げ跡、熱で焼けた石。
 東には無かった炎に煽られた痕跡が西側には確かにあった。未だ焼けた匂いなどはしないが、着実に正解に近付いている証拠が其処かしこにある。
 少しばかり狙いを外したが、向かう先にはきっと炎窟が存在しているはずだ。
「待っていなさい、マルコシアス」
 ルイズは来たる戦いを思い、バイクの速度を更に上げていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

在連寺・十未
炎を纏う狼、紅蓮候マルコシアス、な。……たいそうな異名を持ってるんだね。オッケー、対象把握。

【SPD】ターゲットの痕跡を探してみよう。話を聞くに連中は生きる炎の群れ、みたいなものだ。必ず痕跡は残るはずだ。

火の無いところに煙は立たぬ……まぁ例え話だけども、それくらい「火の」跡ってのは分かりやすいものだからね。直接燃えずとも熱せられれば焦げるし、燃やし尽くして何もないならそれだけで道ができる。

「地形利用」「情報収集」辺りが使えるかな……?


※他の人との連携などご自由にお願いします


ユヴェン・ポシェット
マルコシアス、か…。

「まずは痕跡から、探してみるのが早いか。
炎の跡や匂い…存在が存在だからな…お前達の力を貸して貰えるか?」

子どもの掌に収まるサイズの小さなハーモニカ型の獣奏器を奏で、鳥や狐、狼達に優しく話しかける。

「奴らへ繋がる道を見つけて欲しい。俺よりもお前達の方が優秀だからな。案内さえしてもらえれば、危ない目にはあわせない。だから、よろしく頼む。」

動物達の力を借りて標的の痕跡から、探します。



●焼けた路を辿って
 灰の街から離れた荒野の一角。
「マルコシアス、か……」
「紅蓮候……たいそうな異名を持ってるんだね。オッケー、対象把握」
 ユヴェン・ポシェット(クリスタリアンの竜騎士・f01669)が口にした名に頷きを返し、在連寺・十未(アパレシオン・f01512)は今回の標的を思う。
 街を焼き尽くし、姿を眩ませたマルコシアスを追う手掛かりは他に探索を行う者達からの情報によって少しずつ集まってきている。
 其処でユヴェンと十未は痕跡を徹底的に調べることにした。
「炎の跡や匂い……存在が存在だからな」
「火の無いところに煙は立たぬ……まぁ例え話だけども、それくらい火の跡ってのは分かりやすいものだからね」
 ユヴェンも十未も同じ考えを持っている。
 それゆえに協力しあう道が出来たのだ。直接燃えずとも熱せられれば物は焼け焦げ、燃やし尽くしたならばそれだけで道ができる。
 そうだろ、と十未が問うとユヴェンはその通りだと答えた。
 そしてユヴェンはハーモニカ型の獣奏器を取り出して穏やかな音色を奏ではじめる。すると ビーストマスターとしての力を発揮したユヴェンの周囲に鳥や狐などの獣が集った。
「お前達の力を貸して貰えるか?」
 優しく語りかけたユヴェンは双眸を細め、炎の洞窟を探しているのだと動物に告げる。
「奴らへ繋がる道を見つけて欲しい。俺よりもお前達の方が優秀だからな」
 案内さえしてもらえれば危ない目にはあわせない、と約束したユヴェンは飛び立ち、駆け出した動物達を見送った。
 彼らの力を借り、自分でも痕跡を探せば効率は上がる。
 すごいな、とユヴェンの手際に賞賛の眼差しを向けた十未は、自らも足を動かそうと決めた。予想した通り、灰と化した街から続く丘の方角に焼け焦げた跡が見える。
 街を襲った後か、それとも襲う前に敵の群れが其処を通ったのだろう。何にせよ、何処かを根城にしているのならば訪れた方角も去った方角も同じである可能性が高い。
「これは……取り敢えず確実な方角は絞れたんじゃないか?」
 黒交じりの白髪の毛先を指先で弄り、十未は薄く双眸を細めた。ユヴェンも同意し、方向は絞れたと悟る。
「動物達にもこの丘の向こう側を調べるように願っておこうか」
 未だ完全に突き止めたわけではないが、歩み出したふたりは直感していた。
 この先に、丘を越えた先に望む場所が待っている。されど慎重に進まねばならぬと感じ、十未達は歩み続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベラドンナ・ベルティネッリ
焦土、ね。戦場じゃ珍しくもないけど……気に入らないわ。

とりあえず、手掛かりを見つけるためにも街道を外れたところを中心に歩き回るわ。炎窟なら……何か周囲の物が焦げたりしてないかしらね。焦げ臭い臭いがしていないか注意しながらいくわ。

抜け毛や足跡等、一つ痕跡が見つければそれを足掛かりに【追跡】して調査を進めたいわね。


芥辺・有
まずは街の周辺をぐるりと回って足跡なり何なり、奴等が帰っていった方向を特定できそうな痕跡を探すか。
もし痕跡が見つかるようであればそれを辿ってみるよ。
ダンジョン周辺に生活の痕跡とかもあるかもしれないし、そのあたりも探しつつ。

炎窟ってことは近づいていけば気温の変化もあるのかね。そこら辺も気を付けてみるか。



●炎の温度
 灰が風に乗って荒野を舞う。
 不意に眼に煤が入りそうになり、ベラドンナ・ベルティネッリ(ブラックドッグ・f02642)は眉を僅かに顰めた。
「焦土、ね。戦場じゃ珍しくもないけど……気に入らないわ」
「まったくもって同じ思いだ」
 ベラドンナが零した言葉に芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は肩を竦める。
 街があった周辺を回った有も、足跡を追って来たベラドンナも同じ方角に痕跡があることに気が付いていた。また、虱潰しに荒野を往った猟兵達からの情報もあって探すべきではない方角も分かっている。
 それゆえにふたりはこうして丘を越えた先にある森の前で出会った。そして、今まさに其処を進もうとしているところだ。
「炎窟なら……何か周囲の物が焦げたりしていると思うの」
「近づいていけば気温の変化もあるのかね。そこら辺も気を付けてみるか」
 同じアタリをつけた彼女達は注意深く周辺に目を凝らす。
 森は鬱蒼としている。獣道になっているところはないか。周辺に生活の痕跡などはないか。また、焦げくさい臭いがしていないか。
 森の中は緑の匂いが濃いが、それだからこそ焦げた臭いも目立つというもの。
 それにもし有の予想通りに気温が変化しているのだとしたらそれこそが最大の目印だ。木陰はひんやりとしており、少しの熱の揺らぎでもあればすぐに分かる。
 だが、予想以上に森は広かった。
「結局、足で探すってのは変わらないんだな」
「ええ、探索って地道なものね。……待って、あそこを見て頂戴」
 少しばかり疲労が蓄積した頃、有が息をつく。ベラドンナは頷いていたが不意に顔をあげて、前方を指差した。
 其処に在ったのは大きな洞窟の入口だった。
 一見すればただの洞窟だが、よくよく見れば周辺に焼け焦げた跡がある。そしてほんの少しだけではあるが辺りの温度が高いようだ。
「これは……」
「どうやら目的の炎窟らしいわね」
 顔を見合わせたふたりは木陰に隠れ、気配を消す。
 口を閉ざして内部の様子を窺えば何やら時折、唸り声めいた音が奥から響いて来た。そして、一瞬だけ入口の奥から赤々とした火が噴き出す。
 間違いないと確信したベラドンナ達は踵を返した。何故ならたったふたりですぐに洞窟に挑むのは無謀だと分かっているからだ。
 最初の目的を果たしたならば、次に待つのは炎窟での戦い。
 先ずは探索を続けている仲間に連絡を。本格的な準備を整えるのはそれからだと決め、有達は森の外を目指した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レガルタ・シャトーモーグ
…まずは痕跡だな

灰の街へ調査に行く
木の上に登るなりして街を俯瞰できる場所から、周囲の地形を見回す
街近くまで姿を隠して近づける森や、時間帯によっては薄暗くなって人目につきにくい場所を重点的に見回る

探すのは足跡、灰やスス、爪とぎの痕や毛等があれば確実だが…
そこまで望むべくもない
街道外を移動しているなら、そこは獣道になっている可能性は高いだろう
条件的には森の中の隠された洞窟あたりだろうか…

極力風下から捜索し配下と思わしき個体が居れば身を隠して追跡する
今回は捜索のみだからな…
無用な戦闘はゴメンだ…


ミハル・バルジライ
過れば逃れ得ぬ災厄ならば、禍根を断つより術は無いな。

被害に遭った街の周辺から痕跡を探そう。
行き帰りに同じ経路を使ったのなら、地面や草の上に跡が残っていそうなものだ。
炎を纏う者達ということならば、焦げ或いは枯れた様子も見られるかも知れない。
帰り途ならば血痕や獣臭が道標になるかも知れない。
街道を辿り襲撃してきた可能性も念頭に、街の外に面する建物の壁や塀が途切れた箇所は慎重に確認を。

もし痕跡を捉えたならば、見失わないよう注意深く追跡する。
同様に捜索に励む猟兵達とは情報の共有など極力連携、協力するよう努めて。


ラムダ・ツァオ
炎窟に作り替えるってことは、周囲の木々が燃えるなり動物が逃げてくるなり、何かしらの影響はありそうよね。
動物の死骸や足跡あたりに注意して進むとしましょう。
勿論、こちらの道中の食料なんかもできれば確保したいところだけど。

ひょっとしたら狩りは手下どもにやらせているかもしれないから、
遭遇した場合は身を潜め、風下に陣取りつつ追跡して、ねぐらを突き止めたいわね。
追跡がばれた場合は先手必勝、外套を脱ぎ捨ててシーブズギャンビット。
関節なり喉なり狙って、一気に仕留めるわ。
逃がすよりはマシでしょうし。



●火狼との遭遇
 洞窟を最初に見つけた二人が去った暫し後。
 情報を交換しながらも独自に探索を行っていた者達もまた、洞窟前に辿り着いていた。それはミハル・バルジライ(柩・f07027)とレガルタ・シャトーモーグ(屍魂の亡影・f04534)、ラムダ・ツァオ(影・f00001)の三人だ。
「運良く風に消される前のススの痕跡を見つけてな」
 レガルタは灰の街へ調査に行った際、目星を確りとつけて探索をした。
 そのおかげで足跡と灰、狼が木に爪で付けたであろう痕を見つけて手掛かりとしてきたのだ。そして、森の中の洞窟が怪しいと直感した彼は見事に目的の場所までも探し当てることに成功した。
「成程、こちらは草木が不自然に枯れた様子を見て来た」
「それから、怪しかったのはこの森に動物の気配がないことね。火狼達に怯えて逃げて行ったのかもしれないわね」
 ミハルは頷き、ラムダも自分が不自然だと感じたから此処に来たのだと告げる。
 敵は炎を纏う者達。其処から的確な推理を行い、それが正しいと信じてきた者達が結果を出したことになる。
 そうして此処に到着した三人は現在、洞窟から少し離れた岩の裏に身を潜めていた。
 その理由は炎窟内から火狼が姿を現したからだ。
 狼達は何か目的を持っているわけではなく、ただ単に外の空気を吸いにきただけのような雰囲気が感じられた。
 そして、時折内部から噴き出す炎を浴びても平然としている。おそらく洞窟内を炎で満たしたマルコシアスの加護を配下達が受けているからだろう。
「どうしましょうか。やつらだけでも先に倒してしまう?」
 ラムダは外套を脱ぎ、匂いで此方の存在がばれた時の為に戦闘態勢を整える。しかし、未だ気付かれていないと察したレガルタが首を横に振る。
「今回は捜索のみだからな……無用な戦闘はゴメンだ」
「ああ、このまま戻ろう」
 ミハルも一時撤退を推したことでラムダは武器を仕舞い込んだ。
 そんな中で何よりもミハルが気になっていたのは敵の詳細だ。自分達は洞窟を発見することが出来たが、内部の調査まではできなかった。それゆえに敵が一体どれだけ洞内にいるかの情報も必要かもしれない。
 また、炎窟内がどのような構造になっているかも気にかかる。
 レガルタは仲間と共に森を抜けながら、情報収集に向かった猟兵達のことを考えた。
「もしかすると何か情報を掴んだ仲間がいるかもしれないな」
「そうね、何よりもまずは合流しましょう」
 ラムダはそれが懸命だと判断し、元来た道を進んでいく。
 振り返ればもう洞窟は見えなくなっていた。敵に気付かれず森を抜けられそうだと感じたラムダは外套を着直し、戦いへと思いを馳せる。
 戻ってきたら必ず、あの火狼達を――ひいてはマルコシアスを仕留めよう。
 それはラムダだけではなく、ミハル達も裡に抱いている思いだ。
「過れば逃れ得ぬ災厄ならば、禍根を断つより術は無いな」
「その為の俺達の力がある」
 ふとミハルが落とした言の葉に了として、レガルタはこれから巡る戦いを思った。
 そして、事態は動き出す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セフィ・イーンヴァル
炎狼……狂暴な狼、かな
放ってはおけないよね
絶対に倒さなきゃ
その為に、まずダンジョンを見つけよう

炎に溢れているってことだから、
夜だと見つけやすいような気もするけれど
んー、誰かにお話聞けないかな
運良く荷馬車が通ったら、商人さんに話かけてみよう
「こんにちは、少しお話いいですか?」
「この辺で変わったことはありませんでしたか?」
「狼の遠吠えとか聞こえたりしませんか?」
「不自然な火事が起きているところとか、見たりしていませんか?」
尋ねるのはこのくらいかな
もし少しでも情報が得られたら、
それを元にダンジョンの場所を推測してみよう

行動は夜だよ
火があるところ、そこがきっとダンジョン!
……のはず


ミリシュ・コットンキャンディ
ふふ、足で探すなんて
まるで探偵にでもなった気分
…はっ、いけませんわ
あそびではなくてよ、あたくし!
お仕事ですもの、しっかりしなくては

あたくしは商人の方におはなしを聞きますわ
聞き込みはだいじですもの
できるだけおあいそは良く、笑顔で声を掛けますわ

もし、そこの方
すこぅしお訊ねしたいことありますの
あたくしのおはなし、聞いてくださいます?

地図を広げ、商人たちに見せながら
最近あちこちの街が被害に遭っていますの
これ以上被害が出る前に、なんとかしたいのですわ
なにか手掛かりをご存知ない?
ささいなことでも構いませんわ
あたくしに教えてくださいませ


タロ・トリオンフィ
生存し、街から逃げ果せた人がいる…
人の目とその証言は貴重だね

生存者に怪我があれば『XIX』のタロットで癒そう
本当に、大変だったね
街の皆を想えば手放しで喜べないだろうけれど…それでも、貴方が無事で良かった
「紅蓮侯を討とうと思う」…そう真っ直ぐに切り出そう
街が襲われた時の事
何処から侵入されたか、或いは何方から燃えたか
思い出すのは辛いかもしれないけれど、紅蓮侯を斃す一矢の積もりで教えて欲しい

エチカ嬢が用意してくれた地図と照らし合わせ
証言の方角と、そして炎窟に造り変えるくらいなら恐らく水辺は嫌う、かな。
強者なら隠れた場所より居住性重視だろうし

ある程度絞ったら占ってみようか
【第六感】が働くといいけれど…



●情報集めは会話から
 一方、その頃。
 ミリシュ・コットンキャンディ(ヤドリガミのウィザード・f00987)は街道沿いの泉に訪れていた。彼女が選んだのは街道を通る商人から聞き込みを行うこと。
「ふふ、足で探すなんてまるで探偵にでもなった気分。……はっ」
 気持ちが浮き立っている自分に気付き、ミリシュは口許を引き結ぶ。いけませんわ、とぺしぺしと自分の頬を軽く叩いたミリシュは己に活を入れた。
「あそびではなくてよ、あたくし! お仕事ですもの、しっかりしなくては」
 気合いを入れたミリシュはそうこうしているうちに荷馬車が近くに止まったと察し、泉で休息とりはじめた商人に声を掛けに向かう。
「もし、そこの方。すこぅしお訊ねしたいことありますの」
「何だいお嬢ちゃん。私で良ければ何でも話してあげるよ」
 人の良さそうな女商人の笑顔に安堵を抱いたミリシュは地図を広げた。
 近隣の街が魔物の被害に遭っていることを話した彼女は真剣に、これ以上被害が出る前になんとかしたいと告げた。
 この世界では猟兵という存在は広く知られていない為、冒険者として魔物を倒したいと語ったミリシュに対して商人は首を傾げて考え込む。
「ふーむ、魔物の根城ねえ……」
「ささいなことでも構いませんわ。あたくしに教えてくださいませ」
「そうだねえ、炎の洞窟は知らないがダンジョンの位置と話はいくつか知ってるよ。どれ、その地図に印をつけてあげようじゃないか」
「ありがとうございます。感謝いたしますわ」
 そうして、ミリシュは幾つかのダンジョンについての話に耳を傾けた。
 そのときの彼女は未だ知らず、他の仲間と合流してから知ったことだが、まさにそのうちのひとつが目的の洞窟だったのだ。

●冒険者とダンジョンの話
 同じ泉の傍、宵闇が夜の帳を下ろす時刻。
 セフィ・イーンヴァル(氷晶の乙女・f00065)は考えを巡らせていた。
「炎狼……狂暴な狼、かな。そんなの放ってはおけないよね」
 絶対に倒さなきゃ、と強く意気込んだセフィはその後、近くで野宿をしていた冒険者のパーティーと出会った。
「こんばんは、少しお話いいですか?」
「おう、何だ。お前も一緒に飯でも食っていくか?」
 大柄な戦士は酒を飲んでいるらしく上機嫌にセフィを迎え入れた。
 この辺で変わったことはなかったか。狼の遠吠えなどが聞こえたりしなかったか。もしくは、不自然な火事が起きているところを見なかったか。
 セフィは思いつく限りのことを聞いていく。だが、冒険者達は心当たりがないと首を振った。ごめんなさいね、と魔法使いの女性冒険者がセフィに頭を下げる。いいえ、と首を振ったセフィはその場から離れようとしたが、先程の戦士の男に呼び止められた。
「おっと、帰さないぞ。折角だから俺達の武勇伝を聞くといいぜ!」
「え、えっと……?」
「この人、酔うといつもこうなの。良かったら聞いていってくれないかしら」
「はい……」
 魔法使いに願われ、セフィは冒険者に暫し付き合うことになった。
 戦士の口から語られたのは或るダンジョンのこと。あのフロアでの戦いがどうだった、あの部屋の罠の解除が手間取ったなど、それはまさに冒険譚だった。
 どうやってお暇しようかと考えるセフィだったが、その夜に語られたことは後に猟兵達にとって大きな情報を齎すことになる。
 それを後で知ったセフィは思った。
 何がどう目的に繋がっていくかは未知数。そしてやはり人付き合いとはとても大切なものなのだ、と――。

●生還者の証言
 皆が洞窟を探しに行っている最中。
 タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)は炎に焼かれた街から生還した者の情報を追い、その人物に会いに行っていた。
 生存者を探すのにも手間がかかってしまい、漸く見つけた頃には他の猟兵達が洞窟の場所を突き止めていた。だが、タロはそれも好都合だと感じていた。
 何故なら、生存者から敵の情報を収集することに集中できるからだ。
「本当に、大変だったね。街の皆を想えば手放しで喜べないだろうけれど…それでも、貴方が無事で良かった」
 タロはやさしく声を掛け、生き残った青年に真っ直ぐな眼差しを向ける。
「……はい」
 青年は力なく頷いた。彼が受けた外傷は治っているものの、心の傷は癒しきれていない。そう感じたタロは嘘偽りなく告げた。
「紅蓮侯を討とうと思う。だから少しでも良い、敵の情報が欲しいんだ」
「――!」
 青年は息を飲み、顔をあげてタロを見つめ返した。
 街が襲われた時のこと。街を襲った敵は何体いたのか、その炎はどのように広がっていったのか。それらを青年に思い出させるのは酷だと感じたが、タロは彼がきっと話してくれると信じていた。そう思ったのはマルコシアスを倒すと告げた後の青年の眼に光が宿った気がしたからだ。
「僕が知っていることを全てあなたに話します。だから、だからどうか……!」
「大丈夫。仇は討つよ、必ずね」
 青年が懇願する願いを理解し、タロはしっかりと頷いた。
 そして、語られた情報はまさに紅蓮侯を斃す一矢と成り得るものだった。

 こうして情報収集を行った者達によって内部情報と敵の詳細が判明した。
 猟兵達が集めた情報は完璧と言える。
 荒野を歩いて地道な探索で情報の地固めをした者、標的の痕跡を探して見事に追跡してみせた者、人々に話を聞いてダンジョンと敵の子細を手に入れた者。
 どれが欠けていても、万全の状態で挑める今の状況は生まれなかっただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『ダンジョンに挑め!』

POW   :    前衛に立って襲い来る敵の排除。罠にハマって踏み潰す役もあり。

SPD   :    罠の感知や気配察知などを行う。敵との戦闘回避も含む。

WIZ   :    後方支援。保存食やユーティリティツールの準備や回復、アイテムの補充などを行う。

👑11
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●魔熱宿りし炎の洞
 猟兵達は今、森の奥にひっそりと存在する洞窟の前に訪れていた。
 其処こそが敵の根城だと予見された炎窟だ。
 外から見ただけは分からないが、近付く毎に周辺の空気の温度が変わること。そして、時折ではあるがまるで胎動するかのような火の奔流が洞内からあがることからマルコシアスが作り変えた場所だと分かる。

 以下は街道を通る商人や冒険者、生存者から猟兵が聞いた情報だ。
 この場所は宝や鉱物など、金目になるものを暫し前に狩り尽された枯れたダンジョンらしい。過去にダンジョンを攻略したことのある冒険者や情報を知っていた商人曰く、洞窟のフロア構成は大きく分けて三つ。
 一フロア目は入口から入ってすぐの大部屋。
 二フロア目も其処から真っ直ぐに進んだ場所にある似たような部屋だ。
 そして、三フロア目は前の部屋から続く細い道を通った先にある、ひときわ大きな空間らしい。
 おそらく手前の二部屋に配下の火狼が其々に何体かずつ固まっており、最奥の三フロア目にマルコシアスが控えている可能性が高い。

 一気に突っ切って最奥まで行くことも不可能ではないだろうが、件の街の生存者によると、配下の数は十体以上らしい。
 そのため、突っ切る心算ならうまく切り抜ける具体的な術が必要だろう。
 また、火狼を倒さずに進むとマルコシアスとの戦いの場が乱戦になる可能性が高い為、フロアごとにきっちりと敵を倒す方が確実だ。
 聞くところによると、ダンジョンに元あった罠は解除されつくしているらしい。
 だが此処は現在、壁から炎が噴き出す洞窟と化している。何処から炎が現れるかは分からないので、戦いの最中も常に気を付けなければならないだろう。
 敵の根城に飛び込むのならば、この先は一瞬も気を抜いてはならない。
 そして、今――猟兵達のダンジョンへの挑戦が始まる。
ヴァルダ・イシルドゥア
【POW】
腰にシャッター付きのランタン
視界を確保できる程度に明かりを細め
足音を立てないように注意し
敵対し得る者たちに先手を取られぬように
体力の低い同行者を炎から庇えるような立ち位置を心がける

道中の露払いを請け負い
皆の探索の手助けが出来ればと
出来る限り他の猟兵と協力して戦います

槍に変じた仔竜を構え
息を大きく吸って、吐く
この手が、迷わないように

怒れる炎の獣たちよ
私が、お相手致します

遠距離の相手には賢者の影
近距離の相手にはドラゴニック・エンドを用いて戦う
負傷度の高い敵を優先し各個撃破を目指す
近くに負傷した猟兵がいる場合生まれながらの光で支援

月に従いしもの、我が名はヴァルダ
問おう、汝らの主たるものを!


花咲・まい
【POW】なるほど、これはそう簡単には行かせてくれませんですね……。でも、戦いには先鋒も必要ですから。私は前に進ませていただきますですよ!
とはいえ、1人でどうにか出来るという感じでもありませんです。
協力できる方をまずは募っていきますですよ!あっ、そこのあなた!

戦闘の際には悪鬼礼賛を。
大抵のものは斬ってしまえば色々見えてきますですよ。火狼だって怖くはありませんです。狼のお肉って美味しいですし!


レガルタ・シャトーモーグ
炎が厄介だな…
不意に炎に巻かれないよう慎重にすすむか…

洞窟に侵入前にススを体に擦り付けて臭い消しにする
相手は狼だ
過信は禁物だが、気休めにはなる

道中火が出ていた所の特徴を覚えておき
同様の吹出口には目印をつけて回避する

狼を少数ずつおびき寄せるか、無理ならグループから一番遠いところにいる個体から各個撃破していく
リザレクト・オブリビオンで傀儡兵を召喚し、1体に気を取られている間にもう1体と共に背後を突く
傷口を抉ってダメージを加算したいところだが、叫んで仲間を呼ぶくらいなら一撃必殺を目指すべきか
俺が襲われるならオーラ防御で一撃くらいは防ぎたい

ここで出会ったのが運の尽きってやつだ…
祈れ、貴様の神に…


タロ・トリオンフィ
充分な情報も戦力もあるなら、
堅実に一フロアずつ倒して進むのが良いだろうね
押し通して背後を突かれるのは厄介だし。

荷物は水分多目に
なるべく熱を遮断出来そうな素材のマントなんかも持ち込んで

僕は敢えて壁側近くを進もう
壁の奥で蠢く炎の音に注意して、第六感も研ぎ澄まし
噴き出すタイミングをなるべく察せるように
予測出来れば仲間が炎に巻かれる前に、避けろ!って声掛けるけれど
間に合わなければローブの裾で払って炎の軌道を逸らす
僕は多少なりと火炎耐性もあるし、
本体に触れなければどうという事もないしね。

戦闘では仲間に『Ⅷ』のタロットで強化を
より堅実に、優位を保って戦えれば
後に控える紅蓮侯との戦いも楽になるだろうから。


セフィ・イーンヴァル
みんな、気を付けていこうね

すごく暑いし、燃えてるし、壁から炎出てるし……
危ないなぁ
後ろからこの炎を対処していこうかな
わたしの「蒼き氷晶の揺籃」の氷の力なら、
少しは涼しくなると信じて……!
氷を撒き散らす術、先を行く人たちの前に放っていくよ
全員に結界みたいに張れれば、もっと安全なんだけど……できるかな?
やってみるよ
これで炎の被害は少し減るかな

回復もできるけど、ここで疲れちゃうのは危険だから、
とっても危険な場合以外は使わないよ
火傷に効く薬とかは持っていくから、
怪我をした人がいたら手作業で応急手当するね


ライヴァルト・ナトゥア
(UCで道行く敵を噛み砕きながら一直線にすすむ。もちろん敵は全殺しで生命吸収で失った体力は回復する)
さてさて、どこにいるのかねぇ、マルコシアスは。

(炎の奔流はUCで丸呑み。防御に使えるのもこのUCの魅力)
手荒な歓迎だが、らしいといえばらしいかな。
この、左腕の狼を見たらどんな顔をするだろうか。お互いがお互いを死んだと思っていただろう俺たちが。
最初は、耳を疑った。紅蓮侯が生きていると、あれを殺すために何人の同胞が犠牲になったというのか。
ならば、俺の手で屠ってやろう。今度は、耳だけじゃあ済ませはしない


ミハル・バルジライ
前線に立つ者が戦闘に専念出来るよう傍で支援に徹する。

洞窟内へ踏み込む際は不意を打たれないよう気配や声に留意。
噴き出す炎の兆候を見逃さないよう神経を研ぎ澄ませ、第六感を駆使し乍ら
地面や壁面の色の違い、音や熱の些細な変化も見極め、他の猟兵へ適宜注意喚起を行う。
また見極め方に関して明確な表徴を認めた場合は極力周知を。
回避が叶わない状況の者がいれば、防具の火炎耐性を頼みに庇いもしよう。
敵より攻撃が向けば絶望の福音を使用し躱すよう心懸ける。

矛持つ者とは戦い方が違うだけ。
頼もしい仲間達が長く能く其の務めを果たせるよう、可能な限り努めよう。


芥辺・有
第六感を駆使しつつ、炎が噴き出す箇所を探知できるように注意深く気配を探っておく。炎が現れるタイミングを周知できそうなら周りにも伝えるようにするよ。
また、もし無明を使用して配下の炎狼を追跡させられそうなら追跡させる。先行させれば炎狼の数とか部屋の様子とかを詳しく把握できるかもしれないし、確実に潰していくんなら討ち漏らしのないようにしたいところだしね。


在連寺・十未
あっつ……火山……っつーか火事の現場みたいな熱気だ。ただの洞窟をこんなにしてしまうのか。あいつらは


【SPD】主に敵の気配察知と敵を排除するつもりの味方の補助をするよ。敵の気配の場所を知らせるので、それを元に奇襲なんかしてもらえば比較的楽に雑魚を排除できないかな。

後は地縛鎖を使った「地形利用」スキルを使って火炎のトラップを感知するのもやってみる。露払いは頼むよ


※アドリブなど歓迎です


朽守・カスカ
…ダンジョンの情報。
そんな当たり前のことを調べていないだなんて
視野が狭くなっていた私自身に恥じるばかりだけど
お陰で冷静になれたよ

さて、10体以上の敵がいて
そのうえ火を噴きだす壁とは厄介極まりないが
だからと言って怯むつもりはないよ
部屋が分かれて、敵が小分けされているのならば
此方にとっては寧ろ好都合だ

【ガジェットショータイム】
変わったものが出ても問題ない
炎の獣を狩るのだから、冷気を撃ち出すものだろう
これならば、壁から噴き出す炎も撃ち抜いて防げるさ

さぁ、仲間達と機を合わせ
端から猟兵として追い立て狩り尽くそう

この災禍に至るまで油断せず
一匹と残さず、逃がさずに
ボクたちは、そのために来たのだから。


ミリシュ・コットンキャンディ
ここが根城ですのね…
たしかに、近付くとあついですわ

辺りを警戒しながら、洞窟内を探索しますの
厄介な罠ですこと
もっと別のほうほうで歓迎していただきたいものですわ
あたくしとしては、あまいおかしとお紅茶で歓迎していただきたいですわ

罠の発動にはじゅうぶん注意致します
可能なら避け、みなさまに知らせる余力があればお声掛けを
配下と遭遇した場合は戦闘へ
後の乱戦は避けたいですもの

あたくしのだいじな初仕事
最後までしっかりつとめてみせますの!
さぁさ、めしませ!
あたくしのあまさをじゅうぶんご堪能くださいな

怪我をした方がいれば回復を
苦戦を強いる場合は援護致しますわ
互いに声を掛け合い、連携できたらと思っていますの


アーノルド・ステイサム
壁から炎ね…
床からは出ないんだよな?

力馬鹿なんでな、前衛をやろう
大部屋にいるなら細い道で出くわす可能性は低いかもしれんが
炎が吹き出す位置(穴がある場所)はゆっくり進みながら記憶する
敵影が見えたら危険の少ない場所で待機して戦えるように

大部屋はド真ん中の壁のない空間で戦えば
炎の心配はないかもしれんが…囲まれるわな
敵と遭遇して注意を引き付けた後
元いた通路の炎が吹き出ない(穴がない/あるいは少ない)場所で迎え撃つ
もちろん戦闘中も炎には気を付ける
突出は避けて味方と連携しつつ
一部屋ずつ確実に処理していきたい
前に進めば親玉とは絶対にご対面できるんだからな

【戦場の亡霊】は保険だ
役立たずになりかけたら使おう


エメラ・アーヴェスピア
どうやら…一部屋ずつ確り潰した方が良いようね
同じ考えを持っていそうな同僚と共に慎重に進み、倒していきましょう

とりあえず共に戦う同僚の中では一番後ろをついていくわ
発動するコードは『出撃の時だ我が精兵達よ』。内訳はLv3を6体で行くわ
配置に関しては通路移動時は私の前に三体、後ろに三体
フロア戦闘時は前に四体、後ろに二体よ
…念の為に、バックアタックを警戒しているわ。ある意味警報替わりね
もし来たら私が【時間稼ぎ】をして同僚に倒してもらう、と

兵には長銃を装備させ、戦闘時は共に行く同僚たちへ【援護射撃】をさせるわ
私自身は…【情報収集】で炎の出るタイミングを探して仲間に警告しましょうか


ユヴェン・ポシェット
前に出て火狼と戦う。

俺の身体は乾燥に弱く繊細と言われるオパールだが、実はそんなに脆くはなくてな。
焼け爛れることもないから、ある程度の炎にも耐えられる。

かと、いって避けられるものは少しでも避けたいと思う。
俺にくっついているドラゴンランス「ミヌレ」に、もし何か異変を察知したら教えてくれと頼む。



「俺達が相手になるぞ」
ユーベルコードのライオンライド使用。黄金の獅子「ロワ」を呼び出す。

火縄潜りの猛獣ショーといったところか、此度のサーカスショーを楽しんでくれ。…なんてな。

「さぁ、ロワ。蹴散らすぞ」


ルイズ・ペレンナ
【SPD】
あらあら、金目のものはあらかた狩りつくされた後ですのね。残念
お宝はマルコシアス「侯」から頂きましょうか

かつて罠が設置されたとしたら、宝物を守る為が多いでしょうしね
そうした過去の罠を流用したと仮定したなら
宝箱や鉱床などの痕跡を探りつつ、その周辺をよく調べ警戒し
罠を感知してみましょう

あとは罠に自分で掛かってはお粗末でしょうし
特定の壁や床を避けるような動きはないか
火狼の動きをよく観察しますわ
まあ火狼だけに噴き出す炎で傷つかないかも知れませんけど
それはそれで貴重な情報ですわね

罠を避ける知能が無いなら
先に発見した罠の位置に火狼を誘導して
引っ掛ければ結果的に戦闘回避
というのは虫が良すぎるかしら?


オブシダン・ソード
戦闘要員として参加
行動自体はサポート寄り
自分の器物、黒耀石の剣を得物に、火狼の討伐

ユーベルコードは仲間が囲まれそうな時など、牽制に使用
手持ちと同じ黒耀石の剣を大げさに広範囲でぶんぶんさせる
こっちこないでねー、ちょっと暑いからさぁ

それ以外は身軽な剣士と同様に動く
足とか斬って仲間が仕留めやすいようにしていこう
そんなに打たれ強くはないから囲まれそうになったら回避と防御に徹するけどね!
あー、ちょっと荷が重いかなー。誰か助けてー?

壁から炎が噴き出す位置が割れたら敵を引っかけてあげたいけど、もしかして火属性的なアレであんまり効かない?
まぁでもめくらましにはなるよね

その隙に切り裂いてあげよう


アニエス・ブランシュ
【WIZ】壁から炎が噴き出す洞窟……火傷をしてわたくしの美貌を損ねないように気を付けねばなりませんわね
わたくしは後方支援として他の方と分担して怪我をした方を高速詠唱した【癒しの光】で回復するようにします
怪我人が多いようでしたら疲労しすぎて行動に支障が出ない程度に【癒しの光】で複数回復します
壁からでる炎や罠にも注意し、情報収集、第六感で壁の炎や罠に気付いた場合は周囲にも注意を呼びかけます
炎が出たりや罠に引っかかった場合は見切り、ダッシュを駆使して被害を回避するようにし、避けきれないならオーラ防御で被害を軽減します



●いざ、敵地へ
 炎が揺らぎ、抗えぬ熱が周囲の空気を焦がす。
 熱気に満ちた洞窟に一歩足を踏み入れれば其処は敵地。仲間と共に洞窟内に侵入したアニエス・ブランシュ(精霊魔術士・f09149)は炎にも似た赤い瞳を眇める。
「火傷をしてわたくしの美貌を損ねないように気を付けねばなりませんわね」
 頬に手を当てたアニエスは辺りを見渡した。
 通って来た森とは違う妙な空気を直に感じたミリシュも深い息を吐く。その隣では十未が掌で自分を仰ぎ、炎洞内の様子を窺っている。
「ここが根城ですのね……たしかに、近付くとあついですわ」
「あっつ……火山……っつーか火事の現場みたいな熱気だ」
 ただの洞窟をこんなにしてしまうのか、と零した十未の言葉通り、果てたダンジョンだったはずの此処は今や悪しき火の洞と化していた。
 ミリシュは敵の恐ろしさを改めて実感し、レガルタも気を引き締めていく。
「炎が厄介そうだな……不意に炎に巻かれないよう慎重にすすむか」
 レガルタは身体に煤を擦り付けて匂い消しにしていた。そうすることで少しでも嗅覚がきくであろう狼を惑わす作戦だ。
 件の火狼達の姿は未だ見えないが、進む先には確かな気配が感じられる。
 そして、次の瞬間。
 ライヴァルト・ナトゥア(守護者・f00051)の真横の壁から炎が噴き出した。
「おっと、危ない」
 だが、ライヴァルトは咄嗟に左手を巨大な狼の顎門に変化させて炎を喰らう。その左腕の獣は何処か紅蓮侯に似ているように見受けられた。
「手荒な歓迎だが、らしいといえばらしいかな」
 独り言ちたライヴァルトは洞窟の奥を見据える。
 同じく先を見つめたまいは、空気に殺気が交じりはじめたと気付いて少し前を往くアーノルドと共に身構えた。
「なるほど、これはそう簡単には行かせてくれませんですね……」
「壁から炎ね……床からは出ないんだよな?」
 爪先で地面を軽く突いたアーノルドは警戒を強める。地は炎が這ったかのような緋色に染まっていたが、注意すべきは岩壁だけで大丈夫だろう。
 ふとカスカが振り返ると、後方で再び炎が上がった。
「火を噴きだす壁とは厄介極まりないが、だからと言って怯むつもりはないよ」
 こうして敵地に居る現状も裡にある決意は変わっていない。仲間が居たからこそ辿り着いた今という時を無駄にはしない。そんな思いがカスカの中にあった。

 皆が慎重に歩を進めていく中、ルイズは枯れたダンジョンを思う。
 あらあら、と眉尻を下げたルイズの直感は、此処にはもう宝や鉱物の類がまったく残されていないことを示していた。
「金目のものはあらかた狩りつくされた後ですのね。残念」
 お宝はマルコシアス侯から頂きましょうか、と首魁を思い浮かべたルイズは奥に視線を向ける。すると、其処には数匹の火狼の姿があった。
 タロは仲間に呼び掛け、戦闘態勢を整える。
「押し通して背後を突かれるのは厄介だ。一フロアずつ倒していこう」
「ええ、どうやら……一部屋ずつ確り潰した方が良いようね」
 タロの言葉にエメラが頷きを返しながら皆の意思を確かめていく。同意を示す眼差しがそれぞれから返ってきた通り、狙いは各部屋での撃破。
 駆け出した猟兵達は其々の布陣につき、敵を睨み付ける。
 ユヴェンは逸早く敵の数を確認し、見えるのは全部で八体だと告げた。
「残りは奥か。増援が訪れる前に仕留めるぞ」
 竜騎士の槍、ミヌレを構えたユヴェンは地面を蹴り、敵に向かっていく。その間にセフィは後衛側に下がり、ミハルも後方支援を行うべくフロアを俯瞰できる位置に立った。
「みんな、気を付けていこうね」
「ああ、壁の炎の動きは此方で兆候を探る。前線は頼んだ」
 セフィの声に応えたミハルは此処に辿り着くまでに見た炎の噴き出し方を思い返す。有もまた、炎には兆候があったことに気付いていた。
 火が現れる瞬間、壁には一瞬だけ赤い色が宿っていた。
 それこそが炎の罠が作動する印だと気付いたミハルと有は頷きを交わしあう。
「炎が現れそうになったら合図を送るよ。巻き込まれないように注意して」
 有の呼び掛けに、わかったよー、と軽く答えたオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)は迫り来る火狼に己の器物――黒耀刃の切先を向けた。
「こっちこないでねー、ちょっと暑いからさぁ」
 少しばかり剣を大袈裟にぶんぶんと振るったオブシダンは、火狼の燃える尾を見遣る。ただでさえ熱が籠っているというのに狼の尾は見た目にも暑い。
 ヴァルダは熱に負けぬよう自分を律し、変じた仔竜の槍を構えた。
 熱気の宿る地面を踏み締め、ゆっくりと息を吸って吐いたヴァルダは紅蓮侯の眷属達に凛と言い放つ。
「怒れる炎の獣たちよ。私が――いえ、私達がお相手致します」
 そして、焔の窟での戦いが幕明けた。

●火狼と炎の壁
 焔の奔流が後方で上がり、フロア内の温度が更に上がる。
 先んじて敵に向かったユヴェンに続いて前線に陣取ったのはアーノルドとまいだ。共に荒野を強行した二人は即席ながらも息の合った動きで其々の敵の前を目指す。
「力馬鹿なんでな、まずはこうする他ない」
「私達、やっぱりなんだか似ていますですね!」
 アーノルドが中央寄りに位置する一体の火狼を相手取った直後、まいもユヴェンが相手取る個体とは別の敵に向かった。仲間への攻撃を阻む盾として、または真っ先に殴り込む攻撃手として動く者達の姿勢は実に頼もしい。
 だが、前衛を張るとなれば痛みを受ける可能性も高い。
 アニエスは何時でもすぐに癒しを施せるよう身構え、精霊杖に魔力を込めた。
「支援はお任せください。わたくしの役目、しかと果たしますわ」
 今は仲間を回復し、戦線を支えることが自分の務めだと心に決めたアニエスは思いを言葉に変える。アニエスの言葉を聞き、十未も決意を新たにした。
「そこ、炎が噴き出しそうだよ」
 気を付けて、と前方の壁を示した十未。その注意に逸早く反応したユヴェンは身を翻して素早く壁から離れた。
 瞬く間に炎が壁から現れ、ユヴェンが斬り込んでいた火狼を包み込む。
 狼は炎の加護を受けている為に外傷はないが、もしユヴェンが炎を受けていたならばオパールの身体に衝撃が巡っていただろう。
「ある程度は耐えられるとはいえ、直撃は避けたいものだな」
 ユヴェンは合図をくれた十未に視線で礼を告げ、ミヌレを振るって更なる一撃を叩き込みに向かった。十未自身もこの戦法が有効だと感じて周囲への警戒を強める。
 そして、アニエスもまた回復の機を見極めながら壁に注意を向ける。
「右斜め前に炎が見えますわ」
「危ない、反対側からも来るよ」
 アニエスが方向を指定すると同時に十未も別の場所からの炎を予見した。アーノルドは身を引き、まいは敢えて壁の方へと駆け出す。
 即座に壁を蹴りあげたまいは上空に逃げることで炎を交わした。アーノルドは小柄だからこそ出来る芸当に賞賛の眼差しを送り、更に移動する。
 仲間の呼び掛けも頼もしいが、アーノルドにはもうひとつの策があった。それは大部屋の中心で戦うこと。そうすれば壁が遠い空間にまで火が届くことはない。
 本来ならば敵に包囲される危険性もあったが、自分達以外にも前衛に立つ者達が他の火狼達を引き付けてくれている。
「敵を分断した今なら囲まれる心配もないな」
 よし、と敵を引き付けたアーノルドはフロアの中心まで駆け、追い縋って来た火狼の爪を受け止めた。鋭い痛みが走ったが、彼は武骨な巨大斧を振り下ろし返す。
 悲鳴めいた鳴き声が上がり、火狼の体勢が崩れた。
「我が魔力よ、光となりて彼の者を癒したまえ」
 その隙にアニエスが詠唱を紡ぎ癒しの光を顕現させる。アーノルドの身体は瞬く間に癒され、痛みが和らげられていく。
 まいは後方の仲間に信頼をおぼえ、自らも反撃に移った。
「大抵のものは斬ってしまえば色々見えてきますですよ」
 紫電一閃、悪鬼の力を込めたまいの一撃が狼の腹を斬り裂く。炎のように燃える血が迸り、地面を濡らした。まいにはそれが熱々に滴る肉汁のように見えているらしく、その口許はふわりと緩められていた。
「火狼だって怖くはありませんです」
 狼のお肉って美味しいですし、とやや不穏なことを口にしたまいは更なる一撃を与えるべく武器を構え直した。
 その妙な気迫に押されたのか一体の火狼がまいの前から後退しようとする。だが、すぐさま相手の後ろに回り込んだユヴェンがそれを許さなかった。
「俺達から逃げられると思うな。さぁ、ロワ。蹴散らすぞ」
 呼び掛けと共に黄金の獅子を召喚したユヴェンはその背を撫でる。そのままユヴェンを背に乗せたロワは敵に向けて駆けた。
 そのとき、壁からの炎の兆候に気付いた十未が方向を即座に指定していく。
「右と左交互に来そうだよ。今だ、上に跳躍して」
 十未の合図に合わせてロワが飛ぶ様は宛ら、火縄潜りの猛獣ショーのようだ。そう感じたまいは眸を輝かせ、アーノルドとアニエスも見事なものだと感心する。
 ユヴェンは双眸を細め、ロワと共に敵の元へと斬り込む。
「此度のサーカスショーを楽しんでくれ。……なんてな」
 そして、火狼達は大斧や獅子、紫電によって蹴散らされていった。

●紅蓮侯への思い
 一方、ライヴァルト達は別の火狼を相手取っていた。
 炎窟に踏み込んだ仲間も戦力も十分。
「さてさて、どこにいるのかねぇ、マルコシアスは」
 先んじて駆けた仲間とは別の狼を標的にすべきだと判断したライヴァルトは、同じ考えに至ったであろうルイズやタロ達と共に敵を狙い打った。
「本当に何も残されていませんのね」
 足元に転がっていた宝箱の残骸を蹴り飛ばし、ルイズは道をひらいた。至極残念そうな彼女の声を聞いたカスカは「仕方ないさ」と元気付ける言葉をおくる。
 そして、タロはライヴァルトへとタロットを翳した。
 正位置の戦車が齎す前進の効果はライヴァルトに力を与えていく。
 天狼を解放して火狼を穿った彼に続いて、カスカもガジェットを構えた。今回、顕現されたの武器は氷のように透き通った色をしたハンドガンだ。
 銃口を差し向け、狙いを定めたカスカは敵に告げる。
「炎が融かせないほどの冷たさを宿してあげようか」
 刹那、放たれた一閃が火狼の炎尾を凍り付かせた。体勢を立て直そうともがく一体の横を擦り抜け、エメラとレガルタがもう一体に攻撃を仕掛けにゆく。
「さぁ、出撃なさい」
 エメラの声に呼応して現れた精鋭、魔導蒸気兵達が突撃していく。同時にその半数は背後からの襲撃を警戒して後方に回った。
 その動きを察したレガルタは後ろの守りも万全だと感じて死霊騎士と蛇竜を喚ぶ。傀儡兵達に力を託したレガルタはカスカ達が狙う個体に騎士を向かわせ、蛇竜を自分の前方にいる狼へと解き放った。
 だが、その瞬間――レガルタの真横の壁が炎を噴き出す兆候を見せる。
「――!」
「避けろ! ……駄目だ、間に合わないか!」
 傀儡兵に力を与えた直後の不意を突かれたレガルタに避ける術はなかった。咄嗟にタロが呼びかけるが、回避は不可だと悟って駆け出す。
 仲間の前に飛び込み炎を受けたタロはローブの裾で払い、その軌道を僅かに逸らした。直撃は免れ、レガルタを守れたものの多少のダメージは受けてしまった。
「大丈夫だったかしら?」
「少しばかり火炎耐性はあるからね。問題ないよ」
 エメラから掛けられた声にタロが頷く。
 その間にも三匹目の火狼が此方に向けて駆けて来るのが見えた。ルイズは乱戦にはさせないと立ち塞がり、そのバウンドボディで以て敵を翻弄していく。
「好きにはさせませんわよ」
 ルイズの伸縮する身体は火狼の体を打ち、キュウン、と敵から怯んだような甲高い声があがった。ライヴァルトは敵に銃口を向け続けるカスカに後を任せ、ルイズの援護に入る。
「邪魔だ、道を塞ぐな」
 マルコシアスへの路を阻む配下に冷たく言い放ち、ライヴァルトは狼顎で敵を噛み砕いていった。ライヴァルト達は三体を同時に相手取っているが、見事な連携が徐々に火狼達を追い詰めていく。
 タロも体勢を立て直してルイズへとタロットを掲げた。
「逆位置の死神か。これは敵への暗示でもありそうだね」
 出たカードへの感想を零したタロはルイズに加護を与えていく。ルイズは自分に力が巡っていくのを感じながらその身で敵を誘導し続けた。
 火狼が壁の炎からダメージを受けないことは分かっている。だが、敢えて敵を罠が作動する場所へ導くことでルイズは味方に炎が向かわぬよう仕向けていた。
 エメラも精兵を駆使して援護射撃で以て火狼達の力を着実に削っていく。そしてエメラは敵が弱り切っていると察して仲間に呼び掛けた。
「今よ、トドメをお願い」
「ああ、跡形もなく喰らってやろう」
 左腕の狼を大きく掲げたライヴァルトは敵を穿った。
 紅蓮侯の存在に最初は耳を疑ったが、それは過去から染み出したオブリビオンだ。しかし嘗てあれを殺すために何人の同胞が犠牲になっただろうか。
「俺の手で屠ってやろう。今度は、耳だけじゃあ済ませはしない」
 マルコシアスへの思いを言葉に変え、ライヴァルトは火狼を一瞬で喰らい尽くす。
 仲間に続いて敵を屠ろうと決め、カスカも銃を握る手に力を込めた。
「この災禍を鎮める。ボクたちは、そのために来たのだから――」
 強い思いを抱いたカスカの放つ氷の一閃が再び狼の身を貫く。其処に隙を見抱いたレガルタは騎士を遣わせ、敵の息の根を止めにかかる。
「ここで出会ったのが運の尽きってやつだ……」
 その言葉が紡がれ終わったとき、火狼が地に崩れ落ちた。

●正義の刃と焔の牙
 広いフロアで戦いが続く中、迸った炎が猟兵達の身を掠める。
「きゃっ!」
 間一髪で炎の罠を避けたミリシュはよろめき、ミハルがその身体を支えた。
「大丈夫だったか?」
「厄介な罠ですこと。もっと別のほうほうで歓迎していただきたいものですわ」
 あまいおかしと紅茶の歓迎が良いと零したミリシュは辺りを警戒しながら、次に炎の罠が現れそうな場所を探っていった。
 ミハルも次は事前に察知して報せるという旨を告げて注意を払う。
 乱戦となった現状、敵は上手く分断されている。味方も自然に同じ標的を狙う者同士で協力しあっていた。
 先ずオブシダンが斬り込み、有とミハルが後方支援を行う。セフィは炎を対処するべく壁を注視し、仲間が傷付かぬよう炎を氷の力で相殺しようと狙っていた。
「そこ、また来るよ」
「分かったよ、次は止めて見せるから!」
 有が察知した炎の兆候に向け、セフィは自身に纏わせた冷気から氷の楔を放出した。勢いよく噴き出た焔に氷が次々と突き刺さり見事に罠を鎮火させていく。
 その間にヴァルダが狼を相手取り、仔竜のアナリオンが変化した槍を突き放った。
「外しはしません」
 その切先は鋭く、火狼を貫く。ヴァルダの衒いのない動きにミハルは感心するが、同時に彼女が極度の緊張を孕んでいることも解った。
 だからこそ支えなければいけないと感じたミハルは敵を瞳に映す。
 此方側の五人に相対するのは二体の獣。
 だが、二体は息の合った動きでオブシダンを執拗に狙い続けている。引き付けているという意味では有効だが、このままでは負担が大きいだろう。
 懐かれてるわけでもないだろうにと零して地を蹴ったオブシダンは迫り来る狼の牙を刃で受け止める。だが、それこそが彼の本体。
 ちょっと困るよ、と口にしたオブシダンは素直に仲間へ援護を求める。
「あー、ちょっと荷が重いかなー。誰か助けてー?」
「剣さんがピンチですのね。いますぐに、どーんとやってさしあげますわ!」
 オブシダンの声に反応したミリシュは指先を敵に向けて天からの光を具現化させる。陽射しが降り注ぐように眩く、それでいて鋭く敵に突き刺さった。
 片方の火狼が怯み、僅かに後ろに下がる。
 その動きを好機と見たオブシダンは剣を、もとい己を掲げて一気に攻勢に入った。瞬時に彼の周囲に複製された黒曜石の剣が生まれ、火狼に向けて舞い飛んでいく。
「ほら、逃げないと危ないよー」
 さっきのお返しだと告げたオブシダンの刃が次々と敵を斬り裂いた。ヴァルダは追撃を与えんとして賢者の影の力を揮い、高らかに言い放つ。
「月に従いしもの、我が名はヴァルダ。――問おう、汝らの主たるものを!」
 グルルル、と唸り声をあげた獣に向けて影が迸った。
 そして、一体目の火狼が地に伏す。ヴァルダは敵がもう動かぬことを感じてすぐにもう一体の敵へと竜槍の切先を向けた。
 その間にも火の罠が猟兵を包み込まんとして燃え上がる。
「次はそっちだね」
「向こう側には近付かないよう、気を付けるといい」
「要領は掴めてきたみたい。次も炎ごと消し去ってあげるよ」
 有とミハルは的確に罠が発動する場所を見極め、その声を受けたセフィが氷楔を解放することで炎を消し止める。敢えて矛を持たぬ戦いに徹するミハルや有達の連携は完璧であり、猟兵達が炎を被ることは一度もなかった。
 だが、残る火狼が予想外の行動をとる。
 遠吠えめいた声をあげたかと思うと、狼は猟兵から離れた所で巻き起こった炎の影に隠れるようにして身を翻し、フロアの奥に逃げて行こうとしたのだ。
「逃走……違う、それだけじゃないな。仲間を呼んだのか」
 ミハルは敵の動きに気付き、すぐさま仲間に視線を送る。それによって火狼の狙いを察した有は猟兵達に問い掛けた。
「どうしようか。追う? 追わない?」
「んー、そうだね。今の状況なら……大丈夫そうだね。行っちゃおうか?」
 判断を仰ぐ視線にオブシダンは軽く首を傾げ、フロア全体の様子を窺う。見渡してみれば戦況は猟兵の圧倒的優勢だ。
 火狼達は追い詰められ、多くが地に伏している。
 自分達が先んじて次のフロアに先行したとしてもすぐに他の仲間達が訪れるだろう。ミリシュも同様に感じ、ぐっと意気込む。
「あたくしも、敵ににげられるのはいやです。この戦い、最後までしっかりつとめてみせると決めていましたもの!」
「うん、行こう!」
 ミリシュが先を指差し、セフィもこくりと頷いて翼を広げた。
 前のめりな少女達に向けて双眸を細めた有は次のフロアに続く道へと踏み出し、仲間達も一気に駆け出す。
「あの意気込みは見習うべきものだね」
「ええ、とても心強いです。逃がしはしません」
 有がセフィ達を評する言葉にヴァルダは同意を示し、竜槍を強く握り締めた。
 この先に待ち受ける配下達さえ倒せば後はマルコシアスとの戦いが待っているのみ。近付く決戦の時を思い、猟兵達は其々の意志を強めた。

●更なる奥へ
 有が先行させた黒色の狼、無明を先頭にして猟兵達は駆けていく。
 五感を共有させた黒狼は逃走を計った火狼を追跡し、二フロア目に辿り着いた。
「居た、逃げた個体も含めて残りは四体だよ」
 有は仲間に敵の様子を報せる。その頃には最速で敵を屠ったライヴァルトやカスカ達の一団も次のフロアへの追撃に加わっていた。
 十体以上の配下が居るという情報通りだと感じ、タロは生存者の青年を思う。
「必ず仇は取ると約束してきたからね」
 だからこそ負けられない、とタロは己を律した。そして、猟兵達は一気に次のフロアの中心へと踏み込んでいく。
 不意にはっとしたセフィは翼を広げて一気に飛びあがる。瞬刻、それまでセフィが居た場所から激しい炎が噴き出した。
「かなり燃えてるし、壁から炎出てるし……こっちも危ないなぁ」
 もう、と頬を軽く膨らませたセフィは今や罠が発動するタイミングを確りと把握している。引き続き炎を消し止めてみせると決めたセフィは戦場を見下ろした。
 威嚇の声をあげる火狼はミハルに狙いをつけ、飛び掛かって来る。しかし、即座にオブシダンが間に割って入ることでミハルへの攻撃を防いだ。
「残念、狙いが外れたね。存分に切り裂いてあげよう」
 オブシダンは刃で牙をいなし、反撃として鋭い一閃を見舞う。
「悪いな、手間を掛けたか」
「何てことはないよー。君にはこれまで助けて貰ってたからね」
 ミハルが礼を告げるとオブシダンは後方支援が助力になっていた話して首を振った。そして、次の攻撃の機を見極める為に敵を見据える。
 其処に続き、ミリシュが裁きの光を解き放った。
「さぁさ、めしませ! あたくしのあまさをじゅうぶんご堪能くださいな」
 言い放った言葉と同時に甘やかな光が敵を貫き、その力を奪い取る。逃げ出した火狼を穿ったミリシュは仲間の名を呼んだ。
「いまですの、ヴァルダ様。お願いいたします!」
 トドメを、と示すその声にヴァルダは一瞬だけ目を見開いた。しかしすぐに双眸を鋭く細めた彼女は、意を決して竜槍を敵に差し向ける。
「炎の獣よ。今こそ、引導を渡します」
 この手が、迷わないように。どうか力を貸して、アナリオン。
 願った思いに応えるかのように槍は光を放ち、そして――刃は火狼の力を奪い、その身を地に伏せさせた。

 これで残る配下は三体。
 敵の劣勢を援護するかのように周囲の火炎は激しく、幾度も迸った。だが、今更そんなことで猟兵達は怯みはしない。
「ここで狩り尽そうか。一匹と残さず、逃がさずに」
 カスカは氷銃で壁から噴き出す炎を撃ち抜き、襲い来る敵を見つめ返した。
 エメラはふたたび何体もの精兵達を呼び、敵に向かわせることで足止めという時間稼ぎを行っていく。その間にタロがカードの加護をレガルタに施した。
「気を抜かないで行こう」
「そうね、油断した方が敗北するのが戦いというものだもの」
 タロの呼び掛けにエメラが答え、最大限の援護と支援を行うと示す。
 レガルタはエメラの兵に動きを阻まれた一体に狙いをつけ、ルイズも弾む身体で敵の背後に回り込み、不意を突く。
「隙あり、ですわね」
「祈れ、貴様の神に……」
 ルイズの一閃、そしてレガルタが放った傀儡兵が間髪容れぬ一撃を放った。
 それにより火狼が伏し、ライヴァルトは残る二体を一気に相手取りに駆ける。左腕の炎狼を振り翳した彼は敵を圧倒していく。
 だが、怯まぬ火狼はライヴァルトの右腕を噛み千切らんとして牙を剥いた。
「……ッ、この……!」
 鋭い痛みが身を駆け巡る。更にもう一体の火狼が彼を引き裂こうとするべく、迫って来ていた。咄嗟にエメラやミハルが追い縋るが敵の方が僅かに速い。
 そのうえ周囲の壁から炎の罠が発動する兆候が見え、有の立つ場所に四方から噴出さんとしていた。
 だが、そのとき――。
「ロワ、往け!」
 ユヴェンの声が響き渡った刹那、火狼が獅子によって薙ぎ倒される。同時に火炎の罠が壁ごと崩され、有への炎が収まった。
「遅くなって悪かったな。けれどこれで名誉挽回かな」
 やむを得ず力技で罠を破壊した十未は有に手を差し伸べる。その様子を見ていたミリシュは「かっこいいですわ」と十未に羨望の眼差しを向けていた。
 其処にまいとアーノルド達も現れ、遅れてごめんなさい、と仲間に告げる。
「火狼のお肉、食べ損ねてしまいましたです」
「本気で食う気だったのか?」
 少女と巨躯の機械傭兵の遣り取りに目を細めながら、アニエスは杖を掲げた。
 危機の場面に颯爽と駆け付けたのはユヴェンをはじめとしたアーノルド達の一団だ。一フロア目の火狼をすべて倒した彼等もまた、攻勢に加わる。
「その傷、わたくしにお任せください」
 アニエスは今こそ自分が役立つ時だとして、高速詠唱から成る癒しをライヴァルトへと施す。降りそそぐ光の癒しに礼を告げ、彼は態勢を整えた。
 感じるのは紅蓮侯との戦いが着実に近付いているということ。
 そして、アニエスの傍にはセフィが万が一の時の回復補助として立った。これでもう何の憂いもないだろう。
 ユヴェンの金の獅子が飛び掛かった個体に向け、オブシダンは刃を振り下ろす。
「はい、終わり。後はよろしくねー」
 一瞬のうちに対象の命を奪ったオブシダンはひらひらと手を振り、最後の一体に目を向けた。まいは頷き、素早く駆けて敵の真横に回り込む。
「そこのあなた! とっても華麗なトドメでしたですよ。私も負けませんから!」
 仲間を褒めたまいは気合いを入れ、力いっぱい悪鬼の一閃を敵に叩き込んだ。その一撃は敵の身を揺らがせ、最大の好機を招く。
 ヴァルダは仲間が終わりを齎してくれると察し、ミハルとカスカも警戒を解かぬまま動向を見守った。エメラとルイズもまた、これで最後だと踏んでいる。
 皆からの思いを背負ったアーノルドは斧を振り上げた。
 そして――断頭台の如く、全力で振り下ろされた刃は敵の首を撥ね、その身をもう二度と動かぬ骸に変えた。
 わあ、とミリシュとまいから歓声があがり、呆気ないものだと感じたライヴァルトが軽く頭を振る。十未がちいさく頷き、ユヴェンもロワの背から降りた。
 アニエスがほっと胸を撫で下ろす中、アーノルドは斧を引くと共に顔をあげる。
「此処から先に進めば親玉とご対面できるってわけか」
 見つめる先は炎が蠢く通路。
 いよいよ、最後の戦いの場に向かう時が来たのだ。

 紅蓮侯マルコシアスが待つ最奥を目指して猟兵達は踏み出す。
 炎窟に迸る焔の轟きはまるで、この先で巡る戦いの激しさを予感させるかのような重く息苦しい響きを孕んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『マルコシアス』

POW   :    業火転命
【短剣から放たれた「地獄の炎」 】が命中した対象を燃やす。放たれた【転生誘う紅蓮の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    虚空断絶
【呪詛を乗せた短剣 】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    炎鎖爆滅
【鞭のようにしなる炎】が命中した対象を爆破し、更に互いを【灼熱の鎖】で繋ぐ。
👑17
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●紅蓮侯マルコシアス
 其れは、骸の海に捨てられたはずのもの。
 世界に染み出した過去は紅蓮侯としてオブリビオンの形を成し、世界を滅亡に導く存在としてこの奥に鎮座している。
 猟兵達は轟く炎の罠を抜けて洞窟の曲がりくねった道を往く。
 奥から感じる気配は色濃く、一歩進む度に重圧のようなものが身体を蝕んでいくようだった。

 辿り着いた其処は、これまでのフロアの二倍以上はある広大な場所だった。
 周囲の壁からは絶え間なく炎が噴き出しており、その中心には炎を纏う黒き獣――マルコシアスの姿が見えた。
「…………」
 マルコシアスは何も語らず、ただ猟兵達を見据えている。
 そして、立ち上がった紅蓮侯は手にした短剣を掲げて高く咆えた。すると途端にそれまで轟々と燃え盛っていた周囲の炎が鎮まり、静けさが訪れる。
 ――戦おう。
 そう告げているかのような鋭い眼差しが猟兵達を捉えた。
 おそらく紅蓮侯は察している。この場に現れた者達が配下を全て倒したことを。
 そして、彼等が自分を討ちに来たということも、すべて。
 紅蓮侯が周囲の炎を敢えて止めたのは自らの居場所を探し当て、眷属達を薙ぎ倒してきた者達への賞賛の代わりだったのかもしれない。
 侯とまで称される元の性質ゆえか、紅蓮侯は炎の罠になど頼らずに正々堂々と猟兵達を迎え撃つ心算であることが分かった。
 戦いは真っ向から、純粋な力と力の衝突となるだろう。

 そうして、猟兵達は其々の思いを抱く。
 紅蓮侯、マルコシアス――オブリビオンは、既に街をひとつ消している。
 犠牲になった人々への弔いや仇はこの獣を討つことで果たされるはず。この世界の平穏と未来の為にも、今こそ目の前の敵を屠るべき時だ。
ヴァルダ・イシルドゥア
大いなる侯爵の名を持つ者よ
月と竜の御名に於いて、今ここで貴方を穿ちます
……アナリオン!

槍に転じた仔竜を確りと握りしめる
共に並び立つ仲間を守るため
失われたいのちに報いるために
私は決して、逃げ出したりはしません

前衛として戦う
敵の鞭に仲間達が絡め取られぬよう、旋回する槍で弾けるように
出来る限り苦しませぬよう短期決戦を心がける
残HPの低い仲間が近くにいる場合庇い、生まれながらの光で回復

星々のひかりよ、どうか、我が同胞を救い給え……!

戦闘後は仲間の傷の手当を
叶うなら、失われし街へ向かう
彼らが忘れ去られぬよう、祈りを、花を手向けられたら

失われたいのちは戻らない
けれど……この一歩が、確かな希望になると信じて


タロ・トリオンフィ
――へえ、その所業の割には粋な出迎えだね、紅蓮侯

生き延びたあの青年も、犠牲になってしまった街の皆も
穏やかに暮らしていた、ただそれだけだった
…あの夜、理不尽に奪った者の未来は、今、摘み取られる
それが因果というもの

――彼らと「約束」したからね

一緒に来ている仲間達には攻撃手も回復手も揃っていそうだし、
僕は引き続き支援に当たることにしよう
立ち位置は中衛辺りに、攻撃手の邪魔をせず、回復手を護れるよう
主に仲間の強化を行いつつ、
一歩引いた位置から紅蓮候の動きを見ながら
最前衛の仲間が隙を狙われないよう攻撃して邪魔したり

全て終わったなら、あの青年にも報告してあげたい
出来れば、街の人達にちゃんとした弔いも…ね。


ライヴァルト・ナトゥア
やぁ、また会えたな。マルコシアス
(宿敵との邂逅に興奮を隠せない)
お前さんとの因縁もここで終わりにしよう。今度は、耳だけじゃ終わらせない。
(感情とは裏腹に鎌を用いた堅実な戦い方、牽制を多用して仲間へのフォローも忘れない)
そら、こっちを向けよ。お前の耳を奪った憎き敵はここに居るぞ!
(広場の中心で炎狼と踊る。誠実ゆえ嫌いになれない)
やっていることはともかくとして、俺は正直お前の性格は嫌いになれなかったよ。
とても、業腹な話ではあるがな
(UCを使って)
さぁ、頃合だ。正々堂々、真正面から喰らってやる
(トドメなら)
この顎門はお前の魂ごと骸の海に返してくれるだろう。もう二度と、蘇らないように全てを噛み砕いてな


レガルタ・シャトーモーグ
こいつが狼のボスか…
正々堂々とはご立派だが、俺は絡め手でいかせてもらう…

マルコシアスが他の者を狙って、俺への注意が反れていると感じたら、物陰から咎力封じ
炎の短剣を封じることができれば、多少は楽になるだろう
攻撃するたびに移動して、できるだけ一箇所に留まらないように動き、攻撃を避ける
また俺へのヘイトが反れたら咎力封じ
執拗に奴のペースを崩してやる

俺は暗殺者だからな
真っ向勝負なんてしないのさ
悪いとは思わないが、恨むなよ


神宮時・蒼
…驚愕。…誇りが、あるのでしょうか。…それとも…。
…雑念。…今は、そんな、事を、考えている、余裕は、ありません、ね。
…決意。…あちらが、正々堂々と、戦って、くださる、なら、こちらも、同様に、相手、しましょう

【WIZ】
巫覡載霊の舞にて、遠距離から攻撃しましょう
さすがに、あの体躯を受け止めるのは、無理、です。
短剣を狙って、弾く事が出来れば、多少の戦力ダウンは、見込める、でしょうか。
相手は格上。街を消しているとのことで、一切の油断はせず。
…人は、いまだに、好きにはなれないけれど、…嫌いにも、なれない。…だから、せめて、目の前の、障がいは、排除、しましょう。


アーノルド・ステイサム
潔いな。
お前のようなやつが何で街を燃やすかね。
まあ、仕事だ。相手がどうあれやることは変わらん。

壁を気にする必要もない、
真っ向勝負であれば、俺の土俵だ。
とはいえ力だけで勝てる相手でもなし。
前に立つが役目は盾だ。
防御>攻撃。火力は他の猟兵に任せた。

岩や障害物があれば炎を避けるのに使う。
攻撃の起点である短剣を注視。予備動作を見逃さない。
鞭はなるべく避けたいが
当たってしまってもメリットがあるかもしれん。
鎖で繋がれて注意がこちらに向くのであれば
その隙に仲間が攻撃を当てやすくもなるだろう。

追い込まれれば【戦場の亡霊】。
かつての戦友、ウォーマシンを呼ぶ。
悪いな。ちょっと仕事してくれ。

※戦場の亡霊描写はお任せ


ミリシュ・コットンキャンディ
あら、いがいにも凛々しいお方ですのね
ええ、ええ。正々堂々戦いましょう
それがあなたの望みとあらば、
あたくしたちもすべてをもっていどみますわ!

味方の支援をちゅうしんに立ち回りましょう
みなさまのご支援はお任せくださいませね!
苦戦している方がいらっしゃったら、すぐ援護いたしますわ
互いに声を掛け合い、連携をいしきして
味方への鼓舞も忘れずに、士気をたかめていきましょう

これ以上、あなたになにも壊させません
誰かがくるしむお顔は、見たくありませんもの
あたくしは、あたくしの成すべきことをしますわ
…あなたのきもちは、あたくしにはりかいできません
だからせめて全力で、あなたをほふりましょう


芥辺・有
こいつにも矜持ってもんがあるのかね。……まあ、私には関係ないけど。
街の人らの為にもお前を為留めるよ。

第六感を働かせつつマルコシアスの攻撃には十分気を払う。ひとところに留まらず、攻撃を避けられるように動きながら戦うよ。避け切れず攻撃が当たりそうだと感じたら武器にしてる杭で攻撃を払い除けるのを狙おうか。

また、攻撃をするときは他の猟兵たちと連携を取りつつ、フェイントや二回攻撃でマルコシアスに隙が作れるよう攻撃していく。手数勝負って感じか。多少の隙でも作れたようなら杭で掌あたりに傷をつけて。血を代償として杭を創り出したらマルコシアスめがけて放つよ。


セフィ・イーンヴァル
ここまで来て退くだなんて冗談じゃないよね
ここで仕留めるよ
みんなで力を合わせれば大丈夫、絶対に勝てるよ!
正々堂々と勝負しよう

積極的に攻撃していくよ
敵さんに隙を作るのが目的
わたしのユーベルコードなら、動きを封じられるはず
みんな、動きが止まっている間ににあいつを倒しちゃえ!

敵さんから攻撃を受けそうになったら、オーラ防御で耐えるよ
まあ、あまり攻撃を受けるのもよくないから、
できれば回避していきたいところ
熱いの嫌いだしね

ばいばい、マルコシアス
もう二度と遭いたくはないけれど……


花咲・まい
【POW】語るに及ばず、と言ったところでしょうか。うん、正々堂々とした振る舞いは敵ながら好ましいと思いますです。
彼のような獣を倒してこそ、私たちの力は証明されますですから!さあ、真っ向勝負と参りますですよ!

私が使うのは変わらず悪鬼礼賛です。
マルコシアスが放つ紅蓮の炎と私の剣技、どちらが勝るのかーーそれも、斬ってみれば分かりますですよ!いざ、いざ!


ミハル・バルジライ
非道の所業は赦し難いが、戦士たる矜持を示すのならば心して応じよう。

強敵故に尚一層他の猟兵達との連携を心懸ける。
敵の挙動へは常に警戒を。
第六感も駆使し所作等から標的や技の選択が想定出来れば、味方へも注意を喚起する。
俺への攻撃の気配を察したなら回避を試みるべく機を図り乍ら
味方が乗じる隙を与う為、敢えて泰然と構える等敵愾心を燻らせるような挑発を。

攻撃の際はフェイントを交え咎力封じを以て。
僅かなりと枷を鎖し力を減じることが出来れば、共に戦う者達の役にも立つだろう。

冥途への道程さえも誇れるよう、精々愉しんで逝くと良い。


朽守・カスカ
……驚いた
街を焼き尽くした跡から、もっと粗野で悪辣な存在を予想していたよ
紅蓮候の行いも、オブリビオンとしての道理に従ったものなのだろうか

…でも、幾らオブリビオンの道理があろうと
あの災禍を是とすることは、出来ない

どれだけ苛烈な炎を纏い襲いかかろうとも
【幽かな標】が私を導いてくれる限りいなして躱し、撹乱してみせよう
一人では敵わない相手でも、皆の力があればきっと届くはずさ
そして、必ずその身を以て
災禍の代償を払ってもらうよ

全てが終わったら
街へ戻り、私の出来る限りで弔いたい
それと、生存者にも討ち取ったことを伝えたいから
誰か、手伝ってくれないかな?

ただの感傷かもしれないが
せめて、出来る限りの事をしたいんだ


アニエス・ブランシュ
マルコシアス、相手にとって不足はありませんわ
わたくしも全力をもってお相手いたします

他の方と連携して攻撃するようにいたします
私の全力のエレメンタル・ファンタジア(2回攻撃、属性攻撃、全力魔法、高速詠唱)で岩石の雨を降らせて攻撃いたしますわ
暴走しそうになったら中断して暴走しないようにしますわね
敵の炎に注意し(情報収集、第六感)、炎が飛んで来たら回避(見切り、ダッシュ)を試み、避けきれそうになければオーラ防御いたします


エメラ・アーヴェスピア
あら、正面衝突がお望みのようね
それならそれに答えてあげましょうか

幸いにも部屋は広く、私が砲台と位置を考えれば崩れる事もないわね
なら私が選択するのは…『この場は既に我が陣地』…!
基本は私や後衛を守りつつ攻撃を阻害しない位置に
その他は同僚達の邪魔にならない端の方の位置に展開
真正面から打ち砕いてあげるわ…!全砲門、一斉射撃!
その後同僚達への援護射撃に切り替え、続けて砲撃をしなさい!

炎鎖爆滅が私に来たら?…私と綱引きなんてしている時間はあるのかしら?
(基本は盾がガードし、当たった場合は引っ張られると厄介なので手持ちの鎖をアンカーに)

さぁ、油断せずに行きましょう…皆で敵をとるわよ!


オブシダン・ソード
これはまた、強そうなのが来たね
じゃあその短剣と僕と、どっちが強いか勝負だ

身軽な剣士として戦闘
正面切ってやりあえるかというと怪しいけど、ひらひら躱せる限り頑張ろう
敵の短剣に呪詛が乗ったのに気付いたら刀身で受けるのは控える
切断されるのはやばい。まじでしぬ

誰かの願いを叶えるのが僕のモチベーションだけど…そうだな
こんなところで負けられないよね?
勝ちたいと願える?
僕はそれに手を貸すよ。ほら、鼓舞するの得意だから僕は

ユーベルコードはやはり攻撃より牽制用に使いたい
黒剣を列で飛ばして、相手が「打ち落としたくなる」ように誘導
仲間のために隙を作るのを優先

今だよ、叩き込んでやって
僕だって負ける気はない。さあ、行くよ


ユヴェン・ポシェット
行こう、ミヌレ。


マルコシアス…正々堂々と戦おうとしてくれているお前に、俺も、俺なりに誠実に戦いたいと思う。
…まぁ、多勢ではあるんだが。
お前の仲間との戦いで、こちらも体力使ったからな、それで勘弁してくれ。
お前にも譲れないものがあるのだろうか…。俺にも、あるからな。だから負けるわけにはいかないな。
犠牲になった人がいる、そしてこれから被害を受けるかもしれない人達がいる…放っていくわけにはいかない。

ロワ(ライオン)に頼らず、己とミヌレ(槍の形態)で戦う。

この、一撃は…外すものか。次に繋がる一撃だ。竜の力に、お前は耐えられるか…マルコシアス…っ!


ラムダ・ツァオ
正々堂々と、ね。
嫌いではないけど、私は私の戦い方で応じさせてもらうわ。
延焼や爆風を伴う以上、紙一重で避けるのは危険ね。
できるだけ距離を取りつつ、隙を伺うわ。
的を散らす意味でも、積極的に側面や後方へと回り込みたいわね。

相手がこちらへ炎を放ってきたのならチャンス。
そのタイミングで外套を脱ぎ、炎を遮るのと合わせてダッシュ、
シーブズギャンビットで一気に切り裂くわ。
一撃必殺を狙うなら喉だけど、まずは足を奪った方が良さそうね。
避け難くなれば、遠距離攻撃組も当てやすくなるでしょうし。
攻撃後も油断せずにヒットアンドアウェイで敵の注意をそらすわ。


サイラス・レドモンド
おうおう、ちぃとばかり熱そうな敵じゃねぇか!
オレの槍が疼いちまうぜ!
まぁそう呑気に喋ってもらんねぇか、街ひとつ消してるたァ容認出来ねぇなァ?
…まぁお喋りはこのくらいにしとこうか!

まずはそうだな…敵の動きには充分に注意しとくぜ。
オレァ短気だが敵の前じゃあ冷静に行くのさ!短気は損気ってな!
そして隙を見極めてこの槍で攻めまくってやるぜ!
技能の串刺しや2回攻撃も駆使してこうぜ!
攻めの最後にゃあドラゴニック・エンドをぶちかましてやるのさ!
回復ぅ?んなの誰かに任せるわ、オレァ攻めまくるしかのうがねぇのさ!
あ、だが仲間が手こずってたりピンチには駆けつけるぜ!
オレァ誰かを見捨てる事も出来ねぇただのネコなのさ!



●矜持と悪逆
 周囲の炎が鎮められてもなお戦場に満ちる熱。
 焔狼が纏う業火が描く紅蓮の軌跡は昏い洞を鈍く照らす。その視線は此方に鋭く向けられているが、ライヴァルトの心は宿縁の敵との邂逅に昂っていた。
「やぁ、また会えたな。マルコシアス」
「…………」
 ライヴァルトの声に紅蓮侯は答えない。それはかの存在が過去より顕われ出でたものだからなのか、語ることはないと示しているのかは計り知れない。
「まあいい、お前さんとの因縁もここで終わりにしよう」
 ライヴァルトは左手を掲げ、敵へと巨大な狼の顎門を差し向けた。
 マルコシアスは短剣を握ったまま此方を見据え続けている。対峙するひとりずつを確かめているように感じ、サイラス・レドモンド(野生のままに・f09014)は槍を握り締めた。
「おうおう、ちぃとばかり熱そうな敵じゃねぇか! オレの槍が疼いちまうぜ!」
 その勇猛さを示すかのように金の猫瞳が炎を反射して煌めく。
 周囲を包む戦いの熱気に勇むサイラスの傍ら、神宮時・蒼(終わらぬ雨・f03681)もまた、初めて対峙した敵への思いを抱いていた。
「……驚愕。……誇りが、あるのでしょうか。……それとも……」
「そうだね。街を焼き尽くした跡から、もっと粗野で悪辣な存在を予想していたよ」
 蒼の呟きに頷きを返したカスカは口許に手を当て、少し考え込む。
 しかし、カスカは思い直した。きっと紅蓮候の行いもオブリビオンとしての道理に従ったものなのだろう。同様のことに思い立った蒼も首を振り、敵を見つめた。
「……雑念。……今は、そんな、事を、考えている、余裕は、ありません、ね」
 タロも軽く肩を竦め、マルコシアスの姿勢に自分なりの思いを零す。
「――へえ、その所業の割には粋な出迎えだね、紅蓮侯」
 タロが思うのは滅びた街のこと。
 生き延びたあの青年も、犠牲になってしまった街の皆も、それまでは穏やかに暮らしていた。ただそれだけだった。
 紅蓮候が平和を乱し、営みを壊したことだけは間違いない。
 アーノルドも此方を真正面から迎えたマルコシアスと、街を襲った炎の獣としての所業を思い比べた。
「潔いな。お前のようなやつが何で街を燃やすかね。しかしまあ、仕事だ」
 相手がどうあれやることは変わらない、と気持ちを切り替える早さ。それはアーノルドが幾つもの戦場を傭兵として渡って来たが故。
 有もまた、目の前で敵が見せた行動に感心はすれど感慨は抱いていなかった。
「こいつにも矜持ってもんがあるのかね。……まあ、私には関係ないけど」
 街の人らの為にもお前を為留める。
 有が向けた眼差しには確かな意思と誓いにも似た感情が宿っている。
 格好良いね、とアーノルドと有の姿勢に対して感想を落としたオブシダンは己の刃を紅蓮候へ向けた。自然と見比べるのは獣が手にする刃と自分自身。
「じゃあその短剣と僕と、どっちが強いか勝負だ」
 オブシダンの宣戦布告めいた言葉が落とされた後、ヴァルダも宣言する。
「大いなる侯爵の名を持つ者よ。月と竜の御名に於いて、今ここで貴方を穿ちます。……アナリオン!」
 呼び掛けと共に槍に転じた仔竜を確りと、強く握り締めたヴァルダは誓った。
 共に並び立つ仲間を守るため、失われたいのちに報いるためにも――決して、逃げ出したりはしない。
 彼女の決意が空気を通じて伝わってきた気がして、アニエスも気を引き締めた。
「相手にとって不足はありませんわ、わたくしも全力をもってお相手いたします」
 マルコシアス、と敵の名を呼んだアニエスが身構える。共に戦う仲間達の言葉にミリシュは頼もしさを覚え、紅蓮候を見つめ返した。
「あら、いがいにも凛々しいお方ですのね。ええ、ええ。正々堂々戦いましょう」
 一瞬、ミリシュとマルコシアスの視線が重なる。その眼差しに凛とした何かを感じ取ったミリシュは薄く笑んだ。
 エメラも敵が持つ矜持に応えることがせめてもの礼儀だとして頷く。
「正面衝突がお望みのようね。それならそれに答えてあげましょうか」
「あたくしたちもすべてをもっていどみますわ!」
 エメラとミリシュの宣言を聞き、セフィも力強く掌を握り締めた。
 敵から感じられる気迫は重苦しいほどだが、ここまで来て退くだなんて冗談ではない。
「ここで仕留めるよ。みんなで力を合わせれば大丈夫、絶対に勝てるよ!」
 セフィの言葉には揺るぎない仲間への信頼が宿っていた。
 ユヴェンも竜槍を構え、その切先を敵に差し向ける。
「マルコシアス……正々堂々と戦おうとしてくれているお前に、俺も、俺なりに誠実に戦いたいと思う。――行こう、ミヌレ」
 紅蓮候に対して集う猟兵の数を見れば、多勢に無勢とも思えた。
 だが、敵はそれだけの力を前にしても怯まず、堂々と迎え撃った。それはつまりそれほどの強敵だということだ。
 ラムダはサングラス越しに敵を鋭く見据え、相手の出方を窺う。おそらくマルコシアスは此方が打って出るまで待とうとしているのだろう。
 まいも最初の一手が戦いの合図となると感じて間合いをはかる。
 その間もマルコシアスは何も語らなかった。
「語るに及ばず、と言ったところでしょうか。うん、正々堂々とした振る舞いは敵ながら好ましいと思いますです」
 まいは素直な思いを口にしたが、だからといって手を抜く心算は微塵もない。ラムダは真正面から向かうらしき仲間達からゆっくりと距離を取り、レガルタもそれに続く。
「正々堂々と、ね。嫌いではないけど、私は私の戦い方で応じさせてもらうわ」
「その姿勢はご立派だが、俺は搦め手でいかせてもらう……」
 そして、レガルタも己が抱く思いを言葉に変えた。
 ミハルは仲間達が其々に動く心算なのだと感じ取り、自らも呪の宝珠を軽く掲げる。
 其処にどのような理由があろうとも焔の獣は街を滅ぼした。
 そして、その存在がオブリビオンである以上、猟兵としての使命を果たす他ない。
「非道の所業は赦し難いが、戦士たる矜持を示すのならば心して応じよう」
 往くぞ、とミハルが皆に呼び掛けた瞬間。
 此方を迎え撃つ焔獣の咆哮が轟き、紅蓮候を屠る為の死闘が始まりを迎えた。

●刃と牙と
 紅蓮候を包む空気が揺らぎ、炎が燃え上がる。
 次の瞬間、真っ先に動いたのはライヴァルトだった。マルコシアスを真っ直ぐに見据えて駆けた彼を中心にして猟兵達は正面、そして右方と左方に分かれる。
 右側に回ったのはエメラとアニエス、まい。有とセフィにミハル。
 その反対側にはオブシダンとカスカ、サイラスにタロ。そしてユヴェンとラムダが向かった。残る者達は正面を切って戦うと決めた者――ミリシュをはじめとした猟兵達がライヴァルトに続き、敵に狙いを定める。
「そら、こっちを向けよ。お前の耳を奪った憎き敵はここに居るぞ!」
 宿敵である焔狼との距離を詰め、腕を振り下ろすライヴァルト。だが剣で以てその一閃を受け止めたマルコシアスは勢いのままに彼を振り払う。
 しかし、ライヴァルトも受け身を取って数歩後ろに着地した。それと同時にレガルタは洞窟内に点在する岩陰へと身を潜め、声の届く仲間達へと声を掛けた。
「こちらは隙を窺う。正面は任せた」
「……決意。……あちらが、正々堂々と、戦って、くださる、なら、こちらも、同様に、戦い、ましょう」
 蒼は巫覡載霊の舞によって己の体を神霊体へと変化させた。構えた薙刀から放つ一閃は鋭く、マルコシアスの身を穿とうと迫る。
 だが、蒼の一撃を察した敵は咄嗟に躰を翻してそれを避けた。
 纏う炎が揺らぐ最中、アーノルドは紅蓮候を追うように駆けて真前に陣取る。その行動は蒼に敵の反撃がいかぬよう防ぐ為のもの。
「真っ向勝負であれば、俺の土俵だ」
 アーノルドが予想した通りマルコシアスは呪詛を乗せた短剣を振るう。
 されどその狙いは蒼には向かず、アーノルドが掲げた斧によって受け止められた。ミリシュはその援護に入ろうと心に決め、真っ直ぐな視線を向ける。
「これ以上、あなたになにも壊させません」
 天からの光がマルコシアスの頭上に顕われたかと思うと幾重にも交差してゆく。ミリシュが指先を振り下ろせば光は降り注ぐ刃のように敵へと降下していった。
 何重もの閃きは一瞬だけ紅蓮候の目を眩ませる。
 其処に生まれた僅かな隙を掴み取ったヴァルダはひといきに敵との距離を詰め、仔竜の槍を突き放った。
 手応えは浅い。それでもこの一閃は無駄にはしない。そう決めたヴァルダは即座に身を引いて距離を取り、敵が再び攻撃を放とうとしていることを仲間達に告げる。
「来ます。出来る限り弾き返しますが、お気を付けて!」
 ヴァルダの宣言通り、解き放たれたのは炎鎖爆滅。鞭のようにしなる炎はライヴァルトや蒼、そしてヴァルダ自身を狙って戦場に迸る。
 だが、その動きを捉えたヴァルダが跳躍して炎鞭を槍で絡め取り、軌道を逸らした。
 同時にアーノルドも蒼に向けられた焔鎖を斧で弾いて無力化させる。おそらく、あれをくらってしまうと灼熱の鎖が身を蝕むのだろう。
 ライヴァルトに向かった一閃は彼自身が狼の顎で喰らい、事なきを得た――ようにみえたが、ライヴァルトに迫る炎鎖は二本。
 しまった、とライヴァルトが口にした刹那。レガルタの声が彼の耳に届く。
「そのまま動くな。幾らかは逸らしてみせよう」
 岩陰から暗殺得物が次々と放たれ、炎を防ぎ止めた。命中したのは手枷と轡に留まり、ユーベルコードを全て封じるには至らなかったが、威力を殺したのは確か。
 レガルタの援護によって敵からの拘束を免れたライヴァルトは地を蹴り、獣腕を振り翳して喰らい付く。
「お前とは因縁の鎖で繋がれているようだからな」
 今更繋がれなくとも、と告げた彼の一撃はマルコシアスの身を深く抉った。
 だが、敵は未だそれを痛みだとすら認識していない。それほどに強い相手なのだと悟った蒼は琥珀色の眸に焔獣を映し込んだ。
「……強敵。それでも、変わらず、お相手を、仕ります」
 敵は全力で此方の攻撃をいなして躱し、全力の攻撃を放ってきている。それならば蒼自身も全ての力を惜しまず出すだけ。
 淡い光を纏う蒼が振るった薙刀がマルコシアスに向けて振り下ろされる。ミリシュとヴァルダも動き、竜槍の一閃と光の軌跡を其々に打ち込んだ。
 決して外してはいないというのにマルコシアスは平然としている。
「どうしてですの、あたくしたちの攻撃がきいていませんの?」
「いいえ、確かに効いています。ですが……」
 ミリシュが驚きの声をあげる中、ヴァルダは首を横に振った。ダメージは確かに与えられている。だが、幾度も攻撃を重ねなければ相手を斃すことはできない。
 敵の強靭さを改めて知ったミリシュは一歩後ろに下がった。されど、怯んだからではない。下がることで見えたのは仲間達の姿。
 この戦場で闘っているのは自分だけではないと確かめ、ミリシュは地を踏み締めた。
 レガルタも岩陰や死角を素早く移動しながら、敵へ暗器を放っていく。激しく振られる尾で枷が振り落とされるが、既にレガルタは次の一手を放つ為に動き始めていた。
「厄介なら封じればいい。例えそれが困難であってもだ」
 レガルタが狙うのは紅蓮候が持つ短剣を封じること。それを理解したアーノルドは彼に協力すべく、自らが厄介な攻撃を防ぐ壁になると示す。
「頑丈さには自信があるんでね。どれだけ耐えられるかの勝負と行くか」
 アーノルドがマルコシアスを睨み付けた刹那、呪詛の短剣が振り下ろされた。
 その一撃は普通であれば吹き飛ばされるほどの威力を持っている。だが、アーノルドの斧はそれを真正面から受け止め、刃と刃は鍔迫り合うかのように拮抗していた。

●戦う意志
 刃が触れ合う甲高い衝突音が残響となった刹那。
 今だ、と告げるミハルの呼び掛けと共に右方の戦場から岩石の雨が降る。
「こちらにも敵はいましてよ!」
 それは合図と同時にアニエスが解き放った属性攻撃。つまりはこの洞窟の自然を利用した魔力の奔流だ。
 頭上からマルコシアスを穿った岩の雨に合わせ、有も黒杭を打ち放つ。
「確かに強い。でも、」
 勝てない相手じゃない、と有は口にする。
 真上からは岩石。真横からは夜が滴り落ちてきたかのような黒の一閃。アニエスと有からの攻撃は敵の不意を突く形で見事に命中した。
 更に後方に陣取ったエメラが魔導蒸気砲台を展開していく。
「部屋は広いのが幸いね。私が砲台と位置を考えれば戦線も崩れることはないわ」
 ――この場は既に我が陣地。
 そのユーベルコードの名が示す通り、其処を陣地とした砲台が轟音を響かせていく。その様は見事という他ない。
 其処に生まれた隙を狙ったセフィは翼をはためかせ、蒼き氷晶の揺籃を発動させていった。これまで罠を封じ、火狼を屠ったこの力ならば、と信じたセフィは力を解放する。
「わたしのユーベルコードなら、動きを封じられるはず」
 だが、有やエメラ達の攻撃を受けたことで警戒を強めていたマルコシアスは氷の楔をすれすれの所で避けてしまう。
 それによって猟兵達と敵の距離がひらき、双方の視線が交差する。
 一筋縄ではいかぬ相手だと思い知らされた形になるが、セフィはすぐに次の隙を狙うために身構えた。
 その意気です、とまいは仲間の諦めぬ姿勢に笑みを向ける。
「彼のような獣を倒してこそ、私たちの力は証明されますですから! さあ、真っ向勝負と参りますですよ!」
 戦闘用のナイフを掲げ、地面を蹴りあげたまい。その一瞬で紫電が迸り、焔狼の纏う炎を激しく揺らがせる勢いの一閃となった。
 それほど勢いのある攻撃であっても相手が怯まぬことをミハルは知っている。
 だからこそ、と連携を心掛けるミハルは敵の動きを封じる咎力を放ち、少しでも攻撃の威力を削ろうと狙い続けていた。
 そして、彼はマルコシアスの動向をしかと見つめて次の攻撃を読む。
「来るぞ。次は此方だ」
 先程までは真正面から打って出た仲間に矛先が向いていたが、マルコシアスも此方側の動きを封じんとして炎鎖を放ってきた。
「捕まるとまずそうですわね。……きゃあ!」
 ミハルからの呼び掛けを受けたアニエスは間一髪で迫り来る鎖をかわす。僅かにマントに鎖が掠ったが、アニエス自身に被害はない。
 だが、その軌道は後方に控えるエメラにも迫っていた。危ない、と有が呼びかけるも間に合わず、エメラの身体に鎖が巻き付く。
「……私と、綱引きなんてしている時間はあるのかしら?」
 痛みと炎の熱に眉を顰めながら、エメラは咄嗟に手持ちの鎖をアンカーにした。
 それは引き寄せられて喰らい付かれぬ為の決死の策。しかし、敵がひとたび繋いだ鎖に力を込めればどうなるかくらいはエメラもわかっていた。
 されどそうはさせぬとばかりにまいが駆け、刃を振り下ろす。
「その鎖、断ち切ってさしあげますですよ!」
 宣言通り、まいは渾身の力を込めて炎の鎖を真っ二つに斬り裂いた。次の瞬間にはエメラを拘束していた鎖が解けて効力を失う。
 そのとき、マルコシアスが低い唸り声をあげた。意味を成す言葉は紡がぬままではあるが、それはまるでまいの立ち回りを称賛したかのようであった。
「ありがとう、助かったわ」
 エメラもまいに礼を告げ、再び魔導蒸気砲台による攻撃を再開していく。
 砲弾が次々と放たれていく最中、有はマルコシアスの真横に回り込んだ。こっちだ、と声を掛けて大きく振り被った有。彼女に意識を向けた紅蓮候は身構える。
 だが、それはただのフェイント。
 有は敢えて攻撃をせずに瞬時に身を翻した。その狙いはただひとつ。
「頼んだよ」
「任されたよ。今度こそ……!」
 有からの簡潔かつ的確な言葉が向けられたのはセフィだ。合図を受けたセフィは今一度、自身に纏わせた冷気から氷楔を生み出す。
 次の瞬間、マルコシアスの周囲を幾重もの楔が取り囲み、その動きを制した。
 敵を止めたのはたった一瞬。しかしそのひとときこそが好機を生み出す兆しとなる。
「やりましたわね。この機を逃さずいきますわよ」
「ああ、抜かりなく行こう」
 アニエスが再び岩石を激しい雨のように降らせ、ミハルも敵の力を封じにかかった。それまではいなされていたが、今はセフィの一撃によって身動きが取れないでいる。
 この一瞬を逃さず、必ず止めると決めたミハルはアニエスの力が敵を穿っていく様をしかと見守る。そして、敵の気が其方に注がれた直後。
「――枷を鎖し、力を減じる」
 ミハルの咎力を封じる力が、放たれようとしていた灼熱の鎖を見事に捉えた。
 これで暫しあの力は使えないだろう。有とセフィが頷きを交わし、エメラも攻撃に集中できると感じる。そうして、まいは一気に敵との距離を詰めた。
 動けるようになったマルコシアスの紅蓮の炎がまいの剣技を迎え撃つように迸る。しかしまいはそのまま踏み込み、振り上げた刃をひといきに薙いだ。
「どちらが勝るのか――それも、斬ってみれば分かりますですよ!」
 炎を斬り裂き、刃が煌めく。
 戦いの終わりは未だ見えない。だが、此処にいる誰もが勝利を信じて戦っていた。

●巡る力
 これだけの数の相手をしているというのに、紅蓮候は息ひとつ乱していない。
 正面、右方と左方。猟兵達は三方から其々にマルコシアスと戦い続け、少しずつではあるがその力を削っていった。
 対する紅蓮候は最初に示した通り、正々堂々とした攻撃を放ってくる。
 ラムダは爆風から離れるように駆けて敵の死角に回り込んだ。その間にもタロやオブシダン、カスカ達にも炎や刃は迫って来ていた。
 カスカは幽かな標の導きに従って何とか焔の奔流を避けていたが、徐々に息が上がっていることを感じている。それでも、と地面を強く踏み締めたカスカは思う。
「幾らオブリビオンの道理があろうと、あの災禍を是とすることは、出来ないね」
 きっとマルコシアスはあの圧倒的な炎で街を焼いた。
「その通りだ。街ひとつ消してるたァ容認出来ねぇなァ?」
 サイラスもカスカに同意し、人々の命を奪った獣を改めて睨み付ける。怒りが沸きそうになるが此処は戦いの場。短気は損気であると己を律することのできるサイラスは槍の切先を差し向け、幾度目かになる一閃を突き放った。
 タロも懸命にカードを引き、焔を避けていなしながら激しく立ち回る仲間の援護に回り続ける。戦い始めた当初から比べれば、ほんの少しではあるが戦況は動いていた。
 僅かだが、此方が優勢だ。
「このままの調子でいけば問題はなさそうだけど、油断は禁物だね」
 タロは続けてタロットを引き、ユヴェンにカードが齎す強化の力を施す。その加護を受けたユヴェンは紅蓮候を見据えた。
「お前にも譲れないものがあるのだろうか……」
 敵の姿は真摯に思えた。だが、きっとそれは戦いにおいてのみだ。
 自分達は戦う力があるからこそ紅蓮候と対等でいられる。しかし力なき者を前にした候はそれらをただ蹂躙するだけ。
 ユヴェンはミヌレを握り締め、地面を蹴った勢いに乗せて刃を振るった。
「俺にも、あるからな。だから負けるわけにはいかないな」
「そうそう、元々勝つ気しかないからね」
 それに続いてオブシダンが剣を掲げる。見る間に彼の周囲に同じ刃が錬成されていき、マルコシアス目掛けて舞った。黒剣は敵を翻弄するように様々な方向から飛び交い、その身を斬り裂いていく。
 オブシダンの考えはその刃を鬱陶しく思わせ、そして――打ち落とさせること。
 それによって相手の気を引き付けられると狙った彼の思惑通り、マルコシアスは次々と刃を振り払っていく。
「よし、かかった! ……あれ、もしかしてだけど僕自身も狙われてる?」
 見事に想定した展開になったが、オブシダンははたとする。紅蓮候は黒曜石の剣すべてを打ち落とし、そして最後の一本である自分に狙いを定めているではないか。
 身構える暇もなく、地獄の炎を纏った短剣がオブシダンの本体である剣に迫る。
「危ないよ、避けて――」
(「やばい。まじでしぬ」)
 カスカが呼びかけるもマルコシアスの動きの方が速い。オブシダンは一瞬、本気で切断を、つまり器物としての死を覚悟した。
 だが――。
「させないわ。私達を甘く見ないで」
 落ち着いた声が響いたと同時にダガーによる鋭い一閃がマルコシアスの脚部を斬り裂く。それは最大の隙が生まれる瞬間まで機を窺ったラムダによる一撃だった。
 ラムダの攻撃によって体勢を崩した紅蓮候の一撃はオブシダンを掠めるだけに止まった。タロは仲間の元に駆け寄り、剣を覗き込む。
「大丈夫だったかな?」
「何とか平気だよ」
 オブシダンがしかと答えた様子にサイラスも安堵を抱き、敵に視線を向け直した。
「間一髪だったな! さて、お喋りはこのくらいにしとこうか!」
 サイラスはマルコシアスが次なる一撃を放とうとする動きを察している。気合い入れるぜ、と短く呼びかけた彼の声にタロも援護を強めることを決めた。
 そして、業火の焔はラムダに差し向けられる。
 しかしラムダにとってそれはチャンスだ。外套を脱ぎ捨てた彼女はそれで炎を遮り、岩の隙間を縫って戦場を駆け抜けた。
「一気に切り裂くわ。続けてお願い」
「分かった。やるぞ、ミヌレ」
 もう片方の足を狙うラムダの呼び掛けに応え、ユヴェンも駆ける。ナイフの一閃が紅蓮候の脚を傷付け、竜槍が更に其処を抉った。
 血が炎のように散っていく中、ユヴェンは犠牲になった人を思う。
 抗えぬ死を与えられた者達の無念。そして、これから被害を受けるかもしれない人達がいること。それを思えば紅蓮候を放っていくわけにはいかない。
 ユヴェンの悼む心を感じ取り、サイラスも槍による一閃を見舞っていく。召喚竜がマルコシアスに喰らい付き、その力を奪い取った。
 すると、紅蓮候の躰が大きく揺らいだ。それまでびくともしなかった敵が弱りはじめていることは一目瞭然だ。
 カスカは頷き、タロも終わりが近いことを悟る。
「……あの夜、理不尽に奪った者の未来は、今、摘み取られる」
 それが因果というものだと口にしたタロはカードを引いた。
 導かれた札は運命の輪。それがどういった意味を示すのかはきっと――この戦いの結末が教えてくれるだろう。

●最期の一閃
 焔狼が吼え、その声は炎窟内で激しく木霊した。
 真っ直ぐで隠しようのない敵意と殺意を受け、アーノルドは皆の盾として立ち回り続ける。ただ受け止めるだけでは身がもたないと判断した彼は振り下ろされる短剣の切先を斧で逸らし、衝撃をいなす。
 それであっても身体が悲鳴をあげそうなほどの衝撃が伝わってきた。
「流石に厳しいか」
 アーノルドは身を引き、腕を前に掲げる。すると其処から戦場の亡霊――嘗ての戦友である戦闘機が顕われ、マルコシアスに向かって突撃していく。
「悪いな。ちょっと仕事してくれ」
 短く告げて戦友の背を見送った彼に向け、ヴァルダは聖なる光を放った。
「星々のひかりよ、どうか、我が同胞を救い給え……!」
 ヴァルダの施した癒しの力は仲間を包み込み、淡い光が周辺を照らす。
 彼はずっと果敢に皆を守ってくれていた。だから今こそ自分が支える時だと感じ、ヴァルダは癒力を注ぎ続ける。
 自らの身が疲弊しようともこの手は止めない。
 ヴァルダが言葉にしない決意を巡らせる中、蒼は猟兵達を見渡した。
 誰もが今、終わりに向けて心をひとつにしている。皆が抱く人の営みを壊した獣に対する思いは熱く、蒼は双眸を静かに細める。
「……人は、いまだに、好きにはなれないけれど、……嫌いにも、なれない。…だから、せめて、目の前の、障がいは、排除、しましょう」
 一度そうと決めたのならば後は力を揮っていくのみ。
 蒼の巫覡の力が薙刀に更なる力を宿して振り下ろされる。其処に続いたラムダは素早く駆け、ヒットアンドアウェイの戦法で敵を着実に追い詰めていった。
「容赦はしてあげないわ。悪く思わないでね」
 蝶のように舞い、戦うラムダに合わせてレガルタも妨害の力を放っていく。
 狙うのは当初から封じようと機を計っていた短剣。咎力を封じるべく解放した暗器は敵の死角を縫い、短剣に迫る。
「俺は暗殺者だからな、真っ向勝負なんてしないのさ」
 ――悪いとは思わないが、恨むなよ。
 静かに落とされた言葉の後、レガルタの暗器はマルコシアスの短剣を弾き飛ばした。
 不意打ちに得物を奪われた紅蓮候は一瞬だけ刃に視線を向ける。だが、それこそがレガルタの狙ったものだ。
 有は其処に隙を見出し、杭で掌に傷を刻む。
「心の臓まで貫いてやろう」
 血を代償として新たな杭を創り出した有はマルコシアスめがけてそれを一気に放つ。真っ直ぐに舞った血杭は言葉通りに敵の胸を貫いた。
 だが、マルコシアスは苦しみながらも反撃に移ろうとしている。
 カスカは疲弊したアーノルドに代わり、自分が攻撃を引き付けようとして駆けた。掲げたランタンから揺らめく幽かな灯は軌道を示し、放たれた一閃を避ける標となる。
 だが、ただそれだけでは斃す為の力が足りない。
 カスカが敵を見据えた横顔。其処に宿った感情に気付き、彼女の隣に並び立ったオブシダンは薄く笑んで見せた。
「こんなところで負けられないよね? 勝ちたいと願える?」
「勿論だよ」
「それじゃあ僕はそれに手を貸すよ。どうか、この身を使って欲しい」
 カスカの返答に対してオブシダンの人間体が一歩身を引く。すると彼の本体である黒曜石の剣が光を纏い、カスカの前に浮かび上がった。
 ――誰かの願いを叶えるのが僕の、剣としての在り方。
 剣からそう聞こえた気がしてカスカは刃をその手に取った。オブシダンは新たな己の使い手と意志を同じくして、敵に狙いを定める。
「今だよ、叩き込んでやって。僕だって負ける気はない。さあ、行くよ」
 呼び掛けに応えるようにカスカが地を蹴り、高く跳躍する。
「必ずその身を以て、災禍の代償を払ってもらうよ」
 そして、カスカは黒曜の刃を振り下ろした。大きな力の奔流がマルコシアスを斬り裂き、深い傷を刻み込む。
 敵の力を大きく削った一閃に、まあ、とアニエスは感嘆の声をあげた。
 大丈夫、これならば勝てる。
 アニエスをはじめとした猟兵達は同じことを感じている。そうして、解き放たれた炎が再び此方に迫る。
「もう好きにはさせませんわ。そんなもの、防いでみせます」
 第六感が危機を報せ、アニエスはオーラを纏って焔の奔流から身を守った。
 エメラは自分達の一手ずつが終わりを導いていくのだとと信じ、更なる魔導砲台を展開していく。
「さぁ、油断せずに行きましょう……皆で敵をとるわよ!」
「ああ――彼らと「約束」したからね」
 エメラからの呼び掛けにタロが答え、カードによる鼓舞を広げていく。ミリシュは仲間の頼もしさを感じ、タロからの援護をその身に受けた。
 見据える敵は傷だらけでも尚、此方に堂々とした真正面からの炎を放ってくる。ミリシュには相手がどうして其処までするのかは分からなかった。だが、解らずともその姿勢に応えることはできる。
「……あなたのきもちは、あたくしにはりかいできません。だからせめて――」
 全力で、あなたをほふりましょう。
 砂糖菓子めいた少女が紡ぐ言葉と同時に光の軌跡が戦場を舞う。其処にサイラスが駆け、竜槍の切先を抉り込むように腕を振るった。
「オレァ攻めまくるしかのうがねぇただのネコさ。だが、矜持には矜持で返す礼儀くらいは知ってるぜ!」
 全力の攻撃には、同じくすべての力を出した一閃での返礼が相応しい。
 サイラスの一撃は終わりを導く兆しとなって巡った。
 セフィは今こそ畳みかける機だと感じて仲間達に呼び掛けていく。
「みんな、今のうちににあいつを倒しちゃえ!」
 セフィ自身も氷の揺籃を発動させて少しでも敵の動きを阻もうと狙った。
 はい、とセフィに向けて元気よく答えたまいは手にした刃に力を籠め、マルコシアスとの距離を一気に詰めていく。
「いざ、いざ!」
 悪鬼礼賛。掛け声と共に振り被ったまいは一瞬のうちに敵の身を裂いた。花を咲かせるかのように血を散らせたまいが身を翻せば、間髪容れずにミハルが枷を解き放つ。
 何とか反撃しようと弾き落とされた短剣に腕を伸ばすマルコシアス。だが、ミハルの咎力を封じる連撃がそれを許さない。
「冥途への道程さえも誇れるよう、精々愉しんで逝くと良い」
 静かな言の葉が落とされ、短剣は炎窟の壁に縫い付けられた。
 ユヴェンはミハルが敵の攻撃の機を見事に奪ったと察し、一気に攻め込みに駆ける。狙うのは杭が突き刺さったままの胸元。
「この、一撃は……外すものか。次に繋がる一撃だ。竜の力に、お前は耐えられるか――マルコシアス……っ!」
 それは、終わりを齎す為の一撃。
 ユヴェンが紅蓮候の名を呼んだ刹那、その胸を竜槍が深く貫く。
 だが、それを以てしてもマルコシアスは膝を付かなかった。誰の眼にも敵が限界であると分かっている。それでも紅蓮候は、焔の獣はただ真っ直ぐに猟兵を見つめていた。
 ライヴァルトは一歩ずつ敵に近付き、頭を振る。
「俺は正直、お前の性格は嫌いになれなかったよ。とても、業腹な話ではあるがな」
 所業を思えば赦せるものではない。
 しかし、戦いにおいての紅蓮候の勇猛さには共感めいたものを覚える。そして、ライヴァルトは顎門を大きく振り上げ、凛と宣言した。
「さぁ、頃合だ」
 正々堂々、真正面から喰らってやる。
 そう告げたライヴァルトとマルコシアスの視線が交差した、その瞬間。
「この顎門はお前の魂ごと骸の海に返してくれるだろう。もう二度と、蘇らないように全てを噛み砕いてな」
 世界を喰らう終末の力が迸り、辺りに眩いほどの衝撃が散った。
 そして――焔の獣は最期に一声、高く咆えた。

●歩み続けるこの先に
 紅蓮候が地に伏し、獣の躰が塵のように崩れて消えていく。
 ライヴァルトはその光景を見下ろしながら左腕をおろした。骸の海に還っていく宿敵の姿に感じる思いは言葉にされることなく、彼の裡にだけ秘められている。
「終わったか」
 ライヴァルトがちいさく零すと、蒼がこくりと頷きを返した。
「……終了。無事に、誰も、欠けること、なく。……勝利、しました……」
「手強い敵でしたが、あたくしたちのかんぜんなる勝ちですわね!」
 蒼の声に答えたミリシュは皆で掴み取った勝利に喜び、砂糖のように甘やかな微笑みを宿す。まいも薄緑の瞳を緩やかに細めてミリシュ達と共に勝利を確かめた。
「手に汗握る戦いというのは、今日のことを言うのだと思いましたです!」
「確かに、その通りかもしれないな」
 まいの言葉にユヴェンが同意を示し、ふと周囲を見渡す。
 ユヴェンが気付いたようにアーノルドと有も洞窟内の空気が変わっていく様に意識を向けていた。炎の熱は急激に収まり、炎窟は普通のダンジョンへと戻っていっているらしい。
「ここも奴の支配から解放されたってことか」
「洞窟内の熱気も覚めて……いや、冷えていっているのかね」
 アーノルドはもう壁から炎が噴き出すことはないと感じて周囲を見回した。ダンジョンから出る際にもあの炎の罠を通る羽目にならなくて良かった、と有もゆっくりと息を吐く。
 セフィもほっとして、紅蓮候が倒れた場所を見下ろした。
 もう其処には獣の影の形もない。
「ばいばい、マルコシアス。もう二度と遭いたくはないけれど……」
 あの焔の獣がまた骸の海から染み出すこともあるのだろうか。
 セフィはオブリビオンという存在の恐ろしさを改めて感じながら、宿敵と何度も戦う宿命を背負ったライヴァルトを見つめた。
 ラムダも何も語らぬ彼の背を見遣った後、帰りましょうか、と踵を返す。
 もしまた悪しき者が蘇ろうとも屠る。それが猟兵だと独り言ちたラムダは外套を肩に羽織り、外へと向かった。
 アニエスも其処に続き、両手で自分を抱き締める。彼女がそうしたのは急激に洞窟の内の空気が冷えて肌寒さを感じたからだ。
「このままここにいては風邪をひいてしまいますわ。はやく戻って、あたたかいものでも頂きに参りましょう」
 わたくしの美貌のためにも、と付け加えたアニエスに頷きを返し、エメラも帰還する仲間達の後に続いた。
 オブシダンも此処に用はないと判断して歩き出し、刀身をそっと撫でる。
「圧し折られそうになったときはどうしようかと思ったよ」
 思い返したのは焔狼の刃が間近まで迫って来たときのこと。サイラスもあの時は内心で焦ったと話して剣の方のオブシダンを見遣った。
「ヒビは入ってないか? まあ今こうしてるってことは無事だったってことか!」
 心配の眼差しを向けるもサイラスはすぐに明るい笑みを浮かべる。終わり良ければ総て良し、と胸を張る彼の尻尾は誇らしげにぴんと立っていた。
 そうして、一行は洞窟と森を抜けた。
 皆の後ろ姿を暫し見つめていたカスカは意を決し、周囲の仲間達に願う。
 彼女は実際に滅びた街を見てきた。街にはまだ弔われていない者や、朽ちたままにされた場所が多く残っている。
「街の人達を私の出来る限りで弔いたいんだ。それと、生存者にも討ち取ったことを伝えたいから誰か、手伝ってくれないかな?」
 それはただの感傷かもしれない。しかしせめて出来る限りの事をしたいと話したカスカの声に、ミハルは快く同意した。
「そうだな、同行しよう」
 何故ならミハルもまた、痕跡を探る為に街の周辺を確かめている。
 滅びた街がどうなっているかを知るが故に断る選択肢などなかった。レガルタも街を見て回った者として同道したいと告げ、カスカの思いを汲む。
「勿論だ。仇を取ったことで救われる魂もあるだろう」
「そうだね、あの青年に……ヴィクターにも伝えに行こう」
 レガルタが街の惨状を思い起こす中、タロも静かに頷きを返した。タロが口にしたのは生存者の青年から聞いていた彼自身の名前。
 ヴィクター青年に仇を討ったことを報告すればきっと、彼の心も少しは晴れるだろう。そして、いつか新たな未来に進む道を見出して欲しいとタロはそっと願った。
 ヴァルダも街に向かうことを決め、荒野の果てを見つめる。
 先ずは滅びた街に生きていた彼らが忘れ去られぬよう、祈りを、花を手向けよう。
 失われたいのちは戻らない。けれど――この一歩が、この戦いの結果が、確かな希望になると信じる為に、この歩みを止めてはいけない。
「進みましょう、前に」
 少女は空を見上げ、遥かな天を仰いだ。
 荒野に吹く風は激しく冷たい。それでも、数多の世界を渡り未来を救う者達の裡にある思いは――獄炎に咆えた獣が孕んでいた熱よりも激しく、強く燃えている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2018年12月26日
宿敵 『マルコシアス』 を撃破!


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#アックス&ウィザーズ
#宿敵撃破


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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※このボスの宿敵主は💠ライヴァルト・ナトゥアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト