アポカリプス・ランページ⑯〜其は、時の狭間を揺蕩うモノ
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「……っ! 過去と未来を操るモノ。其れが、マザーコンピューターと言う事か……?」
グリモアベースの片隅で。
北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が、閉ざしていた双眸の向こうに視えた景色を見つめ、思わず、と言った様子で溜息を漏らす。
その優希斗の溜息に気がついたか。
優希斗が蒼穹に輝く双眸を開くと、猟兵達が気掛かりそうに此方を見ていた。
そんな猟兵達に微苦笑を零しながら、皆、と優希斗が静かに語りかける。
「遂にアポカリプス・ランページの一体、マザー・コンピューターへの道が開けたね。此も偏に皆が力を貸してくれた賜物だと思う」
微笑を零しつつそう告げる優希斗を、猟兵達が続きを促す様に見つめていた。
「お陰様で、マザー・コンピューターの戦場の1つが俺にも視えたよ。この戦場では、彼女は機械から抜け出し、直接皆と相見える覚悟の様だ」
あらゆる物質・概念を『機械化』する能力を持つとされる、マザー・コンピューター。
この戦場では、其の彼女が機械から抜けだし、自らの中に常に蓄積し続けてきた『時間質量』を開放し、赤く光り輝き、猟兵達に襲いかかってくる。
其処まで簡単に説明したところで、優希斗がそっと重苦しい溜息を1つ吐く。
「この、『時間質量』の開放と言うのが極めて厄介な能力でね。通称、タイムフォール・ダウンと呼ばれるこの技なんだが……何と此を使っている間、彼女は任意の対象の時間を2~4倍速で『巻き戻し』たり、『早送り』したり出来る様なんだ」
――即ち、彼女が使いこなすのは、『時間』
『過去』と『未来』と言う概念そのものを使ってくるのだ、と考えれば良い。
「流石に此を使っている間のマザー・コンピューターは、一切の機械制御は出来なくなるみたいだがね。だが、『時間』……『過去』と『未来』を同時に操る事が出来るなんて、正直ほぼ規格外の能力に近いだろう。まあ、流石にありとあらゆる時間をと言う訳ではないが……最悪より一歩マシ、位の強さなのかな」
無論、『過去』と『未来』を操りながら、マザー・コンピューターはユーベルコードをも使用してくる。
最悪の場合、自らの身体を修復するために、この『時間質量』能力を使ってくる可能性も、勿論あるのだ。
「つまり、2~4倍速で自らや他者の時間を『早送り』したり、『巻き戻し』たり出来るので、その時間を考慮に入れた戦いが必要になる。はっきり言えば、極めて『手強い』相手なんだ」
そんな『過去』と『未来』を操る能力に対処しつつ、猟兵達は戦わなければいけない。
極めてシビアな戦いになるのは間違いないだろう。
「マザー・コンピューターの時間を操る其の能力にどう対処し、如何戦い勝利するのか、それはきっと皆にしか出来ない事になるだろう。けれども、マザー・コンピューターを放置しておく訳には行かない。彼女を骸の海へ送る為に、どうか皆、力を貸して欲しい」
その優希斗の言の葉と共に。
蒼穹の風が吹き荒れて、猟兵達は、グリモアベースを後にしていた。
長野聖夜
――其は、『過去』と『未来』を揺蕩うモノ。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
有力敵『マザー・コンピューター』戦をお送り致します。
此方は難易度『やや難』です。
敵の能力はかなり出鱈目ではありますが、其れに対処することがプレイングボーナスになります。
具体的なプレイングボーナスは下記です。
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プレイングボーナス……敵の「巻き戻し」「早送り」を含めた先制攻撃に対処する。
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戦い方を工夫すれば撃退できないわけではありません。
尚、プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記となります。
プレイング受付期間:9月19日(日)8時31分以降~9月20日(月)8:00頃迄。
リプレイ執筆期間:9月20日(月)9:00頃~9月22日(水)一杯迄。
変更がありましたらマスターページ及びタグにてお知らせ致しますのでご確認頂けますと幸甚です。
――それでは、良き時との戦いを。
第1章 ボス戦
『マザー・タイムフォール・ダウン』
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POW : タイム・タイド・アタック
【時間質量の開放がもたらす超加速】によりレベル×100km/hで飛翔し、【速度】×【戦闘開始からの経過時間】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : タイム・アクセラレーション
【時間の超加速】による素早い一撃を放つ。また、【時間質量の消費】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : オールドマンズ・クロック
攻撃が命中した対象に【時計型の刻印】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【肉体が老化し続けること】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
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卜二一・クロノ
「捉えたぞ、我が機織りを阻む者よ」
時空の守護神の一柱、あるいは祟り神として参加します
時の糸を紡ぎ、歴史の柄を織る者にとって、好き勝手に時間を遡る行為は織り直しを強要するので害悪
そのような、猟兵やオブリビオンの事情とは無関係な動機で祟ります
時間を操るユーベルコードを以て、敵の時間を操るユーベルコードを完封します
神の摂理に反する者には神罰を
何なら先制攻撃の受け皿になったっていい
ある程度のダメージはやむを得ないものとします
咎人に死の宿命を見出したら、満足して帰ります
※時間操作を行う猟兵は見て見ぬふりをします。できれば同時には採用しないでください
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「……捉えたぞ、我が機織りを阻む者よ」
デトロイト・急造機械軍製造工場のある戦場に。
現れた彼女……マザー・コンピュータの姿を認めたトニー・クロノが忌々しげな表情を浮かべて、マザーを睨め付けた。
『何を仰っているのでしょうか。私は只、真理を求める時間が欲しいだけなのですが。何故、其の時間を邪魔されることが、機織りを阻む者、となるのでしょう』
淡々と機械的な口調で問いかけるマザーの其れに、トニーが鋭く目を細める。
「その真理を求める時間などの為に、好き勝手に時間を操る者。其れが機織りを阻む者以外の何者だと言うのであろうか?」
『どう言うことでしょうか? 私は真理を求める者。理解出来る説明も無しに、その様な事を言われる筋合いはございません』
問いかけと同時に、全身から電磁波の様な何かを放射するマザー。
放射された電磁波が光線と化してトニ-を襲わんと撃ち放たれる。
その光線の直撃し、その肩に時計型の刻印を付与され、肉体が瞬く間に老化していき、新陳代謝が狂い始めるのに気がつきながら。
「ならば説明してやろう。我は、時の糸を紡ぎ、歴史の柄を織る時の守護神達の一柱なり。我等時を織る者達にとって、織り直しを強要される時を遡る行為を行う汝は害悪なり。故に、我は汝を赦さず、汝に神の摂理に反する神罰を与えん」
告げつつ肉体の老化による、思考、筋肉の低下、新陳代謝の変化により、体の動きが緩慢になるのを感じつつ、荒絹の時糸を射出。
年を重ねる程の老いが進むにつれて、爪がポロポロと剥がれ落ちていくのを確認しながら、時の鋼糸でその腕を締め上げる。
『何でしょうか、この糸は……?』
と、その時。
マザーの腕に絡みついた糸から毒の様に紫色の斑紋が現れ、マザーの生まれたての姿へと広がっていく。
其れは、時を操る者に与える裁きの毒。
時を操る者のユーベルコードを禁止するための毒。
――然れど。
クロノの髪の色素が完全に抜け落ち、瞬く間に髪が薄れていく。
同時に、その健康的な若い肌が見る見るその艶と張りを失い、腰が曲がり、瞬く間に全身に皺が生まれてきた。
――如何に時間操作を禁止する事の出来る神罰、だとしても。
そもそも其の鍵を起動させるよりも先に使われるユーベルコードを、潜り抜けることなど出来はしない。
――だから……。
「ぐっ……あっ……」
死に至りそうになる程、凄まじい早さで肉体が老化し、目前が暗くなり、意識が遠のいていく。
その肉体がある限り、如何に神とて何時かは老い、朽ちてゆく存在となる。
其の事実を認識し、掠れゆく意識の中で、僅かにトニーが捉えたのは。
マザーの体に微かに広がった紫の斑紋。
其の斑紋が咎人の死の宿命を暗示するもので在る事を信じて。
肉体の老化による限界の来たトニーが、グリモアベースに強制送還された。
――マザー・コンピュータ、未だ顕在なり。
成功
🔵🔵🔴
ウィリアム・バークリー
時間を操る……。銀河帝国の白騎士や黒騎士も視る事が出来るだけだったのに。
紛れもない難敵です。でも怖じ気づくわけにはいきません。マザー・コンピュータを破壊しなくては。
先制攻撃は「オーラ防御」を張った上で「見切り」、回避します。「巻き戻し」されても結構。攻撃の度に「見切り」の精度が上がりますよ。
「全力魔法」氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」で戦場全域をPermafrostで永久凍土に変えます。自分は「氷結耐性」で難なく動けますよ。
後は、足場の有利を使って、『スプラッシュ』で「2回攻撃」も交えての連撃を繰り出し、追い詰めていきます。
とにかく手数で押して、ユーベルコードをこれ以上使われないようにしなくては。
荒谷・ひかる
時間攻撃……!
流石に、わたし達に時間をどうにかする術はありません。
けれど、何もできないほど無力でもありません!
先制攻撃に対し、大地の精霊さんの力で地面に穴を掘って隠れることで回避を試みる
とはいえ時間を戻される以上、成功する可能性は極めて低いはず
ですが、この一瞬だけでもわたしに意識を向け、時間攻撃の対象にするだけでも十分です
敵の先制攻撃を見てから相討ち覚悟で【風と雷の災厄結界】発動
竜巻と560発の雷で敵を攻撃します
一瞬「祈る」時間さえあれば、あとは精霊さんが何とかしてくれるのがこのコード
わたしがどうなろうと問題ありません
そして、風の精霊さんは空気中に偏在し、雷の精霊さんは機械の中であれば超高速で展開可能
どういうことかと言うと、「わたしが戦場に立った時点で、もうあとは発動するだけ」「発動したら術者が死んでも止まらない」ということ
ついでに言うなら4倍速程度では雷から逃れる事は不可能
防ぐならわたしを戦場に立たせないか、「環境」を巻き戻す必要がありますが……初見でそれを見抜くことができますか!?
シズホ・トヒソズマ
やれやれ
とんでもない奴が奥に構えてたもんです
全員そうですがフルスロットルの前に逃す訳にはいきませんね!
転移前準備
リキッドメタルを人型に変型し人間に見えるよう◆変装
リキッドの中にはイズンで生成した時間経過性の神経◆毒(血に見える液体)
特に視神経に効く物を仕込む
私はユングフラウの中に隠れて隙間から見てリキッドを思念◆操縦
人形複数の糸をリキッドに繋げ
自身を人形で囲んで転移した人形使いのように見せます
敵が超加速で防御を抜け
リキッドに攻撃し血に見せかけた毒が付着したら
すかさず人形多数を◆早業で動かし一斉攻撃
対象が多い巻き戻しではなく自分の超加速を選ぶ筈
自分の時間を早回ししたならば毒も直ぐに効果が出る
視神経が麻痺したら対象を選ぶ巻き戻しは不可能
自分の巻き戻しで回復はできますがそれは十分な隙
UC発動
ブックドミネーターの力を使用
全身を時間凍結氷で覆い加速飛翔します
これはあらゆる効果を1/10までに遅くする結晶
故に巻き戻しも私自身に及ぶまで時間がかかる
時間凍結
これが貴方への切り札です!
加速のまま突撃します
司・千尋
連携、アドリブ可
時間操作といっても短時間か?
何秒位か対象は視認で選択か等
観察し予測
先制攻撃含む敵の攻撃は結界術と細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
オーラ防御を鳥威や自身に重ねて使用し耐久力を強化
割れてもすぐ次を展開
回避や防御、迎撃する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用
単純な攻撃なら見切りや第六感で予測出来るはず
回避時は余裕をもって大きく回避
無理なら盾受けや武器受け等も使い防御
攻防は『翠色冷光』を使用
範囲外なら位置調整
早業、範囲攻撃、2回攻撃、乱れ撃ちなど手数で補う
『翠色冷光』は周囲の影響を受けないから消せないはず
敵に回避されないよう広範囲爆撃
修復させないよう操作可能な時間以上に攻撃を叩き込む
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
…出鱈目にも程があるだろ
時間を止められないだけましかもしれないが
「早送り」「巻き戻し」も十分な制約だぞ
先制は漆黒の「オーラ防御」を全身に纏わせた上で「第六感」で気配を察し
一撃を繰り出す瞬間を「見切り、武器受け」しつつ回避
超加速に早送りを重ねても、攻撃の気配までは隠せないはず
全神経を集中し回避に専念する
先制を凌いだら「ダッシュ」で接敵し「2回攻撃、生命力吸収、怪力」+指定UCの18連撃
ポッドごと強引に叩き割りつつ、生体コアを斬り刻んで生命力を奪う
早送りや巻き戻しによる身体負荷は「激痛耐性」で無視
巻き戻されたら何度でも叩きつけるだけだ
骸の海で無限の思索にふけるんだな!
森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎
その能力は反則にも程があるが
世界を滅ぼすつもりなら俺らの「敵」だ
…殲滅あるのみ
先制対策は「視力、見切り、第六感」で飛翔軌道を見切り回避
早送りしたとしても超加速時は轟音を立てるだろうから聞き逃さない
凌いだら「高速詠唱」+指定UCでダンタリオン召喚
巻き戻されて還されたら何度でも呼ぶのみ
ダンタリオンには「闇に紛れる」ようにマザーコンピュータに接近させ
他猟兵の攻撃に合わせ「不意討ち」気味に「催眠術、精神攻撃」
マザーから時間質量の記憶そのものを奪う
…操るモノそのものの記憶がなくなれば、操れまい?
後は俺が真正面から二槍伸長「ランスチャージ、暗殺」で
生体コアの致命的部位を貫くのみ
●
唐突な加速と共に放たれる電磁波。
全てを時間質量の海へと還すその波が押し寄せる様に凄まじい早さで迫る。
同時にマザー・コンピュータ自身の体も加速。
生体コアの頭から飛び出す様にして、一糸纏わぬその姿で空中を浮遊し……。
――カッ!
と閃光を炸裂させた。
「……目にも留まらぬ早さ、とはよく言ったものだが……これは『誰』の時を『如何するか』と意識した瞬間に、時の速度が変わると言う事か?」
目にも留まらぬ早さで放たれた電磁の波。
其処から打ち込まれる数条の光線を咄嗟に展開した鳥威で受け止めながら、千尋が思わず舌打ちを一つ。
「時間攻撃……! 何て攻撃ですか……! これをわたし達がどうにかする術は流石になさそうですね……!」
ひかるが呻きながら『地』の紋章を通して、大地の精霊さんにお願いする。
お願いされた大地の精霊さんが、千尋が鳥威で其の光線の速度を抑える間に、地面にひかる達が隠れられる程の大きさの穴を掘ったが。
『やらせませんよ』
ギラリと其の無機質な目を輝かせ、ひかるの足元に掘られた穴を埋め尽くした。
「目線で時を巻き戻す……か」
「だからといって、何もしないわけには行きませんよ」
崩れ落ちる鳥威を再展開しようとする直前だった千尋に降り注ぎそうになる光線の前に咄嗟に立ちはだかるウィリアム。
そのまま短い術式を詠唱するとほぼ同時に枯葉と水色の混ざり合った青き結界を前面に展開、辛うじてその攻撃を受け止めるが。
『その程度で私のタイム・フォール・ダウンを食い止めることは出来ません』
かっと再び目を光らせ、今度は其の結界を展開する前の時間へと巻き戻し、其の光線がウィリアムに迫る。
(「くっ……! その動きを見切ってやろうとしましたが……! ぼくの展開した結界に対してのみ、巻き戻しを行いましたか
……!」)
それでもギリギリ光線の軌跡を見切って何とか前に転がる様に倒れるウィリアムの頭頂部をサッ、と光線が通り抜け。
「ちっ……!」
鳥威を素早く独楽の様に回転させて無数の焦茶色の結界を張り巡らし、辛うじてその攻撃を受け止める千尋。
(「わたしを未だ、狙ってきませんか
……?!」)
大地の精霊さんに掘って貰った穴を塞ぎつつ、着実にウィリアムと千尋の防御を剥ぎ取るマザーに、ひかるが思わず目を細めた。
(「でも、わたしの思惑を幾らマザーと言っても見抜けるとは思えませんが……」)
その確信にも近しい疑問がひかるの脳裏を横切るその間に。
『愚かなる猟兵達よ。私の時間質量の前にひれ伏しなさい』
淡々と呟き時間質量の開放と同時に、その目を光らせるマザー・コンピュータ。
其の目が輝き、マザーの紅色の触手の様な長髪が一斉に逆立ち、自らの全身を、黒、と表現すべき不可視の何かで包み込む。
(「この『黒』としか呼ぶことが出来ない気配……。まさか、此が『巻き戻し』と『早送り』の象徴……『時間』を視覚的に現す概念なのか?」)
内心で疑問に思いながらも、マザーの(不可視だがそうとしか表現できない)『黒』のオーラを全身に張り巡らす敬輔。
ふわりと空中を飛翔しながらその長髪を逆立てていたマザーが、黒剣を下段に構える敬輔に向かって突進した、その時。
――轟々、轟々!
「なっ……逆風
……?!」
マザーの突進速度をまるで後押しするかの如き追風が戦場を包み込んだ。
「風じゃないな、これは……。突進の超加速に巻き込まれた大気の振動する音、か」
最早音の暴力としか思えぬ超加速の重音に鼓膜を破られそうな程の衝撃を受けながら、陽太が淡々と告げるその間に。
「……くっ!」
ゾクリ、と首筋を震せた敬輔が、咄嗟に横飛びにステップする。
その間に髪を逆立てたマザーが、全身を『時の超加速』で包み込み、敬輔に一気に肉薄した、刹那。
「敬輔さん、ナイスです!」
パチン! とユングフラウの中に潜んでいたシズホが呟きと同時に指を鳴らした。
シズホが鳴らした音を聞いて、マザーの前に移動したのは、自らから溢れる触手に繋がり、操作された人形達に囲まれるリキッド。
其のリキッドが加速したマザーの強烈な体当たりを受け止めるや否や。
――バシャリ!
と赤い飛沫を飛び散らせて、其れを返り血の如く、マザーに降り掛からせている。
『囮……ですか』
自らに降り注いだ返り血を浴びながら、液体状になってどろどろと溶けていくリキッドを視て茫洋と呟くマザー。
そのまま自らの紫の斑が点々とついたその細腕を伸長して、陽太に殴りかかった。
「……狙いは、俺か」
陽太がその両拳の軌跡をマスケラの奥で鋭く細められた翡翠の瞳で見抜く様に見つめ、その攻撃を体を捻って躱そうと……。
『時よ、巻き戻れ』
マザーの抑揚の無い言の葉が、陽太に目線を向けたままに発せられる。
発せられた其れによってまるで身動きが取れなくなったかの様に陽太の体が捻れる前に遡り、拳の2撃が、腹部を容赦なく殴打した。
「……ぐはっ」
時間質量の開放によって齎された超加速を得た2撃の拳が陽太の腹部と肩に叩き込まれ、ミシリ、と肩の骨が嫌な音を立てて軋む。
同時に腹部に放たれた衝撃の全てをまともに受け、陽太ががはっ、と喀血しながら近くの壁に叩き付けられた。
「がっ……!」
壁に叩き付けられ、背中の骨が嫌な音を立て、陽太がそのまま地面に落ちる。
ゲホッ、ゲホッ、と咳き込み血反吐を地面にぶちまけるその様は、マザーの一撃が如何に強烈なものかを何よりも雄弁に語っていた。
「ですが……今ので……」
「成程、其れが条件なのか」
目線を合わせる。
或いは、声等を対象に向けて叩き付ける。
其れがこのマザーの時を操る時の鍵なのだとシズホと千尋が直観し、千尋が素早くひかるに目配せを送る。
リキッドの返り血を浴びたマザーは、千尋のひかるへの目配せに気がつかずに。
『次はあなたです、人形遣い……!』
叫びと共に、液状化して崩れたリキッドの向こうの『ユングフラウ』へと視線を向けて体当たり。
しようとした、正にその時。
「今です! 総員一斉攻撃!」
マインドテンタクルでリキッドの周囲に展開していた人形を、『ユングフラウ』の中から一斉にシズホが操り始めた。
カタカタカタ……と
巨腕型強襲人形『クロスリベル』
重力制御/重力攻撃人形『シュヴェラ』
五英雄再現戦闘人形『マジェス』
成長発電放射竜人人形『インドラ』
シズホ自慢の人形のコレクション達が、一斉に動き始めマザーの周囲を取り囲み。
『クロスリベル』がシズホの人形を操る動きを加速させ、『シュヴェラ』が光線をマザーに向けて発射。
続けて『マジェス』が其の手の炎剣に紅蓮の焔を纏わせて袈裟に斬りかかり、『インドラ』がバリ、バリ、と帯電した雷を放電する。
光線と、炎剣による袈裟斬りと、放射された雷撃の一撃。
其の全てに対応するのが難しいと判断したのであろう。
ぎらり、とその目を怪しく輝かせるとほぼ同時に、自らの『時間』を『早送り』して更なる機動性を得て、苛烈な攻撃からその身を引くと。
『ぐうっ
……?!』
先程リキッドから浴びた返り血が、鋭い棘の様にマザーの体に突き立ち、まるで針を突き立てられたかの様な痛みをマザーに与えた。
『これは……しまった、毒ですか……!』
「どうですか? イズン特製の、時間経過性の神経毒は? あなたの時間を早回しすればする程、其の毒はあなたを蝕みますよ?」
挑発するシズホの其れに、ギリリと唇を噛み締める様ながらマザーがかっ、と其の眼光を怒らせる。
眼光の怒りと共に、今にも発射されんばかりの電磁の波が今度はシズホの乗る『ユングフラウ』に向かおうと……。
「何をしているのですか? わたしは御覧の通り無傷ですよ! 此処まで一切手の内を見せていないわたしを放置するのは、危険とは思えないのですか? とんだコンピュータですね」
挑発する様にそう叫んで。
直ぐにでもドジを踏んで転んでしまう様な身体能力0のひかるが、Nine Numberを抜き打って引金を引く。
其処から放たれたのは、短気で陽気な火の精霊さんの力を纏った炎の弾。
更にもう一度大地の精霊さんに、地面に穴を掘って貰いつつ、水の精霊さんを陽太の元へと向かわせようとするひかるに気がつき。
『くっ……! させません……っ!』
周囲を浮遊する2台のそれから放出される電磁波を加速させ、ひかるへと光の混ざった刻印を作りだし開放するマザー。
放たれた光矢が、ひかるの体に打ち込まれ、其の『肉体』の老化を加速させる、『時計型の刻印』を付与しようとした、其の刹那。
「今です……お願いします、精霊さん!」
構えていたNine Numberを胸の方へと移動させて、ぎゅっ、と両手を握りしめて、一瞬の祈りを捧げるひかる。
そのひかるの祈りに答える様に。
――轟!
と戦場が竜巻に包み込まれ、続けて周囲の機械類がバチリ、バチリと放電し、全部で560発の雷が全弾マザーに向けて掃射された。
『くっ?! 機械類が暴走した上に……竜巻?!』
突如として戦場を満たした荒れ狂う天災に、マザーが流石に戸惑った声を上げながら、自らの体を4倍速まで『先送り』に……。
『がぁっ?!』
した刹那、シズホにぶちまけられた神経性の毒がマザーを蝕み、マザーがゲボ、ゲボ、と喘ぐ様な喀血を繰り返している。
それでも尚、其の雷撃を何とか躱そうと試みるが……。
「わ……わたしが、戦場に、立った、段階で、既に、仕掛けていた、罠を、あなたが、防ぐ、ことが、出来ます、か
……?!」
肩に刻み込まれた時計型の刻印が怪しく光り輝き、齢15に過ぎぬ小さな羅刹の其の体を瞬く間に老化させていく。
肉体の老化に合わせる様に喘ぐ様に声が薄れ、動悸、息切れが早くなり、大きく息をつきながらも、不敵な笑みを浮かべたひかる。
そのひかるの普通の女らしい笑みの向こうに、微かに見え隠れする羅刹の本性に気がつき、思わずマザーが怯んだその瞬間。
「畳みかけるチャンスですね。――Permafrost!」
ひかるの雷の精霊さん達が降り注がせる雷と竜巻に乗る様にして、猛吹雪が戦場全体に吹き荒れた。
同時に戦場全体が瞬く間に凍てついていき、絶対零度の極寒の地……永久凍土の世界へとその姿を変貌させていく。
その永久凍土の中で、激しくのたうつ蛇の様に蜷局を巻いて襲いかかる氷の精霊を巻き込んだ竜巻と、560発の稲光。
氷塊を帯びて氷礫と化した竜巻の嵐がマザーを打ち据えその身を凍てつかせ、そこに560発の稲光が降り注ぎその全身を感電させた。
『がっ……時よ、巻き戻れ……!』
「この、永久凍土化に、吹き荒れる、竜巻と稲光と言う、『環境』そのものを、巻き戻すことが、出来ますか? それ程の、時間質量、とやらを、あなたは、本当に、持って……いるの……ですか
……?!」
体の老化現象に蝕まれ、ぜぇ、ぜぇ、と肩で息をつきながら声を荒げるひかる。
そんなひかるに殺意の眼差しをマザーが叩き付けるが、加速すればする程、シズホの毒が回るために時を巻き戻すしか術がない。
巻き戻す時間質量を加速させ、急速に自らを回復させようとした、正にその時。
「折角見出された活路だ。活用しない手はないだろ、館野、森宮?」
千尋が呼びかけながら、展開していた鳥威を引っ込める様にしながら、『宵』と『暁』を左右に展開。
自らの左人差し指を突き出し、其の先端から天候や環境に左右されない青い光弾を解き放ち、同時に右手を自らの胸に滑らせる。
懐に滑らせた手で取りだしたのは一本の漆黒の短刀。
其れは、刃に毒を塗られし短刀、『烏喙』
それを千尋が投擲するや否や、其の左右に位置していた鴗鳥を構えた『暁』と月烏を構えた『宵』が陽炎の様に左右に消える。
――瞬間。
青い光弾が、時を『巻き戻そう』としていたマザーに着弾して、其の体の一部を弾けさせ。
横薙ぎに振るわれた『宵』の青白き閃光の如き一閃がマザーの乳房を切り裂き、更に『暁』が振り上げた鴗鳥で頭部を殴りつけ。
そこに『烏喙』が突き立って、シズホの撃ち込んだ神経毒がマザーの体を加速させる『毒』を流し込んだ。
『きゃあっ?!』
黄色い悲鳴と共に、自らの時を『巻き戻そう』としていたマザーの体を墜落させ、そこに敬輔が黒剣を両手遣いに構えて肉薄。
「皆さん、これ以上彼女にユーベルコードを使わせる隙を与えないで下さい! とにかく巻き戻される以上の速度での負傷の積み重ねを!」
「ああ、分かっているさ……ウィリアム」
そのウィリアムの叫びに敬輔が頷くと、ほぼ同時に。
其の右の青き瞳が怪しく眩い輝きを帯びて、黒剣の刃先がその光を帯びて赤黒い鮮血の色へと染まっていき……。
――斬!
踏み込みと同時に下段から撥ね上げた敬輔の黒剣がマザーの左脇腹から右肩に掛けてを斬り裂いた。
『がっ……?! 時よ、加速……』
斬り裂かれ、鮮血を噴き出すマザーが敬輔の時を早送りしてその寿命を削る速度を上げようとした刹那。
「させませんよ!」
ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣したウィリアムがアイススケートの要領で永久凍土の台地を滑って肉薄。
そのまま『スプラッシュ』を横薙ぎに構えて滑る様にして、『マザー』の胴にその刃を叩き込む。
氷剣と化した『スプラッシュ』の氷刃が、その華奢な肢体に食い込んで、マザーが悲鳴とも怒声ともつかぬ叫びを上げた時には。
「まだっ!」
敬輔の嵐の如き逆袈裟の斬撃が、しなやかな『マザー』の体を斬り裂いていた。
『ああ、うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
絶望の雄叫びを上げる『マザー』の様子を翡翠の鋭い眼光で見つめる陽太がゆっくりと立ち上がるその間に。
「此処まで斬り込みが進めば、如何に巻き戻そうとしても、隙だらけですね……!」
シズホがその様子を見つめながら呟き、同時にひゅっ、と『ユングフラウ』の手を高らかに天へと掲げ。
「人形が吸いし過去の影、我が身に宿り力となれ。応報を持って、因果を制す! 出でまいれ、ブックドミネーター!」
其の叫びと共に。
魔女再現鬼型アイドル人形『ミコ』が不意に高らかに歌を歌い始めた。
それは、戦場全体の『時』を凍てつかせる様な歌。
自分にしか聞き取れぬ、零時間詠唱と共に歌い紡がれた『ミコ』の其の歌が、ブックドミネーターの幻影を出現させる。
それは同時に、『ユングフラウ』から飛び出したシズホの体に取り憑いて、まるで亡霊が憑依したかの様な姿を其の背に現した。
シズホの全身に『時』を凍てつかせる呪詛が張り巡らされ、其れが、シズホの体を問答無用で痛めつける。
其の痛みにどうしようも無い快感と悦楽を覚えて口元に愉悦に満ちた笑みを浮かべながら、自らを時間凍結氷で覆い尽くすシズホ。
『……その氷は……まさか
……?!』
敬輔からの幾度目かの斬撃……横一文字の薙ぎ払いにその身を斬り裂かれながら。
何かを察したか息を呑み、加速して後退しようとするマザーに稲光が降り注いだ。
其の稲光に自らの身を感電させられ、ビクン、と海老反りになったマザーの体を敬輔の切り返しが斬り裂く間に。
「そうです! 時間凍結氷……あらゆる効果を1/10迄に遅くするこの結晶……これこそが、貴方への切り札です!」
叫び、一塊の巨大な時間凍結氷の塊となったシズホが飛翔してマザーに体当たり。
上空から隕石の如く降り注ぐブックドミネイターが嘗て操っていた時間凍結氷の塊が、永久凍土に適応して其の力を更に高めて。
――ドゴォッ
!!!!!!
と言う凄まじい音と共にマザーに直撃、マザーが自らの持っていた時……時間質量を凍てつかせていく。
その隙を見逃さず……。
「……13っ!」
敬輔が13撃目の斬撃……今度は左薙ぎ払い……で、マザーの体を横に切り裂き。
「休む暇なんて与えませんよっ!」
叫びと共にウィリアムが横薙ぎに振り切った『スプラッシュ』の刃を、空中を滑る様にバク転しながら素早く返す。
返された氷剣の斬撃は、敬輔の14発目の右脇腹から左肩への斬り上げたその部分を深く切り裂き、マザーの身を凍てつかせた。
と……此処で。
「おっ? 漸く立ち上がったか」
暫く蹲り嘔吐いていた陽太が落ち着いたのか体を痙攣させながら立ち上がりきったのに気がついた千尋が不敵に笑う。
その手は小気味よいダンスを踊る様に結詞を自在に操り、其れに操られた『宵』と『暁』もまた、絶えぬ攻撃を繰り返していた時。
「……ダンタリオン。奴の記憶を奪え」
息も絶え絶えになりながら、陽太が静かにそう呟くと。
其れに応じる様に、マザーの足元に生まれ落ちたのは、1体の白い影。
右手に一冊の本を持つ、人形の影から飛び出した『ダンタリオン』の幻影が、其の手の『白紙の本』でマザーを下方から殴り飛ばす。
其れと同時に白い本の1ページが捲れ、そこに不気味な黒い文字が刻み込まれていくのに合わせる様に。
『うぁっ?!』
ポカン、とマザーの頭の中が空白になった。
そこで敬輔の16撃目の真っ向両断の一撃がマザーを斬り裂くや否や。
ひかるの風の精霊さん達による竜巻が襲い、更に既に老化しつつあるひかるが何とか構えていたNine Numberの引金を引いた。
Nine Numberから発射されたのは、永久凍土によって、水を得た魚の如き力を手に入れた水の精霊さん。
其の精霊さんの力が込められた弾丸が肉薄し、弾け飛んで『マザー』の全身に降り掛かったところに雷の精霊さんが雷を叩き落とす。
水の精霊さんの力を通して、其の力を加速させた雷の精霊さんの稲光が、『マザー』を声なき悲鳴と共に焼き払う。
だが、今の『マザー』には、自らの時を、『巻き戻せない』
頭の中に湧いた一瞬の白い空白からの回復が、シズホの時間凍結氷によって1/10の時間まで遅くされてしまっているから。
「貴様を切り刻む!」
頭の中が空白になったマザーの様子を認めた敬輔が、叫びと共に、唐竹割りに振り下ろした黒剣を下段から撥ね上げその身を切り裂き。
そして一瞬だけその身を引いて、既に殆ど原形を留めていないその胸へと最後の一太刀を突き出して串刺しにして。
「これからは……骸の海で無限の思索に耽るんだな!」
ゴフッ、と。
其の口から大量の血を喀血しながらの敬輔の其れに応える様に。
「……終わりだな」
陽太が、濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイヴを伸長させた。
濃紺と淡紅色の線を螺旋状に組んで放たれたその一撃が、既に事切れる寸前の氷塊の塊、『マザー』の心臓を抉り。
其の抉られた傷を、濃紺の光が貫き、其の心臓の活動を停止させ。
『――』
パキパキと水晶の様に剥離してゆくシズホに撃ち込まれた時間凍結氷と共に。
マザーの肉体が分解されていき、氷の欠片と化して、ひかるの呼び出した竜巻に飲み込まれて散り散りに吹き飛ばされて消失した。
「……やれやれ。どうにか終わった様だな」
事の顛末を最後まで見届けた千尋が、そっと息をつきながら『宵』と『暁』を引き戻しつつ呟いた其れに。
「そうですね。此で、マザー・コンピュータの討滅は完了しました。……戻りましょう、皆さん」
ウィリアムが『スプラッシュ』を納剣しながら応えを返すのを合図に、猟兵達を蒼穹の風が包み込んだ。
――かくて。
時を操る『マザー』の戦場と其の命が、また一つ、潰えたのだった。
大成功
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