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アポカリプス・ランページ⑱〜善悪の境界を越え、断て

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#アポカリプス・ランページ⑱


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●其は神也
「戦争はそろそろ折り返しも過ぎた頃合いか。ヴォ―テックス一族やフィールド・オブ・ナインを撃破して、既にフォーミュラへの道も開通している。紆余曲折はあったものの、戦況は概ね順調に推移していると言って良いだろう……と、言うところでだ」
 グリモアベースに集った猟兵たちを前に、フランツィスカ・リュッツオウ(音速越えの叛逆者・f32438)は彼らの労をねぎらいつつそう口火を切った。
「新たなフィールド・オブ・ナインが発見された。場所はフロリダ州タラハシー、周囲一帯を覆う巨大なオブリビオンストームの内部。個にして群れなる異形『ポーシュボス・フェノメノン』だ」
 これまで倒して来た敵を見ても分かる通り、本来フィールド・オブ・ナインは単独個体である。にも拘らず、この異形存在は夥しい数の群れを形成しているのだ。しかし、これには或る理由があった。
「ポーシュボスとは異形の名称であると同時に、現象(フェノメノン)を指す言葉でもある。奴は『善の心を持つ生命体』に寄生し、己の同族へと変えてしまう能力を持っているのだ」
 善の心に反応し、対象を変質させるモノ。それは正しく災害に等しい現象と言えるだろう。加えて、その特性は極めて猟兵に『刺さる』能力と言って良かった。
「諸君らは生まれも育ちも当然千差万別だが、同じ猟兵としてこの世界を救う為に戦っている。それは善行……即ち、善の心に根差す行為に他ならない。詰まり、我々が我々である以上、奴の能力から逃れる事はほぼ不可能と言えるだろうな」
 ポーシュボスの寄生変容を完全に防ごうとするのであれば、善の心を完全に捨て去り、自らを『邪悪ナる者』へと墜とさねばならない。だが、果たして悪と化した己自身が世界の為に脅威と戦えるかと問われれば……確実に是と答えられる者は、果たして何人居るのだろうか。
 加えてどうやら、ポーシュボスには変化元となった存在の意識がある程度残されているらしい。嘆きを、怨嗟を、救いを求める犠牲者の叫びを聞き、善に根差す感情を覚えぬ事は至難の業だろう。況や、彼らを救う術が無いとくれば猶更。
「良心を捨てる方法については各人の裁量に任せる。それが難しければ、いっそ侵食されるものと割り切って短期決戦を狙うかだな。肉体面、精神面の変容に抗いつつ、持てる火力を叩きつけて可能な限り敵戦力を削り取る。ただし、これも退き際を見誤れば奴らの仲間入りだ」
 片や邪神を討つ悪心、世界を救う『邪悪ナる者』という矛盾。片や、肉体が変容し、精神を侵食されながらの戦い。どの様な方法を選ぼうと困難は避けられぬだろう。だがその関門を突破しなければ、この『現象』を食い止める事は出来ない。
「フォーミュラであるフルスロットルを撃破すれば、一先ずこの戦争は終わる。だが、些か連中に時間を与えてしまった。もし取り逃がせば、後々厄介な事態を引き起こすだろう。故に、此処で食い止めたいところだな」
 そうして話を締めくくると、フランツィスカは仲間たちを送り出すのであった。

●善悪の境界を越えて
 大気を引き裂き、唸りを上げて渦巻く巨大なオブリビオンストーム。フロリダ州タラハシーを覆う暴風の中で、悍ましき異形たちは群れ、蠢き、増殖を繰り返していた。

 ――助けテくレ。俺ハ、ワタシは……誰だっダ?
 ――境界が、消エる。己を、己としテいた個が、ミンナと溶けて、混ざッて。
 ――怒りを抱カぬ筈ガない。憐憫ヲ覚えヌ筈がナい。なのに、ナノニ。
 ――そうなッテしまエば、ポーシュボスにハ、勝てナイなんて。

 幾重にも重なり合い、響き合う囁き。それは虫の羽音にも、不協和音にも思える。
 しかし、その一つ一つが人格ある存在だとすれば……その総数は果たして、千か、万か。彼らが善の心を持ち、それ故に取り込まれたという事実が、この邪神の恐ろしさを言外に物語っていた。

 善を以て挑めば、忽ちに異形へと呑まれる。
 されど悪しき者ならば、そも世界を救おうとはしない。
 ならば――善悪を超越するより他に無し。

 例えば、ただ振るわれ斬り裂く一振りの刃。
 例えば、正邪ではなく生存本能にて挑む獣。
 例えば、定められたルーチンにて動く戦機。
 例えば、清濁を諸共に併せ呑む無我の境地。

 善と悪は互いに入り混じる陰陽黒白の綾模様。
 己が心をその二つに分かつが故に付け込まれるならば、境界線を無くせばよい。
 そうした良心の介在せぬ状態であれば……或いは、挑めるやもしれぬ。
 尤も、その理論に確たる根拠は無く、それを為す術も曖昧なるのではあるが。
 故に悪に堕ちる方が確実やもしれぬ。
 刻々と迫る限界、その刹那に掛けるのが手早いかもしれぬ。
 その方法は個々人の手に委ねられるべきだろう。

 さぁ、猟兵たちよ。
 キミたちはこの現象(フェノメノン)に……己の何を見出すのだろうか?


月見月
 どうも皆様、月見月でございます。
 戦争シナリオ二本目、善の心を蝕む現象との戦いとなります。
 それでは以下補足です。

●最終勝利条件
 全ポーシュボスの殲滅。

●プレイングボーナス
 『邪悪ナる者』になるorポーシュボス化してでも戦う。

●戦場
 フロリダ州タラハシーを覆うオブリビオンストームの内部。台風の目の如く周囲を暴風壁に囲まれ、中心部には夥しい数のポーシュボスが犇めき合っています。戦場自体は風の影響を受けず、また特に障害物もない為、敵の物量が最大の脅威となるでしょう。
 一応、暴風壁を越えれば戦場を離脱する事が出来ます。また同時に、オブリビオンストームの外から一方的な攻撃などは出来ません。

●ポーシュボス・フェノメノン
 外見、戦闘力はOPに記載の通りです。
 取り込まれた人々の声が常に発されていますが、彼らを救う手立てはありません。このフィールド・オブ・ナインを討つ事だけが、彼らに報いる唯一の方法です。

●プレイング受付について
 戦争シナリオですので、採用は無理のない範囲でとなります。止むを得ず流してしまう場合もありますので、その点を予めご了承頂けますと幸いです。
 また、オーバーロードの有無で採用率・リプレイ文字数が大きく変動する予定はありません。ただし、プレイング文字数の増加に比例してリプレイ量が増える可能性も否定できません。
 こればかりは初めてですので、書いてみないと分からない点をご理解頂けますと幸いです。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
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第1章 集団戦 『ポーシュボス・フェノメノン』

POW   :    ポーシュボス・インクリーズ・フェノメノン
【ポーシュボスによる突撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【新たなポーシュボス】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ポーシュボス・ナインアイズ・フェノメノン
自身の【全身の瞳】が輝く間、【戦場全てのポーシュボス・フェノメノン】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    ポーシュボス・デスストーム・フェノメノン
【オブリビオン・ストームの回転】によって【新たなポーシュボス】を発生させ、自身からレベルm半径内の味方全員の負傷を回復し、再行動させる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マオ・ブロークン
善の心を持つ――『生命体』が、もとなら。
かれらも、『生きている』存在。増える、寿命を削る、回復する……
それが、どれだけ羨ましいことか。……妬ましい、ことか。

「マオの死体」を脱ぎ捨てる。
身体に残った記憶をなぞって、人の心を真似る必要も。
今この時は、消えた。
あたしの真の姿。生者を憎みとり殺す、悪霊。

どうして生きているの。
そんな姿になってまで、生命の営みを……「できている」の。
あたしだって、生きていたかったのに。
冷たくて時の止まった身体と。欠けた魂だけがあって。
どうしたって、死んでいることしかできないの。
妬ましい。
その生命をちょうだいよ。
さもなくば……ここで、死ね。
死んで、こっち側になれ……!!



●死に損なったか、生きあぐねたか
 ――ボクは、誰ダ……儂は、何だっタ。
 ――何故、マだ生きてイる。こんナ、姿にナってまデ。
 オブリビオンストーム内部を端的に表すのであれば、それは地獄だった。絡み合い、蠕動し、犇めき合う無数の触手たち。それはどこからどう見ても化け物だ。にも拘らず、その一つ一つから発せられる囁きが、未だに彼らが残酷にも『生きてしまっている』事を示している。
「この全てが、善の心を持つ――『生命体』が、もとなら。かれらも、『生きている』存在。増える、寿命を削る、回復する……生者で、あるならば」
 そんな壮絶なる光景を前にしたマオ・ブロークン(涙の海に沈む・f24917)の表情からは、一瞬にして全ての感情が抜け落ちていた。予想以上の惨禍に臆したのか? それとも、感情が昂り過ぎて処理しきれなかったのか? 答えはどちらも否である。
「それが、どれだけ羨ましいことか。それが、どれだけ……」
 ――妬ましい、ことか。
 彼女が抱いた感情、それは羨望と嫉妬だった。もはや人とは到底呼べぬ有り様に成り果てても尚、ただ『生きている』と言う一点のみを以て、死にながら生きる骸は彼らが自らよりもまだ『マシ』だと断じたのである。
「邪悪に堕ちろと言うのであれば、堕ちてやる。未練がましく縋りついていた肉塊も、残った記憶をなぞって人の心を真似る偽りも。今この瞬間だけは、必要ない」
 蒼褪めた肉体が糸の切れた人形の如く崩れ落ちる。辛うじて残っていた、或いは在ると見せかけていた人間性が掻き消える。後に残るは唯々命ある者を恨み、憎み、憑り殺す残留思念の集合体。
「どうして生きているの。そんな姿になってまで、生命の営みを……『できている』の。あたしだって、生きていたかったのに。生きるのが嫌って、死にたい、殺してほしいって……なによ、それ」
 少女は理不尽に巻き込まれたのだろう。同情すべき故もあったのだろう。しかし、度を越して他者を呪い害せば、在るべき道理も消え果てる。だが、そう為るのもある種当然かもしれない。何故ならば悪霊とは字義の如く……邪悪なるモノなのだから。
「冷たくて時の止まった身体と。欠けた魂だけがあって。どうしたって、死んでいることしかできないの。生きるか死ぬか、そんな選択肢すら、あたしには残されていないのに」
 かつて少女だったソレは、嘆きを垂れ流し続ける触手たちへと手を伸ばす。対するポーシュボスは全身の瞳を輝かせて迎撃の体勢を取る。それは猟兵という天敵に対する敵意か、それとも明確な『死』を感じ取った生者の本能か。だが常ならば兎も角、今の妄念にとってはその所作の一つ一つが神経を逆撫でする行為でしかなかった。
 ――こんナの、嫌ダ。殺しテ、終わラせて……。
「妬ましい……要らないなら、その生命をちょうだいよ。あたしを、生き返らせてよ」
 繰り出される触手群を掻い潜り、すれ違う瞳と視線を交わす。ただそれだけで、響く囁きが一つ消え去った。もし今の彼女に良心があれば、或いは願いが叶ったやもしれぬ。現象(フェノメノン)が蝕む対象に、物理霊体の区別なし。異形へと変じ、犠牲者たちと共に『生きる』事も出来ただろう。だが……悪しきモノに、安息など訪れはしなかった。
「さもなくば……ここで、死ね。死んで、こっち側になれ……!!」
 悪霊はいつまでも悪霊のまま、見つめた者を黄泉路へと誘ってゆく。彼らからすれば、それもまたある種の救いなのだろう。だが虚ろなる者にとっては、その行為は掴めども手中より滑り落ちる蜘蛛糸の様なもので。
 ――――それでもあたしは、いきたかったよ。
 気が付けば、周囲に動くものは無く、囁きすらも消え去って。息絶えた悍ましき屍の中心で、少女だった何かは唯々理由も解さぬまま涙を零し続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介
人の善性をどこまで信じるか……と考えると果てがないけれど
完全に悪性しかない人物ってのは、そういないと思うんだよな――それが、普通の生き物であれば

神刀の封印を解除。更に、普段は抑え込んでいる悪霊の力を解放して幽の型【鬼哭】を発動
己を一時的に、世界の敵にして『邪悪ナる者』たるオブリビオンと化す
普段はオブリビオン化しても理性の枷を外すことはないが、今はそれを敢えて外す

オブリビオン(俺)がオブリビオンを狩るのは、単純に邪魔だからってだけで十分だ
暴走しかけているが故に、そして俺個人に制限時間があるが故に、攻撃偏重
普段よりも力任せに刀を振るい、斬撃波を叩き込みながらボーシュボスをなぎ払っていく



●過去を以て、過去を制す
「人の善性をどこまで信じるか……と考えると果てがないけれど。完璧な聖人が理想の中でしか成り立たない様に、完全に悪性しかない人物ってのもそういないと思うんだよな」
 暴風の壁を突破し、新たにオブリビオンストームの中へと踏み込んだのは夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)だった。青年は俄かに飛び込んできた怨嗟の圧に眉根を顰めつつも、腰に佩いた神刀の柄へそっと掌を乗せる。
 説話に語られる悪人も、気紛れから蜘蛛を助ける事もある。稀代の独裁者とて、人を鏖殺する傍らで自然を保護したとも言う。無欠の善人が在り得ぬように、純粋な悪とてまた存在し得ない。故にこそ、ポーシュボスの現象(フェノメノン)は厄介なのだ。現にこの場へと踏み込んだ瞬間から、鏡介は身体の其処此処から浸食による疼痛を覚え始めていた。
「尤も――それが『普通の生き物であれば』の話だけれど」
 だが彼が白刃を鞘より走らせた瞬間、それらの不快感は一瞬にして雲散霧消する。代わりに己が胸中へと流れ込むのは、鉛が如き怨嗟の念。神気によって抑え込まれていた悪霊が担い手へと憑依したのだ。其れは即ち、己を過去からの脅威と同一化する行為に他ならない。
(霊とは人間を人間足らしめている情や意志が削ぎ落とされ、この世に焼き付いた魂の残滓。故にこそ本来持って然るべき仁義八行も無く、ただ一つの執着のみで構成される……当然、悪霊ならば邪悪そのものだろうさ)
 常であれはこのような状態になったとしても、青年が理性の手綱を手放すことは無い。だが、今この場においてそれは悪手だ。一欠片でも良心や善性が残っていれば、忽ちの内に悍ましき異形たちは彼を己が一部へと変貌させるだろう。ならばもう、行きつく果てにまで堕ちる他ないのである。
「――剣鬼、解放。加減はしない。同情も、憐憫も、義憤も。今だけは不要な重荷だ。この場における俺は世界の敵にして……『邪悪ナる者』たるオブリビオンと化す」
 胸には烈火を思わせる激情が渦巻きながらも、頭の芯はこれ以上ない程に冷え切っている。青年は遠巻きにこちらの様子を窺っていたポーシュボスたちの瞳が輝くのを見るや、機先を制するべく躊躇なく相手の懐へと踏み込んでゆく。
 ――正義でハ駄目だ。しかシ、悪に立ち向カエるのカ?
 ――何デもイい。殺シてくレ、終わラセてくれ……。
 弱々しい声を上げながらも、繰り出される触手の動きは執拗かつ苛烈。押し合いへし合い、一部の触手が圧壊するのも構わずに殺到して来る。相反する様相だが、仮に善の感情を誘発する為の戦術ならばこれ以上凶悪なものはない……が、しかし。
「オブリビオンがオブリビオンを狩るのに、御大層な大義名分やお為ごかしは必要ない。単純に邪魔だからってだけで十分だ。単純だが、それ故に付け入る隙もないだろう」
 それらは鏡介に触れることなく微塵に寸断されてゆく。と同時に元となっていた人々の意識も消滅してしまうが、過去からの脅威と化した青年からすれば些末事に過ぎない。ある意味、獣の縄張り争いの様なもの。全ては己が存在し続ける為であり、其処には善も悪も存在しないのだ。
(とは言え、侵食は止まったが別の意味で制限時間が生じているからな。元より抑えるつもりも無いが、削れるだけ削っておくに越したことは無い)
 雑草でも刈り取る様に、猟兵は触手の真っ只中を切り進んでゆく。その勢いには目を見張るものがあるが、同時に消耗もまた激しい。神刀の霊力と己が生命力、その二つが尽きれば悪霊は力を失い、鏡介自身もまた休眠状態へと陥る。そうなった場合の末路など、語るまでもないだろう。
(退き際を見誤りたくは無いが……さて、上手く踏み止まれるかどうか)
 刃を振るう度に柄を握る力が増し、触手が舞い飛ぶ様に心が躍る。一抹の懸念を抱きながらも、青年は暴走一歩手前の狂乱へと身を委ねてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

チェルノ・アマキリ
この終末世界で自分を見つめ直して、分かったことがある
アタシの本質は貴方たちと同じ『滅ぼす者』
だから、こんなにもこの世界は落ち着くのね

デゥームズ・デイでストームに【騎乗突撃】
終末ヲ奏デル者ノ光翼を煌めかせ、滅びを与えるモノの証明である黙示録代行証を胸に、己の心を善も悪もない【神罰】の化身として浸食を防ぐ
アタシはただ滅ぼすだけ
故に執行者(アタシ)に意思はなく
故に善悪は観測者(アナタ)による
信じる者には救いに見えるでしょうし、恐れるものには終末に見えるでしょう
だから、アタシはどう見られても構わないのだけれどね

【空中機動】でポーシュボスの攻撃をかわしながらUCの詠唱
特大の滅びの流星を撃ち放ってやるわ



●ニガヨモギの毒
(……この終末世界で自分を見つめ直して。一つだけ、分かったことがある)
 オブリビオンストームを超える最中、周囲の景色が灰色一色に染め上げられたせいだろうか。びゅうびゅうと吹き荒れる風の唸りを飛空艇の操縦桿越しに感じながら、チェルノ・アマキリ(トランペッター・サード・f34095)は静かに思考を巡らせていた。
(アタシの本質はきっと、貴方たちと同じ『滅ぼす者』。だから、こんなにもこの世界は落ち着くのね。それが喜ぶべき事なのかは、また別問題だけれど)
 彼女は人間ではなく、術者によって呼び出された召喚獣である。いったい誰が、何の為に己を呼び出したのか。記憶を探せども標は無く、確かなのは豊富な薬草毒樹の知識のみ。だがこの世界での戦いを経て、チェルノは朧気ながらも自らの存在意義を見出しつつあった。
 そうして僅かな飛翔を経て暴風壁を抜けるや、眼下に飛び込んで来るは地を埋め尽くす触手の群れ。夥しい数の瞳が天を見上げ、怨嗟と悲嘆の入り混じった視線が天舞う翼を射貫いてゆく。それを知覚した瞬間、終焉を告げる運び手は高らかに喇叭を吹き鳴らす。
「我は厄災の呼び水となる者。赤き竜を地に落とし、沼底へと封ずる者……解封、終末編成第二部三楽章」
 背より伸びし翼は白銀色に輝き、胸には七人の天使を象った紋章が浮かび上がる。それは子羊が解き明かす、第七の封印。即ち、黙示録の到来に他ならない。其を司る天使が宿すのは善に非ず、悪に非ず。
「アタシはただ滅ぼすだけ。神罰というシステムを執行する、歯車の一つに過ぎない。故に執行者(アタシ)に意思はなく……故に善悪は観測者(アナタ)によるのだから」
 チェルノが己の異能を行使すると同時に、ポーシュボスたちが慄き始める。此度の戦場は周知の通り合衆国。必然的に犠牲者となった者たちの信仰も限られるというもの。彼らの動揺と比例するかのようにオブリビオンストームの勢いが増し、風に乗って幾つもの囁きが喇叭吹きの耳朶を打つ。
 ――あレは、天使? 救いナノか、終ワりなのカ。
 ――忌むべキ輝きダ。破壊を齎ス、清浄ノ喇叭だ。
「信じる者には救いに見えるでしょうし、恐れるものには終末に見えるでしょう。個々人によってその価値観は左右され、現象(フェノメノン)による浸食も鈍るはず……だから、アタシはどう見られても構わないのだけれどね?」
 既に終焉は開始されたのだ。何がどうなろうとも、結末は変わらない。チェルノは急速に魔力を練り上げながら、乗機である飛空艇を鋭く切り返してゆく。
 瞬間、地上より幾つもの触手が襲い掛かって来た。新たなポーシュボスを生み出し継ぎ足し続ける事により、遥か上空にまで指を届かせたのである。それはまるで神に縋る信仰者にも、天に唾吐く不埒者にも見えるだろう。だが神罰の代行者と化した猟兵にとって、如何なる猛攻も、どれ程の嘆願も、心を揺り動かす要因にはなり得ない。
 そうして彼女は飛空艇の機首を下げるや、ほぼ垂直に地面目掛けて降下してゆく。当然、その下に居るポーシュボスたちが瞬時に迎撃せんと動く。しかし、全ては無駄な事だった。
「水そのものではないけれど、蠢き満ちゆくその姿は奔流そのものに他ならない。ならばその全てを、天の一撃にて穢し尽くす……堕ちろ、明けの明星。命の祖を苦渋で汚せ!」
 ――終末召喚・苦艾彗星っ!
 暗緑色の輝きを纏い、地へと穿たれしは忌むべき明星。それは輝きの届く範囲に存在する全ての水分を呪詛にて汚染し、猛毒へと変えてゆく。触手たちは瞳や関節部より粘液を噴き上げたかと思うや、ぐずぐずと内部より崩壊する。後に残されたのは、ただただ不吉な翠緑を湛えた湖と見紛う水溜まりのみ。
「貴方たちをこんな目に合わせた相手も、そちらへ行くわ……最終的には、ね」
 そうして広がる黙示録の一幕を一瞥すると、チェルノはその場より離脱してゆくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…成る程。確かにこの世界の人間はお前に手も足も出ないでしょう

だけど私は吸血鬼狩り。感情の御し方程度、幾らでも施しようがあるわ

…戦闘用人格リーヴァルディ02起動
戦闘目標、邪神ポーシュポスの殲滅。UC選択…戦闘開始

「吸血鬼狩りのペルソナ」の戦闘用人格を起動して敵の精神攻撃や干渉を無効化し、
「写し身の呪詛」の残像を乱れ撃ち無数の分身による集団戦術で攻撃を受け流し、
「影精霊装」の闇に紛れる力で陽光を遮り吸血鬼化を行いUCを発動
限界突破した6種の「精霊結晶」と自身の全魔力を溜め、
混沌属性攻撃のオーラで防御ごと敵陣を消滅させる黒い光閃をなぎ払う

…我が手に宿れ、原初の理。其は全てを呑み込むもの


七那原・望
あぁ、聴こえる。いっぱいの絶望が聴こえる。聴こえるけれど……ごめんなさい。わたしにあなた達は救えない。わたしに出来るのはあなた達の全てを踏み躙り、否定することだけです。

全力魔法で自身のリミッターを解除し、身体能力を限界突破。更に結界術も展開します。

善を持つ事は許されなくて、お前達の仲間になるわけにもいかなくて、それならわたしに出来ることはこれだけです。
元に戻るのも大変だから本当は使いたくないのだけれど。

果実堕天・ウィッシーズグリムリーパー。
獣のようにただ本能だけで殺戮の限りを尽くす怪物となって。

研ぎ澄まされた第六感と野生の勘で敵の攻撃を見切り、回避しつつ攻撃ごと影の刃で喰らい尽くします。



●双黒、嘆きを刈り取りて
 ――誰カ、殺しテくレ。知らナカったんダ、死ヨリも、生の苦痛ガ上回ルなんテ。
 ――流れ込んデ来る、私でナい記憶、俺デハなイ感情。こンナの、耐えラれなイ。
 猟兵たちが交戦を開始し、既にポーシュボスの漸減に着手している。だがにも拘らず、聞こえて来る怨嗟の声が一向に減る気配は無かった。いったい、どれ程の人々がこの現象(フェノメノン)の犠牲となったのか。
 そんな嘆きの渦を前に、七那原・望(封印されし果実・f04836)は唯々悲し気に首を振る事しかできなかった
「あぁ、聴こえる。いっぱいの絶望が聴こえる。助けて欲しいと、終わらせて欲しいと。そう縋る数多の声が。でも、聴こえるけれど……ごめんなさい。わたしにあなた達は救えない」
 ポーシュボスは善なる心を持つ生命体を己が同族へと変貌させる。その作用は一方通行であり、当然ながら不可逆だ。如何な常識外の存在である猟兵とて、その法則を覆すことは出来ない。それを本能的に理解出来てしまうからこそ、盲目の天使が抱く嘆きはより一層昏さを増していた。
「成る程。確かにこの世界の人間はお前に手も足も出ないでしょう。軍人や研究者は勿論、凶悪を極めた犯罪者や……もしかしたら、あの暴虐を誇るヴォ―テックス一族でさえも」
 一方、同じタイミングで姿を見せたリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、眼前の惨状を目の当たりにし思わず眉根を寄せていた。今でこそ文明が崩壊してしまったとは言え、それ以前の文化・歴史はアース系世界とそう違いは無いらしい。である以上、対抗手段である純粋な邪悪など生まれる可能性はほぼゼロに近い。
 彼女の言う通り、この世界の存在ではポーシュボスに対抗し得ない……故にこそ。
「……だけど、私は吸血鬼狩り。傲慢なる支配者に虐げられた、明日なき宵闇の中を駆け抜ける者。感情の御し方程度、幾らでも施しようがあるわ」
 世界を超えて、猟兵がやって来たのだ。リーヴァルディは深呼吸をして精神を研ぎ澄ませながら、静かに瞳を閉じる。業腹な事だが、救済者無き暗黒世界において徒な善良さは吸血鬼を喜ばせる要素に過ぎない。それを誰よりも知るが故に、狩人は己の心を律する術を心得ていた。
「戦闘用人格『リーヴァルディ02』、起動。戦闘目標、邪神ポーシュポスの殲滅。使用権能、『血の混沌』を選択。精霊結晶を代償とし、限定解放」
 邪悪なる者に慈悲も、憐憫も、同情も不要。求められるはただ命を刈り取る冷酷さのみ。リーヴァルディは己の意識を対吸血鬼用の人格へと変更。良心を無理やり抹消し敵の浸食を跳ね除けるや、大鎌を手に敵中へと飛び込んでいった。
「……そう、ですよね。わたしたちに出来るのはあなた達の全てを踏み躙り、否定することだけです。その事実について、言い訳も、誤魔化しもしません……だから」
 そんな仲間の後姿を見て、望もまた覚悟を決める。彼女は己の魔力を全て解放すると同時に、周囲へと結界を張り巡らせて守りとしてゆく。どのみち、長期戦になれば利するのは敵のみ。浸食の危険も排除しきれぬ以上、短時間に火力を集中させる他ないだろう。瞳を閉ざす少女もまた触手群の真っ只中へと吶喊。次々と殺到して来るポーシュボスたちを巧みに躱しながら、表情に僅かな苦悩を滲ませた。
「善を持つ事は許されなくて。でも、お前達の仲間になるわけにもいかなくて。それなら……わたしに出来ることはこれだけです。元に戻るのも大変だから、本当は使いたくないのだけれど。許された手段がこれだけだと言うのなら、わたしは……!」
 しかし、それも一瞬。望は意を決すると、己の裡に秘められし異能を解放する。刹那、足元に広がる影が膨れ上がったと思うや、無数の刃へと変じて周囲のポーシュボスを寸刻みに切り刻み、飲み込んだ。
 ――アア、嗚呼、痛イ、寒い、熱イ。
 ――だが、コれで。ようヤク、こレで。
 苦痛の呻きと解放の喜びが混ざり合い、歪な断末魔を奏ででゆく。少女が振るう力、それは周囲全てに対し無差別に襲い掛かる影の御業である。極めて強力な反面、その代償は――己の自我と、傷つける相手との痛覚共有。
「あっぁぁぁああっ……ッ!」
 可憐な見た目に似合わぬ獣の如き咆哮を上げながら、望は当たるを幸いにポーシュボスたちを芝を刈るが如く殲滅してゆく。その光景を横目に観察しながら、しかしてリーヴァルディは淡々と戦術を組み立てていた。
「敵味方を問わず攻撃する、影の刃と腕……似ていると言うべきか、相性が良いと言うべきか。何はともあれ、私であれば問題は無いわ」
 吸血鬼狩りは距離を取るのではなく、なんと敢えて仲間へと近づく事を選んだ。そうなれば当然、望の異能が彼女にも向けられる。黒き切っ先が迫り、昏き指先が触れる……寸前。
「本来は対ポーシュボス用を想定していたのだけれど、どちらも似た様なもの。こういう言い方は好ましくないけれど、上手く利用させて貰うわね?」
 リーヴァルディの姿がフッと掻き消え、代わりに彼女を追っていた異形が漆黒の餌食となる。よくよく目を向ければ、周囲には吸血鬼狩りの姿が幾つも見受けられた。その正体は欺瞞用の分身。戦闘力の無い目晦ましだが、そのぶん気配や存在感は本体と遜色ない。
 吸血鬼狩りと盲目の天使、二つの漆黒が戦場を席巻してゆく。
「ア、ぁあ、アアあッ……!」
 こうなれば被害を受けるのは敵だけだ。しかし相手も次々と新たなポーシュボスを生み出し、肉弾攻撃を試みて来る。望の殲滅力は脅威の一言だが、痛覚共通という代価がじわじわと彼女を蝕んでゆく。加えて、相手の物量が徐々にではあるが勢いを上回りつつあり、このままではいずれ押し切られてしまうだろう。
「長期戦はやはり相手に分がありますか。尤も、その分だけポーシュボスたちの密度も跳ね上がっている……であれば、そろそろ頃合いですね」
 そんな状況に何某かの機を見出したリーヴァルディは周囲を夜闇で覆うや、己が血に流れる忌むべき因子を活性化。瞬間的に能力を跳ね上げると、敵陣に向かって掌を翳す。
「……我が手に宿れ、原初の理。其は全てを呑み込むもの。六曜の色彩を束ね、交じり無き漆黒と成れ」
 ふわりと彼女の周囲に浮かんだ色とりどりの精霊結晶が砕け散ったかと思うや、内包されていた魔力が指先へと収束する。膨大な数には、絶対的な質を。これこそが、吸血鬼狩りの持つ最大火力の一手。不穏な気配を感じ取った異形たちが攻勢を強めるも、刻既に遅し。
「六色の精霊の息吹と、我が血の魔力を以て……来たれよ、混沌」
 瞬間、極彩色の暗黒が解き放たれた。混沌属性を帯びた、純粋な魔力の解放。それは端から順にポーシュボスの群れを飲み込んでゆき、リーヴァルディが一周身体を回し終えると……周囲にはもう、何も残ってはいなかった。オブリビオンストームの中は広大であり、別の場所ではまだまだ敵が犇めいている。だが少なくとも、この一帯において生ある者は二人の少女だけだ。
「あ、ァ……ぁ……――」
「限界が来ましたか。タイミングとしては良かったですが、同時に少し危うかったようですね」
 気力、体力共に限界を迎えたのだろう。ふらりと身体を崩す望をリーヴァルディが抱きとめる。しかし、一方の吸血鬼狩りとてもう魔力が底を尽いていた。これ以上の長居は無用だろう。二人は念のため周囲を警戒しながら、戦場から一時離脱してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レイ・アイオライト
耳元で囀る肉塊とか鬱陶しすぎるわ。ほんと邪魔ね。
自身の不幸を他人の耳元で喋る暇があったらさっさと死んでくれない?
アンタたちがポーシュボス現象に呑まれたってのは分かるけど。その悲痛の声はただの煩わしい嵐の喧騒と同じ、いいえそれ以下よ。早く骸の海に還りなさい。

邪悪なる者になる、ねぇ。
……その邪悪なる者なら、あたしの力の裏に潜んでる。
UC発動、出てきなさいクラミツハ。アンタに素敵な蹂躙の場を与えてあげるあたしに感謝することね。

『クハハハハハ!!!殺すか!そうか殺そう!!全部殺そう!!形なき肉塊をことごとく磨り潰してくれる!!』

自身の体をクラミツハに預けて、影を操って『範囲攻撃・蹂躙・暗殺』するわよ。



●邪悪なるモノよ
 ――何故、こうナッた。良心ヲ持っテイたかラと言うならバ。
 ――そレは余りニモ、惨イ仕打ちでハなイカ……?
 猟兵が戦闘を開始し、既に少なくない数のポーシュボスが屠られつつある。しかし、上がる怨嗟と嘆きは些かも衰える気配が無い。いったいどれほどの人間を異形へと変じさせたのか。想像するだに悍ましいが、対してそれを耳にしたレイ・アイオライト(潜影の暗殺者・f12771)は鬱陶し気に眉根を寄せた。
「……耳元で囀る肉塊とか鬱陶しすぎるわ。ほんと邪魔ね。自身の不幸を他人の耳元で喋る暇があったらさっさと死んでくれない?」
 余りにも非情な言い草だが、この場においてその対応は正しい。不用意に義憤や憐憫を見せれば、良心有りと見做して浸食を仕掛けてくるのだ。犠牲者の意識を残しているのも、恐らくはそうした狙いがあっての事だろう。ならばわざわざそれに乗ってやる義理もない。
「アンタたちがポーシュボス現象に呑まれたってのは分かるけど。その悲痛の声はただの煩わしい嵐の喧騒と同じ、いいえそれ以下よ。早く骸の海に還りなさい。それの嘆きによって新たな犠牲者が増える可能性がある以上、同情は出来ないわ」
 もはや彼らを救う手立てはない。その事実が変わらない以上、優先すべきは起こってしまったことではなくこれから起こる悲劇の防止である。故にこそ、猟兵として為すべきはこの現象(フェノメノン)の迅速なる根絶だ。
「唯一の対抗手段が『邪悪なる者になる』ねぇ。いいわ……その邪悪なる者なら、あたしの力の裏に潜んでる。出てきなさい、クラミツハ!」
 レイは後ろ髪を掻き上げると、背中に刻まれた傷跡を露わにする。瞬間、ぞるりと漆黒の闇が溢れ出し、本体へと纏わりついてゆく。それらはまるで絡繰り人形の繰り糸が如く手足へと絡みつき、意思を示すかのように揺れ動いていた。
「今回は手加減も遠慮も無用。好きに動いていいわよ。アンタに素敵な蹂躙の場を与えてあげるあたしに感謝することね」
『クハハハハハ!!! 殺すか、そうか殺そう!! 全部殺そう!! 形なき肉塊をことごとく磨り潰してくれる!!』
 それはまごう事なき邪悪の具現化、自らの傷跡に封ぜられし呪詛の解放である。そのままレイは暗黒に体の制御を明け渡すや、待ってましたとばかりに悪意が肉体の支配権を掌握。そのまま躊躇うことなく触手の群れへと飛び込んでゆく。
『ハハハハ! これだけ有象無象が群れているとは、喜ばしい反面手が足りんな! 良いだろう、ならば手練手管の全てを投じて鏖殺してくれるわ!』
 飛び込んできた猟兵に反応し、ポーシュボスもまた瞳を輝かせて迎撃して来る。周囲全ての敵が九倍の動きで以て殺到して来るが、対するクラミツハは持ち込んだ得物を両手に携え、真っ向から受けて立つ。
 黒き刀で切り捨て、返す刀で超硬度の鋼糸による拘束を行い。電流を流し込み身動きの自由を完全に奪うと、破剣刃を突き立てて内部より蹂躙。死角より忍び寄って来た触手を間一髪のところで回避しつつ、すぐさま短剣を投擲。影を縫い留めその場へ釘付けにしつつ、容赦なく一刀の元に割断する。
『ククク……歯応えは些か物足りぬが、技の試し台にはうってつけよのう!』
 無論、苛烈なる攻めの代償として猟兵もまた無事では済まない。鞭の如き殴打や先端による刺突により、肉体へは着実にダメージが蓄積してゆく。しかし、肉体は己のものでは無く飽くまでも借り物だと言わんばかりに、クラミツハは傷を意に介さず凶器を振るい続ける。
 斯くしてその虐殺劇は、周囲からポーシュボスの姿が無くなるまで続けられるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エドゥアルト・ルーデル
断腸の思いで善性捨ててみたんだけど普段と変わってない気がするんでござるが?なんでや!

拙者思うんだよね…戦争ってのは自分が強いって思っとるやつを愚弄しながら物も尊厳も奪って潰すのが良いんでござる
こいつら最初から奪われてて嘆いててつまんね!無駄に数がいるし駆除気分で燃やそう!そういう事になった

という訳で雑にコンソールコマンド連打して手持ちの【火炎放射器】を雑に強化ですぞ
射程と火力の上がった火炎放射器で群がるポーシュボスをヒャハッと燃やす!オブリビオンストームで盛大な火災旋風を巻き起こしてやろうぜ!

やっぱ火はイイネ!どんな時でもテンションがアガる!よく言うでござろう炎上&エキサイティングってナ!



●炎上恐れて悪は為せず
「あっれれ~、おかしいぞ~? ……断腸の思いで善性捨ててみたんだけど、普段と変わってない気がするんでござるが? なんでや!」
 多くの猟兵たちが己の良心を殺す事に苦心し、救えぬ犠牲者たちを前に苦悩する、一方で。戦場へと姿を見せたエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)はいつもと変わらぬ平常運転であった。
 本人としては甚だ解せないらしいが、そもそもどうやってそんな簡単に善性を捨てられたのかが解せないので差し引きゼロである。まぁ、腐れ外道パイロットを自負している時点である意味お察しなのだが。
「拙者、思うんだよね……戦争ってのは自分が強いって思っとるやつを愚弄しながら、物も尊厳も奪って潰すのが良いんでござる。例え負けそうになっても、だが断ると言ってやる心意気的な? だと言うのに……」
 ぼやきながらチラリと周囲を見渡せば、猟兵の存在を目敏く察知したポーシュボスたちが集まりつつあった。耳を澄ませば、取り込まれたであろう善良な人々の嘆きが嫌が応にも聞こえて来る。
 ――終ワらせテクれ。儂が、オレが、消えテシまう前ニ。
 ――要らナい、要ラなイ、コンな生なんテ、要ラナい。
 どれも絶望に染め上げられ、己の命や自我すらも差し出して死を希っている。そんな有り様を見て、黒髭の傭兵は辟易とした様子で天を仰いだ。
「あー、やだやだ! こいつら、最初から奪われてて嘆いててつまんね! 自分から殺してくれと頼むとか、興ざめも良い所でござるよ! よーし、無駄に数がいるし、駆除気分で燃やそう! ……うん、そういう事になった」
 ああいった人々を踏み潰す事に快感を見出す手合いも戦場では珍しくないが、生憎とエドゥアルトとしては趣味ではないらしい。彼は腕に装着した戦闘支援ツールのコンソールを雑に連打するや、幾つものコマンドを入力。水中宇宙の場所を問わぬ万能火炎放射器の性能を更に上昇させてゆく。
「たまには気軽に暴れたい時も……ある!」
 そうして威力射程範囲全てを超強化した得物を構え、傭兵は調子を確かめる様に二度三度とトリガーを引き、先端より着火薬剤を吹き上がらせる。だが、その煌めきにいよいよ以て防衛反応を刺激されたのだろうか。ポーシュボスは爛々と瞳を輝かせるや、それまでの様子見姿勢とは打って変わって、機敏な動きで四方八方から殺到してきた。
「ハッハァー! 生憎と触手とは自分でくんずほぐれずするよりも、誰かがしているのを眺めている方が好きでござるからなぁ! お触り厳禁、それが守れない迷惑客はレッツ消毒ですぞ!」
 いつになくハイテンションで飛んだり跳ねたり逃げ回りながら、エドゥアルトは追い縋る触手目掛けて火炎放射器を発射する。着火した燃焼液剤はポーシュボスの表面へ纏わりつくや、忽ちの内に相手を松明へと変えてゆく。なまじ個体どうして寄り集まっていたせいで、炎は次々と別の個体へと燃え広がっていった。
「おうおう、汚ねぇ花火だ。だが、ちぃとばかし相手の数が多過ぎるでござるな。しかし、幸か不幸か周囲に風が吹き荒れている……となれば『アレ』だな」
 だが、延焼速度と敵の増殖スピードでは後者に軍配が上がる。これではキリが無いと判断した傭兵は一計を案じると、再び走り回りながら放火を続行し始めた。始めは点々とした小火だったものの、それらは吹き込むオブリビオンストームの余波を受けて燃え上がり、更には複数の炎が一つに束ねられ……巨大なる炎柱が、戦場の中心に聳え立つ。
 その現象の名は火災旋風。災害と共に現れる、灼熱の絶望である。焔柱はそれそのものが高速で回転しながら周囲一帯を動き回り、進路上で蠢くポーシュボスを飲み込んでゆく。また柱内部より放たれる熱波がジリジリと触手表面を焼き焦がし、瞳を炭化させていった。
「やっぱ火はイイネ! 心が温まると言うか、どんな時でもテンションがアガる! よく言うでござろう、炎上&エキサイティングってナ!」
 繰り広げられるは阿鼻叫喚の地獄絵図。だが、戦場においてはある種見慣れた光景でもある。燃え行く異形たちを悠々と眺めながら、エドゥアルトはどこか空虚な笑みを浮かべるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブラミエ・トゥカーズ
貴公等の様な異星の外様に善悪が分かる能がある事にも驚きではあるが、
善の心に巣くう化物とはな。
何処の世も酷いモノには事欠かぬな。

対策:
病に善も悪も無い
感情すらただの人の真似
命を喰らい増える事だけが存在意義

【WIZ】
心を侵す病たる貴公では余とは相性が悪すぎよう。

病に感染させ共食い狙い
増えた所で空気感染より新たに発生した敵も即時に感染

余が滅びるまで耐えれば貴公の勝ちである。
災害同士の争いなど、人にとっては迷惑であろうがな。

尚、勝った場合はそのまま、この世界で分身が現役復帰できればいいな、など考えている。
だが、この世界の人間の免疫力はきっとすごい。
つまり、この敵よりも人間の方が怖いのだ



●聖人にも悪人にも、汝は平等なれば
「……全く、人間ですら共通の価値観に立つことが難しいと言うのに。よもや貴公等の様な異星の外様に善悪が分かる能がある事にも驚きではあるが……善の心に巣くう化物とはな」
 暴風壁を越え、オブリビオンストーム内部へと踏み込んだブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)は、此度の敵について思考を巡らせていた。
 身内に手を掛ける事を是とする文化があれば、道に唾吐く事を重罪と断ずる地域もある。人間同士ですら善悪の基準が千差万別であるにも関わらず、星の海より来たりし異形がそれを理解しているなど、或る意味奇妙であるとも言えた。
「善良であるが故に、悍ましき化け物に成り果ててしまうとは……何処の世も酷いモノには事欠かぬな。尤も、余がそれを言えた義理でもないが」
 ぞるり、と。黒衣に身を包んだ女の周囲にポーシュボスたちが姿を現す。蠢き、集まり、拒絶し合いながら、無数の瞳で視線を投げかけて来る。其処に籠められた感情は救いを求める哀願か、それとも新たなる犠牲者に対する憐憫か。
 ――お前ハ悪か、それトも善カ。ドちらデあっテも、不幸なダケだ。
 ――何でモ良い、殺しテくれ。終わラセてくレ。
 次々と上がる囁き。その一つ一つの声量は小さくとも、幾重にも重なれば巨大な渦と化して対峙者へ圧を掛けてゆく。常人であればこの光景を前にして、心を動かすなと言う方が難しいだろう。或いは、それを織り込んだ上で敢えて犠牲者の意識を残しているのであれば悪辣と言う他ない……が。
「要らぬ心配だな。病に善も悪も無い。感情すらもただの人の真似……命を喰らい増える事だけが余の存在意義。終わらせて欲しい? 良いだろう。赤き死の前では善悪貧富の区別なく、全て者は平等であるが故に」
 ブラミエは真っ向からそれを受け止め、悠然と相対して見せた。彼女はかつて世界を恐怖に陥れた疫病の具現である。怨嗟の声を叩きつけられることが日常なのだ、今さら其処に数百数千が加わった程度で動ずる事などあり得ない。
「という訳で、一番の脅威である現象(フェノメノン)は通じんぞ。寧ろ、心を侵す病たる貴公では余とは相性が悪すぎよう」
 傲岸不遜に言い放つ猟兵に対し、なればとポーシュボスたちはオブリビオンストームの回転を加速させて新たな個体を創造。数の差を以て実力行使に打って出る。如何な歴戦の手練れとは言え、この数に押し潰されれば一溜りもないだろう。だが、その戦術はブラミエが相手では自殺行為以外の何ものでも無かった。
「やれやれ、貴公らは些か密に過ぎる。近頃は感染対策に誰もが腐心していると言うのに……全く、封じ込められた身の上としては羨ましい限りだ」
 這いずる様に距離を詰めていた触手たちが、まるで一時停止ボタンを押されたが如く突然硬直する。ブルブルと苦し気に身悶えをしたと思った瞬間、穴と言う穴から穢血を噴き出して崩れ落ちてゆく。既に彼女の周囲には赤死病のウィルスがばら撒かれていたのだ。不用意に近づけばこうなるのも当然の帰結である。
「余が滅びるまで耐えれば貴公の勝ちである。災害同士の争いなど、人にとっては迷惑であろうがな。化け物には化け物をぶつけろとはよく言ったものだ」
 撒き散らされた飛沫から、繋がった肉体部位から、吹き荒れる風の流れから。眼に見えぬ死は驚異的な速度でポーシュボスたちを汚染してゆく。彼らも貧血や呼吸困難、高熱に苛まれながらも反撃を試みるが、それが向けられたのは猟兵ではなく同じ異形。重篤な幻覚症状と飢餓感により、触手の群れは同士討ちどころか共食いすらし始めていたのである。
「ある科学空想小説の古典に置いて、侵略をしに来た異星人はありふれたバクテリアによって衰弱死したと言う。貴公らも同じ結末を辿らねば良いな?」
 挑発的な笑みを浮かべるが、それに反応する余力などポーシュボスたちに残ってはいかなかった。この様子ならば、そう時間も経たずに全滅するだろう。そんな心の余裕のせいか、ブラミエの思考は別のところへと漂ってゆく。
(この調子であれば、再び世を席巻する事も不可能ではない、か……? いや、終末の黄昏を生き延びた者らの事だ。きっとこの世界の人間の免疫力はすごいのだろうな)
 文明の崩壊したこの世界ならば現役復帰も叶うのではないか。そんな期待を抱きつつ、彼女はすぐさま否と首を振る。それは残念そうでありながら、どこか穏やかそうでもあり。
 とどのつまり、彼女が恐れるのは異星の邪神などではなく――やはり、人間なのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「喰うのに善悪っているの?わっかんないんなぁ。」
僕は敵だったらなんでも吸い尽くして奪い尽くして殺すけど。そういうルールの楽しい遊び(殺し合い)だからね。

「まア、そういう事だ。だから、黙ってオレに喰われとけや。」
オーバーロードで真の姿を解放。吸血衝動を解放し、周囲の敵の血と生命力を奪い続けるだけの鬼と化して戦う。
吸血技能をフル稼働させて直接の噛み付きなしで血を奪い、肉を喰らって骨を砕いて殺す。
奪い取った血と生命力を自身の強化と再生に充て続け、増え続ける敵を片っ端から殺しまくっていく。
敵が動き回ってウザいならArgentaで串刺しにして動きを止めるのもありか。
上手いこと串刺しに出来たヤツは優先的に喰う事にする。流れた血がもったいねェしな。

「善悪なんぞ気にする必要はねェだろう?喰っちまえば全部同じだ。」



●狩り立てよ、全ては汝の獲物なり
「……喰うのに善悪っているの? わっかんないんなぁ。食べて良い相手、悪い相手ってのは確かに居るけど、そう言う事じゃないよね。血が血である事には変わらないのに」
 増殖と捕食。形こそ違えども、他者を喰らうと言う点においては共通しているからだろうか。暴風壁を抜けた須藤・莉亜(ブラッドバラッド・f00277)は、心底不思議そうにポーシュボスの在り方について疑問を呈していた。
 何かしらの制約があるのか、それとも宇宙的悪意の発露によるものか。真意を確かめる術は無いが、どのみちやるべき事は変わらない。こうして相対した以上、莉亜にとっては異星の邪神もまた獲物の過ぎないのだから。彼は自らの周囲へ姿を見せた異形の群れを一瞥し、小さく肩を竦める。
「まぁ、僕は敵だったらなんでも吸い尽くして奪い尽くして殺すけど。そういうルールの楽しい遊び(殺し合い)だからね。まぁ……そういう事だ」
 そうして、閉じられた瞳が開かれた――次の瞬間。
「だから……黙ってオレに喰われとけや」
 青年の姿が変わる。手足を漆黒の闇が覆い、背には三対六枚の翼が伸び生えゆく。それまでの気怠い雰囲気から一転、禍々しい様相へと変貌した莉亜は口調も荒々しく変化していた。
 彼はバサリと翼を一打ちするや、手近に居たポーシュボスを強襲。振り被った爪先を食い込ませ、血液と共に生命力を吸い尽くす。この解放された真の姿であれば、もはや牙を立てるという行為すらも必要なかった。
「味は……なんだこりゃ。色んなのが混ざっている上、妙な雑味があるな。ま、手っ取り早い補給手段と割り切れば上等だろうよ」
 獲物を狩る獣に善悪はあるのか? 答えは否だろう。生存本能、捕食行動に良いも悪いもありはしない。故にこそ、悪魔と化した猟兵に、現象(フェノメノン)は通じなかった。莉亜は一切の水分を失いミイラじみた骸となった敵を打ち捨てつつ、挑発する様に笑みを浮かべる。
「さあ、遊ぼうぜ。食うか食われるか、二つに一つ。どっちが先に死ぬか、賭けでもするか?」
 返答は無数の触手による蹂躙。失った分は補充すれば良いだけとばかりに、回転力を増したオブリビオンストームから新たな個体を出現させながら、猟兵へと殺到し始める。一方の莉亜もまた望む所だとばかりに吶喊。先陣を切っていたポーシュボスを引き裂き喰らってゆく。
 彼の戦闘方針は攻撃偏重。自らの損傷を意に介さず、当たるを幸いに手足翼尾を振るい続けるのみ。当然ながら触手の殴打で骨が砕け、鋭い先端によって次々と傷口が穿たれる。しかし、何ら問題は無い。攻撃を行ったら行った分だけ、相手から活力を奪い取れるのだ。受けた傷など、それで充分リカバー可能。極論、敵さえ尽きなければ莉亜が斃れる可能性はなかった。
「とは言え、やっぱ数の差はどうにもならねぇな。殺しても殺してもうじゃうじゃ湧いてきやがる……仕方ねぇ、ちょっとばかし頭を使うか」
 だが、敵の物量と増殖速度は此方の殲滅力を大きく超えている。この状態では負けこそしないが、逆に攻め切れもしない。なればと一計を案じた青年が取り出したのは、無数の銀槍。担い手の意思に応じて中空を飛翔する無数の槍は、その穂先を次々と触手へと突き立て地面へと縫い留めてゆく。
 古来より、銀は邪を払い魔を遠ざける存在とされている。その逸話を示すかの如く、槍はポーシュボスにそれ以上の増殖を禁じていった。
「さて、と。こうなればもう動けないだろ。こういうのを俎板の上の鯉っていうのかね。それじゃあ……イタダキマス」
 異形はビチビチと虚しく触手の先端を震わせるが、どれほど力を入れても身動き一つ取る事が出来ない。これではもはや、獲物ではなく単なる餌だ。莉亜がサッと腕を一振りしただけで、周囲のポーシュボスたちは一瞬にして乾き切った骨と皮のみへと変えられていった。
 ――終わ、ル。苦シイ、痛い……ダが、こレで、良イ。
 原型すら留める事が出来ず、砂の如く微細な粒子となって崩れ去ってゆく異形群。その最後の叫びを聞き流しながら、青年は満足げに指先で口元を拭う。
「善悪なんぞ気にする必要はねェだろう? 喰っちまえば……全部同じだ」
 だが結局のところ、吸収と消耗の相殺で差し引きややプラスと言った程度か。つまり、まだ腹の満ち具合は六分目。莉亜は踵を返すと、新たなる獲物を求めてその場より走り出すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リジューム・レコーズ
不愉快ですね…その悪意は
私はポーシュボスを倒す為に手段を選ぶつもりはありません
ディナの憎悪が必要だと言うのなら、躊躇いなくそれを行使しましょう
理性を放棄せよというならそれも良い
あれとの戦闘に於いて、制御装置である私の存在はノイズでしかない
OM-DENAを起動し私自身の思考系を遮断
これで手綱は切られた
もうディナは誰にも止められない
目の前の全てを破壊し尽くすまで戦い続ける
塞がる嵐はブレイクドライバーで突き破り
犇く異形はイグゼクターで撃ち砕き
目障りな汚泥はマンティコアで斬り刻み
触れるものはEMフィールドで拒絶する
お前達の声は私には届かない!
ディナに貪り喰い殺されるだけだ!



●青き銀光に悪意は染まりて
 ――マだカ、まダか。早くシテくレ。終ワらせテクれ。
 ――刃でも、弾丸でも、毒でも熱でも何でも良い。ダカラ。
 猟兵たちが戦闘を開始してから、既に短くない時間が経過している。それに伴いポーシュボスたち、正確には変化元となった人々にも己を殺し得る何者かの存在が広まりつつあるらしい。醜悪な生の終わりを望む言葉が、オブリビオンストームの内部に満ち満ちる。
 それは間接的にポーシュボスの撃滅を求める意志であるにも関わらず、異星の邪神はことさらそれを止める様子は無い。或いはそれらを聞かせる事によって、抑え込もうとしている善性を暴き立てようと言う狙いか。
「不愉快ですね……その悪意は。寄生し同化するだけでは飽き足らず、この様な有り様に成り果てた後すらも利用するとは」
 そんな無数の囁きを集音センサーに捉えたリジューム・レコーズ(RS02・f23631)は、隠そうともしない邪悪さに嫌悪感を掻き立てられる。アレは人の善性を認識しながら、命を命とも思っていない。そう言う点では、厄介さはこれまでのどの敵よりも上かも知れなかった。
「私はポーシュボスを倒す為に手段を選ぶつもりはありません。ディナの憎悪が必要だと言うのなら、躊躇いなくそれを行使しましょう。お前が振りまいた悪意を、更なる憤怒で塗り潰すまで!」
 そのような相手に手加減は無用。リジュームは己がキャバリアたる青銀の鉄騎を召喚するや、操縦席へと身を収める。普段であれば本能のままに暴れんとする乗機の抑え役へと回るのだが、此度は端から機体を御するつもりなどなかった。
「理性を放棄せよというならそれも良い。あれとの戦闘に於いて、制御装置である私の存在はノイズでしかない。下手な制約が付け入る隙を生むと言うのであれば、不要な機能は切り捨てるまで……OM-DENAを起動。思考系を遮断、操作権限をアークレイズ・ディナへ譲渡」
 リジュームがあらゆる拘束を解除した瞬間、抑圧されていた機体本来の凶暴性が解き放たれる。爛々と機体各部のセンサーライトを明滅させ、ゆらゆらとテールアンカーを揺らめかせるその姿は、まるで臨戦態勢を取った獣ようだ。
「……これで全ての手綱は切られた。もう、ディナは誰にも止められない。目の前の全てを破壊し尽くすまで戦い続ける。この憎悪、止められると思うのならば試してみろッ!」
 操縦者がそう叫んだ瞬間、機体はブースターを吹かせながらドリルが如き得物を手に吶喊。対物掘削衝角剣槍『ブレイクドライバー』が荒れ狂う暴風を蹴散らしながら唸りを上げ、刺突形態へと変じていたポーシュボスを先端より肉片へと変えてゆく。
 しかし、一個体が絶命しても尚、他の異形たちが押し寄せる波の如く殺到して来る。構う事無く抉り穿ってゆくも、敵の物量が物量だ。鉄騎は咄嗟に左手で連装突撃小銃『イグゼクター』を展開。瞬間火力を重視した射撃により、一時的にだが攻勢圧を押し返す。
「一体一体の戦闘力はそれなりですが、如何せんこの物量は脅威ですね。触手の一本につき、複数の人間が材料になっている……その総数など、考えたくもありません」
 操縦席のモニターは点っているものの、外部からの音はシステム的に全て遮断されていた。だが、縋りつくように伸ばされる触手から、見開かれた瞳から、彼らが何を言っているのかは分かる。嫌が応にも理解出来てしまう。ギリと、我知らず少女の姿をした戦機は歯を噛み締めていた。
「……つくづく、不愉快ですね」
 彼女は操縦桿を握る手に力を籠めてゆく。操作自体は機体が自律して行っている。故に、その行為は単なる感傷に過ぎない。だがそうと理解していながらも、決して手が緩むことは無かった。
「お前達の声は私には届かない! ただ、ディナに貪り喰い殺されるだけだ! その悪意が功を為すことなど、在り得はしないッ!」
 そんな操縦者の意志を機体も感じ取ったのだろうか。ぐるりと身体を捻るやテールアンカーでポーシュボスたちを千々に引き裂き、展開した電磁障壁で焼き尽くしてゆく。そうして青銀の鉄騎は敵の姿がセンサーに移らなくなるまで、暴虐の限りを尽くすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リサ・ムーンリッド
社会という利益のため倫理をなぞってただけで善意がそもそも無いタイプの狂研究者
UCの『貪欲な好奇心』のままに高まる身体能力で行動

●心情
普段は外聞があるから手段を考えなきゃだったけど、この状況なら何をしても目立たないかな?
実験に使えそうな素材がいっぱいだーやっほう
子供についても、ポーシュボスになったら観賞対象じゃなくなるし、素材としての興味のほうが上だね

●実験もとい攻撃
元になったひとたちはどのくらい残ってるのかなぁ
この声は餌を集めるための擬態か、それとも本当に取り込んだ者の意志なのか?
やあやあこんにちわ!と呼びかけながら薬や魔法の属性攻撃などで反応や意志を確認
やがて興味は邪神の侵食率による肉体の違いに移り、武器による【切断】で解体作業を開始
お、この個体はひとの子供が元かな?なら代謝の早さによる差異を比較できそうだ



●好奇心は神すら殺す
「う~ん……普段は外聞があるから手段を考えなきゃだったけど、この状況なら何をしても目立たないかな? 善良なって言うか、猟兵以外の人間は全部ポーシュボスになっちゃっただろうし」
 開口一番、リサ・ムーンリッド(知の探求者・エルフの錬金術師・f09977)の口から飛び出した一言は極めて不穏な空気を漂わせていた。小型拳銃を構え、腰元に薬液の入ったフラスコ瓶を携えた彼女の姿は、一見すれば探検家か何かに思える。
 だが、その本質は箍の外れた研究者。普段は常識的な立ち振る舞いをしているものの、それも飽くまで『そうした方が得』だから倫理をなぞっていただけのこと。況や、周りから視線が無くなったと分かれば、本来の純粋過ぎる探求心が浮かび上がって来る。
「実験に使えそうな素材がいっぱいだー、やっほう! 取り込まれた子供についても、ポーシュボスになったら観賞対象じゃなくなるし、個人的には素材としての興味のほうが上だね」
 うきうきとした口調とは裏腹に、その内容はポーシュボスや犠牲者を単なる『モノ』としか認識していない。これが何かしらの異能や薬物を使って無理やり『邪悪ナる者』になったのではなく、元々の素であると言う点は特筆に値するだろう。その証拠に、良心に反応して起こるはずの現象(フェノメノン)が、リサ相手には微塵も反応していなかった。
「ふむ、肝心要の浸食同化現象を自分の身で確かめられなかったのは、ちょっとばかり残念だったり? まぁ触手に成っちゃったら研究も続けられないし、そこのところは仕方ないかな」
 彼女は『生まれながらに善性を持ち合わせていない』と言う事実を突きつけられているにも関わらず、嘆くのは全く別の点について。善悪の縛りは時として技術の進歩に枷を掛けるが、一切のフリーと言うのも考えものである。ともあれ、探求者が溢れ出る好奇心のままに歩き回っていると、視界の端に蠢く異形たちの姿を捉えた。
「お、居た居た。さて、と。元になったひとたちはどのくらい残ってるのかなぁ?」
 相手も猟兵の姿を認めて臨戦態勢を取る一方、対するリサは一切の警戒感もなく触手群へと歩み寄ってゆく。両者の距離が詰まるにつれ、漏れ聞こえる囁きが次第に耳朶を打ち始めて来る。
 ――深淵を覗クとき、自ラモ覗き返されテイる……ダが、その正体がこンナものトハ。
 ――知らなケレば良かっタ。確カメなけれバ良カッた。でアレば、モう少シは……。
 元はポーシュボス現象を調べていた研究者か何かだったのだろうか。己の行為に対する後悔の念を絶えず垂れ流し続けている。しかし、リサはそんな同類の言葉を聞き流しながら、考察に思考領域を割いていた。
「多少不明瞭だけど、事前情報通り囁き自体は問題なく認識出るレベルだね。この声は餌を集めるための擬態か、それとも本当に取り込んだ者の意志なのか? もし後者だとしたら、ポーシュボス自身の自我と知能レベルは……ううん、考察するにも情報が足りないなぁ」
 この言葉を紡いでいる主体は果たして『誰』なのか。犠牲者を救う手立てでもあれば聞き取りも可能だが、その望みもゼロである。ならばせめて取れるだけのデータは全て蒐集せんと、探求者はにこやかな笑みを浮かべ。
「やあやあこんにちわ! 此処で会ったのも何かの縁だ、少しばかり実験に付き合ってくれたまえよ?」
 一切の躊躇なく、腰元のフラスコ瓶を投擲した。中空に差し掛かったそれらを瞬時に小型の荷電粒子銃で撃ち抜くと、中身の薬液がポーシュボスへと降り注ぐ。その種別は酸、アルカリ、毒物、金属粉末など様々だが、生命体に有害と言う点は共通していた。
 それらを浴びた異形たちは苦悶の叫びを上げながらのたうち回る。絶命には程遠いが苦痛を覚えているらしい。それらはまるで怒り狂ったかの如く、触手を戦慄かせてリサへと襲い掛かって来た。
「ふむふむ、化学反応は一般的な生物とほぼ同じ、か。となると、実際に中身を見てみたいかな、っと!」
 探求者は四方八方から迫る触手を紙一重で交わしつつ、目星をつけた個体へと肉薄して取りついた。その比較的小さめの個体から漏れ聞こえる囁きから察するに、どうやら元は子供だったようだ。恐らく研究者の身内か何かだろう。
「適当に捕まえてみたのだが、これはもしや当たりかな? 代謝の早さによる差異を比較できそうだ。では、早速」
 だが、その事実を前にしてもリサの軸は微塵もぶれない。彼女は荷電粒子銃の出力を絞ると、レーザーメスとして転用。そのまま悶える相手を抑えて解剖を実行し始めた。響く断末魔、蛮行を止めようと突撃を繰り返す他個体、そしてそれらを一切意に介さぬ探求者。
「……ふむ、なるほど。幾らかは分かったかな。ついでにサンプルも回収しておこう」
 その一連の作業が終わった時。残っているのは生命活動を停止したポーシュボスと、どこか満足げなリサ。そして――呆けた様に崩れ去る他個体たちの姿であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ペイン・フィン
善を喰らう現象、か……

今回の戦争、場所自体もそうだけども
戦う相手も、そこに至る道のりも
全てが自分を酷く、苛つかせる、ね

肉体や精神を侵蝕する?
いいよ、そんなの、覚悟の上
……その上で、彼らを解き放つだけだよ

コードを、使用
自らの半身の属性を変転
同時に、真の姿を発動
数歳程度幼くなり、周囲に霧のようなモノが満ちる
そして、服と仮面、霧の色は、黒と白が混ざり合い、完全な灰色へと変わる

今回扱うのは"名無しの禍惧枝"と"ツバメ型紙飛行機"
周囲に満ちる負の感情を枝を通して喰らい切り裂き
飛行機で浄化し、残った感情を飛ばし清める
ひたすらに、ひたすらに、それを繰り返す

……正直なところ
邪悪に落ちたり、善悪の境をなくすなんて、簡単
ただ、拷問具としての己を発揮すれば良い

でも、それはしない
大切なヒトとの約束があるから
だから、善の感情を、この狂おしくも愛おしい感情を、捨ててなんてやるものか
むしろ、現象とやらに飲み込まれた人々を
たった一人でも多く、その感情の一欠片でも、掬ってみせる

それが、自分が選んだ、この戦場での戦い、だよ



●悪に成らず、善を選ばず
(……善を喰らう現象、か。今回の戦争、場所自体もそうだけども……戦う相手も、そこに至る道のりも、全てが自分を酷く、苛つかせる、ね。幾ら世界が、終焉の黄昏を冠するとは言え、何処もかしこも、『俗』に過ぎる、かな)
 戦端が開かれてより、ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)もまた幾つもの戦場を駆け抜け、数多の敵と刃を交えて来た。しかしその道中ずっと、彼は常に神経を逆撫でされるような感覚を覚え続けている。その原因など、今さらわざわざ確かめるべくもない。
 この世界の法則は苛烈なまでの弱肉強食。暴力こそが至上の価値であり、弱さは死に直結する。余りにも異常でありながら、そうでなければ生き残れない終末の荒野。青年は常に、その大地に散っていた者たちの嘆きを感じ取っていたのだ。
(そんな中でも……この場所は、ひと際『濃い』、ね)
 暴風壁を抜けてオブリビオンストーム内部へと足を踏み入れた瞬間、むせ返るほどの陰気がペインの全身を包み込む。それらは全て、この地に染み込んだ怨嗟や悲哀、憎悪の残滓。そういったものに慣れているはずの青年でさえ、思わず眉根を潜めざるを得なかった。
 だが、それも無理ないだろう。フロリダ州タラハシーで人々が犠牲になった理由は、弱かった訳でも、迂闊だった訳でもない。ただ……善良であっただけなのだから。
 ――どうシテだ、ドウしてダ。タだ、生きテイただケなのニ。
 ――セめて人間らシクに暮ラしテイた結果ガ、こレナらば。私の人生トは、イッたい……。
 そんな感覚を裏付けるかの如く、無数のポーシュボスたちが赤髪の青年を取り囲む。口々に囁く言葉は、理不尽に対する疑問で埋め尽くされていた。こんな異形に成り果ててまで、彼らは未だ『人間』なのだ。それを討つには良心を捨てねばならないなど、余りにも巫山戯ている。
「邪悪にならなければ、肉体や精神を侵蝕する? いいよ、そんなの。始めから、覚悟の上だから……自分はただ、その上で、彼らを解き放つだけだよ」
 故に――ペインはその選択肢へ真っ向から否を叩きつけた。彼は瞬時の真の姿を解放するや、善の心に付け入る現象(フェノメノン)など意に介さぬと言わんばかりに半身の属性を反転。その装束は普段の黒でも、浄化の白でもなく、それらが入り混じった灰色へと変じてゆく。
 普段よりも善性寄りになった上に外見年齢が数歳幼くなった結果、それに比例して浸食同化の速度も上昇している。戦闘力こそ上がったものの、戦術的な観点から言えば正直デメリットの方が大きい。だがそれでも、彼はこの決断を後悔するつもりなど無かった。
「正直なところ、邪悪に堕ちたり、善悪の境をなくすなんて、簡単。自分は元々、指潰しと言う、道具だから。だからただ、拷問具としての己を、発揮すれば良い。でも……それは、しない」
 ペインの言葉は決して虚勢でも偽りでもない。殺人事件にナイフが使われたからと言って、凶器に責任があるのか? 交通事故で問題視されるべきは車なのか? 答えはノーだ。道具は飽くまでも道具であり、善悪の是非は使い手にある。それを自らに当て嵌めれば浸食から逃れられると、彼は確かに理解していた。
 ならば、何故そうしないのか。理由など簡単だ。
「……大切なヒトとの、約束があるから。だから……善の感情を、この狂おしくも愛おしい感情を、捨ててなんてやるものか。」
 兄姉が背中を押してくれた。仲間たちと巡り合う事が出来た。愛しき者と手を取り合えた。それらは全て、己が心を獲得したが故に為し得たのだ。それを手放す事など、例え不利になると分かっていても認められる筈がない。
 そうして少年が節くれだった枝骨を手に取ると、纏う霧の中から幾つもの紙飛行機たちが姿を見せる。それは苦痛を奪い、悲嘆を清め、絶望を吹き飛ばす翼たちだ。
「むしろ、現象とやらに飲み込まれた人々をたった一人でも多く、その感情の一欠片でも、掬ってみせる。彼らの死を、お前たちの玩具になんて、させはしない……!」
 ペインがそう宣言した瞬間、猟兵の戦意に応じてポーシュボスたちが瞳を輝かせて殺到する。相手の数は確かに脅威だが、指潰しとて一対多数の戦闘を得手としているタイプなのだ。如何に相手の手数が増えたとて、渡り合えぬ道理はない。
(それに利点があって、皆の意識を、残したのだろうけど……自分相手では、むしろ逆効果、だよ)
 加えて繰り返しになるが、ペインは人々の負の感情を糧とする存在だ。そしてそれは当然ながら、犠牲者たちの吐き出す怨嗟の想いとて例外ではない。彼は四方八方から繰り出される攻撃を一瞥すらすることなく察知し、回避と同時に反撃を叩き込む。
 そうして骨枝を突き立てる事で負の感情を喰らい切り裂き、無数の紙飛行機を飛翔させるたびに、あれほど濃密だった昏い気配が雲散霧消してゆく。無論、今現在もなお身体を蝕む浸食が疼痛を齎し、少しずつ全身を異形へと変えてはいる。だが、それでも――。
「後悔なんて、微塵もない、から。これが、自分が選んだ……この戦場での戦い、だよ」
 灰色の少年の決意は、微塵も揺らぐことは無く。
 斯くして、ペインは活動限界のギリギリまで異星の悪意へと挑み続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

勘解由小路・津雲
やれやれ、今回の戦争、どいつもこいつもやっかいだな。一筋縄ではいかぬ敵ばかりだ。
こちらもそれなりの覚悟をするしかあるまい。

【作戦】
【エレメンタル・ファンタジア】を使用。まずは相手に対抗して、風の刃ですべてを切り裂く、斬撃属性の竜巻でも起こそうか。
普段は制御するため水や氷に限定しているのだが、今はこれでいい。そしてこちらの「善の心」につけいられぬように……。

おれには真の姿がふたつある。ひとつは白虎。金行を司る西方の獣だ。そしてもうひとつは、本体たる金属鏡そのものだ。
道具に意思はなく、善も悪も、そこにはない。

(口調変化)やれやれ、わりと苦労してヤドリガミとして目覚めたんですがね。まさか自分の意志でただの鏡に戻る日が来るとは。
まあ、本来は勘解由小路家に伝わる呪具、ヤドリガミとしての私の意志が消えても、術の媒介にはなるはず。
このやっかいな「現象」が消えるまで、術を行使し続けることでしょう。

……その後で、再びヤドリガミとして目覚められるかは未知数ですが。せめて誰かひろって帰ってくれますかねぇ。



●鏡が映すは汝の在り様
「やれやれ、今回の戦争、どいつもこいつもやっかいだな。戦闘力は勿論だが、奴隷だの洗脳演説だのと一筋縄ではいかぬ敵ばかりだ。その中でも、此度の相手が一等難敵と言えるだろう。こちらもそれなりの覚悟をするしかあるまい」
 暴風にたなびく狩衣の裾を抑えながら、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は悩まし気に首を振る。今回の戦争で対峙した敵は戦闘能力以外の面で一癖も二癖もある手合いが多い。
 その中でも、これから矛を交えるポーシュボスは極めつけと言えた。僅かでも良心があれば其処に付け込み同化させる現象(フェノメノン)。尋常な者であれば、対峙するだけで命取りだろう。
「……これはまた、随分と濃密な陰の気だな。俺でさえ何とか耐えているほどだ、より深く読み取れるペインならば堪ったものでは無いだろう。余り、無茶をしていなければ良いが」
 そうして暴風壁を越えオブリビオンストームの内部へと踏み込んだ瞬間、陰陽師は思わず顔を顰めて口元を覆う。憎悪、悲嘆、憤怒、諦念。負の側面を煮詰めたが如き、否、正にそれそのものを敏感に感じ取ったのである。霊的素養の高い己でこうなのだ。より感受性の高い仲間ならばどうなってしまうのかと、彼は懸念せざるを得なかった。
 しかし、他人を慮る前にまずは自らの身を案じねばならない。四肢に疼痛を感じ始めたと同時に、周囲の地面からジワリと漆黒が滲みだす。幾つもの瞳と口を備えた、触手の集合体。それらは猟兵を取り囲むや、虫の羽音の如く囁きを紡ぎ始める。
 ――何が悪かッタ。善良デアる事カ? 良心ヲ持ツ事か?
 ――死にたクナけレば悪に慣れなド。そレでは、心が死ヌのに。
 漠然と感じ取っていた負の念がそれによって確かな輪郭を形作ってゆく。これで心を動かされぬ者などそうはいないだろう。狙ってやっているとすれば、それこそ邪悪と言う他ない。津雲は不快感と痛ましさの入り混じった表情を浮かべると、囁きを断ち切る様に錫杖の遊環をしゃんと掻き鳴らす。
「お前さんたちの受けた仕打ちには同情の念を禁じえんが、それに乗ってしまっては益々相手の思う壺。異星の神を喜ばせるなど、そちらも望む所ではないはず。申し訳ないが遮らせて貰おう」
 瞬間、ひゅうと一陣の風が吹く。それらが鎌鼬を引き起こし音源である口を切り裂くと同時に、周囲へと霧を展開。自らの姿を白き幕の中へ紛れ込ませつつ視線から逃れる。のたうつ触手が矢鱈目鱈に繰り出されるものの、盲打ちに当たってやるほど猟兵も甘くは無い。
(普段は制御するため水や氷に限定しているのだが、今はこれでいい。欲しかったのは時間だ。そしてこの機を活かして、こちらの『善の心』につけいられぬように……)
 先の一手は飽くまでも下準備だ。陰陽師は濃霧によって己自身を外界と遮断しつつ、ゆっくりと目を閉じる。精神を落ち着かせ、深く、深く、自身の内面へと意識を鎮めてゆく。
(おれには真の姿がふたつある。ひとつは白虎、金行を司る西方の獣だ。そしてもうひとつは……本体たる金属鏡そのもの。仮に前者を『陰陽道』という後天的な要素に由来するとすれば、後者こそがおれの『始まり』と言えるだろう)
 彼自身の言う通り、ヤドリガミたる陰陽師の本体は一枚の金属鏡である。それが百を超える歳月を重ね、かつての主の姿を得たのが今の勘解由小路津雲という存在だ。
 無論、己をただの無機物と卑下するつもりは無い。こうして己の意志を得たが故に、様々な見識を得る事が出来た。それは掛け替えのないものだが……今必要とされるのは、器物としての自分。
 すぅ、と。男の姿が透けてゆき、代わりに古びた金属鏡が浮かび上がる。仮初の肉体が完全に消え去ると同時に、ぽすりと音を立てて曇りなき鏡が荒野へと突き立った。
(道具に意思はなく、善も悪も、そこにはない。全ては使い手の在り様に左右される存在なのだから……やれやれ、わりと苦労してヤドリガミとして目覚めたんですがね。まさか自分の意志でただの鏡に戻る日が来るとは)
 これまで真の姿として金属鏡へ戻ったことは数あれど、本当の意味で道具に戻る事はこれが初めてである。その為だろうか。胸中で紡がれるぼやきも、普段の飄々とした口調から随分と穏やかな雰囲気へと変じていた。
(まあ、本来は勘解由小路家に伝わる呪具。自慢ではありませんが、元々の格に加えて、重ねた年月そのものが力になります。ヤドリガミとしての私の意志が消えても、術の媒介にはなるはず)
 意識がゆっくりと希薄化してゆく。それに伴い、金属鏡の周囲を覆っていた霧もまた薄まっていった。待ってましたとばかりに触手たちが攻勢を強めるものの、彼らの思惑に反して其処に狩衣姿の猟兵は見当たらない。当の本人が器物へ戻り始めている現状、善悪で敵を判別するポーシュボスが事態をすぐに把握する事は難しいだろう。
(完全に意識が消えても、このやっかいな『現象』が消えるまで、術を行使し続けることでしょう……ただ、そうですね)
 そんな相手の動揺も意に介さず、鏡はただ風刃を放ち、竜巻を生み出し続ける一種の装置と化す。敵の数は多いが、一番の脅威は現象であり単体の戦闘力はそれなり程度。現状であれば負ける要素は無い。
 だが、と。途切れかけた最後の意識で、津雲は小さく苦笑を浮かべた。
(……その後で、再びヤドリガミとして目覚められるかは正直言って未知数ですが。せめて誰か、ひろって帰ってくれますかねぇ)
 それきり、宿る神としての人格は雲散霧消し。ただ敵を切り裂く呪物がアメリカの大地に残されるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

落浜・語
うわぁ、グロい……。なんかこれはいろんな意味で精神やられそうというかなんというか……。
いやまぁ、やることやるだけなんだけれどな。
んでもって、善の心があるとまっとうに戦うこともできないわけか。なら、善も悪もない、真ん中の状態であったら?
真の姿で死神側の姿へ。今回ばっかりは全部明け渡してやる。(【封印を解く】)

そうさなァ。オレには善も悪も関係ねェ。死は悪人だろが善人だろが、人であろうがなかろうが、平等さ。等しくみィんな連れていく。
おめェさんもそろそろ死んじめェな?

大太刀での広【範囲攻撃】なら、ここにいるのそれなりに巻き込めんだろ?『死神騙り』でもって、【呪詛】を乗せならが九連撃を。一度で足りなけりゃァ、何度だってやってやらァな。こんだけ目ん玉あんなら、【目潰し】も効果ありそうかねェ?ほぅら、とっとと蝋燭消しちまいな

アドリブ、連携可



●灯る蝋燭、断ち落とし
 ――殺シて、殺しテ、殺シテ、コロして。
 ――あ、ァあ……自我ガ、消えル。頼む、誰か、終ワリを。
 猟兵たちがオブリビオンストームへと突入し、ポーシュボスとの戦闘を開始してから既に短くない時間が経過している。さしもの現象(ポーシュボス)の物量にも若干の翳りが見えつつあるものの、依然として彼らの数は膨大だ。
 暴風壁を抜けて内部へと足を踏み入れた落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)は、未だ大地を埋め尽くさんばかりの触手群を目の当たりにし、思わず息を呑む。
「うわぁ、グロい……。なんかこれは、いろんな意味で精神やられそうというかなんというか……狙ってやってるんだったら、悪趣味なんてもんじゃないぞこりゃ」
 頭足類の腕か、蛇の胴体、蚯蚓の群れ。形容するのであればそんなところか。それらの表面に瞳と口がびっしりと生まれ、絶え間なく怨嗟の声を垂れ流し続けているのだ。真っ当な感性の者であれば、戦慄するのも無理はない。だが、ただ恐れているだけでは猟兵としての責務は果たせないのだ。
「いやまぁ、やることやるだけなんだけれどな……んでもって、善の心があるとまっとうに戦うこともできないわけか。見た目だけじゃなくて性根まで腐ってやがるな、全く。だけど、手が無い訳じゃない」
 ぐるぐると調子を確かめる様に肩を回しつつ、噺家は己の内面へと意識を向ける。其処に眠りし死の神威。真の御柱ではないかもしれないが、人々の口に膾炙された物語なのだ。由来が何であれ、その力は本物に相違ない。
「もしも善も悪もない、真ん中の状態であったら? 流石に現象(フェノメノン)も手出しは出来ないよな。普段はある程度セーブするんだが……良いぜ、今回ばっかりは全部明け渡してやる」
 そう告げた瞬間、青年の姿がまるで薄墨が滲むかの如く移ろい変わってゆく。肌からは生気が消え失せ土気色に染まり、纏った装束は襤褸へと朽ち。陰気を纏った雰囲気の中、ただ手に掲げた蝋燭の焔だけが煌々と輝いている。
 これこそが権限せし死神の姿。みすぼらしくも、その内面に濃密な死を湛えし存在。肉体の主導権を譲渡された神性は、くつくつと愉快気に喉を鳴らす。
「そうさなァ。オレには善も悪も関係ねェ。死は悪人だろが善人だろが、人であろうがなかろうが、平等さ。等しくみィんな連れていく。ふっ、と蝋燭を吹き消すだけでなァ」
 見た目こそ弱体化したようにしか思えぬが、その恐ろしさをポーシュボスたちも本能的に察知しているのだろう。一定の距離を保ったまま、遠巻きに様子を窺っている。だが先にも言ったように、こちらのやるべき事は変わらないのだ。向こうから来ないならば、打って出るまでの事。
「此処には布団の頭と足を入れ替える様な不届き者は居ないらしい。オレも仕事がしやすいってもんだ。という訳で……おめェさん方もそろそろ死んじめェな?」
 左手で突いていた枯竹をクルリと回すや、それは一瞬にして刃も分厚き大太刀へと変わった。それを鞘走らせると、やせ細った見た目の何処にそんな膂力と俊敏さがあるのかと驚くほど、見事な踏み込みで手近な異形へと斬り掛かる。
「大太刀での薙ぎ払いなら、ここにいるのはそれなりに巻き込めんだろ? とは言え、数が数だらァな。幾ら何でも一つ一つ蝋燭を消して回ってたら、それだけでお迎えが来ちまうってもんだ」
 振り抜かれた軌跡に沿って、刎ね飛ばされた触手の群れが宙を舞う。根元から寸断された肉塊は瞬く間に萎みゆくものの、切断面から新たな触手が再生。ダメージを物ともせずに攻撃を続行してきた。それも死神は忌々し気に切り払いながら、瞳を黒く染め上げて更なる力を引き出す。
「一度で足りなけりゃァ、何度だってやってやらァな。生憎とお仲間が居ねェが、死神に寿命もクソもあるめェよ。死の神様が寿命で死んじまったら、商売あがったりだしな」
 切っ先が一瞬ブレたと思いきや、周りに蠢いていた個体群が同時に中心部を貫かれて絶命する。目にも止まらぬ電光石火の九連撃。ポーシュボスも今一度再生を試みるものの、流し込まれた呪詛が修復を阻害したのだ。だがバタバタと斃れる同族の骸を踏み砕き、新たなる個体が津波の如く押し寄せ続ける。
「仲間が死んだってのになんとまァ、薄情の連中だなオイ。ぎょろぎょろと視線を向けてきやがって……こんだけ目ん玉あんなら、目潰しも効果ありそうかねェ?」
 一気に仕留められずとも、一時的に動きを封じられればそれで十二分。死神は狙い澄ますと、触手の表面に点在する瞳のみを抉り貫いていった。呪詛により再生できない以上、視界さえ潰せば無力化したも同然だ。
「目玉が潰れても、そんだけ腕があれば按摩師としてやっていけらァな。検校だってなれるかもしれんねェよ……尤も、此処で死ななければの話だがな。ほぅら、とっとと蝋燭消しちまいな!」
 そうして、死神は次々と生命の灯を消して回っていった。浸食同化現象さえ封じれば、相手は数が多いだけの手合い。懸念点であった囁きも通じないとなれば、負ける道理など無し。
「……はぁ。ま、ざっとこんなもんかね。全く、こういうのは勘弁してほしいもんだぜ。一先ずは一旦仕切り直して……っと、うん?」
 果たして、暫しの後。語の周囲から蝋燭と言う蝋燭は全て消え、ただ物言わぬ骸だけが残されていた。死神から体の主導権を取り戻しながら、噺家は小さく息を吐く。消耗が激しいため一度戦場から離脱しようと踵を返す語だったが、帰り際にふと荒野の中に何かが落ちている事に気付く。そちらへと歩み寄り、拾い上げて埃を払ったソレは。
「何かと思えば……そっちも随分と無茶をしたもんだな?」
 ――古ぼけた、一枚の金属鏡であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファン・ティンタン
【POW】捨て得ぬモノ
自由解釈可

私の中には、ひとつ、辿り着いてはいけないものがある
欲しい、何もかもをこの手に、そう渇望する無限に蒼い深淵
或いは、この衝動に己を委ねれば、目の前の現象さえも凌駕しうるのかもしれない

……けれど、だ
あんな姿見せられたら、そんなカッコ悪い事、出来ないよね
なら、彼が思う私を全うするだけだ

【混成合掌】
我が器物の白に善悪の揺らぎはなく、故に使用には問題ないだろう
あとは私の意思次第、か……余裕はない、取り込まれる前に最大出力一撃離脱でいこう
この戦地で頼れる子は、緑の羽のあなただね
天華with萃夢想、輝石の閃きの如く、一瞬で片を付けるよ

透き通る翡翠の宝石刀
刀身の内に乱反射する魔力をもって有象無象を消し飛ばす輝きを此処に
無限とまではいかないけれど、緑の平原に満ちる魔力を借り受ければ当座は凌げるだろう

……、残念ながら
私には現象となり果てた彼らを救う手立てはないし、そちら側に行く気もない
出来ることは、混濁したその思考ごと刹那に消し飛ばすことか

そう思う内は、悪にはなれないのだろうね



●手放すな、己が己である由縁を
「…………ん。みんなも、始めたみたいだね」
 オブリビオンストームを抜け、荒れ果てた大地へと足を踏み入れたファン・ティンタン(天津華・f07547)。彼女は充ち満ちている昏い陰気の中に交じる、見知った仲間の気配に気付く。直接視認したわけではないが、それでも何を想い、どの様に戦っているかは朧げに伝わって来る。
 選択肢として、常の様に五人揃って戦いに臨むと言う手もあるにはあった。しかし己の善を消滅させる、或いはその境界を取り払うと言う必要上、共同での戦いは想定外の結果を齎しかねないという懸念があったのだ。そう……。
「……私の中には、ひとつ。辿り着いてはいけないものがある」
 この白き刀の裡には、特に根深いものがだ。それを自覚しているからこそ、彼女は敢えて仲間たちから距離を取って単独行動を選んでいた。敵を滅ぼすことが出来ても、友輩まで手に掛けては元も子もない。
「欲しい、何もかもをこの手に……そう渇望する無限に蒼い深淵。善も悪も塗り潰し、ただ底なしの飢餓感のみが支配する『何か』。或いは、この衝動に己を委ねれば、目の前の現象さえも凌駕しうるのかもしれない」
 既にこの場へと入った瞬間から、現象(フェノメノン)はファンへとその魔の手を伸ばしている。身体の端々から感じる、ぞわぞわとした不快な疼痛。これが件の浸食同化に他ならないのだろう。自らの中に存在する『ソレ』を解き放ってさえしまえば、きっとこれも止まるはず。だが、しかし。
「……けれど、だ。あんな姿見せられたら、そんなカッコ悪い事、出来ないよね」
 白き刀の下した決断は否であった。勿論、始めはそうしようかとも思っていたのだ。だが、聞こえてしまったのだ。愛しき者の叫びを、彼が如何にしてこの理不尽と不条理を打ち破らんとしているのかを。それを知ってしまった以上、もうそんな手段は選択肢から吹き飛んだ。
「約束を守ろうと、それに背きはしないと、懸命に踏み止まってくれているんだ。なら、こっちも気張らなきゃフェアじゃないしね? 私も『彼が思う私』を全うするだけだよ」
 その方が手っ取り早いのに。その方が楽である筈なのに。そんなモノは気に食わないと、宇宙的悪意に対して真っ向から逆らっている。いじましくも尊いその覚悟へ報いずに、どうして対等な関係で在れようか。
 ファンは白刀を鞘走らせつつ、小さな翡翠輝石の欠片を懐より取りい出す。どちらも少女にとって、己の中核を為す器物たちだ。彼女が真白き刀身に翠緑の鉱石を押し当てると、水に沈むかの如く無機物同士が融合してゆく。そうして全てが刃の中へと納まった瞬間、さぁっと地金の色が白から鮮やかな緑色へと変わっていった。
「我が器物の白に善悪の揺らぎはなく、故に使用には問題ないだろう。他が駄目とは言わないけれど、この状況下では些か相性が悪い。この戦地で頼れる子は、緑の羽のあなただね」
 彼女の持ち込んだ装備の多くは、大なり小なり自我を持つモノが多い。普段なら頼りになるのだが、今回の相手では付け入る隙を与えかねなかった。その点、この翡翠輝石ならばそうした心配は無いだろう。試しに一振りしてみれば、風切り音と共に涼やかな音色が響く。
「あとは私の意思次第、か。正直言って余裕はない。長期戦はまず難しいだろうし、取り込まれる前に最大出力かつ一撃離脱でいこうか。天華with萃夢想……輝石の閃きの如く、一瞬で片を付けるよ」
 常時魔力を放出し続けて浸食に抵抗しているが、それは効率の悪い力技だ。下手に時間を掛ければガス欠に陥るのは明白。故に、ファンは瞬間火力を重視したヒット&ウェイ戦法を取ることに決めた。
 斯くして戦闘準備は整った。となれば後はもう一分一秒が惜しい。白き少女は地を蹴って駆け出すと、討つべき敵を求めてひた走る。
(出来れば奇襲からの先手必勝に持ち込めれば良いのだけれ、ど……!?)
 可能性は低いが、このまま交戦できずに時間切れなど目も当てられない。先んじて敵を発見し、一撃の元に決着できれば最良だ。そう考えながら敵を探していたのだが、不意に踏み出した脚に違和感を覚える。ハッと視線を下に向ければ、俄かに盛り上がりつつある地面。次の瞬間、土砂を突き破ってポーシュボスが飛び出して来た。
 ――同ジだ。我々ト同じダ。正義を以テ、コノ化け物を討たンと望んダ。
 ――だが、無駄ナノだ。駄目だッタのだ。最終的にハ、誰も彼モ……。
「っ!?」
 機先を制された形となるが、ファンは慌てることなく足に絡みつく触手を切り払い、相手を蹴り飛ばして距離を取る。それは攻撃性と同時に助けを求め縋りつく様な所作にも思え、少女は一瞬だけ痛まし気に左紅瞳を閉じた。
(……、残念ながら。私には現象となり果てた貴方達を救う手立てはないし、そちら側に堕ちてあげる気もない。出来ることはただ、混濁したその思考ごと刹那に消し飛ばすことだけ)
 右手に握る刃へと意識を集中させる。透き通る翡翠の宝石刀、その刀身内を注ぎ込まれた魔力が乱反射してゆく。ただ魔力を籠めるのではない。合わせ鏡の如く魔力を内部で増幅させ、指数関数的にその総量を増大させているのである。
(無限とまではいかないけれど、緑の平原に満ちる魔力を借り受ければ当座は凌げるだろう。生半可な火力では余計に苦しませるだけだ。一刀一閃を以て、苦痛なく……きっと、そう思う内は、悪にはなれないのだろうね)
 フッと、思わず自嘲気味な苦笑が口元に浮かぶ。だがそんな感傷が己を人間足らしめているのであれば、全身を襲う浸食の痛みも悪くは無いのかもしれない。そんな徒然とした思考を断ち切りながら、白き刀は翡翠の晶刀を振り被り、そして……。
「――悪意を照らし、邪悪を断つ。有象無象を消し飛ばす輝きを、此処に」
 解き放たれら深緑の輝閃が、哀れなる犠牲者ごと宇宙的脅威を消し飛ばすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
アポカリプスヘルに降り立った瞬間に感じる何かに蝕まれ侵食される感覚。
『世界を救うのが猟兵』、そして今ポーシュボス・フェノメノンを倒す為にこの地に立っている。
なるほど、確かに善行です。
―傍から見れば


ご存知ですか?
神に善いも悪いもないのですよ。
アポカリプスヘルで生活する人々にとって、私が戦うことは正義であり善行でしょう。
では、貴方達にとっては?
目的を阻害され、あまつさえ骸の海へと還される。
果たして善行と言えるのでしょうか?

UC『狂炎舞踊』使用
屁理屈を並べるつもりも押し問答するつもりもありません。
気まぐれに問うてみたかっただけです。

ポーシュボス化の侵食に抗い、兄の炎纏って剣を振るえる理由はただ一つ。
アポカリプスヘル守る為ではない。
ただ、ただお前が気に入らない。
だから邪魔をする。
だから倒す。
ただそれだけ。
それが私をつき動かす理由。

神はただ己のしたいようにする。
そこに善悪はない。
神に仕える私もそう。
我思うがまま、 ただ我儘に―。



●思うが侭に、我儘に
「なるほど……これが、この痛みが件の現象(フェノメノン)ですか」
 黙示録の黄昏、暴力が支配する混沌荒野。渦巻く巨大なオブリビオンストーム内部へと降り立った吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は、途端に全身を駆け巡った不快感に顔を顰める。蝕まれ、侵食される疼痛。これが事前説明にあった浸食同化現象なのだろう。単なる苦痛だけなら兎も角、善良故に異形へと作り変えられるなど正しく悪夢だ。
「『世界を救うのが猟兵』……その認識に間違いはありません。そしてそれが今、ポーシュボス・フェノメノンを倒す為にこの地に立っている。なるほど、確かに善行です……そう」
 ――傍から見れば、ですが。
 狐珀の言葉は、どこか言外の含みが籠められていた。この場において、良心を消し去らなければポーシュボスの浸食から逃れる術は無い。一方、猟兵の行動原理自体がそもそも善に根差したもの。その矛盾をどうにかせんと、多くの仲間たちが苦心して策を講じている。しかし、狐珀の様子はそうした者たちと些か様子が異なっていた。
「ご存知ですか? ……神に善いも悪いもないのですよ。天災を引き起こす怨霊は邪悪でしょうか? 祝福を与える神仏は聖なる存在なのでしょうか? いいえ、どちらも誤りです」
 問いかけと共にチラリと視線を横へ向ければ、その先には地面を這いずるポーシュボスの群れが見えた。大方、猟兵が侵食同化される様子を窺いながら、死角から奇襲でも仕掛けようと言う魂胆だったのだろう。尤も、そんな目論見など最初からお見通しなのだが。
 ――神よ、神ヨ。救イを、終わリヲ、安息を。
 ――無駄だ。こノ化け物モマた、神ナのだかラ。何に祈るト言ウノだ。
 少女の言葉を受けて、僅かばかり残っていた意識が口々に囁きを零す。だがそれに対し、狐珀は小さく首を振った。
「全てはただ、受け取り手がそう感じているだけに過ぎません。では、それを私たちに当て嵌めてみましょう。確かにアポカリプスヘルで生活する人々にとって、私が戦うことは正義であり善行です」
 ゆらり、と。狐像の少女は兄の魂を封じた絡繰り人形を伴いながら、ゆっくりと異形群へと歩み寄る。その立ち振る舞いはどこからどう見ても嫋やかにも関わらず、所作の端々より言い知れぬ圧が滲み出ていた。
「では、貴方達にとっては? 目的を阻害され、あまつさえ骸の海へと還される。それは果たして、善行と言えるのでしょうか? ……ええ、そうです。貴方達から見れば」
 言えませんよね、そんなの。淡々と、至極詰まらなさそうに少女がそう吐き捨てた瞬間、彼女の全身が紅蓮の炎に飲み込まれる。だが、それはポーシュボスによるものでは無い。狐珀と絡繰り人形自身から噴き上がっているのだ。
 狐像の少女は逆巻く焔を手繰りながら、酷薄な笑みを敵へと向ける。
「すみません。この期に及んで屁理屈を並べるつもりも押し問答するつもりもありません。気まぐれに問うてみたかっただけです……ポーシュボス化の侵食に抗い、兄の炎纏って剣を振るえる理由はただ一つ。しかしそれは、アポカリプスヘルを守る為ではない」
 ザリと荒れた砂地を踏みしめ、狐珀は変わらず彼我の距離を詰めてゆく。対する触手たちも迎撃態勢を取るものの、どこか臆している様に見えるのは果たして気のせいだろうか?
「……ただ、ただお前たちが気に入らない。だから邪魔をする。だから倒す。ただ、それだけ。それが、私をつき動かす理由。それがどうして、良心や善性の発露などと言えようか」
 そんな怯懦を感じ取った狐珀は地面を割り砕かんばかりに踏みしめると、一気に相手の懐へと踏み込んだ。そのまま手にした神剣を振り抜くや、蠢く触手を一刀の元に溶断してゆく。余りの高熱に傷口が炭化したまま固定され、再生する余地すらも許さない。
「神はただ、己のしたいようにする。そこに善悪の区別はない。神に仕える私もそう。だから幾ら浸食同化を試みようとも、全ては無駄なことです……貴方達もそうなのでしょう?」
 こうなれば一方的に数を減らされるだけ、そう悟ったポーシュボスたちはオブリビオンストームの回転速度を高め、次々と新たな個体を招き寄せる。しかし、度重なる猟兵たちの侵攻によって、増殖速度を殲滅スピードが上回りつつあった。今さら数体程度増えたところで、少なくともこの場の大勢は揺るがない。
「ならば自らもその余波を受けたとしても、文句が言える義理などない。そうですよね……ええ、否とは言わせませんよ」
 神剣による斬撃を受けるよりも先に攻撃を届かせんと、残った異形たちが一斉に四方八方から飛び掛かる。十のうち九が切り払われても、一が届きさえすれば直接侵食できるはず。恐らくそんな目論見だったのだろうが、幾ら何でも見通しが甘すぎた。
 硬質化させた触手の先端や大口を開けた顎が届く寸前、一切合切を灰燼に帰す熱波が周囲へと放射され、纏めてポーシュボスたちを消し炭へと変えたのだ。辛うじて耐えた個体も居たが、瞬時に狐珀によって直接止めを刺される。その動きはまるで、神前奉納の舞が如く幽玄で。
「我求めるは炎獄と刃の閃き。その鋭利な一撃をもって立ちはだかる者を焼き払い、切り裂かん。そう……」
 我思うがまま、 ただ我儘に――。
 煌々と輝く篝火と化した、邪神/人間だったモノの中心で。狐像の少女はくべる薪が無くなるまで、灼熱の剣舞を披露し続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エイト・ウィンプ
そんな姿でも生きているのですか
死にたい気持ちはとてもよく分かります
死が救いだと言うなら手を貸しましょう

銃による射撃で小手調べ
痛いですか、すみません
少しでも楽にしてあげられたら良いのですが

侵食されて銃の操作がままならなくなれば
別の戦い方に変えましょう

ポーシュボスに侵食されても構わない
こんな私にも善性があると思ってくれるんですね

異形化していく身体で
ひとつになるみたいにくっついて
動力装置のエネルギーを変換する自爆装置で爆発します
死に焦がれるほど威力は高まるんですよ
もう何度も死に損ねましたが今回はどうでしょうか
私と一緒に死んで下さい

バラバラに飛び散ったこの身体
それでもまだ、動く事をやめてはくれない



●殺すから、殺してくれよ
 ――殺しテクれ。俺も、私モ、儂も、ボクも。
 ――正義デも悪デも構わナイ。ダカら、このクソッタレを。
 開戦当初から比べてオブリビオンストームの規模が小さくなったように感じるのは、ポーシュボスの数が急速に減りつつあるからか。それに伴い、取り込まれた人々にもこの宇宙的脅威を滅ぼし得る存在の情報が回り始めているのだろう。心なしか、囁きの内容も活気づいている様に思える……早く殺してくれと言う、極めて昏い方向にではあるが。
「人様の事を言えた義理ではありませんが、そんな姿でもまだ生きているのですか……いえ、死にたい気持ちはとてもよく分かります。死が救いだと言うなら、こんな私ですが手を貸しましょう」
 だが、そんな望みに同意を示す者が居た。それは幸薄そうな雰囲気を漂わせた、顔色の悪い女。エイト・ウィンプ(やぶれかぶれ・f34150)は肩掛けに吊っていた突撃銃を構えると、素早く照準を合わせて手近な個体へと鉛玉を叩き込む。数発の弾丸が命中し粘液を撒き散らすものの絶命にまでは届かず、結果はただ苦痛にのたうち回らせるだけに留まった。
「痛いですか、すみません……少しでも楽にしてあげられたら良いのですが。場所が悪かったのでしょうか。急所とかが分かれば……あれ、指が」
 此処までの一連の動作は、一切の躊躇もなく流れる様に淡々と行われている。だがそれは、彼女が『邪悪ナる者』と化した故の結果ではない。寧ろ逆だ。自らも生きる屍であり、同じように死に場所を求める存在として、完全なる善意で犠牲者たちを終わらせてあげようとしていたのだ。
 だが、それは現象(フェノメノン)にとって格好の標的となる。再度射撃を行おうとしたエイトだったが、上手くトリガーを引けない事に気付く。見れば指先が蠢く触手へと変貌しつつあった。
「あー、駄目ですね、これ。別の戦い方に変えましょう。この際、ポーシュボスに侵食されても構いません。と言うより……こんな私にも、善性があると思ってくれるんですね」
 ぐにゃりと、女の横顔が歪む。それが笑おうとしたのだと気付いた者は果たして居るのだろうか。そんな異様に低い自己評価を露呈させながら、エイトは使えなくなった銃器を放棄する。そのままふらふらと向かう先は、変容の元凶たるポーシュボスの元。
「嗚呼、なるほど。確かにこれは、死にたくなりますね」
 相手は一瞬警戒感を張り詰めさせるものの、一歩踏み出すごとに猟兵の肉体は崩壊と変容を繰り返し続けている。例え辿り着けたとしても、その時点で肉体の大半がポーシュボスへと変わっているはず。
 ――駄目だ、ダメだ。オ前も、もウ。
 ならばもう、この猟兵は恐れるに足る存在ではない。恐らくはそんな驕りにも似た感情が生まれたのだろう。嘆く犠牲者の言葉と共に、一足早く止めを刺すべくポーシュボスが突撃を敢行。命中するや否や、間髪入れずに別個体が次々と殺到してゆく。
 瞬く間に肉団子と化すポーシュボスとエイト。だがそれでも、女は淡々とした平静さを崩さない。
「近づく手間が省けましたね。正直、歩くのも辛くなってましたから……ところで、気付きましたか? 私はそちらと同化したいのではなく、死にたいと言っていたんですけどね」
 果たして、その問いに疑問を抱くだけの自我が相手にあったかどうか。半ば異形へと変容したエイトは胸元へ指を突き立てるや、冷たい肉と骨を強引に引き剥がす。その中に在ったのは、莫大な電力を内包した動力装置の核。
「これはですね、死に焦がれるほど威力が高まるんですよ。まぁ、もう何度も死に損ねましたが……今回はどうでしょうかね。ここまで変容しているのですし、上手く吹き飛ぶと良いのですが。さて、それでは」
 ――私と一緒に死んで下さい。
 密着したポーシュボスに、その行為を止める手立ては無かった。瞬間、肉塊が触れ上がったと思うや、強烈な閃光と爆発が周囲へと撒き散らされる。動力装置の暴走による自爆。猟兵は勿論、その威力はポーシュボスすらも纏めて肉片へと変えてゆく。
 あとに残されたのは、大きなクレーターと焼け焦げた無数の肉塊。正に死屍累々と言った有り様、なのだが。
(嗚呼……また、ですか)
 ビクビクと、無数の肉片が痙攣しながら荒野を這いずってゆく。それらは徐々に寄せ集まり、人の形を取り始める。その外見は酷く損傷しているが、エイトの姿にほかならず。
(バラバラに飛び散ったこの身体。それでも、まだ……動く事をやめてはくれない)
 彼女はまた、己が死に損なったことを悟るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
剣と盾を振るい、格納銃器で薙ぎ倒し
…早い段階で触手が“生えた”

蠢く左腕を斬り飛ばす
触手と化した半数のワイヤーアンカーを無事なアンカーで潰す
脚は変わるな、と願い戦って

…存外に“声”に心痛める“善の心”があったようで
こんな戦場でなくば、誇れたのでしょうか

【ベルセルクトリガー】が有効であると分かっていたのに
この“声”を前にして、愚かにも“嫌だ”と厭うてしまったのだ

自らが手に掛けたモノの重みすら判らぬ、騎士を望む前の“壊れて死んだ”私のような振舞いは

兜突き破って生えた触手を頭ごと斬り飛ばし、踏み砕く

何故、厭うタ?
思考演算すら侵されてキたのか

いや、どうデも良い

ワタシにさいしょにキザまれた騎士の話は「めでたしめでたし」でオわる御伽噺

故にこノ悍まシい“現象”は、許し難イ
…還シてもラう


電脳魔術の制御に全てを捧げ巨大光刃生成
戦場をなぎ払い

光をインクに
己を絵筆に
ポーシュボス化した者が、最期の僅かな一時でも“個”を取り戻したという結末描き出し

荒野に転がる戦機
万一に備え命令を仕込まれた自動操縦機械馬に回収され



●星の輝きを見上げて
 ――其処は既に戦場であった。
 騎士剣が触手を刎ね飛ばし、大盾が骨を砕き、弾丸が肉を穿つ。それはオブリビオンストームに優るとも劣らぬ、破壊と蹂躙の嵐である。その中心に立つトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)はこの戦場へと踏み込んだ瞬間より、殺到するポーシュボスの群れを相手に戦い続けていた。
(……侵食率、40%を突破。基幹機能に関しては残余の演算領域にて代替。戦闘続行、可能)
 だが……鋼騎士は現象(フェノメノン)に対して、一切の対策を行っていない。ただ、己の在るがままで挑んでいたのである。その結果についてはトリテレイアの姿を見れば一目瞭然だろう。
 早い段階で装甲の隙間からは触手が生えていた。更に左腕が肉塊に変ずれば瞬時に断ち落とし、替わりに使っていたワイヤーが肉となればまだ無事なアンカーで抉り潰す。浸食を防ぐため止むを得ないとはいえ、その姿は満身創痍と言う他ない。唯一、機動力に直結する脚部が未だ無事な事だけは不幸中の幸いか。
(……存外、電子回路の集合体にも“声”に心痛める“善の心”があったようで。こんな戦場でなくば、誇れたのでしょうか。我ながら損な性分だと思いますが、どうにも曲げられないものです)
 脳内に夥しい数の警告を響かせながら、トリテレイアは独白に自嘲を滲ませる。彼は戦闘行動を継続しつつ、集音センサーの感度を僅かに上げた。喧騒に混じって聞こえるのは、か細くも切々とした囁きの数々。
 ――身体が無イノに、モう化け物の一部ニ成り果てタノに。胸が、痛いンダ。
 ――頼ム、どんナ形でモイい。終わラセて、クれ。
 それは紛れもなく『人間』の言葉だった。無論、これは宇宙的悪による憐憫を誘う罠なのだろう。だがそれでも、騎士としてその声から耳を塞ぐ事などどうしても出来なかったのだ。
(意図的に理性を失う手段はありました。無論、それが有用であるとも分かっています。ですがこの“声”を前にして……愚かにも“嫌だ”と厭うてしまった。騎士に憧れる私の稚気が、その選択肢自体を抹消してしまったのだから)
 今は戦闘中だ。使える演算リソースは1キロバイトであろうとも惜しい。だがにも拘らず、ノイズ交じりに無関係な映像が記憶回路へ浮かんでは消えてゆく。
(騎士道物語こそ、私を私として成立させている柱の一つ。もしそれに背けば、きっと戻ってしまうのでしょう。自らが手に掛けたモノの重みすら判らぬ、騎士を望む前の“壊れて死んだ”私のような振舞いに……)
 視界機能を担うアイセンサーが、眼前の戦場ではなく別の光景を次々と映し出す。数か月前の決着と決別を。これまで経て来た冒険と後悔を。そして、始まりの悲劇を。それらはゆっくりと鋼騎士の意識を撫ぜ、過去へ誘い、そして……――。

 ――ザンッ、と。

 トリテレイアは己の頭部を頸元から刎ね落とした。ゴロリと転がった兜型装甲を一瞥すれば、バイザーを突き破った触手が蠢いているのが見える。
 詰まるところ、今のは全てポーシュボスが猟兵の意識を掌握せんと試みた結果なのだろう。一瞬でも揺らぎかけた自分へ怒りを覚える様に、彼は自らの頸を躊躇う事無く踏み砕いた。
(……何故、有効だト理解シていながラ厭うタ? 思考演算すラ侵されてキたのか。もしヤ、コの場に踏み込んダ始めカら……いや、どうデも良い)
 頭部を失った事によるパフォーマンス低下を認めながらも、トリテレイアは思考機能を再チェック。問題がない事を確かめると、戦術パターンの切り替えを決定する。
(ワタシにさいしょにキザまれた騎士の話は『めでたしめでたし』でオわる御伽噺。故にこノ悍まシい“現象”は、許し難イ……彼らノ人生が奪わレようト、その結末ダけは、還シてもラう)
 いつまでも通常の戦闘を続けていては埒が開かない。そしてそれ以上に、犠牲者たちがこのまま退治されるべき『化け物』として終わるなど、断じて認める訳にはいかなかった。
 トリテレイアは最低限の維持機能だけを残し、全てのリソースを禁忌の大剣型武装へと集約する。電脳魔術によって形成されるは、巨大なる光の刃。しかしそれは、傷つけ滅ぼす為の力に非ず。
(光を、インクに。己ヲ、絵筆に。戦場を、羊皮紙に。ワタシが描き出シたい、この物語ノ結末、ハ……)
 残った右腕で何とかそれを構えると、ポーシュボスたちが確かに恐れ慄いた。猟兵の底力に驚愕したのか、はたまた星砕く武威を脅威と見たか。或いは……邪悪ではなく善性の極致をぶつけんとする矜持を理解できなかったか。
 ポーシュボスの本体が逃走を図る反面、末端部の触手が縋る様に先端を伸ばしたのが答えなのかもしれない。
(最期ノ、僅かナ一時デも。彼ら本来ノ『個』を……ドウカ)
 果たして、そんなささやかで切実なる願いと共に光刃が振るわれる。戦場全てが眩いばかりの白光に塗り潰されてゆき、そして……――。

 光が消えた後、其処に残っていたのは半壊し機能を停止したウォーマシンだけであった。周りを見渡せども、邪神の肉片一つ見当たらない。そんな主の元へと何処からともなく機械仕掛けの痩せ馬が歩み寄り、ひょいと背中へ乗せて回収する。
 そうしてポクポクと蹄を鳴らしながら、安全地帯を目指して移動を開始し。
 ――■■■■■。
 センサーが何かを捉えた気がして、機馬はふいと頭を持ち上げた。だが周りを見ても、やはり何も残されてはいなくて。
 痩せ馬は不思議そうに首を傾げると、再び暴風壁の外へ向かい歩き始めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レッグ・ワート
そんじゃ、仕事しようか。

善悪判別誰がしてんだ。と、嵐の中はごちゃついてるって話だったか。なら俺は、外から少しでも中の猟兵の位置が確認できるか交代の頃合いに、宇宙バイク運転して突っ込むわ。突入時は防盾をドリル型に変えといて、先ずは密度低めなトコ狙いでいくぜ。要りそうだったら先客外にぶん投げて逃がすの優先だけども、怪力込みの鉄骨で現象殴り飛ばしたり武器受けしつつ、そのまんま轢いていければありがたいね。……そのうちかむだろうから、そん時はバイクも外かわきに放って被膜置換で触れ斬りにかかろう。直に物理で来るなら上等だよ。来ないなら行くが、処理が怪しくなり始める前には出ないとな。
とりま現役の生体の数が減ったら仕事も見込みも少なくなるんだから、まあ殴るだろ。世界滅ぼすとか話になるかと。オブリビオンいなくたって、マッチポンプする程次が見つからない訳でも無いしなあ。生体的に。



●鉄騎吶喊、触れるを許さず
「……さて。そんじゃ、仕事しようか。にしても、相手は違う星のカミサマだろ? いったいどこの誰が善悪判別してんだか、っと」
 轟々と渦巻く砂嵐に、そんなボヤキが溶け消える。終末の混沌荒野へと降り立ったレッグ・ワート(脚・f02517)はカリカリと頭部装甲を掻きつつ、向かうべき戦場へと視線を向ける。だが、倒すべき敵は分厚い暴風壁の向こう側だ。まずはこれを突破せねば始まらない。
「そういや、嵐の中はごちゃついてるって話だったな。壁を抜けた瞬間にお出迎えってのも十分あり得るし、取りあえず防盾をドリル型に変えておくか」
 彼は持参した宇宙バイクの前面に追加装甲を取り付けると、それを螺旋状に変形させる。台風も斯くやと言う勢いなのだ。空気抵抗を考えればまだこちらの方が進みやすいだろう。そうして戦機は鉄騎へと跨りながら、さてどのタイミングで突入すべきかと思案する。
(既にもう少なくない数のお仲間が突入しているはず。なら、誰かが後退して来るのと入れ替わりに突っ込むか。もし必要そうだったら、離脱援護も込みでな……っと?)
 そんな事を徒然と考えていたレッグだったが、不意にセンサーへ微かな反応があった。数は一つのみで、風圧の弱い所を選びながら外周へ向けゆっくりと移動している。動きから察するに恐らくは手負いか。戦機は相手の姿が見えるか否かと言うタイミングでバイクのスロットルを引き上げるや、猛然と加速を開始してゆく。
(幸い、追手は無しか。まぁ、ピンチに陥っているよりか遥かにマシだが……随分と厄介そうだな、現象とやらは)
 暴風の中へと飛び込む直前、レッグはチラリと嵐の中より出て来た猟兵へとカメラアイを向ける。交錯の刹那に捉えた姿は、正に満身創痍と言った有り様だった。
 支援機と思しき機械馬の背に乗せられた相手は彼と同じウォーマシン。だが頭部と左腕部は無惨にも破壊され、更には装甲の隙間からビチビチと蠢く触手がまろび出ている。一目見ただけで、待ち受ける現象(フェノメノン)の脅威が推し測れると言うものだ。
「こりゃ、他人の心配をするよりも自分が生き残る事を考えた方が良さそうだ。勿論、きっちりと役目を果たした上でだが」
 改めて敵の恐ろしさを認識しつつ、レッグは数瞬の内に暴風壁を突破する。元が過酷な宇宙空間を飛翔する機体だ、如何なオブリビオンストームと言えども些かも速度を減じることは無かった。
 ノイズじみた砂塵が晴れ、一気に視界が広がった……瞬間。
 ――助けてクレ。助ケてくレ。俺モ、私も、終わラセてくレ。
 ――殺セるんダロう、倒せルんだロウ。だカら、ボクも
「っ、アラートの嵐に加えて待ち伏せか……!? 開始早々、手荒な歓迎だな」
 躯体の異常を告げる警告が脳内へ鳴り響くと同時に、地面を突き破って現れたポーシュボスが行く手を塞ぐ。だがレッグはブレーキを掛けるのではなく、更にアクセルを踏み込み加速。同時に先端のドリルを起動させ、弾丸の如くそのまま敵を突き破って直進してゆく。
 察するに相手はオブリビオンストームの外へと出る事は出来ないのだろう。故に負傷した猟兵を別の仲間が助けに来ると予想し、罠を仕掛けていたといった所か。その証拠に、先の個体を皮切りに次々と異形たちが地面より飛び出してくる。
(で、さっきの警告は現象による各部への浸食が原因って訳か。原理は分からんが、本当にパーツが肉塊に変わり始めているとは。処理が怪しくなり始める前にはケリをつけないとな)
 生憎、レッグに己の良心を消去する様な機能は備わっていない。必然的に侵食度合いを気にしながら戦う事になるだろう。退き際を誤れば、そのままポーシュボスの仲間入りである。
「ま、ただそれ以外はデカい軟体動物とそう変わらなさそうだ。となれば、適当に叩き潰せば大人しくなるだろ」
 彼が手を伸ばしたのは、宇宙バイク側面に括りつけられていた鉄骨。宇宙的悪意だろうが異星の神だろうが、実体があるなら殺せぬ道理はない。戦機はまるで騎馬武者の如く鉄騎に跨ったまま、敵陣へと吶喊してゆく。
「完全に良心を持たない知的生命体なんざ、オブリビオンでも無ければそう居ないだろうしな。とりま現役の生体の数が減ったらこっちの仕事も見込みが少なくなるんだから、そりゃまあ殴るだろ。世界滅ぼすとか、そもそも話になるかと」
 次々と己目掛けて飛び込んで来る巨体、すれ違いざまに繰り出される触手の群れ。それらを紙一重で避けつつ、戦機由来の膂力に任せて当たるを幸いに敵を打ち据えてゆく。その最中も終始ポーシュボスたちは犠牲者の囁きを垂れ流し続けるが、レッグは意に介せずただ淡々と殲滅を続けるのみ。
 だがそんな猟兵の動きに相手も業を煮やしたのだろう。数体が進路上に立ちはだかるや、自滅覚悟でバイクを捕縛。機動力を奪うや、他の個体が一気に殺到してきた。
「なるほど、直に物理で来るなら上等だよ。ただ、バイクを壊されるのは勘弁願いたいな」
 レッグはシートを蹴って跳躍するも、ポーシュボスはその動きに追従。鬱陶しい鋼を完全に浸食同化せしめようと、大顎を開きながら直接の接触を試み……。
「――演算、始め」
 躯体を覆う装甲へ触れた瞬間、異形の全身へ斬撃が駆け巡る。戦機の全身は全てが薄い繊維状の演算回路によって覆われている。それらへ斬撃に関する処理を命じればこれこの通り、触れるもの全てを寸断する攻防一体の武器となるのだ。
「オブリビオンがいなくたって、マッチポンプする程次が見つからない訳でも無いしなあ。生体的に。ああいや、こういう意味では断じてないけど」
 ぼとりと崩れ落ちた肉塊を払いのければ、もう周囲に敵の姿は無かった。やれやれと肩を竦める猟兵だったが、関節部より触手が生えているのを見て天を仰ぐ。そろそろ潮時だろう。レッグはぶちりと触手を引き抜きながら、元来た道を戻ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディスターブ・オフィディアン
第一人格で行動

◆心情
善だ悪だとかしましい。そんなものは所詮、誰かの価値観に過ぎん。
オレの主はオレ一人。オレの行いのすべては、ただオレの願いのままに。

敵の被害者について:
生まれてきたからにはいずれ死ぬ、貴様らは特殊な死に方をしたようだが、それがどうした

「ま、この世界は救う。時間質量論とやらは興味深い。過去が現在に侵略できるなら、現在から未来へも侵略できるかもしれん。そんな術があるならぜひとも知っておきたい」

「関係のない場所は、多少削るがな」

◆行動
キャバリア無明に搭乗し、オブリビオンストーム内部のポーシュボスのもとへ
無明が背負うSeven Angels Divine Devicesで世界崩壊の楽曲を奏で、終末の日を発動
(全力魔法、範囲攻撃)

範囲内のすべての敵へダメージ。また自身を含め範囲内に味方がいれば、防護と回復を与えておこう。目指す所がいずれにあろうと、利用できるものは利用しなくてはな。
「増殖し再生するというのなら、世界ごと打ち崩してやればよい」

「さらばだ。骸の海の果てに、消えて失せよ」



●神よ、世界は汝を排斥す
「全く……善だ悪だとかしましい。そんなものは所詮、誰かの価値観に過ぎん。オレの主はオレ一人。オレの行いのすべては、ただオレの願いのままに。見ず知らずの他人に左右されるなど、御免被る」
 良心や善性をトリガーとした、現象(フェノメノン)による浸食同化現象。全身を蝕む不快な疼痛を一言の元に斬り捨てながら、ディスターブ・オフィディアン(真実を 暴く/葬る モノ・f00053)はそう吐き捨てた。叡智の灯は漆黒の外套をはためかせながら、倒すべき敵を求め荒れ果てた大地を踏み進んでゆく。

 戦闘を開始してから数刻。猟兵たちによる攻撃回数は既に二桁を超えており、それによる殲滅スピードはポーシュボスたちの増殖速度を遥かに上回っていた。元々、ありとあらゆる知的生命体を吸収していたのだ。もう補充する当てなど残ってはいまい。
「……そうして頭数の減った連中の取れる手段など、そう多くは無い。好き勝手に動いていれば各個撃破されるのが必定。ならばまぁ、群れて集まるしかなかろうよ」
 そうしてディスターブが辿り着いた先にいたのは、元は池だったと思しき窪地を埋め尽くす異形の群れ。恐らくはこれらが残存する敵戦力の全てなのだろう。最初の総数からすれば微々たるものだが、猟兵単独で相手取るにはやや肩の荷が重いか。だが一体でも取り逃がせば、そこからまた増殖し始めるのだ。此処で確実に息の根を止めるしかない、
 ――他の者ハ、逝けたノカ。あア、羨マシい。妬ましイ。だガ。
 ――生きタかッタ。良心サえなケレば、マだ人でいラレたのカ?
 そんな猟兵に対し、ポーシュボスに取り込まれた人々が口々に怨嗟を囁く。せめて僅かでも良心を掻き立て、現象が付け入る隙を生み出そうと言う魂胆か。そんな浅ましい悪あがきを前に、しかしてディスターブが揺らぐことは無かった。
「生まれてきたからにはいずれ死ぬ。あらゆる命に例外なく、平等にだ。貴様らは特殊な死に方をしたようだが、それがどうした。必ず来るものが来た、それだけだ……だが、まぁ」
 非情とも言える物言い。だがそれが本心か建前かに関わらず、この場において正しい対応だ。しかしその一方、くつくつと男はさも愉快気に喉を鳴らす。
「この世界は救う。その点は約束しよう。時間質量論とやらは興味深いからな。過去が現在に侵略できるなら、現在から未来へも侵略できるかもしれん。そんな術があるならぜひとも知っておきたい。故にこの世界を今一度滅ぼさせる訳にはいかん」
 正義でも悪でもなく、飽くまでも己の知的探究心が為。そう断言しながら、叡智の灯はすっと手を持ち上げる。漆黒の指を組み合わせ、パチリと小さく指を鳴らした、瞬間。
「尤も……関係のない場所は、多少削るがな」
 空間を歪め、撓ませ、突き破り。鋼の巨躯が終末の荒野へと顕現した。堕天使や魔王を思わせる外観のサイキックキャバリア、その銘は『無明』。ディスターブは踵を返して乗機の操縦席へ収まると、異星の邪神を睥睨しながら開戦を告げる。
『そも、貴様は元々この世界の存在ではないだろう。客人神が何時までも居座るものでも無し、そろそろ退去願おうか』
 そうして、漆黒の男はキャバリアの背に搭載された巨大なる神聖詠唱装置へと魔力を流し込む。それは金管内部を駆ける吐息が如く装置全体を震わせ、重々しい重低音を奏で始めた。そこでポーシュボスたちもこれは不味いと我に返ったのだろう。対抗する様にオブリビオンストームの回転速度を上げながら、総群を以て襲い掛かって来る。
 確かにキャバリアの人間よりも遥かに大きい。だが質量的に言えばまだ異形側に分がある。取り付かれ、全体を覆い尽くされれば如何な鋼鉄の巨人とて圧壊は免れまい。それを分かっているからこそ、詠唱装置が本格的に起動する前に勝負を付けたかったのだろう、が。
『有象無象がどれほど群れようとも仔細無し。増殖し再生するというのなら、世界ごと打ち崩してやればよい……舞えよ七天使、響けラッパ! 遍く三千世界へ知らしめよ、――終末の日は来たれり!」
 触手が、視線が、大顎が。ディスターブの駆る鉄騎へと触れる寸前、膨れ上がった魔力が爆轟も斯くやと言う衝撃と共に解放された。暴力的なまでの純白が世界を塗り潰し、終末を告げる旋律が暴風内部へと響き渡ってゆく。咄嗟に異形たちも踏み止まろうとしたのだろうが、全ては無駄な事。最後の審判からは何人たりとも逃れられぬ。
 それは正しく世界の終わり。絶対にして不滅の神を消し去ろうと願うならば、其れを囲う基盤のそのものを灰燼へと帰せばよい。言うは易くも行うは難しきその所業を、叡智の灯は確かに実現せしめたのである。
「さらばだ。人の善性を識る、星海の邪悪よ……骸の海の果てに、消えて失せよ!」
 極光は禍々しきキャバリアを中心として、急速に拡大しながら全てを飲み込んでゆく。ポーシュボスの群れを、砂塵舞う荒野を、そして外界と地獄を隔てていたオブリビオンストームさえも。あらゆる事象は、皆須らく裁きの煌めきへと飲み込まれてゆき、そして……――。

「……ふん、これで終わりか。現象(フェノメノン)自体は少しばかり興味深かったが、それを除けばこんなものだろう」
 光が消え去った後、フロリダ州タラハシーを覆っていた巨大なオブリビオンストームは完全に消滅していた。十中八九、あのポーシュボスたちが発生原因だったのだろう。先ほどよりも見晴らしの良くなった荒野を眺めながら、ディスターブは衣服についた埃を払う。
「ともあれ、もうこの場に長居は無用だろう……さて、次はさっさとフォーミュラを討つか、それとも時間質量論の第一人者でも尋ねるか」
 邪神の脅威は消え去った。だが、佳境に差し掛かったとはいえ戦争はまだまだ継続中だ。未だ残存している敵を打ち果たすべく、ディスターブは次の戦場へと向かうのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月22日


挿絵イラスト