アポカリプス・ランページ⑪〜偽神
●フィールド・オブ・ナイン「デミウルゴス」
――助けてくれ。
――裁いてくれ。
――赦してくれ。
『……煩い……煩い……煩い……!』
頭の中に絶え間なく響く声に、男は苦悶の表情を浮かべていた。
男は自身を、狂った教団に造られた偽物の神である言う。
真の神ではない。偽物だ。紛い物だ。
にもかかわらず、男には人間の祈りが届き続ける。
『……黙れ……黙れ……黙れ……!」
救う力を持たぬ男は、虚空に唸る。
祈りの声が聞えなくなるまで、殺し尽くすと――でなければ、誰か自分を殺してくれと。
●『偽神』
「デミウルゴスはつよいよ」
誰からも目も逸らさず、ウトラ・ブルーメトレネ(銀眸竜・f14228)は凛と告げる。
そも弱い筈がないのだ。だってデミウルゴスはフィールド・オブ・ナインの一人。無敵の偽神と呼ばれるのだから。
デミウルゴスへの攻撃は、体内に偽神細胞を持たない存在からは一切通らない。文字通り、完全無効化されてしまう。
つまり、ストームブレイド以外の猟兵は、ソルトレークシティで手に入れた偽神細胞液を体内に注射し、一時的に「偽神化」するより他にない――だが。
「むりなおねがいは、できないの。だって、とってもとってもくるしいおもいをしなくちゃいけない……」
ウトラが言い淀むのも仕方ない。
偽神細胞の接種は激しい拒絶反応をもたらし、絶命の危機さえあるのだ。
デミウルゴスは斃さねばならぬ相手。なれどウトラは好き好んで皆に苦痛を味わってほしいわけではない。
「……」
沈黙は逡巡の顕れ。再び開かれた唇は、細く、しかし強い意思を紡ぐ。
「覚悟を……覚悟を、できるひとだけ。アポカリプスヘルのために、ちからをかして」
七凪臣
お世話になります、七凪です。
デミウルゴス戦をお届けします。
●プレイング受付期間
受付開始:オープニング公開次第。
受付締切:タグにてお報せします。
※導入部追記はありません。
●シナリオ傾向
シリアス。
●プレイングボーナス
「偽神化」し、デミウルゴスを攻撃する。
●偽神化による苦痛
どのような苦痛を味わうのか、プレイングにてご指定下さい。
お任せ頂いても構いませんが、その場合とっても『痛い』思いをして頂くことになると思います。
●採用人数
👑達成+若干名程度。
全員採用はお約束しておりません。
(採用は先着順ではありません)
●他
リプレイ文字数はお一人様あたり600~800字程度。
基本、ソロ参加を推奨。
ご縁頂けましたら、幸いです。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 ボス戦
『デミウルゴス』
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POW : デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD : 偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ : デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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マリア・ルート
死をも厭わず進む。
やってやろうじゃない、偽神化。
…相当な苦痛ね。
理性がたまに飛びそうだし、体が焼けそうなほど血が熱い。
ーーでも覚悟はできている。
デミウルゴスーー造物主。『創造』の力使う者として、あんただけは許せない。
必要最低限の『オーラ防御』と『残像』による回避だけ考えて、【指定UC】で怒りのまま大勝負!インファイトで速攻あるのみ!
相手がコピーしてもこれなら真っ向からのぶつかり合いよ!
息が詰まりそう。体が焼けそう。
感覚がなくなりそうーーああ、そうだ。
痛覚も何もないんなら、自分の痛みとか気にせず存分に奴を殴れるってことじゃない!
ソルトレークで感じた苦しみの分ーー全部あんたにぶつけてやる!
●叛逆の王女
「やってやろうじゃない、偽神化」
死をも厭わぬ覚悟で≪此処≫へ至ったマリア・ルート(紅の姫・f15057)は、どくりと跳ねた心臓に押されて、蒼穹色の瞳を見開いた。
「――、っ」
意識しないと半開きになってしまう唇を、真一文字に引き結ぶ。気を抜けば、音の羅列でしかない苦痛の叫びを発したくなる。
だがマリアは開いたままの眼に、悲哀に酔う男を映し、その度に飛んでしまいそうな理性を手繰り寄せた。
「……デミウルゴス」
唸るように、男の名を呟く。
その名は、造物主を意味するもの。
「造物主……物質世界を創造せし者……いいえ、いいえ、他の誰がそれを許しても、私だけはあんたを許せない」
フィールド・オブ・ナインの一人へ向けて、マリアは鉛めく足を無理やり踏み出す。
そうだ、覚悟は出来ているのだ。『創造』の魔力を持つ者として!
神に叛くなど恐くない。叛逆は既に経験済みだ――祖国を滅ぼしたのは他でもない、マリア自身なのだから。
ともすれば詰まりそうになる息を、胸中で唱えるカウントに合わせて成り立たせる。
『なんだ……お前も殺されたいのか?』
デミウルゴスの胡乱な目が、マリアを捉えた。その刹那、マリアは解き放つ。
「ぐっ、私の中から、なんか出てくる――この、破壊衝動――ああ――■■■■■■■■■■――――!!!」
力を練り上げる為に保ってきた規則的呼吸を放棄し、己が四肢をフレースヴェルグ――破壊の怪鳥のものへと変貌させれば、感覚が消えた。
注入した偽神細胞によって桁違いの力を得た分、全身は焼け爛れそうな熱に苛まれていたはずだ。
「……ああ、そう。そういうことか!」
限界を超えた苦痛を、脳が拒絶している。何も痛くない。何も感じない。何も、何も、何も、何も。
「ソルトレークで感じた苦しみの分――全部あんたにぶつけてやる!」
人間と言う概念の喪失の間際で、だからこそ得た無痛のノーリスクをマリアは謳歌し、鋭い爪でデミウルゴスへ殴りかかる。
『っ、あ……お前、俺を殺す、のか……?』
「そうだ! 私は貴様を殺す!」
喰らいかかるデミウルゴスの顎へ、マリアは理性を忘れて拳を捻じ込む。
写すなら、写せばいい。挑んだ真っ向勝負の結末に変化はない。
残酷なる紅の姫と化したマリアは、体力が尽きて動けなくなる瞬間まで、デミウルゴスを殴り続けた。
大成功
🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
――焼けていく。
――朽ちていく。
そうなれたらマシだと思うくらいの、激痛。
わたくしの内側に封ぜられた焔が熱を得て暴れている。
指先から灰と化して零れ落ちていく。そんな錯覚をしてしまうくらい、熱と痛みばかりが明瞭で。
ねぇ、だけど。
本体を。“わたくし”そのものである刀を握り、構えましょう。
切っ先は揺らがせず。ただデミゴウルスへ定めて。
あなただって痛かったのでしょう?
こうやって朽ちていくことが望みだったのでしょう?
神ならぬ刀ではございますが、願われたからには果たしましょう。
それが、あなたとは違うわたくしの在り方ですから。
――それでは、いざ。
一刀の下、狙うは首一献のみ。
その痛みをこそ、断ち散らせ。
●破滅の焔
視界を閉ざせば、内なる焔が瞼の裏にゆらゆら揺れる。
否、「ゆらゆら」などと生易しい表現では済まされない。揺れているのは、焔の端だけ。大部分は熱塊と化して荒ぶっていた。
――焼けていく。
――朽ちて、逝く。
いっそそうあったほうがマシだと思えるほどの激痛を身の内に飼い、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は呼吸を整えることに腐心する。
白い額に浮いた汗に、艶やかな黒髪はとっくに張り付き、乱れたままだ。そこへ指の一つを通す余力さえない。
神楽耶の内は、今まさに熱の坩堝。
偽神化によって、内側に封じた滅びの因たる焔が、神楽耶を食い破らんと暴れている。
(……嗚呼)
指先が灰と化して零れ落ちるのが視得た気がした。
(……いいえ、そんなことはございません)
だがそれが錯覚であるのを、神楽耶は自身そのものである刀を握る感覚が未だあることで悟る。
(わたくしは、結ノ太刀)
結ノ太刀――都市の守りを願われた、かつては神体であったもの。
『なんだ……お前、来ないのか?』
雑念のように聞こえ来るデミウルゴスの声を、神楽耶は磨き上げられた鏡の如き精錬さで受け流す。
「あなただって、痛かったのでしょう? こうやって朽ちていくことが望みだったのでしょう?」
『……お前が、死を俺にくれるのか……? まさか!』
信じられぬ素振りのデミウルゴスへ、神楽耶がかける言葉はもうない。
信じられずとも構わない。神楽耶は神ならぬ刀なれど、一度願われたからには果たす者。
(それが、あなたとは違う、わたくしの在り方ですから)
握り締めていた刀を構え、鯉口を切る。繰り出すのは、一瞬の斬撃。
「――それでは、いざ」
閉ざしていた瞼を押し上げる。
初めて捉えた世界で、神楽耶は哀れな男だけを瞳に映し、整えていた呼吸を止めた。
「断ち、散らせ」
息を吸うのに合わせ駆け出し、肺を満たした呼気を吐き出す刹那に刃を振り抜く。
狙うは首一献のみ。
『痛い、痛い……痛い……これは、俺の血……か?』
燃える焔を模る太刀へと換えた手で、デミウルゴスは己が首筋を押さえる。
さすがはフィールド・オブ・ナイン。首を断ち落とすまでには至らなかったが、神楽耶の一閃はデミウルゴスへ確かな痛みとダメージを与えていた。
大成功
🔵🔵🔵
呉羽・伊織
延々呪う声が響く身にゃ慣れたモンだが――そーか
祈りの言葉ってのも、難儀なモンだな
(特に躊躇なく、細胞を
――嗚呼、喧嘩はしてくれるな
なんて思う間もなく
元より巣食う苦悶の呪いに
悲痛な祈りが混ざった様な感覚
赦さない
赦して
屠れ
助けて
憎い
辛い
――折り重なる声につられ
頭が
胸が
酷く痛んで滅茶苦茶に荒れる
体が軋む分にはまだ良い
其方は最悪どうとでもなる
でも心を押し潰される訳には、いかない
内から苛むモノ
眼前に対する偽神
何れの声も否定は出来ない
…助ける事も、出来やしないが)
そんでも、俺は、抱えて、越えてく
救いの神にゃ成れずとも――人として、足掻く
(体は重くとも心だけは強く――内にも外にも真向から向き合って、UCを)
●聲
『聞こえる……まだ、聞こえる……煩い、煩い、煩い、黙れ……』
荒れ狂った偽神――デミウルゴスが扱う剣が、不意に伸びた気がした。
(そうじゃない。射程が、伸びたのか)
軌跡を辛うじて見切った呉羽・伊織(翳・f03578)は、後方へ幾らか跳んで間合いを取り直す。
「――あ」
ずきりと走った痛みに、伊織は左腕を見る。裂かれた布には、じわりと血が滲んでいた。どうやら完全には躱しきれなかったらしい。とはいえ相手はフィールド・オブ・ナイン。一撃で腕を落とされなかっただけで僥倖だ――と、いつも通り軽妙に嘯き笑おうとして、伊織は重い息をひとつ吐く。
延々と呪う声が響くことには慣れた身だ。が、デミウルゴスが聞いているのは其れではない。
「祈りの言葉ってのも、難儀なモンだな」
賞賛の聲なら、幾らあっても良さそうなものだ。縋る聲も、悪いものではなさそうなのに。
なれどその思考を、裂傷に突き立てた針が覆す。
「あ……」
躊躇なく注入した細胞に、伊織の裡が割れる。
喧嘩してくれるな、なんて思う間もなく、伊織は飲み込まれた。
――赦さない。
――赦して。
――屠れ。
――助けて。
――憎い。
――辛い。
――恨め。
元より巣食う苦悶の呪いに重なる、悲痛な祈り。
相反する響きが綯い交ぜになって、伊織を酔わす。
「ああ、ああ、あああ、あああっ、ああ!」
意味のない呻きと叫びを吼え、伊織は頭と胸を掻き毟る。
酷く痛くて、耐えられない。何もかもを滅茶苦茶にしたい衝動が込み上げる――だが。
「……俺は、抱えて、越えてく」
手放してはならない意思と決意を聲にして、伊織は己を保つ。
身体が軋む分はどうとでもなる。なれど、心を押し潰される訳にはいかないのだ。
伊織は伊織。誰とも知れぬ聲になぞ、折られたくはない。
「……俺は、足掻く。いの神にゃ成れずとも――人として、足掻く」
内から苛むモノも、相対する偽神の何れも否定せず。伊織はただ伊織として、内へも外へも馬鹿正直に、真っ向から挑む。
「――御してみせる」
挙措を拒む身体を心の強さで叱咤して、伊織は備える武具と身に宿す幽鬼や呪詛を一息に操る。
狙いは外さない。
穿ち、貫き、蝕み、喰らう――救済の代わりに、彼へ永久の眠りを近付ける為に。
大成功
🔵🔵🔵
須藤・莉亜
「偽物の神様の血って美味しいのかな?」
てことで、偽神細胞液をぶすっとな。
なるほど、電車に轢かれてミンチになった時の千倍は痛い感じ?
それにこの姿で初めて死ぬかもって感じもしてるねぇ。
…なんかめっちゃ楽しい気分になって来た。
はりきって、死なないように血を奪わないと。
だから死ね敵さん。
UCでの再生がおっつかない程の身体の崩壊は無視して敵さんの血を奪いにかかる。捕食されると同時に吸血で敵さんの血を奪う。
全身が血を奪う為の牙だしね、ボク。触れるのなら吸い殺す。
「死ぬ、いや死なない。血を奪わないと死ねない。死ぬ?なら奪わないと奪わないとウバワナイト」
死が近づいてくる事で吸血衝動が活性化し、若干暴走中。
●ブラッドバラッド
少し離れた所に悲哀を呟く男がいる。縋る聲に呻き慄くデミウルゴスだ。
しかし須藤・莉亜(ブラッドバラッド・f00277)の意識は、手の中にある小さなアンプルに寄っている。
「偽物の神様の血って美味しいのかな?」
早くデミウルゴスの吸い上げたいと心の底から思う。吸って殺してあげるのだ、きっと喜んでくれるだろう。
その為にも、これ(偽神細胞液)だ。
「えい」
ぼんやりと眺めていたそれを、莉亜は無造作に左手首へ突き立てた。
ぶすりと皮膚を貫く感触は一瞬――そして。
「なるほど?」
勝手に笑い出しそうになった唇を、莉亜は辛うじて結び閉ざす。痛い。痛い。全身の毛穴という毛穴から血が吹き出しそうな痛みだ。
(電車に轢かれてミンチになった時の千倍は痛い感じ?)
思い浮かんだ益体も無い絵に、堪えた笑いが吹き出しそうになる。
死を明確に意識できた。おそらく、この姿では初めてのことだ。
「……あは?」
どうしようもないほどの楽しい気分に、ついに莉亜は笑いを零す。ああ、楽しい。間違いなく、楽しい。楽し過ぎて、無駄に張り切ってしまいそうだ。
「じゃあ、死なないように血を奪わないと――だから死ね、敵さん」
どこかの血管がイカレたのか、莉亜の視界は赤一色に染まっている。その赤の中にあって唯一の黒を目掛け、莉亜は躍るように走り出す。
「全力で殺してあげるね」
『……お前が、か? 出来るものか』
聞えた否定は気にしない。だってとても楽しいままだから!
「いただきまぁす!」
黒い大鎌を振り被り、切っ先をデミウルゴスの肩に沈ませる。ずるり、そこから吸い上げる血の味も悪くはなかった。でも、でも、全然足りたい。もっと、もっと。
『馬鹿め……』
デミウルゴスが伸ばした腕が、莉亜の首を掴む。きっとその掌には莉亜を写した牙があるのだ。
奪われた血に、莉亜の目がぐるりと回る。回って、回って、くわりと見開く。
「ボクに触れるのなら、吸い殺す」
莉亜は己が意識を、大鎌の切っ先から掴まれたままの首へと切り替えた。途端、今度はそこが莉亜の牙と化す。
血を吸う限り、莉亜の躰は傷付けられても傷つかない。削れていくのは、寿命だけ。
「死ぬ、いや死なない。血を奪わないと死ねない。死ぬ? なら奪わないと奪わないとウバワナイト」
狂乱と正気の狭間で莉亜はデミウルゴスの血を吸う。
心で押し負けた偽神が莉亜を放り出す、その時まで――。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
藍ちゃんくん、でっす、よー!
痛いのでっす。
喉が焼けるように痛いのでっす。
凍えるように痛いのでっす。
溶けるように痛いのでっす。
声を出すたびに、空気が通るたびに、音の振動で震えるたびに。
堪らなく、痛いのでっす。
それでも、藍ちゃんくんは、藍ちゃんくんなのでっしてー。
笑うのでっす!
声を出すのも痛い喉で、見事見事に歌いきってみせるのでっす!
ええ、ええ、ええ、ええ。
歌うのでっす、魂の歌を!
祈りだなんてものじゃない。
デミウルゴスのおじさまに向けたものでもない。
ただただただただ綺麗なだけの歌を。
毒も拒絶反応も吹き飛ばす歌を。
祈りの声だなんて耳に入らなくなるくらいな綺麗な歌を!
お聞かせするのでっす!
●愚か姫は歌って笑う
地べたに這って、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は苦痛にのたうつ。
せっかくいつも身綺麗に整えているのに、服も髪も乱れ放題だ。
「藍ちゃんくん、でっす、よー……!」
辛うじて、声を絞り出す。音が通った喉は、焼けるように痛かった。
いや、痛いのは喉だけではない。
笑顔をつくろうとするだけで、頬が凍えるように痛む。指を動かせば、神経という神経が溶けだしてしまうのではないかという痛みに苛まれる。
息をしているだけで、痛い。心臓が動くだけで、痛い。
それでも藍は、両手を突っ張りゆっくりと身体を起こす。首をもたげただけで脳が揺さぶられるような眩暈がしたが、気付かぬふりをした。
「藍ちゃんくんは……」
膝に力を入れる。全身がみしりと戦慄いた。背筋を伸ばすのは、雷に打たれる心地を味わった。声を発するのも、変わらず痛い。止めていいなら、呼吸さえ放棄したい。しかしそうしないのは。
「藍ちゃんくんは、藍ちゃんくんなのでっしてー……笑うのでっす!」
腹の底から声を張り上げ、藍は笑った。
藍は藍。女物の服装を好み、ギザギザ歯を輝かせるハイテンションアッパーボーイ。
『なんだ、お前……』
理解しがたいものを見る目のデミウルゴスが、藍めがけて大剣を振るう。飛ばされた強毒化した偽神細胞が藍をさらに蝕む。にも関わらず、藍はますます笑顔を輝かせた。
誰に理解されずとも構わない。
他でもない、藍が己を藍だと知ってる。藍ちゃんくんは、いつだって、どんな時だって、藍ちゃんくんなのだ!
「藍ちゃんくんでっすよー!」
血を吐きそうな喉から、藍は溌剌とした声を響かせる。否、響かせるのは声だけではない。むしろ響くと言えば、歌。
「天を覆う闇も障害も吹き飛ばして! 青空に藍ちゃんくんの歌を響かせるのでっす!」
歌うことは、藍そのもののようなものだ。
痛みに目を瞑り、魂を震わせ、藍は全身で歌う。
祈るためではなく、ましてやデミウルゴスのためでもなく。
ただただ、ただただ、とにかく綺麗な歌を。
『――……え?』
ふ、と。苦渋に塗れたデミウルゴスの表情が変わった。まるで初めて歌を聞いた幼子のような貌だ。
その変化に、藍は心の底で快哉を笑う。
きっと今のデミウルゴスには、藍の歌しか聞こえていない。苦しめられ続けてきた、祈りの声も届いていないはずだ。
(もっと聞くのです。藍ちゃんくんの歌を!!)
大成功
🔵🔵🔵
ベスティア・クローヴェル
私とあなたは全くの正反対で、まるで鏡を見てるみたい
あなたは望まぬ力を持たされて、聞きたくもない救いを聞かされる
対して私は人々を救う為に力を求めて、身に余る力を借り受けた
人を救うだけの力がないとあなたは言うけれど、それだけの能力があるなら人を助ける事だって出来たはず
全てを救う事は無理だとしても、あなたが出来ることはあったはずだ
まぁ、無理やり偽神にされて自分の事で精一杯な状況で、救いを求められても困るというのは想像できる
だから、あなたと同じ偽神となって私達で救って見せよう
あなたの想いを全力でぶつけてくると良い
私はそれを全て真正面から受け止めて、答えてみせる
どんな苦痛も、どんな痛みも乗り越えて
●朝日影
ベスティア・クローヴェル(salida del sol・f05323)は物憂げな赤い瞳でデミウルゴスを見る。
片や不揃いな黒髪に無骨な装甲、片や切り揃えられた銀髪にしなやかな狼の耳と尾。
姿形は対極にあるといってもいい。あまりの正反対ぶりだ。おかげでベスティアは鏡像を目の前に置かれているような心地を味わう。
――望まぬ力を持たされて、聞きたくもない救いの声を聞かされるあなた。
――人々を救う為に力を求めて、身に余る力を借り受けた私。
真逆過ぎて、いっそ泣けてしまいそう。
今にも壊れそうな左腕を胸に抱き、ベスティアは唇を噛む。
人を救うだけの力がないとデミウルゴスは言った。なれど、デミウルゴスほどの力を以てすれば、『全て』とはゆかずとも『多く』を救うことができたはずだ。例え彼が、偽りの髪であろうとも。
だが彼はそうしなかった。
その胸中は、分からないでもない。
(まぁ、無理やり偽神にされて自分の事で精一杯な状況で、救いを求められても困る――か)
それだけの力を自身が有していたら、きっとベスティアは迷わなかった。
迷わないからこそ、偽神細胞を躊躇なく受け入れた。
使い慣れた剣を構えるのにも、逐一呼吸を整える必要があるコンディションは、正直まともに戦えるものではない。
でもベスティアは、万人の為に命を燃やし続けた獣。未来を明るく照らす太陽のような生を望み、神から力を借りたのだ。
一番身近な人を日陰にしてしまった事実から、ベスティアは生き方を変えようと試みてはいる。であっても、『救いたい』という本質は揺らがない。
「私もあなたと同じ偽神となる。そして私達であなたを救ってみせよう」
『お前たちが? 俺を、救う?』
「否定は今更だ。本当はもう、分かっているだろうに」
フィールド・オブ・ナインの一人である自負か、はたまた『そんなはずない』と思い込みたいだけか。
デミウルゴスが紡いだ否やをベスティアはやんわり否定し、「太陽を飲み込む狼」の名を持つ大剣を構えた。
太陽を飲む。如何な熱量にでも、耐えてみせる。それが身を引き裂くような苦痛であったとしても。
「あなたの想いを全力でぶつけてくると良い。私はそれを全て真正面から受け止めて、答えてみせる」
『言ったな、女』
先に仕掛けてきたデミウルゴスの爪をベスティアは言葉通り受け止め、黒炎の槍へと姿を変えた得物を零距離から突き立てた。
成功
🔵🔵🔴
イリーネ・コルネイユ
覚悟はできています
この世界――私の故郷の為に戦いたいと願うから
身体が焼けるように熱く
全身が引き裂けるような痛み
継ぎ接ぎの傷からは血が滲み出す
苦しい、けれど
こんな痛み、愛する人を殺された時、
オブリビオン・ストームによって家族や故郷を失った時に比べれば痛くなんてない
デミウルゴスに鋭い眼差しを向ける
貴方の苦しみは私には分からない
けれど、生きたかった人たちを知っている私の前で、殺して欲しいと願うことは許しません!
拒絶反応による痛みと出血で目の前が霞んでも
鉄槌を強く握りしめ何度も叩きつける
愛する人と、人間としての私を殺した者への復讐を遂げるまで
私は死ぬ訳にはいかない
あなたはここで、終わらせてあげましょう
●優しいDestruction
イリーネ・コルネイユ(彷徨う黒紗・f30952)の冬空色の瞳は濁らない。
覚悟は、とっくの昔に出来ていた。多分、きっと、初めてばらばらになったあの日から。
「私は、この世界……私の故郷の為に戦います」
声を閊えさせそうになる痛みを気概のみで凌ぎ、イリーネは凛然と告げる。
たったそれだけで、全身を焼かれているような熱に襲われた。
四肢のみならず、首や腰、駆動し得る関節という関節が、捩じ切られる間際の痛みを叫んでいる。
思い込みで生じる苦痛でないのは、全身に及ぶ継ぎ目から滲み出す血で知れた。
――苦しい。
いつも浮かべている微笑みを維持することさえ儘ならない。
――痛い。
少女めく無邪気さだって、とっくに鳴りを潜めている。
「けれど……っ」
文字通り、血を吐きながらイリーネはデミウルゴス目掛けて走り出す。
苦しい、痛い。でもこんな苦痛は、愛する人を殺された時――オブリビオン・ストームによって家族や故郷を奪われた時に比べれば、どうというものでもない。
(堪えられる……いいえ、堪えてみせます)
『なんだ、お前。殺して欲しいのか?』
全力で駆けているつもりなのに、速度は幼い子供ほど。捉えるに容易過ぎるイリーネへデミウルゴスが発した科白は、イリーネにとっては侮蔑そのもの。
「いいえ、いいえ!」
イリーネはかぶりを振って、デミウルゴスへ鋭い眼差しを向けた。
「貴方の苦しみは私には分からない。けれど、生きたかった人たちを知っている私の前で、殺して欲しいと願うことは許しません!」
――これこそ今のイーリスの原動力。自ら死を欲する者への怒り。
「私は生きます! 愛する人と、人間としての私を殺した者への復讐を遂げるその日まで」
無骨なばかりの鉄槌を、イーリスは何度も何度もデミウルゴスへ叩きつける。
無造作に喰らわれるのには、歯を食いしばって耐えた。写し取られた鉄槌を振り落とされるのも、細い腕を盾に凌いだ。
「私は、死ぬ訳にはいかない」
痛みを、苦しみを、自分を蝕むすべてを怺え、イリーネはデミウルゴスへ終わりを与えるべく奮戦する。
哀れな偽神が二度と自らの死を望まずとも良いように。そういう人の命の在り方を、知れるように。
大成功
🔵🔵🔵
ルドラ・ヴォルテクス
⚫︎アドリブ連携OKです
孤独な神、本当に救いが必要なのはおまえ自身だ。
嵐の剣の宿命だ、絶望も嘆きも哀しみも全て断ち切る。
【戦場のナタラージャ】
断罪の剣を越えなければ、俺の鋒が届くことはない。
ナタラージャ、限界解放!
暴風の機構剣を暴風の障壁とし、羅睺の刃を双剣に変え、威力を削ぎながら、受け流す!懐に飛び込めば、雷鳴の機構剣と接続した肩の砲身を至近で炸裂させ、後退と同時に爆炎の手榴弾群で撹乱を、遠隔操作した無人の戦単車を吶喊させ、完全に気を引いたところへ、断罪剣を打ち砕く溶断斧の一刀で弾き飛ばし、隙の出来た胴に三連撃の剣舞を見舞う。
デミウルゴス、嵐の剣の本質は救世、おまえの絶望も引き受ける。
●舞踊の王
ルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)にとって『偽神』は、ことのほか珍しいものでは無かった。
命を代償に『力』を得させられたのは、母たる者が腐れ堕ちた放棄施設。
それをどうこう思い、考えるだけの時間はルドラには無い。ルドラにあるのは、『滅びの未来は破壊する』という怒りと誓いのみ。
(ヴァーハナ・ヴィマナ!)
声にせずとも脳波伝達での機体制御な戦単車に、デミウルゴスめがけて吶喊させる。
直前に炸裂した手榴弾群の煙幕で、デミウルゴスからは仔細は伺えないはずだ。
『ちょこまかと……よく、動く』
聴覚が拾った低い声を、ルドラは意識から退ける。これは現状把握に必要のない情報だ。だが音の指向性には注意する。デミウルゴスがどの方向へ首を巡らせているか分かるからだ。
狙った通り、デミウルゴスの意識は戦単車へ向いている。
(今度こそ!)
一度目の接敵では、デミウルゴスの懐までは入れなかった。偽神断罪剣のレンジに阻まれたのだ。
(断罪の剣を越えなければ、俺の鋒が届くことはない)
斬り裂かれた胸元は、べったりと血に濡れている。が、滴り落ちて音を立てないのなら問題ない。
(孤独な神、本当に救いが必要なのはおまえ自身だ)
爆風の余韻に煙が攫われるのは早い。機を逃さずに一気に踏み込む。
「ナタラージャ、限界解放! 一切合切、鏖殺し、灰塵と化せ!」
乱気流を意味する風の機構剣が発する暴風を活かし、ルドラは加速する。
完全にデミウルゴスの背後を取った。攻撃能力を上げるための気勢を偽神が聞きつけたところで、もう遅い。
文字通り『命』を消費し、ビーム発振刃の斧を振り被る。
薙ぎに生まれた風が、ルドラとデミウルゴスの間の僅かな煙をも掻き消す。視得た軌跡は、上段から首筋を掠めて、偽神断罪剣を握る右手へと跳ね上げるもの。
『――ガッ』
得物を取り落とさせるまではいかなかったが、体が開いたところで胴への連撃までルドラは躍り切る。
「デミウルゴス、嵐の剣の本質は救世、おまえの絶望も引き受ける」
偽神細胞を植え付けられたフラスコチャイルドたるルドラの覚悟に、嘘偽りは無い。
大成功
🔵🔵🔵
ペイン・フィン
こんにちは
自分は、ペイン・フィン、という
指潰しという、拷問具で、怨念喰らい、だよ
負の感情……、苦痛とか、絶望とか、そういうモノを喰らい、力に変える
そういう、存在、だよ
今回は、ね
貴方を、終わらせに来たよ
「偽神細胞液」を注射
そして、コードを、使用
自分の属性を、怨念の力を、反転
浄化の属性へと、変わる
……自分は、貴方がどんな存在だったのか、よく知らない
でも、ね
祈りに押しつぶされ、苦しんだその怨念と恐怖を
造られ、偽物の神として虐げられたその憤怒と憎悪を
救う力を持たず、無力だったその悲哀と絶望を
細胞の拒絶反応の痛みと一緒に
自分が、全部、食べていこう
だから、そう
貴方の痛みは、此処でお仕舞い、だよ
お疲れ様
●ペイン
「こんにちは」
他の猟兵たちを相手取るデミウルゴスにきっと自分の挨拶など届いていまい。
そう理解しつつもペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)は律儀に折った腰を伸ばし、改めてフィールド・オブ・ナインの一人である偽神を見た。
力で猟兵たちを圧倒しているが、表情には覇気がない。自らに抗う者を容赦なく叩きのめしているが、向けられた攻撃を躱す気配もない。
否、躱さずにいるのはそれだけの余裕がないだけだ。次々と挑み征く猟兵の覚悟は、デミウルゴスの能力を十二分に上回っている。
「自分は、ペイン・フィン、という――指潰しという、拷問具で、怨念喰らい、だよ」
少ないなりの口数を、とつりとつりと繋げることでペインは己の個を表す。目まぐるしく移ろう戦況を追いながら。
だってペインは“指潰し”のヤドリガミだ。これから拷問する相手のことは、しっかり観察しておくに限る。
「負の感情……、苦痛とか、絶望とか、そういうモノを喰らい、力に変える――そういう、存在、だよ」
違う、拷問ではない。
悲鳴を聞きたいわけではないし、自白を引き摺り出したいわけでもない。
ペインはデミウルゴスがどんな存在だったかは、よく知らない。
でも、祈りに押し潰され、苦しんだ怨念と恐怖を。造られ、偽物の神として祀り上げられ虐げられた憤怒と憎悪を。救う力を持たず、無力だと嘆く悲哀と絶望を――。
「終わらせに、来たよ」
偽神細胞液の注入は迷いなく。そして内側から膨れ上がって来る苦痛に合わせ、反転の物語を紡ぎあげる。
「……ねえ、あなたは、どんな物語が、望み?」
『は?』
看過できない気配に、デミウルゴスがペインの問い掛けに反応した。途端、ペインの属性が反転する。
怨念は、浄化へ。
無数の物語を宿したツバメ型紙飛行機によってデミウルゴスの負の感情は切り裂かれ、正の感情が与えられる。
『……これは、何だ?』
知らぬ感情の海に呑まれたデミウルゴスの剣は、ペインを薙ぐことなく空を切った。
だが違う苦痛がペインを襲う。偽神細胞の拒絶反応に、全身の血を沸騰させる。小さな針で肌を余すことなく穿たれる痛みを味わう。しかしそれをペインは歓んで受け入れた。
(全部、全部、自分が、食べていこう)
(だから、そう)
「貴方の痛みは、此処でお終い、だよ」
戦場に静寂が訪れた時、ペインは穏やかな眠りに墜ちたデミウルゴスへ改めて言うのだ。
お疲れ様――と。
大成功
🔵🔵🔵
百合根・理嘉
拒絶反応はお任せ
激痛ばっちこい!
痛いのも苦しいのも当然だろな
ただの人が、カリソメとは言え、ニセモノとは言え
神に近い性質を身の内に宿そうっていうんだ
身の程を知らないのは百も承知だ……
だけど、こいつは戦争だから
命を賭けるのは当然だろーさ
痛みにどうにかなりそうな意識で
上手く動かない手足で、Silver Starを駆る
赴く以上は少しはダメージ入れなきゃ……この痛みの意味が無い
出来るだけ接近した状態で双撃使用
Black Diamondを纏わせた拳で2回攻撃
ついでだ、鎧砕きも乗せてくぜ
敵の攻撃は操縦と騎乗を駆使してフェイントも入れて回避
回避不能時はオーラ防御で防ぐ
終わらせっから、還りなよ
ニセモノのカミサマ
●命賭
「――っ、かはッ」
血を吐きながら、まるで映画か漫画のワンシーンだな、と百合根・理嘉(風伯の仔・f03365)は冷めた頭のどこかで思った。
全身が灼熱のマグマにでもなったような気分だった。眼球は勝手に内側から飛び出してきそうだし、くの字に曲げた背中からは骨が飛び出そうだ。
(こーゆーの、よくあるよな)
無駄に想像力が働くのは、きっと精神を守る為。でなきゃ、肉体の苦痛に引き摺られて、心まで壊れてしまうに違いない。
(ま、痛いのも苦しいのも。当然っちゃあ、当然か)
頭を掻き毟った両手に、ごっそりと絡みついた髪を目に、ますます冴える思考で理嘉は現状に納得する。
理嘉はただの人間だ。その『人間』が仮初とはいえ『神様』の性質を身の内に宿すことを試みたのだから、代償は必然。むしろ苦痛で終わればリーズナブルだとさえ笑えもする。
(ニセモノとはいえ、カミサマはカミサマだろ?)
物は試しで仕掛けた素殴りは、Silver Starを以てしても、間合いにさえ入れず切り捨てられた。
(身の程を知れってか? 生憎、百も承知だぜ)
右手で目元を、左手で心臓を押さえ、理嘉はぐっと息を吐く。これは戦争だ。死にそうになるなんて当たり前。だからこそ死なない為に、命を賭けた。
「……さて、と」
意思通りに動きたがらない四肢を叱咤して、理嘉は銀河をも駆けるバイク――Silver Starに跨り直す。
(少しはダメージ入れなきゃ……この苦痛の意味が無い)
『動く、か』
「ああ……動く、ぜっ」
真っ赤に染まった視界にデミウルゴスだけを捉え、理嘉はいきなりのフルスロットルで駆け出した。
偽神の注意力が自分に向いている今が、好機。
「終わらせてやっから、さ」
直進、からの急速方向転換。ジグザグ走行でなおもデミウルゴスの気を引き、先ほどは阻まれた懐の内に飛び込む間際。
「――ッ」
『な
、……!』
Silver Starを乗り捨て、デミウルゴスの剣を掻い潜り、沈みこませた身を伸ばしながら超高度の闇色を帯びた拳を突き出す。
「還りなよ――ニセモノのカミサマ」
まずは左拳、次いで右拳。立て続けにピンポイントを打つ双撃に、デミウルゴスの身を護る翼めく装甲は砕け落ちる。
大成功
🔵🔵🔵
丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
_
偽神細胞を躊躇いもなく打つ
──悔しいと思う
骸の海に送ることしか
俺は彼にしてやれることがない
然し彼に殺戮をさせるわけにはいかない
慈悲なき数多の祈りに追い詰められ
彼がこれ以上苦しむ前に
俺は彼に引導を渡す
それがどうしようもなく傲慢でエゴだと知っていて尚
俺は生まれつき感覚が鋭敏で
故に痛覚も漏れず鋭く
拒絶反応による苦痛が嵐のように襲いかかる
嫌な汗が滲み心臓が酷く苦しい
割れるような頭痛と目眩を抱えて尚
表に一欠片とも出さず
君影にて彼を縛る"鎖"を断ち斬る
彼に祈り縋る者よ
恨むなら俺を恨め
願うはデミウルゴスの安息
「──おやすみ」
●不惜身命
――足は止めない。
決めた通りに丸越・梓(零の魔王・f31127)はデミウルゴスとの間合いを詰めたかと思うと、また距離を取り。五秒の内に三度撃った弾丸で、己を補食しようと伸ばされた腕を牽制した。
『……なんだ、お前?』
デミウルゴスが発した不審に、梓は覚えがある。
偽神たる男は、偽神細胞を打ったはずの梓の『動き』をいぶかしんでいるのだ。
「俺か? 俺はただの刑事だ。もちろん、猟兵でもあるがな」
顔色ひとつ変えず、梓は論点をすり替える。デミウルゴスに気取らせるつもりは露ほどもない、現在進行形で身の内を強烈に灼く苦痛の一切を。
心臓はさっきから破裂寸前だ。頭痛も酷く、目の焦点すら上手く定まらない。
本当は、走るなんて以ての外だ。一歩を踏む度に、口から内臓がころげ出る幻が視える。
生まれつき感覚が鋭敏な梓が味わう苦痛は、まさに地獄。なれど冷や汗さえも何の変哲もない汗に見せかけ、梓は『いつも通り』を貫き通す。いっそ悲壮なまでに。
(俺は辛くない――ただ、悔しいだけだ)
歯を食いしばった途端、口の中に広がった鉄錆の味を嚥下して、梓はデミウルゴスを見る。
骸の海に送ってやることしかできないという現実が、梓は口惜しくて仕方ない。
(俺にもっと力があれば。彼にしてやれることは、もっとあったんじゃないか?)
自問したところで、答えはひとつ。この世界に『if』が存在しない以上、討つことがデミウルゴスにとって梓が出来る唯一の最善だ。
(彼がこれ以上苦しむ前に、引導を渡す)
どうしようもなく傲慢な考え方だと、梓自身が理解している。
だからこそ梓は、あらゆる苦痛を深く秘すのだ。デミウルゴスの為ではなく、自分のエゴの為に。傍目には、120%の不惜身命であろうとも。
『……まぁ、どうでもいいか』
「どうでもよくはないだろう?」
諦めに似た偽神の嘆息へ梓は否定を送り、そのまま一気に間合いへ踏み込む。
どうでもよくはない。デミウルゴスにもデミウルゴスの生き方があったはずだから――故に。
『っ、お前本当に――』
偽神の驚愕は皆まで聞かず、梓は抜いた妖刀を右から切り上げた。
(恨むなら、俺を恨め)
オブリビオンをオブリビオンたらしめる根源を断つ一刀に処すのは、デミウルゴスに縋り巣食う者たち。
「――おやすみ」
安息を願う一閃を振り抜く梓の頬には、一筋の血の涙が伝っていた。
大成功
🔵🔵🔵
菱川・彌三八
声が上げられねえ
気を飛ばす事すら許されねえ
只捩じ切れっちまいそうな、感じた事のねえ痛み
痛みか如何かもわからねえ
歯が砕けんばかりに食い縛り、何とか息を吸い、吐き出す
力ァ入れときゃ持っていかれねえと思ってンだ
こんねェな物に正しいも悪いもあるめえ、本能サ
後ァ屹度、動いた方がちっとマシな筈だ
砂を蹴り、音の速さで拳を、蹴りをくれてやる
只管に、痛みに抗う様に叩き込み続ける
お前ェの事なんざ知らねえが、存分にぶつけやがりゃあエエ
聴こえなくなる迄やるんだろう
来な、否、付き合いやがれ紛い物
喧嘩で千切れりゃ俺も本望サ
●弥栄
『いいぞ、いいぞ……もっと、もっとだ!!』
デミウルゴスが死にぞこないだとは思えぬ大音声で笑っている。そして比例するよう、動きには磨きがかかる。
――くそったれめ。
いつもの菱川・彌三八(彌栄・f12195)であったなら、そう啖呵の一つもきったであろう。だがぶちのめす鈍器と化した剣に吹っ飛ばされる彌三八には、砕けんばかりに歯を食いしばるしかなかった。
背は地面に打ち付けたはずなのに、感じる痛みは内側から裂けるようなもの。
堪らず漏れかけた苦痛を、彌三八は焼き切れる間際の理性を総動員して押し留める。息を吐くだけで喉が灼かれるのだ。
もう痛みなのか、熱なのか、もっと別の何かすら定かではない。四肢が、全身のあらゆる箇所が、捩じ切られそうな感覚がずっと続いている。気分は襤褸雑巾だ。
だが、思考するだけの余力は残されている。
(力ァ抜いてンじゃねえぜ、俺)
腕をつっかえ棒に起き上がり、追いかけて来た拳を後方に跳ねて躱す。
痛いものはどうしたって痛い。が、身も心も力んでさえいれば動くし、動かせる。むしろ動かなくなった瞬間、痛みさえ感じられなくなるのだ。
「こんねェな物に正しいも悪いもあるめえ、本能サ」
枯れた井戸の底から数滴の水を掬い上げる心地で彌三八も笑う。
それだけで頭蓋を撞木で突かれたかの如き苦痛を味わったが、知ったことかと腹を据える。
(此処まで来りゃあ、動いた方がちっとマシな筈ってナっ)
血を吸った砂を蹴り、目を爛々と輝かせるデミウルゴス目掛けて彌三八は駆け出す。
偽神だとか、如何とか。デミウルゴスの都合なぞ、彌三八にとっては『知ったこつじゃねぇ』だ。
「要は、存分にぶつけやがりゃあエエ。そうすら、聴こえなくなンだろ!」
『嗚呼、聴こえない! 聴こえない! 聴こえないとも!!』
快哉を吼えるデミウルゴスの拳が迸る。彌三八の力を喰らった拳だ。速度は迅雷。
まともに受けた彌三八の顔が歪む。出際に整えた髷は、とっくに落ち武者もかくやだ。しかし零距離の好機に彌三八は大地を強く踏み締める。
「すらァ、良かったナ! 付き合った甲斐があったってモンだぜ、紛い物!」
一息で丹田に気を溜め、鳳凰の加護を宿した拳を、下から突き上げるように彌三八は繰り出す。
無理な強行軍に筋という筋が悲鳴を上げる――けれど。
(喧嘩で千切れりゃ俺も本望サ)
喧嘩上等、まさに江戸の華。
『――ご、ぁ――……ッ』
痛烈なクロスカウンターを顎に貰ったデミウルゴスが宙を浮き、そのままずしりと地に沈んだ。
一度、僅かにデミウルゴスの指が動く。けれど再び彼が立ち上がることはなく。
「……逝っちまいやがったか……――」
偽神の何処か安堵したような最期の顔を見下ろして、彌三八も意識を手放した。
大成功
🔵🔵🔵