アポカリプス・ランページ⑮〜イメジャラブル・マイナス
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「アポカリプスヘルでの戦い、お疲れさま!」
オブリビオンの撃破、ルートの開拓と動く猟兵たちに声を掛けたのはポノ・エトランゼ(ウルのリコ・f00385)であった。
猟兵たちを見まわして、早速だけど、と言葉を続ける。
「今回皆さんの向かっていただきたいのはメンフィス灼熱草原よ。元々はミシシッピ川に面した、テネシー州の南西部に位置する大都市だったのだけれど、今はもうその面影は無いの。現在は地下も含めた全域が消えることのない『黒い炎』に覆われているわ」
黒い炎に覆われた死の草原。
それが今のメンフィスという地だ。
エジプトの地名に因み、そしてかつては奴隷市が開かれたとされる場所。
「どうして黒い炎に覆われているのかは分からないけれども、皆さんがその地を訪れれば、皆さんの知る『恐るべき敵の幻影』が実体を伴って現れるの」
オブリビオン・ストームによって変貌した世界。この地もまた例外ではない。
この幻影に対して強い恐怖心を持つ者の攻撃はすべてすり抜けてしまうが、恐怖を乗り越えた一撃ならば、実体ごと幻影を貫き一撃で霧消することができるようだ。
「それでも黒い炎は消えることはないのだけれど、少しでも薄めることができるのなら……恐るべき敵の幻影は、皆さん個人個人に寄るわね」
例えば、と考えながらポノが言う。
「自分自身、異形のモンスター、蛇蝎の如くあなたを嫌い憎む人――忘れないでね、皆さんが知る存在ならそれは過去の時間、すでに骸の海へと流れてしまっている時間よ。あなたにとってそれがどんなに恐い存在でも、あなたは今、この時間に在るのだから」
その恐怖はきっと乗り越えられるはず。
笑顔で励ますようにそう言って、ポノは猟兵たちを送り出すのだった。
ねこあじ
ほぼ個人戦になりますでしょうかね。
ねこあじです、よろしくお願いします。
プレイングボーナスは、『あなたの「恐るべき敵」を描写し、恐怖心を乗り越える』こととなっています。
猟兵の知る「恐るべき敵の幻影」が実体化しますので、どんな敵が出てきて、自身がどんな恐怖を感じたのかをプレイングで教えてくださいね。
幻影の喚起する恐怖を乗り越えない限り、攻撃は通じないようです。
なるべく頑張りますが、不採用も出るかと思います。
それではプレイングお待ちしています。
第1章 冒険
『恐るべき幻影』
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POW : 今の自分の力を信じ、かつての恐怖を乗り越える。
SPD : 幻影はあくまで幻影と自分に言い聞かせる。
WIZ : 自らの恐怖を一度受け入れてから、冷静に対処する。
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菫宮・理緒
わたしにとっての『恐るべき敵』がでてくるのか。
そうなるとたぶん……そうだね。そうなるよね。
出てきたのは、たくさんの普通の人で溢れる、街の景色。
いわゆる『日常』の風景。
だけど、わたしにはそれが怖かったんだよね。
話し声も視線も、自分を見て噂してるって思えちゃって、
それで外に出るのが怖くなったんだもん。
それでも……猟兵になってから、いろんな人に出会って、
守りたいものも大切な人もできたし、ほんのちょっとだけど自信もついたよ。
あなたたちが怖かったのは、昔のわたし。
人混みはまだまだ苦手だけど、いまでは必要以上に怖がったりしない。
みんなそんなにわたしを気にしてないって解ったからね。もちろんいい意味で!
そこはオブリビオン・ストームが現われなかったであろうとも思える、アポカリプスヘル。
それは喧騒のあるビル街。
人の声はざわざわとした音の海となり、時折、信号の音楽が鳴り響いている。
「――!」
雑踏の中で立ちすくんでいた菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)が肩に強い衝撃を受け、よろめいた。
「す、すみません……!」
声を出したのは自分。ぶつかった相手は忙しいのか、さっさと通り過ぎていく。礼儀ともいえる一声は虚しい残響となってしまった気がして、理緒は身を竦めた。
雑踏に立つ理緒を邪魔そうに人が避けていく。
透明人間でない限り、自身という障害物は認識されて回避される――物理的に生じる刹那の対人関係。
(「わたしにとっての『恐るべき敵
』…………。……そうだね。そうなるよね」)
LVTP-X3rd-vanをぎゅっと抱える。これは理緒が日々詰めこんだ『現実』だから。0と1の世界で構築された世界は取捨選択が出来る、理緒の世界。
見知らぬたくさんの人が刹那に交差し合う故に生じる情報は、一方的に理緒へとぶつかってくる。
理緒は『外』が怖かった。
(「話し声も視線も、自分を見て噂してるって思えちゃって……それで外に出るのが怖くなったんだもん」)
道の端に寄って理緒は少しずつ歩き出した。
懸命に、これは幻影なのだと言い聞かせるように。歩く――それは確かな理緒の現実だ。
待ち合わせをしているのか、周囲を見回す人と目が合った気がした。ぱっと理緒は顔を背けた。
(「それでも……猟兵になってから、いろんな人に出会って」)
たくさんの世界。たくさんの人。そして仲間とも呼べる人たちが出来た。そうして思い描くのは恋人のこと。タブレットの画像――フォルダの中には一緒に過ごした思い出の瞬間がたくさんあった。
ん。と頷いて、指先で画面をなぞる。
「わたしね、守りたいものも大切な人もできたし、ほんのちょっとだけど……自信もついたよ」
データとして蓄積した思い出、その初期の頃の自身へ教えてあげる。
学校の登下校。
友達と遊びに行く誰か。
誘いの言葉が自身を通り過ぎて、誰かへと向かっていった。――そのことにほっとする。
「あなたたちが怖かったのは、昔のわたし」
守りたいと思った勇気。
大切な人と過ごしたいと思った時間を得る。
理緒の歩みは自然と外へと向けられたのだ。
過去の恐怖を乗り越え、置いていくように彼女はまだまだ歩むのだ。
最も、人ごみはまだ苦手だけれども、今では必要以上に怖がったりはしない。
「レタッチ、アンド、ペースト」
画面に映った世界が虚実置換される。
かつての日常だった景色は、アポカリプスヘルの景色、黒い炎ある現実へと切り替わっていく。
毎日を生きるのが当たり前。
その人の歩みには頑張りがあったり、ただの義務であったり。
きっとみんないっぱいいっぱい。
いっぱいいっぱいだった理緒は、そのことに気付いた時、現実の世界で呼吸が出来たものだ。
「――みんなそんなにわたしを気にしてないって解ったからね。もちろんいい意味で。ね!」
理緒の恐るべき敵が淘汰され、アポカリプスヘル独特の乾いた空気がメンフィスに満ちたのだった。
ここは現実。少しずつ理緒が歩んで蓄積してきた現在。
行く先は未来。これから少しずつ、蓄積していく時間。
大成功
🔵🔵🔵
アハト・アリスズナンバー
私の恐るべき敵などいない。そう思いたいのですが……どうにもそういう訳にはいかないようですね。
立ち向かえと言うのなら、それが運命か。
どうやら、私が戦うのは――私自身。
私は私を恐れている?いいや違う。私が人形だからだ。
出てきた私は、問いかけるだろう。なぜそこまで戦う?人間として生きているふりをし続けても、誰も手を取ってなんてくれない。アリスを護るだけのオートマタと変わらない。
いいえ。私は違います。
今の私にも、人間として接してくれる人達がいる。彼らが証明してくれるのです――では、人形の私は共に壊れましょうか。
ユーベルコード起動。自爆して、人形としての私に別れを告げましょう。
黒炎に覆われた地をアハト・アリスズナンバー(8番目のアリス・f28285)が訪れる。
アリスズナンバーランスを手に、周囲を探る様に視線を巡らせた。
果たして、何が出てくるのだろうか――。
轟と猛る黒き炎が大きく揺れた。
「私の恐るべき敵などいない。――そう思いたいのですが……どうにもそういう訳にはいかないようですね」
吐いた呼気は安定している。
黒き炎から出てきた『相手』を目の当たりにしても、精神作用は正常だ。アハトは確かにここにいる。
(「立ち向かえと言うのなら、それが運命か」)
特殊な白い制服を舐めるように黒炎の残滓が流れていき、現れたのはアハト自身。光によって彩りが豊かにもなる銀の瞳も、風に揺れ動く柔らかな金の髪も、『彼女』はアハトだった。またはアリスズナンバー。
同じ槍が一閃され、一度弧を描いた長柄が穂先に風を絡め鋭い突きを繰り出す。
応じたアハトが身を捻るとともにランスを振るえば高き剣戟。
攻防による実力は互角。寧ろ自分自身であるがために手の内は読みやすく、読まれやすい。
踏み込めば、彼我の距離を刹那に作り、態勢新たに攻めへと転じる。
互いのアリスズナンバーランスが『アハト』を狩ろうとしていた。
「なぜそこまでして戦う?」
『彼女』はアハトへとそう問いかけた。
姿も声も、ある意味においてアハトがよく知るものだ。たくさん見てきたそれだ。起因あるが故の存在たち。
(「私は私を恐れている?
…………、いいや違う。私が人形だからだ」)
それが現実。アリスズナンバーとして、そう在れと構築された細胞の集合体。それがアハトだ。
この血飛沫も、上がる呼気も、起因はオリジナルのもの。けれども要因はアハトが起こしたもの。
「人間として生きているふりをし続けても、誰も手を取ってなんてくれない。アリスを護るだけのオートマタと変わらない」
光の差さない、まっさらな眸で『彼女』はそう言った。
一度目を眇めるアハト。
光の差す、まっすぐな眸がそこにはあった。
「いいえ。私は違います」
淡々としていたが、含まれる色は多彩なるものが敷かれている、そんな声。
「今の私にも、人間として接してくれる人達がいる。彼らが証明してくれるのです」
個としてアハトを見、応えるように歩んだアハトが重ねてきた煉瓦。その道。
振り向けば数多の時間が存在している。これは思い出というものだ。瞬間を蓄積し、そして今。
アハトは告げる。
「――では、人形の私は共に壊れましょうか」
それは新たな決意だった。
『彼女』の螺旋の如き一撃がアハトを貫き、胴へ捻りこまれた柄をアハトが掴む。
瞬間、オウカ・コードが起動され黒炎をも巻き込む爆発が起きた。
自爆し、衝撃にぶれた空間から――新たなランスが閃き、『彼女』の胸を貫く。
「……死ぬほど痛かったですよ。死にましたが……」
ぐっとランスを押し込み、囁くように告げる。経験した『死』は新たな彼女を興し、要因の再構築、更新を施す。
「さようなら、私」
静かなる別れを告げれば。
ランスを絡める黒い炎が空へ向かって立ち昇り、消失していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ゼロ・クロニクル
黒い炎の草原か、なんと面妖な。当然人が住むことなどできまいな…。む!炎の中から何か出てくるぞ。
現れたのはかつて忍の里を襲ったサイボーグ兵士、その幻影。惨劇の夜の、死の恐怖が生々しく蘇る。お前は…!体内の偽神細胞がざわつき、恐怖の代わりに沸き上がるのは激しい怒りだ。
里の皆を、わが主をよくも…!俺はもう、守られるだけの無力な仔犬ではない。今度は俺が皆を守るのだ!
【忍法・千変万化】。《化術》で忍者姿に変わり、血塗れの戦闘服姿で不敵に笑う幻影に向かって、グランマグナスで斬りかかる。
消え失せろ、幻よ!貴様が世界のどこにいようと、必ず見つけ出す。そして喉元に、牙を突き立ててくれようぞ!
黒炎に覆われた地を訪れるゼロ・クロニクル(賢い動物のストームブレイド・f24669)は、黒灰纏う忍犬故に場の色に馴染み、同化していた。
四脚と犬の爪が硬い大地を軽く打つ。
「なんと面妖な」
くん、と嗅げば辺り一帯焦げ臭い。かつてのモノたちを焼き払ったであろう炎は過去を纏い、更新されぬ時間を猛り盛らせている。
「当然人が住むことなどできまいな……」
もしかしたら生存者がいるかもしれないと思っていたゼロであったが、景色と匂いで一目瞭然なる結果へと至った。
その時、不穏な気配を感じ、む? と唸る。
視認する前にゼロの偽神細胞がざわつき、ぶわっと毛が逆立つ。
「お前は
…………!!」
逢魔時を呼び起こすような、橙色の瞳を猛らせたゼロが鋭い声を上げた。
黒い炎から現れたモノに見覚えがあった――飛び退き、警戒の姿勢をとるゼロ。
「っ」
現れたのは、かつて忍びの里を襲ったサイボーグ兵士。黒い炎のあちこちに過去の惨劇がちらついた。
――手練れの忍びが次々と殺されていく。
炎が起こり、里の一画では人の焼ける匂いに満ちた。
暴力的な兵士の攻撃に、人の血が地面に壁にと飛沫し、進みゆく惨劇を彩る。
あの時感じたのは恐怖。
今、この身、奮い立たせる偽神細胞が忘れるなとも言いたげに死の恐怖を感じた過去の自身を突きつけ、魂に刻まれた怒りが煽られる。
「里の皆を、わが主をよくも……!」
ゼロは吠えた。
「俺はもう、守られるだけの無力な仔犬ではない。今度は俺が皆を守るのだ!」
過去の惨劇の上に積まれていった、研鑚なる力。
進む時間に生き、積み上げた力のひとつひとつには静かなる怒りが込められていた――今、それが発揮されゆく前哨戦。
かつての恐怖が激しい怒りへと完全に変わった瞬間、忍法・千変万化が編まれ忍者姿となったゼロが太刀を抜き放ち飛び掛かった。
里の者たちの返り血だろう、血塗れの戦闘服姿のサイボーグ兵士へグランマグナスの一刀。
「消え失せろ、幻よ! 貴様が世界のどこにいようと、必ず見つけ出す」
叩き斬る一閃から刀を翻し、
「そして喉元に、牙を突き立ててくれようぞ!」
叫びと共に刃が突き立てられる。
苛烈な一撃が敵の硬い内部を貫き、次の瞬間、長刃を舐めるように黒炎が空へと立ち昇った。
時は進む。
故に、ゼロは鋭牙を研ぎ続けていくことを誓うのだった。
大成功
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マリア・ルート
私の知る恐るべき敵。
それはもちろん、私にクーデターなんか決意させたかつての王――私の父様。
国の害になるからって平気で民の処刑をした。そして宰相だった私の最高の友人まで殺した。その在り方は、私に叛逆を決意させるほどには恐ろしかった。幻影とはいえ今でも目の前にすると足が竦む……
王となるならば小を捨て大を取ることだと語るでしょうね。
ええ、その通りでしょう。
私のやっていることは自分と何ら変わりないと言うでしょう。
そうね、見方を変えればその通りだわ。
――だけど、だから何だというの?
あいにく、そういう言葉は聞き飽きた。
あんたみたいなイカれた覇道は私は歩むつもりない!
消えなさい、父様の幻影!(【指定UC】)
――手を煩わせるでない。
――始末せよ。
空から押さえつけるような朗々とした声。
分かっている、幻聴だ。マリア・ルート(紅の姫・f15057)は確認するように、一度空を見遣った。マリアの瞳よりも薄い色の空が広がっている。
地上を埋める黒き炎の揺らめきはかつての故郷を思い出させる。
揺らめく黒炎は重厚な帷帳の如く。ゆるりと払う手、その主は……。
「……父様……」
マリアの知る恐るべき敵は、マリアにクーデターなんかを決意させたかつての王。
彼の言葉に壊された現実が数多にあった。
たった一人の人間だというのに。父の前ではすべてが脆くもなり、儚くもなった。
国力の維持。それが父の行ってきた治世であった。
だが、蓋を開けた内情は、国の害になるからと平気で民を処刑する。
使えぬ家来は平気で殺し、新たな役職に就いたものは容易く替えられるその事実に怯えた。
(「……そして宰相だった私の最高の友人まで殺した」)
父様にとってその血は流れ朽ちてもいいものだった。
マリアにとってはかけがえのない人だったのに。
父の姿を前に、再び、静かなる眸を猛らせるマリア。握った拳は決意故に震えた。
けれども、足は竦む――父の在り方は、マリアに叛逆を決意させるほどに恐ろしかったのだ。
父の姿を前にして再び脆くなりそうな自身。
あの時、竦む足でどんな一歩を刻んだのか、この拳をどうやって振りあげたのか…………記憶がまざまざと蘇る。
『マリア』
父が呼んだ。
顔を上げる。かつて聞いた言葉が、明瞭な声で再びマリアに落とされる。
『王となるならば小を捨て大を取ることだ』
こくりと唾を飲みこんで、マリアは声を発そうとした。震えてはならない。
あの時の決意は既に……、
「ええ、父様、その通りでしょう。私のやっていることは自分と何ら変わりないと言うのでしょう?」
心に刻まれ、今へと至るまでに確かな構築を得た時間。
マリアは告げる。
「そうね、見方を変えればその通りだわ」
――だけど、だから何だというの?
友を失った。絶望と怒りが宿った。決意を得た。歩みを知った。それらを乗り越えた自由なる時間に、今、マリアは立っている。
父様、と呼ぶ声は宣告のものだ。
「あいにく、そういう言葉は聞き飽きた。あんたみたいなイカれた覇道を、私は歩むつもりはない!」
ルートライフルをかつての王へと向ける。
「消えなさい、父様の幻影!」
耳を劈く銃音が響き渡る。
破滅と復興を繰り返す世界にて、数多の銃弾が父を貫き、黒い炎を弾き散らす。
篠突く雨の如き連射が恐るべき敵――過去を骸の海へと還していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ペペル・トーン
私の可愛いお友達
貴方達の恐いものって何かしら
そう問いかければ
口々に言うのは私のこと
おねえちゃんがきずつくことよ
心がはなれてしまうことよ
君にきらわれることだよ
大きな魚がゆるりと姿を現して
牙をむくのは私のほう
いつかの海で話したお話の1つのように
食べられてしまいそうねと呟けば
返ってくるのは小さな悲鳴
そんな声も幼い貴方達に
悲しい想いはさせないわ
私の小さなお友達
決して離れたりはしないわ
約束したでしょう?
ずっと一緒にいましょうって
だから、信じて
私と貴方達を繋ぐ鎖は
恐い夢だって寄せ付けはしないの
透けて繋げぬ指先に
触れ合うように手伸ばせば
少しだけ心強くなるでしょう?と微笑んで
私達の絆の鎖で恐い夢をかき消すのよ
黒き炎が覆う大地に、焼け落ち尽きたはずの若葉が差す。
熱気に煽られた白緑に萌黄にとなびく柔らかな流麗の持ち主はペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)。
「ねえ、私の可愛いお友達」
フワフワとした少女は、フワフワとした声で問いかける。内緒ごとを言うようにやわらかく少しだけ潜めて。
「貴方達の恐いものって何かしら」
幼いフラスコチャイルドのゴーストたちは、それぞれが音を紡ぐ。
口々に言うのはペペルのことだ。
『おねえちゃんがきずつくことよ』
『心がはなれてしまうことよ』
『君にきらわれることだよ』
ペペルと同じようにやわらかな声たちは子守唄みたいにやさしい。連なって、重なった声たちは音楽のよう。
そうなの? とペペルがそう呟けば黒い炎のなかを泳ぐ大きな魚が現われた。
大きな体に大きな口。まるでサメみたい。
きゃあ、わあ、とゴーストたちの怯える声。
そんな彼らを背中に隠し、ペペルが大きな魚と対峙する。
『おねえちゃん……』
「いつかの海で話したお話の1つのように、食べられてしまいそうね」
ペペルがそう呟けば、
『やっ』
『ひゃ……』
小さな悲鳴たちが返ってくる。やだやだ、と首を振るうような気配を背に感じる。
少しずつ、大きな魚から後退りながらペペルは幼い彼らに声をかけた。
「貴方達に、悲しい想いはさせないわ」
させたくないの。
「私の小さなお友達。決して離れたりはしないわ」
約束したでしょう? ずっと一緒にいましょうって――。
告げれば嬉しそうに照れたようにゴーストたちがふわりふわりと動く。あえかな存在は約束が嬉しい。なくしたいのちが言葉で紡がれる。
「だから、信じて。私と貴方達を繋ぐ鎖は、恐い夢だって寄せ付けはしないの」
そうっと手を差し伸べれば、触れることのできない指先が添えられた。透けて繋げぬ小さなものだけれども、でもね、ほら、共に在る時間はこんなにもやさしい。
「少しだけ心強くなるでしょう?」
ペペルの微笑みに、小さなゴーストたちも微笑む。
これはたいせつのあかし。
鎖の姿で揺ぐ絆が大きな魚に伸びて恐い夢をかき消した。
一緒に過ごす時間は違ういのちを繋いで、共に未来へと刻まれていく。
大成功
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箒星・仄々
カタストロフなんて起こさせません
だから幻影なんかに負けるわけにはいきません
猟兵として様々な世界で沢山の方々と縁を結んできました
私の恐怖はきっとその方々の未来が消えてしまうこと
オブリビオンの跳梁でその世界が滅んでしまうこと
知己の一般人の皆さんが大勢で
絶望していたり恐怖していたり
泣きわめいていたり自暴自棄になっていたり
呆然としていたり
そんな姿で現れるのでしょう
深呼吸して対峙しましょう
竪琴を奏でて旋律に心を委ねれば
心は軽やかに
恐怖心は徐々に薄れていくでしょう
そのまま演奏を続ければ
私の心に呼応して皆さんに笑顔が戻り
そのまま炎の中に消えていくでしょう
…ええこんな未来は絶対に来ません
そのために私達がいます
過去の時間が受肉して生きていたものがオブリビオン化する。
時計盤をひっくり返したように、過去が生き、未来が骸の海へと沈んでいく。
ダークセイヴァー、UDCアース、アックス&ウィザーズ――たくさんの世界を見てきた箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)であったが、世界を滅亡に導く――即ち、世界を過去で埋め尽くすオブリビオンたちの存在を今やあちこちに感じることが出来た。
喰われていく世界。
アポカリプスヘルではオブリビオン・ストームという明瞭な変化の線が人々に掲示されているようなもの。
嘆き、苦しむ声が仄々の鼓膜を震わせる。
絶望しきった感情が周囲に満ちていた。
竪琴を奏で音楽で元気付けようとしても、慰めようとしても、届かない。
(「ああ……」)
これが私の恐怖なのだ、と悟る仄々。
猟兵として様々な世界でたくさんの人と縁を結んできた彼の歩み。
(「私の恐怖はきっとその方々の未来が消えてしまうこと……オブリビオンの跳梁でその世界が滅んでしまうこと」)
祭りのさなかの演奏に喜んでくれた少年たちや、クリスマスを一緒に過ごした子供たち。地元の美味しい屋台飯を出してくれた店主。一緒に仕事をしたUDC職員や、護衛を願った村の者。
知己の彼らが絶望し、恐怖して。
「泣かないでください……」
「助けに来ましたから……」
仄々がそう声を掛けて手を差し伸べても、彼らの姿が次々に骸の海――地面の澱みへと沈んでいく。
楽しかった時間は過去となり、骸の海からにじみ出る。その末路は今まで何度も骸の海へと還してきた仄々なら知っている。
カッツェンリートで鎮魂の曲を奏でても、『ここ』にはもう彼らが安心する未来への時間など残っていない。
虚しげな残響をそのままに仄々は弦から指先を離した。
若葉色の目を閉じて、ゆっくりと深呼吸。
(「カタストロフなんて起こさせません。だから幻影なんかに負けるわけにはいきません」)
再び開いた目は世界を確りと見渡すもの。
澱みの海へゆっくりと座った仄々を中心に波紋が広がる。
膝に立てた竪琴の弦を爪弾く。この音色に込めた仄々の想いを、直接、海へと渡らせる。
沈みそうだった彼らから波引くように、海が遠ざかっていった。
音色は静かに、穏やかに、少しずつテンポを上げて。
丁寧に曲を奏でる仄々は自身の指使いに集中している。流麗な音が仄々の心を落ち着かせる――同時に、周囲の皆も呼応したのか、絶望を潜めて落ち着きを取り戻す。
そして黒い炎の中に消えていく。
優しい音色が、凍り付くが如く鎮座する恐怖をあたためて平穏を与える。
強張っていた仄々の表情が和らげば、人々の表情に笑みが戻ってくる。
「……ええこんな未来は絶対に来ません……そのために私達がいるのですから」
様々な世界を渡って旅をした、たくさんの思い出が仄々の中にはある。
これからも重ねていく時間。
出会う人々には笑っていて欲しいし、そうしたら仄々も笑顔になれる。
アポカリプスヘルの人々はこれからも懸命に生きていくのだから――彼らのために、というケットシーの本能が仄々に勇気を与えてくれる。
「まずは穏やかな未来へと導けるよう、私達が駆けて行かないと、ですね」
演奏は辺りの黒い炎を落ち着かせるように。
締めの一音が辺りに響き渡る。
「だから、行ってきます」
そう言って仄々は立ち上がり、駆けていくのだった。
大成功
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