アポカリプス・ランページ⑦~鉄火場を越えろ
●ロンメル・ヴォーテックス
「――何? 敵影だと?」
その通信を受けた男は、戦車の上ですくっと立ち上がった。
「やれやれ……無能な兄妹共め。このロンメルに、本気で刺客を差し向けるとはな。異世界から来た猟兵などと言う与太話で、この私を騙せると思ったか」
戦車の上で、男は盛大な溜息を零した。
「よかろう。ならば戦争だ」
十中八九間違いないと思っている考えが間違いなどと、露程にも思ってないのだろう。
「戦車軍団よ。指令を与える。兄妹共が差し向けた刺客を、私の敵を、迎え撃て。砲弾を惜しむな。撃って撃って撃ちまくれ。完膚なきまでに敵を粉砕せよ」
そして、戦車の群れが動き出す。
●ロンメル機動陸軍基地へ
「どうやら、ヴォーテックス一族の兄妹仲は良いとは言えないのかな」
ルシル・フューラー(新宿魚苑の鮫魔王・f03676)が苦笑を浮かべてそう評したのは、ヴォーテックス一族のひとり、ロンメル・ヴォーテックスの事である。
他のヴォーテックス一族を無能と称し、自分の方が優れていると確信している。
とは言え、ただの自惚れ屋ではない。
軍人宰相の異名は伊達ではない。
「性格はどうあれ、軍団を指揮する能力に長けているのは間違いない。何しろ、彼の拠点である『ロンメル機動陸軍基地』の正体は、戦車軍団だからね」
基地と言いながらも特定の拠点があるわけではなく、バカみたいに大量の戦車からなる戦車軍団を指揮して、基地としているのだ。
大量の戦車を烏合の衆にせず、基地と呼べるほどの軍団に纏め上げる事が出来る、統率と指揮能力。それが、偉大な軍人の遺伝子から造られた人造人間とも、蘇った本人とも言われるロンメルの力。
「ロンメルは、戦車軍団の中心にいる」
幾つもの砲身に囲まれたそこが、最も指揮しやすく、そして最も安全な場所。
戦車軍団の砲撃を越えねば、ロンメルに近づく事も難しい。しかし、ロンメルを倒さなければ、戦車軍団が止まる筈もない。
「おまけに、彼は猟兵の事を『他のヴォーテックスの兄妹が自分に差し向けた刺客』だと思っていてね」
何故に?
「さあね? 兎に角、その勘違いのお陰で、それはもう容赦なく攻撃してくる」
実はロンメルは、兄妹の争いを制し、世界の王として君臨するなどと言う野望を胸に抱いているのだ。ならば、兄妹の刺客に対して容赦する筈がない。
「相当な堅物っぽいから、勘違いを正すのは、多分難しいよ。異世界から来た人間だと言っても、『そんなのいるわけないだろう』で一蹴されるだろうから」
おそらく、敵の話を聞く気などないタイプだろう。
「というわけで、頑張って戦車軍団に対抗するしかないと思って欲しい。大丈夫、戦車軍団を何とか越えられれば、ロンメル本人は強くないから」
そう言って、ルシルは鉄火場へ転移する道を開いた。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
この人の右腕の改造の意味って……もしかして飾り?
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『アポカリプス・ランページ』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
戦場としては『⑦ロンメル・ヴォーテックス』になります。
プレイングボーナスは、『戦車軍団に対処する』です。
対戦車に専念で大丈夫です。
敵のユーベルコードを見て頂ければわかるかと思いますが、ロンメルの攻撃は戦車軍団に頼っていますから。
戦車軍団の戦車は、所謂戦車タイプが多いです。
キャタピラがあって、砲台があって。
中には変わり種がいるかもしれません。いても良いです。そういう戦車と戦いたいと言う場合はどうぞ。
今回は9/5(日)~9/7(火)で書き切る予定です。
シナリオ成功数が直接戦況に影響しないので、そういう方針です。とは言え戦争シナリオですので、再送にならない範囲で書ける限りの採用になる予定です。7日当日だと採用しきれないかもしれません。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『ロンメル・ヴォーテックス』
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POW : 軍人宰相の指揮
自身が操縦する【戦車軍団】の【反応速度】と【耐久力】を増強する。
SPD : アンブッシュ・タクティクス
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【ロンメル率いる戦車軍団の搭載火器】の威力と攻撃回数が3倍になる。
WIZ : 戦場の掟
敵より【指揮する配下の数が多い】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
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マックス・アーキボルト
オブリビオンからの刺客って……これはまたユニークな考え方する人だな!
ここはとにかくロンメルまで続いている戦車軍団の数を減らす事に専念しよう
戦車を地形として利用、ジャンプで戦車間を飛び移りつつ、鎧砕きの徹甲魔力弾を砲身・履帯を射撃!
敵の砲弾の数もとんでもない量だろうからね、【加速魔法式】を使って敵の射撃をきっちり観察しつつ、余波を極力回避しよう!
貴方の兄妹さん達は貴方の仲間で僕らは貴方方に手を焼いてる敵です!なんでこんな事説明してんるだ僕!
……とにかく!頑迷な猜疑心で現実を見ていない貴方と、その軍団の砲撃なんて……僕には届かない!
藤・美雨
これだけの戦車を運用するとなると、経費とかとんでもなさそうだな……
でもあいつらなら、その経費や資源を人々から搾り取って確保するんだろうな
許せないな
潰してやろう
防護用の外套をしっかり装備してなるべく目立たないように
手数を増やして奇襲して、どんどん敵を減らしていく方向でいこう
刻印とヴォルテックエンジンをフル稼働で頑張るよ
接近した敵から片っ端で【怪力】で殴って蹴って潰していく
戦車本体は簡単に潰せなくても砲台や火器を潰していければ美味しいな
ひとつの場所に留まらないよう、集中放火を受けないように気を付けないと
仲間は攻撃しない
その分エンジンが軋むけど止まるものか
変な軍隊は今日でおしまい
バラバラになっちまえ
リリィ・アークレイズ
ハッ、戦車軍団相手に生身で突っ込めってか。冗談キツいぜ
木っ端微塵にされるのがオチだろ…ま、オレはほぼ生身じゃねーけど
さってと、そんじゃサイボーグちゃんの本領発揮ってことだな
当てられるモンなら当ててみな!【移動力を5倍 射程を半分】
テメーの戦車砲台は自分の足下狙えんのかよ【戦闘知識】
懐に入っちまえばこっちのモンだな【スライディング】
反応速度が上がろうが弾速は上がらねェ、チンタラしてっとオレに足下掬われるぜ?
ご自慢の戦車のキャタピラに黄色の手榴弾仕掛けちまうかもなァ?
ハロー、ダーリン!
本日は爆薬のご注文「ありったけ」をお届けにあがりやしたーっと!
…んじゃテメーも吹っ飛べ!釣りは要らねェ!!【爆撃】
マキナ・エクス
アドリブ・他猟兵との連携歓迎
ふむ、ここまで大量の戦車がいるとなかなか対処も難しそうだ。
しかしまあ、見事なまでに典型的な堅物将校だねえ。いやまあ割と生命の埒外の存在ではあるけどだからと言ってオブリビオンが猟兵を警戒しないのはいかがなものか…
それじゃあいろいろ試してみるか。
UC発動。敵戦車のコントロールを操作することにより奪って、同士討ちを誘発しようとしてみようか。
取りあえず操れるだけ操って、できるだけ相手に混乱を与えよう。
あとはパイルバンカーや対物拳銃で【零距離射撃】で攻撃していこう。
陽向・理玖
戦車の砲撃掻い潜ってかぁ…
なかなか熱い展開じゃん
分かってねぇみたいだし分からせてやろうじゃん
戦車ごときで止められると思うなよ
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波撒き散らしつつ残像纏い
狙い付ける間がなけりゃいくら撃っても当てらんねぇだろ
ダッシュで間合い詰めグラップル
フェイントで正面から当たると見せかけてスライディング
側面からキャタピラなぎ払い横転狙い
力一杯ぶん殴って部位破壊
UC起動
とにかく狙いは付けさせねぇ
反応と耐久上がったって
それ以上のスピードと手数で攻める
戦車って側面とか背面とかの攻撃に弱いんだろ?
調べたし聞いた事あるぜ
加速し空より急襲
砲台へし折り
後はあんただけだぜ
拳の乱れ撃ち
ゼロ・クロニクル
現れおったな、軍人宰相。自慢の戦車軍団がどれ程のものか、
見せてみろ!
戦車砲の破壊力と物量は脅威だが、一般的な戦車の範疇からは
逸脱しないようだな。犬にしては大柄なほうだが、戦車砲で
拙者の体躯を捉えられるか?思い切り姿勢を低くした状態で
ジグザグに《ダッシュ》して戦場を駆け抜け、《野生の勘》を
頼りに砲弾を掻い潜り前線部隊へ切り込む。
喰らえ、【偽神忍法・黒雷霆】!体内の偽神細胞を活性化させ、
戦場の敵味方を識別して広範囲に雷の《属性攻撃》をぶちかます。
戦車部隊が麻痺している隙にさらに敵陣の深くへ飛び込み、
狙うはロンメルの《暗殺》よ!
忍者手裏剣と暗器をありったけ《投擲》して、素早く離脱するぞ。
●六者六様、六韜が如く戦車を超える
この辺りにはかつて、軍の飛行場があったのだと言う。
だが今は、その残骸があるかどうかすら、確認する事は出来なかった。何も見えないのだ。周辺一帯が、戦車で埋め尽くされている。
兎に角、見渡す限りの、戦車、戦車、戦車。
「戦車って、1台いくらなんだろう」
そんなロンメルの戦車軍団を前に、藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)は、胸にふと浮かんだ疑問を口走っていた。
戦車軍団の総数は、とても数えきれない。ただ、少なくとも、100台や200台と言う事はないだろう。その程度では、文字通り桁が違う。千軍か、万軍か。
「これだけの戦車を運用するとなると、経費とかとんでもなさそうだな……」
それだけの数となれば、これがただの乗用車だとしても、恐ろしい金額になる。
「か、考えたくない……」
美雨の言葉で、思わず頭の中で計算してしまった金額のゼロの多さに、マックス・アーキボルト(ブラスハート・マクスウェル・f10252)が頭を抱えた。
『立派な一人暮らし』を志して質素倹約を心掛けているマックスの日々の生活費と比べてしまえば、あまりにも法外な金額過ぎる。
「この規模の軍団を維持するのも、軍人宰相の力の内、と言う事か。どれ程のものかと思っていたが……物量の脅威は認めざるを得ないな」
美雨の呟きと戦車の数から、ロンメルの力の片鱗を感じて、ゼロ・クロニクル(賢い動物のストームブレイド・f24669)は思わず息を呑む。
「この数の戦車軍団相手に、生身で突っ込めってか? ハッ、冗談キツいぜ」
口ではそう言いながら、リリィ・アークレイズ(SCARLET・f00397)の口元には、はっきりと笑みが浮かんでいた。
「確かに、ここまで大量の戦車がいると、なかなか対処も難しそうだ」
その横で、マキナ・エクス(物語の観客にしてハッピーエンド主義者・f33726)も小さな笑みを浮かべる。
「そう言いながら、2人とも笑ってるじゃん?」
「笑うしかねーだろ、こんな数」
陽向・理玖(夏疾風・f22773)にそれを指摘されれ、リリィは笑みを深めて返した。
かつて特殊部隊「Scarlet」の隊長を務めていた頃でも、これほどの大軍を、立った十数人で相手取った事など、あっただろうか。
「ふふっ。窮地から始まる物語なんて、面白くなりそうだろう?」
マキナは浮かべた笑みは変えないままに、首肯する。
「普通じゃ、木っ端微塵にされるのがオチだろ……」
リリィがぼやいた通り、普通の人間ならば、木っ端微塵か、良くて黒焦げと言ったところか。とても敵う相手ではない。
埒外の存在である猟兵でなければ、戦いにすらならない状況だ。
「それは良くない。私が観たいのはハッピーエンドだからね」
リリィの言葉に肩を竦めながら、マキナは理玖に視線を向けた。
「そういう君も、笑ってこそいないけど楽しそうじゃないか」
「あー、うん。楽しんでるって言うか……」
逆に問い返された理玖は、困った様に頭をかく。楽しいとは違う。ただ――。
「なかなか熱い展開じゃん、と思ってさ」
理玖が答えた直後、地面が揺れ出した。
視線を向ければ、戦車軍団が動き出している。
『歩兵だと? どの兄妹の刺客か知らんが、私も随分と舐められたものだな! 集中砲火で木っ端微塵にしてやれ!』
ロンメルの通信らしき声が、戦車軍団から漏れ響いて来る。
「オブリビオンからの刺客って……これはまたユニークな考え方する人だな!」
ロンメルには届かないと知りながら、マックスが思わず上げた声は、彼自身にしか聞こえていなかったかもしれない。
ドドドドドドンッ、と幾つもの砲撃が重なった響きが、空気を震わせていた。
まさに弾幕としか言いようがない砲弾の雨に、猟兵達も意識を切り替える。
「がっつくなよ。『待て』も出来ねェのか?」
更に笑みを深めたリリィの脚が、変形する。
「分かってねぇみたいだし、分からせてやろうじゃん」
理玖は指で弾いた虹色の龍珠を、胸中に滾る情熱と共に握り、龍の横顔を模したバックルに嵌め込んだ。
「そうだな。潰してやろう」
握る拳に力を込めた美雨の衝動に、体内のヴォルテックエンジンが反応した。
「まずは避けきってみせる! 加速魔法発動!」
マックスは、体内の無限魔心炉『マキナ・エンジン』から多大な魔力を発生させる。
そして、4人はほぼ同時に、砲弾の雨に向かって駆け出した。
「さってと、そんじゃサイボーグちゃんの本領発揮ってことだな」
脚部から何かを放出しながら、リリィが滑るように戦車に向かっていく。
Gluttony・Takedown。
身体の8割程が機械化されたサイボーグであるリリィの、近接格闘特化形態。特に脚部を変形させた今の状態は、近接特化形態の中でも、特に移動力を高めた姿。
代償に、今は体内に収納している銃火器の射程が減じているが、戦車相手に射程で挑む気など、リリィはさらさら無い。
「くそ、どこに行った……」
「ハロー、ダーリン!」
その動きにリリィを見失って狼狽える戦車の下から、リリィの声が聞こえた。
「戦車砲台じゃ、テメーで自分の足元は狙えねえだろ。予想通り、懐に入っちまえば、こっちのモンだな」
ほくそ笑むリリィの背に、他の戦車が砲塔を向けていた。だが、砲弾は放たれない。そこから撃てば、リリィごと戦車も撃つ事になるから。
「ハッ、チンタラしてっとオレに足下掬われるぜ?」
同士討ちを厭わなければと言う条件に攻めあぐねている内に、リリィは最初の戦車を離れ、別の戦車の下にスライディングで半ば潜り込んで、またすぐに抜け出していく。
キャタピラに巻き込まれれば、サイボーグの身体でもただでは済まない。そんなリスクを笑い飛ばして、リリィは戦車軍団の間を駆け回る。
何度も何度も繰り返して、リリィは戦車軍団から距離を取った。
「本日は爆薬のご注文『ありったけ』をお届けにあがりやしたーっと!」
ここぞとばかりに砲塔を向けてくる戦車軍団に、リリィはニヤリと笑みを向ける。
リリィはただ戦車の下に潜り込んでいたわけではない。起爆までの時間設定が可能な黄色い手榴弾『YELLOW LEMON』を、キャタピラや車体下部に仕込んでおいた。
その最初の起爆まで、あと数秒。
「お届け完了だ。どいつもこいつも、吹っ飛びやがれ! 釣りは要らねェ!!」
3――2――1。
立て続けにレモネードが爆発し、リリィの周囲の戦車軍団は沈黙した。
「フォームチェンジ! ライジングドラグーンッ!!」
ドラゴンドライバーから、七色に輝く眩い龍のオーラが理玖の身体に広がっていく。その光が全身を覆った瞬間、理玖の速さは音を超えた。
龍神翔――ライジングドラグーン。
衝撃波で砲弾を跳ね飛ばし、着弾の爆発も置き去りに駆ける。
「ど、どこだ? 何処に行った」
「狙い付ける間がなけりゃ、いくら撃っても当てらんねぇだろ!」
そう叫んだ言葉すら、戦車に聞こえた時には理玖はもうそこにいない。
ガガガガッと、戦車備え付けの自動小銃から弾丸も放たれるが、撃ち抜けるのは、虹色の残像ばかり。
「当たらない……!」
「落ち着け、素手で戦車に攻撃できる筈が……!」
速度の緩急をつけ飛び回る理玖を、戦車軍団は捉える事が出来ない。
「そっちこそ、戦車ごときで止められると思うなよ!」
動揺が漏れ聞こえる戦車軍団の1台に、理玖は上空から急襲する。急降下から叩き込んだ龍の体表の様に硬い龍掌の一撃で、戦車の砲台をへし折った。
「次!」
振り向きざまに、理玖は後ろの戦車に向かって飛び出した。
「戦車って側面とか背面とかの攻撃に弱いんだろ?」
今度は正面から当たると思わせておいて、理玖は体勢を低くしてスライディングで戦車の側面に回り込んでいた。
「これで、どうだ!」
薙ぎ払う拳の一撃で、キャタピラを構成する車輪と履帯を打ち砕く。残る履帯を両手で掴んで、力任せに引き剥がす。
「っらぁぁぁぁ!」
そして横にひっくり返った戦車の車体下部に、理玖は硬く握った拳を叩き込んだ。
美雨が掻い潜る砲弾も、ただではない筈だ。
そこら辺を掘れば、無尽蔵に出てくるようなお手軽なものではない筈だ。
「でもあいつらなら、その経費や資源を人々から搾り取って確保してきたんだろうな」
この世界は、そういう世界だ。
ヴォ―テックス一族は、そういう連中だ。
自ら額に汗して、燃料を発掘したり弾薬を作ったりする筈がない。
「許せないな」
その怒りに呼応したヴォルテックエンジンから、大量の電流が美雨の体を駆け巡る。
「一思いにやらせてくれるかい?」
身体から溢れんばかりの電流に瞳を輝かせ、美雨は地を蹴って跳んだ。
「せぇぇぇい!」
飛び乗った戦車の砲塔を掴んだ美雨の両手に、更なる力が籠もる。怪力で砲塔をぐにゃりと曲げて、捩じり切る。
捩じり切った砲塔の残骸を、美雨は別の戦車のキャタピラに突き立てた。破損して捲れ上がった履帯を掴んで、ベリベリッと力づくで引き剥がす。
「使わせてもらうよ!」
力に物を言わせて剥ぎ取った履帯を、美雨は今度は両手で持ってぶん回した。
別の戦車のキャタピラに履帯をぶつけて、互いに大破させる。動けなくなった戦車の砲塔を踏んで潰しながら飛び越えて、美雨は別の戦車へ向かっていく。
この一連の美雨の動きを、戦車軍団は全く捉え切れていなかった。
九の舞――ノナプル。
美雨の灰瞳が輝く間、戦車が一発の砲弾を撃つ間に九度の攻撃を下せる。
その分、体内ではヴォルテックエンジンが軋みを上げているが、美雨はその痛みと熱を無視して、戦車を壊し続ける。
「バラバラになっちまえ」
ロンメルの誇る戦車軍団を、今日でおしまいにする為に。
「まあ、砲弾の数もとんでもない量になるよね」
呟くマックスの目に映る世界は、少し前とは一変していた。
戦車の砲塔の先端から、砲弾がゆっくり飛び出す瞬間が、砲口の周りに広がる火薬の煙の輪までもが、はっきりと見える。
放たれた砲弾によって裂かれる、空気の流れも見える。
着弾した砲弾から広がる、爆炎も見える。
加速魔法式:防性――アクセルマジック・ドッジ。
自分自身に施した時間操作魔法によって知覚すら加速させたことで、マックスの世界はは全てがゆっくり動くスロー状態に見えるものになっていた。
この状態ならば、例え戦車に狙われても、砲弾が発射されるのを見てからでも十分に避ける事が出来る。
遠くから飛来する砲弾も、最小限の動きで躱す事が出来る。
爆発の余波すら、巻き込まれる前に離れる事が出来る。
更には、動く戦車を地形と利用する事も難しくない。
マックスはキャタピラを駆け上がって跳び上がると、左腕のスチームキャノンを、眼下のキャタピラに向けた。放たれた徹甲魔力弾が、履帯を砕き車輪を破壊する。
動きが止まった所に、マックスは更に砲身から徹甲魔力弾を撃ち込んだ。
機械化した身体、覚悟の力、魂の衝動、時間操作魔法。
種類と力は違えども、4人の戦車に対する対策の根底は近しいものだ。
即ち――速さ。
1人速いだけであったなら。戦車軍団が砲の数にものを言わせてきたなら。余波で制圧されていたかもしれない。だが4人なら、話は別だ。
古の武将の3本の矢の話よりも多い。それに、速さ以外の矢も放たれている。
「その戦車砲で、拙者の体躯を捉えられるか?」
他の猟兵の動きに合わせて、ゼロも戦車軍団へ向けて駆け出していた。先行した4人ほどの速さはない。だが、ゼロには他にない利点があった。
犬であると言う事。
犬にしては大柄な体躯を持つゼロだが、それでも思いきり体勢を低くすれば、戦車砲が直接狙える高さではなくなる。人の身では、この高さを維持するのは意識しなければ難しいだろうが、ゼロにはこれが標準だ。
「放物線射撃か? それもさせぬよ!」
戦車と戦車の間をジグザグに駆け抜ける事で、ゼロは離れた戦車にも己に照準を合わせる暇を与えない。
「喰らえ――降魔の一矢なり!」
そしてゼロは走りながら、体内の偽神細胞を活性化させた。
忍法・黒雷霆。
ゼロの身体から周囲に放たれた黒い稲妻は、他の猟兵の身体は素通りして、戦車軍団だけを撃ち抜いていく。
「戦車である以上、雷撃を防げなかろう!」
ゼロの放った黒い稲妻を浴びた戦車は、砲塔を旋回させる事も満足にできなくなっていた。ゼロの稲妻は一撃で戦車を破壊するような威力があるものではないが、戦車の電気系統を麻痺させ、動きを鈍らせる。同時に装甲の強度も落とし、他の猟兵の攻撃を通し易くしてもいた。
「皆、流石だね」
楽し気に呟くマキナの立っている場所は、砲撃が始まる前から変わっていなかった。
「それじゃあ、私もいろいろ試してみるか」
動き回る5人とは対照的に、マキナはその場で両腕を広げる。
「物語は進む、たとえどんな困難があろうと、君たちはそれを乗り越える」
白いドレスの袖口から放つは、魔術糸『アリアドネ』。
「なればこそ、私はその旅路の一助とならん」
マキナが放ったアリアドネは緩々と戦場に広がっていき、まだ無事な戦車軍団の数体の内部へ、するりと入り込んでいく。
「さてと……こんな感じかな?」
マキナが白磁めいた指を動かすと、戦車軍団に異変が起きた。
「お、おい。どこを狙う気だ!」
「コントロールが効かない……!」
戦車同士が、互いに砲塔を向け合っている。
マキナが、そうさせたのだ。
開幕・進め、主演たる登場人物達よ――アニグマ・アポ・メーカネース・テオス。
人形を操る為に編まれた魔術糸によって、周囲にある物品を操る業。機械を動力とするものならば、マキナに操れないものはない。
「こうして、ああして……よし、行けそうだな。操れるだけ操ってやるとするか」
左右の五指をバラバラに動かし糸を手繰り、マキナは敵戦車を外から操作する。数回も糸を手繰ればもう、どこをどう動かせば良いのか、掴んでいた。
「さて。それでは、派手に撃ち合って貰おうか」
そして、砲塔を向け合った戦車同士が、同時に砲弾を放つ。
「どういう事だ!」
「何故コントロールが効かない!?」
何をされたのかわからず、混乱に陥る戦車軍団。
「ええい! 貴様ら、何をしている!」
そこに響く、苛立たし気な怒号。
「このロンメルの戦車軍団が、歩兵如きに何だこの体たらくは!」
業を煮やしたロンメルが、中央からノコノコ出てきていた。
「愚かな兄妹にしては、厄介な刺客を送り込んでくれたものだな!」
「違うんですけど!」
戦車の上で歯噛みするロンメルに、マックスが思わず否定の声を上げる。
「貴方の兄妹さん達は、貴方の仲間で! 僕らは貴方方に手を焼いてる敵です! なんでこんな事説明してんるだ僕!」
「愚かな兄妹が仲間だと! 虫唾が走る事を言うな!」
言わずにいられなかったマックスだが、ロンメルに聞く耳はなかった。
「……そうか! 読めたぞ! さては貴様、情報操作に潜り込んで来たな!」
「だから違うって……ああもう、ユニークな考え方する人だな!」
勘違いをどんどん深めるロンメルに、マックスももう、説得を諦めた。
「……とにかく! 頑迷な猜疑心で現実を見ていない貴方と、その軍団の砲撃なんて……僕達には届かない!」
「ほざいたな。ならば試してやろう。戦車軍団! そこの小僧を――」
「おぉぉっ!」
ロンメルが指示を出そうとした瞬間、気づいた理玖がすっ飛んできた。
「ぶふぉぉぁぁっ!」
理玖の拳がロンメルの頬を叩く。そのたった一発で、ロンメルは戦車数十台分はあろう距離を、あっさりと吹っ飛ばされた。
「……まじか……」
「む。暗殺する暇がないではないか」
連打するつもりで反対の拳を握っていた理玖と、手裏剣を投げてやろうと忍び寄っていたゼロが、半ば呆然とロンメルが吹っ飛んでいった方を見やる。
だが、ロンメルが再び向かってくる気配は、全くなかった。
「見事なまでに典型的な堅物将校だねえ。オブリビオンが、猟兵を猟兵として警戒しないのは、如何なものかと思うが……」
さすがにマキナも、これには苦笑を浮かべて呟いていた。
大成功
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ガイ・レックウ
【POW】で判定
『戦車が相手か…ならば!』
スターインパルスに乗り、【オーラ防御】で防御を固めつつ、【戦闘知識】で見極めて、パルスマシンガンで燃料タンクかエンジン部を狙っての【制圧射撃】とキャバリアソードでのキャタピラを狙った、【鎧砕き】を叩き込んでいくぜ!
ある程度切り込めたらハイペリオンランチャーとユーベルコード【天砕く紅の流星群】でなぎ払ってやる
●戦車斬り
「戦車が相手か。敵が『兵器』に頼るのなら、こちらも『兵器』を使う事を躊躇う理由はないな」
ガイ・レックウ(明日切り開く流浪人・f01997)は体高5mほどの人型兵器『スターインパルス』に乗り込んだ。
パルスマシンガン『試製電磁機関砲1型』から放たれた弾丸が、戦車の装甲を容易く撃ち抜いていく。
だが、穴だらけになりながらも、一部の戦車が砲弾で反撃してきた。
「……流石に、燃料タンクもエンジン部も、表からは撃たれにくい所にあるか」
ガイもただ闇雲に撃ったわけではない。だが、戦車とて撃ち合いを想定して作られた兵器だ。機体の心臓部と言える機構は、装甲で守られている。
「ならば!」
ガイは砲弾を撃ち落とすと、パルスマシンガンを捨てる。
代わりに構えたのは、二振りの剣。
特式機甲剣『シラヌイ』とRXP00『特式機甲斬艦刀・業火』を構えた『スターインパルス』の背中で、バーニアが火を噴いた。
特空機1型である『スターインパルス』の機動性は、戦車を遥かに上回る。二振りの剣が、戦車のキャタピラを斬り砕いていく。
その光景を離れて見ていたロンメルは、戦車の上で歯噛みしていた。
(「私の知らない兵器だと!? まさか、まさか、本当に奴らは異世界から来たとでもいうのか!」)
揺らぎかけた自分の考えを呑み込むロンメルが見る前で、ガイは『スターインパルス』の両腕を空に掲げさせていた。
「全てを砕け、紅の流星!! 天より降り注ぎ、わが敵を滅せよ!!」
天砕く紅の流星群――クラッシュメント・シューティングスター。
ガイの周囲の空に、幾つもの炎塊が生まれた。
「上から、だと……」
「よ、避けろ。旋回……いや、後退を」
キャタピラを斬られた戦車は言うまでもなく、他の戦車も動けない戦車が邪魔で、ガイの周りの戦車軍団は回避行動に移れない。
そして、真紅の炎の流星群が、空より降り注いだ。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
…考えるんですよ。このロンメル、『私たち』みたいな存在がいると知ったら、どう思うのかを。
まあ、置いておきましょうか。
戦車軍団対策ですがー…ええ、『高速飛翔する翼の生えた虎』に対処できるんですかね?
というわけで、【それは雷のように】を使用しますねー。
ちなみに、弱い雷といえども生命力吸収と通電呪詛つけたので、中にいたらお察しですよー。
戦車、金属だと伺いましたしー?
まあ、さすがにロンメルの前では止まりますけど。彼には爪撃ですから。
戦車に狙われたとして、また高速飛翔しますしねー。それだと、ロンメル巻き込まれますし?
ルドラ・ヴォルテクス
●アドリブ連携OKです
『戦車戦用意、準備願います』
メーガナーダがやりやすいか。
速攻で方をつける!
【メーガナーダ】
リミッター解除、限界突破!
発雷!墜ちろ震電!暴れ狂え!
敵陣に強力な電磁パルスとして雷撃を撃ち出し、電子機器による制御と通信を妨害する。
混乱しているうちに、震電で戦車の履帯、足場を破壊して体勢を崩し、機構剣タービュランスの嵐で横転させて無力化。
後は、無力化した戦車の燃料ごと爆破、砂塵を巻き上げて目眩しを仕掛けつつ、戦車や砲弾をUCの高速移動で回避しつつ、ロンメルの戦車へ吶喊、そしてもう一つの機構剣エレクトロキュートによる戦車内部への放電を直接流し込んで終わりにしてやるか。
九頭竜・聖
これだけの数の鉄の獣を自在に率いるとなれば、その力と自信も偽りではないのでございましょうね
ですが、己の考えのみで世界を計ることしかできぬのならば付け入る場所もございましょう
その曇った眼にとくと偉大なる御方の姿をお刻みくださいませ……
おいでませ、おいでませ……
此度、【祈り】と共に御呼び致しますは鳴神様、雷を率いる偉大なる龍神様
鉄の獣は雷で動き、雷に弱いからくりで動いているのだと聞いております
そして、御方の放つ威光の前では悪しきモノがどれだけ居ようと関係ございませぬ
広がり、動き続ける雷の嵐をもってすべての鉄の獣を呑み込みましょう……
●雷鬼、雷獣、雷龍、三雷狂闘
「これだけの数の鉄の獣……敵ながら、壮観でございます」
「これが戦車軍団ですかー……成程、大した火力ではありますね」
見渡す限りにずらりと続く戦車軍団と、その数の砲が奏でる砲火の響きに、九頭竜・聖(九頭龍の贄・f28061)と馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の口から、感嘆のの言葉が漏れていた。
戦車軍団をどうにかしなければ、ロンメルを狙うのは難しい――そう聞いた言葉の意味を、思い知らされる。
「これほどの規模を自在に率いるとなれば、その将の力と自信も偽りではないのでございましょうね」
目の前の数から、聖はロンメルの力を感じ取る。
「そうですねぇ。ですが、私は考えてしまうんですよ」
聖の言葉に頷きながら、義透が再び口を開く。
「このロンメル、『私たち』みたいな存在がいると知ったら、どう思うのかを」
――異世界から来る人間などいるわけない。
ロンメルが疑わないその考えが崩れた時、どうなるのか。今、表に出ている義透の人格は、それが少し気になっていた。
「わたくしめには、わかりかねます」
その言葉に、聖はゆるゆると頭を振る。
「ですが、己の考えのみで世界を計ることしかできぬのならば、付け入る場所もございましょう」
「いずれにせよ、速攻で方をつけるべきだろう」
聖が続けた言葉に、腕を組んで戦車軍団を見やっていたルドラ・ヴォルテクス(終末の剣“嵐闘雷武“・f25181)が、口を開いた。
敵は、万軍と称しても大袈裟にはならなさそうな程の数の戦車軍団。
これほどの数の差に対処するには、半端な力では足りない。
一撃で戦車を無力し得る、破壊力が要る。
(「メーガナーダがやりやすいか」)
使うべき力を決めたルドラの身体を、紫色の光が覆いだす。
「リミッター解除、限界突破!」
バチバチと爆ぜるそれは、紫電。
「哮り、吼えろ!」
紫電を激しく瞬かせ、ルドラが喉を震わせる。その叫びに呼応して、纏う紫電は猛獣の様に暴れ狂いて、紫雷と言うべきものへと変わる。
咆哮する雷雲――メーガナーダ。
「おや。似た考えの方がいましたか」
ルドラの身体を覆う雷を見て、義透がのほほんと呟く。
その指先で、パチッと小さな電気が爆ぜた。
「我らの怒りを」
パチッ、パチッ。
最初は、静電気程度の小さな電流。瞬きする間に電流はどんどん膨れ上がり、全身を雷光に覆われた義透が、膝をつく。
その背に昇った雷が、翼を象った。
最後にバヂンッと大きく爆ぜて、電撃が消える。その時にはもう、義透の姿は人ではなく、翼持つ虎と変じていた。
それは義透を成す4人の怒りの現れ。
――それは雷のように。
「おいでませ、おいでませ」
祈るように両手を組んで、目を閉じた聖が唱える。
「偉大なる黄の龍神様」
唱えるそれは詠唱と言うよりは、祝詞の様であった。
偉大なる龍神を御呼びする言葉。
「御身の威光で此の地を照らし給え」
聖の祈りに応え、龍が顕現する。
雷を率いる偉大なる龍神。明滅する雷光を纏いし九頭龍が六の首。
――陸之龍・鳴神。
――オォォォォォォォッ!
戦場に、ルドラが咆哮を上げる。
その獣の如き咆哮に、雷が吹き荒れた。
「なんだ、今の声は!」
「わからん。モニターがやられて、外の様子が……!」
ルドラが放った先制の雷撃は、電磁パルスの様に拡散し、周囲の戦車の内部にある電気系統を狂わせた。
「発雷! 墜ちろ震電! 暴れ狂え!」
敵がその混乱から立ち直る暇を与えず、ルドラは掌から雷を放つ。
「ガァァァァァッ!」
ルドラの雄叫びに呼応して、紫雷は震電と変わる。雷鳴を轟かせ、稲光を瞬かせ。迸る雷撃が地面を抉り、戦車のキャタピラをも吹き飛ばす。
「るぁあぁぁぁぁ!」
更にルドラは風の機構剣タービュランスを引き抜いた。刃が纏う暴風を放ち、キャタピラを失ったばかりの戦車を横転させる。
ルドラと言う名は、異なる世界の伝説で、悪鬼や戦鬼と呼ばれる存在の名である。
獣の如き咆哮と共に放つ雷撃で戦車を大破させ、風で戦車ひっくり返す。今のルドラの姿は、雷を操り雷を殺した鬼のようだ。
人の身で鬼の力を得る事に、代償がない筈もない。纏う紫電は、ルドラの身体に残る命を削り続ける。
「ゴァァァァァッ!」
だが――そんな身体を蝕む力を躊躇わず、闘争心の赴くままに、ルドラが吠える。
鬼が吠えれば、雷鳴も吠える。放たれた震電に燃料タンクを撃ち抜かれ、雷光収まらぬ内に、戦車が爆発した轟音が響き渡る。
雷を降らし風を暴れさせ砂塵を巻き上げて。ルドラの通った後には、破壊された戦車の残骸だけが残されていた。
「『高速飛翔する翼の生えた虎』に対処できるんですかね?」
バサリと翼を羽ばたかせ、翼を持つ虎となった義透が空に舞い上がる。
直後、その姿が消えた。
雷霆が如き目にも止まらぬ速度で空を駆け抜け、戦車軍団に雷を降らせていく。
「こっちも雷か!」
「だめだ、照準が合わせられない……!」
降り注ぐ雷を浴びる戦車軍団に、焦りが広がる。
ロンメルの指揮で性能が上がった戦車でも、音より速く飛ぶ義透を狙って撃つ事は流石に不可能であった。
「だがあの鬼に比べれば、この虎の雷は弱い……何とか撃ち落とすぞ!」
だが、戦車軍団は未だ諦めてはいない。義透の雷は、ルドラのそれに比べると、弱い雷だと思っているから。
それが、大きな間違いと知らずに。
「確かにその通りなんですけどねー」
戦車軍団の声に、義透は虎の姿のまま、のほほんと呟いた。
そもそも、雷の性質が異なる。
義透の放つ雷は、破壊を目的としたものではない。呪術的な力の雷なのだ。
「この姿、窮奇なんですけどねー。まあ、この世界じゃ知らないですかね」
義透が呟いたその名は、別の世界の古代の神話にて、悪神とも風神とも天神とも謂われる存在。その再現たる雷を装甲越しでも浴びたものが、ただで済むはずがない。
義透が通った後に、動く戦車は残っていなかった。
『どうした! 何故答えぬ!』
ロンメルの通信が響くが、答える声は誰も上げられない。呪詛が込められた雷は、戦車の装甲を走り抜け、届いた者の生命力を奪い取っていた。
死をもたらす雷を、義透は空から撒き散らす。
「鳴神様。お願い致します」
祈る手を崩さないまま、聖は龍神に願う。
「彼の者の曇った眼にとくと偉大なる御方の姿をお刻みくださいませ……」
――よかろう。
聖の願いに応えて、鳴神様が空に吠える。長い髭がバチバチと帯電し、稲妻が戦車軍団に放たれた。
――
稲妻はどんどんと膨張し、雷の嵐となって、戦車軍団の中を吹き荒れていく。
聖の呼んだ鳴神様は、戦車よりも大きい。
だが、鳴神様の下の戦車は、鳴神様に反撃しようとはしなかった。
既に出来なくなっているのだ。
「鉄の獣は雷で動き、雷に弱いからくりで動いているのだと聞いております」
聖がそう認識した通り、戦車にはいくつもの電気機器が組み込まれている。砲塔を動かす機構や、キャタピラを動かす機構に。
「御方の放つ威光の前では悪しきモノがどれだけ居ようと関係ございませぬ」
それらの機器が鳴神の力で無力化されてしまえば、戦車などただの鉄の箱だ。
「広がり、動き続ける鳴神様の雷の嵐をもって、すべての鉄の獣を呑み込みましょう」
聖が告げた言葉の通りに、バチバチと爆ぜる雷は鳴神の意のままに膨れ上がり、飲み込んだ戦車軍団を無力化していく。
それは、むかしむかしのいつかの事。
ここではない世界のどこかの湖に、九つの首を持つ大きな龍がいたと言う。龍は近くの村々から龍神様と崇められ、人々に反映と守護を与えると告げた。勿論、龍神の加護がただで得られる筈もない。代償は、年に一人の生贄。若く美しい娘の。
――今も昔も。
聖はその魂に至るまで、龍神様のもの。
龍神召喚の代償は、聖自身。長く使い過ぎれば命を落とす、諸刃の術。
されど聖は己の命が尽きる寸前まで、祈りを捧げ、鳴神をこの地に留め続けた。
聖が鳴神を留められなくなり、三つ重なっていた雷撃の一角が、途絶える。
その頃には、3人の周りの戦車は大半が沈黙していた。
故に、見えた。
どこからか吹っ飛ばされてきたロンメルが、戦車の上で身を起こすのが。
「くっ……よくもこの私を殴ってくれたな!」
歯ぎしりするロンメルの前に、義透が降り立ち前脚を振り上げる。
「うおぉっ!」
ロンメルが咄嗟に上げた改造した右腕に、虎の爪痕が刻まれる。しかし義透は、それ以上の追撃はせずに空に舞い戻っていった。
「グルァァァァァッ!」
響く咆哮。
雷鳴を響かせ、ルドラが投じた雷の機構剣エレクトロキュートが、ロンメルの立つ戦車に突き刺さる。バチバチと音を立てて、電流が戦車の内部を駆け巡る。
「こ、これは拙い!」
慌てて別の戦車に飛び移ろうとしたロンメルだが、直後に起きた爆発によって再び吹っ飛ばされた。
大成功
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ティオレンシア・シーディア
あらあら、随分とまあ舐め腐ってくれてるわねぇ。楽でいいけど。
それじゃ、「戦車最大の敵」でお相手しましょうか。
ラグ(幻影)・摩利支天印(陽炎)・帝釈天印(雷)・エオロー(結界)で○オーラ防御のステルス○迷彩傾斜装甲を展開、ミッドナイトレースに○騎乗してテイクオフ。対空砲くらいはあるでしょうけど、盲撃ちじゃ当たってあげられないわぁ。戦車相手に○鎧無視攻撃のトップアタックは基本よねぇ?
ある程度蹴散らしたら本命ねぇ。
――準えるのはシュトゥーカの魔王、ソ連人民最大の敵。即ち、●轢殺・先駆による急降下○爆撃。生憎ジェリコの喇叭は持ち合わせていないけれど。
…言ったでしょう?「戦車最大の敵で相手をする」って。
リーヴァルディ・カーライル
…戦車の弱点なんて今も昔も大して変わらない
だから、この術が有効なんだけど…とにかく派手なのよね、これ
…まあ、私の好みでは無いけれど致し方無い
好悪の情で判断を誤るなどそれこそ愚将のすることだもの
…彼らには精々、制空権を確保せずに集まった愚を呪ってもらいましょうか
限界突破した血の魔力を溜めUCを発動し全長17mの魔竜に変身を行い、
吸血鬼の弱点の陽光は防具改造を施した「影精霊装」の闇に紛れる力で竜体を覆い遮断
マッハ9の超音速空中機動で戦車軍団の攻撃を避けながら上空を飛翔し、
生命力を吸収する闇属性攻撃の真紅のブレスを乱れ撃ちして戦車軍団をなぎ払うわ
…指揮を取る暇は与えない。消えなさい、この世界から…
●空を車駆け、血の翼で羽撃いて
「……本当に……戦車だけなのね」
「随分とまあ舐め腐ってくれてるわねぇ。楽でいいけど」
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の冷めたような声に、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の甘ったるい声が続く。
2人の視線は、同じ方を向いていた。
万軍と呼べそうな程に戦車が犇めく戦場においても、敵戦力がない空間。
空である。
「あなたも上から?」
「そうね……ええ。戦車の弱点なんて、今も昔も大して変わらないし」
ティオレンシアに訊ねられ、リーヴァルディは曖昧に頷く。
「だから、この術が有効な筈なんだけど……」
「だけど?」
リーヴァルディの物言いに僅かな躊躇を感じて、ティオレンシアは続きを促す。
(「……とにかく派手なのよね」)
声に出すのは躊躇われて、リーヴァルディは胸中で呟いた。
リーヴァルディの頭の中に浮かんでいるその術は、これまでに習得した数多くの術の中でも、とりわけ派手なものなのだ。
(「正直、好みでは無いのよね……」)
「……先に行くわね」
無言の中にリーヴァルディの逡巡を感じて、ティオレンシアはそれ以上聞き出そうとはせずに、バイクに跨った。
「それじゃ、『戦車最大の敵』でお相手しましょうか」
バイクの何処が『戦車最大の敵』になり得るのか。その理由は、すぐに判明した。
走り出してすぐに、その車輪は大地を離れ、空を走り出したのだ。
ミッドナイトレース。別の世界で手に入れたバイク型UFOで、ティオレンシアは空に駆け昇っていった。
「……致し方ないわね」
一人になった地上で、リーヴァルディが溜息交じりに呟く。
結局、どれだけ考えても、考えているその術以上に、戦車軍団を空から相手取るのに適した術は思いつかなかった。
「まあ、私の好みでは無いけれど、好悪の情で判断を誤るなど、それこそ愚将のすることだもの」
敢えて声に出す事で僅かに残る躊躇を振り払い、リーヴァルディは目を閉じた。
深く深く、息を吸い込む。呼吸と共に、身体の中に魔力を溜めて、高める。リーヴァルディの中にある、吸血鬼の魔力を。
「……彼らには精々、制空権を確保せずに集まった愚を呪ってもらいましょうか」
ただひたすらに、リーヴァルディは魔力を溜める。
限界を超えて、人の形の器に収まりきらなくなるまで。
「……限定解放」
臨界を超えた魔力を制御して、リーヴァルディのは血の色の光と変えて背中の2ヶ所から解放した。
「真紅の鱗、鮮血の躯体、悪しき光を羽撃かせ、現れ出でよ血の魔竜」
ザァッと左右に広がった光が、鮮血色の光翼となる。同じ色の魔力が、リーヴァルディの全身を包んで、その姿を変えていく。
限定解放・血の魔竜――リミテッド・ブラッドドラゴン。
竜体変化の魔法で、全長17mの真紅の魔竜と変じたリーヴァルディは、鮮血の色に輝く翼を広げ、空へと舞い上がった。
「あら? 凄い魔力ね」
先に空に上がったティオレンシアが、その魔力に思わず振り向く。
地上を見れば、真紅の輝きが煌々としていた。
「……本物、ね」
呟いて、ティオレンシアはハンドルから離した片手で、胸のポケットから黄金のペンを取り出した。
「ラグ、エオロー」
そのペンで、空中に描くは2つのルーン。1字で様々な意味を持つルーン文字だが、それぞれ水を象徴するものと、ヘラジカを象徴するものと知られるものだ。
「摩利支天印、帝釈天印」
続けて、ティオレンシアは全く違う系統の字を空中に描く。こちらも1字で、神仏を表すもの。陽炎の摩利支天、雷の帝釈天。また、どちらも戦勝祈願の対象としても崇められる神仏でもある。
体系の異なる術の字を描いたペンが、ただのペンである筈がない。
ペンの形をした鉱物生命体、ゴールドシーン。祈りに応え、願いを叶える力を持つその存在は、魔道の知識はあれど才が絶無なティオレンシアに、2つの体系の魔術を使わせる事を可能にしていた。
「これで大丈夫ねぇ。対空砲くらいはあるでしょうけど、盲撃ちじゃ当たってあげられないわぁ」
重ねた術の効果でオーラを纏わせた迷彩装甲を展開しておいて、ティオレンシアはゴールドシーンをしまい、グレネードを片手に構える。
「戦車相手にトップアタックは基本よねぇ?」
そして、空から焼夷弾が戦車軍団へ降ちていく。
(「陽光は……問題ないわね」)
竜体変化と同時に拡大した闇の精霊衣『影精霊装』によって、太陽の光が遮断されている事を確かめ、魔竜となったリーヴァルディは光翼を羽撃かせる。
風を切る音すら置き去りに、リーヴァルディが空を飛ぶ。
「くっ……なんだあの速度は。速過ぎて狙えないだと!?」
巨体からは想像しにくい程の速度に、戦車軍団を指揮するロンメルも思わず呻く。戦車の砲弾も音速を超えるが、それで音速を越えて飛ぶリーヴァルディを撃てるかと言えば、話は別だ。
狙いを定められなければ、闇雲に撃っても早々当たるものではない。
そして魔竜となったリーヴァルディの力は、ただ速く飛ぶだけである筈がない。
真紅の魔竜が開いた顎に、真紅の光が膨れ上がる。昏い光は、闇の力を持つ真紅のブレスとなって、空から戦車軍団に降り注いだ。
「な、んだ、と……なんだ、この火力は!」
たった一息で、数体の戦車が消し飛んだのを見て、ロンメルが言葉を失う。
「……指揮を取る暇は与えない。消えなさい、この世界から……」
そんな事には構わず、リーヴァルディは再び魔竜の顎を開く。
空から真紅のブレスが放たれる度に、戦車軍団が薙ぎ払われていった。
「凄い火力。戦車は任せて良さそうねぇ」
真紅のブレスの合間を縫って、ティオレンシアが空を駆け下りていく。
「目標捕捉、進路良好。さぁ、ブッ飛ばすわよぉ?」
準えるは、シュトゥーカの魔王と呼ばれたパイロット。この世界に、彼の者はいなかったのかもしれないが、ティオレンシアが思う『戦車最大の敵』だ。
「空からバイクだと?」
気づいて見上げたロンメルが、訝しむように眉を顰める。
「馬鹿め。あんな角度では、仮に攻撃できても自分も墜落するぞ」
そうと気づいたロンメルは、威嚇に過ぎないと踏んで――すぐに、顔色を変えた。
「お、おい……まさか、本気か!?」
正気を疑うロンメルに、急降下したティオレンシアが爆撃を浴びせる。
「ぐぉぉっっ!?」
爆炎に呑まれながら、ロンメルは見た。
予想した通りに、ティオレンシアが地面に激突し――そのまま、何事もなかったかの様に空に舞い戻っていくのを。
轢殺・先駆――ガンパレード・ヴァンガード。
どれほどの勢いで急降下して地面に激突しようとも、ダメージを受けずにミッドナイトレースで空を駆ける業で。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラブリー・ラビットクロー
暁光
皆も駆けつけてくれた
リッサとはとりと一緒ならヴォーテックスなんて恐くない
セカイの皆待ってて
朝日は必ず昇るから
凄い吹雪
はとりのお陰なんだ?
マザーは皆をしっかりサポートするんだぞ
【サポートを開始します。情報は専用の無線通信で味方と共有されます】
リッサのスマホには敵の弱点や誘爆ポイントが座標で送信される筈
はとりの剣には吹雪でも場所が解るように位置情報や手薄な所がきっと送信されるなん
なららぶは雪に紛れて敵の戦車を盗んじゃお
リッサ凄いな
ありがとのん!
よしマザー!戦車を奪ったぞ
【ケーブルの接続を確認。タンクシステムをハックしました。全車輌を掌握しました。友軍の道を開きます】
今だ皆
セカイを取り返すんだ!
柊・はとり
【暁光】
先輩も先輩でむず痒くなるし…リサ姐って呼ぶぞ
ラブリーとマザーも頼りにしてる
UC使用
利き手と逆の右腕を代償に猛吹雪を巻き起こす
寒さが原因で強国が敗戦した例は数ある
進軍不能になる程の豪雪と
芯まで凍る極寒の世界とくと味わえ
俺達は希望の朝日
この程度の粉雪じゃ誰も歩みを止めない
痛みには継戦能力で耐え
マザーが教えてくれた手薄な位置からロンメルに迫る
邪魔な奴は斬り伏せ突破
味方の位置情報はコキュートスに受信させ
二人が攻め易いよう局所的に天候を自動操作
お前も偶にはマザーぐらい役に立てよな
主力部隊から悲鳴が上がったら
俺はロンメルへダッシュ
よお裸の王様
寒くね?
氷の魔力を全て剣へ収束
二人の分まで叩きつけてやる
ヴァシリッサ・フロレスク
【暁光】
頼りにしてンよ
はとりチャン、らぶチャン♪
ッと。コッチのセカイじゃソッチのが場数も何も上だッたね?失礼、はとりセンパイ♪
らぶチャンは……イイね?
Phew♪コイツァ魂消た、流石センパイだ。
冬将軍対砂漠の狐ッてか
裸の王様に『戦場の霧』ッてのを死ぬ程見せてやろうじゃないか
ラブリーのUCで敵の弱点を情報収集
ン?らぶチャンそれに乗りたいッて?
怪力でハッチを破壊
敵の統制と視界を奪う柊の猛吹雪に便乗
UC発動
猛吹雪を環境耐性で凌ぎ、砲火を見切りつつ本丸を固める主力部隊へ早業で一気に切り込み
接敵後は弱点へスヴァローグの零距離射撃で片端から蹂躙
ロンメルへの道を拓く
さァ、センパイ?裸の王様に真実を教えてやりな
●暁光――明日のセカイの朝日の為に
「コイツァ……すげえ数だね」
幾つもの死線を超えてきたヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)をしても、ロンメルの戦車軍団には思わず息を呑んでいた。
既に遠く数ヶ所で爆音が響いている。
他の猟兵達との戦端が開かれているのに、ヴァシリッサ達の目の前にはまだ、数え切れない程の戦車がいるのだ。
「頼りにしてンよ? はとりチャン、らぶチャン♪」
「やめろ」
「任せるなん!」
それでも笑って告げたヴァシリッサに、左右から憮然とした声と、やる気に満ちた声が同時に返って来た。
憮然とした声の方に視線を向ければ、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)が、いつも通りの目つきの悪さで立っていた。
いや。いつもより、僅かに眉根が寄っているか。
「っと。コッチのセカイじゃソッチのが場数も何も上だッたね?」
そんなはとりの視線を笑顔で受け流し、ヴァシリッサはニマニマと笑って続ける。
「失礼、はとりセンパイ♪」
「先輩も先輩でむず痒くなるし……やめないと、リサ姐って呼ぶぞ」
「いいよ、センパイ」
「いいのかよ!」
ますます眉根を寄せて寄せて声を上げるはとりは置いておいて、ヴァシリッサは反対側に視線を向けた。
「らぶチャンは……イイね?」
「いいよ? だって、らぶはらぶなのだ」
ラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)はヴァシリッサの問いに、二つ返事で頷いた。そのまま、ひょこんと身体を傾けて、ヴァシリッサごしにはとりに視線を向ける。
「はとりの事は、らぶもセンパイって呼んだ方がいいのん?」
「……なんでだ」
ラブリーにもそう訊ねられては、はとりも黙るしかなかった。
2対1では、勝ち目がない。
「もう好きにしろ……そんな事より、さっさと片付けるぞ」
気を取り直し、ついでに眼鏡の傾きも直して、はとりは戦車軍団に視線を向ける。
「……右腕だな」
呟いて、はとりは左腕で氷の大剣を掲げた。
「だから犯人は死体を凍らせて切断した」
はとりの右腕、肩口に、突如氷が発生した。氷は瞬く間に指先まで覆いつくして――完全に凍り付いたはとりの右腕が、砕け散る。
『代償を確認しました。第一の殺人『人形山荘』、発動します』
掲げた氷の大剣、疑神兵器たる『コキュートスの水槽』のAIが告げた瞬間、その切っ先に生じた雪と氷が渦を巻く。
「寒さが原因で強国が敗戦した例は数ある。進軍不能になる程の豪雪と、芯まで凍る極寒の世界とくと味わえ」
はとりが『コキュートスの水槽』を振り下ろせば、雪と氷の渦は猛吹雪となって吹き荒れて、戦車軍団を飲み込んでいく。
「――コイツァ魂消た、流石センパイだ。冬将軍対砂漠の狐ッてか」
Phew♪と口笛を鳴らし、ヴァシリッサが僅かに目を剥く。
こんな猛吹雪を瞬時に巻き起こす事も、その為に自らの片腕を犠牲にする事も、ヴァシリッサには出来ない。
身体を失っても再生するデッドマンのはとりでなければ。
「凄い吹雪。はと――センパイのお陰なんだ?」
「そうだぞ。センパイすげえよな」
ラブリーとヴァシリッサのやり取りに、はとりの左肩がぴくりと跳ねた。何かこう、むず痒いものでも感じているのかもしれない。
「よし、らぶもがんばるのだ。マザーは皆をしっかりサポートするんだぞ」
『サポートを開始します』
ラブリーの声に『ビッグマザー』からAIが機械音声で答える。
『情報は専用の無線通信で味方と共有されます』
「リッサのスマホには、敵の弱点や誘爆ポイントが座標で送信される筈! はとりの剣には、吹雪でも場所が解るように位置情報や手薄な所がきっと送信されるなん」
淡々と告げるマザーの機械音声に続いて、ラブリーは2人に、設定した具体的な通信内容を大声で伝える。
「さァて、裸の王様に『戦場の霧』ッてのを死ぬ程見せてやろうじゃないか」
ラブリーの言った通りに送信されてきた情報に目を通すと、ヴァシリッサは未だ収まらぬ猛吹雪の中に飛び込んだ。
吹き荒れる雪と氷の冷たさに身体の熱が冷めるのを感じながら、ヴァシリッサはその冷たさを利用して、己の感覚を研ぎ澄ませた。
この猛吹雪の中では、戦車軍団の機動力も索敵能力は大きく落ちている。少しくらい足を止めた所で、ヴァシリッサが見つかる事はおそらくない。
一方、ヴァシリッサは、ラブリーからの情報のお陰で、戦車の位置が手に取るように分かる。位置が判れば、吹雪の中でも目を凝らして見る事は可能だ。
「――ついて来れるかい?」
一隻眼狼・裏鬼門――アンノウン・キリング・フィールド。
吹雪越しに見た戦車の真横まで、ヴァシリッサは真っすぐに駆け抜けた。キャタピラが雪に埋まりスタックしかけている戦車に飛び乗る。
突き付けるのは、身の丈ほどもある射突杭『スヴァローグ』。
「爆轟は勘弁しといてやるよ」
ヴァシリッサがニィっと笑って告げた瞬間、打ち出された杭が戦車の装甲をぶち抜いて燃料タンクを貫く風穴を開ける。
「……やってるな」
その鈍い音は、はとりの耳にも届いていた。
「コキュートス。2人が攻め易いようにしろ」
『了解しました』
はとりの言葉に応え、コキュートスの水槽はマザーから定期的に送信されてくる位置情報を元に、吹雪の操作を始める。
こうでもしなければ、この猛吹雪は敵味方の区別などない。
「お前ももう少し融通を利かせろと言うか……偶にはマザーぐらい役に立てよな」
『その検索結果は見つかりませんでした』
はとりのぼやきに、淡々とした機械音声が返って来た。
(「セカイの皆待ってて。朝日は必ず昇るから」)
決意を胸に、ラブリーも雪を踏みしめ吹雪の中を歩いている。
「お? 吹雪が……センパイかな?」
吹雪の勢いと寒さが和らいだのを感じて、ラブリーが空を仰いだ。
『助かります。これでバッテリー耐久時間が伸びました』
ビッグマザーから、そんな音声も発せられた。
サポートアプリによる支援は、当然だが、スマートフォン『ビッグマザー』のバッテリー残量がなくなれば終わる。
そういう意味でも、この天候操作はありがたい。
そしてラブリーは、ビッグマザーの指示通りに雪に紛れながら進み、雪に嵌っている戦車の上によじ登る。敵の戦車を、盗む気だ。
「ふぬぬぬ~! この……!」
だが戦車のハッチは、ラブリーが手をかけてもびくともしなかった。内側からロックが掛かっているのかもしれない。
「ン?らぶチャンどしたの?」
しかし、そこに吹雪の中を超高速で駆け回っていたヴァシリッサが、折良く同じ戦車に飛び乗って来た。
「開かない……」
「それに乗りたいッて?」
肩を落とすラブリーの仕草で目的を察して、ヴァシリッサは変わって戦車のハッチに手をかける。
「よっと」
バキンッ。
しれっと怪力を発揮したヴァシリッサによって、ハッチは軽々とこじ開けられた。ついでに中に飛び込んで、手早く制圧しておく。
「いいよ、ラブちゃん」
「リッサ凄いな! ありがとのん!」
ヴァシリッサと入れ替わりに戦車に飛び込んだラブリーは、ビッグマザーのケーブルを戦車のコンソールに接続する。
中に入ってしまえば、こちらのものだ。
「よしマザー! 戦車を奪ったぞ」
『ケーブルの接続を確認。タンクシステムをハックします。……完了しました。全車輌を掌握しました。友軍の道を開きます』
ラブリーはマザーがものの数秒で掌握した戦車を操作し、その砲塔を回転させる。
「リッサもセンパイも、凄いな」
ふたりと一緒なら、ヴォ―テックスなんて恐くない。
ラブリーの手に落ちた戦車から、戦車軍団に向けて砲弾が次々と放たれる。マザーの位置情報支援もあり、砲弾はひとつと外れる事無く、戦車を沈黙させていく。
ロンメルを目指す上で障害となる主力戦車だけを、確実に。
そして――ロンメルまでの道が拓いた。
「さァ、センパイ? 裸の王様に真実を教えてやりな」
「セカイを取り返すんだ!」
ひっくり返した戦車にもたれかかるヴァシリッサと、通信機越しのラブリーの声に背中を押されて、はとりがその道を進む。
「よお裸の王様、寒くね?」
「ききき、貴様! 貴様のせいか、この吹雪は! どど、どの兄妹の刺客だ!」
流石に寒いのだろう。声を震わせ、ロンメルは戦車に昇って来たはとりに言い放つ。
「ま、まあ、どの兄妹の刺客でもいい。私は――撤退する!」
かと思えば、あっさりと背を向ける。
「貴様とて、この吹雪の中では満足に動けまい!」
「あー……」
だったらどうしてここまで来れたんだ、と喉元まででかかった言葉を呑み込んで、はとりはかわりに氷の魔力をコキュートスの水槽の切っ先に収束させる。
「俺達は希望の朝日。この程度の粉雪じゃ誰も歩みを止めない」
「ぬぉぉぉぉぉっ!?」
再び放たれた吹雪に飲み込まれ、ロンメルは吹っ飛ばされていった。
大成功
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待鳥・鎬
戦車軍団の中心、最も指揮しやすい場所
そこまで居所が分かっているなら問題ないね
光学【迷彩】効果のある「山吹」を纏ってUC発動、上空へ
どんなに指揮が優れていようと、兵器の性能が良かろうと、人と人の伝達速度には限界がある
杞柳の力なら、30秒もあれば10km以上は飛べるからね
君が一言指令を発する間に、僕はそこから消え失せる
まぁ、そもそも視認出来ればの話だけど
何ならどれくらい【限界突破】出来るか試してみようか
全力で飛ぶよ、杞柳
戦車達の頭を越えて、一息に敵将のもとへ
現代戦に余計な会話は無用
勢いを付けた斬撃で操縦席ごと【切断】する
……この戦争で薬匙とは思えないくらい血塗れになったなぁ
少し疲れたけど、頑張ろう
●空を穿つ
「杞柳、頼むよ」
有翼の蛇の使い魔『杞柳』をその身に宿し、待鳥・鎬(草径の探究者・f25865)はふわりと空に舞い上がった。
ゆっくりとした上昇だが、眼下の戦車のどれも、鎬に気づいた様子はなかった。
被衣『山吹』が持つ“隠れ蓑”の力によって、鎬の姿は敵に見えていないのだ。
それでも音で気づかれぬよう、柔らかな羽毛を持つ翼を静かに羽搏かせ、鎬は硝煙で煙たい空を飛び回る。
戦車軍団の中心。
最も指揮しやすい場所。
ロンメルの居所は、そこまで判っているのだ。戦車の上に立つ姿を見つけ出すのは、そう難しいことではない筈だった。
「――見つけた」
ひとり飛び続けた空で、鎬は口の端に笑みを浮かべた。
戦車軍団の心臓たる、ロンメルを。
「……なんか、結構やられてる?」
軍服の所々が焦げていて、頭髪が凍って見えるのは気のせいだろうか。
「まあいいや」
ロンメルの身に何が起きたのか考えるのをやめて、鎬は背中の翼を広げる。
「全力で『飛ぶ』よ、杞柳」
宿した使い魔に呼び掛けて、鎬は大きく力強く、羽撃いた。
例えその音を眼下の戦車に気取られても、構わない。
こうなればもう、隠れる必要もない。
どんなに指揮が優れていようと、機器の性能が良かろうと、人と人の伝達速度には限界がある。
「君達が僕に気づいたとて、一言を発する間に、僕はそこから消え失せる。まぁ、そもそも視認出来ればの話だけど」
呟いた言葉も、羽搏いた音すらも置き去りに。
通信されたとて、それが届くよりも速く。
戦車に気づかれても、砲弾よりも速く。
鎬は空を飛んで、飛んで、飛び抜ける。戦車の上に立つロンメルのもとへ、限界速度を更に超えた最高速で、真っすぐに。
――穿牙。
超音速飛行の勢いそのままに、鎬は無言で手にした霊刀を横薙ぎに振るった。
斬りつけると同時に舞い降りた鎬から、ハラリと被衣がめくれて落ちる。
「な――き、貴様! どこから現れ――」
鎬が突然現れたように見えたロンメルが声を上げた直後、その右側で、ゴトンッと重たい何かが落ちたような音がした。
「――」
落ちたのは、機械化されたロンメルの右腕。
「何故私の腕がぁぁっ!?」
一瞬遅れて開いた傷口から噴き出した鮮血で、その痛みで。ロンメルはやっと自分が切られていた事に気づいた。
「斬られ……?」
身体から流れ出た血溜まりの上に、血反吐を吐いたロンメルが膝をつく。
「こんな、こんな。この私が……」
ロンメルが倒れると同時に、鎬が身体を起こした。
(「……この戦争で、薬匙とは思えないくらい血塗れになったなぁ」)
鼻につく血の匂いに、本体の薬匙を思いながら、鎬は再び舞い上がる。
少し疲れた――けれどまだ。休むのは、戦争が終わってからだ。
大成功
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