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青い叛逆

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●或る少女の叫び
 ――こんな村、なくなってしまえばいい。
 青い瞳の少女は、笑顔ばかりの村人らを硝子窓越しに白く眺める。
 嘘に塗れた村。
 大人たちの誰も彼もが、自分の事しか考えていない村。
 父と母を、何処かへ追いやってしまった村。
「……白々しい」
 棘に塗れた声を吐き出し、少女は忌々しげに爪を噛む。その白い手首を黒衣の長い袖が覆っていた。

●安寧を求め
 あのね、あのね、きいてくれる?
 裾を引いてはことりと首を傾げ、また引いては傾げを繰り返し、裸足の少女――ウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)は集めた猟兵たちへ語り始める。
 ダークセイヴァーにある小さな村の一つが、オブリビオンに滅ぼされる未来を視た、と。
「村のひとたちも、おかしいって思ってたみたい」
 異変は察していたのだろう。
 いつも餌を強請りにきていた小鳥が来なくなり、家畜が消えて。
 ついには狩に出た男が一人、戻らなかった。
 じわじわと追いつめられ、掌で弄ばれる感覚に、村人たちは戦慄した。
 断崖と挟まれた細道を抜けた先にある、隠れ里のようなこぢんまりとした村だ。きっとここだけは大丈夫だと、信じていたから尚更に。
「だからね。みんなで村とおわかれをするの」
 村人たちは、安住の地であった村を捨てる決意をした。
 けれど既にオブリビオンは村人たちの動向を把握している。だからウトラは村人たちの終焉を視たのだ。
「みんななら、うまく逃がしてあげられるかなって」
 村人たちの数は百に満たない。まとまって動ける人数ではあるが、痕跡を自分たちで消し去るのは難しい。また、荷物を抱えた老人や子供たちの足は、どうしたって遅れてしまう。
 村の入り口の反対側、山を上へ上へと貫く細い洞穴を一日以内で抜けきれば一先ず安心な筈だ。自分の優位を信じるオブリビオンは、自分の手を掻い潜り、村人たちがそれを成し遂げられるとは思っていないだろうから。
「でも、これは『多分』なの。ほかにひとつ、いやな予感」
 その予感が何かは、ウトラも分からなかった。
 ただ、危機に瀕しているのに。顔を合わせると笑顔になっていた村の大人達は、ウトラに奇妙な違和を残した。
「みんな、まえむきなのかな? へいき、へいき。どうにかなるって」
 ――何ともならないと判断したから、逃げようとしているのに?
「ふしぎ」
 疑問の呟きは短く、尾を引かない。
 それより猟兵たちを送り出す事の方が、ウトラには大事だった。


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 今回は『大人の仮面』に叛逆する物語を一つ。

●シナリオ傾向
 心情系。
 テーマは『大人の妥協・保身の是非』。
 厭うもよし、理解を示すもよし。

●シナリオの流れ
 第1章では、村人たちの逃亡の手助けをお願いします。
 上手く逃がす事が出来たなら、村人たちとの間に信頼関係が築けるでしょう。同時に、村の違和感を肌で感じることが出来るかもしれません。
 第2章は第1章の結果を受けての情報収集。より具体的な情報が得られれば得られる程、第3章に待つボスとの戦いで『救い』の道が開ける可能性が高まります。

●その他
 途中参加も歓迎です。
 その場合、前の章で作り上げた状況や情報は引き継げているものとして扱います。
 第3章を一番厚くしたいキモチ。

 シナリオの進行速度、締め切り等の連絡は『マスターページ』にて随時行います。
 ご確認の上、プレイングをお送り頂けますと幸いです。

 いずれの行動にも、『正解』も『間違い』もありません。
 届いたプレイングを元に、多くの大人たちと、一人の少女の物語を紡いでいく予定です。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 冒険 『ついにこの里を捨てる時が』

POW   :    重い荷物を持つなど、スムーズに移動できるように手助けする。

SPD   :    敵の斥候を捕らえたり罠を仕掛けたりして、追っ手を妨害する

WIZ   :    移動の痕跡を消すなど、敵から発見される危険を取り除く。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●笑顔
 まだ華奢な手足の子供が、自分の半分はあろうかという麻袋を抱えている。
 今まで持った事がないのだろう重さに、滑らかな頬が見る間に赤くなっていく。
「パパ、もって?」
 高い声が、少し先を歩く男を呼ぶ。しかし振り返った男は申し訳なげに眉を寄せるだけ。叶うなら、幼子ごと抱え上げてやりたいだろう。しかし彼の両腕は、背中は、腹は、もっともっと多くの荷物で埋まっている。
「母さんはどうした?」
 何か替わってやれるものはないだろうか? 苦渋の果てに、男は妻の姿を探す。
「ママはわすれものをとりにいった。おにいちゃんもいっしょ」
「……そうか」
 ふぅ、と重いため息が男の口を突いて出る。
 出立は急がなくてはならない。だが、この地には二度と戻れないのだ。心残りは減らしたいに決まっている。理解するが故、男は妻を非難する言葉をみつけられず、かつ幼子を楽にしてやる術も持たない。
 無事に逃げ果せれば、逃げ果せれば。
 あの長い洞窟を越えて――。
 集合は村の広場。万が一を考え、幾つかのグループに分かれる予定ではあるが、その組み分けもまだだ。
「お互い、大変ですな」
 角を一つ折れたところで、馴染みの顔と遭遇する。いや、100名にも満たぬ村だ。全員の顔と名前を皆が知っている。
「そちらは荷物は少ないんですね」
 尋ねながら、男は笑った。
「うちは年寄りばかりですからな」
 答えながら、馴染みの顔も笑う。
「そういや、村の外に獣の気配があるらしいよ」
「雨も降ったばかりだし、足跡がずっとついちゃうんじゃないかしら?」
 広場が近付くにつれ、様々な情報が入って来る。語る誰もが、顔は笑っていた。
ロー・オーヴェル
【WIZ】

村人と接するときは
フランクに愛想よく「大丈夫だ、俺に任せておけ」と
安心感と信頼感を得られるよう接す


天国に行く確実な方法は
地獄に行く手段を熟知する事と
以前読んだ本にも書いてあった

その論法の元に≪追跡≫を活用
村人の移動の痕跡を消すのと同時に
「この痕跡が残っていたら相手が誤認して追うだろう」と
偽の痕跡を意図的に作成し村人の安全を確保する事を試みる

その際はわざとらしくならぬ様
人の手が加えられた痕跡にならぬ様細心の注意を払う


さてこの連中は超前向きで楽観的なのか
笑わんと恐怖で狂う程の極限状態なのか

とはいえ推測には限界がある
自分の目で見ないと何とも言えん

「……面倒な真実じゃないといいんだがね」


ニケ・セアリチオ
【WIZ】中心に

出立の前、彼女が懸念されていた予感
それが何か、気になるけれど……
いえ、いいえ
村を移動するなんて、大変な事ですもの
まずは、皆さんの助けになる事を考えなくちゃ

こんにちは、こんにちは
私達、別のところからやってきたの
この近辺は危ないと聞いてはいたのだけれど……
もしかして、皆さんで移動されるのかしら?
道行く人と助け合いなさい、と昔に教わったの
微力ながら、私達もお手伝いして宜しいかしら?

私、お掃除は得意なの
足跡を消すなら任せてね
キレイに隠してしまいます

万一獣に見つかってしまったら
UCで目隠しをして
避難の時間を稼ぎましょう

力に自信はないけれど
あの子の荷物を持ってあげるくらいは、できるかしら?



●出逢い
 怯むことなく、真っ直ぐ。視線を合わせてきた金の瞳に、痩せた女は顔を強張らせてたじろいだ。
(「こういう顔も出来るのね?」)
 輪郭さえ掴めない不安な『予感』が、ニケ・セアリチオ(幸せのハト・f02710)の脳裏を掠める。だが『幸福の鳩』を両面に刻む金貨を胸元に輝かすニケは、己が思考を即座に封じて太陽のように笑った。
「こんにちは、こんにちは」
 弾む大きな声に、痩せた女の目が丸くなる。晒された無防備な貌に、ニケは半ば反射で女の両手を取った。
「私達、別のところからやってきたの。この近辺は危ないと聞いてはいたのだけれど……もしかして、皆さんで移動されるのかしら?」
 ――驚愕、不審、警戒。
 ニケの言葉に、女の表情が目まぐるしく変化する。細められた眼は、訝しんで裏側を見抜こうとしているのだろう。けれど、ニケに女が危惧するような裏はない。
「私、道行く人と助け合いなさい、と昔に教わったの」
 何より手から伝わる温度に、女の裡は和らぐ。
「そう警戒しなくていい。大丈夫だ、俺たちに任せておけ」
 少し遠くから、新たな声が飛ぶ。
 見ればロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)が数人の男たちに囲まれていた。此方に向いた女の注意にローはひらりと手を振り、改めて男たちへと向き直る。
「だから、追跡を振り切るには、追跡を知る事が肝心だ」
「……つまりは?」
「痕跡は消すだけじゃない。相手を誤解させる痕跡を作るんだ。この足跡がここにあるなら、こいつらはあっちに行っただろうって考えさせるように。まぁ、その辺は俺が請け負うから安心してくれ」
「それはありがたい」
「オレ達はその隙に、消したい方を出来るだけ消すようにすれば良いってことだな!」
 確たる原理を元に村人を導こうとするローは、男たちの信頼を既に勝ち得ていたようだ。だからこうして、あぁして、と話を進める度に、ローを中心に村人の輪が厚みを増す。
「お嬢さんたちは知り合い……なのかい?」
 活気づく男たちの様子に、ニケに握られた儘の手に女はおずおずと力を込める。
「えぇ!」
 握り返して貰った事が嬉しくて、ニケは勢いよく頷き――胸元で跳ねたコインに額をこつり。そのまま顔を上げると、打ち付けた部分がほんのり赤い。
「おや、まぁ。元気のいいお嬢さんだこと」
 女が笑った。とても自然な笑顔だった。
「そう! 私は元気のいいお嬢さんなんです。だから微力だけど、お手伝いさせて下さいね。私、お掃除は得意なの」
「こういうのを、渡りに船っていうのかね? あぁ、手伝っておくれ」
 そうと決まれば皆に紹介しなきゃ。
 足取りまで軽くなった女が、ぐいとニケの手を引く。どうやら広場へ向かうらしい。存外、力強いそれに身を任せ、ニケは多くの村人が集まる広場を目指す。
 他の猟兵たちも、上手く場に馴染んでいる事だろう。ローのように。
 しかし、ニケもローもすぐに『違和感』に気付く。村人が、別の村人と顔を合わせた瞬間、よく出来た笑顔になるのだ。
 一見、頗る前向きに映るそれ。
 ただ、『楽観的』と捉えるには、状況が状況だ。とは言え、笑っていないと恐怖で自我を失いそうだという風でもなさそうである。
「……面倒な真実が隠れてるんじゃないといいんだがね」
 ローが人知れず漏らした懸念を、捨て去られる村に吹いた風が攫っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

八月一日・マハロ
アドリブ・絡み歓迎

みんな不安だろうから、なるべく大丈夫!て顔してよう
俺の特技は無害なスマイルです

【SPD】
あれ、君のお母さんは?
大丈夫だよ、すぐ戻ってくるって言ってたんだろ?
俺が村の中見てくるついでに様子見てきてあげる
お兄ちゃんもだな、任せろって
だからいい子にして待っててな、約束!

村内の探索をし、敵の斥候の確認および捕縛
指笛で周りの仲間に連絡して逃がさないように
また広場へまだ行っていない村人を見付けたら保護して連れていく

また、村人たちの様子を観察して、疲れていたら手助けしたり
不安で恐慌になりそうならすぐに安心するよう宥めたり
子供の遊び相手になったりする
子供とお年寄りの体力には特に注意



●墓標と花
『大丈夫だよ。俺が村の中を見てくるついでに探してきてあげる』
 八月一日・マハロ(ハッピーチューン・f14025)の特技は無敵スマイル。やや垂れた瞳は人懐っこく、事態が飲み込めぬ子供の不安を丸ごと吹き飛ばす。
『だからいい子にして待っててな、約束!』
 先に行ってなさいと言ったきり、家族がまだ広場へやってこないと縮こまっていた少女と交わした約束を果たす為、マハロは村内を探索しながら視線を四方へ巡らせる。
 外観は、特に変わった所のない村だ。
 畑などもよく整備されている。
 『敵』の斥候が潜んでいる気配も、今のところない。
(「いやいや。あからさまにならないよう、普通を装ってるって可能性もあるよね」)
 それならどうやって探そうか? そう、思案に暮れかけた瞬間、マハロの目に一人の老婆が飛び込んで来た。
「おばあちゃーん?」
 蹲っている背に、マハロは呼びかける。疲れて動けなくなったのだろうか? 走り寄ろうとして、マハロはその一区画が墓地であるのに気付く。
 並ぶ石の墓標は何れも村人が切り出したのだろう。仕事ぶりは甘いが、それぞれに故人を偲ぶ創意工夫が施されている。そして何より、飾られた花々だ。
(「一緒に連れていけないのを、申し訳ないって思ってる――的な?」)
 懸命に搔き集めたのが分かる小さなブーケたちを踏んでしまわぬよう細心の注意を払い、マハロは動かぬ老婆へ近づく。
「おばあちゃん、大丈夫?」
「!」
 弾かれたように、青い瞳がマハロを振り仰いだ。
「ごめん、驚かせちゃった?」
 顔色も悪くない。
「……いえ、こちらこそごめんなさい。お別れするのに夢中になってしまっていたの。探しに来てくれたのかしら?」
 見知らぬ顔にも臆せず、老婆は笑った。
「そうそう。お別れは大事だけど、逃げ遅れたら大変だよ」
「そうね」
「俺がおぶっていってあげるよ!」
 賑やかな青年の申し出に、老婆は「甘えさせてもらおうかしら」とまた笑う。
「走っていくから、しっかり捕まってて」
 立ち去り際、一度マハロは墓地を振り返る。
 老婆が拝んでいた二つの墓標が、酷く簡素で花もないのが少しだけ気にかかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ギド・スプートニク
確かに、何やら妙な空気は感じるな
いまいち好きにはなれぬ
敵の正体が未だ掴めぬのも気になるところだな

まぁいい
助けを求めるのであれば手助けくらいはしよう
それが仕事なのだから

先行し、獣の類を露払い
獣に限らず障害があるなら排除
護衛として必要に応じた仕事を為す
なにせ時間は限られている
なるべく早く進むに越したことはない

基本としては護衛の任を優先するが、村人の様子に不可解な部分があれば多少の探りは入れる
我々も慈善事業ではない
その命が守るべきに値するか否か、見定めさせて貰おう

いかにも友好的な、他人を疑うことすら知らぬ、聖人のような顔をして
村の人々を助けるため献身的に尽くす
そんな道化を演じ、村人たちの油断を誘う


イア・エエングラ
洞窟の、先には、移れる場所が、あるかしら
追う影も知らず、駆けだしたところで
先の標はお持ちなのかしら
ええ、そうな、生きるには
迷っている間もないけれど

潰えるのを見たくはないもの
路を行くたすけになれたら、良いかしら
笑って手伸べて、すこしでも手を取れるなら
まだ先を、ゆくのなら

蒼い火ひとつを灯したならば
すこうし先を、見てくるよう
もう戻れない、前へも行けないのでは困るでしょう
別れる路には標をつけて、気配もなければ戻るから
僕の行ったとこには、わかるようにしておくからと言い添えて
獣があるなら、かわいそだけれど退いてもらおうな
彼らは、何から逃げていくのかしら
ゆらゆら自身の影に問いかけながら
……返る声もないかなぁ



●生きる為
 腰が低い訳でなく、媚びを売るでもなく。
 だのに。
 ――いまいち好きにはなれぬ。
 案内役として同道した三人の男たちへは聖人の如き顔で対し、ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)は胸裡で独り言つ。
(「まぁ、いい」)
 助けを求められるのならば、手助けくらいするのに異存はない。それが、仕事なのだから。
「あんた、強いなァ」
 鋤や鍬を得物として携えた男たちのギドへの賛辞に、含みはない。あるのは純粋な謝意と憧憬だ。
 何せ彼らは此処まで至る道中で数度、ギドが杖の一振りで四つ足で駆る獣たちを消し炭にしたのを見た。農耕具しか持たぬ彼らにとって、それは『圧倒的』なものであったに違いない。
「このような獣は、これまでも?」
「偶にな。畑を荒らしたり、森で迷った子供を襲ったり」
「そういう時は皆で対処を?」
「まァな。死人が出ないようにするのが精一杯だけどな」
「それは苦労も多かったろう」
「何とかな。今回は俺らの異変に気付いて、騒ぎ出しちまったかもなァ」
 当たり障りのない言葉を選び、ギドはさり気なく男たちの為人に探りを入れる。これまでに分かったのは、彼らは決して悪人ではないということ。
 それでも、彼らがお互いに向け合う笑顔が作り物めいたように見えてしまう。言うなれば、笑顔の仮面を被っているような。
「ともあれ、アンタたちが先に行ってくれるなら、面倒な岩とかも吹っ飛ばしてもらえるかもしれないな」
 ほら、あそこだ。
 森を掻き分け進んだ先に、大人が腰を折って通れるくらいの口を開けた洞窟を、男の一人が指差した。
「中はそこそこ広さはあるんだがな。時折、厄介なとこがある」
「皆さんは、洞窟の先を、ご存知なのかしら?」
 微睡むような柔らかいイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)の問いに、男たちは「もちろん」と頷く。
「ちぃとばかし距離はあるがな。抜けた先には、でかい湖があるんだ。釣り船が浮いてるのを見たことがある」
「あれは、別の村のヤツだろうな」
「洞も沢山あるから、身を隠すには持って来いだ」
「そう、だったのですね」
 彼らは洞窟を踏破した事があるらしい。つまりは闇雲に逃げ込もうとしているのではないのを知り、イアは胸を撫で下ろす。
 追う影も知らず、駆けだしたところで、先の標がなければ、先は知れる。
(「生きることを、諦めてはいないのですね」)
 潰えるのを、見たくはないと思った。
 路を行くたすけになれれば、良いと思った。
 笑って手を伸べ、すこしでも手を取れるなら――まだ先を、ゆくのなら。
「中に獣が、潜んでいる可能性はあるかしら?」
「今まではないが、今回は大人数だ。ないとは言い切れねぇな」
 オブリビオンの手先でなくとも、嗅覚鋭い飢えた獣が人を襲いにやってくる可能性はゼロではない。血が流れれば、呼び込むモノが増えるおそれもある。
 ならば、と。イアは澄んだ宝石の指先に、青い火をひとつ灯す。
「僕らが標になるよ。続く村の人たちは、安全が確認できた後をついてきて」
「ありがたい!」
(「……なんなのだ?」)
 イアやギドへ礼を繰り返す男たちの顔に、ギドはやはり邪を見つける事は出来ない。
(「私達が余所者だから、か?」)
 だからこそ余計に、不審の芽が育つのも止められない。

 村を捨てた人々は、次々に洞窟へと入っていく。
 ここまでの道程は順調だ。確認したが、村に残ったり姿を消した者もいない。
 皆が粛々と、生きる為に新天地を目指している。
 されど洞窟内の道行きは決して楽なものではない。急な勾配は、幼子や老人を苦しめるだろう。
 獲物の気配に、野生の獣が追ってこないとも限らない。

 早く、早く。
 少しでも早く。
 この洞窟を抜けてしまわねば。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レオンティーナ・ハートフィールド
今はただ新天地へ向かう道へ進むためのお手伝いを。
あまり堅苦しくなりすぎない様、でも礼節をもって
皆様に接したく存じます。
私にもお手伝いさせてください、と優しくお声を。

村人の方々の言動に気になることがありましても
今は只々、この方達の心の安寧の為
ひたすらにお手伝いを致します。
そう、今は。

【POW】
岩場や泥濘みに足を取られている方がいたら
手を貸して差し上げたいと存じます。
もし荷車もございましたら、後ろから手を添えて
押してお手伝いができたら、と。
地形を利用して進みやすい道を示す事ができたら
幾分か進みやすいでしょうか。
洞窟内が暗く危険が伴う可能性を考えて
聞き耳を立て怪しい物音が無いかも注意致しましょう。


尭海・有珠
【POW】

前向きだからと言って、笑える状況とは思えないんだがな
まあいい、手を貸そう
助けられる命は助ける主義だ
本来なら村も捨てずに済むなら良いんだけど

「私も荷物を持とう。貸して」
疲れて座り込みそうな子供がいれば担いでやる
子供には特に優しくしたいのは、ただの性分だ
力がある方なわけではないが、破壊と敵を殺す事以外は苦手だから
これくらいならば力になれるだろうかと思って

村と別れるのはまた新しい明日を、笑って迎えられるようにするためだと思う
せめて心は折られぬように、声をかけて励ましていくよ
私達なら獣が襲ってきても、皆を護って撃退してやるからなとやんわり笑う

ところで
「忘れ物は?置いていかれた人はいないな?」



●洞窟内の光明
「よろしいですか? 参ります――」
 岩場の段差に足を取られた荷車を、レオンティーナ・ハートフィールド(レグルス・f02970)がぐいと押す。
 がこんっと音をたて木製の車輪が一度弾み――積んだ荷物を揺らしながら再び地面に落ちる。
 すごい、と女たちの口から感嘆の声が上がった。
「こっちも手一杯なので助かります」
 前で荷車を引いていた青年が申し訳なさげにレオンティーナを振り返る。その額からは幾筋もの汗が滴り落ちていた。
「困ったときはお互い様、と申しますでしょう?」
 眉宇を寄せた青年へ、レオンティーナは松明の灯に微笑む。剣となり、また盾として生きることを誇りとする一族の首長が娘たるレオンティーナにとって、彼らの現状はとてもではないが見過ごせない。
 村人たちは自分の役割――男たちは多くの荷運びと、警戒。女たちはその補助。老人や子らは自力で進むこと――をこなすだけで精一杯。些細なハプニングにも、解消には手間を取る。
 そこへ差し伸べられる猟兵たちの手は、救いであり光明だ。
「その荷物も私が持とう。貸して」
 ずるずると幼い少女が引きずる麻袋を、尭海・有珠(殲蒼・f06286)が引き受ける。
「え、でも」
 既に有珠の肩や腕が様々な荷を負うのを知る少女の表情が惑う。小さな胸は不安で圧し潰されそうになっているだろうに、此方を気遣う少女の優しさに有珠はやんわりと笑う。
「名前は? 私は、有珠」
 唐突な有珠の尋ねに、面食らった少女は幾度か瞬き、おずおずと口を開く。
「――リタ」
「リタ。こう見えて、私は力持ちなんだ。だからまだまだ大丈夫」
 本当は、そこまで余裕があるわけではない。けれど有珠は、常は酷薄に細める双眸に洋々たる海原の青を映し、唇で柔らかな曲線を描いてみせる。
「……本当?」
 覗き込んでくる瞳に力強く「本当だ」と返すと、丸い輪郭が緩く崩れた。
「ありがとう、ありすおねえちゃん!」
 一切の混ざりもののないリタの純粋な謝辞に、有珠が「もし獣が襲ってきても、任せておけ」と笑みを深める。
 破壊と、敵を殺すこと以外は、実は苦手。そんな力を、喜んでくれる人がいるなら。子供に特に優しくしたいのは、根っからの性分だけれど。
「よかった。これでパパもママも、リタたちは大丈夫だね」
 本来ならば、村を捨てずに済むのが最良。されど既に叶わなくなったのならば、助けられる命は守ってみせる。
 掲げた主義の儘に、有珠は荷を運び。懐いてくれたリタへ、ふと問う。
「忘れ物は? 置いていかれた人はいないな?」
「出発する時、みんないるって言ってたよ。忘れ物は……お人形も、連れてきたかったけど……」
 しゅんと萎れた子供の声に、有珠はすかさず重ねる。
「リタは立派だ。沢山、我慢をしているのだな」
 慰めるより、賛辞を。引き返せぬ場所への未練は、前向きに断ち切ってしまうのが良い。
 一連のやりとりを背中に、レオンティーナも口元を弛めた。
「可愛らしいこと。励みになりま――」
「子供は気楽でいいですよね。俺も無邪気だった頃に戻りたい」
 語尾を攫った青年の苛立ちにも似た独白に、レオンティーナが僅かに息を飲み。それに気付いたのだろう青年が口を噤む。
 彼の表情はレオンティーナからはうかがい知る事が出来ない。
 でも。
「すみません。ちょっと疲れてきたのかも」
 誰かに咎められるより早く吐き出された言い訳に、レオンティーナは彼が今、仮面のような笑顔を顔に貼り付けているだろう事を想像する。
 ――しかし今は、追及する時に非ず。
「交代が必要なら、いつでも仰って下さいませ。新天地への旅路、私でお手伝いできることがあれば、何なりと」
 堅苦しくなり過ぎぬよう、努めて明るく、優しく。笑顔の集団にレオンティーナは寄り添う。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

宵鍔・千鶴
止む無くとはいえ故郷を捨てる日に
笑顔を貼り付けた村人達に違和感と
言いようのない胸悪さは一先ず捨て置き

心中、御察しします
無事全員を送ることが最優先
老人、子供達へ添い愛想の良くない自分が
最大限月並みな言葉と朗らかに声掛け

…シー、静かに、な。
嫌な気配と物音には耳を欹て村人を静止
獣や外敵ならば容赦なく排除
微かに聴こえた子供の泣声
暗く寂しい洞穴で不安に駆られたか
長く立ち止まってはいられないから
小さく、ゆっくりと唄を口遊む
俺が、たった一曲覚えてる故郷の歌
彼らの故郷に別れをさせるように
気が紛れたのならそれでいい
けれど村人たちの反応を見逃すことも忘れず
…大丈夫だ、俺達がついてる。進もう。
此方も笑顔を貼り付けて


東雲・咲夜
小さな村と言うてもこれだけの人が連なって出ていくのを見るんは
なんや胸が痛みますね…
生まれ育った故郷を捨てるんは、寂しいものがおありでしょう?

小さな子供や女性が重そうに荷物を抱えはったら、持ってあげましょう
うちも非力な方やけど、何かの役に立ちたい…

元気の無い子がいはったら手を繋いだり童謡を歌ってあげましょ
お人形があれば念動力で合わせて踊らせます
長い距離を歩くのやから、少しでも楽しくあれば足取りも軽くなるんちゃうかな

歩いているうちに気分が悪うなった方や、怪我をされた方がいはったら
簡単な手当くらいは出来ますさかい
必要に応じて花の神様にお願いするんも大丈夫やから、任せてくださいね

🌸京言葉・アレンジ可


終夜・凛是
なんで、こいつら、笑ってられんの?
逃げるん、だよな?
くそ、ここにくるんじゃなかった。やな、気分
顔に気持ちでた、かも
隠さないと
あからさまには、だめだ

話聞いたからには…多少なりとも、手は貸さないといけない
知ってるのに助けない、とか。にぃちゃん嫌いだから。俺も、それは嫌い
俺が手を貸すのは、ちょっと縁があったから
最低限しか、付き合わない

POW
荷物重そうだったり歩き辛そうなやつを手伝う
でも声かけて説明や綺麗事言うのもめんどい

貸して、と一言
奪うみたいに荷物もらって、行こうと視線で促す
抱えられるなら年寄りとか子供ごと抱える

俺はこいつらと一緒にいて何か得るものあるのかな
何か欲しいわけじゃないけど、あるのかな…



●無償の慈愛、偽らざる嫌悪
 暗い洞窟に鈴音がころり、転がる。
「そっちの子ぉも、手ぇ繋ぐ?」
 ころころり。光の珠が響きを帯びたかの如き東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)の声に、足を重そうにしていた子供が、ぱっと顔を上げた。
「うん! ノイ、お姫様と手をつなぐの」
 既に塞がっている右手の反対――、左手を五歳ほどの少女にきゅっと握られ、咲夜は花の微笑をほろりと咲かす。
 つい一瞬前まで、ひどく疲れた表情を『子供』がしていた。
 何事も起きなければ、村を無邪気に走り回り、お腹が空いたらご飯を食べて、満たされたらくぅくぅお昼寝するのが仕事のような――子供が。
 細い洞窟を進む隊列の全容は、ほぼ中央に位置する咲夜からは見てとることは出来ない。
 ただ、ぽつぽつと焚かれる松明の火が、酷く心許ない気分に咲夜をさせる。
(「生まれ育った故郷を捨てるんは、寂しいものがおありでしょう……?」)
 推測は、決して外れていないと咲夜は思う。
 実際、言い知れぬ寂寥感がずっと漂い続けている。
 されど顔を見れば、大人達は笑顔。疲労は隠せぬけれど、笑顔。誰かと顔を合わせる都度、無理やりにでも笑顔。
 様々な機微が余さず反映される子供の方が、違う生き物だと勘違いしそうになる程。
「……おひめさま?」
 おそらく村では見たこともなかったのだろう、繊細な容貌の咲夜をそう呼ぶ少女へ、咲夜は視線を戻す。
「ノイちゃん、言うの? お歌は、好き?」
「すき」
「それなら、――」

(「なんで、こいつら。笑ってられんの?」)
 遠慮がちな咲夜の歌声が、細く密かに洞窟内の空気を震わす。
(「逃げてるん、だよな?」)
 村人たちを慮る旋律は、優しい。だからこそ浮き彫りになる村の大人達の異様さに、咲夜と同じ隊列の殿を務める終夜・凛是(無二・f10319)は、込み上げてきた吐き気を意思の力で強引に飲み込む。
 正直に、言うと。今すぐこんなところからは、おさらばしてしまい。来るんじゃなかったと、心の底から思う。
 気持ち悪い、気持ち悪い、キモチワルイ。
 明らかな嫌悪は、きっと顔にも出た筈だ。出逢い頭――まだ洞窟に入る前――、不意に出くわした村人の『貌』を凛是は憶えている。
 最初は、薄っぺらい笑顔。
 それから凛是の表情に気付いて――また笑顔。能面のようではない、僅かに感情が滲んだ笑顔。凛是に向けられた視線を『仕方ない』と甘受するみたいに。
(「出来るのに、しない。したとしても、変な笑顔。ここの連中、やっぱり駄目だ」)
 喉を吐きかけた悪態を、凛是は胸中で繰り返す。同じモノを二度と見たくなくて、表情も殺し続けている。
 ――あからさまには、だめだ。
 すすんで傷付けたいわけじゃない。
 それに、話を聞いてしまったからには。
 ――窮状を知っているのに助けない、とか。
(「そういうのは……にぃちゃん嫌いだから」)
 たった一つの『正解』に従い、凛是は背筋を走る怖気を無理やりねじ伏せる。

 違和感は圧倒的だ。
 凛是でなくとも、胸糞悪いと唾棄してしまいたいと思う者はいる。宵鍔・千鶴(nyx・f00683)も、その一人。だが千鶴は、己が感情を一先ず捨て置く事を選んだ。
『心中、御察しします』
 優先すべきは全員を無事に送り届けること。懸命に自分へ言い聞かせ、千鶴は愛想の欠片を搔き集めた。対象が、老人や子供たちなど、弱い者たちに限定されてしまいはしたが。
 尖り切った神経を、千鶴は周囲への警戒へ向ける事でいなす。
 不審な物音へは、すかさず耳を欹て注意を促し。先を行く者たちの足音にばらつきを感じたなら、狭さを掻い潜って走った。
 ――そして。
「……大丈夫だ」
 眠いのか、洞窟の暗さに負けたのか。しゃくりあげ始めた子供の為に、千鶴は小さく、ゆっくりと唄を口遊む。
「――、――」
 たった一曲、覚えている。千鶴の故郷の唄、だ。
 愚図っていた子供の目がぱちりと開き、千鶴の青白い肌を見上げている。
 そのまま暫し、子供は聞き入り。
「――、……?」
 真似て、歌い始めた。
 たどたどしくなぞるだけの口ぶりだ。歌詞の意味さえ、理解はしていまい。けれどその稚さに、誰かが鼻を啜った。
(「故郷を捨てることに、悲しみは感じているんだな」)
 鼻を啜ったのが大人であるのを察し、千鶴は彼らの本質に想いを馳せる。
 笑顔は薄気味悪い。だがこの暮明で知れたのは、ありきたりの人間らしい感情の発露。観察しようと視線を巡らせたなら、一瞬で笑顔に変わってしまうのだろうけれども。
「……俺達がついている、進もう」
 朗らかに振る舞うのはとても疲れる。それでも千鶴は笑顔を満面に貼り付け、村人たちの中に溶け込む。

(「……あら?」)
 後ろの方で子供が歌っているのだろうか?
 幼さ特有の甲高さを伴う響きを鼓膜に拾い、咲夜は歌うのを止め、周囲を見渡す。
「皆はん、お疲れちゃいますか? 気分が悪うなった方や、怪我をされた方がいはったら、遠慮のう」
 簡単な手当てくらいは出来るという咲夜の申し出に、大人達からも「助かる」「ありがたい」との応えが返る。
(「うちに出来るのは、これくらい……」)
 非力を自認しながら、咲夜はひたすらの慈愛で村人たちを包む。

(「あぁ、もう、本当」)
 甘えられる所には甘えて、でもひた隠しにしているものには触れさせない。そのくせ上手く隠し果せる事も出来ていない。
 中途半端への苛立ちを、凛是は募らせる。
 積極的には関わり合いには、なりたくない。付き合いは最低限でいい。『にぃちゃん』に顔向けできない自分でいられれば、それでいい。
「――おばーさん、ちょっと」
 優しい言葉をかけるとかも、面倒くさいから。凛是は歩みが遅れ始めた老婆を、背負い上げる。
「ごめんなさいねぇ、ありがとう」
「……別に。俺に、そういうの要らないから」

 ――俺はこいつらと一緒にいて、何か得られるものがあるのかな。
 ――何か欲しいわけじゃないけど、あるのかな……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

泉宮・瑠碧
力仕事にはあまり自信が無いので…
カンテラを片手に
足元の滑りそうな箇所や勾配のきつい所で注意したり
子供や老人の手を引いたりしようか
呼べるなら、地の精霊に地面を均して足跡を消したり
同時に少し勾配を緩くして貰えないだろうか

野生の獣に関しては
第六感で周囲にも気は配っておく
風の精霊に頼んで、人の匂いを散らすのもありか
一応、杖は弓に変えておき
撃つとしてもなるべく威嚇射撃程度にしたい
…向こうも必死だろうしな

あと…
一度、単身でも村に戻れるだろうか
少し墓地を見たいのと
酷く簡素という墓標に
戻る途中に見つかればその花を
無ければ持っているポプリだけでも供えられたらと思って

青い瞳の老人も気に掛かるが…血縁者だろうか



●賭け
 猟兵たちで交わした情報のうち、泉宮・瑠碧(月白・f04280)にはどうしても気になるものがあった。
 ――酷く、簡素な墓標。
 洞窟の村人たちの事も気に掛かった。必要となる手は幾らあっても足りないだろう。でも、それ以上に。どうしても。
(「花を手向けるくらいは、してもいいだろうか」)
 単独で村へ引き返す危険は承知。それでも瑠碧は長い長い隊列を離れ、暗い坂道を下り降りた。
 外へ出たのは陽が傾きかけた頃。
 瑠碧は息を切らして村まで駆け戻り、墓地を目指す。村人たちと同じ小花のブーケを用意する時間の余裕はない。代わるものと言えば、持ち歩くポプリだけ。
 だが、無いよりはきっと良い。香りだって、故人の慰めになるはず。
 信じて墓地に辿り着いた瑠碧は、他の墓標群から少し離れた二基の前に立ち尽くす。
「『カイ・レジオ』『アン・レジオ』――いや。しかし、これは?」
 記された名前を読み上げる声が、変に喉に閊えた。
 だってどう見ても、その文字は『書き記された』ばかり。乾ききらぬうちにインクが流れたのだろう跡さえ、まだ鮮やかだ。しかも石に残された情報は名前だけ。建てられた年も、故人の経歴も一切ない。
 逸る鼓動を押さえ、瑠碧は他の墓石へ視線を馳せた。それらへ残された墓銘は文字通り刻み付けられ、逝ったのだろう年だけでなく偲ぶ言葉もある。
「……書いたばかり、で。他を記す余裕はなかった? それとも……」
 目にしたままの現実に推察を交え、瑠碧は反芻する。
 弔いの標だというのに、名前もなかったふたつ。
 真新しさに驚きもしたが、文字も随分と小さい。遠慮がち、と評するのがしっくりくる大きさだ。
「記したのは、最後に参っていた老人?」
 青い瞳の老婆が、ここに眠るふたりの血縁者であるか否かは、この場では確認のしようがない。
 と、その時。
 ――オォオオン。
「っ!」
 聞こえた獣の遠吠えに、瑠碧は肩を跳ねさせた。
 夜は獣の時間。
 オブリビオンでなければ対処に苦慮する事はないだろうが、引き連れて洞窟内を戻るわけにもいかない。
 上手く立ち回れたなら、間接的にではあるが、洞窟を進む村人の助けにもなるだろう。ただし、一日以内に洞窟を抜けるという目標がある以上、瑠碧もゆっくりはしていられない。
「……少しばかり、無茶をするしかないか」
 手荷物に忍ばせていたポプリを名前だけの墓標へ供え、軽く手を合わせた後。瑠碧は油断なく弓を構えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロード・ロラン
隠れ里か、俺の故郷を思い出すな
俺のとこも、ヴァンパイアの襲撃がなければこんなだったのかな……
あんな想いするやつが増えるのはごめんだ
村人達の手助け、頑張らないとな

俺は移動する人々の後ろに位置して、遅れている人をフォロー
荷物は力自慢のやつになるべく任せて
子供や老人が少しでも歩きやすいルートを見つけて誘導したり
水溜まりがあれば抱えて抜けよう
獣の気配って噂もあったし周囲を警戒
見つけたら鎖で縛り上げて素早く討伐
村人も結構な数だ、逃げるより倒した方が確実だろうな

合間には不安を取り除くよう声かけ
大丈夫か?もう少しだ
全員でここを抜けられるよう、頑張ろうな

でも、なんとなく違和感がある
こいつら、何か隠してるのか?


ベスティア・クローヴェル
【POW】
※アドリブ歓迎

こんな状況で笑っていられる
諦めているのか、それとも笑って恐怖心を無くそうとしているのか……
今の所、それを知る術はない。手遅れになる前に、その理由を語ってくれることを祈る

驚かせないよう細心の注意を払って、【月の狼】で大きな狼に姿を変える
私は人狼。ちょっとサイズの大きな狼になれても不思議はない
台車があるならば、それに荷物を載せて引っ張っていく
無いのであれば、足の遅い人を中心に背に乗せて、移動の手助けを

私はあまり口が上手くない。
喋るのが得意な猟兵がいれば、場を和ます事が出来るのだけど
ただ歩くだけというのも暇だし、昔よく聞いた冒険譚でも話して子供たちを和ませようか



●祈り
「ごめんなさい、ありがとう」
 たすたす、と。背中に腹の大きな女を乗せた四本足の獣が歩く。
「あ、そこ天井がちょっと出っ張ってるから気をつけてな」
 八重歯をちらと覗かせ溌剌と注意を促す声は、まだ少年のものだ。
 隊列の最後尾――殿を預かるベスティア・クローヴェル(諦観の獣・f05323)とクロード・ロラン(人狼の咎人殺し・f00390)は何れも人狼。
 ベスティアは狼の姿になり、臨月だという女を背で運び。
 クロードは軽業師のように動き回っては気掛かりな個所を細かく見つけ、人々の歩みに注意を促す。
 前を進む者たちが露払いを終えた洞窟内は、安全が保たれていた。幸い、追って来る獣もいない。ただ偶に現れる泥濘は、人に踏まれた分だけ厄介度を増す。
「しっかり捕まってて……せぇ、の!」
「わぁ!」
 踏み入っただけで滑って転倒しそうな泥濘を、クロードは小さな子供を抱えてひとっとび。村人であったなら庇護される側の年齢なクロードも、働き方次第では大人顔負けの活躍が出来る。自分より遥かに背の高い老人へは両手を取って案内すると、心底嬉しそうな顔が返されるのも悪くない。
 ――隠れ里、か。
 ひっそりとオブリビオンの影から逃げる村人たちの逃亡劇を手伝いつつ、クロードの小さい胸に去来するのは己が故郷。
(「ヴァンパイアの襲撃がなければ、こんなんだったのかな……」)
 小屋に閉じ込められて育ったクロードに、失われた里の失われた未来を余すことなく想像するのは難しいかもしれない。だが、此処にいる人々は村を失いはしても、未来を失っていない。
 それならば――。
(「あんな想いをするやつが増えるのはごめんだ」)
 自分は自分に出来る事を精一杯にと、クロードは村人たちへ気を配る。
 歩き始めて、半日は優に過ぎた。
 いつもなら眠っている時間だろう子供たちの目は、今にも瞼で蓋がされてしまいそう。そんな子らを慮り、狼は口を開く。
「ある日、ある所に。一人の男がいたんだ」
「?」
「??」
 獲物を喰い殺すのが得意そうな口が唐突に紡ぎ出した一節に、耳を傾けた者たちの頭には疑問符が飛び交う。
「その男の名は、――」
 嗚呼、と。ベスティアの意図を察した大人たちは、すぐに得心いった顔になる。対し、子らは興味津々。
「彼はまず花を育てた。そうして咲かせた花一輪を手に、彼は村を旅立ち――」
 心地よい高揚を誘うそれは、冒険譚。幼かったベスティアがよく聞いていたもの。
(「私はあまり口が上手くはないからな」)
 口下手を自認する女も自分の精一杯で、村人を和ませ、募る疲労を暫し忘れさせようと心を砕く。
 暗闇は、永遠には続かない。
 終わりは、あるのだ。
「大丈夫か? もう少しだ。頑張ろうな」
 歩みが遅れそうな人へすぐに駆け寄っては、クロードは強気に笑って尻尾をぱたぱた。
 うつらうつらと船を漕ぎそうな子供へは、ベスティアが鼻先を寄せ、思いつく限りの夢冒険を語ってきかせる。
 そうして村人と接すれば接する程、クロードもベスティアも、大人たちの違和感を強く感じてしまう。
(「こいつら、何か隠してる?」)
 クロードの子供目線でも、村人たちが互いに向ける笑顔は何処か空々しい。互いを励まし合う声さえ、相手の腹を探っているように聞こえてしまう。
(「手遅れになる前に……」)
 誰か真実を語ってはくれまいか。
 未来を生きる命を育む女を背に運び、ベスティアは胸中で切に祈った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィオリーナ・フォルトナータ
住み慣れた場所を離れなければならない
捨てなければならないというのに
何故笑っているのか、笑っていられるのか…
そうですね、その真意はわたくしにも判りかねます
逃れれば、その先に今よりも希望があると思っているから?
或いは、何をしても絶望しか残されていないと、知っているから?
…人の心とは、難しいものです

それなりに力はありますから、荷物運びなどを手伝いましょう
特にご老人などに積極的にお声掛けをして、その負担を少しでも減らすことが出来ましたらと
お話しする時は勿論丁寧に、礼儀を持って接します

…無事に逃げることが叶ったとして
その後のことはどう考えていらっしゃるのでしょう
尋ねてもやはり、返るのは笑顔だけでしょうか


海月・びいどろ
洞窟の中だって、あぶないもの
先を往くヒトがいるなら、ボクは後ろから
情報収集しながら、灯りを持って進むよ
足元、気を付けてね

…やっぱり、大人たちは笑ってる
このヒトたちは、何から、逃げてるんだろう
戦わないといけないのは、誰?

どんな獣なのかな、どういう相手なのだとか
お話、聞けないかな
逃げた先でも怯えなくても良いように
準備、出来ることも、あるかもしれないから、って

お年寄りや、ちいさな子の荷物を持つのを手伝って
もし、獣たちが現れたり、洞窟の中で戦うなら
村のヒトたちから、引き離すよ
おびき寄せてから、お相手するね

いったい、何が追いかけて来ているんだろう
笑っているのは、なぜ?
…ヒトは、むずかしくて、ふしぎ



●声の尋ねに返るもの
 わぁ、と上がった歓声が次々に伝播する。
 ついに村人たちは長い洞窟を抜けたのだ。
 暗がりに慣らされた目を、午前の光が突き刺すのも心地よい。
「……、ねえ?」
 興奮に頬を染める若い男の袖を、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は静かに引く。
 道中、びいどろも他の猟兵らと同様に、彼らの為に自分の出来る限りをこなし続けた。淡い光を放つ海月のぬいぐるみ達で道を照らし、そのゼリーのような手触りで子らの心を慰め。
 荷運びにだって尽力した。
 前方から獣を駆逐する剣戟が聞こえたなら、隊列の前へ出て『守る』覚悟を示した。
 そして『心』を計りかねるびいどろは、素直に疑問を口にした。
『あなた達は、どうしてそんなに笑っている、の?』
 ゆらゆら揺蕩っているだけのような子供の問いに、大人たちの顔は一瞬、強張った。
『お話、聞けないかな』
 何かと戦っているの?
 それはどんな獣?
 ――輪郭を掴み切れない尋ねは曖昧で、核心から逸れるものもあった。
『逃げた先でも、怯えなくても良いように』
 しかし投げられた直球に、大人たちは笑う事を忘れた。
『準備、出来ることも。あるかもしれない、よ』
 びいどろという『子供』に他意なく案じられ、顔を青褪めさせた。
 けれど、暗がりに彼らは口を閉ざし、闇に紛れて笑顔を貼り付け直してしまった。
 だからもう一度。
 びいどろは洞窟内で一緒だった男に尋ねようとしたのだ。
「無事に逃げ果せたようで、良かったですね」
 びいどろに見つめられた男の顔から笑顔が消えた刹那、フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)は穏やかに口を開いた。
 それなりに力はあるから、と。多くの荷物を預かってくれた薔薇色の娘の献身ぶりは、村人たちの記憶に新しい。
 特に、他の年代よりも疲労しやすく回復しにくい老人たちへ優しく声をかける姿は、心に残っていた。
 いのちの輝きを愛おしむ人形少女は、村人たちの心を柔らかく解していた。無論、それらは此処に参じた猟兵たち全ての努力の賜物。
「皆様は、この後のことはどう考えていらっしゃるのでしょう?」
 長い洞窟を抜け終え、村人たちは安堵していた。
 目にした光に、張り詰めていた糸が切れかけていた。
 一度、繕われ直した綻びへ、びいどろが再び指先をかけた。
 全ての糸が一つに縒り合わさったタイミングで、フィオリーナはそれとなく、丁寧に、尋ねた。
 返されるのがこれまでと変わらぬ笑顔であるのも覚悟して。
 ――しかし。
「なぁ、俺やっぱり」
 びいどろに裾を掴まれた男は、思い余ったように口を開いた。
「誰かが村を売ったんじゃないかと思うんだ。例えば――」
「はぁ、お前。何、寝ぼけてんだよ」
 髪の薄くなった男が、若い男の肩を叩いた。
「やだねぇ。疲れすぎて変な幻でも見たのかい?」
 近寄って来た恰幅の良い女が、腹でも減ってんのかい、と若い男へ干し肉を差し出す。
 決壊しかけた笑顔の堤を、見る間に修復してのけたのは、年齢的にびいどろくらいの子供の親世代と思しき者たちだった。
「ごめんなさいねぇ、お嬢さん。私達は大丈夫ですよ」
 向けられ直した乾いた笑顔に、フィオリーナはたおやかな微笑を返す。返しながら、何かを示し合う目配せで彼ら彼女らが互いを牽制するのを、心をざわつかせながら見つめた。
 村人たちは、裏切り者がいるんじゃないかと思っている。それが誰か、心当たりもあるようだ。
 その上で、その誰かを吊し上げようとはしていない。
 吊し上げようとするのを、忌避しているようにも見える。
 全てを無理やり作った笑顔で覆い隠して。

(「……人の心とは、難しいものです」)
 眼前に広がった湖が岸辺を洗う音を耳に、フィオリーナは静かに静かに、不安の吐息を零した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『内通者』

POW   :    怪しい者を締め上げるなど強引な捜査を行う

SPD   :    聞き込みや尾行など足で情報を稼ぐ

WIZ   :    占いや推理を駆使して捜査方針を決める

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●笑顔の裏側
 全員の無事を確認し今後の方針を決めるうちに、日暮れは訪れた。
 村人たちは幾人かのグループに分かれ、近くの洞で身体を休めることにしたらしい。
 湖には魚も多い。持参した保存食もあるので、暫くは食うには困らなそうだ。
 だが、若い男が吐露したように。
 村人たちの中に裏切り者――オブリビオンと繋がる者、或いはオブリビオンと繋がるオブリビオン――がいるならば、安寧の時はそう長くはあるまい。
 むしろ、この瞬間。一網打尽にされないのが不思議なくらいだ。
 若い世代の大人ならば、猟兵の疑問に答えてくれそうな気配はある。しかしその何れにも、一つ上の年代の者たちがついている。しかも核心を握るのは、その世代と考えられる。
 子供たちは、ただ無邪気だ。問うたところで、大人社会の事など今は知りはすまい。
 ならば老いた者たちはどうか。頑固な者は口を固く閉ざすだろうか? 人好きがしそうな者ならば、何か教えてくれるだろうか――反応は全て予想の範疇を出ない。
 洞窟を進みながら結んだ縁を頼るもよし、知り得た情報を搔き集めて動くも良し。いっそ勘に任せてみるというのもあるだろうが、無計画では村人の警戒を買うだけになるだろう。
 今晩はこのまま野営になると言う。
 明日からは、三々五々に動き出すかもしれない。
 村人たちから『裏切り者』について聞き出すチャンスは、疲労と高揚がない交ぜになった今宵限り。

 小さなコミュニティは、時に人の在り様をも狂わす。
 誰もがただ、平穏無事を願うだけにも関わらず。
 ――いや、願うからこそ。壊せないからこそ。相容れぬ者へは、牙を剥く。
イア・エエングラ
しかしまぁ、波風立てずに笑うのは僕も得意だけれど
集って暮らすのに、ずうっと解けないのは、大変ね
……良いとも悪いとも、言わないけれど
兎角、無事辿り着けて良かったねぇ

先に覚えたお顔の中で
人の輪から外れている方はいるかしら
そっとお傍でお話、聞けるかな
カップを二つ、おともに行きましょう

皆さん随分仲良さげで親切だけども
村の方々をまとめているのは、どなただろ
やっぱり村長さんだとかかしら
――お伺いしながら
たとえば、お声のよく通る方とか
此処へ、逃げれば大丈夫と、
提案してくださったのは何方だろ
よくご存じと思っただけよう
嫌なお顔されたら引こうねぇ

暗がりには青い火を
遠くへ行ってしまう方のいないよに、気を付けてような



●深まる疑念
 イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は人の波間を漂い、洞で夜を過ごす村人たちへ言葉をかけて廻る。
 ――大変な一日でしたね。
 波風を立てずに笑うのは、イアも得意とするところ。
 ――お疲れではありません?
 絶え間なく、休む間もなく、笑い続けるのは大変な労力を要していることだろう。
 ――寒ければ毛布をお借りしてきましょうか。
 その良し悪しは別として。
「よろしければ、いかがかしら?」
 裡の思考はおくびにも出さず、星空の如きクリスタリアンの青年は洞の入り口付近で警戒の任にあたる男の隣に腰を下ろした。
「ん? あんたは」
「皆さん無事で何よりね」
「全部、あんたらのお陰だよ。ありがとうな」
 両手に持った湯気立ち昇るカップの一つを差し出すと、ここまでの道中ですっかり顔馴染みになった男は相好を崩す。
 やはり悪い男ではないと、イアは思った。
 冷めやらぬ興奮を抱えたままなのだろう。探りを入れられているとは思いもせずに、イアの問いにつるつると答えてくれる。
 村をまとめているのは、ダージェという男であるということ。彼の祖父が皆を率いて村を――捨ててきてしまったが――作ったということ。ダージェの前の村長は、ダージェの父であったということ。
「なら、ダージェさんが今回の計画も立てられたのかしら?」
「計画を立てたっつーか、ダージェさんがみんなの意見をとりまとめてくれたって感じだな」
 成程、世襲の長ながら使い物にならない人物ではないようだ。そして独裁者でもない。
 ならば――。
「洞窟を抜けて逃げるなんて、凄い妙案。どなたが最初に思い付かれたのかしら?」
 言葉遊びを重ねるように。細かく幾つもの分岐を経てイアは、そうっと己が欲する情報へ手を伸ばす。
 もしここが真の安住の地でないなら。一度与えた希望を、破砕するための地であるなら。
 善良なる村長のダージェがそう決断できるよう導いたのは、果たして誰か。
「……んん? 誰だったかな。出来るだけ見つからないよう、出来るだけ遠くにってことで、若いモンが言い出したんだったか。狩に詳しい爺さんだったか。あぁ、それとも……」
(「随分と、曖昧なのねぇ」)
 漠然とした男の応えに、イアは疑念を深める。

成功 🔵​🔵​🔴​

レオンティーナ・ハートフィールド
私が手伝いをさせて頂いた荷車の男性の元へ。
簡単に話して頂けないと想像します。
でも彼は吐き出しそうになった気持ちを飲み込みました。
吐露したいのにできない様な。

お疲れのご様子でしたがお加減はいかがでしょう?
この村の方達は仲良しでございますね。
どんな方達なのですか?と何気なく聞きます。

質問だけでは不思議がられるかもしれませんので
私の事や育った街の事も織り交ぜて話ながら。

彼を止める方が現れるかもしれませんね。
そんな方がいれば逆に巻き込みましょう。
ここの子達は素直でございますね、どんな子達ですか。
そんな何気ない質問を。

答えは言葉では返らないかもしれません。
でも話す時の視線や動作に注意を払い
推理できればと


海月・びいどろ
例えば――
大人が笑って、隠さないといけない相手
さわってはいけない、ひみつのこと

さっきの男のヒト、ボクを見て、困ってた?
あんな顔、させたくない、けれど
このままじゃ、何も変わらないまま、だから
また、お話、聞けたらいいな

姿が見えなくなったヒトは、いない?
これで、ほんとうに、みんないっしょに逃げられたのかな
置いてきてないか、心配、で…
さびしい思いをしている子とは
海月のぬいぐるみで、あそぶの

他には、お年寄りのヒトとか
あの村に伝わる決まりごとや、思い出
聞かせてもらえない、かな

ちいさな村を守るために
……犠牲になってしまったもの、は?
次はね、違うやり方で、守れると思うから

こころに、触れられるのなら、…そうっと



●呼ばれぬ『一人』
 あんな顔を、二度もさせたくないと海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は思う。
 けれど、このままでは何も変わらない。
 村人の命は変わらず危機に瀕したまま、そして歪な笑顔の仮面を被り続けることになる。
 ――ヒトの、こころは。むずか、しい。
 救われたいと苦難に挑み、越えてきたのに。だのにまだ、これからも同じ道を歩もうとしている。
 それを何とかしたくてびいどろは、洞窟を抜けた直後に袖を引いた若い男の隣にぺたりと座った。
「姿が見えなくなったヒトは、いない?」
 下から上へ。覗き込んだ瞳が、安堵の瞬きをするのをびいどろは見つめる。
「これで、ほんとうに、みんないっしょに逃げられたのかな。置いてきてないか、心配、で……」
「キミは優しいんだね」
 若い男の大きな手が、びいどろの髪をくしゃりと掻き混ぜた。
「大丈夫、しっかり数えて確認したよ。全員、ちゃんとここまで来ている。誰も、忘れてなんかいないよ」
 そう答える事に、後ろめたさは欠片もないのだろう。だからこそ男は大人の余裕で、びいどろという子供に対した。子供ならではの鋭い刃で貫かれなかったことに、胸を撫で下ろして。先ほどの質問は、ただの偶然だったのだろうと勝手に判断して。
 だが偶然ではない。
 確たる意図をびいどろは持っている。先ほども、『今』も。
「……じゃあ、犠牲にしてしまったものは、なぁに?」
「!?」
 的の真ん中を射抜くびいどろの言葉に、若い男の肩があからさまに跳ねた。
「おしえて? そうしたら、次は。違うやり方で――」
「外の子は大人びてるのねぇ」
 どすん、と。岩の地面に敷いた薄手のラグに埃を立ち昇らせる程の勢いで、若い男とびいどろの間に中年の女が割り入る。
「そうねぇ、みんなが幸せでいようとしたら。みんな少しずつ我慢しなきゃいけない事もあるでしょう。それを犠牲と呼ぶ人もいるかもしれないわ」
 ねぇ、おませさん?
 中年女は、あからさまにびいどろを子供扱いする。子供の戯言だと、片付けにかかっているのだ。
 それを察したレオンティーナ・ハートフィールド(レグルス・f02970)は、敢えて流れに身を任せる。
「ここの子達は、素直でございますね。洞窟内の移動中も、文句を口にする子はいらっしゃらなかったような」
 中年女がびいどろの言葉を遮った瞬間、レオンティーナと会話を交わしていた男が身を竦ませた。『無邪気だった頃に戻りたい』と子らを羨んだ男だった。
 何かを吐露したいのに、出来ずにいるような男だった。
 びいどろが接していた男と、同じくらいの年頃の。
『この村の方達は仲良しでございますね。どんな方達なのですか?』
 何気ない世間話から入り、不審がられぬよう自身の出自に関しても話して聞かせた。
 知らぬ街の話に、憧れるよう目を輝かせる男だった。
 そんな男が、中年女の動き一つに硬直したのだ。
(「若い世代を、上の世代が押さえつけておいでなのかしら?」)
 既に得た確信に、レオンティーナは一応の疑問符をつける。必要以上に、疑いたくはないのだ。皆に、救われて欲しいだけなのだ。
「自慢のお子さん達、といった所でしょうか?」
「そうよ、みんなかわいい子。時折、悪さをする子もいるけれど。そんなの子供だったら当たり前でしょう?」
 品の良い穏やかなレオンティーナの笑顔に、中年女が水を得た魚のように子らの自慢を始める。
「マリアもテドも。リタも――」
 どこの子供も、我が子同然なのだろう。女のお喋りは止まらない。
 されど、一つ。たった一つ。
 連れ忘れがないよう確認した子供の数と、中年女が挙げる子供の名前の数が合わないのにレオンティーナは気付いた。
(「その子が、もしかすると」)
 ちらりとレオンティーナは傍らで『笑顔』を取り戻した男を見遣る。
 びいどろも、語り続ける女越しに何か言いたげだった男を見上げる。

 ――得たい答はもう目の前にある気がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニケ・セアリチオ
ああ、良かった
誰も欠けず、ここまで来れて
一先ずは、安心かしら?

――ええ、ええ
分かっているわ
笑みは、時に人を欺く為にも使われる物
でも、でもね
嘘をつき続けるのは……とても、つらい、もの

皆さん、どうしてそんなに
苦しそうにされているのかしら

私はご年配の方を中心に
特に、疲労が濃く見える方

お隣、失礼いたしますね
とてもお辛いように、見えるけれど……大丈夫かしら?
……ねぇ、ねぇ
もし、宜しければ
私に、皆さんの村のお話を、思い出を
語り聞かせてくださらないかしら?
こうしてご縁があった、あなた方の事を
少しでも知りたいのです

かの方が少しでも楽になる様
手を添えて、光を送りましょう
どうか、その心も救われるよう、祈りを込めて


フィオリーナ・フォルトナータ
恐れに笑顔の蓋をして
何も暴かないことで、やりすごそうとしている
いつかは、想定よりも最悪の形で
綻びる日が来るでしょう
そんな彼らを、わたくし達の手で救うことは叶うのでしょうか

火の番をする傍ら、見回りを行います
お休み中の方を起こしてしまうのは忍びないので
なるべく余計な物音は立てぬように
ですが、何らかの異変を感じたらすぐに猟兵の皆様にお伝えします

もしご老人の方が起きていらっしゃるようでしたら
お声を掛けてみましょうか

誰かが村を売ったのではと思っている方がいらっしゃるようです
余所者のわたくし達が口を挟むべき事ではないとわかっています
…けれど、余所者だからこそ、何か力になれることもあるかもしれません



●終えし者の苦悩
 ――ええ、ええ。
 分かっているわ、とニケ・セアリチオ(幸せのハト・f02710)は幾度も幾度も、胸裡で頷く。
 笑みとは、時に人を欺く為にも使われるモノ。我が身を守る為の盾となるモノ。
 ――でも、でもね。
 作られたそれを顔に貼り付け続ける辛さに、ニケは眉間を寄せる。
 嘘で塗り固めた生き方が、楽な筈はない。背負った重荷は、一時でも早く降ろしてしまいたいだろうに。
 ――なぜ、どうして? こんなに苦しそうにしてまで。
 強行軍に疲れ果てた老翁への付き添いを申し出たニケに、否やを唱える村人はいなかった。
 むしろ『助かる』と家族からは感謝された。
 傍らに寄り添い、食事を共にし、うつらうつらと微睡み始めたら、横たわらせて毛布をかけた。
 いつもであれば、老翁はそのまま深い眠りに落ちただろう。しかし限界を超えた疲労が、固い寝床が彼から眠気を遠ざけた。
『少し、話相手になってくれるかな?』
 デンザと名乗った老翁の求めに、ニケは『もちろん!』と朗らかに笑った。『私も皆さんの村のお話や、思い出をお伺いしたいと思っていたのです』とニケが瞳を好奇心に輝かせると、横たわったままのデンザも皺くちゃの顔をさらにくしゃくしゃにした。
 語り始めは子供の頃。村一番の料理上手だった母の自慢。隣の畑に仕掛けた悪戯を父にみつかりこっぴどく叱られた後、その畑の主に慰められて甘い木の実を貰ったこと。
 初恋の相手は、兄に嫁いできた人。報われなさにいじけて夜の森に入ったら、村をあげての大騒ぎになった等。どれもこれも、ありきたりの。けれどデンザにとってはとっておきの思い出たち。
 しかし自分を辿るデンザの旅は、年を長じる程に浮かない『一瞬』が混ざり始める。
 結婚して、初めての子が生まれたと語ったかと思えば、重い溜め息がひとつ。長男が初めての狩に成功したと誇らしげに言った直後に、また溜め息。
 まるで大切なものが増える度、重苦しさも増していくようだと。童心に返ったかの如き笑顔が、徐々に作り物めいていくのにニケは胸を痛めた。
 ――そして。
「やっぱり僕たちは間違っていたのかね」
 重い、重い、溜め息の続き。デンザが悔恨を漏らす。いつの間にか夜は深い時間。静まり返った洞に、彼の声は思ったより大きく響いた。
「おい、デンザさ――」
「大きな声を出されては、眠ってしまった方が起きてしまいますよ?」
 聞き咎めた寝ずの番の中年男を制したのは、一帯の見回りをしていたフィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)だった。
「……そうだよ。その娘さんの言う通りだ」
 そしてそのフィオリーナの加勢に回ったのは、洞窟を行く最中、フィオリーナが甲斐甲斐しく世話を焼いた老婆だった。
「あとはもう終えていくだけの私らだ。懺悔の一つくらい、許しておくれ」
 老婆の懇願に、中年男の視線が惑う。その隙に、フィオリーナはデンザの傍らに膝をつく。
 語らせてしまうのは――罪の意識を明らかにするのは、酷い事なのかもしれない。
 それでも、考え得る最悪を超えた綻びの波に、彼らの子が飲まれてしまうよりきっと良い。
 笑顔で『恐れ』に蓋をしても、永遠にやり過ごすことなど出来はしないから。
「誰かが村を売ったのではと思っている方がいらっしゃるようですが」
 フィオリーナがついた核心に、ニケも目を瞠る。されど横たわったままの老翁も、フィオリーナを許容した老婆も動じはしなかった。
「……あなた達は、それが知りたくてここに来たのかい?」
 デンザの問いに、フィオリーナはオールドローズの髪をふるりと震わせ首を横に振った。
「いいえ。『知り』に来たのではありません。わたくし達は、皆さまの力になりたくてここへ参りました」
 空色の眼差しに、追憶の色が滲む。
「余所者のわたくし達が口を挟むべき事ではないとわかっています……けれど、余所者だからこそ。何か力になれることもあると思うのです」
「……そう、だね」
 金色と薔薇色の少女に見守られ、デンザは――老いた者は口を開いた。

 恐怖から逃れるために作られた村が、疑心暗鬼の囚われた最初はもう誰も知らない。
 安寧を素直に甘受できていたのは子供の頃だけ。多くの物事を知り臆病になるにつれ、人々は村の調和を崩さぬよう、互いの動向を見張るようになった。
 あからさまな疑いにならぬよう、努めて笑顔で。
 大丈夫、そんな事はないと幾度も幾度も自らに言い聞かせながら。

「こんな生き方は、息苦しい。幾度もそう思ったよ。でも一度歪みに飲まれてしまえば、飲まれたまんまでいる方が楽だ。それで我が身も、村の平和も守れるんだからね。けど、大人になっても歪みに飲まれなかった子がいたんだよ」
 そこでデンザは言い淀む。
 これ以上は自分が語って良い事なのか、迷うように。
 その時。
「構いませんよ、何なら私がお話しましょう」
 新たな声が、洞に響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギド・スプートニク
これまでの状況を鑑みて
オブリビオンと化したのは墓標の夫婦の娘と見て相違あるまい

然し、何があった
少女が村を売ったと疑ったとして、吊るし上げるのを忌避する理由は?

見殺しにしたのではないのか
恨みを買って当然の事をしたのではないのか

隠れ里
意見の合わぬ両親を放逐し、告げ口が怖くて少女さえ殺したのか

分からぬ
仮に少女が殺されていたとすれば、もうそれはオブリビオンとして滅する他ない

若者達に尋ねてみよう

何故笑顔で居られるのか
逃げた先でも再び襲われるのが怖くはないのか

必要であれば力を貸すが
貴殿らにはそれすら必要ないように感じる

その根拠はなんだ?
良ければ聞かせては貰えぬだろうか

若さ故の、凝り固まらぬ正義感に期待して


ティア・レインフィール
村の大人達の様子から感じる感情は、罪悪感
誰に対してのものなのか、それは恐らく……

【礼儀作法】や【コミュ力】【優しさ】を活かして
失礼にならないよう、友好的に大人達と接触

予め【料理】していた多少日持ちのする焼き菓子を差し上げます
甘い物を食べると、疲れも和らいで落ち着きますから
子供達にもどうぞ、と付け加えて
私も一枚食べて、毒等は無いと暗に証明致します

神はいつでも見守っていてくださいます
例え罪を犯しても、悔いる者をお見捨てにはならないでしょう
……もし、懺悔をされたいのであれば
私が聞き届けましょう
希望者が居たら、事前に探しておいた人気が無い場所へ

カイ様達のお名前が出たら、血縁者の有無と名前を確認



●継ぐ者の焦燥
 おそらく人が二人、死んでいる。
 殺されたのか、そうでないかは定かではない。
 名は、『カイ』と『アン』。
 響き的に、男と女だろう。苗字が同じ事から、夫婦であったか、きょうだいであったか。何れにせよ、家族であったのは間違いなさそうだ。
「はい、どうぞ」
 予め用意していた焼き菓子を配り歩くティア・レインフィール(誓銀の乙女・f01661)の様子を視界の端に捉え、ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)は思考を巡らす。
「甘い物を食べると、疲れも和らいで落ち着きますから。子供達にも、ぜひ」
「そうさせてもらうよ。きっと喜ぶ」
 ティアが修道女の出で立ちをしているからか、はたまた彼女の儚くも優し気な雰囲気のせいか。出会って間もない女が手渡すものを、村人たちは躊躇うことなく口へ運び、進んで子らへと分け与える。
(「毒が入っていないと証明する必要もありませんでしたね……」)
 その無防備さは、まずは一枚、己で食んで無毒なのを示すつもりでいたティアも呆気にとられるほどだ。
(「彼らが疑心を向けるのは村人同士だけ、か。此処までの道程、私達には助けられたという思いもあるからだろうが」)
 本来、自分たちの利を損なう存在を疑うなら。まずは余所者が対象になるはず。しかしこの村の住人たちは、訝しみつつも猟兵を受け入れ、頼るのを良しとした。
 あまつさえ、寝床を晒しさえしている。
(「つまり『敵』と見做す者が、内側に居ると確信している――ということだ」)
 ならば対象は誰だ?
 墓の不自然さから、カイとアンの縁者だとギドは踏む。そこまで絞られているのに、どうして村人たちは吊し上げるのを忌避している?
 閉じた村。全員が全員の名前を憶えられるくらいの数しか住まぬ小さき村。
 何かの発覚を恐れ、誰かを殺したのか。カイか、アンか、その縁者か。
 ――分からぬ。
 チェックメイトに、足らぬ一手。堂々巡りを繰り返す間に、新たな禍が起きてしまうかもしれない。
(「……ならば」)
 眉間に寄った皺をついと指で押し、友好を演じる道化の仮面を僅かに弛めた。
「何故、笑顔で居られるのだ? 逃げた先でも再び襲われるのが怖くはないのか」
 寝入った子らが起きぬよう、低く抑えた声で。
「必要であれば力を貸すが、貴殿らにはそれすら必要ないように感じる」
 洞の入り口付近に座す、若者らへ。
「その根拠はなんだ? 良ければ聞かせては貰えぬだろうか」
「ちょっ、あ――」
 慌てて立ち上がった中年男は、ギドの冷たい視線に押し黙った。ギドが獣たちを退けた力を、伝え聞いているのだろう。秘密を貫く意思に、保身が勝った。
 顕わになった『弱さ』に、若き者たちの不満が噴出する。
「そ、そりゃあ。俺たちだって怖いさ」
 一度切られた堰は、見る間に崩壊してゆく。
「好きで笑っていたい訳じゃないわ。でも、そうしてないとぎくしゃくしちゃうから」
「親父やお袋が、ずっとそうしてきたから。それが正しいんだって、言われてきから」
 歪な『伝統』を継ぐには、まだ青い者たち。
 述べられた救いの手に、希望を見出す。
「そうしてずっと守ってきた平和なんだよ。だから俺達もそうしようと思ってたんだ!」
「そうよ。それなのに、こんな事になったんだもの。絶対、レジオの家の――」
「あの婆さんか、娘が何かやったに違いないんだ!」

 ――!!
 ああ、ああ、ああ。
 若者らが口に出した名に、彼らより長じた大人たちが顔を覆う。
 項垂れ、崩れ落ちるその様に、ティアは深い深い慙愧の念を見て取った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ベスティア・クローヴェル
【SPD】
※アドリブ歓迎
村全体が疑心暗鬼
誰かを吊るし上げれば、次は自分が吊るされると怯えているようにも見える
まるで「人狼ゲーム」のよう

最後まで祈っていた老人と、そのお墓が気になる
周りに聞いてもわからないだろうし、本人に直接聞く事にする


私も両親を亡くしているし、別れを惜しむ気持ちはとても理解出来る
最後まで祈っていたということは、とても大事な人だったはずだから
どんな人だったのか聞かせてほしい

そして、これから親になる人もいる
その人との別れが惜しかったように、何かあればきっととても悲しむ
そうならないように、これから先に不幸な別れが訪れないように、私達が最善を尽くす
だから出来る限りのことを教えて欲しい


泉宮・瑠碧
獣達はある程度引き付けたら風鳥飛行で空へ
大きく旋回して皆の元へ戻りつつ
暗視も併用して地形の確認を

文字が新しいのは…
村人が居なくなった時に書いたから
村人には見られたくない…悼んではいけない名前?

野営地点では
青い瞳の老婆を探そう
あの墓地の事は他の村の者には伝えたくないので…
村で蹲っていたと聞いたので足を診る、という事にして外へ

医術で老婆の足にマッサージを施しつつ内緒話
墓地に行った事や文字の事を話し
老婆の名と、あの二つの墓石の血縁かという事
あと…孫が居たりしたか?

…何故
墓石があの様な状態なのかも知っているだろうか
名さえ無く…見ていて悲しかったが、貴女が拝んでくれて良かった
きっと、嬉しかったと思うから


クロード・ロラン
裏切り者……なるほど、変な空気はそのせいか
心当たりもあるのに、真相を暴こうとしない
それはつまり……裏切られても仕方ない理由が
疑わしき相手にあるから、か?

知らない方がいいのかもしれない
でも……それじゃきっと、この人達は助からねぇよな

さっき助けた老人に話しかけよう
子供の俺になら、油断してくれるかもしれない

なあ、あんた達が出てきた村って、ヴァンパイアに狙われてたのか?
その割に壊れたとこはなかったし、
ここまで運んできた蓄えも結構あるみてぇだけど……
狙われてるなら、そいつ倒しちまった方がいいんじゃねぇか?
次の住処まで追ってこられたら厄介だし……俺、こう見えて結構強いんだぜ!

無邪気装い、反応伺う



●青い瞳の老婆
 泥濘で両手を引いた老人の隣で膝を抱え、クロード・ロラン(人狼の咎人殺し・f00390)は金の瞳に子供の無邪気を煌めかせる。
「なぁなぁ、あんた達が出て来た村って、ヴァンパイアに狙われたのか?」
 ぱたん、ぱたんと狼尾を左へ右へと大きく振り、ふさふさの耳もピンと欹てた。
「あー、でも。狙われたにしては、建物とか壊れたとこなかったな。俺のとこなんて酷いものでさ」
 興味を持ったのは、経験があるから。理由付けも明らかにして、クロードは笑ってくれた老人の油断を誘う。
 裏切り者がいる――成程、この変な空気はそのせいだったかとクロードは理解していた。
 心当たりもあるのに真相を暴こうとしないのは、裏切られても仕方ない理由があるからだろうとも。
 だとするなら。
 ――真相は知らない方がいいのかもしれない。
 何もかも有耶無耶にしてしまうのを村人たちは望んでいる。
(「でも、それじゃ。それじゃ、きっと。この人達は助からねぇよな」)
 彼ら彼女らの日常は、波打ち際の砂の城。もう半分以上、壊れてしまっている。
 元の形に戻すのは無理だ。作り直さねば、元を正さねば、全てが終わる。
 救いたい一心なクロードの裡にはとんと気付かず、人の好さげな老人は『子供』の話ににこにことよく笑う。
「さてねぇ」
「どうだろうねぇ」
「君もそんな年で大変な思いをしたんだねぇ……」
 寄越される応えは曖昧なものばかり。だが、クロードの強気な少年らしい言葉に老人の態度は一変した。
「狙われてるなら、そいつ倒しちまった方がいいんじゃねぇか? こう見えて俺、結構強んだぜ!」
「倒す、だなんてっ」
 ジャブを繰り出す仕草をしてみせたクロードの手を、老人の痩せこけた手が掴む。視線は、クロードを見ていない。クロードの頭上を越え、洞の奥で寄り添う『二人』へ注がれていた。
「そんなこと、儂らは望んでなんか――」
「構いませんよ、ラジエ。少し、アニの様子を見ていて貰えますか?」
 ラジエと慌てる老人の名を呼んだ老婆が、肩にもたれ掛かって眠る黒衣の誰かをそっと地面に横たえ、クロードに歩み寄る。
「坊やは、私に聞きたい事があるのかしら?」
「……あ」
 品の良さ気な老婆の顔立ちに、クロードは息を飲む。
(「あの二人が探してたの、この人だ――!」)

「私たちは、いつだって特別扱いしてもらえるのです」
 互いが互いを見張り合っているのに、自分が洞の外へ出るのは誰にも咎められないのを、レニャと名乗った老婆は申し訳なさそうに眉を下げた。
「ではやはり。あなたは村人に遠慮して墓標に名前を刻んでこなかったのですか?」
 クロードを介し、対面を果たしたレニャの眼差しの落ち着きぶりに口火を切ったのは泉宮・瑠碧(月白・f04280)。
「そうとも言うし、そうでもないとも言えるかしら。一番は、そうね。孫に両親がもうこの世にいないのを知られたくなかったの」
「息子も義娘も大事だったけれど。孫が一番、ということか」
 ベスティア・クローヴェル(諦観の獣・f05323)の解釈に、レニャは深く頷く。
「えぇ、そう。だってアニは私に残された唯一無二の宝物ですもの」
 両親を亡くしたというベスティアを、レニャは慈愛の眼差しで見る。
 最期に貴女が拝んでくれて眠る二人はきっと嬉しかったと思うと言った瑠碧を、レニャは胸いっぱいの感謝で包む。
 ――いつかこんな日が来るかもしれないと思っていたの。
 肩を落とした青い瞳の老婆は、来訪者たちの動きに既に察するものがあったのだろう。瑠碧とベスティアに求められる儘に過去を紡ぐ。
 事の起こりは十年前。
 村の在り方に常々不満を漏らしていた息子はある日、ダージェの父宅を訪ねたきり帰ってこなかった。伴った妻も同様。
 口論の末の事故だったと、同席していた息子の幼馴染の男はレニャ達へこれ以上ないほど頭を垂れた。
 レニャも、レニャの夫も。怒りに震えた。けれど、震えながら、仕方ないと思ってしまった。
 この村は、そういう村だ。自分たちが怒りの矛を収めれば、これからだって変わらぬ平和を皆が過ごせる。
「年を重ねただけ、諦め上手になっていくのよ。大切なものを、守る為に」
 異分子だったのは、自分の息子たち。娘が生まれても、青いまま。変わらなきゃいけないと理想を掲げ、泥船が運ぶ安寧に反旗を翻そうとした。
「村人を、恨んでいないのか?」
「……恨めないわ。だって私も同じだもの」
 レニャの答に、瑠碧はどういう表情をしていいか分からなくなった。
「それに皆、私たちを気遣ってくれるでしょう?」
「腫れ物扱い……では、ないのか」
「――そうとも言うわね。何が起きたかちゃんと知らない若い人たちは、不満で一杯だったでしょうし」
 懸命に絞り出した瑠碧の言葉にも、レニャは笑う。
「私も、嘘吐きなの。孫には息子たちの死を伝えてないわ。遠くへ出かけたって。いつか帰って来るって話してあるの。その方が、希望があるでしょう?」
 だから『私たち』は今回の騒ぎには関係ない。
 言い切るレニャの微笑に、ベスティアは矛盾を見出す。
(「関係ないなら、どうしてこの話を私達にする必要がある?」)
 嘘は、見破りやす過ぎた。猟兵たちの動きに敏感であったのも、言えぬ秘密を抱えているからだ。でも、正面から切り崩すのは哀れだった。
「私は今日、もうすぐ母になる人をここまで運んだ。これから先、その人があなたのように我が子との別れを経験するようなことがあったら、とても悲しむだろう。そうならないように、これから先に不幸な別れが訪れないように、私達が最善を尽くす」
 ――だから出来る限りのことを教えて欲しい。
 ベスティアが差し出す一途な献身に、レニャの瞳が揺れたのは間違いない。
「……、平気よ。これ以上、悲しいことなんて絶対にないもの」
 然してレニャが貫く頑なさに、瑠碧とベスティア――聞き役に徹したクロードも――は追及を一度、諦める。
 それほどに、レニャの崩れぬ笑みは、我が身――というより、おそらく孫――の潔白を叫ぶ悲痛に塗れていた。

 しかし、生じた綻びから崩壊が始まるのは早い。
 今宵の寝床である洞へ戻る途中、金色と薔薇色の娘たちを留めようとした中年女性を制し、瑠碧らへしたのと同じ話を繰り返したレニャは。
「おや、アニと一緒じゃなかったのかい?」
 ラジエの出迎えに青褪める。
「あんたが出て行ってすぐ目を覚まして、『おばあちゃんと一緒にいる』って探しに出たんだよ――」
「アニ! ああ、アニ。早まらないで、アニ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・凛是
力業で聞き出す…は、てっとりばやい
けど、派手にやっちゃいそう
こういうところで問題起こすと目立って、警戒されそうだし
でも、そもそも、だ。
めんどうくさい。正直…めんどうくさい…
…にぃちゃんなら、どうするのかな……

あのはりつけたような笑みが、いや
あれをみないで良い所にいこう
俺みたいなやつ、他にいるかもしれないし
人の気配の、薄い所
そういうところって、やましいことがあるやつとかもいたりするし
いたなら、まず話を聞くようにする
右から左に流しちゃうかもしれないけど、大事そうなとこはちゃんと聞く

そういうのいなければ、周囲の様子をみて変な動きしてないかを
ひとりで外にいこうとしてる、とか
そういうことしてるやつは追う



●嫌悪の同調
「先客がいるとは思わなかった」
 座り心地が良いとは言えない岩の上。四肢を投げ出すように座り込み、頬杖をついていた終夜・凛是(無二・f10319)は珍客の声に立ち上がる。
「ね、あなた。村のみんなの事が嫌いでしょう?」
 洞に灯った明かりを背に、長い黒衣のフードを目深に被った人物がそこにいた。
「だってこんなとこ、あの人たちが嫌いでないと来ないもの」
 飾り気のない布の靴で岩場を器用に渡り、その人物はあっという間に凛是の傍らに立つ。
 声から、少女であるのが知れる。むしろ声だけが、その人物の手がかり。それくらい、少女の身を包む黒衣は、彼女の体躯をすっぽりと覆い尽くしている
「違う?」
 揺蕩う水に常に洗われ続ける岩の畔。陽の光がある時分なら、釣りに訪れる者もいるだろうが、少し足を滑らせただけで暗い水中へ真っ逆さま――なんて場所へ好き好んで足を運ぶ理由は、そう多くない。
 あの、貼り付けたみたいな笑顔を見ていたくないから。
 気持ち悪い大人たちから、逃れられるから。
「……まさか、好きとか言わないわよね?」
 じぃと窺う視線を肌で拾いながら、凛是は言葉を択ぶ。
「それは――言わない」
「やっぱり! 嫌いよね、嫌いよね? 気持ち悪いもの、白々しいもの」
 得られた同意に、少女の声が弾む。躊躇わず口にされたのは悪態なのに、どうしてだか凛是は少女を拒絶できなかった。
 包み隠さぬ本音であるのが分かったからだ。
 事実、凛是は村の大人達を厭うている。猟兵としてこの地を訪れたなら、今頃はせっせと情報収集に勤しまねばならぬと理性では分かっているのに、めんどうくさいと務めを放り出せてしまうくらいには。
 姿を晦ませていないだけ、御の字。
(「……にぃちゃん」)
 慕わし気に語り掛けてくる少女を隣に、凛是は己が裡へ問う。いや、『己』ではなく、『己の裡に住む絶対』に。
「聞いて、聞いて。酷いのよ、あの村の人たちって。わたしが小さい頃、パパとママを外へ追い出したのよ」
「――へぇ」
「理由はよくわからないの。でも、多分。イケンのソウイってやつね。パパがお隣のおじさんと喧嘩してたの憶えてるもの」
 ゆったりとした深呼吸を繰り返し、凛是は少女の話に合槌を打つ。手と肩からも、力を抜いた。
「申し訳ないって思ったのかしら? おばあちゃんやわたしには親切にしてくれたわ。わたしがイアンちゃんを引っ叩いても、これっぽっちも怒られなかったの。すごいでしょう?」 
 少女の語り口は饒舌だ。得た『仲間』に興奮しているのかもしれない。
「……アンタ、そんなことやるヤツなのか?」
「もちろん、今よりもっともっと子供の頃のお話よ! 今はわたし、そんな事しない」
 背丈は、自分の肩より少し高いくらい。
 だから年齢も、そんなに変わらない。
「どうだか」
「本当よ! ううん、もっといいやり方が分かったの」
 つっけんどんな凛是へ、黒衣から覗く唇がニィと釣り上がる。
 悪戯ではなく、明らかな悪意の顕れに、凛是は少女に気取られぬよう爪先に意識を集中させる。
 情報を引き出すにも、力業に走ってしまいそうな自分を律し――『にぃちゃん』ならばそんな遣り方はしないから――、『面倒くさい』の本音に身を任せた結果。どうやら大当たりを引いたらしい。
「へぇ、どんな?」
 一も二もなく、殴り飛ばしてしまった方が早い。
 だが『にぃちゃん』ならどうするか。
「もっと、ちゃんと。きっちりと、復讐をするの。怖がらせて、怯えさせて、じわじわ、じわじわ。わたしの大切なパパとママを追い出したみたいに、あの人たちから大切なものを全部、奪うの」
「そりゃあ、大変そうだな」
「ちっとも大変なんかじゃないわ。このマントが、わたしに力を貸してくれるもの!」
 ぎゅっと、胸元を手繰り寄せる少女の仕草に凛是は確信を得る。
「そっちがオブリビオンの本体か!」
 大事な糸口は、掴んだ。
(「にぃちゃんなら、一対一は避ける場面だ」)
 全身のバネを躍動させ、凛是は狐のしなやかで静かに星が瞬く夜空へ踊る。

 仲間を、呼ばなくては。
 大事な情報を、伝えなくては。
(「にぃちゃんだったら、そうするはずだ」)

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ゼラの死髪黒衣』

POW   :    囚われの慟哭
【憑依された少女の悲痛な慟哭】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    小さな十字架(ベル・クロス)
【呪われた大鎌】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    眷族召喚
レベル×5体の、小型の戦闘用【眷族】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●青い叛逆
「ちがいます、違うのです。あのこは、リタは。物の道理をちゃんと理解していました。『特別』なのも、受け入れていました」
 祖母は猟兵たちへ訴える。
 自分は村人たちを恨んでいないと。
 だから孫娘も、きっとそうだと。
 そういう少女なのだと。
「様子がおかしくなったのは、あの黒いマントみたいなのを着るようになってからなんです。昼は部屋に引き籠り切りになって、かと思えば夜にふらりと出ていったり……」
 村で異変が起きるようになったのはその頃から。
 気付かぬフリを続けたレニャは、村を捨てる段になって決意した。これからは私が見ていようと。そうすれば、これからは何も起きないと。大丈夫だと。
「あのこは悪くありません。リタを、リタを殺さないで……っ」
 息子と義娘を失った老女は、泣いて猟兵に縋る。

 特別扱いされる違和感は年々大きくなった。
 それでも、この村で生きていく為だ。受け入れようと思っていた。生きていれば、またいつか父や母と会えるかもしれないから。
「……十年。四つだったから、もう十年。わたしは十分、我慢したわ」
 飛び退った少年が闇に紛れた先を睨み、リタは忌々し気に息を白く吐く。
 ――いい子を演じて来た、と思う。
 演じる境は、年々曖昧になってきていたけれど。
「でももう。我慢しない!」
 叫び、リタは目深に被ったフードを振り払う。顕わになった青い瞳は、憎悪と怒りで燃え盛る。
「お婆ちゃんが悲しむから。全部、ヴァンパイアに押し付けようと思っていたけど」
 力を得て、オブリビオンと通じた少女は、間違いなく村の災厄。
「もう、いいよね。わたしが、わたしで。全部、消してしまって!」
 長い黒衣を翻し、身の丈に合わぬ大鎌を構える姿は、災厄の種。オブリビオンそのもの。
「どうせなら、村の人たちが来てくれればいいのに……邪魔なひとたち」
 少年が去った筈の方向から駆けて来る馴染みのない顔に、リタは飽いたように呟き、殺意を漲らせた。

 オブリビオンたる黒衣が、どのようにしてリタの元へ辿り着いたかは知れぬ。
 ただ、リタは。オブリビオンの囁きに、『今』を手放した。
 大人になりきらぬ青さに任せ、押し殺し続けた苦しみを開放した。
 父によく似た娘だった。
 されど娘は父に非ず。『子』は『大人』に非ず。
 黒衣のみを祓う事が出来たなら、リタには父と違う道があるかもしれない。
 ――当人は、決して脱がぬつもりで、胸元を握り締め続けているけれど。

 十四年。親と別離してからは、十年。
 娘が村で過ごした時間の全てが、嘘で塗れていたわけではあるまい。
 希望はあるはずだ。
ギド・スプートニク
元を正せば人間同士の諍い

ナイフに頼るか
オブリビオンに縋るか
その違いに過ぎぬ

少女の怒りも
嘆きも
苦しみも理解はできる

少女の行ないが正当化される理由にはならぬ
だが元より
復讐に正当性など在りはしない

リタよ
このような村など捨ててしまえ

気味が悪いと
相容れないと思ったのだろう?

両親は口論の末に殺されたそうだ
村人たちはそれを知りながら隠蔽してきた

まずは村人どもに詫びを入れさせよ
全員が全員
本当に殺すに値する程の咎人か否か
その目で
耳で確かめるのだ

気が晴れぬならそれも構わぬ
その時は咎人に相応の罰をくれてやるがいい

だがその黒衣はダメだ
それはお前を破滅に導く

お前が忌避する連中の為に
むざむざ滅んでやる必要などあるまい


ベスティア・クローヴェル
※アドリブ歓迎
人は言葉を交わさなければ、分かりあうのは難しい
「言わなくてもわかるだろう」、「自分がこうだから、きっと相手も同じだろう」というのは通じない
この一件が終わっても隠し事を続けるのであれば、きっとまた同じことが起こる
であれば、隠し事はせず、一度本音をぶつけ合うしかないと、私は思う

本体であるマント狙い
【残像】と【見切り】で攻撃対象を絞らせないようにして回避
【ダッシュ】で一気に距離を詰めて懐に潜り込む

そのうえで、【鎧砕き】でマントの留め金破壊を狙う
【ブレイズフレイム】でマントのみを燃やし、洋服やアニに燃え移った場合は都度消火
多少火傷はするかもしれないけど、そこは仕方ない


レオンティーナ・ハートフィールド
気持ちが分かるなどと、軽々しく言えません

でもオブリビオンは滅せねばなりません
彼女からオブリビオンを引き剥がしたい

攻撃線上に立ち身を盾にしても村の方に攻撃が及ばぬ様にします
アニ様が村の方を傷つけてしまうなんて事、あってはいけません
そんな事があれば戻れなくなってしまう…

彼女の眷属が迫れば盾で受け流し
仲間や村の方が攻撃を受けそうならエレメンタルファンタジアで牽制します

アニ様、どうか
力では無く心をぶつけて下さい
そしてアニ様と村の方双方にお願いしたい。
思い出全てが悲しい物では無かったはずだから
素敵な事もあったはずだから
それを思い出して頂きたい。

今は難しくとも憂愁に閉ざされた心が晴れる日が来る事を願います


終夜・凛是
…復讐、って、いうけど
気が晴れるのは束の間、だぞ

俺も、あんなはりつけた笑顔のやつらを……いやになって殴り倒したことがある
多分、半殺しくらいにはした
でも、そうしたって――気持ちは晴れなかったし、鬱屈しただけ
なんにも、ならなかった
だから、復讐しても、気持ちは晴れるとは限らない
あんたが晴れ晴れした気持ちに絶対なれるなら、いいけど
多分、ならない
だってアンタがそれしたら、悲しむやついるっぽいし
俺はそんなやつ、誰も居なくても何にもならなかったから

特別、なんて
別に良いものじゃ、ない
一緒に居てくれる人がいるほうが、良いと――思う
アンタはあのじじばばが、いる
俺より、マシ

敵が離れたら迷うことなく攻撃
拳で全部穿つ


尭海・有珠
【WIZ】
周りが情報収集を行う中、子供達の側で休んでいた訳だけど
そういうことなら手を貸そう
勿論、アニを人のうちに返してやるために
あの黒衣、引き剥がすんだろう?

迎撃と足止めを受け持つ
【高速詠唱】も用い詠唱は短縮し【氷棘の戯】で攻撃
【2回攻撃】の1回目で迎撃、2回目で全方位に展開させ相手の動きを制限
殺さないようには留意
「私も薄っぺらい笑顔、嫌いだな」
そんな中で
「君、10年だなんて随分と頑張ったんだな。偉いよ」
我慢することは黒衣の力じゃない、君自身の辛抱強さだからな

それに祖母はそんなことしたら悲しむんだろう?
黒衣から手を離せば
君のことを待って大事にしてくれてる人のところにまだ戻れる
手をとってやりたい



●先駆者
 ――人は。言葉を交わさなければ、分かり合うのは難しい。
 纏わりついて来る闇さえ置き去りにする速さで、ベスティア・クローヴェル(諦観の獣・f05323)は夜を駆ける。
(「言わなくてもわかるだろう、とか。自分がこうだったから、きっと相手も同じだろう、とか」)
「そういうのは通じないんだ」
 祖母と孫娘のすれ違い。そうあって欲しいという希望を、呼吸に混ぜて斬り捨て、ベスティアは一際高く跳躍した。
 着地目標地点は、黒衣を翻す少女。
 殺すつもりはない。だが、話をする時間を作る必要はある。一方的に嬲られるわけにはいかないのだ。
(「この一件が終わっても、隠し事を続けるのであれば。きっとまた同じことが起こってしまうから」)
 誰か、誰か。
 秘密を暴け。
 本音をぶつけあう機会を作れ。
 願う儘、ベスティアは追加ブースターを噴かして滑空すると、湖畔の風にはためく黒衣に手をかけた。
「邪魔をしないで!」
 掴まれた部分を振り払おうと、アニが身じろぐ。その動作一つで、彼女の周囲に幾羽ものカラスが顕現した。
(「あれが、彼女の眷属……!」)
 閉じた村から飛び立ちたいという願いが形になったかの如き翼に、レオンティーナ・ハートフィールド(レグルス・f02970)は盾を構える。
(「気持ちが分かるなどと、私には言えません」)
 戦端は既に開かれている。剣戟を聞きつけた村人たちが『此処』に至るのも時間の問題。不審を吼える青い者らが最初にやってくるだろうか? 真実を知る世代が、それを食い止めようとするだろうか。
 何れにせよ――。
(「アニ様が村の方を傷付けてしまうなんて事、あってはいけません。そんな事があれば、戻れなくなってしまう……」)
 心優しき乙女は、穏やかな帰結を祈る。
 しかしどう足掻いても、元の形に戻る事は不可能だ。ならば一度、木っ端微塵に砕いてしまえ。
「アニよ、このような村など捨ててしまえ」
 携えたステッキの先で言葉の放り先を指し示し、ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)は低く冴えた声で言い放つ。
 元を正せば、人間同士の諍いだ。
 結末を、ナイフに頼るか、オブリビオンへ縋るか。違いは、せいぜいそんな処。相手を害そうとする『目的』は、飾ろうと、隠そうと、変わりはしない。
(「少女の怒りも、嘆きも、苦しみも――理解はできる」)
 アニの境遇を鑑みたならば、半世紀を超えて生きるギドにとって彼女の胸中を推し量るのはさして難しいことではなかった。
 故にこそ、男は理を掲げる。
(「だが、それが。アニの行いを正当化する理由にはならぬ」)
 ――元より、復讐に正当性など在りはしないのだ。
「気味が悪いと、相容れないと思ったのだろう?」
 然して、理に反する言葉をギドは紡ぐ。
 反して、煽って、揺さぶって――。
「両親は口論の末に、殺されたそうだ」
 前触れなく、突き付けた。
「……え、……ぅ、そ……」
「嘘ではない。賢い娘だ、本心では疑っていたのではないか?」
「ちが、ちが……っ」
「違うものか。特別なのを分かっていたのだろう? それはどうしてか。村人たちは事実を知りながら、隠蔽しようとしてきたからだ」
「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああ!!!!」
 余す事無く暴かれた現実に、アニが慟哭する。
 甲高い叫びは魂の悲鳴にも似て、夜の静寂を引き裂く。
 大気が震えた。凪いでいた湖面が泡立ち、高波を起こす。
「――氷棘の戯」
 襲い来た圧縮された大気が象る槍の嵐に漆黒の髪を嬲らせ、尭海・有珠(殲蒼・f06286)は前章を略し力持つ一節を短く唱えた。
 アニが大気を操るなら、有珠は水を繰る。朱色に染まった水棘は、過たずアニの足元を穿つ。そうして、有珠はもう一度。
「――っ、私もお手伝い致します」
 有珠の意図を酌み、レオンティーナが力を重ねる。
 さすれば有珠が戦場と外界を区切るように突き立てた水棘に、氷の壁が這う。
 此れで容易く、『どちらも』近付く事は叶うまい。物理的に稼ぎだされた時間に感謝して、ベスティアが今一度の肉薄を図る。されど黒衣を解かれんと抗う少女の手は、頑なさを増していた。
 血管を青く浮き上がらせ、アニは全身を震わす。
「まずは村人どもに詫びを入れさせよ」
 そんなアニへ、ギドは感情を乗せぬ声で告げる。
「その上で、全員が全員、本当に殺すに値する程の咎人か否か、己の目で、耳で確かめるのだ」
 老成した男が、青き少女へ道を示す。
「気が晴れぬなら、それも構わぬ。その時は、咎人に相応の罰をくれてやるがいい」
「そう、……そうよね。そう、そう!」
「――アンタ、バカだろ」
 不意に、容赦ない悪態が氷檻の内に響いた。
「何が『そう』なのか、ちゃんと理解出来てねーだろ」
「……、ぇ」
 あ、しまった。先に手が出てしまった、と。アニの見開かれた眼に、終夜・凛是(無二・f10319)は拳ごと掴んだ少女の胸倉から手を放す。
「アンタの頭の中、復讐でいっぱい。けどなぁ、それで気が晴れるのは束の間、だぞ」
 にぃちゃんなら。こんないきなり掴みかかって、どやすような事はしない。
 言い聞かせ、凛是は反射で飛び込んだアニの間合いから、半歩退く。
「俺も、あんなはりつけた笑顔のやつらを……いやになって殴り倒したことがある」
 ――多分、半殺しくらいにはした。
 年近い少年の告白に、アニは短く息を飲む。青い瞳に、興味が射す。
「やっぱりあなた、わたしとおんな、じ……?」
「同じじゃない。けど、遠くもない。ま、アンタがやろうとしてる事、俺はもうやった。やったけど――気持ちは晴れなかったのを知ってる。しょーじき、余計に鬱屈しただけ」
 この時の凛是はおそらく、此処が戦場であるのを忘れていた。
 いや、意識はしていただろう。それ以上に、言ってやりたい気持ちの方が強かっただけ。
「復讐しても、気持ちが晴れるとは限らない。アンタが晴れ晴れした気持ちに絶対になれるなら、俺は止めないし。それでいいって言うけどさ」
 復讐に意味はない。
 対象が、それに値するものではない。
 よしんばあったとして、終えてしまえば残るのは砂を噛む心地。
 ギドが示した『未来』を、凛是が噛んで、砕いて、既に道を通った者の言葉としてアニの脳へ流し込む。
 別に、アニの為じゃない。
 『にぃちゃん』なら、こんな風にするだろうと思ったから。そうでなければこんな面倒なことに凛是が関わり続ける筈がない。
 いや、もしかしたら――。
「殺っても、アンタの気持ちは晴れない。俺は、断言する。だってアンタがそれをしたら、悲しむやついるっぽいし」
 凛是の語尾に掠れたのは、羨望か、はたまた自戒か、それとも全く異なる何かか。
「俺はそんなやつ、誰も居なくても何にもならなかったから」
 いつの間にか、アニは凛是の言葉に夢中になっていた。
 自分と同じくこの村の人々を厭い、復讐を果たした少年の末路に。
「特別で、在り続けるのにろくなことはない。甘んじる必要もナイ。アンタには、一緒に居てくれる人がいるだろ。俺より、マシ」
「……マシ?」
 誰よりも不幸のどん底にいると思っていた少女にとって、凛是の言葉は青天の霹靂の連続。
 私より、可哀想だった人がいる。
 復讐を果たしたのに、笑っていない人がいる。
 それに。
「復讐に、価値はないの?」
「君、10年だなんて随分と頑張ったんだな。偉いよ」
 アニが漏らした疑問に直接は答えず、有珠は酷薄に細められた眼差しに僅かの親しみを込め、少女の頭をフードごしに撫でた。
 すっかり無防備になっているように見えて、アニの心が未だ絆されていないのを、黒衣を握り締め続ける手が表している。
「私も薄っぺらい笑顔は、嫌いだな。けれど君はずっと我慢していた。それはその黒衣の力じゃない。君自身の辛抱強さだ」
 何もかもを諦めているようで、何も諦めていない有珠は最善へと手を伸ばす。
 この少女を祖母の元へ、返してやりたい。
「それに復讐なんてしたら、君の祖母が悲しんでしまうんだろう? 君は、君のことを待って、大事にしてくれてる人のところにまだ戻れる」
 手を、取ってやりたかった。
 けれど僅かに触れた途端、少女は後退って逃げた。
「でも……おばあちゃん。わたしに、嘘を……」
 知ってしまった、突き付けられた『両親の死』という現実が、アニを黒衣にしがみつかせる。
(「だが、これは絶対に通らなくてはならない道」)
 自分では語れなかったことを詳らかにしてくれたギドへの敬意を胸に、ベスティアが三度目、アニの胸元へ手を伸ばす。
 結果は、一度目と同じ。しかし繰り返したからこそ、ベスティアは知った。アニの手の強張りが、先程までより解けているのを。
 頑なな少女の心は、溶けかけている。
「お前が忌避する連中の為に、お前がむざむざ滅んでやる必要などあるまい。その黒衣は、そういうものだ」
 柔らかくなったところへ、ギドは真理の杭を剛く打ち込む。
「アニ様、どうか。どうか、力ではなく心をぶつけて下さい。そして思い出して下さい。この十年は辛いだけの日々でしたか? 悲しいだけのものだったでしょうか?」
 出来れば、村人にも尋ねたい。
 きっと負に塗れただけのものではなかった筈と信じ、レオンティーナは臆病さの底から掬い上げた勇気で、人の内の善なるモノへ祈る。
「君も、笑えばいい」
 一日と少し。行動を共にしたアニと同年代の子らの笑顔を思い、アニが囚われた暗闇へ有珠は光を翳す。
「正直になっていい、怒りをぶつけていい。憎んでもいい。その為に、君は『此方側』にいなくてはならない」
 予想だにしていなかった言葉の波に、アニは飲まれかけていた。
 憎悪に凝り固まるにも、彼女はまだ青い。

(「俺みたいになるな、とは言わないけど、さ」)
 瀬戸際で揺れるアニが択ぶ未来を、彼女よりもっと年若くして歪んでしまった凛是は、傍観者の眼で見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィオリーナ・フォルトナータ
貴女が抱えていた苦しみや憎しみを
散らす術をわたくしは知りません
ですが、これだけは
例え何があっても、貴女の手を穢させる訳にはいきません

皆様と力を合わせて戦います
トリニティ・エンハンスで防御力を重視して強化
少女の動きを注視し、攻撃はミレナリオ・リフレクションで相殺を試みます
猟兵の皆様を盾で守りながら力を溜めて
好機が見えましたら懐に
捨て身の一撃で、黒衣の影を削ぎ落としましょう

…気づいておられますか
貴女が力を振るう姿を見て、お祖母様が悲しんでいらっしゃる事
村人達を消した所で、貴女の心には何も残らない
…いいえ、きっと、後悔が大きな波のようにやってくる
どうか、貴女を想うお祖母様を、…これ以上悲しませないで


ニケ・セアリチオ
村の方の姿に、声に思い馳せて
最初に会った彼女の笑みを
デンザさんの大切な思い出を
皆さんの、重く苦しそうな声音を

村の方々の行いが間違っていた、と
断じてしまうのも致し方ないのでしょう
誰も彼もが、きっとそう思っていて
だからこそ、必至に己と戦っていました

許してあげて、なんて言えません
全てを分かってあげて、とも思いません

けれど、けれども
貴女のおばあ様も、村の方々も
残されてしまった貴女を想って
この十余年、ずっと見守って来たことは本当だわ!

嘘はひどくて、つらくて
でも、その中にも輝くような「ほんとう」はあるの
私は、そう、教えてもらったから

アニさんから黒衣を剥す為
足止めの鳩達を放ちます
前衛の方々の、助けになれば


泉宮・瑠碧
…どちら側の考えも分かるが
共感はアニの方だな…

黒衣のみを狙うよう声を上げておく

僕は主に優緑治癒を備えつつ
破魔を帯びた弓で黒衣や大鎌の柄等を射って援護射撃
眷族には撃った矢を分散させて範囲攻撃

これまで違和感のままだったのは
君を気遣う想いもあったからだろう
また我慢しろとは言わない
ただ、君の祖母には本心を吐露しても良かったんだ

それに
君以外にも違和感を感じ始めている人は居る
…唆されて、消すという決断が出来るのなら
変える勇気も出せるだろう

全部を消せば祖母はどうなる
…君と向き合う決意をしていた祖母の想いまで裏切らないで…

最後
アニへ毛布と優緑治癒

老婆へ
誰と似ていても同じでは無い…押し付けず「アニ」を見てあげて


海月・びいどろ
大切なものを守るための嘘
ほんとうに、たいせつなもの
…おとなに勝手に決められたくない、よね

ボクに、出来ることは
あの子が黒衣を手放すまで
戦うみんなの傷を治すこと

それから、傷付いたキミを
ほんのすこしでも癒せたら、いい

こころを、ほどけなくて
共感して繋がれるか、…難しいかもしれない、けど
ぼうっとひかるスクリーンを喚び出したら
ありったけの、日常を思い起こせる風景を
この目に映してきた村の景色や
懐かしさ誘うメロディを流すよ

…これだって、嘘のひとつ
だけど、傷付けたくないのは
傷付いて欲しくなかったのは
本当だと、思うから

その衣を纏ってしか言えない気持ちは
ボクにも、受け止めさせて



●羽化
 定まり切らぬ少女の心を弄ぶように、慟哭の嵐が吹き荒ぶ。その渦へ、風の鎧を纏ったフィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)が飛び込む。
 甘やかに香りそうな薔薇色の髪が乱されるのも気に留めず、フィオリーナはオブリビオンの攻性の全て受け止めようと両手を広げた。
 赤い霧が、立ち込める。
 否、血を孕んだ風だ。
「――皆、よろしくね」
 頬を濡らした朱に、未だ撃墜を免れているカラスへ、ニケ・セアリチオ(幸せのハト・f02710)が白いハトを差し向ける。
 この隙に、泉宮・瑠碧(月白・f04280)が邪を祓う水の矢を射かけた。
 掠めて湖へ消える軌跡に、黒衣の端が裂けて飛ぶ。されど頼る力に無体を働かれても、アニは声の一つも荒げやしない。
「これ……は、」
 彼女の瞳は今、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)が展開した無数の電子スクリーンにくぎ付けだった。
(「大切なものを守るための、嘘。でも、ほんとうにたいせつなもの……おとなに勝手に決められたくない、よね」)
 目に焼き付けてきた村の風景に、明るい彩を添えてびいどろはアニへ見せる。
 捨てて来た村ばかりではない。これまでびいどろが見てきた――それは実際に足を運んで眺めたものだけではない――ありったけの、『日常』を思い起こさせる風景たち。
 花が飾られた窓辺、洗濯物が泳ぐ庭、小鳥が羽を休める軒先。
(「……これだって、嘘のひとつ」)
 ブランコ一つきりの公園、転寝が心地よさそうな木陰、小花をつける蔦を絡ませた門扉。
(「だけど、傷付けたくないのは」)
 ぎゅう、と。痛んだ胸を、無意識にびいどろは小さな手で押さえた。
 びいどろでは、ヒトの心は分からない。分からないはずなのに、きっとこの痛みは。
(「傷付いて欲しくなかたのは――本当だと、思うから」)
 全てが『嘘』ではなかった筈だ。
 気付けば、アニの眼差しは家族写真に一心に注がれている。父と母に手を繋がれた幼い娘。在りし日のアニにも重なるだろう風景。守りたかっただろう姿。
 だのに、アニの瞳に滲むのは羨望だけではない。親子を見守る祖父母の姿に、一言では表せぬ色がゆらゆらと揺れている。
「……気付いて、おられますか?」
 嵐を欠片も残さず受け止めて、フィオリーナは静まった少女へ微笑む。見せたくなかった傷は、瑠碧が癒してくれた。
「貴女が力を振るう姿を見たら、お祖母様はきっと悲しまれるでしょう」
 おそらく、率先して我が身を差し出したに違いない。想像に難くない悲劇を脳裏に描き、そうならなかった幸いをフィオリーナは、共に彼女を止めようとする猟兵たちへ感謝する。
「村人達を消した所で、貴女の心には何も残らない……いいえ、きっと。後悔ばかりが大きな波のようにやってきます」
 復讐を果たした未来は、既に一人の少年が証明していた。
 彼のような苦い想いをする子供を、フィオリーナは増やしたくなかった。
 既に起きてしまった過去は変えられない。過去から生じる災厄に堕としてはならない。
「どうか、貴女を想うお祖母様を、」
 ――これ以上、悲しませないで。
 手が届きそうで届かない距離。許されるまで踏み入るつもりはないと、見守る姿勢のフィオリーナを、アニの青い眼差しが仰ぐ。
「それに、だ。これまで違和感のままだったのは、君を気遣う想いもあったからだろう」
 フィオリーナの怪我を癒した代償を負った瑠碧は、距離を縮めずアニへ語る。引き受けた疲労は小さくない。近付けば、肩で息をするのを気付かれてしまうだろう。
 そうすればアニは、責任を感じる。
 アニはそういう娘だ、と。彼女の祖母と接した時間が、瑠碧へ確信を抱かせていた。
「また我慢しろ、とは言わない。ただ、君は祖母には本心を吐露しても良かったんだ」
 同時に、村人たちも『悪』ではないのを瑠碧は知る。
「……それに。君以外にも違和感を感じ始めている人は居る。唆されて……消す、という決断が出来るのなら。変える勇気も出せるだろう」
「そうです!」
 自分の内側の光という光、幸せという幸せを総動員して、瑠碧の言葉を継いだニケが朗らかに、底抜けに明るく、笑った。
 悲しみや不安、疑心を突かれ憑かれた少女に、負の感情はもう見せたくない。
「貴女が、村の方々の行いを『間違い』と断じてしまうのも致し方ないのでしょう」
 ニケが村で最初に出会った女は、心を許してしまえば人好きのしそうな人だった。
 思い出を語って聞かせてくれたデンザも、どこにでもいそうな老人だった。
「誰もかれもが、きっとそう思っていて。だからこそ、必死に己と戦っていました」
 大人たちの声は、真実に近づく度に重苦しさを増していた。
 きらきらと眩い朝日のようだった声音は、夕暮れから薄闇へと沈んでいった。
「許してあげて、なんて言えません。全てを分かってあげて、とも思いません」
 十七の自分でさえ、飲み込みきれないのだ。十四のアニには荷が重い。ましてや彼女は、誰の目にも明らかな『被害者』だ。
「けれど、けれども。貴女のおばあ様も、村の方々も。残されてしまった貴女を想って、この十余年、ずっと見守って来たことは本当だわ!」
 堪え切れなくなった昂りに、笑顔の儘のニケの頬を一筋の涙が伝った。
 村人を否定し続けたアニにとって、その涙は忌むべきものであったはず。
 なのに、どうしてか。
「……そうなの?」
 ニケの涙が酷く美しく見えて、アニは困惑に首を傾げる。
「うそ、ばっかりじゃないの? うそを、ごまかすために、笑ってたんじゃないの?」
 遠くから、村人たちの声が聞こえ始めていた。
 棘と氷の壁に阻まれたそれは、明瞭さに欠く。
 しかし、争っている風なのは分かった。
 責めようとする誰かを、違う誰かが必死に留めている。
 一対一ではない、複数と複数の声。
「嘘はひどくて、つらくて。でも、その中に輝くような『ほんとう』はあるの」
 ――私は、そう、教えてもらったから。
(「!」)
 囁くようなニケの言葉に、びいどろはぴくりと肩を跳ねさせ、記憶の中を漁り、見つけた答えを淡く輝くスクリーン達へ映し出していく。
 子供が誰かに教えを受ける風景は、人は様々を受け入れ成長するものだということを。個では辿り着けぬ真理があるということを。
「貴女を謀るだけなら、村の皆さんにはもっと楽な方法があったと思いませんか?」
 フィオリーナが、一歩、踏み込む。
 すかさずびいどろは村祭りの様子や、子を見守る大人たちの姿をスクリーンへ投影した。
「……苦しかったのは、わたしだけじゃないのね」
 アニの叛意を察したように、黒衣の裾がざわめく。
「復讐、したら。全部、嘘になるのかな」
 胸元を握り締めたままだった手が、ゆると開いた。
 掴みかかれば、何らかの反撃を受ける可能性は否めない――でも。
「わたしが、嘘に、しちゃうのかな」
「貴女に、嘘にはさせません」
 フィオリーナは迷わず最後の一歩を踏み込み、アニから呪いの黒衣を奪い去った。

 騒乱の夜を経て、朝は来た。
 攻撃を躊躇うべき少女から引き剥がすことに成功したオブリビオンの末路は、知れたもの。
 フィオリーナの負傷も、仲間たちの治癒の力により、かすり傷さえ残っていない。
「村を出るのか」
 瑠碧の尋ねに、アニは自分へ言い聞かせるようゆっくりと首を縦に振ってから、晴れやかに笑った。
「もう、パパとママを待たなくていいから」
 秘められて来た全ては、夜のうちに余す事無く詳らかにされた。年若い大人達はアニらを責める言葉を失い、己が行いを悔いる者らは項垂れた。
 そんな中、アニは村人たちから離れる未来を択んだ。
 父母を奪われたわだかまりは簡単には消えない。それに、今のアニは。皆へ村を捨てさせた負い目も、感じている。
 安住の地を追われた村人たちは、それぞれに新天地を目指すことになる。新たに村を築こうとする者もいるだろう、近隣の村へ助けを求める者もいるだろう。その道行きは、楽なばかりではあるまい。むしろ、この世界だ。苦しみばかりにならないとも言い切れない。
 しかし村人たちは、不要な疑心暗鬼からは解放された。無理に笑う必要はなくなった。それを改める意思を得た。
「いつかまた、機会があったら」
 他の誰より早く、朝日に照らされた湖面に繰り出していた釣り船へ未来を見出したアニは、祖母の手を引く。
 村人の幾人かは、アニと同じ選択をする事になるだろう。でも、その時は。これまでよりマシな関係を築ける可能性だってある。
 去りゆく背中へ、瑠碧は最後にひとつ。
「誰と似ていても同じでは無い……押し付けず『アニ』を見てあげて」
 受け取った老婆は一度振り返り、猟兵たちへ深々と頭を垂れると、戸惑うように――けれど何かを誓うように、唇で自然な弧を描いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月27日


挿絵イラスト