アポカリプス・ランページ③~猫に黄金、蚤に雷鳴
●揺らぐ陽炎
轟、と勢いを増して炎が翻る。
熱せられた大地が、ゆらゆらと陽炎を立ち昇らせて、見える景色は何処か朧気。
比喩ではなく、燃え盛る大地の中央に、其れは立っていた。
豊かな毛並みは、汗でしんなりと濡れそぼって、ぴたりと張り付く。
其の体躯からは、些か勢いのない蚤が、ぴょんぴょんと跳び上がっている。
そう、其れとは、猫である。
何故、このような場所に猫がいるのか。
其れは、この先に護らねばならぬ機密が存在している他ならない。
―最強格のソーシャルディーヴァ「プレジデント」の大規模通信サーバが、其処に隠匿されているから。
●踊る炎熱
エルドラド。伝説上の、黄金郷―。
今では、其の残痕が残るばかり。で、あったのだが。
「……どうやら、此処に、プレジデントの、大規模通信サーバが、隠されて、いる、よう、なのです」
神妙な面持ちで、神宮時・蒼(迷盲の花雨・f03681)は言葉を続けた。
今回の戦争は、如何に早期終結を目指すかが鍵だと言う。
猟兵たちが、時間を掛ければ掛ける程、敵側の作戦規模が大きく、強力な物になるのだと。
「…皆様には、此の、サーバを、制圧、して、いただきたい、の、です」
けれど、其の言葉の端には、困惑の色が混じっている。
「……制圧、するだけ、ならば、皆様には、さほど、困難な、事では、ない、のでしょう、けれど」
曰く、嘗て黄金都市が存在していた其の地表は、燃え盛る炎に鎖されているのだという。
かつ、此のサーバに近付かせまいと、耐火装甲で武装したオブリビオンたちが、周辺を護っているのだ。
其の相手と言うのが―。
「………ねこさん、です」
なんて?
「…ねこさんと、ねこさんに、憑りついた、蚤が、相手、です」
何故、ねこさんなのか。猫好きとして、ねこさんが置かれている環境の酷さに、蒼が思わず顔を覆う。
とは言え、相手は立派なオブリビオン。見た目で侮っては、此方が痛い目を見るのは明らかである。
主だって、ねこさんは回避担当。素早い動きで猟兵の動きを攪乱する。
対して、蚤は攻撃担当。百億ボルトの電圧を操り、其の一撃はとても強力である。
戦場は燃え盛る炎が翻る、とても危険な場所。当然ながら、此の炎の対処も行わなければ、普通に戦う事は不可能であろう。
「……此れも、アポカリプスヘルを、救う、為。…此の場を、抑えれば、後の、戦いに、大きく、影響を、齎す、事、でしょう」
だから、遠慮なく全力で挑んでほしい。だって此れは戦争なのだから。
そう言い切ると、静かに蒼は転送の準備を始めるのだった。
幽灯
幽灯(ゆうひ)と申します。
今回は、戦争シナリオをお届けさせていただきます。
一面に広がる炎の海。
大地も、空気も灼熱に塗れている事でしょう。
尚、此方のシナリオには以下のプレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス:燃え盛る炎に耐えて戦う。
相手がねこさんなのはたまたまです。
プレイング受付はOP公開直後から物理的な締切まで。
断章投稿はありません。
複数参加は二名まで。
全採用はお約束できませんので、ご了承いただければ幸いです。
其れでは、善き戦いを。
第1章 集団戦
『ネコとノミ』
|
POW : てやんでぃ、死なばもろともでぃっ!
自身の【命】を代償に、【落雷に江戸っ子魂】を籠めた一撃を放つ。自分にとって命を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : ばーろぃ、やらせるかってんだ!
全身を【発電、皆でネコを守るバリア】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ : おいらたちには、まだ帰れる場所があるのさ!
演説や説得を行い、同意した全ての対象(非戦闘員も含む)に、対象の戦闘力を増加する【ネコの生き血(ネコの同意は不要)】を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
栗花落・澪
猫ちゃんいるところに僕は来ます
炎耐性は持ってないけど
代わりに【オーラ防御】に【多重詠唱】で氷と水魔法を組み合わせ
冷気の膜で自分を覆い炎の影響を緩和
あとはなるべく短期決戦狙うしかないね
翼の【空中戦】で気持ち距離を取りつつ
猫の方は耳が良いから
【催眠術】を乗せた【歌唱】を響かせ動きの鈍化狙い
合間に【高速詠唱】で水魔法の【属性攻撃、範囲攻撃】
蚤ごと流すように水流をぶつけます
水浴びの時間だよー
猫はお風呂も嫌いだもんねぇ
蚤を猫と分離させたら蚤を先に氷魔法で凍結狙い
溶けるまでは雷もバリアも出せないように
その隙に一瞬でもいいから猫ちゃんもふって
まとめて【指定UC】で痛みは与えず【浄化】
ふわふわでした(幸
●猫居るところに
轟々と炎が躍る。揺らめく紅蓮が、ぱちりと弾けて、火花を散らす。
其処に居るだけで肺が焼けただれてしまいそうな熱を吸い込みながら、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、ただ一点を見つめていた。
耐熱の魔具を身に着けても尚、完全に遮断しきれない熱を身に受け、肉球の裏から分泌された汗が蒸気と也て其の身をしっとりとさせたネコの姿を。
例え、其れが敵であろうと。猫ちゃんいるところに、澪ありなのである。
触れただけで肌が爛れてしまいそうな其の熱を、澪は自身の内に宿るオーラに氷と水の魔力を纏わせる。
じわじわと肌を焦がそうとしていた熱が、緩和されるのを感じながらも、予想を超える熱量に此れも長くは持たない、と本能的に感じる。
「短期決戦狙うしかないね
ぽつりと零された澪の言葉と共に、つぅ、と一雫の汗が其の頬を伝った。
大地踏み締め、力強く空へと翔け上がる。地上にいたよりも、僅かに熱が和らいだような気がするけれど、其れすらもほんの誤差程度なのだろう。
ばさりと一対の白翼を羽搏かせて、けれども高度は高すぎずに。
纏うオーラが、熱さを緩和しても、吸い込んだ空気はやはりまだ、熱い。
けれど、其れに気にする様子はなく、澪の唇が紡ぐは朗々とした、癒しの旋律―。
高らかに紡がれる歌は、聞くものの心に安堵を与え、脳の処理を鈍くさせる。
つまるところ、ゆったりとした眠気が大地を闊歩するネコたちに襲い掛かっていた。
突如聞こえた謎の旋律に、ネコの体躯を飛び回る蚤はぱちり、と全身で発電し、防御結界を展開するが、そもそも攻撃では物を防御するなど不可能で。
くぁ、と大きく口を開けて欠伸を零すネコの姿に―。
「か、かわいい…」
なんて心ときめきそうになるけれど、ぶわりと襲い来る炎熱に意識を引き戻される。
相手はネコであるけれど、此処は戦場。
気を抜けば、何が起こるか分からない、そんな場所。
「ごめんね」
小さく謝罪を一つ。同時に、辺り一帯が水流に押し流される。じゅわ、と水が蒸発する音が響いて、もうもうとした水蒸気が空へと昇る。
『ふ、にゃあああ!』
『!!!!!!』
突如現れた水流に、微睡に堕とされていたネコからは驚きの声。
「水浴びの時間だよー」
特例はあれど、基本的に猫は水浴びが苦手である。生まれた水流にもみくちゃにされながら、身体に寄生する蚤も、其の勢いに押し流される。
此処がお風呂で、かつ薬用シャンプーなんてものがあったならば。蚤たちの運命は決まっていた。
が、其れは結果論であり、辿る結末はあまり変わらない。
ぱちぱちと放電する箇所に、澪が氷魔法を撃ち込めば、きん、と澄んだ音が響いて小さな氷塊がころころと無数、生まれた。
唸っていた水流も、気が付けば消え、身体の痒みという煩わしさから解放され、身体の水分を飛ばすネコたちに、そっと澪が近付く。
そっと抱き上げ、ぎゅっと抱きしめれば、太陽と、枯草と、土の匂い。
「ふわふわー」
此の環境にいたからか、もふもふではなかったけれど。それでも、此れは、不毛なる土地でネコたちが頑張った印。
「…全ての者に光あれ」
せめて、痛みが無いように―。
暖かな光が澪を中心となって、周囲へ展開される。
『にゃあー…』
穏やかな声音が彼方此方から響いたかと思うと、後には何も残っていなかった。
ネコも、蚤も、何もかも―。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
場所が余りにも場違いであれば、可愛らしい生き物であろうと不気味さが滲むのは否めませんね…
…気を取り直して
アポカリプスヘルに住まう人々の安寧の為、戦いましょう
私の故郷の戦場は恒星の熱に晒される事もある宇宙空間
酷な環境での活動は●騎乗している機械馬も含め寧ろウォーマシンの本領です(環境耐性+放熱に優れた●防具改造)
敵はどうやら防御を固めたようですが…その護りごと打ち砕いて差し上げましょう
防御障壁を槍状に展開
あらゆる防護を無視する馬上槍を構えた突撃で猫達を撃破
さて、残るは電気を帯びたノミ
マルチセンサーでの●情報収集で位置を●見切るのは簡単ですが…
(機械馬で踏みつけ)
…数が、数が多いですね!
●猫と騎士道
周囲一帯は、轟々と燃え盛る炎に包まれ、吹き抜ける風は、全てを焦がさんと熱を孕んで。
生き物など存在出来ぬ、此の灼熱の空間に、ネコたちが鎮座しているというのは、何とも―。
「場所が余りにも場違いであれば、可愛らしい生き物であろうと不気味さが滲むのは否めませんね…」
思わず、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)の心の声が駄々洩れてしまう。
誰しもが生き抜く事に必死である、荒廃せし世界・アポカリプスヘル。
訓練されたとは言え、ネコはネコ。オブリビオン情勢も、意外と圧迫しているのだろうか、と思わずにはいられない。
なんて思考が脱線してしまうけれど、忘れてはいけない。
此処は戦場である。騎士たるもの、これしきの事で動揺していては、務まらない。
ふるり、と小さく首を振って、本来の目的を思い出す。
目的は、たった一つ。
―敵方の持つ、大規模通信サーバの制圧。
其の一点のみ。此のトリテレイアの行動が、いずれ世界に住まう人々の安寧へと繋がる筈だから。
じりじりと立ち昇る熱が、トリテレイアの機体を襲うけれど、然程意味はなく。
嘗ての故郷は、恒星の熱に晒される事もあった宇宙空間。
当然の事ながら、宇宙空間、ひいては熱に対する耐性はもとより備えている。
白と群青のカラーリングの機械馬・ロシナンテⅡに跨り、手にした禁忌剣アレクシアを構える。
幾らオブリビオンとは言え、小さき生命体の姿を模したものを蹂躙するのは、些か心苦しいが、其れは其れ。
騎士とは、弱きを助け、悪を挫く正義の味方。
敵影の姿に惑わされるなど、あってはならない事なのだから。
幾らネコの動きが素早さに特化していようと。
幾ら蚤がネコを護らんと、電磁バリアを展開しようと。
圧倒的な武力の前には、其れすらも無意味。
「防御を固めたようですが…。その護りごと打ち砕いて差し上げましょう」
ヴン、と発生した防御障壁を、鋭い槍へと変じて展開。
ロシナンテⅡの腹を軽く叩けば、意図を察したのか、大きく嘶き、燃え盛る大地へと突撃していく。
『うにゃあああ』
体躯の差もあるが故か。面白い程簡単に、ネコたちが蹂躙されていく。
気の抜けた鳴き声を発し、ぱたり、ぱたりと大地へ伏せていくネコ。
「些か心が痛みますが。これも騎士の務め」
残るは、ネコの体躯から跳び上がる、無数の蚤。
トリテレイアの翠眼が鈍く光り、残る蚤の居場所を鮮明に暴いていく。
手綱を強く引き、ロシナンテⅡの前足が蚤に向かって踏み下ろされる。
―ぷち。
小気味いい音と共に、蹄の下でぱちりと電気が弾けた。
「……くっ」
けれども、ネコよりも遥かに小さな、ミリ単位の相手。幾らセンサーで居場所が分かっていようとも―。
「…数が、数が多いですね!」
此処まで寄生する蚤の数が多いとは、思っていなかったよう。
トリテレイアと蚤の攻防は、今しばらく続くのであった―。
成功
🔵🔵🔴
チル・スケイル
どこぞのヴォーテックスは肉塊と称される巨体でしたが、ここを守るのは極小の蚤ですか…
体から周囲に凍気を放ち、ひとまず周囲の炎を消し去りましょう
せっかくです、猫にも涼しい風を分けてあげましょう。戦場の炎全てを消せるとは思っていませんが、凍気を集めて猫に飛ばし、周囲の火を消すくらいは問題ないでしょう。
灼熱から開放され、猫だけでなく蚤も嬉しいようですね。あんなに飛び跳ねて…
まあ、それが狙いなんですけどね。蚤が跳ねて猫から離れた瞬間、カシュパフィロから発射される高速の氷塊弾で狙撃します
蚤が猫から離れて撃ちやすいですし、先ほど飛ばした凍気で射線上の炎が消えて撃ちやすい
時間はかけられません。やりますか。
●猫に冷気
ゆらり、ゆらりと熱に浮かされ、景色が滲む。此の先にあるのは、大規模通信サーバ。
幾ら黄金都市であったという箔があれど、こんな過酷な環境にわざわざ訪れる者はいないという自信があるのか。
配置されたのは、ちょっと訓練を受けただけのイエネコと、其れに寄生する特殊な蚤という一風変わったオブリビオン。
「どこぞのヴォーテックスは肉塊と称される巨体でしたが……」
今も戦いが繰り広げているであろう、肉塊女帝。
それに比べて、此の場を護るのは―。
「極小の蚤ですか……」
何処か疲れた表情を滲ませながら、チル・スケイル(氷鱗・f27327)は小さく息を吐く。
チルを中心に、ひやりとした凍気が周囲に満たされる。
放たれた凍気は、やがて空気すらも凍てつかせ、炎の勢いがゆっくりと弱まる。
此方をじっと見つめるネコたちに、チルの縹色の瞳が向けられる。
熱気にやられたのか、何処か覇気がないネコたちを見て、そっと凍気が向けられる。
「せっかくですので、お裾分けです」
むわっとした空気が一掃され、涼しい風がふわりと吹き抜ける。
『にゃあん』
へたりと地に着いていた尻尾が、ゆっくりと嬉しそうに揺れる。
知性の薄い蚤も、此の灼熱の空気には参っていたのか。ネコたちの身体から飛び跳ねるのが見て取れた。
けれど、其の喜びも一瞬の事。
すっと、狙撃中にも似た魔法の杖を、暑さから解放されたネコたちに向ける。
狙うのはただ一点。
喜びに跳ね回る蚤に向かって、チルが氷塊弾を放つ。
普段の三倍の力を宿したカシュパフィロが放った弾丸は、目では捉えられず。
飛び跳ねていた蚤を正確に撃ち抜いて、其の小さな体躯を散らした。
目に見えぬのならば、相手が気付く可能性も薄い。
加えて、氷塊弾の放つ冷気が、周囲の炎を散らしては、熱気に揺らいでいた空気も元の落ち着きを取り戻す。
「気付かれていない今のうちに……」
此度の戦場の脅威は、ネコよりも雷鳴を操る蚤の方にある。
回避しか出来ぬネコを傷付ける道理もないだろう、と。
とは言え、ミリ単位の大きさの蚤だけを撃ち抜く集中力を維持するのも、並大抵のことではない。
「……時間はかけられません」
ようやく、仲間が減っている事に気付いた蚤が、ばちばちと激しい電気を放ち、ネコを護るバリアを形成する。
だが、威力を増し、かつ普段以上の速度を超える弾丸の前には、バリアもあまり意味を持たない。
一点を狙い続ければ、容易くバリアは破壊され、どんどん蚤は駆逐されていく。
目で追えぬ弾丸を、ネコも避ける事叶わず。
全ての蚤を撃ち抜いた後、チルはそっと額に滲んだ汗を拭うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
……どう見ても猫ですね。
例えばもっと巨大とか、もっと爪や牙が凶暴そうとかであればこちらももっと遠慮せずやれるのですが。
仕方ありません、やりましょうか。
熱いのも苦手ではありませんが(『火炎耐性』)、今戦うのであれば、こちらの方がいいでしょう……環境を変えましょうか。
【大いなる冬】を使用し、戦場を凍てつく冷気で包み、炎を無力化します。
虫も猫も、寒いのはそう得意でないでしょう。凍てつく冷気で動きの鈍った敵を狙い、『スナイパー』の技術と「フィンブルヴェト」からの氷の弾丸で猫を撃ち抜きます。
……やはり気は進みませんね。
●猫と寒冷地
ぱちり、と空気の爆ぜる音が小さく響く。本来ならば見えるであろう、痩せた大地は煌々と燃え盛る炎が埋め尽くして、見る影もない。
ゆらりと揺らめく熱気が、境界を滲ませる。そんな、不毛の大地に佇むは―。
「……どう見ても猫ですね」
鴨頭草色の瞳を瞬かせ、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は目の前に広がる戦場の様子を再度見つめる。
此れまで相手取ってきたのは、肉塊女帝や戦車を手足とする軍人と。
平たく言うのであれば、凶暴で凶悪な、しっかりと敵だと認識出来る相手であった。
しかし、目の前に佇む敵は何の変哲もない、ただの猫。其の背を飛び回る蚤は、ぱちぱちと電気を弾けさせてはいたけれど。
ぐりぐりと米神を解しながら、セルマは小さく息を吐く。
此の不毛な大地と、隠されている大規模通信サーバが無ければ、ただの平和な一幕に見えなくもない。
けれど、戦場となっているアポカリプスヘルに、そんな光景はありはしない。
「仕方ありません、やりましょうか」
ならば、目の前に存在する可愛らしき平和の象徴も、今となってはただの、怨敵。
真っ直ぐに、ネコへと向けた視線には、温度は無く。しなやかな指がそっと撃鉄を起こした。
轟々と唸る炎を前にしても、セルマは汗一つ零さず。動きに関しては支障はないのだろうけれど、銃を扱う以上、此の環境では暴発の危険も否めない。
故に。
―ぱきり。
急速に、戦場の空気が熱を失っていく。
冷え冷えとした空気が、セルマを中心に周囲一帯へと展開される。
呻りを上げて燃え盛っていた炎は其の勢いを急速に弱める。
突然の環境の変化に、ネコは戸惑うように周囲をきょろきょろと見回す。
『にゃ、にゃう!』
ネコの体表を飛び跳ねていた蚤は、今ではその元気すら失せてしまったかのよう。
もともと、蚤は寒さに滅法弱い。灼熱に覆われていた大地は、今や極寒の地へと変わろうとしていた。
生存本能か、寄生しているネコの血液を吸い、此の環境を作り出したセルマに一矢報わんと力を増強する。
だが、寒さによって動きが鈍った蚤が攻撃に映るよりも早く。突如として極寒へと変化した環境にネコが慣れるよりも先に。
「……確実に。迅速に」
マスケット銃、―フィンブルヴェトのスコープを覗き、狙いを定める。
タン、と軽い音と共に弾き出された氷の弾丸は、確実に猫の脳天を撃ち抜く。
『ふにゃ……』
小さな鳴き声と、とさり、とネコが地面へと伏せる音が響く。
相手は敵だと分かってはいるけれど。
「……敵とは言え、猫の姿だからでしょうか」
ほんの少し、僅かなに痛ましい表情を浮かべながら。けれど、狙撃する手は止めずに、セルマが呟く。
「……やはり気は進みませんね」
―荒野に一陣、風が吹き抜ける。
赤く燃え滾っていた炎は既に無く。また、生きているものの姿も、何も残されてはいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
此処が地獄の一丁目か?最悪の場所だぜ…。
【火炎耐性】で炎に対しては耐性を持っちゃいるが…長く留まるとこのイメケン顔に焦げ跡が付いちまう。
こんな地獄でもキュートな天使は居るモンで。指をパチンと弾いて、UC。複数体の紫雷の猟犬だ。
回避担当だが、俺に悪意を持つ以上、猟犬は猫を追尾する。噛みつけばドカンと爆発して俺の腕と首輪代わりに紫雷の鎖で繋ぐぜ。
……安心しな。爆破は大したモンじゃねぇ。
【怪力】で引き寄せて──頭を撫でたい。ついでに耐火装甲も【盗み】で脱がす。装甲無けりゃこんな暑い場所、逃げるしかねぇだろ。
…倒すのが楽なのは分かるが、俺の銃や剣は悪党や化物専用さ。小動物を殺す為のモンじゃねぇよ。
●猫と自由
炎々と大地が燃ゆる。荒廃せし世界であっても、こんな光景は他に在りはしないだろう。
其れも全て、此の先にあったという黄金都市に隠されし、大規模通信サーバを護る為だろうか。
そうだとしても、全てを奪われた大地に行う仕打ちとしては、些か度が過ぎているようにも思えるけれど。
近付く者などありはしないと、そう考えたのだろうか。
「此処が地獄の一丁目か?」
生き物には不相応な、耐火装甲を身に着けた猫を見て、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はぽつりと呟く。
―本当に、最悪の場所だぜ……。
とは言っても、此の場を制圧しなければ、目的の大規模通信サーバには辿り着かない。辿り着けない。
炎熱に耐性はあれど、其れは耐性があるだけであり、長く留まれば流石に無事ではいられない。
何よりも。
「このイケメン顔に焦げ跡が付いちまう」
なんて本気か冗談か分からぬ言葉を零しつつ、指をパチンと、軽やかに弾く。
刹那、紫電閃いて。猫に寄生する蚤が発する雷鳴とは異なる、しなやかな体躯の猟犬が現れる。
ぱちり、ぱちりと空気が弾ける音が、周囲に響く。
ざわり、とネコたちの間に緊張が走る。
不敵な笑みをカイムが浮かべれば、意図を察した紫電の猟犬が、姿勢を低くして狩りの体勢をとる。
「こんな地獄でもキュートな天使はいるモンで」
さあ、行け―。其の言葉を皮切りに紫電の猟犬が勢いよく駆けて行く。
自らの命を散らし、蚤も決死の放電を行う。
飛電と紫電。二つの雷がぶつかり合う。一際激しい雷鳴が辺りに響き渡る。
ぱちり、と閃光瞬いて。競り勝ったのは、猟犬。
大きく口を開いてネコに噛みつけば、次いで小さな爆発が空気を揺らす。
「……安心しな。爆破は大したモンじゃねぇ」
かしゃん、と軽い音と共に、ネコの頸に紫雷の鎖が絡みつく。鎖を辿れば、カイムの腕に同じ物が。
ぐい、と力いっぱい引き寄せれば、ネコの身体は簡単に宙へと舞う。
飛び跳ねていた蚤は、爆破によって吹き飛ばされたのか。目に映る範囲に姿は無い。
『ふ、にゃああぁぁぁ』
次は己か、と悲壮感交じりの鳴き声を発しながら、ネコが辿り着いたのは。
ぽす―。
固く、熱せられた地面ではなく、柔らかな人の腕の中。
『……にゃう?』
気付けば、ガチガチの耐火装甲も脱がされていて。困惑の表情でネコがカイムを見上げる。
「よしよし。暑かったな」
そっと、優しく頭を一撫で。ゆらり、ゆらりとネコの尻尾が揺れる。
オブリビオンと言えど、ネコはネコ。攻撃特化の蚤さえ居なければ、害はない。
悪を挫くのが、猟兵の役割なれど。
「……倒すのが楽なのは分かるが、俺の銃や剣は悪党や化物専用さ」
ふっ、と優しい表情でネコの喉元を擽る。うにゃあ、と気の抜けた声が響く。
「さて。こんな地獄みたいな場所からおさらばしようぜ」
ネコを抱き上げたまま、カイムは黄金都市を後にする。
「もう、あんな蚤に寄生されるんじゃねぇぞ」
此れからは自由に、好きに生きると良い。
―自由に暮らせるように、生きれるように。其の脅威は俺が取っ払ってやるから。
さあ、新たな戦場へと向かおうか。
大成功
🔵🔵🔵