●
「やっぱりテクニックよりパワーかに? 溢れる力で全部ぶっ飛ばす。これほどシンプルな強さは……おわあ!? 集まってもらってすまんべさ! ありがとな!」
魔界のファッションリーダーを自負するプリ・ミョート(怪物着取り・f31555)、猟兵が集っているのも気づかずぶつぶつと何か呟いていたが、目があった(?)途端に飛び上がって感謝を述べる。封神武侠界にて事件が起きる、との話だったはずだが、さて、何をもって力の話だったのだろう?
パラパラ捲る資料には「極秘!」「オブリビオンの大群パネえ!」「力は全てを解決する!」などという文言が走り書きされている。どうやら、今回はそういう方向性なのだろう。彼女はとても影響されやすい。ダンベルとか持ってるし……。
舞台は古代中国、それも人界と仙界の交流により高度な仙術、そして武侠の文明が発達した古代世界「封神武侠界」。厳しい修行の果てに多くの英傑が生まれ、封印から逃れたオブリビオンたちとしのぎを削っている。
全ては修行の果てにたどり着く極地、ユーベルコードを極めんがための厳しい試練。今回はその一人、若き英傑にオブリビオンが殺到し、蹂躙される。そんな未来が予知されたのだという。
「いかに武侠といえど、オブリビオンの大群に攻められたらひとたまりもないべ。見逃すわけにはいかねえ。みんなの力で助けてあげてくんろ!」
若き女英傑は人里離れた山林で修行をしている。名は花鶏。
桃源郷世界のどこかにあるとされる、常に日輪が天に存在する白夜山。気温は低くても30℃をやすやすと超え、常に40℃以上をキープしているという。彼女はこの山しか世界を知らないという。武と生活必需の知識を教わったのち、武侠として大成するまでこの山を降りるなと師に命じられたらしい。
この山であれば肉体だけでなく精神も鍛えられるだろう。しかし、晴れて「脳筋」となってしまった彼女にオブリビオンが出ました協力しましょうハイどうぞ、とはなるまい。えてして何か一つに打ち込むものは、それ以外に無頓着なものだ。それは剛拳・花鶏とて例外ではない。
「彼女をこの山から連れ出してほしいんだべさ。襲撃されんのはここだから、戻ってくる必要はあんだけども」
粗暴ながらストイックな彼女の心を開けば、依頼の成功もグッッと近づくことだろう。
さてオブリビオンたちは二波に分かれて侵攻してくる。
一波目は『雷霆竜』。激しい稲妻を放つ攻撃性と、強靭な鱗を備えた防御力を併せ持つ。加えて言葉を理解する知性もある。単体での強さはそれなりだが、今回は数十どころか数百の大軍勢。無策で挑めば苦戦は必至だろう。
二波目は『面影鬼』。打って変わって搦手が得意な難敵であり、心の傷や思い出を攻撃の起点としてくるだろう。四、五体を一組としてそれが二十から三十くらいは襲いかかってくる。いちいち対処してはキリがない。これも対策が必要だ。
「なに、話が合わなそう? そういう時は手合わせでもすりゃあええべ。なんなら襲撃されるまでに罠とか砦とか作っちまうのも有効だな。英傑のパワーにみんなの力が合わされば怖いもんなしだに」
プリは一息で説明を終えると、浴びるようにお茶を飲んでいる。どうやら説明はこれまでのようだ。
「終わったら中華料理でいっぱい労うべよ。だから無事に帰ってきてくんろ! がんばっべ!」
地属性
こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
改めましてMSの地属性と申します。
以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
今回は古代中国の仙界にて、大軍勢に立ち向かっていただきます。気分は真に三国の無双です。
この依頼はシリアス系となっておりますので、嬉し恥ずかし描写は十全に反映できない可能性があります。
あえて不利な行動をプレイングしたとしても、🔵は得られますしストーリーもつつがなく進行します。思いついた方はプレイングにどうぞ。
基本的に集まったプレイング次第で物語の進行や行末をジャッジしたいと思います。
続いて、「若き英傑」花鶏について補足をば。
彼女と協力を取り付けている場合、第二章以降はユーベルコード《乱戦遊戯》を用いて戦闘に参加します。オブリビオンの大群相手にはなかなか苦戦を強いられますが、逆に連携してあげれば戦いを有利に進められます。ちなみに信条は「力こそパワー」です。
では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 日常
『私はまるでこの籠の中の鳥と同じ……』
|
POW : ●『自然が見たい!』
SPD : ●『街に行ってみたい!』
WIZ : ●『仙界に行ってみたい……!』
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「ほう。それで、この山に! それはご苦労であった。はっはっは!」
若き英傑・花鶏はカラカラと笑いながら、日焼けした腕を見せつける。自分の腕っ節に相当の自信があるのか、白い歯が眩しい。脅威が迫っていると言われても、まるで気にする様子がない。
「ではその軍勢は私の方で対処しよう! 妹弟子の柔拳と違い、我が剛拳に壊せぬものなし! であるからな!!」
下山するならあちらから、と方向を指す。どうやら大挙する敵を相手に大立ち回りを演じるらしい。修行地として恰好の白夜山、手放すつもりも離れるつもりもなさそうだ。何より頭がかたい!
「まだ何か!? フーム。よし、わからぬ! わからぬが、信用には値しよう、ツワモノよ!」
いや、話には応じそうだ。さて、この剛鳥、いかがしてくれようか。
鞍馬・景正
己が武を信じる姿は清々しくありますが――良いでしょう。
武人を動かすには弁より武で挑むが筋というもの。
花鶏殿に試合を挑み、もし私が勝てば指示に従って頂くよう願い出ましょう。
無論、刀は抜かず拳にて。
向かい合えば拱手と共に名乗り、勝負を開始します。
動きを注視し、体重移動や呼吸の変化から打ち出す機を【見切り】、攻める瞬間にこちらも動きましょう。
彼女の剛拳を誘い出しつつ、交叉させるように券打を。
左腕を胸元に畳み、背筋を最大限に利用した【早業】の捻り突きで向こうの拳が届くより迅く打たせて頂く。
――左肱切断、拳への応用にて。
無事勝利出来れば、せめて共に戦いたいと、それだけは呑んで頂きましょう。
「私は鞍馬景正と申します」
首巻きが熱風にたなびく。ジリジリと熱い日差しに、然し怯むことなく泰然と、その勇士は在った。
「私は花鶏である! 武に生きるものと見受けるぞ! しかし、武林に属さぬ身ゆえ、委細は此れで語ってもらおう!」
一方、隆々たる筋肉、張りつめた尻、くびれた腰、大きく鋭い自信満々な目、高い鼻。体つきからして違う異性を前にして、何より勇士の威圧感を前にして、英傑・花鶏は闘争心をメラメラ燃やしていた。これほどまでの逸材を前にして、握る拳に力も入ろうというものだ。
勇士、鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)は強者相手にこそ血を激らせる誠の羅刹である。誠とは、言を成す、すなわち成すまで諦めない不屈の精神の持ち主であること。発したコトバに責任を持ち、生き方を貫く。世界が異なれば、騎士とも準えられるような、考え方を持ち合わせていた。
そして生とは、すなわち誠の、信頼の積み重ね! まずは拱手を果たした。さて、次は――。
「良いでしょう。ただし、一つ聞き入れていただきます」
「なんだ!? あああ! それか、それだろう! ウム! 許可する!」
差した日本刀を指差して、合点いったと笑う。脇差に打刀だ。異なる文化においてもそれらが真剣で、人を殺傷するものだとわかった上で、花鶏は言い放った。
「いえ。そうではありません。もし私が勝てば、共に戦うことを約束してもらいましょう」
静寂。
熱風が両者間を吹き荒び、撫で伝う汗すら拭うのも億劫そうに。
花鶏は笑っている。景正は片目を閉じて、すでにその顔は見ていない。
「哈哈哈! それは、いい! 承知した。それに、それにだ! 私の拳は刀を真正面から折る! 大切そうな得物を折っては忍びないと思っていたんだ。いやはや」
「どこからでもどうぞ」
再びの、静寂。
花鶏はそこでようやく、構えを取る。とはいえ己のコンディションを整えることに意義があるのではなく、観察することが肝要なのだ。
で、観察する。……なんだろう。……フム。わからん! なぜだ。左手が脇を締めて、肘を胸に当てたような姿勢。羽織ものの意匠も含めると軌道を読みにくくする意味か。しかしいかんせん窮屈すぎる。舞か踊りか、始動の動きに見えなくもない。
斜面に陣取った……わけでもない。山地の中でも取り回しは可能な場所を選んだ。ならば日差しを顔に受けるのを嫌ったか? それが一番合理的な考え方、だろうか。師に教えを乞うて以来、まともに対人試合などした試しがなかった。だから余計なことを考えてしまう。呼吸を読み、風を聞き、その流れのまま拳を突き出す。それだけだ。
……いつ攻めるか。
と、浮かぶ雑念迷いを振り払うように、置き去りにするようにつま先を動かす。振りかぶった拳を開いて、グと反らす。さてこれ……?!
「――左肱切断、拳への応用にて」
その瞬間――試合は、決していた。
恥ずべき話、その拳は届かなかった。届く暇がなかったのだ。
何の言葉だ。なんて言った?! 何かの術か、まやかしか?!
それだけの驚きがあった。花鶏は唸る。
「え……!? ム、ええ……?!」
互いに構えをとってから、拳を当てられる距離で試合を始めて、「自分から」殴りかかったはずだ。間違いなく自分から、合図はなかったがたしかに先手を取った。それを上段から拳を回転させ、急所に捻り込むような突きで真っ向破られた。正しく言えば、真っ向「ぶつかり合えば」打ち破る自信があった。交錯して、なお景正の拳が先に届いたのだ。向こうの動きの方が早かったのか……?
「もう一度やっても構いません。何度やっても勝者は私です」
「はっ、いや、なぜだい?! わからない、わからないだろう。なぜそう言い切れる」
「目に見えるだけが全てではない。そういうことです」
頭に疑問符が浮かぶ。花鶏は自分には学はないから難しいことはわからないと言った。
それにわからないのはその窮屈そうな構えだ。
「動きを見切り、体重移動や呼吸の変化を……」
「…………」
「あ……」
「す、す、すばらしい! すばらしいぞ! そうか呼吸を……読んだのだな! 観察か。自分の呼吸の乱れは知られると覚えよ、だな!? おお、なんと。おおおお……!」
すばらしい、すばらしいと万歳しそうな勢いで、目を輝かせてしきりに連呼している。玩具を目にしてテンション上がる子供のような無邪気さに、景正は引き攣った笑みを浮かべた。元より策を弄するのは好みではなかったが、しかしこうも手品か魔術師かみたいな、あからさまに持て囃されるとそれはそれで気恥ずかしい。悪いことをした気になってしまってつい口走ったことを根掘り葉掘り。
「た、たのむっ! 時間の許す限り、教示してくれ!」
「構いませんが、いいのでしょうか? 共に行けば自然や街など、出向いて見識を深められますが」
「ム?! あー、うー、おお! それはそれでソソられるがっ!」
夙夜の背に乗って野をかけ、たどり着いた街で地酒でも、などと、一旦己の希望は置いておいて、それに近しい提案をしてみる。うんうんと頭に指を当て悩む姿は年相応でいじらしい。
そんなに悩むのならば最初から、と思わなくもない。ただ、彼女からそれを言い出すのを期待するのは難しかろう。なにせこの地と、この地での修行しか知らぬ身だというではないか。少し話をすればわかる。ここでの生活の痕跡がある。たしかに生半可な覚悟で僻地に住まい修行に明け暮れることはできない。だがそれゆえに取りこぼしも多そうである。
「ここが戦略的な要地、というのであれば離れるわけにもいきませんが」
「哈哈哈! ツワモノよ、戦時でもあるまいし。仙界のこの地に戦略的な意味合いなどないさ! そういった戦術眼も、外では求められるというのか? 戦争、ならばこの武を使う機会も多々あろうて」
「時に花鶏殿」
「ム」
「どうしてそうまでして武を極めるのでしょうか」
己が故郷なら武名を上げて取り立てられる道もあるだろう。花鶏にその類の夢はないように見える。
「理由が必要なのか?」
「…………」
「己が血を昂らせてくれる。拳を突き出し空気の壁を破り、やがてはこの山さえも割ってみせる、そういう気の高まりを、修行は味わえる! 今後は力を貸そう! だが私の生き方は変えられぬ! それしか知らぬゆえ、な! それでどうか」
戦いの際に血湧き肉躍る感覚。
敵を前にして、悦ぶ武の煌めき。
それもまた真であろう。それを否定するほど悲観的でもなければ、むしろ「覚え」があろうものだ。今でも夢想する。数々の死線、巡り合った好敵手、そして勝利! いずれも強者相手にしか感じられなかった強烈な「戦い」の味。よもやそれを否定してしまえば、己が家名が泣くだろう。
「戦いを知りましょう。その後、そこでもう一度手合わせをすれば真なる答えは自ずと知れます」
「うむ?」
「強い花鶏殿であれば、ですが」
「うむ!」
刀は抜くべからず、という考え方がある。
武に優れた人物は、争いなく戦いをおさめられるというものだ。その真髄を知った花鶏は、拳を地につけて頭を下げる。負けを認めたわけではない、今はまだ勝てないだけだ。その力、ともにそばで尽くし、強さの真髄を知らなければ。
知らなければ、この剛拳が泣いてしまう。
……と、そんな感じで納得した、のだろう。言い聞かせたと言ってもいい。言葉でも武技でも、ここまでの度量差を見せつけられれば、吐く言葉も見つからない。
「拭ったような所作……どうされたのでしょう。手拭、使います?」
「ぬ、拭ってない! 泣いてるわけなかろうっ」
大成功
🔵🔵🔵
堆沙坑・娘娘
(拱手にて礼)
私は堆沙坑・娘娘。あなたの自信のほどは分かりました。
しかし、私とて信頼に値する能力を持った御仁からあなた一人では危ういと聞いてここまで来ました。
あなたには面白くなく、失礼な話かもしれませんが、万が一の保険として、私はあなたに一度下山して欲しいのです。
…武侠同士、言葉だけでは互いに納得も難しいでしょう。
ですので、一撃だけ私の力を見てください。
それを見て、私の話に耳を傾けるどうか決めてください。
そこまで話したら花鶏には当てないように花鶏の後ろの地形に大穴を開けるような【貫通攻撃】。
これが、私の『力』です。
あなたがこれを鼻で笑える豪傑だというのであれば私がおとなしく下山しましょう。
日差しを遮るものなどない極限の山地にて涼しい顔で、堆沙坑・娘娘(堆沙坑娘娘・f32856)は花鶏を見遣る。互いに手を組む拱手にて礼を欠かさず、しかし娘娘の視線はすでに試合う者の眼差しであった。
「(異邦からの来訪者との試合は「滾る」のは当然のこと。やはり同郷との手合わせは……)」
視線を逸らさない程度の一礼。
「手合わせは良い! だな?! だろう!」
「! はい。私はパイルバンカー神仙拳の堆沙坑娘娘。よろしくお願いします」
重く感じない程度に練り上げられた闘気。良い。程よい緊張感が実に小気味良い。ここが得体の知れない常昼の僻地でなければ、さらに言えば娘娘のよく知る修行場であれば、すぐさま試合していただろう。
しかし、今回は違う。彼女を諭さねばならない。武だけでなく言葉も尽くさなければならない。ともすれば武人に対しては失礼に当たるかもしれない。観察しただけでわかる。凄まじい鍛錬に裏打ちされた、実力。英傑に若くして名を連ねるだけの覇気がある。
その覇気を挫いては「パイルバンカー神仙拳」の名が泣く。
「多少強引でも構いませんか。どうか耐えてください」
「……ム? 何か難しいことを言ってるのか!? ダメだ。私には、難しいことはわからん! わからんが、そうだな。気遣いは無用! だ!!」
「言質は取りました」
ぐー、ぱーと手甲の状態を確認して、再度視線を交錯させる。
「私はあなたに一度下山して欲しいのです」
じりじりと茹だるような熱の中で、しんと響き渡るような声音で娘娘はそう伝えた。花鶏は首を傾げる。なぜ? と言いたげな表情で、いや顔だけでもう疑問符を表現していた。
「あなたの自信のほどは分かりました。しかし、私とて信頼に値する能力を持った御仁からあなた一人では危ういと聞いてここまで来ました。あなたには面白くなく、失礼な話かもしれませんが、万が一の保険として……」
「つまり何か! 私一人では荷が重い。だから退けと。ムム、それは、いや、しかし! しかし!! その言葉通りに下山しては、私は……」
「あくまで保険です。機が来れば共に戦います。あなたの力を認めているからこそこうして下山を勧めています。もしその力もなければ有無を言わさず、無理やりにでも下山させていたところでした」
言葉尻ではなんとでも言えよう。花鶏は納得していない様子である。彼女の気遣いはわかる。ちっぽけなプライドが、上下関係のようなものを見出して、それに従うのをよしとしないのだ。
従った方が負け、というわけでもない。むしろ言うことを聞くに値するのか確かめている。
「ではこうしよう。私の力を見ていただく。それで判断して欲しい。チャンスをもらえるならば、我が剛拳披露しようじゃないか! どうか?」
「わかりました」
辺りを見回して、適当な岩根を見つけると、花鶏は拳を振りかぶった。
「ム……ンッ!!」
アッパーカットの要領で振り上げた拳を食らった岩はボンッと宙に上がり、続け様の回し蹴りで吹っ飛ばされる。ゴロゴロと斜面を勢いよく転がっていくそれを見せつけて彼女は頭を下げた。
ややパフォーマンスチックではあるものの、これなら少しは力の証明になろう。長年積んできた修行の成果だとも言えた。そして、これで壊れるような軟弱な手足はしていない。
「次はこちらの番です」
天に掲げるは、携行式の杭打ちパイルバンカー。己の名前と流派を象徴する、自分の片割れ、いやさ一心同体とも言うべき得物である。
「そっくりそのまま返します。私の力を見て、改めて話を聞くか決めてください」
「よかろう! ツワモノよ」
言葉だけで心を動かすのは難しい。ならば向こうの土俵に上がり、その上で真っ向証明する。
己が誇る武の神髄、至高の一撃。武侠として、自分がたどり着いた境地!
刮目せよ!
「―――噴っ!」
――バキキキキキキッ……! ズガゴオォォッ……!!
裂帛の気合いを込めて、繰り出された杭は、不敵に笑う若き英傑のすぐ横を通り抜けて、空を切った。遅れて聞こえる凄まじい轟音。砕け散り、地形の変わる音。劈かれた耳に一瞬にして表情を失った花鶏は、硬直した顔を無理やり向ける形でおっかなびっくり振り返った。
「ぴぇ?!」
く、クレーター……!?
という表現が正しいだろうか。少し先の斜面に当たった《断气(ドゥァンチィー)》は、地を縫う命脈を的確に貫き、地形が変わるほどの爆発を引き起こしたのだ。それが人体に命中していたらと思うと怖気が走る。何より見切れなかった。神速の一打は、振り返ってようやく命中を確認できる程度。で、あったならば、仮に直接の手合わせをしていたならば。いかに強靭な肉体でも五体は四散し、取り返しのつかない事態を引き起こしたに違いない。もし今、これと同程度の脅威が近づいているとしたら……!?
「闘気にはこんな使い方もあります。今はまだこの程度ですが、いずれはこの世すべてを貫くでしょう。つまりパイルバンカー神仙拳にとってこれはほんの小手調」
心を折るのではなく、奮起することを期待する。ここで項垂れるなら所詮それまで。そんな眼差しを向けて、期待通り花鶏は目を輝かせていた。
思った通りだ。彼女は単純、だからこそ強い力を見た時に、捻くれるのではなく興味が湧く。自分だってそうだ。異界とこの世界が繋がった時に、試合と鍛錬に明け暮れた。知らない世界を覗き見ることは楽しい。
だからこそ、ここで命を散らせるには惜しいと思ったのだ。己もまだたった六十年ほどしか修行をしてない身ではあるけれど、まだまだ世の中には知らない、見えない武の境地がある。
「すばらしい! すばらしいぞ! どうして肩が外れない? 闘気……私も使いこなせるものか?! ああ。うむ。ムム! 下山でもなんでもしようじゃないか! これほどまでに高められた武技を前にして、私は! 私は!!」
「私は?」
「いや。いったん落ち着こう。思わず弟子入りしたくなってしまった。まずはこの剛拳を極めねば。岩を砕き大地を割るのも、できなくはないはずだからな!」
いずれは断气(これ)を鼻で笑うような豪傑になってほしいものだと、娘娘はうなずく。堆沙坑娘娘と一目置かれて幾星霜。弟子として迎え入れるのも一興か? 一つの神仙拳を拓いた存在としては、タフで才能のある弟子は歓迎なのだが、彼女はまだまだ未熟。
そもそも一つのことを磨き上げるのだって時間がかかるものだ。一年どころか五年、十年かかっても未熟な者もいる。
かくいう自分も、というほど過小評価はしない。しかし、己もまだまだ成長する! そういう意味ではカゴの中の鳥なのはどちらも同じことだ。悠々としがらみなく、天を掴むように空を飛べるのはいつの日か。わからない。わからないから戦うのだ。見果てぬ道だからこそ歩んでいる。いつのまにかゴールに立っているかもしれないし、そもそもゴールなんてないのかもしれない。
だからそれまで、その時まで、武を磨くしかない。闘え。闘え。闘え、と己の内から闘争心が湧き水の如く淀みなく溢れる。
「ふうん。あなたもおとなしい気質ではないようですね」
「無論! ひとたびこの世に生まれ落ちたからには、極めねば!」
やがてその意気が天を制するまで、時には見守ることも導くことも必要だ。彼女にとっての師も、それがわかった上であえて過酷な修行地に彼女を留め置いているに違いない。
娘娘は確信していた。戦いの時は近い、と。次は隣で見せるとしよう。武侠としての生き様を、試合ではない命の奪い合い、戦場にて――!
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『雷霆竜』
|
POW : 雷霆竜の嘶き
【激しい稲妻】を降らせる事で、戦場全体が【乱気流内】と同じ環境に変化する。[乱気流内]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD : 龍燐鋼
自身の【強靭な鱗を頼った戦法】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ : 大回転攻撃
【全身をしならせた大回転攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
絶望の煌めきが群れていた。
斜面をうねうね、うねうねと、舐めるように蹂躙していく黄金の『雷霆竜』。
熱射をものともせず、あってないような障害物を蹂躙し、己が領地のように我が物顔で席巻する。
言葉は理解するだろう。しかし、およそ理性的なものは感じさせない。
すなわち命を壊し、地を灼き、支配する。
数の利が、不相応な野望を一層増長させる。
若き英傑は立ち向かうだろう。しかし、竜一、二匹を相手取るのがせいぜい、複数に取り囲まれれば自慢の剛拳とて意味を成さない。
そのすべてを駆逐するには、猟兵の尽力が不可欠だ。無策で攻め込んできたオブリビオンを、殲滅してやるとしよう……!
鞍馬・景正
成る程、聞きしに勝る大軍。
ですが武士とは耳は臆病でも目が大胆である事が条件。
ここで怯むようなら最初から来てはおりませぬ。
花鶏殿に近辺の地形について確認。
細く狭い、峡谷状の道があれば最高なのですが。
条件を満たす地があれば、私が囮として彼奴等を釣り出しましょう。
そして敵の群れを遠間から【斬撃波】で薙ぎ払いつつ、挑発と共に少しずつ後退。
木々の近くなどは避け、被雷は甲冑の【結界術】を発動させた【電撃耐性】にて防いでいきます。
峡谷の出口で花鶏殿と合流すれば、そのまま反転し、一列に並んだ敵の撃退に移ります。
花鶏殿の剛拳、そして我が【鞍切】にて、この程度の「寡兵」はすぐ蹴散らしましょう。
踏みしめた土がしっかりとした感触を反射する。照りつける日差しにより、仙桃などごく僅かな植物を除いて草葉すら生え揃わない不毛の地。ともすれば光景など、どこをどう通ろうと記憶に残り難い山地である。酸鼻たる極限の修行地。吸う空気も喉を焼くようだ。
花鶏は、そんな状態にて未だ涼しい表情の景正を時折振り返っては、やはりけろっとしている顔色を見て、驚いたような安堵したようななんとも言えない視線を送っている。
「そろそろ目的地ですか?」
「ム、ウム……しかし先程の軍容、肝が冷えた! しかも言葉を解すると見える! 強靭な鱗に牙、雷霆の如き激しき出立ち! 腕が鳴るぞ」
「ええ。ここで怯むようなら最初から来てはおりませぬ」
「左様か! さすがツワモノよ!」
かの東照公もかつて語ってる通り、敵を前にして示さなければならないのは凶暴性。そして敵の意図を外すような大胆さだ。そして相対する前には徹底的に分析する。見落としがないか、戦力の見誤りはないか、増援や予備戦力の有無は、兵站は。えてして臆病と見られがちなほどに、見通す。すなわち、耳に臆病、目に大胆と言われるのが、名将である。
……竜、竜である。幸いなことに軍を束ねるような成体は見受けられない。
「花鶏殿」
「なんだ」
「ここで待機を」
「おう! それはわかったが」
景正はどうするのか。聞かれるまでもないことを答える必要もない。ただ、成すべきを成すのみ。そして、できないことをする、と宣言するほど蒙昧でもない。
花鶏としては、安全な場所まで誘導され、戦地から離れたところに陣取らされたのでは、という一抹の不安がよぎった。しかし、倒してきますとも言ってもいない。信じることしかできない。自嘲する。……信じる、か! いやはや、それほど深い付き合いでもないにも関わらず、己からそんな言葉が出てくるとは。
本当に面白い。自然笑顔になってしまう。
そんな彼女の様子を知ってか知らずか、そうこうしているうちに景正は、峡谷に彼女を託すと、反転、駆け出した。狙うは畝る『雷霆竜』の群れの先頭だ。
「矮小なるものよ」
「ヒトよ」
「散るがよい。我々は竜である」
「我々」
――ばつんッ……!
偉大なる存在であることを自負する言葉。それは雷鳴よりも早い斬撃によって斬り裂かれた。鎌鼬。10mほど先から、空を切る波動が竜の首を落とす。スローモーションで落ちていく首。
「愚かなことだ」
景正は跳び退る。その身のこなしがなければ瞬く間に黒焦げの遺体をこの場に晒していただろう。岩床に手を当て自分が今いたところの痛々しい痕を確認する。ひび割れ、砕け散った大地。何かが焦げるような匂い。
方術を全開にし、ついで振り払うこと二度三度、落雷を刀でいなす。
「竜に歯向かうとは」
「竜をゴッ?!」
――ざ、ぶシュ……!
ひとりでに首と胴が離れる。遠目にはそう見えるだろう。実際に竜の中で「何をされているのか」を
理解しているものはいなかった。皆無だ。己が雷霆を操れようと、それを理解して行使しているとは限らない。案外自分で使っている力の全容を把握しているものは少ない。天賦の才というやつだ。特に、オブリビオンに堕ちるようなものが、自分の実力を正確に振るえるなど滅多にない。力に溺れ自我を失っている……なんてことも日常茶飯事だ。
「力の正しい使い方も知らない雑輩が」
ぴっと刀を振り払い鞘に収めると、足早に引き上げる。竜とはプライドの高い生き物だ。挑発されれば長蛇の列をなして追従する。竜を指して蛇と称するのはいささか無礼かもしれないが、増長し、怒りに身を任せ直線的に追ってくる姿は、蛇に対して失礼というものだろう。些事に怒り狂い、竜の誇りを忘れ、その牙で噛み砕こうとする。
だから……滅びるのだ。
「御免」
――ば……つんっ!!
血飛沫が噴き上がる。
頭を真っ二つにし、戦馬ならば鞍ごと真っ二つにしたであろう剣撃。
振り返りざま、反転攻勢に転じた景正に、竜は思わず竦んだ。あと少しのところで噛み砕けるところで、怖じたのだ。輪をかけて誇りに欠けた振る舞いではあるが後ろ首に確認した。退路を、距離を、生への道を。
遥か遠くだ。列を形成して追い縋ってしまった。もう戻れない。
「我々は竜ぞ……!」
「斯様な、これは……」
礼は尽くした。蹴散らすのみ。
一歩進んで斬る。二歩進んで斬る。
「竜――試し切りにも、不足!」
累累たる死骸を踏みつけて、駆け抜ける。無人の荒野を行くが如く、斬り裂いて斬り裂いて斬り裂いて――駆ける。追従するものはいない。雷霆さえも振り切って、演武が如く優美に歩く。
恐れを知らず挑んできた意気やよし。惜しむらくは「寡兵」であったことだ。この倍も用意すれば多少は肝を冷やしたかもわからない。元より全てを引き受けるつもりは無かったが、あるいは分断誘導せずとも渡り合えたかもしれないが。
「花を持たせよ、ツワモノよ! 破ァ!」
庇護対象か、切り札か。今となっては判断つかない。壁を蹴り空中で加速、くるくる回りながら掌底を浴びせる。強靭な鱗を剛拳の衝撃が浸透し、無惨に破裂した。一度の攻撃で三度はインパクトが起きているようだ。地形、その場のコンディション、敵の状態をも利用した武技。
上からの攻めに総崩れになったところを、さらに景正が攻め立てる。あえて顎で受けようとするもの、鱗の集積で凌ごうとするもの、仲間の死体の陰に隠れるもの、その全てことごとく刀の錆となった。雷さえ斬られるか、命中してもほとんど機能しないように見える。ないはずの気流を巻き起こす環境変化の妙技も、景正の技の冴えの前には無力。
「ひ、退けい!」
「り、竜に後退はない!」
振り返る暇を頭上からの攻撃で潰されていく。密集したら最後、蜘蛛の巣に搦め捕られた蝶のように儚い散りざまを晒しながら、次々に、累累と。
「油断はせぬぞ。しないとも! しかし、しかしだ! 兵法、頭脳戦か。これは一人では成し遂げられなかったこと! 見識が広がるのは心地よいな、哈哈哈!」
兵法というにも頭脳戦というにもいささか急造なきらいはあるが、頭ごなしに否定はしない。微笑をもって返すのみだ。それに戦いはまだ最中。
「元より策謀は得手ではないですが」
「謙虚! うむ! ならば疾く蹂躙しよう!」
返り血に酔い、血風を堪能し、悲鳴に耳を傾ける。人を傷つけたことのない剛拳の英傑は、その経験に身を震わせる。
その肩に手を置いて、息を荒げるか弱い背中を慮る景正。
「無理をする必要はありません」
「しかし!」
「挑発しこの地に呼び込んだのは我々です。その逆も考慮しなければ」
自らの思惑と同時に、相手が何を考えているのかも常に頭の片隅に置く必要がある。技をぶつけ合う組手とも、仮想敵を相手にする修行とも違う。正々堂々という言葉は実戦には無縁だ。ゆえに今回苦手な策を用いて、花鶏のフォローに入っている。
もちろん一番は効率だ。狩る効率、ではない。戦いの最中に水を吸う真綿のように経験を糧にする花鶏の成長幅、それを考慮した時の効率である。
「戦とは、一人ではない。そう知ることです、花鶏殿」
峡谷の出口で仁王立ちし、斬り伏せつつ、戦いの道理を説く。無論、己が言葉は飾りではない、自ら成して武を示す。並み居る竜さえも戦慄させる剣技の猛襲。竜の体躯をして「大きい存在感」を感じずにはいられない。存在感とは憧れだ。その勇姿を見て英傑も鼓舞される。空を翔け、地を用い、戦を制する。
「応! 心強いぞ! 私の憧れ、イクサの鬼よ!」
大成功
🔵🔵🔵
堆沙坑・娘娘
下山して、ご飯を奢りました。あの店の料理、美味しかったでしょう?
はい、これでお互い今日死んでも悔いは残りませんね。死んだ気になって戦いましょう。事前に話した合図通りに動いてください。
敵の動きを先読みし攻撃箇所、攻撃の軌道を敵の攻撃前に割り出し、事前に決めていた合図で花鶏がどの方向に避ければいいか指示を出します。私は攻撃してきた敵を【貫通攻撃】で迎撃して倒します。先読みの力でどうとでもカウンターは取れますからね。花鶏にも余裕ができてきたらカウンター、もしくは敵を攻撃前に潰せるタイミングで、攻撃の合図を出しましょう。
強大な力を活かすために覚えるのが技術です。
完璧に決まる一撃は気持ちがいいでしょう?
「自分には! 妹弟子が二人おり! どちらも優秀な柔拳の使い手だと聞く!」
哈哈哈! 笑顔でそう言い放つ、食卓を囲んでの一風景を、娘娘は思い出した。なんだろう。悔しいでもなければ、諦めでもない。強いて言えば、誇りに近い、そんな感情が滲む言い回しだった。
パイルバンカー神仙拳を拓いて六十年。その道を未だ中途と定める彼女にとって、同道の士を誇りと仰ぐ姿は必ずしも他人事ではなかった。求道者なのだ。彼女も、私も。だからこそ異界の闘士との戦いはいつも心躍るし、新たな技の開発にだって余念はない。
「それは構わいませんが、時に花鶏。戦いの時は合図通りに動いてくださいね」
「ム。いや、それは、しかし」
「いいですね?」
それは自分の強みを殺すことだ。たしかに私は指示通りに動けない、こともない。しかし誰かと行動を共にしたこともなければ策もねれない。できるのは剛拳一本のみ。待ち伏せて拳を突き出すくらいならできても、これ以上の綿密な作戦は……。
花鶏は加えた楊枝を吐き出してそんな弱音をぐだぐだぐだと重ねた。食べ終えた皿よりも弱音の枚数が多くなったあたりで、娘娘は遮る。
「はい。では死んだ気になって戦いましょう」
「……死んだ気ィ?!」
……だって、今食べた料理美味しかったでしょう?
これでお互い今日死んでも悔いは残りませんよね。
「そうは言ったが、いざとなると、だ!」
一本指は右、二本指は左、拳を振れば立体運動。
その合図が攻撃が来た時の避けるべき方向を示している。安全地帯、ではない。あくまでその方向に身を投げれば、ひとまず攻撃は避けられるというだけだ。
――ばっ、ばばっ……!
「一、一……おおっ?!」
拳が見えた。両足で地を踏みしめて、岩壁を駆ける。そのすぐ後ろを雷霆の閃光が駆け抜けていった。当たれば焼死体だ。どれほど固い拳があっても、雷相手に打ち合う気概はない。
翻って娘娘はといえば、さらに前進して花鶏の盾になるように立ち回りつつ、負い重なる竜の首目掛けて、パイルバンカーの杭を射出する。一匹の逆鱗を撃ち抜いてなお減衰しない勢いが後ろと、そのまた後ろの竜をくり抜いて、命に終止符を打った。
息を乱している様子はない。
「大丈夫ですか?」
「不可解、不可解だ! なぜわかる! 闘気を呼んでいるのか、瞬時に、この量を!?」
「先読みして、軌道や狙いを見定めれば、あなたにだってできますよ」
とはいえやっていることは未来視に近い。攻撃予知した彼女はさらに縦横無尽、時には空を蹴って攻撃を無力化している。立ち回りが最適化されすぎて目で追うだけでは、何も予備動作がないところを勝手に読んで避けてしまっているようにさえ見える。
死んだ気になって、やってみろ、だ。
花鶏は必死になって己を囲う檻を壊そうともがいていた。あの堆沙坑娘娘のように。話をして、食を共にして、数々の偉業を成し遂げてきた彼女本人だと知ることができた。世間知らずの自分でもわかる、生まれる前から存在した武勇伝。
その伝説を前にして、赤子のようではいられない。生まれ変わらなければ、死ぬしかない。むしろ死んでしまって構わない。
「五指を広げた」
それは、合図。
機を見て反撃せよ。
「応さ!」
近場の武器、ない。ありあわせの……そうだ。乱戦遊戯は子供ながらの発想力ありきの技。使い終わった、否、遊び終わった玩具を使えば、片せて一石二鳥ではないか……?!
命を落とした竜の尾をむんずと掴み、鞭のようにしてそれを叩きつける。怯んだのは竜だ。己が鱗の頑健さは承知している。生半可な矢なら跳ね返す防御力。しきさそれがこと打撃力に反転して襲いかかって来た時の恐ろしさを、彼らはまだ知らない。
反抗に転じる好機! そう捉えた娘娘は、フルスロットル、さらに激しい飛翔を繰り出して、連撃を浴びせかける。打擲で崩れた防陣は瞬く間に総崩れだ。
「竜の誇りを、なんだと」
「救い難い愚かさ!」
「なんとでも言うがいい!」
「畳み掛けましょう」
負け惜しみもこうも綺麗に引き出せれば耳心地が良い。何より完璧に決まる一撃の気持ちよさ! これは筆舌に尽くし難い。先ほどフルコースをいただいてきた花鶏も、この快感はそれに勝ると確信していた。
「それが技術です」
「技術!? これが、か」
「長い年月をかけてきました。これを言うと、年寄りに思われるかもしれませんが」
何を馬鹿な、見た目はほぼ同年代ではないか、そう言い放とうとして口をつぐむ。先ほどまで話をしてた通り、生まれる前からあるような逸話を持っている拳士の、その歳を詮索することは無意味だ。
「ならば追いつこう。どれほど時をかけても必ず、必ずや!」
今決起すれば明日から始めるよりも一日早く頂きに辿り着くことができる。叶うならばもっと早く始めたかったものだが、今も昔も道半ばだ。
そしてそんな目線で見た時に、改めて娘娘の動きを観察すると、違うものが見えてくる。彼女が後ろに、すなわち花鶏に出す合図。これもまた、相手の攻撃が繰り出される前に指し示されたものだ。当たり前といえば当たり前なのだが、実は不思議な話。見える位置にこうと指示を出すのは、連綿と続く動きの中で少しも連続性を欠いてはいけないのである。
言い換えれば、彼女の手のひらは、その指示に従い確実に避け切ることを前提に、または、背中を花鶏に預けていることを前提に仕草している。
「すぐにとは、いきませんよ」
「承知の上だ!」
さらに卓越しているのは的確に繰り出しているカウンターだ。剛拳で引きずり倒した竜には攻撃を加えていない。だから「見すらしていない」後ろからの攻撃で倒される竜を察知して、その竜以外をターゲットに複数倒せる箇所を狙い撃ちしている。
左右、それに上、立体的な動きを取り入れ視界を広く保ち、背だけでなく全身で気配を読み取っている。
パイルバンカーを軸にした回転運動。極めて特殊な拳法だが、その定石に沿いつつも、今回はさらに飛翔を取り入れることで三次元的な対処法を編み出している。
さらにさらに恐るべきは、その立案が、食事の最中、敵の陣容を見ずして打ち出された作戦である点だ。
「そこは信頼できる情報源があるのですが、さておいて。見て学べるところから、吸収した方がよいですよ」
剥かれた牙をするりと避け、まるで避けてくださいと言わんばかりの隙間があったかのようにそこで体勢を整える。本来なら必殺の一撃が、娘娘にとってはまさしく児戯。雷より早いかと錯覚する身のこなしは、何事も過不足なく遂行する。
……児戯? 竜に目を向けてどうする。
花鶏は己が両手で頬を叩いた。
違う! 学ぶべきを学べ。学べぬ瞳なら閉じて、刮目しろ!
「あの動き……柔拳か!? そうか」
……戦いの第一波も引きに近づいた間際、花鶏は直感する。
そうか。そうか、ならばこれも我が誇りには違いない。ならば振るおう、死ぬ気で、全身全霊の拳を! 覚悟を決めた英傑は強い、竜の勢いすらものともせず、一進一退の攻防を繰り広げる――!
大成功
🔵🔵🔵
響納・リズ(サポート)
「ごきげんよう、皆様。どうぞ、よろしくお願いいたしますわ」
おしとやかな雰囲気で、敵であろうとも相手を想い、寄り添うような考えを持っています(ただし、相手が極悪人であれば、問答無用で倒します)。
基本、判定や戦いにおいてはWIZを使用し、その時の状況によって、スキルを使用します。
戦いでは、主に白薔薇の嵐を使い、救援がメインの時は回復系のUCを使用します。
自分よりも年下の子や可愛らしい動物には、保護したい意欲が高く、綺麗なモノやぬいぐるみを見ると、ついつい、そっちに向かってしまうことも。
どちらかというと、そっと陰で皆さんを支える立場を取ろうとします。
アドリブ、絡みは大歓迎で、エッチなのはNGです
迅雷・電子(サポート)
人間のバーバリアン×力持ち、16歳の女です。父親が相撲取りだったのが切欠で相撲にはまり、夢は女横綱です。
普段の口調は「男勝り(あたし、あんた、だねぇ、だよ、だよねぇ、なのかい?)」です。普段は女子高生なので制服ですが戦闘になると脱いでイェーガーカードの姿になります。基本相撲の動きで戦います。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
数宮・多喜(サポート)
『アタシの力が入用かい?』
一人称:アタシ
三人称:通常は「○○さん」、素が出ると「○○(呼び捨て)」
基本は宇宙カブによる機動力を生かして行動します。
誰を同乗させても構いません。
なお、屋内などのカブが同行できない場所では機動力が落ちます。
探索ではテレパスを活用して周囲を探ります。
情報収集および戦闘ではたとえ敵が相手だとしても、
『コミュ力』を活用してコンタクトを取ろうとします。
そうして相手の行動原理を理解してから、
はじめて次の行動に入ります。
行動指針は、「事件を解決する」です。
戦闘では『グラップル』による接近戦も行いますが、
基本的には電撃の『マヒ攻撃』や『衝撃波』による
『援護射撃』を行います。
仙界、白夜山。この地にて修行に勤しむ若き英傑・剛拳の使い手花鶏。猟兵たちの助けを得て『雷霆竜』の群れの掃討にあたっていたが、多勢に無勢。何より彼女自身実戦経験は乏しく、命のやり取りの連続に疲弊の色が見え隠れする。
「哈哈哈! だが、負けぬ! 我が剛拳は無双の域!」
「威勢のいいことだ」
「我らは竜。人界の強者など触れるだけで、こうだ」
――ばちっ……! バチバチバチィィッ……!
「うっ……ぐうううっ……!」
すでに拳は焦げて黒い煙を上げている。全身に電気を纏っている存在をひたすらに殴りつけていれば、気持ちで負けておらずとも体がダメになってしまう。頼りの《乱戦遊戯》も肉弾戦が主。消耗を強いられ、最終的にはズタズタにされてしまう。
それでも、ここで崩れるわけにはいかない。何かを守るための戦いではない、が。
「そこまでか」
「ならばその肉を食らおう」
「喚け」
迫る竜、そして――!
「どっすこーい!!」
その狭間に割って入る、精悍な雄叫び。そして筋肉の壁。気合い十分な声は、未来の女横綱である迅雷・電子(女雷電・f23120)の放ったものだ。
当然面食らう。花鶏も、竜たちも、その出現に困惑する。
「……なんたる剛毅!」
「ここからはあたしらも加勢するよ! で、あんたらも雷の字を背負ってんのかい? なら負けられないねぇ! はっけよおい!」
「待て! 電撃がくるぞ!」
「知らないねぇ、知らないねぇ!」
四股を踏み、五指を広げて見えを切る。女だてらと言うことなかれ、そうやって甘く見てきた存在を土俵外まで吹き飛ばした回数は数え切れず。ましてや「人間」を下に見ている竜の顎門、電子に届くはずもない。
「あ、が……っ」
「なぜ、竜の威光を……ゴガ」
――ぐぃいいい……びたん! びたん!!
「どすこぉぉぉい!!」
「「ぐぎゃあッ?!」」
弾ける火花をものともせず、組み合った竜二匹を両肩で突き飛ばすと、振り上げる勢いで両手を突き出し、そのまま彼方へと押し出した。勢いを殺せずきりもみにて回転しながら山の斜面に肉音を響かせて墜落。全身を紐縄のようにぐにゃぐにゃに折り畳まれてぐったりと動かなくなった。
その手には雷光を纏っている。全身に電気を纏うことができるのは電子とて同じ。ならば明暗を分けるのは何か。
「はっはっは! 鍛え方が足りないんじゃないのかい? この子だって相当に鍛えてる。あたしほどじゃないけど、ともかく、違いがあるとしたらどれだけ稽古したか! これに尽きるよ。違うかい?」
「たしかに、私もそう思いますわ」
響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)の微笑に、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は鼻を鳴らす。
「意外だねぇ。貴婦人さんも意外と努力家なのかい?」
「私もお稽古事の際にうたた寝しないように努力を重ねておりますわ」
「あぁ、まぁあたしも長時間運転する時は……ってそうじゃないだろ? もう少し真剣に聞いてやったっていいじゃないか」
「……ええ」
きょとんとした様子のリズに、多喜は彼女が真剣そのものだったことに気づいて失言を訂正する。人それぞれ真剣さに違いがあれど、真剣であることに変わりはない。何かに直向きであることの強さが、猟兵の強さだ。
そのような共感を感じ取った多喜の心に、一筋の光が灯る。内なる勝利の確信を、現実のものへと手繰り寄せる戦神の息吹。神に愛されたリズは、この場に戦うものに勇気を与える。わずかな言葉でスピリットを震わせ、光のオーラで加護するのだ。
「皆様の道行にご加護を。……もう大丈夫ですわね」
「あたしも力がみなぎってきたよ! 応援あってこそのアスリートだよねぇ! まとめてかかってきなよ!」
「っと、こちらの相手もとっておいてもらわないと困るよ。もう布石は済んでるからねぇ」
竜の群れへと銃口を向ける。形状からすると散弾銃だろうか。英傑を自陣近くまで戻し、ひと固まりになったところを一網打尽。しかも竜を傷つけられるのは竜のみと自負している連中。「おあつらえ向き」じゃないか。
――バババババッ……!! ズギャンッ!!
放たれるのは銃弾……ではない!
網状に広がり漁のごとくまとわりつく雷撃だ。触れれば近くの存在にも伝播し、あれよあれよというまにその場にいる竜を絡めとる。
「今だよ」
「はい。皆様。本当に討つべきお相手はどなたか、どうぞ、ご一考よろしくお願いいたしますわ」
雷に打たれたかのように衝撃が広がる。シンプルでわかりやすい言葉。竜でも解するような、言うなれば「正気に戻れ」とも言うべきフレーズである。リズは呪言の使い方ではない。単なるおねだりでバタバタ洗脳されていくこともないだろう。ここで多喜のお膳立てが輝くという寸法である。《布石(レディ・チェック)》により一時的にショック状態に陥った竜の群れは、判断力を喪失している。簡単な言葉を信じ込んで疑う余地が残されていないのだ。
そこに力ある言葉、リズのように神に愛され、生まれながらの光を宿す彼女が放った言葉は、落ちた雷のように竜たちを貫く。
すると、どうなるか。
「竜は、強きものにつく」
「愚かな……」
「何を、どちらが愚かか!」
凄まじい同士討ちが始まった。なんとか統率を取ろうとするリーダー格には電子が猛突進し、肉体言語で分からせる。この場に揃った遊軍の電撃戦術、それらが竜が纏わす偽りの雷を超え、さらにはオブリビオン第一波の壊滅までもを導くのだ。
これには若き英傑も笑うしかない。なんて大きな存在なのだ。縦横無尽に戦場をバイクで駆け散弾銃で追い立てる多喜、祈りと大いなる言葉を以て味方を鼓舞し勝利を手繰り寄せるリズ、竜をも超える雷の使い手として戦場という土俵に君臨する電子。その全てがちっぽけな剛拳を超える堂々たる大剛。こうしてはいられない。負けて悔いて鍛え直すのは、後であって今ではない。ぶつかって行け。雷のように疾く、より鋭く拳を突き出せ!
「たしかに、私は愚かだな! 愚直にその背中を追うしかない! 今は頼りにさせてもらうぞ、ツワモノたちよ!」
逃げ惑う竜に掌底を喰らわせる。食いたいと言っていたな、と、自然、笑みが溢れる。
かくして笑いあう勇士たちに勝利は訪れる。前哨戦は猟兵の活躍により苦戦なく進んだのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第3章 集団戦
『面影鬼』
|
POW : ここは桃源郷
【己が何者であったかを忘れさせる桃の香】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
SPD : もはや帰れぬ桃源郷
戦場全体に、【強い眠気と記憶障害を誘発する桃の木】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ : 失われた桃源郷
【強い風とともに、闘争心を失わせる桃の花、】【困難に立ち向かう克己心を失わせる桃の実、】【生への執着心を失わせる桃の木の枝】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「ム! なんだ、霧か? 蜃気楼か?!」
竜の群れを退けた英傑・花鶏の前に、山中で見たことのない樹木が生え揃う。こんなにも急激に成長する植物は自然界に存在しない。
「嫌な予感がするぞ! ぐう……こんなもの相手に、剛拳は通用するのか?!」
いやはや、しかし、ムム、とガラにもなく頭を抱えて蹲ってしまう。それが『面影鬼』の思惑とも知らずに、若き英傑は悶え惑う。仮想敵とは違う。確固たる現実の中に敵を幻出させているのは、他ならない「弱き己自身」なのだ。おそらく見るものによってこの鬼は姿を変えて襲いかかるだろう。
真価が試される時だ。搦め手相手に武術が通用するのか、しなかった時は、死あるのみだ――!
堆沙坑・娘娘
ふぅ…私が誰であるかなど、どうでもいい。
どうせ元々自分が誰かも分からぬ身であったのですし、本当の一番最初に戻っただけのこと。
さて、隣にいる見知らぬ人。死にたくなければ私の近くに。
見知らぬ人、あなたは剛拳がこのような相手に通用するのか悩んでいるようですが、通用しますよ。少なくとも、私の体と心はそう言っています。
私のいる地点を中心に巨人がパイルバンカーを撃ち込んだかのように、天から巨大な柱のような闘気の杭が撃ち込まれます。これまでとは規模が違う【貫通攻撃】です。私の闘気による攻撃なので敵味方識別もできます。
花鶏、これが『力』です。
技術も力もある程度は見せました。
どう糧にするかはあなた次第です。
……ふわん。
…………ぷわん。
……ぽわ?
「……ム」
自身が灼熱の日差しに晒されていることを理解し、少女は目を覚ます。目元を擦り、あどけなく欠伸をし、路端の石を枕に寝返りを打つ。目覚めた。しかしそのまなじりには人生を鍛錬に捧げてきた英傑の意思は微塵もない。幸いなことには肉体が劣化しているわけではないから、この灼熱地獄においてすぐさま死に至るということはない点である。
まあ少々寝苦しい程度。汗を拭い、もう一度眠りこけるとしよう。ここには口を開けていれば生命を約束する仙桃がある。懸命さなど不用だ。命など惰眠を貪ることに費やした方がよほど有意義ではないか。
涎を拭くのも面倒だ。服だって邪魔らしい。呼吸だって億劫になってくる。
眠っていたい。起こさないでほしい。
少女は思う。孤独とは心地よい温もりだ。誰とも比較されることはなく、誰にも非難されることもない。それは安寧である。脅かされることのない絶対の安寧。多少の酷地であろうと何するものぞ。例えるならば檻の中で過ごす愛玩動物に近い。天恵という「可愛がり」を得て、羽を伸ばしのんびりと過ごす。これ以上の幸せは今生にあるまい。
「か……か……?」
笑い方も忘れてしまった。どれほどの至福の表情か、はたまた呆けた表情か。乾気に覆われたこの地には鏡になるような水源は存在しない。それは己を顧みることもできない事実を意味する。
無味、無意味。全て無に帰す。今までの積み重ねも照り返す日差しの前に塵と消えるだろう。もはや身動きすることすら、指ひとつ揺らすだけで多大なストレスではあるけれど。
笑えなくなってしまったけれど。
「あなたは剛拳がこのような相手に通用するのか悩んでいるようですが、通用しますよ。少なくとも、私の体と心はそう言っています」
声を、かけられた。
かけられてはじめて、そこでようやく、自己を認識した。
自分とは何か、己とは何なのか。そこでやっと考える姿勢を取った。緑色の髪を日差しに晒す無面目の女性。力強さとしなやかさを併せ持つ武辺者。
「……誰だ」
「さあ?」
「さあ、ということはないだろう」
嘘だ。
誰だだなんて、白々しいにもほどがある。さあなんて興味を唆る言葉だ。なぜなら少女もまた、己の存在を見失ってしまって久しい。他人のなにかを指摘して、おかしいと言いつける根拠に欠ける。そんな見えすいた虚構をあえて笑うでもなく、彼女は言った。
「どうでもいい」
どうでもいい? と、聞き返す。どうでもいいのです、と繰り返された。ぐいと肩を掴まれて身を寄せられる。荒々しくも安心する、剛毅さはまさに杭打ちの如く。……そういえば、手に持っている。
そもそも剛拳とは何だ。……いや待て。知っているぞ。少女はこめかみのあたりをぐ、ぐ、と押さえて呻く。
わからない。前腕で顔をぐいと拭うと、ぶるぶる顔を振った。自分のことは何一つ興味が湧かないけれど、この珍妙な姿の人形然として、しかし勇姿を晒すこの女性! 俄然問いただしてみたくなる。
「どうでもいい、というあなたの『体』と『心』とは何なのだ? 面白い! 何故だか知らないが、私は面白いと感じている。十全に時を重ね、泰然としてツワモノの極みに到達したような、そんな気(オーラ)をひしひしと肌が感じている」
興奮だ。この気持ちは、「かつて」もう感じていたはずの熱の昂りが、再び少女の内に炎を灯した。
抱き寄せるようにして身を寄せると、彼女が指し示す指先に桃の群生が見える。どうやらその行動の意図には、この群生から少しでも遠ざけようという気持ちが感じ取れた。たとえ自分が何者か見失っていたとしても、脅威はわかる。
「どうやら私が戦うべき相手のようですね」
「どうして……?」
「記憶も、名前も、何もない。それが私です。ならば従うべきは一つでしょう」
『パイルバンカーを極めろ』――それは、この魂に焼きついた原初の言葉だ。
ならば……魂に従おう。記憶に齟齬があったとしても、魂は嘘をつかない。がちゃんと手にしたパイルバンカーが重厚な音を立てて、それが間違いないと肌で実感する。
何か一つを極めたいなら、障害をひとつひとつ乗り越えていくしかない。なぜなら目指す道行きにおよそ「道」と呼べるほどの舗装された道路は存在しない。きっと歩んだその後ろに、道ができるのだろう。だから進む限りにおいて、何もない荒野を進むしかない。
「名前がないのは不便だろう? 堆沙坑娘娘!」
「ではそれが名前でいいです」
パイルバンカーに生き、パイルバンカーに死す。
生きとし生きるその時全てを、パイルバンカーを極めるために捧げる求道者。ならば、名は、堆沙坑・娘娘でいい。むしろこの名がいい。
「体に心、そして名前。どうやら私は、生きる道、歩むべき道を見つけたようです。まだ道と言えるようなしっかりとしたものではないかもしれませんが。あなたはどうですか? 見知らぬ人」
「私は……私は……」
「剛拳」
びっと、人差し指の指先が、少女の鼻先をつく。ぐにっと形が変わって少女の表情が滑稽に映る。
「私はどうやら、案外教えたがりと自覚しました。なので教えましょう。あなたは戦う力をもう持っているでしょう? ひとたびこの世に生まれ落ちたからには、極めねば、それがあなたの魂だったでしょう」
己の始まりには言葉があった。娘娘は思う。ならば、この少女にだって言葉をかけてやるべきだ。
だが、彼女の瞳は未だ薄ぼんやりとして、いまいち反応がない。原初の憧れは、剛拳という一拳法ではなく、もっと大規模な、優れた武の髄のようなものではなかったのだろうか。対極を成す柔拳。ほかの数多の拳法。師と仰ぐような人物の存在。散りばめられたパーツを結びつけていくとわかることがある。
彼女が、剛拳を選んだのは、目標とする何かを追い求めるにあたり最も適性があったからだろう。本当は強くなれればなんでもよかったのだ。
根底にあったのはより絶対的な「武」への憧れだ。一つを極めてさらにその先へ。それならば自己を見失って、進むべき道と自我を喪失してしまうのもわからないわけでもない。人生の大半を修行に費やした、強い憧れが桃の香りで打ち消されてしまっている。強くなりたい、極めたいという思いが、今まさに踏み躙られている。
「私は仮にこのパイルバンカーがへし折られても、立ち止まることはないでしょうが」
「む?」
大多数の人間はもっと弱いものだ。好物が食べられなくなったり、応援していた歌い手が引退したり、仕えるべき役人の不正が暴かれたり、そういう呆気なさが思わぬ躓きになることもある。
では、もし、極めるべき道を見失ってしまったら。
「あなたには導が必要でしょう。簡単な話でした」
ぐ、ぐ……と腕を引いて、ガスン! と地に打ち込む。
一見すれば地に拳を打ちつけただけのようにも見えるその所作に、しかし少女は心をときめかせる。
「今、今のは?! 何だ今の闘気は! 一瞬にして、空気が凍ったようであったぞ。面白い! 面白い! もう一度やってみせてくれ」
「いえ、一度きりです。もう終わりました」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
地鳴り。
天を割らんとする、大気を震わせる轟音。
そよぐ、桃の木の間を吹き抜けていく疾風。
静まり返ったと表現した世界が、ひっくり返された。彼女が撃ちつけたのは「この世界」への杭だ。この星を俯瞰して眺めれば、この地に落ちてくる「闘気の杭」の存在がはっきりと認識できただろう。大都市にある電波塔が逆さ向きに落ちてきた、なんて可愛らしいものではない。先端の最も細い部分の半径がゆうに百メートルはある、惑星級の杭だ。
「《巴别塔(パァーピィエタァー)》、世界を貫く」
ぼ、と白い閃光が視界を灼いた。
起爆のような凄まじい光源に音と、衝撃と、情報が耳と目に流れ込んで。
桃の群生とともに『面影鬼』を焼き払い、焦土と化していく白夜山。標高が変わりかねない圧倒的な力による破壊。どんな賛辞だってこの破壊力の形容には及ばないだろう。林を焼き払い、視界一帯をクレーターに変え、それでも勢いは収まらず、むせ返るような甘い香りを闘気の洗練されたさわやかな空気で満たしてみせた。まるで娘娘に抱擁された安らぎの中で、花鶏は涙を流していた。
「この力……おお……なんと、よもや……」
「花鶏、これが『力』です」
晴々とした表情は、どうやら互いに記憶や自我を取り戻したらしいことを示していた。どうなるかとは思ったが、周囲一帯を吹き飛ばすことで窮地を脱したらしい。一時はどうなるかと思いきや、やはり信じ、極め抜いた拳は裏切らなかった。
「ですが、それであなたが自分を卑下したら終わりです。立ち止まる、それはあなたの歩んだこれまで全てを否定してしまいます」
「ならば、どうしたらいい? あのような絶対を見せられて……私は!」
「行きましょう。戦いは終わってはいません」
かすかに漂う残り香は、鬼の存在を予感させる。
この世に絶対はないのだ、と頭ごなしに否定するのは容易い。しかし限界は己で見定めるものだ。互いに道半ばと認識しているはず。世界を貫く娘娘も、やがていつかはこの世の理そのものも貫かんと、まだまだ極めていく最中である。
終わりを決めるのは自分自身。
英傑たるもの、わかっていることを聞くのは甘えだ。甘えてはならない。どう糧にするのかは、花鶏にかかっている。
「もしこの戦いが終わって、その時まだ立っていられたら、もっと素敵な光景が見られるでしょう。その片鱗は見せました」
技術。力。
見えるからこそ手を伸ばしたくなる、才覚の煌めき。花鶏の瞳に再び燃え上がる業火を確認すると、娘娘は軽やかに敵陣へと飛び込んでいく。躍るように、何度己を見失っても、再び舞い上がる。原点を知る拳士は、パイルバンカー神仙拳の秘奥に何度だってたどり着く。どんな道を通ろうとも。
貫くことと、見つけたり。
「闘え」
勇気を与えてくれる、魔法の呪文。
己に繰り返し言い聞かせて、彼女たちは前へ前へ、進む。その先にある勝利を信じて――!
大成功
🔵🔵🔵
藤・美雨(サポート)
私は藤・美雨
デッドマンの猟兵さ
キョンシーじゃない、キョンシー擬きだよ
戦う時は近接攻撃を中心に
強化した肉体で怪力で暴れまわったり
装備した刃物でザクザク切り込むのが好きかな
死んでいるから怪我にはあんまり執着しない
危なくなればヴォルテックエンジンで自分を叩き起こすからね
負傷は気にせず気力で突っ走るのが好きだよ
その方が楽しい!
でも死んでるからといって人生を楽しんでいない訳じゃない
飲食とかは出来るし好きだよ
綺麗なものや楽しいものに触れるのだって大好きさ
他の猟兵に迷惑をかける行為はしないよ
例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動もしない
気持ちよく勝って帰りたいし!
あとはおまかせ
よろしくお願いするね!
東海林・馨(サポート)
できれば前線や斬り込み役に名乗り出たいですが、他に相応しい猟兵が居たらゆずります。
集団戦は本能が働くのか気分が高揚してしまうため、出来る限り気持ちが高ぶらないよう戒めて行動します。
戦闘では人型と狼の姿を使い分け、音、匂い、暗闇と言った地の利や武術と獣の俊敏さを活かして敵を翻弄します。
人狼咆哮は周りに猟兵がいない時だけ使用するように注意を払います。
その他はお任せです。
七星・龍厳(サポート)
『俺に挑むには10年早いな。』
羅刹の剣豪×マジックナイトの男です。
普段の口調は「男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)」、仲間には「フレンドリー(俺、呼び捨て、言い捨て)」
行動の基準は戦闘が楽しめるか、又は興味を持った事柄に積極的に関わる。
戦闘は戦場で敵の技術を盗み自身が扱えるものに昇華させて戦場を探してる竜殺し。
戦場では弱肉強食、故に手を差し伸べる者への優しさは無くしていない。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用、怪我は厭わず行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
「何だ。俺と同じメシは食えないってのか? 傷ついちゃうぜ。なあ?」
「話を振るな」
「はっ。連れないぜ」
「だって桃ばっかりで飽きちゃったし。あっちも桃! こっちも桃! よくそんなに食べられるよ」
応援に駆けつけた猟兵、七星・龍厳(紅蓮の竜殺し・f14830)、それに人狼の東海林・馨(探索する者・f33122)と、キョンシーもどきの藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)は、灼熱とも呼べる仙界の熱線に晒されながら、のんびり桃を頬張っていた。周囲にはもはや山林と呼ぶべき夥しい量の『面影鬼』が蔓延り、幻惑の香りを漂わせている。
「ところで誰だっけ?」
「私……いや俺は……」
「いや私、私さ」
「何だ嬢ちゃんも記憶喪失か! 揃って前後不覚だなんてとんだ笑い話だな!」
がしがしと赤髪を掻くと、しかしほとんど困ってなさそうな様子で腰を上げる。
「何処に行く?」
「家族のところさ。可愛い盛りでね」
龍厳の奥底にある、頼りたくなる温もりを周囲の桃は発している。しかし、これだけ群れてしまえばそれは悪手である。冷静になれば、家族同様の存在が周囲にこれだけいるとなれば、偽者であることはすぐに分かった。
あとは単純な話だ。彼らは家族の名を騙る不届き者。どういう何かは知らないが、倒さなければならないと直感する。
「私は悪霊だ……この技を試せる相手なら、誰でもいい」
「楽しければどっちでもいいけどね。でもこのままここにいるのもちょっとと思うよ。何でいるのかわからないのに居心地いいの、気持ち悪いし」
武侠としての矜持が、死してなお楽しさを望む生来の明るさが、自失してなお立ち上がる力を与える。宿星剣に匕首と思い思いの得物を構えて、油断なく周囲を睨みつける。
「じゃあ伐採といくか!」
竜殺しの大剣、バルムンクを片手に見得を切るとおもむろに振り回した。咄嗟に屈んで事なきを得た二人だったが、そんなヒヤヒヤした気持ちなど知らぬ存ぜぬな様子で、龍厳は豪胆に笑ってみせる。やはり戦いはいい。眠っていた血が、覚めていた魂の炎が再び燃え上がるかのようだ。グズグスに溶けるほどにシロップ漬けになった桃の甘味は、くど過ぎる。少しでも血風を煽げば、清涼感を感じられるだろうか。
馨は眼鏡をかけ直すと(度が入ってないことにいささか面食らいながら)吶喊し、美雨もまた軽やかな身のこなしで飛び込むと、桃林に潜む鬼たちをバラバラにしていく。これはお祭りだ。自分探しだなんてそうそう楽しめる娯楽じゃない。何事も、どんな窮地でも、まずは楽しむ度量がなければ。
「死んだかいがないもの! 死んでたって誰が?」
「さあな。俺の前に立つには未熟だったな!」
三人はまた顔を見合わせる。答えは出ない。
かくいう己が何者かは、戦ってるうちに思い出すことだろう。ふつふつ湧いてくる疑問をものともせず、存分に武威をふるい敵を壊滅させながら三人の進撃は軽やかに進む。大いに恐れさせることだろう。仙界において怪異とされる鬼だったとしても。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
鞍馬・景正
花鶏殿。
相手に警戒するは良しとして、己が力と磨いた技が通用するかと迷うのは良くありません。
戦場に立つ以上、考えるべきは――己を信じ、勝機を作り出すこと。
◆
花鶏殿には距離を取るよう願い、面影鬼の方へ。
香りで記憶が掻き消えるより早く【無明剣】を発動。
無我の境にあれば元より己など何者でもなく、ただ近付く者を斬るだけの鬼。
実体なき相手とて、武術は古いものほど九字、反閇、気術などを取り込み、【破魔】の力を持つもの。
総捲りに斬り捨て、花鶏殿に技そのものと化せば幻術など恐れるに足りずと実践しましょう。
……多勢に無勢は別問題なので、程々で撤退し、山の地形活かして一撃離脱を繰り返していく必要はありそうですが。
「花鶏殿! ここは一旦距離を!」
「承知! ゆめゆめ、気をつけよ!」
すらりと抜き放った刀を上段に構え、並み居る鬼どもを睨みつける。敵意を向けられてなお鬼たちに反抗の意思は感じられない。あくまで狙うのは敵対者の自滅。ゆるゆると崩壊し、根も葉も腐っていくその有様をせせら笑うように見ているだけだ。目線は霞のようにして茫洋としれないが、一方で口元ははっきりと見て取れる。
真剣勝負を望んできた景正にとって、不倶戴天の敵と言えるだろう。
「……そして、あまりこの姿は見せたくありませんでした」
ぐっと折った五指を額に当てる。血でも滲むかのように闘気を漲らせ、言葉に意思を込める。
近づくものの記憶や技術や、積み重ねや情念やらを根こそぎ奪う怪異だと聞く。「何だそれだけか」というのが率直な感想だ。温い。傍らで剣を振るわねばならぬ師としての側面を出すならいざ知らず、こと群れるだけの鬼にならば、構わない。
「捨てましょう、全てを」
す――と。
先ずは、一閃、振り下ろす。
素振りなどではない。目に見えない香りの流れを断ち切ったのだ。むわんと漂う甘い香りが、刃鋼に隔たれ無臭の真空を生み出す。
「さて。整いました」
ここから先に踏み込めば、待つは死。
すなわち、ここを死線と心得よ。
柄を肩の高さに持ち、刃を下へ。
不意に吹いた突風が首巻きを持ち上げる。吹き込む香りに紛れて、鼻腔を擽る死臭。まずは一、二。
「打成一片に励むは武の境地。空観、仮観」
破魔の力が文字通り、世を脅かす魔たるオブリビオンを引き裂く。無警戒に間合いに入った面影鬼が己の愚行に気づいたのは、自身の五体がバラバラに砕け散る様を見た時だ。それを視界に収めた首も反転して地面に転がっている。
超脱しこの世の理を破るもの、それでありながら世俗に交じり衆生を救うもの。無我の境にあれば元より己など何者でもなく、ただ近付く者を斬るだけの鬼。即ち超然自我。この世を我と思い同化し、自失を世界に溶け込むと言い換える所業。己の強さをひたすらに追い求める我執。己の全てを投げ打って世界を救うエゴ。それらを平等に併せ持ち、両立させる。世界との同化とは、これだ。
「中観! 我空、人空、剣空――右三空一心観」
もはや言葉は意味をなさない。三鬼目、さらにその退去を待たずして波打って鬼の多勢が押し寄せる。考えあってのことだ、それは無念、夢想とは言えない。あるのは身に宿る使命感に近い。
近くを斬り、遠くは待って近くを斬る。斬れぬものは二度斬り、それでも斬れねば乱斬りに。
近代開発された技術で有れば、そこには効率、とは名ばかりのやや仰々しく、それでいて目新しいだけの行為が軒を連ねる。かえって無駄が多いのだ。景正の無意識に繰り出す技巧は、違う。何が違うのか。その所作一つ一つに意味がある。ゆえに中途でも効果を発揮し、連続性の中に絶えず――。
――ズバァッ……! ザンッッ! ……ズバァッ!!
技を繰り出し続けていると錯覚させる。連綿と続く流れの中に隙は存在しない。言うなれば川の流れを堰き止めようとするほどの無謀さである。
振り下ろしたと思えば振り上げ、屈んだと思えば伸び上がって不妨に斬りつける。揺らめく眼光だけが血風の中でいやに煌めいて、残光がまるで蛍のように敵中を進んでいく。立ち込める甘い香りを断つたびにわずかながらの活路がひらけてくる。
「(限界には未だ……ならば)」
考えるから、判断するから一手遅くなるのだ。これほどの大軍勢相手、しかも罠を仕掛けて待つ相手。一手一手の積み重ねが遅れ遅れへと繋がっていく。
考える一手間さえ惜しい。考えなければいい。その思考さえも置き去りにして、無常無我の想念で刀を振り続ける。
これすなわちこの世の理と知れば、いっそう世界そのものと化せるだろう。
思考が――途切れる。
途切れる。
切れる。
切れて――繋がる。
夥しいほどの血が流れ、返り血のみで前面をどろどろに穢した景正は、剣先を地につけて――立ち尽くした。
「……己の総身を技とすれば、幻に惑わされることもありません」
誰に言い聞かせた言葉だったのだろう……? もしかしたら自分自身だったのかもしれない。屍山血河、桃の香りなどとうに消えてしまうような濃密な血の匂いを漂わせて、戦鬼がいる。
彼方も終わったのだろう。花鶏も駆け寄ってくるがその様子は慌てている。
「どうかしましたか?」
「どうかしたのはそちらだろう! 何なのだ?!」
周囲をぐるぐると回っては、とりあえず怪我をしてないことを確認して、大きくため息をついた。気をつけよ、と言ったのに、となんだか言いたりなさそうな口ぶりではあるが、こういう時になんと声をかけたら良いかわからないのは彼女も同じだったようで。
景正の指示通り、山間に潜み、逃れてくる残党を散発的に蹴散らし、ついに打倒したらしいことを花鶏は鼻高々に報告した。不可思議な風貌の敵であっただけに大勢が決まってなお逃げる知性を持ち合わせていたことを、彼女は驚いていたようである。彼女にオブリビオンについて説明しても詮無いこと。適当に話を合わせて鞘に収めた。
天国は馬の背にありという。夙夜に跨ると、花鶏を今一度見直した。
「ツワモノよ! 私は目指すものが決まったぞ」
「……やめたほうがいいでしょう」
「なぬ?! せめて最後まで聞かないか!」
別れの時が来たことを彼女も感じ取っているらしい。鼻先が赤い。しかし「ロクなこと」を言い出しそうになかったので、その言葉ひ中途で遮ってしまった。大方自分に憧れて、という類だろう。それはあまりにも惨いことだ。これで花鶏が甲斐甲斐しく刀を振り始めたら、笑い話にすらならない。
「花鶏殿。戦場に立つ以上、考えるべきは――己を信じ、勝機を作り出すことが肝要です」
「応!」
「では今、次に立つ戦場を、切望しますか?」
若き英傑に覚悟を問う。じりじりと焼ける熱気の前で涼しい顔をして、血気の勇を見せた。活殺自在とは言わない。斬るべきを斬り、守るものを守った。その守るべきものとは、彼女が見つけなければならない。他ならない彼女の意思で見定めるのだ。この戦いで知見が広がったのは言うまでもないことだが、知ってしまった事実により掛かる負荷も相当だろう。
あえて伝えはしなかったが、彼女にとって守るべきものは、未だここにしかないのだ。
必然、彼女は最大限の礼をもって返事としていた。
「生涯! 言葉を心に留めおこう! 今はまだ共に数多の戦場を駆け抜けるには、未熟、そういうわけだな! が、この剛拳秘奥にたどり着いた暁には、必ずや! 背中を預けられる存在に!」
……技を魅せすぎた。よもやこれほどまでに懐かれるとは。すでに次なる戦場を求めるこの羅刹にそういった憧れを幻視するならば。
せめて、その時までは、裏切らないようにしなければ。景正は微笑すると、馬上にて合図し向きを変える。己を信じる、己の技を信じる、己の勝利を信じる。その気持ちは裏切らない。つい今しがた決心したことだが、口にするには容易ではない。
容易ではないからこそ、口にする価値がある。
「私も――駆け続けましょう。これからも」
無人となった山を駆けていく。咽せるような熱気の中で、吹き抜けていく風が心地よい。振り返りはしない。きっといつか、追いつくことを信じているからだ。己の武と技を信じてきた男の、精一杯の信頼の証明であった。
その姿が小さく消えて見えなくなるまで、若き英傑は見送っていた。ずっと、手を振って――。
大成功
🔵🔵🔵