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この、桜満ちたる、水の都のその影で

#サクラミラージュ #桜シリーズ

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#サクラミラージュ
#桜シリーズ


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 ――帝都桜學府。
 その中の、諜報部と呼ばれる部の一室で。
「……彼は、流石に直ぐには戻ってこられませんか」
 夏の暑さにやられる様子もなく、濃紺のスーツに身を包んだ男が手元の報告書を眺め、小さく息を吐く。
 男の手元にあるその報告書には、様々な事が書かれていた。
「幻朧戦線や、紫陽花殿、果ては仏蘭西まで動かせる程の相手ですから、何者か、と思いましたが……もう少し、詳しい情報を得る必要はありそうですね」
 独り言の様に静かに呟き、机に置かれた写真を見る。
 そこには、帝都にあるとある水の街が写し出されていた。
 何かがあるかも知れないと言う報告の後、部下が消息を絶った、その街が。
(「上手くいけば、何かが釣れるかも知れませんし、此処のところ、彼等を休息させる暇も与えていませんでしたしね……」)
 そう胸中で呟いて。
 男……竜胆は自嘲と共に席を立ち、その街へと向かう手配を進める。
 そして……。


「……自ら囮になるつもりか、竜胆さん」
 グリモアベースの片隅で。
 何かを見つめる様に双瞼を閉ざしていた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が、小さく溜息をつきつつ瞼を開く。
 蒼穹に輝くその瞳を。
 気が付けば集っていた猟兵達の姿を認めた優希斗が皆、と静かに語り始めた。
「先日、サクラミラージュの仏蘭西、巴里である事件が起きた。どうやら其の事件には、事件そのもの以外にも、別の目的があったらしい」
 どう言うことか、というと……。
「その事件で猟兵達と諜報員達はとある結社の一党を捕縛した。結果として、仏蘭西から帝都に彼等を護送する必要が生まれた。……まあ影朧に関わる事件だから、当然と言えば、当然の処置かも知れないけれど」
 だがその結果、一つ問題が生じたのだ。
 それは……。
「帝都桜學府諜報部の戦力の一時的な減少だ。それを補う意味もあって、竜胆さん自ら帝都にある、とある水の都に調査に向かう事になったらしい」
 帝都桜學府の一員として、キナ臭い事件の解決の幾つかに影から携わっている竜胆だ。
 何かを嗅ぎ付けた可能性もある。
 だが……。
「その竜胆さんを殺害するべく影朧が動き出した。放っておけば竜胆さんは暗殺される」
 自分が狙われる可能性は、竜胆も十分に承知している。
 リスクを分かった上でこう言った行動をとると言う事は……。
「自らを暗殺しようとしている影朧達を燻り出すための囮の意味もあるのだろうね」
 とは言え、竜胆の行動を止める手立てはない。
 となると……。
「グリモアベースから直接其処に飛ぶことが出来る皆に現場に赴いて貰い、この事件を解決して欲しい」
 竜胆を殺害するべく動き出した影朧の動機は現時点では不明だ。
 私怨か、それとも公怨か、はたまた影朧が誰かに利用されているのか。
 包まれている真相を明かす為の調査も当然必要になってくるだろう。
「因みに竜胆さんは、元々情報畑ではあるが、肉体能力は一般人と変わらない。彼は直接現地に赴き、一先ず喫茶で何から探るかを考えていると思われる」
 其処に合流することは、それ程難しい話では無い。
 其の後、街を巡回したり、ゴンドラに乗って相手を誘ってみたり、或いは酒場などを除いて情報を仕入れるつもりだろう。
「皆には、竜胆さんに付いていって貰っても良いし、それ以外の方法で情報を収集して貰っても良い。其の辺りの判断は、皆に任せるよ。最終的に竜胆さんと水の街の人々の命を守ることが出来るならね」
 そう呟き、軽く息を吐く優希斗。
「……ともあれ、今の皆ならば難しい任務にはならないだろう。どうか皆、宜しく頼む」
 其の優希斗の言の葉と共に。
 蒼穹の風がグリモアベースに吹き荒れて、猟兵達が姿を消していた。


長野聖夜
 ――水の街に眠る、其の闇は。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 サクラミラージュのシナリオをお送り致します。
 このシナリオは、下記8シナリオと設定を若干共有していますが、新規の方もご参加頂いて全く問題ございません。歓迎致します。
 1.あの桜の木の下で誓約を
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=14914
 2.この、幻朧桜咲く『都忘れ』のその場所で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=15730
 3.その、桜の闇の中で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17026
 4.情と知の、桜の木の下で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17027
 5.愛と死の、桜の木の下で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=24934
 6.あの思い出の墓地の、その影で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=29868
 7.宵闇の桜の、その先で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=30122
 8.或る秘密の眠る、その國で
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=36136
 尚、この水の都は街として恵まれていますが、一方でスラム街の様な場所もあります。
 このシナリオの第1章には、竜胆という名の人物が登場します。
 竜胆については下記です。
 帝都桜學府諜報部の幹部の1人で、情報収集能力・サポートに秀でる一般人。
 シナリオ中では一般人に溶け込む目立たない服装です。
 彼の護衛が主な目的となるでしょう。
 第1章のプレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
 プレイング受付期間:8月6日(金)8:30分以降~8月7日(土)17:00頃迄。
 リプレイ執筆期間:8月7日(土)18:00頃~8月9日(月)一杯迄。
 変更ありましたら、マスターページ及びタグでお知らせ致します。

 ――それでは、良き旅路の果てを。
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第1章 日常 『花水路の街』

POW   :    街を見て回る

SPD   :    ゴンドラに乗る

WIZ   :    市や店を覗いてみる

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

館野・敬輔
単独希望
アドリブ大歓迎

暗殺の可能性もあるなら、警戒は必須だな
護衛はこれまで竜胆に関わりがあった猟兵に任せて
俺はいつも通り、魂の少女たちの力を借りて広範囲捜索だ

街の目立たなそうな場を見繕って身を隠し
身の安全を確保したら指定UC発動
竜胆や余所者に興味、敵意、憎悪…何かしらの感情を向けている輩を探そう(世界知識、闇に紛れる、失せ物探し)

捜索中、ふと過る花蘇芳の断末魔
所々聞き取りづらかったが、何と言っていた?
なんとか…思い出せないだろうか?(視力、聞き耳、読心術)

情報入手したら他猟兵と共有
問題は誰に渡すかだが
さすがに巴里で顔を見かけた猟兵たちは来ているだろう
適当に見繕ってすまほに情報を送っておくか




『水の街』と言う名を持つその街の裏の側面……貧民街の人通りのないその場所で。
(「暗殺の可能性もある、か……」)
 館野・敬輔が赤と青の双眸を瞑りながら、予知の内容を胸中で反芻する。
「だとすれば……警戒は必須だな」
 それは当然で有り、必然。
 殺される可能性のある対象を警護すべきのは、自明の理だ。
 けれども、それは……。
「……他の猟兵達に、任せるべきだろうな。少なくとも俺は、竜胆という人物とは直接的な面識もないし……」
(「それに此を使えば……」)
 黒剣の中の少女達と意識を同調させる為、意識が地平の彼方へ飛び立ってしまう。
 そうなれば護衛という役割は果たせなくなるのは言わずもがなだ。
 だから……。
『……頼んだ』
 呟きと共に。
 銀のシンプルな刃の黒剣をそっと撫で、静かに目を瞑る敬輔の其れに従う様に。
 透明色の『少女』達の魂が姿を現し、この水の街を流れる水路を走り抜ける様に姿を搔き消した。


 ――お兄ちゃん。
 透明色と化した少女達が、警戒態勢を取る。
 囁きかけてくる『少女』達の呼びかけに敬輔が軽く頭を横に振った。
『少女』達が気にした相手、それは……。
 ――チリン、チリリン。
 錫杖に付けた鈴を鳴らす旅僧の様な姿をした其の男。
 道の脇に居る其の男を気に留める者はほぼ居らず、彼の前に置かれている椀には、一銭も入った様子はない。
 けれども男は時折鈴を鳴らし、人々の道程を祈る様にしている。
 しかしその瞳には、時折鋭い何かが光る様に見えた。
(「こいつ……影朧の様に思えるが……誰も気にしていないのか?」)
 気配を断っている、と言うのだろうか。
 それとも自分達と同じくこの世界に溶け込んでいるのか。
 いずれにせよ、この街の住人は誰も、彼に何の関心も寄せていなかった。
(「だが余所者であるのは間違いない、か」)
 その旅僧と思しき男は、特に余所者……観光客達に意識を向けて、観察している様に見える。
(「……確証は無いけれど、怪しい相手なのも、間違いない、か」)
『少女』達に同調させていた意識を自らの体へと、戻しながら。
 懐のサバイバル仕様スマートフォンを取り出して、登録されているアドレスの相手に対して適当にメールを送りながら、ふと思う。
(「……何時の間にか、巴里で顔を見かけた猟兵達の誰かに頼るのが、当たり前になっていたな」)
 それは多分、良い事なのだろう。
 そんな今の自分を見て、他の者達がどう思うのかは分からないけれども。
 スマートフォンで一先ず警戒すべき相手について書いたメールを猟兵達に送り、再び少女達の意識と自らの意識を同調させる敬輔。
 と……此処で。
(「そう言えば……」)
 先日の巴里の事件の首謀者であろう、花蘇芳の耳に残った断末魔をふと思い出す。
(「既に虫の息だったが、あの時、アイツは最期に何と言っていた?」)
『……に、禍あれ! ……に、栄光……あ……れ……!』
 この断末魔の中にあるかも知れないヒントを求めて。
 無意識に世界知識を掘り起こし、辛うじて思い起こされる唇の動きを振り返り、その記憶を再構築する。
 ――と。
「『……桜學府に、禍あれ! ……革命と……に、栄光……あ……れ……!』?」
 ふと、其の言の葉を口にして。
 それが帝都桜學府を……更には竜胆をも意味するのであろう事に気がつき、閉ざした瞼の裏で目に力を宿らせる。
(「……伝えておくべき、だな」)
 そう心の裡で決め。
 意識を体に戻して追加のメールを付け加えて送った後、敬輔は再び『彼女』達の中へと意識を潜行させた。
 ――朧気な敵の正体を、完全に、見極めるために。

成功 🔵​🔵​🔴​

森宮・陽太
アドリブ大歓迎
連携は可能なら

スラム街のような場所に聞き込みに行くか
暗殺企む影朧たちが隠れるにはうってつけだろうしな
※後で他猟兵との情報共有が前提

手土産と情報料代わりに
大人用として少し高価な日本酒(+お猪口複数)
子供向けには金平糖でも用意しておこう
酒か甘味で口を滑らかにする作戦だな

目立つように変装なしで向かい
まずは周囲を観察
俺を見て寄る人がいれば酒か金平糖を振る舞いつつ
最近のこの街の雰囲気と様子を聞いてみっか
例えば…最近余所者が集まっているとか、な

もし俺を監視、ないしは殺気を向けている輩がいたら
「闇に紛れる、忍び足」で気配を消して背後に回り込み拘束後尋問
…誰に頼まれて俺を見ていた?




 ――水の街、スラム街。
 無造作にジャケットのポケットに手を突っ込んで、無防備に。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
 独り言の様に呟きながら、森宮・陽太がスラム街を歩いている。
 其れはさながら、夜の街を歩く柄の悪いお兄さんの様に。
 そんな陽太を隙だらけ、と見て取ったか。
 前から歩いてくる襤褸切れの様に擦り切れた服を纏った小さな子供が、陽太の隣を擦り抜けようと……。
 ――ガッ!
「おっと、やらせねぇぜ?」
 子供の手を素早く掴み、グイッ、とねじ曲げる。
「イテテテテテテテッ?! い、いきなり、何するんだよ!?」
 腕を捻られて悲鳴を上げながら涙目になる子供に鋭く目を細めながら、陽太がおいおい、と返した。
「何するんだよ!? じゃねーだろ。お前、其の手開いて見ろ」
 陽太の其の呟きに。
 動揺の表情を浮かべた子供が目を見開く。
 其の手から陽太の財布が滑り落ち、陽太は反対の手で其れを掴み、懐に戻した。
 しまった、と言う表情の子供に一瞥をくれ、同時に成程、と何となく思う。
(「表と裏の顔ってのは、怖いものだな。あいつはこういう奴等を救うと言って動いた訳か」)
 花蘇芳の事を思い出しつつ、子供の手に今平糖を握らせる陽太。
「な、なんだよこれっ!?」
「食い物だよ。ついでだ。此も少しばかり持っていけ。此なら暫くはんなことしなくてもすむだろうよ」
 喚く子供にそう告げて。
 幾何かの金銭を握らせてやると、子供が大人しくなる。
 其れを確認してからおい、と陽太が問いかけた。
「お前、ずっとそんな事して食い扶持を稼いでいるのか? ……まあ、確かに他に割に合いそうな仕事は無さそうだがよ」
「ああっ? んな訳ねーだろ」
 荒い口調で言い返し。
 金平糖を食べながら、少年が言葉を紡ぎ続ける。
「アンタみたいな外の変な奴等が最近うろつきだして、目障りだからちょっと脅かしてぇ、と思っただけだよ。あいつらのせいで仕事が減った」
「仕事を減らす、不審な観光客ね……」
(「さて、こいつにそいつらの所に案内して貰うかどうか……」)
 とは言え、スリをしようとした子供を信用出来る訳が無い。
 如何したものかと周囲を見れば、陽太と子供を見ている男と目が合った。
 子供の手の金平糖を見て、ニヤリと歪な笑みを浮かべる其の男に、溜息をついて陽太が近づく。
「これ、いるか?」
 そう告げて金平糖……では無く、お猪口に注いだ酒を渡してやると、男が有り難そうにガブリ、とそれを干した。
 直ぐに赤ら顔になり、兄ちゃんよぉ、と笑う。
「あのガキの言う事は本当だぜ? この街を我が物顔でのし歩いてやがる余所者がいるんだ」
 それがこのスラム街の空気を、更に酷くしているのだと男は言う。
(「ったく……水の街の裏側ってのは、案外ドブみたいなものかもな」)
 まあ、中には此処を拠点に表に出ている者もいるのだろうが。
 帝都の裏側に触れて溜息をついた陽太がじゃあ、と続けた。
「取り敢えず、おっちゃん。俺がそいつらぶちのめすから其処に案内してくれや。その酒を代金にしてよ」
「へっ……追加料金は無しか?」
「……分かったよ。こいつをやるから、其の辺で手打ちにしてくれ」
 お猪口ではなく、腰の高価な日本酒の徳利をちらつかせる陽太に。
 頷き男が陽太の前に立ち、歩き始める。
 子供は、もう姿を消していた。


 男に案内されたその場所は、どうやら何かの生産地帯らしい。
(「こいつは……合法阿片の実か?」)
 けれども其の畑と人々の往来を遮る様に作られた遮蔽物と門は、明らかに歪だ。
「最近になって急に建築されてなぁ。其れを作った奴等がこの中に立てこもってやがる。お陰で、ここも商売上がったりよ。ガキ共だって良い労働力になるんだがな」
「……分かったよ。アンタはさっさと行きな。俺がのしてきてやる」
 そう告げて。
 男を追い返すや否や、周囲に溶け込む様にして姿を搔き消す陽太。
 その畑で合法阿片の実を栽培している奴等が何かを呟いている。
 其れに聞き耳を立ててみると……。
「決行……今夜……」
「……第一波……近い内に……」
「……に、幸あれ」
 ボソボソとした彼等の声が耳に入り、陽太が内心舌を打つ。
(「今、此処で片付けておくべきだろうな……」)
 そう内心で決め、足音を殺して彼等を一撃で仕留める距離に近寄ろうと……。
 ――ゾクリ。
 不意に背筋に冷たいものが走る。
 その直感に身震いし足元を見れば、其処には細い糸。
 周囲を見回してみれば、成程、警鐘と思しき鈴が張り巡らされている。
 今なら何人かは殺ることは出来るが……。
(「実行すれば、あいつらに俺の動きが気取られるか。下手すりゃ他の猟兵達の動きにも支障が出るな」)
 思い直して再び息を詰め、闇に紛れる様に姿を消す。
 敵が如何、竜胆を暗殺するのか。
 掴んだ情報を、他の猟兵達に共有するために。

成功 🔵​🔵​🔴​

真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

竜胆の事は馴染みのカフェのマスターの美雪が馴染み深い事は知っている。美雪が気にしているなら護る事にやぶさかではないさ。

でもアタシ達家族は竜胆とは直接面識がないんだよね。面識が無いのに護衛されるのも不安にさせるだけだし、人数集まりすぎると不自然だしね。

ならアタシ達家族のやり方で出来る事をしようか。赫灼のアパッショナートで街の人達の注目を集めながら周囲を警戒する。後ろ暗い事に関わっているものこそさり気なく普通の住人に溶け込んでるものだ。アタシ達家族のショーに集まってきた人に話も聞いてみるよ。怪しい挙動をしているものがいなかったか、とかね。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

はい、竜胆さんは馴染みのカフェのマスターの美雪さんが大変気にしてて、馴染みのある方です。そういう方ですから、ぜひお守りしたいのですが。

実は竜胆さんとは家族3人は面識がないんですよね。大変な立場である事は存じておりますし、出来る方法でなんとかしましょうか。

街の中で家族で音楽のショーを開きます。絢爛のスピリトーソで多くの人達の注目を集めながら、雑踏にさり気なく危なそうな人が紛れてないか警戒します。ショーを見に来た人達に後ろ暗い雰囲気を持ってて怪しい人達がいなかったか聞いてみます。現地の人なら、浮いてる人は見わけがつくはずですし。


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

竜胆さんは馴染みのカフェのマスターの美雪さんが馴染みが深い方ですね。話は聞いておりますし、ぜひお守りしたいのですが。

実は竜胆さんと僕達家族は面識がありません。面識がないのが護衛に入るのも竜胆さんには大変ですし、人が集まり過ぎると不自然ですし。

僕達家族の出来る事で貢献しましょう。月白の使者と使い魔の朔を飛ばして街を探らせます。家族と共に音楽のショーを開きます。【楽器演奏】【存在感】で多くの人達の注目を集めながらさり気なく混じっている不審者を探します。ショーに集まった地元の人から怪しい挙動をしている人がいなかったか聞きます。




 ――水の街、表。
 水路を流れるゆったりとした水が美しく煌めいている。
 広場の噴水まで引かれている水が湧き出すその様子は、正しく『水の街』と呼ばれるこの街の外観に相応しい。
 お洒落なモダン服に身を包み、プカプカと煙管をくゆらせたり、他愛ないお喋りに興じる人々を見ながら、真宮・響が目を細めた。
 其の脳裏には、竜胆と言う名前がちらついている。
「竜胆って奴は馴染みのカフェのマスターが、馴染み深いんだよね」
 その広場の噴水の傍で、音楽のショーの準備をしながら呟く響の其れに。
「はい、そうですね母さん。私達家族は、実は直接の面識がないですけれど」
 確認の様な響のそれに頷き、同様に音楽のショーの準備を着々と整える真宮・奏が頷き返し。
「彼女の馴染み深い方である以上、是非お守りしたいのですが……面識のない僕達が集まると却って不自然すぎる様に思えます」
 精霊のフルートの頭部管を調整しながらの神城・瞬の呟くと。
「そうですね、兄さん」
 そう奏が頷き返した。
 その間に、精霊のフルートの頭部管の調整が終わり、瞬が密かに白い鷲と、肩に乗っていた使い魔の朔を飛び立たせ。
「ですから……僕達は、僕達家族の出来ることで貢献しましょう」
 そう告げて。
 精霊のフルートに口を付け、暖かな春を思わせる穏やかな風の様な音色を奏で始めると。
「それでは……張り切って踊っちゃいますよ~!!」
 奏が瞬のリズムに合わせて元気溌剌なステップを刻み始め。
「それじゃあ、行くよ!」
 力強いアルトで響が、自らの情熱を籠めた歌を歌い始めた。


 ――其れは、歌い手を見ていたい、と人々に思いを抱かせる情熱の歌。
 瞬のフルートのメロディーに乗って広がっていく其の歌に惹かれていく様に人々が響達の所に群がってくる。
 その歌に引き寄せられて集まってきた人々の前で風の妖精の様に舞い踊る奏。
 しなやかな風を想起させる其の踊りは、響の歌によって引き寄せられた人々の目を吸い寄せ、その場に釘付けにする。
 そうして、自分達の音楽ショーに魅入られる人々の様子を、白鷲と、朔の視覚を共有している瞬が冷静に観察。
 無論、フルートを奏でる其の手は止まっていない。
 ピョンと飛魚の様に跳ねて回転しながら、奏が雑踏の中の人々の様子を見る。
 すると……。
(「……私のダンスや、母さんの歌が心に響いていない人がいる……?」)
 チリチリと。
 何かが背筋を走る様な奇妙な違和感を覚える奏。
 その様子は赫灼のアパッショナートを歌い続ける響にも見受けられていた。
 其の人物は……。
(「こっちを見ているね。多分此は、アタシ達がユーベルコヲド使い……超弩級戦力で在る事を気取られたかな?」)
 自分達が目立てば目立つ程此処に侵入している敵の目は此方へと引き付けられる。
 すると彼等は自分達を出し抜いた上で、竜胆を暗殺するための段取りを作る必要が出来てくる。
 それだけ、護衛が楽になる、と言う事でも有るだろう。
(「取り敢えずアタシ達が目立てば目立つ程、此方への警戒の目が厳しくなるけれども……其の分、竜胆側の負担が減る、とでも考えておこうか」)
 そう響が結論づけ、歌いながら瞬に目配せをすると。
 瞬が白鷲と朔の目で視て、上空から此方を警戒する様な眼差しを向けていた者達がそっと大衆の群れから離れるのに気がついた。
 瞬が朔と白鷲に彼等を追わせる一方で、踊り終え、拍手喝采を受けていた奏が、さりげなく観客の1人に尋ねる。
「私達のショーを見に来て下さってありがとうございました。ところで、私達のショーを見に来た人達の中に観光客は混じっていましたか?」
 その奏の問いかけに。
「ああ、観光客なら普通に何人か混ざっていたな。あんまり見かけない格好をした人達もいたなぁ。そいつらは、少々浮いていた感じがするね」
 そう観戦していた人が答えてくれるのに、ありがとうございます、と奏が頷き一礼する。
 解散していく人々の姿を見つめながら、響が小さく呟いた。
「アタシ達、超弩級戦力がいる事は気取られたみたいだね。其の分、アタシ達への監視が強くなって、竜胆への目が緩くなってくれれば良いんだが」
「そうですね、母さん。其の方が、護衛の猟兵達も動きやすくなると思います」
 響の其れに瞬が静かに応えを返すのを皮切りに。
 響達は、竜胆を暗殺しようとしている勢力の目をより自分達へと向けるべく、再び音楽会をその場で始めたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ウィリアム・バークリー
竜胆さん自ら現場に出てこられますか。指揮官自らが前線に出てくるなんて、勝負所ってことなんですかね?

竜胆さんとカフェで合流して、今後の予定を立てましょう。
ここは観光地のようですから、観光客に紛れて名所を巡るのが得策でしょうか。観光地を歩き回れば、敵の目にも留まりやすくなるはず。

ぼくは、竜胆さんの後方で付いて動きます。
尾行や待ち伏せなどを警戒して、いつでもActive Ice Wallで竜胆さんを守れるように。
出来れば無傷で確保したいので、戦闘はStone Handを主軸にします。

今回の刺客には、裏の事情を吐いてもらわないといけませんからね。生かさぬよう殺さぬよう、尋問させてもらいます。


鳴上・冬季
カヴァー通り桜學府所属のユーベルコヲド使いとして桜學府制服着用
自分が超弩級戦力かは普段通りすっとぼけ否定

喫茶店に入りコンデンスミルクたっぷりの激甘珈琲注文
飲み終わったら会計して出ていく風装い小さく丸めた式神を紙弾として功夫で竜胆氏のテーブルへ弾いて店外へ

自分が外に出たら丸めた式神自身に身体を伸ばさせ全長3cm程度の人型に
小さく
「影 食いついた 影 食いついた」
「食い殺される 食い殺される」
「弩級行く 弩級行く」
と語らせたらまた丸めた紙に戻させる

「黄巾力士は目立ちますし、一緒にユーベルコヲド使いが殺害される予定だったでしょう?ならそこに私が潜り込んでも問題ないでしょう」
店離れ空中から様子伺う


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

今度の任務は警護か。暗殺されるかもしれねぇってのに自ら動くとは、竜胆も大した度胸だ。ま、護衛しろってのがボスのオーダーだし、ビジネスはシビアにやろうぜ。

竜胆から一定距離離れ高所で最も狙撃に向いた地点を割り出し、そこにSV-98M構えて周囲を警戒。もし竜胆を殺るとなると、近距離なら護衛に付いた局長や他の猟兵がいるからいいとして、怖いのは狙撃だな。だから、狙撃を警戒して周囲を確認。いわゆるカウンタースナイパーだ。当然、此方の位置を敵味方に悟られない様細心の注意を払う。無線で常に状況も報告。
灯璃の奴もいるし、竜胆が移動したならばこちらも交互に移動して警護を続ける。

UCは念の為


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で連携

賭けが必要な時があるのは確かですが…
転ばぬ先の杖は、あまり外部に頼らない方が賢明だと思いますよ?

先ずは日中同行警備が十分な時間に市街に調査へ
目立たず移動し襲撃後すぐに逃走経路へ移行するなら
やはり水路でしょうか。街のゴンドラ組合や河川管理所等を訪問。
官憲を装い、不審船や暗渠で何かを見た等の噂が無いか(情報収集)し
仲間と随時情報交換。竜胆氏の行動も局長を通して把握して不審情報地点と
擦り合わせ危険箇所を策定、近辺の高所・水路近辺の建物や茂みを
指定UCも使用し身を隠しつつ狙撃監視(スナイパー)

ミハイルさんとは随時位置情報を交換し死角を排除できるように
監視点を変えて移動し安全を確保する


天星・暁音
とりあえず竜胆さんにはクレインをついていかせて何かあれば援護して、その間に駆けつけられるように一定の距離をとってついていくとして、一番重視するのは護衛だけども、周囲にもばら撒いて軽く一帯の様子も見張って情報も集めておくか…
まあ、全体のフォローが出来れば一番いいかな
今回も負担は覚悟だね


竜胆の護衛を一番に考えて行動しますが全体的なフォローにも回れればとナノマシンは広範囲に散らします
護衛だと簡単には分からない程度の位置を心掛けて、観光客のようなフリをしながらついていき竜胆や傍にいる護衛の様子を見つつに何かあればクレインで時間稼ぎつつ、その間に近くへ

スキルUCアイテムご自由に
共闘アドリブ歓迎


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】の皆さんと共に行動

今回の任務は竜胆さんを警護。竜胆さんの暗殺を目的として影朧が動いているとの情報もあるので、各自最大限警戒を。
その様な状況下であえて1人で動くのも、スパイマスターたる竜胆さんの事、何かしら理由がある筈です。それを聞き出したいのですが…それは道すがら尋ねるとしましょう。

竜胆さんと行動を共にし、無線で他のSIRDメンバー、可能ならば他の猟兵と綿密に連絡を取りつつ常に周囲に気を配る。当然私も目立ちますが、護衛である以上示威行為的な意味もありますし、それに他のSIRDメンバーの動きを敵に悟られない様にする、いわば囮的な意味もあります。
更にUCで夜鬼を上空に放ち、周囲を警戒。


馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

そういえば『私たち』、竜胆殿と面識…ありましたっけ?ないようなー…。
まあいいです、その心意気は立派なものですしねー。職務的には近しい人ですし?

基本は合流しての護衛ですねー。
ふふ、怪しまれない程度に会話もしましょうかー。
強化した結界術+探知呪詛で、竜胆殿を覆いまして。狙撃あったら、場所がわかるんですよ。竜胆殿も守れますしー。

まあ前回、結構無理した(『馬県義透』の封印解除)ので…今はこうしているほうがいいんですよー。


朱雀門・瑠香
竜胆さん、無茶のし過ぎではないですかね?
ごく普通の学生さんにでも変装して付かず離れずで竜胆さんについていきましょうか。犯人に心当たりでもあるのかしら?聞いてみたいけど応えてくれるかな?この前の紫陽花さんの遺志を引き継ぐなんて自称していた連中と関りがあるのかな?
 どちらにしても私は周囲を警戒しながら彼を守りましょう。
私は私でできることを・・・・


神宮時・蒼
……当然、ながら、すぱヰは、待って、くれません、ね
…東奔西走、何の、その、とは、よく言った、ものです
…綺麗な、街並み、では、ありますが
…こういった、場所には、やはり、仄暗い場所も、ある、のですね

ひとまず、何も情報が無いのでは動きようがありません
まずは、竜胆様に、お会い、して、少し、お話を伺いましょう

何処で誰が見ているかもわかりません
なるべく【目立たない】ようにしていましょう
変な場所に迷い込んだり、絡まれたら
【忍び足】で逃げましょう
あまり騒ぎを起こしたく、ありませんし

新しい街、と言うのは
僅かに好奇心を動かされますね
周囲に怪しい影が無いか常に警戒
見た目は小娘ですので、油断してくれれば僥倖、ですね


藤崎・美雪
アドリブ連携大歓迎

まあ、竜胆さんに情報を流し続けたのは私なので
責任取って喫茶から同行するか
…肉体能力一般人並みの私は護衛というよりは同行だよな、うん

念のため、影もふもふさんに周囲の警戒をお願いしよう(指定UC発動)
竜胆さんに敵意向ける輩がいたら知らせろよー

竜胆さんと合流したら丁寧に挨拶(礼儀作法、コミュ力)した後
巴里での顛末は全て話す
その上で花蘇芳さんの行動の背景とグラッジパウダーなるもの
この2つについて何か情報を掴んでいないか聞いてみるぞ
特にグラッジパウダーの方が重要だ
…いったい、いつの間にそんなものを開発していたのやら(※本物という前提で聞いている)

…さて
一体どんな餌が食いついてくるのか


文月・統哉
服装は目立たぬものを
世界知識・情報収集・変装・演技・視力・見切り・第六感も活用し
何食わぬ顔のまま常時周囲を警戒
不審な点に気付いたら
密かに影を走らせる

竜胆さんに会いに行くよ
凄くお世話になってるけど
直接会うのは初めてだっけ
改めて挨拶とお礼を

しかし自ら囮とは
俺達が来るのも織り込み済みかな
それだけ信用して貰えてるなら光栄
危険有れば勿論庇うよ

竜胆さんや敬輔含め仲間と情報共有
仏蘭西は陽動、本筋はこちらに在ると
竜胆さんも動くからには勝算が?

もう一つ聞きたい事が
竜胆さんはどうして桜學府に?
彼を知る為に彼の原点について聞いてみる
今も尚危険を承知で仕事を続ける理由を
竜胆の花言葉は『正義』
彼にとっての正義とは何かを


吉柳・祥華
アドリブ連携お任せ
・銀紗
・SPD

ふむ、これまで裏に徹していた彼奴が動いたとな?
最後の追い込みかのお

それとも、誰が黒幕かに薄々感づき
確証を得る為に、己を餌にしたか

まぁよい、ここ最近の暑さでお肌が…のう
ちと涼んでくるかの?
(どうせ他の連中も来るじゃろて)

さてさて、妾は舟にでも乗ろうかの
(先日の仏蘭西でお洒落服を手にいれたのじゃ♪)

服装
流行りのロングワンピースに、可愛らしいサングラス、髪はハーフアップにつばの手編みハットじゃ。角はそのままじゃがの

上空に『神凪』を待機させ
竜胆の周囲に『識神』を潜ませておるぞ

いざって時は、『識神』に張り付けておる霊符に結界術を施しおる
竜胆に危険が迫れば発動する仕組みじゃ


白夜・紅閻
・銀紗
・WIZ

…竜胆が動いたのか?
それも自分が暗殺対象になっているのを逆手にとって、ということか
一応、雅人の上司にあたる人物だ、死なれては、困るな。

そういえば、カミサマが水の都に行くとか言っていたな…
ルカとガイを連れて行くのもいいな

ルカとガイは見た目は推定四歳ぐらいの子供の姿
ルカは可愛らしいワンピースで、ガイはカジュアルな子供服
言葉を発することは出来ないが、その表情や行動は犬猫と同じ感じ




行動
動物たちを使って、竜胆の周りや上空、物陰から見張ってもらおう。
一応、白梟(大型インコの形状で)もつけておく。
万が一にでも、竜胆が襲われでもした際にはボクたちが駆けつける間にでも守らせよう。

※アドリブ連携は可


彩瑠・姫桜
竜胆さんの護衛を

いくら専門でも一人で行動するには限界あるでしょうし
可能なら護衛に立候補するわね
人数多いようなら個別に街を歩くつもりよ

今回も観光客装う方が自然なのでしょうね
逆に狙われそうな気もするけれど

店を中心に見て回って…って、確かこういう場所って
通りを一つ曲がるだけでいきなりスラムになるのよね

影朧達が何か仕掛けてくるとしたら、
スラムに差し掛かったあたりとかになるのかしら
治安的にも何が起こってもおかしくないでしょうし

もし襲撃受けたら[かばう、武器受け]で対応
敵は生かして捕らえたら
それこそ情報収集できるかしら

捕獲できそうな場合のみUC使用
何が狙いなのか
まずは捕らえて敵の口から状況聞いてやるわね




 水の街の一角にある喫茶店。
 窓越しに中を覗けば自らを主張しすぎず、けれども無個性でもないアンティーク且つ、品の良い調度品で調えられ。
 其々のテーブルには仕立ての良いモダン服や、小洒落た和服に身を包み、話し込む人々がいる。
 此処に辿り着くまでに歩いてきた街並も美しく、人々の会話も弾み、或いは楽しそうに街中の演奏を聞き。
 果てには洒落たモダン服や、アクセサリーが店前に並び、客が其れを見て内緒話。
 時には買い、時には談笑して帰り、或いは、水路を利用したゴンドラ舟での遊覧を楽しんでいる人々等もいた。
 まるで異世界の様な活気を見せる其れを見て。
「……ふわぁ。……綺麗な、街並、ですね……」
 神宮時・蒼が赤と琥珀色の双眸を細め、眩いものを見るかの様な表情をするのに。
「確かにそうね。此処までお洒落な街並だったとは思っていなかったわ」
 と彩瑠・姫桜が腰まで届くほどの金髪を風に靡かせながら頷くのに、目立たない衣装に着替えた文月・統哉がニャハハ、と笑う。
「しかし、竜胆さん自ら現場に出てこられる、と言う話ですか。指揮官自らが前線に出てくるなんて、勝負所ってことなのでしょうか?」
 ウィリアム・バークリーが考え込む表情になって顎に手を置き自らの考えをポツリと述べれば。
「そうですね。竜胆さんの暗殺を目的として影朧が動いている、と言う情報があるにも関わらず、敢えて1人で出歩いているのです。この世界のスパイマスターたる竜胆さんの事、何かしら理由がある、と考えるべきでしょうね」
 通信機の調子を確認しつつネリッサ・ハーディが首肯し、だろうな、と藤崎・美雪がしたり顔で頷いていた。
 何となく、其の背にじっとりとした汗が滑り落ちていく感がして仕方ない。
(「まあ、今までの事件について竜胆さんに情報を流し続けたのは私だしな……」)
 其の事実が、針の筵にいるかの様に思えてならない罪悪感を美雪に抱かせる。
 そんな美雪の罪悪感は脇に置いて。
「ボス、配置についたぜ」
 ミハイル・グレヴィッチからの報告が、ネリッサの無線に入った。
「今の所それらしき影は見えねぇが……館野の情報通りだとしたら、何処から狙われたとしてもおかしくねぇ。このまま警戒態勢を厳にしておくぜ」
「はい、其れでお願いします、ミハイルさん」
 ミハイルからの応答にネリッサが頷くその間に。
「局長、此方も街に入りました」
 灯璃・ファルシュピーゲルがJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radio搭載の音声通話機能で連絡を入れてくる。
 ネリッサが分かりました、と軽く了解の意を唱え、では、と灯璃が話を続けた。
「既に局長達は対象のいる喫茶店に辿り着いている様ですので、私は情報収集に向かいます。どうやら他の猟兵達も何人かが既に先行調査を開始しているみたいですし」
「ええ、宜しくお願いします、灯璃さん。……Good Luck」
「Yes.マム」
 ネリッサの其れに灯璃が軽く頷き一度通信を切った所で。
「それにしても竜胆さん、無茶のしすぎではないですかね? そう思いませんか、冬季さん」
 と帝都桜學府の学生制服に身を包んだ朱雀門・瑠香がそう呟くのに、帝都桜學府制服を着用した、鳴上・冬季が静かに首肯。
「そうですね。無茶と言えば、無茶。しかし止めることが出来ないのも事実です。と言う事は、何らかの因果関係があるのでしょうね、竜胆氏自ら顔を出す事に」
 冬季が静かにそう頷くのに、まあー、と何処かのほほんとした笑顔を浮かべた馬県・義透が間延びした口調で話しかける。
「そうですねー。とは言え、何となく彼は私に近しい感じなのですよねー。ならば守らぬ理由もないのですよ-」
「……まあ、何だかんだ言って竜胆と言う男は、雅人の一応上司に当たる人物なのだからな。死なれるのは、正直困る」
 義透の其れにそう応えを返したのは、白夜・紅閻。
「此は最後の追い込みなのかのぉ。それとも、誰が黒幕かに薄々感づき、確証を得るために己を餌にしたのかのぅ……?」
 愉快げに口の端を釣上げカ鈴の鳴る様な笑い声を上げるのは、𠮷柳・祥華。
「まあ何はともあれ、俺は巴里の時と同様、クレインを飛ばして、この街全体に意識を張り巡らすから、皆、頼むよ」
 其の体に刻み込まれた共苦の苦しみから放たれる棘が突き刺さる様な痛みを感じながら天星・暁音がそう言うのに。
「ほっほっほ……では、天星。此度は妾に少し付きおうて貰いたいでありんすな」
 まるで、何か新しい悪戯を思いついた遊女の様な表情で。
 ロングワンピースの裾を風に泳がせ、可愛らしいサングラスを掛ける仕草をして。
 風に飛ばぬよう、つばの手編みハットを押さえて微笑む祥華の提案に分かった、と暁音が頷いた。
「珍しいな。カミサマが天星を誘うとは」
 紅閻の驚愕の表情に、ホッホッホと微睡む様な笑い声を立てる祥華。
「何、天星がクレインに集中するのであれば、妾と共に舟遊びでもしておいた方が良かろうと思うただけでありんすよ。竜胆とやらの護衛に人が集まりすぎても、それはそれで人目に付くでありんすしな」
「まあ……其れは一理あるわね」
 祥華の其れに、意外にも同意の声を上げたのは姫桜。
 姫桜の其れにそう言う事でありんすよ、と祥華が答えるその間にも。
「一先ず竜胆さんに合流しよう。後は何グループかに別れて行動する感じかな?」
 統哉の提案にそうですね、とネリッサが静かに頷きを一つ。
「となると、後は誰が護衛としてミスター竜胆の傍に張り付くか、ですが……」
「流石に私はそうせざるを得ないな。何だかんだで私と姫桜さんが竜胆さんとの面識が深い筈だし」
「そうね。私も立候補する予定だったし、其の方が良いわ」
 美雪の呟きに姫桜もまた手を挙げる様に声を掛けると、分かりました、とネリッサが頷き。
「なら、僕やカミサマは、自由行動にさせて貰おう。其の方が色々と都合が良い」
 紅閻がそう呟き、其の指に嵌め込まれた色褪せた指輪を撫でるのに、分かりました、とウィリアムが応えを返す。
「……ボクも、お話しを、伺う、ために、竜胆様に、お会い、したいと、思います……」
「まあ、帝都桜學府の學徒兵ですから、私も一緒に行きましょうか」
 蒼と瑠香、其々の提案にそうですねーと義透が頷き、大雑把な割り振りを決め。
「では早速お伺い致しましょう、ミスター、竜胆の元へ。SIRD――Specialservice Information Research Department&Yaegers.此より、ミッションを開始致します」
 そのネリッサの小さな呼びかけに。
「Yes.マム」
 無線機越しに灯璃とミハイルの声が聞こえ、同時に何人かの猟兵達が、喫茶店に入店していった。


 ――喫茶店内、奥の席。
 現れたウェイトレスに1名、と答え、奥の席に座る目立たない衣装に身を包んだサングラスの男の傍に席を取る冬季。
 そのままコンデンスミルクたっぷりの激甘珈琲を注文し、ちらりと奥の席で静かに新聞に目を通す其の男を見る。
 日よけも兼ねてかサングラスを掛けた其の男は、自分への視線に気がついたか、新聞を読む振りをしてちらりと冬季を見るが。
『……成程』
 と何かに納得したかの様に小さく頷き、再び新聞へと目を落とした。
 その竜胆の様子に、冬季も、粛々と注文品が来るのを待っているその間に。
「久し振りだな、竜胆さん」
 美雪が姫桜、統哉、蒼、瑠香と共に其の席に向かって呼びかけると、竜胆がおや、と微かに驚いた表情になった。
 ネリッサはウィリアム、義透と共に竜胆と冬季から少し離れた席……やや入口寄りのボックス席で其々に飲物を注文している。
 竜胆が素早く周囲に目を張り巡らし、持っていた新聞をそっと下ろすと、何も言わずにベルを鳴らす。
 ベルを聞いたウェイトレスが飛んできて、丁重に竜胆からの注文を受けた。
 注文を終わらせウェイトレスが一礼して厨房へとメニューを発注するのを確認してからふう、と溜息を漏らす竜胆。
『まさか、超弩級戦力の皆様がいらっしゃるとは思っておりませんでした。通信で雅人から超弩級戦力の皆様の協力を得た、との簡易報告だけは受けておりましたが』
「……東奔西走、何の、その、とは、よく言った、ものです」
 怖ず怖ずとした、拙い口調で。
 ポツポツと呟く蒼の言の葉に、竜胆が穏やかに笑うことと、驚いた表情を向けることを同時にやって見せた。
『そう言えば、貴女と、其方の貴方とは、直接お会いするのは初めてだったかと思いますが』
「……あっ、は、はい。そ、そうです……初めまして、です。……竜胆様」
「そうだね。凄くお世話になっているけれども、直接会うのは初めてだよね。改めまして竜胆さん。俺は統哉だ。いつも雅人達には世話になっているよ」
 コクコクと小刻みに頷く蒼と、笑顔を浮かべる統哉。
 一方で、瑠香は軽く小首を傾げている。
「私も、直接あなたとお会いするのは初めてだったかと思いますが……?」
『分かっておりますよ、朱雀門家次期党首、朱雀門・瑠香殿。ですが、朱雀門家には帝都桜學府のスポンサーになって頂いておりますから私の方は、良く存じ上げております。無論、統哉さんや、蒼さん達のこともです』
 そう言って軽く一礼する竜胆に瑠香が照れ臭くなったか微かに頬を紅潮させる。
 蒼も、茹で蛸の様に顔を真っ赤にして俯き加減になってしまったのを見て、おや、と竜胆は一礼した。
『失礼致しました。皆様を困らせるつもりはなかったのですが』
「……あ。……い、いえ、だ、大丈夫、です……」
 縮こまってか細い声で呟く蒼と同様、決まり悪げに制帽を頭直しながら、瑠香もまた溜息を一つ。
「どうもこう正面から、名門の跡取りとしての自分に礼を言われると、何かむず痒さの様なものがありまして……」
『まあ、スポンサーでもある朱雀門家の意向がありましたから、数ヶ月前には、あの祭を開くことが出来たのですがね。季節柄もありましたが』
 数ヶ月前にあった、春の幻朧桜祭の事を言っているのだろう。
 その時の事を思い出し、頭を掻く瑠香に苦笑を零し、それでと姫桜が水を向ける。
「私達が来るかどうかも分からずに、あなたは行動を起こしたわけ? また随分と無茶な事をしたものだわ。せめて誰か帝都桜學府の學徒兵に協力を要請するとか思いつかなかったの?」
 呆れた様な口調で目を眇めて詰問する姫桜に、おや、とサングラスの奥の目尻を和らげながら竜胆が苦笑。
『私の事を心配して下さるのですか。ありがとうございます、姫桜さん。やはり超弩級戦力の皆様は、心お優しい方が多い様で』
「ちょっ……そ、そんな心配してないわよっ! ただ、もうちょっとやり方があったんじゃ無いの!? って……!」
 と姫桜が叫び声を上げようとするのを、統哉が人差し指を姫桜の前に上げて制止。
 目の中には、悪戯っぽい光が宿っていた。
 一方、竜胆は苦笑を零したまま、そうですね、と軽く息を吐く。
『今の私の状況的に、私が信をおける者と言うのは中々見つからないのですよ。他の諜報員達には其々任務がありますし、雅人がいれば、彼に頼むことも出来ましたが、彼が未だ此方に戻ってきていないのは、皆様もご承知おきのことかと思いますが』
「……まあ、そうだな。彼はユーベルコヲド使いではあっても私達の様な超弩級戦力ではない。とすれば、グリモアを使っての転移を行う事も出来ないか」
 美雪が嘆息しつつそう応えるのに、その通りです、と竜胆が頷き返した。
『そもそも本来であれば、皆様は彼等にとっても私達にとってもイレギュラーと言う事になります。皆様方『個』を信じることは出来ますが、ではその『群』を信じ切ることが出来るかと言えば……』
 竜胆の言葉を、統哉に渡した無線を通して聞いたネリッサが思わず嘆息する。
「……確かに『群』としての私達を信じ切れるかと言えば、難しいでしょうね。特に、自らが狙われている可能性も考慮しているのであれば、尚更です」
 そう、4ヶ月前や先日の件と、今回の件では明確な違いがある。
 それは、この事件は『帝都桜學府諜報部』からの正式な依頼ではないという点。
 あくまでもグリモア猟兵が『視た』事件への『個』としての介入である事だ。
 その様な不確定要素迄計算に入れては、流石の竜胆も行動を移せないのだろう。
「……外部に頼らない方が賢明ですよ、と忠告をしようかと思っていましたが、どうやらそれは、私の気にしすぎだった様ですね」
 ネリッサの通信機を通して話を聞いていた灯璃がネリッサと同じ結論に至り、思わず溜息を一つ吐く。
 その間も、冬季は珈琲を啜るのを止めない。
 甘味と苦味のブレンドした絶妙な味わいが冬季の好みを十全に満足させてくれた。
「まー、そう言うことですねー。しかし、実に私によく似た発想の持ち主の様ですねー。親近感を抱いてしまいますー」
 のほほんとした笑顔で注文した緑茶を啜りながら、義透……『疾き者』がそう呟くのに紅茶を飲みながらウィリアムが頷いている。
「取り敢えず竜胆さん。念のため確認しておくが、あなたは自分が狙われている可能性を……」
 美雪がそれ以上を続けるよりも先に。
『はい、良く分かっています。しかしまあ、妙手を打ってきてくれたものです。まあ私としても、そろそろ自分の手で情報を集めるべき時だと考えてはいたのですがね』
 そう呟く竜胆の其れに美雪が思わず嘆息した。
(「此の方は……立場上仕方ないかも知れないが、味方以上に敵が多いんじゃないだろうか……。それもどちらかというと、帝都桜學府内に」)
 まあ、紫陽花の様な造反者を常に想定して動く竜胆だ。
 あれで帝都桜學府内の綱紀粛正を一部行い、残党処理等の指示を出し続けているのだから、その手並みは並大抵のものではないだろう。
 そもそも紫陽花の一件自体、情報操作その他諸々で既に表の歴史から消し去ってしまっているのだから、其の手腕を疑う理由がない。
 束の間の沈黙が、竜胆と美雪達の間に流れていく。
 ウェイトレスが飲物を運び、それに手を付けた竜胆が、さて、と居住まいを正す。
『此方の飲物を飲んだら私は此処を後に致しますが……皆様は如何致しますか? 最も、私に接触してきた、と言う事は、差し詰め私の護衛に来て下さったのかと期待してしまいますが』
「……まあ、その通りなのよね」
 さらりと此方の思惑を言い当ててくる竜胆に、姫桜が決まり悪げな表情になって紅茶を啜りつつそっぽを向く。
 恥ずかしそうに頬を赤らめていた蒼も出された抹茶を頂いて少し気を取り直したか色彩異なる双眸を、竜胆へと向けた。
「……ボク達は、竜胆様の、お持ちの、情報を、頂きたく、お話しを、伺いに、あがり、ました」
『成程、然様でございましたか。ええ、私が此方に来たのは、ある影朧についての情報を得るためです』
 珈琲を飲み干し一足先に喫茶店を後にしようとする冬季に一瞬視線を向けながら。
 直ぐに蒼達へと視線を戻した竜胆が少し低い声でそう呟く。
「……ある影朧? あなたを狙っているのは組織だと思ったが……」
 美雪の其の問いかけに、ええ、と竜胆が頷いた。
『仰るとおりです、美雪さん。今、私を狙ってくるとしたら、それは影朧を利用して、この世界に戦争を起こそうとする左派の者達でしょう。そうして其の罪を全て私や帝都桜學府になすりつけ、革命という名の傾国を行おうとする者達がいる……それが私の考えです』
「……けい、こく……です、か……?」
 竜胆の呟きに、蒼が思わず小首を傾げる。
 其の蒼の様子を見やりながら、はい、と竜胆が頷きを1つ。
『我々、帝都桜學府の理念は影朧の救済。且つ、影朧による一般人への被害を少しでも減らす事です。だからこそ、その為に表沙汰に出来ぬ様な手も何度か打って参りました。統哉さんや美雪さん、姫桜さんはご存知かと思いますが……』
「……紫蘭の件、だな?」
 竜胆の呟きに統哉がそう問い返すと、そうです、と竜胆が静かに頷いた。
『無論、あの時は其れが一般人を守る為に最善の手段と思い、行いました。その点に関しましては弁明はありませんし、また後悔もございません。結果としては皆様に借りを作り、彼女……紫蘭の不興を買うことに為ってしまった事も事実ですが』
 パチン、と。
 冬季が会計を済ませ、レシートを持ってその場を立ち去ろうとしながら、店員に見えないように丸めた紙を弾いた。
 紙弾が軽く竜胆の腿を撃ち、其れに気がついた竜胆がその紙を素早く拾い上げると、全長3cm程の身長と化した人形の式神が竜胆の掌に転がり、小さく。
「影 食い付いた 食い付いた」
「食い殺される 食い殺される」
「弩弓行く 弩弓行く」
 と語り、ぱっ、と元の丸まった紙に姿を変えた。
『……やはり、食い付いてきますか』
 その紙に目を留めて。
 竜胆の何処か確信に満ちた頷きに、美雪が冬季の出て行った入口を目で追うが、既に冬季は姿を消している。
「あの人は……」
『私が目を付ければ当然、傾国の為に動く『彼女』達が目を付けない理由はありませんか。……まあ、帝都桜學府内で襲撃されるよりは大分マシではありますがね』
 小さく溜息を吐く竜胆に、瑠香が竜胆さん、と問いかけた。
「今回の犯人に心当たりがあるのですね? それは、どの様な相手なのですか?」
『それは……ええ、そうですね』
 と言った所で。
 最後に残った紅茶の一滴を飲み干し、竜胆がゆっくりと席を立つ。
 その動きに釣られる様にして、美雪達もまた、席を立った。
 ウィリアムやネリッサ、義透は動かずさりげなく警戒態勢を一段階強化して、周囲を見つめている。
『取り敢えず、少し外を歩きましょうか。折角です。この水の街の表と裏を、皆様にご案内させて頂きますよ』
 そのまま机の上に置かれた伝票を取り、席を後にしようとする竜胆を追う様に統哉達が慌てて後を追う。
 竜胆は、この喫茶店に居た超弩級戦力全員分の会計を済ませ、領収書を受け取り、直ぐさまその場を後にしようとする。
 その竜胆の後ろ姿を見て。
「いや、竜胆さん。私達にはサ……」
 思わず美雪が何かを言うよりも先に。
『いえいえ、これは、観光に来て下さった皆様への、私からの歓迎の印です』
 素早くそう言い放ち、美雪の遠慮を押しとどめる竜胆。
 けれどもサングラスの奥に見える眼光はとても笑っている様には見えず、有無を言わさぬ気迫を感じさせられた。
(「うっ……こっ、これは断れない……」)
「成程。私達が超弩級戦力である事を見抜かれない様にする為の演技ですか。この地のスパイマスターである竜胆さんらしいやり方です」
 たじろぐ美雪とは異なり、その意図を何となく読み取ったネリッサが思わず唸る。
 これだけで自分達が『超弩級戦力』ではなく、この街に来た『観光客』と言う身分を保障出来るのなら安い話であろう。
「ふふ、では私も観光を楽しませて頂きますねー」
 のほほんとした微笑を浮かべたままに。
 嘆息するネリッサと共に、竜胆の傍へと近付いた義透の言の葉に、竜胆がはい、と笑みを浮かべて頷いた。


「取り敢えず竜胆さんは、俺達……と言うか、美雪さん達を観光客と見做し、自分が其の案内役を買って出た、と言う立場を獲得した様だね」
 その一部始終を、クレインの目を借りて見終えながら。
 星具シュテルシアを両手で握りしめ、集中しながら呟く暁音の其れに、同乗していた祥華がその様じゃのう、と頷きを一つ。
 其のしなやかな手を手団扇にして、パタパタと涼を取りながらゆっくりと舟に揺られて寝そべり空を見上げる。
 ――ユラリ、ユラリ。
「中々良い舟じゃのぅ。今日は、舟遊びにはもってこいの天気でありんすな」
 舟に優雅に寝そべりながらの祥華の其れに、集中を維持したまま、暁音がそうだね、と頷き返す。
 祥華は自らの脳波でコントロールできる『神凪』を上空に待機させつつ、其れを通した『識神』の目で竜胆達を見つめていた。
「妾も目にするのは初めてでありんすが……中々の食わせ者でありんすのう、あやつは。虫も殺さぬ笑顔をしながら、裏では何をしているか分からないという男の典型でありんすな」
 平然と竜胆を論評してのける祥華の其れに、クレインと意識を同調させたままに暁音が思わず微苦笑を零す。
 とは言え脳の機能と意志の半分位は、クレインに向けられているので、其の笑顔も曖昧なものになってしまうが。
 そんな暁音の様子を見て、のう、天星、とまるで童女の様に甘やかな声音で祥華が呼びかけた。
「おぬし1人で、気負う必要は、何処にも無いのでありんすからな? 妾も力を貸してやる故、もちっと、肩の力を抜いたら如何でありんすか?」
 そんな祥華に軽く肩を竦め、まあ、そうだけれど、と暁音が小さく呟いている。
「性格なのか、中々ね。それに何かがあってからでは遅いんだし。何よりも彼は……竜胆さんは、俺達と違って、只の『人』だしね」
 そう告げて軽く星具に付けた神楽鈴を鳴らす暁音に成程のう、と祥華が呻いた。
「おぬしも難儀な性格でありんすのう……。これも人の性というモノでありんすか」
「そうかも知れないし、そうで無いかも知れない。何れにせよ、今、俺に出来ることをやるまでだからね」
 呟き、再びクレインとの五感の共有に意識を傾ける暁音。
 その暁音の様子を見た祥華がヤレヤレ、と軽く息を吐き、自らの肩を軽く揉みほぐしながら舟頭に視線を向けた。
「おぬし、彼方へと舟の穂先を向けることが出来るでありんすか? 無論、金は払うてやるが故」
 告げる祥華の言の葉に、ヘイ! と嬉しそうに声を上げる舟頭。
 そのまま櫓を操って祥華が指さした先へと舟の舳先を向けて水路を移動する。
 潮騒の様に冷たい涼やかな風を一杯に浴びながら、やれやれじゃのう、ともう一度溜息を漏らして涼を取る祥華に、暁音が再び微苦笑を零した。


「カミサマは、天星と舟遊び……か」
 舟の舳先を変えた祥華の様子を見やりながら。
 特別な感慨を持たぬ口調で、軽く吐息を漏らしながらの紅閻の呟きに、その後ろを付いて歩いていた2人の男女が小首を傾げる。
 どちらも見た目推定4歳位の子供であり、男の子の方はカジュアルな子供服、女の子の方は可愛らしいワンピース姿だ。
(「まあ、あれだけ護衛に付いている奴がいれば、大丈夫だとは思うが……」)
 そう思いつつ、自らの肩に乗る大型インコ白梟に命じて、竜胆の護衛へと向かわせる紅閻。
 そうして獣奏器をオルゴール形態へと変形させてネジを巻き、其れを奏でる。
 何処か物悲しげな音色と共に、動物達の心揺さぶる音色を奏で始めた獣奏器に。
(「動物達、動物達、あの男の周囲の警戒と索敵を頼んだよ」)
 と言う願いと祈りを軽く籠めた。
 応える様に動物達が、竜胆の周囲を嗅ぎ回る様に走り出したのを見送りながら。
「さて……ルカ、ガイ。お前達にも新しい服かアクセサリーを買ってやるからな」
 そう告げて、ルカとガイを振り返る紅閻。
 ルカとガイはまるで犬と猫の子が尻尾を振るかの様な喜びの態度を全身で露わにし、紅閻が満足げに其れに頷く。
 と……此処で。
「其方にいらっしゃるのは、確か紅閻さん、でしたよね?」
 解散する前にネリッサ達SIRDから渡された無線に緊急通信が入った。
「ああ、そうだ。その声……君は確か、ファルシュピーゲルだったか?」
 紅閻の問いかけに、はい、と灯璃が軽く頷いた。
「今、街のゴンドラ組合及び、河川管理所を訪問し、最近、水路を走る怪しい舟を見たり、暗渠内で何かを見かけたかと噂を探ってみたのですが……」
「其の話し方だと、どうやら何かあった様だな?」
 灯璃の言の葉にそう問い返す紅閻の其れに、はい、と微かに緊張を孕んだ声音で灯璃が頷く。
「ありました。局長には既に報告済なのですが、現状、観光客として此処を歩いている局長達が踏み込むには少々……。ミハイルさんも、狙撃手による竜胆氏の暗殺の警戒で手一杯でして……」
 その灯璃の言の葉に成程、と紅閻が頷きを一つ。
「自由に動けるのは、実質僕だけか。分かった、確認してこよう。場所は何処だ?」
「はい、其れが……」
 的確な指示を伝える灯璃の其れに紅閻が頷き、ルカとガイを連れて、店を諦め、水の街の地下水路に向かおうとしたその時。
「おう、待つのじゃ白夜」
 念話の様な形で祥華の声が紅閻の脳裏に強く響いた。
「如何した、カミサマ」
 祥華の念にその言葉を思い浮かべて紅閻が聞き返すと。
「天星がおぬしに提案があると言うのでな。少々待っておれ。今、天星とおぬしの念を繋ぐでありんすからのう」
 そして、ほんの少しの間を置いて。
「紅閻さん。灯璃さんからの通信を小耳に挟んだけれど」
 暁音の声が直接脳裏に響くのにああ、と紅閻が頷き返す。
「その通りだ。今動けるのは僕だけの様だし、其の地下に向かうつもりだが……」
「それならば、俺のクレインを同道させて欲しい。このクレイン達ならば何かあった時の分解や回復、結界の展開も可能だから」
 そう告げる暁音の念話に誘導される様に。
 目に見えないナノマシン群の一群らしきものが紅閻の周りに近付いてくるのを見て、紅閻が成程、と頷きを一つ。
「ルカとガイがいるから、僕1人でも大丈夫かと思ったが……」
「何もなければ問題は無い。けれども何かあった場合の備えは大事だと俺は思っている。特に紅閻さんの邪魔にもならない筈だから、連れて行って欲しい」
 思慮深い声を掛ける紅閻の其れへの暁音の返答した念の中に籠められた慎重な思いを感じ取り。
「……分かった」
「頼んだよ」
「何かあれば、何時でも妾達に伝えるのじゃぞ、白夜」
「……多分、ファルシュピーゲル達に優先して伝えることになりそうだが……まあ、一応了解しておこう」
 何処か気怠さが感じられる祥華の其れに、目頭を押さえつつ紅閻がそう答えると。
「では、のう」
 と祥華と暁音の念が途切れ、1人紅閻のみが取り残された様な状況になる。
 襟筋を正す様にして軽く溜息を漏らす紅閻。
 そんな主の後ろ姿に思う事あったか、ルカとガイがそっと後ろから顔を覗こうとしてくるが、何でも無い、と軽く誤魔化しておく。
「ともあれ、僕はこれから地下に向かう。ルカ、ガイ。君達もついてくる様に」
 そう2人に言いつけて。
 そのまま灯璃から連絡のあった地下に続く道へと足を運びながら、ふと思った。
(「地下、か。館野からの連絡もある。先日の巴里での事件の様な事が起きていなければ良いが……」)
 それは自分でも気付かない程度にその胸の内に育まれた、一寸した願望だった。


「……さて、と……」
 いつもの癖で、懐から煙草を取り出し一服しようとする。
 けれどもSV-98Mのスコープから周囲を覗きながらそうしようとしたところで、はたと何かに気がつき、火を着ける手を止めた。
「……とと、いけねぇ、いけねぇ。こんな所で煙草なんて吸っちまったら、俺が此処に居るって、敵に教えてやる様なものじゃねぇか。面倒だが、禁煙、禁煙、と」
 ぼやく様に呟きながら煙草を懐にしまうミハイル。
 と……スコープとサングラス越しに見えた其れに気がつき、不謹慎にも思わず口笛を吹きたくなった。
(「やれやれ……ビンゴかよ」)
 ミハイルがSV-98Mのスコープ越しに見たその光景。
 それはウィリアムから斜め上……正しく竜胆達の死角と呼ぶべき場所で銃を展開しようとする人物。
 暁音のクレインや祥華の『識神』そして、美雪の呼び出した影のモフモフ動物や、紅閻に協力する動物達でさえ捉えていない。
「……ああっ? 迷彩でもしてやがるのか? 藤崎や白夜の動物達の鼻は……まあ、誤魔化せるっちゃ誤魔化せるがよ。天星のクレインや𠮷柳の『識神』とか言うのの目まで誤魔化せるとか……ちと尋常じゃねぇぞ、あれ」
(「まるで亡霊じゃねぇか、あの目を掻い潜る事が出来る、とかよ。……影朧だな、あいつ」)
 これだけ厳重な警備をも掻い潜ることが出来る程の、身のこなし。
 そんな相手がサイレント機能付きスナイパーライフルで狙ってくるのであれば、流石に其れは由々しき事態だ。
 とは言え……。
「まっ、その為に俺がいるんだけれどな!」
 躊躇いなくSV-98Mの引金を引くミハイル。
 ――ズドォォォォォォォォォーン!
 ボルトアクションスナイパーライフルの銃口から迸る凄まじい発砲音と共に撃ち出された弾丸が空を切る。
 其れに敵の狙撃手も気がついたのだろう。
 咄嗟に銃を手放しその場から離脱するが、ミハイルの発射した一発の銃弾は、的確に敵のスナイパーライフルを捕らえていた。
 撃ち抜かれ爆ぜるスナイパーライフルと、自分の撃ち出したSV-98Mから飛び出した薬莢が地面に落ちる音が、ミハイルの鼓膜を叩く。
「……カウンタースナイパー成功だな。と言っても、俺の方の位置も気取られちまったから、次の狙撃点を探さなきゃいけねぇが」
 流石に強張っていた肩の力を抜き、一服しようとしたミハイルの無線機に灯璃からの通信が入った。
「ミハイルさん、今の音は……」
 JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radio越しに聞こえてくる灯璃の通信に、おう、とミハイルが軽く返す。
「まっ、館野からの連絡通りだったって訳だ。狙撃による暗殺を狙っていた奴がいたが、取り敢えず阻止は成功したぜ」
「……阻止は、ですか」
 その灯璃の言の葉に。
 ミハイルがああ、と参ったという様に肩を竦めた。
「標的は仕留めきれなかった。まだ何処かに潜んでやがる可能性もあるから、俺も位置を変える。お前の方で新しい狙撃点を割り出せるか?」
「……ええ。今、義透さんと協力して位置の特定中ですが……」
 灯璃の返事に応じる様に。
「あー、ミハイルさん。詳しくは灯璃さんから送って貰いますがー、多分あの辺りだろうと私が思う位置をお知らせしますねー」
 其の義透の言葉通り。
「すみません、ご協力ありがとうございます、義透さん。ミハイルさん、次の死角となるであろう点は、此処です」
 灯璃が告げて、JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioの軍用PDAで狙撃点の候補場所を知らせると、了解だ、とミハイルが軽く頷いた。
「じゃあ、俺も移動する。引き続き監視と情報収集は頼んだぜ?」
「ええ、了解しました。気をつけて下さい、ミハイルさん。それと煙草も吸わぬよう、注意して下さいね」
 冗談の様にも聞こえる灯璃の忠告に、ハハッ、とミハイルが思わず笑声を上げた。
「分かっているよ。これもビジネスだ。シビアにやるぜ。ボスのオーダーだしな」
 応えて灯璃の無線を切ったミハイルはSV-98Mを肩に担ぎ、その狙撃点を後にした。


「……了解しました。其れでは引き続き監視を続けて下さい」
 普通ならば、聞くだけでパニックになりそうな、銃声音。
 しかし、この水の街の水音と雑踏は、其れを搔き消す程の騒々しさだった。
 故に、人々がパニックにならなかった幸運に、安堵の息を漏らしながらのネリッサの指示に、灯璃がヤー、と答えて通信を切る。
「私の推測もお伝えしましたが、これで次の狙撃は阻止できそうですかねー?」
 と義透が耳打ちするのに、ネリッサが恐らくは、と頷き束の間考える表情になる。
(「さて……これで狙撃による暗殺はほぼ阻止出来たと思いますが……」)
 他にどんな手を相手は打ってくるであろうか?
 自らの夜鬼を周囲に溶け込ませる様に染み渡らせ監視の目を一段階強化しながら考え込むネリッサ。
 と、此処で。
 懐に何かが入ってくる音がしたのに気がつき、ネリッサが素早く懐を探る。
 探った懐から出てきたのは、全長3cm程の人形の式神。
「どうやら暗殺が実行されそうになった様ですね」
 式神に書かれた其の文字に、ネリッサが軽く頷く。
 その式神……冬季の其れは、ネリッサの首肯の意を汲み取ったか再びその体に新たな文字を浮かばせていた。
「黄巾力士である私は目立ちますので、私も空からの監視を強化します。既に竜胆氏には情報を伝えておりますので其方は今まで通りに行動して下さい」
 その冬季の指示を書いた式神の言葉にネリッサが頷くと、式神が再び丸めた紙へと姿を戻す。
 上空から祥華の『識神』及び、暁音のクレインに混ざって帝都桜學府制服の男が浮かんでいるのだが、誰も其れを気に留めない。
 最早日常と化したかの様な冬季の様子を下から見上げた美雪が目を細めた。
(「傍から見ると大変シュールな光景なのだがな……。これも猟兵の能力故か」)
 些か諦めの境地に至りながら溜息を吐く美雪を気にした様子もなく、竜胆が義透に話しかける。
『義透さん。此方がこの水の街で有名な水車です。此処での電力の8割は、水路を流れる水力発電で補っているのですよ』
「ほー、そうなんですねー。此処の電気供給は水力発電が主軸でしたかー」
 竜胆の案内に感心の相槌を打って返す義透。
 何だかすっかり観光客が板に付いてきた義透の様子に、竜胆達のやや後ろを歩くウィリアムが瞬きする。
「肝が据わっていますね竜胆さん……」
 何時でもActive Ice Wallを張り巡らすことが出来る様に準備を整えた状態で小さく呟くウィリアムから何となく蒼が目を逸らした。
「……当然、ながら、すぱヰは、待って、くれません、から……」
(「……そして、こういった、場所には、やはり、仄暗い、場所も、ある、のですね……」)
 そう思い赤と琥珀色の色彩異なる双眸を街並に彷徨わせる蒼。
 まるで掌に乗る緋の憂い抱く蝶の様に双眸を彷徨わせて、水車や、街中を見回る様にする蒼の様子に竜胆が穏やかな笑みを湛える。
『やはり、こう言った光景は珍しいですか?』
「……竜胆様。はっ、はい……そう、です、ね……」
 出来るだけ落ち着いた声音でそう答えた筈だが、自分でもその声が普段よりも上擦っている。
 そこに孕まれた好奇と言う思いを看破した竜胆があれが、とゴンドラを指差した。
『この水の街のある意味で名物のゴンドラ舟による水路観光ですね。この街の目新しい光景を見ていくのには打って付けでもありますよ。ああ、それだけではなく涼を取るためにゴンドラ舟に乗る方もいらっしゃいますね』
 そんな風に、極自然に観光案内をする竜胆の姿を眺めながら。
「竜胆さん、聞いても良いかな?」
 と統哉が何気ない口調で問いかけると。
「はい、どうか致しましたか、統哉さん」
 その竜胆の応えに。
「仏蘭西が陽動、本筋は此方にある、その勝算がある事はさっきの喫茶店で話をしてくれたから、良く分かった。けれども実は俺、もう一つ竜胆さんについて聞きたいことがあったんだ」
『何でしょう?』
 統哉の問いかけに竜胆が軽い調子で其方を振り向く。
 自分の方へと視線を向けさせながら竜胆さんは、と統哉が言の葉を紡ぎ続けた。
「竜胆さんは、如何して帝都桜學府に? 俺はあなたの事をよく知らない。だからあなたの事を知るために、原点を聞いてみたいと思ったんだ」
 その統哉の問いかけに。
 ふむ、と唸る様に頷く竜胆の様子を見て、それまで辺りを見回していた蒼がそう言えば、と小さく呟く。
「……竜胆様、と、言うのは、お花の、名前から、取られて、いるの、ですか?」
『ああ、そうですね。母が花から取った名前だと聞いた事があります』
 赤と琥珀のヘテロクロミアに好奇の光を称えながらの蒼の問いに、当然の様な表情でそう答える竜胆。
「……竜胆、と、言うと、その、花言葉は……」
「『正義』、だったよね」
 蒼の言の葉を引き取る様にそう返す統哉。
 統哉の其の言の葉にそう、ですね……と蒼が頷く。
「……文月様、の、言う、通りです……。では、竜胆様の、お母様、は……」
『そうですね。母は私にこの名を授けた時、世界と『誠実』に向き合う人間として育って欲しい……そう言う願いを抱いていたそうです』
 その竜胆の思わぬ言の葉に。
 蒼が驚いた様に息を呑み、赤と琥珀色の双眸をパチクリと瞬きさせる。
「……誠実に、です、か……」
『ええ、そうです。ですから私は、只、誠実に影朧と、彼等の内包する傷ついた魂……そして人々と向き合って行く事を、自らに課しております』
 訥々と告げる竜胆の其れに。
 でも、と統哉が思わず問いかけた。
「それが竜胆さんの正義ならば、何故あの時……紫蘭が転生した時、彼女を見捨てる様な選択を……」
『統哉さん。それは、私の中の正義……優先順位の問題になってきます。帝都桜學府は元々、影朧を救済する機関です。故にこの世界の傷ついた魂達の転生のシステムを促進し、世界の魂の輪廻の維持を行います。しかし、此処には決して忘れてはいけない前提があります』
「……前提?」
 竜胆の説明に鸚鵡返しに統哉が問いかけると、はい、と竜胆が静かに首肯した。
『その通りです。其の前提というのは生きとし生ける人々……ユーベルコヲド使いでも無く、影朧でもない、弱き人々の命を守る事です。もし彼等の命を守る事無く、影朧を転生させることを優先すれば、それは立つべき寄辺を失うことに繋がります。例えどれ程彼等を、影朧達を救おうとも、人々に被害が出れば、当然、人々は帝都桜學府を批難するでしょう。転生して生まれ変わり、無垢と化した魂を宿した人々を何故無碍にするのか、と我々を責めるでしょう。人というのは……それ程までに、心の弱い存在なのですから』
「……ヒトは、弱い、ですか……」
 竜胆の淡々とした説明に蒼がか細い声を上げて、静かに頭を横に振る。
 自らの裡に宿ったその心が、まるでそんな竜胆の心の一端を垣間見たかの様に、激しく震えた。
(「……ボクは、ヒトの、心が……」)
「……それ程までに、脆く、儚い……中々、そうは、思え、ません、でした……」
 ――だって『蒼』を。
 心を持つモノとして、ボクを認めてくれたのは、ヒトだから。
 ヒトの心は、理解し難い所も多い。
 けれどもボクを守ってくれたのも、ヒトだったあの人達の思いと、心だったから。
 その蒼の思いと言の葉に微苦笑を浮かべる竜胆。
『直ぐには分からないかも知れません。或いは私も矛盾しているかも知れません。ですが、過ぎたる正義は、自分が絶対正しいという信念は、往々にして、不幸を生み出します』
「……あの紫陽花さんの遺志を引き継ぐなんて自称していた連中の様に、ですか?」
 瑠香の問いかけに、そうですね、と竜胆が頷いた。
『紫陽花殿もまた、その事は十分理解しておりました。ですが、それでも彼は、立つしかなかったのです。私の様に最大多数の幸福のために失われていく若い命達を見捨てる強さを、彼は持てませんでしたから』
 其の声音には、酷く沈痛なものが籠められていて。
 紡がれた竜胆の心情の一端にそう言うことか、と美雪が小さく息を吐きながら、話を切り替えるかの様に竜胆に問いかける。
「それで紫陽花さん、雅人さん達と共に解決した礼の巴里の件なのだが……」
 巴里の事件の概要をより詳しく説明し、美雪がそれで、と竜胆に話し続けた。
「このグラッジパウダーと呼ばれる、人為的に影朧化を促すことの出来る兵器が、何時作られたのか、何か分からないか?」
『……恐らく其れは厳密に言えば、開発、ではないでしょう』
 美雪の問いかけに状況を整理した冷静な声音でそう告げる竜胆。
 だが、竜胆のその回答に、美雪は思わず怪訝な表情を浮かべていた。
「開発ではない?」
『はい。開発というよりは、改良、と言った方が宜しいでしょうね。美雪さんは、グラッジ弾についてはご存知でしょうか?』
 竜胆の呼びかけに、美雪がああ、と思い出した表情を浮かべながら頷き返す。
「知っている。幻朧戦線が使っている、人々を影朧化させる、禁忌の兵器だと。そう言えば、紫陽花さんの搭乗していた影朧甲冑も、このグラッジ弾を使用することが出来ていたな……」
『はい、その通りです。恐らくグラッジパウダーの正体は、そのグラッジ弾の成分を解析し、改良し、粉末状にして作り上げた影朧兵器かと思います』
 そこまで竜胆が告げたところで。
 竜胆が不意に険しい表情を浮かべて、溜息をつく。
『……成程。と言う事は、其のグラッジパウダーはあの実験の副産物、の可能性でも有りますか……』
「竜胆さん?」
 思わぬ竜胆の呟きに、美雪が怪訝そうな表情で問いかけると。
 竜胆が以前、と考え込む様にしながら話を続けた。
『以前、柊が黄泉がえりの研究を進めていた、と言う話は覚えておりますね?』
「ああ。元々、黄泉がえりの実験の途中で、グラッジパウダーは作られた、と……」
 竜胆の呟きに美雪がそう返すと、そうです、と竜胆が頷き返す。
『では、此処で確認です。柊は元々、何の研究をしていたでしょうか?』
「『人体に影響を及ぼさない、一般人でもある程度扱える対影朧兵器』についてでしたね」
 ネリッサが其の研究内容について思い出しながら言のを続けるとその通りです、と竜胆が再び頷く。
『初期の頃の話ですが、柊達は、元々この兵器を、影朧甲冑をベースに作成しておりました。影朧甲冑に使われる影朧エンジン……人に害を与え、乗ったら二度と降りられなくなってしまう忌まわしきその部分の元になっているエンジンを抜き出し、別のエンジンと取り替えることでそれが出来ないかを試していたわけです』
 その竜胆の呟きに。
 美雪が微かに表情を強張らせる。
「と言う事は、まさか、その影朧エンジンを……?」
『はい。そこで抜き出した影朧エンジン、つまるところ影朧そのものなのですが……その怨念と呪いを粉状のカプセルに閉じ込めて作り上げた……其の可能性が極めて高いです。そうやって対生物兵器件、自分達の戦力を整える道具として其れを作り上げたのでしょう』
「……とんでもない話だな」
 竜胆の其の言葉に、流石に肝が冷えたか、ゴクリと生唾を飲み込む美雪。
 同じく息を飲む瑠香だったが、ある事に気がつき、それで、と竜胆に問いかける。
「彼等が使っていたグラッジパウダーの成分については分かりました。ですが、何故態々その様なものを?」
『籠城戦をしている相手の水源に、毒物を投げ込む計略と同じでしょうね』
 瑠香の問いかけに、さらりと答える竜胆。
 極自然な、しかし、聞き逃せない内容に、ネリッサが思わず眉を顰めてしまう。
「……粉末状の薬物であれば、それだけ水などにも溶け込みやすい。気がついたら人々が服用し、影朧化させてしまえる可能性が高い、と竜胆さんは仰るのですか」
『彼等……この場合は花蘇芳の事になりますが……の思想と行動から考えるに、恐らく其れが目的だったのでしょう。革命を起こすために影朧を操る。その為には自分達の手で影朧を量産し戦力とする。結果として帝都を脅かす脅威になるのは明白です』
「……それは、本当に、ヒトが、出来る、こと、なの、でしょう、か……?」
 荒唐無稽にも等しい其の話を聞いて。
 赤と琥珀色の双眸に複雑な光を孕んだ蒼の問いかけに、そうですね、と竜胆が軽く頭を振った。
『人の力でのみ、出来るとは少々考えにくいのですが……ヒトは元来、脆く、利己的な存在です。恐らく此度、私の暗殺を企み放たれた影朧も……』
「……人為的に作られた可能性が高い、と……そう言うこと、なのね」
 竜胆のそれに微かに震えた声音で姫桜が呟く。
 その腕の玻璃鏡の鏡面が、漣の如く揺れていた。
 ――と。
「……あう、す、すみません……」
 ゴチン、と。
 ウィリアムから離れて竜胆達の会話に混ざっていた蒼が別の誰かにぶつかり、小さな声を上げる。
 ぶつかってきた蒼に対して、其の男はギロリと鋭い眼差しを向けていたが……義透がはっ、と何かに気がついた。
「竜胆さん。その場を動かないで下さいねー」
 その義透の言の葉と、ほぼ同時に。
 其の男が手に籠めた何かをパチン、と指で弾き、義透が咄嗟に竜胆と美雪を守るような異空間を形成する結界を生成。
 結果、パチンと言う音と共に其れが弾かれ、男はちっ、と思わず舌打ちをしながらその場を離脱しようと……。
「逃がしません……! Stone Hand!」
 するよりも速く、ウィリアムが叫びと共に、ダン、と地面を踏みつけていた。
 そのウィリアムの手に握られているのは、紙。
 冬木が上空から監視しながら動きが怪しいと感じた相手について、警告するべく少し離れたところから送った式神だ。
 ウィリアムが大地を踏みつけると、ほぼ同時に。
 地面を流れる竜脈が流動し、今正に逃げようとしていた男の足元から岩石で出来た大地の精霊の両手が突き出される。
 突き出された両手によってその身を羽交い締めにされた男が身動きが取れず、藻掻くが、ウィリアムはその魔法の手を緩めない。
 緩めない内に……男は締め付けに耐えきれなくなったか、泡を吹いて気を失った。
「……出来れば裏の事情を今すぐにでも聞き出してやりたかったのですが……まあ、後で生かさず殺さず尋問すれば良いのでしょうね」
 呟くウィリアムにそうですね、とネリッサが頷いた、丁度その時。
「局長」
 情報収集を続けていた灯璃から通信が入った。
「灯璃さん、どうしましたか?」
「はい。実は、先程河川管理所の方を訪問し、少々事情を伺っていたのですが……その時、気になる噂を聞きました」
 それは暗渠にて不審な何かを見た、と言う情報。
 其の情報を再度開示する灯璃にそれで、とネリッサが続きを促す。
「気になったのですが、先程の件も在りましたので私は監視に集中し、紅閻さんに依頼を出して其処を見てきて貰いまして……」
 其の灯璃の言葉を引き取る様に。
 暁音の声が、ネリッサの無線機に入ってくる。
「俺が紅閻さんに頼んでクレインをついて行かせたんだけれど……そこに爆弾が仕掛けられていたんだ」
 祥華の目前でクレイン使用の消耗故か些か顔を青ざめさせながら、それを気取らせぬ事の無い落ち着いた様子でその事実を告げる暁音。
 無論その爆弾は、紅閻とルカとガイ、そして暁音のクレインによってすでに解体されていたが……。
「……成程。爆弾、ですか……」
 ネリッサが独り言の様に呟くそれにそうだ、と紅閻が無線機に割り込む様に応えを返した。
(「地下を爆破して、最悪この街毎、竜胆さんを爆殺する……そう言う手筈を整えていましたか」)
 相当に過激な手口を使ってでも竜胆を殺そうとする執念染みた敵の動きにネリッサが思わず舌打ちを一つ。
「因みに場所は何処だったのでしょうかー?」
 そう義透が暁音に問いかけると。
「……スラム街の地下にある空洞だね。恐らく、スラム街に何らかの鍵がある」
「そう言えば、そんな連絡も陽太さんだったかしら? あの人から来ていたわね」
 その事を思い出した姫桜の言の葉に、竜胆がサングラスの奥の目を鋭く光らせた。
『では其処の角を曲がりましょう。スラム街には其れで直ぐに着きますから』
 そう告げた竜胆の案内を受けて。
 姫桜達はスラム街……合法麻薬の実の生産地帯の方へと足を踏み入れる。
 ――次の戦いの幕は、もう間近に迫っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『帝都斬奸隊』

POW   :    風巻(しまき)
【仕込み杖を振り回して四方八方に衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    神立(かんだち)
【仕込み杖】による素早い一撃を放つ。また、【インバネスと山高帽を脱ぐ】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    幻日(げんじつ)
自身の【瞳】が輝く間、【仕込み杖】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。

イラスト:九廸じゃく

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「射殺、失敗」
「爆弾、特定、解除された」
「……来る」
「自ら、乗り込んでくる……」
「決行時間……変更」
 ――スラム街、合法麻薬の実栽培地帯を囲む障壁と門の内側にて。
 漆黒のインバネスコートに身を包んだ男達が、まるで意識を共有するかの様にボソリ、ボソリ、と呟いている。
「……姫様、は……」
「……夜、予定……。変えられない……」
「……此処に入るなら、墓穴……」
「十分だ……。作戦、実行……」
 それは、互いの思考の端々を紡ぐ姿。
 スラム街へと入ってきた段階で、獲物は既に、彼等の領域内。
 未だ、彼等の主は戻ってきていないが、それでも作戦は実行できる。 
「……貴奴を討つ」
「あの、帝都桜學府の、駒……」
「潰し、情報網を姫君が奪う……」
「そのための道を、切り開く……」
 ――それが、我等の役目なり。
 未だスラム街に足を踏み入れたばかりの竜胆と超弩級戦力を迎え撃つために、彼らはスラム街の闇に身を浸す。
 ――敵を1人残らず、討ち果たすために。

 *第2章のルールは下記となります。
 1.竜胆が同行します。彼については下記の様に扱います。
 a.戦場から撤退することはありません(彼がいる所が戦場になります)
 b.守らなかった場合、竜胆は死亡します(判定は失敗となります)
 c.猟兵達の指示は聞いてくれます。
 d.竜胆は指揮官としての技能、情報収集の技能には優れていますがそれ以外は一般人です。
 e.猟兵達のユーベルコードに相当する様な行動はとれません。
 f.竜胆に詳しい事情を聞く事で第3章の内容に若干変動が生じるかもしれません。
 2.敵はスラム街の土地を利用して竜胆の暗殺を謀ります。
 3.スラム街に住む一般人達が巻き込まれる可能性はあります。
 4.スラム街の一般人の生死は問いません。

 ――それでは、良き戦いを。
朱雀門・瑠香
とうとう出てきましたね。
ものすごく嫌われてますね。私達・・・
竜胆さんを守りながら戦いましょう。敵に地の利があるようだし上方を含めて周囲を警戒しながら彼を守ります。
建物の影とかからの不意打ちとかに気を付けながら戦闘。
敵の衝撃波を見切って周囲の地形を生かしたり武器で受けて躱し
ある程度連中が集まってきたら破魔の力を込めて範囲攻撃で纏めて薙ぎ払いましょう。
竜胆さん、この人達に心辺りありません?


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)


恐らく敵集団の注意は目の前の竜胆と周りにいる人達とスラムの人達に向けられてると思うからその状況を利用する。

奏と瞬は後ろから付いておいで。アタシが先行する。【忍び足】【目立たない】で敵集団の背後に付いて【不意討ち】【武器落とし】【ぶん回し】【気合い】で竜牙を放って敵集団をかき乱してやる。こういう伏兵は予想できなかったかい?油断したね。

まあ、反撃は受けるだろうから【戦闘知識】で敵集団の動きを観察して【カウンター】の準備をしておく。【オーラ防御】【見切り】【残像】で防御の構えも準備・

スラム街の方に攻撃を向けるなら【衝撃波】で吹き飛ばしておく。余所見は厳禁だ!!


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

はい、少なくともスラム街に集まっている連中は私達家族はノーマークでしょう。それを利用しない手はありません。

【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で万全の防御の構えを整えてから母さんに付いていきます。母さんの敵集団の背後を付いての一撃に【追撃】で彗星の一撃でダメ押し。更に【怪力】【シールドバッシュ】でプレスします。

もしスラム街の住民の方に攻撃を向けるなら前述の防御の構えに【かばう】を組み合わせて住民の方を護ります。更に【範囲攻撃】【結界術】で防衛陣地を構成してこれ以上の進軍を防ぎますよ。


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

まあ、僕達が捜査した範囲では僕達はスラム街に集まっている連中にはノーマークに見えます。裏を取ってやりましょうか。

不意を打っての奇襲は母さんがプロです。【オーラ防御】【第六感】でいつでも防御できるように備えといて母さんに付いていきましょう。母さんが不意を打ちやすいように【高速詠唱】で【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を併せた【結界術】を【範囲攻撃】化して敵集団に展開。母さんと奏の攻撃に【追撃】で裂帛の束縛を使用。

スラム街の住民に攻撃を向けるなら【衝撃波】で吹き飛ばしていきます。更に奏の防衛陣地に更に【結界術】を重ねて万全にしましょうか。


ウィリアム・バークリー
ここがスラム街……。ここに敵が潜伏しているんですね。
万一グラッジパウダーを撒かれたら、とてもじゃない被害が出る。

ぼくは『ビーク』に乗って(「騎乗」)、屋根の上を移動します。狭い路地はぼくに不向きだ。屋根の上から魔法を落としていきますよ。

ああ、ごめんなさい。狙撃の邪魔はしませんからお気になさらず。

竜胆さん達を見失わないようにつかず離れず。

敵が屋根の上にいれば、Ice Blastを投射して片付けます。
同時に、敵と遭遇の一報を借り受けた無線機で伝達。
戦闘は頭を潰すのが定石ですが、この集団はまともな指揮系統がない?
面倒ですが、一体ずつIce Blastで凍結させていくしかありませんか。
叩き潰します。


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

引き続き狙撃での援護を展開。

やれやれ、あっちこっちから湧いて出てきやがる。まるで蜜にたかる蟻だぜ。ま、獲物に不自由しないのが救いだな。

基本的に竜胆達の後方に占位し、敵の中でも護衛対象である竜胆に対して脅威度が高いヤツをUCで優先的に狙撃。当然、こちらの位置がバレたらヤバいから、SV-98Mに消音器を取り付けてこちらの狙撃位置を秘匿。状況によっては、狙撃ポイント変えて行かなきゃ駄目だな。まぁスラム街なら、身を隠す場所には事欠かかないだろう。もっとも、それは敵さんも同じコトだが。

まったく、毎回竜胆に関わると楽しいコトになっちまうなぁ、おい。報酬はしっかり弾んで貰うぜ?


ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動

SIRD所属、ラムダ・マルチパーパス三等兵、増援要請に応じただいま参着仕りましたっ。

(抑揚のない機械的な音声で)戦闘モード起動。護衛対象及び敵を確認。護衛対象の安全を最優先コマンドにて実行。電磁防御フィールドを出力最大にて展開。

竜胆様達が敵の攻撃を受けている真っ最中に介入、竜胆様の前に立ちはだかり、UCを展開しつつ搭載火器で敵を攻撃、竜胆様をお守り致します。

(頭部カメラを竜胆様に向け)これはこれは初めまして、お噂は局長様よりかねがね聞いております。わたくしの名は、っと悠長にお話をしている場合ではありませんでしたね。自己紹介はまた後程。まずはこの窮地を切り抜けましょう。


天星・暁音
クレイン、追跡対象を敵集団へ、隠れてる相手もいるだろうし監視は強めに敵集団が一般人への防御、治療を最優先
ま、竜胆さんの方は護衛も多いし本当に危ない時以外は監視優先で…
不利になったら逃げるかもしれないしその追跡もしないとね
ああ、やること多くて頭痛い

クレインの追跡対象を敵へと固定して敵が誰かを巻き込もうとするなら、その対象を護ったり治療したりしつつ
敵の腕や足を分解で捥ぎ取り動けないようにし止血します
自爆を警戒してあるなら爆薬等も分解します
口の中もちゃんと調べます

罠や爆弾等に対しても、分解で妨害します

竜胆側も危ないならクレインで味方を援護したり竜胆を護ります

共闘アドリブ歓迎
スキルUCアイテムご自由に


馬県・義透
引き続き『疾き者』にて

さてー、狙ってきますかー。まあ、それはそれでやりようはありますねー。
竜胆殿に結界術で防護。さらに表立っては私が、竜胆殿の影には陰海月を移動させまして。
【四悪霊・『解』】にて、敵だけに不運押し付けましょう。
すなわち、あなた方の暗殺は失敗するのですよ。近づかれるまえに漆黒風を投擲しますねー。
まあ、近づかれても漆黒風で刺しますし、陰海月は簡単には気づかれませんし。
ああもちろん、一般の方を打つ、なんてことはないですよ。

竜胆殿、この黒幕に心当たりあるようですねー?
…私だって、紫陽花殿の一件から関わり始めましたから、無関係ではないのですよー。


陰海月「ぷきゅ」下からの護衛張り切る


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携
狙撃兵通り並みなら空爆したいくらいですが…
致し方ないですね

事前にUCで照明弾及び弱装手榴弾を用意
先ずはUC:ナハトニブルで姿を消しつつ本隊より少し迂回し
建物の影・茂みも利用し(忍び足、目立たない)様に移動しつつ
指定UCでスラム住人や蟲・ネズミ達の目を通して待伏せ位置を
密かに(情報収集)し仲間へ随時報告しつつ味方が迎撃可能距離に達したら、照明及び手榴弾を隠れる敵に投擲、奇襲を潰し攪乱する

手薬煉引いて待つ人間ほど、待たれる側以上に
ハプニングが嫌いですよね

弱った敵や身軽になろうとする敵は
即時に足と頭部を狙撃(スナイパー・2回攻撃)し
動きを止め確実に人数を減らす様戦う

アドリブ歓迎


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】の皆さんと共に行動

・・・スラム街となると、どこから襲撃を受けるか予想できませんね。ここはいわばアウェイ。地の利は完全に敵にあるのが厄介です。周辺警戒を厳に。
竜胆さんの傍にかばう様に位置取りし、襲撃者を迎撃。ハンドガンで応戦しつつ、状況に適していればUCの猟犬を仕向け、敵が竜胆さんに接近するのを阻止します。

可能ならば、戦闘の合間に竜胆さんに今回の敵について何か知っているか尋ねます。これは私の想像ですが・・・今回の黒幕は、竜胆さんの同業者、もしくはそれに近しい人間なのではないでしょうか。もしそうならば、今回竜胆さんが単独で行動していたのにも合点がいくのですが。

アドリブ・他者との絡み歓迎


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

スラム街に入ったら襲撃か!
ホントなりふり構っていないな!
一般人の護衛避難…誰か頼む!

竜胆さんの側から絶対離れず
「歌唱、優しさ、鼓舞」+指定UCを歌い皆の回復と再行動付与を狙う
幻日の仕込み杖9連撃は「拠点防御」で耐えるしかないか…

…それにしても引っ掛かる
敵方は何としてでも竜胆さんをここで殺したいようだが
竜胆さん、貴方は何を掴んでいるのだ?

先程、影朧たちは人為的に作られた可能性が高いと口にしていたが
…って待て(記憶を探る)

…おい
嫌な記憶を思い出したぞ
以前柊さんの件で彼岸組で遭遇した影朧たちは確か…
そして…あの時姉桜が口にしていた「闇の天秤」

…まさか、な(冷や汗たらり)


鳴上・冬季
「これだけ超弩級戦力が護衛につくなら、桜學府のしがない直衛は不要でしょう。急の連携も困難です」
スラム地下に入らない限り上空から黄巾力士と周辺警戒

「出でよ、黄巾力士水行軍」
上空大回りして竜胆達と別方向、若しくは敵の出現地点でUC使用
「水行軍は3人組11隊で敵殲滅。もしも無関係なスラムの人間を発見した場合は2体が運搬1体が警護で安全圏まで撤退。解放後また敵殲滅任務へ。今回は通常弾の使用は極力控え砲頭の水刃(ウォーターカッター)で対応…行け」
自分はいつもの黄巾力士従えオーラ防御で庇わせながら竜脈使い水行軍の継戦能力強化

「水都を必要以上に壊すのも麻薬が燃えて急性中毒患者を出すのも問題ですから」
肩竦める


文月・統哉
オーラ防御展開
仲間と連携
竜胆さん庇う

衝撃波を衝撃波で相殺
打撃を武器受けカウンターで斬る

敵の狙いは竜胆さん
周囲への被害を防ぐには
竜胆さんの位置取りが重要だろう

竜胆さん
スラム街の人々は
貴方の守るべき人々に含まれる?

優先順位を付けるのは
行使できる力に限界があるから
ならば俺達が
その限界を超える力になる
俺は信じるよ貴方の正義を

UCで防衛特化型の甲冑召喚
竜胆さんに装備して貰う
魔導蒸気エンジン搭載
AIが回避行動をアシスト
オーラ防御に覆われたもふもふの外殻は
衝撃を吸収し攻撃を内部へ通さない
防水防塵で水中移動可能
外見が着ぐるみ型なのは…ご愛敬って事で

水路へのパウダー散布に警戒
敵の計画と黒幕の目星を竜胆さんに確認


彩瑠・姫桜
竜胆さんの守りを最優先に

UCで戦闘力強化し
[かばう、武器受け]で敵からの攻撃から守るわね

竜胆さんは、ここまでのところで
目の前の敵を統べる存在の見当はもうついているのよね
そして…貴方のことだから、
次に打つべき手もある程度
用意しているんだろうって思ってるわ

それが先々、帝都桜學府や帝都に、どう影響するかとかは
私にはもちろん想像できないものだけど

私は、基本的に目の前のことしか見えない
だから私は、矛盾があろうとも
先々のことはその時起こってから改めて考えることにしてる
だから…とりあえず今は、全力で貴方を守るわね

優れた指揮官で、でもやっぱり無茶もする貴方に何かあったら
雅人さんや、柊さんだって悲しむと思うから


神宮時・蒼
…光と影。…此処は、影の、部分、なの、でしょうね
…何処か、重い、空気…、何が、起こるか、わかりません
気を、抜かず、慎重に、行きましょう

随時、竜胆様の周囲に【結界術】を展開
相手の攻撃は【第六感】で予測を
予測可能ならば【見切り】で回避を
竜胆様や一般人に被害が及びそうならば【斬撃波】で攻撃を相殺
状況を見ながら【呪殺弾】や【弾幕】で相手の行動を阻止します

傷付きし者には【天花言祝ノ陣】で癒しと活力を
傷が深い場合には【魔力溜め】と【全力魔法】にて陣の強化を施します

…此度の、事件の、裏には、一体、何が、潜んで、いる、のでしょうか
…この方たちの、主とは、どんな、方、なのでしょう、ね


館野・敬輔
【闇黒】
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

魂たちが騒めき始めたので原因を探ると
スラム街で戦闘の気配
…竜胆と猟兵達が襲撃されたか!

指定UC発動で高速移動すれば背後から奇襲できそうだが
陽太からの連絡を受けたのであえて小屋へ
地の利が奴らにあるのは厳しいな…

陽太と合流後は「闇に紛れる」で慎重に隠れ
「聞き耳、視力」で小屋内を観察しつつ待機
奴らは本気だが、この小屋を空にするとも思えない
…何か、この小屋にもありそうだしな
出撃数多ならすまほで他猟兵に情報提供

残り数体になったら小屋突入
「2回攻撃、怪力、属性攻撃(聖)、範囲攻撃、衝撃波」で室内に衝撃波を乱射し残った影朧を一掃だ!
墓穴を掘ったのは貴様らのほうだな!


森宮・陽太
【闇黒】
【POW】
アドリブ連携大歓迎
真の姿解放

小屋内の影朧の動きを見て全猟兵に緊急連絡
竜胆暗殺を狙う影朧たちの存在及びこの小屋の場所を連絡
俺らの動きは把握されている、気をつけろ!

今から俺が合流図っても途中で足止めされるか
ならば俺はここで「敵」の動向を探りつつ機を伺うぜ
…敬輔、早く来い!

「闇に紛れる、視力」で隠れながら小屋内を観察
後に備え鈴の警報装置は解除しておく

小屋内の影朧が残り数体になったら
駆けつけた敬輔と共に突入
突入と同時に「高速詠唱」+指定UCでブネ召喚
仕込み杖をふるわれる前にブネと精霊、悪霊たちを放ち「範囲攻撃、制圧射撃、蹂躙」
UC封印したら「ランスチャージ、暗殺」で1体ずつ仕留める


吉柳・祥華
一般人の非難は別の誰が行うじゃろうから
妾は以下にして、竜胆の暗殺を阻止するかのう

どうやら、妾達の“目”では補足できない輩が潜んでおるようじゃ
さて困ったのお…

出るべきか…いや、ここは式神を向かわせて
妾はあくまでもサポートじゃ。大本が出てきたら流石に出るがのう

胆たちがスラム街に向かうと同時に
竜胆の元に二体の式神を送っておく

地形の利用と龍脈使いで敵を索敵し敵の背後に回り込めるよう
船頭にスラム街まで案内させる取引をする
戦場が近くなったらそこで降りて、船頭を帰す


白夜・紅閻
はっ?
竜胆たちがスラム街へ向かった?!

ここは地下、スラム街へ一番近い道を動物達に聞き
篁臥に騎乗し駆けつける
あいつから借りたアレは既に先行させておく
俺はいい、竜胆たちのサポートへ…急げ!!
行くぞ!篁臥!白梟!!

これは、貴様たちが仕掛けたものか?
ご苦労なことだな!!
こちらは俺たちが、回収した、残念だったな?

ルカ・ガイ!
竜胆を守れ!!


アドリブ連携可




(「……囁き声?」)
 合法阿片の実栽培地帯からひっそりとその場を後にしようとした、其の直前。
 森宮・陽太が其処から漏れ出す声を聞いて、一瞬心臓が止まるかの様な緊張を覚え、全身を強張らせる。
「射殺、失敗」
「爆弾、特定、解除された」
「……来る」
「自ら、乗り込んでくる……」
「決行時間……変更」
 その言葉の意味を無意識に悟り、陽太の表情が俄に緊張と動揺で青ざめていく。
(「こいつら……竜胆暗殺の計画を早めやがったか……!」)
 其れに気がつき。
 無意識に白いマスケラ……『無面目の暗殺者』としての自分を意識する仮面を被って姿を消す陽太。
 全身をブラックスーツで包み込み、白いマスケラを被った『無面目の暗殺者』足る自分への恐怖は、未だ拭えぬ儘であるけれども。
 それでも今は其の力を借りるしかないのだから。
『竜胆暗殺を狙う影朧達の存在及び本拠地を確認。同時に、既に此方の動きは筒抜けの模様。各自厳重な警戒態勢を』
 そうメールに書いてこの地に来ているであろう者達に連絡を届けながら。
(「……敬輔、早く来い……!」)
 そう胸中で願いながら、闇に溶け込む様に消えていく陽太の予測通り。
 影朧達は、一斉に姿を消していた。


(「……お兄ちゃん」)
 ざわめく様な、そんな声。
『彼女』達のざわめきに館野・敬輔が、『彼女』達と五感を共有するが為に、夢遊状態と化していた自らの意識を体へと戻す。
 同時にサバイバル仕様スマートフォンが震え、敬輔が素早く其れに目を留めた。
(「こいつは陽太からの連絡か……! ……竜胆と猟兵達への襲撃だと!?」)
 送られてきたメールを読んで、素早く身構える敬輔。
 一刻も早く猟兵と合流するべきだろうが、此処はスラム街でも誰もいない町外れ。
 即ち。
 ――敵にとって、最も有利な戦場。
(「……っ?!」)
 ――ヒュン、と。
 街角の一角から不意に飛び出してきたそれが即座に仕込み杖を一閃。
 インバネスコートと山高帽を風に靡かせ、疾風の如く放たれたその一閃に、敬輔は思わず息を呑んだ。
「……ちっ、此方が次にどう動くのかを読んでいるのか……!」
 此度の戦い、地の利は敵にあり。
 更に反対側の死角となりうる場所からも現れた影朧が、仕込み杖から抜刀、逆手で居合いの一閃を跳ね上げる。
 銀刃を咄嗟に黒剣で受け止め、そのまま白い靄を纏わせて力任せに押し返すと、背後から先の敵が無言で刃を振り下ろした。
 その鎧毎断ち切らんばかりの一閃を……。
「させるかっ!」
 眼前の影朧の刃を受け止めた黒剣から白い靄で形成した斬撃の衝撃を波状に繰り出し、纏めて一掃する。
 インバネスコートと山高帽がその一撃で斬り裂かれ更に加速する敵達に。
「……間に合えっ!」
 無我夢中で黒剣を引き戻し、大地に突き立てる敬輔。
 それは、一瞬の攻防。
 大地に突き立てた黒剣を中心に円状に括り抜かれた大地から刺突の衝撃波が飛び出し、2人の影朧を貫き仕留めた。
 周囲に他に気配がいないかを感じ取ろうとする敬輔に。
「ご安心下さい、超弩級戦力の御方。この辺りには他に不逞の輩は居りませぬよ」
 と上空から聞こえてきた聞き慣れぬ声に驚き其方を見上げれば、其処には帝都桜學府制服に身を包んだ男。
 それと……。
「えっ……なんだ……あれ?」
「此方は私の自作宝貝です。すみません、急にお声掛けをしてしまいまして」
 思わず目を瞬く敬輔に上空から其の黄巾力士の主……鳴上・冬季が呼びかける。
「と、取り敢えずアンタは一体。って、其の服は帝都桜學府の制服、か」
「まあそう言うことです。此でも護衛なのですよ。帝都桜學府のしがない直衛ですが。とは言え竜胆殿に関しましては超弩級戦力の大量の護衛が付く様ですから、心配は無用でしょうが。まあ私も即興の連携というのは不得手ですしね」
 告げる冬季の其れに、敬輔がそうか、とちらちら黄巾力士を気にしつつ答える。
「ではかなりの人数の猟兵が、竜胆の傍に?」
「そう言う事ですね。ですので私は別働で動きますが、あなたは如何致しますか?」
 その冬季の問いかけに。
 敬輔が目を瞑り、微かに考える様な表情になるが、静かに首を縦に振った。
「本拠地を見つけた陽太の事もある。此処から挑んで背後から奇襲を掛けるよりも、影朧達の本拠地に合流した方が良いだろうな。陽太が伝えた以上、最終的に皆が辿り着く可能性も高いから、芽は予め潰しておきたいというのもある」
「承知しました。ではお互いに最善を尽くしましょう。私も独自に行動します」
 敵が居ないことを確認した冬季が、手の五芒星の描かれた符を地上へと落とし。
「出でよ、黄巾力士水行軍」
 呪を紡ぐと、105体の黄巾力士が敬輔の傍に軽やかに舞い降りる様に現れた。
「水行軍は、3人組11隊で竜胆殿達周りではなく、スラム街に潜む影朧達を殲滅。もしも無関係なスラムの人間を発見した場合は2体が運搬1体が警護で安全圏まで撤退させよ。解放後は再び敵殲滅任務へ。尚、今回は通常弾の使用は極力控え砲塔の水刃(ウォーターカッター)で対応せよ……行け」
 細々とした指示を冬季が出すや否や。
 黄巾力士達が其れに応じる様に敬礼、3人組に隊列を組み直す。
 そうして35小隊に再編された黄巾力士達が、音もなく姿を消す様に動き始めた。
 瞬く間に散っていく黄巾力士の様子を声もなく見守っていた敬輔に、さあ、と冬季が話し続けた。
「影朧の殲滅及び人々の救出はお任せ下さい。あなたはあなたの為すべき事を」
「ああ……分かった」
 冬季の其れに見送られる様にして。
 白い靄を纏った敬輔が、襲撃された事実を文月・統哉達に伝達しつつ合法阿片の実栽培地帯へと超高速で向かうのを冬季が見送った。


「はっ? 竜胆達がスラム街へ向かった?!」
 スラム街の地下道にて。
 貧困や飢えに喘ぎ、また帰るべき場所の無き者達の亡骸や、鼻につく異臭を感じながら、白夜・紅閻が思わず叫び声を上げる。
「うん。さっき美雪さん達から連絡があった。今、竜胆さん達は、護衛隊と一緒にスラム街に向かっているらしい」
 紅閻の驚愕の叫び声に冷静な思念でそう返したのは、天星・暁音。
 それは、𠮷柳・祥華が灯璃・ファルシュピーゲルのJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioから齎された通信を受け取った暁音の思念を紅閻に繋げて伝えた情報。
 ゴンドラ舟に乗る暁音の共苦の痛みが鋭く刺し貫く様な痛みを絶えず与えている。
 其れは恐らく、世界の痛み。
 世界が、人々の命の危機に共鳴して伝えてくれる、警告の痛み。
 その筈、なのだけれども。
(「この痛み……これって……」)
 其処から伝わる痛みの波動が、当時は今までに無い程に鋭い痛みとして判断されていたあれを想起させられ、微かに惑う。
「……天星、俺のことは良い。君のクレインは、直ぐに竜胆達のサポートへ向かわせろ。行くぞ、篁……」
 暁音の戸惑いには気がつかず、彼からの念話に対して、紅閻がそう呼びかけて。
 そのまま自らの黒い外套を脱ぎ、素早く篁臥へと変身させようとした、その時。
 ――チュチュ!
 不意に紅閻に警戒を投げる様なネズミの鳴き声が耳に入った。
 その呼びかけに気がついた紅閻が篁臥に注意深く跨がりながら、爆弾を暁音のクレインの助けを借りて解除した方を振り返る。
 するとそこには……。
『……再活性を……』
 その瞳をギラリと輝かせた無機質な仕込み杖を持った男の姿。
 ネズミの鳴き声が耳に入ったか、ゆっくりと此方を振り返る其の男に、紅閻が皮肉げな笑みを浮かべて。
「ご苦労なことだな!! 其の爆弾は俺達が既に解体させて貰ったぞ!!」
 叫びと共に、ルカとガイに咄嗟に指示を出し、自らも篁臥に跨がり突進。
 月の聖霊・瑠華がその手に具現化させた錫杖に自らの息吹を掛ける。
 吹きかけられた息吹と共に解き放たれるのは、月光を思わせる槍の如く鋭い鏃。
 放たれたそれに貫かれ、一瞬動きを止める其の男に篁臥が咆哮と共に肉薄し、其の爪を突き立て敵を仕留める。
 同時に……。
「……紅閻。まだ来る様じゃのう」
 祥華の思念が紅閻に届き、傍を走っていたネズミが再び忠告の鳴き声を上げる。
 其れを聞いたのだろう。
 暁音が、紅閻さん、と静かに呼びかけた。
「クレインを援護に……」
「いや、天星。寧ろクレインの群体を更に個別に分けることは出来るか?」
 瞳を輝かせつつ、姿を現した数人を肉眼で捕らえた紅閻が、祥華を通して伝えられた暁音の思念にそう返すと。
「……出来る。確かに其の方が良さそうだね」
(「この影朧達を分解し、この場で捕縛して、情報を得るためにもね」)
 共苦の痛みとは別に、クレインをより細かく操作するが故の鋭い頭痛を感じながらも暁音は其れを見せず紅閻に首肯の念話を返した。
「ならば其れで十分だ。何……俺にはルカも、ガイもいる。この程度の数ならば十分対応できるからな」
「分かった。クレイン群体……分裂開始……!」
 星具シュテルシアをゴンドラ舟の底に固定し、自らの立つ寄辺代わりとする暁音。
 明らかに過剰なクレインの利用の仕方に気がついた祥華が仕方ないのう、とばかりに溜息を漏らしつつ暁音を支え。
(「妾の識神や、天星のクレインの目すらも潜り抜ける程の猛者、と言う事か。さて、如何したものかのう……」)
 と考える様な表情を見せる。
 先程まで涼を取っていたとは思えない程の暑さ……無論、気温や湿度が変わったのではない……を感じつつ、渇いた唇を軽く舐めた。
 そんな祥華と暁音の様子に只ならぬものを感じ取っているのか、船頭の表情にも不安が滲みだし始めている。
 とは言え、そんな船頭の不安に今は気を回してやる余裕はない。
 敵も其処までの余裕がない程の強敵なのだ。
(「さて、困ったのぅ……影朧の中でも“妾”達の目を出し抜ける程の相手じゃ……となると、妾も出るべきかのぅ……?」)
 そこまで思考を進めたところで。
 ちらりと顔色を青ざめさせている暁音の様子を見て、いや、と軽く頭を横に振る。
(「どうにも天星がクレインを使いこなすには、相応の代償を払わねばならぬ様じゃ。クレインの存在を気取られ天星が狙われれば、妾達の動きは制限される。少なくとも、スラム街の一般人の避難は難しいじゃろうな。となるとやはり此処は……」)
 そこまで思考を進めたところで。
 祥華が竜胆達の後を追わせるべく傍を舞っている白桜と、亀の甲羅を思わせる『器』玄武の封印を解放。
 白桜がふわふわと綺麗な羽根の粒子を地面に零しながら竜胆達の居る方角へと舞い、玄武が潜行して白桜に付いていく。
(「さて、妾達の役割の為に、次にするべきは……」)
 そう思考していた祥華の様子を見て。
「あ……あの……」
 と戸惑う様な表情を見せた船頭にすまぬが、と幾何かの金子を握らせ告げる。
「スラム街まで妾達を此で案内して欲しいでありんす。此は前金でありんす。きちんと正式な報酬は帝都桜學府から出るでありんすからな」
 告げられた祥華の其れに。
 渋々と言う表情で船頭が従い、ゴンドラ舟の舳先を、スラム街の方へと向けた。


「ガイ! 薙ぎ払え!」
 紅閻が現れた数人の敵に向けて、銀の双翼羽ばたかせしワンピース姿の少年……銀双翼・剴に命じるとほぼ同時に。
 その大鎌に漆黒の闇を纏ったガイが、雄叫びと共に其れを一閃。
 その一撃が胴と腰を真っ二つに引き裂き、瞳を輝かせた一体を引き裂いた。
 暁音に残されたクレインの一部が、まだ微かに息のある其の個体を止血し、素早く彼等の体の調査を開始。
 そうしている間にも2体目の敵が月聖霊・瑠華の魔力の刃によって串刺しにされ力尽きている。
(「後、2体、か」)
 思考しつつ、跨がっていた篁臥に漆黒の残像を生み出させて肉薄、3体目の喉元に喰らいつき其の勢いで薙ぎ倒した。
 其の刹那……最後の1体が瞳を輝かせて仕込み杖を抜刀。
 紅閻と篁臥の背後から無限にも等しい斬撃の舞いを繰り出そうとしたその瞬間。
 側面から無数の水が迸り、最後の一体を横薙ぎに切り裂き、微塵切りにした。
「……援軍か?」
 紅閻の呟きに応じる様に現れた砲頭を抱えたまま3体の黄巾力士が頷いている。
「天星。解析の方は?」
 人心地付いて軽く肩の力を抜く紅閻の問いに、敵の解析をクレインで行った暁音が息を漏らして祥華経由で念話で返した。
「こいつら……解体された爆弾を再活性化させるだけの技術と能力は持っている様だね。後、肉眼でなければ俺達が捕らえられない結界術を張っていた様だ」
「そうなのか? ならば俺と藤崎の動物達にならあの時、補足出来た筈だが……」
「そこは特殊な塗料と隠密術で、と言った所だね。その隠密を解いたからこそ、多分灯璃さんだと思うけれども、其のネズミは捕らえれた。ミハイルさんが見つけられたのは、それだけ遠くからの監視を徹底していたからだろう。もしやっていなければ今頃竜胆さんは撃ち抜かれていたかも知れない。無論、口の中に毒を仕込んでいるし、この部隊は、体内に爆薬を仕込んでいたみたいだ。この水の街を消滅させられる規模の爆発の準備とか……用意周到が過ぎる位だよ」
 呟く暁音がクレインの一部を使ってそれらの全ての危険因子を除去。
「カミサマ。他の奴等との情報共有は任せられるな?」
「無論じゃよ、白夜。寧ろ今の話を聞く限り、天星には解体と除去に専念して貰う必要がありそうじゃのう。妾が一肌脱ぐしかあるまい。白夜、おぬしは……」
 念話で割り込み頷く祥華に俺は、と紅閻が頷き返す。
「白梟を護衛に置いているが、何処から敵が湧いて出てくるか分からない以上、竜胆の護衛の手は多い方が良いだろう。だから竜胆達に合流する。カミサマは引き続き」
「うむ、妾は背面を取れる様に動くからのう。一先ず戦場でな、白夜」
 告げて念話を切る祥華に頷きつつ、紅閻が素早く篁臥の首を叩いた。
「急ぐぞ、篁臥。……一刻も早く、竜胆達のもとへ!」
 その紅閻の呼びかけに。
 篁臥が嘶き、地下水道を後にする。
 其れを追う様に、冬季の黄巾力士隊もまた、別途活動を再開した。


「ふむ。ある意味では僕達の推測通り、と言う訳ですか」
 祥華達の念話の一部を、先程呼び出した五感を共有した白鷲が耳にした所で術を解除しながら。
 神城・瞬が小さく納得した様に呟く其れにそうですね、と真宮・奏が頷き返す。
 表通りの広場でのパフォーマンスを終え、其の後片付けをしながらの奏のそれに、そうだね、と真宮・響が首肯した。
「アタシ達の事は、然程気にしていなかったみたいだからね。まあ、あれだけ大規模な護衛が付けば、当然ながらその目は其方に向けられるだろうさ」
「はい、そうですね母さん。少なくともスラム街に集まっている連中は、私達家族はノーマークと見て良いでしょう。……まあ、祥華さんや紅閻さん、暁音さん達が結果として大規模な陽動になってくれた、とも言えますが」
 そんな奏の言の葉を裏付けるかの様に。
 空中からポトリ、と一枚のまるまった紙が落ちてくる。
 今にも風に吹かれて何処かに行ってしまいそうなそれを、六花の杖の先端から放出した魔力で誘導した瞬がキャッチ。
 その紙……実は冬季の式神……が、ぱっ、と小さな人形をとって瞬の掌に。
「私は別働隊として自由に動きますが一応報告だけさせて貰います。恐らく貴方方の事は気付かれていない……少なくとも厳重警戒対象からは離れているでしょう」
 伝言の様にそれを伝えた式神が、パン、と弾けて消える。
 冬季の式神からの連絡内容に瞬が頷き、となると、と響が小さく呟いていた。
「アタシ達が出来る事は簡単だね。竜胆達を囮にした伏兵。更に言ってしまえば、それだけ他の奴等に目が向けられている分、一般人を守る事が出来るのはアタシ達だけって事でもあるね」
「そうですね。ではいつまでもこうしているわけにも行きません」
 呟き、六花の杖を構え直す瞬。
 使い魔朔は、今、瞬の肩にはいない。
 恐らく竜胆達の方へと向かったであろう、自分達を一瞬監視していた相手の追跡を懸命に行っている。
 朔の事はやや気掛かりだが、此処でのんびり待っている訳にも行かない。
 その瞬の想いを汲み取ったのだろう。
 決然とした意志を称えた紫の瞳で奏が頷き、続けて響が改めて腕捲りをする。
「奏と瞬は後ろから付いておいで。アタシが先行するからね。それと2人とも、スラム街に突入したら周囲への警戒……特に一般人に対しての警戒を怠るんじゃないよ」
「はい、母さん」
 響の其れに頷く奏。
 瞬は響が何気なく告げた言葉の意味について、一瞬その意図を汲み取りきれず微かに訝しげな表情を浮かべたが、程なくして頷いた。
(「これが一般人を守る為、と言う意味での警戒なのか、それとも一般人そのものへの警戒なのかは分かりませんが……」)
 考えていても仕方ない。
 そもそもこの手の隠密は、義母である響に一日の長がある。
 ならば其れに従い共に歩むのもまた、家族への信頼の証明となり得る。
 故に、瞬は響と奏の後に続いて表の広場を後にした。


 程なくして一本の薄くらい線の様に細い道を見つけた。
 その細道を警戒しながら響が真っ直ぐに進んでいくと。
「おい、何なんだよ、騒々しいなぁ……」
「やれやれ、アイツらが来てからこの街はおかしくなる一方だぜ。さっきもこの酒を金代わりに、男を1人、合法阿片の栽培地帯の方へと案内してやったが……」
 男の2人組が酒を肴に愚痴っている様子が見える。
 先程の冬季が陽太から受けたという連絡にあった合法阿片栽培地帯……其処に案内した男と其の知人、と言った所か。
 物騒なことが起きている事実に身を震わせながらも話に夢中な彼等の様子を、響が眉を顰めて見つめていると。
 ――フワリ。
 と怪しげな風が靡くとほぼ同時に……。
「っ! おっと、好きにはさせないよ!」
 陽太を案内した男の背後に音もなく忍び寄ったインバネスコートの男に肉薄した響がブレイズブルーを突き出す。
 青白く光り輝く槍が、其の男を貫き、男はそのまま声を立てる暇も無く力尽きた。
「……えっ?」
 突然後ろで起きた何かに驚き、男が其方を振り返ろうとした、刹那。
 何かが風を切って空間を断ち、男の首を切断する鎌鼬が放たれようと……。
「させませんっ!」
 奏が飛び込んで、エレメンタル・シールドに炎の精霊を纏わせそれで受け止める。
 ――ジャストガード。
 間一髪受け止めた真空の仕込み杖の横凪ぎの一閃。
 奏が其れを受け止め、自らの周囲に111本のブレイズセイバーの模造品を展開。
 炎の精霊纏いし炎剣は、複雑な幾何学紋様を描き出しながら、その衝撃の一閃を解き放った敵を貫き、或いは切り裂き焼き尽くす。
 そのまま体を焼き尽くされ、倒された男と、更に周囲の街路から飛び出す様に。
 インバネスコートと山高帽を風にはだけさせながら肉薄してくる複数の影にギリリッ、と奏が歯軋りを一つ。
「数が多いですね……兄さん!」
 エレメンタル・シールドを地面に避雷針の様に突き立て更に111本のブレイズセイバーの模造品を結界の様に展開する奏。
 炎の壁と化した剣の守りに向けて其の手の六花の杖を地面に叩き付ける瞬。
「いきますっ……!」
 ――カン。
 鋭い音と共に、炎の結界に重ね合わさる様に月読みの紋章が空中に浮かび上がりそれらを護る盾とする。
 其れによって動きを阻害した瞬間を狙って、瞬が、六花の杖の先端を突きつけ、そのまま何かを準える様に回転させた。
 其の回転と共に、地面に無数のアイヴィーと藤の蔓が奔り、更に空中にはヤドリギの枝が踊る。
 放たれたアイヴィーの蔓に両足を、藤の蔓に仕込み杖を絡め取られた彼等の胸に突き立つヤドリギの枝。
 そうして身動きが出来なくなった彼等にブレイズブルーを横一文字に振り払い、戦場全体に向けて青き光の衝撃波を叩き付ける響。
 放たれた刺突の衝撃波が男達を串刺しにし、そのまま地に倒れ伏せさせた。
「アンタ達、大丈夫かい!?」
 彼等が倒れた瞬間に詰めていた息を吐き出しながらの響の問い。
 何が起きているのか訳が分からぬまま、怯えて身を縮こまらせていた酔っ払い2人がガクガクと必死に頭を縦に振った。
「お2人とも、此処はこれから戦場になります。私達が来たあの道には、彼等はいません。直ちに避難して下さい!」
「で、でもよぉ……あっちは表だぜ? そんなところに俺達が出たらあいつら……」
 奏の鋭い指示にビクリ、と身を震わせた男の問いかけに、瞬がでは、とやや鋭く切りつける様な口調で問う。
「此処で怯えて身を縮こまらせて、僕達がいなくなった瞬間に殺されますか? 何時殺されるとも分からぬ不安にずっと怯えたまま此処に居るつもりなのですか?」
「そっそれは嫌だけどよぅ。でもよぉ……」
 何か後ろ暗い所でもあるのだろうか。
 尚も躊躇う表情を見せる男に良いから! と響が叫びを上げた。
「とにかくさっさと表の街に行きな! 其の後のことはそれから考えるんだよ!」
「ち、畜生分かったよ! おい、行くぜ!」
 響の怒声に半ば自棄になった様な感じでヤケクソ気味に叫んだ2人の男が、響達が現れた道へと小走りに駆けて避難していく。
 その様子を見ながら、奏が軽く溜息を吐いた。
「……この街の情勢については詳しくありませんが……スラム街と表街の間に確執の様なものがあったのかも知れませんね」
「予め裏を取っておいた方が良かったかも知れないね。まあ、其処まで考え出すとキリが無い。先ずは一般人の護衛と避難、それから敵の本体への奇襲が先だよ」
 奏に軽く首肯しながら告げる響の其れに、瞬がそっと溜息を一つ漏らした。
(「……いずれにせよ、何とかするしかありませんね」)
 そんな、一抹の不安と共に。
 目立たない次の道を先行する響を追って、奏と瞬が駆け出した。


「……スラム街となると、何処から襲撃を受けるか、正直予想できませんが……既に彼方此方で戦いは始まっている様ですね」
 スラム街に入り込むや否や。
 愛銃G19C Gen.4の撃鉄を起こし、構えて様子を見ながら竜胆の隣に立つネリッサ・ハーディの其れに。
「はい」
 とJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioの向こうで生物達の目を借りて、混沌とする戦局の情報の把握に努めていた灯璃が険しい表情で頷いている。
 灯璃は現在、ネリッサ達とは別行動。
 遊撃手兼、狙撃手へのアシスタントの意味がこれにはしっかり兼ねられていた。
「暁音さんからも連絡が入った。クレインで一部敵部隊のサンプルの入手に成功したそうだ。とは言え此は相当危険だぞ。正直此処まで徹底するか!? と言う位にな」
 灯璃と同様、困惑と動揺を滲ませながらの藤崎・美雪の其の呟き。
 その間にも竜胆を狙って瞳を輝かせた男が、インバネスコートと山高帽子を風に靡かせ高速で肉薄。
「やれやれー、此処まで徹底して狙ってきますかー。まあ、それならそれでやりようはありますけれど-」
 とのほほんとした笑みで竜胆の影に潜ませていた陰海月『ぷきゅ』が飛び出し薄水色の結界を張り巡らすのを見つめる馬県・義透。
「……光と影。水の街の、表と裏。……此処が、影の、部分、なの、でしょうね」
 その義透の頑張っている『ぷきゅ』の薄水色の結界に重ね合わせる様に。
 曇り一つ無い純白の小さく、馨しき香を纏う幻想花、金木犀の名を抱く杖の先端から、緋の憂い宿せし赤き幽世蝶を羽ばたかせるは、神宮時・蒼。
 赤と琥珀色の自らの双眸と同じく、赤いかの幽世蝶が美しく儚き哀しみを想わせる緋の鱗粉をヴェール状にばらまき結界とする。
 放たれた緋の憂い宿す鱗粉と『ぷきゅ』の結界が重なって、辛うじて、竜胆に届きそうになった仕込み杖の一閃を受け止めるが。
 ――ギラリ。
 まるで其れを嘲笑うかの如く、死角……上空から迫っていた男の瞳が怪しく輝き、其の仕込み杖を抜刀しながら、鞘を投擲。
 竜胆の頭上から投げつけられ、今にも竜胆を頭部から貫こうとしていた其れを。
「くっ……やらせないわよ!」
 その瞳を真紅へと塗り替え、轟と、血の涙による線を曳きながら肉薄した彩瑠・姫桜が二槍を風車で回転させ、暴風と共に其れを叩き落とし。
「あっちこっちから湧いて出てきやがる。まるで密にたかる蟻だな、こりゃ!」
 ミハイル・グレヴィッチが音もなく笑いサイレンサー付きSV-98Mの引金を引いた。
 竜胆のやや離れたところに位置を取り、敵の死角となる場所から放たれた其の銃弾が、横合いから男を撃ち抜き、地に伏せさせる。
 痙攣しながらも握りしめた刀を放さず竜胆を切ろうとする其の男の足元から生えた鋭利な氷の刃が其の心臓を貫き息の根を止めた。
(「スラム街に入る否や、この猛攻……此方が竜胆さんを守っていると分かっている分、敵もそれだけ戦力を集中させてきますか……!」)
 このままでは敵味方の識別がまともに出来なくなる乱戦状態に陥りかねない。
 自らの放ったIce Blastで貫いた敵の姿を見ながら、ウィリアム・バークリーが思わず臍を嚙んでいた。
(「せめて『ビーク』を呼び出す暇が出来れば、空中戦に持ち込んで幾分か楽になる筈なのですが……!」)
 胸中でそう思い、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、大地に幻獣グリフォンを召喚する魔法陣を描こうとするウィリアム。
 だが、まるでそうはさせじとばかりに、スラム街の家中から飛び出してきた男が仕込み杖を振り回す。
 振り回された仕込み杖から解き放たれた戦場を震撼させる波に飲まれて、周囲の建物が崩落しそうになるのを……。
「くうっ……! 其れはさせられません!」
 朱雀門・瑠香が呻く様に言葉を叩き付けると同時に、物干竿・村正を抜刀。
 抜刀と同時に戦場全体の空気を震撼させる音の衝撃波を生み出して、敵の衝撃波と相殺させて辛うじて最初の崩壊を食い止める。
「この街や民の事なんてまるで考えずに私達と竜胆さんを纏めて葬ろうとか……私達、どれだけ嫌われているんですかね、これ……!」
 舌打ちしながら、次の攻撃に備えて大地と水平に物干竿・村正を構え直す瑠香。
 だが、その時には別の敵個体が、まるでその動きを呼んでいたかの様にしなやかな足取りで仕込み杖を回転させながら肉薄。
 遠心力で鞘がプロペラの様に回転しながら飛び出し、それがスラム街の廃墟の一端に突き立った。
 その先の巨大な屋根が衝撃で崩れて、そのまま瓦礫と化して竜胆たちを生き埋めにしようとする。
(「くっ……、流石に間に合いませんか……!」)
 G19C Gen.4で其れを撃ち落とそうとするネリッサの内心の焦りの呟き。
 その間にも肉薄してくる敵の銀の凶刃が、今にも竜胆を切り裂かんと……。
「おおっと、そうはさせないぜ!」
 その刃による一閃を、宵闇の中で一際淡く輝く色彩の光を放つ大鎌『宵』で受け止める統哉。
 割り込む様に飛び込んできた統哉の目前には、ギリギリ統哉が展開したクロネコ刺繍入りの緋色の結界の姿。
 けれども、不安定な結界を見て、山高帽を脱ぎ捨てた男の刀速が跳ね上がり、結界をこじ開けようとした瞬間……。
「……文月様……!」
 雨に薫る金木犀の先端の宝玉を煌めかせた蒼が、天へ祈る幽霊花を羽ばたかせ、緋の憂いを重ねがけして辛うじてその攻撃を防御。
 その瞬間、統哉が右足を踏み込んで力任せに敵をよろめかせ。
 その隙を狙った義透が漆黒風を投擲する。
 投擲された其の黒刃が男の眉間に突き立ち、そのまま男が仰け反り崩れ落ちるのに冷汗を一つ垂らす。
(「悪霊として不運を押しつける暇さえ貰えないなんて、恐ろしい話ですねー」)
 とは言え、まだ殆ど全員がユーベルコードを発動していない。
 其れを使う暇を与えて貰えず、この第一波自体が軽い手合わせという状況なのだ。
 そんな状況の中で竜胆と護衛の中心、統哉・姫桜・ネリッサを今にも押し潰そうとする土砂崩れ。
 あわや飲み込まれそうになった、その瞬間。
「局長様、遅くなりまして誠に申し訳ございませぬっ! SIRD所属、ラムダ・マルチパーパス三等兵、増援要請に応じ只今参着仕りましたっ!」
 蒼穹の旋風に覆われる様にして。
 現れたのは、試作多機能戦闘ドロイド(AI的には女性型アンドロイド)
 複合式多機能カメラセンサー・システムのセンサーで状況を把握した彼女は、抑揚の無い機械音声を上げた。
「……戦闘モード起動。護衛対象及び敵を確認。護衛対象の安全を最優先コマンドにて実行。マルチセンサー戦況感知。対象(オブジェクト)、生体反応、脈拍・呼吸音共に異常なし。落下物危険度120%……」
 プログラムの如く抑揚無く読み上げられるその言葉の羅列に応じる様に、彼女の電磁複合装甲の表面が電磁波を発する。
 そのまま電磁石の様に其れを発しながら、彼女……ラムダ・マルチバーバスは、最後の起動プログラムを一気に読み上げた。
「オールグリーン。セーフティー解除。起動、モード・ツィタダレ。対象(オブジェクト)護衛任務を完遂致します!」
 其れまでの抑揚の無さから一点、唐突に弾んだ声を張り上げて。
 自らの電磁複合装甲の表面を高密度電磁防御フィールド展開状態に変形させて、其の電磁磁石でそれらの落下物を寄せ集めるラムダ。
 そのまま、ふん、と鼻息荒い音を立てて電磁石に集まった瓦礫の塊……鉄塊を引っぺがして、敵の方へと投げ飛ばした。
 立て続けに右腕の機銃MkⅦ スマッシャーを乱射して鉄塊を撃ち抜き破砕させ、男達を生き埋めにして、その場に着地。
 傍に落ちてくる様に着地したラムダの異形な姿を見て、流石の竜胆も微かに一瞬たじろいだかサングラスをズレ掛けさせるが。
「ご安心下さいませ、竜胆様。お噂は局長様よりかねがね聞いております」
 とその背後に現れた女性型ホログラムアバターの流暢な説明に、直ぐに気を取り直したか、分かりましたと頷きを1つ。
「ラムダさん、間一髪でしたね。お陰様で助かりました」
「局長様。とんでもございません! わたくしめも少しでもお力になれればと重い足を引きずって此方へと参りました所存にございます」
「重いのか、その足は!?」
 何か色々間違った発言をした気がするラムダの其れに条件反射的に突っ込む美雪。
 けれども竜胆の方は其れを冗談だと受け取ったらしく、その場で穏やかに一礼。
「御礼を述べさせて頂きます、ラムダさん。SIRD……Specialservice Information Research Department……異世界の特務情報捜査局の事は存じておりましたが、あなたとお会いするのは初めてでございますね」
「竜胆様は私共の事をよく存じていらっしゃるのですね。光栄な話でございます」
 敵の侵攻が止まった束の間を使って、情報のやり取りを行うラムダと竜胆。
 その間に、ウィリアムが大地に幻獣グリフォンが中央に書かれた魔法陣を描き出し、どうにか召喚態勢を整えた。
「頼むよ……『ビーク』!」
 其の叫びと、共に。
 鋭い嘶きと共に強靱な肉体を持つ白き一対の翼を持つ幻獣『ビーク』がその姿を現し、ウィリアムが素早く其れに跨がった。
「……バークリー様」
 蒼の呼びかけと同時に自らを見上げるその姿を見下ろして。
「今の内に少しでも態勢を整えないと……ぼくは屋上から行きます。流石にこの状況では厳しすぎますので……!」
 告げつつ翼を翻し飛翔する『ビーク』の起こした砂埃に塗れて軽く涙を目尻から流しながら、統哉が竜胆さんと呼びかける。
 砂を洗い流すべく零れた涙で滲んだ瞳の向こうには、何が起きたのか分からずパニックを起こす人々の姿。
 或いは先の戦いの激しさからであろうか。
 絶望に身を委ね全く動けずにいる者達が居るのも認めて、統哉が首を傾げた。
「スラム街の人々は、貴方の守るべき人々に含まれるのかな?」
 その統哉の問いかけに。
 竜胆がサングラスの奥に光る瞳を鋭く光らせ……小さく、しかしハッキリ頷いた。
「そうで無い理由がございますか? 私よりも其方を優先して頂きたい程です」
 その竜胆の呟きに。
 だよね、と統哉が微苦笑を零して頷いた。
「優先順位を付けるのは、行使できる力に限界があるからだろうしね。ならば、俺達が、其の限界を超える力になってみせる。だから……行こう」
 その統哉の言の葉と、共に。
 統哉がその手に持つ暁……懐中時計型の魔導蒸気機械から、着ぐるみ型、防衛特化型甲冑を召喚する。
 この場に少々そぐわぬ着ぐるみ型縫いぐるみに、流石の竜胆も目を瞬いていた。
『統哉さん。此方は……?』
「ニャハハッ! これは俺特製の着ぐるみ型防衛特化型甲冑! AIが回避行動をアシストしてくれる上、防水防塵で水中移動も可能。クロネコ刺繍入りオーラ防御に覆われたもふもふの外殻は、衝撃を吸収し攻撃を通さない! そんな特製ガジェットを竜胆さんにプレゼント!」
 何故か、灰色クロネコ型のスーツに美雪などは突っ込みたくてうずうずしているが、取り敢えずそれで身を守る点は一応頷いて。
 竜胆が其れを衣服の上から羽織りつつ、其れでは皆様、と静かに告げる。
『私よりも優先して、スラム街の人々を1人でもお救い下さいませ。どうぞ宜しくお願い致します』
 何となく諦観と疲労感を滲ませた竜胆の其れに。
「Yes、サー」
 とネリッサが短く応答を返したその瞬間。
「……目標確認」
「奴を殺せ」
「姫君への手土産を」
 ――そして。
『我等が同胞を、産み殖やせ』
 不吉な予兆の様な声音と共に。
 再び彼等が攻撃へと転じたのだった。


(「……この空気、何処か、重い、空気、何が、起こるか、分かり、ませんね……」)
 其の不吉な言の葉の様な何かが風に乗って流れていくのを聞きながら、蒼が赤と琥珀色の色彩異なる双眸を鋭く細める。
 それは、首筋にピリリ、と走る様な、そんな感覚。
 彼女の持つ第六感……其れがこの先に起こり得るであろう危険に気をつけるよう、蒼に注意を発していた。
「モード・ツィタデレ、システムダウン。一先ずこの場を移動することを皆様にわたくしめが提案させて頂きます」
 そう告げたのは、自らの複合式多機能カメラセンサー・システムで検知した状況を解析したラムダ。
「……Was nicht ist, kann noch werden.そうですね。彼方此方に敵が潜んでいるこの戦況、竜胆氏を移動させながら戦うのは悪くありませんかと」
(「地の利は敵にありますが……かと言って、あの第一波を退けた以上、このまま留まれば先程以上の戦力が集結してくるのは間違いありませんしね」)
 内心でそう結論づけつつ、近くの蟲の目を借りて、廃墟から廃墟へと音もなく移動する敵を見つけながら。
 灯璃が作り出した弱装手榴弾及び照明弾を投擲。
 ――カッ!
 建物の中で目も眩まんばかりの激しい閃光と爆発が巻き起こり、竜胆達の前に回り込もうとしていた敵部隊を一時的に無力化……。
「……っ!? インバネスコートに山高帽……変り身の術ですか!?」
 ハラハラと手榴弾の爆発に飲まれて散り散りになった衣服を、死ぬ間際の蟲の目で見て思わず息を呑む灯璃。
 灯璃の側面の壁上を這う様に、目に見えない速度で肉薄してきた数体の敵に……。
「甘いねっ、其処だよ!」
 勇ましい雄叫びと共に、青白く大気を振動させた波の様な刃が放たれ、数人の敵が灯璃に辿り着くよりも前に壁に強打され。
 そこにアイヴィーと藤の蔓、そしてヤドリギの枝が複数本広げて襲いかかり、彼等を纏めて縛り上げ。
「騙し討ちに次ぐ騙し討ち……とんでもない戦いですね」
 バックステップで後退した灯璃が溜息と共に、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引いた。
 セミ・オートライフルから音も無く撃ち出された2発の弾丸が、瞬のアイヴィーと藤の蔓、ヤドリギの枝によって縛られた敵を纏めて撃ち抜く。
 そうして敵が地に伏せるのを確認してから、灯璃が其方を振り返り敬礼する。
「助かりました、響さん、瞬さん。……そう言えば、奏さんは?」
 そう灯璃が問いかけるが、直ぐにその姿が何処にあるのかを確認し、ああ、と納得の首肯。
 奏は、少し離れた所で震えていた孤児と思しき子供達を守る様に、エレメンタル・シールドで紅の結界を展開していたから。
「一般人の護衛でしたか。気がつかずにすみません」
 状況を確認した灯璃が頷き、周囲の蟲やネズミ等の小型生物の目を借りて、周囲の敵が居ないのを確認した後、JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioでネリッサに連絡。
「局長、其方の状況は?」
 問いかける灯璃にネリッサが周囲への厳重警戒を厳にし、小さな結界石を何時でも放たれる様、仕込みながら素早く答える。
「一先ず、一時的な膠着状態と言った所でしょうか。とは言え、束の間の休息でしょう。攻撃が途切れているこの間に、場所を移動しようという提案が出ています」
「Yes、マム。……ですが行先に伝手はあるのですか?」
 その灯璃の問いかけに。
 それは、とネリッサの通信機を通じて、統哉が返事を返した。
「此処から更に奥にある合法阿片の実栽培地帯だね。先にスラム街を調査していた陽太の情報が敬輔経由で俺達に送られてきている。どうやら、元々労働力としてこのスラム街の人々を雇っていた合法阿片の実栽培地帯に影朧達が居を構えていたみたいなんだ」
 告げられた統哉の其の言の葉に。
「待って下さい。合法阿片の実栽培地帯を居に構えている、と統哉さん、言いましたよね?」
 何かに感づいたか『ビーク』に騎乗し、冬季と黄巾力士が上空から戦況を監視しているのを見ながら、ウィリアムが思わずと言った様に問いかける。
 その間にも黄巾力士達が、地上に居るスラム街の人々を3体1小隊で避難させる様子を見つめながら。
「ああ。……ウィリアムも同じ事を思うか」
 ウィリアムの緊迫したそれに対する、統哉の返事も苦い。
 その統哉の返事の苦さに、ラムダの女性型AIホログラムが姿を現し、わざとらしく小首を傾げて見せた。
「あの……統哉様。わたくしめは竜胆様達のお噂はかねがねお伺いしておりますが、状況が今ひとつ飲み込めぬ状況です。合法阿片の実栽培地帯に敵が居を構えていることに、何か不都合なことがございますのでしょうか?」
「……待て、統哉さん、ウィリアムさん。もしかして、あなた達が気に掛けているのは……人為的に影朧を作るグラッジパウダーのことか?」
 美雪が息を呑んでそう聞くのに、統哉とウィリアム……そして黙って着ぐるみを着たまま話を聞いていた竜胆が静かに頷いた。
『成程。私を狙う理由については想定しておりましたが、街の住民全体の影朧化の可能性迄は想定していませんでしたね。この私としたことが、失念しておりました』
「そう言うことです。万が一、グラッジパウダーを水路に投げ込まれれば大変なことになる……! しかも合法阿片の実を栽培する地帯ならば十分其処が水源に……!」
 焦った表情で呟くウィリアムの其れに顔を青ざめさせながら、でも、と姫桜が思わず声を上げた。
「そ、そんなに簡単にグラッジパウダーって量産できる物なの?! 前回花蘇芳さんが持っていた物だって紫陽花さんの形見とかそう言うものだった筈じゃ……!?」
 と姫桜が思わず叫び声を上げるその間にも。
 竜胆が無表情の儘に、護衛を受けながら前へと進んでいく。
 前進する竜胆を見て、義透が竜胆殿、とのほほんとした口調で呼びかけた。
「竜胆殿は、この黒幕に心当たりがあるようですねー? 一体どの様な相手なのか、教えて頂く事は出来ませんでしょうかー? ……私達も、紫陽花殿の一件から関わり始めましたから、流石に無関係ではないのですよー」
 そう義透が告げるや否や。
 軟体生物上の陰海月『ぷぎゅ』が竜胆の影から薄水色の息を吹き出して、其の周囲に結界を張り巡らしていく。
 気がつけば、義透……竜胆達の背後に忍び寄る様な影が肉薄し……。
「……っとと、どうやらギリセーフ、と言った様な状況でありんすな?」
 間延びした様な、そんな口調と共に。
 彩天綾を優美に翻し、スラム街の屋根から空中散歩をするかの様な気軽な足取りでワンピースの祥華が姿を現して。
『レソ・ニーヴェオ・ディスグラーツィア・ズヴァーチ・ヘイ・リヒト・ザラーム・インベル・セイクリッド・オア・ダークネス』
 祈りの言の葉を詠唱すると同時に、酸を含む白き雨が、バックスタブを狙って竜胆に迫る敵の背に降り注いだ。
 まるで影から姿を現す様にして現れた、瞳を輝かせる彼等の背が酸の雨に焼かれて爛れた其の一瞬をついて。
「次のポイントを探すのに手間取っちまったが……Начать съемку(射撃開始)」
 低く唸る様な声と共に、サングラス越しにSV-98Mのスコープを覗き込んでいたミハイルが引金を引くと、SV-98Mの銃口が火を吹いた。
 祥華の影に隠れる様にして、スラム街の屋上に身を潜め、匍匐態勢を取っていたミハイルの弾丸が敵を撃ち抜きその場で崩れ落ちさせる。
「次から次へと……。ま、獲物に不自由しないから構いはしねぇが」
 と鮫の様に笑いながら、懐の煙草に手を伸ばそうとするミハイルに。
(「……煙草の煙で目撃される可能性があるよ、ミハイルさん」)
 と舟の操艦を星の船の船内スタッフ達を緊急出張させて任せ、クレインで状況を見た暁音が溜息をつきつつ軽く無言で窘めると。
「まあ、酒も煙草も程々が肝心でありんすからなぁ」
 何となく其の暁音の心の声を読み取ったか念話をミハイルに繋げた祥華がしみじみと呟くのに、おっと、とミハイルが肩を竦めた。
「ったく、お堅いこって。まっ、言われるまでもねぇな。洒落だよ、洒落」
 と本気なのか冗談なのか分からない思念を浮かべて返すミハイルの其れに、暁音が軽く頭を振りながら。
 星具シュテルシアでクレイン達を誘導、祥華に其の背を焼かれミハイルに撃ち抜かれた敵の体を解体し始める。
 そのままダルマの様にして暁音が拘束するその間にも、敵の攻撃は続いていた。
 ――ギラリ、ギラギラ。
「キュィィィィィィィッ!」
 周囲から不躾に投げつけられる視線に気がついた瞬の朔が嘶きを上げる。
 朔からの警告の鳴き声を聞いて。
 見た目は大型インコの白梟が、巨大な白い怪鳥へと変貌し、左翼で瞳を輝かせる敵に白炎のブレスを吐き付け焼き払い。
「本当にキリが無いわね。これじゃあ、話を聞き出す暇も、中々ないじゃない!」
 血涙を流しながらぼやく姫桜。
 その姫桜の目前では、風車の様に仕込み杖を旋回させて暴風を叩き付け、スラム街を倒壊、竜胆達を生き埋めにしようとする敵の姿。
 だが……。
「流石に2度、3度と同じ手を使われれば……!」
 ヴァンパイア化の膂力を使って肉薄しながら、黒と白の輝きを伴う二槍を突き出し、その敵を屠る姫桜。
 胸から背中までを突き通す勢いで二槍を突き出した姫桜のその一撃に頽れる様に覆い被さる其の男の後ろの敵に。
「此方も相応に対応はしますよ」
 ネリッサが指弾の如く小さな結界石を弾き出し、姫桜が貫いた敵の後方の敵を打ち倒すとほぼ同時に。
「ウォォォォォォォォォォーン!」
 猟犬でありながら、其の忌まわしくも不気味な外形故に、その様に思える生物が顎を開いて、仕込み杖毎敵を噛み砕いた。
 眼前の敵を殲滅するその間に、壁を滑り走る様にしながら仕込み杖を抜刀態勢に整える敵達には。
「……竜胆様や、皆様を、やらせ、ません……!」
 其の手の白き純白を思わせる杖を振り抜く蒼の姿。
 蒼が雨に薫る金木犀を振り抜くや否や、杖の先端から緋の憂い頂く蝶達の幼体を象った其れが現れ、呪殺弾となって敵に迫り。
 其れが次々に着弾するその間に、美雪がグリモア・ムジカをどうにか展開。
 譜面を素早く調整し、決して諦めない意志を称賛し貫くことを願う歌を奏でて、周囲に暖かな七色のオーロラ風を吹き荒れさせる。
 噴き出した七色のオーロラ風を受けた蒼が、雨に薫る金木犀に青白く凍てついた輝きを伴わせ。
「……行き、ます……!」
 決意と共に雨に薫る金木犀を横薙ぎに振り、蒼穹の様な衝撃の風を叩き付けた。
 勢いを殺されながらも、動きを止めることなく肉薄してくる彼等に向けて。
「させるものか……! 神宮時、後退しろ!」
 その声を聞いた蒼が言われたとおり、地面を蹴って後退すると。
 蒼と彼等……今にも竜胆を断ち切らんとする敵達の間に漆黒の颶風が割り込み、そのまま戦場を疾駆していく。
 疾駆と共に放たれた黒き風と其の爪が敵を斬り裂いた其の直後。
「ガイ!」
 その叱咤の声に応じた銀双翼の子供が大鎌を一閃、今にも蒼達に襲いかかろうとしていた敵を断ち切っていた。
「ルカ! 白梟の援護だ!」
 続けざまの怒号の様な指示を篁臥に跨がる青年が投げかけるや否や。
 ルカと呼ばれた月の聖霊が、月光の魔力を帯びた光線を放射状に放ち、白梟に焼かれていた敵を撃ち抜いて息の根を止める。
 その間に篁臥に身を翻させ、竜胆を篁臥の上から見つめたのは……。
「……白夜様。ご無事、で、何より、です……」
 そっと胸を撫で下ろしながらの蒼の其れに、静かに首肯を返す紅閻。
「鳴上と言ったか? あの男の式らしき、黄巾力士の隊の援護もあってな。既に天星とカミサマから連絡はしてあるが、地下の爆弾はくまなく解除、解体を完了させた」
 それからルカとガイと共に敵を振り切り、篁臥に跨がり祥華達の念話を頼りに何とか到着したのだ、と説明を続ける紅閻。
 道中、幾度か彼等に遭遇することもあったのだろう。
 体の彼方此方に斬痕や、血糊が篁臥にも紅閻にも付いているのはやむをえない。
 その紅閻の様子を赤と琥珀色のヘテロクロミアで確認する様に見つめた蒼が。
「……勇敢で、懇篤なる、戦花」
 ふ、と。
 其の双眸を静かに緩め、雨に薫る金木犀を両手に握りしめ。
 其の先端に黄緑色の花弁を纏わせ始める。
 ――其は。
「……古き叡智の、力」
 ――故に。
「……ボク等に、勇気の、施しを」
 その言の葉と、共に。
 嘗てギリシアの英雄と称されし神、アキレスの名を授けられたかの花……羽衣草(アキレア)の黄緑の花が咲き、拡散。
 黄緑の花弁と化した其れが紅閻と篁臥を包み込み瞬く間にその傷を癒す。
「さて、無関係のスラムの人間の避難は黄巾力士隊にやって貰うとしましょうか」
 其の状況を空から黄巾力士と共にその青い瞳で見下ろしていた冬季が呟き。
 35小隊に分けた黄巾力士達に、無関係なスラムの人間の安全圏への退避を最優先する様再度指示を出し。
 その上で宝貝・劈地珠を起動させ、水の街の地下及び水路を走る竜脈を探り当て、その竜脈の流れを黄巾力士隊へと誘導。
 砲頭の水刃、及び彼等の戦闘能力……特に継戦能力を上昇させて、彼等を指揮。
 水行軍たる黄巾力士の彼等は、時に水路を自力で渡り、或いは、廃墟から人々を助け彼等を戦場外へと次々に連れ出していく。
(「まあ水都を必要以上に壊させるのも必要以上に人民に被害が出るのも問題ですからね。あまり皆さん気にしていなかった様ですが」)
 とは言え、だからといって放置しておくわけにもいかないのだが。
(「私も帝都桜學府のユーベルコヲド使いの肩書きを棄てる訳にも行きませんし」)
 等と冬季が肩を竦めて胸中で独りごちるその間に。
「おい、其処のロボット」
「わたくしめの事ですか?」
 ぶっきらぼうに呼びかけた紅閻に、ラムダが自らの機械的ボディーを向ける。
 また竜胆が襲われた時に備えて高密度電磁防御フィールドを展開しているラムダに、紅閻が乗れと、篁臥の背を指差した。
「其のユーベルコードは能動的に動けなくなるだろう。篁臥の後ろに乗れば、竜胆達を纏めて守りながら機動力も確保できる」
「成程、然様でございますね。しかし私……全自立型試作多機能戦闘ドロイド……皆様の言う所のウォーマシン……ロボットなのでございますが」
「大丈夫だ。篁臥は魔法生物だ。重さなど気にもしない。良いから後ろに乗れ。そうで無いと出遅れるぞ」
 紅閻の其れにでは無作法ながらも、と女性型会話アバターのホログラムを起動させて頷き、篁臥に跨がるラムダ。
 そのまま着ぐるみ防御甲冑に身を包んだ竜胆が更に奥へと進んでいく様を見ながら義透がやれやれと溜息を漏らしている。
 その体から四悪霊……疾き者『達』が封じ続けてきた呪詛を解放する様に全身から漆黒の祟りを吐き出しながら。
(「漸く私……『我等』悪霊の力が効果を現し始めましたかー。このまま運が好転すれば、恐らく竜胆殿からもある程度の真実を聞く余裕が出来るでしょうねー」)
 期待とも、ある種の確信とも呼べる其の感情と共に義透もまた、竜胆達の後を追って、無意識に足音を殺してその場を後にした。


「局長」
 スラム街の更に奥へと進んできたところで。
 先程までの敵の猛攻が鎮まり始めているけれども、油断をせず周囲の警戒を続けていたネリッサの通信機に灯璃からの通信が入る。
「灯璃さんですね。お疲れ様です。首尾の方は如何ですか?」
「ええ、先程響さん、奏さん、瞬さんの3名の猟兵と合流し、一先ず事なきを得ました。しかし既に局長もお気づきかと思いますが、この相手は非常に厄介です」
 JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioの周波数を弄り、サイレンサー付きセミオートライフルの弾倉を取り替えながら。
 灯璃が事務的な中に微かな焦り……苛立ちの様なものを抱いているのに気がつき、ネリッサが其れは? と話の続きを促した時。
「させませんよ……Ice Blast!」
『ビーク』に騎乗し、屋根の上を移動しながら無数の鋭利な刃を氷柱の槍の様に地面へと滑り落とすウィリアム。
 足下から突き上げる様に生まれる筈の無数の鋭利な氷の刃が雹の様に地面に降り注ぎ、ネリッサの側面を突こうとした男を貫く。
 同時に其の周囲を永久凍土の地面へと変貌させ、その瞳を輝かせて立て続けに襲撃を掛けようとする敵を転倒させた。
 そこに……。
「オーライ、オーライ……狙い通りだぜ」
 口元に鱶の笑みを浮かべたミハイルが、SV-98Mの引金を引いて足をもつれさせた敵の胸を撃ち抜き止めを刺し。
 更に転倒した彼等に統哉が肉薄、漆黒の大鎌『宵』を一閃する。
 其の刃先に煌めく星の粒子の様な輝きを伴った一閃を解き放ち、纏めて敵を断ち切ったその瞬間、暁音のクレインがその体内に侵入し。
「……体内の爆発物、及び自決装備確認。解体開始……」
 鋭い鈍痛に顔を青ざめさせ、疲労からか目の下にクマを作りながら暁音が再びクレインへと意識を集中。
 そうして殺さない程度の解体を行う度に、共苦の痛みが放つ痛みが更に鋭く強くなっていくのに、嫌な予感を覚えながら。
(「この痛みと苦しみ、嘆き……。此の痛みの在り方に、俺は、覚えがある」)
 ――それは。
 と暁音がその思考を祥華達に伝えるよりも一足早く。
「……やはりこの集団、まともな指揮系統がない様ですね」
「はい。ウィリアムさんに同感です。とは言え、大分数も減ってきていますが」
 ウィリアムが通信機越しに告げたそれに、灯璃が静かに頷いた。
(「正直に言えば、狙撃兵だけで構成されている部隊と場所であれば、空爆で一掃してやりたいのですが……」)
 不幸にも此処は敵地であると同時に、一般人が住む裏街なのだ。
 流石に彼等の犠牲を厭う事無く、空爆を叩き込んで焼き殺すわけにも行かない。
 そもそも竜胆が其の作戦を承認してくれるかどうかは、彼なりの正義と統哉とのやり取りからも不可能に近いと理解している。
 だから……。
 ――パーン、パーン、パーン!
 灯璃からの報告に頷きつつ、G19C Gen.4を両手で構え、弾幕を絶やさぬ様に撃ち出し確実に敵を射止めるネリッサ。
 本来であれば十分避けられる筈の銃撃が、ウィリアムの永久凍土に転んだりして避けきれずに的確に急所を撃ち抜いていく。
 灯璃の蟲やネズミ達から得た情報を基にした敵の動きのメカニズムを解析した上でも、この状況は異常な幸運に恵まれていた。
(「まあ、其の分私……我等が封じてきた呪詛が解放されてしまうのですがー。まあ、今回は出血大サービスという奴ですよねー」)
 のほほんとした笑顔でそんな事を思いつつ義透が忍ばせていた漆黒風を投擲する。
 投擲された其れが壊れた破片を踏み砕き、竜胆を狙った敵の首筋に突き立ち其の命を容易く奪った。
「すみません、後どの位の敵の数か誰か数えることは出来ますか?」
 幾度目かの桜の花弁を思わせる衝撃波を叩き付け、周囲の地形の一部を切り崩し、其の倒壊に敵を巻き込んだ瑠香の問い。
 その瑠香の呼びかけに反応したのは、地上で戦っているネリッサ達では無く……。
 ――ガサ、ゴソ。
 と瑠香の懐に忍び込む様に潜り込んだ、一枚の只の紙切れ。
 瑠香が自分の制服のポケットに滑り込んだ其れに気がつき、懐を探って其れを持ち上げると、瑠香の掌の上でそれは人形に姿を変え。
「敵影無し、敵影無し」
「合法阿片、栽培地帯まで後少し、後少し」
「スラム街の人々避難継続、避難継続」
 と言う言葉が繰り返されパン! と弾けて消えていった。
(「ふむ……どうやら冬季さんの方で人々の避難及び残敵の処理はしてくれた様ですね。少なくない借りを作ってしまうことになりましたか」)
 同じ帝都桜學府所属の人間として胸中で静かに空中から戦況を監視している冬季に礼を述べる瑠香。
 そうして少し余裕が出来、漸く敬輔と陽太がいるであろうその場所に辿り着こうという時には、既に陽もとっぷりと暮れていた。
「スラム街に入った時は、夕暮れ時でしたが……陽は既に沈んでしまいましたか」
 呟き、小型情報端末MPDA・MkⅢのライトを懐中電灯代わりにして仮初めの灯璃を確保しながらネリッサが竜胆さん、と呼びかける。
 篁臥の背に跨がったラムダの電磁状結界及び統哉の着ぐるみで守られていた竜胆が如何しましたか? とネリッサに目線を向けた。
「そろそろ可能でしたらで構いませんが……今回の敵について何か知っているのか教えて頂けませんか? 無論、機密情報であれば無理にお話頂く必要はありませんが、貴方自らが出てきた其の理由は、護衛としてきちんと把握しておきたいのです」
 常日頃は雅人達の指揮官として、帝都桜學府諜報部を取り仕切っている竜胆。
 其の竜胆が今回に限ってこの様な行動に出た其の事実。
 其処にネリッサは、どうにも釈然としないものを感じていた。
 そのネリッサの呼びかけに。
「ええ……そうですね。そろそろお話ししておくべきでしょう。……グラッジパウダーの件もありますからね」
 呟く竜胆の其れに、何かを抑える様な声音がある。
 その声を最も敏感に感じ取ったのは、最も竜胆と面識の深い美雪。
 グリモア・ムジカに歌を奏でさせ続ける美雪は、彼の口調の中に含むものがあるのを感じて何か背筋を走る嫌な予感に顔を顰めた。
(「……敵方は何としてでも竜胆さんを此処で殺したい。しかも、この状況下でだ。彼を如何しても殺したい其の理由は……?」)
 と……此処で。
 ふと、先程の会話の中で竜胆が自分達に告げた言の葉を思いだし、そう言えば、と美雪が竜胆へと水を向けた。
「竜胆さんは先程、影朧達は人為的に作られた可能性が高いと口にしていたな」
「影朧達を人為的に作る……? その様な事が出来るのでございますか、美雪様?」
 美雪の確認の様な問いかけに、ラムダが怪訝そうに首を傾げつつ問いかける。
 空中の冬季も微かに興味深げに眉を動かしてみせるが、直ぐに平静な表情に戻り、黄巾力士と共に空中からの警戒を続けていた。
 ウィリアムが『ビーク』で屋根を伝う様に駆けながら、無線機越しに聞こえてくる美雪とラムダのやり取りに、耳を傾けている。
「ああ、そもそも、そう言った事例は沢山在るのだよ。例えば、幻朧戦線。この世界に戦争を引き起こすべく暗躍している彼等の活動の中には、グラッジ弾と呼ばれる怨みを凝縮した弾丸を浴びせて、人々を影朧化させるという事件を起こしている者達も多数いる」
「……そう、なの、ですね……」
 美雪の説明に、赤と琥珀色の双眸を濁らせる様に輝かせて沈痛な表情で蒼が呟く。
(「……此度の、事件の、裏には、一体、何が、潜んで、いる、の、でしょうか……?」)
 其れも気になりはするが、それ以上に蒼の胸の裡の灯……自らをヒトたらしめる心に暗い帳を下ろすのはそのヒト達の行動だ。
(「何故、ヒトは、その様に、戦いを、引き、起こそう、と、する、の、でしょう、か……?」)
 勿論そんなヒトばかりでは無い事は重々分かっているし、其々のヒトの想いを自分如きが推し量りきれるとも思えない。
 思えないけれども……1人のモノ……ヤドリガミとしての自分には、何故? と言う疑問が拭えないのも確かだ。
 蒼の胸中を彷徨う迷いと悩みに気がついているのかいないのか、ちらりと美雪が蒼の方へと視線を送ってから、話し続ける。
「そして先日仏蘭西巴里で起きた事件……革命派によるクーデターとでも呼ぶべき事件なのだが……此処でグラッジパウダーと呼ばれる薬物が使用された」
「花蘇芳の事だね。あれで自らを不老不死へと化した、其の自らの不老不死化こそが花蘇芳にとっては、人々の最終的な進化の形だとも、主張していたな」
 美雪の其れを補足する様に統哉が相槌と共に、解説を加える。
 その声が抑えられた怒りに満ちている様に聞こえたのは、灯璃や無線機越しに話を聞いていたミハイルの気のせいではないだろう。
(「何だかんだ言って、文月の奴は生真面目だからな。救える命があるなら全て救ってやるって気持ちがあいつは強い」)
 それが統哉の信念なのだと言う。
 無論、救うと言うのは物理的な意味だけではない。
 精神的な意味合いも強いことは重々承知しているが……。
(「まあ、ビジネスで戦っている俺が何か言うのも野暮ってものか」)
 そんな事を思いながら、SV-98Mのスコープ越しに夜の帳に包まれ始めている竜胆達と周囲の観察を行うミハイル。
 何かあれば灯璃が何らかの連絡や対策を取るだろうし、灯璃の傍には瞬や、響や奏もいると言うのであれば、まあ何とかなるだろう。
「ったく、毎回竜胆に関わると楽しいコトになっちまうよなぁ、おい」
 とクツクツと愉快そうなミハイルの声を通信機越しに聞いて。
「ミハイルさん」
 と灯璃が溜息をついて宥めるのに、悪い、悪いとミハイルが肩を竦めた。
 その間にも美雪による歌う様な説明は朗々と続いていく。
「グラッジパウダーは一言で言うと、怨念や怨嗟の念を基にして作られるグラッジ弾を粉末状にした物の様だ。其の分、水に溶けたりする性質を持つだろう。これも、竜胆さんが教えてくれたことだな?」
『ええ、其の通りですね、美雪さん』
 確認の様に問いかける美雪の其れに静かに首肯する竜胆。
 着ぐるみのモフモフふさふさ感が少々気になるが、突っ込みは後回しにして美雪が更にその先を続けようと……。
(「……?」)
 何かが、引っ掛かった。
 其の美雪の様子に気がついたのだろうか。
「どうか致しましたか、美雪さん」
 とネリッサが問いかけた、その瞬間。
 美雪の全身から、嫌な汗が噴き出した。
「……待て。おい、竜胆さん、嫌な記憶を思い出したぞ。竜胆さん、以前柊さんの件で彼岸組で遭遇した影朧達は確か……」
『ええ、貴方の予想通りです、美雪さん。今、私を狙ってきている影朧達は……人為的に作られた対影朧兵器と同じ存在。そしてそんな彼等を操る指揮官は、今回の件の黒幕とでも言うべき相手……傾国の姫君でしょう』
「……あの事件の『彼女』達は、確か、嘗ての戦争の折に人為的に作り替えられた対影朧兵器だった筈ですが……。では、この男達も……?」
(「私達が、SIRDとしてスパイマスター、竜胆氏と言うより諜報部と関わり始めたのも、あの事件が切っ掛けでしたが……」)
 その頃戦った亡霊達の同類が、『黄泉還り』と言う名の邪法で黄泉還り、自分達と鎬を削っている、と言う事か。
『ですが、それだけには留まりません』
 ネリッサ達の理解が完全に追いつくよりも先に。
 竜胆が軽く咳払いを一つして、更に、と歩きながら言の葉を紡ぎ続けた。
 不気味な位に敵の襲撃が来ないこの状況。
 だが、この静けさの中で淡々と紡がれる竜胆の言の葉こそが、本当に恐ろしい。
『元々、其れが為すべき事だったとは言え、私達は一度ある行動を行っております。それは光と闇の天秤を狂わせる事。影朧を救済するために皆様が行った、あの戦い』
「……待て、竜胆さん。まさかあなたが言っているのは、あの事件の事なのか?!」
 竜胆の口から漏れ出した其の言の葉に。
 怒濤の様に叫ぶ美雪の其れに、竜胆が、はい、と静かに首肯する。
 竜胆の其の応えは、美雪、姫桜、統哉、瑠香、祥華、紅閻、暁音が目を見開かせ。
 灯璃からの通信機越しに其の話を聞いていた、響・瞬・奏の息を呑ませ。
 そして『ビーク』に跨がっていたウィリアムの表情を強張らせた。
 恐らく敵の本拠地と思しき合法阿片の栽培地にいる、敬輔と陽太がこの話を聞いていれば、同じ動揺の表情を浮かべていたであろう。
 ――光と闇。
 ――情と知。
 両極端な表裏一体の其れについて自分達と問答し、雅人と紫蘭……2人のユーベルコヲド使いと共に転生させた、あの影朧を。
 話の流れについて行けないのであろう。
 パチクリと瞬きを続けて必死で理解をしようとする蒼の様子を見て、美雪が我を取り戻し、コホン、と咳払いを一つする。
「蒼さんは、紫蘭さんとは一度会ったことがあるな? 『白蘭太夫』の事件の折に」
「……あっ、は、はい。確かに、ボクは、お会い、した、事が、あります、ね。あの、紫髪の、桜の精、の、方の、事、で、しょうか?」
 蒼の問いかけに、そうだ、と美雪が頷いた。
「彼女は確かに桜の精でしたが……其の彼女がどうかしたのですかー?」
 思考が追いつかぬ義透の其の問いかけに、美雪がああ、と頷いて。
「紫蘭さんは、私達がとある事件を解決する際に、影朧を転生させるために協力して貰った桜の精なんだ。雅人さん共々な。其の紫蘭さんは、柊さんと言う帝都桜學府所属の研究員の事件の折に、其の首謀者の影朧に、『闇の天秤』を崩す者、と呼ばれていた」
「……あの事件ね」
 続けた美雪の其れに、姫桜もまた、微かに哀しげに顔を顰める。
 あの時、柊の娘の入ったカプセルを守り続け、紫蘭に転生して貰った其の一部始終を見届けた姫桜としても、その記憶は鮮明だった。
 その美雪の説明を聞いたところで。
 竜胆が静かに首肯し、それから淡々と話を紡ぐ。
『彼女……紫蘭が『闇の天秤』を崩す者、とかの影朧に言われたのは当然の話なのです。元々、影朧とは安定して転生する筈の魂達が不安定な状態になった時に生まれる彷徨える魂です。ですが全ての存在が100%、安定して安らかな魂の転生という輪廻を行う事が出来る筈がありません。『心』というものは不安定ですから』
「その不安定な影朧達を救済し、転生し魂の輪廻の輪に戻すこと……それが私達、帝都桜學府の役割ですね」
 瑠香が確認の様に呟くのに、竜胆がその通りです、と小さく告げる。
『そうです。ですが、其の不安定な人の心の闇から生まれ、それを全て受け止めていたと自称する影朧がおりました。それが、『闇の天秤』とあの姉桜が名付けた存在です。そして、其れは事実の一端を示しております。実際、彼……彼女かも知れませんが……は、優しさと、自らの欲……相反するその狭間で苦しむ影朧だったのは間違いの無い話でしたから』
「人々の心の闇を全て受け止め、光と闇と言う天秤のバランスを保っていたと自称していた……あの神獣とでも呼ぶべき相手には、そんな力が……」
 惚けた様に呟く統哉の其れに、最も、と竜胆が重苦しい溜息を一つ吐く。
『其の真偽については正直不明なのも事実です。ですが、其の存在と同等の力や影響力を持つ影朧は其れなりにおります。……まあ、帝都桜學府内でも私の様な者にしか知らされていない話……其れも御伽噺やオカルトの一種なのも確かですが』
 自嘲気味に苦笑を零す竜胆の其れに、其の長い話を聞いていた姫桜が疲れた様に溜息を一つ吐く。
「あの時私達が戦ったあの敵と同等か、それ以上の影朧が、今回の敵って事? 竜胆さん、目前の敵を統べる存在について、よくそこまで見当が付いていたわね……」
 姫桜の其れに竜胆が微苦笑を零し話し続ける。
『元々は、雅人や紫蘭に任せた方が良い案件です。ですが、雅人達はおりません。また、少なくともあの存在に関して、他に知っているのは超弩級戦力の皆さん、及び私位です。それだけ情報統制が行われている話を知る私は、存在するだけでこの影朧にとっては脅威となります。少なくとも、私を殺せれば、彼等はこの地に其のグラッジパウダーを水源に投げ込み拡散し、自分達の仲間を人為的に作りだし、戦力を増強できるでしょう。或いは、私と成り代わって、裏から帝都桜學府を牛耳ることも可能かも知れません。……禁呪ではありますが、『黄泉還り』の法を使うことが出来る傾国の姫君、であれば』
「……竜胆さん。それを使える影朧が本当に居るのですか?」
 思わぬ竜胆から漏れた其の言の葉に、ネリッサが流石に驚いて問いかけると、竜胆がええ、と頷いた。
『彼女の力を解析し、それをグラッジパウダーに入れることが出来る様になれば、グラッジパウダーの量産も容易くなります。彼女は、黄泉比良坂から、腐敗の魔法を操ることの出来る魂を呼び出すことが出来る禁呪の使い手ですので』
「……そんな、大変な、お話し、なの、ですね……」
 驚いた様に赤と琥珀色の双眸を瞬かせる蒼の其れに、はい、と竜胆が疲れた様に微苦笑を零して頷いている。
(「……あの時、雅人と文月が紫蘭の力を借りて転生させたあの影朧……あいつとの因縁が、まさかこれ程の深い闇を抱えているとはな……」)
 其の話を聞いていた紅閻が胸中で深く息をつき、色褪せた指輪を撫でる。
 ――あの時に霧の向こうに隠れて見えなかった『彼女』の事を心の片隅で思い起こし、その胸に深い痛痒を覚えながら。
「何だか頭が痛くなって参りました。わたくしめにうまく説明することは出来ませんが……つまり此度、竜胆様を狙った人為的に作られた影朧は、深き因果の果てに生まれた存在、と言う認識で宜しいのでございましょうか?」
『はい。少なくともかなり手強い相手なのは確かだと思って頂ければ大丈夫です、ラムダ様』
 確認する様に問いかけるラムダの其れに、静かに竜胆が頷いている。
 其の話の一部始終を聞いていた統哉がいずれにせよ、と小さく息を吐いた。
「そうすると、また何時か遠くない未来に『あいつ』が来る可能性も否定できないって事か? 人間の悪意……殺意の塊とも呼ぶべきだった、『彼』も」
 その統哉の問いかけに。
 竜胆が微かに目を瞬きさせつつ……そうですね、と静かに頷いた。
『また現れる可能性は否定できません。そもそもあれは不安定な影朧に取り憑き具現化した負の『概念』そのものです。また何時現れたとしても、おかしくありません』
「一先ず話は完全に、とは言いませんがある程度理解しました、スパイマスター竜胆。つまるところ今回の敵は、あなたや、あなたに近しい人間……或いは雅人さん達の様な者達でなければ補足することが出来ない人為的に作られた影朧なのですね?」
 ネリッサの、其の確認に。
 竜胆がそうです、と静かに首肯した。
『流石はSIRD及び超弩級戦力の皆様ですね。影朧や、花蘇芳達に取り憑き力を強化し、その想いを狂わせることの出来る『概念』そのものが敵だと説明しても、まるで動揺する様子を見せない。これでも私や雅人の様にあの事件に関わった者にしか知られていない情報なのですがね』
 淡々と答える竜胆の其れに。
「そもそも、もしあなたが死んだとしたら、それにも対応出来る様に雅人さんを後継として既にあなたは選んでいるんじゃない? あなたのことだもの。自分に何かあったとしても、大丈夫な様に何らかの手を打っていると考えた方がしっくりくるわ」
 溜息を吐きつつ問いかける姫桜の其れに、さて、とはぐらかす様に竜胆が笑う。
 其の解答に愈々呆れた様に溜息を吐き血の涙を流しつつ、姫桜が頭を横に振った。
「正直、あなたが死に、その『概念』が帝都桜學府や帝都を一部支配することになった場合、その先どうなるのかは私には想像できないわ。ともあれ、あなたが死ねば雅人さんや、柊さんだって悲しむのは間違いない。だから……あなたの話や思想に矛盾があったとしても、私はあなたを守ると決めているから」
 諦めた様に紡がれた姫桜の其れに、そうですか、と小さく息をつく竜胆。
 その様子を目を細めて見つめた義透がさてーと遠くを見る様な眼差しになった。
「漸く辿り着きましたねー。此処がその合法阿片の実の栽培地帯ではありませんでしょうかー?」
 そう呟く義透の其れに。
「……ああ、その通りだ」
 疲れた様な声で。
 陽太と敬輔が姿を現したのに、統哉が軽く片手を上げた。


(「成程……だから、俺の共苦の痛みは……」)
 今の話で、漸く合点がいった。
 何故なら、暁音の共苦の痛みから伝えられている其れは、嘗て感じたある痛みとよく似ていたから。
 其の理由が、嘗て自分達が紫蘭達の手を借りて転生させた彼等と類似した存在と対峙しているが故であると言う事実が分かり、却って安堵した位だった。
(「それにしても、転生に黄泉返り……か」)
 転生が、死者達に平穏な眠りを与えるための行いだとするのならば。
 黄泉還りは其の死者達の魂を冒涜する行為そのものだ。
 そしてその黄泉還りの禁呪を行う事が出来る姫君が、この地に居る。
(「ならば、俺に出来ることは一つだね」)
 其の馬鹿げた行いを止めること。
 其の世界を否定する事。
 そう暁音が胸中で心を定めた、丁度その時。
「天星。傾国の姫君とは、また随分と大袈裟な相手が出てきたでありんすのう」
 と祥華が念話で暁音に語りかけてくる。
 遊女の様に楽しそうに話しかけてくる祥華に、そうだね、と暁音が静かに頷いた。
「でも俺達に出来ることは決まっている。そうじゃないなかな」
「まあ、その通りでありんすな。いつもの事と言えばいつもの事でありんすしのう」
 からころと。
 鈴の鳴る様な声で笑う祥華の其れに静かに溜息を吐きながら。
 共苦の痛みの刻まれた部分を強く握りしめ、クレインを操作しつつ、暁音もゆっくりと前に進む。
 ――姫君が待つであろう、その場所へと。


「……森宮様、館野様……?」
 軽く小首を傾げながら。
 先程の話の内容を咀嚼しようと、赤と琥珀色の双眸を彷徨わせていた蒼が、そっと自らの胸を強く押さえている。
 まだ、話が完全に見えてきていない。
 けれども其れに立ち向かうことの出来るであろう仲間達と合流することが出来たのは、正直に言って、有り難かった。
「中にはもう敵はいない」
「ああ、俺達が押さえた」
 そう告げる陽太と敬輔の背後には、小竜姿の悪魔『ブネ』と、その配下たる精霊達、及び悪霊達によってその身を拘束された2~3体の影朧の姿。
 更に敬輔によってであろう斬り裂かれて息絶えた敵の姿も有り、既にこの場の制圧が完了しているのだと如実に教えてくれている。
「水源は無事ですか?」
 拘束された敵の姿を認めながら。
『無面目の暗殺者』の白いマスケラを被った陽太に特に驚いた様子も無くさりげなくウィリアムがそう問いかけると。
「無事だ。グラッジパウダーを水に浸そうとした相手もいたが、その影朧は……」
「俺が斬った。だから、水源に投げ込まれるよりも先に、毒の排除は成功している」
 陽太の言葉を引き取り全身に白い靄を纏った敬輔がそう応え、ウィリアムが。
「そうですか。ならば良かったです」
 流石に安堵の息を吐きながら胸を撫で下ろすのを、陽太が無表情に見つめている。
「しかしそれにしても傾国の姫君とはまた随分と大変な話しになったものです」
 これらの話を空中で聞いていた冬季が漸くと言った様子で詰めていた息を吐きながら肩を竦めた。
(「私達には知らされていない話ですね。成程、知っている者でなければ対処できないのは確かですが、其の情報を諜報部は隠匿しておりましたか」)
 この辺りの手並みの良さは、流石は諜報部と名の付く組織だけのことはあろう。
 そして其れが今回の事件の一端を明らかにした、と言うのは終局が近い事の表れなのかも知れなかった。
(「いずれにせよ、此処の敵を止めぬ限り、水の街と其の人々が穢されてしまう事実は変わりませんね。私は私の出来ることをやるしかありません」)
 そう思い。
 灯璃、瞬、響、奏と合流したミハイル達の後ろからそっと合法阿片の実の栽培地帯へと潜入する冬季。
 灯璃達が周囲を警戒しながらこの中に入ってくる様子に感づいたか。
「安心しろ。此処の罠も全て解除済みだ」
 淡々と無機質な声で呟く陽太に敬輔が同意の頷きを示した、正にその時。
『一足遅かったようね。まあ、最後に其の命を奪えれば重畳だけれども』
 切って捨てる様な言の葉と共に。
 不意に現れた其の存在から発される気配を感じ取り。
「おい、竜胆」
 とミハイルが竜胆の背に呼びかけた。
 其れに気がついた竜胆が、ミハイルの方を振り向くと。
 ミハイルが……。
「報酬は、しっかり弾んで貰うぜ?」
 猛獣の笑みと共に、告げた其れに。
『はい、重々承知しておりますよ。超弩級戦力の皆様』
 そう竜胆が、深々と首肯した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『咎忍『玉梓』』

POW   :    禁呪『八房』
【巨大な犬】に変形し、自身の【回避能力】を代償に、自身の【牙】を強化する。
SPD   :    禁呪『妙椿』
【鎌鼬を纏った勾玉】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    禁呪『ヨミガエリ』
【黄泉比良坂】から、【腐敗】の術を操る悪魔「【黄泉醜女】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。

イラスト:麻風

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は政木・朱鞠です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『全く、何から何まで邪魔をしてきてくれるわね。……忌々しき帝都桜學府諜報部と超弩級戦力が』
 舌打ちを一つしながら。
 現れた彼女の姿を見て、竜胆が静かに溜息をそっと漏らした。
「貴殿が傾国の姫君ですか。嘗て帝都を傾国させた貴女は其の罪を悔い、幾度かの転生によってその闇を、『概念』が浄化されつつあると、資料で読みましたが……」
 竜胆の其の問いに。
 はぐらかす様な笑声と共に、彼女は惚けた様に口調を変えて、言葉を返す。
『何の話か分からないでありんすなぁ。まあ、そもそも私が何故傾国を行ったのか……その事情を主が知らないとは思わなんですがのぅ?』
 反撃の様な彼女の問いに。
 竜胆が微かに躊躇う様に沈黙し、それから軽く頭を振った。
「……同情の余地が無い訳ではないとは承知しております。ですが、己が子を御國の為に犠牲にされたが故に、世界を混沌たらしめる権利は、貴女にはございませんね」
 淡々と紡がれた竜胆の其れに。
『さて……どうでありんすかね?』
 彼女は、嘲笑を籠めて軽く小首を傾げていた。
『多数を救う為に少数を犠牲にする。それは為政者には必要な資質なのでありんしょう。でもヌシ等は、切り捨てられた側の想いに配慮した事がありんすかや?』
 ――この700年以上の平和を維持し続ける、その為に。
 輪廻転生の概念を守り続けてきた帝都桜學府。
 然れど……魂の転生を救済と信じ、其の為に行動を続ける者達は、人が影朧を守りたいと願う心を斟酌し、特別な計らいをしてきたのか?
『ヌシ等の信奉する正義のために、犠牲になった命がままあるのでありんすよ。妾は傷つき、癒えることの無き魂達の代表として、この地に生まれ、世界の理不尽を革新する礎を作ろうとしただけでありんす』
「それがグラッジパウダーの量産による、この街の人々を影朧化する計画ですか」
 呟く竜胆の其れに、その通りでありんすな、と彼女は狐の様な笑い顔を浮かべた。
『大を救うために小を犠牲にするのが帝都桜學府であるのならば、犠牲にされる小を救う為に自らの命を賭けるのもまた、妾等の理。それもまた、ヒトの『心』の在り方でありんすよ。特に今は、『闇の天秤』がヌシ等の思惑で崩されたのでありんすからな。妾は少しでも正すべく、革命を望む人々に手を差し伸べた協力者でありんす』
 薄らと口元に友好的な笑みを浮かべる彼女に、竜胆が小さく溜息をついた。
「……そもそも貴女が『闇の天秤』と呼ぶ者は影朧です。彼……或いは彼女もまた、生前に心を傷つけられ、虐げられ不安定になってしまった過去と心が生み出した悲しき存在。影朧達が望むと望まざるとに関わらず……影朧の存在は生ある者達の世界を歪める事実から、貴女達は目を背けていませんか?」
『さて、それでありんす。生ある者に不幸を齎す。そう決めつけられた影朧達は本当に転生する事しか許されないのでありんすか? 世界は自分達が絶対に正しいと信じ、我々影朧の齎す祝福を、只『悪』と見做している……それだけなのではないではありんすか? あの男の様に……世界の、ヒトの悪意が具現化した様な影朧は何故、存在するのでありんすか?』
 そう問いかけて。
 一つ息をついた彼女はつまり、としたり顔で頷いた。
『それを世界が望んだからでありんすよ。或いは世界を構築する万物が望んだからこそ、彼等は生まれ、存在したのでありんす。おヌシ等の押しつけがましき正義を、間違いだと突きつけるその為に』
 竜胆がそれに対して何かを言うよりも早く、彼女は矢継ぎ早に言の葉を紡ぐ。
『超弩級戦力達よ。おヌシ等はこんな身勝手な奴等に守られる世界が本当に正しいと思うのでありんすか? 大を救うために小を犠牲にする……。そんなお題目のために望むと望まざるとに関わらず妾達影朧を強制的に救済という名の転生を行おうとする帝都桜學府の在り方が本当に正しいと思うでありんすか? ……まあ、妾に出来ることは一つでありんすが』
 ――そう……其れは。
『妾もまた、革命を望む人々の協力によってこの地に生まれ落ちることの許された影朧。であるならば、妾は妾の責務を果たす必要があるのでありんす。その邪魔をするというならば……』
 ――妾自ら、ヌシ等の相手となろう。
 その彼女の言の葉に応じる様に。
 其の周囲に8つの勾玉が顕現し、不気味な輝きを纏い始めた。

 *第3章のルールは下記となります。
 1.前回の判定の結果、現時点ではグラッジパウダーが拡散されることは封じられました。
 また、この状況下ですので、護衛対象は、竜胆以外はいないと考えて大丈夫です。
 2.竜胆が同行します。彼については下記の様に扱います。
 a.戦場から撤退することはありません。
 b.守らなかった場合、竜胆は死亡します(判定は失敗です)
 c.猟兵達の指示は聞いてくれます。
 d.竜胆は指揮官としての技能、情報収集の技能には優れていますがそれ以外は一般人です。
 e.猟兵達のユーベルコードに相当する様な行動はとれません。
 3.竜胆及び玉梓に何らかの話をすることは可能です。但し、そこから何か新しい情報が出るかどうかは分かりません。
 
 ――其れでは、良き結末を。
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で連携

まあ、良くも悪くも色々と口上するあたり彼女もヒトですね。
職業柄、テロ犯はよく相手しましたが、正義とか悪以前に
戦うのが生き甲斐になってしまってるだけでしょう…責務は免罪符に丁度良かったですか?

言いつつ敵味方の動きを(情報収集)しミハイルさん達の動きに連携
指定UCで黒霧を放って相手の視界を遮りつつ牽制射撃し、敵先制を潰しつつ注意を引いて味方の攻撃を支援(先制攻撃)

勾玉・悪魔を出し始めたら(見切り)で回避しつつ
狼達を迎撃にぶつけ敵戦力を散らして味方の被害軽減を図り
犬形態で回避が落ちてる時は目狙いで狙撃(スナイパー・鎧無視攻撃)し
視界を潰しつつダメージを増やすよう戦う

アドリブ歓迎


吉柳・祥華
・銀紗

ほオ? 因果応報とは言うたものじゃな
あの時、我の虞(真の姿)に慄いたあの出来事が…のう

まぁ、元より世界とは理不尽で形成されておる

何故、影朧が存在するのか?貴様の言う通りじゃろ
じゃが、貴様の言う間違いの為ではないぞ?

残留思念…結局は人の“想い”がそうさせたからじゃ
人の、想いほど厄介なものもない
それが強ければ強いほどじゃ

それにこの世界は、ただ与えるだけに過ぎぬ
否定しようが強制しようが望もうが掴もうが…輪廻すら

最終的に選択するのは
この世界の理と人じゃ

竜胆が今
死ぬ時ならば、止はせぬ
じゃが、そうではない…からのう?(集まった猟兵共を見回し

基本サポート重視、アドリブ連携可
技能・アイテムに関してお任せ


ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動

ははぁ、ここが阿片栽培地ですか。(アーカイブを検索中)・・・阿片とは、芥子の実から採取されるアルカロイドを合成して作られるオピオイド、即ち麻薬ですね。但し、阿片単体での商品価値は他の麻薬に比べて低いそうですが・・・おっと失礼、お喋りはこの位に致しましょう。

竜胆様を庇う様な立ち位置で、UCを発動。これで少なくとも正面からの攻撃から竜胆様を守れます。後は状況に合わせて竜胆様をガードしつつ、任意の搭載火器にて迎撃を試みます。

いやはや、大を取るか小を取るか。何方が正しいのか判断が難しい、いわゆる為政者にとっての永遠のテーマなのではないでしょうか。

アドリブ・他者との絡み大歓迎


白夜・紅閻
・銀紗
・真の姿
・竜胆を守りつつ戦う

心情
善とか悪とかは関係ないな、そんなもの
そいつが“これは正義なんだ”と思うんならそうなんだろ
あんたの正義、竜胆の正義、帝都桜學府の正義、奴らの正義

ただ言えることは、あんたが竜胆を殺そうとした
俺たちはソレを阻止にしにきた。それだけだ

戦闘
力溜め+かばう
激痛耐性&落ち着き+オーラ防御+結界術で
あえて攻撃を受けて、カウンターを仕掛ける

タイミングを見計らい
もしくはその後

通常攻撃
イザークの重量攻撃+衝撃波
レーヴァテインの斬撃波+乱れ撃ち
による二回攻撃

篁臥は地形の利用+闇に紛れる+不意打ち
白梟は竜胆を守る奴のフォローに
援護射撃・威嚇射撃・ブレス攻撃


アドリブ連携お任せご自由に


ネリッサ・ハーディ
【SIRD】の皆さんと共に行動

傾国の姫君、ですか。話から察するに、過去にも現れた風に解釈もできますが…流石に竜胆さんでも資料でしか知らないのでは、具体的な事は本人に聞くしかないですね。

竜胆さんから離れずに護衛を行いつつ、ハンドガンにて反撃。隙を見て、UCを発動。犬に変身するそうですが、それならばこちらも猟犬で対抗するまでです。

…人というのは1人では生きていけません。ある程度文明が発達した世界ならば猶更。そして政というのは、残念な事にマクロ的な視点で決めていくしかありません。確かに、少数派が割を食うという事自体は不幸ではありますが、だからと言って周囲を更に不幸にする蛮行が許される筈がありません。


真宮・響
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

敢えて言わせて貰うよ。アンタの主張は被害者側からの一方的な見方だ。

一つ、影朧は望まないと転生出来ない。強制的に転生させてはいない。

一つ、アンタこそ望むと望まざるに関わらず人を影朧化させていようとすること。

最後は殴って止めるしかないんだけどねえ。【忍び足】【目立たない】で敵の背後を取る。牽制は真紅の騎士団にやってもらう。敵の注意が前に向いてる間に【不意討ち】【気合い】【重量攻撃】【鎧砕き】【武器落とし】で【怪力】【グラップル】で殴る。【追撃】で更に蹴り飛ばすか。

敵の攻撃は【オーラ防御】【残像】【見切り】で凌ぐ。

母として敵の無念は分かるんだが、ままならないねえ。


真宮・奏
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

貴女の無念は分からないでもないですが、影朧は望まないと転生できませんし、貴女こそ関係ない人達を望むと望まざるに関わらず影朧化させようとしてませんか?

つまり貴女の言うことは矛盾してます。このままにはしておけません。

護衛の方は足りているようですね?勿論【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】でいつでも竜胆さんを【かばう】出来る心構えをしときますが、護衛が大丈夫なら敵の前に立ち位置を調整して攻撃を引き受けながら【二回攻撃】【怪力】を併せた信念の一撃で攻撃し、【追撃】で【衝撃波】。

人を救うという気持ちがねじ曲がったんですね・・・


神城・瞬
【真宮家】で参加(他猟兵との連携可)

貴女の主張は分からないでもないです。でも、影朧は全て望むと望まざるに関わらず強制的に転生させてる訳ではありません。転生を望まず、転生を果たせなかった例を見てきました。

でも歪んだ存在の影朧化が救済だと思いません。関係ない人達を影朧化させるなら尚更です。

命令が機能するまでに動きを止めましょう。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】を【範囲攻撃】化して敵集団に展開。更に【追撃】で氷晶の矢で攻撃。余裕があれば【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を併せた【誘導弾】で敵本体を狙いたい。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

やれやれ、傾国の姫君だかなんだか知らねぇが、俺に取っちゃジョブのひとつでしかねぇんだ。倒すべき相手に、いちいち同情なんざしてたらキリがねぇ。この世で最も信じられるのは、圧倒的な力の差と、困り果てたが故の妥協のみだ。

引き続き狙撃で支援。相手に悟られない様に狙撃可能なポジションに付いて狙撃を行う。ヘッドショットでも狙いたいが、流石にそう簡単にいかないだろうから無難に胴を狙って狙撃する。

(戦闘終わって煙草に火を点け)これでようやく気兼ねなく吸えるぜ。あとお前ら(他の猟兵)、あんまり甘っちょろいコトしてると、そのうち味方を窮地に陥れるぜ。何故わかるかって?昔俺も経験したからさ。


ウィリアム・バークリー
影朧、それは誰の言葉ですか? あなただけでその結論に到達したとは思えない。あなたは誰と組んでいる?

正義の革命と不正義の平和。民なら、平和を望んで当然でしょう。民草は、安寧を求め、安全を欲し、強きものについて生きていく。
民からのその支持こそが、平和の礎。あなた方の革命遊びに民草は付いてこない。だから、無理矢理影朧にして仲間にしようというのでしょう!
民草に求めてはならない。彼らは一日を生きていけるなら、帝がすげ変わっても気にしない。平和が続くのならば。
『民の日常』という仮初めの幻想を守るため、あなたを討つ!

「範囲攻撃」でActive Ice Wall展開。竜胆さんを守り、制御権が必要なら渡します。


馬県・義透
『疾き者』の真の姿ver.2『風絶鬼』(生きていたら至っていた姿)にて

身勝手とはそちらの言い分でしょう。少なくとも『オブリビオンに殺された』『少数派(疾き者だけ忍。他は武士)に属する』者に問いかけることではない
ええ、私は『私たち』は黄泉がえりですが何か?人を害しようとするものを許さぬ悪霊ですが?

四天結縄にある私対応の厄災『大風』の封印を解く。天候操作で影響あるのは敵のみにし、遅延呪詛も込めましょう
さらに強化した結界術を針のように細めて不可視の攻撃へ
…私たちの呪いは尽きず。終わると思うなかれ

陰海月は引き続き竜胆殿の護衛を。強化結界術は、陰海月も使えますから


陰海月、護衛は油断なくやる


神宮時・蒼
…ヒトの、心の、機微は、ボクには、よく、わかりません
…けれど、犠牲が、前提なのも、また、違う、ような、気が、する、のです
…新しい、道を、模索、するのも、生きている、ヒトの、役割、なのでは、ない、かと

きっと彼女とは、言葉では分かりあえないのでしょう
竜胆様は、この先の未来に、必要なお方
しっかり護衛を
【魔力溜め】で【結界術】を強化し、周囲に展開
召喚された悪魔は【破魔】の念を込めた【弾幕】で対処
悪魔なら、【破魔】は効くでしょう

相手に攻撃が通らないのであれば
【高速詠唱】【先制攻撃】の【狐花恩寵ノ陣】で動きを封じましょう

もっと、別の道を、模索出来れば、あるいは、違った、結末が、あったのかも、しれません、ね


朱雀門・瑠香
貴方を悪と断じる程私は長生きでも偉くもないですけどそれでも私は自身が正しいと信じたことを為すだけです。貴方が自身の正しいと思う事を為すように。それだけの事ですよ。
護衛の方はお任せします。
周囲の地形を生かしてダッシュで接近。巨体からの牙の一撃は脅威ですから牙の軌道を見切って鞘で受けてそれを囮にして回避又はオーラ防御で耐える。動き自体は鈍いから見切る自体は容易のはず。後は間合いまで迫って破魔の力を込めて切り伏せます!


天星・暁音
犠牲失く全てを選びことなんて出来ない
例えそれが神だろうとね
別れを選ばざるを得なかった犠牲にされた人の想いも、取り残された者のどうしようもない胸焦がす切望も知ってる
この身は自分の事の様にそれを感じている
自分の物ではないから自分で癒すことは出来ずにただ痛くて苦しくて
それでも俺には必要に迫られれば大の為に小を切り捨てる道しか選べない
とてもとても悲しいことだけど選べないんだよ



彼女の痛みを感じ覚える為に全力で立ち向かいます
回復をメインにし銃撃や銀糸や宙を駆ける虹色のオーブで仲間の行動の支援を行い場合によっては竜胆を庇います

可能であればUC胡蝶の舞の物質復元能力で一連の事件で破壊された街を修復したいです


文月・統哉
仲間と連携
竜胆さんの甲冑維持
オーラで竜胆さんを人々を守りつつ
宵で戦う

竜胆さん
氷上の紫蘭は力なき無垢な存在だった
彼女を俺は助けたいと思った
貴方も本当は…違いますか?

俺が甲冑を創ったのは
貴方に戦場に立って貰う為
情報収集力も指揮官技能も立派な武器だ
刃は無くとも俺達を使えばいい
貴方自身の
正義を貫く覚悟を示して欲しい

そして説得しよう
彼女もまた憂う事無く
いつか未来を歩める様に

玉梓
犠牲を否定する貴女が
町の人々に犠牲を強いるのかい?
UDC-P、生者と歩むオブリビオンは確かに存在する
でも貴女は壊す事しか選べなかった
それは祝福ではなく呪縛

犠牲を失くしたい
想いは同じなんだ
託して欲しい
その願いを俺達に

可能なら祈りの刃


鳴上・冬季
「で、それが?」
嗤う

「彼等が正義を標榜するのも、貴女が影朧の守護者を謳うのも。大局から見れば、どちらも意味がないことです」

「淀んだ水は、濁って腐る。動き続けてこそ、傍目には静止と変わらぬ状態となる。どちらに多少寄ろうとも、動き続ければまた中道に至るのです。不死帝の作られた箱庭は、実に美しい」

「望みのままにぶつかり合い生きるだけで良い。素晴らしきこの世界で生きるために…さあ、滅し合いましょうか」

「庇え、黄巾力士…八卦天雷陣・青天の霹靂」
黄巾力士にオーラ防御で自分を庇わせ黄泉醜女と玉梓が消滅するまでUC使用

「自らが立つところのために邁進する。それで充分では?」
「私の願いは永くこの世が続くことです」


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
真の姿解放
指定UC発動は2章から継続

貴様の正義や帝都桜學府の正義は
実は俺にとってはどうでもいい
俺は他者に害を成そうとする輩であれば容赦なく斬る
…それだけの話だ

貴様、街の住人をグラッジパウダーで強制的に影朧化しようとしたな?
それを革命の為の犠牲と嘯くのであれば
貴様に帝都桜學府の正義を断罪する資格はない
「大を救うために小を犠牲に」しているのは貴様も同じ
俺は犠牲とされかけた街の住人を守るために
貴様を斬るのみだ

「視力、第六感、戦闘知識」で常に玉梓の行動を予測しながら
「2回攻撃、怪力、鎧砕き」で容赦なく斬るのみ
禁呪『妙椿』は「早業、衝撃波、吹き飛ばし」で勾玉を叩き落とし阻止


森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
真の姿解放継続

この合法阿片の畑は
スラム街の人々にとって貴重な収入源
おそらく表の街の人々に押し付けられたのだろうが
それでも彼らが生きるためには必要な場だ
それを一方的に奪い収入源を断ち
あまつさえ強制的に影朧化しようとした時点で
貴様も無意識に犠牲とされる「小」そのものを踏み躙っているのでは?

…ならば
俺は貴様も「敵」として倒すのみ

「高速詠唱、属性攻撃(闇)」+指定UCで闇を纏ったインプ召喚
「制圧射撃、蹂躙」で玉梓の顔面や手元、召喚された黄泉醜女に徹底的に纏わりつかせ妨害
俺は「闇に紛れる」よう「忍び足」で死角に回り「ランスチャージ、暗殺」で心臓を貫くのみ

…世界の敵は俺が討つ


彩瑠・姫桜
竜胆さんの護衛をメインに

真の姿(外見変わらず)を開放+UCで自己強化
その上で竜胆さんを[かばう]わ
敵の攻撃は[武器受け]で受け流すわね

攻撃の余力があればドラゴンランス使用
手足めがけて[串刺し]を試みる


誰かにとっての正義は別の誰かの悪になる
そして世界の望みが常に正しいわけでもない

猟兵である私には
この世界や帝都桜學府の在り方の正しさについて
論じる資格なんて無い

でも他の世界では
オブリビオンは、強制的に骸の海へ還さなければならない

そこからすれば私には転生はまさに救済だと思ったわ
たとえ倒す側の都合の良い解釈だったとしてもね

だから
貴女の、革命を叫ぶ人達の声の存在は認めはすれど
私はその意見には賛同できないわ


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

確かにあの時、闇の天秤を崩したのは我々
光と闇のバランスを崩したと言われてもやむを得ないか
だが、闇も光もそれだけでは存在できないものだぞ

過去の想いに囚われれば囚われる程
人の心は影朧に同情し、寄るのだろう
影朧を守るということは
すなわち過去に固執するということではないか?

子を国に奪われた貴女の意見には共感するが
貴方自身もご自身の正義のために
この街の人々を無理やり影朧化しようとしていただろう
…そこに正義があるとは思えぬのだがな

他猟兵と協力し竜胆さんを「拠点防御」で護衛しつつ
「歌唱、優しさ、鼓舞」+指定UCで皆の回復と再行動を狙おう
…まあ、これしかできないのが私だがな




「で、それが?」
 鼻であしらう様にそう嘲笑の声を上げるのは、鳴上・冬季。
 冬季の其の問いかけに、何? と玉梓が眉を顰める。
『なに? 妾達の正義を愚弄するのでありんすか、下郎』
 その言の葉と、共に。
 地の奥底から沸き上がる様に生まれ落ちた黄泉比良坂から黄泉醜女を呼び出す玉梓に、冬季がふんと鼻を鳴らし、薄らと笑む。
 それ以上の応えがない、と見て取った玉梓が軽く息をついて腐敗の毒を操る黄泉醜女の腐敗の術に合法阿片の実を腐らせる魔法を唱えさせようとする。
 その様子を白いマスケラの奥に光る翡翠色の目を鋭く細めた『無面目の暗殺者』森宮・陽太がこれは、と無機質に言葉を紡いだ。
 その瞳を、合法阿片の畑へと向けながら。
「この合法阿片の畑は、スラム街の人々にとって貴重な収入源。恐らく表の街の人々に栽培を押しつけられたのだろうが、それでも彼等には生きるために必要な場だ」
「ははぁ、此処の合法阿片栽培地には、そう言う意味があるのでございますか」
(「……アーカイブ検索……合法阿片、乃至は阿片……」)
 自らの脳裏に刻み込まれたAIチップ。
 その中のアーカイブを起動させて検索を行うのは、そのモノアイを青くパチパチと点滅させる、ラムダ・マルチパーパス。
 程なくして検索情報で一致するデータを見つけて、フムフム、と何時の間にか女性型アバターを空中に投影しながら呟いている。
「……阿片とは、本来であれば芥子の実から採取されるアルカロイドを合成して作られるオピオイド、つまり麻薬の事でございますか。成程、成程」
 納得する様に頷くラムダに対して、竜胆が思わず口の端に微苦笑を綻ばせた。
『此方で栽培されているものは、ラムダさんが仰っている阿片とは以て非なるものですよ。少なくとも中毒性については無いと判断されておりますから合法なのです』
「ははぁ、然様でございましたか。此は失礼致しました竜胆様。しかし、中毒性が無い合法のものと言えど商品価値は他の麻薬に比べて低そうではございますが……?」
 問いかけるラムダに確かにそうですね、と微苦笑を浮かべつつ、ですが、と竜胆が軽く頭を横に振る。
『ですが、皆様がよくご存知のお酒や、煙草と同様に好む人がいるのも事実です。そう言った方々のためにこの合法阿片栽培所はあるのですよ。また此処は、帝都桜學府諜報部直轄地です。その為、労働の対価を正式に給金としてお支払いするれっきとした国営企業でもあります』
「ほ~、然様でございますか。いやはや此は失礼致しました。この世界にはそう言う民間ではなく、国営の合法阿片生産地もあるのですね。大変勉強になります」
 そう言いながら、こっそりと背に竜胆を庇う様な位置取りを取るラムダをチラリと横目に見やりながら。
「傾国の姫君ですか。話から察するに過去にも現れた風にも解釈できる相手ですね」
 と愛銃G19C Gen.4のマガジンを取り替え、撃鉄を起こして玉梓に照準を定めるネリッサ・ハーディが静かに息をつく。
(「とは言え、流石の竜胆さんでさえも資料でしか知らないのであれば、具体的な事は本人に聞くしか無いですが……」)
 そうネリッサが考えるその間に。
「鳴上の言い様じゃないが……善とか悪とかは、関係ないな、そんなもの」
 そう吐き捨てる様に呟いて。
 其の背に巨大な白銀の一対の翼を生やし。
 そして血の様に赤く光輝く双眸を鋭く細めた白夜・紅閻が、自らの真の姿を解放し、玉梓を見つめていた。
『関係ない? 何を言うているのでありんすか? 貴殿等は自分達が多数派で有り、少数派である妾等を食い潰してでも幸せを享受する。其れが正しく、関係ないことなのだと本当に思っているのでありんすか!?』
 激昂した感情の儘に叩き付けた彼女の其れに紅閻が軽く肩を竦めて溜息をつく。
「そいつが“此が正義なんだ”と思うんなら、そうなんだろうよ。あんたの正義、竜胆の正義、帝都桜學府の正義、奴等……あんたら『闇の天秤』と呼んでいる奴等の正義。正義なんて言葉はヒト其々のものだって事だ」
 その紅閻の、言の葉に。
「……ヒトの、心の、機微は、ボク、には、よく、わかり、ません」
 辿々しくも静かな声調で。
 吟じる様に其の赤と琥珀色の双眸に逡巡を漂わせての、神宮時・蒼のその否定。
 それでも自分が何を想うのかを、自らの裡の灯……自らが『モノ』として宿す『心』に従い、言葉にして綴る。
「……けれど、犠牲が、前提、なのも、また、違う、ような、気が、する、のです。……新しい、道を、模索、するのも、生きている、ヒト、の、役割、なのでは、ない、かと……」
『何をバカなことを言っているでありんすか? そもそも妾達影朧が生まれ落ちたのは、世界が其れを望んだが故でありんす。そして、その妾達を生み出した者達、700年以上の平和のために切り捨てられていった者達の無念が、哀しみこそが妾達を生み出した力でありんす。なれば妾達は、妾達を生み出した弱者達の力になるべく戦うことこそ必然でありんすよ? それこそが妾達が纏う、ヒトの心の真の役割……!』
 そんな玉梓の何かを払う様な雄叫びに。
「敢えて言わせて貰うよ。アンタの主張は被害者側からの一方的な見方だ」
 そう告げて、ラムダ達の前に立ちはだかる様に姿を現したのは青白く光輝く槍、ブレイズブルーを構えた真宮・響。
「アタシも2人の子供の母親だから、アンタの気持ちは分からないでも無いけれどね。でも、だからと言ってこんな事をして良い理由にはならない。……そう思うだろう? 奏、瞬」
 その響の呼びかけに。
「はい、私もそう思います、母さん」
 シルフィードセイバーを抜剣し、エレメンタル・シールドを構え直しながら。
 真宮・奏が頷き玉梓をその紫の瞳で確と見つめる。
「貴女の、そして貴女を生み出した其れが抱える無念は分からないわけではありません。ですが、影朧は、望まないと転生できません」
 その奏の呼びかけに。
『さて……本当にそうでありんすか?』
 まるで餌で張り巡らした罠に喰らいついた獣を見つけた狩猟者の様に。
 ペロリ、と小さく舌舐めずりをし薄ら笑いを玉梓は浮かべていた。
『本当に望まなければ転生できないと……そう思っているでありんすか? 嘗て想いも意志も関係なく、影朧達を桜の精の力によって、強引に転生させたヌシ等が?』
 その玉梓の呼びかけに。
「……あの時の事か」
 軽く頭を横に振りながら、悟った様にそう小さく呟いたのは星具シュテルシアを杖形態に変形させて握りしめた、天星・暁音。
 その体に刻み込まれた共苦の痛みから発された、突き刺す様な鋭い痛みに印の刻まれた其の箇所を苛まれながら、軽く頭を横に振る。
「ほう、天星。お主は、其の折の事件のことをよく知っておる様でありんすのう?」
 まるで煙管をくゆらせるかの様な、優美な口調で。
 粛々と、色白き肌を血の様に赤く染め上げ、腰まで届くほどに長い銀髪を黒に染め上げて、そう小首を傾げたのは、𠮷柳・祥華。
 祥華の問いを、まあね、と暁音がほろ苦い笑みと共に首肯する。
「でも祥華さん。貴女も『神』ならば俺の言いたい事は分かるんじゃ無いのかな?」
「……ああ、そうでありんすな。嘗て『独神』と呼ばれた存在を知る妾には、おぬしの言いたいことも分からぬわけでは、ないでありんす」
(「因果応報とは、言うたものじゃな。あの時、我の虞に慄いたあの出来事が……のぅ」)
 最終的に今、『闇の天秤』と呼ばれるあの獣……其の獣を以てしても慄然とさせた今の自分の真の姿を見せつける祥華。
 其の祥華に小さく頷きながら、そう、と暁音が周囲に風を漂わせて話し続けた。
「例え『神』であったとしても、犠牲無く全てを選び取る事なんて出来ないんだ。だからあの時、俺達は紫蘭さんが自らの意志で彼女達を転生させた事を否定しない。別れを選ばざるを得なかった犠牲にされた人の想いも、取り残された者のどうしようも無い胸を焦がす切望も、今までの戦いの中でも散々に見てきているから」
「そうですね。彼女達は転生させましたが、そうで無い事例……転生する事を望まず、転生を果たせなかった例も、僕達は見てきています」
 暁音の其の言の葉に。
 六花の杖を構え、空中に氷雪の魔法陣を描き出しながら同意したのは、神城・瞬。
 瞬の言葉に頷きながら。
「確かにあの時、闇の天秤を崩したのは我々だ」
 グリモア・ムジカに譜面を展開した藤崎・美雪がそっと息を吐いて玉梓に頷く。
「そう言う意味では、私達が光と闇のバランスを崩したと言われても、やむを得ない一面があるのは、認めるしか無いだろう。『闇の天秤』……あの獣は、自身を生み出したヒトの想いによって不安定な影朧と化した。その上で、影朧から見た我々命ある者達が求めた理想と現実、2つの世界の理想郷を作ろうと志していた様だからな」
 其の戦いの記憶を思い出して。
 微かに目を細めて吐息を漏らす美雪の其れに玉梓がそう、と落ち着きを取り戻し静かに問いかける。
『そう……。かの存在もまた、妾と同じく世界に望まれたが故に生まれ落ちた存在だったでありんす。かの存在が望んだのは、世界の理想郷。弱者を守り、全ての人々が幸福になれるそんな世界。其の世界を、何故おヌシ等は否定し、此度は妾の邪魔をするのでありんすかや?』
「何、光と闇はそれだけでは存在できないその事を、私達が知っているからだよ」
「ええ、そうですね。そして、民は……生きている人々は、正義の革命では無く、不正義の平和を求めるものです」
 美雪の其れを受け止めて。
 ウィリアム・バークリーがルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、空中に魔法陣を描き出しつつ、自分なりの解を述懐する。
「そもそも民は、平和を、安寧を、安全を欲するのが当然なのです。その先にある世界が自分達にとっての光になるのだと分かっているから。だからこそ彼等は、強きものについて生きていきます。その民達からの支持こそが、平和の礎なのです! 少なくとも、あなた方の革命遊びに民草は付いてきません!」
 咆哮の様に叫ぶウィリアムの其れに。
 漆黒の全身鎧……彼方此方に赤黒い血の線の入る其れを纏い、面頬を引き下ろした館野・敬輔が黙って首肯して。
 赤黒く光り輝く刀身を持つ黒剣の上から無数の白き靄を纏わせながら突き放す様な冷たい声音で粛々と告げた。
「そうだな。鳴上の言うとおり、貴様の正義も帝都桜學府の正義も、実は俺にとってもどうでも良い。だが、ウィリアムの言う平和を求める民を……他者に害を為そうとする貴様を、俺は……いや、俺達は絶対に許さない」
 敬輔の決意と憎悪に満ちたその言葉に。
「そうですね。私は貴女を悪と断じる程、長生きでも偉くもありませんが」
 朱雀門・瑠香が頷き、物干竿・村正を刺突の態勢に構え、赤い瞳を鋭く細めた。
「ですが、貴女が自身の正しいと思うことを成し遂げようとするのと同様に。私も、私の信じる正義を為す。それが貴女を斬ると言う事であるだけの事なのですよ」
「朱雀門殿に同意ですね。そもそも、身勝手なのは、あなたの言い分の方でしょう」
 瑠香の其れに頷いたのは。
 和服を身に纏ったまま流れる様な白髪を風に靡かせ、その額から鋭い2本の角を生やした馬県・義透。
 それは、義透の人格の1つたる『疾き者』……もし生きていたら至っていただろう真の姿『風絶鬼』の威風を纏いし忍びの鬼。
『妾達が身勝手じゃと?』
「ええ、その通りです。少なくとも、『オブリビオンに殺された』、『忍びという少数派』に『属する』私に問いかけるべきことでは無い」
 そもそも『疾き者』は……否、義透と言う術式を構成する者達は。
「私……『我等』は、黄泉還りですが? そして、人を害しようとするものを許さぬ『悪霊』ですが? そんな『悪霊』の1人である私は、貴女のやり方を否定し、竜胆さんを、人々を守りますが?」
 舌峰鋭き義透の糾弾。
 其れを叩き付け、玉梓が怯むその間に、素早く早九字を切り始める義透。
 そんな義透の様子を見つめながら、その瞳を真紅に変えた儘、血の涙を零し続ける彩瑠・姫桜が玉梓に向けてだから、と小さく言の葉を紡ぐ。
 血の涙を受け止めた其の右腕の玻璃鏡、『桜鏡』の鏡面が、穏やかな波紋を広げるのに目を落としながら。
「誰かにとっての正義は、別の誰かにとっては悪になるものよ」
 ゆっくりと説き聞かせる様に、黒き槍schwarzと白き槍Weißの二槍を翻す様に翳しながらそう告げる。
『さて、そうでありんすかね? 強き者達は、自分達に都合の悪い真実は幾らでも其の力で揉み消し、弱者達の声に耳を貸さずにその時を進めていく。其れは紛れもない、悪に決まっているでは無いでありんすか。何故、そうまでして其奴と、世界を歪ませる正義面した帝都桜學府の味方をするのでありんすか?!』
「……そうね。あなたの言う通りかも知れないわ」
 玉梓の悲痛な叫びを正面から受け止めて。
 軽く腰まで届く程の金髪を風に靡かせて、でもね、と姫桜が言葉を紡ぎ続ける。
「世界の望みは、常に正しい訳でもないのよ。あなたが生まれてきた事が正しくとも、それは猟兵……超弩級戦力に過ぎない私には、正しいかどうか何て論じる資格は無いわ」
 でも……超弩級戦力だから。
 否……猟兵だからこそ、見えている『真実』は確かにある。
 それは……。
「そう。あなた達の様な影朧……言葉を飾っても無意味ね。義透さんの言った『オブリビオン』は、強制的に骸の海へと還さなければならないの。それは他の世界にとっては紛れもない、真実なのよ」
『……妾達の存在を、世界が否定する……そう言いたいのでありんすか? 話しにならないでありんすね。それはそうヌシ等が都合良く解釈している、只、それだけの事ではないのでありんすか?』
 その玉梓の問いを。
「違う」
 きっぱりと否定したのは、文月・統哉。
「違うんだ。オブリビオンと呼ばれる存在であったとしても、人と……生命ある者達と共に在る事が出来る存在は、異世界には確かに存在する。UDC-Pと呼ばれる『ヒト』達が」
 ――そう。
 それはオブリビオンでありながら、『ヒト』達と相容れることが出来る『少数者』
「『ヒト』と共に在り、生きていくことを望み、其れを行える者達もいるのに、貴女には壊すことしか選べなかった。それはきっと……祝福じゃなくて、呪縛なんだ」
 だから。
 漆黒の大鎌『宵』を肩に担ぐ様に構えて、ネリッサの反対側から竜胆を守る様に立つ統哉が竜胆さん、と静かに呼びかけた。
「未だ、彼女が……紫蘭が転生したばかりのあの時。氷上の力なき無力な存在であった彼女を、あの時俺は助けたいと思った。貴方も本当は……助けたかったのではないですか? 力なき者達を助けられるだけの力が無かったから、貴方は彼女を見殺しにする……いいや、せざるを得なかったのでは無いですか?」
『統哉さん、それは……』
 先程渡された、着ぐるみ型の超防御型甲冑を改めて左手で持ち上げて。
「俺がこの甲冑を創ったのは、貴方に戦場に立って貰う為。刃が無くとも、其の情報収集力と指揮官技能を使って、俺達を使って欲しい。だから……!」
 強き決意を其の赤い瞳に燃やしながら。
 告げる統哉の呼びかけに、束の間竜胆が考える様な表情を浮かべている。
 そのサングラスの奥の眼光には……言葉で推し量ることの出来ぬ程の何かが籠っていた。
 ――束の間の静寂。
 それは正しく嵐の前の静けさの如き、ほんの一瞬の刻。
『……分かりました』
 竜胆が頷いて。
 はっ、とした表情になった統哉の手に収まっていた着ぐるみ風防衛特化型甲冑を受け取り、私服の上からさっ、と着込み、そして……。
 粛然とした面持ちでサングラスを外し、上に立つ者特有の鋭意な眼光を煌めかせ、全身から不思議な力……カリスマを放っていた。
 ユーベルコヲドでも何でも無い、だが重ねられた年月と経験に裏打ちされた其れに、統哉が無意識に襟筋を正す。
『そう言うことでしたら、今少し、私にも出来る限りのことをさせて頂きましょう。最も、精々囮になる事、そして皆さんのサポートだけでしょうが』
 その竜胆の呼びかけに。
 真剣な眼差しを玉梓に叩き付けていた統哉が思わず口元を緩めて笑った。
「頼りにしているよ、竜胆さん。見せてくれ、貴方自身の正義を貫く覚悟を」
『あくまでも、私に出来る限り、と言う事になりますがね』
 口元を緩めた統哉の其れに小さく息を吐き応える竜胆の其れを聞いて。
『何を愚かなことを言っているのでありんすか? 所詮は数多の弱者の犠牲の上に成り立った裸の王様風情に過ぎぬ、その男に!』
 統哉の言葉に憤怒の声を上げる玉梓の様子を見て、ミハイル・グレヴィッチがやれやれ、と呆れた様に溜息を吐いた。
「ったく、傾国の姫君だか何だか知らねぇが、俺に取っちゃジョブのひとつでしかねぇんだ。倒すべき相手に同情なんざしてたらキリがねぇって、正直思うんだがねぇ」
 言いながら、竜胆が後ろ手に翳した手信号を受け取り音も無く後退、絶好の狙撃ポイントに移動するミハイルのぼやきに。
「まあ、その点はミハイルさんに深く同意しますし、竜胆氏も同様に考えている様に思われますが……ですが、統哉さん達と局長、どちらの意向も無碍にするわけにも行かないのでしょう。……この様に色々と前口上する辺り、彼女も『ヒト』ですし」
 大いに頷きながら、玉梓の回りに展開された勾玉を阻害するべく漆黒の森の様な霧で周囲を包み込む灯璃・ファルシュピーゲル。
 ドイツを中心に西欧に広がる『魔の森』を模した其の霧の中で、闇黒を払うかの様な暁光を齎す勾玉を見つめながら溜息をついた。
「職業柄、こういうテロ犯はよく相手にしましたが、正義とか悪以前に戦うのが生き甲斐になってしまっているだけでしょうしね。責務を免罪符の様に掲げる相手の魂を救済しようなど無茶も良いところです」
 灯璃の愚痴をJTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioの音声通話機能が偶然拾ったか。
「……ですが、やるつもりでしょう」
 ネリッサが哉達には聞こえない程度の小さな声で静かにそれに応えた。
「傾国の姫君と呼ばれる彼女が今行おうとしている事は、矛盾と欺瞞に満ちたものではあると思いますが、此処で帝都桜學府の威信を影朧に傷つけられるわけにはいきません。彼女の言葉を肯定することは、帝都桜學府の誇りを穢し、相対的に其の力を弱体化させるものですから」
 何処か苦いものが混ざるネリッサの其れに、ヤレヤレとミハイルが肩を竦めた。
「まっ、其れもボスのオーダーなんだろ? 竜胆の奴は報酬を弾んでくれるそうだし、今回は付き合うさ」
(「……本来ならば、この世で最も信じられるのは、圧倒的な力の差と、困り果てたが故の妥協のみ、だがな」)
 だが、其の妥協の到達点が今回は此だというのであれば。
 其のオーダーを果たすことこそ……。
「俺達SIRD――Specialservice Information Research Departmentのミッションだからな」
「そう言うことですミハイルさん。最後までどうかお付き合いの程を。灯璃さん、ラムダさんも宜しくお願いします」
 そのネリッサの呼びかけに。
『Yes.マム!』
 通信機越しにミハイルと灯璃が、ネリッサの眼前でラムダの女性型アンドロイドのホログラムが声を張り上げ敬礼するのに頷いて。
 ネリッサ達猟兵及び竜胆と、玉梓の戦いの鐘は始まりの音を鳴らしたのだった。


「ホホホ……文月の奴が、まさか竜胆に指揮権とやらを渡すとはのう……此は意外な流れになったものじゃ」
 カラコロと。
 統哉の竜胆に対する依頼を空中で浮遊しながら聞いていた祥華が鈴の鳴る様な笑い声を立てた。
(「まあ……良い。確かにこの地に詳しい竜胆であれば、妾達を上手く導いてくれそうじゃしのう……」)
 其の祥華の心の声を、まるで聞いていたかの様に。
 灯璃によって生み出された漆黒の霧に割れ目を作る様に凍てつき腐敗させようとした黄泉醜女を見て。
『祥華さん、祈りを捧げて頂けますか?』
 通信機から漏れてきた竜胆の其れに思わず口元を緩めた祥華が、静かに念じる様に両手を組む。
 其れと同時に天空より降り注ぎ始めたのは、酸を含む全てを貫く白き雨。
 白き雨が、灯璃の黒霧の中を貫通する様に降り注ぎ、黄泉醜女の恐ろしい顔を、容赦なく焼き払う。
『ギャァァァァァァァァァッ!』
 ジュウジュウ、と肉が焼け焦げる臭いと音と共に黄泉醜女より上がる悲鳴。
 悲鳴を耳にした玉梓が咄嗟に其の手を振り抜くや否や、周囲に展開されていた勾玉達が妖しく光り残虐な鎌鼬の群を生み出すが。
『今でしょう』
「ええ、そうですね……Active Ice Wall!」
 竜胆の静かな声を聞いたウィリアムが『スプラッシュ』で空中に描き出した無数の青と若葉色の混ざり合った魔法陣を発動。
 同時に無限にも等しい無数の氷塊が氷盾となって鎌鼬の群に覆い被さる様に湧き上がり。
「守るべき相手だからこそそれだけ戦況を的確に把握できるか。……盲点だったな」
 紅閻がウィリアムの氷塊の影から飛び出し疾風迅雷の動きで玉梓に急迫。
(「篁臥、お前はラムダを」)
 自らの守護獣、篁臥にそう意志を伝えながら。
 玉梓が咆哮し、巨大な犬へと変貌を遂げる直前に、紅閻はカボチャの様なフォースイーター、イザークとレーヴァテインを解放。
「キャハハハハハハッ!」
 箍が外れたかの様な笑い声と共にカボチャの様な体の顎を開いたフォースイーター=イザークが漆黒の重量弾を生み出し敵に噛み付き。
 続けざまに終末の焔の名を冠したもう一体のフォースイーターが其の顎を開いて大気を切断。
 斬撃の衝撃波を生み出して今にも変身しようとしている玉梓の華奢な体を切り裂いた。
『ぐうっ?! 何故でありんすか!? 妾が……あの者達の遺志を継ぎし妾がいきなり押されている……?!』
「まぁ、元より世界とは理不尽で形成されておるものじゃ。その様な事は幾らでもあろう」
 忌々しげに呻き舌打ちをする玉梓の様子を見ながら然もあらん、と首肯する祥華。
 其の祥華の笑い声を打ち消さんとするかの様に、手負いとなりながらも、巨大な犬へと変身を遂げ、その口から鋭い牙を覗かせる玉梓。
 そのまま低く唸る様に忌々しげな咆哮を上げると同時に、大気が割れる様な振動を起こしそれが牙による斬撃の波と化して襲った其の直後。
「竜胆様をやらせるわけには参りません! モード・ツィタデレ起動。電磁防御フィールド、出力強化。機体内エネルギーを優先的に供給」
 ラムダが無機質な機械音と共にすらすらと防御システム、『モード・ツィタデレ』の起動コードを読み上げた。
 読み上げられたコードに対応してラムダの前面の電磁複合装甲の電磁波が強化される気配に気がついた篁臥がラムダを口に咥えると。
「……えっ? な、なんでございますか、篁臥様!?」
『グルルルルル……』
 慌てふためく女性型アバターが慌てる様子を省みることもなく。
 篁臥がそのまま遠心力を使ってひょい、とラムダを投げて、そのまま自らの背中にラムダを騎乗させる。
『グルル』
「な、成程。確かに此でしたら私の『モード・ツィタデレ』の不利を打ち消すことが出来る様になりますね……感謝の極みでございます」
 呟き篁臥の背中に跨がりながら生み出した電磁防御フィールドで、斬撃の波を届ける空気に干渉して、斬撃波を阻害するその間に。
「……竜胆様は、この先の、未来に、必要な、御方、です。……だから、ボクも、守り、ます……!」
 ふぅ、と。
 淡く優しく儚い吐息を、自らの手の純白の杖、雨に薫る金木犀に吹きかける蒼。
 限りある短き時の中で、懸命に咲く儚き幻想の花の名を抱きしその杖の先端に止まる緋の憂い宿す幽世蝶が、蒼の吐息に乗って羽ばたく。
 其れと同時に生み出されるは、彼岸の花の如く、儚き憂い抱きし緋の鱗粉。
 宙を舞う幽世蝶より降り注いだ緋の鱗粉。
 結界と化した其れが、電磁波に其の勢いを削がれた斬撃の波の前で障壁と化して其の勢いを剛に対する柔の如く受け止めた。
『くうっ?!』
 斬撃の波を受け止められギリリと歯軋りをするかの如く唸る玉梓。
 それでも周囲に展開していた無数の勾玉の怪しき輝きは消えること無くそのまま戦場を斬り裂く鎌鼬を生み出し。
 其の鎌鼬の刃に乗じる様に、玉梓がラムダを飛び越え、空中から竜胆の喉元に喰らいつこうとした其の刹那。
『……姫桜さん』
「ええ……分かっているわよ!」
 竜胆のそれに頷き真紅の瞳から血の涙を流しながら一体のヴァンパイアが割り込み二槍を風車の様に回しながら攻撃を防御。
 その姫桜とウィリアムの氷塊の間を擦り抜ける様にしてぬっ、と姿を現した統哉が、漆黒の大鎌『宵』を一閃。
 其の刃先に虹の如く輝く色彩の波と共に放たれた一閃が、玉梓の牙を容赦なく打ち据えている。
『……馬鹿なっ! 正義は妾等にあり! 世界に望まれて生まれ落ちた妾の刃が、ヒトの、影朧の想いが! 如何して! 受け止められるのでありんすか?!』
 悲鳴の様な玉梓の念に、祥華が祈りを捧げながら、口元で笑みを形作る。
 そのワンピースの裾が風に泳ぐのに身を委ねながら。
「おぬし等影朧が、存在する理由。それは貴様の言うとおりじゃろう。じゃがおぬしは1つ間違いを犯しているのじゃ」
『間違い!? この妾が生まれた意味! 其の答え! 其れが間違いの筈が無い!』
 喚く様に叫んで後退し黄泉醜女を嗾ける玉梓。
 嗾けられた黄泉醜女の腐敗の魔法に、買い立てのワンピースが腐敗し溶けるのにやれやれと溜息を吐きながら祥華が首を横に振る。
「違うのう。おぬしらが生まれたのは残留思念……つまりヒトの“想い”によるものじゃ。ヒトの想い程、厄介なものもない。其れが強ければ強い程、尚更のぅ。じゃが、それはあくまでも世界が、ヒトやおぬし等に“与える”だけに過ぎぬ」
『……戯言を!』
 祥華の諭す様な其れに怒りも露わに食ってかかる様に吼える玉梓。
 其の咆哮に応じた勾玉達が不気味な明滅を発し再び大気を真空状態にするべく刃を生み出そうと……。
「護衛はあれだけ手があれば足りている筈! 行きますよ、冬季さん!」
「ふむ、分かりました。それでは……既に貴様は我が陣の中。野鼠の如く逃げ惑え……八卦天雷陣」
 瑠香の呼びかけに応じる様に、呪符をその場で翳した冬季が粛々と呪を紡ぎ上げる。
 紡がれた呪に従う様に生み落とされた天雷が、瑠香の物干竿・村正に大蛇の様に絡みつき、瑠香がそのまま神速の一突きを解き放った。
 鋭い刺突の一撃に気がついた玉梓が間一髪その攻撃を避けようとした、其の刹那。
「……Начать съемку(射撃開始)」
 SV-98Mのスコープから覗き込んだミハイルが銃の引金を躊躇いなく引く。
 放たれた一発の銃弾が螺旋状の回転を得て加速して、横合いから玉梓の胴を貫通して撃ち抜き、その体から血飛沫を迸らせるその間に。
「……斬るっ!」
 瑠香が神速の突きを其の眉間に叩き込むと同時に、86回の目にも留まらぬ斬撃を放ち、玉梓をズタズタに斬り裂いた。
 ――終の舞・散桜。
 そう名付けられし瑠香の奥義の上に重ね合わされた冬季の稲妻が、纏わり付く様に玉梓の体を締め上げる。
 肉が焼け焦げ、全身に痺れる様な痛みを受けて苦痛の呻きを上げる玉梓に嘲笑を浮かべながら、得々と冬季が話しかけた。
「帝都桜學府の彼等が正義を標榜するのも、貴女が影朧の守護者を謳うのも。大局から見れば、どちらも意味が無いことです」
『……何じゃと!?』
 冬季の罵声とも取れるそれに感電と火傷に苦痛の呻きを上げつつも咆哮する玉梓。
 咆哮に応じた黄泉醜女が素早く呪詛を切り、全てを腐敗させる竜を象ったそれを冬季に投げる。
 だが、冬季の黄巾力士がその間に割り込み、黄土色の結界を張り、冬季を守った。
 其の冬季に竜胆から送られた手信号を見て取って、軽く龕灯を振る。
 龕灯の中の蝋燭の上の炎が冬季の手の動きに釣られる様に、陽炎の様に揺らぐと同時に、天空に豪雨直前の雷雲が顔を覗かせ。
「――青天の霹靂」
 告げるや否や滝雨の様に落雷が降り注ぎ、黄泉醜女と玉梓を纏めて撃ち抜き其の感電による傷口を拡げていた。
『大局から見れば、意味は無い?! 其れは有り得ない話でありんす! そもそも、ヒトは、ヒトの心は正義……己が『信念』と言う名の誇りがあり、其れ無き心は、過ちを正す力さえ持てぬ! その様な怠惰と欺瞞に包まれた世界をおヌシは肯定するのかや!?』
「澱んだ水は、腐って濁る。動き続けてこそ、傍目には静止と変わらぬ状態となる。どちらに多少寄ろうとも、動き続ければ中道に至るのです。不死帝の作られた箱庭は、実に美しい」
 何処か陶然とした様な表情で。
 静かに告げる冬季の言葉に籠められたそれは、まるで泰然とした仙人の様。
「故に、素晴らしきこの世界で生きるために、望みのままにぶつかり合い生きるだけで良いのです。さぁ……滅し合いを続けましょうか」
 落雷と共に薄らとした嘲笑を浮かべる冬季の其れに。
『……舐めるな!』
 咆哮を上げ、撃ち抜かれ、感電し、傷だらけになった体を踏み込ませ、其の牙を鋭く光らせ冬季に向かって突進しようとする玉梓。
 其の周囲の勾玉が鎌鼬を生み出して、灯璃の黒霧を斬り裂こうとした、其の刹那。
「母としての無念は分かる。けれども、祥華達が言う事とは別に、アンタは間違いを犯している」
 響がブレイズブルーを掲げ、其の背後に111体の胸に【1】と刻み込まれた槍で武装した真紅の鎧の騎士達を召喚。
 斬り裂こうとする霧の向こうから煌々と煌めく炎の塊と化した騎士団達に、一斉に其の槍を突き入れ玉梓の動きを阻害させ。
「今だよ、奏! 瞬!」
 響に頷いた奏が黒霧の中に踏み込み、シルフィードセイバーを振り下ろす。
「今、矛盾した貴女の信念を切り裂く信念の一撃を!」
 叫びと共に風の衝撃波を纏った刃が牙を剥いた玉梓に迫り……。
 ――キーン!
 澄んだ音と共に、その前足の爪で受け止められた。
 まるで鋼鉄の様な硬さを帯びた其の爪と奏の怪力が拮抗し、火花が飛び散る。
 そのまま後ろ足で畑を蹴り上げ、土かけで奏の目を潰そうとする玉梓の其れに。
『おや、何をしているのですか? 貴女の狙う私は、此処ですよ?』
 背後から朗々とした呼びかけが響き渡り、はっ、とした表情になる玉梓。
「……何の戦う力も持たぬ筈の貴様が妾の後ろに回り込むでありんすか!? 洒落臭い!」
 そう嘲笑すると共に。
 背後に回った竜胆を後ろ足で蹴り上げようとした、その時。
「全く……指揮官が其れで倒れてしまっては、部下達も苦労を強いられてしまうと思いますが……ですが、古代の覇王は常に最前線に立って戦っていたのですよね」
 呟きと共に、愛銃の引金を引く……と見せかけて、左手に隠していた小さな結界石を指弾の様に飛ばすネリッサ。
 ネリッサから飛ばされた小さな結界石が蹴り上げようとした玉梓の後ろ足に張り付くと同時に。
『グルァァァァァァァァァァァァァッ!』
 忌まわしくも不気味な外見をした猟犬が咆哮と共に飛び出し、蹴り足を容赦なく喰らい尽くす。
「今ですね……Sammeln!Praesentiert das Gewehr! ……仕事の時間だ、狼達≪Kamerad≫!」
 その頃合いを見計らっていたかの様に。
 キビキビと灯璃が命じ、炎の騎士達の篝火によって守られた漆黒の森の様な霧から影の狼の群を殺到させ。
 殺到した狼の様な影の群は、ネリッサの猟犬との波状攻撃で喰らいつき、玉梓の犬と化した体を噛み千切る。
『ガッ、グガァ、馬鹿な……っ! 『闇の天秤』とヒトの遺志を受け継ぎ、世界に生み落とされた筈の妾がこれ程までに……!』
 体中を傷だらけにされながら、呻き声を上げる玉梓。
 それでも従来の獣の生命力故か、見る見る内にネリッサによって引き千切られた筈の足が再生していく。
「……ですが御陰様で、一気に押し込める様になりました!」
 奏がそう叫び、そのまま爪と火花を散らしていたシルフィードセイバーを握る手に更なる力を籠めると同時に踏み込んだ。
 拮抗していた筈の力に揺らぎが生じ、其の爪と其れを生やす前足に深々と斬痕が生み出されていくのに玉梓が苦痛の呻きを上げる。
 その奏を追い払う様に勾玉達が縦横無尽に飛び回り、奏の周囲を真空状態にして鎌鼬減少を発生させようとするが。
「そこですね……行きます!」
 その瞬間を狙っていた瞬が、六花の杖を高々と掲げる。
 掲げられた水晶の様に透き通った杖の先端に一族に代々伝わる月読みの紋章が中央に刻まれた魔法陣が描かれて。
「さて、此を見切れますか?」
 呟くと同時に、魔法陣が水晶色の輝きと共に555本の氷結の矢を解き放つ。
 一直線に放たれた555本の氷結の矢に気がついた黄泉醜女がその矢を腐敗させるべく刻んだ呪を解放し其れを打ち砕くが……。
「ですが、数の暴力の前では無意味ですよ」
 呟きと共に、もう一度精神力を籠めた瞬の魔力の波動に導かれる様に、腐敗すること無く残った氷結の矢が次々に玉梓に突き刺さった。
 突き立てられた氷結の矢により揺らぐ玉梓の痛みに応じる様に奏の周囲で真空状態を作っていた勾玉達が玉梓の回りに集結。
 其の体を保護するかの如く薄緑色の風の結界を生み出すその間に、体を切り裂かれながらも奏がそっと詰めていた息を吐く。
「助かりました、兄さん」
 後ろを振り返り、礼を述べる奏に頷く瞬。
 その間に暁音が星具シュテルシアを両手で握りしめ、かの祈りの呪を紡いでいた。
『祈りを此処に、妙なる光よ。命の新星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を…傷ついた翼に再び力を!』
 言の葉と共に、暁音の周囲に、方円の様に古代ルーン文字が浮かび上がる。
 浮かび上がったルーン文字に刻み込まれた星の力を星具シュテルシアの頭頂部に蓄えた暁音が、それをすかさず放出。
 神聖なる星の光が、肩で息をしていた奏の傷を癒していくのに頷きながら。
「例え、貴女の言う事が正しいのだとしても、それでも俺には、必要に迫られれば大の為に小を切り捨てる道しか選べない。それは、とても、とても悲しいことだけれども……それしか俺には選べないんだ」
 暁音が共苦の痛みから発される、刺し貫く様な鋭い痛みを堪える表情で。
 そう語りつつ、左手から細い銀の糸を抜いて黄泉醜女の続く術式を縛り上げる。
 その隙を突いて追撃を仕掛ける様に。
「……人、いえ、この世界では他の種族も生まれてくる以上、『ヒト』と呼ぶべきでしょうか。彼等は、或いは彼女達は1人で生きていくことは出来ません」
 ネリッサがG19C Gen.4の引金を引き銃弾を発射し、玉梓の風の結界を撃ち抜いて。
 其れに罅の入る音を耳にしながら、ネリッサは淡々と話し続けた。
「それがある程度文明が発達した世界ならば、尚更です。そして政と言うのは、残念ながらマクロ的な視点で決めていくしかありません。故に、ミクロ的視点から見た場合には、どうしても割を食ってしまうという不幸は起きてしまいます。そう……暁音さんの言う、見捨てなければいけない犠牲の様にですね」
『ならば何故、その様な愚行をヌシ等は許容するのでありんすか!? そのミクロ……少数派達の犠牲を無碍にする今の世界の天秤を一度戻さなければならないのではありんすか!?』
 響や奏を振り切り咆哮しながら全身をその場で駒の様に回転させる玉梓。
 巨大な犬と化した玉梓の回転に乗じて勾玉もまた回転しながらその場の空間を断ち切り、無数の鎌鼬に分裂する。
 その鎌鼬の一部が、竜胆とネリッサ、竜胆の護衛に加わっていた姫桜を切り裂こうとした、その時。
「……解放。『大風』」
 義透の朗々とした声が響き渡った。
 義透の声に応じる様に竜胆の影に隠れていた陰海月が薄水色の結界を展開、竜胆ごと姫桜達を守るその間に。
「……皆様を、やらせは、しません、から……!」
 赤と琥珀の色彩異なる双眸を彷徨わせる様に煌めかせた蒼が純白の雨に薫る金木犀の力を解放。
 解放された純白の弾丸が鎌鼬を支援するべく腐敗の術で陰海月を腐らせようとしていた黄泉醜女を撃ち抜く。
『ぐぎゃっ?!』
 破魔の光を纏いし純白の弾丸に悲鳴を上げる黄泉醜女を赤と琥珀色の双眸で憐れむ様に見つめる蒼が雨に薫る金木犀を天に掲げると。
 杖の先端の玉石が淡い赤い光を放ち、緋の憂い纏いし幽世蝶達の鱗粉が強化され、竜胆達を守る結界に重なった。
 薄水色と緋の混ざり合った紫の結界に鎌鼬がぶつかったその瞬間。
 鎌鼬が90度曲がって誰もいない空中へ跳び、ウィリアムの氷塊に激突して、そのまま弾けて消えていく。
『なっ?!』
 思わず、と言った様に息を呑む玉梓の周りの暗雲がより一層濃く染まり、冬季の落とし続ける天雷の威力を更に加速させる。
 続けて降り注ぐ激しい豪雨。
 祥華の白き酸の雨の勢いもまた、更なる加速に満ち満ちて、動揺する様に周囲を見回す玉梓の全身を、呪詛が縛り上げた。
『ガガッ……ゴァァァァァッ?! こ、これは一体……』
「……言ったでしょう。私……いえ、私たちは、悪霊。その悪霊たる私たち……我等の呪いは尽きる事無し」
 そう告げたのは早九字を結び、玉梓の周りの天災だけを加速させた義透。
 その額から生える緑の2本の角と白髪を彩る翡翠色の瞳は、氷の槍の様に凍えそうな程に冷たい眼光を称え、玉梓を射抜いていた。
『……ぐっ、じゃが妾は、妾達は世界の、ヒトの望みによって生み出された者達! 故にヌシ等に此処で後れを取るわけには行かぬでありんす!』
 圧しかかる様な呪詛の重さを堪える様にした玉梓を守る様に、黄泉醜女が素早く術式を編み上げる。
 同時に玉梓の幾度目かの咆哮に、あらぬ方向に飛ばされ雲散霧消させられていた勾玉達が周囲に展開、再び鎌鼬を生み出そうしたその時。
「……行け、我が声に導かれし悪魔の子らよ」
 濃紺のアリスランスと淡紅のアリスグレイヴを十字に構え。
 描かれた魔法陣の中央の絵画には、体長10cm程の小悪魔達の群れ。
 それは人の子供を小悪魔へと変え、駒として利用する外道なる術の証。
「……行け! 奴らを蹂躙……殲滅せよ!」
 陽太の叫びと共に、魔法陣からその姿を現したのは計105体の全身を黒く塗り潰された小悪魔インプ達。
 その105人の赤ん坊を基にした小悪魔達が、口々に嘲笑を上げながら、黄泉醜女に襲い掛かる。
 腐敗の術式を幾重にも重ね、周囲の合法阿片を糧に腐敗の結界を生み出そうとした黄泉醜女に小悪魔達がフォークを突き出す。
 その手のフォークによる乱れ突きに、黄泉醜女の集中が搔き乱され。
『おのれっ!』
 と怒声と共にインプ達を吹き飛ばすべく鎌鼬を解放した玉梓に。
「貴様は、この街の住人をグラッジパウダーで強制的に影朧化しようとしたな?」
 漆黒の全身鎧に身を包み、鎧に刻み込まれた血色のそれを殺気に変えて、自らの残影を生み出しながら敬輔が問いかけた。
『それが如何したのでありんすか? そもそも妾はあの者達を犠牲にするつもりはないでありんす。ただ……妾達と共に戦う輩として、この地の者達と共に歩もうとしただけでありんすよ』
「……ふざけるな! そんな理屈が通用するものか。それは貴様達の望む革命への犠牲だ。貴様が帝都桜學府を忌み嫌う理由……『小を犠牲にして大を救う』ための愚劣な行為と同種のものだ!」
 叫び、赤黒く光り輝く黒剣を大地に擦過させ、それを一気に振り上げる敬輔。
 赤黒く光る闇と白き靄が混ざり込む様に溶け合った三日月形の斬撃の衝撃波が呼び戻された勾玉達を叩き落とす。
 そのまま肉薄し、懐に飛び込む様にしながら続けて刺突の衝撃波を放つ敬輔。
 けれども、黄泉醜女が先程召喚した風の結界が、辛うじてそれを受け止めた。
 攻撃を受け止められ後退、体勢を立て直す敬輔を見下ろしつつ淡々と陽太が言う。
「合法阿片の畑と言うこのスラム街の人々の収入源を一方的に奪い断ち、あまつさえ住人達を強制的に影朧化しようとした貴様は……『小』そのものを踏み躙る俺の『敵』だ」
 その、何処までも冷徹な口調の陽太の其れに。
 ピシャリ、と稲光が戦場を走っていった。


「……これだけ、負傷を、重ねても、まだ、動ける、の、です、ね」
(「……きっと、この方とは、言葉では、分かり、あえない、でしょう、し……」)
 赤と琥珀色の双眸に諦念の様な、静かな漣の如き哀しみを称えながら。
 呪詛に縛られ、走る稲光に打ち据えられ、絶えぬ酸の雨と落雷にその身を焦がせられながらも尚、動ける彼女を蒼は見つめる。
 同様に黄泉醜女もまた、陽太の呼び出したインプ達に攻撃を邪魔されながらも尚、倒れる様子を見せぬ。
 それどころか体をフォークで削り取られても尚、腐敗の術式を髪に隠れて見えぬ両目で起動させようとする始末。
(「……やはり、このまま、では、止められ、ません、か」)
 胸中で諦めた様に息をついた蒼が、腐敗させられていく世界の中で深呼吸を一つ。
(「……ボクは、モノ。……ですから、腐敗が、進もう、とも、この体が、腐り、動けなく、なる、ことは、あり、ません……」)
 ――だから。
「……其れは、燃え盛る、赤」
 蒼は、人の肺や身体を腐らせようとするその術を使う、黄泉醜女に向けて、雨に薫る金木犀を突き付けて、それを歌う。
 歌の様に紡がれる蒼の詠唱の言の葉に乗って、緋の憂い抱きし幽世蝶が、幾重もの群れと化して、蒼の周りに集結した。
『……っ! 何をするつもりでありんすか!? やらせないでありんす!』
 嫌な予感を覚えたか、叫びと共に、傷だらけの体と自らを蝕む呪詛の苦しみを取り払う様に蒼に向かって疾駆しようとする玉梓。
 だが……。
「おやおや、それであなたは宜しいのでしょうか? 嘗て傾国の姫君として、私達にその名を知らしめた貴女様が否定する正義を放置しても? 少なくとも、其方の方は、貴女様と分かり合える術を探しているのかも知れないと言うのにですよ?」
 この戦場によくとおる、竜胆の声。
 嘯いている様にしか聞こえぬ挑発に、玉梓が肩を怒らせ、其方を振り返っている。
『帝都桜學府の狗如きが! この妾に指図するというのでありんすか!?』
 怒声と共に振り返りざまに傷だらけの両後ろ足で大地を踏み抜き、竜胆へとその牙をむき出しにする玉梓。
 だが、その時には……。
「いやはや、いやはや。大を取るか小を取るか。どちらが正しいのかと言うのは本当に判断の難しいことでございますね、竜胆様に其方のお方。しかし、竜胆様。貴方様は、我等と異なる只の人の身でございます。人の身でありながら自ら囮になるのは、蛮勇というものではございませんでしょうか?」
 女性型AIアバターをその背に召喚し、諭す様に口上を並べたてながら、紅閻の篁臥の背に跨ったラムダが玉梓の前に回り込む。
 竜胆の上空を滞空していた白梟が、まるで其の言の葉に同意するかの様に嘶きを上げつつその口から白炎のブレスを放出。
 白梟の白炎のブレスに顔を炙られ、呻く間にモード・ツィタデレを起動させたラムダが割り込み高密度電磁防御フィールドを再展開。
 それが障壁となって玉梓の牙を受け止め、ついでにそこから放出される電磁波の網でその攻撃を絡め取るその間に。
「イザーク、喰らえ! レーヴァテイン、切り裂け!」
 白翼を羽ばたかせ空中を舞う様に滞空していた紅閻が上空から2体のカボチャの姿をしたサイキックエナジーを射出する。
 シルクハットを被った垂れ耳のレーヴァテインがその口から斬撃の刃を解放。
 解放された刃が幾重にも空気を切り裂く様に分裂して玉梓を切り裂くその間に、フォースイーター=イザークが口を大きく開き。
 ――ガブリッ!
 と玉梓の体を押し潰す様に喰らい、エネルギーにして吸収するその間に。
「……其れは、絶望の、赤。……空に、満ちろ」
 蒼が歌う様に最後の其れを紡ぎあげると。
 ――轟。
 と義透に操られた突風が舞い上がり、蒼のスカートの裾を靡かせる。
 その風に揺られる様にしながら、蒼がその手の雨に薫る金木犀の杖先で、陣術の魔法陣を描き出していた。
 描き出された法陣に、移ろいゆく時の様に儚く淡き緋の憂いを抱く幽世蝶の群れ達が集っていく。
 そして、赤く光り輝く曼珠沙華……ヒガンバナの花弁を収束させて、飛び立った。
 それはまるで、赤き天上ノ花弁の如く。
 そして、その曼珠沙華の花言葉は……。
「……転生。諦め。哀しき想い出、か……」
 花弁と共に舞う緋の憂い抱く幽世蝶達の群れを見上げた統哉がぽつり、と誰に共なく小さく呟いた。
 その統哉の言葉を受け止めたかの様に。
 羽ばたいた幽世蝶達が、曼珠沙華の朱き花弁たちと共に宙を舞い、黄泉醜女を絡め取った。
『……あっ……ああ……!』
 流し込まれる麻痺毒が回り、腐敗の術式を描く手が止まる。
 ――その瞬間。
「今だ……皆にオーロラの加護を……!」
 譜面を展開したグリモア・ムジカに封音していた音楽を奏でさせ、高々とその歌を歌い始める美雪。
 紡がれた『諦めない意志を称賛し貫く事を願う』その歌は、嵐に酔いしれる戦場に暖かな七色のオーロラ風を吹き荒れさせた。
 吹き荒れるそのオーロラ風に誘導される様にして。
「……よし、もう一発だな」
 ミハイルが口元に皮肉気な笑みを浮かべるとともに、SV-98Mの引金を引き。
「ターゲット補足。距離オールグリーン。……Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"、発射します」
 ミハイルに合わせる様に自らのセミ・オートライフルのスコープから戦況を覗いていた灯璃が、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引き金を引く。
 放たれた2発の銃弾が発射されたその瞬間。
『……義透殿』
「ええ、分かっています、竜胆さん」
 竜胆の静かな呟きに頷き義透がパン! と柏手を打つ。
 その瞬間、義透の術式により荒れ果てていた玉梓の周囲の天候が、まるで台風の目に入ったかの様に一瞬晴れ渡り。
 その晴れ渡った瞬間に吹き付けた美雪のオーロラ風の追風に乗ったミハイルと灯璃の弾丸が、玉梓の両目を撃ち抜いた。
『ギャアアアアアッ?!』
 悲鳴を上げて天を仰ぎ、我武者羅に爪を、牙を、尾を振るおうとする玉梓の視界を完全に閉ざす為、灯璃が再び黒霧を展開。
 その黒霧に溶け込む様にして血の線を曳きながら白い靄を纏った敬輔が姿を現すとほぼ同時に、大上段から黒剣を振り下ろす。
「犠牲とされかけた街の住人を守るために、貴様を斬る……!」
 咆哮と共に振り下ろされた敬輔の黒剣が巨大な白き靄の三日月形の斬撃の衝撃波を呼び出し、玉梓の体を唐竹割に叩き切り。
「結局、殴って止めてやるしかないんだよねぇ」
 諦めた様に響が溜息を漏らして敬輔の方へと向こうとした玉梓の側面に回り込み。
 そのまま流れる様な足取りで一気に肉薄、111体の真紅の騎士団達と共に、一斉にその槍を突き出し、玉梓を串刺しにした。
 ブレイズブルーと真紅の騎士達の槍が側面から全身に広がって悲鳴を上げる玉梓に奏が突進、シルフィードセイバーでその体を袈裟に切り裂き。
 続けざまに瞬がオーロラ風の後押しを受けてさらに光り輝いた空中に描き出した青の魔法陣から再び555本の氷結の矢を撃ちだした。
 撃ちだされたそれを、蒼の生み出した緋の憂い抱く曼珠沙華の花弁にその身を絡め取られた黄泉醜女が何とか腐敗させようとするが。
「私たちは、自らが立つところの為に邁進するものです。そして、私にはこの世界が美しく素晴らしい。ですから貴女方には滅されて頂きます」
 告げた冬季がパチン、と指を鳴らし、自らを守らせていた黄巾力士の両腕から稲妻を迸らせ、黄泉醜女を感電させる。
 雷と炎の煙に巻かれ醜悪な喘ぎ声を上げる黄泉醜女に向け、暁音がエトワール&ノワールを合体、スナイパーライフルにして発射。
 放たれた星と闇……夜空の力を帯びた浄化の弾丸が、美雪のオーロラ風を追風に、一気に黄泉醜女の額を貫通する。
 そこに……。
「……私はね、正直言って、転生は本当の意味で救済だと思っているの」
 腕の桜鏡の鏡面の淡い玻璃色の水面が漣の様に広がっていくのを見つめながら。
 澄み切った水の様に透き通った声で血涙を流しながら姫桜が呟くと同時に黄泉醜女に、schwarzを突き出している。
 突き出された黒き波動を纏った槍が、黄泉醜女の心臓を穿ち貫く。
 その手応えに手の内に何かを重く握りしめる様な思いを抱きながら姫桜が真紅の瞳で憤怒の玉梓を見つめ。
 その手のWeiß……白き波動纏いし槍を、左前足に向けて投擲した。
『何故でありんすか!? 転生は記憶を消され、無意味で怠惰な新たな生を生み出す魔の儀式! ヒトがヒトであり続けることができるその行為を否定する愚かな罪の証でありんすよ! それを守る帝都桜學府こそ、諸悪の根源! この偽りの安寧と欺瞞に満ちた世界を妾等の手に取り返す為にも……!』
「そうね。私達にとっては、都合の良い解釈になるのかも知れないわ。でもね、転生することで、またヒトとヒトとして出会えた例があるのを私は知っている」
 ――だから。
 Weißがその右前足に放物線を描いて突き立ち、玉梓の動きを縫い留めたのを確認し、schwarzを黄泉醜女から引き抜きながら姫桜が呟く。
「私は。貴女の、革命を叫ぶ人達の声の存在は認めはするけれども、そうしてまた会えたヒト達の幸福を壊す、その意見には賛同できないわ!」
 叫びと共に肉薄し、schwarzをその右前足に突き立てる姫桜。
 二本の槍で前足……人に戻った場合は両腕となる……それを地面に縫い留められて身動きができなくなった玉梓が姫桜に牙を突き立てようとした時。
『今ですね、一斉掃射を』
 竜胆の威厳ある指示が響き渡り、その声に応える様にラムダが、両肩の連装マルチ・ランチャーと、M19サンダーロアを。
 右腕に取り付けた機銃、MkⅦ スマッシャーを篁臥の上で構えてそして……。
「それでは参ります、一斉掃射!」
 叫びと共に全ての弾を撃ち尽くす勢いで掃射。
 玉梓の背後を漆黒の残影を引きながら取った篁臥の上から放たれた一斉掃射。
 それに合わせる様に、ネリッサもまた、G19C Gen.4の引き金を引き、螺旋状の回転を描いた銃弾を解放している。
 無限にも等しいラムダの機関銃の銃撃と、轟音と共に撃ちだされた砲丸が容赦なく直撃し、玉梓の全身を炎に包み込む。
 そこに無数のミサイルが着弾し、全身に穴を穿ち、更にネリッサの銃弾が吸い込まれる様に撃ちこまれ、その体を射抜いていた。
『あがぁぁぁぁぁぁぁぁっ、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なっ!? 妾は世界に望まれて生み出されたもの。その妾が何故この様な所でこの身を焼き滅ぼされなければならい!?』
「それは、貴女が民草に求めているからだ! 自らを支持することを! あの人達を……この世界の人々を無理矢理影朧にして同胞へと迎え入れようとすることを! 貴女達の革命遊びの強要を、貴女が民草達にしてしまっているから!」
 叫びと共に、ウィリアムがActive Ice Wallを放った『スプラッシュ』を納剣すると共に、両手を握りしめて空中に突きつける。
 そのまま握り拳を空を切る様に振り下ろすや否や、其の頭上に浮かび上がっていた青と若葉色の混ざり合った魔法陣が明滅し。
 それが巨大な氷塊の拳と化して、冬季によって焼け焦げ続けている其の体を凍てつかさんばかりの一撃で玉梓を叩きのめす。
 巨大な鉄塊の如き形と為した氷塊の鎚に吹き飛ばされ、大犬形態だった玉梓の姿が耐えきれなくなったか人間形態に転じていた。
『あっ……ガァァァッ!』
「民は一日を生きていけるなら、帝が変わったとしても気にしないでしょう。だがそれは……あなたの言う偽りの平和が約束され続くのであればこそだ! その仮初めの幻想……『民の日常』をあなたが壊すのならば、ぼく達は必ず貴女を討つ!」
『……ち……がう……。ヒトが、誠に、求める、真の、平和は……!』
 空中に吹き飛ばされ舞う様にしながら呻き声を上げる玉梓を憐れむ様に。
 竜胆が静かに彼女を見つめ、貴女は、と粛然とした口調で言の葉を紡いだ。
『伝説にある傾国の姫君としての貴女と、そうなった経緯が真実なのであれば、貴女が私達帝都桜學府を憎むことは当然です。少なくとも、嘗て謀略によってこの國を傾国する政を行った貴女の子を、國は民を救うと言う大義名分の元に誅殺したのですから。ですが、それが無ければ民の……人々の平和を保つことは出来なかったでしょう。何時果てるとも無く続く、戦いの歴史が再び花開いていた事でしょう』
 それは、御伽噺に類いするもの。
『ちが……う……。あの子は、弱き者を守る為……政を……』
「弱き者を守る。其れは素晴らしい理想でしょう。ですが、其の結果としてより多くの人々が不幸になる政は、民の求める平和には繋がりません」
 ――だからこその、誅殺。
 ――それ故に生じた、犠牲。
「其の為の一人目の犠牲者となったのが、傾国の姫君たる、貴女のお子様だった。彼を見逃すことは、國を、多くの民を守る為には、避けてはならない道だった。其の償いを、貴女は既に行い始めていた……その筈です」
『……世迷い言を。妾と妾の子は、弱き者を守る為に法で其れを守護しようとしたもうた。それを、悪政、等と決めつける事こそ、悪……』
「……確かに貴女の想いは、同じだったのかも知れない」
 ――弱者を救いたい。
 そう願い、祈る其の想いは、当時の真実を知らぬ統哉達には推し量れる様なものではない。
 だが其の『守りたい』者を守ろうとする願いは、祈りは同じだった……。
 その筈、なのだ。
「でも、貴女は、犠牲を否定している筈の貴女は、この街の人々に犠牲を強いている。それは、赦されることじゃないんだ」
 だから統哉は告げるのだ。
「これ以上の犠牲を増やさないためにも、俺達に貴女が望んだその道を……未来を託して欲しい」
 ――と。
「そうですね。そして統哉さん達の願いは、私の願い……永くこの世が続くことを願う私の願いとよく似ています。動き続ければ、澱んだ水も中道に至り、美しき水となるのと似た様に」
 冬季のその言葉に瑠香が静かに頷き、大地を蹴る。
 ウィリアムの巨大な鉄塊の様な大きさと化し、今はバラバラに砕けた氷塊を足場にして踏み砕き、空中で回転する玉梓に肉薄しながら。
「私達の過去である者達。過去に國の為に貴女の子を殺した者達は、貴女と貴女の子の『正義』で多くの民が犠牲になる『悪』になると信じたのでしょう。其の結果として、私達が息づいている『今』があります」
 ――だから。
「私達は、其れを守る為に、この場で貴女を成敗します。それが、私が正しいと信じる私の『道』ですから!」
 呟きと共に目を細めて再び神速の突きを繰り出す瑠香。
 放たれた突きが玉梓の胸を穿ち、其処から暴風の如く放たれた86回の斬撃が、容赦なく玉梓の全身を切り刻んだ。
「この世界は、只、与えるだけに過ぎぬのじゃよ」
 ヒュー、ヒュー、と喉笛を鳴らす様にしながら。
 瑠香の斬撃に全身を切り刻まれ、重力に掴まり地に向かって落下していく玉梓。
 彼女に義透の天候操作の力を借りて更に強い酸の雨を叩き付けながら祥華が諭す。
「おぬしが否定しようが、強制しようが、望もうが、掴もうが……輪廻すら、最終的に選択するのは、この世界の理とヒトじゃ。であるならば、おぬしの様に影朧として留まる存在が居るのを選んだのもまた、ヒトの意志なのじゃろう。じゃがそれは、今を生きる人々の間違いを正すことを意味するわけでは無い。いみじくも文月が先程言っておったが、もしかしたらこの世界にもUDC-P……ヒトと共存できるオブリビオン……影朧が生まれて居る可能性もあるのじゃからな。因果の全てが真実かどうかは妾にも分からぬし、定かでは無い。じゃが……もしお主が世界に望まれ、生きる人々に望まれて生まれ落ちたのであれば、或いは、文月の言うUDC-Pと言う存在として、生まれ落ちていたやも知れぬ」
 ――だからこそ。
「おぬしはおぬしの存在の意味を見誤ったのじゃろう。であるならば、妾達は自らの意義を見誤り、この世界の人々を闇に包み込むであろうおぬしを、今の内に浄化せねばなるまいて。少なくとも、竜胆が今、死ぬ……おぬしに殺される時では無い事は……此処に集まった者達を見るだにして明らかじゃろうて……のう、白夜、皆の者?」
 カラコロと。
 鈴の鳴る様な声で笑いながら、竜胆を、次いで白夜を、そして統哉達他の猟兵達を見渡す祥華の其れに、そうだね、と暁音が頷いた。
 その手の星具シュテルシアから、星の光の力を集めた虹色の光線を解き放ち、追撃する様に玉梓を撃ち抜きながら。
 其の体に刻み込まれた共苦の痛みが、突き刺す様な痛みを与えてくる。
 同時に激しい怒りと憎悪に満ちた灼熱感の様な、其の痛みを。
(「この痛みは……彼女の痛みだ」)
 如何に理由があったとしても、親にとっては、子を殺されるという其の事実は、それはあまりにも不条理であろう。
 その理不尽に奪われた者に対する痛みと憎しみを共苦の痛みを通して強く感じた暁音が、そっと息をつく。
「この痛みは、俺のものじゃない。だから、俺には、癒すことが出来ずにただただ、苦しむことばかりで。それでも、俺はあなたの感じる其の痛みを、理不尽を我が身に刻んで……あなたを倒す事しか出来ない」
 ――でも。
「……弱い少数派を救う。上辺だけは美しきその言葉。だが、その美名の元に、多くの者達を影朧……己が傀儡と為そうとする者を、『我等』は決して許さぬだろう」
 其の呟きと共に。
 九字印を結んで激しい天雷と豪雨を更に強化し、空中で玉梓を焼き払いながら、義透が懐の漆黒風を投擲する。
 漆黒の棒手裏剣が、玉梓の肉を貫いて、四天結縄の『疾き者』に対応する厄災『大風』でズタズタになった玉梓の体に毒を巡らす。
 既に虫の息となった玉梓に向けて。
「……貴様は、この世界の敵だ。だから……」
 其の呟きと共に。
 闇属性の結界をインプ達に張り巡らせ、その結界で玉梓を閉じ込める陽太。
 その陽太の闇魔法に封じ込められた玉梓に、陽太が、濃紺のアリスランスを伸長させ、其の心臓を貫いた。
 そのまま、べしゃり、と嫌な音を立てて地面に墜落し叩き付けられ血反吐を吐き、喘ぐ玉梓を冷たい眼差しで見つめながら。
「……俺が、お前を討つ」
 その陽太の呟きと共に。
 ピクリと身じろぎをする玉梓に、既に抵抗する気力は露程も残っていなかった。


「……貴女に私達は、謝罪しなければなりませんね」
 陽太のアリスランスに串刺しにされて。
 地面に全身を打ち付け、血反吐と吐瀉物を撒き散らす、瀕死の玉梓に近付いて、竜胆が粛々とそう告げる。
『……わが……子……我が……役割……』
 呻く玉梓の様子を見ながら、竜胆がそっと溜息を一つ。
「貴女の件はあくまでも私が伝聞でのみ知らされているお話しです。ですが、其れが世界のためになるとは言え、私達は……帝都桜學府は、貴女の子を理不尽に殺しました」
 其の当時、どの様な事があったのか。
 そもそもその時帝都桜學府と呼ばれる組織自体があったかどうかも分からないが。
 だがその決断をした者達は、竜胆には遙か昔の前任者と言う事になるのだろう。
「だからこそ、私は謝罪しなければなりません。其れが結果として正しかったのだとしても、貴女にとっては『悪』でしか無かった其の行為の罪を」
 赦せ、等とおこがましいことを言うつもりは無い。
 また当時其の決断をした者達が絶対に『正義』だったのだと認めるわけでは無い。
 ただ分かっているのは、傾国してしまえる程の悪『政』をした彼女と彼女の子らを止めるために、過去の者達が其の手を下した事実。
 そうして、不条理に彼女の大切な者を奪ったのも、また。
「だからこそ、その点については心から謝罪させて頂きます。申し訳ございませんでした。それで許されるとは思っておりません。ですがこれから先、貴女の魂が転生され、救済されるその為に、この謝罪は必要な事ですから」
『……き……さま……』
 呻く様に、苦しげに呻く玉梓。
 そのまま、その腕で目前の竜胆を引っ掻いてやりたい衝動があるには違いないが、既に崩れ始めている彼女の体で其れは出来ない。
 そんな彼女の哀れな姿を見て。
 歌を歌い終わり、グリモア・ムジカを折り畳んだ美雪がそっと小さく息を漏らす。
「……闇も光も、それだけでは存在できないもの。もし貴女に、ヒトを思いやる心があれば、或いはあなたは、ヒトと共存できる影朧として、この地に生まれ落ちることが出来たのかも知れない。或いは……他の世界に生まれ変われたかも知れない」
 ――けれども。
「あなたが過去の想いに囚われれば囚われる程、人の心は影朧に同情し、寄っていく。そうして影朧を守り続けることは、未来を見据えることでは無く、過去に固執することなのではないか?」
 そこに希望という名の『光』、未来を見据える可能性があるのであれば、其れはまた違う結末を生んだのだろうけれども。
 でも……國に子を奪われた其の事実に囚われたそのままでは。
「……同情の余地はあるのは確かだし、そしてあなたに共感することも出来る。故に今、竜胆さんもまた、嘗てあなたが経験した事件について謝罪を、許しを請うた。それが竜胆さんなりの信念と正義に基づいたものだからだろう」
 ――しかし。
「あなたはそうして罪を認める事が出来なかった。貴女ご自身の正義に邁進したが為に、この街の人々を無理矢理影朧化しようとしてしまった。其の罪は、多くの者達からすれば間違っているであろう『正義』は、転生する事によって、一度浄化されるべきだろう。……そう言うことでは無いだろうか?」
 その美雪の問いかけに。
『わ……妾は……妾が、罪……は……』
「竜胆さんがあなたに謝罪し、許しを請い、其れを受け入れることが出来たのであれば、きっと貴女も貴女の過ちを認め、赦す事が出来る様になるだろう。……そうだろう、統哉さん」
 続けられた美雪の促しハ。
「……その願いと祈りを籠めて、俺は……貴女の想いを受け継いでいくよ」
 漆黒の大鎌『宵』の刃先に星彩の如き輝きを伴う光彩を纏わせた統哉に届き。
 その漆黒の大鎌『宵』を、統哉が一閃する切っ掛けとなった。
 祈りと願いの籠った一撃が、彼女の魂に取り憑いた邪心を斬り裂いていく。
 その『邪心』を切られたが故に。
 光と化して、浄化の光の中へと砂の様に消えゆこうとする玉梓に。
「一つだけ教えて下さい、影朧! あなたの先の言葉は誰からの言葉だったのですか!? あなただけで其の結論に到達できたとはぼくには到底思えない。あなたは、誰と組んでいた!?」
 とウィリアムが呼びかけた、其の刹那。
『妾……組む……せかい……』
 それだけを言の葉として紡ぎ出し。
 そのまま砂の様に完全に消え去っていく彼女の亡骸を風が浚って風化させていく。
 玉梓の想いを、其の結末を、赤と琥珀色の色彩異なる双眸で見つめていた蒼が、彼女の最期を見つめて哀しげに天を仰いだ。
「……皆様の、仰る、通り、もっと、別の道を、探索、出来れば、或いは、違った、結末が、あった、のかも、知れません、ね」
 その蒼の呟きに。
「まあ……そうかも知れねぇが」
 と口に咥えた煙草に火を点けながら。
 狙撃の定位置から移動してきたミハイルが気兼ねなく煙草を吸いながら蒼や、統哉、姫桜達を見回していた。
 煙草の灰が地面に零れ落ちそうになるのに灯璃が気がつき、軽く目を細めてミハイルを見る。
 其の灯璃の目におざなりに頷いたミハイルが、落ちかけた灰を、携帯灰皿に落として上手そうに煙を吐いた。
「だがよぉ、お前等。あんまり甘っちょろいコトばかりしていると、そのうち味方を窮地に陥れるぜ? まあ、今回は其れも含めての何とかするってのがボスのオーダーだから、手を貸したが」
 何処か深い実感の込められた懐旧に。
 ネリッサが静かに首肯する中で、統哉がミハイル、と呼びかけた。
「なんでそんな事が分かるんだ? 確かに危険だったかも知れないけれど」
 小首を傾げた統哉の其れに。
 ふぅ~、と煙草を一服して、深い息を吐いてからミハイルが携帯灰皿に吸い殻を落としてほろ苦い笑みを浮かべて見せた。
「何……俺も昔、経験したからだよ。一寸した忠告として、受け取っておいてくれ」
 そう呟くミハイルの其れに。
「……そうだな。気をつける様にしよう」
 溜息をつきながら頷く美雪の其れに、ミハイルが皮肉げな笑みを浮かべて頷いた。

 ――かくて水の街を舞台とした戦いは終わりを告げる。
 更なる戦いへの足音を、其の痕へと残しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月23日


挿絵イラスト