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泡沫遊泳

#カクリヨファンタズム #お祭り2021 #夏休み #夏休み2021

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●土佐錦魚
 昼間の賑わいは鳴りを潜めて。潮騒の歌声が、規則正しく響くばかり。
 太陽の光を受けて煌いていた海面は、今は沈黙を保っている。
 静かな、静かな夜だった。優しい月明かりが、宵闇を淡く照らす。
 其の宵闇に、一条の光が立ち昇って、轟音と共に大輪の花を咲かせる。
 花咲くのは一瞬だけれど、不思議と心に残った。
 其れに追従するように、次々と夜空に大輪の雫が零れる。
 ―ドーン、ドーン。
 輝く花の横を、すっと光る何かが横切る。よくよく眺めてみれば、其れは魚のような形をしていた。
 どうやら其れは、夜の闇を鮮やかに照らす、妖怪花火の一種。
 妖怪花火とは、妖怪親分たちが齎した、熱を持たず、されど人が乗っても問題無いという、不思議花火。
 あの光る魚も其の一種で、名を燎金魚。
 質量を持つ此の花火には、何と乗る事が出来るらしい。
 他にも無数の花火が打ち上がるのであれば。
 夜空に一番近い場所で、花火を楽しむ事だって、きっと―。

●花房
 ドーン、と花火が打ち上がる様子を、神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)は静かに見つめる。
「……水着コンテスト、お疲れ様、でした」
 やってきた猟兵に気付いたのか、まずは小さく労いの言葉を、蒼は告げる。
 華やかなコンテストではあるけれど、其の熱量は相当な物。
 楽しい、にも、体力はいるのですね、と感嘆したような呟きが零れた。
「……そんな、皆様に、夏休みの、ご案内、です」
 そういうと、一枚の紙をぺたり、と壁に張った。其処には―。
 煌めく花火で出来た金魚に、人が乗って夜空の散歩を楽しもう、と言う謳い文句。
「…どうやら、此の、燎(かがりび)金魚と、呼ばれる、妖怪花火は、乗れるよう、です、ね」
 速度は出ないけれど、ゆったりと、空を泳ぐ金魚は、大きさ様々。
 行き先は選べないけれど、燎金魚は、他に打ち上がる花火の近くを好んで泳ぐそう。
「…花火に、乗るなんて、滅多に、出来ない、体験、です」
 空を泳ぐ燎金魚は、其の見た目も優雅で、美しい。
 お気に入りの金魚を見つけて、其の背に乗れば、輝く花火と、煌めく星空が貴方を迎えてくれるはず。


 ―今年の夏の想い出を、新しく刻みに行こう。


幽灯
 幽灯(ゆうひ)と申します。
 今回はカクリヨファンタズムのお話をお届けさせて頂きます。
 海だー、夏だー、花火大会だー!

 マスターページの雑記部分とOPのタグにプレイング受付日と締め切り日を記載させていただきます。
 お手数ですが、一度ご確認をお願いいたします。

●過ごし方
 夜空舞う、燎金魚(かがりびきんぎょ)の背に乗って、星と花火を間近で楽しみましょう。
 勿論、浜辺で花火と空を舞う金魚を眺めるのでも全然アリです。
 ご自由にお過ごしください。
 また、蒼にお声掛け頂ければ、一緒に花火鑑賞に参加させていただきます。
 お気軽にどうぞ。

 複数名様でのご参加は4名まで。
 ご一緒する方は「お名前」か「グループ名」を記載してください。
 それでは、良き冒険になりますよう。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み2021』

POW   :    妖怪花火で空へGO!

SPD   :    妖怪花火の上で空中散歩

WIZ   :    静かに花火を楽しもう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●琉金
 打ち上げられた燎金魚は、優雅に空を舞う。
 ゆらり、ゆらりと尾びれを揺らして、華麗に、夜空を泳ぐ。
 実体を持たぬ、カタチだけの魚。
 赤、青、黄色に、紫。
 燎金魚の泳跡は、淡い火花が弾けて消える不思議なもの。
 其の様子を、浜辺で眺めるのもまた一興。
 途中、金魚の背から降りて、空の散歩と洒落こむのもまた風流かもしれない。
 彼の魚の為に、花火は無数打ち上がり続けるのだから。

 勿論、浜辺から見る燎金魚の姿も美しい。
 其れはまるで、海の底から空を眺めるが如し。
 空から零れ落ちる火花は、雫と為りて降り注ぐ。

 たまには、こんなにのんびりした日を過ごすのも悪くはない。
 世界は広くて、知らない事もまだ多い。
 これからも、たくさんの出来事が猟兵を待ち受けるだろうけれど。
 けれど、今は。
 ―未知に溢れた、ひと夏の体験を。
アン・カルド
夜刀神君(f28122)と。

夜刀神君こっちこっち、ここで金魚に乗れるんだと。
不思議だよねぇ、花火の金魚だってだけで不思議なのに触っても熱くないし乗れる…ま、不思議にはある程度慣れているけどね。
…じゃ早速、夜刀神君エスコートよろしくだ。
乗り心地は悪くない、だけどやっぱり空は怖いから肩にしがみついて…何度かこうやって背負ってもらったなと思い出す。

…随分と上ったねぇ、お…見なよ夜刀神君、周りにも随分と金魚が増えてきた。
そうそうこれも用意してきたんだよ、手持ち花火、これ点けたら金魚が反応しないかな?

ほら、段々と寄ってきて…あ、夜刀神君落ちないようにしっかり持っててくれよ?


夜刀神・鏡介
アン(f25409)と

金魚に乗るってどういうことだ、と頭の中に疑問符を浮かべつつアンに引っ張られてくる
なるほど、妖怪が……慣れたつもりだったが、本気で何でもありだな、カクリヨ

エスコートと言われても、馬はともかく金魚になんか乗った経験はないぞ?
まあ、暴れたりって事はなさそうだし大丈夫か……アンも乗ってくれ
それにしても、こういう事をするのは何度目だろうな

確かに沢山の金魚が集まってきて色鮮やかで……なんていうんだっけ、アクアリウム?

で、アンは一体何を……手持ち花火?なるほど、様子を見るにその可能性はあるのか
上手いこと身体の向きを変えて、アンが落ちないように支えながら手持ち花火に集まる金魚を見ていよう



●若紫
 まるで、水の中を泳ぐように、燎金魚は優雅に空を舞う。
 ゆったりと優雅に尾鰭を揺らす其の姿の、何と美しい事か。
 そんな燎金魚へ向かって、アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)は銀の翼の痕跡を浜に残しながらゆっくり近付く。
 金魚が散らした火花が、鈍い銀の翼に反射して、いつもと違った輝きを魅せる。
「夜刀神君こっちこっち、ここで金魚に乗れるんだと」
 にこり笑みを浮かべ、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)の腕を小さく引く。
 濁った銀の瞳は鳴りを潜め、ただ好奇の彩が浮かぶばかり。
 果たして金魚に乗るとはどういうことか、と疑問符を浮かべながら鏡介が目にしたのは、火花散らしながらゆるり泳ぐ巨大な金魚。
「なるほど、妖怪が……」
 そっとアンが燎金魚を突くけれど、思った弾力は返ってこない。同時に、本来ならば痛み生じるであろう手に伝わる筈の熱も。
「不思議だよねぇ、花火の金魚だってだけで不思議なのに」
 けれど、其れも先の戦争を思い出せば―。
「本気で何でもありだな、カクリヨ」
 無限に成長したり、お金が無限に沸いたり、バズりこそパワーだったり。
 そんな出来事を見てきた今では、花火の金魚が泳ぐのは不思議でも何でもないのかもしれない。
 ―恐るべしカクリヨファンタズム。
「……じゃ早速、夜刀神君。エスコートよろしくだ」
 淡く浮かぶ笑みは、アンの気分が高揚している為か。其の顔色は、朱に染まり明るい。
 突然、話を振られた鏡介は一瞬、きょとんとした表情を浮かべるけれど、けれど喜色に揺れる彼女の笑みを見ていたら、出来ないとは言えない。
「エスコートと言われても、馬はともかく金魚に何か乗った経験はないぞ?」
 そう言いつつも、鏡介はひらりと金魚へと跨る。特に暴れる事も無く鏡介を受け止めた燎金魚は、ぱたり、と若紫に輝く尾を小さく揺らした。
 降り落とされる危険が無い事を確認し、アンへ向けてそっと手を伸ばす。
「さて……。アンも…。いや、違うか。…さあ、お手をどうぞ?」
 そっと重ねられた手を、鏡介が強く引けば、ふわりとアンの身体が宙に浮き、すとん、と鏡介の後ろへと収まった。
「思ったよりも、乗り心地は悪く無いね」
 固くも無く、柔らかくも無い、不思議な感覚―。
 ぽん、と鏡介が鰓の部分をそっと叩けば、ゆっくりと燎金魚は、空へ昇る。
 ゆっくりと地面が遠ざかっていく。優しい風が頬を撫でて。先程まで佇んでいた地面がどんどんと遠ざかっていく事に僅か恐怖を感じて、アンは鏡介の背にぎゅっとしがみつく。
 空へ昇れば、僅かに気温は下がって。寄りかかる背中から伝わる鏡介の体温が心地いい。
(そういえば、何度かこうやって背負ってもらったな……)
 そっとアンが瞳を閉じれば、此れまでの出来事が脳裏に浮かぶ。同じように、背から伝わる温もりを感じながら、鏡介も同じように過去に想いを馳せる。
 ―ドーン。
 突如上がった、打ち上げ花火の音にアンの肩がびくりと揺れる。其の驚きが、背中に直に伝わって思わず鏡介の口から笑みが零れる。
「笑ったな」
 ごすっ、と鈍い音がして、アンの頭突きが鏡介の背に決まる。気付けば、先程まで感じていた高さへの恐怖は掻き消えていた。
 小さな笑い声が、燎金魚の背で響く。
 ふと下を見れば、先程いた砂浜は随分と遠く。太陽が沈んだ海は、黒く沈んで不気味に見えるけれど、打ち上がる花火の光を反射して、海面へと二重の煌めきを映し出す。
 打ち上がった花火も妖怪花火の一種か。二人のすg近くで打ち上がったけれど、降りかかる火花の熱さは、全く感じる事は無い。
 ゆらり、ゆぅらりと、若紫の光纏う燎金魚は優雅に空を泳ぐ。其の背で、ぷらぷらと足を動かしつつ、アンが周囲へと視線を向ければ、ゆったり泳ぐ他の燎金魚たち。
 尾が揺れる度に、泳跡が揺れては、儚く消える。
 其れはさながら、蛍が舞っているかのよう。
「見なよ、夜刀神君。周りにも随分と金魚が増えてきた」
 気が付けば、様々な色彩、大きさの燎金魚が、打ち上がる花火の傍へ寄り添うように集まって。
「確かに、沢山の金魚が集まってきて、色鮮やかで……」
 様々な色彩有れど、其れは決して派手ではなく。己が持つ色彩に似た色へ近付こうとするのだろうか。
 煌めき、輝く燎金魚が泳ぐ様は、まるで水槽を覗いているかのようで。
 ―ドーン。
 近くでまた、花火が上がる。ぱらぱらと落ちる火花は、そう、気泡の様で。
「スノードーム、じゃなくて……。なんていうんだっけ、……アクアリウム?」
 静かに翻る金魚の鰭が、光の波紋を残して消える。そんな幻想的な光景に、アンと鏡介はしばし見惚れる。
 ぱちり、と火花弾けた背びれを見て、ふとアンが思い出したかのように懐を漁る。
「そうそう、これも用意してきたんだよ」
 弾んだ声と共に、これこれ、と手渡されたのは、数本の手持ち花火。
「手持ち花火?」
 差し出された手持ち花火を受け取って、鏡介が小さく首を傾げる。
「そう、あの金魚は花火の近くを泳ぐんでしょう?」
 ―これ点けたら寄ってこないかなって。
 確かに、花火の近くを泳ぐとは言ってはいたけれど、妖怪花火限定だとは聞いていない。
「なるほど、可能性はあるか」
 ならば、実践する価値はあるだろう、と、鏡介はくるりと身体の向きを変える。
「え、……わっ」
 其の衝撃で、燎金魚が僅かに揺れる。突然の揺れに、アンがバランスを崩しそうになるけれど。
「よ、っと」
 隣り合うように座る向きを変えた鏡介に、しっかりと肩を支えられる。
「お、落ちないようにしっかり持っててくれよ?」
 重い銀の翼ごと包み込んでくれる、其の力強さに。アンの心臓はドキリ、と大きな音を立てる。
「任せろ」
 此の鼓動が、聞こえていませんように。
 そう願いながら、手持ち花火に火を灯す。
 ―ぱち、ぱち。
 妖怪花火とは違った光が、二人の顔を照らす。
 打ち上がる花火の周囲を泳いでいた、燎金魚がゆったりと鏡介たちの周囲へと集まる。
 光る花火の周囲を泳ぐもの、落ちる火花を追うものと、其の動きは様々。
 其れを数度、繰り返して。色彩豊かな金魚の群れが、二人を囲む。
 手持ち花火が無くなれば、興味を失った金魚はゆっくり散って。
 どちらともなく、小さな感嘆の声が漏れた。
 その余韻に浸る二人を乗せて、燎金魚は再び、光求めて泳ぐのだった。

 触れ合う温もりに、今しばらく気付かない振りをして。
 ―今は、此の距離のまま。もう、しばらくは、このままで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
【狐々】
水着:今年の水着、通常の姿で

空を泳ぐ金魚…なんか不思議だ。
空を泳いでるのか、俺達が海の底にいるのか。

クロムさん、あの金魚、乗りませんか?

凄い…花火が近い。
花火のキラキラ、掴めそう。

(クロムさん?)
わわっ!危ない!
咄嗟に落ちそうなクロムさんを抱き抱える。

小さくて、軽くて、柔らかくて。
あれ?いつもより、ドキドキしてる…?
いや、ドキドキしてるのは俺の方か。

刀を持てば、俺より早くて、凄く強くて。

でも、こんなに…優しく、柔らかで。

抱きしめたら、潰れちゃうかも?
でもそれでも、嬉しくて。

潰さないように。
胸がキューって痛いけど。
そっと頭に頬を寄せて。
そっとギューって抱きしめる。

クロムさん、クロムさん…


クロム・エルフェルト
【狐々】
水着:今年の桜色のビキニ

空を泳ぐ光の金魚
とても浪漫に溢れてる、ね
二人きりでの夜の海は、尻尾がそわそわしてしまう

(これは……逢引き、なのでは)
花火の間を遊覧する
綺麗なのだけど、頬が熱くて平常心が保てない

わ、わわっ
危うく金魚から落ちる所、だった
何時もより直に伝わる、きみの体温
――困った
"愛しい"が、溢れてしまう

都月、くん。
もっと、ぎゅって。お願い。

胸板に頭預け、恐る恐る手のひら重ねて指を絡める
頬同士寄ればこちらからも、すり……と軽く触れてみる
私は、"姉"で居続けられるかな……
「土鈴のお守り」を指先でそっとあやす
カクリヨを崩壊させる、あの言葉に篭められる想い
今なら、少し判る気がする、よ。



●韓紅
 目の前を、大きな燎金魚がゆったり横切る。
 羽衣を翻したように、尾びれがふわりと靡いた。
 若葉の差し色が入ったラッシュ・ガードを身に纏った木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)が、ぴこりと黒の狐耳を揺らしながら、視線を動かす。
「空を泳ぐ金魚……。…なんか不思議だ」
 都月の知る金魚は水を泳ぐもの。其れが、空を泳ぐとは。何とも不思議な光景である。
 ぱちり、と消え去った光の粒を、目の端に捉えながら、桜色のビキニから抜群のプロポーションを覗かせるクロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)が小さく頷いた。
「……ん、とても、浪漫に溢れてる、ね」
 ざ、ざざーん、と潮騒の音が浜辺に響く。夜の海は、其の色彩を黒に染めて。何処か不気味ささえ感じるけれど。
(……二人、きり……)
 とくり、とクロムの胸の奥で、暖かな鼓動が一つ、響く。むずむずするような、うずうずするような。稲穂色の尻尾も、心なしかそわそわ小さく揺れる。
 ゆらり優雅に空を泳ぐ、燎金魚の一つを、徐に都月が指す。
「あ。クロムさん。あの金魚、乗りませんか?」
 其れは、意図してか、其れとも。普段、彼女が纏う、韓紅の光を帯びて。
 恐る恐る、二人が其の背に乗れば。打ち上がる花火の音を聞きつけて、ゆっくりと燎金魚は空へと其の身を躍らせる。
 熱くもなく、硬くもなく。ぐんぐんと、花火目掛けて、空へ昇る燎金魚。
 ゆらり揺れる其の背の上では、花火と共に、満天の星が煌きを零すけれど―。
(……これは、……逢引き、なのでは……)
 間近で打ち上がる花火は、色彩様々。まるで光の雫を浴びているよう―、なのだけれど。
 一度、繋いだ思考は、頭に残って離れず残る。朱に染まる頬は、打ち上がる花火によるものか、其れとも。
 降り注ぐ花火の雫は、手を伸ばしたら掴めそうで。都月はそっと、手を伸ばす。
 きらきら降り注ぐ雫は、上手くつかめず空をすり抜けた。
「……え、…わ。…わわっ」
 ―都月が手を伸ばした其の時、クロムの背中に、都月の高い体温が、触れた。
 小さな鼓動は、大きな脈動となって。クロムの身体を大きく揺らす。けれど、此処は支え無き、空の上。
 ぐらり、と小さな身体が空へと投げ出されそうになって―。
「クロムさん!」
 悲鳴のような声が、ひとつ零れて。ぐい、と都月の長い腕が、小さな身体をすっぽり包み込むように抱き寄せて。
 つぅ、と都月の背筋を一筋の冷や汗が流れる。
「あ、あ、危なかった」
 無事を確かめるかのように、無意識にぎゅ、と強く抱きしめれば、稲穂色の狐耳が、ぴん、と立った。
 身体全体に伝わる、暖かな体温。―意識、してしまう。
 とく、とく、と聞こえる、きみの鼓動が。泣きたくなる程に、優しくて、―恋しくて。
 先ほど、落ちそうになった恐怖なんて、何処かへと吹き飛んでしまった。
 暖かくて、優しい、此の胸の高鳴りは。
(……愛しくて、恋しくて。―泣きたくなる)
「……クロム、さん?」
 反応が無い彼女を、訝し気に思い、都月がそっとクロムの顔を覗き込む。
 其の頬は、朱に染まり、宙色の瞳は、涙を湛えて。
 そんな表情を見た瞬間、ぶわり、と身体の熱が上がった。
 ―いつも前線に立つ、勇敢な、彼女。
 けれど、こうして抱きかかえた身体は、自身の身体ですっぽりと覆ってしまえるくらい、小さくて、軽くて。
 剣を振るう姿からは想像も出来ない位、柔らかくて。どくどくと、鼓動が早まり、都月の頬が熱を帯びる。
 其れが、こんなに小さく、柔らかいだなんて。考えた事も無かった。
 普段とは違い、露出した肌の、滑らかで、何て綺麗な事だろう。
「……都月、くん」
 消え入りそうな、小さな声。ぴる、と小さく狐耳を揺らして、上目遣いにクロムが言葉を紡ぐ。
「……あの、その…」
 彷徨う視線が、煌めき泳ぐ燎金魚を捉える。
 隣では、大きな音を立てて、ただの妖怪花火が打ち上がる。もしかしたら、此の囁きは、打ち上げ花火の音に掻き消えてしまうかもしれない。
 そう、願いながら。けれど、其れを何処か残念に思う、己も居る事に、気付かない振りをして。
「もっと、ぎゅ、って。……お願い」
 ぽつり、落とされた呟きに、返事はなく。―返事が無い代わりに、其れは、行動で示された。
 ぴったりと、密着する肌。触れ合う、温もり。
 耳に届く、胸の鼓動は、どちらの物か、とても速い。
 ぺたり、と、逞しい胸板に、頭を寄せて。どちらからともなく伸ばした手は、ぎゅ、と指同士が絡まり合う。
 そっとクロムが視線を持ち上げれば、交差する、視線。
 気付いてはいけない、クロムの頭の奥で、警鐘がけたたましく鳴り響く。
 気付いているくせに、クロムの頭の奥で、はっきりと囁く、己の聲。
 此の胸に灯る熱は、弟へ向けるものでは、既に無く。
 ―からん、からん。
 掌で、土鈴のお守りが澄んだ音を響かせる。
 ぎゅぅ、と縋るように、強く、強く抱きしめる、都月の腕に、そっと身を寄せる。
(ああ、胸が痛い)
 ちくちくするような痛みじゃなくて、ぎゅって締め付けられるように、切ない痛み。
 すり、と稲穂の髪に頬を寄せれば、甘い香りが胸腔を掠めて、またぎゅっと胸が苦しくなる。
「クロムさん、……クロムさん…」
 鈴を転がす様に、其の名を音に乗せる度。
 うずうずとした痺れが、身体中を駆け巡る。―都月はまだ、此の痛みの、本当の名前を、知らない。

 ―嗚呼、嗚呼。愛しき世界、愛する世界。

 クロムの脳裏に、世界を愛した、彼女の姿が思い出される。
(あの言葉の、意味が。今なら、少しわかる気がする、よ)
 
 ゆらり、ゆらり。ふわ、ふわり。優雅に鮮やかに、燎金魚は空を舞う。
 焦がれる想いを、其の背に乗せて―。
 どーん、どんと、花火が咲く。
 灼けるような思いを照らす様に―。
 此れが、一夜限りの熱となるのか。其れとも、未来を紡ぐ光へと到るのか。
 其の答えは、誰にも分からない―。
 けれど、答えを出すのは。貴方自身。

 あいしてます。
 あいしているから、えいえんにしたいのです。
 何処からか、そんな声が木霊して。
 ―打ち上げ花火の音に混じって、そっと掻き消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

枢囹院・帷
ニコリネ(f02123)と
19'水着(id=46217)
踝を潜る白波に涼を得つつ、二人で渚を歩こう

宵闇に広がる万彩の花火に平和を実感する
戦争を無事に乗り切った慰労会と
農場と温室資金が貯まったという花屋のお祝いを
おめでとう。また一歩、夢に近付いたな
一人で生きていく準備が着々と進んでいる(くすくす

幽世では驚かされてばかりだが
打上花火に乗って飛ぶとは新しい拷問かな
肝試しなら喜んで付き合おう

燎金魚に乗って光の中へ
恐怖など一縷も感じさせぬ美しさに言葉を忘れる
金魚も寂しがりなのかな
他の花火の近くを好むという彼等に任せて並游を

長命ゆえに孤独な未来を待つだけの私も時の流れを忘れる
この瞬間が永遠となりますように


ニコリネ・ユーリカ
帷さん(f00445)と
19'水着(id=46416)
熱を手放した汐風に涼みつつ浜辺の散策を

花屋になるって決めて来日して三年弱
自分で育てた花を売る準備が整ったの
農場資金はお花を買ってくれたお客様から
温室の分は猟兵として働いた報酬で貯まったもの
どちらも思い出一杯の大切なお金よ
ありがと!これで私も一人前
いずれは安アパートを出て――
んンッ、独身で生きていく覚悟はまだないわ!(あせあせ

燎金魚に乗りましょう
折角の幽世流アトラクションは楽しまなきゃ損々!
宵闇を飛ぶなんて怖くないかなって思ったけど
大丈夫、金魚のお友達が沢山で楽しい!
光の群れに目を細めつつ、帷さんに手を伸ばす
素敵な思い出を重ねていけますように



●牡丹
 宵闇に彩られた空に、ぱっと一輪。輝く花が咲き誇る。
 太陽の輝きを反射する大海は、静まり返ったような闇に染まって。けれど、一度花火が上がれば、水面は光を写し取って、儚く消える。
 昼間の喧騒は鳴りを潜めて、今は静寂が広がるばかり。
 そんな静寂満ちる浜に、きゅ、と小さく枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)が砂を踏み締める音が鳴った。
 藍色の外套をふわり揺らしながら、白薔薇に彩られたミュールが砂に浅く沈んだ。
 其の傍らを、ニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)が連れ添い、歩く。
 緩く結ばれた三つ編みが、ゆらりと靡く。
 また一つ、花火が打ち上がる。降り注ぐ一雫を目指して、光溢れる燎金魚が集まっては散って。
 ―本当に、平和になったものだ。
 二つの世界の危機。其れを阻止せんが為に駆け抜けた一か月。怒涛、という言葉が相応しい日々だった。
 胸中で、帷が独り言ちる。ともあれ、全ては無事に解決した。そして、其れ以上に―。
 ちらり、と隣を見やれば、花火を見上げるニコリネの姿。紫水晶の瞳は、これからの未来への期待に満ち溢れている。
「おめでとう」
 自然と、言葉が零れた。淡く微笑みながら帷が告げれば、ぱっと花開くようにニコリネの顔に笑みが咲く。
 花屋になる―。
 夢を抱いて、三年弱。国を飛び出してからの日々は、其れは其れはあっと言う間に過ぎ去っていった。
 移動販売車で花を売り、猟兵として人々を救って。
 ようやく、念願叶って農場と温室を運営する資金が溜まったのだ。夢への第一歩。本当に、いろいろあった。
「ありがと!これで私も一人前」
 此れまでの道のりに思いはせながら、ニコリネはぐっと拳を握る。
「いずれは安アパートを出て―」
 更に拡がっていく夢の話に、ふっと帷は小さく笑う。
「一歩、夢に近付いたな。これで、一人で生きていく準備が着々と進んでいく」
 一人で、の部分を強調しながら、帷の金茶の瞳がゆるりと細められた。
 告げられた言葉の意味を咀嚼して。
「んンッ、独身で生きてく覚悟はまだないわ!」
 咳払い一つ零して、わたわたと慌てながらニコリネは力説する。
「まだ、花も恥じらう二十代になったばかりよ!」
 なんて言葉を聞いてしまったら。耐えきれぬ、と言った様子で帷の笑い声が浜辺に響いた。
(嗚呼、なんて平和な一時だろう―)

 此の世界の花火は、其れすらも妖怪なのだという。
「打上花火に乗って飛ぶとは新しい拷問かな」
 熱さも痛みも無いとは言うけれど、何の予備知識もなければ、ただの恐怖体験なのは間違いあるまい。
 視界の端で、ゆったりと燎金魚が流麗な鰭を翻すのが見えた。
 くい、とニコリネが帷の腕を引いて、夜空を泳ぐ金魚の一つを指さした。
「あれに乗りましょう」
 そっと牡丹色の燎金魚へ近付けば、さしたる抵抗もなく、其の背に乗る事が出来た。
 光に彩られた輪郭に、ニコリネが触れるけれど、熱くもなく、柔らかくもない、不思議な触感。
「幽世には、予想も出来ないものが多すぎるな」
 空へぐんぐん昇る燎金魚を指先で突きながら、感慨深げに帷が呟く。
 速度は無く、ゆったりと空へと昇っていく。日中は高かった気温も、陽が落ちればほんのり肌寒い程度。
 けれど、高揚する気分が寒さなど打ち消して。目の前に広がる光の園に、目を奪われる。
 ぱぁん、と打ち上がる花火に集まる、燎金魚。花火が打ち上がる度に、金魚もまた、落ちる雫を追ってゆるりと優雅に空を泳ぐ。
 人工の光が見えぬ、夜の浜辺。空彼方に浮かぶ月と、星灯りだけが頼りであったけれど、無数打ち上がる花火が、夜の暗闇を掻き消して。
 きらきら落ちる、火花の雫は、まるで燎金魚に食べられたかのように、ぱっと儚く消える。
 空の上である筈なのに、まるで水中にいるかのような錯覚を覚えてしまう。
 ぱぁん、と大きな音が響いて、また一つ花火が打ち上がる。
 気付けば、色彩豊かな燎金魚が周囲へと集まって。
「わあ、綺麗!」
 思わず手を伸ばせば、ぽたり落ちる花火の雫。きらきら、ぱちぱち弾ける光に、ニコリネの頬が朱に染まる。
「すごい、すごい帷さん!」
「ああ、美しいな」
 眩しいものを見るかのように、帷の瞳が細められる。
 ふわり、ゆらゆら、当てもなく、燎金魚に任せるがまま、自由に空を泳ぐ。
 真横で打ち上がる花火の迫力もさることながら、惹かれるがまま、花火に焦れるまま泳ぐ、燎金魚。
 ひと夏の、輝き。ひと夏、だけの。
 たった一瞬の、美しい光景。人間とは違う時を歩む帷にとっては、些細な時間。
 だからこそ。輝きに満ちた、素敵な想い出を作っていきたい、遺してほしいとニコリネは思うのだ。
 そっと、帷へ手を伸ばす。握った手は、僅かにひんやりと冷たい。
 小さく、ぎゅっと握り返された手に、ニコリネは願いを籠める。
 帷にとっては、泡沫のような出来事だろうけれど。だからこそ。

 此の、光溢れる光景が。永久に心に刻まれますように、と―。
 静かに、ただ静かに。二人は打ち上がる花火と空を泳ぐ金魚を眺めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィズ・フレアイデア
キノ【f21482】と

燎金魚に乗って花火観光
でも其の前にクリームソーダ買っていい?
甘いのが好きっていうか、色々思い入れがあるっていうか
はは、勿論キノのクリームソーダが本命だよ!
また作っておくれよ
食べたいなァ、ヴィズちゃんスペシャル

ドレスが水につかないよう慎重に…
おやまあ!本当に執事みたいだこと
キノの手を取り金魚の上へ
あたしは水に入ると浮いて来れないので、落とさないでくれよ?
自力で海底を歩くのって面倒臭いんだから
カナヅチっていうか、魔女ゆえっていうか…そんなとこ

クリームソーダを食べながら、花火をみる
……すごい
今までに見たどんな花火よりも綺麗だ
祭りで上がる花火なんて、腐るほど見てきた筈なのにね


砂羽風・きよ
ヴィズちゃん(f28146)と
きの人格

…クリームソーダ?
ヴィズちゃんは甘いの好きだねぇ

彼女の笑顔にイタズラ心が擽る
う、う。酷いわヴィズちゃん
おれの作ったクリームソーダ、あんな美味しく飲んでたのに
どっちが本命なの?!

それなら、いーや
おれにも後でひとくちちょーだいね

折角のドレスが濡れたら大変だと気付いたおれは
先に乗れば手を伸ばし
――はい、転ばないでね?

わ、動いた
…もしかして、ヴィズちゃんってカナヅチ?
ん?どーいうこと??海底を自力で歩く?海の中でも息出来るの?
ツッコみきれないんだけど

いい景色だねぇ
こんな間近で見れる機会なんて滅多にないしね

あは、おれも同じこと思った

君の横顔を見て呟く
――ほんと、綺麗



●蜂蜜
 一つ、二つと、夜空に花が咲く。
 日中の喧騒は何処へやら。けれど、浜辺から花火を見ようと、ちらほら浜辺にはヒトの姿があった。
 夜に彩られたドレスの裾を揺らしながら、ざくざくとヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)は浜辺を歩く。
 空を見上げれば、光の輪郭に彩られた金魚が、ゆったりと泳いでいた。
 人が乗る事が出来るという、燎金魚―。世界には、本当に不思議が溢れている。
 にこりと人好きする笑みを浮かべながら、砂羽風・きよ(タコヤキカレー・f21482)のもう一つの人格・きのは周囲を見回して。
 乗れそうな燎金魚を、探して歩く。
「あ」
 ふと、ヴィズが小さな声をあげた。星を抱く瑠璃色の瞳には、一つの屋台が映っていた。
「クリームソーダ買っていい?」
 一歩後ろを歩く、きのの方を振り向きながら、ヴィズが屋台を指し示す。
 其処には、桜、緑、空、宵と色彩豊かな炭酸飲料が売っていた。ぱちぱちと弾ける泡が、耳に心地良い。
「ヴィズちゃんは甘いの好きだねぇ」
 様々な色彩のソーダ水を珍しそうに眺めながら、きよが笑う。
「甘いのが好きっていうか、いろいろ思い入れがあるっていうか…」
 懐かしい、あの日の出来事がヴィズの頭を過ぎる。無意識に笑顔が浮かんで。
 むくむくと、きのの胸中にイタズラ心が沸き上がる。よよよ、と両手で顔を覆って泣き顔を作る。
「う、う…。……酷いわヴィズちゃん…」
 おれの作ったクリームソーダ、あんなに美味しく飲んでたのに―。
 きょとん、とした表情を浮かべたヴィズにほんの少し、気を良くしたのか。
「おれ(の作ったクリームソーダ)と、あっち(で売ってるクリームソーダ)どっちが本命なの?!」
 事情を知らぬ者が聞けば、何だ修羅場かと囚われそうなその会話に、からからとヴィズは笑って。
「はは、勿論キノのクリームソーダが本命だよ!」
 食べたいなァ、ヴィズちゃんスペシャル、と告げれば、ぱっと、きのの顔が喜色に染まる。
「それなら、いーや!」
 空のソーダ水に、白いアイス。其れはまるで昼間の空を模したかのよう。其れを受け取りながら、二人は海辺へと歩hを進める。
 零れた花火の一雫に釣られたのか、浅瀬でゆらめく燎金魚。ふわふわ揺れる其の輪郭は、柔らかな蜂蜜の彩。
 空を泳ぐ、と言っても本能は金魚なのだろうか。水辺の近くをゆらり揺れるけれど、決して浜辺には近づかず。
 跳ねる海水を避けるように、ドレスの裾を持ち上げたヴィズを見たきのが、ひらりと軽やかに燎金魚へと飛び乗る。
 そうして、恭しく手を伸ばして。
「はい、転ばないでね?」
 そんな仕草に、目を丸くして。
「おやまあ!本当に執事みたいだこと」
 差し出された手に、ヴィズが自身の手を重ねれば、力強く引き上げられる身体。勿論、手にした空色クリームソーダは零さないように慎重に。
 どーん、と打ち上がる花火の音と、身体に響く振動を感じてかゆっくりと金魚が空へと昇る。
「おっと。あたしは水に入ると浮いてこれないので、落とさないでくれよ?」
 ―自力で海底を歩くのって面倒臭いんだから、と。まるで過去に体験した事があるかのように、うんざりとした表情を浮かべる。
 空いている片手は、きのの腕をぎゅっと掴む。其処には、決して落とされぬ、という強い意志を感じた。
「……もしかしてヴィズちゃんってカナヅチ?」
 小さく首を傾げながら、きのが問いかける。
「ん?海底を自力で歩く?ん-?海の中でも息出来るの?」
 そんなきのの言葉、基ツッコミを、ヴィズは曖昧に濁す。
「カナヅチっていうか、魔女ゆえっていうか……」
 ―魔女を判別する為の、一つの方法。水に浮けば、有罪。沈めば、無罪。遥か昔、水に沈められ、火に架けられ。
 思い出す事すら煩わしい、過去の出来事。
 そう、些細な事。そんなことは、どうでもいいのだ。
 気付けば、花火は真横に咲いて、零れ落ちた火花を燎金魚が食む様に突いていた。
 様々な色の金魚が、空を自由に泳ぐ姿は、何とも幻想的で美しかった。
 ぱっと花火が打ち上げられれば、周囲が鮮やかに照らされて。僅かに溶けかかったクリームソーダを口に含みながら、二人は其の光景を眺める。
「……すごい。…花火が近い」
 宵色の空を、とりどりの金魚がゆったり泳ぐ。
「いい景色だねぇ」
 ぱぁん、と黄金の光が咲いた。大輪の花が輝いて落ちる様は、何とも儚く、綺麗だった。
 外見年齢よりもずっとずっと、永く生きているヴィズは、此れまでたくさんの花火を見てきた。
 けれども、こんな間近で。降り注ぐような、光の雫は。―熱さも、痛みもない、火花の雨。
「こんな美しいものが、まだ世界にはあったのか」
 知らず、ぽつりと。無意識に言葉が零れる。
 からん、と手にしたソーダ水に浮かぶ氷が、小さく揺れた。
「―ほんと、綺麗」
 どーん、と花火がまた一つ、打ち上がる。大きく咲いた、光の花が、ヴィズの横顔を淡く照らす。
 その横顔を、じっと見つめながら。静かに、聞こえぬ声量で、きのが呟く。
 ただじっと、美しいものを美しいと感じる、君の表情が。
 ―何よりも美しいと、おれは思ったんだ。

 また一輪、夜空に大輪の花開く。
 ―様々な思いを交差させながら。燎金魚は夜空を泳ぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわあ、この花火の金魚さんに乗ることができるんですって。
ということは、アヒルさんとお空のお散歩ができるんですね。
いつもはアヒルさんばかり一人でお空のお散歩をしていましたが、今回は私もご一緒できますよ。
アヒルさんとのお空のお散歩はどんな感じなのでしょうね。
花火のお花畑をゆっくりお散歩する私の周りをアヒルさんが飛び回る感じなのでしょうか。
素敵ですね。
さ、お空のお散歩に出発ですよ。
ふえ?アヒルさん、どうしたんですか?
私の膝の上に止まったりして。
ふええ、金魚さんが飛べるんだから、わざわざアヒルさんが飛ぶ必要はないって
せっかくアヒルさんとのお空のお散歩を楽しみにしてたのにー。



●白銀
 ゆらり、ゆぅらりと。夜空を燦然と泳ぐ、燎金魚の優雅な事。其の隣に、一輪、大輪の花火が咲く。
 そんな様子を、浜辺で眺めていたフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は感嘆の声を挙げる。
「ふわあ、花火の金魚さんに乗る事が出来るんですって」
 腕に抱いた、アヒルさんに語り掛けながら、また一つ、空にひとつ花火が咲いた。
「ということは、アヒルさんとお空のお散歩が出来るんですね」
 ぱたぱたと白の翼を動かして、同意を示すかのように、ぐわ、と一鳴きアヒルさん。
 ヒトも打ち上げられて、乗る事も出来る花火。どんなものかと蓋を開けていれば、其れは未知の浪漫に溢れていて。
 空を歩く、と言うのはどんなものなのか。期待に胸を膨らませながら、フリルはそっと海辺を漂う燎金魚の元へと向かう。
 頭上では、一つ、また一つと花火が咲き誇る。ゆっくりと、フリルはアヒルさんと空を散歩する己の姿を思い浮かべてみる。
 ―打ち上がる花火の、色彩豊かな雫が落ちる周りと、アヒルさんとお揃いの彩をした燎金魚に乗って。その周りをくるくるとアヒルさんが周ったり。
 此の場限りの、素敵なお散歩。其れは何て―。
(素敵、ですね)
 ぼんやりと空を見上げるフリルを見て、ぐわ?とアヒルさんが気遣わし気に声をあげる。
「大丈夫ですよ。さ、お空のお散歩に出発ですよ」
 ふわり、ふわりと海辺を揺蕩う燎金魚の背に乗れば、打ち上がる花火の音に気付いてか、ゆったりと金魚は空へと昇る。
 どーん、と打ち上がる花火の音が、振動か、身体をびりびりと揺らす。
 近くで見る花火の、何と大きな花か。たくさんの花火が打ち上がる中心へと、金魚が辿り着けば、ゆらり優雅に。まるで火花を食べる様に。
 燎金魚は自由に泳ぎ出す。ふわりと吹いた夜風が、ひやりと吹き抜ける。
 ―ドーン。
 フリルの真横で、火の花が蕾を拡げた。間近で聞く音の大きさに。
「ひゃあ!」
 思わず驚いて、肩が揺れる。フリルの腕の中から飛び出したアヒルさんが、頭上に飛び乗って、しっかりしろよ、と言わんばかりに白い翼でぺちぺちと叱咤する。
 赤、紫、オレンジ、黄色―。 
 彩り豊かな火花が咲いては、海面へと零れていく。こんな近くで花火を見る日が来るなんて、思っても居なかった。
「綺麗ですね」
 ぐわ、と同意するように、頭上から声が響く。ぽたり、と火花が降り注ぐけれど、熱さは無く。
 肩に一雫、零れれば其れは淡い光を放って、ぱちり瞬いて消えた。
 頭上に居たアヒルさんが、そっとフリルの膝に降り立つ。
「すごいですね、アヒルさん」
 そうしてしばしの空中遊泳を楽しんで。降り落ちる雫を両手で掬ってみたり、素敵な時間を過ごしたのだけれど。

「そういえば、アヒルさん。どうして私の膝の上に…?」
 其の言葉に、今頃気付いたのか、と言わんばかりにぐわぐわ、と鳴き声をあげるアヒルさん。
「え?金魚さんが飛べるんだから、わざわざアヒルさんが飛ぶ必要はないって?」
 そんなあー…。と言いつつも、アヒルさんを撫でるフリルの手は優しい。
 アヒルさんと一緒に、空のお散歩を楽しむ日は、まだまだ先のよう。
 けれど―。

 空に咲く花を、共に見れた事は。此の夏を彩る想い出の、ひとつとして。フリルの心に刻まれた事だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルルカ・ウェレマイン
美帆さん(f33513)といっしょに

夜空に花開く煌めき…どーんと大きな音が響くのもなんだか心地よくて
これが花火というものなんですね
火薬でもって空を彩るものと聞きましたけれど、カクリヨの花火は一味違うみたいで

ええと…美帆さん。一緒に、乗りませんか?
燎金魚に跨り、ゆったりとした光景に一緒に思い出を作りたくて
…人の思い出を聞いてばかりだったボクですが…一緒の思い出になれるのならば
それはとても嬉しい事だと、胸がときめくようで

……で、でもやはり怖いのでその、手を結んで貰えると……っ

蒼い炎、温かい…肌の感触ではないけれど、とても落ち着く指
夜空でより近く煌めく星空に照らされた顔に微笑まずにはいられません


楊・美帆
ファルルカ君(f32779)と

夜の海と花火の幻想的な景色に見入って。
こんなふうに誰かとのんびりできるなんて、少し前までは考えられなかったヨ。

ウン、乗ろう乗ろう!
金魚に乗って空の散歩へ。怖がる彼に手を差し伸べようとして、長い袖がちょっともどかしく。コンテスト中も着ていたラッシュガードを思い切って脱ぐ。屍人の肌の色も炎の手も、彼に見られるのは嫌な気はしない。
しっかり捕まえててあげるからネ!
青い炎が象る手で彼の手を握り、ほんのり暖かい温度を伝える。

一度死んでしまった自分だけれど、きっとこの思い出は色褪せずに輝いて。目前の花火に照らされながら、これからまだまだ楽しいことがありそうな予感に胸を躍らせる。



●苗色
 星が瞬く。きらりと輝く星に呼ばれるように、ドーン、と轟音響いて、夜空に鮮やかな炎の華が咲く。
 ぱらぱらと落ちる火花は雨の様に、海へと降り注いで。海面に沈む前に、火花は儚く散った。
 他世界では見られぬ、不思議な光景を楊・美帆(デッドハンド・f33513)は琥珀の瞳を輝かせ、じっと見つめる。
 猟兵へと覚醒するまで、怒涛の日々であった。こうして、今穏やかな気持ちで、空を見上げているのが不思議なほど。
 其の傍らで、同じようにファルルカ・ウェレマイン(月のフラジャイル・f32779)もじっと空を見上げていた。
「これが、花火とというものなんですね」
 本来であれば、火薬を空で発火させ、空を彩るものであるけれど。此処はカクリヨファンタズム。
 花火すらも、妖怪の一端。何とも不思議な世界である。
 ゆらゆら、優雅に燎金魚は空を泳ぐ。海辺の近くを泳ぐ燎金魚をファルルカは指さす。
「ええと…美帆さん。一緒に、乗りませんか?」
 おずおずと、けれどはっきりとした声は、思いの外浜辺に響いた。其の言葉を聞いた美帆は満面の笑みを浮かべる。
「ウン、乗ろう乗ろう!」
 ぴょんと飛び跳ねれば、赤い外套の、長い袖がふわりと揺れた。
 さり、と足元の砂が軽い音を立てて鳴く。ゆらり揺らめく金魚の背に触れれば、熱さは無く。
「さあ、行コウ!」
 軽々と燎金魚の背に飛び乗った美帆が、ファルルカに向けて手を差し伸べよう、として、ばさりと長い袖に阻まれる。
 袖口からは、青い炎がちらりと噴き出して。
 ―目の前の彼とは違う、血の廻らぬ灰白の肌。実体持たぬ青き炎の諸手。
 望まぬ、死人の身体。否応無しに、己は死んだのだと、象徴するかのような、其の色が好きでは無かった。
 そう、無かった。
 ちらり、と目の前で此方を見つめる灰の瞳を見つめ返す。
 彼にならば、此の肌を、腕を。見られても嫌では無いと、そう思うのは、胸に抱く好意によるものか。
 ばさり、とフードを脱ぎ去り、外套を脱ぎ去る。ひやりとした風が、美帆の肌を撫でる。
 そうして伸ばされた手を、ファルルカは迷う事無く取る。
 瞬間、引き上げる手の力強さと、仄かに暖かな其の温もりが伝わって。心に柔らかな光がぽつりと灯る。
 ドーン、と打ち上がった花火が夜空を彩れば、光に惹かれたのか、燎金魚がそっと空へと昇る。
「わ、わ…」
 上がる高度に、ファルルカの身体がくらりと揺れるけれど、其れは美帆の腕がしっかりと支えた。
「ファルルカ君、落ちないようにしっかり捕まえててあげるからネ!」
「……は、はい!」
 じんわりとした、暖かな温度が、高さへの恐怖を溶かしていくようで。
「……あ、あの、怖いので、その、手を結んで、貰えると……っ!」
 恐怖は溶けるけれど、其れでも怖いものは怖い。故に、告げた言葉に、美帆はにこり満面の笑みを浮かべる。
「ウン!」
 ぎゅ、と強く握られた手。
 人の体温とは、肌の感触とは違うけれど、しっかりとファルルカを護ってくれる、力強い腕。
(……ああ、あったかい…)
 頬が熱を帯びる。―其の理由を、彼はまだ知らない。

 天へ天へ昇った燎金魚が、ゆったりと速度を落とす頃。
 真横で大きな音と共に、花火が其の蕾を開く。
 咲いた火花は、雫と也て大地へと降り注ぐ。
「……綺麗ですネ」
 こんな光景を見れるなんて、蘇生された頃は思っていなかった。
 辛くて、痛くて、怖くて。どんどん体温が抜け落ちていく感覚は、未だ忘れられない。
「………」
 世界はこんなに色彩に満ちているのだと。ファルルカの胸に、一筋の光が灯る。
 いろんな人の、想い出話を聞いてきた。想い出とは、色褪せぬものだと、知識で得た。
 こうして、誰かと想い出を作る日が来るなんて、とファルルカの心は僅か弾む。
 むずむずするような、ドキドキするような、不思議な感覚。
 そっと、傍らに座る美帆を見つめれば、力強い、眩しい笑顔で見つめ返される。
 弾けた火花が、美帆の顔を鮮やかに照らして。溢れんばかりの生命力に満ちた笑顔を見ていると―。
「……綺麗」
 無意識に言葉が口から零れた。
 花火も綺麗だけれど、優しくて、強い彼女を、ファルルカは美しいと思う。
 知らず、浮かぶ笑み。
「夏は、まだまだコレカラです。楽しい事がたくさんアリそうですネ」
 二人で紡ぐ想い出は、まだ始まりを迎えたばかり。
 此れからきっと、たくさんの出会いが二人を待つだろう。
 ―ドーン。
 二人の手は、未だしっかり繋がれたまま。

 ―其の心に芽生えた想いは、ゆっくりと此れから育っていくのだろう。

 こうして、夏の夜は過ぎていく。
 各々、胸に様々な想いを抱きながら―。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月02日


挿絵イラスト