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甘くて苦くて

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●禁忌の術士
 多数存在する迷宮の一つ。深い深い階層に、其れはいた。
 もともとはヒトであった其れは、自身の野望の為に、ヒトである事を捨て異形へと相成った。嘗ての名前は、もう覚えていない。もしかしたら、為し得ようとしていた記憶や目的すらも、忘れてしまっているのかもしれない。
 もはや執念なのだろう。
 今はただ、嘆きと呪いを振り撒かんと、彼の術士は階層を上へ上へと目指し進む。
 ―血と、悲鳴と、恐怖を。
 ならば、己一人では足りぬ。足りぬのならば、呼び出すまで。
 何故なら其れは、呼び出す事に長けている。何故ならば己は術士なのだから。
 そうして呼び出されたものは、其れは其れは…。
『モフッ、モフッ!』
『……は?』
 なんだかよく分からない造形のもふぷにの何かだった。
 もう一度言おう。もふぷにである。
 術式に不備があったのだろうか。…これには、さすがの術士も頭を抱えた。

●狐は語る
「はろはろー。集まってくれてありがとー」
 ひらひらと手を振りながら、セツナ・トゥイーディア(燐光スターダスト・f02091)は集まった猟兵へと視線を向けた。
「アルダワ魔法学園で事件だよー。迷宮を出てこようとする悪いオブリビオンを倒すお仕事だよ」
 蒸気と魔法が発達した世界、アルダワ魔法学園。迷宮の地下には多数のオブリビオンが封印されており、今回事件が起こるのもその一つ。
「出てこようとしているのは、自らの欲に溺れた術士の成れの果てだよ」
 迷宮から出てきてしまえば、学園へ在籍する生徒に多大な被害が出てしまうだろう。そうなる前に倒してほしい、とセツナは言う。
「あとねー。術士に辿り着く前に、配下を倒さなきゃいけないんだど…」
 なんかすごいやわやわ?もにゃもにゃ?してる謎の生き物のようだと、首を傾げながらセツナが告げた。
 其れを聞いた猟兵の首も、思わず首を傾げた。
「なんか敵意は無いみたい。しょくむたいまんってやつ?まあ、謎かけしてくる事もあるみたいだし、てきとーにあしらっていいんじゃないかなあ…」
 例え、敵意があろうがなかろうがオブリビオンは猟兵にとって倒すべき敵。…だがまあ、少しくらいなら遊んでも問題ないんじゃなかろうか、うん。

「あ、事件が解決したら、学園の厨房使っていいんだって。ほらー、世間はもうすぐチョコレートの祭典?があるんでしょ?魔法学園の厨房だし、不思議な道具もあるかもしれないよ?」
 キラキラ光るデコレーションとか、温度で色が変わるチョコとか作れちゃうかも?との事。ちなみに、材料は全部学園が用意してくれるとの話だ。
「ちゃちゃーっとオブリビオンを倒して、美味しいチョコ作っちゃおうねー」
 そう言ってセツナは転移の準備を始めるのだった。


幽灯
 幽灯(ゆうひ)と申します。
 今回は、アルダワ魔法学園のお話をお送りします。

●1章
 やる気があるのかないのか分かりませんが、敵意は無いようです。
 触るともちもちぽんぽんしてます。
 謎かけをして来る事もありますが、ちょっとくらいなら戯れても問題なさそうです。
 なんかいっぱいいますが、お持ち帰りは出来ません。

●2章
 配下を間違って呼んじゃった系術士。
 頭を抱えています。どうしてこうなった。

●3章
 学園の厨房を借りてお菓子を作りましょう。
 勿論、チョコレートじゃなくても全然構いません。

 ご一緒する方は「お名前」か「ID」を記載してください。
 また、セツナをお誘いする場合も、その旨をプレイングに記載してください。

 それでは、良き冒険となりますよう。
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第1章 集団戦 『モフィンクス』

POW   :    モフ~ン
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【気の抜けた鳴き声 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
SPD   :    モフ~zzz
【眠気を誘うアクビ 】を聞いて共感した対象全てを治療する。
WIZ   :    モフッ、モフッ(実は今欲しい物)
質問と共に【質問の解答が具現化する靄 】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●もふぃんくすが、あらわれた!
 ずんぐりむっくりとした体躯が通路を塞ぐ。壁が、床が、迷宮が発する蒸気のせいで、じんわりぬくぬくと心地いい空間を作り出していた。
『モフ…、モフッフ!』
 迷宮の外は、一歩踏み出せば冷風吹き荒れる冬の空気。
 意地でも動いてやるものか、という気質さえ感じられた。
 だけれど、ただじっとしているのも暇だった。…暇だったのだ。
 誰か通りかからないかなー、という期待の眼差しを通路の先に向けながら、モフィンクスは来訪者が訪れるのを待つ。
 仮にも彼らは迷宮の守護者。
 訪れる者へ試練を与えるのが、彼らの役目なのだから。そこに、ちょっぴり遊んでくれないかなという邪念が混じっていたとしても。
 
アニエス・エーラ
弥刀・一二三(f10459)と同行
WIZ
セツナさんもご一緒いただけますか?
敵意がないのに倒すのは抵抗がありますが…セツナさんはどう思いますか?
倒さずに元の場所へ戻す方法等はないでしょうか?
あればそちらを優先したいです
それにしても…なんて愛らしいんでしょう…のんびりした瞳もたまりません!
す、少しだけなら撫でてもいいでしょうか?ふわあ!
一二三に注意され我に。
「わ、分かってるけど、こんなに可愛いんだもの!
オーラ防御し、生命吸収とユーベルコードで一気に殲滅を狙い攻撃します
質問は、知らないのはそっと二人に聞いたり、第六感で答えます
一二三が眠くて逆ギレ
「眠いのは自業自得よね?
ちょっと意地悪言っちゃうかも


弥刀・一二三
アニエスと同行
まあ、うちも動物は好きどすが…スフィンクスいうたら王を守っとるっちゅー生きもんで、多少違とっても何か守っとるんやったらさっさと倒さんと、ヤバいモン出るんちゃいますやろか?
「っちゅー訳で、アニエス、もうええやろ
倒さん方法有り時
セツナはん含め倒すかどうか多数決
うちは倒さんと何や守っとるどえらいもんが何か仕出かす、思うんどすが
SPD
宇宙バイクで地形の利用しながら敵の攻撃を見切り吹き飛ばしで一箇所に纏めてから攻撃
敵の攻撃は「うちかて改造とメンテでむっちゃ眠いどすわ!
回復効果でいつまでも倒せない事にならないようアニエスの攻撃射程圏内に追い込み武器改造で鋭い刃を複数出し一斉殲滅目指す



 冷えた体躯に、蒸気が発する熱は何処か心地いい。アニエス・エーラ(オラトリオの聖者・f13932)と弥刀・一二三(サイボーグのスターライダー・f10459)は、モフィンクスの姿を探し、迷宮を歩く。
 思い出されるのは、迷宮へ突入する前に躱したセツナとの会話。

「敵意がないのに倒すのは抵抗がありますが…セツナさんはどう思いますか?」
 敵意が無いのならば、戦う理由はないはず。アニエスはそう力説する。だって、悪さをしていないのに。何故倒さなければならないのか、と。
 ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返すセツナは、僅かに考えたのちに言葉を落とした。
 曰く。
 ―敵意がない相手を倒すのは気が引けるかもしれない。でも、其れは今だけかもしれない。仮にも相手はオブリビオン。今度は人を襲う事があるかもしれない、と。
 厳しい事を言うけど、私たちは猟兵。オブリビオンを倒す事が使命。其れが在り方なのだと。珍しくも真剣な表情でセツナが告げた。
 何か言いたげなアニエスを、一二三が止める。
「…アニエス」
 そんな問答を経て、二人は迷宮へ足を踏み入れたのだった。

 何処か沈んだ表情のアニエスを宥めながら、一二三は迷宮内をぐるりと見回す。…橙色の丸いお尻と尻尾が見えた気がした。
「なあ、アレ…」
 数体のもふぷに…、否、モフィンクスが一塊になってぬくぬくしていた。そっと二人が近付くと、黒い糸目が僅かに動く。
「なんて愛らしいんでしょう…のんびりした瞳もたまりません!」
『…モフ』
「す、少しだけなら撫でてもいいでしょうか?ふわあ!」
 相手が動かないのをいい事に、アニエスがそのもふぷにっとしたボディへ手を滑らす。思っていたよりもつるつるの体躯に、程よい弾力。手に伝わるじんわりとしたぬくもり。…控えめにいって、たまらなかった。
「おーい、アニエス。もうええやろ」
 一二三の何処か呆れた声音に、アニエスの意識が引き戻される。頬を膨らませ、しぶしぶモフィンクスから離れた
「…ごめんね」
 宇宙バイクに乗り、何処か欠伸を零す一二三の横で、小さくアニエスが謝罪を零す。もし、オブリビアンじゃなければ、という考えは未だ頭から消えない。
 重いエンジン音を響かせ、一二三がバイクでモフィンクスを弾き飛ばす。
『モフォーン…』
中には、衝撃を無力化した個体もいたようで、気の抜けた鳴き声が迷宮内に響き渡った。
 気が付けば一か所に集められていたモフィンクスを、鈴蘭の花弁の嵐が襲う。やはり、気の抜けた鳴き声を響かせ、モフィンクスは、一体、また一体とその姿を消していった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ベルベナ・ラウンドディー
やーらーれーたー(抱き枕ぷにぷに)
たーすーけーてー(ごろごろ)
うーごーけーなーいー(もふもふ)

……っは!これは罠ですね!
私を陥れ猟兵の敵意を私に向けさせる!ええいなんて狡猾な!
気を付けてください!こいつは仲間割れを狙ってます!


私はこいつらを一か所に集めて一網打尽にする作戦です!
集団モフモフ抱き枕に溺れたいだなんて算段ではありません!(もふもふ
一か所に誘き寄せましたのであとは任せました!(ごろごろ

やーらーれーたー
たーすーけーてー
うーごーけー……って誰だぁ今石投げた奴!
当たったモフちゃん消えちまっただろうが!
おい誰だ!ぶっ殺すぞ!あぁ!(錯乱)


唸れ我が必殺のぉ!(←ユーベルコード)





…あっ(愕然)



 気が付くと、ベルベナ・ラウンドディー(ドラゴニアンのバイク乗り・f07708)はもふぷにの中に埋もれていた。何を言っているか分からない。…大丈夫、きっと皆分かっていないので。
「やーらーれーたー、もー、うーごーけーなーい」
 とりあえず、ベルべナの声はくぐもっているが聞こえるので無事なのだろう。手当たり次第、モフィンクスをその腕に閉じ込めては、撫でまわしたり、つついたりしているけれど。
 彼の堅い鱗も、モフィンクスにとっては何の苦もないようで、されるがままだった。
 分かっている。分かっているのだ。
「…っは!これは罠ですね!」
 そんな事実はないのだけれど。罠だと分かっていながらも、ベルべナの手はモフィンクスをもちもちする事を止められない。
 ―と、ひび割れていた天井から、ぱらりと小さな小石が落ちる。其れは、ベルベナに当たり、モフィンクスに当たり。彼らにはそれでも十分なダメージだったようで、当たったモフィンクスの姿が掻き消えた。
「誰だぁ今石投げた奴!当たったモフちゃん消えちまっただろうが!おい誰だ!」
 ベルベナは、こんらんしている。
 宜しい、ならば排除だ。そう言って、刀を振り払えば、其れに巻き込まれたモフィンクスが気の抜けた鳴き声を響かせて消えていった。
「…あっ」
 彼が正気を取り戻した時。周囲には、何も残っていなかった…。

大成功 🔵​🔵​🔵​

塩崎・曲人
「オレが、塩崎曲人様だ……」
(真顔でモフィンクスと向き合いながら)

……え、こいつら敵なの?
マジで殺んないとダメ?

絶妙に気が抜けるので適当にこいつらと戯れる
お手さしてみたり
腹をなでてみたり
完全に猫をかまう不良の絵面だが気にしない

問いかけをされたら、大体正直に応えるがクイズ系は苦手だぞオレ
「今欲しいもん?そらおめぇ……リーダーとしての力かな。今のオレじゃ力不足なのは分かってんだけどよ……」

ひとしきり遊んだ後マジで排除する必要があるならガチで殺る(無いならしない)
むしろ他人にさせるのは忍びねぇとか考える



 迷宮の奥の奥。其れは、ただ鎮座していた。全く動かず、ぬくぬくする其れに対して、塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)がしゃがみ込み真顔で向き合っていた。
「オレが、塩崎曲人様だ…」
『…モッフー』
 やはり、気の抜けた声を漏らしながら、無意識のうちに曲人は肩に入っていた力を抜いた。
「…え、こいつら敵なの?マジで殺んないとダメ?」
 どんなに気が抜ける相手であろうと、オブリビアンは猟兵にとって倒すべき相手。よって、倒さなければならない、のだが。
 じーっと曲人を見ていたモフィンクスが、のそのそと身体を動かし、向き合う。…あまりにもその動きが鈍いので、手持無沙汰な曲人が別のモフィンクスの背を、腹を撫でまわす。
『モフッ、モフッ!』
 ドヤ顔でモフィンクスが何かを問う。だが、質問の内容が分からない。とりあえず、何となく今欲しいものについて答えておくことにする。
「今欲しいもん?そらおめぇ……リーダーとしての力かな。今のオレじゃ力不足なのは分かってんだけどよ……」
『…モフーン』
 なるほど、頑張れよ。何度も頷くモフィンクスにそう言われた気がした、多分、きっと。
 ある程度、戯れた後、本来の目的を思い出す。
「…わりぃな。またどっかで会えたら遊ぼうぜ」
 そうして、曲人が拳を振るうと、モフィンクスの身体が宙に舞い、掻き消える。何処か苦い思いを抱えながら、何も居なくなったその場所を曲人は後にするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イェルクロルト・レイン
ユハナ(f00855)と

冬の冷気から逃れ訪れたそこは心地良く
丁度良くぬくいものがいるのなら、尚更
立ち尽くす隣をさっさと置いて、もふぷにの群れへ

もこもこ埋もれて暖を取れば
へっぴり腰で助けようとするユハナが見えて
……、
面白いので放っておく

ぬくいところはいい
幸せそうに見えたなら、そういう顔をしてたんだろう
対する少年は無表情
にもかかわらず、なんとなく思う事は伝わって

怖い? これが?
力加減なんて、触れてようやく分かるもの
摘まんでユハナへ押し付けて、
おまえも来いよ。
にやにやと笑む唇は意地悪に
叩かれたって構いやしない
喉の奥で楽し気にくつくつ笑って

ちょっとな、ちょっと
戦いはユハナに任せっきり
……終わった?


ユハナ・ハルヴァリ
イェルクロルト(f00036)といっしょ

ちみこい動物がもふもふひしめき合う姿に
僕は立ち尽くしてしまうのです

……あ、あ、イェルクロルト
そんなに、埋もれて
だいじょうぶですか、助けます
つぶしてしまいそうで、震える手で
なんとか彼を掘り起こすへっぴり腰

……なんだか幸せそうに、見えますね?
おかしい。なぜだ。そんな顔をする無表情
こわくは、ないのですか。
こんなにやわらかな生き物を、触れt
(押し付けられてかたまる)
……イェルクロルト。
ルト。(ぽかぽかたたく)(ぽこすか)
もう。倒して、先に進まないと、なんですからね
ちょっとだけですよ
……ちょっとって言ったでしょう。起きてください

散らした後には、ごめんね、と彼らに。



 開けた空間は、蒸気の熱も分散されるのか。今まで通ってきた通路とは温度がやや低かった。
 だからこそ、なのだろうか。イェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)とユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)が目にしたのは、山のように積み重なったモフィンクスの群れ。其れはさながら、おしくらまんじゅうをしているようにも見えて。
 予想してなかった光景に、ユハナが思わずその場に立ち尽くす。そんなユハナを横目に、イェルクロルトはお構いなしにモフィンクスの群れへと歩を進める。進んで、進んで。柔らかな橙の海へと沈んでいった。
「…ぬくい」
 そんな呟きは誰にも拾われる事なく、肌触りの良いもふぷにへと埋もれていく。呆然とその光景を見ていたユハアだったが、僅か遅れて正気に戻る。
「…あ、あ、イェルクロルト。そんなに、埋もれて」
 慌てて駆け寄り、もふぷにの海へと手を伸ばす。もふぷに…、モフィンクスへ触れた手はとても暖かく、一瞬オブリビオンで在る事を忘れてしまいそうになるほどに。
「だいじょうぶですか、助けます」
 だからこそユハナは恐怖する。この手が、柔らかな存在を潰してしまうのではないかと。そんな彼の心を象徴するように、イェルクロルトを助け出そうとするユハナの腰がちょっぴりと引けていた。
 一方のイェルクロルトは、伸ばされた手を見、視線を上へと向けユハナの表情をちらりと盗み見る。自身を心配する瞳が向けられているのが分かり、彼は伸ばされた手を。
 …取らなかった。完全に愉快犯であった。気分を良くしたイェルクロルトは、蜜色の瞳をそっと閉じ、柔らかな温もりを堪能する。普段、下がりっぱなしの口角が、緩やかに上がっていた。
 必死にイェルクロルトを引き上げようとしていたユハナが、その表情へ気付く。
 …おかしい、何故彼はこんなにも幸せそうな顔をしているのか。思考がぐるぐると頭の中を駆け巡って、引き揚げようとしていた手がついぞ止まる。
 ぬくもりを堪能していたイェルクロルトだが、引き揚げる手が止まったのを感じ、
閉じていた瞼をゆるゆると開く。
 先ほどの必死な表情と打って変わり、無表情のユハナが其処に居た。何となく、彼が何を思っているのかが分かる。
「怖い? これが?」
 山の中から無造作に、モフィンクスの一体を掴み取れば、未だ思考の海へと沈んでいるユハナへと遠慮なく押し付ける。
『モフーン?』
 気の抜ける鳴き声が耳を通れば、己の手の中にいる、其れ。
「…イェルクロルト。…ルト」
 いつの間にか、橙の海から抜け出していたイェルクロルトを、ユハナがモフィンクスを片手に抱えたまま、ぽこすか叩く。
 ぽかぽか叩くその腕を、イェルクロルトが掴んで、再度もふぷにの海にダイブすれば、驚きの色へ染まった星空の瞳。
 先とは違い、意地悪な笑みを張りつけ、喉の奥でくつくつと笑えば、沸き上がる抗議の聲。
 そうして、微睡の時は訪れる。―其れが、どれほどの時間であったかは彼らしか知らないけれど。
 しばらくの後。其処には誰もいなかった。
 ただ、光瞬かせる貴石の花弁が、床を彩るのみだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

東雲・円月
双子の姉の東雲・咲夜(f00865)と共に

・モフィンクス
なんだ、フザけた見た目だな?
まァ敵なら敵で……かわいいか、咲夜的にはかわいいのかアレ?!
アレが?!
出来損ないのコーヒーゼリーみたいなアレが?!
女の趣味はホント良く解らないな……

じゃァ、殺りますか
……俺、かわいいのとか良く解らないんで。すみませんね
俺が殺るとR-18で赤い三角マークになっちゃうんで……今風に言うならZバージョンかな
ま、嫌なら目を閉じててね、咲夜

今欲しいもの?
ああ、修正テープが切れてたから、帰りに買っていこうと思ってましたよ

咲夜の欲しいものってちょっと気になるな……
パンダ?
……パンダって熊だよね。かわいいのかアレ……?


東雲・咲夜
双子の弟・えっくん(f00841)と

…うちら、この子らと戦うん?あれはうさ耳?
えらいかいらしい…うぅ、胸が痛みますね
えっくん、先にいっておくれやす(ぐいぐい背中押す)

こーひーぜりー?何言うてはるの?
どう見てもうさぎさんやないの

あや、なんや話しかけてきはったよ
【動物と話す】んは得意という訳ではないのやけど、可能です
…今欲しいもの?
う~ん…あ、子パンダさんのぬいぐるみ
こないだ雑貨屋さんで見掛けたんやけど
手持ちが足りひんて買えんかったの…

このままやと先へ進めへん
桜色の【オーラ防御】でえっくんを守りながら
【見切り】つつ水の矢で【援護射撃】
水神様を呼び出し水の結界で封じてから
ぎゅっと目を瞑ります
堪忍な…



 のっそりと、緩やか…、というよりは鈍い動きで通路を横断するモフィンクスを東雲・円月(桜花銀月・f00841)と東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)は呆然と眺めていた。
「…うちら、この子らと戦うん?あれはうさ耳?」
 視線は、モフィンクスへと固定したまま、誰に言うでもなく咲夜が呟いた。あんなに、あんなに可愛らしいのに倒さなければならないのか、と。
「まァ敵なら敵で……かわいいか、咲夜的にはかわいいのかアレ?!アレが?!出来損ないのコーヒーゼリーみたいなアレが?!」
 思わず、モフィンクスを指さし、己の片割れへと円月が問うた。身を分けた半身と言っても、やはり感性には男女の違いが現れるらしい。
「こーひーぜりー?何言うてはるの?どう見てもうさぎさんやないの」
 対する咲夜も円月の感性には共感出来ない様子。そんな問答が、幾らか続いている間。此方へと気が付いたモフィンクス一体が、のっそりのっそりと二人へと近付く。
『モフッ、モフッ』
 何処か誇らしげな表情で、モフィンクスが何かを問う。突然の事に、瞳を瞬かせる二人だが、立ち直りは咲夜の方が早かった。
「あや、なんや話しかけてきはったよ」
 しかし、モフィンクスは動物に該当しないのか、動物会話では何を話しかけているのか分からない。短い手足でたしたしと床を叩くモフィンクスの動作を見て、咲夜が何となく閃く。
「…今欲しいもの?う~ん…あ、子パンダさんのぬいぐるみ」
 脳裏に浮かぶは、以前出かけた時に出会ったパンダのぬいぐるみ。生憎、手持ちが足りず、お迎えする事は叶わなかったのだけれども。
 何処かしょんぼりする咲夜を円月はそわそわとした様子で見つめていた。大切な姉が欲しい物が何か検討もつかないのだ。
(…パンダ。パンダって熊だよね。かわいいのかアレ…?)
 …東雲姉弟の感性は、きっと双方理解する日が来る事はなさそうである。
 そんな問答があったが、そもそもの目的を思い出す。そう、迷宮の奥へと進まねばならぬのだ。
 其処からは、酷くあっさりとした物だった。咲夜が水を操りモフィンクスを封じれば、円月が武器を振り下ろしモフィンクスを蹴散らしていく。
『…モ、フーン』
 やはり、気の抜けた鳴き声を挙げながら、モフィンクスは次々と消えていくのだった。
「堪忍な…」
「咲夜…。…行こう。奥に進まなきゃ」
 遣る瀬無い思いを抱えながら、彼らは迷宮の奥へと進む。
 きっと、元凶との邂逅まで、あと僅か。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラム・ライゼン
…(一体捕まえてもふもふ)
……(もちもち)
………(無心でもふもふもふもちもち)
いってえ!?
痛い痛い痛いなに待ってディア、ルフェも!
ふたりとも髪引っ張るのやめてやめて!?
……えっなに浮気者?いやちょっと調査がてらもふもふしてただkいだだだだだだだ


・戦闘/ユーベルコード
「現実再編。虚構構築・収束を開始。術式概装に【霜男の吐息】を選択ーー以下省略!」
〈高速詠唱〉と〈全力魔法〉を併用
【氷】の【暴風】で一掃を狙う

残りにはディア(ドラゴンランス)を使用
纏めて〈薙ぎ払い〉または〈串刺し〉に
至近距離ではルフェ(短剣型ロッド)に持ち替え


欲しいもの?
そろそろ腹減ったから学園の学食で飯食いたいなぁ…



 至福の時だった。クラム・ライゼン(つぎはぎフリークス・f02003)は、目の前のもふぷにを捕まえて、撫でて、伸ばして。全力でその感触を楽しんでいた。
 そう、しいて言うならば此れは…。
「いってえ!?痛い痛い痛いなに待ってディア、ルフェも!」
 しかし、それは突如として終わりを告げる。クラムが従える仔竜と精霊が、薄く朱が混じった黒髪を遠慮なしに引っ張った為である。
「…えっなに浮気者?いやちょっと調査がてらもふもふし、っていだだだだだだだ」
 何処か面白くなさそうに、仔竜と精霊は抗議を行動で提示する。さすがに、これにはクラムも参ったのか、捕まえたモフィンクスを離した。
 離すと同時に、激痛も消える。ひとまず、彼らのジェラシーも過ぎ去ったよう。
 やれやれ、と言わんばかりにクラムがガシガシと頭を掻く。このまま、もふぷにの魅力に取りつかれる前に。相棒たちが焼きもちを焼く前に、何とかしなければなるまい。

「現実再編。虚構構築・収束を開始。術式概装に【霜男の吐息】を選択ーー以下省略!」
 詠唱の過程をすっ飛ばし、クラムが放った全力の氷の嵐は、周囲にいたモフィンクスを巻き込み、切り裂き、消滅させた。

 そうして静寂が訪れる。
 なんやかんやで、全てのモフィンクスを倒す事が出来たよう。
 黒幕まで、後―。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『怨霊魔導士』

POW   :    死霊兵団
【骸の海に揺蕩う罪人達】の霊を召喚する。これは【血に濡れた近接武器】や【血に汚れた遠距離武器】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    死霊の嘆き
レベル×1個の【呻き声をあげる人魂】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    死霊の誘い
【昏い視線】を向けた対象に、【忌まわしい幻影と心を抉る言葉】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠茲乃摘・七曜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●嘆きの術士
『…やはり、あのような物では足止めにすらならなかったか』
 迷宮の奥から現れるは、紫のローブに身を包んだ術士。頭部は白骨と化しており、彼がオブリビオンになってからの年月を物語っていた。
『ならば、直接手を下すまで。呪いと嘆きこそが我が証明』

 そうして、術士は階上を目指す。
 己の夢見る景色を見るが為に。
東雲・咲夜
弟のえっくん(f00841)と

えっくん、人は誰でも余所様に知られとうない趣味の一つや二つあるもんですよ
あないにかいらしいうさぎさん(仮)をぎょうさん失くして
きっとお辛いはずや…そっとしといたげましょ

走り出すえっくんの隙をフォローするように
水槍の【援護射撃】を飛ばします
禍々しい空気を纏うあんさんには【破魔】がよう効きそうやね

えっくんが罪人達に反撃されそうやったら
優先して桜色の【オーラ防御】を張ります
あんまり無茶せんで…えっくんが痛いのは嫌よ

もしそんな姿を目にしたら
考えるより早く光の弓を構え、極限まで威力を高め、放ちます
えっくんを傷つけんといて…!
焦燥感から涙目で駆け寄りますね

🌸アレンジ可


東雲・円月
双子の姉の東雲・咲夜(f00865)と共に

やっとちゃんとした戦いになりそうですね
あ、その前に……さっきのアレはなんだったんです?
もしかして貴方の趣味ですか、趣味なんですか?

……コホン
俺は面倒なことが嫌いでしてね……
真っ直ぐ行ってブッ飛ばす、が心情なんですよね
だから……援護は任せたよ、咲夜ッ!

骸骨風情なんざ、俺の大斧で叩き潰してやりましょうッ!

※口調とは裏腹に、粗雑に力任せに大斧を振り回すスタイルです。
当たり難いことは自分で承知の上。当たるまで振り回します。
相手の攻撃に対しての防御行動も少なく、肉を切らせて骨を断つような戦い方をします。
今回は相手が骨ですしね!
アドリブとか諸々OKです



 そうして、階上を目指した怨霊魔導士は、眼前に立ちはだかる人影に気が付き、足を止める。
 魔導士の姿を認めた双子の片割れ、東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)は痛ましい表情を向けた。
「あないにかいらしいうさぎさん(仮)をぎょうさん失くして。きっとお辛いはずや…そっとしといたげましょ…」
 ぽんぽんと、咲夜がもう一人の片割れである東雲・円月(桜花銀月・f00841)の背を叩く。
 此方は何処か呆れたような、何処か一線引いたような表情でそっと言葉を落とす。
「…さっきのアレはなんだったんです?もしかして貴方の趣味ですか、趣味なんですか?」
『趣味ではない!!!』
 即座に否定の言葉が飛んでくる。咲夜も円月も思っている事は違えども考えついている根本はきっと同じ。
 ―可愛らしい物好きな、変態さん。
 その空気を何処かで感じ取ったのか。骸骨魔導士の背に混沌たる紫黒の炎を生み出す。
 其れを見た東雲姉弟も武器を構え、臨戦態勢へ。其れが、戦闘開始の合図となった。

『違う、断じて違う!本来ならば、混沌たる呪詛の使者が…』
 もう墓穴を更に掘り下げているだけのような気がしなくもないが、言い訳を述べる魔導士の言葉を遮って、円月が咳ばらいを一つ。
「俺は面倒なことが嫌いでしてね…」
 このやり取りすらも、既に面倒になっているのだろう。背後に控える咲夜へ僅かに目線を向ける。
「真っ直ぐ行ってブッ飛ばす、が心情なんですよね!」
 ―だから……援護は任せたよ、咲夜ッ!
 そう言葉が響くよりも早く、戦斧を構え直した円月が魔導士の元へと駆け出す。
 それと同時に、咲夜が破魔の力を宿した水の槍を魔導士の足元へと打ち込む。打ち抜かれた布が、しゅわりと清浄な空気を纏って消えた。
「その骨、砕いてやりましょう!」
 大きく戦斧を振り被り魔導士へと振り下ろすが、寸での処で後退し躱される。
 躱しながらも両手に紫黒の炎を翻せば、受けて立たんとする円月の隣には慌てて駆け寄ってきた咲夜の姿。
「あんまり無茶せんで…えっくんが痛いのは嫌よ」
 桜色の結界で炎を防げば、胴を薙ぐように振るわれた戦斧の風切音が硬質な物を削ったような手ごたえを感じた。
「俺なら大丈夫だから!」
 防御など頭にないような、攻めの姿勢。振り下ろして、薙ぎ払って。そんな応酬が続き、魔導士と円月共に身体に小さな無数の傷が増えていく。
 このままでは分が悪いと悟ったか。
 その場を撤退しようと魔導士が再度の炎を生み出し、咲夜と円月の足元へと放った。
 轟々と燃え盛る炎に邪魔され、二人は撤退を阻止する事が出来ない。
 最後の望みと、光輝く破魔矢を番えるも其の姿は既になく。矢は放たれることなく、光と成って消えた。
 後に残されたのは、弟を真摯に心配する姉と、其れを必死に窘める弟の、二人の家族の姿だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

塩崎・曲人
呪いと嘆きが証明とは、エラく後ろ向きの人生も有ったもんだなオイ
愛とか勇気とか友達にしとけよ、なぁ?
「ちなみに前向きのバカはまだ可能性があるが、後ろ向きのバカは可能性すらゼロ、らしいぞ」

【咎力封じ】で拘束、無力化を狙うぜ
動きを止めちまえばあとは仲間と囲んでタコ殴りにするだけよ
敵の人魂を動き回って避けながら、拘束ワイヤーとか鎖を投げつけまくる
挑発(上部セリフ参照)しながら動き回って好きを狙おう
何故か囮とか得意なんだよねオレ様
「やる気を出してお外目指してる所悪いが、こっから先は通行止めだぜ!」

【アドリブ絡み歓迎】


クラム・ライゼン
うわっ、骸骨!?
コイツがさっきの召喚したのかぁ……もしかして詠唱ミスった?


戦闘/ユーベルコード
「現実再編。各種要請を承認…以下省略!ーー顕言。『光あれ!』」
《追随する光精》使用
〈高速詠唱〉〈全力魔法〉併用
複数目標に取れるなら召喚されたモノも巻き込んでばら撒く感じ

ユベコ以外の攻撃はディア(ドラゴンランス)かルフェ(短剣型ロッド)で行う


///
美味しいものを毎日食べられるの?
甘いものも?腐ってないお肉も?
いいな
お兄ちゃんだけ、ずるい

幻影:痩せた双子の妹弟
学園に来てから5年ほど会ってない
仕送りはしてるけど、今どんな暮らしをしてるかは手紙だけじゃ分からない
ーー前よりは、マシなもの食べられてるといいなあ…



 魔導士が逃げ去った先。まさかこの場で遭遇するとは思っていなかったクラム・ライゼン(つぎはぎフリークス・f02003)が驚きの声を上げる。
「うわっ、骸骨!…コイツがさっきの召喚したのかぁ…。…もしかして詠唱ミスった?」
 ほぼ完全正解である。
 …だが、そんなクラムのぼやきを魔導士が拾う事は無かった。
 魔導士の在り方について、呪いや嘆きなんて仄暗いばかりの後ろ向き思考ではなく、愛とか勇気こそ必要だったんじゃないのかと塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)は考えを巡らせた。
 しかし、魔導士にその理論が通じるのかどうかは分からない。
『…く、此処にも…。我の邪魔はさせぬ!』

 このままでは逃げられないと悟ったか。ならば、と頭骨から紫黒の炎が溢れる。昏い視線をクラムへと向ければ、彼の赤い瞳に翳が宿る。
 其れを見た曲人が咄嗟に拘束具を魔導士へと投げ放てば、魔導士は四肢を封じられ、一時的に動きを制限される。
「…おい、大丈夫か、あんた!」
 曲人が隣のクラムへと必死に呼びかけるが、彼の瞳は痩せ細った双子の姉弟を映し出していた。
 ―どうして?
 無垢な声が鼓膜を揺るがす。
 ―ずるい、ずるいよ。おにいちゃんばっかり。
 ―わたしたちだって、ごはんたべたい。
 ―ぼくたちはくさったものをたべなきゃいけないのに
 ―ねえ、わたしたちはもう。
 ―イラナイノ?

 突如、クラムの頭に軽い衝撃が走る。翳っていた瞳に光が戻る。
 慌てて周囲を確認すると、拘束具で魔導士を捕縛したままの曲人が手刀を振り下ろした姿のまま此方を見つめていた。
「ここが何処か分かるか?自分の名前言えるか?」
 ぱちくりと瞬き一つ。
「…此処は迷宮で、俺、は…」
 全部、全部思い出す。どうやら、魔導士の幻影による攻撃を喰らったよう。外傷は無いが、精神的疲労が酷い。
 へらりと笑って、クラムは曲人へと礼を告げる。灰の瞳が、安堵したように細められる。
 もう何年も会っていない、大切な家族。仕送りはしているけれど、果たして今の生活は苦楽どちらなのか。
(前よりは、マシなもの食べられてるといいなあ…)
 音には出さず、胸に留めて。今は己の為すべき事を。
「ごめん、迷惑かけた」
「大丈夫なら、いい。やっこさんはやる気満々のようだぜ」
 そうして、今度こそ臨戦態勢へ。
 動きが止まったままの魔導士へ、クラムが光の属性を纏う矢を放つ。矢は、ローブを、足を、胸を貫く。
『我には、叶えねばならぬ野望があるのだ!』
「やる気を出してお外目指してる所悪いが、こっから先は通行止めだぜ!」
 なおも進もうとする魔導士の道を、鉄パイプを振り下ろした曲人が塞ぐ。その後ろで、クラムが竜槍たるディアの切っ先を向ける。
 此れにて終焉かと思われたが、魔導士が罪人の霊を召喚し、二人に嗾ける。
 増援は予期していなかったのか、前後塞いでいた道に綻びが出来、魔導士の撤退を許してしまう。
 罪人の霊を薙ぎ払った後には、逃げ去った後なのだろう。
 魔導士が身に着けていた法衣が、ボロボロと地へと散った跡が迷宮の入口へと続いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユハナ・ハルヴァリ
イェルクロルト(f00036)といっしょ

まちがえちゃったんですね
その気持ち、わかります
あんなおそろしいものを、呼んでしまうなんて
やわこいものはどんなにか、こわかったでしょう。

それはともかく
いざ尋常に、勝負。遠慮なく。
凍える花で動きを止めて、その隙に
ルト、いきましょう
月の名を持つ短刀振り抜き、駆ける
彼の動きは見知ったもので
補うように、動きましょうか
ああ、そのくらいでは、溶けませんから
もっと強火でも、いいです
珍しく軽口まで飛ばす
命削る音を素知らぬふりで
同じくらいにいのちを刃で穿つ

心を抉るなんて、させません
僕の近くにいる限りは

その白焔、貸して。
炎を増して矢と化して、雨の如くに降り注げ
君を、砕きます


イェルクロルト・レイン
ユハナ(f00855)と

間違えた?
うんうんと同意を見せるユハナに怪訝な視線を向けて
そのまま術士に似た表情を向けて
ああ、察し
双眸には憐憫と嘲笑がありありと浮かんだ

来いよ、本当があるなら見せてみろ
熨さねばならぬというなら力を以て潰してやろう
獣化した腕に白き炎を纏わせて
傍らの氷すらもまとめて溶かしてしまえ
自らを遮らぬ動きに口の端釣り上げ
狼は、月を背にして牙を剥く
軽口が聞こえれば鼻で笑って楽し気に
なら遠慮はいらねえなァ!

言葉と幻影は氷に遮られて
護られてばかりは性に合わんと
君抉る幻は猛る焔の底へ

あんたに繰れるというのなら
指の腹に牙を立て、血を焔に変えて解き放つ
さよならだ



 様相はボロボロであるが、自身は魔導士。御身は骨と化したが、もとより魂なぞ存在しないのだ。身を癒す手段など幾らでもあろう。
 そう思考を沈めていた魔導士の眼前に移る二つの人影。
 ぼんやりと空に視線を定めていたユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)は突如現れた魔導士の姿に目を丸くする。
 その姿見と、呼ばれたもふぷにの存在を頭で結び付け、一つの答えを導き出す。
「まちがえちゃったんですね」
 うんうんと一人頷くユハナをイェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)は怪訝な表情で見つめた。
「間違えた?」
 触れれば壊してしまいそうな、やわらかくてあたたかな生き物。ユハナにとって、もふぷにな存在はどんな物よりも恐ろしかった。
 一人納得するユハナを見やり、魔導士を見やり。その視線が何度か往復する頃。イェルクロルトの口角が歪に歪む。蜜色の瞳に、憐れみと蔑む色が混じる。
『諦めぬ。決して諦めぬ。確かに我は術式を損じた。しかして、其れに何の問題があろうか!』
 ―そんな魔導士の叫びを静かな声が遮った。
「それはともかく。いざ尋常に、勝負。遠慮なく」
 抱いていた疑問が解け、すっきりしたのだろう。あの恐ろしいもふぷにが居ない今。ユハナが戸惑う理由は何も無い。
 冷ややかな視線を携え、イェルクロルトは別段興味なさそうに魔導士へと言葉を薙げる。
「来いよ、本当があるなら見せてみろ」
 言うよりも速く。キラキラとした光が周囲に漂う。煌めきは、仄かに暖かな迷宮の熱を奪い、冷たく輝く蒼銀色の花弁を生み出す。
 対抗せんと魔導士が両手に紫黒の炎を宿らせるが、ユハナが術を放つ方が僅かに勝った。
 蒼銀色の花弁が魔導士の四肢へと張り付けば、儚い氷華が咲き誇り魔導士を地へと縫い留める楔と為った。
「ルト、いきましょう」
 月抱く短刀を携え小さくユハナが声を掛ければ、イェルクロルトが既に鉛色を持つ獣の腕へ烟る白き炎を纏わせ魔導士へと振り抜く。
 縫い留めた氷華すら溶かさんとする炎熱。炎へ晒されるも、氷華は一滴たりとも水滴を落とす事無く。
「もっと強火でも、いいです」
 其れは信頼の表れか。其れとも、もっと深い―。
「なら遠慮はいらねえなァ!」
 鉛色の尾が機嫌良くゆらりと揺れる。イェルクロルトへと向かわんとする人魂の炎は、ユハナが短刀で打ち払う。
 じりじりと熱に当てられる度に、さらさらと何かが零れる感覚。けれど、その様な音は最早初めから聞こえていない。
 妖しげな光を称える眼光が、星色の少年を負へと引き込もうと輝くが、今度は此方が護る番だと白く、白く炎を猛らせる。
 そうして。
 白く輝く炎の花弁と、蒼銀色纏う氷華が綺麗に消え去ったその場には、何も残っていなかった。
 あるのは、煤けた紫の法衣だった残骸。
 哀れな魔導士は、階上へ向かうことなく迷宮の中でその身を散らしたのだった。

 脅威は消え去った。
 例え、其れがしばしの平穏だとしても。
 安寧はたやすく崩れ去るのだとしても、この後に起こる緩やかな時間に身を委ねてもきっと、何の問題もないだろう。
 だって。猟兵は一つの日常を護りきったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『手作りお菓子を君に』

POW   :    大きなお菓子作りに挑戦!

SPD   :    お菓子いっぱい作るよ!

WIZ   :    お菓子は見た目が命! 出来映えにも拘るよ!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●あまあまのまほう
 アルダワ魔法学園の教室の一角。所謂、調理室と呼ばれるその場所を学園側が快く提供してくれた。
 一般的な調理器具と、見た事のない不思議な器具と、オーブンと、コンロと。台の上にはたくさんの材料が並んでいる。
 チョコだけではなく、色とりどりの果物や小麦などの素材など、お菓子作りの材料が全て其処に在った。
 ふわり漂う甘い香りに心躍らせれば、其れは既に魔法に掛かった証。
 思いを込めてお菓子を作れば、更に魅惑の魔法へと変じる。

 ―さあ、楽しい楽しいお菓子つくりの始まりだ。


 
イェルクロルト・レイン
ユハナ(f00855)と

甘い匂いに鼻を鳴らして
手伝う
ぶっきらぼうに言い放ちユハナの周りをうろうろ
味覚はないから、作るのは任せよう

チョコを溶かす。溶かすなら、火。
ぽっと灯した炎を制する声に不思議そうに首傾げ
お湯……やさしく……
子供のように反復して湯煎チャレンジ
かしゃかしゃ溶かしながら今度は逆に首傾げ
溶かして混ぜて、役目はおわり
チョコで描く模様を見やり
おれもやる、なんてはたり尾を揺らす

食べろと言われたら拒否するでもなく、一口だけ
砕けば舌上で音が鳴り、一度ぴたりと固まって
問いには、ん、と短い返事だけ
鳴る音がなかなか楽しくてもう一枚、おねだりを
あんたも食うといい
気まぐれに差し出したチョコは君へ


ユハナ・ハルヴァリ
ルト(f00036)と

チョコレート。
作りたいものが、あって
手伝いの声に、ありがとう、とお任せ
チョコを溶かしている間に…
火じゃないです。お湯です。
チョコにお湯、入らないように、やさしく。
そう、上手です。
…はい。道具を探します

魔力で道具とこっそりおはなし
ああ、君ですね。どう使えば、いいですか。…こう?
いろんな、綺麗な音を解いて粉に
チョコに混ぜて、固めて
ホワイトチョコで模様を描いたら、できあがり。
ルト、上手。かわいい。

はい、これ、食べてみて?
見た目はただの薄い板状
噛み砕くとそれぞれピアノや歌や、オルゴールの音
どう?たのしい?
ねだるその口にもう一枚
それから自分も手ずからぱくり
…結構。たのしいですね。



 すんすんと、鼻を鳴らしてイェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)は室内に充満する甘い香りを吸い込んだ。
 その傍らで、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)が、せっせと材料と器具の準備をしていた。
「チョコレート、作りたいものが、あって」
「…手伝う」
 イェルクロルトのぶっきらぼうな申し出に、ユハナは瞳を瞬かせる。
「ありがとう」
 小さく口元に笑みを浮かべて応じれば、ん、とだけ返される言葉。けれど、イェルクロルトは味を感じる事が出来ない為、出来る事は限られているのだけれども…。
 
 チョコレートを使うお菓子ならば、まずは溶かす作業から。
 刻んだチョコレートをユハナがボウルに入れれば、隣で灯される白い炎。
「火じゃないです。お湯です」
 何故、炎で溶かしてはいけないのかとイェルクロルトが首を傾げれば、均等に熱を加えなければ焦げてしまうとの説明が。
 人肌では少し熱いと感じる程度のお湯に、チョコレートが入ったボウルを乗せればじわりじわりと溶け出し、甘い香りがゆっくりと漂ってくる。
「チョコにお湯、入らないように、やさしく」
 ゆっくりと、慎重に。けれど、慣れない手つきでイェルクロルトがゴムべらでチョコレートを溶かしていく。
「お湯……やさしく……」
 伝えられた言葉を何度も反復して、くるりくるりと溶けだしたチョコレートが輪を描く。
「そう、上手です」
 此れなら大丈夫だろうと、ユハナはボウルから目を離し、目的の道具を探し出す。
 あちこちに視線を向け、ようやく探し出した道具は不思議な形をしていた。初めて見る道具だけれど、そっと道具に魔力を通し、意思の疎通を図る。
(どう使えば、いいですか。…こう?)
 其れは、微笑ましいものを見るように。優しい口調で己の使い道を伝える。
 そうして出来たきらきら輝く粉を、湯煎したチョコレートに加えれば、イェルクロルトがくるくると優しくかき混ぜた。
 溶けたチョコレートを薄い板状に伸ばして、形を整えて。冷やし固まったら、チョコレートは完成。
 其処にもう一手間。ユハナがホワイトチョコレートで模様を描けば、興味を持ったイェルクロルトも尾を揺らす。
「おれもやる」
 はたりはたりと、楽し気に尾がゆらりゆらゆら。
「ルト、上手。かわいい」
 互いに満足出来る模様が描けたら、今度こそ完成。
「はい、これ、食べてみて?」
 ユハナが出来立てのチョコレートを差し出せば、其れは拒否なくイェルクロルトの口の中へ。
 ぱきりと口の中で噛み砕けば、優しいメロディが零れ、溢れる。イェルクロルトが驚きに目を見開き固まれば、悪戯が成功したようなユハナの小さな笑み。
「もう一枚」
 甘さは分からないけれど、耳へと届く音が心地良い。思わずもう一枚と催促すれば、先と同じようにユハナがチョコレートを彼の口元へと消える。
 気まぐれに、自分が描いた模様のチョコを、今度はイェルクロルトが差し出せば、ぱくりとチョコレートは少年の口の中へ。
 響いた音色に、顔が緩む。
 そうして、小さな音楽会はチョコレートが無くなるまで続くのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

塩崎・曲人
ところで知ってるか?
曲人君料理できない
バレンタイン?配るチョコは市販品で済ますぞ
……おい、「なんでコイツここにいんの?」みたいな目はやめろ

まぁ些細な問題は置いておいて
せっかく厨房が使えるならおやつでも作りますかね
この――UDCアースのスーパーで値引き投げ売りされてたサツマイモでな

①芋をホイルで包むじゃろ?
②ホイル芋をオーブンに放り込んでスイッチオンするじゃろ?
③焼き上がりじゃ。

かんたーん!
お手軽に焼き芋が出来るぜ
芋もそこそこ量あるし数分で調理完了だし
お疲れ様って意味で皆で食ってもいいだろ
オレのおやつにゃ2,3本ありゃ十分だしな

【アドリブ絡み歓迎】



 料理は科学だ、なんて言葉が頭を過ぎる。
 だけど、そんなの知ったこっちゃない。だって、料理も科学も意味が分からないし、理解も出来ない。
 其の事実に気が付いた時、塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)は頭を抱えた。けれど、ものの数十秒で立ち直った。
 だって、今の世の中は便利だ。バレンタインのチョコレートだって市販品が売ってる。実際、其れで乗り切ったのだし。
「…大したもんは作れねーけど。おやつでも作るか…」
 何しに来たんだろうあの人、という視線は気にしない事にする。
 そうして曲人が取り出したるは紅紫色に輝くサツマイモ。叩き売りされていた此方、お値段なんと1キロいちきゅっぱ。
 アルミホイルを取り出して、サツマイモにみっちりと巻く。
 それらを天板の上に乗せて、高温に熱したオーブンの中へ。30分程度じっくりと熱を通したら、焼き芋の完成である。
「…あちち」
 巻いていたアルミホイルを解けば、ほかほかと湯気をあげるお芋の姿。ぱかりと半分に割れば、ほくほくとした黄金色の中身。
 少し冷まして、口に含めばじんわりと甘みが広がる。
 其の出来栄えに曲人は一人納得する。幸い、サツマイモならまだ大量にある。他の猟兵にも分けるべく、曲人は再び、サツマイモをアルミホイルに巻く作業に勤しむのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東雲・円月
双子の姉の東雲・咲夜(f00865)と共に

お菓子作り、か……
俺はいいから咲夜が作りなよ
いや俺はほら、お菓子作りとかやったことないんで……

えー、俺がやるのかい?
仕方ないなー、裁縫なら出来る、けど……
……まァ、普通に考えてチョコで……

あ、チョコレートで果物を包むヤツなかったっけ?
アレにしようあれ、溶かして包んで固めるだけだろ?
簡単そうだしね!

えー、先ずはチョコレートを溶かすんだよね。湯煎だっけ
湯にぶち込むのか?

そ、そうか、で、溶けたら……果物を切ってぶち込むのか?
違うのか?
なぜぶち込まないんだ……!

ドレス……まァ解ったよ。丁寧にだね
よし、じゃァこんな感じかな。食べてみてよ、ほぼチョコと果物だけど!


東雲・咲夜
弟のえっくん(f00841)と

うちはこないだ作ったから
今日はえっくんがやってみるの、ええんちゃう?
お料理しはるんは中々見たことないもの
面白いものが見られそう

溶かして包んで…?
……ほんならチョコ苺にしましょ
そないに難しくあらへんもの

湯銭は50から60度のお湯にボウルをつけながらチョコを溶かす作業
決して直接混ぜたらあかんよ?

ぶち込むんはあきまへん
食べ物には敬意をもって?
チョコレートを纏わせるんは苺さんにドレス着せるのとおなじよ
だから赤いお顔もちゃんと残したってね
あとはアラザンやシュガースプレーで飾って固めるだけ

えへへ…初めてえっくんがうちの為に作ってくれた
ほっぺたが落ちそうよ
おおきにありがとうなぁ



 調理室の一角で、小さな問答が繰り広げられていた。
「うちはこないだ作ったから今日はえっくんがやってみるの、ええんちゃう?」
 東雲姉弟の姉の方、東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)がことりと小首を傾げ、片割れへと問いかける。
「俺はいいから咲夜が作りなよ。…いや俺はほら、お菓子作りとかやったことないんで…」
 東雲姉弟の弟の方、東雲・円月(桜花銀月・f00841)が遠慮がちに告げる。
 そんなやり取りが、数分続いていた。
 そして、咲夜の熱意に負けたのかとうとう円月が折れた。
「えー、俺がやるのかい?仕方ないなー、裁縫なら出来る、けど…」
「大丈夫、うちもしっかり教えるさかいに」
 滅多に見る事の出来ない弟の料理姿である。面白いに決まっている。そんな咲夜の内心などいざ知らず、円月は何を作るか必死に考え、閃く。
「あ、チョコレートで果物を包むヤツなかったっけ?アレにしようあれ、溶かして包んで固めるだけだろ?」
「溶かして包んで…?…ほんならチョコ苺にしましょ」
 あれならば、さほど難しい工程を必要としない。作るものが決まれば、後は早かった。道具を揃え、材料を揃え、エプロンを付けていざ調理開始。
「えー、先ずはチョコレートを溶かすんだよね。湯煎だっけ」
 首を捻りながら、円月がチョコレートを直接お湯に入れようとするのを咲夜が慌てて止める。
 湯煎とは50~60度のお湯にボウルを付けてチョコレートを溶かす作業の事である。
「決して直接混ぜたらあかんよ?」
 そう咲夜が念を押すと、円月がゆっくりとゴムへらでチョコレートを溶かしてく。トロトロとチョコレートが全て溶けたら、後は果物にチョコレートを浸ける作業。
「溶けたら…果物を切ってぶち込むのか?違うのか?」
 とりあえず、ぶち込めば何とかなるのではないかという思考の円月に咲夜が軽く頭を抱える。
「ぶち込むんはあきまへん。食べ物には敬意をもって?」
 食べるという事は命を頂くという事。ぞんざいに扱っては罰が当たってしまう。そう告げる咲夜の顔はとても真剣だった。
「チョコレートを纏わせるんは苺さんにドレス着せるのとおなじよ。だから赤いお顔もちゃんと残したってね」
 ゆるりと微笑みながら、弟の真剣な姿を見つめる。その視線は何処までも優しい。
「ドレス……まァ解ったよ。丁寧にだね」
 不慣れな手つきで、けれど真剣にチョコレートを苺へと纏わせる。チョコレートが固まる前に、アラザンやカラースプレーで着飾らせれば、素敵なドレスを纏ったチョコ苺の完成だ。見た目は少し不格好だけれど、そんなの関係ない。
「よし、じゃァこんな感じかな。食べてみてよ、ほぼチョコと果物だけど!」
 チョコ苺を一つ摘まみ、ぱくりと口の中へ。ほろ苦いチョコレートと苺の甘さが際立って思わず頬が緩む。
 何より。
「えへへ…初めてえっくんがうちの為に作ってくれた。ほっぺたが落ちそうよ」
 誰かの為に作った料理は其れだけで美味しさを際立たせる。そんな咲夜の様子を見て、円月もホッと一息。
 慣れない事だらけだったけれど、姉の笑顔が見れた。其れだけで、彼は満たされるのだ。

 甘い甘いお菓子の魔法。笑顔溢れる、素敵な魔法。
 そうして、調理室はたくさんの笑顔に包まれるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月22日


挿絵イラスト