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石墜の猛獣

#ブルーアルカディア

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#ブルーアルカディア


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 視界の中は、赤く染まっていた。血よりも眩しく、炎より柔らかい赤だった。
 夕日だ。
 空も雲も、遙か遠くに見える浮遊大陸も、否応なしに終わりを知らせる明かりに浸されていた。浸された分だけ影が伸び、影が伸びればその分だけ時が進んでいるはずなのだが、まるでこの空域だけ時間が止まったような様子だった。動くものが何も存在しなかったからだ。
 空と雲、遙か遠くに見える浮遊大陸。それ以外は朽ちた飛空艇と、それに接舷して、やはり動きを止めた飛空艇しか存在しない。
 朽ちた船に書かれている文字は随分掠れていたが、何とか読めた。
 ――“魔獣生態調査船”。
 放棄されて久しい船の胴にはそう書かれており、もう一方の船には、
 ――“疾風組・ハヤテ”。
 名の通り、鋭利なフォルムをした船だった。
「――――」
「…………」
 調査船に接舷し、連結している“ハヤテ”の上では人々が行き交い、やがてもう用が済んだというように、調査船から全員が引き上げていった。
 撤収する。
 次の瞬間だった。
「――!?」
 直上から、一気に船が打撃された。強打だった。その威力は凄まじく、どちらの船も砕かれていく。
「――――」
 衝撃による浮力喪失は一瞬。
 飛空艇が、空の底へ墜落していった。


「新世界で事件ですの!」
 猟兵達の拠点、グリモアベースでフォルティナ・シエロは言う。
「現場はブルーアルカディア。浮遊大陸と“飛空艇《ガレオン》”の世界ですわね」
 ブルーアルカディアは雲海に無数の浮遊大陸が浮かぶ世界であり。人々が済む浮遊大陸は、“屍人帝国”より押し寄せてくる魔獣や蛮族、邪悪な騎士らに狙われている。
「そういった屍人帝国より来たる悪しき存在は、すべてがオブリビオンなのですわね」
 現在を過去で埋め尽くさんとする存在が、今回引き起こす事件は何か。
「ある勇士達が乗る飛空艇が撃墜されてしまいますの」


「勇士というのは、積極的に屍人帝国のオブリビオンと戦う者達に付けられた称号です」
 フォルティナは言葉を続ける。
「勇士らの活動は正義のためばかりではなく、多くは天使核や魔獣の肉を得るための私利私欲ですが、それでも彼らはこの世界の希望ですの」
 そんな勇士らの乗る飛空艇が、オブリビオンに撃墜される。グリモア猟兵として得た予知はそんな内容だったのだ。
「勇士達はどうやら、放棄された飛空艇……魔獣生態調査船を探索するために航行していたようですわ。目当ての飛空艇を見つけて探索し、引き上げようとした矢先に奇襲を受け、撃墜されますの」
 これは何を意味するか。
「敵がかなりの攻撃力を有しているということですわ。反撃や抵抗すらまともに許さずに飛空艇を撃墜したのですから」
 なので、と言葉は続く。
「皆様には勇士達の船、“ハヤテ”に同乗してもらい、彼らの護衛をして欲しいんですの。ええ、かなり危険ですけれどどうにか奇襲を凌ぎ、敵を撃退してくださいまし」
 言って、掌を開いた。そこから生まれる砂状のグリモアは、空間に文字を描いていく。
「――まとめますわ」

 ・新世界『ブルーアルカディア』で、勇士らが乗る飛空艇が撃墜される事件。猟兵達はこれを阻止する。
 ・勇士らは目的である放棄された飛空艇を探索し、そこから引き上げるタイミングで奇襲をされた。
 ・敵はかなりの攻撃力を有しており、猟兵達はこれに対抗する必要がある。


「この世界、屍人帝国と戦う意志を持つ者は、誰であれ勇士達の飛空艇に乗る事を許可されますわ。ですので同行について、警戒されるだとか交渉や説得が必要だとか、そういう心配はいりませんわ。」
 転移の準備を進めながら、フォルティナは顔を上げた。
「オブリビオンを撃破すれば、勇士達の飛空艇は浮遊大陸の栄えているにぎやかな街に着陸するはずですの。そこで勇士達や街の人々と、どうぞ戦勝祝いをしてくださいまし!
 ……そして、この世界ではどうやら魔獣の……つまりオブリビオンを使った料理が盛んなようですの。さて、今回のオブリビオンはどんな料理になるんでしょうか……?」


シミレ
 シミレと申します。よろしくお願いいたします。

 ●目的
 ・飛空艇の護衛。

 ●説明
 ・新世界『ブルーアルカディア』で、勇士らが乗る飛空艇が撃墜される事件。猟兵達はこれを阻止する。
 ・勇士らは、目的である放棄された飛空艇を探索し、そこから引き上げるタイミングで奇襲をされた。
 ・敵はかなりの攻撃力を有しており、猟兵達はこれに対抗する必要がある。

 ●他
 ・皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
 ・当シナリオ中で作られた魔獣料理を、グリモアベースのスレッドなどで紹介する可能性があります。
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第1章 冒険 『はぐれ船との遭遇』

POW   :    はぐれ飛空艇内部を歩き回り、探索する

SPD   :    はぐれ飛空艇の周囲を警戒する

WIZ   :    はぐれ飛空艇の操縦室を調べてみる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 疾風組の頭領が猟兵達の乗船を歓迎したのがつい先ほどだった。
 この世界で屍人帝国の者達と戦う人間はそう多くない。人手が増えるのは好都合だった。
「見えたぞー!」
 艦橋にいた見張り番からの声に、皆がその方向を見た。調査船だ。朽ちた船体は“天使核”が現存しているのか、未だに浮遊していた。
「魔獣の情報は有って有り過ぎるということはない。しかし……あれは浮いてるのが不思議なくらいだな」
 折れた船首、抉られた船翼、そして至る所にある赤黒い血の染み。風に流されるままの調査船はただ朽ちているというより、明確な破壊の跡が残っていた。
「慎重に接舷! これ以上壊すなよ!」
「……!」
 乗組員達から応答の声が挙がる中、作業は進んでいった。


 調査船に移った後、猟兵達は思考した。
「…………」
 襲撃される予定の場所に残っているこの船も、件のオブリビオンの手がかりになるかもしれない、と。
 調査船の周囲警戒と同じく、調査船がどんな魔獣を調べていたのかを知ることも重要に感じられた。
 予知の通りであれば、この調査船から引き上げる際に襲撃が来る。時間は限られているが、猟兵達は動き出した。
ニコリネ・ユーリカ
乗船を歓迎してくれた勇士は同志であり保護対象
会敵時に彼等に被害が及ばぬよう
艇内外の避難路やシェルターとなる場所を事前確認
更に花屋のコミュ力で親交を深めておきましょ
お名前聞くとか大事よね!

調査船では実況見分をして敵の推察を
UCでラッコ型チェイサーを召喚し、爪痕や焼け跡があるか調べる
キズの大きさや深さ、延焼の程度から敵のサイズや攻撃方法を予測し
これらから分かる事を勇士の保護に活かすの
予知では直上から急襲されてたから勇士は甲板には出ない方がいいかな?

天使核が現存するなら保護を
ねぇ頭領、調査が終わったらもらってもいい?
朽ちゆく船と共に漂流する未来でなく
もう一度風を感じさせてあげたいと、回収を希望します




 ハヤテの上で、ニコリネは思案していた。
 乗船を歓迎してくれた彼らは守らなきゃね……。
 今、乗組員である勇士達は接続が成された調査船へ続々と乗り込んでいる。自分達猟兵が乗船したことで、彼ら自身もある程度周囲を警戒しているが、それでも場合が場合だ。会敵時には彼等に被害が及ばぬよう、留意する必要があった。
「…………」
 なので周囲に目を向けたが、そこに“ある”と言えるのは精々ハヤテと調査船だけだった。
 うーん、シェルターとかそういうのになりそうなのがあったら良かったんだけど……。
 朽ちた調査船をシェルター代わりは無謀であり、ならばハヤテはというと、こちらはこちらで速度は出そうだが耐久力が有りそうな船には見えなかった。
「えーと……頭領、さん? 貴方の事、何て呼べば良いかしら」
「柊、と」
 笑顔で尋ねれば、頭領が会釈をしながら返事を返してきた。荒っぽい勇士らとは違う、落ち着いた声をしていた。
「柊さん。この船って敵からの攻撃にシェルター代わりになる?」
「猟兵の皆さんが伝えてきた“襲撃”を想定するなら、無理かと思われます。装甲より速度が売りの高速艇ですので」
 その言葉にやはりと頷きながら、己はハヤテを見回す。
「そうよねえ……。でも真上から急襲されるんだとしたら、やっぱり皆さんは甲板に出ない方が良いと思うわ」
「ええ、私も同意です。高速で離脱することも考えれば艇内にいた方がいい」
「皆さんにもそうお願いできる?」
「はい、皆にも同様に連絡しておきます。訓練通りに動けと。――ユーリカさんも調査船へ?」
 柊が視線で示すのは両船を繋ぐ橋のような通路だ。自分もそちらに目を向け、ええ、と。
「ちょっと実況見分、させてくるわ」
 言った直後。ユーべルコードを発動した。


 ニコリネは、夕日で伸びた自分の影から生まれたものを見た。
「――――」
 影から切り離されるように生まれたその姿は、
「――ラッコ?」
「行ってらっしゃーい」
 柊が疑問の声を発したのと、ラッコが見送られるのは同時だった。
 ユーべルコード、“影の追跡者の召喚”。極めて発見され難いそれは、まるで水中にいるような身動きで、一瞬にしてハヤテから調査船へ移動していった。
「~~♪」
 ラッコは己と五感を共有している。今、自分が見ているのは船壁を昇っていくラッコの視界だ。そうしていると、気付くことがある。
 傷が……。
 船のあちこちに付けられた傷の違和感だ。直線的なそれは複数のラインで描かれており、その終端で船殻の一部が弾けるように吹き飛ばされていた。
 大型の猛獣の爪撃のようだと、そう直感出来た。
「…………」
 見聞を続けていく。
 爪痕、そう仮定し、その深さや太さなどを計測していくのだ。そこから解ったのは“獣”の大きさが十メートルを優に越すということだ。
 ただ、
「こっちの傷はその三倍はありそうよねえ……」
 この調査船を襲った魔獣が二体いるのかと思ったが、しかし調査船のサイズは数十メートル級だ。、十メートルと三十メートルがまるで同時に暴れることは違和感があった。
「乗ることは乗るでしょうけど……、こんな風に踏ん張って暴れられるかしら――、ん?」
 さらに別の痕跡に気づいた。
「……焼け跡?」
 折れた船首を中心として、放射状に焦げ跡が残っているのだ。
 焼け落ちた、というより、高熱の超重量で船首が上から砕かれたように見えた。
「こう――」
 と、片手を調査船、もう片手を上空からの飛来物としたところで、は、として頭上を見上げる。
「何か解りましたか?」
「……やっぱり、勇士さん達は船の中の方が安全かな」
 そこには何もいない。だが、そこから目を離すことは無く、柊に言葉を返した。
「ねえ、柊さん。天使核が現存してるんだけど……これ、調査が終わったあと貰っていい?」
 空を見ているが、視界はラッコとも共有されているのだ。今、ラッコは他の勇士らと共に天使核を囲んで見上げていた。
 朽ちゆく船と共に漂流する未来でなく、もう一度風を感じさせてあげたいと、そう思った。
「ふむ、そうですね……」
 柊が顎に手を当てて考えるのを横目に見ながら、己は交渉を続けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介
此処が噂の新世界。綺麗なものだが、平和な世界……って訳じゃないようだ
尤も、何処の世界も問題を抱えていのは同じ事か
ともあれ、この世界に慣れる為にもまずは動いてみるとしよう

さて、調査は足でするもの……という訳ではないが。この世界に詳しくない以上は、下手に色々考えても仕方ない
勇士達と一緒に、船に残った傷跡などを見て回ろう
【天眼】を用いて船を観察すれば、破壊の痕跡等から敵の大きさが割り出せるかもだ
それに魔獣相手であれば、羽根や鱗とか、何か証拠が残っているかもしれない
証拠になりそうなものを諸々集めて、勇士達に話を聞いてみる
正体を完全には絞れなくとも、なにかヒントが得られれば儲けものって辺りだ




 ハヤテの甲板上で、鏡介は周囲を見ていた。
 風は強い。身に着けているロングコートが騒がしくはためいていたが、しかしそれにはあまり頓着していなかった。
 此処が噂の新世界か……。
 見る。頭上には空が一面に広がっており、対比するように眼下では雲が広がっていた。正しく天上世界であった。
「綺麗なものだが、平和な世界……って訳じゃないようだ」
 尤も、何処の世界も問題を抱えていのは同じ事か、とそう呟きながら。
「ともあれ、この世界に慣れるためにもまずは動いてみるとしよう。調査は足をするもの……という訳ではないが」
 この世界に詳しくない以上、下手に色々考えても仕方ない。
「行くか」
 足を、前に進めていく。


 ハヤテと調査船は橋のように通路で繋がれている。そこを歩き始めていくうちに、鏡介は異変に気付いた。
「傷が……」
 朽ちているだけだと思った調査船は、明確な破壊の跡があちこちにあったのだ。
「…………」
 船首から船尾まで。いたるところに付けられた傷跡は、見る者を圧倒する。勇士らと共に船へ乗り込むと、近くにあった傷跡へ真っ先に足を運んだ。
 かなり、大きいな……。
 甲板上にあった傷跡は裂傷と、そう例えられそうな様子だった。何某かの硬い重量物で抉られたような跡が走っているのだ。
「傷跡同士の幅が乱れていない……。爪痕か?」
「恐らく」
 勇士の言葉に頷いた後、自分はさらにその爪跡へ近づいた。
「もっと詳しく“見て”みる」
 言って、ユーべルコードを発動した。“観の型【天眼】”、対象を観察し、その時間に応じて己の次の行動の成功率を上昇させる技だ。
 敵と相対した時に使えば、相手の攻撃に対処できる可能性が上がり、今回のように痕跡を前にすれば、そこからの推理の確度を高める。
「――――」
 傷の細部まで見た後は、船首から船尾まで再度視線を向ける。
 爪撃の痕跡はあちこちに在り、その近くでは船の甲板や床板がへこんでいる。
 へこみの数は四……。
 重量を持った獣が四肢を踏ん張り、その爪で暴れ回ったことは明らかだった。
 それに……。
 砕かれて散らばった船の建材の影に、“あるもの”が落ちていた。それを拾い、勇士らの元へ戻る。
「魔獣の大きさは十メートル……いや、場合によれば三十メートルを超すな」
 そして、
「これに見覚えは?」
「!!」
 手に持っていたものを見せた。それは先ほど拾ったものであり、その羽根や獣毛を見た瞬間、勇士達が皆、一様に顔を険しくした。
「セラフィムビースト……!」


「セラフィムビースト……」
 鏡介は、勇士達の言葉を繰り返す。新世界だ。無論、その名のオブリビオンに聞き覚えはない。
「一体、どういう魔獣なんだ?」
「苛烈で、強力な魔獣だ……。筋骨隆々の体躯だが、その巨体がさらに大きくなったりする」
「それは例えば、十メートルの体躯が三十メートルになったりするか?」
 ああ、と勇士は頷き、
「十分に有り得る。この船の惨状を見て解る通り、そんな巨体による攻撃も勿論脅威だ。だが奴は魔法も使える。それは相手を獣化させる呪いであったり……」
 そして、頭上を見上げた。
「――隕石を召喚できる」
「……それは、少し厄介だな」
 暗くなった東の空に、星々が顔を出し始めていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

サフィリア・ラズワルド
WIZを選択

ここが噂の天空世界!挨拶をして【子竜の遠足】を召喚、彼等に船体や周囲の調査を任せて私は一番気になっていたことを。

この世界ではオブr……魔獣が食材として親しまれてると聞きました、それで、あの、ちょっとでいいんです!ちょっとでいいので噛みついてもいいですか?!
他の世界でも竜化してオブリビオンを食べてきたけど、今回は素材回収すること前提だから許可を貰わないと!
敵の大きさはわからないけど首の所とか!なんなら脳の所でも!

『残しますから!皆さんの分ちゃんと残しますから!一口齧らせてください!』

アドリブ協力歓迎です。




 ここが噂の天空世界……!
 サフィリアは喜色満面だった。ハヤテの甲板で身を回しながら、世界全体を見ていた。
 今、自分がいる場所はハヤテの甲板、それはすなわち空の上ということだ。雲すらも眼下にしたここでは、高空故の強風が身を浚いそうになる。だが翼を持つ自分にとってはその感覚はむしろ喜ばしかった。
「~~♪」
「ご機嫌ですね」
 翼を軽く開いたり閉じたりしながら、軽いステップで調査船へ向かって甲板を歩いていると、声を掛けられた。
 ハヤテの艦長であり、疾風組の頭領でもある人物からだった。
「あ、頭領さん! ええ。私、空が好きでして。乗船を許可していただいてありがとうございました」
「いえいえ、こちらも皆様からのの提案は願ったりかなったりですので」
 頭領の言葉は、して、と続いた。
「サフィリアさん、貴女もあの船の調査をされるようですね? 人手が必要でしたら家から何人か寄こしますが……」
「申し出はありがたいですけれど、大丈夫です。手は足りてますから!」
 そう言い切ったこちらの言葉に、頭領は、ふむ、と顎に手を当てた。今、この場にいるのは二人だけだからだ。
「ふふ、こういうことです。――ほら皆、おいでおいで! 一緒に行こう!」
 相手のそんな様子に微笑みながら、己は周囲に呼びかけた。すると次の瞬間、虚空から影が一斉に現れた。
「!?」
 突然の影の正体は、子竜だ。二人の周囲を渦巻くように回遊していく群れを目線で追いながら、彼らに指示を出す。
「それじゃ、調査お願い」
「――!」
 幼齢特有の高い鳴き声を発した後、子竜達は一斉に調査船の方へ飛んでいった。
「……とまあ、こんな感じですね」
「成程……。確かにあれならば手は足りてますね」
 子竜達を見送った後、頭領に向き直った。調査船やこの空域に関しての調査は子竜達に一任だ。何か手がかりがあれば報せてくれる。
 ならば残った己はどうするかというと、こちらはこちらで気になることがあったのだ。
 それも一番に気になっていたこと……!
 それは何か。
 頭領に視線を合わせて、言う。
「――魔獣に噛みついていいですか!?」
「……はい?」


 サフィリアは慌てて胸の前で手を振った。
「あ、いえ! ちょっと! ちょっとだけでいいんです! この世界ではオブリ……、魔獣が食材として親しまれていると聞いたので!」
 ですから、
「噛みついてもいいですか!?」
「…………」
 頭領が訝し気な視線を向けてきた。
 上手く伝わらなかったかな……。
「いえ、伝わっていますよ」
「……!? 心が読めるんですか……!?」
「表情に出ています」
 思わず頬に手を当てる。
「え、ええと、皆さんも素材を回収される前提だと思いますから、許可を貰わないと、って思いまして」
「お気配りいただき恐縮です」
「いえいえ、そんな! 当然の事ですから! それでまあ、まだ大きさは解りませんけれど首の部分とか……あっ、脳! 脳でも構いませんので!」
 脳……、と小さく呟くのが聞こえたが、こちらとしては重要な事なのだ。
「残しますから! 皆さんの分ちゃんと残しますから!」
 ですから、と先ほども言った言葉をもう一度繰り返す。
「一口齧らせてください……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
空の世界!
とっても楽しみでワクワクします

もちろんオブリビオンさんを
海へお還しすることは忘れませんよ~

魔獣生態調査船ならば
何か調査記録が残っているかもしれません

船長室とか研究室とか学者さんの部屋とか
調べてみましょう

もしご遺体を見つけましたら
弔ってあげたいです
この世界ではどうするのでしょうか
風葬?
火葬で灰を空へ撒くとか

それはともかく一通り船内を見ましたら
周囲の警戒に当たりましょう

竪琴を起動して皆さまの邪魔にならない範囲で
ぽろんぽろんと爪弾きましょう

反射物が少ないですから
音がどこまでも届くように感じます

だからもし耳やお髭、毛皮で反射音を感知したら
それは敵が現れた証です
疾風組の皆へすぐにお知らせします




 空の世界……!
 転移する前に仄々が思ったのはその四文字であり、そしてそれは転移した後も変わらなかった。
「おお……!」
 目の前に、正しく“空の世界”と言える景色があった。
 蒼穹と雲海が広がり、風が飛空艇を洗っていく。ハヤテの甲板に立っているだけで、その全てが実感できた。
 高空故の何物にも遮られない強風が、吹いた。
「…………」
 その風に髭が跳ねるように揺れ、思わず目を細める。
「ああ、とっても楽しみでワクワクします。もちろん、オブリビオンさんを“海”へお返しすることは忘れませんが」
 楽しみに沸き上がる心もあったが、しかしそれとは別に、真剣な思いもあった。これから自分が行うべきは強敵との対峙なのだ。
 ハヤテの甲板をブーツで踏んでいく。
 調査を始めるのだ。


「魔獣生態調査船……」
 仄々は調査船に乗り込んでいきながら、船胴に書いてあるその文字を見た。船の目的を記した言葉だ。
 この船の中に、何か調査記録が残っているかもしれませんね……。
 ならば向かうべき場所は、船長室や研究室か。
「ああ、学者さんの部屋とかもいいかもしれませんね……」
 そう思い、船の居住区へ向かおうとしたが、それはすぐに難航を極めると解った。
「む……。これは……」
 船外と同じく、船内も滅茶苦茶だったからだ。
 壁や床は崩れ、家具や調度品は無事な物の方が少ない。倒壊し、積み重なったそれらによって塞がれている通路も多かった。
「そして、血、血、血の染み……。でも、何とか通れそう、です、ね……」
 自分はケットシーだ。小さな体躯を活かせば、そのような悪路も行けないことは無かった。
 崩れた建材をこれ以上崩さぬよう慎重に足を乗せ、軋む床板を踏み、家具を飛び越えていく。
「――よっと」
 いった。
 危うげなく着地した先は一つの部屋だった。砕けた壁から外の景色が豪快に見えるその部屋は、風が入り込んでいるためか紙が散乱していた。
「どうやら、研究室のようですね」
 数枚の紙を拾い、そこに書かれていた内容を読んで、そう結論付ける。
「何か情報があると良いのですが、ええと……」
 散乱した紙を拾って整理し、読み進めていく。


《魔獣調査報告書》
 対象空域における調査の結果、セラフィムビーストを確認
 体長は十メートルほどであり、翼、角、背の光輪などの身体的特徴も確認。状態は極めて健康的。資源的価値が認められる。セラフィムビーストの全身は筋肉量が多いため食用に適さないが、内蔵は薬膳や漢方として珍重される。
 だがその“攻撃性能”を考えるに、この空域を危険空域として認定し、勇士らの接近を控えさせるのが適当と判断できる。


「ふむふむ……」
 資料を読み終えると、帆の簿はそこから顔を上げた。
 随分強烈そうな魔獣なことで……。
 セラフィムビースト、そう呼ばれるオブリビオンをこの船は調査していたようだ。
「そして、恐らくその魔獣に襲われたのでしょうね……」
 何もない空域だ。観察対象が一転、捕食者と変わったのだろう。だがしかしそうすると、
 ……何故、今はその姿が見えないのでしょうね。
 髭と耳は先ほどから常に緊張状態だ。警戒の必要性があると、強く感じていた。
「どこか広い場所に出て――、ん?」
 と、研究室を出たときに気づいた。向かいにも部屋があり、そこで何かが光を反射したのだ。
 通路を渡って向かいの部屋に入り、反射したものは何かと手に取ってみたところ、
 腕時計……?
 そう思ったが、しかし違った。
「…………」
 否、確かに腕時計ではあったが、そこには手が付属していたのだ。
 手は腕と肩から成り、そして身体に続いていた。
 遺体だった。


「――失礼、そこの方」
「?」
 甲板に戻った後、仄々は近くにいた勇士に尋ねた。
「船内で遺体を見つけて……。弔ってあげたいのですが、この世界ではどうするのでしょうか?」
 そう言うと勇士は、ああ……、と頷いた。
「この調査船がどこから来たかは解ってる。俺達と同じ大陸だ。だから、遺体や遺品は出来るだけ回収してやろうと思ってる。俺達の目的は魔獣の調査データと船の天使核だから、それを駄賃として貰うがな」
「成程……」
「手空きの連中を読んで、運ばせよう。――おい、お前達!」
 呼びかけに応じた勇士達が、船内に入っていった。帽子を取った礼でそれを見送った後、自分はその場を後にする。
「さて、後は周囲の警戒をせねば……」
 見晴らしが良く、他の者の邪魔にならない場所を探せばマストの先が相応しかったが、そこは折れていて危険だ。
 なのでその途中まで足場を辿って腰を落ち着けると、懐から懐中時計を取り出した。
「――――」
 ボタン一つで時計はその身を展開。そうして現れるのは蒸気機関式の竪琴だ。名をカッツェンリートと言う。
「♪」
 爪を立て、弦を弾けば、音が鳴った。
 何も遮るものが無いこの世界で音を鳴らせば、音は何処までも広がっていく。風向きの関係上、風下側に流れるが、それでも構わなかった。
 獣というのは、風下からやって来るものです……。
 もし己から離れた位置で、風下側で音色が聞こえたとすれば、それは風に流された先で何かに跳ね返ったことによる反射だ。
 髭や耳、毛を張ってその音を聞き逃さんとしていたら、果たして音は聞こえた。
「――――」
 風下側の上空から、確かな反射音だった。
 見上げなが、らさらに一奏。すると、やはりまた反射音が聞こえた。それも先ほどよりも早く返ってきた。
 それは何を意味するか。
「――魔獣が接近してきています!」
「……!?」
 カッツェンリートに付属した拡声器で拡大された声は、調査船とハヤテにいる皆に届いた。
「右舷側上空! 警戒を!」
 戦闘の瞬間は、もうすぐそこまで迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

アリスもお手伝いするのー
(アイテム:『アリス』の妹(成虫))
まずは妹達を呼んでハヤテ号のあちらこちらに【足場習熟】で張り付いて上空警戒をして貰いましょー
何か異常があったら皆に知らせるのよー
それに調査船の調査も大切なのねー?
あちらこちら壊れていつから足場の悪い所や船体の脆い所を【アリスの糸】で補強しておくのー
瓦礫などで通れない所は邪魔な物を【運搬】して通れるよーにしましょー
船の周囲の調査も必要なら勇士さんをアリスの糸で括り付けてアリス達に【騎乗】して貰って船体をカサカサと隈なく這いまわるのよー
何が見つかるか楽しみねーおいしーものが出てくるといーなー




 勇士達は、ハヤテの上で驚愕していた。
「何だあれは……!?」
 船首から船尾まで、巨大な蜘蛛のような姿があらゆる箇所に張り付いていたからだ。
 甲板だけでなく船胴や船底にひしめくその姿は、体高にして二メートル越え。数は数十を超えている。
 身を縮めて船体にじっと張り付いているその姿を見て、魔獣だと、誰もがそう思った。しかし、同じタイミングで頭領からの放送が来た。
『全員に告ぐ。目の前の蜘蛛のような生物は、猟兵の使役獣である』
 ――んま。あの子達は獣じゃなくてアリスの妹達なのよー。
『訂正する。猟兵の妹君らである』
「い、今、頭の中に声がしたような……」
 ともあれ、と放送は続いた。
『ハヤテの周囲を警戒してくれている。邪魔をしないよう、調査を進めるべし』
 以上だった。
「…………」
 放送が途切れた後、現場に沈黙が訪れた。


 アリスはハヤテの甲板で思う。これで安泰だと。
「何かあったら皆知らせるのよー?」
『……!』
 “妹達”は自分も含めて全員で意識をリンクしている。それは、ハヤテの周囲で何か異変を察知したらすぐに全員へ共有されるということだった。
 感覚系には自信がある。よく見え、よく聞こえる。全方位へ警戒は敷けたとするならば、次はどうするか。
「調査船の調査よねー」
 ハヤテと調査船は、橋のように架けられた通路で繋がっている。そこはある程度広く取られているが、人が行き交っている。なので、自分が通るのは裏側だ。
「~~♪」
 通路の表側? 上側? 身体の足下側? まあ何でもいいのよー。そこから驚きの声が聞こえるが、まあお気にせずなのよー。
「……で、流石に補強しないと動き回れないわねー、ここ」
 調査船に辿り着いて足を乗せれば、足裏から返ってくる感触から船の劣化が著しいことが実感できた。
「歩いてるうちにバラバラになっても困るしー……、んーと、ここねー?」
 慎重に歩き、船体の脆い箇所を見つけるとそこに向けて糸を放った。
「ここと、それにここもかしらー」
 己の身体から生まれた糸だ。それは一気に巻き付くと、固く縛り上げ、その部分を補強していく。
 割れている建材は塞がれ、グラついている設備は揺れが無いようにだ。
「後は邪魔な廃材もどかすさなきゃねー。――ねー? こういうのって何かに使うー?」
「え? あ、いや、使わないな。どうせこの船の天使核は抜くから、そのまま空の底へ、だ」
 通路を塞いでいた廃材の前で勇士に尋ねれば、脳内に響く声に戸惑いつつもそう答えが返ってきた。
「なら手荒に扱っていいのねー」
 なので己は鋏を、廃材へ一気に突き込んだ。
「――!」
 朽ちた建材だ。激突と言うには軽い音が鳴り、次々と刃で割られていく。そこから鋏を引き抜くと、その上に乗った廃材を時折口元に運びながら、他所へ退けていく。
「うーん……風化した味ねー」
「…………」
 信じられないものを見る目で隣の勇士が見てきたが、お仕事しなくていいのかしら……。
 ともあれ、そうして運搬を続けていけばすぐに通路は開けた。
「おお……!」
 感嘆の声を挙げる勇士に鋏を振って挨拶とし、さらに進もうとしたところで、
「な、なあアンタ!」
「?」
 声を掛けられた。何事かと振り返れば、先ほどの勇士が船首の方を指差している。
「砕けた船首の船底側を調べたいんだが……、……い、妹? 達を借りられないか?」
 どれどれ、と舷から顔を出して覗き込んでみれば、確かにそこに焼け焦げた跡があり、異様な様子だった。調査の必要性を感じた。
「なるほどー、あそこに行きたいのねー?」
 と、一応確認は取ったが、もう甲板に一人の“妹”が上がって来ていた。
「!?」
 意識はリンクされているのだ。“連絡”という動作も無く、自分達の間では事項や事情というものは既知となる。
「この子の背中に乗ったら船の周りも歩けるのよー。糸で巻いたら落ちないしー」
『…………』
「じゃ、じゃあ……」
 屈んだ“妹”の背とこちらの顔で何度か視線を往復させた勇士は、おずおずとした動作で彼女に跨った。
 瞬間。彼女から生まれた糸で勇士が固定。
「行ってらっしゃーい」
「――!?」
 凄まじいスピードで船壁を駆けて行った。また鋏を振って別れの挨拶とし、己は今度こそ、船内へ進んでいく。
 目指すは操縦室だ。
「向こうは向こうで、何が見つかるか楽しみねー」
 おいしーものが出てくるといーなー、とそう思いながら、船の階段を上がっていった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『セラフィムビースト』

POW   :    天使核獣
【天使核のエネルギー】を使用する事で、【八翼】を生やした、自身の身長の3倍の【滅びの獣】に変身する。
SPD   :    セラフィムコメット
【天空に出現した『天使の輪』】から、戦場全体に「敵味方を識別する【燃え盛る隕石】」を放ち、ダメージと【消えない炎】の状態異常を与える。
WIZ   :    獣の烙印
攻撃が命中した対象に【獣化をもたらす烙印】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【烙印の侵食】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 放棄された調査船に対する調査作業は、猟兵の助力もあり迅速に済まされた。
「急げ、急げ!」
 加えて、全員が空を警戒していた為、この船へ迫る脅威に対してもすぐに対策を打てた。
「天使核を抜いた! ――浮力が失われるぞ!」
 誰もが調査船からハヤテに急いで退避し、両船を繋いでいた橋にも似た通路を強制分離。橋からは砕きにも似た音が聞こえたが、それもすぐに別の音で掻き消された。
 轟音だった。
 頭上から聞こえるその音は、高速の飛翔物が大気を破裂させていく音だ。
「――取舵いっぱい!」
 何が迫っているのか。その場にいる全員は既に解っていたが、思わず頭上を見上げた。
「隕石が来るぞ……!!」
 瞬間。舵をいっぱいに切ったハヤテのすぐ横を、赤熱した岩石が通過していった。
「――!!」
 天空より飛来した莫大な質量は調査船を砕き、それによって生まれた衝撃波は側にいたハヤテの船体を軋ませた。
 爆音と熱波。全方位にぶちまけられたそれに“乗った”ハヤテが、空を切り裂いていく。
 快速だった。
「止まるな!」
 何故か。
「魔獣が追ってきている……!」
 ハヤテの後方の空から、咆哮が挙がった。
「――!」
 そこに、セラフィムビーストがいた。
 灰の獣は背の翼を大気へ打ちつけると、ハヤテ目がけて一気に加速。
 天空での戦い、それが始まった瞬間だった。
徳川・家光
「如何なる世界にても、領民を守るが猟兵の定め。気骨溢れた勇士達の船ハヤテ……必ずや守ってみせよう!」
 とはいえ、家光のユーベルコードは地上戦を想定したものが多い。空中の敵に相対し、なおかつ「獣化の烙印」に対抗する手段といえば……。

「削ぎ剥がせ、神話の獣」
 神州因幡白兎殺(シンシュウイナバノシロウサギゴロシ)!
 大量の空飛ぶサメを放ち、セラフィムビーストに向けて飛ばします!

「その数凡そ101体。烙印を押されたサメを送還しても、その外皮を削るに十分なはず!」
 家光自身もサメからサメを飛び移り、サメ達と同様に、二刀流さばきで外皮への攻撃に集中します。

「まずは布石。核を仕留めるのは、より得意な方に!」




 太陽が西の空に沈んだ薄暮の中、戦闘は逃げる者と追う者に分かれていた。
 ハヤテとセラフィムビーストだ。加速と小回りが売りの高速艇は依然として快速だったが、パワーに優れた巨獣が翼を打つ度、両者の間は狭まっていく。
「くっ……!」
 追いつかれるのは時間の問題だった。誰もが焦燥を抱いて息が詰まりそうな中、全員が生き残るために全力を尽くしていた。
 そして、そんな中に新たな姿が加わった。
「……!?」
 それは突然だった。甲板上、一人の男がそこにいきなり現れたのだ。今の今まで存在しなかったその人物は、袖裾の長い衣服と赤髪を風に流しながら、艦尾側の空を睨んでいた。
「だ、誰――」
 だ、という声は続かなかった。
「如何なる世界にても、領民を守るが猟兵の定め。気骨溢れた勇士達の船ハヤテ……必ずや守ってみせよう!」
 男が口を開き、己を明確に表明したからだ。
「徳川・家光。――参る!」
 甲板を踏みしめた次の瞬間には男は、家光は前へ駆け出していた。
 行くのだ。


 雲や空の星々、何もかもが艦尾側へ流れていく視界の先に、家光は倒すべきオブリビオンの姿を見た。
「セラフィムビースト……!」
「……!」
 相手も己を視認したのか、咆哮を天に挙げた。そんな相手の姿を見ながら、思う。
 飛翔をした相手とどう戦うか……。
 己のユーべルコードは地上戦を想定したものが多い。しかも今回は、空中の敵にただ相対すれば良いという訳でもなかった。
 相手が放つユーべルコード、“獣の烙印”に対抗する手段も講じなければ、獣化の呪いがこちらを襲うだろう。
 ならば、どうするか。
「――削ぎ剥がせ、神話の獣」
 唱え、手で印を刻んだ次の瞬間、周囲の空間からある生物が召喚された。
「……!」
 サメだった。
 ユーべルコード、“神州因幡白兎殺”。飛翔能力と戦闘能力が与えられたサメの召喚は一体で終わらず、続々と数を増やしていった。
「……!」
 その数、凡そ101体。
 鋭い歯を打ち鳴らしたサメ達がまるで水中さながらに空を泳ぎ、セラフィムビーストへ目がけて直進していった。


 セラフィムビーストは、己と飛空艇の間に“壁”を見た
 奇襲を防がれ、追撃のために飛翔し、飛空艇を追っていたのがつい先ほどまでだ。それを差し止めんと今、猟兵がこちらへ接近して来ている。
「――!」
 それに対し、己は咆哮を天にぶち挙げ、飛翔をさらに加速した。
 双方共に相手へ突撃している現状、向かい合う両者の接近は相対速度によって一瞬だ。すぐに“壁”が目の前に迫り、己はその構成物と接触した。
「……!!」
 魚だった。魚群とも言える多数がこちらを一気に包囲し、その鋭い牙で、毛に覆われたこちらの身体を、
「!?」
 否、毛の下にある皮を、全方位から噛み裂いていった。
 皮が、削がれていく。
 防具とも言える毛を突破してきた牙が、明らかに自分のような獣に特化した得物だということを、身体に走る激痛が知らせてきた。
 だが、攻撃したのは向こうだけではない。こちらだって何体かの魚へ攻撃を与えたのだ
 加速したまま激突し、その勢いのまま爪牙で“壁”を切り裂いた。事実、幾体かの魚を見れば、その身体に烙印を刻まれている。
 己の攻撃によって付与された、獣化をもたらす烙印だった。
「――!!」
 すかさず咆哮を挙げた。すると、近くにいた魚の身体に異変が生じた。烙印が浸食し、その身体が獣へと変えていくのだ。
 四肢や獣毛が身体に生じ、牙がさらに鋭くなり、
「――――」
 しかし、それまでだった。獣化が進行した魚が、次の瞬間にはその姿を消したのだ。これは己の想定外の結果だった。
 思考する。これは一体どういうことか、と。
 突如として現れた“壁”の構成物である魚が突如として消えたのならば、それは召喚と送還の結果だ。
 すなわち、たった今消え失せた魚は、術者が現状を把握し、コントロールしているということに他ならなかった。
 飛空艇も離れ、周囲に浮遊大陸も無いこの天空で、戦闘の推移を詳しく把握できる場所はどこか。
「――只中に他ならん」
「!?」
 声が聞こえたと、そう思った刹那。己の身体が更に切り刻まれていった。


 家光は天空を行った。しかしそれは飛翔しているわけではない。
「……!」
 召喚したサメの背を足場とし、己の足で駆けているのだ。
 サメ達を召喚した後、艦尾を踏み切って手近なサメの背に着地した己は、また別の背へと。そうしてサメからサメへ跳ぶことを繰り返し、ここまでやってきたのだ。
 彼我の激突が果たされ、相手の攻撃を受けたサメを送還させたのがつい先ほどだ。
 そしてたった今、それに気づいたセラフィムビーストの意表を突いて攻撃を与えた。
「――!!」
 痛みで絶叫しながら暴れる魔獣の背から跳躍し、サメの背へ戻っていく。
「サメの数は101体……。烙印を押されたサメを送還しても、その外皮を削るに十分なはず!」
 無論、それは足場の数としても申し分は無い。己は羅刹だ。一歩を踏み込めば、跳躍もそれなりの距離を稼げる。
 サメの背を広く配置して飛び回り、敵の注意を惹きつけると、
「今だ、突撃!」
「!」
 すぐさま死角からサメ達をけしかける。そして敵が怯んだ隙を見逃さず、次は己が突撃していく。
「…………」
 度重なる攻撃で身体のあちこちの皮を剥がれた魔獣は、荒い呼吸で血を流していた。
「まずは布石……」
 己の狙いはそれだった。敵の纏う強靭な獣毛も、皮ごと剥がせば無意味となる。
「核を仕留めるのは、より得意な方に任せます!」
 心臓、その周囲は重点的に皮が剥がれ、荒々しい肉の色が見えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
先程話を聞いたが、こいつがセラフィムビーストか
確かにあの攻撃を喰らえば、船は簡単に沈むだろうな

船から離れて戦いたい気持ちはあるが、俺は空を飛べないし、遠距離も決め手に欠ける
悪いが、ハヤテには頑張ってもらおうかな
このままだと逃げ切れないとか、拠点に連れて行く訳にもいかないだろう、とか言えば協力してもらえるかな

だが、接近するまで、隕石から船を護らないと
神刀の封印を解除して、神気を纏った斬撃波で飛来する隕石を片っ端から切り落とす

十分に近付いたなら船上をダッシュから勢いをつけてジャンプ
獣の身体に取り付いて、限界を越えた力を込めた斬撃を直接叩き込む

……雲海に落ちる前に、上手く回収してもらえる事を祈ろう




「あいつがセラフィムビーストか」
 背後の空より迫る巨影を、鏡介はハヤテの甲板上で見ていた。
 そうやって敵の姿を見れば、先ほどの攻撃が脳裏に走った。
 ……確かにあの攻撃を喰らえば、船は簡単に沈むだろうな。
 この船と調査船を狙ったあの一撃は、紛うことなき隕石によるものだった。
「……っ」
 頭上を気にする勇士らがいるのも道理だろう。いつあの大規模な攻撃が来るか解らないからだ。
 高速艇であるハヤテは武装に乏しい。出来ることは精々、速度を落とさずいつでも隕石を回避できるようにすることだ。そして、それには己も同意だった。
 このような状況で、可能な限り敵からは距離を取るのは、軍学校を出た自分にとっても納得の戦法だ。
 道理だった。
 だが、
 ……俺は空を飛べないし、遠距離も決め手に欠ける。
 逃げ続けるだけでは、自分達は敵にダメージを与えられないこともまた事実だった。
「……というわけで、悪いが、ハヤテには頑張ってもらおうかな」
「むう……」
 ハヤテの艦長である頭領に話を向ければ、相手は渋い顔をして押し黙った。リスクを懸念しているのだろう。
 だが懸念するということは、選択を天秤にかけているということでもある。
 リターンも理解した相手の唸りに、もう一押しか、と己はさらに言葉を続ける。
「今は距離が離れているが、このままだと逃げ切れない。相手の方がパワーが上だからいつかは追い付かれるぞ。それに、拠点に連れて行く訳にもいかないだろう?」
「…………」
「どうする?」
「……どうするだって? それを聞きたいのはこちらだ。また、“あれ”が来たら?」
 “あれ”とは隕石の事だ。この船に乗る全員が恐れている対象であり、敵へ突撃するのならその対策を聞かれるのは当然だろう。
「どうするんだ?」
 なので己は答えた。堂々とだ。
「セラフィムビーストに近づくまでは、俺がこの船を守る」
「…………」
 唖然か、絶句か。そのような沈黙がブリッジを支配した。
 だが、
「――チッ!」
 頭領の答えは、舌打ちと共に鳴らされた警報だった。
「――!」
 けたたましい警報が乗組員全員に知らせるのは、船が急速回頭を開始したということだ。
「掴まれ!」
「!!」
 回る。
 船首と船尾にあるスラスターがそれぞれ逆方向へ力を吹き、船の内部では急激な慣性力が働いた。
 速度を落とすわけにはいかないための全力の機動はハヤテに軋みが生まれたが、何とか果たされた。
「頼んだぞ!」
 こちらにそう告げる頭領の声も、もはや己の背後だった。
 自分は既に甲板の中央へ移動しており、遙か前方にいる敵と向かい合っていたからだ。
「…………」
 手は、刀の柄にかけられている。


 戦闘の始まりは一瞬だったが、ハヤテにいる誰もが気付いた。
「空が……!」
 自分達の頭上が、薄暮の時間帯とは思えないほどに激しく光っていた。
 光を降り注がせる“それ”が何か、見ずとも解る。
 だが、しかし、天上にある輝きは誰もが視線を向けてしまう程だった。
「――!」
 輝く光輪を背景に、赤熱した巨岩が一直線に降下してくるのだ。大気摩擦で燃え上がる一発は、轟音を挙げながらハヤテに迫りくる。
 このままでは直撃は必至であり、通常であれば今すぐ回避機動を取るべきだ。
 だが、
「……っ!」
 だがハヤテは速度を落とさなかった。甲板に立つ一人の猟兵に、船の命運を全てを託すつもりなのだ。
「…………」
 今日出会ったばかりの男は、ロングコートをはためかせながら甲板の中央に立っている。頭上を見上げているのは解ったが、背を向けられたブリッジ側からはその表情まではうかがい知れなかった。
 白い刀の柄に手を掛けたまま、男はじっと待っていた。
 やがて、
「――この一刀で総てを断つ」
 男がそう呟いたのが、風に運ばれて聞こえてきた。
 次の瞬間だった。
「――!!」
 男が頭上に向け、弾けるような勢いで白の刀を抜刀した。
 その勢いは凄まじく、鞘から抜き放たれるやいなや、刀身から衝撃波が迸っていく。
 水の飛沫くような音を放ちながら、衝撃波が天へ奔っていった。
 隕石の尖兵としてまずやって来るのは、隕石の下で圧縮された大気だ。加圧された莫大量の大気は、そのエネルギーのままに船の表面を洗い流していくが、衝撃波はそんな大気の壁をものともせず、突き進んでいった。
 幾層もの壁を切り裂いても折れず、逸れず、衝撃波はやがて隕石の表面へ辿り着く。
 衝突。
「――――」
 頭上の隕石から大音が響いた。そして次の瞬間には、皆は結果を見た。
「隕石が……!?」
 破砕よりも清々しい快音を、割断という。
 割れたのだ。巨大な隕石が、その中央から二分されていく。
 半球状となった双の岩石は二方向に分かたれ、ハヤテの左舷と右舷に落下していった。
 隕石の迎撃に、成功した瞬間だった。


「行け! 猟兵!」
「――!」
 鏡介は、勇士の言葉を聞きながら甲板を疾走した。一歩目から全力だった。
 隕石を切り抜けた今、セラフィムビーストはもはや目前だった。驚愕のような、怒りのような表情すらはっきりと見える距離にいる。
 甲板中央から船首まで数歩で辿り着けば、己は舳先を勢いよく踏み切って跳躍。
「……!」
 迎撃しようと振るわれた巨大な爪を回避し、そのまま敵の背に取り付く。
 取り付いた。
「!?」
「そう驚くなよ」
 背に立ったこちらを振り落とさんと、魔獣が身を捻って藻掻こうとするが、こちらの方が早い。
「――終の型【無仭】」
 神刀【無仭】。手に持った刀を大上段に構え、一気に、魔獣の身体へ振り抜いたのだ。
 森羅万象を断ち切る刃は先ほどからずっと封印が解除されている。代償は大きいが、衝撃波ですら隕石を断つのだ。
 ならば、その刃を至近で直接浴びればどうなるか。
「……!!」
 魔獣の絶叫が、天空の全域に響いた。
「っと」
 激痛なのだろう。絶叫は長く続き、暴れ回る巨躯がその痛みのほどを示していた。  
 流石に背中で立ち続けることは叶わなず、己はそのまま背から飛び降りた。敵に痛打を浴びせたのだ。
 眼下には、雲海が一面に広がっていた。
「……落ちる前に、上手く回収してもらえる事を祈ろう」
 急ぎの動きでこちらに向かってくるハヤテを見ながら、そう呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
POWを選択

私達がよく知る四つ足の獣型みたいですね、ということは前足の届く範囲も同じくらいのはず。

【白銀竜の解放】で四つ足の飛竜になり背後に回って飛び付きます、大きくなってても構いません、前足は背中に届き辛いし地面に寝転がって押し潰そうにも地面までは距離がある、私はこのまま重りになりつつ翼をむしります、ぐちゃぐちゃにならない程度に!

でもやっぱり齧りつきたいのでチャンスがあれば頭にガブッと行きます!
これだけ大きいならちょっとくらい食べても大丈夫ですよね?

アドリブ協力歓迎です。




「あの身体は……」
 サフィリアは甲板から艦尾側の空を見ていた。正確にはそこにいる魔獣、セラフィムビーストの姿をだ。
 天空を飛翔するそのシルエットは翼も有しているが、四肢を持った獣だということは離れた距離からでも解った。
「だったら……!」
 自分には利があった。ハヤテの甲板は、荷の積み込みも考えてか十分な広さがある
「――私の竜よ」
 なのでユーべルコードを発動。追われている今、判断は即座だ。
 ……たとえ、代償があろうとも。
 竜と、自分がそう呼びかけた存在は、確かに応えた。
「私の人間を喰らって完全な者となるがいい」
 己の身体の中で、だ。


「!?」
 勇士達はそれを見た。甲板上、そこに急激な変化が生じたのだ。
 変化は光だった。眩い光が甲板表面を洗い流したかと思えば、それが晴れた後、そこに立っていたのは先ほどまでの猟兵の少女ではない。
「竜……!?」
「――――」
 四肢を甲板に着けた有翼のその姿は、正しくその言葉通りの姿だった。
 突如として現れた竜の存在によって、ハヤテの船首側が沈む。だがそれも一瞬だ。
「――!」
 翼を真下へ叩きつけて浮力を得た竜が、甲板を離れていったからだ。その風圧でハヤテは僅かな揺れを得るが、すぐに復帰。
 安定を取り戻す。
 その頃にはもう、竜は風に乗っていた。
 飛翔している。


 夕日が沈み、しかしまだ明るさを寄こしてくる空の上をサフィリアは飛翔していた。
 今、自分の身体は少女の身体から竜の姿となっている。四肢が頑強になり、翼もずっと大きく、そして全身を青い鱗が覆っているのだ。
 過去、人工的なドラゴンを創る実験があった。自分はその実験体であり、その結果がこの身体だ。
「――!」
 急ぐ。翼で大気を打って加速すれば、周囲の景色の何もかもが一気に後ろへ流れていった。
 代償のある能力のため、可能な限り変身する時間は短い方が良いが、己が今急いでいる理由は別にもあった。
「やっと食べられる!」
「――!」
 次の瞬間。己とセラフィムビーストが空の上で激突した。
 遮蔽物の無い空の上では互いの姿はよく見える。魔獣は、正面から来たこちらを迎撃しようと前足を振ってきたが、
「――当たらない!」
 こちらは衝突寸前に身体を制動し、回避する。
 四足の獣であれば、前足がどれほど可動するかは解っていたからだ。
 だって私もその姿になれるから……!
 空振りした前足の上を行くように翼でさらに上昇すると、自分の真下に敵を置く。
 眼下だ。
「!?」
「遅い!」
 敵が反応するより早くそのまま急降下し、その背中へ取り付くと形勢は決まった。
「……!」
 何とかこちらを攻撃しようと敵が暴れ回るが、相手の攻撃手段は限られていた。
 これが地上であれば、背中に乗られても地面へ叩きつけたりできるが、ここはどの浮遊大陸からも離れている。
「それじゃ、いただきま――、ああもう! 暴れないで!」
「……!」
 なので敵が出来るのは精々、届き難い前足で僅かに攻撃するか、翼を暴れされるかだ。
「ああでも、翼は傷つけちゃ駄目だし……。……このっ、ここ、根元、から……!」
「……!!」
 暴れる翼を掻き分けるように鼻先を突き込み、その根元へ牙を突き立てた。敵が痛みで更に暴れるが、背に爪を突き立ててしっかりとホールドする。
「……うーん、筋肉質だなあ。硬くて歯ごたえはあるけども……」
 脂身が少なく、淡白な味だ。また肉食だからなのか、かなりクセのある匂いがした。
 しかし、翼を狙うのは敵の戦闘力を落とす狙いもある。なのでまた別の箇所の翼を狙おうとした、次の瞬間だった。
「巨大化!?」
「――!!」
 セラフィムビーストが咆哮を挙げ、その身体を一気に巨大化させたのだ。先ほどまでが全長十メートルほどであれば、今は三十メートルほどだ。
「お、とと……」
 足場である背中は広くなったため、取り付きやすくはなった。そして翼も増え、何より筋肉量も増えた。
 それはつまり、
「――お肉が増えた!」
 さらに噛みついた。やはり味は変わらないが、“食いで”はある。牙を突き立て、その血を啜っていけばかなり満たされる心地はあったが、一方で別の味が恋しくなるのも事実だった。
 淡白だからもっとこう……、クリーミーなのが欲しいなあ……。
 内蔵を食べるには腹側に行く必要があり、難しい。ならばどこかと思考すれば、すぐに一つに思い当たる。
「やっぱり脳だよね! ……ちょっとくらい食べても大丈夫だよね?」
「――!?」
 暴れ回る背中に爪を突き立て、セラフィムビーストの頭側へゆっくり進んでいく。首や肩回りの翼が邪魔だが、先ほどまででかなり喰い減らした。
 風通しの良くなった翼部に鼻先を突き込み、その先にある後頭部を狙って、
「――!!」
 一気に噛みついた。
 が、
「――か、硬っ……!?」
 頭骨が尋常じゃなく硬いのだ。
 翼を動かす必要がある背中や肩では筋肉が多かったが、頭部は違う。恐らく敵との激突に耐えられるようになっているのだろう。
「立派な角も生えてるしね――、って、うわわ!? やっぱ、頭の周りは危ないなあ……」
 角は角で、あれは骨だろうか、それとも毛や皮膚だろうかと気になった。後で確かめなくちゃ……。と、そんな風に考えていたら、魔獣が首をねじってこちらの顔面に噛みつこうとしてきたので、慌てて首を振って回避する。
「よいしょ……、っと」
 暴れ回る頭を前足で抑え、再度、そこへ牙を突き立てる。
「……ッ!!」
 立てた。全力でだ。
 竜の力をもってしても全てが噛み砕けるわけではなかったが、皮と肉の向こう側にある骨の内容物は、確かに自分の口の中に流れ込んできた。
 髄液、脳漿、そして骨片。興奮状態にあるのか、筋肉らと同じく温度が高かった。
 その分香りが口内に広がり、
「――おぉ……!」
 己は、その味を堪能していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

オブリビオン発見ー!
みんなー、対空迎撃用意ー
妹達と二人一組を作って【アリスの糸】を命綱にして自慢の【怪力】で『セラフィムビースト』にアリス達を投げつけるのよー
着弾したら【足場習熟】で敵を這いまわりアリスの糸で【捕縛】しましょー
あらー?『天使核のエネルギー』で変身できるのねー
大きくなって戦力増量ーついでにお肉も増量ねー
『天使核獣』で変身して大きくなった敵にアリスをどんどん投げ込んでお肉を齧りつつ天使核や翼を切断してもぎ取るのー
どの辺りが素材になるのかしらー?必要な分は食べないよーにしないとねー
攻撃に参加しないハヤテ居残り組は自慢の甲殻で敵の攻撃を受け止めて船を【かばう】のよー




 ――オブリビオン発見ー!
 その情報はアリスの、否、アリス達の脳内に一瞬にして共有された。
 直後。ハヤテは離脱行動に振り切り、その至近に隕石を通過させたのが先ほどだ。
「……!」
 自分達は船壁に張り付いていたのだ。莫大なエネルギーが生む衝撃波を真っ先に浴びながらも、振り落とされまいとハヤテにしがみついていく。
 そこさえ乗り切れば、後は反撃の時間だった。張り付いた者達は監視から測距へと役割を移行し、甲板上にいる“妹達”は、
「対空迎撃用意ー」
 攻撃へと役割を移行していく。急ぎの動きで再編された陣形は、二人一組だ。
「――!」
 片方が糸を生み出し、もう片方の身体へ何重にも巻き付ける。そこから伸びた逆側の糸を前肢に引っ掛けて持ち上げると、出来上がるのは相方の肉体を使ったハンマーだ。
 ――投擲用意ー。
「――――」
 全員が一つの指示を果たす為に行動した。ハンマー側は舷から身投げし、持ち手側はそれが空の底まで落下せぬよう、糸を短い位置で保持。
「デカい蓑虫みたいだな……」
 勇士の一人が言う通り、両舷から幾体もの“妹達”が、等間隔でぶら下がっている様は蓑虫のようだった。そして、
 ――回転開始ー。
「……!」
 回る。艦尾側へ流されていたハンマーが、持ち手の動きに合わせて力の向きを艦尾側から船底、それは船首側へと続き、そして真上を回ってまた元の位置へ。
 ――つまり、“→↓←↑”なのよー。
 振る方向を図で共有した方が分かりやすい。つまりは時計回りだが、逆舷側であれば反時計回りになるわねー。注意するのよー?
 ともあれ、ハンマーが回っていった。自分達の怪力で回せば回す程加速し、もはや全てのハンマーが轟音を伴う残像を描き、船の側面を円で彩っている。
 全員が共有している意識の中、回転速度は完全に調整されていた。
 ――狙えー。
「…………」
 艦尾側の空から近づいてくるオブリビオンの距離や高度は、様々な角度からの測距で解っている。
 ならば後はどうするか。
「投ー擲ー!」
「――!」
 持ち手側が糸の保持を止め、円運動の勢いそのままにハンマーをぶん投げたのだ。弾き飛ばされたように飛んでいくハンマーの周囲で、白いリングが生まれているのはもはや速度が音速を超えている証拠だった。
 体高二メートルの“妹達”が、ミサイルのように薄暮の空を切り裂いていく。
「……!?」
 思いもよらぬ攻撃だったのか、狙われたセラフィムビーストは、慌てるような動きで自身に軸転を叩き込み、回避を選択。
 だが、放物線を描くハンマーの数は優に十を超える。左右両方の回避起動も想定しており、
「着弾ー」
「!!」
 勢いそのままに、幾つかの個体がセラフィムビーストの身体を強打した。


 空へ高らかに鳴り響いた打撃音の下で、“妹達”は自分の為すべきことを行った。
「糸で捕縛するのよー」
「……!?」
 自分の身体から糸を垂れ流しながら、セラフィムビーストの全身を這い回っていったのだ。十メートルの巨体の各所が、糸で包まれていく。
 筋肉を覆えば、収縮が働かなくなり、関節を覆えば、稼働が阻害されていく。そうしていけば身体は満足に動かなくなるのだ。
 そのはずだった。
「……あらー?」
 目の前で、糸が断裂していくのが見えた。
 魔獣が藻掻き、爪牙で切り裂いたわけではない。その場合であれば、巻き付けた糸の表面が切れるからだ。だが今、自分達の目の前で起きている現象は表面ではなく、その下、
 ……内部から破裂するみたいに裂け始めてるわねー。
 内圧の高まりを意味していた。
「急げ急げー」
 自分達は迷わなかった。さらに糸を吐き出し、急ぎの動きで捕縛を重ね掛けする。だが
「……!」
 さらに内圧は高まっていった。内側から、どんどん糸が弾けていくのだ。
 これは何を意味するか。
「――巨大化が始まってるわよー」
「――!!」
 セラフィムビーストが長い吠声を空に挙げた直後。その身体の巨大化は完全に果たされた。ユーべルコードの結果だった。
 三倍ほどに膨らんだその姿は、全長にして三十メートル程。八枚翼が誇るように背から伸びていた。
 重ね掛けが間に合った糸は内圧に耐え、締め付けるように魔獣の身体に埋まっており、そこは肉が裂けているのか、鮮血を迸らせている。
「天使核のエネルギーでここまで変身したのねー」
 大きくなったことで戦力が増強している。しかしそれは同時に、あることも意味していた。
「ついでにお肉も増量ねー」
「――!?」
 次々に、ミサイルが弾着した。
 先ほど外れた“妹達”が、糸を巻き取って回収した第二射だった。
「的が大きくなってもいるのよねー」
 そして三射、四射と続き、セラフィムビーストの背の上は自分達でどんどん埋め尽くされていく。
「……!」
「さあ、いただきま――」
 と、言ったところで気づいた。
「……どこが素材になるのかしらー?」
 聞いてみるわねー。


 ――もしもーし。
「頭領、頭領!? 頭の中から声が……!」
 ――便利でしょー? それで、どこが素材になるのかしらー?
「天使核が最上です。
 翼、光輪、角、内蔵が二位です。食用としても利用価値はありますし、それ以外でも。
 毛や皮、骨も需要は有りますが優先順位は低いです。
 肉は一番低いですね。調理次第で食べられなくは無いのですが……」
「頭領、頭領!?」
 ――なるほどー。ありがとー。現場からは以上なのよー。


「翼を切り取るわよー」
 “妹達”は刃のついた前肢を、セラフィムビーストの背に突き込んだ。
「――!」
 痛みに絶叫したセラフィムビーストが、もはや背中にいる自分達を無視して一気に加速し、ハヤテへ体当たりを敢行した。
 その衝撃で自分達を落とせば良し、そうでなくてもハヤテに攻撃を与えれば良しという算段なのだろう。
「だけど、船に残ってる組もいるのよー」
「……!?」
 体当たりに対し、全員が一丸、というか“一塊”となってカウンターを決め、勢いを相殺。
「……!!」
 鈍い打撃音のような音が空に走ったが、しかし、それだけだ。
「作業再開ー。胸側に回って、天使核も狙うのよー」
「……!」
 前肢の刃で、口の牙で、セラフィムビーストの全身の肉を断っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

箒星・仄々
あれが魔獣さん…
とっても大きいですが
この世界でも猟兵として為すべきことを

海へお還りいただきましょう

指笛を吹き
私の影から飛び出した目旗魚のランさんに騎乗し
空中へ

ハヤテをやらせませんよ!

薬膳や漢方になるのでしたね
内蔵を傷めないよう心がけます

竪琴を奏で
世界に満ちる森羅へ働きかけて魔力を練り上げます

輝く夕日を炎の
もうすぐ顔を出す月や星の光を水の
吹きぬける疾風を風の
魔力の矢として放ち
空を緋蒼翠と彩ります

注意を此方へひきつけ
弾幕で防御しながら
機を見て回り込み
下方から心臓付近を射抜きます

万が一
烙印がランさんやハヤテに印された場合は
魔力で相殺や減弱、消去を試みます

終幕
鎮魂の調べを演奏
海で静かな眠りを


ニコリネ・ユーリカ
事前に調査船を調べたから良く判然る
放射状の焦げ跡は隕石
そして10mと30mの爪痕は、一体によるもの!
3倍に膨れ上がった巨獣がかの船に滅びを齎したのね
船より先に散った命の弔いに、一太刀くらい呉れてやりたい(ムキッ

真の姿「揚羽蝶」(id=51926)を解放して空へ
柊さんの冷静な判断と航空技術が勇士を守ってくれると信じて
私は少しでもハヤテから攻撃を逸らすべく空中戦を仕掛ける

敵の八翼に対して私の四翅は薄いけど怖くないわ
滞空性と躯の転換に優れた機動性を活かして爪撃を躱し
敵の高度が己を上回った瞬間に【Awesome!】
シャッター棒を振り上げて空から稲妻を呼び
翼を灼いて減速を狙う
核が覗いたらそこに落とすわ!




 逃走と追撃。戦闘は激化の一途を辿っていた。
「まだ倒れないのかよアイツは!?」
 ハヤテの勇士が振り返って叫ぶ先、艦尾側の空には雄々しい魔獣が飛翔していた。
「……!」
 憤怒か、狂乱か。船との距離をどんどんと詰めて来るセラフィムビーストは、空を割るような雄叫びをぶち挙げた。
「……っ」
 離れた距離だが、咆哮で全身が揺れたような錯覚を得た。敵は未だ戦闘の意欲を失っていない。
 だが、
「あれが魔獣さん……」
 自分達の側も同様だ。反抗の意思と戦う力があった。
 甲板上、帽子を手で押さえながら敵を見ている黒の小柄な姿は、猟兵だ。
 そして、猟兵は一人ではない。
「――――」
「お気をつけて」
 もう一人、小柄な猟兵の隣で頭領に会釈を送ってきた女も、同じく猟兵だった。
「…………」
 二人の猟兵は、互いに視線を交わすだけだった。
「――!」
 次の瞬間。甲板上に二つの動きが同時に生まれた。
 一つは、指笛の音だった。小柄な猟兵の口元からその音が発せられると、その影から突如として目旗魚が現れる。全長五メートルの魚は一度、その場で身を回すと、己の背に猟兵を乗せる。
 もう一つは、変化そのものだった。女の猟兵が光のようなものに包まれた後、その全身がグリーンの衣服から、黒と白を基調としたドレス姿になったのだ。大きく開いたドレスの背からは、鮮やかな翅が生えていた。
 同時。
「……!」
 ハヤテの甲板上から、二人の猟兵が各々の方法で空へ飛び立った。
 空に浮かんだ二つのシルエットの進路は、ハヤテの後方。
 セラフィムビーストへ、猟兵達が直進していく。


 両者は前衛と後衛に自然と分かれ、敵への接近を始めていた。
 後衛である仄々は、目旗魚、ランさんと己が呼ぶ彼女の背の上で、前方にいるオブリビオンを確認する。
「とっても大きいですね……」
 自分達と敵の距離は近い。接敵はもうすぐだろう。故に、そのシルエットの巨大さがよく解った。
 相手は巨大で、力も強い。彼の敵が残した破壊の跡は先ほどの調査船に色濃く残っていた。
 しかし、臆することは無かった。相手が強大でも、自分が為すべきことをするのだ。
「ええ、この世界でも猟兵として為すべきことを。――海へお還りいただきましょう」
「――!」
 呼応するように前衛の猟兵が加速し、セラフィムビーストと接敵を果たした。
「……!!」
 魔獣の咆哮が、薄暮の空に響く。
 戦闘開始の瞬間だった。


 事前に調査船を調べたから、良く判然る……!
 ニコリネは、敵と相対していた。
「……!!」
 今、目の前にセラフィムビーストがいる。そしてこのオブリビオンは、調査船を襲った魔獣でもあった。
 調査船に遺っていた放射状の焦げ跡は隕石によるものね……。
 ハヤテのように何とか回避し、船首だけが砕かれたのだろうか。だがその後の結果を自分は、自分達は知っている。
 そして、
「十メートルと三十メートルの爪痕は、一体によるもの……!」
「――!!」
 言った瞬間。“それ”が来た。爪撃だ。風鳴りの音が響くほどの一撃は、的確にこちらの身体を狙ってきていた。
「……!」
 それに対し、己は背の翅を振るって一息で回避する。
 爪の届かぬ死角へと逃れながら、思う。自分は、この敵と何もかもが違うと。
 巨大な身体と厚い翼、強靭な四肢とそこから生まれる破壊の一撃。どれも己には無い物だった。
「だけど怖くないわ!」
 己にある翅は、真の姿を解放したことで生まれたものだ。敵の翼に比べて薄いが、だからといって劣っているわけではない。
 滞空性があり、何より機動性に優れている。躯の転換を活かし、爪撃を躱し続けていった。
 そしてそれは、敵がユーべルコードを発動しても同じだった。
「……!!」
 夜へと近づいてく空に咆哮が一発打ち上がったかと思えば、魔獣の身体が変化した。
 全長十メートルから三十メートル。かの船に滅びを齎した巨獣が、誇るように天を仰いでいた。
「ほら、こっちよ!」
 敵の身体が三倍化したのだ。リーチも威力も増大した爪撃は、まるで大気を掻き捨てる動きだ。
「……っ!」
 捨てられた大気を補うように、周囲から大量の風が流れ込んでくる。体重の軽い自分はその荒れた気流に持ってかれないよう、何とか身体を運んでいかなければならない。
 一瞬でも気を抜いたら爪に裂かれ、空に散る。そんな瞬間が連続していく中、己が懸念するのは自分の事ではなかった。
「ハヤテには近づかせないわよ!」
 自分がここで時間を稼げば稼ぐほど、ハヤテは安全となるのだ。
 柊さんなら、きっと皆を守ってくれるわ……。
 あの頭領とは少し話しただけだが、冷静な判断と航空技術を持っていることはすぐに解った。
 勇士を守ってくれると信じ、今は戦場から距離が十分に開くまで、妨害の一手だ。
「……!!」
 しかしハヤテを懸念するのが己であれば、ハヤテを固執するのが敵だ。隙を見てこちらから離脱し、あの船を追わんとする。
 だが、
「――ハヤテはやらせませんよ!」
 自分と同じ考えの者は、この戦場にもう一人いる。


 薄暮の空に音が響いた。
 音階と旋律で彩られた音を、音色という。
「――♪」
 音色の源は竪琴からだった。蒸気機関式のそれは、カッツェンリートだ。
 リートの弦を弾けばそこから音が生まれ、大気を震わせて空へ広がっていく。
 そして、空へ広がっていくそんな音色に魔力が籠められていれば、どうなるか。
 演奏をしていた仄々は、答えがすぐに現れたことを知った。
「――――」
 演奏をしている自分の周囲が魔力に反応し、変化していくのだ。
 その変化を引き起こしたのは、夕日であり、星光や月光であり、風であった。
「――!」
 天空広がるこの世界において、世界そのものに広がっていく音色は森羅万象へ働きかけ、そこに込められた魔力を練り上げていったのだ。
 西の空の向こうにある夕陽が、燃え盛る炎を。
 顔を出し始めた月や星の光が、透き通った水を。
 そして世界中を吹きぬける疾風が、鋭い風を。
 全ての魔力は、矢として形成されていく。
「――――」
 された。
 数にして五百四十。それだけの魔力矢が一瞬にして、己の周囲に展開。
「……!」
 緋、蒼、翠。薄暮の空に三つの輝きは目立つのだろう。気づいたセラフィムビーストがハヤテを追おうとするのを止め、急ぎ防御行動へ移っていく。
「さあ、ちょっと派手にいきますよ」
 刹那。全ての矢が、一斉に飛翔した。
 空を彩る三種の軌跡は百八十ずつ存在し、その終端は全て、セラフィムビーストの全身だった。
「……!!」
 怒涛の勢いで突き立っていく矢が、様々な方法で魔獣の身体を傷つけていった。
 炎の矢が毛皮と翼を焼き、水の矢が分厚い肉体を穿ち、風の矢が切り刻んでいくのだ。
「……!」
 全身に走る激痛に仰け反り、セラフィムビーストが天に顎を向けて絶叫した。
 まるで、空中で直立したような姿勢だった。
「――ランさん!」
 己はその隙を逃さず、呼びかけられた彼女は速度でもって答えてくれた。鋭い吻が風を切り裂き、一直線に空を突き進んでいく。魔力の矢が弾幕となり、敵はこちらの動きには気付いていないだろう。
 そして、その隙を狙っていたのは自分だけではなかったようだ。
「――合わせるわ!」
 もう一人の猟兵も、鮮やかな翅を振るわせて自分と同じ場所へ辿り着いた。
 セラフィムビーストの真下だった。


 壁のようだと、ニコリネは見上げた瞬間思った。今、自分とケットシーの猟兵はセラフィムビーストの真下にいる。
 高さ三十メートルの壁は、痛みにのけぞった魔獣が身を伸ばし、その腹を曝け出しているためだ。
 壁は、直に元に戻るだろう。身を前に倒し、二本足から四つ足に戻るのだ。その時腹の下にいれば、全体重で打ち据えられることになり、空中といえど無事では済まない。
「だからここで決めるわ!」
「はい!」
 言って、それぞれが自分の得物を構えた。己はシャッター棒で、少年はリュートだ。
「せー、の……!」
 シャッター棒を片手に、もう片手でばら撒くものがあった。魔力矢の光を跳ね返す煌めきは、金のコインだった。
「商売繁盛の夢が遠のいちゃうけど――」
 けど、
「命の弔いに、一太刀くらい呉れてやりたいのよ」
 直後に、ユーべルコードを発動した。
「……!?」
 頭上、痛みに呻いていた魔獣から驚愕の気配が生まれた。相手の方が“それ”がよく見えるのだろう。そして何より、眼下に雲海が広がるこの世界において、“それ”が珍しかったのかもしれない。
 大気を破り捨てるような大音が、セラフィムビーストの頭上から響いた。
 一体それは何か。
「――Awesome!」
 稲妻だった。突如として生じた雷撃が魔獣の背に直撃し、翼を灼いていく。
 焦げた匂いはすぐに風で洗われ、浮力を減衰させられた魔獣がその身を押し下げた。
 降下、否、落下してくるのだ。
 高さ三十メートルの壁がこちらを押し潰さんと迫り来ていた。
 だが、
「そこです!」
 リュートから奏でられた魔力矢が、真下からのカウンターを決めた。


 仄々がアッパー軌道で放った魔力の矢は、先ほどと同じく五百四十本。だがその矢が狙うのはたった一点だった。
「心臓……!」
「……!」
 毛皮を焼き、肉を貫いて、切り開けば、その先のものが露となる。
 心臓を、天使核を狙われることを避けようと、セラフィムビーストが身悶えし、攻撃から逃れようとするが、
「させない!」
 自分達は許さなかった。魔力矢と稲妻を生み出し続け、絶やさず、攻撃の圧を更に高めていったのだ。
 炎と水と風と、そして雷。四つの属性の魔法がたった一点に荒れ狂っていく。
 全ての音が混ざり合った騒々しい戦場だったが、それはやがて静寂を取り戻した。
「――――」
 セラフィムビーストが、動きを止めたからだ。
 否、それだけではなかった。
「身体が――」
 縮んでいく。
 それは天使核のエネルギーが断たれ、巨大化が継続できないことを意味していた。
「――――」
 エネルギーが切れ、動きが止まった魔獣が今、自分達の目の前に横たわっている。
 撃破の瞬間だった。


 遠く離れた空から、ハヤテが戻って来るのをニコリネは見ていた。
 私達、勝ったのね……。
 そうだ。勝利したのだ。今、自分の側に魔獣が横たわっている。
「……一応、倒しても浮いたままなのね」
 素材の事を考えれば、オブリビオンの死体が空の底へ落ちるのは避けたいところだったが、これなら心配は無さそうだった。
「つまり……、最初の調査船と同じね」
 役目を終えた存在が、浮遊しているだけなのだ。
「…………」
 自分達が来るより過去、この魔獣に散らされた者達のことを、どうしても考えてしまった。
 すると、
「――♪」
 同じ気持ちだったのだろう。隣に座るケットシーが、リュートを奏でていた。
 高く、何かをせがむ様な、しかし落ち着いた旋律は鎮魂の調べだ。
「…………」
 この天空に散った者達が、空の海で静かに眠ることを祈った調べが空に響いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『料理知識を交換する』

POW   :    ●『料理の味や見た目について』

SPD   :    ●『料理に使う道具や技法について』

WIZ   :    ●『料理に纏わる歴史やエピソードについて』

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵達とセラフィムビーストの死骸、そして放棄された調査船の乗組員の遺体や遺品を乗せたハヤテは無事、目的の浮遊大陸に到着した。
「……!!」
 そこは、賑やかな街だった。
 大きな港にいくつもの飛空艇が泊まり、様々な輸送機械が陸や空のどちらも縦横に駆けている。
 そうして着港してからは、ある意味戦闘と同じくらい忙しくなった。港に係留されたハヤテは全体が損傷しているので検査が必要であり、調査船の乗組員達の遺族との連絡もあったからだ。
 だが、猟兵達は別だ。今回の功労者として疾風組傘下の食堂に招かれていた。
 慰労会だった。


 疾風組の頭領、柊は言う。
「今回は“猟兵”の皆さんのご助言やご協力で我々一同、大変助かりました。皆様のおかげで、目的としていた調査船を調査し、乗組員のご遺体とデータの回収。そしてセラフィムビーストの撃破が果たされたのですから」
 と、そこで一拍。
「……そんな皆様にさらにお願いするのは大変恐縮なのですが、どうかこの件でもお力添えをいただけないでしょうか?」
 それは何か。
「――セラフィムビーストの調理に関してです」


「討伐したセラフィムビーストを用いて皆様を歓待し、慰労するのが目的のこの会ですが、聞けば皆様は異世界より来たると。
 せっかくならば皆様の好む料理を供したいですし、逆に我々としても皆様の世界の料理を知りたく思うのです」
 無論、と。
「死闘を切り抜いた皆様に調理作業などお願いいたしません。家の者にさせますので、皆様は彼らに何か要望やアドバイスをして下さったら助かります」
 希望される方がいらっしゃいましたら厨房に立っていただくのも歓迎しますが、と付け加えながら、柊は手元の紙に目を通す。
「今回得られたセラフィムビーストの可食部位と、その特徴は以下の通りです」

◆角
 →薬効がある。滋養強壮。味としては、牛の骨粉が一番近い。細かく砕くのが一般的、というかそれ以外に方法が無い。
◆翼(大小様々)
 →験を担ぐ食べ物。「受験合格」「墜落予防」などを願って食べる。羽は食さず、翼膜や筋部を食べる。食感、香り、味、見た目、全てが独特。
◆尾
 →セラフィムビーストにおいて、幅広で繊維が均一的な肉が大量に取れる部位。味は淡白。ステーキやソテーにするのが一般的。柔軟で、かなり歯ごたえが強い。
◆尾の光輪
 →験を担ぐ食べ物であり、薬効もある。「航路に迷わない」「灯火を見失わない」「衝突を避ける」などを願って食べる。薬効としては、解毒や毒に対する抵抗力上昇。味は「かなり苦いミルク」とよく形容される。細かく砕くこともあるが、油か酒にのみ溶解する性質を持っているので、そうするのが一般的。
◆肉(大量)
 →各種部位。脂分が少なく、筋肉質。淡白でありながら、獣臭い。水分を飛ばして香辛料漬けにした保存食にするのが一般的
◆骨(大量)
 →とても硬い。出汁が出るのでブイヨンとして用いられることもあるが、大量の脂と獣臭さがネックであり、如何せんクセが強い。骨を割り、中の骨髄を焼いて食べることもあるが、やはりこちらもかなり濃厚。
◆内蔵(脳がちょっと減ってる)
 →肝臓、胃、腸……全てがとても美味。セラフィムビーストを食用目的で討伐する一番の理由。頑健な筋肉と骨で守られた内蔵は傷つくことも少なく、高値で取引される。一般的な内蔵調理の全てが通用し、時間も経っていないので生食も可能。

「その他に皮や毛、爪や牙もありますが……、食用にはなり得ませんので割愛させていただきます」
 さて、と。
「他の大陸や、はたまた他の世界を助ける道中でもあるでしょう。他に用事のある方は魔獣討伐のご協力として、当家が保持する天使核を受け取った後、ここを後にして別の戦場に行かれても構いません。
 逆に、皆様のご友人などで料理の得意な方をここに招待し、腕を振るっていただいても構いません」
 ともあれ、と
「セラフィムビーストを、皆様ならどう調理されるでしょうか?」

○マスターより
 *この章で皆様が作られた、または提案された魔獣料理を、グリモアベースのスレッドなどで紹介する可能性があります。
※書き忘れ
(「内蔵」は薬膳にも適しています。栄養が豊富なので。また乾燥させて漢方にも利用されます)



このセラフィムビーストの特徴は、当シナリオのみにおける特徴です。
サフィリア・ラズワルド
POWを選択

あれ?脳を食べ過ぎましたかね?でも美味しかったので後悔はしてません!
料理はシンプルな物しか作ったことないんですけどこれだけ骨があるならあれが出来るのでは?骨せんべい!

そのままじゃ硬すぎるので骨はしっかり焼いて出来るだけ細かく砕いて……砕くの頑張らなきゃ!骨髄は焼いた後に取り出して血とお酒や香辛料を混ぜてアルコールが抜けるまで加熱、砕いた骨を纏めて小麦粉を溶いた衣をつけて揚げる!
これで骨せんべい(みたいなもの)の完成です!骨髄を使ったソースをディップして召し上がれ!

アドリブ協力関係です。




 今、“(ちょっと減ってる)”って言ったような……
 サフィリアは頭領の説明を聞いて、少し疑問した。
「いやまあ、食べましたけれども……」
 自覚があるので疑問するまでも無いのだが、ともあれ席を立ち、食材が並んでいる場所へ向かった。
 そこでは『尾』や『肝臓』と、それぞれどの部位か記されているが、
「……うーん、確かに、少し歯型が付いてるかもしれませんね」
 『脳』と書かれた食材を見てみれば、削られた跡がある脳がそこにあった。
 自分がドラゴン状態だったので、齧りついた痕跡は“かぷっ”というより“ガブゥッ!!”という雰囲気だったが、セラフィムビーストも巨大なので相対的に“かぷっ”です。
 まあ、美味しかったので後悔はしてませんよ……!
 口の中で広がったあの濃厚な舌触りと、何より肉とも脂とも違う固有の風味は格別であり、思い返すだけで味が思い起こされた。
 思わずまた脳に視線を送ってしまうが、
「……流石に、“料理”となると脳は難しいですよねえ……」
 人生でシンプルな料理しか作ったことがない自分にとって、脳という食材は持て余す気がした。
 なので『脳』を通り過ぎ、『翼』や『尾』もパス。その奥に積み上げられた食材を見た。
「……これだけあるなら、あれが出来るのでは?」
 骨だ。
 部位ごとにまとめられて積み上げられたそれはかなり大きく、ひと塊を適当に取って持ってみれば、重さもそれなり。密度があるのだ。
「あれ、ですか?」
 側に控えていた頭領が疑問したので、ええ、と。
「あれです。――骨せんべいです」


 サフィリアは調理室に立った。広さも、設備も十分な場所だった。
「えーと……。ああ、あったあった」
 だが自分が使うつもりの設備は一種類だけだ。数ある中から探し出したのは、“調理”において基本といえる設備だった。
「コンロ! それにフライパンを置いて、っと……」
 点火する。
 炙られていくフライパンの上へ、骨を並べ始める。
「~♪」
 今から骨せんべいを作っていくわけだが、あまり繊細な調理過程は無いので気持ちとしては気軽だ。精々気を付けるとしたら、
「――あ、溶けてきた!」
 骨の内部まで温度が伝わり、骨髄が骨の断面から溶け出してくることだ。とろりとした乳白色の液体をフライパンの隅に寄せ、スプーンで回収――
「うわー!? 凄い出てくる……!」
 骨が大きければ骨髄も多い。お玉に切り替えてどんどんと別の鍋へ掬い出していった。
 やがて鍋の中ほどまで満たす量が手に入ったが、しかしそれは一旦横に置き、
「もういけるかな?」
 骨をフライパンから上げ、取り出したのは石工に使う鑿に似た調理具だ。先端にある分厚い刃を、骨へ沿うように縦に当てると、
「せーの……!」
 柄の側をハンマーで軽く叩いた。すると骨が欠け、切り口が出来る。
 その切り口始点に、どんどんと鑿の刃を叩き込み続けていく。
「……! ……!」
 何度もだ。ハンマーで白い骨に鑿を当てていると、本当に石工をやってるような気分だった。だが、そうしていけば、
「――!」
 やがて堅音が調理室に響いた。焼かれたことで脆くなった骨が、竹を縦に割ったように縦一直線へ断たれたのだ。
「ふー……。上手くいった!」
 骨がその中身を露わにしている。密度の高い骨の中心はやはり竹のように中空であり、溶け切らなかった骨髄が残っていた。
 それをスプーンで描き出して鍋へ落としながら、
 ……次は、こんな硬いのを砕かないといけないわけで……。
 それはつまり、
「――頑張らなきゃ!」


 頑張った。
「つ、疲れたー……」
 ハンマーを置いた手を振るセフィリアの前にあるのは、砕かれて細かい欠片となった骨が入ったボウルと、溶けた骨髄が入った鍋の二種類だ。
「ふー……。でも、ここまでくれば後は簡単だよね」
 まず手を付けるのは、骨片が入ったボウルだ。
 骨片をある程度の大きさにまとめると、小麦粉を水で溶かした衣に通し、すぐに高温の油の中へ。
「……!」
 熱い音が弾けるのを聞きながら、薄く広がるように箸で突いて油中で成形していく。そうして熱が通り、黄金色より少し濃くなったところで骨片を油から上げれば、
「これで骨せんべいは完成! で……」
 網の上で油を切っている間、次は骨髄が入った鍋の方へ取り掛かる。
 弱火で骨髄を温め、緩くさせると
「お酒に、香辛料に……、それに血!」
 それぞれを鍋の中に入れて、骨髄とよくかき混ぜ合わせていく。臭みを取るのと、コクを加えるためだ。
 酒の茶と血の赤によって、乳白色の骨髄が仄暗い柔らかな薄ピンク色へと変われば、完全に混ぜ合った証拠だ。その時点で火を強火に替え、一気に加熱していく。
「~♪」
 温度が上がれば、まず血が凝固し始める。全体にとろみが増し、さらに温度が上がればアルコールが完全に揮発。
 そこで火を止める。
「――ディップソースも完成!」
 余分な油が切れた骨せんべいと一緒に、皿へ盛り付けていった。


「――さあ、骨髄を使ったソースをディップして召し上がれ!」
「これが……」
 サフィリアという少女の猟兵が持ってきた皿に、疾風組の皆は興味津々だった。
 丸皿の中央に置かれた小鉢には色味も状態も柔らかなソースが入っており、それを囲むように濃い色のフライで埋め尽くされている。
 この円形のフライが、セラフィムビーストの骨で出来た“骨せんべい”だというのだ。
「…………」
 その一つを手に取って割ってみた。しっかりと挙げられたせんべいは、軽い音を立てて割れる。
 そして、言われた通り小鉢の中へ浸してみれば、ソースの感触がせんべいを通して伝わってきた。
 柔らかく、とろみがあるソースの中で一度回すようにしてせんべいを引き上げると、凹凸のある表面にソースはしっかりとディップできていた。
 ソースを落とさぬよう注意しながら口へ近づけ、歯で噛み入れる。
「……!」
 割れたせんべいの堅い感触と、ソースの風味。その二つはまず、ソースの風味が口の中で広がった。
 口内の熱で香りが立ったからだ。骨髄が原料と言ったが、臭みはアルコールと一緒に飛ばされたのだろう。濃厚な脂の風味を酒の芳香が穏やかに包み、そこを香辛料が彩る。
 そしてそれらの土台となって支え、味に厚みを持たせているコクは何か。
「……血か!」
「正解です」
 しかし、存在感のあるソースだ。思わず顎が動き、ソースであるのに噛もうとしてしまう。そうすると、代わりというようにせんべいが砕かれるのだが、
「!」
 その瞬間、一気に味が広がった。
 香ばしく揚げられた骨片のせんべいが割れると、その中にある骨片のひとつひとつが砕けるということだ。
 骨自体も味や香りが無いわけではない。味や風味は最初、口の中でソースが勝っていたが、噛めば噛むほど骨の風味も顔を出し、口内に広がる味わいや香りは複雑となっていく。
 そしてこれは、せんべいなのだ。食感が軽快であり、噛むという行為自体が楽しめる。
「――?」
「……!」
 口の中に何度も音が広がり、周囲が喋っている声すら聞こえないが、それはむしろ食事に集中できた。
 風味と食感を求めてどんどんと噛み進め、それが最高潮となったときに飲み込む。すると、
「――おぉ……」
 濃厚なソースが喉を通って胃に落ちていき、満足感が胸を打つ。
 美味だった。
「もう一枚どうですか?」
「――もちろん!」
 彼女の提案に、皆が手を伸ばすことで応えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

セラフィムビーストが縮んじゃったー残念なのー
でもご馳走してくれるそーだし、残った食材をありがたく頂きましょー
【料理】と言っても奇をてらった料理なんてしらなーい!
沢山ある骨やお肉を使っててきとーに作っちゃいましょー
まずは骨とお肉を綺麗に洗って軽く湯がいて灰汁と臭い抜きー
また綺麗に洗ったらあとは煮立たせないよーにとろ火でじっくりお出汁を取ってコンソメスープもどきを作ってー
たっぷりのブルーアルカディア産のお野菜とお塩と香辛料のシンプルな野菜スープの完成ー
少し手間はかかるけど誰でも簡単に作れる安心お手軽料理ねー
あ、出汁を取った後の残った食材はアリスが処分しておくねー(こちらが主目的)




 アリスは残念を感じていた。
「セラフィムビーストが縮んじゃったのー」
 彼の敵のユーべルコードは、天使核のエネルギーから成る。それが絶たれれば、身体のサイズは三十メートルから十メートルへ。元通りではあるのだが、食べられる部分が縮んだということも事実ではある。
 お肉三分の一なのよー……。
 数字にすると分かりやすく残念だ。だが、
「でもご馳走してくれるそーだし、残った食材をありがたく頂きましょー」
 食材が並ぶテーブルへ近づき、それらを眺めていく。
「うーん……。料理といっても、奇をてらった料理なんてしらないしー……」
 なので特殊な工程が必要そうな内臓や光輪は除外だ。翼や角も無し。そうなると、やはり選ぶのはオーソドックスな食材だった。
「お肉と骨ー。よいしょー」
 それを大量に持って、というより持ち上げて、調理室へ向かって行った。


 アリスが引っ張り出したのは、一番大きな鍋だった。
「おみずー」
 そこに水を張りながら、よく洗い終えた肉と骨をどんどんと入れていく。鍋がいっぱいになるほど入れたら、火にかけ、沸騰するまで待つ。
「沸騰するまで時間がかかるので、その間に他のさぎょーを済ませましょー」
 今の何だか料理番組みたいな台詞ねー、と思いながら、実際作業を進めていく。調理台に向かい、その上に野菜を並べていくのだ。
「見たことない野菜ばっかりねー」
 この世界、ブルーアルカディア産の野菜だ。手に取って顔の前に持ってくるが、どう調理するのが一番か分からない。
「――――」
 なのでとりあえず食べてみた。
 咀嚼する。
「うーん……、イモ系ね? これは。で、こっちはネギ、というかリーキ。こっちは……ナスかしらー? 葉物もあるわねー」
 自分の知ってる野菜の中で似た性質のものを当てはめていく。でんぷん質が多いもの、香りと食感に優れたもの、水分量と旨味に富んだもの、様々だった。
「ん、沸いたわねー。……って、すごい灰汁ー」
 そんな風に野菜を評していると、鍋が沸いたのでまた鍋に向かう。肉や骨の中から出てきた灰汁は、沸き立つ泡に乗って湯の表面を覆っている。
「せっせ、せっせ……」
 お玉であらかた掬い、ペーパーを落として細かい灰汁も取り除く。何度も何度もそれを繰り返せば、澄んだスープが出てくるので、そこでやっと肉や骨を取り出す。
 作業自体は手早くやったので、肉や表面は軽く湯がかれただけだ。それをボウルに揚げて、水で表面を洗っていく。余分な油や表面に付着した灰汁を流していくのだ。
 洗ったそばからまた鍋に戻すが、火の勢いは強火から弱火を通り越し、とろ火だ。煮立たない温度の鍋にまた肉と骨が詰められていく。
「あとはじっくりねー」
 肉や骨から出汁が出てブイヨンになるまで、待つのだ。その間、先ほど評していた野菜をカットしていく。イモ、リーキ、ナス、葉物。肉の量に負けないよう、どれも大量だ。
 それぞれを火の通りやすい大きさにすると、スープの中へ足していく。
「ことことー」
 塩を足し、肉の旨味と野菜の旨味が合わさるまで、単純で長い時間を要していった。


「……そろそろかしらー?」
 そうして、長時間煮込んだスープを覗き込めば、芳香がアリスの嗅覚を刺激した。肉と脂の匂いをベースに、野菜の甘さも混じった香りだ。
「うん、いい香りねー」
 軽くかき混ぜながら、だがこれではまだ風味としては足りない。
「塩と香辛料で味を調えましょー。……これも料理番組っぽいわねー」
 そんなことを言いながらそれらを投入し、かき混ぜる。
 完成だった。


「――出来たわよー」
「!」
 鍋が乗った台車が食堂に運び込まれれば、疾風組の皆はそこに向かった。
「並んで並んでー」
 大柄だが、少女の声を“脳内に響かせてくる”猟兵は、鍋の近くに立っていた。
 その鍋の前に皆が並び、スープが入った皿を他の者から手渡されていく。それは特に何の変哲もないスープだった。
「肉と骨で出汁を取った、野菜のスープ……」
 誰もがそう思った。
「…………」
 スプーンを顔に近づければ、肉と脂、そして骨の香りが鼻孔をくすぐり、混じっている香辛料の香りが食欲を刺激してくる。その欲求のままに、口の中へスプーンを傾ければ、誰もが想像する通りの味がそこにあった。
 まず、スープ全体を支える骨髄から染み出した香りが一気に口の中へ広がった。野性味溢れる香りは、しかし長時間の煮込みと香辛料でその尖りを抑えられ、穏やかに口腔を支配していくのだ。
「ああ……」
 スープを飲み込んだ後、抜けるように響いた声は、離れていく味を名残惜しむ吐息だった。
 だが、スープが去った後でもまだ楽しみは残っている。具材である野菜だ。口全体を覆っていたスープの風味は、中に入っていた具材すらも覆っている。
 ベールに包まれた野菜は舌の上で溶け始めるが、それより早く歯が触れ、その中身を知る。
 まず、スープが染み込んだイモが砕けると、その内部から、今まで口にあったスープとは別のものを露わにした。でんぷん質を含んだ、僅かにとろみと甘みが加わったスープだった。舌でイモをすり潰すようにしてさらにそのスープを求めようとする。が、所詮はイモの欠片だ。含有している量は少なく、それで終わりだった。物足りなさを感じるが、それも一興なのだ。
「――!」
 味を求める口の動きは、止まらない。
 リーキを割ると、一気にエッジの効いた香りが立ち、今までのスープとは表情が一変した。
 ナスを砕くと、そこに残っていた旨味が溶け出し、スープ全体を補強するようだった。
 葉物は食感を寄こし、イモとはまた違った甘味やともすれば苦みを加え、味に飽きさせない。
「……ふぅ」
 何もかもを飲み込んだ後、皆の口から出た吐息にも似た声は感嘆か、それとも納得か。大きな満足感があったことは確かだった。
「どうー? 少し手間はかかるけど、誰でも簡単に作れる安心お手軽料理ねー」
「ああ……。単純な料理だが、だからこそだな」
 しかし、と。
「君は食べないのかい?」
 猟兵は先ほどからずっと、皆の反応を見ているだけだ。側にいた一人が、彼女のためにスープを装うとしたが、
「あ、アリスはこっちでいいのよー」
 と、鍋の底にあった肉と骨を指で指し示す。
「……?」
「ありがとー!」
 訝し気な表情でそれをさらに掬って渡せば、彼女は礼を言いながら受け取り、
「――!」
 凄い勢いで、それを食べ始めた。
 肉と、そして骨が豪快に砕ける咀嚼音が食堂に響いていった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

箒星・仄々
魔獣料理コンテストみたいで面白ですね!

薬膳な熾天使鍋を創りましょう
…既にありそうなシンプル料理ですけれども

尾や肉、各種内蔵、砕いた骨を
鍋でじっくりと煮込んで出来上がり~

脂を丁寧にすくいましょう

火水風の魔力を使えば
脂だけ分離とか
火加減をいい感じにして
旨味を最大限に引き出すとか出来ますけれど
料理としての再現性がなくなってしまいますものね…

シンプルに塩と胡椒で味付けし
砕いた角の欠片を振りかけて
いただきまーす

少々の苦味は野生の象徴
滋養強壮抜群です
疾風組さんに英気を養っていただきたいです

残したスープにご飯を入れておじやに
〆にはやっぱりこれですよね!

光輪酒に酔う方々がおられれば
竪琴も奏でちゃいますよ♪




 成程……。
 食堂の中でその説明を聞いて、仄々は頷いていた。
 討伐した魔獣、セラフィムビーストを使って料理を考えて欲しいというのだ。
「何だか、魔獣料理コンテストみたいで面白そうですね!」
 食材が並ぶ場所へ軽いステップで近づき、そこにある材料を見ていく。
「肉、骨、尾……」
 様々な食材があるが、その性質や験担ぎの内容に至るまで、既に頭領から説明を受けている。
 ……曰く、栄養のある部分が多いと。
 それらを踏まえ、自分が思いついた料理は何か。
「薬膳。そんな熾天使鍋を創りましょう。……既にありそうなシンプル料理ですけれども」
 材料を、選んでいく。


「ああ、どうも。ありがとうございました。皆さん」
 仄々が選んだのは複数の食材だった。
 流石にケットシーの体躯では通常、運ぶのは厳しい。なので代わりに運び入れてくれた疾風組の者達へ仄々は礼を伝えると、自分は調理台に向き直った。
「さて……」
 見る。今、自分の前にある食材は尾や肉、各種内蔵に骨の四種だ。
 といってもこれらは別に特別な処置や過程を経ない。食べやすく熱が通りやすい大きさに切り分けると、それを順次鍋の中に入れていくだけだ。
 問題は骨だが、これも同様だ。
「せー……っの!」
 鑿のような道具を押し付け、ハンマーで数度叩く。体重が軽いので、その場で飛び跳ねるように何度も勢いをつけて振り下ろさなければならなかったが、やがて骨が欠け、一気に割れていく。
 何度か繰り返し割って大雑把な大きさにすると、やはり骨の欠片も鍋に入れていく。
 尾を始めとする肉類に、各種内蔵、砕かれた骨。鍋の中にあるのはそれは、やがて湧いてきた湯に揺られ色を変えていく。
「おー、灰汁が……」
 それに脂も、大量に出てきた。沸騰で生まれる泡に乗って、湯の表面に集まってくる。
 それらをお玉で掬い、捨て、また掬っていく。
「うぅーん……、獣臭さも凄いですね」
 思わず鼻に皺が寄ってしまう。味付けは塩と胡椒のシンプルなものを考えていたが、胡椒は多めにしようと、そう思いながら換気扇を回す。
 そこでふと、思いついた。
 ユーべルコードを使えば……。
 作業が楽になるのではないか、と。
 例えば今、風の魔力に働きかけて風を起こせば、この臭いを除去できるだろう。それに、鍋の中身を攪拌させることだって出来る。
 そして自分が使えるのは、風だけではない。
 火の魔力を使えば効率よく加熱調理が出来て食材から旨味を出せるだろうし、水の魔力を使えば今やっている灰汁取りや脂取りも簡単に済むだろう。
 だが、
「そうなると料理の再現性が無くなってしまいますね……」
 もしそんな風に使って調理してしまえば、作業の属人性が強まってしまう。
 ユーべルコード使いでなければ、それも同じ出力を出せるユーべルコード使いでなければ、この料理が出来なくなってしまうのは避けたかった。
「だからまあ……、じっくりことこといきましょう」
 弱火の鍋の前から片時も離れず、調理を続けていく。


「……そろそろ、ですかね?」
 鍋を覗き込んでも、仄々は鼻に皺が寄らなくなっていた。
 灰汁や脂を取り続けてどれくらい経っただろうか。灰汁取りや蒸発でスープが減れば水を加え、また灰汁が出てはまた掬って水を足し、そうやって何度も繰り返した結果、
「うん、良い感じですね……」
 鍋の中には、琥珀色に澄んだスープがあった。
 小皿に掬って味を確かめ、調節するために塩と胡椒、そして、
「砕いた角の欠片、を……」
 最後、また味を確かめれば、
「――完成です」
 求めていた物が、そこにあった。


「これが……」
 食堂のテーブル、そこに供されたスープを疾風組の者達は見ていた。
「ええ、“熾天使鍋”と」
 小柄な猟兵、仄々から料理の名前を聞き、皆が少し身構えた。
「熾天使……。セラフィム、ね」
「はい。滋養強壮抜群です。疾風組さんに英気を養っていただきたいですから」
 スープに浮かんでいるのは砕かれた角の欠片で、沈んでいるのは肉と内蔵。全てセラフィムビーストのものだった。
「ああ。なら、是非頂かせてもらおう」
 皆がスプーンを手に取り、スープの中へ差し込んでいく。
 その動きで液面から香りが立つが、胡椒の香りを除いたとしても臭みは無かった。肉と脂、単純な動物質の香りはかなりの時間煮込み、灰汁や脂を取った結果だろう。
 薄い油膜の下、スープ全体が透き通っていた。
 そんなスープを掬い、口に運んでいく。熱い液が唇を濡らし、口の中へ染み込むように入って来る。
「お……」
 来た。まず胡椒の風味が感じられ、その次に胡椒に覆われていたスープそのもの風味が顔を出す。
 僅かな塩味で整えられたスープは肉と内蔵、そして骨から取り出された重厚な旨味がある。ともすれば重さを感じるほどの存在感だが、
「――――」
 苦も無く、飲み込めた。
 脂分が少ないのだ。香りの強さはあるがしつこさが無く、口の中に残らない。そして、胡椒の辛味が口の中全体をリセットしていく。
「…………」
 口の中で広がった重厚な香りが鼻に抜け、満足感があるが、まだ具材が残っている。
 長時間煮込んだことにより肉は柔らかく、弾力のある尾肉でさえも歯で容易に咀嚼できる。噛み締められていく肉の中から、旨味がどんどんと出てきた。
 そして、内臓。肉以上に多種多様なそれらを食べれば、口の中に今まで以上の香りと味が加わった。それは味わいに濃厚さを加えるものもあれば、ともすれば血のような濃い香りを立てるもの、そして、
「……っ」
「おや、苦みがありましたか? でもそれも、野生の象徴ですよ」
 共にスープを食べていた仄々が笑いかけてきたので、それもそうだと皆が苦笑する。
 そこで、はた、と一人が気付いた。
「なら、もっと苦いのを楽しもうよ!」
 そう言って取り出してきたのは、白く濁った液体が入ったグラスだった。
「! 光輪酒か」
 セラフィムビーストの尾を通っていた光輪。それを細かく砕いて溶かした酒だった。度数だけでなく苦みも強い酒だが、験担ぎとして皆が好んでいた。
「――次の無事も祈って!」
 疾風組の皆がグラスを傾け、次の瞬間には全員が笑い合う。
 場に酒が入り、一気に沸き立っていった。苦みを打ち消そうと、またスープを飲むために鍋へ向かう者もいたが、
「ん? もう残りが少ないな……」
 人数がそれなりにいる場だ。もう、鍋の中のスープは少なくなっていた。
「ああ! なら、〆としましょう」
 仄々がそう言うと、鍋に米を注ぎ入れ、蓋をする。
「〆にはやっぱりこれですよね! 出来上がるまで時間がかかりますが、その間に皆さんは楽しめる物があるでしょう?」
 視線を向けられた空のグラスを揺らし、破顔する。
「未成年の君を付き合わせて悪いが……、何か一曲頼めるかい?」
「もちろん、喜んで!」
 椅子に飛び乗った少年は、己の膝の上にリュートを置く。
 そして、
「……!」
 リュートから音が、音色が奏でられた。
 手に入れた無事と、次の航海、そして今の喧噪を彩る一曲が食堂を包んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
柊さん達が無事で良かった
ハヤテもお疲れ様!
私達を素敵な街に運んでくれてありがと
緊張が続いていたから、ゆるゆる笑顔が零れちゃう

私の知識が役に立つならハイ喜んで!
勝負エプロンをぎゅっと締めて厨房に立ちまぁす
内臓が美味なら「胃袋のカン風煮込み」なんてどうかしら?
人参と玉葱、ニンニクとセロリを加えて鍋に
林檎酒のシードルと、その蒸留酒のカルヴァドスをふんだんに使って
豚足の代わりに前脚を入れてじっくり煮込むの
濃厚な煮込みに林檎の爽やかな香りと甘みを感じられるわよ~
調理中に歓談できたらいいな

仕上げには塩茹でしたジャガイモとパセリ
そして「おいしくなぁれ」の魔法を掛けて
皆さんのお口に合いますように、はいどうぞ!




 ニコリネは自分の乗っている船、ハヤテが浮遊大陸に近づいていくのを見ながら安堵していた。
「帰って来れたのね……」
 浮遊大陸、そこにある港湾へハヤテが侵入していき、港内で徐々に減速。そして、
「――――」
 着岸。
 緩い衝撃だが、船から呻きにも似た軋みが聞こえた。
「ハヤテもお疲れ様……。私達を素敵な街に運んでくれてありがと」
「――ニコリネさん達もお疲れ様です」
 船体を撫でて呟けば、隣から声が振ってきた。それが誰かは、振り向かずとも解った。
「柊さん達も無事でよかったわ」
「ええ、同感です。全員が無事でよかった」
 船の操作を終えた柊に振り返って微笑みかけると、相手も微笑を返してくる。
 と、
「あー……。はは、ごめんなさい。何だか、気が抜けちゃって」
 緊張が解けたせいだろうか、表情が緩むのを抑えられない。
「大丈夫」
 そう言った柊が視線で周囲を示した。
「ここにいる皆が、そうですよ」
 事実、船のあちこちでは気楽な雰囲気が溢れていた。
 帰還したのだ。


 そして、食堂だ。
「……というわけですが、ご協力お願いできますか?」
「私の知識が役に立つなら、ハイ喜んで!」
 柊からの依頼を聞き、ニコリネはすぐに快諾した。もうすでに勝負エプロンに袖を通している。
 先ほどまで戦闘していたが、やる気は十分だった。食材が並ぶテーブルに近づいて、その上にある品々を吟味していく。
「そうねえ……」
 聞けば、内臓が美味だという。それに栄養もあると。
「なら、“胃袋のカン風煮込み”なんてどうかしら?」
 この世界とは別の地に因んだ名前の料理を、呟いた。
 ここには一般的な野菜も食堂には準備されているようだ。ならば、やはりそうしようと決め、食材を選んでいく。
「ええと、やっぱりまずは胃袋と、それに前足……、って大きいわね? カットされてこれ?」
 メインである胃と、出汁を取るための前足を選んだわけだが、十メートルの体躯を支えていた前足は、小分けにされてなおその太さと強靭さを伝えてきた。
「ええと、それにお野菜各種とお酒と……」
 酒はシードルと、それを蒸留させたものであるカルヴァドスを選ぶ。
「よろしければ、材料は私が持ちましょう」
「あら、ありがとう。お願いするわ」
 柊と共にそれらを持って調理室へ行けば、後は調理を始めるだけだった。


 ニコリネは厨房に立つと、手際よく調理を開始した。
「~♪」
 まず、持ってきた野菜類の中からニンジンとタマネギ、ニンニクとセロリを適当な大きさにカットすると、それを鍋の底へ。
 次に、適当な大きさにカットし、下茹でしておいた胃袋と前足を野菜の上へ乗せると、野菜と肉の二層となった鍋の中に水を入れていく。
 煮込み料理なので、シチューやスープ料理ほど水気は少ない。
「ああ、付け合わせの方も準備しておかないと……」
 野菜が入った籠の中からジャガイモを取り出し、こちらは別鍋で塩茹でしていく。
 そうしてどちらも火にかけ、メインの鍋は沸騰するのを待ってからある程度灰汁を取ると、
「あつつ……」
 熱で柔らかくなった前足を鍋から取り出し、細かく裂いていった。そしてそれをまた鍋に戻す。
 そして、
「ええと、お酒……」
「ここにありますよ。両方共ですか?」
「あ、ありがと。うん」
 柊が渡してきたシードルとカルヴァドスを、沸騰した鍋の中へふんだんに振りかけていった。二種の酒が入ったことで温度が下がった鍋は、一旦静かさを取り戻す。
 火を調節し、弱火へ。
「後はお野菜が柔らかくなるまで待って……」
 これからしばらくの間煮込むことになる。液面から上がって来るアルコールとリンゴの香りを楽しみながら、側にいた柊に向き直る。
「ねえ? 待つまで暇だからお喋りに付き合ってくれないかしら?」
「喜んで。話し上手ではありませんが」
「そう? お酒、どっちも残ってるけれど……」
「なら酒で口を滑らせる前に、渡しておきたいものがありますね」
「?」
 向こうが差し出してきたそれは、
 ……布?
 中に、何かが包まれていた。
「調理室で渡すようなものではないのかと思いますが……」
 柊が布を解き、その内容物をこちらに見せてくる。
「――――」
 それは、黄金色に輝く楕円の球体だった。
 翼持つ者が己を抱き締め、そしてそのまま固まったような姿。それを何と言うか。
「天使核!?」
「調査船のものです。最初に会った時、欲しがっていらしてたでしょう?」
「ええ。それは、まあ。……だけど、いいの?」
 天使核から視線を外し、柊を見る。
「確かに、天使核は我々も必要としています。いくらあってもありすぎるということはない」
 ですが、と。
「……もとより魔獣の天使核は討伐者の誰かが得る物です。ならば魔獣に砕かれた船の天使核は、件の魔獣が討たれた後、その者が受け取るべきでしょう」
「……解ったわ、ありがとう」
 さあ、と差し出されたそれを受け取って礼を言えば、向こうも頷きを返してきた。
 そして、
「あ、お鍋……」
 鍋の中身を確かめれば、丁度、具材に火が通ったところだった。
 付け合わせのジャガイモを剥き、粗熱を取っているうちに、スープを小皿に掬って、味見。
「……うん!」
 完成だった。


 疾風組の皆は、食堂に鍋が運び込まれてきたのを見た。
「“セラフィムビーストの胃袋のカン風煮込み”、完成でーす!」
 皿に装われたそこには、猟兵、ニコリネが言ったとおり、
「これが胃、か……」
 肉とは違う質感の具材があった。弾力のある見た目は、しかし形を崩さない程度に煮汁の中で解れている。
「付け合わせのジャガイモを入れて、上からパセリを振りかけて、最後は……」
 鍋の前で指を、一振り。
「おいしくなぁれ……、ってね。――さあ、召し上がれ」
「……!」
 皆が笑顔で、目の前にある料理に向かった。
「!」
 スプーンを煮汁に入れると、以前から香っていた香りが、スープを掬ったことでさらに鮮明になった。
 仄かに香る甘く爽やかな香りは、リンゴだ。シードルとカルヴァドスを調理室に持って行ったのが見えたが、恐らくそれだろう。
「柔らかい……」
 野菜は無論、胃が柔らかかったのだ。しかしそれは食感が無くなるほどではなく、胃を構成する筋肉特有の感覚が歯を楽しませてくれる。
 煮込み料理だ。煮込む時間が長ければ全ての食感が消えるし、またスープやシチューと違い、液量が少ない。
「……!」
 なので口の中に広がる煮汁の風味は、それらとは比べ物にならないほど濃かった。
 肉と野菜の旨味、そしてリンゴの爽やかな香りと甘み。限られたスープの中に溶け込んだ三つの味わいは、芳醇そのものだった。
「内蔵とリンゴの香りがこんなに合うなんて……」
 水と野菜の水分、そしてリンゴ酒らの混合液で作られた煮汁はそれだけで楽しめ、塩茹でされたジャガイモともよくマッチしていく。
「皆さんのお口に合ったかは……、心配なさそうね」
 パセリの香りに食欲を後押しされ、スプーンをさらに進めていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月15日


挿絵イラスト