大祓百鬼夜行㉕〜どこに行っても大ちゃんが!?
●彼女はどこにでも現れる
ゆるりゆるりと歩み寄る、和装の美しい幼子。そんなものに遭遇したとて、即座に己の死を直感したりはしない――普通なら。
しかし、その幼子が大祓骸魂であったなら、それは別である。その余りにも圧倒的すぎる『虞』は本能よりなお深いところで命の危険を想起させ、恐らくは真の姿が解放されてしまうことだろう。
ところで話はガラッと変わるのだが、東京上空に出現したカクリヨファンタズムっぽい空間、その一角にある竹林にて、光るかぐや姫の集団をぞろぞろと引きつれて歩く大祓骸魂が発見された。
さらに話が変わるのだが、夜になると一際巨大な謎の屋台が出現し、にこやかに出迎えてくれた大祓骸魂に愛情(ヤンデレ)たっぷりの各種屋台飯を腹が破れるくらいごちそうされた。
デュエリストブレイドで遊ぼうと思ったら、左腕にガショっとアレを装着した大祓骸魂に「決闘(デュエル)いたしましょう」と勝負を挑まれた。
幻朧桜の麓に行ったら、弁当とかお菓子とか飲み物とかめっちゃ用意した大祓骸魂がもてなしてくれて、「まあまあ戦いとか無視して宴会しましょうよ」とか言ってきた。
――と、まあ。
何を言っているのかわからないと思うが、予知した者にもわからなかった。
●説明不能の大祓骸魂カオス
「……おかしくね?」
死んだ魚のような目をした大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)がぼやくが、そのツッコミを受け止められる者は誰もいない。
ゆえに、あきらめて状況を説明するより他にないのだ。
「えー……この戦争の最後にして最大の敵、大祓骸魂がやっと目に見える、手に届くところに出現した。彼女の『虞』の質、量ともに規格外ってヤツで、東京上空にカクリヨファンタズムの模造空間が出来やがった」
そして大祓骸魂は、手段を選ばずUDCアース及び猟兵を攻撃しようとしてくる。
具体的にいえば、これまでの戦場で発生したカタストロフに直結するような現象が、一度に起きるのだ。そしてどういう理屈かわからないが、それらの現象を止めに行く先々には必ず大祓骸魂が待ち受けている。
そんな、各戦場に偏在する大祓骸魂を討伐する。それが今回の戦いというわけである。
「どこに行くかは、各自に任せる。自分の得意だと思う戦場に行ってくれ。それと、ついでだけど最後に一つ」
ピッと指を立て、朱毘は言う。
「通常、カクリヨファンタズムのオブリビオンは骸魂さえ討てば憑かれていた妖怪は助かるっていう仕組みがあるが……大祓骸魂は、そういう性質のオブリビオンじゃねえ。彼女ばっかりは、何をどうしても『助けつつ倒す』ってことができない。大祓骸魂を討つか、UDCとカクリヨの二つの世界が消滅するか、どっちかだ」
大神登良
オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良(おおかみとら)です。
これは「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を与える戦争シナリオで、1章で完結する特殊な形式になります。
このシナリオには下記の特別な「プレイングボーナス」があります。
『プレイングボーナス……(全ての戦場のプレイングボーナスから好きなものを選び、使用できます)』
どのプレイングボーナスを利用するのか、プレイングの中で明記してください。
オープニングにもありますが、「これ戦ってなくね?」といった戦場も容赦なくございますので、そういった戦場でのプレイングボーナスも反映されます。
普通に戦うもよし、一緒に飯食って遊ぶもよし、好きな手段で大祓骸魂を迎撃してください。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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陽殿蘇・燐
選択プレボ:⑥幻朧桜の『よその戦争を無視して宴会する!』
☆『悪女NPC(ラスボス)だったけど、猟兵になってみた』第一回放送☆
(UCと高性能スマホで中継開始)
…たいっへんな時期に猟兵になった私(なったの5/27)。しかも大詰めもいいところ!
なのに…不思議なことに桜が咲いてて、そこにこの戦いのラスボスがいて花見宴会に誘ってきたと。
というわけで、折角なのでラスボス同士で宴会しようと。
はい、ゲストの大祓骸魂様ー!
なるほど、カクリヨファンタズムには、一年中桜が咲いてる場所があると。そこを反映したのがここ、と。
驚きなのよね、キマフュでもなかなかそういうのないから。
あ、このお酒美味しい。花見団子もおいしい。
空亡・劔
共闘OK
この最強の大妖怪である空亡劔を差し置いての大百鬼夜行とは生意気よ!
真の姿
大祓骸魂と同様の赤き太陽を背にした姿
それはそれとして
戦争を無視して桜の木の下で宴会よ!
所であんたの好きなものは?
あたしは拉麺よ
醤油も塩もいいものね(一緒にずるずる
之だけ恐ろしい事が続いても月と桜はきれいなものね
そういえばあんた物凄い昔に生きてたって言ってるけど当時って何か流行とかおいしいものって何かあったの?(用意されたお菓子をつまみながら
んー…(程よくおなかが膨れたところで所で膝ぽんぽん
あんた意外とちびっこいのね(抱っこ
あ、お煎餅食べる?
(一枚を割って二人でぽりぽり
不思議なものね
最後
【天候操作】で朝を迎える
●ラスボスと元ラスボスと最強大妖怪
魂と肉体を癒やす力を持つ幻朧桜が咲き誇る常春の空間、幻朧桜の丘。
実際の幻朧桜の丘は既に猟兵によって征圧済みであり、大祓骸魂がそこにいるはずはない。つまり、大祓骸魂がいるという時点で、この場所は偽りのものであることがわかる。
模造されたカクリヨファンタズム。丸ごと一つではなく要素を抽出した代物ではあるようだが、そんなものを生み出し得る『虞』というのが一体どれほど強大なのか。
想像もしたくない。が、実にそれを行った存在が目の前にいる。
「……たいっへんなとこに来ちゃった私」
黒い長髪に黒い和服と黒ずくめ、雰囲気だけは『それ』っぽいが実は新米猟兵という陽殿蘇・燐(元悪女NPC・f33567)は、撮影用ドローンをふよふよと操りつつ表情を強張らせていた。
ドローンのカメラが捉えているのは、にこやかに微笑しつつブルーシートの上に鎮座する大祓骸魂。この戦争のラスボスであり、この戦争で登場したどのオブリビオンをも凌駕する、間違いなく最強の敵。
ただ幸いなのは、彼女が提案しているのは単なる花見であって、戦いではないということである。しばき倒されたり折りたたまれたりする心配がない環境で大物と接触できたのは、むしろ幸運といえるかもしれない。
「……そう、記念すべき第一回放送なんだから、ゲストが豪華なのは喜ばしいことよ。それに私だって元ラスボス、何も臆することなんかないわ!」
語尾がなぁ~んとはならずに燐が決意を新たにしているところ。
その横にいる空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)は赤墨で描いたような日輪を背負った姿になりつつ、微妙に不機嫌な顔つきをもって大祓骸魂をにらみつけていた。
そして。
「この最強の大妖怪である空亡劔を差し置いての大百鬼夜行とは、生意気よ!」
「いっ!?」
大祓骸魂にびしりと指を突きつけて怒鳴った劔に、燐が絶句する。およそ一介の猟兵でしかない劔が、よりにもよって大祓骸魂に対して放つ台詞としては、勇敢を通り越して驕傲に過ぎよう。
「あらあら」
しかし大祓骸魂は怒るでも呆れるでもなく、袖で口元を隠しつつ微笑んだ。
「では、最強の大妖怪をここに足止めできるということですね。これは重畳」
「むっ……」
「まあ、今は戦いのことはひとまず置いておこうじゃありませんか。さ、こちらに」
燐と劔は拍子も毒気も抜かれ、手招きされるがままにブルーシートに腰を下ろした。
●『悪女NPC(ラスボス)だったけど、猟兵になってみた』第一回放送
「癖のない麦焼酎を緑茶で割ったものです。甘いお団子にもよく合いますよ」
「あ、本当。おいしい」
大祓骸魂に勧められるままに、燐は三色団子と酒とに舌鼓を打つ。
一方、未成年ゆえに酒は飲めない劔は、いかにも屋台売り然とした発泡どんぶり入りの塩ラーメンをすすっていた。
空間自体が大祓骸魂の虞によってできた代物だからか、宴席のメニューはおおむね彼女が自由にあつらえることができるようだ。そのくせ店屋物風の普通のラーメンどんぶりでないのは、花見の空気感を大祓骸魂が考慮したのだろう。
不気味なほど甲斐甲斐しく球児に徹している大祓骸魂を見やり、ふと劔は言った。
「ねえ、あんた自身は好きな食べ物とかってないの? 物凄い昔に生きてたらしいけど、当時って流行っていうか、特においしい物ってあった?」
「お、ナイスインタビュー! 私も気になる!」
燐も一緒になって言いつつ、大祓骸魂に顔を寄せてくる。大祓骸魂の無害ぶりゆえか、若干の酒気帯びゆえか、当初と比してその態度は砕けつつある。
「そう言われても、私は愛するUDCアースの食べ物なら何でも好きですし。流行のおいしい物、というと……ああ」
すっと目を細めて微笑し、大祓骸魂は劔にぐい飲みを差し出した。
見ると、中には甘酒めいた白い液体が入っている。
「醍醐です。醍醐味の語源となった物ですね。お酒ではありませんので、どうぞ飲んでみてください」
「え、いいの?」
醍醐味、つまりは至上の美味とされるもの。
劔は早速ぐい飲みを受け取り、醍醐を口に含んでじっくり味わい……そして、微妙な表情を作った。
「風味のないヨーグルトみたい、とか思ったでしょう」
「う。ええっと……」
大祓骸魂の台詞に、口ごもる。
「実はそれは私が作った模造品なのですが、味も形も再現できていません。私も忘れてしまったので」
相変わらずの微笑――のようで、変わったようにも見える。どこか、哀しげな色を含んだ表情に。
「忘れる、忘れられるとは、そういうことです」
「…………」
だからどうだと彼女は言わなかったが、燐にも劔にも知れる。愛する存在を殺してまで、骸の海での永遠を望むのはなぜか。その答えの一端が、そこにあると。
劔は何とも知れぬ衝動に駆られ、ひょいと大祓骸魂を抱き上げて己の膝の上に載せた。
「意外とちびっこいのね、あんた」
「そうですか?」
他愛ない言葉を交わす二人を見やる燐は、ふと改めて幻朧桜の方へと目を転じる。
「……桜、綺麗ね。一年中桜が咲いてるなんて、キマフュでもそんなの見かけないから、驚き」
その言葉に釣られるように、二人も桜を眺める。
そんな三者の様を見て、彼女たちが不倶戴天の敵同士だなどと、一体誰が看破できるだろうか。
大成功
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ルパート・ブラックスミス
プレイングボーナス『子供を救出し、代わりに懐かし遊びを受けて立つ』選択
用意されるのは座布団とヘルメット、丸めた新聞紙を2つずつ。
遊びの内容は「たたいて・かぶって・ジャンケンポン」。
考案した番組が1970年代らしいのできっと懐かしい遊び。
自分と敵の一対一だが、敵がUCで妨害する可能性がある。
UC【錬成カミヤドリ】の複製鎧を展開。
本体や、いる場合は子供たちを【かばう】為に待機。
100騎の鎧の【存在感】は【威圧】行為ではと?
言いがかりだ、本体と寸分違わぬ姿が周りでガタガタ動くだけだ。
東方親分にも託された。
二つの世界の明日の為に。いざ【決闘】だ、大祓骸魂。(凄く真剣)
ジャンケン、ポン!!(凄く真剣だ)
●救出の代償
取り壊されそびれた建物の一部なのだろう、ドアの付いた壁十メートル四方の壁が、空き地のど真ん中にそびえ立っている。ドアを開けたところで、何も区切られてもいない向こう側にただ通り抜けるだけ。無駄なる建築物トマソン――の、はずだった。
しかし、その日その時ばかりは違った。ドアを開けた向こうが不意に野球場並みに広い空間に接続していたのである。
そこには、和服を着込んだおかっぱ頭の少女に誘われたという子供たちが、何人も閉じ込められていた――といって、手足を縛られて転がされているといったような状態でもなく、その少女と一緒になってお手玉やら毬突きに付き合わされているだけではあるのだが。
とはいえ、そんな一見平穏な光景も『今のうちは』だけだろう。
いずれ子供たちは取って食われるだろう。少女――大祓骸魂が模造したこの空間は、そういう性質のものだ。
そこに、ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は入っていった。【錬成カミヤドリ】によって複製した、己の現し身のような黒鎧の集団を引きつれて。
「あら、まあ」
ルパートに操られた黒鎧たちは、非人間的なほど統率の取れた一個の騎士団のようなものだ。それら取り囲まれ、大祓骸魂は目を丸くする――ただし、さして焦った風でもなかったが。
「力づくで押し込めると思いましたか?」
「いや、ちゃんと懐かし遊びに付き合うとも」
言いつつルパートは、黄色い半ヘルと丸めた新聞紙を並べた。
「なるほど、叩いてかぶってジャンケンポン……確かに懐かしい遊びの範疇ですね」
大祓骸魂が座る。
「いざ決闘だ、大祓骸魂」
対面に座し、ルパートは手を振り上げた。合わせて、大祓骸魂もゆるりと手を振る。
「ジャンケン、ポン!」
ルパート、グー。大祓骸魂、チョキ。
刹那、ルパートは新聞紙をつかむ――が。
「……っ!」
「遅いですね」
既に半ヘルをかぶった大祓骸魂がくすくすと笑う。
「選ぶ遊びを誤ったようですね。ジャンケンで勝ったところで、あなたでは私を叩くのは不可能。そしてジャンケンに負ければ、防ぐのは不可能。詰んでいますよ」
「まだだ……!」
新聞紙を置いたルパートが、再び手を振り上げる。
「東方親分にも託されたのだ。二つの世界の明日を!」
「だから勝てる、とでも? そんな理屈もありませんでしょうに」
「やってみなければわからないということだ。ジャンケン――!」
「ぽん」
ルパート、チョキ。大祓骸魂、グー。
全霊の速度をもってルパートは手を伸ばすが、その指が半ヘルに触れるより先に、ポンと優しく頭に新聞紙が当てられる。
「――っ!」
「やはり、私の勝ちですね」
微笑する大祓骸魂を、ルパートはしばし歯を軋らせてにらむ。が、やがてふっと吐息を漏らした。
「負けるが勝ち、ということもある」
「? 何を……はっ」
大祓骸魂は気配を探り、そして理解した。黒鎧たちが取り囲んで彼女の視界を塞ぎ、ルパートが大祓骸魂を引きつけている間に、子供たちは密かにことごとく逃がされていた。
「……してやられましたか」
微笑の形であった口の端を引きつらせ、大祓骸魂は新聞紙を引きちぎった。
成功
🔵🔵🔴
緋月・透乃
※プレイングボーナス【狭い橋の上でうまく戦う。】
ふむー、映画とかだと東京は色々な危機にあいがちだけらど、今の状況もそれらに負けずやばいことになっているねー。流石大祓骸魂ってことかな。
それほどの相手となると、どんな戦いができるのか楽しみだね!
戦場はあの狭い橋にしよう。敵のユーベルコードは数が多いほど強くなる。けれど狭い橋なら数に頼った戦い方はしにくいはず。
狙いは単純に敵を【ひょいっと】掴んで橋の外に投げ捨てる。これで敵の数を減らしてユーベルコードの弱体を狙おう。遠距離攻撃には持った敵を盾にするよ。
敵の数が減ってきたら、持ち上げた奴を武器にして殴り合いに持ち込むよ!
●弁慶千本刀狩
カクリヨの川に時折唐突に架かる、黄泉へとつながるといわれるまぼろし橋。
大祓骸魂による模造品に過ぎぬはずのそれだが、どうやら渡った妖怪が死に至るという効果はそのままらしい。
だが、誰がそれを渡ってしまうよりも先に、緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)が駆けつける。
「ふむー、映画みたいな大ピンチを現実に起こしちゃうんだもんねー。流石ね」
奥の欄干に行儀悪く尻を乗せている大祓骸魂を見据え、透乃は言う。
微笑をたたえた大祓骸魂は答えず、指をパチンと鳴らす。
それに応じ、橋の奥からぞろぞろと異形の集団が現れる。三つ目の大入道、槍を担いだ二足歩行の犬、角の生えたカラスなど、数を数えるのも馬鹿らしくなるほどの人海戦術――いや、妖怪海戦術。
大祓骸魂に従っているというべきか、操られているというべきか、ともかく【大祓骸魂百鬼夜行】を成すカクリヨオブリビオンたちである。
多少腕に自信のある者であっても、肝を潰してしかるべき光景だが、しかし透乃は獰猛に笑みを浮かべて拳をぽきぽきと鳴らした。
「楽しみだね」
強がりの空元気ではなく、本心からの台詞である。虞知らずの心を得ているからというのもないではなかろうが、彼女自身の資質によるところが大だろう。
先手は、槍をしごいて突進する犬。
透乃はその柄を【ひょいっと】つかみ、ぽいと無造作に川に投げ捨てる。
次いで大入道の胸ぐらを自らつかみに行く。怪力と体重が自慢の大入道ではあったが、「ふん!」と呼吸一つで頭上に持ち上げられ、やはり川にぶん投げられてしまう。
その後も次々にオブリビオンらが殺到してくるが、透乃はちぎっては投げちぎっては投げる。
「ほう」
感心したように、大祓骸魂が吐息を漏らす。
数に勝つ百鬼夜行に一度囲まれてしまえば押し潰されてしまいそうなものだが、透乃は狭い橋の上で巧みに立ち回り、常に一対一かそれに近い状況を作り出していた。
笑みを深めた大祓骸魂は欄干の上に立ち、たん、と跳んで透乃の方へと近寄る。
「――!」
それを視認した透乃は、今にも火を吐こうとしていた提灯お化けを引っつかむなり、宙にある大祓骸魂目がけて投げ付けた。
炎の魔球と化してかっ飛ぶ提灯お化けを、しかし大祓骸魂は蛇の目傘で軽くいなし、欄干の擬宝珠の上にちょんと着地した。
「剛力無双の武蔵坊弁慶は、牛若丸に敗れました」
「だから何? 私は緋月・透乃!」
今度はろくろ首をつかんで引き寄せ、鎖分銅よろしくぶん回してから投げ付ける。それを今度は跳躍して回避し、大祓骸魂はたたんだ傘で透乃に袈裟懸けに殴りかかる。
ごっ! と、透乃の左肩に恐ろしい衝撃が走った――しかし、歯を食いしばってそれに耐えた透乃は、抱え込むようにして傘をつかんでいる。
「デタラメね、あなた」
「あんたには言われたくないよ!」
透乃はつかんだ傘ごと大祓骸魂を振り回し、欄干の柱に彼女を叩きつけた。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
出たな大祓骸魂!
今こそお前を…ん?
今何でも良いって言った?
何でも良いって言ったよね??
もー、そうならそうと言ってよね
大ちゃんも説明下手なんだからー
よっしゃそれじゃあやりますか…大ちゃんの奢りの豪遊ってやつをさ!
お金で買える物を買いまくったらパワーアップ出来るんでしょ?
じゃあ、今回は大ちゃんの奢りで一杯買うけど良いよね、良いよ、ありがと!
とりあえずさ、私メカニックだから電子部品とか買い貯めとかないといけないんだって
だから猟兵のお賃金もすぐ無くなっちゃってさあ…
とりあえず、このお高い基盤とCPUは買って…
あと関係無いけど奢りだしグラフィックボードも買うね
最近高いし、一番高いの買うね
いよっ太っ腹!
●泡沫の夢
大祓骸魂によって模造されたバズリトレンディ御殿は、本家のそれと遜色ないか、あるいはそれ以上の勢いでもって札束やら硬貨やらを吐き出していた。
大祓骸魂は御殿の玄関のひさしに腰掛けつつ、悠然と下界をその様を見下ろしていた。
そんな大祓骸魂を討伐すべく駆けつけた月夜・玲(頂の探究者・f01605)は、メカニカルなデザインの漆黒の大鉈を構え、息巻く――が、対する大祓骸魂がふと告げてきたある言葉によって、その態度が変化した。
「今――」
鍔を嚥下し、玲は問いただす。
「何でもって言った?」
「言いました」
「じゃあ、あなたの奢りで一杯買って良いの? 豪遊して良いの?」
「良いですよ」
「んもー! それならそうと言ってよ大ちゃーん!」
両目を『$』にした玲が、裏返って引っ繰り返って甲高くなった声を上げる。ついでに大祓骸魂への態度と呼びかけがマブダチレベルの馴れ馴れしさになる。
何でもそうだといってしまえばそうなのだが、メカの世界は金を呑む沼だ。札束で叩けば燃費が良くなるなどというものではないにせよ、基本的には金額に比例して性能と安全を買える。オブリビオンと戦うに当たりメカに命を預けている玲としては、ケチるわけにいかない部分でもある。
もっとも、猟兵として十二分な収入があるはずの玲が時に金欠にまでなってしまうのは、実用から一歩離れたメカの収集にまで手を伸ばしているからでもあるのだが。
「高性能CPU、それに基板……最近高いし、一番高いグラフィックボードも買うね」
こだわる必然性の薄いグラボまで欲張って、がっしょがっしょと最強コンピュータを組み上げていく。遠慮会釈もなく――まあ、状況的にその必要がないのだから当たり前ではあるのだが――出費を重ねていくが、それでも御殿から吐き出される大枚は尽きる気配を見せない。趣味を同じくする者が見れば、血の涙を流して悔しがることだろう。
「いよっ、太っ腹!」
そう玲にはやし立てられた大祓骸魂が、にこにこしながら告げてくる。
「ところで、この場所は私の『虞』でこしらえた模造空間です」
「うん」
「この湧き出るお金、そして購入して手に入った物品、これらも全て私の『虞』による模造品です」
「うん。うん?」
「ですから、この場から一歩でも外に出たら消えてなくなりますからね」
「――……」
上げられて、落とされる。
ただ落とされるのと比して万倍のダメージを受けた玲は、膝から崩れ落ちた。
「もてあそんだな……もてあそんだな、大祓骸魂ぁぁぁ!」
悲痛な金切り声をほとばしらせる玲の明日は、果たしてどちらにあるのだろうか。
成功
🔵🔵🔴
メイスン・ドットハック
【SPD】
こいつは何ともカオスな空間を作り出しておるのー
じゃけどちょうどいいとも言えるのー。鎮守塔と同じ装置があればいけそうじゃのー
PB:霊的防衛装置を駆使して塔を守る
塔を守る為に設置された封印御札発射装置を電脳魔術で遠隔起動させて、大祓骸魂の動きを一時的に止める
その間にUC「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」を発動させ、懐刀を受ける
その刃を解析して、「時間経過と共に鈍になっていく変質レーザー射出装置」を創造しレーザー砲ユニットに装備
それを懐刀に撃ち込み性質を相殺し、一気に斬り込む
そのまま肩からミサイル・榴弾を撃ち込みつつ、レーザーを叩き込む
性質を理解できれば、僕にできんことはないからのー
●鈍
「何とも不可解じゃのー」
メイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)は首を傾げた。
骸魂の影響を受けた鎮守塔の百霊灯籠の光は、カクリヨを焦土にし得る。オリジナルの鎮守塔は八割方猟兵によって攻略されたからひとまず心配ないとして、大祓骸魂によって模造されたこの塔もどうやら同じ事が出来るらしい。
奇妙なのは、霊的防衛装置まで再現されていることだ。大祓骸魂が『虞』をもって模造した物ならば、彼女にとって都合のいい仕組みだけを再現すればいい。猟兵が己を妨害する装置まで再現するのはおかしい気がするのだが。
まあ、事情は何でもいい。利用できる物は何でも利用するまで。
ゆるゆる歩む大祓骸魂が、同じフロアに現れる。
それを視認したメイスンがキーを叩いた刹那、大祓骸魂の真横の壁に格子状の凹凸ができ、スライドする。生まれた隙間から、数千を数える封印札の紙吹雪が吐き出された。
大祓骸魂は顔色一つ変えず懐刀【生と死を繋ぐもの】を数百も複製し、己の身の回りを超速で旋回させた。刃の蓑虫のようになったそれは、殺到する紙吹雪を全て払う。
さらに、中の数本がひょいとメイスンに向けて射出される。
メイスンは側に控えさせていたキャバリアの陰へと滑り込んで操作コンソールを叩き、両腕のレーザー砲から放射するようなビームを放たせた。精密に狙うものではない電灯の光のようなものであって、懐刀を押し返すような圧などない。
光の中を突き進んだ懐刀は清盛の装甲にガンガンと当たる――が、毛ほどの傷も刻まず床に落ちた。
懐刀の刃ことごとく、清盛のレーザーによって鈍にされていた。
「【彼を知り己を知れば百戦して殆うからず(ブレイク・メイカー)】――性質を理解できれば、僕にできんことはないからのー」
メイスンの台詞に、しかし、大祓骸魂は焦る様子もなく。
「言っていたと思ったのですが……この懐刀は、元より鈍です」
同時、メイスンの持っていたコンソールが警告音を発する。傷一つ負っていないはずの清盛の機能の一部がダウンしたのだ。
「な――!?」
「誰でも何でも殺すことができるのは、刃の鋭さゆえではありません」
淡泊に告げた大祓骸魂は、残った懐刀の大群を操って殺到させる。
「ッ!」
メイスンは無事な清盛のミサイルランチャーを稼働させ、残弾が尽きるまで吐き出すようコマンドする。上手に標的を定めるなどという面倒な命令をしている余裕はない。
途端、間断なく発生した爆風と猛炎が狂熱の壁を成した。隙のなかったはずの懐刀の弾幕が風圧によってこじ開けられ、ミサイルそのものは通さないものの、爆炎が大祓骸魂に向かって噴出する。
「むっ……」
顔面に猛炎の直撃を受け、大祓骸魂は無残な火傷を負った……が、汗でもぬぐうように手の平で一撫ですると、元の綺麗な微笑顔に戻った。
「彼を知らず己を知れば一勝一負す。痛み分けができる程度には自分をご存知でしたか」
感心したような馬鹿にしたような台詞を聞いたメイスンは、小さく舌打ちした。
成功
🔵🔵🔴
フィランサ・ロセウス
ああ、ああっ!全身がゾワっとする程の強い想い!
“好き”よ!だから余所見なんてしないで私を見て!
ここで殺(あい)されるべきは貴女、きっと私の心の中で永遠になるの!
利用するのは【⑲踏切が終わらない】
まずは向こうの攻撃をよく観察して見切ったり、武器で受けて被弾を避ける
呪詛と激痛の耐性に加えてUCによる強化があるから、多少は貰ったって平気なはずよ
そうして攻撃の隙を伺って、チャンスが来たら大祓骸魂の身体をフックシューターで絡め取るわ
うまく捕まえたら、そのまま力任せに踏切の中に投げ入れて妖怪電車にぶつけてあげる♥
まだ立てるなら、何度だって同じことをしてあげるわ!
私と貴女、どっちが先に壊れちゃうまでね♥
●ブラッディーランデブー
しゃなりしゃなりと大祓骸魂が歩むたび、その足跡から彼岸花が伸び、花を開かせる。
その光景を見る者の感情は、『美しい』より『恐ろしい』が勝つ。紅蓮の炎のような花々は、大祓骸魂の圧倒的な『虞』を糧として咲く【虞神彼岸花】であるがゆえだ。
それが道理であるはずなのだが、対峙するフィランサ・ロセウス(危険な好意・f16445)の表情は恍惚としていた。
「ああ、“好き”よ!」
情熱的、というよりは狂的な声色をもって、フィランサは絶叫した。
「余所見なんてしないで私を見て! ここで殺(あい)して、私の心の中で永遠にしてあげる!」
「――……」
大祓骸魂は答えず、自らの指先に口づけをして、ふっ、と吐息を掛ける。
投げキッスのような仕草。それは途端に真紅の粉煙めいた形で目に見えるモノと化し、真っ直ぐにフィランサの方へ飛来する。
狂気のフィランサではあったが、それを喰らえば『死』とは理解できる。後方に跳びつつ回避し、拳銃型のフックシューターからワイヤーを撃ち出した。
狙い過たず、大祓骸魂の腕にワイヤーが絡み付く。
「あは! つかまえ――」
そのまま力任せに振り回――そう、としたが、びくともしない。足裏に根が生えたような、などという言葉では生温い。鋼鉄の巨山さながらの重さがフィランサの腕に伝わった。
フィランサがどうにもできずにたたらを踏むと同時、大祓骸魂が穏やかに告げる。
「こんな姿形でも大祓骸魂」
あべこべに力ずくで引き寄せられ、フィランサは内臓を丸ごと置き去りにされるような不快感とともに宙を舞った。
「正面からの力比べで、猟兵たった一人に後れを取るわけないでしょう」
いっそ優しげな所作で顎先に大祓骸魂の手を添えられる。そこを支点に反転させられた勢いによってフィランサの体が仰け反らされ、足が一瞬にして天を向く。そのまま超速で後頭部から地面に叩きつけられ、ごきゃ、と鳴ってはいけない音がした。
死ぬ。
普通なら。しかし。
「えへへぇ」
「――!?」
【燃ゆる恋の炎(センスサルデレ)】の桃色のオーラに身を包んだフィランサは、妙な方向に首を傾げたまま、大祓骸魂の首に強引に腕を回して抱きしめた。
「ひどいじゃない……ひどすぎて、最高! ますます“好き”になっちゃったァんっ!」
先刻と比べものにならないほどの剛力を発揮したフィランサによって、もつれ合った両者がぐらりと傾ぐ。
傾いで投げ出された先は、線路上だった。
何者も――大祓骸魂さえも防御も回避も許されない速度で、妖怪電車が迫る。
「……ファッ○」
幼女めいた見た目にそぐわぬ言葉を吐き捨て、大祓骸魂はフィランサごと電車にはね飛ばされた。
成功
🔵🔵🔴
シリン・カービン
⑥【よその戦争を無視して宴会する】
桜の散る様を愛でながら茶や酒を傾ける。
風流、と言うのでしたか。この世界では。
着物姿で桜を見上げ、徳利を置いて座ります。
美しい紋のガラスのお猪口を二つ並べ、
「一献、いかがですか」
大祓骸魂に勧めます。
特に語ることは無く、差しつ差されつ、
盃を交わします。
品の良い呑みっぷり。
桜を見やる柔らかな視線。
時折聞こえる喧騒に緩める頬。
その姿は、偽りなくこの世界を愛してることを感じさせます。
私は猟師。生命の循環を生業とする者。
彼女の永遠を認めることは出来ません。
ですが、今このひと時は、共にこの世界を愛でることが出来る。
彼女は、この時間を喜んでくれるでしょうか。
さあ、もう一献。
伊吹・龍香
劔(f28419)と行動
宴会に一緒に参加するのだが
うちは大ちゃんのこと全然知らへんし食いまくるで!!
おー…いろいろ見たことないもん多いなぁ?
って意外と美味しい!?
ほれほれふたりともこれ食べてみぃ!
ほんまにおいしーから、なっなっっ!!
と、完全に対応を劔に任せ自分は宴会での料理を食べまくり時折すごく美味しかったものを二人に進める魔王様
アドリブOK
空亡・劔
アドリブOK
同行
龍香(f31688
神殺しの魔王発現
だが…
⑥
宴会継続!
今回は担々麺を用意
…ええと…大ちゃん(大祓骸魂)に龍香!一緒に食べるわよ!
うん中々美味しいものでしょ?
龍香が進めるのも美味しく食べて龍香にも勧め
確かあんたが好きだったおやつ…
それは難しかったけどこれならいけたわ!(牛乳から蘇を作った
なんか作り方が凄い出回ってたの
と言う訳で蘇を一緒に食べるわ
醍醐程じゃないけど結構いけるでしょ?
桜はきれいね
ねぇ大ちゃん
永遠にそばにいたい
それはきっと誰もが願う想い
でも…変化し続ける事もきっと素敵なことなのよ
新しいものが見れるのはとても楽しいわ
最後
【天候操作】
太陽を昇らせ
ね、皆で夜明けを見るのよ
●夜明けには葉桜が
朱色の金魚が踊っている。
そう見えたのは、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)の纏った和服の柄だ。白地に金魚をあしらわれた袖をゆらゆらと振りながら、手に持った物を掲げていた。右手には、透明な液がたっぷり入っているのがわかるガラスの徳利。左手には、指に挟むようにして美しい紋様の入ったお猪口が二つ。
「一献、いかがですか?」
声を掛けた相手は、ブルーシート上に座る和装の少女。見目でいえば十を過ぎたか過ぎないか程度の者へ向ける台詞としては、不似合いかもしれない。
しかし、彼女は重ねた年齢を数えることさえ不可能なほどの古き究極妖怪・大祓骸魂。誰に飲酒を咎められるようなこともあるまい。
「是非に」
言って、大祓骸魂は顔をほころばせた。
「おー……これ、飲んだことない酒やな」
伊吹・龍香(鬼龍の魔王・f31688)は、そう言ってうなる。
飲んだ印象は、清流の水に似るとでもいおうか。無味無臭かといえばそうではなく、限りなく軽やかな口当たりと同時に爽やかな味わいが舌一面に広がる。それらは喉奥に抵抗なく滑り降りると、ぼやけた後味もなくキリリと潔く消え去ってしまう。
「ほんまにおいしーで、これ! ほれほれ、劔……は、あかんか」
「うん、無理」
水のように飲みやすかろうが酒は酒。実は未成年な空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)が飲むわけにはいかないのである。
「惜しいなぁ。酒は花見の醍醐味やのに」
言いつつ龍香は、黒い陶器のぐい飲みに再び口を付けた。シリンが持ち込んだお猪口は、シリン自身と大祓骸魂用の二つだけだったが、そこは大祓骸魂の『虞』に依って立つ空間、彼女が念ずれば器の一つや二つはポンと出る。
「世の中にはお酒しかないわけじゃないわ。担々麺作ってきたわよ!」
言うと、劔はドンと大きな深皿を置いた。
誰がともなく、「おお」と感嘆の声を上げる。レモンイエローの麺に囲まれた、いかにも辛しょっぱそうな色合いのひき肉の塊が見え、スパイシーな香りも相まって食欲が刺激された。
「いただきましょう」
めいめい、配られた小鉢によそって、ずるずるっとすする。
コシのある麺に歯が喜び、後から追い掛けてくる辛旨な肉そぼろに舌が喜ぶ。かめばかむほどに心地良い刺激が口内に弾け、取り憑かれたように次を求めてしまう。
付け加えるなら。
「進んでしまいますね」
シリンは困ったように微笑し、お猪口を傾けた。辛味にひたされた舌が清水のごとき酒に洗われて、なお一層の清涼感を味わえる。罪深いまでの相性の良さだった。
「それから、醍醐味で思い出したんだけど……」
劔はちらりと、大祓骸魂を見やった。
「ええと……大ちゃん」
「?」
担々麺を頬張っていたため物言えなかった大祓骸魂は、首を傾げることで応じた。
「あんたが好きだったっていう醍醐は難しかったけど、これは作り方が凄い出回ってたから、いけたわ。もしかしたら、やっぱり違うのかもしれないけど」
劔が皿を置く。
その上には、大きな卵焼きのようなたくあんのような物体が、厚切りにされて十ほども載っていた。
んぐっと担々麺を嚥下した大祓骸魂は、それをまじまじと見てから、驚いたように言う。
「これは、蘇ですか」
「うん」
牛乳から作られる、現代でいうところのチーズに近いもの。醍醐の素になったともいわれ、やはり美味なるものとして珍重された逸品である。
「食べてみてよ。味見はしたけど、結構いけると思う」
「……いただきます」
楊枝を刺し、口に運ぶ。そして目を閉じ、ゆっくりと味わう。
無言である。が、その味をどう感じたのかは、淡く解けたような表情を見ていれば大体のところはわかる。
「うちも食べてええ?」
「もちろん」
劔がうなずくと、龍香は蘇をぽいと口に放り込み、もっちもっちと豪快めに咀嚼する。
「上品なチーズって感じやな。そんな味が濃いわけやないけど、これも酒が欲しくなる」
「そういうもん?」
飲めない劔には、その辺りの感覚はわかりづらいものがある。自分が合わせるなら、果汁感の強いフルーツジュースなどだろうか、などと思っていた。
「ふふ……これほどお気遣いいただけるとは思ってもみませんでした」
閉じていた目を開き、大祓骸魂が微笑する。
「では、今度はこちらの番ですね」
大祓骸魂がパチンと指を鳴らすと刹那、ブルーシート上に重箱やら皿やらが展開された。
一口サイズのサンドイッチ。肉巻きおにぎり。唐揚げにローストビーフ。卵焼き。チーズとプチトマトの載ったクラッカー。さらに、桜餅に桜色の落雁、巨大な魔法瓶に温かいほうじ茶も。
「おおお……」
猟兵たちの目が輝く。花見の弁当としてはおおむね定番であったり、あるいは中には珍しいメニューもある。極端に高級という印象まではないものの、まず『ごちそう』と称して良い、料理の数々である。
「おっしゃ、食べまくるで!」
テンションの高い声で龍香が言い、箸を閃かせる。
それからしばし、四者四様に食を愉しむ時間が過ぎた。
「風流、と言うのでしたか」
風に乗って桜の花びらが舞う様を眺めながら、シリンがつぶやく。
その脇にちょんと座る大祓骸魂もまた、茫洋とした表情で桜を眺めていた。
「風が流れると書いて、風流……」
ふっ、と吐息を漏らす。
「現世の人々は、留まるというのが嫌いなのでしょうかね」
「……さて。別にそこまで嫌いというわけでもないとは思いますが」
シリンは首を傾げた。
桜の花が特に好まれる理由として、単純に色や形が美しいからというだけではなく、その散り際の潔さが美意識に響くからというのもあるといわれる。してみると、美しく咲いた姿が永遠に留めおかれるというのは、さして響かないということになりそうではある。
しかし一方、常緑の樹木などを永遠を象徴するおめでたいものと見なし、ありがたがるという文化もある。一概に、留まることを毛嫌いするだけでもない。
「ねぇ、大ちゃん」
不意に、劔が大祓骸魂の背後から、のしっと抱きかかえてくる。
「例えば家族とか友達みたいな、大事な人と永遠に良い関係でいたいとか、ずっと一緒にいたいっていう願いは、誰でも持つものだと思うの。でもそれだけじゃなくて、変化して新しいものが見えるようになるのも、とても楽しいものだと思うの」
「……ふむ」
花吹雪を成す桜を見上げつつ、大祓骸魂は納得しているようなしていないような生返事をしつつ、微笑を浮かべる。
大祓骸魂が心から世界を愛していること自体は、偽りのない事実なのだろう、とシリンは思った。字面だけでいえば、その感情は世界を守るために戦う猟兵らと、同じであるともいえる。
だが、彼女の目指す永遠は、自分たちとは相容れない。生滅を連綿と繰り返して続く世界。あるいは世界そのものも天寿を全うしていずれ滅するかもしれない。漠然とそんなものを覚悟している自分たちのような思考は、大祓骸魂は理解できないかもしれない。自分たちが、骸の海での永遠などというものが魅力的には思えないのと同様に。
それでも、せめてこの一時は、同じ世界で同じ物を見て美しいと思うくらいのことは。
「――?」
ふと、光景に違和感を覚える。
桜が散るにつれ、桜色の花弁が減っていく。代わりに、青々とした葉の緑の面積が増えていっているような。
常春の幻朧桜に、そんなことが起きるのか?
そう、シリンが思った刹那。
ことん、という音が、大祓骸魂の方からした。
正確には、彼女が『いた』方から。
「――え!?」
劔が驚いた声を上げる。
抱きしめていたはずの大祓骸魂の姿がいつの間にか消え、彼女が持っていたシリンのお猪口が落ちていた。
「――……」
桜の花弁が一片、お猪口にひらりと舞い落ちる。しかし、瞬きする間にそれも消える。
「……どうやら、宴はお開きのようですね」
桜の宴も、永遠ならず。それは道理。
寂寥を胸に抱きつつ、シリンはお猪口を拾った。
それから葉桜の残った空間さえ綺麗さっぱり消え去るまで、そう時間は掛からなかった。
結局、彼女が最期に何を想ったのかはわからない。
ただ確かなのは、淡い微笑だけを遺して大祓骸魂が逝ったということだけである。
大成功
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