大祓百鬼夜行㉑〜鳥が歌うは誰が為に
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今日も「いつか外に出るための練習」をするはずだったのに、何だか周りが騒がしい。
賑やかなのは好きだけど、騒がしいのは好きじゃない。
昔いた鳥籠みたいで嫌なんだ。
でもそれ以上に……皆の様子が気がかりだった。
シュウゲキとかケガニンとか、嫌な響きの言葉を紡いでいるから。
ねえ、どうしたの。
訪ねようとした瞬間――飛び込んできたのは、真赤な化物だった。
化物は周りに炎をばら撒きながら、私の方へと近付いてきてる。
怖い。気になる。色んな感情が胸の内に渦巻くけれど、一番強く思ったのは――。
職員さん達を傷つけるなんて、許せない。
だから私は思いっきり息を吸い込む。
歪んだ『楽園』を賛美するためじゃない。
誰かを助けるために、歌いたいって思ったから。
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「集まってくれてありがとう。大祓百鬼夜行の影響でUDC組織が被害を受けているのは知っているかな。だから今回も皆の力を貸して欲しい」
猟兵達を出迎えつつ、レン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)が口を開く。
現在『UDC-Null』と呼ばれる骸魂と合体した妖怪により、各地のUDC組織が襲撃される事件が起きている。今回もそれに関する案内のようだ。
「現地のエージェント達は妖怪の姿を視認出来ないから、防衛戦をするので手一杯だろうね。だけど僕ら猟兵と『UDC-P』と呼ばれる存在なら、妖怪の姿を見ることが出来るよ。エージェント達も敵の姿は見えなくとも協力はしてくれる。皆で力を合わせてUDC-Nullの対処をお願いしたいんだ」
エージェント達は組織の内部を案内したり防災のための設備を動かしたりしてくれる。場合によっては武器や装備も提供してくれるはずだ。
「『UDC-P』についても一応説明しておくね。オブリビオンでありながら、『破壊の意志』を持たず人間に対して危害を加えることのない特殊な存在……そんな子の内の一体が、襲撃を受けている支部に保護されていたんだ」
妖怪の目的も恐らくUDC-Pだろう。妖怪は彼らを取り込み、より強力な存在になろうとしているらしい。
「ここにいるのは『楽園の鳥』と呼ばれるUDCだね。個体名は『カント』と言うよ。この子は少女と鳥が混ざったような姿をしていて、歌によって様々なことが出来るみたいだね」
例えば歌を歌うことで自分を強化したり、耳を劈くような叫びで敵の動きを止めたり。
必要になれば囮も買って出るだろう、とレンは付け加えた。
「とにかくカントやエージェントと協力して、どうにか妖怪を止めて欲しい。骸魂さえ削ってしまえば、妖怪だって助け出せるはずだ」
カントはきっと、猟兵の到来を待ち侘びている。
共に妖怪を助け出そうと期待しているはずだ。
「戦争も大詰めだけど、あと少し頑張っていこうね。それじゃあ、今回もよろしくお願いするよ」
猟兵達に笑顔を向け、レンはそう締めくくった。
ささかまかまだ
こんにちは、ささかまかまだです。
鳥は歌う。
●プレイングボーナス
UDC-Pやエージェント達と協力して戦う。
下記のUDC-Pや組織内部のエージェントと共闘することで有利に戦うことが出来るでしょう。
●UDC-P『カント』
かつて保護された『楽園の鳥』と呼ばれるUDCです。
色々あって自分で名乗りたい名前を見つけ、『カント』と名乗るようになりました。
鳥と少女が混ざりあったような姿をしており、歌で自分を強化したり叫び声で敵を牽制したり出来ます。
言葉は喋りませんが、歌声やジェスチャーによる意思疎通が可能です。
猟兵達のことは慕っており、素直に言うことを聞きます。
※登場シナリオ(読まなくても問題ありません)
「籠の鳥は空を夢見た」
(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=32490)
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オープニングが出た時点でプレイングを受付開始します。断章の追加はありません。
出来る限り早く執筆出来るよう努めますが、場合によっては6月に入ってから完結になるかもしれません。ご了承下さい。
シナリオの進行状況などに関しては戦争の詳細ページ、マスターページ等も適宜確認していただければと思います。
また、プレイングの集まり次第で不採用が出てしまうかもしれません。ご了承下さい。
それでは今回もよろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『口寄せの篝火』
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POW : 甘美な夢現
【対象が魅力的と感じる声で囁く言霊】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の精神と肉体を浸食する炎】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 怨嗟の輩
【吐き出した妖怪の亡霊】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : 蠱惑の怨火
レベル×1個の【口や目】の形をした【魅了効果と狂気属性】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
イラスト:山本 流
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「シエル・マリアージュ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
月凪・ハルマ
おっと、コレは中々厄介な
んじゃ早めに対処しておくか
◆SPD
まずはなによりカントと合流したいな
だが件の妖怪がカントにしか視認できないとなると、
余計な戦闘は避けていきたい
【迷彩】で周囲の景色に溶け込んで姿を隠し、
【忍び足】で【目立たない】ように捜索しよう
ただしエージェントが襲われている場合は別
その場合は【錬成カミヤドリ】でエージェントを避けるように
【範囲攻撃】をして妖怪を攻撃
既にカントと合流している場合は妖怪の位置を教えてもらい、
歌で動きを止める、或いは鈍らせてもらってから
【早業】で接近して魔導蒸気式旋棍を叩き込む
エージェントたちとはスマホの番号を共有しておき
異変を感じたら即座にコールしてもらおう
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支部内部に踏み入れ、月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)が最初に気付いたのは激しい戦闘音だった。
慌ただしく駆け回る職員達の顔からは分かりやすく焦りが伝わり、混乱する彼らの気配が頬を掠める。
「おっと、コレは中々厄介な。んじゃ早めに対処しておくか」
早期解決を目指すならば、まずはUDC-Pのカントと合流するのが最善だろう。
そう判断したハルマは帽子に施された術式を起動し、組織の内部を駆けていく。
混乱の中を泳ぐよう、目指すは小さな鳥の元だ。
しかし、道行きはそう単純に行かなかった。
進行方向には何かに怯えるエージェントが一人。彼の周囲には、悍ましい怨霊達が浮遊しているようだ。
「これは仕方ないな。すぐに助ける」
術式を解除しつつ、ハルマはエージェントの前に躍り出る。
そのまま埒外の力を発揮すれば、彼の周囲には無数の宝珠の複製が姿を現した。
宝珠は建物の壁や天井を利用し跳ね回り、次々に怨霊達を撃ち落としていく。
「猟兵さんか。ありがとう、助かった……」
「気にしないでくれ。それより……カントはどこだ?」
「あの子は奥の部屋にいる。化物もきっとそこにいるはずだ」
職員が指差した方向を確認し、ハルマはさっとスマートフォンを取り出す。映し出されていたのはその端末の電話番号だ。
「あとは俺達に任せてくれ。それと、異変を感じたらこの番号にすぐに掛けて欲しいんだ」
「ああ、分かった。こちらの番号も伝えておこう」
情報と電話番号を共有し、二人はそれぞれの行くべき道を進んでいく。
そして指示された部屋に飛び込めば――既に戦いを始めている、カントと妖怪の姿があった。
カントは猟兵の到来に安堵したのか、ぱぁっと笑みを浮かべているようだ。
そんな彼女にハルマも笑顔を向け、同時に妖怪を指差した。
「カント、合流してすぐに悪いんだが、あいつを歌で止めてくれ」
その言葉に小鳥はコクンと頷くと、大きく息を吸い込んでいく。
そして放たれるは――何もかもを揺るがすような、歌声だ。
衝撃で真赤な妖怪は動きを止め、その場へと縫い付けられるように動きを止める。今がチャンスだ。
「取り憑かれている妖怪には悪いが……これも仕事なんでね」
ハルマは魔導蒸気式旋棍を構えると同時に地を蹴って、妖怪との距離を詰めていく。
そのまま棍を大きく振るえば、その一撃は妖怪の身体を強かに打ち付ける!
骸魂の気配が確かに薄れたのを感じ、ハルマも安堵の笑みを浮かべるのだった。
大成功
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花菱・真紀
アドリブ歓迎
今回の戦争。カクリヨだけじゃなくてUDCアースも関係してるんだよな…なにかできることないかとか思いつつなかなか動けなかったけれど。
UDC-Pのあの子が襲われてるって聞いて居ても立っても居られなくて。今行くよ…!
なんか、カントが職員さんの為に戦ってくれてるのを見るとちょっとホロリとしちゃうなぁ。
大事だって思ってくれてありがとう。
じゃあ、カント、一緒にみんなを守ろうか。
俺も本気を出そう。
UC【都市伝説の過剰摂取】で超強化。
対UDC仕様自動拳銃で攻撃。
【スナイパー】【援護射撃】【クイックドロウ】で狙った獲物は逃がさない…!
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カクリヨの危機はそのままUDCアースの危機だ。
生まれ育った沢山の思い出がある場所の危機ならば、何かできることはないだろうか。
そう考えていた花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)にとって、今回の依頼は放っておけるものではなかった。
(なにかできることないかとか思いつつなかなか動けなかったけれど……あの子が襲われてるって聞いたら、居てもたっても居られないな)
嘗て助けたUDC-Pがオブリビオンに狙われ、今も戦っている。
それなら助けに行かない理由はないのだ。
「今行くよ……!」
確かな決意を胸に、真紀は支部の廊下を駆けていく。
目指すは懐かしい小鳥の元だ。
目的の部屋まで辿り着けば、既にカントは猟兵達と戦いを始めているようだ。
職員を護るために懸命に戦う小鳥は、あの時と変わらない――けれど、活き活きとした表情を見せてくれている。
そんな彼女の様子に思わずホロリときてしまうが、再会の喜びは後でゆっくり味わおう。
「カント、助けに来たぜ!」
真紀の声を聞き振り向くカントの表情は、とてもキラキラして見えた。彼女も再会を喜んでいることが嬉しくて、真紀の胸に更に強い決意が宿る。
「……職員のみんなを大事だって思ってくれてありがとう。じゃあ、カント、一緒にみんなを守ろうか」
カントは真紀の言葉にコクリと頷き、柔らかな歌声で自らの力を高めていく。
彼女がそうするというのなら、自分も本気を出そう。
真紀は『対UDC仕様自動拳銃』を握りしめ、怨霊を纏わせる妖怪を鋭く睨んだ。
相手は存在しないと言われていた化物だ。そんな奴が相手なら――相応しい戦い方もあるだろう。
「どれが本当でどれが嘘か……いい加減な情報に傷付けられるけれど」
ポケットに入れたスマートフォンから流れ出すのは、様々な嘘や噂の情報達。
真紀を衝動に駆り立てる、恐ろしくも魅力的な毒だ。
「……それらは邪悪に笑って力を与える」
ぶわり、悍ましい気配を纏いつつ真紀は改めて敵を睨む。
その様子に恐れ慄いたのか、妖怪はすぐに怨霊を飛ばそうとしてきたが――その動きを、飛び回るカントが制してくれていた。
今なら狙いも定めやすい。銃口を真赤な怪物へ向け、決めるのならば手早く行こう。
「狙った獲物は逃がさない……!」
的確に放たれた銃弾は妖怪だけを撃ち抜き、骸魂の気配を確かに削いでいく。
久々の再会は見事な共闘と相成った。その実感を得て、真紀とカントは笑顔を向け合うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ハルア・ガーラント
●WIZ
カントさん、一緒に頑張りましょうね
彼女もわたしも歌が好きで、飛べて
それなら講堂のような場所で戦おうかな
骸魂をふたりで挟むような立ち位置で囮役と攻撃役を交互に行いましょう
[浄化]の力を纏わせた〈咎人の鎖〉を彼女の側に配置し攻撃兼[オーラ防御]
わたしは〈パニッシャー〉による遠距離攻撃、回避も空中で
怨火の訪れを[第六感]で事前に感知したら合流
〈セイクリッドデバイス〉出力最大、カントさんに絶叫して貰います
エージェントさんにも音響設備の出力を上げて貰い威力増加とハウリングを狙いたい
怯み効果抜群の絶叫になる筈!
直ぐにUC発動、白鷲達が怨火を喰い引き裂く間によーく狙って――隙間を縫う一撃を敵本体へ!
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状況の不利を悟ったのか、口寄せの妖怪は壁を壊して別室へと逃げていく。
そんな妖怪を追いかけようとするカントと合流したのは、ふわりと羽根を広げたハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)だった。
「あなたがカントさんですか? お話は伺っていました」
ハルアの言葉にカントはこくこくと頷き、嬉しそうに顔を綻ばせる。何となくシンパシーを感じているのかもしれない。
それはハルアも同じだ。この子となら、きっと上手く共闘できるだろう。
「妖怪の誘導は職員さんに任せました。奥の講堂に誘導してくれるそうです。ですから……一緒に頑張りましょうね」
同じ歌が好きで、羽根を持つ者同士。せっかく一緒に戦うなら相応しい場所がいいだろう。
カントがもう一度頷いたのを確認し、ハルアは大きく羽根を広げて空を舞う。
二人で歌声を響かせられる、講堂を目指して。
講堂まで誘導された妖怪の元へ、二人は勢いよく飛び込んでいく。
「逃しませんよ。カントさん、これを使って下さい!」
ハルアはカントに『咎人の鎖』を託し、自らは部屋の奥まで飛び上がる。
こうして出来上がるのは挟み撃ちの形だ。カントが歌声と託した鎖で妖怪を牽制すれば、合わせてハルアが『パニッシャー』にて迎撃していく。
歌声、鎖、銃弾。それぞれ違う攻撃の対処に手間取った妖怪が選ぶのは――怨火による無差別攻撃だろう。
部屋の室温が上がり、邪悪な気配が溢れ出したのを感じ取り、ハルアは一気にカントの元まで飛んでいく。
「カントさん、思いっきり叫んで下さい! それからエージェントさんも、打ち合わせの通りに!」
髪の月下美人から『セイクリッドデバイス』を取り出して、部屋に備え付けてあった監視カメラへと叫ぶ。
カントと合流する前に必要な話はしておいた。あとは二人で、思い切り歌うだけ!
最大出力の超小型拡声器を通し響くのは、何よりも強烈な小鳥の叫び声だった。
合わせてエージェントが音響装置を操作すれば、その音は何倍も大きく響いていく。
「みんな、お願い!」
ハルアも歌声を紡いでいけば、そこから姿を現したのは望郷の想いを示す白鷲達。
彼らが姿を現しかけていた怨火を蹴散らせば、妖怪までの射線は完全に確保出来た。
「よーく狙って――今です!」
再び放たれたパニッシャーによる一撃は、真赤な妖怪の中心を的確に射抜いていく。
その衝撃が骸魂の気配を削り取り、代わりに二人の歌声の残響を強めていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ルキヴァ・レイヴンビーク
お久しぶりデス、雛鳥
いえ、今はカントと言う名を得たと
徐々に成長されてる様で嬉しいデスよ
さて、向こうは炎を使いマスか
職員の皆様は消火器をお忘れ無く
敵の位置を確認し、合図で防火シャッターを閉めて頂きマショウ
スプリンクラーも動かしちゃって下サイ
それで向こうの炎が弱まればラッキーかと
眷属を喚び、攻撃開始
カント、貴女の歌をお聞かせナサイ
今の貴女の楽園であるこの場を護る為に
対片鎌槍を手に、ワタシも歌に合わせて敵に向かいマショウ
折角幸せなライフをゲットした雛鳥を取り込もうだなんて、流石のワタシも激おこデスよ?
――まぁ表情はいつもと変わらず巫山戯た笑顔デスけどね
雛――カントは無理をせず
貴女の無事が大事デスから
オルト・クロフォード
室内で炎の攻撃とかかなりやばくないかこれハ?!
早く対処しないと下手したら全焼とかしかねないのでハ?
久しぶリ、だとか挨拶してる暇もないナ……急がなくてハ!
職員にUDC-P……カントの居場所を聞き出して向かうゾ!
カントには劈く声で敵の動きを妨害してもらうとしよウ。それに、コトダマ……つまり口に出す言葉での攻撃なラ、この声でかき消す事も出来ると思ウ。
敵の攻撃を阻止したなら【トリニティ・エンハンス】でガジェットに水の魔力を込メ、消火ついでに【属性攻撃】をするゾ!
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戦いは佳境へと入っているようで、組織内部を駆け回る職員達の忙しなさも増している。
そんな彼らへ向け、ゆるりと声をかけたのはルキヴァ・レイヴンビーク(宵鳴の瑪瑙・f29939)だった。
「少々よろしいデスか? ワタシは猟兵、あの雛を……カントを助けに来まシタ」
「本当か、ありがとう。あの子は講堂にいるんだ、向かってあげてくれ!」
頭を下げる職員に変わらず笑みを向けつつ、ルキヴァはそっと彼の肩を叩いた。
「気持ちは受け取りマシタ。けれど落ち着いて。皆様は消火器をお忘れ無く。防火シャッターやスプリンクラーの用意もお願いできマスか?」
「あ、ああ。そうだな。俺達にも出来ることがあるんだよな……改めてありがとう」
「いいえ、お気になさらず。あとはワタシ達にお任せ下サイ」
あくまで飄々としたルキヴァの態度は、この慌ただしい状況においてとても頼もしく見えたのだろう。
そんな彼のすぐ側に駆け寄ってきたのは――嘗て共にカントを救ったオルト・クロフォード(クロックワーク・オートマトン・f01477)だった。
「話は聞いていタ、あの子は講堂にいるのだナ……相手の使う炎も心配だシ、急がなくてハ!」
「ええ、そのようで。雛鳥の様子も気になりますし、参りまショウか」
職員から改めて講堂の位置を聞き、猟兵達は組織の中を駆け出していく。
再び、あの雛鳥を助け出すために。
案内された講堂では、既に猟兵達とカントが妖怪と戦っていた。
炎による被害は最小限で、カントも大きな傷は負っていない。彼女も新たな猟兵の到来に気がつくと、ぱっと表情を華やがせた。
「お久しぶりデス、雛鳥。いえ、今はカントと言う名を得たと……徐々に成長されてる様で嬉しいデスよ」
「ああ、久しぶリ……とゆっくり挨拶したい気持ちもあるのだガ、それは後でだナ」
ルキヴァとオルトも少しだけ柔らかな笑みを浮かべるが、妖怪が何かを叫ぶのに合わせて表情を切り替える。
そこにあったのは得物を狙う捕食者と、勇気を出して敵へと立ち向かう戦士の顔だ。
「それでは参りまショウか。我が眷属達、力を貸して下サイ」
ルキヴァがゆるりと一対の片鎌槍を構えれば、彼の影から姿を現すのは無数の大鴉達だ。
大鴉達は次々に妖怪達の元へと飛来し、既に戦っていたカントを庇うように翼や嘴を敵へと打ち付けていく。
妖怪も炎で鴉達を薙ぎ払おうとするのだが――。
「職員の皆様、お願いしマスね?」
合図に合わせ、講堂に降り注ぐのはスプリンクラーの雨だ。
これで物理的な炎なら燃え広がることはないだろう。次に警戒すべきは――精神と肉体を浸食する炎だろうか。
「いや、そもそも室内で炎の攻撃とかかなりやばいと思うのだがナ! 勿論心を焼く炎だって恐ろしイ……」
仮に心を燃やされたとしたら、自分の内に宿る感情だって燃やされてしまうかもしれない。
そんなのは絶対嫌だ。それはきっと、カントだって。
「……カント、君ならあの妖怪の力に打ち勝てル。君の力を貸して欲しイ」
「ワタシも同じ気持ちデス。カント、貴女の歌をお聞かせナサイ、今の貴女の楽園であるこの場を護る為に」
二人の言葉を受け、カントは大きくこくりと頷く。
愛しい仲間には守護の歌を。悪しき者には劈く声での拒絶を。
猟兵達の指示を受けカントが大声を発すれば――その衝撃で、妖怪の身体がぶるりと震える。
これで言霊を紡ぐことは出来なくなるだろう。今こそ攻め込むチャンスだ。
「道は私が切り拓ク。ここは任せてくレ!」
敵が怯んだ隙を活かすべく、オルトが構えたのは『ショートハンド・ナイフ』だ。
刃に刻まれた魔術の呪文が紐解かれていけば、部屋の温度はどんどんと下がっていく。
発動するのは水の魔力、それを『クロックフェイス・ガジェット』に籠めて――狙うは妖怪ただ一人!
「このまま妖怪を放っておくと全焼とかしかねないからナ! せっかくのカントの住処、燃やさせはしないゾ!」
放たれた水の弾丸が強かに妖怪を打ち付けたのなら、炎と骸弾の気配が大きく薄れていく。
そして後退する相手に迫るのは――『フギン&ムニン』を構えたルキヴァだ。
「折角幸せなライフをゲットした雛鳥を取り込もうだなんて、流石のワタシも激おこデスよ?」
いつもと変わらぬ表情で、いつもと変わらぬ口調のまま、けれど確かな想いを胸にルキヴァは駆ける。
そして勢いよく放たれた斬撃は、残りの骸魂を確かに刈り取っていく。
解放された妖怪はその場にぱたりと倒れ伏すが、命に別状はなさそうだ。
これにて事件は解決だ。安堵の息を零すカントの元へ、猟兵達がそっと近付く。
「カント、よくやったナ。無事で何よりダ」
「ええ、貴女の無事が大事デスから。また何かあればワタシ達を頼りなサイ。雛――カントは無理をせず」
いつでも自分達がついているから。
改めて出会った猟兵達にそう告げられ、カントは嬉しそうに翼を揺すっている。
歌う鳥の歌声が猟兵達を導き、そして猟兵達は己の想いを全力で示した。
それぞれの誰かのための行動が、最善の結果を導いたのだ。
大成功
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