10
大祓百鬼夜行④〜斯くて礎を担う者よ

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行


●積み石達の集合地点

「どろん衆!」
「ぽんぽん! 揃ってますぽん!」

 額に乗せた葉を手に取り、丸狸のどろんバケラーが一礼する。
 くるりと回転すれば現れる地震、雷、火事、雪崩。もう一回転すれば元の狸がすまし顔で立っている。

「獄卒衆!」
「押忍! 全員此方に!」

 肩にかついだ鬼棍棒を地面に突き立て、地獄の獄卒が鮫のように笑う。
 鬼棍棒の柄から靡かせた包帯には赤錆色が染み付いて新たな死者を今か今かと待ち受ける。

「悪霊衆!」
「……嗚呼、何ら問題ない」

 向こうの景色を透かす悪霊は一言呟き、号令懐刀へ吸い込まれていく。
 それが器物だから無事なだけ。意思あるものに憑りつけば瞬く間に死へと引きずり込まれるだろう。

「全員揃うとは……にゃ」

 集まってしまった彼らを見て、彼女は一度瞑目する。
 再び開いた瞳に迷いの色はもうない。
 大祓骸魂麾下の存在として、皆で猟兵に立ち向かうだけ。
 懐刀を抜き放つ。マヨヒガの薄明りの中でなお、刃が凛々しく煌いて見せる。
 腹は据えた。
 覚悟は決めた。
 ならば、あとは務めを果たすまで。

「猟兵さん。それでは、『我々』の力で――殺らせていただきます!」


●積み石崩しの出発地点

「東方親分『山本五郎左衛門』への道が開かれました」

 詳細な説明は不要だろうとばかりに、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は後方を振り返る。設置されたスクリーンには既に待ち受ける彼女達が映っていた。
 可愛らしい猫又の女と見える『山本五郎左衛門』はただ立っているだけだ。にも関わらず放たれるのは極大のプレッシャー。僅かでも動けばその爪か、牙か、はたまた刀かが猛威を振るうだろう。
 そして、彼女を守るように付き従う妖怪達の軍団。それぞれの武器を研ぎ澄ませ準備万端と言わんばかりだ。
 もう察しているだろう。

「こちらで案内するのはカリスマ特化……『威風形態』。必然、付き従う妖怪軍団とも戦うことになりますね」

 親分として、永くカクリヨファンタズムを守ってきた彼女だ。
 当たり前のように多くの妖怪たちがその旗の下に集い、想い同じく世界を護ろうとしている。
 ……その為の道に己の屍を敷くことを疑いもせず。

「ですので、どうか……誰も殺さぬよう」

 戦争さえ起こらなければ死なずに済んだもの達だ。
 ついつい滅びかけてしまう騒がしい世界を……それでも賑やかにしてくれるのは彼らの存在あってのこと。
 彼らごと守ってこその勝利だから。

「強大な敵にも関わらず無茶なお願いで申し訳ございません。どうか、よろしくお願いします」

 空舞う折紙の小鳥が踊れば零れ落ちる幻焔の粉。
 閉ざされたマヨヒガの大広間。極大の虞が、牙を剥く。


只野花壇
 二十六度目まして! 日本の話だと守り人シリーズが好きだった花壇です。
 今回はカクリヨファンタズムより、東方親分が待つ戦場へご案内いたします。

●章構成
 一章/ボス戦『東方親分『山本五郎左衛門』威風形態』

●プレイングボーナス
 『親分と妖怪軍団の両方と戦い、誰も殺さないようにする』。
 死に物狂いで襲い掛かってくる親分・妖怪軍団両名を上手く捌きつつ戦ってください。なお、本シナリオは幹部戦の為【負傷描写を盛る可能性があります】。ご理解の上参加いただきますようお願いいたします。

●プレイングについて
 ある程度のアドリブ・連携描写がデフォルトです。
 ですのでプレイングに「アドリブ歓迎」等の文言は必要ありません。
 単独描写を希望の方は「×」をプレイング冒頭にどうぞ。

 合わせプレイングの場合は【合わせ相手の呼び方】及び【目印となる合言葉】を入れてください。
 一グループにつき最大で二名様まででお願いします。
 詳しくはMSページをご覧下さい。

●受付期間
 【5月20日(木)08:31 ~ 5月21日(金)23:59】頃。
 完結を優先に運営する戦争シナリオですので採用数は限られます。あらかじめご了承ください。

 それでは、ようこそへ。
 皆様のプレイング、心よりお待ちしております。
103




第1章 ボス戦 『東方親分『山本五郎左衛門』威風形態』

POW   :    どろん衆きませい!
レベル×1体の【東方妖怪のどろんバケラー 】を召喚する。[東方妖怪のどろんバケラー ]は【化術(ばけじゅつ)】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD   :    獄卒衆きませい!
対象への質問と共に、【マヨヒガ(屋敷)のあちこち 】から【東方妖怪の地獄の獄卒軍団】を召喚する。満足な答えを得るまで、東方妖怪の地獄の獄卒軍団は対象を【嘘つきに対して威力増加する鬼棍棒】で攻撃する。
WIZ   :    悪霊衆きませい!
自身が装備する【号令懐刀(ごうれいふところがたな) 】から【東方妖怪の悪霊軍団】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【妖怪憑依】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●五分前の集合者達

「しかし、臆病の豆狸が来るたぁ思わなかった」
「……どういう意味ぽん、意地悪獄卒」
「普段からコロコロ転がってるだけのお前らが鉄火場に来るたぁ思わんかったったこった」
「ここはぽん達にとっても故郷ぽん。親分が気張ってくれてるのだから、ぽん達もタマ張るぽん!」
「ハン。気合が空回りした結果、捕まって鍋にされないといいな」
「な、なななな!! 自分が食材を調理する方だからってなんてこというぽん!!」

「……心配なら素直にそうと言えばいいものを」
「俺に何か言ったか、悪霊!?」
「ケケケケ」
「性格悪ィ……」
「何、丸狸が戦いに向かぬのを知っていって煽る貴様程ではない」
「それを口にするところだってェの!?」

「して、気合十分か。丸狸」
「ぽん! ぽんのはっぱも妖力をたっぷり注いで準備ばっちりぽん!」
「……成程。それなら戦果に期待できそうだ」
「もちろんぽん。悪霊たちも猟兵さんに憑きすぎ注意ぽん」
「……我等を心配するのも君達くらいしかいないがね」
「悪霊たちが一番に祓われそうだぽん」
「ケケケケ。違いあるまい」


「おみゃーら」
「ぽん!」
「お、押忍!」
「聞こえているとも」
「お喋りはそこまでにゃ。猟兵さんのお成りにょ!」
リーヴァルディ・カーライル
…凄まじい気迫。どうやら手加減している余裕は無さそうね

…だけど、呑まれる訳にはいかない

"精霊石の耳飾り"に風の精霊を降霊して魔力を溜め、
超音波を用いた反響定位による第六感で屋敷の構造や敵の配置を把握し、
今までの戦闘知識から敵の集団戦術を見切りUCを発動

…貴方達にも見せてあげるわ

この世界とは異なる地で鍛えられた吸血鬼狩りの業を…

無数のコインを弾丸のように投擲する早業で敵集団を乱れ撃ち、
呪詛のオーラで防御ごと敵を石化させ捕縛していき、
仮に接近された場合は大鎌を盾にして受け流しカウンターで迎撃
敵の質問はどのような内容であれ無視して嘘をつかないようにする

…闘いが終われば元に戻すわ。それまで我慢して



●払暁待ちの狩人一振

 ───黄昏が来る。

 自然と棚引くウェーブヘアをそのままに、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は瞬きをひとつ。
 マヨヒガの中に漂うのは普段彼女が狩るべきと定めた対象とはかけ離れた気迫だ。
 己の生と繫栄を疑う吸血貴族と、己らの死を下敷きにした妖怪たち。その気高さは間違いなく尊ばれるべきもので、闇に身を浸すリーヴァルディにとっては眩しくすらあった。
 構えた大鎌の切っ先の向こう、山本五郎左衛門が笑っている。

「猟兵さん。手加減はできにゃあよ?」
「……それは、こちらの台詞」

 吞まれそうだ。
 彼女は骸魂を取り込んでなお堂々と立つ威風の主。影響を抑え込んでいるという山本にまずこちらの方こそ手加減する余裕がない。
 自然と呼吸が浅くなる。指先が勝手に震えようとする。
 その全てを大鎌の握りで抑え込む。
 額づくことは全霊が拒否した。

「……貴方達にも見せてあげるわ。この世界とは異なる地で鍛えられた吸血鬼狩りの業を」
「にゃはは、それは心強い」

 そうやって笑ってみせる顔に潜められた穏やかさは、死期を悟った猫のそれ。
 されど死相の見えぬ顔はいきいきとしているから流儀を曲げてまで救援に来た甲斐があると地面を蹴る。

「じゃが、猟兵さん。儂らは狩られるべきものなのかにゃ?」
「───!」

 振り下ろした、はずの鎌が受け止められる。
 それは地獄の炎を纏った鬼棍棒。
 嘘つきを許さない獄卒が鮫めいて牙を剥きだした。

「さァて、噓つきの舌は閻魔様に引っこ抜いてもらうぜ!」

 跳ね上げる動きに逆らわない。己の体重が軽いことなど百も承知。力の動きには従った方がいいことを肌で知っている。
 開いた距離への対応を頭の片隅で判じれば耳飾りが淡い緑の光を揺らす。
 風が吹く。
 後方から接近する獄卒の方を見ないまま横へ跳べば、直前までリーヴァルディがいた場所が直上から砕き割られた。

「へぇ、なかなか素早いじゃねェか」
「……」

 その賞賛にすら、リーヴァルディは応えない。
 だってどの問いかけがコードの発動条件に引っかかっているのか分かったものではない。嘘つきになるよりはマシだと、唇を引き結ぶことを選ぶ。
 だが。

「───だんまりは嘘つきと見なすぞ!!」
「っ……!?」

 獄卒の踏み込みが地面を割る。風が伝える接近速度が跳ね上がる。
 警告が脳裏を掠める。
 けれど間に合わない。
 間に合わせるしかない。

「っ、ああっ……!?」

 横殴りの衝撃は左脇腹に。
 衝撃を殺すべく跳んで、なお貫通してくる棘と衝撃。抉られ軋む骨と肉が鼓動と同期した熱を伝える。
 辛うじて受け身はとれた。
 それは痛みがないことを意味しない。庇った箇所の痛みはすぐには拭えず吐いた息は自分でも驚くほど熱い。
 口の中に血の味がする。
 転がったリーヴァルディへ、獄卒が歩み寄ろうとする足が見える。

「な、」

 だが、距離は縮まらない。
 防御は間に合わずとも、リーヴァルディの指先は間に合っていた。

「に……?」

 それはちいさなメダル。
 獄卒の右腕で蛇髪の女が舌を突き出して哂っている。
 かれが認識できたのはそれが最後だった。呪詛が牙を剥いたなら獄卒衆とてひとたまりもなく縛られていく。その光景を確かめて立ち上がったリーヴァルディの手の中には追撃の弾丸がすでに収まっていた。

「吸血鬼狩りの業は鎌だけじゃない。これもまたそのひとつ」

 投擲、投擲、また投擲。
 ゴルゴネイオンの銀貨は一枚に非ず。ばらまきは当てずっぽうではなく風精霊の囁きを聞いての乱れ撃ち。
 だから当たる。
 避けられることすら織り込んで獄卒衆らの進路に置いた銀貨が張り付いていく。
 それは冗談のような、悪夢的な光景。
 親分の住居であるマヨヒガに配下たる獄卒衆の石棺が連なっていく。
 息を呑む親分の視線の先でで吸血鬼狩りの黒騎士は己が神器を構え直す。

「安心して。闘いが終われば元に戻すから」

 今度の走りを邪魔する者は誰もいないから、リーヴァルディは真っ直ぐに石棺の林を駆け抜ける。
 終点に待つのは猫又の親分。
 その身を覆う骸魂を過去刻みの刃が薙ぎ払う。

「……あなたも、少しだけ我慢していて」

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・エルフェルト


山本殿の覚悟に
"彼のお方"も応えてくれる筈
手勢を惹き付ける為
最前線にて複数を相手取り
「流水紫電」の足捌きで攻撃掻い潜り、
急所を避けて斬り払う

城が出来る
虎口から増援
櫓から射物
多勢に無勢
避け切れない

でも、これで佳い
UCが発動、手から滑り落ちた憑紅摸が激しく燃え上がる
山本殿風に言うのなら
来ませい、"御屋形様"

**

柚子頭め、気を失ったか
大儀であった

山本と言ったな
興が乗ったぞ
貴様等に憑いた其の小蟲
貧相な城ごと我が劫火で灼き祓ってくれよう
刮目して見よ、是ぞ真の【灼落伽藍】
焼身の憑紅摸を実休光忠に戻し
焔纏わせ敵大将に相対す
何、此の焔で貴様等は死なぬ

小蟲が伝える断末魔の痛苦には
精々耐えて見せるがよい――!



●死線上の戦さ人達

 少なくとも。
 クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)の目では、化術と真実の区別がつかなかった。

「こっちぽん!」
「いやいやこっちぽん!」
「っ……!」

 前で踊る狸の脚を狙った刃はしかし何も斬らずに空を切る。だというのに狸は断面から二匹に分かれてクロムを取り囲んだ。化術だろうということだけは辛うじて理解できて、けれどそれをどうにかする手段が彼女にはない。
 飛沫めいた蒼い光ばかりが気ままに散る。
 止まるのが最大の致命だとわかっているから足捌だけは何千何万と繰り返し染み付いた動きを辿る。
 それでも、ひとりでは、物量には勝てない。
 クロムが一匹のタヌキを斬れば二匹になって踊り回る。四匹、八匹と増えていく丸狸たちは城を築いていく。

「ぽん! 」
「ぽぽん! 弓隊配置完了ぽん!」
「歩狸隊装備万端、ゆけるぽん!」
「っ、早い……!」

 分かっていた。織り込み済みのはずだった。
 そんな彼女の考えすら甘かったと指摘するように編笠を被った狸たちはクロムへそれぞれ武器を向ける。
 天災の類より遥かに真に迫った、クロムにとっての負傷と死のイメージ。

「発射ぽん!」
「……!」

 分かっている。
 避けきれない。
 まず右脹脛に鏃が刺さった。途端に動きが悪くなった脇腹を槍が掠め、小刀が後れ毛を切り落とす。振り向きざまの袈裟斬りが掠めたのは編笠だけ。半分になったそれが不意に爆発、白い煙幕を撒き散らす。
 通らない視界に警戒を高めるより衝撃の方が早かった。
 胸元を貫通するのは黒塗りの爪。
 激痛が胸元を染め上げる。異物が無くなる感触と共に自分の力もごっそり失われていく。たまらず吐き出した液体は鉄の味がした。
 手の中から刀が滑り落ちる。

「お終いだにゃ、猟兵さん。……すまにゃあよ」
「……いいえ」

 クロムひとりでは勝てない。
 ……そんなこと、最初から知っていた。
 突如落ちた刀──憑紅摸が劫火を纏う。不吉ですらあるあかあかとした揺らぎに山本と丸狸たちが距離を取るのも束の間。
 ひとつの手が炎を纏ったままの刀を拾い上げる。
 それが生者ならざるものだと気づいて山本の目が見開かれた。

「まさか……最初からそのつもりだったのかにゃ!?」
「ええ」

 申し訳ないとは思う。
 だから、これで佳い。

「──決ませい、“御屋形様”──」
「応」

 頽れるクロムをそのままに山本へと歩み寄る偉丈夫。
 いるはずのない存在の召喚はユーベルコードの効果としてあり得る。それを差し引いても、“彼”の存在は衝撃に過ぎた。

「まさか……!」
「山本と言ったな。儂は興が乗ったぞ」

 拭われるように炎が落ち、そこから刀が往時の輝きを取り戻す。かつて消失したはずの実休光忠を改めて握り直せば立ち上がる炎は質を異にする。
 それは過去の劫火。
 死に挑みて尚戦い続けた武士の矜持。
 彼女では寿命を燃料と焼べることで発動させるのがやっとの領域を、男は息を吸うように再現できる。

「其の小蟲。貧相な城。───全て、我が劫火で灼き祓ってくれよう」

 なぜなら、それは男が没した地。
 すでに死した身であるからこそ、死地の再現は難しくなく。
 刀を持ち上げる。切っ先を山本へと向ける。ただそれだけの動きが尋常でない圧を纏う。
 
「何、死ぬことはない。せいぜい死ぬほど熱いだけのことよ」
「うつけもの! 人の屋敷で暴れすぎにゃ!」
「はっ、そこまで小蟲を憑けておいて言う事でも無かろうよ───!!」

 是こそ真の【灼落伽藍】。
 過去を灼く大火がマヨヒガを赤く染め上げる。




「大儀であった、柚子頭。まっこと、久方ぶりに興の乗る呼び出しであったことよ」

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
自らの身命を賭した其の覚悟、無駄には出来ん
護ると決め、礎にと起つならば、為すは唯1つ
安心するが良い、手加減無し――其れが礼儀と心得ている
全力を以って打ち倒す

五感に第六感重ね、あらゆる事象を計り用い
致命と行動阻害と為る攻撃は見切り躱し、些細なものは武器受けにて弾く
流石に躱し切れはせんだろうが構わん、耐性と覚悟で捻じ伏せてくれよう
――弩炮峩芥、何者も逃さん
云った筈だ、打ち倒すと。だが死なせる気は無いし死ぬ気も無い
切り裂くは四肢、立ち上がる意志と術式の効果

お前達が何を問おうとも構いはせん
此の場に及んで嘘を吐く様な無意味はしない
私は生かす為に此処に在り、護る為に刃を握る
其処にはお前達も含まれるのだから



●警守人の引導線上

「にゃあ、猟兵さん。世界は守れるかにゃ?」
「──無論」

 親分の問いへ、解答は躊躇なく。
 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の隻眼は向かってくる獄卒をただ真っ直ぐに睨み据える。

「護ると決め、礎にと起つならば、為すは唯一つ。異論は」
「ねェな。だが、証明してみろや!」

 返答は正面の親分ではなく深葬に隠した左から。
 そう。いかな虚偽を含まぬ宣誓とて、実現するまでは大言壮語に変わりなく。
 獄卒が振り下ろした鬼棍棒は身を翻す嵯泉のすぐ隣、地面を砕き割った。

「っ、」

 散弾めいて襲い掛かる瓦礫が軍装の上から身を打ち付ける。さすがに刀で弾き返せる数でなく、また行動阻害になる程ではないから放置を決め込む。
 なぜなら、追撃こそが本命だ。

「往生せいやぁぁぁぁああああ!!」
「応じる筈がなかろう」

 横薙ぎの棍棒から身を引く。風圧がそのまま刃と化して頬を裾を裂く。散り、風に紛れていく血と布は僅か。
 だから嵯泉は動じない。
 全力の薙ぎ払いの後は間違いなく隙だ。
 踏み込みは滑らかに、翳す刀は破砕の気を纏う。

「それに手加減は無粋。虞を祓うであらば全力が礼儀だ」

 怪力に任せた唐竹割りが獄卒を捉える。が、敵もさる者。持ち上げられた鬼棍棒の先端部に手が添えられる。手本のような衝撃に強い姿勢だ。
 関係無い。
 振り下ろした刃によって金棒は爆ぜ割れる。
 散り散りになる欠片の向こう、目の前に閃いたのは、獄卒の不敵な笑み。

「仕返しだ!」
「がっ……!?」

 仰け反る。
 足が浮く。
 棍棒の破片だ、と妙に冷静なままの頭が囁く。分かったところで額の瘤が治る訳もなく、出血もまた然り。
 ……それでも重心を前へ。踏み込みと変じさせた足で突破する。
 痛みも苦しみもすべては捩じ伏せ耐えるもの。一刀一足あらば護る為の手は届くと、身命賭した覚悟に応えるべく。
 逆に考えれば、相手は今は無手。
 であるならばこちらは届く。
 後方へと飛んだ獄卒へ、蛇腹の刃が追い付いた。

「はァ!?」
「逃れたと思うたか。叶わんとも」

 先の唐竹割りは力のみと思わせる為の札。
 よって蛇腹剣は死角からの奇襲として成立する。
 逃れるための退路から先に断った嵯泉は油断なく柄を握り直す。

「安心するがいい。私は生かす為に此処に在り、護る為に刃を握る」

 故に当然、此処に立った刃は殺人剣に非ず。
 伸びた刃は命を狙わない。四肢と意志、その身に宿った骸魂をこそ打ち砕く。

「其れは、お前達もだ」

 ───【弩炮峩芥】。
 防御も回避も叶わぬ刃が獄卒も親分も巻き込んで雪崩落ちる。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハイドラ・モリアーティ
【BAD】
おいおい俺がそりゃもう詐欺師も顔負けな
嘘つきガールだからって
あ――いっだい!?
ああー、くそ!マジで殴りすぎ

エコーかばっちゃうのは半分くらい癖
いつも守られてるからいいのよハニーって
ゴラァ!顔はやめろ――ああもう、復元するのにどれくらい時間かかると思ってんだ
まあ、三十秒くらい?
【Ἀποκάλυψις】、悪い部分だけ食らってやるよ
大丈夫、今回ばかりは峰うち
俺ぁオブリビオンが大好物でね
妖怪はノーサンキュー

よう、親分。俺のお姫様はとびきり怖いぜ
うらめしや、だ――エコー
邪魔なものはあらかた削った
「峰うち」が俺の願いだ
――わ〜お、慈悲深い
俺に感謝しないとな、親分
そんじゃ、お代の請求はまた「明日」!


エコー・クラストフ
【BAD】
地獄の獄卒、か。親近感を感じるな
ボクも嘘つきとか口の悪いやつとかを咎めるのが得意でね
どうやらお前たちはそう罪深くはないようだが――
ハイドラを傷つけた罪がたった今追加された
地獄の亡者の代表として。お前たちに罰を与えよう

【龍を堕とす獄光】
なに、元々地獄由来の雷だ。獄卒のお前たちが浴びても死にはしないだろう。せいぜい痺れる程度でな
ボクのお姫様は峰打ちをご所望でね。殺しはしない

……フフ、峰打ちか
ボクがもともと手にしていた呪剣は両刃。峰打ちなんてできなかった
けどハイドラから貰った呪鋏。これになら峰がある
以前のボクだったら関係なく皆殺してた。ハイドラがいるから命が助かるんだ。感謝しろよ、妖怪ども



●夜海越えの取立人達

「猟兵さん達は『噓つき』かにゃ?」

 問いかけが聞こえた、直後。
 ハイドラ・モリアーティ(冥海より・f19307)の頭がそれこそボールめいて吹き飛んだ。

「ハイドラ!?」
「おうおう、そっちの心配してる余裕があんのか?」

 エコー・クラストフ(死海より・f27542)の悲鳴を見下ろしたのは鉄錆の色を滲ませた包帯。
 盾と掲げんとした剣の向こう、差し挟まれた肌色がやはり薄紙みたく引き千切られる。
 ぐちゃぐちゃにされた恋人に一瞬、けれど確かに動揺するのはエコーの方。死んだ当人からすれば蘇ることが分かっているからさっさと身体を復元するだけ。
 二回死んだことを物ともせずハイドラは口の端を吊り上げてみせる。

「オイオイ。俺が詐欺師も顔負けな嘘つきガールだからって、そりゃあズルいだろうよ」

 是なら『嘘つき』に特攻が乗る鬼棍棒が襲ってくる。
 非と答えたとして、ウソを一度もついたことの無い人間がいるだろうか? よって『噓つき』認定からは逃れられない。
 あるいは彼の親分も彼女の中にいる邪神を警戒して、あえてそんな掟破りな質問を投げたのだろうか。
 ……答えはしないだろう、きっと。
 だって獄卒が返事の代わりに投げてきたのは壊れた鬼棍棒だったから。罅でも入っていたのだろう、空中で自壊した破片が雨霰と二人へ注ぐ。

「おいゴルァ! 顔ばっか狙うんじゃねぇ! それとも顔潰すのが好きなサイコだってか!?」
「そんな奴が獄卒なんてやってるんだったら世も末──地獄も末? だね」
「勝手に人の性格ネジ曲げるたァどういう了見だテメェ!? こちとら品行方正な獄卒衆の一員だっての!」
「カクリヨの品行方正ってUDCのチンピラって意味?」
「そういえば奇遇だと思ってたんだよね」

 鬼棍棒の破片を振り払い一歩前へ。
 浅い傷ならたちどころに修復されていくからお構いなしと、海色の瞳が凶悪に細まる。

「地獄の獄卒。ボクも嘘つきとか口の悪いやつとかを咎めるのが得意でね」
「ほう? ご同輩にゃ見えねぇが」
「似て非なる、って言うんだっけ。少しばかり親近感も感じるけど」

 口の悪さはご同輩。
 獄卒なんて務めているからにはウソなど縁のない正直者。
 骸魂のことを差し引けば然程罪深くはなさそうだが。

「お前たちはハイドラを傷つけた罪人だ」

 罪を罪と定める基準一点、そればかりが相容れない。
 線を引いた敵同士? だからどうした。
 彼女が赦してしまうだろうその一線を譲らないのはエコーの都合。よって目の前の妖怪たちは彼女にとって罪人である。

「地獄の亡者が獄卒に罰を与えよう───」

 空気に罅が入る。そう錯覚するような電流の弾け。
 どこから降るか分からないそれに獄卒たちが身構えるのを見ながら、それが自分に当たらないと知っているハイドラばかりが優雅に腕を組む。

「『峰打ち』で頼むぜ、エコー」
「……フフ、了解」

 引き抜いたのは愛用の呪剣、ではない。
 『スプリテ・デ・サングェ』は両刃だから峰打ちは出来ない。エコー独りでは峰打ちなんて知識としては知っていても活用しようと思ったことがない。
 だから携えたのはハンドル部の結合を解いた狩鋏。
 正義の柱を意味する名を与えられた鋏にして双剣は峰がある。
 それを、地面へ突き立てる。

「───天を目指す者に罰を」

 謳う声に合わせ、誘雷針と化した剣へ地獄の雷が落ちてきた。
 目を焼く閃光に誰もが思わず顔を背ける。

「そして地にいる悪い子ちゃん達にはオシオキだ」

 それすら欺瞞と数えていた三十秒が経過する。
 雷光に紛れ、地より喰らい付く黙示のカタチは竜の牙。好き嫌いの激しいカミサマは大好物のオブリビオン──骸魂だけを貪り喰う。
 虞を祓われた獄卒たちは“敵”ではない。
 よってエコーが目指すのは百鬼夜行の終点に座す親分ただひとり。

「感謝しろよ、妖怪共」

 引き抜いた剣を、当然とばかりに翳すのは峰の側。
 稲妻と竜口が埋め尽くすマヨヒガを駆け抜けての宣誓は最初からずっと変わらない。

「ボクのお姫様が峰打ちをご所望だ。殺さないでおくよ」
「んでもって、感謝も詫びも時間切れだ」

 親分を守る妖怪衆はもういないから直線ルートはがら空きだ。
 よって選ぶのは最高速。打ち倒そうとする刃も爪もエコーの脚を止めるものではない。
 振り下ろされる刃の向こう、不殺の剣を渡した竜が笑みひとつ。

「うらめしや──だ。どうだ親分、俺のお姫様はとびっきり怖いだろう?」
「……にゃあ、まったくだにゃ」

 閃きは雷速。
 龍をも堕とす獄光は親分さえ例外なく地へ下す。
 いっそ清々しげに天を仰ぐ親分へハイドラは満足げな笑みをひとつ。

「それじゃあ、お代の請求だが」

 親指と人差し指でマルを作る、分かりやすいお金を示すハンドサイン。
 ……その手が柔らかく開かれる。
 明らかに「5」を示すのではないパー。目を丸くする親分へ軽く振って見せた。

「また『明日』!」

 ──だから、取り立てに行くまでしゃんとしてろよ?
 ──踏み倒すなんて許さないから、ね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グィー・フォーサイス
わあ、すごい
カリスマの塊ってこういうひとの事を言うのか
親分って肩書も伊達ではないよね
僕のヒゲがビリビリする
プレッシャーを感じているんだろう

でも僕はプレッシャーに強いタイプだよ
どんなお偉方だろうとヤの着く事務所だろうと
手紙はしっかり届けるタイプさ

さあジェイド、仕事の時間だ
風を纏って攻撃を逸したり
風魔法で攻撃も出来るよ

悪霊軍団たちには帰って貰うよ
『特別送達』
親分、君も帰ってくれたら嬉しいけど
君は抗うだろう?

――追い風を

どんなに傷ついたって
僕は手紙を届けるまで諦めない
心の籠もった手紙
君のことを案じる妖怪たちからさ
誰よりもこの地を思っている君には
何よりも効くだろう?

誰かが一緒でも補い合えるように戦うよ



●逆風越しの特別送達

 獣の感覚は人のそれよりずっとずっと敏感だ。
 だからだろう、グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)のヒゲはイヤなピリピリを伝えてきた。
 ひとつの世界でトップを張るうちの一人。『親分』と呼ばれるだけの力を持った妖怪が骸魂を纏って立ち塞がる姿。
 一人では絶対に敵わない強敵が目の前に立っている。

「わあ、すごい」

 あえて呑気に聞こえるよう言葉を作って、けれど地を踏む足は前へ飛び出す準備中。
 たとえ火の中水の中、ヤの付く事務所だろうがマの付く自由業だろうが。
 どんなお偉方にもしっかり手紙を届けるのはグィーの仕事、その誇り。手紙の詰まった鞄をぱちんと叩けば翡翠色が先導と飛び出していく。

「うん、ジェイドもやる気十分みたいだ。───さぁ、仕事の時間だよ!」
「仕事人結構。けどこっちだって大人しくはしないにゃ。───悪霊衆!」

 ただでさえ小さく、身軽なグィーの背をジェイドが吹かせる追い風が支える。
 真っ直ぐに向かう先、山本がぶん! と懐刀を振るえば飛び出してくるのは薄く濁った靄。
 悪霊衆。
 それが齎す異常が足を止めると知っているからグィーは首を左右に振った。

「悪いけど、」

 指先が器用に鞄の留め金を外す。必要な束を引っ掴んで解けば、ジェイドの方が風に乗せてくれる。
 それは送り状。
 送るべき場所などご自宅以外に有り得ない。

「悪霊軍団たちには帰って貰うよ!」

 だから風が吹いた瞬間、一気に空気が透き通った。
 悪霊衆の棲家は山本親分の持つ刀だけれど、一度帰ったらすぐには出発できない。文字通りの紙吹雪が吹き荒ぶ向こうでグィーばかりが頷いてみせる。

「やっぱり、君は抗うんだね。……帰ってくれた方が嬉しかったんだけど」
「抗うも何も、“此処”が儂の家だにゃあ」

 だから、もう帰っている。
 どこに行くこともなく猟兵達を迎え撃てる。
 言外に告げる瞳は笑っていても動くつもりはないと訴えるから、グィーも仕事を果たすだけ。

「それなら、君への特別配達はこっちだ」



『おやぶん、しなないで』


                 『また日向ぼっこしようぜ』
  

    風に舞う、
         手紙は無数。


              『いいかつお節が入ったの。今度持っていくからね』


     『またあそぼ!』


「……何にゃあ、これは」
「君に死なないでほしいと思っている、妖怪たちからだよ」
「……!!」

 此処を故郷と定め守らんとしているなら、心を籠めるのはそこに住まう妖怪達だ。
 元よりグィーの本業は運び屋。自宅へ送り返すよりこの手紙を届ける方がずっとずっと大事な仕事と心得ている。

「誰よりもこの地を思っている君には、何よりも効くだろう?」

 琥珀色の瞳を零れんばかりに見開いて、勝手に手元に集まってくる手紙を受け取って。
 ……けれど、親分の脚はもう一度踏ん張った。

「……いいや。みんなが帰る場所のためにも、儂は容易く倒れる訳にはいかんにゃあ……!」

 そんな未来が来ないとしても。
 そうやって心を尽くしてくれるかれらの居場所を守るために。

「ああ。だからこそ、僕らは逆風になろう」

 故にその虞を祓わんと、強く強く風は吹く。

成功 🔵​🔵​🔴​

リア・ファル
匡にーさん(f01612)と

己を賭する覚悟を識っている
だからこそ、もう充分だと、ボクの胸の裡の声が叫ぶ
今を生きる東方親分衆の明日の為に

『ヌァザ』で戦場全体へ広域干渉
【封絶の三重錨】!

掌握した空間なら、どこからでも、何連でも生成できるのさ
(ハッキング、結界術)

接続した空間から空間へ
錨鎖が張り巡らされ、妖怪達を縛り上げていく
(捕縛、ロープワーク)

その錨鎖の乱立する空間を『イルダーナ』で駆け抜け、親分へ挑む
ボクの制御する錨鎖は、敵を牽制し、ボクらを支援するのさ

戦艦のAIとして、相手に戦術を絞らせたりしないさ
(戦闘知識、集団戦術)

うん、行こう、匡にーさん
それがボクたちの答えだから


鳴宮・匡
リア(f04685)と

命に代えてでも、ってのはさ
わからなくはないよ
でもだからこそ、それを許すわけにはいかない

戦場全体を視ることなら得意だ
得た情報はリアにも共有して彼女の空間把握の助けに

群を相手にする時と、強大な個を相手にする時は違う
囲んでくるか、群れで一丸になるかでも攻め方は変わる
相手を常に観察しながらその戦術と陣形を見切り
最適な武器を形成して対応するよ

どうすれば殺せるか、なんて飽きるほど考え続けてきた
心を殺してまでも、ずっとそれだけを
……だからこそ、殺さない術だって心得てる
これも“俺だからこそ”選べる答えのひとつなんだろう

――さあ、勝ち取りに行こうぜ、リア
誰も犠牲にしない、嘘みたいな勝利をさ



●水平線上に夜明を臨む

 その覚悟を知っている。
 命を懸けても勝ち取りたいこと。
 己を賭して明日に挑むこと。
 そうしないと手にできないものがあって、だからこそ進んでいくということを。
 戦艦──武器として生まれたリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)だから、ヒトが抱く決意を、覚悟を、知っている。

「けど、だから、もう充分だろう?」

 胸の裡の声をそのまま零す。
 いくらカクリヨがUDCアースから流れ着いた妖怪達の世界とは言っても、まだ続いている世界だ。
 親分達だって、───死ぬ覚悟で骸魂を纏った彼らだって。
 今を生きる、リアが存在をかけて守るべき明日なのだ。

「誰もキミ達に死んでほしいなんて思ってない。虞は十分祓われただろう?」
「……なんて、リアが言って聞くようじゃそこに立ってないだろ」
「にゃはは、よくお分かりにゃ」
「──だからこそ、“命に代えてでも”なんて許すわけにはいかない」

 だから鳴宮・匡(凪の海・f01612)は殺さないための武器を執る。
 話して解決するようならまず『大祓百鬼夜行』なんて名前を冠された戦争が起きていない。
 願う未来が異なるなら勝ち取るしかないと知っている。手の中へ滑り落ちた影が使い慣れた銃を象るからいつも通りにグリップを握る。
 ただそれだけの、戦闘を告げる動作に、山本親分は我が意を得たりと笑うのだ。

「ならば果たして見せるがいいにゃ、猟兵さん達。そんな都合のいい未来が本気で来ると思ってるにゃら!」
「───モチロンさ!」

 だからリアは銀剣を翳す。
 彼女が充分に駆け回れる広さを持つマヨヒガと言えど、彼女に──その“本体”に本来想定されている宇宙空間よりはずっとずっと狭い。ならばリアの演算機能で捉え切れる範疇だ。
 観測する。
 解析する。
 身を潜める獄卒衆の吐息を聞いて、鬼棍棒が床と擦れ合う音を聞いて、山本親分が懐刀を抜くのを見て、どれから対応すべきかと電子頭脳がフル回転。
 己に許された感覚で同じ戦場を視る匡の反応が一歩早い。

「階段だ」
「了解!」

 生成、発射。
 すでに掌握した空間だから己の一部とも言える錨鎖の射出はスムーズだ。封じるための三重錨は獄卒衆の出鼻を挫くように縛りつける。
 一点でも動きを封じられたなら死神の瞳が隙を逃さない。音を立てぬ影銃の引鉄を絞れば動き出すための足から刈り取っていく。
 三界を観測する桜の眼差し。水底から空を望んだ規格外の知覚。
 カクリヨの妖怪たちにとっては未知に過ぎる観測能力は逃れることを許さない。

「この程度ォ!」
「なら、こうしようか」

 中には鎖を引き千切り、足から血を流しながらも立ちはだかる獄卒がいた。地獄に属するかれらはもしかしたら魔の効用に耐性があったのかもしれない。
 だったら通じるようにするだけ。
 出力増強。空間接続。射出は三連、それすら飛び退いてさけるなら空中でホーミング。背後から鬼棍棒を絡め取り、武器伝いに肩を縛る。関節部さえ極めてしまえば迂闊には動けないだろうというのも計算のうち。
 気がつけば、マヨヒガに自分の足で立っているのは三人きりになっていた。

「『イルダーナ』!」

 そしてリアは空を征く。
 これまでの傾向から山本親分に飛翔手段がないことを知っている。同時に張り巡らされた鎖を操作し距離を詰めさせない。

「まだまだにゃあ!」

 だが山本親分とてただではやられない。
 猫の足が止まることなく駆け出した。追いかける鎖を器用に避け、絡ませ合い、時に踏みつけ爪で押し退け自切して。
 永きを生きる彼女は根競べだって朝飯前。蜘蛛糸で綱渡りするような苦難だって幾度となく越えてきた。

「───そこだ」

 だから、均衡が破られるのは一瞬。
 山本親分が躓いた。───否、銃撃によって躓かされた。
 体勢が崩れたそこへ襲い掛かる三重封錨。重力、魔術、電子の領域で縛られてしまえばさしもの親分も抵抗はできない。

「っ……この! 放すにゃ!」
「悪いけど。もう詰みだ」

 もう一射。
 親分の手、刀を握る甲を精確に撃ち抜く。
 いかな強靭な山本親分とて物理的に握力が失われたなら握れない。地に落ちる懐刀の音はいやに明瞭にマヨヒガの中へと響き渡る。

「だから、これでお終いにしよう。東方親分」

 殺す方法はあった。
 自分より強大な敵を殺すための方法なんて飽きる程考えて、考え続けて、飽きる程考えて。……ついにひとらしいこころまで一緒くたに殺してしまっても、まだ考えてきたから。
 殺す方法を知っている。
 だからこそ、殺さない術も見つけられた。
 極限まで見開かれた琥珀色の瞳が雄弁に、リアの向ける銃を防ぐ手段がないことを知らせるから。

「──さあ。勝ち取りに行こうぜ、リア」
「うん──行こう、匡にーさん」

 誰も犠牲にしない。ならない。
 そんな夢みたいな勝利を告げるべく、『セブンカラーズ』が高らかに謳った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

大紋・狩人
【仄か】
西も東も、優しい者達ばかりだね、ラピタ
ああ、気の良い彼らの信頼だ、全力で応える
──東を統べる親分殿、世界を守るために戦うあなたに
戦人として敬意を払おう

(かばう、破魔、狂気耐性
ラピタを守り
ああそうか、やっぱり
自覚は遠く、されど、彼らと薄ら似た気配のからだ)
憑依の効かない存在か、僕

火炎耐性と捕縛を込めたウィズミー
春爛漫の迷路を戦場へ
蒼炎は、晴天のあたたかさ
花見酒の酩酊心地で、どうか眠りを

……あなたたちもこの世界の一部だ
(戦い朽ちた母を、西の王子を、思い出して)
守り抜いた先、強者として生き残って
どうかこの先もずっと、幽世の世界に在ってほしい

うん
大丈夫だよ、ラピタ
きみの炎は
ひとを生かす炎だった


ラピタ・カンパネルラ
【仄か/カロン(狩人)】

うん、西も東も。やさしい人ばかり
それに東は、とても賑やか。こんなに和気藹々としてるのに、肌が痛むような程の殺意ーー僕達を信じてくれてるのが、全身で伝わる

死ぬ気で君たちが信じた僕達だ、応えてみせるよ

空一面の青空を。メロウ、天から炎と眠気をふりしきらせる。
どこに隠れていたって、等しく。
カロンの咲かせる花園で、炎はただ眠気を呼ぶぬくみへと。
今ここを、誰も死ななくていい楽園にしよう。眠ったら起きる、そんな当たり前を叶える世界にーー

ーーできたかな
少し前まで「致死量の眠気」しか撒けなかった僕だ
カロン、親分、みんなは、生きていますか
君の花園を信じているけれど問うて
笑う
よかったあ……!



●何れ訪れる朝まで夢を見て

「獄卒衆はもうダメぽんーーー!!」
「ケケケケ。一番酷使されてやがったからな」
「オイゴラァ!? 勝手に地獄に還すんじゃねぇ!」
「おみゃーら、まだ猟兵さん達いるのに気を抜きすぎにゃ!」

「──……西も東も、優しい者達ばかりだね、ラピタ」
「うん。それに東は、とっても賑やか」

 山本親分と仕える妖怪衆の声を聞いて、知らず知らずのうちに大紋・狩人(黒鉛・f19359)とラピタ・カンパネルラ(薄荷・f19451)は笑い合った。
 ここが一秒後には傷を負いかねない戦場だなんて、肌を突き刺すような殺意のうちに知っている。
 けれどここにあるのはそれだけじゃあない。
 ざわめき。微笑み。殺意に隠した信頼。星のように眩い感情も、また。

「──東を統べる親分殿。世界を守るために戦うあなたに戦人として敬意を払おう」
「応えて立ってくれる猟兵さん達こそ、儂らが感謝を告げるに相応しいにゃあ」
「いいや、それは全部終わってからお願いしよう」

 魔祓いの銀炎が狩人の腕に集う。
 鮮やかな蒼炎がラピタの身体で踊る。
 戦意は十分。決して殺しはしないけれど虞を祓うに不足無しと。

「死ぬ気で君たちが信じた僕達だ、応えてみせるよ」
「なら、確かめさせてもらおうか」

 空を滑って飛んでくるのは毒々しい紫の薄モヤ──悪霊衆だ。既に死した命、世界に害を振り撒くソレへの役割分担はいつも通りに狩人が前。
 ラピタの前に立ち塞がればぞっとするような冷気と共に足が圧される。足首を握り潰さんとする掠れた手へ向けて。
 銀が燃える。

「危ないよ」
「承知の上と言ったなら?」
「だったら、振り払うさ」

 それはダンスの優雅を纏った武骨。
 踵落としの要領で地面へ足を叩きつける。衝撃が悪霊衆の手を引きはがすが、足首の痛みは消えない。
 罅でも入ったか、思考が巡る。かれらの得手は憑依による呪殺と聞いていたからまさか物理的に来るとはと。
 けれどいかな悪霊とて、××に憑くことはできないのだろう。
 違和感より納得が勝ったから答えは素直に口をつく。

「───憑依の効かない存在か、僕」

 自覚は未だ遠く、認めるに至らずとも。今は恐れを遠ざけると知ったから隣の紅に視線を向ける。
 深呼吸を一回。

「いい?」
「もちろん」

 応えてみせるとは言ったものの不安はあったのだろう。ひとつ息を吸いこんで、身を揺らせば。
 空、蒼く。
 戦場が、春爛漫へ塗り替わる。

「だから、帰ろう。みんな、みんな」
「───喜んで」
「にゃっ……!?」
 
 一面の青空は誰も彼も逃がしはしない。眩しすぎない、春の淡い空色が親分を、丸狸を、獄卒衆を、悪霊たちを捉える。
 そして地面も花が咲く。
 共に征こうと繋いだ花辺がとらえた彼らを迷いの内に閉じ込める。

「ぽん!? これ……化術じゃないぽん!」
「……となると、戦域強制塗り替えか。さすが猟兵と言うべきだろうな」
「褒めてる場合か!」

 言い合う妖怪衆へ、ぽつり、ぽつり。
 やがて勢い増してふりしきるのは空と同じ色をした青い炎。
 それは傷を負わせるためでなく、ぬくみで眠気を与えるために。空から贈り物が落ちてくる。
 ……だって、彼らもカクリヨにあるべきひと達なのだ。
 戦いの中で朽ちていった強く勇ましい母を思う。己の身を削ることを由と立ちはだかった西の王子を思う。
 かれらの、ほんとうのさいわいは、なんだったのだろう。
 分からないけど狩人は思う。
 この世界を守っただけで満足して死なないで。
 この世界を守り抜いた先、「守った」強き者として生き残って。
 どうかこの先もずっと、幽世の世界に在ってほしい。
 それは猟兵の傲慢かもしれなくて、けれど望まずにはいられなかったから。

「──……花見酒の酩酊心地で、どうか眠りを。ゆっくり休んで」

 やさしい、蒼の雨が降る。
 此処は楽園。
 誰も死ななくていい場所。
 眠ったら起きる。そんな当たり前を叶えるために炎は東方親分と妖怪衆を照らし出す。

「ぽ、ん……」
「オイ、ボケ狸……」
「……ケケケケ。我等には眩しすぎるな」

 まず丸狸が転げ落ちた。それを掬おうとした獄卒が倒れて、陽の光に透けた悪霊は懐刀へと帰っていく。
 眠っていく部下たちの姿に耐えかねたかのように山本親分も花咲く地面に転がった。

「……にゃはは。儂が一番好きな景色じゃあないか。こりゃあ、勝てにゃい、にゃあ……」

 笑う声が途切れて、すやすやとした寝息にとって代わられて。
 青い青い空の姿を解いたラピタは、魔法が解けるのを恐れるように震える声を落とした。

「……できた、かな」

 ほんの少し前まで、ラピタの降らせる炎は致死量の眠気しか齎せなかった。差し出した幸福を受け取って死んでしまう人達の方が多かった。
 その為の花園を信じてはいたけれど、それでも問わずにはいられない。

「カロン。……みんなは、生きていますか」
「大丈夫だよ、ラピタ」

 打てば響くように、肯定は何の異論を差し挟むことの無い軽やか。
 楽園の光景を伝える声にはかぎりないやさしさだけがあった。

「みんなよく眠ってる。きみの炎はひとを生かす炎だった」
「よかったぁ……!」

 平和のための礎なんてこの世界には必要ない。
 だから今は目を閉じて。開いたときには朝の挨拶をしよう。
 そのためにも、今は。

「おやすみなさい、みんな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月27日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#大祓百鬼夜行


30




種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト