大祓百鬼夜行⑧〜おもかげ
●おもかげ
さわさわと、水の流れる音がする。
穏やかな川は飛び越えるには広く、霞がかった視界では対岸が捉えられない。
薄ぼんやり照らされた川には、朱色の橋があった。
やはり先は見えないが、アーチ状の橋のようだった。
踏み込めば、足場は木製だと分かる。
一歩、二歩。こつり、ぎしり。
橋の向こうを見つめて、ふと、足を止めた。
紫煙に、或いは白霧に、それとも──に。
映し出された姿は。
世界が揺れる気がした。
●グリモアベース
「黄泉の入り口のひとつを見つけました」
お疲れ様です、とひとつ頭を下げた後、太宰・寿(パステルペインター・f18704)はそう告げた。
「カクリヨファンタズムでは、時折こうして『まぼろしの橋』と呼ばれる橋が掛かるのだそうです」
この橋は、渡った者を黄泉へと送る境界。
「そこで、皆さんにお願いがあります。この橋へ赴き、今はもう会えない想い人の幻影に会ってきて頂きたいんです。…… あくまで幻影ですが、これは辛いお願いをしているかもしれません」
会えて嬉しい方もいるかもしれないし、忘れたいと思っている方もいるでしょうから。そう紡ぎながら、寿は僅かに目を伏せた。
「一晩だけ……夜が明けるまで語らえば、橋を浄化する事ができます」
今はいない大切な人と、今一度だけ語らいをしてきてほしい。ぱらりとスケッチブックを捲る音がして、
「送った先の橋を真ん中辺りまで進めば、幻影は現れます」
記憶のおもかげ、そのままに。
「何を語るかは、皆さんにお任せします。どうか、よろしくお願いします」
柔らかな光はやがて消えて、目の前に霞む朱色が現れる。
105
105です。
こちらは一章で完結する戦争シナリオです。『大祓百鬼夜行』に影響を及ぼします。
●プレイングボーナス
あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。
想い人は亡くなった方で大切な方なら関係性は問いません。
想い人の詳細は必ずプレイングに記載してください。
想い人の反応は、プレイングに指定があればそのように。指定がなければ、基本的に頷くなど無難な反応となります。こだわりの点は必ず記載してください。
●採用方針
・判定が成功以上。
・2〜3名。
・ソロ参加を優先(合わせは最大2名様まで)
・イメージ出来たものから着手。
早めの完結を目指しています。
プレイングは公開と同時に受付いたします。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
第1章 日常
『想い人と語らう』
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POW : 二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。
SPD : あの時伝えられなかった想いを言葉にする。
WIZ : 言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。
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竜胆・樹月
●想い人
自分の父
自分を「人の子」として育ててくれた
幼い頃、海で遭難して亡くなったため、姿はうろ覚えだが会えたらわかる
真面目で優しい口調
線が細めで背が高い
橋に踏み込んで、いろいろ思う
ドキドキ…
でも、しっかりして
伝えたいことはしっかり言おう
橋に佇む
会えた!びっくり
涙が出そう…
少しの間は頭がぐちゃぐちゃ
落ち着こう…!
深呼吸をして、雑談をして、いつものペースを取り戻そう
近況、剣術の修行が大変だったという話、勇者(猟兵)をしているという話、趣味の話…
父さんにも聞きたい。母さんに会えた?元気でいる?
言いたかったことは
ありがとう
ボクが成長した姿を見てほしかった
母さんにもよろしく伝えてほしいな
●
流れる水の音は一定。立ち登る白霧は、しとりとして竜胆・樹月(竜神の剣豪・f33290)の頬を撫ぜた。
橋を歩きながら、姿を思い描く。
「父さん……」
幼い頃に失ったその姿は日々薄れて、今はもううろ覚えだ。
──だけど、会えたらなら分かる。
樹月はそう確信していた。
一歩、一歩。橋の中央へ。一番高い場所に近づいて、ぴたと足を止めた。静かに佇み、白霧の先を見つめた。鼓動がうるさい。少し緊張しているのかもしれない。
「でも、しっかりして。伝えたいことはしっかり言おう」
ぎゅっと霧を掴むように、手を握り込む。やがて、こつりこつりと橋を打つような音がして白霧の向こうにゆらりと影が映し出される。その姿はすらりとして、高い。
やがて明瞭になったその姿に、樹月は息を呑んだ。
「会えた……!」
目頭が熱い。じわりと歪みそうになる視界で、朧げな姿は確かな色を帯びてきて。その男は、紛れもなく父だった。
血の繋がりがなくても、自分を「人の子」として育ててくれた。今もまたあの頃のように、穏やかな笑みを浮かべている。海が攫っていってしまった、その人。
寄せては返す波のように、忙しなく感情が揺れて思考は纏まらない。
「いけない、落ち着こう……!」
ゆっくり吸って吐いて、深呼吸を繰り返す。目の前の父は、その様子を優しい眼差しで見守っている。
「ボク、話したいことたくさんあるんだ。聞いてくれる?」
幻の父はゆっくりと頷き、それを見た樹月も少しずつ落ち着きを取り戻して。最近の出来事から、話し始める。
剣術の修行が大変だったという話。
勇者──猟兵──をしているという話。
趣味の話──……。
樹月が話すことを、目の前の父は時に相槌を打ちながら眦を緩めて聞いてくれた。
「そうだ、父さんにも聞きたいんだ。いい?」
樹月の問いかけに、優しい笑顔を浮かべてあぁと頷く。
「母さんに会えた? 元気でいる?」
幻影だと分かっていても、尋ねたかった。会えていて欲しかった、元気でいて欲しかったから。
「──ありがとう。
ボクが成長した姿を見てほしかった」
それは叶わなかったけれど。目の前の大きいけれど繊細な手は、樹月の頭を優しく撫でる。まるで、大きくなったな、とでも言うように。
「母さんにもよろしく伝えてほしいな」
幼い頃触れたふたりの手の感触が、朧げな記憶から思い出されて。樹月はそう願いを口にした。
優しく頷くその顔を、樹月はずっと見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵
旭・まどか
ふふ、相変わらずお前は“優しい”ね
困った橋を救う為にその身を呈するなんて
こういう言い方をするのは嫌かい?
そうだね
けれど、僕は嘘は吐かないよ
――だって、仕方無いじゃない
僕は未だ、お前の決断が善かった事だと誇れる程
出来てはいないのだから
あの日抱いた怒りも、苦しみも――そして、痛みも
どれ程時が流れ様と癒えるものでは無い
――癒える筈が無い
これはお前がどれだけ望んだとて、叶えられない
だって覆らない現実が、此処に在るから
一歩踏み出す度
未知の道を選ぶ度
お前なら、お前だったらば、の、仮定が消えないんだ
――莫迦でしょう?
自嘲の笑みに返るはやわらかな微笑み
ふふ、お前は“こんな時”にまで
“お優しい”んだね
●
橋と川を覆う白霧は、いつしかあの子の彩を帯び始め──橋の果てから現れたその姿に、旭・まどか(MementoMori・f18469)は、小さく口角を上げた。
「ふふ、相変わらずお前は“優しい”ね」
『お前』は、灰色を揺らしてこてりと首を傾げて、無垢な瞳でまどかを見返す。
「困った橋を救う為にその身を呈するなんて」
そうまどかが告げると、頬を膨らませてまどかをじぃっと見つめて、
「こういう言い方をするのは嫌かい?」
尋ねるまどかにこくりと頷く姿に、まどかもひとつだけ頷いて返した。
「そうだね」
僅かに視線を向けた川は、霧で霞んで見えない。音だけが、まどかの耳に鮮明に響く。
「けれど、僕は嘘は吐かないよ」
お前も嘘は苦手なんじゃない? そんな思いで、まどかは霧の中でもなお輝くその無垢な瞳に視線を返して、ふっと息をついた。
「――だって、仕方無いじゃない」
自分が出来た人なら、あんな言い方しなかったかもしれない。だけど──。
「僕は未だ、お前の決断が善かった事だと誇れる程──出来てはいないのだから」
まどかの表情を映す瞳は一対だけ。まどかの浮かべる表情を、どこか寂しそうな彩で見返す瞳だけだ。
「あの日抱いた怒りも、苦しみも──そして、痛みも」
どれ程時が流れ様と癒えるものでは無い。
「──癒える筈が無い」
「──……」
川の流れのさやさやとした音の中で、懐かしい声がまどかに届く。だけど、まどかがその言葉に頷くことはない。
「これはお前がどれだけ望んだとて、叶えられない。だって覆らない現実が、此処に在るから」
まどかの背負うもの、
「一歩踏み出す度。
未知の道を選ぶ度。
お前なら、お前だったらば、の、仮定が消えないんだ」
── “彼の生”。
いつだって もしも が消えることはない。
「――莫迦でしょう?」
まどかの浮かべた自嘲の笑み。僅かに歪められたピンクの瞳に映っているのは──まどかに返されるのは、やわらかな微笑み。いつだって変わらないその笑顔に、まどかは再び唇を開く。
「ふふ、お前は“こんな時”にまで」
──“お優しい”んだね。
吐き出した声が、風の生んだせせらぎに攫われて消えていく。月が空に混じり溶けるように色を淡くし、世界は陽の光をはらみはじめた。霧がゆらりと揺らめいて、ぼんやりとした橋の輪郭は薄くなる。
「……あぁ、もう時間なんだね」
夜が明ける。まもなく橋は消えるだろう。
やわく笑む唇が、「ばいばい」と紡ぐ。
「(本当に──お優しいことだね)」
橋と共に薄らぐその姿を、まどかはただ黙って見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵
西条・霧華
「例え幻影であっても、私は…」
出会うのは私の故郷が灰となった日、共に喪ってしまった大切な女友達です
引っ込み思案だった私を、いつも笑顔で引っ張ってくれた大切な…
久し振りですね
あなたから貰った時計、まだ大切にしてるんですよ
あなたは、全てが灰燼と化した『あの日』のままなのに、私だけ年を取っちゃいました
…私だけが生き残ってしまいました
今は、同じ様な悲劇に見舞われる人がいない様に戦っているんですよ
…だから、ごめんね
私がそっちに赴くのはもう少し後になるよ
…本当に、あなたはあの日のままなんだね
怨まれても仕方ないのに、変わらない笑顔で背中を押してくれるんですね
ありがとう、またいつか逢おうね
その日まではさよなら
●
「例え幻影であっても、私は……」
その先の言葉は、白霧の中に消えていった。朱色の橋の丁度真ん中。佇む西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)の目の前に、あの日の少女が現れたから。少女は故郷の友人だった。
霧華の故郷は灰となって、今はもう存在しない。あの日、故郷と共に失った友人が変わらぬ笑顔で霧華を見上げている。引っ込み思案だったあの頃、手を引いてくれた笑顔そのままに──。
「──久し振りですね」
吐く息が、ほんの少し震えた。思わず握りしめた欄干の冷たさが、これは現実だと知らせてくる。霧華は彼女の笑みに応えるように、微笑んだ。
「あなたから貰った時計、まだ大切にしてるんですよ」
胸元から取り出して見せたのは、時を刻まなくなった時計。フレームは傷つき色を変え、硝子板はひび割れて。あの日の時のまま、止まっている。
「あなたは、全てが灰燼と化した『あの日』のままなのに、私だけ年を取っちゃいました」
くれた時計と同じ。目の前の少女はあの日のまま、記憶のままに微笑んでいる。同じ高さだった視線は少し遠くなって、嫌でもこれは幻なのだと突きつけてくるようでもあった。
「……私だけが生き残ってしまいました」
動かない秒針の上、硝子板を指でなぞる。己の時間だけ止まる事なく進んでいく。だけど、だからこそ出来ることがあるのだと霧華は彼女に向けて笑みを向けた。
「今は、同じ様な悲劇に見舞われる人がいない様に戦っているんですよ」
護ると決めて、刀を取った。それは霧華の願いであり、誓いであり──あの無力感に苛まれた日から、霧華を縛る呪いでもあった。
「……だから、ごめんね」
分かっている。だけど、もう決めている。
──会いたい。会えない。
霧華の覚悟は、どうあっても揺るがない。揺らいでは、いけないのだ。
「私がそっちに赴くのはもう少し後になるよ」
その言葉に、友は優しい笑顔を浮かべる。それでいい、頑張れと、言われているようで。霧華は僅かに眉を下げて、どうにか笑みを作った。
「……本当に、あなたはあの日のままなんだね。
──怨まれても仕方ないのに、変わらない笑顔で背中を押してくれるんですね」
やがて空が幽かに白んで、もう帰るんだよと言うように彼女は霧華の後ろを指さした。こっちに来てはいけないよ、と。
「ありがとう、またいつか逢おうね」
こくんと彼女は頷いた。やはり変わらない、あの頃のままの笑顔を浮かべている。だから、霧華もいつかのように笑って友に手を振った。
その日まではさよなら──。
大成功
🔵🔵🔵