5
大祓百鬼夜行⑩~雨の夜泣きそば

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#大祓百鬼夜行


0




 カクリヨファンタズムには、懐かしい雰囲気が漂う街並みがある。
 人々に忘れられ、いつしかUDCアースから見なくなってしまったようなものが、いつのまにかそこにあるかのように、懐かしい街並みがあるのである。
 それは昼下がりでも夕暮れでも、とっぷりと陽が落ちても変わらない。
 加えて雨脚に頼りなげな街灯くらいしか光源が無くなると、そこいらに住まう妖怪たちは近場の屋台に立ち寄る。
 しとしとと染み入る様な夜の雨に冷えた体に、暖かなオレンジの明かりと湯気のあがる屋台の品々は嬉しく、ついつい酒も進もうというものだった。
 夜ともなれば質の悪い酔客も多いわけだが、その屋台の主人はそこいらの妖怪では相手にならないくらい力の強い竜神であり、それでいて謙虚な佇まいが気に入られて一定の客層を得ていた。
 何よりも、見た目には若々しい少女が相手にしてくれるとあっては、酔っぱらいおじさんどもはいい気分にならざるを得ない。
 夜泣きそばを謳う屋台の看板メニューは、昔懐かしい醤油ラーメンに、山椒の利いた豚の角煮。
 食事をするにも、お酒を飲むにも、それらはどこか懐かしく酔っぱらいおじさん達を魅了してやまない。
 しかし、この情勢につき、どうにも様子がおかしい。
「お客さん、角煮のおかわりはいかがです? お酒もまだまだ足りないでしょう。いっぱい用意してきたんです」
「いやいや、今日はもう……これ以上は帰れなくなっちまうよ」
「そんなことを言わずに、もっともっと作りますから……」
 骸魂を取り込んでしまった屋台の女主人は、控えめながら強者の眼力をぎらつかせて圧倒するように、しかしあくまでも謙虚にお客を引き留めようとする。
 注文されるまでもなく、屋台のカウンターには沢山のメニューが並んでいた。
 そう、主人は妖怪たちをもてなしたくて仕方なくなっているのだった。
「いっぱい、いっぱいありますから、もっと、食べて……おいしい、ですよ?」
 心優しく前向きな、それでいて凄まじい圧力を覚える笑顔で、全力のもてなしが妖怪たちを襲おうとしていた。

「むむむむっ、竜神様の屋台ですってよ! これは、研究に出向いてみたいですねー」
 グリモアベースはその一角で、給仕姿の疋田菊月は、予知の様子を提示しながら、難しそうに腕組みする。
 最近はラーメン研究に余念のないという彼女にとっては、自らが予知した案件に介入できないという法則を前に、とても悩ましげではあったものの、やがて諦めたように一つ嘆息すると、居並ぶ猟兵たちに視線を戻す。
「こほん。カクリヨファンタズムでの戦争は相変わらずではありますが、大祓骸魂さんの正体に近づくため、多くの住民が骸魂を取り込んでしまっています。
 それはなにも戦う人たちばかりでなく、今回の場合ですと、屋台の女主人さんもそうなってしまったようです」
 ただし、元から彼女の戦場は夜中の屋台。お客さんをもてなす事が戦いである主人にとって、暴走するのは「もてなしの心」であるという。
 え、なにそれは。と顔を見合わせたりする猟兵たちを前に、パーラーメイドである菊月は、感慨深げに唸る。
「私、給仕をやってまだ浅いのですが、とてつもない精神性を感じますね。素晴らしい考えだと思います。
 あっと、ですが楽観はできません。このままでは、きっと屋台街はもてなしの料理で溢れかえることになるでしょう」
 暴走したサービス精神によって、屋台の主人は凄まじいスピードで料理を提供してくれる。
 もはや戦いどころではない。いや、そのもてなしに応え、提供された料理を食い尽くすこと事が戦いなのだ。
「この戦場に武器は不要……いえ、皆さんの鋼鉄の胃袋こそが、何よりの武器となる事でしょう。
 あ、一応ですが、普通に戦いを挑んで抑え込むのも手ではありますよ。何しろ、凄いスピードで料理してくるわけですからね」
 ただし、控えめで半人前と自称するものの、彼女はかなり強力な竜神である。その気にさせるのは、やや難しいだろうか?
「さあ、話は以上です。皆さん、胃袋の調子はよろしいですか? 野菜ジュースや少量の炭水化物で消化器官を整えておくと、いっぱい入りますよ!」
 そして、ラーメンの感想をぜひ伝えてくださいね! と、あさってのエールと共に、菊月は猟兵たちを送り出すのであった。


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 戦争シナリオ……ホントに戦争シナリオか? というような、穏やかなお話ですが、屋台を楽しむ酔っぱらいおじさん達にとっては割と死活問題なお話、じゃないかな、たぶん。
 憩いの場というのはなかなか稀有なものです。
 今回のシナリオは戦争シナリオですので、一章完結の短いものとなっております。
 一応、ボス戦という形ではありますが、戦わなくてもダメージのようなものを与えることができるお話です。
 宿敵とガチガチの戦いという雰囲気になるかどうかは、プレイング次第かと思われますが、まぁその……頑張ります。
 プレイングボーナスは、菊ちゃんがさんざん語っておりますが、飯を食えという感じです。
 昔ながらの中華そば、実は醬油ベースのラーメンと大きな違いはないそうですよ。
 一応、紹興酒などのお酒の提供もされますが、お酒は二十歳になってからです。未成年者には烏龍茶が出ます。
 断章などは書かない予定ですので、好きなタイミングでプレイングを出してくださって大丈夫ですよ。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
133




第1章 ボス戦 『雨に願うモノ『翠雨』』

POW   :    雨の記憶
【『誰かの大切な過去』を映す雨】を給仕している間、戦場にいる『誰かの大切な過去』を映す雨を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD   :    雨の鏡
【『今とは違う可能性の今』を映す雨】を披露した指定の全対象に【この雨の中に居続けたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ   :    雨の夢
【『未来の夢』で優しく包む雨】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鈍・小太刀です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

沢木・助平
ラーメンと聞いちゃ黙っていられねぇ!

ということで、初のカクリヨファンタズム入りっすよー。
お気楽行楽に赴きたいのが正直なとこだけども、お仕事が大事っすね。
「エライね!沢木ちゃん!」「ニクイね!沢木ちゃん!」
仕事熱心なのですけちゃん人形達も褒めてくれてるっすよー。

さてさて、もてなし過多に食傷気味なお客さんとの間に割って入りましょ。
あ、お客さんは自分と、事前にUCで召喚したこちら。
その名も『ラーメン・ハゲ』!ラーメンの味は勿論、サービスから営業形態からなんでも裁定を下す人型ガジェットだ!ロボなので無限に食べられます。便利~。

美味しかったら、自分は普通に何杯か食べちゃうにゃー。
アドリブ歓迎っすよ。


黒木・摩那
ラーメンと言えば担々麺派ではありますが、普通のラーメンもシンプルでいいですね。
小腹がすいたところでさっと食べるのがいいんです。
ですが、これでもかで量を出されるのは困りもの。
このままではお客さんは満腹で動けなくなるし、大量のフードロスが出てしまいます。

ある程度までは自力で食べますけど、さすがにこれだけの量、限界はきます。

そんなときはUC【逆境の結束】の出番。
自分一人で食べようとするから無理があるわけで、屋台の他の猟兵や客も巻き込んで、屋台の料理を平らげようという意志を強化すれば、あら不思議、お腹の調子も良くなって、再び入るようになる……といいなー

ともかくおいしく頑張ります。



 しとしとと染み入る様な雨が、薄暗い街並みの喧騒を包み込んでいるかのようだった。
 カクリヨファンタズムの屋台街には、夜中過ぎだというのに活気がある。
 屋台のあちこちから漏れた明かりが薄闇をちかちかと彩って、初めて足を踏み入れる者にもどこか懐かしい気分を思い起こさせる。
「ラーメンと聞いちゃ、黙ってられねぇ! と思い立ってきては見たものの、件の屋台はどこっすかねー」
 まばらに妖怪が行き交う屋台街の中で、ツナギの半分を腰に巻いて男らしく腰に手をやる猟兵が一人。
 沢木・助平(ガジェットラヴァー・f07190)は、しかし、ずぼらな技術屋っぽい風貌ながら、そのスタイルは見るからに女性であった。
 ツナギでは蒸れるからなのか、半脱ぎのそれの内側にはタンクトップという、持ち前の女性らしい曲線をこれでもかと主張する格好は、黒でなければこの雨脚だといろいろまずいことになっていたかもしれない。
 ガジェッティアでもあり、むしろそれに偏り過ぎる性格は、どうにもそれ以外をどうでもよくしがちであった。
「ちょっとちょっと、傘くらい差しましょうよ」
 数々立ち並ぶ屋台を前にどうしたものかと見回す助平のその眼鏡に雨粒が落ちたところでようやく雨邪魔だなーくらいに気づいたところ、タイミングよく傘が差しだされた。
 すらりとした、なんとなく中華な服装に、癖のない黒髪。
 厚手のツナギを腰に巻いたりしているおかげで本来の丸みのあるスタイルを隠してしまっている助平とは対照的に、細く芯のあるようなしなやかさを思わせる立ち姿は、洗練された佇まいを思わせる。
 黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)に差し出された傘を見上げると、反射的にその構造の方に目が行ってしまう。
「おっとこりゃありがたいっす」
 一拍おいてから摩那と眼鏡越しに目が合って、お互いにっこりと気安い笑みを浮かべると二人に一つの傘で、屋台街を歩く。
「にしても、ラーメンですか。ラーメンと言えば断然、担々麺派ですが、普通のラーメンもシンプルでいいですよね」
「そっすねー。ささっといけて、味も良けりゃ言う事ないっすよ。これでも麺類にゃ目がなくって……あーでも、今回は一応お仕事っすからね」
 屋台街から漂ってくるおいしそうな匂いに声を弾ませる二人だが、一応お仕事を強調する。
 本当はもっとあちこち顔を出して食べ歩きの行楽三昧といきたいところだが、そちらの誘惑は今は断たねばならない。
 その凄いんだかそうでもないんだかよくわからない意気込みを称えてか、一緒に連れている小型ロボット『すけちゃん人形』も「エライね! 沢木ちゃん!」「ニクイね! 沢木ちゃん!」と褒めてくれる。ところでそれってメカs
「あっ、あれじゃないですか?」
 ラーメントークもほどほどに、摩那が一つの屋台を指さす。
 賑わいを見せる屋台も多い中で、その屋台はちょっと異彩を放っていた。
 ちょうどお客の妖怪が一人、おあいそを終えて重そうにお腹を支えてよろよろ出てくるところのようだが、それを追うようにして店の主人が泣きそうな顔で引き留めるような視線を送っているのだ。
「そ、そんな目で見ないでよ、スイちゃん。食べ過ぎで、もう何か生まれそうだよ」
「まだ、いっぱいあるのに……くすん」
 小柄な少女が肩を落とす姿に、妖怪の客は困ってしまっている。
 だが傍から見ても妖怪の客は限界だ。恐らくは馴染みの客なんだろうが、奮闘の形跡を見せるお腹周りはもう目に見えてぽっこりしている。
 悪質だ。本人に自覚がないだけに、若い娘の庇護欲をそそる涙目は、おじさんに効く。
「どうやら、戦いの時がきたようですね」
「ん? ああ、そっすね。一丁、食べ尽くしますか」
 戦いの時? と聞き返しそうになったけど、ああ、そういうノリね。という気安さで二人の戦士がずいと足を向ける。
 店主もどうやら二人に気づいたらしい。名残惜しそうに妖怪の客を見送った後、助平と摩那に笑いかけてくる。
「席、空いてますか?」
「ええ、もちろん。いっぱい食べていってくださいね!」
 元気に屋台の裏に引っ込んでいく店主を追いかけるようにして、小さな暖簾をくぐる。
 その瞬間に殴りつけてくるかのような湯気の香りに、思わず胃袋が返事をしたかの如くくぅと鳴る。
 鶏ガラと醤油の匂い。煮詰めた油のような独特の香りが、すきっ腹に響く。
「ええと、醤油ラーメンと角煮しかないですけど、どうしましょう?」
 どこか困ったような笑みで、しかし頑張って作りますオーラだけは伝わってくる様子で聞いてくる。なんだか、おままごとのようなやり取りだが、それだけに微笑ましい気持ちになってくる。
 なるほど、酔っぱらいおじさんどもが気を良くするのもわからなくはない。
「ラーメンを一つ」
「同じく、ラーメンっす」
「おれも、らあめんを」
 3人目誰だ?
 と首をかしげて摩那は、助平ごしにいつの間にか席についていた男の存在に気づく。
 丁寧に剃り上げた禿頭に切れ味のありそうな鋭い目つきと眼鏡。黒スーツ。お前も眼鏡か。
 自信と不遜がにじみ出るような堂々とした佇まいに、摩那はどことなく見覚えがある様な気がしたが、その名を口にしたら主に版権的な問題でダメな気がして、ひとまずこいつの事はラーメンハゲと呼称する事にした。
 さて、このラーメンハゲ。実は助平のユーベルコードによって呼び出された人型ガジェットである。
 【ガジェットショータイム 沢木ちゃんedition】によって呼び出されたビックリドッキリメカの能力とは──、
「ふ、レトロな雰囲気に使い古された醤油ラーメンか。正しい情報の食わせ方ですなぁ?」
 初手から嫌味臭いぞこいつ。
「はぇ? あ、ありがとうございます。お待ち遠さま。ラーメンです」
 粘っこい笑みと毒気を含んだ言い回しに気づかなかったらしい店主は、一分と待たせない内にてきぱきと三人前の醤油ラーメンを作り上げる。
 カウンター越しにはそんな早く動いていたようには見えなかったが、洗練された動きは普通に見えても素早いのか。
 レンゲの添えられた丼には、透き通るような琥珀色のスープのラーメンがあった。
 てらてらと油が光って見えるような色合いといい、何よりも強烈な香りが食欲を掻き立てる。
 載っている具材は、
「メンマにネギ、チャーシューに味玉か。工夫も何もないが、こういうのは下手に手を加えるものでもないか。進歩を妨げるものでもあるが、こういうお約束は重要だ」
 いちいち何か言わないと飯が食えないのかなこのハゲェ。
 などとは言わないが、じいっと真面目な視線を向けるラーメンハゲの目つきは嫌味臭い言葉とは裏腹にとても真摯に見えた。
 いや、よそばかり気にしてはいられない。
 そろそろ食欲も限界だ。
 いただきます。と手を合わせて、箸を取って、あっと気づいて摩那は眼鏡をしまう。
 眼鏡のような高性能デバイスであり、別に弱視という訳ではないので、汁で汚すこともないわけだが、ちょっと焦っていたかもしれない。
 レンゲでスープをすくって、口に運ぶ。
 塩味と醤油の強い風味と鶏ガラの後引くさっぱりとした油。古めかしいといえば聞こえが悪いかもしれないが、昔どこかで食べたことがある様な懐かしさが、胃の腑に落ちる感覚は、言い知れない安心感があった。
 続いて麺を啜れば、つるりとコシのある縮れた麺が空気と共に、スープのみでは味わうことのできない隠れた風味を齎してくる。
「んまっ、んまーい!」
 静かな感動の波を感じる摩那の隣では、助平が素直な感想と共にずぞぞっと勢いよくラーメンを平らげていく。
 その姿もまた、心地いい。
「なるほど。スープとダシのバランス、チャーシューや味玉も邪魔をしない程度に主張する。癖がないだけにネギの食感と香りがまたいいアクセントになるんだが、しかしな。いい物を作れば売れるというナイーブな考えは」
「さっさと食え、ハゲェ!」
 いい加減、ケチをつけるネタが尽きそうな辺りで、呼び出した助平本人からのツッコミがハゲ頭にすぱーんと決まった。
 その後は、黙々と三人でラーメンを食っていたのだが、それが三杯目くらいになったあたりで、最初の山場が訪れる。
 胃袋にずんと来る感触。一秒の隙も無く、次の丼が用意される異様な手際の良さもそれに拍車をかける。
 あまりの完全無欠さにうすら寒いものを感じて店主を見ると、きょとんとした笑顔で小首を傾げる。
 さしもの麺好きたる助平、さしもの大食いの摩那とて、冷や汗を流す。
「これでもかと出されるのは、ちょっと困りものですね」
「うーん、まだまだいけるけど、こうすぐに次がくるとにゃー。わんこそばかっての」
 このままでは、いずれ動けなくなって大量のフードロスを発生させてしまう。
 いや、まだまだ戦える。というか、ラーメンハゲはガジェットなのでほぼ無尽蔵に食える。
 あのラーメンハゲが黙々と食うのはなんだか意外だが、いやそれはまあおいておこう。
 人間の胃袋には限界がある。だが、それでも猟兵ならば、ユーベルコードならば活路はある。
 摩那のユーベルコード【逆境の結束】が発動し、なんとしてでも食ってやるという意志が伝播する。
「やりましょう、沢木ちゃん!」
「おっし、やるっすよーこのハゲェ!」
 若干投げやりの気合と共に、烏龍茶をぐいっと煽ると、二人は無限に続くかのような醤油ラーメンに挑むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガンズ・ハルモニア
ねぇねぇねぇ、私お酒飲んでみたい!大人の味ー!!
大人はずるいよ、みんな赤くなっちゃってさー私だって青くなってみたいってのにさー!

どー思う?

……あ!こんばんは、こんにちは?!おはようございます!!
私ガンズ!中華そばだ!美味しそう!!
食べて良い?

わーい。人生は長いっていうからね!乾杯。
いただきまーす!

ごちそうさま!あったかくて美味しかった!私帰るよ!

えー、もっと食べてって?
わたしに命令するんじゃない!良いよ!
命令承諾、大食い発動。

私思ったんだよ、所詮一人の口じゃ食べる時間足りなくね?って。
だから、私が百人いたらつよじゃん?
(ガンキューブから100人の私参上)食べるぞー!
「「「「「おー!」」」」」


鳳凰院・ひりょ
アドリブ歓迎
WIZ

うん、これはまた…熱烈なおもてなしだな…(冷や汗
ちょっと引いちゃうくらいに
恐怖心から防衛衝動を発動
分身達と共にこの脅威(?)へと立ち向かうとしよう
【大食い】な俺としてはこのシチュエーションは大歓迎ではあるんだ
【火炎耐性】で熱々でもそれなりにスピード落さずに食べ進められると思うし、可能なら全メニュー制覇とかもしたいなぁ…

分身達も含めて総勢100名以上、各自好きなものを食べなさい!全力を持って!
これも一つの戦いです(こくり
無論俺も食べるのを楽しみつつも真剣に食べるよ!
まぁ、可愛い女の子が提供してくれるラーメンだ、嬉しいじゃないか!
人に作ってもらえるなんて(普段は自炊の身
飲み物は水



 屋台街には、小さな喧騒がちらほら。
 雨音さえ聞こえないようなゆるやかな雨に、屋台の暖簾の向こうには赤ら顔と談笑する声。
 不安を覚えるような夜陰の向こうにそんなものがあるのだから、ゆるやかな人通りの中では少々目立つ小さな子供……を投影するような大型浮遊兵器は、その特徴的な一つ目を光らせていた。
 ガンズ・ハルモニア(ガンガンガン・f17793)は、バーチャルキャラクターである。あくまでも投影されている小さな女の子のほうが本体であるが、飲食したり物に触れたりすらできる彼女は、浮遊する兵器に搭載されているプログラムとも言える。
 どちらが彼女本体であり、どういう仕組みなのかは、正直よくわからない。そうだと思えば、きっとそういう仕組みなのだろう。いずれにせよ、ガンズは子供なので、細かなことは気にしない。
 自身に組み込まれているものが、兵器の運用であったり、そもそも自分が搭載されているのがずんぐりした浮遊兵器ガンキューブであったりする時点で、きっとろくでもない目的で作られたのかもしれないが、じゃあこれほど好き勝手に振舞える情緒はなんなのか。
 10に満たない少女の思考は、時に冷静な成長を心根の奥においやりがちだ。
 そんなことはともかく、お腹が減ったし、みんなどうしてそんなに楽しそうなのか。
 ひとつ、その辺の酔っぱらいおじさんにでも訪ねてみようか。
 好奇心そのままに足が向くのを、まあまあ待ちなさいと首根っこを掴まれて、ガンズの足は空を掻く。
「ちょちょちょ、そっちの屋台はたぶん、無関係だよ」
 基本的にお酒の飲める成熟した妖怪の多い屋台街に子供の格好はよく目立つ。
 どうやらお節介なお兄さんが、ガンズを引き留めたようだ。
 そして引き留めた人物は、彼女と目的を同じくする猟兵の一人。
 鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は、人のよさそうな一見するとどこにでもいそうな青年ではあるが、そこは猟兵、聖者でもあるためか夜中の子供の一人歩きは見過ごせないものがあったのだろう。
 人間が大好きなカクリヨファンタズムの妖怪たちと言えど、酔客は色々と面倒ごとが考えられる。
 自分のような成人した男の一人でも居ないと……つとまるかな?
 ほんのり苦笑いを浮かべつつ、手元でじたばたするガンズと目が合った。
「ねぇねぇねぇ、私お酒飲んでみたい! 大人の味ー!!」
「ダーメだよ。大人になってからじゃないと、きっとまずいよ」
「大人はずるいよ、みんな赤くなっちゃってさー私だって青くなってみたいってのにさー!」
「うんうん、うん? うーん、急いで大人になんなくたっていいと思うなー。きっとすぐだよ」
 子供らしくちょっぴり空想交じりの事を自信満々に言ってのけるガンズと目線を合わせるように屈み込んだひりょは、朗らかな笑みを浮かべつつ、青くなるっていうのは飲み過ぎて気持ち悪くなるあれかなー。などと、たぶん見当違いな事を考えたりもする。
 そういえば、雨の中だというのにガンズは濡れていないな。と思えば、ガンズが真上を指さすのにつられて見てみると、なるほどガンキューブが真上にふよふよ浮いているのが傘替わりになっているというわけだ。
 幾つか会話する内に、自由奔放なガンズがあちこちと興味を示してどこか行ってしまわないように、ひりょが案内するほうがよさそうだと思い、件の屋台を一緒に探すことになった。
 孤児であり、天涯孤独なひりょに小さな子供の相手が務まるか、そこはちょっと不安であったが、子供の時に抱いたような素朴な疑問などを素直に口にするガンズの考えそうなことは、なんとなく共感を覚えることもあった。
 というか、女の子なのに意外と少年的なのだろうか。いやいや、これくらいの子供には性別なんてあんまり大差なかったような……。
 カクリヨファンタズムのどこか懐かしい雰囲気のせいか、ひりょ自身、お世話になった人々との思い出が蘇るかのようだった。
「あっ、あれじゃなーい? あれだよきっとー!」
「うん、きっとそう……って、走ったら泥が跳ねちゃうよ!」
 そうしているうちに目的の屋台らしきものを発見すると、すたこらすたこら突っ走っていくガンズを、転びやしないものかとひりょも追いかける。
 屋台からはちょうど店主が、激戦の末みたいに動きの鈍ったお客さんを名残惜しそうに送り出したところであった。
 先にさっさと突っ走っていったガンズは、そんな店主にいち早くコンタクトし、何やら訊いているようだった。
「……どー思う?」
「うーん、子供のころはお酒の味が気になってしまいますね。私もそうでした」
 どうやら、店の店主にも同じことを尋ねたらしいが、にこやかな表情のまま懐かしそうに応じる姿はさすがは客商売といったところか。
 そこへ遅れてひりょも到着する。
「あの、この子のと二人なんですが、席はありますか?」
「ええ、もちろん! どうぞ、すぐご用意します」
 屋台の裏に引っ込んでいく店主の後姿を追いかけつつ、なんとなく思うのは、なるほど確かに異様な存在感だった。
 普通の青年に見えるかもしれないひりょも、猟兵としては幾つもの戦場を駆け抜けてきた自負がある。
 相手が使い手かどうかくらいは、ある程度はわかるようになってきたつもりだ。
 だが、今回は喧嘩をしに来たわけではない。
 芽生えかけた物騒な気持ちをひとまずはしまい込んで、ガンズとともに席に着く。
「……あ! こんばんは、こんにちは?! おはようございます!!」
「わぁ、びっくりしたぁ!」
 すると思い出したかのように挨拶をするガンズの大声に、びくっと肩を震わせる。
 他の客も急な大声に目を見張ったようだが、すぐにいつもの喧騒を取り戻す。
 ひと時とはいえ注目を浴びたガンズ本人は自信満々にドヤっていたが、ひりょはちょっぴり照れていた。
「私ガンズ! 中華そばだ! 美味しそう!!
 食べて良い?」
「はーい、ただいまー」
「わーい。人生は長いっていうからね! 乾杯」
 そんな二人の様子を、ラーメンを作りながらにこやかに見つめ、とりあえず烏龍茶を出す店主の仕草は、実に堂に入ったものであった。
 身構えすぎていたろうか。
 ほんの一分もしない内に、ラーメンが供される。
 お子様のガンズには小さな取り皿とフォークが添えられていた。
 驚きの手際の良さだった。そういえば、注文すらしてないことも忘れるほどに。
 まあでも、注文するつもりではあったわけだし、と二人ともほぼ同時に箸を取る。
 9歳にして既にお箸を自在に操る事ができるガンズは、優越感と共にお子様向けの気遣いである取り皿をすっとカウンターの奥に追いやりつつ丼を引き寄せ、
「いただきまーす!」
 と、勢いよくラーメンにありつき始めるのであった。
 むわっと顔を濡らすようなアツアツの湯気のあがるラーメンに箸を入れれば、癖の付いたちぢれ麵には琥珀色の透き通る醤油スープがよく絡む。
「んむっ!」
 唇に触れるぷりんとした麵の弾力、噛み締めるほどにほぐれ広がる小麦の甘味。
 昔ながらのラーメンなら、これ程度だろうと高をくくっていたひりょの琴線に、やさしく触れ、そして想起させる郷愁。
 うまい。確かに、屋台という状況も、おいしさを増大させるのかもしれないが、ラーメンとしての完成度も高い。王道、侮りがたし。
 口の中を焼くような熱量も、もはや心地よい。
 夢中で麺を啜るひりょが、メンマの食感に心を落ち着かせようと試みる辺りで、
「ごちそうさま! あったかくて美味しかった! 私帰るよ!」
「えぇっ!?」
 さっくりと完食したガンズが、汗ばんだ実にいい笑顔で烏龍茶を飲み干すと、間髪置かずに席を立とうとする。
 は、はやい。呆気にとられるひりょであったが、我に返ってみると彼ももう完食するところだった。
 時間を忘れていたとでもいうのか。いや、それにしたってガンズの食べるペースは速いのだが。
「そ、そんな……もっと、もっと、食べて行ってくださいな……」
「えー、わたしに命令するんじゃない! 良いよ!」
 心細そうにうなだれる店主に、悪態とも二つ返事ともとれるように受け応えると、ガンズはユーベルコードを発動させる。
 そう、この戦いはたかだかラーメン一杯で終わるわけがない。
 今までのこの長い茶番は、ただの戦闘開始までの御挨拶に過ぎないのだ。
 そうだ、ガンズもまた戦士。それを思い出したひりょもまた、一杯めを完食する。
 間髪置かずに出される二杯目。……いつの間に作ったんだろう。
 完食からの二杯目にまるでタイムラグがない。
「うん、これはまた……熱烈なおもてなしだな……ちょっと引いちゃうくらいに」
 ラーメンで熱の上がった体に、流れる冷や汗は妙に冷たく感じた。
 はっきりとした恐怖が、この先無限に続くかもしれないわんこラーメンの予感が、ひりょの脳裏をよぎる。
 その瞬間こそが、ユーベルコードの使い時であった。
「これも一つの戦い……!」
「私思ったんだよ、所詮一人の口じゃ食べる時間足りなくね? って」
 決意と覚悟が、二人の猟兵のユーベルコードを発動させる。
 果たして、その結論は二人とも同じであった。
 ガンズの【命令承諾権】は、命令を受諾することで、ガンキューブを沢山呼び出すことができる。つまりは、ガンキューブには同じだけガンズも居ると言う事だ。
「だから、私が百人いたらつよじゃん?」
 ぞろぞろと、元気な女の子たちがやってくる。
 そしてひりょの【防衛衝動】は、いくらでもやってくる屋台メニューの果てしなさから押し寄せる恐怖に反応し、その分身を作り出す。
 ぞろぞろと、分裂した好青年がやってくる。
「各自好きなものを食べなさい! 全力を以て!」
 つまりは……二人とも物量作戦で対抗しようというのだ。
 席は足りるのか? いや、そんなことは些末な問題だ。
 屋台街を溢れかえらせるほどの相手に、順当なルールは無用だ。
 カウンター席に座り直し、お冷をぐいっと飲み干したひりょとガンズの目が合う。
 それは戦う者の目であった。
 無論、恐怖心からユーベルコードを発現させたひりょには懸念もある。
 しかし、考えてもみるんだ。
 大食いはもともと領分だし、骸魂を取り込んでいるとはいえ、女の子の手料理なわけだし、それにそれに、普段自炊している身からすれば、誰かに作ってもらうごはんというだけで、嬉しさは一入だ。
「よーし、食べるぞー!」
「「「「「おー!」」」」」
 たくさんのガンズとひりょは、気合の声を合わせると、ラーメンに再び挑むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八乙女・櫻子
何を隠そう、自分は中華蕎麦が大好物であります!
この世界の為、食べて食べて食べまくろうではありませんか!!

何はともあれ数は力。UC『同期の櫻』により、6名の同期に応援に来てもらいます。
よく食べる者が来てくれると心強いのですが…
皆、信じ難いとは思いますが、これもこの世界を守る為のれっきとした任務。心してかかってください!
それでは総員、屋台に突撃ー!!
女将!中華そばと角煮7人前、宜しくお願い致します!!
…むむっ、早いだけでなく、中華そばも角煮も信じられない美味さ!
さあ、これより先はひたすら食べまくるのみであります
途中で口飽きしてしまったら、備付けの酢やニンニク、ラー油などで味変をして乗り切るのです!



 染み入る様な雨がしとしとと、薄暗い街を覆う。
 もうそろそろ夏の入り口だというのに、日も落ちてこの雨では冷え込もうというもの。
 それでも深い闇でなく、暖かさすら感じる街の灯りは、夜の幽世に繰り出す屋台の明るさであった。
 ここはそんな屋台がひしめき、忘れ忘れられた妖怪たちが肘突き合わせて酒につまみにはしゃぐ夜の街。
 そんなはた目にも酒気を感じるような陽気な暗い街の中を、こつこつと硬い靴音が雨音に混じる。
 露出の少ない制服は、サクラミラージュに於ける帝都ではよく知られる桜学府のものである。
 軍服にも見えるそれに学帽と外套を合わせれば、ハイカラな街並みにも黒く映える書生の装いである。
 いかにもお堅い装いに綺麗に結った三つ編みは、八乙女・櫻子(若桜の學徒兵・f22806)のトレードマークといって相違ない。
 片田舎出身という櫻子からすれば、発展目覚ましい帝都の街並みは眩しく見えたものだが、薄闇の落ちた幽世の街並みは、妖怪たちこそ練り歩いているものの、一昔前を思わせるが、活気はやはり田舎とは言い難い。
 故郷は故郷で虫の声などが騒がしいと思う事もあったが、虫一匹いないような都会の喧騒の中に居ればふと懐かしく思う事もある。
 そう思えば、この緩やかな雨の時間は、どことなく落ち着く気もする。
 不思議な話だ。どこもかしこも、それほど馴染みがない筈なのに。
 だが、そのようなノスタルジーに浸っている時ではない。
 これは仕事。この世界を救うための、尊い仕事で、己がなすべきことなのである。
 加える事があるとすれば、今回の仕事は櫻子にとって願ってもない内容ということか。
 何を隠そう、櫻子は中華そば……すなわちラーメンが大好物である。
 聞けば、今回の相手である屋台では、醤油ベースの昔懐かしい中華そばを出すという。
 楽しみだ。いや、仕事なのだから、真面目に取り組むべきであり、私情はなるべく挟む出来ではない……というのが生真面目なところだが、櫻子はかっちりと学徒兵の制服を着込んでいるほどの、生粋の軍人というわけではない。
 根底には田舎の普通の少女があるためか、仕事に邁進しようとするたびにその意志はちょくちょく揺らぎがちだ。
 ただ、自分は田舎者という劣等感が、ちょっぴりユーベルコードを使えるだけで他の猟兵のように自由ではあれないという思いが、なくはない。
 多少堅苦しく、愚直であるくらいでないと、一人前には及ぶまいという思い込みが、制服という強い存在に頼っているところはあるかもしれない。
 いやいやいや、暗い考えは良くない。
 今回は、お仕事で好物にありつけるのだ。
 胸を張って臨むべきだ。張る胸はあんまりないのだが、そんなことは今はどうだっていい。
 だが、相手の規模は、自分ひとりでどうにかなるものだろうか。
 相手は屋台とはいえ、店一つ。こちらの胃袋にも限度がある。
 なれど、無策で挑むは軍略にあらず。
 目標の屋台を前に、雨の中、櫻子は外套を翻し、ユーベルコードを発動させる。
「皆、すみませんが力を貸していただきたい」
 【同期の櫻】の絆か、気が付けばあちこちの薄闇から、櫻子と同じような制服を着込んだ同期生が6人集まった。
 その体格や性別も様々ながら、いずれも言葉は不要なほどの信頼を思わせる視線が、櫻子に返ってくる。
 ここが幽世であることも、いきなり呼び出されたことも、なんら疑問に思うことはない。櫻子が呼んだのなら、という同期のよしみが活きる程度には、その信頼感は強固であるらしい。
 人知れずそのことに胸を熱くしながら、櫻子は集まった同期生たちに作戦を説明する。
 作戦と言っても、屋台でいっぱい食べましょうというだけの話なのだが。
「皆、信じ難いとは思いますが、これもこの世界を守る為のれっきとした任務。心してかかってください!」
「応とも。ただ飯ときいては、御相伴にあずからぬ理由もない」
「ははっ、図らずとも同期会だな!」
 凛とした声に応えるように、力強い笑みが返ってくると、櫻子は改めて屋台に向き直って、軍刀を……抜こうとして思い直し、手を振り下ろす。
「それでは総員、屋台に突撃ー!!」
「おおっ!」
 そうして、ぞろぞろと暖簾をくぐりつつ、定番の「やってる?」視線を送ると、竜神の少女がにこやかに迎えてくれる。
「いらっしゃい。すぐにお席の用意をしますね。それで、ご注文は?」
「女将! 中華そばと角煮7人前、宜しくお願い致します!!」
「はぁい、ただいまー」
 手早く注文を済まし、それぞれ席に着くと、一分と待たずに中華そばと角煮が出てきた。
 7人前を一瞬で。なんという手際だろうか。
 やはり妖怪。……などと物騒な思惑を抱きかけた櫻子だったが、すぐに鼻腔を擽る醤油と鶏ガラの香りに胃の腑が屈する。
「それでは、いただきます!」
 よだれがこぼれそうになるのをひっこめて、やや上ずった声で手を合わせると、それを皮切りに同期達も同じようにラーメンと角煮に手を付け始める。
 それにしても、ほんのわずかな時間で作ったにしては、味玉にチャーシューにメンマにネギと、とても丁寧に盛り付けられている。
 透き通る夕陽のような醤油ダシ。泳ぐ麺。湖面のてらてらとした油膜ですら愛しく感じる。
 ええい、もう見ているだけでは限界だ。
「……むむっ!」
 湯気のあがる麺を軽く冷まして啜り上げると、湧き上がる風味と麺のしなやかさに目を見張る。
 ぷるんとした柔らかさとしっかりとしたコシを両立した、絶妙な茹で加減は、今というこの瞬間にようやく完成した調和をみた気がする。
 口の中が焼けるほど熱いのに、味を鮮烈に感じる。味が濃すぎるというわけでもないのに。
 いやいや、まさか、こんな……気を落ち着けるために傍らの角煮を箸で解して一口。
「うむっ!?」
 これも、得も言われぬ味わいであった。
 あんまり書くとくどいので細かいことは省くが、こってりとしていてそれでしつこくない。おいしい!
 あれこれと気持ちの整理がつかぬまま、ほとんどじっくり味わうと言う事もなく、夢中で一杯平らげてしまった。
「女将、おかわりを……もうある!?」
「はい、いっぱい食べていってくださいね」
 にっこりと微笑む店主に礼を言い、櫻子はこんどこそゆっくり味わいながら食べる。
 そういえば、自分の事ばかりで、同期の事を忘れていた。
 みんな、どこか嬉しそうに食べてくれている。
 三杯目に突入した辺りで、櫻子の胃袋は、ちょちょっと待ってくれと満腹中枢に警告を入れてくる。
 なるほど、早くも同じ味に不安を覚え始めてきたわけだ。
 しかし、この屋台には備え付けの酢やニンニク、ラー油などが置いてある。
 少しずつ味を加えたりしていけば、飽きもせずにいくらでも食べられるという寸法だ。
 長くおいしく食べるには、こういった配慮も大切だ。
 そして、気の置けない仲間と、あーでもないこうでもないと話しながら食べるラーメンは、櫻子にとってはこの上ない御馳走であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

文月・ネコ吉
始めて来た筈の屋台に
どこか懐かしさを感じるのは
ここが幽世だからか
それとも雨の所為なのか

いい香りにお腹が鳴って
いざ出陣

暖簾をくぐれば店主の笑顔
勧められた席には重ねられたクッション
これならケットシーの小さな体でもカウンターに届く
気遣いが有難い

いただきますと両手を合わせ箸を取る
最初の一口
…熱っ!?
しまった、猫舌にラーメンは厳しいぞ!(汗

だが負ける訳にはいかぬ
眉間に皺を寄せつつも
ウーロン茶で舌を冷やし
ふうふう冷ましながらの再挑戦

麺に絡む鶏ガラの芳醇な香りと旨み
とろとろの角煮も
もぐもぐもぐ
至福の一時

ふう、美味かった
そろそろ満腹も近いけど
いつの間にか増えてるお代わり(汗
な、何とか食べきるぞ!

※アドリブ歓迎



 薄暗い夜闇が完全に暗くなりきらないカクリヨファンタズムの街の通りには、いくつもの屋台が立ち並ぶ。
 しとしとと雨脚があっても、あちらこちらからはそれを掻き消す陽気なよっぱらいおじさんどもの声がする。
 そんな中を、雨傘一つに歩く影。
 やや明るい褪せたような黒い毛並に二足で歩くのは、妖怪猫又……ではなく、ケットシーの猟兵だ。
 普通の家猫よりちょっぴり背が高い程度のケットシーの体格では、さまざまな形態を持つ妖怪の世界でこそ違和感がないものの、背丈が小さいというのはそれだけただ歩くにも不便がある。
「おっと、ごめんよ猫さん。足元が暗くってね」
「いいさ、気を使わせたな」
 赤ら顔の妖怪に蹴飛ばされそうになるところを直前に避けると、緩んだ顔つきですまなそうに会釈してくる。
 推理好きだが別に探偵さんを天職にもつわけではない文月・ネコ吉(ある雨の日の黒猫探偵・f04756)は、そういったやり取りもなれたもので、おどろおどろしいイメージの妖怪でも気さくに話しかけてくることに、むしろ軽く驚いても居た。
 幽世の妖怪はよその世界の者に好意的という話だが、こうまで自然体なものか。
 それとも、単純に酔っぱらいが多いためだろうか。
 とても日常的に世界の破滅を迎えそうになる異変が多いような場所とは思えないほど、皆穏やかだ。
「まあ、仕事自体もラーメンを食えって話だしな」
 もしかしたら積極的に戦う羽目になるやも……と、戦うための刃物などを用意していたが、この分では杞憂になりそうだ。
 準備を怠らないのは、彼が元殺し屋のクセといったところか。何事も最悪を想定しておくべきなのは、いつでも変わらない。
 しばらく屋台の明かりに目を細めつつ、目的の屋台を探して歩いていると、ブーツの足先が雨脚に冷え始めた頃にようやく見つけた。
 木組みのややくたびれたような、古めかしい屋台だと思った。
 うっすらと苔生したような瓦の向こうから湯気が上がり、傍らには『中華そば』の看板と、雨避けの和傘が立っているのがなんとも目を引いた。
「始めて来た筈の屋台に、どこか懐かしさを感じるのは、ここが幽世だからか」
 傘を突き合わせるように看板を見やると、そのくたびれ具合のせいだろうか。妙な郷愁を覚える。
 それとも、この雨がそう思わせるのか。
 ぽつぽつと傘を打つ雨音を追うように空を見れば、周囲の明るさもあってか底なしの暗闇に見える。
 その心細さからすれば、ここの街並みのなんと暖かなことか。
 ふと、物思いにふけりそうになったところに、ネコ吉の鼻先をうまそうな匂いが掠めると、ぐううとお腹が鳴った。
 この雰囲気にこの香りは、いかんなぁ。
 ふっと一人笑みを浮かべると、傘をたたんで襟元を正し、暖簾をくぐる。
「席は空いてるかな?」
「あらあら、いらっしゃい! ええ、ええ、すぐに用意しますよ」
 暖簾をくぐるとオレンジ色の白熱灯の明かりが眩しいくらいだったが、カウンター越しに迎えてくれた店主の少女は、それ以上ににこやかな笑みで迎えてくれる。
 ぱたぱたと、どこか危なっかしいような仕草だが、お客がケットシーと見るや、すぐさま体格に見合うよう席にクッションを用意する。
「気遣いが有難いな」
「お席の具合がいいよう、自分で調整してくださいね」
 終始笑顔でカウンターの向こうに引っ込む店主を見送り、座席のクッションの具合を整えると、どうにも不思議な気持ちになる。
 対応した感じは、普通の店員さんである。とても骸魂を取り込んでおかしくなっているようには思えないのだが……。
「店主、ラーメンを一杯もらえるかい? あと、角煮も戴くよ」
「はぁい、ただいまー」
 程よく気の抜けたような応対は、初めて来たというのにどこか気安い。
 なるほど、あの可愛らしい店主のほんわかした佇まいに、みんなやられてしまうのだな。
 聞いた話、竜神でかなり腕も立つとのことだが、その必要がないくらいには、もういくらかの妖怪は骨抜きにされてしまっているに違いない。
 ネコ吉の鋭い観察眼は、きらきらと充実の笑顔でラーメン作りに勤しむ店主の様子を見逃さない。
 いやだって、かわいいもんよ。
「はい、お待ち遠さま。あつあつですので、お気をつけて」
「ありがとう。いただきます」
 気が付けばあっという間にラーメンが配膳されていた。
 礼を述べ、肉球、もとい手をぷにっと合わせると、いざその味や如何にと箸を取る。
 てらてらときらめく油膜を張った琥珀色のスープから麵をすくい上げると、そこからもじわりと湯気が上がる。
 昇り立つ鶏ガラと醤油の香りが暴力的に食欲を煽り立てるままに、それを口に運んだ。
「はぶっ、熱っ! あーっつい!」
 沈着冷静。こと推理と戦闘に於いては乱れることが無いと自負するその性分が、食欲の前に、自身がケットシー、即ち猫舌であることを忘れていた。
「うーろんひゃ、くだひゃい……」
「はぁい、ただいまー」
 鋭い目、いや鋭かった目に涙を浮かべつつ、新たに召喚した烏龍茶を口に含み、びりびりと痛む舌を冷やす。
 迂闊だった……。猫舌にラーメンは、ちょっと厳しいかもしれない。
 いいや、仕事を投げ出すなんてダメだ!
 考えろ、こいつを攻略する手段を……と、ネコ吉は眉間にしわを寄せて、攻略の糸口を探す。
 それは、【黒猫は推理する】を使用するときのポーズであった。
 ラーメンは熱々だ。前に挑戦した時もある程度冷ましてからじゃないと食べられなかった。
 だが、人は言う。ラーメンは熱々が一番うまい。
 そうなのだ。冷めるまで待っていては、麺がふやけて伸びてしまい、一番おいしい時期を逃してしまう。
 誰かが言っていた。料理は、完成した瞬間から不味くなっていくんだと。
 策など無い。正面から立ち向かうのが、作法だ。
 ぐいっと烏龍茶をもう一口。覚悟を決めて、ネコ吉はもう一度、箸を取る。
「ふー、ふー」
 そうして今度は、あわてず騒がずちゃんとふーふーしてから啜り始める。
 最初こそ、はふはふと湯気を吐きながらだったが、徐々にラーメンの熱にも慣れ始めてきた。
 そうやって格闘する内に、徐々にラーメンを味わう余裕も生まれてくる。
 縮れた麺に絡む鶏ガラの風味、醤油の香り、そして旨味。キレのあるあっさりとした味わいの中に、鶏ガラの芳醇な香りが肉汁のパンチをほのかに感じさせる。
 ケットシーなので一応、ネギ抜きにしてもらったが、あったらあったで、それはまた香りに一つ厚みが増したことだろう。
 おっと、角煮も忘れてはいけない。
 脂肪部分の多いバラ肉をじっくりと煮込んだそれは、箸で容易に切れるほど柔らかく、煮汁を吸ったとろとろの脂が口の中の温度でほぐれて溶けていく。
 どっしりと重たいようで、痺れるような山椒の刺激と爽やかさが味を引き締める。
 なんて贅沢な味わいなのだろうか。
 汗をかきながら、ネコ吉はこの至福のひと時をゆっくりと消費していく。
 そう、ご飯はいつか食べ終えるもの。楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうものだ。
「ふう、美味かった」
 心地よい満足感と共に、見事完食したネコ吉は、手を合わせてごちそうさま……と、言おうとした辺りで、
 次のラーメンが出てきた。
「えぇっ」
「もっともっと、食べてってくださいな」
 にこーっと悪意のない笑みを浮かべる店主の顔には、有無を言わせぬ凄味があった。
 そうまでされてしまっては、猟兵たるネコ吉も、応えねばなるまい。
「な、なんとか食べきるぞ……!」
 額に浮いた汗を拭い、やや震える手に箸を握り直し、勝ち目の薄い戦いへと身を投じていく。
 俺、腹が破裂するかもしれない。
 だがしかし、あんなに楽しそうに作ったおいしいラーメン。食べないわけにはいかない。
 そうして、意識が湯気の向こうに持っていかれるまで、ネコ吉は鋼の意志でラーメンに立ち向かい続けた。
 それは、立ち振る舞いから勘違いされがちだが、若さゆえだろうか。
 いや、意地だったのかもしれない。

 次に目を覚ました時には、ネコ吉は屋台のカウンターに突っ伏していた。
 傍らには、涙目で謝り倒す店主の姿があった。
 その様子から、彼女の暴走した「もてなしの心」は骸魂と共に消え失せたことを理解する。
 よかった。大量のフードロスは起こらず、屋台街も料理で溢れかえることはなかったのだ。
 寝て起きた充足感と、過剰な満腹感に重たくなった体をどうにか引きずって、ネコ吉たち猟兵は、疲れた笑顔で以て去っていく。
 もう、しばらくの間は、ラーメンはいいかなぁ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト