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大祓百鬼夜行⑯〜KenKenParadise

作者：鷹橋高希

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●UDCアース・日本
　世界が消費した時間を排出するように、世界に生きる人々も消費したモノを排出する。UDCアースでは排出されたモノがゴミ置き場に集まり、収集業者を待つ。そのゴミの中に、画面が円形に湾曲し、奥行きが台形状の機械――ブラウン管テレビがあった。
　UDCアースの日本において、2021年の5月では最早目にすることすら珍しい「過去」の機械。だからだろうか、その画面は電源に繋がれてもいないのに砂嵐を映し、一つしか搭載していないスピーカーが「番組」のタイトルコールを響かせる。

「リズムに乗ってけんけんぱ！　ケンケンパラダイス！」

●Let's KKP!
「皆さぁん、『大祓百鬼夜行』、お疲れ様ですぅ。これから、その事件の予知をお話ししますねぇ」
　グリモアベースで、グリモア猟兵の少女・ミント・キャラメル（眠兎キャラメル・f25338）は猟兵達に語り始める。
「UDCアースで、骸魂に取り込まれたキョンシーの女の子がテレビ番組を放送してますぅ。この番組を止めて下さぁい」
　ミントのグリモアはUDCアースの住宅街にあるゴミ置き場を映す。

「今画面の光っているテレビで、『ケンケンパラダイス』という番組を放送していますぅ。この番組は参加型のリズムゲーム番組で、音楽に合わせて正面から流れてくる丸が判定エリアに重なるタイミングで足元の丸を踏むゲームですぅ。この番組を放置すると、UDCアースが永遠に終わらないリズムゲームになって、寝ることも出来ない世界になってしまいますぅ」
　ミントの言葉に、リズムゲームに詳しい猟兵は頷いていた。アレだな、と。

「この番組でスコアを競うことになるキョンシーのキョンちゃんは、片足にも関わらず『ぱ』の両方の丸を最高判定で取ったり、妖怪メダルや相棒のハムスターのキョンシーをけしかけてプレーヤーを妨害したりしますぅ。逆にこっちもユーベルコードを使えますけど、キョンちゃんにスコアで勝たないと番組の侵蝕を食い止めるのは難しいみたいですねぇ」
　グリモアに映るブラウン管テレビには、「KYON」の名前で埋め尽くされたハイスコアランキングが流れている。

「UDCアース、そしてカクリヨファンタズムを守るために、レッツ・ケーケーピーですぅ☆　それじゃあ行きますよぉ。ケンパー・イリュージョン☆　ワぁン・ツぅー・スリぃー！」
　ケンパー・イリュージョンって？　と思った猟兵達だが、ミントのグリモアが足元でいくつも丸を描いたのを見て悟った。
「その丸でけんけんぱを上手くやれば番組の中にテレポートしますよぉ☆」
　その場でぴょんぴょん跳ねるミントに見送られ、猟兵達はテレポートサークル（？）をけんけんぱで進んでいく。

第1章 ボス戦 『けんけんキョンシーのキョンちゃん』

POW   :    けんけんの呪い 自身の【片足跳びの呪い】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。 SPD   :    あやかしメダル「けんけんキョンシー」 妖怪【けんけんキョンシー】の描かれたメダルを対象に貼り付けている間、対象に【両足を地面につけてはならない】効果を与え続ける。 WIZ   :    ハムキョンアタック 攻撃が命中した対象に【ハムキョンが飛びつき状態異常「うごめき」】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【ハムキョンが全身を駆け回るくすぐり攻撃】による追加攻撃を与え続ける。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●1st Stage
「最初のチャレンジャーは、こちら！」
　キョンちゃんの手首の上で片脚立ちのハムスター・ハムキョンがカメラのレンズに向かって喋り、ピンと前方に伸ばしたままの前脚を横に振ると、カメラはその動きを追って、傍に立つ少女――真城・美衣子（まっしろみーこ・f12199）を映す。
「にゃ」
『みーこさんは「こんにちは」と言っています』
　無表情で猫の鳴き声を一言口にしただけの美衣子。その意思を通訳する機械音声は、美衣子の首に輝くペンダントのマジカル電子頭脳『マキさん』から発せられているものだ。美衣子はハムキョンに顔を寄せる。
「……すんすん」
『みーこさんはニオイを確認しているようです』
「えっ」
　美衣子はUDC科学者・真城博士が研究の際に飼い猫が混入したことでいろいろ猫寄りになってしまったサイボーグであり、猫がげっ歯類を目の前にした行動としては正しいのかもしれない。その匂いがどういうものかは美衣子の口から語られることはなかったが。
「そっ、それでは早速行ってみましょう！」
「にゃ」
『みーこさんは「よろしく」と言っています』
　食べられては堪らないハムキョンは番組を進行させ、美衣子とキョンちゃんがプレイエリアに立つと、カウントダウンを経て猫の鳴き声をサンプリングした曲とたくさんの丸が二人の足元に向かって流れてくる。二人ともけんけんぱにミスは無く、リズムの正確さによる判定のスコア差も無いに等しい。二人が――厳密には一人と一機だが――仕掛けるタイミングはほぼ同時だった。
「けんけんキョンシーメダル発射！」
　キョンちゃんの片腕が美衣子の額に向いて、袖に仕込まれたメダルシューターからあやかしメダルが放たれる。
『みーこさん、これを着て下さい』
　マキさんがキラリと光ると、その光が美衣子の周囲を漂い、細線が編み込まれるように組み上がり、猫の着ぐるみ状のルームウェアとなって美衣子を包む。その直後にあやかしメダルが額に貼り付いた。
「にゃ」
「これで両足を着けな……あれー！？」
　あやかしメダルに描かれているのはキョンちゃんと同じく、片足しか地面に着けられなくなる「けんけんキョンシー」。美衣子は確かに足を着けていないが、ユーベルコード「猫被り七変化」による猫ルームウェアに包まれた美衣子は、肉球を模した綿入りの前脚、つまり両手でけんけんぱをミス無く続けている。一方、動揺したキョンちゃんはタイミングを狂わせて美衣子のスコアに離され始め、その差が埋まらないまま曲が終了し、美衣子が勝利した。
　ハイスコアランキングを独占している「KYON」の中に、美衣子の名前が刻まれる。

成功 🔵​🔵​🔴​

●2nd Stage
「さぁ、一人目のチャレンジャーに我らがキョンちゃんが敗北を喫する大波乱必至の今回！　続いてのチャレンジャーは、こちら！」
　カメラが向いた先にいた少女はモニターを見ており、モニターに自分の顔が映ったことで驚いた顔を見せ、カメラに振り向いた。
「ふふっ、私の出番かしら？」
　青色の髪と瞳で微笑む少女――藍原・蒼夜（蒼き宝刀・f23131）がプレイエリアに向かう。
「今回の意気込みをどうぞ！」
　ハムスターキョンシーのハムキョンが差し出したマイクに、あら可愛いと微笑んで蒼夜は答える。
「私も小さい頃にけんけんぱをしてたわね。実家の剣術道場の前にたくさん丸を書いたわ」
「なんと剣術の達人！　今回も激戦の予感！　それでは行ってみましょう！」
　別に達人とは言っていない――達人ではないとも言っていない――蒼夜の言葉でカメラの向こうにいるはずの視聴者を煽るハムキョン。そしてゲームが開始され、蒼夜の雰囲気を思わせる大正時代の唱歌に乗せて、蒼夜とキョンちゃんのけんけんぱが始まる。
　実家が剣術道場であり、自身もまた剣術を会得している蒼夜は、そのおっとりとした雰囲気からの想像以上の運動能力でけんけんぱを踏んでいく。二人のスコアは互角のまま曲が進み、互いに相手のミスを待つ展開。キョンちゃんの腕が、不意に蒼夜に向いた。
「発射ー！」
　キョンちゃんの袖に仕込まれたメダルシューターからあやかしメダルが放たれ、蒼夜の額に貼り付く。
（片足を着いていると、もう片足が着けない……？）
　蒼夜には見えていないが、あやかしメダルには「けんけんキョンシー」が描かれ、蒼夜は両足を同時に地面に着けられなくなった。直後に流れてきた「ぱ」の並んだ丸は片方しか踏めず、その分ミスの無いキョンちゃんのスコアに差を付けられる。
（このメダルのせいね。ユーベルコヲドなら仕方ないわ。何事にも前向きに頑張ろう）
　片足しか着けない状況で前向きにというユーベルコード「ポジティブ・マインド」で、蒼夜は蒼霊刀をイメージ上で構え、片足での演武を行なう。完璧な重心移動で流麗に繰り広げられる演武は、片足にも関わらず「ぱ」の両方の丸をも完璧に踏んでいく。曲の終わりと共に蒼夜の演武も終演し、一礼する。ミスの無いキョンちゃんのスコアは、芸術点のボーナススコアを得た蒼夜に逆転されていた。
「まるで刀が見えるような鮮やかな演武でした！　おめでとうございます！」
　勝者へのインタビューに向けられるハムキョンのマイクに、蒼夜は微笑んで答える。
「ありがとうございます。ところで、ぬいぐるみのあなたをもらっていっていいかしら？」
「すみませんが私はキョンシーのハムスターでして、まだ次のチャレンジャーもありますし」
「あら、残念」
　戦利品は得られなかったが、「KYON」のハイスコアを更新して名前を残した蒼夜であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●3rd Stage
「キョンちゃん、まさかの二連敗！　本日お集まり頂いた皆様は素晴らしい！　続いてのチャレンジャーはこちら！　ゾンビメイドさん！」
「よろしくぅ、お願いしますぅ～」
　鯉澄・ふじ江（縁の下の力任せ・f22461）はふわっと微笑んでカメラに手を振る。
「キョンシーの私達とゾンビメイドさんの師弟対決ならぬ死体対決！　それでは行ってみましょう！」
　上手いことを言った気の一匹と二人の共通項を描いたようなポップな音色のホラーソングに合わせ、二人のけんけんぱが始まる。ふじ江はメイド服のスカートがふわりと広がるも、精密なけんけんぱでキョンちゃんのスコアを追随する。
「あやかしメダル発射ー！」
　キョンちゃんが前に伸ばしていた腕をふじ江に向け、袖からあやかしメダルを飛ばし、片足しか地面に着けなくなる「けんけんキョンシー」のメダルがふじ江の額に貼り付く。
「ああっ、顔が取れちゃいますぅ」
　その衝撃で、両足同時に地面に着けなくなるよりも先に、ふじ江の頭部の縫い目がほつれ、ホワイトブリムを乗せた右上半分が転げ落ちる。その瞬間、けんけんぱに没頭していたふじ江のユーベルコード「メイドの矜持は止められない」により、お手伝い幽霊がふじ江の影から現れ、取れた頭部をキャッチした。
「頭部はお預かりしますので、お続け下さい」
「お願いしますぅ～」
「ひぇっ！？」
　あやかしメダルの貼り付いた頭部が外れて効果が遮断されたふじ江と、お店ではなぜか不評というふじ江のお手伝い幽霊を見てすくみ上がりリズムを乱したキョンちゃんの対決はふじ江に軍配が上がる。
「楽しかったですぅ～。また遊びましょうねぇ～」
　ふじ江のカーテシーで広がるスカートのように、猟兵達のハイスコアはキョンちゃんのものを書き換えていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

●4th Stage
「番組も後半戦に突入！　そろそろ一勝しておきたいキョンちゃんの次のチャレンジャーはこちらの天使の女の子！」
「けんけんぱは地面を使う、だから地の魔王の四天王が遊んであげるのね！」
　トゥルリラ・トゥラリラ（鏖殺の堕天使・f31459）はカメラに向かってキヒヒと無邪気に笑う。
「天使じゃなくて堕天使ですね！　今回も手強そう！　それでは、レディー・ゴー！」
　トゥルリラを思わせる荘厳なクワイアの楽曲に合わせ、二人のけんけんぱが始まる。地の魔王の四天王を名乗るだけあり、トゥルリラのけんけんぱはキョンちゃんに肉迫する。
「メダル発射！」
　しかし、キョンちゃんの袖から放たれる「けんけんキョンシー」のあやかしメダルがトゥルリラの額に貼り付く。
「両足を同時に着けない……！　悪い妨害なのね！」
「これで離させてもらいます！」
「だけどね」
　キョンちゃんが流れてくる丸を踏んだ瞬間、地面が爆発した。
「地の魔王の四天王が地面を使った悪さで負けるわけないのね！」
　トゥルリラのユーベルコード「遊び場」により、キョンちゃんに流れてくる丸は不可視の地雷原と化していた。キョンちゃんはキョンシーであり、死ぬことはないが、全てではないものの丸を踏む度地面が爆発してけんけんぱどころではなくなってしまう。一方のトゥルリラは両足を使う「ぱ」を踏めないながらも、踏めるけんけんぱを続けていく。爆発音で曲が聞こえずリズムゲームが意義を半分以上失う悪事をも働いたトゥルリラの勝利は明白だった。
「次の遊び相手はもっと頑丈な人が良いのね！」
　地の魔王の偉大さを、トゥルリラはハイスコアランキングに刻み付ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

●5th Stage
「いや～、凄まじい爆発でした。さて、続いてのチャレンジャーは！」
「こんにちは、焔だよー」
　四王天・焔（妖の薔薇・f04438）はカメラに向かってひらひらと手を振って微笑んだ。
「紫色、いや藤色な和風メイドの女の子！　これはけんけんぱが似合いそう！」
「頑張りまーす。あ、ちょっと準備しますねー。『ほむらほむほむ――蒼の巫女になぁーれ☆』」
　おまじないのような調子で焔が口にした詠唱に合わせ、紅・蒼・暗黒の三色のリボン状の魔力が焔を包む。紅と暗黒のリボンはグラデーションを伴って蒼色に変化し、リボンがほどけていくと、紫や藤色と評されたばかりの焔はその髪も瞳も濃淡のある蒼色となり、フリル付きの和風メイド服は袴が蒼色の巫女装束となっていた。ほどけた魔力のリボンは向こう側が透けるような薄い蒼色に変わり、風の羽衣となって焔に纏わる。焔のユーベルコード「妖狐三変化・焔式」による変身である。
「なんと巫女さんに変身しました！　準備も整ったところで、早速行ってもらいましょう！」
　焔とキョンちゃんの二人がプレイエリアに立つと、可愛らしい童唄に合わせてけんけんぱの丸が足元に流れてくる。二人とも順調に丸を踏み、ミスらしいミスも無く曲は進む。
「今度こそ……発射！」
　既に四回も決定打となっていない「けんけんキョンシー」のあやかしメダルが、キョンちゃんの袖から焔へと放たれる。
「危ないっ」
　焔はメダルを横っ跳びで避ける。判定エリアから飛び退く形になった焔は踏むべき丸を取りこぼし、キョンちゃんにリードを許す――こともなく、空中で方向を変えて判定エリアに復帰し、けんけんぱを継続する。焔の変身は「三変化」の中で飛翔力を増加させる蒼の巫女であり、羽衣を纏った天女のように自由自在に飛び回るものだったのだ。
　遂に単純に避けられたキョンちゃんは諦めてけんけんぱに集中するが、あやかしメダル発射のためにわずかにズレたタイミングにより、焔のリードしたスコアを捲ることができずに終わる。
「勝ったよー！　お姉ちゃん見てるー？」
　プレイエリアからカメラの前までひとっ飛びして、焔は最愛の家族に満面の笑みで勝利を報告する。焔の名前もまたハイスコアランキングに刻まれ、「KYON」の名前は残すところ最下段の一つだけとなっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

●Fin"y"al Stage
「まさかまさかの全敗だよぉ……」
　キョンちゃん5戦5敗で迎えた最終ステージは、これまでのどの曲よりも難しいものとなる。このステージのために書き下ろされた超高速BPM楽曲に乗せて、激流・濁流などと評される超難関配置の丸が流れてくるのだ。
「にゃ」
『みーこさん、まさかの再戦ですか』
　そこに現れたのは真城・美衣子（まっしろみーこ・f12199）。キョンちゃん全敗の一敗目を飾った猟兵である。
「これに勝って、あなただけは倒す！」
「にゃ」
『みーこさんは「負けない」と言っています』
　そして、最後の闘いが始まる。これまでとは比較にならない難易度のけんけんぱに二人はミスを連発する。スコアも低空飛行で進行し、泥仕合の様相を呈していた。曲の中盤、休憩地帯――あくまで相対的に簡単なだけで相変わらず難しい部分で、キョンちゃんは両足を着けかける。
「――意地でも片足で勝つ！」
　しかし踏み留まったキョンちゃんは、限界など超えているはずの身体能力が増大する。「けんけんの呪い」を背負っているからだ。
「にゃ」
　その様子を見た美衣子は、プレイエリアを離脱した。
『みーこさん、諦めたのですか』
「にゃ」
『みーこさん、あれを使おうというのですか』
「にゃ」
　一人けんけんぱを続けるキョンちゃんに向けて、美衣子の目から光線が放たれる。光線を浴びたキョンちゃんは、猫の耳と尻尾が生えた。この光線はユーベルコード「世界猫化光線」。文字通り、世界の何もかもを猫にしてしまう光線である。
　身体能力が増大し、さらに猫の俊敏性を手に入れたキョンちゃんは、一人で美衣子の分の丸までもを片足で完璧に踏み続ける。その常軌を逸する動作を続けるキョンちゃんから、何かが美衣子に飛んでくる。
「にゃ」
『……ついて行けずにダウンしましたか』
　美衣子が掴んだそれは、キョンちゃんの相棒のハムキョン。目を回して再起不能である。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ！」
　相棒のダウンなど気にも留めず、キョンちゃんは高速で流れてくる二人分のけんけんぱを続け、曲の終わりと共に力尽きたのだった。

　猟兵達はカメラのレンズに吸い込まれ、次の瞬間には予知で見た住宅街のゴミ置き場にいた。ブラウン管には微かに砂嵐が映っていたが、それもすぐに消え、TVショーは幕を閉じた。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2021年05月12日