大祓百鬼夜行⑲〜腐竜舞う踏切迷宮!
●線路の迷宮
かんかんかん――踏切の警報器が鳴る。
(今日はよくつかまるなぁ)
ため息を吐きつつ、リアボックスを見る。ピザが遅いの冷めたのとクレームを受けるのは、まあ避けられないだろう。憂鬱な話だ。彼に落ち度があってのことではないはずなのに。
しばらくしてやっと開いた遮断機をくぐり抜け、三秒ほどスクーターを走らせる。
かんかんかん――再び踏切の警報器が鳴り、スクーターを止めざるを得なくなる。
(ツイてないなぁ)
嘆息する。
嘆息するだけで気付かない。普段使うこの道で、ただの三秒進んで次の踏切にぶつかるなぞ、あり得ないはずだということに。
その踏切を越えた先も、さらにその先も、ずっと踏切が続いている。そんな光景の異様さに。
●腐ったドラゴンの群れが空飛んでるってだけでも異常事態なんですが
「連日の百鬼夜行への対応、ごくろーさま! というわけで、またぞろUDCアースでそれ関連の事件が起きたよ」
大宝寺・風蘭(狂拳猫・f19776)は、テーブルの上に広げた地図上にぺしっと指を置いた。
「オブリビオンの集団が線路の迷宮でできた結界っていうか、特殊空間を造ったんだ」
そこはどこにでもあるような住宅街の一角なのだが、線路が一本あったところが数十、あるいは百にも至ろうかという数にまで本数を増やした。線路に比例して踏切の数も増え、四六時中どこかで警報が鳴っているという狂った光景が繰り広げられている。
迷宮の中に中に取り残された人々は、認識が阻害され、自分の置かれている状況が異常であると気付けていない。これを放置しておけば、UDCアースの物流は瓦解する。
というわけで、ただちにオブリビオンの集団を殲滅して、迷宮を破壊しなければならない。
「注意しなきゃいけないのは、この踏切とか線路を強行突破しようとすると、『妖怪電車』にはねられちゃうってこと。タイミングとか関係なく一瞬で出現して一瞬ではね飛ばしてくれやがって、防御も回避も不可能だよ」
肩をすくめつつ、風蘭は言う。
踏切は永久に開かないというわけでもないものの、何せ凄まじい数の線路が縦横無尽に敷設されているため、動きはかなり制限されるには違いない。立ち回りには相応の注意が必要となる。
ただ、悪いことばかりでもない。
この効果は強力な代わりに融通が利かないようで、結界を生み出した側であるはずのオブリビオンらが踏切ルールを破った場合でも、同様に妖怪電車に吹っ飛ばされてしまうらしい。上手い具合に利用することができたなら、むしろ効率よく敵の群れを撃破することも可能だろう。
もっとも、敵は有翼のドラゴンの群れであって、大体は線路や踏切の範囲外の上空を飛び回っている。
「電車にはねさせようと思ったら、目安としちゃ、線路と一緒に走ってる電線よりも下――要は、電車が通るであろう範囲ってことだね。その中まで連中を引きずり下ろすような工夫もいると思う」
それから、と風蘭は指を立てつつ付言する。
「カクリヨのオブリビオンだから、倒せば中の妖怪は助け出せるって仕組みは生きてるよ。そっち方面のケアも、できたらよろしくねぃ」
大神登良
オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良(おおかみとら)です。
これは「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を与える戦争シナリオで、1章で完結する特殊な形式になります。
戦場はごく普通の住宅街の一角ですが、異常な数の線路が張り巡らされ、いくつもの踏切が設置されています。
踏切を通らず線路を横切ったり、遮断されている踏切を無理に突破しようとしたりすると、その瞬間に妖怪電車にはねられます。これは、いかなるユーベルコードを用いても回避不能の速度、防御不能と思ってください。
踏切に関わるルールを守りつつ、あるいはルールの穴をつつくなどして立ち回ってください。
このシナリオには下記の特別な「プレイングボーナス」があります。
『プレイングボーナス……踏切と妖怪電車を利用して戦う』
オブリビオンも、踏切を守らない行動を取れば瞬時に電車にはねられます。その場合、一撃で確実にKOできます。
オブリビオンもその危険性を理解しており、線路の範囲外の空を飛ぶことで対策しています。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『リビングデッドラゴン』
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POW : 屍竜の毒霧
【口】から【猛毒ガスのブレス】を放ち、【即効性の神経毒】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : グラトニー・オブ・ザ・デッド
戦闘中に食べた【ゾンビの肉】の量と質に応じて【巨大化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : ネクロハザード
自身の身体部位ひとつを【猛毒の粘液】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
👑11
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メイスン・ドットハック
【SPD】
まー、空を飛べばある程度は安心じゃということはわかるのー。
じゃけど、それに慢心しておっては落とされるけーのー
キャバリアKIYOMORIに搭乗して参戦
レーザー砲ユニットやミサイル・榴弾を駆使して遠距離攻撃で翼を狙い、落下で線路に落ちるように砲撃・爆撃していく
巨大化したり、攻撃の射程範囲外に出たら、UC「宇宙に君臨せし星の獣達よ、来たれ」を発動させ、クエーサービースト・キエリビウムJOX培養体を召喚
命令は単純「触手で空飛ぶ奴を叩き落せ」
その触手と振動波動で粘るドラゴンを力づくで線路に落とし込んでいく
まー、打撃や爆撃で倒れた方がいいのー。頑丈の方が不幸かものー
自身は固定砲台で動かない
トリテレイア・ゼロナイン
…騎士としては、近づけない状況は少々歯痒いものがありますね
踏切越しに攻撃をすれば良いということはさて置き
神経毒ブレスは神経そのものが無い以上問題はありません
●防具改造で気密性高める●環境耐性も備えております
地上からセンサーでの●情報収集と瞬間思考力でドラゴンの機動を解析して●見切り
装着したUCの頭部照準レーザーの●乱れ撃ちスナイパー射撃でロックオン
レーザーは実体も無く、マーカー代わりの只の光
踏切の違反にはならない筈
それぞれのドラゴン達にUCの重力波を踏切の方向に『落ちる』向きへ設置
電車に轢かれるよう落とします
まるで砲台ですね…
せめて助け出せた妖怪の皆様を介抱する時は騎士らしく振る舞わなければ…
●バッテリーズ
「……遠いですね」
リビングデッドラゴンの群れが飛び回る空を眺めつつ、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はつぶやいた。
ウォーマシンである彼は普通の人間に比べればよほど背が高いものの、流石に空にあるリビングデッドラゴンに手が届くほどではない。巨躯に相応しい長大さを誇る大剣や騎兵槍をもってしても、それは同じであった。
デザインは中世ヨーロッパの騎士鎧を彷彿とさせるものであり、また精神の面でも騎士を自負する彼にとってみると、この距離感というのはいささか不本意なものであった。
「まー、結界の性質が性質じゃからのー。空を飛んでればある程度安心と考えるのは、わかるのー」
トリテレイアと同じように空を見上げつつ、メイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)が言う。
メイスンの身の丈は実にトリテレイアの倍近くもあり、ざっと五メートルほど――というのは誤りで、そうと見えるは彼女の操るキャバリアである。KIYOMRIとの銘を持つざっくり人型の機体が、頭部に当たるパーツを傾けてセンサーアイを空に向けつつ、コクピット中のメイスンの声をスピーカー越しに外へ発しているのである。
「じゃけど、安心は慢心の元でもあるのー」
「同感です」
トリテレイアは言うと、フルフェイスメットめいた形状の頭部から四方八方にレーザーを出す。それらは数多くありながらぞっとするほど精密に、空舞うリビングデッドラゴンらを捉えた。
捉えたといって、熱も何もない、ただの赤いポインタである。音もなく赤いマークが身に灯されるが、リビングデッドラゴンらは痛くもかゆくもないそれらを気に留めたような様子はない。
なるほど、それは慢心に違いない。
だまし絵のように、トリテレイアの背中に不意に二門のキャノン砲が出現する。正確には弾を射出する砲でなく、【戦機猟兵用重力制御兵装装備型強化ユニット(エクステンションパーツ・タイプ・グラビティ)】――ポインタの当たった場所に照準を合わせて極大重力を出現させる馬鹿げたユーベルコード装置だ。
「フシェー!?」
恐らく何が起きたと理解できないうちに、リビングデッドラゴンらは急増した重力の虜となる。速度と高度とを急激に落とし、そのままなすすべなく地面へと落下する――と思いきや、ばさばさともがくように翼を高速で往復させ、デッドラインを死守する。
「む、粘りますか」
「まあ、上々じゃのー」
コクピットのメイスンがコンソールをなで回すと、応じてKIYOMRIが動く。
KIYOMRIを人型と見なすならば両腕にあたる部位は、丸ごとレーザー砲になっている。さらに、背中にあたる部分には長尺のLPL砲がマウントされ、肩にあたる部位はミサイルポッドである。
それらの砲口が一斉に空に向いた次の刹那、多彩な爆音、破裂音が合奏し、それら音の数だけ何かしら破壊力を蓄積した何かしらが空へ飛ぶ。
リビングデッドラゴンらの翼が、今度こそ熱持つレーザーに貫かれ、斬り裂かれる。あるいは、炸薬によって翼膜を破られ、焼かれる。どれほど羽ばたいても揚力を得られなくなったリビングデッドラゴンらは、ついに線路上、電線の下に至る。
ごぅっ!
刹那だった。視界のどこにもなかったと断言できる闇色の長方形が、唐突にその空間に出現し、リビングデッドラゴンらを吹き飛ばした。
吹き飛ばしたのも一瞬に見たぬ間なら、走り去る――というか、消え去るのもまた一瞬未満。精密を極めるトリテレイアとメイスンのセンサをもってしても、妖怪電車の出没を捕捉することは叶わなかった。
(なるほど、これは――)
(回避も防御も間に合わんのー)
両者戦慄を禁じ得なかったが、さておき。
運良く線路と線路の隙間に落下していたリビングデッドラゴンらは健在で、猟兵たちに殺意と口とを向けてくる。
「やらせるわけにいかんのー」
リビングデッドラゴンの行動に先んじて、メイスンはコンソールと叩く。刹那、KIYOMRIの頭上の空間に立体光による魔法陣が描き出され、同時に冒涜的に蠢くクエーサービースト培養体が召喚された。小山ほどのサイズがある触手塊が鋭く伸びてリビングデッドラゴンらを叩き潰そうとする。
――が、それより遥かに早くいくつもの妖怪電車がすっ飛んできた。
「あ!?」
メイスンが悲鳴を上げる。召喚された触手塊は小山一つほどの体積を誇り、どうしても複数の線路上にまたがる格好で実体化せざるを得なかった。それら線路のことごとくに妖怪電車が出現し、せっかく膨大なリソースを割いて召喚した触手の群れに容易く穴を穿ち、千々に刻む。
「フシャー!」
触手の群れが崩れ落ちる向こうから、リビングデッドラゴンらの青紫色のブレスが濃霧となって押し寄せる。
「危ない!」
毒霧とメイスンとの間に、トリテレイアが割り込む。
巨盾と機密性を高めたアーマーが濃霧を弾く――完全には防ぎきれずに浸食され、皮膚の表面を焼くような痛みはあるが、どうということはない。
「すまんのー、助かった!」
「いえ。騎士らしいところもお見せしたかったところですので」
言いつつ、トリテレイアは再びグラビティキャノンを構えた。
油断ならぬ状況は、まだ続く。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
水鏡・怜悧
詠唱:改変、省略可
人格:ロキ
UDCアースの空に竜を見る日が来るとは思いませんでした
一般の方や邪神に気づかれていないのが僥倖ではありますね
UDCの液体金属で50cmほどの球体を作り、空へ浮かべます。目立たないように普通の人のフリをしながら、UC発動。重力属性で踏切内に竜を落とします。気づかれても高重力下ではそう簡単に攻撃できません
「ふむ、毒性粘液への変化……厄介ですね」
毒属性で解毒・中和しつつ、氷属性で固体化してもらいましょう。そのまま踏切内に落ちればダメージも通るはずです
助けた妖怪は医術で治療します
「あまり妖怪さんの身体構造には詳しくありませんので、応急手当程度になってしまい申し訳ありません」
鳳凰院・ひりょ
アドリブ歓迎
WIZ
敵は上空か…踏切の影響を受けない所から攻撃とか…知恵が回るじゃないかっ!
ならこっちは地上まで引きずりおろしてやる!
【結界術】で自身の上空に結界を生成
これは相手の猛毒の粘液を跳ね返す代物
自分の攻撃を自分で食らうといいよ!
さらに畳み掛けるようにこっちも遠距離射撃を叩き込んでいく!
【破魔】を付与した【レーザー射撃】で敵の翼の根元を攻撃する
回避されるかもしれないが、この射撃攻撃は【誘導弾】だ!
当たるまで追い続けるぞ!
相手の翼を攻撃して翼をもげたらいいんだが
相手の高度が落ちて来たら破邪顕正を発動、狙うは敵が線路の上空の時!
相手を行動不能に陥れ…あとは妖怪電車にお任せしよう
シルヴィア・スティビウム
なるほど、踏切迷宮を作った本体が、それを使わず空を飛んでるわけね
そう言うのずるいと思うの。
でもわかるわ。待たされるのって、普通に時を過ごすより長く感じるもの。
いい機会だわ。一曲聞いていかないかしら
私のフィドルは特別製。踏切の音なんて聞こえなくなるくらい、音楽の虜にしてあげるわ
そんな高いところに居ては聞こえないでしょう?
シェオル。ちょっと羽をもいできて頂戴。
さあもっと近くへおいでなさいな。そう、踏切の中までね
●雨中の音楽会
水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)――表出している人格でいえば『ロキ』と呼ぶべきなのかもしれないが――が見上げる空は、およそUDCアースのものとは思えない光景と化していた。
濁った赤茶色の翼をはためかせて舞う、異形の群れが視認できる。鳥やコウモリと見まごうなどということもまずなかろう、リビングデッドラゴンたちである。
人も邪神も認識できない結界の内であるからよかったものの、猟兵でもない人々が目撃していたならばパニックは必至だったろう。
仮に邪神の目に留まったら、どうなるのだろう。オブリビオン同士で結託して一緒に世界を滅ぼしに掛かるのか、あるいは縄張り争いを始めて互いに喰らい合うのか。
多少は知的好奇心をくすぐられないではないが、今このときに気にすべきことではない。優先事項は、敵群をいかに殲滅してのけるかだ。
――ふと。
怜悧はリビングデッドラゴンの頭が一斉に同じ方向を向いたのに気付いた。
「……?」
何か見つけたのかと思って、怜悧はその向き先を視線で追うが、特に何という物は見当たらない。
やがて、リビングデッドラゴンらのことごとくは、頭を向けていた方向へと身を翻して飛んでいった。空が、元のような静寂の青を取り戻す。
理由はわからない。しかし、それは望外にもたらされた好機に違いなかった。
自身が敵の眼中の外にある間に、怜悧はシャツの内からズルリと液状金属を這い出させる。首を伝い、頬を伝い、さらに重力をあっさりと無視して空高くまで浮かび上がった鈍色の液体は、直径五十センチほどの球体を形作って安定する。
「さて……」
あとは、目立たないようにリビングデッドラゴンの後を追う――と、歩み出したところで。
かんかんかんかん。
踏切に捕まった怜悧は、頬をひくつかせた。
シルヴィア・スティビウム(鈍色の魔術師・f25715)の持つ青水晶のフィドルが旋律を刻む。音色そのものはヴァイオリンに似るが、行儀良く規律厳しく整頓された王道クラシックのそれとは異なる風情の、伸びやかさとイタズラっぽさの同居した節回しだ。どこか郷愁と、同時に微かに訳もない不安を感じさせるような演奏である。
そんなシルヴィアの頭上の空には、次から次へとリビングデッドラゴンらが集結していた。初めは都会の夜空に見える星ほどのまばらさだったのが、今や空を覆わんばかりになっている。
まるで演奏に魅せられ、引き寄せられたかのようだった。
しかし、それだったらもっと近くで聴こうと低空まで飛来してくれてよさそうなものなのだが。
「踏切の影響を受けない高度を保つとは……知恵が回るじゃないかっ!」
シルヴィアの横で空を見上げつつ、鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)が悔しげに叫ぶ。
「音楽を愛でるような感性はないのかもしれないわ」
演奏の手は休めず、シルヴィアはぼやいた。
「音色に引かれたというより、何かわからないけど怪しいのがいるから見に来たという感じにも見えるし……普通に猟兵の存在を察知しただけなのかもしれないし」
「むむむ」
その通りかもしれないと、ひりょは思った。リビングデッドラゴンらは、正しくは踏切の影響範囲外というより、猟兵の攻撃範囲を意識しているであろうレベルの高高度を保っている。少なくとも彼自身の射程を鑑みると、少々自信は持てない程度の開きはある。
ただ、それは即ち敵にとってもこちらに有効打を与えがたい程の距離であるはず――と、思っていたところ。
茶色い積乱雲めいた格好に密集したリビングデッドラゴンの集団から、ぽつんと青黒く粘っこい水滴が降る。
重力に従って超長距離を落下してきたそれはシルヴィアとひりょの目の前のアスファルトで弾け、ぢゅご、と不穏な音を立ててそこに穴を穿つと同時、えぐい香りのする白煙を噴き上げさせた。
流石のシルヴィアも、フィドルに当てていた弓を止めてしまう。
「……それはずるいと思うの」
「ぬおぉっ!」
気合い一発、頭上に手を掲げたひりょとシルヴィアの体を包むように、半球型の銀膜が展開される。
一瞬遅れ、【ネクロハザード】の毒粘液の雨が、ひりょの張った結界及びその周囲の地形をもろともに叩く。市街地であることを活かしてどこぞの建物に避難しようにも、踏み入れば死あるのみの線路にでたらめに囲まれた迷宮にあっては、易々と身動きは取れない。さにあらずとも、超常の猛毒の雨を当たり前の建物がどれほど防いでくれるものか、あてにできたものではない。
「釘付けにされたか……!」
「じり貧でしょうか」
毒雨が底を突くのが先か、ひりょの集中力が尽きるのが先か。
と。
「厄介な状況のようですが――!」
三人目の猟兵、怜悧の声が闖入する。
同時、鈍色の球体が横合いから腐肉の積乱雲に彗星よろしく突っ込むや、大輪の花火のようなまばゆい大爆発をまき散らした。
炸裂したのは尋常の火花ではない――というか、厳密には発火現象でさえない。怜悧の繰り出した【破壊黒球】を中心に一瞬にして広がった魔術力場が、それらしく見えただけのことだ。
力場に囚われたリビングデッドラゴンらは、先までの統制ぶりが嘘だったかのようにがたついた。毒雨を降らせる余裕をなど完全に失われ、飛翔能力を失って落下するものもある。
「重力の働く強さと方向を狂わせました。奴らは思ったようには動けないはずです」
「ありがたいわ」
淡泊な表情のままながら礼を言ったシルヴィアは、銀の双眸をもって乱調となった腐肉の集団を見据える。
「シェオル、お願い」
捧げ持つように構えたシルヴィアの掌の上に、黄泉の名を冠する光輝の剣が顕現する。金色に輝きつつ高速で回転する、円鋸めいた形状で。
次の刹那、シェオルは影をも見せぬ速度で空へと飛ぶ。さらに次の刹那、【輝ける剣の暴風(プロセラルフルゴール)】が縦横無尽に吹き荒れて、ろくに身動きの取れぬリビングデッドラゴンらの翼を斬り裂きに斬り裂いた。
「フシャー!?」
「フシェー!」
悲鳴と怒号が上がる。が、なすすべもない。
超重力に囚われたせいで、あるいは翼を斬り裂かれて揚力を失ったせいで次々と落下するリビングデッドラゴンらは、畢竟、ひりょの射程内へと収まることとなる。
「精霊よ――」
力ある言葉を放ちつつひりょが抜剣したのは、緋色の刀身を持つ退魔刀だった。
「かの者たちに裁きを!」
刹那、刀を中心に万条の迅雷が走ったようにも見え、あるいは小柄な太陽が出現したようにも見えた――いや、その場の何者の視界をも白一色に染めるほどの烈光であり、何か『見えた』ということもないのだが。
いずれにせよ【破邪顕正(セイナルイマシメ)】の破魔の光は押し包むようにリビングデッドラゴンらを刺し貫き、それらの身にこびりつくようにしていた骸魂を浄化していった。
烈光が一過し、視界が正常を取り戻したとき。
周囲にちらりと目をやったシルヴィアが、ふと気付いた。
「お約束、でしょうか」
「ん? お、おお!」
ひりょも声を上げる。やたらめったらに敷設されていた幾本もの線路が、陽光にさらされた淡雪のように形を崩し、消えていく様が、そこにあった。元凶たるオブリビオンの群れのことごとくを倒せたことで、迷宮そのものが維持できなくなったということだろう。
ただしその代わりとばかりに、目を回したドラゴンやらゾンビやらが死屍累々と横たわっている。骸魂から解放され、リビングデッドラゴンから元の姿へと戻れた妖怪たちである。
「これは――早いところ集めて、治療をしましょう!」
怜悧が駆け寄りつつ、言う。
「私はあまり妖怪さんの身体構造には詳しくありませんので、応急手当程度になってしまいますが……」
「いえ、ひとまずはそれで十二分でしょう。本格治療が必要なら、他の猟兵の皆さんとも合流しなければなりませんが……」
わたわたと細々と、事後処理は残るが。
この場における猟兵たちの勝利は、こうして確定した。
大成功
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