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星の下、花の円環の内側で

#アックス&ウィザーズ #戦後

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#戦後


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「山のぼりの依頼を受けたんだけど、ついてってやるぜーって人はいる?」
 グリモアベースにて。手持ち無沙汰にガラスの竪琴を爪弾いていたカノン・チェンバロ(ジェインドウ・f18356)が、ふいに手を止めて何げないふうに言いだした。
「行き先はアックス&ウィザーズの緑いっぱいの森の中、妖精の集落があるって言われてる山なんだ。興味あるなら聞いていってよ」
 簡潔な説明から始めたグリモア傭兵は、話に反応した猟兵を近くの椅子へ座るようにうながしてゆく。



 ところは山深い森の中。その奥に、話に聞く“妖精の集落”はあるという。
 森の樹は生い茂っていて昼でも光はあまり射さず薄暗い。今の季節は背高い樹木の枝ぶりも豊かになるからいっそう暗さを増している。
 もとより普段は人が通るようなところではないし、暗がりは危険だから子供たちもその中には遊びに行かないよう大人たちが口をすっぱくして言っているぐらいの場所だ。
「“妖精の集落がある”っていうのは、どちらかといえば森で迷う人が出ないようにするために使われてた言い回しみたいだね」
 その場所にもっとも近い村で聞いたという話を言い足して、でも、と言葉をつないでゆく。
「そのへん一帯はここのところ人の行き来が増えてるんだよね。旅しに来る人たちが多くなってきたんだ。私もそれでそのあたりまで行くようになったってわけなんだけどね。そこら一帯で少しずつだけど人が住む場所も増えてきている……道が広がってきてるから」
 訪れる人が増えてゆく。やがて定住する人も増えてゆくだろう。その地域が発展していっているということだ。それは良いのだが。
「ひとりふたりと行き来する人が増えてきた。それにつれて、森の中で困ったことになる人もひとりふたりと増えてきたんだ。そのひとたちの証言っていうのが――」
 曰く、あるはずのない景色がひろがる場所を通ってきた。
 曰く、不自然なぐらい大きな木の実が飛んできて進めなくなった。
 曰く、正しく歩いていたはずなのに反対側に出ていた。
 曰く、森を抜けることができないまま翌朝になっていた。
 ただ迷った人が出たというだけなら夢だの与太話だので済んだ部分もあったかもしれない。しかし山歩きに慣れた人々からも次々とそんな話が出てきて無視できるものではなくなった。
 そんな中で決定打のように「妖精に追い返された」などと言い出す者が現れたものだから“妖精の集落”が原因なのではないかと考える者が調査の依頼を出すのも無理からぬことだった。
「支離滅裂なことを言ってる人もいて要領を得ない話が多かったよ。だから本当にそこに“妖精の集落”があるのかはわからないんだ……けど、そう呼ばれているあたりに何かが“ある”のは確かだろうね」
 そこまで言うとカノンはひと息つき、さらに説明を重ねていった。
 集落への地図はあるから、気をつけて進めば目的地付近まで迷いはしないだろうということ。
 しかし舗装もされていないためなだらかな道ではないこと。
 そびえる樹木も背が高く、薄暗いことも手伝って見通しが悪いこと。
 目的地への到着は日没ごろになるだろうということ。
 邪魔になる枝を払うぐらいなら大丈夫だが、樹を切り倒すなどの地形に大きな影響を与える行動はしないで欲しいこと。
 そして……その土地で猟兵たちの脅威になりえるものは多くないとはいえ、路なき道を行くにはそれ相応の危険が考えられるということ。
「くれぐれも、怪我とかしないように気をつけてほしいな。私からは以上だよ」
 それじゃあよろしくね、と告げたのを話の終わりの合図にして、カノンは手のひらにグリモアを浮かばせた。


永夢ヨル
 初めまして。またはお久しぶりです、永夢ヨルともうします。
 山の自然に囲まれて歩いたり戦ったり自然と戯れたりする、全体的におだやか~しっとり予定のシナリオです。

 一章……『そこに山があるから』(冒険)
 二章……???(集団戦)
 三章……???(日常)
 の三章構成です。

 一章『そこに山があるから』では、森深い山を登って“妖精の集落”と呼ばれている場所をめざして頂きます。
 時間帯は日中から日没ごろ。目的地がどのあたりにあるかは事前に知らされております。
 森が青々と茂っています。日が沈んでくるとちょっと肌寒いかもしれません。
 植物が生き生きとしておりところどころで花が咲いていたりします。

 同行する方は、プレイング冒頭にお互いの名前やチーム名の記載をお願いします。
(あまり大人数だと難しいかもしれません)
 各章冒頭の断章投稿でプレイング受付開始し、プレイングをお預かりの都度執筆していきます。
 どうぞ、お気軽にご参加ください。
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第1章 冒険 『そこに山があるから』

POW   :    体力や気力で山登り

SPD   :    技や早さで山登り

WIZ   :    魔法や知力で山登り

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 待ちうける山はそこまで高いものではない。
 しかし背の高い樹々がおとずれた者たちの視界を塞ぐようにそびえている。
 さながら緑の闇。一歩その中に踏み込めば夕暮れめいたほの暗さと青臭い草いきれと、それから少しの土のにおいに包まれるだろう。
 なにはともあれ“妖精の集落”に向かうならこの密度の高い幹の中、互いを押し合う枝葉の先へと猟兵たちは進まなくてはならない。
サティ・フェーニエンス
自然が自然のままに生きている地、とても惹かれます(=大好き)

お邪魔しますね、と言いながら森が導くままに進みます
ヤドリガミの身なれば、疲労はそれほど感じない…と、思っていたんですが…僕も大分ヒトの姿に慣れたという事、でしょうか…ゼーッハーッ
(自身の呼吸の乱れに驚きつつも新鮮な心地)

それにしても高い樹が多いです
それだけ年月を経て、この世界を見てきた樹なんでしょうね
僕より先輩さんな樹も沢山いるでしょうか(実質100歳以上なヤドリガミ)
時々そんな木々と会話するように幹に触れたり、花があれば観察したいです
植物と会話する能力はありませんが、此方に伝えたいことがあるなら、耳を傾けて妖精の集落を目指します



 ヤドリガミの身なれば、疲労はそれほど感じない。
 そう、思っていたのだが。

 ――ぜーっ、はーっ。

(僕も大分ヒトの姿に慣れたという事、でしょうか……)
 森の中を進む道中、サティ・フェーニエンス(知の海に溺れる迷走っコ・f30798)は大きく息を切らせていた。
 ぜえ、はあ、と空気が肺からせり上がってくる感覚は馴染みがない。それは物言わぬ存在であったなら起こるはずもなく、生けとし身をもっているという実感と新鮮さが勝って驚きながらも心躍るのを感じていた。
 息をすることで感じられるのは苦しさや疲労だけではない。
 深い呼吸がより大きく取りこむ土や草の匂い。屋内にはない質感をおびて頬を撫でる風に乗った温度――自然が、自然のままに生きている。それらを感じさせてくれる木陰に惹かれるまま、森の中をゆく足は向かうべき場所へ進んでいた。
 一歩進むたびに、木の葉と草花がおり重なった柔らかな土が靴底をとおして柔らかな感触を伝えてくる。
 姿ばかりは幼い彼の背丈で見上げてみれば、ヒトの手が届かないまま永いこと生きてきた樹々ばかり。森の天井は遥か高いところにあって、“生みだされた時”から数えれば百を超える齢のサティより歳を重ねた樹もここには沢山いるのかもしれなかった。

 この場で森の導きを感じるのはあるがままに生きる地への愛しさか、それとも多くの書籍が樹と密接に関わりあうものだからだろうか。あるいはヤドリガミとして得たカラダの五感が、深緑を存分に感じさせてくれるからなのか。
 ……サティは、植物と直に言葉を交わせるような力を持っているわけではない。
 けれど彼の生活の一部は、木漏れ日の森で暮らす本たちと共にある。そして時には、緑の力を借りたユーベルコードを使う――手のひらで幹のしっとりとした手ざわりを感じ、ひざ下の高さで揺れる花を覗きこんだりしているとき、その囁きを聴きとれるように思えてくる。
(此方に、伝えたいことがあるなら……)
 そう胸の内から語り掛けながらあたりを見つめていて、ふと気がついた。

 見慣れないキノコが、生えている。

 森に入ってすぐのところでは見かけなかったものだ。ぷっくりとした傘はまわりの植物たちよりも少し派手な色をしていて、意識して見ればどこかに続くように生えているのがわかった。
「其方、ですか?」
 こぼれ出るような問いかけが音になる。答えとなる声は返らない。
 だが不思議とそれが進むべき場所を示すしるべのように感じられて、サティは星座を結ぶように鮮やかなキノコをなぞって進みだした。

 梢の間を柔らかく吹き抜ける風に背中を押され、あいかわらず息を切らして歩くヤドリガミの足に迷いはない。
 枝葉のすきまからそそぐ日差しは、少しずつかたむいてきていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
暗い森は少し怖いけど
背中の恋人の重みを【勇気】に変えて
地図を忘れないように
ヘッドライトも持って行こう

UC発動。移動力を強化。【地形耐性】
どんな道でも歩いていける
私の足は、wandererが支えてくれるから
なるべく森には傷をつけないように
どうしてもな時だけ切り払う
迷わないようにしっかりマッピング

きっと、普通の森とは違うから
今まで見たことないような植物たちが生きてたりするのかな…わ、見てwith!この子めっちゃ可愛いくないっ?
珍しい植物や、生き物達に興味津々
少し進んでは立ち止まり、また進んでは立ち止まり

…っとと、いけんいけん!
山の夜は早いし、ペース上げていこっ
よろしくね、wanderer



 持つべきものを確かめる。
 目的地までの地図。
 ヘッドライト。
 そして絶対に離れない、背に寄り添うは最愛の恋人。
 森に立ち入る直前に再度とった点呼は確実、旅の道連れたちの準備は万全だ。確かな質量に勇気を貰って、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は満足げに微笑んだ。
「アルダワの技術、使わせて貰います」
 足元へとユーベルコードで語りかければ、無骨なブーツに組み込まれた蒸気魔導の回路が動いて蒸気がしゅう、と答える。
 背に覚えた重さはそのまま愛しい恋人の頼もしさ。貰った勇気が暗がりにまぎれぬうちに、森への一歩を踏み出した。

 日の高さと方向を見上げ、手元の地図と見比べる動作の繰り返し。
 方角にずれが生じないように照らしあわせながら地図に記された場所へと向かう。
 立ち入った道なき道はそれなりに障害物も多かった。
 現在地と目的地をつないだ線を様々なものが阻んでくる。土地の地面がかたちづくった凹凸はもちろん、倒れた大樹や低木の枝も。
 だからといって森にある存在を傷つけるのも彼女の本位ではない。withの力を借りて道をふさぐ枝や蔦を断ち払い、可能な限り無傷となるよう進んでゆく。現在地の確認をしながら、わずかに拓いた空間を地図へと描き足していった。
 ――多分、ここは普通の森とは違うのだろう。
 目標地点へと近づく実感をいだくとともに、そんな予感も強くなってゆく。
(今まで見たことないような植物たちが生きてたりするのかな……)
 考えながら周囲に気を配っていると。
「わ、見てwith! この子めっちゃ可愛いくないっ?」
 それまで見かけなかった花が咲いているのを見つけて駆け寄った。
 このあたりにしか咲かない花か、それとも“普通じゃない”森の植物か。そんな疑問は頭の片隅、刺激される好奇心に従って弾んだ声で恋人に語りかける。
 探し始めれば目新しいものはもっとあった。複雑な形の葉っぱを持つ草。糸巻きみたいにきっちりつるを巻いたツタ。ところどころに転がっているのは自然で見たことのない大きな果実。
 目にした珍しいすべてのものに興味ひかれて足を止め、影おちる場所をライトで照らし――。
「わっ、あの実あっちにも転がって……っとと、いけんいけん!」
 すっかり進行速度が落ちている事に気づいて邪念を振り払うように頭を振った。このペースでは到着する前に日が暮れかねない、山の夜は早いのだ。
「よろしくね、wanderer」
 仕切りなおして旅立ちの儀式のようにブーツの名を呼ぶと、先ほどよりも歩幅をひろげて進み出た。

 冬の吐息のように一瞬だけたちのぼった蒸気が、今の時間を知らせるように斜陽の角度を浮かびあげる。
 大剣に背中ごと勇気を支えられて進む少女の足が、目的地に到達するまであとわずか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミアステラ・ティレスタム
日暮れの頃の自然というのもとても良いものですね
流石にこの時間帯に山に入るのは初めてですが
街中では見ることが出来ない景色を楽しみながら進みましょう

普段から空中浮遊で移動しているので、山の中でもふわふわ浮きながら移動することにいたします
山の中での方向は、木々に生えている苔の量を目安に
苔が多く生えている方が北でしたね
光源は、不思議な魔法薬に光を灯して簡易ランタンに
まあ、困ったことがあったらユーベルコードを使ってしまいましょう

澄んだ空気が心地好いですね
清澄な水の気配、その周辺に咲いている花の香り
暗くなってきてからしか見れない景色
次は何が出てくるのでしょうか
ふふ、少しワクワクしてきますね



 黄昏時も近づく頃にふわふわと木陰をぬって進むのは、さながら水の化身のような少女の姿――水宝玉のヤドリガミ、ミアステラ・ティレスタム(Miaplacidus・f15616)。
(日暮れの頃の自然というのも、とても良いものですね)
 この時間帯の山に入ったのは初めてで、瞳に映る風景は彼女が見たことのない色をしていた。
 傾きだした日差しは薄紅色を広げ、影に青みを足している。枝が落とす影が濃くなりあたりが見えづらくなって行く。
 深みをましてく影を優しく照らしあげるのは、調合するたび異なる効用をもつ不思議な魔法薬に灯した光。その光源でまわりを照らしてみると、空色と即席のランタンの明るさが等しく感じるくらいだった。
 草木や花が香をまじらせるあたり一帯の清澄。水と空気が通りすぎて澄みわたるにおいが感じられる方向からは、川と呼ぶには浅い水辺がこがね色の光をちらつかせている。
 岩の表面を撫でる水は浅すぎて魚もいないが、樹木が永く佇みつづけるに足るだけの水は地面をめぐっているのだろう。
(ふふ、少しワクワクしてきますね)
 せせらぎのようになめらかな浮遊。文字通り地に足をつけずにおこなう移動は、ミアステラにとっての普段どおり。目標地点へ近づくにつれて道のりが険しさを増しても壁、のように横倒しになった樹木があっても、浮かぶ爪先を阻むにはあたわない。
 森の中は進むほど日当たりが悪くなってゆくが、まったく日差しが届かないほどでもない。石や幹をおおう苔の厚みを確認すれば山は正しい方角を教えてくれた。
 水や風の行き来路に、馴染みのない景色。それらに馳せる想いで心を躍らせていたのも束の間。
「……あら」
 水際から離れて先に進もうと方角の確認をしたところで、不自然なことにミアステラは気づいた。
 ここはお世辞にも明るいとは言い難い。広範囲の水がもたらす光の反射は多少なりとも苔が生える方向も変えるだろう。しかし周囲に生える草苔は、相変わらず同じ方角をむいて伸びている。
 それらを静かに見定めたのち、水の娘は唇を開いた。
「ここには、何があるのか……教えて頂けますか?」
 お願い、聞いてくださいますか。
 そう語りかける声とともに巡らせた魅惑の瞳は周りをとりまく深き森をとらえて――差し込んだ光が、少女を照らしあげた。
 赤みを帯びた木漏れ日が、枝影を割くようにふえてゆく。足跡めいてぽつりぽつり。足元から光をおとして一つの方向へ。
 それはまるで声を持たない森が、見つめる眼差しに応じるように。求めるものはそこにあるのだと口にするかわりのようで――。
「ありがとうございます」
 透きとおる声でお礼を告げて、ミアステラは薄れつつある斜陽をなぞって再び進みだす。
 地を踏みぬかない歩みの速度は先ほどまでより少し上がっていた。
 求めた問いかけの答えはきっと、光のしるべの先にあるのに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶/2人】アドリブ歓迎
夢見鳥(アイテム)をランプから放ち
周囲を舞わせて灯りを確保しつつ進む

ぜぇ…はぁ…山登りってなかなかキツいな…!
いつもなら相棒の焔の背に乗って
すいすいと飛んでいくんだが
こうも所狭しとデカい樹木が並んでいるとそれも出来ない
クッ、悔しいが綾の言葉に言い返せない…!

ギブ!少し休むぞ!
適当な岩の上に腰掛けて休憩タイム
クッキー(アイテム)を綾や仔竜たちに振る舞い

ふと思いつき
近くにあった石ころをUCでドラゴンに変化させ
雑談や情報収集
あるはずのない景色を見たとか
デカい木の実が飛んできたとか…
森を訪れた人の証言について聞いてみる
更には、「妖精の集落」について何か知っているか、と


灰神楽・綾
【不死蝶】アドリブ歓迎
念の為の迷子防止として
UCの紅い蝶を要所要所で一羽ずつ待機させて
一度通った道を示す目印にしておく

あはは、もうバテちゃったの梓?
梓と違ってスキップするような軽い足取りで先へ進む
普段からドラゴンたちに頼っきりのツケが回ってきたんだよ
たまには自分の足で歩かないと
どんどんおじさんおじいちゃんになっちゃうよ~

もう、仕方ないなぁ
梓のクッキーを食べて休憩しつつ森の中を見渡す
ここに来るまでは周りを気にせず
ひたすら先へ先へと進んでいたから
じっくりと森を眺めていなかったな
薄暗くてちょっと不気味さがあるけど
よく見ると綺麗で珍しい花があちこちに咲いている
スマホ撮りだしてカシャッとね



 夢見鳥――光を帯びた蝶が彼らの周囲を照らしあげている。
 森に訪れつつある暮れの色を、拒んで進むは男性ふたり。
「山登りってなかなかキツいな……!」
 ひとり。左右に一匹ずつ乗る仔竜ごと両肩を上下させ、息を切らせて歩く乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)。
「あはは、もうバテちゃったの梓?」
 もうひとり。そんな梓のかすれた声を振り返って笑う、黒を基調とした装いの灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。
 気やすい笑いを立てた。
「普段からドラゴンたちに頼りっきりのツケが回ってきたんだよ」
 相棒であるドラゴンのうち『焔』の背に乗っていることを示されて、ぐ、と小さく唸った。
 だってこの森ときたら縦にも横にも大きな樹がご立派にひしめいている。生えている密度も高く、この空間を飛び回るのは危険に過ぎる。そのため慣れない徒歩進行を進めた結果、梓の身体は全身疲労による限界を訴えていた。
「たまには自分の足で歩かないと、どんどんおじさんおじいちゃんになっちゃうよ~?」
 対して綾はいつも自身の身体で移動を行っており、こんな悪路もまったく苦ではない。疲れていないどころかスキップと見まがう足取りの軽やかさだ。
(クッ、悔しいが言い返せない……!)
 普段からの行動による差をまざまざと直視することとなり、みずからの現実を否定する言葉を返すことはできなかった。実父に育てられた綾の世話を任されている身だが、今この瞬間が面倒を見ていると言えるのか少し疑問を抱かないでもない。
「ギブ! 少し休むぞ!」
「もう、仕方ないなぁ」
 同行者の返答を待たずに手近な石に腰かけた梓にまだ余裕で動ける綾はあきらめたような声を返したが、ここまで休みなく歩いてきたのだし一息を入れるには良い頃合いだろう。
「行ってらっしゃい」
 休む梓を後目に囁いて生み出したのは紅い翅。綾とその所在を共有する蝶は、正確な座標の記録としても役立ってくれている。このおかげで回り道をせずに進めて来られていて時間には少し余裕もあるだろう。
 地図へ書きこむかわりに新たな一頭を潜ませると、少し遅れて彼も岩に腰かけた。



 そろって岩に腰を下ろしての小休止。梓は持ってきていたクッキーを取り出すと、同行する猟兵と赤と青の仔竜にふるまい始める。
 綾は受け取ったそれをひとかじりし、改めて森を眺め見た。
 ここで休憩を入れるまでは先に進む事を優先していたからあまり周囲を見ていなかったが、よく観察してみるとあまり見た覚えがない植物が見受けられる。
 土地柄なのかそういう森なのかはすぐには判断がつかない。薄暗さや馴染みのなさゆえか醸しだされる不気味さも少し感じていたが、中には彼の気を惹くような花もあった。
 スマートフォンがカシャ、と軽い撮影音を立てる。画像や状況や現在地の記録に便利という側面もあるが、それを差し引いても記録におさめた花は素直に綺麗だと感じたものだった。

 仔竜たちへクッキーを配り終えた梓はといえば綾とは別のものに意識が向いたところだった。注ぐ視線の先には、周囲の草に紛れて転がる大小の石。
 ……ここまでは事前情報に従って進んで来たが、具体的に何があるかまではいまだに分かっていない。しかしそこにいる存在であれば、この場所のことは知っているのではないだろうか?
「――誇り高き竜と成れ」
 普段は荒い印象を与える声が、今は静かに呼びかけた。色硝子越しの視線の先で、小さな石が形を変えてゆく。
 発動したユーベルコードに従って、石は粘土の形を変えるように一匹の竜のかたちとなった。
「よ、こんにちは」
「なぁに?」
 梓が軽く片手をあげて見せると、竜に形を変えた石が声を発して声を返した。きゅる、と首を傾げる仕草に頭を傾げ返しながら、長躯をできるかぎり屈めて視線の高さを近づける。
「最近、何か変わった事はなかったか? いつもと違う事な。こう、あるはずのない景色を見たとか、デカい木の実が飛んできたとか……」
 狙いは違わず。「あった!」と食い気味の答えは問いかけを言い終えるより先に返ってきた。



 竜の姿になった石は最初の質問に「あなたたちと同じようなのが走ってて、ちいさいのたちがおいかけてて、おおきいのがどっかんどっかん落ちてた」と答えた。
 抽象的にすぎたので詳しく聞くと「同じようなの」は一般的な人間サイズの人型の存在の事を表していた。この場所に訪れた人々が何かに追い掛け回され、松ぼっくりやら木の実やらが降り注いでいた、ということがわかった。
「有難うな」
 話を終えた竜が石へと姿を戻してゆくのを見届け……一息ついて綾がいた石を見てみると彼はそこにはおらず、何歩か離れた場所に屈みこんでいた。梓が石と対話を試みている間に移動していたようだ。
 赤い色硝子越しに見つめているのは、先ほどスマートフォンで撮影していた珍しい花。……うすぎぬのように透きとおった花びらが、枝葉を抜けた夕日を受けて薄橙に染まっている。
「ねえ梓。さっき花畑の話をしてたよね?」
 言いながら綾が森の奥へと顔を向けたので、梓もつられるように視線を移す。
 たくましい梢が格子のように印影をなす隙間――その先で、ひらけた空間に灯る薄明りが覗いている。
 ぽっかりとまあるく、少し明るい。すぐ近くで咲く花と同じ色に浮かび上がって夜のとばりの中に映えていた。

 竜の姿をした石は、こうも話をしてくれた。
 ――「この花の咲く場所に入ってくるな」。
 そう言って“ちいさいのたち”は立ち入った人々を追い回していたと。

「……あれか」
「多分ね」
 短い受け答えで意思疎通を終えて、ふたりはどちらからともなく立ち上がった。
 目に見えているのが幻術でさえなければ目標地点まで迷う心配はないだろう――明るい円形は情報から推測した“妖精の集落”の座標とも一致する。あとは、あの場所までたどり着くだけだ。
 動き出したふたりと二体、十分な休憩をとって軽くなった足どりは休んだ分を取り返すように速度を上げる。
 照明を担う蝶の光は、猟兵たちを木漏れ日より明るく照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バークリー
同行:オリビア・ドースティン(f28150)

迷いの森に“妖精の集落”か。お伽噺みたいだね、オリビア。
ねえ、荷物やっぱり半分持つよ。持たせっぱなしは気が引ける。
外にいる間くらいは、主人とメイドでなくてもいいのにな。

エルフの森に入ったことあるけど、この山の深さも大したものだね。
見上げても、繁った青葉に遮られて空が見えない。物陰に妖精が潜んでいても不思議じゃないね。
惑わされる前に、早く目的の集落へ行こう。実はお腹が空いてきてね。早く目的地で夕食と洒落込みたい。

さて、悪戯者の妖精は、ぼくらを歓迎してくれるかな?
悪戯をしてくるなら、それなりの対応をしよう。
ああ、あまり酷いことはしないから安心して。


オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】

服装は私服をベースの赤い登山服+山登りグッズです
ある意味妖精は隣人みたいなものですがどんな妖精か気になりますね
荷物を半分持っていただいたので足取り軽く進みます
今日はメイドとしてよりもウィリアム様との距離近く感じるのが心地よいですね(やや赤らめつつ)

いろいろな場所に行った事はありますがたしかに妖精などが住む雰囲気がありますね
惑わされる可能性もありますし目的地までまっすぐ行きます
ウィリアム様がお腹を空かせているようなのであちらで食事ありつけるといいのですが・・・駄目な場合は私が腕を振るいますが
あとは現地で対応するしかありませんが気をつけましょうね



「ねえ、荷物やっぱり半分持つよ」
 持たせっぱなしは気が引けるとそう告げて、ウィリアム・バークリー(“ホーリーウィッシュ”/氷聖・f01788)は並んで歩く少女へと手を差しのべる。
 登山服に登山道具一式としっかり準備を整えてきたオリビア・ドースティン(西洋妖怪のパーラーメイド・f28150)は、手伝う側としての意識が浮かんで一瞬のためらいを示したが。
「では、お願いします」
 少し悩んだあと、荷物の一部を手渡した。
 しっかりと装備をそろえていたぶん持っていたものも多かったのだが、ウィリアムが半分を持ってくれることになったおかげで進みやすくなった。半分を請け負ってくれた彼はそれを特に負担には感じていないようで、慣れない感覚があったが同時に頼もしさも感じられた。
(外にいる間くらいは、主人とメイドでなくてもいいのにな)
 彼の方は逡巡したオリビアに対してそんなふうに考えていたが、家事手伝いなどで生計を立てている彼女にはそれが生活にある程度染みついているところもあるのだろう。
 心の中がそのまま声として伝わりはしなくとも、彼女に対する振る舞いや言葉には相応の想いがにじんでいる。メイドとして彼と傍にある時よりも近い今の距離感が、オリビアには心地よく感じられていた。
 ――それにしても。
 適度に力が抜けたところで思考を一旦切り替えて、ウィリアムはこの山について考える。
「お伽噺みたいだね、オリビア」
 迷いの森に“妖精の集落”、そう事前に伝えられていた。
 まるで子供が眠りにつくときに親が語り掛ける物語のようだと、木の幹がおとす影を見まわしながら語りこぼす。
「はい。いろいろな場所に行った事はありますが……たしかに、妖精などが住む雰囲気がありますね」
 妖精と近しくある少女もそれに同意した。今こうして樹々の中を眺め見れば、そこには確かに彼らがこれまで赴いた森に勝るとも劣らぬ空気がある。エルフの森や、妖精の気配――いうなれば神秘が住まう場所のそれに確かに近い。
「物陰に妖精が潜んでいても不思議じゃないね」
 森の奥へと進むほど青葉が占める割合はふえていった。その瑞々しい色も逆光とるとすっかり黒く、地平線に陽が落ちてしまえばそれだけでほとんど夜と変わらなくなるだろう。刻一刻と、目を向けただけでは見通せない場所が増えてゆく。そこに何者かがいても驚かないほどには。
「惑わされる可能性もありますし、目的地までまっすぐ行きましょう」
「そうだね。そうなってしまう前に、早く目的の集落へ行こうか。……実はお腹が空いてきてね」
 オリビアの提案にウィリアムは首を縦にふって「早く目的地で夕食と洒落込みたい」と、女性的な印象をおびる面差しを柔く崩して笑いかけた。見上げた少女はその柔らかさにつられて破顔する。
「わかりました。あちらで食事にありつけると良いのですが。……駄目な場合は私が腕を振るいますが」
 駄目だったは現地で対応するしかないけれど、それはそれで準備はして来ていた。あとは集落があるという場所に到着してから、充分な余裕を持てればよいのだが。
 まだ、その目で確かめられてはいない。しかし“妖精の集落”はこの先にあると、ふたりは半ば確信していた。
 確信できるほど、人の手ともまるきりの自然とも違った異質さが感じられていた。



 深いところへ進むほど、見慣れない花が増えてきた。絵本にしか出てこないような、ふっくらとしたキノコもだんだん見かけるようになってきた。よく地面を見てみれば、異様に大きな松ぼっくりなんかも転がっている。
「そろそろ何か見えてきてもおかしくないのですが……」
 他愛のない雑談を交わしながらも現在地の確認を忘れず進んできた男女の猟兵は、とっぷりと暮れかけた周囲を見回して――。
「「……あ」」
 ふたり同時にこぼした声が重なった。
 空からそそぐ光の帯が、まっすぐ降りているのが見える。
 沈みかけの太陽の光が差し込んであわく色づく花畑。誰かが描いたようにまるい円の中へ、キノコも樹木も一歩も入らず取り囲んでいた。
 誰も容易に立ち入れないはずなのに、人の手が入ったみたいに綺麗なマルがかたどる平らな一画。
「ウィリアム様、あれは……」
「……地図とぴったりだね。あそこが“妖精の集落”だ」
 我しらず笑みを浮かべると、簡素な言葉で確認を終えて頷きあった。
 進み続けている足は少しだけ早足になる。目的の場所まであと少し、陽が沈みきるまでもあと少しだ。
(さて、悪戯者の妖精は、ぼくらを歓迎をしてくれるかな?)
 もし妖精が悪戯をしかけてくるなら、ウィリアムは相応の対応をするつもりでいた。
 あまり酷いことをするつもりではなて、対話を成立させるためだ。
 オリビアも、集落にいるというのがどんな妖精か気になっていた。
 童話などで奇妙な隣人などとも呼ばれる彼らは、彼女にとっても隣人みたいなものだ。
 しかし。歓待を受けるも、妖精たちを知ることも――望んだかたちでは叶わないようだと理解するまで、それほど時間はかからなかった。

 妖精はあった。集落もあった。
 けれど、“もうない”。
 沈んだ太陽にとってかわった星月のあかりが、その光景を無慈悲に照らしあげている。

 夜となった空の真中に座す月の下、“それら”は花の群生の中央から現れた。
 猟兵たちの前に姿を見せたのは一握の過去。

 いつか何処かにいたのだろう、“妖精たち”の、オブリビオン。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『花と星の妖精』

POW   :    花を操る
自身が装備する【色とりどりの花】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    森の恵み
【食べると幻覚が見えるキノコ】【硬く巨大なきのみ】【どっしりと実った果実】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    星詠み
【占い】が命中した対象に対し、高威力高命中の【様々な結果】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 森の暗がりを抜けた先にはぽっかりひろがる平らな地面。
 ふとったキノコがきれいに並び、大きな円をぐるりと描く。
 その内側に樹木はおらず、この森だけに咲く花がひしめきあって夜風にゆれる。
 輪の上に届く枝はなく、花々は高く昇った月に明るく照らされていた。

 そんな花畑の中に群れをなすのは翅を持つちいさな人影。
 蜜を求める蝶や蜂のようにふわふわ飛び回っていた影――“妖精たち”の姿をしたモノが、猟兵たちに気づいて動き出した。

 ――なにかがきたよ。
 ――なにかがきたね。
 ――なにしにきた?
 ――こわしにきた!
 ――花を毟りにきた!
 ――木を伐りにきた!
 ――土を掘りにきた!
 ――山を埋めにきた!
 ――追い返そう。
 ――追い出そう。

 ――ここはだれも入らせない。



 ひとりが夜空を指し示す。
 ひとりが大きな木の実を生み出す。
 ひとりが花をざわめかす。
 この花畑に、妖精の輪の内側に、誰も立ち入らせたくないだけなのだろう。
 けれど“妖精の集落”は、そこに在ってそこに無い。花を愛でることばも永続を望むこころも、未来を喰らうだけのモノ。

 すべては虚ろな過去の残渣――骸の海から染み出でた妖精たちを、あるべきところに還さなくては。
サティ・フェーニエンス
…自然と共存して発展していけるのが理想ではありますが
“今”を生きているヒトが、生き物が、未来を創るのだと思います
…君たちの未来は、もうとうに紡ぎ終わっているんだ…(微か素の口調に

UC発動
蔦で応戦しながら
花を、木を、守りたい気持ちは僕も一緒です
ここを通るヒトたちへ、発展を望むヒトたちへ、気持ちや願いを伝えましょう
伝えたのに通じず、あまつさえ自然を壊すヒトがいるなら…力技に訴えるのも仕方ないとは、思いますが
(意外と根は直情型かもしれないヤドリガミ)

せいぜい妖精たちを縛るか、蔦で檻を作って閉じ込めるしか僕には出来ないかもしれません
後は他の猟兵方に任せます

…猟兵としては、力不足でしょうか…(ぽつり)



 発展とは多くの場合自然を奪って成り立つ、自然とは相反するもの。
 それでいて自然なくしては成り立たない矛盾を抱え、時には自然を守るすべも内包する。
(……自然と共存して発展して行けるのが理想ではありますが)
 サティ・フェーニエンス(知の海に溺れる迷走っコ・f30798)は、考える。
 妖精たちが花咲く場を守ろうとする理由を、彼は知らない。
 ただ花が綺麗だからかもしれない。愛した地を奪われたのかもしれない。何にせよ失われることを厭うているには違いない。
「自然を冒涜するものは許しません」
 声に応じて周囲から蔦が立ちあがる。緑の力を借りる、彼のユーベルコードの発動。
 いつも隣に生き暮らす、隣人のような――自然を、サティは好んでいる。花を、木を、守りたい想いは、きっと妖精たちと変わらない。
「けれど」
 その心を汲めども看過できないものはある。
「“今”を生きているヒトが、生き物が、未来を創るのだと思います」
 発した声は対峙の宣言。あまたの妖精の姿をめがけ、蔦が勢いよく伸びてゆく。
 守護は未来を望むがゆえのもの。未来なき彼らが“今”を蝕むのを、野放しにはできない。
「……君たちの未来は、もうとうに紡ぎ終わっているんだ」
 胸の裡から滑りでた声は、いつもの丁寧な響きを忘れていた。

 蔦が、行き交う。

 ――「おまえに不運がおとずれる」、そう星読みの結果を告げようとしていた妖精が、まず真っ先にぐるぐる巻きにされた。
「ここを通るヒトたちへ、発展を望むヒトたちへ、気持ちや願いを伝えましょう」
 妖精のかたちをとって無邪気に呪詛を吐くそれらが、ヤドリガミの少年があやつる緑に囲まれてゆく。
 ……骸の海からにじみ出した過去。いつか生きていた誰かの残渣。
 オブリビオンが発するのは、かつてどこかで叫ばれた声かもしれない。
 いっそ無邪気なほど隠しだてなく向けられる敵意は、もうおまえたちは終わっているのだとただ流すには忍びない。
「伝えたのに通じず、あまつさえ自然を壊すヒトがいるなら……力技に訴えるのも仕方ないとは、思いますが」
 さり気なく血の気の多さが垣間みえる発言を飛び出させつつも――やがて彼の周りにいた妖精たちはすべて、鳥かごのように絡み合った弦の内側に閉じ込められた。
 書籍たるサティもまた、自然と発展のどちらが欠けても生まれえなかった存在のひとつ。その枠組みに与するものなりにできる事をしようと、考えていた。
「……猟兵としては、力不足でしょうか……」
 オブリビオンをとらえはしても退けはしていない。直接害さぬやり方に多少なりとも引け目があったのか、そんな独白がこぼれでる。
 答えは誰からも返らない。
 ただ緑の檻の中の“妖精たち”が、逃れようと足掻いて暴れる音がしばらく響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
わぁ、妖精…かわいい…かわいいけど…
お仕事…これはお仕事だから…
自分に言い聞かせて。それでもやっぱり本気にはなれず

キノコの効果で見えた、withとの幸せな新婚生活の幻にでへへ…となってしまうのを現実のwithの重みでなんとか振り払い
果物はwandererの魔導力で【ダッシュ】して避ける…のもいいけど、果汁を全身に浴びる経験なんてなかなか無いし、受けるのもありですね。お肌にもいいかもしれんし。あと美味しそうやし
木の実は普通に痛そうやけん、【怪力】でキャッチ、投げ返す【カウンター】
数が多い時はwithをバット代わりに打ち返す【武器受け】

ごめんね…森を壊さないようにって、村の人に言っとくから…



「わぁ、妖精……かわいい……かわいい……」
 わいのわいのと侵入者に騒ぐ妖精たちを見て、すっかり顔を緩めてしまうのは春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)。
 オブリビオンから振りまかれる愛嬌や言葉の内容が気にかかって力がこもりきらない。
(これは仕事……仕事……)
 そう自分に言い聞かせるが、染み渡らせるのが難しい。かれらが訪れた猟兵たちを追い出すべく投げつけるものを、避けて回りつつ応戦するが決定打となる攻撃はためらわれた。
 足元を鎧うwandererが蒸気を吐いて唄い、宿る力が加速をさせる。一歩ごとに風に乗るような軽やかさを相手にしては、簡単に命中することもない。
(……果実は受けるのもありですね。お肌にもいいかもしれんし)
 不意に切れた集中のさなか結希の頭をよぎった思考は魔が差した、というべきか。だって果汁を全身に浴びる経験なんてなかなか無いし、美味しそうだし。これは油断では断じてない。
「ふごむっ!?」
 断じてないが、それが隙となって一体のオブリビオンの接近を許したのも事実だった。
 素早い肉薄から流れるように結希の口へ投げ込まれたのは、絵本にでもありそうなぷっくりキノコ。口内におさまるや胞子がぶわっと広がり、なんだか甘いような香ばしいような奇妙な匂いに満たされ……ふわふわした意識のよどみに包まれて。
「でへへ……」
 彼女が愛する黒刃の大剣、withとソファで寄り添い合う幻が見えていた。
 嗚呼、何をしていたのだったか……思い出した、ずっと寄り添い合って来たwithとの仲睦まじく過ごす新婚生活の真っ最中ではないか。何者にも邪魔されないふたりだけの時間! 今は恋人だけを感じていたい……ああ愛しい。離れることはない。別れなどない。ずっと一緒にいてくれる。今も背中を支えてくれる頼もしい重さがその証拠……。

 ――――背中?

「仕事中やん!」
 瞬時に現実へカムバック。
 自分を狙う飛来物の中にひときわ大きなどんぐりの気配を察知。柔らかい果実の洗礼を受けつつも、木の実はキャッチからのリリース、キノコを詰め込んできた妖精にパス。武器と化した投球を受け止めきれなかった妖精はあえなく、巨大どんぐりにたっぷり乗った速度とともに花の隙間へ沈んでいった。
 本物の恋人が背に感じさせる重量が、彼女を正気に戻した。これぞ愛のなせるわざといえよう。果たして彼女たちの愛を模倣し、偽れるモノなど存在しえるだろうか? いや、ない。空気が甘く香るのは体に浴びた果実だけのせいではない。
 ……ともあれ。
 少し静かになった周囲を見まわしてみると、付近の“妖精”の姿はずいぶん減っていた。
「……ごめんね。森を壊さないようにって、村の人に言っとくから……」
 ささやきは、自分がそうすることを決めたと宣言するように。
 絶望は嫌いだけど、過去そのものが前に進むことはできない。同じ絶望の芽をひとつでも摘んでおくのは、今を生きている者だからやれることだ。
 歩みを止めぬ旅人は自分のできることを胸にたずさえて、まだ数残る過去の残滓に目を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
妖精の集落…最初は何かの比喩かなと思ったんだけど
本当に妖精さんのような小さな子達が住んでいたとはね
猟兵にもよくいるフェアリーに似ている気がするけど
それとは別物なのかな?

遊んだりお話を聞いたりしてみたかったんだけどね、残念
せめて斬り刻むことはせずに
眠らせるように倒してあげよう

妖精たちから放たれる花を眺めて
へぇ…この森で見た花もあれば、初めて見る花もある
どれもとっても綺麗
良ければ俺の花と共演させてよ
UC発動し、蝶の形の花弁を放つ
妖精たちのもとに辿り着いた花弁は
少しずつ彼らの生命力を奪い、眠らせるだろう

ああ、あの花の写真撮っておけば良かったな
もう見れないかもしれなかったのに


乱獅子・梓
【不死蝶】
かつては本当に妖精だったのかもしれないな
…今はオブリビオンなわけだが
森や山で平和に暮らしていたのに
人間たちがやってきて森林伐採したり
山を荒らしたりして住処を追いやられた…って感じか?
そういうのはUDCアースではよく聞くが
この世界でもあるのだろうか

少し同情もしてしまうが…倒さず帰るわけにもいかない
倒すべきオブリビオンだとは分かっているが
大人が子供をいじめているようで何だか気が引けるよなぁ…

まずは焔を成竜に変身させて
飛んでくるキノコ・木の実・果実から守ってもらう
炎のブレスで燃やしたり、羽や爪で跳ね返したり

その間に零を抱えてUC発動
零の咆哮を戦場に響かせ、妖精たちを眠りにつかせる



「本当に妖精さんのような小さな子立ちが住んでいたとはね」
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は軽い驚愕を交えた声で呟いた。
「本当に妖精だったのかもしれないな」
 続く声は、共に訪れた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)。
 訪れた猟兵たちを払いのけようとする彼らも、かつては本物だったのかもしれない。
 人の手が届かぬ自然で平和に暮らしていた。しかしそこに立ち入ったヒトが手を加え、住処を追いやられたと――この世界でも同じような事が起こり得るのかはわからぬものの、部外者を見るや発された繰り言は時にUDCアースでも聞くような出来事を彷彿とさせる。
 悪意などないのだろう素直なだけの言動、過去となってしまう前にあったことを想像させる言葉。必要なことであれ抑え込むのは、力のない子供を追い立てようで気が引けた。
「遊んだり、お話を聞いたりしてみたかったんだけどね」
 残念、と綾がこぼした響きはいつもの陽気さが少しだけなりをひそめている。
 猟兵の中にたまに見られるフェアリーは、姿も特徴も様々あれどこの場の妖精たちとも似て見えた。猟兵という同胞と同じ種族なのかもしれず――話せるのならそうしてみたかったが、それはできない相談のようだ。
 オブリビオンを、倒さないわけにはゆかない。



 侵入者を追い立てるべく広がる植物は森で見た花も、見た事のない花も、様々に咲いていてとても綺麗だ。
「良ければ俺の花と共演させてよ」
 妖精たちが咲かせた花と共存するように、綾の声に続いて蝶の翅に似たかたちの花が広がりだす。ちいさな住民たちから迫りくる花の隙間を縫って、蝶が一休みするときのように静かに開花した。
「紅く彩られながら、おやすみ」
 蔦を覆うようにして広がる蝶羽の花が、命支える力だけを裂く刃となって取り囲んでゆく。
 その場に広がるのは花ばかりではない。
「歌え、氷晶の歌姫よ」
 梓の声に応え、その腕に抱えられた氷竜『零』の咆哮が響き渡る。澄んで通る音は弦楽器の振幅にも似て、されども柔らかに空気を震わせて聞くものを微睡ませる。歌と称されるにふさわしい神秘の響きは、見慣れぬものに反応を示すものたちの気を惹くには最適だったようだ。
 ――眠らせるように倒してあげよう。
 綾の、宣言の通りに。やがて妖精のすがたのうちひとりが、ふっと力を失ったように落ちてゆく。
 せめて斬り刻むことはせず、激情も苦痛も抱かぬ終焉を。それは彼らが妖精たちに対して向けられる、せめてものいたわりだった。



 驚きの顔から心地よさそうに瞼をとじて、竜の歌声に船をこぎ、蝶華に傷なく力を奪われて……ぱたり、ぱたり。
 彼らの周囲にひしめいていた妖精たちの姿は数を減らしていたが、さすがにすぐに全てとまでは簡単にゆかなかった。

 ――入るなー! 出てけー! ボクらの場所だぞ!

 重ねるたくさんの声とともに、ちいさな体がたくさんの物を投げてくる。
 みずみずしい果実に厚い皮の木の実、ふとっちょキノコ。
 けれどいずれも綾と梓に届かない。あるものは爪にはじかれ、皮膜の翼に阻まれ、あるものは炎に巻かれて文字通りの消し炭になってゆく。
 その場の壁の役割を担っているのは、今は成体の姿になっているもう一体の炎竜『焔』。
 火のくすぶりが残らぬように、灰となって散ってゆくものは、風に流れてぱらぱらと薄れ消えてゆく。――歌に惑って、蝶に惑って、元気な声がすや、と穏やかな吐息に変わるのを繰り返していた。
 妖精たちが減ってくると必然、花や投げられる実なども減ってゆく。
「――ああ、あの花の写真撮っておけば良かったな」
 戦いの勢いが衰えを見せた頃合いに、ふと綾の唇からこぼれた。
 妖精たちが咲かせていた花の中、花畑に見られない花があることには気づいていた。
 彼らが“妖精たち”を退けるのはオブリビオンだからであって、自然とそれを親しむ者たちだからではない。にじみ出た過去の想いを汲んだ猟兵たちの攻撃は優しいもので、だからもとあった花畑は戦場となっても荒れてはいない。
 けれど、妖精たちが生み出した花は彼らとともに消えて行く。ここに咲く花がどこまでこの土地のものかは一見しただけではわからないが、残らないものはあるのだろうと予感できた。
 確かに目にした美しいと思ったもののいくつかが、もう見られないかもしれないことがもの悲しく思えたのは……彼らがいた証が失われるように感じたのかもしれない。
 手向けのように、蝶の花を咲かせてゆく。過去の想いごと命をほどいて還すべく。
 ――写真を撮っておけばよかった、と。ふと聞こえた声に見やった漆黒の髪の青年の様子はやはり、以前よりも情緒が豊かになったと梓は思う。
 変化は、生きるからにはつきものだ。過去から変わらぬままであることは難しく、だからこそ目の前のことや見据えた未来に応じてかたちを変えて行く。森も、人も、妖精も。綾も……恐らくは、梓も。
 垣間見たかすかな違いに思い馳せてはオブリビオンへと意識を移し――引き続き零に、とびきりの歌をお願いした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】

「どうやらウィリアム様の要望に応えるのは難しい状況のようですね」
いるのがオブリビオンならば還すのが勤めです

集団戦なのでまずは数を揃えましょう
氷雪の同胞を使い相手を攻撃していきます
「数はこちらで用意しますのでウィリアム様の援護はお任せください」
念力で操作されている花はキキーモラ達で攻撃し氷雪狼は妖精達に攻撃を仕掛けます
自身は制圧射撃や衝撃波でウィリアム様の援護をする立ち位置です
また防御は第六感やオーラ防御、見切りを使用します

きっと昔は妖精の集落があったのでしょうが今は少し景観しか残ってませんね
彼等の為にも手早く片をつけましょう


ウィリアム・バークリー
同行:オリビア・ドースティン(f28150)

妖精境はオブリビオンに乗っ取られ、か。ここにいた妖精たちはどうしたんだろ?
ぼくの晩ご飯どころじゃないね。オブリビオンは討滅しなきゃ。

占いには様々な情報が必要。名前くらいは呼び合ってるから分かるだろうけど、それだけじゃ満足な占いは出来ないよ。

「全力魔法」氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」を乗せたIce Blastで、一気に殲滅する。
氷雪狼が前衛に出てくれるから心強い。

これを倒し尽くせば、旅人さんたちの被害は無くなるんだよね。しっかり片付けよう。

オブリビオンを片付けたら、妖精境に何か変化は見えるかな?
せっかくここまで来たんだ。土産話に出来る何かくらいは欲しい。



「妖精境はオブリビオンに乗っ取られ、か」
 呟いては、ここにいた妖精たちはどうしたのだろうかとウィリアム・バークリー(“ホーリーウィッシュ”/氷聖・f01788)は訝しむ。
 妖精がいたと言われており、人里から隔離された森独特の気配があった。だから実際に集落があったのだろうと思っていたのだが……そう感じた一端は、この過去の残滓が現れたことによるものだったのかもしれない。
 とはいえ、真実を確認するすべはない。猟兵たちの訪れに不服を隠さず帰れと叫び、花を咲かせ踏み込めぬように阻むかりそめの“妖精たち”は敵意を隠そうとはしない。
「どうやらウィリアム様の要望に応えるのは難しい状況のようですね」
「ぼくの晩ご飯どころじゃないね」
 落ち着いた声音で現状を把握したままに呟くのはウィリアムに付き従う少女、オリビア・ドースティン(西洋妖怪のパーラーメイド・f28150)。
「数はこちらで用意しますので、ウィリアム様の援護はお任せください。――皆様、力を合せて立ち向かいましょう」
 今は赤い登山服をまとった西洋妖怪の少女は、助力へと呼びかける。呼び声に応えて出でた群れは、獣と人に似た姿を持っていた。呼ばわったのは凍てついた大地を思わせる力を持つ者たち……狼の群れと、彼女と同じキキーモラたち。
「氷雪狼が前衛に出てくれるなら心強い」
 主人へと準備が整ったことを伝えるかわりに、その言葉に頷いてみせた。
 ともあれ、そこにオブリビオンがいるのなら、するべきは討伐。
 骸の海へ、還すことだ。



 妖精たちが生み出す花のほとんどが、猟兵たちへ飛来するたびに凍てつき地に落ちてゆく。花を動かせず隙が生まれたところを、氷雪狼が妖精に食らいついて無力化する。
 全ての花がひとつも届かないわけではないが、それも意識さえ向いていれば防ぐのは容易だった。
 数の面で優位だったオブリビオンも猟兵たちがそれぞれの役割を着実にこなしたことで押されている。数でも勝っていれば苦になるものではなかった。
 ……きっと。
 昔は言い伝えられていたとおりに“妖精の集落”はあったのだ。奇妙な隣人と近しい存在であるオリビアは、この場に立ち空気を感じて確信を持った。
 今はその名残程度しか見られないけれど。この場所は恐らく、確かに守られていたのだ。オブリビオンがこの土地ごと蝕まんとする行為が、かつて妖精がみずからの居場所を守らんとした性質をかたどっているとは何と皮肉なことか。
「彼等の為にも手早く片をつけましょう」
 この場所に妖精たちがまた住まうようになるのかはわからない。それでもこの今を生きていない存在を払いきれば、妖精たちに愛された花々がこれ以上失われることはないだろう。
「これを倒し尽くせば、旅人さんたちの被害は無くなるんだよね。しっかり片付けよう」
 過去への感慨よりも今へ及ぼす被害を厭うて、ウィリアムは落ち着いた判断を下す。
 敵の数を数えていた。あれらは骸の海からにじみ出た過去。一体でも残っていれば、それがまた現在を、未来をむしばんで行く。見落とすわけにはゆかない。

 ――「おまえを不運が見舞うだろう」。

 その“宣言”に彼が即座に気づいたのも、妖精たちに意識を馳せていたゆえ。
 まんまるく切り取られた夜空から星の並びをなぞりあげ、読み解いた“妖精”のひとりがウィリアムを指し示した。機を見計らっていた彼の足元で、急激に地面が盛り上がる。
 草の根かきわけ現れたのは、太い木の根――“星の導き”に従うように、彼の動きを封じるべく現れた“不運”。
 しかし。
「それだけじゃ、満足な占いはできないよ」
 ウィリアムが断言したのと同時に、彼の体はすでに蔦の腕中から抜けていた。
 幸運だ、不運だなんて運命があったとして、その程度で左右されるような脆弱な身など持ち合わせていないというように。
 ――敵は彼らの名前や姿かたちを知る程度。その精度をあげるには、より精密な結果を与えるなら、それ以上の知識は必須。彼を縛りつけんとした“不運”は、彼が手繰る氷によって封じられる側となった。
 オブリビオンの星読みは外れた。ならばその結果はもう彼には当たるまい。
 失敗を悟った“妖精たち”が次の動きを躊躇した、その隙をウィリアムは見逃さない。
「Cold hearted queen's breath, shape ice blade and chop up earth!」
 素早い呼びかけが、その場を一瞬で塗り替える。

 彼が得意とする氷の魔法を、妖精が見える全ての場所へ。

 その場の花々が咲く大地に根付けなくならぬよう、その刹那、その一点に注いだ全力の魔力。
 大地から結晶のように生え並んだ氷の刃は、ひとつたりとも逃さず、ひとつたりとて外されず――こうして妖精をかたどるオブリビオンは、この場からすべて骸の海へ還されていった。



 ウィリアムとオリビアは、“妖精”の退治が終わっても少しのあいだ、その場所を眺めていた。
 猟兵たちが戦いを続けているうちに、月はかたむいて、夜もずっと深まっている。
 それでも不思議とその場所が明るかったのは、隠されていない空から星月のあかりが注ぎ続けているからだろう。

 先ほどの戦いのなかでたちこめた冷気を流すように、次の季節を思わせる少しぬるい夜風が通り過ぎてゆく。
 光を受けた花が静かにそよいで、星が明滅するように細い光を照り返している。
 少しだけ乱れた花畑の円環から“妖精”たちが消えると、キノコも何種類かの花も姿を消して、あとは絹のような優しいつやのを持つ花ばかりが周囲を占めていた。
 この山の外で見られることのないその花を、猟兵たちが守ったことは。持ち帰る土産話として、よいものとなっただろうか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『お花集め』

POW   :    花束を作る

SPD   :    花輪にしてみる

WIZ   :    リースに挑戦

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 山森の中“妖精の集落がある”と言われていた場所にはびこっていたオブリビオンは、猟兵たちの手によって骸の海に還され、依頼はひとまずの終了を迎えた。
 依頼主へは妖精たちが住まいを移したと伝えられ、それ以外はおおむね起こったままのことが報告されていた。その折に場を去った妖精たちが花畑を荒らされることを望まなかった旨を知らせると、街道は花畑を迂回するかたちで敷かれることとなった。花々を払い路を拓くよりは今後“妖精の集落だった場所”として残す方が良いと結論が出たそうだ。
 そうして猟兵たちに「花畑で過ごしてゆかないか」という話が持ちあがったのは、しばらく後のこと。

 今“妖精の集落”だった場所で咲き誇っている花は、その森でのみ見かけられる。生息地がなかなか広がらないかわりに丈夫なもので、その群生ならば人が立ち入っても大丈夫だと判断されたのだ。
 てのひらにおさまる大きさの花は、多種多様な色の花弁をほころばす。摘んでもいいし、摘んだ花は持ち帰ってもいい。もちろん花には手を触れず、眺めてゆくだけでもいい。
 その地を騒がせたり壊すことさえしなければ、好きに過ごしてゆけるそうだ。

 それでは荒らさぬようにだけ気を付けて、花畑へ向かおうか。



 時間帯はご自由に、花の色はイメージの数だけございます。
 POW/SPD/WIZは参考程度に、お好みのかたちでお過ごしください。
 こちらの章だけのご参加も歓迎しております。
(執筆時間と成功数の兼ね合いで金曜日の夕方には完結を予定しております。短い期間の募集となりますがご了承ください)
サンディ・ノックス
サティさん(f03274)と一緒に

わあ、素敵な花畑だね
ここに居たオブリビオンは花畑を守りたがっていた、かあ
彼らが人々を信じられなかったのは彼らが過去だったからだと思う
骸の海に還すしかなかったんだよ
彼らが守りたがっていた花畑を楽しむことが供養になるって思おう
身勝手な考えかもしれないけどさ

花を近くで見るために屈む
花を折りたくないから腰を下ろすなら花が密集していないところにするよ
あっ、写真撮ろう
不慣れだけどスマートフォンを取り出して、起動に手間取ったり失敗しつつもなんとか撮影

花輪を乗せられて「似合ってる?」と笑う
やだな、不恰好だなんて。素敵だよ
ああ、これも撮影しておこう
間違いなくいい思い出になるよ


サティ・フェーニエンス
サンディさん(f03274)と共に

花畑が残ってよかったです
ちゃんと伝えれば分かってくれるヒトがいること…
過去の妖精たちが知れれば良かった…
…供養、そうですね(言葉に頷いて。物想いにふけったり)

いつもであれば、自然のままに咲き誇るのを見守りますが
“妖精たちの集落だった場所”として、覚えておきたいなと思ったら気付けば花を摘み始めていました
(帰ったら保存できる方法を迅速に調べようと心に誓いながら)
サンディさんの撮影は興味津々に見ます
これが、スマホ!(初見)

本で読んだ花輪をうろ覚えで作成
青と白、黄色も合いそうでしょうか
衝動でサンディさんの頭へ
不格好で申し訳ないですが
はい、とっても似合います(力強く)



「わあ、素敵な花畑だね」
 風にゆれる色とりどりの花を見回して、青年……サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は感嘆のこもった声で感想を告げる。
「花畑が残ってよかったです」
 この場所まで案内したサティ・フェーニエンス(知の海に溺れる迷走っコ・f30798)は、続いて安堵をのべた。街道を通す話が出ていたこの場所は、猟兵たちの言伝を受けた村によって残すという結論を出されていた。
「ここに居たオブリビオンは花畑を守りたがっていた、かあ」
 サンディは初めてここに訪れるが、この地で起こったことの経由はサティから教わっている。
 その感想を鼓膜に拾ったサティ、かすかに表情を曇らせた。
「……ちゃんと伝えれば分かってくれるヒトがいること、過去の妖精たちが知れれば良かった……」
 そのことを知れたなら、僅かなりとも慰めになったのではないか。サティは妖精のオブリビオンと対峙をしたことでそう感じていた。悔恨にも似た吐露と、すこしの静寂。
「――彼らが人々を信じられなかったのは」
 ややあってサンディが声を発する。
「彼らが過去だったからだと思う。骸の海に還すしかなかったんだよ」
 オブリビオンとは過去の存在のかたちを借りたもの。信じるに足る言葉があったとて変化は見込めなかっただろう、と。
「彼らが守りたがっていた花畑を楽しむことが供養になるって思おう。……身勝手な考えかもしれないけどさ」
 青年は言う。他者のその気持ちを完璧に理解はできず、寸分の狂いなく叶えることも難しい。今ここにいない者の答えも聞けなければ、後に続く者たちは残されたものからその思いを推測するしかない。
 そう説くサンディもまた、妖精たちでなければサティ自身でもないことを理解したうえで――身勝手とは悪辣と善くあろうとする尊さの紙一重なれど、この少年なら自分が“味方”と見なす者らしい善良さで飲み込むのではないかと思えた。
「……供養、そうですね」
 そこにこもる意味をゆっくりとかみ砕きながらサティは頷く。
 会話はそこで途切れた。頭の片隅が思考から抜けきらないまま少年は咲き誇る花を向く。
 サンディが座っても花を潰さずにすむ場所を探して見まわし、そのかたわら屈みこんだサティは身動きをしばし忘れたように一面の七色を見つめた。
 この花々は守られることを願われていた。
 そう願った者たちがいたことを、忘れたくない――そう思えば自然と、サティの手は花を摘み始めていた。
 普段であれば自然を傷つけぬようにと考えていただろうが、幸いにしてこの花は丈夫なもので簡単に数を減らすものではないという。帰ったら保存できる方法を調べねばと思いながらも、合う色同士を探って手元の花をふやしてゆく。
 そうすることで守るものもあるのだと、おぼろながらに感じていた。
 後から起こす行動も、過去に報いることはある。



 サンディは花を摘むサティを眺めながら、何とはなしに所有するスマートフォンの存在を思い出した。
 取り出したそれをたどたどしい手つきで操作して、開いたのは撮影アプリケーション。
 液晶画面で景色を通し見て……ぱしゃり、何処か軽くて無機質な音。
「サンディさん?」
 青年を呼んだのは、耳慣れぬ音に驚いたサティ。花を束ねる手を止めた様子をむいて目があった。
「ん? ああ、写真をとってたんだ。スマホで」
「スマホ? これが、スマホ……!」
 その存在こそ知っていたが実物を見たのは初めてで、サティは少しうわずった声をあげて距離をつめた。興味に見ひらいた瞳が、薄い金属と硝子で構築された機器に視線をそそぐ。細やかに文字が躍り、めまぐるしく変わってゆく面は薄い板の水面のよう。サンディの指になぞられるたびに、映り込んだ花の景色が瞬時に小さくおさまっていった。
「花を摘むのは、もういいのかな?」
「ああ、それは……」
 いったん撮影の手を止めて青年が問いかければ、サティの意識は花に戻る。
 ふと湧いた衝動のまま、少年は行動していた――詳細な答えのかわりに手にしていた輪を、とさりと茶色の頭の上へ。
 瞬間、優しく編まれた花々の香りが上から間近におりてくる。一瞬だけ視界に入ったから、乗せられたものが何かは見てとれたのだけれど。軽い悪戯のような不意打ちに、今度はサンディが軽く目を見開いていた。
「花冠です。不格好で申し訳ないですが……」
 丁寧に編まれた花の真円。本の知識で初めて作った花冠はさすがにお手本どおりとまではゆかず、ヤドリガミは苦笑まじりの顔をしていたのだが。
 サンディは何度か丸くしていた目をまばたかせ、頭に乗った花の輪に軽く指を添えてみる。
「やだな、不恰好だなんて。素敵だよ」
 青年の瞳が似て非なる青の色を移して微笑んだ。纏う雰囲気は似ていても、色彩も内に抱くものもどこか対極な少年。抱える昏さを悪辣と位置づける青年に、渡された花冠は少し眩しい。
「似合ってる?」
 穏やかさに少しのはにかみを添えてサンディが問いかける。
「はい、とっても似合います」
 そう答えるサティの声は、やけに力強かった。



 背の高さを近づけるべく屈められた頭に乗るのは、青黄白の3つの色で編まれた花の冠。その隣に並ぶのは花輪の作り手で、姿ばかりは幼げなヤドリガミ。
 ふたりをふちどる少し遠目の樹の幹とあまたの色の花々、それから今の時間を知らせる空のいろ。
 液晶のフレームにその瞬間が切り取られ、思い出のフォルダに新たな写真がまた一枚。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
あれ?キノコとか果物とか無くなっちゃったんです?
見た目も可愛くて気に入ってたんやけど…
でも、このお花達だって、すごく綺麗
またこれて嬉しいです

花を踏まないように気を付けて、のんびり歩く
めっちゃ可愛い…一輪くらい欲しいけど…我慢です
ここにしか咲かないのにもきっと、理由があると思う
それにその方が、レア感あって素敵やし

猟兵の話を聞いてくれて、自分達か便利になる事より、場所を残す事を選んでくれた…ありがとう…
きっと、この花はこれからもここで咲き続けて
そしたらいつかまた、妖精達も戻ってくるかもしれない
妖精が『居た』集落やなくて、妖精が『居る』集落になって
その時にまた、遊びに来れたらいいな
きっと楽しいです



「あれ? キノコとか果物とか無くなっちゃったんです?」
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)、久しく訪れた花畑を見ての第一声。
「見た目も可愛くて気に入ってたんやけど……」
 限界まで大きくなったたわわな果実、肉厚ふんわりぷっくりキノコ、そしてずっしり存在感たっぷりの木の実たちは妖精たちが消えた今、影もかたちもない。
 染み出た過去の残骸が生み出していた数々の妨害策は、時に見た者の心をちゃっかり魅了していたようだ。
 がっくりと肩を落として深呼吸……目をつむってパッチリ開く。かわいさあふれる過去を振り切って、再び周囲を見回した。
(でも、このお花達だって、すごく綺麗)
 視界に入った色に焦点を定めてく。一帯にひろがった花は陽のあたるところを覆い、数えきれない色数で咲き誇っている。
 名残惜しんだ可愛いものたちとも、ここで妖精たちと相まみえたときに見かけた花とも少し違う。けど、景色の表情がちがってもこの場所はこの場所だ。
「またこれて嬉しいです」
 穏やかな声に感慨がにじみ、柔らかな顔だちは笑みにほころんだ。



 花畑にさしこむ足は慎重に、花を踏まないように一歩一歩。進むのを急ぐ理由もなく、緩慢な時間の進みにそって歩く。
 手のひらほどのの大きさの花は抜けてゆく風にゆらり大きく揺らされる。風がおさまると、何ごともなかったようにピンと姿勢を戻してく。生命力の塊のようなみずみずしさの花は揺れては起きてを繰り返す。頑丈だと知らされるだけあってたくましい。
(めっちゃ可愛い……一輪くらい欲しいけど……)
 それでも摘むことは躊躇われて「我慢です」と自分自身に言い聞かせる。
 この場所の花を摘む者も摘まない者もいて、彼女は後者だった。他の場所で見かけないなら、この花がこの地にしか咲かないのは何か理由があるのだろう。そう思うと外に持ち出すのは気が引けた。
(その方が、レア感あって素敵やし)
 そう、ちょっとした希少性もロマンがあっていいものだ。

 ――花畑を残したい、人に奪わせたくない。

 その願いは確かに伝わっていた。
 この場所は平穏を望まれた。それを訴えたのは過去に在った者たちで、聞き届けたのは未来の発展を求めた人々で、その想いをつないだのは猟兵たちだ。
 望むものが食い違う者同士は、望みが食い違うほど共存が難しいことを知っている。それでも、今回は共存を目指す方向に進んでいた。
 猟兵の話を聞いてくれた。自分達か便利になる事より、場所を残す事を選んでくれた――何かを求める人々が尊重を選択したという事実は、言い知れぬ嬉しさを結希の胸に灯した。
「……ありがとう」
 噛み締めるような感謝の声が、こぼれてふわりと風に乗った。

 きっと、この花はこれからもここで咲き続けるだろう。
 そうしたら、いつかまた、妖精達も戻ってくるかもしれない。
妖精が『居た』集落ではなくて、妖精が『居る』集落になる日が、くるかもしれない。
「その時にまた、遊びに来れたらいいな」
 そしたらきっと、楽しいから。
 あざやかな花畑が再び訪れた妖精たちと、移ろう景色にさらなるいろどりを織りなす未来を思い描いて、もうしばらく結希は花畑の中を歩きつづけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
戦いの時はまじまじと眺めている余裕は無かったけど
こんなに綺麗な花たちが咲いている場所だったんだね
この場所、これからも残してもらえるようで良かったね

もう仕事は終わったから心ゆくまで花畑を撮影
焔と零もそこに並んでよ
花に囲まれて思い思いに過ごす仔竜たちをパシャリ
興味津々そうに花をくんくんと嗅いでいたり
花のお布団でスヤスヤ寝ていたり
ふふ、可愛らしい写真がたくさん撮れたよ

ひとしきり写真撮影を楽しんだあとはランチタイム
綺麗な花畑の中で梓の手作りお弁当が食べられるだなんて
最高のピクニックだよね
幸せそうにサンドイッチをはむはむ
梓お母さんの作るご飯は世界一だね
からかうような口調だけどその言葉に嘘は無く


乱獅子・梓
【不死蝶】
ああ、もうここが荒らされる心配がないと分かれば
あのオブリビオンたちも少しは安心して眠れるだろう

写真撮影を楽しむ綾の様子を微笑ましく見守る
花を見て「可愛い~」と写真を撮りまくる姿は
なんというか女子力高いよな…あいつ成人男性だけど…
ハッ!?焔と零がめちゃくちゃ可愛いポーズをとってる!
俺もカメラに収めねば!(親ばか
綾、あとで俺にもその写真データ送ってくれ

その後はレジャーシートと弁当箱を広げ昼食
急ピッチで作ったから簡単なサンドイッチ程度しか無いけどな
おい、お母さんはやめなさい
綾をコツンと小突きつつも
心から喜んでくれているのは伝ってくるから
ついついいつもねだられるままに作ってしまうんだよなぁ…



「こんなに綺麗な花たちが咲いている場所だったんだね」
 花の広がる一帯を見回して、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が呟いた。
 ここが戦場となっていた時、彼らもその渦中にいた。妖精たちの相手で花々を愛でられる余裕などは無かったから、どんな花が咲いているのかを意識してみることができたのは今が初めてのことだった。
「この場所、これからも残してもらえるようで良かったね」
「ああ。もうここが荒らされる心配がないと分かれば、あのオブリビオンたちも少しは安心して眠れるだろう」
 しみじみとした声に答えたのは、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)。今は猟兵たちが立ち入ってはいるが、切り拓くためではなくただ和やかに過ごすためだ。
 花畑に立ち入られたくないというのが、過去のひとしずくにこもった願いだった。それの一部を汲まれて守られた花畑の未来が、骸の海に還された妖精たちが喜んでくれるようなものであったらいいと思う。
 綾と梓のふたりとともに妖精たちを沈めるべく奮闘した仔竜たちも、今日は花に囲まれて思い思いに過ごしていた。ころりんと草に寝転んでみたり、身を隠すようにうずもれてみたり、見たことのない花が興味深いのかくんくんと鼻をならしていたりとせわしない。おしなべて平和な光景だ。
 もう仕事は終わったのだ――そのことを肌で感じながら、綾はスマートフォンを取り出した。
 オブリビオンの群れと対峙した日は、妖精たちが手繰った様々な花を見ることもできたが、敵対相手に花見をする余裕を与えてくれるわけもなかった。
 今なら……花を撮影する隙を探す理由もなければ、予定を気にして先を急ぐ必要もない。それに本日は徒歩を経由しない直通ルートのため、体力の余剰も心配はいらず、すなわち平和な時間を堪能しない理由はないのだ。
「可愛い~」
 緊張感のゆるんだ声とともにカシャ、カシャ、とシャッターを真似た電子音が鳴り続ける様子を梓は微笑ましく見守っていた。
(なんというか、女子力高いよな……)
 様々な角度から地の花を撮影して、丸められた背を見ながらぼんやり思う梓。むろん綾はれっきとした成人男性だが、花を見て喜々としては写真におさめてゆく様子は綺麗な物を撮影して行く様子は何処か可愛らしい。てらいなく披露されている無邪気さがその印象を加速させるのか――考えに没頭しかけていたところで。
「焔と零もそこに並んでよ」
 連れている竜を呼ぶ声にハッと顔を上げた。
(めちゃくちゃ可愛いポーズをとってる!)
 そこには綾に呼ばれて振り返り、こう?とばかりにてっこらてっこらと歩みよってゆく2頭の仔竜。虹粒のように色づいた花を背景に、声かけに応じて足や頭を上げたり下げたり、くるりと方向転換したり。
 なんと可愛いのか。可愛いじゃないか。
 可愛いに可愛いを重ねる可愛いの波状攻撃がそこにあった。
 ――俺もカメラに収めねば!
 親ばかともいえる面倒見の良さに火がついた。急ぎ梓も撮影できる所持品を探ったが、取り出すまでの間に既にいくつものシャッターチャンスを逃したことを確信して軽く崩れ落ちる。
「ふふ、可愛らしい写真がたくさん撮れたよ」
「綾、あとで俺にもその写真データ送ってくれ」
 真剣な梓の声が、どこか切実に聞こえたのは気のせいか。
 ともあれ梓は手にするカメラのレンズで、次のチャンスを狙っているに違いなかった。



 撮影画像のフォルダに相当数の色が増えた頃には、おひさまはすっかり高くなっていた。
 カサカサと賑やかなレジャーシートの中央に、行儀よく鎮座するのは梓が用意した弁当箱だ。
「急ピッチで作ったから簡単な物しか無いけどな」
 用意した本人はそう言ったが、蓋を開けばパンと具材の断面が綺麗に並んでお目見えした。簡単な物という言葉に嘘はないだろうが、見えるのは食欲をそそる色どりばかり。
 手を合わせて「いただきます」を告げてから、取り出したサンドイッチを手に取って――角からひとくち、ふたくちと食べ進めてゆく。美味しいからといってがっつかないよう、はむはむとよく咀嚼する綾は見るからに幸せそうな顔をしている。
「やっぱり梓お母さんの作るご飯は世界一だね」
「おい、お母さんはやめなさい」
 綾のからかうような軽口を梓は軽く小突いてたしなめたが、その声もいさめる程度で柔らかい。少しだけ茶化すような響きはあっても、その表情が言葉に嘘がないことを如実に語っているのだからくすぐったいような心地に襲われた。
 あまりにも幸せそうに食べるものだから、毎回のようにねだられてはついつい作ってしまうのも詮無いことといえよう。
「綺麗な花畑の中で梓の手作りお弁当が食べられるだなんて、最高のピクニックだよね」
 彼が今を喜ぶことへの嬉しさと共に過ごすあたたかな時間は、確かに最高と言えるもので――それが自分にも嬉しいのだと口にするかわりに「そうだな」とうなずいた梓は、次のサンドイッチを取りやすいように弁当箱を傾けた。



 そのまま。陽がもう少しかたむくまで、ふたりと二匹はゆっくりとこの場所に浸りゆく。
 この場での食事も、共に過ごす瞬間も、他でもない彼ら自身の力が及んだ結果。
 そこで時間を共にする花々は今しばし、彼らとともに満開に笑って揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バークリー
同行:オリビア・ドースティン(f28150)

妖精の花畑は残ったんだ。見に行こうか、オリビア?



ここに来るのも久しぶりだね。今度こそここで寛いでいこう。
平らな地面にシートを敷いて、食事にしようか。よろしく、オリビア。

わ、本格的だ。グリルビーフのサンドイッチか。スープもあるね。うん、美味しそう。
料理が終わったら、オリビアも一緒に。一人じゃ楽しくないよ。
さ、一緒にお花畑のランチタイムと洒落込もう。

成長期の食欲を発揮してお皿を次々空に。
食後は紅茶を。ん、香りが素晴らしいね。

咲いてる花を一輪摘んで、オリビアの髪へ差し。
綺麗だよ、オリビア。よく似合ってる。
毎年、この時期になったらここへ遊びに来ようか?


オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】

「今ならばウィリアム様の要望に答えられますね」
静かで綺麗な場所ですし一息いれましょう

給仕の為オール・ワークスで赤いメイド服姿になったらキキーモラの特別フルコースを使い料理を出していきます
「今回用意したのはこちらですがいかがでしょうか?」
内容はグリルビーフやピクルスなどが挟まれたバゲットサンド、トマトとベーコンのスープです

お腹も空いてましたし食べ応えはあると思うのですが気に入っていただけると嬉しいです(隣に座り一緒に同じ物を食べつつ)
食べ終えたら紅茶で一服しましょう

そしてウィリアム様に花を刺してもらえたら微笑みます
また来年も遊びに来ましょうね



「妖精の花畑は残ったんだ。――見に行こうか、オリビア?」
 ふたりが花畑にふたたび赴くことを決めたのは、そんなウィリアム・バークリー(“ホーリーウィッシュ”/氷聖・f01788)の誘いの一言。
 ウィリアムとオリビア・ドースティン(西洋妖怪のパーラーメイド・f28150)は、きれいな円を描く花畑の中におとずれていた。
「ここに来るのも久しぶりだね。今度こそ、ここで寛いでいこう」
 見回してみれば季節に少しうつろったのか、咲いている花の種類が記憶の景色と少し変わっている。
 ……今度こそ、というのは彼らが前に訪れたときは休む間もなく戦いが始まってしまったからだった。“妖精の集落”があると言われていたその場所で、到着したらゆっくり食事をしたかったし、妖精たちに出会えたのなら話をしてもみたかった。けれど妖精はオブリビオンで暇なぞ与えてはくれなかったし、猟兵に無視するいう選択肢も持ちえない。
 結果、花畑は過去に取り込まれてしまうことなく新たな花を咲かせ続けることができているのだが。
「今ならばウィリアム様の要望に答えられますね。一息いれましょう」
 ここに訪れたのは呼びかけに答えた猟兵たちだけ。近くにはふたりの他に誰もおらず、他に音がするとしたら草花や枝葉の擦れ合う涼し気な音ばかり。ひと心地つくのに丁度いい。
「食事にしようか。よろしく、オリビア」
 ウィリアムは地面を傷つけぬようシートを平らに広げ、その場で過ごす準備を簡潔に済ませた。
 よろしく、という声に「はい」と答えたオリビアは、赤色のメイド服へと服を切り替えると次々と料理を出し始めた。――キキーモラの特別フルコースは料理で様々な癒しをもたらすユーベルコードだが、待たせずに料理を提供できるものでもあった。
「今回用意したのはこちらですが、いかがでしょうか?」
「わ、本格的だ……うん、美味しそう」
 ほどよい焼き目のバゲットにはグリルビーフやピクルスが挟みこまれ、スープには舌触りよく煮込まれたトマトに香ばしく焼き目のついたベーコン。
 この場によく合った解放感のある軽食だが、具はしっかり詰まっていて食べ応えもありそうだ。
「気に入っていただけると嬉しいです」
「料理が終わったら、オリビアも一緒に。一人じゃ楽しくないよ」
 感想に満足げに笑って引き続き料理に取り掛かろうとするオリビアへと、ウィリアムは言葉を続けてゆく。
 頼まれれば「承知いたしました」と、すぐさま作業の手を再開した。
 仕事としてのことを差し引いても待たせることは望ましくないし、それに――ウィリアムの要望は純粋に、彼女に喜ばしいものだ。

 料理は程なく勢ぞろいし、ふたりは花畑の中のランチタイムと洒落込んだ。
 ウィリアムの食事は優雅な手つきで進められてるが、そのペースは同じ物を食べているオリビアよりもずっと早い。
 用意された皿は次々と空になってゆく。十分に成長の余地を残した身体が、それに足るだけの栄養を求めていたからなのだろう。
 その食べっぷりは、食事の暇を奪われた分を取り返すようでも、あったかもしれない。



 ひと通りを食べ終え満足した後は、花畑の中のティータイム。
「ん、香りが素晴らしいね」
 パーラーメイドの腕が存分に振るわれた紅茶は、いつもとは違う茶葉だった。目の前にカップを置かれれば、それがこの場の花から立ちのぼる香りの邪魔にならず、混ざりあってなお引き立てあうものを選んだのだとすぐにわかった。
 オリビアを盗み見ると、控えめな表情の中に柔らかさが宿っている。口に含んだ紅茶の香りをより強く感じながら、彼女の様子につられてウィリアムの唇の端がほころんでゆく。
 ふたり並んで茶を傾ける静かな時間が過ぎて行き――飲み終える頃あいを見計らって、飲み干したティーカップを静かにシートの上のソーサーへおさめた。
 彼女は新たにお茶を注ぐべくポットへ意識を向けようとしたが、ウィリアムの空いた片手が花へと伸びたのを見て動きを止める。
 ややあって、ぷつ、と小さな音が立ち――。
「綺麗だよ、オリビア。よく似合ってる」
 その指先に拾われた一輪の花は、可憐ないろどりとなって金の髪へと差し込まれた。
「ウィリアム様……」
 かすかに見開いた緑の瞳はすぐに細まり、幸せそうな微笑みに染まっていった。

 樹々に囲まれるなか注ぐ日差しは眩しいほど明るく、そよぐ虹色の花々は少しだけ、この日常のひとときに幻想めいた光を差し込んでゆく。
 刹那ごとに生まれてゆくひとかけらの幸せ。ひとつひとつは小さくとも、積み重なってゆけば大きなものとなる。
 望まれて守られた花畑は、平穏を迎えたすえに訪れた者へ幸せを与えてゆくのだろう。訪れた彼らも例外ではなく――この場所で抱いた暖かい心地は、きっとそうと呼べるものだ。
「毎年、この時期になったらここへ遊びに来ようか?」
 ウィリアムが持ち掛けたのは、何気ないような未来の約束。
「はい。また来年も、遊びに来ましょうね」
 オリビアはそれに応じた。春夏秋冬をひとめぐりした時も、きっと来年も花を咲かせ続けるこの花畑にふたりで訪れるのだと。
 今後もこうして暖かなときを過ごし、穏やかな幸せのひとときを重ねて次の年を迎えるのだろう。



 再びこの場所に訪れる時が来たその時、どんな花が彼らを出迎えるのか。それはまだ誰にもわからない。
 確かなのは、約束に結ばれた未来はそこで彼ら待っていることだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月04日


挿絵イラスト