大祓百鬼夜行⑭〜無色透明でなお鮮やかなもの~
●くろいろだけが、見える時
サァサ、サァサ。お立合い。此れ成るは不思議な鳥かご。囚われるは感情という名の哀れな鳥。
『くろ』がおりますれば、それは悪い感情でございましょう。
『ひかり』がありますれば、それは良き感情でございます。
ああ、見世物のお代は結構。貴方の『いろ』を頂ければ。
それで十分の筈なのに……。
ああ、殺したい殺したい。見世物小屋の少女は、ただひたすらに苦悩する。
己の衝動が、『感情の収集/簒奪』ではなく、人の殺戮に塗りつぶされていく。
これでは、たった一つの『くろ』しか得る事が出来ないのに……。
ああ、アァ。殺したい。殺したくて、誰かの首を絞めたくて、腕すら伸びるようになってしまった……。
ああどうか、『殺させて/助けて』くださいな。
見えぬ見世物小屋にて少女は唯一人、嘆きの声をあげていた。
●嘆けども悪は悪
「ココココココ!おっ久ぶりやねお主ら!戦争じゃ戦争!」
そう言ってグリモアベースで笑いながら猟兵達に声をかけたのは、アイリ・ガングールだった。
「さて、今回まずは橋頭保の確保と言っていいかのぅ。つまりは敵の親玉の所まで、どのように道が出来ているか分からんから、片っ端から攻略していこうと、そういう訳よ」
そう言いながら、簡単な地図を指差し、アイリは話を続ける。
「さて、お主らには誰にも見えない『殺戮の見世物小屋』の見世物小屋を攻略してほしい。どうやら中に居る『いろあつめ』という邪神の一種での。本来の感情を収集したい、という衝動を塗りつぶすほどの殺戮に苦しんでおるようじゃ。せやから、楽にしてやりな」
そう言いながら、妖狐は『婆』と書かれた扇子を広げ、意地悪く笑った。
「コココココ、お主らが来た段階で、『いろあつめ』は悩みから解き放たれ、楽しくお主らを殺戮しようと襲い掛かってくるでな。ああ、気に病むでないよ。そのような衝動に侵されておらぬとしても、常の感情を収集するという行いは、結局は簒奪じゃ。奪った感情を鳥かごに捕えて、それを駆使して攻撃してくる。遠慮はいらんよ」
さて、話も終わったと言わんばかりに扇子を閉じて、なおも一つ気付いたように、
「ああ、そう。今回は衝動の影響じゃろうか。『いろあつめ』も見世物小屋に相応しく、びっくりな身体能力を一つ得ている……つまるところ腕が伸びるんじゃな。ああ、それだけ、と思わんほうがいいよ。『いろあつめ』の主な攻撃手段は、鳥かごに捕えた感情を駆使して使う事じゃ。腕が伸びるという事はつまり、『いろあつめ』自身も攻撃に加われるという事なんじゃな。ゆめゆめ、気を付けるがよいよ」
そういって、妖狐は猟兵達を送り出した。
「さぁ、まだまだ戦いは序盤。無理せず、けれど必ず勝ってくるんじゃよ!!!」
みども
お久しぶりです。いやマジでお久しぶりだな?みどもです。さくっとやっちゃってください。よろしくお願いします。
皆様のカッコイイ活躍書きてぇよなぁ!?
あ、一応自己紹介の所は確認しておいてくださいね。
プレイングボーナスとしては、『いろあつめ』の伸びる腕による攻撃に対処するプレイングを書くとボーナスが入る感じです。よろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『いろあつめ』
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POW : あなたの『くろ』はきれいかしら
自身の【鳥籠に収集した悪感情を解き放つこと】を代償に、【実体化した任意の悪感情】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【交戦対象の感情を汚染すること】で戦う。
SPD : あなたの『ひかり』はまぶしいかしら
攻撃が命中した対象に【勝手に増幅する任意の良感情】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【感情の暴走による過剰な体力消耗】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ : あなたの『いろ』、わたしにちょうだい
【悪感情を簒奪する『黒い手』】【良感情を簒奪する『白い手』】【その2つからなる鳥籠からの射出攻撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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兎乃・零時
アドリブ絡み歓迎
殺戮衝動…い、いや元の方でもいろいろ簒奪してんなら同情はしねぇ
どっちにしろぶっ倒す!
…俺様の心は、夢は、そう簡単に砕けやしねぇ……ッ!
まだ制御はままならねぇしこの状態で魔術は厳しいが…魔力操るぐらいは出来る!
UC!(状態異常力重視)
練る魔力は光と水
限界突破×リミッター解除
体中の魔力使って速度と威力上げ全力で敵をぶっ倒すッ!!!
こちとら結構戦ってきてんだ!近接だってやれるんだぜ!
紙兎のパルには援護射撃重視でサポお願い!
伸びる腕は着た瞬間に弾いたり伸びた所を狙って魔力性質を『斬』に変えて切り込み…斬り裂くッ!
ずっとその辺トレーニング積んでんだ…
ある程度性質変化だってできんだよ…っ!
天道・あや
さてさて、カクリヨでの戦争。それ即ちUDCアースでの戦争と一緒!(?) ならばUDCアース出身としてお隣さんを助けなくては……!
というわけで、右よし!左よし!見せ物小屋よし!いざ、突撃ーー!!
みどもさんの話によれば相手の攻撃手段は伸びる腕と感情を奪うこととの事!
よし、閃いた!まずは攻撃を小屋の中を【ダンス】で踊りながら避けたり、【ジャンプ】して【見切り】!見世物小屋なら魅せないとねっ!
そうして相手の動きを確認しながら小屋内の地形を把握完了!距離を取る(足場習熟)
そして一度相手が腕を伸ばすタイミングでUC発動!あたしの歌とyouの腕、どっちがさっきにハートキャッチするか、勝負!(楽器演奏、歌唱)
「おお……」
古ぼけた木製の見世物小屋。そこから漏れる血生臭い空気に、兎乃・零時の脚が一瞬ピタリと、止まった。
「こ、この中に居るんだな
……!?」
数々の鉄火場を抜けてなお、及び腰になるのはきっと、臆病というよりも魔を司るが故の感受性によるものなのだ。
あとはどうにも閉鎖的な空間が、かつて攫われたという心の奥底の記憶を刺激するのか。
しかそそれでも、
「行くぞ、パル」
脚を止めたのは唯の一瞬。それが、少年の成長を顕していた。
「ああ。ああ……!」
そうして扉を開けば、巨大な鳥かごを背にした少女が歓喜の涙を流す。『ただただ殺戮したい』という衝動に悩まされていた少女が、その衝動をぶつける相手を見つける事が出来たのだ。
その涙があまりにも美しいから、
(辛かったんだな、殺戮衝動)
「い、いや元の方でもいろいろ簒奪してんなら同情はしねぇ!」
躊躇いを、首を振って払った。
「どっちにしろぶっ倒す!」
「―――ああ、あなたの『くろ』はきれいかしら?」
<魔導機械箒『クリスタル』>を零時が強く握りしめるのと、鳥かごが開くのは同時だった。
「ぐぅ……キツいな……!」
≪あなたの『くろ』はきれいかしら≫によって具現化した悪感情が、零時に襲い掛かる。それは疑心、諦観。『願った存在になんて届きはしない。いや、そもそも願った事自体が間違いではないのか?』
黒い靄が腕のような塊を振るう度、零時の胸にそんな感情が去来する。
「パル!」
≪相棒/紙兎パル≫はすぐさま応える。小さな式神がふよふよと前に出て、光の膜を張る。【オーラ防御】だ。
不定形の腕が膜に留められたのを感じながら、黒い靄の横に一歩出れば、
「ほらきたぁ!!!」
「あはははは!下さいな!」
白く、綺麗な両腕が伸びてくる。
「ああ、クソ!やりにくい!」
そもそも、『いろあつめ』に付与された殺戮衝動は後付けのものだ。だからこそ、『ただ殺したい』という意思のまま伸びてくる怪力の腕の機動はめちゃくちゃだった。
とりあえず殺せればいいのだ。一方の手はねじ切ろうと首へ。一方の手は刺し貫こうと胴へ。
「ある程度性質変化だってできんだよ…っ!」
胸に去来する悪感情が、術式の機動を妨げる。それでも魔力自体は操る事が出来た。
杖に纏う魔力を『斬』に変え、迫り来る二つの手を切り裂く。
「ヒッ
……!?」
痛みに驚き、手が戻された。明確な隙。そこを責め立てようと前に出ようとすれば、
「ッ…‥!」
悪感情の靄が遮る。
「クソッ……!」
状況は、膠着していた。
(無茶は……確実に出来て1回か)
少年の戦いはいつも無茶ばかりだった。だからこそ、【無茶/切り札】をどこで切るかがいつもの少年の戦い方だ。
無茶をすればダメージを与えられる。問題は、もし相手がUCを解除せざるを得ない程のダメージを与える事が出来なければ、無茶をしたカウンターに悪感情の靄に攻撃された場合、危機に陥るのは自分の方、という事だ。
だからといって無茶をしなければ、侵食する悪感情の影響によって心が萎え、四肢から力が完全になくなるのを待つばかりだ。
戦況は不利。少年の頬に冷たい汗が伝う。
(いいや、何を恐れているんだ。出来る。俺様なら出来るぞ……!)
そうして少年が無茶をしようとした矢先、
「いざ、突撃ーー!!」
扉をドカンと蹴り開けて、天道・あやが、やってきた……!
「おーーっと!?零時!?戦争ぶり!」
「うおおお!?びっくりした……!あや、か!」
やってきましたるは見世物小屋。カクリヨでの戦争。それ即ちUDCアースでの戦争と一緒!(?)
ならばUDCアース出身としてお隣さんを助けなくてはと参戦して、まずはフードファイトを制したあやがやって来たのは見世物小屋だった。
いやぁ、世界を救うためには仕方ナッシング!と意気込んではみたものの、やっぱりスタァ的にも乙女的にもカロリー気にせず食べまくった後に、気になるのは体重計とお腹周りというものだから!!!
だからこそ
「えい!よっと!」
見世物小屋は丁度よかった。脚を包む<レガリアス>は少女の体を軽やかかつ縦横無尽に小屋の中を走らせる。当然見世物小屋なのだから、
「魅せなくちゃ、ね!」
ウインク一つ。ダンスとは、重心移動と身体操作だ。だからこそ、迫り来る黒い靄の攻撃だって、
「これはお好み焼きの分」
するりと横薙ぎの一撃を上体を横にして避ける。
「これはもんじゃ焼きとたこ焼きの分ってね!」
追撃の一撃もまた、そのまま手をついて倒立に移行する事で避ける。体の柔らかさは、ダンサーには付き物です。
「すっ……げぇ」
たしかに、零時は『オケアニス・シレーネス』との戦い、というよりも共に楽しんだライブで、あやの動きは見ている。ダンスのキレを知っている。だからと言って、ここまで戦闘でもキレを見せるとは。いまや、あやは悪感情の靄の攻撃を避けながら、見世物小屋を縦横無尽に動き回っている。
その美しさに、零時は一瞬目を奪われた。
本来なら絶好の隙となるその瞬間に、眼を奪われていたのはどうやら零時だけではなかったらしい。
『いろあつめ』もまた、動き回るあやに的を絞ったらしい。両腕が伸びて、少女へと迫りゆく。
「させねぇ!」
そして当然、その腕は零時によって迎撃される。
そしてそのまま、
「あや!そのまま悪感情のもやを『引き付けて』おいてくれ!」
「オッケー了解!『どうにかする』ね!……ではでは!一曲演奏させてもらいまショータイム!」
言葉と共に、<レインボーハート>が音楽を奏でる。
(大丈夫!)
実の所、疑心と諦観は零時と同様に、あやの心を蝕んでいた。
猟兵として覚醒した時の事。オーディションに結局遅刻して、アイドルに慣れなかったときの絶望が、心にじわじわとシミを作っていく。
(だって、あたしは…!スタァは…!どこでも輝く…いや、輝いていみせる!って決めたから!)
だからと、少女は歌う。曲調は勇ましいものではなく、優しく包み込むような歌だ。
(この心に広がる気持ちは、黒い靄が生み出してるもの。だったら、受け止めてあげないと)
何せ
(スタァは、オーディエンスの心に寄り添りそって、なんぼだから……!)
だからこそ、観客は魅せられるのだ。心を開いてくれるのだ。開いてくれたなら、
「届け!あたしの!《ハートキャッチ!あなたの心、あたしに夢中!?/ツカムゼココロ
》!!!」
『いろあつめ』の腕は届かない。あやの演奏開始と共に直接『いろあつめ』に向かっていった零時の迎撃に使われているからだ。
黒い靄の腕も届かない。だってそれは、悪感情はもうすでに受け入れているから。だからこっちが掴むぜ心。
「くぅ……!」
魅了した心に『触れる』。靄と『いろあつめ』の殺戮衝動と悪感情で煮詰まったそれは、『心』で触れるにはあまりに痛くて、それでも
「うおおおーーー!還すぜ!」
感情の腕は、『いろあつめ』をその場に縫い留め、そしてそこに、黒い感情の靄を叩きつけた。
「すげぇな!音楽!」
迫り来る両腕を迎撃した直後、急に動きを止めた『いろあつめ』と、そこに黒い靄がたたきつけられた結果を見て、零時が快哉を叫ぶ。
明確な隙だ。悪感情に蝕まれた心は確かに軋んでいて、それが四肢から力を抜こうとするが、それでも無茶は可能だ。
「―――いくぜ」
《Space designation/此処に存在(い)る!》
術式なんてものではない。もっと単純な魔力の奔流。それを複数種類作り出す。
《coordinate fixing/俺を認識(し)れ!》
その全てを体に取り込めば、当然魔力をため込む許容量を超えた体が軋みを上げて血を吹き出す。
《chanting start/英雄譚を、詠唱(み)せてやる!》
吹き出した血すら固定し、疑似魔術回路とて、結果として発現するのは『オーバーロードした魔力を無理やり行使する』という暴挙。
「《疑似宝血魔術回路〖永劫魔導宝玉杯〗/マギア》ぁぁぁぁぁああああ
!!!!」
杖に宿った斬撃の魔力に光と水の魔力が組み合わさって、
「おらあああああああ
!!!!!」
あやのUCによって身動きの取れない『いろあつめ』へ、一撃を叩き込んだ……!
「だらっしゃー!!!」
手ごたえ。吹き飛ばされる『いろあつめ』は相応のダメージを喰らったのだろう。黒い靄が消え去った。それと同時に、零時も膝をついた。
「大丈夫!?零時!?」
「ああ。なんとか」
駆け寄って来たあやも、零時のどちらも顔色が悪い。悪感情に晒されたが故でった。
流石に消耗しすぎたがゆえに、後は仲間に任せ、二人はいったん離脱するのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
此処もUDCアースも失う訳にはいかないのだからな
遵殿も居場所がなくなっては困るだろう?
子供が苦手であれ真面目に戦わねば
幽世蝶を飛ばして軽く妨害して攪乱
鳥籠には邪の気配を感じるな、浄化の力をまとわせたオーラ防御で
それから呪詛耐性も活用して少しでも汚染を防げるようにしておこう
伸びてきた腕には破魔の力を込めた攻撃で蹴散らしてしまおう
雷獣ノ腕で腕の数が多ければ大太刀
追尾がしつこいならば槍で貫通させて地面に縫い止め
動きが素早いならば弓で射止めてしまおう
感情を集めようが、集めたものが結局塗り潰されるならば意味はないな
そもそも感情はそう簡単に手懐けられるはずもないのだが
気が乱れる前にさっさと倒すぞ
霞末・遵
【幽蜻蛉】
もともと邪神なんだ
よーし、容赦はいらないぞ惟継さん。やっちゃえやっちゃえ
おじさん子供にはちょっと手を出しにくいって言うか
そうも言ってられない状況なのはわかってるけどさ
ほらちょうちょ、惟継さんを守っておあげ
勿論一番守るべきはおじさんだからちゃんと頼むよ
なに、実体化する攻撃なら心配はいらない
感情だろうが伸びる手だろうが罠で捕まえて落として地面にくっつけちゃうからね
どれだけ伸びても手さえ押さえてしまえば怖いもんじゃないさ
腕で絡めとってくるのはやめてよね
感情の暴走は落ち着きでカバー
汚染はちょっと困るな。怨みが強くなると本格的に悪霊になっちゃう
そうなる前に惟継さんが終わらせてくれることを祈ろう
「派手にやっておるものよ」
吹き飛んだ少女の姿を見て、楽し気に笑う影が一つあり。
隆々たる筋骨を備え、その頭には雄々しき双の角を備えし者。即ち、鈴久名・惟継であった。
どうやら先に参戦した者達の与えたダメージは深いらしく、成程。浮遊した鳥かごを背に携え、立ち上がる『いろあつめ』には袈裟に大きな切り傷がついている。
「フム……達人、ではないな。童が無理やり名刀で断ち切ったかのような」
「凄いね惟継さんそこまでわかるのかい。凄いね切ったその子。物騒だねぇ」
惟継の言葉にどこか感心した言葉を投げ返すのは、惟継よりもわずかに低い背。飄々とした痩身に灰色の髪と赤茶の瞳を備えた、どこかくたびれた色男、霞末・遵であった。
「いやぁ。物騒だ。物騒だし、目の前の娘も物騒だ……そう訳で惟継さん、やっちゃってください」
並んでいた場所から一歩下がる。子供は苦手だ。ましてや、それが鳥かごの中に『感情を奪って留めておく』なんて、ああ。なんて無邪気で邪悪な所業だろう。
蜘蛛の悪霊の幻肢がじくじくと痛むようだった。
「ハハハ。されど、遵殿も居場所がなくなっては困るだろう?何より……」
離脱した先の二人の次に現れた自分たちを相手が認識したらしい。すぐさま、伸びた腕が襲い掛かって来た。一方は惟継へ。一方は、遵へと。
「ほぅら来た!子供が苦手であれ、真面目に戦わねば!」
「ああ、もう!そうさ!分かってるさ!そうも言ってられない状況なのは!ほらちょうちょ、惟継さんを守っておあげ」
龍神が笑う龍神の声を背に、幻蝶が舞い、迫り来る腕にひらりと留まった。
―――発破
襲い掛かる腕の軌道がそれる。それが、開戦の合図だった。
「行くぞ!遵殿!」
「存分に!」
走るは惟継。その背を見送るは、遵。前衛と後衛である。どうやら直接攻撃に来る惟継の方を脅威と捉えたらしい。
今度は、鳥籠から手が襲い掛かる。靄のようなもので構成された黒い手と白い手。それぞれが、悪い感情と良い感情を簒奪する、UC《あなたの『いろ』、わたしにちょうだい》だ。
迫り来るそれに、ニヤリと、惟継が笑みを浮かべる。はてさて、龍神たるこの身、人が如き感情を本当に簒奪出来るものやら。
興味は尽きぬが今は戦の時、だからこそ、背にて控える遵へと声をかける。
「さぁ遵殿!」
「あの仙人たちの術も出来ないかやってみたい所ではあるけれど」
まずは今、己の持つ《技術/ちから》で。
迫り来る白い手と黒い手に惟継の周りを飛んでいた幻蝶がふわりと舞って、留まる。
「びっくり箱は好きかい?」
言葉と共に、
「おじさんは結構好きなんだけれど」
幻蝶が蜘蛛の糸へと変じ、白い手と黒い手を絡め取った。《追い立てる罠/キュウツイ》だ。
「……グッ!」
捕えた瞬間、UCが干渉しあっているからだろうか。精神が乱されるのを感じて、思わず蹲る。僅か、額に汗が浮かんだ。
「不味いな」
もし悪感情が増幅されようものなら、悪霊としては不味い事態になりかねない。UCで相手の手を拘束しながら、深く深呼吸。どうにか精神を落ち着かせる。
「さて、大変な事になる前に、惟継さんがどうにかしてくれることを祈ろう」
呼応するように、天より雷鳴が轟いた。
「ああ。嫌だ。欲しいわ。殺したいわ。なのに、腕が囚われるなんて!……《あなたの『くろ』はきれいかしら 》」
スルリ。黒い靄が、不定形を取って迫る惟継へと襲い掛かる。
「ぐっ……ハハハハハハ
!!!!」
『悪感情に汚染された』その事実そのものに、龍神は呵々と嗤った。
(ああ、なんと。この身の弱い事か!)
その胸中にじわりじわりと染み出してくるのは、そう。かつてのような力を振るえぬ焦燥。変えられぬ現状に対するもどかしさ。
なるほどこれは、
(まさしく零落……!)
然り、この身は確かにかつてよりは堕ちたのであろう。されど、超常の業によるものとはいえ、この身の気が、心の裡が、怯懦によって乱されるやもしれぬとは。
「ハハハハハハ!愉快
!!!!!!」
愉快なので咆哮した。
咆哮が、黒天を創り、雷鳴を招来させた。
《鳴神/ナルガミ》が迫り来る悪感情に直撃する。本来であれば雷は流れて消えゆくもの。それが今、
『さて、何で行くかな』
《雷獣ノ腕/ライジュウノカイナ》に抱かれ、留まっていた。
「決めた。まずは煩わしいそれを断つ」
大太刀の〈顕/すがた〉。一足。雷に貫かれ、感電し、留まる不定形の怪物に、大上段で刃が迫る。
それを隙と見たのだろう。衝動のままに殺したいと振るわれた二つの腕が迫り来る。なるほど、大太刀のリーチでは大上段に振るう今、迎撃しようにも左右から大きく弧を描いて迫り来る攻撃の対処は難しかろう。
ならば、
「くどい!」
槍、である。
大上段に握った不定形の雷が、よりリーチの長い槍の〈顕/すがた〉を取る。そのまま大車輪が如くに轟槍を頭上で回せば、伸び、迫り来る二つの腕は、容易く打ち払われる。
ならば、隙が出来たのは『いろあつめ』の方。
槍を振り終え、ダガン!と強く見世物小屋の床を踏みしめ、半身になって刺突せんと槍を構える。
眼に映るは、黒き悪感情の怪物。そして目に映らぬ先、心眼にて映るは、惟継に伸びた両手を打ち払われて、まるでその胸に何かを受け容れるかのように開ききった『いろあつめ』の姿。
「『我が神槍は雷の如く、其の身を貫く
』!!!!」
雷速の一撃が悪感情を打ち払い、『いろあつめ』を貫く。槍が雷へと変換され、『いろあつめ』とその鳥籠を襲い掛かった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フェルト・フィルファーデン
残念だけれど、そう簡単に殺されるわけにはいかないの。
……でもその願い、聞き届けたわ。
護身剣よ、護り救うために抗う力をここに!
高速で空を舞い、攻撃を躱しながら接近。狙うは殺戮の衝動、その大元。
ええ、殺さない。わたしは世界を救うために、全てを救うためにここへ来た。
それに……助けを呼ぶ声がしたから。これで諦めない理由には充分よ!
敵に密接して電脳魔術の力を全力で行使。出来るだけ傷つけずに大元を見つけ出す。【ハッキングx限界突破】
この護身剣が纏う光は万物を切り裂く光の刃。その一撃で大元を刺し貫く。
……正直、どこまで出来るかわからない、けれど!
そう簡単に、諦めるわけには、いかないのよ!!
七獄・椿
いやぁ、なるほど?腕が伸びるし感情を盗むときたか、じゃあ恨みの塊みたいな私は付き合ってやらない方がいいな?
という訳で、感情があるようで思考形態がちょっと違ううちの邪神をぶつけてみようか。
その間に私は相手に叩き斬ることに専念しよう。ま、おんなじ外道の存在だし気が合うだろ?
『我みたいな邪神をとりあえずでぶつけようとするのどうかと思うぞ、今更だがな』
さて、うるさいうちのは置いといてデカブツをぶつけてる間に懐に飛び込むのはそれなりに有効なはずだと信じたいとこかな?
黒川・闇慈
「なるほどなるほど、色集め、ですか。私も黒は大好きですよ、ええ。クックック……」
【行動】
wizで対抗です。
さて、相手の伸びる腕に対処しましょうか。
高速詠唱、全力魔法、範囲攻撃の技能を用いてUCを使用します。
伸びてくる腕を片っ端から切り落として差し上げましょう。長くて邪魔なものは切って短く。真理ですねえ。
腕をあらかた対処し終わったなら、本体たるいろあつめに攻撃をしかけましょうか。銀の花弁での一斉攻撃といきましょう。
「残念ながら私の『黒』は私だけのものです。代わりに銀色を差し上げますよ。少々よく切れますが……クックック」
【アドリブ歓迎、詠唱フリー】
「好機ね!」
雷に打たれ、その鳥籠すら歪んだ『いろあつめ』。その状況を狙っていたかのように、小さな影が飛び出した。フェルト・フィルファーデンだ。
「クックックッ……しかし、出来るので?」
そして彼女に並走する黒い影が問いかける。黒川・闇慈だ。
「やるのよ」
都合十の指に嵌めたパワーリングがちゃらりと鳴る。
『殺したい』という衝動に侵された心の中にも、助けを求める声があるのだから、妖精の国の我儘なお姫様は、自分の救いたいという我儘を押し通すのだ。
「とはいえ。まずは抑えねばなりませんね。何せ……」
その”圧”に闇慈は脚を止め、空を舞うフェアリーも一旦止まった。
「クックックッ。暴走していますからね」
言葉と共に、閃光と共に白と黒の腕が、先ほどよりも巨大化して、なおかつ複数襲い掛かって来た。
理由は単純である。先ほどの惟継の攻撃は、確かに『いろあつめ』に甚大なダメージを与え、なおかつそのUCの発動媒体である鳥籠にすらダメージを与えた。それによって、鳥籠が今まで収集していた感情が溢れ出ているのだ。
「あーあー。こりゃまた。大変だぁね」
女がその有様を見て、手に負えないとでもいうようにため息をついた。
感情が溢れ出て、その溢れ出た感情を取り戻そうと、鳥籠から四方八方に手が伸びる。
その奔流を、騎士人形で、魔術で、フェルトと闇慈がどうにか凌いでいた。
だから、
「手伝おうか、お二人さん?」
にやにやと締まりのない笑みをこぼしながら、人でなしは、七獄・椿は現れた。
「どうか手伝ってください!」
閃光が、正の感情を増幅する。フェルトは決意で闇慈は喜悦が増幅され、それが暴走した『いろあつめ』へと無策無謀な攻撃を行おうと、気を逸らせる。
どうにかとどまり、相手の攻撃を捌いてはいるが千日手。そんな時に、まるで『増幅される正の感情などない』とでもいうように普段通りの椿が来たのだ。
頼らない手は無い。
「ああ、勿論さ。あいつを叩き斬る為に私も来たんだ。やってやろうじゃないさ」
「……!違うわ。救うのよ!」
少女の叫びに、邪な女の邪な笑みがきょとんとした表情を作った。
迫り来る無数の黒と白の手を刃で、騎士人形で、魔術でさばきながら、僅かな魔が出来る。
「クッ……クックックッ」
耐え切れないとでも言うように、闇慈が声を上げた。
「おい、どういう事?」
胡乱な目で椿が闇慈を見れば、
「クックックッ。あの邪神に飲み込まれ、依り代とされている妖怪を、救い出す必要がありますからね」
「ああ。そういう事。ねぇ、可愛らしいお嬢さん?」
女の眼が少女の眼を見る。空洞が少女を射抜いた。
「手立てはあるの?」
「あるわ」
〈希望/きぼう〉が、空洞に刺した。
フ、と女が笑みを浮かべる。
「お嬢ちゃん、お姫様でしょ」
「な!?」
突然の物言いにフェルトが一瞬反応に遅れたのを他所に、椿が歩き出した。
「さて、お姫様のお願い、叶えてあげないとね。まずはこの光と、腕の奔流をどうにかするか。感情を収集するなんて、」
気楽な口調に、
「……恨みの塊みたいな、私は付き合ってやらないほうがいいな?」
一瞬殺意の朱が差した。
―――そうして女が印を組み、神が此処に顕現する。
『オン・ノウマク……』
かつて、エンパイアにて、淫祀邪教の輩在り。
『イア・イア・アフラム』
仏を騙り、星辰を揃え、外なる世界より裡に這い寄らんとしらその輩
『ザル・スティギア』
なれど一人の女により調伏され、カミは鎧に零落した。
女の眼前に五芒星に角が一つ欠けた印が顕現し、神気が吹き荒れる。
『哭き叫ぶは禍風……怨讐を呑め……!』
神はもはや甲冑である。なれば顕れよ。
『来いよ「无冥」!』
―――我みたいな邪神をとりあえずでぶつけようとするのどうかと思うぞ、今更だがな―――
そうして赤く、巨大な鎧武者が顕現した。
「うるさいね。さっさと抑え込みなさい」
《番外呪法、機神招来『无冥』/アルカヌム・エクスマキーナ》によって招来した椿のキャバリア、『无冥』がその巨体にて迫り来る腕と光を抑え込む。
実際の所、正規のキャバリアとはとても言えない『无冥』は、オブリビオンマシンだ。だからこそ、半自動で行動も出来る。代償として『无冥』はそちらにかかりきりになって動けなくなるが、十分な働きだろう。
邪神による感情の簒奪も、同じく邪神であり、常人と違う思考形態を持つ『无冥』に効きはしない。
「さぁ、やっちゃいな」
フ、と気配を周囲に溶かしながら、背後にいるフェルトへと椿が声をかければ、
「ありがとう!椿様!」
浅葱色の剣を、両手で掲げたフェルトが応えた。
―――《護身剣よ、力を貸して/”エンブレム”へ接続。概念、情報体への攻勢プログラムを構築します》―――
脳裏をよぎるは、あの『夕暮れ』。友が、大事な人が、その手で大事なものを手にかけたあの時。救えなかったのだ。
シナプスが加速する。限界を突破する。
―――《希望の光を束ねて重ね、護り救うために/仮装演算領域確保。対象をスキャン
……》!?くぅ!!《エラー。対象は電気信号による物理的精神活動を行っておりません。霊的反応による精神活動の観測もUCの行使による情報攪乱により観測できません。対象の、精神を観測できません》―――
護身の剣は、万物を貫く。されど、『斬るもの』が定まっていなければ、斬れはしないのだ。鳥籠の破損によるUCの暴走が常ですら観測の難しい邪神の精神の核を、困難なものとしていた。
「そう簡単に……《これ以上の観測精度向上の為の演算領域の拡大は、使用者の生得演算領域を利用するため、今後の生活、健康に重篤な影響が出る恐れがあります。システムの起蜍輔r邯夊。後@縺セ縺吶°�溪補補漂/N》きゃ!?」
困難だからといって、躊躇う理由にはならない。フェルトが己のシナプスをさらに過熱させようとしたその瞬間、脳内に展開している術式がいきなりバグった。
「クックックッ……お耳を拝借」
そう、闇慈である。
「なるほどなるほど。《面白いですね。電脳術式も》」
「わ!?これ!?どういう事かしら!」
闇慈の声が、後半から脳内に直接響いてくるのだ。いくら何でも驚く。
「クックックッ。念話の応用です。それで相手の『精神/たましい』の核を探すのに手間取ってらっしゃるのでしょう?お手伝いしましょう」
(正直な所、電脳魔術自体にも興味はありますが……)
世界の深智を覗く魔術師として精神にも知悉している闇慈が、『魔術であるならば』と電脳魔術に介入して、己の『眼』を貸す。
そうすれば、
―――《対象の精神の観測に成功しました》―――
「……ありがとう!闇慈様!」
「クックックッ。どういたしまして」
定まった。ならば後は斬るだけだ。
―――《抗う力を!!/コード、『剣よ、護るために抗う力をその刃に宿せ(ライトオブホープ・アサルト』、実行します》―――
・・・・・・
〈浅葱色の親友〉を振るう。光が、『いろあつめ』を切り裂いた。
「あああああああ
!!!!!!」
「うわあああああああ
!!!!」
声が、二つに重なる。そう。『いろあつめ』と、『その核となっていた妖怪』の声だ。フェルトの斬撃は、確かに『いろあつめ』の精神の核を見極め、妖怪と『いろあつめ』を切り離したのだ。
「やったわ!」
フェルトが快哉を上げる。そう、この戦争の為に犠牲になってくれた妖怪の、命を絶やす事など出来はしないのだから。
「あ。ああ。あああああ!!!いやよいや!消えるのは嫌!!!!まだ、いろが沢山あるのに!!!」
存在感をどんどん薄めていく『いろあつめ』が、再び存在を確立させようと妖怪へと手を伸ばす。
「クックックッ……往生際が悪いですね。私の黒は私だけのものなので、代わりに銀を差し上げますよ。よく切れますが」
「ガハッ!」
―――咲き誇れ致死の花
『いろあつめ』が胸元を見る。そこには、花が咲いていた。そう、銀の華だ。液体で出来たそれが、胸元から侵食していく。
「いや……いや」
―――血風に踊れ銀の花
銀が、体を伝う。邪神は、生物ではない。血を流さない。銀の液体が体の中を暴れまわり肉体を断とうとも、致死にはならない。むしろ核たる妖怪を喪った事で、物理的な干渉は効果が薄くなってすらいる。だがしかし、
―――全てを刻む滅びの宴をここに
『魔術の銀』、ならばどうだろうか。《銀嶺に舞え斬翔の花弁/シルヴァリー・デシメーション》は肉体でなく、その存在を切り刻む。
もはや肺もやられたのだろう。声すら出さず、それでもなお残された腕で《いろあつめ』が妖怪へと手を伸ばす。
だから、
―――やれやれ。しぶといわね。だったら私から、六文銭のプレゼントよ―――
紗と音が鳴る
此れ。即ち、椿の太刀
「……雲耀」
チン、と軽い音がして、椿が納刀した。後には首を断たれ、消え去った『いろあつめ』の気配がするのみ。
妖怪を助け、骸魂を滅ぼす。猟兵達の、完全勝利だった。
大成功
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