大祓百鬼夜行⑰〜河童大相撲現世場所
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それは、春のうららかな陽気にタンポポが揺れる、昼下がりの午後の事だった。
人気のない空き地の片隅に、建物が忽然と現れた。
一見、コンクリートの小さな建物群だが、それは見れば見るほど奇妙なものだ。
寸断された区画。倒れかけの電信柱。扉を塞がれ機能を失った小階段。
そんな無用の長物の集合体は、草むらであった筈の空き地を、異様な雰囲気で包み込んでいた。
『とうちゃ~く!』
「わぁっ!」
だが、そんな区画の中央に辿り着いた子供達は歓喜の声を上げる。そう。彼等にとってここは、大都会に佇む、楽しい冒険場所なのだ。
「おねえちゃ~ん! 20対1で押し合いっこやろ~!」
『はっはっは~! 良いだろ~♪』
元気一杯に目を輝かせる子供達をにこやかに先導するのは、緑の着物を着た少女。
「ねーねー滝出して~!」
「ぶちかましで電柱へし折るヤツやってぇ~!」
『よ~し、それじゃあ……』
少女の足元には大きな丸い円……土俵が描かれ、そこだけ草が綺麗に刈られている。
『これより夏場所開催! 実戦で色々教えてあげよ~☆』
そう言うと少女は半月刃の付いた巨大な得物を、軽々と地面に突き立てるのだった。
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「ここから一人の妖怪が、石を抱いて飛び込んだようでござる」
カクリヨファンタズムの果て、『石抱きの井戸』。
その周囲に集まった猟兵達の前で、四宮・かごめ(たけのこ忍者・f12455)が説明するのは、行き先であるUDCアースで起こった異変についてだ。
日本のとある大都市、その一角に、奇妙な区画が現れた。
俗に超芸術トマソンと呼ばれるもの。本来偶然の産物であるそれらが、意図的に集められたような区画だ。
「そこに子供達を連れ込んだのは『カッパ海坊主』。元はカッパの少女でござった」
強い力と大らかな性格を兼ね備えた彼女だが、今回敢えて、大戦の黒幕である『大祓骸魂』の軍門に降ったと言う。
「不可視の究極妖怪『大祓骸魂』を倒すためには、自身が百鬼夜行と化し、『大祓骸魂』までも認識出来るようにするしか、手がなかったのでござる」
カッパの少女も他の東方妖怪の例に漏れず、好奇心や驚きの感情をくれる子供達と遊ぶのが大好きだ。
ただし彼女の「子供と遊びたい気持ち」は、海坊主の骸魂に飲まれた過程で歪められている。
子供達が錆び付いた柵を潜り、区画のトマソンに近付くと、子供達にもカッパの少女の姿が見えるようになる。
そこで昔と同じように子供達と心を通わせれば、もう手の内。最後は区画の中央にある土俵で『懐かし遊び』……相撲を挑み、負かして喰らってしまうつもりらしい。
「もちろん、投げ飛ばされた挙句、辺りに生い茂る草に隠れたトマソンに頭をぶつけたりしても、子供達の中から死者が出る事は確実でござる」
猟兵達がやるべき事は、第一に区画から子供達を逃がす事。そして第二にオブリビオンを倒し、骸魂から少女を救出することだ。
『カッパ海坊主』が挑んでくる相撲遊びだが、そのルールは緩めだ。
直径4.55メートルの土俵を出る。または地面に手を突くと負けだ。
武器で相手を傷つけてはいけないが、武器を装備して加護を受けるのは良い。
ユーベルコードや殴る蹴る、武器以外の装備の使用も認められている。
『カッパ海坊主』も以上のルールに従って戦ってくれるだろう。ごく狭い場所での力比べに近い。
普通に割り込み交戦しても良いが、元の強力さを考えると、ユーベルコードなどを駆使して、相手が挑んでくる『懐かし遊び』に対抗した方が有効だと言う。
「今井戸に飛び込めば、河童の少女が子供達に相撲を挑むところに間に合うはず。幽世とUDCアース、二つの世界を守る為に、宜しくにんにん」
白妙
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白妙と申します。宜しくお願いします。
このシナリオは戦争シナリオです。
1章だけで完結する、特殊なシナリオとなります。
●プレイングボーナス
『子供を救出し、代わりに懐かし遊びを受けて立つ』。
懐かし遊びは、ルール粗めの相撲遊びです。
懐かし遊びの過程でダメージを蓄積しなくとも、負かし続ければ妖怪を解放できます。
●『カッパ海坊主』
「海坊主」の骸魂に飲み込まれた、東方妖怪「カッパ」の少女です。
相撲をはじめとする力技を得意とします。
こちらがUCを使わない場合、四本の腕で押し出しや投げを狙ってきます。
●区画
中央に土俵の描かれた空き地があります。
周囲は草むらに紛れてコンクリの構造物が点在し、相撲を取るにはとても危険。
●補足
カクリヨファンタズムのオブリビオンは「骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの」です。
飲み込まれた妖怪は、オブリビオンを倒せば救出できます。
第1章 ボス戦
『カッパ海坊主』
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POW : 河童大相撲
【踏み込みからの張り手】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : サゴジョウアーツ
【半月刃の付いた三節棍】で攻撃する。[半月刃の付いた三節棍]に施された【神将沙悟浄】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ : 河童のナイアガラ流し
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【水】属性の【滝】を、レベル×5mの直線上に放つ。
👑11
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ニクロム・チタノ
わぁ相撲かぁ
研究所にいた頃ね、何もすることなくてつまんないって言ったらね、お義母さんが教えてくれたんだ!
ねぇそこのキミ、ボクと勝負しない?
ボク相撲じゃ負けなしだよ、ボクを倒したらキュウリ百本あげるよ?
さあ勝負、はっけよい
ぶ、すごい張り手、仮面がなかったらやられてたよ
今度はこっちの番だよ
ボクがなぜ相撲が強いかって?
それは重力を操れるからさ!
無重力にしたらどんな相手も持ち上げられるんだ
さあ、線の外まで吹っ飛んじゃえ!
「わぁ」
ニクロム・チタノ(反抗者・f32208)は、目の前の光景に思わず驚きの声を上げる。
怪しい建築物こそ点在しているもの、区画の真ん中には長閑な空き地が広がっていたからだ。
「相撲かぁ」
そして地面には大きな丸い円が描かれている。そう。土俵である。
(「退屈凌ぎにお義母さんが教えてくれたっけ」)
研究所で実験体として育ったニクロムにも育ての母はいる。彼女から教えてくれたそれは、紛れも無い懐かし遊びだ。
うららかな陽気にも誘われ、つい昔の記憶に浸りそうになってしまったニクロムだが、目の前で打ち上がる子供達の歓声に気を取り直すと、姿を晒す。
「? おねーちゃん、誰ー?」
「見物ー?」
そんなニクロムに向けて、土俵でたむろしていた子供達が寄って来る。
『はいはい、順番に……ん? 何だいキミは』
そして土俵の中心で子供達を相手していた少女もまた、ニクロムに声を掛ける。
編笠に緑の着物を纏う彼女こそ、オブリビオン『カッパ海坊主』だ。これ幸いとばかりにニクロムは相撲勝負を挑む。
「ねぇそこのキミ、ボクと勝負しない?」
『駄目だよ。順番を守って……』
渋るような様子を見せるカッパ海坊主だったが、続くニクロムの一言に、思わず言葉を詰まらせた。
「ボク相撲じゃ負けなしだよ? ボクを倒したらキュウリ百本あげるよ?」
『うぐっ……!』
思わぬ強者宣言。おまけに好物であるキュウリまでちらつかされれば、オブリビオンの心はぐらぐらと揺れ動かざるを得ない。
『しょ、しょうがないなぁ……じゃあ、君から相手してあげるよ』
「ありがと、さあ勝負」
割とあっさり承諾した河童の少女と共に、ニクロムは土俵へと足を踏み入れる。
「おねえちゃん、頑張れ~」
「負けるな~」
子供達の声援の中、土俵内で立ち会うニクロムとカッパ海坊主。
「はっけよい」
『のこった!』
掛け声と共に踏み込むニクロムの顔面を――凄まじい衝撃が襲った。
河童大相撲。超高速の踏み込みから放たれる、大威力の張り手である。まともに受けたニクロムは、そのまま土俵外に突き飛ばされるかと思いきや……。
『わ、私の張り手を受けて平然としているなんて……!』
「ぶ、すごい張り手、仮面がなかったらやられてたよ」
平然とした様子で相手に組み付き、相手の腰帯をがっちりと掴んでいた。ニクロムの左半面を覆う半面とその加護が、張り手のダメージを大きく軽減していたのだった。
一方のカッパ海坊主はと言えば、形ばかりは相手に組み付いてはいるものの、必殺の張り手を破られたショックに腰が据わっていないようだ。
「今度はこっちの番だよ」
言葉と共にニクロムが反撃に出る。白く細い腕に力を込めれば、オブリビオンの素足が、簡単に地上を離れた。
『……えっ!?』
「ボクがなぜ相撲が強いかって? それは……」
完全に相手を持ち上げたニクロム。相手の動揺が、体の接地面を通してニクロムにも伝わって来る。
「重力を操れるからさ!」
『~~~~っ!』
相撲が力技である以上、その道の達人も重力の理を免れない。この勝負は最初から決まっていたのだ。
じたばたと脱出を試みる河童海坊主の身体が――次の瞬間、空中に綺麗な放物線を描いた。
大成功
🔵🔵🔵
シエナ・リーレイ
■アドリブ可
次はわたしと遊びましょう!とシエナは土俵に足を踏み入れます。
『お友達』を求めて彷徨うシエナ、河童な『お友達』候補と仲良くなる為に相撲に挑みます
見た目で判断しちゃだめだよ?とシエナは注意します。
踏み込みからの張り手を猫だましですかし、相手が掴みかかってきたらそのまま組みあいます
若干ずれているとはいえ相手も遊んでくれている状況をシエナは純粋に楽しむシエナとはいえ気分が高揚としてくれば過去の所有者の音縁が無意識の凶行に走らせます
組みあう力は骨を砕きかねない程に強くなり、河童がシエナの怪力に抗えなくなれば勢いつけて土俵に叩きつけてしまいます
よいしょっと!とシエナは持ち上げます。
「次はわたしと遊びましょう!」
到着と同時に開口一番、太陽のような笑顔を浮かべてシエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)はそう言った。
『よーし、やろうやろう!』
「僕行事やるー」
土俵に上がるシエナの申し出にカッパ海坊主もまた朗らかに答えると、周囲の子供達も一気に盛り上がる。
『ずいぶん小さな子が来たねー。でも手加減は無しだよ?』
シエナと頭を突き合わせたオブリビオンは地面に目を落としたまま、悪戯っぽくシエナに話しかける。
どうやらシエナの体の目方を推し量った結果、持ち上げ易い……いや、与し易い相手と判断したようだ。
だが。
「見た目で判断しちゃだめだよ?」
『……っ!?』
シエナの呟きを聞いた時、カッパ海坊主の背筋に、ぞくりと寒気が走った。
(『き、気のせいかな……今寒気が』)
おずおずとオブリビオンが上目遣いでシエナを見遣ると……シエナは相変わらずニコニコとした表情を浮かべている。
その表情からは何を考えているのかは推し量り難い。もしかしたら、『お友達』の事を考えているのかも知れない。
だが感性に多少のズレがあるとしても、仲間と共に遊ぶ状況は純粋に嬉しいものだ。少なくともその点において、シエナは他の人物と変わらない。
「はっけよーい……」
のこった! の声と同時にカッパ海坊主が踏み込む。だが地響きの音を上書きするように、パァン!! と鋭い音が響いた。
『!』
猫だまし。奇襲戦法を前に虚を突かれ、僅かに目を細めるオブリビオン。
――その隙を突いてシエナは急迫。敵の射線から僅かに外れて急迫。豪速かつ大威力の張り手が、シエナの頬に軽い擦過傷を作って通過していく。
(『速い
……!』)
可愛い河童の少女を『お友達』にするという目的の下、敢えて敵の間合いに突っ込む。その条件をトリガーに発動したユーベルコード『ジュリエッタ・リーレイの願い』による、凄まじい反応速度の為せる業だった。
次の瞬間シエナとカッパ海坊主は、がしりと組み合っていた。
『くっ、あなたも私の張り手を……!』
再び必殺技を破られ愕然とするオブリビオンだが、シエナからすれば、この状況を純粋に楽しんでいるだけだ。否、それどころか、気分が高揚してすらいる。
だがそのテンションの高まりが、シエナの深層意識に異変を齎した。
『ちょ、痛い痛い……!』
途端にシエナの細腕から凄まじい力が送り込まれ始めた。ともすれば骨を砕きかねない力を前に体勢を崩したカッパ海坊主が怯えたような声を漏らした瞬間。
「よいしょっと」
まるで米俵でも持ち上げるような格好で、シエナがオブリビオンの身体を担ぎ上げる。
『……!』
次の瞬間、その身体が背中から叩き付けられる。
上がる砂煙の中、暫く仰向けになっていたカッパ海坊主だが、は、と目を見開き、がばりと上体を起こす。
そんなカッパ海坊主の様子を、シエナは相変わらず朗らかな表情で見つめていたのだった。
成功
🔵🔵🔴
ヴォルフガング・テュール
彼女と同じく俺も子供は好きだ、故に殺してしまっては深い悲しみに囚われるだろう……
流石にそれは止めたいな
最近猟兵に目覚めた身…まだ未熟な身ではあるが力比べならそこそこは食らいつけるだろう…
では一戦よろしく頼む
子供を区画から逃がす…ならこの身で威圧して……
怖がらせてしまうのは申し訳ないし、俺も傷つくが…命には変えられない…
相撲、正面からの張りては横に躱しそのまま掴ませてもらう…
掴んだなら…俺の勝ちだ!
そのまま地面へと叩きつけさせて!
いい試合だった、そして世界の平和の為のその身を犠牲に、感謝する
この一大事を終えたらまた、純粋に競い合いたいものだ
「おっきーお兄ちゃんだー」
「なになにー?」
広場を訪れたヴォルフガング・テュール(人間のサバイバルガンナー・f33281)を、興味を持った子供達がワイワイと取り囲む。
ヴォルフガングがふと土俵の方を見遣れば、そこには着物に付いた土を払うカッパ海坊主の姿があった。
『今度は君の番かい?』
「あぁ……」
オブリビオンとの対戦の約束は取り付けた。ひとまずヴォルフガングは子供達に目を落とす。
「……。ここは危険だ。家に帰るんだ」
「!」
長身のヴォルフガングの威圧を前に子供達は声を失い、やがて一人二人とこの場を立ち去り始める。
「……」
ヴォルフガングはそんな子供達の後姿を無言で見守る。子供が好きな彼にとっては辛い決断だが、命には代えられない。
改めて土俵を見遣れば既にオブリビオンが土俵に上がっている。ヴォルフガングの思惑など露知らず、相撲勝負の事しか頭にない様子だ。
『君も猟兵だね?』
「ああ……」
だがヴォルフガングには、骸魂に囚われている河童の少女の気持ちもよくわかる。
(「誤って子供を殺してしまっては、後で深い悲しみに囚われるだろう……」)
この試合に勝ち、悲劇を防ぐ。強い意志の下、ヴォルフガングもまた土俵に上がるのだった。
「では一戦……よろしく頼む」
『ふっふっふ、いざ、勝負!』
立ち合いの後、両者の間に行司を務める子供が立つ。そして――。
「はっけよーい……のこった!」
両者、凄まじい踏み込み。同時にオブリビオンが豪快な張り手を繰りだす。
だが正面から衝突すると思われたヴォルフガングがすれ違い、オブリビオンの裏を取った。
『!!』
「……俺の勝ちだ」
力量ならいざ知らず、単純な力比べであれば幾らか食らい付ける。今まさに伸び切ろうとする肘を巻き込むように両腕を回す。凄まじい張り手の勢いはヴォルフガングの身体に軽い擦過傷を刻んだが、それでも構わず力を籠め――掴み上げる。
次の瞬間、ヴォルフガングを中心に、カッパ海坊主の身体が綺麗な円弧を描いた。
ダン! と派手に地面に叩き付けられ、カッパ海坊主は呆然とした表情で天を仰ぐ。
「いい試合だった、そして世界の平和の為のその身を犠牲に、感謝する」
『……』
必殺の張り手を破り勝利も手にしたヴォルフガングだが、その口ぶりは試合前と変わらず穏やかなものだ。
「この一大事を終えたらまた、純粋に競い合いたいものだ」
未だ骸魂に囚われている様子のカッパ海坊主だが、彼女の胸の内で、ヴォルフガングの言葉は静かに波紋を広げていた。
成功
🔵🔵🔴
水鏡・怜悧
詠唱:改変、省略可
人格:アノン
相撲って何だ?近くの餓鬼共にでも聞いてみよう
手ェ着いたら負けなのか。四足の方が得意なんだけどな。まァいいや、そっちのルールでやってやる
UDCの液体金属で狼耳と尻尾を象るぜ。手足はダメか。武器じゃなくて身体なんだけどな。仕方ねェ。手足は覆わずそのままでやるぜ
聞いた感じだと短時間戦だよな……って魔法はアリなのかよ。開始と同時に飛び込んで、野生の勘で相手の反応に合わせてカウンターで掌底を叩き込む。骸魂が出てきたら殴り潰すぜ。時間もねェからな
力尽きたらUDCで体を覆って黒い狼の姿になり、草むらで丸まって寝るぜ
さっさと帰れよ餓鬼共。起きても居たら喰っちまうからな
相撲。UDCアースやカクリヨファンタズムでは広く知られている、懐かし遊びの一種である。
だが猟兵たちの中には、当然、相撲を知らない者も存在する。
「相撲って何だ?」
水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)もまたその一人。相撲とは何なのか。まずはそのルールを子供たちに聞いて回っていた。
「土俵から出たら負けー」
「へェ」
今、怜悧が発現している人格は、彼の身体に発生した人格『アノン』だ。口調こそ粗野だが、そのやりとりは何処までも子供たちと対等だ。
そんな怜悧に子供たちも興味を覚えたのか、周囲に集まってはワイワイと相撲のルールを教えにかかる。
「手ぇ突いても負けなんだよー」
「あ? じゃあ四つ足はどうなンだよ」
『四つ足は流石に駄目だね~。一応神事だし』
怜悧が振り返ると、土俵に立つカッパ海坊主の姿。
「……まァいいや。そっちのルールでやってやる」
『上等。さ、入った入った♪』
これから相撲を取る喜びに浸るカッパ海坊主の傍で、怜悧はしゅるりと音を立て、自身の身体を覆う可変性の液体金属を蠢かせた。
(「……手足はダメか。武器じゃなくて身体なんだけどな」)
液体金属UDC、暴食の王『ケルベロス』――これで自身の身体を何処まで覆うかは悩みどころだ。
黒い狼の前肢は確かに強力だが、危ないラインを試した結果、後でドヤされると面倒な手合いのような気がしないでもない。
少し考えた結果、怜悧は狼耳と尻尾だけを形作る。
「はっけよーい……」
子供たちの行司の下、睨み合う怜悧はオブリビオン。
(「聞いた感じだと短時間戦だよな……って」)
のこった! の声と同時に……カッパ海坊主が飛び退いた。同時に、怜悧の視界が大量の水で埋め尽くされる。
(「……魔法はアリなのかよ!」)
『はっはっは~! これぞ秘術、河童のナイアガラ流し!』
だがほぼ無詠唱の滝は水勢も弱い。奔流に呑み込まれるより遥かに早く、怜悧は踏み込んでいた。
元より初撃で仕留める所存。相手の初動に合わせて斜め前に射線を外せば、怜悧の目の前ではカッパ海坊主が驚きの表情を見せていた。
「――くたばれ」
カウンター気味に放たれた怜悧の掌底が、完全に体勢を崩したオブリビオンの顎に叩き込まれる。
『う、ぐぁっ
……!!』
6倍に強化された身体能力を乗せた掌底の凄まじい勢いに、オブリビオンの身体は土俵を遥かに越えて吹き飛ばされ、草むらに背中から突っ込んだ。
それを見届けた怜悧はしゅるりと黒い獣の姿を取り、子供達の足元へと歩み寄る。
「……。さっさと帰れよ餓鬼共。起きても居たら喰っちまうからな」
言い捨てるような台詞も子供たちを思う優しさの表れ。そのまま足元の草むらに丸まった所で、怜悧は自身の体から力が抜けていくのを感じる。
「――」
訪れる眠気をぽかぽかとした春の陽気が深めていく。後の全てを成り行きに任せ、怜悧は昼寝を始めるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
片桐・公明
【POW】
子供が土俵に入る前に、肩をつかむことで阻止する
「危機一髪ね。あなたたち、ここは危険よ。」
「親が心配しているから早く帰りなさい。」
子供に対して帰宅を促しつつ、適当にあしらうことで危険から遠ざける
カッパに対しては相対する
「邪魔して悪いわね。代わりと言っては何だけど、私が相撲の相手をしてあげるわ」
素手とUCを使用して敵と戦う
ステップは土俵から出ないように最小限に
攻撃も当身が中心だが相撲の技を使用する
ただし組合になった場合、投げ技を仕掛け可能な限り素早く振り解く
相手の張り手はいなす様に、力を利用して投げ飛ばす
(絡み、アドリブ歓迎です)
『あ~、結構派手にやられた……』
「おねーちゃん大丈夫ー?」
土俵の中央に座り込むカッパ海坊主を子供達が心配そうに取り囲む。これまでの取組は四戦四敗。カッパ側のボロ負けである。
『はっはっは、大丈夫大丈夫♪』
口ではそう言いつつも、胡瓜色だった着物は既に砂塗れになっている。思わぬ猟兵の相撲の強さに出鼻を挫かれた形だ。
『じゃあ次は君ね♪』
「わーい!」
だがあっさり気を取り直したオブリビオンの指名に、待ってましたとばかりにはしゃぐ一人の少年。だがその肩を。
「こぉ~ら」
間一髪、片桐・公明(Mathemの名を継ぐ者・f03969)ががしりと掴む。
「あなたたち、親が心配しているから早く帰りなさい」
「は、はぁ~い……」
公明に諭された子供たちはしゅんとした様子を見せつつも、従順に空き地を去っていった。
猟兵達には子供達を救出するという大事な役目が残っている。これを果たす人物がいない限り、子供達はオブリビオンの脅威に晒され続けるのだ。率先して動いた公明は適任だっただろう。
「……邪魔して悪いわね。代わりと言っては何だけど、私が相撲の相手をしてあげるわ」
『ん、良いよ。相手が強い方が相撲は面白いからね』
双方、土俵に上がり対峙する。
『はっけよーい……のこった!』
どっしりとした構えから猛攻を仕掛けるカッパ海坊主。だがそれとは対照的に、公明の動きは軽やかだ。最小限のステップで敵の突きを躱し、時に鋭い反撃を行う。その動きは護身術のようでもあり、舞踏術のようでもあった。
『やるね、じゃあこれならっ!』
「!」
オブリビオンが四本の腕を利用した組み付きを仕掛ける。
公明は一度組み合うように見せかけ――相手の片腕を取ったまま、凄まじい速度で反転。
『――っ!?』
投げ技の鋭い勢いを利用した振り解き。思いっきり前につんのめったカッパ海坊主だが、辛うじて踏み止まると前傾で溜めの姿勢を作る。
果たして次の瞬間、公明目がけて渾身の張り手が迫っていた。
公明は、予期していた。
先んじて敵の背中側に滑り込むと同時に、突いて来た手を裏から極める。
「読み通りっ!」
『うおぉ!』
相撲でいう引っ掛けに近い形だ。そのまま公明は相手の剛力と速度を利用し――往なした。
次の瞬間、ぶわり、とカッパ海坊主の身体が宙を舞う。
「……ふぅ、ひとまず何とかなりそうかしら」
そのまま草むらに落下するオブリビオンを見ながら、公明はひとまず胸を撫で下ろすのだった。
成功
🔵🔵🔴
キルシ・キュマライネン
なるほど、相撲勝負ですか…。『はい!かしこまりました!』わたくしがその勝負を承りましたわ河童さん。
そのうちアザラシの津波になるアザラシがポンポン出ますがこれは【言いくるめ】で気にしない方向で行かせていきましょう子供たちごとそのうちどこか遠くに流れていくかと存じ上げます。
取り組みが始まりましたら【カウンター】のタイミングで【フェイント】と【軽業】と【残像】を併用しつつ【おどろかし】……。持ちうるすべての技能と装備をルール上合法の範囲駆使して素人ながらも懸命に戦いましょう!!
カクリヨの妖怪が減るとメイド業もままなりませんし早く正気に戻ってくださいね。
『さ、次は誰?』
既に何度も猟兵に投げられている筈のカッパ海坊主だが、その戦意は全く衰えを見せない。
(「相撲勝負、ですか……」)
「メイドさんだー」
「かっこいー」
次の対戦相手を目ざとく物色するカッパ海坊主の目に、背筋を伸ばし、しずしずと前に進み出たキルシ・キュマライネン(海生押しかけメイドモドキ・f28170)の姿が目に止まる。
『次は君の番だね? おいで、相手してあげるよ!』
口を突いて出たその言葉は、ものの弾みという奴だったのかも知れない。だがその半ば命令じみたキルシへの言い方が、カッパ海坊主の取組の命運を決めた。
「はい! かしこまりました!」
キルシが相手の申し出を承諾したと同時に、後ろで子供達の歓声が上がる。
「わー、なになに?」
「アザラシ?」
見れば子供たちのど真ん中に、一匹のアザラシが現れていた。
『なにあれ……』
「メイドのおねえちゃーん、このアザラシどんどん増えてるよー?」
「わたくしも妖怪の端くれ。あの子達が退屈しない為の余興ですの」
『あぁ、そう……?』
会話する間にもアザラシはその数を増していく。本来なら疑問の一つくらい持っても良い状況なのだが、キルシの巧みな誘導に、カッパ海坊主は自分が言いくるめられた事にすら気づかないのだった。
結局……てんやわんやする子供達を尻目に、土俵上で対峙するオブリビオンとキルシ。真正面から相手を見据えた後――。
「はっけよい……のこった!」
カッパ海坊主が迅速の踏み込みを見せる――だがそれよりも遥かに速く、キルシの方が距離を喰らい尽くしてした。
『ちょ、早……』
慌てて組み付こうとした四本の腕の中で、キルシの身体が霧の如く掻き消える。
(『残像
……!』)
そうカッパ海坊主が気付くと同時に、キルシの当身が首筋で弾けた。
『……』
意識を失いばったりと倒れ込むカッパ海坊主の様子を見て、キルシはほっと胸を撫で下ろす。
「ふぅ……しっかり命令を下して頂けて良かったですわ」
正式に協会に認められていないとはいえ、キルシのメイド力は本物。主が何処の誰であれ、命令を下されたキルシの辞書に不可能という文字は存在しないのだ。
ふとキルシが周囲を窺えば、先程のアザラシが大量増殖を果たしていた。彼等は奔流の如く子供たちを押し流し、入口の外へと退避させている。
「……皆様、早く正気に戻ってくださいね」
あの子達と、わたくしのメイド業の為にも。一人密かにそんなことを呟くキルシなのだった。
成功
🔵🔵🔴
アナスタシア・ムスハルト
他に手はないみたいだし、自己犠牲も厭わないのは立派だと思うけど……託される側にしたら重すぎるのよねぇ
目指すならみんな無事の大団円、よ
身長的に子供に紛れてても気付かれなさそうねぇ
私も遊んでもらうわねぇ、力比べなら得意よぉ(サブジョブが力持ち)
刀は置いといて、相撲のルールで戦うわぁ
「怪力」で突っ張り、えいえい
その道のプロじゃないから技としては雑だと思うけど、単純な腕力のおかげで結構な威力だと思うわよ
相手の必殺技は至近距離じゃないと使えないみたいだし、直前の踏み込みを「見切って」張り手を掴んで「びったんびったん」で投げ飛ばすわぁ
それぇー
「力比べなら得意よぉ」
そう名乗りを上げたのは、アナスタシア・ムスハルト(小さな大剣豪・f24499)。
年齢的には高校生程だが、ドワーフである彼女の見た目は、周囲の小さな子供達と変わらない。
……いや、むしろ背丈だけで言えば、他の子より明らかに低い。
『よ~し、次は君だ!』
「負けないわぁ」
そんな自身の見た目を活かしアナスタシアは、子供達に混ざってカッパ海坊主にまんまと近付く事が出来たのだった。おまけに普段の得物である刀を物陰に置いておく徹底ぶりである
『はっはっは、かかってこ~い』
「いくわよぉ~」
両者立ち合い。先に仕掛けたのはアナスタシアの方だ。油断し切ったカッパ海坊主の方に向かっていくと――。
「えいえい」
『がはっ!?』
その可愛らしい掛け声とは対照的な、結構な威力の突っ張りがオブリビオンを仰け反らせた。
アナスタシアは力持ち。単純にして強力な腕力は、時にそれだけで異能に匹敵する効果を示す。
事実、相撲の力量で遥かに勝る筈のカッパ海坊主が、たちまち土俵際まで追い詰められていた。
『うおっ……!』
だが後が無くなったオブリビオンも禁断の手札を切る。必殺の張り手へと繋がる、神速の踏み込みを見せたのだ。
だがその踏み込みをアナスタシアは待っていた。張り手の射線を見切り――伸び切った相手の腕を、掴み上げる。
「それぇー」
『んぎゃー!?』
小さなアナスタシアを中心に、カッパ海坊主の身体が綺麗に弧を描いた。
そのまま投げ飛ばされ、背中から草むらへと落下するカッパ海坊主の安全を確かめると、ようやくアナスタシアは年相応のやれやれといった素振りを見せる。
「他に手は無いみたいだし、自己犠牲も厭わないのは立派だと思うけど……託される側にしたら重すぎるのよねぇ」
アナスタシアの言う通り、いつまでも悲壮な決意に浸ってばかりもいられないだろう。難しい状況だが、目的ははっきりしているのだから。
「――目指すならみんな無事の大団円、よ」
誰も殺さない。この『大祓百鬼夜行』に対する、猟兵たちの総意だ。
成功
🔵🔵🔴
オリヴィア・ローゼンタール
子供たちと遊ぶには、少々ロケーションが良くありませんね
歪められ、本意ではないのでしょう、すぐに開放してさしあげます
相撲のユニフォームとは趣きが違いますが、格闘用ということで中華服の姿に
参戦したがる子供には、格闘技は観戦し応援するのも参加の形のひとつですよ、と宥める
河童は腕力が強いと聞きます、正面から四つに組むのは避けるべきですね
強化された【視力】で張り手を【見切り】、【受け流す】
接触した瞬間、身体に纏った雷(属性攻撃)が迸って痺れさせる
【体勢を崩し】たところへ、【天霆轟雷脚】で脚払いからの【怪力】による突っ張りで場外に【吹き飛ばす】
うららかな春の日差しを浴びながら、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は辺りを見渡す。
UDCアースにはありがちな、放置された空き地。辺りには雑草に混ざってタンポポが繁茂している、そんな場所だ。
だがそのあちこちに、明らかに実用を意図して設置されたものではない、硬質の構造物が点在している。
(「子供たちと遊ぶには、少々ロケーションが良くありませんね……」)
オリヴィアの思う通り、こんな場所で相撲を取り続ければ、怪我人が出てしまうだろう。
河童の少女は思いを歪められているというが、元はと言えば人々を守る為に敵の軍門に下ったのだ。その結果、子供が傷付くような事があれば。
(「……それは、本意ではないのでしょう」)
オリヴィアがそこまで思いを巡らした時。
「わ、綺麗なおねえちゃんだ」
『君が次の相手かい?』
振り向けばそこにはカッパ海坊主と、彼女を取り囲んで押し合いっこをする子供達がいた
「はい。相撲とは多少趣が違いますが……」
そう語るオリヴィアが纏うのは中華服。女性的な魅力を引き出す大胆な服装でありながら、黒い縁取りに純白の色合いが高貴さを与えてもいる。
銀色の髪もポニーテールの要領でスッキリと纏められ、オリヴィアの美貌を際立たせていた。
見惚れるように見上げていた子供達に、オリヴィアは聖母の如き微笑みを向ける。
「ぜひ皆さんは観戦して頂ければ。応援するのも、参加の形の一つですから」
「じゃあそうするー」
「おねえちゃんがんばってー」
『よし、決まりだね!』
土俵に上がったオリヴィアはオブリビオンと対峙すると、赤いアンダーリム越しに相手の様子を窺う。
(「確か……河童は力が強い妖怪だった筈……」)
オリヴィアの美貌には及ぶべくも無いとはいえ、着物の下から覗くカッパ海坊主の足の筋肉は健康的な引き締まりを見せている。肩の襟巻から伸びた海坊主の双腕も見るからに強靭そうだ。
(「……。正面から四つに組むのは避けるべきですね……」)
事前にオリヴィアの想像した通り、目の前のオブリビオンは、凄まじい怪力を有しているようだ。
(「ならば!」)
「――のこった!!」
子供たちの掛け声と共に、カッパ海坊主は猛然と踏み込んで来た。
だが瞬時に敵の動きを見切ったオリヴィアも電雷の如き踏み込みを見せる。
『何っ!?』
勢いのままにオリヴィアが自身の肩を伸び切った少女の腕に擦過させれば、それだけで張り手の軌道は大きくずれていく。紙一重の往なし技だ。
二人の接触面で白い電光が迸り、カッパ海坊主の身体がぐらりと揺らぐ。
(『感電
……!?』)
オリヴィアの纏う中華服はただの衣装ではない。天より下された白雷をその身に宿した印だ。
「偉大なる天の雷鎚よ! 我が脚に宿り、邪悪を打ち砕け!」
回転と同時にオリヴィアが鋭い足払いを繰り出せば、直撃と共に白い稲妻が爆ぜ、体勢を崩したカッパ海坊主の身体を思い切り浮かす。
『ぐあっ!!』
「終わりです!!」
とどめとばかりにオリヴィアが掌底気味の突っ張りを放てば、最早カッパ海坊主には抵抗する術も無く、土俵外へと吹き飛ばされていった。
「ふぅ……上手く行きました。相手もだいぶ疲弊していますね。そろそろ子供たちも解放出来る頃でしょうか」
歓声を上げる子供たちの真ん中で、オリヴィアは一人そんな事を呟くのだった。
成功
🔵🔵🔴
リンタロウ・ホネハミ
ああ、女の子相手に手荒なことはなぁとか言えねぇお相撲の腕前をしてなすって……
無用に傷つけるつもりはないっすけど、これはちょっとガチでやんねぇとキツいっすね
ま、女性が真に望むことをしてこそレディ・ファーストっつーことで!
サイの骨を喰って【〇六三番之城砕士】を発動!
そんで土俵に上がったなら最初にやるのはこのお姉さんをはっ倒すこと……じゃなく
ふんっ!っと力任せに両足を地面に突き刺しちまうっす!
ほーら、これで少なくとも土俵からふっとばされるこたぁなくなったっしょ?
後は近づいてきた河童の姉さんを掴んで、突き刺さるほどしっかり地面を踏みしめて、ぶん投げる!!
飛ばした先が草むらだといいんすけどねぇ……
ひょっとすると、戦わなくて良いのではないか。
この場所を訪れたリンタロウ・ホネハミ(骨喰の傭兵・f00854)がそう思ってしまう程に、カッパ海坊主は見たところ普通の少女だった。
広場に描かれた土俵の真ん中で、リンタロウは対戦相手である少女を眺める。
「ああ、女の子相手に手荒なことはなぁ」
聞いたところによると、元は子供好きな優しい妖怪の一人なのだそうだ。
ならば出来るだけ穏便に済ませたい。当初はリンタロウもそう思っていたが。
『うりゃー!』
「おねーちゃんすごーい!」
「……とか言えねぇお相撲の腕前をしてなすって」
少女が鉄砲で電柱を揺らす光景を前に、即座に考えを改めた。
「これはちょっとガチでやんねぇとキツいっすね……」
正直、竜とか巨獣とか、その位の威圧感がある。
何よりあの威力を華奢な子供に発揮してしまった暁には、正気を取り戻したとしても本人が居たたまれないだろう。思いを巡らし、リンタロウは焦茶色の瞳を眇めた。
『お待たせ!』
そんなリンタロウの思惑など露知らず、ぴょんと土俵を飛び越えカッパ海坊主が近寄って来る。
『準備出来たよ!』
「あ、オレっちはまだっす!」
そう言って懐をごそごそと漁るリンタロウが取り出したのは……骨だ。それも極めて太く頑丈な、おそらくはサイのものだと思われる。
(「……ま、女性が真に望むことをしてこそレディ・ファーストっつーことで!」)
リンタロウはそれを口元に近付けると……一心不乱に貪り始めた。
誰もが呆気に取られる中、サイの骨がバリバリゴリゴリと音を立てて咀嚼される音が辺りに響く。
やがて音を立てて骨を飲み込んだ瞬間、リンタロウの体内でどくりと脈動が響いたかと思えば、血流に乗せて凄まじい力が駆け巡り始めた。
湧きだす力のままにリンタロウは右足を上げると――。
「ふんっ!!」
……その足を、土俵の土に深々と突き刺した。
続いて左足。二度に亘る地響きの後、リンタロウの体は完全に地面に固定されていた。
「準備オッケーっす! へへ、これで土俵から吹っ飛ばされる事はなくなったっしょ?」
『……くっ、飛ばせないなら、突き倒してあげる!』
悪戯っぽい表情で笑うリンタロウの顔目掛けて、豪速の張り手が迫る。
だが掌がリンタロウの頬を叩いた時、辺りに響いたのは炸裂音では無く、鉄を叩いたかのような硬質な音。
再びカッパ海坊主の表情に驚愕が浮かぶ。リンタロウの体表が硬化している。呪いの効果は力の増強だけではなかったのだ。
すかさずリンタロウは伸び切ったカッパ海坊主の腕を絡め取ると。
「でやぁっ!!」
――突き刺した足を地面に亀裂が走る程に踏み締め、そのまま渾身の力で後方へとぶん投げた。
カッパ海坊主の身体は空に綺麗な放物線を描き、凄まじい飛距離を叩き出して何もない草むらへと背中から着弾する。
「ふぅー……ま、何とかなるもんすね」
彼女の無事を見届けたリンタロウは、子供たちの歓声が響く中、一人胸を撫で下ろすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アディラ・トリーズナー
※アレンジ・連携歓迎
スモー?ああ、ジャパニーズレスリングか!
噂に聞いたことはあるぜ。要はド突き合いだろ?
だったらアタシの得意分野だ。楽しめそうじゃねぇか。
ハッケヨイ?よくわかんねー掛け声だな。言ってる間に無造作に30cm圏内に歩み寄っちまうか。
オラ、これでお互い射程内だ。正面切って殴り合い、楽しもうやァッ!
『獣闘気』を極限まで高め、鍛え上げた筋肉を引き締めて自慢の張り手をその身で受ける!
同時にコチラの《飢獣撃》を相手の土手っ腹に叩き込む!
あとはどっちが膝をつくか。それまで延々繰り返すだけだ!
衝撃に血と涎を吐きながら、最高の笑顔で殴り合いを楽しむぜ
ああ、良いね!こういう試合がしたかった!!
「スモー?」
土俵に上がりつつも、アディラ・トリーズナー(ブラッディ・ベア・f33222)は素っ頓狂な声を上げた。
スラム地下闘技場の実力者であるアディラ。彼女が普段使う格闘技は極めて荒々しいものだ。そんな彼女も名前くらいは聞いたことがある。
「ああ、ジャパニーズレスリングか! 噂に聞いたことはあるぜ。要はド突き合いだろ?」
『えーと……?』
思わず声を上ずらせるカッパ海坊主だが、アディラの認識は概ね間違っていない。現にアディラの目の前には『ド突き合い』の名手がいるのだから。
またの名を河童大相撲。彼女の必殺の張り手をその身で受ければ、猟兵であってもただでは済まないだろう。
だが何とアディラは――ずい、と白線を超え、自分から前に出た。
『わ、わ』
「だったらアタシの得意分野だ。楽しめそうじゃねぇか」
その見事なまでに鍛えられた胴体を、アディラは相手の間合いに晒した。
「オラ、これでお互い射程内だ。正面切って殴り合い、楽しもうやァッ!」
『……!』
挑発じみたアディラの言葉が響いた直後、カッパ海坊主が豪速の風と化した。
ドォン!! と、撃砕音にも近い音が響く。
「がっ……!」
特殊金属製の装甲服越しに胴体に突き刺さった凄まじい衝撃に、アディラがゴーグルの奥で目を剥く。
だが意識を失うまでには至らない。それを為したのは咄嗟に引き締められた強靭な筋肉と、オーラの域まで高められた野獣の闘気だ。
「今度はこっちからいくぞオラァ!!」
『うぐっ!?』
今度はカッパ海坊主の土手っ腹へと、血潮を思わせる深紅の拳閃が叩き込まれる。
膝を付く直前で足を踏ん張ったカッパ海坊主が顔を上げれば、そこには血反吐と涎に塗れた口角を吊り上げ、微笑みかけるアディラの表情があった。
次の瞬間、アディラとカッパ海坊主の間を、拳と張り手が猛スピードで交錯した。
ガードなど無粋とばかりに殴り合う。体を揺らす衝撃。飛び散る血と汗と涎。それら全てが新たな快感となって互いの身体を駆け巡る。
両者笑みを浮かべたまま一歩も退かない。その光景は、いっそ荘厳ですらあった。
「ああ、良いね! こういう試合がしたかった!!」
それこそはアディラの嘘偽りのない本音。戦いの中に生きて来た彼女の、最も心休まる時。
だが楽しい時間は長くは続かない。必死で喰い下がって来たカッパ海坊主が、遂にその体をふらつかせたのだ。
「――」
万巻の思いを込めてアディラは拳を握り込むと――全力の一撃を相手の鳩尾に目がけ叩き込んだ。
成功
🔵🔵🔴
迅雷・電子
【心情】素直に相撲を取れか…あたしにぴったりじゃんか!正々堂々やるよ!相手は前に戦ったあの河童の娘か…思いっきり取ろうじゃんか!
【作戦】私は女横綱を目指す者だ!さあ、相撲を取らないかい!?と誘って相撲開始だよ!
【怪力】で相手の腰部分を掴んで投げたり、張り手で【吹き飛ばし】たり相撲を楽しむよ!相手の張り手や投げは張り手などで【受け流し】たり【見切り】で回避したりするけどたまに食らっても【激痛耐性】で耐えるよ!「いいねぇ、やっぱり相撲は楽しいよ!あんたみたいな本気な奴と取り組むと余計にね!」(絡み・アドリブOK)
「私は女横綱を目指す者だ!!」
大きな声にカッパ海坊主が振り向けば、レギンスの上からまわしを締め、胸にはさらしを巻いた少女がいた。迅雷・電子(女雷電・f23120)である。
「さぁ、私と相撲を取らないかい!?」
電子の堂々とした態度と良く鍛えらえた身体を見て、カッパ海坊主の方も今の状況を察したようだ。
『あたしと同じ力士だね? 良いよ!』
双方土俵に上がり、互いに見合う。
「はっけよーい……」
(「それにしても、素直に相撲を取れか……あたしにぴったりじゃんか」)
女横綱を目指して毎日続けて来た鍛錬。その成果を本気でぶつける機会が訪れた事を、電子は心密かに感謝する。
そして編笠に半分隠れた相手の顔を見た瞬間――突如電子の脳裏に、とある幽世での出来事が去来した。
(「あんた……」)
だがすぐにほくそ笑み、眉を吊り上げて相手を見据えた――次の瞬間。
「のこった!!」
子供たちの声と同時に二人の肉体は弾丸と化し――衝突。
衝撃に耐えた電子は素早く相手の腰帯を、カッパ海坊主は電子のまわしを取る。
渾身の力で押し合っていたかと思えば、海坊主の長い双腕によるはたき込みを、電子は肩に受けつつも巧みに往なし、すぐさま突っ張りの乱打を繰り出す。
一歩も退かない真っ向勝負を、電子は心の底から楽しんでいた。カッパ海坊主も、恐らくはそうだっただろう。
「いいねぇ、やっぱり相撲は楽しいよ! あんたみたいな本気な奴と取り組むと余計にね!」
勝負は一瞬。怯みを見逃さず先に相手を差したのは――電子の方だった。
『うおっ!?』
上手から回しを取り、右腕に力を込めればカッパ海坊主の素足が大きく持ち上がる。
次にはその身体が大きく横転し――電子の目の前で土を撒き散らしながら仰向けになった。
決まり手は、豪快な上手投げ。電子の勝利である。
『ま、負けた……』
そう呟いた少女の体から海坊主の骸魂が抜け出たかと思えば、尾を引くように天へと昇って行った。
周囲の奇妙な建造物はいつしか消え去り、ただの草地に戻っていた。子供たちが不思議そうに周囲を見渡すのも見える。
オブリビオンが猟兵たちに破られた事で、『超芸術トマソン』もまた、その役目を終えたのだった。
やがて河童の少女がぱちくりと目を瞬かせる。その目には光が戻っていた。
土塗れの彼女に微笑む電子が手を貸せば、少女は何かを思い出したような素振りを見せると、微笑み返しながらその手を取るのだった。
大成功
🔵🔵🔵