英吉利郊外。人狼卿と呼ばれる領主が治める土地がある。
人狼卿といっても、人狼ではない。大犬の獣人というべきか。
怪奇人間の先祖を持ち、獣の似姿を持つ彼は、その身体能力を生かした領主軍を率い、武門の雄としての地位を保っていた。
岩犬。灰色の毛並みにそう呼ばれもする彼の領地には、怪奇人間が集まる傾向にあった。特にその領主館の使用人は、その殆どが怪奇人間であった。
舞台はそんな館の中。とある夜に起こる。
◇◇◇
館が燃えている。灰を巻き上げ、霧煙る夜をごうごうと照らしている。
「じい! じぃ……ッ!」
事は突然ではなかった。初めは賊の襲来。番をしていた警備兵がその撃退へと向かうその一方で、館に侵入した賊が館に火を付けた。油と火薬に盛る炎は瞬く間に館を包み込む。
「じいや……ッ」
使用人が次々と炎の舌に巻かれ死に絶える中を、老執事が少年の手を引いて脱出した。
主人は都市へと上り留守の中。守るべきその子息を守る事を最優先に、彼は地獄を駆ける。どう警備兵を抜けたのか、剣を持つ賊が館へと雪崩れ込み、息を吸えば肺も焼けるような業火の中でも剣を振るい、生き残りを屠っていく。もはや誰が誰かも分からない。
それをかわし、いなし、どうにか森へと抜けた老執事の背を、不条理な刃が貫いた。
「じ――」
「……お逃げ、くださ、い」
絞り出す嗄れた声。それは降った次の刃に事切れる。
「……」
領主子息は、ただ震えそれを見上げた。その回転の早い脳裏に、その影の名が浮かぶ。
出現地からある種の意図を読み解き、辿り着いたそれを使役する団体の朧気な輪郭。そもそも領主夫妻がここにいない直接な原因。
「切り裂き、ジャック」
直後少年の腹に刃が走る。
燃える館の音にかき消され、その断末魔は誰に届くこともない。
◇◇◇
「ふん。お前達が例の『超ド級戦力』か」
というわけで、領主館。
既に領主夫妻は不在で、相対するのはその子息だった。
齢十四、五の獣人の少年は椅子にふんぞり、猟兵達を睥睨する。
「まあ、そういう事なら、僕を守ればいいさ。『超ド級戦力』とやらの実力を見せてもらうとするよ」
嘲るような態度に、空気が冷めきっていく。誰とも言わず、互いの雰囲気が盛り下がるのを感じ取っていた。
そんな時、部屋の隅で静かに気配を殺していた老執事が徐に猟兵達の傍に近付き。
ぱさ、と懐から絨毯の上に雑誌のようなものを置いた。
そして。
「おおっと、こんな所に『昨晩楽しみにしていて寝れなかったから読み耽っていた、わざわざ櫻都から取り寄せたお坊っちゃまの猟兵特集コレクションの一冊』がー!」
「じい!? 今懐から出したよね!? さも落ちてたみたいに言ったけど!!」
横柄な態度もどこへやら、軽い身のこなしで絨毯の上の雑誌を抱え上げた子息が吠える。
俊敏な動きは成る程、武門の子というだけあるだろう。雑誌を大切そうに抱えて、顔真っ赤だが。
「大変失礼いたしました、私の不注意でございました」
「違うよね! わざとだよね!!」
深々と頭を下げる老執事。子息はひどく気まずそうに、猟兵達にびしっ! と指を差した。
尻尾は嬉しげに振られている。
「ともかく! 僕をちゃんと守れよ!」
そんなこんなで猟兵は、館の使用人に扮して襲撃を撃退することとなったのだった。
熱血漢
ケモノな館のシナリオです。
使用人に紛れて、とある犯罪集団の情報を掴んでしまった領主の子息を殺そうとする賊を撃退してください。
第一章
掃除したり、警備したり、厨房にたったり、使用人として過ごしてください。
猟兵という存在に憧れる子息の影響か、使用人は皆猟兵ファンなので、話しかけられたり、コミュニケーションを過剰に取ろうとしてきたりするかもしれませんが、外部から変に思われないよう、使用人としてふるまう場面です。
第二章
集団戦です。使用人や子息を守る闘いになります。
第三章
ボス戦です。館に襲いくる『切り裂きジャック』を撃破してください。
よろしくお願いします。
第1章 日常
『憧れの超弩級戦力』
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POW : ひとりひとり丁寧に対応する
SPD : 足早にその場から離れる
WIZ : お忍びであることを説明し、静かにしてもらう
|
片桐・公明
【SPD】
ハウスメイドの格好をして、雑巾とバケツ等の掃除道具を用いて
屋敷内を掃除して回ることで潜入する
潜入するためのロールプレイだが作業の手を抜くことはなく、
戦闘用の技術を応用することで完璧にこなす
コミュニケーションについては普通に応対するが、
二言三言交わした後、作業中を理由に中座する
(潜入用の技術を磨いたほうがいいかしら。父さんが確かそんな方法を持っていたはず。)
屋敷の掃除と同時に脳内でマッピングをし、
UCを利用することで敵の急襲経路を予測しておく
(絡み、アドリブ歓迎です)
一人のハウスメイドが、窓を磨いている。曇りひとつ無いように丁寧に磨かれる窓ガラスは、無色透明な金属のように澄んだ光沢を放っている。
普通であれば重労働であるはずの上部の清掃でさえ、見ていればまるで子供にでもさせてしまえるような簡単な作業に思えるのは、その余裕が見せる幻覚だろうか。
「――よね」
「――、ほら、――」
青髪のメイド、もとい猟兵である片桐・公明(Mathemの名を継ぐ者・f03969)は、ふと同僚――と言う体である元々の使用人、の視線と言葉を意識の端で捉えていた。
猟兵という存在が珍しいのだろう。それがやっかみや嫌悪からの意識ならば、多少攻撃的な対応も考えただろうが、そうではない。
むしろ、くすぐったい好意を強く向けられている。
「どうかされました?」
公明は、仕方がないと、ため息を隠して彼女らに声をかけていた。
怪しい視線は感じないが、窓に面しているここで、変な動きをされてしまえば警戒される可能性もある。予知通り襲われる、という未来を変えたくはない。
「あ、あの……櫻都では、やはり怪盗と探偵のロマンスがあったりするんでしょうか……!」
「櫻夜どろけひ事件簿のような……!」
「……」
そう考えた矢先の予想外の質問に公明は答えを返しあぐねた。どうやらその作品の中で猟兵の活躍のあるらしく。
「そう、ですね……そのようなこともあるかもしれませんね」
公明には不自然でない間に、無難な答えを返すのがやっとだった。
会話を交わし、そろそろ職務に戻ると告げたあと、彼女らも仕事に戻ってくれたのでよかったが。
(……潜入用の技術を磨いたほうがいいかしら)
公明の父親――公明に戦闘における妙手を教えた彼ならば、恐らくもっと上手く自然に彼らを宥めたのだろうと思う。
とはいえ、それはこれからの課題だ。今教えを乞うべき人物はいないのだから、やるべきことをやる。公明は瞬き一つで反省から行動へと気持ちを切り替える。
(これで全て……流石に巧妙ね)
公明は、ただ紛れる為にメイドをしているのではない。屋敷のマッピング。更に敵ならばどう侵入するのか、とシミュレーションを重ねていた。
壁と廊下、部屋の配置から隠し通路の存在も見抜いてはいるが、侵入するのは困難な作りになっている。
(私なら、難所に見える正面をこじ開ける)
一人ではない。ならば、やはり囮による混乱に乗じた、全方位からの侵入、即放火。
どう殺す。先ほど会話を交わしたメイドを、あの警備兵を、子息を。私ならどう殺す。
掃除を完璧にこなしながら、脳裏では戦盤を動かし続ける公明は、鋭く館まわりの庭向こうの森を見つめるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
芦谷・いろは
茶目っ気たっぷりな執事さんと
世にいうツンデレ?な感じのご子息って感じですか?
こんな仲のいい主従のお家に賊が侵入するとか
賊の方々は空気が読めない方なんですね
いろはは使用人さんになるのは初めてなんですよね~
ちょっとワクワクしちゃいます!
【コミュ力】等を使い本物の使用人の方と楽しくおしゃべ…ご指導願いながら
お掃除しつつ、館内で【情報収集】していきます
館内部で避難に使えそうな経路とか
あとは消火関係で使えそうな水場の位置とか
【ロープワーク】や【罠使い】の技能を使って
賊用に罠とか仕掛けられたら良いんですけど?怪しまれたら元も子もないので
程々に頑張ります
怪しい人がいたらUC使用しつつ
他猟兵と情報共有ですね
(ふふ……仲の良い主従さんでしたね)
芦谷・いろは(傀儡使い・f04958)は、子息と老執事のやり取りを、笑みを柔く握る手で隠しながら思い返す。
子息が怒り慣れているのを見る限り、あのやり取りは日常的なものなのだろう。
ふふ、といろははまた笑みを溢しながら、前を歩く使用人――新人であるいろはの指導役である先輩――が不思議そうに振り向いた視線に、慌てて頭を下げた。
使用人としては『粗相』なるだろうか。
「す、すみません」
「いえ。しかめ面で館を暗くするよりは良いでしょう」
にこりともせず涼しい顔で、彼女はいろはに返す。
「ですが、分は弁えるようお願いします」
「あ、はは……」
釘を差されたいろはは、曖昧に笑って返す。
(使用人は色々考えないといけないんだなあ)
初めての体験だ。やはり物語には欠かせない立ち位置である、使用人というものに扮する今。ワクワクと心躍り浮き足だってしまいそうな自分をどうにか落ち着けて、先を行く使用人や仕事をする他の使用人と会話を交わす。
「……」
いろはは、猟兵である自分に快く答えてくれる使用人達に感謝をしながらも、子息の主従に抱いていたような感情を次第に大きくしていた。
「町に新しくできたカフェの焼き菓子が――」
「え、厨房見習いとあの方……? 隅に置けないですね」
会話は他愛もないものと。
「やはり、襲撃があるのですね」
「ご子息様をお守りください。私どもはどうにか逃げおおせるでしょうから」
ここに猟兵がいる意味を察するもの。
そして、そこにある確かな信頼。
彼女達も守りたい。そんな感情が大きくなっていく。
(ここに罠を……ううん、避難時に妨げになります、よね)
その思考は侵入者を撃退することから、侵入者から守る思考へと変わっていく。怪しまれないように細心の注意を払いつつ、絡めとる死を遠ざけるように。
(それと、屋上に消火用のタンク)
恐らく予知のなかでは複数の出火によって十全に効力を発揮しなかったもの。
(罠で出火元を誘導すれば……防ぐにしても誘導は有効ですよね)
「あの……」
ひとしきり館を見て回り、防御策を考えるいろはに、案内してくれた使用人が頭を下げた。
「お坊っちゃまを何卒よろしくお願いいたします」
整った所作の一礼に、いろはは一瞬目を奪われる。下げられた頭は上がらない。そのわずかに震える手は死の恐怖よりも、子息を案じてか。
「はい、必ず」
いろはは頷く。
必ず、彼も、彼女達も守って見せると再度胸に抱きながら。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「ご注文いただいたケェキセットの配達に参りました。この度はご贔屓戴きまして、誠にありがとうございます」
出張アフタヌーンティーセット一揃いを準備して、にこやかに一礼
帝都のミルクホールで働く現役のパーラーメイドなので、出張出前に来たパーラーメイド、という設定を貫く
裏口から台所方面を中心として現場の確認
料理スキル駆使して美味しいお茶を淹れスコーンやサンドイッチ等も準備しアフタヌーンティースタンドに盛り付け
無言でニコニコしながら壁際に控え、UC使用
裏口や外壁、庭を確認させる
(何時に侵入するかでも使用経路は違うでしょうけれど。それでも人目につきにくく侵入しやすい経路はある程度限られると思うのです)
「ご注文いただいたケェキセットの配達に参りました。この度はご贔屓戴きまして、誠にありがとうございます」
にこやかな笑顔を振り撒きながら、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は厨房に繋がる勝手口から館へと入っていった。彼女はそのまま庭へと抜けると、片隅の東屋へと向かいティーセットをセットする。
「……」
桜花は、町から館までの道中を実際に歩き、警戒していたが怪しい気配はない。町の様子もいたって平穏。領主の評判も篤いものだった。
(少なくとも町の人達が襲ってはこないでしょうね)
館に入るには、警備の網の目を抜けた侵入か。もしくは、警備に止められない身分を提示するか。少なくとも町の総意として好意を向けられている領主を、急用として警備を抜けられるだろう有力者達は襲撃しないはずだ。
ならば、やはり侵入。襲撃は別勢力ではないと考えるべきだ。
(何時に侵入するかでも使用経路は違うでしょうけれど)
警備を襲撃で乱し、別動隊で侵入する。となれば始めの襲撃は『必ず見つかり、その報が伝わる』必要がある。
(その上で、別動隊として人目につきにくく侵入しやすい経路はある程度限られるはずですね)
手慣れた丁寧な手付きでアフタヌーンティースタンドへと菓子やサンドイッチを盛り付けていく。茶器を温める。温度は完璧。湯の温度は低めに甘く、茶葉はスタンダードに香り高く。大人向け、ではなく、今老執事とともに歩み寄る子息に合わせた大人びたような飲みやすいように。
「ようこそ、おいでくださいました」
桜花がにこやかに一礼し、子息を歓迎すれば、彼はフンと一瞥のみで席につく。どこか嬉しげなのは気のせいではないだろう。
紅茶を注ぎいれた桜花は、あとは意識の端に控えて子息のひとときを支えるだけだ。無理に離れることは出来ない。その代わり、召喚した蜜蜂達に裏口や外壁、他の庭を回らせて、目を光らせる。
柔らかな笑みを湛えたままに、桜花は来るべき時に向けて、意識を研ぎ澄ませていく。
大成功
🔵🔵🔵
卜一・アンリ
◎☆
使用人の振る舞いなら実家で見ているもの。(実は高貴な血筋の家出娘)
【礼儀作法】に少しばかり【演技】を加えてそれらしくしましょう。
厨房に素人が立てるわけもなし、警備員として屋敷の周りを巡回するわ。もし制服とかあるのならお借りしようかしら。
警備員がお喋りなんてしてたら職務怠慢だもの、他の人に話しかけられても少し【威圧】すればあしらえるでしょう。
例のご子息様の場合は適当にお相手を。
【手をつなぐ】とかしてみれば子供扱いを嫌がって離れていくやもだし
そうでなくともご子息様の遊び相手なら、まぁ職務の範疇でしょう。
細腕ながら【怪力】は持ち合わせていますもの、何ならアームレスリングでもいたしましょうか?
僅かに寂情を浮かべる。
卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)は、多くのものが働き、技を捧げる雰囲気に懐かしさに似た感情を覚えていた。
「……家を捨て、名を捨てたというのに、今さら感傷だなんてね」
誰にともなくトーは呟いた。
警備兵の制服に身を包む。少ないながらも女性の警備兵もいるらしく、トーの体に合うものもいた。身に付いた所作に、見慣れた振る舞いを演技で重ねて、トーはまるではじめから居たかのようにその場に紛れ込んでいた。
外部から見れば、彼女に変わった点は無いのだろう。
だが、しかし。やはり憧れの猟兵が同じ制服を着、傍にいるというのは些かに彼らの平常心を乱すらしく。
「あ、あの……」
「……なに、かしら?」
穏やかに、しかし、圧の強い口調。制帽で大半が隠れる前髪を整えて話しかけてきた警備兵をそれで一蹴してのけたトーは、撃墜した男から館回りの森に目を向けた。
森から数十メートルは、背の高い草も払われた草地。そこから堀があり、庭へと続いている。
視界は開けている。発見は容易いが、堀を越えられれば館への障害は少ない。聞けば、様々な特徴をもつ怪奇人間の多いこの地の兵が存分に力を振るえる形なのだという。
だが予知では最終的に突破されている。背後の館の火炎に焦ったか。それとも。
「調子はどうだ?」
「……異常はありません」
思考するトーへと声がかけられた。若い声。この館でその幼い響きを残すのは子息だけだ。振り向かず返答したトーに、面白くなさそうに子息はその顔を覗き込んできた。
「手でも繋ぎたいの?」
「ばっ……!」
肩でため息を吐くようにからかってやれば、全身の毛が風船のように逆立って、子息ははねとんだ。
「そ、そんなわけ……!」
「ああ、いえ、アームレスリングでもご所望なのかと」
「……、そ……! そうだ、そういうことだ!」
という子息の後ろで老執事が警備兵に視線で頷いた。
恐らく暇潰しとしては定番なのだろう。警備兵は手早く台を引きずってくると、ほんの数秒で対戦会場が出来上がる。
「さあ、負けても文句は聞かないからな」
子息は、自信ありげにそう腕を置いた。トーがその腕をとる。
◇◇◇
数分後、トーは子息の背を見送っていた。
結局。数センチすらトーの腕を動かせず、やや不機嫌な振る舞いを態とらしく見せながら館へと戻っていくその背中。
「ええ、ええ。お強くらっしゃって嬉しかったですね、お坊っちゃま」
「何も言ってないだろ! 勝手に代弁するな!」
「おや、心の声でございましたか」
老執事がやけに嬉しそうに話しかける声を尻目に、トーは再び警備に意識を向ける。
口許に笑みが浮かぶ。
どうにも、この家は嫌いになれそうになかった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『紅き妖刀』
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POW : 人を喰らい、人を斬る
自身の【宿主の生命力】を代償に、【妖刀を装備し、身体能力を強化した宿主】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【達人級の剣術】で戦う。
SPD : 心を喰らう呪い
自身に【忌まわしき呪いのオーラ】をまとい、高速移動と【精神を蝕む呪いの刃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 奥義:紅刃十連撃
【宿主を操り、必殺の奥義】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
👑11
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侵入者。その報を聴いて駆けつけた警備兵は、その姿を見据え、そして驚愕に身をすくませた。
それらは、紛れもなく彼らの友人――もしくは隣人。町に住む人々であった。
彼らが、剣を握り虚ろな目を差し向けたままに刃を走らせる。警備兵は、その凶刃を防ぎながらも、しかし、困惑を隠せずにいた。
非情に、徹せずにいた。
ともすれば、ほんの昨日。領主の事を称賛し酒を酌み交わしたような顔ぶれが、反旗を翻している。どうして、そう考えるよりも早く、身についた反撃の手が彼らの命を刈り取らんとするのを、どうにか押し止める。
兵士とて、町で暮らす一人の領民である。歯噛みする。叫びを上げる。何故だと問う。その声に返る答えはなく。
ああそうか。
猟兵は思う。
彼らはそうして、迷いの中に斃れたのだ。
傷つける事を躊躇い、意識なき傀儡の剣士がその方位を潜り、火を付け、使用人をなぶり殺しにしたのだと。
予知にはない足が、戦場の土を踏む。
その悲劇を回避するために猟兵は、ここにいた。
◇◇◇
領民達との戦闘です。
彼らは武器に操られているので、持っている剣を破壊すれば、無力化できます。
数で押してくる領民達を解放してください。
御園・桜花
「傀儡自体が麻痺してしまえば。如何に妖刀と言えど、その身体を無理矢理動かすのは難しいでしょう?」
棍状に握り込んだ桜鋼扇に雷属性付与しUC「桜鋼扇殴打」
最前線に殴り込んで受け止めた刃を伝い感電させ二擊目で妖刀を叩き折る
操られた人の負担にならないよう必ず二擊で仕留め、焦らず1人ずつ無力化していく
敵からの攻撃は第六感や見切りで躱す
「人を斬り殺し続けたいからこその妖刀ですもの。斬り殺せそうな相手が剣の届く範囲に居れば、それを優先するでしょう?」
戦闘後はまず怪我人や昏倒者の救護手伝い
「刀は斬るためのものですが、全ての刀が妖刀にはなりませんもの。次は使い手に恵まれますよう…」
その後小さく鎮魂歌歌い送る
片桐・公明
潜入用の衣装のまま戦闘をする
【POW】
普通とは異質な気配を感じ、他の使用人を誘導して避難させる
(殺意敵意はあるけれど、素人かしら?)
敵と相対し攻撃をUCで踊るように数撃避けて状況を察する
「人ではなく妖刀が本体なのね。」
「達人級にできても達人ではないから詰めが甘いわね。」
敵情分析が終わったら妖刀とUCで攻撃する
「目には目を、ってところかな。」
ただし人体は狙わず、妖刀に攻撃を集中させる
人の手から妖刀を弾き、2つに叩き割る
「それじゃ、私は次の敵を倒してくるから。あなたはご主人様と一緒に避難していなさい。」
物陰に隠れて戦闘を見ていた使用人たちに対して、少し呆れながら言う
(絡み、アドリブ歓迎です。)
館の庭園。山が陽を隠し、夜の風が吹き始める頃。
妖の剣が風を裂いた。
「……やっぱり」
使用人の制服のまま片桐・公明(Mathemの名を継ぐ者・f03969)は、館へと近付こうとした侵入者の刃をかわす。鞘に押し込めたままの2尺半の刀でそれを弾いては、卓越した技量による体勢の立て直し。そしてそれに続く、肉体の鍛練不足から来る重心の乱れを見抜いて、掌打を放つ。
「――か、ッ!」
スバン! と小気味良い音と共に、その剣の使い手が弾かれる。自らの腕にダメージの殆どを吸わせて、押し弾く活人の武にて距離を取った公明は、接敵の瞬間から感じていた違和感の答えを導きだした。
◇◇◇
「どうして!?」
ほんの少し前。漂う異様な気配に、襲撃が来ると直感した公明は、その始まりよりも早く避難を開始させていた。だが、使用人を避難させる最中に襲撃は始まっていた。その時連れていた使用人の言葉。
彼らは領民だという。公明が考えたのは、領民による暴動だった。
「……そんな。いいえ、ですが」
だが、公明の意見に深くそれに違和感を覚えたのは、町へと下りて材料などの調達を行っていた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。
「町の方々はとても好意的に語っていらっしゃいました……、ですから――」
お客様の表情を間近で見続けている桜花は、断言する。だが、現実は、物語っている。それは領民の暴動だと。
目の前の現実に違和感を覚えながら、しかし、現状を否定できない桜花は『暴動を起こすはずがない』と口にすることを憚った。
避難させていた使用人達は、口々に戸惑いを述べる。彼らも、信じがたい光景なのだろう。
「何か、……理由が」
そう桜花が言う。
公明とて、拭えぬ違和感はあった。故に決めたのだ。
庭園にて対敵直後、様子を見る、と。
◇◇◇
「剣……! 本体は剣、桜花ちゃん!」
弾き返した領民とは別の男が、剣を振りかざす。
だが、『剣』は、気付いているのだろうか。『その体』は、恐らく腰や脚の柔軟性がその技量を引き出すに足りていない。
その癖腕の力が強いせいで、剣の振りと下半身の捻りが、ほんの僅かにずれている。それでもなお、一般人には勝ち目のない卓越した一閃。
だが、公明は引かない。体を沈め、柄を握る。抜刀――その、一瞬に神経を研ぎ澄ませる。
「――詰めが甘いわね」
心技体。心を奪い、技を継がせようと。体が伴わないのでは、達人とは言えない。
「剣だけ、狙います!」
桜花の声は声を返した。
公明は、彼女の頭に振り下ろされた剣を僅かな身動ぎにて回避。地面を掘る剣。その手首を柄で殴り、無理やりに手を離させた刹那に、妖刀が閃いた。
剣を乱刃が喰らい破る。
「傀儡、という事ですね」
桜花は安堵する。敵は領民の悪意ではない。であるならば、臆することはない。
「――ッ!」
踏み込んできた女性の横薙ぎを一歩下がって避ける。その桜花を追い、放たれた突きの一撃。
(ごめんなさい。少し――痺れます)
桜花は、その踏み込みに合わせて自ら前進する。握るは桜花舞う鋼扇。短棍のように畳んだそれから、一つ稲妻が走る。
剣刃と鋼扇がぶつかり合う、瞬間、春雷が駆けた。――鋼扇に宿した精霊が、体を縛る電を走らせたのだ。
「――!」
桜花が動く。もはや、妖剣握る体はそれを追うことすらできず、無防備にその刃を桜花に差し出すばかり。
「終わりです、どうぞ穏やかに」
鋼が走る。雷撃がその威力を底上げし、一撃の元に剣は半ばから吹き飛んで、その支配を霧散させるのだ。
◇◇◇
「斬り殺せそうな相手が剣の届く範囲に居れば、それを優先するでしょう?」
人を切り殺す、その執念を宿す存在に、自ら姿を晒して囮とする。その中で使用人には逃げてもらう。
そんな作戦を率先した桜花は、今、その打ち砕いた妖剣たちへと鎮魂の歌を歌っている。
滅私奉公。甘い考えだと思う反面、それを嫌う気にもなれない。
いや、それを好ましいと思いながらも、やはり甘いと断じなければならない、という方が正しいだろうか。
「……あなた達」
公明は、庭園の東屋に身を潜めていた使用人を見下ろし、呆れてみせた。
どうやら好奇心に負けて戦闘を眺めていたらしい。避難の際、護衛をつけるのはその安全を確保する、以上に勝手な行動を妨げる意味合いが強い。
恐らく途中から本格的に恐怖が来て動けなかったらしい彼女達は、まあ、これ以上勝手はしないだろうけど。
「あなたはご主人様と一緒に避難していなさい」
「は、はい!」
と駆け去る背を見送った公明に、桜花が歩み寄っていた。
「ありがとうございます」
「……気づいてたのね」
「はい。気配には多少敏感ですから」
桜花は言いながら、自分よりも先に気付いていたのだろう、と心中で謝意を告げた。
公明もまた彼女達を庇うよう立ち回り、桜花はその立ち回りをみて気配に気付いたのだから。
「それじゃあと一仕事、終わらせなきゃね」
「はい」
二人は頷きあう。
森の中。霧の出始めた夜に潜む影の気配に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
卜一・アンリ
◎☆
【ダッシュ】で接敵し【指定UC】。繰り出される敵の斬撃を【見切り】、退魔刀を抜き打ち(【クイックドロウ】)【武器受け】【カウンター】。
宿主には当てず本体の妖刀を叩き折るわ。(【怪力】【部位破壊】【武器落とし】)
笑わせないで。型はともかく踏み込みや腕力、身体の方がまるで出来てない。借り物じゃ当然でしょうけど。
警備兵には解放した宿主だった人を預けてそのまま使用人たちの避難をお願いしましょう。
戦えないなら邪魔なの。逃げて、そして一人でも逃がして頂戴。
敵の迎撃と並行してご子息や執事さんの居場所を【情報収集】、護衛の為に合流するわ。
火事の対処まで手は回らないわね、そこは他の人に期待するとしましょう。
翻弄する。
その体を翻し、敵を弄ぶがごとく。
卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)は恐れもなく踏み込んだ。迫る刃。研ぎ澄まされた剣閃は、紛れもなく秀でたそれで、トーの急所を一撃で穿つ殺意の凶器。
だとして、しかし、彼女を捉えるには能わない。
「笑わせないで」
冷たく言い放つ。
それで、それごときで、私を上回ろうと言うのか。
型は綺麗だ。永年の鍛練を見ているような、無駄の削がれた運び。『如何に人を切る剣として扱われてきたか』が分かる。
だが、それだけだ。宿したのは剣の記憶か、士の記憶か。それは定かではないが――稚拙だ。
駆け抜ける。
退魔の刀を抜き放ちながら、踏み込み、風と身を同化させるように。
落とされた刃は彼女の残像を斬り、薙いだ刃は打ち上げられ、背を狙う刃は唐竹割に両断される。
トーという旋風が駆けたそのあとに、散るのは刃の破片。
稚拙だ。
その踏み込みも、腕の運びも、呼吸一つも、その剣を振るう技に何一つそぐわない。まるで、出来てはいない。
「借り物じゃ当然でしょうけど」
それにしても武芸に秀でた人間を支配したならば変わったのだろうけど。
「た、助かった……、これは一体?」
「操られてたのよ、この剣に」
もはや脱け殻となった剣の柄を踏み、トーは攻めあぐめていた警備兵に、その正体を教える。
「だから、剣だけを……」
「ええ、あなた達は出来る?」
トーは問う。まるで自己顕示のような言葉だがそうではない。
領民を殺したくない、というのは分かる。だから殺さず救うには、この技量を持つ操り人形相手にそれだけの力量を示す必要がある。
でなければ死ぬだけだ。
「戦えないなら邪魔なの」
突き放すように、しかし、僅かに笑んで見せる。
「逃げて、そして一人でも逃がして頂戴」
「……っ、分かった」
それは、ここは任せろと言う意思表示。
警備兵は、頷いて意識を失ったままの領民を運び、館へと向かっていく。
いくつかの衝突を経て、トーは徐々に霧の出てくる夜の空を見上げた。
気配は薄まっているが、それでも最後の一欠片が残り続けている。
館を振り返る。火事は起きていない。
猟兵の誰かが侵入者の対応に回ってくれたのだろう。
(――目的は、子息殺害。なら)
次の一手は、この残る気配による子息だけを狙った襲撃。
家事が起きていないならば、安全はむしろ館にある。ならば子息達は執務室か。警備がその部屋を守っているはずだ。
トーは、警備兵も残されていないはずだと、その脚を館へと向け、かけだすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
芦谷・いろは
◎
本当賊の方々はゲスで空気が読めない迷惑な方々なんですね
ちょっといろは怒っちゃいますよ
UC【傀儡の宴】を使用
数で押してくるのでしたら、こっちも数です
出来るだけ柔らかい素材のヌイグルミ召喚して、領民さんに大きな怪我させない様に気を付けつつ
剣を狙ってもらいます。奪うなり破壊するなりしちゃってください、ヌイグルミさん!
あと《ロープワーク》や《罠使い》の容量で操作糸を領民さん達に絡ませて
身動きを取りにくくさせるって事出来ませんかね?危なそうなら止めておきますが
あと出来れば
《聞き耳》や《第六感》等を使い逃げ遅れたりした使用人さん達を探せないかなと
見つけられたら安全な場所まで連れて行くか、全力で護ります
「ふう」
床に転がる無数の屍の中で、芦谷・いろは(傀儡使い・f04958)は息をついた。
「本当、賊の方々は『ゲスで空気が読めない迷惑な方々』なんですね」
屍。と言っても領民達ではない。彼らを操っていた武器の、その残骸だ。
狙いは、分かりやすい。
もし、この襲撃が画策した者の思い通りになれば、この事件は影朧の事件ではなく、領民が暴動を起こし、鎮圧できなかった事になる。人狼卿の運領能力、武勲は地に落ちるだろう。
影朧を使役する団体の情報を進言しにいった人狼卿。その言葉の信憑性も低下する。恐らくは、繋がりのある領主にその団体と通じる誰かが――。
「あー、やですね! こういうの考えるの楽しくないですね!」
良家の出ゆえ、多少裏の読めてしまう状況を頭から追い出して、いろはは振り返る。
「ごめんなさい、遅くなって。怪我していませんか?」
避難の最中に、警備の隙間を縫った侵入者と遭遇したらしい彼女は、追い詰められた部屋の隅で体を震わせていた。
「は、……はぃ」
安堵で腰が抜けたのか。床にへたりこんだままだが、無事らしい。支配から解放されて意識を失った襲撃者の無事も確認したいろはは、その体に巻き付いたロープに、どうやら仕掛けた罠が彼女の逃亡の助けになってくれたようだと気付く。
「まあ本当は、無駄になってくれた方が良かったのですけれど」
猟兵が戦ってくれている。大半の戦力はそちらに割かれているが、それでも侵入者はこの一人だけではない。
「……数で押してくるのでしたら、こっちも数です」
いろはは、襲撃者から目を離して、助けた使用人に微笑んだ。
「他の部屋も見て、いろはも闘いにいきます。ですから、頼れるナイト達と一緒に避難してください」
そう告げて何処からか現れたヌイグルミが3体、使用人の周りに駆け寄った。
『頼れるナイト達』。それは見るからにふわふわなヌイグルミだが、しかし、彼女がいろはの言葉を疑うことはない。
なぜなら目の前で、領民から剣を奪いそれを破壊して見せたのは、同じくヌイグルミだったのだから。
ビシッ! と敬礼するヌイグルミが、気絶した領民を抱えたヌイグルミと共に使用人を導く。
「あ、あの……ありがとうございます!」
なんともファンシーな光景に、気を抜かれたか。立ち上がれた使用人はヌイグルミに手を引かれながら振り返りいろはへと礼を述べて消えていく。
「さて、それでは」
それを見送ったいろはは、窓の外を見る。そこにはまだ領民の姿。操られ、意図せぬ凶刃を振るわされる人々。きっと使用人と親しい中の人もいるだろう。
それを己の都合だけでぶち壊そうというのだ。
「ちょっといろは、怒っちゃいますよ」
いろはは、今できうる限りのヌイグルミを召喚し、蹂躙という名の救助を開始するのだった。
大成功
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第3章 ボス戦
『切り裂きジャック』
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POW : ジャック・ザ・リッパー
自身の【瞳】が輝く間、【刃物を使った攻撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : フロム・ヘル
【秘めたる狂気を解放する】事で【伝説の連続殺人鬼】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 霧の都の殺人鬼
自身に【辺りを覆い尽くす黒い霧】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
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窓の外は霧に閉ざされている。
「……切り裂きジャック」
子息は、窓を開ければ瞬く間に部屋を埋め尽くしそうな霧にそう呟いた。
「窓を開ければお坊っちゃまのコレクションが濡れてしまいますね」
「今真面目なとこなんだよ、じい」
「猟兵の方々の活躍をご覧になられず、退屈していらっしゃるかと、ウェットに富んだジョークを……霧だけに」
重い沈黙が執務室を包む。
「猟兵達の、怪我は」
「ございません、流石でございますね」
数秒間のやり取りを無かったことにした子息は、父の椅子から立ち上がった。
「外に逃げれば全身ずぶ濡れだな」
濡れるのは霧にか、血にか。
「エントランスなら、霧に埋まる時間も長いだろう」
短剣を引き抜き、子息は老執事に告げる。
「じいと僕で、急所を外すくらいは出来る」
子息は執務室を出てエントランスへと向かう。怪我人に治療を施している猟兵達へと警備兵が伝令に向かった。
「エントランスで迎え討とう、丁度猟兵達の実力を見れずに退屈してたんだ」
自分を囮に、エントランスへと誘い込む算段を告げるのだった。
◇◇◇
第三章
子息(猟兵の闘い見れるし、障害物もそんなにないし、良いじゃん!)
というわけでエントランスでの闘いです。
真ん中に広間があって、正面に吹き抜けの二階に繋がる階段があって、シャンデリアがあって、みたいなお約束なエントランスです。
子息と老執事も、戦場にいる状態です。
猟兵に意識を割かれている状態の切り裂きジャックの攻撃はぎりぎり死にはしない程度の力です。戦闘への貢献は難しいです。
子息に攻撃がいかないように、切り裂きジャックをぶっ飛ばす場面です。
よろしくお願いします!
芦谷・いろは
◎
御呼ばれもしていないのに、突然訪問してくるなんて
本当にゾクの方は礼儀も躾けもなってないんですね~
さくっとお引き取り願っちゃいましょう!
敵の攻撃を襲(戦闘用人形)さんに《武器受け》して貰ったり《なぎ払い》してもらいつつ
御子息さんと執事さんを護れる様に位置取りして戦っていきますね
指一本すら触れさせませんからね、礼儀知らずな切り裂きジャックさん
敵が大技を使うであろうタイミングを見極めて
UC【七星七縛符】を使用します
そんな物騒なものを振り回さないでくださいね
さて、一時的ではありますが、皆さんフルボッコタイムです!
思いっきりやってしまってください
開かれた扉から、静かに霧が吹き込んでくる。息と共に体に忍び込んでくる水の香り。
僅かに曇る夜闇の向こうから、影が音もなくエントランスの大理石を踏む。
「あれが、切り裂きジャック……」
子息の声が、緊張で掠れている。その赤い眼光が、ほの暗い殺意を纏い子息を射抜くその線上に。
「もう」
芦谷・いろは(傀儡使い・f04958)が庇うように立ちはだかっていた。少し膨らませた頬を指で押し、のんびりとした調子で切り裂きジャックに相対してみせる。
「招待状も無いのに、突然訪問してくるなんて――」
ギィン!!
言葉を遮るように、銀光が静寂を裂いた。黒い刃を、いろはの前に飛び込んだ大型の人形が弾いたのだ。
「本当に礼儀も躾けもなってないんですね~」
笑む目蓋の向こうに、幼さの残る残忍さを宿して、いろははジャックを睨み付けた。
十指の糸で人形――襲を繰り、いろははジャックへとけしかける。跳ねるように、或いは滑るように、からくりの奇怪な癖のある動きで人形はジャックへと迫りゆく。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
◎
「殺意に囚われ刃を振るう…お可哀想に」
常に敵から子息や執事を庇える位置へ
高速・多重詠唱で銃弾に雷属性付与し制圧射撃
敵の位置は暗視や第六感で把握
自分への攻撃は第六感や見切りで躱す
子息達への攻撃は第六感や見切りで察知し割り込む又はカウンター
子息達や仲間が怪我をしたらUCで高速治癒
戦闘後
子息に少しだけ苦言を呈してから鎮魂歌を歌う
「囮になろうという志は尊いですけれど。自分の身を守るという第一義を忘れては、他の方が嘆かれます。代わりに亡くなる方も出るやもしれません。どうかそれをお忘れなく」
「満たされぬなら、転生を望んで下さい。いつか悔いなく満たされる生が得られるかもしれません。…またお会いしましょう」
跳ねるように、或いは滑るように、からくりの奇怪な癖のある動きで人形はジャックへと迫りゆく。それを、目隠しとして。
「――ッ」
弾丸の群れが、雷電の尾を引いた。無数の細かな稲妻を残す銃撃は、刹那の中にジャックを穿つ。
だが、ジャックとてただそれに撃たれるばかりではない。躱し、いなしては、跳ね弾く。
隙は逃さない。いろはが乱れた動きへと襲を走らせる。
ジャックは人形と攻防を繰り広げる。穿たれた体から血の代わりに黒い霧を燻らせるそれに、パリ、と静電気のような残光を散らす銃口を向けたまま。
「……お可哀想に」
雷撃の銃弾、その主。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は呟く。
宿る殺意に囚われ、その矛先に向いたものにただ刃を振るう。振るうだけの、存在。
その影が淀み集まったような姿も、顔の無い相貌も。ただ、それが空虚である証であるようにしか思えない。
それでもなお、足掻くように命を奪おうとするのは、悪意を他人へと差し向けんとするのは。
「せめて――」
満たされないと嘆いているようですらあった。きっとその影の煙となった誰かは、満たされないまま渇いて死んだのだろう。何かを求めて、手にいれることを叶わないまま。
「再び生を得たその時」
――満たされますように。
桜花は憐れみを以て、引き金に指をかける。
紫電放つ弾丸が、人形の攻撃を縫うようにジャックへと襲いかかっていく。
大成功
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卜一・アンリ
勇敢というべき無謀というべきか。
……外野受けのいい戦い方はできなくてよ。
真っ向勝負よ。UC【悪魔憑きのアリス】で此方も加速し【ダッシュ】で接敵。
敵の刃物は退魔刀で【武器受け】防御、悪魔憑きの拳銃での【クイックドロウ】【乱れ撃ち】で応戦。
ご子息と老執事に攻撃するようなら【かばう】。
攻撃の軌道を【見切り】、致命傷だけは避けて負傷覚悟…というよりそれが狙い目。
服の下の包帯(アイテム『悪魔曰く「葡萄酒」』)が血で染めれば、それを対価にUCの加速能力を更に【限界突破】させ【捨て身の一撃】【零距離射撃】を撃ち込む。
私は貴方達が嫌いなの。転生を勧めるつもりはないわ。
消えなさい、影朧。
「……」
「いかないのか?」
子息が二人の連携を俯瞰していた卜一・アンリ(今も帰らぬ大正桜のアリス・f23623)へと尋ねた。
形勢は押してはいる。だが、それが優勢かと言われれば、それも違うと答えるだろう。互いに様子見。今にもあの連携を食い破りそうな危うさを、切り裂きジャックに感じてすらいる。
手を出せば、僅かに連携を崩すだろうが、優勢を勝ち得るかもしれない。だというのに、アンリが、子息の傍に控えているのは、彼を守るため……ではない。
「なんだよ?」
「いいえ、なんでも」
アンリは一歩足を出す。退魔刀の柄に手をかける。言えはしない。
「私は」
影朧に転生を。
そんな慈しみを持って戦う桜花とは相容れぬ――『消え去れ』と願う自分が、彼女と足並みを揃えられるのか、などと考えていたとは。
「外野受けのいい戦い方はできなくてよ」
代わりにそう告げて、アンリは鞘から離した手で銃を引き抜く。
囮、として予想外の動きを防ぐために留まっているらしい子息。アンリとしては護衛対象が敵の間合いにいる状態での戦闘は避けたいのだが。
(勇敢というべき無謀というべきか)
毅然と立っているからには、腹は括っているらしい。だから、それ以上アンリが言うことはない。
あれを殺し損ねないなら、それでいい。
大成功
🔵🔵🔵
七星・彩華(サポート)
羅刹の妖剣士×宿星武侠の女です。
『憎悪怨恨乱れ咲く戦場、その呪詛は私の物だ!』
普段の口調は「我が道を行く姐さん(私、お前、呼び捨て、言い捨て)」「仲間にはフレンドリーな姐さん(私、お前、呼び捨て、言い捨て)」
自身が支配する呪詛も武器として扱う戦闘狂、闘うためなら容姿も使う。
闘う事を至高と考える一方で守る者や仲間との共闘も戦闘の重要な要因と考えている。
基本は天上天下唯我独尊を貫く。
これでも子持ち人妻。
ユーベルコードは指定した物を使用、怪我は厭わず行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません。
あとはお任せ。よろしくお願いします!
呪詛を霧とするなら。それを刃とするなら。
「それは私の領分さ」
七星・彩華(鮮血狂い咲く呪詛使い・f32940)は刀を抜く。禍々しい気を放つそれは、妖刀に非ず。常闇の呪詛にて鍛え上げた、呪詛刀。
呪詛をドレスのように纏い、女は駆ける。
「はッ、良いね!」
一足飛びにジャックへと肉薄した彩華は、振り下ろした剣閃。それをいとも容易く弾いたジャックに笑みを浮かべていた。
「一太刀でくたばっちゃあ、何も残らないからさ」
獰猛に、言い捨てると再びジャックへと斬りかかる!
払い、薙ぎ、突いては避けるジャックに、彩華は己を昂らせるままに剣を結ぶ。
「そんなもんじゃないだろ、お前は――なあッ!」
叫ぶ、と共に、勢いよく彩華は踏み込んだ。これまでの剣など所詮準備期間。彩華は自分の体と呼吸があった瞬間に、全力で刃を握る。
例え反撃があろうと。
刹那。彩華が見たのは、霧の奥。その赤い瞳が強く輝いた。
「――ッ!」
背筋に悪寒が走る。だが、彩華は動きを止められない。いや、止めようとはしない。
同時。渾身の一撃が影の肩へと吸い込まれるのと、迅く駆け抜けた黒の刃が彩華を切り裂く。
「――は、良いね、そうじゃないと!」
深い9つの傷を受けながら、彩華は笑う。まだ立てる、闘える。その事がどれ程に幸福か。
それを噛み締めるように彼女は剣を握るのだった。
成功
🔵🔵🔴
「――ッ」
彩華の一撃。それを受けて怯んだジャックへと、アンリが一気に攻め立てる。
弾丸を放ち、アンリは刃を振るう。
悪魔憑き。アンリの体内に蠢く悪魂を揺り動かし、超人的な身体能力を発揮する。それは瞬く間すらも猶予を与えず迫る残影。
いろは操る人形と共に、乱闘へと舞い込んでいく。
「 !」
だが、ジャックはその迅雷のごとき刃にすら、己の武器を差し込んでいた。
魔弾を躱し、刃を弾いたジャックが返すようにそのナイフを走らせる。
「――ッ」
アンリの刃を抜けるように、滑り込んだナイフは、アンリの腹へと吸い込まれ。
鮮血が舞う。力が抜けるその一瞬。
刹那、アンリは見えた。ジャックの輝く目がどこへと向いているか。それは目の前のアンリではなく、子息。
止めようとも体は動かず。
「させません……!」
目にも止まらぬ速度で迫るジャックへと、桜花がその道に割り込んだ。
まるで横に逸れさせないとジャックの左右へと桜吹雪を舞わせながら、桜花は銃口を差し向ける。
慈愛を持つがゆえに、それは迷わない。桜花は、雷をやどす弾丸を放つ。
駆けたそれは、過たずジャックを捉え――無数に爆ぜるような霧の穴を穿ち抜く!
だが、それでもジャックは止まらない。ただ子息を殺すそれだけのために、身を厭わずに桜花へと迫る。
道を譲れば、ジャックは桜花の命を狙わないだろう。だが桜花はそんな選択肢を浮かべることすらしない。
「――っ、退きません!」
そこを退けと、ジャックが刃を握りしめる。そいつを殺させろと叫ぶように刃が突き出される、瞬間。
その切っ先が触れたのは、桜花ではなく。一枚の護符。
「そんな物騒なものを振り回さないでくださいね」
いろはの声。人形の闘いの最中にすら、大技の瞬間を狙い済ましていた、その一手。
ただ、一枚の札。それだけだというのに、刃から鋭さは失せ、動きが鈍る。
「さて、一時的ではありますが、皆さんフルボッコタイムです!」
いろはが号令を放った。七星七縛符によって生まれた無防備な数秒。
桜花は、ジャックの後ろに立ち上がる姿に、桜吹雪が功を奏した事を悟る。桜吹雪は攻撃ではなく、治療。腹を裂かれた筈のアンリが、立ち上がる。
「消えなさい、影朧」
一秒ですら長い。
血を吸う包帯が、悦ぶようにアンリへと力を与える。
銃口が叫ぶ。駆ける魔弾をすら追い抜くアンリの一閃がジャックへと迫る!
ナイフにその一閃を逸らしたジャックはしかし、体勢を崩し――そのジャックを弾丸が貫いた。
魔弾に穿たれ、そして。すれ違ったアンリの上段からの一閃が黒い霧の怪物を切り裂いた。
◇◇◇
「囮になろうという志は尊いですけれど」
桜花は子息へと苦言を呈していた。
子息を狙って襲ってくる。なら守りやすい広い場所で。というのは分かる。
だが実際に切り裂きジャックを誘き寄せたあと、この場に残るというのは、やはり危険だ。
「自分の身を守るという第一義を忘れては、他の方が嘆かれます」
子息は至極鬱陶しいというように顔を逸らしている。桜花は、その表情に呆れながらも安堵する。
(理解してないわけじゃない、かな)
ただ、「はいわかりました」と素直に言えないだけだ。
「代わりに亡くなる方も出るやもしれません。どうかそれをお忘れなく」
なので桜花は、説教を切り上げた。ジャックが良き生へと戻れるよう、鎮魂歌を捧げたかった。
アンリはそれを聞きながら、いろはとともに使用人の怪我の手当てを行っていく。
「館が燃えていたら、きっともっと大変でしたね」
「そうね、守りきれなかったでしょうから」
濃い霧の中で戦っていたら。
「ぬいぐるみさん達びしょびしょになっちゃいますからー」
「……」
と、アンリが思っていたより数倍呑気な事を心配していたらしい、いろはに、アンリは口を閉ざすのだった。