●フェアリーランドの中
世界が大きく揺れる。
その世界こと「フェアリーランド」を作り出した、フェアリーのサリム・ノエルが慌てて跳ね起きると、彼の視界にとんでもないものが映っていた。
「えっ……な、何だあれ!?」
普段はのんびりして気楽に生きている彼でも、これは捨て置け無い。
天を衝くほどの巨大な山が、フェアリーランドの中心に聳え立っているのだから。
山が出来上がる余波で地殻変動が起こったのか、地面はひび割れ、あちこちに岩が転がっている。寝心地の良かった大木は根本からぼっきりと折れていた。
呆気に取られていたサリムだったが、すぐにぶるると首を振る。
「うぅっ、嘘だろう、こんなの……? なんでこんな事になったんだ……」
首を振って目を開けるが、見える景色は変わらない。へなへなと崩れ落ちて両手を地面につく彼だ。
そんな彼の姿が見えないほど高く、急峻な山の頂上。岩で出来た椅子に腰掛ける、少女が一人。
「ふははは……! 壮観壮観。これほど高ければ、世界の荒廃した様がよく見える。レプ・ス・カムのなし得なかった『天上界への鍵』の捜索もやりやすかろう!」
この少女――悪逆無道の君臨者こそ、幹部猟書家「レプ・ス・カム」の遺志を継ぐオブリビオン。フェアリーランドに眠るはずの「鍵」を探すべく、彼女は手近な岩を乱暴に蹴り落とした。
●グリモアベース
「……以上が、俺が昨夜に見た夢の内容だ」
イミ・ラーティカイネン(夢知らせのユーモレスク・f20847)はガジェットから映し出した映像を一時停止しながら、猟兵たちに振り返ってそう言った。
まだまだ続いている猟書家との戦い。既に何名もの幹部猟書家が倒されているが、次から次へと新しい猟書家が出ている現状、まだ油断は出来ない。
今回イミが予知したのは、アックス&ウィザーズでの案件のようだ。
「レプ・ス・カム。こいつはとっくに撃破されている幹部猟書家だが、その遺志を継ぐオブリビオンが出てきたらしいな。同じ様にフェアリーの作り出したフェアリーランドに侵入して、世界を荒廃させて『天上界への鍵』を探そうとしている」
そう話しながら彼が映像を巻き戻す。映し出されるのは傲岸不遜な表情をした金髪の少女だ。明らかに生者らしからぬオーラを纏っている彼女を映していた映像を、イミがもう少し巻き戻した。
そのタイミングで映し出されているのは、山だ。
「で、今回の荒廃の仕方だが、見ての通り。巨大な山が聳え立つ様となっている」
曰く、この山はこのフェアリーランドに元々あったものではない。オブリビオンに侵入されたことによって、後付で作り出されたものだそうだ。
「オブリビオンは、この山の頂上に座しているようだ。フェアリーランドの持ち主のフェアリー……サリムという名だが、彼は山の麓でどうにも出来ずにへたり込んでいるはずだ。彼を励まし、楽しいことを考えさせながら山を登ってくれ」
そう説明するイミに、猟兵たちが首を傾げる。山を登るのは当然として、何故フェアリーに楽しいことを考えさせる必要が?
疑問を含んだ眼差しを受け止めて、イミがガジェットから映したのはフェアリー、サリムの顔だ。
「ああ、何故かと言うとな。フェアリーランドは所有者の精神状況が如実に反映される。今、サリムは絶望し、困惑しているところだ。そこから気持ちを持ち上げてやれれば、世界の状況も良くなるし、オブリビオンも動きにくくなる」
その言葉を聞いて、猟兵たちは納得した。サリムの精神状態が良くなれば山も登りやすくなるし、オブリビオンとの戦闘の際にもいい効果をもたらしてくれる。それなら、ただ無策で山を登るよりはいいはずだ。
「侵入してきたオブリビオンは……君臨者とでも呼ぼうか。生者に苦痛と絶望をもたらすことが生きがいという、典型的なオブリビオンだ。亡者と肉のゴーレムを操り、騎士と魔道士を召喚する力を持つ。だが、フェアリーの精神状態が良くなればこれに攻撃もしやすくなるだろう」
悪逆無道の君臨者は人肉喰らいとのことで、内に喰らった魂を多く内包している。その魂を消費してゴーレムを生み出し、意識を向けた相手に亡者を差し向けたり、戦闘用の甲冑騎士と魔道士を生み出して自身は動かない、といった攻撃をしてくるそうだ。
そこまで話したイミが、ガジェットから映像を消した。そのガジェットの中で、ハ音記号のグリモアが回転する。
「じゃあ先輩たち、準備はいいか? 油断せずに仕事を済ませてきてくれよ」
屋守保英
こんにちは、屋守保英です。
久しぶりのアックス&ウィザーズの依頼です。
フェアリーランドの中が山になってしまいました。
●目標
・悪逆無道の君臨者×1体の撃破。
●特記事項
このシナリオは「2章構成」です。第2章がクリアになった時点で、シナリオが完成となります。
アックス&ウィザーズの「骸の月」の侵食度合いに、成功数が影響します。
●戦場・場面
(第1章)
フェアリーの作り出した「壺の中のフェアリーランド」です。
普段は何の変哲もない平和な世界ですが、オブリビオンが現れたことで荒れ果て、その中心に高い山がそびえ立っています。
フェアリーに楽しいことを考えてもらうことで、山が登りやすい形状に形を変えます。高さは変わりません。
(第2章)
フェアリーランドにそびえる山の頂上です。
悪逆無道の君臨者が猟兵たちを待ち構えています。
フェアリーに楽しいことを考えてもらうことで、オブリビオンに都合の悪いことが怒るようになります。
●フェアリー
サリム・ノエル(男性・18歳)
若くして「フェアリーランド」のユーベルコードに目覚めた、優秀な青年。
トンボのような四枚羽が特徴。
性格はお気楽でのんびり屋。
それでは、皆さんの力の籠もったプレイングをお待ちしています。
第1章 冒険
『そこに山があるから』
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POW : 体力や気力で山登り
SPD : 技や早さで山登り
WIZ : 魔法や知力で山登り
👑7
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馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
こんにちはー、と挨拶を。何者かと聞かれたら、猟兵ですー、とでも。
急変原因が山にいるそうなのでー、叩きにきましたー。
そういえば、ここ、元はどんな景色だったんですかー?
私は、森とか(暗殺のときに)隠れやすくて好きですけどねー。あと森林浴とか。季節の花とか。
山は山で、そこから見る景色が好きなんですよねー。(敵地に侵入する際に)眺めがよくてー。
※()内は、忍者として思ってることですが、不安にさせそうなので口に出さない言葉です。嘘は言ってないです。
●大山鳴動して鼠一匹
「こんにちはー」
「ひぁっ!?」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が背後から声をかけると、サリム・ノエルはぴょんと飛び上がって後ろを見た。
東洋の着物を着た、にこやかに笑う男が一人。その笑顔に敵意は無い。襲ってくる様子もない義透に、サリムが声をかける。
「な、何者だい?」
招いたはずがないのに、と言外に発するサリムへと、笑顔を絶やさぬままに義透が言った。
「はい、猟兵ですー」
「りょ……猟兵? あの?」
その言葉にサリムが目を見開く。アックス&ウィザーズの世界を救った勇者のことは、勿論彼も知っていた。ダメ押しとばかりに義透が告げる。
「はい、この急変原因が山にいるそうなのでー、叩きにきましたー」
義透の話した目的を聞いて、サリムの表情から陰が消えた。顔の高さまで飛び上がり、ペコリと頭を下げる。
「そ、そうだったのかぁー。助かった、山に登らないといけないのは分かっていたけど、勇気が出なくて……」
「はい、なのでー、一緒に行きましょうかー」
サリムにもう一度頷いて、義透は山へと歩み出した。
麓の辺りからでも、岩肌がむき出しになっていてかなり険しい道だ。岩を崩さぬよう慎重に登りながら、義透がサリムに声をかける。
「そういえば、ここ、元はどんな景色だったんですかー?」
その問いかけに、サリムは少し暗い表情を見せた。足元に広がる岩肌を見ながら、ポツリとこぼす。
「元は……そう、森だったんだ。白樫の木がたくさん生えていて、とてもいい香りのする場所だったんだよ。昼寝をするのにもちょうどよくて……」
その言葉には、どうしてこんな事になったのかという悲しみがありありと見て取れた。元はこんな風ではない、穏やかな森が広がる風景だったのだろう。
一瞬だけ口角を下げた義透だが、サリムを元気づけるべく再び笑顔をみせて言った。
「いいですねー、私も森は好きですよー。隠れやすくて……あと森林浴とか、季節の花とか」
「そ、そうそう! この間もミモザの花が綺麗に咲いて……」
義透の言葉にかつての風景を思い出したのだろう。サリムが明るい表情になって手を振った。よほど綺麗だったのだろう、サリムの表情から目に浮かぶようである。
と、義透の視線の先。岩が崩れて平坦な山道を作った場所があった。ああして、サリムの気持ちが上向くたびに道が出来ていくのだろう。
「おっ、あそこの辺り、登りやすそうになっていますねー。あそこを行きましょうかー」
「あっ、はい!」
呼びかけに応じて、サリムが義透の後をついていく。山登りは、まだ始まったばかりだ。
成功
🔵🔵🔴
徳川・家光
山といえば『温泉』!
サムライエンパイアの住民は、民草ひとりひとりに至るまで、老若男女尽くが温泉の虜! 彼らを束ねる武家の統領として、僕には「新しい山で温泉を見つける義務」があるのです!
とかなんとか言いながら、火産霊丸(炎を出す馬)を駆って温かい岩場を探しつつ、「温泉〜それは傷を治して心も癒やす〜だけど恋の病は治せない〜♪」みたいなヘタクソ創作ソングをウキウキ歌いながら、登山そっちのけで温泉を掘りまくります!
……もちろん、全てはサリムさんを楽しませるためです!
温泉好きなのは本当ですけど、これは作戦で、わざとですからね!?
●一度焼けた山は二度は焼けぬ
「なるほど、これは見事な山。しかしフェアリーの人には少々険しいですね」
徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)は麓から登ってきながらそう零し、額の汗をぬぐった。
確かに山としては見事、しかし霊峰もかくやというその高さは、飛べるにしてもフェアリーが自力で登るのは酷だろう。
そしてそのフェアリー、サリムが家光の登場に、ハッとしながら振り返った。
「あ、貴方ももしかして、猟兵
……!?」
「はい、勿論です!」
彼の問いかけに大きく頷いて、家光は胸を叩く。そして次の瞬間だ。
「山と言えば温泉! サムライエンパイアの住民は、民草ひとりひとりに至るまで、老若男女尽くが温泉の虜! 彼らを束ねる武家の統領として、僕には新しい山で温泉を見つける義務があるのです!」
「えっ」
声高らかに発せられたその口上に、サリムの目が点になった。
温泉。このどうやって出来たかも分からない山の中に、温泉。
「この山に?」
「そうです! きっとあるはずです! 出でよ、炎産霊丸!」
キョトンとしながら問いかけるサリムに、家光は自信満々に返した。
そして腕を思い切り前に振れば、召喚されるは愛馬・炎産霊丸。炎を発するその馬の背に飛び乗って、家光は我先にと駆けだした。
「さあ炎産霊丸、温かい岩場を探すのです!」
「あっ、ちょっと待ってぇ!?」
状況的にも物理的にも、すっかり置いていかれたサリムが、山を駆け上っていく家光と炎産霊丸を慌てて追いかける。そして炎産霊丸が反応を示した岩場で足を止めさせると、家光はスコップを取り出して山肌を勢い良く掘り始めた。
「温泉~それは傷を治して心も癒やす~だけど恋の病は治せない~♪」
「や、やっと追いついた……で、えーと……」
朗々と歌声を響かせながら、一心不乱に山を掘る家光。やっとのことで追いついたサリムには、状況がますます分からない。
それでも。
「温泉~それは痛みを消してストレスも消す~だけど身体の傷跡は消せない~♪」
家光の、楽しそうに歌いながら山を掘っているその姿は、面白おかしく映ったようで。
「……っ、ふふっ」
くすりと彼が笑みをこぼすと、近くの岩場ががらりと崩れる。その先に通りやすそうな道が出来るのを横目で見ながら、家光はほくそ笑んだ。
「ふっ、どうやら楽しんでくれたようですね。作戦通りです!」
温泉が好きなのは本当、しかしこれはサリムを楽しませるための作戦。これで、山頂への道も開けたことだろう。
成功
🔵🔵🔴
シュゼ・レッドカラー
不採用含めて全て関係っス!
WIZ対応
サリムさんに楽しんで貰えればいいんスね。任せてほしいっス!
森好きのサリムさんのためにお肉料理を沢山作って持っていくっスよ!
山の幸と言えばジビエ料理っス!・・・え、もしかして野菜の方が良かったんスか?
兎にも角にもゆっくり着実に山登りっス。登山はよくわからないんスけど、休憩を挟んで精のつくものを食べて、山の景色を楽しめばきっと怖い想いなんてなくなるはずっス。
何より自分たちがついてるっスよ!
何か生物がいればUC使うんスけど、ここには何もいなさそうっスね~。石を粉砕して隠し味という訳にもいかないっス。苔かなにかあれば料理に添えて華やかさを演出したいっスね!
●円石を千仞の山に転ず
シュゼ・レッドカラー(牙ある野性、双拳を持ちて食らいつく。・f25319)は大きな荷物を背に負いながら、ぐいぐいと山道を登っていた。
「サリムさんに楽しんで貰えればいいんスね。任せてほしいっス!」
楽しんでもらうことなら自分の本領だ、しっかり任されよう。そう心に決めてシュゼは山登りを続けるサリムに後方から声をかけた。
「サリムさーん!」
「えっ、あれ、また別の人が!?」
次から次へとやってくる猟兵の姿に、サリムはとても驚いている様子。そんな彼に、シュゼはにこやかに声をかけた。
「お疲れ様っス、お腹空いてないっスか?」
「えっ」
そう問われて、はたと腹を抑えるサリムだ。小さく、腹の虫が主張を始める。
「そういえば……空いているなぁ……あまりのことに、お昼を食べ損ねちゃったやぁ」
恥ずかしそうに言いながらサリムが視線を上げると、満面の笑みを見せながらシュゼが言った。
「了解っス! ジビエ料理、たくさん作って持ってきたッスよ!」
「わっ」
そう言いながら彼が取り出したのは、雉肉のロースト、鴨肉のパストラミを挟んだサンドイッチ、鹿肉のシチューだ。その豪勢なラインナップにサリムが目を見開きながら、少々後ずさる。
その反応に、シュゼは小さく首を傾げた。
「……あ、もしかして野菜の方がよかったんスか?」
「い、いや、そんなことないよ、お肉も大好きだよ!」
そう返しながらサリムが料理に手を伸ばす。フェアリーサイズに切り分けられた肉類やサンドイッチを両手で持って、大口を開けて喰らいつく。噛めば噛むほど、深みのあるうまみが口の中に広がった。
「っ、あー、美味しい……」
「喜んでもらえて何よりっス」
飲み込んだサリムが笑顔を見せるのを見ながら、シュゼも笑う。そしてだいぶ近づいた山頂を見上げながら話を始めた。
「兎にも角にもゆっくり着実に山登りっス。登山はよくわからないんスけど、休憩を挟んで精のつくものを食べて、山の景色を楽しめばきっと怖い想いなんてなくなるはずっス」
そう言って、一瞬だけ目を細めたシュゼが再びにかっと笑う。
「何より。自分たちがついてるっスよ!」
その力強い言葉に、サリムの表情も自然とほころんだ。
「……ふふっ、うん、そうだねぇ」
休憩を取って、食事もしたからか。その先の道程は心なしか、気軽に進めたような気がしたサリムだった。
成功
🔵🔵🔴
パルピ・ペルポル
まーた派手にやってくれたわねぇ。
同族だし気軽に声かけて一緒に登りましょう。
わたしも森は好きよ。落ち着くし色んな恵みも採れるしね。
でもこんな岩山でも健気に咲いてる花があったりするものよ。
そういうのを探してみるのも山登りの醍醐味だと思うのよね。
彼の疲れが見えてきたら休憩してお弁当のサンドイッチを食べるとしましょうか。
やっぱり腹が減ってはなんとやらよ。空腹だと考えも悪い方に進みやすいし。
デザートには領地の森でとれた果物で作ったドライフルーツもあるわ。
疲れた時には甘いものよね。
さて、少し回復したら山登り再開しましょうか。
てっぺんを目指せばいつか必ずたどり着くから。
●何れを見ても山家育ち
「まーた派手にやってくれたわねぇ」
猟書家の所業に呆れながら、パルピ・ペルポル(見た目詐欺が否定できない・f06499)もまた山頂を目指していた。
だいぶ高いところまで登ってきた。道中は登りやすくなっていたから、消耗も大きくない。すぐに先を行くサリムを発見することが出来た。
「こんにちは、調子はどう?」
「あ、同族さんだ……まぁ、そこそこってところかなぁ」
声をかけると、相手もにこやかに返してくる。フェアリー同士、気心は知れた様子だ。
一緒になって山を登りながら、パルピがふと口を開く。
「わたしも森は好きよ。落ち着くし色んな恵みも採れるしね。でも……ほら」
だが、そこで一旦言葉を区切った彼女が向かうのは、登山道の端の方。草がまばらに生えているそこに、高山植物が小さな花を咲かせていた。
「あ、花が」
「こんな岩山でも健気に咲いてる花があったりするものよ。そういうのを探してみるのも山登りの醍醐味だと思うのよね」
そう言いながらパルピが笑う。麓の森に比べたらささやかだが、山にも山の恵みがあり、花があるものだ。そうした花を山登りの最中に見て楽しむもまた、山登りの楽しみ方の一つである。
「そうかぁ……今まで上ばっかり見ていて、下は見て登ったことなかったなぁ」
「でしょう? 意外と楽しいものよ」
その発想はなかったと言いたげなサリムに、パルピが再び宙を舞った。
その後も二人は山道を登りながら、あそこに花が咲いている、あの花は綺麗だ、などと話し合いながら楽しんだ。気が付けばもう少しで頂上だ。
「もう少しで山頂ね。お腹は空いていない?」
「あ、さっき食べたのがまだ、程よく溜まっている感じが……でも、この辺で甘いものとかも欲しいなぁ」
先程の道中で食べた料理を思い返しながらサリムが言うと、パルピは鞄の中からお弁当の包みを取り出した。サンドイッチは自分用に残し、デザートのドライフルーツを彼に渡す。
「そうよね、疲れた時には甘いもの。はい、ドライフルーツ。うちの領地の森で採れた果物で作ったの」
「わぁ、すごいやぁ……いただきます」
自家製のドライフルーツという素晴らしい甘味に感動の面持ちで、サリムはドライフルーツを齧った。濃厚な甘味と果実味が口の中を駆け抜けていく。
「うーん、美味しい……」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」
満足した様子の彼に笑みを見せながら、パルピもサンドイッチを頬張った。お腹も満タン、気合も充分。
そうしてお弁当の包みを鞄に戻して、パルピが頂上を指さす。
「さて、少し回復したら山登り再開しましょうか。てっぺんを目指せばいつか必ずたどり着くのが、山なんだから」
「……うんっ」
登っていれば、いつかは頂上に辿り着く。その頂上が、もう目の前まで来ていた。
成功
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第2章 ボス戦
『悪逆無道の君臨者』
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POW : モーレ・ド・エンヴィリオ
自身の【今まで喰らった魂】を代償に、【吐瀉した肉を依代とするフレッシュゴーレム】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【怨嗟で炎の如く盛る魂を纏った手足】で戦う。
SPD : ソンゾボルト・ユーゴッド
【意識】を向けた対象に、【召喚した亡者の軍団による包囲攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : ソフランテ・ユーゴッド
戦闘用の、自身と同じ強さの【黒き甲冑騎士】と【不死の大魔導士】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
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●お山の大将俺一人
山頂に到着すると、そこは平坦な岩場だった。その岩場の真ん中に、岩で組み上げた椅子に腰かける、一人の少女がいる。
「おぉ? これは驚いた。恐れて麓で縮こまっているかと思いきや、ここまで登ってくるとはな!」
その少女は悪意に満ちた瞳でサリムを見ながら言い放った。その言葉に、サリムが猟兵の後ろに身を隠す。そして次に少女の視線が向くのは、猟兵の方だ。
「それに……そうか、忌々しい猟兵どもめ。貴様らもどうせ、我を倒しに来たのだろう」
オブリビオン、悪逆無道の君臨者。彼女こそがこの山を作り上げ、サリムを絶望の淵に落とそうとしている、幹部猟書家の遺志を継ぐものだ。
椅子に腰かけたまま、君臨者の足がしっかと山頂の岩を踏む。
「いいだろう、その傲慢さに免じて、我自らが相手をしてやる! 貴様はそこで震えておれ、そしてこの者共が倒されるのを目の当たりにするがいい!」
その言葉に追い立てられるように、サリムが近場の岩陰に身を隠した。そして次の瞬間、戦いの火ぶたは切って落とされるのである。
●特記事項
・舞台は山の頂上です。地形は平坦で、ある程度の広さがあります。
・サリムはなるべく戦闘に巻き込まれないように、岩陰に避難しています。彼を絶望させることが目的のため、悪逆無道の君臨者はサリムを積極的に狙いません。
馬県・義透
『疾き者』のまま。
傲慢なのはどちらなのやら、ですよねー。まあ、それがつけ入る隙ですからねー。
見た目が少女だからって、油断はしませんよ。それが戦場っていうものです。
サリム殿に、念のためにオーラ防御施しておきまして。
さてさてー、ああ、召喚ですかー。
その攻撃は、内部三人による結界術でいなしましてー。固いですよー?
【四天境地・風】でー。攻撃目標は『悪逆無道の君臨者』のみで。
あなたが傷つくと、これらは解除され消えるでしょう?不死身だろうがなんだろうが、関係ないのですよー。
それに、ここはおそらく攻撃範囲より狭いですからねー。逃げ場はありません。隠れようが何しようが無駄です。
●蕪は鶉となり、山芋は鰻となる
義透を前にしても、君臨者は椅子から立ち上がろうとしない。その姿に、彼は細めた目をますます細めて眉根を寄せた。
「傲慢なのはどちらなのやら、ですよねー」
猟兵を傲慢だと言っておきながら、この場で一番傲慢に振る舞っているのは、誰あろう彼女である。しかしその傲慢さが虚飾でないことは、見れば分かることだ。
「見た目が少女だからって、油断はしませんよ。それが戦場っていうものです」
「はっ、ぬかしおる! 私を戦場に引きずり下ろすつもりなら、やってみせるがいい!」
漆黒風を指の間で挟んで握る義透に、君臨者が歪んだ笑みを見せた。直後、彼女の前に立ち塞がるように、黒き甲冑の騎士とフードを目深にかぶった魔導士が現れた。
「ああ、召喚ですかー。そうやって高みの見物を決め込むつもりでいらっしゃる」
相手の出方を伺う義透に、君臨者の口角が大きく吊り上がった。
「君臨者とは高みから動かぬからこそ君臨者なのだ! さあ、我を守れ!」
彼女が右手を前に伸ばすと、すぐに動き出す騎士と魔道士。その剣が、杖が、義透へと向けられる。
「我が王を……」
「お守りする……」
うつろな声でそう言いながら、切りつける騎士と、マジックミサイルを放ってくる魔導士。その攻撃を、義透は内なる三人で重ねがけした結界術で防ぎながら突っ込んだ。
「はいはい、切れるものならどうぞー。私は硬いですよー?」
二人の間を影のようにすり抜けて、義透が君臨者の前に立った。それと同時に漆黒風を手から放つ。
「これは『鬼』である私が、至った場所……いざ」
彼の言葉とともに、棒手裏剣がほどけ。無数の鬼蓮の大きな花弁になって山頂を覆い尽くした。その花びらは文字通り、山頂の平たい部分全てを覆うように舞っている。
逃げ場はない。逃げようがない。そのことに気づく頃には、君臨者の肌は花びらによって切り裂かれていた。
「なぬっ!?」
「あなたが傷つくと、これらは解除され消えるでしょう?不死身だろうがなんだろうが、関係ないのですよー」
後方など気にする必要もないとばかりに、前だけを見る義透。その背後で騎士と魔導士が霞のように消えていった。
また一つ、少女の肌から鮮血が飛ぶ。
「ぐぁっ……小癪な!」
「逃げ場はありません。隠れようが何しようが無駄です」
逃しはしない。その強い意志を以て、義透は花びらを君臨者に殺到させた。
大成功
🔵🔵🔵
パルピ・ペルポル
現時点で鍵探してるように見えないんだけど、まぁそれはいいわ。
こっそり念動力で雨紡ぎの風糸を張り巡らせておいて、敵の行動を阻害兼盾として使用するわ。一応サリムの方にもね。
召喚してきた奴らの攻撃は以前徳用(巨大)折り紙を通常サイズに切って作った万羽鶴を敵にけしかけることで目くらましにして回避するわ。
ついでに同じく折り紙の小さなネズミを何匹か走らせて悪逆無道の君臨者を狙わせるわ。
攻撃が当たればどこでも井戸端会議を発動して、ダメージ与えて召喚が解除されたら風糸と穢れを知らぬ薔薇の蕾で敵の動きを拘束して攻撃するわ。継続ダメージ受けてる間は召喚もままならないでしょ。
鍵って探しておいたほうがいいのかしらね?
●国破れて山河在り
玉座にふんぞり返った君臨者を見やりながら、パルピはため息を付いて肩をすくめた。
「現時点で鍵探してるように見えないんだけど、まぁそれはいいわ。猟書家って結構そういうところあるし」
鍵を探す、目的を達成する、と言いながら結構、寄り道が多いのが猟書家だ。本来その使命を持って動いていた幹部本人はともかく、その跡を継いだオブリビオンでは、思うように行かないのも仕方はない。
ともあれ、目の前の彼女が猟書家だというなら倒すまでだ。君臨者を睨みつけるパルピを、睨み返しながら彼女は言う。
「ふん、一度我が騎士と魔導士を退けたからと言って甘く見ないことだ。何度でも、我のもとに馳せ参じる!」
そう言いながら君臨者が手を振ると、再び漆黒の騎士とローブを着た魔導士が現れた。彼女を倒さない限り、召喚は何度でも行われる。ユーベルコードとは得てしてそういうものだ。
「そういうもんよね、知ってる。なら、もう一度追い返すだけよ」
そう言い放ちながらパルピは鞄の蓋を開けた。中から大量に、折り紙を折って作った折り鶴が飛び出しては視界を埋め尽くす。その数は千を優に超えている。一つ一つが小さくても、それだけの数が密集していれば見えようはずもない。
「紙の鳥だと! このようなもので――何っ!?」
魔導士が炎魔法を放って折り鶴の群れを焼き払うと、その向こうにパルピの姿はなかった。
「……消えた」
「いずこへ……」
騎士も魔導士も、思わず声を漏らしている。忌々しそうに歯噛みをしながら、君臨者が騎士と魔導士に指示を飛ばした。
「ええい探せ! フェアリー一人、そう遠い場所へは行っておらん!」
そのまま二人は、言葉に従ってパルピを探し始める。とはいえ山の頂、隠れられる場所などそう多いはずもない。
苛立つ君臨者だったが、ふと足元でカサリ、と紙のこすれる音がした。
「む?」
足元を見ればそこには、折り紙で折ったネズミが数匹群がっていた。その鼻先が君臨者の足をつつくと、そこに妖精の印が浮かび上がる。
「はいヒット。ちょっとばかり付き合ってあげて」
実は玉座の後ろに回り込んでいたパルピが小さく呟いたのと同時にだ。君臨者をけたたましい大音量が包み込んだ。
それは妖精たちの取り留めもないおしゃべりだ。大音量で耳を攻め続けるおしゃべりが、絶え間なく、ひっきりなしに聞こえてくる。それは明確なダメージだった。
「むっ……ぐわっ!?」
「我が王!?」
「王……」
急いで騎士と魔導士が振り返るも、時既に遅し。ダメージを受けたことで二人はカスミのように消えていく。
そして召喚が解除されたことを確認したパルピが、予め巡らせていた雨紡ぎの風糸を引き絞った。君臨者が細い糸によって玉座に縛り付けられ、皮膚のあちこちから血が飛び散る。
「どう? ダメージを受け続けている間は召喚もままならないでしょ。すぐに追い返されちゃうんだから」
「ぐっ……この……!」
肩やら足やらに穢れを知らぬ薔薇の蕾を刺し、君臨者の血を吸い上げながらパルピが言えば、表情を大きく歪めながら君臨者が呻いた。
大成功
🔵🔵🔵
サーシャ・ペンローズ(サポート)
バーチャルキャラクターの電脳魔術士×バトルゲーマー、18歳の女です。
普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、敵には「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
エッチな描写もNGです。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
アーレ・イーナ(サポート)
サイボーグの戦場傭兵×咎人殺し、20歳の女です。
普段の口調は「ボクっ娘(ボク、~君、~さん、だね、だよ、~かい?)」、敵には「冷酷(私、てめぇ、だ、だな、だろう、なのか?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●山中暦日なし
山道を駆け上がってくるように、サーシャ・ペンローズ(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f26054)が山頂に姿を見せる。
「お待たせしましたー! ここから私も参戦しますよ!」
宣言する彼女の後を追うようにして、アーレ・イーナ(機械化歩兵・f17281)も姿を見せた。その手に自動小銃を握りながら、君臨者を冷たい目で見る。
「猟書家幹部か……気に入らないね、排除しよう」
二人の登場に、驚いた表情をする君臨者。だがすぐに表情を見にくく歪め、二人を睨みつけた。
「新手か! 全く、次から次へと貴様らは我を邪魔しに現れる!」
そう言うと、空を見上げた君臨者が口から大量の魂と肉塊を吐き出した。その肉塊が地面に落ちると、膨らみ、肥大化して、見上げるほどの大きさのゴーレムを作り出す。
「わわっ、おっきなゴーレムです! これは強そうですよー!?」
「自分はそこで見ているだけで、配下を召喚して戦わせるタイプか。しゃらくさい、すぐに片付けてやる!」
動画撮影用ドローンを展開し、アーレの支援に回るサーシャを背にかばいながら、アーレが自動小銃を乱射する。的は大きい、当てることは容易に思われたが。君臨者は下卑た笑みを浮かべながら言った。
「ふっ、このゴーレムを甘く見るなよ! 我の喰らった魂の殆どを代償として用いている、つまり……!」
ゴーレムが腕を前に突き出すと、その開いた手が盾になった。そこに埋まるように、UDCをも屠る銃弾が飲み込まれていく。
「なにっ!?」
「そら、止めた。受けてみろ!」
君臨者が腕を伸ばすや、手の中で銃弾を握りつぶしたゴーレムが飛び出した。その勢いでアーレを思い切り殴り飛ばす。吹き飛ばされたアーレは口から血を吐きながら、山頂の岩にぶつかって崩れ落ちた。
「ぐはっ……!」
「アーレさん!」
そのあまりの威力に、サーシャが冷や汗を浮かべた。だがアーレはまだ息がある。ゆっくり身を起こすと、彼女を守るように鉈を手にした亡霊が姿を見せた。
「む……!」
「……こんな、ところで。殺されてなるものかぁ!」
口元の血を拭いながら、アーレが吠える。そのまま彼女は小銃を構え直して突進した。一緒に亡霊も前へと出る。
途中、サーシャと目が合う。視線を交わし合うと、アーレはサーシャに声を飛ばした。
「攻めるぞ!」
「はいっ!」
サーシャもゲームデバイスを取り出した。ゲームキャラクターを召喚してはゴーレムにけしかける。サーシャの召喚したキャラクターにゴーレムが意識を向けた瞬間、亡霊の鉈がその肉の体を一刀両断した。
作り出した最強のゴーレムが屠られたことに、君臨者が目を見開く。
「なん、だと
……!?」
「受けてみろ、猟書家ぁ!!」
もはや壁になるものはない。アーレの自動小銃が火を噴いた。
成功
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火土金水・明
「サリムさんは、決して絶望なんてしませんよ。なぜなら、ここに集まった猟兵達が協力して、あなたを倒すからです。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃は【破魔】と【継続ダメージ】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【コキュートス・ブリザード】を【範囲攻撃】にして、『悪逆無道の君臨者』と召喚された者達を纏めて【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】【見切り】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。
●山中の賊を破るは易く心中の賊を破るは難し
山を登りきった火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)が、ちょうど岩陰に身を隠していたサリムと視線を交わし合う。
彼に対して小さく頷くと、明は呼吸を荒くする君臨者へと言葉をぶつけた。
「サリムさんは、決して絶望なんてしませんよ。なぜなら、ここに集まった猟兵達が協力して、あなたを倒すからです」
「なんだと……!」
彼女の言葉に君臨者の頬が赤く染まる。怒りのままに手を前に出すと、三度漆黒の騎士と不死の魔導士が召喚された。彼らは無言のままに、それぞれの武器を構える。
「お山の大将もここまでです。さあ、行きますよ」
それに対して明も杖を振った。その杖の先端が青白く光り輝く。それを目にして君臨者は表情を歪めた。
「ふん、どれだけ力を使おうと、我の騎士と魔導士が敗れるものか!」
騎士と魔導士を見やりながら君臨者が言い放つ。振るわれる剣を、魔法の矢を、残像を伴って回避しながら、明は杖を振り上げた。
「学習しない人ですね。どれだけ騎士と魔導士が強かろうと、こうしてしまえばいいんですよ」
次の瞬間、彼女を中心に氷をまとった風が巻き起こった。その風一筋ずつは氷の矢だ。それが渦を巻くように、山頂に吹き荒れたのだ。
こうなっては守るも守られるもない。君臨者が身を縮こませて震える。
「ぐっ、う……! 寒い……!」
「そうですよね、これだけ氷属性の矢が広範囲に巻き起こっているんですから。範囲魔法で一網打尽にすれば、なんてことはありません」
そう言葉を返しながら、明はもう一度杖を振った。彼女の魔法は、まだ終わりではない。また再び発生する氷の矢。
「さあ、おしまいですよ」
「待っ――!」
君臨者が何かを言いかけるが、遅い。その身体が無数の矢に、四方八方から貫かれた。
「あ、が……」
だらりと力なく腕を垂れ下げた君臨者が消えていくと同時に、騎士と魔導士も消えた。そして、彼女の座っていた玉座もがらがらと崩れながら消えていく。
「ふう……あら?」
と、戦闘が終わったのを確認したサリムが岩陰から姿を見せた時。明は君臨者が座していた場所に、何か光るものがあるのに気が付いた。
それは金色をした、光り輝く鍵だった。古めかしいデザインをした鍵が、曇りのない輝きを独りでに放っている。
「それは……鍵?」
「これが、もしかして探していた『鍵』、でしょうか?」
明の手の中をサリムが覗き込んだ。彼と視線を交わすと、明はなんとも言えない表情で空を見上げる。
「こんなところにあるだなんて……皮肉なものですね」
灯台下暗し。探しているものはどうしたって、自分の近くにあるものだ。それに君臨者が気付くことは、きっと永劫に無いのだろう。
大成功
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