業火に対する者は至誠なりて
●中原地方、航砂船「バルトロメア号」
広大な砂漠が広がり、各地に点在するオアシスで人々が炎の精霊と共に暮らす中原地方。
そのオアシスとオアシスを結ぶ航路を走る航砂船、その一隻である「バルトロメア号」の機関室に、突如紫炎が扉のように虚空に円を作った。
その円の中からぬるりと姿を現す一人の女性。否、悪魔と呼ぶほうが相応しいだろう。その頭には角が生え、背には翼を備えている。
「ふふふ……侵入成功。大事な機関部に守りの人員を置かないなんて、ほんとバカなんだから」
猟書家幹部、偽りの炎精マナール。彼女は胸元からどどめ色をした卵を取り出すと、それをおもむろに航砂船のエンジンに押し当てた。
「さあ、始めましょう?」
と、卵を押し付けられたエンジンの表面がとぷんと波打ち、卵を飲み込んだ。途端に過熱したエンジンが甲高い音を立て始める。
流石にここまでの異変が起これば、船内の人々も只事ではないことを把握するだろう。一人のドラゴニアン男性が、機関室の扉を開けて飛び込んできた。
「な、なんだっ!? ……えっ!?」
男性は驚きに目を見張り、そして後ずさる。マナールのその姿は、まるで自分たちが信仰する炎の精霊のようであったからだ。
おののいた男性を見て、マナールが手に紫炎を生み出しながら笑う。
「ふふふ、炎の精霊の力、感じてもらえたかしら? ……なーんてね」
「バルトロメア号」が一瞬にして炎に包まれ、暴走を始めたその時。その進路上にあるオアシス「カルカテルラ」にて、一人の人間女性がハッとした表情を見せた。
周囲に視線を素早く巡らせると、ある一点、陽炎揺らめく砂漠の方に視線を向ける。
「精霊がざわめいているわ……まっすぐオアシスへと向かっている」
「ヘルガ先生? 何か……」
精霊術士、ヘルガ・マイシュベルガーは既に、ただならぬ事が起こっていることを精霊のざわめきから察知していた。付き人と思しき男性が不思議そうな顔をして彼女を見る。
ヘルガは自分の背負ったバックパックをその男性に押し付けると、愛用の杖を片手に走り出した。
「少しここを離れるわ。あなたはオアシスの人々の安全を確保してちょうだい」
言いつけられた男性は何がなんだか分からず、砂漠へと駆けていく自分の主人の背中をただ見送ることしか出来なかったそうだ。
●グリモアベース
「この人は……もしかしてヘルガさん……」
アスター・ファラデー(ルーンの繰り手・f02089)はグリモアから映し出される映像を見ながら、その金の瞳を細めながら眉間にしわを寄せていた。
普段から努めて無表情な彼女にしては珍しい。猟兵たちが首を傾げていると、振り返ったアスターがはっと目を見開いた。
「あ……すみません、皆さん。アルダワ世界で、猟書家の動きを、予知しました。このままではオアシスが破壊され、災魔がばらまかれてしまいます。対処を、お願いします」
曰く、アルダワ世界の中原地方、砂漠地帯が広がるそこで、猟書家幹部がオアシスとオアシスを繋ぐ航砂船を乗っ取ったのだと言う。このままでは猟書家の手に落ちた船がオアシスに突っ込み、災魔を大量にばらまいてしまう。被害は甚大になるだろう。
「航砂船『バルトロメア号』は、魔法の炎に包まれて、砂漠を暴走。まっすぐオアシス『カルカテルラ』の中心部に、向かっています。これを先んじて、一人の精霊術士の方が察知、現地に向かい、炎を収めようと、しています」
アスターがグリモアから映し出した映像には、金髪の女性が砂漠を駆ける姿が映っていた。この女性が件の精霊術士だ。名前は、ヘルガ・マイシュベルガー。
彼女の名前を聞いた猟兵たちに、アスターがこくりと頷いた。
「……はい。皆さんには、この精霊術士の方と協力して『バルトロメア号』の暴走を、止めていただきます。機関室にいる、猟書家幹部を撃破すれば、元に戻るはず、です」
そう話す彼女によると、機関室のエンジンには「災魔の卵」が埋め込まれ、航砂船を災魔化しているのだという。猟書家が撃破されれば卵はその力を失い、埋め込まれた物体に起こった現象が元に戻る。つまり、猟書家の撃破が最優先だ。
「航砂船は先程も言いましたように、炎に包まれています……ヘルガさんが炎を抑えてくれますが、一人では、限界がありますので……協力して、的確に突入してください」
ヘルガは炎の精霊との対話を以て、「バルトロメア号」を包む炎を鎮めようとしているそうだ。しかし高速で移動する大きな航砂船、一人の力で抑えられる炎には限界があるだろう。彼女の力を高める、彼女の力を作用させる場所を絞るなど、対応が必要だ。
船に侵入し、機関室にたどり着けば、猟書家、偽りの炎精マナールはそこで待ち構えている。
「偽りの炎精マナールは、炎の精霊、のように見せかけておいて、実際は悪魔に近い、です。使う攻撃も、ただの炎ではなく、闇属性の、紫の炎です」
マナールは紫の炎を自在に操り、裁きの声をかけた相手を燃やすことが出来る。さらには詠唱を重ねることで威力を増強させる炎の大波を放つ他、戦場を紫炎の迷路で包む事も出来るようだ。彼女を倒すにも、ヘルガの精霊術の力は有効に働くだろう。
そこまで説明をして、アスターが手の中でグリモアを回転させた。開くポータルの向こうから熱気が吹き込んでくる。
「それでは、皆さん準備は、よろしいですか……? 絶対、無事に帰ってきて、くださいね」
そう言うと、アスターは腰の革袋に手を突っ込む。そこから一つのルーンストーンを取り出すと、その文字を猟兵たちに見せながら言った。
「……はい、『カノ』です。灯火、松明、を意味する言葉ですが、先への展望が開ける、という言葉でもあります。ヘルガさんと協力すれば、道は開けるはず……そう信じています」
屋守保英
こんにちは、屋守保英です。
今月も猟書家戦、頑張っていきましょう。
協力してくれる精霊術士の方、どこかで見たことがある、ような……?
●目標
・偽りの炎精マナール×1体の撃破。
●特記事項
このシナリオは「2章構成」です。第2章がクリアになった時点で、シナリオが完成となります。
アルダワ魔法学園の「骸の月」の侵食度合いに、成功数が影響します。
●戦場・場面
(第1章)
中原地方、オアシス「カルカテルラ」近郊の砂漠です。
暴走する航砂船「バルトロメア号」が魔法の炎に包まれて暴走、「カルカテルラ」に突っ込もうとしています。
精霊術士の協力を得て航砂船に侵入し、中枢部に向かいましょう。
(第2章)
航砂船「バルトロメア号」の中枢部です。
猟書家幹部・偽りの炎精マナールが待ち構えています。
マナールを倒せば、航砂船は暴走を止め、正常な状態に戻ります。
●精霊術士
ヘルガ・マイシュベルガー(女性・32歳)
アルダワ魔法学園、精霊術士学科の卒業生。人間。普段は北方帝国を拠点とし、精霊術のアドバイザーとして働いているが、世界各地の精霊と親和性を高めるために各地を旅している。
性格は穏やかで面倒見が良い。凛とした立ち姿の女性。
それでは、皆さんの力の籠もったプレイングをお待ちしています。
第1章 冒険
『燃え盛る航砂船』
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POW : 何らかの手段で炎に耐えて突入する/精霊術士を強い意志で励まし、力を高めさせる
SPD : 炎の手の弱い場所から素早く突入する/精霊術士の現場への移動を助ける
WIZ : 航砂船の速度を落とす手段を講じる/精霊術士に何をすべきか指示する
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●熱機関
轟音を上げ、砂を巻き上げながら、航砂船が砂漠を駆ける。その船体は紫色の炎をまとい、周囲の空気を灼きながら一直線に進んでいた。
その航砂船と並走するように、金髪の人間女性が杖を振る。
「火の精霊よ、私の声を聞いて!」
精霊術士、ヘルガが声を上げれば、彼女の意に従った火の精霊が紫炎を抑え込む。だが燃えている範囲があまりにも広い。船の炎全てを抑え込むには、あまりにも力が足りなかった。
「くっ、燃えている範囲が広すぎる! このままじゃ……!」
歯噛みしながらヘルガが砂地を踏む。と、彼女の背後でいくつか、砂の滑る音がした。
ヘルガが振り向くと、そこには何人もの見知らぬ人々がいる。猟兵たちが到着したのだ。
「あなたたちは……!? 危険よ、離れて! あの航砂船は暴走しているわ、だから……えっ?」
一瞬呆けるも、ヘルガはすぐに我に返る。猟兵たちが巻き込まれないよう退却を促すも、すぐに猟兵が首を左右に振った。ヘルガに手短に事情を説明すれば、驚いたように彼女が目を見開いた。
「助けに来た……私を? そう、オアシスの人が気を回してくれたのかしら。協力に感謝するわ、行きましょう!」
すぐに頷いたヘルガは、猟兵たちの集団に加わって駆け出した。いよいよ、暴走する航砂船を止める仕事の始まりだ。
●特記事項
・舞台は砂漠です。いくつか点在するサボテンの他に、地面から飛び出た物はありません。
・ヘルガは基本的に猟兵と協力して行動します。具体的な指示があれば従います。
レーヴァ・アークルージュ
おお、炎術師かぁ。
なら、炎属性の魔術を極めた私の出番かな?
そう言ってユーベルコードを起動。
ヘルガさんにはそれが属性魔術と災魔使役魔術とを組み合わせた系統複合魔術の頂点にある魔術だとわかると思う。
顕現するは『ラリクマ・プロメテウス』
あり得ざる異聞、炎の大魔王形態をこの魔術は身に宿す。
そうして展開されるは復元と治癒の炎を身にまとった深紅の九尾の天狐。
『怯えなくて良いよ、大丈夫、飲まれていないから』
そう紅き炎の九尾たる大魔王は「バルトロメア号」を癒やしの炎にて復元していき、客員をその災魔の力を完全制御している光景を見せて安心させていくよ。
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
アドリブ・連携OK
ただでさえ砂漠で暑いのに、炎で包まれてたら船の中は相当暑そうだなあ。
まあ、止めないわけにもいかないし、乗り込むとしようか。
さて、地面から船に乗り込むのはちょっと大変だし、
空を飛んで上から乗り込もうか。
船の上空で【万喰熱線】を発動して、
炎を吸収しながら落下して船に着地するよ。
【万喰熱線】を発動してる間は動けないから、
炎から発生する上昇気流で流されないように、
マイシュベルガーさんに着地点の炎を抑えてもらおうかな。
無事に船に着地したらそのまま周囲の炎を吸収して、
上空に熱線として放出して消火するよ。
周囲の炎が消えたら中枢部に向かうとしようか。
上野・修介
※アドリブ、連携歓迎
「時間との勝負か」
出発前に、可能であれば耐熱性の外套等を用意し着用。
呼吸を整え、無駄な力を抜き、戦場を観据える。
先ず船の進行速度と予測ルートからオアシス到達までの時間を確認
UCは攻撃重視で軌道。
砂漠を打撃し2、3回砂の波を起こして船体の横合いからぶつけて進行の阻害と砂による炎の抑制・鎮火を試みる。
効果に関わらず、次に直接船体を打撃し穴を空けて船内に侵入。
UCを防御重視に切り替えて最短ルートを狙って機関室を目指す。
炎と熱は気合で耐える。
ヘルガさんには船内の移動ルートに沿って炎を抑制して貰うように頼む。
「必ず俺たちが船を止めます。どうか信じて、炎との対話を続けてください」
バロン・ゴウト
なんて禍々しい色の炎……このままじゃバルトロメア号の乗組員もオアシスもただじゃ済まないのにゃ!ヘルガさんと協力して一刻も早く船を止めるのにゃ!
ヘルガさんを【鼓舞】しつつ、ヘルガさんに従っている火の精霊に【トリニティ・エンハンス】の炎の魔力を注ぎ、精霊の力を上げるのにゃ。
紫の炎が弱まったところで【オーラ防御】を纏いつつ、【火炎耐性】で堪え切れるうちに【ダッシュ】で航砂船に突入するのにゃ!
絡み、アドリブ大歓迎にゃ。
●熱応力
熱気に満ちた砂漠を、火の粉と砂を撒き散らしながら航砂船が猛烈な勢いで走っていく。それを見やりながら空を飛ぶペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)は、うんざりした表情を見せた。
「ただでさえ砂漠で暑いのに、炎で包まれてたら船の中は相当暑そうだなあ」
「なんて禍々しい色の炎……このままじゃバルトロメア号の乗組員もオアシスもただじゃ済まないのにゃ!」
バロン・ゴウト(夢見る子猫剣士・f03085)も走りつつ同意しながら、風に舞い上げられた砂が毛皮についたのを払い落とした。
ただでさえこれだけ暑い砂漠なのだ。船が炎に包まれていることで、船自体も熱を持っていることだろう。内部の暑さは如何ほどか、想像するだに恐ろしい。
航砂船の走っていく方向、速度を計算した上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)も目を細めた。
「そうだな、時間との勝負か」
この速度と、オアシス「カルカテルラ」までの距離を考えると、事態は一刻を争うと言っていい。ヘルガも頷きながら、走る足を止めない。
「そうね、あまり時間をかけていては、オアシスに航砂船が突っ込んでしまうわ。早くに対処しないとならない……準備はいいわね、皆さん?」
彼女の言葉に、レーヴァ・アークルージュ(超学園級の烈焔魔導士・f29627)も頷きながらヘルガに目を向けた。
「問題ないよ、それにしても炎か……なら、炎属性の魔術を極めた私の出番かな?」
そう呟きながら、レーヴァは楽しそうに笑みを見せた。彼女の表情にちらと視線を向けつつ、ペトニアロトゥシカがぐんと翼に力を入れる。
「まあ、止めないわけにもいかないし、乗り込むとしようか。あたしは上空から飛び移るとするよぉ」
「気をつけてちょうだい、上はきっと熱風が強いはずだから!」
ヘルガに見送られながら、ペトニアロトゥシカは上空へと舞い上がった。彼女は上空から航砂船に取り付き侵入、残り四名は船の扉をこじ開けて突入する算段だ。
「よし、俺たちも行くぞ。時間はあまりない」
「行くのにゃ! ヘルガさん、ボクたちがしっかり支えるから、頑張って欲しいのにゃ!」
修介とバロンがヘルガに視線を向けながら言った。バロンがトリニティ・エンハンスの魔力を炎の精霊に注ぎ込めば、明らかに精霊の力が上昇する。ヘルガが驚いたように目を見張った。
「精霊の力の高まりを感じる……これなら少しは役に立てるわ!」
「いいね、それじゃ私も始めるよ。顕現せよ、十一番目の災いたる魔司りし炎よ。異聞にして外典たる十の炎の魔王を我が身に宿せ」
彼女の力が高まるのを見て、レーヴァが立ち止まり手を振り上げた。刹那、彼女の身体を紅蓮の炎が包み込む。
炎が収まるや、再び駆け出したレーヴァは深紅の炎を身にまとった九尾の天狐へと変じていた。その姿を見てヘルガが息を呑む。
「これは……何という力……!」
「属性魔術だけじゃないにゃ?」
「そう、災魔使役魔術も組み合わせた、系統複合魔術の極点だよ」
バロンの驚いた様子の問いかけにも答えると、レーヴァはその手を航砂船へと向けた。
「さあ始めようか、『ラリクマ・プロメテウス』」
その身に宿した大魔王に呼びかければ、バルトロメア号を包む紫の炎を食らうように、深紅の炎が船に宿った。猟書家の禍々しい炎と違い、優しく暖かな炎だ。
そうして紫炎が抑え込まれているのを見やりながら、修介がふっと息を吐く。
「これなら少しは与しやすくなるか。ペトニアロトゥシカもやりやすいだろう」
そうして今度は彼が足を止めた。両足を肩幅に開き、脱力して呼吸を整える。
「――力は溜めず――息は止めず――意地は貫く」
そして、拳を固く握りしめると。
「はっ!!」
「うわっ……!」
修介はそのまま足元に三度ほど拳を突き入れた。ヘルガが声を漏らす中、砂漠が揺れて砂が波を作る。そしてその拳が起こした砂の大波がバルトロメア号にぶつかって、速度を若干落とした。
「速度が落ちたにゃ!」
「好機。行くぞ皆!」
今がチャンス。一気に修介が船体に接近する。そして先頭部に近い位置に設置された扉目掛けて拳を振りかぶった。
「せいやっ!!」
裂帛の気合とともに放たれた一撃。それが航砂船の扉をひしゃげさせ、吹き飛ばした。
大きく開いた入り口へと、修介が飛び込んでいく。遅れてはならぬとバロンも砂を蹴った。レーヴァも一緒に駆けていく。
「扉が開いたにゃ! 行くにゃ!」
「え、ええ!」
彼ら二人にヘルガも続いた。そうして四人がバルトロメア号の中に突入していた頃、ペトニアロトゥシカもその上空に到達していた。
「おぉー、派手にやってるねぇ。それじゃあたしも」
船は捉えた。ここまで来ればそのまま船体の上に落ちることが出来るだろう。そう判断したペトニアロトゥシカはユーベルコードを発動させる。
万喰熱線。がちりと身動きが取れなくなったペトニアロトゥシカの身体がそのまま落下し、バルトロメア号の上にしがみついた。彼女に吸い込まれるように、紫炎も紅炎も鎮火していく。
「ふんっ! ……よし、オッケー。炎もしっかり抑えられているねぇ」
そうしてニヤリと笑いながら、彼女は炎を吸い込み続けた。周囲のエネルギーを吸収するこのユーベルコードは、こうした広範囲に及ぼされる力とは相性がいい。やがて船体上部の炎をほとんど飲み込んだペトニアロトゥシカが、意識を自分の頭上に向ける。
「このくらいでいいかな。せーのっ!」
気合を入れると、彼女の身体から上空に向けて熱線が放出された。走っていくバルトロメア号の上から、明るい光の帯が尾を引くように流れていく。
それを見ながらペトニアロトゥシカはユーベルコードを解除、船体上部のハッチをこじ開けて中に滑り込んだ。
一方、地上から侵入した四名。修介が吹き飛ばした扉がレーヴァの炎で修復されていくのを尻目に、バロンが額の汗を拭った。
「中も結構熱くなっているのにゃ……」
「乗組員の皆さんは無事かしら?」
ヘルガも心配そうに視線を巡らせる。機関室に早く行かないとならないが、乗組員の安全も確保しておきたい。
と、視線を左方、開いた扉の方に向けた修介が声を上げた。
「おい三人とも、こっちに来てくれ」
彼の後に続いて中に飛び込むと、そこは操舵室だった。低い位置にある上に前面が窓になっているため、他の場所より涼しいのだろう。それでも、この場所にいる船員の殆どがぐったりと床に倒れ込んでいた。
「これは……!」
「皆さん、大丈夫ですかにゃ!?」
ヘルガとバロンがすぐさま彼らに駆け寄る。修介とレーヴァも手を貸した。彼ら四人の姿を認めた乗組員が、驚きに目を見張る。
「ひ、人が!?」
「どうやってここに……」
助けが来たことの安堵感よりも、未だ暴走する船の中に乗り込んできたことへの驚きが勝るらしい。レーヴァが安心させるように声をかける。
「落ち着いて、救援に来たよ」
「状況はどうなっている?」
修介が端的に声をかけると、我に返ったように乗組員は早口でまくし立て始めた。こうしている間にも船はどんどん「カルカテルラ」に接近しているのだ。
「そ、それが、何度もエンジンの強制停止コードを打っているのですが、反応がなくて」
「舵も何かに邪魔されているように効かないんです、このままじゃ『カルカテルラ』に……!」
説明していて、この先に予見される状況への恐怖を思い出したらしい。乗組員の瞳に恐怖の色が浮かんだ。
彼らに、レーヴァはゆるゆると頭を振る。
「怯えなくて良いよ、大丈夫、飲まれていないから」
彼女が言うと、そのまま操舵室の中に深紅の炎を放った。紫炎によって破損していた窓や計器類が、みるみるうちに修復されていく。
「え……」
「お、おい、外を見ろ! 炎が……」
突然の暖かな炎と、破損したものの復元に驚いた乗組員たちは、ようやく外を見て紫炎が収まっていることに気がついた。炎はすっかり見えなくなっている。
修介が頷きながら乗組員たちに告げた。
「船の炎は抑え込んだ。後は中枢部に入り込んだ厄介者を排除しに行く」
「ええ。だから、機関室への行き方を教えてくださいますか」
彼の言葉の後を継いでヘルガも真剣な表情をした。すぐさま、乗組員が言葉を返してくる。
「こ、ここを出たら真っすぐ行って、下に降りる階段を降りたら左手に進んでください!」
「左手の突き当りに二重扉があります、そこです! 解除コードは……」
「分かりました、ありがとう」
情報をくれた彼らに礼を述べると、ヘルガはすぐさま踵を返した。バロン、修介、レーヴァもあとに続く。
操舵室を出てまっすぐ、左手に見える階下に降りる階段を駆け下りて左手に曲がると、その先にはペトニアロトゥシカがいた。ちょうど彼女もこの場所にたどり着いたところらしい。
「あれぇ? 皆どこに行ってたの?」
「操舵室に集まっていた乗組員さんたちを助けてきたのにゃ! ここが機関室だって聞いてきたにゃ!」
バロンが声を張ると、ペトニアロトゥシカは安心したように口角を持ち上げた。その手が扉の取っ手へと伸びる。
「そっかぁ、やっぱりこっちだったんだねぇ」
「ああ、このまま突入するぞ」
彼女が取っ手を掴むと同時に、修介が扉の解除コードを入力する。そして、大きな音とともに機関室の扉が開かれた。
成功
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第2章 ボス戦
『偽りの炎精マナール』
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POW : 偽精の裁き
【偽りの『炎の精霊による裁きの言葉』】が命中した対象を燃やす。放たれた【紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 炎精の偽典
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【炎属性に見せかけつつ、実際は闇】属性の【紫の炎でできた大波】を、レベル×5mの直線上に放つ。
WIZ : 死出の導き
戦場全体に、【出口部分にのみ殺傷能力のある紫炎】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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●熱月震
機関室の中に飛び込むと、それまでよりも数段強い熱気が満ち満ちていた。その部屋の中心部で、赤い肌をした悪魔然とした女性がこちらに振り返る。
「あら? 思っていたよりも早かったわね、猟兵」
「あなたが、この事件の首謀者ね……!」
猟書家幹部、偽りの炎精マナール。彼女を睨みつけながら、ヘルガが杖を握りしめる。その言葉にうっすら目を細めて返したマナールは、呆れたように天井へと視線を向けた。
「それに、この感じ……嫌だわ、船に撒いた炎、全部消し止められちゃったのね?」
船の外、船内の様子を感じ取ったマナールが嘆息する。しかし諦めた様子はない。不敵な笑みを浮かべながら、右手を前に伸ばしてきた。
「いいわ、それはどうだっていい。私が殺されなければ、じきにオアシスに船が突っ込んで多大な被害をもたらすのだから」
その手の先に、紫炎が灯る。点った炎がごうと燃え上がり、機関部のあちこちに燃え移った。
「さあ、戦いましょう? 私の炎で、あなたたちを焼き尽くしてあげるわ!」
怪しい笑みを浮かべてマナールが声を張る。船を止めるべく、オアシスの人々を守るべく、負けられない戦いがここに始まった。
●特記事項
・機関室はそこまでの広さはありませんが、猟兵とヘルガ、マナールが戦うには十分な広さがあります。
・戦闘の余波で機関部が破損しても、マナールが倒されれば元に戻ります。
バロン・ゴウト
この船もオアシスも、お前の好きなようにはさせないのにゃ!
ヘルガさん、炎の精霊さん、力を合わせて敵を倒すのにゃ!
引き続き、【トリニティ・エンハンス】の炎の魔力をヘルガさんの炎の精霊に注ぎ込むのにゃ。
【オーラ防御】や【盾受け】で攻撃を防ぎつつ、【フェイント】を織り交ぜながら攻撃して、マナールの隙を作るのにゃ。
隙が生まれたらヘルガさんに合図し、パワーアップした炎の精霊で攻撃してもらうのにゃ!
その闇のような炎に、ボク達の輝く炎は負けたりしないのにゃ!
絡み、アドリブ大歓迎にゃ。
上野・修介
※アドリブ・連携・負傷歓迎
時間は掛けられない。
故に、狙うは速攻。
――為すべきを定め、心を水鏡に
「推して参る」
UCは防御重視。
気休め程度に耳栓を着用。
調息、脱力、敵を観据え、踏み込む。
踏み出す動きに隠すようにしてアサルトペンを目と肩狙いで投擲し相手の虚を衝く。
その虚を衝いて、持てる最速にて真正面から最短距離を突貫し懐に飛び込む。
元より燃やされるのは覚悟の上。
回避も防御も捨て、ただ速く、ただ真っ直ぐ、突っ込む。
懐に飛び込む勢いそのままに、UCを攻撃重視切り替え、捨て身の渾身の一撃を、そこから更にラッシュを叩き込む。
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
アドリブ・連携OK
逆に言えばアンタを倒せばそれで解決ってことなんだから、
分かりやすくていいね。
さて、相手の攻撃は炎の大波ね。
なら竜の肺腑から暴風のブレスを吐いて攻撃して、
威力が上がる前にさっさと使わせようか。
炎の大波であたしの姿が相手から見えなくなったら、
カメレオンスキンで周囲の風景に迷彩、
吸音毛皮で柔らかい羽毛を生やして羽ばたく音を消して、
急上昇して相手に気づかれないように炎の大波を回避するよ。
相手がこっちを見失ってる隙に【潜隠襲牙】を使って、
上から急降下して蹴り飛ばそうか。
相手の動きが止まったらマイシュベルガーさんに攻撃してもらおう。
炎の精霊さんだって、偽物相手に怒ってるだろうしね。
レーヴァ・アークルージュ
成程、言霊魔術と炎属性魔術の複合系統のユーベルコードか……
一言、言わせてもらうね。
練りが甘い。
そう言ってユーベルコードを起動。
変容せよ、『モルトゥス・ドミヌス・プロメテウス』
瞬間、偽りの『炎の精霊による裁きの言葉』が焼き滅ぼされる。
言霊魔術と炎属性の複合は、こうやるんだよ。
そう言ってかつてアルダワ魔王戦争にて言霊具現化によって猛威を振るった大魔王第五形態『モルトゥス・ドミヌス』の力を炎属性と融合した形態へと変貌。
強大とは言え幹部級に準じる猟書家とフォーミュラの分体の力を再現するこ私とでは、位階の差は歴然。
そのまま猟書家を紫の言霊の炎ごと、深紅の言霊の炎は焼き尽くしていく。
火土金水・明
「この船をオアシスに突っ込ませない為にも、あなたを倒して止めてみせます。」「一人の一撃は微量かもしれません。でも、みんなで力を合わせれば大きな力になります。」
【POW】で攻撃です。
攻撃は、【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【銀色の一撃】で、『偽りの炎精マナール』を攻撃します。相手の攻撃には【残像】【オーラ防御】【見切り】【火炎耐性】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等は、お任せします。
●熱解離
偽りの炎精マナールと相対する猟兵たち。互いが互いの出方を伺う中、口火を切ったのはペトニアロトゥシカだった。
「はーん」
いつもの軽薄な笑みをますます深め、口角を持ち上げながら彼女はマナールに言い放つ。
「逆に言えばアンタを倒せばそれで解決ってことなんだから、分かりやすくていいね」
「あら。単純なこと」
その物言いに、マナールは鼻で笑って返した。確かにマナーるを倒せばこの船は救われる。船は止まり、オアシスの人々も救われる。万々歳だ。実にわかりやすい。
その事実を突きつけられてもなお、マナールは余裕を崩さなかった。
「でもいいのかしら? そんな大口を叩いて」
彼女の言葉に、バロンは力いっぱい腕を振りながら返す。
「この船もオアシスも、お前の好きなようにはさせないのにゃ!」
「この船をオアシスに突っ込ませない為にも、あなたを倒して止めてみせます」
後からこの航砂船に乗り込み、機関室に駆けつけた火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)も、握った杖を向けながら言い放った。
一気に緊張感が高まる。全員が臨戦態勢だ。マナールの手の中で紫炎が燃え上がる。
「いいわ。目にもの見せてあげる。猟書家を侮らないことね!」
「あなたこそ、猟兵を侮らないことだね」
レーヴァも不敵な笑みを向けながら返すと、修介が一歩前に踏み出した。いよいよもって、拳をゆるく握る。
「時間は掛けられない――推して参る」
次の瞬間には、全員が機関室の床を蹴る硬質な音が、室内に響いていた。
●熱界雷
まず最初に動き出したのはマナールだ。両手に紫炎を点し、大きく広げながら詠唱文句を発する。
「連なるは紫炎、闇に溶け、光を喰らう暗黒の炎」
「おっと早速大波を使う? じゃあ皆、ちょっと道を開けてねぇ」
あの詠唱は炎精の偽典のそれだ。詠唱が長引けば長引くほど、使うユーベルコードの威力が上がる。ここは狭い機関室、どう転んでもほとんどが攻撃範囲内だ。
だからペトニアロトゥシカは我先にと飛び出し、他の面々をどけた。さっと道が開かれた瞬間に、竜の肺腑から一気に吐息を吐き出す。
「ぐわーっ!」
「なんっ、く、おのれ!」
吐息は暴風となり、マナールの顔に吹き付けた。詠唱は中断され、反射的に伸ばした彼女の手から紫炎が波となって立ち上る。五人がますます部屋の端に身を寄せる中、ペトニアロトゥシカの身体が大波に飲み込まれた。
「うわっ」
「ペトさん!」
バロンが声を上げるが、返事はない。マナールが勝ち誇ったように笑いながら息を吐いた。
「はぁっ、威力を高められなかったのは残念だけれど、この狭い部屋の中。逃げ場など……なにっ!?」
だが、すぐにその表情は驚愕へと塗り替えられることになる。炎の大波が消え去った後に、ペトニアロトゥシカの姿がないのだ。影も形も、燃えカスすらも無い。
「いない!?」
「そんな、何処に……」
味方も驚き狼狽していた。レーヴァと明が周囲を見回すが、ペトニアロトゥシカを見つけることは出来なかった。
それもそのはず。彼女は部屋の天井にくっついていたのだ。それもカメレオンスキンで周囲の風景に同化した状態。柔らかい羽毛を生やして羽ばたく音を消したから、全員の目に彼女はこつ然と消えたように映っただろう。
「(よーし、皆気が付いてないねぇ。オッケーオッケー……そんじゃ)」
ほくそ笑みながら、ペトニアロトゥシカは天井を移動する。狙うはマナールの頭上だ。ペトニアロトゥシカを燃やし尽くして強制帰還させたとでも思ったか、高らかに笑っている。
「ふっははは、今の一撃で倒れ伏したならそれでいいわ、大口を叩いておいて! なら次は――」
「うりゃーっ!」
その頭上から、ペトニアロトゥシカは全力で飛び蹴りを食らわせた。完全なる不意打ち。予期できようはずもなくマナールが床に倒れ伏す。
「がふぁっ!?」
「よーし成功。マイシュベルガーさん、皆、今のうちにどうぞぉ」
ペトニアロトゥシカが呼びかけるも、仲間五人の目にも彼女が突然降ってきたようにしか見えていない。困惑で攻撃の手が遅れるが、すぐにヘルガが動き出した。
「ぶ、無事なら良かったわ。さぁ炎の精霊よ、清浄な炎をここに!」
「何処から出てきたのかは知らないが、今がチャンスか」
修介も飛び出す。倒れたままのマナールが、バロンによって魔力をチャージされた炎の精霊によって燃やされる中、彼女を強かに殴りつけた。ますます体勢を崩すマナールへと、バロンと明がおのれの剣を持って迫る。
「今のうちにダメージを与えていくにゃ!」
「ええ、今こそ好機です」
突いて、斬って、また殴って、燃やして。そのすべての攻撃を余すところなく受け止めたマナールは、エンジンに激突してようやく立ち上がった。
「ふ、うっふふふ……さんざん、たかって痛めつけてくれちゃって。恥ずかしいと思わないのかしら?」
「力なき人々を暴力的に殺そうとしているあなたほど、恥知らずではないにゃ!」
忌々しいものを見ながら笑みを浮かべるマナールに、バロンがレイピアの切っ先を向けながら言い返すと。彼をにらみながらマナールが発する。
「言ってくれたわね。精霊に向かってその不遜……恥を知りなさい」
次の瞬間。バロンの身体に紫色の炎が点った。炎は服にどんどん燃え広がり、彼の毛皮にも燃え移っていく。
「うわっ、熱いにゃ!?」
「バロンさん!」
ヘルガが急いで炎を消そうとするが、叩いても水をかけても紫炎は消えない。その炎を見て、レーヴァは小さく口角を持ち上げた。
「成程、言霊魔術と炎属性魔術の複合系統のユーベルコードか……一言、言わせてもらうね」
言霊に炎を乗せて遠距離から着火する。しかも点けるか消えるかは自由自在。系統としてはまさしくそのとおり、レーヴァの言葉は的を射ている。
マナールが目を細めるが、次の瞬間にレーヴァは冷たく言い放った。
「練りが甘い」
「なっ」
その容赦ない言葉にマナールが言葉に詰まる。その彼女の目の前で、レーヴァは両腕を大きく広げた。
「言霊魔術と炎属性の複合は、こうやるんだよ。変容せよ、『モルトゥス・ドミヌス・プロメテウス』」
そう声を発するや否や、レーヴァの足元から紅蓮の炎が広がった。その炎が紫炎に覆いかぶさり、熱もなく燃やし尽くし、滅ぼして消えていく。バロンの身体に点いていた炎も、すっかり焼き滅されていた。
「わっ……あれ、炎が消えてるにゃ!?」
「そんな、私の紫炎が
……!?」
マナールはあまりの出来事に、驚きに目を見開いていた。彼女の前に立つレーヴァは、まるで大魔王の如き姿を持って立っている。
「くっ、このっ、罪深い! 頭を垂れなさい!」
「無駄だよ」
必死になってマナールが言霊をぶつけるも、紫炎はすぐさま紅蓮の炎に焼き消されていく。レーヴァは静かに言い放った。
「私の力は大魔王第五形態『モルトゥス・ドミヌス』を炎属性と融合させ、変容させたもの。強大とは言え幹部級に準じる猟書家と、フォーミュラの分体の力を再現するこの私とでは、位階の差は歴然。そうでしょ?」
「な……!」
その容赦ない言葉に、マナールは愕然としながら両腕を下ろした。
レーヴァの操るのはオブリビオン・フォーミュラの力の模倣。オウガ・フォーミュラならいざしらず、猟書家幹部では力のレベルが違いすぎて相手にならない。
そして、マナールの攻撃はいずれもこの紫炎によるもの。その紫炎がレーヴァの炎で無力化されている現状、彼女に打つ手はない。
それを認識して、動き出したのは明と修介だった。
「攻撃手段が封じられたようですね。それでは」
「――為すべきを定め、心を水鏡に。いざっ」
二人が同時に飛び出した。駆ける明を追い抜いて、修介の投じたアサルトペンが虚を突いてマナールに迫る。
「ちょ、ちょっと待って、待――」
「ぬんっ!!」
それを避けようとマナールが身をよじった時には、既に修介の姿は眼前にある。拳の乱打が始まる中、他の仲間達も次々に攻撃を加えていた。
「精霊を騙り、オアシスの罪なき人々を殺そうとした貴女に、容赦など無用です!」
「これ以上思い通りにはさせないのにゃ!」
ヘルガが再び精霊を駆って炎を点し、バロンも炎の魔力を宿したレイピアを突き刺し。
「一人の一撃は微量かもしれません。でも、みんなで力を合わせれば大きな力になります」
「そうだねぇ。あたしたちが力を合わせれば、アンタなんて恐れることはない」
明が銀の剣でマナールを切り裂けば、ペトニアロトゥシカが執拗に蹴りを加え。
もう息も絶え絶え、全身が血で染まったマナールに、修介の拳が迫る。
「あ、が……!」
「終わりだ、猟書家」
その拳がマナールの胸に突き刺さり。彼女はいよいよ崩れ落ちた。そこにレーヴァが手をかざせば、彼女の身体を炎が包む。偽物の炎ではない、本物の、紅蓮の炎が。
「さあ、本当の炎ってものを味わわせてあげるよ……バイバイ」
炎が一気に燃え盛り、マナールの身体を包み込む。彼女の身体を焼き滅していく。
「あ、あぁぁ
……!!」
断末魔の悲鳴を上げながら、マナールは塵の一変も残さずに焼き尽くされていった。
●熱気泡
彼女が消滅するのと時を同じくして、どどめ色に渦を巻いていた機関室のエンジンが元の色を取り戻した。それと同時にがたんぷすんと音を立てながら振動し、急速に動きを停止させる。
その様子を見つめていたヘルガが、肩の力を抜いた。
「終わったかしら?」
「恐らくな……見ろ、エンジンが」
修介は頷くと、エンジンにつながる計器類に目を向けた。針はぴくりとも動いていない。明が小さく首を傾げた。
「止まっている?」
「うんともすんとも言ってないねぇ。止まったのはいいけど、ここからまた動き出せるのかなぁ?」
ペトニアロトゥシカが傍に寄ってエンジンに触れるも、上記が動いている様子はない。これは本当に停止しているのだろう。再起動させるのは手間そうだ。
彼女の言葉に猟兵たちは顔を見合わせるが、すぐにヘルガが首を振った。
「それは、私とこの船の乗組員の仕事よ。貴方たちのおかげで、最悪の事態は回避できたわ……ありがとう」
彼女の口から発せられた御礼の言葉に、レーヴァがニコリと笑う。
「こちらこそ……いい炎だったよ」
「うん、とても頼りになったのにゃ!」
バロンも一緒になって笑顔を見せると、彼ら彼女らに笑顔を見せながら、ヘルガもこくりと頷いた。
「ふふ。嬉しいわ……これでまた、旅を続けられそうよ」
彼女の世界をめぐる旅はこれからも続く。猟兵たちの世界を救う旅も、また。
大成功
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