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灰の刃吹きて、夢と桜とぞ散らむ

#サムライエンパイア #戦後 #夕凪の旅路

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#戦後
#夕凪の旅路


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 さらさらと。
 儚くも美しく。
 冷たくも、清らかに。
 視界より夜空の色を攫うは、無数の白櫻の花びら。
 細波のように揺れて、風に舞う。
 天に輝く星さえも、踊る桜花はその裡に抱いてしまう。
 瞬間、刹那にしかない。
 咲き誇りて、散りゆくこの一時だけ、世界を自らの色彩へと。 
 ああ、なんと綺麗なのだろう。
 まるで一夜にか在れぬと切なさに零れる涙のよう。
 そう覚えるのは桜のもたらす酔いに似る錯覚か。或いは、惑わされているのか。
 往く宛の定かではない旅路の途中、この村に留まった妖剣士である夕凪はただ、吐息を零すばかり。
 この郷は桜に覆われ、何処か浮世離れしていて。
 夜歩きにと社まで誘われれば、月の光さえ隠す花びらたちが、さらり、さらりと揺らす。
 全てを、思いを、情と夢を攫うように桜吹雪が舞い散る中で。
 ああ、けれど。
 そんな静けさも、瞬間で終わってしまうのだと。

 こつりと、足音を響かせるモノがいた。

「ほう。誰ぞいるかと思えば、出歩くものだな」
 赤髪の男は、この夜と白桜に似合わぬ。
 豪放磊落を書いて形にしたような武芸者だ。
 肩に担がれた大太刀は鞘から抜かれずとも、剣気をゆらりと立ち上らせる。
 尋常ならざるものであり、纏う気配は戦と火に似て。
 全ての美しい景色を。
 その武の色合いで染め抜く、過去の残滓。
 剣鬼というモノに墜ちた存在。
「アンタが誰でも構わない。俺は焔影」
 名ばかりを覚えていて。
 戦うという思いばかりを別れられなくて。
 ああ、どうして、という信念を忘れた戦狂いこそ、この男。

 国を愛し、友と共に命を賭けて護ろうという誓いなど。
 花より脆く、焼け爛れた灰となって漂うばかり。
 
「この社に奉られているという『夢喰みの太刀』を、後日、頂きにくる」
「今、奪うのではなく?」
 身構える夕凪は妖刀へと指を滑らせるが、笑う焔影は肩を竦めて身を翻す。
「今だとお前しかいない。それでは戦い足りない。徒党を組んで奪いに来るといえば」
 はらり、はらりと桜の散る中。
 情緒も雅も知らぬと、刃のような言葉を告げる男。
「――天下自在符を持つ武芸者たちも集うだろう。そいつらと、戦いてぇなだよ、俺は」
 ああ、勝ちたいという思いは、焔影の胸の中で渦巻き続けて。
 どうして。なぜ。
 そんな思いを、理由を、魂の根幹を失っても、ただ戦の渦中へと向かわせる。いいや、引き起こす。
「戦いたい、勝ちたい。……ああ、どうしてだろうな」
 はらはらと、無常に散る花になどなれはしないと。
 焔影は鋭い視線を夕凪に投げかける。
 燻り続けた灰のように赤々とした色で、思いで。
 正しいも間違いも、此の為には正義も邪悪もありはしないのだと。
「俺は、誰かの為に戦い続けなければいけないんだよ」
 まるで呪われたように。
 かつて、夕凪がそうであったように。
 晴らされる事のない想いを渦巻かせながら、焔影はこの場を去る。
 少なくとも、そう。
 この夜に刃が吹き抜ける事はなく。
 ただはらはらと、景色を覆い尽くさんばかりの白桜が舞い落ちる。

「誰かに、誓ったんだ」

 何をと、夕凪は問い返す事はできず。
 桜吹雪に消えるその背を見送る。
 きっとそれは、彷徨い続ける、呪われた亡霊なのだろうから。
 未練の火のような赤い髪が夜へと溶けていく。
 そして、数日の内に戻るのだ。
 次は喪失した願いを刃に乗せる、剣鬼として。



●グリモアベース



「今回は予知、というよりも、予告がありました」
 何といったらいいのでしょうと、困ったように笑うのは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)だ。
 満開に咲き誇った桜を迎える、とある郷。
 そこに焔影と名乗る男が現れて、そこにある『夢喰みの太刀』を奪うと告げてきたのだ。
「が、目的は奉られている霊刀ではなく、どうやら、そう告げる事で、強者と戦うことのようでして」
 一種の剣鬼というべきなのだろうか。
 調べて見れば、ちゃんと告げた後に襲撃にかかる、という事件が近隣で多発しているらしい。
 だが、どうしてという理由は皆目見当は付かず。
 戦いを求めているのではないかとしか思えないのだ。
 或いは、その中で何かを取り戻そうとしているかのように。
 出来なかった事を、叶わなかった約束を、なんとかやり直そうとしているように。
「言うまでも無く、男はオブリビオン――過去の残滓。真実を喪い、本質を曇らせ、けれども、戦うという事を終わらせられない存在」
 強者と切り結ぶ事なのか。
 それとも、勝ち続けるという事なのか。

――誰かに誓った想いを、呪いのように抱き締めて。

「そして困った事に、どうやらこの事件にはかつての妖剣士、夕凪さんも関わってしまったようでして」
 かつて猟書家たる『刀狩』に操られ。
 今は世を旅する夕凪という少女。
 それこそ焔影という男に呪いのようなモノを感じ取り。
 自分がそうであったように絶ち斬りたいと、今回も戦うつもりのようだ。
「それは桜のもたらした再会か。それとも、何かの始まりか。さて、私には判らない事ですが」
 ふと、花びらのように軽やかな吐息を零す秋穂。
 少なくとも、縁があるモノにとっては幸いだろう。
 生きている間に巡り会い、言葉を交わし、想いを共に。
 それこそ『倖せ』を求めるならば。
 ひとつの偶然と会話を交わすのもいいかもしれない。
「そして、郷を守る為にと備えれば、咲き誇りながら今や今やと散り続ける桜と、一時を過ごせるでしょう」
 戦の前に、想いを馳せる。
 四季が鮮明で、美しい移ろいを見せるこの世界だからこそ。
 この一夜に想う事があれば。
 この出逢いと、戦いに思うことあれば。
「花に思いを巡らせ、見つめるのもよいかもしれませんね。戦いが終わっても――と」
 

 はらはらと。
 願いのように咲き誇り。
 夢のような舞い散る、白く、白い花びらたちの中で。
 忘れられぬ祈りと言葉を。
 

「忘却の中で戦う剣鬼は」
 呟く秋穂は、何処までも軽やかに。
 花びらのように、ふわり、くるりと。
「この美しい桜の景色の中でも、何も見れないでしょうけれど」
 皆様は違う筈と、微笑むのだ。
 妖しいに呪い。
 想いに宿業。
 何れを纏いても、進む姿を信じているのだと。


遙月
 何時もお世話になっています。
 マスターの遥月です。
 今回は桜と刃、そして想いの話として綴らせて頂ければ幸いです。
 心情×戦闘、更には和風の奇譚としてと。
 どうぞ宜しくお願いいたします。

 採用は人数は無理のない程度に。
 活躍させやすい人、書きやすい人、からの採用となります。
 先着順ではありませんので、その点はご容赦くださいませ。

 相手は正々堂々と正面から襲って参りますので、不意打ちなどの対策は不要です。
 むしろ備えれば備える程に敵の襲撃は苛烈さと理不尽さを増すでしょう。
 時間帯は夜。
 場所は桜の木々に包まれた社の周囲と、その境内。
 満開の桜の森の下で、まずは戦の前に想いの一時を。
 そして、戦となれば熾烈な一幕となりますように。
 通しでも、途中参加でも、一章だけでも構いません。
 ただ、第一章でキャラの心情を書いて掴ませて頂けると幸いで、後に繋いで書きやすいです。


●第一章

 満開の桜の下でお好きに一時をお過ごし下さい。
 基本的に自由にして頂いて構いません。
 心情、情緒重視のこの季節だからの桜をメインとさせて頂きます。

 また以前の『刀狩』で猟兵たちに救われた妖剣士の少女、『夕凪』との会話や、これからの話などもこちらで可能です。
 

●第二章

 集団戦となります。
 桜の社へと波状攻撃を仕掛ける者達を討ち取っていってください。
 郷の人や、周囲への被害は気にしなくても大丈夫です。

二章より先、『夕凪』はプレイングで指示や共闘がなければ、リプレイには登場しませんし。
 逆に共闘などをしたい場合はプレイングに指示があれば、出来る限りでそれに合わせていきます。


●第三章

 ボス戦となります。
 どうあろうと、過去の残滓となろうとも武人ではある存在。
 ただし最早その身は剣鬼であり、戦う事に執着するモノ。
 救う手立てなどありませんし、ならばと、見失ったものを取り戻させるのが唯一の光というもの。
 或いは、何かを伝えたければ。
 こういう最後をと想うのであれば。
 花にするかのようではなく、刃にするようにと。
 戦いの裡、剣戟を以て告げてくださいませ。



『登場npc』 
・夕凪
 かつて『刀狩』に操られた妖剣士の少女。
 白い髪に青い瞳とこの国にしては珍しい容貌を持ち、今は『未来と倖せ』の為にと旅路を続けています。
 シリーズ物として登場予定。
(登場シナリオ『骸の月~刃の痕に残るは~』) 
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第1章 日常 『いにしえの心』

POW   :    古きよき文化へと思いを寄せる

SPD   :    移ろうひと時へと思いを馳せる

WIZ   :    とりどりの花へと思いを重ねる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●断章~桜花の夢、春宵の歌~


 さぁぁっ、と。
 冷たい春の夜風が吹き抜ける。
 視界を覆う程に舞い上がるは、降り積もった桜の花びらたち。
 数える事も出来ないほど。
 どれ程の白い色を重ねるのかと、問いたい程。
 けれど、雪とは違う温もりと彩を夜空へと届ける、雅なるその姿。
 ああ、見上げればまだ桜の森は満開で。
 終わりなど見えないというのに
 この桜花の夜に、終わりなんて感じられない。
 けれど、これは朧に見せる春の夢の一欠片。
 儚く消えてしまうモノが、この世の全て。
 それでも消えない一滴を、掌に納めるように。
「この桜たちは、この郷に奉られる『夢喰みの太刀』にちなんで植えられたそうです」
 桜が咲き誇り、舞い散り、降り積もる。
 美しき境内でさくりと、一歩踏み出した夕凪が語り始める。
「かつて、ある貴族の男が悪夢に魘され続けたといいます」
 ただ悪夢を見るのではない。
 病に罹り、悪化を辿る身はまるで呪われているかのようだと。
 それを伝え聞いた旅の僧が、一振りの太刀を渡してこれを枕元に置くのだと告げた。
 そうして翌日、起きた男が目にしたのは異形の姿だった。
 まさしく鬼とかいえない化生の姿。
 されど、その首に突き刺さっているのは枕元に置いた太刀。
 独りでに鞘より抜け、訪れた鬼を斬ったかのように。
 或いは、男の夢に巣くっていた鬼を此方へと引き摺り出し、穿ったように。

「故に、『夢喰み』。悪夢を喰らう太刀」
 
 快復に向かった男は礼をとしようとしたのだが。
 ならばこの太刀に、桜の夢を見せて欲しいと僧は語る。

――これは悪しき夢を喰らう刃なればこそ、良き花と夢に包まれて眠らせて欲しい。

 せめて四季の一瞬。
 美しくも良き夢を捧げて欲しいのだと。
 そうして、ひとの良き夢を、優しく、切なくも大切な夢を結んで欲しい。
 春の夢と。
 人の思いという花。
 それを護る太刀として、ここに奉られる。
 大切なる夢に抱かれて、この桜の元に在る。
「可笑しいですね。とても、とても。……まるで呪われたように、悪夢そのものになったような男が」
 悪夢を喰らう太刀を求めるなんて。
 いいや、心の底ではそれを求めているのではないかと。
 争い続けて、血に濡れても、魂の裡に不変なるモノがあるのかと。
 判らぬものなれど。
 夕凪は白い花びらをひとつ、手のひらにのせて。
「花も花なれ。人も人なれ」
 懸命に生きて、そして、故にこそ散るその瞬間。
 ああ、誰かに誓ったという、かの灰燼の刃よ。
 求めるはそう。
 魂を懸けて、此処にあったと示して。
 散るべきその刹那を求めるのか。
 ただの人というには、余りにも血塗られた身であれど。
「世は巡るのでしょうね。何かを求めて。誰かを求めて」

――例え終わりて残滓となれど、消える事のない誓いと夢こそをと。

 桜花は、ざわざわと音を立てながら。
 その白い姿に、人の思いを映すのだ。
 優しく、切なく。
 この一夜に思い描く夢の姿を。


 さあ、貴方はこの美しい夜に。
 戦を前にした静謐なる一時に。
 何を夢見て、思い描く?
 嘗てに在りし事か。
 未来にあるモノの事か。
 或いは、傍に在りし者への思いか。
 

 さわさわと、桜花は囁く。
 
======================================================================

指定の能力値は参考までに。
他の好きなことをして、頂いて構いません。
桜を愛でて、四季を詠うもよし。過去と未来に思い馳せるも。
或いは誰かと共に一時を過ごすも自由に。和の春宵をお過ごしください。

もしくは、傍に迫る剣呑な刃の気配に、身と心を研ぎ澄ますもと。
それもまた、夢なればこそ。

桜の花びらと共に浮かべ、舞わせて。

======================================================================
ラルス・エア
話を思い起こす
…剣鬼と言えど、理由なく『乞う』ことはあり得ない
人は―動機があり、理由がなければ動かない

ならば
悪夢を喰らう太刀を求めるその彼方には
剣鬼となって尚『願い乞う理由』があるに違いないと

「桜と共に、本を。と思ったのだが」
見上げる桜は視界を奪うように降り注ぐ
もし私であれば、何を元に同じ存在となり得るであろう

…浮かぶのは『友との約束』
幼き頃に、己が寿命など考えなかった時分の
『共に生きてくれ』と言われた傲慢な言葉

―人狼の寿命故に
約束は、違えるであろうと今ならば分かる

私は、親愛なる友を
置いて、逝けるだろうか
死した後
歩む道は何かを抱く剣鬼と同じになるのではないか

…己が迷いを振り払うように
本を閉じた



 はらり。
 と舞い散る白い花びらと。
 ひらりと。
 流れ落ちる儚き命の話。
 全ては名残を惜しむように。
 限られた時の中で、その姿を揺らのだ。
 まるで何かに、誰かに、世界へと希うように。
 けれど。
「理由なく『乞う』ことはあり得ない」
 夜桜に囲まれる中で呟くは、青紫の色彩を纏うラルス・エア(唯一無二の為だけの・f32652)。
 桜が咲いて、舞うのもきっと何かの理由がある。
 祈りであり、願いであり、希う夢のようなもの。
 心に浮かべ、願い乞うその想い。
 例えこの身が消えて果ててもと。
 これだけは消したくないと、魂のように抱くもの。
 動機、衝動、信条。
 矜持と約束、信仰と理想。
 全ては移ろうばかりの諸行無常。
 この春の宵のように消え逝くものなれど。
「今を生きる人には――動機があり、理由がなければ動かない」
 何かを求めて、握る事ができる手はふたつだけ。
 探し求める双眸はただひとつ。
 ならば、悪夢を喰らう太刀を求めるその彼方。
 剣鬼となって尚、『願い乞う理由』があるのではないだろうか。
 ラルスは思案しつつ、桜吹雪の中を歩き続ける。
 確かめる術などもうないのだろう。
 けれど。
 例え本人が忘れたとしても。
 過去たる骸の海に、その形を喪わせたとしても。
 はらり、ひらりと。
 舞う桜花の如く、名残を揺らして。
 叶わないからと。
 忘れて消える事のできない、約束を抱いて。
 此処に辿り着いたのではないだろうか。
 最早、本人さえ見失ってしまっても消える事のない夢の残滓として。
「桜と共に、本を。と想ったのだが」
 ラルスが見上げるは視界を覆う白き桜の花びらたち。
その心だけではなく、心と言葉さえも攫ってみせようと。
 静かに降り注ぐは、まるで時の流れのよう。
 だから、ああとラルフは思うのだ。
 私であれば、何を元に同じ存在となりえるだろうと。
 無慈悲な時間の流れを表すような、その花吹雪の中で思い浮かぶは、ひとつの出来事。

――『共に生きてくれ』

 それは幼さ故に、何処までも残酷な約束。
 人狼たる短き己が寿命など考えなかった自分の。
 傲慢で。
 余りにも無垢で。
 そして切実に契った、想いのこと。
 現実など知らないと、言い切ったが為に、今でも鮮明にラルスの心に刻まれたその一瞬。
 人狼という血筋が迎える寿命。
 今ならばその業で、約束は違えるのだと判ってしまう。
 大人となった今ならば、判ってしまう。

――私は、親愛なる友を

 唇が動いて、言葉を紡ぐ。
 けれど、さらさらと、さらさらと吹雪きし花が。
 悲しげな聲を、優しい色彩で攫い尽くす。

――置いてなど、逝けるだろうか

 悩みて、迷い。
 憂いて、揺れる。
 死を安息と救いだと歌うのは、死神だけなのだから。
 ひとの心が、ラルスの思いがそれで安らぎを得る事などありはしない。
 名残を抱いた魂はきっと彷徨うのだと、降り注ぐ桜花が囁く。
 ラルスが死した後。
 歩む道は、何かを抱く剣鬼と似るものになるのではないか。
 名残と、どうても捨てきれぬ。
 置いてなどいられない、大切なものの為に。
 この世に在り続けるのではないだろうか。
 何もかもを、亡くす事になっても。
「……ああ、今、考えても詮無きこと、か」
 己が胸に渦巻く迷いを。
 鼓動と共に切なく疼く痛みを。
 振り払うように、ラルフはそっと本を閉じた。
 けれど。
 頁の隙間に、白い花びらがひとつ。
 滑り込んでしまう。
 決して、この思いと定めからは逃れられないと。
「ああ、そうだな」
 ラルスの紫の眸が、揺れる。
 いずれ、それは決して見せよう。
 生きている間に、共に親愛なる友と歩む時間の中で。

――独り残すなどありはしないと、彼の心の隙間に俺の心のひとひらを。

 この命、果てて消えども。
 伴に有り続けよう。
 それだけは確かに。
 ラルスは約束したのだから。
 どんな形になったとしても、幼き言葉は守りたいから。
 違えると大人になって判ったとしても。
 変わらないものはある筈なのだ。
 そう、変わらぬ願いがラルスの胸にはある。
 いっとう大切なるものを思い描いて、ラルフは桜吹かせる夜風に佇む。
 残酷なる時の流れを知らせるように。
 さらさらと桜花が音を奏でていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
春の宵、月の光を透かす夜桜かー
見なよユキエ(肩に乗る相棒の鸚鵡に)桜が浮き上がって見事なもんだ
『…』(普段お喋りなユキエは瞬きして見つめたりクゥ…と地鳴きしたり。喉を掻いてやる)…なんだ、ヤケにおとなしーな?眠い?

【軽業】で月も見える枝に乗り腰かけ上に下に散る桜を見る
…雪みたいだねェ
桜散る霞と月と花懺悔…って
うっかり感傷に浸っちまいそ
『カンショウ?』
そそ、まー例えばミサキ思い出したり?
積もった桜で滑ったとか
あと塩漬け作ったなーとか…アレ?色気ねーの
生きてたらこんな風情、隣で見たかったよ

>夕凪
あの娘も刀狩に狂わされた剣士さんか
娘さんもここに来るって言う男も
修羅の道を行く連中なんだねェ…

アドリブ可



 降り注ぐは、月明かりと桜の花びらたち。
 どれもが静謐。
 吐息のひとつが静寂に響く。
 どれもが清い程に白く、美しい。
 そんな尽きる事のない優美なる宵の裡に。
「春の宵、月の光を透かす夜桜かー……」
呟いたのは鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)。
 しずしずと零れる月光と、それに透けるように煌めく白櫻。
 ああ、と溜息が零れるのは仕方なく。
 鹿村の息を受け止めた世界が音を取り戻して、風を吹かせる。
「見なよ、ユキエ」
 言葉を投げかけたのは、鹿村の肩に止まる白い鸚鵡だ。
 旅の連れにして、相棒である存在。
 風でふわりと舞い上がる花びらたちを前にして。
「桜が浮き上がって、空を彩る。見事なもんだ」
 旅を続けても、こうも趣ある風景には巡り会えない。
 それこそ一期一会。
 一夜にだけ出会う、美麗なる景観を前にて。
『……』
ユキエは瞬きをして見つめるけれど、クゥと小さく地鳴きをするばかり。
 何時ものお喋りで、賢くも気が強い気性は何処へやら。
 鹿村がユキエの喉を掻いてやれば、心地よさそうに身体を揺らす。
「……なんだ、ヤケにおとしーな? 眠い?」
『……』
 言葉は返さず、けれど、こくりと身を揺らして意思を伝えるユキエ。
 春眠、暁を覚えず。
春の宵は美しいだけではなく、心地よいのだ。
 値千金とも言われるその中で眠るならば、どれ程に優しい夢が見れるのか。
「よっと」
 鹿村が軽業で飛び乗るのは、上に座れる程に太い桜の枝の上。
 月がよく見える場所に腰掛けて眺めるは。
 風に吹かれて上へ、下へと舞い散る軽やかな桜の舞。
 彼方の夜空に、小さな星の輝きも共にあるのだと鹿村のオレンジ色の眸が映し、瞬いて。
 地も空も花の白さ。
 夜天には月と星の輝き。
 ああ、果てなど無いのだと。
 見果てぬ旅路の先を思い描く。
「……雪みたいだねェ」
 呟きは一度始めれば止まらない。
 頭に浮かんだものがするりと鹿村の唇から流れ出す。
「桜散る霞と月と花懺悔……って、さ」
浄瑠璃の外題の如く嘯いて。
 頬を撫でていった桜花のひとひらへと、視線を落とす。
 さながら世界は、鹿村の好む星空。
 花という星に覆い尽くされた、天の川のようなその中で。
「うっかり感傷に浸っちまいそ」
 言葉にするのも無理はない。
 美しいとは。
 それだけで、人の心に触れるものだから。
『カンショウ?』
 眠たげな声で応じたのはユキエだ。
 未だに冷たい夜風を受けて、白い翼をふるりと震わせる相棒へと答える鹿村。
 そう、何処か冷たく。
 悲しそうに。
 どうしようもないことを、過去を感じて。
 痛みを思い出すように。
 けれど、それは過ぎ去った昔なのだと。
「そそ、まー……例えば、ミサキを思い出したり?」
 悲しいことばかりではなかったよと。
 優しい桜吹雪の色に答えるように、鹿村は柔らかな声色で。
 それでも消えぬ心の傷から、漏れる何かを滲ませて。
「積もった桜で滑ったとか」
 なんて、当たり前な子供の噺。
 一緒に振り返れば笑い合うような。
 どうようもない日常の、共に過ごした一瞬の。
 幼く、大切なる記憶を心で揺らして。
 けれど。
「あと塩漬け作ったなーとか……アレ?」
 もう叶わない。
 共に振り返り、ああしたなと、彼女と笑うことは。
 もはやない。
 散った花が、その枝に戻る事はなく。
「色気ねーの、ミサキ」
 こういったら怒っただろうか。
 その後、笑ってくれただろうか。
 思い馳せる事は出来たとしても、それを確かめる事など出来ず。
 落ちて喪われた冬椿の鮮やかなる色を思い出すように。
 春宵の桜の今に埋もれて、鹿村は微笑む。
 私を思い出して泣いて欲しいなど。
 きっと彼女は望まないだろうから。
「生きていたらこんな風情」
 僅かに震えた鹿村の喉と、こえ。
 ダイジョウブ、と優しくユキエが頬をつつく。
 花びらがさわさわと、続きをと促す。
 そう、鹿村が願うのは。
「……隣で見たかったよ。一緒に」
 夢見ていいのなら。
 全ての咎を、この花が拭ってくれるのなら。
「この夜桜を眺めてミサキがどんな顔をするか、見たいよ」
 知りたいよ。
 教えてくれよ。
 彼女がどんなに風に笑うのか。
 きっと、この宵桜の宴よりも綺麗だから。
 求めて、願って、夢に見たいと鹿村は瞼を閉じる。

――ああ、泣いてなんかいないさ。

 でも、痛いのは、悲しいのは。
 どうしようもなく本当なのだ。
 これが鹿村の心なのだと、はっきりと判る程に。

――ああ、感傷に浸ってもいいだろう。

 いま、この時だけは。
 花が全てを覆って。
 上も、下も。
 右も左も、前も後ろも。
 天の川のような美しさで、全てを隠してくれる。
 喪われた幼き魂はもう、彦星と織り姫のようにもう巡り会う事、叶わずとも。
 それが夢というお伽噺と、現実の違いだと噛み締めて。
 これが咎と罰だと、鹿村は喪われた恋の欠片を思う。
 誰が罰せずとも。
 誰が許したとしても。
花や四季とは違う、変わらぬものなのだから。
 移ろわざる悲しき追憶を絶ち切るは、さくりと花踏みしめる足音。
 気配に視線を巡らせば、雪のように白い髪を靡かせて、真っ直ぐに歩く夕凪の姿がある。
 桜の枝に座る鹿村の姿に気付く様子はなく、ただ歩き続けて。
 周囲に気を張る姿はひたむきだけれど。
「あの娘も、刀狩に狂わされた剣士さんか」
 そして、此処に来るという男もまた。
 いいや、もしかすると、過去の情に浸る鹿村も。
「修羅の道を行く連中なんだねェ……」
 過ぎ去った筈の昔を、思いを、願いを。
 拭い去れず、悪夢のように胸に宿してしまう。
 ああ、ならばこの桜花と、あの太刀がその悪しき縁と道を切り払うものなれと。
 夜と星に願いをかける鹿村。
 過去の名残は忘れ難く。
 けれど、それを吹き散らす風を求める。
 感傷に浸れるのは、僅かなひとときのみなのだから。


 旅路を、歩み続ける為に。 
そこで、何かを見つける為に。


 修羅の道か、贖罪の道か。
 それとも、果てぬ想いの夢路か。
 今はまだ判らずとも続けるだけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
故郷では常に桜が咲いているから、見慣れた光景ではあるんだが……これは実際大したものというか
それに、謂われのある太刀か。仮にも剣士の端くれ、幾らかの興味を持たざるを得ないけれど。いや、それを見るのは後にしておこう

満開の桜の元で、自身の刀(鉄刀)を抜き、軽く振るう。流石に敵が来ようって時なので控えめに
思考を刀に集中。一太刀ずつ丁寧に、壱の型から捌の型まで続けて振るっていく
一通り振るい終えたら刀を収めて少し一休み

戦いたい。勝ちたい。そして、強くなりたい。その気持ちは分かる。俺だってそうだ
多分、戦う者なら誰もが少なからずは持っているであろう気持ちを、俺は否定はできないが。……さて、そろそろ行こうか



 舞い散る白桜の宵宴。
 これが一時のみのものとは思えない。
 しんしんと、果てることなく降り注ぐ花びらよ。
 風にて舞い上がり、夜景を彩るその優しき色彩よ。
 永久の幻朧桜もかくやと言わんばかりの優美をもって、見つめるものを抱き締める春の風。
「桜吹雪は見慣れた光景ではあるんだが……」
 言葉を紡ぐは夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)だ。
 夜刀神の故郷のサクラミラージュでは常に桜が咲き誇る。
 だから桜花の姿、それ自体は鏡介も何時もの見ているモノの筈なのに。
「これは実際、大したものというか」
 いいや、延々と咲くのではなく。
 ほんの数夜にのみ姿を咲かせるものだからなのか。
 刹那にこそ美を瞬かせて。
 世界の中心だろうと、吹雪くは白き桜花の舞踏。
 さらさらと、枝より散り続ける花びらは。
 いずれ尽きるからこそ、終わるからこそ、夢のように美しい。
「この世界だからこその美、というのかな」
 四季の移ろいが鮮やかで。
 そして雅なる風情が残るこの世界だからこその。
 終いの美。
 優しき夕焼けに似た情感を沸き立たせる。
 視線をふと外せば、消え果ててしまいそうな。
 こんなにも圧倒されそうな程の存在感があるというのに。
 見ている時は確かでも、過ぎれば淡く、儚く、まるで夢そのものとして。
 加えていらば、この世界を顕すものはそんな儚くも美しい情景だけではない。
 想いと信念をもって打たれ。
 そして語り継がれる刃も、またこの世界ならでは。 
「それに、謂われある太刀か」
 鏡介もまた剣士の端くれ。
 幾許かの興味を持ってしまう。
 鬼を討ったという白刃はどんなに研ぎ澄まされているのか。
 その悪夢を喰らう刀身は、艶やかなる色合いを帯びているのか。
 銘刀だからこそ、一振りの裡に同居する美と威は如何なるものなのかと。
「いいや、それを見るのは後にしておこう」
 思い馳せつつも、視線は常に白き花吹雪の裡へ。
 薄い花びらは、月明かりに照らされて透き通るように。
幻想の様を満開に咲き誇らせるのだ。
 ああ、視線を逸らせばこれが消えてしまうのだと感じさせて。
 けれど、想いを寄せ過ぎれば魂さえ吸い尽くしそうな白の色は。

――刃のそれに似て。

 ちりんっ、と鍔鳴りを響かせて、花吹雪の中で鏡介は抜刀する。
 居合いのように鋭くも、あくまで軽やかに。
 舞い散る花びらをするりと無銘の鉄刀の刀身で捉え、斬り裂いてみせるのは鏡介の剣術の腕を示すもの。
 夜風に揺れる薄き桜花とて逃さぬ剣。
 けれど一度ならず、二度、三度と振るい続け、桜花の中で鉄刀が怜悧な煌めきを残す。
 鏡介の思いを、精神を、集中させながら。
 風切る音さえ切り捨てながら一太刀ずつ。壱から捌まで。
 飛燕たる迅を、朧月たる幽玄を。
 火の劫と稲妻の鋭をもって流れて続き、柳と水鏡の静けさを顕すに至る。多種多様は、あらゆる場と敵に応じるべく紡がれるが剣術というものなのだから。
 そして、その鉄刀を振るう鏡介の鼓動で高鳴る思い。

――戦いたい。

 それは、全ての剣士が抱くひとの夢だ。

――勝ちたい、強くなりたい。

 何処までも、何処までも。
 果てなく強くなり、天下を剣の一振りのみもって轟かす。
 だから何処まで強くなったのかと。
 この相手より自分は強いのかと、確かめるように競い合い、戦い合い。

――戦い、勝って、強くなる。

 終わる事のない夢を、追いかける。
「けれど」
 捌へと終わり、再び壱へと戻る鏡介の剣。
 一通り振るえど、そこに想いがあるのならば、研ぎ澄ますように再び。
 更に丁寧に、精緻に。
 桜花どころか、風すら逃さないと。
「強くなりたいという、戦う者なら誰もが少なからず持っているであろう気持ちを、俺は」
 否定など出来ようか。
 それが出来るのならば、此処までの剣術に至る筈がない。
 目の前に立ちはだかる者、全てを斬ってこその天下無双。
 おおよそ、あらゆる剣士が抱く夢の欠片。
「けれど」
 剣をもって、命を奪うという事はそうなのか?
 この国に伝わる剣聖は、戦うことなく制する夢想の剣こそを歌った。
 刀を抜くことなく、夢想の中で交わす剣戟のみで雌雄を決したという逸話は、果たして空想なのか。
 真実に辿り着くにはまだ鏡介の腕では足りず。
 迷うからこそ、白桜の花びらの中で八つの型を繰り返す。
 全てを切り払うように。
 迷妄も、執着も、妄執も。
 切っ先の上では不要なのだと、するりと流れる鏡介の刃。
「俺は否定ではないが。それでもその先があるとも、信じている」
 故にこの剣ありと、桜花の中で瞬く剣閃。
 白花の中で、白刃の夢を追い求める。
 そのまま刀を鞘に収めて、長い吐息をつく鏡介。
 まだ路は遠く、長く。
 強くなれる。
 どのような強さを身につけるかは、自分で決められる。
 この路の先で太刀筋を紡ぐのは、鏡介自身なのだから。

 まだ誰も知らず、振るった事のない剣技を。
 数多の剣士たちの憧れをかき集めたような一太刀を。

「……さて、そろそろ行こうか」
 鏡介が手にできるかどうかは。
 この夜桜を越えた、更に先でのみ。
 今は剣鬼を迎えるべく、黒い瞳で空を見上げる。

 皓々と月が浮かぶ夜。
 もうすぐ、鋭き剣光が瞬くのだ。
 今はただ、静けさのみが流れれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
静かに眺めるのも、近くで祭りが始まっているのも
私はどちらも好きなので選べないですね

倫太郎と手を繋ぎながら話し、夕凪殿を見つければ挨拶に向かいます
お久し振りです、見事な桜ですね
静かに楽しむのも良いですが一緒にお団子は如何ですか?

これから戦うのに呑気だと思われるのかもしれません
ですが、気を張ってばかりでは疲れてしまいます

私達の戦いに終わりはありません
終えても、何処かで戦いが始まる
そして、誰かの悲しみや怒りも

夕凪殿はあの日の因果だけではなく、私達猟兵との縁があるのでしょう
貴女は己が道を歩き始めたばかり、その旅路を守るのも私達の役目
人の生き方、在り方に正解はないのですよ
そうでしょう、倫太郎?


篝・倫太郎
【華禱】
夜桜って、静かに眺める方が俺は好きだな
夜彦、あんたはどう?

いつも通り手を繋いで
そんな話をしながらも夕凪を見つければ
自然と笑顔になる

苦悩して、でも立ち上がって
今を生きてる
それがとても尊い事だと思うから

俺と似た境遇なのに、俺とは違う

なんて事を思ってるのは
夜彦にはバレてそうだけど

夕凪の様子に落ち着いてるのは判るから
そっと安堵して
ひさしぶり、何か少しくらいは発見があったか?
なんて声を掛ければ、返ってくる応えに笑う

そうだなぁ……軽めに腹ごしらえしとくか
よし、夕凪、好きな団子選んでいいぞ
持ってきたのは夜彦だけど

正解かどうかは、死ぬ時にでも判るんじゃないか?
人の数だけ正解があるもんだろ、生き様なんて



 
 静かなる春の宵に、桜は舞う。
 尽きる事などないと思う程に、降り注ぐ花びら。
 終わりなんてないのだと感じる程に、花を舞い上げる夜風。
 しらじらと月がその姿を照らせば、まるで夢のような光景で。
 するりと呼吸の音さえ吸う花吹雪は全てを覆い隠し、心も魂をも攫うかのよう。
 握り締めて、重ねたこの手のひらがなければ。
 離れた瞬間を気づけないかもしれない。
 ひとときの流れではあるけれど。
 そう。人生の中では僅かな一瞬ではあるのだけれど。
「こうも散る白桜は、枝と花が離れる事を厭わないのでしょうかね。倫太郎」
 穏やかに語りかけるのは月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
 夜空に似た藍色の髪をさらりと靡かせながら。
 翠玉に似た眸を横へと、傍にありし人へと視線を流す。
「私ならば、一時たりとも離れたくはありません。握り、結べばもう離したくはないのですから。この夜桜のなんと情のない事か」
「変わらず言うねぇ夜彦は」
 僅かに照れたように笑うのは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)だ。
 枝より花が流れて散るが自然というもの。
 だが、それは確かに生きる寿命の長さの違いを語るかのようだから。
 そこに物憂うこととて、倫太郎もあるのだから。
「俺は何度離れて、擦れ違う事があっても。必ずあんたの傍に戻るさ。桜のように儚い思いじゃないんでね」
 誓うということは。
 独りではできないのだから。
 それを守り続けるのだと、例え倫太郎の命が消え逝く時が来ても。
「必ず、あんたの傍にいる。桜のように無常でもないさ」
 真っ直ぐに応えられた夜彦は、微笑んで緩やかな声を紡ぐ。
「なら安心してこの夜桜を眺める事が出来そうです。いいえ、倫太郎とならば憂うこと、迷いことなどないのでしょうが」
 さくりと、降り積もった花を踏みしめる夜彦。
 ならばと。
 ほらと倫太郎の琥珀色の眸が、満開の白桜たちへと視線で夜彦の意識を誘って。
「夜桜って、静かに眺める方が俺は好きだな……何かに悩みながらじゃなく、穏やかに」
 切ない思いは、それこそはらはらと散る花びらに呼び起こされても。
 幸せなる記憶を降り積もらせたいのだと。
「夜彦、あんたはどう?」
「静かに眺めるのも、近くで祭りが始まっているのも」
 夜彦は舞う花びらを指先で掬いあげるように触れて。
「私はどちらも好きなので選べないですね」
 それこそ、強いていうのならば。
「何時も通りに二人でならば、どちらでも好ましいんですから」
 さくりと。
 同じリズムで、倫太郎と夜彦の足音が桜の上で奏でられる。
 はらり、ひらりと。
 全てが流れたとしても。
 決してこの絆だけは、想いだけは消え褪せる事はないのだと。
「ただ今夜ばかりは会いたい人もいますからね」
「なら、今夜はどちらがいいかは彼女に……夕凪に決めて貰おうか」
 そうして歩き続ける中、白い花吹雪の中。
 雪のように白い髪を靡かせる、少女の姿がある。
 何時ぶりだろうか。
 どれぐらいの旅を続けたのだろうか。
 元気にしていたのは、その背を見ただけでも判るから。
倫太郎は以前と笑顔となって、声をかける。
「夕凪、久しぶりだな」
「おや」
 振り返れば青い眸。
 かつて『刀狩』の起こした事件から、倫太郎と夜彦が救った少女が、静かに微笑んで見せる。
「これは奇遇な。お二人と出会うとは。……再会出来るようにと、桜が誘って頂けたのでしょうか?」
 ぺこりとお辞儀をする夕凪に、夜彦もまた礼をして。
「お久し振りです、夕凪殿。確かに、見事な桜ですね。これ程のものならば再会の為にと縁を結んでくれたのかもしれません」
 桜には神が座す。
 そんな噺とてこの国にはあるのだから。
 そして、折角なのだからと、夜彦が取り出すのはお団子の入った包みだ。
「静かに楽しむのも良いですが、一緒にお団子は如何ですか?」
 僅かに驚いたように瞬きをする夕凪に、ゆっくりとした口調で語る夜彦。
「これから戦うのに呑気だと思われるのかもしれません」
 けれど、夕凪のぴんっと張り詰めた背筋や雰囲気は過ぎるというもの。
 常に緊張し続けるだけでは疲れてしまう。
「ですが、気を張ってばかりでは疲れてしまいます」
 穏やかなる時と、戦いの時。
 それは切り分けなければいけないのだから。
「そうやって、初めて幸せへの路を歩いていると、私は思いますよ」
「成る程。確かに、剣士である前にひとりの人間ですからね」
 くすりと笑う夕凪の顔に、倫太郎もまた笑顔に優しさを深めていく。

――ああ、もう大丈夫なんだな。

 起きた悲劇。
 起こしてしまった惨劇。
 苦悩は一度、心を蝕んで闇に堕とす程。
 それでも立ち上がり、誰かの為にと今を生きる。
 確かに倫太郎たちの助けがあったからこそ。
 けれど、その先にあるのはあるのは夕凪の想いなのだ。
 とても尊い事だと思うから。
 独りでも旅路を続けて、笑うその心が。

――俺と似た境遇なのに、俺とは違う。

 だからこそ、倫太郎は白い花びらたちが眩しく見えてしまう。
 けれど、と。
「それに、何も独りだからよいという事はありません。時に誰かと供に。それもまた大事なのですから」
「独りで出来ることなど、限られておりますしね」
「ええ。そういう事ですよ」
 夜彦の眸が倫太郎へと緩やかに泳いで。
 倫太郎の気持ちは判っている。その上で、独りではなく、ふたりがゆいのだと。
 まるで我が儘を通すように、握る手の指を絡められたから。
 そっと安堵して。
 伴に生きる夜彦に、元気を貰って。
 優しい声色で夕凪に尋ねるのだ。
「ひさしぶり。何か少しくらい発見があったか?」
「そうですね……強いてしうならば、冬になれば足止めを受けてしまいましたが」
 小首を傾げる夕凪は、その景色を思い出すように。
「雪解けの少し前、鮮やかな梅を眺めました。こんなに寒いというのに、小さくも美しく咲く花に。……どんな時でも幸せと未来は咲くのだと」
 まるで歌うような口調は変わらずで。
 ああ、そうだよと倫太郎は応えに笑う。
 世界は広く、それをひとつずつ見ていくだけでも時間がかかる。
 その中で、唯一無二を見つけられれば幸せだろう。
 絡めた指に挟まる華禱の輝きを思い出しながら。
 後は、きっと夕凪が自身で見つけるだろうと。
 それを願い、背を押すだけでいいのだ。
「さて、良い事も聞けたし……軽めに腹ごしらえしとくか」
 ぽんと両手を叩き、倫太郎が団子を勧める。
「よし、夕凪ぎ。好きな団子を選んでいいぞ」
 持ってきたのも、今、手に持っているのも夜彦なのだけれど。
「本当に仲のよいお二人ですね」
 どちらが何を持ってきたかではなく。
 ふたりで持ってきて、夕凪に会いに来てくれた。
 その事に、うっすらと青い瞳を揺らして。
「では、お先にひとつ。有難う御座いますね」
 そういって夜彦の持つ団子を貰い、口に含む夕凪。
 穏やかで落ち着いている姿に。
 そして戦いの前でも緩やかに楽しむ事を、覚えたその顔に。
 夜彦もまた優しく笑いかける。
「私達の戦いに終わりはありません」
 誰かの為に。未来や幸せを守り、そして見つけたいと。
 そう旅路を初めた夕凪は、きっと夜彦たち猟兵と同じく、戦い続ける事になるのだろう。
「ひとつを終えても、何処かで戦いが始まる」
 けれど剣呑な雰囲気などいっさいなく。
 静かに、穏やかな口調で紡ぐ夜彦の言葉は、決意の表れでもあつた。
「そして、誰かの悲しみや怒りも」
 絶望や憎悪も。
 それをひとつずつ終わらせて。
 救える想いと心を、命を助けていって。
「そうして繋いでいく明日こそが大切だと私は思います」
 きっとあの日、『刀狩』の起こした因果だけではなく。
 これからも夜彦たちとの縁があると、うっすらと感じさせるから。
「貴女は己が道を歩き始めたばかり、その旅路を守るのも私達の役目」
 悲しみを防ぐことから。
 何れは、幸せを紡ぐことへ。
 そう成れるのはとても難しい事だけれど。
 夜彦もまた、それを強制する気はないのだけれど。
「人の生き方、在り方に正解はないのですよ。迷ってもいいんです。悩めば、また巡り会った時に私達に話してください」
 独りでは解決しない事もありますからね、と付け加えて。
「そうでしょう、倫太郎?」
「夜彦はなんでも判ってるって感じで、なぁ」
「倫太郎のことはだいたい判ります。他は間違えれど、倫太郎のことならば」
「そうやって畳み掛けるんだから、あんたってひとは」
 その遣り取りにくすくすと笑う夕凪。
 以前の翳りや、張り詰め過ぎた雰囲気は消え果てて。
 ああ、そうかと倫太郎は頬を緩める。


――俺がそうだったように、夕凪も独りじゃないもんな。


 あの日、助けようと手を伸ばした沢山のひと。
 それに支えられ、今もまた、言葉に背を押されるのだから。
「実際さ、夕凪。辿った路が、今までが正解かどうかは、死ぬ時にでも判るんじゃないか?」
 もうひとつと夕凪に団子を押しつけながら、倫太郎が強い意志を込めて言葉にする。
 路を見失っても。
 此処が何処か判らなくなっても。
 それこそ、神隠しに逢い、生きる世界が変わってしまっても。
 これで良かったのだと思える今があるという幸せを、倫太郎は知るから。
 傍に、今も横にいてくれるから。
「人の数だけ正解があるもんだろ、生き様なんて」
 そういって、夜彦が食べようとした団子を横手から奪い、口に放り込んで明るく笑う倫太郎。
 やれやれと笑う夜彦もまた、同様で。
 釣られて夕凪も笑うのだから、静かな桜の森の下は、気付けば小さな祭りのように明るくなっている。
「ああ、ならば」
 そういって団子より花をと。
 無数に舞い散る白い花びらへと手を伸ばす夕凪が、軽やかに詠う。

「この白き桜花たちは、今が散り時と。終わる時だからこそ、正解だと知り」

 この瞬間。
 この人達に見て貰えるなら。
 幸せそうな笑顔と供に、最期に舞えるのならば。

「喜んでいるのかもしれませんね」

 そうだと、歌を重ねるように。
 一際、強い風が吹いて、三人の間を白き花吹雪が駆け巡る。
 決して消えない、繋がりを祝福するように。

 
 この時、この瞬間。
 この春宵に咲いて、舞い散るからこそ。
 次の花と人へと、想いを紡いで託せるのだ。


ならば何を求めるのか。
 それを定める朝が為に、花に伸ばした手を。
 今度は、三人で食べる団子へと戻す。


 それはもう血塗られた悲劇の腕ではないのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キリジ・グッドウィン
アドリブ歓迎


戦う理由。他者からぶつけられる直情的な感情とオレ自身の昂ぶりが、ヒトらしいのではないかという微かな実感
あの武人に負けるつもりもないが、誰かの為傾けた想いを力にする奴は経験上手強い
油断は絶対に出来ねェな

花芽の扇、白、白、先の割れた花弁。誰もが見惚れるような桜も客観的な観察に留まる
時間差で沁み入る事もあるが、その頃には散っていて誰とも共有できずにいる、か
夜風が普段から感覚の残る髪に障って少し寒さすら感じるわ

Q-57、時は経って表情筋動かしてそれっぽい立振る舞いは覚えても未だ「心」があるかなんてわからねぇ
……独りで来ていてよかったわ。今は表情まともに取り繕えてねェだろうからな、きっと無だ



 それはなんと薄く、淡く。
 儚くて、手で触れることもできないものなのか。
 降り続ける桜の花びらと。
 そして、ひとの心という不確かなものへ。
 せめてと。
 戦う理由のように、強い熱があれば。
 微かなる実感を持てるというのにと、キリジ・グッドウィン(proscenium alexis・f31149)は茶色の瞳で夜桜を眺めていく。
 他者からぶつけられる直情的な感情。
 それに応じて昂ぶるキリジの昂ぶり。
 正面からぶつかり合い、傷つけ会う程に深く絡み付いて。
 ようやく、ヒトらしいのではないかと。
 感情はこれではないのかと、実感できる。
 戦いの中だけ。
 戦闘で命を散らす、その間だけは。
 ただ、だからこそ。
 心と情動に疎いからこそ、キリジは他人のそれに敏感で聡いのだ。
「あの武人に負けるつもりもないが」
 再現など決して出来ずとも。
「誰かの為に傾けた想いを力にする奴は、経験上、手強い」
 その強さをキリジが手に出来ないからこそ。
 より驚異と感じる。異質なる強さとして、目に留まる。
 羨むことも、憧れることもないけれど。
 あまりにも、それこそ降り注ぐ花のように、さらさらと。
 無常に流れる、キリジの言葉。
「油断は絶対に出来ねェな」
 そこに宿る想いが欲しいなど。
 キリジ願うことなく、白き桜花を眺めるばかり。 

――だから、キリジの刃と弾丸に想いの煌めきは宿らない。

 花芽の扇。
 先の割れた花びら。
 誰もが見惚れるような桜。
 細部に至るまで観察するも、結局はそこで留まるばかり。
 キリジの胸に時間差で沁み入ることはあっても。
 その頃には散ってしまって、誰とも共有できずにいるばかり。

 美しいね、
 と囁いて。

 綺麗だね、
 と笑い返す。

 そんな些細な心の遣り取りさえ、出来ないのだ。
 満足に想いは動かず、感情は揺れず。
 ただ夜風に揺れる髪に残った感覚へと障って、少しばかりの寒さを覚えるだけ。
 波打ち、揺れるという美しさ。
 戸惑うという、甘き匂いを知ることなく。
「Q-57、時は経って。表情筋を動かして」
 淡々と語る声に、当たり前を知れぬ悲嘆はなく。
 変わりに桜が涙のように、はらはらと。
 春の夜に散って、地に落ちる。降り積もる。
「それっぽい立振る舞いは覚えても未だ『心』があるかなんてわからねぇ

 桜など愛でる仕草と行動を真似ても。
 そこに憶える芯がないのだから。
 ある意味、何処までも無痛症。恐怖さえきっとまともに感じない。
 戦いでしかと。
 繰り返す言葉は、何処か無機質で。
 花の優しさに触れることさえできず、キリジはぽつりと零す。
「……独りで来ていてよかったわ。今は表情まともに取り繕えてねェだろうからな」
 ああと、小首を傾げる真似をして。
 頬を撫でた風と花びらに、何かを寄せることなく。
「きっと無だ」
 キリジは今の己をそう評する。
 あくまで何の感情も、心の水面に揺らすことなく。
 さらさらと。
 時の流れを告げる花びらが、流れ落ちる。
 辿り着くべき場所などありはしない。
 この地面に降り積もり、そして、還るだけなのだと。
 
 全てはただ、虚ろなる無の儘に。 
 
 感じる縁を得る事なく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グリュック・ケー
「頂きにくる」って言うから、怪盗かと思ったら違うんだね。戦いかあ、真正面から来られるのは苦手だなあ。

桜はこんなに綺麗なのに、ね。

でもそんなことより、今は花見だよなっ!
こんな夢みたいに綺麗な花の下で食べるプリンは最高だと思うんだよ。
欲しい人にはあげるから、一緒に食おうぜ。
酒は飲まないから、酌で勘弁な?

プリンを食べて…寝る!おれは刀じゃなくて枕元にプリン派だから!
いやー、夢の中でも美味しいプリンを食べれそうだよ、うん。



 桜花の白きが飾りし春宵に。
 黒衣を纏う影がひとつ。
 はらはらと踊る花びらを美しいと。
 頭巾を被るから、彼の表情を読み取ることなど出来ず。
 ああ、それでも。
 僅かに覗く藍色の瞳は、桜吹雪の情景を捉えている。

「桜はこんなに綺麗なのに、ね」

 そう呟いた黒衣の姿は、グリュック・ケー(アリス適合者のシーフ・f32968)。
 雅さに彩られた世界に佇み、花に酔い痴れる。
 ああ酒などなくとも。
 この美しさだけで、心はすぅと酔うのだ。
 現実感を忘れて。
 感情の焦点をぼやけさせ。
 夢心地へと、誘うは無数の花びらたち。
 白く、白く。何処までも白く。
 心さえも染め抜くように。
「『頂きに来る』って言うから、解答かと想ったら違うんだね」
 ある意味。
 こんな風情漂う夜に忍び込む賊というのも。
 またひとつの物語のようかもしれない。
 桜花爛漫たる夜に、するりと霊刀を盗み往く影ひとつ。
 ああ、確かにそれもまたひとつの夢のようで。
 けれど、現実は違うのだ。
 真っ正面より斬り結び、桜と共に火花を散らす。
 そればかりを求めて。
 そんな戦いなど、苦手だと嘆息するグリュック。
 ただ、桜の麗しさは本当で。
 夜の裡にて、白き舞踏が降り止まぬ。
 優しく、暖かく。
 心を揺らす、その姿に。
 ひとつひとつの、小さく愛しき花びらに。
 元気を奮わされて、グリックはその場に座り込む。
「でもそんなことより、今は花見だよなっ!」
 桜に罪はなく。
 美しき一夜ならば、記憶に留める為に。
 他に誰かと見渡せど。
 これは夢かと思う程、桜の森に他の人影は見当たらない。
 いいや、誰かを探さねば、夥しい花吹雪が全てを白く隠してしまうのだ。
 秘め事のように。
 或いは、誰かの大切なる夢のように。

――全ては、この一夜は、譲らないと。

「だったら、このプリンも全ておれが食べてやる!」
 こんなに夢のように綺麗な桜の下で食べるプリンは最高だから。
 それこそ記憶に残るような。
 甘き桜花の匂いと色を滲ませる、特別だろうから。
 欲しいヒトにはあげるけれど。
 別の思いと大切さを、味わうのならば、無理強いなどしはしない。
 グリュックが酒は呑まないように。
 求めないものを、押しつけなどしない。
「酌ぐらいはするけれどね?」
 そうしてすくったプリンをひとくち、ひとくちと。
 頬張って味わう、夢と幸せ。
 全てを忘れてしまいそうなほど。
 いいや、忘れていいのだと、さらさらと桜花が歌うからこそ。
 幾つかのプリンを完食したグリュックは、桜の根を枕に身を横たえて。
「プリンを食べて……寝る!」
 舞い散る桜花を見上げながら。
 その向こうで透き通るような月を眺めて。
「おれは刀じゃなくて、枕元にプリン派だから、さ」
 心と思いを酔わせて。
 白く、白く、降り注ぐ景観に溺れていく。
 夢のように。
 夢の中へと。
 睡魔は音も無く、けれど早足でグリュックの傍に訪れて。
「いやー、夢の中でも美味しいプリンを食べられそうだよ、うん」
 良き夢をと願われたものこそ、この桜花たち。
 満開の桜の元で、グリュックは眠る。
 幸せなるひとときの夢を、思い描いて。
 はらはらと。
 桜たちは春眠へと誘った。  

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…久しく御座います、夕凪様。
以前にお会いした際は名乗ったでしょうか。
月白雪音…、桜の宿るこの地には、些か不似合いですね。
今一度出会えた事、大変嬉しく思います。


悪夢を喰らう太刀…。この場所で休むに相応しい、優しい謂れの刀です。
そのような刃の元に妖の刀を操る貴女が訪れたのは、
ともすれば偶然では無いのやもしれませんね。

例えばこの刃は既に夢より目指めていて。
自らと『語り合える』友を求めたか…、
あるいは民を苦しめる悪夢蔓延る今の世において、
今一度人々の『しあわせ』を共に願える担い手を求めたか。
どちらも想像に過ぎませんが…、貴女とその武人がここに現れたこと。

――私には、「呼ばれた」ように思えてなりません。



 夜の静けさに耳を澄ませば。
 さらさらと、流れて囁く花びらたち。
 どれだけ近しい白の色彩で世界を包もうとも。
 もう春なのだと。
 冬は過ぎ去り、音を吸う雪は溶けて消えた。
 無常に、けれど優しく時と季節は流れたのだと告げる春宵。
 ああ、それでも。
 過ぎ去ったのは事実でも。
 今に続くものがあり、次へと繋がるものがある。
 ふわりと流れる風に、しんしんと静寂を漂わせる気配を滲ませて。
 白い貌より赤い眸を揺らめかせ、玲瓏の如き声を響かせるは、月白・雪音(月輪氷華・f29413)。
「……お久しく御座います、夕凪様」
 冬の色彩。雪の装いをそのままに。
 冷たくも風雅なる姿で、夕凪の前で礼を成す雪音。
 そこに感情の動きは見えずとも。
「以前にお会いした際には名乗ったでしょうか」
 紡ぐ言葉は、再会を祝うように。
 胸の中の思いの通りにといかないのは、雪音は情緒の表し方が苦手だから。
 ただ精一杯の誠実さをもって。
「あの時は名乗る余裕も御座いませんでしたが、失礼を。月白・雪音と申します」
「いえ、それならば私もまた名乗る余裕も、お礼を告げる事も出来ずに」
 ただと。
「あの因縁へと一太刀を刻み、断ち切れたのは貴女様のお陰です、雪音さん」
 雪音と夕凪。
 ふたりの雪色を思わせる髪が、春風にふわりと流れて。
「ああ。桜の宿るこの地には、些か不似合いですね」
 けれど、それはきっとお互い様。
 だからこそ再び巡り会えたのかもしれない。
 さわさわと舞い散る花びらは、どれ程に白くとも雪とは異なれど。
 やはり何処か似るものがあるのだ。
 赤い眸と、青い瞳。
 視線を交わして、雪音は微かに柔らかな声色を零す。 
「今一度、出会えた事。大変嬉しく思います」 
「私こそこの縁に、旅路の途中に出会えた事を。名を、雪音さんと呼ばせて頂けた事を、とても嬉しく」
 名を一度は喪った者だからこそ。
 夕凪の声はひとの名を、雪音の名を語れば弾む。
 ああ、似てはいるけれど。
 異なるからこそ。
 出会いは必定。
 異なるからこそ、擦れ違うその瞬間は愛おしく。
 儚き一夜の会合だとしても。
 またあるのだと、理由もなく信じられる。
「雪音さん、私は」
 だからと夕凪は緩やかに言葉を続ける。
 あの時に受け取ったものを、今も抱き続けているのだと。
「強く、美しく。私のままに。私を育んだ命の為にも生きています」
「そうですか。それならば幸いです」
 瞼を伏せ、ゆっくりと応じる雪音。
 ひとひらの言葉が、此処にまた集うというのなら。
 もしやと。
 声の調子を変えることなく、雪音は続ける。
「悪夢を喰らう太刀……。この場所で眠るに相応しい、優しい謂れの太刀です」
 鬼を討ち果たして、人を救い。
 今は白桜に囲まれ、幸いなる夢に飾られ、奉られる。
 さらさらと流れる花吹雪の、ひとの心の如き美しさ。
 まだ見ずとも雪音には判る。
 刀身、刃に柄と鞘に至るまで。
 きっとこのような優美なものだと。
「そのような刃の元に、妖の刀を操る貴女が訪れたのは」
 するりと瞼を開いて、赤い眸を夜空へと流す雪音。
「ともすれば偶然ではないのかもしれませんね」
 全ては必定。意味があり、繋がり、故に変わって移ろう。
 春が来れば雪が溶けて、冬は清き水となるように。
 舞い落ちた花たちは土に還りて、より豊かな緑へと変わるように。
「雪音さんは、私がこの桜と刃に誘われたと謂われるのですか?」
「花と剣の聲を聞く耳は持ちませんので、判りかねますが。ですが、例えばかの刃は既に夢より目覚めていて」
 自らと『語り合える』、友を求めたか。
 如何に優しい謂れの物であれ、桜と刃では余りにも不釣り合いで。
 何かを救う事など、出来はしないのだから。
「或いは、民を苦しめる悪夢蔓延る今の世において」
 しずしずと、視線を巡らせる雪音の赤い眸。
 春宵の景観は、美しいのだけれど。
それはここだけで。
 何処かは、また悲しい程に惨い夜を過ごしている。
 悪夢は尽きず、終わらず。


 だからこそ、人の手で救い続ける必要があるのだ。
 それを人なる戦の夢のひとひらだと思うのは、可笑しいだろうか。
 壊すこと。
 殺すこと。
 そんな事、儚き世では余りにも簡単だから。


「今一度、人々の『しあわせ』を共に願える担い手を求めたか」
 刀とは、振るう者に握られ。
 その腕で路を斬り拓き、理想へと辿り着く為のものなればこそ。
 誰かの『しあわせ』が為にと。
 救う為に、同じような悲劇を防ぐ為にある夕凪は。
 悪夢が現実に染み出す前に、喰らいし刃の担い手ではないか。
 ああ、桜の美麗さに酔ったのかもしれないと。
 僅かに、微かに。雪音は頬を緩めて。
「どちらも想像に過ぎませんが……御伽噺にこそ面白いものでしょうが」
 風と共に頬に触れる、白桜の花びら。
 優しき物語と夢を。
 辿り着く『しあわせ』を求めるのは、きっと誰しもで。
「貴女とその武人がここに現れたこと」
 それは刃も、花も。
 一際、強い風が吹き抜けて。
 夥しい程の桜花が舞い散り、ふたりと世界を覆う。
 囁き、詠うように。
 さらさらと奏でられる、花びらの舞踏の裡で。

――私には、『呼ばれた』ように思えてなりません。

 その雪音の言葉も。
 受けた夕凪の驚くような、それでいてすると納得した表情も。
 桜吹雪に包まれたふたりだけが知るもの。
 呼ばれた故に、その役目を担う者は舞台へと上がり。
 務めと宿命を果たす旅路の始まり告げるのだ。
 桜に包まれて今は誰も知らず、聞かず、届かず。
 けれど、何かの誰かへと繋がる、桜と刃の呼び声に。
 雪の色が応じる物語が、ふわりと。
 夜空の月へと舞い上がる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
――……いっそ、花の如くに散れたなら。

爛漫と咲いて人の目を楽しませて、
雨風吹けば潔く散る、武士の花。
その散り際をひとは惜しみつつも歓迎する……
いっそ、そんな華になれたなら。
そうしたら、こんなに苦しくはなかったのでしょうか。

自分の幸せを人の上に置けない。
それを願ってくれている友人たちの意思を無下にしたい訳でもなくて。
でも、わたくしの根幹は…ひとを畏怖させて鎮まるよう祈られる災厄でしかない。
自分の幸せを願うくらいなら、人の幸せのために使う。

だってわたくしは。
――……ひとの幸せのためにある武器ですから。
行きましょう。
わたくしという刀は、ただ、守るべきを守るためにこの身を振るいましょう。



――散る事を望む焔花は、桜に憧れの夢を見る。

 
 優しく。
 美しくて。
 自らの世界を取り囲むものが余りにも大切だから。
 白桜の舞う下で、つい、切実なる思いを浮かべてしまう。
 穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)の心に触れる、友人たちとの暖かき日常。
 その声に、記憶に。
 ああと、嘆きに似た吐息を零す穂結。
 夜色の長い髪は、春の風にするりと靡いて。
 果てぬ白桜の宴を、憂いに濡れた赤き眸で眺めながら。

――……いっそ、花の如くに散れたなら。

 世と散り際を知りて弁え。
 刹那にこそと、魂を懸けるが花たる志。
 爛漫と咲いては、ひとときに人の目を楽しませて。
 ひとたび雨風吹けば。
 いいやその時が来れば潔く散る、武士の花。
 終わりを心得るからこそ。
 未練など残さず、舞いし優美なる姿よ。
 春宵を飾り、記憶へと残るべく果敢に踊るひとひら。
 その散り際をひとは惜しみつつも、歓迎する。
 ああ、見事。
 高潔を以て鳴る、桜花の色よ。
 烈士が掲げた刀の如く、人々はその軌跡は忘れられない。

――それは、散り際を美しいと尊ぶひとの心故に。

「いっそ、そんな華になれたのなら」
 清らかな夜桜の降り積もる裡で。
 懊悩に揺られて、苦しげに声を揺らす、穂結の声色。
 いいや、いっそ焦がれるかのよう。
 熱をもち、心を焼いて、痛みを覚えてなお狂い咲く。
「そうしたら」
 潔き武士の花を理想と夢見る少女が穂結だからこそ。
魂に根付くその想いを、慚愧の念を振り払えない。
「こんなに苦しくはなかったのでしょうか」
 胸で燃え盛る炎は、花吹雪のように静かに。
 涙の一滴、零す事許さずに、ただ夜空と月を見上げさせる。
 ざわざわと。
 優しく触れる花びらたちも。
 今は、今だけはと。

――こうなりたいからこそ、触れないで。

 決定的に、致命的に違う穂結の姿を露わにしてしまうから。
 今もこうして悩むなど。
 散り際と心得て、春宵に舞うその姿に焦がれてしまうから。

――こんな花であれば、よかったのに。

 優しく、清らかに。
 美しくも、潔いいろを持てれば。
 けれど。
 自分の幸せを、人の上に置けないという穂結の己への悲嘆は。
 桜花よりきっと高潔なのだ。
 でなければ、何処かで既に答えは出ている。
 自分の中だけで完結して、既に、終わらせている。
 悩み、苦しみ、揺れに揺れる様は。
 それほどにに優しく、強き想いの証なのだから。
「一夜の夢のようにあれたのなら」
 儚くも、苛烈なる想いだけを抱いて。
 ただ真っ直ぐに、切っ先のような鋭さで歩む事が出来ていたのなら。
 彷徨う事なく、ただ直向きに己が業と向き合い、斬り進めたのなら。

 そう希いつつも。
 そんな事を望んでいる訳ではない。
 笑って言葉を交わす友人たちの、温もりが、ただ、ただ、穂結の心に絡み付く。

 幸せを願ってくれる友人たちの意思を無下にしたい訳ではなくて。
 むしろ、その思いと心を大事にしたくて。
 振り返って、幸福な微笑みを浮かべたいと、つい、思う。
「でも、わたくしの根幹は……」
 白い桜吹雪の中で、幻のように瞬く黒。
 それは破滅の色彩を帯びた、黒焔蝶が翅揺らす姿。
 決して逃れることなど出来ない。
 離れる事も、忘れる事も。
 これは呪いではなく。
 悪夢でさえなく。
 ただ、穂結という存在の片割れなのだから。
「……ひとを畏怖させて鎮まるよう祈られる災厄でしかない」
 破滅の焔と共に往く、神霊の刀なのだから。
 どんなに鏡のように静かにあろうとも。
 もう片方の側面を、滅びの因を振り払うなど出来る筈がなく。

――誰かの祈りさえ、私は斬って焼いて、灰にしてしまうのだから。

 自覚するからこそ、己のみではその業より抜け出せず。
 足掻き、苦しみ、揺れに揺れるから、破滅の焔はじわりと広がっていく。
「そんなわたくしの、幸せなど願うぐらいなら」
 人の幸せの為に、この身と心を使おう。
 擦り切れてしまっても構わない。
 いいや、出来ることならば、桜のように潔く。
 刃のように美しく、散りたいけれど。
「だってわたくしは」

――……ひとの幸せのためにある武器ですから。

 触れてくれる友人たちが。
 決して武器や炎だと思わず、ひとの心として触れてくれる。
 そんな幸福に、一縷の希望を抱いて。
 微かなる安らぎを、覚えてしまって。
 はらはらと散る、桜花には成れぬと穂結の心の奥で、疼くから。
「行きましょう。……ひとの幸せの、ために」
 身勝手で我が儘な願いなど。
 今は何処かへと置いておいて。
 さあ、未来を斬り拓こう。
 誰かの為に、己が為ではなく、誰かが為にこの武と刀を。

 
――最早、そう願われぬ神体(タマシイ)となった事に、穂結はついぞ気づけず。

「わたくしという刀は、ただ、守るべきを守るために」 
もはや、鳴ることなき神楽鈴を揺らして。
 炎のような決意を、直紅の眸に宿して穂結は前へと歩む。
 優しく引き留めるような、花びらを振りほどき。
「ただ懸命に。魂を賭して。この身を振るいましょう」


 そう、もうすぐ。
 夢幻の如く、儚くも鮮烈なる焔華が咲いて。
 己が身と命を厭わぬ熾烈なる刃が、赤々と夜に舞う。
 きっと美麗だ。目を奪われる。
 誰が為にと振るう果敢なる姿は。
 穂結が憧憬を抱いた、潔き武士の花に似るのだから。


 その果てにあるものは、誰もしらず。
 ただしずしずと、桜が舞い散り、宵は深まる。
 悲しい程に、静かに。
 誰かを悲しませると、知ってなお、進む少女がいるのだから。


――果てたる終わりの刻を、知れたのならば。
 どれほどの救いなのでしょうね――


 悲嘆の如き思いは。
 眸の裡で燃えて、白き灰と消える。
今宵に浮かびしその想いは。
 誰かへと零して、掬われることなく。
 美しき白櫻と共に地に眠る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【相照】
ひとの命も、私から見たら桜みたいだ
脆くて儚くて
だから、綺麗な

どしたの、嵯泉
ああ、楽しい奴……って言って良いのかな
……そっか
エンパイアじゃサクラも一杯あるんだもんな
はは、そういう話、詳しく聞くのは初めてかも

私には想像も出来ない幸福を聞きながら
嵯泉の言う夢を、サクラに重ね見ようとする
結局、私には見えないし
化け物の身にそういう営みは遠くて
……寄り添いも理解も出来ないことは言わないまま、相槌を打つ

それでも
嵯泉が、少しでも生きて進みたいと思ってくれるなら
私は私に出来ることをやるだけだ

――当たり前だろ
約束は、絶対破らないよ
おまえも連れて皆で花見するのは、おまえが戻って来たらってことにしとくな


鷲生・嵯泉
【相照】
……予感めいたものが在ればこそ
何れ散る身と託しておこう

最近、昔の真似事をした所為か……懐かしい夢を見た
お前には話した事がある友人の――
――断っているのに人の話を全く聞かず、強引に連れ出され
呑め呑めと騒いで本人も大酒喰らって
こんな風に、満開に咲き誇る桜の下で笑っていた
同じ様に、何度も過ごした嘗ての日々。其の名残りの様な幻を

楽しいというより厄介な奴と云いたい処だが……
言葉無い侭、其の眼に宿る寂寥に
今は唯、聴いてくれる者が在るだけで十分と裡に懐く

どれ程に懐かしくとも夢に過ぎん
今の私に必要なのは過去へと戻る為の路ではない
其の証し、標として
――ニルズヘッグ
私が帰る場所で……待っていてくれるか?



変わらない。
 なにひとつとて、変わる事などないのだと。
 白い花吹雪をニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は燃えるような金の瞳で見つめる。
 ニルズヘッグにしてはなんとも珍しく。
 優しく、穏やかかで、安心したようなその貌。
 それはきっと、その横に、ずっと傍にいると約束した存在がいるから。
 春の夜。吹き抜ける風は冷たくても。
 決して想いが褪せることなど、ないのだと。
「ひとの命も、私から見たら桜みたいだ」
 なんて脆くて、儚くて。
 数え切れない程に咲き誇る、小さな花びらたち。
 ひとつ、ひとつが大切な何かを宿す優しい色合い。
「だから、綺麗な」
 それこそ夢幻を踊らせるように。
 夜景に浮かびて飾り、舞い踊るその姿。
 ああ。綺麗だと。
 ニルズヘッグは情念を編むからこそ。
 いいや、柔らかな心を奥底に持つ彼だからこそ。
 弱く、臆病なそれを露わにすれば、優しく笑う。
 そんな事、彼の前でしかないのだろうけれど。
 他の誰かの視線など、夜闇と白桜が覆い隠すからだろうけれど。
 ただ、そんな中で、ふと沈黙に気付いて金の瞳がゆるりと視線を流す。
「どしたの、嵯泉」
「…………」
沈黙と共に受け止めたのは、石榴の如き赤き隻眼。
 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は静謐に。いいや、思いの深さ故に、微かに揺らぐ事もなく。
 言葉を零した。
「……予感めいたものが在ればこそ」
 何れ散る身と、己を弁えて。
 はらはらと夜を覆う白い花びらへと、吐息を零す。
 託すべきものと。
 託したいと、信じる相手であるニルズヘッグの瞳を真っ向から見据えて。
 視線ばかりは、鷲生の胸より湧き上がる感情ばかりは。
 とても、優しく。
隠しきれない程の、幸せと切なさの綾を見せながら。
「最近、昔の真似事をした所為か……懐かしい夢を見た」
 はらり、はらりと。
 今も、夢のように流れる櫻の下で。
 満開の思い出を、過去を語る鷲生。
「お前には話した事がある友人の――」
 ああ、とニルズヘッグは頷く。
 一度は全てを喪ったのが鷲生なのだ。
 それでもこの腕を握ってくれる者がいるのならば。
 この腕で触れて、抱き締める者がいるのならば。
 まだ進もう。此れからから、此の手に在る者と共に。
 幸いが為に、全てをもって。
 そんな信念に似た思いを鷲生が寄せてくれる事が、ニルズヘッグには嬉しくて。
 けれど、綾なす表情に言葉を呑み込む。
「なんとも豪胆で、我が儘で、人の話を聞かぬのに、何処までも引っ張り続ける男だった。……友だった」
 細かい事など気にするな。
 大きく笑って、俺に任せていろ。
 それこそ何の計画もなく、思いつきで動いていただろうに。
 何処からその自負が湧き上がるのか。
 理由も根拠もなく、その笑顔に信頼を寄せてしまって。
「――断っているのに人の話も全く聞かず、強引に花見へと連れ出され」

 なあ、おい。
 アンタ、桜がずっと咲いているとは思わないよな?
 今しかねぇんだ、行くぜ。

 ああ、鷲生は今でもあの声は覚えている。
 煩い程の、なのに心地よい笑い声として。
「呑め呑めと騒いで、本人も大酒を喰らって」
 周囲の目などより、自分たちの目で景色を見ようと。
 酔った心で見えるものなどと論じても、一向に耳を貸さないから。
 仕方ない。呑んでやるか。酔ってやるか。
 友を独りになど、して遣れるのもかと。
 折れるように、月と桜の浮かぶ杯を共に傾けたのだ。

――美しき。もはや、取り戻せぬが故に、美しきあの日。 

「気付けばこんな風に、満開に咲き誇る桜の下で笑っていた」
 そう語る鷲生の姿は、桜の中に覆い隠されるようで。
 確かなる男。
 烈士である筈なのに、白き花びらに影と色を攫われるかのよう。
 それでもとと溢れるのは思い出だから。
 同じように、四季の移ろうの国だからこそ。
 途切れさせなど、する筈がない。
 日常のひとつひとつに、何度も過ごしながら、ひとつとて同じなどアリはしなかった嘗ての日々。
 夏には河へと出ようかと。
 それとも草原へと馬を走らせようか。
 秋になれば紅葉を眺めに山へと登ろう。
 冬になったら、またその時に考えればいい。
「お前は国の守護職だろうと、窘めた事も一度や二度ではない。……数えきれぬ、大切な輝きだ」
 静かに頷くニルズヘッグ。
 鷲生が見たと言う夢を、サクラに重ね見ようとする。
 けれど、叶わない。あくまで夢は夢。どんなに大切な人とでも、共有する事の出来ないものだから。
 ただ綾なす顔が、寂寥に曇らぬようにと言葉を紡ぐ。
「ああ、楽しい奴……って言って良いのかな」
「楽しいというより厄介な奴と云いたい処だが……」
気付けば指が懐へと伸びて。
 縋るように、指先が煙草を求めるのを抑える鷲生。
 そう、結局はニルズヘッグにその夢は、桜は、鷲生の夢は見えない。
 死者の念ならばまだしも。
 生きている者の情ならばまだしも。
 傍を誓いし者の心に、踏み込む事など。

――例えそんな営みに遠い、化け物の身だとしても
 語られぬ以上を、探りなどしない。

 ただ寄り添い、相槌を打ち。
 涙を流さぬ男へと、せめての情念を向けるニルズヘッグ。
 それだけでいいのだ。隻眼は寂寞として思いを募らせることなく。
 はらはらと。しずしずと。
 思いを、過去を、清めるように言葉として流せるから。
「其の、名残りの様な幻を」
 また見たのだと。
 馨しき紫煙にて、溶けることのない思いを。
 果てる事のない、夢のように。
「あの男の笑う、幻と夢ばかりを、見ていた」
 見上げれば、はらはらと。
 さらさらと。
 無常なる時の流れを示すように、白き桜が舞い落ちる。
 もはや過去のだと。
 過ぎ去ってしまったが故に、痛みと愛おしさが込み上げる。
 喪いし、鷲生の魂の欠片だった。
 忘れる事など、ありはしない。何時までも胸に抱き締めておこう。
 桜を見る度に疼けども。
 ニルズヘッグと共に歩むが今の路。
 過去を過去と投げ捨てずとも、先へと進むのだと鷲生は誓うように、月を見上げて。
 そして、此の笑顔と幸せの為と、ニルズヘッグの顔を静かに、真っ向から見つめる。
 今は唯、利いてくれる者が在るだけで十分。
 裡に懐くは、微かなる幸せに似て。
 褪めた夢の名残りを、手繰り寄せるようで。

――ああ、また大切なる者を懐いたのだな。

 頷く事しか、ニルズヘッグには出来ないけれど。
 美しい景色に囲まれて、麗しき思い出に触れて。
 絶え間ない痛みを、思い出しながらも。
 それでも。

――嵯泉が、少しでも生きて進みたいと思ってくれるなら。

 私は、私に出来る事をやるだけだ。
 聞くしか出来ない化け物、忌み子。
 だとしても、鷲生はそんな自分の話を聞いて、受け止めてくれたのだから。
 ただ、それだけで救われる魂がある。
 優しい指先で触れられて。
 傷を抉るように、過去をなぞったとしても。
 血と涙を、そこから零し続けたとしても。
 心が生きて、前に進む為に必要な事があるのだから。
 それは独りでは出来ないこと。
 ニルズヘッグに、出来る事を。
 もはや迷う子供の貌ではないそれを見て、鷲生の寂しげな表情が微かに晴れる。
 桜に攫われて、影と色を奪われそうだった姿はもはやなく。
 少しでも。
 それこそ、過去という雪は溶けて。
 前に進む為の歩みと、思いを懐いてくれたのならばと。
 ニルズヘッグは嬉しげに笑う。
 それを見て、より強く、深く、決意を深紅の眸に宿す鷲生。
 彼が為に生きると誓ったことに嘘偽りはなく。
 迷いことも、彷徨うことも在りはしない。
 生きようと燃える鼓動と意思は尽きる事などなく。
 これより先を見据える隻眼は、鋭刃の如く研ぎ澄まされていた。
「どれ程に懐かしくても夢に過ぎん」
 そう断じる鷲生の姿は、いつものもの。
 そして、きっと在りし日の志士の儘に。

――全ては、約束と誓いを成す為に。

「今の私に必要なのは過去へと戻る為の路ではない」
 ああ、ならばとゆらりとニルズヘッグが煙草を取り出して。
 かちりと、火を付ける。
 僅かに吸い込む紫煙には桜の甘い、夢の名残香が混じるからこそ。
「其の証し、標として――ニルズヘッグ」
 目の前でニルズヘッグが煙草に火を付けた意味を察するからこそ。
 鷲生もまた懐より煙草を取り出し、指先と唇で挟む。
 火を、付けることはなく。
 ニルズヘッグの煙草の先端。そこにある熱と、想いを重ねるように。
 これこそが誓いだと、交えるように。
「私が帰る場所で……待っていてくれるか?」
 そっと触れ合う、煙草の火種。
 互いが吐いた吐息を、互いに吸い込む距離で。
「――当たり前だろ」
 じゅぅっ、と過去の夢を焼くように。
 その未練など、全て消すようにと二人の煙草より紫煙が立ち上る。
 桜よりもなお儚く、薄き、その灰色。
 美しいとは言えずとも。
 大切だと想う、絆なのだから。
「約束は、絶対破らないよ」
 にっ、と大きくて人懐っこい犬が。
 或いは、全幅の信頼を寄せる子供のように。
「おまえも連れて皆で花見するのは、おまえが戻って来たらってことしとくな」
 煙草の煙と、互いの匂いが交わる近さで。
 ああ、決してこのふたりの距離は離れないと、心が感じるままに。
――次は、嵯泉が火を分けてくれよと。
 呟かれた声を鷲生は聞き届けて。
 深く、深く、誓いと約束を溶かし、身の芯から爪先まで染み渡らせ、巡り届ける。
 独りでは。
 成せぬ事があるとと知るふたりだからこそ。
 ふたりで成そうと約定を此処に結ぶのだ。
 桜のように儚く、無常に散るものではないのだと。
 何れは散る身であれ。
 それは今ではないと、信じられるから。
「ああ。私とて、約束は絶対だ。魂に刻んだものと、この宵に交えたものと」
 望む限り、その傍らにて伴に生きよう。
 鷲生は約束と信に足り、頼る存在であり続けるように。
 ニルズヘッグもそうなろうとしているのだと。
 桜と煙の織り成す白き夜に、鷲生は静かに微笑んだ。
 この吐息と、物語と、夢は。
 如何なる花と刃でも、散らす事ならぬもの故に。
 はらはらと、さらさらと。
 全てを見届ける桜は、春宵に漂う。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
準備をすれば不利になる。周りには美しい桜が満開で、戦の前の小休止。なればやることは一つ。月明かりのもと夜桜を肴に酒を飲みましょう。
ああ、美味しい。

護るべきものを護れるようにと猟兵になり、もう一度の機会を得たあの時から、腕を磨き技を鍛えてきました。
未だ全盛期の神力は戻らず、他の猟兵の方たちに助けられてばかり。これではいつになったら守護するものとして、護ることが出来るようになるのか。此度の戦、今の私の力を見極めるためにも頑張らなければなりません。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



 月明かりに浮かぶは白桜だけではなく。
 春宵に揺蕩うは玻璃の輝き。
 はらはらと緩やかに舞い散る花びらと共に。
 夜闇にても白く煌めくその姿。
 竜神たる豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)の角が、冷たくも美しい色合いを浮かべている。
 ああ、守りたいのだと。
 かつて、邪なる者は退けても。
 信じる村の心は、荒れ果て失われたのだから
 最早、二度とはと艶やかなる眸に思いを乗せる晶。
「準備をして、備えれば不利になるなんて」
 それこそ戦いを求めるが故にかもしれない。
 ただ真っ向から斬り結び、その裡で何かを得るが為に。
 備えて、待ち受ければ、こちらもと戦いの苛烈さを増すように。
 剣鬼とはそういうものだろう。
 周囲にある、これほどまで綺麗に咲き誇る桜に気付かない程に。
「なればやれること、そして、やることはひとつですね」
 しずしずすと降り注ぐ月の光の下で。
 ゆらり、ふわりと舞い踊る夜桜を肴にと、澄んだ酒を杯へと注ぐ晶。
 馨しきは、花と酒。
 月に透かされる桜の雅を、そっと杯の裡に収めて。
 唇をつけて味わえば、春の夜だからこその甘い味。
「ああ、美味しい……」
 風景はそれこそ白く染められて。
 酒だけではなく。
 幻想的なまでの満開の桜吹雪の風情にも酔ってしまいそう。
 距離感も。
 現実感も。
 すぐに、すぅと抜けてしまいそうだけれど。
 今はただの小休憩。晶は忘れる事なく、ただ心を潤していく。

――護るべきものを護れるようにと猟兵となったのだ

 その約束。始めた理由を、晶は一時とて忘れていない。
 もう一度と奇跡のような機会を得たあの時から、腕を磨き、技を鍛え、数多の世界へと見知を広めていった。
 もう二度と繰り返さない為にの。
 二度と、失わないように。
 その願いは、玻璃の輝きとなって竜神の角に宿っている。
 ただ、未だ全盛期の神力は戻らず、
他の猟兵の方たちに助けてもらうばかり。
 まるで風に吹かれる花びらのように、軽く、薄く、流されて。
 頼りなくて。
どうしても自負と矜持を、輝かせる事が出来ないから。
 そっと指先で虚空をなぞり、そこを泳ぐ儚き桜花を愛でながら。
 晶はゆるりと微笑んでみせる。
「これでは何時になったら守護するものとして、護ることが出来るようになるのか」
 そう口にしながらも、眸にある決意は何処までも本物。
 竜神という存在。
 守護する者という矜持は、確かな宝玉の如き光を持つから。
「此度の戦、今の私の力を見定めるためにも頑張らせねばなりません」
 ああ、臆することなどありはしないのだ。
 何一つとて晶が恐れることなど、ありはしない。
 宿して重ねて、繋いで結んだ祈りと願い。
 それらは、ひとつずつならば、はらはらと降り注ぐ花びらのように儚いものでも。
 幾重にも。
 何処までもかき集めて、連ねたものならば。
「もう、負けたりはしませんから」
 例えかの剣鬼の刃を受けたとしても、絶たれることなどありはしない。
 誓いは此処に。
 鼓動と共に、高鳴りを見せるから。
 夢のまた夢などと、この想いは消えたりしない。
 桜のように清らかに美しく。
 それでいて、何処までも透明な音色で響き渡る祈りなのだから。
 ただ酒で酔っているのではいない。
 昂ぶる晶の想いは満開の桜よりなお、尽きせぬから。
「ああ、鎮めねばなりません」
 神を慰撫するが為に、己が手で酒を注ぐ晶。
 信じて捧げてくれる民は、もはや傍にいなくとも。
 いずれまた護るのだ。
 必ずや、薄らいだ力を取り戻し、より強く。
 喉の奥へと滑らせる、甘き酒の香り。
 桜がより、その芳しさを引き立てるから。
「そう急く心をこそ、落ちつかせねば」
 さらさらと。
 はらはらと。
 無常ながらも優美に舞い散る花びらが。
 花見酒に興じる晶の姿を覆いて、飾り立てる。
 美しく、幻想的で。
 見る者に神の力という神秘を、思い起こさせるように。
 後はそう。
 晶が護るという誓いを果たし、願いを叶える力を見せるだけ。
「さあ、ならばと舞いましょう」
 ふわりと。
 春の柔らかな風を受けて、立ち上がる晶。
 そのままくるりと身を転じて。
 酒と桜に酔った肌を、微かに染めて。
 微かな旋律を自ら紡ぎ、その場で風雅なる舞を演じる。
 全ては即興。
 けれど、そこにある想いは何処までも誠。
 流れる魂たちを慰めて。
 散ってしまった花びらたちに、次があるのだと告げて。
 しなやかな腕の一振り。
 するりと繊細に描く指先。
 その全てで、移ろう世界の四季を愛でるのだ。
 さあ、語り継ごう。
 此処より始まる、竜神の物語。
 桜吹雪の中で、いずれ叶えると誓う夢を。
 美しき白で覆われた、優しい景色の中で誓う。

 ゆるりと。
 優雅に舞いし竜神に、花吹雪が追従する。
 風のみらず、流れる地脈の気に。
 此処に集いし想いもまた、在るべき場所へ。

「さあ、名残りを澱ませる事なく」

 思いは、祈りは清らかなままで。
 決して、決して。
 約束を忘れ果て、彷徨う事などないように。


「あの剣鬼もまた、導きましょう。輪廻の裡へ」


 優しき桜の色を伴いし玻璃の舞い。
 微かな酔いが褪めるまで、緩やかに晶は揺蕩う。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴桜・雪風
夕凪さんとは面識がございませんが
助太刀の手は多いほど良いでしょう
あちらもそれをお望みのようですし
「刀を奪うと犯行予告を出してきたとは言え、大怪盗の様な華麗な脱出劇など望むべくもありませんね。なれば一介の探偵など無用の長物でしょうが……一介の剣士の出番は、まだありそうです」

襲撃まではまだ時間があるのでしたら
この地の桜と対話しておきましょうか
悪夢を食らう刀の夢守たれと望まれ植えられた、この社の桜たち
「せめて僅かなりともあの刀の慰めとなれたでしょうか。でしたら喜ばしいことですね。世界違えど、誰かを癒やすのが我らの誉れ」
彼らに誓って、この地を守りきりましょう



 満開に咲き誇る桜は、何を詠うのか。
春の宵にて、はらはらと。
 舞い落ち続けるその姿と、微かな音。
 幻朧桜とは違い、終わりの花の元で。
 静かに佇むは鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)だ。
 見上げるは、湖畔の如き美しき色彩の眸。
 風が吹き上げる度に舞い上がり。
 そして枝より流れる、白き美しさ。
「終わりあれど、惜しむ事なく凜と咲くその姿」
 鈴桜はその貌に、穏やかなる微笑みを浮かべる。
 ああ、故郷の桜とはまるで違うけれど。
「儚く、清く。何より誇り高い美しさですね」
 一夜の夢として踊る花びらを。
 すぅ、と白魚のような鈴桜の指先が掬いあげる。
 ほんの数日で寂しげなまでの景色に変われども。
 今、何かを伝えて、詠い、語るように思えたからこそ。
 同じ桜の精として、誘われるように歩む鈴桜。
 ちりん、と。
 雅な紫の飾り紐で結ばれた、金銀一対の小さな鈴を響かせて。
 桜にて、白く彩られた夜をゆらりと泳ぐ。
 夕凪という少女と面識はなく。
 けれど、求められれば助くが探偵であり。剣士である鈴桜。
 美麗なる白刃の舞踏を、この桜花の森にて求める相手がいるのなら。
「ええ、あちらもそれをお望みのようですし」
 その思いを。
 或いは、苦悩と痛みを。
 無下にはせず、慰め、癒やすが桜の務めにして、誉れなればこそ。
 鈴桜は微かに頬を緩ませて。
「刀を奪うと犯行予告を出してきたとは言え、大怪盗の様な華麗な脱出劇など望むべくもありませんね」
 月に照らされた夜を泳ぐように、鈴桜はするりと歩く。
 足音はなく。
 それこそ擦れ違う花びらと、鈴の音色だけを残しながら。
 此度は絡み合う思惑と怪奇の糸を紐解いていく、心躍る活劇などないのだろう。
 だと、しても。
 事件は事件。謎は謎。
 此処に鈴桜がいる意義があるのだ。
「ならば、こそ」
 優美なる桜の描かれた和傘を携えて。
 その上にさらさらと、降り注ぐ白き桜を迎えながら。
 玲瓏たる刃を秘めて隠し持つ鈴桜。
「一介の探偵など無用の長物でしょうが……一介の剣士の出番は、まだありそうです」
 その美しくも風雅なる剣を。
 眩き闇を切り裂く、切っ先を。
 降りしきる桜と共に振るう舞踏は、もうすぐ。
 ただ、ひとときの猶予はあるのだからこそ。
 歩き続ける鈴桜は、社に植えられた桜たち。
 まるで桜の森の様相を呈す、そのひとつ、ひとつに囁きかける。
 声と言葉。
 音に頼らぬ、精霊の思いの交わりが続く。
 儚き桜の花びらが詠うのならば。
 永久の幻朧桜の精が、聞き届けて、詠い返す。
 舞い散る桜の声を聞き届けて、対話するのなど、そう出来る者などいないのだから。
 今、鈴桜にだから出来る務めを。
 ほっそりとたおやかな姿に、静かなる意思を込めて。
 それこそを美しいと、眺める人はいうのだろう。
桜と語らい、詠いし綺麗な少女は。
 それこそ幻想的で、とても遠い存在のように謎めくから。

――ああ、と。

 ひとの手にて届かぬ美は、まるで月華の如く。
 桜と鈴桜を眺めるものは、思うのだ。
「せめて僅かなりともあの刀の慰めとなれたでしょうか」
 唇より零れる繊細なる声。
 風を震わせ、花へと届き、その満開の白を揺らす。
「でしたら喜ばしいことですね」
 誰にも聞こえず、届かず。
 それでも、悪夢を食らう刀の夢守たれと、望まれた桜たち。
 延々と。
 遙かなる時と、季節の間。
 その願いの元に咲き続け、悪夢の蝕みを遠ざけたものたち。
 ならばこそ、その声を、歌を。
 続けて紡ぎ続けた物語を聞き届ける者がいる事の、なんと喜ばしきことだろうか。
 鈴桜という少女が、今までの全てを聞き届けて。
 繋いでくれるのだろう。
此処で咲き誇り、満開を経て、散り行くことに。
 意味と思いがあったのだと。
 判ってくれる存在へと、ざわざわと。
 静かな喜びを鳴らす桜たち。
「……でしたら喜ばしいことですね。世界違えど、誰かを癒やすのが我らの誉れ」
 ならば。
 彼らと、今までの彼らの思いに誓って。

――この地を守り抜きましょう。

 するりと視線を伏せて、声にせぬまま。
 満開の桜の森と、約定を結ぶ鈴桜。
 この春宵になんと白桜が囁き、詠い。
 そして語り継ごうとしたのかは。
 鈴桜のみぞ知る謎として、胸に秘めて。
 ゆらり、するりと。
 桜の花びらの下を泳ぎ歩く。

「守り抜きましょう。この地にて咲いては散る、桜の思いと夢をも」

 声ばかりが、夜の静寂に響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
夕凪とは久方ぶりだが壮健そうで何よりだ。
しかし旅先で事件とは…災難だったな?
厄払いがまだなら何処かで済ませるといいだろう

(霽刀と見比べつつ)
可能なら後学も兼ねて件の太刀も見学したい所だな。
焔影や由来の人物達の話も気になるし

▼動
先ずは桜の風情を感じながら夕凪と邂逅を。

彼女の趣向を聞いた事など無かったが…
名所のようだし、こうした雰囲気を好むのかもな。
雑談ついでに訪れた経緯や男の様子でも聞いてみるか

滞在理由が武器探しだったら少し驚くが。
刀狩の件を鑑みると妖刀を手放すとは思えないので
予備や二刀流だったか?等と。

最も…刀側から見れば今の状況こそ悪夢と言えるかもだが。
刻限も近いし周囲を警戒するとしよう



 静かに降り積もる、白い花びら。
 優しく、暖かく。
 過ぎ去った雪とは違うのだと、さらさらと音を立てて。
 春の夜に舞い散り、全てを覆い尽くす。
 そんな中でアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)の黒い瞳が、ひとりの少女を映し出す。
 記憶の通りに。
 いいや、あの時よりも。
 悲しさより、切なさより。
 暖かな安堵を滲ませて。
「久しぶりだが壮健そうで何よりだ。夕凪」
 異邦の武人はかつて救い、共に戦った夕凪を確かに捉える。
 張り詰めるような雰囲気は変わっていないけれど。
 それはきっと生来のもの。何処か柔らかなものも、またあるのだ。
「ええ、アネットさんこそご健勝そうで何よりです」
 しずしずとお辞儀をする夕凪。
 花吹雪の中で見れば、夕凪もまたひとりの少女。
 腰に差した妖刀も、鞘から抜かれなければその威を滲ませることはない。
――しっかりと制して、御しているのだな。
 武を。力を。妖しの刃を。
 もはや夕凪が何かに取り込まれることなど、操られて、見失う事はないだろうと。
 アネットは小さく笑って、言葉を紡ぐ。
「しかし、旅先で事件とは……災難だったな?」
「そういう巡り合わせですから。ただ、お陰様で、久しき皆様と顔を合わせ、言葉を交わせているのですから」
 くすりと笑う夕凪へと、頷くアネット。
「が、続けては困るというものだろう。厄払いがまだなら、何処かで済ませるといいだろう」
「まあ。それをいうのでしたら、既に済んでおりますよ」
 胸へと手のひらをあて。
 ゆっくりと、青い瞳にアネットと、桜の舞う夜景を映して。
「この優しき桜が厄を払ってくれたでしょう。悪しき縁など皆様が絶ち斬ってくれたでしょう。再会こそが、新しき門出と祝いかと」
 何処か雅に歌うような調子で紡ぐ夕凪。
 そんな彼女の心を、情緒を育てた郷はどんな場所だったのか。
 或いは、こんな桜の景観より美しい何かがあったのか。
 もはや、知るものはなくとも。
「ああ。落ち着いたままに、変わっていないようで安心だ」
 ならばいいと。
 舞い続ける桜の風情へと視線を向けるアネット。
 いずれ終わる。
 すぐに尽きる。
 だというのに、満開の桜は名残などないと。
 清い程に潔く、その白い姿をはらはらと散らしていく。
 僅かに心へと情を残せるならば、それでいいのだと。
 まるで春の夢のように、小さく、淡く、残ればよいのだと。
「夕凪はこんに景色を好むのか?」
 趣向など聞いた事はなく。
 けれど、ひとりの少女ならば美しいものを求めるだろうと。
 アネットが声をかければ頷く夕凪。
「ええ。旅する中で見た雪の上に咲いた大輪の椿の艶やかさ。雪溶ける最中に咲いた梅の小さくも鮮やかさ」
 どれも素晴らしく。
 旅の最中で見つけていった、ひとつひとつだと語る夕凪。
「そして、それと共に過ごす人々の『しあわせ』……ええ、平穏だから花はこうして咲けるのです」
「違いない」
 肩を竦めるアネットは、自らが武という属性に寄っていると自覚するからこそ。
 風情を楽しみながらも、心の何処かはかの太刀の事へと思い馳せて。
 遠くを眺めるようなアネットの視線に気づき、夕凪が小首を傾げた。
「気になりますか。『夢喰みの太刀』が」
「まあな。それと、それを求める男もだ」
 戦うこと。
 強くなること。
 どうしても求める人種がいるのだ。
 そういう魂をして武士と歌い。
 武士の花と、桜は謂われるのだけれども。
 ああ、確かに。
 儚くも果敢に咲き誇る桜は、切っ先に命を賭して生きる姿に似て。
「夕凪の滞在は武器探しか?」
 まさかとは思うがと。
 腰に吊した黒き妖刀の因縁。
 それをもって悲劇と惨劇を切り払うと誓ったのだから。
 まさか手放す事はあるまいと。
 自らの霽刀【月祈滄溟】を引き抜いて。
 その刀身に刻まれた滄溟晶が帯びる、青の漣へと視線を落とす。
 容易に自らの武器を手放さぬが武人。
 得物を相棒と、友とも喩える者達なのだから。
 思い出と共に力にしてその刃を研ぎ澄ますが剣士なのだ。
 アネットの霽刀もまた、そうして打ち直され、鋭さと強さを得てきたものだからこそ。
 捨てるなど、ありえない筈だと思って告げる。
「まさか夕凪は二刀流、だったのか?」
「さて、どうでしょう。武芸を修めるもの、自らの手の程は隠すものなれば。秘すれば花とやら」
 くすりと笑う夕凪から、真意は読み取れず。
 先ほども似たような。
 刀に私が呼ばれたのでは、と言う方もいたのだからと。

――何かに、誰かに、誠に望まれれば手に執るのか。

 どうなのでしょうと、青い瞳を瞬かせながら。
「ただ旅路としては寒い二月でしたからね。雪は積もり、立ち往生。ようやくまともに旅を再開できれば、この場所の話を聞きましたので、尋ねてみようかと。桜が散ってから、また旅立とうかと」
「成る程、な」
 雪の上を踏みしめて、旅する過酷さはいうまでもない。 
自由に動き、世界さえ跨げるのは猟兵というものの特権だ。
「ならば、男の素性は――どのような武人とみた?」
 視線を鋭く、刃のように研ぎ澄ますアネットに。
 答える夕凪は、僅かに思案しながら。
「武も気質も、剛の者と見ました。武器は大太刀ですが、片手で十分に扱えるでろう程の身体」
 迷うことや躊躇う事は少なく。
 あの手のものは、己が道をただ突き進む。
 周囲を巻き込むのは良くも悪くも。
 ただ、故にこそ歩む道を譲らず、真っ向より望むのだと。
 そんな夕凪の言葉に納得しつつ、周囲を見渡すアネット。
 美しく咲き誇り。
 さらさらと、時と共に降り注ぎ。
 風に攫われる、いと小さき白の色彩たち。
「だとすれば、数多の道と刃のぶつかる此れは……刀から見れば、今の状況こそが悪夢と言えるかもだが」
 ならばこそ。
 その謂われと、務め。
 悪夢を喰らい、鬼討つ刃は目覚めるのか。
 桜舞う中では定かではなくとも。
 もはや刻限も近い。
 視界の殆どを桜花の白に奪われながらも。
 アネットは周囲の気配を探る。
 来るのならば真っ向から。
 ああ。
 その方が望ましい。
 悪夢を食らう太刀にとっては、違えども。
 アネットのような武人にとっては、正面より斬り伏せてこそ、望むべき戦場なのだ。
 今宵にて花と散るは、誰なのか。
 或いは、何というモノなのか。
 桜花が見せる夢より目覚めるように。
 刃の気配が脈打つ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クルル・ハンドゥーレ
花は花
ただ咲くだけ、や
咲き匂う姿に爛漫たる美を見出だすんも
白く霞む闇と見て薄ら寒い狂気を覚えるんも
散りゆく花弁に幽玄と儚さを感じるんも
すべては見る側、そのこころ次第

だから
焔影とか言うオブリビオンも、
多分そういうこと、
あちらさんの言動に何を見てまおうとも
それは此方のこころの裡の都合、ゆうことなんやろうなあ

つらつらと考えつつ夜桜を肴に一杯
花は花、存分に愛でとくわ
ああ、戦闘に差し障りあったらあかんから
酒精入ってない甘酒や
夕凪さんも一口、どない?



 ここは暁でも黄昏でもないけれど。
 彷徨う心を呼ぶというのか。
 はらはらと舞い散る桜が、春宵に白き情景を綴っている。
 されど。
 魅入られたのは此れではないのだと。
 魂を吸い尽くす美と情感を知るクルル・ハンドゥーレ(逆しまノスタルジア・f04053)は、雅な声を紡いでいく。
「花は花」
 それは変わる事はないのだと。
 何事も本質が逸れるなどありはしないのだと。
「ただ咲くだけ、や」
 ならば、どうしてこんなにも夢のようであるのか。
 数多の人を魅了し、こうして集わせるのか。
 クルルに言わせれば、それはただ簡単なこと。
「咲き匂う姿に爛漫たる美を見出すんも」
 琥珀色の瞳を瞼で覆い。
 それでも、美はここにあると確信しながら。
「白く霞む闇と見て、薄ら寒い狂気を覚えるんも」
 視界を閉じたのに感じる気配を。
 それこそ冷たい風に潜むものをクルルが想像すれば。
 夢か悪夢か。判らなくなるから、再び瞼を開いて。
「散りゆく花弁に幽玄と儚さを感じるんも」
 吹き抜ける風に、花びらとクルルの乳白色の髪がさらさらと流れていく。
 さあ、本当に感じたのはどれ。
 どれも変わっていない。
 わずかな時もたっていない。
 桜はただ佇み、はらはらと満開の花びらを散らせるだけで。
 美も、冷たき狂気も。
 幽玄たる儚さと、今も満ちるその姿。
 どれもが、現実だから。
「すべては見る側、そのこころ次第」
 呟くクルルの言葉こそのみが、真実の欠片なのだろう。
 受け取る側がどう感じるか。
 全てはそれでしかないのだ。
 こころに浮かぶからこそ、きっとこの花びらは白い。
 そこに見るものの情を乗せるから。
「だから」
 焔影とかいうオブリビオンも。
 多分そういうことなのだ。
 花と剣鬼。
 まるで違えど、その奥に何を見出すのか。
 対峙した者が自らのこころの水面に、どう浮かべるのか。
 それでしかない。
「あちらさんの言動に何を見てまおうとも」
 夜桜を肴に、杯を傾けるクルル。
 戦いに差し障ってはいけないと、注がれているのはあくまで甘酒。
 されど、僅かな間に陶酔を憶えるには十分。
 桜が舞う美に。
 狂気を孕むその白さに。
 儚く落ちる小さな、その花びらへと。
何を思うも、ひと次第だと。
「それは此方のこころの裡の都合、ゆうことなんやろうなあ」
 そこまで口にして。
 琥珀色の瞳をするりと流すクルル。
「夕凪さんも一口、どない?」
 雪色の髪に青い瞳の少女へと、言葉をかければ。
 応じるのは静かな声。
「一口でも含めば、酔いて夢でも見てしまいそうな歌ですね」
「酒も歌も、花と月を愛でるものやからね」
 くすりと笑い、クルルは杯を持つ指先を踊らせる。
 優美に。
 それでいて、惑わすように。
「きっと何を感じても、真実に触れるなどできんよ。ひとのこころ、次第やけれど」
 くいっと甘酒を傾けて。
 クルルは艶やかに濡れる唇で、吐息と声を零すのだ。
「相手もまた、ひとのこころ、やからね」
 真実とは。
 なんと遠いものなのかと。
 視線は遠く、しんっと静まりかえった月を見上げるクルル。
「きまぐれな風が、すぐに諸行無常のおとを漂わすやろ」
 だから今は。
 ただ桜を愛でて。
 来たる剣鬼の思いなど、その時に見据えればよいのだと。
 影にして残滓。惑われることなかれ。
 何かを汲み取るなど。
 所詮は、自分の願望と夢の色をつけたものなのだと。
「ああ、儚い。ひとの、こころと、ゆめ」
 そう言葉にせずとも夕凪に告げるクルルが、ゆるりと身を揺らす。
「それとも――この白は、盛者必衰のいろなのかねぇ」
 何を思おうと。
 幾らつらつらと考えようと。
 答え辿り着く前に、さらりと滅びて終わるこの世なればこそ。
 悟りなどありはしない。
 今はただ存分に桜を愛でよう。
 夢を見せてくれるなら、それでいい。
 幸いにして、悪夢を喰らう太刀がここにはある。
 その刀身になにを見るかも――やはり、ひとのこころ次第で。
 ただ、クルルは浅き夢にて、揺蕩うように。
 懐かしくも届くことのない、望郷の想いばかりを浮かべて。
 クルルは瞼を閉じた。
 辿り着く道など。
 ああ、きっと、すぐに夢の彼方にて露へと消える。
 

夢と悪夢の差など。
 そんなもの。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎

…今の俺みてェ

いろがない桜に触れて見て自嘲気味に嗤う
裏返せば何色にもなれる

愛慾抱いた人への想いを沈めた
おわりとはじまり
今後どう結うか模索中

(日々変わりゆく
今すぐは難しいが
この縁は切りたくねェ)

桜が涙の様に散る
耽り中に夕凪と再会

久しいなァ!元気してたか?
未だ半年も経ってねェンだよな
あれから何か変わったか
お前の途に倖せは沢山咲いただろうか

夕凪の顔つきや黒妖刀を見て微笑

夕凪を見送った後、刀狩の意志を継いだ別の輩に会ったンだわ
お前と同じ、苦しんでいた
それでも為すべきコトは解っていて
希望はあったから

俺の義で拓いてきた未来が
架け橋となるのは、良いな

今宵もまた
お前の力、貸してくれ
呪いを断ち切る為に



 桜花と神鏡は、絡まりし己が慕情を浮かばせことなく。
 ただひとの想いと夢ばかりを。
 いろとして映すのみ。
 白と金は誰かを思い、そして、その為にと。
 優しいといえば、確かにそうで。
 義心といえば、凜々しく。
 けれど、ああ。

 迷い、揺れるようなのはどうしてだろう。

 潔さなどなく。
 未練のように、ゆらゆらとと。
 白い花びらが、春宵の風を泳ぐ。
「……今の俺みてェ」
 呟いて、夕赤と青浅葱の瞳を瞑るは杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
左右で異なる色彩は、それこそどちらにでもなれのだと。
 どちらでもないという証なのだと、自嘲を込めて静かに嗤う。
 いろがない桜のひとひらに、指で触れて。
 確かめるように、手のひらで転がしても。
 それは何処までも白く、真白なまま。
 月明かりを透かすような清く、美しい色なれど。
 何処か鏡の光沢を思わせる、その艶やかさであっても。
「裏返せば、何色にでもなれんだよなァ」
 つまり今は何色でもないということ。
 吐息を零せば、手のひらの裡にあって花びらはさらりと逃れねけれど。
 クロウの胸に渦巻く愛慾はただ深まるばかり。
 雪が溶けた春になお。
 しんしんと降り積もり、重なる慕情。
 とあるひとへの想いは沈み。
 どちらに辿り着くかと、花のように揺れる。
 幸せに色付く事などあるものかと。
 ただ全てを照らし、映す鏡がそこにある。

――切実なる想いとは、疵のようなものなればこそ。

 痛みを憶えれど。
 幾ら疼きを感じれど。
 疵ひとつなきモノこそ、クロウの本体だからか。
 想いの行き先、その結い方は模索するばかり。
 ある意味、初めてなのか。
 まるで戸惑う童のようだと、自嘲を深める。
 本当に幼心ならば、育つ事とて出来れども。
 絡まる情は複雑怪奇。決して解けぬ紐ではないのかと。
 さらさらと流れる桜が囁く。
 夢に見る程、鮮明に。
 その人の姿を、常夜桜の残影を、花吹雪の中に幻とみる程に。
 血のように甘く。
 蜜のように深く。
 それはクロウの身と心に残り香として、染みこんでいるのだから。

(日々変わりゆく。一時とて、止まりはしねェ)

 無常なる時の流れを。
 さらりと落ちる花が告げて。

(それでも、よォ)
 
 心臓にまで深く絡み付いた、この糸のいろ。
 さあ、定めねば。
 決めねばならぬと、鼓動の度にクロウの魂を締め付ける。

(今すぐは難しいが)

 叶うならば。
全ての桜が舞い落ちるまで。
 そんな僅かな猶予が欲しい。
 それだけあれば、きっと決められる。

(未練がましくとも、この縁は切りたくねェ)

 それだけ大事なものなのだと。
 桜と見紛うような涙が零れて、風に乗り。
 桜花と共に春宵を舞い散り、何処かへと消えていく。 
そのクロウの涙もまた、色なきものなれど。
 夜に消える、儚きものなれども。
 想いに耽り、感傷に浸り、さらさらと。
 全てを覆い隠す白櫻の優しさが。
 或いは花吹雪の白々しさが、一瞬だけクロウを包み込む。

「おや……クロウさん?」

 けれど全ては隠せぬと。
 逃げられぬ現実を示すように、射干玉の黒髪を。
 クロウの青浅葱の瞳と横顔を見つけた夕凪が、声をかける。

――ああ、泣いてなんかいられねェよな

 今はまだ。
 何もこの、想いと鏡のいろを決めていないのだから。
 桜吹雪の中、涙など夢の欠片だと。
 笑うクロウは、過ぎる程に明るく、強く笑いかける。
「久しいなァ、夕凪! 元気してたか?」
「ええ。寒さばかりは、どうしようもありませんが」
「この国の冬は寒いもんだからなァ……が、風邪ひいてなけれやァ、いいさ」
 もはや余韻も見せぬが男の姿だと。
 積もる桜を踏みしめ、自ら夕凪へと近づくクロウ。
「未だ半年も経ってねェンだよな」
 しみじみと言葉を発しながらも。
最後にそうしたように、クロウは夕凪の雪色の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「あ、あの……あまり、子供のような扱いなど」
 抗議のような夕凪の静かな声。
 逆にいえば、あの時よりもなんと落ち着いているのか。
 言わずとも判っている。
 ああ、半年という時間は、人が変わるには十分な時間なのだと。
「あれから何か変わったか」
 それでも問うのだ。
 答える声が欲しくて。
「お前の途に倖せは沢山咲いただろうか」
かの『刀狩』より救った想いと心は。
 夕凪という名は、どのような倖せをこの半年に咲かせてきたのか。
 その喉から紡いで、届けて欲しいのだ。
「ええ。冬の花たる椿や梅。その美しさと共に営むひとの『しあわせ』を、見て参りました」
 歌うような口調は変わらずで。
 青い瞳をすぅと細めて、思い出すように小首を傾げる夕凪。
「雪の冷たさ、厳しさ。それでも共に生きて、それさえも笑顔のひとつにするひとの生きる『つよさ』もまた」
「なら、いいさ。ああ、よかったよ」
 諦めず。
 名を、思い出を、倖せを。
 何一つ手放さず、此処にて再び巡り会えたことに。
 忘れることなく、明日と未来への旅路を続けたことにと。
 夕凪の穏やかな顔つきと、未だに持ち続ける黒き妖刀を見て。
 クロウもまた、優しく微笑む。
「そういや、だがなァ」
 半年に色々とあったのは夕凪だけではなく、クロウもまただ。
「夕凪を見送った後、刀狩の意志を継いだ別の輩に会ったンだわ」
「あれ、の」
 ならば起きるのは悲劇と定まっていて。
 けれど夕凪の顔色が変わらないのは、クロウという男を信じているから。
 決して、無惨な終わりなど認めない熱き義心を知っているから。
「お前と同じ、苦しんでいた」
 左右で異なる色彩を宿す眸を、薄らと細めるクロウ。
 ただ単に語るだけならば簡単でも。
 想いを伝えることの、なんと難しきことか。
 さらりと流れる桜花の花びらが、さわさわと音を立てれど。
 そこに宿る想いを、ひとは掬い上げられぬように。
 いいや、だとしてもと――ひとは花を見上げ続ける。
 花びらに想いを見出すべく。
「それでも為すべきコトは解っていて」
 そこに夢がある筈だと、ざわめき花を歌として。
「希望はあったから」
 繋ぎ、結び、更なる先へと。
 歩き続けるがこの世の定め。
 過去に囚われず、移ろう四季と共に感情を色付かせながら。

――だからきっと、クロウもすぐに縁の糸のいろを定めるだろう。

「俺の義で拓いてきた未来が」
 今までそうしてきたのだと。
 胸の疼きと痛みが瞬間、薄らぐから。
 ゆるりと笑みを強くして、クロウは声を零す。
「架け橋となるのは、良いな」
「ええ。人と人。手を取り合い、進む道にこそ倖せの花は数多に咲くのでしょうから。義に忠、礼に智、仁は紡がれ続けた夢なれば……」
 それらのひとつ、ひとつが。
「異なる夢こそが、様々なる鮮やかな倖せの花の色を宿すのです」
「言うようになったじゃねェか。嬉しいぜ」
 だからもう髪を撫で回すのは止めて。
 今夜は共に戦う存在として、クロウはその眸で夕凪を見据える。
「今宵もまた。お前の力、貸してくれ」
 真っ正面から、何処までも誠実に。
 揺らぐ事の無い信頼と想いを視線に乗せて。
「呪いを断ち切る為に」
 告げるクロウに、くすりと笑う夕凪。
 ふたりの間に降り注ぐ花びらを、指で掬いながら。
「謂われるまでもなく、この刃は妖しを絶つ為に。倖せの花が為に。ならばこそ――クロウさんこそ、倖せを忘れぬ為に、夢の名を喪わぬ為に」
 もう一度。
 再びと。
「力を貸してください。この花たちの、夢の為に」
 白く、白く。
 世界を覆い尽くす、この優しき色の為に。
「桜に続きて、様々な花が咲くのですから。ひとの想いと、夢もまた」
「ならば魁の梅として、咲いてみせらァ」
 だから見ていろよ。
 お前を見ているから。
 交差するクロウの視線と眸。
 もはや迷いて揺らぐことはなく。
 呪いの如き約定を持つ剣鬼を、呪いを斬る少女と共に待つ。



世があければ。
 また倖せなれと。
 祈るかのように。
 桜花が、はらはらと降り注いだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加。

桜は、武士の魂と聞いたことがあるね。潔く散る桜が武士だと。

件の剣士は終わらない戦いの末に散ることを願っているのだろうか。アタシの夫も戦士であり、戦いの末に死んだ。アタシも戦いの末に散る定めにあるのだろうか。潔く散る桜のように。

でも桜を純粋に楽しんでいる子供達を見ると、そう簡単に散る訳にはいかないと思うよ。別れはまだ早い。夫が身を挺してアタシと奏の未来を護ったように・・・子供達の未来の桜が咲き誇るように生きてやるさ。

あ、子供達が呼んでるね。行こうか。


真宮・奏
【真宮家】で参加。

純粋に激しい戦いを望む武芸者ですか・・・戦いを望むなら迎え撃つのみです。これが彼の望みなら。瞬兄さん、見事な桜ですよ!!(瞬の手をぐいぐい)

何度か家族で桜を見ましたが、いつ見ても桜は綺麗ですね~。あ、私の頭に桜の花びらがついていましたか?取ってくれてありがとうです。戦いは避けれないですけど、せめてこの桜が無辜の人々の血で汚れないようにしたいですね。

あ、母さんがまだ来ていませんね。考え事してるようですけど。母さん~!!ここの桜綺麗ですよ~!!


神城・瞬
【真宮家】で参加。

終らない戦いの果て、僕達猟兵の手で散ることを望んでいるのでしょうか。僕にはそう思えてなりません。奏、そんなに引っ張らなくても付いていきますので。

ええ、何度か桜は家族で見ましたが、咲き誇る桜は見事なものです。この桜を家族でいつまでも眺められるように家族を守るのが僕の役目です。奏、桜の花びらが頭に付いていますよ。(取ってあげる)

あれ、母さんがまだ来ていないようです。母さんには珍しく考え事していたようですが。母さん、桜、ここ綺麗ですよ。一緒に見ませんか?



白く、気高く、潔く。
 春の宵にて桜花が咲き誇る。
 月明かりの元でなお、凜として。
 けれど、今が散り時と知りて、名残惜しむことなどありはしないと。
 はらり、はらりと。
 数えきれぬ程の花びらが降り注ぐ。
「桜は、武士の魂と聞いたことがあるね」
 視界を覆うような、その花吹雪の中て口にするのは真宮・響(赫灼の炎・f00434)。
「潔く散る桜が武士だと」
 意を決め、世と時を知ればと。
 高潔を以て鳴るが武というのならば。
 風にてざわめく微かな音は、後に続く者たちへと残す志の歌か。
 残るのはそれだけでいい。
 受け継いでくれる者があれば、この魂は不滅なのだと。
 何処までも真っ直ぐに信じる想いは、ああ確かに。
 烈士とはこのようなもの。
 花のように儚くも。
 桜のように果敢なる者。
 ならばと、響は想いを馳せる。
 件の剣士は、終わらない戦いの末に。
 いいや、此れでこそという剣戟の末に散ることを願っているのだろうか。

――アタシの夫も戦士であり、戦いの末に死んだ。

 自らもそうならないと、断言できる筈もない。
 子供達を思うが為に、決して響は言葉にはしないけれども。
戦いの末に散る定めにあるのだろうか。
 そういう宿命と、魂なのだろうか。
 判らない。ただ、はらはらと舞い散る桜が美しいと。
 これが武士の魂というのならば、確かに夢のようだと、響は目を細めるばかり。
「潔く散る桜のように」
 そのようになど。
 果たして出来るのかと、桜の中ではしゃぐ子供たちを見るのだ。
 残して逝くには。
 まだ、出来ないのだと。
 その思いこそが、戦士たる者の強さなのかもしれくて。

「瞬兄さん、見事な桜ですよ!!」

 楽しげな声をあげて、桜吹雪の中を進むのは真宮・奏(絢爛の星・f03210)だ。
 純粋に激しき闘争を望む武芸者というのならば。
 真っ向より戦い、迎え撃つのみでよいのだ。
 少なくとも奏はそう考えている。
 戦の刹那に命と魂を賭ける姿を高潔というのかは、判らずとも。
 その思い。
 その望み。
 決して無下には出来ないのだから。
 心と想いを尊ぶからこそ、奏は剣鬼であれ、その願いと夢を認めて。
 訪れるその瞬間まで、桜と共に舞う。
 義兄である神城・瞬(清光の月・f06558)の腕をぐいぐいと引っ張り、共にくるりと踊りながら。
「何度か家族で桜を見ましたが、いつ見ても桜は綺麗ですね~」
 戦いと日常を切り分けて、優しく微笑む奏の姿。
 つい微笑ましくなって、瞬もまた小さく笑う。

――終わらない戦いの、果て。

 そんなものに奏は落ちて欲しくなくて。
 可憐なる姿のままでと願いながらも。
 あの剣鬼は猟兵という強者たちの手で散る事を望んでいるのだろうか。
 終わらない戦いに。
 せめて、これこそがと思う刃の元で。
 名残などなく潔く散れる、刹那を迎えたいのだと。
 瞬にはそう思えて仕方ないのだ。
 けれど、そんな憂いのような感情は、奏に向けるものではないのだから。
「奏、そんなに引っ張らなくても付いていきますので」
 何処までも引っ張っていく奏へと、穏やかに微笑んで、桜を踏みしめ続く瞬。
 果てなど、一体何処にあるだろうか。
 世界の形あるモノには定めとしてあるとしても。
 胸に懐くこの家族の絆には。
「ええ、何度か桜は家族で見ましたが、咲き誇る桜は見事なものです」
 そして、こうして春には。
 家族で桜を何時までも眺められるように守るのが自分の務めなのだと。
 瞬間だけオッドアイに決意を瞬かせたあと、瞬はそっと奏の髪へと手を伸ばす。
「奏、桜の花びらが頭に付いていますよ」
「あ、私の頭に桜の花びらがついていましたか?」
 柔らかな茶色の髪についた、ひとひら。
 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに、はにかみながら。
「取ってくれてありがとうです」
「いいえ、義兄、ですからね」
 その言葉に僅かな疼きを、奏は憶えて。
 嬉しさと、悲しさと、切なさと。
 それこそ花吹雪のように乱れる慕情に、視線を逸らし。
「来年もまた、此処で桜を眺めてみたいですね」
 夜に浮かぶ、優しき白桜の舞踏。
 美しさ故に現実感のなさは、それこそ夢のようだからこそ。
「戦いは避けれないですけど、せめてこの桜が無辜の人々の血で汚れないようにしたいですね」
 穢れぬよう、失わぬよう。
 秘めたる恋慕と共に、大切にしたいと奏。
 それに気付いているのか、気付かないのか。
 家族をと思う、血の繋がらぬ義兄たる瞬と。
 そんな二人の子供を見る、響。

 決して失われぬ、この絆の情景。
 家族という、永久の幸いの花。

「あ、母さんがまだ来ていませんね」
 奏が腕を引っ張る瞬ばかりで。
 ふたりきりの場所になっていたとようやく気付いて声をあげる。
 おやと首を傾げて、振り返る瞬。
「ええ。母さんがまだ来ていないようです。母さんには珍しく考え事していたようですが」
 考え事など。
 悩むというのならば、家族に打ち明けて欲しくて。
 さあ、と声を張り上げる奏と瞬。 
「母さん~!! ここの桜、綺麗ですよ~!!」
「母さん。桜、ここ綺麗ですよ。一緒に見ませんか?」
 重なる二人の愛しき子供の声に、誘われて。
 やれやれと。
 自分は戦士である前に母なのだと、深く実感する響。
 湧き上がるのは優しく、暖かい母の情ばかりで。
 これから来る剣鬼の事など、何処かへと消えている。
 そう簡単に散る訳にはいかないのだから。
 まだまだ、別れなど早すぎる。
 あんなに元気にはしゃいで、声をあげて。
 これから戦場になるというのに、なんとも、まあ。

――守ってあげないと。抱き締めて、あげないと。

「ああ、子供達が呼んでるね。行こうか」
 最愛たる夫が身を挺して庇ってくれたから。
 未来を。
 この夜桜の美しさを。子供たちを愛しく思う時間を。
 響は懐く事ができるのだから。
 桜のように綺麗じゃなくていい。
 潔さよりも、母の深い愛情として在りたい。
 いずれは、とあっても。
 それは子供たちが旅立った後でいいのだから。
 子供達の未来の桜が色づき、満開に咲き誇るその時まで。
「ちゃんと私がアンタ達を見ているからね。奏、瞬」
 母の情より深きものは。
 尊きものはないのだと。
 さらさらと流れる花びらが、祈りの音を奏でる。
 優しくも、強く。
 気高くて、清らかに。
 抱き締める、その心に触れて……。


 いずれ咲く未来の花の色は、きっとこの夜桜よりも麗しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(夕凪の壮健喜んだ後、太刀の逸話傾聴し)

…良き話ですね
太刀が眠りについた事含め
『めでたしめでたし』を迎えれば刃は不要ですので

ええ、剣も槍も銃も兵器も
剣士も騎士も
貴女の刀もそして私も

全て!全て!全て!
儚く美しき花の肥しとなればいい!

(御伽の騎士=めでたしめでたしを標とした戦闘機械の目標の極北=存在意義喪失)

感情演算許容値オーバー検出
一時制限実行

(UC自動発動
翠目から赤。声の抑揚喪失)


失礼
『取り乱した』ようです
桜が妖しいまでに可憐だったからでしょうか

裡に残された欠片に衝き動かされる剣鬼を私は責められません
ですが理性無き衝動は周囲も己も傷つけるもの

戦いの中
彼の欠落を幾らかでも埋められれば良いのですが



 舞い落ちる白桜と共に。
 流れる声は優しく、穏やか。
 その身に同じく薄紫の花の模様刻まれた御伽の騎士が。
 歌われた夕凪の声へと、礼をもって応じるのだ。
「ご壮健そうで何よりです、夕凪様」
 それは鋼にて成す戦機の身なれど。
 何処までも清く、そして正しくあろうとする者。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、かつて救い、良き道と未来へと救い出せた夕凪の姿に喜ぶ。
 表情などなくとも。
 翠玉のようなセンサーアイは、感情に瞬くことないけれど。
 声と言葉は確かに、心という不確かさをもって。
「そして、伺った太刀も……良い話です」
 頷くトリテレイアは、戦いの為に作られた身。
 それでも辿り着こうと目指す理想は、平穏なる光に満ちた場所なのだから。
「ええ。刃とは正しき道へと、導くものなれば」
 戦乱を呼ぶのが妖刀というもの。
 治世を治めるが銘刀というべきもの。
 夕凪は、言葉を繋ぐのだ。
「そこに在るというだけで、人の守り手である。そういうものは錆び付く事なく、草花と共にもあれるのでしよう」
 ああ、と頷くトリレテイア。
 微かに。
 そう、ほんの僅かに揺れるノイズを感じながらも。
 理想に焦がれ、懊悩する戦機は想いを零す。
「なんと望ましいことでしょうか」
 見上げれば、そこに在るのは月。
 トリテレイアの産まれならば、それにも手が届けれど。
 桜に覆われたその姿の、なんと幻想的なことだろうか。
 まるでお伽噺のように、手の届かないような。
現実では、決してあり得ないような。
 夢という曖昧なものを、機械の演算は受け止められずとも。

――ざざざぁっ、

 と、鳴ったのは風に吹かれた花びらたちか。
 トリテレイアの思考の裡か。
「太刀が眠りについた事含め」
 気付かず、続けるトリテレイアの声は。
 何処か歪んでいく。
 楽器を奏でるように規則正しかったリズムももはやなく。
「そう。『めでたしめでたし』を迎えれば刃は不要ですので」
 戦が為に作られたものが。
 眠るというのならば、それは最早、必要を失うということ。
 使われぬ刃は錆びるのだ。
 磨かれぬ甲冑は朽ちていく。
 そこに在りし想いごと、平和の中に埋もれて消え逝く。

 語り継がれる御伽となること、それが理想であれど。
悪夢を喰らう太刀は、トリテレイアの憧憬であれど


――それは、役目と存在意義の『終わり』を意味するのだから。

「ええ、剣も槍も銃も兵器も」
 腕を広げて、数多の花びらをその身に受けるトリテレイア。
 夜桜の下で、罰を受ける清廉なる騎士のように。
「剣士も騎士も」
 或いは原罪に戸惑う、信者のように。
如何すれば良いのかと、己が存在意義の足場を失って。
 トリテレイアは、桜の狂気に魅入られる。
「貴女の刀も、そして私も」
 進むべき路の先を果たせば。
 ただ露と消えるか、ただ地面に埋もれるか。
 花のように無常に散るだけだという、その事実に。
 いいや、もはや花たるもの咲く事さえないのだと、虚無を見出して。

「全て! 全て! 全て!」

 鋼が如何にして、大地に還るだろうか。
 戦の中でこそ、誇り高く咲ける志は、平穏な世にあれるだろうか。
 いいや、それが出来ないから。
 かの剣鬼は、今まで巡り会ったオブリビオンたちは。
 必死にその『存在意義』を求めたのだから。
「儚く、美しき花の肥しとなればいい!」
 そして、鋼鉄の身であるトリテレイアは、大地に溶けることもなく。
 次に咲く花の養分にさえ、なることはできない。
「なれぬからこそ、なれぬものなど……!」
 強く、果敢なる騎士は。
 けれど、物語の最後には死を迎えるが必定。
 勇者は墓標の下にしかいない。
 
めでたし、めでたしと。
 そう終わりを結ぶ事を、戦機の存在意義とするからこそ。
 御伽の騎士は、『めでたし』と共に完全に滅ぶのだ。
 魂というものさえなく。
 身体はただの壊れた欠片となって転がり。
 今も思考は夥しいノイズで埋もれて、喪われた意義が何処にいくのかと、高速で演算する。
 無に落ちるか。
 それこそ、繰り返す為にオブリビオンとなるのか。

 過去に対峙した者たちと、自分の違いを。
 見つけられずに、いるからこそ。

――己が魂というものを、信じられればきっと違えても。
 愚かなる御伽の騎士は自らの芯を抱き締められずに――

 感情演算は限界を超えて。
 一時的な制限を自らに課して、翠目が赤い色彩へと変わる。
 喪われたのは声の感情と抑揚。
 そして、桜に魅入られた終わりへと思い。
「失礼。『取り乱した』ようです」
 いいや。
 悲嘆し、苦悩し、涙を散らせばどれだけ救いだっただろうか。
 答えなどなくとも、感情にひとつの吐き出しが出来るのならば。
 壊れたとしても、それがトリテレイアの救いだっただろうに。
 涙を零すということさえ。
 出来ない、鋼と戦の人形として。
「桜が妖しいまでに可憐だったからでしょうか」
「……そう、ですね」
 静かに声を発するトリテレイアに、夕凪がゆっくりと頷く。
 恐れることはなく。
 けれど、これもまた。
「妖しと呪い、なのでしょうね」
 すると零した夕凪の声と吐息が、花びらを吹かせ。
 トリテレイアの装甲に届けれど、もはや清廉なる心には届かず。
「裡に残された欠片に、衝き動かされる剣鬼を私は責められません」
 淡々と語るトリテレイアは、かつてと夕凪の知るそれではなく。
「ですが理性無き衝動は周囲も己も傷つけるもの」
 己がそれを得て、喪わないからこそ。
 ひと、という存在からより遠ざかっても、誰かを助けるという意義が持てるのだと。
 想いの残骸にて、赤く染まった目でトリテレイアは夜空を見上げる。
「戦いの中、彼の欠落を幾らかでも埋められれば良いのですが」
 自らの欠落を。
 それこそ、誰かに壊されなければ、もはや辿り着けぬその心を。
 振り返ることなく、告げるトリテレイアに。

「ならば、私が騎士様の欠落を歌いましょう」

 届かずともと、夕凪が声を紡ぐ。
「戦の風に散らされた桜は、世を怨むかもしれません」
 なんと無常なのか。
 穏やかなる凪ぎの時ならば、まだ枝と共にいれたのだと、花は悲しみ、憎むかもしれない。
「ただ地を這い、風に靡いて、舞い上がれど――すぐに朽ちてしまうのだと」
 想いを継ぐなど。
 なんて優しく、気高く、潔くも。
「……この世は次に託すとは、何と無責任なと」
「…………」
 聞き届けるトリテレイアの感情はまともに動かず。
 意図する意味を理解できずに。
 戸惑うことさえ十全にできずに、ただメモリーとして残すだけ。
「けれど。秋の紅葉のように風に吹かれて」
 舞い散り、降り積もり。
 故にこそ、道のように広がっていくものがある。
「散れど、終われど。確かに残るものはあるのですよ」
 でなければ、余りにも悲しいのだと。
「御伽が『めでたし、めでたし』で結ばれた後にも……確かに、残るものはあるんです。誰も知らない、誰も語らない」
 そんな物語と夢が。
 どんなものかなど、解りませんがと夕凪が口にして。
「あなたも赤い眸に想うこと、何かを残そうと、剣の風を吹かせるのではないですか。白き騎士様」

 例え、相打とうとも。 
 黒き魔女の首を落とすという終わり。

 ああ、それ以外を求めるならば。
光ある世界へと、黒き淑女を導いて。
 めでたし、めでたしと結んだ後は。

「それは」
 感情を抑制した、トリテレイアの声。
 意思と、想いの為に。
 例え戦闘を最優先とする思考形態にて、出ない答えへの演算を止めようとも。
 留まらないのだ。
 もう少しで全てが解けそうだから。
 ああ、もしかすれば、と。
「戦いの後に。『めでたし、めでたし』の後に。頁が尽きても、果ては、ないのだと」
 ならば眠ることなど。
 出来はしないのだろう。
「そう、『しあわせ』への道を斬り拓くが為に。私と、あなたの。剣士と騎士の刃はあるのですから」
 終わりなどないのですよと。
 背負うものあればこそと。
 呪いと、悲劇と、願いと誓い。
 埋まらぬ欠落こそが、魂なのだから。
 それを撫でて慰めるように、はらはらと桜は舞い落ちる。

 魂など。
 ああ、どうして己が身にあると信じられようか。
 けれど、それなくばかの手を血と闇から引き出せぬのなら。

 何処までも軋む、トリテレイア。
 己が定義と、誰かが為の信念に。
 戦闘を最優先させる精神へと切り換えても。
 鋼の身と電子の思考が、咲いては散るように。
 幾度となく繰り返す。
 
これは御伽ではなく。
夢ではない現実だから。
 明日は続く。何があろうとも。
 世界と誰かを、守り続ける限り。
 
――ならば、刃はその存在意義を失う事などあるだろうか?

 今、或いは、今宵の。
 機械騎士に刻まれたメモリーを、記憶と情景として読む時に。
 トリテレイアは何を思うのか。何を答えとするのか。
 ひとの情を取り戻し、ひとへと近づいた時。
 戦機はどんな夢の花を咲かせるのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
アドリブ歓迎

時期柄あれこれ用事にかまけてしまい
まだ桜を見に行っていなかったのでよい機会です
その時が来るまで夜桜見物と参りましょう

剣の鬼とやらのことは今は綺麗さっぱり忘れます
正々堂々正面から来る相手のことを
あれこれ勘繰ったところで無駄なだけですし

……しかし、まあ
綺麗さっぱりとはうまく行かないもので
剣の道に邁進していたであろう人物の
鬼(き)に変ずるほど執着したものが
一体何であるかは興味があります

ただの、一介の武芸者という枠にはどうにも収まらない
剣の鬼と括るにしても
どこか洒脱と言うか、枯れていると言うか



 するりと。
 水面に似た静かなる眸が、夜桜を映し出す。
 白く、清らかに。
 幽玄なる美を、夜景にて佇ませる姿。
 幻想的なまで綺麗さは、見る者の現を忘れて夢心地へと誘う。
「慌ただしかった最近を忘れてしまいますね」
 眺める水衛・巽(鬼祓・f01428)は、穏やかな吐息をひとつ。
 この時期柄。あれこれと用事にかまけて忙殺され。
 まだ十分に桜を見に行く事も叶わなかった巽。
 道往けば、確かに花をつける枝もあったけれど。
 心行くまで浸るなど、出来なかったのだから。
「丁度いい機会です。その時が来るまで、夜桜見物と参りましょう」
 桜の幹に背を預けて。
 はらり、さらりと舞い散る花びらを眺める巽。
 風が吹けば舞い上がり。
 そして、やはり何処かへと散っていく。
何処までも儚く、けれど、尽きる事などあるのだろうか。
 終わりなどないのではないだろうか。
 春宵に泳ぎし桜花は、人の情と心を酔わせていく。
「桜はひとを攫う、といいますしね」
 まさにそうだと、巽の頬を掠める花びらがひとつ。
 だとすれば用心しながら眺めるしかないのだと。
 穏やかな表情を浮かべて、巽は月を透かす桜の舞踏を眺めていく。
 女性のような貌は桜吹雪の中で風雅なる雰囲気を香らせる。
「ただ、それほどに。謂われの程に美しい」
 唇より感嘆の息を零す巽。
 完全に桜へと浸り、その雰囲気を味わうばかり。
 来るという剣鬼への備えなど全て忘れている。
 正々堂々と正面から来る相手のことなど。
 あれこれ勘繰ったところで無駄なのだ。
「花のいろの方が、まだ意味を持つでしょう」
 ひとはそれを歌い、物語にして。
 或いは舞台とも飾り立てる程なのだから。
 酒よりもなお、ひとの心に染みこむ桜花の姿。
 攫うは心と思いだと、はらり、はらりと無数の花が舞い落ちて。
 幾度となく織り合いて。
 幾重にも魅了していく。
「……しかし、まあ」
 と、苦く笑う巽の貌。
 全てを美しさで覆い尽くし、隠してくれるならば。
 世はなんと幸いなのだろう。
 ひとの想いとは、そんなに単純ではないからこそ。
 花吹雪に、深く感じ入り、思い馳せるのだろうけれども。
「綺麗さっぱりとはうまくいかないもので」
 はらはらと舞い散る花びらと共にに。
 つらつらと、考えを浮かべる巽。
「剣の道に邁進していたであろう人物の」
 恐らくは切実なまでにと。
 遙かな空に浮かぶ月へと、腕を伸ばす巽。
 剣士というものは、そんな届かぬ理想へと追い焦がれていくものなのだから。
 指先に触れた花では満足できず。
 もっとと。届くかも判らない月へと手を伸ばして。
 刃と心を研ぎ澄ます。
 それは桜花とまた違う、美しさの筈なのに。
「鬼(き)に変ずるほど執着したものが、一体何であるかは興味があります」
 それがどうして、鬼へと変じて転じたのか。
 墜ちてしまったとさえいえる、そのきっかけとは。
 戦いを求めて、求めて。
 血に酔いて錆び付いた訳では、あるまいに。
 
――他人の懐く夢と狂気を知る事など、出来はしないけれど。

 約束があるというのならば。
 何かが残っている筈。
 消え去れぬ情念が、刃へと宿っているのだ。
 だというのに、荒れ狂うでもない。
 それこそ、研ぎ澄まされた切っ先の行方を、辿り着ける場所を求めるは。
 戻るべき鞘を、探すかのようで。
「ただの、一介の武芸者という枠にはどうにも収まらない」
すぅ、と目を細めて思案する巽。
 この夜桜たちが答えを知る筈がなくとも。
 それこそ、全てを見ていた月もまた答えることなくとも。
 思い馳せ、考えに浸るがひとの常。
 優しさか。強さか。それとも、誠実なる心の性か。
「剣の鬼と括るにしても」
 首を傾げる巽に、まだ冷たい春の風が吹いて。
 さらりと艶やかな黒髪を撫でる。
 けれど、それだけ。
 答えはひとつも出ることなく。
 その欠片さえ浮かばせることもない。
「どこか洒脱と言うか、枯れていると言うか」
 芯となる熱がないのか。
 或いは――何かを。
 それこそ、満開に咲いて、散ってもよいと。
 今も巽が見上げる桜にもある、矜持とでもいうべきものを。
 喪失しているのではないだろうか。
 己が誇りの縁を、忘却したのではないだろうか。
「だからこそ、巡り会い、向き合わねば……判らないのでしょうね」
 他人の心など。
 どうしても覗けるものではないから。
 言葉より、言動より。
 見つめた瞳より、汲み取り、掬い上げるしかないのだから。
「今は桜の中で待ちましょう」
 来るという、剣の鬼の約束を。
 忘れられぬ約束があるという、灰の刃を。
 さらさらと。
 地に積もり、風に流される花びらが音を立てる。
 踏みしめる音が訪れれば。
 その時に、全ては始まり、決するのだから。

 
 巽は眸と心に、ただ今はと夜桜の姿を映すのだ。
 刹那に散り往く、儚きその情景を。
 此処に在り、今宵に咲いて。
 明日にはもう消えているかもしれない、夢の如きその姿を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉城・道明
【花守】
(特に多くを語らうでもなく桜の影に佇んで暫し――)
静謐――その一言に尽きるな
(少なくとも、今この一時は――なればこそ、迫る花嵐の刃が荒ぶ前に、夢の社と護りの一振が戦禍の悪夢に呑まれぬ様に――来る刻限に向け、心身研ぎ清ます一時にせんと、静かに景色眺め)

……然しお前はこの状況でも、相変わらずだな
(酒ならば後にしておけ、とは言うまでもないか――差し出された盃を受け、隣の男と対照に、降りしきる花越しに時折覗く朧月を見上げ)
此方も変わらず面白味無き武骨者で悪いが――そうだな、それぐらいは乗るとしよう

(一族の夢の残滓――提げた刀を撫で、この刃は護る為にこそ――と、誓いを胸に、今暫くは静かな宵を)


佳月・清宵
【花守】
(何となしに桜の影に腰を下ろし、唯静かに春の夜に耽り――)
おう、起きてたか
ずっと黙りこくってやがるから、この大物め寝てんのかと思ったぜ
(花弁に紛れふと降ってきた言葉に、諧謔弄して返し――然れどもそれ以上に邪魔はせず、自らも戦前の景気付けがてら手酌始め)

おいおい、そりゃお互い様だろ
ま、安心しな
コイツは酒は酒でも頭に甘が付くもんだ
(丁度花弁が舞い降りた一杯を差し出し、自らも花を写し浮かべる盃を見下ろし)
お楽しみは後にとっとくもんだ――本物の一杯にゃ、全て片してからまた付き合えよ

(それだけ言ってまた静かに――

――ああ、何が来ようが変わらぬさ
――序でにこの佳景も変わり果てねぇ様に、やるだけだ)



 美しき桜が舞い散る春宵ならばこそ。
 ひとの語らう言葉など無粋と。
しずしずと、眺める男の姿がふたつ。
 静かなる夜景は、時折に風の往来で囁くような音も立てれど。
 何かを秘めるような。
 ただ、ただこの夜に切なる願いをかけるような。
 そんな情感、風雅さが崩れる事はない。
 ましてや男が桜の影にて、黙して佇む儘なればこそ。
暫し、そのままと。
 けれど、何かが琴線に触れたように、ぽつりと。
 声が零れる。
「静謐――その一言に尽きるな」
 発したのは吉城・道明(堅狼・f02883)。
 降り注ぐ桜に彩られてなお、その貌は凜として。
 毅然たる姿に、藍の眸に宿る鋭き視線。烈士とは斯くやという雰囲気を漂わせる。
 少なくとも。
 この一時のみの静けさなのだと、道明は心得て。
 なればこそ、迫る花嵐の刃が荒ぶ前にと。
 夢の社と、護りの一振が戦禍の悪夢に呑まれぬ様に。
 来る刻限に向け、心身研ぎ清ます一時にせんと、はらりと散る夜桜の景観を眺め遣る道明。
 だが、その傍らで。
 ようやく、道明が声を紡いだからこそと。
「おう、起きてたか」
 春の夜に耽り、何となしに桜の影に腰を下ろしていた佳月・清宵(霞・f14015)が言葉を紡ぐ。
 のらりくらりとした声色は、芯となるもの何も掴ませぬまま。
「ずっと黙りこくってやがるから、この大物め寝てんのかと思ったぜ」
 花弁に紛れて、ふと降ってきた道明の言葉に諧謔を弄して返す清宵。
 然れどもそれ以上は精神研ぎ澄ます道明の邪魔などせず。
 手酌でくいっ、と桜を映す酒を呷ってみせるだけ。
 これほど見事な桜なのだ。
 酒もなければ、むしろ失礼にあたるだろうと。
 雅も知らぬかと、花が呆れるだけだ。
 けれど、そんな思いなど実直に過ぎる道明に届く筈もない。
「……然しお前はこの状況でも、相変わらずだな」
「おいおい、そりゃお互い様だろ」
道明と清宵が交わすのは言葉のみならず。
「ま、安心しな」
 並々と注がれた杯もまた、清宵の手より道明へと渡される。
 酒ならば後にしておけとは、言うまでも無いと。 
「コイツは酒は酒でも頭に甘が付くもんだ。違うってんなら、呑んでみな」
 清宵の言葉とともに、ひらりと。
 道明へと差し出した杯に、花弁がひとつ舞い降りる。
 花そのものが誘うかのよう。
 ならば道明も吐息をついて、差し出された杯を受け取れてば、降りしきる花越しに時折と覗く朧月を見上げる。
「此方も変わらず面白味無き武骨者で悪いが」
 桜見の情緒も知らぬのかと。
 そこまでではないだろうと、眈々と己を見て遣る清宵へと道明も応じる。
 おうよ、と。
 傍らの道明とは逆に、桜を写し浮かべる己の杯を見下ろしながら。
 月と桜と、酒と。
 剣呑迫りて、散らされる儚き静けさにと酒を傾ける。
「お楽しみは後にとっとくもんだ」
 負けるつもりは微塵もなく。
 ああ、傍らの男がいれば問題なかろうとゆらりと笑みを浮かべて。
「本物の一杯にゃ、全て片してからまた付き合えよ」
「そうだな、それぐらいは乗るとしよう」
面白さなどなく、趣も知らぬ男なれど。
 付き合えというのならば応じてみせようと。
 そう静かに、道明が言葉を漂わせれば、また残るは静けさばかり。
 ただ。
 ただと、道明の指先が撫でるは一振りの刀。
 それは一族の夢の残滓。
 受け継がれ、託された遺志を確かめるように。
提げた刀を撫でて、胸にありし誓いと覚悟を確かめる。

――この刃は護る為にこそ、俺は盾として在らん

 鼓動と共に増す鋭き意思と共に、今暫くは静かな宵をと。
 道明は空を見上げて。桜を透かす月を眺めて。

――ああ、何が来ようが変わらぬさ

 言葉にはせず。
 甘き酒と共に胸の奥へと流し込む清宵。
 道明の決意も覚悟も、誓いも変わらぬと信じるが為に。
 声をかける無粋は厭うて、翳り秘す月色の眸で揺れる盃を眺める。
 
――序でにこの佳景も変わり果てねぇ様に、やるだけだ。

 静かに、静かに。
 はらり、さらりと。
 時が流れて、迫るのだと、花びらが告げていく。
 重なるは思いと、決意と。
 散り行くは、情と過去と。
 ならば何を結ぶというのか。
 桜花に見る夢と約束は、何なのか。
 
 はらはらと。
 さらさらと。

 語る言葉などありはしないと。
 桜がただ踊るばかり。
 時くれば、白刃こそが雄弁に告げる故に。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『妖魔忍者』

POW   :    忍法瞬断
【忍者刀】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    忍法鎌鼬
自身に【特殊な気流】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    忍法鬼火
レベル×1個の【鬼火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●断章~黒影の夢、虚ろなる歌~


ふと気付けば。
 花吹雪の中に、影が佇む。
 足音など微塵ねなく。
 気配は虚ろで呼吸さえ気付けず。
 忍ぶのならば、そのまま不意打ちとて出来た筈の者たちが。
 さらさらと流れる白き花びらに、黒い影として。
 恐らく。
 森の周囲。あらゆる場所で、この忍びたちがその姿を表している。
 真っ向よりといった通りに。
 ここに来た猟兵たちの前に、気付かれる事なく。
 広い場所を守るが為に、皆が皆、一騎討ちや少数同士での戦いの様相を呈して。
 そういう意味ならば、なんとも忍びらしからぬ。
 剣客の如き動き。
「我らは」
 こちらに気付いたのを確認して忍び刀をするりと抜き。
 嘆きのような声を漏らす。
「この力に意味があると知りたいのだ」
 これは願いというべきもの。
 どうしても叶えたくて、そこある歪なるもの。
 卓越した忍。同時に、人並み外れた力。
 外道のそれであれ、其処まで至るには尋常ならざる道だっただろう。

「この腕で叶えたい夢もなければ……我、という誇りもない」

 暗殺、不意打ちに毒殺。どれ程の強さを身につけれど。
 所詮は影。何事も成せず、何者にもなれぬもの。
 成る程、備えても無駄だろう。
 卓越した忍びは、そも戦いなどしない。
 だからこそ、そこより抜け出す為には真っ向より戦うしかなくて。
 自分達が露払いの如き働きと知りながらも、それでよしとする。
「磨き上げた強さに意味があると、焔影様は仰った……虐げし郷を滅ぼし、我らを解き放ち、今や率いて下さっても」
 ある意味で救って貰ったのだと。
 そして、手にある力を何が為に使うのかと。
「未だ知れぬ。判らぬ。命を賭けるという事も、尊ぶ何かも」
 影として育ち。
 作られたのだから。
 もはや無用な殺生などはせずとも。
 血濡れたその身が変わることなど、ありはせず。
 妖しの身となり、呪いの如く変じた身は、ひとの道を歩むも叶わぬ。
 故に、叶うならばと影の忍びは言葉を漏らす。
「――そのような姿から逃れる為。終わりに、我ありしと思うが為。尋常に、いざ勝負を」
 そうであれば。
 きっと、そういう戦いを経ていけば。
「我らという影は、戦いの中で、己の誇り(いろ)を知れるのだから」
 いろのない桜に、何かを見出すのらば。
 まずは己が宿す血のいろを知ろうと。
例え、それで命を散らそうとも。
 その刹那に、意味を知れるならばと。
 高潔を以て鳴る誇りの欠片を、せめてその身と心に宿そうと。
 でなくば、果てることさえ出来ぬのだと。
 強きものへ。
 気高き刃へ。
 踏み出す忍びの歩みは、修羅に似て。
 冥府魔道に墜ちて戻れぬ、ひとあらざる者として。
 抜け出す事の出来ない闇と影を滲ませる。
「――で、なくば。此処まで墜ちたのに、意味がなくば」
はらはらと。
 舞い踊る桜を斬り裂くように、忍刀が振るわれる。

「我らは、どうして斯く在る?」

 ひとに戻れず、成れぬ。
 血濡れの異形。妖魔の忍び。道などなき、果てるしかない者。
 こう成った過去はどうしようもなくとも。
 取れる唯一をと。
 殺すしか出来ぬが故に。
 どこまでも命奪うしかない、妖魔の切っ先で花びらを斬り裂いて。
ラルス・エア
閉じていた瞳を開く
焔影…改めて、この率いし存在の名を確認し
それでも、その言葉と反し、この場の存在は望んでいる
『己の、意義』
―俺は、全ての終わりに『我ありし』と思えるだろうか

一時の迷いを打ち消した。
今は、戦いの中でのみ
それを求める者達に。
その在り様が、この地を終焉とするにあたり
せめて、其の想いを尊重する為に

「―この名は、ラルス・エア。
全力で来るといい。
この名が、貴殿等の存在の最後に
その誇りを刻み込める存在であると見せよう」

相手が狐火を灯す間に
指定UC発動準備
先までの本を諳んじ詩詠み、多重『詠唱』として力を重ね
狐火と刃が迫り来る直前でUC発動

向けられた炎と刃を
拳を向けた先
衝撃波にて全て呑み込み返し



 約束ばかりを、思う心にも。
 影の紡ぐ声は確かに届いたから。
 閉じられた瞼より、紫の眸が現れる。
 全てを見るラルス・エア(唯一無二の為だけの・f32652)は頷きながらも、僅かな思慮へと耽る。

――焔影。

 それが彼らを率いる存在の名。
 けれど。
 この場に佇む影たちはただ望むのだ。
 当たり前で。
 持っていることがごく普通。
 ああ、だからこそと、取り戻そうとすれば此ほどまでに難しい。
「己の、意義」
 唇より零れる、何処か憂うようなラルスの声は。
 言葉を続けることなく、自らの胸の裡のみで反芻させるのみ。

――俺は、全ての終わりに『我ありし』と思えるだろうか。

 問うても。
 決して答えなどない逡巡。
 大切なる親友を残して、果たして逝けるだろうか。
 その瞬間に『我ありし』と、胸を張れるだろうか。
 潔いのは花ばかりで。
 人はそのように、散る事など出来ない。
 未練のように情念は残す人へと絡みつき。
 その幸いを願いながらも、果てる事出来ず。

――そのような妄念になってしまうのだろうか。

 ああ、問うても。
 幾ら考えても、無駄なのだと。
 ラルスは一時の迷いを打ち消し、紫の眸で影たる忍びを見据える。
 少なくも今、対峙しているのは彼らなのだ。
 戦いの中でのみ、それを求める者達。
 我という確かな芯を求めるその在り様が、この血を終焉とするにあたり。
 はらり、はらりと無常に散る花ではなく。
 確かにそこに色付く想いがあったと、尊重する為にも。

 求めようとするその時点で。
 確かに、虚ろなる影たる身から脱していれるのだと。

「―この名は、ラルス・エア。全力で来るといい」
 故に前へと進み、澄んだ声を張り上げるラルス。
 切っ先が構えられ、鋭き殺気が身に刺されども。
「この名が、貴殿等の存在の最後に、その誇りを刻み込める存在であると見せよう」
 忍びが数多の鬼火を灯す間に。
 先ほどまでの本を諳んじ、詩を詠むラルス。
 それらを多重詠唱として、力を重ねて。
 ただ殲滅が為だけにある覇気として、束ねて紡ぎ上げる。
 その威に果てなどなく。
 何処まで高められる、終わりへの響き。
「ならば、いざ」
 それを知りながらも。
 さながら、火に誘われる夏の虫のように。
 音もなく、早くも鋭く、飛び込む忍びの姿。
 振るうは刃と鬼火。
 それしか知らぬと、殺戮の切っ先と炎が瞬けど。
「刹那に命を賭けることこそ」
 忍刀より僅かに早い、ラルスの拳。
 向けられた先に放たれるのは、全てを呑み込む衝撃波。
 大気が轟く音ともに、火と刀は砕け散り。
 影たる身もを貫き、穿つは螺旋描きし覇気の烈波。
「確かに、誇りと魂だ。……臆す事なく、飛び込んだお前は」
 鬼火は掻き消え、刀身も半ばより砕け散らせて。
 半身の半分を微塵に吹き飛ばされてなお。
 一歩、一歩と踏み続ける忍びが、ラルスへと迫り。
 けれど、もはや刀を振り上げることさえ出来ず。
 軽い音ともに、ラルスの胸へと忍びの頭がぶつかる。
 けれど。
 道半ばに果てたのではないと、囁くラルス。
「――確かに、俺へ、夢へと届いたぞ」
 攻撃とさえいえない。
 命の最期として、何かへと触れた事のみを示して。
 花吹雪とラルスの姿に、赤い色を残す。
 願いのような。悔恨のような。
 それでいて、誇りと示すような。
 まるで季節外れの赤椿のような。
 その色と、命の名残を。
認めるように。
 赦すように。
 そして、何処か善き所へと葬るように。
 ラルスはただ、静かに眺める。


「桜は、この者を導いてくれるだろうか」

 悪い夢のような道を歩んだだろう。
 この妖魔の忍びを、人として。
 或いは。
 次はひとなる幸福に、包むが為に。


 さらさらと、白き桜が降り注ぐ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
その練度と異形……あんた達の技量は確実に俺よりも上だろう
自身よりも強い敵が複数ともなれば勝ち目は薄いな……なんて。それでも負ける気はしないな

捌の型【水鏡】――敢えて隙を作り、其処に打ち込ませる事で受け流して反撃。敵方が攻撃を放つ僅差で切り込む。逗まらぬ水の如く、姿を替える鏡の如く悉くを捌いて攻撃

確かに忍びとしてかくあれかしと望まれたのであれば、意味を見つけるのは難しいかもしれない
それでも結局、力を持つ意味は自分で探すしかないだろ

俺には剣を振るう理由がある。誰に否定されても貫くと決めた理由が
故に、刃に己の意志を込めて振るう――どれだけ実力差があろうとも、意志なき剣には負ける訳にはいかないな



 
 気付けばそこにいるという事は。
 その忍、不意打ちて刃を届ける事とて出来た筈。
 真っ向から斬り結ぶ刃と。
 影より忍び寄る切っ先と。
 その性質、求める先は違えども。
「その練度と異形……」
 黒い瞳に決意を宿すは夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は。
自分の前に現れた忍びの影を認めるのだ。
 そこまで磨き上げ、辿り着いたのだと。
 強い、のだと。
「あんた達の技量は確実に俺より上だろう」
 自身よりも強い敵が複数となれば勝ち目は薄いな、と。
 呟けど、夜の静寂が吸い込むばかり。
 応じる声と、意思はなく。
 影たる身は佇むばかりだからこそ。
「……なんて。それでも負ける気はしないな」
 はらはらと花が散り、降り積もり。
 それでもと、夜刀神の一歩が踏みしめる。
「理由と覚悟、決意と意思。それを宿さない件に、負ける訳にはいかないからな」
「だからこそ、それを求めるのだ。きっと、きっと」
 音も無く疾走へと移る忍びの影。
 そのように育ったのだから。胸に何も抱かず。
 決意も、覚悟もなく。
 それが欲しいのだと、剣戟の散らす火花に夢を見る。
「――ようやく、我らは理由と意思を得たのだから」
 故に、この切っ先は幼いのだと。
 夜刀神は殺戮が為の忍刀を見定めていた。
 僅かに身を転じさせ、誘導するは間合いを幻惑させる足運び。
 瞬間に出来た夜刀神の隙へと切り込むのは確かに見事な技だ。が、命を奪う為のものと、斬り結ぶ為にあるものでは違う。
 それこそ水鏡の如く静かなるは夜刀神が磨いた剣技。
 敢えて出来た隙へと打ち込まれた刃をするりと受け流し。
 奏でられる澄んだ音色が途切れぬ儘に、敵方より僅差で放つは流水の如き剣閃。
 逗まらぬと憶えるは、忍が太刀筋の形を捉えるより早くその命を絶つ斬撃だからこそ。
 流れて散り、弾けて消える清らかなる太刀影。
 次なる敵手が飛びかかろうとも、夜刀神は姿を替える鏡の如く。
 悉くを捌いて、後の先に鉄刀を瞬かせる。
無銘にして世に溢れる数打ちと侮ることなかれ。
 肉を斬り、骨を断てど、その刀身が震える事はなく。
 さながらその様を指して虎徹の名を名付けるかのように。
 剣士たる夜刀神の腕を示すのだ。
「確かに」
 忍びとして、斯く有れかしと望まれたのであれば。
 それ以外を何も教えられず、見聞きさえ出来なかったのならば。
 意味を見つける事は難しいだろう。
 自分達を解き放った剣鬼の様に、憧れて焦がれるのもあるかもしれない。
 さながら闇の中で、一筋の光を見つけたように。
 それがどんなに血塗られたものでも。
 他を知らぬのだから、余りにも眩く瞳に映ったのだろう。
「それでも結局、力を持つ意味は自分で探すしかないだろ」
 川に落ちて浮かぶ花の如く。
 ただ流れに任されて往くのであれば、辿り着く場所など知れている。
 今もまた、次々と夜刀神の鉄刀の斬撃の元に斬り伏せられる忍びたち。
 果たして。
 彼らは何かを、この命の散る刹那に見いだせているだろうか。
 いいや、そんな者はただの雑念と。
 迷いを消し、より研ぎ澄まされていく夜刀神の斬閃。
 宿るは誰に否定されても貫くと決めた理由。
 それを以て振るわれる剣が迷妄に囚われた虚ろな影を断てぬ筈がなく。
「故に、刃に己の意思を込めて振るう」
 どれだけ実力差があろうとも。
 意思なき剣に負ける訳にいかない。
 いいや。

――負ける道理はないのだと、桜舞わせる夜天に斬音を響かせて。

 幾ら忍びを斬ろうとも。
 血に塗れることなき、夜刀神の志。
 花びらこそ、赤く染まれど。
 次へと、明日へと進む剣士に微かに触れることさえできず。
 幾ら優れて実力差あれど、闇の裡より命奪う為だけの忍刀に。
 如何にして剣の道を求める夜刀神の剣が劣るというのか。
 それでもと。
 果敢に。或いは、その魂さえ擲つように。
 夜刀神へと攻め懸かる忍たち。
 その剣光にこそ、誇りを感じるかのように。
「いいさ」
 ならば全てを斬ると、吐息をひとつ。
 白桜が舞う春宵の裡へと。
 水のように清らかなる剣戟の音が響き渡る。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
私は竜神。信仰を失くしたとて神の一柱。
殺す術を極め、殺すしか出来なくなったのであれば!私を殺してみなさい!
UC発動。水晶を纏って防御を上げます。同時にオーラ防御、結界術、竜脈使いで更に防御を上げてしばらく防御に徹します。

要は使い方なのです。いくら強い力を持ったとて使い方がなっていなければ宝の持ち腐れ。
しかし、貴方達は神に挑み傷をつけた。それは誇ることです。貴方達の強さは神に届いた。その強さを私は認めますよ。
まあ、神を傷つけたのです。罰は受けて貰いますけどね。
UC、水晶を水纏に変更。神罰、切断をのせて攻撃、介錯します。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



 揺蕩うように。
 世界にある数多の色彩を流させながら。
 美しき竜神の眸がするりと影を捉える。
 神の威たる尊厳と、守護する者としての矜持を煌めかせて。
 静かなる月光の元で、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)はその身を翻す。
 奏上の調べはないけれど。
 厳かに。
 何処までも幽玄にと。
 幻想的な夜桜の情景さえも、己が水晶で率いるように。
「私は竜神」
 透き通るような声を響かせて、晶は告げる。
「信仰を失くしたとて神の一柱」
 手にするはは二振りの神剣たる瑞玻璃剣。
 己が角を削って紡がれた刀身は、水纏う水晶のように瑞々しい輝きを宿して。
 夜風をするりと、切っ先で撫で斬る。
 それこそ合図と。
 春宵の静寂を打ち破り、竜神たる晶が告げる。
「殺す術を極め、殺すしか出来なくなったのであれば!」
 激しくも、清らかに。
 宿した決意をそのままに。
「私を殺してみなさい!」
 それが出来るかどうか。
 全てを見定めようとする晶の身体が水晶を纏う。
 神気を結界と成し、更には大地を流れる竜脈より力を吸い上げて。
 自然を、理を、対する己は全て統べるのだと。
 晶は不可侵の輝きとして、妖魔の忍びの前にその姿を見せる。
「是非もなし」
 ならばと影たる忍びは跳ねて飛び、その切っ先を瞬かせる。
 風を斬る刃は命奪うが為の絶技。
 だが、竜の神威を帯びた水晶を絶つ事は出来ず。
 澄んだ音色と共に、欠片を散らすだけ。
 いいや、それだけでは止まれぬと。
 乱れる瞬断の斬撃。呼吸も瞬きも忘れ、戦に没頭する妖魔の忍び。
 防御に徹する晶を。
 いいや、目の前にいる竜の神を。
 その鱗を斬り裂き、裡に在りし輝きを手にしようとする刃。
 果敢なるそれは、刹那だけ。
 剣士の夢見る、龍殺しの姿を追い求めて。
 ああ、それこそが。
 求めていた誇り、なのか。
 ただ無常にも。
 ぱりんっ、と。
 忍びの刀身が折れると共に、斬り砕かれた水晶の奥にある柔肌より鮮血を零す晶。
 僅かな手傷。
 されど。
「要は使い方なのです」
 静々と諭す晶は、虚ろなる影だった身に何かを思わせたのか。
 我在りしと、信じさせる事が出来たのか。
 神は厳しくも、正しき者故に。
「いくら強い力を持ったとて、使い方がなっていなければ宝の持ち腐れ」
 砕けてしまった忍刀のように。
 挑むべき相手。
 戦うべき理由。
 それを執りて振るう意味がないのならば、芯のないナマクラでしかない。
 それを誇りだと。
 魂を懸けると、謂うのだから。
「しかし、貴方達は神に挑み傷をつけた。それは誇るべきことです」
 微かに流れる血を指先で拭う晶。
 此処まで研ぎ澄まされたのであれば。
 それこそ。使い方と思いが伴えば、きっと……。
「貴方達の強さは神に届いた。その強さを私は認めますよ」
 神にさえ届いたのならば。
 夢も、願いも、理想も。
 きっとその手で掴めただろう。

――もしも、影として産まれ、忍びとして育てられなければ。

 そう思うのは、晶が何処までいっても。
 人を守る存在だからか。
 心と魂の行く末を、想うものだからか。
「まあ、神を傷つけたのです。罰は受けて貰いますけれどね」
 纏いし守りの水晶を、水へと変換し。
 瑞玻璃剣の刀身へと、神罰の斬威として宿す晶。
 忍びは人としてて育たぬ故に。
 神は敬い、恐れ、奉る者と知らぬが為に。
 折れた刀を振るい、再度と。
 夢を追い求めるように、誇りのいろを水晶の竜神より得んとする忍びの姿。
 ああ、憐れと。
 溜息をひとつ零すと共に。
 振るわれるは清冽なる竜の刃。
 残された忍びの刀を鍔元より絶ち斬り、音を立てる事もなくその首を斬り跳ばす。
 はらり、さらりと。
 桜吹雪の舞う夜の裡へと。
 その首を、命を、葬りながら。
 ああ、と。
「その心と魂が、次は救われる事を祈りましょう」
 竜を斬り伏せる夢を。
 桜の降り注ぐ、最期の夜にみた剣士へと。
 鎮魂の如く、二振りの水晶の剣の元で波打つ神水が揺れて、音を奏でる。
 さあ、眠れ。
 天と地のいろも知らぬ、憐れな影よ。
 白桜が共に寄り添う夜に。
 守り手たる竜神たる晶が、その眸で見届けるこの瞬間に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クルル・ハンドゥーレ
アドリブ連携歓迎

己の意味を知る為に
斯くも研ぎ澄まされた己の技を
もはや己そのものとなったものを
一部なりとも切り捨てるか

己の望みの為
己を殺すこと厭わぬその矛盾
嗚呼、いやはや
ほんま『ひと』やねえ


【迷彩】で桜吹雪に紛れつつ【限界突破】【先制攻撃】
【暗視】で敵影とらえ命中率UPのため【フェイント】、UC展開
敵の動きを【見切り】、【破魔】【マヒ攻撃】【毒使い】【鎧無視攻撃】も薙刀・霊符にのせ攻撃

敵攻撃には【見切り】【武器受け】【盾受け】
炎を【なぎ払い】【オーラ防御】

この戦いにあんたらが何を見、何を思うのか
私にはあずかり知らぬこと

ただほんの少しばかり
何かが掴めたなら良いねえ、と
その死出の旅路の餞に



 ゆらりと。
 桜に酔いし琥珀の瞳が泳ぐ。
 見定めた影は忍びの者。
 気配を感じず、足音ひとつもなく此処までと。
 斯くも研ぎ澄まされた技は、掛け値なしに素晴らしい。
 クルル・ハンドゥーレ(逆しまノスタルジア・f04053)の唇から賞賛と、そして諧謔に似た吐息が漏れる。
「己の意味を知る為に」
 だが、そんな事は求めていないのだと。
「もはや己そのものを」
 それこそ己の過去をも否定するから、影はより一層に虚ろ。 
 今までを生きて来た道さえ、定かではなくなるのだから。
 もはや、帰るべき場所さえない。
「一部なりとも切り捨てるか――まるで、この桜のように潔く散る花、やねぇ」
 気紛れな風のように、ふわりと。
 身を翻して、乳白色の髪を靡かせるクルル。
嗚呼と。
 己が望みの為にと。
 己を殺すことさえ厭わぬ矛盾。
 例え突きつけられても、否と進むその姿。
 最早、ただの影ではなく。
 花に映す誇りの色などなくとも、それこそが。
「嗚呼、いやはや。ほんま『ひと』やねえ」
 クルルが小さく笑ってみせても。
 揺らぐことのない影。
「例え、幾ら人に示されど。己で実感出来ぬ限りは、『ひと』になれぬ」
「そうやね。胸の鼓動を感じれねば、ただの影法師」
 まったく。
 それこそが人の証だろうにと。
 鬼火を呼び出し、ひとつに束ねる妖魔の忍びを流し見るクルル。
 それこそ、散るその刹那でなければ。
 実感など懐けぬのかと。
 身を翻す速度を吹き抜ける風に合わせれば。
 桜吹雪へとその実を紛れさせるクルル。
 けれど忍びは、その場に佇み、研ぎ澄まされた五感でクルルを捉えようとする。
 まるで一介の剣士のように。
 そうありたいと、刃に願うように。
 けれど、降り積もった花を踏みしめる、さくりという足音を。
 フェイントとして残して、クルルは視線を瞬かせる。
『あまねき旻より赫焉、あまねき黄泉より冥闇――』
 言葉は花が囁く、呪言のように。
 クルルの眸から呼ばれるは光と闇。
 夜闇を引き裂いて届く天之原からの光焔は影たる身を灼き。
 底根國から滲む常闇は、忍びの骨までを侵す呪詛として。
 音はなく。
 白き花を害することもなく。
 ただ視線のみで呼び起こされる天災。
 耐えて忍び刀を構え続けるだけでも、只者ではないのだと判る。
 それほどに修練を積んだ身と心が。
 何者にもなれず、何も見れぬ筈はないだろうに。
「この戦いにあんたらが何を見、何を思うのか」
 光焔と、常闇に紛れて。
 忍びへとはらり、ひらりと漂うは花にあらず。
霊符に漉き込まれるは、あでやかに赭い赭い花。
――たとえ燃え尽きようとも、
 鬼火を斬り祓って、はらり、はらり。
 破魔と毒を宿した赭い花が、白い花吹雪の中に鮮やかに舞う。
 それこそ相反する二種を宿すがひとだと、歌うように。
 清きものと、禍々しいもの。
 その気配へと咄嗟に振るわれた忍刃を打ち払い。
「私にはあずかり知らぬこと」
 続いたクルルの言葉と共に、しゃらりと奏でるは渦を巻く薙刀。
 その柄を巡るは、咲き乱れる薄紅と白の花。
 これらが、全て炎と氷に呑まれてしまっても、残るのは。
――其の煌めきは狂気の蜜、
 詠うように。
 吟ずるように。
 けれど、命を削る為にと花を模す薙刀と霊符が、天焔と常闇の裡を舞う。
 花を傷付けることなく。
 忍びの身より鮮烈と、命を零させて。
「ただほんの少しばかり」
 姿は見せず、声ばかり響かせるクルル。
 嗚呼、やはりあんたはもう影でも忍びでもない。
 同じように、桜吹雪に隠れる事を厭うて。
 それでは誇れぬと、果敢に身を晒す姿。
 無惨に、無常に、刃に命の蝋燭を蝕まれながら。
「何かが掴めたなら良いねえ、と思うんよ」
 何も見えず。
 何にも成れず。
 果てるなど、悲しいこと。
 此処までして辿り着けぬのならば。
 誇りのいろを、確かにと宿して抱けぬのならば。 
 桜花の降り積もるこの場を墓として。
「その死出の旅路の餞に」
 舞いて、詠うかねぇ。
 何処に逝くかは知らぬけれども。
 今より善き場所へとは行ける筈だと。
 しらじらとした花を、血の赤で染めて。
 なお、抗おうとするその心さえあれば。

――ほんま『ひと』の姿やねぇ

 現では叶わなかった願いを。
 幸せを抱いて、鼓動と感じられるように。
 妖魔と墜ちた人生の道に、幕を引く為に。
 するりと流れたクルルの薙刀が。
 渦巻く花びらを裂いて、忍びの首をころりと斬り落とす。
 屍を拾うものなくとも。
白櫻が悲しみを覆い隠すように、降り注ぎ続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ

陰が染み出る様な
馴染みのある気配だな
樹から【闇に紛れる/忍び足】で地面へ
同時に相棒ユキエは空へ退避

七葉隠の七分割した一振りの下げ緒を持ち
会話中もこれが武器、と見せるよう振り回転

アンタらも忍び?
ならお侍と問答するのは難儀じゃね?
誉れも何も
忍びの命や体は手段で道具、でしょ

おっさん
人でなしな業を身に付けたね
ソレを得た時さぁ
家族やこども思い出すと哀しかった?
だとしたらあんたは人外でも人間だ、外道じゃねーよ

さて
オレも忍刀でお相手するよ

一気に至近距離へ
UCの為振り回して溜めた威力を使い刀で叩き斬る攻撃を
【暗視/激痛耐性】で直撃避け
二度三度受けたら【情報収集/カウンター/暗殺】で刺突し【串刺し】

アドリブ可



 花吹雪の奥より滲み出すは。
 懐かしくも、忌まわしき。
 逃れようとも、逃れられぬ過去の足音。
「…………」
 そっと沈黙しながら、桜の樹より飛び降りるは鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)。
 闇に紛れて、足音なく。
 白き桜に紛れて、相棒たるユキエは空へと退避させながら。
「陰が滲み出る様な」
 鹿村の声に反応するように。
「馴染みのある気配だな」
 ずるりと重い、翳りのある空気が漂う。
 それを追う鹿村の視線の先には妖魔に落ちた忍びの影。
隠れるつもりも。
 不意討つつもりもなくとも。
 ひしりと、確かな強さを感じさせる者達へと。
 七葉影と銘づけられた巨大忍刀。
 その内より七分割した一振りの下げ緒を持ちて。
 これが己が武器だとふるり、するりと振りて転じさせれば、透明な刀身が月光を浴びて静かに煌めく。
 殺す為の、刃なれど。
 美しさを誇る鹿村の武器だと、忍びたちに無言で告げて。
「アンタらも忍び?」
 聞くまでもない。
 忍び装束に、反りのない忍び刀。
 あくまで己は影だと、身につけた仮面は顔という名も無い証。
「ならお侍と問答するのは難儀じゃね?」
 だってさ、と。
 振り回される透明な刃が、夜風を斬り裂き。
 するりと微かな音を奏でて。
「誉れも何も、忍びの命や体は手段で道具、でしょ」
 鹿村もまた忍びの隠れ里で育った身なればこそ。
 全ては道具。使い潰しが利く。
 命など幾らでも代用が利くのだと、そこに思いも情も宿さぬ刃。
 だからこそ、影が呟いて応じる。
「なればこそ。影たる身が知らぬ、光を眩くと。焦がれるのだ」
 極論。
 深き闇にいるからこそ。
 鮮烈なる光に照らされねば、己が誰かも判らぬのだと。
 例え、それが身を焼く程の篝火であれど。
「然らば、血塗れの、この身を擲つしかないのだ」
 微かな嘆きを感じて。
 鹿村は橙の瞳を、一瞬だけ瞼で隠す。
 ああ、と。
 これはなんともやるせない。
「おっさん、人でなしな業を身に付けたね」
 妖魔の力を宿す身なればこそ。
 血肉は正真正銘、もはや、『ひとでなし』。
「ソレを得た時さぁ」
 鹿村の言葉が流れて、武器が振り回される。
 それが羅刹の力を増して、より激烈なるものへと変じさせると判っていても。
 忍びは、鹿村の言葉に縫い止められて。
 或いは、懐いてしまった情と思いが為に、動けない。
「家族やこども思い出すと哀しかった?」
「いいや」
 すぅっ、と闇に溶け込むように忍刀を構えながら。
「コレを得た時に憶えなかったから、より一層――今は哀しく、痛ましい。家族を、子供を、友を仲間を」
 ぽつり、ぽつりと。
 影の裡から零れる慚愧の念。
 あの時。
 コレを得た時に、それを憶えていればと。
 道具であった忍びの影が躊躇い、動きを止める程。
「だしたらあんたは人外でも人間だ」
 鹿村は橙の瞳に戦意を宿して、揺らめかせ。
 燃やすように。
 或いは、闇を晴らすように。
「外道じゃねーよ」
 忍びたちへと言葉を、そして、熾烈なる闘志を顕す。
 ああ。後先考えないのは鹿村も同じ。
 だが、此処で散ってもまた、傍にいる同胞が悲しむと。
 そこについぞ気づけぬのならば、否応はなし。
「さて」
 せめて浄土へと導かんと、旋回させる忍刀の柄を強く握り。
「オレも忍刀でお相手するよ」
 それはせめてもの手向けとして。
 弔いの花ならば溢れんばかりの白い桜が咲き誇る。
 罪も咎も、ここを墓場とするならば。
 全てを桜花が覆い尽くしてくれようと。
 大地を蹴る鹿村は、一気に至近距離へと疾走して迫る。
 振るわれるは『七葉影』の透明にて熾烈なる一閃。
 今の今まで力を溜められれた羅刹の剛剣が、影から脱せぬ忍の刀で止められる筈もない。
 轟く鋼の悲鳴と共に砕ける忍びの刀。
 そのまま振り下ろされた峻烈なる刃は止まる事を知らず。
 忍びの肩口より脇腹へと走り抜け、そのまま一刀の元に両断する。
 一陣の風が如く。
 果断をもって、悉くを絶つ。
「……見事」
 返り血と共に零れる賞賛の声。
 そして、時間差を以て振るわれる別の忍びの切っ先。
 闇夜に紛れるように死角より迫るそれを横手へと跳んで避ける。
 だが鹿村をしても、つぅ、と一筋の朱線が首筋に現れる。
「やるね。命が惜しくないから、踏み込みも深い、かぁ」
 間合いは著しく自覚とも。
 命を捨てるかのように踏み込む迅なる歩法が、それを補う。
 が、鹿村には一度見て、それを肌で覚えればそれですむこと。
続けて二度、三度と忍刀が瞬くのを身を翻して紙一重で避ける鹿村。
 忍びによる瞬断は命を奪うが為に鋭くとも。
 そう幾度となく振るうものではないのだ。
「アンタらも忍びだろうにね」
 真っ向から斬り結ぶ為の手段など、数少なく。
 すぐに太刀筋も手の内も知れて、暴かれる。
「暗殺の為の刃で、道具で。……数多くの手段を身につけるからこそ」
 剣士のように、無数の太刀筋を持たないのだ。
 すぐに手口は知れて。
 振るう構え、前兆、そして流れも鹿村には読み切れてしまって。
「影から忍び討つ……そんな自分自身からも、逃れたかったのかな。おっさん」
 忍刀の一閃を避けると同時、自ら踏み込む鹿村。
 掲げた透明な切っ先は、そのまま滑り込むように忍びの懐へ。
 刺突一閃へと走る鋭刃は、心の臓を串刺しにする。
 慈悲のように静かに。
 透き通るように、痛みさえ覚えさせず綺麗に命を奪う。
「六道輪廻って知っているか? わりぃ事した奴は、悪い世界に逝くって話だけれど……きっとおっさん達は」
 鹿村は暗殺として磨かれた刃を、殺技をするりと抜き放ち。
 情けのように、命を閉ざして。
「……いい所に。ひととして、逝けるさ」
 妖魔と成った血肉などおいて。
 ひとのこころだけ、懐いて。
 だから、その忌々しき血を全て流し尽くさせようと。
 急所へと奔る、七葉影。
 月光の如く透き通る、冷たき切っ先。
 散る命は、その最期に。
 誇りなるいろを、その裡に見出せたのか。

――死んだ奴からは、何も聞けねぇもんな

 美しいとは。
 喪った誰かを。
 或いは、失ってしまった何かを思い起こさせるのか。
 鹿村も、忍びたちも。
 美麗なる桜の森で、失われた何かを追い求めるように。
 忍びの殺技を交わし、はらはらと命と血を零していく。
 
――なぁ、ミサキ

 綺麗なものだけ。
 一緒に見る旅に出たかったな。
 オレがこんな情と想いを抱けるのは。
 お前のお陰なんだろうな。
 白い桜の花に、いろを、見出せるんだからさ。


 それは白刃が宿す事のない、優しいいろ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリジ・グッドウィン
付け焼き刃で覚えたナイフ術なんてもので、ヒトになりきれてないようなこの身で
あっちが満足いくかは知らねェが対峙しちまったらもうお互い止まれねェよな

(頬を叩き)…っし ここからはいつも通り


「ワヤン・クリ」見て呉れだけなら影とも言えるが、それ以上に児戯じみた名前だよなァ


軽口で煽りつつも対峙し、切り込み結ぶ度に全身に流れ込んでくるような相手の虚ろ、呪い、誇り。
戦いでの興奮が体中の血潮を巡ってくる事で改めて生を実感する

だが、相手のその業に搦め捕られぬように鬼気迫る刃に咄嗟の一撃で返す

攻勢を返し刃と激痛耐性で耐え抜き
隘路のような隙に真っ直ぐ左の拳を叩きこむ


在り方がわかってないようなヤツが相手で悪かったな。



 春宵に舞う桜に、何も覚えないこころ。
 抱くものは。
 抱くべきものは。
 それこそ、目の前にある影よりなお、誇りと情を知らぬキリジ・グッドウィン(proscenium alexis・f31149)。
 付け焼き刃で覚えたナイフ術なんてもので。
 ヒトになのきれていないようなこの身で。
 悲嘆しながらも焦がれる忍びの者が満足するのか。
 判らない。けれど、対峙してしまった以上、もうお互いに止まる事は出来ない。
 ヒトの心など、キリジには判らないけれど。
 戦いの常だけは、はっきりと鮮明に判るのだから。
 頬を叩き、桜の酔いから醒めるように。
 ヒトのようにと、追い求める夢から抜け出して。
「……っし、ここからはいつも通り」
 その動作も見ている妖魔の忍び。
 隙ならばあっただろうに。
 だが、それで良しとしないのならばと。
 取り出すのは黒き色に染まった近接戦闘のナイフ。
「『ワヤン・クリ』。見て呉れだけなら影とも言えるが、それ以上に児戯じみた名前だよなァ」
 軽口が煽りつつも、切っ先を向け合う忍びから放たれ、全身へと流れ込むもの。
 相手の抱く虚ろさ、それをこそ嘆くが為の呪い。
 そして、微かに有る誇りの欠片じみたもの。
 ああ、どうあっても。
 どうなっても。
 これはヒトで、自分は違うのだということが。
 キリジに改めて生きる実感を抱かせて。
「――異国のモノの名は知らねば」
 故にと瞬く、忍びの刃。
 影が跳ねるように伸びて、切っ先が闇夜に瞬く。
「名に興味もない。名に、意味のない我らならばこそ」
「そう、かい」
 受け止めた筈が、剣戟の勢いのみで数歩後ろへと退かれるキリジ。
 力強いというより、鋭いのだ。確かにナイフの刀身で受けた筈なのに、身が斬られたような錯覚さえ覚えてしまう。
 いいや、だからこそ。
 戦いなのだと、身体中の血潮が沸き立ち、隅々まで興奮と伴に巡っていく。
 ああ、生きている。
 死んでなど、いない。
 死んでなんて、やるものか。
「ほんと、相手が悪かったよな。けど、すまないとさえ思えないんだから、仕方ない」
 キリジの言葉を斬り刻むよう、幾度となく翻る忍刀。
 逆手に持たれた刃はキリジのナイフと激突して火花を散らせ。
 肌へと届けば肉を斬り裂き、血飛沫を踊らせる。
 殺戮の為の、殺す為だけの剣。
 おおよそ真っ向からの戦には向かずとも、相手を殺害する為だけならばこれが最適解なのだろう。
 故にこそ、その忍びの業に絡め取られぬように。
「――けど、殺されて、死んでやれるかよ」
身を斬り裂かれながらも、咄嗟に放たれるは闇夜に溶けるような漆黒のナイフ。
 鮮血と激痛など厭わず、前へと踏み込みながら刃を放つその様はまさに鬼気迫るかのよう。
 傷も流血も些細なもの。
 命に至らぬのであれば、そんなもの無視していい。
 それこそ戦の鬼が嗤うように、キリジが唇を釣りあげる。
 この瞬間にこそ、命の脈動を感じて。
 驚きに目を瞬かせる相手に、生きる感情を見出して。
「よう。いいモノ見せてくれるじゃねぇか」
 苛烈なるキリジの黒刃は忍刀を握る手首を斬り咲き、隙を生み出す。
 それこそ隘路のような、ほんの僅かな隙。
 ああ。かつての忍びと同じく。
 己の命と肉体も道具で、変えの利くものだと。
 こころと情、誇りを知らぬ者と改めて対峙したからこそ、出来た隙に。
 真っ直ぐに叩き込まれるのはキリジの鋼の拳。
 左の義腕によって放たれる剛の拳撃は、単純だからこそ凄まじい威を見せるのだ。
 拳が成したと思えぬ、轟音。
 血霧と肉片が弾けとび、忍びの胸部に風穴が開く。
 他にも何しも知らない。
 ただ破壊の業として。命など、心など。
「在り方がわかってないようなヤツが相手で悪かったな」
 命を奪ったとしても、それは戦の中。
 何も思うことなどありはしないと、興奮の醒めきれないキリジが笑う。
 これは闘争で殺し合い。
 いいや、何か悪い事などあったのかと。
 ひとの情動を理解しえぬキリジは、血に塗れた義腕を掲げる。
 美しき花を血と肉片で染めたなど。
 微かにも気付くことなく。
 美も醜も、感情があってこそ気付くものなのだから。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
己が力に意味を求める、と
貴方達には言葉よりも力の方が伝え易い

いざ、尋常に

夕凪殿は複数人に狙われないよう注意を
距離を詰め過ぎれば、奴等はそこを狙います

抜刀術『風斬』
視力と見切りにて敵の動きを確認、何を重視するか判断
敵が多い内はなぎ払い併せ攻撃回数、躱され易い時は命中率
攻撃を防御する時、または一騎討ちでは攻撃力

他人に意味を求めるからこそ惑う
意味を与えられても疑えば容易く壊れる
形に出来ず、決められたもので無いからこそ
答えは無いに等しい

何処まで磨き上げれば強さなのか
人を護る刃として、悪を裁く刃として
未だ判るはずもなく

それでも求めるは誰でもない己の為
至る道を見届ける為に戦う
それが生きるということ


篝・倫太郎
【華禱】
力そのものに意味なんてねぇよ
力は力、それだけだ

意味を持つ時があるなら
覚悟と矜持を持って揮われる、その瞬間だけだ

その一瞬の為だけに磨き上げられた強さはある
それを俺は良く知ってる

夕凪、やれるな?

出来りゃ戦わせたくはない
でも、……これを越えた先にしか見えないものもある
だから、引けとは言えねぇ

囲まれないように俺らの死角補ってくれ
夕凪の死角は俺達が補うからよ

拘束術使用
範囲内の総ての敵に鎖での先制攻撃と拘束
拘束しそびれた対象には吹き飛ばしを乗せた華焔刀でなぎ払い
鎖で夜彦と夕凪の死角をフォローしつつ立ち回って夜彦へ繋ぐ

お前達の求めた『力の意味』
その身で知りな

血の色は、等しく赤い
……それも知って逝きな



 我ら、何故に斯く在りしと。
 妖魔に墜ちて、ヒトに非ず。
 だが、思いを得ても戻る事できぬと嘆く影に。
「己が力に意味を求める、と」
 鞘に納めた刀の柄を握り、望まれる儘に真っ向より挑むは月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)。
 いいや、忍びたる影が望むと望まざると。
 きっと夜彦は正面より挑むのみ。
「貴方達には言葉よりも、力の方が伝え易い」
 何故、これを振るうのか。
 その意義、信念、矜持。
 技と刃の裡にこそ、それを感じるだろうと、夜空に似た藍色の髪を靡かせる。
 その傍らに構えるのは篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)だ。
 琥珀色の眸は影を見据え、逸らす事なく。
 呟く言葉もまた、その芯を捉えようと。
「力そのものに意味なんてねぇよ」
 倫太郎が手に携え、構える華焔刀 [ 凪 ]もまた然り。
朱で描かれた焔が舞い踊る黒塗りの柄と、その先の美しい刃紋を誇る薙刀。けれど、それはただ、それだけ。
「力は力、それだけだ」
 どのような思いと願いにて振るうかが問題なのだ。
古今東西、どのような力も武器も、如何様に振るわれたかが物語として続くように。
 力に意味を持つ時があるというのなら。
覚悟と矜持を以て揮われる、その瞬間だけなのだから。
 故に、目の前の影たちは彷徨っているといえるだろう。
 覚悟を向ける対象と理想がなく。
 矜持として胸に宿す芯と熱がない。
 故に何処までいっても虚ろなまま。
 何かに成るという事も出来はしない。
 だが、一瞬、刹那が為だけに磨き上げられた強さはある。
 咲き誇る想いとはそういうこと。
 輝かしいまでの色彩をもつ魂の強さ。
 幸せをこそ、引き寄せる強さ。
 それをよく知っていると、倫太郎は傍らに立つ夜彦へと視線を流して。
 同時に、後方に控える少女にも声をかける。
「夕凪、やれるな?」
「無論です。何故、刀を執るのか。その意味を、願いを。忘れた事などこの半年。救って頂いたあの時より再び忘れた事などありませんので」
 夕凪の静かな言葉と共に、するりと抜き放たれる妖刀の黒き刀身。

――出来りゃ、戦わせたくはねぇよ

 けれど。
 これを越えた先にしか見えないものはある。
 夕凪の『しあわせ』を求める旅路は、これらを越えなければいけないものがあるのだから。
 だから、引けとは言えない倫太郎。
 対して夜彦は静かに、忍びたちが刀を逆手に構えるのを見て告げる。
「夕凪殿は複数人に狙われないよう注意を」
常の刀術ではないのだ。
 それこそ斬り結び、競い合い、高め合うという精神など微塵もない剣だからこそ。
「距離を詰め過ぎれば、奴等はそこを狙います」
 騙し、不意打ち、懐に飛び込んで掻き切る。
 殺しの剣とはそういうものだと言葉の外で告げる夜彦と。
「囲まれないように俺らの死角補ってくれ」
 頭上で旋回させる華焔刀で音と桜を舞い散らす倫太郎。
 渦巻く風は、花を攫い。
 渦巻かせて、ひとつの舞台を作り上げる。
「夕凪の死角は俺達が補うからよ」
「ええ。心得ました」
 こくりと頷き、黒刀から湧き上がる妖念を纏う夕凪。
 ならばこれにて全ては整い。
 刃にして示す舞台は始まるのだ。
「いざ、尋常に」
 鯉口を切り、霞瑞刀 [ 嵐 ]の蒼銀の刀身を微かに覗かせる夜彦が告げる。
 此処まで待った忍びも。
 それこそ、待ち望む戦の気配を感じて。
「勝負と致そう。そして、我らは想いのいろを知る」
 ならば。
 妖魔という災禍を宿す身、暴れさせて成るモノかと倫太郎の霊力が周囲一帯へと走る。
 それは見えざる災いを括る鎖となって。
『縛めをくれてやる』
妖魔の忍びへと殺到し、その身を撃ち据える。
 が、捕縛から抜け出すが忍びというもの。先制して放たれた鎖に束縛されるより先に抜けだし、疾走する影。
 が、拘束は出来ずとも動きを制した倫太郎の華焔刀が唸りを上げて、迫り来る忍びを叩き斬り、吹き飛ばす。
 夜彦をフォローする立ち回りであり、死角となる部分は夕凪に託す。
 確かな信頼で結ばれた戦の形は、例え闇夜に紛れる殺刃であれど斬り崩せるものではなく。
 倫太郎は、夜彦へと戦の路を繋げるのだ。
 故にと。
 風に舞う花びらを。
 更なる剣風をもって、散らせるは清冽なる抜刀。
「お前達の求めた『力の意味』」
 倫太郎の声と共に、放たれた蒼銀の軌跡が流星のように夜に煌めく。
 美しき景観を飾るは凛烈なる斬閃。
「その身で知りな」
 一騎討ちの形となった忍を、それこそ瞬くより早く、居合一閃で斬り伏せる夜彦。
 翠玉のような眸に、僅かな憐れみが浮かぶのは。
 忍びたる技を一切使わず、文字通りに真っ向から斬り挑んだ姿を見たから。
 視力と見切りで完全に捉えた姿。
 それこそ何かすれば、騙しに封じといった邪剣の類いの一切、見逃さぬとしたからこそ。
 果敢に、それこそ、誇りを追い求めるが如く。
剣士がそうするように挑みて散る忍びの命。
 己が人生を懸けて手にしただろう、影の技を使う事もなく。
 だが、これほどの剣にて葬られるならば悔いなどないと。
「誰かに。他人に意味を求めるからこそ惑う」
 いいや、これは単に結果のひとつなのだ。
 他人に与えられたもので満足できないから、虚ろながらに影は突き動かされる。
 魂に宿すべき色彩を、得ようとして。
 その為に、自らの命を落としたとしてもと。
 ひとり斬られたからなんだと、次の忍びがまた正面より疾走する。
 他人に意味と想いを預ければ。
 抱くものなく、戸惑いて、このように果てるのだ。
 意味と信念を与えられても、疑えば容易く壊れる硝子細工めいたものだというのに。
 形には出来ず、決められたものでないからこそ。
「答えは無いに等しい」
 例え、命をかけて剣戟の裡に問いかけようとも。
 答えを見出すなど、悟りめいたものなればこそ。
何処まで磨き上げれば強さという色彩を持つのか。
 人を護る刃として、悪を裁く刃として。
 夜彦とて未だ、判る筈もなく。
 ただ。
 戸惑い、迷いて、揺れる事など出来ないから。
 尽きる事のない信頼を寄せる者の前でなど。
 だからこそ、胸の鼓動に従って、己が誇りと信じるモノを顕わにする。
 
『我が刃、風の如く』

 奏でて散らすは、風斬の調べ。
 一騎討ちが如く、前へと跳ねる忍びを斬り伏せる居合一閃。
 蒼銀の輝きに続いて鮮血が舞い。
 夜桜の景観を、赤く染め抜く。
「それでも、答えを、誇りをと……路を求めるは誰でもない己が為」
 理想は血に濡れ。
 穢れなき夢を赤く染めて。
 なお、進む理由はと問われれば、恥じぬ己で有りたいから。
 愛しき者を護る刃でありたいと、夜彦は願うからこそ。
 それを芯と成し、果てるまで斯く有り続けるのだ。
「至る道を見届ける為に戦う」
 ただ、それだけがと。
 するりと、滑るような抜刀からの納刀。 
 肉を斬り、骨を断った筈の刀身は、それでも震える事なく、静かに鋭く。
「それが生きるという事」
 ならば、忍びたちは至る道を見つけられているのか。
 迷いを晴らすが如く、飛び込んで。
 そして散り逝くその命は、何を研ぎ澄まし、強さと誇るのか。
「少なくとも――私は交わした誓いを、盾と刃足らんという事を、強さと誇りに思うから」
 今もなお、一騎討ちの場を整える倫太郎を流し見て。
 再び巻き上がる抜刀による剣風。
 残像さえ紡ぎ上げながら奔る斬刃、止まる事はなし。
 答えがないのならば。
 至るまで、道を走り続けるのみと。
 愚直なる烈士の刃が、美しき光を輝かせる。
 例え果てなきものであれ。
 桜が今もはらはらと咲き続けるように。
 夜彦も、倫太郎も、そして夕凪も。
 終わらぬ世界で、その色彩を咲き誇らせんとするのだから。
 それを誇りというのか。
 或いは、幸せと呼ぶのか。
 ただそれだけの、違いなのだから。
 
 交わした一瞬。
 命を奪い合う、その煌めきの中で。
 忍びたちは何を見出したのか。

 最後の最期に、何を思うのか。
 或いは、自らの命を絶った刃にこそ、ようやくいろを映して見出したのか。
「血の色は、等しく赤い」
 華焔刀を一閃させる倫太郎が、小さく呟く。
 誰であろうと。
 何者であろうと。
 何の為にあるのか、何の為の力なのか。
 まず源である心を知らねば、ならぬのだから。
 涙のいろと。
 血のいろと。
 願いのそれは、決して見えぬものではないのだから。
「……それも知って、逝きな」
 誰しもが抱き、その身に流すものなのだと。
 お前が流した血と涙に。
 同じく涙して、心に鮮血を滲ませる者がいるのだと。
 それだけは知れと、災禍を狩る刃が忍びの影たちを葬る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

忍びは任務に従い、動くのが定め・・・とかいっても悲しいものだね。任務に忠実な余り、自分を見失うとは。せめて被害を及ぼす前に引導を渡してやるか。

炎の戦乙女を発動して手数を増やす。【忍び足】【目立たない】で敵の背後を付く。敵の攻撃は炎の戦乙女に受けてもらうか【残像】【見切り】【オーラ防御】で凌ぐ。敵の攻撃が届かない距離で【衝撃波】【範囲攻撃】【気絶攻撃】で牽制、敵の体勢が崩れたら【不意打ち】【騙し討ち】【気合い】を込めた渾身の【怪力】【グラップル】で正拳突き→蹴り飛ばしを決める。

戦う者がその意義を失えば奴らのようになり兼ねない。アタシも胸に深く刻み込んで置くよ。


真宮・奏
【真宮家】で参加

忍びと言うのは心を殺して任務に徹するのが定め、と聞きます。でも忍びとて心があるのですから、戦いの意味を考えるのは当然ですよね・・・

せめて骸の海に還して休ませて差し上げたいです。

トリニティ・エンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】で敵の攻撃を引き受けます。敵の悲しみを受け止める感じで。基本防御に徹しますが、余裕があれば【衝撃波】【範囲攻撃】【2回攻撃】で攻撃を。


神城・瞬
【真宮家】で参加

私心なくして任務を果たすのが常とて、心は存在するもの。ふと気づいた時、自分の存在意義に悩む・・・戦いの道に在るものならあり得ますよね。せめてその修羅の道行きを終わらせましょう。

敵は熟練の忍び、手は抜いてられません。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【貫通攻撃】を仕込んだ【結界術】を【範囲攻撃】化して展開、追撃で【体勢を崩す】【武器落とし】【鎧砕き】を併せた全力の月白の闘気で攻撃します。敵の攻撃は【オーラ防御】【第六感】で凌ぎます。

戦いの意義を失えば、人は振り下ろす刃の先も見失うもの。僕も戦いの道に在るものとして心に刻んで置かねば。



 花も人も、散るが世界。
 無常と歌う姿は潔く、美しくとも。
 仕方なしと悟るには遠く、そして悲しきもの。
「忍びは任務に従い、動くのが定め……」
 呟くのは魔力石を握り絞める真宮・響(赫灼の炎・f00434)。
 それこそ、世に咲かんとする花のように。
 高きから低きへと、流れる水のように。
 或いは、そう求められた果てだとしても。
「とかいって、悲しいものだね」
 自らを見失うとは。
 それこそ、永久に闇の中を渡り歩くしか最早ない虚ろな影へと。
「せめて被害を及ばす前に引導を渡してやろう」
 戦士として、母として。
 毅然として前へと歩む姿は、確かに輝かしく。
 その姿を見て育つ子は、血の繋がりなどなくとも斯く有ろうと。
 忍びたちが知れず、判らず、憶える事のできない誇りを。
 その心に宿す神城・瞬(清光の月・f06558)が、異なる色彩を湛える双眸で周囲を見渡し、一息。
 静かに。
 憐れむように。
 けれど、此処が戦に至る場だと心得ながら。
「私心なくして任務を果たすのが常とて、心は存在するもの」
 ふと気付いた時、自分の存在意義に悩み、苦しむ。
 それこそ闇夜の中にいたからこそ。
 いきなり振り注いだ光に、目が眩んでしまうのだ。
 誰も教えてくれず、育つ事のなかった心は、ただ影として揺れる。
「……戦いの道に在るものならあり得ますよね」
 極めつけ、タチが悪いのは。
 それがただ命を奪うだけのものだったということ。
 生まれた時から、ヒトとして生きる者ではなかったということ。
 妖魔の力と血肉など、最後の一押しでしかなく。
「せめて。その修羅の道行きを終わらせましょう」
 二つの光に寄り添、従うように。
 氷の結晶のように透き通る六花の杖を一振りしてみせる瞬。
 風は静かで。
 はらりと落ちる花ばかりが、迫る時を告げて。
 ああ、もうすぐ火蓋は切って落とされるのだと。
 真宮・奏(絢爛の星・f03210)は感じて、精霊の力を宿す剣と盾を構える。
 奏の瞳には、母と同じ色彩と光。
 強き覚悟を宿して。
 誰よりも真っ先に、正面へと進み出る。
「忍びと言うのは心を殺して任務に徹するのが定め、と聞きます」
 さくりと。
 踏みしめる花びらの音と共に。
 炎、風、風の魔力を身に纏い、防御力を引き上げる奏。
 臆す事も、躊躇う事もなく。
 殺すだけの忍びの刃の前へと。
「でも、忍びとて心があるのですから」
 戦いの意味を考えるなんて、当たり前。
 ふとした瞬間、出来事に。
 心が揺れて、迷い、戸惑うなんて当然なのだから。
 それを許さない者こそ間違いなのだと、奏は想うからこそ。
「せめて骸の海に還って、休すませて差し上げたいです」
 祈りのような奏の言葉に。
 無言をもって。
 けれど、響の召喚した燃え盛る炎の戦乙女がその傍らに。
 攻めの手数を増やすも勿論のこと。
 守りに立つ娘をひとりになどしないのだと。
 暖かな炎をもって、周囲を包み。
 はらはらと。
 風に渦巻く花びらが、炎に触れて燃え盛る。
 夜を飾りし赤炎の舞踏こそ、戦の合図と。
「いざ」
 駆け抜ける忍びたち。
 絶え間なくと連続して守勢へと立つ奏へと斬り懸かり、瞬断の刃を奔らせる。
 炎を切り裂き、水を刺し貫いて、風をも断つ。
 奏が振るう剣と、忍びが刀が激突して響くは鋼の音色。
 それでも足りぬ。守りを斬り崩す忍びの刃は盾で受け止めて。
 舞い散る精霊と戦乙女の魔力は、その苛烈なる剣戟を表すかのよう。
 流れる血はなくとも。
 一秒ごとに削られる、奏の力と気勢。
 それでも忍びたちの攻勢を止め、凌ぎ、独りで受け持つ奏の堅守の意思。
 故に応えるのだと後方に立つ瞬は杖を振るう。
「敵は熟練の忍び、手は抜いてはいられません」
 奏を削るのも、阿吽の呼吸がなす影たちの連撃ならばこそ。
 冷たき波涛の如く、周囲へと放たれる瞬の結界術。
 ただ守るだけではなく、敵手の身を撃ち据えて動きを封じる光陣の展開だ。
 加え、追撃として瞬くのは、瞬が裡に秘めたる月白の闘気。
 静謐に。けれど、確かに己が意地があるのだと。
 裂帛の気迫となって周囲へと放射され、忍びたちの動きを崩す。
「戦いの意義を失えば、人は振り下ろす刃の先も見失うもの」
 ああ、だからと。
 瞬は自らも戦いの道に在るものとして心に刻まねばと。
 義妹は傷ひとつないけれど。
 秘めたる想いを、また瞬も持つから。
 向けられた淡き恋慕に、気付いてはいるから。
 いずれ来るその時が為にと、今は瞬と奏は『家族』を守る力を奮うのだ。
 守りて前へ。
 誰よりも前へと精霊と共に進む奏を、決して傷付けさせない為に。
 月白の闘気は結界として張り巡らされ、秘めたる心を守り抜く。
 告げるのは今ではなく。
 幾つもの桜で散り終わり、大人として母に認められた時なのだと。

――そう。母は強く、正しく、厳しくも優しいのだから。

「そうだよ。私は、あんたたち子供ふたりをちゃんと見ている」
 大人となって、どんな道を選ぶかは知らない。
 そこまで干渉するほど野暮ではないし、けれど、間違っているのならその途中で正してあげるから。
 全力で進みなさいな。
 思いと心のままに。
 忍びたちのように、何も知らず判らぬと、問いかける影などにはしないのだと。
 足音を殺し、気配を隠し。
 忍びの背後を取った響が、赤き光剣より衝撃波をその背へと打ち込む。
 まずは牽制。体勢を崩せれば上々と。
 そのまま、不意打ち、意識の死角より飛び込み、渾身の怪力を乗せた正拳突きを叩き込む。
 それこそ鬼神の如く、猛威を以て。
 撃ち据えた忍びの骨が軋み、内蔵が破裂してもなお。
「これが真宮家の正し方、導き方、教え方の拳骨と、その先の武の一撃さ!」
 豪快かつ大胆不敵に。
 桜のように潔く、と云った過去は何処にやら。
 響は烈風の如き蹴撃を見舞って、遥か後方まで忍を吹き飛ばす。
 ざわりっ、とその勢いに花が盛大に舞い散って。
「戦う者がその意義を失えば」
 奴らのようになり兼ねない。
 それは胸に深く刻み込んで、同じ紫の瞳を持つ娘を、傍にいる誰かを守るという静かな意思を引き継いだ息子を見れば。
 瞬が第六感で捉えた忍びの刃を、オーラ防御で強化した結界で止め。
 僅かな隙を見逃さず、真っ向より飛び込み、瞬に続く奏の風の剣。
 疾風と化して、周囲一帯を切り裂きながら。
 翻りて二度、奏の風刃は渦巻くのだ。
 忍びの身を斬りて、その名残と迷いも断つように。
 それこそ。
 骸の海で戸惑うことなく、休むようにと。
 共に切られた花びらが、ざわさわと。
 真宮の一族の戦の舞台で、騒ぎ立てる。
 これが誇りのいろだと。
 忍びの魂に届くように。
 磨き上げるだけではなくて。
 受け継ぎ、育まれた強さにこそ、意味在りし。

 故に――例え、冥府魔道。妖魔であれど。

 受け継がせるだけのものがあれば。
 きっと、それを誇りと言えるのだろうから。
 次の目覚めでは、それを確かに手に、胸へと宿せと。
 響の、奏の、そして瞬の鋭き視線が、葬られる影へと告げる。
 家族の絆もまた、矜持として不変に輝くのだから。
それは血によるものなどではないのだと。
 誰よりも深く知る、真宮の三人。
 春宵の戦にて、その勇姿を踊らせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴桜・雪風
成程、その武の意義をお探しですか
探しものであれば、わたくしが手伝うのもやぶさかではありません
「桜純流、鈴桜雪風。お相手仕りましょう」
(傘から仕込み刀を抜きつつ)

死兵となった忍びの者
容易く仕留められる相手ではありませんね
こちらも命を賭ける必要がありましょう
敢えて相手の間合いに留まって渾身の一刀を誘います
それを当てられれば相手の勝ち。躱して反撃の剣を放てられればわたくしの勝ち
わたくしの見切りが勝るか、相手の修練が勝るか――いざ
「真実は常に瞬間、生死の狭間に。敢えて死地に身を置き最善の活路を求む。これぞ活人剣の極意なれば」

「春雨の降るは涙か桜花 散るを惜しまぬ人しなければ」



 さくりと、降り積もる白花を踏みしめて。
 闇より立ち上がる影に、進み出るは優美なる少女。
 たおやかに、繊細に。
 けれど、刃に似た静かなる美しさを纏わせて。
 鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)は前へと、戦の舞台へと進み出る。
「成程、その武の意義をお探しですか」
 桜の飾られた美麗なる和傘を、ふるりと泳がせて。
 唇より紡ぐは影たる忍びへの答え。
 捜し物があるというのならば、手伝うということもやぶかさではない。
 そこそが眩き闇を泳ぐ探偵の仕事であり。
 迷いし心を救うのも、桜の務めと誉れであるのだから。
 嫌はなく。
 ああ、むしろこの為に刃はあるのだと。
 湖畔の如き眸に戦意を瞬かせて。
「桜純流、鈴桜雪風。お相手仕りましょう」
和傘より抜かれるは、仕込み刀。
 怪奇と謎を秘めたる闇夜を切り裂く白刃が、忍びの目に顕れる。
「まさか、わたくしでは足りぬと。このような娘では何も裡には宿さぬと思いですか?」
「否。命を懸けるを知る者と見受ける。ならば、命なぞという我には、よき標」
「ええ、導きましょう。……救いの輪廻、転生というものはこの国にもある思想なれば」
 死兵となりし忍びの者。
 鈴桜をもって容易く仕留められる者ではないと知るからこそ。
 迷いなく、躊躇いなく、ただ真っ直ぐに進む鈴桜の足先。
 ゆらり、するりと間合いへと滑り込むは、桜のように見る者を幻惑する歩法なれど。
「答えを持ち、次に生きる路を過たぬように」
歌うように声を響かせて。
 鈴桜が足を踏み入れるは、忍びの者の刀の間合い。
 その切っ先の届く範囲は狭く、故に恐ろしき鋭さを誇るものなれど。
 恐れては越えられぬ。
 怯えては何も出来ぬと。
 その繊細なる身を忍びの殺気に晒す鈴桜。
 敢えて間合いに踏み込み、留まり。
 誘うは、忍びが放つ渾身の一刀。
 全身全霊にて放たれるそれを躱せば隙は生まれ、鈴桜の反撃の剣は命へと届く。
 だが、当たれば命を散らすのは鈴桜。
「なんとも」
 単純かつ明快で。
 綺麗で潔く。
 まさしく桜の精たる在り方か。
 高潔にして優艶。美しくも怜悧。
「……あなたの求める誇りのような、戦いではありませんか」
 刹那に全てを懸ける。
 鼓動のひとつに、己はあるのだと。
 美しき剣光刀影。交差の一瞬で全ては決まると、吐息のひとつ許されぬ。
 鈴桜の見切りが上回りて勝るか。
 それとも、忍びの修練と覚悟が勝るか。
「真実は常に瞬間、生死の狭間に」
 全てを懸けて、掲げて、さあ。
 この儚き花の如き命の歌と共に。
 それでもなおと進む、果敢なる夢のような刃として。
「敢えて死地に身を置き最善の活路を求む。これぞ活人剣の極意なれば」
 刹那に散り逝く、定めだとしても。
 永久などありはしないのだと、自ら己に命に意味を定めて。
「――いざ」
「それが、誇りのいろというのならば」
 ああ、成る程と。
 忍びの瞳に、光が宿る。
 言葉ではなく、鈴桜の所作にこそ知りて。
 するりと。
 冷たき風が吹いて、花吹雪。
 乱れる白き色彩を斬り裂いて瞬たくは殺戮の刃。
 命奪わんとする殺人剣。鈴桜の言葉にて知ったように、最善を求めて命を燃やして放たれる斬閃。
 後にあるのは死のみ。
 他には知らぬと研ぎ澄まされた切っ先は、優美なる着物を掠めるものの。
 命奪わんとする殺人剣。過去に幾度となく眸に映せし鈴桜は見切りて。
 朧に烟る闇を回遊するように、身を翻した鈴桜を捉える事は叶わず。
 けれど、素晴らしいと桜の下で舞う鈴桜の唇を動かさせる。
 それを己が為ではなく。
 誰かの為に振るえたのならば。
 きっとそれは善き剣として、迷いを晴らし、人を救う剣になるだろう。
「春雨の降るは涙か桜花、散るを惜しまぬ人しなければ」
 次の人生でも、斯く有るようにと。
 妖魔の血肉、忍びの産まれ。それらを消し去れば。
 残る魂は、きっと、清く美しいのだから。
 故に、鈴桜が後の先より放つは。
 桜花のように白くも優雅なる剣閃。
 珠たちが触れ合うような、美しく澄んだ音色をたてて。
「ああ、見事でしたよ。それで誇りのいろを知らぬ、などと」
 忍刀も。
 それを振るいし身、その心臓をも。
 一刀の下に斬り裂きながら、くるりとその場で身を翻えす鈴桜。
 まるで舞踏。
 崩れ落ちる忍びの屍を背に。
 美しき傘へと、仕込み刀を再び納める。
「決して、もはや嘆く必要などないでしょう。それたるものを宿し、振るっていたのですから」
 捜し物は、見つけられたようですねと。
 穏やかに微笑み、さくりと足音を響かせる鈴桜。
 故に眠れや、眠れよ。
 散ること惜しまぬが、人なれば。
 涙のように降り注ぐ白き桜花の元で。
 いまひととき、その罪が清められるように。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
ならば一刀、仕りましょう。
忍ぶことを何より得手とする身でありながら…正面から相対下さった皆様への礼儀として。

力とは、それだけでは暴力でしかない。
何かを壊し、奪い、傷付けるものでしかない。
おそらく、あなた方はそのものなのでしょう。
そこに在るだけのものは、どこにも行けないから。
だからあなた方はどこにも行けぬまま。
ただ、影としてそこに居る。

そこを居場所と定めたのであれば。
戦さ場で散り行くのも世の習い。
それを己が誇りと抱き逝くのであれば、
それに勝る力が――破滅が。
どこへも行けぬ道に終点を差し上げましょう。

ええ、見事なり。
よくぞそこまで己を鍛え上げました。
返礼に一閃を御見せしましょう。

――断ち、散らせ。



 するりと鞘から抜き放たれて。
 白銀の刀身が、美しき夜景を斬り裂く。
 これよりは優雅に漂うのではなく。
 魂を懸け、戦にて熾烈に舞うのだと。
 はらり、はらりと。
 降り注ぐ花びらも、刃に触れてふたつに絶たれて。
 此処はもう戦いの場。
 揺れる事など、ありはせず。
「ならば一刀、仕りましょう」
 静かに告げて、赤き眸で見据えるは穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)。
 妖魔となりし影は、無言で頷いて忍び刀を構えるものの。
 真っ向より挑む剣士ではない筈。
 それでもなおと、逆手に構える姿。
「忍ぶことを何より得手とする身でありながら……」
 今まで磨いてきた忍び技の数々。
 不意打ち、騙し、殺すということ。
 それらを捨て、こうして挑もうというのならば穂結に嫌はない。
 夜に溶け込むように美しい、黒い長髪を靡かせ、翻して。
「正面から相対下さった皆様への礼儀として」
 此処に自らの武と刃を示そう。
 そこより何かを得られるのであれば、せめてもの幸い。
 黄泉路への手向けになろうと、ゆるりと結ノ太刀を構える穂結。
艶やかに、美しく。
 けれど命を奪う剣呑なる白刃を向けながら。
「力とは、それだけでは暴力でしかない」
 心得るが為に、鞘たる精神を磨くのだ。
 ただ暴虐と傲慢に溺れる訳にはいかなくて。
 せめて桜を潔き花と讃えられる、そんな身と在り方でいたいから。
「何かを壊し、奪い、傷付けるものでしかない」
 そうである事を己に戒めるのが剣士。
 いいや、終わりの焔を懐く穂結だから、より深くその心に結ばれている誓いなのだ。
「おそらく、あなた方はそのものなのでしょう}
 言わば一振りの刀。
 曰くも、謂われもないけれど。
 ただ血を吸い続けながら、磨き上げられる修羅の刃。
そうならないように。
 胸の中に抱き締めた、大切なるものを。
 信念を、矜持を、理想を。
 それこそ大輪の花と咲かせ続けながら。
 でなければ、どんな夢と先に辿り着けるというのだろう。
「そこに在るだけのものは、どこにも行けないから」
 虚ろなる身は何処に辿り着けるかも知らず。
 天の道理も、人の情念も判らず、見えぬのだ。
「だからあなた方はどこにも行けぬまま」
 穂結は瞼を一瞬だけ伏せて。
 静かなる声を零して、夜闇を震わせる。
「ただ、影としてそこに居る」
 魂が行き着く先を、知らないから。
 天国も地獄も、幸せも不幸せも。
 その意味が分からない事、その在り方が。
 悲しいことなのだと。
 ただ、それだけ解りながら。
「感謝する、娘よ」
 悲しいとは判っても、実感する事の出来ない忍が駆ける。
 せめてと。
 戦場を居場所と定めたこの心を、認めてくれるのならばと。
 戦さ場で散り行くも世の習い。
 そう、あれたのならば。
 虚ろなる身に、一瞬の誇りと脈動を願い求めて、影が刃を振るう。
 逆手にて下段から跳ね上げられるは常の剣術ではない。
 死角より強襲するかの如き斬撃は殺し技に他ならず、競い合うという思考など微塵もない。
 だが、ゆらりと炎のように揺らめく穂結の身体の足取り。
 神楽に舞うかの静かでありながら、切っ先に虚空を斬らせる体捌きはまさしく陽炎。
 蓮と稲穂をあしらった羽織りを夜風にはためかせながら。
 桜吹雪の続く中で、ゆらりゆらりと穂結が白刃を躱す。
「戦の習いと、剣を誇りと抱き、逝くのであれば」
 ああ、花のように散り逝けるのならば。
 所詮、戦さの誇りは身を焼き焦がし、灰と残すのだから。
 幸福など、なんと遠きことか。
 そこに身を置くものの、なんと凄惨なることか。
 それでもと跳ねる影の切っ先。
 続けて横薙ぎにと走り、重ねて跳躍の元に放たれる一閃。
 瞬く忍刀に迷いも躊躇いもなく。
 ただ祈るように。
 果敢に身を散らせども、そのある者を掴もうとするように。
 ならば、それに勝る力が。

――破滅の焔を片割れとする、この一振りをもって。

「どこへも行けぬ道に終点を差し上げましょう」
 直後に響き渡るは刃金が噛み合う、清冽なる音色。
 避け続ける穂結の体捌きをついに忍びが読み切り、結ノ太刀の刀身で受け止めさせたのだ。
 火花散り、漂う花を退かせ、穂結と忍びの剣気が絡み合う。
 一瞬でも揺らげば。
 直後に悉くが斬り伏せられるような、戦の気配を満ち溢れさせて。
「ええ、見事なり」
 けれど穂結の声色は何処までも静謐。
 唇より紡がれる声は、何処か歌うかのようであり。
 ああ、事実。穂結は太刀の宿神。
 武を前にすれば、言祝ぎの歌を奏でるというもの。
「よくぞ、そこまで己を鍛え上げました」
 忍びという技に頼らず、不確かなる剣技をもって。
 ただ真っ直ぐに剣士たる者へと果敢に挑む心と、克己の精神。
 それを誇りだと抱いてよいのだと、穂結は赤い眸で告げながら。
「返礼に一閃を御見せしましょう」
 故に絡み合う刀身と身を弾き合い。
 間合いを取るは刹那。
 穂結の直後の踏み込みは、即座に振るう剣の間合いに忍びを捉えて。
残されし業のひとつを詠うのだ。
 剣とは、悉くを斬るものなればこそ、その真髄を此処に。
 紡がれし斬光が閃く。

「――断ち、散らせ」

 夜闇に舞うは真朱の色彩。
 流麗にして凄烈なるは神刀の威。
 それは受け止めた筈の忍刀も、それを操る身をもするりと斬り裂いて。
 深紅の花吹雪を周囲に舞い散らせる。
 ああ。
 これで、誇りのいろを求める魂は救われたのか。
 願いは叶ったのかと、結ノ太刀を振るう穂結は月を見上げる。
 こう思うのも、所詮は似姿なのか。
 誰かがこう願ったように、あろうとして。
 果たせなかった在り方を、なぞるように過去を斬り、ひとの心を救おうと。
 けれど、もたらしたのは破滅だと誰より実感しているからこそ。

――舞い、散らせ、

 願いと、祈りの悉く。
 今は戦の場なればこそ。
 鋭き信念と想いばかりを、穂結はその貌に浮かべる。
 今は揺れて、戸惑い、流れる時ではないのだと。
 炎のような激しさを、ひっそりと秘めて刀の柄を握り絞める。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎

奪い殺めるだけの途はあまりに味気ねェだろう
意味?あるさ
最期に相対するのが俺であったなら
其の力、全部ぶつけろ
そして知れ
俺はお前らの総てを、己が義を以て制す

忍びが容易に名乗るのは可笑しな話だと思うが、教えてくれよ
俺は杜鬼クロウ
命のいろを魅せてヤる
あァ、俺の中に刻もう

夕凪には命第一に前線へ出て貰う
黒刀を存分に揮える力への信頼

夕凪、お前も為すべきコトを果たせ

外套脱ぎ捨て
親指齧りUC使用
紫電走る

光があっての影
刹那、意味を問うなら
剣(ちから)で応えてヤるだけだ

強い覚悟を力に
大剣で複数敵を薙ぎ倒す
敵の攻撃は剣で武器受け
剣突き立て上に飛び敵背後に回り一閃

まとめて掛かって来いよ!!

終焉の幕引きは綺麗に



 真実をこそ映すからこそ。
 それは神鏡と呼ばれるのだ。
 左右で異なる色彩は、嘆く忍びの誠を捉えている。
 夕赤の眸は妖魔に墜ちた肉体に宿りし業を。
 青浅黄の眸は、それでもと足掻く魂の強さを。
 対峙した者を見逃す事などありはせず。
「奪い殺めるだけの途は、あまりに味気ねェだろう」
 影たる身の想いを汲み取るように。
 お前の願いは、この桜散る夜にて叶うのだと。
 激しくも優しき笑みを浮かべるは 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
「そこに至るまでと、これからの。意味? あるさ。決まってンだろう」
 天へと続く道が判らぬ。
 夢へと辿り着く路が見えぬ。
 だというのならば、神鏡として映し出してみせよう。

――そんな者、てめェらは既に持ってるンだよ

 ただ、言葉で伝わるならば苦労などせず。
 悲嘆などある筈もないからこそ、漆黒の大魔剣たる玄夜叉を抜き放つ。
 鞘から顕れた刀身にて流転するは、五行の燦めき。
「最期に相対するのが俺であったなら」
 この刃をもって、忍びたちの魂に告げてみせよう。
 惑う者に真実を見せる、神鏡の武威を以て。
「其の力、全部ぶつけろ――そして、知れ」
 誇りがないというのならば。
 どうして、そうも他者に問いかけるのか。
 命を賭してでも、見出そうとするのか。
 最早、答えは最初からあって、ただ見出せぬだけなのだ。
 迷妄に曇りし眼、斬り祓うべく玄夜叉が一閃される。
 風に流れ往くは白き桜。
 名残りなど、全て捨て去り。
 戦の裡へと身を投じろと。
「俺はお前らの総てを、己が義を以て制す」
正も邪も、虚も誠も。
 妖魔の力も人の矜持も。
 全てを義に燃える剣と、疵亡き鏡にて示して制すのみ。
「だから、ヨ」
 大魔剣を片手で構えて。
 降り積もる桜を踏みしめ、前へと進むクロウ。
「忍びが容易に名乗るのは可笑しな話だと思うが、教えてくれよ」
 全てを無為、無常と散らせるなど。
 悲しい噺だろう。
 花とてまだ、そこに意味があるのに。
 ただ刃の錆となるなど、なんと味気ない。
 奪い殺すだけの途など。
 クロウが進むそれではないのだから。
「俺は杜鬼クロウ」
 だから汲んでやろう。
 ようやく見出した、その魂を。
 剣戟の花が咲き乱れる瞬間に、実感できた矜持を。
クロウの魂の裡へと抱き抱えて、進み続けてやるのだと。
「命のいろを魅せてヤる」
 こんな白い花びらなどではなく。
 もっと鮮明に灼き付くものだから。
 あァ、俺の中に刻もう。
 お前達の誇りが、夢が、熱を持って咲いたその瞬間を。
 だからその名を問えば、忍びがぽつりと呟く。
「三景……名はそれだ。お前に、杜鬼クロウに挑む、誇りを探す名だ」
「いいじゃねェか。影とか忍びより、よっぽど漢らしいぜ」
 クロウがにっと笑えば、刃のような殺気がより研ぎ澄まされる。
 怒りではない。
 むしろ、熱を持ってこの漢に、クロウへと挑むのだと決意を固めて。
「夕凪、お前も成すべきコトを果たせ」
「ええ。言われずとも。泣く事も出来ない影を、眠らせましょう」
「いい夢みれねェと、また化けて出るかもしれねェしな」
 そんなのは嫌だろう。
 桜を見る度に、悲しい思い出が湧き出るなんて。
 伴うのは、それこそ『しあわせ』のみでよいのだと。
 妖念纏う黒刀を十分に揮い、従えてみせる今の夕凪へと信頼を見せて。
 外套を過ぎ捨て、クロウは桜舞い散る舞台へと踊り出る。
 はらはらと。
 振り注ぐ桜花の中に、翻るは衣と黒き刃。
 クロウの意を読んだように夕凪が疾走して忍と斬り結び、剣戟の火花を
瞬かせる。
 迅速にて乱れる刃たち。
 ほんの数瞬。だが、夕凪の稼いだその間にクロウは己が術を発動させるのだ。
 親指を深く歯で囓り、流れた血潮を代償にして紫電を走らせ、身に纏うクロウ。
「光があっての影」
 それこそ迅雷の如き踏み込みにて、一足に名乗った忍びへと間合いを詰めるクロウ。
 生死の狭間にて意味を問うのならば。
「剣(ちから)で応えてヤるだけだ」
 強靱なる覚悟を宿して薙ぎ払われる剛の一刀。
 受けた所で全てを吹き飛ばすのだと、斬風に乗って轟く鋼の音が響き渡る。
 人も影も花も。
 全ては渦巻く剣風にて、春宵に舞うのみ。
 より激しく、より雄々しく。
 クロウの義の鼓動と共に。
 揮われる玄夜叉の剣撃は剛の質でありながら、迅となって荒れ狂う。
 それこそ漆黒の疾風迅雷。
 花びらを渦巻かせ、斬撃の嵐をクロウは切っ先で描き出す。
「よオ、三景」
 刻まれた傷より鮮血を吹き散らしながら。
 なお果敢に突き進むは、クロウに応えて名乗りし忍び。
 クロウの剛剣へと瞬断の忍刀にて斬り懸かり、刃金の噛み合う音を奏でさせる。
 数瞬とはいえ、クロウと真っ向から斬り結ぶとは確かな腕。
 そこに何の想いも、誇りもない訳がないのだから。
「何か、見えたかよ」
「いいや。……きっと、傍らにいる者に、もっと問いかければ或いは」
 今、共に戦う者達と語らっていれば。
 それこそ、クロウと夕凪が語らったように。
 言葉でこそ、心と魂は救えるのだと。
 ならば後悔しているのか。
「と、しても仕方なしと想う我は、刃に似たいろなのだと」
 身を翻し、一閃を放ちながら後方へと跳ねる忍び。
 ならばどのような。白か、銀か、それとも黒か。
 定かではくとも。
「いいじゃねェか」
 後方へと下がる忍びを追撃するクロウ。
 踏み込みが高速ならば、振り下ろされる大剣もまた同じく。
 大地に突き立てられた刀身を支点とし、勢いをそのままに頭上高くへと飛ぶクロウ。
 それは夜空を翔るが如く。
 桜花よりも流麗に。
 三日月が如く清冽に。
 それこそ一振りの剣として忍びの背後へと跳ぶのだ。
 終焉の幕引く剣は何処までも綺麗にと。
クロウが振るう大剣は、春宵に漂う風情より美しい一閃と化して。
 忍びの背を取るように着地と同時に身を翻し、旋回するが如く玄夜叉の剛剣を奔らせる。
「名も、俺という神鏡が見た誇りのいろも」
 忘れはしねぇぜと呟いて。
 胴を両断された忍びの弔いを、三景の屍を振り注ぐ白櫻に任せて。
 流れた血も、屍も今は覆い隠され。
魂のみを、導くようにと。
「さあ、次はどいつだ」
 返り血を振り払い、漆黒の大剣を翻すクロウ。
 いいやと、色の異なる双眸を夜に瞬かせて。
「おまえら、まとめて掛かって来いよ!!」
はらはらと。
 しずしずと。
 漂う春の夜を斬り裂いて。
 クロウの放つ激烈なる剣気が夜天を揺らし、花びらを呼び込む。
 そう、終わりは美しく。
 迷い、戸惑う、意味なき影ではなく。
 ひとの命としてと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
【相照】
あれ等の云うものが予想の通りであるなら――
……手を貸してくれるか?

力其の物に意味なぞ無い
だが誇りをと望むなら応じてくれよう
伴に在る影へと示す光の様に――護る為の此の一刀を以って
其の軌跡を見るが良い

己の背は彼の竜が、彼の竜の背は私が護ろう
得得る情報全てを用い、如何な攻撃も届かせはせん
――遮斥隕征
お前ならば必ず機を作ってくれると信じていたよ
ああ、引き受けた――必ず終わらせてくれる

嘗てのお前達の在り様が間違っていたと云う気は無い
だが蘇り来た事、其れは間違いなく過ちと心得ろ

道の先、此れよりは振り返る事を己に赦さず
故に告げるは背で以って
――ありがとう、行って来るよ
終わらせる為……そして、帰る為に


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【相照】
当たり前だろ
すぐに道開いてやるからな
背中は任せとけよ

殺すことしか出来なくて
壊す以外に才能がない
その在り方は、私とよく似てる
だけど――だから、分かるよ
影の戦いに誇りはない。血と呪いしか生まれない
それでも、戦う誇りが見たいなら
しっかり見ておけよ
貴様らと同じ影の私などではなくて、闇さえ切り裂く嵯泉の剣を

従える蛇竜を黒槍に
走らせた呪詛を全て乗せて、先行する一人を貫いてやる
飛び散る呪殺弾が貴様らの呪いを呼び覚ますだろうさ
――行けるよ、嵯泉
おまえの剣で終わらせてやってくれ

信じて待つって約束したんだ
拓いた道の先を、振り向かないで行ってくれ
……いってらっしゃい、嵯泉
おまえを待ってる奴がいるなら、そこへ



 風吹きては桜散り。
 紫煙を遥か彼方へと攫っていく。
 僅かに残る煙草より紫煙を燻らせて。
 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の告げる静かな声色は、信頼の色を滲ませる。
「あれ等の云うものが予想の通りであるなら――」
 確かめるような問いかけであれ。
 背にいる彼へと、石榴の如き赤き隻眼を一瞥たりともしないのは。
 脳裏に頷く彼の姿が浮かぶから。
 瞳にて見る必要などありはしない。
 ただ、言葉と時を重ねるのみ。
「……手を貸してくれるか?」
 そう、声にして確りと形にする事こそ。
 重さを得て、動きとなり、今を伴に生きる者の鼓動に届くのだから。
「当たり前だろ」
 全てに異論など在りはしない。
 頷いてニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)は鷲生の背に佇む。
 鷲生がニルズヘッグの背を守るように。
 柔らかなる心と、不確かな足取りを見舞ってくれるように。

 今は私が、嵯泉の背を守るのだと。

「すぐに路開いてやるからな」
 何時もとは逆だと、小さく笑うニルズヘッグ。
 けれど、些細な遣り取りに。
 信頼の温もりが通っている気がして、頬が緩んで仕方ないのだ。
 鷲生が決意をもって進むのならば。
「背中は任せてとけよ。――万事任せろ、嵯泉が望むように」
 今回は私が道を作ってみせると。
 そう応えるニルズヘッグに鷲生もまた小さく、頬を緩ませ。
 尽きた煙草がふたつ、桜の上に転がる。
 いずれは燃え尽きてしまうものが、この現の全てだとしても。
 永遠などないからこそ。
 今を生きる二人には、踏み越えていくべき灰があるのだ。
 故に、虚ろに揺れる影に道を阻まれる云われはない。
 けれど、微かに同情に似た憐れみの声色を漏らすニルズヘッグ。
 金の瞳は、影たる忍びを真っ直ぐにに見つめて。
「ああ。その在り方は私とよく似ている」
 殺すことしか出来なくて。
 気付けば血濡れた姿は、もはや拭いがたい程に赤黒く。
 殺す以外に才能はないから。
 ただ、ただと妖魔にまで墜ちて絡む呪詛。
 己を確かめたくとも、映すべき鏡も、歩むべき道もない儘だから。
「だけど――だから、判るよ」
 灰燼色の忌み子たるニルズヘッグは、影たれと育てられた忍びへと声と想いを届ける。
「影の戦いに誇りはない」
 自分が嘗て、そうだったように。
「私達の後には、血と呪いしか生まれない」
 少なくとも、この烈士の剣を知るまでは。
 ニルズヘッグもまたそうだったのだと、悔恨に濡れた過去を振り返る。
 否定などしない。
 そんな事をしてしまえば、変えた彼の、鷲生の魂を否定する事になるのだから。
 今は違うのだと、誓いと約束を胸にするから。
 こんな自分さえそう成れた、烈士の姿を誇りに思い。
「それでも戦う誇りが見たいなら、しっかり見ておけよ」
 従える蛇竜を黒槍へと変じさせ。
 呪詛を操る身と業、ニルズヘッグは自身を否定も嘲笑もせず。
「貴様らと同じ影の私などではなくて、闇さえ切り裂く泉の剣を」
 全ての呪詛をただ一振り、一撃に。
 所詮、ニルズヘッグが操るのは闇と呪い。
 呪いなのだけれど。
 ただそれだけでは、もう終わらないのだと。
 影たる身だからこそ、光を宿す剣を此処より讃え、誇らせて欲しい。

 私と彼は違うから。
 今と未来も変わり、移ろい、先へと進めると信じられるのだと。

 ならばと一閃。鷲生が鞘から抜き放つは愛刀たる秋水。
 露を掃うよう、月光を周囲に散らし。
 はらり、はらりと舞う桜花の元で、災禍を断つ鋭さを誇る。
 過剰に思われ、信じられ、慕われようとも。
 約定を立てたニルズヘッグがそう願うのならば、斯く有ろう。
 望み続ける限り、常に傍にいるのだと誓ったのだから。
 そのように在り続けるだけ。
 鷲生は進んで切り拓く刀で在り続ければいいのだ。
 故に、絡まりし過去より蘇る因縁を絶ち斬ろう。

――微かな、憂いと、想いがあれど。

「力、其の物に意味なぞ無い」
 構える秋水の切っ先にて影たる忍びを捉え。
 信念を烟らせる思い出を、過去を、鷲生は振り払い、戦意を滾らせる。
 歩み止める背など。
 ニルズヘッグは見たくないだろう。
 嗚呼、鷲生もまた見せたくなどないのだから。
「だが、誇りをと望むなら応じてくれよう」
 そうやって斬り拓く未来が。
 自分だけの物ではないのだと、確かに感じるからこそ。
「伴に在る影へと示す光の様に」
 降り積もった花を踏みしめて。
 一瞬だけ。
 全てが灰燼に帰した、あの日、あの時、あの国の地面を幻視する。
 灰が雪のように白く積もった、あの喪いし瞬間と。
 花が雪のように白く積もった、この喪えぬ瞬間と。
 余りにも切に、重なれども。
 それは在りし影に過ぎぬのだ。
 光足らんと、鷲生は白櫻の積もる地面を踏みしめる。
「――護る為の此の一刀を以って」
 移ろう日々の輝きを、美しき刀身に宿してみせて。
 止められる筈などあろうか。
 影と光。相照らすこの二人の歩みを。
 まるで天を巡りし日輪と、月輪のようなこの姿を。
「其の軌跡を見るが良い」
 如何なる者であろうと、阻める筈がないのだ。
 ああ、と。
 忍びたちが、鷲生とニルズヘッグを見つめる。
 眩い理想を見たように。
 身を焦がす程の憧憬を目の当たりにしたように。
「斯く有ると、誓い合えるものがいれば」
 それこそ、確かめる必要性さえないのだと。
 同じ郷で育った忍びたち。同胞にして戦友である筈の自分達にはない、絆を前にして。
「得られる誇りと刃――如何なるいろと強さか、確かめさせて貰おう」
「払うのは己が命と、心得ろ。戦に身を投じるという意味も、一刀と共に暮れてやる」
 故に斬り落とされた火蓋。
 先に踏み込んだのは鷲生か、それとも忍びか。
 互いに躊躇いなど捨て、斬り懸かるは勇猛にして凄烈。
 同時に数人の忍びと切り結び、鋼の澄んだ音色と火花を散らすは鷲生。
 数多の命奪う切っ先に晒されて。
 けれど、戦場を駆け抜けた烈士の視線を、読みを、勘を逃れる事など出はしない。
 むしろ渦巻く剣戟に縫い止められたかのように、忍びたちは前へと躍り出る事が出来ない。
 すれば確実に斬られるのみならず。
 鷲生の放つ剣気が背を任せる竜の元へは行かせぬと告げるのだ。
 クナイに暗器。持っていて当然のそれらも抜かせなどしないと。
 全ての攻撃を自らへと引き寄せながら、斬り伏せる。
 時さえ稼げば。
 必ずやニルズヘッグは事を成すと信じるが故に。

 ひとへと命さえ預けるような信頼を。
輝かしい誇りのように思わぬ訳がなく。
 
 剣舞へと誘われる忍びたち。
 影へし示し、闇を切り裂く剣なればこそ。
「待たせたな、嵯泉」
 ニルズヘッグが黒槍に宿した呪詛は文字通りの全身全霊。
 操れる限りの呪詛を乗せ、疾走と共に忍びのひとりへと身を躍らせる。
「道を拓いて、送り届けてやるよ」
 優しい声とは裏腹に。
 突き出された穂先は鋭き唸りを上げて、忍びの首へと突き刺さる。
 桜花の白さも塗り替えるようなその黒さ。
 けれど恥じたりしない。
 これでよいのだと、出来る事があるのだと今は信じられるからこそ。
 心身と命を蝕むニルズヘッグの呪詛は、穂先より拡散して放たれ、漆黒の呪殺弾としてあらゆる忍びへと放たれる。
 それは敵意という悪縁を手繰りて届く故に必中。
 魂を穿って食い込めば、妖魔の呪いを呼び覚まして耐えがたき苦痛を撒き散らす。
 事実、痛みなど意に介さず。
 幾ら鷲生に斬られても怯まなかった忍びたちの動きが乱れる。
 その瞬間を、赤き隻眼と烈士の切っ先が見逃す筈などなく。
「――遮斥隕征」
 お前ならば必ず機を作ってくれると信じていたよ。
 ならば、私もそれに答えよう。
「独りならばまだしも、今は伴に在りし剣――何をしようが無駄だ」
 術式を纏う秋水の刃が瞬き、忍びの身を斬り捨てる。
 一閃と振るわれれば、舞い散る鮮血と伴に。
 身ごと跳ねるは鷲生は飛燕の如く。
 迅速を以て自らを囲む忍びへと攻め懸かり、斬り捨てていく。
 受け止めようとする忍刀など。
「芯の無い刀に、止められる刃と思うな」
 剣豪の剛剣にて、操るその身ごと両断され。
 果敢にも捨て身の刺突を放つ忍びは、その動きを見切られ。
 流麗なる太刀捌きにて虚空を滑り、翻った秋水がその首を跳ね飛ばす。
「己が為にと命を捨てる事に、誉れなどない」
 誰かが為にと、胸を張って言えぬのだろうと。
 もしも誇りにいろ、というものがあるというのならば。
 斯くあるもの。決してひとつではなれぬのだと、鷲生は剣光を瞬かせ、呪詛の影を追うように斬り伏せる。
 白でもなければ、黒でもない。
 単色であれる程、単純なものではないのだと。
「嘗てのお前達の在り様が、間違っていたと云う気は無い」
 けれど、何も掴めぬ影こそが今の忍びたち。
 明日はなく、未来もなく。
 例え得る事があっても、それは奪うのみ。
 故に、誇りに目覚める事あれど。
 それこそが苦悩と絶望に至るのだ。
 略奪の上になりたつ、矜持など矛盾しているが故に。
「だが蘇り来た事、其れは間違いなく過ちと心得ろ」
 最後の独りまで切り伏せる烈刃。
 その切っ先が紡ぐ鋭さ、激しさ、煌めき。
 一切衰えることなく、桜が赤く血濡れようとも、鷲生の身と心を染める事などない。
 そう、こんなもの。
 まだ、始まりに過ぎないのだから。
「――行けるよ、嵯泉」
 はらはらと。
 ざわざわと。
 戦の熾烈さに煽られて、夥しいまでの花びらが振り注ぐ中。
 鷲生には奇妙に遠くに聞こえるニルズヘッグの声。
「おまえの剣で終わらせてやってくれ」
 きっと今というものは。
 蘇ったという過ちを続けるのは、どうしようもない悪夢だから。
 故にこそ、振り返らないで欲しいと鷲生に願うニルズヘッグと。
「ああ、引き受けた――必ず終わらせてくれる」
 何処にいようと繋がる縁と約束を懐いて、花吹雪の向こうへと進む鷲生。
 それでいい。もう言葉は不要なのだ。
 縋りたい思いは、あるけれども。
 交わしたい言葉は、あれども。
 進む歩みを鈍らせるなど、ニルズヘッグには出来ないから。


 どうか。
 拓いた道の先を、振り向かないで行ってくれ。
信じて待つと約束したのだから。
 ニルズヘッグの手の中で。
 火を灯す事なくとも、取りに在る事を知らしむライターが握り絞められる。
 爪を立てて。
 縋るように、祈るように。
 儚き夢へと願うように。
 

――……いってらっしゃい、嵯泉
 おまえを待ってる奴がいるなら、そこへ……――

 ざわりと、白桜がざわめいて。
声の変わりと、花が囁く。
 いいや、震えたのはふたりの気配か。


 感じが故にこそ、
 道の先、此よりは振り返る事を己に赦さず。
 もはや声のひとつ。
 出す事もなく、桜でも隠しきれぬ広い背で鷲生は告げる。

――ありがとう、行って来るよ

 終わらせる為に。
 そして、帰る為に。
 進む路は、伴に在りし者と拓いたものなれば。
 また同じ路を辿りて、かの傍らへと帰ろう。
 今は独り、鷲生は進む。
 過去と宿縁の残滓を果たしてこそ。
 辿り着ける幸せがあると、魂が覚えるから。


 名残りなど。
 未練と残滓など。
 在るべきではないのだと、桜が舞い散る。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
アドリブ歓迎

何やら面白い事を仰る
冥府魔道に墜ち人あらざる自覚を持ちながら
その歩みに今更意味を見出そうとするなど
妙に人間臭い忍もいたものです

ヒトを棄てたことを後悔しているのか
付いていく相手を見誤ったのか
あるいは忍となった事さえ忌まわしいのか
まあ、私にとってはどうでもよい事です

夢も願いも誇りも「ない」のではなく
戦いの果てにただ倦んで忘れただけでは?

どのみちもうすぐ楽になれますよ
武神の尾は獲物を決して逃さない
己が力を磨いた自負があるなら
骸の海へ還る前にここへ置いてい(逝)けばいい

もし憐れんでほしいのなら
それは相手を間違えているというもの
道も希みも違えた相手に用はない



 はらり、はらりと。
 白い桜の花びらが振り注ぐ中に浮かぶ、忍びの影。
 雅なる夜景に似合わぬ、虚ろなる姿に。
「何やら面白い事を仰る」
 静かに言葉を向けて。
 鞘より刀身をするりと滑らせるは水衛・巽(鬼祓・f01428)。
 現れたのは直刃調の優美な古太刀、川面切典定。
 ただ、何も斬るが為だけに在るのではない。
 秘めたる霊力は独りでに花を退かせ、巽の進む路を拓いていく。
 さながら、海が割れて道となるように。
 降り積もった桜花ではなく、確かな地面を踏みしめて。
「冥府魔道に墜ち人あらざる自覚を持ちながら」
 歩み寄るは忍びの身へ。
 妖魔の気配は次第に、隠すことなく濃く漂うからこそ。
「その歩みに、今更意味を見出そうとするなど」
 なんともと。
 それだけの闇を漂い、絡み付かせながら。
「妙に人間臭い忍もいたものです」
 まともな地と道を歩いた事などないだろう。
 踏みしめた地面の感覚など、記憶にあるのか。
 今踏みしめる、桜を美しいと。
 或いは悲しいと、今になって憶えるのか。
 問いかけても、まともに返答はないと感じるからこそ、巽は肩を竦めてみせる。
「ヒトを棄てたことを後悔しているのか」
 血肉さえ人ではなく、下手をすれば骨や神経、臓腑に至るまで。
 妖しいの気は満ち溢れ、確かにヒトなどと最早呼べぬ程だ。
 こうも至れば、鬼と変わらない。
「付いていく相手を見誤ったのか」
 ならば、剣の鬼についていく事にしたのか。
 それが正しいのか、間違っているのか。
 判断するだけの芯が、想いが、誇りがないからこそ。
「あるいは、忍となった事さえ忌まわしいのか」
 そうなった過去を、在りし日を、後悔と恨みで焼こうとするのか。
 変わる事など、ある筈もないというのに。
「まあ、私にとってはどうでもよい事です。舞い落ちた桜が、また枝に戻る事はない」
 零れた水は盆へと戻ることなく。
 落花流水とあるがままに流れてゆくだけ。
 故にこそと、川面切典定の美しい切っ先を忍びへと掲げながら。
「夢も願いも、誇りも『ない』のではなく」
 巽の告げる言葉は冷淡で、そして鋭く心を捉える。
「戦いの果てにただ倦んで忘れただけでは?」
 違うというのならば。
 家族の名を挙げてみて欲しい。
 かつてあった、懐かしく、穏やかな日々を。
 或いは子供らしい、幼さの記憶の欠片を語ってみればいい。
 そこには、夢や願いが。
 無垢なる誇りが、あった筈で。
「返り血に汚れ、淀み、穢れてしまったのでしょう」
 出来ぬのならばそういう事だと。
「最早、帰る家も、友もいない命に、何の意味が。いいえ」
 告げる巽に、忍びは前へと駆け出す。
 否定など出来ないから。
振り返れば、余りにも的を射ている事だから。
「もう、ひとではないと自ら云う身で、何が今更得られるというのですか?」
 巽の声は絶望のように、心の底へと響くから。
 鋭く瞬く切っ先にてその先を求めるように、斬撃を放つ。

 けれど、それも足掻きなのだ。

 殺しの刃を受け止めた川面切典定が、刃金の噛み合う音色を響かせて。
 するりと。はらりと。
 破魔の力が、妖魔の切っ先を逸らしていく。
 いいや、それのみならば、花吹雪の中に、何かの形を成していく。
 紡がれる巽の言葉は、春の夜風のように冷たい。
「どのみちもうすぐ楽になれますよ――縛り穿て、玄武」
 声に応じて、川面切典定が霊力を波打たせ。
 現へと呼び込むは凶将・玄武。
 暗黒と邪悪。盗みや不誠実を象徴し。
 その白と黒の姿は、終わりを意味する者なればこそ。
 
 武神の尾は獲物を決して逃さない。

 巽の放った刺突こそ躱せども。
 その霊刀に気を取られれば、降り積もった桜に埋もれ、隠れて奔る尾には気づけない。
 黒蛇の姿を取った尾は地面を這い、忍びの脚へと絡みつきながら巻き上がり、その脇腹へと喰らい突く。
 直後の変貌は如何なる呪縛か。
 武神の尾は無数の棘と、水の縄へと変じて、忍びの動きを完全に縫い止める。
「己が力を磨いた自負があるなら」
 元より真っ向より――など、忍びの望みと願い。
 巽が叶えてやる義理も道理もないのだと。
 北方七宿へと繋ぎ止める水縄が、忍びを縛して離さない。
「骸の海へ還る前にここへ置いて逝(い)けばいい」
 最早、身動きも取れぬ忍びへと。
 優美なる刃を奔らせる巽の斬撃。
 流れる水のように麗しく。
 けれど、何処までも冷たき剣閃が、忍びの首を斬り落とす。
「もし憐れんでほしいのなら」
 すぅ、と美しき眸を細めて。
 巽は屍に、骸の海へと還る者へと突きつける。
「それは相手を間違えているというもの」
 理想や夢は結構。
 けれど、それを叶えるようと。
 心を晴らす為に、祈る者ばかりではないのだから。
 巽はその美しき貌を、翳らせる事もなく。
「道も希みも違えた相手に用はない」
 冥府魔道に墜ちる前ならば。
 過去の残滓として、此処に蘇る前ならば。
 或いは、だとしても。
 巽が何かを聞き届ける言われはなく。
 はらり、はらりと無常に舞い散る桜の如く。
 ただ、ただ、静かに敵を葬るのみなのだ。
 それとも、この静謐な死こそが。
 命奪い続けるだけの影に相応しき幕引きだったのか。
憐れみなど。
 向けるべき相手でもなければ。
 泣いて涙を零してやれば、喜ぶような者でもないのだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
影を生きる者は他の道を知らず、か

勇ましくも哀れだが…
教壇に立つ身としては見過ごせない事態でもある

死線の先に見出す世界は確かにあるだろう
だが…まだ気付く事も出来る筈だ

その業も矜持も
誰の為で何の為であったのかを

▼動
夕凪には伏兵か他者の支援でも

葬剣を無数の鋼糸に展開し機動力を削ぎつつ
早業の連撃で霽刀を振るう
敵の動きは厄介だが言葉を交わすには丁度良い

―これは友人の友人の友人の話だが

その者は恩人達を殺めたそうだ
一度は堕ち掛けたが…今は幸せを探す旅をしていてな
存外、やり直す事は容易いのかもしれんぞ?

―その忍道は見事。だが往く道を選ぶのならば

せめて門出は鮮血以外の色を
次は人道を歩めるようUCで静かに一閃



 果たして。
 ひとのように生きれなかったものが。
 桜を見て情を懐き。
 想いを馳せることを知るのだろうか。
 美しきものへ。懐かしく、優しいものへ。
 触れようと、するなどと。
「影を生きる者は他の道を知らず、か」
 天を知らず、地を知らず。
 故に道理も心得る事できず、闇と血の絡まる刃を振るう。
 それはなんとも。
「勇ましくも、憐れだが……」
 教壇に立つ身としては見過ごせない事態でもあるのだと。
アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は、それこそ懐かしき想いを宿す霽刀【月祈滄溟】を鞘より抜き放つ。
 夜桜と共に舞う青き輝きは。
 刀身に刻まれし、滄溟晶の漣のもの。
想いと記憶がある、その冴え冴えとして美しさに、黒い瞳を揺らしながら。
「死線の先に見出す世界は確かにあるだろう」
 届かぬかもしれない声を、忍びへと投げかける。
 もはや異形。血肉は妖魔というが、武に精通した者が見れば衣の上からでも判る。
 骨格からしてヒトではない。
 幼い頃から、心より先に人体が狂う程の修練を積んだ後に、更に魔道へと墜ちた証。
 そんな者が、何を見出すというのか。
 絶望の中、誇りを目指そうとするそれだけでもせめてだというのに。
「だが……まだ気付く事も出来る筈だ」
 けれど、アネットが目指すのは常に最善。
 剣戟の裡に、桜に抱かれて死ぬのではなく。
 もっと見つめるものがある筈だと。
「その業も、矜持も。誰の為で、何の為にあったのか」
 或いは。
「――今から、誰の為に、何の為にあるのか」
 口調は熱を帯び。
 はらはらと振り注ぐ花びらの中を、音もなく進むアネット。
 忍びは否と、沈黙を保つからこそ。
「アネットさん」
 夕凪が声をかけるのも無理はない。
 彼女を救う為にと取った暴挙は、流石に記憶へと刻まれているから。
 だが、それでも。
「すまない夕凪。伏兵を探して備えるか、他の者の支援にでも。俺は、目の前のこいつに全力を賭す」
「……了解しました」
 故に花を散らして、高速で駆け抜ける夕凪。
 聞き分けが良いのか。
 それとも、聞き分けが悪いとアネットを知るからこそか。
 もう片方の手で葬剣【逢魔ガ刻】を引き抜けば、無数の鋼糸へと形を変えて周囲へと展開する。
「こういうのも、慣れてはいるだろう?」
「真っ向から斬るのがよし、という武士では様子。が……それもよし」
 機動力を削ぐ為にと空間に張り巡らせた鋼糸。
 だが相手が悪く、場所も悪い。
 空を踊る花びらが鋼糸に触れて位置を知らせ。
 敏感な忍びの五感はそれらを捉えて、悉くを抜け出す。
 如何にして挙動を削ぐか。その術を加えぬ儘では、忍びの速さを堕とす事は出来ず。
 迅なる烈閃として瞬く霽刀が、忍刀と切り結んで鋼の音色を奏でる。
 花を斬り裂き、翻る切っ先。
 火花を散らして、互いを弾き合う刀身。
 舞い踊る鮮血の中で、武人と忍びが競い合う。
それこそ、命に届く白刃こそ、誇りのいろを宿すというように。
 いいや、そんなものは忍びの信じるものだけれど。
「動き厄介だが」
 操る葬剣による鋼糸の縛が利かない。
 だが、途中で辞めるという選択肢はなく、不意打ち、騙しにと身を跳ねて動かす事は止めている。
 事実。
 影の如く、そして風のように。
 忍びの体術をもって木々の幹を蹴って飛び跳ねるのならば、此ほど恐ろしい者はなく。
「言葉を交わすには丁度良い」
 真っ向から切り結ぶ今こそ、まさに好都合とアネットの頬が緩み、笑みを作る。
 そも、正面より戦うのであればアネットの領域。
 劣る筈はなく、現状にして既に優勢なのだから。

――これは、友人の友人の友人の話だが

剣戟の音に続けて、アネットは唇を動かす。
「その者は恩人を殺めたそうだ」
 まずは言葉にしてみよう。
 何を願って、祈って、求めているのか。
 自分の中にあるものを形にして。
 外に、誰かに求めてみよう。
「一度は墜ち掛けたが……今は幸せを探す旅をしていてな」
 刃が風切る音も、耳を閉ざさず。
 剣呑の切っ先の光もまた、瞼を開いて確りと見つめてこそ。
 だから、自分の声に応じる相手を、真っ直ぐに見て。
 剣を向けて、命を奪い合うのではなく。
 幸せをこそ、求めるべきなのだろう。
 教壇に立つ者が、ヒトの道としての当然を、守るべき道筋を教えずに斬るなど、出来る筈もなく。
「存外、やり直す事は容易いのかもしれんぞ」
 ああ、もう遅いのだと。
 切り結ぶ裡に。
 それこそ、アネットの振るった刀がその肉を切り裂く度に。
 ヒトの肉ではないのだと。
 独りでに蠢いて失血を止める傷口に、容易さなどないのだと知り。
「――やり直すよりも、我は進みたいのだ」
 瞬間、間合いを詰めて振るわれる忍びの斬刃。
 逆手に持たれたそれがアネットの脇腹を切り裂き、続ける蹴撃が鳩尾へと突き刺さる。
「そも仕える身と心得る。斯く在りし身で、なお進むを、死線の中に求める。憧れた存在が、死戦の中に忘れた者を取り戻すならば」
 それに付き従うだけ。
 冥府、修羅道、何処までも共に。
「その忍道は見事」
 だがと。
 無理に突き進んだせいで、アネットの操る鋼糸が忍びの脚に絡み付き、その筋肉と筋をズタズタに斬り刻む。
 こんな。
 鮮血の赤を、終わりにと求めたのか。
 心と魂に備える、誇りのいろとしたのか。
 違うだろう。
「それでもと、往く道を選ぶのならば」
 せめて、せめて。
 その門出は鮮血以外の色を教えたい。
 仰ぎ見れば、桜は血など知らぬと美しき白を讃え。
 月は透き通るような銀を。
 星たちは真白き瞬きを続けて。
 夜空は、筆舌に尽くしがたい藍色を重ねている。
 ひとときも、同じ色彩など、ありはせず。
『漆式・夢想流天』
 アネットが放つは特殊な闘気を篭めた、静謐なる太刀筋による一閃。 
肉体を傷付ける事などなく。
 既にある傷や苦痛から解放し、苦悩の未来や、絶望の可能性を終息させる救済の刃が、忍びの生命を斬り伏せる。
 それは、死神の指先に他ならず。
 死をもって、救いとなすものであれ。
 夢を描き、天へと流れて、また地へと戻るように。
 新しい命では。
 確かなヒトとして、生きられるように。
「次は人道を歩めるように、な」
 静かに精密なる剣閃をもって。
 桜花の舞い散る地面へと伏す、骸へと声をかける。
 その姿を無惨に晒すなどありはしないと。
 はらり、はらりと。 
振り注ぐ花びらが、次第に忍びの屍を覆い隠した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
一番異形の忍と相対

力の意味…と
御伽の騎士は、己が迷子ても声を掛ける物
私の論が参考となれば

己が生み出した兵器の罪に、自死を選んだ学者がおりまして
…その被造物の一体が私です

全身格納銃器撃ち切る勢いで暗器鬼火撃ち落とし
身から伸ばすUC6本
鞭か蛇の如く操り剣盾と共に切り結び
異形の戦機と忍、激突し

これが、私達のこの姿こそが『力』!
如何な思想、大義、善悪問わず命散らす刃!

力は力
でなくば…真っ先に討たねばならぬのは…

何の為に振るい
何を誰に齎したのか

力の意味とは、その意志と歩んだ道

伽藍洞に宿り縋った騎士の道
もはやその善果と悪果から逃れようとは思いません

今、何の為に刀握るのか
…それが貴方の答えでは無いのですか!



 それは偶然なのか。
 或いは、桜の呼び寄せた必然なのか。
 そのふたつに、どれだけの違いがあるかなど。
 誰も知らぬままに、異形と異貌が相対する。
 方や、伸びた影の如くひとの輪郭さえ歪みし妖魔の忍び。
真っ直ぐ歩み寄るは、純白なれど鋼鉄によってなる戦機の身。
 ひとの血肉はありもせず。
 けれど心は、と揺らぐふたりが、桜の振り注ぐ宵に出会う。
「力の意味……と」
 問われたが故に、僅かに懊悩を滲ませながらも。
 真っ直ぐにに応えるのはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
「御伽の騎士は、己が迷うても声を掛けるもの」
 ならば斯くあろう。
 その信念こそ、誇りとして忍びが求めるものなれば。
「私の論が参考となれば」
 それは幸いなのだと、礼を成す。
 端から見れば、人を真似る人形のようでも。
 何処までも直向きに、求める者達だからこそ。
 けっして、ひとではない、などと言えないのだ。
 もはや妖魔の血肉ばかりと成った者も。
 最初から魂など宿るべくもない鋼鉄の人形も。
 それでもと。
 焦がれて手を伸ばすは御伽という理想なれば。
「己が生み出した兵器の罪に、自死を選んだ学者がおりまして」
 刀剣や絡繰りとはまた違う。
 それ自体が動き、破滅させ、死を呼び込む闘争の権現たち。
 作り、作られ、果ては無く。
 壊して、欠片を集め、また新しい闘争を。
 そうして星から星をと渡り、数多の日常と幸せを破壊していくもの。
「……その被造物の一体が私です」
 恥じるように。
 それでも認めるように。
 翠玉のようなセンサーアイを向ければ、忍びがぽつりと。
「感情滲む声を出すものが、物、などと」
 云ってくれるなと。
 忍びの虚ろな裡に、確かに感じるものがトリテレイアの語りにあったからこそ。
「汝の如き様を示すものに誇りなければ」
 こころと謂ういろ、なければ。
「我にもまたなかろう。形ではない。姿ではない。有り様を、心と誇りという」
「けれど、最初に抱いた物は、最初の歩みは変わらない。過去とはそういうものでしょう。それを認めて、越える事こそ変わるということなれば」 がちゃりと。
 鋼の駆動音を響かせて。
「己の始まりを否定して――どう変われるというのでしょうか」
 自らの身に宿るものを。
 武であり、技であり、道具を。
 使わず、認めず、用いず。
 どうして誇りだけはあるといえるのかと。
「全力で。忍びの技も、妖魔の術も、人の心も。全てをお向け下さい。戦機の身は、それと衝突する事しか出来ません」
 殺す為に作られたものと。
 殺す為に育てられたもの。
 なんとも似ているのに、違う様に。
 くっ、と忍びが喉の奥で笑う。
「まさか、終わりの時にコレを使うとは。誇りとは、ああ、己の始まりを否定しては辿り着けぬか。ならば」
 と、声が響くと同時。
 闇夜に溶け込みながら飛翔するは黒塗りのクナイや暗器。
 更には妖魔の鬼火も重ねて呼び出し、トリテレイアの元へと向かわせる。
 ならばと全身にある格納銃を撃ち切る勢いでもって、投擲された暗器や鬼火を打ち落とすトリテレイア。
 純白の装甲には傷ひとつ、つけられず。
 夥しいまでの弾丸が、刃が地へと落ちて。
 束の間の静寂が訪れる。
 忍びの姿や何処に。トレテレイアの情報収集を以て捉え切れぬ。
 センサーで以て捉えられぬは、影の技。機械を欺くは、妖魔にまで至る人の技の果て。
 はらり、はらりと。
 舞い散る桜花に紛れて、妖魔の忍びが瞬断の刃を振るう。
「そう、全てを使う。でなければ、全身全霊とは言えないのですから」
 それを大盾で受ければ、その頑丈な装甲に斬跡が刻まれる。
 真っ向から受ければ。常人が耐えようとすれば。
 それこそ盾ごと切り裂いただろう、その鋭さ。
 これが命奪う忍びの刀なのだと、示しながら、再び闇へと滑り込む影。
「そして、騎士の場へ。光のある場所へと、貴方を導きましょう」
 それが御伽の騎士の役目なのだと信じるから。
 トレイテレアが身より伸ばすは六本のワイヤーアンカー。
 自らの駆動時間を犠牲に、ワイヤーを超高熱化させると同時に高速振動による溶断を可能にさせる。
 ああ、なんとも。
 騎士というよりも、魔物めいた姿なのだと。
 鏡があれば、自らの姿に困ったように首を傾げただろうトレテレイア。
 それでも、これも戦いの形の一つだと。
 闇に逃げ込もうとする忍びを追撃し、儀礼剣を振り翳す。
 激突する刃同士が、壊れ逝くような鋼の悲鳴をあげながら。
 異形の戦機と忍びが激突し、幾度となく交差する。
 振るわれる刃と刃。
 互いに所詮は換えの利く武器と身だと、まるで己を擲つかのように。
 捨て身ににも似た一撃は互いの守りを抜いて、その身を斬り裂く。
 切り裂く、のだけれども。
 確かに覚悟と信念、在りし者達なのだけれど。
 止まることのない、怪物の貪り合いにしか見えないのだ。
「これが、私のこの姿こそが『力』!」
 美しき月と桜の下で、異形の戦を続けるトリテレイアと忍び。
 身を斬り裂かれども、駆動に問題なければ意味はなく。
 飛び散る鮮血も、互いにないのだ。
「如何な思想、大義、善悪問わず命散らす刃!」
 所詮はそうなのだ。
 使う物の思いと感情次第で、全てが移ろう。
 力とは、儚きいろ。
「力は力。でなくば……真っ先に討たねばならぬのは……」
「でないから、かく貪るが如く殺し合う。故に、力は力か」
 高熱と振動を帯びたワイヤーに肩口を深く斬り裂かれた忍びが。
 肉体ではなく、心に感じた痛みに口調を苦く揺らして。
 トリテレイアの続きを、引き取る。
「真っ先に討たねば成らぬは……怪物なる力を宿す、我ら」
ああ、だからこそ。
 理想と信念が必要なのだ。
 光の標という、矜持の路が大事なのだ。
 何の為に振るい。
 何を誰に誰に齎したのか。
「力の意味とは、その意思と歩んだ道」
 誰でも扱う事の出来る力こそ。
 トリテレイアを紡ぎあげた技術の力と業だからこそ。
 夢も理想も、誇りも、扱う意思の先に続く筈なのだから。
 響き渡る刀身の悲鳴。
 苛烈なるトリテレイアの斬撃と、六本のワイヤーによる鞭の如き強襲に耐えかねて、無銘の忍刀が半ばより砕け散る。
 それでも。
 半ばより砕け散った刀を捨てることなく。
 逃げるでもなく、諦めるでもなく、トリテレイアの懐へと滑り込もうとする忍びの歩法。
 されど、トリテレイアも引く事なく、戦機の怪力をもって大盾による一撃を、さながら槌の一撃の如く忍びへと見舞う。
 吹き飛ぶ異形の忍び。
 追撃にと戦機が残る弾丸を全て吐き出すように、格納銃を乱射する。
「伽藍洞に宿り、縋った騎士の道」
 轟き渡る銃声に負けずと声を張り上げるトリテレイア。
 白花には無粋な、鉛弾の輝きを放ちながら。
「もはや、その善果と悪果から逃れようとは思いません」
 この銃にも意味ありし。
 優雅な桜の風情を撃ち滅ぼそうとも。
 これが嘗て、幸せを壊したとしても。
 手放さない。全てを抱き抱えて、懊悩しながらもトリテレイアは進むのだ。
 そう。
 例え、自らを創造せし者を、壊すものだとしても。
「己が因果、宿業、産まれに逃れず、立ち向かうこそ、意思でしょう!」
 ひとの血が残らず。
 妖魔の黒き血煙を身から噴き出しながらも、銃弾の驟雨を突き破って迫る忍び。
 確かに、トリテレイアはその身を、その眼を捉えて。
 折れた忍び刀を、されどと握り絞める指の動きをも、戦機の媒体に記録して。
 魂など。
 不確かなモノに縋らずに。
「今、何の為に刀握るのか」
 その指先にまで伝わる感情、思いこそが大事なのだ。
 身がどうなろうとも。
 化生に怪物で結構。力は善悪など問いはしない。
 異形である事を、まず認めて。
 それでもなお、振り絞るその力の源は。
「……それが貴方の答えではないのですか!」
 トリテレイアの六本のワイヤーが螺旋を描く。
それは無惨なる斬渦を成し、忍びの腕と脚を斬り跳ばして。
 されど、最期の瞬間の答えを見出す瞳と、言葉を紡ぐ為の残すから。
 何処まで行っても戦うしか能のない機械。
 されど、心と誇りへと思い馳せ。
 戦う相手を案じることは、出来るのだと。
 これは決して。
 真似事ではなく。
 最初に記録された騎士のお伽噺の再現でもない。
 トリテレイアに芽生えたものだと。
 異形の忍びにも、妖魔となったひとにも、ある筈だと。
 儀礼剣が、その心臓へと突き立てられる。
「そう、さなぁ……我は」
 ごぽりと。
 黒い血を吐き出して。
 いいや、妖魔の穢れを全て流し尽くすように。
「我は……誰かが為にと戦いたかった。この強さが、誰かの為にあるのならば」
 それは優しく、夢のようだと。
 ならば鬼でよい。
 ひとの願いを叶える、化け物でよいのだと。
「なんとよき夢、か」
「それを誇りと抱き、散り逝きください……花が看取ってくれるでしょう。ご存じですか、全ての魂を救う、輪廻を呼ぶ永久の桜の噺を」
「ああ、それは」
 是非とも。
 聞きたかったと、唇が言葉の形をなぞれど。
 声を紡げず、そのまま息を引き取る忍び。
 異形の騎士の剣に貫かれ。
 けれど、穿たれた穴より、魂のいろを滲ませて。
 魂に癒やしと救いをもたらす、桜の噺。
 トリテレイアの憧れる騎士の御伽噺の如く。
 この忍びが、まだ墜ち切る前に知れたのなら。
 結末は違っていたのか。
 それとも、故にこそ。
 この結末より、先は紡がれ、芽吹くのか。
 はらはらと。
 桜は散れど、全てが尽きるはまだ先。
 吹き抜ける夜風は、冷たさで戦機の身を撫でる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…力に意味など在りません。
力とは道具に過ぎず自らが律し『使う』もの、
言うなれば貴方の持つその刀、その延長線でしかないものです。
故にどれほどの切れ味を持ったとて、ただ在るだけならばそこに意味は無し。

それを以て何を為すか…、その研鑽に、どれほどの魂が込められたのか。
意味とはそこに『生まれる』ものです。

為すべきものは見えずとも、そこに在る貴方の魂は確かな様子。
…名を聞きましょう、ヒトたる貴方の有する御名を。
――その魂に、我が武を以て応えましょう。

UCを発動、残像で敵の高速移動に追従し
怪力、グラップルでの格闘戦にて戦闘展開
見切り、野生の勘で斬撃の軌道を予測、回避ないしカウンター


…骸の海では、良き夢を。



 月も花も。
 漂いし風と、訪れた影さえも静かならば。
 それを破ることなどないと。
 冷たくも穏やかに、声を紡ぐは月白・雪音(月輪氷華・f29413)。
 忍びの嘆きは判れども。
「……力に意味など在りません」
 それが全てへの応えなのだと。
 桜と月の美しき白さを背負い。
 さくりと踏みしめて、前へ、前へと歩む雪音。
 どれだけ無常であれ。
 真実とは斯く在りしと、人の武を極めた者として。
「力とは道具に過ぎず、自らが律し『使う』もの」
 指先を伸ばして、はらりと泳ぐ花びらを捉えながら。
 赤い眸を僅かに揺らす、雪音。
「言うなれば貴方の持つその刀、その延長線でしかないものです」
 それをどうするか。
 何を目指すかが重要なのだと。
 自らの殺戮の衝動を律し、力と変える者として、しずしずと声を紡ぐのだ。
「故にどれほどの切れ味を持ったとて、ただ在るだけならばそこに意味は無し」
 ああ、だからと影は意味を問うているのかもしれない。
 だとしても、それに応えられる他人などいないのだ。
 雪音の武術が、雪音だけにしか意味を持たないように。
 それを以て、何を成そうというのか。
 長く続けた研鑽の中で、どれほどの魂が込められたのか。
「意味とはそこに『生まれる』ものです」
 己の裡にのみ。
 応えはあるのだと。
 はらはらと振り注ぐ花びらよりなお静かに語る雪音。
「同じ事を、同じ武を、磨き上げても、心中に紡がれる意味は、誇りは、個々にて異なるもの」
 故に見出さねばなりません、と。
 それが終わりなく、果てなき路だとしても。
 己が裡に生まれて芽吹いた、その意味を知るが為に。
 あらゆる武を学びし者はその旅路の途中なのだ。
 悟るには長く、それこそ月に至るかのように遠い路なれどと、雪音は夜空を見上げて。
「為すべきものは見えずとも、そこに在る貴方の魂は確かな様子」
 そうなのかと。
 虚ろな影が、微かに揺らぐ。
 まるで何も見えない。
 三毒に侵されたかの如く、魂は不明瞭。
 浴びすぎた血で眼は曇り、魂も為すべきも判らぬのだと。
 言葉にはせずとも。
 雪音は揺らぐ忍びの気配で知り。
「……名を聞きましょう、ヒトたる貴方の有する御名を」
 ゆらりと。
 白花よりも軽やかに。
それでいて、月の輪郭の如く鋭く。
 構えを取る雪音。寸鉄を帯びず、その身ひとつで数多の戦を踏破した者なればこそ。
 その精神、想い、信念は色づき、形を成して。
「――その魂に、我が武を以て応えましょう」
 今や魂にまで響く武威を紡ぐに至るのだ。
 この拳にて触れてみせよう。
 虚ろだという、その魂に。
 それは命の砕かれる、終幕の残響だとしても。
 確かに、雪音は忍びに魂を見出したのだから。
「名は、石榴」
「良い名ではありませんか」
「熟して爆ぜる実は、血肉のようであれ?」
「終わりばかりを見ていては、ついぞ見出す事など出来ません」
 故に、その寸前。
 真っ向より挑み、命を散らすその刹那に。
「石榴、貴方に救いがあるように。為すべきを見出せるように」
 祈るように、想いを馳せて。
 その身に宿した戦の粋を顕わにして疾走する雪音。
 足音さえも消し去り。
 何事にも揺れることなく。
 されど、雪のような白い残像を幾重にも生み出して。
 一気に迫る雪音と、気流を纏って高速で迎え討つ忍びの石榴。
 忍刀より放たれる斬衝波を見切り、するりと横手へと翻して避ける雪音。
 追撃に放たれた斬撃の切っ先も、また紙一重で避けてみせれば。
 更にその奥、忍びの懐へと踏み込むや否や、旋風の如き連続蹴りを叩き込む雪音。
 ほっそりとした身体からは想像も出来ない程の力を持って、撃ち据えるは頸部、顎、こめかみと全て急所。
 骨を砕き、脳髄揺らし、意識を霞ませる雪色の武撃。
 のみならず、己が勘に従い地を這うように身体を低くすれば、その頭上を忍刀が滑りゆく。
「見事です」
 脳震盪を起こしながらも、それでもと忍びの放った斬撃。
 常人。或いは、一流程度の剣士ならば今ので命を絶たれていただろう。
 確かに、磨き上げられた忍びの殺人剣。
 冴えと心得は心身にまで宿り、研ぎ澄まされた技術は呼吸にさえ。
 だが、それで為すべきものが見えぬと。
 己が心に問うても、見出せぬ影たる者へと。
 ああ、確かに。
 他の者でも変わりが利くと、己を殺すように育てられたが忍びなれば。
「石榴。その名を抱いて、今は」
 次でこそ。
 或いは、今から逝く場所でこそ。
 見つけられれば幸いなのだ。
 矜持といういろ。
 それは、雪のような真白きものもあるのだと。
「眠りなさい……骸の海では、良き夢を」
 殺戮衝動も、獣の本能も。
 全て闘争の技と力に変えて、心臓の真上へと拳を叩き込む雪音。
 音もなく。
 鼓動さえ、撃ち砕いて。
 けれど、けれどと。
 魂には響けと、武を以て触れる。
 それはただ、壊して崩すしかないのだけれど。
 これを以て、為すものがあるのだと。
 静かに静かに、赤い眸が告げて。
 吐息の終わりを感じる程の距離で、忍びの最期を看取りゆく。

 はらりと。
 命の花が舞い散って。
 雪のような白さの元に、見送られる。
 次なる時があるのならば。
 為すべきこととして。
 どのような夢と理想を、骸の海で見出すのか。
 未だ誰も判らずとも。
 雪音の声と武は、確かに石榴の魂に届き、響いた筈なのだから。

 己を律し、正しく路歩むが為の。
 その清らかなる武と心が。
   

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
(影に誘われるように
気付けば此処に

知己達が居る事も知っている
が、先に影と一対一で)

意味、な
俺も偉そーな事は言えないや

ただ
一寸先は闇の道で、彷徨い、足掻き、其でも転げ落ちずに灯を得て
人となれた身だからこそ、分かる所も、思う所もある

(人として、せめてその想いに応じたい――
故にこそ、敢えてこのUCで、受けて立つ
この力でも、成してみせる
乗り越えてみせる

そうして道開けば
二人の元へ参じ)

――どうせなら己の影から逃れるより、いっそ打ち克ってけ
なんて結局偉ぶった!
(道明に笑って返すも
狐に即顔顰め)
其方こそ、嫌な気配の忍が紛れてるんで敵かと!

全く――
(誰も彼も見事な花の色で
目に心に焼き付けて
見届けよう)


佳月・清宵
【花守】
忍にしちゃあ随分と酔狂なこって
(忍らしからぬ羽織纏う身でしれっと宣い)
俺ァ手段選ばぬ主義だがな
まぁ良いぜ
今日はその酔狂に乗ってやろう
生真面目な武人殿の覚悟の手前、無粋な真似は出来ねぇしな?

(華ある羽織と薄ら笑いの下、黒一色の着物と朧気な本性の影を秘して生きる身
同類の様な、真逆の様な、忍が紡ぐ言葉に何を思ったかは返さぬも――唯刃で応えに

得意の搦手は使わず
奇しくも似たUCで
珍しく本当に真向から掛かり

斬って斬られていっそ愉快
――まるで己の影とやり合う様だ)

よお、ずいぶんと遅かったなァ
寝坊か?
新手かと思って危うく叩き斬るとこだったぜ
(もう一つ増えた影に笑い)

役者は揃った――後は気が済む迄、餞を


吉城・道明
【花守】
忍たる者が、そう来たか
ある意味では、不意を打たれた心地だ
…俺はこの刃で以て仕合う以外、大した事は出来ぬ
此処は譲らぬ、護り徹す
その一心で死力を尽くすのみ
だがせめて、武骨なりに、得心行くまで付き合うぐらいはしてみせよう
全く――お前も元より同じ腹積もりであろうに、清宵

(それ以上は茶化さず静かに疾る刃を見れば、己も余計な口は挟まず
――UCで真向勝負に耐え、応え)

ああ――同意見だ、伊織
お前ならばそう言うと思った
…序でに口喧嘩を始めるだろうとも思っていた

(影は影でも、確かな道を知って駆ける者
――お前達はそういう者だと信じている

ならば並び立ち恥じぬよう
俺も俺なりの道を示し
道無き道を彷徨う影に引導を)



影に誘われるように。
 或いは、妖魔の呪詛に誘われるように。
 神の花たる桜に縁遠き者として。
 ゆらりと、ゆらりと此処に辿り着くは呉羽・伊織(翳・f03578)。
 先に影と対峙し。
 ひとりと、ひとりとして声を響かせる。
「意味、な」
 そんなものは、はてさてと。
「俺も偉そーな事は言えないや」
 ただと。
 伊織はこの世に漂う、闇夜と呪いの深さを知るからこそ。
 互いに常闇の存在を身に宿すからこそ、通じるだろうと。
「一寸先は闇の道」
 彷徨い、足掻き。
 其れでも転げ落ちずに灯を得たのだと。
 人となれた身だからこそ伊織に分かる所も、思う所もある。
「どうなるかなんて、判らぬものさ」
 なればこそ。
 人としてせめてその想いに応じたい。
 故にこそ、敢えてと受けて立つ身に沸かせるは呪詛の深奥たる鬼道。
 身に宿す幽鬼、巡る呪詛を暗き炎のように立ち上らせ。
 けれど、御して自らの妖刀、烏羽の冷ややかなる黒き刀身に赤く、赤くと絡み付かせて。
この力でも。
 いいや、この力でも、成して見せる。
 乗り越えて見せると、鴉が羽ばたくように。
 或いは、黒き夜鳥がその翼を広げるように。
 踏み込みて、瞬くは漆黒の斬閃。
 道を斬り拓いて見せれば、ほらよと。
 転がる屍もまた、次なる命として芽吹く時。
 或いは、黄泉に漂う時に。
 妖魔に墜ちた身でもと、信じられよう。
 斯く有れし意味など、ないから呪いなれど。
 それを越えていく事が出来るのだと、はためく伊織の羽織りがはためいて。
 先へと進む。

 
 ならばと。
 忍びとしては、如何なる者か。
 剣を持つものには、如何に見えるのか。
 また一幕がその先に。



 なんともまたと。
 戯けてみせるのも、また影なのか。
見える心根は朧気に晦まして、面妖なる狐の美貌を見せるは佳月・清宵(霞・f14015)。
 ああ、確かに美しい男の貌ではあるが。
「忍にしちゃ随分と酔狂なこって」
 自らも化生の忍びだというのに。
 らしからぬ華やかなる羽織纏う身でしれっと宣う姿。
 ひとの顔と言い切れるのか。
 騙し、眩まし、惑わすが狐なればこそ。
「俺ァ手段選ばぬ主義だがな」
 ああ、今宵はそういう調べが漂うのならば。
 花が散り、はらはらと。
 白く霞む、こんな夜ならば。
「まぁいいぜ。今日はその酔狂に乗ってやろう」
 代わりに、ふるりと。
 繊細な花舞う羅煙管を細き指先で踊らせて。
 淡く烟りて幻惑もたらす前にと、懐へと仕舞い込む。
「生真面目な武人殿の覚悟の手前、無粋な真似は出来ねぇしな?」
「全く」
嘆息は、けれど鋭く。
 一言でもって斬り捨てる刃のよう。
「お前も元より同じ腹積もりであろうに、清宵」
 妖しいも忍びも、影も闇も。
 刃を振るえば、ただ斬られるのみ。
 それを為してこそ、侍たる者だと吉城・道明(堅狼・f02883)は瞼を瞑りて続ける。
「が、忍びたる身が、そう来たか」
 真っ向より挑むなど、磨き上げた技にあらずだろうに。
 或いは、別の道を探すからこそなのか。
「ある意味では、不意を打たれた心地だ」
 けれど。
 どう在ろうとも、どのように成ろうとも。
 道明が出来ることはただひとつのみと、遺志と共に託された刀をするりと鞘より引き抜く。
「……俺はこの刃で以て仕合う以外、大した事は出来ぬ」
 だがと。
 此処は譲らぬ、護り通す。
 その一新で死力を尽くすのみと。
 そんな志の一刀は確かに誇りの色を宿しているのだから。
「だがせめて。武骨なりに、得心行くまで付き合うぐらいはしてみせよう」
 なあ、貴様もそのように在るのだろうと。
 それ以上は茶化す事などありはせず。
 華ある羽織りと薄ら笑いの元。
 黒一色の着物と朧気な本性の影を秘して生きる身として。
 清宵は同類のような、真逆のような。
 忍が紡ぎ言葉に何を思ったかは、返さぬもの。
 誇りのいろとは。
 斯く在りし、意味とは。
 言葉などで示さず。

――唯、刃で応えに。
 
 妖念纏う疾風と化す清宵。
 奇しくも気流を纏い、同じく高速化した忍びと共に。
 珍しくも本当に、得意の搦手の悉く、使う事なく。
 烈風と化した刃にて、互いを斬り散らす。
 音さえ遅れて聞こえる。
 斬風は肌を咲き、刃が届けば鮮血が舞い散る。
 振り注ぐ花びらの、なんと遅きことかと、刃が瞬く瞬間に瞳で捉えて。
 斬って、斬られて。
 続けて響かせる剣戟の、なんと澄んだ音色か。
 纏うは妖念と、妖魔だというのに。
 神楽鈴を鳴らしながら、桜の中で舞うかのような有り様は。
 ああ、いっそ愉快に愉快。

――まるで己の影とやり合う用だ。

 同類の様な。
 真逆の様な。
 だから幾ら斬れども、斬られども、止まらない。
 どちらが果てても、きっと、祈りの鈴は鳴り響く。
 妖しは散ったと、神は白花を注ぐからこそ。

「影相手に、簡単に果ててはやれねぇなァ」

 そんな清宵の声に。
「――どうせなら己の影から逃れるより、いっそ打ち克ってけ」
 ついぞ舞台へと飛び上がるは伊織の姿。
 鬼道を御す身体は早く。
 そして、強く花積もる地を蹴って、いざと。
「なんて結構偉ぶった!」
 いいや、それで良いのだと。
 遅れて登場した者へと、乱入者へと静かに応えるは道明。
「ああ――同意見だ、伊織」
 別に驚く事ではない。
 花に妖しは憑きもので。
 なれば憑きものは、花に魅入られる。
 影の忍びも、剣鬼も斯く在りし。
 故にと、静かに奔る清宵の刃を見ながら。
 同じく高速で駆け抜ける忍びを、真っ向より迎え撃つ道明。
 剣気にて斬撃波は弾き返し、戦えば戦う程に研ぎ澄まされる烈士の刃を見せるのだ。
「お前ならばそう言うと思った」
 切っ先三寸、妖魔の忍びの急所へと届かせて。
 命を斬り伏せる一刀と至らせながら。
「よお、ずいぶんと遅かったなァ」
 対する清宵はなんとも、木の葉の影のように揺れていて。
 いいや、掴み所がないままで。
「寝坊か? 春宵に、眠りにと触れたか?」
 言葉に次いで翻る切っ先で、忍びを捉えながら清宵が声を漏らす。
 もうひとつ増えた影へと、笑いに笑い。
「新手かと思って危うく叩き斬るとこだったぜ」
「其方こそ、嫌な気配の忍が紛れてるんで敵かと!」
 道明には笑いつつも、狐たる清宵へと即座に顔を顰める伊織。
 ふらり、へらりと芯を見せぬは。
 これもまた似たもの同士だからか。
「……序でに口喧嘩を始めるだろうとも思っていた」
 そう、序でに。何時もの事。
 平時とて。戦場とて。
 彼らが変わる事など、在りはしないのだと。
 影は影でも、確かな道を知って駆ける者。

――お前達はそういう者だと、信じている。

 ならば。
 言葉にはせずとも、この一刀を以て示して暮れよう。
 峻烈なる一閃は、後の先より忍びの心臓を捉えて切り裂き。
 彼らに並び立ち、恥じぬようと。
 次なる忍びへと、更に攻め懸かる。
 これが、道明なりの、我が道なのだと。
 道無き道を彷徨う影に引導もたらす、守る覚悟を剣光として瞬かせる武士として。
「全く――」
 互いに芯を、性根を見せぬから。
 伊織と清宵の応酬など、果てて終わることなく。
 なんとも不毛に。
 そして、口喧嘩の勝敗は先へと持ち越されながらも。

――誰も彼も、見事な花の色で。

 目に、頃子に、焼き付けて見届けよう。
 さあ、さあと妖念に幽鬼、烈士と剣と役者は揃った。

――後は気が済む迄、銭を。

 三途を渡る為の六文銭ばかりは、懐にいれておけよ。
 命を払って見るに相応しい舞台を。
 矜持と刀剣の花が繚乱と咲く、その一幕を。
 その魂へと見せて暮れるのだから。
 迷わず、渡り逝け。
 彼岸は彼方。
 桜の過ぎ去った彼方へと。
 奔る刃、鋭き軌跡を描いて道と成す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『灰都の将・焔影』

POW   :    覇壊
【大太刀と其の鞘に因る斬撃と乱打】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    獣往
【鞘を捨てる】事で【背水の陣を敷く手負いの獣状態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    瀑怨
【大太刀の叩き付け】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を燎原へと変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は鷲生・嵯泉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●断章~灰燼の刃、燎原たる歌~


 鋭き風が吹けば。
 さらさらと散りて退く、桜の花びら。
 舞台を飾る花が如く。
 白刃を以て成す神楽舞を歌うかのように。
 剣鬼の如き道を進む者、焔影の進む路を作り出す。
「どいつもこいつも」
 進みながら。
 前へ、前へと進むしか知らぬ剣鬼となりながらも。
「いいじゃねぇか。強いってのは、こうも素晴らしいもんだ。お前らの手で果てたこいつらも、満足してんだろうさ」
 血濡れて、屍となって桜花に沈む配下たち。
 応えを求めて、突き進んだ成れ果てなれど。
 嗚呼、なんと華やかな事か。
 誇りのいろとやら。
 美しく、麗しくも。
 影たる身に刻む事は出来たのらば。
「求めたモノは手に入ったと、満足したか。俺は十全に教えてやる事なんざ出来ねぇからよ」
 有難うよと。
 豪胆に笑うは焔影。
 本懐の元に死した者へと涙するは士に非ずと。

――きっと、テメェらみたいな奴が相手じゃなきゃ。

「求めるモノは手にはいらねぇんだよ」
 ざらりと。
 何かが噛み合うような音を立てて、抜き放たれるは大太刀。
 見事なる業物なれど、くすみし刀身は灰の如く。
 されど、放たれる威圧は幾多の激戦を潜り抜けし灰燼の熱を帯びて。
 生と死の狭間で研ぎ澄まされた、その切っ先を泳がせる。
「俺達みてぇなモノは、結局な」
 だから。
 死線に身を置き続けたかのように。
 命を落とすその寸前を、延々と繰り返したように。

――その中で。

「喪っちまったら、喪った場で探さねえと意味がないだろうが」
 どうして。
 戦場で失った誇りを、日常で取り戻せよう。
 日常で失った幸せを、戦いの中で取り戻せるだろう。
 それこそが残滓を成す情念。
 過去たる身は、今という刹那はあれど。
 明日へと続き、重なる道を知らぬのだから。
「約束があった気がするんだよ」
 剛を以て奔る斬閃は、桜の幹を両断し。
 灰の剣風が渦巻いて、白き桜花が吹き散る。
 我が振るう剣威。真っ向から受け切る物など在りはせずと、示すが如く。
「その続きを歩く以上、この道に在るものは全て、斬る。二度と譲らねぇ、負けねぇ。理由なぞ忘れても、この想いが尽きねぇ限りな」
 残るは剣鬼に成った焔影という、現のみ。
 触れれば命を落とす剣呑なる刃の美しさに魅入られたのか。
 舞い散る花の儚さに、何かの想いを託したのか。
 それとも――誰かと交わしたモノこそ、探し求めているのか。
 

 ただ、残滓となってこの世に遺れど。
 この儘では消えられぬと、焔影は戦の猛りを示すのみ。
 真実は、彼が残骸故に。
 過去の存在でしかなが為に。
 朧なる儘に、消え失せてしまったけれど。
 在りし日の事を、失いし命と。
 抱かれた想いと志を確かめる術など、ありはせずとも。


 だからなんだと。
 灰色の大太刀が、月夜に翻る。
「思い出せねぇが、命がひりつくような。互いの命に届くその瞬間にだけは、ここが、心臓の奥が脈打つんだよ」
 だから、テメェらは。
 きっと、テメェら相手ならば。
「誰かを、何かを。探し求めているモノに辿りつけるんだろうよ」
 もはや、虚ろなる影ではなくなった。
 そいつらのように。
 或いは、笑って誰かを迎えてやりたかったのに。
 強い相手に勝つ事。
 最早、それだけしか残骸となった魂には在りはしないから。
「もっとも」
 咲き乱れ、舞い狂う桜を越えて。
 灰色の大太刀を携える焔影が、豪快に笑い、磊落なる様を見せる。
 戦にて惜しむ事など在りはせずとも。
 潔く散るは異なる事なのだと。
「俺の命、簡単にくれて遣る気はねぇぞ!」
 かつては烈士だろうその身と、武を。
 過去の灼き付いた灰の刃にて振るうのだ。


――愛しき夢が醒めた、尊き残滓と余韻に浸るように。


「さあ、命の潰える瞬間を交えようか」
 そこにこの剣と魂はあったのだと。
「勝つのは、俺だ。残るのは、俺だ」
 取り戻すかのように、焔影は戦場に吼える。
 

 
 
 
 
ラルス・エア
桜を背後にする焔影の言葉を耳に
憐れみではなく同情でもなく。
何よりも尊きものを喪ったのであろう
その事実への悲しみと、ただ心に浮かぶ哀しみに
一度瞑目し瞳を開く

「生きているこの身には…まだ残る『己の心に尊ぶ想い』を守る為、貴殿から戦わず、逃げるという選択肢もあった」

しかし、と
覇気を灯した拳を握る
「だが――貴殿の喪ったその想い
この拳に懸け、その心に取り戻すまで付き合おう
それは貴殿にとって何よりも尊きものであったであろうが故

しかし譲れぬものはある…勝ち、この場に残るのは俺である!」

相手UCは気休めだが激痛耐性で受け
その乱撃の中を覚悟を伴い正面から見据え、限界まで引きつけた末
カウンターからの自己UCを発動



 散り往き、終わり逝く桜を背後に。
 修羅と血刃の道を歩まんと、声を響かせる焔影。
 既にその刀身は灰の色へと変わっているのに。
 まだだ、と。
 志半ばにて、果てる事など出来ないのだと。
 吼える姿は、永劫に救われる事のない剣鬼と思うから。
 ラルス・エア(唯一無二の為だけの・f32652)は一瞬だけ瞑目し、紫の瞳を覆い隠す。
 心に浮かび、漣のように揺れるのは憐れみや同情ではなく。
 何よりも尊きものを喪ったのだろう、その事実への悲しみと。
 ただ心に浮かぶも、灰の刃に伝わらぬ哀しみへ。

――尊き何かを残して、果てるなど出来ないのだから。

 それはラルスも。
 いいや、人ならば常の筈。
 だからこそ、瞑った瞼を開いて。
 此処に残ってしまった存在へと、静かにラルスは語りかける。
「生きているこの身には……まだ残る『己の心に尊ぶ想い』を守る為、貴殿から戦わず、逃げるという選択肢もあった」
 しかし、と。
 覇気を灯した拳を握り締め、ラルスは前へと歩み寄る。
 焔影の元へ。
 戦いと刃の裡へ。
 はらはらと舞い散る桜を越えて。
「だが――貴殿の喪ったその想い」
 指で触れず、握れずに。
 腕で抱き締められず、確かめられず。
 もはやどんなものだったのかさえ、不確かなのだけれど。
 いいや、だからこそ。
「この拳に懸け、その心を取り戻すまで付き合おう」
 想いの尊さを。
 切なる願いと、違えられぬ約束を。
 知るからこそ構えるラルスは、不退転の意を固める。
「それは貴殿にとって何よりも尊きものであっただへろうが故」
「そいつは嬉しいね。それだけ覚悟を抱えている奴は、強いと相場が決まっている」
 きっと焔影もそうなのだろうと。
 ラルスの心の底で感じるものがあるからこそ。
「しかし、譲れぬものはある」
揺らめくラルスの覇気はさながら陽炎のように。
 青紫の人狼は、己が信じる人道をただ進むのみなのだと。
「……勝ち、この場に残るのは俺である!」
 故に疾風の如く、一気に間合いを詰めるラルス。
 大太刀の間合いに徒手空拳というのは余りにも不利なれど。
 臆す事などありはしないのだと、滑り込む青紫の影。
「それを決めるのは、互いの武って奴だ」
 故に迎え撃つは、焔影の繰り出す大太刀と鞘の乱撃。
 剛の斬撃は唸りをあげてラルスを切り裂き、続く鞘は骨をも砕く重さで振るわれる。
 舞い散る鮮血に、軋む肉体。
 全身に走る激痛は真っ向から受けるものではないのだとラルスに知らせても。
 ただひとつの覚悟をもって焔影の繰り出す乱舞を潜り抜けるラルス。
 大太刀は紙一重で避け、放たれる鞘は裏拳を叩き付けて弾き返し。
 更に前へ、前へと。
 正面から、互いの瞳を見据えるように。
「いいね、アンタ」
 故に斬風が渦巻く最中で、焔影は告げる。
 敬意であり、強者への賛辞であり。
 何より、戦いを知る者へとの語らいとして。
「己が痛みも傷も厭わない。それでこそ、漢ってもんだ」
「ならば、貴殿も斯く有るか」
 大太刀に脇腹を深く抉られど。 
 ついに焔影の懐へと踏み込み、更に身を捻って力を溜めるラルス。
 限界まで引きつけて。
 後の先として放たれるラルスの拳は、必殺の一撃と化す。
「ああ。死ぬ事さえ、恐れてはいやしないさ」
そうと知りつつ、いいや、だからこそ退けぬと鞘にて振るう焔影。
「……貴殿も己が死ぬという事を、恐れるなど出来はしないか」
 振るわれた鞘の剛撃より早く。
 風を裂いて放たれるラルスの拳の猛撃。
 右腕に浮かぶ彼岸花の紋様が、春宵にて咲く。
未練ある魂を黄泉へと葬るように。
 残滓と在る心を、骸の海へと還すように。
 胸部へと打ち込まれたそれは、焔影の体内の骨も内臓をも撃ち砕いて、後方へと数歩よろめかせる。
「やるな。いいや、そうでなけりゃ」
 口より血の塊を吐いて。
 それでなお、灰色の大太刀を構えてラルスへと向き合う焔影。
 視線は逸らさず。
 互いを己が技の間合いに収めた儘に。
 剛毅な笑みを浮かべる焔影と、静かな決意を示すラルス。
「さあ、付き合おう。その心を取り戻すまで」
 故にと。
 再び交差する、灰の大太刀と彼岸花の剛腕。
 ふたりとも身体より深紅の血を、花びらのように舞い散らせて。
 白桜の入り込む余地のない激戦へと。
 その身を投じていく。
 ただ心の儘に、意思が儘に。
 尊く、大切なる何かの為にと。


 夢は褪めれど。
 命と花は散れども。
 喪われてよい想いなど、ありはしないのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
剣鬼……そうなるまで強さを求め続けたあんたにかける言葉を俺は持たない
尤も、あんたも俺の言葉を聞く気はないだろうから……剣で語ろう
あんたのお眼鏡に適うといいんだが

鉄刀を収め、神刀の封印を解く。輝く刀から溢れる神気を身に纏い、自らの限界を超える
――黎の型【纏耀】。今の俺の全力で相手をさせてもらう

敵の攻撃を見切り、受け流し、斬撃波とともに切り込み、カウンターで一撃。自身の持てる技と力の全てを使って凌ぎ、攻撃を与えていく

だが流石に強いな……鬼と呼ばれるだけの事はある
それでも、だ。俺は未来の為に剣を取る。過去に、そして今この瞬間に留まり続けるあんたに負ける訳にはいかない
舞い散る桜の花弁と共に、一閃を放つ



 人も花も終わるもの。
 されど、終われぬから成って果てるが鬼なのだ。
 想いが、願いが。
 此処で潰えるなど出来はしないのだと。
 未だ剣の道の中はだからこそ、判るのだ。
「剣鬼……そうなるまで強さを求め続けたあんたに、かける言葉を俺は持たない」
 鉄刀をするりと鞘に納めながらも。
 戦意の燃える黒き瞳にて、焔影を見つめるは夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)。
 切っ先を向けるかのように。
 これより始まる戦いに、意識を向けて。
「尤も、あんたも俺の言葉を聞く気はないだろうから……剣で語ろう」
 それでしか解り合えず。
 報われる事のない業を、剣士とは背負うものだから。

 白鞘より封を解かれた神刀【無仭】の剣閃が夜を裂く。
 
 新羅万象、悉くを断ち斬ると詠われた輝く刀身から触れるは神気。
 身に纏い、自らの限界を越えて夜刀神が歩み往く。
 真の姿へと変じて至る神器一体の境地は、それこそ一振りの刃のよう。
「あんたのお眼鏡に適うといいんだか」
 美しくも凄烈に。
 夜刀神の矜持を輝かせ、道を斬り拓くべく。
「今の俺の全力で相手をさせてもらう」  
「ああ。そればかりを俺は望んでいるんだからな」
 故に死合おう。
 命の瀬戸際。そこでしか得れないものがあるのだと。
 剛毅に笑い、地を踏みしめるは焔影。
「感謝さえしようか。言葉で通じるなら、既に止まっているのだろうからな」
 故にと、焔影の灰色の大太刀が烈風を伴って振るわれる。
 剛の武を以て、鞘と共に繰り出されるは乱撃。
 全てを斬り伏せ、壊してみせるのだと。
 愚直に進むしか知らない漢の剣は、猛威となって吹き荒れるのだ。
「たが、止まらないから今、俺達はこうして刃を交えるのだろうな」
 目の前に立つのが半端な剣士であれば。
 構える刀ごと粉砕する程の剛剣が乱れる最中へと、夜刀神は自ら切り込んでいく。
 切っ先を見切り、翻る鞘の猛打を受け流し。
 噛み合う刃金同士の上げる絶叫と、火花を周囲に散らして。
 さながら激流を乗り切るかのように、夜刀神は剣戟の乱舞を斬り抜けていく。
 己が持つ技と力の全てを駆使し。
 桜花の元で踊るは、武と刃の神楽。
 両者、剣士の魂を持つが為に、強者を前に止まる道理などある筈もなく。
 現状は拮抗。いいや、揺れ動く天秤なのか。
 神刀の切っ先を翻し、衝撃波を放つものの。
 焔影へと届く刃風は浅い。
夜刀神もまた、鞘での一撃が掠めていく。
 夜刀神と焔影は、勢いで劣る方が競り負けると判っているからこそ、より苛烈なる剣戟の渦へと身を投じていく。
 剣気と神気が絡み合い、渦巻いて花を散らせながら。
 刹那の隙を伺い、作り出そうと白刃が瞬きあう。
「流石に強いな……鬼と呼ばれるだけの事はある」
「鬼、なぞとは勝手に呼ばれているだけだ。そういうアンタも強い。ああ、確かに眼に灼き付く程の剣だ」
「呼ばれるような存在になったという事だろう。……そうなる前に、剣士としてお前と対峙できれば」
 或いは違ったのだろうか。
 共に強さを求め、剣と技を磨き合えたのだろうか。
 だが、今という現実は変わらない。
 夜刀神の生き続ける、この路を変えたりしない。
 選ばれし者として、責務と共に生きるこの現実は。
 迷いなどないのだと、振り切るように。
 踏み込むと共に奔らせた神刀が、灰の大太刀を弾き返し。
 衝撃波で浅いのであれば、刀身そのもので切り込むのみと、更に前へと踊り出る。
「それでも、だ」
 迎え撃つように放たれた鞘の一撃を紙一重で見切って躱し、更に一歩と。
 大太刀の間合いを踏み越える夜刀神。
「俺は未来の為に剣を取る」
 過去の灼き付いた灰色の刀身に臆す事など、在りはしないのだと。
 輝く神気を刀身へと凝縮しながら。
 焔影が続けて振るうより、更に早くと。
 迅速をもって、駆け抜ける夜刀神の放つは静謐なる斬閃。
「過去に、そして今この瞬間に留まり続けるあんたに負ける訳にはいかない」
 舞い散る桜の花びらを伴い。
 流麗に流れるは三日月の如き一閃。
 すれ違い様に放たれた斬刃は、確かに焔影を切り裂いて。
鮮やかなる鮮血を夜に散らせた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【華禱】
先に逝った彼等のように貴方も求めているのでしょう
誰かの為という、その「誰か」が判らなくとも
身に染み付いた記憶の残滓が心を動かす

――御相手致しましょう

夕凪殿は立ち回りに注意を
相手は大太刀の使い手、力での勝負は不利となれば
大振りを躱すことに集中し、隙を狙うよう動いてください

攻撃は幾重刃
2回攻撃を基本とし、距離を詰めていく
攻撃は見切りから動きを見極め、残像にて回避
躱し切れない際には武器落としにて弾いて軌道をずらす
負傷は激痛耐性

どれだけ想いが身を動かしても
それに繋がる記憶がなくてはなりません

大きな戦で記憶を失い彷徨う己の姿を見て思ったのです
決意だけで戦う己はこんなにも強く、哀しいものなのだと


篝・倫太郎
【華禱】
喪ったものの重さ
それを知った処でどうにか出来るものでもない
ただ、彼女の往く道を阻む災禍なら狩るだけだ

夕凪、突っ込み過ぎるなよ

斎火使用
利用するのは水の神力
詠唱と同時に破魔と吹き飛ばしを乗せた華焔刀でなぎ払いの先制攻撃
刃先返して2回攻撃

夜彦と夕凪が動き易いように攻撃が通りやすいように
陽動とフォローが俺の役目
確実に庇う事で二人へのダメージを軽微にする

俺自身への攻撃は回避せず
オーラ防御と水の神力を用いた壁で防ぐ
負傷は激痛耐性で耐え
以降の攻撃には生命力吸収を乗せる事で対処

誰かを護るための戦いとあんたが今仕掛けてる戦い
意味が違い過ぎて同じにしちゃなんねぇモンだろ、そいつは

護るための刃を知れよ、焔影



 花が惜しむ事なく散れるのは。 
きっと喪いしものの重さを、知れぬから。
 はらはらと、さらさらと。
 美しい白の花びらを、夥しいまでに零す桜たち。
 けれども人は違うのだ。
 此処まで進み続け、剣の鬼と成ってしまう者。
 何を喪ったのか。
 どれほどに大切な重さと、痛みがあるのか。
 夜空を舞う花びらのように軽やかだなんて筈はないのだと、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は思うからこそ。
「それを知った所で、どうにか出来るものでもない」
 取り戻せるなら、焔影がもうしている筈なのだ。
 もはや叶わぬ夢を追いかけるからこそ、鬼という災禍になる。
 どうしようもない物をなんとかしようとして。
 周囲を巻き込み、不幸の爪痕を日常へと刻み続ける。
 そうやって彼女の、『しあわせ』へと往く路を阻むというのならば。
 倫太郎は、焔影を災禍として狩るだけ。
 そこに、何の思いも。
 情も必要などない。
 
――それが最早ひとではなく、災禍という、厄なれば。

 艶やかなる朱の焔が舞い踊る薙刀、華焔刀 [ 凪 ]を諸手で構えながら。
 倫太郎は琥珀色の眸で、前へと進み出る月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の姿を捉える。
 藍色の髪と、穏やかな佇まいは宵空に溶けるようで。
 それでいて、放つ剣気は何処までも清らかに。
 烈士とは斯く在りしと、静かに焔影の正面に立つ夜彦。
「先に逝った彼らのように、貴方も求めているのでしょう」
 唇より紡ぐはしずしずと。
 一度、白刃が瞬けば消えてしまう時の中で、せめてもの思いを。
 情など不要。確かにそうだろう。
 だが、必要か不要かだけで判断できる程、世は単純ではないからこそ。
「誰かの為という、その『誰か』が判らなくとも」
 夜彦はこうして、想いを形にする。
 いいや、叶わぬ恋慕の果てに。
 竜胆の簪を本体として、魂とこの姿を得たのが夜彦なのだから。
 叶わぬからと。
 そう、『誰か』を想う気持ちを切り捨てる事など出来ないのだ。
「身に染み付いた、記憶の残滓が心を動かす」
 或いは、その灰色の大太刀に刻まれた約束なのか。
 どちらにしても、もはや定かではない、残骸に過ぎず。
 花びらのように。
 吹けば飛ぶ、灰燼のように。
 ただ不幸と災いの色を、撒き散らすから。
「なればこそ――御相手、致しましょう」
 鞘より滑らせるは霞瑞刀 [ 嵐 ]。
 剣鬼の余燼を清めるべく、蒼銀の刀身は美しく流れる。
 鞘に描かれた清流のように。
 或いは、鋭くも曇り無き刃として。
 逝くべきを判らぬと惑う花と灰を、いざ斬り裂かんと。
「夕凪殿は立ち回りに注意を」
 言葉に頷くは、傍らに控える夕凪。
 黒刀を構えるは二人よりやや数歩下がって。
 敵は大太刀の使い手、力での勝負は不利。
 となれば、大振りを躱す事に集中し、隙を狙うようにと告げる夜彦に従いながらも。
「夕凪、突っ込み過ぎるなよ」
「……判っています。ええ。過去に呪われ、囚われたような身に、思う事はあれど」
 青い瞳を伏して、倫太郎に応じる夕凪。
 いいや、倫太郎に言われねば、焔影の姿に真っ向から応じようとし過ぎたかもしれない。
 救われたように。
 救おうと、もう戻れぬ者にもと。
誰彼構わず心をもと救おうとするのは、誰かに似てと。
「……きっと、あんたのせいだぜ」
「救ったのはふたりで、でしょう」
 夕凪の『しあわせ』を求める旅路がどちらの思いにより影響を受けているのか。
 それを知るのは、まだ先だから。
 その未来を切り拓く為にも。
 振るわれるは華焔刀と。紡がれる術式。
『砕き、祓い、喰らう、カミの力』
 倫太郎が纏うのは水の神力。
 全てを洗い清めんとする破魔の力と共に、津波の如く薙ぎ払われた華焔刀の美しい刀身より放たれる。
 花びらを纏う流水、剣風と共に渦巻いて。
「さあ、始まりだな」
 待ちに待った殺し合いなのだと、剛毅に笑う焔影が大太刀の一振りで倫太郎の流水を絶ち切る。
 まさに剛剣。直接触れずともその剣威が容易ならざるとは判るのだ。
「確かに一刀ごとの衝突なら、流石にあんたの勝ちだろうさ」
 だが、倫太郎の刃先を返されての二度目には反応出来ず、そのまま水の勢いで後方へと吹き飛ばされる。
 元より倫太郎は陽動とフォローが役割。
 先制こそ放てど、ふたりが動き易いように場を整えることこそ自分の役目と知るからこそ。
 夜色と雪色の剣士、夜彦と夕凪が姿勢の崩れた隙にと一気に焔影へと疾走する。
 先に攻撃を放ったのは夕凪。
 側面より強襲し、妖念纏う黒刀を振るって焔影の鞘を弾き、更に守りの隙を広げる。
 こちらもまた、更に続く志士の剣を信じるからこその支援に徹する形だ。
「こう繋げられた以上は、果たして見せましょう」
 ならば応えねばと、春宵にて凛烈なる蒼銀の斬撃が奔る。
 小さな花びらをも斬り裂き、灰色の大太刀と激突する霞瑞刀。
 澄んだ音色を響かせながら、切っ先を翻して続けて振るわれる霊刀の一閃。
 先の斬撃より鋭く、早く。
 それ以上に焔影の呼吸を、戦いの癖を読んでその命に迫る夜彦の静かなる斬閃。
 刀による攻撃を重ねれば、重ねる程。
 相手を知り、その護りと癖を知り、研ぎ澄まされる幾重の刃こそ夜彦の技なれば。
『見極めるは……幾重の末』
「成る程。アンタが見極めるが先か、俺が斬り伏せるが先か、か」
 正面より、刃を瞬いて切り結び、火花を散らす夜彦と焔影。
 その間を縫うように、倫太郎の華焔刀の刃が地を這って焔影の脚へと迫り。
 鞘による殴打を繰り出そうとすれば、夕凪の黒刀が刺突を放って動きの起点を穿つ。
 それら受けて焔影の動きが止まれば、夜彦が放つ蒼銀の剣光が二連にて迫る。
 身を斬られ、血を流し。
 それでも笑う焔影。
 元より強者との命の遣り取りが本望ならば、この瞬間こそその時。
 命にまで届きかねない、その刃たちの美しさに目を細めて。
「ああ、見事。見事だが……しゃらくせぇ!」
 轟くは裂帛の気迫。
 華焔刀を蹴り跳ばし、黒刀を跳ね返せば、そのまま破壊の乱撃が周囲へと猛威を振るう。
 渦巻く大太刀は灰の斬閃の後に鮮血を散らせ。
 無常にも、壮絶なる剣風が渦巻いて桜が剥ぎ取られる。
「確かに、これは」
 一度動き出せば、容易は止められない。
 太刀筋を見切りて残像と共に避けるも、追い詰められていく夜彦。
 大振りなのは確かなのだが、螺旋描くような乱撃は何処までも正確無比。
 振り終わりの僅かな隙を鞘の殴打で補いながら猛る姿は、確かに剣鬼という名に他ならず。
「かつ、正統剣術……ですか」
 ただ暴力に訴えるのではなく。
 紡ぎ続けられた技術の元に振るわれているのだ。
 夜彦の翠色の眸に移る灰色の太刀筋は、確かに侍のそれであり。
 避けられぬと大太刀を弾いた所で、続く攻勢を止まらない。
 そのまま鞘による殴打で夜彦を吹き飛ばさし、更に追撃へと迫る焔影。
 相手を斬り伏せるまで、灰燼の大太刀は猛威を振るうからこそ。
「だからって、退く俺達かよ!」
夜彦と焔影との間に割って入るのは夜彦。
 水の神力とオーラ防御を重ねた壁で大太刀を防ぎ、鞘の重撃を華焔刀で受け止める。
「いいねぇ。テメェみたいな気勢が良い奴は、好みだぜ?」
「っ……生憎、俺はあんたみたいな災禍を狩るのが役割なんでね。好かれていいのか、悪いのか」
 羅刹が生まれ持つ筈の怪力を上回る剛力。
 水の神力と破魔の気が、灰の大太刀の纏う剣気に推されて。
 けれど、退かない。避けない。
 倫太郎は、己が誓いを忘れないのだから。
「誰かを護るための戦いと、あんたが今仕掛けている戦い」
 鍔競るように。
 肉体も精神も苛烈なる消耗を見せながらも。
 それでも、正面より受け止め、吼える倫太郎。

――汝は刃、我は盾

 如何なる時も、斯く有らんと誓ったから。
 護るという事を、倫太郎は忘れる訳にはいかないから。
「意味が違い過ぎて同じにしちゃなんねぇモンだろ、そいつは!」
 絶対に退かない。負けない。
 ああ、護るという事を見誤った災禍になど、決して。
「俺が好きで、想いを寄せる刃は、あんたみたいにくすんだ奴じゃねぇんだよ!」
 この誇り、穢させてなるものか。
 あの誓い、踏み躙らせてなるものか。
「ええ。全てが清い儘に……など、言えぬ身ですが」
 私と貴方は違うのだと。
 夜色の長神を靡かせ、再び切り込むのは夜彦。
 幾重にも放った斬撃は、既に焔影の命に届く程に研ぎ澄まされており。
 流星の如く、夜闇にて輝く蒼銀の剣閃。
 静謐で美しくも、何処までも命奪う程に鋭きその輝き。
 焔影の胸部を斬り裂き、花吹雪と共に鮮血を舞い散らせる。
「どれだけ、想いが身を動かしても」
 微かに、剣気を揺らめかせ。
 一度斬れどと、身を翻す夜彦。
 確実に剣鬼たる焔影を断てていないのだと、感じるからこそ。
 全霊を振り絞る。
「それに繋がる記憶がなくてはなりません」
 喪ったものは取り戻せない。
 それは記憶であり、思い出であり。
 約束であるのだろうから。
 決して、決して、一度でも違えてはならないのだから。

「私を刃であれと言ってくれる人の前で、他なる刃に負ける訳にはいきませんから」

 上段より迫る灰の大太刀より早く。
 僅か一瞬。
 その刹那の差に、命と魂の差があるのだと。
 そこに在る記憶と、約束が明暗を分かつのだと。
 焔影の身を斬り伏せる、夜彦の二之太刀。
 大きな戦で記憶を失い、彷徨う己の姿を見て想ったのだ。
 決意だけで戦う己はこんなにも強く、哀しいものなのだと。
 最早、意味を成さない約束と誓いの為に。
 此処まで進み続けた、焔影にもまた、同様の思いを抱くから。
「いいねぇ。そいつは、とてもいい。お前等となら、確かに思い出せそうだ。……思い出せねぇなら、勝てはしないとよく判る」
 傷口を押さえながら、身を揺らがせ後方へと下がる焔影。
「ああ、そうさ」
 今度は倫太郎が正面より。
 そして夕凪も後方へと回り込み、牽制を仕掛けつつ、夜彦の為の隙を作り出そうとする。
「護るための刃を知れよ、焔影」
 ここにはそれがある。
 知った上で。
「その魂に刻んで、骸の海へと還りな。……約束を違えたら、二度と取り戻せないって」
 激突する華焔刀と灰の大太刀。
 黒刀が幾度なく翻って焔影の動きを止め。
 僅かな間隙へと、蒼銀の斬刃を届かせる夜彦があるからこそ。
「誰かの為を亡くした約束がこんなにも脆く、弱いものだともな」
 或いは。
 己さえ、見失っているのか。
 判らないからこそ、花の舞い散る夜に刃が鳴く。
 決してこうはなるまいと。
 はらはらと振り注ぐ花の下で、焔影という災禍を葬るべく。
 
 時と命は儚く、流れ逝くのだから。
 せめて交わる一時は。
 抱きし思いと願いを、違えることなく。
 夢(しあわせ)は。
 ここにと、刃と盾が桜吹雪と共に舞う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クルル・ハンドゥーレ
避ければ敵に利するのみ
なら焔影の攻撃とUCにはその動きを見切り
限界突破+武器受け+盾受け+オーラ防御+結界術で受け止める
そのまま吹き飛ばし+カウンターやシールドバッシュで距離を取りUC展開
さらに暗殺+鎧無視攻撃+マヒ攻撃+破魔+毒使い+フェイントで攻撃

なくした約束は壊れたのか
或いは忘れたかったのか
忘れずにいられなかったのか

その忘却は呪いやろか
それとも剣を振るう上で祝福となったんやろか

残骸になったあんたに刻まれた想いは
あんたが堕ちぬ為の誰かの祈りやろか
それとも死合いたいが為の妄執やろか

…嗚呼、詮無き事やねえ
あんたは剣と戦いを欲し
私らはそれを止める
あんたという死を踏みしめて
私らは先へ進む
それだけや



 零れる吐息は、花びらを踊らせて。
 何処に行くのか。
 そして、何処にいったのか。
 夥しい程の花と時間に埋もれて。
 大切なるひとひらは、いったい何処へと。
「なくした約束は壊れたのか」
 美しい唇でなぞるはクルル・ハンドゥーレ(逆しまノスタルジア・f04053)。
 嗚呼、と冷たい声色を揺らしながら。
「或いは忘れたかったのか」
――それとも、忘れずにいられなかったのやろか。。
 真実は最早、過去へと流れ過ぎて。
 誰も判らないのだろうけれど。
ゆらりとクルルが琥珀色の眸を泳がせれば、灰色の大太刀を振りかぶる焔影の姿を捉える。
 風の吹くまま、移ろう儘に。
 などと、この男は決して出来なかったのだろうと。
 鼓動は遠くと、朧気に残る花の香気を漂わせて。
 されど桜に埋もれず、振り下ろされる剛剣にても払えぬものとして、マルルは匂わせる。
 大上段から叩き付けられる大太刀など、恐れるものではないと。
「避けても、的に利するのみ。なら、やねぇ……」
 太刀筋を見切り、己が限界を突破して紡いだ結界を。
 紅緋の貴石が彩る白い手袋より、敵意を喰らい尽くして咲く光花の盾として展開する。
「眼に映る凡ては」
 けれど、全ては儚きものと。
 光花の盾が斬り砕かれるのを見ながら、薄紅と白の花が咲き乱れる薙刀で、大幅に勢いの減じた大太刀を受け止めるクルル。
 それでも身が軋む程に重く、剛なる一刀。
「呪いのように続く、儚きもの」
 けれどと、クルルは詠うように言葉を紡ぎ。
 受け止めるや否や、技の終わりを測って吹き飛ばし、距離を取る。
 剣士の焔影に対して、その大太刀が届く間合いにいては危険。
 けれど、一度弾いて距離さえ取ればと。
『あまねき旻より赫焉、あまねき黄泉より冥闇――』
 クルルの視線が呼ぶは、天之原よりの光焔と底根国からの常闇。
 逃れられぬ災いとなって、焔影の身を蝕む。
 はらはらと振り注ぐ花たちより静かに。
 けれど、命を奪う光と闇。
「その忘却は呪いやろか」
 つぅ、と指先でひそやかに。
 咲き乱れる花が柄を巡り渦巻く薙刀をなぞって。
「それとも剣を振るう上で祝福となったんやろか」
 結ばれた淡い珊瑚朱の花の房飾りを、爪で弾いて。
 捉えどころのない、蜃気楼めいた幻の残滓の聲を揺らめかせれば。
 光焔と常闇に蝕まれる焔影へと、クルルは薙刀を一振り。
 咄嗟に焔影が大太刀で受け止めようとするものの、するりと流れる切っ先はフェイント。
 流れるは花の如く。
 そのまま死角へと入り込み。
 毒のように身を爛れさせる祈りを刃へと。
 そして、焔影の身へと斬り裂いて、流し込む。
 そのまま数度、身を翻して、花吹雪と共に薙刀を振るうクルル。
「残骸になったあんたに刻まれた想いは」
 刃の奏でる風の音を伴い。
「あんたが墜ちぬ為の、誰かの祈りやろか」
 詠うクルルは、止まらない。
 謎めいて、芯を捉えさせず。
 その姿も見えず、神秘的な歌声ばかりを残しながら。
「それとも死合いたいが為の妄執やろか」
 幾度なく振るう薙刀の刃で、鮮血を花と共に空に舞わせる。
 優雅でありながら。
 命と思いなどと、冷淡に。
「……嗚呼、詮無き事やねえ」
 死神のように冷たくて、優しくて。
 妖精のように気紛れで、揺れるが儘に。
 白桜が咲き誇る裡で、乳白色の髪をさらさらと靡かせるがクルル。
 血のを咲かせても。
「あんたは剣と戦いを欲し、私らはそれを止める」
 だたそれだけのことなのだと。
 花が咲けば散るように。
 或いは、それに魅入られる一夜があるように。
 ただそれだけの、当たり前に過ぎ去る事なのだと、詠うのだ。
「あんたという死を踏みしめて、私らは先へ進む」
 生きるという、当然なのだと。
 情動が揺れれど。
 酔い痴れるような美がそこにあっても。
 目を背けたくなるような、悲劇の醜があったとしても。
「あんた終わる悪夢――それだけや」
 全ては諸行無常。
 流れ逝き、散り逝き、消え去るだけの事。
 そうでないのは。
 今を生きるクルルたちだけ。
 その裡に抱えた想いだけ、なのだから。
 終わりなく振り注ぐように思える桜花とて。
 本当はすぐに散り終り、枯れるのだ。
 それより数日だけ、早くその命を散らせるだけなのだと。
 クルルの振るう薙刀が、春宵に咲いた戦の夢に終止符を告げる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴桜・雪風
もはや不退転、ですか(捨てられた鞘を見やりつつ)
世界の未来の為に、貴方に残られるわけには参りません
ならば我が意、望み通り刃に載せて振るいましょう

全てを振り捨てた対敵の速度は尋常ではありませんね…
ならば対抗できる札を、切ると致します
「死に花を咲かせるなら、先に撒くものがありましょう?」
【無念喰らいの死人桜】、発動
――我が身を死人と同じ処に堕としてでも、貴方を止める
その覚悟はして参りました

後は剣の技で優劣を競うのみ、ですが……
死者の想いに縁深い花咲か爺さんの遺灰が、この場に渦巻く想いに何某か反応してしまうかもしれません
例えば、一際強く燃え盛る炎の、その夢の残滓などに



 からん、と。 
降り積もった桜の上に投げ捨てられる、大太刀の鞘。
 見れば焔影の瞳は獣の如く猛り。
 ただ進むのみと、灰色の大太刀を諸手にて構える。
 前進するしか意にはない。
 他は全て、鞘と共に投げ捨てたのだと。
 ああ、確かに剣鬼とはこういうもの。
「もはや不退転、ですか」
 湖畔の如き眸でちらりと捨てられた鞘を見やりつつ。
 優美な和傘を傾け、声を紡ぐのは鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)。
 声は届いているのか。
 それさえも定かではなけれども。
「世界の未来の為に、貴方に残られるわけには参りません」
 一際、強く吹き抜ける春の風に。
 白桜の花びらと、鈴桜の水色から薄紅へと移ろう髪が攫われる。
 ただ揺れ動く事がないのは。
 互いの携えた、切っ先の鋭さのみと。
「ならば我が意、望み通り刃に載せて振るいましょう」
 穏やかに、たおやかに。
 優雅なる姿を失う事になく、告げる鈴桜。
 その繊細なる身が纏う静かなる剣気に反応し、駆け抜ける焔影。
 尋常ならざる速度。全てを振り捨てた対敵とはこういうものかと。
 帝都の闇を見続けた鈴桜にも、覚悟を覚えさせる程。
 桜吹雪を斬り裂きながら。
 残像ばかりを揺らめかせ、闇へと潜り。
 灰色の斬閃を残して、周囲を奔る。
 修羅の獣とはこうものかと、一息に命奪う刃の気配を感じて。
 ならば対抗できる札を、この瞬間に切るのだと鈴桜に決意させる。
 眩き闇を泳ぐ者として。
「死に花を咲かせるなら、先に撒くものがありましょう?」
紡ぐ言葉が喚ぶのは、この世に在らざる魂。
 鈴桜の背に浮かぶのは老爺と犬の霊。されど、これは骸魂。
 想いと血を吸いて咲き誇るが桜ならば。
 無念と死魂を喰らうも、死人の桜として。
『さあ、枯れ木に花を咲かせましょう。――桜の花が咲く、その意味を教えて差し上げますわ』
 謎めいた美しさはそのままに。
 ぞっとするほどの冷たさを、周囲に満ち溢れさせる。

「――我が身を死人と同じ処に堕としてでも、貴方を止める」

 静かなる声ばかりが響く。
 足音のひとつ、この世にはない静寂。
 まるで彼岸の世界に、この桜の森が吸い込まれたように。
「その覚悟はして参りました」
 骸魂と結びつき、一時的にオブリビオンとなった鈴桜。
 その力は増し、背水の獣となった焔影の動きを見切れる程に。
 故に後は剣の技で優劣を競うのみと。
 直刀を携え、灰の大太刀を構える焔影へと切り込む鈴桜。
 美しき剣閃は、冴え冴えと。
 白桜の振り注ぐ中に、幾つもの三日月を描いていく。
噛み合う刃金の澄み切りながら。
 高潔なる志をもって振るわれるのだと、夜の空へと響き渡る。
 ああ、止めなければ。
 その覚悟は、この胸に。
 望む通り、刃へと鈴桜は意を乗せて、玲瓏たる刃を瞬かせる。
 幽玄なる鈴桜の剣と、猛威を吼える焔影の剣。
 されど、真っ向から噛み合う事はなく。
 互いの刀身を弾き合い、その命に届く刹那を求めて、あやとりのように複雑に絡み合う。
 けれど。
 ああ、確かに剣技を競い、その勝利を求めるものなれど。
 鈴桜が、ただ単なる勝利を求めるのだろうか。
 その美貌に浮かべた穏やかなる笑みが変わらないのは。
 ただ剣のみに全てを懸けている者のそれなのか。
 定かではなく、謎めく鈴桜の心を見抜ける者などありはせず。
「まあ、もしもではありましたが」
 切っ先が奏でる美しい音色の元に。
 唸りを上げる灰の大太刀を斬り伏せ、逸らしながら。
「死者の思いに縁深い、花咲か爺さんの、この遺灰」
 花も、人も。
 あらゆる命は灰となり。
 消え逝く定めだと、示すようなそれが。
 じわりと、じんわりと、淡い光を帯びる。
 ただそれだけでいいのか。
 終わりて消えるだけでいいのかと。
 この場に渦巻き、灰燼の中で鍛え上げられた焔影の大太刀に、色を鳥見戻させる。
 くすんだ灰色など、本来のものではないのだと。
 花を咲かせ、色を鮮やかに満ち溢れさせることこそ、遺灰の願いならば。
 そして――魂を慰め、癒やす事こそ、桜が務めにして誉れなればこそ。
「例えば」
 刹那に、一際強く燃え盛る炎の。
 切望にして、渇望。
 魂の回光返照。
 この約束を護りたかったのだと。
 死んでも、死にきれないのだと。
「その夢の残滓などに」
「俺は――」
 遺した夢ぞ、花と咲かせよ。
 魂に燃え続ける程の、祈りならば今宵にて花開く。
 忘却の彼方、灰に埋もれた願いは、此処に叶うのだと。

「――アイツの帰りを待つと、護ると約束したんだよ」

 それは、灰にまで焼かれた骸が己を取り戻す、奇跡の一滴。
 振り下ろされた大太刀の切っ先は鈴桜を捉えず。
 大地へと振り下ろされ、埋もれ、銀色の刃を輝かせる。
「此処で、死んでたまるかよ」
 消え果ててなるものか。
「殺させて、たまるかよ」
 死戦の中で護れなかった約束を、今度こそと。
 花咲かせ、成就させようと。
 幾度となく修羅場を繰り返し。
 死なずに、『彼』を迎えるという事を願い続けて。
 ああ、けれど。どんな修羅場を潜り抜けても、彼は帰ってこない。
 だって――その為の場所は、灰となって燃え尽きたのだから。


 命を散らせて、違えて失った約束なのだから。
 忘却して、消えてしまった魂。
 けれど、戦いの熱を感じれば、死を覚えれば。
 微かに思い出せるから。
 命の散り逝く、戦いの中にはまだあると信じていた。
 取り戻せるのだと、願っていたのだ。
 

「アイツが笑って……帰ってくるために」
 ぽろぽろと。
 言葉が零れて、桜が覆う。
灰都の将。敗北と死の灰に埋もれた魂。
 護るが為に、在りし過去が今だけは咲いている。
 すぐに消えてしまう。
 桜のように儚いものなれど。
「左様ですか。ならば」
 するりと流れる鈴桜の切っ先は優しく。
 その命を、罪を斬る。
 鈴桜はその刃に、己が意を載せて振るっていたのだから。
 命奪う為ではなく。
 きっと魂を慰める為だと思うのは、幻想だろうか。
 謎めく鈴桜の本心など、ついぞ誰も読み切れぬままに。
 ただ今、灰より咲きし事のみぞ真実。
「忘却した真実……貴方は護りたかった。帰る場所を、友の居場所を」
 もはや、そんな都はありはしない。
 全ては灰に。灼き尽くされて、巡る灰に。
 降り積もった灰の中に隠された、真実を鈴桜は見つけて。
 魂慰める桜の探偵として、その秘密を綴りて閉じる。
 ならば終わる瞬間だけ。
 花のように、戻れと。
 だから――護りたかったのでしょうと。
「花のように美しく。愛しい場所。……もうないのならば」
 夢に思い描け。
 桜は慰め、癒やし、そして魂を巡らせるのだから。
 世界は違えど。
 夢守たれと、望まれた桜の森にて。
 戦の赤き罪咎を、零し尽くすべく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
アンタがあの忍び達に発破掛けた奴か…
指針を与えられて動けて存分に力を奮えたし満足できたかもな
けどアンタ自身は
死んでも残る執着を思い出せずに…でも何かあるはずって斬り合いに没頭してるのかい
剣士さんてのは純粋すぎると厄介だね

ま、いーさ
オレは羅刹
アンタの心に踏み込めないが勝負の相手は歓迎だ
命の取り合いか
あは
しんみりよりアンタ似合いの顔になったねェ
じゃ、やるか

UCで全強化
代償毒【毒使い】で解毒
速さ活かし攻める
一息に【追跡】で距離を詰め眼前で手裏剣【投擲】
【スライディング】下半身に体当たりしグラつかせ横か背後に回り
捨てられた鞘で打ち別方向から手にしたクナイで斬る【だまし討ち/カウンター/暗殺】

アドリブ可



 
 桜の花と、月明かり。
 ゆらゆらと静かに漂う一時を。
 斬り裂くは灰色の大太刀と、それが纏う剣呑なる鬼気。
「そうか」
 肌を斬り裂くような、その鋭さに。
 橙色の瞳を向けるは鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)。
 忍びとして育ち。
 けれど、違う者として在る今だからこそ。
 花の中に埋もれる影だっ者へと、視線を向けて。
「アンタがあの忍び達に発破掛けた奴か……」
 手首を捻り、手のひらの中へと落とすは忍の暗器たるクナイ。
 それをあえて選ぶのは。
 桜と共に散った忍たちを思うからか。
「指針を与えられて、動けて、存分に力を奮えたし満足できたかもな」
せめてもの人生を。
 自分の生きたという実感を。
 自ら求めて、得られたというのならば。
 救いではないだろうかと、鹿村は思いながらも。
「けどアンタ自身は」
 向けられた大太刀の切っ先に臆す事なく。
 一歩、一歩と踏みしめて間合いを詰めていく。
 すぐに命の遣り取りにと刃の重なる場所であれ。
「死んでも残る執着を思い出せずに……」
 でもと。
「何かあるはずって斬り合いに没頭してるのかい」
「まあ、概ねその通りだ。否定するには、この大太刀は大きすぎる」
 そして、斬りすぎたのだと。
 灰色に灼き付いたような、くすんだ色合いを空へと掲げる焔影。
 その姿に溜息を零す、鹿村。
「剣士さんてのは純粋すぎると厄介だね」
「純粋だから何処までも進む事ができるんだよ」
 後悔という淀みなく。
 濁ることがないのだから、何処までも。
 そう笑う姿は確かに雄々しく、忍たちが憧れたのも在るのかもしれない。
 焔影はそんな者、だからこそ。
 止まれないのだ。
 これが修羅の道行きだと判っていたとしても。
 進み続けるしか出来ない。
「ま、いーさ」
 身を屈める鹿村は構えを取る。
 月光に照らされて、黒曜石のような角が艶やかに輝き。
「俺は羅刹。アンタの心に踏み込めないが、勝負の相手は歓迎だ」
「ああ。俺も剣士。子供だからといって、命の取り合いに加減はできねぇぞ」
 むしろ、鹿村から感じるただならぬ気配と、武を感じてか。
 鞘を捨て去り、背水の陣の如く。
 ただ攻め往く獣の牙として、大太刀の切っ先を鹿村へと構える。
「あは……しんみりより、アンタ似合いの顔になったねェ」
「さて。ここに水面も鏡もありはしない。なら、俺の顔とやら、てめぇの末期の瞳に映るそれを見せて貰おうか」
 ああ、それでいい。
 染み入るような悲しさなど。
 今はただ、振り捨てて。
「じゃ、やるか」
 そんな気楽な言葉と共に。
 鹿村の身へと降魔の力が宿る。
 三種の妖魔は身体能力を飛躍的に向上させ、同時に代償を支払わせる化身忍者の術にして業。
 ならば受けた瘴毒を、忍びの技で解毒し。
 ただ、降魔の身となって、迅速を以て焔影へと攻め懸かる。
 焔影も尋常ならざる速度で動けど、鹿村はそれ以上。
 一息にて間合いを詰めるや否や、眼前で投げられるのは隠し持った手裏剣だ。
「クナイの刃に目がいったかい?」
「忍びの業は、なんとも奇怪で面白れぇな」
 今まで構えたクナイは囮だと。
 小回り利かぬ大太刀では咄嗟に撃ち払えず、顔面へと迫った手裏剣を己が腕で奪いて受ける焔影。
 だが、その瞬間で十分と、地を這うような疾走で鹿村は焔影の脚へと身を衝突させる。
 瞬間、揺らげば十分。
 身体の自由を奪い、隙を作れればそれだけでよいのだと。
 影の如く音もなく。
 花よりなお軽やかに焔影の背後へと回り込む。
 同時に、捨てられていた鞘を蹴り上げ、焔影の側頭部を撃ち据えようとすれば。
「本当に、奇妙で、刃の上を渡るような」
 瞬間、焔影の柄で打ち払われる鞘。 
 続け様に恐ろしい程の轟音を伴い、振るわれるは大太刀の烈閃。
「面白い動きだな。テメェはよ」
 触れれば斬る。
 全てを斬りて壊すが、己が道と焔影の灰色の大太刀が唸りをあげれど。
 その隙間を付くように。
 振るわれる剛力を利用するように。
 騙し、誘い、削いで殺すが常なのだと。
 後の先より、死角から迫るクナイの切っ先。
「命の取り合いって、そんなものさ」
 一瞬に命と魂を懸けたんだろう。
 ならば否応はない筈。
 あの忍びたちがそうだったようにと。
 あんたの心には届かずとも。
 鹿村の降魔の刃は命には届くのだと。
 焔影の急所を深く捉えたクナイ。
 鮮血を舞い散らせながら、そのままするりと後退して。
「それでも笑うのがあんただろうさ。そのまま逝きな」
 鹿村が諸手より放つは。
 手裏剣にクナイ、仕込み針にとまきびし。
 これが鹿村の持つ刃で、武で、技なのだと。
 花と命を散らす鋼が、焔影の身より鮮血を吹きあげさせる。
 
 
「せめて、笑って。本当のあんたらしい顔で逝きなよ」

 声は夜に溶けて。
 残る余韻さえ、続く剣風に掻き消されども。
 一際、その笑みを深くする焔影が、確かにそこにいた。



  

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

そうか、この男は生きる意味を求めているのか。戦いで命を奪い合う以外に分かり合うすべはあるのに。まあ、この男はそれさえもどうでもいいんだろうね。死出の花道、飾ってやるよ。

その剣にはまともに当たりたくない。【忍び足】【目立たない】で敵の背後を取り、敵の攻撃を【オーラ防御】【見切り】【残像】で凌いで、【気合い】【串刺し】で槍で攻撃。もし槍の一撃がかわされても本命は拳での攻撃だ。【戦闘知識】で敵の剣の軌道を読み、【功夫】【怪力】【重量攻撃】を併せた炎の拳を【カウンター】で撃つ。

力を併せて心を併せること、それも人を知る事だ。アンタ程の腕だ、傍にいる奴はいたんだろう?思い返してみな。


真宮・奏
【真宮家】で参加

この方は何かを探しているのですか?戦いで殺しあうしか見つからない、その考えは悲しいですね・・・全力で相対して、思い出してくれれば。

私はその攻撃を全力で受け止めます。トリニティ・エンハンスで防御力を上げ、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】【かばう】で家族の盾となります。更に【結界術】で防衛線を敷きますね。【衝撃波】【二回攻撃】での攻撃は余裕があったらで。

戦うことで全てが得られる訳ではありません。人と気持ちを併せて分かり合うことが出来るんです。一途で、情熱な貴方。貴方に並び立つ存在はきっといたと思うのです。


神城・瞬
【真宮家】で参加

何かを求めて豪胆に、苛烈に戦いを求める。男として、かっこいいと思います。でも命を奪い合った後に、何かを見つける思想は悲しいですね。覚悟を持って、相対しましょう。

その方が、自分に相応しい領域に変えるなら、塗り替えるまで。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】を仕込んだ【結界術】を敵に展開した上で月光の領域を展開。もう一度燎原に変えられるのを防ぐ為に【オーラ防御】【第六感】で攻撃を凌ぎながら、【誘導弾】【二回攻撃】で畳みかけます。

人と力を併せることで分かり合うことが出来る。思い出してください。貴方にもそういう方がいたんじゃありませんか?



 ああ、と。
 純粋で真っ直ぐな心を持つからこそ。
 灰色の大太刀を振るう姿を見て、真宮・奏(絢爛の星・f03210)は僅かに声色を揺らす。
「この方は、何かを探しているのですか?」
 もしかしたら。
 幾多の修羅場と死線を潜り抜けて。
 そこにならばあるかもしれないのだと。
 殺し合う戦いでしか見つからないのだろうと。
 何度でも、幾度となく。
 斬り合うだけ。
 そこにあるの血と刃と、屍だけだというのに。
 どうして、そこに尊きものがあるというのだろうか。
 奏には判らないからこそ。
「その考えは哀しいですね……全力で相対して、思い出してくれれば」
 呟いた声は小さくとも、覚悟を秘めたもの。
 傍らに立つ神城・瞬(清光の月・f06558)は、そんな奏の言葉に感じるものがあったのか、そっと口に出す。
「何かを求めて豪胆に、苛烈に戦いを求める」
 男として、確かにかっこいいと感じるのだ。
 憧れて、命の遣り取りの果てに誇りをと求めた忍びたち。
 その心の裡も、ようやく今になって判る気がして。
「でも、命を奪い合った後に、何かを見つける思想は哀しいですね……」
 例えば。
 斬り裂かれ、砕かれていく桜たち。
 戦場になったのだから花は散るものと、無惨な様を見せて。
 その後に何かがあるなど。
 見つかる筈など、ありはしないというのに。
「ええ、覚悟を持って、相対しましょう」
 そんな二人の子供の声を聞きながら。
 紫の瞳を焔影へと向けるは真宮・響(赫灼の炎・f00434)。
 成る程、と頷くのは戦士としての感覚として通じるものがあるのか。
「そうか、この男は生きる意味を求めているのか」
 それでも僅かな憐れみを瞳に宿すのは、それが間違いだと知っているから。
 戦いで命を奪い合う以外に、解り合う術はあるというのに。
「まあ、この男はそれさえもどうでもいいんだろうね」
 血に塗れてなお。
 笑う姿は雄々しく、楽しげで。
 その先にある筈だと信じて疑わない、その在り方。
 剣鬼と言われて、確かにと頷くしかないからこそ。
「死出の花道、飾ってやるよ」
 歩み往く響に続き、奏と瞬もそれにならう。
 すぐに焔影の間合いへと。
 その戦場の中へと、踏み入れて。
「三人懸かりか。いいじゃねぇか。戦場でも断てねぇ程の、強い絆があるってことだ」
「だから、斬ると」
「おう。判ってるじゃねぇか、嬢ちゃん。……だからこそ、斬り甲斐がある」
 故にと。
 焔影が大太刀が地面を叩き付ければ。
 周囲は燃え盛る燎原へと化し、白き桜たちを赤々と染めあげる。
 それこそが焔影の魂に灼き付いた光景だというように。
 己が力を高め、周囲を灰へと化していく。
 成る程と。
 自らに相応しい領域。
 此処を斬り抜けてこそと、焔影の力を増す炎たちへと。
 対する瞬は即座に、己が術式を展開していく。
「自分に相応しい領域に変えるなら、塗り替えるまで」
 繰り出して放つは月光の領域。
 放った清らかな光の矢は外れても地形を月光の光で満たし、自らの戦闘力を高めるもの。
 ただし。
「……くっ」
「この手のモンは専門外だが、ようは力勝負だろう?」
 塗り替えるつもりだった瞬だが、燎原と月光は鬩ぎ合うばかり。
 互いに完全ではないが、十分な効果を得て。
 けれど。
「大丈夫です、瞬兄さん」
 独りではないからこそ。
 出来ること、見つけることがあるのだと、前へと進む奏。
 三種の魔力で自らの護りを固め、家族の盾となるべく。
 更に瞬と奏で重なるは結界術。月光の中で、精霊の力が渦巻く。
「いい覚悟だ」
 故にと、焔影もまた真っ向より。
 焔影が大太刀の斬撃と鞘の乱撃が奏の姿を捉え、轟音を響かせる。
 奏は盾と剣で受けるものの、一撃、一撃が重すぎる。瞬の結界が援護として展開されるものの、纏めて粉砕するのだと焔影の武が吼えるのみ。
 背後に瞬と響を庇うからこそ、退く事も出来ず。
 いいや、決して退くものかと奏に決意を抱かせ、絶対の防衛線として、家族のふたりを庇うのだ。
 乱れ咲くは炎と花びら。
 剣戟の絶叫に、鉄火の砂塵と鮮血が踊る。

――その剣にまともに当たりたくない。

 乱舞として繰り出される焔影の攻勢。
 当たればそのまま呑み込まれ、逃げる事など出来ないだろう。
 剛剣は避けて逃れる道を斬り。
 鞘による殴打は、受け続ける事を強要する。
 ある意味で真っ向勝負へと引き摺り込むようなもの。
 だからこそ、奏と焔影が剣戟を散らす中、気配を殺して背後を取る響。
 見切りで流れる余波を凌いで。
 裂帛の気迫にて放つのは青白く燃える炎の名を冠する槍。
 穂先が奏でる鋭い音を捉えた焔影。響の槍を鞘で打ち払って背後に迫るその姿を捉えれど。
 もはや大太刀の間合いではなく。
 そこは拳撃による、互いの吐息さえ感じる場所。
「こっちが本命の、とっておきの一撃だ!! 存分に味わいな!!」
 込められた気合いで赤熱する拳を放つ響。
 音速を超える程の勢いと、怪力を乗せた超重の撃。
 胴に打ち込まれた焔影が横手へと吹き飛び、口元より血を吹き散らす。
 瞬間、瞬との鬩ぎ合いが途切れ、燎原が月光の領域へと変じ。
「人と力を併せることで分かり合うことが出来る」
 再度仕掛けられないようにと、瞬の誘導弾が二重にて放たれる。
「思い出してください。貴方にもそういう方がいたんじゃありませんか?」
 一度目は大太刀で切り伏せられても。
 二発目はその肩を抉る月光の魔弾。よろめく焔影へと、更に追撃すべく奏が剣を翻す。
 その身は満身創痍で、消耗を見せれども。
 家族が立っている限り、奏が倒れる訳なはいないのだと。
「戦うことで全てが得られる訳ではありません」
 故に、精霊の力を宿す剣を連続して振るって放つ斬撃波。
 受けるに徹する焔影は、真宮の家族が重ねる追撃から脱して、反撃する事は出来ず。 
「人と気持ちを併せて分かり合うことが出来るんです」
 そう。
 自分達が、血の絆だけではなく。
 もっと大切な記憶や、感情。そういったもので結ばれていると知るからこそ。
「一途で、情熱な貴方」
 ある意味で、どうしようもない程に。
 真っ直ぐ、燃え盛る思いを抱えた剣士。
 だからこうなってしまったのだろうけれど。
 剣鬼と成ってしまう前には、きっと。
「貴方に並び立つ存在はきっといたと思うのです」
 でなければ、こんなに強くは成れなかった筈なのだと。
 その身で受けた奏だからこそ、深く感じている。
 きっと、誰かが為の強さだった筈なのだ。
「力を併せて心を併せること、それも人を知る事だ」
 故にと、それを喪ったものへと花道を飾るべく。
 青白い槍を烈閃として放つ響。
 その思い出こそ。
 誰かを思い出すことこそ。
 どんなに難しい、忘却であろうとも。
「アンタ程の腕だ、傍にいる奴はいたんだろう? 思い返してみな」
 それが焔影という男の最期を。
 魂に灼き付く程に、思う信念と共に在ったのだろうから。
 忘れた儘に、消えないで欲しいのだと。
 家族と共にある三人は、その輝くような絆をもって、焔影を追い詰めていく。
 これを喪ったから。
 お前は負けるのだと。
 負けない。勝つのだというのならば。

 この瞬間に、傍にいた誰かを思い出せと。

 響は激烈に。
 奏は穏やかに。
 瞬は清冽に。
 その力で、瞳で、焔影へと訴える。
 白い桜は揺れて。
 月光の裡で、ふわりと、花びらは何処かへ消えていく。
 まるで傍にいた誰かを、追いかけるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
夕凪曰く、剛の者との事だが…
惜しむべきは剣鬼の状態だろうか。

叶う事なら十全の状態で剣を交わしたかったものだな。

戦いの中でしか誓いや約束を思い出す術が無いのなら
せめてその想いを汲むとしようか


▽試(機会があれば)
・式刀は夕凪も一時利用可
・焔影か忍達の手向けに酒でも渡す


▼動
夕凪には連携し波状攻撃で攻める旨を伝えておく

主軸は霽刀と式刀の二刀。
【閃滅仭】による速度重視の剣戟で
真っ向からぶつかり敵の攻撃の相殺を狙う

―俺は元来、長剣の二刀流でな?

式刀を投げつけフェイント(夕凪へ渡す事を含む)を混ぜ葬剣に換装。
夕凪と挟撃しつつ闘気を込めた突き技を放つ。

―剣鬼の本来あるべき剣筋…曇りも少しは霽れただろうか?



 惜しむべきは、全てが去った過去という事。
 夕凪が曰く、剛の者と。
 それはアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)の見立ててでも違いはなく。
 叶う事ならば。
「十全の状態で剣を交わしたかったものだな」
 だが、それも過ぎ去りし時でしかないのだから。
 散り逝く花を、命を、幾ら思えど。
 何も変わりはしないのだ。
 ただ、と。
 未だに残りし魂の残滓が、戦いを求めるのならば。
 その裡でしか、誓いや約束を思い出す術が無いというのなら。
 せめて、その想いを汲むだけ。
 願いも、祈りも、後悔も。
 全ては誰かに看取られて、終わるべきなのだから。
 故にと、アネットが忍達へと手向けにと酒を杯より零せば。
「よう、その酒は俺にもくれねぇか」
 大太刀を地面へと突き刺し。
 つかつかと、剛毅にも武器を携えずに歩み寄る焔影。
「こいつら、よ。酒の飲み方も知らねぇんだよ。……手向けに注いでくれんなら、俺の手でもやってやりてぇからな」
「好きにしろ。……戦いの前にと酔狂はお互い様か」
「違いねぇ。戦に生きるんだ。通す義理と道理は違えれねぇよ」
 それこそ。
 約束のようになと、声を紡いで。
 部下として慕った忍び達へと、酒を周囲に。
 桜花と共に、清らかな飛沫として散らす焔影。
 残る僅かを、一気に煽り。
「さて……始めるかね。仇討ちとは言わねぇさ。全ては望んだ儘に」
「進もうとした儘に、か」
 故にと最早、激突を避けるものなどなく。
 剣呑な風が吹いて、はらはらと桜を振り注がせる。
「夕凪、連携して波状攻撃でいくぞ」
「ええ、承知しました」
 どのように攻めるかを隠しても無駄なのは。
 構える焔影の隙のなさから伺い知れるというもの。
 意を汲み取り損ね、動きを間違える方がよほど恐ろしく。
 アネットは霽刀【月祈滄溟】の青と、式刀【阿修羅道】の赤の色彩をその手に携える。
 鋭くも怜悧で。
 苛烈なる程に強靱なるは。
 まるで、武への想いが如く。
「いざ」
 ならば、ただ走り抜けるのみ。
 如何なる戦場、強敵が相手でも止まる事なく。
 果てなき強さを、求めるのならば。
「九天無刃流、アネット・レインフォール――参る!」
「灰の将、焔影――いざ、尋常に勝負といこうか!」
 無数の武器を広範囲に広げ、攻め懸かるはアネット。
 神速を以て振るわれる剣閃たち。
 何れも凄烈なる威を秘め、戦の火花を散らしあう。
 果断迅速の言葉通り、迷う事なく。
 揺れる事なく、振るわれる刃は余りにも鋭い。
「いいねぇ」
 正面より剣戟を交わす焔影もまた同様。
 鞘による乱撃も大太刀の隙を埋めるように翻され、受ければ重く、弾き飛ばされるか、堪えても体勢が揺らぐほど。
 本命たる剛の一刀として振るわれる灰の大太刀は、唸りを上げる切っ先が剣風を渦巻かせる程。
 一瞬にして息も、瞬きも許されぬ熾烈なる刃が重なる場と化すふたり。
 そんな剣戟へと夕凪は自由には踏み込めず、牽制に黒刀を振るえど届かない。
 瞬間。目的。ひとつへと明確に絞れば或いは黒刀とて、それを捉えられたかもしれずとも。
 今の夕凪では届かぬ、武の領域がそこにあった。
「けれど、俺が勝つんだよ。アネットとやら」
「そう、言っていろ!」
 だが、事実として焔影の優勢へと傾く剣戟。
 何より恐ろしいのは、焔影の振るう大太刀のその間合い。
 換装する為に浮かべた武器の悉くを打ち払い、弾き飛ばし、手に持つ霽刀と式刀のみへとアネットを追い詰める。
 剣の技、その真っ向からの勝負では劣らずとも。
 その冴え、強さでは決して負けぬと言えるものなれど。
「攻めの札と、俺の攻め手の相性が悪いな」
 広範囲の乱舞に、アネットの技が敗れる。
 範囲攻撃に対して、武器とはいえ数の包囲は文字通りの餌食でしかなく。
 重ねて、乱撃の最中に換装するだけの余裕などない。
 相殺にさえ至らず、徐々にアネットの繰り出す神速の太刀筋も衰えを見せ、夕凪も焔影の猛剣の間合いから弾き飛ばされる。
 けれど、笑うは焔影だけではない。
 窮地に立つからこそ、強さの鼓動を感じてアネットも笑うのだ。
 ああ、この手のものは夕凪には理解出来ないだろうが。

「――俺は本来、長剣の二刀流でな?」

 だから手にした二振りさえあれば。
 負けはしないと、未だにアネットは烈刃を振るい続けられるのか。
 いいや、その先に勝利があると確信出来るのは。
 友との記憶と、アネットの強さが結び付いているから。
 振るう武器は、どれも戦友たちの思い出で。
 これらを喪った焔影の灰色の大太刀に、くすみんだ刀身に劣る事はないのだと。
 劣勢に立ち、肩口から鮮血を咲かせども。
 確信を持って、更に前へと、前へと。
 鋭く、早くと切っ先を瞬かせる。
 異邦の武人と、灰の将。


 そこにある差こそ。
 或いは、焔影の求めたモノかもしれなくて。


「夕凪!」
 フェイントを重ね式刀を投擲するアネット。
 大太刀の投擲という暴挙に似た行為への焔影の応じは、苛烈なる大太刀の一閃。
 反射でのものとは思えない程の猛威の一閃。
 霽刀にて受けるものの、アネットが後方へと吹き飛ばされ、腕の骨へと罅が入るのを知る。
「凄まじいな、だが」
 焔影の後方より飛翔するは、刃の音。
「独りの強さに慣れ過ぎると、曇るものだぞ」
 鞘で撃ち据えるものの、それは夕凪が投擲した妖念纏う黒刀だ。
 その直後に地を滑るように渡されたのは、弾き飛ばされた筈のアネットの葬剣【逢魔ガ刻】。
 変形機構を持つその長剣と、青の漣の刻まれた刀を構えなおした、その瞬間。
「大太刀など――私が使い慣れぬものを、投げないでください」
 武で劣るからと。
 早々に脱落したかに見えた夕凪が、投げ渡された式刀を諸手に携え、背後より焔影へと強襲を仕掛ける。
 アネットのような剣威を放つ事は出来ず。
 されど、迅なる速度は劣る事ないと、身ごと翻して放つ薙ぎ払い。
 鞘にて受け取られれど、全身の体重と勢いを乗せた夕凪の斬撃に焔影の動きが止まる。
「独りでは、所詮という奴だ。卑怯云々ではなく、これが強さだ」
 故にと、熱い吐息を零し。
 アネットは全身の闘気を切っ先に圧縮して。
 夕薙と挟撃する事で作った隙へと、刺突を繰り出す。
 それこそ、葬剣に刻まれた銀の翼が羽ばたくように。
 一度や二度ならず、三度、四度と。
 烈風の如く渦巻きながら、放たれるその怜悧な切っ先。
 ついに大太刀の守りを弾き飛ばし、焔影の身を深く捉える。
「――剣鬼の本来あるべき剣筋……曇りも少しは霽れただろうか?」
「異国の、いいや、異邦の剣術か」
 血を零す焔影の唇は、されど、弧を描く。
 連続した刺突を中心として紡がれた、この国と世界ではなき技を見て。 ああ、確かに。
 独りでは、こんな技など得られないだろうにと。
 それに応じられた自分の武技は、ならば、きっと独りで得たものではなかっただろうと。
「……ああ、曇った儘に、終われるかよ」
 舞い散る花びらより。
 振り注ぐ月光より。
 われ在りしと、灰の大太刀が再び振るわれ、滄溟晶の鋭刃と交差する。
 曇りも、くすみも。
 すべて、この剣と競い合う中ならば、払いきれると信じるかのように。


 撃ち成らされる刃金の響きは、それこそ戦を詠うかのように。
 はらはらと舞い散る白桜が、それを飾る。
 全ては何時かは終わる、無常なれど。
 この戦いの中で、意味を取り戻せる筈なのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎

三景の最期を反芻させ息整え
虧けた月と夜桜の下
待つ敵へ一歩ずつ接近

(只の戦闘狂とは違う
テメェみたいな輩は、嫌いになれねェ
出逢う場が違ければ
交われていたかもなァ)

結びは俺ではねェ誰かが果たす予感はするが(視た結果
俺にしか魅せれねェお前が求むるモノ
命を燃やし烈の如き戦
迸る熱き武と己が義の競り合い

瞬きすら惜しい
余すコトなく愉しもうぜ
その先に何が見えるか
辿り着いたら答え聞かせろよ
なァ、焔影

夕凪と共に
UC使用し敵UC相殺
正面から低姿勢で一気に敵の懐へ
激しく火花散る剣戟
玄夜叉の土属性の初使用を試み
制御が難しく暴走気味
根を張る様に力得る

地に剣突き立て舞う
体重掛け土砂の礫を尖らせ穿つ
滾る力を儘に勝利を



 色彩の異なる双眸に。
 三景と名乗った忍びの最期を。
 その表情と誇りのいろを、映しながら。
 幻影ではなく。
 過ぎ去るものではない。
確かに在り、胸に刻んだのだと。
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は唇より声を零す。
「テメェの誇り、忘れはしねェよ」
 息を整えながら、その貌に浮かんだ笑みを反芻しながら。
 確かにそこにお前の魂はあったのだと。
 ならばこそ、それを知る者として前へ、前へと。
 クロウは歩み続ける。
 虧けた月と、欠けていく夜桜の下で。
 しすじずとした気配が流れゆき。
 けれど、一触即発の剣気が此処にはある。
 一歩ずつと、灰の大太刀を構えるその敵へと迫りながら。
(只の戦闘狂とは違う)
 神鏡たるクロウは、魂の眼でそれを捉えるのだ。
 ただ戦い、狂い、猛りて笑う鬼ではない。
 剣に生きて、願いがあり、それに基づいて鬼と成り果てた。
 それほどにに一途だから、間違った路を独りで正せぬのだと。
(テメェみたいな輩は、嫌いになれねェ)
 剛毅に笑うその顔にも、やはり携える義はあるのだろうから。
 でなけば、三景のような男が付いていく訳もないのだから。
(出逢う場が違ければ、交われていたかもなァ)
 或いは、残滓となる前に出会えていれば。
 弱きを護る為に在った、灰の将とクロウはきっと笑い合って。
 桜を見て、酒を交わす事も出来たかもしれないけれど。
「結びは俺ではねェ誰かが果たす予感はするが」
 神器だからこそ、未来さえ映すクロウの魂。
 だが、結びである必要など在りはしないのだと。
 その最中で、より華やかに美しく、激烈なる刃を交わすのは己の役割なのだと。
「俺にしか魅せれねェ、お前が求むるモノ」
 命を燃やし、威烈と走る戦の舞台。
 迸る熱き武と、道を譲らぬ己が義の迫り合い。
 
 この桜の宵に。
 白刃が命へと触れる、僅かな瞬間に求めたのはそれだろうと。
「この杜鬼・クロウが存分に、魅せて酔わせてヤるよ」
 故にと構える漆黒の大魔剣、玄夜叉。
 流転して煌めく五色は、さながら移ろう世界の如く。
 吹雪きし花を、焔影との僅かな間合いの間において。
 焔影が剛毅に笑って応じる。
「それは嬉しい事だ。俺もテメェみたいな義の漢は好きだぜ。そういう奴と斬り合う時ほど、熱を持つってもんだ」
 それにと、焔影は鞘を片手に持って。
「結びである必要はねぇだろう。それより激しく、苛烈にいこうぜ」
 それでこそ、義と信念に脈打つ魂を欠ける剣の神楽たりえるのだから。
 瞬きさえ惜しいのだと。
 此ほどの漢と切り結べるというのならば。
「なら、余すコトなく愉しもうぜ」
 何もかもを後方に置き去りにして。
 けれど、先へ、先へと求めた願いを叶えるべく。
「剣と命、その先に何が見えるか」
 ゆるりと踏み出すクロウは気負いなどなく。
 花の香を漂わせながら、ついに焔影の間合いへと踏み込むクロウ。
「辿り着いたら、答え聞かせろよ」
 瞬間に翻る灰色の大太刀。
 くすんだ色の刀身だというのに、その切っ先の美しさ。
 嗚呼、戦う奴にしかこの感覚は判らないだろう。
 けれど、確かにクロウはそれを綺麗だと想うからこそ。
「なァ、焔影」
 その漢の有り様を、肯定しよう。
 見送って、見届けよう。
 疵なき神鏡は、果てる魂の幸いを見出しながら。
 青浅黄の眸で焔影を捉える。
『宵花に遊びし炎の精よ』
 クロウの唇から流れるは、金蓮火への囁き。
『今導きの魂持ちて、主の盟約により魔を祓わん』
 故に、安らかなる時へ場所へ。
 浄土へと導けと、燃え盛る焔の蝶たちが羽ばたく。
 何かに触れれば、砕けちりそうな儚き翅であっても。
 それを紡ぐはクロウの義心なのだ。
 決して劣る事も、ましてや引く事などありはしない。
 桜吹雪と刃嵐へと飛翔する炎蝶たち。
 美麗なれど、義の灼熱を持って全てを灼き尽くて踊るのだ。
 灰の大太刀と鞘にに触れて焼いて弾き、焔影の放つ猛威の乱舞を相殺する。
 微かに残る火と、花と、灰の名残りを風に滲ませながら。
「さァ、本番と行こうかァ!」
 引き分けで終われる筈がないよなと。
 より苛烈に、より熾烈に。
 斬り進む先をと、クロウは夕赤の眸に映すべく。
 地を駆ける狼が如く身を低くし、一気に焔影の懐へと飛び込む。
「応よ。クロウとやら、テメェのその魂、最期まで輝かせな!」
「言われる必要はねェよ! 焔影、テメェも全霊を燃やして来なァ!」
 激突する剛剣同士。
 舞い散る火花も盛大ながら、噴き上がる剣圧も凄まじい。
 渦巻く風に桜は退き、刃金が噛み合う轟音で静寂を破り去る。
 真っ向より斬刃を瞬かせれば。
 それを斬り伏せるべく、放たれる互いの斬撃。
 ふたりの剣光は幾重にも重なり、絡み合い。
 けれど、止まる事など在りはしないのだ。
 刹那に消え逝く火花は、さながら命と花のようで。
「なんとも……いい剣じゃねェか」
 笑う声に似た剣戟の音を鳴り散らせながら、夜に咲いて乱れる漢の花舞台。
 クロウも焔影も一歩も譲らず、その場で円を描いて身ごと剣閃を翻す。
 故にと。
 例え初使用であれ、玄夜叉の土属性の公使をクロウは躊躇わない。
 制御は難しく、暴走気味であれ、全力をもって此処にと思うからこそ。
 いいや、今の全力を越えて勝利を求めるのだから。
 信じる熱き信念は、猛る闘争心は、大地へと根を張るようにクロウへと力を巡らせ、不退転の姿を作り出す。
 だからこそ、焔影の唇が笑みを描いて。
「なんとも……いい漢じゃねぇか」
 振るった灰の大太刀を逆に弾き返されてなお、賞賛の言葉を漏らす。
 先ほどのクロウの言葉をなぞるように。
 或いは。
 本当に、出会う場所と時間さえ違えば。
 笑い合って、肩を並べる事もあったのではと、覚える程に。
「だからこそ、全力程度の甘いもンで、テメェを葬ってやるかよ。それ以上だ。その先がいいんだろう」
 故に、燃やし尽くせ。
 全ては諸行無常と流れ去るものならば。
 今をおいて、燃え散る夜はないのだと。
 大地に剣を突き立て、勢いをそのままに空を舞うクロウ。
「漢なら常に先へ、上へだせぜ」
「面白れぇよ、テメェはよ!」
 空を飛んだクロウを斬り落とさんと、灰の大太刀が剣風と共に放たれるが。
 同時に、切っ先が抉った土砂が尖った飛礫と化し。
 焔影の身体を無数の土の鋭刃が穿ち抜く。
 飛び散る鮮血は、赤く。
 けれど、それだけでは足りないだろうと。
 落下の勢いを乗せて。
 滾る力と、血潮の熱をも玄夜叉の刀身に乗せて。
 勝利を。
 それこそ、クロウ自身だけではなく。
「さあァ、何を見出したか、焔影!」
 戦いの中で探していたものを見つければ。
 きっと焔影にとっても勝利と言えるのだろうから。
 敗者は不要。互いに夢叶えるが為に。
 瀑布の如き激烈なる玄夜叉の斬閃が、焔影の身を斬り伏せる。

――さあ、迷わずに行きなァ

 見失った儘に。
 結びの場へと逝くなど、哀しいだろうと。
 黄金の神鏡は、血よりなお赤き祈りを映すのだ。
 灰と化す、その前に在りし思いと魂を。
 残滓と残る前の、烈士の夢と誓いを。

――それがテメェの、喪われなかった義と魂なんだろうさ

 その欠片のいろを。
 クロウは黒き刀身の煌めきへと。
 己が疵なき黄金の鏡面へと、映しながら。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
――それはこちらの台詞だ
残るというのなら、この首を獲って掲げるが良い
このニルズヘッグ、真っ向より受けて立つ

抜き放つは氷殺顎門の大太刀、銘を『冥竜』
私は嘘を吐かない
一度口にしたからには、小細工はしないとも
だが慣れない得物に違いはないからなァ
ありったけの呪詛をこの身に、刃に氷を纏わせる
選ぶのは防御力
――致命傷を避けて、一撃入れられれば良いんだ、私はな

貴様を屠るのは私の役ではない
――焔影といったな
思い出したいことがあるというじゃあないか
安心しろ、願いはじきに叶う
思い出してもらわねば私が困るんだよ
……大事なものに忘れられるのも
大事なものを忘れるのも
死ぬより辛いって、嫌ってほど知ってるんだ



 白桜が舞い散って。
 剣風に吹かれて、何処かへと過ぎ去る。
 故にと残るは、灰の大太刀と灰燼色の忌み子のみ。
 雪のようでいて。
 けれど、違う灰色がそこには募っていて。
「――それはこちらの台詞だ」
 燃える黄金の眸にて、敵手を捉えるはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)。
 そこにあるのは、ただ静かな決意だけ。
 哀しいまでに、誰かを想う気持ちだけ。
 ああ。
 こういう情に満たされるなどと。
 ついぞ、ニルズヘッグは夢にも思わなかったけれど。
「残るというのなら、この首を獲って掲げるが良い」
 こうして、現に斯く在りしと。
 鞘より抜き放つは凍気を宿した氷殺顎門の大太刀。
 銘を『冥竜』。美しくも長大な刀身が顕れた瞬間、ひやりとした冷たさが夜に満ちる。
 竜が為に在る、この刃。
 ならば道を作る為に振るおうと。
「このニルズヘッグ、真っ向より受けて立つ」
「ほう。いい顔すんだな、テメェはよ」
 灰の大太刀と共に、鞘を構える焔影が僅かに笑みを浮かべる。
 剣に生きて、死んで。
 残りし魂の行き先は。
 いいや、巡り会うべき相手はと。
 ニルズヘッグは思うからこそ。
「私は嘘をつかない」
 全幅の信頼と憧れを寄せる彼のように、誠実に。
 そし実直過ぎる程の鋭さで、じりと足先で間合いを詰める。
「一度口にしたからには、小細工はしないとも」
「術師が剣士の真似事はやめときな――なんぞ、男の決意を舐める真似はしない。俺も全力で往かせて頂こうか」
 故に振るう破壊の太刀。
 前にあるもの全てを薙ぎ払って、なお進み続けるべく。
 そういう剣士を、烈士をよく知るからこそ。
 侮る事もなければ、侮蔑も今はしないニルズヘッグ。
「ああ。だが、慣れない得物に違いはないからなァ」
 故にと全身全霊。
 この地に眠る霊を、怨嗟を、絶望を。
 己が従える呪詛として身に宿し、刀身に氷を纏わせる。
 魂の奏でる、絶叫の如き悔恨。
 果てられぬ。終われぬと。
 美しい桜とは裏腹。いいや、白桜たちが鎮める死霊の悪夢を呼び覚ますように。
 ぱきり、ぱきりと冥竜の刀身へと鱗の如く宿される氷たち。
 ニルズヘッグが選んだのは防御力。
 どのような烈刃が振るわれようと、決してこの身と心を断たれぬようにと。
「――致命傷を避けて、一撃入れられれば良いんだ、私はな」
 静かな決意は、それこそ刃の在り方に似て。
 春宵に、再び吹き荒れる冬の嵐の厳しさを思い出させる。
「貴様を屠るのは私の役ではない」
 だから一太刀。
 道を斬り拓き、繋げて。
 必ず戻ってこられるようにと、一筋を紡ぐのが今のニルズヘッグの務めだと知るからこそ。
「――焔影といったな」
 その覚悟を斬り壊すべく、剣気を滾らせる焔影へと言葉を突き刺すニルズヘッグ。
 かの姿は憐れなれど。
 哀しいなどとは言わない。
 ニルズヘッグの命と、鼓動の理由を知らせるから。

 これの変わりに――いいや、それ以上として彼の傍に。

「思い出したいことがあるというじゃあないか」
 灰の大太刀が繰り出す猛威など、気にしていないと。
 冷たく、静かに紡がれるニルズヘッグの言葉。
「安心しろ、願いはじきに叶う。いいや」
 氷刃と呪詛を従えニルズヘッグは、焔影の間合いへと踏み込む。

「思い出してもらわねば、私が困るんだよ」

 この竜が。
 冷たき怨嗟と、爛れた情念を呪焔と変える呪い子が。
 誰かの為に、成して貰わねば困ると口にする、その変貌。
 知るものが見れば驚愕の瞬間に、焔影が一気に前へと躍り出る。
「ならば、思い出させて貰うじゃねぇか!」
 命の火を掻き消さんと乱舞する灰の剛剣と鞘の重撃。
 竜人が膂力をもって冥竜を振るい、放つ凍気と共に受け止め。
 すり抜けて届く切っ先は、纏った呪詛でその剣威を減じさせる。
 瞬く間にニルズヘッグの身は鮮血で塗れて赤く染まれど。
 その眸が微かにでも揺らぐ事はない。
 
 ただ一撃、ただ一刀。
 それを斬り込み、道として繋げられればそれでいい。
 ニルズヘッグの想いを、願いを、斬り砕く事など焔影には叶わず。

「……大事なものに忘れられるのも」
 乱撃の最中、ついに焔影に出来た間隙へと。
 捨て身の如く、氷刀の一閃を奔らせるニルズヘッグ。
 岩を断ち斬るが如く、強く、揺らぎ無く。
 冷たくも、鋭きその信念と共に。
 焔影の大太刀を弾き飛ばし、その身を深く斬り裂く。
 流れる血も、瞬間で凍て付かせて。
 何一つ、零させはしない。
 思い出せ、と氷刃にて再度伝えるのだ。
「大事なものを忘れるのも」
 ぽつりと声を零せば。 
 互いに受けた深い傷によろめき、距離を取るふたり。
 けれど痛みなど感じないように。
 それより嫌で、怖くて、避けたいものがあるというように。
 ニルズヘッグは静かに佇み、氷の大太刀を振るう。
「死ぬより辛いって、嫌ってほど知ってるんだ」
 だから、死を乗り越えるが如く。
 氷と呪詛を纏う一刀が、彷徨える魂の残骸へと疵を刻む。
 それこそが。
 彼が歩みし道へと、未来へと続くと信じるからこそ。

 
死ぬより辛いという。
 現実へと、切っ先を入れて。
 今を変わらせるべく。
 過去を終わらせるべく。


 もう自分は変わったのだと。
 だから望む明日へと、道を作れるのだと。
「それが、私とお前の違いだよ」
 冥竜を握り絞めるニルズヘッグの眸が、静かに告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
――いいえ。
過去たるあなたが此処に残ることは許されない。
あなたの道は既に途切れている。
だって、あなたは変われない。
立ち塞がる悉くを斬り伏せる外の道はない。
きっと伸ばされた手でさえ、あなたは跳ね除けてしまうのでしょうから。

――己すら覚えていない約束を、どうして守れましょうや。

初手一閃。
打つべき手は先の先、最速の一刀にて打ち合いましょう。
この身は刀。
勝つための力。
過去の残滓と道を重ねることは出来ない身は。
ただ、立ち塞がることで心を重ねましょう。
それこそが望みで、それこそが最短の道筋なら。

…もし。
あなたの中にひと欠片でも残るなら。
どうか思い出してください。

――あなたが、本当に守りたかった約束を。



 その身は一振りの刀なればこそ。
 災厄も禍根も全て、残りし宿業も断ち斬るべく。
ただ鋭く、美しく。
 刃の音色の如き声を零す。
「――いいえ」
 穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)の唇から奏でられるは。
 悪夢を斬り伏せる言葉たち。
「過去たるあなたが、此処に残ることは許されない」
 その手に構えられるは、己が本体である結ノ太刀。
 鏡の如く静かに煌めくものの。
 それがすぐに熾烈なる色彩へと変じるのは、見ずとも明らか。
「あなたの道は既に途切れている」
 故にと、刀身に纏わり付く剣気。
 白き桜の下に在る姿は、確かに綺麗だと。
 ともすれば幻想的だと、言えるかもしれないけれど。
「だって、あなたは変われない」
 何処までも現実を突きつける穂結。
 決して自らが視線を逸らさないからこそ。
 赤い眸は、慈悲も容赦に揺れることなく静謐なままに。
「立ち塞がる悉く振り伏せる外の道はない」
 だから。
 ああ、だからと。
 降り積もる花を踏みしめて。
 命を奪い合う切っ先さえ越えようと。
 穂結は静かに歩み、夜風に蓮と稲穂のあしらわれた羽織りを靡かせて。
 まるで、自分にも言い聞かせるように。
 だからこそ、此処までの清冽なる想いを声に宿すのだと、感じさせるのだ。
「きっと伸ばされた手でさえ、あなたは跳ね除けてしまうのでしょうから」
 ああ、必ずやそうなるのだと。
 灰の切っ先が告げている。
 血濡れの刀身が囁いている。
 一体、どれほどの骸を踏みしめて、修羅の道を歩いてきたのか。
 途切れた筈の、その道を。
 終わりし想いの、残滓ばかりを抱き締めて。
「何かがあった筈だと、仰られても」
しずしずと。
 舞い散る桜の裡に。
 どうしようもない真実を、刀身に浮かべる穂結。
 
「――己すら覚えていない約束を、どうして守れましょうや」

 故に全てを斬り壊すだけ。
 なんと無常で、無惨で、これより先のないものか。
「だとしても、止まれねぇんだよ」
 困ったように、それでいて笑う焔影。
 ああと、ふたりして頷くのはひとつの剣士たる者の結論。
 どうしようもなく道がぶつかり。
 譲れないのならば。
 それこそ道理さえも切り捨てて往くが、自分たちならば。

「ならば、いざ勝負を」
「剣にて決するしかねぇんだよ」

故に、迷いも約定も。
 全ては捨てて、この刹那は剣のみにと。
 その先があると信じる焔影という魂の残骸と。
 そんなものはないのだと、冷艶清美なる様で告げる穂結。
 全ては、切っ先が定める事と。
 最早、鳴る事のない神楽鈴が揺れて、

――剣が司る神楽の、始まりを告げる。

 音など置き去りに。
 投げられた鞘さえ遅く。
 穂結の刀身と身より立ち上がった焔が、彼女の動きをより高速化させ、音速を超える領域へと駆け上がらせる。
 初手にて一閃、ただそれのみ。
 最速の一刀にて、全てを斬り定めるのだと。
 
 神速に至る穂結の剣閃が、焔影の胸を斬り裂く。

 流れる鮮血は深手を告げて。
 交わる情も想いも、この刀に在りはしないのだと。
 ああ。
 この身は刀。
 勝つための力なのだと。
 如何にして。
 過去の残滓と道を重ねることなど出来ようか。
「ならば、せめて」
 穂結が唇よりおとす、言葉。
「ただ、立ち塞がることで心を重ねましょう」
 或いはと、身を翻し。
 再び立ち上がる焔が巻きあげる風を、身に纏って。
「噛み合う刃金の音色のみ、重なるのでしょう」
 それこそが望みで。
 それのみが最短の道筋だというのなら。
 切り捨てて、斬り散らして。
 その魂にあった輝きを、取り戻させてみせようと。
 手負いの獣の如く、灰の大太刀を振るう焔影の身を、すれ違い様に太刀で刻む。
 変わらぬ果断迅速は、穂結の想いが儘に。
 夕立の如く速やかに。
 気付けば過ぎ去る、その様のように。
 刃の標した軌跡のひとつを、なぞりて。
 致命の一刺しとして、切っ先を瞬かせる。
「……もし」
 そして、白雨の如く鮮血が地面を打つ音を響かせど。
 未だ倒れられぬと、踏みしめて大太刀を振るう焔影へと、秘やかに声を向ける穂結。
「あなたの中に、ひと欠片でも残るのならば」
 さらりと。
 艶やかなる焔百合のかんざしが、夜色の長髪の上で揺れる。
 全てを斬りて、流し、過ぎ去らせるが刃の紡ぐ軌跡の道理なれど。
「どうか思い出してください」
 それでもと。
 穂結は声を、刃と伴に残す。
 想いと心を届けて交じらわせるは、刀と、血と魂が結び付くこの刹那のみと。
 夜景に奔る剣光は、さながら夕焼けのように赤く。
 美しき最期を飾るべく。
 いいや。

「――あなたが、本当に守りたかった約束を」
 
 終わってもなお、残ろうとした。
 約束と想いに、切っ先を届けて。
 灰となったそれに、再び熱を。
 鮮やかなる色彩を、結びて、取り戻させるべく。
 焔影の最期にこそ、燃える尊き約束を脈打たせた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
死合いをお望みとあらばお相手いたしましょう。

数多の焔に焼かれ、灰塵となりながら尚も燻る猛き緋。もう一度の灯を燃え上がらせ、求むるものは鼓動。

暑苦し殿方が熱い想いを語っているので何だか暑く感じてきました。
ということで、打ち水は如何?
今なら貴方の燻っている灯も一緒に消して差し上げますよ。
UC発動水纏。
勝つのは現在(私達)です。一度灰となったのなら水に流され海に還りなさい。
私も戦に身を置き、こんなところにまで来てしまいました。強者と闘うことは武芸者の喜び。己が積み上げた全てでもって己を確かめる場。この死合いで見えると良いですね。貴方の望むものが。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



 煌めくは、水晶の刀身。
 己が角より削り出した、その二振り。
 美しき切っ先を、するりと流れるように翻して。
「殺合いをお望みとあらば、お相手致しましょう」
 緩やかな声で、剣鬼たる焔影に応じたのは豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)。
 ああ。なんともと。
 もう一度と。
 これで終われないというのは、邪神に負けた自分のようで。
 けれど、決定的に違うものを胸に抱く晶。
 今を生きて、明日を望むということ。
 この瞬間だけではなく、未来にて理想を描くということ。
 忘れてなど、いはしない。
 護るというこの祈りと、誓いを。
「数多の焔に焼かれ、灰燼となりながら尚も燻る猛き緋」
 故にこそ。
 決定的に間違っている焔影なれど。
 神としてその魂を讃え、慰めるのが竜神たる晶。
「もう一度。その灯を燃え上がらせ、求めるものは鼓動」
 判らない訳ではないけれど。
 哀しいとさえ、想うけれど。
 もはや叶わず、その緋焔はただ周囲を焼いて灰と化す災厄なのだ。
「そんなに大層なもんじゃねぇよ。譲れないものがあるだけさ」
 故にと灰の大太刀を構えて、晶の前へと踊り出る焔影。
「それが何か忘れてしまったから――より熱い場所で求めるだけだ」
 確かに脈打つ武と、何かの祈り。
 灰となって燻る、約束の残滓を感じながら。
「暑苦しい殿方が、熱い想いを語っているので何だか厚く感じてきました」
 もしもそれが。
 夢やお伽噺のようなものなら。
 なんとも美しくとも。
 此処にある刃は、修羅の悪夢に他ならないのだから。
「ということで、打ち水は如何?」
 言葉と共に晶が身に纏うのは流れる清らかな水。
 神が過去を流しきり、邪なるものも全て骸の海へ還すべく。
「今なら貴方の燻っている灯も一緒に消してあげますよ」
 流水を纏い、斬撃を放つは晶の瑞玻璃剣。
 真っ向から灰の大太刀で受け、返しと鞘で打つ焔影。
 されど、水晶の如く煌めく刀身が受け止めれば、そのまま流れる水が圧し返す。
「勝つのは、現在(私達)です」
 告げる言葉は、それこそ誓うかのように。
 二度と過去になど負けないのだと、清らかに、静かに。
 されど清冽にと、鋭利な軌跡を描いて水晶の双剣が奔りて、焔影の腕を斬り裂く。
「一度灰となったのなら、水に流され海に還りなさい」
 零れた鮮血も纏う水が洗い流し。
 舞い散る桜花をも浮かべる流水と共に、剣舞を繰り出す晶の姿。
「おう、これが竜神かい。確かに、心が唸って剣が猛るってもんだ」
 対して豪快に笑う焔影。
 死合いを望んだのは彼であり、激戦であればある程、何かが。
 死が命に迫れば迫る程、何が浮かぶのだ。

 嘗て、に、近づくように。
 喪った、その瞬間に、戻るかのようで。

 けれど、それは道理に反する。
 死から生へと、戻ろうとする妄念に過ぎないのだ。
「私も戦いに身を置き、こんな所まで来てしまいました」
 流水と共に、澄んだ剣戟の音を紡ぎながら口にする晶。
「強者と闘うことは武芸者の喜び」
 ひとのそれを、祈りを、武芸を誇りし魂を。
 例え残骸となって在りし者であれ、さげずむ事はない。
「己が積み上げた全てでもって己を確かめる場。存分に振るいなさい」
 誉れあれと言おう。
 誇りあると、告げよう。
 それこそが護りし竜神としての晶の務めなのだから。
 けれど――全ては還るべきなのだ。
 過去は過去に。
 過ぎ去った元の場所に。
 死が蘇り、大地を歩くべきではないのだから。
 それこそ、晶が認めぬ邪神が支配する世界ではないか。
 いいや、だからこそ。
「この死合いで見えると良いですね」
 迷妄に混濁した瞳ではなく。
 灰の混じった約束の欠片ではなく。
「貴方の望むものが」
 かつて、緋色に輝いていただろう、その魂と約束を。
 その灯火のくすみを払うべく。
 清らかな水纏う水晶が、剣閃となって夜を流れる。
 美しく、澄んだ音色を奏でながら。
 喪われた武人の弔いにと。
 切っ先を瞬かせながら。
 己が鱗を集めて作った衣、瑞玻璃衣が月光を受けて輝いて。
 竜神が舞う弔いを、美しく飾る。
 これより焔影が逝く道を照らすかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…かつての約定、誓い。
過去の残滓と化したとて消えぬそれらの想いこそ、
ヒトであった頃の貴方が貴方であった理由なのでしょう。

その想いが、戦の場でこそ為せると云うのならば。
「喪ったものは、喪った場で探さねば意味がない」。
そのように、悪夢を断つ刃の眠るこの場所に誘われたのならば。

――貴方という悪夢を、過去の眠る骸の海へと還しましょう。


UC発動、残像で距離を詰め野生の勘、見切りも交え相手の速度に対応、
怪力、グラップルでの格闘戦にて攻めつつ動作の初動を抑え、刀を振らせない立ち回りにて戦闘展開


…夕凪様、貴女も刃を。
此処に眠る太刀が、彼を『救う』為に我々を誘ったとあらば。
貴女もまた『救い手』であるのでしょう。



 剣が吹き散らす風に舞うのは。
 月とも桜とも違う、白き色。
 雪と見紛うような長い髪を靡かせて。
しんしんと静かなる声が、夜に響く。
「……かつての約定、誓い」
 それは月白・雪音(月輪氷華・f29413)の声。
 深緋の眸をするりと流して。
 情動の込め方を知らずとも、確かに在る想いを匂わせる。
 願いや、祈り。
 そういうものがない者など、在りはしないからこそ。
「過去の残滓と化したとて、消えぬ想いこそ」
 さくりと。
 雪音は積もった白花を踏みしめて。
「……ヒトであった頃の、貴方が貴方であった理由なのでしょう」
 だからきっと、今も抱き締めたままなのだ。
 どうしても消えられず、違えられず、此処にあるのだ。
 彷徨うように。
 ただ前へと進むしか知らない不器用さで。
 もはや、ないかもしれないものを、この世界で求め続ける。
「その想いが、戦の場でこそ為せるというのならば」
 有り得ないなど、否定などしない。
 絶望を見て生きる人生は虚しく。
 希望を鼓動として、生きる道こそヒトなのだから。
 そうして、この場に辿り着いたというのならば。
『喪ったものは、喪った場で探さねば意味がない』。
「そのように、悪夢を断つ刃の眠るこの場所に誘われたのならば」
 穏やかな程に。
 ゆっくりと拳を構える雪音の姿。
 さながら、雪原を跳ねる兎のように。
 されど、命を奪うだけの鋭き技を、武と闘争の極致がその掌の中にある。
「――貴方という悪夢を、過去の眠る骸の海へと還しましょう」
「悪夢、か」
 からんと投げ捨てられた鞘。
 軽やかに。
 けれど、背水故に、今まで受けた負傷故にこそ。
 何処までも獣のような獰猛さを、その身に宿す焔影。
「けどな。それを乗り切ってこそ男だろう。切り捨ててこそ剣と武だろう。その先にこそ、意味とはいうのはあるんじゃねぇか」
「……左様で」
「お前のような、武人との戦いの先ならば、なおのこと、な」
「……ならば」
 ゆっくりと吐き出される雪音の吐息と、言葉。

――私も先に口にした約定、果たさせて頂きましょう。

 音も無く。
 されど、雪が吹雪くような白い残像を舞い踊らせて。
 一気呵成と踏み入るは雪音の武。
 寸鉄帯びず、闘気すら用いず。
 産まれ持った牙と爪。
 宿してしまった殺戮の衝動。
 それに頼る事なく。
 ただ鍛え上げた技こそが、如何なる刃を越えるのだと。
 手負いの獣の如き猛威を示す焔影の懐へと入り込む雪音の拳が、鋭き一撃となって焔影の身体の芯を捉える。
「っ……らァ!」
 が、焔影の速度も尋常ではない。
 身ごと翻して放つ灰色の大太刀。その斬撃をするりと躱すものの。

――縦横無尽に暴れられては叶いません。
 
 紙一重だったのだと、肌を掠めた剣風に。
 赤い眸が僅かに細められ、戦意が鋭く研ぎ澄まされる。
 大太刀の起点をこそ見極め、短くも早い拳打を叩き込む雪音。
「獣が往くが如き剣……ならばこそ、我が戦の粋にて、鎮めるのみ」
 己かそうであったように。
 武術を鍛え、精神を磨き上げて、律すればこそ。
 見えるもの、叶えられる約束はあるのだと。
 真白に瞬く雪音の戦武。止まる事なし。
 一撃の重さより。
 手数を重視し、連動して放たれる拳に肘撃、そして蹴撃。
 大太刀の刀身を裏拳で払いのけて斬撃を狂わせ。
 構えなおそうとした脚を蹴り上げて、軸を奪い。
 焔影の身へと肘撃を見舞い、更なる追撃へと巻き込む。
 夜に乱れる純白の乱舞。
 春宵に、幻の如く現れた吹雪の如く。
 打ち込まれ、叩き付けられ、口から血を吐きながら、なお声を張り上げる焔影。
「軽いぜ。まだ、これでは倒れてやれねぇな!」
 その斬刃で雪音を未だ一度たりとも捉えられずとも。
 止まらず、終わらぬと吼える剣鬼。
 ああ。
 だからこそ、眠らせなければ。
 この咆哮はいずれ、血濡れた果てに。

――雪音と同じ、殺戮の衝動になるから。
 約束を果たすという魂の脈動が、修羅へと墜ちる前に――


 静かに、穏やかに。
 ふわりと雪が降り注ぐように柔らかながら。
 命奪う程の鋭さを、振るう武に宿して雪音は囁く。
「……夕凪様、貴女も刃を」
承知との囁きと共に、側面へと回り込む夕凪の白い姿と。
 妖念纏う黒き刀。
 これもまた、先を進む為の武なればこそ。
 悪夢を払い、『しあわせ』を求むる手なればこそ。
「此処に眠る太刀が、彼を『救う』為に我々を誘ったとあらば」
 焔影の手首へと手刀を叩き込み。
 動きの怯んだ瞬間にと、強襲をかける夕凪の黒刀。
 一閃と流れる黒刃は、夜に溶け込むように。
 それでいて、同じ白を持つ雪音へと重ねるように、手刀で痺れたその焔影の腕へと深く切っ先を届けさせる。
「貴女もまた『救い手』であるのでしょう」
 もはや、その大太刀を掴み。
 振るう必要など、ありはしないのだと。
 そして。
 握り絞める、本当のものを見つめさせる為に。
 連続して翻る黒刃に追い詰められた焔影の懐に飛び込み、雪音は全身の勢いを乗せた正拳を水月へと打ち込む。
 衝撃で地より浮かぶ焔影の身体。
それを見逃さず肩へと腕を絡めて、脚を払い、月輪を描くが如く冷たき足捌きから放たれるは、組み付いてから投げ技。
 轟音を立てて地面へと叩き付けられた焔影へと。
「そう。優しき桜と、太刀と、救いの手があるこの場で――眠りなさい」
 全身全霊。
 渾身を込めた雪音の打ち下ろしの決め技が。
 焔影の胸部、心臓の真上を撃ち抜いた。
 砕ける骨と、弾ける血肉と内臓の感触。 
 ただ、はらはらと。
 振り注ぐ花は静かに。
 その様を眺めて、悪夢を白き色にて抱き締め、埋めていく。
 最早何も。
 苦しむことなど、在りはしないのだと。
 修羅の道など、剣鬼と血風の道など。
 ここにて終わるのだと。

 やわらかな花が、雪音の心の変わりにふわりと。
 春宵の果てへと、夢の終わりへと。
 流れていった。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリジ・グッドウィン
焔影、……オレとは異質、畏敬すら肌で感じる
アンタの部下他の奴等ならまだしもこんなんに殺られたのは…どうかな
賭ける物は命以外無い。アンタはむしろ命以外のを持っているようにも見えるぜ

対峙しちまった闘いへの興奮と背骨を刺すような緊張…さ、始めるか


左に銃、右腕にナイフ。どっちも影人形の名
ナイフで切り込み先制攻撃を狙う
銃で遠距離から打ち抜くなんてさせてくれそうにねぇし
銃を早撃ちの動作で刃を受け止める盾として、重たい烈に耐え抜き
刺し違える覚悟で零距離射撃を狙う


ふと目に入る、先程斬られた桜
……あぁ、次に描くならこの一片を…この右腕は残しておかねぇとな



 美と醜は感情がなければ判らない。
 気付かずに、見過ごすものだからこそ。
 拳についた赤い血潮の色を。
 そこにふれた、桜の白さを。
「……ぁ」
 どちらが、美しいのか。
 或いは、触れたくないのか。
 戸惑う思考が揺れて、揺れて、キリジ・グッドウィン(proscenium alexis・f31149)の視線を泳がせる。
 今まで漂うような。
 全てが遅れてくるような、景色への思い。
 ようやく全てが繋がり。
 桜は美しく。
 そして、全てが儚く終わってしまうのだと。
 今、ひとつが終わったからこそ、心の奥でじわりと何かが広がって。
 漣のように。
 さらさらと。
 ざわり、ざわりと。
 心と外。
 世界の桜と、心の情動が音を立てて。
 ああ、そうなるにはまだ早いと。
 強引に揺れる気持ちを落ち着かせる、キリジ。
 だって、目の前にいる存在は無視出来ない。
 戦いの中でより、鮮明に感情というものを知れるのだから。

 今、触れて知ったものより。
 なお明確に、輪郭を確かにと。
 覚えたいから。

「焔影」
 キリジが声をかける相手は、ただの敵などではなく。
 斬るばかりの剣鬼ではないのだと、淡く、何かが脈打つ。
「……オレとは異質、畏敬すら肌で感じる」
 肌を、肉体を幾ら取り替えても。
 どれほどに優れたものに置き換えても。
 きっとこれは感じるのだ。性能や物に宿るものではないのだから。
「アンタの部下、他の奴等ならまだしも、こんなんに殺られたのは……どうかな」
 ひとの感情がないように。
いいや、心があるかも判らないというのに。
 キリジに賭ける物は命以外無い。
 だからこそ。
「アンタはむしろ、命以外のを持っているようにも見えるぜ」
 誇りや、感情。
 言うなれば、心というくくりのそれ。
 どうすればそれが手に入るのかと。
 或いは、体感できるのかと求める視線へと、焔影は肩を竦める。
「俺はテメェでも、その部下でもありゃしねぇ。剣を交えられば判る事はあっても」
 細かい事なんぞ気にしねぇからなと。
 豪胆に笑うは焔影。
 けれどと。
「――自分と同じように、誇りとか、心とか。確かに在るって信じられなねぇ、言わば同類、同胞の手にかかるのは」
 案外、悪いもんじゃねぇだろうさ。
 そう呟き、大太刀と鞘を構える焔影。
「ねぇから確かめようとする。確かめようとして正面からぶつかる。ああ、鏡みてぇなのを見て、初めて知れるって事もあるだろうさ」
 剣鬼が求めるのは、血刃の修羅場のように。
「今の俺が言葉で伝えられんのはそれだけだ。後は、抜いて構えな」
 あくまで剣で全てを定める。
 そういう在り方に対峙したキリジの背骨が興奮と緊張で刺されて、震える。
 この中で。
 剣戟を交わす中でなら。
 見出す事は出来るのだろうか。

 この男、焔影とは違うけれど。
 違うからこそ、何かを。

「ああ……さ、始めるか」
 迷いを振り切り。
 左に銃を、右腕にナイフを持つキリジ。
 『カラゴズ』と、『ワヤン・クリ』。その名はどちらも影人形を意味するもので。

――オレみたいだと。

 諧謔を、今は置き去りに。
 或いは、問いかける相手が確かならば。

――影人形が、自問や諧謔などしないのだと。

 誰かが告げただろうけれど。
 今、語るは切っ先のみなのだ。
 キリジが漆黒のナイフを構えて一気に踏み込み、先制の斬撃を放つ。
「ほう、銃ではなく刃で来たか」
 楽しそうに笑って灰色の大太刀で受け止める焔影。
 流石に意外だったのか、僅かに遅れる反応。そこに畳み掛けるように連続して放つナイフによる黒刃と、格闘用のクロー。
「オレに遠距離から撃ち抜くなんてさせてくれねぇだろ」
「違いねぇ」
 乱れて激突する鋼の音色。
 灰の大太刀があげる絶叫は、それこそヒトの心を宿すかのようで。 
 ソイツが欲しいのだと。
 キリジに微かな思いを、再び揺らめかせて。
「どうした、オィ。集中しなっ!」
 重い烈刃と化して叩き付けられる灰の大太刀。
 けれど、キリジも咄嗟に早撃ちの動作で刃を受け止める盾とする。
 受けきれず、圧し斬られて肩口を深く斬り裂かれるキリジる
 刃と銃が激しい火花を散らして。
 唸りをあげ、響く鋼鉄こそ、キリジには何処か心地よく。
「最初から無傷なんて、オレは狙ってねぇさ」
 そのまま圧し斬られていく刃。鎖骨を断って、肺にまで達しようとする大太刀を無視して。
 刺し違えるように。
 その覚悟は、確かに戦う人のそれとして。
 本人だけは気づけぬその心を、
 僅かな差で、零距離より放たれる黒き弾丸。

――Scratch&Flechette

 そう、ほんの僅かな差で。
 焔影の胸部を貫く、高威力の弾丸。
「ちっ」
 そのまま圧し斬る事を諦め、後ろへと飛ぶ焔影。
 互いに負傷しつつも、与えたダメージは確かで。
 流れた血は、地面に紅い色彩を描く。
 ふと。
 目に入るのは、先ほど斬られた桜だ。
「……あぁ、次に描くならこの一片を」
 触れた、この手で。
 廃墟となってしまった壁に、美しいと、思った桜を描きたいから。
 周囲にある、咲き誇る桜の森ではなく。
 両断されて、斬り砕かれたその桜の一本、一片を。
 キリジが見つけるのは。
 それに意味があると、思うのは。
「……この右腕は残しておかねぇとな」
 きっと心の証明。
 描くものを選ぶのは、人の心なのだから。
 それを誰かに見せれば。
 気付くことはあるのかもしれない。
 誰かに、心の有り様を。
 心の中にある絵を、廃墟の壁に描けるのならば。
 きっと。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
アドリブ歓迎

おや、気が合いますね
私もそう簡単に命をとられる気はないので
相手が過去からきた妄執の化身ならばなおさら

まともに斬撃を喰らうつもりもないので
強度を限界突破させた結界術にて障壁を周囲に設定、
ひとまずあちらの出方を見ましょう
得物の長さが長さだけに動作は大振りになるでしょうが
一切油断はせず動きの癖を読みます

…防戦一方で打って出てこない事が不思議ですか?
ええ、剣士ならばただの悪手ですが
生憎私は生粋の剣士でもないので

体勢が大振りになった瞬間を狙い
押し流さんばかりの水流でもって青龍に大太刀を弾かせる
…さあ貴方の名を明かしてもらいましょうか
宿敵が名も無き剣の鬼では
かの人も胸の中のすわりが悪いでしょう



 冷たい夜風が吹き抜ければ。
 桜は退き、残るはただふたり。
 その冷ややかで美しい眸を向けるのは、水衛・巽(鬼祓・f01428)。
「おや、気が合いますね」
 直刃調の優美な古太刀、川面切典定を手に携えて。
 風の流れるままに、軽やかに。
 後ろへと下がる巽。
「私そう簡単に命を取られる気はないので」
 そう、ましてやと。
 破魔と呪詛。
 魂たる白と魄の黒が絡み合う、陰陽の術の気配を漂わせながら。
「相手が過去からきた、妄執の化身ならばなおさら」
 からんと。
 応えの如く、投げ捨てられるのは一振りの鞘。
 大太刀を納めるべきそれを投げ捨て、獣の如く身を低く屈め、獰猛な剣気を立ち上らせる焔影。
「妄執の化身、ねぇ。突き詰めれば、人間ってのはそんなもんだろうさ」
「とはいえ、そうなるまでの者は早々いないでしょう」
 剣鬼という名は伊達などではなく。
 恐らく尋常に、真っ向から切り結ぶ事の叶う者など少ないだろう。
 故にと後方へと下がって距離を取り、己が限界を超える程の霊力で強度をあげた結界術にして障壁を周囲に張り巡らせる巽。
 ひとまず、焔影の出方を見るつもりだったのだが。
 それこそ巽の準備が整うのを待っていたかのように、全てが整った後に、ようやく一歩を踏み出す焔影。
「じゃあ、始めるかね。全身全霊……準備が整ってねぇからと、全力を出せない相手を斬ってもつまらねぇからな」
「そういうのは剛毅ではなく、傲慢というんですよ」
違いねぇと呟いて。
 瞬間、巽の視界から掻き消える焔影。
 まさに疾風迅雷。
 姿を見失ったと思った瞬間、唸りを上げる大太刀が結界の障壁へと激突する。
 鋼の火花こそ散らねども。
 結界に食い込も、燐光を散らせる刃は何事をも斬り伏せるというという剣威を知らせて。
「一度でダメなら、だ」
 得物である大太刀の長さを活かすべく。
 横手へと跳ね、身を翻す勢いを乗せた斬撃を連続で叩き付ける焔影。
 連続して放たれる斬閃はどれも早く、苛烈なまでに重い剛剣ばかり。
 大振りではあるものの、ひとつ、ひとつの動作が研ぎ澄まされ、振り抜く重さを利用して次へと繋げるその動き。
「まるで大太刀と共に舞っているかのようですね」
 結界へと幾重となく斬跡を残し。
 なお絶え間なく連続して放たれる灰の大太刀。
 一切の油断はせず、動きの癖を読もうとする巽だが、流石に感心したよように息と声を零す。
「おう、このご自慢の結界も」
 故にと、流れるが如き大太刀の三連閃。
 自重と剛力を活かした斬刃は、結界を揺るがす程の斬威を示して。
「長くは持たねぇぞ。さあ、どうする?」
「……防戦一方で打って出てこないのが不思議ですか?」
 小首を傾げて、穏やかに告げる巽。
 その美しい貌は何処までも冷淡で。
 剣士への情けや誇りなど知らないのだと鋭く告げる。
「ええ、剣士ならばただの悪手ですが」
 その手には優美な古太刀があれど。
 決して、これのみにて戦う訳ではないのだと。
「生憎、私は生粋の剣士でもないので。そういうのを望みでしたら、別の方が叶えてくださるでしょう」
「構わねぇよ。強さは、剣だけじゃねぇからな。槍も弓も、術師も全てを斬り伏せてだ」
 故にと大上段から叩き付けられる、猛威の一太刀。
 巽の結界を綻ばせ、揺るがするほどに強烈。
 なれど完全には崩せず、全力で振るった直後に、更にもう一閃と強引に振るうが為に。
 巽の前に僅かであれ隙を。
 そして、巽が操る龍の牙を届かせる瞬間を与えてしまうのだ。
『疾く暴け、青龍』
 呼び出されたのは吉将・青龍。
 全てを押し流さんばかりに溢れるは、激しき水の流れ。
 激流はそのまま龍の爪牙の如く大太刀を弾かせ、姿勢を崩した焔影の身を斬り刻む水刃たちと化す。
 血も花も。
 全ては流れゆくもの。
 過ぎ去ったものに、未練などあるまいと。
 落花流水。全ては時と共に。
 戻ることなど、ありえてはならぬのだと。
「……さあ、貴方の名を明かして貰いましょうか」
 渦巻く水流と青龍を従え、巽が結界より前へと出る。
 どれほどに剣の腕が優れていようと。
 瀑布の如き水には逆らえず。
 水を刃で斬れる道理など、在るわけがないのだから。
 そのまま押し流され、桜の幹へと叩き付けられる焔影へと、巽は告げる。
「宿敵が名も無き剣の鬼では」
 するりと、優雅な刀身を滑らせて。
 従えるは青龍と渦巻く激流。
 桜の花びらを、その裡へと納めて。
「かの人も胸の中のすわりが悪いでしょう」
 そして、その灰色にくすんだ刀身をも。
 いいやその奥底にある魂の名と色を、灰燼の奥より洗い流すべく。
「俺は、焔影っていってんだろうが……!」
 それでもなお激流に抗う、その姿。
 雄々しく、剛毅で、そして苦境でなお笑みを浮かべるのは。
 きっと在りし日は、烈士と呼べる者だったのだろうと。
「それも過去。約束どころか、己が誠の名も、忘れたのであれば……何かが叶う道理もない」
 故にと再び奔る、青龍による波涛の一撃。
 せめて灰の色と、血の赤を。
 流し尽くして、清めるべく。
 灯ってしまった剣鬼の妄念の焔、掻き消すべく。
 清廉なる水流が、焔影の全てを押し潰していく。
「故にせめてと。あるべき場所へと流しましょう。……そこで、約束は待つでしょうから」
 罪を、咎を。
 穢れを洗い清めるが如く。
 渦巻く青龍の水渦が、満開に咲く桜の森にて。
 その神威を示す。
 正しく、終わるべき所へと辿り着かせ。
 もう夢は醒める刻なのだと知らせるように。

 水に攫われた桜は。
 それこそ、焔影という魂への手向けの花の如く。
 白く、白く。
 月明かりの下、流れに乗って漂う。 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
楽し気に、刃を振るわれるのですね
察するに、嘗ての貴方は『己が正しき』を胸に生を駆け抜けたのか…

─羨ましいと、そう想うと共に
それが失われていることが残念でなりません

攻め手は最小限に、刀と鞘を剣と盾で受け止め

戦機として、合理無き戦を私は唾棄しましょう
(設定されてしまった根幹が『戦う』騎士でなく、『救う』御伽の騎士故に)
戦場で、己が性能を振るうことで悦び覚える思考回路を嫌悪しましょう
騎士として、傷つき失われゆくモノを悼みましょう

…失せ物を探すなら、多くを尋ね歩くが常道
貴方が戦いの悦びを謳うなら、哀しきを奏でましょう

崩しの本命誘発
その機と間隙見切り、必要最低限、ただ一閃

これが、その一助とならんことを



 その身は桜と同じ白き色なれど。
 何処までいっても、刃と同じ鋼の身。
 ただ戦う為に作られたモノなのに。
 それでもと心と信念を求めて、進む戦機の姿がある。
「楽し気に、刃を振るわれるのですね」
 騎士と志士。
 その違いは深く胸に抱きながら。
 それでもと、在りし日の輝きを想像して。
 御伽の騎士たるトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は言葉を続ける。
「察するに、嘗ての貴方は『己が正しきを胸に、生を駆け抜けたのか……」

――羨ましいと。

 微塵も迷う事がなく。
 死してなお、ただ真っ直ぐに駆ける剣の姿に。
 トリテレイアは僅かに感情を揺らめかせる。
――そう想うと共に

「それが失われていることが残念でなりません」
「だから、それを取り戻すんだろうよ。俺と、テメェの殺し合いでな」
 剛毅に笑って、灰色の大太刀を構えて前へ躍り出る焔影。
 負傷は著しい筈なのに、動きに衰えなど一切なく。
 ああ、想いでこそ生きる者なのだ。
 矜持と信念を、確かにトリテレイアは翠玉のような眸で捉えながらも。
 轟音を響かせ、儀礼剣と大太刀が交差する。
 続いて互いを撃ち壊すかのように、鞘と盾が衝突して。
 乱舞と化す武と鋼の嵐。
 火花を散らし、激震を伴い、剣風に花散らせて。
 攻め手は最小限に。
 焔影の振るう灰色の大太刀に押されるように、それでいて、決して退かぬと剣戟に身を投じるトリテレイア。

――なんと、羨ましくも、哀しい刃なのか。

 もしもこの刀身がくすむ前ならば。
 どれだけの人を救うべく、美しき剣閃を描いたのか。
 禍々しさも、剣鬼と呼ばれる所以もきっとそこにはないだろうから。
「戦機として、合理なき戦を私は唾棄しましょう」
 己に設定し。
 そして自らを律する根幹は、『戦う』ことではないのだから。
 トリテレイアのお伽噺は、何処までも『救う』ことへと。
 無辜の民へと、光へと手を差し伸べる事にある。
 だから拒絶するように。
 迫る灰色の切っ先を弾き返し、この身に傷など刻ませないと対峙する。
「戦場で、己が性能を振るうことで悦び覚える思考回路を嫌悪しましょう」
 つまりは、自分とて戦いの熱を。
 闘争の愉悦を微塵も感じていないなど、言えないのだと。
 トリテレイアは、その身を恥じているから。
 そんな有り様で、どうして清廉たる騎士となれよう。
 産まれ持つ魂の輝きがないのならば。
 それを求め続けるしかないというのに。
 道を違える事など出来ないのだと、剣鬼とは違う理由と信義の元に、真っ向から切り結び続ける。
 戦いの裡では鋼もまた、儚く。
 火花と共に削れ、砕け、潰れ零れて形を失いながらも。
「騎士として、傷つき失われるモノを悼みましょう」
 それこそがトレテレイアが天へと掲げる、騎士の誓い。
 誇りというならばそれこそが。
 戦場の化け物と違うのは、それのみをもって。
 何もかもが無常に、儚く終わるというのならば。
 救いの手を、差し出し続けるのみ。


――その愚直な行い、人形とどう違うのかと。
 問われれば、トリテレイアは言葉に詰まれど。
 剣は振るい続けられるのだから――


「はっ。アンタ……いいねぇ」
 故にこそ、ぎらぎらと。
 爛々と瞳を戦意に輝かせて、焔影が大太刀と鞘をトリテレイアへと叩き込む。
 烈閃と放たれる大太刀と、穿つかのような鞘の重撃。
 トリテレイアの身をして真っ向から受け続けるは難しき武芸。
 ただの怪力ならば、その戦機の出力で対応できただろう。
 ただの迅速ならば 数多の戦場の経験が応えを出しただろう。
 いいや、それだけではない。
 トリテレイアが攻め手を削る事で。
 踏み鳴らす剣鬼の脚で、奔らせる大太刀の切っ先で。
 自らが何かを奏でて、舞台と紡がせるように。
 焔影の想いを、湧き上がらせようとするかのようだから。

――そんな、誰かの為の剣など。忘れていたのだと。

 唸りを上げる大太刀と共に。
 それでも止まらぬ焔影は言葉を紡ぐ。
「それがテメェの勇、テメェの仁義なんだろうさ。助けること、救うこと、護ること……いい剣じゃねぇか」
 だからこそと。
 戦意に燃える焔影は、身ごと激突するようにトリテレイアへと攻め懸かる。
 交差する視線の中に。
 けれど、じわりと滲むは何か。
 零れた焔影の声は、何を指すのか。
「懐かしささえ、感じるのはなんでだろうな」
 或いは。
 剣鬼となったモノにさえ。
 唾棄すべき合理なき戦いに身を置く修羅にさえ。
 光の下へと戻って欲しいのだと、トリテレイアは願うから。
 戦機の舞踏は、魂の猛りの音色を呼び覚ますのだ。 
「……失せ物を探すなら、多くを尋ね歩くが常道」
 故に戦場で、命奪い合う白刃に尋ねるなど。
 間違いでしかないのだと、するりと。
 初めて一歩下がるトリテレイア。
 半身となって掲げるは、大盾の守り。
 崩せるものならば崩してみよと。
 けれど、それが叶わぬのならば、全身全霊の儀礼剣が後に控える。
「貴方が戦いの悦びを謳うなら、哀しきを奏でましょう」

 これを誘いと知り。
 それでも、挑むしかないその果敢さに。
 一度、振るう剣を止める事の出来ない、悲しい魂へと。

「面白れぇ! てめぇと俺は、なんか似てんだよ」
 だからこそ。
 越えなければいけない。
 今を覆し、過去に戻る為に。
 過去の、護る為に在った姿を取り戻す為にと。
「――その何か、確かめさせ貰うぜ」
 全身全霊をもって振るわれる灰燼の大太刀。
 半端な受けでは骨ごと砕く剛を宿し、迷いなく振るわれる猛威。
 全てを斬り崩すべき放たれた、その剣威をトリテレイアは迷い無く受けて。
 斬り砕かれる盾。
 舞い散る鋼の飛礫は、さながら涙のように花と舞い。
 その元を、盾を投げ捨てたトリテレアが駆ける。
 焔影の動きを誘導し見切り、盾を犠牲に最小限の動作で避けて。
 ただ、ただ一閃を。
 静かに、戦機たる騎士の想いを込めて。

 悲しい程に鋭くて、冷たい戦機の刃が夜闇を奔る。

「これが、その一助とならんことを」
 血塗られた道を斬り拓く。
 光となれと、すれ違い様に焔影を切り捨てる。
「……戦場にて剣に尋ねれば、血しか応えない」
 今までがそうだったでしょう。
 そういうものを続けて、何になったのですかと。
 そんなものに、信念を、約束を、魂を預けるものだったのか。
「まず己の想いを、知りなさい」
 それはまず。
 口にするトリテレイアにも返りて突き刺さるものなれど。
 目の前にしたモノを、敵であれ救わねばならぬと誓った以上。
「これが約束を宿す剣というものです」
 奏でられたのは、ただ剣鬼の末期ではなく。
 護りたいという願いだったのか。
 けれど、過去には戻れず。
 燻る灰と、くすんだ大太刀が大地へと突き立てられる。
 零れる鮮血は、終わりの近さを。
 喉より零れる、処か懐かしさと穏やかさを交える笑い声は。
 焔影が、この戦の中で何かを思い出している事を知らせて。

 ただ、振り注ぐ桜の花が。
 悪夢の如き、剣と鋼と、鮮血の様を覆い隠す。
 さあ。
 これよりは、誠なる夢の舞台。
 思い描いた願いを、トリテレイアが何処までも追い求めるように。
 果てて壊れた魂の残滓で。
 追い求めた先を、焔影は思い出す。


 ざわりと。
 桜は風に詠う。
 剣が意味が失い、地に埋もれ。
 絡み付く草花が、それを糧に色彩を咲かせる姿を。
 白櫻の森が、幻のように夜景に浮かばせる。
 余りにも朧で。
 けれど、何れは誰も辿り着く場所として。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
護国の将が災いとして蘇ってどうする、此の馬鹿者が
忘れているなら思い出させて呉れよう
勝ちたい理由――其の刃が“何の為に在った”のかを

其の太刀捌きも動きの癖も、何一つ忘れていない
どう動くか考える迄も無く反応出来る
受ける傷とて懐かしい程――ああ、変わっていないな
だが過ぎた時間が、重ねた経験が、決着を着ける布石と成ろう
――終葬烈実
お前の知らぬ護る刃で以って、誤った迷いの生を断ち斬ろう

二度と迷わない様に黄泉路の先導をと云って遣りたい処だが、其れは出来ない
名を呼ぶのも此れが最後だ
すまなかった……随分と待たせてしまったな
お前との約束、此処に果たそう
――将衛、私は帰った
もう戦わずとも大丈夫だから……休んでくれ



 はらりと。
 静かに、冷たく。
 悪夢を鎮める白櫻の花びらが降り注ぐ。
 血の赤を、灰の哀しみを、覆い隠すように。
 嘗て、という過去を。
 そこから続いてしまった、今までの路を閉ざすように。
「護国の将が災いとして蘇ってどうする」
 だからこそ、告げるは声で。
 鞘より抜き放つは露を掃い鋭悉くを断ち斬る鋭刀、秋水。
 桜吹雪を、懐かしきその輝きで斬り払い。
 己が進む路を、確かに踏みしめて。

――ああ、やっと。
テメェに逢えたのか――

 それだけで十分な筈なのに。
 いいや、まだだ。果たせていない約束があるのだと。
「此の、馬鹿者が」
 どうしようもない義憤と。
 やるせないほどの悲哀を。
 果てぬ綾と織り成しながらも、鋭き戦意と化すは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
 だが、それを受けて肩を竦めてみせる焔影。
 忘れた儘で。
 まだ何も果たせていないのだから。
 やっと約束を交わした相手に逢えたのだけれど。
 まだ、果てて遣れないのだ。
 なあ、と口を開く。
「馬鹿は仕方ねぇだろう。……なあ、アンタの名を聞いていいか」
「この口で言う、ものか。馬鹿者」
 故に剣で告げてやろう。
 どうしようもなく。
「忘れているなら思い出させて呉れよう」
 この石榴の如き眸の色も。
 振るう刃の鋭さも。
 共にこんな櫻の下で味わった、酒と幸せの味も。
 お前が忘れてしまったという、悉く全て。
「勝ちたい理由――其の刃が“何の為に在った”のかを」
「その為に刃で問い、刃で応える。いいねぇ。俺とアンタらしいぜ。……名を思い出せねぇのが、辛れぇよ」
 だから思い出せてくれよと。
 灰色の大太刀を構えて、瞳に戦意の炎を揺らめかせる焔影。
「叶うなら、もう一度、テメェの名を呼ばせてくれ。思い出させてくれ」
 それは戦友の瞳で。
 或いは、何処か安堵する兄の貌で。
 それでいて、探し求めていたものを見つけた剣士の姿。
「そして、応えてくれよ! 剣も、武も、想いも。全てはあの灰の都を越えた、テメェの名を以て!」
 故に、烈閃と化す灰の大太刀。
 剛剣ながら迅速。半端な刀であれば押し砕くという。
 瞬きする間さえ許さぬという猛威が、剣風を渦巻かせる。
 故にするりと。
 前へと踏み込みながら、大太刀の切っ先を秋水で斬り払う鷲生。
 弾けて散る、火花は。
 まるで過去の輝きのようで。
 続くは死角より強襲する鞘の重撃。身を屈めて躱せば、鷲生は目を細める。
 なんとも実直で剛毅なのか。
 其の太刀捌きも、動きの癖も。
 瀑布と見紛う剣威も、爪先で間合いを測る仕草も忘れていない。
 故に、何もか考える迄も無い。
 嘗てのように。
 在りし日のように。
 身を翻し、清冽なる斬撃で応じる鷲生の姿。
 さながら大太刀が渦巻く猛威へと身へと投じるかのようでありながら。
 その貌に、瞳に、恐れもなければ、猛りもない。
 思考など置き去りにして反応し。
 けれど、互いの放つ切っ先が、互いの身を斬り刻む。
 流れる鮮血と悼み。
 それさえも。

――ああ、変わっていないな。

 懐かしくて。
 出来る事なら、この桜たちが果てるまで続けたいと。
 心の底で、微かに鼓動が脈打てど。
「過去の残滓……そうである事に、変わりはないのだ」
「それでも、約束を果たそうとしても、か?」
「巫山戯るな」
 静かに。
 けれど、鋭き裂帛を伴って。
 諸手で携える秋水をもって真っ向より斬り懸かる鷲生。
「馬鹿者。お前は十分に約束を果たしてくれた。――果たせず、お前を彷徨わせたのは私だ」
 だからこそ、この手で引導を。
 この刃で、懐かしき過去の輝き共に葬ろう。
 
 嗚呼、桜よ。
 頼む。今だけは止まってくれ。
 全てを覆い隠す事などないように。
 この刹那の全てを、この瞳と魂に灼き付かせてくれ。

 刃金同士が奏でる、澄んだ響き。
 互いの剣を深く知るからこそ、噛み合うように打ち合えど。
 何処までも美しい音色しか奏でぬのだ。
 剣戟が花吹雪と共に、荒れ狂いながら。
 友の血の赤さに、呼び覚まされたように、焔影の唇が声を紡ぐ。
「そうか。そうかよ……鷲生」
「ようやく思い出したか」
 命を削り合うようなこの瞬間に。
 忘却の霞みは晴れ、けれど、決着を求めて剣が鳴く。
 過ぎた時間が、重ねた経験が、決着の布石。いいや、鷲生の勝利への路を形作る。
 鷲生が焔影の全ての剣を知れど。
 過去たる焔影は、今を生き続けた鷲生の全ては知れぬのだから。

――伝えられるのは、刃でのみと、
 糸の如く細き軌跡を、斬刃で描きながら――
 
 或いは、流れる鮮血が互いの心を結ぶのか。

 下段より翻った秋水に胸板を斬り裂かれ。
 けれどと、剛毅に笑う焔影。
「嬉しいねぇ。堅物のお前が、俺の知らねぇ技を覚えて。なんだそりゃ、異国、異邦の剣術か」
「まだまだ、貴様には見せてやりたいものがあるが……何時までも引き留めておく訳にもいかん」
 速やかに葬るべきなのだと鷲生は判るからこそ。
 いいや、だから交わす焔影との言葉に心が揺れる。
「鷲生よ。身と衣に溶けて烟る紫煙は、今は誰かと生きる証か」
「…………」
「鷲生。テメェが独り往く事を選んでいない事、嬉しく思うぜ。だが――約束は果たせて貰う」
 焔影が謂うそれが何なのか。
 確かめるまでもなく。
 必要さえないだろう。
 ただ、鷲生は刃にて示すのみ。
「――終葬烈実」
 武芸際涯。剣士の最果てへと、目覚めた今の自分を。
 数多の世界を、今伴に生きる者と渡り歩いたからこそ。
 その身に宿した武芸をもって、蘇りし過去を切り拓くべく。
「お前の知らぬ、護る刃で以って」
 心身の束縛をから脱し、至る境地にて振るわれる烈志の剣閃。
 何者にも、過去の友の魂であろうと阻めぬのだと、一刀ごとに斬り伏せ、追い詰めていく。
「誤った迷いの生を断ち斬ろう」
 過去とは違うのだと焔影に詠うは、鷲生の振るう剣のみに非ず。


 呪詛と氷はその肉体と命を苛み。
 焔を秘めたる刃が刻んだ傷は鮮血と力を零し続け。
 青龍の放つ水牙は残滓の身を撃ち据え、心を揺らす。
 そう、積み重ねてきたのは経験と戦場だけでなく。
 切り拓くべく一助の刃として、重ねなれたものなれば。


 今を生きる者達との心をもと。
 鷲生と焔影の差として、顕れるのだ。
 故に、終わりは余りにも静かに。
 僅かに出来た、その間隙へと鷲生は切っ先を瞬かせる。
 最期は己が力のみで遂げるのだと、振るわれた大太刀よりなお迅く。
 踏み込んで、焔影の心臓へと切っ先を届ける。
 その刺突は揺れる事のない水面の如く静謐に。
 如何なる音も、降り注ぐ花も、ふたりの間に割り込む事など出来ないのだと。
 けれど、命に触れる程、深く、深く。
 赤い命を、零させる。
 焔影の、彼の吐息が終わろうとするのを感じながら。
「二度と迷わない様に黄泉路の先導をと云って遣りたい処だが」
 より深くと、秋水の刀身を抉り込ませながら。
 穏やかに、哀しみを秘めさせて。
「其れは出来ない」
 
――望む限り、傍に在るのだと約束した身なのだ。

「もう大切な存在との約束を破る事など、出来ない」
「……これで十分だ。鷲生、お前はまだ、こっちんくんなよ。来たら、叩き返してやるからな」
 百年は。
 この桜のように生きてくれよと。
 喉からせり上がる血塊と共に、焔影が言葉を吐き出す。

――俺は約束通り、鷲生が帰ってくるまで。
 俺は負けなかったぜ、死ななかったぜ。
 今度こそ――

「どんなに間違えても、忘れても、お前の帰りを待ち続ける……それだけが護るべき約束だっんだよ」
 そう。其の刃が“何の為に在ったのかと謂われれば。
 鷲生が帰る場所を、生きて過ごす日々を護る為にあったのだと。
「俺が負けるのは、鷲生。テメェにだけだ。そう決めていたんだよ」
 ようやくだと、焔影が優しく笑う。
「約束、果たせたよな。勝手なモンだが、俺にはそれだけは譲れねぇんだよ……無い事に、できなかったんだ」
 だからすまねぇと。
 お前の手で、終わらせてくれと。
「ならば……名を呼ぶのも此れが最後だ」
 鷲生は深緋の隻眼で、その姿を。
 友の末期を、残骸となってまで彷徨った魂を看取るべく。
「すまなかった……随分と待たせてしまったな」
 秋水の柄を握る指先が、小さく震えるのを堪えて。
 最早、兄のように見守ってくれ存在など鷲生には要らないのだと。
 むしろ、今の私とはそういうものなのだと。
「お前との約束、此処に果たそう」
 心臓を貫いた刀身を、鍔元まで深く埋めて。
 吐息のかかる距離で。
 互いの傷口から流れる血が、交わる距離で。
 桜さえ知らず、判らぬように。

――将衛、私は帰った

 それが、約束と。
 灰の将の、呼ばれるべき誠の名前であると。
「もう戦わずとも大丈夫だから……休んでくれ」
「だったら、よ」
 最期の力を振り絞るように。
 死力を尽くし、命が燃え切ろうとしているのに。
 それでもと鷲生の肩を、大きな掌で掴む焔影……いいや、将衛。
 きっと命を落とした時も。
 こうして、最後の瞬間まで誰かの為にと。
 言葉と、刃を振るったのだ。
 今はもう、大太刀を地面へと落とせども。
 それでいいのだ。
「……俺の約束も、最後まで果たさせてくれよ。鷲生、テメェは帰るべき場所へと、今度こそ帰れ。待つ人の元に、今度こそ」
 辿り着いて。
 何度でも、ただいまと笑ってくれよ。
「それが俺の願い。いいや、末期に見る、夢だ。……あの世で、それを見続けさせてくれ」
 ふっと剛毅な笑みを。
 最早、俺の事で憂う事などしないでくれというように。
 浮かべて、力を失い、鷲生の身へと重なるその身体。
「約束しよう。……お前のように、忘れたりするものか」
 馬鹿者が。
 言葉は、嘗ての共の亡骸が流す血に濡れて。
 けれど、今度はその骸を確かに埋葬出来るのだと。
 桜花の下に、彷徨いし魂は終わりを迎えるのたせと。

 嗚呼、そうだ。
 共に桜を見ようと約束したのだった。
 明日へと続くしかない、時間の流れ。
 全ては過去へと成って果てる、無常の中で。

 想いを抱き締められるの何なのか。
 伴に在り続けるとは、どういう事なのか。
「迷うなど、在りはしない」
 進むべき路は確かにあるのだと。
 けれど、今、一時だけはと。
 鷲生は瞼を閉じる。
 もはや灰など残らず。
 ただ桜が静かに舞い散る、夜空の下で。
 美しい今を、抱き締めるべく。
 総てを喪い、其れでも生きて。生きて。
 こうして今を迎え、此から此の手に在るものと伴に。
 幸いを願うべく。

 幾つもの約束を、糸のように。
 綾取りの如く、絡めながら。
 如何なる刃でも断てぬそれを、魂にと結びながら。

 約定より解き放たれた魂の残滓が、花に飾られ、友の手で葬られる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月29日
宿敵 『灰都の将・焔影』 を撃破!


挿絵イラスト