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ぬすっとさんかー

#デビルキングワールド

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#デビルキングワールド


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●おかしら募集中
 デビルキングワールド。
 広大な魔界のどっかそこら辺の端っこに、盗賊たちの住まう国があると言う。
「国って言うか、大きさ的には里だね。魔界盗賊たちの隠れ里だ」
 デボラ・ネビュラ(魔女・f30329)が、おどけるような口ぶりでグリモアに触れた。
 直後、ベースに映し出されたのは、(デビルキングワールド比で)何処かのどかな田舎の風景と、ブギーな布を被ってわさわさ蠢くカニの群れ。
「彼らは中々のやり手でね。で、やり手の盗賊たちのねぐらであるからには、限界集落的、もとい牧歌的な見てくれに似合わず相当な額のD(デビル)を貯め込んでて、それ故オブリビオンに目を付けられてしまった、というワケだ」
 この世界の住人達は度を越したイイ子で、基本他世界では貨幣が必要になりそうな社会のあらゆる部分を皆嫌な顔一つせず無償の善意でぶん回している為、現状ワルさのバロメーターとしてしか機能していない魔界の通貨『D(デビル)』だが、実はこれには魔力が籠められており、大量に集めれば『カタストロフ級の儀式魔術』が展開出来るという。
 オブリビオンはそれを為すべく周辺地域をまとめ上げ、新たな国を興し、戦力を整え、今まさに隠れ里へ迫りつつあるらしい。
「そう。オブリビオンとソイツが作り上げた国こそ今回私達が戦わなければならない存在――正式名称『魔界盗賊被害者の会』だ」
 なんて飾り気の無い国名だろう。
「オブリビオンと猟兵は顔を合わせば相争う不倶戴天の敵同士。奴らが無数の被害者を丸め込んでやってくるなら、こっちは加害者に肩入れして被害者ごと根こそぎぶっ飛ばしてしまうのさ!」
 悪い奴はカッコいい、欲望は何より素晴らしい。デビルキング法の制定により勧善懲悪ならぬ勧悪懲善なこの世界であれば、普段の立ち位置が入れ替わるのも当然? 当然……なのかもしれない。
「向こう側も慰謝料に託けて、里の身包みブギー布ごと根こそぎ引っぺがす気満々だから、結局のところどっちもワルだよ。正誤の戦いじゃない。つまりよりワルい方が勝つワケだ。君たちも既に正義はくたばったものとして行動してほしい」
 無法にして末法過ぎる文字列を吐き出し始めるグリモア猟兵。
「で、加害者側の盗賊たちについては……見つからず、傷つけず、鮮やかに、って掟の元に各地で華麗な盗みを繰り返していたコダワリの怪盗集団なんだけど、今年の初め先代の頭領(ラスボス)が『やっぱ俺盗賊より勇者やりてぇ……』って長年の夢を捨てきれず転職(ジョブチェンジ)して世界を救う遥かなる旅(ヴァカンス)に出てから後は、特に何をするでもなく、日がな一日ゆるゆるふわふわして世情にも疎くなってるみたいだね。幸い、里の公式ホームページに新おかしら募集の求人が載っかっていたから、それを利用して彼らに近付くのは容易だろう」
 隠れ里の。公式ホームページに。
「あらゆる突っ込みを無視して一言で纏めると、有力者不在の隙をオブリビオンが大軍を率いて突こうとしてるって話さ。国対国の戦いだ。猟兵だけじゃ手が足りない。向こうが攻めてくる前に、腕っぷしで強引にわからせるなり、盗みの業前でマウント取るなり、手っ取り早く買収するなり、みんなで息を合わせて大縄跳びするなり、戯れにアフターヌーンティーをしばくなりして共闘出来る程度には盗賊たちと仲良くなってほしい。ごめん後ろの方は適当言った」
 要するにまずは何でもいいから友好度を稼げと、そう言う話のようだった。

「――ああそれから。デビルキング法に曰く、『裏切りもまた美徳』だ。善悪が逆転したこの世界で正義の味方然とした行動をしようものなら、いきなり後ろから刺されても文句は言えない。この世界では常にワルカッコよく立ち回るのを忘れないように、ね」


長谷部兼光
 参加、賛歌、もしくは惨禍かもしれません。

●目的
 ・盗賊たちと仲良くなり、
 ・迫り来る被害者達を返り討ちにし、
 ・オブリビオンを撃破する。

●隠れ里の盗賊たち
 ブギーキャンサー。
 腕は確かだが、強く引っ張ってくれる人がいないと永遠にゆるふわしている。

●備考
 ・第一章は集団戦シナリオフレームですが、一切戦闘しなくてもクリア可能です(勿論、普通に戦闘しても問題ありません)。
 ・プレイングの受付は、各章とも冒頭文追加後からになります。
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第1章 集団戦 『ブギーキャンサー』

POW   :    キャンサー・パレード
【蟹脚を蠢かせながらの】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【他のブギーキャンサー】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    フィアー・キャンサー
【知恵の布】を脱ぎ、【おぞましき巨大魔蟹】に変身する。武器「【長く伸び敵を切り刻む巨大蟹の鋏】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。
WIZ   :    キャンサー・カース
攻撃が命中した対象に【蟹型の痣】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【呪詛】による追加攻撃を与え続ける。
👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●蟹脚ブギウギ
「明けまして! おめでとー!」
「えー? もう3月も後半なのにー?」
「悪ーい!」
「はーいこれ年賀状ー」
「うわー! 干支がずれてるー!」
「極悪ー!」
「干支っていえばさー。昨日悪魔的ふるさと納税のページ眺めてたらねー。ほらここ見て見てカースオブみえ県のグラトニーまっさか牛ー。凄い美味しそうじゃなーい?」
「ホントだー。美味しそー」
「僕は鶏肉の方がすきー」
「最近ねー、里の公式ホームページのアクセス数が何だか知らないけどガンガン上がっててねー」
「実際お仕事してないからー。ちょっと体が鈍ってる節あるよねー」
「あるかもねー」
「だからぼくは最近筋トレばっかりしてるー」
「へー。そーなんだー。それでさー、それからねー………」

 ……何という事だろう。とりとめのない話がとりとめもないままとりとめもなく繰り返され完結する気配が微塵もない。
 今時の、学校が午前で終わった学生や有閑マダムだってもう少し実のある話をすると思われる。

「んー? あれー? お客さーん?」
「えー? ほんとだー。めずらしー」
「お茶請け何かあったっけー?」
 しかし。ここが広大な魔界のどっかそこら辺の端っこの田舎町の野ッ原であるならば、外から人がやって来るとなどと言うほんの小さな日常すらお祭りレベルの一大事。悠久なる世間話もたけなわ、ゆるふわ盗賊たちの興味は、必然、猟兵たちへと集まっていく。
「もしかしておかしら募集見てやってきたかんじー?」
「へー? 何だか数か月にいっぺんの頻度で世界を救ってそーな雰囲気あるのにー?」
「昨今流行りっぽい予感がするオリエンタルロマンな仙人や武侠じゃなくて盗賊のおかしらになりたいなんてとんでもない邪悪なー」
「人は見かけによらないねー」
「ねー」
 ……ゆるふわしてる癖に妙な所でやたらと鋭い。流石かつてはやり手の盗賊だったからだろうか。
 しかし、こうやってゆるゆるふわふわしている間にも、オブリビオンの魔手――魔界盗賊被害者の会の襲撃が刻一刻と迫りつつあるのだ。
 手段は問われない。如何にかして、盗賊たちと仲良くなろう。

「ところでー、おかしらの採用基準とか採用人数とかどーしよー?」
「うーんとねー……じゃあねー……とりあえずフィーリングでー」
「なるほどオッケー。わかったー」
 ――大丈夫。何だか大分ちょろそうだ。
アーサー・ツヴァイク
※すきにしてください

ヒーローたるもの、アクヤクも理解しておかないと…
とは言うが、実際どうやればいいんだ!?(なぜきた

とりあえず彼?らを従えないといけないわけだが…
わ、ワルっぽく…ワルっぽく…

よし、まずは…たくさんある足をコチョコチョしてやる!
どうだ! くすぐったいだろう!
それと、【怪力】で…そうら、高い高いだ!
急にされると、怖いだろ!
あ、後は…ほら、俺の技で急にピカってなるぞ!(威力は超最低限)
どうだ! 怖いだろ! こ、怖いだ…怖いかな?
ええっと…ほら、色んな姿になるぞ! 変幻自在だ、怖いだろ!

…何かが違う? そ、そうか…

あ、アクヤクって…大変だあああああああああ



 空を覆う分厚い暗雲。骸らしきものが打ち捨てられた無明の荒野。爛れた道徳。欲望のまま跋扈する悪魔たち。
 さながらあらゆる悪の本拠地に、それでも太陽の如き情熱を胸に秘め、わが身を顧みず挑む男こそ、赤き勇者の鎧(バトルスーツ)を纏うアーサー・ツヴァイク(ドーンブレイカー・f03446)。
 ……善悪が逆転したこの世界において、正義の味方(スーパーヒーロー)など決して歓迎されえぬモノ。異物であることなど百も承知したうえで、ならば何故この世界にやって来たのかと問われれば、答えは一つ。
 例え世界から拒絶されようとも、後ろから背を刺されようとも、邪悪なるオブリビオンの魔手が力無き人々を脅かそうとするのなら、それをぶち破るのが暁の戦士・ドーンブレイカーだからだ!
 だからこそ。ヒーローたるもの、いつか来るであろう世界の命運を掛けた決戦に備え、アクヤク――特にこの世界の住人の事も知っておかなければ。
「むむー、例え素顔を見せずとも伝わる勇気と情熱ー」
「ブギーモンスター的にそう言うのは憧れだよねー」
 そんなこんなで、まずはびしりと決意表明的にキメポーズを取ってみたところ、ファーストインプレッションは中々悪くない様子。
 ならば良し、このまま畳みかけるように……!
 ……畳みかけるように……?
(「――とは言うが、実際どうやればいいんだ!?」)
 いきなり万策尽きてしまった。
 もし今素顔なら恐らく目がとてつもなく泳いでいるところをばっちり目撃されていただろう。
 どうしよう。どうしたものだろうか。
(「とりあえず彼? らを従えないといけないわけだが……」)
「でももしかするとワルって言うか正義の味方な感じかもー?」
「えー? 言われてみればお日様っぽいしそうかなー? そうかもー?」
「いいや違う! 今の俺はえーっと……あっ、そうだ! 太陽は太陽でも夜の闇に最も近い黄昏の戦士!」
 いけない。早急に何かアクションを起こさないとこのままでは正義の味方認定されてしまう。実際正義の味方だが。
(「兎に角、わ、ワルっぽく……ワルっぽく……!」)
 こうなれば当たって砕けろの精神だ。アーサーはその卓越した身体能力で、いきなりゆるふわ盗賊達目掛けヘッドスライディングを仕掛けると、一匹の盗賊の足元に潜り込み、
「わー! 僕の軸足掴まれた―!」
「足元狙うなんてとても卑怯なー」
「よし、まずは……たくさんある足をコチョコチョしてやる!」
 何の罪も無い住人の脚をくすぐるなんてヒーローとして躊躇があるが、これもは彼らを守るため――いいやそう言えば彼らは盗賊だった。罪ありき。全力で行こう。
「どうだ! くすぐったいだろう!」
「わはは! ふへへ! おのれなんというーうふふ!」
 脚をくすぐられ、予想以上に笑い転げるゆるふわ蟹。そして完全に無防備なったこの瞬間を、アーサーは決して見逃さない。
 くすぐりから一転、アーサーは両腕に力を籠めると一対の脚を掴んで徐に、勢いよく上空へと放り投げた。
「わー! 打ち上げられちゃったー!」
「そうら、高い高いだ! 急にされると、怖いだろ!」
 落ちてきた蟹を危なげなくキャッチして、さぁ、これでどうだと盗賊たちを見回すと、そこには純粋無垢なる期待の眼差し。しかし期待のされ方が、当初想定していたものと若干違うような気配がする。
「次は次は―?」
「あ、後は……ほら、俺の技で急にピカってなるぞ!」
 急かす盗賊たちの要望に応え、形態(フォーム)を変えたアーサーが、天へと太陽の力をこめたビーム(今回に限り威力は超最低限)を放てば、眩い光と共に分厚い雲へ穴が開き、青空が陽光と共に顔を覗かせた。
「どうだ! 怖いだろ! こ、怖いだ……怖いかな?」
「すごーい!」
「魔界天気予報を台無しにしちゃうなんて極悪ー!」
 ちょっと自信がなかったが、盗賊たちのウケはとてもいい。ウケは良いが、でも何だかやっぱり、こう、なんというか。これはヒーローショーを見た観客のリアクションでは?
「他には他には―?」
「他!? ええっと……ほら、色んな姿になるぞ! 変幻自在だ、怖いだろ!」
 アーサーはビームを撃ち出した形態……シューティングギャラクシィから、ハンマーが主武器のストライキングファンタジーに、さらにバイクと共に疾走するドライビングスチーマーに……と、多種多様なフォームを惜しげなく盗賊たちに披露する。
「ははは! どうだ!? ……どうかな? ……どう、でしょう?」
 思わず敬語になってしまった。
「んー、なんだかちょっと違うというかー」
「悪の組織に潜り込んだ正義の味方みたいなー」
 当たってる。ズバリその通りの状況だった。これは若しや正体がバレたか、
「ちょい悪って感じだよねー」
「つまりワルという事で―」
「おかしら合格―!」
 一瞬そう思いもしたが、ゆるふわ基準的に全然大丈夫だった。

(「あ、アクヤクって…大変だあああああああああ!」)
 なんやかんやと潜り抜け、アーサーは仮面の裡でほっと胸を撫で下ろす……普通に戦うよりも、どっと疲れた気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ライラック・ラック
盗賊をどうにかしようなんてものすごいワルだわ
そしてそのワルを倒せばララはすごい悪女!!!
そういうことよね、セバス?
(どやっな雰囲気の布)
ふふふっ
腕利きの盗賊っていってもいまは田舎暮らしのブギー
生まれも育ちも都会のララが、おかしらにふさわしい洗練された布を見せ

えっっっあのブギー達の布、かわい……



ふ、ふん!!そんなじゃララにはかなわないんだから……っ
でもちょっとよく見せなさい!そのステッチはどうなっているのよ!耳の飾りもわあああステキ!これは?どうやって作ったの?ええ、ララのリボン?あなた良いセンスしてるわ、これは(以下ファッション談義)
え?なあにセバス?
………。も、もちろん目的は忘れてないわよ!



 アーサーとゆるふわ盗賊たちのやり取りを、少し離れた物陰より観察するブギーな視線が一つ。
「まぁ! 各地で悪事を働く盗賊をどうにかしようなんて……ものすごいワルだわ!」
 そのこそこそしている視線の主、小柄な体を紫色のお洒落な布(クロス)にすっぽり隠した彼女こそ、実は由緒ある家柄のお嬢様、お忍びで隠れ里までやってきたライラック・ラック(ブギーモンスターのぽんこつお嬢様・f32061)だった。
「そしてそのワルを倒せばララはすごい悪女!!! そういうことよね、セバス?」
 魔界に生まれたものとして、目指すところはやはり最上級の絶対悪。しかし小さなことからコツコツなどと、そんな努力は善人の善業。なのでララは一足飛びにも二足飛びにも優雅かつエレガントに悪女の階段を駆け上ってしまおうという、邪悪な野望を抱いていた。
「……左様でございますな。このセバス、これからお嬢様が歩むであろう悪の花道を間近で見守れること、とても幸福に存じております」
 お供のセバスは喋る杖。お嬢様も大きくなられたと、執事として、保護者である身として感慨にふけると同時、既にどやっな雰囲気を醸し出してる主に一抹の不安を覚えるのもまた、親心。
 そんなセバスの懸念など知る由もなくぶんぶか振り回し、さぁてどうしてやろうかしらとララは盗賊たちを見据えて悪だくみ。
「ふふふっ。腕利きの盗賊っていっても今は、引退気味で田舎暮らしのブギーよね?」
「今日も元気にゆるふわしておりますようで」
 だったら答えは一つじゃない? ララはふふんと自慢げに、物陰から姿を晒して堂々盗賊たちへ歩み寄る。
「何か良い策を思いつかれたようで?」
「策なんて程のものでもないわ。生まれも育ちも都会のララが、おかしらにふさわしい洗練された布を見せ、」
「成程、圧倒的なカリスマを見せることで、自然と己の『分』を弁えさせるという、これ以上ないほどスマートで洗礼された――お嬢様?」
 主が硬直した事に気づくセバス。
 そう、この時、何を隠そう主のララは――

「えっっっあのブギー達の布、かわい……」
 きゅんっと来ていた。

「お嬢様!?」
 おうシット。不用意に近づいたのが運の尽き。
 かわいいものに目が無いお嬢様、ゆるふわ盗賊たちのブギーな布地を間近で見てしまったが故、ものの見事にKAWAIIに心を奪われてしまいましたとさ。
「おのれ盗賊。何と邪悪な……!」
 一瞬で策が崩壊し打ちひしがれるセバス。そう。この世界ではかわいいも悪なのだ。
「あー、ブギーな感じの人がいるー」
「違う柄の人見たの久しぶりだよねー。どーかなー。僕たちのブギー布も中々のものでしょー?」
 何と言う悪魔の甘言。セバスは最悪を察する。このままいくと漏れなく悪魔的ファッション談義が始まってしまう!
「――ふ、ふん!!そんなじゃララにはかなわないんだから……っ」
 などとララは一見突き放した振る舞いをしつつも、
「ねぇそこ、もしかしてシミになっちゃってるんじゃない?」
「えーどこどこー?」
「なんてこったせっかくの一張羅がー」
「……あら、ごめんなさい、ララの見間違いだったわ」
「このこのー」
「うっかりさんめー」
 適当な理由をつけて一気に盗賊たちと距離を詰め、後はもう、セバスが予期した通り和気藹々に。
「でも、ほら、もっと良く見せなさい! そのステッチはどうなっているのよ!」
「ふふふナイスでしょー?」
「耳の飾りもわあああステキ!」
「みんな一緒の盗賊(チーム)だからー。シンボルマーク的なもの必要かなってなってー」
「これは? どうやって作ったの?」
「それはー、企業秘密ー。そっちのリボンはー? すごくかわいいと思もー」
「ええ、ララのリボン? あなた良いセンスしてるわ、これはね……」
 そしてエンドレスで繰り広げられるファッション談義。
 ……杖執事セバスとしても、彼女が楽しそうならば、それに越したことはないと思う。
 だが。執事として、保護者として、彼女の将来を思えばこそ、セバスは断腸の思いで……。
「うおっほん! お嬢様?」
 わざとらしく、大きな咳払いをした。
「――え?なあにセバス?」
「…………」
 喋れるはずの執事杖は、しかし敢えて喋らなかった。そして流れるのは、ララが冷静さを取り戻すだけの、静かな『間』。
「………。ご、ごほん! も、もちろん目的は忘れてないわよ!」
 我に返ったお嬢様は、その後すぐ仲良くなった流れでゆるふわ盗賊たちとお頭契約をかわしたのだった。
 少々危うかったが、そんな順風満帆なお嬢様の活躍を杖執事は再び穏やかに見守り――。

「それはそれとして、おかしらになったからには、もちろん企業秘密は教えてくれるのよね?」
「おふこーすー」
「……お嬢様っ!?」

成功 🔵​🔵​🔴​

矢来・夕立
オレはワルなので面接志望者のクセに説教をします。

そうです頭目募集の件で来ました。
しかしそちらは面接の何たるかをご存じないらしい。

意気揚々とやってきた腕自慢を数の暴力で囲んで身ぐるみを剥ぎ、最後に海か山か行きたい方を選んで頂く。
面接の質問はこれ一つでオッケー。

しかし急な面接に暴行担当者が不在、備品を切らしている、数が揃わない。
これらは全て忙しい悪党の皆さんの悩みの種ですね。
そんなときはこちら。

圧迫面接

やり方をお教えしましょう。
志望動機は?盗賊なら同業他社でもできますよね?仰るような悪事は弊社では取り扱っておりませんが?それ以外に明確なビジョンはないんですか?帰られますか?

…ついてこられてます?



 賑やかなファッション談義から一転、矢来・夕立(影・f14904)の登場により、ゆるふわ盗賊に緊張が走る。
 鋭く冷たい真冬の月の如く、さながら視界に入る全てのものを射殺さんと閃く赤茶色の眼差しは、もはや堅気のそれではない。
 凍てつく世界。刹那後に誰の首が飛んでもおかしくない一触即発の空気の中、夕立は刃をすらり引き抜くように、それで、と話を切り出した。
「頭目募集の件で来たのですが」
「えー!?」
「あー、良かったー。殺し屋が僕らの命を取りに来たのかと思ったー」
 夕立の目的を知り、ほうっと俄かに緩み始める空気。
「面接志望者なのに何という眼光ー」
「どっちが面接されるんだかわかんなかったよねー」
「そうですね。勿論オレが面接(せっきょう)する側ですが」
「えー!?!?」
「極悪ー! 何という鬼畜眼鏡ー!」
 失敬な。伊達である。
 しかし眼鏡が伊達であろうとも、結局鬼畜(ワル)なので苦情等は受け付けない。そこらの手持無沙汰にゆるふわしている蟹にホワイトボードを持って来させ、それではいいですか? と音頭を取る頃には、いつの間にか両者の立場はすっかり逆転していた。
「見たところ皆さん方、面接の何たるかをご存じないらしい」
「そう言うの先代のおかしらがやってたからねー」
「ねー」
 盗賊たちのゆるふわ振りから察するに、大抵のあれこれは全部おかしらがやっていたのだろう。そのおかしらが居なくなったのだから、里の運営――盗賊としての活動が滞るのも必然か。
 夕立は手早くホワイトボードへ図を描く。
「いきなり極意を語りましょう。意気揚々とやってきた腕自慢を数の暴力で囲んで身ぐるみを剥ぎ、最後に海か山か行きたい方を選んで頂く。面接の質問はこれ一つでオッケー」
「なるほどー」
「ここで重要なのは決して褪せない心的外傷(おもいで)を記憶の奥底に刻んであげることです。それが出来れば後はまぁ、万事うまくいくでしょう」
「思い出作りかー。海(へ海水浴)か山(へキャンプ)か悩むよねー」
「そうですね。海(に沈める)か山(に埋める)かです。しかし――」
 聴き入る蟹たち。夕立は講義を続ける。
「急な面接で暴行担当者が不在・数が揃わない、丁度ナイフ、棍棒、ロシアンルーレット用の小道具(リボルバー)、などを切らしている。そう言うアクシデントは全て忙しい悪党の皆さんの悩みの種ですね。さて、こういう時にどうすればいいか……わかる蟹(ひと)はいますか?」
「はーい。最後に頼れるのはやっぱり自分の鋏(コブシ)だと思いまーす」
「なるほど暴力。それも素晴らしいですが、今回はより悪魔的かつローコスト・ローリスクな方法を伝授しましょう。それがこちら……」
 そう。夕立がホワイトボードの全面を使ってでかでかと記したその単語こそ、あらゆる面接希望者が畏れる禁忌のテクニック――。
「はい。圧迫面接です」
 ゆるふわながら聞きかじったことはあるのか、どよめき始める盗賊たち。
「あの伝説のー」
「この時点で圧迫感あるー」
「それでは実践してみましょう。そこの。一番前の人。起立」
 指名された盗賊は、お手柔らかにとゆるふわ立つが、残念ながら夕立に、手加減する気は一切なかった。

「まず志望動機は?」
「え? えーとねー。雰囲気がねー……」
「盗賊なら同業他社でもできますよね?」
「んーと、ほかのところはね、」
「仰るような悪事は弊社では取り扱っておりませんが?」
「だからね、えっとね、そのねー」
「それ以外に明確なビジョンはないんですか?」
「あわわわわ……」
「もういいでしょう帰られますか? それでは本日はどうもありがとうございました。貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます」
 何と言う圧迫しやすさ。途中リアクションがなくなっても勢い余ってお祈りまで行ってしまった。
 それでも夕立はどこ吹く風で眼鏡の位置をクイと直し、
「……大丈夫ですか? ついてこられてます?」

「うわーん! 何というプレッシャー!」
「重い、重いよー! 外骨格が軋んでるー!」
「でも確かにこれをマスターしたらー。僕たちもっとワルくなれるかもー!」
 流石ゆるふわしててもやり手の盗賊。転んでもただで起きない根性は、評価に値するかもしれない。
「じゃあ今度は僕たちが圧迫面接するからー、受けて立ってよー」
 面接を受ける側として、面接する側への説教(レクチャー)は終わった。
 さて、後はそれを彼らがどう生かすか――。

「志望動機はー?」
「盗賊なら同業他社でもできまるよねー?」
「はー? 仰るような悪事はウチでは取り扱っておりませんがー?」
「他に明確なビジョン? はないんですかー?」
「そろそろお帰りになられますかー?」
 凄い。圧迫感が一つも無い。
「どうかなー?」
「滅茶苦茶ワルだったでしょー」
 いいやどうかと訊かれても。存在自体が肌に優しいホイップクリームかなにかだろうか。
 しかしゆるふわ性分な彼らとしてはそれでも頑張った方なのだろう。頭目として彼らの上に立つのなら、きっと優しく褒めてやることも重要なのだ。
 故に夕立は、陽春の如きひどく穏やかな心境で――。

「駄目です」
「えー!?」
「超スパルタ―!」
 容赦なく駄目出しをしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

森乃宮・小鹿
かわいい
なんっすかこのゆるふわ空間
思わずしばらく眺めちゃってたじゃないっすか

ま、まあ気を取り直して
はい!オカシラ募集を見て来たっすよ!現役JK(来月から)怪盗のバンビちゃんっす!
とりあえずお近づきの印に黄金色の菓子(金の延べ棒)と黄金色の菓子(スイートポテト)をどうぞ
ええ、金の力で丸め込めるならそれでもいいんっすが
なんかこう……お菓子食べさせたくなったというか……手癖?
ささ、遠慮せずお食べくださいっす。ついでにボクをオカシラに!

だめそうなら誰かの持ち物へスティール・カード
ボクの手並みはこんなもんすね
しかも盗んだものは盗み返されるまで持ってます、返しません
ついでにハートも盗めればいいんすがねー



「あっ、かわいい」
 圧迫面接すらゆるふわしているとか何なんだろうかこの空間。見どころしかない。
 割って入るのも勿体ないなと思いつつ、森乃宮・小鹿(Bambi・f31388)は暫くほっこりした気分でゆるふわ劇場を眺めていた。
 が、彼らのゆるふわっぷりは放っておいたら昼夜ずっと続いてそうなので、小鹿は何とか気合を入れて、とりあえず日が暮れる前に行動することにした。
「はーい! オカシラ募集を見て来たっすよ! 現役JK怪盗のバンビちゃんっす!」
 そんなこんなで小鹿は初手元気よく自己紹介。実を言うと現役JKになるのは来月からだが、きめ細やかな経歴詐称は出来る四天王のプチ小技。採用と不採用の駆け引きはすでに始まっているのだ。
「とりあえず、お近づきの印にこちらをどうぞ」
「えー? なになにー?」
「どちらー?」
 それは綺麗に言うなら付け届け。そして悪の専門用語で言うトコロの賄賂。小鹿は慎重に慎重に、訳アリの如く周囲を窺うフリまで挟み、どろぼう袋からゆっくりと、もったいぶって黄金色の菓子――金の延べ棒とスイートポテトを取り出した。
「ふっふっふ……どうぞこちらをお納めくださいっす」
「おお、これはー」
「くっくっくー。バンビ屋ー。お主もワルよのー」
 ワルなら絶対言ってみたい台詞頂きました。
 ……と。何を隠そう小鹿は金(カネ)の悪魔なので。買収するなら延べ棒だけでいいのだが、ついついお茶請けにスイートポテトまでつけたのは、何かこう……手癖と言うか、単にお菓子食べさせたくなったというか。
 そんな衝動が湧くなんて、すでにゆるふわの術中に嵌っているのかもしれないが、嵌ったところで特に害も無いのでこのまま流されてしまおう。
「ささ、遠慮せずお食べくださいっす。ついでにボクをオカシラに!」
「うーん、あまーい」
「スイートー」
 うぞうぞ蟹脚が蠢いている割に、さほど大きくも無いスイートポテトをつまんでちまちま食べるギャップ的なその姿。いっそ動画に残しておきたかったが、しかし今はまだ真剣(シリアス)なる面接の最中。いくら賄賂を贈ったとはいえ、油断は禁物だ。
 果たして、スイートポテトをじっくり堪能し終えた盗賊たちの返答は――やたら満足そうな雰囲気にもかかわらず、ノーだった。
「うーん……僕たちのおかしらになるにはちょっとパンチが弱いって言うかー」
「もうちょっと金の延べ棒があればー、変わるかもー?」
 そんな不採用理由を語りながら、ぎゅうっと大事そうに金の延べ棒を抱える盗賊たち。
 成程、小鹿が金の悪魔と知ったから、もう一声、と欲張りに、さらなる賄賂を要求しているのだ。この盗賊たち、そう言うトコロはちゃっかりしている。
「ううむ、ゆるふわながら何てワルな蟹さんたち……でもね、あんまり欲張りすぎると――こうっすよ!」
 小鹿が腕を振りぬいた刹那。すこん、と盗賊たちのブギー布に刺さるのは、延べ棒でも無く、ポテトでも無く、デコ山盛りの予告状だった。
「んー? あれー!? 延べ棒が―!」
「消えちゃったー!?」
 盗賊たちが予告状を引っこ抜いて確認する頃には、大事に抱えていた延べ棒の姿は何処にもなく、
「そんな訳で、ボクの手並みはこんなもんすねー」
 何時の間にやら、金の延べ棒は再び小鹿の手中にあった。
「あー! 僕達の延べ棒がー!」
「盗賊から盗むなんて超邪悪ー!」
「ずるいよー、返してよー!」
「駄目ですダメです返しません。あなた方も盗賊なら、盗まれたものは意地でも盗み返すのが筋ってもんっす」
「うわー! 圧倒的正論ー!」
「ぐうの音も出ないよー!」
「ほらほら、体が鈍っているんでしょー? 延べ棒と昔の勘を取り戻せるまで、付きっ切りでリハビリのお時間っすよー」

 そんなこんなでいつの間にか、小鹿と蟹たちはなし崩し的に盗人訓練。
 ついでにハートも盗めれば良いのだけど。と思ったが、
 そこのところは、まぁ。もう少しゆるゆると培っていく事にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

グウェンドリン・グレンジャー
ぐっあふたぬーん、あいあむ、おかしら
(どっからどう見ても単なるJK。馬だのなんだの大仰なモノにも乗らず、徒歩で来た)
ほら、私、ご当地ジョブ、魔女
ね?おかしら、向いてそうでしょ?

えー、いまいち?
むー
(村のテレビを借りる。ゲーム機を接続する。おやつのスルメも装備。皆でシェアできるようにお皿に盛る)
じゃあ、この、Devilizationって、ゲームで、勝負。マルチプレイ、対戦
(一番近くにいた人にコントローラーを渡して対戦開始)
私、は、この、ブリリアント・カッスル・エンパイア……って、文明にするね
(UDCアースの祖国の歴史を模倣したかのようなプレイを展開する)

どうー?おかしら、任せてよー



 寂莫たる集落に、涙雨さながら舞い落ちるのは黒き羽根。不吉なる鴉の鳴き声を従えて、盗賊たちの前にゆらりと幽鬼の如く現れたグウェンドリン・グレンジャー(Blue Heaven・f00712)は、そう、
「徒歩で来た」
 馬だのバスだの現金輸送車だのそう言う大仰なモノには一切頼らず、どっからどう見ても単なるJKは徒歩で来てた。何て邪悪で健康的な。
「ぐっあふたぬーん、あいあむ、おかしら」
 不道徳なりし悪の世界においても、自己紹介は大切だ。この際なのでもうこの段から涼しい顔して当然のようにおかしらを騙り、そのまま既成事実化してしまおう。
「えー!? そんなー、まだ出会って数秒なのにー!?」
「悪逆非道ー!」
「ちっちっち。人と人が仲良くなるのに、時間は特に関係ない、かも?」
 大丈夫。まずは何事も形から。中身なんて後から好きなように捏造(クラフト)すればいいのだ。
「ほら、私、ご当地ジョブ、魔女」
 グウェンドリンは魔女っぽいオーラをそれっぽく展開しつつ、どれだけ魔女が盗賊のおかしらになる事の見栄えの良さと邪悪さと鉄板さを蟹たちへ懇々と説く。
「ね? おかしら、向いてそうでしょ?」
「えー。でもー。魔女の人ってー結構隣近所に居るしー。なんだかんだでみんな優しいしー」
「ぼくー、となり里の魔女さんに貰ったリンゴ食べたら半年ずっとぐっすりだったー」
「あー、だから新年のあいさつあんなタイミングだったんだー」
 今明かされる割とどうでもいい真実。
 ともあれ、ゆるふわ盗賊たちにとって『魔女』という存在はご近所さんレベルの付き合いらしく、余り脅威には思っていない様子。
「えー、いまいち?」
 まさか顔すら知らぬご近所の魔女さんたちがグウェンドリン最大の障害になろうとは。親しみ安いというのも考え物だ。
「むー……」
 灰色の眉根を寄せて八の字に、グウェンドリンは次の一手を考える。
 重要なのは『悪』いこと。そして今は曲がりなりにも面接……? 中。ならばこの、そこそこゆるふわまじめな面接の概念をぶち壊すのが何より邪『悪』な最『悪』の一手なのではなかろうか。
 なのでグウェンドリンは徐に、すみっこに佇んでいた大型テレビの電源をぽちり、そこへゲーム機を接続し、噛み応え抜群のするめ数袋をシェアしやすいよう大皿に盛ると、瞬く間に魔女の暗黒儀式(パーティー)の準備を整える。
「じゃあ、この、Devilizationって、ゲームで、勝負。マルチプレイ、対戦で」
 既に形骸化していたとはいえ、面接をほっぽり出してゲームに誘うとは何たる邪悪な囁きだろう。
 それじゃあ、これ、と、有無も言わさずグウェンドリンがコントローラーを差し出せば、割と暇してたゆるふわ盗賊に逆抗う術はなく、全ては魔女の謀略通りにゲームスタート。
「私、は、この、ブリリアント・カッスル・エンパイア……って、文明にするね」
「ブリ……? 長いから縮めて読んでいーい?」
「駄・目ー」
 何でも省略して横着しようとするのは、人間(カニだが)の悪い癖だ。今回に限り、グウェンドリンはそう言う事を許さない。
「初心者は、この、アポカリプス・ヘイヴン、って文明がおすすめ」
「じゃあ僕はそれにするー」
 嘘である。その実態は兵なし技術無し科学無し、無いない尽くしの超上級者向け文明だ。
 ……さて、ここから先は、とりとめも無いゲームのはなし。
 仮にグウェンドリンと蟹達の心温まる交流(超外道プレイ)の様子を、逐一書き綴っていたのならひどく冗長になってしまう為、端的に、結末だけを描写しよう。

「はい。外交的、勝利~」
「うわーん! ひどいよ、ひどいよ! あんな気軽に怪しいお薬をばら撒くなんてー!」
「毛布がー! 毛布がー!」
「そんなー。自分だっていっぱい海賊を使っておきながらー」
「あの三枚舌外交ったらないよー! 悪魔の所業だよー!」
 見ての通り、皆思う存分ゆるゆるハートフル和気藹々とゲームを楽しんだことが良くお判りいただけただろう。頂けたはずだ。欺瞞はない。
「どうー? おかしら、任せてよー」
 むふー、と、とても満足げに胸を張るグウェンドリンに、異論を唱える者は誰一人として居ない。
 凄まじき絶対悪。満場一致のブリリアント・カッスル・エンパイア。ゲームを通じて、盗賊たちはわからされたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニオ・リュードベリ
たのもー!
挨拶もそこそこに椅子にえらそーに座って腕を組む
あたしはニオ
あなた達のおかしらになる者だよ!

なんかこう、悪そうなことをすれば納得してもらえるかな?
それならまずは『足元の空明』に言うことを聞かせてアイスをいっぱい出そうかな
箱入りの安いやつね
ふふん、影に言うこと聞かせてるとか悪そうでしょ?(認識がふわふわしている)

これは挨拶代わりだよ
今からアイスを食べようね
ふふ……昼御飯や晩御飯前に食べるアイスって最高だよね!
お風呂上がりに食べるのも最高!
寝る前についつい食べちゃうのも最高!
あたしがおかしらになったら、あなた達に悪いタイミングでアイス渡しちゃうんだから
そうじゃなくても一緒に食べてお話しよ!



「たのもー!」
 空まで響くハイテンションな大声と共に、無邪気な笑顔のニオ・リュードベリ(空明の嬉遊曲・f19590)は全力ダッシュで隠れ里へ突撃する。
 少し目を離した隙に、さっきまでゆるふわしていた盗賊たちが何故だか若干沈んでいる様な気もするが、ゲームでボロ負けでもしたのだろうか。
 まぁそれは兎も角、挨拶もそこそこに、ニオはそこら辺にあったやたら豪華そうな椅子に目星をつけ、即どっかり座り込んでえらそーに腕を組む。
「あたしはニオ! あなた達のおかしらになる者だよ!」
 あっ意外とこの椅子背が高い。足が宙ぶらりんになってしまった。
「ほほう、僕らのおかしらにー」
「けれど僕たちを納得させるだけのワルさが君にあるのかなー?」
 盗賊たちはゆるゆるふわふわニオに問う。語尾を延ばすのは絶対外せないらしい。
「うーん……悪さ……悪さねぇ……?」
 ぱたぱたと足を動かしながら、それまで勢い優先だったニオは考える。何かこう、ストレートに悪そうなことをすれば納得してくれるだろうか。
 ――つまり、自分が思いつく限りの悪行で、盗賊たちを堕落の底へ落としてしまえばいいのだろう。
「よーし、それなら!」
 悪戯を思いついたワルい微笑で口元を綻ばせ、ニオはぱちんと指を鳴らす。すると影――足元の空明がゆらりと震えて独りで動き、影の溜まりになったその中心から、アイスクリームの箱詰めが浮かび上がってくる。
 これこそがニオ秘蔵の今日のアイス(格安バージョン)。格安なので、影から出てくる物量は一箱二箱と言わず、数で勝負の勢いで、取り敢えずたくさん用意してみた。
「ふふん、これは挨拶代わりだよ。影に言うこと聞かせてるとか如何にも邪悪っぽくて、悪そうでしょ?」
 そう言って、得意げに豪奢な椅子の上で踏ん反り変えるニオの認識は、綿あめみたいにふわっふわしていた。
「うむむ、椅子に座ったまま一歩も動かずこれだけの悪行を成し遂げるなんてー」
「何という巨悪ー」
 そして盗賊たちの認識も、マシュマロよろしくふわふわしていたので、両者が打ち解けるのは必然にして爆速だった。
「さあ、今からアイスを食べようね」
「えー? 今からー?」
「ご飯食べられなくなっちゃうよー?」
「大丈夫。アイスは別腹だから!」
 何という悪魔的理論。欺瞞に満ちた堕落のロジック。
「ふふ……昼御飯や晩御飯前に食べるアイスって最高だよね!」
「で、でもでもー」
 ニオの誘惑に、ゆるふわ蟹達はなけなしの良い子ちゃん的良心を総動員して対抗する。いくら悪でもご飯前の間食は……!
「お風呂上がりに食べるのも最高!」
 けれどニオはにやりと笑って、ソーダ味の冷たいアイスキャンディをずいっと盗賊たちの目の前に。
「寝る前についつい食べちゃうのも最高!」
 甘いバニラ味のカップアイスをこれ見よがしにぱくりと一口。
「あたしがおかしらになったら、あなた達にとってもとっても悪いタイミングでアイス渡しちゃうんだから!」
 足元の空明が持ってきたアイスはより取り見取りの盛りだくさん。迷っているうちに、対抗しているうちに、アイスはどんどん溶けていく。
「う、う、うーん……」
「そんな甘言に屈する僕たちじゃ……ぼくたちじゃ……ぼ――アイス美味しー!」
 そんなの勿体無い話。冷たい甘味の蕩けるような手招きに、秒で屈した蟹達は、堰を切ったように思う存分今日のアイスを堪能するのだった。

「アイスだけじゃないよ。そうじゃなくても一緒に食べてお話しよ!」
「いいよー。おかしらー」
「何の話するー?」
 すっかりアイスで買収された盗賊たちは、あっさりニオをおかしらだと認めた。何てちょろいゆるふわ達だろう。そのマイペースっぷりは何処か見習うものがある……のかどうかは、アイスを頬張りながらじっくり考える事にしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六島・椋
【骸と羅刹】
蟹。蟹かあ
外骨格はあるが、やはり骨はなさそうだ
その脚や布の下が気にならないわけではないが……あー(連行)
せめてお茶請けは甘くないやつで頼みたいー

確かにシーフだが、別に実際に盗賊してるわけではないし、
急にアピれと言われてもな
ふむ、自分の一番のアピりポイントは骨(かれ)らがいること
骨らの美しさでもアピればいいだろうか
まあこの美しさは、自分なんぞがわざわざアピるまでもないのだが
そうだろう諸君。この彼らの持つ無駄のない美しさ

……解剖か。まあやって損ではないか
バラすのには慣れている
(そう言って人形達と共に脅かすように)

君は現地子分を続々と増やしていくな
なんだ、ファミリーか何かでも作るつもりか


エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】

OK、俺はやればできる男
決して脳裏を過るカピバラとか血斗死威とかの記憶に怖気づいてるとかじゃ断じてねぇ
行くぜ椋
ああそうだな骨ねぇないいから行くぜ

まずは和やかに接近
ようお前らこんにち、わ(殴る)
はっ、さすがはデビキンの住人
このくれぇじゃ根をあげねぇか
小難しいこたぁ苦手なんで拳でOHANASHIといこうかぁね
(『羅刹旋風』で拳ぐるぐる回しながら)
反撃にゃ【激痛耐性】とか【怪力】とかで真っ向から耐えるぜ

椋、お前もシーフなんだからアピれよ
こいつら盗賊だぜ
無駄っつーかCa以外何もかもねぇな
なんならこいつらに骨の一片でもねぇか探すか? 開いて

……はっ
やめろ、もう子分はいらねぇ面倒見切れねぇ



 何だかもう駄目だと思った。
 猟書家やオブリビオン・フォーミューラーと刃を交え、幾度死線を潜り抜けようと何と言う事はないのに、『こういう』類の珍獣に邂逅する度、いつの間にかカピバラとか血斗死威とかの記憶が脳裏を過り、怖気づくような、どうしようもない脱力感を覚えるのだ。
 ――頑張るにゃアニキ。俺たちもアニキの活躍をアルダワから見守ってるニャー。
 ――ファイファイ!
 やめろ。勝手に人の心情に出てくるんじゃない。
「……OK、俺はやればできる男」
 エスタシュ・ロックドア(大鴉・f01818)は紫煙を燻らせ如何にか気を取り直す。気持ちで負けるわけには行かない。戦いは、まだ始まってすらいないのだ。
「そんじゃ行こうぜ椋」
 いつもの如く、エスタシュは相棒・六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)へ発破をかけるが、肝心の椋は、何やら思案の真っ最中。
「蟹。蟹かあ。外骨格はあるが、やはり骨はなさそうだ」
 二重の意味で、である。せめて気骨があるのなら、もう少し見方が変わってくるかもしれないが、あのイカタコもかくやと言うゆるふわっぷりでは難しいだろう。
「しかし、その脚や布の下が気にならないわけではないが……」
 椋は屈み、顔を少し傾け、あわよくば布の内側の中の人が見えないか試してみる。
「いやーんすっぴんを見たいだなんてー」
「物好きさんめー」
 そのリアクションには若干抗議の意を表明したい。
「ああそうだな骨ねぇないいから行くぜ」
 エスタシュは有無も言わさず椋の襟首を引っ張って、大振りにもう片腕をぐるぐる回す。
「あー……」
 ずるずると連行される椋。母猫に首元噛まれた子猫が大体こんな格好だ。
「せめてお茶請けは甘くないやつで頼みたいー」
「されなら温かいお餅、あるよー」
「アルヨー」
「いやもうマジでやめろぉ!」
「……何だ。エスタ。今日は何時にも増して不機嫌そうじゃないか。珍獣にシリアス展開でも殺されたか」
「後半は割とその通りだが馬鹿言うな。俺はいつだって気のいいバイクの兄ちゃんだ。その証拠に、見てろよ――」
 エスタシュは晴れ晴れとした爽やかスマイルで盗賊たちに近付くと、
「ようお前らこんにち、わっと!」
 和やかな雰囲気のまま、全力で盗賊蟹を殴り飛ばした。
「わー!?」
「いきなりなんてごあいさつー!」
 エスタシュの拳を受けた盗賊は、拳圧と共に彼方へ飛んで行ったものの、数十秒後にはけろりと帰還して、ぴんぴんしたまま猛抗議。
「はっ、さすがはデビキンの住人。このくれぇじゃ根をあげねぇか」
 指を鳴らし、首を回し、ついでに上着を投げ捨てると、エスタシュはあえて盗賊たちを挑発する。
「来いよ。小難しいこたぁ苦手なんで拳でOHANASHIといこうかぁね」
「ぐぬぬ、なんて大胆不敵なー」
「みんなでかかってボコボコにしちゃおうよー」
 盗賊たちの蟹脚が、ひっきりなしに地面を叩く。一対一とは言ってないのをいいことに、全員揃ってエスタシュに突撃してきた。
「おっと! 全員掛かりかよ! だが――!」
 エスタシュは退かず、あえて真正面から受け止める。数の暴力。だが無理矢理にでも押し返す。激痛だろうが劣勢だろうが、ここで簡単に頽れるようでは盗賊の頭なんぞ勤まるまい。
「おーい、椋、お前もシーフなんだからアピれよ。こいつら盗賊だぜ?」

「ふぅむ。一理ある。しかし。確かに自分はシーフだが、別に実際に盗賊してるわけではないし」
 そこのところは心意気の問題だ。椋の本業は人形遣い。店先で投げ売りされているどうでもいい処分品を盗むより、極細の糸を何本も複数同時に操る方がはるかに容易い。
「急にアピれと言われてもな」
 そしてそれは人形遣いとしての基本スキル。偉ぶるための物でもない。
 となると、後に残るのはやはり。
「骨。だな。ふむ、当然と言えば当然の帰結だが、自分の一番のアピりポイントは骨(かれ)らがいること」
 椋が指先一つを動かせば、骨格人形たちはカタカタと笑い出す。
 骨らの美しさでも語ればいいのだろうか。
 しかしそれはそれで困った話。いまさら骨らの美しさを言語化しようなどとは野暮の一言。
「そうだろう諸君。見たまえ、この彼らの持つ無駄のない美しさ」
「無駄っつーかCa以外何もかもねぇよな」
 圧殺されかかってる羅刹のぼやきは無視をして、試しに盗賊たちへ骨の話を振ってみると、
「良いよねー。シンプルイズザベストだよねー」
「高く売れそー」
 以外にも好感触だった。
「でも結局、換金できるかどうかの話じゃねぇか。骨の髄まで盗賊だなこいつら」
「――いや。勿論金に換えられないが。価値を理解するだけ素質はあると見た」
 あまり表情の変わらない椋とは裏腹、盛大に、拍手をし始める骨格たち。
 
「ええ? マジで? そう言う判定ありかよ?」
 困惑のエスタシュは怪力のまま盗賊たちを一塊にまとめ上げ、放り投げる。
 ぎっしり身の詰まった鈍い音を立て、地に散らばる布地とゆるふわ。勝負はついた。
「バッタんきゅ―……」
「なんならこいつらん中に骨の一片でもねぇか探すか? 開いて」
「え!? そんな、急にグロテスクなー」
 エスタシュの、唐突ゴアな発言に、カタカタ震える盗賊たち。勝負のすぐ後なので、逃げ出すだけの力は残ってないらしい。
「……解剖か。まあやって損ではないか。バラすのには慣れている」
 それは良い提案だとばかりにがたがた鳴り響く骨格人形。そして椋の掌には古びたダガー。
 鈍く光る切っ先は、今まさに蟹達の甲殻を引き裂こうと……。
「わー! やめてやめてー!」
「僕達おいしくないよー!」
 
 ……などと、驚かすのもほどほどに。
「しかしエスタ。君は現地子分を続々と増やしていくな。なんだ、ファミリーか何かでも作るつもりなのか」
「……はっ。やめろ、もう子分はいらねぇ面倒見切れねぇ」
 ……椋はふと――そうつぶやくエスタシュの哀愁漂う背中に、彼が現地で増やしたであろう子分達の姿を幻視した――。
 お祓いとか行かせた方がいいのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神崎・伽耶
あらあら。
なんだか楽しそうなトコね。こんにちは!

へえ、おかしら募集してるの? 知らなかった!
お祝いかしら。
そうね、鯛もいいけど、鮫も捨てがたいわね!
ほら、背後から脅す点で。

ああ、食べる方じゃないのね。
じゃあ、食べられる方?(にっこり)

お茶請け?
あらごめんなさい、先に頂いちゃってたわ♪(もぐもぐ)
ま、どうせ出すつもりだったんでしょ?
ふるさと納税公式ページで、丑年の返礼品をもらったんでしょ?
いいなー、あたしも楽して何か食べたーい♪(もぐもぐ)

そうそう、おかしらだけど。
ここの誰か、いっぺん名乗ってくれないかなあ?
そしたら、下剋上して、あたしが真・新おかしらになったげるわ!
(帽子を脱いで鞭を一閃!)



「あらあら。なんだか楽しそうなトコね。こんにちは!」
 揺れる帽子はトレードマーク、鼻歌交じりのスキップで、神崎・伽耶(トラブルシーカー・ギリギリス・f12535)が限界集落にやってきた。
 どういう理屈かゆるふわ盗賊たちの九割は地に伏せていたが、おねむの時間か何かだろうか。
「あらあら。なんだか楽しそうなトコね。こんにちは!」
「こんにちわー」
「君もおかしら募集で来た感じのひとー?」
 いいや全然初耳だけど、と、伽耶は快活な笑みを返す。
「へえ、おかしら募集してるの? 知らなかった! 何かのお祝いかしら?」
「えー? 何のお祝いかってー? 僕たちも良く解らなーい?」
「僕達盗賊稼業ほっぽってー、毎日がパーティだからねー」
 仕事をほっぽってるのはギリギリス的にもどうかと思うが、幸せそうなら何よりだ。
 ……何だか話が盛大に脱線しているが、誰も気にしてないので問題ないだろう。
「あーっ! そう言えばお茶請け忘れてたー」
「これはとんだ粗相をー」
 何処置いたっけー、と辺りを探すゆるふわ達。
 しかし時すでに遅く、何処で見つけてきたか、伽耶は網焼きでジュージューと高級そうな肉を焼いていた。
「お茶請け? あらごめんなさい、先に頂いちゃってたわ♪」
 このお肉、見た目からして実に見事な。伽耶の頬はもうすでにモグモグしている。
「わー!! それ違う奴ー!」
「悪魔的ふるさと納税公式ページで、丑年の返礼品をもらったんでしょ? いいなー、あたしも楽して何か食べたーい♪」
「今まさに、それがそー!」
「超極悪ー!」
 成程道理でこのうまさ。しかしこんないいお肉をお茶請けで出すなんて、盗賊って随分儲かるらしい。
「ま、どうせ出すつもりだったんでしょ?」
「それはまー、そうだけどー」
「おかしら就任お祝いのーメインディシューを食べちゃうなんて―」
「破滅の権化ー!」
 おかげで想定外に食レポのネタが捗った。
 流石に一人で食べるのは悪いので、ゆるふわ達にも勧めたが、彼らはさっきスイートポテトやらアイスを食べたばかりでお腹が一杯らしい。ご飯の前に間食するとは何て邪悪な。

「お祝いと言えばねー。やっぱり鯛かなー」
 伽耶がお肉を完食した頃合いに、気を取り直して、ゆるふわお祝い談義。
「そうね、鉄板よね。でも、鯛もいいけど、鮫も捨てがたいわね! ほら、背後から脅す点で!」
「えー……!?」
 何やら気配を感じた盗賊が、不意に後ろを振り返ると、そこには大きなサメの顎を持った影の追跡者(ストーカー)が!
 ガブリとかみつくサメの顎。布地に歯形が食い込んで、ここで漸く、お互い『なんかそういう事じゃなくない?』と気づいた。
「ああ、わかった。おかしら。食べる方じゃないのね。それじゃあ君達、食べられる方?」
 伽耶はにこりと笑って、脱いだ帽子を近くの蟹にかぶせた。
「んー? 僕達が食べられる方だって言うのー?」
 ゆるふわしていても、譲れない矜持めいたものはあるらしい。
「そうそう、おかしらだけど。ここの誰か、いっぺん名乗ってくれないかなあ? そしたら、下剋上して、あたしが真・新おかしらになったげるわ!」
 そういう事ならー、と一匹の蟹が名乗りを上げる。
「ぼくこそはー、里一番のゆるふわ者ー」
「えっ? この流れで強いとか硬いとかじゃなくて? 人選それで大丈夫?」
 ――結論を言うと、大丈夫じゃなかった。音より早く鞭が一閃。ゆるふわ者はあっさりダウンし、パーフェクト勝ちの伽耶は晴れておかしらに。
 これでグラトニーまっさか牛を食べた咎もチャラ。無罪で吸うシャバの空気はつらつらとレポート書きたいほどに美味しいけれど――気になる点がただ一つ。
「……ところで今、おかしらって何人いるの?」
「えーっとねー。君を入れて九人かなー」
「ふーん……」
 
「――えっ?」

成功 🔵​🔵​🔴​

文月・統哉
黒地に赤の軍服にマントを付けた
目付きの悪いクロネコの着ぐるみ姿で
大物っぽく悠々と登場

ほほう、楽しそうだな愚民どもよ
我が名は統哉
またの名をクロネコ・レッド
気軽にクロネコ元帥と呼びたまえ
我はいずれこの世界を征服する
この素晴らしき着ぐるみでな!

お前達には戦闘員として働いて貰うぞ
その為の戦闘服もちゃんと用意してやろう

ニヤリと笑い着ぐるみクラフト
皆に似合う着ぐるみを
どどーんと大量生産

にゃふふふふ、ゆるっともふっと可愛かろう?
敵をも和ませ場を支配する
これぞ究極の悪!

世界中にこの着ぐるみを普及させ
この国を、世界を支配し
我らのものとするのだ
これはその第一歩、光栄に思うがよい

さあ、共に行くぞ
着ぐるみで世界征服!



「――ほほう。随分と楽しそうだな愚民どもよ……」
 ゆるふわしている隠れ里に、突如響くは悪(ワル)の声。
「むー、なにやつー!?」
「曲者めー、姿をみせろー!」
 声はすれども姿なく、右にきょろきょろ、左にキョロキョロ、必死に声の主を探す盗賊たち。
「にゅふふ。ならばよかろう。望み通り冥土の土産に我が姿、その網膜……? に焼き付けるがいい!」
 そして遂に威風堂々姿を現す声の主。今明らかになる極悪めいたその全貌。
 はためくマントは巨悪の証。黒地に赤の軍服に、その身を包んだ目付きの悪いクロネコ――の着ぐるみを着こんだその男の正体こそ、何を隠そう、いいや今明かしたばかりだが、文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)その人だ!
「我が名は統哉。またの名をクロネコ・レッド。気軽にクロネコ元帥と呼びたまえ」
「何ー? クロネコ元帥だとー?」
「これはどうもご丁寧に自己紹介ありがとうございますー」
「ああ。いえ。どうも。こちらこそ」
 お辞儀にはお辞儀を持って返すクロネコ元帥。盗賊たちは意外と礼儀正しかった。
「ところで元帥も今日はおかしら募集の件で来た感じ―?」
 自己紹介もそこそこに、ゆるふわ蟹達は統哉へ来訪理由を問う。しかし統哉はイエスともノーとも答えず。代わりに邪悪な笑みを浮かべ、
「くくく。盗賊のおかしらなどこの元帥にとってはただの踏み台に過ぎない!」
「なんだってー!?」
「ならー、お前の目的は一体なんだ元帥ー!」
 知りたいのならば教えてやろう。欲望に満ちたクロネコ(着ぐるみ)の瞳がギラリと光る。クロネコ元帥、もとい統哉は絶好調だった。
「そう――我はいずれ……世界全てを征服する。この素晴らしき着ぐるみでな!」
「世界征服だとー!?」
「何てきょうあくなー!」
 余りにも極悪な統哉の野望に戦慄する盗賊たち。田舎っ子にはちょっと刺激の強い話だったかもしれない。
 しかし、慄くだけで終わってしまっては困る。何故なら――邪悪なるきぐるみ世界征服計画はすでに始まっているのだから!
「ふはは! 我が野望を聴いたからには最早手遅れよ! お前達には戦闘員として働いて貰うぞ!」
「なんてこったそのために僕らの里をー」
「くそー、簡単には屈しないぞー」
 己のアンディティティを賭け、徹徹底抗戦の構えを見せるゆるふわ盗賊たち。
 このまま両者泥沼のネコ蟹合戦に突入するか――。
「その為の戦闘服もちゃんと用意してやろう」
「えー? どんなやつどんなやつー?」
 と思いきや、シリアスな展開は数秒と持たなかった。
 そんなお洒落に興味津々な蟹たちの採寸を済ませると、統哉は邪悪に笑って精神を集中する。頭の中のイメージの雲を魔法陣で取り出して、レッツ着ぐるみクラフトだ!
「さぁ! 皆に似合う着ぐるみを、どどーんと大量生産だぜー!」
 そうして虚空からどっさり降ってくる、ふわふわもこもこ犬・猫・動物・怪獣・マシンとご当地着ぐるみたちの雨あられ。
「わー! 見てこれ良くなーい?」
「こっちのやつもー、かわいくなーい?」
 こういう戦闘服ならありだよねー。と盛り上がるゆるふわ盗賊たち。そもそも知恵の布がそうだが、覆面付きのバトルスーツとか、着ぐるみとか、『自分の本体を隠す・覆う』系統の格好は彼らにとって好ましいものらしい。
「にゃふふふふ、ゆるっともふっと可愛かろう? 敵をも和ませ場を支配する……これぞ究極の悪!」
「かわいいは絶対悪ー!」
 何と言う一部の隙も無い理論! こんなにかわいい着ぐるみを、それでも平気で殴れる面の皮の厚い悪(ワル)は、魔界中を見渡してもそう居ないと思われる。
「にゅふふ、今はまだご当地名産品どまりだけど、ゆくゆくは世界中にこの着ぐるみを普及させ、この国を、そしてなんやかんやと世界をグローバルに支配し、我らのものとするのだ! これはその第一歩。光栄に思うがよい」
「ははーっ。全てはクロネコ元帥おかしらの意のままにー」
 着ぐるみにすっぽり入った蟹達はすっかりその気で、故に『元帥おかしら』って役職名おかしくない? と突っ込むタイミング逃してしまった。
 が――そんな物はもはや些事。統哉はあふれる着ぐるみ情動に身を任せ、号令する。

「さあ、共に行くぞ、着ぐるみで世界征服!」
「おー!」

成功 🔵​🔵​🔴​

葬・祝
【彼岸花】

んふふ、悪い子になりに行きましょうよ
善神を悪に誘うだなんて、怒られてしまうでしょうか

【催眠術、郷愁を誘う、精神攻撃】で最初から仲間の体で入り込んで、カフカに従うよう発破を掛けてみましょうか
カフカ、良い子ですからねぇ
うーん、悪い男になり切ってくださると良いんですけど、さて

ふふ、悪いことのレベルが愛らしい
この世界だとこれでも結構なワル扱いされるんですねぇ
そうですよ、彼は他人を騙して(人間の振りで作家として仕事をして)お金を巻き上げたりする(著書を売っている)んですから

念のため【索敵】で盗賊の行動は良く見ておくつもりです
裏切り者が出ても、裏切られる前に抑え込めればないのと同じですし、ね?


神狩・カフカ
【彼岸花】
悪い子って言ってもよ
ごっこ遊びみてェなもんだろ?
ま、たまにはこういうのもいいかもな
はふりの悪(ガチ勢)とは違うだろうし
お前さんがお膳立てしてくれるのはなんか複雑だが…
人の上に立つのは得意だから任せな

扉を派手にぶっ壊して乗り込んで
よォ、随分と平和ボケした面してンじゃねェか
じゃ、今日からおれがお前さんらのお頭ってことで
あ゛?不満か?
おれの武勇伝聴いたらそんなことも言えなくなるぜ
(原稿の締め切りに追われて)徹夜なんかザラだし
(本命がいるので)そこらの女にゃ靡かねぇし
酒は(そこまで強くないが)呑めるし煙管も嗜むしな
ふーっと適当な奴に煙を吹きかけてニヤリ

…まあ(一部伏せてるが)嘘は言ってねェし



「――何だって? いい事したら背中を刺されて、悪事をすれば褒められる? なんともまァ、酔狂な世界があったモンだ」
 瀟洒な煙管片手、神狩・カフカ(朱鴉・f22830)はゆるり紫煙を吐き出して、何だいそりゃアと苦笑する。
「んふふ、だから面白いんでしょう? 悪い子になりに行きましょうよ」
 そう言って、柔和な顔の葬・祝(   ・f27942)。手招くようにカフカを導いて、何処に連れて行くつもりやら。
「……善神を悪に誘うだなんて、怒られてしまうでしょうか?」
「良く言うぜ。後に先に怒られようが、今が良けりゃあって面じゃねェか」
 悪びれも無く祝はわらう。カフカは火の消えたキセルを仕舞い、
「悪い子って言ってもよ。ごっこ遊びみてェなもんだろ?」
 これまで見聞きした限りで判断するなら、盗賊たちの悪行は、はふりの『悪』の比べれば可愛いものだ。
 年賀状を今時期出す程度で悪と持て囃されるなら、やはり酔狂の世界だろう。
「……ま、たまにはこういうのもいいかもな」
 探偵としても作家としても、面白そうなネタではある。
「ただし。お前さんがお膳立てしてくれるのはなんか複雑だが……」
「おや。もしや柄にも無く緊張を?」
「莫迦。見てろ。人の上に立つのは得意だから……任せな」
「どうでしょう。カフカ、良い子ですからねぇ」
 蟹たちのゆるふわ性分が映ったか、とりとめもない会話を重ねているうち、祝が事前に目星をつけた、盗賊たちのアジトの前へとやってきた。
「さァて……それじゃあ……!」
 そして。カフカは勢いよく……扉を蹴飛ばす。

「玄関のチャイム何処だよオラァ!!」
「わー! いきなり何事ー!?」
「あー!扉がー!」
 派手な音を立てて吹き飛ぶ扉。ひしゃげたそれを乗り越えて、カフカはどんどん奥へと進む。
 案内されるまでも無く、一人で勝手に大広間までたどり着いたカフカは、雁首揃えている盗賊たちをじろりと睨めつけ、一言、
「――よォ、随分と平和ボケした面してンじゃねェか」
「あわわカチコミだー!」
「ななな何の御用ですかー?」
 ここに来たっつう事は要件なんて一つしかねェだろう。カフカは凄む。
「じゃ、今日からおれがお前さんらのお頭ってことで」
「えー!? そんなー。急に言われてもー!」
「心の準備が出来てないって言うかー」
「あ゛?不満か?」
 どすの効いた声で脅しをかける。いきなりの剣呑な雰囲気に、まごつき始める盗賊たち。
「ちょっと待っててよー。意見をまとめる必要があるって言うかー」

「――僭越ながら。私は彼がお頭に一番向いてると思いますよ」
「あー! はふりくん!」
 そして。『盗賊側の代表』として、さも当然と、何食わぬ顔で所感を述べる祝。
「ええ。あれで彼は面倒見がいいんです。根が善い人……もとい、悪い人ですからね。彼に任せておけば、万事うまくいくでしょう」
「へー。そうなんだー」
「はふりくんがそう言うなら間違いない感じなのかなー」
「やっぱり、はふりくんは頼りになるよねー」
 ……どんな世界の、どのような住人であろうとも、心と記憶を持っているのなら、それを探り、直接操ってしまえばいい。
 祝の精神操作により、盗賊たちは祝の事を『すごく信頼できる仲間』だとすっかり信じ込んでしまっていた。
「さあ。それじゃあ。カフカがどれほど頭目になるのにふさわしいだけの悪人か、聴かせてあげてください」
「聞きたい訊きたーい」
 あとはカフカが盗賊たちの眼鏡にかなうような悪い男になり切ってくれると良いのだが……さて。

「あん? おれの武勇伝か。そうさなぁ……」
 再びキセルに火を点け、しばらく思案し、それからにやりと不敵に笑って、一息に。カフカは思いつく限りの悪事を列挙し始める。
「まず徹夜で朝日を拝むのなんかザラだし」
 原稿の締め切りに追われて。
「そこらの女にゃ絶対靡かねぇし」
 無論本命がいるので。
「酒はそこそこ呑めるし、煙管も嗜むしな」
 飲めはするがそこまで強くはないけれど。
「どうだ? とんでもねェ悪だろう?」
 カフカの、嘘偽りのない悪の告白。一部事実は伏せているが。
 ヒヒヒ、と如何にもな顔をすると、煙管を吸って、ふーっと。近くに居た盗賊へ紫煙を吹きかけた。
 しんと静まり返る大広間。
 この間は何を示すのか。
 ……漂う紫煙が完全に失せると、盗賊たちはいっせいに、
「わ、わ……悪ーい!!!!」
「何というおかしらにふさわしき悪ー!」

 一気に騒がしくなった室内で、祝は独り、袖で隠した口元を、くすり、綻ばす。
 悪とも言えない悪事だが、この世界だとこれでも結構なワル扱い。
 悪いことのレベルが愛らしい。
「そうですよ。彼は他人を騙してお金を巻き上げたりするんですから」
「そんなー! なんというインテリなー!」
「知能犯だー!」
 実際のところは人間の振りをして作家として著書を売っている、という話なのだが。我ながら物は言いようだ、なんて感想は胸の中に秘めておこう。

 念のため、と、催眠術を施しつつ、祝は盗賊たちの行動も見張っていたが、特におかしな素振りの者はいなかった。
 無論、仮に裏切り者が出たとしても、裏切られる前に抑え込んでしまえばいいのだが。ポルタアガイストの出番がなかったのは、歓迎すべきことなのだろう。
 祝は少し、楽にする。

 ……この場に於ける一番の『悪』は――。
 今は静かに、カフカと盗賊たちを見守っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
ぐいぐい行く方では無いですが
ゆるふわは好きなので、
一緒に遊びにつきあいます……ね

結構鋭そうな子達なので、普通に接するだけでも何かしら汲み取ってくれるでしょう
同じ呪詛使いですし、身体のあちこちが人と違いますから
これですか?悪魔の書(本物)です
契約を破ったり、悪魔の機嫌を損ねたりすると、
異世界にその身を攫われるんだそうですよ。恐いですね。
なるべく凶悪極悪な魔女と思ってもらえるよう、自分なりに手を尽くします

あの、私、蟹とか蜘蛛とか、大好きなんです
知恵の布可愛い……ぬいぐるみみたい
どのくらいのサイズなんだろう(ぼそ)
ちょっとだけ、抱き締めさせて貰っても、いいでしょうか……?(UC)



 少しだけ、蟹(ひと)の多い場所から離れた木陰に腰を掛け、クララ・リンドヴァル(白魔女・f17817)はひっそり諸々考え中。
 性格的にぐいぐい行く方でも無いので、まずどうやって最初に彼らと接触したものだろうかと頭の中で色々シミュレートしてみるのだが、なかなかうまくは纏まらない。
 ああするべきか、こうするべきか、ゆるふわは好きなので仲良くなりたいけれども……と、一旦思索の海から戻り、まぶたを開くと、
「わー」
「わ……!」
 ゆるふわ蟹が向こうからやってきた。
「何々座り込んでどうしたのー? 疲れてるー?」
「お腹痛いー? 何処かケガしてたりするー? 大丈夫ー? 」
 ゆるゆるふわふわしてる癖、まれに中々鋭い盗賊たち。悪だ何だと口にしても、やはり根は他人の心配が出来るいい子なのだろう。
 クララは大丈夫ですよ、と立ち上がり、息を整える。気付けば何匹もの蟹達に囲まれていた。
「大丈夫なら遊ぼっかー? 大縄跳びするー?」
「それともアフターヌーンティしばくー?」
 せっかくなのでどちらとも。盗賊たちに引っ張られ、クララはひととき時間を忘れ無邪気な彼らとの交流を楽しんだ。

「ねぇねぇそれって何の本ー?」
「何だかヤバーい雰囲気を感じるよー」
 アフターヌーンティの最中に、盗賊たちはクララのもつ古書に興味を示す。
「これですか? 悪魔の書です」
 お茶の最中に話題に出すには少々禍々しい代物だったので、はにかみながら、クララは答えた。
「えー!? ほんものー!?」
「そんな怖がることないよー。僕たちだって悪魔じゃーん」
「あー! そう言えばそうだった―」
 けれど、彼らの手にかかればどんなものでもゆるふわな話題になってしまうのだろう。何だか如何にも微笑ましい。
「契約を破ったり、悪魔の機嫌を損ねたりすると、異世界にその身を攫われるんだそうですよ。恐いですね」
「えー!? 怖ーい!」
「そんな怖いヤツを肌身離さず持ってるなんてー、なんて凶悪極悪なー」
 悪魔の書一つで凶悪極悪判定がついてしまった。
 ……これも単なるゆるふわ判定なのか、それとも本当に悪魔の書の危険度を理解した上でのものなのか――。
「実は僕たちもねー。職業柄ヤバいものを盗んだり保管したりとかしょっちゅうなんだー」
「もしもとんでもなくヤバいアイテムなんかを見つけたらー。僕たちに言うがいいよー」
 ゆるふわ口調なのに、何だかちょっぴり頼もしい。
 ……そんな彼らに、是非ともお願いしたいことがある。
 不躾かもしれないけれど、ここまで来たらどうしても――。
 だから、人見知りクララは、なけなしの勇気を振り絞り……。
「あの、私、蟹とか蜘蛛とか、大好きなんです」
「ほほーう」
「見る目あるー」
「その……知恵の布も可愛くて……ぬいぐるみみたい」
「えへへー。良いでしょー」
「一張羅だからねー」
「だからちょっとだけ、抱き締めさせて貰っても、いいでしょうか……?」
 真っ赤になりながら言い切った。
「いいよー」
 気になる盗賊たちの返答は、どこまでもゆるふわだった。
「それじゃサイズは大中小どれにするー?」
 その上大きい盗賊か小さい盗賊か中くらいの盗賊か選べるらしい。
「えっ、じゃああの……全部で……!」
「何ー? 全部だってー?」
「何と言うよくばりさんめー」
 さらに全部でもいいらしい。
 なので……。

「少しだけ、我慢して下さいね?」
「わー! 抱きしめられたら僕の姿消えちゃったー!」
「これ盗賊的に滅茶苦茶便利じゃないー?」
 クララは彼らの言葉に甘え、全サイズのゆるふわ盗賊たちを思う存分抱きしめたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

三岐・未夜
【みゃちしょこ】

ワルカッコ良いボス、かぁ
まぁ、僕がどうこうするまでもなくはっちゃけるふたりと一緒だからなぁ、今回

アジトに火の矢でも叩き込んでみる?
どーんっと扉吹っ飛ばして、今日から僕たちがボスだよ!って言ってみようか
……うわ、八千代めっちゃ持て成される気満々だ……
僕にとって夜は活動時間だし、夜更かしも余裕だからね!真夜中にお菓子もカップ麺も食べちゃう!
……何のアピールだか分かんなくなって来たけどこの世界の悪いことって結構レベル低いみたいだし、許されないかなー

硝子それ参謀っていうかもう計画的犯行がガチじゃん!ガチ!
あ、怖いから裏切りに警戒はしとこうね
っ~~~!(黒い巨大ひよこの群れにツボった)


笹鳴・硝子
【みゃちしょこ】

「私は、悪の参謀になります。ボスはやっちー?了解です」
それにしても、私が大学院に進む為に忙しくしてる間にとんでもない世界が見つかっていたのですね
爆破して登場するなら、愛用のペンデュラムを使ったダウジング(失せ物探し)で見つけたDの在処を記した地図とか作っておいて
「Dの保管場所は抑えました。爆破されたくなければボスの傘下に下りなさい。あ、私は苺ショートとミルクティーで大丈夫ですよ」
とか言っちゃいましょうか。わーわるーい。(棒)(真顔)
彼ら相手ならなんか押し通せる(言いくるめ・コミュ力)気がします。
「早い決断をお勧めしますよ。ボスが黒ひよこを出す前に」
ガチ?はて?


花邨・八千代
【みゃちしょこ】
ははぁん、なるほど
つまり!俺が!おかしらだ!

みゃーが派手に爆破してくれたら堂々登場するぞ
ボスっぽく『殺気』マシマシでご挨拶だ

あ、どーもどーもおかしら募集見て来たモンだけど
お茶請けはチーズケーキでいいぞ、スフレじゃないやつな
あと砂糖たっぷりのカフェオレをベンティサイズでよろしく

話は聞いてのとーり、通りすがりの悪人だ
ゆるふわ体が鈍ってるかぁいい蟹脚ちゃんどもを傘下に加えにきたぜ

おっと、俺らに逆らわん方が良いぞ
俺の後ろには89匹のでっかい黒ひよこが控えてんだからな…
逆らった瞬間、てめェ等の家をミチミチに埋めるぞ
風呂もトイレもな!

みゃーもしょこも俺の仲間だからな!
逆らうとこっえーぞォ!



「――ははぁん、なるほど。オッケーオッケー」
 入念な準備運動(ストレッチ)もそこそこに、花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)の表情(カオ)は、もう極悪(ワル)い。
「つまり! 俺が! おかしらだ!」
 まさに水を得た魚の如く、八千代は鼻歌交じりで指を鳴らす。都合よく暴れやすい状況(ハナシ)も合ったものだ。
「やっちーがボスを? ノリノリですね。了解です」
 それなら私は補佐役を、と、笹鳴・硝子(帰り花・f01239)は自ら悪の参謀に立候補。かつない速さで邪悪の企みが進んでいく。
「それにしても……私が大学院に進む為に忙しくしてる間に、とんでもない世界が見つかっていたのですね」
 硝子はわずか、目を細める。本当に、ほんの少し目を離した隙に、世界は恐ろしい速さで進んでゆく。
 でも別に行かなくても良い方向に全速力で爆走している様な気がするのは気のせいだろうか。
「ワルカッコ良いボス、かぁ……」
 何だかそう言う立ち位置にいる自身をあんまりイメージできないが、今回は自分が如何こうするまでも無くはっちゃける二人が一緒だから、まぁ、何とかなるだろうと。三岐・未夜(迷い仔・f00134)は至極カジュアルな調子で、
「取り敢えず……まずはアジトに火の矢でも叩き込んでみる?」
 初手火責めを、
「どーんっと扉吹っ飛ばして、今日から僕たちがボスだよ! って言ってみようか」
 ダイナミックな解説付きでプレゼンしてみると、

「あれ? 二人とも急に黙っちゃってどうしたの?」
「……未夜(みゃー)。済まねェ。今の今まで誤解してた。アンタ……大人しい顔してとんでもねェ悪党(ワル)だったんだな!!」
「えぇ!? いやいや! そっちの方がとんでもない誤解じゃない!?」
「成程。確かに。羅刹(オニ)ですね」
「妖狐だよ!?」
 ――と言う紆余曲折(こしばい)はあったものの、最終的には満場一致で未夜案が採用された。
 なんだかちょっと納得いかないが、やるからには手は抜けない。煙管一服炎上待ち、地図を広げて目下ダウジング中の仲間たちを安全圏に退かせ、未夜は四百二十五本の火矢を一斉にアジトへ放つ。そして火矢の雨はアジトに降り注ぎ――。

「わー!? 何事―!?」
「さっき直したばかりの扉がー!」
「というかアジトがー!」
 爆裂した。
 矢は『破魔矢』。そして此処は『魔界』。それ故問答無用に効果は覿面だったので、想定以上に扉以外も色々ものすごいことになってしまった。
 が。いいぞ、そっちの方が面白いじゃねぇかと大笑するのが花邨・八千代という女。八千代は印籠・南天を大棍棒に変化させ、慌てふためく盗賊たちの眼前、チャイム代わりに思い切り地面を叩いた。
「あ、どーもどーも。おかしら募集見て来たモンだけど」
 穏やかそうに見せかけ、その実『殺気』マシマシでのご挨拶。
 燃え盛るアジトと八千代の殺気に気圧されて、ゆるふわ盗賊たちはすでに半泣き状態だ。一見可哀そうにも見えるが、彼らは普通に盗賊(あくとう)なので、情けは蟹の為ならず。
「取り敢えずお茶請けはチーズケーキでいいぞ、スフレじゃないやつな。あと砂糖たっぷりのカフェオレをベンティサイズでよろしく!」
(「うわ、八千代めっちゃ持て成される気満々だ……」)
 未夜は八千代の鮮やかなやり口に感心し、しかしこんなド田舎にそんな小洒落たものがあるのだろうかと一瞬疑問に思ったが、
「は、はーい。こちらスフレじゃないケーキとー、カフェオレのベンティサイズ砂糖たっぷりになりまーす」
 あった。しかも手際がいい。盗賊ってすごい。

「そ、それでー。何の話だったっけー?」
 食べたら帰って欲しいのか、ゆるふわゆるゆるしらを切り始める盗賊たち。だが、そんな演技は通じませんよ、と、硝子が隠れ里の地図を突き付ける。
「Dの保管場所は抑えました。爆破されたくなければボスの傘下に下りなさい……あ、私は苺ショートとミルクティーで大丈夫ですよ」
「なんだってー!?」
「ぐぐぐ、何たる凶悪なー!」
「いやいや硝子、それ参謀っていうかもう計画的犯行がガチじゃん!ガチ!」
 思わず、仲間であるはずの未夜まで突っ込む硝子の凶悪的凶行!
 愛用の凝――雷水晶のペンデュラムで探し当て、地図に刻まれたバツ印。敢えて正誤を問わずとも、盗賊達の反応が全ての答え合わせだろう。
 ちなみに、『凝』には迷うほどに揺れ、思い定まれば然るべき道を示す性質があるが、今回はダウジング中びっくりするほど揺れなかった。隠し場所があからさますぎて示しっぱなしだった。それはもう二度見するほどに。
「そんなー。いったいどこでこんなに精巧な里の地図を手に入れたんだー」
「普通に里の公式ホームページに掲載されていましたが?」
 出されたショートケーキを口に運びながら、あっさり答える硝子。正直もう、ケーキ片手でも押し通せる気がした。
「あー! そう言えばそうだったー!」
「外から来た人が道に迷っちゃいけないと思ってー」
「人の善意を利用するなんて何たる邪悪なー」
「いいえ。私なんて。彼に比べれば小悪党も良い所です」
「……えっ、僕?」
 食後のミルクティーを一口。自然な流れで、硝子は未夜に無茶振りを押し付けた。

 盗賊たちの注目が、未夜に集まる。
「僕だって大したものじゃないよ? うーん……例えば……」
 未夜は困った顔で腕を組み、
「僕にとって夜は活動時間だし、夜更かしは余裕だからね! ……っていうのはどうかな?」
「夜更かしー!?」
「そんなー、夜更かしする人がもう一人いるなんてー」
 君たち盗賊じゃないの? とは言わないことにする。
「だからね。真夜中にお菓子もカップ麺も食べちゃう!」
「ま、ま、真夜中にそんな背徳的な事を―!?」
「邪悪の化身ー!」
「わー、わるーい」
 悪の大合唱に、いつの間にか真顔で棒読みの硝子が合流している。
 ……何のアピールだか分からなくなってきたが。この世界の悪いことって結構レベルが低いだろうから、これでいけないだろうか。
 ……低レベルと言うか、反応から察するに、彼らにとって放火より夜中にカップ麺の方がワルいらしい。なんでだ。

「な? 話を聞いてのとーり、俺達ァ通りすがりの悪人だ。出血大サービスの出張大サービスでゆるふわ体が鈍ってるかぁいい蟹脚ちゃんどもを傘下に加えにきたぜ?」
 二人の活躍を静観しながらも、遂にデザートを平らげた八千代が勢いよく本題をぶち上げる。
「なにをー!」
「僕たちはケーキみたいに甘くないぞー!」
 しかし頭ごなしにそう言われて、はいそうですかと屈服するほど蟹達は素直じゃない様子。
 布越しに、めらめらと見え隠れする戦意。万一に備え奇襲を警戒する未夜。しかし八千代は、そんな空気にゃ用がねぇと最凶最悪の鬼札を切る。
「おっと! 俺らに逆らわん方が良いぞ……? 何せ俺の後ろには八十九匹のでっかい黒ひよこが控えてんだからな……!」

「なんだってー……!」
「でっかい黒ひよこがー?」
「八十九匹もー……!?」
 あまりの衝撃に戦慄する蟹達。

「どうやら状況を理解したようだな。逆らった瞬間、てめェ等の家をミチミチに埋めるぞ。風呂もトイレもな!」
「くっ、なんて凶悪卑劣なー!」
「出来るもんかー。きっとブラフに決まってるー!」
 抑止力さながら、黒ひよこの存在をほのめかすだけで、圧倒的優位に立つ八千代。限界まで追いつめられる盗賊たち。
「―――っ~~~!」
 そしてツボに入る未夜。
 ……一体、盗賊たちにとって黒ひよことは何なのだろう。それは何だか良く解らなかったが、
「早い決断をお勧めしますよ。ボスが黒ひよこを出す前に」
 ――硝子の、歌声にも近しきその一言が決め手だった。
「くっ、そこまでの悪を見せつけられたら軍門に下らざるを得ないー」
「下るから僕たちもケーキ食べていーい?」
 争いが終わる。
 構わねぇぜ、と豪胆に笑う八千代。おかしらとしての最初の仕事は、おやつの時間を許可することだった。

 さぁ! と、八千代は新生盗賊団に檄を入れる。
「いいか。よく聞け、みゃーもしょこも俺の仲間だからな! 逆らうとこっえーぞォ!」
「おー!」
「んー? つまり、おかしらの友達はおかしらってことー?」
「なるほどー」
「わかったー」
「おー!」
 おやつの時間を経て、ゆるふわ乗り気な盗賊たちを尻目に、ふと同じ解に到達した未夜と硝子は互いに顔を見合わせる。
 ――この盗賊団。もしや下っ端とおかしらしかいないのでは?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ヴィクトル・サリヴァン
なんか親近感感じちゃうなー。ゆるい海産物系。
おかしらはまあ俺がダメでも他の猟兵さんが頑張ってくれるだろうし、ごーいんぐまいうぇいでいこっと。

はいまずはこんにちはとご挨拶。
真なるワルはその悪の情熱をぶつける相手をしっかり線引きするもの。
山吹色のお菓子のお茶請けどうぞとかオススメしつつ、やっぱ実力見せないとダメ?
盗賊、怪盗なら海を通っての潜入は得意だよ。陸は…陽動なら、まあ?
陽動ってのはこういうのだねーと空き地とか腕試しの盗賊さん達にUCで炎と竜巻合成して力を見せる。
呪詛は破魔と結界術で即抵抗ね。
スタンス。被害者が復讐の列に並びに来たなら返り討ちにするのがワル…そう思わない?

※アドリブ絡み等お任せ



 此方は鯱。向こうは蟹。同じ海産物系として、何だか親近感がわいちゃうなー、と、炎上する蟹達のアジトを眺めながらゆるゆる考える海のいきもの・ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)。
 え? 何でいきなりアジトが燃えているんだろう。良く解らなかったが、取り敢えず銛を放り投げて大海のシャチを呼び、鎮火することにした。
「おー、見て見て大きな鯱がいるー」
「わー。ほんとだー。こんにちわー」
 はいこんにちはと挨拶を返す。
 親しき中にも礼儀あり、いいや実際まだ会って数秒だが、真なるワルはその悪の情熱をぶつける相手をしっかり線引きするもの。そこのところは社会人としてのマナーである。
「お近づきのしるしにこちらをどうぞ」
 と、ヴィクトルが盗賊たちにオススメしたのは、山吹色のお菓子――のお茶請け。通称大学芋。
「これはどうもご丁寧にー」
「きらきら光って宝石みたいー」
 バーのマスターなので。お菓子を見る目のは確かです。
「!! みんなまつんだー!!」
「なになにー?」
「どーしたのー?」
 皆が大学芋を食べようとする直前、一人の盗賊が叫んだ。
 ……別段、毒など仕込んでないのだが。
「このお芋にかかった見事な飴ー。気を付けて食べないと布にべっとり付いちゃうよー!」
「!! そっかー。危なかったー」
「おのれー。そんな卑劣な罠を仕掛けているとは何て邪悪なー」
 えっ、普通に布を脱いで食べればいいんじゃないのかな。人前で脱いだ姿見たくないって言うんなら見ないし。そもそも別に今すぐ食べなくても。
 ヴィクトルは凪の海より穏やかにそう諭すが、なんやかんやで戦う流れは避けられそうにないらしい。
「この状況がまさにそうだけど……被害者が復讐の列に並びに来たなら返り討ちにするのがワル……そう思わない?」
「それはそうだと思うけどねー」
「ふっふっふー。なかなか頭は回るようだけどー、果たして実力のほどはどうかなー」
 まぁ、そうならそうでしょうがない。ゴーイングマイウェイの精神だ。ヴィクトルは勇魚狩りを焼け跡から引き抜き、構える。
「……ところで、おかしらって今どうなってるんだい?」
「十六人いるよー」
「えぇ……?」
 いったい何がどうなってそうなってるのか。
 うぞうぞ蠢くカニたちは、ぞろりとヴィクトルを取り囲み、かちりかちりと鋏を鳴らす。
「僕たちは君と同じ海の生き物だからー。さっきのシャチはきっと思ってきかないよー?」
「さあいこー! 数の暴力で囲んで身包み剥いじゃえー!」
「海と山。どっちが好きー?」
 ……誰に教えられた戦法か。盗賊たちは一斉に、ヴィクトルへ飛び掛かる。
「盗賊……怪盗なら海を通っての潜入は得意だよ」
「僕たちも泳ぎは得意ー」
「あれー? もしかして一緒に泳いでお仕事とかいい感じじゃなーい?」
 四方から押し寄せる盗賊たちの鋏。全身に浮かび上がる蟹型の痣。
「それじゃあ陸はー? 陸はどんな感じー?」
 ヴィクトルは破魔の力と結界術を総動員して呪詛を打ち消し、上半身(からだ)を捻って勇魚の大薙ぎ。盗賊たちを払い飛ばす。
「陸は……陽動なら、まあ?」
「よーどー?」
「例えばー?」
「陽動ってのは……こういうのだねー」
 ヴィクトルが銛を翳すと、その直上に風が流れ、渦を巻き、やがて熱気を帯びて炎がはらむ。
 巨大なる火炎竜巻を、人気のない空地へと解放すると、赤々とした炎が一瞬で全てを飲み込み、空を焼きながら天へと昇って行った。

「おおー! やるねー!」
「海の生き物なのにほのおまで扱えるなんてー!」
「ハイブリッドな悪ー!」
 ……どんな褒め方なのかよくわからないが、好評ではあったらしい。それもすこぶる。
「きみこそが僕らのおかしらにふさわしー!」
「……え? でも、もう十六人いるんだよね?」
「そうだけどー?」
「それがなにかー?」
「ところで大学芋おいしーねー」
「ねー」
「……ええ、ああ、うん。いや。特に何も。」
 彼らがそう言うからには、そういう事なんだろう。
 結局蟹達が大学芋を食べ始めているのも含めて、ヴィクトルは、あんまり気にしないことにした。


●いっぱい
 長かった面接?、らしきものを終え、ゆるふわ達は、いつもの世間話。
「……そう言えば見回りの蟹(ひと)曰く、どっかの大きな軍勢が、金曜日位に里まで来そうなんだってー」
「へー、そーなんだー」
「ねーねー、そんな事より疑問なんだけどー」
 そんな事より。
「どーしたのー?」
、一人のゆるふわ盗賊が、恥ずかしながらと、仲間たちに質問する。
「僕たちのおかしら今十七人いるじゃなーい?」
「いるねー」
「これって実は多くないー? 船頭多くして何とやらじゃなーい?」
「なんだーそんな事かー」
 訳知り顔のゆるふわは、よく考えて見なよー、と質問ゆるふわに促した。
「僕たちの脚はいっぱいあるでしょー?」
「そうだねー」
「だから僕たちは盗賊としてー?」
「すごい!」
「そんな僕たちにお頭がいっぱいたらー?」
「つよい!!!!!!」
「ねー? 凄いラスボスの人は頭が一杯あったりするしー」
「ねー!」
 
 成程。一理あるかのもしれない。
 しかしそんな事よりも気にすべきことがある気がするのだが、ゆるゆるふわふわ――里の興亡は、やはり、すべてのおかしらの双肩にかかっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『悪魔のボディガード』

POW   :    ガードキャノン
自身の【デビルキャノン】から、戦場の仲間が受けた【攻撃の合計回数】に比例した威力と攻撃範囲の【暗黒の砲撃】を放つ。
SPD   :    護衛契約
他者からの命令を承諾すると【契約書】が出現し、命令の完遂か24時間後まで全技能が「100レベル」になる。
WIZ   :    トリモチシュート
【デビルキャノン】から【トリモチ弾】を放ち、【強烈な粘着力】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●悲しき怪物

※次回冒頭文更新4月2日(金)予定。
「おらァ! よーーーーーやっく見つけたぞ盗賊ども! ここで会ったが百年目! 覚悟は出来てんだろうなぁ!!」
 里を揺るがすのは、地鳴りの如き怨嗟交じりの大怒号。物々しい武装をした悪魔――数え切れないほどの被害者達が予知の通り攻めてきたのだ。
 満ちる殺気。向けられる砲口。既に四方を囲まれて、蟹の子一匹逃げ出す隙間もない絶対絶命の状況。
「わー、何だか久しぶりだねーガードマンくん達ー。盗み(しごと)以外のオフの日に会うのってもしかして初めてじゃなーい?」
 にも拘らず。盗賊たちは何時もの調子でゆるふわしていた。
「どしたの今日はー? 宅配便とか届けに来てくれた感じー?」
「んな訳ねーだろうが!」
 えー? じゃあ何しに来たのー? と小首を傾げる盗賊たち。どうやら本当に心当たりが無い様子だった。
「何しにって前……復讐しに来たに決まってんだろが!」
「えー? どーしてー?」
「僕たちは見つからず、傷つけず、大胆にって言うのが信条のイカした怪盗なのは知ってるでしょー?」
「お宝を盗るとき、護衛してる君たちにかすり傷だってつけたことは絶対ないしー」
 お宝の持ち主に恨まれるならともかく、ガードマンの君達に恨まれる筋合いは無いんじゃない? と、そんな言い分の盗賊たち。
「寧ろ、だからこそだろうが! 良いか? そのゆるふわ頭でよく考えてみろ! お前たちが大魔界博物館であの有名な画家の絵を盗んだ後、」
「あれは魅入った悪魔(ニンゲン)を絵の中に閉じ込めちゃうやばい奴だったよねー」
「ねー」
「植物魔学研究所から新種の種子(たね)を盗んだ後、」
「スーパーデビルミントの事かなー? 一度植えちゃうと三日で半径五千キロは軽く繁殖しちゃうやつー」
「植物の生命力って時に恐ろしいよねー」
「ブリリアント宝石店の一番高価な指輪を盗んだ後、」
「あったねー。あの指輪、つけた人間が持ってた好感度を反転させちゃう呪いがかかってたっけー」
「何だか僕たちの狙うお宝ってそう言うの多いよねー」
「一々話の腰を折ってくるんじゃないよ! 静かにしないと問答無用で撃つぞコラ!」
 そう言いながら本当に問答無用で撃たないあたり、被害者達も殺気交じりに全身から『良い人』感が滲み出ていた。
「兎に角、お前たちが盗みに入ったその後に、俺たちはどうなったと思う?」
「えー? 焼肉パーティーしたとかー?」
「馘(クビ)になったんだよぉ! 『激戦の末にとかならまだしも棒立ちで奪われるって……君ら要る?』って具合になぁ!」
 ガードマンたちの咆哮(なげき)は、とても切実だった。
「お前たちがさんざ盗みをするもんだから、俺たちゃその都度馘にされ、遂には自宅位しかまともに警備する場所が無くなっちまった!」
 故にこそ、オブリビオンに唆され、被害者の会を結成し、遂に里へと攻めてきたのだろう。
 ……冷静に考えると十割盗賊たちが悪いのだが、盗賊たちも真面目にデビルキング法を遵守しているだけなので、そこのところ他世界の価値観では量れない。
 ただ一つ、復讐は何も生まないと説くことも、盗みは悪いと諭すのも、この世界では野暮な話(コト)だろう。
「D(デビル)も宝物も! お前らが集めたもんその布ごと全部引っぺがして再就職の足掛かりだ! 自宅警備で磨きに磨いた俺たちの力……見せてやる!」

「うーん……僕たちの盗み(しごと)が華麗すぎるせいで生まれてしまった悲しき自宅警備員(モンスター)……」
「そんな彼らにー、僕たちは何をしてやれるだろー?」
「いっそ開き直ってー、踏ん反り返るのが一番ワルくないー?」
「わー、盗人猛々しーい!」
「憎まれっ子は世に憚るものだからねー。宝物庫に仕舞っておいた武器類も、剣から現金輸送車までー、使えるものは全部出しちゃおー」
 怒り狂う被害者達を前にして、盗賊たちは盗賊たちでいい性格をしていた。
「でも僕たち所詮はしがない怪盗ー。こういう風に戦ったことは一度もないしー……」
「そんな訳だからおかしらたちー。ワルかっこいい感じの指示を僕らにちょーだいよー!」

 ……ここから合流しようとも、猟兵ならば問答無用で彼ら(ワル)のおかしら。罪悪感は彼方に投げ捨て、盗賊たちと共闘し、被害者達を蹴散らそう。
 そうすれば、未だ隠れている事件の黒幕――被害者の会会長(オブリビオン)を表舞台に引きずり出せるはずだ。
森乃宮・小鹿
おーけぃおーけぃ
お頭No.4のバンビちゃんからひとつ提案なんですけど……
あいつらみんな轢きません?

ほらぁ!自宅警備で色々磨いてたみたいだし、車ぶつけにいってもダイジョブそうっすよ!
車運転できるのはどちら様?……ああ、そちらで!
じゃ、あちらさんをボクが一纏めにしておくんで合図送ったら車で突っ込んでください
もちアクセル全開で

さてさて被害者の皆様には申し訳ないけど……多重契約してもらうっすよ!
デビルズ・ディール!あんたらを強化してやるっす!
でも頭はボクの思う通りにしか動かせませんからね
はーいこっちこっちー引っ張られるまま移動しちゃってー

そこだ!全員地面に頭めり込ませろ!!
今だいけぇ!轢き飛ばせぇ!!



 そして、ついに始まる仁義無き被害者加害者大戦争。どちらが先手を仕掛けたか、小さな里を戦場に、所狭しと両軍入り乱れ、あちらにこちらに戦火(ひばな)を散らす。
「えいっ!」
「えいえいっ!」
 常日頃、ゆるふわしている盗賊たちも今回ばかりはやる気満々。遠慮なし・手加減なし・殴って蹴っての大乱闘に身を投じる、が、
「ふはは! 効かーん!!」
 しかしそんな気合も空しく、鎧袖一触とばかりに吹き飛ばされてしまう。
「かの『奥さん(マダム)』と契約を交わした今の俺達に隙は無い。お前たちの『呪詛』程度、十発食らおうが二十発食らおうがへっちゃらよ!」
 自信満々に、『奥さん』との契約書を掲げるガードマンたち。里への侵攻は、自宅警備員である彼らにとって久々の仕事でもあるということだろう。
「ぐぬぬー、なんという飽くなき勤労意欲ー」
「もしかしてこのままじゃ僕ら負けちゃう感じー?」
「おかしらー、何か策は無いー?」
 多脚をわさわさ何とか立ち上がり、おかしらに助けを求める盗賊たち。
 そして――その悲痛……さはあんまり無い叫びを受け止めた小鹿は、おーけぃおーけぃと余裕綽々頷いて、
「ターイム!!」
 元気いっぱいタイムを宣言した。
「……認める!!」
 そしてそれをあっさり認めるガードマンたち。
「賢しい策などいくらでも立てればいい。それを真正面から叩き潰してこそ、俺たちの評価も上がると言うもの!」
 何という見上げた精神。その心意気、まさしくあらゆる災禍から護衛対象を守り抜かんとするガードマンの鑑と言えるだろう。
 そして、

「はい。みんな聴いたっすね? ばっちり言質は取ったっすよー?」
「取った盗ったー」
「じゃあ、僕たちはこの間にー、とんでもなくえげつない作戦考えちゃおうよー」
 何という見下げ果てた精神。盗人根性ここに極まれりと言っても過言ではない。しかし悪こそ持て囃される末法世界なら、どのような謀略とて、何に恥じ入ることも無く。敢えて言うなら付け入るスキを与える方がよろしくない。
「お頭No.4のバンビちゃんからひとつ提案なんですけど……あいつらみんな轢きません?」
 だからこそ、そう提案する小鹿の眼差しは正邪を超え――一点の曇りもなかった。
「ほらぁ! 自宅警備で色々磨いてたみたいだし、車ぶつけにいってもダイジョブそうっすよ!」
 円陣を組みながら、ちらりとガードマンたちの様子を盗み見るぬすっと達。確かに彼らは頑丈で、使い込まれたであろうその装備は、しかし新品と見紛うほど良く手入れされており、何よりとても轢きやすそうだった。
「くっくっくー。その案ととってもいいんじゃなーい?」
「バンビおかしらー、お主もワルよのー」
 その下りはもうやった。
「それじゃ決定という事で。で、車運転できるのはどちら様?」
 バンビのおかしらにそう問われ、こぞって手を挙げる盗賊たち。これからガードマンを轢くことに対する罪悪感が限りなくゼロに近そうなのがとても頼もしい。
「僕は自転車乗れるよー」
「僕は早馬いけるー」
「僕は普通車ー」
「マイクロバスー」
「現金輸送車ー」
「ゴールド免許ー」
「おやまぁ。みんな色々乗れるんすねぇ」
「盗み(しごと)で使うしー。どこの国でもレースは盛んだからねー」
 選り取り見取りで、おかしらとしてはうれしい悲鳴。ガードマンたちが律儀に待ってくれるのを良い事に、誰に任せようか、贅沢に時間を使って熟考し、
「それじゃあ……」
 と小鹿が満を持して引き役を任命しようとした刹那。
 ――突如里に響くのは、天地を引き裂く大轟音。
 ……そう。雷鳴の如き、あるいは龍の唸り声の如きその音源の正体こそ。

「僕は超大型ダンプカー」

 どれだけ大きいかと言うと、タイヤの直径が4メートルもあるのだ。そこから色々察してほしい。満場一致で決定だった。一体寂れた里の何処にこんなものがあったのか。
「それじゃー!、あちらさんをボクが一纏めにしておくんでー!! 合図送ったら車? で突っ込んでくださーい!!! もちアクセル全開でー!!!! と言うかボクの声聞こえてますー!?」
 全てを掻き消す爆音の中、おーけぃおーけぃとゆるふわジェスチャーで返す蟹(運転手)。
 本当に大丈夫だろうか。いや、部下を信じるのもおかしらの務めと言うものだろう。
 超大型ダンプカーの威容を仰ぐガードマンたちは、もう見るからに真っ青だった。後悔先に立たずとはよく言うが、これも廻り回って世界平和のためなので。残念ながら容赦は出来ない。
「さてさて被害者の皆様には申し訳ないけど……多重契約してもらうっすよ!」
 そして、被害者目掛け発動するのは無慈悲なるデビルズ・ディール。既に角ある兜にもう一本の角が生え、その効能として戦闘能力が増加する。
 ……本来なら。増強されたそれを用いればダンプカーからの退避は余裕だろう。だが無慈悲にも、押し付けられた善意の代償として無理矢理要求されるのは、角の生えた頭部(ぶい)の制御権。
「はーいこっちこっちー。引っ張られるまま移動しちゃってー」
「うおっ!? ちょ、ちょっと待――」
 自らの意志ではどうにもならない。最早彼らの頭は小鹿のモノ。
「ハイちょっと右ー」
 まさか増強した戦闘力で頭を撃ちぬくわけにもいかず、
「んー気持ち左っすかねー」
 見えない何かに引っ張られ、ガードマンたちは十把一絡げ、
「良し良し。全体止まれ……っと」
 遂にはボーリングのピンさながらきれいに整列し、
 ――無論。ピンが並べられた後のことなど言うに及ばず。
「ヨシ! そこだ! 全員地面に頭めり込ませろ!!」
 最後の仕上げに、勢いよく大地へ頭を突っ込んだガードマンたちは……。
「あばば! 待て、やめろ! タイム! タイムを要求する!!」
「ノー!! タイム却下!! 今だいけぇ! 轢き飛ばせぇ!!」
「りょーかーい!」
「うおおおぉぉ!?!?」
 迫る轟音。超出力のエンジン。黒煙を吐く排気筒。地を抉る超重のタイヤ。

 ――――。
 ああ。そして、何かしら、鈍い鈍い衝突音。一斉に飛び立つ鳩の群れ。
 
 ……ガードマンたちは、死なない程度に轢き殺されたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アーサー・ツヴァイク
※すきにしてください

アクヤク…アクヤク…
今の俺は、下っ端怪人を引き連れたゲスト怪人。そうだ、そういう感じでいこう

よし、かかれ!!

………

いや、わちゃわちゃするだけだとワルかっこいいにならないか…

よ、よし…なら、俺のUC【エクスプローシブ・ドラゴンライド】で攻撃をしかけ、光の鎖で拘束する!
そして、ここですかさず、部下?のブギーキャンサーがUC【キャンサー・パレード】で追撃だ!
全員で一体を袋叩き、これならいい感じにワルっぽいのでは!

………

いや、これは……
怪人にトドメの必殺技を放つ戦隊の構図っぽいな……

うわああああどうすればアクヤクになるんだああああああああああ



 燃える戦場。乱戦の最中、仲間達から孤立してしまった盗賊が、ガードマン達に囲まれて、絶体絶命の窮地に陥っていた。
「ククク。ようやく追い詰めたぞ」
「さんざん手間ぁ掛けさせやがって」
「……あわわわー」
 何とか突破しようと足掻いてみるものの、多勢に無勢はどうにもならず。無理を悟った盗賊は、がっくりと座り込む。
 そして。纏う布を引き剥がそうと、ガードマンの魔手が盗賊のすぐ其処まで伸びた刹那――。
「とうっ!」
「ぐあっ!?」
 閃く光刃。倒れるガードマン。間一髪、アーサーが救援に駆け付けた。
「大丈夫か!?」
「ちょい悪のおかしらー!」
「そのまま俺の後ろに隠れてろ!」
 数度フラッシュブレードが虚空に眩い軌跡を刻めば、周囲のガードマンたちは片端から地に沈み、そのまま問答無用ではぐれ蟹を抱えたアーサーは、仲間達との合流を目指す。
 ……その途中。
「ありがとーねー。でも仲間の窮地を助けるなんてー、何だかおかしら正義の味方みたいー」
「え!? いや、これは、その、あー……あれだ! 俺の野望を果たすまで、お前たちに死なれてもらっちゃ困るからな……とか! なんだかそんな感じ? ……だ!」
「おお、なるほどー」
 この世界。とてもとても心臓に悪い。ここまで何度冷や冷やした事か。ヒーローから正義をとってもやはり光は簡単に消えやしないのだ。
 兎も角。郷に入れば郷に従えの精神で、アクヤクの仮面を被らなければ。
(「アクヤク……アクヤク……ええと……そうだ。今の俺は、下っ端怪人を引き連れたゲスト怪人……って言うのはどうだろう?」)
 なんだか自分の中でちょっとしっくり来た。そうだ、これで行こう。
 そんな決意を蟹(ひと)しれず胸に秘め、はぐれ蟹共々仲間達と合流したアーサーは、早速悪の盗賊団を率いる極悪の怪人(おかしら)らしく、
「よし、かかれ!! 奴らを恐怖のどん底へ叩き落とすのだー!」
「おー!」
 下っ端たちに命令する。今のは結構ソレらしかったのでは無かろうか。
「いくぞー!」
「何の!」
「やるぞー!」
「やらせねぇよ!」
 しかし、おかしら達にワルかっこよさを要求する癖、カニたち自身は、善いとも悪いとも言えない絶妙なラインで何だかわちゃわちゃしている。
(「うーん……」)
 例えるなら小学校の運動会っぽいというか、乱痴気騒ぎめいてはいるのだが、傍目から見てもワルかっこいいとは言い難く。
(「よし……!」)
 仕様がないのでテコ入れに乗り出すことにした。
 唸るドライバーの音声と共に、アーサーはアルダワ魔法学園世界の力を持つ形態・ドライビングスチーマーにフォームチェンジすると同時、大型バイク・ライドランを駆る。
「ようし……行くぜ、ライドラン!」
 そして、その全身をライドランから発せられた蒸気で覆い、人機一体の境地に達すると、意識の中から天地の境すら消え失せて、アーサーは縦横無尽の超高速で敵を攪乱する。
「怯むな! 撃て撃て!」
 盗賊たちとの押し込み合いに興じていたガードマンたちも、その機動に脅威を感じたか、全ての砲口(キャノン)をアーサーへ揃え、徹底放火の大嵐。
「何の!」 
「クソッ! 当たらねぇ! だが、これならどうだ!」
『奥さん』との契約で強化された精密射撃の弾幕を、それでも紙一重で躱し続けるアーサーに業を煮やした被害者達は、キャノンの中身をトリモチ弾に入れ替えて、無差別・無遠慮の一斉射撃。
 間断なく続く弾雨。最早紙一重の隙間すらなく、トリモチ弾が正にアーサーを捕えようとしたその瞬間――。
「おかしらあぶない!」
 先ほど助けた盗賊が、咄嗟射線を遮って、アーサーの盾になった。
 それは間違いなく、仲間同士が手を取り合って助け合う美しい絆――。
「クッ……味方を盾にするなんざ、何て邪悪な……!」
「ふっふっふー。おかしらは己の野望のためなら躊躇なく僕たちを捨て駒にするお方ー……!」
 しかし、世界が世界なので物凄い風評被害だった。でもここで突っ込むと後ろから刺されそうだし、トリモチまみれの盗賊もなんだかんだ元気そうなので、知らないふりをしておこう。
 ともあれ、はぐれ蟹のおかげでトリモチ弾幕に穴が開いたのは事実。蒸気を纏うアーサーは、刹那の間にライドランを槍へ変え、開いた射線をなぞる様に全力で投擲した。
「行くぞ! 俺たちの一撃……受けてみやがれ!!」
 果たして、槍は正確にガードマンの一人を穿ち、爆発。反動でアーサーの手元に戻って来たライドランからは光の鎖が展開し、爆心地にて煤けたガードマンを雁字搦めに拘束していた。
「うぐぐ! 動けん!」
「さぁ! 全員で追撃するんだ!」
「おー!」
「袋叩きだー!」
 ちょい悪おかしらの指示の下、蟹脚ブギウギ全力疾走で、盗賊たちは寄って集ってガードマン一人をボッコボコのオーバーキル。
 良し、これならいい感じにワルっぽいのでは? と、自分が考え得る限り会心の悪事にアーサーは思わず小さなガッツポーズ。
 ……が、暫し冷静になって考えてみると、果たしてこれは本当にワルなのか……? と言う疑念が脳裏に過る。
 敵を拘束してトドメ! とか正義の味方でもよくやるし、こう、一歩引いて眺めると、怪人に必殺技を放つ戦隊の構図っぽい様な気も……。
 考えれば考える程に良く解らなくなってきた。

(「うわああああ! どうすればアクヤクになるんだああああああああああ!!?」
 悪と悪がぶつかり合う戦場で、アーサーは人知れず苦悩する。
 アクヤクへの道のりは、無意味に険しそうだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】

突っ込みポジが来たか
俺、ボケに回って良いよな?
自宅警備員に同情しつつ、
【怪力】で巨大中華鍋の炒飯煽ってる
火力は『群青業火』
里のお頭になったからにゃ、
手下の面倒見なきゃだしな
並べカニども
今日は海老炒飯だぜ
もちろん漢メシの味付けだ(目分量・濃い)
食材と鍋は里から無断で借りた

おい椋、なに並んでやがる
お前は手下じゃねぇだろ
と言うところだが今日は特別に分けてやる
遠路遥々来た警備員の皆さんにもお裾分けしてやれ
カニども、手伝ってこい

食い終わって満腹満足、椋の仕込みで混乱したとこに業火浴びせるがな
なーにこれくれぇ常套手段よ
反撃が来たら炒飯煽ってた熱々の鍋を盾にしつつ押し付ける
よしカニども、かかれ


六島・椋
【骸と羅刹】
(チャーハン列に並んでいる)
自分の分は大盛りで頼むぞ友よ
向こうにも分けるのか。ふむ

なあ蟹よ
先ほど言っていた、ブ……鰤餡宝石店から盗んだ指輪、今用意できるか
いや、この世界流ではこうか
おい、すぐに指輪と焼きそばパン持ってこい

この指輪、一番復讐に燃えてるやつにつけさせたら面白くなるかなと
指には入らなそうだし、糸でネックレスにするか

骨らに手伝ってもらいチャーハン配達
どーも、たぶん遠路はるばるご苦労サマ
チャーハンのお届けデス
ほら、真剣な場で突然飯食い始めるのは、なんかワルっぽくないだろうか
こう相手をナメてる感が

そうこうする隙に指輪を【目立たない】ようプレゼント
あとはUC使いつつ蹴散らしてこう



 突っ込み(なかま)が来た。
 ガードマンたちを一瞥したエスタシュは同情しつつ直感的にそう悟るが、だったらもう俺自由だよなと大きく伸びをして、無慈悲にもストレスフリーなボケ側へ回ることにした。
 肩の荷が下りれば腹も減る。なのでここから先は問答無用で料理の時間だ。異論は受け付けないし、お誂え向きに宝物庫で眠っていた巨人用超大型中華鍋と、湧いて出てきたとしか思えない新鮮な食材と、なぜか戦場ど真ん中にあるキャンプキッチンについて今更コメントはしない。
 努めておおらかに。心を広く・大きく保つコトが無数有る世界を渡り歩くコツと言うもので、まな板に乗せた食材を大きめ目分量にぶつ切って、遠慮なく鍋にどかどか投入し、味付け濃いめに調味料をだばだば入れるのも、全てに動じない漢らしさの発露と言えるだろう。大雑把とかそう言うのではなく。
「でもおかしらー。火種が無いよー」
 大丈夫。そんな時こそ群青業火(ブレイズアズール)。エスタシュの内より噴き出る群青色の業火が、とろとろじっくりまんべんなく鍋を熱するのだ。
「ま、里のお頭になったからにゃ、手下の面倒見なきゃだしな……」
 料理に雑念は混ぜ込まない。なんだかんだ面倒見がいいのは、今更どうにもならない習い性。
 自慢の怪力を惜しみなく、超級料理人もかくやと言う鍋捌き。どれだけ鍋を振るおうと、決して米粒一つ落とさず、炒めに炒めて炒めぬく。
「よし。出来た。ほら、並べカニども。今日は海老炒飯だぜ」
「わー、香ばしー」
「美味しそー」
 行儀よく、きちんと整列する盗賊たち。
 お皿によそって貰ったら、たのしい昼食のお時間だ。
「どうだ? 美味いか?」
「美味しー!」
「そうかい。そりゃ作った甲斐もあったってもんだ。まだまだあるから、沢山食べりゃいい」
「そうか。では自分は大盛りで頼むぞ友よ」
「……って、おい椋、なに並んでやがる。お前は手下じゃねぇだろ」
 そして、ちゃっかり行列に紛れ込んでいた椋。
 エスタシュの問いに、椋は今更自分たちの間に理由(ことば)なんて要らないだろう、と格好つけて大皿を突き出した。
「理由ってかお前、単に飯食いたいだけだろ。まぁいい。今日は特別に分けてやる。後がつかえちゃ料理も冷めちまうしな」
 エスタシュは気前よく椋の大皿に炒飯をよそって退かせ、そうして次に現れたのが――さも当然のように順番待ちをしていた骨格人形のオボロだった。
 ……というか、オボロの後ろにも、更にその後ろにも、骨格人形ズが大皿を抱えて行儀よく並んでいる。
「おい椋、」
「MAGA盛りで(裏声)」
 口パクのオボロ。
「アテレコすんな!」
「……ちっ」
 椋の企みは、あっさり看過されてしまった。
「てかまぁ、盛り付けるのは構わねぇけど一人で全部食うなよ。ほら、遠路遥々来た警備員の皆さんにもお裾分けしてやんないとだからな」
 エスタシュはガードマンたちへ視線を投げる。彼らは呆気にとられ、今の状況に対応できずに立ち尽くしていた。
 その対応は突っ込み側としてまぁ正しい。
「成程。向こうにも分けるのか。ふむ」
 言いながら、椋はすでにスプーンを口に運びもぐもぐしている。
「カニどもも、食い終わってからでいいから手伝ってやれ」
「りょーかーい」
 いただきます、と鋏(て)を合わせ、ゆるゆるちまちま炒飯を食べ始める蟹達。
 取り敢えず。全ての物事はランチタイムの後でいいだろう。

「……うむ。御馳走さまだ。この大雑把さが疲れた体に丁度良いというか」
「美味しかったよねー」
 楽しい時間はすぐに過ぎ、そんな訳で昼食後。空の皿をキッチンに預け、小腹見たしを終えた椋はふと、悪魔的発想を思いつく。
「なあ蟹よ。先ほど言っていた、ブ……鰤餡宝石店……だったか、そこから盗んだ指輪、今用意できるか」
「えー? ご飯食べたら僕何だか眠くなってきちゃったんだけどー?」
 うつらうつらと揺れる蟹。その寝ぼけ眼は、絶対ここが戦場だという事を失念している。
 なので優しく、と言うのは逆効果だ。此処は心を悪(ワル)にして、この世界流に語気を強め、
「おい。そこの蟹。すぐに指輪と焼きそばパン持ってこい」
「は、はーい! ただいまー!」
 椋の邪悪なパシリ指令に、さすがのゆるふわ蟹も目が覚めたらしく、考え得る限りの大急ぎで宝物庫から指輪と焼きそばパンを持ってきた。
 焼きそばパンはともかく、指輪の方はまだ開けてもいないのに。物々しく封印されたケースの時点でよくわかる邪悪なオーラ。
「持ってきたけどー。その指輪、どうするのー? もしかして自分でつけちゃう感じー?」
「まさか。好感度を反転するんだろ。なら。この指輪、一番復讐に燃えてるやつにつけさせたら面白くなる気配がしないか」
 椋は細心の注意で指輪を取り出すと、糸を通してネックレスに仕立て上げ、蝙蝠型骨格人形組・サカズキの一体にそれを託す。
 呪いとは、往々にして生者を害するもの。故に、骨(かれ)らならば振れたとしても大丈夫だろう。
 後は標的に近づくのみ。つまみ食いすんなよ、とエスタシュに釘を刺されつつ、指先忙しなく、蟹と骨(かれ)らを総動員して、チャーハン配達のお時間だ。
「どーも、たぶん遠路はるばるご苦労サマ。チャーハンのお届けデス」
「おいしいよー」
 語尾がおかしい? 気のせいdeathよ。
「――ほら、真剣な場で突然飯食い始めるのは、なんかワルっぽくないだろうか。こう……宿命より食い気って感じで、相手をナメてる感が。どうだろう」
 実演として、これ見よがしにガードマンたちの前で焼きそばパンを頬張り始める椋。
「そうだねー。つまり炒飯を食べた僕たちは君たちをナメているということー! 良いのかなー? 同じステージに立たなくてー」
 そしてゆるふわ盗賊のナイスアシスト。
 毒が入っていないのは、先ほどの食事風景を見ていればわかるだろう。ガードマンたちは警戒しつつ、人に馬に蝙蝠に海流に狼に猫に、個性豊かな骨格人形(はいたついん)達から炒飯を受け取って、恐る恐ると口に運ぶ。
「あ……美味い!」
 一度食べたらやめられない。それこそが、豪快にしてワイルドな漢飯。
 彼らが黙々と炒飯を食べている最中、椋はどさくさ紛れ、目立たないように、蝙蝠の一体を木の葉の如く揺蕩わせ、一番食が進んでいないガードマン――つまり誰より警戒心と復讐心が強いであろうガードマンの首にそっと、サプライズプレゼント。
 そしてネックレスを掛けられたガードマンは、ゆっくりと炒飯を端に置き、キャノンを構えると、幸福そうに炒飯(ランチタイム)を堪能している同胞目掛け、ずどんと一発!
「わはは! 天誅ーッ!」
「うわーっ!? 裏切りだー!?」
 後はもう、同士討ちが同士討ちを呼び、てんやわんやの大恐慌状態だ。
「『裏切りは美徳』なんだろ。だとすると、この光景もこの世界基準では美しいのかもしれないが……やはり、骨らに敵うものでは無いな」
 清廉に弦の音色を奏でるが如く、椋が十指を精妙巧みに動かせば、それに応えて骨らは舞う。
 ガードマンたちがいかほどに技能を鍛え上げようと、骨への愛と知識で椋の右に出るものはなく。
 骸たちの一撃は、被害者達を昏倒(ゆめ)の世界へと誘った。

「ふぃー、食った。食った。やっぱ自分で作ると満足感が違うよな」
 椋が動いているうちに、エスタシュは全ての炒飯を平らげて、満腹満足、破顔する。
 後に残るのは面倒くさい後片付けだが、さて、その前に食後の運動だ。
「おらよ!」
 何時ものフリントの代わりに大鍋片手、群青業火を奔らせ、油なんか生ぬるい。裏切りによる大恐慌の渦中に直接炎をくべてやる。
「やめろぉ! 俺たちゃキャンプファイヤーじゃねぇんだぞ!」
「ははは! なーに、これくれぇ常套手段よ!」
「わー、燃え盛る邪悪ー!」
 これ以上炎上しては溜まらぬと、ガードマンたちは同士討ちしながらも火元(エスタシュ)へ走る。
 エスタシュは鍋を盾に殺到するキャノンをいなし、トリモチ弾を焼き払い、それでもめげず間近までたどり着いた奴には強引に、熱々の鍋底を押し付けた。
「うわっ! 熱っっつ! 熱がー! 熱が鎧を伝ってー!」
「よーしカニども、今だ! かかれー!」
「あい・あい・さー!」
 昼食を終えた蟹達は意気衝天、漲るパワー全開でガードマンたちを徹底的にぶん殴った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神崎・伽耶
わあ。なんだか空気読まない人たちが来たわね。

すっごい、強そうじゃない!
ねえねえ、アンタたち、勝てるの?

あー。要は負けなきゃいいと。なるほどね。
オッケー、任せて!
いっちょやってやろーじゃん!

はぁい、こんにちは!
おかしらナンバーナイン、カヤちゃんでっす♪
ウチのモンがご迷惑を掛けたみたいで。

えぇと、貴方たちの得意は、自宅警備だったわよね?
え、違う? まぁいいじゃない。
警備員と盗賊の集団戦なら、いい案あるのよ。
ケイドロって知ってる?(にっこり)

じゃあ、そういうことで。いったん解散ー♪

手下たちが捕まったら、バイクで敵を跳ね飛ばして救出。
だって、おかしらなんだもん♪

警備員さんたちは、バス停で葬らん、よね!



「わあ。なんだか空気読まない人たちが来たわね」
 重厚無比な鎧を纏い、如何にも火力のありそうな大筒(キャノン)を肩に、更に大盾で過剰とも思える程守りを固め、如何にも体育会系と喧伝するようなナリのガードマンたち。
 放つオーラも殺気にあふれ、本当に伽耶の隣でゆるふわしている盗賊(いきもの)と同じ世界の住人なのか、デビルキングワールドはそこのところもカオスだった。
「ねえねえ、アンタたち、彼らに勝てるの? と言うか勝てそう?」
 第一印象の時点でもう既に勝負がついている様な気もするが、一応、伽耶は盗賊たちに聞いてみる。
「大丈夫ー。僕たち勝つまで負けないって言うかー」
「どれだけ吹っ飛ばされても心が折れなければ負けじゃないって言うかー」
 見た目自信に満ちた発言だが、戦争にせよ私闘にせよ、あらゆる闘争の場面に於いて、精神論しか縋り付くものが無い場合は10割方濃厚な負けフラグである。
「あー。わかった。要は負けなきゃいいと。なるほどね」
 しかしそんな、ゆるふわ不甲斐ない下っ端たちを勝利へ導くのも、名監督……もといおかしらとしての役目だろう。
「オッケー、任せて! 実際難易度馬鹿高だけど、いっちょやってやろーじゃん!」
 にひひ、と悪戯を思いついた子供のような表情(かお)を子分に向けると、伽耶は不敵に帽子を目深く被り、丸腰のまま堂々ガードマンたちへ接近する。
「はぁい、こんにちは! おかしらナンバーナイン、カヤちゃんでっす♪ 何だかウチのモンがご迷惑を掛けちゃったみたいで……」
 まずは形式的なゴアイサツ。魔法鞄から厳選の菓子折りなどを取り出して、穏便に済むならそれもよし。
 けれども御免で済めばおかしらは要らないわけで、やはり菓子折り一つでは彼らの怒りは収まらない様子。
 ならば已む無し、お互い白黒つけるより他に道はないだろう。
「えぇと、貴方たちの得意分野は、たしか自宅警備だったわよね?」
「ち・が・う! 『自宅』の文字は余分だ!」
「あらそう? まぁいいじゃない。そこら辺の細かい所は」
「細かかねぇよ! 終いにゃ撃ちかますぞ!
「まあまあ。警備員と盗賊の集団戦なら、いい案あるのよ。貴方たち――ケイドロって知ってる?」
 そう。ケイドロで。
 伝えるべきことは伝えた。伽耶はにっこり笑うと、ガードマン達に背を向ける。
「じゃあ、そういうことで。いったん解散ー♪」
「えっ、いや待て。俺たちゃお前らぶん殴りに来たんだぞ。それがなんでケイドロなんか――」
「えっ? やらないの? それじゃあ私たちの不戦勝になるけど?」
「わー、戦わずして勝つなんてー、何たるタナボター」
「スマートだよねー」
 そんな事を言われて黙ってられるほど、被害者たちの沸点は高くなかった。
 
 まんまと伽耶の口車に乗せられて、突如始まる被害者加害者ケイドロ大会。
「オラァ! 待てこらァ!」
「うわー! 捕まっちゃったー!」
「なんてことー!」
 が、大方の予想に反し、己の技能とトリモチ弾を駆使するガードマンたちが、身軽な盗賊たちの多脚ゆるふわ機動を封じ込めて優位な展開。
 トリモチに足を取られてすっ転んだ蟹達が、次々牢屋に放り込まれ、気付けば1:9の絶望的な戦力差。壊滅寸前の盗賊団。
 ――しかしこれはケイドロ。またの名前を『助け鬼』。
 誰か一人が『牢屋』に侵入すれば、それまで捕まった全員の脱獄が叶うのだ。
 故に伽耶は九番目のおかしらとして、格好良くゴーグルを装着し、バイクのアクセルをフルスロットル。意識外の死角から、ガードマンたちを撥ね飛ばし、捕らわれの盗賊たちを救け出す。
「おかしらぐっじょぶー!」
「ぐぐぐクソッ! 気軽に何度も撥ね飛ばしやがって! お前たちには人の心が無いのか!?」
 良心に訴えかけてくる悪魔たち。やはり人が良すぎる。

「それは心外。そっちだってトリモチ弾使ってるし、バイクくらいはレギュレーションの範囲でしょ?」
 伽耶はバイクを疾走させたまま、急旋回と同時、腰莢から脈絡なくショーワチックなバス停を取り出すと、キャノンの雨を潜り抜け、
「警備員さんたちは、バス停で葬らん、よね!」
『レトロナバス停、アルヨ』
『モチモチモチツキヤッチャウヨー』
 何だか良く解らない謎のバス停ボイスと共に全力フルスイング。警察役のガードマン達を彼方まで弾き飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニオ・リュードベリ
なんていうか大変なんだね……
同情するけど容赦はしないよ
何故ならあたし達はワルだから
歯向かうならばボッコボコだよ!

それでワルい戦い方……うーん
向かってくる攻撃を一人の仲間に押し付けるってなんかワルいよね
だからお願い、影の巨人デモゴルゴン!
そのおっきな身体でトリモチを全部受け止めてー!!

もちもちになってるデモゴルゴンをよそに盗賊達に指示を出す
攻撃は全部あの子が受けてくれてるから
あなた達は気にせず大暴れしてね
デモゴルゴンを盾にしつつ遠距離攻撃するとか
後ろから急に飛び出て現金輸送車で轢き逃げアタックするとか
そういう感じで!!

あたしもアリスランス片手に敵を串刺しにしていこう
……後でデモゴルゴンには謝るね



「なんていうか大変なんだね……」
「ねー」
「ガードマンくんたちに悲しき過去かー……」
 真摯にガードマンたちへ同情するニオ。悪こそこの世界の法とは言え、なんと不憫な過去だろう。力無き者は悪にすら成れないのだ。
 そして、その傍らで適当に頷きながら今日のアイスをゆるふわ美味しそうに頬張る盗賊たち。何処からどの角度で見ても絶対反省とかはしていないと思われる。
「……けど、容赦はしないよ! 何故ならあたしはこの子達のおかしらで、ワルだから!」
 凛とアリスランスを翳し、ニオは改めて、ガードマンたちに宣戦布告する。
 ぶつかり合うのは悪と悪。正義の消えた戦場で、ならば勝つのはより強大で絶対的な悪の方。
 今この瞬間だけは無限に進化する白銀の槍をジャアクに染めて、被害者達を(殺さない程度に)貫くと、暗(ワル)い決意を心に燈す。
「歯向かうならばボッコボコだよ!」
「上等だぁ! こっから先は謝ったって許してやらねーからなぁ!」
 零れ溢れる激情と共に、暗黒のエネルギーを充填し始めるキャノン。今までは許すつもりだったのか。
 そして切られた火蓋。襲い来る砲弾。
 ――しかし……ニオは砲撃を避けながら思案する。
(「それでワルい戦い方っていうと……うーん……」)
 しばらく唸ってみるものの、何かしらアイディアを閃きそうになる度に、ガードキャノンが次から次へと降り注ぎ、中々考えが纏まらない。
 その場凌ぎに薔薇の矢を、充填仕切ったキャノンの砲口目掛けて放ち、暴発させる。目の回るような忙しさ。こんな時、向かってくる攻撃を誰か一人の仲間に押し付けて――!?
「……そっか!」
 窮地は好機。ニオはこんな状況だからこそと言える逆転の悪事を思いつく。
「入り口は頭、出口は影――お願い、出て来て影の巨人デモゴルゴン!」
 呼び声に応え、ニオの影より現れ出でるは死と破壊の悪魔デモゴルゴン。
 想像と創造の狭間に住まう悪魔。圧倒的な力を持つそれは、存在しないはずの眼(まなこ)で被害者達を射竦め、静寂すら支配するように、ニオの交渉(ことば)を待つ。
 そして。そんな悪魔に対し、ニオは怯まず決然と――。
「そのおっきな身体でトリモチを全部受け止めてー!!」

 えぇ……? とでも言いたげに体を震わすデモゴルゴン。無貌であるにも関わらず、何だかちょっぴり微妙そうな挙動(かお)をした。
 しかし状況は待ってくれない。唐突なる巨人の出現に、被害者達はトリモチ弾を装填し、乱射乱撃の雨あられ。
 そうなってしまってはしょうがない。戦場の空気とか状況に流されたデモゴルゴンは、その巨大なる全身で飛来するトリモチ弾を受け止める。
 漆黒の悪魔が、あっという間、モッチモチになっていく。
「今だよ!」
 デモゴルゴンの犠牲は無駄にできない。既に横綱の雪だるまみたいな状態になってる死と破壊の悪魔を尻目に、ニオは盗賊たちへ指示を出す。
「攻撃は全部あの子が受けてくれてるから、あなた達は気にせず大暴れしてね!」
「おっけーおっけー」
「任されたー」
 此処から攻守交代だ。後衛の盗賊たちがデモゴルゴンを盾に矢や手裏剣や槍を投げている間、免許持ちのガードマンたちが複数の現金輸送車に乗り込んで、アクセルべた踏み、けたたましいエンジン音と共に被害者達へ突撃する。
「またかよ! お前らどんだけ俺たちを轢き飛ばしたいんだよ!?」
「大丈夫だいじょうぶー。痛くしないからー」
「絶対嘘だぁ!」
 決死の境地でガードマン達が砲撃するが、その使用目的上、装甲マシマシの現金輸送車はビクともせずに、一切の減速無くガードマンたちを轢き潰す。
 車を避ければ遠距離攻撃の嵐に曝され、遠距離攻撃を避ければ超絶ドライビングテクニックの現金輸送車が牙を剥く。正に地獄の光景。
 そして辛くもそんな地獄を凌ぎ切った凄腕のガードマンには、
「あっ、隙あり!」
「ぐあーっ!?」
 おかしら直々、アリスランスによる槍撃串刺しのプレゼントだ。

 ……乱戦の最中、ニオはふと遠い目で、デモゴルゴンを仰ぎ見る。
 最早そこに悪魔がいたという痕跡すら掻き消えて、観光名所よろしく白く小高いトリモチの山が出来上がっていた。

 ――後できちんと謝っておこう。
 ニオは若干の気まずさを覚えつつ――再び戦火に身を投じた。

成功 🔵​🔵​🔴​

文月・統哉
にゃふふふふ
飛んで火に居る春の武者
立ち話もなんだし
一緒にお茶でも飲むか?

元帥たるもの周囲の悩みに耳を傾けるは努め
盗賊達と一緒に被害者達の愚痴を聞きながら
お悩み相談会開催

ふむふむ
悪魔も苦労してるんだな
しかし職探しなら
お前達も我が配下になるといい
なあに難しく考える事は無いさ
好きな時に好きなだけ
世界中にゆるふわかっこいい着ぐるみを普及させる簡単なお仕事だ
そしてゆくゆくは世界を征服し我らの手に!

試しに着てみるかい?
被害者達の好み聞き再びの着ぐるみクラフト
超似合う着ぐるみ作って勧誘しちゃうぞ

被害者会会長との契約があるなら
悪徳弁護士の如くアドバイス
平和的抜け道で完遂させた事にして
新しい契約結んじゃおうぜ♪



「にゃふふふふ。飛んで火に居る春の武者」
 何を考え付いたか統哉が邪悪に微笑めば、クロネコ(キグルミ)の、目つきの悪い両眼が、更に禍々しくも煌めいた。
「あん? 今何か……ワルい事を考えてたか?」
 今まで他のおかしらに散々痛めつけられたガードマンたちは、若干人間不信気味な面持ちで、暗く輝く砲口を統哉へ向ける。
「いやいや、別に。こっちの話。戦場(こんなところ)で立ち話もなんだし、一緒にお茶でも飲むか?」
 言って、統哉は即興でレジャーシートを創り出す。実際の『造り』は荒いが、座ったり寝っ転がったりするには十分だろう。
「ささ、どうぞ」
 良いお茶が宝物庫の中にあったんだよ、と湯を沸かし、着の身着ぐるみのまま、統哉はシートに腰を下ろし、一服。
「お茶菓子もあるぞ。ほら。そんな怖い顔してないで、座って、一服して、ゆっくりするといい。もしも悩みがあるんなら、俺でよければ話を聴くぜ?」
「ククク元帥おかしらは話の分かるお方ー」
「人に打ち明けて初めてすっきりする事ってあるよねー」
 すっかり着ぐるみに身を包んだ盗賊たちの言う通り。周囲の悩みに耳を傾けるのもまた、元帥たるものの務めというもの。
 そんな着ぐるみの群れにすっかり毒気を抜かれたガードマン達は観念し、お茶を片手お菓子を齧り、レジャーシート――統哉の領域(テリトリー)に座り込む。デビキン春のお悩み相談会の幕開けだ。
「俺たちだってなぁ! 頑張ってるんだよぉ!」
「なのに世間様は何処も厳しくて……!」
 あれもしかしてお酒渡しちゃったのかなと一瞬勘違いするほどに、ガードマンたちがお茶を一口飲み干せば、まるで堰を切ったように出るわ出るわ愚痴の大洪水。
 世界が駄目だ、社会が駄目だ、いいややっぱり自分たちが駄目なんだと、そんな文句が塩っ辛い涙と共にとめどなく。統哉はただ静かに相槌を打って、着ぐるみゆるふわ達に追加のお茶とお茶菓子を持ってこさせる。今はただ、好きなだけ飲んで食べればいい。
「ふむふむ。何と言うか……悪魔も苦労してるんだな」
 長い人生歩んでいれば、時に世知辛い道を歩むこともあるだろう。
「しかし職探しなら、お前達も我が配下になるといい」
「……何だって?」
 ――そんなガードマンたちに、クロネコ元帥がそっとお勧めする素敵なプランがこちら。
「なあに、難しく考える事は無いさ。好きな時に好きなだけ、世界中にゆるふわかっこいい着ぐるみを普及させる簡単なお仕事だ」
「かわかっこいいは絶対悪ー!」
「悪(きぐるみ)の絶えない職場ですー」
「そう! そしてゆくゆくは世界を征服し我らの手に!」
 これこそがクロネコ元帥の悪だくみ。お悩み相談会がいつの間にか悪の着ぐるみ秘密結社の就職窓口に化けていた。
 残念ながら無料(タダ)より高いものも無し。そして将来有望そうな人材を茶だけ飲ませて帰すほど、元帥が優しい筈も無く。
 レジャーシートなど序の口も序の口。着ぐるみクラフトの真価はやはり、その名の通り着ぐるみを作る事にある。
 統哉が一度イメージしたからには止まらない。ガードマンたちの好みに合致していそうな、かっこいい系の着ぐるみが、タケノコよろしく地面からニョキニョキ生えてくる。
「さぁ、ほら、試しに着てみるかい?」
「着てみようよー」
「試着だけならタダだってー」
 それは正真正銘悪魔のささやきだ。タダより高いものはないと、つい先ほど知れたばかりだろう。
「あ、ああ……」
「おい、やめろ! ここは堪えるんだ!」
 同僚の制止を振り切って、試着だけなら……と数多のガードマンがきぐるみへと手を伸ばす。
「はは。なぁに、大丈夫さ。すぐ着て、すぐ脱げばいいんだろ?」
 その通り。着ぐるみに魔術的効果は一つとして無い。本当にただの着ぐるみだ。
 ――手触りが良くて、着心地がいいだけの。
「あ。そうだ。被害者会会長との契約があるなら……」
 トドメとばかりに。悪徳弁護士の如く、クロネコは優しく囁く。必要とあらば元帥は搦手とて辞さないのだ。
「平和的抜け道で完遂させた事にして、新しい契約結んじゃおうぜ♪」
「ヨシ! 新規契約決定!」
「あっ。馬鹿、やめろぉー!」
 最後は超速だった。

 ――そして、一部のガードマン達を迎え入れ、さらなる戦力増強を遂げる着ぐるみ軍団。
「にゃーふっふっふっふ!ー」
 着ぐるみが支配する戦場に、高らか響くはクロネコ元帥おかしらの笑い声。
 ……このままいけば、本当に着ぐるみが世界を支配する日も近い――。
「所でおかしらー、着ぐるみって丸洗い可能ー? 普通に干しちゃっていい奴ー? それともクリーニングに出した方がいい感じー?」
「あーっと、それはな、まず……」
 ――のかどうかは未知数だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【彼岸花】

くふふ、ふふっ
す、すみません、だってあんまり良い性格してらっしゃるものだから何だか面白くなってしまって
良いですねぇ、此処まで突き抜けてると逆に煽り甲斐があります

彼らには仲間だと思われてますからね
発破を掛ける役目はボスにお任せしますよ、カフカ
代わりに私は仕込みを
【郷愁を誘う、精神攻撃、催眠術、恐怖を与える】でガードマンたちの家族や恋人や憧れの人なんかの、大切な人に成り代わりましょうか
心のひとつやふたつ、折ってみましょ

折角エリートガードマンになったのに、盗賊に負けてニートになった挙句に自分の実力不足を棚に上げて暴徒と化すだなんて……なんて情けないんでしょう
恥ずかしくて関わりたくないです


神狩・カフカ
【彼岸花】

ゆるいンだか、いい性格してンだかどっちなンだ???
実はこいつら結構ワルの才能あるのかもしれねェな
おい、笑うなって
こいつらは真面目にやってンだから
見てる分にはめちゃくちゃ面白ェけどよ…ふふっふふふ…

ごほん
ま、やる気ならお頭として働かねェとな
おうよ、任せな
とは言っても
組織の長ってのは自分から動かねェもンだからな
どんと後方で構えて大物感を演出しつつ
おい、自宅警備員ども
逆恨みなんて情けねェなァ
故郷の家族が泣いてンじゃねェか?
ふぅと煙管を一吹きして眷属の鴉を喚び出して
盗賊共が攻撃できる隙を作れるよう
援護をしてやろう

ほれ、お前ら
畳み掛けるなら今だ
とどめは任せるぜ
かっこよくて悪ぅいとこ見せとくれよ



「……お前さんらって奴ァ、ゆるいンだか、いい性格してンだか一体どっちなンだ???」
 今までの言動を含め、盗賊達とガードマン達とのやり取りを眺めていたカフカは広げた掌でぺしりと数度、盗賊たちの頭を小突く。
 いい子担当のゆるふわ成分と、法を遵守する悪党成分が意図せず高次元に混じり合って出来た、割とどうでもいい奇跡の産物と言うべきか。
 実はこいつら見た目以上に結構ワルの才能があるのかもしれない。
「えー? もしかして僕ら褒められちゃってるー?」
「あァ。まあ……半分くらいはな」
「後の半分はー?」
 そいつァお前さん、知らない方が華だろうよ――そうはぐらかして、カフカは和傘をくるくる玩ぶ。
「くふふ、ふふっ」
 噛み殺し損ねた祝の笑い声が、雑音(おと)の満ちる筈の戦場に、幽か漏れ聞こえたのは、和傘の模様が廻り始めるのと同時だった。
「おい、祝。笑うなって。こいつらは真面目にやってンだから」
「す……すみません、だってあんまり良い性格してらっしゃるものだから。何だか面白くなってしまって」
 ねぇ? と祝は邪気無く、あるいは邪気しか無いわらい方でカフカに同意を求めてくる。
「良いですねぇ、此処まで突き抜けてると逆に煽り甲斐があります」
「えー? はふりくんってば何の話ー?」
 つんつん、と祝の裾を突っつく蟹。。
「あれ? はふりくん? はふりおかしら? どっちだっけー?」
「やだなー。はふりくんははふりくんでしょー? 一緒にあれだけの死地を乗り越えた仲間じゃなーい?」
「そっかー。そうだよねー」
 なんなら何もしなくても面白い。精神操作が効きすぎて、彼らの中では祝と共に、とてもドラマティックな大冒険をした事になっているらしかった。
「いや。確かに見てる分にはめちゃくちゃ面白ェけどよ……」
 祝があっけらかんとわらうものだから、カフカも釣られて笑ってしまう。

 ……いけない。頓珍漢な世界に中てられて、祝の性根が移ったか。それとも酔狂が頭の天辺まで回ったか。
 ごほんとカフカはわざとらしく咳払い。
「ま、向こうがやる気なら、こっちもお頭として働かねェとな」
 不敵な調子で、ガードマン達を睨み、祝へ視線を飛ばす。
「私は、盗賊(かれ)らには仲間だと思われてますからね。仲間視点では伝わらないこともあるでしょう。発破を掛ける役目はボスにお任せしますよ、カフカのおかしら」
「よせよ。お前さんにそう言われると何だかムズ痒ィや」
 祝はわらう。それでは『仕込み』がありますから、と。
 カフカが瞬きをした次の刹那には、揶揄うような声音だけを残して祝の姿は消えて失せ、盗賊たちがいくら探そうとも、彼の姿は見当たらない。
「……おうよ、任せな」
 煙管に火をつけて、紫煙と共にカフカはそんな言葉をぽつりと放る。あの悪霊には、それだけで十分伝わるだろう。
「と。大見え切った傍からチョイとあれだが……」
 カフカは外出着を翻す。戦場に背を向けると数歩後退し、盗賊たちが用意した、やたらと豪奢なソファにどかりと腰を落ち着けた。
「組織の長ってのは自分から動かねェもンだからな」
 おれと一戦交えたきゃ、先ずは下っ端全員倒してからってのがスジだろう? 幾多の敵意に睨まれようと、カフカは余裕の態度を崩さない。
 全力でワルかっこよく大物ぶることに、自身の命を盗賊たちへ預けた。仮に盗賊たちが不甲斐なくやられてしまっても、なに、そこはそれだ。仕方ない。
「みんなー、おかしらを護るんだー!」
「おー!」
 おかしらが命を預けてくれるとあっては、ゆるふわ盗賊たちも真剣にならざるを得ない。爆ぜる砲撃なんのその、盗賊たちは真正面から、ガードマンたちと拮抗する。

 かつん、かつんと。戦場に似つかわしくない下駄の音。
 最初は遠くに聞こえた音を、誰も彼もが無視していたが、その度音色は近付いて、今はほら。耳朶のすぐ後ろで誘うように。かつん。と。
 振り向いてはいけない。直感的にそう理解しても、どこか懐かしく、そして古い恐怖を思い出させるような音の色に、ガードマンたちは堪らず振り返る。
 果たしてそこに在ったのは――。
「さあ、何でしょうね?」
 惚ける様に、祝は呟く。
 そこに在ったの真実は祝だ。だが、悪魔(ひと)の五感と精神は繊細なもので、少々外部から操作してやれば、真実などは簡単に歪む。
 ガードマンたちの眼に映るのは、祝――真実ではなく、彼が用意した虚像――家族や、恋人や、あるいは憧れの……此処にいるはずのない大切な人たち。
 ちりぃん。と、不吉を知らせる鈴が鳴った。
「さて。それじゃあ……心のひとつやふたつ、折ってみましょ」
 そして祝は/家族は/恋人は/憧れの人は/猛毒と瘴気を伴う怨念は、絶望を紡ぐ。
「折角エリートガードマンになったのに、盗賊に負けてニートになった挙句に自分の実力不足を棚に上げて暴徒と化すだなんて……なんて情けないんでしょう」
「――ぐふぁ!?」
 言の刃が人の心を抉る事もある。精神的に容赦なく致命傷だった。
 それでも、それは違うと縋るように、ガードマンたちは祝へ/虚像へ震える指先を伸ばすが、
「やめてください。恥ずかしくて関わりたくないです」
 拒絶を含んだその一言が、何よりの致命傷となった。

「おい、自宅警備員ども。逆恨みなんて情けねェなァ。故郷の家族が泣いてンじゃねェか?」
 復讐一念が体を支えているのか、それでも立ち上がろうとするガードマンたちに、カフカは言刃の問いを投げかける。
 この世界は悪が全て。悪の中でもカッコいいとされる行動があるのなら、逆にカッコワルイと判断される行動もあるのだろう。
 盗賊たちを観察していればわかる。少なくとも彼らにとって逆恨みというものは、半年遅れで年賀状を出す以下の悪なのだ。
 カフカがフゥと煙管を一吹きすれば、紫煙を介して無数の眷属――夕陽に染まる鴉が呼び出され、即座被害者達に襲い掛かる。
 満足な答えを得るまで、眷属たちは攻撃をやめない。しかし、祝に心をへし折られた今の彼らに、答えを吐き出すだけの精神的余力はないだろう。

「ほれ、お前ら。畳み掛けるなら今だ。とどめは任せるぜ? かっこよくて悪ぅいとこ見せとくれよ」
 仕事を終えたカフカは、また一つ煙管をぷかりと。
「任せておかしらー」
「カラスくんとの必殺連携だー!」

「――さすがは、カフカのおかしら」
「茶化すなよ。お前の方がよっぽどだったぜ?」
 特等席で、盗賊たちの乱闘を鑑賞した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

笹鳴・硝子
【みゃちしょこ】

「就職先をお探しなら、こちらの盗賊団はいかがですか」
やっちーお頭の命令でガードマン達が良い具合にやられたあたりを見計らい、シンフォニックデバイス『聞』を取り出します。顔にも声にも表情が乏しい自覚はある私ですが、だからこそ目を見て話すのです。
みゃー催眠術の援護を頼みますよ
「ここには守るべきお宝もあるのですから、ガードマンも必要ですよね。前職を上回るホワイトな勤務の職場を提供しましょう。さあこの契約書にサインして新しい職場をゲットです」
おや良い事をしていると思っていませんか?違いますよ?
「私達は、『被害者の会』から貴方達を奪ってやるのです」
(コミュ力、いいくるめ、慰め)


花邨・八千代
【みゃちしょこ】
なぁるほど、やり返してくるってこたァまたやり返される覚悟があんだな?
今度はケツの毛も残らねぇくらいに毟り取ってやろうじゃねぇか!

いいか野郎共!情けは無用だ!
ふん縛って鎧の隙間に蜂蜜流し込んだ後アリの巣の前に放置してやれ!
鼻の穴におろしにんにく注入してゲロ吐くまで泣かせろ!
誰を敵に回してんのか骨の髄まで教え込んで後悔させるぞ!
【殺気、大声、恫喝、傷口をえぐる】

おかしらは先頭を行くぜ!
一気に近付いてって『落花』!
捕まえて何度も叩き潰してから苛め抜く!
それからしょことみゃーのとこにポイポイするぞ!
【怪力、第六感、2回攻撃、薙ぎ払い、オーラ防御、だまし討ち】

後は頼んだぜ二人とも!!!


三岐・未夜
【みゃちしょこ】

うっわ……八千代えっぐい……
硝子も何か詐欺師とか宗教家みたいな胡散臭さあるよね……

えっと、とりあえずありんこに襲われてるの可哀想だし、玄火でちょっと炙ろっか……
鎧だから火傷怖いけど、うん、あとで治してあげるね……
あの、ガードマンさんたち、その、だ、大丈夫……?
う、うん、あの、寧ろさ、ガードマンさんたちを解雇したひとの方が悪くない?
だって、ガードマンさん、ちゃんと毎日周囲を警戒して、一所懸命お仕事してたじゃない
雇い主ならそういうのもちゃんと加味すべきだと思うな、僕

【誘惑、催眠術、おびき寄せ、手をつなぐ】で寄り添い気味に
こっちに雇われちゃいなよって硝子の言葉に合わせて誘導してみるよ



「なぁるほど、やり返してくるってこたァ、またやり返される覚悟があんだな? あるんだよな?」
 そいつぁ片道切符だぜ、と地獄の底より轟くが如き八千代の声。彼女の表情ときたらもう、新しい玩具を手に入れた邪悪のそれだ。
 八千代が従える盗賊たちも、殺る気満々、ゆるゆるフットワークとふわふわシャドーボクシングに余念なく、その鋏(こぶし)はおかしら同様、血に飢えていた。
「今度はケツの毛も残らねぇくらいに毟り取ってやろうじゃねぇか!」
「おー!」
 やると言ったらやりかねないのが八千代と言う名の二十二歳児。棍棒に変化させた南天で暗黒砲弾を打ち返しつつ、八千代は肩で風を切るように、一番手前の一直線でガードマン達との距離を詰める。
「いいか野郎共!情けは無用だ! ふん縛って鎧の隙間に蜂蜜流し込んだ後アリの巣の前に放置してやれ!」
「うわー! 何たる拷問ー!」
「超邪悪ー!」
「鼻の穴におろしにんにく注入してゲロ吐くまで泣かせろ!」
「慈悲なき追い打ちー!」
「まさしくプロの技ー!」
「誰を敵に回してんのか骨の髄まで教え込んで後悔させるぞ!」
「おー!」
 とにかくひたすら前へ前へと引っ張ってくれる八千代に盗賊達は従順(メロメロ)で、地をゆく蟹脚に一切の乱れなく、正に極悪無敵の様相だった。
「いや……待て。蜂蜜だとかにんにくだとか、流石に本気じゃないよな? 物の例えだよな? そうじゃなきゃ鬼かよ!」
 羅刹(オニ)である。有無も言わさぬ八千代の勢いに気圧されて、思わずたじろぐガードマンたち。いくら重装備に身を包んでいようとも、気持ちで負けてしまえば我楽多同然だ。
「ああん? お前、俺が酔っ払ってるように見えるってのか?」
 返事は待たない。大暴れするのがおかしらとしての役目だからだ。最接近した八千代は、彼らが構える邪魔な大盾を怪力頼みに引っぺがし、そのまま兜をぶち抜いて、被害者の頭部(きゅうしょ)を鷲掴む。
「鍛えたんだろ? 簡単に千切れてくれんなよ?」
 両腕にガードマンを装備して、二刀流の完成だ。自身より巨大な獲物を持とうとも、八千代の大立ち回りは変わらない。叩いて潰して薙ぎ払いの雑に扱い苛め抜き、木偶(ぶき)がノビたら放り投げ、新しい人柱(ぶき)に取り換える。
 そして不敵に豪胆、満面の笑みでそのルーチンを繰り返す事幾数度、哀れにも倒れ伏した被害者の傍にそっと忍び寄る蟹の影。
「蜂蜜あったー?」
「あったあったー」
「えーっとー、これを鎧の隙間に流し込んでー、暗黒地獄極楽ありの巣の前にー」
「ま、待て、それだけは……!」
 美味しそうな蜂蜜片手、ゆるふわ盗賊たちが、何をしようとしてるのか察した半殺し状態の被害者は、懸命に制止の悲鳴を上げるが、
「鼻の穴におろしにんにく注入してー……」
 手順を確認に忙しい盗賊達は一切聞き入れず、

「うぎゃああ!!」
 ……そして世界にまた新しい悲劇が生まれる。
「しょこー! と、みゃー! 後は任せたー!」
 死屍累々のガードマン達のメンタルケアを硝子と未夜にぶん投げながら、眼前に敵対者が居なくなるその時まで、八千代達は進軍する。
 ……彼女たちが通った後には、蜂蜜とニンニクと物言わぬ骸(死んでない)が散乱していたという――。

「うっわ……八千代えっぐい……」
 血と涙と蜂蜜とニンニクに塗れた戦場に圧倒された未夜はぽつりとドストレートな感想を零す。やはりどこの世界でも、闘争に犠牲はつきものなのだ。
 けれど立ち止まってはいられない。時間は常に未来へと流れ続けているのだ。今の自分に出来る事を、全力で為さなければ。
 ……いやでもこれそんな真剣な話かなぁと思いつつ、取り敢えず未夜はせめてありんこに襲われてるのは可哀そうすぎるので何とかしようと、燈した玄火でガードマンたちの鎧に付着した蜂蜜を炙る。
「鎧だから火傷怖いけど、うん、そっちもあとで治してあげるね……」
 すまない、と如何にか上体を起こすガードマン。今この瞬間にも八千代からポイポイと戦闘不能のガードマンが送り込まれて来るが、一旦見なかったことにする。
「あの、ガードマンさんたち、その、だ、大丈夫……?」
 慣れない侵略なんてするもんじゃなかったな、と、自嘲するガードマン。
「――そうですね。ヒトには分……と言うよりも、適材適所があります。就職先をお探しなら、こちらの盗賊団はいかがですか」
 揺らめく玄火の奥より響く澄んだ声音。やっちーお頭無双から、頃合いを見計らっていた硝子が姿を現す。
 硝子は懐よりシンフォニックデバイス『聞』を取り出し、黒色の、曇りなき瞳でガードマン達を見据える。
 自分自身、顔にも声にも表情が乏しい自覚している。だからこそ、こういう場面で一番頼りになるのは、右に左に決して泳がない眼差しの強さだという事も。
 ゆらゆら燃える黄昏色の静かな火。炎には、悪魔(ヒト)と心を穏やかにさせる効果があるという。未夜は人知れず炎に郷愁を想起させるような、蠱惑的な催眠効果を施し、硝子の勧誘をアシストする。
「ここには守るべきお宝もあるのですから、ガードマンも必要ですよね?」
 その言葉に、ニンニクまみれマシマシのガードマンたちはハッとする。盲点だったのだろう。どうあれ悪が尊ばれる世界なら、盗みを生業とし、自分たちが恨みを募らせるくらい邪悪でやり手な組織の護衛になれば、箔もつくのではないか――。
(「硝子も何か詐欺師とか宗教家みたいな胡散臭さあるよね……」)
 凛とした雰囲気でコミュ力全開に滔々と言い包める硝子と、彼女が言葉を操るたび、動揺するガードマン達。そんな様子を眺める未夜は、やはり二人に比べれば自分はそんな悪じゃないよなと確信しつつ、そっと、ガードマンの手を取る。
「う、うん、あの、寧ろさ、ガードマンさんたちを解雇したひとの方が悪くない?」
「ねー」
「だって、ガードマンさん達、話を聴く限り、ちゃんと毎日周囲を警戒して、一所懸命お仕事してたじゃない?
「ほんとだよねー」
 ちょっと今は加害者たちに黙って居て欲しい。
「雇い主ならそういうのもちゃんと加味すべきだと思うな……僕」
 寄り添うように、囁くように、あるいは労うように。未夜はやわやわとした同調の言葉をガードマン達へ投げる。いっそこっちに雇われちゃいなよ、と。
「そうですね。悪魔(ヒト)を幸福にするのは何より正当な評価と砲集です。前職を上回るホワイトな勤務の職場を提供しましょう」
 さぁ。そう言って硝子が取り出したのは新たなる雇用契約書。そしてとん、と署名欄を指で示す。此処に一筆名前を書き込めば、新しい職場を即座にゲットだ。
「ううむ。しかしな……」
 ガードマンたちはばつが悪そうに、ちらと横目で古い契約――『奥さん』と交わした契約書を見る。悪の間にも義理はある、と言う事か。
「ああ。それなら――」
 硝子はおもむろ、木製フリントロックピストルに、青い弾丸を込め、古い契約書を穿つ。
「ほら。これで後腐れは無いでしょう?」
 玄火に照らされた硝子は――事もなげに、そう言った。

「えー、ちょっと待ってー、ブラックな契約からー、ホワイトな契約に乗り換えさせるなんてー、それってもしかして『良い事』じゃなーい?」
「有罪(ギルティ)ー? 有罪なのー? 蜂蜜とにんにくとありんこの出番かなー?」
 割といい感じに終わりかけていたにも拘らず、蜂蜜とにんにくと言う名の一石を投じてくる盗賊たち。余程八千代のセレクションが気に入ったらしい。
 突如として、ゆるふわ盗賊たちの敵意がおかしらに向けられる。いざと言う時に備え、炎の操作を確かめる未夜。
「おや。違いますよ? 私達は、『被害者の会』から貴方達を奪ってやるのです」
 しかし硝子はけろりとした態度で、勧誘の『仕掛け』を披露する。
「なんだそっかー、僕たちの勘違いっだったー」
「やっぱりおかしらたちは極悪だねー」
 そしてあっさり信じる盗賊たち。未夜はほっと胸を撫で下ろす。ちょろい生き物で助かった。
「これでホントーにハッピーエンドだねー」
「ねー」

 ――しかし。二人を疑った罰(ペナルティ)として、数十秒後八千代に放り投げられる未来が来ることを……ゆるふわ達はまだ知らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
蟹の皆さん方には戦い方を教えてあげたはずです。
圧迫面接を体得…0.2割ほど…いや0.1割かな…ともかく圧迫面接を知ったあなた方は強いはず。
これは圧迫パンチ。
これが圧迫キック。
圧迫手刀。圧迫掌底。圧迫指弾。圧迫飛び膝蹴り。圧迫ドロップキック。
皆さんならば圧迫タックルと圧迫拳(あっぱくけん)が一番いいでしょうね。やってみましょう。

そしてこれこそが圧迫暗殺。【神業・否無】。

前職は警備員?ははあ。退職後にブランク期間があるようですが、何をしておいででしたか?
え?よその里の襲撃?ふ~ん…警備員の経験を悪用して?…へ~…はいはいワルですね。ウチには向いてないんでお引き取りください。



 奔る火線、閃く攻防。
 何処の世界の戦場とてそう様相など変わるものでも無く。お決まりの、殺意と憎悪に満ちた、狂気の坩堝だ。
 ――故に。だからこそ。実践させるには『御誂え向き』だろうと夕立は考えた。
「……さて。蟹の皆さん方には戦い方を教えてあげたはずです」
「おー!」
「最早僕らに敵はなし、みたいな感じだよねー」
 盗賊たちは自信過剰気味(たのしげ)に、死線の上でわさわさステップを刻む。
 どう足掻いてもゆるふわピクニック気分が抜けそうにないのは、もうこの際無意味なので言及しない。
「先日皆さん方は圧迫面接を……0.2割ほど……いや0.1割かな……体得したにはしたはずです」
 ふぅ、と片手で顔を覆い溜息を吐く。夕立の超スパルタ講義をもってしても、その程度が限界だった。
「……ともかく圧迫面接を知ったあなた方は今までよりも強いはず。おそらく。きっと」
「でもでもー、もし強くなってなかったらー?」
「大丈夫。その時はあっさり死ぬだけです」
「えー!?」
「概ね人生の終わりなんてそんな物なので。そうなった場合はまぁ……ご愁傷さまです」
「じんせいってなんて無常なんだー……!」
 しかし問題ありませんよ。あっさりそうならないための圧迫面接なんですから。などと、夕立は至極平然、適当(ウソ)をつき、被害者達を実験台に、盗賊たちへ手本を見せる。
「――それで、志望動機は?」
「ぐあーっ!」
 あらゆる装甲を無視して直接内臓(こころ)を竜檀する冷たき拳打。それが圧迫パンチ。
「護衛業なら同業他社でもできますよね?」
「うぐぉ!?」
 相手の培ってきたプライドを、夜の雲から遥かに見下して、物理的、精神的に踏み躙る超急降下蹴撃。これが圧迫キック。
「ところで海が好きですか? それとも山が好きですか?」
「え? なぜ急に別の話を……がは!?」
 いきなり本筋とは関係のない話題を混ぜ込むことで闇に紛れ、相手の不意を打つ梔の強襲。圧迫手刀。
「その技能(スキル)を持ってるヒトなら他にもたくさんいますけど?」
「――ぎゃあ!」
 ずらりと居並ぶ式紙たち。衆人環視のその中で、他人を引き合いに出して意地悪く問いかけ、琴の音色ほど白黒はっきり比較の末の粉々に全否定。圧迫掌底。
「…………」
「ぐはぁ!」 
 最早何も語らない。ただただ重苦しい場の雰囲気だけで全てを封殺する不可視の化鎮。圧迫指弾。
 ……ひたすらに圧を掛ければ面接官の絶対優位は揺らがないのか。否。実戦において、そんなことはあり得ない。現状でも夕立へ放たれる砲撃が止まないのが、その証だろう。
 故に、圧迫の果て堪忍袋の緒が切れた面接者達の反撃を、迂闊と断じてひらり身を躱し即座に圧迫飛び膝。影分身と追撃のシンクロ圧迫ドロップキックをキメて、初めて圧迫面接をマスターしたと言えるのだ。

「――そして、最後に披露するのがこちら、圧迫暗殺です」
 凪の一時。月が疾る。
 暗黒弾、トリモチ弾、四方、八方、無数の砲口に晒された夕立は、それらが火を噴く瞬刻前に音も無く、ガードマンたちの死角に回り込み、純然たる暴力を解放する。
「……ほう、前職は警備員?」
 すれ違いざま放つ水練が兜を砕いて眉間に突き刺さり、
「ははあ。退職後にブランク期間があるようですが、何をしておいででしたか?」
 夕立は問う。しかしそれとは反対に、禍喰と幸守が容赦なく、答えようとする被害者達の口を塞ぐ。此処で折れる軟弱な人材は、それだけでもう価値がない。
「え? よその里の襲撃?」
 ようやく少しは口の利ける悪魔(ニンゲン)が現れた。なので牙道と黒揺を脚部(あし)に打ち込み大地へ縫いつけ、
「ふ~ん……警備員の経験を悪用して? ……へ~……。はいはい。ワルですね」
 嘲弄しつつ封泉を目鼻の先に。そのまま放れば、数瞬後には焼け爆ぜた。
「それで選考の結果ですが。ウチには向いてないんでお引き取りください」
 最後に雷花を閃かせ、絶対殺す(今回は殺さない)意思のもと、神業の如き精妙さで炎もろとも失格者の慟哭(いななき)を後腐れなく断ち切れば、不採用通知の完成だ。

「おー……」
「すごいすごーい!」
「――皆さんならば、圧迫タックルと圧迫拳(あっぱくけん)が一番いいでしょうね。はい。それではやってみましょう」
 よーし! がんばるぞー! とゆるふわ盛り上がる盗賊たち。
 早速無数の盗賊が無数の蟹脚を蠢かせ、ゆるゆるふわふわ後先考えない勢いで、ガードマン達に突撃する。
「退職後にブランク期間があるようですがー、何をしておいででしたかー?」
 これこそ盗賊たちが体得した、ゆるふわ圧迫面接だ。
 ちなみに封神武侠界では『矛盾』と言う有名な故事成語があるが、ここは魔界なのでそんなものは知ったことではない。
「ぐおおぉー!!」
 そしてたった0.1割のゆるゆる圧迫面接力でも、ガードマン達は阿鼻叫喚の悲鳴をあげて悶え苦しむ。
 夕立自身はそもそも彼らを一撃で沈めていたため解らなかったが、自宅警備員にとって『圧迫面接』は、他のどんな攻撃や属性よりも覿面に効いていたらしい。
「はー? ウチには向いてないんでーお引き取りくださーい」
 布を脱ぎ、巨大魔蟹に変身しても、ゆるふわは所詮ゆるふわだった。
 圧迫面接力を帯びた大きな鋏(こぶし)が、空白の職歴ごとガードマンの精神を徹底的に切り刻む。
 ……そうして後に残るのは、就職氷河期を告げる死屍累々の山のみだった。

「ねーねー。おかしらー。僕たちどうだったー?
「ちゃんと圧迫面接できてたでしょー?」
 禁断の力を身に着けた盗賊たちは、得意げになって夕立へ尋ねる。
 確かに彼らの成長は著しい。今の彼らなら、圧迫面接力を0.3割程度まで引き出す事が出来るだろう。教えた甲斐があったというものだ。
 故に夕立は、生徒達の新たなる門出を見送る、教師の如き心境で――。

「駄目です」
「えー!」
「うわーん! 超ハードモード―!」
 矢来講師の評価は、魔界一厳しかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

グウェンドリン・グレンジャー
よーし、おかしら、がんばっちゃうぞー
(纏うのは己の生成した虚数物質のテンタクルスーツ、Imaginary Feathers)
ほらほらー、見て見てー。魔女っぽい、でしょー、ご当地おかしら、って、感じする、でしょー?
(無表情のままだが、口調とオーラがあからさまにドヤっている)

デビキンも、世知辛い、世界、なんだねえ。やさしくない世界(ほろり)
ハロワや、失業手当、とか、ある……よね?
(デビキン民優しいから、失業手当なくても助けてくれそうだけどとか考えつつ)

えーと……私は、ワルいおかしら
なので、被害者の会の、皆さん、ちょっと、痛い目、遭って、欲しい
皆ー、集合ー
100羽のカラス、使役して、つついて攻撃



 車で轢いたり、料理を作ったり、ケイドロしたり、優しくしたりぶん殴ったり。
 既に里のあちこちで、被害者の軍勢と刃? を交える仲間(おかしら)たち。里の興亡をかけた戦いは、より苛烈な局面へと突入していた。
「よーし、おかしら、がんばっちゃうぞー」
 自分も負けてはいられない。ゲーミングゆるふわ小隊を引き連れたグウェンドリンは、ゆるゆる拳を突き上げ、無形にして無数の形を持つオーラ――Imaginary Shadowから、虚数物質で構成されたテンタクルスーツを生成し、その身に纏う。
 何処か深淵に蠢く邪神を想起させるその姿。まさしく悪魔(ゆるふわ)を率い、巨悪を為そうとするものに相応しい絶対悪な装いと言えるだろう。
「ほらほらー、見て見てー。魔女っぽい、でしょー?」
「おおー」
「良いんじゃなーい?」
「悪のオーラバシバシ出てるよー」
 それはまぁ、元の素材がオーラなので、その通りである。
「ご当地おかしら、って、感じする、でしょー?」
 くるりと、その場で一回転するグウェンドリン。一見西洋人形(ビスクドール)のような無表情に見えて、ご機嫌な口調と、かつてないほど邪悪に輝くオーラの存在が、あからさまにドヤっている事を丁寧に教えてくれている。
「うーん、悔しいけれど中々のワルかっこよさー」
「このままなんやかんやで目指せ世界! って感じだよねー」
 そうした場合、そのうち何処かのタイミングで着ぐるみとかち合いそうな予感がする。
「――それでおかしらー。この後どうするー? ガードマンくんたちに無実の罪を着せて火で焙るー?」
「あやしいお薬ばら撒いて骨抜きにしちゃうー?」
 ……これはいけない。あれからも隙あらばDevilizationを遊んでいたせいで、盗賊たちのメンタルがブリリアント・カッスル・エンパイア面に落ちようとしている。
 あれは悪い子でもマネしちゃいけないけだものムーヴなので、彼らを真面目な悪党に戻すためにも、ここはおかしらとして確り範を示さなければ。
 グウェンドリンは敢えて口をつぐんだまま盗賊たちを制し、被害者達に相対する。
 全ては、そう、判り合う為に。
「デビキンも、世知辛い、世界、なんだねえ。なんて、やさしくない世界……」
 彼らの境遇をこそ思えば、灰の瞳からほろりと流れる哀しみの泪。
 今まで彼らはどれだけ日陰の道を(ゆるふわ盗賊たちのせいで)歩かざるを得なかったのだろう。
「ハロワや、失業手当、とか、ある……よね?」
 無償の善意で社会が回る世界なら、きっとその手の保障も充実しているのではなかろうか。
 仮にそう言うものが無かったとしても、この世界の悪魔たちは皆『良い子』だから、なんだかんだで『困ったときはお互い様』の助け合い精神が生きづいていそうだとも思う。
 そんな自分の考えを、被害者達に語ってみると、彼らは国によって多少の違いはあるが、概ねその通りだと首肯する。
 が。ただ、ぽつりと一言。
「見返りを求めない善意を受けた時が、一番居た堪れないんだよ……」
 ――成程。施す『物』が善意であれ、一方的に『施す者』と一方的に『施される者』は、目線上どう足掻いても対等にはなり得ないのだ。
 故にこそ。自宅警備員でも生きていける世界で彼らは、誰かに唆されようと再就職(うえ)を目指したいのだろう。

 長々と前振りしたが、つまり同情は不要と言う事だ。

 そして今のグウェンドリンの立場は、
「えーと……私は、ワルいおかしら」
 なので、情けは人の為ならず。
「被害者の会の、皆さん、ちょっと、痛い目、遭って、欲しい」
「えっ!? この流れで!?」
 これもまた末法世界の正しい作法。心より判り合った結果、爽やかに後腐れなくぶちのめしてしまおう。
「皆ー、集合ー」
 烏、鴉、クロウ、レイヴン。
 グウェンドリンに呼ばれて集った百羽のカラスと、付け合わせにゆるふわ蟹を添えて、
「死なせない程度に、れっつごー」
「おー!」
「ぼっこぼこだー!」
 百の濡れ羽が空に羽搏き、地に蠢く結構な数の鋏が呪詛を帯びる。
 そしてテンタクルなグウェンドリンの指揮の下、ここをカラスの国としようとする勢いで、四方からガードマン達を徹底的に突っついたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ライラック・ラック
ふふん、決め台詞はやっぱり見下ろさないと気分がでないわ
そこのブギー、ララをもう少し持ちあげなさい。そう、もうちょっと足のばして。そこよ
あと皆ララを中心に後ろに固まってちょうだい

(すうっ)
ほーーーーっほっほっほっ!!部下のものはおかしらのもの!
つまり布と宝とDは全部ララ……(たくさんいるおかしらを見回した)と皆のものよ!
あなた達に渡すわけないじゃないの!

さあ構えなさいブギー達!
ララは大事な用事(身支度)があったから武器のチョイスはセバスに任せたけど
とりあえず何か持ってるわね?大丈夫ね?じゃあ、いっくわよー
(杖をふった)(しゃらんらー)
(後方の超ド級な重火器たちが一斉に火を噴く)

………えっ!?


クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
「マフィアごっこ……します?」
悪魔の皆さんには、黒い車や現金輸送車の運転をお願いします
あと、敵のDキャノンに対抗してこちらもD銃器等を携帯しておくと雰囲気出るかも。

車に自分と悪魔を詰め、敵のシマにカチコミかけます
その前に、プレゼントです。《魔法の世界服飾史》を使えば、煙と共に全悪魔の頭にソフト帽が。マフィアと言えばこれですよね

構成員が下車したらUC発動。高めた士気とボス(私)直伝の戦術で戦線を押し上げて貰います

その間私は車内でお気にのSサイズを愛猫の如く撫で可愛がります(ワル要素

タコされた悪魔は杖で回復を。立って下さい。あなたは既に、歯車として組織に組み込まれているのですから



 戦場の一角にあって。
 砲火無く。
 剣戟無く。
 雄叫び(こえ)も無く。
 痛みすら覚える程の静寂。
 ララが率いるおしゃれ軍団と、恨み骨髄・ガードマンの群れは、もう長い間睨み合ったままお互い動かない。あるいはこの勝負、先に動いた方が――。
 どこかで羽搏くカラスの鳴き声が、いやに大きく聞こえた。
 ……しかし、お互い千日手を演じる為に集ったわけでは無かろうに。動かなければ勝負はつかぬ。
 故に。極限の一触即発状態を承知でララは――。

「ちょっとターイム!」
 タイムを宣言した。
「……認める!」
 そして即認めるガードマン達。先程超大型ダンプカーに轢かれたばかりだというのに、びっくりする程人がいい。

「タイムを宣言したからにはー、おしゃれおかしら何かいい案あるのー?」
「そうね……案って言うか、それ以前の問題なのよね」
 戦う・戦わないの次元ではなく、ララの目線は、盗賊たちとは遥か違うところを見ていた。
「って言うとー?」
「何て言うか……このままだとポーズも台詞もイマイチこう、キマまらないって言うか……」
「…………えーー!?」
 そう。戦うよりまず先に、前口上ってとても重要だよね。

「何というかね、あなたたち全体的にシックさとかダークさとか、もうちょっと欲しいかなって思うの」
 彼らの布(ファッション)が素敵に可愛いのは今更言うまでもないことだが、ララにとって今回の戦いはおかしらとしての記念すべき初仕事。もう少しビシッ! と決めたいのだ。
 だからせめてもうあと一押し、渋さを演出するアイテムが一つでもあれば嵌るのだが……。
「……だったら、こういうのはどうでしょう?」
 と、丁度自身の用事を終わらせ合流したクララが、古今東西の服装が記された秘伝書・『魔法の世界服飾史』を開く。
 すると。小さな煙が盗賊たちの頭部を覆ったかと思えば、いつの間にか如何にもマフィア御用達なソフト帽が。
「ふふふ。プレゼントです。マフィアごっこ……します?」
「わーかっこいー!」
「するするー!」
(「これは……あの子ったらなかなかやるじゃない」)
 人知れずクララのセンスに感心するララ。ソフト帽のおかげで、雰囲気がぐっと引き締まった。
「ふ……ふん! 私たちは同格のおかしらだもの。『ありがとう』なんて簡単には言わないんだから!」
「極々普通に言ってしまっておりますお嬢様」
 シャラップ。ララは杖執事セバスをぶんぶか振った。
 ともあれこれで準備は整った。三分の一ほどだが。
「そこのブギー、ララをもう少し持ちあげなさい」
「こーおー?」
「そう。もうちょっと足のばして。そこよ。あと皆、ララを中心に後ろに固まってちょうだい」
「……あのすいません。えー、こちらガードマンですが、もうそろそろキャノンぶっ放していいでしょうか?」
「え!? ごめんなさい、もうちょっと、もう少しで終わるから!」

 そして数分後。
「――ふふん、決め台詞はやっぱり見下ろさないと気分がでないわ」
 全ての準備を終えたララは、ゆるふわ盗賊に持ち上げられ、遥か高み(119.9cm+α)から、全てを見下ろし、目一杯息を吸い込んで、倒れるくらい踏ん反り返って何より邪悪に高笑い、
「ほーーーーっほっほっほっ!!部下のものはおかしらのもの! つまり布と宝とDは全部ララ……」
 少し冷静になって、クララや他のおかしらを見回した。
「……と、皆のものよ!」
 全身をお洒落な布で覆っていても、その一言で決して隠しきれていない育ちの良さとイイ子感。
「あなた達に渡すわけないじゃないの!」
 さぁ、なんやかんやで宣戦布告は成し遂げた。睨み合いはもう要らない。戦いの幕は無理くり掴んで落としてやった。
「さあ構えなさいブギー達!」
「おー!」
 ララの命令に従い、盗賊たちは武器を構え、ガードマンたちそれを無数の砲口で睨めつける。
 ちなみ一番前に立つララは、後ろにいる盗賊たちがどんな装備をしているのかよく知らない。と言うか直前まで気合を入れて身支度していたから、武器のチョイスは全部セバスに放り投げた。
「ご安心くださいませお嬢様、このセバス、今回はクララ様とご一緒に、会心の武器種をチョイスしました。いわゆる一つのコラボと言う奴で」
 クララがにこりと微笑んで、ララに手を振った。 
 自分が身支度している間にそんな事を。しかし、主の嗜好を熟知しているセバスと、森の奥深くに隠れ住む魔女と言った塩梅のクララなら、自分のイメージからそう外れた選択はしないだろう。つまり魔女映えする剣と魔法のファンタジー的なアレである。
「とりあえず何か持ってるわね?大丈夫ね?」
「大丈夫ー」
「じゃあ、いっくわよー!」
 ララはしゃらんら、とファンシィにセバスを振る。
 直後、戦場に降り注ぐのは色とりどりのキャンディ。
 赤は火傷、緑は毒、黄色は麻痺。様々状態異常を帯びたそれらは、ガードマンたちの足を止め――。

 ――猛り狂う獣の如く、唸りを上げるエンジン音。
 戦場を疾走する漆黒の高級車と、超重装甲の現金輸送車が前振りなくガードマンを撥ね飛ばす。
 そのままおよそ数十人を轢き潰し、ようやく止まった車の中から現れたのは、ソフト帽にサングラス、凶悪な銃火器で武装した盗賊(マフィア)たち。
 パァン。乾いた音が響く。一人の盗賊が、呆気にとられるガードマンの間抜け面にリボルバーをくれてやったのだ。
 撒き散る血液。返り血を浴びてようやく状況を理解したガードマン達もまた砲(じゅう)を手に取り――一斉に咲き乱れる緋の色が、飴降り注ぐ白昼の戦場(にちじょう)を侵食する。
 マフィアは現金輸送車を盾に、ガードマンは鎧を頼みに、どちらも一歩も譲らぬ大抗争。戦力が同程度ならば、勝敗を分けるものは士気と戦術か。クララは膝に抱えた小さな蟹を愛でながら、冷静に分析する。
 ワルダークな衣装に身を包んだ蟹達のやる気は最高潮。ガードマン達も恨みの一念で食らいつくが、『飴』に晒され、じりじりと押されつつある。
 それほど時間をかける心算も無い。だからクララの仕事は、『魔女戦術』の一手を放ち、この状態を一息に加速させること。
『魔女戦術』……魔術や呪詛の使い手が自身の元に集まるほど、それらの能力が強化される、禁断の鬼札(ジョーカー)。
 そう。この場に魔女は二人。呪詛使いは無数。最初からガードマンに勝ちの目は無く……全ては終わっていたのだ。
「……立って下さい」
 現金輸送車の窓越しに、クララは冷たい声音で、倒れ伏すマフィアをそう詰る。
「私は杖を振りました。傷は癒えたはずです。ならばあなたはいつまでそうやって、地面に這いつくばっているんですか?」
「うう……もう少し休ませてよー」
「出来ません。あなたは既に、歯車として組織に組み込まれているのですから」
「そんなー……僕たちと大縄跳びしたりアフターヌーンティーしばいたりしていたあの頃の優しい君は、一体どこに行ってしまったんだー?」
 その言葉に、クララは悲しそうに目を伏せ、
「もう……昔の話です……」
 ――そろそろ『ごっこ遊び』もお仕舞いだ。
 火を噴きながら廻り続けるガドリング達が刻むのは、軽快な銃弾(リズム)と悍ましき呪詛。蟹型の痣に侵されたガードマンたちはもがき苦しむ。
 どれほど呪詛に耐性があろうとも、クララによって強化されたそれを間断なく受け続けていれば、こうもなるだろう。既に大勢は決した。
 故に、クララは手元の赤いボタンに手を伸ばし――全てを終わらせる。
「……さよなら」
 ボタンを押した刹那。起動したクロムキャバリア産の超大型ミサイルが全てを消し飛ばし――。

「………えっ!?」
「何を置いても、お嬢様の安全が第一ですので。ファンタジーより実弾でございます」
 ララは焦土と化した戦場で一人びっくりする。
 ファンシーさのかけらも無い怒涛の展開だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジャム・ジアム
アドリブ歓迎

哎呀!おかしらが沢山いるのね
事情はよく知らないけど、おニューの服で乗り込んでみたわ
ノープランで殴り込み……
ふふ、なかなかワルっぽい

引導は誰かが渡してくれるでしょ
ジアムはうーん、命令がないと下っ端は困るわね
あら、ガードマンさん、貴方も人に使われる側?
上役はいるの?ここにいない……?
じゃ、遊びましょう

わ、トリモチ?面白い
じゃ、ジアムの番。『鼓腹』で狸たちを召喚
ぜーんぶ、まとめて頂いちゃって
食いしん坊なお化けになるなんてどう?
ね、オバケさん。私たちヌスットだもの
私も『朱雷枝』で裂いて『楔なる鋼』の炎で
こんがり焼いてあげる

わりといい香り?そうね、立ち仕事はお腹が空くわ
でもオアズケ
一蹴するわ



「哎呀!」
「おー、にーはおー」
「もしや君はー……ヒア・カム・にゅーおかしらー?」
 おニューの服を着こなして、足の向くまま気の向くまま、混沌とした戦場へ新たに降り立つ影一つ。その正体こそ新たなおかしら・ジャム・ジアム(はりの子・f26053)だ。
「そうね。もう沢山おかしらが居るみたいだけれど、あなたたちが良ければ」
「いいよいいよー」
「なんてことだー。これで僕たち更に強くなってしまったー」
 ノリノリで凄いあっさりジャムをおかしら認定する盗賊たち。脚だろうがおかしらだろうが多い方がいいと言う数の論理。あっさりすぎて『寧ろ本当にいいの?』と逆に聞き返したい所だが、実際、現状『頭』が見えない被害者(むこう)側より、『頭』の多い加害者(こちら)側が優勢なのは確かなので、単純(シンプル)こそが最良(ベスト)なのかもしれない。
「まぁ、実を言うとジアムも細かい事情はよく知らなかったりするのだけど……」
 良く知らないのでノープランだ。とりあえず勢いでおかしらになれたので、勢いで被害者を吹き飛ばせば何とかなるだろう。
 彼らに対する引導説教勧誘その他諸々きっと誰かがやるだろうと限界突破で放り投げ、あらゆる物事はいつだってシンプルイズザベスト。つまり問答無用の殴り込みこそ悪(ワル)の華。
「それで新おかしらー。僕らどーやって動けばいいー?」
「とりあえず重爆撃機持ってくるー?」
「うーん、そうね……」
 ジャムからの命令を蟹脚わさわさ、ゆるふわ待つ盗賊たち。やたら物騒げな重爆撃機はともかく、最低限の命令が無いと無限にゆるふわし続けるのが彼らと言う名の盗賊(いきものの)。
「おいお前、そいつらの肩を持つってんなら容赦しないぞ! そうじゃなけりゃあさっさと退きな!」
 腕を組んで目を瞑り、どうしたものかと考えるジャムの横合いから、何やら大きながなり声。一々警告してるあたり、なんて優しさに満ちた対応だろう。
「あら、ガードマンさん、貴方も人に使われる側?」
 ジャムはちらと片目を開けて、声の主に問いかける。
「ああ。それが俺たちの生業(しごと)だからな。文句あるか?」
 別にないが、律儀に答えるより『うるさい馬鹿野郎知ったことか!』と無視して攻撃仕掛けてきた法が悪(ワル)としては正解な気がする。が、正直に答えてくれるなら、そのまま乗っかってしまおう。
「それじゃあ、あなたたちの上役はここにいるの?」
「ふん。居ないさ。この程度の戦場、あのお方のお力を借りるまでも無い……いや、すでに劣勢気味だが、あの方に怒られるの正直怖いし……」
 成程、向こう側にも複雑……? な事情があるらしい。だが、これを利用しない手はないだろう。
「そう。ここにはいないのね? それじゃ……」
 ジャムはゆるりと邪悪に微笑んで、
「遊びましょう?」

 こちとら侵略(しごと)の真っ最中。誰が遊んでやるものか。そう拒絶するように、ジャム達へ向けられるのはトリモチ弾の雨嵐。
「わ、トリモチ? 面白い」
 自身目掛けて次から次にやってくるそれを、ジャムはサイコキャノンで撃ち落とす。しかし、直撃を避けようと、地面に付着したそれは効果を失わず、このままトリモチ攻勢が続けば足の踏み場も無くなってしまう。機動力自慢の蟹達にとっては致命傷になりかねない。
「……じゃ、今度はジアムの番。きて、おいで、あなたたち!」
 そしてこの状況を何とかするために、ジャムが喚ぶのは八十二匹の変身狸。どろんと現れたたぬきたちはぽんぽこ陽気に腹を叩くと、
「コーン!」
「あれー? たぬきってそんな鳴き声だっけー?」
「何言ってるのさー。 実際たぬきがそう鳴いてるんだからそうなんでしょー?」
 そうだろうか。良く解らない。
 とにかくたぬきは木の葉をひらり、目の数手の数ばらつき有れど、いかにも大きな体躯の食いしん坊お化けに変じてゆく。
「ね、オバケさん。私たちヌスットだもの。だったらトリモチだって、ぜーんぶ、まとめて頂いちゃうのが流儀じゃない?」
「おー、なるほどー」
「それは盲点ー」
 強か撓る白銀の柄は大樹の如く。朱に揺れる刃が煌めき、身の丈を優に超える程巨大な大鎌を、念動力にて軽々ジャムが扱えば、大地を覆うトリモチは微塵に裂かれ、精霊銃・楔なる鋼の噴く炎が細かになったそれを焼く。
 するとトリモチは食べやすいサイズでこんがりと。食いしん坊のお化けたちが我先にと争うように口へ入れると、盗賊たちの動きを阻害するものは、一片たりとて無くなった。
「うーん、割といい香りー」
「おやつの時間ってまだだっけー?」
「――そうね、立ち仕事はお腹が空くわ」
 でもオアズケ。新おかしらは意地悪そうな表情で、ぺろりと小さく舌を出し、大翼を持つ朱の巨兵へ大鎌――朱雷枝を投げ渡す。

「さぁ、一蹴するわ」
「おー!」
 お化けたちに応援され、機動した巨兵と縦横無尽の盗賊たちは――容赦なくガードマン達を残獲した。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクトル・サリヴァン
なんか向こうに理があるようにみえるけどそれはこの世界では逆にギルティ―。
…でも盗ったモノ的にはこっちが間違ってもなさそうだし悪事って面倒だねー。
こーいう時はワルかっこよく返り討ちにしてやるのが悪党らしいよねー。

UCで空シャチの群れ召喚。
空飛んでガードマンと戦う盗賊達の足場になったり空に打ち上げたりして遊びもとい援護お願いするね。
ボール代わりにやっちゃえー。
あ、知恵の布剥ぎ取りは俺もやってみたくはあるけど我慢ね。戦いだし本人意思大事。
自宅警備員を水の魔法製水鞭でべしべししばきつつ、宝物庫から空シャチ選定血に飢えてそうな素敵武器を持ち出し盗賊たちに新武器よーとパスしてみたり。

※アドリブ絡み等お任せ



 ううん?
 どれだけ動いてシャチハットが頭の上から落ちないのを良い事に、ヴィクトルは大きく唸って首を傾げてみる。
 何と言うか被害者側(むこう)に理があるように見える――と言うか実際そうだが――この世界で無邪気にそう言う正論をぶち上げてしまうとギルティー判定。漏れなく後ろから刺されてしまう訳で。
 ……でも話を聴く限り、盗ったモノ的には加害者側(こっち)が間違ってもなさそうな訳で。結局もう、何てめんどくさい世界なんだろう。
「ねーねー、倒れてるガードマン君たちどーしよっかー?」
「うーん……とりあえず身ぐるみ引っぺがしてそこら辺に転がして置けばいいんじゃなーい?」
 というかヴィクトルが悩んでいる横で、別にヤバい代物じゃなくても率先して盗む、盗賊(かれ)らのやくざっぷりは留まるところを知らないが。ゆるふわしてる人畜無害そうな見た目の癖、とんでもなく極悪な盗賊たちだ。恨みを買うのもそこそこわかる。
「まぁ、でも、うん。わかった」
 頭の裡、あるいは自身の良心的な感性に折り合いをつけた彼は、当分補給に人形焼きを一齧り、盗賊たちのおかしらとして、被害者達と相対する。
「こーいう時はワルかっこよく返り討ちにしてやるのが悪党らしいよねー」
 そう。暴力だ。力こそが正義、いいや悪なので、デビルキング法に則り、何よりこれが一番の最善手。
 正直割とどうかと思うがそれでもヴィクトルは躊躇なく、とりあえず空飛ぶシャチを百二体ほど召喚する。
「おー、シャチが空を泳ぐなんて何という極悪なー」
 彼らの悪の基準は一体どこにあるのだろう。そこのところまだ良く解らない。
「もしかしてシャチくんに乗っかれば僕らも空飛べるんじゃないー?」
 いいねーそれー、とシャチに飛び乗る盗賊たち。シャチと蟹が空中で戯れるその姿、一見するとちびっこにも人気の出そうなゆるふわ光景だったが、敵であるガードマンたちにとっては、立体的な機動で突進されるわ噛まれるわ打ち上げられるわ呪詛をまき散らされるわで正に地獄すら生ぬるい死地だった。
「よーし、いいぞー。そのままボール代わりにどんどんやっちゃえー」
 口調が何だか盗賊たちによりつつある。十割ノリだが、これまでの交流で彼らと心通わせた結果かもしれないと適当に理由をつけておこう。
「うおお!? やめろシャチども! 形状で言えば蟹共の方が打ち上げやすい形状してるだろうが! ボールっぽくて!」
「あー! ほんとだー! 僕たち結構丸っこかったー」
「それじゃあそーしよっかー」
 完全な失言だった。背に乗るだけでは飽き足らず、自らシャチに撃ち放たれた蟹達は弾丸の如く、天地上下四方八方、全方位から最早目にも止まらぬ速さでガードマン達に襲い掛かる。契約書によって研ぎ澄まされた被害者達の狙撃力をもってしても翻弄されるばかりで、砲弾は空を切り明後日の方向に着弾し続け、これでは撃つだけ無意味だろう。
 それだけダイナミックに動いても、一切脱げない知恵の布は、ヴィクトルのシャチハットと同様の魔法(ちから)が籠められているのかもしれない。
 それだけ頑なに隠す本性、一目見てみたいのも確かだが、そこのところはプライバシーの問題だろう。いかにおかしらとは言え無理強いは出来ない。
「よーし、動き回って熱くなってきたから脱いじゃおー」
「わははー、われらの真のすがたー、その目でしかと見るがいいー」
 なんてことを考えてたらあっさり知恵の布を脱ぎだす盗賊たち。少しはおかしらの心情とか汲んで欲しい。
 が、そう言う空気の読み方を彼らに期待するのは多分絶対無理なので、ヴィクトルはロッドの先端から流水で創った鞭を伸ばし、巨大化した蟹達と共に、べっしべっしと自宅警備員たちを打ち据える。水の鞭なので、鎧の隙間から入り込んで、直接生身の部分を徹底的にだ。
 
 巨大な鋏が相手の鎧を砕き、流水の鞭が数十往復した頃合いに、宝物庫へ派遣していたシャチ達が、武器を背負って帰還する。
 遠目からちらりと一瞥しただけでもシャチの背から読み取れる禍々しいそのオーラ。きっと選りすぐりの素敵武器に違いない。
「みんなー、新しい武器のお時間よー!」
「お~!」
 シャチが背の武器を放り投げると同時、再び布を纏った盗賊たちは、それぞれ武器をキャッチする。
「おー、これはー。空間すらも容易く両断するという伝説の魔剣ー」
「発射したら相手を数万光年地の果てまでも追ってって絶対に命中すると言う禁断のリボルバー」
「全ての時間を支配するといわれる魔神を召喚するヤバイ系の魔導書ー」
「対人用で環境にやさしいマイクロ核ミサイルのスイッチー」
 本当に目も眩むくらい素敵だった。
「ま、待て――」
「やだー!」
 そして爆ぜる力の本流的な何か。空間が歪み、星々が瞬き、刹那が無限に延伸され、そしてすべては無に帰り、なんやかんや有って――。
 
 ――ううん?
 ヴィクトルは首をかしげる。
 良く解らないうちに……ガードマンたちは全滅していた。


●右に左に
 十数人のおかしらと盗賊たちに満遍なく叩きのめされ、ついに頽れる被害者達。
「ぶん殴られては優しくされて、優しくされてはぶん殴られて! もうどうしたら良いのかぐっちゃぐっちゃで全然わっかんねぇよ!」
 頭を抱える被害者達。彼らのメンタルは、割と限界だった。
 しかしここが彼らの人生の大きな岐路でもあるだろう。復讐は成し得なかった。ならばどうするべきか。
 彼らがそう、今後の身の振り方を考えようとしたとき――。
「――全く。最近の悪魔と来たら、揃いも揃って情けないねぇ……」
「あ、あなたは――!!」
 遂に、黒幕が現れた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『厚顔悪魔『オバチャリオン』』

POW   :    ブアツイネン・アイアンハート
敵より【面の皮が厚い】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
SPD   :    ガメツイネン・ノビールハンド
【自身のどこまでも長ーく伸びーる腕】が命中した物品ひとつを、自身の装備する【四次元エコバッグ】の中に転移させる(入らないものは転移できない)。
WIZ   :    メダチマンネン・レオパードプリント
対象の【服装や装備品】に【派手な豹柄模様】を生やし、戦闘能力を増加する。また、効果発動中は対象の[服装や装備品]を自在に操作できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は仇死原・アンナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●アンチゆるふわ
※次回冒頭文更新4月14日(水)予定。
「『奥さん(マダム)』!」
「どうしたんだい? 奴らに復讐するんだろう? そんなみっともなく倒れて、果たせるのかい?」
 今時流行りのエコバッグ片手、分厚い化粧に派手な豹柄で身を包み、どこか貫禄さえ感じさせるその巨体。何に憚ることもなく、ラスボスにすら道を譲らせる勢いで、堂々風切り登場したその女悪魔こそ、ガードマン達を唆した『被害者の会』会長にして全ての黒幕、厚顔悪魔オバタリ……もとい、オバチャリオンだ。
「……いいえマダム。しかし、里を攻めてみてようやく分かりました。やはり我らは何かを守るガードマン。復讐とは言えどこかを侵略するなどと、まるで性に合っておらず……」
 申し訳ありません。とガードマンたちは頭を下げる。どうやら彼らにこれ以上戦う意思は無いようだ。
「甘ったれだねぇ。そもそもその『何か』を守れなかったから、里を攻めたんだろう? ふん。けれどもまぁ良いさ。コッチとしちゃ余計な手間が省けたってもんさね」
「何ですと? それはどういう――!?」
 直後。問いかけを遮るように、ガードマン達の装備品に一粒、ヒョウ柄模様が滲み現れると、訝る様な暇すらなく、瞬く間に彼らの全身を侵食する。
「騙し騙されが悪魔の本道さ。『皆で一緒に里を攻めて、戦利品を平等に分け合おう』? そんなオイシイ話疑いもせず信じるなんて、あんたらやっぱり人が良すぎなんだよ」
「べべベ、ベンキョウシマッセー」
「ホンマカイナー」
 大口で嘲笑うマダムのそんな罵りが、正気なく妙なイントネーションを口ずさむに至った彼らの耳に届いているかは定かではない。ヒョウ柄に侵されたガードマンは、マダムの意のまま砲口を盗賊たちに向けた。
「うわー! ガードマンくんたちがなんかすごい事にー!」
「というか何あの柄(ファション)ー! 受け入れがたーい!」
 変わり果てたガードマン……よりも、ド派手すぎるヒョウ柄に戦慄を隠せないゆるふわ盗賊たち。
「ほら! アンタたちももうイイ盗賊なんだから、語尾ばかりだらしなく伸ばしてないでもっとしゃんとしい!」
「えー!? いきなり僕らに白羽の矢がー!?」
「僕たちには僕たちのリズムがあるって言うかー!」
「駄目だよこのままじゃ勢いで押し切られちゃうー! タイムー! タイムを要求しまーす!」
「タイムだって? ……良いだろう。無意味な作戦を、時間をかけて練るが良いさ」
 侮りか、それとも絶対的な自信からか、マダムはあっさりタイムを許可する、

「ふー。良かったー。絶対通らないと思ったけどー、言ってみるもんだねー」
「だねー。この隙になんかいい感じの作戦を……」

「――なんて言うとでも思ったのかい!」
 筈も無く、油断しきった蟹達に、問答無用で叩き込まれるルール無用の豹柄(レオパルド)キャノン。
「わー! 自分で許可したタイムを一瞬で反故にするなんてー、何と言う面の皮の厚さー!」
「こうなったらとにかく戦うしかないよー! みんなー! 武器を持つんだー!」
「おー!」
 剣から現金輸送車まで、盗賊たちは宝物庫から集めた様々な武器を手に、押し寄せるマダムの軍勢に立ち向かい、決死の抵抗を試みる。
「ふふふ。さすがは名うての盗賊たち。Dの他にも中々いい商品(モノ)持ってるじゃないか。嬉しくなるねぇ! 選り取り見取りで全部アタシの独り占めさ!」
「セヤネー」
「ゴメンヤッシャー」
 剣を振るい、アクセル踏んで、わさわさ頑張る蟹の群れ。しかしひとたび、マダムの腕が鞭打つ如く撓り伸びれば、後は分けも隔ても無く、盗賊たちの武器は没収され、彼女の持つ四次元エコバックに消えてゆく。
「えええー!? 僕らの集めたお宝がー!」
「あの悪魔(ヒト)絶対僕らの里の事バーゲンセールの会場くらいにしか思ってないよー!」
「うわーん! 助けておかしらたちー!」

 盗賊たちの攻撃をものともせず、さながらマダムはハリケーンの如き強烈さで徹底的に里を暴いて荒らす。彼女――オブリビオンを止められるのは、やはりおかしら……猟兵たちしかいないだろう。
 ――全てがヒョウ柄へと沈む前に、最後までワルかっこよく立ち回ろう。
クロエ・イレヴンス
グっちゃん(f00712)と

なんやおばちゃんを呼ぶ声がしたさかい、デビルホルモン焼き屋で一杯やっとったけどテレポートしてきたで!
(手に串とビールジョッキ持ったまま突如出現するカモノハシ)
グっちゃんは可愛い娘のような……うーん、なんやろなぁ
どういうわけかグっちゃんの方がお姉ちゃんって感じがするねん。割り振りの番号のせいやろか?まあええわ

ってーか敵がキャラ被っとるやないの!対消滅しそうやわ!

よーし、おばちゃんも本気出しちゃうで!
カニちゃんも上乗ってやー。大仕事やで!
花吹雪舞ってなんや演歌歌手なった気分やな!
あっちが操作するヒョウ柄のモンは念動力で弾き飛ばすわ!
いてこましたるわ!Vやねん!


グウェンドリン・グレンジャー
ミセス・イレヴンス(f24879)と

わぁ。ウェストサイドマダム、だ
こっちにも、なんか似たような、知り合い、いたな……
(指笛を鳴らす)
ミセス・イレヴンス、かもーんщ(゚Д゚щ)

目には目、歯には歯、なら、おばちゃん、には、おばちゃん
うん、ここは、ミセス・イレヴンス……に、暴れて、もらおー
(ワゴン車の上に座ってUC発動。蟹達を手招き)
あ、機動力も、上がる、から、かにくん、こっちこっち
巻き込まれたら、私、盾にして、逃げてね
ちょっとは、ワルい、おかしら、しないとね

こっちに、流れ弾、来そう、なら、オーラ防御と、大きな盾、みたいに、展開した念動力、で、かにくん、守る

……マダムパワー、やばない?



 下っ端たちを救う為、黒き大翼が魔界の空を飛翔する。
 一度翼が羽搏けば、黒緑の羽根が弾雨(あめ)となってヒョウ柄の海へ降り注ぎ、グウェンドリン自身もマダム目掛けて急降下。
 天から地へ。弾雨(あめ)の中を潜り抜け、羽根(あめ)より早く。瞬き一つ分の時間でマダムの最至近まで迫ったグウェンドリンは、退魔刀・麝香百合を引き抜き一閃。
「……!」
 だが、手応えはない。避けられたのだ。ならばもう一撃と白の刃が虚空に遺した軌跡(ひらめき)よりも更に半歩踏み込んで、鈴鹿御前の斬り払い。しかしこれも空を切り、マダムの薄皮一枚断てぬまま、距離ばかりが詰まってゆく。最早刀の間合いですらない。それでも刃はあるのだと、グウェンドリンが黒翼を広げた刹那、視界に飛び込んできたのは――おそらく盗賊たちから奪ったものだろう――メリケンサックで武装したマダムの拳。
 咄嗟の機転で振るった翼(やいば)を大盾に転用するとマダムの拳を如何にか受け止め、返礼代わりに黒水晶の蹴撃(キック)を見舞う。
 ……分厚い。ようやく一撃当てられはしたが、然してダメージは入っていないだろう。蹴撃の反動を利用して距離を取り、そうは逃すまいと伸びてきたマダムの腕を尾羽根で凌ぐ。酷く短く、そして濃密な攻防の果て、二人はお互いの出方を窺うように睨み合った。
「フン。大した軽業だが、アタシには届かないねぇ」
「ううーん……流石は、ウェストサイドマダム……」

 余裕綽々のマダム。対するグウェンドリンは険しい表情で翼を繕う。拳を受け止めた時の鈍く重い感触は一向に引かず、出来れば二度と受けたくない。
 恐るべきはあの、どんな状況でも揺るぎそうにない面の皮の厚さ。絶対的な自信と言い換えても良いだろう。これを崩さない限りグウェンドリンに勝ち目は無いが、さりとてそう都合よくこの事態を打開できるスーパーパワーが突然漲るわけも無く。
「これは、ちょっと、難しいかも……」
「えー!?」
「おかしらが難しいなら僕たちには無理だよー!」
 ぽつりと零したおかしらの一言に絶望する盗賊たち。この世に魔神は居ないのかー! などとめそめそ泣いてる彼らを横目に、そう言えば魔神は居なくてもなんか似たような知り合いならいるよと、グウェンドリンはぼやぼやした調子で答えた。
 そう。おかしらがいっぱいるように。猟兵もまた一人ではない。独りでは乗り越えられない壁も、仲間と一緒ならきっと跡形も無くぶち壊せる筈だ。
「――そんな訳だから、ミセス・イレヴンス、かもーん」
 大きく息を吸い込んで、グウェンドリンは指笛を鳴らす。
「何をやったって無駄さ! 今更助けなんて来るもんかい!」
 マダムはせせら笑うと、振りかぶってメリケンサックをグウェンドリンへ投げつける。絶対的な面の皮の厚さから投擲されたそれは、瞬く間に剛速球へと変じ、グウェンドリンを抉る――。
 ――その寸前。虚空より飛んできた何かが、サックにぶつかり軌道を逸らす。サックは勢いのまま彼方に消え、もう片方、割って入って衝突し、地に突き刺さったそれは以外にも……ラタン製の布団叩きだった。
「……なんやおばちゃんを呼ぶ声がしたさかい、デビルホルモン焼き屋で一杯やっとったけどテレポートしてきたで!」
 両手に串物とビールジョッキを持ったまま、なにやら怪しい関西弁を捲し立て、ぺたぺた愉快な足音と共に突如現れたのは真っ黒なカモノハシのおばちゃん――クロエ・イレヴンス(創造論の魔女・f24879)だ。
「うわー!? おばちゃんがもう一人ー!」
「一体何が起こるって言うのー!?」
「……目には目、歯には歯、なら、おばちゃん、には、おばちゃん、ぶつける感じで」
 ここに来てさらなるおばちゃんの登場により混乱する盗賊たちを宥めつつ、これから始まる激戦の予兆を感じ取ったグウェンドリンは、現れたクロエと視線を交わし……彼女に全てを託した。
「うん、ここは、ミセス・イレヴンス……に、暴れて、もらおー」

「グっちゃんの熱い視線(ことば)、おばちゃんに全部伝わったで。なんもかんも完璧に理解したわ。つまりバーゲンセールの真っ最中って事やろ?」
 全然違う。いいやおばちゃん視点ではそうなのかもしれない。クロエは頬張った串物をジョッキのビールで流し込み、ゴキゲン状態のほろ酔い気分でマダムと対峙する。
「いきなり現れて……アンタ一体何者だい!?」
 蟹達同様困惑を隠せないマダムがおばちゃんに問う。
「えっ!? おばちゃんとグっちゃんの関係かい? 初対面でいきなり踏み込んだこと訊きよるねぇ。せやなぁ……」
 そこのところお酒なしでは語れへんわぁと缶ビールを開けるおばちゃん。どう考えても何かに託けて酒を煽りたいだけだった。
「グっちゃんは可愛い娘のような……うーん、なんやろなぁ。どういうわけかグっちゃんの方がお姉ちゃんって感じがするねん。割り振りの番号のせいやろか?」
「知らないよ! 何一つとして!」
「言われてみればそうやね。まあええやん。細かい事気にしても栓無いて。飲む?」
「飲まないよ!」
「じゃ食べる?」
「食べもしないよ!」
 繰り広げられるおばちゃんとマダムの舌戦。見た目おばちゃんの優勢と言うか、マダムの方がまだシリアスだった。

「割り振り番号ってなーにー?」
「お頭ナンバー? 的な? 何かそんな感じのやつ、だと思う」

「ってーか今気づいたんやけどそっちとキャラ被っとるやないの! 対消滅しそうやわ!」
 飲んでは食っての宴にひと段落を付けたおばちゃんは、地面へめり込んだ身の丈(42.5cm)を優に超える巨大無いな布団たたき(80cm)を思い出したように引っこ抜くと、指揮棒のように振り回し、どこからともなくワゴン車を召喚し、屋根の上に乗っかった。
「よーし、おばちゃんも本気出しちゃうで!」
 おばちゃんが手を叩くとワゴン車のドアが開き、中から外から種族も様々、何処にそんな入っていたのかよくわからない位のおばちゃん……の幽霊がぞろぞろ出てきた。その数なんと360人!
「ほら、カニちゃんも上乗ってやー。大仕事やで!」
 屋根の上から元気よく蟹達に呼びかけるおばちゃん。
 マダムに散々いたぶられた蟹達は同じ属性(タイプ)のおばちゃんを恐れている様子だったが、大丈夫、とグウェンドリンが屋根へ飛び、
「かにくん、こっちこっち」
 そう誘えば、おかしらのいう事ならと意を決し、わさわさよじ登る。Devilizationで絆を培った甲斐もあったというものだ。
「……私が、いる。大丈夫」
 そして、無数に舞い飛ぶ銀色の花弁。グウェンドリンの操る虚数物質が変じたそれは、自身の戦闘力を代償に、味方の攻撃力と機動力を強化するものだ。
「かーっ! 人徳やねグっちゃん! それに花吹雪舞ってなんや演歌歌手なった気分やな! ワゴンにマイクついてへんかったっけ?」
 そして進軍を開始するおばちゃんの乗ったワゴン車と幽霊のおばちゃんたち。
 舞い散る薔薇に彩られ、箒、うちわ、何か赤白の食い倒れてそうな人形など身近なもので武装したおばちゃん軍団(レギオン)が、ヒョウ柄ガードマン達を問答無用でなぎ倒し、一切速度を落とさないままマダムへ迫る。
「邪魔や邪魔や! 轢かれたくなかったら横に退いとき!」
 屋根の上で音頭をとるおばちゃんは念動力全開でガードマン達を弾き飛ばし道を開け、
「かにくん……危なくなったら、私、盾にして、逃げてね」
 ちょっとは、ワルい、おかしら、しないとね、と、グウェンドリンは念動力とオーラで大きな盾(バリア)を展開し、ヒョウ柄砲弾とトリモチ弾を防ぐ。
「今更逃げるなんてー。乗りかかったワゴン車だしー。最後まで付き合うよー」
「おかしらの悪に付き合うのも下っ端の役目ー。ワゴン車の重量ちょっとでも増せば威力も上がるんじゃなーい?」
 などと蟹達は曇りなき瞳でかっこつけ、勇ましい事を言うが、決してグウェンドリンより前に出ないところはちゃっかりしていた。
「ええね! グっちゃんの念動力は守りの念動力! 私(わて)の念動力は攻めの念動力! 二つ合わせて天下無双や!」
「……賢しいねぇ。だったら……!」
 イラつきを隠せないマダムがおばちゃん軍団を睨めば、一瞬でおばちゃんたちの服装がヒョウ柄に染まる。だが、マダムの思惑とは裏腹に、ヒョウ柄のおばちゃんたちは一切命令を受け付けず、軍団はさらに勢いづいて加速する。
「――何だって? 何故こっちの命令を受け付けない!? いったいどうなってるんだい!?」
「何でもかんでもないわ。ヒョウ柄なんて、私(わて)等にとっては普段着やろ?」
 そう。火の中で転生するフェニックスに炎の耐性があるように、深海に潜むリヴァイアサンに水の耐性があるように、ウェストサイドのおばちゃん達にヒョウ柄の耐性があっても不思議ではないだろう。不思議ではないのだ。
 ヒョウ柄によって強化された巨人のおばちゃんが、ウォーマシンのおばちゃんが、バイオモンスターのおばちゃんが、竜神のおばちゃんが、ロボットヘッドのおばちゃんが、そして何よりワゴン車がっ。

「……マダムパワー、やばない?」
「やばいと思もー」
「味方に回るとこんなに頼もしいなんてー」


「さあさ、徹底的にいてこましたるわ! Vやねん!」
 桜吹雪を引き連れて、一斉にマダムへ突っ込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
蟹どもが武器取られたろ
気ぃ抜いたらお前の骨もやられっぞ

蟹どもを後ろに従えてフリント担いでシンディーちゃんに【騎乗】
そう、族だ
盗賊な上に暴走族、悪の上塗りよ
厚顔なオバチャンには青春の若き過ちの力だ(?)
脳裏でまたニャーニャー聞こえるが

『羅刹旋風』と【怪力】でフリントぶん回しながら、
数にもの言わせてパラリラと【ダッシュ】で突っ込む
うっかり敵の言にやられるとしよう
アラサー言うなそんくれぇわかってるっつの
誰がプー太郎だ働いとるわ
やめろ、頭悪ぃ(低WIZ)のは自覚してんだよ!

くそっ、ついノッちまったやられた
なんてな
あーあ、俺を生贄にするなんてなんてひでぇ相棒だ
そーいう奴だって知ってっけどよ


六島・椋
【骸と羅刹】
正直気骨という点から見ると、あのオバチャリオンに関心はあるんだがな
骨らに手を出されない限り観察してみたい
まあ仕事だからやるんだが

若き過ちというか、現在進行形の過ちじゃないだろうか29歳よ
エスタが向こうに突っ込んでいっている間に、
シーフはシーフらしく【盗み】でもやるとするか
あのパラリラやかましい騒音やらカニやらに紛れ、
気配を消し【目立たない】ように接近
エコバッグを盗みにいく
正直言うとあれ欲しい。中が綺麗なら骨らを多く運ぶ手段になる
相手に関心はあるがそれだけなので攻撃はUC回避

ああいう女性はイケメンが好きだと聞いた
だから自称イケメンが餌に使えると思い(なお微塵もイケメンと思っていない)



 舞い散る花弁の渦の果て、エスタシュは、ご婦人達に弾き飛ばされたマダムの姿を認めると、群青業火(ほのお)を纏い即座の追撃を仕掛ける。
 空振ろうが外れようが構いはしない。鉄塊剣・フリントを軽々片手で扱って、ただひたすらに前へ敵(まえ)へと進むのみ。
 およそ十の斬撃が空を切り、地のみを大きく抉った頃合いに、マダムがただ遮二無二武器を振り回すエスタシュを嘲笑した。
「まるで扇風機だ。そんな大雑把な動きじゃ、アタシに一太刀だって入れられないよ」
「ああ、俺もまぐれで当たれば御の字だと思ってる……今の所はな!」
 もう一撃と振り被った瞬間、剣を取り上げられるように強く引っ張られる感触。見れば、いつの間に伸ばしたか、フリントに長く伸びたマダムの腕が巻き付いている。
 埃被ってた中華鍋なら幾つだって喜んで差し出せるが、燧石(これ)ばっかりは手放せなせない。地を踏む脚が無理矢理引きずられ、両掌が裂け血(ほのお)に滲もうとも、エスタシュは自身の怪力を総動員してマダムの略奪に抗う。
「椋!」
「わかってる」
 椋がからくり糸を繰る。
 エスタシュの肩を蹴り跳躍するオボロは、伸びきった腕の始点、マダムのがら空きの胴体へ白掌を打ち付ける。が、
(「遠いな……」)
 糸越しに伝わる感覚。オボロの一撃は分厚い脂肪に阻まれて、骨にも内臓(きゅうしょ)にも達していない。それでもフリントに巻き付いていた腕を剥がせただけ上等か。
「危ねぇ危ねぇ。蟹どももこうやって武器取られたワケだ。椋、気ぃ抜いたらお前の骨もやられっぞ」
 愛剣を略奪されかけたエスタシュは大きく息を吐く。
「……正直気骨という点から見ると、あのオバチャリオンに関心はあるんだがな。骨らに手を出されない限り観察してみたい」
 オボロを繰りつつ椋は見定めるように目を細めた。驚くくらい堂々とした面の皮の厚さ……気骨もそうだか、あの何処までも伸びる腕、一体どんな骨格構造をしてるのか、椋個人としては興味が尽きない。
「マジかよ。骨達にゃ薄い厚いとかそれ以前に面の皮なんざ存在しねぇし、相性最悪の部類だろ」
 まぁ、実際の皮膚の厚さを指してるわけでもねぇだろうが――血(ほのお)を拭ったエスタシュは、冗談交じりの軽口を叩く。
「いくら不利でも、まあ仕事だからな。あとは一応盗賊たちのおかしらとして、簡単に里を明け渡すのは癪だろ」
 不利なのを自覚したうえで、一つ策を考えたんだが――オボロを筆頭に、椋は全ての骨格人形を前線に投入し、策を共有し合うに足りる僅かな時間を稼ぐ。
「ああいう女性はイケメンが好きだと何処ぞで聞いた。なので自称イケメンを餌に使い、」
「ちょっと待て。自称イケメンって誰だよ?」
「その点は問題ない。自称エスタシュ・ロックドアという自称羅刹が暇さえあれば自称イケメン自慢をしているらしい」
「俺かよ。してねぇよ。した覚えがねぇよ。ていうかお前俺の事別にイケメンだと微塵も思ってないだろ?」
「イケ骨だとは思ってる」
「初めて聞いたぞんな単語。まぁいい……」
 エスタシュは天衝く程に炎を焚いて合図を出し、駆け付けた大型バイク・シンディーちゃんに騎乗して、エンジンを噴かす。主の期待に応えるような、惚れ惚れとする排気音。どれだけ世界を跨ごうと、シンディーちゃんは絶好調だ。
「わー。バイクがバリバリ言ってるよー」
「炒飯おかしら何するつもりー?」
 ヒョウ柄ガードマンをのめしつつ、ゆるふわ盗賊はエスタシュに尋ねた。
「バイクでワルい事と言えば決まってんだろう。そう……『族』だ」
「ぞくー?」
「応とも蟹ども。盗賊な上に暴走族、悪の上塗りよ。厚顔なオバチャンには青春の若き過ちの力? だ?」
「おー、なるほどー?」
「何だかわかんないけど行けそうな気がするー」
 出来るだけ邪悪な顔をして、含蓄ある様な口調で語ってみるが、途中から自分でも何を言ってるのかよくわからなくなった。
 要するにこう、厚顔を上回るエネルギッシュさがあればなんとかなる的な。まぁそんな感じだ。
「若き過ちというか、現在進行形の過ちじゃないだろうか29歳よ」
「言うな。今更一々振り返っちゃいられねぇ。このまま20代を走り抜けてやる」
 そんなハードボイルドっぽい炒飯おかしらに刺激されたか、盗賊たちも盗んだバイクを持ち出して、ミュージックホーンをパラリラパラリラ、爆走への準備を整える。

「正直言って怖いけどー、なけなしの勇気を振り絞りつつー」
「僕たちの里はー。僕たちが守んないとだねー」
「こっちはいつでも出発(でっぱつ)出来るにゃー。アニキ行くにゃー。バイク乗りの魂をあの奥さんに見せつけてやるんだにゃー」
「ごーごー! れつごー!」
「よーし、こうなったら皆で一泡吹かせてやろうよー」

「……………おい椋。今何か、」
「エスタ頑張るにゃー。たとえ死んでも骨は自分がきちんと拾っておくにゃー」
「唐突に変な語尾付け始めるのやめろ俺が死ぬ!」
 そして、漢はバイクのアクセル全開に、決して後ろを振り返らない。何か居そうで怖いからとかではなく。
 アニキたるもの清も濁もカオスもトラブルも、全て呑み込んで進むのが度量と言うもの。
 エスタシュ率いる盗賊暴走団にブレーキは無い。フリントを大回転、全速力で駆け抜けて、目指すはマダムの首一つ。
「おや。アラサーがお山の大将気取って暴走かい? さぞや楽しいんだろうねぇ?」
「アラサー言うな。そんくれぇわかってるっつの」
 ガードマンの相手を盗賊たちに任せ、エスタシュはマダムに一騎打ちを挑む。
「他にやることないのかい? もしかしてプー太郎って奴なのかい?」
「誰がプー太郎だ! 働いとるわ!」
 幾度目かの振り下ろし。しかし当たる気配には程遠く。不意打ち気味に左腕より棘の蔓を延ばしてみるが、それも躱されてしまう。
「いくらやったって無駄な話さ。ここまで来ると諦めが悪いのか頭が悪いのか解らなくなるねぇ?」
「やめろ、今更言われなくたって、頭悪ぃのは自覚してんだよ!」
 散々の挑発に、エスタシュはぎりりと歯噛みして、怒り任せた一撃をマダムにぶつけようとする。
 が、その隙を待っていたといわんばかりに、マダムはエコバッグから剣を取り出し、おもむろフリントに打ち付ける。
「くそっ! ついノッちまった!」
 突然の衝撃にフリントはエスタシュの手から離れ宙高く――。
「盗ったよっ!」

「――ああ。そうだ。盗ったとも」
 息混じりの、かすれるような声がした。
 派手な暴走、喧しい音楽、正面からのぶつかり合い、蠢くカニたち、戦火の音、そして挑発に乗ったエスタシュ。
 全てはこの瞬間のためのブラフだ。
 音に紛れ、殺意に隠れ、最初から存在しなかったもののように極限まで気配を消して、マダムへの接近を果たした椋は、彼女の意識が宙に放り投げられたフリントへと向かったその瞬間、軋む骨の僅かな音色よりもなお静かに、そうっとからくり糸を這わせてエコバッグの持ち手を絡め取り、引き寄せる。
「シーフはシーフらしく、だ。この世界だと合法だろ」
 椋は自身の手中に収まった戦利品(エコバッグ)を玩ぶ。バッグを狙ったのは高圧的なマダムへの意趣返し3割、単純に欲しかったのが7割。中が綺麗なら、骨らを多く運ぶ良い手段になる。
 だが、性能諸々をじっくり確認している暇は無いようだ。マダムは何処からかスペアのバッグを取り出し探り、四次元空間からマシンガンを引き当てる。
「アタシが盗るのは良いんだよ。でもね、アタシから盗る奴には容赦しないよ!」
 マダムの敵意(しせん)が椋に刺さる。余程頭に来たのだろう。銃口も砲口も何もかも、マダムが持ちうるすべての戦力が椋へ向けられ、一斉に襲い掛かる。
 しかし椋は『まるで10秒先の未来を見てきたかのように』それら殺意の暴威をひらりしなやかに躱し続ける。けれどもそんな紙一重のステップも、持って精々十秒足らず。十一秒目の死は避けられない。
「エスタ」
 故に椋は、相棒の名を呼んだ。

「あーあ、俺を生贄にするなんざ、なんてひでぇ相棒だ。ま……そーいう奴だって知ってっけどよ」
 鈍く宙を舞うフリントを受け止めたエスタシュは、その武骨な刀身に群青業火(ほのお)を這わせ一振り、マダムを見据えた。
 耳を劈くようなエンジン音。排気孔から巻き上がる炎はドレスの如く。そしてマダムが気付いた時にはもう遅く。
「最後にモノを言ったのは、面の皮より筋肉だったな!」
 数十の斬撃が空を切ろうとも、全力全霊(たった)の一撃入れば全てが覆る。
 熱き刃が、徹底的にマダムを打ちのめした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

森乃宮・小鹿
どうやらボクの本気を見せるときが来たようっすね

まずは逃げます
【逃げ足】全開、子分達が豹柄にされようと武器盗られようと逃げます
逃げながら攻撃の軌道を読み、ついでに被害総額と味方の負傷具合を確認

攻撃の隙を見つけたら全速前進
よくもうちの可愛い子(分)達に酷いことして
ガードマンのおっちゃんらを裏切りましたね!
あの子達に渡した金塊に、ガードマンのおっちゃんらの保険対象外の怪我、押し売りされた豹柄……
なにより里(ボク)の戦利品(モノ)を奪った罪をその身で償ってもらうっす
上乗せした力をこの拳にありったけ集めて一撃を叩き込んでやります
……は?おっちゃんらの怪我はボクらが原因?
はん、知らねーっすね!食らええ!!



「バンビおかしらー。頼まれた物ー宝物庫から持ってきたよー」
「おーおー、どーもどーも。このデッドorアライヴな土壇場に、お使いやってくれてサンキューっす」
 既に他の仲間(おかしら)達が激戦を繰り広げている傍ら、そこから少し離れた位置で戦況を見守っていた小鹿は、お使いに出していた盗賊から密かに『例の物(ブツ)』を受け取って、独自の行動を開始する。
「これこそはー、見積もりから損害額までー、どんな目的のどの数値でも一瞬で算出できるというー、電卓いらずの超魔術全自動メカニカルそろばんー」
 魔術の産物なのか機械なのか、仕組みの程はさっぱりわからないが、おかしら権限で里の宝物使いたい放題なので、使えそうなものは何でも使ってしまおうという、四天王的発想だ。
「これさえあれば……ふっふっふー。どうやらボクの本気を見せるときが来たようっすね」
 真も偽りも、勝利に至る全ての事象は掌中に。片眼鏡を怪しく光らせ、小鹿は邪悪な笑みを浮かべる。
「僕には良く解んないけどー、バンビおかしらならー、なんやかんや被害を最小限に抑えて勝てるって事だよねー?」

「えっ?」
「……えーっ?」

 小鹿の応答から何かを察したのか、お使い盗賊のゆるふわが一瞬止まる。
 しかしそうこうしてる間にも、小鹿達の存在に気付いたマダムとヒョウ柄の軍勢が、足並み揃えて迫ってきた。
「わー、何だかいっぱいこっちに来るよー! おかしら―、どうしよー!?」
「遂にやって来たっすねー……よし! じゃあ逃げましょ」
「えーっ!?」
 小鹿は一瞬の躊躇なく、くるりとレオパルド軍団に背を向けて、初手余裕の敵前逃亡。出遅れたお使いゆるふわも、なんとか齧りつくように、わさわさ小鹿の後を追う。
 しかし、逃げ惑うのが不倶戴天の猟兵(てき)ならば、悪魔(オブリビオン)はどうあれ決して見逃さない。豹の軍団は容赦なく、小鹿たちを追い立てる。
 頬を掠める暗黒砲弾。トリモチの水溜まりを飛び越えて、何か殊勝にもレジスタンス的に立ち向かっているゆるふわ盗賊たちとすれ違い、直後に上がった悲鳴を敢えて黙殺し、小鹿とお使いゆるふわはとにかく逃げる。
 先の見えない逃亡劇の果て、やがてたどり着いたのは、あの超大型ダンプカー。
「ふぅ。ちょっと休憩と言う事で」
 息を整え、小鹿は算盤の示す『額』を確認する。ここへ逃げるまで、宝物とか、仲間とか、なけなしの善性とか結構いろんなものを犠牲にした気がするが、まだ思うような額じゃない。
「ふー。ふー。とりあえずこのダンプカーの陰に隠れていればー」
「――なんて、甘い事を考えてるなら大間違いさ」
 面の皮の厚さ――絶対的な余裕を感じさせる声が響いた刹那、小鹿達の寄りかかっていたダンプカーが動き持ち上がり、宙に浮く。大蛇の如きマダムの腕がダンプカーを束縛し、引き寄せていたのだ。
「そんなー!」
 荒唐無稽なマダムの剛腕に、恐れおののくお使いゆるふわ(元ダンプカー運転手)。最早周囲にめぼしい逃げ場はなく、ガードマンと、そしてヒョウ柄に染まってしまった盗賊たちが、じりじりと、小鹿達を追い詰める。
「クックックー。キミモ豹柄ニ染マルトイイネンデー」
「ホンマソウヤワー。ヒョウ柄モ結構エエヤンカー」
 生気のない関西弁を念仏のように唱える豹柄ゆるふわ。義務感満載のダイレクトマーケティングに、お使いゆるふわは首を振る。
 最後の頼りと、お使いゆるふわが絶望のヒョウ柄から小鹿に目を移すと、窮地に有りながら、彼女は柔らかに微笑み、すっと、ゆるふわに金の延べ棒を差し出した。
「えー? これは一体ー?」
「前払いっす。慰謝料の」
「………えっ?」
「ハイ受け取ったっすね返品は受け付けませんそんな訳で蟹バリヤー!」
「うわああああー!?」

 命からがら窮地を脱したバンビおかしら。そして大型ダンプカーと、追加の金の延べ棒と、そしてお使いゆるふわの尊い犠牲を合算し、遂に、算盤は『兆』の価を弾き出す。
 ……そう。小鹿が待っていたのは、被害額が兆に達するこの瞬間だ。
 反撃の時は今。逃亡劇から一転、小鹿は全速全身、マダムへ走る。
「よくもうちの可愛い子達に酷いことして、ガードマンのおっちゃんらを裏切りましたね!」
 ヒョウ柄ガードマンの群れを蹴っ飛ばし、ビシリ、と、小鹿は射貫くようにマダムを指さした。
「あの子達に渡した金塊に、ガードマンのおっちゃんらの保険対象外の怪我、押し売りされた豹柄……」
 瞼を閉じれば、脳裏に蘇る子分たちとの楽しい記憶。エクササイズとかボーリングとか最後まで自分の身を案じてくれたお使いゆるふわとか。
 頬を伝う泪。力不足から、ヒョウ柄に沈むレジスタンスゆるふわ達を黙って見ていることしかできなかった事が悔やまれる。捏造は一切ない。
 ガードマンたちだって、マダムがいなければ別の就職口(みち)を見つけていただろう。
「なにより里(ボク)の戦利品(モノ)を奪った罪! その身で償ってもらうっす!」
 血液が雫となって落ちる程、強く強く握られた小鹿の拳。そこに籠めるのは仲間達を傷つけられた怒りと、今回小鹿=里が被った被害総額。即ち兆。
「と言うか、諸悪の根源のアタシが言うのもなんだけど、ガードマン達のケガとついさっきの盗賊たちのあれこれはアンタのせいじゃ……」
「はん、知らねーっすね! 食らええ!!」
 小鹿の面の皮の厚さ……もとい、被害総額(1000000000000)の大きさが、眩いばかりの光となって収束し、
 黄金色に輝く拳は、負債の返済を鋭く迫る様に、半ば八つ当たり気味にマダムのボディを深く抉ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニオ・リュードベリ
なんか圧が強いのが出てきたよ!?
でも動揺してたら可愛い手下達が苦しむだけだね
が、頑張ろう!

相手の攻撃は厄介だね
だってお気に入りの服や装備が豹柄にされちゃうし……
それなら豹柄にされないもので戦えばいいのかな?
もう一度出てきて、デモゴルゴン!

さっきはもちもちにしてごめんね!
もう一度だけ戦って!
デモゴルゴンは「影の巨人」だもの
影に模様は貼り付けられないでしょ?
さあ、思いっきり突っ込んじゃって!

さっきまでコミカルだった存在が突然本気を出してダーティーに暴れまわるとか
騙し討ちっぽくてワルいでしょ!ね!ね!
そのままデモゴルゴンに破壊の力で殴る蹴るとかで戦わせて
悪魔のことも吹き飛ばしちゃうんだから!



「おおぅ……なんか圧が強いのが出てきたよ!?」
 黄金の負債返済拳を食らい、血反吐を吐いて倒れても、誰が賠償なんぞしてやるのものかと言わんばかりにふてぶてしく立ち上がるマダム。
 脂汗を浮かべながら、それでも痩せ我慢で踏ん反り返るその姿。鬼気迫る面の皮の厚さを目撃したニオは、物理的にも精神的にもすこしひく。
 けれども可愛い手下たちの事を思えば、おかしらとして動揺してばかりもいられない。頭を振って気合を入れなおし、ニオは思考を巡らせる。
 改めて戦場を見渡せば、どこもかしこも関西弁とヒョウ柄まみれ。乗っ取られて操られてしまうのも厄介だが、お気にの服や装備の模様まで染め上げられてしまうのは、お洒落さんにとって悪夢だろう。現にゆるふわ達は小柄なニオの影に隠れておっかなびっくり反撃したり逃げたりしている。
 ……それはそれで何だか図々しい動きな気もするが、兎も角。
「だったら……豹柄にされないもので戦えばいいのかな?」
 ぽつりとニオが閃いたばかりのアイディアを零す。
「えー? そんな都合のいい存在(モノ)ってあるかなー?」
「ないんじゃないかなー?」
「ふふふ。あるんだよねーそれが……さあ! もう一度出てきて、デモゴルゴン!」
 おかしららしく邪笑したニオは高らかに、その名を叫ぶ。するとその呼びかけに答えるが如く、彼女の影が不気味に揺らぎ、今一度戦場に死と破壊の悪魔が顕現し――。
 
 ――なかった。
「……あれ?」
 訪れるのは静寂ばかり。ニオは小首を傾げてもう一度、
「出てきて、デモゴルゴン!」
 呼び掛けてみるが、やはり悪魔は出てこない。
「もしもーし。デモゴルゴンさーん……?」
 何なら影をノックしてみたり、敬語で呼んでみたりしたが、自身の影がゆらめくばかりで応答なく。これはどうしたものか頭を抱えた数秒後、
「おかしのおかしらー。あっち見てー」
 一匹の盗賊が不意に彼方を指さした。その鋏(ゆび)の先にあったのは、白く小高いモチの山。
 地震もないのに山は独りで、幽かに震え、野鳥が飛び立ち、ヒビが入り、崩落し、遂に大きく爆ぜて四散した。そしてその中心から現れたものこそ――(通常は)創造と想像の境に在る悪魔・デモゴルゴン! 
 悪魔は封印からの解放感を貪るように、影(からだ)を大きく伸ばし周囲を侵食する。今までずっと、山の中で待機していたらしい。

「さっきはもちもちにしてごめんね! もう一度だけ戦って!」
 ニオの謝罪(ことば)を聞き入れたデモゴルゴンは、その無貌でマダムを見据える。倒すべき悪魔(オブリビオン)と対峙した影(あくま)が、どのような感情を抱いたのかは定かではない。だが、デモゴルゴンの本質を考えれば、敵を蹴散らすことなど盾役を演じるよりもかなり容易い願いだろう。
「さあ、思いっきり突っ込んじゃって!」
 言われるまでも無い、と示す様に悪魔は動く。挨拶代わりに巨腕の大薙ぎ一回、進路を無理矢理抉じ開けて、殺到する砲撃を、羽虫へそうするように払いのけ、他の豹柄(モノ)など意に介さず、ただ一点、殺意と暴威で構成された掌をマダムへ伸ばす。
 そこに在るのはあらゆる光を遮るただ漆黒の人影(シルエット)。ヒョウ柄を写す余地の等微塵も無く、悪魔はマダムの支配を受け突けない。
「……だが知ってるよ。アンタ、トリモチは効くんだろう?」
 マダムは大きな口を更に大きく歪ませる。号令の下、一斉に発射されるトリモチ弾。しかしそれらが命中する刹那、悪魔の姿は消失する。否。立体(ひとがた)から平面(ただのかげ)へ、その身を屈めただけに過ぎない。そしてガードマン達の直下に潜り込んだ悪魔は、地上への復帰と同時に彼らを打ち上げ、事も無げに一掃した。
 トリモチに塗れていたのはあくまで盾をやって欲しいというニオの願いを聞き入れたが故。でなければ、わざわざ食らってやる道理も無いのだ。
 ゆらり。死と破壊の影が、戦場を覆い尽くす。
 ――腕を振るえば悪魔(ヒト)が降り、足が唸れば地が割れた。
 乱舞するのは死と破壊。物理的に襲い掛かってくるそれを、面の皮の厚さでどうにか出来るわけも無く。マダムはただ、純粋な破滅の災禍に翻弄される。
 デモゴルゴンを止められる存在は、最早何処にもいなかった。

「……どう? さっきまでコミカルだった存在が突然本気を出してダーティーに暴れまわるとか。騙し討ちっぽくてワルいでしょ! ね! ね!?」
「まさかトリモチから僕らを守ってくれたデモゴルゴンくんがこんなに強いなんてー」
「死と破壊を司るってー、存在自体がワルかっこいいよねー!」
「がんばれー! デモゴルゴンくーん!」
 ぴょんと跳ね、ふふん、と得意げに、デモゴルゴンの雄姿を誇るニオ。そしてオペラグラス片手アイスを齧りながら応援する盗賊たち。ここだけ何だか空気が違う。しかし意気揚々と出て行ったとしても、高確率で攻撃の余波に巻き込まれそうな予感がするので、割と最適解な行動かもしれない。
「よーし! そのまま死なせない程度に全部吹っ飛ばしちゃえー!」
「いけー!」
「やっちゃえー!」
 ニオもそんな蟹達の空気に乗っかって、デモゴルゴンへ力の限りエールを送るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

矢来・夕立
▼方針
・UCによる弱体化に注力
・武器を取り戻させる

蟹の皆さんを嗾け…ンン。鼓舞するところからです。
圧迫拳を理解したのなら一人一人が無双の盗賊にして武人。
己の力でブツを奪い返せます。知らんけど(小声)。

こちらは《闇に紛れて》奇襲。【紙技・影止針】。
本命を三枚当てたうえで、ユーベルコードの解除を狙う。
エコバッグにしまったもの、いったん全部出してもらいます。
各自この隙を逃さず武器になるものを取り返すこと。

オレは圧迫面接官から万引きGメンに転職したんです。
だってあのおばさん金を払ってないじゃないですか。万引きですよこれは。
なんでこんなことしちゃったんですか。とりあえず旦那さんに電話しますから。



 死と破壊の破局的暴風雨が吹き荒れる修羅の巷。
 まさか生徒たちの門出がこんな日になろうとは。それでもおかしら講師夕立は、最前線へ赴く生徒達へ、断腸の想いながらも心を籠めた激励を送り、彼らを鼓舞する。
「……あなた達は講習初日にこう言いました。『最後に頼れるのはやはり自分の鋏(コブシ)』だと」
「おー、言った言ったー」
「基本にして真髄って奴だよねー」
 調子に乗ってシャドーボクシングを始める生徒達。多脚による変幻自在のフットワークは光るものがある……かもしれない。
「そう。圧迫拳を理解したのなら一人一人が無双の盗賊にして武人。たとえ相手が遥か格上であろうとも、己の力でブツを奪い返せます」
「わー、つまり免許皆伝って奴ー?」
「なんてこったー。 僕たちはあまりにも強くなりすぎてしまったんだー」
 夕立のお墨付きに、盗賊たちはゆるふわ盛り上がる。よくよく見るとそんな彼らの顔つきが、初日と比べて随分精悍になっているのがわかるだろうか。
 夕立は遠い眼差しで、巣立っていく生徒達を見遣る。彼らならもう大丈夫だ。どんな苦難に出逢っても、きっと自分たちの力で乗り越えていけるだろう――。

「――知らんけど」
 夕立はぼそりと呟いた。ここまで全部茶番(ウソ)である。
 彼らの顔つきと言われても布被ってるからわからないし、カニもおだてりゃ木に登るという奴で、どうせ死地に突っ込むのなら、嗾けようが何をしようが士気は高いに越したことはないだろう。
 真実は時に残酷だ。しかし虚偽(ウソ)は時に優しい。覚悟を決める時間位は与えてやれるのだから。
「んー? おかしら今何か言ったー?」
「いいえ? 別に?」
 夕立は至極普通にしらを切り、ヒョウの軍勢を睨む。別に蟹達をいじめている訳でもない。あんな派手なものに紛れ込むためには、少々彼らの手伝いが必要だ。
「それじゃあここからはお互い自由に行きましょう。ゴールはマダムの喉元です」
「自由ってー、どれくらい自由にやっていいのー?」
「そうですね……仮に皆さん方がヒョウ柄に呑まれた場合、オレは飲まれた悪魔(ヒト)を問答無用で即座にぶちのめします。それくらいの自由度です」
「えー!?」
 ……などと、驚く蟹達も既に遠く、夕立は夜来(つき)を翻し、派手な色合いの戦場(けものみち)を駆け抜ける。砲撃もトリモチも、今更雑魚に構ってはいられない。避ける時間すら惜しい。きらりと雷花を閃かせ、一瞬交差したその時に、すれ違いざまキャノンを竜檀(た)つ。そうすれば、後はいかに強化されていようと趣味の悪い鎧と大盾を纏う木偶(マネキン)だ。背から撃たれる心配も無い。最高速のままマダムの伸びる腕を躱し、夕立はちらと後続を確認する。

「えい!」
 炸裂するゆるふわ圧迫拳。
「ナニスンネ……はっ!? 俺は今まで一体何を?」
「わー!? 何か知らないけどガードマンくんが正気に戻ったー!」
「あー、そっかー。自宅警備員のガードマン君達にはヒョウ柄より圧迫面接の方が効果あるんだー!」
「もしかしておかしらはそれを知ってて僕らに圧迫拳をー……!?」

「――ちっ! 考えたね。まさかそんな方法でアタシのヒョウ柄を破るなんて……!」
「………………。ええ。はい。そうですね」
 そういう事にしておこう。マダムの動揺に付け込んで、『一つ目』の手裏剣を打ち込めたのは確かなのだ。
 接触後、すぐ蟹とガードマンの喧騒に身を隠し、夕立は次の機を窺うが、流石の面の皮の厚さと言うべきか、マダムは中々隙を見せない。
 ならば無理矢理隙を作ってやればいい。腕が二本しかないのを命取りにしてやる。
 闇に紛れ戦火に紛れ殺意に紛れ、夕立は四方から一本の本命と同時に、無数の蝙蝠の式紙・大量生産の手裏剣式紙(ダミー)を解き放ち、数に任せてマダムを攪乱する。これで『二つ目』。
 しかし当然、マダムは警戒を強めるだろう。奇襲・正攻法いずれにせよ、最後の一本を当てるのは至難の業だ。
 故に夕立はあえて敵(マダム)の前にその身をさらす。
「ふん! まさか盗賊たちの首魁に圧迫面接感が紛れ込んでいたとはねぇ……!」
「それはもう昔の話です。オレ万引きGメンに転職したんです。ついさっき」
 万引きGメンが盗賊を率いるなんてワルでしょう? そう言いながら、夕立は懐からおかしら専用スマートフォンを取り出した。
「あのー。おばさん金を払ってないじゃないですか? 万引きですよこれは。良くないですね。いえ善悪の話では無く。ワルにしたって余りにショボい」
「盗むんならやっぱり厳重な警備してる所からじゃないとエレガントじゃないって言うかー」
「ねー」
「寄りにもよって盗賊どもが説教かい!? 喧しいよ!」
 さすがのマダム。全く悪びれない。しかし、夕立はスマートフォンをポチポチと。
「なんでこんなことしちゃったんですか。とりあえず旦那さんに電話しますから」
「えっ!? あっ、ちょ、待ちな! 旦那にだけは――」
「はい『三つ目』」
 さくっとマダムの掌に刺さる棒手裏剣。その瞬間、幸守たちがエコバッグをひったくり、空高くからひっくりかえす。
『紙技・影止針』。影縫の術を仕込んだ手裏剣が3つ命中すれば、その瞬間あらゆるユーベルコードは無効化される。
「各自、この隙を逃さず武器になるものを取り返すこと」
「おっけーい!
 力を失ったバッグからばらばら落ちる武器の雨。剣、銃、魔道書、ゲームソフトに中華鍋など、盗賊たちはそれぞれ禁忌に片足を突っ込んだ火力の武器を握りしめ、

「ちょ、アンタら待ち――」
「それではー、本日はどうもありがとうございましたー!」
「貴殿の今後益々のご活躍をー、お祈り申し上げまーす!」

 一瞬の静寂。
 そして刹那。
 全てを呑み込み消し飛ばすほどの大爆発。
 盗賊達は、百パーセントの圧倒的圧迫面接力で、マダムに不採用宣告を叩きつけたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

文月・統哉
柄だけなんて片腹痛いぜマダム
豹の姿形はどこいった?
そんな中途半端な覚悟で
悪の道を貫けると思うなよ!

『着ぐるみを宣伝し普及させる』強い意志で
クロネコ大元帥へ大変身
あんま変わってない?
にゃふふふ甘いな
真の姿(着ぐるみ)に
湧き出す野望を着ぐるみオーラとし纏う事で
飛翔力や戦闘力上昇は勿論の事
もふもふ感が3割アップしてるのだ!(どやぁ

そして大元帥も着ぐるみ戦闘員もフルフェイス型
面の皮の厚さ(物理)じゃ負けないぜ?(ニヤリ

さあ行くぞお前達
着ぐるみパンチ
着ぐるみキック
エコバッグは猫柄にすり替えて
厚化粧はメイク落としと基礎化粧品でお手入れを
着ぐるみパジャマ着せて
最後は着ぐるみヘッドバット

骸の海に還って寝てな!



「にゃふふふ!」
 不採用通告の後に来たるおかしらこそ、誰あろう採用活動に積極的だった文月・統哉。またの名を元帥おかしら。
 混沌極める戦場に在って、しかし着ぐるみ部分に一切の汚れなく、元帥おかしらは悠然と、マダムが体勢を立て直しきるのを待つ。世界征服を狙うものとして、これくらいの余裕は当然なのだ。
「柄だけなんて片腹痛いぜ、マダム。豹の姿形はどこいった? そんな中途半端な覚悟で悪の道を貫けると思うなよ!」
「……へぇ。だったらアンタのその恰好が、完璧な覚悟って奴なのかい? その割にゃ随分かわいらしいじゃないか」
 皮肉めいた口調で笑うマダム。盗賊たちもガードマン達も割と一発で統哉の軍門に下ったというのに、やはり格が違うようだ。
「にゃふっふ。いやいや、これは言わば第一形態。そう。クライマックスはここからだ! にゃはは我が真の姿を見て恐れおののくがいい――!」
「なんだってー? 元帥おかしらは第一形態で僕らの相手をしていたというのかー!?」
「くっ! 魔界に於いて可愛いは絶対悪。しかしまさかこれほどとは――!!」
 とてもいい感じに盛り上がってくれる着ぐるみ軍団。構成員は今の所きぐるみゆるふわと、着ぐるみを着込んでたおかげで豹の災禍から逃れた少数のガードマンだ。
 統哉の心中にあるのは『着ぐるみを宣伝し普及させる』と言う、ただ一点の、しかし最終的に世界を呑み込まんとする大きな野望。その野望が強く、激しく燃え盛り、超新星の如き光を放つとき、クロネコ元帥は、クロネコ大元帥へと超絶進化を遂げる――!
「――そう。これこそ我が真の姿、にゃふふどうだ? 可愛すぎて声も出ないだろう?」
「いやアンタ………あんまり変わって無くないかい?」
 何という面の皮の厚さだろう。マダムは大元帥の真の姿に思わず突っ込んだ。
 たしかに通常の元帥からキグルミ=クロネコ部分の瞳がより強く鋭く邪悪を湛え、ひげが若干ぴんと張り、全身ちょっとぞわぞわしてる感じで、野望と言う名のオーラを纏い、風が無くとも常時マントがはためくようになったくらいではあるが。
「にゃふふふ……甘いな」
 大元帥は笑う。外見だけで判断するものの何と愚かな事か。なので大元帥は直々に真の姿のスペックを語ることにした。
「湧き出す野望を着ぐるみオーラとし纏う事で! 飛翔力や戦闘力上昇は勿論の事!! もふもふ感が3割アップしてるのだ!!!」
「もふもふ感が三割アップだってー!?」
「元帥……いいや大元帥おかしら……まさかそこまでの傑物(モノ)だったなんて……っ!」
 むしろここまで思い通りのリアクションを返してくれる彼らこそ得難い人材なのでは。大元帥おかしらは、そんな彼らへの報いとして、新たな着ぐるみをクラフトする。
「大元帥の部下にはそれにふさわしい姿がある。さぁ皆!これに着替えるんだー!」
「りょーかーい!」
 その時間わずか数秒。意気揚々と新たなキグルミを装着する団員たち。ふわっふわの黄色時に、大小さまざままだら模様の黒斑点。その姿こそまさしく――豹!
「にゃふふ、簡単な話だ。最初からヒョウ柄なら、模様を生やすも何もないだろ?」
 そして大元帥も軍団も、きちんとしっかりフルフェイス。多脚の団員が割とすごいルックスになってるが、それでもかわいいの範疇を脱していないのでオーケーだ。
「文字通り。面の皮の厚さじゃ負けないぜ?」
 にやり、と邪悪に笑うクロネコフェイス。
「さあ行くぞお前達!」
「おー!」
 地を蹴って、大元帥は飛翔する。この高さこそ大元帥たるものの目線に相応しい。やってみたかっただけですぐ降りるのだが。
 大元帥の意のままに、着ぐるみ軍団はマダムの激突する。豹の着ぐるみ(レオパード)対ヒョウ柄(レオパード)。一見互角に見えた戦いは、しかし姿形と感触がより本物に近いきぐるみ軍団の優勢に転じ、そこからヒョウ柄軍団がどれだけ足掻こうと覆らない。
「着ぐるみパンチ!」
「ナンヤコレー……」
 ふわっふわの触感が、鎧の存在すら無視して、関西弁に浸食されたガードマン達の心を鷲掴む。
「着ぐるみキック!」
「メッチャ心地イイヤンケー……」
 優しい肌触りで蹴り飛ばされたガードマンは、その余りの心地よさにそのまま就寝(ダウン)する。
「ええい、揃いも揃って不甲斐ない! みてな……って!」
「にゃはっは。こちら取り換えておきました!」
 武器を取り出そうと、エコバッグに手を突っ込むマダム。しかしバッグはすでに、大元帥の手によって猫柄模様のモノにすり替えられていた!
 大元帥の暗躍は終わらない。呆気にとられるマダムをクロネコワイヤーで拘束すると、その厚化粧をメイク落としと基礎化粧品でごっしごっしぬーりぬり。人並外れた厚化粧すぎてメイクと言うか最早工作や日曜大工に近い感覚だったが、何とかお手入れ出来たのでマァヨシ! としよう。
 それからキグルミパジャマを羽織らせて、紳士な仕草でそっと姿見を。
「こちらどうでしょう?」
「あら素敵……」
 それは良かった。ならばあとはお眠の時間だ。
 大元帥は海老ぞりに、大きく大きく振りかぶり、
「――骸の海に還って寝てな!」
 ギラリと輝く猫の両眼。衝撃を気にする必要のないフルフェイスの着ぐるみで、思い切りヘッドバッドをぶちかました。

成功 🔵​🔵​🔴​

葬・祝
【彼岸花】

うわ、……すごい人種も居るんですねぇ……
嗚呼いえ、見慣れない人種で少しびっくりしただけです
居ましたねぇ……君のその熱烈な追っ掛けは、物理的に頭の可笑しい犯罪なので、比べちゃいけないと思いますよ
あれだけ面の皮が厚いと、精神に作用するものは効きが悪そうですしねぇ……
あら、別に普通に殺せば良いんでしょう?

……あ、カフカ
羽団扇は出しちゃ駄目ですよ
あれ、吸い込まれたら倒すまで戻って来ませんよ、多分
盗難二回目は流石に止めてくださいね、笑っちゃうので
んふふ、すっかり逞しく育って何より

はいはい、近付かないでくださいね
悪趣味に付き合わされるのは御免ですから
染められる前に相手の動きを止めてしまいましょう


神狩・カフカ
【彼岸花】
おっ、やっと悪魔らしい悪魔のご登場か?
いや、まあ…女性にも色々あンだよ
突っ込んでやるなって
刃物持って心中迫ってきた女や
脚折って監禁しようとしてきた女に比べりゃマシさ
なんだ?ある意味はふりの天敵だったりしてなァ

ははっ!手癖の悪ィマダムだこって
ンじゃ、おれのとっておきの羽団扇で――
って、人間に羽団扇騙し取られたのは昔の話だろ!
あれから何百年経ってると思ってンだ…ったく
それに、おれにその手は効かねェサ
伸びてきた手は結界術で弾き返してやって
それ、見たことか!
そもそもあのえこばっぐとやらが無けりゃいいンだよな?
衝撃波で吹き飛ばして
奴さんの手から離れたところを焼却しちまおうか
これも神罰ってやつサ



 クロネコの全力全霊ヘッドバッドを受けてしまったものだから、折角のメイクも血まみれ泥だらけ。マダムは再び顔面に厚化粧を施して、頭領の数の差などものともせずに居丈高を繕った。
 矢張りあのマダムこそ世界を滅ぼすオブリビオン。正真正銘の大悪党か。
「おっと、やっと悪魔らしい悪魔のご登場か?」
 カフカは安堵するように、煙混じりの息を吐く。悪人……を演じる善人相手、手を上げるのにも疲れていた頃合いだ。それに比べて猟兵とオブリビオンがぶつかり合うのはいつものこと。ここから先は、何の気兼ねもいらないだろう。
「うわ、……すごい人種も居るんですねぇ……」
 そんなカフカの心中よそに、祝はいっそ感嘆したような調子で、マダムを一目見たありのままの感想を述べる。
「はふりなァ……いや、まあ……女性にも色々あンだよ。突っ込んでやるなって」
 やれやれと、カフカは首を振る。祝のおかげで、全く関係がない場面なのに、厄介な記憶を思い出してしまった。
「嗚呼いえ、見慣れない人種で少しびっくりしただけです」
 自由に世界を渡れるのも善し悪しですねぇ。祝の皮肉(くち)は止まらない。
「言ったって、アレだ。刃物持って心中迫ってきた女や、脚折って監禁しようとしてきた女に比べりゃ、ネアカに振り切れてる分だけマシさ」
「居ましたねぇ……私が言うのもなんですが、君のその熱烈な追っ掛けは、物理的に頭の可笑しい犯罪なので比べちゃいけないと思いますよ」
「……全くだ。まさかはふりにたしなめられる日が来るたァなァ……」
 ばつが悪そうに、カフカは頭を掻いた。
「ふふふ。悪に染まってきましたか?」
「何。この程度、一ッ風呂浴びれば全部流れちまうだろうさ」
 最後に一服。煙管を仕舞う。紫煙を燻らせながら戦える相手でも無いだろう。
「おかしらー、僕らに任せてよー」
「ぼくらが援護するって言うかー」
 等と言いながら、ゆるふわ達は距離を取り、銃火器でヒョウ柄軍団を攻撃する。得物が良いのか、強化されたヒョウ柄ガードマン達ともそこそこやり合えている様子だったが、どれだけ離れていようともマダムが一度腕を延ばせば即座に武器を没収され、文字通りのお手上げだ。
「ははっ! 手癖の悪ィマダムだこって――」
「そうですねぇ。あれだけ面の皮が厚いと、精神に作用するものは効きが悪そうですしねぇ……」
「なんだ? ある意味はふりの天敵だったりしてなァ」
 珍しく思案げな様子の祝を揶揄うように、カフカは笑う。
「あら、別に普通に殺せば良いんでしょう?」
「……おやまァ、いつも通りの平常運転で」
 今度は逆に祝が笑う。私をからかうにはまだまだですね、そう言って、無数の呪符を風に流す。精神(こころ)を操作しなくとも、悪魔(ヒト)を呪う方法など幾らでも。
「殺る気だな」
「それは勿論。今回は其方もそうでしょう?」
「ああ。ンじゃ、おれのとっておきの――」
「……あ、カフカ。羽団扇は出しちゃ駄目ですよ」
「あァ? 何でだよ?」
 今まさにカフカが取り出そうとしていたのがその羽団扇だった。祝が急に止めるものだから、カフカは中途半端なポーズで硬直することになる。
「あれ、吸い込まれたら倒すまで戻って来ませんよ、多分」
「――って、人間に羽団扇騙し取られたのは昔の話だろ! あれから何百年経ってると思ってンだ……ったく」
 そりゃ杞憂ってもんだぜ? 言って、カフカは天狗の羽団扇を携える。
「本当ですか? 盗難二回目は流石に止めてくださいね、笑っちゃうので」
「見てろよ。おれにその『手』は効かねェサ」
 カフカが団扇を扇いだ直後。一陣の風が戦場を駆け抜けると、戦場を覆う空気(かぜ)の質が変化する。
 魔界に似つかわしくも無い、神気を帯びたその渦中で、そんな物がどうしたと、団扇目掛けてマダムの両腕が迫る。しかし腕が団扇(ゴール)にたどり着くその直前、不可視の結界がそれを遮り、マダムがいくら武器で叩こうと、それ以上団扇(まえ)に進ませませない。
「それ、見たことか!」
 カフカは邪気無く得意げに、天狗の団扇をもう一扇ぎ。巻き起こった青嵐は、祝の呪符に絶好の風向きと風量を提供する。
「これはこれは。器用ですねぇ。私も負けてはいられません」
 カフカが操るのが正の結界なら、祝が操るのは負の結界だ。風を味方につけた呪符たちは、複雑怪奇、縦横無尽に飛翔して、ヒョウ柄の海へ楔を打ち込むように結界で分断し、束縛の呪詛を零すことで再結集の機すら与えない。正気を失ったまま身動きが取れなくなったガードマンは哀れだが、『そんなもの』だろう。命を取らないだけ優しい措置だ。
「はふりくんが頑張ってるのにー、僕らだけ隠れてるなんてできないよー!」
「僕たちだって呪詛使いの端くれー。はふりくんを援護するんだー!」
 盗賊たちへの精神操作は依然として覿面だった。もしかすると既に切れているかもしれないが、だとしても性根が単純なので、そのまま普通に祝の事を親友だと思っているのだろう。
「おいおい……!」
 カフカが突っ込む間すらなく、呪符の必殺圏に入り込むゆるふわ達。
 威勢の良さは認めるが、マダムに一撃入れるまで祝は加減しないだろう。
「全く仕様が無ェ蟹達だ!」
 けれども同時に自分をおかしらと仰ぐ可愛い子分たち。だったら神様としての威信にかけて、護ってやるのが筋だろう。カフカは盗賊たちに結界を張って、気ままに暴れる彼らの安全を確保する。
「はふり! そっちまでは手が回んねェ! 自分の身は自分で何とかしろよ!」
「んふふ、解っていますとも。すっかり逞しく育って何より」
 元より呉れてやるものなど何一つない。鳴子の音が響く。祝は蛇の如く這いずる腕を躱し、残りの呪符を一点――マダムに集中させる。
「はいはい、近付かないでくださいね。悪趣味に付き合わされるのは御免ですから」
「悪趣味とは大した毒舌じゃない、か―!?」
 悪霊にだって好みはある。豹柄にも、強欲な腕との鬼ごっこにも付き合うつもりは毛頭ない。
 祝が数百の呪符を注いでマダムを拘束すると、盗賊たちがそれに乗じて徹底的に呪詛(こぶし)で殴った。
「そもそもあのえこばっぐ……とやらが無けりゃいいンだよな?」
 三度の風。吹き荒び、駆け抜ける衝撃波がマダムの腕からバッグを奪い、バッグは天高くを彷徨する。
 そして空のバッグと地のマダムが一直線に並んだ瞬間、稲光と共に眩い雷が二つを貫き、焼却した。
「ま、これも神罰って奴サ」 
 そうしてバッグは消し炭と化し、何とか形を保っているのはマダムのみ。

「――ですがカフカ、彼女は周到にも、複数のバッグを持っているようですよ?」
「なァに、幾つあるのか知らねぇが、流石に無限じゃねェだろう。何処かのおかしらがとどめを刺すときに、決め手になるならそれで良いサ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神崎・伽耶
あら、大ボス登場かしらん?
(ゆらゆらする真の姿で)

あ、ヒョウ柄。いいわよね、レオパード。
あたしも迷彩代わりに着ようかなって思ったことあるのよね。

あらあら。
奥様のおバッグ、こちらに似てませんこと?(魔法鞄出して)
お伸びになるお腕も、レプリカちっくですわよね。おほほほほ!

うん、弱点看破!
では、お賭けになりますかしらん?

あんたたち、全員手を……ブギ布の裾、繋いじゃって。
いーい、絶対離しちゃダメよ!

これで全員が一つの物品。バッグには入らない!
詰みね!(どっちが?)

さて、オバチャリオンの自転車はおばチャリ?
スピード不足ね!
あたしのバイクについてこられる?

引き離して各個撃破、お宝回収。
あ、安全なのだけね!



「あら、大ボス登場かしらん?」
 雷鳴轟く荒野でも、トラブルシーカーは何のその。むしろ普段より元気な調子でゆらゆらと。洒落っ気一杯に真の姿(オトナ)の装いで、煤けたマダムと邂逅する。
「あ、ヒョウ柄。ちょっと焦げちゃってるみたいだけど、いいわよね、レオパード。あたしも迷彩代わりに着ようかなーって思ったことあるのよね」
「だったらそうしてやろうかい?」
 そう言って、マダムはじろりと伽耶を睨む。
 ヒョウ柄で侵食するのに手順は要らない。ただ視線を投げれば、それですべては終わるのだ。
「まぁまぁ奥様、そう焦らずに」
 翳したハーフミラーで、伽耶はマダムの呪詛(しせん)を弾く。
「アタシと奥様、結構趣味が似てるかも? なんて、もしかすると話し合えばわかり合えるかもしれませんわ?」
 伽耶は想像する限りの――すでに限界がきている気がするが――ハイソな奥様っぽい口調で、マダムを世間話の蟻地獄に引きずり込もうとする。
「奥様のおバッグ、機能的にこちらと似てませんこと?」
 マダムに見せたのはグリュプスの魔法鞄。空間拡張の魔法を付与したことにより大容量、と言う点では確かにマダムの四次元エコバッグとよく似ている。
 ただしこちらは希少な魔獣グリュプスの革で作られた、見た目リッチで上質な背負い鞄。マダムのそれは大量生産のエコバッグ。要するに穏やかそうな世間話に見せかけて、伽耶は上級マダム語で『こっちの方が高価だぞ』と煽っているのだ。
「お伸びになるお腕も、あたくしの鞭に比べれば模造品(レプリカ)ちっくですわよね。おほほほほ!」
 それっぽく笑う伽耶。そして飛んでくる銃弾。
「おちょくるのも大概におしよ! あたしゃ気が長い方じゃなくてねぇ!」
 伽耶の奥さマウントに我慢ならなくなったマダムが容赦なく撃ち込んだのだ。
 まぁ割と今回一番の邪悪行動だったと自分でも思うが、これで弱点は分かった。このマダム、中々どうして煽りやすい。
「では、お賭けになりますかしらん?」
 口調の引っ込みがつかなくなってるが、折角なので煽り倒しておこう。じわりとヒョウ柄に侵食される前にゴーグルキャップを脱ぎ捨て、無限に伸びる腕より早く、伽耶は神速のムチ捌きでマダムを打ち据えた。
「あんたたち、全員手を……ブギ布の裾、繋いじゃって。いーい、絶対離しちゃダメよ!」
「手をー?」
「わかったー」
 伽耶の指示に従って、盗賊たちは横一列に手をつなぐ。見た目『花いちもんめ』に似ているが、彼らをマダムにくれてやる道理はない。マダムの視線が彼らに向かないように、ヒップホップを乱打する。
「これで全員が一つの物品。バッグには入らない! 詰みね!」
「おー、なるほどー」
「それでー、これどうやって攻撃するのー?」
「……あっ」
 こっちも詰みだった。持ち上げにくいメリットと引き換えに、すばしっこい蟹達の敏捷性が大幅ダウン。
 失敗なのか? いいやまだ手は(大多数が繋いでいるが)あるはずだ。
「えーと……そのまま突撃!」
「おー!」
「いくぞー!」
 盗賊たちはわさわさ脚を動かして、横一列のまま敵軍に突っ込んだ。
 怪我の功名と言うべきか、割といい具合の広範囲絨毯爆撃。
 ヒョウ柄を良い具合に弾き飛ばしてくれたので、戦場(みち)は綺麗に舗装されたも同然だ。
 エブリロードバイクにもそう言う機能がついてはいるが、やはり開けた道は心地が良い。そこら辺に転がっている死屍累々のガードマンたちは見なかったことにする。
「さて、オバチャリオンの自転車は……えっおばチャリ?」
 マダムがエコバッグから取り出したそれは、補助動力が一切ついてない、純然たる人力百パーセントのママチャリだった。
 巨体のマダムが跨がって、額に血管が浮き出る程踏み込めば、車輪の後を大地に刻み、バイクに迫る勢いのいきなりトップスピードだ。
「けどスピード不足ね! あたしのバイクについてこられる?」
「望む所さね」
 伽耶が加速すると、負けず嫌いのマダムもまた加速する。速度的にはこちらが勝っているが、マダムの超絶ハンドルさばきは侮れない。
 横並びの蟹達が一生懸命整備する戦場で、疾走しながら交差し続ける腕と鞭。
 指揮官(マダム)が意固地になって伽耶を追いかけるものだから、敵側の隊列もバッグの中身も乱雑で、ハンドル片手でも容易く各個撃破とこぼれたお宝の回収が出来た

 ついにスタミナの切れたマダムを鞭で叩き落とし、伽耶は新たなお宝を回収する。
「ええっと……これは何?」
 ちゃっかりタンデムしていたゆるふわに、謎のお宝の用途を訊いてみた。
「自爆スイッチー」
「えっ? 何の?」
「あらゆるもののー」
「……えっ?」
「あらゆるもののー」
 ……とりあえず。魔法鞄に入れるかどうかは、保留しておくことにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャム・ジアム
アドリブ歓迎

只者でないわ
ガードマンさんも怯える訳ね
任せて!『疾影』っ!

疾影に乗ったまま『朱雷枝』を振り下ろし先制攻撃
盗っ人から泥棒なんて
賢いけれどズルいわ、流石ワルね

でもワルさなら、……?!
嘘、…キャバリアまで、操るの?
急いで降り立ち『謎のレモン』で疾影の捕縛を試みる
『朱白緞』で強化した念動力を『護り現』へ送り
周囲を守るクッションに

豹柄が追ってくるなら、目を引きつける為
あらゆる手段で
ボス本人に接近を試み、攻撃をし続けるわ
煩い?これも操りたいんじゃない?

苦しい
私の服まで豹柄が来たら、賭けね。勝負よ
『仄青』を発動——豹柄に染まった服は脱ぎ捨て一矢を

頂くわ。そう私の宝物。すべて操るのは大変でしょう?



 例え一時的にスタミナが切れたとて、落ち着いて、深呼吸をすれば、マダムの表情(かお)からは疲労の色が失せていた。
 その後里から略奪したスイーツをどかどか口の中に放り込み、ぺろりと平らげただけで、彼女の傷は全て癒えて元通り。少なくとも、外見上はそうだ。
 やはり只者ではない。ガードマンが怯え、そして従う訳だ。彼女の放つプレッシャーは善良な魔界の住人のそれではない。
「――任せて!『疾影』っ!」
 盗賊たちを避難させ、ジャムは翼をもつ朱の巨兵・疾影を呼び覚ます。ジャムが疾影に登場すると同時、巨兵の瞳にはサイキックの炎が宿り、白銀の柄・朱雷枝に手を伸ばす。
 疾影の手(マニュピレータ)が朱雷枝を認識した瞬間、朱に揺れる刃が伸びて大鎌の形を成す。
 そして、疾影は飛翔する。朱の残光が薄く尾を描き、砲火を潜り抜け、狙い定めるはマダムの命。
「盗っ人から泥棒なんて、賢いけれどズルいわ。流石ワルね」
 悪魔(ヒト)とキャバリア、サイズは歴然。しかしジャムは躊躇なく、朱雷枝を撓らせ、大鎌を振り下ろす。
 刹那、ガキン、と硬い感触。マダムが咄嗟取り出した大盾が、鎌を防ぐ。キャバリア用としか思えない程大きな盾。疾影(キャバリア)のスペックに、生身で渡り合おうと言うのか。
「それがハッタリではないのなら……受けて立つわ」
 疾影が律動した。破るべきは大盾と、そしてマダムの面の皮。ジャムが自身の内に眠る全てのサイキックを解放し、疾影はその我武者羅な気迫に応える。刃の密度と輝きは更に強く、十の連撃で大盾に穴をあけ、続く二十の斬撃で大盾を左右へ引き裂いた。
 これで遮るものは何もない。
「でも問答無用(ワル)さならこっちだって――!?」
 トドメの一撃を振り下ろそうとした瞬間、突如がくん、と疾影は動きを止める。それからどれだけ念じても、ジャムの望み通りには動かない。一体何が起こったのか。
『ニューおかしら―、逃げて―! ヒョウ柄がー!』
「嘘、……キャバリアまで、操るの?」
 盗賊たちの通信を聞いたジャムは即座に飛び降り、疾影の様子を窺う。既に期待の七割がヒョウ柄に侵され、瞳の炎は消えていた。
 絶叫する様に、軋みを上げる疾影。ついにその全身がヒョウ柄模様に侵されて、共に戦場を駆け抜けたはずの朱雷枝が、ジャムの脳天目掛け降り注ぐ。
 このまま受けるわけには行かない。けれど疾影は傷つけたくない。無限に思える逡巡を乗り越えたジャムは、理解の追い付いていない体を無理矢理動かして、謎のレモンの蔦を延ばす。蔦が疾影の動きを完全に止めるまで、悲壮な決意に輝く魔眼は、覇気・護り現に念動力(チカラ)を注ぎ込み、盗賊たちを守るために、疾影が何も傷つけないように、大きく広がったそれは巨兵の全周を隔絶する。
 レモンが完全に巨兵を絡め取ったとて、息つく暇ものありはしない。全ての砲口が、ジャムを睨んでいるのだから。
 すぐ近くにいるヒョウ柄は、七色に輝く霧状の薬(リテヌート)で眠らせて、遠距離にいるヒョウ柄は針たちに任せ、ジャム自身は、楔なる鋼のトリガーに指をかけ、マダムを撃つ。
 多少の被弾は護り現が防いでくれる。そして、足元に這わせるのは毒蔦(タランテラ)。蔦と葉で強引に、地形を塗り替えながらマダムへ接近したジャムは、そのまま有無も言わせず鋼の炎弾とサイコキャノンを叩き込み、更に針たちの追撃を浴びせかけた。
「煩いねぇ……多芸なのはもうわかったよ!」
「煩い? そう。これも操りたいんじゃない?」
 でも無理よね、と煌めく溶液をマダムに被せる。猛毒を浴びたマダムは呻き声を上げるものの、いまだ衰えず。ついに楔なる鋼やキャノンまでがヒョウ柄に侵される。
「おかしらーこれ使ってー!」
 そう叫んで、盗賊たちが力を合わせて放り投げたのは朱雷枝。
 先程の続きだ。不発のままでは終わらせない。ジャムは一閃、マダムを断ち切る。
 だが、これだけ攻撃しても、マダムの敵意は枯れないのだろう。朱雷枝と、そして纏う衣服までもがヒョウ柄に。
 苦しい。おぼつかない指先で、体の自由が利かなくなる寸前にジャムは服を脱ぎ捨てる。
 咄嗟の賭けだった。もし後数秒遅れていたら、敗北は確定していただろう。
 勝因は、盗賊たちが投げて渡してくれた朱雷枝。武器の巨大さに目を奪われ、衣服への浸食が一瞬遅れたのだ。
 ジャムは青き念動の炎を瞳に揺らめかせ、

「頂くわ。私の宝物達。すべて操るのは大変だったでしょう?」
 念(サイキック)の巨爪を具現化させる。これを支配するすべはない。浄化の力を纏った爪撃が、マダムを大きく引き裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

三岐・未夜
【みゃちしょこ】

(おばちゃんの登場にぴってなる黒狐のこども)(大きい声もあの手のタイプもこわい)(丸まるしっぽとへたる狐耳)

八千代が前に出てくれるからちょっと安心……
視界に入りたくないしこわいし、とりあえずなるべく死角からアサシンスタイルで行きたい気持ち……
もうね、ほら、迫力がむり……遠距離火力全振りスタイルで行こう……

燃やそう、跡形もなく燃やそうそうしよう
火矢を選んで、【操縦、属性攻撃、範囲攻撃、誘導弾、弾幕、多重詠唱、全力魔法、先制攻撃、目潰し】の全部乗せ
敵の攻撃は【見切り、第六感】で避けるけど、避け切れない場合は【誘惑、おびき寄せる、催眠術】でその辺の盗賊とかガードマン使って防ごうね……


笹鳴・硝子
【みゃちしょこ】

やっちーの面の皮は言うほど厚くない…と思いますが、若いので弾力あるんでいけるいける

行きますよ、みゃー!
いい塩梅に面の皮合戦がヒートアップしてオバチャリオンが隙を見せたら、【頻伽】でオバチャリオンの攻撃を潰しつつ、墨汁を詰めた弾丸に土属性を付与して銃で攻撃
まあ要するにあのヒョウ柄塗りつぶしたいんですよね
「黒い服着たただの地味なオバチャンになるがいい」
あ、ついでにショッピングバッグの持ち手狙って獲られたもの取り返しましょうね
(歌唱、2回攻撃、鎧砕き、属性攻撃、地形の利用、忍び足、スナイパー、武器落とし、援護射撃、部位破壊)


花邨・八千代
【みゃちしょこ】
この俺に面の皮の厚さで勝負しようってかァ?
面白れぇ!その喧嘩買ってやろうじゃねェか!

と、言いつつみゃーとしょこに目配せ
それから前に出る!

蟹脚共、ぴーぴー喚いてんじゃねぇぞ!
武器がねェなら直接殴れ!宝がねェならまた奪え!
逆に考えろ、あのばーさん倒したらどうなる?
あいつが持ってるお宝まるっと総取りってことだぜ!

あの角に牛乳拭いたぞうきんを引っかけろ!
ヒョウ柄全部に顔描いてやれ!
やることはさっきと同じだ、行くぞ野郎共!!!
【大声、恫喝、傷口をえぐる】

蟹脚連れて【落花】で大暴れ!
しかし、本命はこっちじゃねぇ!
【怪力、だまし討ち】

さぁて、後ろの正面だーれだ?
おかしらは俺だけじゃねーんだよ



(「わーわーわー……!」)
 丸まるしっぽとへたる狐耳。マダムの有無も言わせぬ迫力に、ぴくりと反応した未夜は思わず数歩ひいて盗賊たちの陰に隠れた。
 消して自分からは道を譲らないであろう面の皮の厚さと、必要以上に甲高い音量。ああいうタイプは不得手だった。
 ……寧ろ、率先して得意な人などいるのだろうか。
「何度ぶっ叩かれても倒れやしねぇその根性だけは認めてやるぜ。だがな。この俺に面の皮の厚さで勝負しようってかァ? 面白れぇ!その喧嘩買ってやろうじゃねェか!」
 と考えていたらすぐ横に、正に大得意そうな人材がいた。
 八千代は面白い玩具を見つけたといわんばかり、赤の瞳を爛々と、これ以上ないほど邪悪なスマイルをしていた。
「やっちーの面の皮は言うほど厚くない……と思いますが、」
 硝子は至極真剣に、むにむに八千代の頬を突っつく。
「ほら、若いので弾力しかないいけるいける」
 よっしゃそれじゃ全力で行くかァ! と、硝子からお墨付きをもらった八千代はゴキゲンに、マダムを恐れるあまりしょぼくれてしまった蟹達へ檄を飛ばす。

「オラァ! 蟹脚共、ぴーぴー喚いてんじゃねぇぞ!」
「でもでもー……」
「武器だってとられちゃったし―……」
「馬鹿野郎、そんなモン俺が知るかよ!」
 一発入魂。羅刹旋風を乗せた拳で蟹達をはたく。と言うかぶっ飛ばす。
「目が覚めたかよ子分ども! 武器がねェなら直接殴れ! 宝がねェならまた奪え!」
「おー! 何と言うわかりやすい対抗策ー」
「やっぱり最後にモノを言うのは暴力なんだー!」
「そうさ、単純だろう? それにな、良いか、逆に考えろ……」
 あからさま秘密の話をするように、八千代は地声のボリュームを落とし、優し気な声音で、
「逆に考えろ、あのばーさん倒したらどうなる?」
「どーなるってー? どーなるのー?」
「……あいつが持ってるお宝まるっと総取りってことだぜ!」
「おおー! そんなワルいことやっちゃっていいの―!?」
「勿論だ。お頭である俺が許可する!」
 盗賊たちのおかしらそのものな発言を連発する。
 おかげで盗賊たちのやる気も最高潮まで持ち直し、八千代は全く手のかかる奴らだ、と一人苦笑して、未夜(みゃー)と硝子(しょこ)に目配せすると、誰よりも前に立ち、趣味の悪い軍勢を睨めつける。
「良いか! あの角に牛乳拭いたぞうきんを引っかけろ!」
「ちょっとまってー今用意するー」
「ヒョウ柄全部に顔描いてやれ!」
「画伯と呼ばれた僕の画力(ちから)、今こそ解放する時がきたー!」
「やることはさっきと同じだ、行くぞ野郎共!!!」
「おー!」
 そして、八千代軍団は真正面からヒョウ柄軍勢にぶつかる。
 あれだけ煽っておきながら、自分だけ武器を使うのも格好悪いだろうと八千代は敢えて南天を懐に仕舞い込み、己の徒手だけで、ヒョウ柄の波を割り開く。
 とりあえず、すっ転ばせたガードマン達の足首を引っ掴み、地に激突しようが悪魔(ヒト)に当たろうがお構いなしに振り回す。
 柄が何であろうと関係ない。鎧と武装を背負ったガードマンは鈍器としてちょうどいいくらいの重量で、手放すのも惜し駆ったが、雑魚ならともかくマダム相手には分が悪い。ヒョウ柄の半分位を吹き飛ばし、役目を終えて伸び切ったガードマンをマダム目掛けて剛速球で放り投げ、八千代は再び無手の状態で、マダムに挑みかかる。
「ねーね―それって何の絵?タコ?」
「んーん。クマ―!」
「えいっ! 食らえ牛乳雑巾!」
「ぐあああー!」
 そしてゆるふわ達は追撃に余念がなかった。
 実際遊んでいるように見えて、ヒョウ柄の上から新たな絵をかき込むことで柄の呪縛を無効化し、牛乳雑巾は問答無用でガードマン達を昏倒させるという、戦術として地味にかなり効果を上げている不思議な場面なので、のびのび遊ばせておくのが一番正しいのだ。
「癪だねぇ、遊んでるんじゃないよ!」
 怒りのまま彼女が伸ばした両腕を、八千代はマダムを上回る面の皮の厚さで強引に引っ掴んで、離さない
「盗品を盗む腕を更に掴(ぬす)む、なんざ、もう意味が解らんが、捕まえたぜ、マダム。これで腕は使えねぇ」
「ふん。だがアタシの腕は何処までも伸びる。投げ飛ばすことはできないよ」
 その言葉を聴いた八千代は、しかし不敵に笑い、
「必要ないね。おかしらは俺だけじゃねーんだよ」
「……何だって?」
「――さぁて、後ろの正面だーれだ?」

「八千代、相変わらず派手だなぁ」
「アグレッシヴだよねー」
 後詰めの蟹に寄りかかりながら、未夜は八千代の暴れっぷりに感嘆する。
 彼女が前に出てくれるなら安心だ。何ならここで何もせず身を丸め、ずっとおはぎになって居たい。
「おはぎは後です。行きますよ、みゃー!」
「わかってるんだけどねー。どうもねー……」
 と言うのもお頭である以上は儚い夢か。頃合いですよと硝子に声をかけられ、未夜は後ろ向きのまま覚悟を決める。
 とにかく遠くからでも迫力がすごいし、うっかりマダムの視覚に入っていちゃもん付けられたくも無いので、ひっそり死角から、火力全振りのアサシンスタイルで行こう。
「……燃やそう、跡形もなく燃やそうそうしよう……」
 そんな呟きに、『やはり未夜(みやー)が私たちの中で一番のワルなのでは?』と言う硝子の視線が突き刺さるが、人間、手段を選ばない時もある。
  未夜は四百三十五本の破魔矢に火を燈し、後先の事は一切考えず、三岐・未夜としておよそ持ちうる全ての力を流し込む。文字通りの全てなので、少々時間はかかるが、
「いて。いてて。おかしらー。まだちょっとかかる感じ―?」
「うーん、そうだね……もうちょっと」
 直感を働かせて敵の砲撃を避けつつ、回避が無理そうな場合、ちょっと催眠術とか施した居残りゆるふわに盾になってもらい、全ての破魔矢を一本残らず最高級の特注品に仕立て上げる。
「硝子。これ撃った後僕もうへろへろになるから、後は任せた」
 使い捨てるのが惜しいくらい力を注ぎ込んだ破魔矢を、未夜は躊躇なくヒョウ柄の大海へと射出する。高速度で放たれた矢は虚空をも焦がして戦場を赤く染め上げ、舞い散る火の粉が広範囲に連鎖的な爆発を引き起こす。破魔の炎は魔界の全てを焼き尽くさんと降り注ぐが、しかし矢ならざる人知を超えた軌道を描いて八千代や味方だけは決して決して害さない。先発の矢は後発の矢のかがり火となり、後発の矢は火炎旋風となって、さらなる火力を呼ぶ。
 八千代以外。マダムもろとも、ヒョウの軍勢が燃える。

「任されました」
 炎に焼かれた戦場を、硝子は一歩ずつ、足音(おと)すら立てずそろりと進む。見渡せば、方々で倒れ伏すガードマン達。それでも未だ鎧にヒョウの柄がへばりついていたが、すぐには立ち上がってこれないだろう。しかし油断はできない。マダムには、容易に味方を増やす方法があるのだから。
 じわり、と硝子の視界で豹が滲む。これだけの炎に晒されても、やはり彼女は健在か。マダムの狙いは敵味方問わず無事な人員……つまり、炎を逃れた八千代配下のゆるふわ達だ。
「わー! 僕の一張羅に変な染みがー!」
「しまったー! 牛乳雑巾で拭いちゃったー!」
 ……二次災害まで面倒は見切れないが、ヒョウ柄の浸食を食い止める手段ならある。コレと逆位相の魔力をぶつけて相殺してしまえばいい。散々見せつけられたヒョウ柄(現象)だ。解析などはとうの昔に棲んでいる。
 頻伽(シジマノウタ)が、焼け野原に響く。硝子が一節歌うたび、蔓延るヒョウ柄模様は停滞し、やがて小さくなって消えてゆき、後に残るのは静寂(しじま)だけ。硝子はフリントロックのピストルに、ガチャリと一発弾を込め、焼け焦げたマダムと対面する。
「みゃー。良い仕事です。おかげで銃弾一発で済みそうですよ」
「大した自信だ。たった一発で、アタシの命が奪えるとでも?」
「いいえ。そう言うのは別に」
 硝子の答えに、怪訝な表情をするマダム。
「――要するに、そのヒョウ柄塗りつぶしたいんですよね」
 アイデンティティを奪うのが好きなんでしょう。ならばあなたも奪われるのが因果と言うもの。硝子が銃を構えると、そういう事だな、と八千代ががしり、マダムの拘束を強める。
「覚悟。黒い服着たただの地味なオバチャンになるがいい」
 撃ち出される弾丸。墨汁と土属性がブレンドそれが命中すると、マダムご自慢のコーディネートは真っ黒に破綻し、その動揺をついて、エコバッグを撃ち落とすのも容易だった。

 地に散らばる武器。ゆるふわ達は即座それを回収し、これまでの恨みも込めてマダムに突き付ける。
「僕はにんにくー」
「僕ははちみつー」
「僕は油性マジックー」
「僕は牛乳雑巾ー」

「……終わりましたね。いろんな意味で」
「ああ。やっちまえ。野郎ども!」
「やめな! アンタら後で覚えて――」
「「覚悟ー!」

 ――戦場の後方にて。
 力を使い果たしごろんと丸まる未夜の耳に、何やら破滅的な悲鳴が聞こえた気がしたが……。
 きっと気のせいだろう。何も聞こえない振りをして――未夜は静かに眼を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
うわー強烈なのが来たー。里をバーゲン会場扱いって発想が悪魔そのもの。
…洗脳に全身ヒョウ柄は嫌だなぁ。鯱だしせめて虎柄…どっちもダメだけど!

盗賊達にはガードマンの相手を頼む。
アイツは桁が違う。そういうのをどうにかするのがお頭の仕事だからね。
…ちなみに俺達が負けたら知恵の布がヒョウ柄になる未来一直線だからね。張り切って貰いたいかなー。
さて引き続きUCで空シャチ召喚。
空を泳がせ四方八方から仕掛けて貰うよ。
流石に生物は物品には入らないはず、もし入れられたならエコバッグの中荒らしお願いねー。
空シャチで攪乱してる間に高速詠唱で水の全力魔法準備、隙見て水弾ぶっ放して吹っ飛ばしちゃおう。

※アドリブ絡み等お任せ



(「うわー。強烈なのが来たー」)
 ヴィクトルの巨体をも揺るがしかねない、恐るべきマダムの活力。と言うか面の皮の厚さ。それに加えて何がすごいって、どういう訳だかマダムはラクガキ塗れの牛乳塗れなのだ。あらゆる意味で恐ろしい。いったい何があったのか。
 それでも平然と踏ん反り返り、こちらを見下すフィジカルがすごい。ある種尊敬に値するかもしれない。
 しかし、だからと言って洗脳に全身ヒョウ柄は遠慮したい。想像するだけで頭の中が混乱する。シャチならせめてトラ柄……も駄目だ。ヴィクトルは猛烈に頭を振る。矢張りシャチたるもの、白と黒のモノトーンが王道だろう。
 ……何だか既に頭の中がヒョウ柄に支配されつつある気がする。戦場を支配するそれは、本当に目の毒だ。ヴィクトルは確認がてら、襟を正す。早々に決着をつけてしまおう。
「君たちにはガードマンの相手を頼みたいんだけど……大丈夫かな?」
 目線を下げて、ヴィクトルは盗賊たちに訊く。
「えー? そんなー。戦意の無くなったガードマンくんたちと戦うなんてー」
「でもここで戦わないと里がなくなっちゃうしー」
「それじゃあしょうがないよねー。ガードマンくんたちをぶん殴ってしまおうよー!」
「おー!」
 切り替えが早くて本当に助かる。
「おかしらはー? どうするのー?」
「俺はあのマダムを引き受ける。アイツは本当に桁が違う。そういうのをどうにかするのがお頭の仕事だからね。」
 ヴィクトルは勇魚狩りを握り締め、マダムを睨む。本物の悪魔(オブリビオン)との戦いだ。気は抜けない。
「おー! おかしらかっこいいー!」
「よーし! 僕らも頑張るぞー!」
 中々に気力旺盛な盗賊たち。流石にここで負ければ里丸ごと知恵の布がヒョウ柄になる未来一直線なので、張り切ってもらいたい。
「あれー? 君もしかして布が後ろ前じゃなーい?」
「あー! 本当だー! ごめんねー。今すぐ直すからー」
 ……張り切ってもらいたい。

 保護者視点で若干はらはらしながら盗賊たちを見守りつつ、ヴィクトルはガードマン戦に引き続き、空泳ぎのシャチ達を召喚する。
 厄介なのがキャノンやトリモチ弾だが、ゆるふわ達の頑張りで、空まで飛んでくる砲弾の数は極めて少なく、これならシャチ達の能力を遺憾なく発揮できるだろう。
 まずは百二匹。空を泳ぐシャチ達は四方八方からマダムに突進する。
「ふん。こんなモノかい? 刺身にして食っちまおうか!」
 しかしマダムもまた手練れ。持ち前の面の皮の厚さから、いっそ堂々居直って、シャチ達の全方位突進軽く捌いて見せる。数の差よりも地力の差か。 
 ヴィクトルもシャチに紛れ死角よりマダムを強襲する。が、三又銛が獲ったのは薄皮一枚。かすり傷。ヴィクトルは即座体勢を立て直し、今度はシャチを合体させて10頭に。
 数は減ったがその分十倍強くなったシャチ達の執拗な全方位攻撃に、マダムの顔からは次第に焦りの色が見え始める。二回目の銛撃。とらえた。だが浅い。更にシャチを減らして五頭。
 ……ここまでシャチに翻弄されても自慢の腕を延ばさないのは、シャチが『物品』ではなく生物だからだろう。そして当然彼らは何一つ、衣服も装飾品もつけていないので、ヒョウ柄支配も及ばない。
 むしろそこに関して危険なのはヴィクトル自身とゆるふわ達だが、マダムの意識をこちらに向けさせなければどうにでもなる。
 五頭のシャチが加速して、頭突きやしっぽの連撃を押し付ける。シャチの面の皮だって、中々の厚さなのだ。
 バッグの中に手を入れて、何か状況打開のアイテムを取り出そうとしたマダムの行動を、『102』と尾ビレの腹側に刻印された巨大シャチが止める。
 尾で弾いたバッグを飲み込んで、マダムは一瞬丸腰に。ヴィクトルはその隙を見逃さない。高速詠唱で最大級の魔力を練り上げ、勇魚狩り――三又の銛の先端より超高圧縮した水弾を放射する。
「ただの水に模様を浮かべる事は出来るかい? サービスだ。その汚れ、洗い流しておいてあげるよ」
 口調は至極穏やかに、渦巻く水弾は何より激しく。
 マダムに水弾を当てたヴィクトルは彼女を遥か彼方まで吹き飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔴​

クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
……
一人、残って下さい

備え付けの無線で他の車両に連絡します
車両を一箇所に乱雑に停めて貰って
悪魔達には逃走して貰います
自分は車内に残ります
大丈夫。私はつよーい、おかしらですから

敵は商品を傷つけたくないでしょうから
入り組んだ車を無理に動かすよりは
運転手を操ろうとか、中心に何かあるのでは、とか思わせて
寄って来るよう仕向けます

入って来た敵を不可視の《魔女の奴僕》に襲わせます
UCを発動したり指輪を嵌めたりして
自分と悪魔は見つからないよう、最善を尽くします

……。そう、全ては過去の話
だから、新たな未来を築く礎になって下さい
また可愛いブギーキャンサー達と午後のお茶を楽しむ
そんな私の宿願の為に



 大きく唸るエンジン音の、耳を劈くようなオーケストラ。
 戦場の片隅。乱雑に停められた数十台の現金輸送車の中には、これまで盗賊たちが集めたDや宝物が、ぎっしりと満載されていた。
 マダムの襲撃から少しでも宝物を逃がそうと載せたのか。いいや違う。
「……一人、残って下さい」
 これはマダムに抗う為の策。
 クララは備え付けの無線で、他の車両にそう呼び掛けた。
 僕が残るーと立候補したのは、先程までも一緒にいた、小さな蟹。
『それでー? 君はどうするのー?』
 ほかの蟹がクララに問う。
「私は車内に残ります」
 決然と、そう宣言するクララ。しかし無線機越しの蟹達は、酷く心配そうに……。
『えー、危ないよー。あの奥さん絶対相当なワルだよー』
『他の作戦考えよー?』
「……大丈夫。私はつよーい、おかしらですから……!」
 強がりでも無く、演技でも無く、クララは心の底からそう笑う。怖くないと言えばうそになるが、ここで逃げてしまったら、一生自分の宿願が果たせない気がしたのだ。
「大丈夫ー。僕が絶対守るから―」
 クララの膝の上で、小さな蟹が鋏(て)を目いっぱいに広げ、わさわさ頼もしい事を言ってくれる。
 そこまで言うなら、とクララの意志の強さを知った盗賊たちは彼女の策に全賭けし、現金輸送車群から撤退する。
 エンジンのオーケストラが途絶えた。付近に居るのは、車中に残ったふたりのみ。
「立候補してくれて、ありがとうございます」
「水臭いこと言わないでよー。お頭を守るのも子分の役目だからねー。それでー、作戦ってどんな感じー?」
「それはですね……」

 目ざとくも、宝の在処を察したか、ずぶ濡れ状態のマダムが静まり返った現金輸送車群に迷い込む。
 マダムの足取りは慎重だ。輸送車に宝物を詰め込んで逃げようとしたのか、それとも輸送車の荷に罠や伏兵を紛れ込ませているのか。彼女が初見でそれを判断する事は出来ない。
 試しに壊してみればいい。けれどそうすれば中身の宝物を壊してしまうかもしれない。故にマダムは車の中身に手を付けず、この車の並びの訳を知る者がいないか、じりじり中央に向かって探索する。出会い頭、運転手なりが一人でも残っていればヒョウ柄で支配してしまえば、そこからすべての情報を抜き出す事は容易いだろう。
 そして輸送車群の中央部。しかし周囲を見渡してもやはり人影一つなく、マダムがその場を離れようとした、その刹那。
「――かは……っ!」
 不可視の何かが連続で、マダムの身体に命中する。
「誰だい!? 何処に隠れているんだい!?」
 視線と殺意を右に左に、やはり人影は見当たらない。だが、確かに何かが潜んでいる。先程とは全く別の方角から襲い来る何かがマダムの胴にめり込み、確実に彼女の体力を奪ってゆく。

「――ふっふっふー。教えてあげないよー」
 姿はなくとも周囲に響く小蟹の声。
 魔女隠身術。されによって透明になったクララに抱かれる蟹もまた、不可視の恩恵を受けるのだ。
 しかし先程からマダムに攻撃を加えているのはさらなる第三者、八足を持つ『魔女の奴僕』。
 ここまでクララと蟹はこの場に迷い込んできたマダムの行動の一部始終と、奴僕の蹂躙を静観していたにすぎない。
「ちっ! 鬱陶しい!」
 マダムの腕が伸び、当たりを付けて滅茶苦茶に暴れ回る。だが、不可視の存在を攻撃するのは至難の業で、これまであらゆる宝物を掴んできた腕は、情けなくも空を切るばかり。
 透明にヒョウ柄を植え付ける事も出来はしない。だが透明は一方的にマダムを攻める。
「不可視の弾丸を放つ魔法銃ー」
(「……風の矢」)
 不可視の奴僕へ、更に無色の援護が加わって、周囲はすでに透明の飽和攻撃状態だ。
 マダムはそれでも持ち前の直感と面の皮の厚さ(バイタリティ)で、どうにか生死極限の線(ライン)の上で凌いでいたが、
「えいっ!」
 小蟹の銃撃。見当違いの場所へ乱射されたそれは、無差別に複数の現金輸送車を打ち抜き、錠を壊して、車外にDの吹雪を散らさせる。
 D(デビル)。オブリビオンがこの世界で暗躍する理由はそれだ。
 故に。必然。マダムの意識はそれに引き寄せられ――。
 その一瞬。奴僕はマダムのエコバッグを奪い、引き千切る。直後、連動して四次元空間が壊れ、彼女がこれまで奪ってきた・溜め込んできた宝物たちが宙を舞い、霰の如く降り注ぐ。
 これまで他の猟兵がさんざんバッグを狙ってきたのだ。最早在庫(スペア)は一つも無く、全てを失ったマダムは現金輸送車を奪い、せめて眼前のDをかき集めようとするが――突如現れた書物の迷宮に遮られてしまう。
 ……書架大迷宮。その出口がわかるのは、術者であるクララのみ。
「現世のお金に執着する死人……。そう、全ては過去の話。だから、新たな未来を築く礎になって下さい」
 おそらく。マダムには見えていないだろう。小蟹を抱えた不可視のクララが操るのは、渦を巻く不可視の風の矢。
「……また可愛いブギーキャンサー達と午後のお茶を楽しむ、そんな私の宿願の為に」
 刹那の突風。風穴(あな)が空く。

「――くっ! まぁいいさね。今回はアタシの負さ。けど……次はこうはいかないよ!」
「うーん、最後の最後までー、何と言う面の皮の厚さー」
「……ただの負け惜しみですよ。次があっても、また、倒します」

 そして、マダムの命は消え失せた。

●鋏(て)と鎧(て)をとって
「やーやーガードマンくんたちー。今回は災難だったねー」
 マダムから解放されたガードマン達を、ゆるふわ盗賊達が労った。度量が広いのか能天気なのか、里を襲撃されたことに関しては特に気にしていないらしい。
「元はと言えばお前らが――いや、全ては俺たちの実力不足が招いたことか……」
 うなだれるガードマン達。また自宅警備で鍛えなおしだな、と、誰かが呟いた。
「その事なんだけどさー。何なら僕ら一緒に組まなーい? おかしらたちからも勧誘されてたんでしょー?」
「……良いのか?」
「盗みが得意な僕らとー、守りが得意な君らー。二つ合わさればなんかいい感じの化学反応が起こりそうなそんな感じー」
 そんな訳だからよろしく頼むよー、と、盗賊たちはガードマン達へ鋏(て)を差し出す。
「……ああ!」
 鎧を纏う武骨な手が、カニたちの鋏(て)をがしりと掴み――。

 ――そして近い将来、世界中にその名を轟かす超巨大極悪シンジケートが誕生するのだが、それはまた……別のお話。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年04月22日


挿絵イラスト